女難の相を持って生まれたシュッとしたおっさんが半生を語るback

女難の相を持って生まれたシュッとしたおっさんが半生を語る


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1:
立ったら書き貯め張ってく。
スレチならどこかに誘導してくれると助かる。
聞いてくれるか?
3:
面白いのなら聞く
2:
聞くぞ
これから仕事だが
5:
お、立った。お仕事お疲れ様です。
一家のスペック
俺:現在37歳 既婚 シュっとしてる 長男で末っ子
父:とある大手自動車メーカーで中卒から工場勤務
母:専業主婦 親父ラヴ ど天然 ずっとしゃべってる
長女(千賀子):仮名 7つ歳上 めっちゃ細くて美人だが神経質
次女(綾子):仮名 6つ歳上 おっとりしていてグラマー 天然でかわいい系
その他登場人物は都度書き込みます。
思い立って人生を振り返ろうと思ってのスレ立てだが
2ちゃん10年ぶりくらいだからなんか失礼してたらすまん
昔の話はおぼろげな記憶だから多少美化されてるかもわからんが
基本的には事実に沿って話を進めたい。
暇な奴は読んでってくれ。
レスは出来たらするスタンスで。
おっさんグラスハートだからあんまり荒らさないでな。
仲良くやってください。
6:
俺の最初の記憶は、一番最初に住んでいた山の中の一軒家にいた頃だ。
大体3歳くらいか。いわゆる待機児童ってやつで、幼稚園に入れなかったので
1年間ずっとテレビを見続けていた。庭にはギリギリ犬か?ってレベルの
それはもう情けない駄犬がいて、家族で飯を食いに行くと遠くから
情けない声で遠吠えしていたのを覚えている。
その頃姉二人はもう小学生で、すごく俺のことを可愛がってくれていた。
いや、可愛がりすぎていたのだ。自分のお古のワンピースを着せて
おかんの化粧道具で女の子にされたり、俺を取り合い両方から
手を引っ張り両肩が抜けたり、3人で風呂に入っては体中泡洗いして
微妙な気持ちにさせてくれたり。
それはもうやりたい放題だった。でもこの頃はまだ優しい姉っていう
イメージのほうが大きかったな。今思うとこの時点で女難の相があった。
1年後、おかんもパートに出始めて俺は幼稚園に入った。
俺にとっては初めての社会生活ってやつだった。
こんなところで俺は心底女が怖いと知るとはこのときは
思いもしていなかった。
幼稚園は、それなりに楽しかったが実は記憶があまりない。
その事件が衝撃的すぎて記憶容量がオーバーしてしまったのかもしれない。
9:
事件とは、2つある。
一つはどこの幼稚園でもあると思うけど、お昼寝の時間に起きた。
俺は今でもそうだが寝つきが悪く、明るい場所ではあまり寝られない。
しかし騒いでいると怒られるので一応目を瞑りいつも寝たふりをしていた。
園児たちが静かになると、先生はいつも一旦教室から出ていく。
そうすると俺は寝たふりをやめ、空を見たり空想しながら過ごしていた。
ただ目の固い子供はどこにでもいるようで、同じクラスにもう一人
いつも寝付けない女の子がいた。
もちろんおしゃべりは禁止なので声を出さずにじゃんけんをしたり
なんとなく見つめあったり、ヘンな形の雲とかがあると、
指を指して笑いあったりした。まわりが起きたことはないと思う。
ひょっとしたらあったのかも知れないけど、少なくとも記憶にはない。
11:
ある日、その子(仮にゆうちゃんとしよう)が俺を無言で手招きした。
教室には昼寝用のお布団が閉まってある押入れのような物があって
布団を出してしまうとそこは子供にはそこそこの大きさの空間になる。
押入れと言っても軽くカーテンがかかっているくらいで真っ暗ではない。
ゆうちゃんは、そこに入れと俺を促していたのだ。
当時は恋愛感情とか性欲とか倫理観とかまるでないから
なんかいい暇つぶしを見つけたのかなーってくらいで俺は何も考えずに
面白い遊びでも見つけたのかとでも思って
みんなを起こさないようにそーっと押入れに入った。
