【艦これ】 山城 「認めます……幸せだわ……」back

【艦これ】 山城 「認めます……幸せだわ……」


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2:
――――― 朝 砂浜
ザザーン ザザーン
山城 「姉さま、素敵な朝ですね」
扶桑 「そうね山城。素敵な青空だわ」
山城 「たまには朝の散歩も良いものですね」
扶桑 「そうねぇ。こんなお天気なら毎日でもいいかしら」
山城 「はい! 山城は毎日でもお供いたしますっ」
3:
扶桑 「作戦ですごく忙しかったから。こういうのどかな雰囲気もひさしぶりね」
山城 「ええ! 扶桑姉さまも提督に散々こき使われましたから! どうか、ごゆっくり疲れを癒やして下さい」
扶桑 「何を言ってるの。あなたもずっと一緒の出撃だったでしょ」
山城 「いいえっ。姉さまはわたしよりずっと繊細ですっ! わたしは不本意ながらも鬼の山城と呼ばれた身です。あの程度の出撃どうということはありませんっ」
扶桑 「それはそれでイヤだわ……。それよりも山城、こき使われたなんて言ってはだめよ。活躍の場を作ってくださる提督に感謝しなくては」
山城 「ぐ……そ、それはそうですけど。ああ、こうして提督は扶桑姉さまの気を引こうとしているのね! わたしがしっかりお守りしないとっ」
扶桑 「はぁ……ほんとうに困った子ねぇ……」
4:
山城 「さて、結構歩きましたし、そろそろ帰りましょうか」
扶桑 「そうね。山城はそろそろ出勤の時間ね」
山城 「はぁぁぁぁ。そうですね、今日もまた出勤です。……不幸だわ」
扶桑 「そんなこと言ってはダメよ。秘書艦を拝命しているなんて、とっても名誉なことなのだから」
山城 「はっ! 下心ばりばりの人事なんて、提督の職権乱用です!」
扶桑 「またそんなことを言って……。提督からこんなに信用されてるのに。それに……情熱的に愛されているじゃない」
山城 「違いますっ……姉さま、提督に騙されてはダメですっ。わたしは馬で将が姉さま。あくまで狙いは姉さまなんですからっ」
扶桑 「ずっと前からそんなこと言ってるけど……いい加減、提督を信じて差し上げればいいのに……あら?」
モクモクモク
ピカッ ゴロゴロゴロ
5:
山城 「なんだか急に雲行きが! 姉さま、急いで帰りましょうっ」
扶桑 「そうね」
ザーーーーー
山城 「うわ! 姉さま、走りましょう!」
扶桑 「ええ。はぁはぁ……空はあんなに青かったのに……」
山城 「はぁはぁぜぇぜぇ……不幸……だわ……」
6:
――――― 0900 提督執務室
提督 「それでずぶ濡れなのか。急なスコールだったもんなぁ」
山城 「爽やかな朝にまで裏切られるなんて……不幸だわ……」
提督 「それはいいから着替えてこい」
山城 「必要ありません。もう始業時間ですから」
提督 「ばか。風邪を引いたらどうする」
山城 「ばかとは何ですか! わたしは鍛え上げた艦娘ですから風邪なんて引きません!」
提督 「いや、確かにそうかもしれないがな。そのだなぁ、その格好でいられると俺が困るんだ。頼むから着替えてきてくれ」
山城 「は? わたしが濡れていると提督に迷惑がかかるとでも?」
提督 「迷惑とかじゃなくてなぁ。ええいっ! 好きな女が、そんな濡れ濡れスケスケの格好で目の前にいたら落ち着かないって言ってるんだよっ。わかったら着替えてこいっ」
山城 「は? ……はぁぁ? /// な、何を言ってるんですかっ。どこ見てるんですかっ。この変態っ!」
提督 「健康な男の正常な反応だ。わかったらさっさと着替えてこい」
山城 「言われなくとも行ってきます! 」
7:
――――― 少し後 入渠ドック兼お風呂
時雨 「なるほど、それでこんな時間にお風呂にいたのか」
夕立 「わたしは秘書艦のお仕事サボってると思ったっぽい」
山城 「サボったりしません! まったく、提督のセクハラのせいでお仕事が遅れてしまうわ」
時雨 「くすくす……でも相変わらず提督に愛されてるじゃないか」
夕立 「ほんと、提督は山城さんにぞっこんっぽい」
時雨 「提督も隠す様子もないからね。この鎮守府ができたばかりの頃からだから……もう2年か。随分長いこと追いかけられてるね」
山城 「まったく諦めが悪いんだから!」
夕立 「でもでもっ。山城さんだって、提督さんにバレンタインチョコあげたりしてたっぽい。そろそろ恋人になるっぽい?」
山城 「/// ど、ど、どうしてそれを!」
夕立 「提督さんが、山城からもらったんだって嬉しそうに見せてくれたっぽい?」
山城 「あ、あ、あの男っ!」
8:
時雨 「へぇ……それは初耳だね。どうなんだい、山城?」
山城 「違うのよ! 姉さまに心を込めた手作りチョコを作ったの! その失敗作がもったいないから、義理であげたのよ。超義理よ!」
夕立 「ふうん……なんだかすごく立派なチョコレートで、提督さんウキウキだったっぽいのに?」
山城 「/// も、もう義理でも二度と渡さないんだから! ま、まったくもう……そ、そろそろ行くわね」
夕立 「いってらっしゃーい」



夕立 「山城さん、提督さんの悪口を言ってる時が一番楽しそうっぽい?」
時雨 「山城はわかりやすいからね。そういうところ、かわいいじゃないか」
夕立 「ふぅ?ん。それじゃあ、どうして提督さんと恋人にならないんだろー?」
時雨 「本当にそうだね。うん、不思議だ」
9:
――――― 夜 提督執務室
提督 「ふぅ。これで終わりだ。残業お疲れ様」
山城 「お疲れ様です。残業なんて久しぶりですね」
提督 「まぁ、朝にトラブルがあったからな」
山城 「くっ……あの雨のせいで……不幸だわ……」
提督 「ま、俺としてはちょっとラッキーだったけどな」
山城 「変態っ!」
提督 「変態で結構! じゃあコーヒーでも飲んで終わるか」
山城 「はいはい、いつもの牛乳ちょっとでいいですね」
提督 「ああ、頼むよ」
10:
山城 「ふーふー。あつつっ」
提督 「急いで飲まなくてもいいだろ、猫舌なんだから」
山城 「はやく帰って姉さまにお会いしないとですから!」
提督 「相変わらずだなぁ」
山城 「ふーふー……」
提督 「ああ、そうだ山城。ちょっと仕事の話……半分個人的な話なんだが」
山城 「? なんです、曖昧な言い方ですけど」
提督 「……実は、一つ任務が来てるんだ」
山城 (どうしたのかしら、こんな辛そうな表情をする人じゃないのに)
11:
山城 「なにか……危険な任務なのですか?」
提督 「いや、そういうわけじゃない。ただその、なんというかな……」
山城 「もう、歯切れが悪いですね。はっきりおっしゃって下さい!」
提督 「うーん。そうだな、まずは任務概要を見てくれ。それで、少しでも引っかかるなら断ってくれ。絶対にやらないといけない任務というわけではないんだ」
山城 「ほんっとうに歯切れが悪いですね。まずは見せて下さい」
提督 「ああ、これが任務概要だ」
12:
**********
見ないようにしてきたこと、立ち止まっていたこと。
……逃げ続けてきたこと。
それらと向き合うきっかけ。
それがこの時だったのかもしれません。
**********
13:
山城 「なんだ、通常の任務指示書じゃないですか」
提督 「それはそうなんだが、編成指示を見てくれ」
山城 「…………これ……は…」
14:



「西村艦隊を編成せよ」



21:
――――― その夜 扶桑と山城の部屋
22:
扶桑 「西村艦隊の編成……。それはまた不思議な任務ねぇ」
山城 「ええ! よりによって大敗した艦隊を再編成しろだなんて、大本営は何を考えているんでしょうか!」
扶桑 「提督はなんとおっしゃっているの?」
山城 「それが……。どうしても必要な任務ではないから、少しでも嫌だったら断るようにと」
扶桑 「そうなの……。でも、断ったりしたら提督が怒られたりしないかしら?」
山城 「……必須の作戦でないとはいえ、提督の評価が下がるのは間違いないと思います」
扶桑 「そうよねえ」
23:
扶桑 「断る理由なんて何もないのに、提督はどうしてそんなことを聞くのかしら?」
山城 「えっ! 姉さまは平気なのですか?」
扶桑 「平気もなにも……。西村艦隊は確かにひどい結末だったけれど、同じような大軍に特攻しろという任務では無いのでしょう?」
山城 「ええ、普通に南西海域に出撃するだけです」
扶桑 「それなら、何の支障もないわよね? 普通の編成・出撃任務と何もかわらないし」
山城 「言われてみればそうですね……」
扶桑 「それにね、わたしはちょっと楽しみだわ」
山城 「ええっ!?」
扶桑 「だってね、結果はああだったけれど……艦隊主力艦として期待されて出撃できたのは良い思い出よ。また主力として出撃して、今度は勝利できるなら嬉しいわ」
山城 「な、なるほど」
24:
扶桑 「山城? あなたは断るつもりだったの??」
山城 「い、いえ、全くそんなつもりはありませんっ! 姉さまとともに勝利をつかんで見せます!」
扶桑 「そうかしら。何か気になることがあるなら話してほしいのだけれど……」
山城 「いえ、姉さまの気が進まないんじゃないかと心配していただけですからっ! 姉さまが乗り気でしたら何の心配もありませんっ」
扶桑 「そう……ならいいのだけれど」
意外……そう、意外だわ。まさか姉さまが乗り気だなんて。
それならわたしが断る理由なんて無い。姉さまのおっしゃることも最もだわ。
でも、言われてみれば、わたしはこの任務に乗り気ではなかったわ。なぜかしら?
25:
――――― 翌朝 提督執務室
26:
提督 「任務、受けるのか」
山城 「ええ! 姉さまと一緒に勝利をつかんでみせますっ」
提督 「なるほど。扶桑がやる気だから受けることにしたと。お前はほんとにわかりやすいな」
山城 「見透かしたように言わないでくださいっ! そもそも断る理由なんてないじゃないですか」
提督 「ふーむ、そうかなぁ」
山城 「なんです? 言いたいことがあるならはっきりおっしゃって下さいっ」
提督 「いや……そうだな、山城と扶桑の意見は分かったが、他のメンバーにも同じように聞いてみよう。それで、一人でも辞退者がいたらこの任務は無しだ」
27:
山城 「提督……。本当にどうしたんです? 任務を受けるかどうかで悩んだことなんて今までなかったじゃありませんか」
提督 「それだけこの任務について考えるところがあるんだよ」
山城 「……この任務、何か裏があるのですか?」
提督 「いや、そういう話じゃない」
山城 (じゃあ何なのよ、もうっ!)
提督 「とりあえず夕方にでも西村艦隊を全員集めてくれ」
山城 「……わかりました」
28:
――――― 夕方 提督執務室
29:
ガヤガヤ
山城 「提督、西村艦隊メンバー、集合致しました」
扶桑 「任務前に執務室に全員集合なんて……めずらしいですね」
最上 「なになに、任務なのかい?」
満潮 「こんな不吉なメンバーで何の任務だっていうの?」
山雲 「不吉ってひどいかも……ねー?」
朝雲 「ね、ねー。でも確かに嫌なことを思い出すメンバーではあるわね」
時雨 「とりあえず話をきかせてほしいな。わざわざ西村艦隊を集めたんだ、ちゃんと意味があるんでしょ?」
提督 「ああ。皆集まってもらってすまない。皆の言うとおり、前世における西村艦隊のメンバーに集まってもらった」
最上 「うん、見ればわかるよ。西村艦隊で集まるなんて転生してからはじめてだけどね」
朝雲 「そうね、わざわざ同窓会をするような艦隊でもなかったし……」
30:
提督 「それでだな、その西村艦隊で特定の海域に進出する、という任務が来ているんだ。この任務を受諾するかどうか、それを皆に聞きたくて集まってもらった」
満潮 「受諾するかどうかって。上から来た任務なんでしょ? 受けないでどうするのよ」
山城 「そうなんだけど、なんだか提督が渋っているの」
提督 「渋ってるとかじゃないっ。この任務は必須じゃないから、一人でも気が進まないメンバーがいたら受けないでおこうと言ってるだけだ」
時雨 「不思議だね。これまでもいろんな任務をやってきたけど、受けるかどうかを事前に聞かれたのははじめてだよ。どうしてこの任務だけ聞くんだい?」
扶桑 「わたしもそれが気になります」
提督 「うーん……」
山雲 「うう、なんかお腹痛いかも……」
朝雲 「ちょ、ちょっと山雲、大丈夫!?」
31:
満潮 「艦娘が腹痛なんてめずらしいわね……急いで明石さんのところに行ったほうがいいわ」
提督 「そうだな、じゃあ概要は伝えたということで、この任務に少しでも乗り気でないものは俺に言ってくれ。それでこの任務は無しだ」
朝雲 「わかったわ。じゃあ山雲、行きましょ」
山雲 「うん、司令さんごめんねー」
提督 「いや、俺の方こそ悪かった。ゆっくり休んでくれ」
山雲 「?? は?い」
32:
満潮 「あんな事言って、もし任務を断ったら司令官が上から怒られるんでしょ? なのに断っていいなんてどういうことよっ!」
提督 「俺が怒られるなんていうのはどうでもいいんだ。そういうことは抜きに考えてくれ」
満潮 「……わかったわ、ふんっ」
バタン
最上 「なんだかよくわからないけど、僕も考えてみるよ」
扶桑 「わたしはもう決めておりますから、ご心配なく……」
バタン
時雨 「提督、僕の質問には答えてくれないのかい?」
提督 「うーん……」
時雨 「あててみようか? 山城が心配なんでしょ?」
山城 「ちょ、ちょっと時雨!」
提督 「ぐぬ……まぁ、それだけじゃないと言っておく」
時雨 「ふふ、ごちそうさま……じゃあ僕も行くよ」
バタン
33:
山城 「……どういうことです?」
提督 「まぁ、いろいろ考えてるんだ。まずはみんなの答えを待ってくれ」
山城 「さっきの様子だと、この任務は断ることになります。上に怒られる準備をしておいたほうが良いですよ」
提督 「そうだな。ま、その時はその時だ」
山城 「いくらなんでもおかしすぎます! そこまでする理由、ちゃんと話して下さいっ」
提督 「うーん……実はな、俺も分からないんだよ」
山城 「はぁ?」
提督 「この任務の結果がどうなるのか。ポジティブな可能性、ネガティブな可能性、いろいろ考えてはいるんだが、最終的にどうするのが良いかが見えなくてな。それで皆の主体性に任せている部分もあるんだよ」
山城 「そんなことを言ったら、どんな任務だって同じじゃないですか」
提督 「そりゃそうだが、この任務は一つだけ違うところがあるのさ」
山城 「違うって……どこがです?」
提督 「お前が一番深く関わっているところ」
34:
山城 「な、な、な」
提督 「公私混同をするつもりは無いが、やはりお前は俺にとって特別だ。お前にとって一番の道を選びたい。だから悩んでいる……おかしいか?」
山城 「/// お、お、思いっきり公私混同じゃないですか!?」
提督 「まぁ、そう言うなよ」
山城 「だ、だめですよ、そんなことで騙されたりはしませんからっ! はっ……西村艦隊といえば姉さまの……姉さまの活躍の場を奪うために断ろうとしてるんですねっ!」
提督 「ま、こうやっていつものオチになるわけだが。まぁいいさ、どちらにしろ皆の答え待ちだ」
くっ! こうしてまた提督の策略に乗せられそうに……不幸だわ。
わたしが、わたしが姉さまを守らないと!
でも、わたしが深く関わっているから……何なのかしら……?
39:
【最上の場合】
40:
――――― 夜 食堂前の廊下
41:
三隈 「なるほど、そういうお話だったのですね」
最上 「そうなんだよ。でも、任務を受けるかどうか聞くなんて変な話だよね。提督は何を考えているんだろう」
三隈 「あら、わたしはなんとなくわかりますわ」
最上 「ほんとかいっ!? 」
三隈 「ええ、提督の性格を考えれば簡単なことですわ」
最上 「もったいぶらずに教えてよ?」
三隈 「そうですわね……じゃあまず、西村艦隊での最後の戦いのこと、詳しく思い出していただけますか?」
最上 「おぼろげにしか覚えてないけど……うん、ちょっと思い出してみるよ」
42:
最上 (そう……山城を旗艦とする水上打撃艦隊で、砲撃による敵艦隊殲滅をめざして)
最上 (でも結果は散々……みんなが次々と被弾。沈んでいったんだ)
三隈 「もがみん、少しは思い出せそう?」
最上 「うん、思い出してきた。ひどい戦いだったよ」
最上 (敵はどうしようもない大軍。僕は仕方なく、被弾炎上する仲間たちをおいて退避して……そして……どうしたんだっけ……?)
三隈 「もがみん、こんなところで立ち止まっていては邪魔になってしまいますわ」
最上 「あ、うん……うわっ」
ドンッ
那智 「おっと失礼……最上か。入り口でウロウロしていては危ないぞ」
最上 (那智さんと……衝突!?)
最上 「うわぁぁあ、沈む、沈んじゃうっ!」
三隈 「もがみん、落ち着いて」
那智 「むっ、嫌味か貴様っ!」
43:
――――― 少しあと 食堂内
那智 「なるほど、そういうことだったのか」
最上 「そうなんだよ。ちょうど那智さんと衝突したあたりを思い出していた頃だったからびっくりしちゃって」
那智 「今思えば前世は小回りがきかなくて不便だったな。今なら衝突するようなことはまず無いんだが」
三隈 「そうですわね。わたしはちょっと残念ですけれど……」
最上 「全然残念じゃないよっ!」
三隈 「でも、今回の任務に対する提督の心配。もがみんも少し理解できたのではありませんか?」
最上 「うん確かにちょっとわかった気がするよ。こんな記憶だもの、思い出したくない子や、思い出すのが辛いという子もいるよね」
那智 「しかし、そんなことはいい出したら切りがない。司令官はちょっと甘い気がするな」
最上 「そんなことはないよっ! 提督はすごく優しいから心配してくれているんだよ」
三隈 「もがみんは相変わらず提督びいきですわね(くすくす)」
最上 「ちょっ/// くまりんこ、変なこと言わないでよっ」
那智 「ふむ……まぁ最上はともかく、駆逐艦のような子どもや、繊細な艦娘への配慮だと考えればうなずける部分もあるか」
最上 「ぶぅ、僕だって繊細だよっ」
44:
【朝雲&山雲の場合】
45:
――――― 夜 朝雲&山雲の部屋
46:
朝雲 「もう大丈夫?」
山雲 「うん、もう大丈夫?」
朝雲 「すぐ治ったとはいえ、山雲が腹痛なんてはじめてだからびっくりしちゃった。拾い食いとかじゃないよね?」
山雲 「朝雲姉ひどいよ?。拾い食いなんてしないよ?」
朝雲 「じゃあやっぱり西村艦隊を思い出しちゃったから……?」
山雲 「うう?ん、そうなのかな??」
朝雲 「同じようなことはなかったの?」
山雲 「そういえば?、扶桑さん山城さんのペアをみると、ちょっとお腹が痛くなったかも?」
朝雲 「そっか、じゃあ確定ね。やっぱり、西村艦隊の……最後の戦いを思い出すと恐い?」
47:
山雲 「う?んう?ん、恐いかどうかはわからないけど?、お腹に魚雷があたってどっかーんっていうのは思い出しちゃうかも?」
朝雲 「そっかー、やっぱり沈んだ記憶だもの、つらいわよね」
山雲 「逆に?、朝雲姉は思い出して辛かったりしないの??」
朝雲 「わたしは平気よ。沈むその瞬間まで力の限り戦った記憶は誇りだからね」
山雲 「ふぁ?、やっぱり朝雲姉はかっこいいな?///」
朝雲 「それに山雲も一緒だったしね」
山雲 「ふぇ?? わたし??」
朝雲 「ええ。盟友たる山雲とともに沈むことができたわけだからね。ずっと離れ離れだったけど、最後は一緒で良かったわ」
山雲 「そういわれてみれば、それは嬉しいことかも?」
48:
朝雲 「ほら、なんか昔の話であるじゃない。盟友が義兄弟になって「生まれた日は違えども死ぬときは同じ日に」みたいな! あたしたちの場合は義姉妹になっちゃうけどね!
山雲 「…………ポー」
朝雲 「ん? どうしたの山雲?」
山雲 「死ぬときは一緒……死が二人を分かつまで……そんな……きゃぁ?///」
朝雲 「や、山雲、どうしちゃったの? 大丈夫?」
山雲 「朝雲姉、それすごくいい?。これからもずっと一緒に出撃して、沈むときは一緒に! ねー?」
朝雲 「ね、ねー。って、一緒に出撃はいいけど沈むのは嫌よ」
山雲 「いいのいいの?♪」
49:
【満潮の場合】
50:
――――― 夜 第八駆逐隊の部屋
51:
満潮 「はぁ??ブツブツ」
満潮 (前世の嫌な記憶に配慮してのことなんだろうけど、そんなこと気にしてたら任務なんてできないじゃない! 艦娘は誰もそんなこと気にしてないのに、提督は甘ちゃんよっ」
荒潮 「満潮ちゃん、今日は荒れてるのねぇ」
朝潮 「夕方に任務説明を受けてからね。嫌な任務だったの?」
大潮 「どんな任務だって、元気だしてアゲアゲで行こうよ?」
満潮 「もうっ、違うわよ。任務の内容は別に普通。ただ任務を受けるかどうかの意思確認をされて……(説明中)」
52:
朝潮 「なるほど、嫌であれば断っていいと。任務なのだから命令すれば良いと思うけれど……不思議ね」
満潮 「そうでしょ!? 四の五の言わず命令すべきなのよ」
大潮 「でも、あたしたちの意思を尊重してくれるなんていいことだと思うけどっ」
満潮 「ここは軍隊なのよ。意思を尊重してたら組織として成り立たないでしょっ」
荒潮 「でも?、艦娘は命令に絶対服従しちゃうから、命令の前に意思確認しようっていうのは優しい配慮よねぇ?」
朝潮 「そうね。でも任務を無視したら司令官がお困りになるはずなのに……」
満潮 「そう、それよ! 艦娘の機嫌を取って自分が困るなんてありえないでしょっ」
荒潮 「あらぁ?、満潮ちゃんは提督が困るのが嫌だから怒ってるのね?」
満潮 「はぁ!? 違うからっ///」
53:
朝潮 「恥ずかしがることはないわ。わたしだって司令官がお困りにならないよう、どんな任務だって全うしてみせる。たとえ行き先がダンピール海峡だって」
荒潮 「そうね、別に同じ編成だからといって同じ敵・同じ結果になるわけじゃないんだもの、気にすることないわぁ」
大潮 「だんぴーる?」
満潮 「だ、だめよ!! そんな任務、絶対ダメ!!」
朝潮 「大声でどうしたの?」
大潮 「満潮、言ってることがさっきと変わってるよ?」
満潮 「そ、それは……でも、そんな不吉な任務は絶対ダメよ!」
荒潮 「満潮ちゃん……よしよし、大丈夫よ(ぎゅ?)」
満潮 「な!?」
荒潮 「ごめんね、あそこでわたしたちが沈んじゃったから、満潮ちゃんがひとりぼっちになっちゃったんだもんね。でも大丈夫よ?、もうあんなことは起きないから。第八駆逐隊はこれからもずっと一緒だからね?」
大潮 「あっ……」
朝潮 「そっか……」
満潮 「ち、ちがっ! 別に寂しかったとかじゃ……!?」
朝潮 「ごめんね満潮、もう満潮を置いていったりしないから(ぎゅー)」
大潮 「そうそう、みんなでずっと賑やかに楽しくやっていこう、おー!(ぎゅー)」
満潮 「ちょ、ちょっと……く、くるしぃぃ」
54:
満潮 「はぁはぁ、ひどい目にあったわ」
荒潮 「あらあら、照れちゃって?♪」
朝潮 「考えてみれば、これまでいろいろな任務をやったけれど、すごく悲惨なことになった艦隊の編成任務ってやったことがなかったね」
大潮 「そういえばそうかもー」
朝潮 「満潮も……やっぱり辛かったの?」
満潮 「……辛くなかったといえば嘘になるわ。みんなを失って、所属を転々と変えて……最後に行き着いた地獄のスリガオ海峡だった訳だし。ただ戦場で沈んだことは全然気にしていなかった。ようやく終わるっていう感覚だったから……」
大潮 「満潮ちゃん……大変だったんだね(ぎゅー)」
満潮 「ああもうっ。でもそうね、心残りをもって沈んだ子もいれば、大切な僚艦を失った子だっているわけだし……その記憶に配慮するのも大事かもね。生き残ることだって辛いんだし……」
荒潮 「大丈夫よ?、満潮ちゃんを残して沈んだりしないから?(ぎゅー)」
朝潮 「安心して満潮、先に沈んだりしないから(ぎゅー)」
満潮 「だからそれはもういいってば! くるしぃぃ」
55:
【時雨の場合】
56:
――――― 深夜 時雨と夕立の部屋
57:
時雨 「扶桑!」
扶桑 「ごめんなさい、先に逝くわね……」



