武内P「凛さんの朝」back

武内P「凛さんの朝」


続き・詳細・画像をみる


ワアァァァァァァァァァ…!!
 すごい熱気……!
 美嘉ねぇ達が、しっかりお客さんあっためてくれたもんねっ!
 ? おやおやぁ、しぶりんひょっとしてまた緊張してる??
 手、震えてるよ?
 武者震い、ですか……大一番のフェスですもんね!
 大丈夫ですよ、凛ちゃん。私達、一緒に頑張ってきたんですから!
 そうだよ! じゃあ今回もいっちょ、ハデにやっちゃいますかっ!!
 はいっ!! 凛ちゃん、いつもの掛け声、よろしくお願いしますっ!!
 ? ……凛ちゃん?
 しぶりん、どうしたの?
――――――
――――――――――――
----------------------------------------------------------------------------
2: 以下、
?346プロ 執務室?
ガチャッ!
早苗「だっはぁー、今日もよく働いたわー! 楓ちゃんビール飲も!」ドサーッ!
瑞樹「少しは慎みなさい、早苗ちゃん。スカートの中、見えちゃうわよ」
早苗「いいじゃん細かいこたぁ。どーせあたし達しかいないんだし」パタパタ
武内P「……本日はどうも、お疲れ様でした」ペコリ
早苗「うん、お疲れーP君」パタパタ
瑞樹「早苗ちゃん」
3: 以下、
武内P「明日は、川島さんはブーブーエスTV系列のグルメレポート番組の収録が、
 高垣さんは、新曲のプロモーションのお仕事がございます」
武内P「片桐さんは、明後日にセクシーギルティでの営業が表参道…」
早苗「そっか、明日はオフねっ! じゃあ今日は思いっ切り飲むわよー!」ガッツ!
楓「ぜひ、お供させてください」
瑞樹「まったくあんた達ときたら……」
早苗「当然、瑞樹ちゃんも行くでしょ?」
瑞樹「そりゃあ、まぁ、断る理由も無いしね」
早苗「ワハハ、そうっしょそうっしょ! 今日はあたしの奢りよーなんつって!」
武内P「それでは、明日もよろしくお願い致します」ペコリ
ガチャッ バタン
4: 以下、
楓「…………」
早苗「……相変わらず、P君って事務的ねぇ。機械みたい」
瑞樹「ああいう人の方が合ってるんじゃない?
 機械的に業務を整理してもらえた方が、今の私達にとってはやりやすいわ」
早苗「おかげさまで、ひとまずは今の地位で安定してるしねぇ、あたし達」
楓「…………」スッ
早苗「あら、楓ちゃん?」
5: 以下、
カタカタ カタカタカタ…
武内P「…………」カタカタ カタカタ…
ガチャッ
楓「失礼しまぁす」ソロォ-…
武内P「……高垣さん。どうかされましたか?」
楓「いいえ」
楓「これから、皆でちょこっと飲みに行こうかなぁって、話しているんですけど……」
楓「よろしければ、プロデューサーもご一緒に、いかがですか?」
武内P「片づけなければならない業務が、残っておりますので」
楓「……そうですよね」
武内P「申し訳ございません」
楓「いいえ、こちらこそ」
6: 以下、
ガチャッ
楓「…………」バタン
瑞樹「ダメだって?」
楓「はい」
早苗「ノリ悪いわねぇ?」
瑞樹「あなたみたいな人の介抱をしたくないんでしょ、わかるわ」
早苗「なっ、何よその言い方!
 この間なんて、むしろ楓ちゃんの介抱してあげてたじゃない、あたし!」プンスカ!
瑞樹「その前はあなただったでしょう。その前も、その前も前も…」
楓「…………」
瑞樹「楓ちゃーん、行くわよー」
楓「あ、はい」
スタスタ…
7: 以下、
――――――
武内P「…………」カタッ カタカタ…
カタカタカタ…
武内P「………………」カタカタ…
カタカタ タンッ…
武内P「………………」フゥ…
ギシッ
武内P「…………」ンー…
コキッ コキッ…
ガチャッ バタン
8: 以下、
コツ コツ…
武内P「………………」コツコツ…
武内P「…………?」ピタッ
美城常務「更衣室も見ておきたいのだが」コツコツ…
役員「はっ。こ、こちらです……」スタスタ…
武内P「…………」
同僚P「まったく、こんな遅くまで。よくやるよなぁ」ヌッ
武内P「…………」
同僚P「よぅ。お前もこんな時間まで残業か?」ポンッ
武内P「はい」
9: 以下、
武内P「……あの方が美城常務、でしょうか」
同僚P「あぁ。会長のご息女で、アイドル部門の新しい統括重役。
 アメリカから帰国してソッコーこっち来て、ウチの設備を見て回ってるんだと」
同僚P「見ろよ。お付きの役員連中の方がヘバッてやがる」
武内P「そのようです」
同僚P「とりあえず、お前も気をつけといた方が良いぜ」
武内P「……気をつけろ、とは?」
同僚P「欧米帰りの新任女社長なんて、ロクなもんじゃねぇって事さ」
同僚P「実力社会で勝ち残ってきた自負と地位、さらにフェミニズムを笠に着て、
 俺達のようにうだつの上がらねぇ社員を冷遇しにきてもおかしくねぇ」
武内P「正確には、社長ではないのでは…」
同僚P「雲の上っつー意味では同じだろうが、頭かってぇなお前はホント」
10: 以下、
同僚P「とにかく、あれだけバイタリティのある女は何をしでかすか分からん。
 お前のためを思って言うが、覚悟はしとけよ」
同僚P「ぶっちゃけ、今のお前はアイドルに仕事を与えるどころか、
 逆にトップアイドル達に仕事をさせてもらってるようなもんだ」
同僚P「新規プロジェクトで冒険する必要が無いアイドル達の、
 身の回りを世話するマネージャーという、な」
武内P「…………」
同僚P「ま、担当事業が伸び悩んでる俺も、他人の事を言えたクチじゃねぇけどさ」
同僚P「お互い、頑張ろうぜ」ポンッ
テクテク…
武内P「………………」
11: 以下、
――――――――――――
――――――
 頑張って、どうしろっていうの?
 いっぱいレッスンして、お仕事して、売れて有名になって……
 そんなの全部、私達じゃなくて、“この会社”がやりたい事じゃない!
 確かに、あなたの言う事を聞いていれば大成できるのかも知れないわ。
 でも、私達が夢見ていたものと、それは違うよ。
 もっと、皆に夢を与える事をしたかった……それなのに!
 会社の言いなりになって、訳も分からず走らされるのはもうイヤなの!!
 私達は、あなたのお人形なんかじゃないっ!!
――――――
――――――――――――
12: 以下、
――――――――――――
――――――
武内P「………………」
チュン チュンッ… ピヨッ
武内P「………………」
13: 以下、
?346プロ エントランスホール?
ウィーン…
受付嬢「おはようございます」ペコリ
武内P「おはようございます」
ザワザワ…
武内P「……?」
ザワザワ… オイオイ…
タッタッタッ…!
同僚P「おい、お前聞いたか!?」
武内P「おはようございます。何かあったのでしょうか」
同僚P「暢気にしてる場合じゃねぇ! その様子だとまだ知らねぇようだな」
同僚P「あの新しい常務、さっそくしでかしやがった。個人面談だとよ」
14: 以下、
武内P「個人面談?」
同僚P「幹部や役員連中だけじゃなくて、現場で働くプロデューサー達も対象らしい」
同僚P「さすがにアイドル達まで声がかかってはいないようだが…」
社員A「おい、聞いたか? 川島瑞樹の話」
社員B「あぁ、常務に呼ばれたんだろ?」
社員A「実力のあるアイドルは、名指しで面談を行ってるようだな」
社員B「ウチの会社もワンマン経営になりそうだな。やれやれ……」
武内P「アイドルも、ですか」
同僚P「……みたいだな」
同僚P「とにかくだ。噂では、この面談で事業仕分けが行われるらしい」
同僚P「実績が上がらない事業があるなんて知られたら、どうなる事か…!」ソワソワ…
社員C「あのー、そこのお二方」
同僚P「は、はいっ!?」ビクッ!
社員C「常務がお呼びだそうです」
15: 以下、
?常務の部屋の前?
同僚P「…………!」ゴクリ…
武内P「…………」
同僚P「ま、まずは俺からのようだな……」
同僚P「ハハ、ハ、な、なぁに大したこたぁねぇ。
 相手はたかだかこの間来たばかりのし、新人だ。ちょ、ちょちょいと適当に…」
武内P「あの……」
同僚P「し、ひ、心配す、すんな。
 じゃあ、ちょ、ちょっと行ってくらぁ」カチコチ…
コンコンッ
「どうぞ」
同僚P「……し、失礼します…」ガチャッ
バタン
武内P「ネクタイが、曲がっていたようですが……」
16: 以下、
チク タク…
武内P「………………」
チク タク…
武内P「………………」
武内P「………………」
ガチャッ…
同僚P「失礼しましたぁ……」フラァ…
バタン
武内P「どうもお疲れ様でした」ペコリ
同僚P「へ、ヘヘ……あとは、たのんだぜ……」ニヤッ
フラフラ…
武内P「……?」
17: 以下、
武内P「…………」
武内P「……」キュッ
コンコン
「入りたまえ」
武内P「……」ガチャッ
武内P「失礼致します」
バタン ペコリ
美城「なるほど、君がそうか」
武内P「……?」
美城「どうぞ、こちらに」
武内P「……失礼致します」
18: 以下、
美城「…………」ペラッ
武内P「…………」
美城「……現在は、川島瑞樹、片桐早苗、高垣楓の三名を中心に担当」
美城「安定的に得られる仕事の依頼を、堅実に捌く実直なプロデューサー、か……」
美城「新しいプロジェクトを企画しないのは、する必要が無いからである、と?」
武内P「はい」
美城「なるほど。それで彼女達も満足しているのなら、確かにそうだろう」
美城「だが、君が今行っている事は、多少の処理能力があれば誰でもできる事だ」
美城「プロデューサーという肩書きでありながら、やっている事はマネージャーのそれだな」
美城「つまり、君はプロデューサーとしての本来業務を果たしているとは言えない」
美城「今の君に代わる者はいくらでもいるという事だ」
武内P「……承知しております」
武内P「自分が、この会社に必要とされてはいないであろう事は」
19: 以下、
美城「自覚はあるようだな」
武内P「自慢できる事ではありませんが……」
武内P「残念ですが、これ以上、346プロにご迷惑をお掛けする訳にもまいりません」
武内P「どうか、私以外の誰か優秀なプロデューサーを…」スッ
美城「待ちなさい」
武内P「?」ピタッ
美城「私個人としては、君が自覚した通りの考えを君に対して持っている」
美城「しかし、自覚した事が必ずしも正しいとは限らない」
美城「とあるアイドル……そして、君の前に面談した先ほどのプロデューサーから、
 ぜひ君を担当として選任してほしいと要望されたプロジェクトがある」
武内P「えっ……」
美城「なぜ、プロデューサーらしからぬ考えを持つように至ったかはともかく、
 “本来業務”をこなす君の姿を見たいと願う声がそうあっては、無下にはできない」
美城「君が、我が社が必要とすべき人材かどうか、見極めさせてもらおう」
20: 以下、
ガチャッ
武内P「失礼致します」ペコリ
バタン
武内P「…………」
同僚P「おぅ、終わったか?」ヒョコッ
武内P「…………」
同僚P「そ、そんな怖い顔すんなよ。あの状況じゃ仕方が無かったんだ」
同僚P「俺が継続してたんじゃ、今やってるプロジェクト、潰されそうだったからよ。
 とびきり優秀なプロデューサーが同期にいるから、そいつに任せてほしいってな」
武内P「そう言われましても…」
同僚P「だぁー細かい事は言いっこなしだぜ!!
 頼む! 哀れな同期とそのアイドル達のためと思って、一肌脱いでくれ!」ペコッ
同僚P「事務室はロビー奥の通路を地下に降りてすぐの所だ、じゃあな!」ダッ!
タタタ…
武内P「………………」ポリポリ…
21: 以下、
コツ コツ…
武内P「…………」コツコツ…
コツ コツ…
ピタッ
武内P「………………」
武内P「“シンデレラプロジェクト”……」
22: 以下、
武内P「……」スッ
ガチャッ
莉嘉「やったぁー!! 新しいモンスターゲットー!!」カシャッ!
武内P「!?」ビクッ!
みりあ「莉嘉ちゃんずるーい! みりあもやりたいー!」ピョンピョン!
莉嘉「えっへへーん、アタシのケータイだもーん☆」ドタドタ…
みりあ「あっ、待ってよぉー!」ドタドタ…
武内P「……?」ポカ-ン
智絵里「あ、あの……」
武内P「えっ?」
智絵里「な、何か……御用でしょうか?」オドオド…
23: 以下、
武内P「えっ……あ、あぁ。これは失礼しました」
武内P「私、この度こちらのプロジェクトを担当する事となりま…」スッ
きらり「杏ちゃーん! 寝てばっかりは体に良くないにぃ☆」ガドーン!
武内P・智絵里「!?」ビクッ!
杏「えぇぇ……どうせ今日もやる事無いでしょ」ムニャムニャ…
きらり「やる事はぁ、皆で見つけて頑張ろう? そしたら皆でハピハピ!」
アーニャ「ダー。皆でできる事を探す、とても大事な事です」
きらり「にゃは! さっすがアーニャちゃぁん分かってゆぅ!」ダキッ!
アーニャ「おうふっ! き、キラリ、苦しいです…」ギューッ…!
武内P「……元気のある方ばかりですね」
智絵里「そ、そうですね。私も見習いたいんですけど……」
かな子「あれ、お客さんですか?」
24: 以下、
智絵里「あ、かな子ちゃん」
武内P「前任に代わり、本日よりこちらのプロジェクトを担当させていただきます」スッ
かな子「えっ……ぷ、プロデューサーさんですか!? それも新しい!?」
智絵里「そ、そんな! すみません、私、すっごく失礼な事を…!」ペコペコ…!
武内P「い、いえ、お気になさらず…」
ガチャッ!
李衣菜「だからしょうがないじゃん! 壊したくて壊したんじゃないんだしさ!」プリプリ!
みく「しょうがないで済むなら警察は要らないにゃ!!」プンスカ!
25: 以下、
のっしのっし…!
李衣菜「みくちゃんはいちいち気にしすぎだよ!
 あんなのせいぜい千円ちょいなんだろうし、私が買えばいいんでしょ!?」
みく「“あんなの”じゃないにゃ! 猫耳はみくの商売道具なの!
 人が大切にしてる物に乱暴をした事に、弁償よりもまずは謝るべきでしょ!」
みく「大体李衣菜ちゃんはいつも…!!」ガミガミ…!
李衣菜「そっちこそ…!!」ガヤガヤ…!
かな子「ちょ、ちょっと二人とも、事務所に来るなりケンカはダメだよぉ!」
智絵里「そ、そうだよぅ! 新しいプロデューサーだって来てくれてるんだよ?」
李衣菜「新しい?」
みく「プロデューサー?」クルッ
武内P「初めまして。前川みくさんと、多田李衣菜さんですね?」
李衣菜「えっ?」ドキッ
みく「な、何でみく達の名前を知ってるにゃ!?」
武内P「名簿は、事前に確認しておりましたので……」
26: 以下、
みりあ「えー、新しいプロデューサーが来たのー?」
杏「その人、川島さん達のプロデューサーだった人?」
莉嘉「うぇっ、杏ちゃん知ってるの?」
杏「前に川島さんと愛梨さんがMCやってる番組に出た時、袖に立ってた」
智絵里「よ、よく覚えてるね杏ちゃん。私なんて、緊張しすぎて余裕が無かったから…」
きらり「にょわーっ、そんなすっごい人達のプロデューサーが来てくれたのー!?」
アーニャ「オー、それはオブナドェジヴァユシィー、とても心強いです」
武内P「いえ、私は…」
李衣菜「だったらさ!」ズイッ
李衣菜「その優秀なプロデューサーさんに、ジャッジしてもらおーじゃん!」ビシッ
みく「上等にゃ!」フンスッ
27: 以下、
武内P「え?」
みく「李衣菜ちゃんが乱暴にギター置いたせいで、みくの猫耳が壊れちゃったの!
 弾けもしないギターを!」
李衣菜「何さその言い方! ギターが勝手に猫耳の方に倒れちゃったんだよ!」
みく「あんな雑な置き方したら倒れるに決まってるにゃ!!」
李衣菜「疲れてたんだから雑になるのはしょうがないでしょ!!
 大体、みくちゃんが場所取りすぎて私の荷物置く所無かったじゃん!!」
みく「もーラチが明かないにゃ!!」
李衣菜「こっちの台詞だよっ!!」
みく・李衣菜「で!?」「悪いのはどっち!?」ズイッ
武内P「い、いえ、あの……」オロオロ…
武内P「……ところで、メンバーが全員揃ってはいないようですが」
アーニャ「! ……」
莉嘉「あ、えと……」
28: 以下、
かな子「え、あの……ら、蘭子ちゃんなら、ボーカルレッスンをしています!」
武内P「様子を見てきます。皆さんは、ひとまず今日は予定された事を…」スッ
みく「ちょっと待つにゃー!! 話が終わってないー!!」ジタバタ
智絵里「み、みくちゃん、落ち着いて?!」
みりあ「何でいつもそんな重いギター持ってるのー?」
李衣菜「己を犠牲にしてでも、譲れないもんがある。それがロックってヤツさ」
杏「弾けないのに持ってても意味ないんじゃない?」ボリボリ
みく「ごもっともにゃ」
李衣菜「何さみんなしてもー!!」
きらり「ケンカはダァメー! きらりんバリヤー☆」メゴォッ!
莉嘉「わ、わぁーい! きらりちゃんすごーい、壁がへっこんだー!」
武内P「…………」ガチャッ
バタン
29: 以下、
?ボーカルレッスン室?
ジャーン♪
蘭子「アーアーアーアーアー♪」
トレーナー「喉から出さないでお腹からーーはいっ」
ジャーン♪
蘭子「アーアーアーアーアー♪」
ガチャッ
蘭子「?」
トレ「あら?」
30: 以下、
武内P「失礼致します」バタン
トレ「あぁ、プロデューサーさん。お疲れ様です」
武内P「この度、そちらの神崎蘭子さんが所属するプロジェクトを、担当する事に」
トレ「そうだったんですか。どうぞ、よろしければ見学されていきますか?」
武内P「はい。ご迷惑でなければ」
蘭子「闇に飲まれよ!」バッ!
武内P「!?」ビクッ!
31: 以下、
蘭子「ククク、貴方が私をいざなう新たなる『瞳』の持ち主、という事ね」
蘭子「凍れる時は終わりを告げ、果てしなき天空への階段を照らす暁光が今、
 我が心を慰む供物とならん!」
蘭子「血の盟約に従い、共に覇道を歩もうぞ、我が友よ!!」バーン!
武内P「…………」ポカーン
トレ「あ、あはは、あのー蘭子ちゃん? 初対面で、そういうおふざけはちょっと…」
蘭子「えっ!? な、あの、私が戯言を言っていると言うのか!」
トレ「私は、少し分かりますけど、ほら……プロデューサーさん、混乱してますよ?」
32: 以下、
トレ「前のプロデューサーさんにも、言われてたじゃないですか。
 そういう路線はイタイキャラに見えるから、あまり多用すると危ないって…」
蘭子「路線とかじゃないもん!」
蘭子「……ハッ!? こ、コホン!
 偽りの仮面を被り、我が身を殺して大勢に取り入ろうなど愚の骨頂よ!」
蘭子「テュポンの暴風が我が翼を切り裂こうとも、
 立ち向かう事を諦めては美しき華の開花など夢幻の彼方に消えよう」
蘭子「堕天使の飛翔を導くのは、彼の者の務め、そう……今こそ、創世の時!!」バッ!
武内P「……ちょっと、急用を思い出したので、失礼致します」ササーッ
蘭子「えぇーーっ!?」ガーン!
33: 以下、
?休憩スペース?
ピッ!
ウィーン ガコンッ コポコポコポ…
武内P「…………」スッ
武内P「……ッ」ズズ…
武内P「………………」ハァー…
ガックリ…
テクテク…
楓「……あっ」
34: 以下、
武内P「! ……高垣さん、お疲れ様です」
楓「お疲れ様です、プロデューサー」
楓「休憩中ですか?」
武内P「えぇ……はい」
楓「じゃあ、私も。お隣、良いですか?」
武内P「え、えぇ。どうぞ」ギシッ
楓「失礼します」スッ
武内P「……大した引継ぎもできず、後任のプロデューサーもさぞ困っているかと思います」
武内P「ご迷惑をお掛けする事となり、申し訳ございません」ペコリ
35: 以下、
楓「ふふっ。確かに、後任の方は面食らっていますね」
楓「こんな仕事量を、たった一人でこなしていたのか、って」
武内P「大した事ではありません。
 一方で、今のプロジェクトは人数が多い上に、皆さんとても個性的で……」
武内P「私のような人間に、果たして上手く導く事ができるものか……」
楓「慣れますよ」
武内P「えっ?」
楓「それに、プロデューサーなら、あの子達もきっと慕ってくれます」ニコッ
武内P「…………?」
コツ コツ…
後任P「高垣、ここにいたか。そろそろ時間だ」
楓「あ、はい……」
36: 以下、
楓「じゃあ、私はここで」スッ
武内P「はい。お疲れ様です」
後任P「……」ペコッ
武内P「……」ペコリ
テクテク…
武内P「………………」
