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ことり「雉も鳴かずば撃たれまい」
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1:
その日、東條希は発狂した。
右を見ればレズ。
左を見てもレズ。
前門のレズ、後門のレズ。
四面レズの攻勢に精神が耐えられなかったのである。
ノンケにとって美少女同士のキャッキャウフフは毒でしかなかったのか?
否。
カップリングからはぶられた孤独に耐えきれなくなったのか?
否、否。
脳内で作っていたカップリングと全て違う組み合わせでくっつかれた絶望からか?
否、否、否。
希には、一つ心に決めていることがあった。
『恋人ができた子の乳はわしわししないこと』
それは彼女の恋を応援するためだった。
好きな人ができればその人を想って孤独を慰めることもあるだろう。
晴れて恋が実ればその人と熱い一夜を過ごすこともあるだろう。
そんな状況で乳に触れたとき、万に一つも自分の姿がちらつくようなことがあってはならないのである。
以下、μ'sの皆様によるわかりやすいVTR
『穂乃果のおっぱい、柔らかいのね…まるでおまんじゅうみたい』
『絵里ちゃん、ダメだよぉ、恥ずかしいよぅ』
『大丈夫、一緒なら恥ずかしくないわ。私に任せて』
(スピリチュアルやね)
『あぁっきもちいい、きもちいいよぉ希ちゃん』
『ちょっと穂乃果、希って誰よ』
以上。
サブリミナルのんたんの発生は彼女の幸せを壊しかねない。
それは友人として、恋を応援する者としての喜びに反する。
ゆえに希はわしわし禁止令を自分に課したのだ。
そんな希の受難は、穂乃果と絵里の情事を目撃したことで始まった。
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2:
※ラブライブ!二次創作です。
※キャラクター崩壊あります。
※下ネタあります。
※女の子同士でも同意がなければ犯罪です。
5:
それは事件の一ヶ月前。
絵里が保健室で目を覚ました時、彼女の目に真っ先に飛び込んできたのは涙を瞳一杯に溜めた穂乃果だった。
「起きた……! 良かったよぉ…!!」
絵里が起きたことに気づくや、穂乃果は大粒の雫を溢れさせながら彼女の胸に抱きついた。
絵里は自分の身に何が起きたのかゆっくりと思い出していた。
「…そっか、倒れちゃったのね」
ぐわん、と少し頭が揺れているような感覚が残っている。
貧血を起こして倒れるのは初めてだったが、原因は察しがついていた。
昨日、希と一緒にやった献血のせいだ。
激しい運動は控えるようにと言われていたのにダンスの練習に参加したのは、さすがに無理があったようだ。
「…もう大丈夫。心配させてごめんね、穂乃果」
絵里は腕の中で鼻をすする可愛い後輩の背中を撫でた。
その瞬間、ぷち、と音がして手に不思議な感触が伝わった。
6:
「ん?」
「あっ……」
穂乃果が絵里を見上げて顔を真っ赤にする。
彼女の制服の胸部分が歪な形に膨らんでいるのを見て、絵里は自分が何をしたか悟った。
外したのだ。ホックを。まるでハーレムもの少年漫画の主人公のような手つきで。
「もう、元気なんだから……えりちゃんのえっち…」
絵里の思考回路が全力で再起動する。
ここは保健室でベッドの上。
抱き合っている二人。
背中を優しく撫でて下着を外したらこれからどうなる?
穂乃果は状況を受け入れている。
バレンタインのPV撮影以来見せたことのないようなセクシーな表情。
恥ずかしそうにこちらを見ながら瞳を閉じる。
下級生から沢山チョコもらって困り顔したけど、実は大好きなチョコがいっぱいで嬉しかったのよね。
穂乃果の唇が迫る。絵里の一歩を待っている。
今更だけど3年生と1年生に同じバレンタインPV撮影の思い出があるのに季節が秋ってやばくない?
「…はっ!?」
雑念に思考を阻まれ、気づいたときには既に穂乃果との唇の距離は5cmにも満たなかった。
穂乃果は動かない。なぜなら彼女は誘い受けだから。
絵里は動けない。なぜなら保健室のドアが開いているから。そしてその向こうに見知った顔があるから。
7:
「希…!?」
にやついている? 驚愕している? 絵里には表情が読み取れない。
まさかビデオ撮影されている? 有り得ないとも言い切れない。
そんな絵里の思考は、穂乃果の人差し指が唇に当てられたことで中断された。
少し恨めしそうな瞳。眉尻を下げて、口を少しとがらせて拗ねたように。
「…こんな時に他の子の名前だすなんて、妬けちゃうな」
絵里はもはや泣きそうだった。
あなたそんな言い回しどこで覚えたの。
「ちゃんと、穂乃果だけを見てよ」
穂乃果が覆いかぶさってくる。背中まで手が回ってくる。ゆっくりと身体が後ろに傾く。
絵里はもう一度ドアを見た。相変わらず開いているが、誰かが覗いている気配はない。
幻覚だったのか? 夢だったのか? それとも立ち去っただけ?
とりあえず、扉は閉めなきゃ―――
ガツン!
