引っ越してきた二つ年下の子back

引っ越してきた二つ年下の子


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1:
ちょっと遅めのお盆休みで実家に帰ってきたら、
昔のことを思い出した。
友人・知人にはなかなか話せないので、
ここで淡々と書いてみる。
pickup
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5:
もうすぐ小三になる春休み。
団地住まいだった俺は、いつものように団地の真ん中にある
ちょっとした公園で、近所の友達と遊んでいた。
春は引越しのシーズンで、その日もあちらこちに
引越しのトラックが停まっていて、忙しく荷物を運び出している。
団地では、毎年の風景でもあった。
11:
公園のジャングルジムに登って、そんな光景を眺めていたら、
ふと、一台の引越しのトラックのそばに、一人小さな女の子がいることに気付いた。
人形を抱えながら、忙しく働く引越し業者さんや両親らしき人を見つめている。
その子が目に付いたのは、どうも、俺の周りにはいないようなタイプだったからだ。
ウチの地元は田舎で、子供と言えばTシャツに短パンやら、ミニスカートやら、
適当な動きやすい服のやつばかりだったのだが、
その子はまるで余所行きのような花柄のワンピースで、
ちょっと癖のある栗色の髪には、可愛らしいリボンまでついていて、
まるで漫画に出てくるような女の子だった。
13:
ボケーとその様子を見ていると、ちょっとだけ女の子の不安な様子が感じられた。
そういえば、俺も引越してきたときは見知らぬものだらけで、
友達もいないし、心細かったなあ、などと思っていたが、
だからといってその子に話しかけるようなこともなく。
下から友達の呼ぶ声が聞こえ、その子を忘れてジャングルジムから降りた。
16:
新学期が始まって、俺は三年生になった。
人生初のクラス替えもあったりしたが、まあ三分の一は前と同じヤツだし、
そこまで憂鬱になることもなかった。
相変らず勉強もそこそこに遊び回る毎日。
特に、下校中に道草をくうのが楽しくて、下校は登校の3倍以上の時間がかかったものだ。
そんな4月の終わりのある日。
いつものように俺は下校中に友達んち経由で大回りで帰ったため、
普段は通らない登下校コースを歩いていた。
人通りの少ない、閑静な住宅街。
その細い道の傍らで、女の子がしゃがみ込んで泣いていた。
20:
それは春休みに見かけた、引っ越ししてきた女の子だった。
その後も何度か見かけたが、団地以外では初めてだ。
ランドセルについたカバーから、彼女が一年生だということがわかった。
三年生にもなると、ちょっと先輩面というか、お兄さんっぽくしたい気持ちも出てくる。
相手が新一年生ともなると、尚更だ。
俺は、泣いてるその子の隣に行って同じようにしゃがみこんだ。
「君、○○団地の子だよね?どうしたの?」
女の子はハッと顔を上げ、俺を見つめた。
瞬間、更にポロポロと涙が零れる。
「どうしたの?大丈夫?」
相手を刺激しないように、なるべく優しく聞いたつもりだ。
「……おうちが、わかんなく、なっちゃた」
彼女はなんとかそれだけ言うと、またわんわん泣き出した。
23:
まあ予想通りの答えではあった。
田舎の道は入り組んでいて、俺も一年生の頃はよく迷ったものだ。
「じゃ、連れてってやるよ。」
「え?」
俺は立ち上がると泣いている女の子の手を引いた。
女の子はゆっくりとだが、立ち上がった。
「さ、帰ろう。」
女の子は黙って頷いた。
喋ったこともなかった女の子といきなり手を繋げるなんて、
子供の頃の無鉄砲な勢いっていうのは、偉大だと思う。
28:
かといって、気を使って女の子に話しかけるようなスキルは当然無い。
そのまま黙々と団地へと歩き続けた。
女の子も黙って歩いた。
団地が近づいてくると、その入り口でキョロキョロと辺りを見回している女の人がいた。
「あ、ママ!」
その人は女の子のお母さんだったようだ。
娘の帰りが遅かったので心配して出てきたのだろう。
女の子は俺の手を離すと、お母さんに向って走っていった。
女の子はお母さんに抱きついて、一頻り泣いた後、
こっちを振り返って俺を指した。
お母さんがペコっと頭を下げて、こっちに向ってくる。
大人の人に頭を下げられるなんて初めてだった俺は、
なんか混乱と気恥ずかしさで、その場を走って逃げ出してしまった。
31:
その日の夜、ウチに女の子とお母さんが尋ねてきた。
義理堅いお母さんだった。わざわざ俺がどこのウチの子か近所で聞いて回ったらしい。
俺は母親によって無理矢理玄関に呼ばれ、お母さんからお礼のケーキを受け取った。
女の子はずっとお母さんの足にしがみついていて、チラチラと俺と母親を交互に見ていた。
俺は嬉しいとか誇らしいとかそういう気持ちは全然なくて、
ただ早く自分の部屋に戻りたかった。
が、女の子達が帰った後、母親に褒められたのは悪い気がしなかった。
「香子ちゃんは一年生で、こっちにきたばっかりなんだから、これからも助けてあげなさいよ?」
「んあ。」
そうか『かこちゃん』っていうんだな。名前も知らんかった。
そんなことを思いながら食べるケーキは、美味かった。
33:
まもなくGWに入った。
俺はいつものごとく団地で遊びながらも、どこかで香子の姿を探したが、
連休中にその姿を見る事はなかった。
GWが終わり、ダルイ学校生活がまた戻る。
朝、欠伸をしながら家を出ると、公園を挟んで向かいの棟の下に、
香子とお母さんがいるのが見えた。
お母さんに何事か言われ、香子がこっちに走ってくる。
なんだなんだと思いつつ待っていると、香子は小さな袋を差し出してきた。
「これ。」
「ん?くれるの?」
香子が頷くので、袋を貰って開けて見ると、中から陶器で出来たフグのキーホルダーが出てきた。
後で聞いた話だが、お爺ちゃんの家が下関にあるそうだ。
「おみやげ。」
「あー…ありがとう。」
物を貰ったらお礼を言う。それくらいは子供でも分かった。
香子は嬉しそうに笑顔を見せた。
34:
GW不自然じゃね?
