兄『俺ジジッ死んだら、どう思う?』妹「死なないから」back

兄『俺ジジッ死んだら、どう思う?』妹「死なないから」


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『ジジジジ───ガガッッ…』
妹「ねえ、聞こえてる? ねってば、兄貴ってば」
『ザザザザザ』
妹「……、わかんない全然聞こえないもん。それよりも一ヶ月も帰ってこないからお母さん激怒ってたから」
妹「三日間ぐらい晩飯抜き、覚悟してたほうが良いかもね」
妹「それじゃあ切るよ。授業始まっちゃう」
ぴっ
妹「ふぅー、今の今までなにをしてたんだか」
妹(あ。ひこうき雲だ…)ぼー
???
『───ハラショー! なんとか日本の空域圏内に食い込んだぞモンスター!』
『良いか? 私達が乗っているのはSu-35、ステルス機能無しの第4.5世代と呼ばれるジェット戦闘機だ!』
『高い機動性と最新の電子機器で、手放し運転だってお茶の子サイサイだぜ!』
2:以下、
『おっと! 怯えるなって、んな馬鹿なことはしない! ただし聞いてくれ、この戦闘機を選んだのには理由がある!』
『Su-35は西側じゃトップクラスの性能だ! 実に快適に飛行は実行される!』
『───まぁ“本物”はそうなんだけどな』
『ん。あれだ、お前は私達の軍にとっちゃ英雄と呼んでも相応しい実績を残してくれた…』
『感謝してもしきれない…まさか生身で宙に飛び出して【BOGEY】を吹っ飛ばした時は度肝を抜かれたもんだよ…』
『ま! でもそれはそれだ! こちとら日本に来るだけですっげー国際情景かっとばして来ちゃってるからな!』
『あはははは! それもモンスター、お前が学校に早く行きたい。なんてお上に言うからだぜ!?』
『こっちはジャパニーズが取り込んだE-2C、E2Dでカッとんで来るF15にグッバイさよならなんだ! 超こえーよどうしてくれるー!』
『だからパチもん乗り込んでチャイニーズに偽装したボギーでやってきたってわけだ! おっと、おしゃべりが過ぎたな!』
パチン
『ポストストールマニューバァアアア! クルビット! モンスター、絶対に吐くなよ!!』
『おひょー! 知らない空でやっていいモンじゃねーな! 心臓が幾つ合ってもたりねーよ!』
『…これで私の願望は叶えられたぜ。ここまで無茶してモンスター、アンタを連れてきたかいがあったもんだ! やべぇちょうたのちぃいいい』
3:以下、
『よっしゃ! 今からベイルアウト、機体から射出する! え? パラシュート? あーもちろん我が国の証拠となるもんつけさせるわけねーだろ!』
『はぁっ?! あのFAEBを生身で食らって睫毛一本燃え尽きなかったお前が何言ってんだ!?』
『───Fuel Air Explosive Bomb』
『瞬時に2000度以上に加熱し、気圧変化の衝撃波で地上物を軒並み破壊し尽くす! 一度落とされたら瓦礫と炭しか残らねえ!』
『核分裂をしない核弾頭と呼ばれ恐れられてる奴をだ!』
『それをアンタは真っ裸で一週間、着弾地点で過ごしてやがった! あははは! 汚染調査隊の恐怖に震えた声が今でも思い出せるぜ!』
『ヒュー! 科学班の奴らがこぞってアンタの身体を調べたがってたが大丈夫か!? いつの間にチィ座れてたりしてねーよな!?』
『…おっとと、お喋りしてたら迎えがきちまったぜ。ジャパンは法律でガチガチの癖してやるときゃやるんだよなぁー!』
『じゃあなモンスター! 一緒にスクラブっちまうことがないよう祈っとくぜ! アーメン! ガハハハ!』
ボッシュー!
兄「…………」バタバタバタバタバタ
兄「───ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ!!!!!」
ヒュウウウウウウウウウウウ!!!
4:以下、
兄「あびびびばばばばばばばば」
兄(なにコレ!? 嘘でしょ…? 本気で空に放ったの生身で!?)ぐるんぐるんぐるん
兄(頭の整理が現実に追いつかない!! やだこわい!! おえぇー! と、とにかく体勢を整えよう…)
バタバタバタバタバタ!
兄(……すげぇぇ……これが俯瞰風景というやつですか……まったく落ちてる感覚が湧いてこないよ……)
兄(あ。違う飛行機がやったきた、おお、ソフィアさんの飛行機がうまい具合に交わして、おお! 逃げ切ったみたいか? あれは?)
兄(よかったよかった、俺をここまで連れてくるのに色々と問題があったらしいし…これで万事解決ってな…)
兄「ぶぇんぶぇんぼぉぶべぇー!」
兄(このまま俺が死んじゃう! ど、どうしよう! 下は見た感じ思いっ切り地面ですよねー! 海ならワンチャンあったかもしれなのに…ッ!!)キョロキョロ
兄(ど、どうにか泳ぐ要領でいけばそれとなーく海の方に流れて行ったり…)すいすい
兄(うん! だよね! 無理だよね! わーい! こりゃどうしよう!)
ひゅうううううううううう
兄(はっ!? ───そういやロシア空軍基地で、暇な時に読んだ日本のマンガに…)
5:以下、
兄(身体を回転させつつ! つま先、すね外側、もも外側、背中、肩と順番に地面に当て、衝撃を分散する!)
兄(───『五点着地回転法』!!)
兄(そ、それだァー! もうやけっぱちだろうが助かる方法があるなら縋るしかない!)
ババババババ!!
兄(み、見えてきた地面が…もう駄目だ超い、死んじゃうかも、凄く恐い、けどやるっきゃない!)ババッ
兄「っ……い、妹ちゃあああああああああああああああああ!!」
兄(この時ばかりは! 兄の意味不明な不死身さを祈ってて!! わああああああ!!)
ヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!
       ───ズッ…
どぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!
6:以下、
学校 教室
教師「えー、であるからして。ロシアは中国にこういった贈り物をすることによって、食料関係や、」
妹「…ん」チラ
妹(今、ちょっと変な感じした。やばい、変なこと起こりそう)ピク
どぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!
ガタガタガタガタガタ!!
教師「ばぁああああッッ!!?」
「な、なんだ!? 急に校庭が爆発したぞ!?」
「きゃーー!!!?」
「な、なになにテロ!? テロなの!?」
教師「み、みな落ち着きなさい! こ、これは決してそんなことじゃなく…!」
「砂煙で何もみえねー…な、なにが起こったんだこりゃ…!?」
妹「……」
妹(…一瞬、兄貴の声がした)ジトー
7:以下、
モクモクモク……
妹「はぁ?とにかく、まぁ、うん」
妹「おかえり、兄貴」
兄「───ふふっ」
兄「思っても見ませんでしたよ…ええ、そりゃね…上手くいくとは思ってなかったさ…」
兄「けどね、突き刺さるって。つま先から地面にぶっ刺さるって、それってどうなんですかね…そっか俺って体重百キロ超えてるもんね…刺さるよね…」ホロリ
兄(砂煙舞ううちに逃げ出すかなぁ?…どうもうちの学校だし、弁償とか、やだしね。うん、逃げよう!!)
だだっ ザザザザ!!
兄「妹ちゃーん! たっだいまー!」ダダダダダ
12:以下、
学校 屋上 昼休み
兄「なんか色々と説明されたし、一応は納得していっぱい手伝ったりしたけどさ」
兄「とにかく、ロシアが今は金欠なのは石油…だっけ灯油だっけ…あれが抑えられたからとかじゃなくて…」
兄「とある『未確認飛行物体』との『兄弟喧嘩』が始まって、それを見過ごすわけにも行かず、取り敢えず手を出したら長引いちゃって…」
兄「しょうがないから一応、カッコいい戦闘機や戦車を送ってたら巻き込まれて、俺に助けて欲しいと拉致られちゃったのですね、ハイ」
妹「それで帰りは空から落ちてきたってコト? 馬鹿だね、ほんとに馬鹿」
兄「いや!? 全然俺は悪くないよね!? 問答無用に放り投げたソフィアさんがさぁ…!?」
妹「……で?」
兄「へっ?」
妹「その操縦士のソフィアさんは、綺麗だったの?」じとー
兄「え、えぇまぁ…ロシアの人は何処見渡しても綺麗な方ばっかりでしたけども…」
妹「今日の晩ごはん抜き決定ね」
兄「ホワイ!? 妹ちゃん!? お兄ちゃんは久しぶりにお味噌汁白ご飯にたくわんの日本食味わいたいんだよー!」
妹「知らない筋肉悪魔。勝手にロシアに永住してビーフストロガノフでもがっついておけば」すたすたすたすた
兄「いっ、妹ちゃーん!! 待って待ってなんで怒ってるの!? やっとこうやって会えたのにぃ?…っ」
妹「…やめて」スッ
兄「えっ?」
妹「シュールストレミング臭がする。今の兄貴って超臭いから近寄らないで」
13:以下、
兄「…それ超臭い魚のやつじゃん…」ガクッシ
妹「ふん」クルッ
兄「シクシク」
妹「…一応、心配とかしてたし」
兄「ふぇっ?」
妹「だけどいちいち兄貴のこと心配しても、意味がないの。面倒臭いから」
兄「妹ちゃん…」
妹「だから、これだけは言っておくから」
妹「……おかえり、兄貴」ボソリ
兄「っ…っ…っ…!!」キラキラキラキラキラ
兄「いっもうとちゃああああああああ!!」ダダッ
女「──化け物が帰ってきたってほんとーかイモウトぉー!?」ガチャ
兄「はぐぅっ!?」バチコーン
女「んお? 開けたドアに凄い衝撃が……おわぁ!? なにしてるんだオマエ!?」
兄「……ただいま嬢ちゃん……」
女「お、おお、お帰り化け物。今回の帰りは随分と遅かったな、なんだ? またコスタリカにでもいって石球を割ってたのか?」
14:以下、
兄「いや、割りたくて割ったんじゃないからね!? あれ滅茶苦茶怒られたんだから! 俺のせいだけどさ!?」
女「まー良いではないか、その後にワタシが直してやっただろ。まぁ、軽く『花崗岩球』の当時の製造法分かったがな」
兄「……え? 今凄いこと言わなかった?」
女「それで? 今回はどうにも派手な登場だな! わっはっは! 流石はワタシの下僕! 天晴!」
女「───見た感じ、落下してきたと見えるが。ただの人間落下にここまで大規模な地盤陥没は怒らんぞ、一体、どうしてこうなった?」ワクワクワク
兄「わくわくするんじゃない! だぁーもう! …あれ? い、妹ちゃん!? いつの間にか妹ちゃんが居ない!?」
女「さっき屋上から出て行ったぞ?」
兄「妹ちゃあああああんっ!!」
女「こらこら、あまり大きな声を出すな。人狼家の一人娘に聞こえるぞ、ただえさえこの一ヶ月オマエに会えず殺気立ってるのだから」
兄「うっ!? ……まだ『決闘だぁー!』とか言ってんの?」
女「無論だ」
兄「いい加減にして欲しいな本当に…俺だけなら良いけど、時間と場所を考えないで突っかかってくるから非常に面倒なんだよ…」
女「血の気の多い一族で有名なのだ。致し方なしと思え、恨まれたことをな!」
兄(始まりは全部、嬢ちゃんのせいじゃん…)
女「ま! それよりもだ、化け物」
兄「…ん?」
女「実はオマエの帰りを非常に待っていたんだぞ! 中々帰ってこないからどーしたもんかと悩んでいた!」
15:以下、
兄「とても嫌な予感がするんで断りたいんですケド…」
女「どうして頼み事をしたいとわかったのだ!?」
兄「大体そんな感じじゃんか…わかるもん雰囲気で…」
女「むぅー…マミーが言うには『女性はミステリアスであれ』と言っていたが、ワタシには難しいようだ…」
兄「ま。こっちとしても久しぶりの帰国で疲れてるんだ、頼み事ならもうちょっと後にしてくれ」コキッ
女「そ、そうか。なら仕方ないな…」
女「今度のGW中に、オマエとイモウトを連れて、とある県に旅行へ誘おうと思ってたのだがなぁ」
兄「………」
女「ならエメトを誘うか。アイツ、化け物に負けて以降ずっとゲームにハマってるから身体が鈍っとるだろーし」
兄「お嬢ちゃん」
女「おっ? どうした?」
兄「───信じられるか、俺、もう怪我が治ってるんだ」
女「お、おお、知ってるぞ! オマエはきっと背骨が折られても数秒後には直ってるだろうな!」
兄「なら、行けるじゃん」
兄「わああああああああああ!! 妹ちゃんと旅行!? 超うれしぃいいいいいいいい!!」
女「な、なんとッ!? もしや行く気になったのか!? すごいすごい! 本当に来てくれるのか化け物!?」
兄「もちのろんだ! そんなの行くっきゃないだろ! すぐさま妹ちゃん誘ってくるから!」ダダッ
16:以下、
女「うむ! 当日の予定は決まり次第、オマエに連絡するからな!」
兄「あいよー!」ダダダダダ
女「…おっと」
女(単に旅行するだけじゃないことを伝え忘れてたな。ま、大丈夫だろう)
女「ヴァンパイア家現当主【7つの仕事】の一つ」
『───ドラゴン・ブレス』
女「その『火山』の調整に行くことぐらい、まぁ、あっち着いてから説明すれば良いか、うむ!」
女「はてさて! 今日もいい天気だ、ちょう楽しい!」
旅行当日 ヴァンパイア城 門前
兄「…ねぇ妹ちゃん、本当に荷物はそれだけで良いの?」
妹「良いの。兄貴こそ二泊三日なのに、大量の荷物を背負ってるワケ?」
兄「そりゃ妹ちゃんの枕に、妹ちゃんの歯ブラシに、妹ちゃんの好きな桃缶! 全部大切じゃん!」
妹「わかった。今からそれ捨ててきて、早く」
兄「捨てる!? ま、待って妹ちゃんの大切な所有物が結構たくさん入ってるよ…!?」
妹「兄貴が触ったものなら、もう要らないから」
兄「ひええええ! ごめん許してぇ…! ちゃんと家に置いてくるから! 冗談でもそんなこと言わないでぇ?…!」
17:以下、
妹「あながち冗談じゃないけどね。黙って触って持ってきてる時点で怒ってるし」
兄「す、すみませんッ」
妹「…ん、それならゴーハウス。制限時間は三十秒で」
兄「わんわーん!」ダダダダ
妹(やっぱり来ないほうが良かったかな。先が思いやられるよ、まったく)
女「お! 来てたかイモウト、おはよう!」
妹「おはよう女さん。兄貴は今、ちょっと野暮用で遅れてるから」
女「む! 我が下僕でありながら君主より遅れるとは、非常にけったいなやつだな全く!」
妹「…くす、そうだね」
女「おおーそうだそうだ、そういや先にオマエに渡しておきたいものがあったのだ!」
妹「? 渡したいもの?」
女「コレだ」
妹「…なにこれ、開けていいの?」パカリ
ピカー!
妹「指輪?」
女「そうだぞ。ヴァンパイア家現当主であるワタシが作った特注品だ、大事に身に付けておけ」
妹「でも…こんな高価そうなもの…」
女「かまわん。オマエと化け物には日頃から世話になっとるからな、その礼だと思ってくれていい」ウムウム
18:以下、
妹「あ、ありがとうございます、でいいのかなコレ…」テレテレ
妹(凄く綺麗。銀色で、中央に真っ赤な宝石が埋まってる。模造宝石かな?)
女「ちなみにリングは純銀製で、埋まってる宝石はルビーだ」
妹「バカじゃないの!?」
女「ほぇ? な、なぜ怒られるのだ!?」
妹「こんなのもらえないよ!? 重すぎるから!」
女「あ、ああ、マミーもブローチで作ったら重すぎて普段から身に付けにくいと助言を貰ったからリングにして…」
妹「気持ち的な意味だってば! こ、こんな高価なもの軽くぽいっとあげないでよ…!」
女「むぅー…金銭的な意味ではワタシは金持ちなので、これぐらいは至って構わんのだが…?」
妹「うぐっ」
妹(本当に兄貴の知り合いっておかしな人ばかり…)
女「っ…っ…っ…」おどおど
妹「…あのね女さん、こういうのは受け取れない。私は高価なものよりもっとちゃんとしたものが欲しいよ」
女「何ッ!? こ、これより高価なものとな!?」
妹「ううん、そういうことじゃない。私は気持ちだけで十分、それを伝える『ありがとう』って言葉で良いの」
女「あ、ありがとう?」
妹「そう。私は貴女からそう言ってもらえるだけで全然構わない。ただ、それだけでいいから」
女「……オマエは変な奴だ、なんだかそう、すごく思ったぞ」
19:以下、
妹「変なのはそっち。私はまっとうなことを言ってるから、本当に」
女「……」じぃー
妹「…なに?」
女「やはりオマエは凄いな。変で凄い、ワタシはもっとオマエと仲良くなりたい」
妹「え?」
女「あの化け物と知り合って、そして話をよく聞くイモウトと出会った。だから思うのだ、オマエは本当に凄いのだと」
女「化け物が言った通り、イモウトは確かに凄いやつだとワタシも思える」
妹「…兄貴が普段、どう私のことを言いふらしてるかは大体、想像つくけどさ」
妹「私は至って普通の人間だよ。何も特技なんて無いし、不死身でもないただの一般人だから」
女「だから凄いのだろう?」
妹「……え?」
女「イモウトよ。それの何が凄くないことなのだ? ワタシはとっても不思議だ、何故あの兄が居て普通に居られる?」
女「普段からワタシの周りは凄いもので溢れかえっている。なにもない者は排他され、そこには何も残らない」
女「───受け入れられなかったものは、灰にしか成らん」
妹「……」
女「言葉だけ言うのは簡単だ。ワタシも礼を済ませるだけなら、その『ありがとう』だけで終わらせる」
女「でも、ワタシはオマエを凄いと思ってる。心から感謝したくて、だから精一杯の気持ちを込めて……そのリングを送ろうと思った」
20:以下、
妹「……」スッ
キラキラ…
妹「…気持ちを、込めて?」
女「ああ。だが、オマエはそれを重たいと言った。だから凄い、変だとも思える。けれど、それがイモウトなのだろう」
女「すまなかった。オマエの気持ちを考えて選ぶべきだった、この通りだ」ペコ
妹「い、いや! そこまでされるほど私も怒ってるわけじゃ…!」
女「うむ。そうだろうと思う、けれど最後だと思って受け入れてくれ。ワタシはもっと知りたい、この日常を…」
女「…太陽が照りつける、この普通という日常を知っていきたい…」スッ
妹「……」
女「だからオマエのような凄い普通な人間と、仲良くしたい、というかな…う、うむ…」てれてれ
妹「…ううん、駄目だよ、それじゃあ」
女「…?」
妹「それじゃあ自分を落としてることになる。相手を知るためには、お互いに知っていくことが大切だから」
妹「教えてくださいって頭を下げること、これからは絶対にしないで。その代わり、私はこれをちゃんと受け取るから」
女「え…受け取ってくれるのか…? その指輪を…っ?」
妹「うん。だからこれでおあいこ、女さんも女さんらしくして、私も私らしく貴女と知り合っていくから」
妹「そしてお互いに折れていくこと。それが大切なんだと思うから、きっと、たぶんね」ニコ
21:以下、
女「………」
妹「だから、握手」
女「おぉう…」
妹「ん。これでもう私と女さんは友達、何時だって普通に会話できるね」
女「───うむ! そうだなっ! よろしくたのむぞイモウト!」
妹「うん」コク
兄「はぁあぁあぁあぁあぁあッッ!! 間に合ったかなァー! 妹ちゃーんッ!」ギュザザッッ!!
妹「遅い」
女「うむ、超遅いぞ化け物」
兄「えぇ?……一応、時六十キロぐらいで走り抜けてきたよぉ?…?」
女「車かッ!」
妹「どーでも良いよ、兄貴の頑張り具合なんて」
兄「どうでもいい!?」
妹「それよりも、今日は本当に旅行に誘ってくれてありがとうございます」ペコ
女「構わんぞ! ワタシは何と言っても金持ちだ! 幾らでもオマエ等のためなら礼を尽くしてみせよう!」
妹「ありがとう。でも、いらないよ。……そんなは、ね」
女「くすくす、ああ、わかってるとも!」
22:以下、
妹「ふふっ」
女「あはは!」
兄「…? 何々? 俺が居ないたった数十秒の間に何があったワケ?」
妹「じゃ、行こうか」
女「うむ! 早ながら向かうぞイモウト!」
兄「え、ちょっと? 嘘でしょ? なんでそうも直ぐに仲良くなっちゃってるのー? ねぇって? ちょっとーッ!?」
???
兄「はぁ?…着いたなやっと! ひゃ?疲れた、えらい遠くまで来ちまったもんだ」
妹「いや、そんなに疲れてるの兄貴だけだから」ジトー
女「オマエ、なんで『エキベン』とやらを買うだけで電車に乗り遅れるのだ? そして、なぜ走って追いかけてきて、そして私達より先に着いてるのだ?」
兄「駅弁の件は実に俺の責任だ、それは謝る。だが先についてしまったのはものすごーく楽しみで、黙って腰掛けてるのが困難だったから!」
妹「相変わらず気持ち悪いね。頭のなかの精神年齢、十歳以下で止まってるの?」
女「電車の平均度は約130kmだぞ!? 路線と車両によって変わるが、オマエは相も変わらず化け物スタミナだな!」
兄「あぁ褒めろ褒めろ、俺は妹ちゃんの為にやったことはす・べ・て! ポジティブに捉えきる!」
妹「…駄目だ。旅行テンションでハイになってる、こーなるとメンドだから無視するね兄貴」スタスタス
兄「あぁん! そんな冷たい妹ちゃんも…はぁはぁ…かぅいいよぉ…っ」
女「いつにもましてキモイな化け物…」
23:ていせい 2016/03/06(日) 20:10:00.31 ID:e+2swKm4O
妹「ふふっ」
女「あはは!」
兄「…? 何々? 俺が居ないたった数十秒の間に何があったワケ?」
妹「じゃ、行こうか」
女「うむ! 早ながら向かうぞイモウト!」
兄「え、ちょっと? 嘘でしょ? なんでそうも直ぐに仲良くなっちゃってるのー? ねぇって? ちょっとーッ!?」
???
