神谷奈緒「ふぁ…あふっ」back

神谷奈緒「ふぁ…あふっ」


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あの人と、結婚した。
「…へへっ」
薬指に輝くそれが何よりの証拠だ。今日もあたしはそれを見て、一人でニヤける。それが少し前から出来た毎朝の日課だ。
「よしっ。今日もお嫁さん、頑張るぞっ!」
職業、アイドルのちお嫁さん。
あたしはそっと体を起こすと、隣で寝ている愛しの彼を起こさぬよう小声で気合を入れた。
「今日もよろしくな、Pさん♪」
彼の頬に軽くキスをして布団から抜け出し、急いで着替えると洗面所へとゆっくり歩き出した。今日はシャツにパンツのラフなスタイルだ。
----------------------------------------------------------------------------
2: 以下、
神谷奈緒
4: 以下、
「ぷぁっ!ふうっ」
顔を洗った後は、鏡の前で笑顔の練習。アイドル時代からの習慣だ。可愛くありたい理由は変わったけどな。
「にこっ♪…いやダメだ、あたしの本気はこんなもんじゃないぞ…にこっ♪」
評価の基準はアイドル時代よりなんとなく厳しくなった。ほんとに、なんとなくだぞ。
5: 以下、
「んっ、合格だな。よし、朝ごはん作るか!」
軽く身だしなみを整えると、あたしは足取り軽くキッチンへと向かった。エプロンを身に着け、朝ごはんを作る。
「あなたは知らない♪ 本当のあたし 見せるからぁ?♪」
その時の気分で選んだ歌を歌いながら朝ごはんを作る。これも日課だ。
…まぁ、Pさんの知らないあたしなんてほとんどないけどな。内側も、外側も。
「あうぅ…」
不意に顔が赤くなるのを感じた。
…こ、これは日課じゃないぞ!今日だけ、たまたまだ!
6: 以下、
「Pさん、おーきーろー!朝ごはん出来てるぞ!ほらっ、着替えて顔洗ってこいよ!」
「んぁ…奈緒おはよ…」
Pさんがあたしを抱きしめる。
「…おはよっ♪」
笑顔は練習通り!完璧だっ!
7: 以下、
以前は面倒としか思わなかった料理も、今は楽しいと思えるようになった。
「いただきます」
「いただきます!」
だって、
「うん、美味い!流石は俺のお嫁さんだな、今日も最高だよ!」
この笑顔と、言葉を貰えるから。
「そ、そうかよ。良かったじゃん」
これに耐えるのは毎日一苦労だ。
8: 以下、
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」
結局、Pさんはおかず全部をおかわりした。
男の人って、なんで朝からあんなに食べられるんだろうな。この人だけか?
「毎日ありがとな」
「いいよ。だってあたし、お嫁さんだからなっ♪」
自分で言って顔が緩みそうになる。急いで隠そうと、皿を片付ける事を理由に立ち上がった。バレてない。…多分。
9: 以下、
「そんな頑張る奈緒にはご褒美をやろう!よーしよしよし」
皿を手に取る前に突然手を引かれてのわしゃわしゃ。もう慣れた。嘘だけど。
「わぁあっ、やめろよ!あたしはもう子供じゃないんだからな!大人なんだ!」
素直に受けるのは恥ずかしいので、ペチペチと形だけの抵抗。ほんとは凄く嬉しい。Pさんの大きなゴツゴツした手の感触が、大好きだから。ほんとはわしゃわしゃじゃなくて優しくが良かったけど。
「そうだな、大人な奈緒にはこれくらいか?」
「んっ…」
そう言って、Pさんはあたしを優しく、愛おしげに撫でた。この人、あたしの心が読めてるんじゃないか?ってたまに思うんだよな。
10: 以下、
「よしよし…」
手櫛で髪を梳かれる。気持よくてつい目を細めてしまう。
頭から体へ、暖かいものがじんわりと広がる。暖かい液体で満たされていくような感覚。
「あっ…い、いつまでやってんだ!皿片付けるから離せよっ!」
「あ…おいおい、慌てて皿割るなよ?」
あたしはうっとりしてしまっている事に気付き、慌てて皿を引っ掴み台所へ逃げた。
11: 以下、
二人並んでの歯磨きを終えると、あたしは洗い物に取り掛かった。
「なーお」
「んっ、ちょっと待ってろ。洗い物すぐ終わらせるから」
洗い物の最中に現れた彼に、待つよう促した。
「んーん、今がいい…大丈夫、奈緒は洗い物してていいから」
