海未「え…が、癌?」back

海未「え…が、癌?」


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1:
医師「はい…園田海未さんのお身体に、悪性の腫瘍が見つかりました」
海未母「そ、そんな…」
ことりの留学の件が一段落し、これから私たちの物語が新たに始まる、そんな矢先の出来事でした。
医師「既に幾つかの場所に転移している可能性もあります。今すぐにでも精密検査をして手術を行うことをお勧めします」
海未「……」
私は視界が真っ暗になりました。自分がいま、どこをみているのか分からない感覚のまま、お医者様の声だけが私の耳に侵入してきました
医師「直ぐに先方に連絡を入れますので、予定が決まり次第、こちらから連絡を入れさせていただきます」
海未母「お医者様、海未は助かりますよね……?治していただけるんですよね?」
医師「……私の口からは、何も」
眉を伏せて顔を逸らすお医者様の顔をみて、私は自分の病状が深刻な事を他人事の様に理解しました。
海未(…………穂乃果……)
自分の命の危機だというのに、私の脳裏には自然と幼馴染の顔が浮かび上がっていました。
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4:
穂乃果「海未ちゃ〜ん!」
私を呼ぶ元気な声が、俯きがちに歩いていた私の耳に入ってきます
海未「穂乃果……ッ。……おはようございます、穂乃果」
幾度と見た幼馴染の顔を見た瞬間、思わず泣き出しそうになってしまう弱い自分をなんとか奮い立たせ、挨拶を返しました
穂乃果「……海未ちゃん、なんかあった?」
海未「私はいつも通りですが?」
穂乃果「あれ? 気のせいかな?」
海未「変なこといってないで、早く行きますよ。このままだと遅刻してしまいます」
穂乃果「あ、待ってよ海未ちゃ〜ん!」
海未(穂乃果にだけは……穂乃果にだけは、まだ……)
お医者様からの連絡を待つ間、私は心配するお母様を説得して、普段通りの生活をさせてもらうことにしました。
もしかしたら、二度と通うことがなくなる学校に、幼馴染と二人並んで歩くこの景色と風景を、私は無意識の内に記憶の中に刻み込もうとしていました
6:
ことり「海未ちゃん、今日は振り付けの練習お休み?」
海未「え、えぇ……今日は、ちょっと……」
ことり「あんまり無理したらダメだよぉ?」
放課後、メンバーが屋上に集まって練習に励む中、私だけは体調不良を言い訳に皆の練習風景を眺めていました
ことりが戻ってきて、更に絆を深めたメンバー達は、皆生き生きとしていました
凛「マキちゃんそこは凛が先にゃー」
真姫「ここは私が前に出た方がバランスがいいわ!」
ニコ「だから、そろそろユニット分けをして個人技量を高めていくべきなのよ!」
絵里「そうね……確かに人数を分けた方が細かな部分にも目が届きやすいわね……希はどう思う?」
希「ウチも賛成やん。流石はニコっち、皆をよく見てるやん」
ニコ「まぁ〜〜ねっ!ニコはなぁんでも出来ちゃう、スーパーアイドルだからぁ、アドバイスも完璧よ!」
絵里「もぅ、調子に乗らないの」
花陽「ふふふ」
皆が楽しそうに、時に真剣に、練習に励んでいる。私は、その風景を、また無意識の内に記憶に焼き付けようとしていた自分に内心呆れながら、じっと眺めていました
穂乃果「……」
14:
絵里「それじゃ、また明日ね」
希「海未ちゃん、しっかり休むんよ」
海未「はい。ありがとうございます、希」
練習を終え、私達は校門の前で別れました。
ことり「それじゃ、私達も帰ろっか」
海未「そうですね」
いつも通り、穂乃果とことりと私の三人で帰ろうとした時でした。
穂乃果「ごめん!穂乃果、今日は先に帰るね!」
海未「え!?穂乃果!?」
ことり「ほのかちゃん!?」
突然それだけを言い残し、穂乃果が勢いよく走り出してしまいました。
ことり「一体どうしたんだろう、ほのかちゃん……」
海未「……」
正直、私は少しだけ寂しくなっていました。
海未(もう一緒にいられる時間が限られているというのに……)
そう思いながらも、いつも通り一生懸命走る穂乃果の背を見ながら、私は小さく笑っていました。
海未「さぁ、私達も帰りましょう」
ことり「う、うん……」
海未「ことり?」
ことり「あ、あのね海未ちゃん……ちょっと、話したいことがあるの」
そう言って、ことりは小さく笑いました。
その笑みは、何処か強張っている様に、私には見えました。
15:
ことり「ごめんね海未ちゃん、体調が優れないのに無理言って……」
海未「大丈夫ですよ、日常生活に支障を来すほどではありませんから。……それで、話というのは?」
ことりと二人で神田明神の階段に並んで腰を掛けながら、私は話を促しました。
ことり「うん……」
ことりは躊躇う様な仕草をした後、意を決した様に話し出しました。
ことり「実はね……ことり、好きな人が出来たの」
海未「え……」
バクン! と、私の心臓が大きく跳ね上がりました。
海未「……それは、誰なのですか?」
本当は分かっているくせに、私は最後の抵抗を見せる様に、ことりに問い掛けました。
ことり「うん……私──」
海未(いや……言わないで……)
私は無駄だとわかっていながらも、必死に祈りました。
ことりの口から、幼馴染の名前が出ない事を。
ことり「ことり……ことりね、穂乃果ちゃんの事が、好きなの」
17:
心臓が止まったかのような、気持ちの悪い感覚が、私を襲いました。
ことり「ことりね、気づけばずっとほのかちゃんのことを見てるの」
海未(そんなの、知っています)
ことり「最初は気づいていなかったんだけど、ことりが留学することになった時、空港にほのかちゃんが迎えに来てくれて……うれしかった」
海未(私が穂乃果に空港に行くように言ったのですから。ことりはそんなことも知らないのでしょう)
ことり「その時、ことりは気づいたの。ことりはほのかちゃんのことが好きなんだって」
そういって、ことりは照れくさそうに笑いました。
私には、その笑顔が妙にあざとく見え──
海未(ッ!?)