目線は黄色のカーテンで遮られているが、音は立てられない。
俺が入ると、ゆうちゃんもすぐ入ってきた。
最初彼女は黙って俺の両手を握り、しばらく俺の目を覗き込んでいた。
なんだか彼女の顔は上気して赤く染まっているように見えた。
数分、そうしていたと思う。
彼女はくりくりとした、大きな目をしていた。
12:
しかし彼女は急に何かを決意したような顔をして、俺の手を放した。
そして後ろを向き、おもむろに着ていたワンピースを脱ぎ始めた。
俺は固まった。意味が分からない。最初は暑いのだろうか?なんて
ピントのずれた考えしか浮かばなかった。
13:
彼女は裸で振り向き、手振りで俺にも脱げと言ってきた。
いままで見たことのない、オンナの顔をしていたと今は思う。
恥ずかしいとも違う、とにかく当時の俺が知らない目だった。
パニックになっていた俺は、彼女に命令されるがまま脱いだ。
お互いパンツ一丁の状態だ。とても悪いことをしているような
それでもなんだかドキドキするような、不思議な感覚を覚えている。
顔なんて真っ赤で身体は興奮で震えていた。しかし勃起はまだ無い。
彼女はそんな状態の俺に突然抱き着いてきた。
裸の俺の、まだ筋肉もついていない肋骨が浮かんだ胸に
彼女は顔を埋め、しばらく二人で抱き合っていた。
どうしたらいいかわからない俺は、お姉ちゃんがいつもしてくれるように
ゆうちゃんの頭を撫でているのが精いっぱいだった。
14:
続けてもいいか?
15:
ふぅ
16:
>>15
はえぇな続けるぞもう一発いけるか?
17:
そのうち彼女は行動を起こし始める。
始めはさわさわと全身を触り始め、胸元にある口はちゅっちゅと音を
立て始め、場所によっては舌を出して舐めてきた。
もちろん俺の頭の中はこうだ。
「?????????!!!!!!!???????」
あたりまえだ。性の芽生えどころか初恋もまだなんだ。
そもそも色恋ってのが理解できていない。
完全に理解の範疇を超えていた。
そのうち彼女は俺の首元に、大きな音を立ててちゅーーーーーーっと。
キスマークをつけた。それがまずかったのだろうか、
折悪く見回りに来ていた先生に気づかれてしまった。
「あんたたちなにやってんの!!!!!!」
カーテンは無情にもバっと大きく開かれた。
この時ものすごく眩しかった事を強烈に覚えている。
ただ怒られた記憶とかはない。消去してしまったのだろうか。
18:
このあとで覚えているのは一つだけ。帰り際に彼女は俺の耳元で
「男の子なんだから今度は俺君からちゃんとお口にちゅうしてね」
とぼそっと言ってあの見たことのないような目をしてニコッと笑った。
21:
>>18
こわっ
23:
>>21
なんせ女難の相だからな
19:
もう一つの事件はそんなに時を待たずして起きた。
どこからそんな話になったのかはわからないが、数人の園児と
(ゆうちゃんもその中にいた)
当時50代くらいのおばちゃん園長先生が校庭でファーストキスの話を
しはじめた。いつか大好きな人が出来たら?みたいな流れだったと思う。
話の途中でゆうちゃんがこっちをチラチラ見てくる。またあの目だ。
俺は不思議な気持ちになり、あまり目を合わせないようにして俯いていた。
まだ恋とかよくわからなかったが、初恋だったのかもしれない。
それとも、未知のモノに対する漠然とした恐怖か。
あるいはその両方の混ざった複雑な思いなのかは今でもわからない。
20:
園長先生はそんな俺に突然牙を剥いた。
22:
このあたりの細かい描写は自分のなかでも細かいスライドのような
記憶なので省くが、園長がこう言ったのだけはハッキリと覚えている。
「恥ずかしがりの俺くんのファーストキッスは先生がもらっちゃお♪」
24:
真っ赤な口紅、パーマネントでくるくるの脂ぎった髪の毛。
誇張ではなく塩沢ときのような紫のグラデーションの眼鏡。
金色のでかいイヤリング。
絵にかいたようなババアの顔が近づいてくる恐怖に俺はやっぱり
動けずに固まってしまった。ババアは笑っていた。
