魔王「クックック、お前には特等席を用意してやったぞ」ヒロイン「なんですって……!」back

魔王「クックック、お前には特等席を用意してやったぞ」ヒロイン「なんですって……!」


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1:
魔王「そこから主人公が惨たらしく散る様を目に焼き付けるがいい……! ハハハハハハ!!!」
ヒロイン「ふ、ふん! 良い気でいられるのも今のうちだけなんだから!」ガクガク
魔王「分かるぞ。怖いのだろう? 震えが止まらないようだぞ? ククク……強がることはない」
ヒロイン「こ、怖くなんてないわ! ただ……そ、そう! ちょっと寒いだけよ……! 怖くて震えてるんじゃないわ!」
魔王「……そうか。おい」
手下A「はっ!」
魔王「先に行って、暖房を強めてこい。……あと薄手の毛布も用意しておけ」
手下A「かしこまりました!」
魔王「ククク……より快適な環境で絶望することになるな……!」
ヒロイン(なんて奴なの……! 主人公……来ちゃだめ……! これは罠よ……!)
魔王「さて……そろそろマヌケな主人公がやってくる頃だろう。特等席へ案内してやる。おい」
手下B「こちらへどうぞ」
ヒロイン「くっ……!」
               
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10:
魔王「さあ、この部屋へ入れ。お前のために用意した特等席はこの中だ」
ガチャ
ヒロイン(あっ、暖房効いてる……)ドキドキ
フカッ
ヒロイン「……っ!」ビクッ
魔王「ククク……!」
手下A「ヘッヘッヘ!」
魔王「驚いたようだな。沈みこむような柔らかさが履物の上からでも分かるだろう?」
魔王「シャギー調のカーペットを厳選したからな。色合いもお前好みの赤系統にしておいた」
ヒロイン(な、なによこれ……柔らかいし……上品で高級感があるじゃない……!)
魔王「ククク、気にいったようだな。悩んだかいがあったというものだ」
ヒロイン「っ! 気にいってなんかいないわ! だ、だいたい、なんで赤色が好きって知ってるのよ……!」
魔王「ククク……!」
手下A「ヘッヘッヘ!」
ヒロイン「な、なんとか言いなさいよ! どうして私の好きな色を――」
魔王「お前の母親や知人から事前に聞いておいた……そう言えば満足するのか? ククク……!」
ヒロイン(事前にリサーチまでして……! どこまでも狡猾な奴……!)キッ
               
          
11:
魔王「さあ、そのソファへ座れ。……おい」
手下B「上着をお預かりします」
ヒロイン「べ、別にいいわ! 私に近づかないで!」
魔王「上着を羽織ったまま座るとシワになるぞ? くつろげなくなってもいいのか? お前のためにはならんと思うがな」
ヒロイン「……くっ!」ヌギヌギ
手下B「お預かりします」
魔王「さあ、どうした。はやく座れ」
ヒロイン「……」
ボフッ
ヒロイン「あっ……!」
魔王「驚いたか? 密度の違うウレタンを三層に重ねた結果が、そのフィット感だ」
ヒロイン(これなら何時間でも座っていられる……! いつまで私を拘束するつもりなの……!?)
ヒロイン(日が暮れるまでに帰れるかどうか……!)ゴクリ
魔王「力が伝わりやすい構造のおかげで、姿勢の変化がスムーズに行えるだろう」
ヒロイン(本当だ……! 腰に負担がかからない……!)
魔王「通気性も考慮している。長時間座り続けて蒸れることは無いはずだ。座り心地はどうだ?」
ヒロイン「凄くイイ……あ、いや! 嘘! 『座り心地はどうだ』ですって? サイテーよ! サイテーなんだから!」
               