「おほぉんっ!?」
そして絵里はヘッドボードに後頭部を強打し、自分でもどこから出たのかわからないような悲鳴を上げた。
それを聞いた穂乃果は正気に戻り、絵里はダメージと引き換えに貞操の危機を脱したのだった。
8:
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
男は乱暴に奴隷たちがひしめく部屋の扉を開けた。
独特の熱気が、扉を開けた男の顔を撫でる。
湯気の向こうに並ぶ奴隷たちは、一糸纏わぬ少女ばかりだ。
『29番! いねぇのか、29番!』
『……はい』
男の怒声に、少女は蚊の鳴くような声で返事をした。
男は苛立たしげに調教器具を取りだし、彼女を罵った。
『いるんならさっさと返事をしやがれ、このあばずれめ!』
『ひっ…申し訳ありません…』
これまで散々彼女を嬲ってきたのだろう調教器具をカチカチと鳴らして、彼女に存在をアピールする。
その音は彼女の身体から反抗する力を削ぐのに十分な威力を持っていた。
男は彼女の乳房を、その器具で強引につまみ上げた。
10:
『い、いや! 痛い!』
『傷が残らねぇようにしてやってんだ、ありがたく思え!』
男はそのまま彼女を部屋の外に引っ張りだし、乱暴に襤褸切れをかぶせた。
少女は襤褸から顔だけを覗かせ、奴隷商人の男と、それから彼女を買った私とを見ていた。
男はそんな彼女を私の方に突き出した。
『おら、新しい御主人様にあいさつしねぇか!』
『…………よろしく、おねがいします』
少女は何を思って私を見ていたのだろうか。
いつか優しい主に買われることを夢見ていたのだろうか。
私の下から逃げ出すことができるか考えていたのだろうか。
すべてを諦め、その命が尽きるのを待っていたのだろうか。
それとも、と考えて私はやめた。
いずれにせよ私には関係のないことだ。
彼女の意思がどうであれ、私のすることは変わらないのだから。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
12:
「あの、すんません、お会計……」
「………あっ、すみません」
「…ぅい、ちょうどお預かりしまーす」
希は奴隷商人、もといコンビニ店員の声で目を覚ました。
彼女が人前で妄想の世界に入り込むことなどそうそう無かったのだが、
ほむまんとペリメニとはお別れだと思うと感傷に浸らざるを得なかった。
まさかあの二人を一番最初に手放すことになるとは。
希は一足先に大人の階段を上ってしまった友人たちの顔を思い浮かべた。
学校の保健室でなんて背徳的な行為を。明日どんな顔をして会えばよいのだろう。
会計を済ませ、希はコンビニを後にした。
自宅に向かいながら、レジ袋に無造作に突っ込まれた肉まんを取り出す。
「……柔らかいなぁ」
希は肉まんを揉んだ。
ただひたすらに揉んだ。
崇拝するかのように揉んだ。
それしか知らないように揉んだ。
しかし希が満たされることはなかった。
わかっていたはずだった。
あの存在は少女に備わってこそ価値があるものだと知っていたはずなのに。
希の頬を一筋の熱いものが伝った。
愚かだと思った。しかしやめることはできなかった。
まがい物だとわかっていても、希は飢えていたのだ。
そして希は掌を火傷した。
16:
ファースト・アタックから一週間。
凛は、海未に元気がないことを気にかけていた。
海未の様子がおかしいと真姫に尋ねてもいつも通りだとしか言わず、
同じことを花陽に尋ねてもわからないと答えるのみだった。
だが凛は気付いていた。
海未の調子が悪くなったのと、穂乃果と絵里がいちゃいちゃしだしたタイミングが同じことに。
その日の下校時、μ'sの活動はとうに終わって、日直の凛以外はみんな先に帰っているはずだった。
海未は独り、夕日を浴びながら昇降口に立っていた。夕方の風が夜を運びつつ彼女の髪を撫でた。
背を向けているから表情はわからない。だが、凛はその顔が見えるような気がした。
海未が凛を待っていたのではないと、彼女はわかっていた。
取り残されていたのだ。穂乃果のいない世界に。
穂乃果は海未の幼馴染で、二人はずっと一緒にいた。その幼馴染が自分の傍を離れていってしまったのだ。
凛はその痛みが良くわかった。彼女も幼馴染の花陽と引き離されてしまうのは辛かった。
「海未ちゃん。寂しいなら、凛がそばにいるよ」
血を分けたような幼馴染を持つが故の同情が、凛にそんな台詞を言わせた。
海未は凛の言葉に、手を伸ばして答えた。
18:
手を繋いで、凛と海未は街灯が目覚め始めた街を歩いた。
会話の無いまま、まっすぐ歩いた。風が少しずつ、二人の耳を冷やした。
凛は海未を元気づけるための言葉を探していた。
しかし頭の中にあるのは陳腐な拙い言葉ばかりで、海未に響くとは到底思えなかった。
ならば頭の外には何か役に立ちそうなものは無いかと探した。
くたびれた植木。小料理屋の暖簾。美容院の看板。電線の烏。
そしてふと目をやった西の空、橙と紫の間に眩い星が輝いているのを凛は見つけた。
『せっかくいい名前なんだから、星のことも好きになってあげてね』
凛は希の言葉を思い出した。
それはきっと、この時のためだったのだ。
「ねぇ海未ちゃん。一番星って、どんな星だか知ってる?」
「……金星、ですね」
「おー、詳しいにゃー」
「……一年生の理科で、最初の方にやるはずですよ。まさか覚えていないんですか?」
「あれ、そうだったかにゃ?」
「まったくもう……穂乃果じゃないんです、から」
海未は言い淀んだ。凛が顔を向けると、彼女は顔を背けた。
不用意に傷を広げてしまったかもしれない。しかしここで止まっては傷を広げたままだ。
思っていることはなんとかして最後まで伝えなければ。
「ねぇ海未ちゃん。金星にはどういう意味があるか知ってる?」
「…………いえ、そこまでは」
「じゃあ教えてあげるにゃ。金星はね、『美』と『愛』、それと『女性らしさ』の象徴なの」
海未の瞳がこちらを向くのを待って、凛は続けた。
19:
凛はね、それを初めて知ったとき、金星って海未ちゃんみたいだなって思った。なんでだと思う?