ドタドタ…!
李衣菜「あ、いたーっ!! みくちゃんこっち、見つけたよ!」
武内P「!!」ギクッ!
みく「良くやったにゃ、李衣菜ちゃん!」ドタドタ…!
みりあ「かくれんぼ、もう終わったのー?」トテトテ…
きらり「事務所、すーっごく広いけどぉ、みーんなで探せば楽チンだにぃ♪」ドタドタ…
杏「杏まで引っ張り出すのやめてくんないかなぁ」
37: 以下、
みく「さぁ、いい加減にお縄につくにゃ!」
李衣菜「私とみくちゃん、どっちが悪いのか、決めてくださいよ!」
武内P「…………あの、お言葉ですが……」ポリポリ…
武内P「どちらが、どう悪いとは、私には判断しかねます」
みく・李衣菜「えっ?」
武内P「前川さんの猫耳も、多田さんのギターも、等しく譲れないものであるなら……」
武内P「きっと遅かれ早かれ、いつかは起きてしまう事だったのではないかと思います」
武内P「仮に、私が今、前川さんの猫耳を壊したギターを取り上げたとしても、
 多田さんは納得されないでしょうし、その逆も同様でしょう」
武内P「大事なのは、どちらが悪かったのかではなく、譲れない事項を鑑みた上で、
 これからどう回避すべきかだと考えます」
李衣菜「……意外、ですね。私が怒られるのかな、って思ってたけど…」
みく「えっ、そうなの?」
李衣菜「前のプロデューサーなら、たぶんそうだったと思わない?
 ロック、ロックって、視野を狭めると可能性を潰すぞーってよく言われてたし」
みく「うーん……猫耳に固執するなーって、みくも言われてたしにゃあ。
 元はと言えば、大事にするはずの猫耳を床にポイッてしてたのもみくだし……」
38: 以下、
杏「後ろめたかったんなら最初から二人とも謝れば良かったじゃん」
みく・李衣菜「ぬぁっ!?」
かな子「ぜぇー、はぁー……ケンカは、良くないよぉ」
アーニャ「お互いにイズヴィニーチェ、ごめんなさいを言って仲直り、ですね?」ニコッ
李衣菜「……ごめん」ポリポリ…
みく「ふぇっ!?」ドキッ
李衣菜「私、弁償するから……次から、気をつけるね」
みく「ちょ、きゅ、急に謝らないでよ! みくのせいでもあったんだし、その……」
みく「みくも李衣菜ちゃんの荷物置くスペース、全然考えてなくて、ごめんなさい」ペコッ
莉嘉「あれれー、何だか新しい展開ー?」
智絵里「そういえば、二人がまともに謝ってるの、見た事ないかも」
きらり「二人とも、ちゃぁんと素直な気持ちになれてハピハピ気持ちいぃ☆」
李衣菜「き、気持ち良くはないけどさ……!」
ザッ!
ベテラントレーナー「こらぁーっ!! 前川ぁ、多田ぁっ!!」
みく・李衣菜「うひゃあっ!?」「げっ!」
39: 以下、
ベテトレ「いつまで経っても来ないと思ったら、こんな所で油を売って……!」
ベテトレ「ダンスレッスンの時間は過ぎてるぞ! さっさと着替えて来い!!」
みく・李衣菜「すみませぇーん!!」ペコーッ!
スタスタ…
武内P「……猫耳は、経費で落としますので、ご安心を」
李衣菜「あ、はい……じゃあ、行こっか」
みく「うん」
テクテク…
みりあ「私達、何をすればいいのー?」
きらり「お部屋のお掃除してぇ、レッスン終わった皆のドリンク作ってぇ、
 やれる事はいーっぱいあるにぃ☆」
アーニャ「ダー。ランコも、ミクも、リイナも、疲れが取れるようなお部屋にしたいです」
かな子「皆が帰って来た時用のお菓子も必要だよねっ」ズイッ
智絵里「そ、そうだねー」
武内P「そういえば……本田未央さんら、ニュージェネレーションズの皆さんは?」
40: 以下、
一同「……!」ピクッ
武内P「そして、確か、新田美波さんも、このプロジェクトのメンバーだったのでは……」
武内P「その4名の姿が見えないのですが、本日はどちらにいらっしゃるのでしょうか」
武内P「本来であれば、私が把握しておくべき事なのですが……
 力が及ばず、申し訳ございません」ペコリ
智絵里「そ、それはしょうがないですよ! 今日来たばかりなんですし…」アタフタ…
武内P「いえ……」
一同「………………」
杏「……プロデューサー、知らないんだね」
武内P「?」
アーニャ「ンー、ミナミ達は……ちょっと、お出かけしています」
武内P「……どちらに?」
41: 以下、
?常務の部屋?
今西部長「就任早々、大した働きぶりだねぇ」
美城「……皮肉で仰っているのでしょうか」
今西「そんなつもりは無い、が……些か性急、とも思うかな」
美城「“今”ばかり注視しては状況に囚われ、判断を執るべき機会を逸します」
美城「経営者の仕事は“先”を見据え、然るべき舵を取る事。
 今など、せいぜい現場の人間が大事にすれば良い」
美城「逆に言えば、今を任せられないようなスタッフなど、組織に必要ありません」
今西「……フーム、という事は…」
今西「彼の事を切らなかったのは、それなりに彼を買っているから、という事かい?」
42: 以下、
美城「曲がりなりにも、我が社のトップアイドルを三名世話していた人物です」
美城「それに、元々解体するつもりだったプロジェクト……
 数ある砦のたかが一つ、たとえ陥落しようと主郭に何ら支障はありません」
美城「自由にやらせ、その力量を試すには、渡りに船だったという事です」
今西「当て馬に利用してリスクヘッジか、やれやれ……君は抜け目が無いね」
今西「となると……彼女の事は、どう考えているのかね?」
美城「活動が無いまま、例のプロジェクトに登録されているというアイドルですか」
今西「もう半年以上にもなる」
美城「言うまでも無く、アイドル事業は慈善行為ではありません。
 それはファンのみならず、アイドル自身にとっても」
美城「これまでは過保護にアイドル達の面倒を見てきたようですが、
 それに掛かるランニングコストは到底無視できるものでは無い」
クルッ
美城「たとえ彼女の保護者から頼まれたとしても、復帰が見込めなければ、
 一アイドルのために346プロがこれ以上の扶助を行う理由など、ありません」
今西「……君なら、そう言うだろうね」
43: 以下、
?美城グループ附属総合病院?
コツ コツ…
医師「当院の病床数は692床」
医師「そのうちICU、すなわち重篤な患者の集中治療に供する病床は18床あります」
武内P「……その患者は、いつからこちらに?」
医師「およそ半年以上前でしょうか。
 あるフェスで、本番直前に意識を失い、こちらに搬送されたのです」
武内P「その後の治療は?」
医師「医者として恥ずべき事ですが……ここは、もはや庭です」
医師「定期的に水と栄養を与え、身辺の世話をするだけ」
医師「文字通り植物人間と化した彼女に対し、治療と呼べる治療など、
 ほとんどロクに進んでいないのが現状です……」
武内P「…………」
ウィーン…
医師「こちらが、集中治療の病棟となります」
医師「彼女の病室はこの少し手前、HCU……準集中治療室という部屋です」
44: 以下、
武内P「? ……“準”とは。集中治療室ではなく、ですか?」
医師「申し上げた通り、ICUに居させても手の施しようが無いのです。
 しかし、一般病棟に移しては、他の患者を刺激する事にもなります」
医師「個室を宛がい、かつ経過を観察するのに最も好都合なのが、HCUという訳です」
武内P「……隔離病床である、と」
医師「…………」
タッタッタッタッ…!
ドンッ!
武内P「ッ!」
卯月「……ッ」タタタ…!
未央「ま、待ってしまむー!!」タタタ…!
武内P「…………」
45: 以下、
タタタ…!
美波「……あっ、す、すみません!」ペコッ
武内P「いえ……」
美波「……!」ペコッ
タタタ…
医師「……患者と親交のあったアイドル達です。面会に来ていたのでしょう」
武内P「存じております」
医師「えっ?」
武内P「彼女達の、プロデューサーですので」
医師「……そうでしたな」
コツ…
医師「ここが、彼女の病室です」
ガララ…
46: 以下、
ピッ… ピッ… ピッ…
武内P「………………」
武内P「…………目と、口が開いていますが、意識は……?」
医師「……」フルフル
医師「抗NMDA受容体抗体脳炎……我々による、一応の診断結果です」
医師「症例は少ないのですが、若年女性に好発する急性型の脳炎であり、
 主に卵巣に奇形の腫瘍を併発している例が多いという特徴があります」
医師「その卵巣奇形腫に脳組織が含まれた場合、これに対する抗体が生じ、
 それらが中枢神経系を攻撃してしまう事で発症する、というのが主な症例です」
武内P「……不勉強で恐縮ですが、脳組織が腫瘍に含まれる、とは一体…」
医師「腫瘍中に脳組織が生成される、と言えば分かりやすいでしょうか」
47: 以下、
医師「卵子や精子という細胞は、人体を構成する全ての細胞の大元であり、
 これら胚細胞の、さらに元となる細胞が暴走して腫瘍化したものが奇形腫です」
医師「生殖細胞の暴走により奇形腫にて生成されるのは、ほとんどが皮膚や髪、骨ですが、
 稀に一部が神経管を形成し、脳や脊髄等の元となる組織が生成されるのです」
医師「この脳組織に対し発生した抗体が悪さをする……自己免疫疾患というヤツですな」
医師「つまり、その抗体の供給源である奇形種が大きな原因の一つであるという事です。
 事実、診断の結果、彼女の卵巣にも奇形種が認められておりました」
医師「これについては、外科手術により既に切除済みです。
 以後は、薬物治療により快方に向かうだろうと目されていたのですが……」
武内P「……半年以上経った今でも意識が戻らない、と?」
医師「はい……」
医師「食事も満足に行えないほど意識レベルが低いため、
 ご覧の通り、鼻からの経管栄養により延命処置をしている状態ですが……」
医師「ステロイドや免疫グロブリンを投与しても、血漿交換を行っても、
 類似の症例で有効とされた抗がん剤さえ、いずれも効果は見られません」
医師「考え得る手を尽くしても、原因の特定すらできない……八方塞がりなのです」
武内P「………………」
ピッ… ピッ… ピッ…
48: 以下、
?病院の中庭?
美波「気分は落ち着いた?」
卯月「はい……すいません、取り乱しちゃって」
美波「ううん、いいの。凛ちゃんの事だもの、慌てちゃうのも無理はないわ」
卯月「…………」
未央「大丈夫大丈夫! しぶりんいつか絶対治るって!!」
卯月「未央ちゃん……」
未央「私達にはよく分かんないけど、フツーに考えておかしいじゃん。
 何にも悪い事してないしぶりんが、急にあんな事になるなんてさ」
49: 以下、
未央「別に神様がなんとかーってな話、するワケじゃないけどさ。
 私達にできるのは、しぶりんが復帰した時に、いかに盛大に迎えてあげられるか!」
ピョンッ! スタッ
未央「いよっと!
 それを考えといてあげるのが、親友の務めであろーと思うのであります!」
卯月「でも、もしこのまま凛ちゃんが…」
未央「だーもうその話はヤメヤメ!! 何でそういう話ばっかりするかなー!」
ギュッ!
卯月「うぇっ!?」
未央「減らず口を言うしまむーのお口なんてこうだ! えい、えいっ!!」ギュギューッ!
卯月「い、いひゃひゃひゃっ!! いひゃいいひゃいっ!!」ジタバタ!
美波「ちょ、ちょっと二人とも、病院の中で騒いじゃダメでしょう!」オロオロ…
50: 以下、
卯月「それじゃあ、私と未央ちゃんはレッスンあるので、ここで……
 美波さん、すみません。後はよろしくお願いします」ペコリ
美波「えぇ。もう少し、凛ちゃんの様子を見ていくわね」
未央「頼んだぜーみなみん! じゃあまたねー!」フリフリ
テクテク…
美波「……ふぅ、さてと」
ザッ…
美波「……?」クルッ
武内P「新田美波さん、ですね?」ヌッ
美波「う、うわっ!?」ビクッ
武内P「新しく、シンデレラプロジェクトのプロデューサーを務める者です」スッ
美波「え? ……あ、あら、そうだったんですか。す、すみません……」
武内P「渋谷凛さんの事で、少しお話をお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」
51: 以下、
サラサラ…
美波「最初は、手が少し震えてるのかな、って思う程度の事でした」
美波「ニュージェネの未央ちゃん、卯月ちゃんが、そう言っているのを聞いて……
 私達も、最初は気のせいだと思っていたのですが、言われてみればそうかもって」
美波「凛ちゃん本人は、気にする事無いって、知らんぷりしていました。
 本番が近づいて来たりすれば、武者震いだよって」
美波「今にして思えば……ああいうのも、誤魔化していたのかなって思います。
 私達に、要らない気を遣わせないように……」
武内P「…………」
美波「でも、凛ちゃんの手……ううん、手だけじゃなくて、体の震えは、
 日を追うごとに大きくなっていくようで……」
美波「携帯のメールも、打ち間違いが多くなったり……
 レッスンも、凛ちゃんらしくないミスが多くて、よく自主練していました」
美波「そして……昨年のサマーフェスで、凛ちゃんは、倒れました」
美波「私達は、それまで知らなくて、凛ちゃんのご両親から聞いた事ですが…」
美波「フェスの前日、凛ちゃんの手は……
 自分で字が書けないほど、ひどく痙攣していたそうです」
52: 以下、
武内P「! あのフェスの……」
美波「凛ちゃんの家、お花屋さんで……
 伝票を書くよう頼まれても、凛ちゃんは、頑なに拒否したんだそうです」
美波「それで、お父さんが、無理 矢理手を取って……
 鞄の中の凛ちゃんの手帳は、とても読めるような文字で書かれていなかったと」
美波「フェスで緊張してるんだからほっといて! って……
 その日は凛ちゃん、自分の部屋に閉じこもっちゃったそうなのですが……」
美波「その事を知った未央ちゃんと卯月ちゃんは、すごく自分を責めていました。
 何であんなに一緒にいて、気づいてあげられなかったんだろうって」
美波「それは私達、他のメンバーも同じです。あの子の異変に、気づくべきでした」
53: 以下、
美波「凛ちゃんが倒れたあの日から、メンバーの皆にも、良くない空気が流れています」
美波「私も、年長者ですし、こうして二人の付き添いでお見舞いに来たり、
 何かできる事をしなくちゃって思うんですけど……」
ギュッ…
美波「私の力じゃ、どうしようもできなくて……」
美波「未央ちゃんが言っていたように、いつでも凛ちゃんが帰って来れる場所を、
 守らなくちゃって、思っているのに……!」
美波「どうしても、暗い雰囲気に、なっちゃって……
 皆も、何とかしようって、思っているけど、何にもならないんです……!」ジワァ…
武内P「………………」
美波「う、うっ……うぅ……!」ポロポロ…
武内P「…………」
武内P「……美城常務にお会いした事はありますか?」
54: 以下、
美波「えっ……?」
武内P「この春より新しく、我が社のアイドル部門の統括重役に就任された方です」
武内P「346グループの附属病院に入院し、手当を受けている実情を見ると……
 渋谷さんの医療費は、346プロからも支出されているのでは?」
美波「え、えぇ……凛ちゃんの家が負担するお金以外に、プロジェクトの経費で……」
武内P「だとすると、今の美城常務は、遠からずその支出を打ち切ると考えられます」
美波「!?」
武内P「効率的な会社の運営を第一に考え、不必要と判断すれば切り捨てるものと…」
美波「そ、そんなっ! それじゃあ凛ちゃんはどうなるんですか!!」
武内P「つまり、渋谷さんが今後もう、医療費を支払う必要が無い……
 そういう状況にしていかなければならないと考えます」
美波「えっ……」
スクッ
武内P「皆さんが、支障無く仕事やレッスンに打ち込めるようにする事が、
 プロデューサーである私の務めです」
武内P「任命された以上、私は、その職責は全う致します」
55: 以下、
?夜、346プロ シンデレラプロジェクト事務室?
武内P「………………」カタカタカタ カタカタ…
武内P「…………」カチカチ…
武内P「………………」カタカタカタ カタカタカタ…
ガチャッ
ちひろ「……お疲れ様です、プロデューサーさん」
今西「邪魔するよ」
武内P「…………ッ」ガタッ ペコリ
今西「あぁ、いい。そのまま業務を進めてくれたまえ」
武内P「はい」ギシッ
カタカタカタ…
今西「……話は、聞いているかね?」
56: 以下、
武内P「……事務所に戻って早々に、常務よりお伺いしております」カタカタ…
今西「そうか……私も、考え直すように言ったんだがねぇ」
ちひろ「前任のプロデューサーさんも、直談判をしに来られたのですが……」
武内P「…………」カタカタ…
カタカタ… カタカタ…
今西「君は、どうするのかね?」
武内P「え……?」カタ…
今西「快方に向かう兆しが見られない彼女を、まだプロジェクトに存続させる気が?」
武内P「午前中の皆さんの表情、そして、新田さんのお話を聞き……
 渋谷さんあってのプロジェクトである、という事が分かりました」
武内P「彼女の容体が、プロジェクトのメンバー全体の士気に関わっている以上、
 今やるべき事は必然的に限られてきます」カタカタ…
カタカタカタ… カタカタ…
ちひろ「そう……そうですよね!」
今西「うむ」ニコッ
57: 以下、
?翌朝、346プロ シンデレラプロジェクト事務室?
莉嘉「ええぇぇぇっ!?」
かな子「これから当面、新しいお仕事は全然取らないんですか!? 一つも!?」
ザワザワ…!
武内P「今のモチベーションのまま、対外的な活動を行っても、
 良い実績をあげられる見込みは薄いと思われます」
武内P「渋谷さんが戻られるまでの準備期間として、皆さんにはしばらくの間、
 基礎レッスンを中心に行っていただきたいと考えております」
みく「そんなの、いくらなんでも無茶苦茶にゃ!!
 いきなりお仕事しなくなったら、みく達の業界からの信用に関わるにゃ!」
李衣菜「そ、そうですよ!
 ただでさえお仕事少なくなってきてるのに、何もしないなんて…!」
武内P「関係先へは、私がこれから一件ずつ赴き、ご了解をいただいてまいります」
武内P「今度のサマーフェスで結果を出すという事を条件に、ですが」
一同「!?」
58: 以下、
みりあ「サマーフェスって、8月の、夏休みの終わりにやるヤツのことー?」
智絵里「もうあと4ヶ月半くらいしか無いじゃないですか!」
武内P「渋谷さんの医療費が、プロジェクトの経費で落とせなくなった今となっては、
 いずれにせよ時間が無い事に変わりはありません」
卯月「えっ……!」
美波「やっぱり、凛ちゃんの医療費はもう、打ち切りに……」
武内P「渋谷さんを除名し、全く新しいプロジェクトとして再スタートを切るのなら、
 よりじっくりと時間をかけて方針を決定していく事も可能です」
武内P「ですが、それは…」
未央「そんなの、できっこないじゃん!!」ガタッ!
ツカツカ…!
未央「プロデューサー! しぶりんの病気の事、知ってるんだよね!?」ビシッ
武内P「はい」
未央「知っててしぶりんを取り戻すって、そう言ってるって事でいいんだよね!?」
武内P「他に執るべき手段は無いと考えます」
未央「だったら!!」
59: 以下、
ガタッ!
未央「しぶりんが戻って来てくれる事を信じて、私達も待とうよ!」
未央「皆で笑って迎え入れられて、サマーフェスで一緒にガーンとぶちかませるように、
 たっくさんレッスンに打ち込もう!!」
卯月「未央ちゃん……!」
武内P「皆さんの合同による、新曲の手配も検討中です」
莉嘉「ええぇぇ、ホントに!? やったねきらりちゃん!」ピョインッ!
きらり「うっきゃー! ますますウカウカしてられないにぃ!」ガッシィ!
みりあ「この間皆で歌えなかった分、今回は皆で歌えると良いね!」
蘭子「束の間の隠遁……それは休息ではなく、より高く飛び立つための修練の時!」
かな子「…………」
李衣菜「うーん……」ポリポリ…
60: 以下、
未央「あ、あれ……おーいみくにゃん達、どうしたのかなー?」
未央「かな子ちんとちえりんも、杏ちゃんもなんか反応薄いよー?」
杏「そりゃあ、だって……」
美波「あまりにも……調子が良すぎじゃないでしょうか」
武内P「…………」
美波「頑張れば大丈夫って、私達を元気づけてくださろうとしているのは分かります」
美波「でも、何事も、頑張りさえすれば済む、っていうものでもないんです」
