天照大御神「そろそろ隠居したいからお前らバトれ」back

天照大御神「そろそろ隠居したいからお前らバトれ」


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現在の天照大御神が隠居を決めたのは、突然のことであった。
当然、八百万の神々には激震が走ることとなる。
神はそれと定められれば恒久的に同じ名前同じ存在として崇め続けられるがその実、中身は数多の神々が名を受け継ぎ、移ろいつつ、長きにわたり絶たれることなく積み上げられてきた信仰を、後世へと紡いでゆく。
いわゆる日本国の象徴として、八百万の神々の頂点に君臨する天照大御神とて例外ではなく、天照大御神として崇め続けられど、長い歴史の中でその信仰の対象となる神は入れ替わりつづけていたのであった。
まぁ、ぶっちゃけアニメでいうCV変更である。中の人が変われどキャラクターが変わるわけではない。天照大御神の中身が水田わさびであれど、大山のぶ代であれど、いっそ野沢雅子でも天照大御神は天照大御神。
そういうことである。
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とはいえ、神々は神々で割と序列関係などどうでもよく。
八百万の神々はその性質故、皆が皆何がしかの領域ではトップだと豪語できるので、「○○の神」というポジションだけで満足でき……というか、○○の神というポジションですら「ずっとやってると飽きる」とのたまいだし、同胞を集め、自主的にシフト表を編みだし、シフト制を導入している神すらいる始末であり。
「名ありの神になりたい!」などとのたまうものは大抵他の神々を圧倒する人間からの信仰を目的とした、いわば承認欲求の塊である。
とはいえど、名ありの神々はどれも他の神に比べ圧倒的な知名度であり、その座を退いてまで天照大御神にまで成り上がろうとする者もさしておらず。
つまるところ、次代天照大御神の座を巡る争いはそこまで熾烈なものでもなかった。消化試合である。
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とはいえど、八百万の神々はその数八百万……と言いたいところだが、この名称はAKB48へと至る系譜の原点であり、その数そのものが神の柱数を表すわけではない……が、それなりに多い。
全体数が多ければ変態数も多い。承認欲求バリバリの神もそれなりにいる。
しかし、現天照大御神はこれらの変態どもに消化試合をさせる……これまでの前例を挙げるなれば、じゃんけんや大富豪、ラップバトルなど、そんな子どもの遊びのようなもので優劣で決めるのは実に芸がないと考えた。
何か、革新的な採用案を出さねばならない。
天照大御神は悩んだ。実に悩んだ。15分くらい悩んだ。食器を洗いながら悩んだ。
そうして編み出されたその選定方が、後に波乱を呼ぶこととなるとは、このとき誰も思いもしなかったということは、言うまでもない。
……というか大半は次の天照大御神とかどうでもよかった。みんなオセロとか大富豪とかしてた。
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して、三日くらい経って、運命の日?X-DAY?(なんかかっこいい)。
「わたしは、"天照大御神"という名に囚われることなく、神々への信仰を得られるものこそが偉大なる神と心得る!」
朝礼台に立ち、現天照大御神がマイクでなんかそれっぽいことを言う。
朝礼台の前には次代天照大御神の座を狙う神々、それを見届けんとする神々、通りすがりの野次馬が散見された。
「では、これよりみなのものには、人間に対して何かを施し、神々への信仰を増やしてもらいたい!神を信じるもの、神に感謝するもの、神に祈るもの……単純明快、そのような人々の増加数が最も多い神が次代の天照大御神を担うものとする!」
めちゃくちゃ王道であった。端の方から「北風と太陽かよ」とか聞こえてくるくらいであった。無論、現天照大御神の本棚に北風と太陽が三冊ほどあることは言うまでもない。
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「さぁ、挑戦せしものは名乗りをあぎぇよ!」
現天照大御神がそう言った。
明らかに噛んでいたが、噛んだ後もその風格は崩されることがなく、凛と立っているものだから、誰もツッコみはしなかった。
いや、彼女にいったい誰がツッコめよう。
現天照大御神の言葉を受けて、事前に行った前に習えなどのおかげにより、整然と並ぶ大衆の中から一柱の神が名乗りをあげた。
「私が、大衆の信仰心を奪ってみせましょうZO!」
アフロにサングラス、色黒で右手にマラカス。肩にトゲトゲの肩パッド。あと左手にチェーンソー。
神々の中には己が何の神か、そのアイデンティティーを主張すべく外見に象徴をちりばめるものも少なくない。
ギターを司りし神は日によって種類は違えど、ギターを抱きつつ日常を送っているし(ESPの高見沢モデルのギターが勝負ギターである)、リーゼントを司る神は無論、リーゼント(ちなみにソフトモヒカンを司る神は「最近流行っていてモテるらしいから」とツーブロックになっていた)だ。
故に、奇抜な格好そのものは神界においてはそれほど珍しいものでもないのだが、彼女のその容姿からは何の情報も読み取れない。
あえて言うならサンバとかの神だろうか。その肩パッドとチェーンソーいらなくない?あと何その語尾のノリノリ感。いらなくない?