綺麗だからっていうのももちろんだけど…μ'sでいちばん女性らしい人って言ったら、凛は海未ちゃんだと思うから。
海未ちゃんみたいな人のこと、ヤマトナデシコって言うんだよね。
よく叱られるのは…ちょっと怖いけど。でも、みんなのこと大切に思ってくれてるからなんだって、凛はわかってるんだよ?
それだけじゃないんだ。
金星が光るのは、お日様が沈むときと、お日様が昇るときだけなの。知ってるよね。
お日様がいなくなって、暗くて寒い夜が来る。みんな寂しくて、怖くて、震えてる。
でも、金星は違うの。夜を前にして、みんなの前に立って、夜なんか怖くないぞって光ってる。
そんな姿に勇気づけられて星は光るの。夜空一杯に星は光るの。
お日様がいなくても頑張らなくちゃ、自分たちも頑張らなくちゃって。
でもやっぱり夜は寒いよ。暗くて、寂しいよ。
それでみんなが挫けそうになったとき、金星は教えてくれるの。
「朝が来るよ」って。
夜の間、みんなに内緒でいなくなったお日様を探して。
金星はみんなのために、お日様を連れてくるの。
ねぇ、海未ちゃん。
μ'sは金星に助けられたんだよ。大事なのは、お日様だけじゃないんだよ。
凛は、金星みたいな海未ちゃんのこと、素敵だなって思うよ。
20:
そんな二人を遠巻きに見つめる奇妙な集団がいた。
「青春が聞こえそうや…」
「もう、あふ、はうん……にゃふっ」
「ぐすっ…うぅ……」
希は花陽を、息をするように揉みしだき、花陽は揉まれすぎてもはや嬌声をあげるだけの存在になっていた。
その横では、海未と凛のやりとりにひどく心打たれたにこが人目も憚らず泣いていた。
希は練習の後、こっそり花陽に相談されていた。
海未と凛の仲をなんとかして取り持ちたいのだと。
花陽は前々から海未に相談を受けていた。どうやって凛にアプローチすればよいのか。
しかし海未がヘタレなこともあって、花陽の案はついぞ採用されなかった。
そんなときに、穂乃果の絵里に対する熱烈アピールが始まる。この刺激を生かさない手は無かった。
勢いに乗ればなんだってできると言いくるめて、花陽は海未に凛が居残りする日だけ教えて突き放した。
海未が悶々としていたのはそのためだった。Xデーの到来に緊張していたのだ。
当然、二人きりでいい雰囲気になったところでヘタレの海未にどうこうできるはずはないと花陽は思っていた。
だからこそ、何かあったときのために…いや、何もなかったときのために希に助けてもらおうと頼んだのだ。
ちなみに、にこは完全におまけだった。
二人の会話をどこから聞いていたのか、「後輩を見届けるのは先輩の役目よ!」と目を輝かせて乱入してきたのだった。
21:
「ひっく……えぅ……」
「にこっち泣きすぎやろ……」
「しょう、がないでしょ……ぐす、ちょっと、眩しいのよ…」
(ピュアピュアやん…半分くらい自分の手柄なのに横取りされてるから泣いてるのかと…)
希はにこにハンカチを渡した。にこは涙を拭くと、最後に盛大に鼻をかんで希に返した。
お気に入りのじゃなくてよかったと希は心の底から思った。花陽はその最中も揉まれていた。
「お、海未ちゃんが凛ちゃん抱きしめたよ」
「ふー…なによ、今更やる気出したの?」
「奥手やもんなぁ…自分から手ぇ繋いだだけでも上出来やんな」
「結局告白は年下からじゃない…見てらんないわ」
「てか両想いならウチら仕事ないやん」
「まぁそうね」
「そういえば、にこっちなら『アイドルたる者恋愛禁止』って言うと思っとったよ」
「にこもそこまで頑なじゃないわよ。あの子たちがプロになりたいなら話は別だけど」
「本音は?」
「わかるでしょ」
「にこっちのそういうとこ、好きやで」
「はいはい、そりゃどうも」
希とにこは出歯亀を続けた。
他人の恋愛に興味津々なところは、年相応の女子高生だった。
「あへ……んひぃ……」
希の腕の中で、もはや花陽は人型の何かになりつつあった。
手助けをする代わりに、その両乳を希に差し出す―――それはあまりにも重い代償だった。
22:
セカンドインパクトから一週間。
ことりは新しいおやつが欲しいとため息をついた。
最近の海未は後輩に現を抜かしているようで、ちょっかいをかけても反応が鈍いのだ。
「可愛くなったね」とからかうように言えば、少し自信ありげに「ありがとうございます」と返す海未。
「好きな人ができたの?」といたずらっぽく訊いてみれば、嬉しそうに頬を染め「はい」と答える海未。
ことりは口の中に泥のような砂糖をぶち込まれた気分だった。そんなものは求めていなかった。
真っ赤になって慌てふためく可愛らしい海未ちゃんはいなくなっちゃったんだね。
ことりは再びため息をついた。
誰か都合よく着せ替え人形にできて、なおかつ掌で転がせそうな子はいないものか。
絵里はちょろそうだが、穂乃果が絵里にご執心なので邪魔はしたくない。