兄「はぁ?…着いたなやっと! ひゃ?疲れた、えらい遠くまで来ちまったもんだ」
妹「いや、そんなに疲れてるの兄貴だけだから」ジトー
女「オマエ、なんで『エキベン』とやらを買うだけで電車に乗り遅れるのだ? そして、なぜ走って追いかけてきて、そして私達より先に着いてるのだ?」
兄「駅弁の件は実に俺の責任だ、それは謝る。だが先についてしまったのはものすごーく楽しみで、黙って腰掛けてるのが困難だったから!」
妹「相変わらず気持ち悪いね。頭のなかの精神年齢、十歳以下で止まってるの?」
女「電車の最高度は約130kmだぞ!? 路線と車両によって変わるが、オマエは相も変わらず化け物スタミナだな!」
兄「あぁ褒めろ褒めろ、俺は妹ちゃんの為にやったことはす・べ・て! ポジティブに捉えきる!」
妹「…駄目だ。旅行テンションでハイになってる、こーなるとメンドだから無視するね兄貴」スタスタス
兄「あぁん! そんな冷たい妹ちゃんも…はぁはぁ…かぅいいよぉ…っ」
女「いつにもましてキモイな化け物…」
24:以下、
妹「…にしても、確かに兄貴の言うとおり田舎の方に来たね」
兄「山の奥地にある村に向かうって言ってたっけ? またへんぴな所に作るもんだなぁ、不便で仕方ないだろうに」
女「む? まぁ一種の【隠れ里】だからな」
妹「隠れ里って?」
兄「忍者でも住んでるの?」
女「ああ、居るぞ。そういった伝承が伝わる地域ならな、今から向かう里には存在しないが」
兄「ふーん」
妹(…この兄貴の薄い反応、既に忍者に本当に会ってるっぽいな)
女「日本の民話や伝説によく登場する隠れ里、とは仙郷ともよばれ【隠田百姓村】とも名付けられることもある」
女「ようは限りなく現実に隣接した幸せな異世界だと思えば良いだろう」
兄「なにそれ凄い! じゃあじゃあ、俺達ってばそんな幸せな場所に旅行しに来ちゃったってワケ?」
女「アホか、ただのお伽話に決まってるだろーに」
兄「ヴァンパイアとか名乗ってるくせによく言うな嬢ちゃん!」
女「こちとら仕事できてるんだからな! 真面目にもなる、現当主、めちゃ真面目モードよ!」
兄「…仕事? なにそれ、俺それまったく聞いてないけど?」
女「ぶっちゃければ単なる雑務、ルーチンワークに過ぎん。ルーチンと呼べるほど簡易な調整相手ではないがなぁ…まぁ、着けばわかる」
兄(やだ凄く不安になってきた…ものすごーく体のいい感じに使われそう俺…)
妹「じゃあ忍者が居ないんだったら、隠れ里なんか作ってまで何を隠したがってるの?」
25:以下、
女「おお! 良い質問だイモウトよ、それぞ私の仕事相手にして7つの仕事の一つであるのだ!」
妹「7つの仕事……7つって聞くと、兄貴が探しに出て行った『バビロンの空中庭園』とか『アレキサンドラ大灯台』思い出すね」
兄「…どっちも空気が全然吸えない、空と海、に潜ったから良い思い出無いんだけど…」
女「何処にでも行くなオマエは、本当に。とにかくその仕事の一つが『ドラゴン・ブレス』なのだ」
兄「おっとーここでやけにファンタジー系が飛び出してきた、流石はヴァンパイアっすわーかっけぇーすわー」
女「冗談じゃないからな! …まぁ単なる活火山であって、規定されたランクも低い。至ってシンプルな火山と呼べるだろう」
妹「その火山がどーして、ドラゴン・ブレスなんて呼ばれてるの?」
女「……化け物よりよっぽど会話しがいがあるな、イモウトのほうが。つまりはその火山は、マグマを放出しないのだ」
女「『大量の水蒸気』───マグマと地下水が接触し水蒸気となり、圧力の限界が超えた瞬間吹き出すモノ」
【水蒸気噴火『ドラゴン・ブレス』】
女「とーいうわけだな、うむ。ちなみにマグマが含まれたモノを『マグマ水蒸気噴火』と呼んで通常は『マグマ噴火』、流石にこれは聞いたことがあるだろう」
兄「はーい質問でーす!」
女「はい化け物! なんだッ?」ビッシィイイイ
兄「いちいちカッコつけずにフツーに水蒸気噴火とか言えば良いんじゃないんですかー!」
女「却下だ。ハイ、次の質問!」
兄「オイ!」
女「はい。女さんは調整しに来たって言ってたけど、火山を調整ってどういうこと? どーにかできるものなのかなって思うんだけど…」
26:以下、
女「んんむぅ?本当にイモウトは良い質問をするなぁ?…幸せだよワタシはぁ?…」ニマニマ
妹「そ、そうかな」てれ
兄「お兄ちゃんはいつだって妹ちゃんと一緒に居れて幸せだよっ?」
妹「私はそう思ってないよ」
兄「えっ!?」
女「私がここに来たのは、言葉の通り【火山の調整】だ。ドラゴン・ブレス、その水蒸気噴火のガス抜きにな」
妹「…圧力がどうとか言ってたね、ということはその限界点が来る前に減らしておく?」
女「びゅーてぃふぉー! まさにその通り、私は泣く子も泣き増すヴァンパイア家現当主であるのでな!」
女「───先代のお父様でさえ見破れなかった、ドラゴン・ブレスの『放出部位』を見つけ出したのだ! 今から向かうドラゴン・ブレスは『陥没ピストンシリンダー型カルデラ』と呼ばれており!」
女「地下の空洞となったマグマ溜まりに大きな岩石がピストン状に落ちることによって、地下水とマグマを分断しているのだッ!」
妹「う、うん…!」
女「しかしッ! 落ち込んだ後は大規模な円筒形の凹地が出来るのが常だがこの山は違う! なんと幾何学的に切れ込みが入った岩石表面が多重に作用し合い─────」
女「溜に溜まった圧力が押し上げ、落ち込んだ岩石が元の場所に戻るのだ! なんと不思議なことか! まさに神秘! 超常現象パーフェークトォオオオオオ!」
兄「…」
妹「…凄いね、いつもこんな感じ?」
27:以下、
女「たかが数百年という経歴で頭を揃える並の活火山とは比べ物にならないほどの活火山! これをワタシは【超活火山!】と呼ぶことにし───」
兄「…」
兄「まぁ、こんな感じかな。前に自分が作った発明品を喜々として語ってるの見たことあるしな…俺がそれに殺されかけてる時に…」ポリポリ
妹「そっか」
兄「そっかで流さないでね?……まぁでも、今日は本当に来てくれて嬉しかったよ」
妹「? なんで?」
兄「だってホラ、妹ちゃんって面倒臭いこと嫌いじゃんか。だから、嬢ちゃんと旅行なんてどーかなって…個人的にね、思ってたというか」
妹「別になんとも思ってないよ。ただ、フツーに知りたかっただけ」
兄「…嬢ちゃんを?」
妹「うん。兄貴がこれほど長い間、誰かと一緒に過ごすのって珍しいことだから」
兄「…それは」
妹「だったら私も仲良くなりたい。それって、駄目なこと?」じっ
兄「……」
兄「いや、全然駄目じゃないな。めっちゃ素敵なことだって思う、うん」
妹「ん。ならそーで良いじゃない」
兄「あいよ、なら、全力で旅行を楽しもうぜ!」
30:以下、
女「───であるからして、ワタシという存在は如何に必要かわかっていただけただろーな!」
兄「おうともさ! 全然意味がわからなかったけれど、とにかくわかめ嬢ちゃんマジ現当主!」
女「おぉー! 化け物もようやく、ワタシの気高き存在を認め始めたか! うむ、実に素晴らしいぞ!」
兄&女「わっはっはっは!」
女「…くす」
【隠れ里 龍鱗村】
兄「おぉー…こりゃまた大きな木造建築だー…」
女「おぉい! あずさー! いつものドラゴン・ブレスを調整しに来たぞー!」
妹(あずさ…?)
「───はいはいはーい! 今向かいます! ちょっと、お待ちになって、うっいっだァアアアア!?」ドッガラバッシャアアアアン
兄「…何か凄い音が聞こえたけど?」
女「う、うむ、まぁこの里の村長の娘なのだが…偉いのだが…まぁ色々と難点があるというか…」
妹「………」
兄「変に出し惜しみした言い方するな…ちょっと怖くなるだろ嬢ちゃん…」
31:以下、
女「まぁ会えば言いたいことも理解する。おい、あずさ! また本堂に飾った祭神具、ぶっ壊しておらんだろうな!? もう直すのは懲り懲りだぞ!」
「え、ええ、ハイ、大丈夫だから…ふぇぇ…うぇっぷ…」ガタガタガチャ
巫女「あー、えっと! どうも皆さん! 遠いところまで来てくださって、ありがとうございます!」
巫女「わたくし、この村の【龍息吹山】を祀る【龍頭宗】の長───梓と申します、以後お見知り置きを」ペコリ
兄(巫女さんだ…すげぇ袴だ初めて見る…)
妹「……」ダンッ
兄「あ痛い!? なんでぇ!?」
巫女「? どうかされましたか?」
兄「えっ、いやなんでもないといいますか…っ!」
巫女「ハッ!? も、もしやここまでの山道でお怪我をされたのでは……!? お、お待ちになって下さい! 今すぐ診てさし上げましょう…!」ダダッ
巫女「──あいたっ!」こけり
兄「え?」
巫女「きゃー!?」ゴロゴロゴロ
兄「うわぁー!?」
ばたーん!
32:以下、
兄「痛たた…」
兄(物凄い勢いで転がってきた、なんだ一体、何が起こって───あれ? 周りが暗い? どうして?)
『ふぇぇ…また転んでしまった…』
『またあずさ…というか、下下! 思いっ切り座ってるぞオマエ!?』
『…兄貴…』ピキピキ
兄「え、何、皆どこに居るの?」ハァハア
『ひぁっ!? い、いきなりそのようなことをされてしまうと…少しばかり戸惑ってしまいます…』モジモジ
『何をしとるんだ化け物ーッ!?』
『………………………………………』
兄「だぁーッ! 良く分からないけど取り敢えず、起き上がるー!」がばぁ!
巫女「きゃっ!」ころり
兄「……あ、なるほど袴の中に顔を突っ込んでたのか、って」チラリ
妹「………」ゴゴゴゴゴ
兄「待って違うよね妹、今のは確実に被害被ってたのわかるよね? 何もしてないよ! 本当だよぉー!?」
巫女「…」ぽっ
妹「…頬、染めてるけど?」
兄「ちっがぁーう! そんなすぐさま手を出す節操のない兄貴ちっがーう!」
33:以下、
女「またオマエは…巫女なら巫女らしく、元は『渡り巫女』としてスボンタイプのやつを履けばいいだろうに…」
巫女「うう…行灯袴は乙女チックさに欠けるからぁ?…やっぱり女袴が着たいからぁ?」
女「よく転けるクセして無茶するな! まったく!」
巫女「むしろ行灯袴の方がコケやすくなっちゃうの! スカートのほうが歩きやすいの!」プンスカプン
妹「どうして土下座するの? それは自分の罪を認めたってことで良いの?」
兄「…いいや違います、土下座する以外の他の方法が思いつかないからです。無罪です、無罪放免です」
巫女「今回の同行者とは、あの方たち?」
女「うむ、そうだ。エメト達は連れてこず、友と化け物を連れてきた」
巫女「ご友人と……物の怪? わたくしはどちらも、同じく人の姿に見えますが…?」
女「侮るなよ。くっく、あの男は我が一族を一度だけ滅ぼしてる」
巫女「へっ!? 滅ぼし…!? なぜそのような横暴な者が貴女と一緒に旅を…!?」
女「おいおい。そもそも太陽が登った昼過ぎに訪れてる時点で、不思議に思ってくれアズサ」
巫女「はぅあ!? た、確かに!? いつものような真っ暗夜中の迷惑極まりない訪問ではありませんでした!」
女「……いつもそう思ってたのぉ?」
巫女「し、しかし、滅ぼしたとなると───貴女の枷は終わったということですね、吸血鬼様」
女「む。まぁそのようなカタチとなったな。つーか変に畏まって様付けするな、きもちわるい」
巫女「た、立場がありますので! ご了承願いたいですよ!」
34:以下、
妹「くどくどくどくどくど」
兄「ハイ…ハイ…ソウデスネ…」ショボン
巫女「と、とりあえず…本堂に居るお姉様のところへ案内したいのですが…」ち、ちらちら
女「そうだな。仕事は早めに終わらせたほうが良いだろう、おいオマエ達! 兄妹喧嘩なんぞしておらんでさっさと行くぞ!」
妹「あ。うん、わかった」
兄「ひっぐ…ぐすっ…妹のガチ説教とか久しぶりすぎて…ふぐっ…ふぇ…フヘヘ…フヒッ! フヒヒヒッ!」
女(今回の化け物、マジで気持ち悪いな)
巫女(この殿方が物の怪。己の欲望を隠さない威風堂々たるものは感じられますが、…些か気品と風格が…)ウーン
妹「…なんか、ごめんなさい…」
巫女「心を読まれましたか!? い、いえっ! 全然そのようなことは思って無く…!!」
妹「いえ…慣れてるので大丈夫というか…はい…」
巫女「え、えっと、そのぉ?…案内しますのでどうぞ此方にぃ?」スススス
女「うむ!」
兄「…よいしょっと」パンパン
兄(えらいめにあった。嬢ちゃんが言ってたのはこれか、とんでもないドジっ娘と…)
兄「…昔に体質だと言ってラッキーでスケベなことばかり起こす奴とは会ったことあるけど、そのレベルだなまったく…」コキッ
兄「で、誰だ? さっきから見てるだろ───隠れてないで出てこいよ」
35:以下、
シーン
兄「あ。ちなみに【巫女さんの袴から開放された時】、【丁度みんなの死角から放った】この【矢】だけど…」スッ
兄「見てた通り誰にも見せてないから。わざわざ土下座してまで腹の下に隠してやったんだ、この努力を買おうとは思わねーかね」キョロキョロ
兄「……駄目か、こっちの配慮も無視を突き通すッ、とッ!!」
           ヒュウインッッ!! 
バチンッッ!! ビィイイイ…ンッ…!
兄「───もう一発とは度胸あるじゃねえか、オイ」
兄「そんなに俺に探し当てて欲しい…って、あれ? オイ! 逃げるのかよ!」
ガサガサガサ
兄(気配が遠くに行っちまった。くそ、エメトさん程じゃないけど、気配消しプラス遠距離過ぎて見つけ切れなかった)
兄「まったく、先が思いやられるコトを経験させるなよ」
兄「………、またまた一筋縄ではいかない展開かな。これはぁ、ふぁ?あ…」スタスタ
???
兄「──あれ? みんなして、ここで固まってどうしたんだ?」
36:以下、
妹「ん。なんか梓さんがここで待っててだってさ」
女「そりゃ女支度には時間がかかるだろう。ワタシもそうだもんよ」
兄「嬢ちゃんは何時だって白ワンピース一着じゃんか。つか、それよりも嬢ちゃんさ」
女「他にもいっぱいもっとるわ! 赤いワンピースだろ、ピンクだろ、あと水色! …ん? どうしたのだ?」
兄「───コレ、どういった代物なのか分かるか?」ヒョイ
女「…これは」
兄「シッ! 静かにしてくれ、あんまり妹に知られたくない」
女「……」
兄「見た感じただの矢に見えるんだけど、ちょっと違うっていうか。中央部分に『龍』みたいな絵の焦げ目が付いてるだろ?」
兄「───さっきコレが放たれてきた。俺に向かって、あの感じ、確実に首元を狙ってたね」
女「はぁ…」ボリボリ
兄「あん? どしたの嬢ちゃん?」
女「…良いか? 化け物よ、ワタシも正直に答えるからオマエも正直に答えるのだ」
兄「え、うん?」
女「どっからパクってきた?」
兄「オイ!? どういうことだそれ!?」
女「それは龍鱗里の【龍頭宗】で使われる祭神具の矢だ。退魔儀礼『鳴弦の儀』にて通常は弦だけを使うが、この宗教は違い──矢を実際に構えて放つ」
女「そうして魔鬼や邪気等を祓う目的に使用される。そんじょそこらの奴らが使っても良いシロモノじゃない、そも本堂の祭壇の奥のおっくに仕舞われるものだぞ!」
37:以下、
女「持ち出しなんぞすれば、重罪だ。しかもオマエは二本と来たもんだ! どーしてくれる! こっちは大事な収入源先だ、むごぐぐっ!」
兄「あ、あんまり大きな声を出すなって嬢ちゃん…っ!」グイイッ
妹「…?」じぃー
兄「はぁ、取り敢えずコレが滅茶苦茶すげーやつだって、誰もが持ってて良いやつじゃ無いんだな? 本当だよな?」
女「ぷあっ! [ピーーー]気か化け物よッ!? …あ、ああそのように捉えて良い、つか、まぢで盗ってきたのか…? ど、どうやって…? 錠前は? 警備の者は? どっちも破壊したのか?」
兄「とんでもないことサラッと言うな。違う、本当に殺されかけたんだ。死なないけど、殺されかけたの!」
女「意味が分からんッ!」
兄「俺だってわかんないってばッ!」
妹「ちょっとふたりとも? ここ、とても静かなんだから大声だしてると迷惑だってば」
女「う、うぅむ…すまんイモウト…」
兄「あ、ああごめん…妹ちゃん…」
妹「……、別にイイケド」フィ
兄「と、とにかくだ! 嬢ちゃん、このことは絶対に妹には話すなよっ? ゴタゴタが起こると分かったら、確実に帰るって言い出すから…!」
女「そ、そりゃワタシも困るぞ!? ワタシはもっとイモウトと仲良くなりたい…!」
兄「良い返事だ! だったらちょくちょく手助けしてもらう、一回限りじゃないはずだ、もしかしたら嬢ちゃんにも攻撃してくるかもしれんし…」
女「な、なんだとぉー!? オマエまったく迷惑なやっちゃな!!」
兄「アホ言え! その時は全力で守るっての! …だから俺の側からあんまり離れるなよ、約束だ」
女「えっ? あ、ハイ………うん、わかった…あ、ありがとう…」カァァ
39:以下、
兄「? 嬢ちゃん、どうした急に?」
女「なっ、なんでもないわ!」
巫女「──あ、皆様。少し宜しいでしょうか、姉様のことなのですが」
女「ん? おお、アズサよ。姉の方はどうだった? 会えそうだったか?」
巫女「…いえ、どうやら体調が芳しくないようで。吸血鬼様とお会いすることを楽しみにされていたのですが…」
女「むお…? そうか…ならしかたないだろう…では姉の方に伝えておいてくれ、今回も無事に仕事は済ませる、と」
巫女「はい。必ず」ペコリ
女「うむ。では早ながら現場に向かおーじゃないか、化け物よ、イモウトよ」
兄「お、おお」
妹「う、うん」
スタスタ
兄「…お姉さんって、その、なんていうか病弱な方なのか?」
妹「兄貴」
兄「あ、うん、一応聞いておかないと色々あれじゃんか…」
女「まーな。妹のアズサと違って身体は強くない、アイツはよく転ぶが姉はよく寝ている。その程度の違いだ」
兄「いや嬢ちゃん、それはちょっと駄目な言い方なんじゃ…」
女「何を言う。我が目で確認した結果がその言葉だ、別に間違ってはいない。姉妹であれど、他人であれど、違いなど存在しないだろう」
40:以下、
兄「はぁ、ちと難しいな……言いたいことは何となく分かるんだが、つまりどういうことだって?」
女「察しが悪いのぉ。化け物、オマエはなぜ妹のアズサが長と名乗ったのか考えなかったのか?」
兄「へっ?」
女「当主として継ぐのは、どの宗派や一族であっても、最初の子だ。前提が崩されるのはよほどの限り起こらん」
女「───そして龍頭宗の長は、長女が居ながらにして次女が治めておる。この不条理に、何を見る?」
兄「…ちょっと馬鹿な俺にはわから───」
妹「……【隠れ里】」
女「見事」
女「この里は元より、その姉を隠すために創られた『幸せの異世界』だということだ。明らかに時代錯誤で大規模な【枷】だろうが…」
女「この宗派は律儀にそれを守る。従来と続いたルールに縛られ、そして継続されるのだろう」
兄「じゃ、じゃあお姉さんが生きてるってことを隠すために、こんなへんぴな場所に住んでるってことか…?」
女「祀るご神体である『ドラゴン・ブレス』が近場にあるんだ。むしろ、好んで居座ってる感はあるぞ?」
女「しかし、オマエらのようになんら属しておらん者達にとっては歪な光景にみえるだろうが……悪いやつじゃない、仲良くしてやってくれ」
兄「ん、わかった。嬢ちゃんがそういうのなら」
妹「うん」
女「いい返事だ。流石は我が一族と繋がる兄妹だな! うむ、ではドラゴン・ブレスに向かうぞ!」
兄「おー! ところで嬢ちゃん、この里の人達が正式名称っぽい『龍息吹山』と言ってたけど? その名前まだ続けんの?」
女「却下だ」
41:以下、
兄「わー! いっこじぃ?!」
女「変なところばっか気にしないで、ちっとは妹のように本元を察すようにならんか! ふん!」ずんずんずん
???
巫女「お姉様」
「ああ、我が愛しい妹よ。お客様方はなんと?」
巫女「吸血鬼様が、一言。今年も無事に終わらせると仰られてました」
「それは、それは、なんと良きお言葉でしょう」
巫女「はい」
「梓」
巫女「はい。如何なさいましたか、お姉様」
「──忘れてはいけませんよ、この【枷】を」
巫女「…はい」
「私たちは一心同体。この龍頭宗を末永く安泰のもとに永続させる、これに疑いを持ってはいけません」
巫女「はい。…我が生命は貴女と共に」
「我が生命は、貴女と共に」
巫女「では、わたくしは吸血鬼様御一行の様子を見てまいります」
「ええ、お気をつけて。───特に、『あの方を』」
巫女「……。はい、お姉様」
42:以下、
龍息吹山
女「うむ。着いたぞ、ここがその『ドラゴン・ブレス』の弱点とも言える部分だな」
兄「…えらい反りだった長細い岩石が、ところせましに地面に突き刺さってんな。ありすぎて地面が見えないぞ」
妹「まるで大きな爪──ここまで所狭しと突き刺さってると、むしろ鱗?」
女「鱗か。良い表現をする、確かにここはドラゴンにとって触られたくない鱗に違いないだろう」
女「言わば逆鱗とでも名付けようか。そして、この岩石達は大小含めてすべてが【この山へにあるマグマ溜まりまで突き刺さっている】」
兄「へっ? じゃあこの小枝みたいに細い、岩も地中深くまで繋がってんの?」グッ
ズボァッ!!
兄「…あり? 抜けちゃったよ?」
女「ばああああッ!? コラァーッッ!! 馬鹿力が安々と逆鱗に触れるでないわッ! あほたれェー!!」
妹「…兄貴」ハァ
兄「だ、だって嬢ちゃんが埋まってるとか言うから取れるなんて思わなくて…!!」
女「最後までちゃんと聞いてから試せ化け物! そうじゃなく、岩石同士が互いに影響しあって刺さり合ってるのが正しい見解だ!」
女「──詳しい説明を省くが、地上から地中、そしてマグマ溜まりに至るまでに段々と岩石の規模が増していく」
女「地上にある小さき一個の岩石が、この奥の奥の奥の奥の奥にある巨大な岩石を押し出すトリガーとなり得るということだ」
兄「え、えーと、つまりは…?」
妹「今、兄貴が抜いた細い岩が、もしかしたら水蒸気爆発を起こす原因になったかもって話」
43:以下、
兄「えぇーッッ!? 超こえーんですけどッ!? そんなん土地に安易に踏み入れちゃってて良いの俺たち!?」
妹「…来る時見たよね看板、私有地だから入るなって」
兄「そ、そうだったとしても怖すぎるだろ…!? こんな細い岩抜いて大噴火とか、ヤバすぎないこの火山…?」
女「そりゃそーだろ! だってワタシが『改造』したからな!」
兄「……へ?」
女「しかし、この火山は元より特殊なのだ。カルデラと名付けられる部位もまた、多くの火山で多種多様の形態を持っておる」
女「特にドラゴン・ブレス。地下水の分量と、今は空のマグマ溜まりの下に存在する───落ち込んだ【本来のマグマ溜まり】」
女「何千、何万という様々な奇跡が揃って置きながら、なんら支障を来すこと無く整っている」
兄「そ、それを、嬢ちゃんはもしや……?」
女「ああ、我が一族のヴァンパイアとして改造させてもらった。この限られた岩石連なる部位、これが『ガスの抜きどころの起点』になると考えたワタシは…」
女「エメト、そしてマミーとゾンビ共を使って『本来存在しないはずの弱点』を作ったのだ」
兄「…」
妹「…」
女「やっぱワタシ天才だな、とつくづく思わった。すごいすごいと、当時はマミーがハンバーグサンドイッチを作ってくれたのがいい思い出だなぁ」
兄「…いやぁ、以前から色々とやべぇと思ってたけど、災害まで改造しちゃうか嬢ちゃんは…」ダラダラダラ
妹(この人は、本当に一体何者なんだろう…)
女「とにかく、だ。ここは安易に行動しては痛い目に合う、化け物よ。今回の仕事はオマエの馬鹿力にかかっておる、心してかかれ」
44:以下、
兄「……。大丈夫それ? 俺、怪我としかしない奴?」
女「そんな恐ろしいことするかッ」
妹「兄貴ならマグマ溜まりに突っ込んでも怪我しないよ、私が保証する」ニコ
兄「なんなの…っ…この俺に対する心配の皆無さは…っ…!」シクシク
女「エメトでもやれた仕事だ。ワタシの言うとおりに動けば問題はない、単なる力仕事だ。頭を使う必要などこれっぽちも無いぞ」
兄「ん…じゃあ俺はどうすれば良いの、嬢ちゃん」
女「無論。その力を存分に振るえ、化け物よ」
女「───殴って、殴って、殴るだけだ」
???