そこまで考えて、自分がいま何を考えていたのか理解し、頭が真っ白になりました。
海未(私、なんてことを……)
私はいつの間にか、ことりを否定的に見ていました。
そう、私は嫉妬しているのです。
ことりが向き合おうとしている気持ちを、誰よりも早く持ち続けていながら、向き合うことを恐れ続けてきた私に、嫉妬する資格なんてないのに。
18:
ことり「最近なんてほのかちゃんの細かな癖だってわかるようになったんだよ」
海未「そう、なんですか……」
ことり「知ってる? ほのかちゃん、お弁当を食べるとき、必ず一番好きなものから食べるんだよ」
そんなの、昔から知っています。
ほかにも、階段を降りるときは必ず右足から降りるとか、歩き出す時には必ず踵を浮かせる癖だって、いっぱい、いっぱい知っています。
それこそ、ことりよりも、ずっと……。
海未(私は……なんて醜いんでしょう)
罪悪感と自己嫌悪に陥っている私に気付いた様子もなく、ことりは話を続けます。
ことり「あとね、最近気づいたんだけど、ほのかちゃん、衣装を着るときは必ず上の服から着るんだよ?」
海未「……」
再び、私の心臓が嫌な動きをしました。
それは……知らない。
私の知らない穂乃果の癖を、ことりは知っている。
その事実に、私の心は黒く淀んでいきました。
海未「……どうするつもりなんですか?」
これ以上耐えられそうになかったので、私は話を進めることにしました。
一刻も早く、終わらせるために。
20:
ことり「伝えようと思う。ことりの本当の気持ちを、ほのかちゃんに」
海未「……女の子同士、なのですよ?」
ことり「うん……普通じゃないってことはわかってる。それでも、ことりは伝えるよ」
海未「そう、ですか……」
ただ一言答えて、ことりから視線を逸らすように私は顔を伏せました。
ことりの強さは、黒く淀んだ今の私にはあまりにも眩しすぎました。
海未「……想いが、通じるといいですね」
暴れだしそうな感情を抑制し、何とかその言葉を絞り出せたことに、私は内心ホッとしていました。
しかし。
ことり「海未ちゃん……本当に、それでいいの?」
21:
また明日
27:
ことりから放たれた言葉は、私の思考を停止させるのには十分すぎる衝撃を与えました。
海未「な……何を言ってるんですかことり」
張り詰めた雰囲気から逃れたくて、私は無理矢理笑おうとしました。
しかし、笑顔がうまく作れず、私の顔に浮かんだのは強張った笑みでした。
ことり「ことりがほのかちゃんに想いを伝えるんだよ。海未ちゃんはそれでいいの?」
海未「言いも何も……わ、私は……」
ことり「いいの?」
海未「……」
ことりは気付いている。
私の内に潜んでいる、隠しきれない想いに。
ことり「海未ちゃん……ことり、ちゃんと言ったからね……」
まるで確認を取るかのように、ことりが私に囁き掛けました。
何も言えない私に、ことりは哀しそうに眉を伏せると、一人だけ立ち上がり、階段を下りていきました。
ことり「海未ちゃん、私ね……想いを伝えることって大事だと思うの」
数段降りた所から、背中を向けたまま話すことりを、私は伏し目がちに見ていました。
28:
ことり「叶わないかもしれない……拒絶されるかもしれない……それはすごく怖い。ことりだって、この気持ちをすんなりと受け入れられるとは思ってないよ。でも、ことりは、この気持ちをうやむやにしたくないって思うの」
海未「……」
ことり「だから……だから、ことり言うよ。拒絶されたって、ほのかちゃんに想いを伝えるよ。だから……だから、海未ちゃんも──」
海未「やめてくださいっ!!」
ことり「!?」
気持ちを抑えるのが、限界でした。
ことり「う、海未ちゃん……」
私の気持ちはばれていると言うのに、その気持ちを言葉にされるのが怖くて、私は声を張り上げました。
海未「お願いです。もう、これ以上は……」
ことり「……ッ」
奥歯を噛み締めながら懇願する私を見て、ことりは泣き出しそうな表情を浮かべると、
ことり「ごめんね……ッ」
そう言って、階段を勢いよく駆け下りていきました。
ことりの足音が遠ざかっていくのを、私は掻き乱れた心音と共に、いつまでも聞いていました。
29:
海未(私は、最低です……)
深い自己嫌悪に囚われながら、私は家へと帰る道をトボトボと歩いていました。
空色も私の心の様にどんよりとした暗雲に覆われていました。
きっと、あれはことりの優しさだったのでしょう。
私の気持ちに気付いていたことりの、精一杯の宣言。
海未(それなのに、私は……)
自分の弱さが、ことりを悲しませた。
向き合う強さを持てない私の弱さが、少しずつ私達の絆を引き裂いていく様に私には思えました。
海未(こんなに辛いのなら、いっそのことこんな感情なんて忘れ去りたい……)
しかし、そんな自分勝手な願いは、叶うはずがありません。
だって、私の穂乃果への想いは忘れ去るにはあまりにも大きすぎるから。
海未(私は、どうしたらいいのでしょう……)
答えが見つからないまま、私は家へと続く最後の角を曲がりました。
穂乃果「遅いよ、海未ちゃん」
海未「……穂乃、果?」
角を曲がった私を出迎えたのは、私の家の門に寄りかかった穂乃果でした。
33:
海未「……先に帰ったんじゃなかったんですか?」
穂乃果「えへへ……そうなんだけどね」
穂乃果は寄りかかった門から背を離すと、真っ直ぐに私と向き合いました。
穂乃果「海未ちゃん」
海未「何ですか?」
穂乃果「何か穂乃果に隠し事してない?」
海未「!?」
穂乃果が、ある種の核心を持った瞳で、私を覗き込んできました。
穂乃果「そんな驚いた顔しないでよ。海未ちゃんとは昔から一緒にいるんだからわかるよ」
海未「……」
穂乃果「……ねぇ、海未ちゃん、穂乃果ってそんなに頼りない?」
海未「え?」
穂乃果「私、海未ちゃんとは昔からずっと一緒にいたよね。子供の頃から、今までずっと」
懐かしむ様に話す穂乃果と一緒に、私も穂乃果達と最初に会った時の事を思い出していました。
まだ他人と関わることがうまく出来なかった私に、穂乃果は笑顔で迎え入れてくれました。
最初に出会ったあの日から、私は穂乃果に想いを寄せていたのかもしれません。
あの日から、私の隣にはいつも彼女の姿がありました。
穂乃果「えへへ……勝手な話なんだけどね、穂乃果は海未ちゃんとことりちゃんの事は誰よりも大切に思ってるんだ。恥ずかしいけど、親友……なんて、思ってたり」
そういってはにかむ穂乃果の顔を見ていると、私の口元は自然と緩んでいました。
34:
穂乃果「でも、そんな大切な二人だからこそ、困っているなら穂乃果は力になってあげたい」
海未「穂乃果……」
穂乃果「ねぇ、海未ちゃん……海未ちゃんにとって、穂乃果は何?」
海未「な……」
不安気に私を見る穂乃果に、落ち着き始めていた私の心は再び騒めき出しました。
きっと、私が思っている様な意味合いで、穂乃果は私に尋ねた訳ではないでしょう。
それでも、私の胸の内は加度的に荒んでいきます。