今の凛に手を出したら海未に何をされるかわかったものではない。
希ならコスプレにはノリノリだろうが、手玉にとれる自信がない。
花陽は最近何かに怯えてノイローゼ気味なのでそっとしておいてあげたい。
にこは…なんというか、にこだ。
「…あれ、まだ残ってたの?」
部室のドアが開いた。楽譜を手にこちらを見ているのは、青いツリ目に赤いふわふわの髪。
飛んで火に入るなんとやら。古人の言葉を思い出し、ことりは笑った。
「よかった……ちょうど、真姫ちゃんに会いたいなって思ってたの」
「ぅぇ? な、何言ってんのよ!」
―――こいつは美味そうだ。
それは勝利宣言に等しかった。これが欲しかったのだとことりは心で雄たけびを上げた。
ことりは薄い微笑みの一枚下で、まだ三人だった頃のμ'sを中傷していたにこの顔を10倍ほど邪悪にした笑みを浮かべた。
23:
「いいよぉ真姫ちゃん…もう少し、お尻をくいってあげて」
「……これでいい?」
「ばっちりだよぉ…最高だよぉ…」
結論から言えば真姫は堕ちた。
さらに言えばことりも堕ちた。
自信満々な口ぶりで照れ隠しをする真姫はことりの大好物だった。
ことりは欲求のまま褒めて褒めて褒めちぎりおやつを補給した。
そして海未のために用意していたチャイナドレスを真姫に着せたとき、ことりは新世界を見た。
腰から太ももにかけての豊かなふくらみが窮屈そうに存在を主張している。
今まさに弾けんとする瑞々しい果実がことりを誘惑する。
ことりは尻フェチだった。
ことりは真姫尻に負けた。
今なら海未が興奮で鼻血を噴きだした理由がわかる気がした。
「ことり…さっきからお尻ばっかり」
「だって魅力的なんだよぉ…嫌?」
「嫌じゃ、ないけど…もうっ」
何度目になるかわからないシャッターを切って、ことり桃源郷を保存した。
26:
『いいよぉ真姫ちゃん…もう少し、お尻をくいってあげて』
『……これでいい?』
『ばっちりだよぉ…最高だよぉ…』
『ことり…さっきからお尻ばっかり』
『だって魅力的なんだよぉ…嫌?』
『嫌じゃ、ないけど…もうっ』
希は部室のドアの前で硬直していた。
忘れ物を取りに来ただけのつもりだった。
しかし希はドアを開けることができなかった。
どうも中で繰り広げられているのは情事のようである。しかもアブノーマルな尻穴プレイである。
この二人がまさかと思う以上に、もうそこまで進んでいるのかというよくわからない衝撃に希は殴られた。
カップルわしわし禁止はこの場においては些事だった。
自分からセクハラしていく希といえど、流石に友人が尻穴狂いだった場合の心の準備などできようはずもなかった。
立ち去るべきだと脳が命令しても足が動かない。まるで金縛りだった。
そんな希の石化に金の針を打ち込んだのはにこだった。
「遅いと思ったら…何やってんのよ」
「はっ……にこっち」
「で、忘れ物はあったの?」
「あぁ、うん、まぁ………もっと大切なもの落としたけど」
「はぁ?」
「いや、こっちの話……うん」
27:
「いいから、早く帰るわよ」
「……うん」
にこに引っ張られて、希は部室を離れた。
にこは部室で硝子の花園が建設されつつあると知ったらどんな顔をするだろうか。
きっと今の自分よりひどい顔をするに違いない。
希の思考回路はショート寸前だった。
今すぐ花陽に会いたい。わしわしして心を落ち着けたい。
そこでふと希は思った。わしわしするだけなら目の前の小動物でもよいのではないか。
「にこっち、ちょっと失礼」
「え? ……ひゃぁ!?」
希の神の突きはにこの腋の下を抜け、活性化された五指の神経はにこが反応するより先にその乳を鷲掴みにした。
しかし希は満たされなかった。
いつもならば、これからゆっくり育ててあげるからねと慈しむような幸せな気持ちになるのに。
まだ熟れる前のトマトを、小鳥というには禍々しい猛禽が啄む映像が脳裏に浮かんで消えなかった。
28:
きっとサイズが足りないのだと希は思い込んだ。
今の自分には分け与えるほどの余裕はないのだと。
ならば今握るべきは、やはり癒しのふんわりおにぎりなのだ。
希はにこから手を離した。
「やっぱり花陽ちゃんやないと…」
「ほんっと失礼なやつね…」
しかし希はよもや裏切られるなどとは思っていなかった。
人間は身構えていればある程度の衝撃には耐えられる。
しかし不意打ちされれば、いとも簡単に押し切られてしまうものだ。
「花陽ちゃんやないと…花陽ちゃんやないと…」
「花陽なら、この後にこと二人でカラオケに行く予定だけど…」
「フォッ!?」
全盛期の松井秀樹に頭をフルスイングされたような衝撃が走った。
希は膝が砕けそうになるのを必死でこらえた。
29:
にこは今なんと言った。
二人でカラオケに行くと言った。
カラオケボックス。
狭い部屋。
暗い部屋。
防音ばっちり。
そこに若い二人。
何をする?