「いや、邪魔だから向こう行ってろって…っひゃあ!」
Pさんは突然あたしを抱きしめて、あたしの髪に顔を埋めて匂いを嗅ぎだした。
「や、やめろぉ!皿落としたらどうすんだ!このバカぁっ!」
12: 以下、
「あぁいい匂い…大好きな奈緒の匂いだ…すうぅー…」
「うぁ…は、恥ずかしいこと言うなよ…!嗅ぐなぁ…!」
Pさんが後ろから抱き着いてるのが唯一の救いだ。今の顔を見られる訳にはいかない。
「よし、奈緒分はチャージ出来た!じゃあ向こう行ってるなー」
「ぐ…このぉ、あたしに好き勝手しやがって…」
あたしだけ抱き着かれて嗅がれるのはなんだか悔しかったので、この後甘えた時にどさくさに紛れてあたしも嗅ごうと決めた。あたしだってPさん分は必要だ。
「洗い物終わりっと…ふふっ、覚悟しろよー…」
洗い物が終わると、エプロンを置いてPさんの居るリビングへと向かった。
13: 以下、
「Pさんっ、そっちにずれろよ!」
「なんでだよ、そっち空いてるだろ」
「いいからっ」
ソファの真ん中辺りに座っていたPさんをグイグイと端に押しやった。
「はぁ。これでいいのか?何なんだよいきなり…」
「ふんっ、それはこっちのセリフだ!とうっ」
「うわぁ!?」
あたしはソファにダイブし、そのままPさんのお腹に顔を埋めて、腰に手を回して抱き着いた。
14: 以下、
「へっ、さっきの仕返しだ!どーだ、苦しいか!」
「し、仕返し?」
これならあたしの顔は見えないし、仕返しという体でPさんに抱き着けるし、匂いも堪能できる。やっぱあたしって天才だよな!
「すー…はー。んんーっ…?」
大好きなPさんの匂い。肺と共に心も満たされる。あたしは自分の匂いを付けるように、おでこをPさんのお腹にぐりぐりと擦り付けた。
「ちょっ、奈緒、くすぐったいから!やめろって!」
ふんっ、簡単にやめてたまるか!そう心の中で言い放ち、深く深呼吸してより一層強く抱きしめた。顔が見えないならあたしだってこういう大胆な事出来るんだからな!昔のあたしだと思うなよ!
26: 以下、
「こいつぅ…これならどうだ!」
「え?…きゃぁっ!?」
そう言うとPさんは、あたしのシャツを上まで引き上げた。前の方はあたしの胸に引っ掛かって止まったけど、背中の方は首の方まで上げられたのでブラが丸見えだ。
前言撤回、Pさんの前で無防備な姿を晒したあたしはバカだった。
あたしはすぐに跳ね起き、シャツを引き下ろしてソファの反対側まで避難した。
27: 以下、
「このバカぁっ!変態!何すんだよこのぉっ!」
「そのブラいつ買ったんだ?可愛いし似合ってるぞ」
「へあっ!?…あーもおぉぉぉっ…!!このスケベPさんっ!バカ!」
見られたのは今更なのでほんとはどうこう言うつもりはないけど、新しい下着をこんな形で見られた事が無性に気に入らなくてカッとなり、
「なんで今見ちゃうんだよぉ!せっかく今夜…あっ」
つい口が滑ってしまった。急いで口を覆っても出た言葉は戻って来ない。
「ん、今なんて言った?もっかい言って」
「そのっ…えっと、それはぁ…うぅー…」
こういう時のPさんはすっごく意地悪だ。顔を真っ赤にして視線を下げるあたしを、とても楽しそうにいぢめてくる。
「今夜って言ったよな?今夜何をどうするつもりだったんだ?ほら、ちゃんと言わないと」
と言いつつ、あたしの横腹をつんつんしてくる。
「ひゃうっ!やめ…だっだからぁ…あたしは別に…あうぅ…」
28: 以下、
恥ずかしさのあまりあたしの目に涙が溜まる。するとPさんはふぅと息をつくと、意地悪な笑みを優しい微笑みに変えて、あたしの頬に手を添え、親指で優しく涙を拭ってくれた。
「ごめんごめん、ちょっとやり過ぎたな。お詫びするから、目ぇ瞑って」
「な、なんだよお詫びって…はぁ、ったくほんとPさんは…んっ…」
仕方なくという感じを装い、目を閉じキスに応じる。優しく、啄む様な甘いキス。
「…これで許してくれるか?」
彼の方から離れた。名残惜しくて、唇を追いかけそうになるのを我慢する。
「…ふんっ!Pさん、あたしがキスすれば機嫌良くなるって思ってるだろ!あたしはそんな簡単な女じゃ無いんだからな!」
心で何を思っていても、態度に出さなければ関係ない。だから、あたしはちょろくない。頭の中の凛と加蓮がイジってきた。うるさい!