お土産の前振りなんだろうけど
何にも無いなら要らないだろwwwwww
>>34
すみません、GW中に香子が下関に行ってた、というだけです。
35:
俺はそのまま学校へと歩きだす。
と、香子もトコトコと付いて来る。……目的地が一緒なので当たり前だが。
さすがに登校中に手を繋ぐようなマネは出来なかったが、
ほっといてどんどん先に行く訳にもいかないので、歩くペースを彼女にあわせた。
「学校慣れた?」
「………うん。うぅん。」
歯切れの悪い返事だった。
これも後から知ったんだが、都会っ子の香子は服も垢抜けてたし、
容姿もまるで人形のように可愛らしかったが性格が大人しかったため、
クラスでちょっと浮いていたらしい。
団地にも同い年の子はいるはずなのに、一緒に登校するところを見たことは無かった。
40:
香子からしたら、俺がこっちに来て初めての友達、のつもりなんだろう。
そう思うと、年下ということもあって、無碍には出来ない気がした。
「勉強好き?」
勉強嫌いの俺が聞くことではないかもだが、他に話題もわからない。
「こくごとおんがくが好き。」
「あー、おんがくは俺も好きかな。」
リコーダーが本格的になるにつれ、音楽もだんだんと面倒くさくなっていくのであるが。
結局その登校中は、学校の話ばかりで終わったような気がする。ちょっと記憶が曖昧。
42:
それから、登校にはいつも香子がついて来るようになった。
俺が意識して時間を合わせた記憶はないので、向こうがこっちを待っててくれたんだろう。
団地で遊んでいるときも、トコトコと寄って来てはジっと見ていたので、
こっちから呼んで混ぜてやった。
そのせいか、団地でも徐々に友達が増えているようだった。
43:
低学年、中学年の頃はそれでも良かった。
しかし、高学年に入ると、状況は変わってきた。
自転車を手に入れ、活動範囲が広がった俺は、
団地の小さな公園で遊ぶより、運動公園に行ってサッカーしたり、
友達の家でゲームをする方が楽しくなっていった。
後、女の子と遊ぶことが妙に恥ずかしくなったりする頃でもある。
俺は、だんだんと放課後に香子と遊ぶことが少なくなっていった。
45:
それでも、日課となっていた一緒に登校は続いていた。
「こーちゃんあのね、昨日先生がね…」
放課後会えなくなった分、登校中の香子はよく喋った。
昨日学校であったことや、友達のことを事細かに話す。
俺は「うん」とか「ああ」とか言いながら、適当に聞き流していた。
正直、それもちょっと面倒になってきてたんだろう。
それに、登校中にクラスメイトに出会ってしまった時、
からかわれるのが物凄く嫌だった。
「やい幸介、今日も女と仲良く登校か?ww」
「うるせー!」
大体、女といることをからかっていたようなヤツに限って
早めに彼女を作ってたりするもんだが、それはもっと後のこと。
子供にとって、重要なのは今だった。
48:
六年生になって間もないある日。
俺は、自転車で迎えに来た友達と供に、運動公園へサッカーをしにいくところだった。
自転車に乗り込んで、いざ出発、と思ったときだった。
「こーちゃん!」
なんと、香子が真新しい自転車に乗ってやってきた。
そういえば、春休みに買ってもらったと言っていた。
「……なんだよ。」
「私も、サッカー観に行っていい?」
香子にしてみれば、自転車を手に入れてやっと団地の外もついて行ける、
そんな気分だったんだろう。
だが。
「お、幸介いいなぁ、カノジョも一緒なんてw」
「ひゅーひゅー!」
悪友達のベタな煽りが、ものすごく恥ずかしかった。
その思いは、香子へとぶつけられる。
「駄目だ、ついてくんな。」
「え?どうして?観てるだけで邪魔しないよ。」
不思議そうに言う香子。ますます酷くなる煽り。
「駄目だったら駄目だ!女がついてくんな!居るだけで邪魔なんだよ!」
49:
俺の剣幕に驚いたのか、香子は大きな瞳を更に丸くして、固まっていた。
構わず俺は、自転車を漕ぎ出す。
「おい、行こうぜ!」
慌てて、友達二人もついて来る。
「幸介いいのかよ、あんなこと言って。」
散々煽ったくせに、心配そうに言う友達。
「いいんだよ、言わなきゃわかんないんだあいつは。」
そう言いながらも、俺はちょっとだけ気になって、団地を出る寸前に振り返った。
遠目でよく分からなかったが、香子は泣いているように見えた。
50:
>>1くん最低ー
>>50
ホント、最低でした…
51:
でもこういうのって有るよな
>>51
意地のせいか、素直に謝れないんですね、子供って。
52:
次の日、香子は登校中に現れなかった。
俺は清々した、と思いながらどこかで後悔もしていた。
かといって、謝るような素直さももっていない。男子小学生なんて意地の塊だ。
次の日だけでなく、それから以後、小学校卒業まで香子と一緒に登校することはなかった。
一人で登校しながら、俺は香子を傷つけてしまったことを知った。
これから何度となく俺は香子を傷つけることになるが、これがその一番最初だった。
53:
中学に入ると、俺はサッカー部に入った。
サッカーは好きだし、走るのも好きだったが、
ヘタクソなので万年補欠だった。
が、それはまあ置いといて。
部活が始まると、小学生の頃とは比べ物にならないくらい忙しい。
家に帰るのは七時くらいだし、テスト勉強もしなくちゃならない。
小学生の頃は一緒に登校しないまでも、団地やコンビニでたまに香子と会うことがあったが、
中学に入るとほとんど会うこともなくなった。
まあ、子供の頃の女友達なんてそんなもんだろう。
そう思いながら、俺はやっぱり、どこか淋しい想いを抱えていた。
55:
中一も終わりに近づいた、2月。
俺は部活の後、WJを買いにコンビニに寄っていた。
買い物を済ませ、コンビニを出たその時。
「こーちゃん。」
振り向くと、香子が立っていた。
久しぶりに見る香子は、もう子供子供した感じじゃなくなってきていて、
手足がスラっとしていて、髪はポニーテールだった。胸はまだない。
「久しぶりだなw」
俺は久々に会う動揺を隠して、努めて普通に挨拶した。
「うん、久しぶりw学ラン似合うね。」
そういえば、制服着て会うのも初めてだった気がする。
57:
「中学どう?楽しい?」
「まあまあかな。部活はしんどいけど、楽しい。」
「サッカー部なんだよね?」
「ああ。」
帰り道は一緒なので、歩きながら喋った。
「そういえば、こんな遅くに一人でコンビニなんて、危ないじゃないか。」
「あ、うん、ちょっと材料が足らなくて…」
言いながら、香子はしまった、というような顔をした。
「材料?なんの材料だよw」
問いながらも、本当は俺にも分かっていた。
もうすぐバレンタインデーだ。
小学生の時、香子は既製のチョコを俺にもくれたが、
いよいよ手作りであげたくなるような男子も出来たんだろう。
「エヘヘ、ナイショだよw」
笑う香子を見ながら、なんか感慨深い気持ちになった。
同時に、ちょっと淋しくもあった。
58:
なんだよ
なんだよ
うらやましい
59:
数日後、一年で一番男子がソワソワする日、バレンタインデー。
俺も例に洩れずソワソワしていたが、結局学校では誰からももらうことはなく、
トボトボと家路を急いだ。
家に帰ると、俺の机の上に、綺麗にラッピングされたチョコらしきものが置いてあった。
最初、母親かと思ったが、こんな手の込んだことをするはずない。
「かあさん、これなんだ?」
俺はチョコらしきものを手に居間に行くと、母親に聞いた。
「ああそれ、夕方に香子ちゃんが持ってきてくれたんだよ。」
それだけ聞くと俺は大慌てで部屋に戻った。
香子が?なんで?しばらく会ってもいなかったのに??
