キュゥべえ「エレメーラ?」トゥアール「魔法少女?」back

キュゥべえ「エレメーラ?」トゥアール「魔法少女?」


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それは平凡な、いや平凡なツインテールなんてものは、どこにも存在しない。
それは平凡な日常に花開こうとする蕾の様な可憐さを漂わせるツインテールだった。
でも俺はそれを目にした時、溢れる涙を止めることが出来なかった。
そこにあったものが可憐さだけじゃなかったから。
……そこには世界の悲しみが、そしてそれを受け止める強さと優しさが結ばれていたのだから。
2:以下、
○ 二番煎じです。でも言いだしっぺだった気もする
○ とりあえずツインテールキャラを書いてみたかった
○ キャラは大幅に間引きます
○ ある程度書き溜めたからなんとかなると思う
3:以下、
ぶげらっ!!
白衣の女性が弾かれるように水平に吹き飛ばされる。
それは修羅の国……ではなく平凡な住宅街にある、とある喫茶店で日常的に見られる一コマだった。
トゥアール「んっふっふっ。先手は譲りましたからね。手加減なんて期待しないで下さいよ」
常人ならば全治3ヶ月はかかる鉄拳を受けた白衣の女が重力を無視するかの様に立ち上がる。
愛香「それはこっちのセリフよ。毎日、毎日、毎日、そーじにいかがわしいことをしようと這いよって」
愛香「あんたに止めを刺さない限りそれは終わらないんでしょ。だったらこっちも「やる」ことはひとつだけよ」
美しく伸びやかなその肢体から想像もできない滅殺の波動が吹き出す。
トゥアール「本性を現しましたね。この肉食恐竜。いつまでもやられている私じゃありませんよ」
気がつけばその右手には怪しげな明滅を繰り返す殺虫剤のスプレーの様な何かが握られている。
トゥアール「アンチアイカシステム3号改『アワデカタメテポイスール』の威力を思い知らせてあげます!」
愛香「あん?それってあっさりあたしに破られた失敗作でしょ。今更そんなんで何しようっていうのよ?」
トゥアール「ふっ!確かに蛮族の腕力に遅れを取りましたが一時とはいえ体の自由を奪ったのは事実」
トゥアール「ならば固まってるその間に異次元空間に放り込んでしまえば問題なし」
トゥアール「まぁ、蛮族なら異次元空間からでも帰って来ちゃうんでしょうけど総二様と既成事実を作る時間を稼げればそれでOKですからね」
愛香「へえ、あたしがそれを許すとでも思ってんの?かかって来なさい!今日こそ引導をわたしてあげるわ!」
互いの口上が終わるとともに戦いが始まった。
4:以下、
総二「まったくあの二人はなんで毎日々々飽きないんだ?」
慧理那「お二人は本当に仲良しですわね」
総二「……仲良し……仲…良し……うん、まぁ仲良しだとしても、だからってこう毎日特撮ヒーローショーみたいなことやってたら」
イースナ「総二、放っておけ。わらわも初めて見たときはトゥアールになんたる乱暴狼藉と腹に据え兼ねたものだがの」
イースナ「あれは確かに仲良しとか友情とかに類するものだろうよ」
総二「いや、仲良しとか友情は置いといても、こんなバイオレントな催しが毎日開かれる喫茶店って」
総司「そういやイースナ、なんでブラックモードなんだ?」
みょばばばばばばばっ
何かが歪むような怪音が店内に響き渡る。
振り返れば空間とともに歪む2人の姿が見える。
総二「愛香っ!!トゥアール!!」
叫ぶと同時に弾かれるように突き出される両の手は一瞬も持ちこたえることなく身体ごと虚空へと消える。
慧理那「観束君!?」
イースナ「っ!!時空間に飲まれたっ!?」
イースナ「メガ・ネ!テイル・ギアの座標は!?」
メガ・ネ「ちょっと待ってや。ええっと?んっ??なにこれ?こんな座標初めて見るで?」
イースナ「メガ・ネ!どうなっておる!?」
メガ・ネ「なんか、座標がおかしいんや。こんな座標ありえへん!!……座標が消えた?」
イースナ「メガ・ネ!?」
メガ・ネ「あかんテイル・ギアの座標が完全に消えてしもうた」
イースナ「なんじゃと!?」
慧理那「どういうことですの!?」
イースナ「わからん。じゃが放っておく訳にもいくまい」
イースナ「メガ・ネ!座標消失までのデータを解析!トゥアール達を探し出すぞ!」
メガ・ネ「わかったでイースナちゃん!最終決戦までには絶対に間に合わせて見せるからな!」
慧理那「ふぇ?最終決戦!?」
イースナ「……メガ・ネ、何を言っておる?」
メガ・ネ「……なんやようわからんけど変な信号が出てたみたいやな」
イースナ「ええい、もう良い!!まずは座標の解析じゃ!地下の基地に行くぞっ!」
慧理那「観束君、トゥアールさん、津辺さん、どうかご無事で」
5:以下、
総二「うぅっ……ここはいったい?」
総二「はっ!!愛香!トゥアール!大丈夫か二人とも!!」
総二「っ!!なんなんだここは?異世界……だろうな」
そこは洞窟の様な、しかし景色に交じる歪なオブジェがそこがこの世の理から外れた場所であることを示していた。
総二「そうだ………………………………………繋がらないか」
ブレスレット、トゥアルフォンは呼び出すも応答はなし。
総二「あの2人なら大丈夫なんだろうけど。とりあえず歩いて探すか」
総二「……けどここってなんか嫌な感じがするよな」
総二「んっ!?あれは人かっ!?」
総二「お?い!!」
6:以下、
背後から息を切らせながら駆け足の足音が近づいてくる。
??(人!?一般人?)
総二「君縛られてるのか!?今助け「近づいちゃだめ!」
総二「っ!!!」
近づこうとした瞬間、少女を縛り付けるリボンの様な何かが突然少年に向かって弾ける。
総二「うぉっと!!」
少年は地面に身を投げ出すようにして弾かれた何かを間一髪で躱す。
??「ケガはないようね」
総二「これはいったい?」
??「見ての通りよ。私はここに縛り付けられているの。今のは縛り付けた相手が一応私の身を案じた結果よ」
??「そういうことだから縛り付けられているけど私に命の危険はないわ」
総二「……えっと、俺は観束総二……こっちも色々ややこしい事情があるんだけどここって一体何なんだ?」
??(……今までにこんなことは一度もなかった……情報は集めておくべきかしら)
??「……私は暁美ほむら……ここは一般人が関わらない方が良いところ……そうとしか言えないわね」
総二「う?ん、一般人じゃないってのは認めたくはないけど、こっちにも特殊な事情があるんだ」
総二「正直、この世界のことは右も左もわからないんで、差し支えないことだけでも良いからいろいろ教えて欲しいんだ」
ほむら(この世界?魔法少女とは関係ないみたいだけどあまり深入りしない方が良いのかしら)
総二「まぁ、どっちにしても話す話さないはそこから下りてから決めてくれたら良いから」
少年は先ほど襲いかかったリボンのことを気に求めていないかの様に少女に近づく。
ほむら「……やめなさい。さっきの見たでしょ。多分時間が経てばここからは下りられる。だったらあえて危険を犯す必要はないわ」
総二「へぇ、優しいんだな。でもこっちにも特殊な事情があるって言っただろ」
総二「こっちのことを話さずにそっちの事情だけを話してもらうってのも虫の良い話だし。何よりこっちの事情は見てもらった方が早いと……」
突然、何かに心臓を掴まれたかのように少年の顔が青ざめた。
7:以下、
総二「あ、あっ、あぁあぁぁぁ!!」
ほむら「どうしたの?」
総二「ダメだっ!!それに近づいちゃいけない!!」
ほむら「っ!!!」
総二「離れろ!!違うっ!!逃げるんだ!!」
ほむら「どうしたのっ!!」
空気を切り裂くような声に少年は我に返る。だがその瞳は恐怖と悲しみで溢れている。
総二「……ツインテールの女の子が……このままだと死んでしまう」
ほむら「まどか!?」
総二「知ってるのか!?くそっ!間に合わない!ちくしょう!」
総二「俺はツインテールを守るって誓ったのに命を落とすツインテールがいることを知りながら助けることもできないのか」
ほむら「まどかっ!!まどかっ!!」
ほむら「あなたこのリボンをどうにか出来るの!!出来るんなら早く何とかして!」
ほむら「1秒でもあればまだ間に合う!早くっ!!」
総二「間に合う。助かるのか!?」
ほむら「私なら間に合うわ!!早くっ!!」
総二「リボンをなんとかしたらあの子は助かるんだな!」
俺にはわかる。この瞳は本当の事を言っている。だったらやることはひとつだっ!!
総二「テイル・オン!」
突如少年の右腕にブレスレットが浮かび上がり、そこから炎のような赤い光が吹き出す。
赤い光は炎となり少年の身体に絡みつき全身を覆う。
そして炎が輝きとともに弾けるとそこには
ほむら「へっ?」
そこには体に密着するレオタードの様な服装と赤い鋭角な装甲を纏った小学生くらいのツインテールの女の子が立っていた。
レッド「ブレイザーブレイド!!」
ツインテールを留めるリボンが輝くとともに少女には似つかわしくない長大な剣が姿を現す。
レッド「てぇいりゃあっ」
気合とともに一閃した剣が絡みつくリボンを一刀のもとに切り伏せる。
ほむら「え、えっと?」
8:以下、
リボンから解放された少女は目の前で起こったことの整理がつかないのか戸惑いの声を漏らす。
レッド「あんた間に合うんだろ!時間がないんだ早くっ!!」
真っ直ぐに見つめる瞳と力強く手を握り締める小さな手が混乱を吹き払う。
ほむら「まどか!」
大事な者に迫る危険が冷静さを取り戻す。しかし。
手を掴まれている。まずい。時間停止を発動させられない。
打算が再び迷いを生む。
レッド「助けたいんだろ!俺もだ。信じてくれっ!」
真っすぐ気持ちが視線となって黒髪の少女の胸を貫く。それでも
がちん
世界の全てが動きを止める。
ほむら(ここに動いているものはない。だったら時間を停止しても気づかれない可能性はある)
ほむら(そしてその時間停止中に利用出来るか判断する)
レッド「これは?」
ほむら「ここは魔女の結界。この現象は過去に経験がある。危険はないと思うわ」
レッド「……いや。これは……わかったあんた時間が止められるんだな」
ほむら「っっ!?」
秘匿したかった情報は瞬く間に確信をもって漏れ出てしまう。
見通しが甘かった!?この子を排除すべき?
再びやって来た戸惑いは力強い手であっさりと打ち破られる。
レッド「なるほど。これなら確かに間に合う。よし!しっかり掴まってろよ!!」
ほむら「えっ!?ちょ、ちょっと!!」
小柄な少女はひとつ高い少女を片腕でお姫様だっこのように抱え込み
レッド「いくぜっ!!」
小柄な少女の腰に備え付けられた装甲が翼のように広がると少女は一気に加する。
ほむら「ちょ、ちょっと!!そっちは壁よっ!」
小柄な少女は自らより大きな少女を抱えながら片手で剣を振るう。
レッド「うおぉりゃあぁぁぁ」
剣は炎を纏い岩盤のような壁をひと振りでぶち破る。
レッド「よおしっ!次は……こっちか!!」
そして黒髪の少女は考える。
ほむら(こんなイレギュラーは初めてだわ。この子は敵なのか味方なのか?しかも時間停止を知られてしまった)
ほむら「だけど私がすることは変わらない。あの子を」
レッド・ほむら「「絶対に助ける」」
12:以下、
マミ「えっ?」
自分が打ち抜いたそれから現れた巨大な何かが眼前でぴたりと止まる。
さやか「マミさんっ!!」
どこかで誰かが自分の名前を呼ぶのが聞こえる。
そして眼前のそれはマンガの様にユーモラスに笑う。なんだか可愛い。場違いな感想が浮かぶ。
私って美味しいのかしら?現実感を欠いたまま決定的な瞬間が刻一刻と迫って来る。
あなたは一般人を巻き込んでいる。
今度の魔女は今までの魔女とは違う!
あの時は不快で頭に入ってこなかった誰かの言葉が今別の響きを持って再生される。
ひょっとしたらあの子、本当に鹿目さんや私のこと心配してくれてたのかな?ほんとに不器用な子(私もか)
もし今度会ったら(それはないけど)もうちょっと話を聞いてみようかな。
まどか・さやか「「っ!!」」
2人が息を呑む声(?)が聞こえる。
鹿目さん、美樹さん、ごめんなさい。こんなところに連れてきちゃって。
そして再び誰かの顔が浮かぶ。こんなこと頼めた立場じゃないけどあの子達を助けてあげてね。
開かれた口が閉じられて……あぁ、私食べられちゃうんだ。
そして終わりの時間が訪れる。
14:以下、
びしっ!!
その瞬間が訪れる直前地面が爆発する。
レッド「さあぁぁ」
レッド「せぇ」
そして爆心地から飛び出す小さくも力強い右足
レッド「るっ!!かあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
マミ「きゃっ!!」
重力に逆らい地面から飛び出す小さな少女に弾かれて巨大な顎が宙に跳ね上がる。
レッド「うぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
マミ「暁美さん!?」
小さな手に抱えられる見知った顔と視線が交差する。
ほむら「巴マミ!?まどかはっ!!」
マミ「2人とも無事よ」
ほむら「あなたはこんな………いいわ。そんなことを言ってる場合じゃない」
ほむら「巴マミ。私に対するわだかまりは置いて頂戴。あれを倒すわ。協力して」
マミ「……こんなこと言ってる場合じゃないんだけど、私はあなたのことを誤解していたみたいね」
マミ「ええ。協力させて貰うわ」
レッド「よっと!!」
燃えるような赤に身を包んだ少女が2人の前に着地する。
レッド「あいつけっこうタフだぞ」
マミ「そうね。でももう遅れは取らないわ」
ほむら「ええ。あの子のためにも負ける訳にはいかないもの」
15:以下、
レッド「……なぁ、あれ俺が倒しても良いかな?」
マミ「どういうこと?」
レッド「さっき、その子にも話したんだけど、こっちにも事情があって、いろいろ面倒かけそうなんだよ」
レッド「まっ、自己紹介と面倒の前払いってことでどうかな?」
ほむら「グリーフシードはどうするの?」
マミ(……やっぱり暁美さんは)
レッド「グリーフシード?それも含めて後でいろいろ教えてくれよ。あとこれが終わったら人探しを手伝ってくれよ」
レッド「多分、俺の連れが2人巻き込まれてるんだ。それを探してくれるんならそのなんとかは要らない」
ほむら「わかったわ」
ほむら「巴マミ」
マミ「何、暁美さん?」
ほむら「グリーフシードは譲るわ」
マミ「……」
ほむら「その代わりあの2人を魔法少女に勧誘するのはやめて欲しいの」
マミ「……話は後にしましょう。私が言うのもなんだけど、まずはあの子達の安全を確保しましょう」
ほむら「……そうね。まずは魔女を倒すことが先決ね」
レッド「話はまとまったみたいだな」
レッド「じゃあ一気に行くぜ」
16:以下、
どがっ!!
背後で天井が弾ける音が響く。
「エグゼキュートウェイブッ!!!」
砂塵を突き破り、蒼い光が雷の様に巨大な顎を地面に縫いとめる。
「はああぁぁぁぁぁっ!!!」
そして蒼い光の奔流が巨大な顎を黒い塵へと変えていった。
レッド・マミ・ほむら「「「……」」」
ほむら「……あなたの関係者?」
ブルー「あっ、レッド。良かった心配してたんだよ。トゥアールは?」
ほむら「……みたいね」
レッド「なんだ!?」
お菓子でできた洞窟が空気に溶けるように消えてゆき、そこは夕暮れの病院らしきどこかに姿を変える。
レッド「……これは……いったい?」
まどか・さやか「「マミさぁ?ん」」
振り向けば2人の少女が黄色い少女に向かって駆けてくる。
レッド「……えっ」
そのツインテールは夕焼けを浴びてこの世のものとは思えない輝きをはなっていた。
……けど
マミ「どうしたの?」
その声合図にみんなの視線が俺に集まる。
そして、その少女は俺の目の前で立ち止まり、視線を落として俺に話しかける。
まどか「あなた、どうして泣いているの?なにか悲しいことがあったの?」
そう俺の目からは涙が止めどなく溢れてしまっていた。
そのツインテールにあふれる慈愛と、そのツインテールが背負う運命の重さが見えてしまったから。
まどか「えっ、ちょ、ちょっと」
レッド「……俺が……絶対に守ってみせる」
俺はそのツインテールを胸に抱きよせ誓った。
19:以下、
トゥアール「総二様!」
幼女と少女の間に白衣の女が突如割り込む。
レッド「トゥアール!良かったトゥアールも無事だったのか!」
トゥアール「無事だったのかじゃありません。私だってまだ抱き寄せられたことがないのにどうして他の女なんですか」
そして白衣の女は両胸を下から持ち上げて幼女に押し付ける。
まどか「えっ?えっ?」
トゥアール「見てくださいこの完成された女体!!抱き寄せるならこのちぶぅっ!!」
まどか「ひうっ!!」
目の前の顔にめり込む携帯電話に怯えの声があがる。
トゥアール「愛香さん。いきなり何するんですか!」
蒼いツインテールの少女が光に包まれ、その光の中から高校生と思われる少女が姿を現す。
愛香「何をするとかあんた言われたくないわよ。この万年発情期女」
さやか「ちょっと喧嘩にまどかを巻き込まないでよ!危ないでしょ!!」
マミ「美樹さんちょっとまって」
マミ「あなた達、あの子の関係者で良いのよね?」
愛香「そうだけど、あなたは?」
マミ「私は巴マミ。この子達の先輩なの」
愛香「そう。私は津辺愛香。それでこっちはトゥアール。レッドの関係者なのは間違いないわ」
マミ「そう。じゃああなた達にもお礼を言っておくわ。ありがとう。私はさっきあの子に命を救われたの」
マミ「それであの子からいろいろ情報交換をしたいってお願いされてるんだけど出来たら喧嘩を止めて欲しいの」
マミ「美樹さんが言うように周りの人に迷惑をかけてるかも知れないでしょ。」
愛香「……そうね。ごめんなさい」
愛香「あなた達。私ちょっと頭に血が上りすぎてたみたい。ほんとにごめんなさい」
トゥアール「そうですよ愛香さん。携帯は投げるものではありませんよ」
愛香「あんたが言うな!」
トゥアール「あたっ!」
マミ「……」
愛香「……ふぅっ。ごめん」
トゥアール「や?い、怒ら」
マミ「……」
トゥアール「……そ、そうですよね。お話があるって言うのならお伺いしましょう。あっ!当然お茶とケーキくらい出るんですよね?」
マミ「……そうね。命の恩人を招くんですから。とっておきの紅茶と美味しいケーキくらいは用意させて貰うわ」
20:以下、
ほむら「あなた……えっと、さっきの男の子で良いのよね?」
レッド「えっ、ああ、そうだけど」
ほむら「そう……ひとつお願いがあるの」
レッド「良いけど何?」
ほむら「私の魔法については自分から話さないで欲しいの。タイミングを見て話したい事情があるのよ」
レッド「え、別にかまわないけど」
ほむら「助かるわ。えっとそれとあなた女の子に変身しているの?」
レッド「うくっ!ま、まぁそういうことになるけど」
ほむら「……」
レッド「違うっ!断じて自分の意志でこうなった訳じゃないからな」
マミ「暁美さん。何を話してるの?」
ほむら「巴マミ……そうね、それは私からじゃなくて彼から聞いたほうが良いと思うわ」
マミ「彼?」
レッド「あ、そ、その騙すつもりはなかったんだけどさ」
少女の全身が光につつまれ消えるとそこには
総二「俺は観束総二。えっと、さっきのはほんとの姿じゃないんだ」
マミ・まどか・さやか「「「……へっ!??」」」
愛香「あぁ、そっか。そりゃそうなるわよね」
マミ・まどか・さやか「「「…………」」」
ほむら「とりあえずいろいろ情報交換はした方が良いみたいね」
ほむら「どうする?巴マミ」
21:以下、
マミ「……そうね、もし良かったらあなたもこれから私の家に来ない?」
さやか「マミさんっ!!」
マミ「暁美さんを完全に信用した訳じゃないけど、暁美さんが私の命を助けてくれたのは間違いないわ」
マミ「……それに暁美さんが、本気であなた達のことを心配してるのも間違いないと思うの」
さやか「そんなことないですよ。いっつも思わせぶりな嫌味ばっかり言って感じ悪いし」
マミ「……さっき助けられた時、目があったの。私じゃないかも知れないけど、誰かのことを本気で心配してる目だったわ」
さやか「……マミさん」
マミ「それに私も軽率だったわ。体験ツアーなんて言ってあなた達を危険に巻き込んでしまったんだから。暁美さんが私に悪い感情を抱くのは当然よ」
さやか「それはあたし達が無理を言ったからでマミさんは悪くないよ」
マミ「美樹さん。ありがとう。でもあなた達を危険な目にあわせたのは私の責任。そこははっきりさせとかないと」
マミ「それにね、本気で人の心配が出来る人とこんな関係を続けたいとは思わないの」
マミ「ねぇ、暁美さん。これで私のしたことを許してなんて言わないわ。けど、とりあえず休戦で良いから一緒に家に来ない?」
まどか「……ほむらちゃん」
トゥアール「えっとぉ、関係者だけでシリアスな話されるとぉ、こっちの間が持たないんでぇ、早くケーキとか食べたいんですけんぐぐぐ」
愛香「あんた、ちょっとは空気ってものを読みなさいよ」
ほむら「……はぁ……巴マミ。ご一緒させて貰うわ」
マミ「嬉しいわ、暁美さん」
ほむら「私もこんな関係を続けたいとは思わないもの。でもひとつだけ」
さやか「転校生!!」
ほむら「キュゥべえっ!!聴いてるんでしょ。とりあえずあなたへの攻撃は中止するわ」
ほむら「陰でこそこそされるのは不愉快なの。いるのはわかってるから早く姿を見せなさい!」
マミ「……」
キュゥべえ「ずいぶん一方的な言われようだね」
総二「なんだ?こいつしゃべった?」
愛香「あっ、可愛いっ!」
キュゥべえ「へぇ、君たちには僕が見えるんだ」
総二「そりゃそうだろ。って見えるとか言うより喋る方がすごいだろ」
愛香「ねぇ、これって猫?リス?なんか尻尾がもふもふしてて可愛いよね」
トゥアール「……総二様?そこに何かいるんですか?」
総二「トゥアールには見えないのかこれ」
トゥアール「見えないっていうか声も聞こえないんですけど、ほんとに何かいるんですか?」
ほむら「巴マミ。時間も時間だし場所を移さない?」
マミ「……そうね。思ったより時間もかかりそうだし、その方が良いかも知れないわね」
24:以下、
総二「あらためてだけど俺は観束総二、それでこっちが俺の幼馴染で津辺愛香、こっちの白衣がトゥアール。学年は今年高校に入ったところだ」
マミ「あっ、先輩……だったんですね。あのさっきは失礼しました」
愛香「ううん。さっきのは、ところかまわず騒いでた私達が悪かったわ」
トゥアール「へぇ、マミさんの方が愛香さんより歳上だと思ってました」
愛香「……何が言いたいの?」
トゥアール「そりゃあ、落ち着いた話し方とかぁ、後輩に対する態度とかぁお姉さん的なところがあるじゃないですかぁ」
マミ「あ、あのトゥアールさん!?///////」
愛香「あんた。どこ見ながら喋ってんのよ!」
トゥアール「おう、わたしのくに、ひとのむねみてはなすふうしゅうあるですよ」
愛香「……」
総二「まて!まて、まて、まて、愛香!!落ち着けっ!!ここ人ン家だから」
ほむら「それであなた達はいったい何なのかしら?さっき、飛ばされたとかどうとか言ってたけど」
総二「俺たちの方の事情は……信じてもらえるかわからないけど、俺たちは多分別世界から、こっちに飛ばされて来んだ」
マミ「……別世界?」
総二「ってなるよなぁ」
ほむら「いいわ。そうだとしましょう。それでさっき変身してた、あれはなんなの?」
総二「う?ん、けっこう長くなるけど良いか」
ほむら「ええ。こっちにも話すとそれなりに長くなる事情はあるわ。お互いの事情は出来る限り交換しておくべきだと思うから」
マミ「……」
総二「そうだな。じゃあ最初はエレメリアンのことからかな」