美波「綺麗事を言って、絶望を乗り越える事ができるんですか?
 私達、もうこれ以上何を頑張れって……!」
美波「昨日今日来たばかりのあなたに、軽々しく何を頑張れって…!」グッ…!
アーニャ「ニェット! ミナミ、それ以上、言ってはいけません」
卯月「………………」
61: 以下、
美波「卯月ちゃん……ごめんなさい、アーニャちゃん、皆」
美波「私、皆の事、何も考えないで、勝手な事…」
未央「ううん、全然! 皆不安なんだもん、しょうがないよ」
未央「だからプロデューサーだって、私達を奮い立たせてくれてるんじゃん、ねっ?」
武内P「……お言葉ですが、綺麗事を言っているつもりはありません」
武内P「また、皆さんを鼓舞するために言っているのでもありません」
一同「!?」
武内P「事実だからです」
武内P「渋谷さんありきのシンデレラプロジェクト。
 彼女が復帰し、共にサマーフェスを成功させる事ができるのか」
武内P「あるいは復帰できず、346プロの仕分けの対象となるのか」
武内P「彼女と運命を共にするのなら、私達が歩むであろう道は、二つに一つです」
62: 以下、
?ダンスレッスン室?
莉嘉「事実だからです」キリッ
莉嘉「だぁってぇ?。フツーそんな事言う??
 ウソでも「きっと大丈夫です、頑張ろうね」とか言わないもんかなぁ?」
莉嘉「アタシやみりあちゃんみたいなコドモだっているんだしさ?ぁ?」グデー
みりあ「みりあ達、辞めさせられちゃうの……?」
きらり「うーん、今度のプロデューサーは、ちょぉっとだけコワ?イ人かも知れないにぃ」
きらり「でもだいじょーぶい♪ ツライのみんなみぃーんな同じ。
 だから、みんなで乗り越えちゃえばハピハピなフェスが待ってゆ☆」
杏「解体してもやってけるように杏達をレッスンさせてんじゃないの?」
きらり「杏ちゃーんっ!」ムンズッ
杏「うわぁ!? は、放せぇ解放しろぉっ!」ジタバタ
みく「はぁ?あ……でも、ぶっちゃけ杏ちゃんの言う事当ってると思うにゃ」
きらり「みくちゃんまでぇ……!」
63: 以下、
みく「いざって時が来てみく達がバラバラになっても、ちゃんと皆自立できるように、
 実力をつけさせるためのレッスンだよ、これきっと」
李衣菜「絶対そうは言わないにしろ、本心はそっちっぽいよね。
 こう言っちゃ悪いけど、凛ちゃんの復帰を本気でアテにしているようには……」
きらり「う、うにゅぅ??……!」
みりあ「皆は、プロジェクト、解散したいの?」
みく「えっ?」
みりあ「私、もっと皆と歌ったり、踊ったりしたいなぁ……」
李衣菜「ち、違うよみりあちゃん! あの人がそう思ってるかもって話してるだけでさ。
 私達はちょっと不安なだけで、解散なんて嫌だよ。ねっ、莉嘉ちゃん?」
莉嘉「当ったり前じゃん! アタシも皆の事が大好きだし、
 凛ちゃんの復帰を信じてレッスン頑張っちゃうよー☆」
みりあ「そうだよねっ! うん、みりあも頑張るー!」ピョンッ!
きらり「……うぇへへ、みりあちゃんイイ子イイ子?♪」ナデナデ
杏「……まぁ今はそれでもいっか」
みく「それもそうにゃ」
ベテトレ「気持ち、落ち着いたのならレッスン再開するぞー」
64: 以下、
?ボーカルレッスン室?
トレ「はい、それでは少し休憩しましょう」
かな子「ひあぁぁぁ……」グデー
智絵里「かな子ちゃん、大丈夫? 結構、ボイトレもハードだよね…」
かな子「うぅ、凛ちゃんと一緒にステージに立つまではこれしきぃ?……!」パカッ
未央「あ、新しいお菓子を解放した」
蘭子「禁断の果実も、明日を繋ぐ希望」サッ
アーニャ「カナコ、ランコにも一つあげてください」
卯月「あ、うぅん……あ、アーアーアー♪」
美波「卯月ちゃん」
卯月「あっ……」
美波「休憩しましょう?」
65: 以下、
美波「はい、ドリンク。それと、かな子ちゃんのお菓子ね」スッ
卯月「ありがとうございます」
美波「ちょっと、何考えてるか分からないプロデューサーさんよね。ふふっ」
卯月「え、えへへ……あの、そうですね」
未央「おりゃあーっ!! 未央ちゃんイッキ食いー!!」モモロ-!
かな子「あ、あぁあぁぁっ!! 何て羨ましい…!」
アーニャ「ハラショー!」パチパチ
美波「でも、今は信じて待つ事しか、出来ないんだと思うの」
美波「あのプロデューサーさんと……凛ちゃんの事をね」
卯月「…………」
美波「だから、卯月ちゃんだけが根を詰めなくてもいいのよ。
 辛い気持ちは、お互いに分け合えるのが仲間だって思うから」
智絵里「の、喉痛めちゃダメだよぉ。未央ちゃん、お水…」
未央「サンキュゥーちえりん!
 うーん、口ん中パッサパサだねこりゃ! わっはっはっはー!!」
美波「未央ちゃんも、きっと不安なのね。あんなに大声を出して……」
67: 以下、
卯月「はい……未央ちゃん、すごいです」
卯月「あんな風に、自分の気持ちを抑えて、皆を盛り上げるなんて……
 私には、とても出来ないなって、思います」
美波「そうね、でも……」
美波「卯月ちゃんにだって、誰かの力になれる事がきっと、あるんじゃないかしら」
卯月「えっ?」
未央「しまむー! みなみんもこっちに来なよー!
 かな子ちんのお菓子を何枚口に入れられるか、いざしょーぶしょーぶ!!」
かな子「人のお菓子で遊ばないでぇ?!」
蘭子「あんふぉふはひへんひはひほひはーほ(安息無き天使達の聖戦)」モムモム
アーニャ「ランコ、リスみたいでプリリェースヌィ、可愛いです」
美波「未央ちゃんにも、卯月ちゃんにも、私や皆の誰にも。ねっ?」
卯月「美波さん……」
美波「さぁ、皆の所に行きましょう。休憩できるか分からないけれど」ニコッ
卯月「……えへへ。はいっ! 未央ちゃーん!」タタタッ
未央「いよっし! かかって来るがいい、しまむー!!」
68: 以下、
?某イベント会場?
スタッフ「う?ん……」ポリポリ…
武内P「…………」
スタッフ「……まぁ、急に空きが出てもウチは何とかなるんですがねぇ?
  他の事務所さんに営業かければ使ってもらえそうですから、えぇ」
武内P「ご面倒をお掛けする事となり、誠に申し訳ございません」ペコリ
スタッフ「あぁいえいえ、346さんにはお世話になっていますし」
スタッフ「そちらさんも大変でしょう?
  今度就任された社長、かなりのヤリ手だって聞いてますよ」
スタッフ「何とも緊張感のある職場になりそうですねぇ、わははは」
武内P「…………」
スタッフ「……あはは、冗談です」
スタッフ「サマーフェス、期待していますよ」
武内P「それでは、失礼致します」ペコリ
ウィーン…
スタッフ「ちぇっ……大手だからって好き放題しやがって」
69: 以下、
ガヤガヤ… ププーッ…!
コツ コツ…
武内P「はい……えぇ、仰る通りです。その件につきましては……」コツコツ…
武内P「これからも……いえ、とんでもございません。ありがとうございます」ペコッ
武内P「はい……ご面倒をお掛けします。どうかよろしくお願い致します」ペコッ
70: 以下、
ピッ!
武内P「…………」フゥ…
武内P「………………」
武内P「…………」スッ
ブロロロ… キキィッ
ガチャッ
武内P「美城総合病院へお願いします」
タクシー運転手「はいよー」
バタンッ ブロロロロ…
71: 以下、
?美城グループ附属総合病院?
看護師「当院の医師より、こちらのネームプレートをお持ちいただければ、
 次回からはご署名いただかなくても大丈夫との事ですのでー」
武内P「ありがとうございます」ペコリ
コツ コツ…
武内P「…………」コツコツ…
ピタッ
武内P「………………」
ガララ…
72: 以下、
武内P「…………?」
ピッ… ピッ… ピッ…
凛母「今年は何だか、寒暖の差が激しくてねぇ。
 仕入れに行っても、あまり良い顔をした花が手に入らないのよ」
凛母「一日中、病院の中にいるあなたには、分からないのかも知れないけれど」
凛母「あら……髪も、少し伸びたかしら」
凛母「今日はお花しか持って来ていないの。
 髪は、また今度にしましょう。ごめんなさい、良い子ね」ナデナデ
武内P「し、失礼」
凛母「? ……え、えぇと、どちらの…」
武内P「私は、こういう者です」スッ
凛母「? あ、あぁ凛の事務所の方。失礼して申し訳ありません」ペコリ
武内P「いえ、こちらこそ……近くに寄ったもので」ペコリ
73: 以下、
武内P「綺麗な花ですね」
凛母「カルミアという花なんです。
 “大きな希望”とか、“爽やかな笑顔”という花言葉が」
武内P「笑顔……」
凛母「この子、あまりこういう派手な花は好みじゃないのだけれど、
 こういう時くらい、そばに飾ってあげたくて」
武内P「凛さんは、花に関心が?」
凛母「花屋をやっているもので…」
武内P「あ……存じ上げておりました。これは、失礼」ペコリ
凛母「ふふっ、いいえ」
武内P「凛さんとこうして、毎日何かお話をされているのですか?」
凛母「本当は毎日来たいのですけれど、お店があるものですから……
 それに、この子はもう、お話をできる状態ではありませんもの」
武内P「そう、ですね……申し訳ございません」
凛母「いいえ、いいんですよ。そんな謝らないで」
武内P「いえ……」
武内P「我が社が、凛さんの医療費をお出しできなくなった事が、心苦しく……」ペコリ
74: 以下、
凛母「それは仕方ないわ。いつまでも346プロさんに甘える訳にもいきませんもの」
凛母「それに、実はもう転院、というより……退院の手続きも、進めているんです」
武内P「退院?」
凛母「専門治療を止めて、経管栄養だけを続けるのなら、家でも行う事ができると」
凛母「もちろん、服の着替えやトイレ、お風呂とかの介護は、
 私と夫でしなくてはならなくなりますけれど」
武内P「し、しかしそれは、渋谷さんの快復を諦めるという事に…」
凛母「えぇ、そうなるでしょうね」
武内P「それで、本当に良いのですか?」
凛母「…………」
武内P「……! も、申し訳ございませんっ!」ガバッ!
凛母「……もちろん、私も夫と散々悩んだわ」
凛母「でも……それでもこの子には、一日でも長く、生きていてほしいと思うんです」
凛母「たとえ、一生このままであろうと、一日でも長く、そばに……」
75: 以下、
武内P「…………」
凛母「なぜ、と言ったご様子ね」
凛母「人形のように、一切の心が消えた状態で生き長らえさせる意味があるのか、と」
武内P「いえ……」
凛母「失礼ですが、子供はいらっしゃいます?」
武内P「いえ、いません」
凛母「そう……では、愛する人や、大切な人を持った事は?」
武内P「……分かりません」
凛母「そういう人ができれば、きっと分かるわ」スッ
ガララ… ストン
ピッ… ピッ… ピッ…
武内P「………………」
76: 以下、
?図書館?
ペラッ…
武内P「“非定型統合失調”……」
ペラッ…
武内P「“非定型転換性障害”……」
ペラッ…
武内P「“非定型神経障害”……」
ペラッ…
武内P「…………“嗜眠性脳炎”」
武内P「“謎の眠り病” ……」
77: 以下、
?夜、346プロ シンデレラプロジェクト事務室?
カタカタカタ カタカタ…
 ――“嗜眠性脳炎、各地で蔓延 魂の不在”
武内P「…………」カタカタ…
 ――“忘れられた1920年代の流行病 『A型脳炎』と呼称”
 ――“後遺症研究 一ノ瀬医学博士 ドパミン投与による治療法の有用性を実証”
 ――“耐性の発現による有効性の減退 不随意運動の再発”
武内P「………………」
武内P「…………」カタカタ…
――――――
――――――――――――
78: 以下、
――――――――――――
――――――
武内P「…………」カタカタ…
武内P「……?」カタッ…
李衣菜「あのー……プロデューサー?」
武内P「……何でしょう」
李衣菜「何というか、その……ひょっとして、ここに住んでます?」
武内P「は?」
卯月「私と未央ちゃんが、夜遅くにコッソリ忘れ物を取りに来た時も、
 真っ暗な部屋の中に、一人でカタカターッ、ってパソコンを叩いてたり……」
未央「私の終電無くて、しまむーん家に泊めてもらった日だよね」
美波「それに、以前は私が、朝この部屋の鍵を開ける当番だったんですけれど、
 最近はプロデューサーさんがずっと、朝一番に来ていらっしゃいますし」
きらり「Pちゃん、この二週間くらいずーっとだにぃ」
武内P「ぴ、Pちゃん……」
80: 以下、
武内P「? …………」クンクン
みく「お風呂に入ってないのを疑ってるんじゃないにゃ」
智絵里「私達、その……何してるのかな、っていうか、心配で……」
かな子「あの、良かったらコレ、食べてください。
 少しでもおいしいもの食べて、元気を出さないと」サッ
武内P「ど、どうも……ただ、自宅には帰っておりますし、体調は問題ありません」
アーニャ「そんなに、今のお仕事は大変ですか?」
蘭子「時空をも歪ませんとする慈悲無き求道の先に、一体何が?」
武内P「今は専ら、渋谷さんの病気を治す方法を検討中です」
一同「!?」
武内P「やらなければならない、というだけです。大変ではありません」
武内P「それでは、外回りに行ってまいります」ズッシリ
武内P「新田さん、レッスンの方はよろしくお願い致します」
美波「あ、はい……」
81: 以下、
ガチャッ バタン
みく「……何で外回りに行くのにあんな大荷物なん?」
李衣菜「さ、さぁ……」
みりあ「さっき見たけど、あの袋の中、おもちゃっぽいのが入ってたよ?
 カードとかラジカセとか、ボードゲームみたいなのとか」
杏「え、なに、全力で仕事をサボりに行くスタイル?」
莉嘉「むー、怪しい……」
卯月「でも、プロデューサーさん、すごく頑張ってます」
一同「……!」
卯月「プロデューサーさんの机、ちょっと見ない間に、
 色々な難しい本や、資料が、どんどん増えていくんです」
卯月「凛ちゃんの病気を治すために、頑張っている……それだけは、分かるんです」
美波「……えぇ、そうね」
未央「……さぁさ! それじゃあ今日も元気にレッスン始めよーう!」ガッツ!
一同「おーっ!!」
82: 以下、
?346プロ スタジオ?
スタッフ「はい、オッケーでーす!」
美嘉「ありがとうございまぁーす!」
カメラマン「美嘉ちゃん今日も良かったよ?、相変わらずキレてるねぇ?」
美嘉「あ、はいっ。そうでしょう? へへーん★」
カメラマン「今度おじさんにもポージング教えてよ。こう中腰で、クイッてかい?」クイッ
美嘉「アハハ、イイ線行ってますよ。後は性別さえ何とかなれば、かなー」
カメラマン「ははは、努力するよ。それじゃあ今日はお疲れ様」
美嘉「あ、はぁーい! お疲れ様でしたぁー!」ペコッ
コツ…
美嘉「あっ! どうもお疲れさ…」
美城「撮影は順調に済んだようだな」
83: 以下、
美嘉「あ……えぇと、どうもお疲れ様です、常務」ペコリ
美城「これが“カリスマギャル”の現場か……スタッフとの人間関係も良好」
美城「派手な外見に似合わず、最低限の接遇を持ち合わせていればこそ。
 ひとまずは合格点といったところか」
美嘉「……アタシに、何か用ですか?」
美城「用件は二つある。一つは、君の仕事の様子を見に来た事、そして……」
美城「君の妹の事だ。より具体的に言えば、妹が所属するプロジェクト」
美嘉「シンデレラプロジェクトの事?」
美城「うむ……何か、最近の活動について、妹から聞いていないかと思ってな」
美嘉「うーん……最近はレッスンばっかりでつまんないってボヤいてたなぁ」
美城「レッスン?」
美嘉「お仕事を全然、入れてもらえてないんですって。
 レッスンだって大事な仕事なんだから、グチグチ言うなって叱ったんですけど」
美城「…………?」
84: 以下、
美城「………………」
美嘉「? あのー、常務、どうかしたんですか?」
美城「ふん……なるほど」
美嘉「え?」
美城「オール・オア・ナッシング、という訳か……」
美嘉「…………??」
美城「ご苦労、邪魔をしたな」クルッ
美城「今後の君の活躍に期待している」
コツ コツ…
美嘉「……なんか怖いな、あの人」
美嘉「一応、莉嘉にメールしとこっと。美波ちゃんにも教えといた方がいいかな」
美嘉「大丈夫かな……あの子達」
85: 以下、
?美城グループ附属総合病院 病室?
武内P「………………」
ピッ… ピッ… ピッ…
武内P「……こんにちは、渋谷凛さん」
武内P「私は、こういう者です」スッ
ピッ… ピッ… ピッ…
武内P「………………」
武内P「……この春より、シンデレラプロジェクトを任される事となりました」
武内P「あなたの病気について、知りたい事があります」
武内P「あなたは、本当に心を失っているのか……それを、確かめさせていただきたい」
武内P「そこで……」ゴソゴソ…
武内P「こういったものを、ご用意させていただきました」
86: 以下、
武内P「これは、アイドルの方々を写したカードです。
 346プロに限らず、他の事務所の方々のものもあります」
武内P「今から、これをあなたに一枚ずつお見せします」
武内P「自分の写真だと思ったら、何か、返事をし…」
武内P「…………」
スッ
武内P「私の手を、握り返してみてください。よろしいでしょうか」
武内P「では、始めましょう」
武内P「…………」スッ
スッ……
スッ……
87: 以下、
スッ……
武内P「…………」スッ
武内P「………………」
スッ……
スッ……
武内P「…………少し、手法を変えてみましょうか」
88: 以下、
武内P「今から、私があなたに対し、名前を呼びかけます」
武内P「自分の名前を呼ばれたと思ったら、私の手を握り返してください」
武内P「あなたの名前は、五十嵐響子さん」
武内P「……如月千早さん」
武内P「……高森藍子さん」
武内P「…………渋谷、凛さん」
武内P「………………」
武内P「……北沢志保さん」
89: 以下、
武内P「……我那覇響さん」
武内P「……水谷絵理さん」
武内P「……真壁瑞希さん」
武内P「……渋谷凛さん」
武内P「………………」
武内P「…………それでは、これをやってみましょう」ゴソゴソ…
武内P「ご覧になった事はあるでしょうか? 私も、今日初めて使います」
武内P「これは、ウィジャボードと呼ばれるものです。
 文字が書かれた木製盤の上にポインタを置き、それに手を添えて文字を指し示す」
武内P「コックリさんのようなもの、と解釈すると分かりやすいかと思います」
90: 以下、
スッ……
武内P「さぁ、手を添えて……まずは一文字目だけ、私が動かしてみせます」
武内P「“しぶやりん”さんの、“し”」ズ…
ズズ…
武内P「そう。次は“ぶ”ですね……“ふ”に向けて動かしてみましょう」
ズ…
武内P「……渋谷さん、“ふ”です。動かしてみましょう」
武内P「…………渋谷さん」
武内P「………………」
91: 以下、
武内P「次は、体を動かす必要はありません。聞いていただくだけで結構です」ゴソゴソ…
ゴトッ
武内P「電波を発しないものであれば、ラジカセを持ち込む許可も得ております」
武内P「これからかける曲は、渋谷さんならきっと分かるはずです」
パカッ カシャン
武内P「『できたてEvo! Revo! Generation!』……」
武内P「あなたが昨年のサマーフェスで、歌っていたはずの曲です」
カチッ
??♪
92: 以下、
 めーのーまえーにあーるーのーはー みちへのーとびらー♪
 きみも! ぼくも! みんなっ!
 おいでよーC’mon?!
 でーきたて エーボリュ?! レーボリュ?! ジェーネレッエッショ?ン!
 ハージーメ マシーテー! Baby my dream!
??♪
武内P「…………」
武内P「………………」
ピッ… ピッ… ピッ…
武内P「………………」
93: 以下、
ピッ… ピッ… ピッ…
武内P「………………」
武内P「……外回りに行ってまいります」スクッ
武内P「……?」ピタッ
武内P「…………」
 ――本当は毎日来たいのですけれど、お店があるものですから……
武内P「……花の水を、入れ替えてきましょう」スッ
武内P「おっと……」カタッ
ヒラヒラ…
パシッ
武内P「…………!?」
武内P「花びらを…………?」
94: 以下、
武内P「…………」スッ
つ 花びら
武内P「………………」
武内P「……」パッ
ヒラヒラ…
パシッ
武内P「…………カルミア」