時雨 「だめだ、また敵が!」
山雲 「きゃぁぁぁ」
朝雲 「山雲!? きゃぁぁ」
山城 「くっ……でも立ち止まるわけには……」



満潮 「時雨あぶないっ! くっ……」
時雨 「満潮!!」
山城 「みんな……わたしに構わず前進を……みんな無事で……」
時雨 「山城ー! みんなー!」
最上 「もうだめだ、時雨、逃げるんだ!」



時雨 「ぐすっ……みんな……とうとう僕一人に……僕だけ……生き残って……」
58:
夕立 「時雨、起きて」
時雨 (がばっ!)
時雨 「はぁはぁはぁはぁ」
夕立 「大丈夫? すごくうなされてたっぽい」
時雨 「あれ……夕立? 僕は……」
時雨 (そっか、そうだよね。あれは前世のこと。艦娘になったみんながあの地獄にいるわけがない。夢か……)
夕立 「はい、お水だよ」
時雨 「ありがとう……ごめん、起こしちゃったみたいだね」
59:
夕立 「悪い夢を見てたっぽい?」
時雨 「うん、夕方に聞いた任務の話でね……(説明中)」
夕立 「そっかー、そんなひどい戦いだったのね」
時雨 「うん。みんな逝ってしまって。僕だけおめおめと生き延びてしまったから、なおさら思い出したくない戦いでもあってね」
夕立 「うーん、そういう言い方は良くないっぽい」
時雨 「夕立にそんなことを言われるのは珍しいね」
夕立 「だって、仲間が生き延びてくれたほうが絶対に嬉しいっぽい!」
時雨 「でも……みんなは地獄の中で沈んでしまったんだよ?」
夕立 「でもでも……あたしも戦いで沈んじゃったけど……あたしが頑張ったから生き残れた子がいたかもって思うと、やっぱり嬉しいっぽいー」
時雨 「嬉しい……の?」
夕立 「そうだよー。戦う意味? 頑張った意味? そういうのっぽい?」
60:
時雨 「西村艦隊のみんなもそうかな……僕が生き残ったことを喜んでくれたのかな」
夕立 「絶対にそうだよ!」
時雨 「そっか……」
時雨 (静かに目を閉じると、さっきの夢が思い浮かんだ。みな被弾し今にも沈みそうになりながらも、僕をかばい背中を押し、先導して、必死になって僕を生き延びさせようとしてくれたみんなの姿が……)
時雨 「うん、そうだね。生き延びたことを後ろめたく思うなんて、僕が間違っていたみたいだ。これからは、みんなを避けるより、感謝と恩返しをしたいな」
夕立 「うん、そのほうが絶対いいっぽい?」
時雨 「夕立、ありがとう。なんだか夕立のほうがお姉さんみたいだね」
夕立 「そんなこと言われると、照れるっぽいぃぃ///」
64:
――――― 3日後 提督執務室
65:
ガヤガヤ
提督 「あー、集まってもらったのは他でもない、先日話した西村艦隊任務のことだ。その後反対意見が来ていないから、このままだと任務受諾になってしまう」
扶桑 「あの?、それの何が問題なんでしょう??」
山城 「姉さま、提督はみんなが遠慮して任務を断れないでいるのではないかと考えてるんです」
提督 「そうなんだ。言いにくい気持ちもわかるが、無理強いはどうしてもしたくないから、正直に言ってもらいたいんだよ」
満潮 「それじゃあ、わたしからいい?」
提督 「ああ、頼む」
満潮 「わたしは任務受諾すべきだと思うわ。編成が一緒だからといって、前世みたいに特攻しろって訳じゃないんでしょ?」
提督 「もちろんだ!」
満潮 「それなら何の問題もないじゃない。ただし、やっぱり前世の記憶との関係で辛いっていう子がいるなら反対。シャクだけど司令官とほぼおなじスタンスね」
最上 「僕も満潮と同じ意見だね。僕は特にわだかまりは無いんだけど、あの戦いを思い出すだけで辛いっていう子もいるかもしれないから」
山城 「なるほど、二人は提督と同意見というわけね。他のみんなはどう?」
66:
山雲 「は?い! 山雲は?是非やりたいです?」
提督 「む? 山雲は反対だと思っていたんだが……大丈夫なのか?」
山雲 「大丈夫よ?。朝雲姉と一緒に出撃して?、一緒に沈むの?♪ ねー?」
朝雲 「だから沈まないってば! でも山雲と一緒に出撃できるのは嬉しいから、わたしも賛成よ」
山城 「よ、よくわからないけど賛成なのね。時雨は?」
提督 「時雨、皆の意見は気にせずに自分の意見を教えてくれ」
時雨 「ふふっ……大丈夫、皆に遠慮して自分の意見を抑えたりしないよ。それに僕も任務に賛成なんだ。みんなも賛成で良かったよ」
山城 「……意外だわ。本当に大丈夫なの?」
時雨 「うん。またみんなと出撃できたら嬉しいな」
67:
提督 「扶桑の意見は?」
扶桑 「みんなが賛成みたいですから遠慮なく本音で話しますけど……。前世で散々だったこの艦隊でリベンジができるのはとても嬉しいです。今度こそみんなで勝利をつかみたいわ」
山城 「ああ! 姉さまの決意、素敵です! 必ずや山城がともに勝利を!」
山雲 「うわぁ、扶桑さんやる気ですね?。わたしも頑張ろう、ねー!」
朝雲 「頑張ろう、ねー! でも、ほんとに沈まないからねっ」
満潮 「皆がやる気ならそれでいいわ」
最上 「僕も少しはやる気を出さなきゃね」
時雨 「ふふ、みんなすごいね。ところで、まだ山城の意見を聞いていないよ?」
山城 「扶桑姉さまがやる気なんだもの、ともに頑張るだけよ!」
時雨 「そうか、じゃあ全員賛成みたいだね、提督?」
68:
提督 「そうだな……。じゃあこの任務は受諾して準備をすすめることにする。ただし、すぐに実戦はしない。しばらくの間はミーティングと演習だ」
扶桑 「ずいぶん慎重なんですね?」
提督 「まー、前世でも急遽編成された艦隊だしな。息を合わせるための準備期間ぐらいはとってもいいだろう。慌てる任務でもないしな」
山城 「承知しました。じゃあみんな、具体的な計画ができたら連絡するわね」
最上 「わかったよ」
ガヤガヤガヤ バタン
69:
提督 「…………」
山城 「……意外……でしたね?」
提督 「ああ、驚いたよ。俺の予測なんてあてにならんなぁ」
山城 「わたしもです。驚きました」
提督 「俺は山雲が絶対に断ると思ったんだよ。となると当然、朝雲も断るだろうし」
山城 「わたしは時雨が絶対に断ると思っていました」
提督 「そうか。でも3人とも無理をしているどころか積極的だったよな」
山城 「ええ。何があったんでしょう?」
提督 「わからんっ。ま、とりあえずやることは決まったんだ。仕事が増えた分、どんどんこなしていくか」
山城 「はい」
70:
提督 「じゃあまず、駆逐艦メンバーの遠征計画を確認。なるべく遠征からはずそう」
山城 「はい、では早遠征リストを……」
……

提督 「最上が担当している出撃は鈴谷と熊野に変わってもらおう。航空巡洋艦の代わりはあまりいないから負担が大きいかもしれないが」
山城 「今は出撃そのものが多くありませんから大丈夫でしょう」
……

提督 「扶桑の出撃は伊勢と日向に変わってもらうとして……瑞雲の搭載数が随分違うから、出撃そのものを見直さないといけないかもしれないな」
山城 「そうですっ。扶桑姉さまは伊勢や日向に負けていませんっ」
提督 「わかってるって。ちゃんと編成を見直そう」
71:
提督 「俺は明日休暇だから、なんとかやりきってしまわんとな」
山城 「忙しくても休暇はしっかり取るんだから……。どうせまた港で遊ぶだけでしょう?」
提督 「ほっとけ!」
山城 「あんな小さな手漕ぎの船に乗らなくても、艦娘に引っ張って貰えばいいのに」
提督 「自分で操縦するのに意味があるんだよっ。俺だってほんとはもっと大きな船に乗りたいんだよっ。でも港の外に出られないんだからしょうがないだろっ」
山城 「深海棲艦に撃沈されちゃいますよね」
提督 「うう、船が好きで海軍に入ったのに、ずっと陸勤務してる俺の数少ない楽しみなんだ。ほっといてくれ」
山城 「はいはい。こっちの仕事はちゃんとしておきますから、提督はどうぞ楽しんできて下さい。この間みたいに、島風にからかわれたり六駆に囲まれたりしないといいですね」
提督 「ま、それは別にいいんだけどな。悪いけど一日海を堪能してくるよ」
山城 「はいはい。何かあったら窓から大声で呼びますから」
提督 「声が聞こえちゃうくらい目の前だからなー。いつか海を取り戻せたら、思う存分外洋にでるぞ、おー!」
山城 「はぁ……」
72:
**********
提督は明るくて、とにかく前向きで、仕事熱心で、部下思いの優しい人。
わかってるのよ、悪い人じゃない。それにまぁ……ちょっとは感謝してるのよ。
でもそれも勤務時間中だけのこと!
ああ、もうすぐ終業時間……不幸だわ……
**********
73:
山城 「1700、終業時間です」
提督 「ふー、なんとか急ぎの分は終わったな。おつかれさま」
山城 「お疲れ様です。今日もコーヒー、牛乳ちょっと入りで良いですか?」
提督 「ああ、頼むよ」



提督 「ありがとう ズズー」
山城 「ふーふー」
提督 「山城、西村艦隊の準備の件なんだがな。山城は参加できないことも多いだろうから扶桑とできるだけ相談しながらやってくれ」
山城 「? どうしてです?」
提督 「だってなぁ、そっちに参加してる間は秘書艦がいなくなっちゃうじゃないか。それは困るから」
山城 「任務参加なんですし、その間は長門さんなり赤城さんなりに代わってもらえばいいじゃないですか」
提督 「いやだ」
山城 「は!?」
提督 「俺の秘書は山城だ! なるべくなら他のメンバーには任せたくないっ」
74:
山城 「ま、またそんなこと言って! 公私混同ですよっ!」
提督 「いやー、ずっと山城に固定秘書艦やってもらってるからな。山城じゃないとわからないことも多いだろ? 仕方ないんだ、うん」
山城 「またそんな屁理屈を……」
提督 「それよりさー、仕事だけじゃなく、俺の人生の秘書艦に就任してくれよ……ケッコンカッコカリ指輪もずっと取っておいてあるんだから」
山城 「だ・か・ら! それは何度もお断りしてるでしょっ!」
提督 「えー、知らないなー」
山城 「くっ……すっとぼけて……」
これよこれ! 勤務時間外だと、すぐこうやってわたしに……その……求愛行動をしてくるんだから!
「勤務時間中だとパワハラになってしまうから」とか言って、勤務時間中はおとなしくしてるのに!
75:
提督 「ま、俺は気が長いんだ。気が変わるまでのんびりまってるから」
山城 「死ぬまで待っても変わりませんから!」
提督 「さて、今日もいつもの儀式を終えたところで、山城のコーヒーもそろそろぬるくなってるだろ」
山城 「あ、そうですね。ごくごく」
提督 「明日はすまんな。山城がいてくれるから気軽に休暇が取れる。何かあったら小さなことでも遠慮なく呼んでくれ」
山城 「……提督の折角の楽しみなんですから、よっぽどのことが無い限り呼んだりしません。大抵のことはわたしで処理できますし。だから気にせず楽しんで来てください」
提督 「ありがとう……山城は本当に優しいな。俺の隣はいつでもあいてるからな」
山城 「/// くっ! わたしは提督がいないほうが静かに仕事ができて嬉しいですっ」
提督 「あははは。さ、引き止めて悪かった。はやく扶桑に会いたいだろ? 今日はこのくらいにしよう。お疲れ様」
山城 「おつかれさまでした! 言われなくとも、一刻も早く姉さまのもとへ参りますっ!」
76:
**********
毎日の始業前と就業後に、コーヒーを飲みながらこうして提督と話をするのが日課。
すぐに変な求愛行動をしてくる提督をあしらうのが大変ですけど、それを除けば、それなりに楽しい時間ともいえますね。
こんな生活をもう2年。……そうね、これは不幸では無いかも。
**********
79:
――――― 夜 居酒屋鳳翔
80:
山城 「はぁ?(ちびちび)」
カランカラン
北上 「鳳翔さん、おじゃましますねー」
大井 「おじゃましまーす。あら、山城さんが来てるなんてめずらしいですね」
鳳翔 「いらっしゃい。うふふ、山城さんは一人さみしく飲んでるんですよ。よかったら愚痴でも聞いてあげて下さいな」
山城 「お気遣いなく。わたしは一人寂しく飲むのがお似合いですから……不幸だわ……」
北上 「どうしたのさー、暗いなぁ。提督と喧嘩でもしたの?」
大井 「あら、それは犬も食わないお話ですね」
山城 「どうしてそうなるのよっ!」
81:
鳳翔 「くすくす。仕方ありませんよ、提督が山城さん一筋なのはみんなご存じですから。山城さんになにかある=提督の仕業って思ってしまいます」
山城 「まったく、わたしはただの秘書艦。それ以上ではありませんっ!」
北上 「それじゃあどうしたのさー」
山城 「今日は扶桑姉さまが読書に夢中なの。それで、読書に没頭する美しい横顔をじっと見つめていたら……気が散るからって叱られちゃったのよ」
北上 「うわ、なにそれー」
大井 「うん、山城さんの気持ちはわかります。すごくわかります」
山城 「でしょ!? でも気が散るって……」
鳳翔 「わたしは扶桑さんの気持ちがよくわかります。やっぱりじっと見られたら困ってしまいますよ」
北上 「当然だよねー」
82:
山城 「それで仕方なく一人で飲んでるのよ。不幸だわ……」
大井 「ふぅーん。じゃあ本当に提督絡みじゃないんですね」
北上 「まー、あの提督がさ、山城さんが落ち込むようなことをするわけないかぁ」
鳳翔 「うふふ、そうですね」
山城 「と・ん・で・も・な・い・! いつも振り回されてばっかりよ!」
大井 「振り回されるってあれでしょー。すぐに求愛されてってやつですよね」
北上 「提督はストレートだからねー」
鳳翔 「そうですね。ストレートな求愛で、見ていて恥ずかしくなっちゃいます」
山城 「うわぁ、やめてくださいっ。思い出したくもないっ」
83:
北上 「でもさ、あんなに一途に愛されたら、悪い気はしないっしょ?」
鳳翔 「そうですよ。正直言えばちょっと憧れますね、熱烈に愛されるのって」
大井 「北上さん! 北上さんを熱烈に愛してますよ! この気持は誰にもまけませんっ!」
山城 「わたしは扶桑姉さまを一途に愛してますから、それで充分よっ」
北上 「不毛だよねー」
大井 「えっ……」
鳳翔 「愛するのもいいですけど、愛されるのも良いじゃないですか」
山城 「そこが誤解よっ。提督はわたしのことなんて愛してないのよ」
北上 「あーあ、またそんなこと言って。なんか根拠でもあるのー?」
大井 「不毛……不毛……ブツブツ」
山城 「もちろん……根拠はあるわよ……」
そう、提督が愛してるのは……
84:
【山城の回想】
――――― 2年前 鎮守府開設直後
85:
山城 「扶桑型戦艦姉妹、妹の山城です! 扶桑姉さま見ませんでした?」
提督 「おぉ……」
電  「おおぉー……」
山城 「あ、あのぉー、扶桑姉さまは……」
提督 「おおおおおお、戦艦だぁあぁぁぁ!」
電  「おおぉぉーーー戦艦さんなのです!」
山城 「うわぁっ! な、なんなのよ、もう!」
提督 「いや、うちはできたばかりの零細鎮守府でな、大型艦なんて全然いないんだ」
電  「戦艦建造できるほどの資材もないのです! なのにいきなり戦艦さんに出会えたのです!」
山城 「そ、そうだったの。改めて、扶桑型戦艦の山城です。ということは、姉さまはまだいないのね……不幸だわ……」
提督 「ああ、君が戦艦第一号だ。どうかよろしく頼む」
86:
――――― 数日後 とある海域
87:
提督 「ここの敵は強い。慎重にな」
電  「はいなのです!」
提督 「山城、初出撃がきつい海域ですまない。なんとか頑張ってくれ」
山城 「大丈夫よ、不幸には慣れているから……ふふふ……」
山城 「敵艦隊発見! 砲戦用意!」
電  「はわわ、もう発見したのですね! 砲戦用意!」
山城 「よく狙って……てー!」
電  「え! こ、こんなに遠くから!?」
山城 「痛いっ……やっぱり不幸だわ」
提督 「直撃! まずい……って、あれで小破しかしてないのか……!?」
88:
提督 「無事海域突破だ。山城、きみがMVPだ。初陣でよく頑張ってくれた!」
山城 「うっそ!? わたしが活躍!?」
電  「すごいのです! すごいのです!」
提督 「ほんとにな。あんなに苦戦していた海域だったのに……。索敵力、射程距離、圧倒的な火力、すさまじい耐久力……本当に見事だ。これからも是非、我が鎮守府を支えてほしい」
山城 「/// え、えっと……が、がんばるわ!」
そう……鎮守府初の戦艦として大活躍して、初期の鎮守府を支えたのはわたしの誇り。
89:
山城 「はぁ……またドック……わたし、大体ドックにいますよね?」
提督 「酷使して本当にすまない。しかし道を切り開くにはどうしてもきみの力が必要なんだ。どうかしっかり治して次の出撃に備えてほしい」
山城 「え!? あ、はい、がんばって……治します……」

……
山城 「改装完了……これで欠陥戦艦とは言わせないしっ」
提督 「欠陥なんてとんでもない。前世ではどうかわからないが、今のきみはうちのエースじゃないか。ささやかな改装で申し訳ないが、これでまた頑張ってくれ」
山城 「え、エース! わたしが……。その、改装ありがとうございます、がんばります」