巫女「はぁ…はぁ…あ、やっと着きました?…」
妹「あ。どうも」
巫女「ええ、それで、吸血鬼様は捗っておられますか?」
妹「んー、私は専門的なことはわからないので。でも、大丈夫だと思いますよ」
ドォオオオオオオンッ…!
巫女「きゃっ」
妹「ほら、さっきから順調に鳴ってるし」
巫女「は、はあ…でも、このような爆音は以前までは聞いたことがないような…」
45:以下、
ドォオオオオオオン パラパラ…
妹「あ、お茶飲みます?」
巫女「えっ? あ、ハイ頂きます…!」
妹「…大丈夫ですよ。例えなにか起こっても女さんも居るし、結局、酷い目に合うのは兄貴だと思うし」ズズズッ
巫女「は、はあ…」
妹「お菓子もありますよ?」
巫女「あ。頂いきます」パァァァ
妹(…良かった、実は滅茶苦茶焦ってるの気づかれてないっぽい。だってさっきからご神体殴りまくってるなんて絶対に言えない)ダラダラダラ
巫女「あの、一つ宜しいでしょうか」
妹「え? あ、はい? なんですか?」
巫女「その、あなたがたご兄妹は、吸血鬼様とどのような…電話でも友達を連れてくるとだけしか」
妹「えー…っと、なんというか、兄貴が知り合ったのが女さんで、その流れに私がついてきたというか」
妹「特に特別な関係だとかそーいうのは無いんです。ただ旅行に連れて来てもらえた、という感じで」
巫女「なるほど。それはとても素晴らしいことですね」
妹「…素晴らしい?」
巫女「ええ、吸血鬼様にご友人とは……幼いころに同じ時を過ごした仲でしたので、少し、安心と言うか」
妹「………」
巫女「わたくしもそうなのですが、どうにもこのような生まれとなれば自由が効かない身分でして」
巫女「彼女の悩みや苦悩、それらを知ってながら何も言えない、言ってはいけない。それが常なのですよ」
46:以下、
妹「…そうなんですか」
巫女「…今の彼女はとても輝いて見えます。それが、わたくしにとっても凄く嬉しい」
巫女「ああ、一体どのような景色なのでしょうか。一切を禁じられた日の光の下で、真っ直ぐに歩けることを許された世界とは…」
ドォオオオオオオン
巫女「あ。ご、ごめんなさい! わたくしってば、えぇっとぉ…」てれてれ
妹「…えっと、その、余計なお世話かもしれませんけど」
巫女「は、はい! なんでしょうか…?」
妹「……、貴女もきっと、それは」
ドォオオオオオオン!!!!!!
妹「わっ!」
巫女「きゃー!?」
妹「…今まで一番凄い音が…」
巫女「ふ、噴火ですか!? しちゃうんですかっ!? えぇーッッッ!? それは今は流石にッ…!」バッ
妹「…?」
────ひゅうううううううううううううう
47:以下、
兄「……ぁぁああぁあああああああああああああッッ!!!」
どっごぉーん! パラパラパラ…
妹「兄貴」
兄「あい! 妹ちゃん怪我ないッ!?」ずぼぁっ
妹「何度、空から降ってくれば満足できるの? 何回、地面にクレーター作れば気が済むの?」
兄「ぐぁぁ…違うんだよぉ妹ーぉ! 嬢ちゃんの言った通りやってたら、威力ミスったみたいでさァ…!」
巫女「………」ボーゼン
兄「地面から水蒸気の圧力で飛び出してきた岩石に、空高くまで吹っ飛ばされちゃって……わぁあああー!? 巫女さァーんッ!?」
巫女「わぁあああ!? なぜ生きて喋って普通に立っておられるのですかァー!?」
兄「ご神体を殴るのは俺の意思ではなくて…ッ! へっ? そこなの?」
妹「ちょ、ちょっと兄貴は黙ってて。本気で言ってるから、彼女は、一般人。兄貴、わかる?」
兄「あ、ああそっか…俺の不死身しらないもんな…」
巫女「不死身…? そ、それは何か呪いの類などを…?」
兄「呪い…」ズーン
妹「梓さん、本当にごめんなさい。兄貴にとって呪いとか、魔術とか、そういった系はトラウマ持ちだから言わないであげて」
巫女「な、なんと…!」
妹「兄貴。今はとにかく女さんの所に戻って、早く」
48:以下、
兄「う、うん…もう呪いとかで魔女裁判めいたことされないよねお兄ちゃんは…?」
妹「大丈夫。地元の警察の人が来た時には、火が最後まで燃え尽きてて、そのまま炭の上で泣き崩れた、なんてことはもう起きないよ」
兄「うん…うん…わかった…」トボトボ
女「コラァアアアアアッッ!! なにやってんだ化け物ぉーッ! だっから言っただろー! 殴るときは妹体重分、十五人分ぐらいだって!」
兄「ひぅっ!?」
女「貴様はマヂで都合がつかんなまったくぅー!」ジダンダジダンダ
女「化け物は不死身で怪我もすぐ直るからいいかも知れんがッ、肉が弾け飛ぶ醜い激音を側で聞き入れるのはトラウマになるわッッ!!」
巫女「………」
女「だから次からはちゃんと言ったとおりに行動するよう心がけて───ばぁー!!!??? アズサー!? なぜここにぃー!?」
巫女「殴るとは一体…?」
女「ち、ちがっ…違うのだぞアズサ…? そ、それは別にドラゴン・ブレスを殴ってるわけじゃなくってだな…っ」そわそわ
巫女「で、では先ほどにこの方が降ってこられた理由は…」
女「かっ!! 勝手に!? 勝手に空飛んで落ちてきただけだよな化け物ぉー?」
兄「えっ!? あ、うん…! そ、そんな感じかなぁーって…!」
巫女「な、なんと! で、では巷で言う『どM』という感性なのですね…!?」
兄「嬢ちゃんが龍息吹山を殴れと命令しました。それで障害が出て、落っこちてきました」
女「わああああー!!!? ちがうちがうちがうー!!」
51:以下、
巫女「ご、ご神体である……龍息吹山を殴る、と…!?」
女「違うのだぞアズサー!? 詳しく話せばわかってもらえるはずだあ!」
兄(これで旅行もお終いかな、ああ、短かった家族旅行)ほろり
妹「ちょっと待って、梓さん」
巫女「そ、それはどういうことなのでしょうか…! え、なんでしょうか…?」
妹「…」チラリ
女「っ…?」
妹「はぁ。真面目に考えればわかると思うけれど、山を殴るってそれ、冗談だって思わないかな」
巫女「し、しかし、以前に吸血鬼様から【この山はおかしいから、とんでもない刺激がない限り、噴火はしない】と仰られていて…」
妹「だから殴るって? 馬鹿言わないで、いくら兄貴がアホみたいに怪力でも山を拳で刺激……なんて出来ないよ」
兄「うっ」
巫女「は、はあ…ではこの方が急に空から落ちてきたのは…」
妹「………」ポリポリ
スタスタ ぎゅっ
妹「…久しぶりの兄妹の旅行で、テンション上がって、良いところ見せようとしたんだよね。兄貴?」
兄「ヘェッッ!!??」
女「…む」
52:以下、
妹「兄貴って頭の中がお子ちゃまだから、そうやって無茶なことして気を引くぐらいしか能がないの」
兄「ちょ、ちょっとそれは?っ…流石に…っ」
妹「…違うの?」キラキラキラ
兄「そうでーすっ!」
巫女「な、なんと…そのような兄妹愛溢れる仲睦まじき、ああ、なんと…っ!」パッ
妹「わかってくれたかな。まあ、どっちにしろ兄貴が変態なのはかわりないんだけど」
巫女「いえっ! わたくし、とても感動しております! 素晴らしい信頼関係なのですよ、うう…っ…」
妹(チョロい)
兄「ふぇへへ…フヒヒ…」
妹「そーいうことで、梓さん。女さんも仕事で忙しいでしょうし、邪魔しちゃ悪いから一緒に帰りませんか」
巫女「えっ? しかし長として見届けることも大切かと思うのですが…」
妹「大丈夫だよね? 間違っても噴火なんてさせないよね、女さん?」
女「あ、ああ、大丈夫だ! ワタシに任せれば全て、安全に終わるだろうな!」
妹「だそうですよ」
巫女「む、むぅ?…───わかりました、では吸血鬼様。後は宜しくお願いします」ペコリ
女「う、うむともだ!」
妹「じゃあ帰りましょうか。あ。兄貴は女さんと同行して、きちんと無事に帰ってきてよね」
53:以下、
兄「うぃッす!」ピッシィーン
妹「ん」
スタスタ スタスタ
女「…あ、あれで良かったのか? なんだか腑に落ちないのだが…」
兄「ふぇへへ…妹に腕を組んでもらっちゃった…」デレデレ
女「一つ。聞きたいのだが、どうしたバケモノ? 何時も為らず今日だけは、ワタシも見逃せんほどに…その…キモイぞ?」
兄「うむぐっ! …正直に言いやがるな嬢ちゃん、まぁ、自分でも気づいてるよ」ジュル
兄「実は妹と遠出すんのは、今日が初めてなんだよ。生まれて初めて、だから嫌でもテンションマックスになっちまう…」
女「な、なんと! 家族で旅行などいかんのか? ワタシであっても、父上様と何度か行ったことがあるぞ」
兄「親がちっと特殊でな。お袋もこの街から出たがらないし、…クソ親父も傭兵の仕事から全く帰ってこないし」
女「む?」
兄「まぁうちの家庭環境なんてどーでもいいだろ。とにかく、俺はとってつもなく今回の旅行を楽しみにしてたわけ!」
兄「──何処をどう向いても妹がいる! 同じ空間に数十分以上、避けられること無く一緒にいられる!」
兄「ああっ! なんて幸せなことだろかねえー嬢ちゃん! 俺は嬉しすぎて、一回死んでも生き返りそうだぜ…!」
女「うむ。オマエは確かに、イモウトに死ぬなと言われたら、生き返りそうだな」コクコク
兄「いや一回だけあるよ? 以前に、食っちゃ駄目なテングダケの毒をモロに食らって汗とともに毒素だけ取り出した時も───」
54:以下、
兄「───……」ピタリ
女「な、なぜ血流を巡らず汗で流出するのだ…?」
兄「シッ! ──誰かに見られてる、嬢ちゃん」キョロキョロ
女「なにっ?」
兄「今、気づいた。しかも殺意満々だ、こっちを[ピーーー]気で観察してる」
女「じょ、冗談も休み休み言え、技術を磨いたエメトやマミーならいざしらず、化け物はそんなことも出来るのか?」
兄「今更過ぎるだろ。ちなにみに、マミー姉ちゃんにならって『死角のデッドサイド』までわかるようになっちまったぞ」
女「ハッ! すまんが化け物、オマエは確かに化け物だが科学的根拠が得られん現象は信じられんぞ! オマエの不死身はギリギリだがワタシには見破れ───」
ヒュウインッッ!! バチィイイイイインッッ…!
女「…」
兄「ほら来た。また矢だ」
女「なん、なななななっ、なん…っ!!?」
兄「しっかも嬢ちゃんの喉元狙ってきやがった。見事に標的が移っちまったな、ごめん」ぽいっ
女「ばっ化け物ぉ?!! 守るんだぞっ? ワタシをちゃんと守るんだぞ…っ!?」ブルブルブル
兄「了解した」バッ
兄「────んんんんんんんッッッ!!」ギュウウウウウウウ
55:以下、
女「……? オマエ何をするつもり、」
兄「ハァ!!! 震脚ーぅッッ!!」
ドッ ミシッ! ドッゴーン!
兄(さっきは逃したが、今回は震脚からの振動の違いで感知してやる。む! そこだァー!!)バッ
「っ…!」
兄「おらぁあああああああああ!!」ダダダダダ
スカっ
兄「──あり? 足元無くなっ、」
プッシュー! ボッッッッ!!
兄「ぱぐぁーっ!!?」ドメチッ ぴゅーーーーーん
女「ばっ!! 馬鹿者ーッ! この地域一帯に広範囲に衝撃なんぞやるからそうなるー! 落ち込んだ岩石のバランスが崩れ…ッ!」
ボゴン! ボゴン! ドゴン! ガタガタガタ!
女「地面に埋まった岩石共が、水蒸気の圧力で飛び出してきてッ──あわわわわわわ──ふ、噴火するぞこれはーーーッ!!」
兄「そーーーーんなこと言ってもーーーーーーーー!!」ヒュウウウウ
ヒュンヒュンヒュン
56:以下、
兄(ッ、風切り音。幾つか弓が放たれた音───)ギョロ
兄「空中なら当てられると思ったか、それでも俺は避け……ッ!?」
スカ スカ
兄「…? 当たらない、…?」
スッ ヒュウウウ… 
兄(なんだ。放つ威力をミスったみたいに、地面に落ちていったけど)
───ストン ストン
ぶっしゅうううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!!!
兄「な…っ!!? 急に水蒸気が地面から、あっづうううううううううううううううううう!!?」
女「……!!?」
兄「蒸し焼きされッ! ぐぁあああああああ!!」ヒューン ドゴーン
女「お、おい大丈夫か化け物!? おい!!」
兄「ばああああああああッ!!!?」ぶわぁっ
女「だああああああああッ!!?!」ビックーン
57:以下、
兄「あづづづづッ! あづーぃ! ぐぁー!」ゴロゴロゴロ
女「うっ…」ババッ
兄「ちょ、ちょっとーッ!? 避けてないで心配して駆け寄ってきてよぉー!」バッ
女「ば、馬鹿言うな! げほごほっ! 数百度以上で気化した単純な水蒸気ならまだ良いが! そりゃガスが含まれてる! ヘタしたら一呼吸でお陀仏だ!」
兄「へ…ガスって…そういわれるとちょっと喉が痛いような…?」ウーン
女「二酸化硫黄や硫化カルボニルを吸い込んで置いて喉がいたいとな!? どれも数分で死に至る程のものでありがなら…ううっ兎に角、噴出口から離れろ!」
兄「う、うん」とぼとぼ
女「…あいも変わらず、自然災害に巻き込まれておいてピンピンされてると常識を疑いたくなるぞ…」
兄「うへぇ…滅茶苦茶卵臭いよぉ…」
女「後で風呂にはいれ。里に戻れば温泉もある、それよりも、だ」チラ
ぶっしゅうううううううううう
女「なぜ、急に水蒸気が噴出したのだ…?」
兄「あ。それな、なんか空中に放たれた矢が三本ぐらい、地面に刺さったんだよ。そしたらブッシューて出た感じ?」
女「たっ、たった3本の矢で…ッ!? 新たな噴出口がいともたやすく刺激されたとでも言うのか…!?」
兄「…やっぱり凄いことなのか?」
女「ああ、驚愕だ。ワタシであってもピンポイントでガス抜きなんぞ出来やしない。…地面に刺さった矢は、オマエを前に襲ったものと一緒だったか?」
58:以下、
兄「え? 多分、そうだったかな。言っちゃえばさっき嬢ちゃんを狙った矢とも一緒だった」
女「…オマエの言うとおり、確かに命を狙われているようだ」
兄「だろ? 俺が言ったとおりだったじゃんか」
女「違う」
女「…それは、違う。オマエの命なんぞ死んでも死なないのだ、意味など無い」
兄「ちょっとー?」
女「言ってしまえば【ワタシの命であっても相手には興味を持たれておらんだろう】。これはもっと大規模な狙いに違いない…」
兄「えっ?」
女「かも、しれん」
兄「いや、自信満々な表情であやふやなこと言われても…」
女「……。まったく何を隠しているのか知らんが、とにかく今は後処理だ」
兄「後処理?」
女「この水蒸気がどのレベルで『ドラゴン・ブレス』に影響しているか調べる。吹き出されたガス残留も気になるから、軽く受け皿的なものを作るぞ」
女「化け物、手伝え。仕事の手間は増えたが、確かにガス抜きをは完了したみたいだからな」
ぶっしゅううううう…
兄「…あのさ、俺達って無事に家に帰れるのかな」
女「…オマエが関わってくると、なーんにも保証なんてできやしない、まったく」
59:以下、
山道 帰り道組
妹(後ろで色々と問題が合ってる気がする)もんもん
妹「…はあ、また厄介事にでも巻き込まれてるのかな。兄貴ってば」
巫女「───も、申し訳ありません! お待たせしました…!」タタッ
妹「あ。お帰りなさい」
巫女「ええ、ええ、まさか見慣れた山道にて珍しい山菜を見つけるとは思わなくて、ふぃー疲れました?」
妹「良いのが採れましたか?」
巫女「それはもちろんですよ! 今晩の一品が増えたと思ってくだされば、ええ、絶品ですよ」ニコニコ
妹「なるほど。それは超楽しみです」
巫女「腕によりをかけて作らさせてもらいます!」
妹「……」
巫女「ふんふーん♪」スタスタ
妹「ねえ梓さん」
巫女「はい? なんでしょうか?」
妹「一つだけ、気になってることがあるんだ。別に答えなくても良いんだけどさ、あ、敬語じゃなくても大丈夫かな…?」
巫女「もちろんです! お気になさらず、好きなように」
妹「ありがと。あのね、…お姉さんのことなのだけれど」
巫女「お姉さまですか?」
妹「うん。梓さんのお姉さんって、多分だけど梓さんと双子か…それとも同年代じゃない?」
60:以下、
巫女「……」ボーゼン
妹「あれ? 違ったかな?」
巫女「なっ、何故それを…っ!? きゅ、吸血鬼様からお聞きになったのですか…!?」
妹「ううん、聞いてないよ。ただ私が【直感的】に思っただけだから」
巫女「…直感的に?」
妹「例えば梓さんが着てる巫女服。それってお姉さんのお下がりじゃないかな」
妹「…所々、補修が見えるし、けれど丈を合わせるよな修正は見られないからね」
妹「和服って案外、身体のラインに沿ったものじゃないと見栄えが悪くなっちゃうからさ。だから、お姉さんと同じ体格だと思ったの」
巫女「しかしですね、それでも同じ年だとはわからないのでは…?」
妹「うん。だから、カマかけたの」
巫女「へっ?」
妹「本当はそれしか分からなかったから、取り敢えず双子か同年代じゃないかって訊いてみた」
巫女「な、なるほど…」
妹「ごめんね。急に変なこと訊いて、それと騙すようなことしちゃって」
妹「───でも、そうは言っても梓さん」
巫女「っ…」びくっ
妹「何か隠してること、ないかな。なんだか嫌な予感がするんだよ、とっても厄介事になるんじゃないかってさ」
巫女「…すみません、仰っている意味がよく…」
妹「本当に? ──本当に、兄貴の事を見るのは初めてじゃない?」
巫女「ッッ……!?」
61:以下、
妹「……。気になったのは3つ」
妹「この里は隠れ里。本来ならきっと、誰でも入れる場所じゃない。女さんのような仕事でない限り来ちゃ駄目何じゃないかと思ってた」
妹「旅行だからと気軽に私達を迎い入れてくれたけど、私には不思議な話しか思えない」
妹「二つ目が、兄貴の不死身っぷりを見たリアクション……普通ね、兄貴の死に際を見た人って言葉を失うんだよ」
妹「けれど貴女は普通にリアクションを取った。それこそ、まるで知っていたかのようなわざとらしい感じで」
巫女「……っ…」
妹「そして3つめ」
妹「どうして、今はスカート袴じゃないの?」
巫女「…それは、」
妹「山道でもとより歩いにくいのに、わざわざ行灯袴を着てる理由は何? 転けやすから履きたくないんだよね、それって」
妹「けれど、今は何かしらの理由で履かなくちゃダメだった。特に疑問に為らないかもだけど、私はとても気になるんだ」
巫女「………」
妹「梓さん。何を隠しているのか教えてほしい、私はその不安要素を知っておかなくちゃ駄目なの」
巫女「…しかし」
妹「お願い」
巫女「………」
妹「ふぅ、理由としてはね。あの馬鹿兄貴がまた変なことに巻き込まれるのなら、それを予めに潰しておきたいんだ」
妹「──だって、可哀想だもの。あれだけ楽しみにしてた旅行がおじゃんになっちゃうの、見てらんないからさ」
巫女「……お兄様思いなのですね」
62:以下、
妹「そう? そう、かな。私は単に面倒臭いことが嫌いなだけ、無駄なことを最初から潰しておきたいだけ」
妹「例えその行為が他人にとって大切なことであっても───私は、邪魔になるのなら否定する」
巫女「……」
妹「急に変なこと言い出したごめんなさい。でも、わかってほしいの。私はただ平和に2日を過ごして帰りたいだけだから」
巫女「…いえ、わかりますですよ。それはきっと正しい思いのはずなのです」
巫女「妹様。ええ、貴女の言うとおり、私はお兄様の姿は───初見ではありません」
妹「そっか。それは何処で? 写真? 映像?」
巫女「……手紙でございます」
妹「手紙…?」
巫女「妹様、ああ、ああ、妹様…! どうかこのことはご内密に、吸血鬼様であっても…例えご本人であってさえもです…!」
巫女「───貴女のお兄様は、今宵、命を狙われているのですよ…っ」
妹「どういう、こと? 命が狙われてるって……兄貴の命が? この里で?」
巫女「はい、わたくしは話を聞いただけであり、手紙の内容は知り得ていません」
巫女「全てはお姉様が仰った事。あの方は、【不吉を呼ぶ者】として各一族にて有名なのです」
妹「………」
巫女「空を統べる『鷹李雲』、地を治める『龍頭宗』、海を束ねる『櫛羅渦』」
巫女「この三頭全てがお兄様のことを驚異的な存在として認識しており、そして殺害又は抹消を望んでおられます」
妹「どうして? 言っちゃ何だけど、例え兄貴が不死身で馬鹿力でも、梓さんたちには関係のないことだよね?」
巫女「……ヴァンパイア一族」
63:以下、
巫女「あの方は吸血鬼様の枷を外した、それは間違いないのでしょう?」
妹「…多分、だけど」
巫女「単純なのですよ。結局は、その枷が外れたことに……三頭が怯えているのです」
巫女「また【赤い夜】が訪れるのではないかと。生まれる子は全て死に絶え、老人は幸せな死を迎えず、若者は年端も行かず床に伏す」
妹「…赤い、夜?」
巫女「あぁ、わたくしもまた怯えているのです。吸血鬼様は知らずとも、いずれ起こる可能性を……わたくし達は……」
妹「え、えっと、梓さん? それはえっと、兄貴が女さんを外に引っ張りだしたから? それで周りが怒ってるってこと?」
巫女「……はい」
妹「でも、貴女は女さんを素敵だって…」
巫女「妹様」
巫女「──わたくしは龍頭宗の長なのですよ、例え古くからの友人であっても、弁えなければならぬものもありますでしょう」
妹「……」
巫女「ご理解して欲しいのです。この件はきっと、妹様には関係がない。ただ兄様が何事も無く二日間を過ごせば良いのです」
妹「…え?」
巫女「確かに三頭はあの方の殺害を望んでおられる。しかし、今回は様子見なのです。まだ【判断は下されていない】」
妹「…だから兄貴をこの里に呼んだんだ、兄貴が危険な人物じゃないかと見極めるために」
巫女「はい。そして吸血鬼様が変わらず、わたくしたちの望む仕事を行うかどうか。それも含めてです」
妹「なるほど…じゃあ兄貴が本当に何もしなかったら、それて無事に終わるってことか」
巫女「……」コクリ
妹「ん。そっか、わかった。ありがとう梓さん、言い難いことを言ってくれて。本当に感謝してる」
64:以下、
巫女「いえ、わたくしも初めから話すべきでした。貴女のようなご兄妹を思う方に、その生命の危険を告げないとは…例え長であったとしても…」キュッ
妹「んーん、いいんだよ。大丈夫だから、そんなこと」
巫女「……。そんな、こと?」きょとん
妹「うん。だって兄貴の命の危険性だけなんでしょ? 別に世界規模で破滅を迎えるとか、街全体の住民を人質に取られるとか」
妹「空が割れるほどのかまいたちを起こすロケットを止めたりだとか。後はまぁ、色々と【過去にあった】けれど」
巫女「……」ぽかーん
妹「結局は兄貴の身体一つが狙われてるんだったら、うん、別に平気かなって」
巫女「それは、どうして、そのように思われるのですか……?」
妹「え? だって梓さんも知ってるでしょ、うちの兄貴は不死身だよ?」
巫女「し、しかしですねッ? 例えそうであっても…!」
妹「女さんも危険だって? あれは自業自得だよ、兄貴もそれはわかってるはず。だから死ぬ気で守るはずだもん」
妹「──それに、私の命も危ないんだったら、そんな心配いらないよ」
巫女「………」
妹「だって私、兄貴の為なら死ねるから」
巫女「───……」
妹「ん。そんな感じだから、まあ兄貴が普通に過ごせば安全だってわかれば?…ふわぁ?…ちょっとは気が楽になったかな、うん」
巫女「…妹様」
巫女「貴女は、どうしてそこまで…どのようにして…そこまで…」
65:以下、
巫女「いえ、わたくしも初めから話すべきでした。貴女のようなご兄妹を思う方に、その生命の危険を告げないとは…例え長であったとしても…」キュッ
妹「んーん、いいんだよ。大丈夫だから、そんなこと」
巫女「……。そんな、こと?」きょとん
妹「うん。だって兄貴の命の危険性だけなんでしょ? 別に世界規模で破滅を迎えるとか、街全体の住民を人質に取られるとか」
妹「空が割れるほどのかまいたちを起こすロケットを止めたりだとか。後はまぁ、色々と【過去にあった】けれど」
巫女「……」ぽかーん
妹「結局は兄貴の身体一つが狙われてるんだったら、うん、別に平気かなって」
巫女「それは、どうして、そのように思われるのですか……?」
妹「え? だって梓さんも知ってるでしょ、うちの兄貴は不死身だよ?」
巫女「し、しかしですねッ? 例えそうであっても…!」
妹「女さんも危険だって? あれは自業自得だよ、兄貴もそれはわかってるはず。だから死ぬ気で守るはずだもん」
妹「──それに、私の命も危ないんだったら、そんな心配いらないよ」
巫女「………」
妹「だって私、兄貴の為なら[ピーーー]るから」
巫女「───……」
妹「ん。そんな感じだから、まあ兄貴が普通に過ごせば安全だってわかれば?…ふわぁ?…ちょっとは気が楽になったかな、うん」
巫女「…妹様」
巫女「貴女は、どうしてそこまで…どのようにして…そこまで…」
66:以下、
巫女「いえ、わたくしも初めから話すべきでした。貴女のようなご兄妹を思う方に、その生命の危険を告げないとは…例え長であったとしても…」キュッ
妹「んーん、いいんだよ。大丈夫だから、そんなこと」
巫女「……。そんな、こと?」きょとん
妹「うん。だって兄貴の命の危険性だけなんでしょ? 別に世界規模で破滅を迎えるとか、街全体の住民を人質に取られるとか」
妹「空が割れるほどのかまいたちを起こすロケットを止めたりだとか。後はまぁ、色々と【過去にあった】けれど」
巫女「……」ぽかーん
妹「結局は兄貴の身体一つが狙われてるんだったら、うん、別に平気かなって」
巫女「それは、どうして、そのように思われるのですか……?」
妹「え? だって梓さんも知ってるでしょ、うちの兄貴は不死身だよ?」
巫女「し、しかしですねッ? 例えそうであっても…!」
妹「女さんも危険だって? あれは自業自得だよ、兄貴もそれはわかってるはず。だから死ぬ気で守るはずだもん」
妹「──それに、私の命も危ないんだったら、そんな心配いらないよ」
巫女「………」
妹「だって私、兄貴の為なら死んでもいいから」
巫女「───……」
妹「ん。そんな感じだから、まあ兄貴が普通に過ごせば安全だってわかれば?…ふわぁ?…ちょっとは気が楽になったかな、うん」
巫女「…妹様」
巫女「貴女は、どうしてそこまで…どのようにして…そこまで…」
67:以下、
妹「…ん、じゃあ梓さんのこと色々と訊かせてくれたら教えてあげる」
巫女「へっ? わ、わたくしのことをです、か?」
妹「この際だから、友達に為らない?」
巫女「ふぇっっ!!?!」
妹「だってもう面倒臭いことで知り合っちゃったなら、後はもう好き勝手すればいいだけなんだよ」
妹「【二つは同時に選べない】。どちらも同等に大切でも、私は【本当にしたいことを選んで生きたいんだ】」
妹「兄貴は兄貴で心配。でも、今の私は──梓さんと友達に為りたいな、って思ってる」
巫女「…妹様…」
妹「どう? それに女さんとも今日で友達になれたんだよ、もう一人増えたって、誰も怒らないでしょ」ニコ
巫女「…友達、ですか」
妹「好きなお菓子を話したり」
巫女「うっ」ピクッ
妹「…好きな芸能人とか言い合ったり」
巫女「むぃっ」ピクピクッ
妹「夜は枕くっつけて、恋話トーク?」
巫女「…ぱぁあぁあ…超やりたいですぅ…」
妹「でしょ? にひひ」
巫女「お、お友達ですかっ? そうであれば、色々と…? 気兼ねなく、話せる…と?」
68:以下、
妹「うん。そうだよ、それが友達ってことだもん」
巫女「…素敵ですね」
妹「いやいや、普通だよ。これが普通なんだよ、梓さん」
巫女「………」
巫女「…わかりました。妹様、ではわたくしとお友達になって下さい」
妹「おっけ。なら、さっそくだけど呼び捨てで呼び合おっか?」
巫女「なっ! ななななな、なんとっ!? 呼び捨てですか!? それはなんという……修行ですか!?」
妹「うん。わかった、貴女も女さんタイプなんだね。よし! ゆっくりやっていこう!」
巫女「は、はい! ご、ごきょうじゅおねがいします!」
妹「うむうむ。こりゃあ先が長いぞ、頑張っていこうね」
巫女「……はい!」
妹「えーと、例えばだけどさ。うちの兄貴居るじゃん、あんな感じの男性ってどーおもう? カッコいい?」スタスタ
巫女「か、かっこいいと思われますが……? ち、違うのでしょうか…?」スタスタ
スタスタ ──ガタリ コト…
巫女「…」ピクッ
妹「ん? どうかしたの梓さん?」 
巫女「いえ、なにも」ニコ
70:以下、
???