25:以下、
マミ「……属性力……ちょっと話が予想外すぎて、何と言ったらいいのか」
まどか「……それで女の子に変身して」
総二「だからそれは俺の意思とか趣味じゃなくて、そういう仕組みになってるだけだから!」
さやか「いや、けど変身できるくらいツインテールが好きってちょっと……」
総二「あぁ、それは自覚してる。本来そんなのって世間からつま弾きにされても仕方ない事だと思う」
総二「だけど、そういう俺だからこそ、誰かの何かを好きだって気持ちを護りたいんだ」
さやか「お、おう、ってなんか思ってたより、すごく良い答えが帰ってきた」
愛香「まぁ、傍から見たらただのツインテール馬鹿なのは確かよね」
まどか「あっ!ひょっとして愛香さんって観束さんのこと?」
愛香「ちょ、ちょっとなんでいきなりそんな話に///////あ、あたしとそーじは幼馴染っていうか、そ、その」
まどか「わぁ、やっぱり。なんか上条君のこと話してるさやかちゃんみたいな話方だったから」
さやか「ちょ、ちょっとまどか!//////」
トゥアール「違いますよ、まどかさん。総二様の恋人は私でこれはエレメリアンと戦う殺戮マシーんげぅ!!」
まどか「トゥ、トゥアールさん!!」
さやか「また、始まっちゃった。ほんとに仲が良いんだか悪いんだか」
26:以下、
ほむら「ねぇ、さっき巴マミに危険が迫っていることがわかったのはどうして」
マミ「そうなの?」
ほむら「ええ。魔女の結界で出会ったとき突然ツインテールの女の子が死んでしまうって叫びだしたの」
ほむら「それで私の魔法も使ってあなたたちのところに駆けつけたのだけれど、その時も観束総二にはあなたのいる場所がわかっていたみたいなの」
ほむら「あの状況でどうしてそんなことがわかったの?」
愛香「うぁあ、ここでもそれは絶好調なんだ」
マミ・ほむら「「?」」
総二「ああ、あれか。俺はツインテールの気配を感じられるんだ」
まどか「ツインテールの気配!?」
さやか「いや、いや、いや、髪の毛を結んだだけで気配も何もないでしょ」
愛香「私もそう思うんだけど、これがほんとなんだよね」
総二「まぁ、今までツインテールにしてなかった人が、急に髪を括ったくらいならはっきりわからないこともあるんだけどな」
総二「その人がツインテールに思い入れを持ってたり、長い間ツインテールにしていたとかならかなりのことまでわかるな」
ほむら「どういう理屈よ?」
総二「本当に好きなものならどこにあるかなんてわかって当然だろ」
さやか「違う。絶対当然なんかじゃない」
総二「そうかな?」
27:以下、
まどか「じゃあ私が近づいたりしてもわかるんですか?」
総二「もちろん。君くらいのツインテールだったら間違えようがないよ」
まどか「じゃあ、ちょっと私がどこにいるか当ててみて下さいね」
まどか「あっ、マミさん。ちょっと隣の部屋に行きますから」
マミ「ええ。別にかまわないけど」
総二「今部屋の奥に向かって。それから右に向かって。いましゃがんだ。今、ツインテールに触った」
総二「待ったっ!!ツインテールを解くのはやめてくれっ!」
マミ・ほむら「「……」」
さやか「……ほんとみたいだね」
まどか「観束さん、ほんとにツインテールがどこにあるかわかるんですね!」
ほむら「ちょっと信じられないのだけど。何か仕掛けがあるんじゃないの」
総二「こればっかりは信じて貰うしかないけど……ん?……えっと、暁美さんだったよね?」
ほむら「ほむらで良いわ。で、そうだけど何?」
総二「最近まで髪の毛をツインテールにしてた……三つ編み?…………う?ん……ごめん」
総二「けっこう長い期間、髪の毛を二つに分けてたことはわかる。けどやめてから間がないのか、かなり前なのかがちょっとわからないな」
総二「ツインテール頂きに近づいたと思ったんだけど、やっぱり俺はまだまだだな」
ほむら「……確かにあなたにはそれを感じる能力があるみたいね。信じるわ」
まどか「ほむらちゃん?」
28:以下、
マミ「そういえば、暁美さん」
ほむら「何かしら?」
マミ「あなたの魔法も使って助けに来てくれたって言ってたけど、あなたの魔法ってなんなの?」
ほむら「ちょっと説明し辛いのだけど。瞬間移動が出来わ。距離や出現場所に制限はあるけどね」
ほむら「でも私にはあなた達がどこにいるかわからない。観束総二があなた達がどこにいるか教えてくれなかったら多分間に合わなかったわ」
マミ「そう。あらためてだけどほんとにありがとう。私もだけど美樹さんや鹿目さんまで巻き込んでしまうところだったわ」
ほむら「いいわ。命を助けられるならそれに越したことはないもの」
さやか「……転校生!」
ほむら「なに?美樹さやか」
さやか「あたしあんたのこと誤解してた。あんたはあんたなりにあたし達のこと心配してくれてたんだ」
さやか「ほんとに悪かった。ごめん」
ほむら「……いいわ。私の話方が拙かったのも間違いないもの」
まどか「ほむらちゃん。じゃあマミさんと一緒に戦ってくれる」
ほむら「それは出来ないわ」
マミ「!」
さやか「転校生っ!」
ほむら「……私にも魔法少女の先輩と友達がいたわ……でも2人とも私をかばって命を落としたの。もうあんな思いはしたくないから」
さやか「……ご……ごめん」
ほむら「良いわ。けど、私にとっては魔法少女ってそういうものなの。だからあなた達が契約することには賛成出来ない」
ほむら「魔法少女にはそういう一面もあることだけは忘れないで」
マミ「……そうだったの」
29:以下、
ほむら「この話はここまでよ。私の話なんてどうでも良いから」
ほむら「ねぇ、トゥアールさん……だったかしら」
トゥアール「はい、はい。独りだけ何にも見えないからハブられがちなトゥアールちゃんですよぉ」
ほむら「属性力って人間の感情に起因するエネルギーと考えたら良いのかしら」
トゥアール「概ねその通りです。言ってみれば人が何かを求める心をエネルギーとするプラスの感情エネルギーです」
ほむら「心のプラスのエネルギー……ねぇ、キュゥべえ。あなたは属性力をどう思う?」
キュゥべえ「どうしたんだい暁美ほむら。君から僕に話しかけてくるなんて」
ほむら「私達は魔法少女として戦っているけどなぜ魔法が使えるかなんてわからないもの。その辺の事情はあなたの方が詳しいと思っただけよ」
キュゥべえ「そうだね。人間の感情には様々な可能性が秘められているからね。そういう形でエネルギーを取り出す手段があるということなんだろうね」
キュゥべえ「けど人間が何かを想う心が物理的なエネルギー足り得るというのは聞いたことがない。非常に興味深い話だね」
マミ「……キュゥべえ?」
ほむら「そう。じゃあキュゥべえ。あなたが魔法少女のことを説明してあげなさいよ。魔法少女についてはあなたが一番詳しいでしょ」



32:以下、
総二「へぇ、願いを叶える変わりに魔法少女になって戦わなきゃならないのか」
キュゥべえ「ならないってわけじゃないよ。でも魔女を放っておけば人間が被害を受けることになる」
キュゥべえ「君達はそういうのは容認出来ないんだろ。それに魔女を倒せば魔法少女にとって有益なアイテムを落とすこともあるしね」
キュゥべえ「そういう色々な理由で多くの魔法少女は魔女と戦っているんだ」
総二「なるほどね。魔女がいる以上、魔法少女には戦う理由が出来てしまうってことか」
トゥアール「ねぇ、総二様、ほんとにそこに『キュゥべえちゃん』がいるんですか?」
総二「トゥアールにはほんとに見えないんだな」
トゥアール「こうやって目に力を入れたらうっすらと何かいるような気はするんですけどね」
トゥアール「けど皆さんが『キュゥべえちゃん』に向かって話してるのは完全に独りごとにしか見えないんですよねぇ」
総二「なぁ、キュゥべえ。お前って人によって見えたり見えなかったりするのか?」
キュゥべえ「そうだよ。本来、僕は魔法少女になる素質がない人間には見えないからね。残念ながらそっちの彼女には魔法少女の素質がないんだろうね」
愛香「じゃあ私には魔法少女の素質があるってこと?」
キュゥべえ「そうだよ。君にはかなり強い素質があるよ」
愛香「へぇ、そうなんだ」
総二「ちょっと待てよ。俺にもキュゥべえは見えてるんだけど」
キュゥべえ「そうだよ。君にも魔法少女の素質があるよ。しかもまどか程では無いにせよ救世主と呼ばれる人間に匹敵するくらいの素質がある」
総二「素質があるのは良いんだけど、ひょっとして契約したらやっぱり女になるのか?」
キュゥべえ「どうだろう。実のところ素質を持つ男性というのは過去に例がないわけじゃないんだ」
キュゥべえ「ただ過去に僕と契約した男性はいないからどうなるかは契約してみないとわからないね」
総二「はぁ、あんまり考えたくはないけどな。ところで聞きたいんだけど、その契約で俺達が元いた世界に戻るってことは可能なのか」
キュゥべえ「そんな別世界があるなんて僕は全く把握していない」
キュゥべえ「けど、もしその世界が存在しているのならおそらく元の世界に戻ることは可能だろうね」
キュゥべえ「まぁ、これについてはその世界があるかどうか確認出来ないから、おそらくと言わざるを得ないけどね」
総二「そうか、最悪の場合はキュゥべえとの契約で元の世界に戻れるんだな」
キュゥべえ「それじゃあ契約するかい?」
33:以下、
総二「いや。今はやめとくよ。いろいろ帰れる方法を探してどうしてもそれが見つからなかった場合は考えるけどさ」
愛香「けど、私達の世界には魔女なんていないんだけど、もし私達が契約して元の世界に戻ったら魔女と戦わずに願いだけ叶えて貰えることになるの?」
キュゥべえ「まぁ、君が契約したとして君が元の世界で魔女と戦うことはないだろうね」
さやか「えぇ、それってなんかずるくないですか」
愛香「あははは、まぁ、もしそうなったらってことよ」
愛香「けど、本当に元の世界に戻る方法がなかったらその方法で帰るしかないのよね」
さやか「……それは、仕方ないですね」
愛香「ま、まぁ、そういうことよ。いくらなんでも私利私欲のために願いを叶えるなんて……そんなことしないわよ」
トゥアール「はっ!!さては愛香さんっ!!ひょっとして巨乳になりたいって願いを叶えるつもりなんでしょ」
愛香「な、なななな、何言ってるのよ!!」
トゥアール「やっぱり、そうなんですね!!いいですか愛香さん乳とは天然であるからこそ貴いものなのですよ」
トゥアール「見てください。年下でありながら愛香さんを遥かに上回る2人のこの乳を!」
マミ・さやか「「///////」」
トゥアール「これが科学に頼って豊胸手術をしたり、魔法で大きくした人工的な乳だったらどう思います!乳とは天然物であるからこそ貴いのです!!」
トゥアール「だいたい愛香さんの胸は男の人を包み込んだり、子供を慈しむんじゃなくて、相手を威嚇するドラミングのためにあるんでしょ」
トゥアール「胸の大きい愛香さんなんてまさに蛇足、いえ世界の女性に対する冒涜です。そんな世界の摂理を乱すようもぉあげがいごどばばばばばばっ」
愛香「あ?っ!!黙って聞いてたらよくもよくも言いたい放題っ!良いわ。キュゥべえ、私契約する」
34:以下、
総二「おいおい愛香。そんな短絡的な」
愛香「そーじは黙ってて!!」
愛香「……そうね。私の願い事は私とトゥアールの胸の大きさを入れ替えること。それで良いわ」
マミ「あ、愛香さん。そんな願いはちょっと」
愛香「持てる者に持たざる者のコンプレックスなんてわからないわよ」
マミ「そ、そうじゃなくて」
総二「愛香。願いを叶えるにしても他人の不幸を願うみたいなのはどうかと思うぞ」
愛香「くっ!じゃ、じゃあ私の胸をトゥアールよりも大きくして。それでいいでしょ」
総二「そこまでトゥアールと張り合うのか」
ほむら「やめておきなさい。そんなくだらないことのために命を懸けるなんてただの馬鹿よ」
愛香「私はとっくに命懸けの戦いに足突っ込んでるの。今更、敵が多少増えたって別に今と変わらないのよ!」
ほむら「あなたは、たかだか肉体的なコンプレックスのために魂をかけるつもりなの」
トゥアール「あっ、けど巨乳への憧れは愛香さんにとっては魂より重いのかもしれませんねぇ」
愛香「あ?っ!!もう契約してやる。キュゥべえ!私の胸をトゥアールよりも大きくしてちょうだいっ!!」
ほむら「駄目っ!!!」
キュゥべえ「津辺愛香。その願いは君の魂をかけるに相応しいものかい?」
愛香「そうよっ!!」
さやか「言い切った!?」
35:以下、
ばぢっ
ばばばばばばばばばっ
愛香「えっ!!きゃっ!!!」
総二「愛香!!」
トゥアール「あ、愛香さん!!」
マミ「ちょ、ちょっと!?大丈夫ですか」
愛香「……う、う?ん……い、今の何?」
総二「愛香!!」
トゥアール「愛香さん!良かった。はっ!」
白く細い指が、右腕のブレスレットに押し当てられた端末上でアプリらしきものを展開する。
トゥアール「えっ!これって……まさか……そんな」
青い瞳が泳ぐように部屋の中を落ち着き無く彷徨う。
総二「トゥアール?」
トゥアール「ひゃ、ひゃいっ!!」
総二「どうかしたのか?」
トゥアール「え、えっと、あ、あははは、い、いやぁ愛香さんのテイル・ギアちょっと動作不良おこしちゃったみたいでぇ」
トゥアール「私のお古だからちょっとガタが来てたのかもしれませんねぇ。あはははは」
まどか「……大丈夫……なんですか」
トゥアール「大丈夫!大丈夫ですって!愛香さんだったら像(ゴーレム)が踏んでも壊れませんから」
トゥアール「あっ、でもテイル・ギアは早めに調整したほうが良いかもしれませんね。総二様、時間も遅くなりましたしそろそろおいとましませんか?」
マミ「けど、体調が悪いのにすぐに動くのは危ないですよ。なんでしたら家で休憩してください?」
トゥアール「大丈夫です。それより機械の修理を優先したいんで、もうおいとまさせて頂きます」
総二「トゥアールがそう言うなら。愛香は大丈夫か?」
愛香「トゥアール?……わかったわ。私は全然平気だから良いわよ。確かにあんまり遅くまでお邪魔するのもどうかと思うし」
36:以下、
ほむら「そうね。もう遅くなってしまったわね。あなた達、家の方は大丈夫なの?」
さやか「あたしはまだ少しくらい平気だよ。明日は学校休みだしね」
まどか「私も連絡入れたら大丈夫だよ」
ほむら「そう、私はそろそろ帰らせて貰うわ。巴マミ。この子達のことは任せたわよ」
マミ「ええ。わかったわ」
ほむら「あとあなた達。もし問題なければ連絡先を交換しておきたいのだけれど」
総二「良いよ。こっちも魔女退治で必要なら手を貸すよ。その代わりと言ったらなんだけど出来たら俺たちが元の世界に戻ることにも協力して欲しいんだ」
ほむら「わかったわ。あなた達なら大丈夫だと思うけどもし魔女が出たら私かマミに連絡してちょうだい」
まどか「ほむらちゃん。私達も連絡先交換しておかない。何か危ないことあったら連絡したいし」
ほむら「……わかったわ」
まどか「うぇひひ。やったね!」
マミ「あなた達今日はありがとう。ほんとに命拾いしたわ」
マミ「何かあったら連絡をちょうだい。出来る限りのことはするから……それから暁美さん」
ほむら「私はまどか達の契約には反対。でもあなたを含めて誰かの命が失われるのも黙認する気はないわ」
マミ「……」
ほむら「……あと契約の現場に居合わせない限り、もうキュゥべえにも手を出さない。まどか達と接触してしまった以上、もうキュゥべえを排除する意味はないから」
マミ「……もし、魔女か使い魔が人に危害を加える可能性がある場合、協力をお願いするかも知れないけど受けて貰えるということで良いかしら」
ほむら「私はあなたが考えるほど強くはない。全く役に立たないかもしれない。それでも構わないのなら協力させてもらうわ」
マミ「……充分よ。それじゃあまた」
ほむら「ええ。それじゃ」
37:以下、
愛香「トゥアール。さっきのあれ何?いきなり目配せして来て。一体何なの?」
総二「そうだよ。なんか急過ぎて変な目で見られてたんじゃないのか」
トゥアール「総二様。愛香さん。歩きながら話します。それとさっき言ってた『キュゥべえちゃん』が近くにいないか警戒しながら歩いてください」
愛香「キュゥべえに警戒?それって何か意味があるの?」
トゥアール「はい。出来る限りで結構ですからお願いします」
総二「まぁ、トゥアールがそう言うなら。それでなんであんなこと言ったんだ?」
トゥアール「……テイル・ギアには様々な攻撃に対する防護システムが組み込まれています」
総二「確か物理的なものから幻覚みたいな精神攻撃、その他諸々の防護システムがあるって言ってたかな?」
トゥアール「ええ。さっき愛香さんが感電したみたいな状態になりましたよね」
愛香「そうよ、何あれ?ほんとにテイル・ギアが壊れたんじゃないの?」
トゥアール「あれはテイル・ギアが愛香さんを護ったんです」
愛香「護ったって感電させられて護るって何よ?」
トゥアール「あれは愛香さんが受けた攻撃を防ぐためテイル・ギアがエネルギーを逆流させたからあんな状態になってしまったんです」
総二「攻撃?あの時、愛香はキュゥべえと契約の話をしていただけだろ」
トゥアール「ええ、そうです」
愛香「攻撃って何の………あの話が攻撃だったってこと!?」
トゥアール「少なくともテイル・ギアの自動防護装置は攻撃かそれと同種の何かだと判別したということです」
トゥアール「実際、テイル・ギア自体がアルティ・メギルから流出させられた技術ですから、私にとってもブラックボックスな部分が多くて完全に理解できているわけじゃありません」
トゥアール「けど、その『キュゥべえ』が言葉を介して魂に何らかの介入が出来るものである可能性がある以上あそこに留まることはリスクが高いと判断しました」
総二「ちょっと待てよ。じゃああの子達はそのことを」
トゥアール「わかりません。気づいていないのか、それとも共犯関係にあるのか」
トゥアール「どっちにしてもこの世界にはアルティ・メギルよりも恐ろしいものがいるのかもしれません」
トゥアール「今のところ情報も資材も対応策も何もかもが不足しています。早急に何らかの手を打つ必要があります」
総司「……なんかきな臭い話になって来たな」
足早に歩む三人を見下ろすビルの上、紅い瞳はただそれをじっと眺めていた。
40:以下、
まどか「ねぇ、さやかちゃん、あれって」
さやか「あれっ!愛香さん?」
訪れた病院の受付で見かけたのは、一目見れば忘れないツインテールとスレンダーなその人だった。
まどか「愛香さん」
愛香「あ、えっと、昨日はご馳走様」
まどか「えっ?ああ、私たちもマミさんにおよばれしただけですよ。お礼は次にマミさんに会った時に言って下さい」
まどか「けど、愛香さんも病院ですか…………ひょっとして昨日の?」
さやか「あ、そうかあの時。あの後すぐ帰っちゃったけど大丈夫だったんですか?」
愛香「……はぁ……なるほど、確かに腹芸なんて私には無理っぽいわね」
まどか・さやか「「?」」
愛香「ごめんなさい。私の用事は病院じゃなくてあなた達。えっと、情報交換。魔法少女についてあなた達が知ってることを教えて欲しいの」
まどか・さやか「「?」」
41:以下、
マミ「えっと、キュゥべえは暁美さんと契約した覚えがないのよね。それと契約とは別の何かによって力を持ったツイン・テイルズね」
キュゥべえ「そうだね。両者が無関係だとすれば、偶然というにはあまりに現れる時期が近すぎる」
マミ「でも関係があるにしては連携がとれてなかった気もするのよね?」
キュゥべえ「確かに連携という意味で言えば、ツイン・テイルズ自体も連携が取れていたとは言い難かったね」
マミ「どっちにしても暁美さん達が私を助けてくれたのは間違いないわ。単純に敵味方で考えるなら敵とは言えないわよね」
キュゥべえ「確かに彼女たちがマミを助けてくれたことは間違いない。けど、その正体がはっきりしない以上、気を許し過ぎる必要はないと思うよ」
マミ「そうね。お互い分かり合えたって思ってた人とでも仲違いはすることはあるものね」
マミ「ところでキュゥべえは、あのツイン・テイルズの人達が言ってたこと、どう思ってるの?」
キュゥべえ「彼らの目的や別世界のことなんかは正直、僕たちの理解の範疇を越えている」
キュゥべえ「けど人間の感情を直接エネルギーに変換する技術には興味があるね」
マミ「そういえばトゥアールさんだったかしら。あの人と直接、話をしたらそのことはよくわかるんじゃないの?」
キュゥべえ「かもしれないね」
マミ「じゃあ、直接話をしてみたら良いんじゃないかしら?」
キュゥべえ「姿を見せて話したい気持ちはあるんだけどね。どうも彼女と僕の波長が違い過ぎるのか上手くいかないみたいだね」
マミ「そういうものなの?」
キュゥべえ「とりあえず用心するに越したことはないと思うよ。じゃあ僕はちょっと席を外すよ。少し用事があるんだ」
マミ「えっ?」
その言葉にあわせるように玄関のベルが鳴り響く。
マミ「はい。どなた様ですか?」
トゥアール「どうも?っ!昨日はお世話になりました。トゥアールちゃんで?すっ」
マミ「トゥアールさん!?」
トゥアール「昨日のお礼とキュゥべえちゃんとお話したいな?って遊びに来ました?」
マミ「え、えっと、きゅ、キュゥべえ?」
さっきまでそこにいた小さな相棒の姿はどこにもなかった。
42:以下、
ほむら「観束総二だったわね。私に何か用?」
総二「なんか来るのがわかってたみたいな感じだな」
ほむら「ええ、なんとなくね……あなた達、昨日いきなり話を打ち切ったわね。どうして?」
総二「……」
ほむら「……私への用事もそれに関係のあることじゃないかしら?」
総二「……トゥアールに聞いておいてくれって頼まれたんだけどさ」
総二「キュゥべえが愛香に契約を持ちかけた時、どうして駄目って叫んだんだ?」
ほむら「取り返しがつかないことにならないように……よ」
総二「それって何が取り返しがつかないんだ?………ひょっとしてあの契約ってかなりやばいもんじゃないのか?」
ほむら「今のもトゥアールが言ってたの?」
総二「ああ。もしそれを知った上で止めてくれたのだとしたらほむらさんは味方でしょうって」
ほむら「……そう」
総二「愛香を助けてくれたんだったらその借りはちゃんと返す。けど俺たちには元の世界で待ってる人達がいるんだ」
総二「俺たちが元の世界に戻る為に力を貸してくれないか」
ほむら「……残念だけど、私はあなた達が世界を越える方法なんて知らない。だから協力は出来ないわ」
総二「……」
ほむら「……じゃあ話は終わりね」
総二「待てよ。そっちの話が終わってないだろ」
ほむら「私はあなた達の力にはなれないわ。他に何か用事でもあるの?」
総二「いや、俺達の方がほむらの力になれるかも知れないだろ?」
ほむら「……あなた達にメリットは何もないわよ」
総二「愛香を助けてくれたんだろ。借りはきっちり返すさ。それに困ってる人を助けるのも当たり前の事じゃないか」
ほむら「能天気ね……魔法少女に関わって良いことなんか何もないわよ」
総二「なぁ、ほむら。お前、あの子を助けたいんだろ」
ほむら「っ!!?」
ほむら「……何のこと」
総二「昨日言ったろ。俺はツインテールのことが分かるって」
総二「あれだけのツインテールなんだ。誰の視線を受けているか、そこにどんな思いが込められているかくらい読み取れないわけないだろ」
ほむら「…………ごめんなさい。あなたが何を言っているのか本気で意味がわからないのだけど」
総二「……え?と…………うん!!俺はツインテールの味方だ!!それは信じてくれ」
ほむら(………本当に言葉が通じてるのかしら?会話が成立してる気がしないのだけど、この人たちほんとに味方で良いのよ?)