穂乃果「穂乃果は海未ちゃんのこと、大切な友達だと思ってるよ」
穂乃果が私の傍に近付く為に右足を踏み出しました。
友達。
その言葉を穂乃果から告げられる度に、私の心は抑え付けられるような圧迫感を覚えました。
穂乃果「海未ちゃんは?海未ちゃんにとって、穂乃果はただの友達?」
そんなわけない。
穂乃果は、誰よりも大切な……。
穂乃果「海未ちゃんの本当の気持ちを聞かせて」
海未「……」
本当の気持ち。
ことりは私に最後のチャンスをくれました。
35:
多分、これが私に与えられた最後のチャンス。
穂乃果に想いを伝える、最後の機会。
海未「穂乃果……私、私は──」
穂乃果「……うん」
私は、頭が熱くなるほど考え抜いて、一つの覚悟と共に答えました。
海未「……私は、穂乃果を大切な友達だと思っていますよ」
36:
友達と、私はハッキリと宣言しました。
穂乃果「……本当に?」
海未「えぇ、恥ずかしいのですから何度も言わせないでください」
穂乃果「海未ちゃん……」
うまく笑えたと思う。ことりの時の様な強張った笑みではなかったはず。
その証拠に、穂乃果も安心した様な柔らかな笑みを浮かべています。
海未「全く、こんな恥ずかしい思いをさせるなんて、穂乃果は友達失格ですね」
穂乃果「えぇぇ!?穂乃果は悪くないもん!海未ちゃんが心配させる方が悪いもん!」
海未「冗談ですよ、これからも私達は仲のいい友達です」
そう、いつまでも、ずっと。
穂乃果「うん!」
海未「そうです。友達なんです……友達なんですよ……」
本当の気持ちなんて、言えるわけがありませんでした。
なぜなら、私はもう心も体も汚れてしまっているのですから。
海未「私達はいつまでも、ずっと、これからも、友達の……ッ、ともだぢのまま……ッ!」
必死で取り繕っていたのに、私の頬からは涙が止め処なく流れていました。
穂乃果「どうしたの海未ちゃん!?」
海未「穂乃果……貴方は、貴方達は……優しいです。本当に、優しいんです……」
穂乃果「海未、ちゃん……?」
海未「でも……優しすぎるんです……穂乃果が思っているより、私達はずっと貴方の近くにいるんですよ……傍にいるから、近すぎるから、私達は辛いんです……」
穂乃果「何を言ってるの海未ちゃん……穂乃果解んないよ……」
海未「ごめんなさい……貴方は何も悪くない……悪くないんです……」
37:
これ以上、穂乃果の前に立つことはできませんでした。
胸の内に渦巻く醜い衝動に駆られて、自分が何をするか分からなかったから。
海未「ごめんなさい穂乃果……」
それだけ言い残し、私は穂乃果の脇をすり抜けて家の門へと走り出しました。
穂乃果「待って!!」
後ろで穂乃果に手を取られ、私は立ち止りました。
穂乃果「海未ちゃん……どうしちゃったの?何があったの……?言ってくれないと、穂乃果解んないよ……」
背中から聞こえる穂乃果の声は震えていて、泣いているのが容易に想像できました。
穂乃果を泣かせてしまった自分があまりに惨めで、私は叫び出したい気持ちでいっぱいでした。
穂乃果「穂乃果は海未ちゃんの大切な友達なんでしょ?だったら──」
海未「だからこそ、穂乃果には言えないんです……」
穂乃果「海未ちゃん……」
海未「穂乃果が誰よりも近しい存在だからこそ……言えない事が……あるんですよッ!!」
子供の癇癪の様に、感情的に叫びながら、私は穂乃果の手を振り払いました。
大好きだった温もりを失った左手が、氷の様に冷たく感じます。
それでも、私はその温もりを享受する事は出来ないのです。
傷付けたのは自分なのに、穂乃果の表情を見るのが怖くて、私は振り返らずに一目散に家の門をくぐりました。
そのまま玄関を乱暴に開けると、帰宅の挨拶もせずに自分の部屋へと逃げる様に駆け込みドアを閉めました。
どこまでも自分勝手な自分に、呆れを通り越して、ただただ純粋な怒りを感じ、
海未「っっっっっっぁぁぁぁぁぁああ!!!!」
枕に顔を押し付けて、曇った叫び声を上げながら、いつまでも泣いていました。
40:
海未「……ん」
意識が覚醒すると同時に、私は顔をあげました。
海未「いつのまにか、眠ってしまっていたのですね……」
泣き疲れてしまったのか、私はベッドに寄りかかったまま眠りに落ちていました。
ふと視線を窓に向けると、いつの間にか外は大粒の雨が降っていました。
海未(穂乃果は無事に帰ったでしょうか……)
私は窓際に行き、室内との温度差で曇った窓から外を覗き込みました。
しかし、外には穂乃果の姿はなく、私は安堵のため息をつきました。
海未母「海未、起きていますか?」
海未「お母様……」
声がして振り返ると、部屋の前でお母様が心配そうな面持ちで立っていました。
海未母「……体の方はどうですか?」
海未「いまのところは、大丈夫です」
海未母「そうですか……実は先ほどお医者様から連絡がありました」
42:
海未母「癌手術の出来るお医者様のいる病院の入院手続きが済んだので、直ぐにそちらの病院に移ってほしいとのことです」
海未「……出発は、いつになるのでしょう?」
海未母「出来ればすぐにでも移った方がいいでしょう。遅くても、二日後には」
海未「……分かりました」
海未母「……皆には、もう言ったのですか?穂乃果ちゃんには?」
海未「……」
海未母「海未……辛いことでしょうけど、ちゃんと言っておくべきだと、お母さんは思いますよ」
海未「……はい」
お母様は、それ以上何も言わずに、静かに私の部屋を後にしました。
あと二日。
その間に、私は皆に病気の事を言わなければならない。
43:
それだけじゃない。
ことりとも、穂乃果とも話をしなければならない。
そのことを思うと、私の心はずしりと重たくなりました。
立っているのがつらくなった私は、窓際の腰掛け、ぼんやりと外の風景を眺めました。
恐らく、もうこの町に戻って来るのは難しいのかもしれません。
それは、大好きな街の人達やμ`sのメンバー、そして穂乃果との別れという事にもなってしまうのでしょう。
海未(ちゃんと、伝えないと……)
病気の事、遠くの病院に行くこと、もう会えないかもしれないということ。
そして。
穂乃果が好きだということ。
海未「穂乃果……」
私はぼんやりと外を眺めながら、最愛の幼馴染の名前を曇った硝子に書きました。
その名前は、ゆっくりと曇り、湿気で白む硝子の中に消えていきました。
気持ちを伝えることだって出来たはずでした。
あの時、私の気持ちを聞いた穂乃果に、私はいえたはずでした。
貴方が好きだと。
実際、私は言おうとしました。
穂乃果に、自分の気持ちを伝えようと。
でも、その直前に、気付いてしまったのです。
私には、未来がない事を。
45:
仮に私が気持ちを伝えた所で、私は直ぐに穂乃果の前からいなくなっていたでしょう。
穂乃果が私の気持ちを受け取ってくれたとしても、私が穂乃果に与えるものは悲しい現実ばかりです。
気持ちを受け止められなかったとしても、直ぐに私の姿は穂乃果の前から消えてしまいます。