 ――“大きな希望”とか、“爽やかな笑顔”という花言葉が……
武内P「渋谷さん……」
武内P「その手に掴みたい……今のあなたは、そう願っている」
武内P「そう解釈して、良いのでしょうか……」
ピッ… ピッ… ピッ…
――――――
――――――――――――
95: 以下、
――――――――――――
――――――
莉嘉「やーだー! もうレッスン飽きたー!」
きらり「莉嘉ちゃぁん? そんな事言わないで、ねっ?」
莉嘉「だっていつまで経ってもおんなじ事の繰り返しじゃん!
 新曲の練習ならまだいいけど、もう何のためのレッスンなのか分かんないもん!」
アーニャ「ンー、不安になるの、分かります。でも……」
ベテトレ「……渋谷の事、あれから何も進展が無いのか?」
智絵里「は、はい……」
李衣菜「プロデューサーに聞いても、「現在検討中です」としか言ってくれなくて……」
みく「何かしら、目途とか教えてくれれば、みく達もまだ頑張る気になれるのに」
みりあ「最近、プロデューサーと話してないなぁ……」
杏「元からそんな話す人じゃないし」
96: 以下、
かな子「もう、サマーフェスまで三ヶ月と少ししかないよぉ……」
卯月「……未央ちゃん、私達…」
未央「分かってる。私達は、プロデューサーとしぶりんを信じるしかないんだ」
美波「でも、皆のフラストレーションも、少しずつ溜まってしまっているのも事実ね……」
蘭子「先が見えない不安……私も、どうしたら良いんだろう、怖いなって……」
未央「らんらん……」
ベテトレ「プロデューサーは、今日はどこに行っているんだ?」
美波「あ、はい、あの……外回りですが、確か講演を聞きに行くって」
ベテトレ「こうえん?」
美波「何だか、医療の関係の……詳しくはよく分からないのですけれど、そちらに」
ベテトレ「……よく分からんな、確かに」
ベテトレ「だが、私もプロデューサーからお前達の事を任されているんだ」
ベテトレ「不安だなんだというのがレッスンをしない理由にはならんぞー!」
一同「うええぇぇぇっ!」
ベテトレ「うえぇじゃない、観念してさっさと配置につく! 返事は!?」
一同「はいっ!」
97: 以下、
?某講演会場?
女の子「……んー、どうでしょ。皆さんは最近、やる気ってありますか?」
女の子「あたしはあまり無いですねー」
ハハハハ…
女の子「なんていうのは冗談で、やる気っていうのはアドレナリンとか、
 神経伝達物質の働きによるものというのは皆さんご存知かと思いますが……」
女の子「そのアドレナリンの基となるドパミン、の前駆物質『L-DOPA』……
 通称『レボドパ』なんて、サプリメントとかに含まれるスマートドラッグです」
女の子「あ、でも麻薬とかとビミョーに似てたりするので危険っちゃ危険ですよね?
 よーするに気分をハイにしてイケイケハッピーにしちゃうので」
女の子「まぁそれは置いといて、このレボドパっていうのが、
 パーキンソン病の初期治療のスタンダードだったそうです」
女の子「ん? ねぇドクター、この先もあたしがプレゼンしていいんだっけ、代わる?」
女の子「おーぅ、りありぃ。やれって言われたので続けますねー」
ワハハハハ…
女の子「いや?あたし薬学専攻だから、臨床医学をしたり顔で語って良いのかなーって」
女の子「ともかく、現在はプラミペキソール等のドパミン作動薬を用いるのが主流です。
 あ、パーキンソン病の治療の話ですね」
女の子「レボドパは、神経の変性そのものを止める根本的な治療薬ではなかったそうで」
女の子「今回、あたし達が国と共同して考案した薬は、A-10神経系に直接作用して……」
98: 以下、
パチパチパチパチ…!
ガヤガヤ…
聴講者A「博士、大変楽しく有意義な講演でした。ありがとうございます」
博士「ありがとうございます。こちらこそお招きいただきまして、えぇ」
聴講者B「博士、ぜひ今度ウチの大学でも講義をお願いできないでしょうか?」
博士「いえいえ、それは結構ですが、ご依頼は私のオフィスを通して……」
聴講者C「博士、ところで彼女は一体何者ですか? 随分とお若いのにこのような研究を…」
博士「いやぁ、彼女こそ我が大学が誇る天才ケミストでしてね?
 若干18歳ながら、先日キャンベラで開かれた国際大会に我らを代表…」
博士「ん? あ、あれっ!?」
女の子「ふあぁぁつかれたぁー。ちょっと一旦退却?」テクテク…
博士「お、おいどこへ行く!? 勝手にウロウロするんじゃない!」
女の子「トイレだよ。レディーに言わせる事じゃないっしょそんなのー、にゃはは♪」
女の子「というワケで、ばいばーい♪」フリフリ
博士「ま、待ちなさい! 時間までに戻れ、必ずだからな! シキ!!」
99: 以下、
テクテク…
志希「??♪」プラプラ
志希「おや?」
トトト…
志希「ほぉぉこりゃすごい、こんなコンモリポコポコって咲くものもあるんだね?」
志希「どれどれちょっと拝借、ハスハス」クンクン…
志希「むむっ。ほんの少し甘いくも爽やか?な香り、結構好きかも。にゃふふ」
志希「しかし、こんな広いラウンジにデンッて仰々しく飾られてるのに、
 誰からも見向きもされないもんなんだねーキミは」チョンンチョン
志希「目立ちすぎるが故に目立たないとゆーのも、矛盾しているようで、
 その実論理的帰結を得ているのかにゃ?」
志希「背景と同化するのがキミのおシゴトなら、それも納得だよねー」
武内P「カルミアという花だそうです」
志希「?」クルッ
100: 以下、
志希「コレ? ていうかあたし?」
武内P「はい。花言葉は…」
志希「“笑顔”とか“希望”とかそういうのでしょ? 知ってるよ」
武内P「……!」
志希「知識っていうのは、それが新鮮かつ扇情的であるほど人を衒学的にさせるけど…」
志希「キミの場合、誰彼構わず知識をひけらかしたいのとは違う目的がありそうだにゃ」
志希「ぶっちゃけ聞くけど、ナンパ?」
武内P「……強い否定は、できないのかも知れません」
志希「わぉ、本当だったんだ潔いねー。そういうの嫌いじゃないよ、ちょうどいいし」
武内P「ちょうど良い?」
志希「ん、その前に念のためちょっと失礼、ハスハス」クンクン…
武内P「……!?」
志希「うん、あたしの嫌いな人じゃなさそーだから良し!
 とりあえずさ、ここからあたしを連れ出してよ。失踪させて?」
武内P「……は?」
志希「ていくみーあうぇいふろーむひあ、らいとなーう。おーけー? にゃははー♪」
101: 以下、
?とある喫茶店?
志希「そっかぁー講演聞いてたんだねー。ん??、んまんま♪」モグモグ
武内P「あ、あの……大丈夫なのでしょうか」
志希「ん、タバスコかけ過ぎだって? 結構イケるよ、食べる?」サッ
武内P「い、いえそうではなく、その…」
志希「支払いなら気にしなくていいよ。
 あたしこう見えていくつか特許持ってるから、お金には大して困ってないんだー」
武内P「いえ、その……あなたの博士に連絡を取らなくて、良いのでしょうか?」
志希「あー、そっち? いいワケないけど、いつもの事だしね」
武内P「はぁ……」ポリポリ…
志希「それに、あたしに用があったのは、キミの方じゃない?」
武内P「えっ。あ、はい……申し遅れました。私は、こういう者です」スッ
志希「……346プロダクション。へぇ。
 芸能事務所の人って事は、ひょっとしてスカウトかにゃ? なんて、にゃはは♪」
武内P「あなたのお爺様は、嗜眠性脳炎患者にドパミンの補充療法を行ったと」
志希「! ……」ピクッ
武内P「しかし、残念ながら病気の根本的な治療には至らなかったと、
 過去の報道資料によりお伺いしております」
102: 以下、
志希「……いやぁビックリ。
 まさか初対面の芸能関係者から、いきなりおじいちゃんの事を聞かれるなんてね」
志希「確かに、あたしのおじいちゃんはお医者さんで、
 レボドパ補充療法の効果を実証しようとしたんだよね」
志希「でも、レボドパはパーキンソン病には一定の改善効果が見られたのだけど、
 パーキンソン症候群には有効でなかったのだ」
志希「嗜眠性脳炎の一時的な症状快復には効果があったみたいだけど、
 やがて体に薬への耐性ができちゃって、長続きはしないんだってさ」
志希「で、それがどうかしたの?」
武内P「あなたが講演の中で仰られていた、国と共同開発したという新薬ですが……」
志希「一応断っとくと、作ってないよ? あたしが提唱したのはあくまで理論であり概念」
志希「実際に、パーキンソン病の患者に対してどれだけの効果があるのかは分かんない」
武内P「では、嗜眠性脳炎患者にはどうでしょうか?」
志希「それこそもっと分かんないよ。
 嗜眠性脳炎自体、半世紀以上、事例そのものが無いらしいしさ」スッ
志希「臨床試験を行う事なんて、ほぼ不可能なんじゃないかなー」チュー
武内P「もし、嗜眠性脳炎患者が今いたとしたら、どうでしょうか?」
志希「……?」
武内P「よろしければもう少し、お付き合いいただけないでしょうか」
103: 以下、
?美城グループ附属総合病院 病室?
ピッ… ピッ… ピッ…
志希「……この子が?」
武内P「はい」
志希「ふぅーん……」ヒョコッ
志希「それで、この子の治療にあたしの新薬を使いたいって事かぁ」
志希「いいよ♪」
武内P「えっ? そ、そんなあっさりと…」
志希「たぶんドクターだって、薬の効果が実証されればハクが付くって喜ぶだろうし、
 何だったら、あたしの特許の持ち分をあげるって言えば絶対いいって言うよ」
志希「それに何より……」クンクン…
志希「あたしの興味をここまで引く対象ってそうそう無いなーって。にゃはっ♪」
武内P「そ、そうですか……」ポリポリ…
ガララ…
医師「一体、何の話ですかな?」
104: 以下、
武内P「先生、お邪魔しております」ペコリ
志希「誰? あー、この子のお医者さんか」
医師「一ノ瀬志希さん。あなたのご祖父上とお父上は、私も良く存じていますよ」
医師「彼らに憧れ、私も医学の道を志したようなものだ」
志希「それは、んー、ご愁傷様です? 違うか、ゆあうぇるかむ」
医師「もちろん、あなたが提唱した新薬『Bu-DOPA』も知っている。
 若くしてあまりに完成し尽くされた理論、実に素晴らしい」
武内P「先生……この新薬を、渋谷さんの治療に使ってはいただけないでしょうか」
医師「いえ、反対です。薬学士の綿密な実験結果を待つべきだ」
医師「彼女が評価されているのは、その着眼点と緻密な論理構成。
 実証データすら無い薬そのものが評価されているのではない」
105: 以下、
志希「しゅだのーん」
武内P「えっ?」
志希「“だよねー”って意味。そりゃ実証データの無い薬なんて、怖くて使えないよね」
武内P「しかし、これは国の研究でもあり、治験として処方する事になると考えられます。
 国や研究機関が医療費の大半を負担する事になれば、渋谷さんの経済的な…」
医師「金の話を論じているのではない!」ドンッ
医師「彼女が嗜眠性脳炎であると決まった訳でもなければ、
 ドパミン療法が嗜眠性脳炎に効果があると立証されている訳でもないのです」
武内P「これは従来のドパミン補充療法とは違います」
武内P「脳のドパミン生成組織を活性化させる効果があるとの事です。
 そうですね、一ノ瀬さん」
志希「うん、まぁね」
医師「……ふん。素人にしては、あなたもそれなりに勉強されたようですな」
武内P「…………」
医師「それでも、私は手放しで同意する事はできません」
106: 以下、
医師「我々医療従事者が、最も行ってはならない事……何だか分かりますか?」
医師「飛躍と思い込みです」
医師「無論、切迫した状況下では早急な決断が求められるシーンもありますが、
 強引に関連付けを求めては、患者を危険に晒しかねません」
医師「ドパミンの生成……すなわち、脳の黒質を活性化させるものとお見受けしたが…」
医師「治療と破壊は、常に紙一重です。
 そして、一度破壊された脳組織は二度と元には戻らない」
医師「覚せい剤がなぜ危険であるか、お分かりですか?
 この薬は、脳組織を変質させかねない。我々の責任は、それだけ重いのです」
志希「だってさ、どうする? ふわぁ……」フニャー…
武内P「……これをご覧ください」ピッ
つ 花びら
医師・志希「?」
107: 以下、
武内P「……」パッ
ヒラヒラ…
パシッ
医師「!? なっ……!」
志希「おぉ……すごい」
武内P「渋谷さんはこのように、落ちてくる花びらを掴む事ができるのです」
武内P「“希望と笑顔”の、カルミアの花びらをその手に。何度でも」
医師「……しかし、それはただの反射という可能性もある。意識が働いたとは…」
武内P「この半年以上、微動だにしていない彼女が、花に反応を示したのです。
 無意識的な行為だとは、私には思えません」
医師「…………」
108: 以下、
武内P「渋谷さんは、希望や笑顔を渇望する心を、カルミアを通し我々に訴えています。
 彼女は、内部では正常なのです」
武内P「つまり、彼女が抱えている障害は、意思を身体へ伝達し動かす仕組みの障害…
 例えば、パーキンソン病のような何かだと考えます」
武内P「魂の不在などではありません。彼女の心は、生きています」
志希「……へぇ」ニコッ
医師「………………」
医師「……どうしてもその新薬を使ってほしいのなら、二つ、条件があります」
医師「一つは、家族の同意を得る事。そして、もう一つは……」
109: 以下、
?346プロ 常務の部屋?
美城「兼業命令書……」
美城「つまり君は、346プロのプロデューサー兼、
 美城グループ附属病院の非常勤スタッフとなるよう、先方から依頼を受けた訳か」
武内P「はい」
美城「この書類に、判を押す事はできないな」
武内P「……!」
美城「要するに相手は、何かあったら責任を君に、
 ひいては346プロ側に押しつけるために、君を関係者にしたいのだろう?」
美城「一アイドルのために、我が社がそれだけのリスクを負う理由など無い。
 君も、先方の提案を鵜呑みにして、よくもノコノコと私の元へ来れたものだな」
110: 以下、
武内P「…………」
美城「本来業務をすっぽかして、何をしているのかと思えば……
 専門家の意見を聞かず、出しゃばった真似をするのは利口な人間のする事ではない」
武内P「お言葉ですが、私はシンデレラプロジェクトのプロデューサーを担当するよう、
 あなたに任命され、その職責を全うすべく動いています」
武内P「そして、当プロジェクトには彼女が必要です」
武内P「私に任す気など初めから無いと仰るのなら、
 この場で私の首をお切りいただいてはいかがでしょうか」
美城「! ……」
美城「……随分な口の利き方をするのだな、君は」
武内P「私は“本来業務”をしているに過ぎません」
美城「ふん……面白い、そこまで言うのなら君の好きにするがいい」
美城「だが、もし結果が伴わなければ……」スッ
武内P「分かっております」
ギュッ…
111: 以下、
?夜、346プロ シンデレラプロジェクト事務室?
カタカタ…
ちひろ「その、家族の同意書というのは?」
武内P「先日渋谷さんのご自宅にお伺いし、ご両親からの了解を得ました」カタカタ…
今西「そうか……それは何よりだったね」
カタカタカタ…
今西「……それは、何をしているところかね?」
武内P「先方の……美城病院の職員登録に必要な手続き書類の作成です」カタカタ…
武内P「それと、臨床期間中は、日毎の経過報告と、
 毎週の記録映像の撮影を義務付けられておりますので、その準備を…」カタカタ…
今西「ふむ……」
今西「美城常務から聞いたよ。言い争いをしたそうじゃないか」
武内P「…………」カタカタ…
112: 以下、
今西「今回の渋谷君の治療に際し、病院の医師との話し合いが、
 あまり穏やかでなかったという噂も聞いている」
今西「それに、シンデレラプロジェクトのメンバーである彼女達も……
 一向に活動の展望を示さない君に対し、不安を抱きつつあるようだ」
今西「いくら、プロジェクトを前に進めるためとはいえ、
 君のやり方も……あまりスマートとは言えないのではないかね」
武内P「…………」カタカタ…
今西「今の君は、これが自分の仕事だからと割り切る、というより、
 悪い意味で開き直ってさえいるように見える」
今西「周囲に目と耳を傾け、その意を汲む事も時には重要だ。
 自分の心を殺し、事業の歯車になる事に終始するのは良くない」
カタ……
武内P「……私に歯車になるよう諭してくださった方が、過去にいた気がしてなりません」
武内P「お言葉ですが、今西部長……それは、あなたではなかったでしょうか」
今西「!」
武内P「…………」カタカタ…
ちひろ「プロデューサーさん、あの時の事を……」
113: 以下、
?数日後、美城グループ附属総合病院 病室?
医師「薬は、通常の経管栄養にて投与する栄養剤に混ぜてあります」
武内P「はい」
凛母「あ、あの……」
武内P「……?」
凛母「本当に、これで凛が元気になってくれるのでしょうか?
 何だか私、脳をどうにかするって聞いて、不安で……」
凛父「もう既に我々も同意した事だ。今さらこの人達を困らせるんじゃない」
凛母「分かってるわよ。それでも、いざやるってなると、どうしても……」
博士「私が開発した『Bu-DOPA』に、問題はありません。きっと良くなりますよ」ニコッ
志希「そーそー、ドクター“が”開発した『Bu-DOPA』にはねー」
武内P「凛さんは今、眠っているだけなのです」
武内P「私達は、彼女を眠りから覚ましてやれる事ができればと、そう思っています」
凛母「はい……」
凛父「どうか、よろしくお願いします」ペコリ
114: 以下、
【経過報告】
 報告日:5月22日
 報告者:P
 博士より受領した新薬『Bu-DOPA』の投与開始。
 栄養剤に200mgを投与し、経過を観察するが、外観、脳波共変化無し。
 一週間程度、同量にて継続して投与を行う予定。
 他、特記すべき事項は無し。
 以上
115: 以下、
――――――――――――
――――――
ドタドタドタ…!
ガララッ!
未央「しぶりんっ!!」
武内P「!?」ビクッ
志希「おっ?」
未央「はぁ……はぁ……はぁ……!」
武内P「ほ、本田さん……皆さんも」
未央「プロデューサー、何で私達に言ってくれなかったのさ!!」
みりあ「凛ちゃん、やっと元気になれるんだよね? そうだよね!?」
武内P「まだ、結果がどうなるかは分かりません」
武内P「不確定的な事を申し上げて、いたずらに皆さんを混乱させるような事をし…」
未央「私はしぶりんの親友なのっ!!」
卯月「私もです!」
武内P「! …………」
116: 以下、
美波「何より、私達は凛ちゃんと同じプロジェクトの仲間なんです」
美波「もちろん、プロデューサーさんも」
武内P「新田さん……」
莉嘉「杏ちゃんなんて、プロデューサーが仕事サボってるって信じて疑わないから、
 すーっかり最近はグダグダ?ってしてたもん、ねっ?」
杏「杏、プロデューサーを信じてたのに……!」
智絵里「そ、そういう言い方はどうだろう」
みく「まったく。こういう事ならさっさと言ってにゃあ」フンッ
きらり「ちゃぁんと凛ちゃんの事、考えてゆ! Pちゃんおっすおっす! うぇへへ☆」
武内P「ぴ、Pちゃん……」
李衣菜「部長さんから色々聞きました。
 常務や病院のお医者さんともやり合ったなんて、すっごくロックですね!」グッ!
蘭子「反逆の強手が紡ぐ、解放の序曲よ……!」
アーニャ「ところで、その子は誰ですか?」
武内P「えぇ、この人は……!?」
みく「にゃあああああああああああっ!!」
117: 以下、
志希「さっすがアイドル! 皆ユニークな匂いだねー。もっとハスハスさせて?♪」ワシワシ
みく「やめてぇっ!! 何なんこの子ヘンタイにゃあ、助けてぇっ!」ジタバタ!
李衣菜「た、楽しそうだねみくちゃん…」
みく「どこ見て言ってるにゃっ!!」クワッ!
武内P「……渋谷さんに投与している新薬の、理論の基礎を提唱された方です」
莉嘉「え、えぇぇっ!? それって、お姉ちゃんが凛ちゃんの薬を発明したの!?」
志希「そうだよー♪ と言っても、もうその薬の特許は譲っちゃったから、
 あたしは処方のアドバイスがてら観察に来てるだけだけどね」
卯月「か、観察ですか?」
志希「うん。それにしても、これだけの子達に慕われてるなんて、