そしてキスの約束をしていたゆうちゃんの目の前で
俺のファーストキッスは悲しくも強引に奪われた。
なんだか口紅が油っぽくてべとべとしてすごく不快だった。
そして同時にひどく大切なものを失ったような気がした。
あまりに気持ちが悪くて、俺はスモッグで唇をごしごしと拭いた。
拭っても拭っても不快な気持ちは晴れなかった。
あまりのことに涙さえ出なかった。
25:
トラウマ過ぎわろえないwww
27:
>>25
この歳でハッキリ覚えているくらいだからな。
今でも塩沢ときは嫌いだ。彼女は悪くないが。
https://www.youtube.com/watch?v=5RVrCYpD_pI
26:
視線に気づいてふっと目を上げるとそこには憤怒の表情を浮かべた
ゆうちゃんの顔があった。
言いつけを守らなかった時の、母親やお姉ちゃんの怒った顔とは違った。
まるで般若みたいな、とでも言えば表現できるだろうか。
とにかくそれも俺が初めて見る女の一面だった。
俺がドキドキして夢にまで見たゆうちゃんはそこにはいなかった。
今思えば、あれは嫉妬、というやつなのだろう。
そのあとゆうちゃんは俺に話しかけてくれる事もなく
目も合わせてくれずに、年長組に入る前に引っ越してしまった。
当時の俺には全く理解ができなかった。
なんとなく約束を破ってしまったのはわかったけど、
俺は悪くないのに。とずっとやりきれない気持ちを抱えたまま
子供には手の届かない場所に彼女は行ってしまった。
28:
俺そんなことされたら生きていけないわ……(´・ω・`)
29:
>>28
まじでな…今だったら大変なことになりそう。
当時の俺は親にも言えなかったが。
30:
クソばばあwww
ありえんだろwww
33:
>>30
ほんとうにクソなババアだ
本人にとっては冗談かもしれんかったが
31:
とりあえず書き溜めた幼稚園編はこんなもん。
ちなみにこんなもんじゃない女難の相がぐいぐい出てくるが
この先も聞きたいか?
32:
>>31
そんなレスは求めてねえんだよなあ。続きお願いします!
42:
俺が小学校に上がるとき、お姉ちゃん二人は中学生になった。
二人は年子だったが、俺だけ歳が離れている。
当時の流行だが、ちょうどなめ猫が流行ったりしていた時期。
姉も御多分にもれず、順調に思春期に入りそしてグレた。
特に家庭に問題があったわけではない。
親父はちゃんと働いてくれたし、母親はパートをしながら
家事をしてくれた。関係ないがウチのおかんの飯はスーパーうまい。
しかし二人とも忙しかったのでほとんど鍵っ子状態だった。
夕飯の時間には帰って来てくれたけど、それまでひたすらテレビを見たり
当時流行ったドラクエをやったりしていた。まだ赤白黄色のケーブルが無く
直接アンテナ線をに繋いでファミコンをしていた。
まるで待機児童に戻ったような感じがした寂しかったが元が暗い俺は空想の中で
十分遊べるからそんなに気にはしなかった。
友達もそこそこいたが殆どインドアだった。多少苛められた事もあったが、
死ぬとか考える手前のかわいいやつだ。
46:
姉二人は競うようにしてコーラ空き缶(当時は細い缶)の前髪を高く上げ、
スカートを長くし、セーラー服の上はへそが見えるくらいの短さで
鞄はぺちゃんこ。中身には薄い鉄板を忍ばせていた。もちろんなめ猫ステッカーな。
何故か鎖を持って出かける時もあった。もちろん化粧はスケバン仕様な
思春期の女子っていうのは、あれだろ?かわいい顔した魔物みたいなもんだ。
あんなに優しくて、俺のことを可愛がってくれたお姉ちゃんは豹変した。
どこで覚えたのか乱暴な言葉遣い、干してある下着は可愛いパンツから
どぎつい色の下着に変わり、当時は携帯とかないから、知らないDQN臭い男から
頻繁に電話がかかってくる事もあった。
今の若い子には想像もつかないだろうけど、当時は全部家電だからね。
子機なんてものもないから、直接メインの回線に出るしかない。
2個以上電話機があるなんてお金持ちの家だけだった。