それで、穂乃果は何も思わないでしょうか?そんなわけありません。
結局、私は穂乃果に苦しい事や辛いことしか与えることしか出来ない事に、気付いてしまったのです。
ただ純粋に、好きだと伝えたかった。
でも、それに気付いた時には、既にすべてが手遅れでした。
なら、最後に私がするべきことは、隠し通す事。
それが、私が穂乃果の為に出来る、最後の仕事だと思うから。
海未(きっと、穂乃果はことりと一緒にいる方が幸せになれるはずです……)
好きな人の幸せを願う事。
それもまた、一つの愛の表現だと、この時私は思いました。
そこまで分かっているのに、私の心はその答えに行き着くのを拒むかのように激しく騒めきます。
嫌だ。渡したくない。譲りたくない。
そんな自分勝手な想いが、私の心を侵食していきます。
まるで、これこそが癌だと言わんばかりに。
46:
こんな醜い自分は、知られたくありません。
穂乃果の前でくらいは、私は私らしくありたい。
最後まで仲のいい、ちょっぴり口うるさい幼馴染のままでありつづけたい。
私はそう思い、覚悟を決めると、口元を引き結んで、部屋を出ました。
海未「お母様、お願いがあります」
海未母「海未……どうかしましたか?」
海未「実は入院の件なのですが──」
私の話を聞き終えたお母様は、沈痛な面持ちを浮かべると、ギュッと私を抱きしめました。
50:
穂乃果「はぁ……」
海未ちゃんと別れた次の日、私は学校に着いた途端小さくため息をついた。
ことり「おはよう、ほのかちゃん」
海未ちゃんにどんな顔で会えばいいのか悩んでいると、後ろからことりちゃんが小走りで私の元へとやってきた。
穂乃果「あ……おはよう、ことりちゃん……」
ことり「どうしたのほのかちゃん?今日は何だか元気ないよ?」
穂乃果「うぅん……ちょっと、ねぇ。えへへ……気にしないで」
ことり「ほのかちゃん……」
穂乃果「そんな心配そうな顔しなくても大丈夫だよ。ちょっと考え事してるだけ」
ことり「ほ、ほのかちゃんが考え事なんて……」
穂乃果「何でそんな驚いた顔するのぉ!私だって考え事くらいするよぉ!」
ことり「あ、あはは……ごめんねぇ」
ことりちゃんが笑顔を浮かべる。
それをみていると、ほんの少しだけ気持ちが軽くなった気がした。
穂乃果「はぁ、やっぱりことりちゃんといると落ち着くねぇ」
ことり「ほ、ほのかちゃん……」
穂乃果「ん?」
ことりちゃんが少し頬を赤くして、私を見つめています。
51:
穂乃果「どうかしたの?ことりちゃん」
ことり「う、ううん!ナンデモナイヨ」
穂乃果「……?」
ことり「そ、それよりはやく教室に行こう!急がないと遅れちゃうよ!」
穂乃果「あ、待ってよことりちゃん!」
急に駆け出したことりちゃんを追い掛ける為、私も海未ちゃんがいるであろう教室に向かいました。
52:
教室に着いた私達の前には、珍しい光景が飛び込んできました。
穂乃果「海未ちゃんが来てないね」
ことり「鞄がないって言う事は、トイレに行ってるわけでもなさそうだね……」
確か今日は弓道の朝練の日で、私達よりも先に学校に向かっているはず。
穂乃果「海未ちゃん……」
昨日の事で海未ちゃんが塞ぎ込んでしまったのではないかと考えたけど、私は即座に首を横に振ってその考えを否定した。
誰よりも自分に厳しい海未ちゃんがそんな事で休むはずがない。
ことり「……」
穂乃果「きっと風邪か何かだよ。海未ちゃん、昨日はお腹でも出して寝てたんじゃないかな?」
ことり「……う、うん」
心配なのか、ことりちゃんが浮かない顔で自分の席へと向かっていきました。
ことりちゃんの隣にある自分の席に腰掛けた所で、前の扉から先生が教室に入ってきました。
入ってきて早々に、先生はなぜか私の顔を見て悲しそうな表情を浮かべました。
先生「皆、今すぐ席に着け。先生から皆に大事な話がある」
尋常じゃない雰囲気の先生に、皆が直ぐに自分の席へと戻っていく。
先生「皆、よく聞く様に」
静まり返った教室に、先生の声が良く響く。
先生「つい先ほど、このクラスの一員である園田がしばらく休学することになった」
穂乃果&ことり「「……え?」」
54:
先生「今日の朝早くに園田とそのお母様が学校に来てな……突然の事で、先生も驚いている」
穂乃果「な……なんで……」
無意識に、私は立ち上がっていました。
穂乃果「休学?そんなこと、穂乃果聞いてない……」
先生「……」
ことり「先生……どうしてなんですか!?」
先生「……すまない、二人とも。これ以上は言えない……」
ことり「そんな……」
先生「詳しい事情は園田から堅く口止めされているんだ……先生から言えることは、何もない……」
そう言った先生の顔は、とても悲しそうでした。
穂乃果「……先生、お願いします」
それでも、私は納得できなかった。
何か事情があるのは分かった。
私達に言えないような、何かが。
それでも──。
穂乃果「ずっと一緒だったんです……子供の頃から、ずっと」
先生「高坂……」
穂乃果「こんな別れ方、絶対に納得できません!」
私は精一杯の気持ちを込めて、先生と向き合った。
そんな私を見て、先生は暫く悩んだ末に、
先生「……先生から言えることは、何もない」
そう言って、腕を組むと、私達に背を向ける様にして、黒板と向き合ってしまった。
55:
穂乃果「先生……」
先生「……○○駅だ」
穂乃果「え?」
先生「園田はその駅から出発すると言っていた」
穂乃果「……先生!」
先生「休学する理由は私の口からは何も言えない。……だが、園田の出発する駅名までは口止めされていない」
私達に背を向けたまま、先生はそう言いました。
穂乃果「あ……ありがとうございます!」
私は込み上げてくる熱い思いを乗せて、先生に頭を下げた。
頭を上げると、私は一目散に教室のドアへと向かって走り出した。
先生「高坂、どこに行くんだ。授業が始まるぞ」
穂乃果「すいません!トイレに行ってきます!」
先生「ん、そうか?」
ことり「ほのかちゃん!」
ことりちゃんの声を背中で聞きながら、私は勢いよく教室を飛び出した。
穂乃果「海未ちゃん……」
なんで、何も言わずに行ってしまうのか。
昨日の海未ちゃんの悲しい顔が、私の胸に嫌な予感を抱かせる。
私は下駄箱を乱暴に開けて、靴を履きかえると、上靴も直さずに校門へと駆け出した。
穂乃果「お願い……お願いだから、間に合って」
私はうわごとの様にそう呟きながら、全力で海未ちゃんの元へと走り出す。
58:
海未母「さぁ、そこに座って」
お母様が私を気遣って、駅のホームにあるベンチに座る様に促しました。
海未「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ」
海未母「でも……」
海未「今は少しでもこの風景を目に焼き付けておきたいんです。……ダメでしょうか?」
海未母「……分かりました」
そう言って、お母様は私を脇に抱えると、一緒になって駅から見える音ノ木坂学院を見上げました。