60:
ゆっくりとラッピングをあけると、手作りらしいチョコと供に、
小さなカードが入っていた。
『初めて手作りしました。美味しくなかったらごめんね。香子』
俺は丸いチョコをかじると、ちょっとビターすぎな気もしたが、
十分美味かった。
思えばあの丸型は、サッカーボールだったのかもしれない。
なんか模様みたいな線がついてたし。
63:
すぐさま電話でもして礼を言えばよかったのだが、照れくさくてそれもできなかった。
きっと、ガキの頃の延長でくれたんだな。それくらいに思った。
しかしまあ、まったくそのまま会うことがなく。
ホワイトデーのお返しなんて気の効いたこともせず。
あっという間に中一は終わり、二年になった。
64:
こーちゃんに嫉妬
69:
中二病とはよくいったものである。
クラスの面々は、一年の頃に比べ、よくも悪くも個性が増してきていた。
不良っぽいやつは、よりDQNな格好に。
勉強できるやつは、よりガリ勉スタイルに。
そして、リア充は、よりシャレっ気が増し、モテ男になっていた。
そのどれにも該当しない俺は、
学校ではサッカー部、家では漫画読んだりゲームしたりと、
比較的ノーマル(若干オタ寄り)な中二だった。
72:
ノーマルであるが故、女子に興味が出るのは当然のことである。
が、サッカーもヘタで至ってフツメンな俺に浮いた話はなく。
サッカー部でモテるのはレギュラーだけだし、
一大イベント修学旅行も、男友達とバカ騒ぎしただけで終わった。
そんな中、二年の冬休み直前。
一番中の良かったサッカー部の友人Sに、彼女が出来た。
そう、小六の時に俺をからかいまくったアイツだ。
74:
相手は、同じクラスのテニス部の子で、結構可愛かった。
部活の帰りにそれをSから聞いて、俺は心底驚いた。
「マジで?告白したの?」
「あ、それは向こうからw」
そっけなく言うSの余裕が憎たらしい。
それにしても、身近なヤツに彼女が出来たのが初めてだったので、
ショックというかリアルというか、なんとも言えない気持ちになった。
「裏切り者〜〜ッ」
Sをバシバシ叩く俺。
「なんだよ、お前だって仲良い女の子いたじゃん。」
Sが言ってるのは、間違いなく香子のことだ。
76:
「あれ、どうなったの?」
「いや香子は…ただの、近所の友達だから。」
ウソでもなんでもない。年下の女友達、というだけで、
それ以上は何もないんだ、俺たちは。
「ふーん。……でも、あの子は絶対お前のこと好きだと思ったけどなぁ。」
「………。」
じゃああんなに煽るなよ、とは言えなかった。
それに実際、俺自身が香子に恋愛感情なんてハッキリしたものは無かった。
何しろ、相手はまだ小学生だったし。そういう対象ではない気がした。
ただ、大切な存在ではあったと思う。
それ以上その話は続かず、俺とSは適当に喋って帰った。
78:
冬休みが終わって、1月が過ぎ、そして2月。
俺は去年のことを思い出しながら、なんとなくまたチョコもらえるかなー、
と思っていた。
相変らず香子と会う機会は少なかったが、
去年のバレンタイン以降、たまに会った時には
談笑できるくらいの感じの仲には戻っていた。
そしてバレンタイン当日。
相変らず学校では全滅だったが、俺はちょっとウキウキしながら家に帰った。
そして、部屋の机の上を見る!
………何も、無かった。
80:
うらやましいぜ・・・
81:
と、居間から母親が俺を呼ぶ。
「こーすけ、電話!」
Sがチョコを貰った自慢でもしてきたんだろうと思って、
母親から受話器を受け取る。
「もしもし?」
『あ、こーちゃん?香子です。』
途端に、心臓の鼓動が早くなる。
なら先に言えよ、と思って母親を見ると、ニヤニヤしがらこっちを見ていた。
「あ、うん、久しぶり。どーしたの?」
なんか、会話するたびに久しぶりって言ってる気がする。
『今、ちょっと真ん中公園に来れる?』
「ああ、平気だけど。」
『じゃ、来てね、私もすぐ行くから!』
電話は一方的に切られた。
86:
外に出るとすぐ、団地の真ん中の公園にいる香子が見えた。
「こんばんは。」
香子はまたちょっと背が伸びた気がした。今日は長い髪を下ろしている。
小さい時に比べ、髪のクセが無くなってきているような気がした。
「おう。電話、タイミング良かったな。今帰ったとこなんだ。」
「実はね、家からこーちゃんの部屋に電気が付くのを見てたのw」
なるほど、確かに向いの棟だから、そういうことも出来る。
「これ。」
香子はおずおずと手にした紙袋を差し出した。
中には去年の如く、チョコらしきものがラッピングされて入っている。
「ありがとう。」
今年はちゃんと礼が言えた。
89:
「去年は手渡しできなくて、ごめんね?」
「い、いや…俺も、礼もなにも出来なくて、悪かった。」
なんか、お互いで謝りあってる。
「今年は、去年よりは上手に出来たつもりだけど…」
「いや、去年のも美味かったよw」
「ホント?良かったww」
一年越しで去年のチョコの感想のやりとりをした。
こんな近くに住んでいるのに。
94:
「4月から、中学生になるよ。」
「知ってるよww」
「一年だけだけど、また同じ学校に行けるねw」
香子は無邪気にそう言った。
「そうだな、楽しみだな。」
俺も小学生の時より少しは成長していたのか、素直に答えることができた。
「……ねえ、4月から、また前みたいに、一緒に学校行ってくれる?」
「え?」
「たまにでいいから。」
夜の闇のせいではっきりとは分からないが、
香子の頬は、ちょっとだけ赤く染まってる気がした。
97:
「俺、朝練もあるから、ホントにたまにだぞ?」
「うん!たまにでいい。…ありがとう。」
緊張した表情だった香子はやっと微笑んでくれた。
「じゃ、帰るね!」
「うん。」
勢いがついたのかテンションがあがったのか、
香子はそのまま走って家へと戻っていった。
100:
中三の春。
俺は、いつもの進級とは違った気分で迎えていた。
香子はセーラー服がよく似合っていた。
俺は朝練があったので、言うほど一緒に登校は出来なかったが、
たまに一緒に行けたときは、学校のことをよく話してくれた。
香子も小一のときとは違い、友達もたくさんいるし、
ブラスバンド部に入って、部活も頑張っていた。
まもなく俺は最後の大会が終わり、サッカー部を引退となった。
結局三年までスタメンに選ばれることはなかったが、
最後の大会は途中出場で試合にも出れたので、満足していた。
101:
それから受験勉強の日々が始まる。
「勉強、大変?」
「まあね。」
俺が引退した後は、香子と一緒に登校する機会は増えていた。
毎日ではないが、週に二、三くらい。
「受験ってどんな感じなのかな。」
いまいち実感が湧かないという顔をする香子だが、
実は香子はかなり成績が良いので、この地区で一番の
公立進学高である○○高を目指すことになるのは間違いなかった。
そして俺は、ある決心をしていた。
「俺、○○高を目指すよ。」
「ホント?あそこ、難しいんでしょ?」
「うん。でも、やってみる。」
俺の成績は中くらいで、はっきり言って○○高は相当厳しい。
それでも、やってみるつもりでいた。
たった一年、また香子と同じ学校に通うために。
105:
それから受験までは、まさに勉強漬けの日々だった。
今まで行った事のなかった「塾」というものにも行ったし、
夏休みも何が休みなのかっていうくらい、勉強した。
何か目標があってやるということは、結構重要なことらしい。
冬くらいになると俺の成績は、先生も驚くほど上がっていた。
Sは、そんな俺を見ながら、
「まるで横島クンだな。煩悩パワーだw」
と笑っていた。
ちなみにヤツは、そんな俺より成績が上なのが腹立つ。
107:
受験勉強で忙しいため、俺と香子はこの一年、
登校中くらいしか話すことはなかった。
が、それでも良かった。俺には、十分力になった。
それにこのときに至ってさえ、俺は香子に対して
恋愛感情は無いんだと思っていた。思い込んでいた。
ただ、また、こうやって一緒に喋れたらいいな。
そう思って、勉強に打ち込んでいた。
109:
春が来て、受験が終わり、
そして、合格発表の日が来た。
受験前後から、香子は受験の類の話を全然しなくなった。
おそらく、気を使ってくれたいたんだろう。
確かに、こっちの精神は異常なほど研ぎ澄まされていたし、
発表まで気が気じゃなかった。
発表の日、俺はSと供に観に行った。
112:
「あ、あった。」
Sはあっさりと自分の番号を見つけた。
まあ、ヤツの実力なら当然の結果だ。
「じゃあ、俺のも一緒に探してくれよ!番号は…」
「いや、だからあったんだって。俺のも、お前のもw」
はい?