29: 以下、
「そうか、それは困ったなぁ」
余裕な態度で、Pさんがわざとらしく困ったフリをした。ちょっとムッとする。
「どうすれば許してくれる?何でも言っていいぞ」
「えっ」
思いもよらない急な問いに、軽く焦る。えっと、どうしよう…これはチャンスだよな?うー…恥ずかしいけど、言わないと伝わんない…!頑張れあたし!
「あー…ひっ、久し振りに、デート…して欲しい…」
30: 以下、
とても顔なんて見られない。照れ隠しに、Pさんの胸に頭をぐりぐりと擦り付ける。
「へ?デート?」
「…うん」
「っく、ふふっ…あっはははっ」
「な、なんだよ!悪いかよ!てか笑うな!笑うなよぉっ!」
精一杯のお願いを笑われて、怒りと恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にしてぽこぽことPさんの胸板を叩いた。すると、
「そんな事わざわざ頼まなくても、デートくらいするよ。っていうかこっちからお願いしたいくらいなんだけど。何言ってるの?」
と言って、Pさんはケラケラと笑った。
「…ふぇっ?…っ!!?」
Pさんのこっちからお願いしたい発言と、無駄に仰々しくデートを申し込んでしまった恥ずかしさは、あたしの限界を突破してしまった。
「だ、だってPさんずっと遅くまで仕事してて疲れてるんだし、たまの休みくらい休みたいだろうって思ったからそのっ、嫌なんじゃないかって…だからっえっと」
31: 以下、
わたわたと両手を左右に振りながらしどろもどろになって言い訳を並べるあたしを、Pさんは優しく抱きしめてくれた。
「ありがと。まぁ疲れてないって言ったら嘘になるけど、奈緒と一緒なら疲れなんか吹っ飛ぶよ」
「う…」
まっすぐ向けられた視線を誤魔化すように、Pさんのシャツをそっと掴む。
「だから、俺とデートしてくれるか?」
「…うん!」
二人の笑顔が咲いた。
34: 以下、
「それで、どこに行くんだ?」
あたしが尋ねる。
「ん、決めてない」
二人で一分くらい考え込んだ後、あたしがおそるおそる提案した。
「あ、それじゃあさ!ピクニックなんてどうだ?その辺を散歩して、お昼頃になったらテキトーな所でシート広げて弁当食べて、その後はのんびりしたりするんだ!…ど、どうだ?」
「…うん、いいな!そうしよう。それがいい」
と言った後、Pさんはあたしの頭のてっぺんにキスをしてきた。
「い、今のは何のキスだよっ!?」
「ん、いいアイデアありがとうのキス」
こういう突然のキスはいまだに慣れない。心の準備のあるキスだって今もそこそこ恥ずかしいのに。
35: 以下、
「い、いつも思うけどなぁっ、そんな無闇にキスしてたらありがたみが無くなるぞ!?いいのかよ!」
「へぇ、じゃあ奈緒はキスされてもあんまり嬉しくない?」
な…!?なんでそんな事ストレートに聞けるんだ、このスケコマシめ!
「う…そ、そうじゃなくて!これからそうなるかもしれないからって事で…!」
「そっか。じゃあ、極力しないよう気をつけるよ。これからは奈緒のタイミングに任せるな」
えっ…そ、そんな…そうじゃなくて、あたしは…!