43:以下、
まどか「やっぱり愛香さんがツインテールにしてるのって観束さんのためなんですねっ!!」
愛香「ちょ、ちょっと!!そ、それはそうなん……だけど////////」
さやか「はぁ?///」
愛香「な、なによそのため息!!重いっての?仕方ないじゃないあいつほんとにツインテールにしか興味ないんだから」
まどか「違いますよ、愛香さん。さやかちゃんも幼馴染の男の子に振り向いて貰いたいなって思ってるんです」
まどか「ねっ、さやかちゃん。参考にしたかったんだよね!」
さやか「ちょ、ちょっとまどか!?////」
愛香「えっ、そうなんだっ!!その人ってどんな人!?」
さやか「ちょっと愛香さん食いつき過ぎ/////」
まどか「えっと上条君って言うんですけど、バイオリンに夢中であんまりさやかちゃんに構ってくれないんだよね」
さやか「ま、まどかっ!?」
愛香「え?!良いじゃない!けど中学生くらいの男の子なんてまだ恋愛とか気にしてなくて普通だから。そんなに焦らなくても良いわよ」
愛香「でもなぁ……はぁ」
さやか「どうかしたんですか?」
愛香「いや、片やバイオリンに夢中で、こっちはツインテールってなんだろうなぁって……それに美樹さんスタイルも良いし」
さやか「愛香さんだってスタイル良いですよ。それに観束さんは何かに夢中っていってもすごくしっかりしてるじゃないですか」
さやか「あいつすごく落ち込んじゃってて危なっかしくて仕方ないんです。あんな怪我したら仕方ないんですけど」
愛香「怪我?どうしたの?」


44:以下、
愛香「ねぇ、美樹さん。上条君のために契約しようって考えてるよね」
さやか「えっと、その」
愛香「責めてるんじゃないわ。私が美樹さんの立場だったら多分そうしてたと思うから言ってるの」
さやか「……私、あいつがどれだけ本気でバイオリンに打ち込んできたかずっと見てたんだ。あいつがあのままなんて見てられない」
さやか「キュゥべえがあいつの怪我を治せばあいつは元のあいつに戻れる。だから契約したいって考えてます」
愛香「それ、ちょっと待って貰えない?」
さやか「どうしてですか?」
愛香「その上条君の怪我、一度トゥアールに見て貰っても構わないかな」
さやか「トゥアールさん?」
愛香「うん。私達が別世界から来たって昨日言ったよね。けどあいつはもう一つ別の世界、それも自分の力で世界を渡って来たの」
愛香「テイル・ギアを造ったのもあいつだし、医学にどこまで詳しいかはわからないけど見て貰う価値はあると思うの」
さやか「愛香さんは私が契約するのに反対ですか?」
愛香「他にどうしようもないなら私だってそうするわ。だから反対はしない」
愛香「でも、だからこそ私に出来ることがあるなら、それをしておきたいの。お願い。私に協力させて」
まどか「……さやかちゃん」
さやか「わかりました。あたしが契約するのは、恭介をトゥアールさんに見て貰ってからにします」
まどか「さやかちゃん!!」
さやか「……正直、マミさんが死にそうになったの見て怖くなってたのもあるんだ」
さやか「あいつを助けられて街を守れるヒーローになるんだって軽く考えてたけど魔法少女ってそんなんじゃないんだよね」
さやか「それにあいつが元通りバイオリンが弾ける可能性があるなら方法は多い方が良いもんね」
愛香「うん。じゃあ明日にでもトゥアールに見て貰える様に言っておくわ」
愛香「あいつ、ちょっ…………相当変だけど、ほんとに頼りになる奴だから」
45:以下、
トゥアール「ふぇっくし!!」
マミ「トゥアールさん?」
トゥアール「あっはは、すみませんねぇ。誰かに噂されてるみたいです」
マミ「は、はぁ」
トゥアール「ところでキュゥべえちゃん遅いですねぇ。せっかくお話しようと思っていろいろ持って来たのに」
トゥアール「ひょっとして私、キュゥべえちゃんに避けられてます?」
マミ「そんなことはないですよ。キュゥべえもトゥアールさん達のこと気にしてたんですよ。ほんとにさっきまでいたのに」
マミ「あの子あれでけっこう気まぐれと言うか。4、5日家を空けたりなんてしょっちゅうなんですよ」
トゥアール「へぇ?けっこう不良さんなんですねぇ。ところでキュゥべえちゃんって普段はどんな子なんです?」
マミ「どんなって言われると難しいですけど、ちょっと素っ気ないけど聞き上手で寂しい時にいつでもいてくれる感じかなぁ」
トゥアール「あ?っ。あんまり労力をかけずに女をたらし込むタイプですね」
トゥアール「そういうタイプは自分も相手もちゃんと管理する気で付き合わないと依存性になりますからね。気を付けて下さいよ」
マミ「……トゥアールさん……さっきから男女関係に例えたお話が多くないですか?」
トゥアール「……なにか問題でも?」
マミ「……いえ、そういう訳じゃ(そういうのにオープンな国の人なのかしら?)」
マミ(キュゥべえ早く帰って来てくれないかしら?私この人ちょっと苦手かも)
46:以下、
PIRIRIRIRIRIRIRIRIR
マミ「ちょっと待ってくださいね(良かった。誰だか知らないけど助けの電話だわ)」
マミ「あら鹿目さん……えっ魔女の口づけ!?それで……美樹さんと津辺さんが中に入ったのね!わかったわ」
マミ「すぐに向かうから場所を教えて。出来れば目印になるような建物も……そう、わかったわ」
マミ「あと津辺さんがいるから美樹さんは大丈夫。だから鹿目さんはそこで待ってて。じゃあすぐに行くから!」
トゥアール「魔女ですね?」
マミ「はい。なんでもクラスメイトが魔女の口づけを受けて工場に入っていくのを見たって」
マミ「トゥアールさん。私はこれから鹿目さん達のところに向かいます」
トゥアール「わかりました。愛香さんがいるなら物理的には安全だと思いますが」
トゥアール「……けど急ぎましょう……えっと、一人の方が早いですか?」
マミ「はい。その方が早いです」
トゥアール「わかりました。私は後で追いかけます。あと暁美さんにも連絡を」
マミ「……暁美さん?」
その正体がはっきりしない以上、気を許し過ぎる必要はないと思うよ。
先ほどの言葉が胸の奥に浮かび上がる。
トゥアール「はい。まどかさんが連絡をしてる可能性はありますけど、味方は多いに越したことはありませんから」
トゥアール「何より、私達よりも鹿目さんに近ければ早く助けに行けます。出来ることはしておくべきだと」
マミ「……そうですね。わかりました。暁美さんに連絡してみます」
気を許しすぎる必要はない。でも鹿目さんたちの安全が最優先なのも間違いない。
そして、あの時の暁美さんは本気で誰かの無事を願っていたはず。
マミ「信じてるわよ。暁美さん」
49:以下、
愛香「よっと」
さやか「………」
愛香「……どうしたの?」
さやか「愛香さん?今何したんですか?」
愛香「えっ?ちょっと頭を揺すっただけだけど」
さやか「いや、なんか相手の顔に手をあてて人の間をすり抜けただけにしか見えなかったんですけど」
愛香「へぇ、あれが見えたんだ。けっこう良い目してるんだ。そうよ。相手の顎に手を引っ掛けてちょっと揺さぶったの」
愛香「操られてるって言うんじゃケガさせる訳にいかないからね」
さやか「………えっと、脳を揺するってそんなに簡単なことなんですか?」
愛香「まぁ、慣れるまではちょっと難しいと思うけど。コツさえ掴めば一番安全に気絶させられるのよね」
さやか(慣れるとかコツを掴むとか普段この人はどんな人生送ってるんだ?)
愛香「それより倒れてる人をなんとかしなきゃ。クラスメイトがいるんでしょ」
さやか「そうだ!仁美……??……!!!?」
しゅぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
部屋の影が暗さを増し、そこから羽のついた人形のような何かが涌き出してくる。
さやか「あっ、愛香さんっ!!」
愛香「テイル・オンっ!!」
掛け声とほぼ同時に蒼い光が工場内に煌く。
さやか「えっ!!」
工場内の隙間から湧きだそうとしていた何かは、蒼い光に刺し貫かれて空に消える。
だがそれと同時に周囲の景色は現実ではない何かに変わっていく。
ブルー「やっとお出ましって訳ね。じゃあ、ちゃっちゃと片づけちゃいましょうか!」
50:以下、
マミ「暁美さん!レッドさん!」
まどか「ほむらちゃん!」
ほむら「まどか!」
マミ「ごめんなさい。どうしてもついて行くって聞いてくれなくて」
ほむら「……良いわ。連絡ありがとう。私たちの方が先についたけど、遅かったみたいよ」
マミ「っ!!」
ほむら「違うわ。もう終わりそうなの」
マミ「えっ、まだ5分くらいしかたってないはずよ。それをブルーさんが独りで?」
ほむら「ええ。私も少し前についたところだけど。彼女は強いわ。本当に」
壊れた人形が散らかる中心で、蒼い少女は羽の生えたモニターに槍を突きつけていた。
ブルー「ちょこまか逃げてたけど、これで終わりね」
ブルー「なんか仕掛けてたみたいだけど、テイルギアにはなんか色々防御機能がついてるんだってさ。残念だったわね」
エリー「…………」
ブルー「けど、昨日のもそうだけど魔女って喋らないんだ。まぁ、命乞いとかされても困るからあいつらよりやりやすいけどね」
ブルー「じゃあ、終わらせるわよ」
エリー「…………」
モニター奥の人影が笑みを浮かべた様に見えた瞬間、モニターから光りが消える。
ブルー「?」
再び点灯したモニターに見知った顔が浮かび上がる。
トゥアール「じゃ?ん!トゥアールちゃんでぇ???すっ!!」
ブルー「ぶうぅっっ!?………!?」
51:以下、
気がつけばそこはいつもの通学路だった。
ブルー(しっ、しまったぁ!!術にかかっちゃったみたいね!あいつだったらやりかねないって思って気が抜けたか)
ブルー(テイルギアに防護機能がついてても私が精神を乱せば精神攻撃は通っちゃうんだ。油断したわね)
ブルー「とりあえず動いてるモノ見たら攻撃……近くに美樹さんがいるからそれはダメか……時間を稼いで助けを待つか。う?ん」
レッド「なぁ、愛香」
背後から最も信頼する人の声がかけられる。
ブルー(来たわね。さぁ、どう出る)
振り向けばそこには、
レッド「なぁ、愛香。俺、なんか最近胸が大きくなってきちまってさ」ぷにゅん
愛香「はぁっ!??」
気がつけば、そこは昨日お茶会をしたリビング前の扉だった。
愛香(今の何よっ!!魔女のやつまで私を馬鹿にするつもりっ!!)
そして目の前のドアの隙間から無慈悲な会話が漏れ出してくる。
さやか「いやぁ、高校生にもなってあの貧乳はないですね」ぷるん
まどか「さやかちゃん、そんなこと言っちゃだめだよ。私も大きくなるまで悩んでたんだから」むにゅん
マミ「鹿目さん。中途半端な希望は絶望を深くするだけよ」ぷるるるん
マミ「きっぱりと諦めさせるためにもはっきり言ってあげるのが優しさなのよ」
まどか「そうですね。じゃあ」
ばたん。開いたドアの前に3人が並ぶ。
まどか「せ?の!」
まどか・さやか・マミ「「「や?い、ひんにゅう???」」」
愛香「ちょっ」
声を上げようとした時には3人の姿はなかったかの様に掻き消える。
愛香(くっ!!いや、怒っちゃダメだ。これは精神攻撃なんだから。落ち着け、落ち着け、落ち着け、クール、クール、クール、クール、cooル、cool、cool、cool、cool、cool、cool、あの腐れ魔女絶対に八つ裂きにしてやるっ!!!)
52:以下、
そこは夕焼けに染まる校舎の屋上だった。
キュゥべえ「津辺愛香。受け取るが良い。それが君の運命だ」
キュゥべえ「そして、おめでとう。魂を対価に君の胸は大きくなったよ」
キュゥべえ「3mmね」
愛香「はぁっっっっ!!魂を対価に3mmって、どんっだけぼってんのよ!?」
愛香「あぁ?もう良い!!人間ならともかくアンタなら二・三発殴っても問題ないわよね!!」
ぱしゅっっ!!
右手が伸びるその直前、白い生き物は蜂の巣へと姿を変える。
ほむら「津辺愛香、落ち着きなさい。これは魔女の精神攻撃よ」
背後からかけられた声は昨日知り合った親近感を覚えたあの少女だった。
愛香「同士っ!?」
そして振り向いたそこには
ぼい??ん
愛香「  」
ブルー「きしゃああああああああああああああああああああああああああああああ」
マミ「ひぃっ!!」
それは最悪の狂獣の産声だった。
53:以下、
レッド「やばいっ!ブルーが暴走してる!」
マミ「暴走?」
ブルー「るおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
まどか「あ、愛香さん、いったい?」
ほむら「どうしたの?ひょっとしてテイル・ギアの副作用!?」
レッド「そんな副作用があるかよっ!!そんなもん危なくて使えるわけないだろ!!」
レッド「多分、貧乳を弄られる幻覚を見せられたんだ。あいつ胸の話になるとたまに暴走するんだよ!」
ほむら「そっちの方があぶないわよ!!そんな人を武装させないでちょうだいっ!!」
58:以下、
ブルー「おおおおおぉぉぉろぉぉおぉぉぉぉぉ」
マミ「きゃっ!!」
一瞬前までマミのいた場所が薙ぐような右腕の一撃により抉り取られる。
ほむら「ちょ、ちょっと、何よ!あの破壊力!!」
マミ(ちょっと!!?なによこれ?こんなの貰ったら首が取れちゃう!!!)
マミ「レ、レッドさんっ!!少し手荒くなるけどブルーさんを捕まえます」
ブルー「ぐるるるるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぉぉぉぉぉおおおおおお」
マミ「レガーレ・ヴァスタアリアっ!!」
さやか「捕まえたっ!!さすがマミさん……えっ!?」
……みしっ……みしり……みしっ……みしり……びちっ
マミ「ちょ、ちょっとまさか!?」
……ぶちっ…………ぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶち
マミ「ひぃっ!!!?」
ブルー「ぐるるるるるるるぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお」
マミ「ひぃっ!!!」「きゃぅっ!」「いゃっ!」「ちょっ!」「暁美っ」「さんっ!!」
レッド「凄いっ!あの愛香の攻撃を紙一重で全て躱してる」
ほむら「ええ。巴マミは私が知る限り最強の魔法少女よ。誰かを庇いでもしない限りそうは遅れはとらないわ」
マミ「ひぅっ!レ、レガーレ・ヴァスタアリア」
レッド「やった捕らえたっ!」
ほむら「でも、また引きちぎられるわ」
マミ「レガーレ・ヴァスタアリア×3」
マミ「ちょ、ちょっと暁美さん!代わってちょうだい。あなたの瞬間移動の方が回避には向いてるでしょ!」
ほむら「代わってあげたいけど、テイル・ブルーはそれしか目に入ってないみたいよ」
ほむら「残念だけど私じゃ代わりになれないわ」
マミ「あ、暁美さん!」
ほむら「頑張って巴マミ。おそらく魔女を倒せばブルーの暴走は止まるはず。5分で良いから時間を稼いで」
マミ「嘘っ!!あなた絶対に代わる気ないだけでしょ!」
ぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶち
マミ「ひぃぃぃっ!!なんであれが千切れるのよっ!!」
59:以下、
ほむら「レッド。ブルーは巴マミしか目に入っていないわ。私たちで魔女の本体を叩くわよ」
レッド「あ、ああ。ってあれ放って置いても良いのか?」
ほむら「どうせブルーは巴マミしか眼中に無いのだから、代わってあげたくても代われないのはほんとのことよ」
ほむら「それに彼女が最強の魔法少女なのも間違いないわ。任せて問題な
ぃぃぃゃぁぁぁぁぁぁぁ
レッド「…………なぁ」
ほむら「……少し急ぎましょうか」
ほむら「あの魔女は回避能力と結界に姿を隠すのがやっかいね。不意をつければ良かったんだけど贅沢は言ってられないわ」
レッド「それで」
ほむら「まずは炙りだすわ。そうね。とりあえず爆弾が8つもあれば足りるかしら?」
レッド「……この世界の魔法少女って魔法じゃなくて爆弾を使うのか?」
ほむら「そうよ。それがどうかしたの?」
きっとこの世界の魔法少女は爆弾や銃火器を使うのが普通なのだろう。それがこの世界の常識なら何も言うまい。
愛香やトゥアール達、ツイン・テイルズのメンバーから俺が学んだのは世の中突っ込んだ方が負けだってことなんだから。
レッド「そうか、わかった。俺はあいつを追い詰めながらほむらの方に追い立てる。爆破のタイミングは教えてくれ」
ほむら「わかったわ。じゃあ行くわよ!」
ぐわしゃっ!!
マミ「きゃぁぁつ」
まどか・さやか「「マミさんっ!!」」
60:以下、
レッド「マミ!!」
ほむら「まさかっ!?」
ブルー「ぐるるるるるうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
ほむら「くっ!!テイル・ブルー」
レッド「ブルー!止めるんだっ!!自分を取り戻せ」
大型のネコ科の動物のように柔らかく力強さを秘めた歩みがゆっくりと近づいて来る。
マミ「……あ……暁美さん」
ほむら「巴マミ!大丈夫!」
マミ「……やっぱり私じゃ荷が重かったみたい」
ほむら「しっかりして!!傷なんて…………ないわよ?どこにも」
マミ「ねぇ、暁美さん。代われるものなら代わってくれるのよね」
ほむら「こんな時に何を言ってるの。代われるものなら代わってあげるけど、あれの標的が胸なのだから仕方ないでしょ」
マミ「そう、じゃあこれ任せて良いかしら?」
ほむら「へっ?」
胸に揃えられた両手がそれを絞るように前に突き出される。
ぽろん
ほむら「はいっ!?」
マミ「暁美さん、お願いね」
むぎゅっ!!
ほむら「え!!??ちょ、ちょっと、なによこれ!!?」
ばい?ん
マミ「ブルーさんの目的が胸だけなら移しちゃえば良いかなって。回避だけなら暁美さんの方が得意でしょ」
ほむら「ちょ、ちょっと!!」
マミ「ということで暁美さん。2分であの魔女を仕留めるから、囮の方お願いね」
ブルー「……むね……きょにゅう……おおおおいでげぇぇぇぇぇぇぇぇええええ!!!!」
ほむら「くっ!!巴マミ、これは貸しよ!」
61:以下、
蒼い獣の爪が獲物を打ち倒そうとした瞬間、その姿は20m以上離れた場所に現れる。
ほむら「こっちよ!!」
ブルー「ぐぐううううううるるるるるあぁぁぁぁぁぁ」
蒼い獣はかけられた声の方向にノータイムで飛びかかる。
ほむら(なんて反応度!!これは時間が止められるからって油断はできないわね)
たゆん。
ほむら(それに。何よこの胸。動く度に自己主張して。胸のことなんて気にしたことなかったけど、何よ、この屈辱的な感情は)
レッド「……なぁ、さっきほむらにも聞いたんだけどあれで良いのか」
マミ「まぁ、適材適所ってことで暁美さんには頑張って貰いましょう。けど急がないといくら暁美さんでもブルーさんの相手は厳しいと思うわ」
レッド「ああ。何よりブルーに仲間を傷つけるようなことはさせたくない」
マミ「もちろんよ。ブルーさんにそんなことは絶対にさせないわ」
レッド「どうする?さっきは俺が追い立て役、ほむらが攻撃役だったけどマミはどうする?」
マミ「攻撃も追い立ても私に任せて。レッドさんは暁美さんとブルーさんを付かず離れずで追いかけて欲しいの」
レッド「追いかけるだけか?」
マミ「いいえ。万一、暁美さんに攻撃があたりそうになったら身を挺して暁美さんを守って欲しいの」
マミ「暁美さんが逃げ切れれば出番はないわ。でもその時があれば一番危険な役目。お願いできる?」
レッド「オッケー!出番がないことは祈っとく。けど、その時は任せろ!」
レッド「ほむらには絶対傷一つ付けない!!そしてブルーには絶対仲間を傷つけさせない!!」
マミ「ええ。じゃあ!!」
レッド「おうっ!!」
64:以下、
コマ送りの様に空間を渡る紫の人影を稲妻を思わせる蒼い獣が追いかける。
その両者が掻き乱す空間の中、赤い疾風は両者を追い、時折滲む黒い蟠りに向けて黄色い弾丸が撃ち出される。
目まぐるしくも全く距離の詰まらない鬼ごっこは、蒼い獣がぴたりと動きを止めたことにより一時中断する。
ほむら「!?」
動きを止めた蒼い獣が腕で口を拭った時、その隙間から青く光る液体のようなものがこぼれ落ちる。
どうして動きを止めた?液体?涎?どうしてあんな量が?殺気!!??
ブルー「きしゃああああああああああああああああああ」
まどか・さやか「「口からビーム出したぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」」
怪鳥音とともにブルーの口から照射された蒼い閃光が、空間を薙ぐ刃となって紫の人影がいた空間を上下に引き裂く。
ほむら「っ!!??」
咄嗟に身体を投げ出せたのは、くぐった死線が鍛えた直感のなせる業だったのか。
ほむら「な、何これっ!!!」
受身をとり、起き上がったその前には既に蒼い獣が待ち構えている。
ほむら「くっ!!」
蒼い閃光と獣の爪のような腕が流れるような連携で襲いかかる。
時間を止めれば全く問題ないはずの攻撃が詰将棋のようにじわりじわりと動ける範囲を削ってゆく。
ほむら(追い込まれている!?)
そう思った瞬間、散らばる人形の残骸に足を取られる。
ほむら「えっ!?」
気がつけば目の前で口から漏れる蒼い光が強く輝く。
ほむら(やられる!?)
きしゃああああああああああああああ
怪鳥音とともに蒼い閃光が吐き出される。
レッド「でぃりゃあああああああ」
少女を直撃するはずの閃光は炎を纏った大剣によって一瞬勢いを止められる。しかし
レッド「ぐぁっ!!」
二人の身体は閃光と大剣が接触した余波で吹き飛ばされる。
まどか「ほむらちゃんっ!!」
さやか「レッドさんっ!!」
ブルー「ふしゅるるうっるるるるるるぅぅぅぅぅぅ」
65:以下、
ぱんっ!
倒れる二人に近づく獣の前を弾丸が横切る。
マミ「暁美さん!!レッドさん!!お待たせっ!!行くわよっ!!」
手元に束ねられたリボンが一気に引き絞られ、蜘蛛の巣の様に張り巡らされたリボンが浮かび上がる。
マミ「怖い思いさせられた分、しっかりお返しさせて貰うわよ」
マミ「レガーレ・リピッリーノ」
引き絞られたリボンは命ある蜘蛛の巣の様に結界の中心に収束し、その主の動きを制限する。そして
ぽろん
ほむら「なっ!?」
ほむらの胸から離れた2つの塊がその主の元に届けられる。
さやか「引っ付いたっ!!??」
エリー「!!???」
そして結界の中心に羽と二つの双丘を備えたモニターというシュールな何かが完成する。
あまりに間抜けな展開にその場の空気がぴたりと止まる。
さやか「えっ!?なんだこれ!?ちょ、ちょっと!?胸が苦しっ、くえっ!!!!?」
突如上がった声に獣はそちらに視線を向ける。
まどか「さ、さやかちゃん!!?」
ぺたん。ぺたん。
そこには胸に手を当て苦しむ少女とそれを心配する少女が
ぺたん。ぺたん。
目の前には二人の倒れる少女が
ぺたん。
少し離れたところにリボンを持つ少女が。
そしてそのリボンの先には
ブルー「きしゅるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
エリー「??????????????????!!!!!!???」
蒼い獣は宙に浮かぶそれを得物と認めた。
66:以下、
しゃぁぁあぁぁぁぁぁぁ
まどか「いうっ!」
さやか「うぁっ!」
ぐるぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
????????????????!!!!?
ほむら「……もう二度と敵に回したくはないわね」
マミ「……そうね……自分でやっといてなんだけど、ちょっと魔女が気の毒になって来たわ」
きゅらきゅらきゅらきゅら
????????????????!!!!!!??
まどか「また口からビーム出したぁぁ?!!」
さやか「い、今、首が3つに増えてなかった!!?」
レッド「……あはは………はぁ?」
ぎしゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
?????????????????????????????っ!!!!!!!!!!!!
こうしてモニター姿の魔女は見守る者からの多大な同情の視線を受けながら無へと還って行った。
68:以下、
トゥアール「愛香さんが操られて暴走してたんですか。なんでそんな楽しそうなこと撮影してくれなかったんですか」
トゥアール「今の愛香さんなら首を三つに増やして怪光線を吐いて暴れるぐえええええええええええ」
愛香「人間にそんなことが出来るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!私は怪獣かなんかかっ!!」
本人からの人外宣言が入りました。
遅れてきたトゥアールと合流し、始まるバイオレント漫談を見守る観客の表情は硬い。
ちょっと乱暴だけど頼れるお姉さんの正体が、ちょっと優しくて頼れる怪獣だとバレてしまったのだからまぁ当然と言うべきか。
いきなり逃げ出される事を思えば、丁重な敬語で話しかけられるだけマシと言うものだろう。
73:以下、
キュゥべえ「それで君に見滝原市に行って彼らのことを調べて欲しいんだ」
杏子「マミとイレギュラー1人に魔法少女候補が2人。それに加えて訳分かんねぇのが3人ねぇ」
杏子「まぁ、事情はわかったぜ………それであたしがお前の為に働いてやらなきゃならない理由なんかあんのかよ?」
キュゥべえ「そうだね。君が僕に協力して得られるメリットは特にないよ」
杏子「ほぅ。それであたしがお前の為に動いてやるとでも?」
キュゥべえ「うん。君がメリットなしに動かない魔法少女なのは知ってるよ。けどマミはそうじゃないよね」
杏子「ちっ!あたしとマミがもう関係ないのは、てめぇも知ってんだろうが」
キュゥべえ「知っているよ。でもマミはあの頃とまったく変わらないんだよね」
キュゥべえ「僕としては彼女たちが何を目的としているのかが、はっきりするまではあまり近づかない方が良いと思ってるんだ」
キュゥべえ「けど、彼女は偶然命を救われたことで無防備に彼女達のことを信じてしまってね。少し心配してるんだよね」
杏子「心配?お前が?けっ!」
キュゥべえ「心外だなぁ。僕はマミが無意味な危険に晒されることなんて本心から望んでないんだよ」
杏子「帰れ!あたしとマミは違う道を選んだんだ。今更、あたしが出てってもマミも迷惑だろうよ」
キュゥべえ「それじゃあ仕方ないね。まぁ、君以外にも心当たりはいるからね。そっちを当たってみるよ」
杏子「あぁ、そうしな。あたしは手前ぇの顔なんざ見たくもねぇし、もうマミと関わる気もないんだよ」
74:以下、
キュゥべえ「ところでその前に確認したいことがあるんだけど。ねぇ、杏子、その髪が」
がしん!!