決まっている。
『にこちゃん…わたし、寂しかった…』
『凛がいなくなって、ずっと我慢してたのね…』
『うん…』
『もう大丈夫よ、にこが優しくしてあげる』
『嬉しい…! にこちゃん、大好き…!』
『にこも好きよ、花陽…一緒に幸せになりましょう』
『来てっ…来てぇ…!』
『ああ…花陽のメロンソーダ、とっても美味しいわ』
『にこちゃんの山盛りポテト、なんてあったかい…』
「あかん…あかん…!!」
荒んだ心象風景を塗りつぶして、百合色のにこぱな劇場が始まる。
友人の尻穴プレイの衝撃で、希はもはや正常な思考を失っていた。
そして自分が正常さを欠いていることにも、当然気づくことはできなかった。
30:
「ちょっと希、大丈夫なの? 具合でも悪いの?」
「あぁ、カラオケ、カラオケやねんな、マイクでハウリングプレイの方がそれっぽい」
「何言ってんの? それで、一緒に来ないかって訊いてるんだけど」
「一緒に…一緒に…3P…!!??」
「さん…なに?」
「オーマイスピリチュアル…」
「またわけのわかんないこと言って…折角このにこにーが誘ってあげてるのよ?」
「まさかの誘い受け…!?」
「どうしたのよ希、あんた今日おかしいわよ!?」
にこは希の肩をつかんで大きく揺らした。しかしそれは逆効果だった。
にこに肩をつかまれたとき、希の本能は叫んだ。
『襲われる!!』
希はにこを振り払った。身を守るために全力で振りほどいた。
まさかそんな必死な対応をされるとは思わなかったので、にこは驚いて動きを止めた。
「堪忍してぇ…」
希はまるで友人が連続殺人犯だと知ってしまったかのような顔をしていた。
にこはその様子を見てアイドル演劇も悪くないなと思った。
「堪忍してぇ―――!!」
「あ、ちょっと!」
その隙をついて、希は逃げ出した。
希はにこの制止を振り切り、学院の廊下を風のように走り抜けていった。
「……そんなにカラオケが嫌だったのかしら」
一人取り残されたにこは、寂しげな顔で呟いた。
32:
事件当日。
それは希のμ'sわし禁から二週間が経った日だった。
希は乳脂肪分(わしわし的な意味で)の不足から次第に病んでいった。
一年生たちが可愛く戯れているのを見ても、乳が6つとしか思えなくなっていた。
「希…今日も具合が悪いの? 大丈夫?」
大きなペリメニが話しかけてくる。
洗濯板がその後ろの方からこっそり覗いていた。
あの日以来、洗濯板とは疎遠だった。
しかし彼女は希の様子を心配して、ペリメニとよく話しているようだった。
希はペリメニに微笑んだ。
「大丈夫よ…大丈夫やよ…」
「大丈夫な人はそんな顔で大丈夫って言わないわよ…」
「んー…」
「それに、今日のお昼もまた肉まん一つ…ちゃんと食べてるの?」
「食べとるよー…」
虚ろな笑顔で大丈夫、大丈夫と繰り替えす希。
ペリメニと洗濯板は目を合わせて、肩をすくめた。
33:
当然授業や練習に身が入るはずもなく、希は魂の抜け殻のように過ごしていた。
事態を重く見た絵里は、にことともに対策を考えた。
誰かの悩みに敏感なのはいつだって希だった。
その希に悩みがあるとするなら、全力で手助けをしなければ気が済まない。
しかし、いつまでたっても良い案は浮かばない。
希は今まで人前で悩んでいる姿を見せるようなことはなかったため、
希の悩みがどんなものなのか二人には全く予想できなかったのである。
そこで二人は、悩みの内容はともかくとして、どうやって悩みを解消するかを考えた。
情報を集め、そこから希に最も適していそうなのを選別することにした。
34:
「悩みの解消法? うーん……とりあえず好きな音楽を聴く、かな」
「あとピアノね。何かに没頭してる間は悩みなんて忘れられるし……忘れたら、その後も思い出さなくなるかもしれないでしょ」
悩みなんてないと返されると思っていた絵里は、真姫の真摯な対応に手を握って感謝した。
「私は…とりあえず、へとへとになるまで歌う、かな?」
「あとは……お腹いっぱいご飯を食べる、とか…えへへ」
だいぶ調子を取り戻してきた花陽は答えた。にこは、花陽がノイローゼから復帰した鍵が、希と関係がありそうな気がした。
「悩んでどうにかなることと、悩んでもどうしようもないことがあると思うにゃ」
「どうにかなることなら直感を信じる! どうしようもないことは、忘れちゃえばいいにゃ!」
まさに凛らしい発想だと絵里は思った。しかし他人の悩みに対して忘れろと言えるはずもなく、没案行きとなった。
「弓を引きます。静かな世界で、自分自信と見つめ合うのです」
「しかし…最近、悩むこともまたいいことだと知りました。にこ、恋をしましょう。恋の悩みは自分を」
にこはその場を去った。すっかり恋愛脳となってしまった海未からまともな答えが引き出せる筈もなかった。
「おやつだよ。おやつがあれば幸せになれるよ。絵里ちゃんもことりのおやつ欲しい?」
「でもだめなの。おやつは自分で見出してこそ価値ある物なんだよ。絵里ちゃんもピッタリなものを探すといいよ」
ことりの発言がまるで危ない薬の隠語のように聞こえてしまい、絵里は周りを警戒した。当然没案になった。
「うーん…好きなものを食べる…とか? でもちょっと体重が気になっちゃうよね…」
「あ、あとね、小さいころはお母さんにぎゅってしてもらってた! 今だったら穂乃果も絵里ちゃんに抱きしめてもらえれば」
惚気が始まりそうだったのでにこは退散した。しかし答えだけ見れば割とまともな部類だった。
35:
「なんでうちの二年生は色ボケしてしまったの…」
「ま、まぁその…にこ、元気出して?」
イチゴ牛乳をすすりながら遠い目をするにこの肩を、絵里は優しく叩いた。
原因の一端が自分にある以上、絵里は色ボケを否定するわけにもいかなかった。
にこも海未と凛で遊んだことがあったから人のことは言えないのだが。