海未母「必ず、ここに一緒に戻ってきましょうね……」
お母様の言葉に、私は何も言いませんでした。
代わりに、私はお母様に頭を預け、お母様にに寄りかかりました。
しばらく黙ってその光景を目に焼き付けていると、
『まもなく電車が参ります。白線の内側に──』
アナウンスが入り、私達は荷物を抱えました。
といっても、私の荷物は全てお母様が持ってくれているので、私の荷物は小さな鞄一つなのですが。
59:
電車の扉が開き、先にお母様が電車に乗りました。
海未母「さぁ、いきましょうか」
海未「はい」
全てをここに置いてきた。
道場の先輩や後輩、音ノ木坂の友人達。
そして、大好きな七人の仲間と、一人の想い人。
全てに蓋をしてでも、隠し通さなければならない感情の為に。
覚悟は、昨日の内に決めました。
隠し通すことで、幸せになると信じて。
それでも、やはり私は未熟者なのでしょう。
最後にもう一度だけと、私は音ノ木坂が見える駅の改札方面を振り返りました。
振り返ってしまいました。
穂乃果「海未ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
海未「な……!?」
振り返った私の視界の先に、こちらに全力で駆けてくる穂乃果の姿を見つけてしまいました。
60:
なんで。どうして。
先生には固く口止めしたはず。私の覚悟を理解してくれたはず。
穂乃果「海未ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
とにかく、ここにいては逃げられない。
私は急いで電車に乗ろうと、お母様の乗る電車に飛び乗ろうと勢いよく振り返りました。
しかし。
電車に乗ろうとした私の体を、お母様は優しい手つきで抑え返しました。
海未「お母様!?」
海未母「……次の電車は十分後です。隣の駅で待っていますから、ちゃんとお話してきなさい」
海未「だ、ダメなのです……!話をしては……!」
海未母「きっと、それが貴方の為にもなるはずです」
狼狽える私の頬をお母様は優しく撫でると、私を下がらせる様に肩を押しました。
為すがままに引き下がった私の前で、電車の扉が静かに閉じました。
お母様の優しげな微笑を最後に、電車は私を置いて出発してしまいました。
駅員「ちょっと君!ちゃんと切符買って!」
穂乃果「あとで必ず払います!」
すぐ後ろで、慌ただしいやり取りが聞こえます。
穂乃果「海未ちゃん!!」
いつも人を巻き込んで、大変な目に遭わされるのに、最後にはなぜか笑い会える、不思議な幼馴染の呼ぶ声に、私はゆっくりと振り返りました。
62:
海未「穂乃果……」
穂乃果「ハァ、ハァ……どうして……どうして何も言わずに行っちゃうの!?」
海未「……」
穂乃果「酷いよ……海未ちゃん……こんな急で、一方的な別れ方、あんまりだよ……」
海未「……酷いのは、どっちですか……」
穂乃果「え……?」
海未「誰にも気づかれずに行きたかったのに!何で貴方はいつもいつも!」
穂乃果「誰にも気づかれずに、って……なんでそんな悲しいこと言うの!?」
海未「誰の為だと思っているのですか!?」
穂乃果「知らないよ!」
海未「馬鹿なのですか!」
穂乃果「そうだよ!馬鹿だよ!海未ちゃんだって知ってるでしょ!」
海未「えぇ知っていますとも!貴方が無頓着で能天気で考えなしなのは百も承知です!」
穂乃果「酷いよ!それはちょっと酷いよ海未ちゃん!」
気付けば、私達は顔を突き合わせて怒鳴り合っていました。
周囲に人がいない事をいいことに、私は抑えの効かなくなった感情を穂乃果にぶつけました。
63:
海未「言える訳ないじゃないですか……私は、もう貴方達の前に現れないかもしれないのに……」
穂乃果「……」
海未「聞いたら、きっと後悔する。私が穂乃果達に話をしたら、自分を責める人だっている……」
もし私の病気を皆に話したら、ことりは自分の取った行動をきっと後悔するでしょう。
優しいことりは何度も自分を責め、戒めとして自分の気持ちに蓋をしてしまうでしょう。
海未「誰が幸せになるんですか……誰も幸せにしませんよ。それでも、穂乃果は話せと言うのですか?」
穂乃果「言うよ」
穂乃果は、真っ直ぐに私を見つめながら、はっきりとそう口にしました。
穂乃果「幸せにならなくたっていいよ。後悔したっていい。そんなの、海未ちゃんのことを何も知らないままお別れすることよりずっといいよ!」
海未「穂乃果……」
穂乃果「お願いだよ、海未ちゃん……もう一人で抱え込もうとしないで……海未ちゃんには、穂乃果達がいるよ?」
海未「……あ……わ、私は…………うっ、グスッ」
真っ直ぐな言葉に、私の覚悟はあっさりと粉砕されました。
あれだけ強固な決意と共に張り詰めた心の弦は、穂乃果の笑顔と共にゆっくりと緩められました。
海未「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
私は、溢れ出す涙を拭いもせずに、穂乃果の胸に飛び込みました。
穂乃果はそんな私を優しく抱きしめると、あやす様にゆっくりと私の背中をさすりました。
65:
穂乃果「気付いてあげられなくてごめんね……」
海未「ううっ……ひっく……」
穂乃果「教えて海未ちゃん……海未ちゃんの身に何が起こったの?」
海未「……ぐすっ」
私は穂乃果の胸に顔を埋めたまま、呼吸を落ち着けました。
きっと、もう後戻りはできない。
それでも、受け止めてくれると言った穂乃果に、私は本当の事を打ち明けることにしました。
海未「癌、なんです……私の体には、癌があるんです」
穂乃果の胸に寄りかかっているお陰で、穂乃果の心臓が大きく跳ねたのが、解りました。
海未「既に末期らしく……治療も難しいそうです」
穂乃果の心臓が、どんどん早くなっていきます。
穂乃果「そ、んな……」
あまりのショックに、穂乃果は呆然と立ち尽くしていました。
海未「……」
私は穂乃果の胸から顔を上げると、私は穂乃果の手を握り、呼び掛けました。
海未「でも、まだ治らないと決まった訳ではありません。僅かな可能性ですが、薬で治る可能性もあるんです」
私は必死に穂乃果に呼び掛けました。
海未「私は奇跡という言葉は、あまり信じない方です。でも、最近になって、私は奇跡というものもあると思えるようになりました。なぜだか分かりますか?」
穂乃果「……分かんない」
海未「それは貴方が見せてくれたからです、穂乃果」
私は精一杯の想いを込めて、穂乃果を見つめて言いました。
70:
海未「最初は廃校を阻止する為にμ`sを結成して、気付けば9人もの仲間を得て、学院全部を巻き込んだ貴方は見事に廃校を阻止して見せました。それは、決して高校生に出来る様な事ではないのです。それでも、貴方は見せてくれた。自分の信じた事を目一杯頑張って、諦めなければ必ず叶うという事を、私に見せてくれました」
穂乃果「海未ちゃん……」