……
山城 「姉さま……姉さまはどこ……」
電  「うう、今回も出会えなかったのです」
提督 「山城と出会えたんだ、扶桑の魂とも必ずこの辺で出会えるはずだ」
山城 「そうでしょうか……」
提督 「うちを支えてくれているきみの一番の願いなんだ。扶桑に会えるまで絶対に諦めない」
山城 「提督……」
90:
**********
前世では……建造時はともかく、大戦時には完全に不要扱いだったわたし。
その前世とはあまりにも違う境遇にすごく戸惑ったのよね。
でも、主力として大活躍すること、期待され喜ばれること、大切にされること。もちろん……とても嬉しかった。
**********
91:
扶桑 「超弩級戦艦扶桑です。妹の山城ともどもよろしくお願いしますね」
提督 「おお!」
電  「やっと会えたのです!」
陽炎 「セリフとられたっ!?」
山城 「ね、ね、ねえさまぁぁぁぁぁーー!」
扶桑 「山城、先に着任していたのね」
提督 「山城には大活躍してもらっている。扶桑もどうか我が鎮守府に力を貸してほしい」
扶桑 「はい、喜んで!」
92:
扶桑 「主砲、副砲、撃てっ!」ドーンドーンドーン
山城 「ああ、姉さま凛々しいです……。わたしも主砲発射!」
提督 「扶桑が来てくれて、更に安定して戦えるようになったな。本当に助かるよ」
扶桑 「ありがとうございます!」
提督 「でもMVPはやっぱり山城だったな。練度もずっと上だし」
山城 「ああ、姉さまを差し置いてわたしはなんということを……」
吹雪 「お二人の火力は本当にすごいです! わたし、憧れちゃいます!」
扶桑 「まぁ。どうしましょう……」
93:
**********
姉さまも来てくれて、二人で主力として大活躍してたのよね。
このあと、金剛型や伊勢型、空母のみんなも着任して出番は減っていったけれど。
それでも、常に最前線にあって皆と戦えて……本当に嬉しかった。
**********
94:
――――― しばらく後 提督執務室
95:
山城 「山城、はいります」
提督 「ああ、呼びつけてすまないな」
電  「来ていただいて感謝なのです」
山城 「さっきまでご一緒していたのに、改めて呼び出しなんてどうしたんですか?」
提督 「えっとだな……他の人には聞かせられない話なんだ」
電  「なのです!」
山城 「はぁ……なんでしょう?」
提督 「実はな山城、電と代わって常任秘書艦をやってもらいたいんだ」
山城 「……は?」
電  「お願いなのです!」
96:
山城 「えっと、お話が見えませんが」
提督 「鎮守府の規模が大きくなって、艦娘の数も増えただろ? 大型艦も珍しくなくなった」
山城 「そうですね。わたしが着任して大騒ぎしていたころが夢みたいです」
電  「それで、大きくて怖い人も増えて、わたしではお仕事がちゃんとできないのです……」
提督 「皆が電に意地悪するとかの話では無いんだ。ただ、やはり大型艦相手で、しかも無愛想な相手だったりすると、電が萎縮してしまって辛いそうなんだ」
電  「それに、秘書艦をしていると六駆のみんなと遠征にも行けないのです……」
山城 「なるほど……事情はわかりました。でもどうしてわたしなんですかっ」
提督 「山城は初期からうちにいて、ずっと鎮守府を支えてきてくれただろ? 顔も広いし事情もよく知っている。候補は山城しかいないと思った」
電  「なのです!」
山城 「う……そ、そこまで言うのでしたらかまいませんが……」
提督 「そうか! やってくれるか!」
電  「ありがとうなのです!」
97:
**********
こうして秘書艦になった。
正直言えば……出番が減り、エースではなく大勢いる戦艦の一人になってしまっていたわたしは、秘書艦という特別な存在になれることが嬉しかったわ。
**********
98:
――――― 1ヶ月後 提督執務室
99:
提督 「ふー、今日の業務はここまでだな」
山城 「お疲れ様でした! では扶桑姉さまに会いたいのでこれで……」
提督 「おいおい、勤務終了後にコーヒー1杯は付き合うって約束しただろー」
山城 「……仕方ないですね、じゃあ1杯だけお付き合いします」

……
山城 「ふーふー、それで扶桑姉さまが寝ぼけて可愛らしくて」
提督 「あの扶桑がそんな失敗をするとは……意外だな!」
山城 「失敗してあたふたする姉さまも素敵ですっ」

……
提督 「でな、吹雪は『扶桑さんや山城さんみたいになりたいから!』って無理して35.6mm連装砲を背負おうとしてひっくり返ってな」
山城 「まったく……無茶なことをするんだから」
提督 「ひっくり返った亀みたいになってたぞ。でも、そんなに憧れられるのも悪くないじゃないか」
山城 「まぁ……そうですね。今度、訓練に付き合ってあげることにします」
提督 「おお、鬼の山城教官だな!」
山城 「今は鬼じゃありません!」
100:
**********
秘書艦としての業務をこなしつつ、提督とのコミュニケーションも増えた。
勤務中の堅い姿だけでなく、笑いながら冗談ばかり言う姿も見えるようになったころよね……。事件が起きたのは。
**********
101:
提督 「なぁ山城……」
山城 「? どうしたんです、急に真顔になって」
提督 「あのな、今は秘書艦として毎日一緒に仕事をしてもらってるわけだが」
山城 「?? はい、してますけど……」
提督 「その……よかったら、仕事だけでなく、毎日ずっと一緒にいてもらえないだろうか?」
山城 「は??」
提督 「だからだな……その……仕事ではなく、俺とその、個人的におつきあいをしてくれないかと言ってるんだっ」
山城 「…………は?」
提督 「いやその、突然だからびっくりするのはわかるが『こいつは何を言ってるんだ?』って顔はやめてくれ……心がいたたた」
山城 「はぁぁぁぁ!?///」
102:
お、落ち着くのよ山城……。
この人は何を言ってるの? 個人的におつきあいがしたい? それはつまり、わたしが……好きっていう……こと!?
あ、あああああ!
お、落ち着いて……おかしいわ、そんなはず……
そう、そんなはずは無いのよ! 前世からずっと不幸にまみれバカにされ続けてきたわたしのことが、す、す、好きだなんておかしいのよっ!
そもそも提督はわたしのことを好きだとかなんてこれまで一切……
いえ……違う……これまでもわたしのどこが好きかって言っていた……。射程、火力、耐久力……。
ああ……そうね。提督は……『戦艦』が好きなのね。
これから着任するであろうわたしより性能の良い戦艦たち……そして、わたしと同じ性能であんなにも麗しい扶桑姉さま。これから……みんなを落としていくつもりね!
103:
山城 「提督……」
提督 「お、おうっ」
山城 「そんな手には乗りませんよ。姉さまを毒牙にかけるために、まずわたしからという訳ですね」
提督 「……は?」
山城 「この山城の目は節穴ではありませんっ。扶桑姉さまはわたしが守りますっ」
提督 「ど、どうしてそうなるんだああああ!」
104:
【回想終了】
――――― 居酒屋鳳翔
105:
山城 「根拠は……あるわよ」
北上 「えー、どんなー?」
鳳翔 「それはわたしも興味がありますね」
山城 「さっきも言ったけど、提督は『わたし』を愛してる訳じゃないってことよ」
北上 「えー、良くわかんないなぁ」
大井 「不毛なんかじゃない……不毛なんかじゃないです……ブツブツ」
106:
**********
詳しく事情を話そうとせずごまかしたのよね。
本当なら、提督の非道ぶりを声を大にして訴えるべきだったのに!
やっぱりわたし自身、こんな考えはこじつけで無理があるって……気づいていたのかもしれない。
**********
109:
――――― 一週間後
110:
最上 「瑞雲が敵艦をみつけたよっ!」
山城 「よしっ、全艦面舵! 単縦陣で全前進!」
時雨 「右舷前方、敵艦見ゆ」
山城 「よし! 姉さま行きましょうっ」
扶桑 「了解よ山城。主砲全門、発射!」
……