それにしても、と絵里は希をちらりと見て言った。
「とりあえず、焼肉に連れて行けばいいのかしら…」
「でも肉まんしか食べてないってことは、ダイエットだったりして」
校庭を見ながら呆けている希を視界の端に捉えながら、絵里とにこは膝を突き合わせた。
それほど声のトーンを下げているわけではなかったが、希にはもはや聞こえていないようだった。
「でも、無理なダイエットは禁物って、希の口癖じゃない」
「そうなのよねぇ……」
「そんなにゲッソリしてるようにも見えないし」
「歌と踊りでどうにかなるなら、練習で十分よねぇ」
ずごご、と音を立てて紙パックがつぶれる。
にこは空になったイチゴ牛乳にストローを押し込み、ゴミ箱に向かってそれを投げた。
「にこ、下品よ?」
「いいのよ、誰も見てないし」
「全くもう…」
36:
「今すぐ試すなら、やっぱり穂乃果メソッドね」
「でも、抱きしめるだけで本当に何とかなるかしら」
「なるわよ。人間の心音って結構落ち着くのよ? 妹が泣いてる時はよく抱きしめるもの」
「あら、良いお姉ちゃんじゃないにこ」
「そうね。だから行きなさい絵里」
「え、私が!? な、なんで」
「なによ、愛しの穂乃果以外に体は許しませんって感じ?」
「べ、べつにそういうわけじゃ…何でにこはやらないのよ」
「サイズが違うわ」
「……あ、ごめん」
「謝んないでよ…ほら、行きなさい。あんたでだめならにこが試すわ」
「…わかったわ」
絵里は立ち上がり、大きく息を吸った。
希はずっと校庭を眺めていた。運動部はすでに撤収して、校庭には誰もいなかった。
絵里は逆効果にならなければいいと思いつつ、生気の無い希に話しかけた。
「ねぇ、希」
「んー……?」
ぐるん、と希は絵里の方を向いた。
底なしの昏い瞳に絵里は思わず叫びそうになった。
しかし深呼吸して落ち着いてみれば、どうも視線が合っていない。
希は、絵里の目よりもかなり低い位置を見ているように感じた。
「……希?」
「絵里、はやく!」
「きゃっ」
しかし彼女がどこを見ているのか気づく前に、絵里はにこに背中を押しだされた。
絵里はバランスを崩し、前に倒れ込んだ。体を支えるために、思わず希を抱きしめた。
希の顔が、絵里の胸に沈んだ。
37:
それは砂漠に降り注いだ雨だった。
それはストリート・チルドレンに与えられたひとかけらのパンだった。
それは吹雪の中見つけた山小屋だった。
それは無課金に訪れたSR確定勧誘期間だった。
それはまさに恵みだった。
希の心は今、宇宙と一体となっていた。希は輪廻転生の向こうに乳があることを知った。
希の中に新たな星が生まれ、その爆発は体中を駆け巡り、目から一筋の涙となって頬の上を流れた。
その瞬間、希は記憶と肉体をそのままに、神から新しい命を授かったのだ。
「あっ…の、希! ごめんなさい、大丈夫?」
しかしここで、取り返しのつかない失敗が起きてしまう。
希を抱きしめて元気づける作戦は、そのままなら暫く経てば成功するはずだった。
宇宙に放たれた希が無意識を漂い、理性と出会うその時まで待つべきだったのだ。
しかし事故で倒れ込んでしまったのも事実だ。
だからこそ絵里は離れてしまった。そして絵里の声はもう希には届いていなかった。
飢えた獣に肉を与え、それをすぐ取り上げたらどうなるかわからない彼女ではない。
しかし、絵里はまさか自分がそんなことをしてまったなど、露とも思わなかった。
だから肉食獣が目の前で牙を剥いていることに、彼女は気付けなかったのだ。
39:
「いやああああああああああああああああ!!」
耳を劈く悲鳴が、音乃木に轟いた。
校舎に残っていた誰もがその声を聴いた。
一番最初に動いたのは、穂乃果だった。
恋する彼女の耳は寸分たがわず絵里の声を聞き分けることできる。
そして彼女は確信したのだ、今のは間違いなく絵里の悲鳴であると。
絵里の身にいったい何が起きているのか。
穂乃果は嫌な予感が実体化して背中に圧し掛かっているような重圧を感じた。
「んあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」
続いて響く第二波はにこの悲鳴だった。
今この学校でどれほど恐ろしいことが起こっているのか、穂乃果には全く分からなかった。
しかし、μ'sの三年生二人が何者かにやられた今、残る一人が―――希が危ないと穂乃果は察した。
穂乃果は彼女ら三人が一緒にいたのを知っているからだ。
μ'sに恨みを持つ者の仕業か、それともたまたま居合わせてしまったのか。
穂乃果は無事でいてくれと願い、三年の教室へ続く最後の階段に足をかけた。
40:
「コフ―――……コフ―――……」
「……えっ」
穂乃果の目に飛び込んできたもの。
それは、希がにこの胸を背後から鷲掴みしている姿だった。
希の手の中で、にこは絶頂と失神を繰り返しビクンビクンと痙攣していた。
そしてその足元には、蹂躙され尽くした絵里が転がっていた。
彼女にも刺激の余韻が残っているのか、小さく痙攣しているように見えた。
確かに希は危なかった。だがその意味合いは180度違った。
希こそがこの凶行の犯人だったのだ。
みんなに知らせなきゃ。
穂乃果はその場に背を向け、皆のもとに向かおうとした。
しかしそれは悪手だった。
一ヶ月わしわしされていないというブランク。
穂乃果は忘れていた。
希はいつも対象の胸を揉むとき、背後から迫るということを。
穂乃果は知らなかった。
理性を手放し欲望を解放した希が、今や音よりも早いことを。
41:
「そんな……穂乃果!」
穂乃果に遅れて海未が廊下に到着したちょうどその時、穂乃果は果て、希の手から床に落ちた。
世の中には知らない方がいいこともあると、皮肉にも海未は「それ」を前にして知るのだった。