 この凛ちゃんって子も幸せ者だねー」
志希「やはり、この志希ちゃんの感性に狂いは無かったのだ。
 すんごいいい匂いするんだよねーこの子、にゃはっ♪」ツンツン
かな子「えぇ……凛ちゃん良い匂いするんだぁ。わ、私も、ちょっと失礼…」ソォー…
きらり「かな子ちゃーんっ!」グワシィッ
119: 以下、
未央「何だか心配事が多そうだから、私もしぶりんの事、見守るからね」
卯月「私にもお手伝いさせてください。どんな事でも、精一杯頑張りますっ」ギュッ
武内P「……皆さん。ご連絡が遅くなり、申し訳ございません」ペコリ
美波「い、いいですってそんな、私達相手にそんな、畏まらないで…」
卯月「あれ?」
武内P「……?」
未央「しまむー、どうしたの?」
卯月「いえ、あの……」
卯月「凛ちゃん、いつも目が開いてたのに……閉じてます」
志希「お、良く気づいたね。昨日からかなー」
武内P「……!」
志希「あれ? ひょっとしてキミは気づいてなかった?」
武内P「…………」ポリポリ…
120: 以下、
【経過報告】
 報告日:5月28日
 報告者:P
 渋谷凛の外観に変化有り。
 それまで夜間以外開眼していた目が閉じる。脳波には大きな変化無し。
 明日以降、投与量を300mgに増加予定。
 以上
122: 以下、
――――――――――――
――――――
博士「400mg……」
武内P「…………」
志希「よっと」カチャカチャ…
凛母「プロデューサーさん。娘の様子は、その……」
武内P「……以前まで開きっぱなしだった目と口が、閉じるようになりました」
武内P「自発行動の発現、つまり意識レベル回復の兆候有り……でしょうか、先生」
医師「えぇ……その可能性はあります」
凛母「……!!」パァッ
医師「ですが……以後、薬の量を増やしても特に変化が見られません」
凛母「…………そう、ですか」
未央・卯月「…………」
123: 以下、
?夜、346プロ エントランス前?
コツ コツ…
武内P「…………」
武内P「……?」
楓「…………」
楓「こんばんは、プロデューサー」
武内P「高垣さん。どうも、お疲れ様です」ペコリ
楓「私も、何度か凛ちゃんのお見舞いには行ったのですけれど、すれ違いになったみたいで」
武内P「そうでしたか……申し訳ございません」
楓「いえ、お気になさらないでください」
楓「凛ちゃんの様子、どうですか?」
武内P「……分かりません。果たして良くなっているのか、いないのか……」
124: 以下、
武内P「そろそろ、フェスの準備も進めなくてはならない時期です」
武内P「元々、渋谷さんはブランクがあるため、フルに起用する予定はありません」
武内P「ですが、たとえ踊れずとも、彼女がステージに立つだけで他の皆さんの士気が……
 そして、ファンのボルテージが格段に違う事は、過去のライブ映像から明らかです」
楓「プロデューサーには、その確信があるんですね?」
武内P「はい。彼女には、皆から必要とされるだけのカリスマ性があります」
楓「えぇ」
武内P「あと二週間程度、様子を見て……もし展望が開けないようなら……」
楓「……解散、ですか?」
武内P「無論、渋谷さん抜きでフェスに臨む事も可能ですが……
 彼女達自身、それを良しとしません」
武内P「そして、彼女達が解散しても自立できるよう、相応の実力を身につけさせる事も、
 基礎レッスンを行っていただいた理由の一つです」
武内P「おそらく、彼女達も既に気づいている事でしょう」
楓「…………」
125: 以下、
武内P「今にして思えば、常務が仰ったように、
 専門家でもない私が首を突っ込むべきではなかったのかも知れません」
武内P「ですが、結果を出せない者は、排除されればそれで良い。
 組織の中で生きる事を決めた以上、覚悟はできています」
武内P「あとは、彼女達が路頭に迷わないよう、他のプロジェクトへの引継ぎを…」
楓「本当に、それで良いんですか?」
武内P「…………」
楓「凛ちゃんは、生きています」
楓「まるで、失敗する事を決めつけるような言い方は、可哀想だなって思います」
楓「凛ちゃんも皆も……プロデューサーにプロジェクトを託した同僚の方も、常務も」
楓「プロデューサー自身にとっても」
武内P「? ……私が?」
楓「きっと、プロデューサーが助けるのは、凛ちゃんだけではありません」
楓「凛ちゃんの快復をお祈りします」
ペコリ スタスタ…
126: 以下、
武内P「…………?」
ヴィー!… ヴィー!…
武内P「! ……もしもし」ピッ
武内P「はい……はい、資料を取りに事務所へ行った所です。
 これからそちらへ……はい、30分ほどで戻ります」
武内P「はい……いえ、こちらこそ。では、失礼致します」
ピッ!
武内P「…………」コツ…
コツ コツ…
127: 以下、
?美城グループ附属総合病院 病室?
志希「容体は依然、変化無し、だね」
武内P「……そうですか」
ピッ… ピッ… ピッ…
医師「では、すみませんが、私は今日はこれで……」
武内P「はい。当直は私が行います」
医師「えぇ。よろしくお願いします」ペコッ
武内P「お疲れ様でございました」ペコリ
ガララ… ストン
128: 以下、
志希「……ふわあぁぁ」ムニャムニャ…
武内P「一ノ瀬さんも、今日はどうかお帰りください」
志希「ふにゃ?」
武内P「観察するためと言いながら、毎日遅くまでお残りいただいて、大変でしょう」
志希「ううん……確かに臨床試験って初めてだから、無意識に緊張してたのかもね」
志希「それじゃあお言葉に甘えて、志希ちゃんも帰るねー♪」ピョインッ
武内P「どうも、お疲れ様でした」ペコリ
志希「うんっ。キミもあんまり無理しない方がいいよ? それじゃあねー」フリフリ
志希「かえろかなー、かえろかなー♪」
ガララッ ストン
武内P「………………」
129: 以下、
スッ
武内P「……自分の名前を呼ばれたと思ったら、私の手を握り返してください」
武内P「では、始めましょう」
武内P「あなたの名前は、四条貴音さん」
武内P「……佐藤心さん」
武内P「……最上静香さん」
武内P「……渋谷凛さん」
ピクッ
武内P「…………?」
武内P「………………」
130: 以下、
武内P「……荒木比奈さん」
武内P「……舞浜歩さん」
武内P「……天海春香さん」
武内P「……渋谷、凛さん」
ピクッ
武内P「…………」
ピッ… ピッ… ピッ…
武内P「………………」
131: 以下、
――――――――――――
――――――
 良く戻って来てくれたね。
 彼女達の事は、そう気に病む必要は無い。
 たまたまあの子達に、我々の想いが上手く伝わらなかった。それだけの事だ。
 ……何を言っている。もうプロデュースをしたくないだと?
 いいかい。仕事をしているのは君ではなく、君の“役”がやっているんだ。
 君は一プロデューサー。私はアイドル部門の一課長。
 誰もが皆、その仮面を被り、舞台の上で与えられた役を演じているにすぎない。
 組織で働く、歯車になるというのはそういう事だ。
 歯車にさえなれば、仮面の下に隠れた君という個人が傷つく事は無い。
 どうしてもというのなら……よろしい。何とかしよう。
 仕事量は多くなるだろうが、君にならほとんどルーチンとしてこなせるはずだよ。
――――――
――――――――――――
132: 以下、
――――――
武内P「…………」ウトウト…
武内P「……!」ハッ!
ピィ------ッ…
武内P「…………!?」キョロキョロ
ガタッ
武内P「渋谷さん…………?」キョロキョロ
武内P「………………」
ガララ…
133: 以下、
?病院の中庭?
テクテク…
武内P「…………」キョロキョロ
武内P「…………」キョロキョロ
ピタッ
武内P「………………!」
134: 以下、
ヒュオォォォォォ… サラサラ…
凛「……………………」
武内P「………………」
スッ…
135: 以下、
ザッ…
凛「………………?」
武内P「………………」
凛「…………暗いね」
凛「それに…………とても、静か」
武内P「……今、午前3時38分です」
武内P「あと、2時間ほどで、朝日が昇るかと思われます」
凛「…………ふーん」
凛「……それで、アンタは、誰?」
武内P「渋谷、凛さん……ですね?」
凛「私の名前……」
凛「何で、アンタが私の名前を……?」
136: 以下、
武内P「シンデレラプロジェクトの、担当プロデューサーとなった者です」ゴソゴソ…
武内P「この春より……」スッ
凛「春……?」
凛「……そうなんだ。私、あの日から、ずっと…………」
凛「……それで、アンタが私の、プロデューサー?」
武内P「はい」
凛「ふーん……まあ、悪くないかな」
凛「私は、渋谷凛。よろしくね」
武内P「存じております」
武内P「私は、あなたのプロデューサーですから」
凛「…………そう」ニコッ
武内P「…………」ニコッ
137: 以下、
?翌朝、美城グループ附属総合病院 病室?
医師「まさか、信じられん……!」
凛「…………」
武内P「あなたのお母様が、幾度となく水を替えに来られていました」
凛「カルミア……か……」
ドタドタドタ…!
ガララッ!
未央「しぶりんっ!!」
卯月「凛ちゃんっ!!」
莉嘉「起きてる……凛ちゃん起きてるよーっ!!」
みりあ「やったぁーーっ!!」ピョンピョンッ!
138: 以下、
凛「卯月、未央……! ……皆まで」
卯月「凛ちゃん……凛ちゃんだぁ…!」ジワァ…!
未央「もう……しぶりんったら、寝坊しすぎだよっ!!」ダキッ!
凛「ちょっ、未央。苦しい……痛いってば…」
未央「バカ。しぶりんの、バカぁ……う、うあぁぁ……!!」ポロポロ…
卯月「良かった……本当に、夢みたいですっ……!」グスッ
凛「……なんか、ごめん」
蘭子「ごめんなさい……私、こういうのに弱くてぇ」ズルズル
みく「ら、蘭子ちゃんそれみくの服! 鼻水拭かないでっ!」
李衣菜「こっちまでもらい泣きだよぉ。ふえぇぇ…」グスッ
杏「何はともあれ、一件落着って事でいいんだよね」
アーニャ「ダー。リンが元気になって、とても嬉しいです。ラーダスヌィ…」ホロリ…
智絵里「……あれ?」キョロキョロ
かな子「ぐすっ……智絵里ちゃん、どうしたの?」
智絵里「プロデューサー、どこに行ったのかな……?」
139: 以下、
武内P「………………」
コツッ…
凛母「あ……」
武内P「…………」ペコリ
武内P「凛さんは、こちらの病室の中にいらっしゃいます」
凛父「この度は、本当に……何とお礼を言ったら良いのか」ペコリ
凛母「ッ……」ペコッ
武内P「いえ……」
ガララ…
きらり「あ、いたぁ。Pちゃん?」
美波「どうしたんですか? 中に入らなくて……あっ、どうも」ペコリ
凛母「……」ペコッ
武内P「いえ……私がいたら、お邪魔ではないかと思い」
140: 以下、
美波「邪魔だなんて……!」
きらり「えいっ!」ガッシィ
武内P「うっ!?」
美波「凛ちゃんの……私達の恩人を、どうして私達が邪魔に思うんですか」
凛父「彼女の言う通りです。我々と共に、凛の快復をお祝いしてください」
きらり「Pちゃんも主役なんだよ? さぁさ、皆と一緒にハピハピするにぃ♪」グイィーッ!
武内P「う、うぉ、あの……」
ガララッ!
141: 以下、
莉嘉「あ、いたーっ!」
みりあ「プロデューサー、かくれんぼ好きなんだねー」
武内P「み、皆さん……」
一同「……」ニコニコ
凛「プロデューサー」
武内P「は、はい?」
凛「いや、あの……ありがとう」ポリポリ…
凛「私なんかのために、色々走り回って、頑張ってくれてたんだって、皆から聞いて……」
凛「ずっと寝たままだったなんて、今でも信じられないけど、こうして治してくれたんだね」
凛「皆にも、すごく迷惑かけちゃったね……ごめん」
未央「……っ」フルフル
凛父「…………凛」
凛「! お、お父さん……お母さんも」
142: 以下、
凛母「…………ッ」ギュッ
凛「えっ……やだ。お母さんちょっと、恥ずかしいよ……!」
凛母「凛……本当に、おかえりなさい」
凛「……た、ただいま?」
凛「も、もういいでしょ。ほら、離れて」
凛父「なんだ、凛。皆さんには素直になる癖に、我々に対しては随分だな」
凛母「少なくとも、精神的には入院前より健全のようで、安心したわ。ふふっ…」グスッ
凛「ふ、普段と変わらないよっ! からかわないで!」
ハハハハ…!
ガララ…
志希「ぐっもーにぃーん…」
志希「? う、にゃあっ!? ひ、人がいっぱい……?」ビクッ
143: 以下、
みりあ「あっ、志希ちゃんだー!」
蘭子「天使の眠りを覚まさせし救世主がここに!」
志希「え、えっ?」
武内P「一ノ瀬さん。メールは、ご確認いただけましたか?」
志希「メール?」スイッ
志希「……あれ、既読になってる。寝ぼけながら携帯いじってたのかにゃ?」
武内P「とにかく、ご覧の通りです」
凛「この人が、私の薬を作った人……」
志希「……おぉ??っ!」プニプニ
凛「!? なっ、う……」
志希「起きたんだねー、ぐっもーにん凛ちゃ?ん。まさに光芒一閃」プニプニ
志希「滴定曲線よろしく、急激な変化が見られるのは想定の範囲内ではあったけど、
 こうして間近に観察できるとちょっとカンドーかも」
志希「どれ、匂いもみてみよう。ちょっとハスハ…」
みく「ご両親いる前で何してるにゃーっ!!」
144: 以下、
凛母「本当にありがとうございます。
 もう駄目かと何度も思って、それがあなた方のお薬で無事に治って…!」ペコペコ
志希「い、いえいえどういたしまして。あたしは興味があったから観察してただけで。
 ウチのドクターも喜ぶと思います、はい」フリフリ
志希「あ、それで。この後の治療はどんなカンジになりそーですか、先生?」
医師「えぇ、そうですな……最低でも一ヶ月は入院を続け、経過観察が必要でしょう」
莉嘉「えっ、もう退院じゃないの?」
医師「水を差すようで恐縮ですが、油断は禁物です。
 快方に向かっているとしても、半年以上も眠っていた凛さんの体は衰弱しています」
医師「脳だけでなく、筋肉や臓器も……
 精密検査を行いつつ、軽い運動訓練を、食事は流動食から試していきましょう」
武内P「はい」
志希「しゅだのーん」
かな子「しゅだのん?」
美波「“Should have known.”?」
志希「そーそー♪ ロシア語だと、んー、プラーヴィリナ? あ、ニサムニェーンナ?」
アーニャ「ダー。シキ、ロシア語もすごく上手です」
志希「あっちの大学にロシア人もいたからねー」
145: 以下、
卯月「じゃあ、今度のサマーフェスに、凛ちゃんは……?」
凛「やれるだけやってみるよ。心配しないで、卯月、未央」
未央「心配するのなんてもー飽き飽きなのっ! しっかり治してよ、しぶりん!」
凛「ふふっ……うん」ニコッ
志希「んー、まぁひとまず凛ちゃんの臨床については一応の成果を見たとゆー事で。
 志希ちゃんのお役も御免なのかにゃ?」
智絵里「えっ、そ、そんな事無いですよぉ。私達、まだ感謝を伝えきれてないし…」
志希「いや?致命的な事に、結果が見えてる物には志希ちゃんの興味は薄れちゃうんだよ。
 普段あたし3分しか興味持続しないんだから、これでも驚異的な記録だよねー♪」
李衣菜「いやそんなウルトラマンみたいな事言わないでさ」
武内P「…………」
武内P「一ノ瀬志希さん」
志希「ん? 何でフルネーム?」
武内P「アイドルに、興味はありませんか?」
志希「…………?」キョトン
146: 以下、
【経過報告】
 報告日:6月25日
 報告者:P
 渋谷凛は順調に快復。
 日常生活に支障の無い程度の運動は可能。
 脳波は安定しており、便の状態も良いとの事。
 『Bu-DOPA』の投与については、量を200mgに減らし、今後も経過を観察。
 以上
147: 以下、
――――――――――――
――――――
タンッ タンッ タンッ…!
ベテトレ「1、2、3、4、1、2、3、4、1、2……」パンッ パンッ!
ベテトレ「ストーップ! ほら、またズレだしたぞ!」パンパンッ!
ベテトレ「目で追うな! 互いの動きを拍数とイメージで捉えろ!
  同じ事を何度も言わせるんじゃない!」
みく「はぁ、はぁ、だって……!」
李衣菜「しょうがないじゃん……!」
みく「何でみくと李衣菜ちゃんがユニット組まされるハメになるにゃっ!!」
李衣菜「こっちの台詞だよ! この子とは絶対合わないのに合わせろなんて無理です!!」
ベテトレ「そうか? 私は、お前達ほどお似合いのユニットはいないと思うがな」
みく・李衣菜「はあぁぁぁあっ!?」
148: 以下、
美波「私が、アーニャちゃんと組んで……」
かな子「私は、智絵里ちゃんと杏ちゃん」
みりあ「私は莉嘉ちゃんときらりちゃーん!」
きらり「にょわーっ! きらりんトース☆」ガシッ ポーイ!
莉嘉「きらりちゃん怖い怖い怖いっ!!」
智絵里「プロデューサーなりに、考えてユニットを組み直してくれたんだよ、きっと」
李衣菜「でもよりにもよって…!」
みく「この子とだけは…!」
李衣菜「何、文句あるの!?」
みく「そっちこそ不満タラタラのクセにっ!!」
みく・李衣菜「むうぅぅぅ???っ!!」ワナワナ…
アーニャ「アー……嫌よ嫌よも好きのうち、ですね?」
みく・李衣菜「違うっ!!」クワッ!
149: 以下、
卯月「個性……かな?」
李衣菜「えっ?」
志希「ふむふむ、皆の個性が際立つように組み直してるってこと?」
莉嘉「なるほどー。美波ちゃんとアーニャちゃんはアタシ達のキレイ目担当でー?」
美波「キレイ目というのは、ともかく……莉嘉ちゃん達は、その見た目の凸凹具合ね」
杏「どーも、自宅警備担当です」
かな子「せ、せめておっとり担当とか!」
きらり「Pちゃんはぁ、きらり達の事すっごくすっごく考えてくれてるにぃ♪」
みく「にしたって……じゃあ何、みく達はこうしてケンカしてるのが個性ってこと?」
未央「そりゃあ賑やかしとして強烈な個性だよねー、にひひー♪」
李衣菜「笑わないでよ、こっちは死活問題なんだから!」
ベテトレ「死活問題と言えるほど立派なハードルがあるなら上等じゃないか」
ベテトレ「前進してなきゃ躓く事もできないんだ。
  お前達の目の前にある壁なんて全部扉だと思え! さぁレッスン再開するぞ!」
みく・李衣菜「うわあぁぁんっ!!」
150: 以下、
志希「ふぅーむ……個性、個性かぁ」
卯月「志希さん、どうかしたんですか?」
志希「いや、前のプロデューサーは、そんなに個性を重視してなかったんだよね?」
未央「あー、確かにみくにゃんの猫耳とかリーナのロック、
 あとらんらんの、こう、ぶわっ! っていうのも抑え気味だったかなー」
蘭子「ぶわって……」
志希「化学って、方法と状況さえ同じなら、誰がやっても同じ結果になるんだよね」
志希「でも、アイドルの世界はそうじゃない。誰がやるかで全く異なる事象が導かれる」
志希「でもさ、取り巻く環境を制御して望んだ事象を手繰り寄せるってアプローチ?
 そこは同じなんだよねー。何でだろう、逆に新鮮でさー♪ にゃははーっ!」
卯月「はぁ、そ、そうですね……えへへ」
志希「ところで、あたしは誰とも組まずにソロなんだ?」
杏「組まなくても十分キャラが立ってると思われたんじゃない?」
志希「あー……」チラッ
蘭子「?」
志希「……あぁ??」ウンウン
蘭子「イヤミかッッ!!」
151: 以下、
?常務の部屋?
今西「良かったねぇ。彼女の容体は、その後も順調に快復しているそうじゃないか」
武内P「はい」
ちひろ「プロデューサーさんの献身的な姿勢があってこそ、ですね」ニコッ
美城「だが、サマーフェスまでは残り二ヶ月ほどしかない」
美城「無事に退院を果たしたとしても、渋谷凛はフェスまでに仕上がるのか?」
武内P「……おそらく、難しいだろうと思います」
美城「君らしくもない。随分と弱気だな?」
武内P「心残り無く、メンバーが共通の目的に向かって走り出せる……
 彼女の快復には、元々それだけの意義がありました」
武内P「あとは、持てるカードでフェスに臨むだけです」
美城「なるほど……断わっておくが、今回の一件について、私は君を高く評価している」
美城「だが、くれぐれもメンバーの動向には注意することだ。
 仲間思いが多いプロジェクトなら、なおさらな」
武内P「……?」