突如現れた巨大な槍がコンクリートをえぐる。
キュゥべえ「いきなり、あぶないじゃないか」
杏子「うるせぇ!!とっとと心当たりだかのマヌケのところに行きやがれ!」
キュゥべえ「ふぅ、そうするよ。ところでその3人が現れた時期なんだけど君のある変化と重なるんだよね」
キュゥべえ「彼女達はツインテイルズと名乗ってるんだけど心当たりはないかい?」
杏子「!!」
キュゥべえ「可能性は低からずと思ってたんだけど心当たりがあるみたいだね。じゃあ僕はこのまま見滝原に戻るよ」
杏子「おい!!」
キュゥべえ「彼女たちは今の君とおなじ髪型をしてるよ。それってツインテールって言うんだよね」
キュゥべえ「まぁ、興味がないなら忘れてくれれば良いよ。じゃあね、杏子」
杏子「おい!……くそっ!!見透かした様な態度とりやがって」
杏子「……あいつの思い通りに動くのはムカつくけど、かと言ってあれをどうにかするのは見滝原に行くのが一番早いんだろうな」
杏子「……はぁ、それにしてもこの髪型でマミと会わなきゃいけないのか?」
そういう彼女の腰まである髪は見事なツインテールに結えられていた。
杏子「……はぁ、どんな罰ゲームだよ」
75:以下、
さやか「トゥアールさんどうですか?」
トゥアール「ええ。これならちゃんと動くようにはなります」
さやか「ほんとですか!!」
まどか「さやかちゃん!!良かったね、上条君またバイオリン弾けるようになるんだね!」
トゥアール「けれども完全に元通りという訳ではありません」
さやか「!!」
さやか「元通りじゃないって、どういうことなんですか?」
トゥアール「上条さんの手が動かなくなったのは神経が切断されているからです」
さやか「……」
トゥアール「それ自体は、私の世界の技術なら修復可能なんですけど、それはあくまで物理的に繋ぐしか出来ないんです」
トゥアール「つまりは動くようにはなっても、元の通り動かせるどうかは本人の努力次第ということになります」
さやか「それって練習次第で元通りになるってことで良いんですか?」
トゥアール「保証は出来ません。けど恐らくは練習次第で元の動きは取り戻せると思います」
さやか「それなら大丈夫です。あいつ本物のバイオリン馬鹿だから腕さえ動けば絶対に立ち直れます!」
トゥアール「即答ですか。信じてるんですね上条さんのこと」
76:以下、
トゥアール「いやぁ。恋する乙女って可ぁ愛いですねぇ。なんか見てるだけで胸がキュンキュンしちゃいますねぇ///////」
さやか「トゥ、トゥ、トゥ、トゥアールさん!////////」
トゥアール「見事なタンギングってなんだか愛香さんにも言った様な気がしますね」
トゥアール「けど愛香さんから聞いてますよ。今は幼馴染だけど、どうやってそれ以上になろうかって頑張ってるんですよねぇ」
さやか「そ、そんなんじゃ……ない……です/////」
トゥアール「くぅ?っ、言葉で否定してても正直に身体に溢れちゃう好きですオーラ。同じ幼馴染なのに愛香さんと違ってなんて可愛いんでしょう」
さやか「わっ!ちょ、ちょっとトゥアールさん距離が近い、ってかなに抱きついてんですか///////」
まどか「トゥ、トゥアールさん!?」
トゥアール「良いですねぇ。小さい時から気になってたけど性に目覚めてもっと意識しちゃった?みたいな甘酸っぱい感じ」
トゥアール「お姉ぇさん、応援しちゃいますよ?。けどちょっとこの辺を味見しちゃおうかな?って」
さやか「うぃっ!!ちょっとトゥアールさんどこ触って!!」
トゥアール「良いではないか、良いではないか。さやかさん、いっそ私の嫁になりませんか」
まどか「……さやかちゃんがさやかちゃんに襲われてる」
さやか「ばかぁ?変なこと言ってないで助けろまどかぁ?!!」
77:以下、
杏子「あれがツインテイルズとか言う奴の一人とキュゥべえにちょっかいかけられてる魔法少女候補……なんだろうな」
杏子「あいつら公衆の面前で何やってやがるんだ?」
病院を見下ろすビルの屋上、望遠鏡を覗く少女がつぶやいた。
杏子「牛っぽいのとぱんぴーっぽいの2人ね。ふん!キュゥべえの野郎わざと曖昧に伝えやがったな」
杏子「まぁ、十中八九あの牛女がそうなんだろうな。ただ髪型云々で言ったらあっちのちっこいのも可能性はあるよな」
杏子「……残りの髪の毛の短いのははずれとして、どっちから声をかけたもんかねぇ」
つぶやきとともに最期のポップコーンが放物線を描いて口に吸い込まれる。
杏子「……あとマミに訳分かんねぇイレギュラーもいるんだったな……思った以上にめんどくさくねぇか、これ?」
杏子「……あのうぜぇのがなけりゃ絶対首なんて突っ込まないんだけどなぁ」
杏子「まぁ、しょうがねぇか。考えてたって仕方ねぇし出たとこ勝負だな」
くしゃり。潰されたポップコーンの容物がビルの屋上に転がった。
81:以下、
杏子「なぁ、そこの2人。ちょっと顔貸してくんない?」
人通りが少なくなった公園の小道、背後からかけられた声に2人の足が止まる。
まどか「えっ?」
さやか(まどか振り向いちゃダメっ!!これ多分カツアゲってやつだと思う)
まどか「カツアゲ?」
さやか「声が大きいっ!!」
杏子「いや、カツアゲじゃねぇし……ってまぁそう聞こえなくもないか」
さやか「なんか用でもあん…………ツインテール?」
振り向いたそこには腰まである髪を二つに束ねたパーカーの少女が立っていた。
杏子「ツインテールで悪いかっ!」
まどか「えっと、お揃いですね」
杏子「嬉しくねぇ!!てか髪型から離れろっ!」
さやか「いや、最近ツインテール付いてるなって思ってさ」
さやか「でもまさかツインテールにカツアゲされるとは思ってなかったなぁ」
杏子「だからカツアゲじゃねぇって言ってるんだろうが。あと髪型から離れろ」
さやか「けど『顔貸して』ってどう考えてもカツアゲにしか聞こえないでしょ」
杏子「どう聞こえようが自分より弱っちい奴から金脅し取るようなマネはしねぇよ!!聞きたいことがあるんだよ」
さやか「だったらそれなりの口の聴き方ってものがあるでしょ!」
杏子「はぁ?勝手にカツアゲと勘違いしといて何言ってんだ?口の聴き方が悪けりゃ犯罪者扱いして良いのかよ?」
さやか「何?子供じゃあるまいし口の聴き方くらい考えなよ。人を不安にさせるような口の聴き方する方が悪いんじゃないの?」
杏子「はぁっ!?」
さやか「何よっ!」
まどか「さ、さやかちゃん」
2人を中心に公園内の緊張感が高まって行く。そして
マミ「美樹さん?」
自分の背後から目の前の少女にかけられた声に赤い髪の少女はピクリと体を震わせた。
82:以下、
あの子、ツインテールを始めたばかりだな。結び方はしっかりしてるけど、左右のバランスに改善の余地がある。
けど燃えるような髪色の力強さと、ツインテールの可憐さが相まって何とも言えない美しさを醸し出している。
荒削りだけどこのツインテールは絶対に伸びるな。
なんだ?その若いツインテールに微かな緊張感が漂う。
少女は首をゆっくり傾げてツインテールをなびかせる。そして弾けるように睨み合っていた少女に向かって走り出す。
さやか「やるっての!!えっ!?」
まどか「きゃっ!」
赤いツインテールは突然横に跳び、桃色のツインテールの横を抜け走り去っていった。
…………なるほど。すごいな。始めて間もないのにツインテールをあそこまで使いこなしているのか。
しかしあんな使い方があるとは。俺もツインテールの頂を目指すものとしてもっと研鑽を積まなきゃならないな。
しかしツインテールはやっぱり奥が深い。
さやか「ちょっと、待ちなさいよっ!」
マミ「美樹さん、何かあったの?知り合い?喧嘩してたみたいだったけど」
さやか「う?ん、カツアゲだったのかな?多分、不良か何かに絡まれたんだと思うんですけど?」
まどか「さやかちゃん。ほんとに何か聞きたかっただけかも知れないよ」
さやか「けど、あんな口のきき方に人が来たら逃げちゃう様な奴なんだよ。後ろめたいことがあるに決まってるよ」
まどか「う?ん?」
愛香「あれ?トゥアールは?」
さやか「まだ調べることがあるから病院に残るって言ってました」
愛香「そう。それで上条君の腕はどうだって?」
さやか「はい。トゥアールさんなら治せるって!」
愛香「良かった!じゃあその彼はもう一度バイオリンが弾けるようになるんだ」
さやか「……あ、それは」
愛香「……だめなの」
さやか「ち、違います、すぐに元通りじゃなくて本人の努力しだいだって」
愛香「そう。じゃあ、美樹さんがしっかり支えてあげなきゃ。頑張ってね」
さやか「あ、はいっ!愛香さん本当にありがとうございます」
愛香「私はトゥアールを紹介しただけよ。お礼ならトゥアールに言ってあげて。言ったでしょ。あいつ本当に頼りになるんだから」
さやか「うん。でもやっぱり愛香さんありがとうございます!」
愛香「もういいのに……それよりも」
83:以下、
周りに視線を巡らせて耳元に口を近づけてる。
愛香「……告白するんだったら早くしなさいよ」
さやか「えっ、あ、あ、愛香さん///////////」
愛香「もうそれは良いから。あんなツインテール馬鹿の相手にだって恋敵がいるのよ」
さやか「いや、あいつただのバイオリン馬鹿ですからそんなのいる訳ないです//////」
愛香「甘いっ!!バイオリン馬鹿であのルックス、恋敵がいない訳ないでしょ。のんびりしてたらとんでもない恋敵に取られちゃうわよ」
さやか「いや、その、恭介はそんなの興味ないみたいだから」
愛香「甘いっ!!甘いっ!!あの馬鹿は自分が女になったってツインテールしか目に入らない、本っ気でそういうのに興味ない奴だけど恋敵はいるの!」
さやか「……女になった??」
愛香「……今のは忘れて」
愛香「とにかく私の恋敵なんてトゥアール……だけじゃないのよ………いつの間にか片手で数え切れなくなっちゃったんだから」
さやか「えぇ?っ!!」
愛香「それにトゥアールだけでも考えてよ。あいつはアホだし、痴女だし、ネジがどっか5,6本外れてるんだけど」
愛香「美人だし、天才だし、運動神経だって抜群だし、普段アホのくせに細かい気使いはできるわ、頼りになるわ、どんだけハードル高いのよ」
愛香「それにあの胸ぇぇっ!!あ?っ、もう思い出しただけで腹が立つぅぅぅぅ!!!」
さやか「あは、あはは」
愛香「でも私は絶対に諦めない。あいつのこと思って来た時間は誰より長いんだもんね」
愛香「………結果がどうなるかなんてわからないけどお互い後悔はしたくないじゃない。お互い頑張ろ」
さやか「はいっ、愛香さんっ!!」
84:以下、
マミ「なんだか、あっちは盛り上がってるわね」
まどか「愛香さんもさやかちゃんと同じ悩みを抱えてるから気になるんだと思います」
総司「へぇ、そうなんだ」
まどか・マミ「「………………」」
総司「どうかしたかな?」
まどか・マミ「「……はぁ」」
マミ「美樹さんも、津辺さんも大変よねぇ」
まどか「やっぱりどっちも、もうちょっと周りを見て欲しいですよね」
総司「……俺?」
総司「俺、けっこう周りは見てるつもりなんだけどなぁ」
目の前で野の花ような可憐なツインテールと溢れる星のような輝くツインテールが左右に振られる。
美しい。魂を揺さぶるような美しさがそこにはあった。
まどか・マミ「「……」」
総司「はっ!いやあんまりツインテールが美しかったから見とれていた訳じゃなくて」
まどか・マミ「「……」」
総司「ほんとだって普段はそんなことないんだって」
愛香「普段って、あんたいつもツインテールのことしか頭にないでしょ」
総司「愛香まで何言ってるんだよ。俺だってちゃんと周りのことは見てるって」
愛香「全っ然説得力ないのよ」
総司「そんなことないって!ちゃんと周りは見てるぞ。例えばさっきの女の子。あれ巴さんの知り合いだろ」
85:以下、
マミ「?」
マミ「何人かツインテールの女の子は知ってますけど、さっきの子は知りませんよ」
愛香「ほら本人もそう言ってるじゃない。適当なこと言ってるんじゃないわよ」
総司「本当だって。あの子、走り出す前に小首を傾げてただろ」
さやか「それがどうしてマミさんの知り合いになるんですか?」
総司「あれ巴さんの声を聞いて後ろを確認したんだよ。自分の顔を見られないようにツインテールで顔を隠しながらさ」
愛香「本人がツインテールの知り合いなんていないって言ってるのに何勝手に思い込んでるのよ」
総司「いや、あの子は最近ツインテールにしたんだと思う。髪の結び方はしっかりしてたけど左右のバランスが少しおかしかったんだ」
総司「あの子は最近までツインテール以外の髪型、多分ポニーテールか何かからツインテールにを変えたんだと思う」
マミ「……ポニーテール?…………佐倉さん!?」
総司「ほら、やっぱり心当たりがあるじゃないか」
マミ「えっ?えっ?確かにそう言われてみれば似てたけど……ううん。佐倉さんがツインテールにするなんて」
マミ「でも確かに似てたのは似てた……かも。う?ん」
総司「なっ。ちゃんと周りのことも見てるだろ」
愛香「要するにいつもどおりツインテールしか見てなかったってことじゃない」
総司「なんでそうなるんだよ」
愛香・マミ・さやか・まどか「「「「………………」」」」
なんだか俺の扱いがすごく理不尽な気がするんだが気のせいなんだろうか?
92:以下、
自動ドアが開くとともに電子音があふれだす。
美樹さやかの契約を回避してここまでたどり着けた。
巴マミとの関係も決して悪くはない。いや考えられる限り、かなり良好と言っても良い。
そしてツイン・テイルズ。今回の時間軸で初めて現れたイレギュラー。
強力な戦闘能力に加えて、かなり協力的な関係を維持できている。
けれどもこれだけを頼りに夜には挑めない……いつも彼女達はそれまでにいなくなってしまうのだから。
まだまだ使える駒は必要なのだ。
UFOキャッチャーのコーナーには見当たらない。
大概はここでお菓子を取っているのだけど今回はダンスゲームだろうか?
けれどもステップに合わせて揺れる特徴的なポニーテールは見当たらない。
大きなイレギュラーのある時間軸だ。ここでは佐倉杏子には会えないのかも知れない。
そう思った時に目の箸に飛び込む赤く揺れるツインテール
ツインテール!?
曲の終りとともにステップとツインテールがぴたりと止まる。
ほむら「佐倉……杏子?」
杏子「あん?」
振り向いたツインテールは間違いなく佐倉杏子だった。
ほむら「……佐倉杏子!?…………イメチェン?」
杏子「はぁ!?」
93:以下、
ほむら(なんで杏子がツインテールに?やっぱりツイン・テイルズというイレギュラーに影響されてるの?)
ほむら(だとしたらどんな影響が現れているの?ひょっとして杏子もあの人たちと同じ様な変身を?でもあの指輪はソウルジェム)
ほむら(やっぱり佐倉杏子は魔法少女に間違いない。じゃあなんでツインテール?)
杏子「あのさぁ。飯おごってくれてたんだから細かいことは良いけどさ、話があるっていうなら早く話せよ」
杏子「見たとこ御同業みたいだけどさ、こっちの顔見てはなんか考え込んで。あんた一体何の用なんだ?」
ほむら「あ、ご、ごめんなさい。ちょっと最近予想外のことが続き過ぎて考え事をしてたみたい。本題に入るわ」
杏子(…こいつスカした態度とってるけど意外に鈍臭いんじゃね?)
ほむら「佐倉杏子。あなたの力を借りたいの」
杏子「力が必要な訳だ。まぁ、それならあたしのところに来るってのは納得できる話だな」
杏子「で、力を貸すって何させるつもりなんだ?あたしは自分を安売りする気はないぜ」
ほむら「今から約10日後、見滝原に強力な魔女が現れる。それを撃退するために力を貸して欲しいの」
杏子「胡散臭ぇ話だな。なんでそんなことがわかるんだよ。それに見滝原ならマミの奴にでも……なるほど。あんたがキュゥべえが言ってたイレギュラーか」
ほむら「そう。あなたがこっちに来たのには、やっぱりあいつが絡んでいたのね」
杏子「まぁ否定は出来ねぇな。あいつが話を持ちかけて来なきゃ見滝原に来ることはなかっただろうしな」
ほむら「そう、それであいつはなんて言ってたの?」
杏子「マミが危険だの安全がどうとかだよ。まっ、どう考えても単なる建前だろうけどな」
ほむら「そうでしょうね」
杏子「ふぅん。マミとつるんでるって話だからどうかと思ってたけど、あんたはその辺わかってんだ」
ほむら「そうね。あなたを焚きつけて私たちのことを探らせ……ひょっとしたらぶつけてどちらかを排除する」
ほむら「あいつのことだからそれくらいのことは考えていたんじゃないかしら」
杏子「………まぁ、あたしもあいつのことは信用してねぇけど、そこまで言う奴は初めて聞いたな」
杏子「けど、キュゥべえのことをそこまで言ったらマミの奴とは一緒にいられないだろ。マミにはそれ隠してんのかよ」
ほむら「……あの人の前ではこんなこと言えないわ……あの人にとってキュゥべえは命の恩人で……そしてあの人は繊細過ぎる」
杏子「へぇ、マミの前じゃ猫被ってんだ。そこまでしてマミの力を借りたいわけだ」
ほむら「……そうね。本当の目的を隠して自分の都合で誰かの力を利用する。そういう意味では私はあいつと変わらないわね」
トゥアール「ふぅ。お二人とも会話に中二病が現れ過ぎですよ?いくら中二だからって気をつけないと拗らせますよ」
94:以下、
気がつけば、彼女たちの座るテーブルには、机に両肘を立て、両手で口元を隠した白衣の女性が座っていた。
ほむら「ばふっ!!」
トゥアール「熱っ!!コーヒー吹いたぁ!!」
杏子「うわっ!!なんだ、こいつどこから湧いたんだ!」
ほむら「トゥ、トゥアール!?」
杏子「あっ!!こいつツイン・テイルズかも知れない年増っぽい奴じゃねぇか」
トゥアール「年増っぽいってなんですか!!こう見えても私は総司様と同い年ですっ!」
杏子「いや、あたしはそんな奴知らねぇから」
ほむら「トゥアール、あなたいったい何時から!?……昨日言ってたイマジン・チャフとかいう機械?」
トゥアール「憶えてくれてたんですね。そうですイマジン・チャフでちょっと盗み聞きさせて貰いました」
杏子「盗み聞きって、お前いつからいやがった?」
トゥアール「お話を聞かせてもらったのは料理がそろってからですけど、着いて来たのはゲームセンターからです」
杏子「はぁっ!ほとんど最初っからいやがったのかよ!」
トゥアール「ええ。すみません。こちらもちょっと切羽詰ってましてね」
トゥアール「でも、あなたとはお互い様ですよね。確か向かいの屋上から病院を探っておられた方ですよね」
杏子「……へぇ、あの距離で気付いてたのかよ。正直舐めてたな……えっと」
ほむら「トゥアールよ。異世界から来た科学者……らしいわ」
ほむら「あなたがキュゥべえから聞いたツイン・テイルズの一人で間違いないわ」
杏子「なるほどね。やっぱり只者じゃないってわけだ」
トゥアール「えっと私には紹介とかないんですかね」
ほむら「……」
杏子「……いいぜ。そっちでやってくれよ。あたしの用事は後で良いから」
ほむら「……トゥアール、彼女は佐倉杏子。私やマミと同じ魔法少女よ」
トゥアール「どうも初めまして、杏子さん。私はトゥアール。異世界から来た天才科学者です」
杏子「佐倉杏子だ……で盗み聞きしてた理由って何なんだ?ついでに顔出した理由も聞かせろよ」
トゥアール「ええ……単刀直入に言いますとキュゥべえちゃんのことなんです」
杏子「キュゥべえ?あいつがどうかしたのか?」
95:以下、
トゥアール「どうかしたというのか……う?んちょっとキュゥべえちゃんについてお聞きしたいというのか」
トゥアール「えっと、キュゥべえちゃんっていったい何なんでしょう?」
杏子「詐欺師かなんかだろ」
トゥアール「……杏子さんはキュゥべえちゃんのことは嫌いなんですか?」
杏子「嫌いって言うか好きになる理由がねぇだろ。あんな胡散臭ぇ奴」
トゥアール「胡散臭いってどのへんが」
杏子「ほとんど全部だな」
トゥアール「……えっと、ほむらさんはキュゥべえちゃ」
ほむら「敵よ」
トゥアール「………」
ほむら「そう言えば、あなた達元の世界に戻るためにキュゥべえと契約することを考えていたわね。これはそのための情報収集?」
トゥアール「それもあります。出来れば一番リスクの少ない方法で帰りたいですから」
ほむら「そう。なら忠告してあげる。止めておきなさい。必ず破滅することになるから」
トゥアール「破滅ですか?」
ほむら「そうよ。あいつとの契約は、ただ一つの願いのために全てを諦めることと同じ。もし元の世界に戻れたとしても契約した者は必ず破滅するわ」
トゥアール「でも私達の世界には魔女なんていないんですよ。破滅する理由なんてないじゃないですか」
トゥアール「それとも魔法少女自体に何か破滅する原因でもあるんですか?」
ほむら「…………信じる、信じないは任せるわ……でもあなた達はあの子を助けてくれた。だから信じてくれることを祈ってるわ」
トゥアール「……ほむらさ「佐倉杏子」
杏子「なんだよ?」
ほむら「あなた、トゥアールに用事があったのよね」
杏子「……まぁな」
ほむら「そう。じゃあ私はこれで失礼させて貰うわ。力を貸して貰えること、期待してるわ」
96:以下、
杏子「……なぁ、あんた」
トゥアール「トゥアールです」
杏子「今のどう思う?」
トゥアール「……何か言い難いことがあったから追求されないように席を外した……ですかね?」
杏子「……あたしも同意見だな」
トゥアール「杏子さんは何か心当たりあります?」
杏子「ねぇな。ただあいつはあたしに聞かせたくなかったんだろうなってのはわかるぜ。多分破滅がどうとかってところをな」
トゥアール「私も同意見です……ということは杏子さんには心当たりはないんですよね」
杏子「あぁ。キュゥべえの野郎が胡散臭ぇのは間違いねぇけど……なんか別のところで鴨にされてるのかも知れねぇな」
トゥアール「……」
杏子「……」
トゥアール「……えっと、私達に用事があったんですよね?」
杏子「ああ。まぁ、そっちから片付けるか。なぁあんたフェニックスギルティって名前に心当たりはねぇか?あとイースナって奴」
トゥアール「!!?」
102:以下、
彼は机の上で部屋の主を待っていた。
いつもの彼であればその時が来るのをただ待っていたのだろう……いやいつも彼は機会を提示し、ただ彼女達が望んだ時にそこにいるだけだった。
それは彼が彼女達と過した長い年月で揺らぐことのなかったルーティンワークのはずだった。
がちゃり
彼は帰宅した部屋の主に声をかける。
部屋の主はそれを気にした様子もなくカバンを床に投げ出しベッドの上に倒れ込む。
そして部屋の主にとって重大事であろう問題についての自問自答を始める。
彼は、部屋の主にとってその問題は既に結論が出ており、それが特に意味を持たないことを知っている。
そして彼は永い付き合いの中で、彼の目の前で彼女達がその様な自問自答をしないことを知っている。
しかし部屋の主は彼がいないかのごとくそれを始めた。
その反応はある程度予想されたものであり、彼がこの部屋を訪れた理由でもある。
そして彼はそれを確認するため机から飛び降りベッドの上を飛び越えて出窓の上に着地する。
ベッドに寝転ぶ主をしばらく眺めた後、再びベッドを飛び越えて部屋の陰に溶け込んで消えて行った。