海未の鍛え上げられた動体視力は、希の手の動きを正確に読み取らせてしまった。
リミッターの外れた人間の脅威を。
実に0.01秒に一揉。
そんなもので胸を触られたら。
海未の背筋を嫌な汗が降りていった。
悪ふざけこそすれど、希は基本的には温和な少女だった。
希を前にすると、自然と張りつめていた気がほぐれる、そんな少女だった。
「コフ―――……コフ―――……」
しかし今、目の前にいるこの獣は違う。
心臓を鷲掴みにされているような恐怖が海未を包んでいた。
剣道の達人と相対した時でも、ここまでの重圧は感じなかった。
海未は初めて、一瞬でも気を抜くことができない命のやり取りの空気を知った。
どうすれば。
どうすればいいの。
42:
「えいっ!」
「はっ…ことり!」
緊張を破ったのは第三者だった。
希の背後から静かに接近していたことりが、彼女への逆わしわしに挑んだのである。
ことりは希の半球に触れ、それを優しく揉んでみせた。
その数、実に七揉み。
それだけでも十分に常人の域を逸脱した行動であるのが海未にはわかった。
「グア゙ァ―――!!」
わしられた希は大きく悶え、しがみつくことりを跳ね飛ばした。
海未は床に叩きつけられんとすることりを、滑り込んで受け止めた。
死地にあって、彼女たちは顔を見合わせ、笑った。
「えへへ…ありがとう、海未ちゃん」
「礼を言うのはこちらの方です……見てください、ことり」
「うん……希ちゃんに、効いてる」
ことりのわしわしを喰らった希は、未知の感覚に困惑していた。
今まで何人もの乳を貪ってきた彼女であったが、その乳を揉まれたことはなかったからだ。
「グゥ―――……ヴゥ―――……」
そしてその衝撃は、ことりを「外敵」と認識させるに足るものだった。
海未と向き合っていた時とは違う、明確な敵意を持って希はことりを睨んだ。
43:
「しかし、怒らせてしまったようですね…」
「そうだね………海未ちゃん、お願いがあるの」
ことりは海未の手を離れ、立ち上がった。
その瞳はまっすぐと希を見ていた。
「ことりが気を引いてるうちに、みんなにこのことを知らせて」
「そんな…囮になるつもりですか!」
海未は震えた。ことりは自分を犠牲にしようというのだ。
「二度目の不意打ちは成功しないと思う。だから、海未ちゃんには情報を少しでも拡散してほしいの」
「しかし、それなら私が残った方が…」
「ううん。今、希ちゃんはことりのことしか見てない。囮は、ことりにしかできないよ」
海未はなおも逡巡していた。
ことりの言うことも最もであったが、彼女はかけがえのない幼馴染でもあったから。
そんな友人を優しすぎると笑って、ことりは背中を押した。
「海未ちゃん、お願い。これは海未ちゃんにしかできないことなの」
「一年生を……μ'sの未来を、守って」
そして海未は、ことりの言葉の中に決意を見た。
力強いその姿に、海未は背中を向けた。
「約束です……また会いましょう、ことり」
「……うん」
背後に希の唸り声を聞きながら、海未は守るべき仲間達のところへと向かった。
44:
「……これで二人きりになれたね」
「グルルル―――……フシュゥ―――……」
海未の足音が聞こえなくなるのを待って、ことりは言った。
その瞳は仲間たちに見せるのとは違う、強い意志の宿った瞳だった。
「希ちゃんとはいつか決着をつけなきゃいけないと思ってた」
「だいたい、希ちゃんはおかしいんだよ」
「μ'sで最も大きいバストを持ちながらヒップは中央値なんて」
「おしりにもしっかりお肉のついてる絵里ちゃんを見習ってよ」
ことりは淡々と胸の内を明かしていく。
一瞬の斬り合いに足枷となる、重たい鎧を脱ぎ捨てるように。
「女の子同士で胸を触ってもただのじゃれ合いで済むのに」
「女の子同士でおしりを触ったら痴漢扱いされる」
「そんなことりの悲しみを希ちゃんは考えたことがあるの」
かつて人間が四足歩行だった時。
そのセックスアピールは尻によって為されていた。
それが人間が利便性を求め二足歩行になり、その視点が上がると、
人間はその役割を胸に求めるようになった。
そう、胸は尻の代替物でしかない。
DNAに刻まれた尻への情熱は、胸などという浮ついたものよりはるかに深い。
ことりは吼えた。
今日こそ、尻が乳より優れていることをここに証明してみせる。
45:
そしてことりはスカートのポケットから“武器”を取り出した。
ことりとて、何の勝算もなしに一人残ることを決めたわけではない。
それはエネルギー増幅装置。
ことりの尻への情熱を膨れ上がらせる切り札。
水色のセクシーな大人パンツ。
ピンク地に黒ドットのフリルパンツ。
オレンジ色の質素なリボン付きパンツ。
希の背後で息をひそめていた時、ことりは倒れていった仲間達の装備を受け取っていたのだ。
(みんな……力を貸して!)
右手に剣を。左手に盾を。頭には兜を。
南神鳥拳の完成形態がそこにあった。
これによりことりのH力は84+79+82=245。
希がわしわしによりB力を吸収していたとしても、その数値は88+71+78=237。
勝てる。
ことりは確信した。
46:
踏み出したのは同時だった。
二人の力が激突した。
そしてことりの自信は、一瞬で恐怖に変わった。
押されている。数値では勝っているはずなのに、なぜ。
ことりの間違いは二つあった。
その一つに、彼女はすぐ気が付いた。
「しまった…!」
H力もB力も、正しくは術者の地力に上乗せするものである。
ことりは勝利を焦るあまり、それを見落としていたのだ。
装備品によって底上げされたことりのH力は245+80=325。
対してわしわしによりパワーアップした希のB力は237+90=327。
力負けである。
(でも、そんなに差は大きくないはず…! どうしてここまで圧倒的な…!?)