          
14:
ヒロイン「こんなところに座るぐらいなら、地面に座った方がマシだわ! こんなソファより100倍は座り心地が良いはずよ!」
手下B「えっ」
手下A「あんなこと言って……」
ボソボソ
ヒロイン「なっ、なによ! 本当なんだから! こんなソファ、最低最悪!」
魔王「……そうか。好みではなかったか……? ならば、座布団を用意する。おい」
手下A「はっ、ただちに」
ヒロイン「えっ……?」
手下A「お持ちしました」
ヒロイン「なっ……ま、待ちなさいよ! 別にいいわよ! ここで!」
魔王「だが、好みではないのだろう? ククク、無理をすることはない」
ヒロイン「『別にいい』って言ってるでしょ!? このソファで我慢するから! ここに座らせなさいよ!」
魔王「……そこまで言うのであれば、無理強いはしないが……辛くなったらすぐに言え。座布団はここに置いておこう」
魔王「……座布団が固いのではないかと心配しているのならば、安心しろ。ククク、これは老舗で買ったものだ」
魔王「職人が丁寧に仕立てただけあって、優しいフィット感が好評なのだ。だから――」
ヒロイン「ソファでいいって言ってるでしょ……!!!」
ヒロイン(こいつ……! しつこく嫌がらせのように……! 許せない……! 絶対にソファに座るんだから……!)
魔王「……そうか。カーペットには暖房機能がついている。床でも十分、暖かいからな。無理はするなよ。ククク……」
               
          
15:
手下B「粗茶ですが」
コトッ
ヒロイン「……!」ゴクリ
ヒロイン(そういえば、こいつらに攫われてから何も飲んでない……喉がカラカラで……!)
魔王「どうした? 送迎車の中では用意された飲み物に手をつけなかったと聞いているが……」
魔王「飲まぬのか? 遠慮することは無い。ククク……。水分はこまめにとったほうがいい……」
ヒロイン「フ、フン! 誰がこんなもの……!」
ヒロイン(もしかしたら毒が入っているかもしれないわ……うかつに飲んだら駄目よ……!)
魔王「そうか……ああいや、これは気遣いが足らなかったな。毒が入っているのではないかと疑っているのだな?」
ヒロイン「っ!」
魔王「ククク……用心深いやつだ。おい。同じものを私にも用意しろ」
手下B「はっ」
魔王「どれ……」ゴクゴクゴク
ヒロイン「……っ!」
ヒロイン(おいしそうに、喉なんか鳴らして……! ゆるせないっ……!)
魔王「ふぅ……さあどうだ? 何ともないぞ。これで毒など入っていないことが分かっただろう」
魔王「まだ信用できないというのなら、淹れ直そう。お前の目の前で、同じ急須をつかってな。どうする?」
ヒロイン「フ、フン! 毒なんて、怖くないわ! 飲んでやる……!」
魔王「威勢のいいことだ……ククク。その威勢がいつまで続くか、見ものだな……!」
               
          
17:
手下B「どうぞ! お熱くなっておりますので、お気をつけて!」
ヒロイン「……ゴクッ」
ヒロイン(……! な、なによ、コレ……! 普通のお茶…………じゃない!? おいしいっ)
ヒロイン「ゴクゴクゴクッ……プハッ」
魔王「ククク……」
手下A「ヘッヘッヘ!」
ヒロイン「……なによ。このお茶……ちょっと、違うじゃない……。なんか、こう…………なんていうお茶なのよ」
魔王「ククク……」
手下A「ヘッヘッヘ!」
ヒロイン「教えなさいよ!!!」
魔王「ククク……おい、教えて差し上げろ」
手下B「梅昆布茶です!」
ヒロイン「へぇ……」
魔王「もう一杯飲みたい……そう言いたげな顔だな? 飲むか?」
ヒロイン「!!!」
ヒロイン(見透かされた……! こいつ……!)
魔王「だが、梅昆布茶は油断して飲みすぎると塩分の過剰摂取になるからな……今日はこの一杯で我慢することだ……」
ヒロイン「!? な、なんですって……!?」
               
          
24:
ヒロイン(こんなに美味しいのに、『我慢しろ』……!? ……ゆるせないっ! 抗ってやる……!)
ヒロイン「も、もぅ……ぃっぱぃ……!」ボソッ
魔王「なんだ? もっと大きな声で言ってもらわなければ、聞こえないぞ?」
ヒロイン「うっ」ビクッ
ヒロイン(……主人公……! お願い、ほんの少しでいいから……私に勇気をちょうだい……!)
ヒロイン「……も、もう一杯……!」
魔王「ん?」
ヒロイン「もう一杯、よこしなさいよ! 塩分くらいどうってことないでしょ!? もう一杯! もう一杯!」
魔王「いや、しかし……」
ヒロイン「…………っ!」キッ
魔王「睨んでも無駄だ……と言いたいところだが。ククク、大した度胸だな。後悔するなよ……! おい」
手下B「はっ」
魔王「半分だけだぞ。今日はもうそれでおしまいだ。キリが無くなるからな。ん? いいな?」
ヒロイン「わ、わかってるわよ!」
手下B「どうぞ」
ヒロイン「……ゴクゴクッ」
ヒロイン(やった……! 一矢報いたわ……! 何でもかんでも言いなりになると思ったら大間違いよ……!)
               