そして彼は姿を現す。先程まで訪れていた部屋を見下ろす高層建築物の屋上の上に。
キュゥべえ「間違いない。美樹さやかの素質がなくなっている」
彼は自身の存在意義を揺るがす問題を淡々と口にする。
103:以下、
キュゥべえ「やっぱり彼女達が原因と考えるべきかな?……こんなことは過去に例がなかったよね」
屋上の陰から現れた同じ姿と同じ声がそう問いかける。
キュゥべえ「そうだね。彼女達は魔法少女と言うシステムの枠外の存在だ。彼女達が何らかの影響を及ぼした可能性は否定出来ない」
キュゥべえ「鹿目まどかに他者の素質を奪う性質があるということはないかな?それなら彼女の素質の大きさと美樹さやかの素質の消失が説明できないかな?」
給水塔の上から彼らを見下ろすように再び同じ姿と同じ声がつぶやく。
キュゥべえ「仮説としては面白いね。けど素質が消えた時期を考えれば、彼女達が原因とした方が自然だろうね」
キュゥべえ「確かにね。だとすると素質が消える仕組みは何が引き金になっているんだろう?」
キュゥべえ「まずは接触した時間と考えて対処するしかないんじゃないかな?」
キュゥべえ「それが妥当なところだろうね。けど彼女達が鹿目まどか程の素質にまで影響を及ぼすものだろうか?」
屋上の四隅から声がかけられる。
キュゥべえ「わからないね。けど得られるエネルギーが無意味に減ることは回避すべきだよ」
キュゥべえ「そうだね。それについては何らかの手段を講じる必要があるよね」
キュゥべえ「けれど史上例を見ない素質を持つ少女に、僕たちが契約した覚えのない魔法少女、そしてシステムの外側から来た彼女達」
キュゥべえ「今から考えれば、なぜ彼女がここに顕現するのかの疑問は解けたんじゃないかな」
キュゥべえ「そうだね。明らかになったピースを見れば、彼女は現れるべくして現れるということだろうね」
キュゥべえ「そう。ここにはシステムを改変し得る可能性を持つ役者が集まっている。ならば舞台装置たる彼女が顕現するのは当然のことだよね」
キュゥべえ「全ては彼女が司る舞台の上で行われる。そしてその結果が覆ることは決してない」
屋上を埋め尽くすの赤い光の中、そう話したのは、どの彼だったのだろう。
キュゥべえ「まぁ、僕達は彼女達と鹿目まどかの接触を極力減らすことを考えるべきだね」
キュゥべえ「そうだね。結末は彼女にまかせて、僕達は接触時間を減らすことを中心に考えようか」
キュゥべえ「そうなると……やっぱり鹿目まどかと彼女達が接触しない方がお互いの利益につながることをわかって貰うべきだね」
キュゥべえ「そうだね。じゃあやっぱり直接会って、話して説得するのが一番だろうね」
屋上に集まっていた赤い光は風に吹かれたロウソクの様に消えていった。
104:以下、
トゥアール「総司様!、愛香さん!イースナ達から連絡がありました」
総司「イースナから!?」
愛香「連絡があったって、どうやって!?」
トゥアール「イースナとフェニックスギルディです」
愛香「イースナ?」
総司「フェニックスギルディ?」
トゥアール「はい、実は」
杏子「1,2週間くらい前の話なんだけどな」
杏子「頭ん中でいきなり声がしやがったんだよ『俺はフェニックスギルティ。もし俺の声が届いてたら探して貰いたい奴らがいる』ってな」
トゥアール「フェニックスギルディという名前には心当たりがあります」
杏子「まぁ、そうだろうな。そいつはツインテイルズを探してくれって言ってたからな」
トゥアール「それでフェニックスギルディはなんと?」
杏子「詳しくはわかんねぇ」
トゥアール「わからない?」
杏子「あぁ、声にしても全部はっきり聞き取れる訳じゃねぇし、基本一方的になんかを読み上げてるみたいな感じだからな」
杏子「話しかけてもあたしの声は届いてないらしくて会話が成り立たねぇから、その中身もいまいち意味もわかんねぇんだよ」
杏子「なんかポニーテールが世界の架け橋だとか、イースナ姉ちゃんとツインテールは俺が護ってやるとかなんか頭膿んでる話ばっかりだしな」
トゥアール「……そう……ですか……イースナが。それでその声は今も聞こえるんですか」
杏子「いや、今は聞こえねぇ、って言うか聞こえねぇ様にした」
トゥアール「聞こえないようにってどうやって?どこから来てるのか原因もわからない声なんでしょ」
杏子「まぁな。ただポニーテールが架け橋がどうとか言ってたから、髪をほどいてみたら声が小さくなってな」
杏子「それでいろいろ試してこの髪型にしたら全く聞こえなくなったんだよな」
トゥアール「……なるほど。無意識にエレメーラの相関関係を利用したんですね」
杏子「……目の前で聞いててもあんたが言ってること訳が分かんねぇんだがな」
トゥアール「……杏子さん。私達の都合でご迷惑をおかけしました。ご迷惑をおかけしてその上ですみませんが私達に力を貸してもらえませんか?」
杏子「……今日はよくよく協力を求められる日だな…………いいぜ、力は貸す」
杏子「ただこっちにも協力して貰うぞ。構わねぇな」
トゥアール「はい。わかりました。でその条件は?」
108:以下、
総司「フェニックスギルディが」
トゥアール「ええ。実のところ通常の手段では通信の目処すら立っていない状況でしたので、かなりありがたい話です」
愛香「通信の目処すら立たないってどうして?」
トゥアール「心配させてもどうかと思って伏せていたんですが、私達が投げ出されたこの世界はかなり特殊な状況にあるみたいなんです」
総司「特殊な状況?」
トゥアール「時空間の座標が観測出来ないというか、確定した値が検出できないんです」
愛香「それが特殊な話だとして何か問題があるの?」
トゥアール「……えっとですね、世界を渡るには正確な位置情報と世界と世界の間を固定する手段が必要なんです」
トゥアール「私達がこの世界に飛ばされた以上、ここと私達の世界を繋ぐトンネルが存在しているのは間違いないと思います」
トゥアール「ですから世界の座標さえ確定させれば通信も移動も簡単に出来るはずなんです」
総司「……なるほど。だから確定した座標が出せないこの世界では通信も移動も出来ないってことか」
トゥアール「そういうことです」
愛香「それってかなり拙い状況なんじゃないの?」
トゥアール「ええ、かなり拙い状況でした。けどイースナとフェニックスギルディのおかげで帰れる算段は立ちました」
トゥアール「理屈はわかりませんがフェニックスギルディは座標情報なしで杏子さんと通信が可能みたいです」
トゥアール「ですから二人の通信で、お互いにその時点での位置情報を交換すれば、原理的には通信も移動も可能になるはずです」
総司「でも通信は一方通行なんだろ。それで上手く連絡とかとれるのか?」
トゥアール「杏子さんの話を聞く限り、その通信の最初に空間座標らしき数式を読み上げてるみたいです」
トゥアール「おそらくイースナがそのことを想定してフェニックスギルディに座標情報を流すように依頼してるんでしょう」
トゥアール「あとは杏子さんの協力さえ取り付ければ、かなりの高確率で帰る算段が立てられると思います」
109:以下、
愛香「なるほどね。じゃあその杏子って子の出した条件を果たせば良いわけね」
総司「つまりは、その10日後くらいに現れるって魔女を倒せば良いんだな」
トゥアール「まだ何も言ってませんけど、どうしてそれがわかったんです?」
総司「俺は二人のツインテールが並んでるところは見てるんだぜ。あのツインテールがお互いを助け合わないなんてありえないよ」
愛香「……はぁっ」
総司「どうしたんだ?」
愛香「何にも。そーじはこれからもそうやってツインテールのことだけ考えてるんだろうなって思っただけよ」
総司「当たり前のことだろ。何を言ってるんだよ愛香」
愛香「……はぁ???っ」
総司「けどフェニックスギルディが慧理那やイースナに協力してくれるならあっちはしばらくの間は心配ないだろうな」
愛香「まぁね。確かに味方にすれば、あれだけ頼りになる奴はいないわよね」
トゥアール「……すみません。私がちゃんと帰る方法を見つけられていたらこんな危険な方法を取らずに住んだんですけど」
総司「いや、どっちかと言えば俺としてはありがたい話なんだ」
総司「当然、元の世界に一刻も早く戻るのが第一なんだけど、あの子達のことも放っておけないしな」
愛香「そうね。私も魔女に操られてたところを助けられた借りがあるからね。帰る前に借りは返したいからね」
愛香「そう考えたら私達とあの子達の利害は一致してるし、あっちも心配いらないみたいだからちょうど良いんじゃない?」
トゥアール「お二人共ありがとうございます。けどくれぐれも油断はしないでください」
総司「なんだよ改まって。何かを守るために戦うってある意味いつもと同じじゃないか」
トゥアール「……私は総司様達の戦いをずっと見てきましたし、私自身も多くのエレメリアンを倒してきました」
トゥアール「その上での話なんですが……エレメリアンと魔女。どちらが危険だと思います?」
110:以下、
総司「突然どうしたんだトゥアール?」
愛香「……そうね、強いのはエレメリアンよ。けど危険かどうかで言ったら同じか魔女の方が危険かもね。そういうことを言いたいんでしょ?」
トゥアール「……」
総司「……そうなのか?確かに魔女はなんか嫌な感じがすることが多いけど、ドラグギルディとかの方がよっぽど危険だろ」
愛香「そうよ。強いかどうかで言ったらエレメリアンの方がよっぽど強いと思うわ」
愛香「けどね私の場合、魔女の方が『嫌』なの」
総司「嫌?」
愛香「……そうね。エレメリアンって意思疎通出来てるかわからないけど言葉は通じるでしょ」
総司「意思疎通も出来てると思うけどなぁ」
愛香「…………そーじが出来てるのは間違いないと思うわ」
愛香「けど魔女は言葉は通じないけど、こっちの心とか感情とかそういうのを理解……理解した上で悪意を持って襲って来る感じなの」
総司「理解した上で悪意を持って?」
愛香「……喧嘩で例えたら、エレメリアンとの戦いは男同士の喧嘩で魔女との戦いは女同士の喧嘩に近いかも」
愛香「それも仲の良かった親友同士が仲違いして、自分のプライドとか全部捨てて相手を追い堕とすことだけに集中する自爆型のやつ」
愛香「魔女の攻撃ってそんな感じの嫌らしさがあるのよね」
総司「……なんか怖いとか嫌だってのは十分に伝わった気がする」
愛香「どっちも人間に近いところと遠いところがあるんだけど、魔女のは人間の悪意を相手にしてるみたいでなんか心に来るのよ」
トゥアール「……魔女がエレメリアンよりも弱いとしても総司様達の命を奪える力は持っているんです」
トゥアール「それに10日後に現れる魔女がどの程度の力を持っているかも未知数です」
トゥアール「いつもと同じ考えで戦っていれば万一ということもありえます。お二人共くれぐれも気をつけてください」
総司「任せろよ。俺達は元の世界のツインテールを守るために帰らなきゃならない」
総司「そして帰るためにはこの世界のツインテールを守らなきゃならない」
総司「守るべきツインテールが2つもかかってるんだ。次の戦いは絶対に負けられないさ」
トゥアール「そうですね。それでこそ総司様です!」
愛香(……だいぶ慣れちゃったけど、どう考えても突っ込みどころしかない会話なのよね)
愛香(今度、巴さんかさやかに愚痴ってみようかな?多分、元の世界よりここの方がわかってくれる人が多い気がするのよねぇ)
116:以下、
来るべき災厄に備えるための作戦会議……という名のケーキバイキングの帰り道だった。
作戦会議なら私の家でと言う話もあったらしいが、誰かの行きつけのお店の招待券によりそこで開催されることになったらしい。
まぁ、不承不承参加したその子も弄られたり突っ込み返したり、黙々とケーキを食べたりとまんざらではなかっんだとは思う。
俺はというと、ケーキバイキングという場違いな空間に少し怯みはしていたのだが、思いのほかツインテールが多く、
スイーツの間を舞う蝶の様なそれを見て心を癒すことが出来て満足していた。
ぐにゃり
景色が歪み世界は影絵を貼り合わせた様な黒に塗りつぶされる。
ほむら(影の魔女?おかしい。時期が早過ぎる)
マミ「魔女の結界ね……自分から入ったことはあるけど引き込まれたのは始めてね」
愛香「これって、結界のどこかにいる魔女を倒せば出られるのよね」
総司「じゃあ、俺たちも協力するよ」
マミ「ありがとう……けど」
愛香「どうかしたの?」
マミ「いえ。このまま鹿目さんや美樹さんをつれて魔女のところに連れて行くのはちょっと」
総司「それはそうだな」
キュゥべえ(それなら君達3人で魔女を倒しに来れば良いよ)
マミ「キュゥべえ?」
キュゥべえ(やぁ、マミ)
マミ「今日はどうしたの?みんなでケーキバイキングに行くって言ってたでしょ」
キュゥべえ(ごめんよマミ。ちょっとやらなきゃならないことがあってね)
キュゥべえ(話は後でするけど魔女退治が先だよ。今、僕は魔女の近くにいる。誘導するからこっちに来てよ)
マミ「それは良いのだけど鹿目さんや美樹さんが」
キュゥべえ(まどかとさやかはそっちに残れば良いんじゃないかな?ほむらが残って護衛すれば問題ないだろう)
マミ「そうね。暁美さんお願いできる?」
ほむら「……わかったわ」
マミ「そう。それじゃ観束さん、津辺さんお願いして良いですか?」
愛香「ええ」
総司「じゃあ行くか……えっと、トゥアールはどうする?」
トゥアール「……そうですね。じゃあこっちに残ります」
愛香「そうね。こっちが襲われたことを考えたら戦力的にその方が良いかもね」
マミ「じゃあ行って来るわ。暁美さんお願いね」
ほむら「わかったわ」
そして3人は結界の深奥を目指して駆け出し、影の中に消えていった。
117:以下、
さやか「いやぁ、待ってるくらいなら魔女退治見たかったけどなぁ」
まどか「さやかちゃん、危ないよ」
さやか「マミさんもほむらも観束さん達もいるんだから大丈夫でしょ……ほむら、どうしたの?」
ほむら「いるんでしょ。出てきなさい。わざわざマミ達と引き離して何の話?」
さやか「いきなりどうしたの?」
キュゥべえ「やぁ暁美ほむら。話が早くて助かるよ」
まどか「キュゥべえ!?」
さやか「キュゥべえ?どこに?」
ほむら「……あなたキュゥべえが見えないの?あなたの目の前よ」
さやか「目の前って何言ってるのよ。何にも見えないけど」
キュゥべえ「今の彼女に僕は見えていないよ。彼女は魔法少女の素質を失ってしまったんだ」
ほむら「素質を失った?」
トゥアール「……まどかさん。そこにキュゥべえちゃんがいるんですね」
まどか「え、はい」
トゥアール「わかりました。それでは」
さやか「トゥアールさん、なに胸の間に手を突っ込んでるんです?」
谷間から取り出したのはレンズがあるべき場所に卵大の結晶体がはまったメガネのような何かだった。
トゥアール「トゥアール・アイ!!」
まどか「えっと、それは?」
トゥアール「ふっ、これこそは今週のびっくりどっきりメカです」
118:以下、
トゥアール「行きます。外道照身霊波光線!!」
二つの結晶が青く光ると同時に何もない空間から白い影が弾かれるように現れる。
キュゥべえ「きゅっぷい!?」
さやか「キュゥべえ?ほんとに目の前にいたの!?」
トゥアール「汝の正体みたり! 前世魔人キュゥべえちゃん!!」
まどか「……トゥアールさん。いったい何を言ってるんですか?」
トゥアール「昨日検索したら、これが、こういう時のお約束のセリフだって出て来たんですよ」
まどか「……そんなの知りませんけど」
トゥアール「おかしいですね?昨日検索したらこれがトップで出て来たんですけどねぇ?リサーチが不足していましたか」
トゥアール「えっと、とりあえず、こちらからは初めましてですね。私はトゥアール。異世界から来た天才科学者です」
キュゥべえ「……美樹さやかにも僕の姿が見えてる様だけど、その機械で僕の姿を捕らえたとのかな?」
トゥアール「ええ。姿が見えないとお話も出来ませんからね」
キュゥべえ「……君の科学力は僕達のそれに匹敵するようだね」
トゥアール「やっぱりキュゥべえちゃんが使っているのは魔法じゃなくて科学なんですか?」
トゥアール「いわゆる高度に発達した科学は魔法と見分けがつかない的な感じの」
キュゥべえ「僕たちが行使しているのは科学だよ。けど魔法少女のそれは間違いなく魔法だよ。条理を完全に覆す事が出来るからね」
ほむら「無駄話は良いわ。キュゥべえ、何の用?」
キュゥべえ「そうだね。時間もないことだし用件を言うよ……考えてみれば話が出来るようになったのは結果として都合が良かったかもね」
ほむら「うるさいわ。さっさと用件を言いなさい!」
キュゥべえ「やれやれ。まったく君はせっかちだね」
122:以下、
キュゥべえ「今日はまどかにお願いがあって来んだ」
ほむら「……」
キュゥべえ「銃をしまってくれないか。今日は契約を持ちかけに来たわけじゃないんだから」
キュゥべえ「ねぇ、まどか。後7日で良いから、そこの彼女を含めたツインテイルズ達と会わないで欲しいんだ」
まどか「会わない?」
キュゥべえ「そうだよ。さっき美樹さやかの素質がなくなったって話したよね」
キュゥべえ「原因として推測されるのものが、君達がツインテイルズ達と接触くらいしか考えられなくてね」
トゥアール「私達との接触が原因だとする根拠は何なんですか?」
キュゥべえ「はっきり言えばないよ。けど、これほど急激な素質の消失は過去に例がないんだ」
キュゥべえ「だとすれば過去に例のないエレメーラと言うエネルギーを駆使する君達が原因だと考えるのは自然じゃないかな?」
キュゥべえ「ひょっとしたら君達のエレメーラは因果を源とする魔法と相反する性質を持っているのかもしれないね」
トゥアール「なるほど。とりあえず害虫かもしれないから花畑から駆除しとこうって感じですかね?」
キュゥべえ「僕は、君たち人類と違ってそんなに野蛮じゃないよ」
キュゥべえ「僕は因果を源とする魔法の力は君達にとって有益なものだと考えているんだ」
キュゥべえ「だから、その素質が無為に消えてしまうことを防ぎたいと思ってるんだよ。だから君達には接触を控えて貰いたいんだ」
ほむら「そう。けど私はまどかが魔法少女にならない方が良いと思っているのよ。それを聞いてあなたに従う理由はないのだけど」
キュゥべえ「そうだね。だからとりあえずの7日後なんだよ。きっとその時には君達はまどかの素質を必要とするだろうからね」
キュゥべえ「必要な時に素質がなかったら、まどかも君達も困るだろう」
ほむら「……ワルプルギスの夜」
キュゥべえ「へぇ、おどろいたね。君はどうやってその情報を手に入れたんだい?」
ほむら「……巴マミ、佐倉杏子、そしてツインテイルズ。戦力だけで言えばまどかが契約する必要はないわ」
キュゥべえ「なるほどね。君が最初から彼女と戦える戦力を集めていたと仮定すれば色々な可能性が浮かび上がるね」
ほむら「……」
123:以下、
トゥアール「はい、はい、はい、はい。ちょっとそこの二人。勝手に話を進めないでください」
トゥアール「周りを置いてけぼりで話をするのは良くないと思いますよ」
ほむら「聞く必要はないわ。ただこいつらが自分の利益を確保するために戯言をいっただけ」
ほむら「こっちがこいつらに従う理由は何一つないわ。消えなさいキュゥべえ!」
キュゥべえ「僕は、この提案は双方の利益にかなうと思ったんだけどね」
キュゥべえ「……君達がこの提案を受け入れてくれないとしたら……ねぇ、ほむら。この提案を一度マミに話してみて良いかな?」
ほむら「……」
キュゥべえ「ふぅん。やっぱり君の反応は興味深いね。僕達としては後7日だけ接触を控えて貰えれば良いんだけどね」
キュゥべえ「マミは責任感が強いからね。ワルプルギスの夜が来るまでに余計な事を言って心配させる必要なんてないとは思うんだけど」
ほむら「……あなたの提案で巴マミが何をどう心配するというの」
キュゥべえ「僕には人間の感情はわからないよ。ほむら。君の方が心当たりがあるんじゃないかな」
ほむら「……」
トゥアール「もしもしキュゥべえちゃん」
キュゥべえ「何か用かい?」
トゥアール「そのお話ですけど、その提案って私達ツインテイルズにも何かメリットがあるんですか?」
キュゥべえ「君達が7日後の戦いの当事者として戦う意志があるならね」
キュゥべえ「ワルプルギスの夜と戦う以上、君達が何らかの犠牲受ける可能性は否定できない。まどかならそれを取り戻すことが出来る」
キュゥべえ「これは十分にメリット足り得ると思うんだけどね」
124:以下、
トゥアール「キュゥべえちゃん、可愛い顔してけっこう言いますね」
トゥアール「けど、うちの総司様や愛香さんは本当に強いですよ。ちょっとやそっとのことでどうにか出来るなんて思わない方が良いですよ」
キュゥべえ「そうだね。マミに杏子、そしてほむらに君達ツインテイルズ。このメンバーならワルプルギスの夜も倒してしまうかもしれないね」
キュゥべえ「けど誰一人欠けることなく夜を越えられるとは限らないだろう」
キュゥべえ「その時、それを覆せるのは、まどか君だけなんだよ」
まどか「……私……だけ?」
ほむら「聞く必要はないわ。こいつはあなたを契約させたいだけ。あなたが戦う必要なんて全くない」
ほむら「……それにあなたが契約してしまったら」
キュゥべえ「……」
ほむら「っ!」
さやか「あっ、結界が」
キュゥべえ「時間切れの様だね。それで君達は僕の提案に同意してくれるかな?」
トゥアール「キュゥべえちゃん。あなたの提案が全員にとって利益になると言うなら、こちらとしてはまどかさんとの接触を極力控えることに異論はありません」
キュゥべえ「そうかい。理解して貰えると助かるよ」
トゥアール「ただ私は、あなたが言ってることが本当なのか、本当に私達にとって利益になるのか判断する材料を持っていません」
キュゥべえ「確かにね。これについては僕を信じて貰うしかないだろうね」
トゥアール「ただ、今のやり取りであなたの目的が契約そのものであること。ほむらさんがそれについて何かを知っていることは理解出来ました」
キュゥべえ「……」
トゥアール「ですから、こちらとしてはまどかさん達魔法少女の候補2人、ほむらさん以下、私が知っている魔法少女3人に特別な事情がない限り、まどかさんとの接触を控えさせて貰います」
キュゥべえ「特別な事情ってどんなことを言うんだい?」
トゥアール「7日後までに『今現在の日常生活が継続出来なくなる様な事件や事故が起こった場合』ということでどうですか?」
キュゥべえ「……なるほど。けど僕は全知全能じゃない。本当に事故が起こった場合の責任は取れないよ」
トゥアール「それはこちらで判断します。ただそれはこちらのリスクを減らすためのものですから厳密に考えなくてもかまいません」
キュゥべえ「ふむ。基本的にはその条件で構わないよ。それでその条件に含まれる、僕達のメリットはなにかな?」
125:以下、
トゥアール「提示されたものが仮定のものですからこちらも仮定を基にしたメリットしか提示出来ませんがよろしいですか?」
キュゥべえ「つまり、まどかの素質に関することかな?」
トゥアール「はい。もし7日以内に特別な事情が起これば、まどかさんの素質を消す試みを行います」
キュゥべえ「どうやってだい?僕達にも美樹さやかの素質が消えた理由はわからないんだよ」