47:
ことりの手は弾かれた。
隙だらけになったことりの背後に滑り込み、希はその双峰を掌握した。
(海未ちゃんのパンツ―――もらっておけば―――)
薄れゆく意識の中、ことりは友人の顔を思い浮かべた。
ことりは敗北してもなお、もう一つの間違いには気づかなかった。
彼女の二つ目の間違い。
それは純粋さの違いだった。
ことりはパンツを確保することに気を取られるあまり、その尻を直接味わうことを怠ったのだ。
如何に尻と触れ合っている時間が長かろうと、パンツはパンツであり、尻ではないのだ。
まがい物の尻で満足し、力を得た気になっていたことり。
服の上からというハンデを負いながらもその乳を味わいつくした希。
二人が自らの信奉するものからそれぞれ受け取った力には、純度という決定的な差が生じていた。
希の手がことりに触れてから5.26秒。
526回のわしわしの末、ことりは悔しさの中で果てた。
49:
『ちょっと海未、どういうことよ!』
『言った通りです! 希は暴走しています! 止めるためにはこちらがわしわしするしかないんです!』
『で、でも、そんなことって…』
『グォォォォォォ!!』
『そんな、もうここまで…! 逃げなさい、三人とも』
『海未ちゃんは!?』
『私が希を引き付けます!』
『いや! いやだよぉ! 一緒に逃げようよ!』
『凛…貴女は私の希望です。どうか…生きてください』
『海未ちゃあん! 海未ちゃぁぁぁぁぁん!!』
『―――きゃあっ!』
『花陽!』
『かよちん!』
『ふたりとも、お願い…逃げて…!』
『……凛、あとは頼んだわよ』
『そんな、真姫ちゃんまで!』
『希! 私はこっちよ、捕まえてみなさい!』
『いやぁっ! 真姫ちゃん!』
『かよちんはここに隠れてて』
『凛ちゃんはどうするの…?』
『凛が囮になるから…かよちんが後ろから、希ちゃんを止めて』
『そんな、凛ちゃんを囮にするなんて…』
『大丈夫にゃー。かよちんなら、できるよ』
『凛ちゃん……あぁ、そんな、後ろ、後ろに!』
50:
「ぐすっ……誰か助けて……」
花陽は一人、空き教室で座り込んで泣いた。
海未が犠牲になり生かしてくれた花陽たち三人は、逃亡中に一人、また一人と犠牲になってしまった。
花陽がもっと強ければ、事態は変わったのだろうか。
花陽ひとりでは、どう頑張っても変えることはできないのだろうか。
みんなに守ってもらったのに。
結局、それすらも無駄にしてしまうのか。
―――スゥ
空き教室のドアが、滑るように開いた。
凛を脇に抱えた希が、能面のような笑顔を張りつけて音もなく教室に入ってきた。
花陽は心の中で何度も謝った。
助けてもらってごめんなさい。
役に立てなくてごめんなさい。
希が一歩ずつ、ゆっくりと近づいてくる。
このまま彼女に犯されて、私はみんなと同じ場所に行くのだ。
花陽は目を細め、すべてを諦めたように笑った。
51:
本当に、それでいいの?
…嫌だ。
みんなの役に立てないままでいいの?
嫌だ、嫌だ。
なら、立ち向かわなきゃ。
希がそっと凛を床に置いた。
床に座る花陽の正面に、希は膝をついた。
感情のない空虚な微笑みが花陽の正面にあった。
そして、ぬぅっと伸びてきた希の掌が花陽のふくらみに触れた。
全身を味わったことのない感覚が駆け抜けたように感じた。
52:
しかし、違った。
花陽はこの感覚を知っていた。
希が理性を保つためのムラムラの吐け口にとわしわしされ続けていた花陽。
たった一週間。されど一週間。その経験は花陽を強くした。
人々はそれを「慣れ」と呼んだ。
花陽はこの感覚への耐性を、わずかながら身に着けていたのだ。
「―――!?」
最後の獲物だからと油断して、希は正面から花陽の乳を揉んだ。
だからこそ、花陽にはいくらでも反撃のチャンスがあった。
ぽよん。
花陽は乳を揉まれながらも、希の乳を触り返した。
その手に確かな反発を感じながら、花陽は指を閉じ、開いた。
「……やっぱり……」
「グゥ―――ぐ、ううううんん、んあああっ」
「希ちゃんのおっぱい……すごく柔らかい……」
「あっ、らめっ…んっ…あひぃぃぃぃぃぃんっ?」
―――こうして、のちに音乃木ジェノサイドと呼ばれる事件は幕を閉じたのだった。
53:
「ごめんね、ほんとにごめんねぇ」
「まぁ、我慢し続けてあんな風になるなら…たまにくらいなら、いいわよ」
正気に戻り泣きじゃくる希の頭を撫でながら、にこは言った。
「みんな、ごめんねぇ…」
「解決したみたいでよかった♪ そのかわり、私は希ちゃんのも少し触らせてほしいな?」
「かよちん…凛の知らない間に大人になっちゃったにゃ…」
希の腕を抱きながら、花陽は艶っぽく言った。
少し前の気弱な彼女はどこへやら、すっかり様変わりした親友に凛は少し寂しさを感じた。
そんな凛を抱きしめようと腕を広げ、海未は微笑んだ。
「私はいつでもいいのですよ凛……いえ、貴女は私のものです、希に奪われるくらいならいっそ」
「ちょっとややこしくなるから黙ってて海未……それに希も、勘違いでカップルだと思い込むとか」
「ふぅ…」
そんな海未に手刀を喰らわせつつ、真姫はため息をついた。
ことりもそれに合わせて肩を下ろした。
(皆より先に起きられてよかったよぉー…パンツもちゃんと穿かせられたし)
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