兄「んお? 嬢ちゃん。あそこ見て、里の人たちが集まってる」
女「この山道でか? 一体どこなのだ? まったく見えんが…」
兄「あ、ゴメ、こっから数キロ先のだったわ。丁度、里の入り口辺りらへん」じぃー
女「オマエとの会話は時に疲れるな…どう言った様子なんだ、言ってみろ」
兄「特には……ただ、なんだか慌ただしい雰囲気ではあるかな、多分」
女「そりゃそうだろな」
兄「え、なんで?」
女「祭神具が消えたのだぞ、しかも最低で六本以上。これが騒ぎにならんで何になる」
兄「あ?…そりゃスゲー困るわな、うん」
女「しかし予想より早く騒動になったな。少し面倒ごとになるかもしれん。───そもそもだ、ワタシ達のような余所者は里のもの達にとって良くは思われておらん」
兄「だろうと思った。この里に訪れたとき、出迎えてきてくれたのは巫女さん独りだけだった、しかも長なのにな」
女「うむ? 気付いておったのか?」
兄「そりゃ俺みたいな【外れモン】は人一倍人の視線に敏感だっての。特にここの里に着いてから、やけに視線だけは感じてた。なのに人の気配は全くという摩訶不思議ぐあい」
兄「…それが弓矢で攻撃、なんて発展するとはわからんかったけど、とにかく常に、多勢に、隠れて見られてたことはわかってた」
女「……どうする、化け物」
兄「あん? そりゃどういった質問だ?」
女「逃げるのも得策だ。関係がないとワタシ達は知っているが、里のもの達は真っ向から疑ってかかるぞ。して場所にいたっては道理が通りにくい隠れ里ときた」
71:以下、
女「ここの者達は【まだ穏便な方だから】今はまだ疑われる程度で済むかもしれん。しかし彼らが信教する祭神具となれば、下手に動けば怒りを買いかねん」
兄「……なんもかんも放り投げて逃げるってか」
女「里さえ出てしまえばこっちのもんだからな。隠れ里の範疇外であれば、よほどの限りは手出しはせんだろう。…まぁ禍根は残るだろうが」
女「この際だ。ワタシの仕事先が減ることも厭わんぞ、それぐらいのことにオマエ達二人を巻き込んでしまったと思ってるつもりだ」
兄「…………」
女「…どうする? 決めるのはオマエだ化け物」
兄「…何か」クンクン
兄「何か匂うんだよなぁ…こりゃ余計なモンであって、本来あっちゃいけねぇモンだと思うんだよ嬢ちゃん…」
女「言ってることはわからんでもない。祭神具を盗みだし、誰かがワタシ達を陥れようとしている可能性も否めん。さっきの襲撃もそうだ、しかしだな…」
兄「……。俺は馬鹿だから力関係ならバッコバッコと殴り倒して、ハイおしまい! つぅーことは出来る。むしろそれで終わるんだったらお茶の子さいさいだ」
兄「けれど、これはアレだな、妹を頼った方が良い気がする」
女「…巻き込むのか?」
兄「俺だって妹を巻き込みたくない、それに面倒事も。…けれど嬢ちゃん、もしこれが逆の立場だったら同じ事をしてたぜ」
兄「───嬢ちゃんを困らせたくない、だから出来ることをして、最後まで足掻き通したい」
兄「きっと妹も同じことを思うはずだ。それが一番だってな」
女「っ……し、しかしだな…!」
兄「なぁ嬢ちゃん。困ってる人を助けることに、理由は必要か?」
72:以下、
女「そ、それはオマエこそが一番悩んでることではないのか…っ?」
兄「その通りだ。俺は人を助けること、人のために動けるから【本当の化け物じゃない】と思ってる」
兄「…そう妹に教えられたからだ」
ギュググググ
兄「それが根っから正しいと、俺は本気で思ってるんだよ。悪いことや良いことだから、なんて、俺が化け物みたいに強いから……つう事で揺れ動きたくない」
兄「妹が『人の為に動ける化け物であれ』と言って、そして今でも信じてくれてるのなら、何時だって人のために俺は生き続けるよ」
女「……化け物」
兄「嬢ちゃん、行くぞ。あっちが少し不穏な空気になった、妹と巫女さんが危ないかもしれん」ぎゅっ
女「……うむ」コクリ
兄「嬢ちゃん」
女「な、なんだ?」
兄「あんがとな。俺たちの為に逃げるという選択をしてくれて、俺たちなんかの為に自分を犠牲にしようとしてくれて」
女「ば、ばかもの! ワタシはもう、オマエ達と他人のつもりなど毛頭ないのだ…!!」
兄「……。気に入った」ギュググググ
兄「というか火がついた。その心構え、人のために動ける嬢ちゃんの為に───」
兄「───俺は、今、また化け物として胸を張ろうか」
ギュッ ズッドォオオオオオオオオンンッッ!!!
74:以下、
龍鱗里 入り口
「梓様! 梓様…!」
巫女「何ごとですかっ? この騒ぎは一体……」
「先ほど警備のものから、祭神具の矢が十本程なくなってるという報告が───」チラ
妹「…?」ぴく
巫女「祭神具の矢が? しかし、倉庫には錠をしている筈でしょう?」
「…それが…っ」
「何者かに壊されたようで…まるで【強引に捩じ切られた】かのような不気味な壊れ方を…っ」
巫女「それは…」
妹「梓さん。ちょっと待って、言いたいことも分かるし私だって【そう思ってしまってる】から」
巫女「妹様…」
妹「話は上手く掴めないけど、とにかく大事なモノが倉庫からなくなって困ってる。それで良いんだよね?」
巫女「は、はい。そして倉庫には鍵が閉まっていました、長であるわたくし以外開けられるはずもありません」
妹「で、捩じ切られたかのように鍵が壊されて持って行かれていたと。うん、それじゃあまず壊れた錠を見てみようよ」
「…お前は何なのだ、長に向かって意見などを…っ!」
75:以下、
巫女「落ち着きなさい、今はわたくしたちが言い争っている場合ではありません」バッ
「し、しかし梓様…!」
「言ってしまえばこの者たちが現れた途端このようなことになったのですよ!? 今まで何ら平穏な里であったというのに…っ」
「だ、だから俺達は反対だったんだ! 幾らご神体の『娯楽』だといえ、あの赤い夜を産む吸血鬼などに…!」
妹「………」
巫女「み、皆の者! 落ち着きなさい! 龍頭宗の長の命令ですッ!」
「コイツラが奪ったんだ! 吸血鬼は全てを奪っていく! 我々の命も、そしてご神体の全てを!」
「何が目的だよそ者ッ! また私達を赤い夜に巻き込むのか…!?」
「返せーっ! 我々の祭神具を返せーッ!」
妹「…はぁ」
妹「───いやはや、笑っちゃうよね。なにそれテンプレ過ぎない?」
「…何?」
妹「あのね、ちょっとは考えなよ、幾ら人里離れた辺鄙な場所で暮らしてるとはいえ、思考回路すら凝り固まったらどーしようもないよ」
76:以下、
「貴様…」
妹「そこの人」ピッ
「っ?!」
妹「ここで集まった人たちの割合で見る限り、唯一の男性で、身体も大きいね。さっきまで倉庫を警備してた人?」
「…っ…」
妹「見たいだね。じゃあ実際に壊れた鍵を見たんだ、どんな感じだったか教えてよ」
「な、何故そのようなことを余所者にっ」
妹「───良いから教えなよ」
妹「その【膨らんでる胸元に入った錠前】、見せれば済む話でしょ? 違う?」
「な、にッ」
巫女「……!? まさか現場を保存せず持ってきたのですか……!?」
「あ、ああ、いや、しかしッ、この場合は既に盗賊は決まったようなものではありませんかッ?」
巫女「ッッ??!! なんという無様な…ッ! 例え皆が疑ってたとしても【確かな証拠】がなければ断じて、わたくしは認めませんッ!」
「あっ…うっ…」
妹「待って、落ち着いて梓さん。起こってしまったのならもう飲み込むしかしない、とにかく私は壊れた錠前を見せて欲しい」
巫女「ッ……わかりました、では、その隠し持っている錠前を早く出しなさいッ!」
77:以下、
「は、はいっ」
ガチャリ
妹「……」じっ
巫女「こ、これは…まるで【鉤爪を持った化け物】に壊され、いや、蹂躙されたかのように…っ」
妹「──はぁ」
巫女「い、妹様? どうかなされましたかっ?」
妹「いや、うん、大丈夫なんだけど。なんていうかやっぱりなって」
巫女「え?」
妹「うん」
妹(ああ、どう考えても【兄貴が壊したように見えてしまう】。人為的な威力を超えてる、破損部位がまるで尖ったハンマーで殴られたかのようだ)
妹(流石に言い逃れできない。兄貴が化け物だと分かってしまえば、この里の人達は100%疑ってかかる)
巫女「この錠前が壊れる瞬間、貴方はどこに居たのですか」
「わ、私は交代のものと会うために現場を離れていました…すみません…通常ならば現場での交代なのですが…多分、その時かと…」
妹(ヤバイヤバイヤバイ)
妹(兄貴ぃ…一体今度は何に巻き込まれてるって言うのよ、マジで、私は絶対に巻きまないでって言ってるじゃん何時もさァ…!)
妹(なのになのに、すぐこうやって面倒事になっちゃう! だから一緒に旅行なんて着たくなかった! 一緒に数十分以上居たくなかった!)
78:以下、
妹(無事に…無事に【あと2日過ごせば何ら支障なく終わる】っていうのにっ! …ああ、もうっ…いまさら嘆いてたって仕方ないっ)
妹(どーせ最後の最後に死にかけるような目に合うのは兄貴のほうなんだしッ!)
妹「あの…!!」
巫女「は、はい!」ビクン
妹「…その、あの、ですね…」
巫女「はい…?」
『貴女のお兄様は、今宵、命を狙われているのですよ』
妹(──…兄貴、兄貴なら。ここで【兄貴が思う私ならここで一体何をする?】)
『──妹』
『例え笑ってしまうぐらい簡単に、この世界が滅んでしまうとしたら』
『きっとそんな冗談みたいなことは起きないだろうけど、でも、それでも絶対にお前を守ってみせるんだ』
『そしてこんなことを冗談のように誓った化け物を、最後まで信じててくれ』
妹「……」ギュッ
妹「……。みなさん落ち着いて聞いてください、この錠前のことで報告したいことがあります」
「何っ?」
巫女「何か分かられたのですか!? 妹様!」
79:以下、
妹(ああ、そうとも分かったさ。【それは】私が思う兄貴ならするだろうし、兄貴がおもう私もすると思うんだ)
妹(絶対に。絶対に絶対に絶対に、誤魔化して逃げたりしない。こっちから立ち向かってやる、逆にこっちに巻き込んで見せる)
妹(──だって私は、兄貴の妹だから)
『バカ言わないでよ、お兄ちゃん』
『その冗談まったく笑えない。おんぶにだっことか、ほんと惨めじゃん私、むしろ逆だよ、世界が滅びるとか、そんな時になったら──』
妹「この錠前を壊したのは…!」
『死んででも、お兄ちゃんを守ってみせるよ? にひひっ』
妹「私で…ッッ」ぎゅっ
「──俺だよ」
ズッドォオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!!
80:以下、
「うわあああッ!?」
「何だ一体……!?」
パラパラ… モクモク…
妹「……」
妹「…兄、貴?」
「話は『雲の上から』聞かせてもらった。ちっと跳びすぎて皆を驚かしたのは謝る」
「けれど納得いかねえなぁ。そうも簡単に人を疑うのは、脳みそ持った人間様がやっていいことじゃねーよ」
スタスタ
兄「オイ、てめーら覚悟は良いか。妹に文句をたらしたやつら、一字一句ごとにデコピン食らわせるぞ」ギラァ!!
「なんだなんだこいつはぁ…!?」
「空から振ってきた…悪魔だッ…不吉を呼ぶものだ…ッ!」
兄「あんッ?」
「ひぃいいいいいっ!!」
兄「ったく、睨んだだけで怯えんなっつの…まだうちのクラスの連中の方が根性値高いぞ…」チッ
81:以下、
兄「…んで」チラリ
妹「……」
兄「どーする、妹ちゃん。こっからは」
妹「…兄貴…」
兄「良い。知ってるから一々語んな、見つけるんだろ犯人」
妹「………」ギュッ
妹「ん。そうだね、良くやった兄貴。一発でみんな兄貴の事を真っ向から疑ってくれるよ、むしろ犯人で間違いないよ」
兄「うぐッ! 仕方ないこととはいえ、やってることがまんま怖がらせることだもんなぁ…! くそ、覚えてろ真犯人っ!」ググッ
妹「あれ? そういえば女さんは?」
兄「へ? ああ、着地の衝撃受けきれんと思って落下中に【更に上に】投げ飛ばしたから、そろそろ……」チラリ
女「────ぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!!!!」ヒュウウウウウウウウウ
兄「よいしょっと」ドスンッ
女「 ──……… っ… ───… !」パクパクパク
兄「おーい息しろ、息を。呼吸しないと幾らヴァンパイアでも死んじゃうだろー?」ぽんぽん
女「ばっっっっ!!?? おまっ!? ほんっっっとになぁあッッッ!!?」ヒュコォオオ
84:以下、
兄「いや、跳び過ぎた俺も悪いよ? けれどあのまま一緒に落っこちたら重症を負うのは嬢ちゃんの方だけだし…」
女「そうであっても状況を考えろ状況をッ!? ひとりぼっちで何百メートルをも落下する者の気持ちを考えろォーッ!」
兄「わかるわかる?落下中って孤独って言うか、超寂しい気持ちが湧いてくるよなっ」
女「んな共感など出来るかッ! 超必死! めちゃ必死だった! 身の危険が───なんだ、この状況は?」ぴたり
巫女「きゅ、吸血鬼様…」
女「む」
「吸血鬼が現れたぞ…」ヒソヒソ
「…本物だ…あの『赤い瞳』は間違いない…っ」ヒソヒソ
女「…」
妹「そ、それがね女さん! 実はこの里の人たちの大切な…」
女「ああ、祭神具が無くなったのだろう? 先ほど雲の上で化け物から聞いた、皆が矢を探しておるとな」チラ
兄「……」フルフル
女「…それは大変困った状況なのだろう、心中お察しするが、今回の紛失事件に一切関与しておらん。みたまんま、ワタシ達は仕事の帰りだからな」
女「【失くなった矢などいっぺん足りとも身に覚えがない】。今現在、どこにあるのすら分からん」
兄(まあ嬢ちゃんのマントの後ろに隠してあるけど、襲撃された分、全部で六本)
女「それで? どうするのだ長よ、なんの根拠も存在しない無駄な討論を続けるか?」
88:以下、
巫女「………」チラリ
「あ、アズサ様! この者達の言うことを信じるのですか…!?」
「私たちはどうにも信用できません! そ、それに…あの者ッ…空から降ってきた者はどういう…!?」
巫女「吸血鬼様…」
女「あー、わかっとるわかっとる。それも空でコイツから聞いたわ、ワタシが作った南京錠が壊れていたのだろ?」
妹「お、女さんが作ったモノだったの?」
女「うむ。これはまた豪快に遊ばれ壊されてるな、これでは頑丈を一点に充実させた意味がないわ」
兄「……」
女「化け物、わかってるんだろーな」
兄「ああ、わかってて【やったんだ】。どう始末着けさせられても素直に従うって」
女「……すまんな」
兄「謝るのは全部終わってからだ、嬢ちゃん」
女「……。さて、皆の者! ワタシの言葉を拝聴させよ! これから貴様らの疑問を解いてやろう! この者───」ズビシッ
兄「……」
女「この男はかような人間離れな所業を為す、言わば魑魅魍魎の生き残りの化け物だッ!」
ざわざわ… ざわ…
89:以下、
女「してこの無残にも蹂躙された南京錠が、如何にして為ったか言わずとも理解できよう!」
女「一概にして疑われれば、ワタシとてこの者の首を差し出すことも吝かではない!」
妹「…ッ…」
女「しかァーーーーしッ!!」
女「この者はワタシの連れッ! 過去に、我がこの身を腕っ節だけで太陽の下へと引き入れた豪傑たる者なり!」
女「…このような陰湿際まわりない、こそ泥めいた所為をするぐらいであれば…」
女「貴様ら全員を八つ裂きにし、血祭りに仕立てあげた後、悠々と祭神具を強奪していったであろうなァー!?」
巫女「な、なんと…っ」
「ひぃいいいっ」
「ば、化け物…!」
兄「…」ホロリ
妹(耐えて、耐えて兄貴。ここで泣いたら絶対に駄目)
女「うむ。なのでワタシから一つ、申し出がある。皆の者はアズサに一任し、さらなる事の究明にかかれ」
????