俺は一瞬状況がわからなくなったが、すぐに意識を取り戻す。
「まじかーー!どこだ!」
「だから、あれww」
笑いながらSが指した先に、確かに俺の番号はあった。
「あった!やったーーーー!!!」
「良かったなw」
やたら冷静なSをよそに、俺は大きくバンザイした。
118:
合格したらすぐに中学に来いと先生に言われていたが、
それよりまずは電話だ。
Sは携帯で家に電話していたが、俺は持ってなかったので
公衆電話から電話をかけた。
しかし、家ではない。香子の家だ。
約束も何もしていなかったが、俺は何故か、
香子が家で待っていてくれてるような気がしたから。
「はい、佐々木です。」
一度きりのコール音の後、電話に出たのはやっぱり香子だった。
「俺、幸介。」
「こーちゃん!…その、どうだった?」
「受かったよ、合格!」
俺は敢えて冷静にかっこつけようと思ったが、
テンションが上がって、どうも駄目だった。
「ホント!?やったね!良かったね!!」
受話器の向こうで、香子のテンションはもっと高かった。
121:
そして、4月。
俺は、高校生になった。
制服はガクランのままだったが、女子のブレザーが可愛かった。
「こーちゃん、部活どうするの?またサッカー部?」
高校に入ってすぐ、俺と香子は公園で喋っていた。
「うーん、どれにするか悩んでるんだけどな。あ、サッカー部には入らないよ。」
「え、どうして?」
「俺、サッカーのセンスないみたいだしw どうせなら、別のこともやってみたいし。」
ちなみにウチの高校はサッカー部は人数も多く、
中学の時スタメンだったSもなかなかレギュラーになれなかったくらいだ。
「じゃあ、ブラスやろうよw」
「ブラバンかぁ。高校からでも、やれるかな。」
「大丈夫だよ。楽しいよ?」
ニコニコと話す香子につられて、それも悪くないかな、と思えてきた。
「じゃ、やってみようかな。」
「うん、やってみて!」
先に行って待ってるぜ、とは言えなかったが。
122:
この香子ちゃんはどこで買えますか?
124:
このギャルゲのタイトル教えて!
126:
俺はブラスバンド部に入ったが、最初は散々だった。
ほとんどの人が中学から、もしくは小学からやっている部員ばかりで、
譜面も読めなければ音もまともに出ないのは、俺くらいだった。
が、サッカー部と受験勉強で鍛えられた忍耐力で、辞めることはなかった。
そして、なんだかリズム感はいいらしいということで、パーカッション担当になった。
これが意外に楽しく、ドラムセットまで8ビートくらいなら叩けるようになった。
130:
毎日の楽しい部活と、勉強の忙しさもあって、
俺は香子となかなか会うことが出来なかった。
だが、これは中学のときもそうだったし、仕方ないか、と思っていた。
高一の一年間はあっという間に過ぎた。
この年のバレンタインはお互いの都合が合わず、
結局母親が預かってくれるパターンだった。
だが、俺もお返ししなくてはならないということにようやく気付き、
ホワイトデーにはクッキーを持っていった。
生憎、香子は居なかったが、お母さんに預かってもらった。
134:
その夜、家の電話が鳴った。
たまたま母親が居なかったので、俺が出た。
「はい。」
『あ、こーちゃん?香子です。クッキーありがとう!!』
一気に捲くし立てる香子に、耳がちょっとキーンとした。
「あ、ああ、大したもんじゃなくて悪いんだけど。」
『そんなことない、すっごく嬉しい!ありがとう!!』
こんなに喜んでもらえるなら、もっと前からあげとけば良かった。
「今年は、いよいよ高校受験だな。」
『うん。私も、○○高目指して頑張るよw』
「香子なら平気だよ。」
母親伝いに、香子の成績が学年でもトップクラスだということは聞いていた。
「待ってるぜw」
今度は、言えた。
『頑張りますw』
137:
二年になっても、相変らずの日々だったが、
受験で忙しい香子とは益々会う機会が減った。
それでも、まるで妹を心配する兄のような心持ちで、
試験の要点や使うといい参考書なんかを教えてやった。
そんな、夏休み明けのある日。
俺は、隣のクラスの女子に、呼び出された。
139:
あああああああ
143:
その子は、合唱部のTだった。
合唱部とは同じ音楽系の部活ということで、交流もあったので、
何度か喋ったこともある。
ショートカットで、綺麗な顔立ちをした子だった。
「ねえ、幸介君て付き合ってる子、いるの?」
放課後の誰も居ない階段の踊り場で、こんなことを聞かれる。
俺の心臓は爆発寸前にまで高鳴った。
「いや、いないけど…」
「じゃあ、私と付き合ってよ。」
なんというか、気が強くてストレートな子だった。
そして、美人だった。
「うん。」
俺は、即答していた。
149:
香子の事は考えなかった。
いや、一瞬は頭を掠めた。
しかしその時の俺は、香子のことは大切な大切な妹のような存在で、
恋愛対象としては見ていなかった。
幼馴染はそういうもんなんだ、とそう思っていた。
それと同時に、リアルに彼女がいる生活にも憧れていたし、
なによりこんな綺麗な子が告白してくれたという事実に、浮かれていた。
そうして、俺とTの交際が始まった。
155:
Tは気が強く、デートの時も率先して行く先を決め、
引っ張っていくタイプだった。
俺は彼女ができたことなんて初めてで何もわからなかったし、
その方が助かった。
お互い、部活や勉強で忙しかったが、
それでも合い間を縫って買い物したり、映画に行ったりした。
それはすごく楽しい日々だったし、今でもそれに後悔はしていない。
160:
初めての携帯も手に入れたし、メールも毎日のようにしていた。
それと比例して、香子と会う機会は減った。
香子はまだ携帯も持っていなかったし、塾と家と学校の往復で、
俺と会ってる暇なんかなかったようだ。
しかし、まったく無かったわけではない。
Tと付き合いだして一ヶ月ほど経った頃、
部活の後に二人でマックに寄って、出てきたときだ。
ちょうど塾帰りだったのであろう、香子と出くわした。
166:
「あれ、こーちゃん?」
先に気付いたのは香子だった。
「おお、香子、久しぶり。塾の帰りか?」
「うん。」
答えながらも、香子がTを気にしているのが分かる。
「あ、こっちは同じ高校のTさん。」
「どうも。」
Tの挨拶にあわせ、香子も頭を下げる。
「Tは、俺の彼女なんだ。」
「え?」
香子は目をぱちくりさせて、俺とTを交互に見た。
167:
もてあそんでんじゃねえよ
168:
こーちゃんのばかあぁぁぁぁぁあ
169:
「こ、こーちゃん彼女できたんだ!すごーい!」