「ちっ違…!あたしは…待っ…ん」
「…バーカ」
Pさんは唇をぺろりと舐め、あたしに軽くデコピンした。
36: 以下、
「あうっ………???!!!」
言葉にならない言葉を発しながら、ペシペシとPさんを叩く。
「はっはっは、奈緒は可愛いなぁ」
「うぅ?…!」
あたしを手球に取りやがって…!こうなったら…
「…ピクニックじゃなくて、トップアイドル御用達の特訓メニューでもいいんだぞ?デートを申し込んだのはそっちだからな。Pさんがぶっ倒れるまでなら今のあたしでも余裕でこなせるだろ」
「本当にごめんなさい調子乗りました」
へへん、仕返し成功。ざまぁみろ♪
「バーカ♪」
「いてっ」
デコピンもきっちりと。
41: できないです…なんでだ 2016/10/20(木) 08:19:26.20 ID:6IIa8layO
あたし達は、川沿いの紅葉が舞う並木道をゆっくりと歩いていた。お弁当と水筒とシートを入れたカゴはPさんが持ってくれてる。秋風が少し肌寒いが、あたしの右手と心は暖かい。
「もうほんと最高だったよ、○○の初ライブ!あの子は可愛いし歌も上手いし、カリスマ性もある。自信とか度胸がちょっと足りなかったんだけど、そこは俺の手腕でな」
Pさんが最近新しく担当したアイドルの話を、あたしは笑顔で聞いていた。
「あはは、Pさんやる気出させるの上手いもんなぁ。あたしも何回口車に乗せられたことか」
「なんの事かな?…でな、その子初ライブ成功した後大泣きしちゃってさ、宥めるの大変だったよ」
「宥める?嘘つけ!その時絶対Pさんも泣いただろ!宥められたの間違いじゃないのかー?」
あたしがニヤニヤしながら尋ねる。
「はぁ!?その子が泣いたのはホントですー!それに俺ぜっ全然な、泣いてないし…何言っちゃってるのかなー奈緒ちゃんは」
全力で目を逸らすPさん。目ぇ泳ぎまくってるぞ?
42: 以下、
「あたしの時なんかPさん泣きすぎてちょっと引いたくらいだったからな…涙も引っ込んじゃったよ」
「え、あれ奈緒引いてたの…?嘘だろ…」
Pさんが割とガチめにショックを受けた顔をした。
「あははっ♪Pさんってば昔からーーー」
楽しそうに担当アイドルの話をするPさん。今ではそれを聞くのが楽しみになっている。昔はあたし以外の女の話をする時はつい嫉妬しちゃってたけど、今は余裕を持っていられる。
なぜなら、Pさんが一番好きな女はあたしだっていう自信があるから。Pさんは、いつでもどんな時もあたしを優先してくれた。今までのPさんとの日々が、あたしにその自信をくれた。それはとってもむず痒く、とっても幸せな事。
だから、Pさんがどんなにあたしの前でその子を褒めたって、あたしは動じないんだ。それ以上に、あたしを褒めてくれてるって知ってるから。
まぁ…Pさんにプロデュースされて羨ましいって気持ちは、無くはないけど。…他の担当の子は、どうなのかな?
44: 以下、
「そういえば、あたしがいた頃のアイドル達の写真とかあるか?元年少組の子も今担当してるんだろ?今どうなったか結構気になってるんだ」
若い子は要注意だからな。Pさんにその気が無くてもPさんはこんなに格好良いんだ、アイドル達が誘惑してきてもおかしくない。
それはあたしとしても面白くない。
「おお、見るか?元年少組。みんな成長してるぞ?。今は学生組だけど」
そう言って、Pさんはスマホを見せてきた。
「この二人は別のベクトルで無防備だからなぁ…ほんと気が気じゃないよ」
無防備かぁ、これは強敵だな。
「うわっ、晴もみりあもスタイルいいなぁ…あたしこの時こんなに無かったぞ」
「そんなことないだろ…あと、スタイルで言うと千枝も中々だぞ?ほら」
「…!!?」
なんだこれ千枝のやつ、エロっ!こんな色気今のあたしでも出せないぞ…?あー、なんか悲しくなってきた…Pさんに八つ当たりしてやろ。
45: 以下、
「Pさん、この子達に浮気してないだろーな?」
「はぁ!?してる訳無いだろ!何言ってんだよ」
即答。Pさんは怖い顔をしてあたしを睨んだ。すぐに怒ってくれたのと、あんまり見られない怒った顔も格好良かったから、沈みかけていたあたしの心がきゅんと持ち上がった。好きな人に叱られるのも悪くない。気を良くしたあたしは、攻撃を続けた。
「でもなぁ…女子高生だったあたしの告白を受け入れたのはどこの誰だっけな?」
「うぐ…そ、それはこの話とは別に…俺は奈緒だったから…」
Pさんがオロオロと狼狽える。あぁもう可愛いなぁ。
「どうだかなぁ…あたしはハタチ超えちゃってるからなぁ…」
落ち込んだフリをする。普段は見破られるけど、今のPさんなら楽勝だ。あたしも悪い女だよな、男を手球に取るなんて。へへっ♪
「俺は今の奈緒の方が、昔の奈緒より好きだよ。歳なんて関係ない!」
本当は浮気なんか微塵も疑ってないのにあんな事を言ったのは、こういう言葉が欲しかっただけなんだ。えへへ、慰めてもらって元気出てきたぞっ!作戦通りだな!