海未「決して他人任せではない、諦めずに頑張ったからこそあり得た偶然……私は、これを奇跡と呼びたい。決して神様だけに祈った願いとは違う、自分達で起こした産物……それこそが奇跡だと、私は思います」
穂乃果の頬に、一筋の涙が伝いました。
私はその涙を右手の親指で優しく拭いながら、言いました。
海未「だから、私も最後まで諦めません。どれだけ辛くても、苦しくても、必ず『奇跡』を起こして見せます」
それこそが、本当に私がやるべきことだと、気付けた。
穂乃果達が気付かせてくれた。
海未「本当に、ありがとうございます……穂乃果、私は貴方達に出会えたこの奇跡に、心から感謝します」
穂乃果「うみ、ちゃ……こんなの……こんなの、嫌だよ……ほの、穂乃果、何にも出来ないじゃん……」
海未「泣かないでください、穂乃果……」
『まもなく電車が参ります。白線の内側に──』』
電車の到着を知らせるアナウンスが、駅のホームに流れました。
それはつまり、私達の別れを告げるアナウンス。
71:
海未「穂乃果、そろそろお別れです……」
穂乃果「嫌だ……嫌だよ、海未ちゃん……」
顔をくしゃくしゃにしながら、穂乃果が駄々をこねる子供の様に首を振ります。
海未「穂乃果……泣かないでください。最後に見る穂乃果の顔が泣き顔だなんて、嫌です」
穂乃果「海未ちゃん……」
海未「……泣き顔なんて穂乃果には似合いません。私は──」
私は、長年隠し続けてきた本当の気持ちを、言葉に乗せて伝えました。
海未「私は、太陽の様に明るく笑った貴方の笑顔が大好きです」
最後の最後で、私は少しだけズルをしました。
真正面から気持ちを伝えず、言葉の裏に隠す様にして、穂乃果に伝えました。
私の言葉を受け、穂乃果は涙を流したままですが、それでも精一杯の笑顔を浮かべてくれました。
電車が駅に着き、扉が開きます。
海未「それでは、穂乃果……行きますね」
私は温かな穂乃果の手を離すと、穂乃果に背を向けて、電車に乗り込みます。
穂乃果「必ず!」
私の右足が電車に乗り上げた時、背中から涙に濡れた穂乃果の声が、聞こえてきました。
穂乃果「必ず、迎えに行くから!絶対に、絶対に会いに行くから!!」
悔しさに唇を噛み締め、それでも必死に声を上げて穂乃果は言いました。
海未「…………ッ」
待ってる、とは言えませんでした。
それでも、私は精一杯の笑顔を浮かべて、穂乃果に振り返り、言いました。
海未「……それじゃあ、先に乗りますね」
その言葉を最後に、私は電車に乗り込みました。
扉が私達を別ち、電車はゆっくりと発進します。
穂乃果に背を向けたまま、私は電車に揺られました。
振り返ることはできませんでした。
海未「穂乃果……」
切なさを抑えきれず、私の震える唇からは自然とその名前が零れていました。
そんな私を乗せたまま、電車は走り続けました。
72:
──
────
──────
海未ちゃんが行ってしまっても、私はずっと立ち続けていました。
力になれると思った。
私達なら、きっと海未ちゃんの力になれると。
でも、実際は違った。
何も出来なかった。
穂乃果「……癌なんて、どうしようもないよ……」
何も出来ない。これが何よりも、どんな事よりも辛かった。
穂乃果「海未ちゃん……海未ちゃ……ッ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
何も出来ない自分に、私は絶望し、駅のホームで膝を付き、いつまでも泣きました。
何も出来ないまま、何もしないまま、ただ声を上げて、いつまでも泣いていました。
──
────
──────
74:
穂乃果と別れを告げた数日後、私の体は一気に病に侵されました。
海未「ゲホッ!ゴボッ!」
看護師「園田さん!?大丈夫ですか!?」
咳き込む私の背中を看護師さんが優しく撫でてくれました。
海未「は、はい……ありがとうござい──ッ!?」
お礼を告げようとした私は、次の瞬間には驚きに目を見張りました。
口元を抑えた私の掌に、真っ赤な液体が付着していました。
それも、大量に。
海未「あ……あぁ……」
看護師「園田さんッ!!」
私の思考が動き出す前に、看護師さんは私の両肩を強く掴んで、私の意識を強制的に引き付けました。
看護師「落ち着いて園田さん。大丈夫、落ち着いて……」
海未「……は、はい……」
私の体は、私が思う以上に危険な状態だったことを、この時初めて理解しました。
75:
それからも私の体はどんどんと病に蝕まれ、ついには一人で立ち上がることも出来なくなってしまいました。
どんどん弱っていく私を前にして、両親は泣きながら私に謝ります。
丈夫に生んであげられなくてごめんね。
変わってあげられなくてごめんね。
お母様たちは何度も、何度もそう謝りました。
お母様たちは何も悪くない、私は何度もそういいました。
しかし、それでもお母様たちは謝り続けました。
そんな事をさせてしまう私は、何て親不孝者なんでしょう。
日に日に弱っていく私に、医師は悲しそうな顔で話をします。
今の私の世界の全ては、それだけでした。
誰も笑顔を浮かべることはありません。
今の私は、まるで癌そのもの。
悲しみを振り撒くだけの存在。
私は小さな病室で横たわりながら、自分の存在をそんな風に考えてしまいます。
それでも、私は諦める訳にはいきませんでした。
どれだけ痛くても、どれだけ辛くても、私は決して諦めることだけはしませんでした。
約束したから。
必ず、奇跡を起こして見せると。
諦めた途端に、私の奇跡は完全に消えてしまう。
だから、どれだけ辛くても希望を捨てることだけはしませんでした。
しかし、現実は容赦なく私に絶望を与えてきます。
76:
薬では治らないと判断したお医者様から告げられた言葉は、手術でした。
全腫瘍を摘出するという、今までにない手術を行わなければ、助かる見込みはないと判断したそうです。
ただ、成功率は10パーセントにも満たないということ。
それに、失敗すればそのまま命を落とすかもしれないとのこと。
それでも、私はお願いしました。
これしか助かる見込みはないのなら、私は僅かな可能性でも掴んで見せる。
私の体は侵されても、心だけは絶対に侵させない。
私は自分の意志を両親に告げ、手術を決行する事になりました。
そして、手術を三日後に控えた夜、私は夢を見ました──
77:
穂乃果が、暗闇の中で蹲っている。
辺りは一面の闇で、穂乃果以外に何も見当たりません。
穂乃果は暗闇に蹲って、身動き一つ取りません。
まるで、自分の殻に閉じ籠ってしまっている様でした。
穂乃果「グスッ、海未ちゃん……海未ちゃん……うぅ」
悲しい声で、穂乃果が何度も私を呼びます。
声を上げたいのに、声が出ない。
私は必死に穂乃果に手を伸ばそうとしますが、ゆっくりと穂乃果が遠ざかっていきます。
海未(穂乃果!穂乃果ぁ!)
海未「穂乃果ぁ!!」
声を上げて、私は目を覚ましました。
海未「はぁ、はぁ……今のは……」
まさか、穂乃果は今、塞ぎ込んでいる……?