朝雲 「もう艦隊運動もバッチリね!」
山雲 「いいかんじだよね?」
満潮 「そうね、これならいつでも実戦に行けるわ」
111:
山城 「みんなお疲れ様。じゃあわたしは秘書艦に戻らないと行けないから、後は扶桑姉さまにおまかせします。ミーティングしてから解散してね」
扶桑 「わかったわ。山城は忙しいわね」
満潮 「この任務が終わるまで、誰かに秘書艦を代わってもらうわけにはいかないの?」
山城 「それがね……提督が秘書艦は代えないってわがままを言って聞かないよ……不幸だわ……」
朝雲 「うわっ! 提督、相変わらず山城さんが大好きね……」
時雨 「ふふっ……愛されすぎて困ってしまうね」
最上 「素敵なことじゃないか。うらやましいなー」
山城 「不幸ですっ! ああ、もう行かないと。それじゃあよろしくね」
バタバタ
112:
扶桑 「さて、じゃあこのままミーティングをします。でも、特にもう打ち合わせることなんてないわよねぇ……」
最上 「そうだね。もう艦隊運動のバリエーションは整ってるし。そもそもこんな風に特定の艦隊で徹底的に訓練なんて全然やらないのにね、普段は」
満潮 「もうとっくに実戦にでても良いと思うのよね。なんでこんなに訓練ばっかりなのかしら?」
山雲 「山雲は?、朝雲姉と訓練楽しいから、ずっとこのままでもいいけど?、ね?」
朝雲 「そんなわけにいかないでしょっ」
扶桑 「でも、提督も何かお考えがあってのことでしょうから、わたしたちはちゃんと命令に従って頑張りましょう」
最上 「はーい」
113:
扶桑 「他に何かあるかしら?」
時雨 「あ、じゃあ僕からいいかい? 戦いに関することではないんだけど」
扶桑 「他に議題もなさそうだし、いいわよ」
時雨 「それじゃあ。えっとね、みんな。僕は前世で一人だけ生き残ったよね。僕はそのことがなんとなく後ろめたくて……これまでずっと、みんなにはあまり近づかないようにしていたんだ」
朝雲 「なーに、気にすることなんて無いのにっ」
時雨 「そうなんだけど、なんとなくね。でも今回縁があってこうして一緒に訓練していると……うん、僕が間違っていたよ。やっぱり一緒に笑い合えるのは楽しい」
最上 「うん、それなら良かったよ。僕も懐かしいと同時に楽しいよ」
朝雲 「そうね、普段は同じメンバーで遠征ばっかりだったから、正直わたしも楽しいわ」
満潮 「まーね、わたしもそうよ」
扶桑 「うふふ、みんなが楽しんでいるならわたしも嬉しいわ」
114:
時雨 「そうだね、みんなも楽しそうだ。ただね、山城だけはあんまり楽しそうじゃない。西村艦隊のことだけじゃなく、普段からずっと不幸だ不幸だって言ってるよね」
扶桑 「そうね、あの子らしいといえばあの子らしいんだけど……」
時雨 「僕は、前世の恩返しというわけじゃないけど……。共に戦って、僕を生き延びさせてくれたみんなが、転生した今世ではうんと幸せだといいなって思うんだ。だから、山城にも是非幸せであってほしいんだ」
山雲 「でも?、幸せそうな山城さんって、ちょっと想像できないかも??」
朝雲 「うっ……たしかにそうね」
満潮 「性格だものね。それこそ、素直で内気な霞みたいなもので、そんなのありえないって気がするわ」
最上 「確かに、いつもにこにこして幸せいっぱいな山城さんって……それはもう山城さんじゃないような……」
扶桑 「みんな……結構きついわね……」
115:
時雨 「そこまで極端じゃなくていいんだよ。いつも眉間にしわを寄せてる山城が、穏やかに楽しく暮らせたらいいなって」
扶桑 「そうね、姉としてもそれは願ってしまうわ。時雨、山城のことを心配してくれてありがとう」
時雨 「いや……うん、その……。って、ていうかだね、今世の山城は、戦場では大活躍、秘書艦に大抜擢! それより何より……提督の愛を一身に受けているよね。それなのになんで不幸なんだろう?」
最上 「そう、それだよ! 僕もそれは不思議なんだ。状況だけ見たら幸せいっぱいだよね」
扶桑 「山城が言うには、提督が言いよってくるのが不幸だって」
時雨 「そう言ってはいるけれど、実際に提督に求愛されてる様子を見ると、全然不幸そうにしてないよね?」
満潮 「そうよね。赤くなってあたふたしてて、照れてるだけに見えるのよ。あれでどうして不幸なのかしら」
朝雲 「ちょっとちょっとみんな! ……こんな面白い話、簡単に終わらせるのはもったいないわ。お菓子と飲み物持ち寄って、じっくり話しましょ!」
山雲 「さんせーい」
満潮 「ちょっと朝雲、これは一応艦隊のミーティングなのよ。……だからお酒はだめだからね」
時雨 「こういう話なら素面でも充分盛り上がるよ」
扶桑 「そうね、じゃあ各自補給品を持参して会議室に集合しましょ」
116:
――――― 少し後 会議室
117:
朝雲 「(もぐもぐ)そもそも、山城さんは提督をどう思っているのかな?」
最上 「そうだね、そういえば聞いたことがないや。扶桑さんは聞いてる?」
扶桑 「そうねぇ……。提督からの求愛は、実は扶桑姉さま狙ってのことだ! みたいなおかしなことばかり言っているけれど……。そういえば、山城自身が提督をどう思っているかは聞いたことがないわ」
時雨 「そういえば、その変な理屈を良く言っているよね。それも謎だね」
満潮 「司令官がが山城さんに求愛するようになったのって随分昔よね。それからずっとブレてないし、なぜそうなるのかわからないわ」
朝雲 「でもでも、少なくとも提督のことが嫌いには見えないわ。執務室での二人のやり取りを聞いてると、息があった夫婦みたいだもの」
山雲 「そうよね?、すごく仲良しさんに見える?」
扶桑 「姉の目から見ても、山城は提督のことをとても信頼しているように見えるわ。ただ求愛に関する部分だけはおかしなことばかり言うけれど……」
最上 「それじゃあまとめると、山城さんは提督のことが嫌いではない。でも提督からの愛を信じられず誤解している、という感じかな?」
満潮 「そうね。わたしは司令官の山城さんへの愛情は本物だと思うわ。だから山城さんの誤解に賛成」
時雨 「うーん……、誤解というのはちょっと違うような気もするな」
扶桑 「どういうことかしら?」
時雨 「僕はね、山城は提督の愛情に疑問符をつけることで、提督に『そんなことはない、本当にお前を愛してるんだ!』っていうのを言わせたいのかなって思うんだ」
朝雲 「な、なるほど……奥が深いわね!」
118:
満潮 「でも、そうやって自分への愛情を確認しているんだとしても……もう2年よ? さすがに引っ張り過ぎじゃない?」
最上 「もしかしたら、引っ込みがつかなくなっているんじゃないかな?」
扶桑 「そうね……山城の性格なら充分に有り得ることだわ」
朝雲 「そっかー、ずっと意地を張り続けて、今更素直になれないって感じね。ツンデレって言うんだっけ?」
山雲 「わたしはヤンデレって言われたことがあるけど、それと同じかな??」
時雨 「そ、それはともかく……。山城が提督に対して素直になれたら……山城は幸せになれるかな?」
最上 「それはもう。あの提督にあれだけ愛されてるんだよ? きっと幸せだよ」
扶桑 「そうね、提督は素敵な方だから……きっと幸せにしていただけるわ」
時雨 「じゃあ当面の目標は『山城が提督に対して素直になること』だね」
119:
扶桑 「でも、あの子の意地っ張りは相当なものよ。これまでも何度も言って聞かせたんだけど……」
朝雲 「扶桑さん。山城さんみたいなタイプには『押してだめなら引いてみろ』ですよ! だから『仲良くしなさい』なんて言ってもだめなんですっ」
最上 「ほうほう、というと?」
朝雲 「今は提督がぐいぐいと求愛してるけど、急に提督がそっけなくなったり、急に距離が開いたりしたら、山城さんは絶対にオロオロしますよ。それで自分の気持ちに気がついて……」
山雲 「朝雲姉が好きな少女漫画っぽい展開よね?」
満潮 「少女漫画ね……」
朝雲 「/// い、いいでしょっ、好きなんだから!」
時雨 「でも、その作戦は面白そうだね」
朝雲 「でしょ?! 絶対うまく行くと思うのよね!」
120:
扶桑 「でも、提督は一途なかただから、そっけなくするというのも難しいかしら?」
時雨 「それなら提督と山城の距離が開く状況を作るほうが早そうだね」
最上 「今は秘書艦として朝から夕方までベッタリだもんね。任務があっても秘書艦を代えないぐらいだし」
朝雲 「だからこそ、秘書艦から外すだけでも効果がありそうな気がするわね」
山雲 「でも?、司令さんが秘書艦を代えたくないって言ってるんだよね??」
満潮 「……こういうのはどうかしら。山城さんが秘書艦としてしょっちゅういなくなってしまうせいで、西村艦隊の訓練が滞っているって訴えるの」
最上 「すごい! 満潮は策士だねっ」
満潮 「褒められている気がしません!」
扶桑 「それなら提督も考えてくださるわね。そうなると代わりの秘書艦は誰になるのかしら」
121:
最上 「……それならさ、西村艦隊のメンバーで持ち回りで秘書艦をやりますって言うのはどう?」
朝雲 「そうね、他の人が秘書艦だと、状況の変化とかを確認できないし」
満潮 「でも、それだと秘書を交代する理由が弱くならない?」
最上 「僕達6人は充分訓練・連携ができてるから、あとは山城さんと個別にっていうのでなんとかならないかな?」
山雲 「それなら?、嫌な任務を仕方なくうけてるんだから?、わたしたちの意見も聞いて下さいってお願いしたらいいんじゃないかな??」
朝雲 「山雲、あんた結構黒いこと言うわね……」
扶桑 「真剣に提案すれば、提督はきっと聞いてくださると思うわ。じゃあわたしの方からお願いしてみるわね」
時雨 「ありがとう。扶桑も結構乗り気なんだね」
扶桑 「わたしも、あの子にはいい加減素直になってほしいもの……がんばるわ」
時雨 「ふふ、じゃあ全員一致で山城の幸せ応援だね。なんだか、実戦に出る前にもう作戦を実行している気分になるよ」
最上 「あははっ、そうだね! さしずめ『山城幸せ大作戦』かな?」
時雨 「素敵な作戦だね。それじゃあ扶桑、最初の一手をお願いするよ」
扶桑 「ええ、頑張るわ」
122:
――――― その頃 提督執務室
山城 (ぞくぞくぞく) 「ひっ!」
提督 「? どうした山城、変な声を出して」
山城 「いえ……なんでしょう、すごい寒気がしたんです」
提督 「やっぱり西村艦隊と秘書艦業務で忙しすぎるんだろうか。風邪なら早く言ってくれよ」
山城 「ですからわたしは風邪なんてひきませんっ」
提督 「それならいいんだが……」
山城 「もうっ、本当に心配性ですね! 忙しいのが心配なら秘書艦を外してくださればいいのに! 」
提督 「いやだっ」
山城 「もうっ! でも、本当になんだったのかしら……? 」
127:
――――― 3日後
128:
山城 「それで、遠征に関する書類はここにファイルされているから……」
提督 「山城、大丈夫だ。ものの場所ぐらい俺にでもわかるから、そんなに必死に引き継がなくても」
山城 「そんなこと言って、お仕事が滞っては大変です!」
提督 「今はすごい暇なんだから大丈夫だよ」
朝雲 「そうよ、山城さんは安心して訓練してきて」
山雲 「そうよ?、大丈夫よね?」
山城 「でも……」
提督 「わかった、じゃあ訓練が終わった夕方に戻ってきて、今日の進捗を一緒に見てくれ。問題があれば一緒に残業だ。それでいいだろう?」
山城 「そ、そうですね。そういうことであれば……」
朝雲 「はいはーい、それじゃあいってらっしゃーい!」
山雲 「らっしゃ?い」
129:
**********
はぁ、どうして突然こんなことになってしまったのかしら……。
西村艦隊のみんなからの上申で、わたしは毎日西村艦隊の訓練に参加。他のみんなが持ち回りで秘書艦を代わりにやることになってしまったわ。
提督も最初は難色を示されていたけれど、ついには折れてしまったみたい。
まぁ別にっ! わたしは代わってもらったほうが楽だったからいいんだけど!
……でも、ずっと毎日秘書艦をしてきたから、今だれか別の人が秘書艦をやっていると思うと、本当に落ち着かないわね……
**********
130:
時雨 「山城、上の空だね。そろそろ接敵だよ」
山城 「はっ!? だ、大丈夫よ、大丈夫!」
時雨 「ふふ……秘書艦が心配かい?」
山城 「ぜ、ぜんっぜん心配なんかじゃないわ! あー、秘書艦から開放されてせいせいするわねー」
扶桑 「山城、そんなこと言わないの」
山城 「そうっ! こうして昼間から姉さまとご一緒できるんですもの、秘書艦より絶対こっちのほうがいいわっ!」
最上 「あははっ、大丈夫、しばらくは秘書艦から解放されるから、いっぱい堪能できるよ」
山城 「へ?」
満潮 「あれ、聞いてないの? 全員で持ち回りするのよ。明日はわたしの番」
最上 「明後日が僕だよ!」
山城 「うそ……」
扶桑 「全員で持ち回りといっても、たかだか5日間だけですもの。その間は訓練をがんばりましょう?」
山城 「は、はい、姉さま……」
131:
――――― 一方その頃 提督執務室
提督 (ペラッ、ペラッ)
朝雲 「えっと、ここの数字はっと……山雲、戸棚から遠征ファイル取ってー」
山雲 「はぁーい。えっとー、これかなー」
提督 「なあ二人共」
山雲 「なあに??」
朝雲 「えっと計算はあってるわね……なあに司令?」
提督 「西村艦隊の任務なんだけどな。俺は二人が断ると思ってたんだよ。実際、最初に話を聞いたときは乗り気じゃなかっただろ?」
朝雲 「そうね。わたしは平気だったけど、山雲はね」
提督 「山雲、本当に無理はしてないのか?」
山雲 「うん、大丈夫?。ほんとはね?、やっぱり沈んだときのことを思い出すとお腹が痛くなったりはしてたんだけど?」
朝雲 「そうよね、慌てちゃった」
山雲 「でも?、朝雲姉から?、山雲と一緒に戦うのは嬉しいって言ってもらったの?。そしたら?、一緒に戦えるなら、どんな艦隊だって嬉しいなって」
提督 「ふむ……山城と似たようなことを言うなぁ」
山雲 「もうね?、死が二人を分かつまで一緒なんて言われちゃったの?、ぷろぽ?ずみたいだよね?、きゃぁ?///」
朝雲 「そこまでは言ってないからっ!」
提督 「……お幸せに」
朝雲 「違うからっ!」
132:
提督 「確認だが、山雲は朝雲と一緒だから、西村艦隊の任務を『自分もやりたいっ』って思ったわけだよな?」
山雲 「うん、そうよ?」
提督 「……まぁ、それなら良いか。しつこく聞いて済まなかったな。ありがとう」
山雲 「どういたしまして?」
朝雲 「司令、そういうことならお返しにわたしたちの質問にも答えてよっ」
提督 「ん? なんだ?」
朝雲 「提督は山城さんが大好きなんでしょ? でも全然振り向いてもらえてないけど」
提督 「その話か。ひどい言われようだが、まぁそのとおりだな」
朝雲 「だったらさ、もっと工夫してなんとか振り向いてもらおうとかしないの?」
提督 「工夫……ねぇ」
山雲 「工夫ってどんな??」
朝雲 「そうね……普段は憎まれ口を叩き合ってるけど、女の子がピンチになるとマスクをつけて助けに現れるとか」
山雲 「タキシード着てバラを投げそうな感じね?」
提督 「なんだそりゃ……」
朝雲 「そ、それじゃあ、お前は必ず俺が捕まえるから予告状は俺によこせ!って言っていつも追いかけるとか……」
山雲 「それにはまず?、山城さんが怪盗じゃないとだめね?」
提督 「なるほど、少女漫画かなにかか……」
朝雲 「い、いいでしょっ! 女の子みんなのあこがれなんだからっ」
133:
提督 「心配してくれるのはありがたいけど、俺は俺なりのやり方で行くから」
山雲 「でも?、そう言ってもう2年なんでしょ?」
提督 (グサッ)
朝雲 「司令もめげないのがすごいわねー」
提督 「ま、俺も山城も大人だからな。少女漫画みたいな風にはいいかんよ」
朝雲 「なによそれ?」
提督 「だってな、大人同士だと恋人になることがゴールじゃないんだよ。お互いを支え合って、一緒にいることが幸せで、ずっと共にある。そういう関係を目指してるんだよ」
山雲 「はぇ?、なんだか?、難しいかも?」
提督 「別に難しく無いだろ。ずっと愛し合って信頼しあって生きていく。それこそ何十年もだぜ? だったら、2年なんて時間は大したこともない。まっすぐにぶつかり続けるだけだ」
朝雲 「で、でも、それで結局振り向いてもらえなかったら、その時間は無駄じゃない!?」
提督 「心から愛した相手のために頑張ったことって無駄なのか? 結果が伴わなくても価値があると思うがな」
山雲 「なんだか……司令さんが大人の男の人って感じ?」
朝雲 「うぐ……なんだかわたしが子どもみたいじゃないっ。そりゃ、恋愛経験なんてないけどさ……」
提督 「ま、そういうわけで、気持ちはありがたいが俺は俺なりに頑張ってるから大丈夫だよ。ありがとう」
134:
――――― 提督執務室前 扉の外
山城 「/// な、な、な、なにを……」
訓練を終えて急いで帰ってきたら、なんだかわたしの話をしている風だったから、ついつい聞き耳を立ててしまって……。
そしたら……な、な、なんて話をしてるのよっ!? こんなの、もう聞いていられないわ!
バターーーーン
朝雲 「きゃっ!」
提督 「なんだっ!?」
山城 「戻りましたっ! あ、あなた達は一体何の話をしてるんですかっ!!」
朝雲 「え、えっと……何の話って……ねぇ」
提督 「それは、そのだなぁ」
山雲 「えっと?、司令さんがぁ?、山城さんが好きで好きで?、ずっと一緒にいたいってお話を?」
山城 「/// わーわー! もういいからっ! わたしが秘書艦にもどりますからっ!」
朝雲 「えー、せっかく今日は秘書艦おやすみなんだから、夕方までゆっくりしてくれてもいいのに」
山雲 「そうですよ?、ちゃんと終わるまでお仕事するから?」
山城 「いいのっ! さ、お仕事お仕事お仕事っ!」
このまま、あんな話を続けられたらと思うと……とてもとても放置できないっ!
ああ、秘書艦を人に任せることがこんなにも大変だったなんて! 不幸だわ……。
135:
山城 (ブツブツ)
山城 「まったくもう! まったくもう!」
提督 「なんだよ……仕事はちゃんとしてあるだろ」
山城 「そういう問題じゃありません! まったく、神聖な執務室で雑談なんてっ」
提督 「あれ、俺らも毎日雑談してるよな?」
山城 「ぐぬぬ……それとこれとは話が別です!(ぷいっ)」
提督 「あはは。ま、勘弁してくれ。朝雲がどうもそういう話が好きみたいでな」
山城 「そうなんですか?」
提督 「ああ、少女漫画が大好きらしくてな。今日もこんな話を……(説明中)」
山城 「怪盗ってなんですか……?」
提督 「なんか泥棒の女の子を探偵の男の子が追いかけてみたいな話なんだと。女の子は追いかけられるのが好きだよなー(ちらっ)」
山城 「わたしは好きじゃありませんからっ!」
提督 「わはは、知ってる知ってる。ま、明日の秘書艦は満潮だから、ものすごいクールな一日になるだろう。明日はおとなしく黙って仕事するよ」
山城 「はいはい、できたら毎日おとなしく仕事してくださいね」
提督 「無理だな?」
136:
提督 「そうそう、山雲に西村艦隊任務の話を改めて聞いたんだよ」
山城 「提督、気にしてましたもんね」
提督 「そしたら、朝雲と一緒に戦えるのが一番嬉しいから、この任務もやりたいって思ったんだとさ」
山城 「うんうん、いい話ですね。そう、若き日のわたしと扶桑姉さまのような……」
提督 「……山城は、扶桑がこの任務に前向きだから賛成だったんだよな?」
山城 「ええ、扶桑姉さまがやりたいことを応援するのが一番大事ですからっ!」
提督 「はぁ……」
山城 「なんです? 嫌なため息なんてついてっ」
提督 「ま、もし気が変わって任務をやりたくなくなったらすぐに言ってくれ。いつでも中止にするから」
山城 「変わりません! まったくもう、しつこいですね」
提督 「ま、惚れた弱みだ。勘弁してくれ」
山城 「/// し、知りませんっ!」
137:
**********
ほんとに、この任務に関しては提督は心配性すぎるわっ!
いくらわたしのことが、す、す、好きだからって、公私混同がすぎる!
って、この頃は思ってたのよね……。わかってなかったのはわたし。不幸だわ……。