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サンバ神(仮)は一歩前に出ると、天照の前方、朝礼台前に設置された大きな水晶を眺めた。
よくある人間界の様子を写し出す水晶というである。
サンバ神(仮)はその水晶に少しばかりの念仏を唱える。
「なむあみなむあみ」
「いや、念仏は仏教だろ」
現天照大御神が素に戻りつつツッコむがサンバ神(仮)はいざ知らず。ひたすらになむあみっていく。
すると、水晶からいくつも映画フィルムのようなものが溢れ出す。
「これは、アカシックレコード……?」
アカシックレコード。
原始――宇宙創生より現在まで、この世界に存在せし森羅万象が記録される、いわば"世界の記憶"。
その記憶は……人々の願いも例外ではなく。
映画フィルムのように見えるその記憶の帯には一コマ一コマに人々の理想や願いがひとつひとつ、刻まれていた。
サンバ神(仮)はその中からいくらかの願いを汲み取り、指でなぞり……そっと記憶を、掬い上げる。
その行為は。"掬う"という行為は、すなわち、"救う"ことと等しい。
掬い上げられた願いは光となり、空へと消える。……それは、願いの成就を意味した。
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「天照大御神。いかがでしょう」
サンバ神(仮)の確認に、現天照大御神は答える。
「ふむ。確かに、神への感謝が高まっている」
「まさに今、神に祈らんとしていたものどもを救いましたゆえ……願っていれば、人々は神の御業と認識しますゆえ……」
「なるほどな」
普通。
圧倒的、普通。
奇抜な容姿からは想像ができない、普通。
現天照大御神もコメントに困り、「なるほどな」以外の言葉が出てこない。
「……よっしゃ」
しかし、サンバ神(仮)は得意気な表情であった。どや顔であった。
「うむ。戻ってよいぞ」
現天照大御神がそう促すと、サンバ神(仮)は元の位置へと戻る。
……にやにや顔を崩すことなく。というかチェーンソーが時折うぃんうぃん言ってる。危ない。止めて。
まぁ、しかし。
見方を変えれば、彼女の行為は、王道そのもの。
正攻法はこの場では先に行ったもの勝ち同然であり、何より、正攻法ゆえの堅実さは確かに、強い。
8:以下、
次からこの試練に挑戦するものは、この正攻法を打ち破る手段を持ってして、より多くの人間から神々への信仰を集めねばならない。
そのハードルは、その実、高い。
「では、次に挑戦するものは!」
現天照大御神の問いかけに、多くの神が固唾を飲む。
ある神は、次に繰り出されるであろう、そのハードルの高さを超える案への期待を募らせ。
ある神は、自らの案がそのハードルの高さを越えられるかどうか、その瀬戸際について思いを巡らせ。
またある神は、己の案を心の内に秘めながら、次に誰かが挙げうる案への思案を巡らせながら。
そして、ある神は、己の案への絶対的自信を抱きつつ、高らかに手を挙げる。
「はい!」
「うむ。ではそこの者、前へ」
そうして、神々の争いはさらに熾烈を極める。
誰がなんと言おうと、どんぐりの背比べだって熾烈なのだ。どんぐりをナメてはいけないぞ。
9:以下、
その神の外見は至って普通。
服装はブラウスにカーディガン、そしてスカートとどこか学校の制服を思わせるものであり、その他に個性を引き出すアイテムは少し大きめの眼鏡であろうか。
個性が無個性の中に埋没しており、実質無個性が個性というような、面白味も何もない神。
「うひょー!図書委員たそきたこれー!」
「うふぅー!拙者図書委員たそに票を入れるでござるぅー!CD買うでござるぅー!」
周りの神々(おそらくキモオタの神か何かであろう)の言動を見る限り、彼女は図書委員を司りし神らしい。なるほど、そう言われてみれば確かに図書委員のイメージそのままの容姿である。……いやニッチすぎない?