私は、急に言い知れぬ恐怖に囚われました。
あれだけ自分の命を脅かした病気よりも、ずっと恐ろしい恐怖。
海未「穂乃果……」
もし、あれが今の穂乃果の姿なのだとしたら……。
海未「ダメではないですか……泣き顔は似合わないと言ったのに」
ちゃんと伝えよう。
穂乃果に、私の想いを。
海未「でも、どうやって……」
今の私に、出来ることは限りなく少ない。
それでも、私は穂乃果の為に何かをしたかった。
私が出来る、私だけが出来る事。
海未「そうです……」
私は直ぐに引き出しを開き、紙とペンを取り出しました。
ある。私にしか出来ない事が。
私の願い、心情、そして、想い。
その全てを伝える方法を、私は持っている。
残りの命を燃やし尽くす勢いで、私は筆を走らせました。
そんな私を励ます様に、地平線から顔を出した太陽が静かに私の手元を照らしてくれました。
79:
海未「うっ、ゲホッ!ゲホッ!」
看護師「おはようございま──ちょっと園田さん!?大丈夫ですか!?」
海未「だ、大丈夫、です……」
口元の血を拭いながら、私はそう答えると、再び筆を走らせました。
看護師「何をやってるんですか!?はやく横になって!貴方は起き上がることも辛いはずでしょう!?」
海未「えぇ、そうですね……」
体中がズキズキと痛み、今にも倒れ込みたい気分です。
海未「でも、自分の体よりも、もっと大切な事があるんです」
看護師「そ、そんなの……」
海未「お願いです。書かせてください」
看護師「園田さん……」
海未母「お願いします、看護師さん」
看護師「お母様……」
いつの間にか病室の前にお母様が立っていました。
海未母「この子がやりたい様にやらせてあげたいんです……お願いします」
看護師「……分かりました。ですが絶対に無理はしない事!それだけは絶対に守ってくださいね」
海未「……はい、ありがとうございます」
私は看護師さんに頭を下げました。
看護師さんも私の眼を見て頷くと、手早く健診を済ませ、静かに部屋を出ていきました。
80:
海未母「……何か、お母さんに出来ることはありますか?」
柔らかな笑みを浮かべて、お母様が私に尋ねました。
事情を一切聞かずに協力してくれるお母様に、私は深い感謝を抱きながら答えました。
海未「一つ、用意してほしいものがあります」
それから、私はひたすら筆を走らせました。
私の全てを一枚の紙に綴り終わったのは、手術が行われる日の明朝でした。
81:
ガラララ、とタイヤの転がる音を響かせて、私は手術室へと運ばれています。
私を運ぶ二人の看護師さんの内、一人はあの時、私の願いを聞き入れてくれた看護師さんでした。
海未「……看護師さん、あの時は、本当にありがとうございました」
事情を知らない方の看護師さんが怪訝な表情を浮かべましたが、幸い、目的の看護師さんにはちゃんと伝わったようで、小さく笑みを浮かべてくれました。
看護師「……ちゃんと、成し遂げたの?」
看護師さんの問いに、私は目を細めて小さく頷きました。
看護師「そう……でも、私のお説教はまだ終わっていないわよ」
手術室の前に着き、扉が開きました。
手術着を着た人が、私を手術室へと運んでいきます。
看護師「必ず帰ってきなさい。逃げるのは許しませんからね」
海未「……はい、必ず」
その言葉を最後に、看護師さんの姿は手術室の扉によって見えなくなりました。
82:
ピッ、ピッ、と。
規則的な音が、手術室に響きます。
幾つもの灯りが私を照らしていてとても眩しい。
医師「必ず助けて見せるから」
お医者様が、私を真っ直ぐに見つめながら言ってくれました。
医師「だから、今は安心してお休み……さぁ、ゆっくりと目を瞑って……」
お医者様の声に従って、私はゆっくりと瞳を閉じていきました。
途端、意識が朦朧とし、私の意識はゆっくりと暗闇の中へと溶けこんでいきました。
医師「これより、オペを開始する」
はるか彼方から、お医者様の声が聞こえた様な気がしましたが、そんな事を考えるのも億劫で、私は深い、深い眠りに落ちていきました。
83:
気が付けば私は、音ノ木坂学院の校門の前に立っていました。
レンガ造りの道の先に、久しく見ていなかった校舎を見上げていると、
「海未ちゃん」
背後から私を呼ぶ声が聞こえ、振り返りました。
そこには、笑顔を浮かべる私の大切な仲間達の姿がありました。
ことり、花陽、凛、希に絵里、にこと真姫。
そして真ん中には、私に手を差し伸べる穂乃果の姿がありました。
「行こう、海未ちゃん」
穂乃果が笑顔で私に言いました。
海未(えぇ……行きましょう)
私は穂乃果の手を取りました。
そのまま、私達は眩しい光を放つ空へと上がっていきます。
皆は私を囲みながら、最高の笑顔を浮かべていました。
その笑顔を見て、私もとびきりの笑顔を浮かべて、どこまでも、どこまでも昇っていきました──。
84:
コン、コン。
雪穂「お姉ちゃん、入るよ……」
雪穂が、遠慮がちに私の部屋へと入ってきました。
私は蹲ったまま、顔だけを少しだけ持ち上げ、薄い笑みを浮かべる。
穂乃果「雪穂……」
雪穂「大丈夫?お腹空いてない?」
穂乃果「うん……ありがとうね」
自分の無力さを痛感したあの日から、私の心には消えない暗雲が立ち込めました。
それを拭い去ることが出来ずに、私は塞ぎ込んでしまいました。
雪穂は心配して毎日私の傍に来て、特に何をするでもなく、ただ寄り添ってくれます。
その優しさが嬉しいはずのに、私の心は一筋の光も見えません。
穂乃果「ごめんね……雪穂」
雪穂「ううん……」
いつも通りの会話をして、無音の時が始まります。
しかし、今日はいつもとは違いました。
穂乃果母「穂乃果……」
雪穂に続き、お母さんも私の部屋に入ってきた。
穂乃果「お母さん……」
穂乃果母「居間に来れる?貴方宛てに荷物が届いているわ」
穂乃果「私宛……?誰から?」
穂乃果母「……園田さんから、よ」
穂乃果「ッ!?」
85:
居間に降りた私の前に、お母さんは小さな段ボールの箱を持ってきてくれました。
穂乃果母「中身は海未ちゃんのお母さんから聞いてるわ。穂乃果、これは一人で開けなさい」
穂乃果「え……」
穂乃果母「きっと、これは貴方一人で見なければいけないものよ。雪穂とお母さんは外で待ってるから、ちゃんと見るのよ?」
穂乃果「……」
お母さんの言葉を聞いて、私の体は小刻みに震えました。
この中に、一体何が入っているのか。
考えるのも嫌で、無意識に隣の雪穂の腕を掴んでいました。
雪穂「お姉ちゃん……」
しかし、雪穂は私の腕を優しく解くと、ゆっくりと立ち上がりました。
雪穂「お姉ちゃん……頑張って。私はいつでもお姉ちゃんの味方だから」
穂乃果「雪穂…………うん、分かった……」
私が頷くのを確認して、雪穂とお母さんは居間から出ていき、そのまま玄関から外へと出ていった。
私はしばらく箱を見つめ、やがてゆっくりと箱の封をきりました。
穂乃果「これって……ビデオカメラ?」
箱の中に入っていたのは、掌サイズのビデオカメラでした。
カメラと一緒に、テレビと繋ぐケーブルも入っていたので、私は居間のテレビとカメラを繋ぎました。
このビデオに、一体何が映っているのか。
正直、怖い。
でも、海未ちゃんが私に送ってきたと言うのなら、私は見なければいけない。
私は震える指で、ビデオの再生ボタンを押しました。
しばらく真っ暗な画面が続いたと思ったら、急に画面が明るくなりました。
「お久しぶりです。穂乃果」
穂乃果「海未ちゃん……痩せたね……」
テレビ画面に映る幼馴染の姿はかなりやせて見えました。
86:
「穂乃果……まずは貴方に謝らなければいけません」
画面の海未ちゃんが申し訳なさそうに謝る。
「穂乃果がこのビデオを見ているという事は、私は残念ながら『奇跡』を起こすことが出来なかったということでしょう」