ちひろ「一大イベントの前には、無理が祟って倒れる人が多いんです……」
152: 以下、
?美城グループ附属総合病院 病室?
美嘉「すっかり元気になったみたいだね。安心したよ」
凛「美嘉までお見舞いに来てくれてたなんて……わざわざごめんね」
美嘉「ぜーんぜんっ★ 莉嘉から聞いたよ、そろそろ退院なんでしょ?」
凛「うん。あと二週間くらい様子を見て、何も無ければ、って」
美嘉「そっか……」
凛「? どうしたの、美嘉?」
美嘉「いや……なんか、本当に治ったんだなぁって、実感が湧いちゃってさ」グスッ
凛「やだ。泣かないでよもう、ふふっ」
155: 以下、
美嘉「アハハ、ごめんごめん。それじゃ、アタシそろそろ帰るね?」
凛「ラジオの仕事だっけ? 頑張ってね」
美嘉「ありがとっ★」ガタッ
美嘉「あっ、何か皆に伝える事、ある?」クルッ
凛「私のお見舞いに来てる暇があったら、ちゃんとレッスンしてって言っといて」
凛「特に卯月と未央。あの二人、ほとんど毎日のように来るんだから」
美嘉「えへへ、オーケー★ それじゃあね、お大事に!」フリフリ
凛「うん。ありがとう、美嘉」
ガララッ ストン
161: 以下、
テクテク…
美嘉「いやー、本当に治っちゃったねー」ルンルン
美嘉「トーヘンボクっぽいプロデューサーだと思ってたけど、見直さないとなぁ」
美嘉「……ん?」ピタッ
ピッ! ウィーンガコン
楓「…………スポーツ、す、すぼ……すぽーく……」ブツブツ…
168: 以下、
美嘉「か、楓さんっ!?」
楓「? あら、美嘉ちゃん。お疲れ様です」ペコリ
美嘉「お、お疲れ様です……え、ひょっとして凛のお見舞いに?」
楓「えぇ。凛ちゃんの様子、どう?」
美嘉「いや、それはもう、あの、フツーに元気というか……」
楓「そう、それは良かったわ。それじゃあ、私も行ってきますね」ニコッ
美嘉「は、はい……どうも」
スタスタ…
美嘉「か、楓さんまで気に掛けてたんだ……凛も大物になったんだなぁ」
176: 以下、
ギュッ…
凛「…………」クイッ ギュッ…
コンコンッ
凛「!」
バタバタッ ササッ ギシッ
凛「…………どうぞ」スッ
ガララッ
楓「……運動の後は、スポーツ飲料が、すごーく良いんよう?」ヒョコッ
182: 以下、
凛「なんだ、楓さんか……」
楓「ふふっ。調子はどう、凛ちゃん? はい」コトッ
凛「どうも……いちいち毎回違うダジャレ考えてこなくても良いですからね?」
凛「仕上がりは、まぁまぁです」
楓「私が聞いているのは、体調の方。無理はしていないかしら?」
凛「…………」
楓「焦る気持ちは分かるけれど、無理は禁物ですよ?」
189: 以下、
凛「……自分では、別に無理だと思っていません」
凛「これまで皆に迷惑かけた分、少しでもフェスまでに皆に追いつかないと」
楓「……新しいプロデューサーって、どんな人だか知ってる?」
凛「? 事務的な事しか話してないから、あまり……」
楓「プロデューサーはね……とっても親切で、誰よりも人を愛している人」
凛「えっ……?」
楓「自分の事より、いつも他の誰かの事を優先的に考えて行動しちゃうの。
 自分では、気づいていないみたいだけれど」
楓「だから、あまりプロデューサーを心配させるような事、しちゃ駄目ですよ?」ニコッ
192: 以下、
凛「……詳しいんですね、プロデューサーの事」
楓「ふふっ……それじゃあね」スッ
凛「楓さん」
楓「?」
凛「……ごめん」
楓「…………」ニコッ
196: 以下、
?夜、美城グループ附属総合病院 裏庭?
タンッ タタンッ タンッ…!
タタンッ タッ タンッ…!
タンッ タンッ!
凛「くっ…………はぁ、はぁ……!」スッ
キュッ クイッ
凛「んぐ…………ふぅ。よしっ」
201: 以下、
未央「よしじゃないっ!!」
凛「!?」クルッ
未央「と、プロデューサーが申しております」ササッ
武内P「わ、私ですか?」
卯月「凛ちゃんっ!」
凛「未央、卯月……ぷ、プロデューサーまで!?」
武内P「そのトレーニングウェアは、高垣さんからもらったそうですね」
凛「…………」
武内P「お気持ちは分かりますが、あまり褒められた事ではありません」
206: 以下、
凛「……別に褒めて欲しくてやってるんじゃない。私がやりたいだけだよ」
凛「楓さんにだって、私の方からお願いして服とか靴とか買ってもらっただけ。
 他の皆だと、たぶん心配して協力するどころじゃないだろうから」
未央「当たり前だよ! 安静にしなさいって先生も、しきにゃんだって言ってたじゃん!」
卯月「凛ちゃん……凛ちゃんは、私達の事が頼りないですか?」
凛「卯月……」
卯月「大丈夫です。
 凛ちゃんがいつもの調子が出せなくても、私と未央ちゃんでフォローしますから」
未央「ニュージェネのリーダーたるもの、しぶりんがちょっとやそっとミスしようが、
 それをカバーするくらい造作も無いのだよ」
未央「だから、しぶりんはちゃんと休んで。寝過ぎだったけど、もう少しだけ。ねっ?」
凛「やだ」
卯月・未央「えっ」
207: 以下、
凛「二人がどう思ってくれてるかなんて関係無い。
 私が二人や皆の足手まといになるのが嫌でやってるんだから、邪魔しないで」
未央「ちょ、ちょっそんな子供みたいな事…!」
凛「子供でも何でもいい。ほら、帰らないならせめて拍数数えてよね、卯月」
卯月「え、うえぇぇっ!?」
武内P「渋谷さん、しかし…」
凛「止めてもやるよ。気に食わないなら私を除名でも何でもすれば?」
武内P「!?」
凛「悔しかったら、私の身体に異常を見つけてからにして」
凛「私の事を何でも思い通りにできると思われるの、嫌だから」
208: 以下、
【経過報告】
 報告日:7月13日
 報告者:P
 運動機能、臓器、脳波とも異常無し。
 予定通り、明日退院する見込み。
 退院後は、『Bu-DOPA』の錠剤を渋谷凛に渡し、継続投与する予定。
 加えて、定期的な通院と精密検査の受診が義務付けられる事となる。
 以上
209: 以下、
――――――――――――
――――――
ベテトレ「渋谷、そろそろ休憩しよう」
凛「いえ、まだ勘が掴めていません。もう一度だけ…!」
ベテトレ「本番が迫る中、無理をして体を壊しては良くない」
ベテトレ「これはお前だけじゃなく、皆にも平等に言っている事だ」
凛「…………はい」
210: 以下、
スッ ギシッ
凛「…………」ギュッ…
ヒョコッ
志希「やっほー、りーんちゃん! にゃはっ♪」ピョインッ
凛「……志希、さん?」
志希「呼び捨てでいいよー♪ あっちではずっとファーストネームで呼び合ってたし」
凛「……そういう志希は、私の事ちゃん付けなんだね」
志希「にゃははーっ。だってキミ、かわいいんだもん」
213: 以下、
凛「からかわないで」
志希「ありゃりゃー? なぁに凛ちゃん、ひょっとしてムズカシイお年頃?」ツンツン
凛「やめてったら!」バシッ
志希「にゃっ?」
凛「……! ご、ごめん……命の恩人なのに、私…」
志希「んーん、全然気にしなくていーよ♪ 恩人でもないしさー」
志希「なるほどー。キミは頑固で熱血でストイックで、年相応に悩める少女なんだねー」
志希「心理学上、9割の人は見た目で他人の性格を判断するそうだけど、
 やっぱダメだねー、自分の物差しをアテにするのって」
凛「よく分かんないけど……志希は、悩みが無さそうでいいね。
 他の皆や、トレーナー達からの評価も良いみたいだし」
志希「ギフテッドっていうんだって、あたし。天からの授かりもの、いわゆる天才」
凛「ふーん……」
志希「でもさー、難しいねーアイドルって。正解もゴールも無いんだもの」
凛「えっ?」
214: 以下、
志希「今度あたしが歌う曲ね?
 音程もリズムも覚えたし、振り付けも止まらずに踊れるようになったんだー」
志希「でも、それで完成するものじゃあないんでしょ? 音楽って。
 奏者が気持ちを乗せる事で、初めて聞く人、観る人の心に響くんだって」
志希「あ、あのこわーいトレーナーさんが話してた事だけどね?」
凛「……あぁ、ベテトレさんね」
志希「で、あたしにはそういう気持ちを育む機会が無かったの。青春ってヤツ」
志希「学園生活も反抗期も、留学と飛び級で全部すっ飛ばしちゃったあたしには、
 悩み苦しみながら、一つの目標に向かって頑張る気持ちってのが分からなくてさー」
志希「いつだっていち早くゴールにたどり着く事ばかり考えてた一ノ瀬志希は、
 過程を丁寧に積み重ねる意志みたいなのが欠落しちゃったのかなーって自己分析?」
凛「…………」
志希「だから……本番でちゃんと気持ちを乗せられるように、
 今抱えてる悩みや苦しみは、大事にしたいかなー、なんてね」
凛「……ごめん、志希。知った風な口を聞いて…」
志希「気にしないでってばー。あたしも悩み聞いてくれて嬉しかったよー」
志希「あ、ひょっとしてあたしの悩みをマジメに聞いてくれたの、キミが初めてかもー♪
 にゃははーっ! メモリアル凛ちゃんハスハス!」ムギュッ!
凛「そ、そっちが勝手に話したんじゃないの!?」
215: 以下、
ガチャッ
トレ「志希さーん、そろそろ再開しましょうか」
志希「もートレさーん。あたしの事はちゃん付けでいいってばー」スクッ
凛「呼び捨てでいいって言ってなかったっけ、さっき!?」
志希「ん、そうだっけ? にゃっはっは、志希ちゃんは猫のように気まぐれなのだー♪」
トレ「はいはい。それじゃあ志希ちゃんさん、レッスン始めますよ?」ニコッ
志希「な、なおもさん付けだとぅ!? トレさんも意外と強情だね、見た目に寄らず!」
ガチャッ バタン
凛「………………」
凛「悩み苦しみながら、一つの目標に向かって頑張る、か……」
凛「それってきっと……良い事なんだよね……?」
216: 以下、
?夕方、シンデレラプロジェクト事務室?
ジィィ----…
未央「おはようございまぁ??す……(小声)」
莉嘉「おはよーございまぁーす……ふっふっふー」ヒョコッ
未央「今ぁ、私達はぁ……シンデレラプロジェクトの事務室にぃ…」
未央「来ていまぁ???す……♪」フリフリ
未央「あ、ちえりん、カメラあっち。しぶりん写して」チョイチョイ
智絵里「あっ、はい!」クルッ ジィィ---…
凛「…………」
未央「これからぁ……しぶりんにぃ…」
未央「寝起きドッキリを、仕掛けてみまぁ???す……!」
莉嘉「イェーーイ……!」
凛「いや、起きてるんだけど」
卯月「楽しそうですっ」ワクワク
217: 以下、
未央「さぁ、しぶりんはというとぉ……」
未央「おやおやぁ、グッスリと、眠っているようです……」
凛「ねぇ」
未央「そんなしぶりんにぃ……今回はぁ……」ゴソゴソ…
未央「この、ティッシュで作ったコヨリでぇ……耳をくすぐってみたいと思います…!」
莉嘉「一体、どうなってしまうのか……!」ウシシ…!
未央「ではぁ、さっそく…」スッ…
凛「……」スクッ スタスタ
未央「あ、あぁっ!? ちょっとしぶりーん、そこはノリツッコミでしょー!」
凛「悪ふざけもいい加減にしなよ、未央」
凛「一応それ、病院への報告用なんでしょ?」
未央「えー、だからこそでしょ。元気になったぞーってアピールしなきゃ!
 ねぇしまむー?」
卯月「はいっ! 凛ちゃんの元気な姿、ちゃんとビデオに収めましょう!」ギュッ
凛「コヨリで耳をくすぐられるのが元気アピールになるとは思えない」
218: 以下、
未央「よぉーし分かった! そこまで言うなら、ちえりん、しぶりんにズームイン!」
智絵里「はい!」クイッ ジィィ---…
凛「えっ?」
未央「しぶりんが考える元気アピールまで3秒前、はい3、2、1、キュー!」
凛「いや、ちょっ……」
凛「……えー、7月15日、午後17時半、晴れ。シンデレラプロジェクト事務室。
 渋谷凛、特に異常ありません」
凛「……えーと、お、おしまいっ」
未央「喋りがアレだったら、今度の曲の振り付けとかは?」
凛「ここで? そんな気分になれないんだけど」
卯月「ダメです未央ちゃん、無理をさせちゃ良くないですよっ!」
凛「無理なんかじゃないよ。見てて」スッ
未央「さっすがしまむー! しぶりんを手なずけるの上手いねー」
凛「ふーん、卯月まで私の事をからかうんだ」
卯月「わ、わっ! ち、違いますってぇ!」アタフタ…!
美波「仲良いわねぇ、本当に」
219: 以下、
未央「そういやぁさ、プロデューサー?」
武内P「? 何でしょう」カタ…
未央「しぶりんが退院した後って、例の経過報告、誰が書いてんの?」
武内P「私ですが……」
みく「それはあまり良くないと思うにゃ」
みく「Pチャンだって、いつも凛ちゃんのレッスンやお仕事に同行できる訳じゃないし、
 状況に応じて誰かにお任せする事も考えるべきじゃない?」
李衣菜「おー……みくちゃんって、意外としっかり者だよね」
みく「意外とは余計にゃっ!」
莉嘉「でも、あたしそれさんせー☆ なんか楽しそーだし!」
みりあ「みりあもやるー!」ピョンッ
武内P「あ、遊びではないのですが……」
凛「それってさ、本人が書いてもいいの?」
武内P「えっ」
220: 以下、
【経過報告】
 報告日:7月18日
 報告者:本田 未央
 運動機能、異常無し。
 筆者と対象者と島村氏とでランチを食べた際、しっかり筆者のチョコパフェを
 つまみ食いしていたので、臓器の異常も無し。
 あと、トイレにはちゃんと行っていた。島村氏の方がトイレは近いようだ。
 対象者は、しっかり筆者のボケにようしゃ無いツッコミを入れていたので、
 脳波もたぶん異常無し。
 むしろ筆者のワキ腹が危ない。
 全ては順調に進んでいる。約束の時は近い。
 もし、この文書が誰かの目にとまる事があったのなら、島村氏にこう伝えてほしい。
 サマーフェス、必ず成功させなければPが断髪させられるらしい、と。
 言い忘れていたが、対象者は薬はちゃんと飲んでいた。
 胃の中でチョコまみれになったであろう薬に、果たして効き目はあったのだろうか。
 優しさは含まれていたのだろうか。
 継続的な捜査が待たれる。
 以上
221: 以下、
【経過報告】
 報告日:7月19日
 報告者:島村 卯月
 今日は、午前中は凛ちゃんと未央ちゃんと、ニュージェネの曲のレッスンをしました。
 午後は、シンデレラプロジェクト皆での合同曲『Shine!!』の全体練習です。
 凛ちゃんは、ブランクがあるはずなのに、しっかりこなせていてすごいです。
 何でもないよって、凛ちゃんは言うんですけど、凛ちゃんが本当にすごいのは、
 こっそり自主練をしている所です。それも毎日です。
 無理をしていないかと、ハラハラするので、私達も一緒に付き合うようにしています。
 差が縮まらないからやめて、って凛ちゃんは言いますが、そういうわけにもいきません。
 誰かのために、何かをしたいという気持ちがあるのは、凛ちゃんだけではありません。
 凛ちゃんには、どうかそれを分かってほしいなぁと思います。
 たとえお薬を飲んでいても、体が万全とは限らないんですから、
 いざって時はどうか休んでほしいです。
 その分、私達が精いっぱい頑張ります!
 あ、でも今のところ凛ちゃんは、前までと同じくらい元気に見えます。
 異常無し、です。
 P.S. 未央ちゃんへ
 いい加減な事を書くのはやめてください!
222: 以下、
――――――――――――
――――――
医師「……あのねぇ。交換日記じゃないんですよ」
武内P「申し訳ございません……」ペコリ
未央「あー、何これ!? しまむーすっごい普通じゃん!
 私、プロデューサーのをマネて、ちゃんと報告書っぽい文章にしたのに!」
卯月「ええぇぇ……未央ちゃんはふざけすぎですよぉ」
ガララッ
凛「検査、終わったよ」
武内P「お疲れ様です。いかがだったでしょうか」
博士「脳波、臓器ともに異常は見られません、至って順調です。こちらを」スッ
医師「……ふむ。お若いだけあって、回復力は目覚しいものがありますな」ペラッ
博士「ん? ほう、経過報告をお仲間の皆さんで書いているのですか」
未央「へっへぇーん! どうですコレ、ばっちしでしょ!」
224: 以下、
博士「ふむふむ……ややおちゃらけた所はともかくとして、
 報告の内容としてはそう悪くないと思いますよ」
医師「えぇー、そうでしょうか?」
博士「お二方が、渋谷さんの事をとても良く観察されているのが伝わってきます。
 活動の内容が詳しく示されていて、経過が分かりやすい」
未央「やったぁー! しまむータッチ!」
卯月「タッチ!」パチンッ!
凛「いや、未央はもう少しマジメに書こうよ」
未央「いやいや、むしろプロデューサーがしゃんとしなきゃだよ」
武内P「わ、私ですか?」
未央「数行だけサラサラって書いて「以上」じゃなくてさ?
 博士さんが言ったように、ちゃんとしぶりんを見てあげなきゃ」
凛「えっ」
卯月「凛ちゃんがどうしていたとか、どんな事を考えていそうとか……
 それに、プロデューサーさんが考えている事だって、書いていいと思います」
武内P「私の考え、ですか……ま、前向きに検討致します」ポリポリ…
229: 以下、
【経過報告】
 報告日:7月24日
 報告者:諸星きらり☆
 にゃっほーい! きらりの番だにぃ☆
 なに書こうかなー? 今日もいろんなことがあって楽しかったんだぁ。
 えっとね、レッスンは午前中で終わったの。
 りんちゃんは、それでも続けてやろうとしてたけど、ムリはダメー!!
 こういう日は、みんなでハピハピなことするのが良いんだにぃ♪
 駅前のアイス屋さんに、りんちゃんみくちゃん、うづきちゃんとりいなちゃん、
 それにみりあちゃんとらんこちゃんときらりで行ったよ。
 冷た??いアイス、レッスンの後にはサイコー!
 それから買い物して?、カラオケして?、太鼓のゲームして?…
 ゾンビをばきゅんばきゅんするゲーム、らんこちゃんすっごく上手だったにぃ!!
 キハクがすごかったぁ。
 フェスの練習、大変だけど、ツライこともムズカシイことも、
 みぃ?んなと一緒だから、いっぱいいっぱいがんばれるし、楽しくなれるんだよ。
 きらりは、りんちゃんがみんなと一緒になってくれて、本当にうれしいのです☆
 きらりももっともっとがんばゆ!!
 えいえいおー!!!
231: 以下、
【経過報告】
 報告日:7月27日
 報告者:前川 みく
 今日の凛ちゃんは、かなり機嫌が悪そうだった。
 元々凛ちゃんは、そんなに感情を表に出すような子じゃない。
 でも、気持ちが前に出すぎている、ってベテトレさんに言われてからの凛ちゃんは、
 すっごくムスーッとしてたにゃ。
 確かに、トレさんの言うことは当たってると思う。
 生き急いでる、って書くと大げさだけど、なんか色々と焦ってる気がする。
 みくだって、今度のフェスへの危機感はそれなりに持ってるつもりだけど、
 凛ちゃんのそういう姿勢を見ると、何だかこっちもソワソワしてしまうのだ。
 ああ見えて凛ちゃんは、すっごくストイックで、人一倍の熱血屋さんだ。
 たぶん凛ちゃんは、、気持ちを乗せる事の何がいけないのか、って思ってる。
 ライブって、ハートで伝えるもんなんだよ、って李衣菜ちゃんが言ってて、
 その知ったかぶりは鼻に付くのだけど、それはまぁ、間違ってないとは思う。
 でもね。凛ちゃんの、こう……
 うまく文章で表現できないけど、こう……クイッと。
 (↑両手を顔の横で揃えて前に突き出すポーズ。分かる?)
 何が言いたいかというと、熱中しすぎて周りが見えなくなるきらいがあるのだ。
 凛ちゃんのそういう所、ある意味良い所ではあるけど、あまり良くないとも思う。
 サマーフェスまであと一ヶ月ちょっと。
 さっき、ソワソワしてしまうと書いたのは、みく達も頑張らなきゃという気持ちと、
 無理しないでね凛ちゃんという気持ちの両方である。
 成功させたいのはもちろんだけど、ここまで来たら、皆で笑顔でステージに立ちたい。
 どうかそれを無事に実現できますように。
232: 以下、
【経過報告】
 報告日:7月28日
 報告者:赤城 みりあ
 夏休みまっさかり!
 プールにも行きたいし、お祭りでかき氷もいいなー。
 りんちゃんは、夏休み何するの?って聞いたら、
 レッスンとかの日以外は店番だって。うわーまじめ!
 みおちゃんにそれを言ったら、それはゆゆしきじたいだ!って言って、
 すぐに遊ぶ用事を作ってくれるって!