トゥアール「あくまで仮定を基にしたお話ですけど、まどかさんに抽出したエレメーラを照射してみるつもりです」
トゥアール「もともとこれはテイルギアのエネルギーを外部から供給するための技術なんですけどね」
トゥアール「これなら人体に影響はありませんし、もしエレメーラが魔法少女の素質に影響を与えると仮定するなら素質が消える可能性は高いと思いませんか?」
キュゥべえ「なるほどね。でもまどかの素質がなくなれば7日後に君達も不利益を被ると思うんだけど」
トゥアール「はい。ですから私達はまどかさんとの接触を控える、キュゥべえちゃんは私達の現状を変更する様な行動を控える」
トゥアール「基本的にはそれ以外の行動は縛らない。そして全ては7日後ってことです。こんなのでどうですか?」
キュゥべえ「……マミ達が帰ってきたようだね」
トゥアール「返答は?」
キュゥべえ「そうだね。その条件で良いよ」
トゥアール「あっ、その前に」
キュゥべえ「なんだい?」
トゥアール「この契約は今晩の午前0時からってことにしませんか」
トゥアール「私達もこのまま総司様達とまどかさんが会って契約違反だって因縁つけられるのも嫌ですし」
トゥアール「出来たら二次会でカラオケにでも行きたいなぁ?って思ってるんですよね」
さやか(二次会でカラオケってオッサン臭い)
トゥアール「さぁ、どうされます?」
キュゥべえ「…………判断は君達に任せるよ。じゃあ僕はこれで」
そして紅い瞳は踵を返すと夜の闇に消えていった。
126:以下、
トゥアール「ぶはぁっ」
トゥアール「ほむらさん。キュゥべえちゃんってなんなんですか。見ためは可愛いのにあの面倒臭いしゃべりかた!」
トゥアール「相手の反応を見るような陰険な喋り方とか、言葉の端々に何かいろんな思惑みたいなの含ませるわ絶対友達少ないでしょ!」
ほむら「ま、まぁ、だから詐欺師で敵だって言ったでしょ」
愛香「あれ、トゥアール。何、地面に突っ伏してるの?」
トゥアール「あぁ、愛香さん。ちょっとあんまり陰険なやり取りが続いちゃったもので」
トゥアール「あぁ、総司様!疲れ果てた私の心をををををををををををををを」
愛香「何いきなりそーじに胸を押し付けようとしてるのよ!!」
まどか「あっ、マミさん。帰ってきたんですね」
さやか「ってことは、魔女退治は」
マミ「ええ。観束さんと津辺さんのおかげでね。こっちは特に変わったことはなかった?」
さやか「……えっと」
ほむら「……」
さやか「……っ」
トゥアール「あっ、ちょっと二次会でカラオケに行きましょうって話になったんですけどどうですか?」
マミ「………トゥアールさんって頑丈ですよね」
トゥアール「そりゃあもう毎日蛮族と暮らしていればばばばばばばばば」
愛香「誰が蛮族なのよ。それに二次会でカラオケ?あんたどこのオッサンよ」
マミ(……楽しそうって思っちゃったんだけど言い出せない)
トゥアール「まぁ、良いじゃないですか。こんな機会、このまま無くしちゃうの、もったいないじゃないですか」
総司「まぁ、少しくらいなら構わないけど……どうする?」
マミ「そうですね。ちょっとくらいは良いかも知れませんね」
まどか「私、家に連絡してみる」
さやか「じゃあ、あたしも」
127:以下、
ほむら「……」
トゥアール「ほむらさんも参加して下さいね」
ほむら「私は」
トゥアール「私も総司様達に本当のことを言えずにいたことがあったんですけど、ああ言うのってほんとに辛いですよね」
ほむら「……」
トゥアール「……今のところ、キュゥべえちゃんも私達について色々と決めかねているんだと思います」
トゥアール「ですから自分に都合の良い条件をつけて現状維持を謀ったんだと思いますけど、さっきの条件ならまぁお互い五分くらいでしょう」
トゥアール「あとは7日はあるみたいですから、それまではみんなで対策を考えませんか?微力ながら力添えはさせていただきますよ」
ほむら「……」
トゥアール「……もう、そんな顔してたらそれまでに疲れ果てちゃいますよ。たまには楽しまないとだめですよ」
ほむら「今日は一日中息抜きをさせて貰ったわ。ありがとう。けど、もうこれで帰らせて貰うわ」
トゥアール「……そうですか。あっ、まどかさぁ?ん、早く捕まえないとこの人逃げちゃいますよぉ」
ほむら「えっ!?」
まどか「うぇひひ。ほむらちゃん捕まえたっと」
ほむら「ま、まどか!」
マミ「じゃあ、二次会のカラオケ、行っちゃいましょうか」
さやか「よおっし!さやかちゃんの美声を聞かせてあげようじゃないか」
さやか「あっ、そういえばほむら何歌うの?」
ほむら「え、えっ、私は、その」
まどか「じゃあ、私と一緒にデュエットしようよ。私の十八番だったら絶対みんな知ってるから!」
さやか「え?っ、まどか趣味が特殊でしょ。それだったらあたしの方が知ってるでしょ」
まどか「さやかちゃん、ひどいよぉ」
愛香「なんか楽しそうだし良いかもね」
トゥアール「ええ、それじゃあ行きましょう。あんまり遅くまではいられませんからノルマはひとり2曲までですからね!」
128:本編のような番外編のようなもの 2015/07/20(月) 09:47:02.08ID:QVum0jr40
しかし津軽海峡冬景色に天城越えか。ツインテールと演歌があんなにマッチするとは思わなかったな。
ほむらの奴もなんだかんだ言って二人で演歌を歌ったりしてたり、最初に会った時より打ち解けて来てるんだろうな。
まぁ、あれだけのツインテールに誘われたら断れるはずはないけどな。



総司「ちょっと待てっ!?」
トゥアール「どうしたんですか総司様?」
総司「ここ異世界だろ!!なんでカラオケがあるんだ!?」
トゥアール「あぁ。時空間に飛ばされる事故は極々希にしか起こりませんけれど、その場合、移転元と移転先は非常に近しい世界であることが多いんですよ」
トゥアール「何らかの外的要因がなければ大概は同じ世界の過去か未来に飛ばされることも多いみたいですしね」
総司「いや、この世界が俺達の世界と近くてカラオケがある世界だとしても、いくらなんでも『津軽海峡冬景色』と『天城越え』は無理があるだろっ!?」
愛香「……そう言えば今日のカラオケ全部知ってる曲だったわね」
総司「世界がどうとかはともかく歌とか文化が全く同じってありえないだろ!?」
愛香「………ひょっとしてここは異世界とかじゃなくて、あんたが変態マシンで私達をおちょくってるだけじゃないでしょうね!!」
トゥアール「ぐえぇぇぇぇ、ち、違います」
トゥアール「あれは厳密には総司様の世界の『天城越え』じゃなくて、こっちの曲でそれに相当する曲を総司様達にそう翻訳してるんですぅ」
総司「翻訳って単語だけじゃなくてメロディとかまで変換してるのか!?」
トゥアール「ついでにカラオケの場合字幕もです」
トゥアール「もともとエレメーラは人の思いや感情を源とするエネルギーですからね」
トゥアール「ですから、会話だけじゃなくて、その人の思考を基にした意思疎通を測る技術には長けているんですよ」
エレメーラって凄ぇ。
132:以下、
ほむら「これで私が集めたワルプルギスの夜についてのデータは全てよ」
総司・愛香・トゥアール・マミ・さやか「「「「「………」」」」」
ほむら「質問があれば受け付けるわ……どうかしたの?」
総司「……いや、魔女って言うかほとんど怪獣だろ。こいつ」
愛香「風でビルを巻き上げるって飛んで近づくのも厳しいんじゃないの」
ほむら「大丈夫よ。私がこいつを地面に叩きつけるから」
総司「叩きつけるって」
ほむら「まかせて。方法はあるから」
ほむら「そして巴マミ。この戦いの指揮はあなたにお願いしたいの」
マミ「私が?」
ほむら「ええ。ワルプルギスとの戦いは大量の使い魔と魔女自身の両方を相手にしなければならない」
ほむら「けど私の火力じゃワルプルギスは倒しきれない。だから私はあいつを地面に叩きつけた後は使い魔の掃討にあたりたいの」
ほむら「そして、ツイン・テイルズのあなた達。あなた達の攻撃手段は近接戦闘が中心で良いのよね」
総司「あぁ。遠距離攻撃が出来ないわけじゃないけど、俺も愛香も近距離攻撃の方が強いな」
ほむら「なら、あなた達は地面に落ちたワルプルギスへの攻撃を担当して欲しいの」
ほむら「あなた達はあのお菓子の魔女を一撃で撃破した。その火力であいつを攻撃して頂戴」
愛香「確かにその方が良さそうね」
ほむら「そして巴マミ」
マミ「……」
ほむら「ワルプルギスと使い魔、両方に有効な攻撃が出来るのは、遠距離攻撃を中心に高い火力も持つあなただけ」
ほむら「誰かが指揮するより、あなたが自分で判断した方が的確なタイミングで攻撃出来るはずよ」
ほむら「そしてあなたの戦闘のセンスは私の遥か上を行く。ワルプルギスとの戦闘、あなたに指揮をお願いしたいの」
133:以下、
マミ「……わかった。戦闘指揮は引き受けるわ……けれど聞きたいことがあるの」
ほむら「……何かしら」
マミ「……この資料……どうやって集めたものなの?」
ほむら「……」
マミ「私がキュゥべえに聞いた限りでは、ワルプルギスの夜が出現したのは中世かそれより前のはずよ」
マミ「なのに、この資料は詳しすぎない?」
ほむら「……信用出来ないのなら信用しなくても良いわ」
マミ「いえ。この資料はおそらく正しいわ。まるで本当にワルプルギスの夜と戦った人が作ったみたいだわ」
マミ「……あなたが話しても話さなくても一緒にワルプルギスの夜とは戦う。戦闘の指揮も引き受けるわ」
マミ「……けど暁美さん。そろそろ本当のことを話してくれても良いんじゃないかしら?」
ほむら「…………」
マミ「……あなたが何かを抱え込んでいるのはなんとなくわかる…………多分そって私達、魔法少「やめてっ!!」
マミ「!?」
ほむら「…………やめてちょうだい……私の話はワルプルギスの夜を倒してからにして……どうせ夜を越えられなきゃ私達に先なんて」
ほむら「……でも、もし夜を越えることが出来たのなら……だけど今は……話せないわ」
134:以下、
マミ「えっと、お時間を取らせてすみません」
総司「いや、こっちも話したいことがあったからちょうど良かったよ」
愛香「そうね。私も言いそびれてたことがあるしね」
トゥアール「あれ?お皿が1枚多いですけど、他にどなたか来られるんですか?」
マミ「キュゥべえのなんです。もっとも最近、あの子家に寄り付かなくなっちゃったんですけどね」
マミ「……まぁ、前からけっこう気まぐれで、ひと月くらい姿を見せない事もあったから、気にしても仕方ないんですけどね」
マミ「あっ!ごめんなさい。こんな話を聞いて貰うために呼んだんじゃないのに私ったら」
愛香「まぁ、良いんじゃない」
マミ「えっ!?でも」
愛香「たまには吐き出すもの吐き出さないとストレスがたまるばっかりじゃない」
マミ「でも私は」
トゥアール「大丈夫ですよ。今までは独りで頑張るしかなかったかもしれませんけど今は違うでしょ」
マミ「……」
トゥアール「まどかさんやさやかさんはもちろんですけど、ほむらさんだって態度に出してるよりは巴さんこと気にしてくれてますよ」
愛香「それに私達もね」
総司「そうだよ。俺達もいつかは元の世界に戻るつもりだけど、それまでは力になるぜ」
愛香「特に私はこの間助けて貰ったしね。借りっぱなしのまま元の世界に戻るなんて出来ないじゃない」
マミ「津辺さんは鹿目さんたちを助けてくれたんですから貸し借りなんて」
愛香「……けどあのまま操られたままだったら、私あそこで誰かを殺してたかもしれないのよね」
マミ「……」
135:以下、
愛香「敵の命を奪って来てなんだけど、正直自分が誰かを巻き添えにするなんてあんまり考えてなかったんだ」
愛香「あの時我に返った後、本気で嫌な汗が出ちゃったの」
愛香「……ほんとに迷惑かけてごめんなさい……それから助けてくれて本当にありがとう」
マミ「ちょ、ちょっとそんなに改まってお礼を言われちゃうとちょっと」
トゥアール「そうですね、私からもお礼を言わせて下さい。愛香さんを助けてくれてありがとうございました」
総司「俺からもだよ。もともと愛香は俺を助けるために戦い始めたんだ。なんかあったら俺もただじゃいられなかった」
総司「巴さん。愛香を助けてくれてほんとにありがとう」
マミ「……あれ?……なんだかそんなにお礼を言われちゃうと……あれ?……私……どうして?」
トゥアール「はい」
マミの横に移動したトゥアールがマミを優しく胸元に抱き寄せる。
マミ「トゥ、トゥアールさん!?////////」
トゥアール「良いんじゃないですかたまには。一応私の方が歳上ですし、弱音を吐くには悪くない場所でしょ」
トゥアール「明日からはまた頼りにさせて頂きますから、今日くらいは良いと思いますよ」
ぎゅっ
うなずく様な素振りの後、時折しゃくり上げる様な吐息が漏れる。
巴さんか。人知れず街を護って来たってすごい重圧だったんだろうな。
それを俺より年下の女の子が誰にも頼らず独りで。
……そっか。トゥアールも独りで戦ってたんだよな。
抱き、抱き寄せられる姿は共に重すぎるものを背負った二人が支えあう形だったのかもしれない。
愛香も同じようなことを考えたのか、二人を見る視線にはこれまでに見たことのない暖かさと優しさが溢れていた。
たまに胸元を突き抉る様な視線や劣等感を含んだ重々しいオーラが吹き出していたのはきっと気のせいだろう。
たぶん。
140:以下、
ほむら「それであなたはここに残って何が聞きたいの?」
さやか「……」
ピンポーン
玄関のベルが鳴る。
さやか「出てよ。あたしが呼んだんだ」
ほむら「……?……まどか!?」
ほむら「美樹さやか、あなたっ!?」
さやか「あたしがあんたに聞きたいこと、まどかにも聞かせたいんだ。あんたの口から」
ほむら「それで何が聞きたいのかしら。美樹さやか」
さやか「……最初に言っておく。あたしはあんたのこと誤解してた」
さやか「最初はこの街をマミさんから奪いに来た悪い魔法少女だと思ってた」
さやか「でもマミさんを助けてくれて、あんたが友達をなくしたって話も聞いて、普段のあんたの態度も見て、あんたは信用出来る奴だって思った」
ほむら「……」
さやか「でも、やっぱりあんた隠し事をしてる」
さやか「たぶん、それは魔法少女についてのことだよね」
まどか「えっ?」
ほむら「……」
さやか「……なんでだろうね?何だかあたし、あんたが考えてることわかる気がするんだ」
さやか「あんたがそれを隠してるのは、自分のためじゃなくて誰かのためだよね」
ほむら「……っ!」
さやか「ふふっ。ほんとになんでだろうね。意外にあんたとあたしって似てるのかもね」
さやか「ねぇ、ほむら。あんたが話せないことここであたしとまどかに教えてちょうだい」
さやか「だったらあたし、あんたのまどかを魔法少女にさせたくないって目的に協力するよ」
ほむら「!?」
まどか「……ねぇ、ほむらちゃん。もし良かったらほむらちゃんが知ってること私達に話してくれないかな」
まどか「ほむらちゃんが話さないのは理由があるからだと思うけど、なんだかほむらちゃんを見てたら辛そうなんだもん」
まどか「私達じゃ力になれないかもしれないけど話を聞くくらいなら出来ると思うんだ」
ほむら「……まどか」
さやか「あたしは素質もなくなっちゃったし何にも力になれないからさ。友達として力を貸すよ。だからあたし達に話して欲しいんだ」
ほむら「……美樹さやか」
141:以下、
ほむら「…………そうね。あなたとまどかが一緒に話を聞きに来るなんて初めてのことよね」
さやか「?」
ほむら「……良いわ……私が知ってることを話すわ」
ほむら「だけどこれは誰にも話さないで欲しい。特に巴マミには」
まどか・さやか「「?」」
ほむら「……これが私が話せなかったことよ」
まどか「……そんなのって」
さやか「……ソウルジェムは魂で魔法少女は抜けがら。そしてソウルジェムが濁りきれば魔法少女は命を落とす」
ほむら「……そうよ。そしてソウルジェムは魔法を使わなくても、負の感情を抱くだけで濁っていく」
ほむら「このことを知った魔法少女は、自分が人でないことに耐え切れなくなって遠からずソウルジェムを濁らせて命を落としているわ」
さやか「そんなのって詐欺じゃん!!」
ほむら「でも戦う上では利点も多いわ」
ほむら「そうね。もし私の腕がちぎれたとしても痛みを消すことも、もう一度つなげることも出来る」
ほむら「魔女という化け物と戦うには自分も化け物である方が便利なのよ」
まどか「やめてっ!!」
まどか「ほむらちゃんもマミさんも化け物なんかじゃないっ!!」
ほむら「……ありがとう。まどか」
ほむら「けど、これが私があなた達を契約させたくなかった理由」
ほむら「そして、知らなければ自分が人でないことに気づかず生きていける。それが私が話せなかった理由」
ほむら「だから巴マミにはこのことは話さないでいてあげて」
まどか・さやか「「……」」
ほむら「私の友人もこのことを知って、悩んだあげくにソウルジェムを濁らせて命を落としたわ」
ほむら「世の中知らない方が良い事って確かにあるのよ」
144:以下、
まどか「……ねぇ、さやかちゃん。ほむらちゃんの話って」
さやか「……うん。嘘は言ってないと思う」
まどか「あんなの絶対おかしいよね」
さやか「うん。キュゥべえの契約があんなのだなんて絶対におかしい。それでマミさんやほむらが不幸になるのも絶対におかしい」
まどか「……私達に出来ること何かないかな?……もし私が……契約したらなんとかならないかな?」
さやか「……そっか。だから言えなかったってのもあるんだ」
まどか「どうかしたのさやかちゃん?」
さやか「ううん。なんでもないよ」
さやか「ねぇ、まどか。あたし達に出来ることってさほむらやマミさんの良い友達でいることなんじゃないかな」
まどか「友達?」
さやか「うん。自分が人じゃないなんて思わないようにさ」
さやか「あたし達がお互いを大事だって思えるような関係でいられたらほむらもマミさんも死んだ方が良いなんて思わないよ」
まどか「うん。そうだね!」
さやか「ねぇ、まどか。今からお土産買ってマミさん家に行ってみない?」
まどか「……いきなりどうしたの、さやかちゃん?」
さやか「いや、なんかさ。ほむらの話聞いたら無性にマミさん家に行きたくなってさ」
さやか「いつもケーキとかご馳走になってるから、こんどはこっちがお土産持って行きたいなって」
まどか「うん。それは、そうだね!たまにはこっちからお土産持って行かなきゃね」
さやか「今から何持っていくか選びに行こうか?」
まどか「うん。いいよ」
さやか「それで悪いんだけどさ先に駅前のショッピングモールに行っておいてくれない?」
まどか「……別に良いけど、さやかちゃんはどうするの?」
さやか「う?ん、実はさ。あたしってほむらに結構酷いこと言ってたよね。だからもう一回謝りに戻ろうかなーって」
さやか「だからまどかは先にショッピングモールに行って待っててくれないかな?」
まどか「……それは今度で良いから、ゆっくりして来たら良いよ」
さやか「?」
145:以下、
まどか「さやかちゃん、まだほむらちゃんと話したいことがあるんでしょ」
まどか「マミさん家はまた今度にしよう。だから今日はしっかりほむらちゃんと話してきなよ」
さやか「……まどか」
まどか「私だってさやかちゃんが何を考えてるか、ちょっとくらいならわかるんだから」
さやか「まいったな。さすがは、あたしの嫁だ」
まどか「うぇひひ、今日はゆっくり浮気してきて良いからね」
さやか「ははっ。じゃあ、あいつから聞いたことはえっ!?」
まどか「ほむらちゃんが私に聞かせない方が良いと思って、さやかちゃんもそう思ったのなら私は聞かなくても良いよ」
まどか「私二人のこと信じてるから」
さやか「……あんたやっぱり良い嫁になるよ。じゃあ、まどか。あたし行ってくる!」
ほむら「それで戻って来たの」
さやか「そういうこと」
ほむら「そう。けど細かなところを除けば、だいたいさっき言ったとおりよ」
さやか「うん。あたしもそう思うよ。けど気になってることがふたつあるんだ」
ほむら「……」
さやか「ひとつはソウルジェムのこと。濁りきった時なんだけど本当に死ぬだけなの?」
ほむら「……」
さやか「もうひとつはまどかのこと。あんたが転校して来た日なんだけどあ、あいつ言ってたんだ」
さやか「昨日ほむらと夢の中で会った気がするって」
ほむら「っ!?」
さやか「その時は仁美といっしょに大笑いしたんだけどね」
さやか「けど、もしあんたとまどかが知り合いで、そのことをまどかが忘れてるとしたら、なんかいろいろ腑に落ちることがあるんだよね」
さやか「あたしが聞きたかったのはそのふたつ。なんかさそのへんであんたが全部話してないって気がするんだよね」
ほむら「……」
さやか「……当たりかぁ……なんでだろね?あんたが思ってることがわかっちゃうのって」
ほむら「……………………ふっ……あは………あはははははははははははは」
さやか「!!?」
146:以下、
ほむら「……ほんとに、どうしてかしらね?私、昔からあなたに隠し事が出来ないみたいなのよね」
さやか「昔……から?」
ほむら「けど、そうね。これからもあなたはまどかの一番近くにいてくれるのでしょうね」
ほむら「…………だとしたら、あなたには聞いて貰った方が良いのかも知れないわね」
ほむら「そうよ。ソウルジェムが濁りきれば魔法少女は死ぬ。これはその通りよ」
ほむら「………………そして、その時、私達のソウルジェムはグリーフシードに変わって魔女を産む」
ほむら「つまりソウルジェムが濁りきった時、魔法少女は魔女になるの。私も。巴マミもね」
さやか「……えっ?」
ほむら「それが、あなたの聞きたかったことのひとつ」
ほむら「……もうひとつは長くなるわね……私がまどかと巴マミに助けられて……そして、私があなたとまどかを殺すところまでで良いかしらね」
さやか「…………ほむら?何言って?」
ほむら「あなたが聞きたかったことは全部話してあげる。信じられないかもしれないけれど嘘かどうかがわかるみたいだし丁度良いわ」
がしっ!
ほむら「けどこの話を聞いたのなら逃げられない。いえ私が逃がさないわ」
さやか「……ほ、ほむら……手痛いよ」
ほむら「……あなたは私に友達として協力するって言ってくれたわね……ありがとう……でも私はそんな魔法少女じゃないの」
ほむら「私は自分の目的のためなら誰の命でも奪えるわ。今までもそうして来た。そしてこれからもよ」
ほむら「………どのみち私のやることは一つなの……協力して貰うわよ、美樹さやか」
147:以下、
さやか「………いやぁ。知らなきゃ良い事ってほんとにあるんだねぇ」
さやか「仁美が恭介のことをか……ははっ。ほんとに愛香さんが言ってた通りだ」
さやか「……それにほむらの奴、あたしにマジで殺意抱いてんじゃないかな?」
一人きりの帰り道、自分に言い聞かせるようにさっき聞いた言葉を反芻する。
さやか「……マミさんには残酷すぎて、まどかには見過ごせない。けどまどかが契約したら地球が滅びる……か」
さやか「だからワルプルギスの夜はほむらやマミさんだけで倒す………そしてマミさんに全部話して自分達のことは決着をつける………か」
脚が止まってしまったのは、吐き出した言葉の重さ故だろうか?