香子は驚いたような顔をして、俺を囃し立てた。
「ま、まあな。」
俺は照れて頭を掻く。
Tは不思議そうな顔をして、俺と香子を見比べていた。
「じゃあ、私帰るね。」
「ああ、気をつけて帰れよ。」
香子は自転車に乗り込むと、猛発進して去っていった。
「……あの子、中学生だよね?」
香子の後姿を見ながら、Tが聞いてくる。
「うん、同じ団地の、まあ幼馴染だな。」
「へぇ〜」
Tは納得したように頷いた。
170:
切ないなぁ でもなんかわかるっつーか 切ないなぁ
176:
その後も、特に関係が変わることはなかった。
相変らずTとは付き合っていたし、
香子とは出会ったときに、近況を語り合うような関係だった。
香子は成績上位をキープしているようだった。○○高には間違いなくいけるだろう。
冬のある日、Tが俺んちに遊びに来たことがあった。
テスト期間で部活もなく、テスト勉強をするという名目だ。
学校が終わった後、そのまま二人で俺んちに直行した。
178:
嫌な予感
179:
俺んちに着いて、ドアを開けたその時。
居間の方から笑い声がする。両方、聞き覚えがあった。
一人は母親。そして、もう一人は。
「香子、来てたのか。」
「あ、こーちゃん、お邪魔してますw」
母親と香子は、香子の持ってきたらしいお菓子を食べながら、談笑していた。
「お父さんの出張のお土産なのw こーちゃんも…」
はたと、香子の言葉が止まる。
俺の後ろにTがいることに気付いたからだろう。
「あら、Tちゃんいらっしゃいw」
「どうも、こんにちは。」
Tとウチの母親は、二度ほど面識があった。
「テスト勉強、させてもらいにきたんです。」
「あらあら。じゃあ幸介にしっかり教えてあげてねw」
ちなみにTの成績は俺より全然いい。
181:
「あ、私、帰ります!」
香子は椅子から立ち上がり、帰り支度を始める。
「あら、もっとゆっくりしていけばいいのに。」
「いえ、いいんです、テスト勉強の邪魔になっちゃうし…」
そう言いながら、そそくさと玄関に向う香子。
「じゃ、またね。」
「おう、おみやげ、ありがとな。」
香子は俺に手を振って、Tに一礼して、帰っていった。
俺とTは、俺の部屋に入る。
「あの子、いつかの子だよね。」
「うん。」
「よく遊びに来てるんだ?」
「いや、滅多にこないよ。小学生の時以来じゃないかな。」
「ふうん。」
Tは気の無いように言ったが、俺はウソは付いていない。
その日に限って来ていたのは、本当のことだった。
183:
そして冬休みを越え、新年。
俺とTは初詣にいったり初チューしたりと、
新年のスタートとしては順調だ、と思った。
だが、いいことは長続きしないものだ。
今年もまた、バレンタインがやってくる。
185:
なんでこう、世の中って不平等なんだろ・・・
俺もそんな高校生活送りたかったよ・・・
186:
ま、まさか・・・
188:
バレンタイン当日。
俺はTに家で待ってるように言われたので、
大人しく待っていると、携帯が鳴った。
『ちょっと、下まで出てきて』
Tからのメールだった。
なんか似たようなこと前にもあったなーと思いつつ、
俺はドキドキしながら家を出た。
公園の街灯の下に、Tがいた。
「おっす。」
「おっす。はい、これ。」
Tが俺に押し付けて来たのは、間違いなくチョコレートだ。
「お、ありがとう。」
「部活忙しくてなかなか買いにいけなくて、やっと今日買えたw」
それで家で待ってろって言ったのか。
「わざわざ、ありがとう。嬉しいよw」
194:
その時、だった。
向かいの棟から、香子が出てきた。紙袋を持って。
恐らく、俺の家に届けるつもりだったのだろう。
「あ…」
「……」
香子は俺たちを見て、Tは香子を見て、固まる。
言い知れない緊張感に耐え、俺は第一声を放つ。
「おっす。」
「こ、こんばんは。」
香子は、俺に対してというより、Tに対して挨拶した。
201:
「こんばんは。こんな遅くにどうしたの?」
Tは、努めて優しい口調で言ってるような気がした。
「え、あの…こーちゃんに……」
素直な香子の言葉。
「それ、チョコレート?幸介にあげるつもりで?」
「は、はい…」
それを聞いて、Tが香子へと詰め寄る。
「彼女のいる人にチョコ持って行くなんて、どういうつもり?」
「ちょっと、やめろよ」
俺は慌ててTの肩を掴んだが、Tは止まらない。
「ハッキリ言って、迷惑なのよこういうの。やめてくれない!?」
204:
修羅場キタワー
【閲覧注意】エイズに罹った美少女の顔が悲惨すぎる・・・・・【画像】
205:
うわあああああ
女ってこええええええええええええええええええ
211:
怯えたように身を竦ませる香子。
「おい待てって!そういうんじゃないんだよ、俺達は!」
さすがに俺も声を荒げた。
「それは、幸介が思ってるだけでしょ?彼女からしたら違うかもしれないじゃない!」
「そんなことねーよ。」
俺は香子を見たが、香子は震えて声も出ない。
このままここに居させるのは、根が大人しい香子には耐えられないだろう。
「香子。大丈夫だから、家に帰ってな。」
「で、でも…」
「いいから。」
俺が諭すと香子は、走って家へと戻った。
212:
Tやめろぉぉぉぉぉぉ
220:
「優しいのね。」
厭味な言い方だった。
「そりゃ、妹のようなもんだからな。」
「こないだだって家に居たし。」
「それは、たまたまだって。」
「そんなに大切なら、私よりあの子と付き合えばいいじゃない!」
俺は、怒った。
「なに言ってんだ、あんまりわけわかんないことばかり言うなよ!」
すると、普段は気の強いTの目から涙が溢れ、
「……帰る」
そう言い残し、俺が止めるのも聞かず、自転車で帰っていった。
229:
俺は家に帰ると、謝罪のメールを送った。
『言い過ぎた、悪かった。俺はTが好きだから、信じて欲しい。』
しばらく後、メールが返ってきた。
『私こそ、ごめん。ヘンに気が立ってた。許してほしい。』
その後もメールのやりとりで謝りあい、
これで、Tとの喧嘩は一件落着した。そう思っていた。
234:
次の日、俺は香子にも謝らなくてはと思い、電話したが、
家の人も香子も留守だった。
結局、その年の香子からのチョコレートは受け取ってやれなかった。
240:
3月に入り、俺はホワイトデーの準備をしていた。
今年はチョコレートを買った。
Tだけでなく、受け取れなかった香子の分まで。
そんな3月のある日、サッカー部のSから妙な話を聞いた。
「おい、幸介。お前、Tと付き合ってるよな?」
「うん。」
「あいつ、こないだの日曜、合唱部の男と街歩いてたぞ。手、繋いで。」
は?