          
25:
手下C「魔王様! 主人公が来ました! こちらの要求通り、ひとりのようです! 砦の前にいます!」
魔王「ククク……来おったか……。罠にかかったとも知らずに……マヌケなやつだ……! おい!」
手下C「はっ! モニターに映します!」
カチッ ウィーン
ヒロイン「……!」
ヒロイン(凄い……! 大きなディスプレイ……! いくらするんだろう……!)
魔王「ククク、驚いたようだな。8Kのスーパーハイビジョンだ……」
ヒロイン(なんてやつ……! きめ細やかな美しい映像で主人公の苦しむ様を見せつけるつもりね……!? ひとでなし……!)
ヒロイン「あ、アンタなんか……最低よ!」
魔王「最低? ククク……この映像を見てもまだそう言えるかな? おい、サンプル映像を見せてやれ」
手下B「かしこまりました」
テーレーテテテーテレー
ヒロイン「……あ、ああっ……!!!」ガクガク
魔王「ククク、驚いて言葉が無いようだな……」
ヒロイン(す、すごすぎる……! 本物より綺麗なんじゃないの……!? コレ、いくらぐらいするんだろう……!)
魔王「8Kの映像美に酔いしれているところ悪いが……この程度で驚いてもらっては困るな。ククク……」
魔王「おい。ドルビーアトモスの用意だ」
ヒロイン「どるびーあともす……!?」
               
          
26:
魔王「いくら映像が美しかろうと、それに伴う上質な音がなければな……。最高の体験を追い求めるのが私のポリシーだ」
ヒロイン(な、なによ……どるびーあともすって……! 何が『どるびー』で『あともす』だっていうのよ……!)
魔王「おい。アレを……あの、木の葉がひゅひゅひゅってなって音が凄い映像があっただろう……あれを流すのだ」
手下B「はっ!」
ヒュヒュヒュヒュヒュン
ヒロイン「ひっ!?」キョロキョロ
ヒロイン(部屋のあちこちから音が……! な、何の魔術……!?)
魔王「ククク……!」
手下A「へっへっへ!」
ヒロイン「くっ! こんな、音が周りから聞こえるだけの術……どうってことないんだから!」
魔王「ククク……強がることは無い……。私も初めて立体音響を体感した時は、辺りを見回して怯えたものだ……」
魔王「映画館と違った味わい深さがあるだろう……ホームシアター設備の醍醐味だ」
ヒロイン「お、怯えてなんかないわ! それに、設備の自慢なんてされても、ちっとも羨ましくない!」
魔王「ククク、自慢をしているつもりはないが……」
手下C「あ、あの! 主人公はどうしましょう? 映像、切り替えてよろしいでしょうか?」
魔王「おお、忘れておった。今すぐ外の映像に映してくれ……。ククク、どれ……この私、自ら相手をしてやるとしよう……」
ヒロイン「主人公……!」
               
          
29:
主人公『魔王! 約束通り、俺ひとりで来たぞ! ヒロインを返せ!』
魔王「ククク……」
ヒロイン「……!」
ヒロイン(凄い……やっぱり映像が綺麗……! それに、やっぱり音が違うのね……! 臨場感がある……!)
魔王「マイクは繋がっているな?」
手下A「はい! 問題ありません!」
魔王「……あー、ゴホン。ククク、よく来たな。待っていろ。今から相手をしてやる」
主人公『その声は……魔王だな! かかってこい!』
魔王「……馬鹿な奴だ……ここへ誘い込まれたとも知らずに……」
ヒロイン「……!」
ヒロイン(やっぱり、罠なんだわ……!)
ヒロイン「何を企んでいるの!?」
魔王「ククク……私は腰を患っていてね……この砦にある源泉かけ流しの風呂へ入り腰を暖めんことには、まともに戦えんのだ……」
魔王「暖めたとしても、腰が落ち着いてくれるのは1時間程度……。ここへ主人公を誘い込んだのはそのためだ……ククク」
ヒロイン(な、なんてやつなの……!? 万全の体勢を整えて主人公と戦うために、私を餌にして……! 許せない……!)
               