90:以下、
龍鱗里 西母屋
巫女「皆様…誠にこのようなことに巻き込んでしまい…」
女「良い、良いのだアズサ。何度も謝らんでも構わん」
巫女「し、しかし…それでは兄様が…」
女「そこは狙った上でのことだ。イモウト、そうなのだろう?」
妹「うん。私が思うに、確実にあの南京錠は『兄貴が壊した』と思えた。多分、本当に兄貴だろうって思えるぐらい」
女「確実なのか?」
妹「以前、家の鍵を外国に忘れて、でもトイレに間に合わなそうだったから玄関のドア壊した時もああいった感じだったから」
女「やることが一々豪快だな、化け物も」
巫女「お、お待ちになって下さい! で、では皆の者に疑われたまま、敢えてそれに乗っかったと…!?」
妹「私達が言えることは、絶対に犯人が兄貴じゃないこと。あと一つが、もう一人、この龍鱗里には───」
女「──化け物と同じほどの【馬鹿力を隠密に扱える者】が居る、ってことだな」
巫女「……!? そのものが祭神具である矢を盗んでいった…!?」
妹「そして兄貴に罪を擦り付けようとしているみたいだね。盗むのであればもっと秘密裏にやるだろうし、時期も狙ってやった感もあるし」
女「ったく、例を見ない化け物を類似した盗人など…考えるだけで寒気がするわ…」
巫女「で、では何故あえて盗人の思惑通りに事を進めたのですか…? これでは兄様が浮かばれない…!」
91:以下、
女「だーから、アズサ。この作戦はほとんど、その化け物が企てたものだぞ」
巫女「え?」
女「それ故に、さっきのド派手な登場をしたのであろうに。ああまで非現実的な所業を魅せつけられれば、誰だって疑うぞ」
妹「完全にノリでやってるだろうけどね。兄貴は何時だって自分をダシにして物事解決しようとするクセがある…」ギュッ
妹(兄貴が現れた瞬間、すぐに乗っかった私が言えることじゃないけど…)グググ
巫女「……っ…」
女「……。まあ双方にも思うところがあるだろうが、盗人の思惑通りにことは進んでおらんとワタシは思うがな」
龍鱗里 地下牢
兄「ぶぇっくしぃッ!!」
門番「えぇい! さっきから何を何度も何度もくしゃみしている!」ガンガンガン
兄「……、そんなこと言われても。どっかの奴らが俺のうわさ話をしてるんだろーよ」
門番「ハッ! そうだろうそうだろう、貴様はこの里で誰よりも囁かれている名であろうな!」
兄(この門番の人元気だなー。しっかし、こんな小さい子を門番にして大丈夫かね)
門番「む! 貴様! 今、オレの身体を品定めするかのように見ただろう!」
兄「おい坊主」
門番「なっ…!? い、今なんて言ったんだ貴様……!?」ブルブルブル
92:以下、
兄「だから坊主って…」
門番「………」
バチィッッ!!
兄「あいてッ!? な、なんだ今の弾…!?」
門番「良いか、貴様は『龍頭宗』の隠れ里に居るのだぞ。それが如何に危険なことなのか、理解していないだろう」
兄「な、何?」
門番「里の者達は皆、ほとんど全てが戦うことを前提にした守り手だ。一見、餓鬼にしか見えない姿であっても──」ギャルギャル
門番「──賊に遅れを取るほど、腕は甘くない」バチバチ!
兄「あ痛ッ!? くそ、なんださっきから何を飛ばしてやがる…!!」バチン
兄「黒い、玉?」
門番「フン! 貴様、目は良いようだな。掴みとるなどやるじゃないか!」
兄「…指弾って奴か。君みたいなちっちゃい小僧がやるのは初めて見るかも」ボソリ
門番「ッ????!!! ッ!!!」ビュンビュンビュン
兄「痛い! 痛いからやめて! ごめんなさい!」
門番「はぁ…はぁ…! だ、だから甘く見るなと言っているだろう! このような見てくれであっても、オレは戦うものだ!」
兄「う、うんうん…!」
門番「それにもっとすごい人達だっていっぱいる! 拳だけで岩を砕く人もいれば、数百メートル離れた的に矢を当てる人だって!」
93:以下、
兄「あ。じゃあ何の道具もなく、あの南京錠を砕く人も居たりする?」
門番「ぐっ…居るわけ無いだろそんな物の怪じみた奴なんて…!」
兄「デスヨネー」
門番「……とにかく、里の者達はみんな納得してないけど、貴様は捕虜なんだ。本当に犯人が居るかは分からないけれど」
門番「アズサ様が言うんだ。この門番だってアズサ様から直々に承った…だからちゃんとこなすんだ、ちゃんと、ちゃんとだ…」ギュ
兄「そっか。あ、でもずっと立ってると疲れちゃうだろ、座って休憩してても良いんだぜ」
門番「子供扱いすなっ!!」
兄「痛いッ!!」
???
巫女「──つまりは、疑われて捕まることより、自ら牢に入ることよって不都合を起こしたと?」
妹「…多分、犯人はきっと里の人達全員から疑われて、兄貴が捕まることを狙ってたんじゃ…無いかなぁって…」
女「うむ。しかしそうはならず、自ら牢に入った。そこに疑問という予知を残したというわけだな」
巫女「……。確かにそうでしょうが、しかし、そうであっても状況はほとんど変わらずのような…」
女「心配するなアズサ。化け物は見た目通り、精神力もタフだからな」
巫女「…わかりました。里の者達には引き続き、怪しい人影無かったか捜索を続けさせます」
巫女「あ。それとお茶などを用意してきますね、お待ちになって下さい」トトト
妹「はぁ???………やぱい、なんだろ、どっと疲れちゃった…」
94:以下、
女「よく頑張ったなイモウト。いやなに、立派に南京錠を問い詰めた話は、流石だと言わざるをえん」
妹「そりゃこっちも必死だったからね…うん…大の大人に説教めいたセリフなんてもう吐きたくないよ…」グテー
妹(これも全部兄貴のせいだ。ほんっとばかじゃないの、後でどんなお返しもらってやろうか)
女「イモウトよ」
妹「…え? 何?」
女「これからワタシが知ってる限りの事実を話す。無論、誰にも言うなよ。アズサにも、化け物にもだ」
妹「事実…?」
女「一度だけしか言わん。質問もナシだ、ワタシもものすごーーーーく困ってるのだ。状況を整理するためにも口に出して、まとめておきたい」
妹「えっと、つまり、今から人に聞こえるぐらいの大きな独り言いうぞって話?」
女「それでいい。──まあ少しは質問も許そう、ワタシも助言は欲しいのでな」
女「実は祭神具の矢を数本、ワタシは所持している」
妹「は? なに、それっ!?」
女「静かに。最後まで聞け、…襲撃されたのだ。今日一日で数回、最初はお前の兄貴だった」
女「次にワタシを含めて二回目の襲撃があった。それも全てこの祭神具の矢が使われた。化け物が言うには気配消しも使え、そして弓の腕も達人レベルなんだとよ」
妹「……っ…じゃ、じゃあその人が犯人なんじゃ…」
女「ワタシもそう思う。そこで【ワタシ個人】として一番あやしい人物は一人しか無い。弓の達人であり、祭神具も誰の手も借りず持ち出せる……」
女「──姉、アズサの姉しか該当しないのだ」
97:以下、
妹「姉…梓さんの、お姉さん…?」
女「無論、未だ納得しきれない部分はある。ただ可能性として見るのなら、この里でトップクラスで怪しいだろうな」
妹「待って、違う、それはおかしい、だって南京錠の鍵は龍頭宗の長しか持たない、そう梓さんは言ってたよ…!」
女「イモウトよ」
妹「それにッ! 仮にもし鍵を持っていたとしても壊す必要性が全く無い! だったら誰にもばれない方法で盗っていくはずだから…!」
女「その話はもう済んだろう? あの化け物を陥れるための行為だ、盗むことと、その盗んだ祭神具の矢で化け物を襲う関連性が全く分からんが…」
女「この事件は元より【オマエの兄貴が里の者達から盗人だと疑われる】、その為だけに行われたものだ」
妹「…ッ…」
女「思うところがあるだろう、しかし、この可能性は否定できん。重要なのは、この事件、姉一人では必ず完遂出来なかったハズなのだ」
女「必要以上に破壊された南京錠、盗まれた祭神具の矢、その矢によっての襲撃」
女「この関連性はただ一点に絞られる。限りなくこの里で権力と実力を兼ね備えた人物に違いない、それが梓の姉、そして───」
女「梓の姉に【共犯者】がいる」
女「それは、姉同様に弓の実力を持ち、そして権力を持つ…」
妹「……っ……やめて、ききたくない!」
女「ふん。今の反応で納得がいったわ、オマエ、アズサに何を吹きこまれた?」
妹「な、なに…?」
女「出会って間もないにしては必要以上に庇うじゃないか。共通の秘密でも握らされたか? それもワタシや化け物に言えない、そんな重大なコトを告げられでもしたか?」
98:以下、
『貴女のお兄様は、今宵、命を狙われているのですよ』
妹「…そん、なこと無い」
女「そうか、まあ良い。いずれと分かっていくことだろう、良いかイモウトよ。ワタシは確実に姉が主犯で、共犯者がいると踏んでいる」
女「それがアズサだ。化け物を陥れて何を得るつもりなのか全く分からんが、しかし、里の者たちを巻き込んでの大騒動だ。よほどのことだと言えような」
妹「……」
女「しかし、だ。化け物がこの里たちにとって不都合な存在として処理されることを望む、と推測すれば色々と納得も行く」
女「イモウト。最後にもう一度問う、一体何をアズサに言われた? それが今回の根源となる問題のハズなのだ!」
妹「………」
『この際だから、友達に為らない?』
『【二つは同時に選べない】。どちらも同等に大切でも、私は【本当にしたいことを選んで生きたいんだ】』
『兄貴は兄貴で心配。でも、今の私は──梓さんと友達に為りたいな、って思ってる』
『…妹様…』
妹「──まだ、駄目。私はまだ女さんに素直に言えるほど、納得できない…」
妹「だから、だからもう少しだけ待って、ください。私は最後まで信じていたい、から…」
99:以下、
女「………………………」
女「そうか、そうだよな。ああ、わかっていた、そうだろうともよ」スッ
妹「お、女さん…?」
女「良い。皆まで言うな、ワタシはオマエを信頼している。心から友だと誓えるほどに、この想いに一切の偽りはない」
女「……ただ、なんだろうな、すまんな、ワタシも……」
女「……………」
女「…鬼風情が人間を語るな、くっく、笑い草にもならんな全く」
女「合点承知。イモウトの意気込みしかと受け止めた、だがな、ことは早急に決着を着けなければならんぞ」
妹「うん…」
女「誓ってくれ。どう迷おうとも【化け物の気持ちを裏切るコトだけ】はしてくれるな、アイツはオマエを根っから信じている」
女「……ワタシは裏切ってい良い、ただ、アイツだけは裏切ってくれるなよ」
妹「女さん…」
女「もうすぐアズサが戻ってくる。その迷い悟られるじゃないぞ、心して掛かれ」
妹「…はい」
女「良い返事だ」
ガララ
巫女「お茶を入れてまいりましたー、…えっと、その??」
100:以下、
妹「ありがとう梓さん。いい香りだね、この緑茶」
巫女「え、ええ、そのつかぬことをお聞きしますが…何かあったのですか?」
女「なにもないぞ。しいて言えば、ふむ、化け物の処置具合などが上がっていたがな」
巫女「ああ、それならば安心を。兄様は確かに我が里の地下牢に居られますが───」
巫女「──その処遇は、ほとんど客人と相違ない饗しをさせて頂きます」
女「ふむ。だが、それでは里の者達に面目が立たないのではないか?」
巫女「その点についてはお任せを。門番に一任させた者に、例え疑わしき者であれど一級のおもてなしを、と言い伝えております」
女「秘密裏に?」
巫女「秘密裏に」コクリ
女「流石だアズサ。ドジっ娘でありながら長としての立ち振舞い、見事なり」
妹「…………」
巫女「それとみなさま、お茶の後はお食事のご用意をしていますので、どうか東母屋の方へとお越しください」
妹「あ、あの梓さん! その…!」
巫女「は、はい? なんでしょうか?」
妹「えっと、ね、その…」
巫女「……?」
女「待て待て。今日は色々とありすぎた、皆、気になることはあるだろうが…まずは食事と風呂をすませようじゃーないか!」パン!
女「──アズサ、この里に秘湯と呼ばれる『露天風呂』があることは、このヴァンパイヤ家当主のワタシ、知っておるぞ?」ムフフ
103:以下、
地下牢
兄「じゃんけん、ぽん」
門番「あっち向いてホイ!」
兄「フヌゥンンンンンッ!!」ギュアアア メキメキィ!
門番「やった勝───おおいッ!? なんだ今の首の動き!?」
兄「はぁ…はぁ…まだ勝負はついちゃいねーぜ…っ」
門番「明らかに右を向いておいて、どうして今は左を向いてんだ!? こ、恐い…」ブルブル
兄「筋肉は時に不可能を可能にする。覚えいておけ、小僧」
門番「ぐっ…だから小僧と言うなって言ってるだろーが、まったく」
コンコン
門番「ハッ!?」ビックゥウウ
兄「ん? なんだ交代の時間か?」
門番「し、静かにしてろ! 今開ける! 待ってろ!」ガチャ
「大丈夫か、なにか変わった事でも」
門番「何もない。少し物の怪が腹が減ったと騒いだだけだ、そちらの状況は?」
104:以下、
「発展は無し。梓様には困ったものだ、明らかに犯人はコイツ等だと決まっているだろうに」ギロ
兄「ふんふーん♪」
「チッ」
門番「そ、それで? 何の用事があってここに? 見張りはオレ一人に一任されていたはずでは?」
「ああ、その牢に入った『お客人』とやらに飯の施しだ。今、【赤目の異端者】も食っておるわ」
兄「………」
門番「わかった。わざわざご苦労」
「お前も気をつけろ。そいつは我々とは違い、本当の化け物だ。食後のおやつに食い散らかされるなよ」
キィ バタン
門番「………。ほら物の怪、梓さまから有り難い施しだ。受け取るが良い」
兄「あん? 良いよ俺は、一ヶ月ぐらいなら水だけで生きられるし」
兄「それよりもお前が食べれば? ずっとこんなつまんねー場所で立ちっぱなしなんだ、ろくに食事をとってねーだろ?」
門番「何を言うか! 馬鹿者! 梓様の御好意を無下にするつもりか!」
兄「む。そういう言い方されると…」
門番「オレにはこれがある。一口かじれば半日は腹が持つ優秀な携帯食だ、…味はいまいちだが、オレにはこれで十分なんだ」
兄「おー? ちょい気になるなそれ、食わせてくれよ」
門番「へっ? いや、だからな、…美味しくないぞこれ?」
105:以下、
兄「食えれば味なんて関係ねーよ。…こういったら妹ちゃんやらお袋にコテンパンされるけど」
兄「俺的に食指が動かされるのは、甘いモノか興味がそそられるもの、そして妹ちゃんが作った飯だけだと言いっきってい良い」
兄「そして、俺はそれがどーしても気になってる」
門番「…けどコレを食べられちゃうと、オレ、飯が…」
兄「んじゃ交換だな」ニッ
門番「はっ? 貴様ッ、まさか…?」
兄「あんだよ別にそれなら問題ねーだろ? それともなんだ、巫女さんの大切な客人のオモテナシを無下にするつもりか?」
門番「なんという…!!」
兄「本気に受け取るなっての! まあ良いだろ、物々交換だ」ひょい
門番「あ!」
兄「ぱく! もぐもぐ…ふぇぇ…なんの味もしなぁい…」
門番「だ、だから言っただろ! そんなのも、こんな豪華なモノと比べたら…」チラ
門番「ゴクリ」
兄「もぐもぐ、でも慣れれば案外イケるかも。…おいおい、早く食べないと冷めちゃうぞソレ」
門番「で、でもっ」
兄「良いから食えって。巫女さんやら他の奴らには黙っててやるからさ」ニシシ
門番「……っ…」ゴク
ひょい パク
106:以下、
門番「…おいひぃ…」
兄「確かにな。純和風料理とはまさにそれに違いない、思ったんだがそのソースっぽいのコレと合わないか?」
門番「え? どれどれ…」ちょんちょん パクリ
兄「頂きます」パクリ
兄&門番「ッ????!!!?」ぺかー
兄「なん、だと…突如と無味無臭の固形物が、カ口リーメイト的な美味しさに激変した…!?」
門番「この味であれば半日と言わず、数日、いや一週間は戦える気がするぞ…!?」
兄「ちょ、ちょっとまってくれ! おい、お前、まさかだと思うが、その山菜っぽいやつ…付け合せとして最高なんじゃね…?」
門番「ば、バカ言え! これは我が里でも滅多に食べれない高級山菜! こんなちっぽけな携帯食とあうわけが…」
ぱくり
兄&門番「うぱぁーーーーーーーいっっ!!」ぺっぺかー!
???
門番「うぐぇぇ…何時もは口にしない食事に固形食を食ったから、は、ハラが…」
兄「う、うう…確かに…魔の胃袋と恐れられた俺でさえもこの満腹度…」
107:以下、
門番「……、なあ物の怪」
兄「普通に呼びなさいよ、名前を。俺の名前は兄だっつの」
門番「じゃあ兄」
兄「おうよ、どした」
門番「お前は、本当に、祭神具の矢を盗んでないのか?」
兄「訊いてどするよ。正直に言っても誰も認めねーだろ、俺が化け物なのには変わりない」
兄「あの南京錠の壊れ方は人の範疇を超えてるし、言ってしまえば俺にだったら簡単に出来る。…本当に、指先ひとつでな」
門番「じゃあ命令されたのか?」
兄「はぁ? 誰に?」
門番「お前はやってないという、だけど正直に言えないのは──命令をされたから、あの赤い目の吸血鬼に…」
兄「……。あんたら里の人達が嬢ちゃんに、なんだか色々とゴチャゴチャ言ってたな」
門番「ああ。オレ達は未だに吸血鬼がご神体様に触れることは認めきれてない、表立って声を上げては居ないが…」
門番「…みんな心から恐れてる。赤目の異端者、吸血鬼は【一度怒らせしまえば赤い夜】」を産みだすって」
兄「ふーん。んで、なんだその赤い夜って」
門番「………」
兄「えらく詩的な表現じゃんか、悪い意味で。言いたくなかったら別に構わんけど、ああ、そうそう、別に俺は嬢ちゃんには何の命令もされてないよ?」
兄「例えあんたらが赤い夜だとか、イタンシャだとか、怖がってたとしても──あの子はただの子供だ、俺より年下の、ちょっと頭のいい嬢ちゃんなだけだ」
108:以下、
門番「…ただの子供が、どうして里の大人たちが皆怯える」
兄「それは…」
門番「お前は知らないから簡単に言ってるだけだ、それとも物の怪だから気にしないのか? オレ達は吸血鬼の恐ろしさを身にしみてる…」
門番「あの目は全てを見透かすんだ。心も身体も、自分たちが持ってる弱い部分を簡単に見破ってくる」
門番「───そして惑わされて、トリコにされて、二度とコッチに戻ってこれない」ギュッ
門番「あんな見た目でも、ガキの姿をしてたとしても、…裏は人を食らう鬼なんだ。人の気持ちなんて一切、わからないんだよ」
兄「…鬼、かあ」
門番「……」
兄「そっか。そりゃ恐いもんは恐いよな、俺だって妹ちゃんに三分間意図的に無視されてたら[ピーーー]る自信があるし」
兄「でもな、結局それってわかろうとしてないだけだろ?」
門番「…何?」
兄「【知らないから恐い】んだよ。理解できないから、怖がったままなんだ」
兄「赤い夜とやら里の人達にどんなトラウマを植えつけたかしんねーけど、結局、そればっかりに囚われてねーか?」
兄「どうしてお前らがそんな目にあったのか、どうして吸血鬼とやらが赤い夜を生み出したのか、考えたことはねーのかよ」
門番「…ッ…」
兄「なーんて説教めいたこと言ってみる。ごめんな、何もしらねーから好き勝手言ってるだけだ。俺は嬢ちゃんの味方だから、気に食わねぇなら反論するだけだ」
109:以下、
門番「…良い、全部言えないオレが悪いんだ」
兄「おっ? 案外殊勝じゃんか、怒られると思ってたのに」
門番「最初に好き勝手言ったのは、里の連中だ。つまりオレ達が勝手にお前らを犯人だと言ったんだ」
兄「……」
門番「オレは、オレとしては怒れる立場じゃない。ただ、それでも認めることは出来ない。龍頭宗のひとりとして、気高く生きるんだ」
兄「ん。そっか」
門番「なあ、物の怪」
兄「なにさ」
門番「……犯人、早く見つかると良いな」
兄「ああ、そうだな」フッ
『───???…───…』
兄「…」
兄「!!!!??」ババッ
門番「な、なんだ!? 急に立ち上がって…!?」
兄「お、おい…今どこかで人の声が聞こえて…この地下牢から聞こえるってそりゃ…どういうことだ…!?」
110:以下、
門番「え、人の声って…」
『──きゃっきゃっ──…ふふ……』
兄「また聞こえた…!?」キョロキョロ
門番「な、何をそんな警戒をして…別になんでもないぞ、多分」
兄「どういうことだよ!?」
門番「ここの地下牢は西母屋の地下にあるんだけど、その真逆の東母屋の地下には───」
『おー! これが地下秘湯! 見事なり!』
『きゅ、吸血鬼様! 走っては危ないですよ! 転けてしま、おわぁー!?』
『アズサーァ!? お前こそ転けて、ちょおまっ、こっち来るなッ! だぁーッ!?』
門番「ご神体の地下水から汲み取ってる温泉があるんだよ。その排水管がこっちにも通ってるから、たまに声が聞こえたりもするけど…」
兄「……」
門番「けれどよく聞こえたよな。聞こえるっていっても超小さいのに」
兄「………………」
『──ほら、ふたりとも。そんなにはしゃいでると、本当に怪我しちゃうよ』
111:以下、
兄「………」ギュググ メキメキ
兄「なあ坊っちゃんよ」
門番「だから坊主って言うなって、…な、なにその目?」
兄「後生だ! 頼む! 数分間だけ牢から出してくれ! お願い!」ドゲザー
門番「急になにいってんだお前!? はぁっ!? 出せれるわけがないだろ!」
兄「お願いします本当にお願いします! このチャンスを逃したら今後、絶対に訪れない展開なんだから!」がばぁ!
門番「な、なにがあってそんなこと…っ」
兄「い、妹の風呂を覗きに行きたい!!!!」
門番「変態かよお前!!」
兄「だって実家の風呂とか除きに行けば一発にバレるし出来ることじゃないし! 今回は一応は旅行だし、妹ちゃんの隙も大きくなってるはずだもん!」
門番「だもん、てお前は…!?」
兄「お願いします! もお俺が犯人だって言いふらしてもいいから! それなら良いでしょ!?」
門番「良くないだろまったく!」
兄「へェ?ッ…! だったらこっちにだってやることやるぞ、良いのか? 絶対に後悔すんなよ?」
門番「ど、どんな脅しをされてもオレは竜頭宗の一人! 絶対に屈しないぞ…!」
兄「ソウデスカ」
兄「なら巫女さんに、俺の晩飯食べたってチクる」
門番「………お前……お前ぇえええっ!!」
115:以下、
兄「そーとなったら口をつぐんで黙って見届けろォ! 俺は此度、妹の裸体を見る修羅と為す!」メキメキメキ
門番「ひぃいいッ!? 背中から妖気みたいなのが立ち上ってるぞ…!?」
兄「良いか? 俺はこーみえて案外、横暴さんだ。妹の為なら地獄にも付いて行く、妹の為なら天界をも撃ち落とす、妹の為なら──」
兄「──例え出ちゃいけない障害でさえ、人間関係又は檻だってぶち壊すぞ!」
門番「一応言っておくが風呂場を覗きに行くのは、ただのお前の欲望だろ!?」
兄「正論なんて聞こえないね! ごちゃごちゃ抜かすとこのまま突っ切るぞ!」
門番「うっ…なんてやつだ…お前が出て行けば、自分だけじゃなく周りの奴ら、その妹さえも巻き込むってわかってるだろうに…!」
兄「大丈夫。なんとか誤魔化してちゃんと戻ってくる」フシュルルルゥ?
門番「そんな顔してる奴が隠密など出来るか! な、何だというのだ…そんなに女体が見たいとでも…!? そこまで飢えてるのかお前は…!?」
兄「…」ピク
『イモウトよ…お前…ちっさいな…』
『!? なに、今なんて言った、の?』
『華奢で綺麗ですね?』
兄「あぁ…あぁんもうだめぇ! 超行きたい! 俄然やる気になる! もう、くそっ、俺は行くぞぉおおおおお!!」ガッ メチベキベキベキッッ!!
116:以下、
門番(なっ、若木の真芯を素材に鋼鉄で加工した檻を握力だけで──本当に逃げられる! マジで脱獄される!)
門番「っ…や、やめろ…!」
兄「うぉおおおおおおおお!!」バキバキバキバキッ!!