**********
142:
――――― 翌日 提督執務室
143:
山城 「ああもう時間! それじゃ、お願いよっ」
朝潮 「はい! 本日の秘書艦、しっかり務めさせて頂きます!」
荒潮 「おまかせよ?♪」
大潮 「まっかせて! あげあげでがんばるよー!」
満潮 「……はぁ」
山城 「まあ、朝潮がいてくれるから大丈夫よね。それじゃあ!」
提督 「気をつけてな?」
バタバタ
144:
朝潮 「それでは、手分けして頑張りましょう!」
荒潮 「朝潮ちゃんはまじめねぇ。はぁーい」
大潮 「どんどんやっちゃお! どんどん!」
提督 「じゃあ俺もやるかぁ」
朝潮 「司令官のお手を煩わせるなんてとんでもない! 満潮、司令官にお茶を」
満潮 「はぁ……なんでよもう……ぶつぶつ」
提督 「いや、あの、そういうわけにもいかないから、俺にも仕事させてくれよ……。なあ満潮、どうしてまたこんなことになったんだ?」
満潮 「知らないわよっ!」
145:
提督 「というわけで昼過ぎにはもう今日の仕事は全部片付いてしまったわけだ」
荒潮 「提督ったら、誰に説明してるの??」
朝潮 「今日のお仕事はもう完了ですか! では早明日の分に取り掛かりますっ!」
提督 「いや、今日のうちに出来ることは少ないからな。それよりちょっと話を聞かせてほしい。みんなでお茶でも飲みながら話そう」
大潮 「やったー! お菓子もっ! お菓子もっ!」
朝潮 「大潮っ、遊びじゃないのよ」
提督 「いいじゃないか。みな仕事を頑張ってくれたからな」
荒潮 「あらあら?、提督ったら甘いんだから」
146:
提督 「それで、今日は満潮が秘書艦だと聞いてたんだが、どうしてまた4人で?」(ずずー)
朝潮 「はっ! 満潮が寂しがるからです!」
満潮 「ちょっとやめてよね! わたしは別に何も言ってないじゃない!」
大潮 「満潮は寂しがりだからね! なるべく一緒にいてあげないとっ」
荒潮 「そうなのよね?」
満潮 「/// だから違うって言ってるでしょ!!」
大潮 「えー、だって『秘書艦って実ははじめてなのよね。ちゃんと一人でできるかな』なーん私達の前でつぶやいちゃったらねー」
荒潮 「付いてきてって言ってるようなものよね?」
満潮 「ち、違うってば!」
朝潮 「何はともあれ、大切な妹が不安を抱えてるんだから応援するのは当然でしょ。ましてわたしたちは第八駆逐隊の仲間なんだから」
ワイワイ
提督 (こいつらはほんとに仲いいなぁ)ズズー
147:
提督 「お前たちが仲が良いのは前からだが、ここまで満潮に過保護じゃなかった気がするんだがなぁ」
荒潮 「それは、ちゃーんと理由があるのよ?」
満潮 「ちょ、ちょっと変なこと言わないd(もがもがもが)」
大潮 「はい捕まえた! おとなしくしてね!」
朝潮 「今回の西村艦隊の任務で、みんなでこんな話をしまして……(朝潮説明中)……」
満潮 (ジタバタ もがもが)
提督 「なるほどなぁ」
荒潮 「大潮ちゃーん、もう離して大丈夫よ?」
満潮 「はぁはぁはぁ、ひどい目にあった……」
148:
提督 「そうだよなぁ、大切な人を失った戦い。前世とは違うとわかっていても不安になるのは当然のことだ」
満潮 「な、なによっ! 笑うんでしょ! 笑えばいいじゃない!?」
提督 「笑うものか。命がけの戦いの中で、不安を抱えながらも俺の命令や任務を遂行してくれること、本当に感謝してる」
朝潮 「司令官……」
提督 「本当なら不安になるような任務をなくせれば……あるいは俺にに不安を消しされるだけの力があればいいんだがな。俺が力不足な分、姉妹や仲間で補ってくれて、本当に助かるよ」
大潮 「姉妹で助け合うのなら任せてよ!」
荒潮 「そうそう、これは大切な姉妹のためにわたしたちがやりたいことをしてるだけなのよ?」
満潮 「/// ふんっ……。ま、まぁ、八駆のみんなに免じて、今日のところは許してあげるわっ」
朝潮 「ぷっ……意味がわからないわよ」
荒潮 「やーん、テンパってる満潮ちゃん、かわいいわ?」
満潮 「/// ちょ、ちょっと!」
わいわい
149:
――――― 夕方 提督執務室
提督 「とまぁ、今日はそんな感じだったよ」
山城 「そう……。ま、まぁ、わたしは今日のお仕事がちゃんと終わっていればそれでいいんです、それで」
いい話なはずなのに、なんとなく落ち着かない感じがしてしまうわね。どうしてかしら……ドキドキ
提督 (じー)
山城 「な、なんですかっ」
提督 「山城の方はどうだ? 西村艦隊の訓練していて、嫌になったりしてないか?」
山城 「嫌になるなんてとんでもないわっ! 毎日ずっと扶桑姉さまと一緒にいられて幸せよ」
提督 「あはは、そうかぁ。じゃあ秘書艦じゃないほうが毎日幸せかもな」
山城 「えっ?」
提督 「ん?」
山城 「い、いえ。そう、そうね! わたしの幸せは扶桑姉さまのそばにいることだもの! 当然よっ」
提督 「第八駆逐隊も仲が良いと思ったが、やっぱり山城の扶桑愛はまた別格だなぁ」
山城 「当然です!」
150:
**********
そんなことをいいつつ、なぜだかとても動揺していたのよね。
満潮たちの話、そして秘書艦の話。
わたしの幸せは扶桑姉さまのそばにいること! と断言したけれど、それにも何故か不安を感じて……。
わたし、どうしてしまったのかしら……不幸だわ……
**********
154:
――――― 夜 山城幸せ大作戦仮設本部
155:
時雨 「さて、これで2日間は山城が秘書艦を外れたことになるんだけど、様子はどうかな?」
扶桑 「そうねぇ……。ちょっと落ち着かないみたいだけど、そのぐらいかしら?」
最上 「そっかー。そんなに急には変わらないのかな?」
朝雲 「でも、すごく慌ててるような感じはあったわよ」
山雲 「そうね?、とっても慌ててたわ?」
満潮 「今日はそんなにでもなかったわ。もう慣れちゃったのかしら?」
時雨 「どうしよう、何か手を打ったほうがいいかな?」
最上 「具体的には何をするの?」
扶桑 「そうねぇ。今回の目的は、提督が他の人のものになってしまったり、秘書艦という役割を取られたりしたらどうしようって、山城を慌てさせるみたいな感じなのよね?」
時雨 「そこまで追い込む訳じゃないけど、そういう可能性を感じてもらうのが目的だね」
朝雲 「それならライバルよ! やっぱり恋のライバルがいて慌てるのが王道だものっ!」
山雲 「そうね?、朝雲姉のイメージだと?、ライバルって縦カールのお嬢様とかだよね?」
満潮 「縦カールってなによ……」
時雨 「でも、ライバルっていうのは確かに大事かもね」
156:
扶桑 「明日は最上、明後日は時雨が秘書艦よね? 今日までと違って一人で秘書艦をするから、山城もまた違った感じ方をするかもしれないわね」
朝雲 「あー、そうね。そっか、二人きりのほうがよかったかー」
山雲 「朝雲姉、それはだめよ?、ね??」
満潮 「なんでよ! でも、二人っきりだとちょっと緊張しそうよね。最上さんと時雨は大丈夫なの?」
最上 「も、もちろん大丈夫さ!」
最上 (そ、そっか。ずっと執務室で……ふ、ふ、二人っきりなんだ……)
時雨 「秘書艦をやるだけじゃないか。大丈夫さ。それをいったら、山城なんて2年間、昼間は殆ど提督と二人っきりなんだしね」
扶桑 「じゃあ明日と明後日の様子を見て、また作戦を考えるということにしましょう。では今日は解散です」
ワイワイ
157:
――――― 少し後 朝雲と山雲の部屋
朝雲 「それじゃあ電気消すね。おやすみー」(パチン)
山雲 「は?い」
朝雲 「……でもさ、2年間も毎日一緒にいて、ずっと大事にされてるのに、どうして山城さんは司令の想いにこたえないんだろうね。ほんっとわかんないわ」
山雲 「う?ん、山雲は?、わかる気がするなぁ?」
朝雲 「え! あ、あんたわかるの!? 教えて教えて!」
山雲 「う?ん、なんとなく??」
朝雲 「がくっ……それじゃあ、何もわからないのと一緒じゃない」
山雲 「そっか?」
朝雲 「司令、あんなに一生懸命なんだもん。山城さんだけじゃなく、司令も幸せになれたらいいな……」
158:
――――― 翌日 提督執務室
159:
山城 「それじゃあ、任せたわよ最上」
最上 「まかされたよっ」
提督 「気をつけてな?」
提督 「って、お前なにをソファーでくつろいでるんだよ。仕事だ仕事。ほら隣に来い」
最上 「えー、仕方ないなぁ」
最上 (うう、近いっ、近いよ?)
提督 「ほれ、この表の数値を読み上げていってくれ。俺の方でチェックしていくから」
最上 「仕方ないなぁ。やってあげるよ」
提督 「それが仕事なの、し・ご・と!」
最上 「あはっ、怒らないでよ! じゃあいくよー」
160:
提督 「ほい、完了だな」
最上 「ふー、結構疲れるね、こういうの」
提督 「ま、最上は書類仕事は嫌いだもんな。ずっと前、まだ鎮守府が小さかった頃も、書類の手伝いから逃げ回ってたし」
最上 「ええっ! そんなことよく覚えてるね」
提督 「当たり前だ。しかし懐かしい。最上には随分助けられたっけなぁ」
最上 「そ、そうだっけ?」
提督 「ああ。最上はすぐに航空巡洋艦に改装されただろ? それで色んな場所に行ってもらったよな」
最上 「そう……そうだったね。まだ仲間も少なくて。そういえば扶桑さんや山城さんともよく出撃して一緒に瑞雲を飛ばしたっけ。でも今は航巡もいっぱいいるから出番も減ったなー」
提督 「わははは、最上はのんびりできて嬉しいんじゃないか?」
最上 「ぶー! 否定はしないけどさっ。嬉しさ半分って感じかなっ」
161:
提督 「さて、昨日満潮たちが仕事を大量にやっていってくれたからな。秘書艦の書類仕事はもう終わりだ」
最上 「やったー! じゃあ僕はソファで本でも読んでるよ」
提督 「優雅な身分だな。気が向いたらお茶ぐらい入れてくれもいいんだぞ?」
最上 「提督はまだお仕事?」
提督 「こう見えても司令官だからな。考えることはいっぱいあるんだよ。気にせずのんびりしてていいぞー」
最上 「わかったよ。じゃああとでお茶を入れるから」
提督 「わはは、期待しないでおくよ」
最上 「僕だってお茶くらい入れられるよっ。ぷんぷん!」
162:
提督 「…………」(ぺらっ、ぺらっ)
最上 (本を読むふりをしてこっそり提督を見る。普段は見せないものすごく真面目な顔を)
提督 「……ふぅ」
最上 (本当に真剣にお仕事してるんだね。そういうの、すごく素敵だと思うよ)
提督 「…………」
最上 (山城さんは、いつもこうやって真剣な提督を見てるんだ。……羨ましいな、ちっとも不幸じゃないよ)
提督 「…………」
最上 (ずっと……見ていたい……な…………)
163:
ガチャ
山城 「ただいま戻りました」
提督 「しっー!」
山城 「へ?」
な、何事なの! ソファで横たわる最上。その顔を覗き込む提督……。何かあったの!?
山城 「提督っ、最上がどうかしたんですかっ!?」
提督 「しーっ! 静かにっ。いや、気がついたら寝ちゃってたんだ。よく寝てるから起こしたらかわいそうだろ?」
山城 「は、はい?」
提督 「ほら、よだれ垂らして幸せそうに寝てるだろ。可愛くて眺めてたんだ」
最上 「むにゃぁ……ていとくぅ……」
ぐぐぐぐ……なんということ! 秘書艦の役目を何だと思っているのっ。提督も提督よ、可愛い寝顔だとか……たるんでるわっ!
164:
山城 (すぅ??) 「お・き・な・さーい!」
提督 「うわっ、びっくりした!」
最上 「うわあぁ、どうしたの!? 敵襲!?」
山城 「敵襲じゃありません! 最上っ、秘書艦中に寝るなんてどういうこと!?」
最上 「ほへ? 寝る? ……わ・わ・わ、僕、寝ちゃってたんだ!」
提督 「ああ、よだれ垂らして幸せそうに寝てたぞ」
最上 (う、うわぁぁ、提督に寝顔を見られた……///)
山城 「秘書艦という大切な仕事中に寝るとはどういうこと……?」(ゴゴゴゴ)
最上 「ひ、ひぃ……ご、ごめんなさーい!!」(ばたばたばた)
山城 「こらぁぁぁ、待ちなさいっ!」
提督 「まぁまぁ、仕事が終わってソファで休んでたんだよ。ちゃんと仕事を終わらせてのことだから勘弁してやってくれ」
山城 「提督も提督よっ! 寝顔を覗き込んで、か、か、かわいいだなんてっ。セクハラです、セクハラ!」
提督 「そう言われてもなぁ」
山城 「きー!」
165:
提督 「そんなわけで仕事はちゃんと終わってるから、コーヒーでも入れてくれよ。最上は入れてくれなかったからさ」
山城 「まったく……あの子は何をしてるんだかっ!」
提督 「わはは、まぁ苦手なことを頑張ってくれてたからな。許してやれって」
山城 「はぁ、わかりました」
提督 「ふふふ」(ずずー)
山城 「なんです? 気持ち悪い笑いをして」
提督 「気持ち悪いとは失礼なっ。いやな、ここのところ久しぶりに山城以外の秘書艦がついてるわけだけどさ」
山城 「寝顔がかわいい秘書艦で良かったですね!」
提督 「何怒ってるんだよ……。ま、それでさ、こうして何も言わなくても牛乳ちょっと入りの俺好みのコーヒーを入れてくれる山城のありがたみを改めて実感したわけさ」
山城 「えーえー、わたしは専属お茶くみみたいなものですもんね」
提督 「なんだよそれ。でも本当に感謝してるんだぜ。嫌がりながらもちゃんと毎日秘書艦として一緒にいてくれてさ」
山城 「ぐ……急に何を……別に、い、嫌だとか……」
166:
提督 「でもなー」(ちらっ)
山城 「な、なんですか」
提督 「いや、さっきの、最上の寝顔が可愛かったという件だけど」
山城 「変態っ!」
提督 「考えてみたらさー、長い付き合いなのに、山城の寝顔って見たことないよな」
山城 「/// あ、あ、あたりまえでしょっ! この変態っ!」
提督 「山城の寝顔も可愛いと思うんだよなー。きっと幼い感じになって……。見てみたいなぁ……はやく私生活も含めた秘書艦になってくれないかなぁ」(ちらっ)
山城 「ぎゃー、想像しないでっ! ふ、不幸だわ……。わ、わたしの寝顔を見ていいのは扶桑姉さまだけですっ!」
提督 「ま、気長に待ってるからさ!」
山城 「爽やかに言わないでっ! まったくもうっ!」
167:
**********
こういういつものやり取りに何故かとてもホッとした。
提督が最上を可愛いって言ったことがとてもショックで……。でもやっぱり提督はわたしだけを見ているっていう安心感とか……。
安心!? なにが安心だって言うのよ! ああ、わたしは何を考えているのかしら……不幸だわ!
**********
172:
――――― 翌日 提督執務室
173:
山城 「それじゃあ、昼寝したりせずきっちり仕事してね!」
時雨 「おかしなことを言うね。そんなの当たり前じゃないか」
山城 「そうよね、当たり前よね!」
時雨 「おかしな山城だね。さあ、もう時間だよ。秘書官は僕に任せて、がんばって行っておいでよ」
山城 「くっ……仕方ない、行ってきます。提督もくれぐれもまじめにっ! お仕事してくださいねっ!」
提督 「おかしなことを言うなぁ。そんなの当たり前じゃないか」
山城 「時雨っぽく言ってもだめです! 今日もちゃんと仕事が終わったか、チェックしに来ますからね!」
バタバタ
174:
時雨 「ふふ、おかしいね。山城、毎日あんな感じなの?」
提督 「そうなんだよ。なんか信用なくてなー。時間ギリギリまでバタバタと世話を焼いていくんだ」
時雨 「山城らしいね。さて、じゃあ怒られないようにしっかりお仕事しないとね」
提督 「それがさな、こう見えてもちゃんと仕事進めてるから、急ぎの仕事なんて何もないんだ」
時雨 「それなら、すこしおしゃべりしながらお仕事しても大丈夫かな?」
提督 「ああ。のんびりやってくれていいぞ」
時雨 「うん。それじゃあ早だけど、山城のことを聞かせてもらっていいかな?」
提督 「ん?」
時雨 「ここ数日、山城は久しぶりに秘書艦を外れてるでしょ? それで何か変わったりしたかなって」
提督 「そうだなぁ。山城は俺が思っていたより、秘書艦の仕事にこだわりとか責任感を持っていたんだなって感じるな。代わりに秘書艦をやる子にあれこれと指導したり、夕方にわざわざチェックに来たりするのは意外だった」
時雨 「そうだね。訓練が終わる頃になるとソワソワしだして、終わったらすぐに執務室に走っていってるからね」
175:
提督 「そうだよな。朝も来てくれる上に、夕方もそうやって毎日来て仕事の確認を一緒にしてるから、あんまり秘書艦を外れてるって気がしないな。何日も顔を会わせないとなると俺も堪えるだろうけどさ」
時雨 「そうか。それじゃああんまり効果がないのも当然かな……」
提督 「効果、ね。なるほど、やっぱり何か企んでるってわけか。突然、秘書艦を西村艦隊のみんなで持ち回り交代するとか言い出すからおかしいと思ってたんだ」
時雨 「口をすべらせちゃったね。でも別に悪いことを企んでいる訳じゃないよ」
提督 「うーん、見逃して良いものかどうか」
時雨 「企んでるというか、僕たちのがやっているのは『山城幸せ大作戦』だよ。だから応援してほしいな」
提督 「そういうことなら止められないな。俺も一枚噛みたいぐらいだ」
時雨 「ふふ、だめだよ。これは西村艦隊の作戦だからね。それに提督は自分のやり方でずっと頑張ってるでしょ?」
提督 「お、時雨いいこと言うな。その通り! 俺は山城を幸せにするためにずっと頑張ってるぞ! 振られてばかりだけどな!」
時雨 「くすくす。提督のそういう明るくて前向きなところは素敵だと思うよ」
176:
提督 「ふむ、じゃあ俺からもちょっと質問いいか?」
時雨 「なんだい?」
提督 「西村艦隊の訓練や演習に参加してる山城の様子を教えてもらいたいんだ」
時雨 「そうだね。真面目に訓練しつつ、扶桑と一緒にいられて喜んでるよ」
提督 「それは毎度のことだけどな。何か変わったところとかないか?」
時雨 「かわったところ。そうだね、いつもよりべったりしてる気がするかな。昨日も演習に向かう途上で、扶桑に『手をつなぎましょう!』とか言ってたよ」
提督 「なるほどね、大体予想通りだなぁ。さてどうするか……」
時雨 「何か迷っているの?」
提督 「まーな。西村艦隊の出撃、どうするかなーってな」
時雨 「ここまで訓練して、まだ迷ってるのかい?」
177:
提督 「ま、そうだな。ここまでして今更なしって訳にはいかないし、どっちに転んでも意味はちゃんとあるはずだからな。覚悟を決めたつもりだったんだけど、俺もまだまだだな」
時雨 「気になるね。何か心配事があるの?」
提督 「もちろん心配なのは山城のことだよ。大丈夫かなってな」
時雨 「ふふ、提督は本当に山城のことが好きなんだね。戦場に送り出すのが心配なの?」
提督 「普通の出撃ならそんなこと無いんだけどな。ま、今回は特別だ。時雨、くれぐれも山城のことをよろしく頼む。さっきの幸せ大作戦だっけ? その作戦として、みんなで気を配ってくれ」
時雨 「それはもちろん構わないけど……。そんなに言われると、僕も心配になってきちゃうよ」
提督 「わははは。ま、俺の杞憂で、実際は何事も無いかもしれないからな。それならそれが一番さ。ま、惚れた弱みの心配性だとでも思っておいてくれよ」
時雨 「惚れた弱みね……。提督は自分の気持を隠さず真っ直ぐだよね」
提督 「山城が相手じゃ、遠回しにしたら全く気づいてもらえないだろうからな」
時雨 「ふふふ、そうだね」
178:
――――― 夕方 提督執務室
179:
バタン!
山城 「ただいま戻りました! 時雨、寝てないわよね!?」
時雨 「おかえり。もちろん起きてるよ。どうしてそんなに昼寝を気にするんだい?」
提督 「ああ、昨日最上が昼寝しちゃってたんだよ。そのソファでぐっすりと」
時雨 「最上さんらしいね」
山城 「今日きっちり指導しておきましたから、もう昼寝なんてしないでしょう!」
提督 「わはは、鬼の山城にしごかれたか。それは最上もご愁傷様だ」
山城 「鬼とか言わないでくださいっ!」
時雨 「さて、山城も帰ってきたことだし、僕はもう失礼するよ。山城、仕事はちゃんと終わらせてあるから」
山城 「ええ、ありがとう」
提督 「時雨、お疲れ様。作戦の方がんばれよ」
時雨 「提督こそがんばって。健闘を祈っているよ」
山城 「?」
180:

……
山城 「はい、コーヒーどうぞ」
提督 「ありがとう。この山城特製コーヒーを飲むと一日が終わるなって気がするな」
山城 「おだてたって何も出ませんよっ」
提督 「わははは」
山城 (ふーふー)
提督 「山城、西村艦隊の訓練はもう十分か?」
山城 「十二分に時間を取って訓練してますからね。もうやることなんて無いくらいです」
提督 「だよなぁ。……もうこれ以上引っ張っても仕方ないか。山城、明日出撃だ。任務の海域を偵察程度に回ってきてくれ」
山城 「偵察だなんて。一気に制圧してしまえばいいじゃないですか」
提督 「ふむ……」
181:
提督 (じーっ)
山城 「な、なんですかっ。そんなじっと見るのはセクハラですよっ! ///」
提督 「山城、真剣に答えてくれ」
山城 「……はい?」
提督 「本当に、大丈夫なんだな?」
山城 「…………」
真剣に、じっと目を覗き込まれる。何かを見破られそうな気がして、慌てて目をそらした。
……ちょっと、どうしてわたしが目をそらさないといけないのっ!
182:
山城 「だ、だから訓練はもう十分だって言ったじゃないですか。大丈夫ですっ」
提督 「……ふぅ」
山城 「なんです、その溜息っ」
提督 「ま、明日は偵察がてらの出撃だ。一戦したらすぐ戻ってくること」
山城 「慎重すぎる気がしますけど……はいはい、わかりました」
提督 「ま、失敗したら俺が念入りに慰めてやるから、気軽に行って来い」
山城 「な、何を言ってるんですかこの変態っ! 失敗なんてしませんっ」
提督 「わはは、俺はどっちでもいいからな!」
山城 「それが司令官の言うことですかっ。まったくもう!」
183:
**********
最後はいつもの軽いノリで明るくしていたけれど、提督が『なにか』をすごく心配してるのは良く分かっていた。
わたしも漠然とした不安を感じていたけれど、それ以上何ができるわけでもなく……不幸だわ……。
**********
187:
――――― 翌日 南西諸島海域
188:
満潮 「敵影無し」
朝雲 「こちらも敵影無し」
扶桑 「ここまでは順調ね」
山城 「はい姉さま!」
最上 「ま、このへんの敵なら楽勝だよ」
扶桑 「慢心してはだめよ。赤城さんじゃないけれど」
時雨 「そうだね、提督もすごく心配していたし、慎重に行こう」
山雲 「はぁ?い」
そう、最上の言うとおり。南西諸島海域なんて何度来たかわからないほど出撃している場所。現れる敵艦隊も十分に把握しているし、そんなに心配する要素なんてないわ。
それなのに……
189:
山城 「姉さま、ちゃんといらっしゃいますか?」
扶桑 「ちゃんとあなたの斜め後ろにいますよ。どうしたの?」
山城 「いえ、ちょっと心配になりまして……」
満潮 「大丈夫よ、ちゃんとわたしたちで取り囲んで護衛してるんだから」
朝雲 「そうですよ。護衛こそわたしたちの仕事ですから!」
山雲 「山雲が?、ちゃーんと見てるから大丈夫よ?」
山城 「え、ええ……」
最初に任務の話を聞いたときから心にあった拒否感。
訓練中に感じていた漠然とした不安。
そして今感じている強い不安……
190:
時雨 「そろそろ接敵してもいい頃なんだけど……いた! 前方右方向に敵艦発見!」
満潮 「了解、戦闘準備しますっ」
山城 「みんな、くれぐれも気をつけてっ!」
朝雲 「大丈夫よっ! って……魚雷!!」
山雲 「か、回避……きゃぁぁ!」
ドーン
山城 「山雲っ!!」
山雲の被雷。立ち上る水しぶき。
191:
.
.
この瞬間、わたしの心と記憶にかぶさっていた蓋が……はじけた
.
.
192:
わたしは、戦艦として生まれた。
当時、戦艦は海洋国家たる我が国の国防を担う要であり、最高の戦力。
御召艦として陛下をお迎えしたこともある。本当に……栄光の日々だった。
でも……大戦のころには、海戦の花形は航空母艦に。戦艦もわたしよりもずっと強い子たちがたくさん就役していて、もうわたしの出番は無かった。
連合艦隊旗艦の栄光はどこへやら……出番も無いのに内地でひたすら訓練に励む日々。仲間たちの訃報ばかりを聞く日々。
そんな中、ついにわたしの出番が来た。しかも、輸送作戦とか空母のおまけのような護衛任務じゃない。主力として敵艦隊に突撃・撃滅する。その艦隊……西村艦隊の旗艦を拝命した。しかも、扶桑姉さまと肩を並べて戦える。
193:
出番のない中、誰よりも訓練に励んでいた乗組員のみんなの歓喜。わたしも出撃の喜びに打ち震えた。
もちろん、戦局の悪化、ひどい戦力差、そういうことは知っていた。それでも戦えることが嬉しく、また、あれほどの訓練をしたのだから必ず戦果をあげられるという自信もあった。
でも……行き着いた先は地獄。
絶望しかない戦力差。次々と被弾し沈んでいく仲間たち。そしてわたし自身も……。
国中の人々の期待を一身に受けて建造されたのに……
出番の無い屈辱に涙しながら猛訓練を続けていたのに……
旗艦という栄光を頂いたのに……
扶桑姉さまが一緒だったのに……
194:
.
.
わたしは、何の戦果もあげることなく、最愛の姉さまと仲間たちを沈めた旗艦として、その艦生を終えた……
.
.
195:
山城 「あ……あ、あ、ああぁぁ!」
扶桑 「山城、どうしたの?」
朝雲 「山雲、大丈夫?」
山雲 「大丈夫?、小破したけど問題ないよ?」
最上 「よし、じゃあこちらからも砲撃を……」
山城 「みんな下がって! わたしが敵を沈めてきますっ!」
時雨 「ちょ、ちょっと山城まって、旗艦が単独突出してどうするの!」
満潮 「これじゃ護衛できない、山城さん下がって!」
扶桑 「山城、待ちなさいっ!」
山城 「うわぁぁぁっぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
196:
――――― 数時間後 提督執務室
197:
提督 「そうか……それで旗艦大破による撤退か」
扶桑 「本当に申し訳ありません。あの子は完全に錯乱していました」
朝雲 「うん。びっくりしたわ。あんな山城さんを見たのははじめてだった」
山雲 「山城さん、泣きながら突撃してた?」
満潮 「……」
最上 「本当に苦しそうだったね……」
時雨 「提督が心配していたのは……こういうことだったんだね」
198:
提督 「いろんな可能性があった。だけどやっぱり悪い方に出てしまったな。皆、気にしなくてもいい。こうなる可能性を承知しながら出撃命令を出した俺の責任だからな」
最上 「そういわれてもなぁ」
満潮 「わたしたちはそれでもいいけど、山城さんは簡単には納得しないわよ」
扶桑 「そうね……今頃、どん底まで落ち込んでいるころね……」
提督 「山城はまだ入渠中なのか? 高修復材を使ったはずだが」
時雨 「損傷はもう治っているよ。だけど……少し一人にしてあげたほうが良いと思ってね。皆で先に来たんだよ」
提督 「そうか」
朝雲 「山城さん本当に辛そうで、どう声をかけていいかわからなくて……」
満潮 「そうね……かける言葉が見つからなかった」
最上 「僕もそうだよ。そもそも山城さんがあんな風になった理由もよくわからないし」
199:
時雨 「山城を幸せにしようと頑張ってきていたわけだけど、なんだか不幸のどん底になっちゃったね……」
扶桑 「そうね……」
提督 「なに、そんなに気にすることはない。いつか通る道だったし、ちゃんと克服できるさ」
満潮 「妙に自信ありげね。それにこういう事態になる可能性も予見してたみたいだし……司令官、何を知ってるの?」
提督 「ん? まぁ山城のことをよく知っているという感じかな。2年間の片思いをなめんなよ」
朝雲 「それじゃあ、わたしたちはどうしたらいいの?」
提督 「んー、まぁそのへんは俺に任せてくれよ」
扶桑 「山城を励まして下さるのですか?」
200:
提督 「励ますかぁ。今、直接いろいろ励ましの言葉をかけても全く効果無いだろうな。逆効果かもしれん」
山雲 「え?、じゃあどうするの??」
朝雲 「わかった、押してだめなら引いてみろね! 逆に冷たくするんでしょっ!」
扶桑 「そ、それは……」
提督 「それは駄目だな。冷たくされたらもっと落ち込む。山城はめんどくさい性格なんだよ」
最上 「身も蓋もないこと言うなぁ」
時雨 「ふふ……こんな時に不謹慎だけど、その通りだね」
満潮 「じゃあどうするのよっ!」
201:
提督 「山城ってさ、視野が狭くて思い込みが激しいタイプなんだよ。何かにとらわれると、他のことが全く見えなくなるって感じだな」
扶桑 「言葉の選び方はともかく……その通りですね」
提督 「そのせいで色々めんどくさいわけだけど、そのかわり気をそらしたり話を逸らすのは意外と簡単なんだ。すごくびっくりする何かを新たに提供すると、前に気にしていたことが頭から追い出されるんだ」
最上 「えっと、ということはつまり?」
時雨 「なるほどね。今は西村艦隊のことですごく落ち込んでる。だから他に気になることを提供して気を紛らわそうって訳だね」
山雲 「司令さん、頭いい?」
朝雲 「な、なるほど……」
提督 「それで落ち着いたら、改めて今回のことを話すさ。一度冷静になってから振り返れば山城もきっと気づいてくれるだろう」
202:
扶桑 「お話はわかりましたが……山城は本当に落ち込んでいます。それを吹き飛ばすようなことって何かあるでしょうか?」
満潮 「……難しいわね。わたしは思い浮かばない」
提督 「それも予め考えてある。ただ、結構な難題だから山城も困惑するだろう。よかったら皆で手伝って、山城の気持ちを明るくしてやってくれ」
最上 「それはもちろんOKだけど、僕達で力になれることなのかい?」
提督 「ああ、それはバッチリだ」
時雨 「提督の秘策か……気になるね」
朝雲 「うん、気になるっ!」
山雲 「気になる?」
提督 「ま、すぐわかるさ。扶桑、悪いんだが山城を連れてきてくれ」
扶桑 「分かりました。あの子、少しは立ち直っているといいけど……」
203:
――――― 少し後 ドック
204:
山城 「はぁ……」
ドックで入浴中。そう、わたしは一人でいつまでもドックにいることが多かった。
まったく……なんという失態! 前世のことはもちろんちゃんと覚えていた。西村艦隊のこと、あの海戦のこと、ちゃんと覚えていた。それなのに……
ううん、違うわね。覚えてはいた。でも、見ないように考えないように……その記憶はただそこにあっただけ。はぁ……
扶桑 「山城、だいじょうぶ?」
山城 「あ……姉さま……」
扶桑 「ほっ。返事をするぐらいの元気は戻ったみたいね。提督がお呼びよ」
山城 「あ……」
そっか……わたしの一人相撲で任務大失敗だもの……流石に提督も怒ってるわね。
今回の失敗はわたしの責任。せめてみんなが叱られることが無いようにしないと!
205:
――――― 少し後 再び提督執務室
206:
山城 「山城……まいりました」
時雨 「山城、もう大丈夫なのかい?」
山城 「ええ、もう完治したわ」
朝雲 「そういうことじゃなくてっ。すごく大変な感じだったけど……」
山城 「え、ええ。もう落ち着いているわ」
提督 「さて山城、今回の任務失敗の件だが」
山城 「提督! 今回の失敗は完全にわたし一人の責任です! みんなは巻き込まれただけです!」
提督 「そう言われてもな……これほど見事に失敗したとなると……」
山城 「いえ、本当にわたしの責任なんです! どんな罰でも受けますから、みんなは責めないで下さい!」
提督 「ふむ……どんな罰でも受けると」(ニヤリ)
山城 「え……? は、はい、わたしの責任ですから……」
山雲 (司令さん、なんか悪代官みたいだね?)
朝雲 (しっ! いいところなんだからっ)
満潮 (秋雲あたりが見ていたら喜びそうな展開ね……)
最上 (え、どうしてこれで喜ぶの?)
満潮 (あ、いえ、それは……)
扶桑 (しっ……ちゃんと見守りましょう)
207:
提督 「では、山城に処分を伝える」
山城 「は、はい……」
提督 「今回の失敗の責任を取り、山城は明後日、俺と一日デートすること」
山城 「………………え?」
扶桑 「あ、あの……提督?」
提督 「なお、デートの際は俺が喜ぶような私服を着てくること。明日一日かけて、その私服を選ぶように。以上だ」
山城 「…………は?」
時雨 「ぷっ……くすくす」
満潮 「……はぁ」
208:
山城 「/// はぁぁぁぁ!! な、何を言っているんですか! 公私混同極まれりです! パワハラですっ!」
提督 「なんだ……さっきまでのしおらしい態度はどうした。どんな罰でも受け入れるんじゃなかったのか?」
山城 「う……ぐ……そ、それはそうですが……でも公私混同じゃないですかっ! 嫌ですよ、で、で、デートなんてっ! しかも提督好みの服装とか……」
時雨 「くすくす……だめだよ山城。山城が先にどんな罰でもって言ったんじゃないか。これは提督の勝ちだよ」
扶桑 「そうね。この罰は妥当ね。だって山城が嫌がることじゃないと罰にならないものね」
満潮 「はぁ……ひどい罰だけど、そうね、効果的という意味ではしかたないわね」
朝雲 「明日は一緒に服を選ばないとね!」
山雲 「はーい、わたしも?わたしも?」
最上 「へぇ、楽しそうだね。じゃあみんなで山城に似合う服を考えよっか」
山城 「ちょ、ちょっとみんなまで!」
提督 「往生際が悪いぞ山城。これは司令官命令でもう覆らない。明日は秘書艦をお休みして、しっかりと服を選ぶように……俺好みのな」(ニヤリ)
山城 「く……くぅぅ……わ、わかりましたっ! 罰ですから仕方ありませんっ!」
209:
**********
ど、ど、どうしてこんなことに!
デートって……デートって!
私服なんてわたし持ってないし……ど、どうしよう、どんな服を着たらいいのかしらっ!
ああ……不幸だわ!
**********
214:
――――― 翌日 鎮守府近くの街
215:
朝雲 「お、山雲も似合うじゃないっ」
山雲 「えへへ?、朝雲姉とおそろい?」
最上 「二人共ショートパンツが似合うじゃないかっ。これは仲間が増えそうだね!」
朝雲 「そういう最上さんこそ、スカート似合ってますよ!」
最上 「面白そうな服だから選んだんだけど……なんかスースーして落ち着かないや ///」
山雲 「今時はそれぐらい普通ですよ?」
時雨 「それなら、このくらいがいいんじゃないかな?」
最上 「うわっ、時雨がお嬢様っぽい! そういうのはワンピースって言うんだっけ。かわいいね」
時雨 「これは着物の素材を使った和風ワンピースなんだよ。なかなかいいでしょ?」
山雲 「素敵ね?」
朝雲 「ね?」
216:
扶桑 「みんな華やかでいいわね」
最上 「そういう扶桑さんはすごいイメージ違うね! Tシャツにジーパンなんてっ」
山雲 「主婦っぽいわ?」
朝雲 「こらっ、失礼なこと言わないのっ」
時雨 「でも、活動的な感じで良いね」
扶桑 「うふふ、そうかしら? イメージが違うというなら満潮のほうがびっくりするんじゃないかしら」
朝雲 「なになに、満潮は何着てるの?」
満潮 「う、うわっ、こらっ、みるなー!」
山雲 「お花いっぱい模様のワンピースなんて、かわいいわ?」
時雨 「驚いたよ。とても可愛いね」
満潮 「/// ちょ、ちょっと着てみただけよ! そもそも、山城さんに提案するために着てみてるだけなんだから! わたしが着たかったわけじゃないわよっ」
最上 「いや、提案だけじゃもったいないよ。満潮、ほんとに似合ってるよ」
朝雲 「ほんと! 髪を解いてもいいかもね。そのほうが似合いそう」
満潮 「/// ほ、ほんとにわたしのことはいいからっ! ほら、山城さんがぼーぜんとしてるじゃないっ。山城さんに提案しないとっ!」
217:
扶桑 「ほら山城、みんなあなたの服を選んでいるのよ」
山城 「は、はい姉さま」
朝雲 「はいっ、じゃあ一番手はわたし達ね! 白いフリル付きのカットソーと、チェックのショートパンツ、タイツのセットでーす」
山雲 「ショートパンツはグレー地に薄くレッドのラインが入ってるのがかわいいの?」
山城 「///」
満潮 「ふぅん、かわいいじゃない」
最上 「うん、かわいい。こういう服を着ると全然戦艦には見えないね。軽巡ぐらいに見えるかもっ」
扶桑 「山城は意外と童顔だから……」
時雨 「すてきなコーデだね。じゃあ次は……」
最上 「じゃあ僕の番かな。さ、山城、次はこっちに着替えてね」
山城 「え、ええ……」
218:
最上 「じゃーん、野球のユニフォームチックな服だよ!」
山城 「こ、これ、ちょっとスカートが短いわ ///」
朝雲 「なるほどー、たしかにちょっとユニフォームっぽいデザインね」
山雲 「浦風ちゃんがたまに着てるユニフォームとにてるかも?」
扶桑 「ボーイッシュな感じがして新鮮ね」
満潮 「……ま、司令官はそういうの好きだと思うわよ」
時雨 「そうだね、確かに喜ばれそうだ。じゃあ次は……」
扶桑 「わたしは、自分が普段着られる服を選んだだけだから……。お洋服は良くわからなくて……」
時雨 「じゃあ満潮の番にしようか」
満潮 「……笑うんじゃないわよ」
219:
満潮 「いーい? そもそも司令官が好きそうな服を選ばないといけないのっ。だから、決してわたしがこういう服が好きなわけじゃないからね!」
時雨 「そんなに似合うのにもったいないね」
山雲 「黄色いお花がすごく華やかできれいね?」
朝雲 「ほんとね! それ、わたしも買っちゃおうかしら……。満潮、センスいいわね」
満潮 「/// わ、わたしを見てどうするのっ! 山城さんをみるのっ!」
山城 「うう、スースーする……」
扶桑 「なんだか、山城がすごく明るく見える……まぶしいわ……」
最上 「夏のお嬢さんって感じだね! 似合ってるよっ!」
山城 「///」
時雨 「うん、ほんとに素敵だと思うよ。さて、じゃあ最後は僕が選んだのだね」
220:
時雨 「和風の落ち着いたワンピースだよ。でも、模様は華やかなお花の可愛い感じなんだ」
山城 「わたしとしては、これが一番落ち着くわね」
扶桑 「ええ、いつもの和服から、少しだけバカンスに寄った感じかしら?」
満潮 「確かに、一番似合ってるわね」
朝雲 「でも、インパクトという点ではいまいちかも?」
山雲 「そうね?、違和感がなさすぎるかも??」
最上 「難しいところだね」
時雨 「さて、じゃあもう一回りして考えようか」
朝雲 「さんせーい!」
山城 「ま、まだ選ぶの……?」
わいわい
221:
――――― 数時間後 帰り道
222:
最上 「なんだかんだで、いっぱい買っちゃったなぁ」
朝雲 「最上さんはまだ少ない方じゃないですかっ。わたしと山雲なんて両手いっぱいですよ!」
山雲 「全部おそろいなんだよね?♪」
朝雲 「ライオンさんだけは真似しないでよねっ」
扶桑 「わたしもつい買ってしまったけど……満潮も結構買ったのね?」
満潮 「こ、こういうのも経験だからっ! ちょ、ちょっと試してみようかなって思っただけです!」
時雨 「うん、何事も経験だよね。戦闘服は汚れないし、入渠で勝手に新品になるから、つい便利すぎて着たきりだったけど……。これを機会に、僕もいろいろおしゃれしてみようかな。山城も一緒にね」
山城 (ぐったり……)
時雨 「ふふ……もう頭がパンクしてるみたいだね。まだたくさんの候補の中から明日の服を選ぶ作業が待ってるよ」
山城 「う、うぐ……。時雨、いっそこれって決めてもらえないかしら?」
時雨 「だめだよ。ちゃんと自分で選ばないと。それが罰なんだからさ」
扶桑 「そうよ。応援はするけれど、ちゃんと自分でがんばるのよ。じゃあ、山城は服選びが大変だろうから先に帰っていて。わたしたちは他の仕事をこなしていくから」
山城 「はい、姉さま……」
223:
――――― 少し後 提督執務室
224:
時雨 「……という感じで、5種類ほどに絞り込んで買い込んできたよ」
提督 「そうか、お願いした通りだな。助かるよ、ありがとう」
扶桑 「提督、お洋服を一緒に買いに行って『必ず何種類かの候補を買ってきて最後は山城に一人で選ばせること』というご依頼だったわけですけど……。山城、今頃鏡の前で唸っていると思います。これで良かったのですか?」
満潮 「洋服そのものがはじめてなんだもの。戸惑うのも当然だわ」
提督 「それでいいんだよ。たくさん悩んで、疲れ切ってばったりと寝るって感じで」
最上 「それじゃあ、せっかくの明日のデートが寝不足になっちゃうよ」
提督 「ま、ゆったりしたデートにするから大丈夫だよ」
朝雲 「でも、どうしてそんな風にするの?」
提督 「いや、考える隙を与えたら、また西村艦隊の件を思い出しちゃうからさ、あいつは」
扶桑 「あ……」
満潮 「そういうことね……」
225:
時雨 「でも、いつまでもそうやってごまかし続けるわけにもいかないよね?」
提督 「明日ゆっくり話すつもりだよ。だから大丈夫だ」
朝雲 「えー! せっかくのデートなのにそんな話するのっ!?」
提督 「大人のデートはそういうものなのっ。遊園地に行ったりする訳じゃないんだから」
朝雲 「あーあ、思ってたのと違う?」
山雲 「そういうデートはわたし達で行こうね?♪」
提督 「じゃあ皆ご苦労だった。後は明日俺が頑張るから、任せておいてくれ。なお、デートの尾行は厳罰な!」
最上 (チッ)
扶桑 「はい。それでは提督、山城のこと、くれぐれもよろしくお願いいたします」
提督 「ああ。大事な妹の心、しっかりケア出来るようがんばるよ」
226:
――――― 少し後 鎮守府廊下
227:
最上 「提督はデートって言ってるけど……やっぱり提督による山城さんを励ます会みたいな感じなのかなー」
朝雲 「デートといったら遊園地とか動物園とか映画館とか……そこで手を繋いでドキドキしたり……そういうのじゃないと駄目だと思うわっ!」
扶桑 「提督はともかく、山城はそういう感じかもしれないわね」
満潮 「でも、それじゃあ、今山城さんが抱えている悩みや問題は解決しませんね」
山雲 「好きな人とデートしたら、それだけで幸せいっぱいになると思うけどなぁ」
時雨 「山城はきっとそれだけじゃ駄目なんだと思うよ。提督はきっと良くわかっていて、それを落ち着いてゆっくり話すためにデートに誘ったのかもね」
朝雲 「えー! でも山城さん初デートなんでしょ!? 恋する乙女としてはデートを蔑ろにされると悲しいと思うけどなぁ」
最上 「ていうか、山城さんは本当に恋する乙女なの?」
扶桑 「多分、そうだと思うだけど……。未だにはっきりしないのよね、あの子」
時雨 「とりあえず僕達の役割は終わったんだから、後は明日の結果待ちだね」
228:
――――― その頃 山城の部屋
229:
山城 「こ、これは確かに可愛い服かもしれないけど……絶対、絶対似合ってない! これじゃあ、那珂みたいじゃない……。でもこのひまわりのところが可愛い……。って、ダメダメ! 提督に引かれたらどうするのっ!」
山城 「これはやっぱりこどもっぽい……駆逐艦みたいよね。でも提督は駆逐艦をかわいいかわいいって言っているからこういうののほうが……でもわたしが着たところで……あああああ」
山城 「これは……うう、いくらなんでも短いわよね。後ろから見たら……ちょっとかがんだら見えちゃうし! で、でも朝雲は提督がこういうのが好きだって……あの変態変態!」
山城 「これは本当に素敵だと思うけれど……提督は好きじゃないかしら? だ、だからといって破廉恥な格好をするなんてとんでもないわっ!」
ぎゃーぎゃー
230:
**********
どれだけ考えても決めきれず。
何度も脱いだり着たりを繰り返して。
はじめてのおしゃれにちょっとワクワクしている自分もいて、この服で提督がどう言うかを想像しては喜んだり怒ったり……。
はっ! よ、喜んだりするわけ無いわ! これはあくまで、提督の罰だから仕方なく、提督好みの服を選んでるのよ!
……そして気がつくと服の山の中で寝ていたのよね。ああ……不幸だわ!
**********
236:
――――― 翌日 山城の部屋
237:
山城 「むにゃ……ていとく……これはセクハラ…………」
扶桑 「ほら山城、起きなさいったら」(ゆさゆさ)
山城 「むにゅ……ほへ、姉さま?」
扶桑 「姉さま、じゃありません。もう朝ですよ。結局そのまま寝てしまって……」
山城 「へ……朝……? あ、あーー!」
そう、昨夜はどの服を着ていくか悩みに悩んで……全部をハンガーにかけて見比べてウンウンと悩んで……。う、そのまま寝てしまったのね。
あれ、でもお布団かぶってる?
238:
扶桑 「よく眠っていたから、お布団だけかけておいたのよ。せっかくのデートなのに、風邪をひいてしまったら大変ですからね」
山城 「ね、姉さま……ありがとうございます! で、でもどうしよう! まだ選んでないのにっ!」
扶桑 「本当に困った子ねぇ……。自分がいちばん気に入ったのものを選べばいいでしょ?」
山城 「で、でも、提督の好みが……」
扶桑 「気にしてもしょうがないでしょう。はっきりとお好みがわかるわけじゃないのだから……」
山城 「う、それもそうですね……。じゃ、じゃあやっぱりこれにしますっ! …………あ……」
しとしとしとしと
窓の外はどんよりとした雲と雨。
239:
扶桑 「雨で残念ね」
山城 「はい……」
待ち合わせ場所は鎮守府近くの自然公園。聞いた話だと、あちこちに花畑があるきれいな公園らしい。提督は実は自然が大好きな人。きっとゆっくりと公園を回るつもりのはず。それなのに……
山城 「はぁ……」
せっかくの日なのに、雨女の自分が憎らしい。不幸だわ……。せっかくの新しいお洋服だけど、雨で汚れちゃうわね……
山城 「って!! 違います、ちっとも残念じゃありません! あーあ、いっそ雨で中止になればいいのにっ!」
扶桑 「はぁ、本当に困った子ねぇ」
もちろんあの人が中止になんてするはずが無い。せめて雨で汚れないように気をつけて行かなきゃ……
240:
――――― 0950 自然公園 東屋
241:
しとしとしとしと
山城 「えっと、このあたりのはずよね」
地図を頼りに待ち合わせ場所に向かう。えっと、小高い丘になっていて屋根があるところ……あ、きっとあれね。
結構歩いてきたけど、髪とか服装は大丈夫かしら……。くっ、なるほど、こういうときのためにみんな鏡を持ち歩いてるのね。今更気がつくなんて……不幸だわ……。
とはいえ、無いものは仕方がない。急いで東屋へと向かう。
もともと人なんて全然住んでいない場所の公園。しかもこの雨。人の気配は一切無い。
でも……目的の東屋に立っている人が一人。
見慣れない純白の軍服を着て、まっすぐ立ち、遠く海を見ている姿。いつもと違う提督の様子に、つい立ち止まって見とれてしまった。
どのくらい見とれていただろう。ふと振り返った提督がこちらに気がついて、いつもの笑顔で手を振った。
提督 「山城、こっちだ」
本当に嬉しそうな笑顔にどきりとさせられる。ふ、ふんっ、どうしてわたしがこんな気持にならないといけないのっ!
242:
山城 「はいはい。ば、罰ですからね……来ました、来ましたとも ///」
提督がじっと全身を見ているのがわかって、恥ずかしくて顔を上げられない……。くっ、やっぱりあっちの服のほうが良かったかしら……
提督 「うん、落ち着いていて、それでいて可愛らしい服だな。頑張って選んだんだな、よく似合ってる! すごい可愛いぞ!」
山城 「/// かっ!」
ぐぬ、ぐぬぬぬっ!
山城 「/// か、か、可愛いとか言わないで下さいっ!!」
提督 「わはは、まぁ、普段は綺麗っていう感じが強いけど、こうして完全私服だと、可愛い女の子だよ、ほんと。これは罰を課したかいがあったというものだな!」
山城 「/// くっ……そ、そういう提督こそ、おしゃれしてどうしたんですかっ」
提督 「いや、せっかくのデートだからな。第二種でちょっと気取ってみようかなと。どうだ、惚れるだろ?」
山城 「は、はいはいはい、寝言は寝て言ってくださいね!」
提督 「わははは、この程度じゃだめかぁ。ま、こっち来て座ろうぜ。ほら、ベンチに座布団敷いてあるからさ」