ちなみに言うまでもないが、これはAMT8000000総選挙ではない。
「では、やりますね?」
メガネの位置を正しながらそう訪ねる図書委員神に「こいつ敵との戦闘の際に勝率とか割り出すタイプだな」と思いつつ現天照大御神はそれを承諾した。
11:以下、
「…………」
図書委員神は、無表情のまま、水晶へ近づく。
水晶はまたもや、アカシックレコードを吐き出す。
いくつも吐き出されるアカシックレコードのなかに刻まれた一コマ一コマには、どれも神社にいる人々が映し出される。
「…………」
図書委員神は無表情のまま、吐き出されるアカシックレコードに指を滑らせてゆく。
掬うのではなく、優しく、優しく、刺激する。撫で上げる。
彼女が人々に与えたものは、救いではなく……欲望だった。
12:以下、
彼女が駆り立てたのは、購買意欲。
人々は神社で様々なお守りを買い、持ち去ってゆく。
「これは……。む、確かに信仰は増えているな」
現天照大御神がそうつぶやくと、図書委員神はふふっと微笑み(外野のキモオタ神付近がその表情を受け騒がしくなっていた)、返す。
「人間というものは、お守りなんかが身近にあると、半信半疑でもとりあえず頼っちゃうものですから」
「ほほう!なるほどな!なるほどな!」
先程と打って変わって人間の心理を利用しており、知的感が垣間見える図書委員神のアプローチに現天照大御神のテンションがあからさまに上がる。
サンバ神(仮)、不憫である。
13:以下、
「ふむ、ふむ、なるほど。戻ってよいぞ」
図書委員神が一通りの作業を終えると、サンバ神(仮)との優劣を発表することなく図書委員神を元の位置へと帰るよう促す。
彼女が元の位置へと座り込んだのを確認してから、現天照大御神は進行を続行した。
「では、次の者!」
数多の神が手を挙げる。
現天照大御神はその神々を一柱一柱指名し、次々に彼女らのPR、その発想を覗き見る。
「絶望の手前の人間を絶望へと陥れました!死の間際、みな神の救いを欲するはずです!」
「アクションゲームやってる人たちをギリギリでクリアできない状態にしました!神様!クリアさせてくれ!って声がいっぱいです!」
「ゲーム界でソシャゲを流行らせ、ガチャブームを巻き起こしました!ガチャ引くときにみんな神に願うはずです!」
「じゃあ俺はロシアンルーレットブームを巻きおこ「やめろ」
20柱を超えた辺りで現天照大御神の中に「面接官を司る神を今度から労ってやろう来年からちゃんと暑中見舞贈ってやろう」という思いが湧いた。
しかし、それを優に超える神々が次々と手を挙げる。
50柱を超えた辺りで「あ、これあみだくじにするべきだったわ」とか思い始めたということは言うまでもない。
14:以下、
70柱を超えた辺りだろうか。
手を挙げる神も途絶えたかと思われた頃、一柱の神が、新たに手を挙げた。
現天照大御神としては「ガチでもうやめてくれ、帰らせてくれ」という無駄に長々と語り続ける生徒会選挙の演説へのそれとほぼ同一の胸中が胸の中で渦巻いて仕方がなかったが、笑顔で「よし、ではお前が最後だ!」と言い放った。
何気にこれ以降続くものに対して牽制をした抜かりのなさは褒められるべきだろう。流石天照大御神。流石。
最後の神は、おどおどとした上目遣いが保護欲をそそる、小動物を思わせるような外見であり、その見た目からまさに無害の化身、といったようであった。
その外見からは、何の神かは伺い知れない。
「えと、あの、その、よろしくです」
ぺこり、と頭を下げる彼女の姿を受けて、キモオタ神が推し神の変更を一考したが、僅差でツンデレの神が勝った。
ここに至る約70柱を経て、彼の推し神に9回の変更が起こったことということは、ここに記しておこう。
15:以下、
最後の神が、皆と同じく水晶の前に立つと、水晶はアカシックレコードを吐き出した。
最後の神は、そのアカシックレコードにそっと手を添えて、ひたすらになぞり続けた。
次々に、並々と、水晶からアカシックレコードが吐き出されてゆく。
その量はそれまでの70柱が引っ張り出したアカシックレコード達の比ではなく。
彼女は、次々に水晶が吐き出すフィルムをなぞり続ける。
天空にいくつもの虹がかかるかのようにアカシックレコードが駆け巡る。
やがてその数は70億を超えた。
「まさか……すべての人間の信仰を……?」
「えと、その、はい……」
彼女がおどおどと答えた瞬間、現天照大御神の右目につけられたスカウター(型信仰観測装置 ※現天照大御神の趣味です。)の数値が回りに回る。
「なに!?いや、そんな、ばかな!?」
最後の神が集めた信仰は、みるみるうちに、これまでの70柱の誰をも……いや、70柱全てを足した数をも凌駕する。
16:以下、
「これは……いや、そんな、いったい何が、起きてるんだ!これ!」
現天照大御神、テンション爆上げである。
最後の神の肩を掴み、ぶんぶんと振る。
「ひゃっ、えっと、その、あのぉ」
「す、すまない。して、これは……?」
「えっと、人間みなさんのお腹の調子を……こう、ちょっと……」
「……?」
「下痢ぎみにして……便意を漏らす瀬戸際で絶妙に……こう……」
「……!?」
最後の神、畜生であった。
彼女は、核兵器よりも恐ろしい爆弾を、全人類に対して放ったのだ。
神々が彼女の行為への畏怖と、そんな事態における、それまでの様々な事案を圧倒的に上回る人々の信仰に困惑。
ついには神々への信仰に疑念を覚えるものまで出始めた。
この日、神々は困惑の縁にぶち落とされ、人類は一人残らず、絶望の縁へとぶち落とされた。
後の神界においてこのときの悲劇は、下痢の頭文字である"G"を取って、G-SHOCKと呼ばれることとなる……。
17:以下、
かくして、次代天照大御神の座は最後の神に譲られた。
こうして、天照大御神への信仰は次代へと受け継がれ、紡がれ続けていく。
しかし、神々の中で手軽に信仰を集めたい際、そこらの人間に突発的に便意を与えるものが出始めた。
もしもあなたが突発的に便意を催したのなら。
そんなときは、もしかするとあなたは神々の手のひらの上で踊っているのかもしれない。
18:以下、

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