両親が忙しいので必然的に半奴隷状態になった俺がよく電話を取ってた。
お姉ちゃんの部屋(姉二人で一室、俺は別に一部屋)に呼びに行くと
感謝の言葉も無にいきなり蹴られたりしたこともある。
49:
世代を感じるなあ
51:
うちは電話当番てあったなぁ
52:
ある日、お姉ちゃんの友達数人がうちに溜まっていたことがあった。
もちろんみんなスケバンだ。アサミヤサキみたいのが長女千賀子の他に3人。
俺は隣室の自分の部屋で漫画とか読んでいたが、けっこうな勢いでうるさかった。
すると俺の部屋のドアをお姉ちゃんが蹴破るようにして開けた。
そのままつかつか俺の部屋に入ってきた。
当時俺の部屋には普段のおこずかいとかお年玉の残りとかを入れておく
小さな小さな貯金箱があった。俺の全財産だ。
千賀子姉はなぜそれを知っていたのか分からないが
ノーモーションで掴み取り、部屋を出ていこうとした。
俺は当時姉ちゃんが怖かったが、さすがに全財産なので呼び止めた。
「なにすんだよ、俺のおこずかいだよお姉ちゃん」
「知るかみんなでお菓子食べるんだよ」
そう言って蹴られた。俺ちなみに小学2年か3年くらい。
俺はドアを閉め、さめざめと泣いた。
53:
便宜上、
アサコ→中心人物 ワンレン パッと見おっぱいがすごかった
ミヤコ→金髪で眉毛なし
サキコ→ほかの人よりちょっと大人しめに見えた
とでもしておくか。名前は正直知らない。でもすごく綺麗なお姉さんたちに
見えた。中身は同じ魔物だったんだろうが。
今から思えば精一杯背伸びをした、ただのマセガキに見えるかもしれない。
55:
親はその日、家にいなかった。時間帯は学校の終わったあとそのまま
制服でうちに来たんだろうって感じだったと思う。
ともかく、いったんお姉ちゃんはサキコと商店(コンビニなんてない)へ出かけて行った。
次女は遊びほうけているんだろう。まだ帰って来ていない。
あるいは先輩が集まるので遠慮していたのかもしれない。
当時の中学校では、先輩は絶対だったから。
隣の部屋にはよりによってアサコとミヤコのみ。俺は声を殺して泣き続けていた。
こんなひどいことってあるものか。俺が一体何をしたんだって。
おこずかいを貯めて、ゲームボーイが買いたかったのに。
いつの間にか声を上げて泣いたのを覚えている。
ドアを背にして、ベッドで覆いかぶさるように。
まさに枕を濡らして泣きに泣いた。
すると、後ろでスーッとドアが開いたのが分かった。
56:
エッチな展開くる?
58:
>>56
くるで
57:
おねしょたやんけ
59:
パンツ脱いでおくわ
62:
>>59
風邪ひくなよ
60:
ゆっくりでいいぞ
62:
>>60
ありがとな
61:
「どうしたの?」
アサコだった。後ろに金髪のミヤコを従えている。
「なんでもないです。」
背の伸びきっていない小学生に対し、中学生のスケバン二人は怖すぎる。
俺はそう言うのがやっとだった。
母やお姉ちゃん以外の女の人に泣いてる所を見られた気恥ずかしさや、
本当にちっぽけな男なりの見栄みたいなものもまじっていたと思う。
でも泣いてる事くらい誰でも分かったと思う。
「泣いてるじゃない」とアサコ
「わっ弟くん?大丈夫?」とミヤコ
もう一度大丈夫と言おうとする前にベッドの脇にスケバン二人。
下から見上げる格好だったので白いおへそがチラチラ見えた。
63:
ふむふむ
続け給え
65:
俺が何も言えず固まっていると、
彼女たちは状況を察したのか頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。
あんな風になる前のお姉ちゃんみたいに優しく。
俺は堪え切れなくなって、枕に突っ伏して泣いてしまった。
ちっぽけな見栄は殆ど役には立たなかった。
彼女たちは落ち着くまで黙って俺を見ていてくれた。
ちなみに田舎なので商店まで往復するのは結構時間がかかる。
だが姉にこんなところを見られるわけにはいかない。
後で何されるのかわかったもんじゃない。