さやか「……そんなの絶対良いわけないだろ」
じゃあ、他に何か良い方法があるというの。
さやか「……ないよ………あたしにそんなの思いつく訳ないじゃない」
さやか「………でもさ、あたしには、あんたが泣いてるように見えて仕方ないんだよ」
さやか「そんなの絶対に良いわけないに決まってるだろ」
150:以下、
さやか「トゥアールさん……えっと」
総司「……俺達がいない方が良いんだったら席を外そうか?」
さやか「…………いえ、やっぱり観束さん達も聞いて下さい」
トゥアール「ずいぶん思いつめた顔をされてますけど何かあったんですか?」
さやか「……えっと、トゥアールさんってすごい科学者なんですよね」
トゥアール「まぁ、それなりのものだとは思いますけど」
さやか「じゃあ聞きたいんですけど、人間から魂を取り出したり、それを元に戻したりなんかって出来ますか?」
愛香「……魂?」
トゥアール「………結論から言えば私にはそんなことは出来ません」
トゥアール「遥か昔に滅びた文明にそのような技術があったとされる記録はあるんですけどね」
トゥアール「それはこの世界で言うところのいわゆるロストテクノロジーと言われるものです」
さやか「……そう………ですか」
トゥアール「こちらからも少し聞きたいことがあるんですけどよろしいですか?」
さやか「……えっ、あたしはそういうの全然わからないんですけど」
トゥアール「いえ、知らなければそれで良いんです。先ほどのさやかさんの質問なんですが」
トゥアール「それは『ソウルジェム』についてのことですか?」
愛香「っ!」
さやか「えっ!?そ、その!!そんなんじゃ……いや!えっと、その」
総司「魂?ソウル……ジェム!?」
151:以下、
トゥアール「……やっぱりそうですか」
さやか「えっ、いやその!」
トゥアール「少し前にほむらさんが似たようなことを聞いて来られたんです」
トゥアール「その時はかなり遠まわしな言い方だったので気がつかなかったんですけど。今の質問でその時からあった胸のつかえが取れました」
トゥアール「つまりソウルジェムとは魔法少女の魂を取り出して物質化したものということですよろしいですね」
さやか「……うん……じゃあ、ほむらはトゥアールさん達にソウルジェムや魔法少女の話は全然してないんですね」
こつん
テーブルの上で暗い宝石が乾いた音を立てる。
さやか「……これってグリーフシード?」
トゥアール「はい。その時にほむらさんから調べて見て欲しいと渡されたものです。結果は私より先に誰にも話さないで欲しいと言われてたんですけど」
トゥアール「……おそらくさやかさんが聞いた話を裏付けることになるかもしれませんが……話してくれますか?」
さやか「……ねぇ、トゥアールさん!ほむらを……マミさんを……私達を助けて!」
さやか「あたし、ほむらからあいつが知ってること、あいつが経験して来たこと全部聞いたんだ」
さやか「あたし、あいつが言ってること全然わからなかった!信じられなかった!!信じたくない話ばっかりだった!!」
トゥアール「……さやかさん」
さやか「…………でもあたしわかっちゃうんです……あいつが嘘言ってないって」
さやか「こんな事この世界に関係ない人に頼むのなんておかしいと思います!迷惑なんかかけちゃダメなんだと思います!!」
さやか「けど、あいつが!マミさんが!まどかが!!……あいつが言ったとおりになっちゃったら……あたし」
さやか「……ごめんなさい……でもお願いします……恭介のこと助けたみたいにあたし達を助けて下さい」
トゥアール「やっぱりワルプルギスの夜のことだけじゃないんですね」
さやか「……」
トゥアール「話して下さい。絶対に助けるなんてお約束は出来ません。けど聞いた以上は全力で取り組ませて貰います」
152:以下、
愛香「……なるほどね……私が元の世界で魔女と戦うことはないって言ってたけど、それは間違いないわね」
愛香「けど契約した私はいつか魔女になって人を襲うようになるってことか。なかなかえげつない話よね」
トゥアール「……なんて恐ろしいことを」
さやか「トゥアールさん!あたしは冗談で言ってるんじゃないんですよ!!」
愛香「……えっと、今のはさすがに茶化してた訳じゃないわよね」
トゥアール「さすがにこんな話の最中に茶化す気なんてありませんよ……けどまぁ本気で恐ろしいとは思ったんですけれど」
さやか「トゥアールさん!」
愛香「あんたねっ!!」
総司「ちょっと待てよ。言葉尻を捉えて俺達が争ってどうなるっていうんだ?」
総司「それに俺だってそんな状況は恐ろしいと思うぞ。大事な幼馴染が人じゃなくなったり、下手すりゃその幼馴染と戦わなきゃならないなんて」
愛香「……そーじ///////」
さやか「……すみません」
総司「それでトゥアール。ソウルジェムを元に戻したり、魔女になるのを抑えることは出来そうなのか?」
トゥアール「……わかりません。正直、魂に干渉したり、ましてそれを取り出して物質化するなんて私には基礎理論さえ」
さやか「……それじゃあマミさんたちは」
トゥアール「魔法少女を元に戻したり、魔女化を防ぐという方法は簡単には行えないと思います」
トゥアール「……ただ」
総司「何か良い話があるのか?」
トゥアール「……エレメーラとグリーフシードなんですけど非常に似た物質……と言って良いのか構造が似てるというか」
愛香「構造って?」
トゥアール「どちらも既存の元素には含まれない何か、おそらくは精神エネルギーの結晶体だと思われます」
愛香「それに何か意味があるの?」
トゥアール「わかりません。ただエレメリアンとキュゥべえちゃん達の文明には何か繋がりがあったのかも知れません」
トゥアール「そうだとすればとっかかりさえあれば、私でも何らかの対処は可能かもしれません」
153:以下、
愛香「それは現状じゃ何も打てる手段はないってことで良いかしら」
トゥアール「……ええ。現状、私の力だけでなんとか出来ることはほぼ皆無です」
愛香「……あんたの力だけならってことで良いのよね」
トゥアール「……そうですね。確かにキュゥべえちゃんとの契約という手段が残っていますね」
トゥアール「けど愛香さん、その選択肢はけっきょく詰んじゃう解答ですよ」
愛香「……わかってるわよ。でも出来ることが何なのか、はっきりさせとくのは良いことでしょ」
トゥアール「……そうですね……賭けを打つにしても自分の手札が何かはっきりさせておくべきですね」
愛香「他に何か出来そうなことはないの?あんた天才科学者なんでしょ」
トゥアール「……あと出来そうなことですか……そうですねぇ。キュゥべえちゃんにソウルジェムの仕組みを教えて貰えたらなんとか出来るかも知れませんね」
愛香「あいつが私達の利益になるような情報を教えると思ってるの?」
トゥアール「多分無理でしょうね……けど、だとすれば契約で出来ることも限られて来るんじゃないでしょうか」
愛香「……確かにそうかもね。ちょっと厳しいわね」
トゥアール「けどキュゥべえちゃんとは何か材料があれば取引は可能なのかもしれませんね」
トゥアール「キュゥべえちゃんが何を欲しているのかについて暁美さんは何か言ってましたか?」
さやか「……エネルギーの回収……確かまどかが魔女になった時そう言ってたって言ってました」
トゥアール「エネルギーですか」
さやか「よくはわからないんですけど魔法少女が魔女になる時に得られるエネルギーを集めてるとか言ってました」
愛香「エネルギー?」
トゥアール「……人の感情を弄んだあげくエネルギー扱いですか……残念ですがキュゥべえちゃんとは相容れない関係のようですね」
154:以下、
愛香「今さら何を言ってるのよ!」
愛香「そういやあんたあいつのこと『ちゃん』づけで呼んだり、敵扱いもなんか気乗りしない風だし。なんかあいつに親近感抱いてない?」
トゥアール「う?ん、なんか似てるんですよね。昔好きだったおとぎ話の妖精と」
愛香「おとぎ話?」

トゥアール「ええ。心を持たない妖精が一人の女の子との出会いから人の友達になって行くってお話なんです」
トゥアール「ひょっとしたらキュゥべえちゃんはそのおとぎ話に出てきた妖精さん達の末裔じゃないかって」
トゥアール「お話みたいに上手くんじゃないかなって思いが捨て切れないんですよね」
さやか「……」
トゥアール「……すみません、さやかさん。こんな酷い話をしている時にご都合主義なこと言っちゃって」
さやか「あたしはキュゥべえのことは絶対に信用出来ないし許せそうにありません」
さやか「……けどキュゥべえがソウルジェムや魔法少女について一番詳しいのはわかります」
さやか「だからあいつやマミさん達が助かるならキュゥべえと仲良く……は出来ないにしても話さなきゃならないのはわかります」
さやか「……あたしはもう契約も出来ないから……誰かにお願いするしか出来ないから……だから……だから」
愛香「違うでしょ」
さやか「えっ?」
愛香「とりあえず今のところ私達に出来るのはワルプルギスをぶっ飛ばす手伝いだけなのよね」
愛香「その後トゥアールの胡散臭い科学力か、キュゥべえを脅すか透かすかしてなんとかしなきゃならないのよ」
総司「そうだな。ワルプルギスを倒したら、独りで抱え込みたがる誰かさんやショックを受けるかもしれない先輩を誰かがフォローしなきゃならないんだよな」
愛香「そういうこと。何も出来ないどころかそっちの方が大変かも知れないのよ」
さやか「あ……はいっ!」
総司「まずはワルプルギスをぶっ飛ばして夜を越える。後はトゥアール頼みになるけど俺たちも出来ることはやっていこうぜ」
さやか「……でも観束さん達は元の世界に」
総司「友達が大変なのに放っておけないだろ」
愛香「あっちの問題も頼りになる奴が味方についてくれたからね。そんなに急がなくても良いし、あっちからこの世界にも来れるんでしょ」
トゥアール「ええ。今はちょっと難しいですけど帰れるのならまた来ることも可能です」
愛香「だってさ」
さやか「……ありがとうございます」
総司「良いって。放っておけないのは本当なんだから」
トゥアール「………けどこれは責任重大ですね」
158:以下、
広報車「本日午前7時、突発的異常気象に伴い避難指示が発令されました」
広報車「付近にお住いの皆さんは、やかに最寄りの避難場所への移動をお願いします。こちらは見滝原市役所広報車です」
愛香「雨が止んだわね」
総司「台風の目みたいなもんかな……んっ!?おい。なんだ、あれ!?」
ほむら「放っておきなさい。そいつらは手を出してこないわ」
それは箱から溢れ出した玩具の河の様だった。
そこにはあらゆる動物が、道化が、その訪れを多くの人に知らせようと楽しげに踊り歌っていた。
そしてパレードは4人を包み込むように進む。
ほむら「来るわよ」
そしてパレードから空高く伸びる万国旗の先に黒い影が現れる。
**** 5 ****
**** 4 ****
**** 3 ****
**** 2 ****
**** 1 ****
ぼっ! ぼっ! ぼっ!! ぼっ!! ぼっ!! ぼっ!! ぼっ!! 
黒い影を取り巻くように巨大な無数の鬼火が現れる。
寡婦を思わせる夜色のドレス
地獄の機械を思わせる剥き出しの巨大な歯車
それは暗がりを強調する仄暗い後光を纏い、それはその姿を顕にする。
そして、
アハッ、アハッ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ
そこから生きとし生ける者全てに対する嘲笑が降り注ぐ。それは昼の終わりを告げる宣言だった。
総司「……あれが……ワルプルギスの夜」
ほむらの家で対策を練った時にその姿を知った。どれ程に強大か。どれ程に危険か。どれ程に恐ろしいか。
しかし目の当たりにしたそれはそれだけでは言い表せない昏い何かに満ちていた。
愛香「そーじ。まさか、あんたあれをツインテールだとか考えてんじゃないでしょ?ね」
総司「……違う……あれは」
確かにそれはツインテールを模していたのかも知れない。
けどそこには全てのツインテールに詰まっているはずの夢も、希望も、優しさも、愛も何もなかった。
いや、それと対をなす悲しみが、後悔が、絶望が、あらゆる負の感情が、それらを囚え蝕んでいた。
……そんなのって……そんな酷いこと……なんてことしやがるっ!!
総司「愛香っ!力を貸してくれ……俺たちであの絶望をぶち壊すぞ!」
愛香「そう来なくちゃ!」
総司「いくぜっ!!」
総司・愛香「「テイル・オンっ!!」」
159:以下、
そこは体育倉庫の一角。簡易につくられたモニタールームだった。
トゥアール「……総司様達がワルプルギスの夜と接触しました」
まどか「……ほむらちゃん……マミさん」
さやか「……トゥアールさん……みんな大丈夫ですよね」
トゥアール「ええ。総司様も。愛香さんも。マミさんも。ほむらさんも。絶対に無事で帰ってきます」
トゥアール「明けない夜は絶対にありません。だから私達は信じて待ちましょう」
キュゥべえ「それを言うなら暮れない昼も絶対にないんだけどね」
まどか「キュゥべえ!」
さやか「あんた何しに来たのさ」
トゥアール「ひょっとして協定違反を咎めに来たんですか?」
キュゥべえ「そういえばそんなこともあったね。まぁ、この時まで、まどかの素質が保たれた以上、それは僕としてはどうでも良いよ」
キュゥべえ「僕がここに来たのは、まどかが願いを叶えたい時が来た時に傍にいるためだよ」
さやか「あんたは、マミさんたちが負けるって思ってるの!!」
キュゥべえ「いや。マミに暁美ほむら、この二人と同じ実力の魔法少女が5人もいればワルプルギスの夜を倒すことは決して不可能じゃないと思うよ」
キュゥべえ「彼女達ツイン・テイルズ2人の戦闘能力も考えればワルプルギスの夜が倒される可能性は低くないだろうね」
さやか「だったらこんな所に来る必要ないでしょ!!あんた何考えてんのよ」
キュゥべえ「倒せるとは言ったけど、それまでにどれだけの被害が出るかはわからないからね」
キュゥべえ「ひょっとしたら彼女達の誰かが欠けるかも知れない。ひょっとしたら夜が彼女達を振り切ってここにまで来るかも知れない」
キュゥべえ「万が一、まどかが僕を必要とする時があるなら近くにいた方が良いだろう」
キュゥべえ「僕も君達と一緒にここで待たせてもらうよ」
ほむら「今度こそ、決着をつけてやるっ!」
がきんっ!
ごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごっ!!!
マミ・ブルー「「きゃっ!!」」
レッド「なんだっ!!」
突如現れた空を埋め尽くすほどの砲弾がワルプルギスの夜を爆炎で包む。
ほむら「それじゃあ作戦通り、見滝原球場にあいつを叩き落とすわ」
ほむら「レッドとブルーは球場に落ちたあいつを攻撃して。くれぐれも爆炎が上がるまでは球場に近づかないで。安全は保証出来ないから」
ほむら「その後のことは任せたわよ。巴マミ」
マミ「暁美さ」
そこにいた姿は忽然と掻き消えた。
163:以下、
ごうんっ! ごうんっ! ごうんっ! ごうんっ! ごうんっ! ごうんっ! ごうんっ!
移動するワルプルギスの夜を爆炎が追いかける。
マミ「すごいっ!!なんて火力!これならワルプルギスの夜だって」
ごがっ! ごがっ! ごががっ! ごがっ! ごががっ! ごがっ! ごががががががっ!
 どうっ!! どうっ!! どうっ!! どうっ!! どうっ!! どうっ!! どがががががっ!! 
マミ「………………えっと」
マミ「…………………………これってやりすぎ………なんじゃないかしら」
レッド「…………なぁ、この世界じゃテ口リストのことを魔法少女って呼んだりしないよな?」
マミ「……そんなの当たり前…………でしょ」
レッド「いや、けどさっきからロケットランチャーとか迫撃砲とかめちゃくちゃ飛び交ってないか?」
マミ「そ、それは……そう……なんですけど」
どぐっ!!
レッド「……タンクローリーがいきなり空中に現れたりしてるから、確かに魔法は使ってるとは思うんだけど」
レッド「ロケットランチャーとかタンクローリーとかマスケット銃とか、なんか俺が知ってる魔法少女と違う気がするんだけどな」
マミ「…………私のは一応リボンの魔法だから……暁美さんと同じにされるのはあんまり」
しゅおん! しゅおん! しゅおん! しゅおん! しゅおん! しゅおん! しゅおん! 
レッド「…………あれミサイルだよな……なぁ、魔法ってなんなんだ?」
マミ「…………」
164:以下、
きいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃんっ! どがっ!! 
  きいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃんっ! どがっ!! 
   きいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃんっ! どがっ!!
 
レッド「…………………今、気のせいじゃなきゃ」
マミ「き、気のせいですっ!!ジェット機が3台くらい球場に突っ込んだ気がするけどきっと気のせいですっ!!」
気のせいだって言い張ったからって、本当にあったことがなくなる訳じゃないと思うんだけどなぁ。
しかしこの戦い、本当に俺達の出番ってあるのか?
ブルー「………二人とも行くわよ」
間の抜けた俺達2人のやり取りに眉根を寄せるブルーが押し殺した声をかける。
レッド「いや、けど今さら俺達が行く必要あるのか?」
ブルー「…………残念ながらね……本当に叩き落としたくらいにしか効いてないみたい」
レッド・マミ「「!?」」
レッド「てか、なんでそんなことがわかるんだ?」
ブルー「……さっきから首の後ろがちりちりするの……あいつが球場に突っ込んでからはもっと強くなって来てる」
炎を吹き上げる球場を見つめるブルーの額にうっすらと汗が浮かぶ。
ごうっ!
球場は、爆音とともに今までで最も高い火柱を吹き上げる。
ブルー「………考えが甘かったみたい……本気で怪獣よ。あれは」
ブルー「行くわよっ!!上空に行かれたらほんとに手に負えなくなる」
169:以下、
球場は噴火する火山の様相を呈していた。
所有する火薬の8割と航空燃料を満載したジェット機3台にその他諸々
過去の経験から見ても考えられる最大の破壊力を有する攻撃のはずだった。
これならあいつもただでは済まない………済むはずがない………済むはずが………いやだ……お願い
不安は予感となり、そして現実となって少女におそかかかる。
ぶぅおん!!
爆炎の中から黒い槍が伸びる。
ほむら「っ!?」
レッド「グランドブレイザー!!」
背後から現れた赤い影が突き出された槍を唐竹に両断する。
ほむら「レッドっ!!」
爆炎から再び巨大な魔女が姿を表す。
マミ「いくわよっ!!ボンバルダメント」
上空に現れた巨大な銃が再び地面に叩きつける。そして
ブルー「エグゼキュートウェイブッ!!」
レッド「グランドブレイザーッ!!」
必殺の一撃が完璧な呼吸で同時に巨大な魔女を襲う。
ぎしっ
魔女の体に小さな亀裂が走る。
レッド「やったかっ!」
ブルー「まだよっ!!!」
アハッ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ
嘲笑とともに無数の黒い槍が全方位に撃ち出される。
レッド「うわっ!!」
マミ「はっ!」
ほむら「きゃっ!!」
ブルー「ふんっ!」
ある者は辛うじて、ある者は余裕を持って黒い槍を躱す。しかし
170:以下、
ポン ポポン ポン ポポン ポン ポポン ポン ポポン ポン ポポン 
黒い槍は無数の黒いシャボン玉に分かれ、それが弾けて黒い魔法少女の影が産まれていく。
巨大な魔女の周囲で、踊る少女達が蛇のようにうねり絡みつき、周囲が嗤い声で満ちる。
それは人の持つ悪意が突風となり吹き荒れ、絶望が雨となって零れ落ちる嵐の様だった。
…………これが……………ワルプルギスの夜
冷たい手が心臓を優しくなでるような寒気に一瞬動きを奪われる。
ががががががががががががががががががっ
人の身長程もある機関銃がそれを打ち破る。
マミ「ティロ・ボレーっ!!」
壁と化した弾丸がワルプルギスに通じる使い魔達の一角を空白へと変える。
マミ「みんなっ!惚けてる暇なんてないわよっ!!」
ほむら「わかってる!使い魔は任せて」
マミ「お願いっ!!隙を見てレッドさんとブルーさんがワルプルギスに近づく道を作るわよ」
マミ「レッドさんとブルーさんはワルプルギス本体の攻撃に集中して!!使い魔には指一本出させないから思いっきりやってちょうだいっ!!」
どうっ!! ががががががががっ! どうっ!! ががががががががっ! 
響く爆音と銃声が昏い群れに大きな道を抉じ開ける。
マミ「行くわよ!二人ともお願いっ!!」
171:以下、
キュゥべえ「すごいね。もうワルプルギスの夜に二回も攻撃を入れたよ。ダメージもけっこう通ってるみたいだね」
さやか「へへん。ざまぁみろバカキュゥべえ」
まどか「……」
トゥアール「今のところ誰にも怪我はないようです」
まどか「……良かった」
さやか「じゃあ、このまま楽勝だね。キュゥべえ。まどかが契約する必要なんて絶対にないんだからね」
まどか「……さやかちゃん?」
キュゥべえ「まぁ、それならそれも仕方ないさ。けど夜はまだ始まったばかりだからね」
キュゥべえ「とりあえず彼女達を見守ろうよ」
175:以下、
巨大な影がゆっくりと近づいて来る。
マミ「暁美さんっ!使い魔をお願い!」
がががががががががががががががががががががが
銃声が蹴散らした使い魔の隙間を抜けて三方向から落ちてくるビルに向かってリボンが張り巡らされる。
マミ「掴まって!」
ビシッ!!
引き絞られたリボンが弓矢のように4人を宙へと打ち上げる。
ごごごごごごごごごっ!!
4人の真下で3つのビルが1つの歪なオブジェへと変わる。
レッド「すげぇな」
ブルー「けど近づけなくなって来たわね。何とか近づかなきゃどうしようもなくなるわよ」
ウフフッ
マミ「!?まさかっ!」
キャハッ
キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ 
キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ
 キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ キャハハ
歪なオブジェの窓から無数の使い魔が顔を出す。
そしてその手にぽつりぽつりと蒼い光が灯っていく。
ブルー「嵌められたっ!?」
176:以下、
がきん!!
全てが凍りついた空間で彼女はその背に着地する。
ほむら「……ごめんなさい」
誰にも届かない言葉をかけながら、窓から現れた使い魔をフルオートの重機関銃で狙撃して行く。
始まりの時間こうやってこの人と戦えていたら、私達は夜を越えることが出来たのだろうか?
新たな弾帯を装填し再び狙撃を開始する。
……もし、この夜を越えることが出来たとしても、いつか私達が見滝原に夜を招き入れてしまう。
…………魔女やあいつがいる限り私達は夜から逃げられない。いつか夜に呑まれるしかないんだろう。
それでもあの子だけは守ってみせる。
あの子との約束を果たす。
そして私が繰り返している、この先の時間をあの子に返す。
………それが私にとっての朝なのだから。
ばしゅっ!!!!!!