「えー?Pさん女子高生が好きだからあたしを選んだんじゃないのか?」
どの口が言う。そんな事無いの知ってる癖に。
「ち、違う!女子高生だったからじゃなくて、奈緒だったからだ!あの頃からずっと奈緒の事ばっか考えてた。奈緒が何歳でも、俺は絶対奈緒の事好きになってたよ!」
…へっ?
「な…何だよそれ…あっ頭おかしいんじゃねぇのか…変態」
…まぁ、ここまでの破壊力の攻撃を繰り出してくるのは想定外だったけど。あー顔あっつい…
「変態でも奈緒に疑われるよりマシだ。俺がどれだけ奈緒を好きか分かったか?」
「…うん」
…勝ったと思ったら、いつの間にか負けてた。悔しい。くそっ!怒った顔格好良い!あぁもう、いつになったらPさんに勝てるんだよぉっ!
46: 以下、
はぁ…まぁ、いつまでも拗ねてもしょうがないか。
「全く、何を言い出すかと思えば」
「…Pさんごめん!反省したから他の子も見せてくれよ」
と言いつつ、許しを乞う意味もかねて彼の腕を胸に抱く。
「…はいはい。ほら、ありすと桃華も」
「わぁ、桃華も凄い成長したなぁ。この包み込むような雰囲気、あたしより大人っぽく見えるぞ。ありすは…」
スタイルの良い元年少組に囲まれて、「くっ」という表情をしていた。
「あー…なんか本人の成長イメージと違ったみたいでな…まぁその、目標が文香だから」
「…ありすはスレンダーだなぁ!美人だし!」
「…あぁ、間違いない」
ありがとうありす。…あとごめん。女の魅力はそこだけじゃないよな。あたしはちょっとだけ元気が出て、その事を心の中で謝った。
47: 以下、
「今度、事務所に顔出すよ。久し振りにみんなに会いたくなっちゃったしな」
「おっ、そうか!皆も喜ぶぞ?!新人の子達に色々教えてやってくれ」
「や、やだよ!あの頃みたいに動ける訳無いだろ?」
あたしはぶんぶんと手を振った。
「いや、別にそういうのじゃなくても、体験談とか話してくれるだけでいい刺激になるし。それに奈緒に憧れてる子結構いるぞ?サインでも書いてやれよ」
「へっ、あたしに!?…ったく、しょーがねーなー。そこまで言うんだったら、してあげなくもないけどー…?」
ほんとは面倒だけど、憧れてるんだったらしょうがないよな!ファンには応えてあげるのがアイドルだし?まぁ今はアイドルじゃないけど…でも、あたしに憧れて…えへへ
「そんなだらしない顔でニヤニヤしてたら憧れも無くなるかもなー」
「し、してない!ニヤニヤなんてしてないし!適当な事言うなよな!」
うぅ…ふ、不覚…!
「へいへい。ツンデレツンデレ」
「誰がツンデレだ!」
うぅ、何でみんなしてあたしの事ツンデレって言うんだ…!あたしのどこにデレがあるってんだ。全く、困ったもんだ!