          
32:
ヒロイン「主人公っー! これは罠よ!!! 魔王と戦うなら、寒い日の夜道で背後を狙うの! 弱点は腰よ!!!!!」
魔王「残念だったな。どんなに声を張り上げてもやつに声は届かん。マイクの電源は切った……おまけにここは完全防音でね」
ヒロイン「……!」
ヒロイン(どうりで……おかしいと思ったのよ、すごく静かだから……! 完全防音だったのね……!)
ヒロイン(喧騒から隔絶されたこの安らぎの空間で、主人公の惨たらしい最期を楽しめとでも言うつもり……!? ひどい……!)
魔王「それでは、私は下へ降りる……。お前はここでくつろいでいるのだな」
ヒロイン「くっ……!」
魔王「おい、モニターの操作が分からないようだったら教えてやれ。私はインカムを持っていく」
魔王「何かあったら、すぐに連絡を入れるのだ……」
手下A「はっ!」
ヒロイン「主人公……! 負けないで……!」
手下B「あの、魔王様と主人公の対決をお楽しみいただくお供として、お飲み物をご用意しております。こちらからお選びください」
ヒロイン「えっ?」
手下A「メニュー、凝ってるでしょう。へっへっへ! このチョークアート、こいつが描いたんですよ」
手下B「オイ言うなって! ……いや、ほんと気にしないでください。こんなもん、落書きみたいなもんでして」
ヒロイン「ああ……そう。飲み物ね? ……んー、えっと……私、さっきの……」
手下B「梅昆布茶、ですか?」
ヒロイン「……それが、飲みたい」
手下B「ああ、その……ですが……少々、お待ちください」
               
          
35:
主人公「ヒロインは無事だろうな!」
魔王「ククク……丁重にもてなしてやったぞ」
主人公「貴様、何をしたんだ!? ……もしヒロインに何かあったら、絶対に許さないからな……!」
魔王「御託はいい、かかってこい」
主人公「ああ、言われなくても――」
ピピピ
魔王「待て」
主人公「!?」
魔王「私だ。どうした?」
手下B『あの、お客様が梅昆布茶を飲みたいと……』
魔王「……だがな、あれは油断して飲みすぎると塩分のとりすぎで身体に良くないのだ……」
手下B『数杯ならどうということないだろうと……そうおっしゃってまして』
魔王「そう言って飲み始めるとキリが無くなる……梅昆布茶はたまに少し飲むぐらいがちょうどいい」
魔王「丁寧に説明して、諦めてもらえ。ああ、帰りに梅昆布茶の御特用パックを包んで持たせると言え、それで引いてくれるはずだ」
手下B『はっ!』
ピッ
魔王「かかってこい!」
主人公「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」
               
          
40:
手下B「どうぞ、アイスティーです」
コトッ
手下A「乾きものですけど、一応置いておきますね。つまんでやってください」
ヒロイン「ん……」
主人公『うおりゃ!』
魔王『なんの!』
バーン ドカーン
ヒロイン「……本当に、帰りにくれるのよね。梅昆布茶」ポリポリ
手下B「ええ、間違いなく」
手下A「魔王様もお好きで、常時ストックを用意してるんです。御帰りの時にお渡ししますから、今は魔王様たちの戦いに集中なさってください」
ヒロイン「わ、わかってるわよ! 別に、梅昆布茶のことが気になって観戦に身が入らないわけじゃないわ!!!」
手下B「観戦……」
ヒロイン(頑張って……主人公!)
               
          
42:
魔王『甘いわぁ!!!』
バキッ
主人公『ぐああああああああああっ』
ドサッ
魔王『ククク……以前会った時と比べればマシにはなったな……だが、この程度か。話にならん』
主人公『っぐ、くそぉ……!』
魔王『私の野望の邪魔をするからこうなる……自分の愚かさを、その身をもって知ることだ……!』
ヒロイン「……!!!」
ガタンッ
ヒロイン「…………っ! た、大変……!」
ヒロイン(この土壇場で、急におしっこしたくなっちゃった……飲み過ぎたのかも……。ハッ! ま、まさか!)
ヒロイン(これもこいつらの作戦……!? 柿ピーとか、喉が渇きやすいものばかり食べさせて……飲み過ぎちゃうわけよ……!)
ヒロイン(手下と思って甘く見てた……どこまでも狡猾な……卑怯者たち……!)
ヒロイン「……!」キッ
手下B「あの、どうされました? もうすぐ決着がつきそうですけど……」
ヒロイン「な、なんでもないわよ……」
ヒロイン(おあいにくさま! アンタたちの作戦に乗せられる私じゃないわよ……絶対に我慢してみせる!)
               