宙に投げ出された得物を狙う窓の光が一瞬でかき消される。
レッド・ブルー・マミ「「「!!?」」」
レッド「ほむらか!」
ほむら「右上空!!」
オブジェの上に着地した4人を新たな使い魔の群れが襲う。
マミ「はっ!!」
4人はマスケットの弾幕がこじ開けた道を駆け抜けた。
177:以下、
マミ「あのタイミングを狙ってたんでしょうね。危なかったわ。けど、まさかあんな攻撃を仕掛けて来るなんて」
ブルー「ええ。迂闊に宙に逃げるのも考えなきゃね。けどこのままじゃジリ貧よ。なんとかして近づかなきゃ削り殺されるわよ」
マミ「でもビルと使い魔を上手く使われてるわ。簡単には近づけないわよ」
レッド「おい、ほむらっ!!近づくならお前の魔法だろ」
マミ「そうか瞬間移動の魔法!」
ブルー「その手があったわね!それで近づけば」
レッド「違うんだ」
マミ・ブルー「「違う?」」
レッド「ああ。ほむら、もうここまで来て秘密だとかタイミングだとか考えてる場合じゃないだろ」
レッド「こいつを越えなきゃどうしようもないんだろ。だったら出し惜しみなんかしてるんじゃねぇ。俺達は一蓮托生なんだぜ」
ほむら「……………そうね。ここまで来て秘密にする理由はないわね」
ほむら「みんな掴まって」
がきん
巨大な歯車が噛み合うような音とともに世界が凍りつく。
マミ「……これって」
ほむら「これが私の魔法。時間停止よ」
ブルー「時間停止!……そんなこと出来るの?」
ほむら「制約もそれなりにあるわ。もしここで私から手を離せばあなた達の時間は止まってしまう」
ほむら「基本的には単独行動向きの魔法よ」
マミ「そうでもないみたいよ。この魔法、何でも良いからあなたと繋がっていたら大丈夫みたいよ」
ほむら「巴マミ!?…………ひょっとしてそのリボン!?」
マミ「ええ。これならかなり自由な行動がとれる。完璧なヒット&ウェイだってね。これなら絶対に勝てるわ」
ほむら「……残りの制約が問題なの」
ブルー「残りって?」
ほむら「時間が止められるのにおかしな話だけれど、この魔法には時間制限があるの」
ほむら「まず時間を止め続けられるのは最大で私の体感時間で10分くらい」
マミ「それだけあれば十分でしょ」
ほむら「でも長時間、時を止めれば、次の時間停止までにインターバルが必要になるわ」
ほむら「なんの制約もなく時間停止が出来る時間は1分以内と言ったところよ」
ほむら「……そしてもう一つ……この魔法はもうすぐ使えなくなる……おそらく後10分もたないでしょうね」
180:以下、
トゥアール「!!?」
まどか「どうしたんですかトゥアールさん!?」
トゥアール「総司様達の反応が消えた!?」
まどか「っ!!」
トゥアール「総司様っ!総司様っ!応答してください総司様」
レッド「どうしたんだトゥアール!!そっちで何かあったのか!?」
トゥアール「総司様!…………良かった……すみません。取り乱しました」
トゥアール「いきなり総司様達の反応が消えたもので………総司様。さっきからかなり座標が変わってませんか?」
レッド「ああ、安心しろ。ほむらの魔法だ」
トゥアール「以前に言っていた瞬間移動ですね」
レッド「いや時間停止だ」
トゥアール「時間停止!!そんなことが!?」
レッド「話は後だ。これからワルプルギスに攻撃をかける。使い魔と本体の位置情報をモニタリングしてくれ」
レッド「あとワルプルギスに飛び乗れるビルの位置が欲しい!時間がないんだ、頼む!」
トゥアール「わかりました」
トゥアール「…………今、テイル・ギアに位置情報を転送しました。御武運を」
レッド「ああ。任せろっ!!」
181:以下、
キュゥべえ「なるほどね。暁美ほむらの魔法は時間停止だったんだね」
トゥアール「どうして!?トゥアルフォンのジャミング機能が効いてない?」
キュゥべえ「残念だったね。君達に出来ることは僕達にも出来るってことだよ」
キュゥべえ「しかし暁美ほむらの魔法が時間に関係するものだとすれば、彼女についての推測の幅が絞られて来るね」
さやか「うるさいっ!ワルプルギスはマミさん達が絶対に倒す!!そして、まどかは絶対に契約なんかしない!」
さやか「そしてみんなで夜を越えるんだ!!あんたの言うことなんか誰も絶対に聞かないからね!!」
まどか「さやかちゃん?」
キュゥべえ「……そう言えば君は、この間まどかと分かられた後、ほむらと二人で話してたよね」
キュゥべえ「美樹さやか。君は暁美ほむらから何を聞かされたんだい?」
トゥアール「さやかさん。こいつは私達から情報を取ろうとしてるだけです。答える必要はありません」
さやか「っ!」
キュゥべえ「ひょっとして君は知ってるんじゃないかい?暁美ほむらが時間遡行者だということを」
さやか「……時間……そこう…しゃ?」
ちらり。横目で見た友人の顔にも疑問符が浮かんでいるようだ。
キュゥべえ「時間を遡って来たってことさ」
さやか「!!」
キュゥべえ「なるほどね。やっぱり僕の仮説は正しかったようだね」
キュゥべえ「それならば鹿目まどかの桁違いの素質も、暁美ほむらの魔法についても納得が出来るね」
まどか「……私の素質とほむらちゃんの魔法?」
キュゥべえ「そうだよ。魔法少女の素質は人が持つ因果、いわば持って生まれた運命の大きさに等しいんだ」
キュゥべえ「平凡な家庭に生まれ、恐らくは平凡な人生を送るであろう君は、本来平凡な素質しか有さないはずなんだ」
キュゥべえ「しかし君は一国の指導者や過去に救世主と呼ばれた誰をも凌駕する素質を有している」
キュゥべえ「本来こんなことはありえないんだ。けどね、ある外部的な要因があればその強大な素質にも説明がつくんだよね」
まどか「………外的な要因?」
キュゥべえ「そうだよ。君の素質と暁美ほむらの魔法がどう関係するか。どうだい、聞きたいかい?」
レッド「来たぞ!トゥアールからだ。これがワルプルギスと使い魔そしてビルの位置情報だ!!」
マミ「これは……すごいわね………これなら………けど」
マミ「……良いわ!暁美さんお願い。あのビルの角を曲がった時点で一度時間を止めて!」
マミ「これからワルプルギスの夜に大きいのを入れるわよ。みんな協力してちょうだい!!」
186:以下、
レッド「そんなの危険すぎる!!」
マミ「このまま逃げ回る方が危険だわ」
ブルー「……そうね……このまま逃げ回ってたら負けるのは確定ね」
レッド「ブルー!」
ほむら「でも1人で囮になる必要はないはずよ」
マミ「本体への攻撃はツインテイルズ2人の火力が欲しいわ。そしてあなたが攻撃されたらこの作戦はそもそも成り立たない」
マミ「だったら残った1人が囮をするしかないでしょ」
ほむら「あなたのリボンがなくてもこの作戦は成り立たないわ」
マミ「違うわ。あなた達3人を繋ぐリボンさえあれば、私がいなくてもこの作戦は成り立つの」
ほむら「そんなこと」
マミ「このままワルプルギスの夜を放っておいたら鹿目さん達のいる避難所に行くかも知れないのよ」
ほむら「っ!!」
マミ「それに戦いの指揮は私に任せれたはずよ。これは決定事項よ」
ほむら「でもっ!!」
マミ「安心して。勝算がなければこんな作戦は立てないわ。私のポジションは確かに危険だけどあなた達が安全って訳じゃないのよ」
ブルー「そういうことね」
レッド「おい!」
ブルー「あいつを倒さなきゃ私達か街の誰かが命を落とすわ。これはやらなきゃ行けないことなのよ」
ブルー「私はあいつにきっちりと最高の一撃を叩き込む。そして無事に生き延びてみせるわ」
ブルー「当然、あなたもでしょ」
マミ「そういうこと。私はしっかり囮の役を果たして無事に生き延びてみせるわ」
レッド「勝算はあるんだな」
マミ「もちろんよ」
ほむら「でも、そんなの……」
187:以下、
マミ「……」
ほむら「……」
マミ「……ねぇ、暁美さん。ちょっと独り言を聞いて欲しいんだけど」
ほむら「独り言?」
マミ「ええ、単なる想像なんだけど…………あなたが最初にワルプルギスの夜に遭った時、あなた契約してなかったのよね」
ほむら「!?」
ほむら「巴マミ、あなた!?」
マミ「その時、最初に私が命を落として、そして魔法少女だった鹿目さんがあなたを守って命を落とした」
マミ「……あなたはその運命を覆すために契約した……そしてあなたは、転校してからワルプルギスの夜までの1ヶ月を何度も繰り返してる」
マミ「……だいたいこんな感じで当たりかしら?」
ほむら「……どうして」
マミ「……思いついた理由は色々。あなたの普段の態度とか最近トゥアールさんとお話してたこととか」
マミ「けど決め手はさっきの時間停止の魔法の説明かな。もうすぐ魔法が使えなくなるって聞いてなんとなくね」
ほむら「……」
マミ「……ごめんなさいね。頼りない先輩で」
ほむら「……そんなこと……ありません」
マミ「ありがとう…………あとひとつ聞きたいんだけど」
ほむら「何でしょうか?」
マミ「トゥアールさんと話してて気づいたんだけどね」
マミ「キュゥべえは誰かを助けるためじゃなくて、あの子自身の目的のために私達と契約してるのよね」
ほむら「っ!!」
マミ「……そう………じゃあ、とりあえず夜を越えることに集中しましょうか」
ほむら「待っ「良いの!」
マミ「……良いの………ねぇ、暁美さん。もしこの夜を越えられたら、私達どんなことだって乗り越えて行けるって思わない」
ほむら「……巴……さん」
マミ「暁美さん!越えるわよ!この夜を!!」
マミ「私も!あなたも!鹿目さんも!みんなそろって!!絶対に誰ひとり欠けたりなんかさせないんだから!!」
マミ「キュゥべえをとっちめるのはその後………暁美さん。時間を遡って助けに来てくれてありがとう。私に力を貸してちょうだい!!」
ほむら「はいっ!!」
190:以下、
まどか「……ほむらちゃんが私のために……時間を繰り返して」
キュゥべえ「おそらくね。君を救うことを目的に何度も時間を巻き戻してワルプルギスの夜に挑んで来たんじゃないかな」
キュゥべえ「ねぇ、さやか。君はほむらから何か聞いてるんじゃないかな?」
さやか「……」
キュゥべえ「その結果、彼女が繰り返した時間全ての因果が絡みつき、君は破格の素質を有するようになったんだろうね」
キュゥべえ「もし今の君が契約すれば宇宙の法則さえ変えることが出来るんじゃないかな?」
まどか「……」
キュゥべえ「ねぇ、まどか。君は君に与えられた宇宙の法則すら変えられる素質をどう思っているんだい?」
まどか「えっ?……私は別に素質なんて……それに宇宙の法則を変えるなんてわからないし怖いよ」
キュゥべえ「そうかい。素質を肯定的に捉えるなら暁美ほむらは君の恩人と言っても良いかもしれない」
キュゥべえ「けどそれを否定的に捉えるなら暁美ほむらは君を呪われた運命に引き込んだ張本人と言うことになるよね」
まどか「私はほむらちゃんが私をそんな運命に巻き込んだなんて思ってないよ!」
キュゥべえ「けど君はその素質を否定的なものだと捉えているんだろ?」
キュゥべえ「だったら君は心の中で暁美ほむらを肯定的には捉えていないんじゃないかな?」
まどか「そんな!?」
さやか「もう良いっ!!」
まどか「……さやかちゃん」
さやか「さっきから黙って聞いてたら好き勝手言って!!魔女も魔法少女も全部あんたが仕組んだくせに!!」
さやか「魔女になるのがわかってたら誰だって契約なんてする訳ないでしょ!」
まどか「…………魔女に……なる?」
191:以下、
さやか「マミさんやほむらを騙しておいてどの口が契約だなんて言えるんだ。この詐欺師!!」
キュゥべえ「……ふぅん。やっぱり暁美ほむらはそこまで知っていたんだね」
さやか「あっ!!」
トゥアール「…………」
キュゥべえ「……ふむ?僕が情報を引き出そうとしているのは気づいてたんだろう。どうして君は美樹さやかを止めなかったんだい?」
トゥアール「……私から情報を与える気はありませんよ」
キュゥべえ「でも美樹さやかが話せば同じことだろう?」
トゥアール「違います。人の思いは単なる情報なんかじゃありませんから」
キュゥべえ「何が違うんだい?」
トゥアール「キュゥべえちゃん。あなたが司る因果と魔法の力は人の希望を踏みにじることで成り立つエネルギーですよね」
キュゥべえ「心外だな。僕たちには君達が持つ様なそんな悪意は存在しないよ」
キュゥべえ「まぁ、希望を絶望に変えるという点では君の表現は一部の真実を表しているかもしれないけどね」
さやか「あんた!!」
トゥアール「でもね、エレメーラは違うんです。エレメーラは人の思い、希望を叶えようとする力で成り立つエネルギーです」
キュゥべえ「だからどうしたんだい?」
トゥアール「さっきの美樹さんが話したことは、あなたにとっては単なる情報漏洩なんでしょう」
トゥアール「ええ、もし部外者の私が言ったならそうなのかもしれません」
トゥアール「けどね、運命に逆らおうとする者が口にする思いのこもった言葉は運命を変える刃に成り得るんですよ」
まどか「……思いが運命を変える」
キュゥべえ「君はもう少し合理的な考えの持ち主だと思っていたんだけどね」
トゥアール「私は合理性の枠でしかものを考えられませんよ。けど人の思いは運命を変える力であることを知ってるんです」
トゥアール「キュゥべえちゃん。総司様達を見てて下さい。あなたが知ってる絶望の力よりも強い希望の力を見せてあげます」
192:以下、
アハッ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ
ビルの陰から姿を現す巨体の前に4人が向き直る。
マミ「みんな!行くわよ!!」
キャハ キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ キャハ キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
キャハ キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ キャハ キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
その先には空を覆い隠す雲霞ような黒い少女達
マミ「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
背後の3人を覆い隠す程の無数の銃口が空に生まれる。
無数の銃口は火を吹き、消え、そして再び生み出されて火を吹く。
それは噴火する火口を思わせた。
だが嘲笑は止まない。
どがっ!! どがっ!!   どがっ!!  どがっ!!
時折、飛来するビルの一角が砲撃で撃ち落とされる。
マミ(拙いわね。詰められて来てる。でも!)
直撃を避けたビルは、4人が動ける範囲をじわりじわりと削っていく。
アハッ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ
一際大きな嘲笑とともに黒い群れが大蛇のように首を擡げ4人に襲いかかる。
まだだ
あと少し
ぎりぎりまで引き付けてっ!!
マミ「いくわよっ!!」
はらり
ワルプルギスに対峙する4人の内3人が、そしてワルプルギスが行き過ぎたビルの給水塔が絡み合ったリボンへと姿を変え解ける。
そして、給水塔の中から3人の少女が姿を現す。
193:以下、
ブルー「属性玉《エレメーラオーブ》……性転換属性《トランスセクシャル》!!」
左腕の属性玉変換機構《エレメリーション》に新たなパーツが覆いかぶさる。<学校水着属性《スクールスイム》> <兎耳属性《ラビット》>
左腕に新たな輝きを携えた少女はビルの壁を一気に駆け下り一本の矢の様に指先から大地に飛び込む。
とぷん
そして少女は大地の深くへと姿を隠す。
深い。テイルギアを通してもかなりの熱気を感じる。大地を泳ぐ学校水着属性《スクールスイム》に空をも蹴る兎耳属性《ラビット》
2つの結晶が大地の中からの長距離の助走を可能とする。
ブルー「じゃあ後のフォローは任せたわよ。みんな」
ぐんっ
そして全力の第一歩が蹴り出された
レッド「フォーラーチェインっ!!」
結び目だけがすとんと落ちたかの様になめらかにツインテールが下結びに変わり、
ぼっ!!
2つの穂先が地に着く寸前、それは属性力の粒子を迸らせて一気に加する。
レッド「うおおおおおおおおおっ!!!」
夜が侍らせる使い魔を足場にピンボールの様なめまぐるしい動きで赤い影は一気に夜の上空へと躍り出る。
レッド「ライザーチェインっ!!!」
放物線の頂点、身体と髪の位置が入れ替わる瞬間、ツインテールは上結びへと変わる。
ぼうっ!!!
全ての噴射口が天空に向かって炎をあげ、ツインテールが一対の流星へと変わる
どがっ!!
ワルプルギスの真下、大地から水の槍が天に逆巻く瀑布のように吹き上がる。
がきん!
動きを止めた世界で必殺の射線を妨げる可能性が次々と摘み取られていく。
そして、
レッド「ライジングっ!!」 ブルー「エグゼキュ――――――トっ!!」
天空よりはあらゆる絶望を焼き払う劫火の刃が、大地よりは生命の力を宿した濁流の槍が
レッド「ブレイザ――――――――――ぁぁぁっ!!!!」 ブルー「ウェイ――――――――――――ブっ!!!!」
一対の顎(あぎと)と化して絶望に牙を突き立てる。
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ
それはこの夜、嘲笑する絶望があげる初めての悲鳴だった。
197:以下、
びしっ!!!
ワルプルギスの頭頂から右脇腹にかけて大きな亀裂が走る。
マミ「効いてるっ!」
マミ「ティロ・ボレー!」
無数の弾丸がその亀裂をわずかにだが確実にこじ開けて行く。
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ
悲鳴とも怒りともつかない叫びに呼応し、使い魔の群れが4匹の大蛇と化して少女を襲う。
ががががががががががががががががががががががががががががががが
ががががががががががががががががががががががががががががががが
本来、単発でしか発射できないマスケット銃が無数に産み出され、ガトリングガンを思わせる火力で使い魔達を塵へと変えて行く。
ぶおっ 
使い魔たちが残した塵の雲の陰からゆっくりと4つのビルが現れる。
マミ「使い魔を目暗ましに!?それにこの軌道!!」
そして4つのビルは遥か上空でぶつかり瓦礫の雨と化して彼女に降り注いだ。
198:以下、
ほむら「巴さんっ!!」
かしゃん
左腕から乾いた音が響く。
まさか!!
世界を凍らせるはずの砂時計が今持ち主の心を凍りつかせる。
かしゃん かしゃん かしゃん かしゃん かしゃん かしゃん かしゃん かしゃん 
駆け寄る彼女の左手からは乾いた音が響き続ける。
凍りついた様な冷たい時間の中、瓦礫の雨はその人を目掛けてゆっくりと降り注いでいく。
一緒に夜を越えるんでしょ!!
もう誰も欠けないって言ったじゃない!!
せっかくここまで一緒に来られたのに!!
ぱんっ!
足下に打ち込まれた弾丸から生み出されたリボンが彼女の足を絡め取る。
ごめんなさい。
倒れた視線の先でそういった様に見えたその人は瓦礫の雨に飲み込まれていった。
202:以下、
土煙が晴れるとそこには瓦礫がうずたかい山を形作っていた。
ほむら「……巴……さん」
心の中で何かにひびが入る音がする。
ほむら「…………何よ……一緒に夜を越えるって言ったのに」
それは長い繰り返しの中作り上げてきた嘘と諦めを塗り固めた心の壁
ほむら「また自分で一番危ないことを引き受けて、また一番最初にいなくなるの」
けど何もかもが上手くいって来たこの時間は最初の願いを思い出させてしまった。
ほむら「……………今度こそ……………今度こそ一緒に明日に行けるって……………思ってたのに」
心に空いた穴から思い出が涙になって漏れ出していく。
だめだ!!私はこんなところでうずくまっていちゃいけない!!
私にはそんな資格なんてない。
私は救いを求める手を振り払って、崖に落ちようとする友達を見捨てて、一番大切な友達をこの手で殺してここにいるんだ。
私はあの子との約束を果たすまで絶対に立ち止まっちゃいけない。
そう。これはいつものことだ。
私の願いはまどかを護れる私になること。私の願いを叶えるためには立ち上がらなきゃいけないんだ。
心を凍らせて。足に力を込め………足………リボン
ほむら「……あんな時に……そんな暇があったら自分の身を守りなさいよ」
ほむら「うぅ……うう゛うっ、うっ、うわぁ?????????????????????っ!!!」
……………………リボン?
203:以下、
 「まだ終わってねぇんだ。情けねぇ声出してんじゃねぇよ!!」
ほむら「えっ?」
眼前に出来た瓦礫の山の中心から巨大な三角錐がせり上がる。
……あれは槍?
それが光の粒子となって消えるとそこには
ほむら「巴さんっ!!」
マミ「………私、どうして?…………暁美さん…………泣いてるの?」
ほむら「っ!」
ざっ!!
涙を拭う少女の後ろにその人物は姿を表した。
側面に小さな羽根のついた黒いフルフェイス
フルフェイスの襟元から伸びる炎を宿したツインテール
燃える赤を思わせる服装に、胸部と上腕、そして膝より下を守る黒いプロテクター
そしてその人物は名乗りを上げる。
「仮面ツインテール参じ「佐倉さん?」
杏子「うぇいっ!?」
マミ「…………えっと、佐倉さんよね?」
杏子「か、仮面ツイ「佐倉杏子。一体どうしたのその格好?」
杏子「………」
黙り込むヘルメットの周囲に居た堪れない空気が漂った。
204:以下、
杏子(一体どうなってんだ!?このヘルメット着けたら誰だか分からなくなるんじゃねぇのか?)
杏子(マミに気づかれない様にわざわざこの格好して来たのに、バレたらマヌケにも程があるんだろうが)
杏子(おい!牛女!牛女っ!!牛女っっ!!!一体どうなってやがるんだっ!!)
トゥアール(あっ、杏子さん、間に合ったんですね)
杏子(間に合ったじゃねぇだろ!!このヘルメット着けたら誰かわからなくなるんじゃないのかよ?)
トゥアール(いやぁ、そのぉ)
杏子(何だよっ!)
トゥアール(巴さんが杏子さんのことすごく気にしてたんでぇ……イマジンチャフ切っちゃいました)
杏子(おい、待てっ!?じゃあこのマヌケな格好があたしだってマミにバレバレなのか?)
トゥアール(マヌケって言うのはちょっと承服できませんけど……まぁ、そういうことになりますねぇ)
杏子(はぁぁぁぁぁっ!?)
マミ「佐倉さんどうしたのかしら?何か独りでぶつぶつ言ってるけど」
ほむら「……たぶんツインテイルズ絡みで何かあったんしょうね……頼りにはなるのだけど、あの人達と会話していると頭が痛くなることがあるもの」
マミ(………………そんなにおかしなこと言ってたかしら?)
トゥアール(もう、素直じゃありませんねぇ。えいっ!ぽちっとな)
ぽんっ!
軽い音とともに黒いプロテクターが弾けて宙を舞った。
210:以下、
前触れ無く飛び去った仮面から現れた顔に気遣う様な視線が注がれる。
杏子「あ、う、あっ//////////」
マミ「……えっと………その」
マミ「佐く「あ、あたし帰る!!//////////」
マミ「えっ!?」
杏子「と、とりあえずピンチは助けたし、義理は果たしたし、だからあとはお前らだけでやれ!!」
マミ「ちょ、ちょっと佐倉さん!」
杏子「あたしは帰るったら帰るんっっ!!!!??ってなんでリボン!!??」
ほむら「へっ?ちょっと!なんで私にまで!?」
有無を言わせずにリボンで引き寄せられた2人は2本の手でしっかりと抱き抱えられる。
杏子「えっ!?」
ほむら「ちょっと何!?」
伏せられた顔から小さな声が漏れる。
マミ「……暁美さん、心配かけてごめんなさい」
ほむら「え、ええ」
マミ「佐倉さん……助けてくれて本当にありがとう」
杏子「お、おう」
マミ「…………ぐすっ………ぅ、ぅ」
ほむら(……泣いてるのかしら?)
杏子(いや、そんな感じじゃあなさそうだけどな?)
マミ「………ぅ……ぅ……うふ……うふふ、あははははははっ」
211:以下、
ぎゅっ
2本の腕が2人を強く引き寄せる。
杏子「へっ?なんだぁ!?」
ちゅっ ちゅっ 
ほむら「ちょっ!?//////////」
杏子「おいっ!?//////////」
マミ「2人ともあと少しよ!!越えるわよあいつを!みんなで!!」
杏子「お、おう」
ほむら「え、ええ」
マミ「じゃあ、2人とも行くわよっ!!私について来てちょうだいっ!!」
そこには頬を抑える2人が取り残された。
ほむら「……」
杏子「……」
ほむら「大丈夫かしら?あれって危なっかしい方の絶好調よね」
杏子「いや、絶好調の時は落差が大きいから目立つだけで、あいつは基本いつもどっか抜けてるんだぞ」
ほむら「…………ああ……そう言われたらそうかも知れないわね」
ほむら「けど、なんだかテンションが高すぎない?」
杏子「死にそうな目にあって気づいたら、泣くほど心配されてたり、勝手に出てった奴が助けに来てたり……まぁ、嬉しかったんだろうな」
杏子「……けど、いくら嬉しいからって舞い上がりすぎだろ……まったく世話の焼ける」
ほむら「……ほんとにね……行きましょう。こんなところで和んでる暇はないわ」
杏子「あぁ……いや、直ぐに追いかけるから先に行っててくれよ。ちょっと気合入れなおすわ」
ほむら「わかった……ありがとう、佐倉杏子。先に行ってるわよ」
杏子「ああ」
ふぅ。
大きく息をつくと少女は首筋に手を回した。
212:以下、
レッド「ぐあぁっ!!」
ブルー「レッドっ!!どうかしたの!?」
レッド「……今、どこかで貴重なツインテールが失なわれたんだ!!」
ブルー「はぁ?あんたこんな時に何言ってんのよ!?」
レッド「何言ってるって、何言ってるんだ!?俺はツインテールを守るために戦ってるんだぞ!!」
ブルー「目の前の敵に集中しなさいって言ってんの!敵の前で隙を作ってどうすんのよ?」
レッド「ツインテールだぞ!この世から貴重なツインテールが失われたんだぞ!!愛香にだってそれがどれだけ重大なことかわかるだろうっ!!」
ブルー「もうっ!わかったから目の前の敵に集中してちょうだいっ!!!」
216:以下、
杏子「ふむ」
ひとつに束ねられた髪が少女に凛とした空気を纏わせる。
杏子「やっぱ、こっちの方が落ち着くな」
 「……よう、久しぶ……ねぇか」
杏子「ちっ!やっぱりまだ聞こえやがるのかよ。今立て込んでんだ、後にしてくれよ」
 「ほう。今度ははっ……聞こえるぜ」
杏子「なんだ?あたしが言ってることわかんのか?」
 「なるほ……今のお前のポニーテー……は一本芯が通っ……らこっ……も心が通るよ……なったんだな」
杏子「相変わらず訳分かんねぇこと言う奴だな。まぁ、聞こえるならそれで良いぜ。今忙しいんだ邪魔はすんな」
 「待て、これだけ通じ……らいけるか」
ぼっ!
少女の持つ槍の穂先から、地面を踏む足元から炎が溢れる。
杏子「これは?」
 「俺の力……片だ。何だかごつい奴とやり合う……いじゃねぇか。何……足しになるかも……ねぇ。使ってくれよ」
ごっ!
振るった穂先が炎の軌跡を描く。
ぼっ ぼっ!
 
踏みしめる炎が空を踏みしめる足場となる。
杏子「使い勝手は悪くねぇな。けど何でだ?無償の善意なんて胡散臭ぇことは言わないよな。お前、なんの思惑があるんだ?」
 「いや、そっちに迷い込んだ3人が……知り合いでな。出来たらそれでそいつらを助け……ってくれねぇか?」
杏子「そういやお前そんなこと言ってたな」
杏子「いいぜ。あたしもそいつらには借りがある。きっちり頼まれてやる。じゃあ力は借りてくぜ」
ぼっ!
そして少女は一筋の流星のように嵐の中心に向かう。
 「良いね。やっぱりポニー……ルは一本通った芯があ……こそだ。あ……なくっちゃな」
 「しかし、繋が……やけに不安定……界だな。いったい何……るんだ?」
217:以下、
どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど
どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど
どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど
どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど
マスケット銃が波打ち際の泡のように生まれて弾ける。
それは使い魔を引き裂き、夜の傷口を確実に抉っていく。
レッド「何だ?さっきまでとは火力が段違いだぞ!」
ブルー「火力もだけど何よあの命中精度!?」
ほむら「多分、もうすぐ我に返るか何かミスをすると思うからその時はフォローをお願い」
ごうんっ!!
使い魔が運んだタンクローリーが銃弾の壁にぶつかり炎の壁を産み出す。
きゃは! きゃははははははっ! きゃは! きゃははははははっ! きゃは! きゃははははははっ! 
炎の壁を通りぬけ、全身に炎をまとった使い魔が少女に迫る。
ごうっ!!
炎の濁流が小さな火を飲み込む。
杏子「おい。また気ぃぬいてたのか?」
マミ「違うわよ。佐倉さんが来てるのわかってたからまかせたのよ」
杏子「けっ、こきやがれ」
マミ「けど、佐倉さん。今のは一体?」
杏子「ああ、なんか暑苦しい奴から借りたんだ。使い勝手は悪くねぇな」
マミ「なんか暑苦しいってそんな素性の知らない人を簡単に信用しちゃだめじゃない」
杏子「お前どこのおかんだよ?」
マミ「おかんって私はあなたが心配だから……」
杏子「……はぁ……まったく」
杏子「おい!ツインテイルズ!」
ブルー「何か用?」
杏子「フェニックスギルなんとかって奴はお前らの関係者で良いんだな?」
ブルー「そうよ。味方って訳じゃないけど信用出来る奴よ」
杏子「そうか。あたしは佐倉杏子だ。そいつからあんたらに力を貸してやってくれって頼まれたもんだ」
ブルー「そう。助かるわ。私はテイルブルーよろしくね。本名はこれが終わってからで良いかしら」
218:以下、

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