48: 以下、
そうこうしている内に並木道が終わり、開けた場所に出た。紅い木々が芝生をぐるっと囲んでいて、更に向こうには公園がある。
「へぇ、こっちは広場になってたのか」
と辺りをキョロキョロしながらPさんが言った。
「脇には川も流れてるし、夏とか子供達が遊んでそうだよな!」
「今も遊んでる子いるぞ?ほらあそこ」
Pさんが指を指す方に目を向けると、遊んでいる二家族くらいの集まりが見えた。保育園から小学校低学年くらいの子達が、色付きの柔らかそうなボールで野球をしている。
「あっ、ホントだ。あははっ、元気だなー」
「奈緒も混じってくれば?」
「はあっ!?何言ってんだ、子供扱いするなっ!」
「えっ、子供じゃないの?」
「Pさんあたしの歳知ってるだろ!Pさんのバカッ!!」
49: 以下、
いつものやり取りを終えると、あたし達はシートを敷き始めた。
「ほらPさんそっち伸ばして!シワになってるからっ」
「えー、これくらい良くないか?」
「シワの上に座ったらお尻がなんか気持ち悪いんだよ!」
「あー確かになー。分かったよ、ほらこれでよし」
「よし!」
「さっ、食べよっか」
シートを綺麗に敷いて、あたし達は時折会話を挟みながら弁当を食べた。Pさんと並んで外で食べる弁当は格別で、いつもよりずっと箸が進んだ。
50: 以下、
「ふぅっ。ごちそうさま」
「ごちそうさま」
「やっぱこういうとこで食べると美味いよなぁ…あ、家で食べるのもちゃんと美味しいぞ?」
「はいはい、言いたい事は分かってるって。しっかしあの子達凄いな、さっきからずっと野球やってるよ。あんなに小さいのに体力あるなぁ」
「野球…あ、そういや姫川さんとこ子供生まれたらしいぞ」
「ええっ!?本当か?…そっか、あの友紀さんがお母さんかぁ…」
へぇ、あの野球一筋な友紀さんがなぁ…感慨深いものがあるなぁ。
「でも、案外いいお母さんしてそうじゃないか?」
うん、確かにそれはイメージ出来る。あと絶対野球仕込んでそう。
「まぁお嫁さんの方は出来てるかちょっと疑わしいけどな」
「あははっ、そうだよな!友紀Pさんの方がお嫁さんに向いてそうだ」
「おい奈緒、それ姫川さんに言っちゃダメだぞ?…ん?」
「あっ、ボール…」
「もー、あっちに打っちゃダメって言われただろー!」
「ごめーん、あんなに飛ぶとは思わなくてさ」
と、お互いに笑い合っていたその時、子供の声と共にあたしの方にボールが転がってきた。
51: 以下、
「おねーさーん!ボールこっちに投げてー!」
「ええっ!?あ、あたし!?」
ど、どうしよう…ボールなんて何年も投げてないし…と、取り敢えずボール拾わなきゃ。
「ぴ、Pさん!」
「ご指名だぞ。待ってるから、早く投げてやりな」
ボールを差し出しPさんに渡そうとするも、あっさり断られた。
「くっ…い、行くぞぉ!てりゃあ!」
…ぽてん、てん、てん。
ボールはあたしの数メートル先で停止した。お陰で、子供達はかなりの距離を走って来る事になってしまった。
「あはははっ♪おねーさん、下手っぴだね!でもありがと!」
「下手っぴのおねーさん、ありがとう!」
「じゃあねっ、下手っぴおねーさん!」
「……」
無邪気な子供達に口々に下手っぴと言われたあたしは拳を握りしめ、恥ずかしさでぷるぷると肩を震わせた。
「っくくく…ふっ…ふふ…」
Pさんは別の理由で震えてた。何だよ、笑うなよっ!
「どんまい、下手っぴおねーさん」
「うるさい!」
「あっはっはっはっ」
全然泣いてないし。
52: 以下、
一旦終わり。続きは夜に。
もうすぐ終わります。
53: 以下、
エロい千枝ちゃんについて詳しく
56: 以下、
Pさんが笑い疲れてあたしが怒り疲れた後、あたし達はのんびりとさっきの子供達を眺めていた。
「奈緒、膝枕して」
「えー、足痺れるからちょっとだけな」
「了解」
と短くそう言って、Pさんはあたしの太ももに頭を預けた。
「あー…奈緒のムチムチ太もも最高です」
「し、失礼なっ…!ムチムチって言うな!」
こんにゃろ、最近少しお肉が付いてきた事を知っての発言かぁ!