 りんちゃんのたんじょう日も8月にあるし、今からワクワクするね!
 みんなで相談して、どこに行きたいとか言い合うの、とても楽しかった。
 プロデューサーも、バーベキューとか、きも試しとか、海とか連れてってほしいなー。
233: 以下、
【経過報告】
 報告日:7月31日
 報告者:P
 依然、渋谷凛の体調は問題無し。
 インターネットでの評判を見るに、渋谷凛復帰への期待感は大きい模様。
 彼女の成長は目覚しく、フェスまでの仕上がりも間に合う見込み。
 サマーフェスに向け、メンバーによるPR活動を明日より開始予定。
 ボーカルやダンスの練度の高いユニットから順に起用。
 他、薬の処方等、特記すべき事項は無し。
 以上
234: 以下、
【経過報告】
 報告日:8月9日
 報告者:S.I
 いじょうなし! NP.
235: 以下、
――――――――――――
――――――
コツ コツ…
武内P「さすがにもう少し、書いていただけなかったでしょうか」
志希「だって本当に何も書く事無かったんだもん。
 至って健康そのもの。問題無さすぎてつまんない」
武内P「それでしたら、一緒に営業に行かれた時のご様子などは……」
志希「あれも皆で挨拶して、あたしが持ち歌歌って、凛ちゃん復活パチパチー!
 でおしまいだったでしょ?」
志希「あたしがちょっと緊張したって話をしたって、凛ちゃんの報告とは関係無いしさー」
凛「志希でも緊張するんだね。ステージはすごく良かったけど」
志希「んふふー、ありがと♪」
236: 以下、
凛「ところでさ、プロデューサー」
武内P「何でしょうか?」
凛「生意気な事、言うかも知れないけど……
 私が復帰する事について、あまり大々的に宣伝しないでもらえるかな」
武内P「! ……しかし、あなたの復帰を心待ちにしていたファンもいらっしゃいます」
凛「大事なのは今までどうだったかじゃなくて、これからの私がどう活躍できるかでしょ」
凛「そもそも倒れる前の私だって、そんな威張れるほど結果を残せてないし……
 ファンの人達には、色眼鏡で私の事を見てほしくない」
凛「ましてや、可哀想だなんて、絶対思われたくないから」
武内P「……なるほど。分かりました」
武内P「申し訳ございません」ペコリ
凛「いいって、そんな謝らなくて」
志希「凛ちゃんはほんっとーにストイックだねー」
志希「さ、そんな一方で事務所はどうなってるかにゃ?」
ガチャッ
237: 以下、
みりあ「あ、やっと来た!」
莉嘉「三人とも遅いー!」
志希「ごめんごめん。あれ、ひょっとしてあたし達を待ってた?」
みく「主役がいないのに始められるワケないにゃ!」
アーニャ「ダー。さぁ、プロデューサーもこれを持ってください」
武内P「は、はい」
未央「せぇーの……」
未央「しぶりん、誕生日おめでとぉーっ!!」
一同「おめでとーーっ!!」
パンッ! パン パパンッ!
凛「ありがとう……さっきの未央の“せぇーの”って掛け声、いる?」
李衣菜「ぶっつけで合わせたから、何言うか決めてなかったしね」
杏「おめでとーだけ辛うじて揃ったから良かったけどさ」
未央「いいじゃん別に! さぁさ、フーフーしたまえよしぶりん」
卯月「一息ですよ! 凛ちゃん、頑張ってください!」
凛「まかせて」
238: 以下、
かな子「いよいよフェスまであと三週間かぁ」
きらり「凛ちゃんが元気になってから、あーっという間だったにぃ」
美波「まだ終わっていないわよ、きらりちゃん。
 ここまで来たら、ファンや私達のためにも、絶対成功させなくちゃ」
智絵里「うぅぅ、い、今から緊張が……」
蘭子「迫りくる、決戦の舞台……そして訪れる審判の日」ゴクリ…
莉嘉「ちょ、ちょっとそこの皆ー? せっかくのパーティーなんだからそんな…」
コンコン…
莉嘉「ん?」
ガチャッ
楓「あのぉ……ごめんください」スッ
239: 以下、
卯月「え……ええぇえっ!?」
未央「か、楓さんっ!? 高垣楓さんだぁ!」
楓「高垣楓です。凛ちゃんの誕生日だと聞いて、差し入れを」
凛「楓さん、わざわざ来てくれてありがとう」
楓「凛ちゃん、お誕生日おめでとう。はい、これ」
凛「どうも……なにこれ、お酒?」
楓「凛ちゃんが生まれたのと同じ年のワイン♪」ニコッ
凛「飲めないんですけど。私どころか、この部屋にいるほとんどが」
みく「な、何で凛ちゃん、高垣楓さんと普通に話せてるん……?」ガタガタ…
李衣菜「し、知らないよ……すごい、ロックすぎるよ凛ちゃん」ブルブル…
凛「目上の人と話すのがそんなにロックかな」
凛「楓さんは、私が入院してる間、頻繁にお見舞いに来てくれてたってだけだよ」
凛「……だけ、って言い方も失礼だし、何であんなに来てくれたかは分からないけど」
凛「本当に、あの時はありがとう、楓さん」
楓「いいえ、いいのよ」
240: 以下、
武内P「高垣さん。お忙しい中お越しくださり、ありがとうございます」ペコリ
楓「こちらこそ。ご無沙汰しています、プロデューサー。
 調子はいかがですか?」
武内P「はい。今のところ、順調に進んでおります。
 懸念されていた渋谷さんの健康状態も、心配すべき点は特に見当たりません」
楓「そうですか……ふふっ」
武内P「? ……何か?」
楓「いえ。やっぱり、変わらないなぁって」
武内P「はぁ……」
智絵里「あ、あわわわ……」カタカタ…
楓「……智絵里ちゃん、どうしたの?」
智絵里「ひゃ、ひゃいっ!?」ビクッ
未央「なんかちえりん、フェスの前だからって緊張してるみたいなんです」
楓「まぁ」
241: 以下、
楓「私も、ライブやフェスの前はとっても緊張するの」
楓「どんなステージでも、必ずね」
李衣菜「そ、そうなんですか!? ちっちゃいライブでも!?」
みく「いやいや、楓さんが今時小さいライブなんてもうやるワケないにゃ?」
楓「地方のイベントでのミニライブなら、今もやっているのよ?」
みく「うえぇえっ!?」
楓「お仕事に、大きいも小さいもありません」
楓「どんなものであれ、本番が近づくにつれて緊張するという事は、
 それだけ自分が真剣に向き合い、頑張ってきた証」
楓「だから、自信を持って。
 一生懸命頑張ってきた皆にとって、緊張感はきっと味方になるはずですよ」
智絵里「か、楓さん……」ジィ-ーン…
楓「どんなに緊張しても、いつも通り慎重に、ねっ?」ニコッ
智絵里「はい……へっ?」
未央「……ひょ、ひょっとして今の、ダジャレ?」
243: 以下、
凛「楓さんの良くない所だよね、それ。ダジャレさえ言わなけりゃカッコ良かったのに」
楓「ふふっ、そうかしら」
楓「でも、今言った言葉は、ある人からの受け売りなのよ」
卯月「そうなんですか?」
楓「ねっ?」ニコッ
武内P「……?」
志希「おっ、キミが昔楓さんに言ったとか? なかなかキザだねぇー♪」ツンツン
武内P「いえ。そのような事はありませんが……」
楓「……ふふ」
244: 以下、
楓「それじゃあ、私はこれで」
かな子「えっ、もっとゆっくりされていかれないんですか? ケーキも…」
楓「これから、ちょっとだけお仕事が残っているの。ごめんなさい」
美波「いえ、そんな。本当にありがとうございます、すごく励みになりました」
みりあ「また遊ぼうねー!」ピョインッ
楓「ふふ、そうね。じゃあ、失礼します」ペコッ
武内P「お疲れ様です」ペコリ
ガチャッ バタン…
未央「……いやぁ?、楓さんが来てくれたなんてちょっとカンドーだよぉ!」
卯月「はいっ! 一緒に写真撮れば良かったです!」
きらり「きらりんパワーチョー充電完了っ!」ブルルイ
245: 以下、
凛「……ねぇ、プロデューサー」
武内P「はい」
凛「楓さんとは、昔何かあったの?」
武内P「このプロジェクトを担当する前、彼女の担当プロデューサーでした」
凛「それだけ?」
武内P「はい。そうですが……」
凛「ふーーん……」
246: 以下、
【経過報告】
 報告日:8月24日
 報告者:三村 かな子
 とうとう、フェスの本番一週間前になってしまいました。
 あまりの緊張で、二、三日前からお菓子がのどを通りません。
 でも、レッスンやお仕事は、とても充実しています。
 凛ちゃんは、宣伝するのはやめてとプロデューサーに言ったそうですが、
 営業先で凛ちゃんが登場する度、ファンの人達がうわぁ?って喜ぶんです。
 口では言わないけど、凛ちゃんは絶対に嬉しいはずです。
 楽しみにしていた人がこんなにいたんだって、私まで嬉しくなります。
 緊張は友達。
 何かのマンガで見たような言葉ですが、今の私は、緊張に勇気づけられています。
 フェスが終わったら、皆でいっぱいお祝いしようね!
247: 以下、
【経過報告】
 報告日:8月27日
 報告者:リカ☆
 もうチョー疲れた・・・
 最後の追い込みだーって、さいきんすっごく大変。
 家に帰っても、お姉ちゃん、本番が近づくとチョーシンケンになってこわいんだもん。
 ま、カリスマギャルはこんなんでへこたれないけどね→☆
 ていうかこんなにがんばってるんだから、ぜったい上手くいくもん!
 りんちゃんは、あいかわらず残ってうづきちゃん達と自主練してるみたい。
 リカでさえへろへろなのに、本当にすごいなぁ。
 今度はリカも、いっしょにつき合ってあげなきゃ。
 ダメ、ねむいのでねる。おしまい。
248: 以下、
【経過報告】
 報告日:8月30日
 報告者:P
 検査、特に異常無し。
 言うまでもなく、渋谷凛だけでなくメンバー全員のモチベーションは高い。
 渋る彼女達を早めに帰宅させ、明日のフェスに臨む。
 他、特記すべき事項は無し。
 以上
249: 以下、
――――――――――――
――――――
武内P「セットリストは、このようになります。音源は、ここに記されたタイミングで…」
スタッフ「了解しましたっ」
卯月「プロデューサーさん!」
武内P「皆さん、お疲れ様です。体調はいかがですか?」
蘭子「ふっふっふ……我が心を荒らし狂う暴魔の如き雷も、今となっては歴戦の友!」バッ!
凛「調子は万全だよ。いつでもいける」
智絵里「はい……!」ギュッ
武内P「本番までは、まだ時間があります」
武内P「皆さんはそれまでの間、少し会場の様子をご覧になったり、
 楽屋でリラックスされるのがよろしいかと…」
スタッフ「プロデューサーさーん! こっちの照明の配置はどうしましょーう!?」
武内P「今行きます」スッ
スタスタ…
250: 以下、
李衣菜「あぁして見ると頼もしいよねぇ、プロデューサー」
かな子「楓さんだけじゃなくて、川島瑞樹さんや片桐早苗さんも担当してたんだって」
蘭子「マジでっ!?」
未央「らんらん、素が出てる出てる」
みく「よくよく考えたら、みく達だって全くの素人じゃないんだし…」
莉嘉「頼りになるPくんもいるし、センパイのお姉ちゃん達だって出るんだもんね☆」
志希「何だか不思議な気分―。気づいたら、あたしもすっかりアイドルになっちゃった」
きらり「えへへ、志希ちゃんアイドル楽しんでゆ?」
志希「楽しいのもそうだけど、面白い? 研究し甲斐があるよねー、にゃははーっ♪」
杏「杏、このフェスが終わったら、巨額の不労所得を得るんだ……!」
美波「…………」
アーニャ「ミナミ、どうしました?」
美波「ううん、ちょっと……何でもないの」
未央「よぉーし、それじゃあ先輩達に挨拶しに行こーう!」
一同「おぉーっ!」
251: 以下、
まゆ「キュートな猫チャンアイドルさんって、みくさんの事だったんですねぇ」
まゆ「アイドル活動に対する一途な想い、まゆも負けません。そう、一途な、ね?」ニッコリ
みく「えっ? あ、はい」
愛梨「この間のマッスルキャッスルの収録、あれ評判だったらしいんですよ」
きらり「えぇっ? あの、きらり達がスイカ割りしたヤツのことぉ?」
幸子「久々に殺されるかなと思いましたよ、えぇ」
友紀「今日もかっ飛ばしていこー!!」ゲッツー!
未央「おぉーっ!! ユッキーもよろしく頼むっぜぇーぃ!!」ウォンチュッ!
志希「何か仲良いね?」
卯月「この間、二人で一緒に野球観に行ったみたいです」
252: 以下、
加蓮「凛っ」
凛「……! 加蓮、奈緒も」
奈緒「へへっ、気合十分って顔してるな。
 今日はあたし達、出番無いけど、その分しっかり勉強させてもらうぞ!」
加蓮「病み上がりを言い訳に下手なステージ見せたら、承知しないから」
凛「……まさか、加蓮からそんな事を言われるなんてね」ニコッ
加蓮「それって嫌味? ふふ」
かな子「この間話してた、新しく346プロに入ったっていう子達?」
凛「うん。先輩として、少しは私達、カッコいい所を見せてあげないとね」
李衣菜「まっかせてよ! この私がサイコーにクールでロックなステージ見せるからさ!」
奈緒「お、おう……」
李衣菜「どういうリアクション!?」
美嘉「今度もアタシがちゃんと会場温めてあげるから、しっかり楽しんで来な」ナデナデ
莉嘉「うんっ! えへへーっ☆」ニコニコ
253: 以下、
早苗「そういえば、P君は元気?」
みりあ「うん! プロデューサー、皆の事をすっごくお世話してくれるんだー!」
瑞樹「へぇー……あの人も無愛想だけど、面倒見は良かったものね」
早苗「もうちょっと付き合い良けりゃあ言う事ナシなんだけどねー? ワハハハ!」
智絵里「は、はぁ……」
雫「それで、そのプロデューサーさんは今、どちらにいらっしゃるんですかー?」
アーニャ「今は、本番前の準備をしてい…」
裕子「おっとアーニャちゃん、それ以上は無用! このエスパーユッコにお任せあれ!」サッ
アーニャ「えっ? ……スプーン?」
裕子「私のパワーで、見事プロデューサーの居場所をズバリ当ててみせましょう!」
裕子「むむむーん! サイキック念写ぁッ!!」グッ
裕子「むんっ? ふ、ふんぎぎぎ……うおぉぉぉ…!!」ググーッ…!
瑞樹「まーた始まったわ……」
254: 以下、
ポキンッ
裕子「あっ」
カチャン カラカラカラン…
美波「…………!」
255: 以下、
早苗「あらら、折れたのなんて初めてじゃない?」
雫「いつもは曲がったり曲がらなかったりしますねー」
裕子「し、失礼ですよ雫さん! 普段は私、パワーを制御してるんです!
 ただ、今回はちょっと良い所を見せたくてつい力が…!」
瑞樹「念写なのに、スプーンを物理的に曲げる意味があるのかしら」
ダッ!
アーニャ「あ、ミナミ……?」
256: 以下、
タッタッタッ…!
スタッフA「あぁ、その人なら確か衣装部屋に行きましたよ」
タッタッタッ…!
スタッフB「え、こっちにはまだ来てないですねぇ。ていうか衣装まだかなぁ?」
タッタッタッタッ…!
スタッフC「さっきようやく届いたんですよ。お部屋へ運ぶのを手伝ってもらってます」
257: 以下、
美波「はぁ、はぁ……!」タタタ…
コツ コツ…
今西「彼女達なら、この奥にいると思うのだが…」
美城「会場全体に、緊張感が足りないように思えます」
今西「落ち着いているとも言えるのでは?」
タッタッタッタッ…!
ドンッ!
美城「むっ」
美波「あっ! す、すみませんっ!!」ペコリ!
今西「あ、おい君…」
タタタ…!
今西「彼女……新田美波君といったか。ただ事では無かったようだが……」
美城「…………」
258: 以下、
美波「はぁ……はぁ、ぷ、プロデューサーさん……!」タタタ…
美波「……!!」ザッ…!
美波「ぷ、プロデューサー、さん……?」
美波「プロデューサーさん……プロデューサーさん!!」ユサユサ…
美波「しっかり!! しっかりしてください、プロデューサーさん!!!」ユサユサ!
美波「誰かっ!! 誰か来てくださいっ!!」
美波「人が倒れているんです、誰かぁ!! 早くっ!!!」
美波「プロデューサーさんっ!!!」ユサユサ!
259: 以下、
――――――――――――
――――――
 ぷ、プロデューサーっ!
 あ、あの……
 良かった……ライブが終わった途端、気を失うなんて、そこまで疲れて……
 い、いえ、あの……お客さんの人達……とても、楽しんでくれたみたいでした。
 私の歌、良かったよって……またここに来てねって、言ってもらえて……
 プロデューサーの言葉のおかげで、私、とても楽しむ事ができたんです。
 キラキラと眩しくて、私の歌が、ステージに溶けていくようで……素敵だなぁって。
 私の歌が、あんなに喜んでもらえるなんて、思っていなかったから。
 私、すごく嬉しいですっ。えへへ。
 本当に……ありがとうございます、プロデューサー。
 この次は、ちゃんとしっかり私の歌、聞いてくださいね?
――――――
――――――――――――
260: 以下、
――――――――――――
――――――
武内P「………………」パチッ
茜「ボンバァァァァァァーーッ!!!」ゴアッ!
武内P「!?」ビクッ!
智香「ゴー、茜ちゃんゴー!! あともう一息ですっ!!
 起ーきろ! ウェイクアップ! プーロデューサーーッ!!」フリフリ!
未央「お願い茜ちんともちん!! 私達のプロデューサーを助けてっ!!」
智香「言われるまでも無いですよ! ここで応援しなきゃどこでやるっ!!
 ゴーゴーレッツゴー、あ、か、ねぇーーーッ!!!」フリフリ!
茜「うおおおぉぉ、応援が力に変わりますっ!!
 そしてこのパワーをプロデューサーにぃぃぃっ……!!」ググ…!
ガシィッ!
茜「ボンッバァァァァァァァァァァァーーーッ!!!」ゴアッ!
武内P「あの……ち、近いです」
261: 以下、
凛「プロデューサー!」
武内P「……私は、気を失っていたのですか」
卯月「美波さんが見つけてくれてなかったら、どうなっていたか…!」
みく「アイドルに気を遣いすぎて自分が倒れるなんて、笑えないにゃ」
武内P「……ご心配をお掛けしてしまい、申し訳ございません」ペコリ
杏「働き過ぎだよ、プロデューサーは」
志希「それにしても、良く気づいたねー美波ちゃん」
美波「私も以前、フェスの直前に倒れた事があって……嫌な予感がしていたの」
アーニャ「経験者は語る、ですね。ミナミ、グート ゲマハト! 良くやりました!」
裕子「私の力が、人を救う一助となった……サイキック冥利に尽きます」
奈緒「フィジシャン、ヒール・ユアセルフってヤツだな」
加蓮「何それ?」
奈緒「いや、この間見たアニメの一節」
262: 以下、
ガチャッ
武内P「……!」
今西「やぁ」
武内P「今西部長……美城常務も、どうもお疲れ様です」ペコリ
美城「先ほどまで、倒れていたそうだな」
武内P「……はい。お恥ずかしい限りです」
美城「アイドルには代わりがいるが、プロデューサーはそうもいかない。
 今後は気をつけるように」
武内P「! ……常務、お言葉ですが、私達のアイドルに代わりなど…!」
凛「代わりはいます」
武内P・美城「!?」「……?」
263: 以下、
みく「Pチャンが育ててくれたみく達だもの」
未央「プロデューサーならどういう時にどう考えるか、分からない私達じゃないよっ」
かな子「だから、プロデューサーさんがちょっと体調崩したからって、
 何もできなくなるような、そこまで情けなくは私達、ありません!」
きらり「きらり達みぃーんなで、Pちゃんの代わりになれば良いんだにぃ☆」
アーニャ「ダー。支え合うのが、私達の強さです」
美波「だからプロデューサーさん。どうか大人しく、医務室で休んでいてくださいね」
武内P「皆さん……」
今西「ははは。一本取られたようだな」
武内P「…………」ポリポリ…
武内P「……?」
楓「……」クスッ
264: 以下、
ガヤガヤ…
ちひろ「いよいよですね……!」ワクワク
ザッ
ちひろ「あ……プロデューサーさん」
武内P「現場にいない事には、話になりませんので」
ちひろ「……本当にプロデューサーさんは、お仕事の虫ですね」
瑞樹「さぁ、楓ちゃん。掛け声をお願いね」
楓「はい」
凛「ダジャレは禁止だよ、楓さん」
楓「……茜ちゃん、代わりにお願いします」
茜「おぉっとキラーパスですねっ!? ありがとうございますっ!!」
茜「346プロおぉぉぉっ!! ファイトおぉぉぉぉぉぉっ!!!」
一同「おおーーーっ!!」
茜「いっぱああぁぁぁぁぁぁぁぁつっ!!!」
一同「えっ?」
265: 以下、
ワアァァァァァァァァァ…!!
卯月「凛ちゃん……」
未央「リベンジする時が来たよ、しぶりん」
凛「卯月、未央……今までずっと、待たせてごめん」