山城 「は、はい」
243:
提督 「ほら、今日はちょっと肌寒いからな。まずはホットワインを入れるからまっててくれ」
山城 「は!? ていうか、なんかお重とかコンロとかいっぱい並べてどうしたんですか!?」
提督 「いや、今日のデートはここでお花見パーティーなんだよ。ほら、まわり見てみろよ」
山城 「まわり……? あ…………」
見渡すと、あじさいによく似た花が一面に咲いていた。ピンク、水色、紫……色とりどりの瑞々しい花が咲き乱れ、本当に綺麗だった。
山城 「あじさいじゃないですけど……よく似た感じの、すごくきれいな花ですね……すごい」
提督 「なんだ、ここへ登ってくるときにも見えてただろ」
山城 「あ……、え、ええ ///」
ぐぬ……提督に見とれて周りが全然見えていなかったとは……不覚よ! そんなこと言うもんですかっ!
提督 「ほらできた。温まるぞ」
山城 「赤い……ワインってお酒ですよね。なんだか不思議な飲み方ですね?」
提督 「ああ。ホットワインって言って、ワインを柑橘類や香料と一緒に沸かして飲むんだ。体があたたまるから風邪のときなんかにも飲むんだぞ」
山城 「ふーふー。あ……ほんとに温かい」
提督 「だろ?」
244:
提督 「じゃあ昨日の話でも聞かせてくれよ。西村艦隊みんなで服を選びにいったんだろ? さぞかし賑やかだっただろう」
山城 「ええ! もう大変でした。みんな好き勝手服を選んできて、それを代わる代わる着せられて……」
提督 「ほほう。いま着てるのもその一着というわけだ。おそらくは扶桑か時雨が選んだ感じか?」
山城 「ご明察です。これは時雨が選んでくれました」
提督 「いかにもだよな。でも、他のメンツが選ぶ服って想像つかないなぁ。特に最上とか満潮とか……」
山城 「最上はもう、変な服で …… 満潮は可愛いのを選ぶセンスが ……」
ワイワイ
山城 「そういえば提督は昨日はどうされてたのですか?」
提督 「休みにしちゃったよ。どうせ急ぎの仕事も無いしな。それで例によって、港でカヤックに乗ってたんだが……」
山城 「ふふふ……また誰かに見つかっちゃいました?」
提督 「よりによって島風に見つかっちまってな。例によって競争することになったんだが、あいつ、艤装つけて全開なんだよ。手漕ぎ相手にだぜ?」
山城 「あははは。それは大変でしたね」
提督 「ほんとだよ……。『提督、おっそーい!』って100回くらい言われた気がする」
山城 「それはご愁傷様でした♪」
デートというからすごく緊張していたけれど……。こうして話し始めてみればいつもと変わらず。2年間ずっと続けてきたささやかな雑談時間。こうなってみると、しとしとと降る雨も良いアクセント。
245:
提督 「そろそろ腹が減ってきたな。飯にするか」(ドンッ!)
山城 「立派な重箱ですね」
提督 「鳳翔さんに特別に作ってもらったんだよ。ささやかながら酒も持ってきてるから。ありがたく頂こうぜ」
山城 「昼間からこんな……いいのでしょうか」
提督 「二人共休日なんだからいいじゃないか。それに、俺たちどうせザルなんだから」
山城 「まぁ、そうですけど……」
提督 「さて中身はと……おお、豪華だなぁ」
山城 「ほんとですね。あとで鳳翔さんにお礼をしないと」
提督 「そうだな。じゃあお重は一緒に返しに行くか」
山城 「そうですね、じゃあ後ほど……」
提督 「ほんじゃいただきまーす」
山城 「頂きますっ」
246:
提督 「もぐもぐ……そういえばさ、山城の代わりに持ち回り秘書をやってくれたみんなだけど」
山城 「もぐもぐ……はいはい」
提督 「仕事しながら結構色んな話が聞けたよ。前にも少し話したと思うけどさ」
山城 「もごもご……(うんうん)」
提督 「魚雷の被弾から一瞬での轟沈がトラウマだった山雲だけど、危険があっても大切な人と戦える喜びを大切にしようって思った話だろー」
山城 「……」
提督 「自分が沈んだ任務でも全く意に介さなかった満潮だけど、自分の大切な人が同じような任務に行くとなるととても平静ではいられないことに気がついた。その話をしたのがきっかけで、八駆はさらに仲良くなったみたいだな。今度は満潮を一人にはしないって」
山城 「ああ……秘書艦に4人で来ていたのはそういうことでしたね……」
提督 「山城、箸が止まってるぞ。あくまで雑談として聞いてくれよ」
山城 「は、はい……」
247:
提督 「最上はまぁ……前世を気にしないお気楽さが特徴だからな。それでも衝突は恐いらしいが」
山城 「ふふ……そうみたいですね」
提督 「扶桑は……やはり前世で戦いの場がほとんど無かったことが悔しかったんだな。そしてやっときた見せ場で活躍できなかった後悔。だからこそ今度の任務でリベンジを!と張り切っていた」
山城 「そうですね! 張り切る姉さまは素敵ですっ!」
提督 「あはは。そして時雨は……。時雨はな、一人生き残ったことが後ろめたかったと。そのことを夕立に相談したらな、夕立に『皆を守って沈むことは満足で誇りなんだから、せっかく生き延びたことをそんな風に言うのはダメだ』って叱られたそうだ」
山城 「夕立が……あの子がそんなことを……?」
提督 「意外だろ? あのお気楽ぽいぽい娘も、やっぱり色々考えるところがあるみたいだぞ。それで時雨は、後ろめたく思うより、みんなへの感謝を込めて今世では皆が幸せであるように頑張るんだそうだ」
山城 「……」
248:
提督 「ほら、一杯いくか?」
山城 「ありがとうございます」(ちびっ)
提督 「じゃあ俺も……」(ごくっ)
提督 「……やっぱり、前世の辛い記憶をなぞるような作戦や任務では、どこか平静ではいられないものだと思う。俺だって前世の記憶があったとして、自分が死んだ作戦を再現した戦場に行けとか言われたら、やっぱり色々考えるだろうからな」
山城 「そう……提督でもそうですか……」
提督 「心あるものなら誰でもそうなると思うぞ」
山城 「……」
提督 「ただな、俺は間違えた」
山城 「間違い?」
提督 「ああ。前世に思いを馳せて、苦しかったり辛かったりするなら、時間を置いたり、いっそ任務を忘れちまえばいいと思ってたんだ」
山城 「はい……? ずっとそうおっしゃってましたよね」
提督 「そうだな。でもな……。あまりにも苦しすぎて、辛すぎて、前世と向き合うことすら難しい。そういう場合のことをちゃんと考えきれていなかった。それが俺の間違いだ」
山城 「あ……」
提督が何を言っているのか、良くわかった。この人はわたしのミスを、あの失敗を、自分の落ち度だと言っているのね。
249:
山城 「待って下さい提督。あれだけ断る機会を与えられながら作戦実行を急かしたのはわたしです。提督の責任ではありませんっ!」
提督 「そう言われてもなぁ。山城が特別に辛いことはわかっていたのに、その配慮が足りなかったのは事実だからな」
山城 「特別って……沈んだのはみんな一緒ですし、生き延びてしまったこともまた辛いことです」
提督 「ま、それはそうなんだけどな」(ごくっ)
山城 「……」
提督 「ようやく掴んだ出番で為す術なく沈んだこと。自分の大切な人が沈んでしまったこと。そして……それらの責任を持つ旗艦という役割であったこと」
山城 「…………」
提督 「責任感の強いお前のことだ。どれほど悔い、それが重くのしかかっていたか……想像に難くない」
山城 「………………」
提督 「振り返り、この記憶と向かい合えば、お前は絶対に平静ではいられないはずだ。その様子が見られなかったから、きっと前世の記憶を深く見ないように、向かい合わないようにしているのかなと思っていた。それをずっと続けられるならそれも良いと思ったんだが……戦場にでたら思い出しちゃうよな」
250:
山城 「う……うぁ……」
提督 「本当に辛かったと思う。済まなかった」
山城 「だ、だから……提督のせいじゃ……ぐす……う、うぅ……」
提督 「誰よりも辛かったのは山城だよ。辛い記憶と向き合わせて、本当にごめんな」
山城 「う、うぅぅ……うわぁぁぁっぁぁぁああん」
提督 「よしよし、ほんとにごめんな」
山城 「うわ……ぐす……だ、だって……だって……姉さまが……」
提督 「うんうん、扶桑がどうした」
山城 「わたし……大切な姉さまがいつの間にか攻撃されて沈んで……それにすら気が付かず……ぐず……旗艦なのに姉さまを守れなくて……わぁぁぁぁぁぁん」
提督 「そうだな」
山城 「ぐすっ……みんなも、どんどん被弾して……守ることも敵を取ることもできなくて……ぐすぐす……」
提督 「すごい大軍が相手だったんだ。仕方がなかったんだよ……」
山城 「う、うぅ……わかってます、そんなことはわかってるんです! ぐすっ……でも、みんなと姉さまを守りたかった……乗組員のみんなと戦果を挙げたかった……ぐすぐす……」
提督 「そうだな……。でも頑張った、勇敢だったよ。皆最後まで頑張ったんだ」
山城 「うぁ……う、うわあぁぁぁぁぁん」
前世からずっとため続けた思いを吐き出すように、提督の胸に顔を埋めてずっとずっと泣き続けた。
提督は……何も言わずゆっくりと撫でてくれた。
251:
提督 「落ち着いたか。食事の途中で悪かったな。まだまだあるからつまみながら話そう。ほら、お茶」
山城 「ぐすっ……。はい…… ///」
提督の胸元がわたしの涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっている……恥ずかしい! 不幸だわ……
提督 「せっかくのデートなのに無粋な話をして悪かったな。でもどうしても今日話しておくべきだと思ったんだ」
提督が本当に申し訳なさそうにこちらを見る。一生懸命考えてわたしのためにやっていることなのに、この人は本当にこういう人……
山城 「いえ……。その……悔しいですけど、思いっきり泣いて吐き出して……なんだかスッキリしてます」
提督 「そうだよ。一人で抱えきれない悩みこそ、人に話してスッキリすればいいのさ。俺ならいつでもウエルカムだからなっ!」
山城 「くっ……いい笑顔しないでくださいっ」(ぷいっ)
提督 「わははは。まぁ、すっきりしたところで、一度西村艦隊のみんなで話し合ってみろ。その結果次第で、任務を続けるかどうか考えるから」
山城 「はい……」
西村艦隊……あの地獄の海戦……でも……
山城 「でも……できれば続けたいと思います」
提督 「……そうなのか。理由を聞かせてもらってもいいか?」
252:
山城 「それはその……何ていうか……」
提督 「ふんふん」
山城 「ここのところずっと一緒に訓練したり、買い物したり、ドタバタしたりしてきて……西村艦隊で一緒にいるのも悪くないかなと」
提督 「そうか……うん、それならいいかもしれないな」
山城 「……なんです? またいい笑顔で」
提督 「いやいや、結構なことだなと思ってな」
山城 「くっ!」
……西村艦隊のみんなと一緒にいることが「楽しい」と上手く言えないわたしを「わかってるから」と言わんばかりの笑顔で見つめる提督がムカつくわっ!
提督 「西村艦隊も、このまま礼号組みたいになるのかもなー」
山城 「あのメンツはちょっと……霞がちょっと気の毒ですけどね」
提督 「いや、霞もブーブー文句いいながら楽しんでるからいいんだよ。ああいう、普段とは違うメンバーでいつもと違うノリで楽しめるメンバーっていうのもいいよな」
山城 「そうですね……」
そうね、西村艦隊もそのうち彼女達みたいに、集まっては楽しそうにしてる集団になれたら……それは素敵かもしれないわね。
それから……西村艦隊の日々、姉さまのこと、提督の趣味のこと、そんな他愛もない話をいつまでもいつまでも続けていた。そして……
253:
――――― 夕方
254:
提督 「さて、もう日も傾いてるみたいだな。そろそろ帰るか」
山城 「え、もうそんな時間ですか?」
提督 「ああ。話も尽きないが、続きはまた執務室で、だな」
手早く片付けを始める提督。手伝いながらふと思う。今日は罰としてのデートだったのに、結局はわたしの悩みを聞いて励ますための1席だったような気がする。先日の任務でやらかしたわたしのケアのための方便だったのかしら……そう思うと少し寂しく感じる。ど、どうしてよ!
山城 「あの……提督?」
提督 「んー?」
山城 「今日は罰としてデートだって言いながら、本当はわたしの悩み相談会だったのですか?」
提督 「いや、俺としてはデートのつもりだぞ」
山城 「でも、デートと言いながら、こう席に座って一日中という準備でしたし……」
提督 「ああ、晴れてたら公園を色々回るつもりだったんだよ。ここなら人気もないからゆっくり話しながら散歩もいいだろ? だがまぁこの天気だったからな」
山城 「あ……」
結局……わたしが雨女だったから、デートが悩み相談会になっていただけなのね。
……不幸だわ。
255:
山城 「申し訳ありません、わたしが雨女なばっかりに……」(しゅん)
提督 「ん? 何言ってるんだ。雨だからこその素敵なデートができたじゃないか」
山城 「へ?」
提督 「ほら、東屋を取り囲んでるこのきれいな花な。これ、晴れてるとしぼんじゃって見られないんだよ」
山城 「そうなんですか?」
今日ずっと眺めていたあじさいに似た花たち。今も元気にみずみずしく、色とりどりの花を見せてくれている。
提督 「山城が雨女なのは百も承知だからな。山城が雨を降らせてくれたら、ここで良い花見が出来るなと思ってたんだ。今日は一日、良い花を堪能したよ。懐かしい本土のあじさい畑を思い出した」
山城 「そう……でしたか……」
提督 「ま、花という点では、着飾った山城が一番の華だったけどな!」
山城 「/// は、恥ずかしいお世辞を言わないで下さいっ!」
提督 「わはははは! それにほら、雨を降らせてくれたらもう一つ、この楽しみがあるなと用意してたんだ」
山城 「……? 大きめの……和傘ですか?」
提督 「そうそう。相合傘っていうやつだ!」
山城 「ちょっ! わたし傘持ってきてますから!」
提督 「だーめ。デートなんだから傘使用禁止だ。帰りは一緒に入っていくぞー」
山城 「ぐぬぬぬ……」
256:
――――― 帰り道
257:
提督 「ほら、もっと寄ってくれていいんだぞ?」
山城 「/// こ、これで十分ですっ」
提督と相合傘でゆっくりと歩く。雨はもう小降りだ。
ドキドキしながら間近の少し高いところにある提督の横顔を盗み見る。
本当に嬉しそうにニコニコしているその横顔。わたしなんかと並んで歩くだけで、どうしてこんなに喜んでくれるのかしら……
山城 「提督、今日は本当に有難うございました。わたしの悩みのことで……」
提督 「何を言ってる。俺としてはちゃんと話せてホッとしたよ。元気づけられたなら本当に嬉しい」
山城 「……はい」
冗談めかしながら、いつも艦娘みんなのこと、そしてわたしのことに心を配ってくれる人。真剣に頑張ってくれる人……
258:
きゅっ
提督 「お?」
傘をさす提督の右腕に両手を添える。
山城 「あ、雨を降らせてしまったお詫びです。ちょ、ちょっとは相合傘らしくしてあげます ///」
提督 「おお! 山城、すばらしいぞっ。これは雨に大感謝だな! いやぁ、雨で良かった良かった!」
赤面しつつまた提督を盗み見ると……。さっきよりさらに嬉しそうな満面の笑顔になっていた。もうっ!
提督 「いやもう、これはどこからどう見ても恋人だよな! いやぁ、まいったなぁ!」
山城 「誰も見てませんからっ!」
それだけじゃない……わたしの雨女……不運すら幸せに変えようとしてくれる人。
わたしのことを見て、案じて、わたしの幸せを願ってくれている、本当に優しい人。
きゅっ
提督の腕に添えた手に力が入る。
259:
わかっていた。
この人がとても優しく魅力的で、わたしのことを真剣に想ってくれていることを。
そして……その想いに向き合ってしまえば、抗うことなどできないと言うことも。
だから……見ないように、考えないように、考えをそらすように……そうしてきた。
そう、西村艦隊の、あの地獄の記憶から目をそらして来たように。
でも……わたしは西村艦隊の記憶と向き合い、逃げることを終えた。
そして時を同じくして……提督の想いとも向き合ってしまった。
……そう、ついにわたしは逃げ切ることができず囚えられてしまったのだ。
提督 「山城、せっかくの服が濡れちゃってるぞ。もう少し寄るといい」
山城 「……はい」
今度は素直に提督に寄る。腕が触れ……手だけでなく腕からも提督の熱を感じる。それがどうしようもなく嬉しくて……心が一杯になる。もうごまかすことは不可能だった。
260:
.
.
.
そう……この日わたしは、恋に堕ちた。
.
.
.
268:
――――― 深夜 扶桑と山城の部屋
269:
しとしとしとしと
まだ雨は降り続いていた。
扶桑 「すー……すー……」
眠れない。
目を閉じると……提督の優しい言葉が……嬉しそうな笑顔が……海を見ながら真剣に考えている横顔が……そして、手を触れた熱が……頭の中を巡って止まらない。
山城 「はぁ……」
たまらず姿勢を変える。すると行儀よく眠っている姉さまの横顔が視界に入る。
山城 「ああ姉さま、寝顔も素敵です……」
つぶやいて、じっと姉さまを見つめる。本当に大切な人。前世でひどい別れ方をして、再会を願って願って……ふふ、提督が一生懸命がんばってくれたっけ……そして出会えた喜び。それからずっとこうして同じ部屋で、二人の時間をすごしてきた。
山城 「よしっ!」
気合を入れて考える。そうだ、考えてみればわたしが提督に恋しているのは……悔しいけれどずっと前から。西村艦隊の記憶と同じ……わかっていて目をそらしていただけ。
だから大丈夫。ただそれをはっきり自覚しただけで、中身は何も変わっていない。明日からも、何事も無かったように普通に過ごせる。そう、きっと大丈夫!
扶桑 「すー……すー……」
山城 「姉さま、見ていて下さい。山城、頑張りますから!」
270:
――――― 翌日 提督執務室
271:
提督 「……そういうわけで、西村艦隊としての任務を継続するかどうか、山城も交え全員でもう一度相談してほしい」
扶桑 「はい、それはもちろん構いませんが……」
朝雲 「山城さんは、どうしてそんな離れたところにいるの?」
山城 「え゛!? わ、わたしはいつもどおりよ!」
提督 「そうなんだよー。なんか今朝から、一定距離以上絶対近づかせてくれないんだよ」
時雨 (あやしいね)
満潮 (あやしいわね)
朝雲 (むっちゃあやしいわ!)
山雲 (怪しんでる朝雲姉もかっこいい?)
扶桑 (本当に様子が変ね)
最上 (ちょっとお腹すいたなぁ)
272:
提督 「じゃあ山城、秘書艦は今日はもういいから、納得行くまで話し合ってこいよ」(一歩寄り)
山城 「は、はぃぃ! ちゃんと話してきますっ!」(一歩離れっ)
提督 「だから、なんで逃げるんだよっ!」
山城 「に、逃げる!? な、なんですか、言いがかりはやめて下さいっ」
提督 「そんなこと言われたら……無性に追いかけたくなるな……部屋のカドにでも追い詰めて……」
山城 「ぎゃー! セクハラですセクハラっ!」
扶桑 「二人共、何してるんですか……」
時雨 「別に喧嘩してる訳じゃなさそうだね」
最上 「ちょっと楽しそうだねっ」
山城 「楽しくないわよっ! じゃあ、みんな行きましょっ。では失礼しますっ!」
バタン
提督 「ふむ……昨日はいい感じで距離を詰められたと思ったんだがなぁ……急いで近づきすぎたかな?」
273:
――――― 少し後 会議室
274:
扶桑 「それじゃあ……西村艦隊任務を継続するかどうか。他のみんなの意思はもう固まっていると思うから……。山城、思っていることを話して」
シーン
山城 「はい、姉さま。それじゃあみんな、少しわたしの話を聞いてくれる?」
時雨 「山城、もし辛かったら、理由など無しで解散でもいいんだよ?」
山城 「時雨、ありがとう。でも大丈夫よ。結論から言えば、わたしはこの任務を続けたいの」
満潮 「……戦場であんなにも取り乱していたじゃない。それなのに続けるの?」
山城 「ええ。ちゃんと最初から話すわね」
提督に聞いてもらったこと。励ましてもらったこと。それを思い出しながらゆっくりと話す。
山城 「前世のわたしのことはみんなも知ってるわよね。ずっと実戦に参加することもなくひたすら訓練をするばかりの日々。そして大勢の仲間が沈んだ頃、数合わせのように実戦に投入された」
扶桑 「わたしもほとんど同じようなものね……。それが西村艦隊」
満潮 「そうよね。生き残りの寄せ集めみたいな艦隊だものね」
山城 「みんなは実戦をくぐり抜けてきた生き延びた結果だもの。立派なものよ」
275:
山城 「そしてあの地獄の海戦。……わたしはね、あの戦いには後悔しかない。大切な姉さまを気づかないうちに沈められたり、何一つ戦果を挙げられなかったり……。でも、時雨が生き延びてくれたことだけは嬉しいわ。生き延びてくれてありがとう、時雨」
時雨 「うん……僕も辛かったけど、僕を逃げ延びさせてくれたこと、感謝しているよ」
山城 「情けない話だけど……みんながちゃんと向き合って心の整理をつけたこの地獄の記憶ね。わたしは……全然思い出せないでいたの。ううん、ちゃんと覚えてはいるんだけど、ただの知識みたいな……他人事のような感じだったの」
満潮 「わかるわ。それだけ……辛かったのよ」
扶桑 「そうね……あまりに重い記憶だから……」
山城 「でも、また西村艦隊のみんなで出撃するなら、当然向き合うべき記憶だったのよ。でも逃げ続けていて……提督にはお見通しだったみたいだけど……。戦場に出て、そのしっぺ返しをくらったのね」
最上 「そういうことだったのか……」
朝雲 「山城さん、本当に辛かったのね」
山雲 「大変だったのね?」
276:
時雨 「それでもなお任務を続けたいという理由を教えてくれるかな?」
山城 「そうね……うまく言えるかしら」
少し目を閉じて想いを巡らす。任務の話が出てから今日までの、西村艦隊のみんなとのバタバタした日々を。
山城 「確かに辛い記憶に繋がったメンバーね。だけど……同時に死線を共に戦った戦友よね。その戦友たちとまた戦えること。一緒に訓練したり騒いだり……。そういうことが、その……嬉しい……わ」
満潮 「言いたいこと、よく分かるわ。そうね、これもまた絆なのかもね」
朝雲 「うん、わたしもすごく楽しい……充実してるっ」
山雲 「そうね?」
最上 「そうだね、僕も賑やかで楽しいよ」
扶桑 「うふふ……そうね、とても賑やかで……わたしも楽しんでいるかも」
時雨 「そっか、山城もちゃんと楽しんでいてくれたんだね。それなら決まりだ。また戦場で山城がつらい気持ちになったとしても、今度はみんなでちゃんとフォローするよ」
扶桑 「そうね、今度は失敗しないわ」
山城 「う……あ、ありがとうみんな……ありがとう姉さま……わたっ……わたっ……わたし……ぐす」
わたしは良い仲間に恵まれた。本当に心からそう思う……
277:
扶桑 「じゃあ明日からまた西村艦隊でがんばりましょう」
山城 「はい、姉さまっ!」
一同 「おー!」
朝雲 「はいはーい! じゃあ、この話題はこれで終わりで、そろそろ本題にはいりませんかっ!?」
山雲 「そうだよね?」
時雨 「そうだね、じゃあ早……」
山城 「ちょっと待って! 本題ってなにっ?」
最上 「やだなぁ、昨日のデートのことに決まってるじゃないか」
朝雲 「そうですよ! もう気になって気になって、夜も眠れなかったんですから!」
山雲 「朝雲姉、よく寝てたね?」
山城 「ちょっと、それは別に西村艦隊のこととは関係無いんじゃ……」
時雨 「戦友に隠し事は良くないよ。ていうかみんなすごく気になってるんだから、ちゃんと話してくれないかな」
満潮 「そうね……正直言って聞きたいわ」
山城 「満潮までそんなことをっ」
扶桑 「ごめんね山城。わたしも聞きたいかも……」
山城 「姉さままでっ!」
朝雲 「さ、観念して最初から最後までしっっっかりとお話してっ!」(キラキラ)
278:
ぐぬぬ……。
落ち着くのよ山城。やましいことは何も無いんですもの。淡々と簡潔に事実だけを説明すればいいのよ。それで納得してもらえるなら楽なものよね。
山城 「分かりました、じゃあ簡単に話しますっ。それでいいんでしょっ!?」
時雨 「ちゃんと話してほしいな。提督から尾行禁止の厳命を受けたから、みんな涙をのんで我慢したんだから」
山城 「そんなの当たり前よっ!」
朝雲 「さぁさぁ、いいから最初からお願いっ!」
山城 「えっと……。待ち合わせは自然公園の東屋で……。行ってみたら、提督が真っ白な軍服で待ってて」
時雨 「真っ白って、第二種軍装? あれはかっこいいね」
朝雲 「うわ、提督おしゃれー! どう? かっこよかった!?」
山城 「そうなのよ! 直立不動で憂い顔で海を眺めてて、普段のふざけた感じがまるで無くて、なんだか別人みたいな……」
最上 「へー、提督がそんな表情してるの見たこと無いや」
山城 「でしょっ!? それでちょっとドキッとしちゃって、なかなか声をかけられなくてね」
朝雲 「きゃー! いきなりそんなスタートなの!? いいっ! それでそれで!?」
279:
山城 「それで、冷えただろうってホットワインを作ってくれて……」
満潮 「は!? なんでデートで突然飲み物作ってるのよっ。東屋でしょ?」
山城 「それがね、今日はここでお花見デートだからって、お食事とか飲み物とか色々用意してあって」
朝雲 「ええー! あの東屋でそのままデートだったのー!? 何もない場所じゃんっ!」
山城 「違うのよ、東屋の周り一面に、あじさいみたいな綺麗な花が咲いていてね。そのお花見だったの」
最上 「僕も行ったことあるけど、あの周りって葉っぱの茂みがあるばかりで花なんて無かったけどなー」
時雨 「いや、雨が降っているときだけ花が咲くんだよ。なるほどね、昨日は雨だったから」
山城 「そうなのっ。この辺はまた提督の深い考えがあってね……うふふ、あとでその話も出てくるからっ!」
朝雲 「えー! ひっぱるわねー。それでそれでっ!」
山城 「それでね、ホットワインを頂いていたら緊張も解けて、おつまみも頂きながら、色々とお話をしたわ。みんなでわたしの服を選んでもらった話とか……。そうそう、時雨に選んでもらった服、提督にすごく褒められたわ! ありがとうっ」
時雨 「僕が選んだのを着ていってくれたのか。そっか、喜んでもらえたなら嬉しいよ」
山城 「それで、みんなが選んでくれた服の話とか色々してから……。うん、お昼ごはんにしようって、鳳翔さんに作ってもらった立派なお重を出してくれて」
扶桑 「提督ったら、用意周到ね……」
280:
山城 「それで、お昼を食べながらね、雑談風に……みんなが西村艦隊任務で感じていたこと、悩んでいたこと、そういうことを提督から丁寧に聞いて……。それで……山城が一番辛かっただろう、辛すぎて記憶と向き合えないこともあるという理解が足りなくて済まなかったって」
満潮 「山城さんの辛い気持ちも、それ故の葛藤も全部分かってた訳ね。最初にこの任務の話があったときからずっと分かってた……そんな感じよね」
時雨 「そっか、それで山城もやっと本音を話して、記憶と向き合えたわけだ」
朝雲 「やっぱり、提督に抱きしめられたりしたの? 慰めるために…… ///」
山城 「/// ちょ、ちょっと! そんなわけ無いでしょっ。ただちょっと……その……胸に顔を埋めて泣かせてもらったぐらいで……。ずっと頭をなでて、背中をぽんぽんってしてくれて……その、落ち着くまでずっと……」
山雲 「きゃ?、いい感じね?」
扶桑 「優しく慰めてもらったのね。良かったわ」
朝雲 「おかしいなぁ。慰めるときは抱きしめてその後、き、キスとかしちゃうものなんだと思ってたけど……」
時雨 「提督はそういうタイプじゃなさそうだね」
山城 「そうよっ! 提督はああ見えてすごく真面目なんだからっ!」
満潮 「はいはい、ごちそうさま。それからどうしたの?」