          
45:
〜10秒後〜
ヒロイン「と、トイレ……」
手下A「え?」
ヒロイン「トイレはどこか、聞いてるのよ……!」
手下B「お手洗いですか? でしたら、この部屋を出て右に、突き当たりを左に。そこから二番目の角を曲がって三個目の扉を――」
ヒロイン「……え?」
手下B「ですから、この部屋を出てまず右に行きます。それで突き当たりを左に行きまして、そこから二番目の角を曲がって、三個目の――」
ヒロイン「……!!!」
ヒロイン(覚えられない……! やられた……! わざとトイレから遠い場所に連れ込んだのね……! 特等席……そういう狙いがあったんだわ……!)
ヒロイン(私がトイレを探してモタモタしてる間に、主人公と魔王の決着がついてるって算段ね……! 思い通りにはさせないわ!)
ヒロイン「あ、案内しなさいよ……! 案内する気がないなら、ここで漏らすから!!!」
手下A「ああ、じゃあ俺が一緒に行きますよ」
手下B「頼む」
               
          
47:
魔王「死ねぇ!!!」
主人公「くっ!!!」
ピピピ
魔王「いや、今のは無しだ」
主人公「!?」
魔王「なんだ。トドメをさすところだぞ」
手下B『お客様が席を立たれました。お手洗いへ行くようです』
魔王「そうか……では時間稼ぎをしよう。結末を見逃すのはあんまりだからな」
手下B『お願いします』
魔王「こういう時のために、主人公の過去話をキープしておいて良かった……」
ピッ
魔王「ククク……待たせたな。冥土への土産だ。お前の出生の秘密を聞かせてやろう」
主人公「俺の……秘密……!?」
               
          
48:
ヒロイン「お待たせ」
手下A「いえ」
ヒロイン「……」
ヒロイン(便座に座ったら便意まで催すなんて……悔しい、全部こいつらの思惑通りに動いている……!)
手下A「はやく戻りましょう。まだ決着ついてませんから」
ヒロイン「えっ……! そうなの?」
ヒロイン(もうけっこう時間経ってるのに……! 私、半ばあきらめてた……!)
ヒロイン「すぐ案内して!」
手下A「はい」
               
          
49:
魔王『そうだ、お前の父親は私の兄だ……』
主人公『そ、そんな……!』
ヒロイン「なに!? 今どうなってるの!?」
手下B「魔王様が主人公の叔父にあたることがわかりました」
ヒロイン「決着には間に合ったのね!?」
手下B「はい」
ヒロイン「そう……!」
ヒロイン(良かった……急いでみるものね。……意外と間に合ったわ……!)
               
          
54:
主人公『なぜ俺の父親を……自分の兄弟を……!』
魔王『ククク、お前には分かるまい。私が受けた屈辱を……あれは私がまだ幼かった頃……』
ヒロイン「……」チラッ
手下A「なあ、さっきから時計をやたら気にしてないか?」
手下B「ああ……俺も気になってた。聞いてみるか」
手下A「だな」
手下B「あの、すいません」
ヒロイン「えっ、な、なによっ!」ビクッ
手下B「この後、何かお約束でもあるんですか?」
ヒロイン「あ、別に……ただ……今日は見たい番組があったから……」
ヒロイン「これ、まだ続くのかなぁって……少し思っただけよ」
手下B「ははぁ」
               
          
56:
魔王「その時、兄は……お前の父親は、なんと言ったと思う!? この私に向かって……!」
主人公「い、いったい……何を……!」
魔王「あいつはな……こう言ったのだ……!」
ピピピ
魔王「タイム。いや違う、今のは私の言葉だ」
主人公「……!」
魔王「なんだ」
手下B『その……お客様がこの後、ご予定があるらしくて……』
魔王「なに!? 事前に調べたはずだ……! ここへ連れ去る時、確認はとったのだろうな!?」
手下B『ええ、間違いなく。彼女は「今日は特に何も無い」とおっしゃったので、お連れしました』
手下B『ですが、その……「夕方までかかるとは思ってなかった」と……』
魔王「予定とは何なのだ」
手下B『さほど重要ではないのですが……ご覧になりたいテレビ番組があると』
魔王「……録画予約はしていないのか?」
手下B『少々お待ちください……あの、録画予約は……、あ、はい。していないそうです』
手下B『というのも、母親と一緒にご覧になるのが毎週の楽しみだそうで……録画では意味が無いと』
魔王「……そうか」
手下B『可能であれば、巻きで……』
魔王「分かった」
ピッ
魔王「話はここまでだ!!!!! 死ねぇ!!!!!!!!!!」
ザシュッ
主人公「ぐあああああああああああああああああああああああああっ」
               