凛「これからも、ずっと、よろしくね」
卯月「……はいっ!」ギュッ
未央「今まで溜めてた分! ニュージェネらしくハデにぶちかましちゃいますかぁっ!!」
凛「うん……!」コクッ
三人「チョコッ!!」タッ
三人「レイッ!!」タッ
三人「トオオォォォォーーーーーッ!!!」タンッ!
ワアアアアアァァァァァァァァァァァァァッ!!
――――――
――――――――――――
266: 以下、
――――――――――――
――――――
ガチャッ
凛「…………」バタン…
凛「誰も来てる訳ない、か……」
ヒョコッ
卯月「凛ちゃんっ」
凛「わっ!? う、卯月……!」
卯月「今日はお仕事、お休みですよね?」
凛「うん、でも……何となく、事務所に来たくなっちゃって」
卯月「私もです、えへへ」
凛「ふふっ」
267: 以下、
卯月「誰も来ないですね……未央ちゃんも、家遠いし」
凛「寂しい?」
卯月「ううん」フルフル
卯月「凛ちゃんがいなかった時の方が、寂しかったです」
卯月「当たり前のようにいてくれた人がいなくなって、未央ちゃんも、皆、
 賑やかにしてくれてはいるけれど、とても沈んでいて……」
凛「…………」
卯月「凛ちゃんがいてくれたから、昨日のフェスは皆、あんなにも楽しめたんです」
凛「私の方こそ、皆に感謝しないとね」
凛「私の事をずっと待っていてくれた、シンデレラプロジェクトの皆……
 もちろん、私を救ってくれたプロデューサーと志希」
凛「何より、夢みたいに楽しいあの時間を、共に分かち合ってくれた事に」
卯月「凛ちゃん……」
凛「でも、卯月……ありがとうは、言わないよ」スクッ
卯月「えっ?」
268: 以下、
凛「ありがとうって、一度言ったら、それが最後になっちゃう気がするから」
凛「しきれないはずの感謝を、これまでもこれからもしていくのに、
 ありがとうの一言では、とても表しきれないから……」
凛「だから、私は態度で示す事にする」
凛「皆からもらった励ましの心を、私も誰かに与えていきたい」
凛「こんな私でも、誰かを元気づける事ができるなら……眩しく輝かせる事ができたなら」
クルッ
卯月「……!」
凛「どんなに嬉しいだろうって、思えるようになったんだ」
凛「卯月や、皆のおかげだよ」ニコッ
卯月「凛、ちゃん……」
凛「ありがとう、うづ…」
凛「あっ! い、いや……今のはナシ、ナシだから」ブンブン
卯月「……ふふっ、凛ちゃん今ありがとうって言いましたよね?」
凛「言ってない! 思っただけ!」
卯月「えへへへ」ニコニコ
269: 以下、
【経過報告】
 報告日:9月1日
 報告者:多田 李衣菜
 おはようございます。
 すみません。つい疲れすぎて寝ちゃって、昨日の報告を書けませんでした。
 昨日のフェスは、文句ナシの大団円!!
 CPの一番手、志希ちゃんの『秘密のトワレ』でイッキにフルスロットルになって、
 それからキャンディアイランドの『Happy×2 Days』、
 凸レーションの『LET'S GO HAPPY!!』、
 蘭子ちゃんの『LEGNE』、
 もうずぅーっとコールコールの嵐で、すっごかったんです!
 でも、何といっても一番の目玉は、未央ちゃん達でした。
 これまでの営業で、だいぶ凛ちゃんの事が広まってたのかな。
 ニュージェネがステージに立った時から、歓声がおおぉぉーー、って。
 それに、私から見ても、ステージの完成度はニュージェネが一番でした。
 ボーカルの伸びも、ダンスのキレも。
 何より、凛ちゃん達の本当に楽しそうでうれしそうな顔!
 もーこっちまでうれし泣きだよ。卯月ちゃん未央ちゃん良かったね、本当に。
 逆に私とみくちゃんがその次やりづらくなっちゃって、少しヘマしたぐらいです。
 美波ちゃんとアーニャちゃんが、しっかりフォローしてくれたけどね。
 本当に夢のようなステージでした。
 皆でがんばれて、本当に良かったなぁ。
 凛ちゃんが、皆がいてこそのCP。
 諦めずに凛ちゃんを救ってくれたプロデューサーや、志希ちゃんに感謝です。
 むしろプロデューサー、体調は大丈夫かな?
270: 以下、
【経過報告】
 報告日:9月2日
 報告者:渋谷 凛
 少し筋肉痛は残っているけれど、体調は普通です。
 薬もちゃんと飲んでいます。
 実は昨日、学校が午前中で終わった後、帰りに事務所に寄りました。
 もちろん、元々休みの予定だったから、誰もいるはずがないんだけど、
 何だか無性に行きたくなって。
 前の日の興奮が、まだ残っていたのかも知れない。
 プロデューサーもいない事務所で、同じように来ていた卯月と雑談。
 その後、ちひろさんにたまたま会えたから話をしたけど、次の日も休ませるとのこと。
 でも、今日来てたよね、プロデューサー。
 休む時はしっかり休むのがプロの務めだと思う。
 あの時、常務の言い方にカチンと来たから、つい口走っちゃったけど、
 代わりになれるからと言って、どうでもいい訳じゃないんだよ。
 私なんかに言われる筋合いは無いかも知れないけど、
 ちゃんと、体は労わってほしいと思う。
 私達のプロデューサーなんだから。
273: 以下、
【経過報告】
 報告日:10月6日
 報告者:P
 渋谷凛の健康状態に支障は無し。薬も適正に処方しているとのこと。
 346プロにて、アイドルプロジェクトの大幅な見直しが行われる模様。
 一斉に解体を迫られるものではなく、新たな可能性を追求するという名目で、
 プロジェクト間の枠を超えたユニットの結成が常務主導で検討されていく予定。
 当シンデレラプロジェクトも例外ではなく、実績あるアイドルより優先的に、
 常務率いるプロジェクトチームからスカウトされていく見込み。
 関係者より得られた情報によると、現在までに予定されたアイドルは下記の通り。
 ・一ノ瀬志希
 ・渋谷凛
 ・アナスタシア
 アイドル達にその旨を周知したところ、当初は戸惑いこそあったが、
 概ね好意的に受け入れている様子。
 結束の強いニュージェネレーションズのメンバー、本田未央と島村卯月も、
 これを渋谷凛のさらなる成功の足掛かりと捉え、応援する姿勢を見せている。
 一方で、プロジェクト運営の根幹に関わるため、状況を着実に精査した上で、
 慎重な判断が求められる。
 三日後、高垣楓のミニライブの応援にニュージェネレーションズを配する予定。
 高垣楓より直接のオファーがあったため。
 なお、彼女も件のプロジェクトに声が掛かっているアイドルの筆頭である。
 より良い経験とモチベーションの維持に繋がる事が期待される。
 以上
276: 以下、
21?22時頃まで席を外します。
あと半分ほどあります。4時頃までに終われれば良いなぁと思います。長くてすみません。
278: 以下、
これで……この密度で、後半分だと?
期待せざるをえねぇじゃねえか!! 乙!!
283: 以下、
乙と言わざるを得ない
285: 以下、
更新止まらなくてビックリした
10時までに読み終わるかな、乙
291: 以下、
――――――――――――
――――――
美城「…………」ペラッ
美城「仕事に大きいも小さいも無い、か……」
今西「奇しくも今日は、彼女がその言葉を得た会場でのミニライブがあるそうだ」
今西「シンデレラプロジェクトの子達、そして彼をわざわざそこに呼んだという事は、
 彼女自身、それだけ思い入れがあるという事だろうな」
美城「……彼は、彼女のプロデュースを担当していましたが、何か関係が?」
今西「うん。それはあるだろうね」
美城「マネージメントのみに徹し、ロクにプロデュースらしい事をしていなかった……
 強い思い出を抱かせるシーンなど、あり得たのでしょうか」
今西「ふむ……おそらく、無かっただろう」
今西「無口な歯車に変わった後の彼に対しては、ね」
292: 以下、
?ミニライブ会場?
ブロロロロ… キキィッ
ガチャッ
未央「いよっと! 楓さん、もう着いてるかな?」スタッ
卯月「早く行きましょうっ!」ダッ!
未央「あっ、しまむーズルい!」ダッ!
凛「何で楓さん、私達を応援に呼んだんだろう」
武内P「正確には把握しかねますが、やはり、事務所の後進に経験を積ませようと…」
凛「……違う」
武内P「えっ?」
クルッ
凛「プロデューサー。本当に楓さんと、何も無いの?」
293: 以下、
武内P「何も、とは……アイドルとプロデューサーですので、何、という…」
凛「別にいかがわしい事聞いてるんじゃなくてさ!」
凛「気づいてるでしょ? 楓さん、ずっとプロデューサーの事見てるよ」
凛「今日だって……絶対、何か理由があるんだよ、きっと」
凛「気づいてあげなきゃいけない事、本当に、何も無いのかな……」
武内P「………………」
294: 以下、
?控え室?
楓「サインをしなさいん♪」サラサラ-
ガチャッ
楓「……あっ」
一同「お疲れ様ですっ!」ペコッ
武内P「……どうも、お疲れ様です」ペコリ
楓「お疲れ様です。今日はよろしくお願いします」ペコッ
武内P「こちらこそ」
未央「あれっ? うわぁ、直筆サイン入りうちわだーっ!!」
卯月「本当ですっ! お土産に、ぜひ一枚だけ……!」
凛「バカ。みっともないからやめようよ」
ガチャッ
スタッフ「すいませーん! ちょっと物販スペースの応援お願いできませんか!?」
295: 以下、
卯月「うえぇっ、まだ開場の三時間以上前なのに、そんなにお客さん来てるんですか?」
未央「楓さんクラスだと、ミニライブでもグッズの倍率はハンパじゃないんだね。
 うちわの配布だって控えてるのに」
武内P「かしこまりました。すぐに行きま…」
凛「待って」
武内P「?」
凛「物販の応援なら私達でもできるから、私達で行くよ。ねっ、卯月、未央?」
卯月「へっ?」
未央「おっ、それもいいねー!
 学園祭のたこ焼き店で慣らした、未央ちゃんの売り子術にお任せあれ!」フンスッ
武内P「し、しかし本番前の…」
凛「プロデューサーは、よく分かんないけどほら、楓さんと打合せとか、あるでしょ?」
楓「えっ?」
296: 以下、
凛「それじゃあ行こう、卯月、未央」
卯月・未央「はいっ!」「合点承知の助!」
タタタ…
武内P「…………」
楓「……ふふっ、何だか分かりませんけれど、気を遣わせちゃいましたね」
武内P「えぇ……そのようです」
楓「調子は、いかがですか?」
武内P「えぇ。渋谷さんは、ご覧の通りすっかり良く……?」
楓「……ふふっ」ニコッ
武内P「…………私の体調、ですか?」
楓「凛ちゃんの誕生日の時も、本当は、そっちをお聞きしたかったんですよ?」
楓「自分の事には気を配れない所……本当に、変わらないんですね」
武内P「……ところで、あなたにお伺いしたかった事が」
楓「はい」
297: 以下、
?物販スペース?
客A「えーっ、もうTシャツ売り切れっすかぁ!?」
客B「散々待たせておいてそりゃないよぉ!」
客C「ていうか誘導ヘタすぎるでしょー!」
ブーブー…!
スタッフ「じゅ、順番にご案内しておりますのでどうか焦らずゆっくりとー!」
タタタ…!
卯月「お待たせしましたぁ!」
スタッフ「あ、ありがとうございます! って、えぇっ!?」
未央「ふっふーん、さぁ私達が来たからにはもう大丈…」
凛「あ、あれ……アンタ……?」
同僚P「り、凛……お前達……!!」
一同「(元)プロデューサーさんっ!?」
298: 以下、
ガヤガヤ…
同僚P「いやぁ捌いた捌いたっ! 本当助かったぜ、ありがとな。はいジュース」サッ
未央「ありがとー、プロデューサー!」
同僚P「よせやい、俺はもうお前達のプロデューサーじゃねぇんだ」
同僚P「いや……むしろもう、プロデューサーですらないんだけどな」
卯月「えっ?」
同僚P「346の子会社のイベント屋に出向さ。左遷ってヤツだ」パコッ
同僚P「ま、社長に盾突いたバツだな。悔いはねぇけどよ、ハハハ」グビグビ…
凛「ひょっとして……話、聞いた事あるんだけど、私の医療費の事で?」
同僚P「まぁ色々あるが、一言で言えばオトナの事情だよ。気にすんな」
凛「…………」
同僚P「それにしても……」グスッ…
凛「……?」
同僚P「本当に……本当に良かったなぁ、凛よぉ……お前本当に、よく…!!」ボロボロ…
凛「や、やめてよ! なんか鼻水すごいっ!」
299: 以下、
未央「おぉ、どうどう。よしよし」ナデナデ
同僚P「ヒック、ヒック……おう、うぉう……」
凛「大の大人が女子高生に介抱されてるよ……」
卯月「それだけ凛ちゃんが元気になった事が嬉しかったんですねっ」
凛「まぁ……そうなんだろうけどさ」
同僚P「ところで、お前達はアレか? 高垣楓の前座か何かで呼ばれたのか?」
未央「うん、そうだよ」
同僚P「ふぅーん、彼女も随分とCPの肩を持つんだなぁ」
卯月「何か、あったんですか?」
同僚P「ん? いや、何……」
同僚P「俺がCPを離れる時、俺に代わってアイツを担当にしてくれるよう、
 俺から常務にお願いしたんだけどよ」
同僚P「もう一人、同じお願いを常務にしたアイドルがいたらしいんだよな」
同僚P「で、そのアイドルってのが……」
凛「えっ……」
300: 以下、
?控え室?
武内P「やはり、そうだったのですね」
楓「余計なお世話、だったでしょうか?」
武内P「…………」
楓「自らプロデューサーとしての道を閉ざして、私達の単純な世話役に徹して、
 抑揚の無い日々を求めて……」
楓「そんな折、未来ある子達が生み出す激動の渦になど、巻き込まれたくなかった?」
武内P「……ありがた迷惑、と思っていました」
武内P「それを言い渡された当初の私には」
武内P「ですが、今では……充実した日々を送れる事に、心から感謝しています」
楓「……良かった」ニコッ
武内P「加えてお聞きしたいのですが……なぜ、私を推薦したのですか?」
301: 以下、
楓「昔のプロデューサーを、取り戻してほしかったんです」
武内P「えっ?」
楓「今日のライブが終わる頃には、思い出してもらえると良いなぁって」
楓「だから、シンデレラプロジェクトの子達を……凛ちゃん達を呼んだんです」
楓「プロデューサーにも、来てほしかったから」
武内P「…………」
楓「ちょっと、大人げなかったですよね」
スタッフ「高垣楓さーんっ! そろそろうちわの配布をお願いします!」
楓「分かりました」
楓「それじゃあ、またライブで」ペコッ
スタスタ…
武内P「…………ここは……」
302: 以下、
?物販スペース?
同僚P「とまぁ、俺が知ってんのはそんなところだ」
卯月「ほえぇ?……意外、です。楓さん、そこまでシンデレラプロジェクトに…」
未央「チッチッチッ、しまむーは本当にお子ちゃまだねぇ」
卯月「えっ?」
ズイッ
未央「楓さん、プロデューサーにゾッコンのデレッデレなのだよ。分かんない?」
卯月「!? え、ええぇぇぇっ!!? そ、そんな私は…!」アタフタ…!
凛「何で卯月がうろたえてんの」
同僚P「俺もそう思ったけどよぉ。
 アイツはマジで仕事が恋人だから、本気でくっつけようとするならホネだぞ?」
未央「なぁにを弱腰になる必要があるのさ!
 世話になったプロデューサーのため、一肌でも二肌でも脱ごうじゃん!」ガバッ
卯月「未央ちゃんっ! 私も頑張りますっ!」ギュッ
スタスタ…
楓「お疲れ様ですー」
303: 以下、
未央「ちゃああぁぁぁっす!!」ペコーッ! (←90°)
楓「!?」ビクッ!
卯月「楓さん、一緒に頑張りましょうっ!!」ギュッ!
楓「え、えぇ、そうね?」
同僚P「それでは、これから高垣楓のサイン入りうちわを配布しまーす!
 焦らずゆっくりと、こちらから一列にお並びくださーい!」
凛「……ねぇ、楓さん」
楓「なぁに、凛ちゃん?」
凛「私のお見舞いに足しげく来てくれていたのも、プロデューサーに会うため?」
楓「きっと、それもあったでしょうね」
304: 以下、
?ライブ会場?
ワアァァァァァァァァ…!! パチパチパチ…
タタタ…!
未央「プロデューサー! どう、バッチリだったでしょ!?」
武内P「はい。いつも以上に、気迫を感じられる、良いステージでした」
卯月「持てる力を振り絞って、一生懸命頑張りましたっ!」ブイッ!
未央「さぁ、お次は楓さんの番だね! しまむー、ペンライト!」
卯月「はいっ!」ササッ
武内P「はっ?」
未央「しまむー、しぶりん!! いざ出陣じゃあっ!!」ダッ!
卯月「ムード盛り上げ楽団、ニュージェネレーションズの出番ですっ!!」ダッ!
武内P「あ、あの! あまり目立つような行いは…」
タタタ…!
305: 以下、
武内P「一体、何を……?」
凛「楓さんのステージを最高に盛り上げてやるんだ、ってさ」
武内P「現役のアイドルが、表立って客席で目立つような事をするのはまずいかと…」
凛「分かってる。ちゃんと後ろの方にいるよう、私が二人を抑えておくから」
武内P「お願いします」
凛「じゃあ、私も行ってくるね」ポロッ
武内P「あっ」
ポトッ コロコロ…
武内P「……ペンライト、落としました」スッ
凛「あ……ごめん、ありがとう。それじゃあ」
タタタ…
武内P「………………」
ワアァァァァァァァァァァァァァ!! パチパチパチパチパチパチ…!!
楓「今日は、本当にありがとうございます」
306: 以下、
「楓ちゃーーんっ!!」「こっち向いてー!」「綺麗だよーーっ!!」
未央「楓ちゃぁーん、俺だーーっ!! 結婚してくれぇーーっ!!(重低音)」ブンブン!
卯月「キャーーッ!! 楓様ぁーーーっ!!(怪鳥音)」ブンブン!
凛「……ッ!!」ポカッ! ポカッ!
未央・卯月「痛いっ!」
楓「……」クスッ
楓「あの日、あの時と同じ……このステージを、覚えてくれている人はいますか?」
武内P「…………!」
「覚えてるよーーっ!!」ワァァァッ!!
楓「ありがとうございます」
楓「ここは、私がデビューして初めて立ったステージです」
307: 以下、
楓「心細くて、不安でした。でも……」
楓「そんな私を応援して、共に笑ってくださる皆さんと出会いました」
楓「そんな大事な場所で、こうしてまたライブをできることが、何より嬉しいです」
楓「楽しんでいってください……」スッ
ワアァァァァァァァァァァァ…!!
??♪
武内P「………………」
308: 以下、
 ――歯車にさえなれば、仮面の下に隠れた君という個人が傷つく事は無い。
 ――私達は、あなたのお人形なんかじゃないっ!!
 ――あの、ぷ、プロデューサー……私、ダメかも知れません……
 ――こんな、小さい会場なのに、緊張でこ、声が……声だけじゃなくて、体も……!
 ――えっ? …………仕事に、大きいも小さいも無い……
 ――緊張は、味方……いつも通り、慎重に……?
 ――ぷっ……ふふ、あははっ。ダジャレだなんて……あははは!
 ――プロデューサーの言葉のおかげで、私、とても楽しむ事ができたんです。
 ――本当に……ありがとうございます、プロデューサー。
309: 以下、
??♪
楓「????♪」
楓「??????ッ!!♪」
武内P「………………」
ワアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!! パチパチパチパチパチパチ…!!
未央「うわあぁぁぁん……楓さぁ?ん、結婚してぇ???……!!」ボロボロ…
卯月「ひっぐ、えぐっ! か、楓さん、凄すぎますぅ??……!」ボロボロ…
凛「…………」パチパチパチ…!
310: 以下、

続き・詳細・画像をみる


【悲報】香里奈さんとんでもない事になってたwwwwwwwwww

転生系なろう作者さん、日本語が話せるだけで俺TUEEEしてしまう・・・

橋本環奈、ちょいワル化wwwwwwwwwwww

2020年の大河ドラマはローテーション的に戦国だけど、誰を主人公にすべきか

【日露外相会談】強硬派・ラブロフ外相、岸田氏との握手を拒否

恋愛相談聞いてくれ

思わず保存した最高の画像を転載するスレ『付き合うならどっち』

エロゲ声優が底辺という風潮wwwww

【悲報】「君の名は。」の海外評価がヤバイことになって来た件wwwwwwwwwwwwwwwwwwww

【確率】なんだよこの漫画www【注意】

庵野秀明に提訴されたガイナックス、本社が「築45年のマンションの一室」に移転していた

【ハンターハンター】蟻が過大評価されすぎなんだよなwwwwww

back 過去ログ 削除依頼&連絡先