241:
Twwwww
247:
その日曜日は、部活だと聞いていた。
「いや、俺ら試合で他校行ってたんだけど、その帰り。3時くらいか?」
「あれは間違いなくTだったぜ。」
「っていうか、他のヤツが言うには、前にも見たって。」
Sは、俺のためを思って言ってくれてるのは間違いないが、
その一言一言が、まるで刃のようだった。
250:
俺は、その日のウチにTを呼び出した。
「どういうことだよ。」
「………。」
「日曜は部活じゃなかったのか?」
「………。」
「なんとか言えよ!」
ずっと黙っていたTだったが。
「なによ、あんたに言われる筋合いないでしょ!」
「なんだって?」
「だってそうじゃない、あんただって隠れてあの中学生とイチャイチャしてるくせに!」
「なにいってんだ、してるわけあるか!」
「うるさいわね、もうどうだっていーじゃない!!」
Tはそのまま、どっかに行ってしまった。
残された俺は呆然と立ち尽くしながら、
どうやら自分が振られたらしいということに気付いた。
251:
メシウマ
261:
俺は、呆然と家に帰ったが、
なんとなく家に戻るのも億劫で、
真ん中公園のベンチに座っていた。
晴天なのに、心はどしゃぶりだ。
初めての彼女と、こんな終わり方なんて。
まるで世界が終わったかのような気分だった。
「こーちゃん。」
そんなorzな俺に話しかけてくれるのは、香子しかいなかった。
271:
「………。」
返事をする気力もなかったが、香子は構わず俺の方に寄ってきた。
「こーちゃん、どうしたの?」
「………なんでもねー。お前こそなにやってんだ。受験勉強はいーのか。」
「……もう、終わったから。」
あれ、そんなに入試って早かったっけ…
そんなことをぼんやりと考えた。
だがそれよりも、今は一人にして欲しかった。
「こーちゃんあのね、私、話したいことが…」
「うるせぇ。」
「え?」
「お願いだから、黙っててくれ。俺は一人でいたいんだ。ずっとずっとずっと一人で。」
香子は怪訝そうな顔をした。
「そんな一人で居たいなんて言ってたら、彼女さんに怒られちゃうよ?w」
272:
地雷を踏みましたね?
274:
踏み続けていれば問題ない
275:
>>1くん・・・最低
284:
その一言で、俺はカッとなってしまった。
「その彼女に振られたんだよ!」
「え、どうして…こないだの、私のせい?」
「そうだよ、その通りだ!だから、放っておいてくれ!!」
いや、本当は香子のせいじゃない。悪いのは香子じゃない。
その時でさえ俺は分かっていたが、だが、止められなかった。
ただ、一人になりたいという気分の方が勝ってしまい、香子に怒声を浴びせた。
「ご、ごめんなさい、わたし……」
香子は泣き出したようだったが、俺に気にする余裕はなかった。
気がつけば、いつの間にか香子はその場から居なくなっていた。
286:
あーあ!泣かせたー!いーけないんだ!いけないんだ!
287:
こーちゃん、それはダメだよ〜。
288:
こーちゃん見損なったぞ
289:
家に戻ってしばらくして、
俺は香子に怒鳴ってしまったことを後悔したが、
電話して謝ることも出来なかった。そういう気分になれなかった。
そのまま、香子に会うこともなく、
もちろん、Tに会うこともなく、
手元に残された二つのチョコレートと供に、
俺は春休みを向かえた。
299:
春休みのある日。
俺が部活から戻ると、香子の家の電気は夜にも関わらず点いていなかった。
出かけているのかな、と思って家に帰ると、
母親が俺に便箋を渡してきた。
「これ、香子ちゃんからの手紙。お別れの挨拶だって。」
「お別れ?なにいってんだよ。」
俺の返事に、母親は怪訝そうな顔をした。
「何って…佐々木さんち、今日お引越しだったじゃない。」
「は!?」
「あんた聞いてなかったの?とっくに香子ちゃんから聞いてるものと…」
どういうことだ、なんだそれ、
俺はそんな話聞いてない、何も聞いちゃいない。
俺は部屋に駆け戻って、便箋を開けた。
301:
くそ、くそおおおおおおおおおおおおおおおおお
304:
うわあああああああああああああ
309:
こーちゃんへ
何度も話そうと思ったけど、結局言えないままでごめんなさい。
お父さんの転勤で、前に住んでた町に戻ることになりました。
高校も、向こうの私立を受けました。
何度もこっちの○○高に入りたいって言ったけど、お父さんは許してくれませんでした。
当たり前だよね、高校生の一人暮らしなんて。
本当は同じ高校に入って、同じブラスバンド部に入りたかった。
こーちゃんと一緒に、高校に通いたかった。
最後に、私のせいでTさんと別れることになって、本当にすみませんでした。
どうやっても許してくれないだろうけど、
遠くからこーちゃんの幸せを願うことだけは許してください。
    香子
313:
ええ子や・・・
316:
本当は、もっともっと長い手紙だったが、要約するとこんな感じだ。
今でも手元にある。
俺は手紙を読みながら、涙を堪えることが出来なかった。
なんてことだ。
香子はずっと、このことを俺に言いたかったに違いない。
あの冬の日、家に来ていたときも。
バレンタインの日も。
そして、公園で俺が怒鳴り散らした日も。
俺は香子の話を聞いてやるどころか、
深く傷つけたまま、お別れとなってしまった。
327:
親は、連絡先を聞いていなかった。
俺には、香子に謝ることすらできなかった。
中学に問い合わせれば、もしかしたら分かったかもしれない。
だが。
俺は、それは何か違う気がした。
自分の力で、なんとかしなくてはならない。
そんな、強迫観念に似たような思いに囚われていた。
香子が、前居た町なら知っている。
結構な都会で、レベルの高い国立大がある。
その大学には、香子のやりたがっていた英語の仕事のための、英文学科もある。
なら、香子がその大学に行く確率は高い。
俺はそんな藁にもすがるような思いで、
香子にただ一言謝りたくて……いや、一目会いたくて。
それだけのために。
また、猛烈な受験勉強の日々に入った。
342:
その時のことは俺自身、あまり覚えていない。
とにかく勉強した。朝から晩まで、休み時間まで。
部活は引退まできっちりやったが、早く引退したくてたまらなかった。
秋ごろには、なんと初めてSの成績を超えた。
後にSは、
「あの頃のお前は鬼が憑いてたw」
と言っていた。
体重も激痩せしたが、倒れてる場合じゃないので、
メシは一杯食った。睡眠も4時間は確保した。
冬の手前にはB判定も取ったが、それでも不安だったので、
年越しの頃は時間の感覚が分からないくらいの勢いで勉強していた。
348:
結果。
受かった。
高校のときと同じように、親も先生も喜ぶより驚いていた。
だが、俺自身は、高校の時ほど喜んではいなかった。
こんなことは、通過点にすぎないんだ。