          
57:
ヒロイン「しゅ、主人公!!!!!」
魔王『ククク……モニターで観ていたのだろう? ここへ降りてくるといい……』
ヒロイン「……!」
魔王『忘れ物をしないようにな……』
ヒロイン「……くっ!」
ヒロイン(言われなくたって……! 誰が忘れ物なんてするもんですか……!)
ヒロイン(えっと、サイフはポッケに入ってる……鍵と、ハンカチと……よし!)
ヒロイン「待ってて主人公……すぐ行くから……!」
タッタッタッタッタ
手下A「よし。忘れ物チェックだ」
手下B「ああ」
タッタッタッタッタ
ヒロイン「……」
手下B「……あれ? どうされたんですか? 主人公のところへ行ったはずじゃ……」
ヒロイン「上着……忘れてた……」
               
          
62:
ヒロイン「主人公!!!」
ダキッ
ヒロイン「目を覚ましてよ! 主人公! 主人公!」
主人公「う、っぐう……!」
ヒロイン「っ! い、生きてる……!」
魔王「ククク……運のいい奴だ……これに懲りたら、もう私の邪魔はしないことだ……!」
魔王「おい、救急車はまだか」
手下C「もう来るはずです」
ヒロイン「よくも……よくも主人公を……!」
魔王「安心しろ。主人公には我々が付き添う。病院までな。お前は早く帰るといい」
ヒロイン「っ!」
魔王「送りの車を用意した。さあ、観たい番組があるのだろう?」
ヒロイン「ゆるさない……絶対にゆるさない! いつか後悔させてやるから!!!」
魔王「ククク……どうした? 帰らないのか?」
ヒロイン「……帰る」
手下B「あ、梅昆布茶です。どうぞ」
ヒロイン「……」
魔王「遠慮することは無い。まだたくさんあるからな」
ヒロイン「ふ、フン! だ、だれが……! 主人公に酷いことしたアンタたちから、こんなもの……!」
魔王「要らないのか?」
ヒロイン「……貰う」
               
          
65:
ヒロイン「ただいま! ブラタモリもう始まっちゃった!?」
母親「ちょうど始まったとこ」
ヒロイン「良かったぁ」
ボフッ
ヒロイン(あ、ソファ固い……それに……)
ガヤガヤ
ヒロイン(テレビも小っちゃいなぁ…………音も平面だし……)
ヒロイン「……」
ヒロイン(あ、そうだ。もらった梅昆布茶を飲みながら観よう)
ヒロイン「♪〜」
ヒロイン「!!!」
ヒロイン(なんで私……あいつらのアジトのこと考えてるの……?)
ヒロイン「ハッ! ま、まさか……!」
ヒロイン(これもやつらの作戦……! せ、洗脳……!? 私を懐柔するつもりなの……!? 信じられない……!)
ヒロイン(絶対にやつらと馴れ合ったりなんてしないわ……! 絶対よ……! 忘れるの! あんな場所!)
ヒロイン「負けない……絶対に屈しないんだから……!」
               
          
66:
〜翌週〜
主人公「ヒロイン……! 目を覚ましてくれ!!!」
魔王「ククク……無駄だ。もうお前の知っているヒロインはこの世にいないのだからな」
手下A「へっへっへ!」
ヒロイン「私が魔王様の御意志に賛同した時、あなたの知っていたヒロインは死んだのよ……!」
ヒロイン「魔王様に盾つくというなら、容赦しないわ!!!」
ヒロイン「この梅昆布茶が冷める前にあなたを倒す!!!」
魔王「一日一杯だぞ」
ヒロイン「もちろんです!!!」
END
               
          
69:
おつ
               
          
70:
梅昆布茶ってそんなに美味いのか
               
          
71:

俺はしょっぱ過ぎてダメだな梅昆布茶
               
          
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たまに飲むとすげえ美味い
               
          
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