穂乃果「…………」
何となくだが、分かっていた。
呆然とする私を待ってくれるはずもなく、画面の海未ちゃんは話を続けます。
「……穂乃果!」
穂乃果「ッ!?」
「どうせ穂乃果の事です。今の話を聞いて呆然としていたのでしょう?」
海未ちゃんはしてやったりといった様な笑みを浮かべている。
穂乃果「……ほんと、何でもお見通しだね……」
私は思わず苦笑いを浮かべていました。
87:
「忘れたのですか?私は笑顔を浮かべる穂乃果が好きだと言ったはずですよ」
穂乃果「ハハ……酷いな、海未ちゃんは」
私は乾いた笑い声を上げました。
その頬には涙が伝い、膝の上に落ちます。
穂乃果「笑顔なんて、浮かべられないよ……」
「……辛い思いをさせてすみません」
会話をしているかのように、海未ちゃんは話します。
まるで私がどんな表情をしているのか分かっているかのようでした。
「穂乃果、私は先日、夢を見たんです。貴方が暗闇の中で蹲って泣いている、悲しい夢を」
穂乃果「え……」
海未ちゃんの言葉に、私は驚きました。
「もしかしたら、私は穂乃果を悲しませているんじゃないか……そう思うと、私は手術をするよりも怖くなりました」
穂乃果「手術……」
「もし、手術に失敗したら、私は穂乃果に何も伝えることが出来ないまま、この世を去ることになってしまいます。貴方を悲しませたまま、置き去りにしてしまうんじゃないか、そう思うといてもたってもいられませんでした」
穂乃果「海未ちゃん……」
自分の命の危惧よりも、遠くにいる私の事を想ってくれる幼馴染に、私は涙を抑えることが出来ませんでした。
91:
「今の私に出来ることは何か、真剣に考えました。病に侵され、一人で立つことも困難な私に出来ることとは一体何だろう、と……そして私は、思い出しました」
どこか嬉しそうに、そしてちょっぴり誇らしげに、画面の海未ちゃんは微笑んだ。
「私にしかできない事……それは、作詞だと。μ`sの作詞は、私にしかできない事。だから私は書きました。私の願望も、醜い心の奥に秘めた、本当の想いも……私の全てを、この詩に綴りました」
穂乃果「海未ちゃんの全てを綴った、詩……」
「箱の底を見てください」
私は海未ちゃんに言われて、ビデオカメラが入っていた箱を覗き込んだ。
敷き詰められた緩衝材を取り除くと、箱の底に一枚の紙が姿を現しました。
丁寧に折り曲げられたそれを取り出し、私は広げました。
92:
そこには、海未ちゃんらしくない、不揃いな文字が綴られていました。
拙く、歪んだ文を見ると、海未ちゃんがどれだけ過酷な状態でこれを書いたのかが、痛いほどに分かりました。
それでも、海未ちゃんは書いた。私に伝える為に。
「これが、私が穂乃果に送る、私の想いを込めた詩……」
海未ちゃんの、私に対する気持ちを綴った、詩。
その詩の名は──。
穂乃果「Love……marginal」
93:
「先に乗るねと微笑んだ、電車の中では」
画面から、海未ちゃんの綺麗な歌声が聞こえてきました。
「唇少し震えているの、切なく走る想い」
アカペラで歌う海未ちゃんを、私は瞬きをするのも忘れて見入っていました。
「気持ちだけでも伝えたい、それが出来るなら、硝子に指で名前をひとつ吐息で書いたりしない」
音楽の無い、少し寂しく聞こえる詩を、海未ちゃんは歌いました。
「青く透明な私になりたい、友達のままであなたの前で」
「隠しきれない、胸のときめき、誰にも気づかれたくないよ」
私は、馬鹿だ……。
「こころ透明な私を返して、友達なのに、あなたが好きだと」
何にも気付いていなかった。
「隠しきれない、忘れられない、秘密抱えて窓にもたれた」
海未ちゃんはこんなにも悩んでいたのに。
私は、何もわかっていなかった。
海未ちゃんの気持ちに気付いてあげられなかった。
「側にいるからつらくなる、優しすぎるのと」
海未ちゃんは私に言った。
誰よりも近くにいるからこそ、言えない事があると。
「あの娘が話す、あなたの癖を知ってる事がつらい」
額に大量の汗を流しながら、それでも海未ちゃんは歌い続けていました。
「いつか結ばれる夢を見たくなる、恋人達は引き合うものだと」
「勝手な願い」
「苦しい望み、誰にも気付かれたくないの」
気持ちを言えなかった海未ちゃんの胸の内が、これでもかという位、伝わってきました。
「こころ結ばれる夢が見たかった、恋人達の幸せ手にする」
「勝手な願い」
「ごめんねきっと、私だけの密かなLovemarginal」
悲しすぎるその胸の内を、私は聞いてあげることすらできなかった。
穂乃果「海未ちゃん……海未ちゃん……」
私は張り裂けそうな胸をギュッと抑えて、何度も幼馴染の名前を呼びました。
「うっ……ゲホッ!ゲホッ!」
穂乃果「海未ちゃん!!」
画面の海未ちゃんが苦しそうに急き込み、私は思わず画面に張り付いてしまいました。
95:
口元を抑えた海未ちゃんの掌には、大量の血液が張り付いていました。
どれだけ限界の状態で歌っているのかが、ハッキリと解り、私はビデオだという事を忘れて叫んでいました。
穂乃果「もういい、もう充分伝わったよ!海未ちゃん!!」
しかし、まだ足りないと言った様に、海未ちゃんは呼吸を抑えながら、必死に歌い続けました。
「……最初、出会った、あの日がいまも消えない」
海未ちゃんの口の端に、赤い液体が伝う。
「どうして、記憶の中で輝いているの」
それでも、海未ちゃんは拭う事もせずに、カメラに向き直ります。
カメラ越しに見つめ合う私に、海未ちゃんは言いました。
「……大好き」
穂乃果「ッ!!」
「青く透明な私になりたい」
穂乃果「あ……あぁ……あぁぁぁぁぁぁ!!」
「友達のままであなたの前で」
穂乃果「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「隠しきれない、胸のときめき、誰にも気付かれたくないの」
もう、画面を見ることはできませんでした。
「こころ透明な私を返して、友達なのにあなたが好きだと」
私は画面の前で両手を付いて、地面に蹲りながら声を上げて泣きました。
「隠しきれない、忘れられない」
「秘密抱えて、窓に持たれた」
海未ちゃんの詩が終わっても、私はいつまでも泣き続けていました。
穂乃果「あぁぁぁ……あぁぁ……」
「穂乃果」
画面の海未ちゃんが、静かに私を呼び掛けました。
「この気持ちは決して楽しい事だけではなかった……私の醜い部分を突きつけてきたり、悩まされることもたくさんありました」
穂乃果「うぅ……ひっく……ごめんね……ごめんね……」
「でも、それ以上に、穂乃果は私に笑顔をくれました。雨に打たれた様に悲しい気持ちになってしまっても、貴方の太陽の様な笑顔を見ると、自然と笑顔になれるんです」
画面に映る海未ちゃんの表情は、とても満ち足りた表情をしていました。
「だから、お願いです。穂乃果。これからも、皆を照らしてください。貴方という太陽で、周りの人達を照らし続けてください。貴方には、それが出来るのだから」
穂乃果「海未、ちゃ……」
「私の人生に様々な天気を与えてくれてありがとう……愛しています」
その言葉を最後に、海未ちゃんは私の前からいなくなってしまいました。
96:
海未ちゃんが画面から消えても、私は暫く声を上げて泣きました。
しばらくして、お母さんと雪穂が家に入ってきて、私を抱きしめ続けてくれました。
いつまでも声を上げて泣く私の姿に、お母さんも雪穂も一緒になって泣きました。
もう気持ちを伝えあうことが出来ない幼馴染の事だけを考えながら、私はいつまでも泣き続けました。
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