大学に入ったからといって、俺は確実に香子に会えるとは限らない。
それは、まだ先のことだ。
355:
大学に入ると、生活は一変した。
まず、初めての一人暮らしに馴れない事だらけだ。
炊事は、今でも不得意だ。
生活費の足しと、賄い飯目当てで、レストランにバイトに入った。
バイトも初めてだったが、店長が良い人で根気良く教えてくれたため、
なんとかまともなウェイターになれた。
385:
大学の講義も思っていたより全然面白くて、
それだけでも入った価値はあったと思えた。
だが、それもやはり、当初の目的とは違う。
日々の生活に埋もれそうなときも、香子の事は忘れなかった。
写真すら持っていなかったのには、かなり後悔したけど。
一枚くらいとって置くべきだったんだよ。
388:
とかなんとか言いつつ、大学での二年間もすぎた。
車の免許もとった。飲み友達も増えた。
でも、合コンの類には行かなかったし、相変らず童貞のままだった。
当たり前だ、俺は香子が好きなんだから。
大学に来て、ようやくそのことに気付いた。
高三のときは、それすら考える余裕がなかったんだ。アホだ。
392:
そして、大学3年目の、春。
この年、もし、俺の予想が正しければ…
いや、願いが叶うなら。
香子が入学してきたはずだ。
もしかしたら、もう彼氏がいるかもしれない。
それならそれで、構わない。
俺は、一度だけでいいから、香子に会いたかった。
399:
入学式には、探せなかった。人が多すぎる。
どいつが新入生で、どいつがサークルの勧誘かわかりゃしない。
講義が始まってからだ。
どの学部のどの学科に入ってるかはわからなかった。
だが、やはり英文科からいってみることにした。
ちなみに、俺は同じ文学部だが、日本文の方だ。
授業日程で、英文科の一年がどの時間にどこで講義を受けているかは、すぐ分かる。
三限で終わる日を狙って、講義棟の下で待っていた。
うむ、我ながらあきれるほどのストーカー具合だ。
408:
講義が終わって、学生たちがワラワラと出てくる。
その数十人の学生を、俺は香子を探し出すため一心に見つめていた。
それはそれはキモイ画だったことであろう。
その中に、香子は。
いた。すぐ分かった。
420:
キターーーーー!!
424:
運命ですな
435:
背は、また少し伸びていた。
栗色の長い髪は、かわらないが、もうポニーテールにはしていない。
すらっと伸びた手足に、胸は……相変らずあんまりない。
表情は大分大人びていたが、それでも、面影は変わらない。
間違えるはずはなかった。
だが、俺は、声をかけることが出来なかった。
どんな顔して会えばいい?
どんなことを喋ればいい?
たくさん考えていたはずなのに、やっぱり頭が真っ白になった。
そんなとき、彼女がこっちを見た。
「こーちゃん!!」
447:
なんと、香子が気付いてこっちに駆けてくる。
思えば、香子は走ってばっかりだ。
「こーちゃん!」
息せき切りながら、香子はもう一度俺の名前を呼んだ。
「お、おう、久しぶり。」
なんと、そんなことしか言えない俺のバカ。
違う、そうじゃないんだ、もっと言うべきことがあるだろうに。
俺はやっとの思いで再び喋ろうとしたが、その前に香子の言葉で仰天する。
「こーちゃん、やっと会えた!」
「え?やっとって…」
「ブラスの時の先輩に、こーちゃんがこの大学に入ったって聞いたからw」
なんと!!?
451:
もう…香子はどこまで可愛いんだ…。
こんな子がお前らのまわりにいるか?
俺のまわりには…いない。
454:
香子五年分ください!
457:
そういえば中学・高校が俺と同じで、ずっとブラスバンドだったやつがいるのは当然だ。
その子たちから聞けば、俺の進路を知ることだって簡単なはずだ。
なんてこった、俺には「香子の連絡先を知ってるヤツが同じ高校にいる」っていう可能性を
全然考えていなかった。女子同士なら、当たり前だろうに。
「だから、私もここを目指したんだよw」
「そ、そうか。」
「高校の時は、約束果たせなかったから…」
それは、同じ学校に通うという約束。
「待たせたねw」
「はは…」
俺はもう、笑うしかなかった。
笑っていないと、泣きそうだった。
468:
だが、笑っているわけにもいかない。
「俺も、香子に会うためにココ、受けたんだ。」
「え?」
そう、俺は香子に会いたくて…
「ずっと、謝りたくて。」
「何を?」
「最後に会ったあの日。お前は全然悪くないのに、怒鳴ったりしてごめんな。」
「そんな、あれは私が悪いんだよ。私こそ、ごめん。」
また謝りあってる。
472:
なんなんだよもう…
目から水がでてくる
478:
そんなわけで、俺と香子は仲直りできた。
香子はやはり実家暮らしだったが、
俺の狭いアパートに遊びに来たがった。
断る理由もないし、思ったより実家と近かったので、招待した。
「へえ、結構綺麗にしてるんだね。」
香子は感心したように言った。
「物が少ないだけだけどな。」
「子供の頃はおもちゃや漫画で溢れてたもんねw」
「ハハ、懐かしいな。」
493:
「ごはんはどうしてるの?作ってる?」
「いや、バイトに週4、レストランに行ってるから、夕飯は賄い。」
「バイトの無い日は?」
「コンビニか、インスタント。」
香子は呆れたように溜め息をついた。
「それじゃ体壊しちゃうよ。」
「俺、料理へたなんだよw」
「じゃ、バイトの無い日は私が作ってあげよっか?ww」
香子が、悪戯っぽく微笑んだ。
「マジ?いやーそれは助かるけど…いーの?」
「いーよ、家から持ってくるだけだし。」
「いや手間じゃなくて、彼氏とかいねーのかよ。」
「彼氏なんか、出来たことないっすよ、先輩と違って。」
睨まれたが、気分は最高だった。
494:
これはいい展開
496:
うわああああああああああああああああああああ
503:
かこちゃん可愛すぎワロタ
506:
それから、週4はバイト、そしてバイトの無い日は
香子がご飯を持ってきてくれるor作ってくれるという生活が始まった。
驚くべきことに、この時点では付き合ってなかった。
お互い、何故か決定的な一言が言えないでいた。
この幸せを崩したくない、とか、昔から知ってて今更…とか、
いろんな思いがあったのは間違いないが、それにしても、である。
もちろん、香子が泊まったりするようなこともなく、
ご飯を食べたあとには、ちゃんと駅まで送っていた。
そんな生活が、冬ごろまで続いた。
514:
しかし、このままではいけないと思っていた。
彼女でもない子に飯作ってもらってる場合じゃないだろ、俺は。
そんなわけで、ここは男らしく告白するしかない、と、
冬の頭にやっと思い立ったのである。
……だが。
そんなときに限って、悪いことが起こるんだ。
それも、今までで最悪の。
515:
おいやめろ
516:
( ;´Д`)いやぁぁぁぁぁー!