門番「あわわわわわ」キョロキョロ
門番「っ───こう、なったらもうっ、どうとでもなれ! オイこっちを見ろ物の怪!!」
兄「あぁンッ!?」ギョロ
門番「…っ…」ギュッ
門番「やああっ!!」ぐいっ がばぁ!
ぽろん
兄「───……」
門番「うっ…あっ…こ、これで…満足して、ほしい…どうかお願いする…」カアアア
兄「お、お前……女の子だった、の…?」じぃー
門番「……、…」コ、コクリ
兄「え、嘘、でも、あれ!? ていうかちょっともう良いから前かくして前! つかどうして下着着けてないんだよ!?」ババッ
122:以下、
門番「こ、今回はお前を監視する目的だから…暴れる必要もないと、晒も巻いて来なかった…」プルプル
兄「必要最低限なセーフティは着けたほうが良いと思います!」
門番「ふ、ふんっ! そうであっても一目から今まで、お前は一度もオレを女だと思ってなかっただろうに…!」キッ
兄「そりゃ悪かったがまずは服を降ろせバカタレッ! いつまで見せるつもりだよ…!?」チ、チラリ
門番「フフ、フハハ! 何やら愉しくなってきたんでなァ…! おい物の怪! 貴様は女体を見るのは初めてかッ!?」
兄「あぁその顔はやけっぱち気味だねッ! 正気に戻りやがれ! もういいもうわかったからしないしない! 脱獄しない!」
門番「ほ、本当かッ?」
兄「いいようもう衝撃すぎて、妹の風呂覗き行く気が無くなっちゃったよ…」
門番「……」イソイソ
兄(びっくりこいた。しかし俺が女性だと気づかないなんて、急に鼻でもおかしくなったか───)クンクン
兄「待て、ちょっと待てオイ」
兄「え、なに、じゃあさっき俺が立ちションした、時、」ちらり
門番「……」ポッ
兄「ぎゃあああああ!? バカじゃないのお前!? 俺ってあの時『ほれ坊主、この大きさはガキには勝てねえだろガハハ!』なんて言って…」
門番「初めてみたから…ちょっと気になって…」ポリポリ
兄「いやぁー!!!!!! そん時カミングアウトでしょうが! んだよもぉー!!」ガンガンガン
門番「か、代わりに胸を見せてやったろ! これでそれなりの報酬は与えてやったはずだ!」ビッシイイ
123:以下、
兄「頭トチ狂ってんのか!? イーブンじゃねえよ、もっと自分を大事にしやがれってんだよッ!」
門番「ううっ…お、オレは戦う者だ! そういった女性的価値は無い、のだから…っ」
兄「じゃあ顔を真赤にせず堂々と言ってくれ! ああもうっ、これが妹ちゃんにバレたらなんて言われるか!」
コンコン
兄「ひぃっ!!」
門番「だ、誰だ?」
兄(イヤナ、ヨカン、スルヨ)ザザザザ
門番「? なんだそんな端っこに寄って───ま、またトイレか…?」ワクワク
兄「期待するんじゃない! さっさとドアを開けて早く! 不安が的中してるかもしれんのだから!」
門番「言われなくても開ける。どうした、確認のノックはしなくとも」ガララ
門番「ひぃっ!!」
「───兄貴」
兄「あいッ!!」
「知ってた? 東母屋には地下温泉があって、パイプが繋がってて、ココの声が聴こえちゃうんだ」
兄「…………ハイ」ダラダラダラダラダラ
124:以下、
「で?」
兄「…で、とは如何なる問いかけかお兄ちゃん困っちゃうなっと…」
門番「…」ダラダラダラダラダラ
「門番さん」チラ
門番「はいっ!!」
「この不精な兄を数時間も面倒見てくれて、ありがとうございました」ペコリ
門番「い、いえ…これが私の仕事なので…はい…」コ、コクコクコク
兄「妹ちゃん? 何故にございましたと、過去形なのですか?」
「あ?」
兄「うん! DIEなのですねこれは! わーい! ──すんませんでしたァァアアア!!」ドゲザー
「……」ぴろりーんぴろりーん
兄「写メはやめてください! どうか兄の土下座姿を写メに収めるのはおやめになってください!」
125:以下、
東母屋 地下温泉
女「ふむ。突如、走りだしたと思ったが構造的に西母屋に向ったようだな」
巫女「急に静まり返って爆走し始めたのは驚きましたが…」
女「時にイモウトは化物のことになると、化け物以上に勘が良いらしい。本人が言っておった」チャポ
巫女「ご本人とは?」
女「どっちも、兄妹もろともだ」
巫女「仲がよろしいのですね」ニコ
女「だろうな、羨ましい限りだ。なあアズサよ」
巫女「……はい、そのとおりですね」
女「そういやアズサ、オマエは風呂に入らんのか。巫女服のまま水場まで来おってからに」
巫女「あ、あたり前でしょう吸血鬼様! お客人と同じ湯船に浸かるとはもってのほかです!」
女「あーいい、良かろう硬いこと言うな。面倒くさいやっちゃな相変わらずに」
巫女「もてなす者として当然の行為ですっ」
女「一応言っとくがな、別に気にせんぞイモウトは。例え【どのようなモノ】であってもアイツはちゃんと聞く」
巫女「………」
女「このワタシが言うのだ。信じられんか、認めきれんか、幼馴染の言葉を」
巫女「いえ…その…妹さまがどうであれ私は…私は、この【身体】は人の目に見せてはいけないものですよ、吸血鬼さま」
126:以下、
女「しかしだな、その事実を語らん限りは…」
巫女「ご理解お願いします、私はこの身体を受け十数年と経ちました」
巫女「──龍頭宗の長として努め、生きる、その覚悟はむしろ身体があるからこそなのです」
巫女「妹様は仰ってくれました。私と、このような辺鄙な山の奥地に住む世間知らずは私に…」
巫女「友達になってくれる、と。ああ、それがどれだけ嬉しいことか…心救われる言葉か…」
女「………」
ちゃぷ ちゃぷ
巫女「どうか一つ願わくば、妹様の前だけでも普通でありたい。愚かにもそう望んでしまっているのです」
女「良い、分かった。すまなかったなアズサ、確かにそのとおりだ」
女「その願いはワタシも共感できる、共感どころかむしろワタシ自身の願いでもある」
女「…そうか、そうだろうな、じゃなくてはならなんよな…ワタシ達のような生き様に、くす…アイツはまぶし過ぎる」
巫女「吸血鬼様…」
女「ん。じゃあこの話は終いだ、オマエも心が決まればぶち撒けるが良い。アイツは『へー兄貴に比べれば普通ですね』と、さらっと言うぞ」
巫女「それはそれは…くすくす…お兄様のような方と比べらてしまっては…」
女「ふむ。世界は思うほど広いようだ、一度、壁を超えて見渡さんと永遠に井の中の蛙。大海を知らずして不幸を語るな、だ」
巫女「はい。心命じておきます、吸血鬼様」
女「おう。つーこって【ここからが本題だアズサ、ヴァンパイヤ家現当主として【命を投げ出して答えよ】】」
127:以下、
巫女「……」ピク
女「命令だ。無様に死に体を望むのなら構わんが、どうせなら赤い夜でさえも起こしても良いが、どうするアズサよ」
巫女「──何なりと」スッ
女「よい返事だ。今宵はまだある命に感謝して眠れ」スッ
パシャ ぱしゃぱしゃ…
巫女「……」ビクンッ
女「【私】が此度、この隠れ里で強襲された回数を知っているか?」
巫女「いえ、初耳でございます」
女「それはすまない。答えは2回、ドラゴン・ブレス調整中に気配を消す能力を持った者に闇討ちされかけたのだ」
女「───さきほど、錠前が壊された倉庫から盗まれた祭神具によって」
巫女「……」
女「実に腹立たしい。実にご立腹だよ吸血鬼様はな、例え里の連中に快く思われておらんでも──殺されるのは腹立たしい」スッ
巫女「……」ゴク
女「オマエ、知ってるのか、なにかを」ジッ
巫女「何を、でしょうか、吸血鬼さま」
女「知らんぷりか? ならば腹を括れ、次の質問で【私が納得できなければ】【里を滅ぼす】ぞ」
巫女「……っ…」
128:以下、
女「出来ぬと思うか? 出来ぬと高をくくるか? 出来ぬと、私のような人間に出来ぬと思いきるか?」
女「では手始めに。私の覚悟を健気に証明する、この地下温泉で息を潜め監視する里の者、ふむ、予想するに三人ほどか…」
女「殺すか」スッ
巫女「──吸血鬼様ッ!!」バッ
女「我は現代に生まれし誉れ高き、吸血鬼。価値を惑わし破壊する者、如何なる道徳性も無いものと知れ」
巫女「どうかお言葉を、私の言葉をお聞き入れ下さいまし…っ」
巫女「私は強襲などは知りません…ッ! しかし、貴方様が何かを隠していることは気づいてましたが、そのような事実だったとは少しも…ッ!」
女「なぜ訊かぬ。訊けば答えるのが通りだろう、ならば端から疑い事実を揉み消したいと願うのはオマエではないのか、龍頭宗の長、アズサよ」
巫女「な、何一つとして、私や里の者達に…何もやましいことなど…っ」
女「ほう。懇願する立ち振舞は様になっておる、少し憐れんで見せるかどうだろうか」
女「ハン! どうしたものかと悩んだが、やはり粘着するような視線が気に食わんので、一人殺すことにした」
パチン
女「【そこの】【オマエ】【今から】───【溺れろ】」
「っ…あ! …ぅ、そだ、ボゴボゴゴゴブグググ…」
巫女「吸血鬼さまッ!! なんと、ああ、なんてことを…っ!!」
129:以下、
女「死ぬぞ、可愛い里の者たちが無様に自ら望んで溺れ死ぬぞ」
女「さて質問だ。もう一度訊く、私は此度この村で襲われた。その指示を行ったはオマエか? アズサ?」
巫女「あぁああっ…わ、わたくしはなにもっ…なにも…なにも知らない、のです…っ」ブルブルブルブル
女「【オマエ】【オマエ】【今から】【隣のクビをシメろ】」
パチン
「がっ!? ぐっ、や、やめっ!?」
「ぐぅううっ!? なにを…!?」
巫女「あぁ…あああ…っ! 吸血鬼様! どうか何卒…ご慈悲を! どうか何卒…!!」
女「良い清さだ。望むのであれば施さんでもないな、では、皆全てに己の喉を掻ききれと命じるか」
巫女「……なに、を…」
女「分からんか。死ね、と言っている」
女「──不必要な存在など価値無し、自殺という最大級の罪を行って地獄に落ちるが良い」
女「良いか、訊け、心して訊け、アズサ」ナデナデ
巫女「ッ…ッ…」ガチガチガチ
女「私は怒ってるんだ。さいごに幼馴染の好でオマエの願いを聞いてやっただろう」
女「───全てをイモウトに知らせずに、友達のままで殺してあげるんだ。感謝するが良い、私の優しさにな」
130:以下、
巫女「吸血鬼…様…」ゾク
女「いい顔だ。私が見たかったのはそれだよ、アズサ。簡単に絶望されては気が済まない」
女「一つでもいい。何か死にゆく理由に救われるものがあり、抗う気力も無くし、小さく納得を迎える」
女「それが私が望むオマエ達の制裁だ。一人ひとりに問うてやろう、オマエが死ぬ際に何を望むとな」
女「───これぞ世直し、作り直し。全ては私の手の中で、踊り狂い、そして死ね」
巫女「あ…ああ…」
女「そうか。ならもういい、とっと逝け」
バチン!!
女「ハイ、オワリだ」フゥ
巫女「───……ッ!?」ババッ
女「どうだ? 数年ぶりに吸血鬼道具【第六式】を使ってみたが、ふむ」
巫女「…………………」ボーゼン
女「意外と効果テキメンだったようで何より。ふん、ワタシの見せた【幻覚】は相当答えたと見える」
巫女「…吸血鬼様…今のは、一体…」
女「私が湯けむりに乗せてトランス状態に持っていく『香辛料』を使用した。これがちと特殊でな、精製法はとある原住民しか知らん」
131:以下、
女「残量も少なく使用頻度が限られた高級品だ。この生産だけに我が財産の3%は持っていかれる」
巫女「なん、と…悪趣味なモノを…私の感覚では…一度貴女の手によって…」
女「死んだろうな、抵抗することもなく。ブレンド次第では極楽浄土に誘われる夢すら見せるぞ」
巫女「………」
女「監視しておった奴らも尻尾巻いて逃げおったか。こりゃ明日か夜に殺される覚悟を決めとくか、くわばらくわばら」
巫女「何故、このようなことを、吸血鬼様は…何を望んでおられるのです…」
女「すべてを話せ」
巫女「…え…」
女「ワタシの覚悟は伝わったはず。今宵から里連中は確実にワタシを殺しにかかる、くっく、それだけじゃない」
女「他の宗の『鷹李雲』『櫛羅渦』の長たちも動き始めると見るが、どうだ?」
巫女「…知って居られたのですか、貴方様は」
女「なーに、ワタシが太陽の下に出るリスクとしてはとっく昔に考察済みよ。そして端から覚悟の上」
巫女「……」
女「此度がワタシが原因ならば静かにしてたとも。どうせ口ばっかのジジババだ、脅せば古巣に逃げ帰る」
女「だが違うのだろう。ワタシじゃない誰かが目的にされてるに違いない、ワタシはそう考える」
女「化け物。アイツが今回の標的になった、この回りくどさは、長連中らしいやり口だからな」
巫女「…手紙が、届いたのです。彼の者を監視し、多少でも怪しければ即刻処分せよ…と…」
女「己の手を汚さず、手柄だけは独り占めか。かっか、まさに畜生の体現者よ。今度土産を持って顔を見せに行くか」
132:以下、
巫女「…私は…」
女「なに、そうも怯えるな。ワタシが龍頭宗に化け物を連れて来るとアズサに言ったのが元の原因だろうに」
巫女「し、しかし、この重大なことをひた隠しにし、よりにも吸血鬼様にすら報告をせず…っ」ギュッ
女「だがイモウトには教えた、違うか?」
巫女「っ…!? そ、そこまで既に…!?」
女「えらくオマエを信用してたもんでな。思わず嫉妬せざるを得なかったわ、ワタシだってトモダチになったのだぞ!?」プンスカプン
女「一つの持論をゆーてみたら『あり得ないあり得ない!』…全力否定されたわ、あぁ、他人免疫ないワタシ泣いちゃうぞ…」
巫女「…っ…その持論とは、私のことなのでしょうか」
女「無論。襲撃にしろ祭神具の強奪にしろ、全てはオマエが仕組んだ罠だと」
巫女「吸血鬼様…」
女「しかし、オマエはただの協力者だろう」
女「オマエの姉が仕組んだことだとワタシは思う。だから訊かせろ、何を望んで化け物を陥れる?」
巫女「わ、わたくしは…」
女「幻覚であっても一度、ワタシはアズサを殺した。死に際でさえも漏らさなかった事実、一体そこに何が潜んでる?」
巫女「……」
女「答えられんか。だろうな、すまんな知ってて訊いていたのだ。だったら本人に訊くしかないだろう」
巫女「…っ…」
女「【今から出せ】、【わざわざ本堂に行かなくても】、【姉の人格】は出せるだろうに」
133:以下、
巫女「…だ、駄目です、例え呼び出すとしてもきちんとした手順を踏み本堂にて…」
女「イモウトに知られたいのか」
巫女「それは…ッ」
女「脅すようで悪いが心に決めろ。オマエの姉は確実に企んでいる、それをどう解釈したか知らんがオマエも共犯者になる」
女「寝ているのなら起こせ。叩き出してワタシの前に持って来い、ならば【そっち】の身体に直接呼びかけることも厭わん」
女「ワタシだけの覚悟はとうの昔に決めた、だがワタシ以外の者が関わる覚悟は───初めてなんだ…」
巫女「……」
女「オマエを幻覚に嵌めて殺めたことも、それ故に、自分で自分を戒めるため。自ずと吸血鬼として悪辣な思考に至る為…」
女「あぁ、嫌になる、この思考はまさに極悪非道だ。問題解決に命を軽く見るとは、…例えそれが衝動だったとしても…」
女「自分が恐いよ。加減をしらないガキが力を持ったばかりに、他人を思いやる仕方が分からない…」
巫女「…吸血鬼様、私は…」
女「どうか、どうか頼む。この通りだ、ワタシが…太陽の下に出てこれたワタシが最初に…初めて決めた、覚悟なのだ…っ」ググッ
女「──人として、友とその兄を、助けたい」グリッ
巫女「……」
巫女「顔を上げて下さい…そのようなことを現当主がやっていいわけ無いでしょう…」
女「駄目だ。オマエが良いと言うまで絶対に上げん、これっぽっちもだ」
巫女「──……吸血鬼様、私は、本当は、」
134:以下、
カンカンカンカンカンッッッ!! カカカンッ!
女「むっ!? なんなのだ一体…!? 警鐘か、コレは!?」
巫女「五回…ふたつ目の…」
巫女「──侵入者です吸血鬼様! この里に不審なものが現れた、と…!」ババッ
女「侵入者だと!? このタイミングで実に腹立たしい! なんだというのだまったくもって!」
巫女「場所は…西…西母屋の地下牢、ですって…!? まさか、ではお兄様や妹様が…!」
女「くそ、狙ってか! これもどうだ心当たりないのかアズサッ!」バシャァアッ
ダダダダダダッ
巫女「くっ…こ、答えられません…!」
女「ほんっとバカタレだなオマエは! ったくもー! イモウトに知られても知らんぞーッ!」
巫女「す、すみません…本当に長でありながら本当に…」
女「もういい! だったら侵入者に直接訊くことにするわッ!」
巫女「え…それは一体、どのような方法で…?」
女「マントだけ羽織っていくか。ん? な?に言ってんだ、オマエは」
女「───相手はとんだ間抜けだ、一体誰に喧嘩をふっかけたのかわかってない!」
???
135:以下、
妹「信じらんない。なに、出会って間もない相手の裸見るとか。変態、バカ、露出見たがり変態ばか」
兄「うぐっ…ひぐッ…ぼぇんばばぁい…」ボロボロボロ
門番「あの、それじゃ、オレが変態みたいな」
妹「とにかく兄貴。今は里の人達全員に疑われてるんだから、今だけでも静かにしててお願いだから」
兄「ばぁいッ」グスグス
妹「……。信じられない、ねえ門番さん鋼性のチェーンとかある?」
門番「鋼性のチェーン!?」
妹「それすら壊すけど私が直接かけたら、兄貴は絶対に壊さないから」
兄(よくわかってらっしゃる…)
門番「そのような高価なものは…」アタフタ
妹「そっか…」
兄「ね、ねえ妹ちゃん? さっきから気になってたけど、その、バスタブ一枚巻いて居続けるのやめない…?」オドオド
妹「変態」サッ
兄「兄としてのまっとうな意見だよー! 聞いてあげて叶えてあげてぇー!」
門番「お、お客人! とにかく事の事態はオレにも責任の一端が有ります! だから、罰するのであればオレ諸共…!」ペコペコ
妹「……」
妹「本当に兄貴って酷いよね。こんな可愛い女の子まで毒牙にかけて、自分の身を守ろうとするなんて」
兄「あーんもう最初から俺の評価が駄目だ! 門番ちゃんもう俺だけ背負うから逃げて! どこか遠くへ!」
136:以下、
門番「逃げれるか物の怪! 元よりオレの仕事だぞ、最後までちゃんと突き通してみせる!」
兄「立派だけど場所と時間を考えて下さい! 君が話すたびに俺の立場鬼下がりしてるから!」
門番「ぐっ、じゃあ分かった! 正直に話して謝ってみせる、それが、アニキもアネキも一番の方法だって言ってたし…」
兄「待てぇええええ! 一番しちゃいけない方向性に持って行こうとしてるよねそれ!?」
妹「…なにしたの、兄貴…」
兄「してないしてない不可抗力! 全然意図してないから平気平気!」
門番「じ、実はコイツのち、ち○こ…を…」カァァア
兄「にゃああああああああああああああああ!!!」
カンカンカンカンカンッ!!!
妹「───え、なにこの音」
門番「……。侵入者だッ! しかもここから近い、嘘だろ、こっちは迎撃用の準備は───」
ストンッ
門番「ぇ」チラ
門番(地下牢の廊下に、いきなり人影、マントで顔見え、刃物、危、嘘、死、狙いが…)
137:以下、
妹「……ぁ…」ビクッ
門番「危なッ! 逃げ…ッ!」ババッ
バァギィイイイイイイイイミチミチミチミチミチミチ!!!
バッゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
『……!?』
兄「───……死ぬ気で気張れ、本気で殴る」
ブゥンン! ドッッッッッバァアアアアアアンンンッ!!
門番「ひっ」グググッ ブワァッ
妹「兄貴…!」
パラパラ… ガララ…
兄「チッ、ぎり避けたか。目がいいなアンタ」ブンブン
『……』スチャ
兄「お? 対戦すんの? 逃げたほうが良いと思うなあ、誰も言葉を耳貸すつもりないから」
138:以下、
妹「兄貴! 絶対にこ、殺しちゃ駄目! 絶対だからね…!」
兄「アンタ体格的に男だな。気配を消す技術は一級品だ、侵入されてて感知できなかったし」
妹「兄貴ッ! 兄貴ってば! 聞いてるの!?」
兄「つーことはアンタが真犯人。蔵の祭神具盗んで俺達襲った奴、決定な」コキッ
『……』シュバァッ!
兄「ん」ザクゥ!
『……!』ピクッ
兄「刺さんないよ。肌で止まってる、ついでに筋肉の繊維で挟んで動き止めてるから」グュググメキィ!
兄「んで一発は一発返しだ!」ブォン!
ドッッゴオオオオオオンンンンッ!!
兄(簡単に獲物放すんじゃ、本命は未だ隠し持ってると)ぽいっ
兄(いちいち床殴って土煙出してたらきりがねえ、妹ちゃんも門番ちゃんも鼓動が聞こえるし平気っと!)ヒュン
兄「投げナイフ…暗殺はお得意ってか、ならアンタは失敗だ」
兄「アサシンらしく息を潜めて狙うんだったな。俺の目の前で大事なもんを手を出した代償は、ちとデカすぎる」
『……』ぶわぁっ
兄「んおっ!? 正面対決ってか!? いーぜ堂々とやり合おうぜ、なァ!?」ニィイイイ
139:以下、
門番「けほっ…こほっ…一体何が起こって…」
妹「……」
門番「あっ! 客人!? 怪我などされておりませんか!?」
妹「ばか、ばか、本当にばか…」ブツブツ
門番「え?」
妹「声が聞こえてない、本気でキレるの久しぶりすぎて、ああもう、どうしたらっ」ブツブツ
門番「……」
門番「あ!それなら!」ピコーン
妹「ん?」
???
兄「一発ぅううぅうぅうう?…ッ! 二発ぅうぅうううぅう?…ッ!」ドガンッッ! ドメチィッッ!
『がっ…はっ…ぐっ…』
兄「お? 二発耐えんのすげーなアンタ! エメトさんみたいに衝撃受け流しとかしてんのか!」
『っ…っ…』ガクガクガク
兄「………」
兄(あ。やばいな、これはやばい、手加減できない奴だ。そして俺も忘れてる流れだ、ははっ! どうしよう! 妹ちゃん…!)ポロ
ポロポロ…ポタポタ…
140:以下、
兄(ちょっと妹ちゃんを殺意ムンムンで刃物向けちゃったから、うん、俺止められない! ああ妹ちゃん近くにいるなら俺を…っ…)グスッ
兄(人を殺す前に、どうかいつものように───)ギチッ!
兄「あぁ…大好きだよ、妹…」
スッ
兄「だから、アンタ。死なないでくれ最後まで」
『はぁッ…はぁッ…はぁ…ッ』
兄「良いお兄ちゃんで居るために、うん、死ぬな」ニコッ
妹「コラアアアアアアアアアア!! すっぱり諦めるなぁああああああ!!」ババッ
兄「え、ちょ、前線出てきちゃ駄目だって妹ちゃ」パァアアア
兄「──キャアアアアアアア!? 何故に裸、ぶっはッ!」ドタリンコッ!