57: 以下、
「褒めてるんだって。正直痩せ過ぎてる子は好きじゃないし。これくらいが俺的にはベストだよ」
「ふ、ふ?ん…」
…基準は今に持ってこよう。アイドルじゃないんだし、何の問題もない。Pさんの頭を撫で始めたのも、なんとなく手が寂しかったからだ。
その後は、二人でしばらくぼんやりと子供達を眺めていた。
58: 以下、
「あははっ、見ろよ奈緒、あの子思っきし転んでるよ。おっ、泣いてない。泣き虫奈緒とは違うな」
「あ、あたしも泣いてない!」
「でも、ほんと可愛いなぁあの子達」
「…やっぱ良いよなぁ、子供」
…そう言えば、加蓮の奴も妊娠して、今はかなりお腹が大きくなってたっけ。お腹を撫でる加蓮、幸せそうだったな…
「そ、そうだな…」
 
「…」
「あー…あのさ…?俺達結婚もした事だし…奈緒は、そろそろ子供欲しいか?」
Pさんが遠慮がちに聞いて来た。まぁ、欲しくないと言えば嘘になる。愛するPさんとの子供を授かる事が出来れば、それはどんなに幸せだろうか。でも、
「…いや、いいよ」
あたしは拒否した。
61: 以下、
あたしは拒否した。
「…そうか」
そう言うと、Pさんは少しだけ寂しそうな顔をした。Pさん、違うんだ。あたしはな?
「…そりゃあ、大好きなPさんとの子供を授かれたらすっごく嬉しいし、いつかは絶対欲しいよ?でも、今は」
あたしは両手を後で組み、はにかみながらPさんを見上げて笑った。
「まだ、Pさんと二人きりで居たい。Pさんを一人占めしてたいからさ。だから、子供はまだいいかな、って」
62: 以下、
「…!!」
Pさんは面食らったような顔をして、無造作に体を起こした。そしてあたしは、ゆっくりと言葉を続けた。なんでだろ、今は不思議と恥ずかしさはない。
「あたしはその…Pさんとたくさん…ら、ラブラブして、一緒に色んな所に行って、素敵な思い出をいーっぱい作って…それで二人とも、もういいかなってなったらさ、その時は」
どうしよう、「好き」の気持ちが溢れて止まらない。Pさんが、好き。
「…」
真剣な目であたしを見つめ、静かに聴いてくれていたPさんが愛おしげにあたしの頬に両手を添えた。あたしもそれに倣って、
63: 以下、
「Pさんとの子供、欲しい」
64: 以下、
深い、キスをした。愛してるという気持ちを行き来させるような、深いキス。あたしの世界は、今はここだけ。あたしはお互いが融け合って一つになるのを望むかのように、Pさんを激しく貪った。この息苦しささえ、今のあたしには心地よかった。何時間も経ったと思うくらいの長いキスだったけど、終わった後もあたしの渇きは満たされなかった。
「はあっ、はっ…奈緒、今夜は、寝かさない」
Pさんが、獣のような目であたしを見据えた。こんな目で見られたら、あたしはもう逃れられない。
「ふぁっ…はぁ、はあっ…うん。分かっ、た」
ただ、お互いに「好き」をぶつけたくなっただけ。子供は、まだ要らないから。
65: 以下、
「ごめん、我慢できない。デートの途中だけど、今すぐ帰っていいか?」
「はっ…いい、よ。あたしも、はぁ、同じ、だからっ」
あたし、もうダメだ。早くPさんが欲しい…
「奈緒、愛してるよ」
「あたしも、Pさんの事っ、愛して…んむっ」
手早く片付けを済ませたあたし達は、行きよりずっと早歩きで帰路についた。
家まで待ち切れないあたし達は周りを窺ってはどちらからともなくキスをし、腕を絡め合った。後になって思えば、この並木道が人通りのほとんどない所で本当に良かった思う。
行きの時間よりずっと早く家に着いたが、あたしの感覚ではずっと時間がかかった気がした。そして家の扉を開けるなり、電気も付けずにお互いを求め合った。
…その時から朝まで、あたし達の距離がゼロ以上になることは無かった。
おわり
66: 以下、
ここまで付き合って下さった方、ありがとうございました!
ハートの件に関してはごめんなさい。でも、丁寧に教えていただいて嬉しかったです。
コメしてくれた方、ありがとうございました。とても励みになりました。
最後はこんな感じになってすみません、やっぱり夫婦の愛を語る上では外せないのかなって思ったので。これ以上書くとR18が止まらなくなってしまうので、駆け足になってしまいました。
乙女たくみんの続きも書きたいけど、地の文が案外楽しかったので次は他の子で書こうと思います。それではまた!
関連SS
【モバマスSS】P「乙女たくみん」
【モバマス】P「乙女たくみんの弱点」
元スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1476782350/
アルファオメガ アイドルマスター シンデレラガールズ 神谷奈緒 Triad Primus ver.
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