521:
あわわわわわわ
534:
何だよ!何が起こるんだよ!
540:
その日、俺はバイトがない予定だったが、
風邪で欠員が出たため、急に行くことになった。
電話で、香子にその旨を伝える。
『えー、そうなんだ。せっかくシチュー作ったのに。』
「ごめん、今度必ず食うから。」
『でも、明日もバイトなんでしょ?……そうだ、今日バイト終わってから持って行ってもいい?』
「え、それは嬉しいけど…でも、遅くなるぜ?10時過ぎるし。」
『大丈夫、明日大学も休みだし、10時半頃に、持って行くよw」
俺は、浮かれていたんだ。
夜に一人歩きさせるべきじゃなかった。
今でも、このとき止めておくべきだったと、悔やんでいる。
544:
ちょっと待てえええええええええええええええええええええええええ
546:
やめてくれーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
549:
よせよ。
空気よめよ。
563:
えっ、ちょっと待って、胃が痛いんだけど
566:
俺はバイト後、帰宅した。
10時すぎ頃、一度電話する。
「電車が駅に着く前に、言えよ?迎えにいくから。」
『わかったーw』
しかし、その後、電話は無かった。
10時半、俺はもう一度掛けてみる。
だが、出ない。
なにかあったのか?
俺は心配になって、家を飛び出した。
568:
もう堪えられない…
569:
やめてくれよ・・・
595:
駅までの道のり、香子に会うことはなかった。
だが。
公園の前に停まる、パトカーが目に入った。
それも、二台も。
人も少々集まってきている。
もしや、と思い、野次馬の人に話しかけた。
「なにかあったんですか?」
「ああ、女の子が通り魔に襲われて、病院に運ばれたらしいよ?」
俺は、言葉を失った。
慌てて、警察の駆け寄る。
「すみません、すみません!!」
「どうした?」
その警官は俺の剣幕に驚いたような顔をした。
「襲われた子、どんな子でした!?どこの病院にいったんですか!?」
「君は…?」
「俺の大切な人かもしれないんです、さっきから連絡が繋がらないんです!!」
そして、警察に2、3、香子の特徴を聞かれ、
それが一致したため、俺は警察に病院に運んでもらえた。
618:
病室の前には、香子の母親が来ていた。
「お久しぶりです」
「あ、ああ幸介くん…」
お母さんは、一瞬立ち上がったが、声にならない声を出して座り込んだ。
これ以上お母さんに聞くのは酷だと思った。
病室に入ろうとしたら、医師に止められた。
「今は、薬で眠っている。怪我は軽傷だから心配いらないよ。」
とりあえずは、ホッとした。
「君、ちょっと。」
背後で、警察に呼ばれ、そっちへ向う。
625:
軽症か良かった
627:
軽傷かよぉぉぉぉぉ
よかったぁぁぁぁぁ!
671:
「怪我は、二箇所。顔面を殴られて、あと、二の腕を刃物で切られていた。」
「……!」
俺は、腸の煮えくり返る思いだった。
「骨には異常ないそうなので、顔は綺麗に治るだろう。ただ、腕の刃物の跡は残るこもしれないそうだ。」
何も言えず、俺は自らの太股を叩いた。
「あと……シャツが、びりびりに裂かれていた。襲われかけていたんだ。」
「!」
「だが、幸い、近所をジョギングしてた夫婦が通りかかったため、それは未遂に終わった。
それに、警察もすぐ呼んでくれたおかげで、犯人も逮捕できた。」
俺は怒りと安堵が織り交じったような不思議な感情だった。
689:
警察の話の後、今度は医者が寄ってきた。
「これはまあ、襲われた女性によくあることなんだが、彼女は非常に錯乱している。」
それはそうだろう、落ち着いていられるはずもない。
「薬で眠らせる前は、ずっと悲鳴を上げていて、大変だったんだよ。」
何か他人事のような物言いが気に入らないが、
医者なんてこんなものだろう。
「今日、目を覚ますことはない。一度、家に帰りなさい。」
「でも……」
「君が体を壊しても仕方ない。もうすぐお父様もくるようだしね。」
俺は医者に促され、しぶしぶ病院を後にした。
703:
翌日、俺は正午になるのを待って、病院に向った。
あまり朝早く行っても、香子の眠りの妨げになると思ったからだ。
病院に行って受付で話すと、「少々お待ちください」と、待たされた。
俺はソファに座るのも惜しんで、イライラと待っていた。
すると。
「幸介君、だね?」
現れたのは、体格のいい男性。
子供の頃、見覚えがある。香子のお父さんだった。
お父さんは仕事の忙しい人で、俺もニ、三度しか会ったことがない。
多分、向こうは俺の顔なんて憶えてもいないだろう。
「はい、そうです。」
俺は返事をして、次の言葉を待った。
「少し、歩こうか。」
「はい。」
俺はお父さんと供に、病院を出る。
721:
「いつも、娘が世話になっていたそうだね。」
「いえ、そんな…」
むしろ、世話をしてもらっていたのは俺の方だ。
「正直、私は君が憎いよ。」
「え?」
「君のところに行かなければ、娘がこんな目に会うこともなかった。」
「……。」
その通りだった。俺は、何もいえない。
しかし、それでも俺は。
「娘さん…香子さんに、会わせてくれませんか?」
「それは、駄目だ。」
お父さんは歩みを止めて、こっちを見据えた。
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