『…!?』
妹「あぁもう! 妹のは、裸みたぐらいでぶっ倒れるなばかあ!」カアアア
『……!?』
門番「やった成功だ!」グッ
142:以下、
兄「…!? …ッ…!?!」ビクンビクンッ
妹「とっとと起きろバカ兄貴! い、色々言うことあるけど、これでまともになったでしょ! 少しは格好いいところみせてよ!」
兄「──ああ、そうだな」バッッ
兄「すまん。本気になり過ぎた、今から手加減すっからさ」ニッ
『……』スッ
兄「んっ!!!!」ダァアアンッ!
『っ!?』バキバキバキッ…!
門番(金属系の破壊音っ? けど相手はまだ何もして…)
兄「出そうとしたな、本命の獲物。つぅか【出させるかよ】、二度と妹ちゃんの前で刃物見せるんじゃねえ」
『…貴様、懐の刀を手刀で…化け物め…』
兄「そりゃ褒め言葉だろ、ちっとは怯えろ暗殺者さんよ」
『チッ』バッ
兄「おーっとと、逃げれると思ってんのか。ここは地下牢、出口は一つだぞ」ズササッ
兄「無事に出たきゃおとなしく捕まっとけ。抵抗するなら骨の十数本、覚悟しとけよ」
『………』
兄「チッ、余裕だねアンタ。幾らでも逃走手段はあるみたいじゃねーか、ならいっぺん試してみるか? おっ?」くいくいっ
143:以下、
ガタタタッ!
女「──無事かイモウト! 門番とやらも!」
巫女「ご無事ですか皆さん!?」
妹「あ! 女さん! 梓さんまで…!」
巫女「妹様! はやく此方に! すぐさま護衛の里の者たちが来ますから…!」
兄「……」ジリジリッ
『………』
女「化け物、そやつが今回の黒幕か! 何としても捕まえろ、絶対に逃がすんじゃないぞ!」
兄「わかってる。けど保証が出来無い、さっきら妙に勿体ぶんってんだよ。この人」
女「ハッ! そんなモノとうに承知! ──雑兵よ、キサマはワタシの到着を待っておったな!?」
『……』
兄「なに? どういうことだ嬢ちゃん?」
女「全員集合が此奴の目的よ、その懐に爆薬でも隠し持ってるのか? それとも毒霧の小瓶か! まるごと全て一網打尽がお望みか!」
巫女「爆薬…!? な、ならば早急に避難を…!」
女「化け物わかっておるだろうな! 何としても自爆はさせるな、生きたまま証人としてひっとらえよ!」
兄「…わざわざ煽って言ってくれるな、嬢ちゃん。けど、それならそれでやるべきことは決まったぜ」グググッ
144:以下、
兄「全力で身ぐるみを剥ぐ。力技になるからか弱い女みたいな悲鳴あげてくれるなよ」ズッドォオオン!!
『………』スッ ゴソゴソ 
兄「させるか馬鹿野郎ッ!!」ブゥン!
カチリ! ボワワワワン!
兄(な、に…煙幕だと!? しかもノータイムで爆発とか高性能過ぎる! くそっ、皆の安全を優先にっ!)キョロキョロ
「きゃあああ!」
兄「ッ!? こっちも勿体ぶらず使うぞッ! 一日限度二回の筋肉振動波ッ! パアアアアアアアアアアアアッ!」
ブルッ! ボッ! ドッパァアアアアアン!
兄「よし、霧が晴れ!」
女「──む? ワタシのマントが…」
巫女「突然真っ暗闇になりましたが!? 一体どのような事態になりましたのですぅ!?」
門番「アズサ様ァー!? す、スカート袴が頭の上にまで捲れ上がっ、オレも裸になってるぅー!?」
兄「…あ…」チラ
妹「…………………兄貴…ッ…」ブルブルブル
145:以下、
兄「あ…」カァァア
妹「…また見た…っ」ササッ
兄「違う違う違うッ! 分かってこの状況凄い不可抗力! こんな被害思ってもなかったよマジで!」
妹「い、言い訳するよりあっちッ!!」ビシィッ!
『……』ダダッ
兄「あいッ! 今からとっ捕まえますッ!」ババッ
???
『……』タッ タッ タタンッ
兄(クソッ、脚がい。このまま森に入られて気配消しもされたら逃がしちゃうかも知れん)
兄「こっちは筋肉疲労で走るのも辛いんだぞ、まったくッ! だったら死なない程度に死んでくれアンタッ!」ガッ!
兄「──そぉおおれぇえぃいッ!!」ブォン! ボッ!!
兄(岩の砲弾だぞッ! 掠っただけでもバッキバキになると思───)
『……』チラ
ガッ! バゴォオンッ!
兄「……、はい?」
146:以下、
『……』スッ タタッ
兄「今…嘘だろ…砕いたのか岩を素手で…」
兄(しかも岩は俺が投げて威力があった! でも簡単に砕かれて、相手さんも負傷してるフリも無し…!?)
兄(さっき地下牢でタコ殴った時も、受け流しじゃなく、単純に耐久力が馬鹿高いのかッ!?)
『……』タタタタッ
兄「ッ! 考えてる暇はない! まずは捕まえないと、」
カンカンカンカンカンッ!!
兄「…!? あれは…煙…火事かありゃ…? …ッ!!?」バッ!
『……』ジッ
兄「テメェ…! 火ぃ着けて回りやがったなァ! クソがッ! そうまでして逃げ果せたいのかよオイッ!」ギリリッ
兄(どっちを取る考えろ俺、アイツは出方を伺ってる。理由なんて馬鹿な俺には分からん、チャンスなのは変わりない!)
『……』カチリ ボォオ… ギリギリギリ
兄「弓!? 矢尻に火が──ああもう分かったぶっ飛ばすッッ!! そこから動くんじゃねェぞゲス野郎ッ!」
149:以下、
兄(距離にして十メートル、俺なら全力三歩で近づけるッ! その勢いを持ってして、)
兄(テメーの意味不明な耐久力を上回った威力を文字通り叩きだしてやるよォオオ!)グググッ
ダァン! ダァン! ダァアアアンッ!
兄(近づけた! このままぶん殴って、)フワ…
兄(匂い? 異常なほど『コイツの周りが変な匂い』がする)
『……』チラ
兄(こっちを見やがった!? どうするこのまま、それとも様子見を──否ッ! 押し通すッ!!)
兄「あるぅうあああッッ!!」ブゥン!
『ぐッ!? があああああッ!?』
ギュン! ドコーン!
兄「っ…はぁ…はぁ…クリーンヒットした…けど、なんだ違和感が…」クンクン
兄(ぐぅ、変な匂いが周辺から漂ってやがる…コイツ一体なにを撒いたんだ…?)
ビュウン!
兄「ッ? ──矢が飛ん、……あ」
兄(もしかして火山のガス、じゃ)
ヂリッ! ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンン!!!!
150:以下、
モクモクモク…
『はぁ…はぁ…』ガサガサ
『(流石に天然ガスによる爆発じゃ木っ端微塵に、)』
『………』バッ!ギリギリギリ!
「──うん、よく弓を構えてくれた」
兄「正直、爆炎から飛び出してアンタの頭を殴ってやろうかと思ってたし」スタスタ
『死なないのか』
兄「ごめんな。この程度じゃ無理なんだぜ」コキッ
『…化物め』
兄「アンタが言うなよ。ちょっとわかってきたんだ、その耐久力の正体って奴」
『……』
兄「身体が【二つ】あるだろ、アンタ。動きまわる人間と攻撃を受ける人間、まるで一人の姿のようで」
兄「そのマントの下に二人居る」
兄「だから俺の攻撃を食らって動き回れると見た。おい、大丈夫か? 死んじゃいないだろうな片方は」
『戯れ言を』
兄「あっそ。認めないならそれでいい、二人いると分かったなら、他にやり方はある」
兄「──例えば、」ギュンッ! ボッ!
151:以下、
ビュウウウウンッ! …カーン!
兄「おっと、避けるか。…今投げた石ころ、もう一人のやつに当たりかけたぞ」
『……』
兄「既に分かれてるんだろ? マントの下はアンタ一人、片方は後方から俺をクビを狙ってた」
兄「そういった手合はとことん騙し合いを続ける。けど正体がバレちゃ、ただの悪手だ」ギュググ
兄「──勢力を分担して、俺に勝てるわけねーだろ?」ダンッ
『…ッ…』ヒュバァ!
兄(苦し紛れの一矢報いるって奴か。そんなの避ける必要もなし)ザクッ
『……!』
兄(例え、矢尻に毒だろうが麻痺だろうが即効性の麻薬が塗ってあっても『俺には効かない』)
兄「気合入れろよアンタ」
兄「───死なない程度に、死んでくれ」ブゥン!
『………』
『───全方位、一斉射撃』
兄「…え…?」
????
巫女「火事ですって…?」
「は、はい! 火の移りが異常に早く、どうも仕組まれていたようにも…!」
152:以下、
妹「梓さん! 私達も早く消火にしに行きましょう…! 貴女が指揮すればもっと迅に対応できるはずです!」
巫女「…で、ですが」
妹「ど、どうしたんですか?」チラ
女「……」
巫女「吸血鬼様、私は、」
女「構わん。この際だ、この騒動中に『バレたら不都合な証拠』を消し去ろうともな」
巫女「……」
女「里の長として最善の行動をしてこい」
巫女「わかりました。では、行って参ります」バッ
「此方です! 梓様!」
巫女「ええ、私は火力の高いトコロへ向かいます。あなた達は逃げ遅れた者達の救助を」
「は、はい!」
ドタドタドタ…
女(火事か。元より自分の命より証拠隠滅が目的だったか、舐められたものだの)
妹「…女さん」
女「イモウトよ。ここも本堂であっても木造建築、風が吹けば火移りする可能性も否めんぞ。早く…」
妹「女さん!」
153:以下、
女「……。私は正直に言ったまでだ」
妹「どうして、なんで、今回の犯人はマントのやつだってわかったでしょ…!?」
女「正体が見破れん限り、龍頭宗に否がないと断言出来んだろうに。私は疑ったままだぞ」
妹「だからってあんな言い方は…!」
女「イモウト。ワタシは『今回の襲撃、祭神具の強奪』が全くアズサが絡んでいないとは思っておらん」
女「むしろ主犯格の一人だと睨んでおる」
妹「…ッ…」
女「少しは頭を冷やせ。…化物の件はワタシも耳にした、何時まで友情ごっこを続けるつもりだ」
妹「……何?」
女「今は人の生死が重要だろう? オマエは頭が冴える。ワタシの側から離れず、逐一に助言をくれ」
女「──アズサを一切信用するな、絶対だ」
妹「…っ…っ…」フルフル
妹「酷いよ、そんなの。なんで信用しちゃ駄目なの? 友達なのに、梓さんを疑わなくちゃいけないの?」
女「情を絆されるな、我々は影に潜む世に認められない人間たちだぞ。常識外をいともたやすく手にかける」
妹「ッ…そうだね、そうなんだろうね。だってこんなにも人の気持ちがわからないんだもん…!」
女「なに?」
妹「友情ごっこ? 女さんにはそう見えても、人はそれが当たり前なんだよ…?」
女「…」ズキン
妹「なにもかもわかったフリして、人の気持ちを否定する女さんにはわからないだろうけどね…!」キッ
154:以下、
女「そうか、よく言ったイモウトよ」スッ
妹「ッ…!?」
女「ワタシは現当主、世に生まれる歪曲された『事実』を修復する吸血鬼なり」
女「少し、知りすぎたな。人は認められぬ現実に晒され続ければ、いずれと同類に相成る。…オマエもその一人だ」
妹「なに、するの…?」
女「どうとでも。後でオマエの兄貴に肉片へと様変わりされても、ワタシは今のオマエを守ろうと思うよ」
女「だから記憶を飛ばし、家へと送り返す。既にマミーとエメトに連絡は入れた」ピッ
妹「そんな…っ!」
女「あと数時間で迎えが来る。この非常事態に些か遅すぎる報告だが──オマエの言うとおりワタシも狂っていたようだ」
女「なにもかもわかったフリして、人の気持ちを否定していた」クルッ
妹「あ…」
女「事実なんてものは全部話せば友情か? 知られたくない秘め事があるからこそ、友を求めるのではないか?」
妹(私、言い過ぎた、そんなの女さんだって…)
女「押し隠したい事実など、誰も知りたくない。けれど今は『オマエの命』が関わってる」
女「…ワタシこそ友情ごっこにほだされていたな」
妹「女さ、」
ぐるん バタン…
妹「…っ…おぇ…」
女「魅惑の瞳。微細な電流をオマエの体内に流した、気分が悪いだろうがじきによくなる」
155:以下、
妹「女…さ、ん…っ」ブルブルブル
女「すまんなイモウトよ。ワタシはアズサもイモウト、どちらの気持ちも汲み取るつもりだ」
女「アズサには知られたく無い事実がある。暴くにはオマエが邪魔なんだ」
妹(ああ…視界が暗くなって……)
女「……。は、ははっ、これが友情にしては」
女「なんともまあ、歪な結果になったもんだ」
妹(…ごめ、んなさい…)スッ
???
『一斉射撃』
兄「…え…?」
ヒュバババババババババババ!!
兄「ぐぁああああっ!?」
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ドッ!
兄(何処からとも無く無数の矢…ッ…一体、何が起こって…!)
兄「ぁに…っ?」くらぁ
バタン!
兄「はッ…がッ…ぐぅッ…!?」ガクガクガクガク
156:以下、
『…数千種類の毒には対応できないか』
兄(どうなってやがる!? 俺には毒は効かないはず、が、まさか──)
がさ がさ
がさがさがさがさがさががさ!
兄(物陰から、草むらから、一人二人──数十人以上のマントの奴らが…!?)
『我々は全にして一、一にして全』
『痛みも苦しみも全て分け合える』
『一つにして全の可能性』
兄「はぁッ…はぁッ…か、カカッ! これだけ襲撃者が居て誰一人、里の連中にバレてないってーのは…ッ」
兄「──ちっとばかし、できすぎた話じゃねーのかよ…?」
『未だ口を開けるか』
兄「俺の良さは力自慢じゃなく、耐久力にあるもんでね…ッ…腕力はそのオマエだ…っ!」ガクガクガク
『………』
兄(不味い、非常に不味い! 身体の自由より、数分間この場に縛られるのが!)
兄(この人数が『あのスピード』と『耐久力』を持ってるなら、人数が減っても殺す気でやらんとみんなが…)
『始末させてもらう』
兄「く、くく、どうかな…短刀も弓も毒も、俺を殺すには役不足だぜ…?」
『確かに。そのとおりだ、我々もそれなりのモノを用意する』
兄「…ぁに…?」チ、チラ
157:以下、
『……』ゴキゴキィン!
兄(見るからに握力やばそうな奴がこっち来てる…南京錠ぶっ壊したのはコイツか…)
『足の関節計六個。腕の関節計六個、運動性のに関わる部位を破壊する』
『──耐久力に自慢があるのなら、耐えてみせろ』
兄「…っ…」ダラダラ
兄(どうしよう、まずい、この事実を嬢ちゃんに伝えなくちゃならんのに)
兄(流石に死なないだろうけど、俺が動けないのをいい事に滅茶苦茶になるのなら──)
兄「いっそ…殺してしまったほうが良いかな…」
『…っ…』ピタリ
『どうした? 何を躊躇ってる?』
『……気配が尋常じゃない。今手を出せば嫌な予感がする』
兄「………」ニ、ニヤ
『では放置するか?』
『不確定要素は取り除いたほうが良い。コイツは【おまけ】だ、本来の目的を達成させる』
『二つの部隊に分かれ作戦を実行しよう』
兄「…ハッ! …そん、なこと俺が許すわけ…ッ」
ガサリ
「……物の怪?」
159:以下、
兄「ぇ──」
門番「ここで何をして、その連中は…」
兄「──逃げろッッ!! 早くッッ!!」
『……』シュバッ
『……』ギリギリギリ
門番「あ…」
兄(駄目だ此奴が早い! このままじゃ殺さ…!)
『……』ブゥン!
門番「──…」
ギャルギャルギャルギャリリリリィッッ!!
門番「一、二、三、指弾」ビュパァ!
『ぐぅっ!?』ビシィ
『がっ!?』ベキィ
兄「………へっ?」
門番「爆音につられ来てみれば、やはり襲撃者だったか」ギャリギャリ
門番「──オレは龍頭宗の護り手、指弾使いの一人!」
門番「賊に後れをとるほど、なまっちょろくないぞッ!!」
兄「やっるぅうううう!!!」
160:以下、
門番「物の怪! 大丈夫か!?」ピュパァ!
ずささー!
兄「あ、ああ…俺は大丈夫だ、それより気を抜くんじゃない…っ」
門番「わかってる。こいつら本当に一体なにものなんだっ? オレの指弾を着弾直前でずらしてくるぞ…!?」
『……』ジリジリ
兄「ただ者じゃないってことはわかる。けどもう少しだけ、時間を稼いでくれ」ダラダラ
門番「なにか秘策でもっ?」
兄「勿論だ。マント共をこっちに近づけるな…あと矢も撃墜してくれ…」
門番「まったく無茶を言うぜ物の怪!」バチィイイン
ガッ! ガガガガガッ!
『…!』
門番「──でも、やってやるさ」ギャルギヤル
『……。全方位、一斉射撃』
兄「っ! 来るぞ構えろ! どうにか耐えろ!」
門番「応さッッ!!」
ガガガガガガガガガガガガッッッ!!
門番「くぅううううう!! なんて猛攻…! 出来ればここから逃げ出したい…ッ!」
161:以下、
兄「すまん…どうにか無事にここを切り抜けたら…今度は何だって見せてやるよ…」
門番「なにっ!? じゃ、じゃあアネキが言ってた生殖行為ってやつを…」
兄「もうちっと大人になったら考えてやらんでもないかなぁ!?」
『…キリがない』
『我々三人で突撃、他の我々は本命を急げ。残りの我々は同時に射撃だ』
兄(来たか同時襲撃! 間に合え、間に合え、間に合え───!!)ダラダラ
門番「くっ!? 残数がもう、きゃああ!?」
兄「門番!!?」
門番「だ、大丈夫だ…かすり傷程度…なんとも…がっ!? うっ!?」ガクガク
兄「毒が──くそおおおおおおおお!!」ガバァ!
ストトトトトッ!!
兄「うぎぃ!? はぁ…はぁ…大丈夫、大丈夫だ、安心しろ…」
門番「も、物の怪…お前…っ…」ガクガク
兄「平気だって、ああ、本当に。俺は本当に幸せだ、ありがとう。助けてくれて…人のために動いたお前は立派な戦士だ…」ぐらぁ
門番「物の怪…ッ!」
『──死ね』シュバァ
兄「……」ガシィッ
『……!?』
兄「──死なねえよ、バカ!!!」ガン!
162:以下、
『ぐはぁああ!?』ズサァー…
兄「ふぅーーーーー………」スクッ
兄「よし。全部【毒は汗で流れ出た】、えらく時間がかかった。よくもまあとんでもねえ数打ち込んでくれたなオイ」
『…何を世迷い言を。妄言にしてはたちが悪、ごはぁッ!?』
兄「一人目」ピッピッ
『ッ…!?』ピュイン!
兄「──いつまで抗体できた毒に頼ってやがんだ、アホ」ずぽっ
『ひぃっ!? ば、化け物ぉ…!!? がはぁ!?』だだっ
兄「二人目、三人目──」
『各我々、後退しろ! 森へ、ぐあああ!?』
兄「逃がすか。全員ここで雁首揃えて狩らせてもらう」フシュルウゥウウウウ?…
兄「あともう二つ。…妹ちゃんに刃物向けた奴と、門番ちゃんに矢とナイフ向けた奴でて来いこの野郎ォオオオオオ!!!」
バキバキバキィイ! ドッタンバッタン! ギャアアアアア!!
門番(これじゃあどっちが敵なのか…)ダラダラ
兄「──おっとと、そうだった忘れちゃ駄目だったぜ」スタン
門番「っ…っ…?」
兄「ほれ。俺の血を飲め、大丈夫。病気は持ってないし、むしろ門番ちゃんの病気のほう殺しちゃうかも」
門番「…か、…とんでもない、な…お前…」
兄「よく言われるよ。理屈は分からんけど毒に抗体作れたら、俺の血である程度だけ他人も存命できるんだ」
163:以下、
兄「……。俺の血飲むの、嫌か?」
門番「……ぜん、ぜ…ん…」ニコ
兄「ん。上等だ、お前は凄いよ。じゃあほれ」ポタポタ
門番「ん…あ…っ…ん…」
門番「───」ピクッ
門番「──…嘘、だろ?」ぽかん
兄「言い忘れてたけど、即効性だ。すぐに動けるようになる」にっ
門番「本当に人間なのか、それともマジで物の怪…?」
兄「どっちだっていい。こうやって人を守れるなら、俺は何時だって胸を張って化け物として生きてやるよ」
兄「だから…」スッ
仮面『……』ガサガサ
兄(見るからに親玉──ああ、こりゃやべえな、人目で分かる『こっち側』の人間だ)
兄「ああいった類の化け物相手に、動ける自分はかっこいいと思ってる」スッ
門番「お、おい!」
兄「門番、伝言だ。心して巫女さんじゃなく、嬢ちゃんじゃなく『妹ちゃんにだけ』に届けろ、──敵は外じゃない、きっと中にいる」
門番「え…? 中にいる…?」
兄「詳しい事情は頭悪い俺にはちっともだ。けれど、なんとなく『敵じゃない感』があるんだ。…操られてるとも違う、すごい違和感が」ズシャ
仮面『………』
兄「…くそ、ははっ、まったく隙がねえ、エメトさん以上だな…」ぶるっ
164:以下、
兄(まるで全方位から見つめられてる奇妙な視線、どうなってやがるよ、マジで)
門番「お、俺も加勢する! 伝言はあいつを倒してから一緒に言えばいいだろう…!?」
兄「冗談言ってくれるなって」
ヒュバ!
門番「──……っ!?」
兄「…っ…っ…上等ッ、手負い狙う畜生具合は殴り倒す価値があるなァ…!?」ギリギリギリ
仮面『……』ギチギチギチ
門番(なんという俊敏性、一切、動作が見切れなかった)ゾク
兄「早く行け! 伝言をきっちり言ってこい!」
門番「…死ぬなよ、兄!!」だだっ
兄「簡単に死んでりゃここにはいねえよ!」ギリギリ バッ!
スタン
兄「はぁ、さっきから一言も喋らないけど、もしかして喉潰れてる系の人?」
仮面『……』
兄「単にお喋り嫌いな人か。…できれば教えて欲しいんだけどな、目的とかさ」
仮面『……』スッ
兄「ん…!?」サッ
パァアアアアアン!
仮面『……』ィィィィィン…
165:以下、
兄(手拍子? 何の意味が、大した衝撃でもなしに───)
『…ぁ…』
『ぶぶぶ、ぶぎぎっががががあがが、』
兄「…なに…っ?」
『…壊して、壊して、壊して強こわこわこわこああわっわわわわ』
『あああああああああああああああああああああ!!!!!』
『壊して強して怖して恐して剛毀壊壞!!!!1』
兄(気絶させたマント共が起きあがって、クソ! 冗談じゃない、まるでゾンビさん達じゃねえかこれじゃあ…!?)
仮面『……』ビュン!
兄「ぐぅう!? テメー一体何をしやがったんだ…!?」
仮面『……』ギチギチギチ
兄(度を超した腕力! だったらこっちも、おるぅううううあああああ!!)メキメキメキ!!
仮面『……』
仮面『……………兄』
兄「───!」ばばっ!
仮面『……』スタン
兄「…お前、今、俺の名前…呼んだのか?」
仮面『退却』パン!
兄「待ちやがれ! オイ! どうして俺の名前を…!」
ふらぁ
兄(くっ、抗体作りに体力を奪われちまった。さっきの筋肉振動波の疲労も…っ)ズキンズキン
167:以下、
ドサッ
兄(いや、今はいい。寝てでも頭は動くんだ、少し休もう)
兄(この状況、どう動けば最善か考えねえと…)
兄(マントの奴らは、俺は『オマケ』だと言ってやがった。襲撃云々はそもそも狙いじゃなかった?)