山城 「それから……? えっと、思いっきり泣いてスッキリして、それからずっと、お酒をちびちび飲みながらあれこれ雑談して……」
281:
山城 「それでね、もう夕方だから帰ろうってなったときに、ふっとね思ったのよ。罰デートとして呼び出されたけど、これはわたしの悩み相談のために呼び出しただけだったのかなって」
時雨 「くすくす……それが不満だったわけだ。それで?」
山城 「なによ? えっと、それで提督にお聞きしたのよ。そしたらね、晴れてたら公園を散策デートするつもりだったんだけど雨だったからって」
扶桑 「それは……わたし達にはショックな言葉ね……」
山城 「姉さま、それが違うんです! わたしもしょんぼりしてたら、山城が雨を降らせてくれたおかげで素敵なお花見デートができたし、帰りは相合傘で帰れる。雨を降らせてくれてありがとうって」
時雨 「そっか、東屋の周りの花のこと、提督も知っていたんだね。雨のときだけ綺麗に咲くって」
朝雲 「えっと、それって……。雨が降っても素敵なデートになるように計画していたってこと?」
山城 「そうそうそう! そうなのっ! わたしが雨女なのを承知で、雨でも楽しいデートになるように一生懸命考えてくれていたの!」(うっとり)
扶桑 「それは……本当に素敵ね。提督に感謝しないといけないわ」
最上 「うわぁ……。それはこう、クラっと来ちゃいそうだね」
時雨 「うん、なんというか殺し文句的な感じだね」
満潮 「司令官のこと、ちょっと見直したわ」
朝雲 「す、素敵!! それでそれで、帰りは……相合傘したの?」
282:
山城 「しょ、しょうがないでしょ。提督が相合傘で帰りたいって言うんですもの……///」
朝雲 「いいなぁ……相合傘かぁ……」
時雨 「本当に素敵なデートだったんだね」
満潮 「それじゃあその後は提督の部屋に行ったの?」
山城 「えっ!?」
最上 「ええーー! そ、そうなのっ!?」
山城 「そ、そんなわけ無いでしょっ! お重を鳳翔さんにお返しして、それからすぐ帰ったわよっ」
扶桑 「そうね、夕方には帰ってきたものね」
満潮 「そうなの……? デートの後は部屋に誘われて行くのかと思っていたわ」
朝雲 「満潮、アダルトすぎっ! どこで覚えたのよそんなのっ!」
満潮 (く……秋雲、覚えておきなさいよ!)
時雨 「満潮が実はエッチだっていうことは置いておいて、じゃあそれでデートは終わり?」
満潮 「ちょ、ちょっと!」
山城 「ええ」
283:
朝雲 「うーん、思ってたのとは違うけど、やっぱりデートって素敵?!」
山城 「そうよね! って……はっ!!」
な、なんでわたしは熱くデートを語ってるの! 違うでしょっ! そうじゃないでしょっ!
山城 「そ、そうね、罰ゲームだから仕方なくだったけど、やっと終わってよかったわ」
山雲 「でも?、とっても楽しそうだったね?」
時雨 「くすくす……そうだね、急に取り繕ってもね」
扶桑 「山城、もう今さらよ。いい加減素直に提督のお気持ちにおこたえすればいいじゃない」
山城 「な、な、何を言っているんですか! 何度も言ったとおり、提督の狙いはきっと扶桑姉さまなんですから、わたしが踏ん張らないとっ」
最上 「やれやれ、まだそんなことを言ってるのかい?」
満潮 「山城さん、デートの話を聞く限り、そんなことは全く無いと思いますけど」
284:
時雨 「ねえ山城。いい加減はっきりさせた方が良いと思うんだけど……。提督が自分を好きなわけじゃないとか、狙いは扶桑だとか言う理由を教えてもらえないかな?」
扶桑 「そうよ。わたしが何度聞いてもはぐらかすばっかりだし」
山城 「そ、それは……」
朝雲 「そーそー。どう考えても司令は山城さんが好きだし、誤解する要素なんてなにもないじゃないっ」
山城 「だ、だって……」
満潮 「だって?」
山城 「だ、だって……提督がわたしのどこが好きかって……火力と防御力と耐久力なのよ!」
最上 「……へ?」
扶桑 「な、なあに、どういうこと?」
山城 「だからー! 提督がわたしのどこが好きかって具体的に指摘した部分が、火力と防御力と耐久力なんです! だから、同じ能力だったら姉さまの方が断然素敵だし、そのうち大和や武蔵が着任したら、きっと提督の心はそちらに行ってしまうのっ!」
285:
朝雲 「えーっと……ちょっとまってね。司令ってしょっちゅう、山城さんのことを好きだ好きだって言ってますよね?」
山雲 「そうよね?、聞いてて恥ずかしくなるくらい言ってるわよね?」
山城 「そ、それは確かにそうだけどっ。でも、具体的にどこが好きかって言うのは全然言ってないの!」
満潮 「……はぁ」
最上 「そうなんだぁ。でもそれだと長門さんや陸奥さんのほうが好かれそうだけどなぁ」
時雨 「最上さん、えっとその……大丈夫、全部山城が誤解してるだけだから」
扶桑 「誤解と言うか……」
山城 「誤解とかじゃないです、本当なんです!」
時雨 「はぁ……ごめん、僕はちょっと席を外すね」
286:
満潮 「つまり、司令官が具体的にどこが好きか。例えば笑顔が好きとか声が好きとか、そういうことを言わないから不安なのね」
朝雲 「あんなに好かれてるのに、それでも不安なの?」
山城 「ふ、不安とか……別にそういうわけじゃ……」
朝雲 「だって、具体的に指摘されたポイントが火力とかの性能だった、だからもっと性能が良い人に心が移るかもって心配してるんでしょ?」
山雲 「心変わりが心配なんて、山城さん恋する乙女ね?」
山城 「/// べ、別にそういうわけじゃ……ない……はずだ……けど……」
扶桑 「聞く限り、そうとしか思えないけど……」
最上 「でもさ山城さん。提督はあんなに好き好き言ってるのに、具体的な話って、本当に性能のことばかりなの?
287:
山城 「それはその……それ以外だと……。その……秘書としていつも一緒にいてくれて幸せだとか、俺好みのコーヒーと覚えてくれて嬉しいとか、一緒にいると楽しいから早く私生活も含めた秘書になってくれとか……」
満潮 「……聞いててムズムズするわ」
朝雲 「なにそれ、もう甘々じゃない! それでどうして不安なのっ!」
山雲 「新婚さんみたいね?」
扶桑 「そこまで愛されて、一体何が不満だというの?」
最上 「いいなぁ、僕もそういうセリフ言われてみたいよ……」
山城 「で、でも、わたしのどこが好きとかは出てないでしょ!? だからその……」
バーーン!
提督 「話は聞かせてもらった!」
扶桑 「提督! 突然どうされたのですか」
時雨 「僕が呼んできたんだよ、事情を話してね」
288:
提督 「山城、そんな、一言言ってくれれば良かったのに!」(ぎゅっ)
山城 「て、提督っ! あ、あの、突然手を握られたら困り……ます………///」
朝雲 (ドキドキ)
提督 「山城、俺はきみが好きなんだ。笑顔が好きだ。すぐに拗ねるめんどくさいところが好きだ。不器用だけど一生懸命な性格が好きだ。文句を言いながらもいつも優しいその心が好きだ」
山城 「/// て、提督……そんな……やめて下さい……そんなに言われたらわたし……」
満潮 (ワクワク)
提督 「その白い肌が好きだ。ほっそりした首も、たまに見えるうなじも、柔らかそうなお尻も……」
山城 「……え?」
提督 「眼の前で屈まれたときに見える胸元とか、柔らかそうなお○ぱいとか、もう大好きだ!」
時雨 (提督……正直すぎるよ……)
山城 「こ……こ……このエッチ! 変態っ!!」(バシーン)
提督 「ごふっ……効いた……」
山城 「そ、そんな人は……もう知りませんっ!!」
289:
バタバタバタバタ
扶桑 「こら山城、待ちなさいっ」
最上 「あーあ、逃げちゃったね」
朝雲 「司令が悪いのよー、せっかくロマンチックだったのに……」
提督 「いや、ここはちゃんと本音でいこうかなと」
満潮 「本音すぎるわよっ!」
時雨 「ま、でもこれで、すこしは伝わったんじゃないかな……」
廊下を走り抜け外へ。もう周りも見ず全力で走っていた。
もう、提督の変態変態!!
でも、全然腹は立たなくて……提督の言葉を。わたしを心から好きだと言うその言葉をずっと反芻していた。
自然と顔がにやける。
そう、提督は本当にわたしのことを好いていてくれているのね。エッチなのは困ったものだけど!
290:
**********
こうして今日は、わたしがなんとなく抱えていた不安が一つ解消された。
……同時に、わたしは逃げ道をまた一つ失ってしまった。
どうしよう……わたしはどうしたら良いんでしょう……姉さま……
**********
298:
――――― 3日後 夜 山城幸せ大作戦仮設本部
299:
提督 「こんなところに巣を作ってたのか……。確かに空き部屋はいくらでもあるけど、勝手に使うと大淀に怒られるぞ」
朝雲 「巣ってなによっ! ちゃんとみんなで作戦会議してるのよ」
提督 「その割には、ジュースとお菓子だらけど……。あの大きなゴミ箱から溢れそうなゴミと合わせると、どんだけ飲み食いしてるんだって感じなんだが」
最上 「まぁまぁ、作戦会議といえばジュースとお菓子だからさ!」
山雲 「そおよ?、お菓子おいしいよ?」
提督 「俺の知っている作戦会議とは大分違うようだな……」
扶桑 「では、今日は提督も参加していただいての作戦会議と参りましょう」
時雨 「提督から僕らに相談なんてめずらしいね。そんなに困ってるの?」
満潮 「ま、お茶でも入れるからゆっくり話しなさいよ」
300:
提督 「いや、みんなも見ていてわかると思うんだが……。相変わらず山城に避けられてるんだよ」
満潮 「半径2m以内には絶対に寄らないって感じよね」
提督 「でさ、先日のセクハラ発言で引かれてるんだろうなぁと反省してたんだが、どうも違う気がしてな」
扶桑 「そうですねぇ。山城は、先日の発言は怒ったり引いたりなどではなく、単純に喜んでいたように思います」
最上 「そうだよね」
朝雲 「途中まではすっごい雰囲気よかったし!」
山雲 「途中からエッチな話になって台無しだったけどね?」
朝雲 「そうそう。提督はもっと乙女心を勉強すべきね!」
提督 「いやいや、大人同士なんだからアダルトなのも必要なんだよ」
時雨 「それはともかく、僕から見ても山城は喜んでいるように見えたかな」
301:
満潮 「わたしは、これで山城さんは不安が取れて、司令官ともっと仲良くなるだろうなって思ったわ」
提督 「ところがみょーに距離を取られてるというわけだ。俺も理由がわからなくてな。途方に暮れてる」
朝雲 「ただ照れているとか恥ずかしくて、って感じじゃ無かったよね?」
時雨 「そうだね、もちろんそういうのもあるんだけど、たまに悲しそうな顔をしながら必死に距離を置こうとしてる。そんな風に見えたかな」
最上 「この間の様子を見てたら、もうすぐ恋人になるんだろうなーって思ったのに。手を握って愛の告白とかしちゃってさ」
提督 「だろー? 俺もついに2年越しの恋が実るかと期待してたらこの有様だよ」
扶桑 「姉のわたしからみて、山城が提督のことをお慕いしていることは間違いないと思います。ただ、たしかにここ数日、本当に情緒不安定というか、ため息をついてばかりで元気がないんです、あの子。理由を聞いても、何でもないんですー!としか言わないし……」
時雨 「本当にわからないね……。山城は一体何をそんなに悩んでるんだろう? 誰が聞いても話してくれないし……」
山雲 「うーん、山雲は?ちょっとわかる気がするな?」
302:
提督 「なにっ! 意外なところから来たなっ。教えてくれ山雲!」
山雲 「う?ん、なんとなく??」
朝雲 「がくっ……。あんた前にもそんなこと言ってたわね。でも具体的に言葉に出来ないんじゃ意味ないのよ?」
扶桑 「そうね、なんとなくじゃぁ」
時雨 「何かヒントになりそうなこと、具体的なことはないかな?」
山雲 「う?ん、う?ん、そうね?、多分だけど?」
提督 「どんな些細なことでもいいぞっ」
山雲 「山雲は?、うまくお話できないけど、きっと大井さんならもっとはっきりわかると思うな?」
満潮 「え、大井さん? なんだか唐突ね……」
提督 「扶桑、山城は大井とは仲がいいのか?」
扶桑 「そうですねぇ、古株同志ですし、練習艦仲間でもありますから、顔を合わせれば立ち話をするぐらいは……。でも、特に仲良くしてる感じではありませんね」
朝雲 「山雲、ほんとに大丈夫なの?」
山雲 「多分?」
提督 「山雲がわざわざ言うくらいだ、ちゃんと根拠があるんだろう。ちょっと大井に相談してみるよ、ありがとう」
303:
――――― 少し後 大井と北上の部屋
304:
コンコンコン
北上 「はーい、だあれ??」
提督 「俺だ、こんな時間にすまん、大井はいるだろうか?」
北上 「はいはい、いるよー。開けるから待ってねー」
大井 「き、北上さん、開けちゃ駄目です! 北上さんは奥の方に逃げて下さいっ!」
北上 「えー、なんでさー?」
大井 「そんな可愛らしいパジャマ姿を提督に見せるわけには行きません! ああ、北上さんが提督のいやらしい視線にさらされるなんて耐えられない!」
北上 「変なのー。わかったー、じゃあ寝室に行ってるね?」
大井 「はいっ! わたしもすぐ行きますので♪」
提督 「相変わらずだな……」
ガチャ
大井 「提督、こんな時間に何の御用ですか?」(ジト目)
提督 「いや、すまん。個人的なことで申し訳ないんだが、大井に相談したいことがあってな」
大井 「提督がわたしに? 珍しいですね、ではどうぞ、散らかっていますけど」
提督 「お邪魔します。なるほど、北上が転がっていた周りだけ散らかってるわけか。性格が出るなー」
大井 「北上さんが散らかしたものを片付けるのがわたしの幸せなんですっ」
提督 「……お手軽でいいな」
305:
大井 「それで、どうされました?」
提督 「あー……いや、ちょっと要領を得ない話になるかもしれないが勘弁してくれ。藁にもすがる思いなんだ」
大井 「はぁ……」
提督 「実はな、山城とのことなんだが……(提督説明中)……。まぁそんな感じで、西村艦隊の仲間と一緒に、山城を応援したり、俺も距離を近づけようと頑張ったりしてるんだ」
大井 「楽しそうでいいじゃないですか。それがどうしたんですか?」
提督 「それがな……。山城との距離が近づき、誤解が解けたりして、これからもっと仲良くなれると思ったんだが……。逆にな、山城が必死に距離を取るんだよ。物理的にも精神的にも」
大井 「そう……。心が近づいて、そしたら必死に距離を取ろうとしてるんですね……」
提督 「ああ。その理由がわからなくて皆で悩んでいたら、山雲が、大井なら山城の気持ちがわかるはずだって言うから、その言葉を頼りに相談に来たんだ」
大井 「なるほど、そうですか、山雲が……。そうですね、山城さんの苦悩、わたしには良くわかります」
提督 「なにっ!? そんなあっさりと!?」
大井 「わたしから見たら、提督も西村艦隊のみんなもどうしてわからないんだろうって感じですけど……。ああ、でもそうか、そうかもしれないですね」
提督 「それで、山城は何を悩んでいるんだろうか?」
大井 「……それをわたしから言うのはやめておきます。その代わり、山城さんとお話をする機会を作ります。そうですね……できたら鳳翔さんにも居てもらって……。わたしだと、悩みは共有できても、前に進む手段がわからないから、そこは鳳翔さんにも聞いてもらいます」
提督 「ふむ……。教えてはもらえないのか。では手間をかけるがよろしく頼む。別に俺とくっつけとかそういう話ではなく、悩んでギクシャクした日々を送らずに済むよう、相談に乗ってやってほしい」(ペコリ)
大井 「分かりました。では明日にでも」
提督 「突然の相談ですまなかった。ありがとう」
大井 「いえ……。わたしも気になっていましたから。山城さんは大事な仲間ですし」
306:
ガチャ
北上 「お話終わったー?」
提督 「ああ、すまんな遅い時間にお邪魔して」
大井 「北上さん出てきちゃだめですっ!」
提督 「なんだ、二人はおそろいのパジャマなのか。可愛くていいじゃないか、にゃんこ柄」
大井 「み、見ないで下さいっ/// セクハラですっ!」
提督 「見ないでもなにも、最初からパジャマ姿だったじゃないか……」
大井 「ジロジロ見るなって言ってるんです! 北上さんを見るのは論外っ!」
提督 「へいへい。おかしいなぁ。朝雲から『女性の服装が少しでもいいなと思ったら、すぐに口に出して褒めること』って教えられたんだが……」
大井 「それも時と場合です!」
北上 「まーまー。提督、帰るならこれあげるー」
提督 「なぜまんじゅう1個……まぁ、ありがとう」
北上 「元気ないみたいだからさ、おまんじゅうでも食べて元気出しなよ」
提督 「……ありがとう」
大井 「はい、それじゃあおやすみなさい提督!」
提督 「ああ、おやすみ」
バタン
提督 「……元気ない、か。そうだな、山城が元気になってくれないと俺も元気でないよなー……」
307:
――――― 翌日 夜 居酒屋鳳翔
308:
カランカラン
鳳翔 「あら山城さん、いらっしゃい。お待ちしていました」
山城 「こんばんは」
大井 「山城さん、こっちですー」
山城 「はいはい。今日はどうしたの、突然?」
今朝突然大井が部屋に訪ねてきて「今夜どうしても一緒に飲みたい」なんて誘われて……。
わたし、気づかずに何かしちゃったのかしら……不幸だわ……
大井 「ま、どうぞおかけ下さいな。今日はゆっくりお話したいですから」
山城 「何かしら……なんだか不気味なんだけど……」
鳳翔 「さて、お店はもう看板にしてしまいました。わたしもご一緒させて下さいね」
山城 「鳳翔さんまでっ!」
309:
大井 「実はね山城さん。昨日、提督から相談されたの。山城がすごく悩んでいて辛そうだから相談に乗ってほしいって」
山城 「て、提督がっ!? そ、そんな、悩んでるなんてとんだ言いがかりです。不幸だわ……」
鳳翔 「ふふっ……心配されて羨ましいですけどね」
大井 「提督、困ってましたよ。西村艦隊のみんなにも相談したけど、山城さんが何をそんなに悩んでいるのか……いいえ、苦悩していると言っていいぐらいよね。それがどうしてもわからないって」
山城 「……」
鳳翔 「実はわたしにも良くわからないんですよ。大井さんは心当たりがありそうですね」
山城 「心当たりなんてあるはずないっ! わたしは苦悩なんてしてませんっ」
大井 「はぁ……。今日ここで話すことは絶対に三人の秘密でお願いしますね」
鳳翔 「ええ、もちろんですよ」
山城 「……それはいいけど、別に、本当になんでもないんだからっ」
大井 「はぁ……」
310:
大井 「じゃあまず、山城さんから本音を引っ張り出すために、わたしの話をしますね。ほんとにオフレコですからねっ」
鳳翔 「くすくす、そんなに聞かれたくない話なんですか?」
大井 「ええまぁ……。おっほん。えっとですね、わたしは北上さんが大好きなんです!」
山城 「……」
鳳翔 「……」
大井 「あ、ちゃんと続きがありますから。でも本当に大好きなんです。なんというか、魂に刻み込まれているかのような想い。北上さんを見ているだけで、お話しているだけで、そばに居てくれるだけで、本当に幸せな気持ちになる。本当に大切な人なんですっ!」
山城 「え、ええ、そんな感じだと思ってるけど……」
鳳翔 「普段の大井さんのお話ですね」
大井 「反応が薄いですね……。まぁいいですけど……。でもですね、これだけ大切な北上さんと一緒にいられて幸せなのに……それなのにね。その……やっぱり、提督のことも好き……なんです」
山城 「え……? え……?? えええぇぇぇぇぇ!!!」
鳳翔 「山城さん、そんなに驚くところですか? 提督はああいう人ですもの、うちの艦娘はみんな、大なり小なり提督に好意を持っていますよ」
311:
山城 「え……あ……。でもそんな素振りは全然……」
大井 「ま、提督が山城さん一筋で一切ぶれないのがわかってますから。提督を困らせないよう、みんな心の中に秘めてるんですよ。オープンな人も居ますけどね」
そう……そうよね。提督と艦娘は特別な絆がある。しかもあの人と……あの優しい人と魂がつながっていたら……そうよね、惹かれない訳がない。
大井 「だから具体的にどうこうしようなんて思わないですけど……それでもね、やっぱり想像しちゃうことはあるんですよ。『もし提督に愛されてるのが山城さんじゃなくて自分だったら』って」
鳳翔 「くすくす……そうですね、わたしも提督と一緒に小さな居酒屋をする夢を見たりしました」
山城 「そんな、鳳翔さんまで……」
大井 「鳳翔さんの夢は素敵ですね。わたしは最初なんとなく想像してみて……。愕然として恐怖を感じました」
鳳翔 「え……? 提督に愛されたらっていう想像ですよね?」
大井 「はい。きっと山城さんはよく分かってくれる……山城さんが今感じている苦悩そのものだと思います」
ああそうか。大井はわたしと同じなのね。だから……
山城 「そう……ね。大井は本当にわたしの苦悩を分かっていたのね。そっか……」
鳳翔 「どういうことでしょう?」
312:
大井 「わたしが提督に愛されたとして。仲良く一緒に暮らして、いつも愛を囁かれて……。そんな風に想像しちゃいますよね」
鳳翔 「……」
大井 「でもわたしには、どうしようもなく大切な、心から愛している北上さんがいるのに。いつだってそばに居たいし、いつまでもそうしていたいのに。それは本心なんです。それなのに、それなのに……提督に愛されて二人で過ごしたい気持ちもまた本心で。魂が2つに裂けてしまうような、そんな気持ちになって本当に怖かった」
山城 「……そう……ね。よく分かるわ」
鳳翔 「山城さん……」
山城 「魂が2つに裂ける。まさにそんな感じよね。わたしはずっとその恐怖に怯えていたわ。でもなんとかごまかして折り合いをつけてきたの。でも……追い詰められて逃げられなくなって……わたし……どうしたらいいのか……ぐすっ……」
大井 「話して……頂けますか?」
山城 「そうね……。誰に言っても……姉さまにお話しても決して理解されない。そう思ってずっとお腹に抱えていたけれど、こんな身近に理解者がいたのね……」
鳳翔 「苦しみを一人で抱えても良いことは何もありませんよ」
山城 「……そうですね。つい先日、みんなから教わったばかりでした。一人で悩んで逃げ続けたところで何も前に進まない。じゃあ、聞いてもらえますか? わたしの愚かな悩みを」
大井 「愚かなんかじゃない。わたし達がそういう風に生まれてしまっただけのことです。愚痴として話して下さいな」
山城 「ありがとう、大井。それじゃあお言葉に甘えて……」
313:
山城 「提督がはっきりとわたしに好意を示してくれたのが2年前ぐらい。それからずっと秘書艦として、ほぼ毎日一緒に過ごしてきました」
鳳翔 「ええ、提督は一途ですね」
山城 「それで最初は、秘書艦として拘束されて扶桑姉さまとご一緒出来る時間が短くなってしまった! って毎日ブツブツ言ってたんですよ」
大井 「懐かしいですね。終業ベルと同時に執務室を飛び出してた頃ですね」
山城 「ええ。でもそのうち、終業後に一杯だけお茶を飲む習慣を作られたり……。提督もあの手この手を考えるんですよね」
鳳翔 「くすくす。提督の変にポジティブなところは、本当に面白いですね」
山城 「正直に言えば、提督に好意を寄せられて、そうやって楽しくアタックされて、それを邪険にしたりいなしたり……。そういうやり取り、嫌いじゃなかった。ううん、とても楽しくて。秘書艦として務める時間、始業前、就業後の提督との雑談やじゃれあい……それがかけがえのないものになっていったわ……ぐす……」
大井 「見ていてとても楽しそうで……。正直嫉妬したこともあります」
鳳翔 「ええ、とても楽しそうに、幸せそうに見えました」
山城 「でも、まだ言い訳ができたんです。勤務時間なんだから仕方ないんだ、提督がどうしてもと言うからお茶ぐらいは付き合わないとって……」
鳳翔 「言い訳……ですか?」
山城 「はい。……提督ではなく扶桑姉さまと一緒に居たいはずの自分への……言い訳です」
大井 「なるほど、そうやって折り合いをつけていたんですね」
314:
山城 「でも、最近の西村艦隊任務でのバタバタで、それも崩れてしまいました……。秘書艦からはずれて姉さまとご一緒しているのに……それなのに、執務室と提督のことばかり考えている自分。わたしの不安を理解して心から心配してくれる提督。執務と関係なく二人で過ごす時間の心地よさ……。そんな諸々を見て知って……」
鳳翔 「……」
大井 「……」
山城 「それで……ひっく……わたしは……ぐす……あの人が……提督のことが大好きなんだって。扶桑姉さまをどこまでも愛するという心を裏切ってしまったんだって……ぐす……。でも、大井の言うとおり……このままじゃ魂が2つに引き裂かれてしまう。だから……提督への気持ちを何とか抑えきって、今まで通りに過ごそうって……でもそれがどうしても……できない……ぐすっ……ぐすっ……」
大井 「辛い……本当に辛いですね……。ほんと、わたしたちはどうしてこうなんでしょうね」
山城 「ぐすっ……ぐすっ……」
鳳翔 「よく話してくれましたね。辛いお気持ち、よくわかりました」
うまく言葉にすることもなくずっと心にため続けてきた気持ち。それをようやく吐き出して、ただ泣いた。共感し涙ぐむ大井と、優しくなでてくれる鳳翔さんに救われながら……
328:
鳳翔 「はい、温かい梅酒です。気分が落ち着きますよ」
山城 「ありがとうございます……すみません……」(ずずー)
心の重荷を全部吐き出してわんわん泣いて……恥ずかしい……不幸だわ……
鳳翔さん、呆れてないかしら……
鳳翔 「はい、大井さんも」
大井 「ありがとうございます」
329:
鳳翔 「お二人の業とでも言いましょうか……。魂に刻まれた相手への愛情。わたしにはそういう相手は居ないみたいです。でも……それでも、心から愛している人は居ます」
山城 「まさか……鳳翔さんまで提督を……?」
鳳翔 「うふふ……そうですね、提督は本当に素敵な方ですけど……。山城さんにとっての扶桑さん、大井さんにとっての北上さんのような。そういう意味での愛している人っていうのは違いますね」
大井 「鳳翔さんが誰かを追いかけているイメージって無いですけど……」
鳳翔 「お二人にとっては、愛する相手というのは『常に追いかけるもの』なのかもしれませんが、わたしはそういう感じでは無いですね。わたしが愛してるのは妹たち……大切な妹たちのことです」
山城 「妹ですか……? 鳳翔さんって同型艦はいらっしゃらなかったと思いますが」
鳳翔 「ええ。わたしは第一号の空母として試験的に作られた船ですから同型艦はいません。でも、わたしで得たノウハウを元に次々と空母が建造されていった。そういう意味で、我が国の空母はみんなわたしの妹なんです。わたしよりずっと大きくて立派ですけどね」
大井 「なるほど……」
330:
鳳翔 「前世では、立派な妹たちが戦いに挑んで……そして帰ってきませんでした。結局、残ったのはわたしと葛城さんだけ。大切な妹たちが……わたしが手塩にかけて育てた艦載機のみんなが……次々と散っていった」
山城 「……」
鳳翔 「でもね、こうして転生して、みんな沈むことなくいつも元気でいてくれる。それが嬉しくて、愛しくてね……。みんなもわたしのことを姉のように、母のように慕ってくれる。わたしの大切な大切な家族……わたしの生きる意味です」
大井 「はい。空母の皆さんの特別な絆。鳳翔さんへの深い信頼。そういうのはいつも感じます。そうですかぁ、空母はみんな姉妹みたいなものなんですね」
山城 「空母だけじゃない。駆逐艦の子たちも、大型艦でさえ、鳳翔さんをお母さんのように感じて慕っている子もたくさんいます」
鳳翔 「はぁ……そこまでの歳ではないんですが……それでも、みんながわたしに会いに来て、それだけで喜んでくれること。それはとっても幸せです」
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