兄(わざわざ襲撃に祭神具の矢を使用するのは…俺を嵌めるためだったはず…)
兄(……じゃあアレか、俺を嵌めることと『本来の目的』が合致したと言うこと)
兄「…いや、そうじゃないだろ、そこは違う…」
兄(──そもそもこの【状況】こそが狙い、だったとしたら)
兄「あぁ、嫌な予感がする。理由がない予感、…当たっちまうんだよな、こういう時に限って」
兄(──ともかく最善なのは、仮面野郎の追跡!!)ババッ!!
ダダダダダダッ
兄「くそ…匂いが…なんで今頃になって硫黄で狂ってた嗅覚が戻っちまうかね…ッ!」
???
女「…」キョロキョロ
女(意外にも本堂は静かだな。屋外では鐘鳴に人の声が微かに響く程度)
女「──つまりここが、外界から最も離れた場所だと言えよう」チラ
168:以下、
妹「……」
女(この場を離れるわけにも。だが行幸は行幸、みすみす逃すこともない)
女「化け物が居れば少しは楽になったが…」
女(無い物強請りは性に合わん。最小のリスクで得るものを得る)
女「今は西母屋、地下の牢獄の入り口。ここから祭壇へルートは」
女(中央通を出て、東母屋に通じる廊下に出る。
 西母屋からのルートは外回りをぐるりと一周する必要があるからな)
女「…非力なのが悔やまれる。どの道を選ぼうにも最短距離は望めん」
女「つまり──」チラ
『西の間』
女「……」スタスタ ガラリ
女「…そうか、やはりそうなるか」ボソッ
女(ままならんのは頭では理解していた。こうまで疑いが深まれば、行動はひとつ)
女「『イモウトを隠す』だ。答えに辿り着く為の一歩、そしてイモウトの命も保証される」ぐいっ
ズリズリ…
女「くそ…本当にワタシはこれで合っているのか…っ」ズリズリ
女(イモウト…化物…ワタシはちゃんと…オマエ達のために動けているのか…っ)ポロ
グシグシ
女「んんっ! 泣いておる場合か! ファイトだっ!」ズリズリ
169:以下、
???
カンカンカンカンッ!!
巫女「───……」
巫女「今の状況は?」
「里の者達は殆ど救出しました。火の流れも十分に弱まっています」
巫女「では早急に火元消滅を。私もそこに案内しなさい」
「…梓さま! 梓様!!」
巫女「どうしました?」
「じ、実はあの客人たちの安否を確認しに言った里の者が…っ」
「──二人共、その場から唐突に居なくなってたと報告が…!!」
巫女「っ…!? な、なんですって…!?」
「わ、私達は本堂の入り口から西母屋に向かいました…!」
「しかし、西母屋へと通じる道は正面入口の中央通のみです!」
巫女「じゃあ鉢合わせになるはずでは…! ま、まさか急襲者に…!?」
巫女「──私が直接確認しに行きます! 貴方達は火事の現場に向かいなさい!」
巫女(きゅ、吸血鬼様…妹様…っ…どうかご無事で…っ)
「──梓様ぁあああ!!」
門番「ど、どうかお待ちになってください…はぁはぁ…っ」
巫女「どうして貴女がここに…確か兄様のところへ駆けつけたはずでは…?」
門番「は、はい! 状況はもっと過酷になっております!」
170:以下、
巫女「ど、どういうことなのです…!?」
門番「っ???…も、申し訳ありません! 私には説明することは出来ません…っ」
門番「その兄からの伝言は『妹様』だけにと、そう約束されたのです…」
巫女「……それは、どういう…」
門番「あ、兄が言うには…あ、梓様は…信用してはいけない、と」
門番「──敵は内なる者、とだけ…」ぎゅっ
巫女「……………」
門番「申しわけございません! この事態が終わり次第、即刻この首を差し出す覚悟でございます!」
巫女「……いえ、いいでしょう。私自身も覚悟を決めております」
門番「うぐ…ひぐっ…」
巫女「偉いですよ、門番。貴女が信じる者の言葉を突き通す覚悟、心から…」
巫女「…羨ましい限りです…」ボソリ
門番「…えっ…?」
巫女「では、着いてきなさい。私も妹様と吸血鬼様へ向かうところです」バッ
門番「は、はい!」
巫女(……お姉ちゃん…っ…私は…っ)ギュッ
???
171:以下、
『お□ちゃん』
『わたしはね、ずっとずっといっしょにいるよ』
『お□ちゃんとならつらくない、たのしい、だからずっといっしょだよ』
『だからね、だから、』
『お□ちゃんと一緒なら、私、いつまでも───』
妹「──……」パチリ
妹(また昔の夢を見た。あの時、お兄ちゃんってどんな表情してたっけ)
妹「……」ぽけー
妹(…!? ここ、どこっ!? あいたぁ!?)ガン
妹「いたた…なにこれ、近くに壁がっていうか…暗っ!? せまっ!?」ガンガン
妹(何処かに閉じ込められてるっ? どうして、あ、段々と思い出してきた…)
妹(女さんに、よくわからないけど気絶させられて…そこから…運ばれてるような感覚があって…)
『ん。起きたか、イモウトよ』
妹「この声! お、女さん…? 近くにいるの…!?」
『いるとも。離れるわけがない、オマエの側から絶対にな』コンコン
『混乱する前に説明してやる。オマエは今、木材で出来た四角い箱に仕舞われておる』
『開けるには鍵が必要だが、吸血鬼道具で壊させてもらった。誰にも開けられんよ』
172:以下、
妹「……」
『ふむ。慌てぬ所を見るに、解決方法は理解済みか。そうとも、オマエの兄貴にぶち壊してもらうだけだ』
『つまりこの里において破壊を持つものしか妹を救出できん』
妹「…じゃあ、この箱が置いてあるのは【破壊が行われては行けない場所】なんだね」
『……流石だな』
妹「思うに祭壇じゃないの? 暴力性を持った人間が一番、目立ってしまうから」
『くっく、やはり冴えるなイモウトよ。実に惜しい、冷静ささえあれば右腕にしたいほどだ』
妹「…女さん、私、さっきのこと…」
『良い。多くは語るな、全て終わってから話そう』
『──状況は看破しつつある、どうにもならんよ。もう、どうにもな』
妹「本当に、梓さんを疑ってるんだね」
『ああ。だがしかし、それはオマエに説明してない部分が大きく関わってくる』
『【梓の秘密】こそがワタシが疑う原因だ』
妹「…でも梓さんは私に知られたくないと思ってる」
『その通り。しかし人となりを考慮しておれば命など刹那のごとく散っていく』
『…ワタシは吸血鬼として、オマエの友として、…アズサの幼馴染として行動を取る』
妹「…どういうこと?」
『実はこの箱は防音なのだ。ワタシの声はオマエが持つ携帯に直接送っておる』
『そして数分後、アズサがこの祭壇室へと来るだろう』
173:以下、
『──そしてワタシとの会話を、ワタシの有無でオンオフしながら訊いてもらうのだ』
妹「つまり、梓さんが訊いてほしくない秘密だけを切り取って…」
妹「…事の真相を私に知らせようってこと?」
『理解が早くて助かる、しかし』
妹「うん。それだと『女さんが改変した会話』を流す可能性もあるってことだよね」
『……流石だな、本当に』
『ぶっちゃければ出来る。可能性じゃなく絶対に出来る、私には人の声などちょろいもんだ』
『一定の単語のみで形成された会話文など一分もかからず製作可能だ』
妹「…うん」
『イモウトよ。聡明であり、人ならぬ兄を持ったイモウトよ』
『──吸血鬼の戯言、心から信じるか?』
妹「信じるよ」
『……!』
妹「当たり前だよ。私、本当に馬鹿だから」
妹「すぐに怒っちゃうし、すぐに信じちゃう。わーわー周りが褒め称えてくるけど、これでも本当に普通の一般人なんだよ?」
妹「…だけどね」
妹「私は、その時に思った『これでよし』って感覚は凄いと思ってる」
妹「直感とも違うけど、梓さんのことも女さんのことも、疑うことも信じたいことも、どっちもこれでよしって思ってた……」
妹「だから、どっちも信じたい」
174:以下、
『…どちらも選べんぞ、真実は何時だって一つだ』
妹「知ってる。けど、私は信じたい」
妹「女さんも梓さんも、どっちも悪くない。ちゃんと人の為に動いてるって、私は思いたい」
『……はぁ?あ…本当にオマエら【兄妹】って奴らは…』
コン…
『…憧れる、本当に』
妹「もしかして前も言われた? あはは、そりゃ血の繋がった兄妹だもん。おんなじこと、言っちゃうよ」ニコ
『…うむ、ワタシも覚悟が決まった』
『じきにアズサがやってくる。イモウトよ、オマエも覚悟を決めておけ』
妹「女さん」
『ん、なんだ?』
妹「さっき、感情的になって否定してごめんね」
『……。くっく、それこそオマエの持ち味だろうに』
『立場、状況関係なく感情論で否定こそ、ワタシが一番知りたい友情だからな』
妹「…そっか。なんていうか、私ってばかみたい」
『上等だ。今後、ワタシのこともそうやって否定してくれ』
『オマエとは右腕なんぞツマラン関係じゃなく、そうであってほしいからな』
妹「…うんっ」
???
176:以下、
ガラララ…
巫女「はぁ…っ…はぁ…っ」
「遅かったな。もうちっと頭の回転が冴えると思っていたが」
巫女「吸血鬼様…! なぜ、このような場所に…ッ」スタスタ
女「まあそう怒るな、オマエとワタシの仲であろう…、おっと」チラ
門番「っ…っ…」
女「化物を見張って居った里の者か。なぜ、ここにいる?」
門番「お、おれはっ」
巫女「ッ???! 彼女から、話があるそうです! 妹様だけに言付けがあると兄様から…ッ!」
女「何? イモウトのみだと? …事実か?」ギロ
門番「あ、うっ…そ、その通りだ…っ」
女「──そうか、ならここで話せ。私に話すことはイモウトに話すと同意義だ」
門番「だ、駄目だッ! それも約束された! あ、梓様ときゅ、吸血鬼! どちらも話してはならぬと!」
女「……、駄目だ今話せ。即刻だ」
門番「断る! 早く妹様の場所を吐け吸血鬼ッ!」
巫女「──いいかげんにしなさいッ! ここがどのような場所かわかっているのですかッッ!!!」
女「……」
門番「ひっ!」
177:以下、
巫女「神聖な龍頭宗たる最奥の祭壇、普段であれば里の者達でさえ足を踏み入れることすら許されぬ…ッ…最も尊厳たる聖域…!」
巫女「貴方達は何を考えておられるのですかッ!?」
女「真実のみだ、梓よ」
巫女「ッ…ではここではなく東母屋の方に…ッ」
女「ここでなければワタシの求める真実は明かされん。アズサ、【ミズメ】を出せ」ピッ
巫女「…ッ…!」
女「本堂の祭壇、己が言ったとおり聖域ならば出すのも簡単だろう?
 ワタシが何の考えもなしにここへ逃げ隠れたと思っていたか? いや、端ではわかっておっただろ」
巫女「私は…ッ」
女「──【しにじょうず】」
女「巫女は時代の流れにおいて、神聖の変化がより多大に影響を受けた一つ」
女「アズサ、オマエの名もまた大きく意味を持っておる」
女「単に民間信仰程度の由来で名付けられんからな。さて、全てを語らせるつもりか?」バッ
ストン
女「それともなんだ、昔みたいにあの木の葛に入れられ持ち運ばれんと無理なのか?」
巫女「…ッ…」ギュッ
女「何を躊躇う。真実こそが解決への一歩、ワタシは幾らか常渡しておるつもりだがな」
巫女「…妹、様は…っ」
女「ここには居らん
178:以下、
門番「っ…では、どこに…!?」
女「隠しておる。一般人にこの場の状況、知るには荷が重い」
女「──無論、オマエに教える道理も無し」
門番「…っ…!」ギュッ
女「さて、梓。龍頭宗の現当主よ、ワタシに真実を述べよ」
巫女「…吸血鬼さま」
女「ああ」
巫女「私は、真実のみ話します。どうか心から寛大なご処置を…」
女「無論だ」
巫女「……、我が姉はもう既に【居ません】」
巫女「既に私の中からは消えているのです、もうミズネに会うことは叶いません」
女「……。何時からだ」
巫女「…しん、じるのですか?」
女「元より疑っていた。思うに、手紙が届いた時点じゃないか?」
巫女「その、通りでございます。私に【兄様を処罰せよ】と言葉を残し…」
巫女「私の奥の奥へと消えていってしました。私にとって初めての経験で…どうすればいいのかさえ…わかりません…」
門番「あ、梓さま…わたしは…」
巫女「ええ、里の者達に伝えることも初めてです」
門番「…っ…そんな、では龍頭宗は…この隠れ里の意味は…っ」
巫女「──瓦解するでしょう、今回を持って」
179:以下、
門番「…ッ…!」
女「つまり、オマエはミズネが残した遺言を忠実に守った、ということだな」
巫女「……」コクリ
女「成る程。里の連中にすら口を閉ざす理由に合点がいった、ではもう一つ」
女「今回の謎の襲撃者。あの者たちを引き入れたのは、オマエか? それともミズネか?」
巫女「…姉だと思われます」
女「不確定か。だろうな、声が聞こえぬのであれば今更問いただすこともできん」ハァ
巫女「……はい」
女「そうなると、事の真相は他の宗の手紙による『化物処罰』を受け取った、姉のミズネが」
女「オマエに命じ、そしてオマエの中から姿を消した」
女「その異常事態に里の連中にすら相談できず、しかし姉の命を無碍に出来ずに」
女「いつの間にか里に忍び込んだ奴らを、梓自身釈明が出来ぬと」
巫女「……」コクリ
女「そうか。難儀であったなアズサ、大変であっただろうに。すまなかった」
巫女「いえ…私は…里の者達を思うこそ…このような行動に至ったわけです…」
女「……、立派だった。だからこそ、ワタシも吸血鬼として最善の行動する」
女「──直接問いただすことにするぞ、ミズネに」ガタリ
180:以下、
巫女「…えッ…今、なんと…!?」
女「どうりではない。オマエはアズサであってミズネであり、その身体に二つで一つだ」
女「精神観点から見ても【死亡】する意図が見受けられんからな、無理やり起こさせてもらう」
巫女「其のようなことが可能なのですか…!?」
女「可能だ。オマエ達、三頭宗全てに『明確な改変』を施したのは誰だと思っている?」
女「──我が父、前当主だろう? ならばワタシが再度、改変を行えぬどうりではないといっている」
巫女「なんと…そのような…思ってもなく、私は最初から吸血鬼様に話さえすれば…っ」
女「己を責めるなアズサ」
巫女「吸血鬼様…申し訳ございません…っ」
女「不問にする。全てを解決し、またまっさらな状態から始めようじゃないか」
女「…イモウトにも、話せるようにな」
巫女「っ…っ…は、はい…っ」ポロポロ
女「門番よ」チラ
門番「な、なんだっ」
女「席を外せ、少しばかりオマエの長が見苦しいことになる」
門番「わ、私は…っ」
女「護り手であるならば最善を尽くせ。この状況に、オマエは必要か?」
門番「…くっ…ならばせめて、妹様の場所を…っ」ギュッ
女「言付けか。それは確実にイモウトのみ伝えるべきものなのだろうな?」
181:以下、
門番「そう、言われた…なら、そう従うしか…」
女「──例えに状況が悪化した、それをオマエ自身が目にしたとしよう」
女「その具合を己自身で判断し、約束を反故する可能性は考えられんか?」
門番「…っ…!」
女「どうだ、そうであっても語れぬか」
門番(…兄、アイツは本当に妹様だけに伝えるべき、なのか…!?)
門番(あの襲撃者の数、そして脅威、どうにも簡単に対処できるものじゃないっ)
門番(…だったら今ここで話すべきじゃないのかよ、なぁ兄…!)ググッ
チラリ
巫女「…?」
チラ
女「……」ジッ
門番「????ッッ…!」
門番「……だめ、だ…」ボソリ
門番「言わない、言えない。絶対に、これは…っ…アンタが吸血鬼だからってことで否定するんじゃない!」
門番「恐れを抱いているからとか、怖いからだとか、赤目の異端者だからじゃなく…!」
門番「信用するな、と…兄が言った二人が…こうやって話してる姿をみて…!」
門番「自分で考えて! 思ったからこそ、オレは絶対に報告しない…!」
巫女「門番…」
門番「も、申し訳ございませんアズサ様! わ、私はやはり、今回を持って首を差し出す覚悟です…!」
門番「けど、けどっ! わたしは…オレは…兄に言われたんだ…」
門番「『知らないから怖がる』、『だから好き勝手言えるんだ』って…っ」
女「………」
門番「だから…だから、オレは知ってその上で言わないおく…こんなの、おかしいんだってわかってる…けど…」
門番「【今の状況こそがおかしいって】、オレはそう思うから…ッ!」
182:以下、
巫女「あ、貴女は一体なにを言って…一体何をかくして…?」
女「時間の無駄だったな。ふん、覚悟は良いが状況を捉えきれて居らん」
女「だったら脳髄に刻め。これから起こる真実を知る苦痛を──いぎぃ!? あがががががっ!?」
巫女「きゅ、吸血鬼様!?」
女「あひゃー!? お、大きな声でいきなりどうしたっ…イモウト…ナニ…?」ヒソヒソ
巫女「吸血鬼様…?」
女「な、なんでもないぞー!? なんでもなー!」
女「……」ピタリ
女「──なんだと? もう一度言え、なんと言った今?」
『梓さん。今、どっちの袴着てる?』
女「…おいアズサよ、その袴、どっちタイプだ?」
巫女「へっ? タイプというと、ズボンタイプを着ておりますが…?」
『…違和感がある。なんで転けやすいズボンで消火活動を?』
女「お、おい…そりゃ着替える手間がなかっただけで…」
『違うよ。牢屋の時、【スカートめくれ上がってたじゃない】』
女「───………ぁ…」
『どうして、わざわざ消火する前に【一旦着替えてる必要があるの?】』
『しかも【転けやすくて動きにくいと自分で言ってたズボンタイプに】』
女「…っ…」
183:以下、
『門番さんに兄貴の伝言を言わせて』
女「ま、待て! お前の存在をアズサに知らせるつもりか…っ!?」
『なにか、間違ってる気がする。もしかしたら【女さんが梓さんにナニカやることが目的】かも…』
『だから門番さんが全ての鍵! 私がここにいるって伝えて! 早く!』
女(────そんなことしたら、もう、二度と───)タラリ
『女さん!!』
女「…駄目だッ! ワタシはやると決めた、例え不確定要素があろうともまずは早急な解決!」
ズンズンズン
女「──鳴弦、【梓弓】」
女「吉凶や厄落としなどに使われる祭神具。龍頭宗では実際に弦が張られ、その【福音】で儀式が行われる」
女「そう、【音】こそがオマエ達二人の起源」
巫女「……!」
女「古来から縁が強い梓弓の音であれば、姉のミズネを呼び出すことも可能なはずだ」
巫女「で、では…!」
女「ああ。後は弦を鳴らすだけでいい、しかし、そうであっても特有のテンポがある」
女「行えるのはワタシだけ。知っているのもワタシだけだ、吸血鬼であるワタシがな」
女(ズボンタイプの袴。──その意味がもし【アズサの二重人格】に起因するならば尚更だ!)
184:以下、
女(無意識に姉の人格を呼び起こしている可能性。…時に病状的に、二重人格者は無意識にて行動基準がブレる。すなわち未だ姉が存命している理由にもなる!)
女「ワタシはやるべきことを、やるだけだ」
巫女「───……」
『──忘れてはいけませんよ、この【枷】を』
『私たちは一心同体。この龍頭宗を末永く安泰のもとに永続させる、これに疑いを持ってはいけません』
『ええ、お気をつけて。───特に、『あの方を』』
巫女(…姉様が消える直前に仰った『あの方』とは)
巫女(はたして、明確には一体誰だったのでしょうか。私は素直に兄様のことだと思っておりました)
女「行くぞ、アズサ」スッ
巫女「…吸血鬼様」
女「どうした? 心配なんぞ無用だ、ワタシに失敗などあり得んからな」グイッ
巫女「ええ、それは、そうなのでしょうが…」ギュッ
巫女(──いえ、全ては姉様が説明してくださるはず。杞憂にすぎないでしょう)
巫女「お願いします、どうか」スッ
女「ああ」
ギリギリギリ…
女「すぐさま、証明してやるさ」
185:以下、
???
『すぐさま、証明してやるさ』
妹「……っ」
妹(今すぐ女さんを止めなくちゃいけないような気がするっ、だって、兄貴が【私だけに伝言】だって言ってた…っ)
妹(一番関係無がない私が選ばれた、多分、兄貴は絶対に勘で言ったんだろうけど…こうゆうときに限ってものすごーくその勘が当たってるのを何度目にしたか…!)ゴソゴソ
カチリ!
妹(どうにかぬけ出す手段を見つける! 携帯のライトで、内側から開けられる手段を見つけ───)
妹「───」
妹「……え、なに、」ゾクゥウウ
『 タスケテ』
『タスケテ コワシテ アケテクライ 助けて タスケテ タスケテアケテアケテ』
『開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けてあけてあけてあけてあけてアケテアケテアケテ』
妹「……これ…は、…?」
妹(箱の内側に、たくさん、削られたように文字が、いっぱい…血…滲んで…爪で削った…っ!?)ゾクッ
???
186:以下、
女(──イモウトから通信が途絶えた? もしや他の機能を使用した、のか?)ピクッ
女(……まあ今は良い。私がすることはただ一つ、姉の存在の証明)
門番「…っ…」
女(化物。此奴に何を託したか知らんが、ワタシがワタシで出来ることを突き通すのみだぞ)
女(例えそれが、現状を覆す決定的な事であっても───)
ヒュッ …ビィイイイン…
巫女「……」ピクッ
女「一節目、個の固定」
女「二節目、人体の分別化」ディイン…
巫女「うッ…!」ガク
門番「梓様…!?」
巫女「ま、まだ【大丈夫】です…これぐらいならば…まだ…っ」
門番(まだ、とは…一体…っ?)
巫女(──流石です、吸血鬼様。この感覚は明らかに姉様がいる証拠他なりません)
女「平気か? 続けていくぞ、アズサ」
巫女「ど、どうぞ…お気にならさらずに…っ」
女「……。三節目、人格の浮上」ディンッ
キィイイインッッ!!!
巫女「───……ッッ!!?」ガバァッ!
187:以下、
巫女「あ…ぅっ…がッ…!」ガクガクガクガク
門番「あ、アズサ様ぁ!? そ、その腕は…!?」
女「ミズネだ、門番よ。アズサは元より姉の身体を保有している【テラトーマ】という畸形嚢腫だ」
女「珍しいことではない、症例はあまり耳にしないだろうが比較的に頻度の高い病気のひとつである」
女「卵巣性テラトーマ──本来ならば受精、という外部刺激を得て胚発生する細胞が【排卵も受精もせず卵巣内で胚発生】を始めてしまうのだ」
女「その後、あたかも受精卵と同じ工程で細胞分化を行い、同時期に受精卵となった細胞と同じようにホルモンバランスを受けて成長していく」
女「…これにより、身体一つでありながら髪、脂肪、歯、はたまた横隔膜から脳髄まで」
女「【一対の身体に2つの部位】が存在するケースが存在する」
門番「…ッ…!」
女「テラトーマ…ハッ! 言い得て妙だが、もっとアズサの場合は完璧に共存しておるから不思議なものだ」
女「畸形嚢腫とは取り除くべき腫瘍の一つ。だがしかし、アズサの身体は二人の人間が確実に同時に存在している、勿論、意識もあるぞ」
女「そして意思疎通も可能だ。アズサ本人も、そしてワタシ達外部の人間であってもな」
ギリギリギリ…
女「右腕、左脳、子宮、左大腿部、左眼に心臓。上げた部位全ては姉の【身体】だ」
女「つまり、これが龍頭宗が崇め奉る姉の正体だ」
巫女「…吸血鬼、様…っ」
女「この際だ、里の者には知らせておくべきだろう。オマエと姉の差別化への明確なアプローチにもなり得る」
189:以下、

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