泣き止んだ後、俺はもう一度声を振り絞って
「なんでもないです。大丈夫です。」と言った。
正直もうほっといて欲しかった。おへそにはドキドキしたけれど。
女子の身体にはもう興味があったが、まだそこまで理解もしていなかった。
でも奴らは出ていかない。俺の顔をじっと見ている。
優しそうな、っていうのとはこの時ちょっと違うなって思った。
67:
なんて言うんだろ、ニヤニヤみたいな笑顔に変わっていた。二人とも。
さっきまで優しいと思って泣いていたのに、ちょっとだけ恐怖が混じった。
幼稚園児の頃に戸惑った、あの顔とはまた違う女の側面を見てしまった気がした。
「弟君、可愛い顔してるね」とアサコ
「女の子みたい。モテるでしょ」とミヤコ
何を言っているんだこいつらは。そんなことは無い。確かに女顔ではあったが
幼稚園の時のトラウマで俺は女子と話すのが苦手になっていたから。
俺は知ってしまっていたんだ。可愛い女の子が時として鬼になることを。
そして気を抜いた時には姉のように暴虐の限りを尽くすこともあると。
「好きな子いるの?」
「彼女は?まだいないかーW」
「ねぇ、ほっぺ触っていい?」
「やらかーい。かわいいーW」
そんな感じでつんつんされたり撫でられたり。
つまり完全に遊ばれている。
「いないです。わかりません。やめてください。」
みたいなことを俺は言ってなんとか逃げようとしたが離してくれない。
68:
すると突然、アサコが言い放った。
「女の子に興味ないわけじゃないんでしょ?おっぱい触ってみる?」
69:
ふぅ…
71:
>>69
書いてるのおっさんやで
72:
>>71
わかってるぞw
70:
ミヤコは横で眉毛のない顔をよじらせながら爆笑している。
俺の頭の中は当然。
「??????????!!!!!!!!!!!!?????????」
いろんな事がフラッシュバック。固まる俺。
でもそんな俺をからかうようにアサコは自慢であるだろうおっぱいを
ゆさゆさしている。その上ミヤコはチラチラ見えていたセーラー服の裾から
下着が見える所まであげて若く健康的なおへそを俺に見せつけてくる。
ちなみにブラジャーは意外にも白だった。透けるからだろうか。
俺の顔は真っ赤になっていたと思う。
そんなの小学生に対処できるわけが無い。
でもどうしても見てしまう。男の性っていうのをこの時知った。
一通り俺をからかうとアサコは
「遠慮しないでもいいのよ?」
と俺の手を取り自分の豊満な胸に押し付けた。
幼稚園児だったゆうちゃんのおっぱいとは次元が違った。
73:
「あーずるいー」っとミヤコ
アサコと比べると若干控えめな胸だったが、俺の頭を抱え込むようにして
抱き着いてきた。煙草と香水の様な匂いがした。
「アタシもー」
ついでのようにアサコも俺のベッドに乗っかりお姉さん二人に俺は
挟み込まれるように抱き着かれた。
もちろんまだ未使用の俺のアレはすごいことに。こんなの見つかったら…
やばい。やばすぎるぞ。
でもやわらかい。大人のいい匂いがする。
ひょっとして俺は夢でもみてるんじゃないか?
イヤイヤもう死んでるかもしれん。
くらいの現実感のなさだった。
ひとしきりおもちゃにされた。地獄なのか天国なのか俺にもわからない。
そしてヤツラはついに言いやがった。
「アレ?」
75:
ついに見つかった。俺は半ズボンだったから、見つかるのは時間の問題だった。
それに、姉ちゃんもう帰ってくる。絶体絶命。ゲームの様にリセットボタンは無い。
「弟くん、立ってる?」とアサコ
「マジだー、やっぱ男の子なんだねー」とミヤコ
何故か二人とも爆笑。
俺は恥ずかしくて、両脇にいる生き物が怖すぎて、でもやわらかくて。
どういう顔をしたらいいのか全く分からない。
思わず手を伸ばし隠そうとするも両側からがっしりつかまれていて
身動きが取れない。何故か二人の顔がゆうちゃんのあの目つきに変わっていた。
76:
二人が俺の股間へ手を伸ばす。
最初はつつくように。だんだん大胆に触ってくる。
「やめてください…やめ…」
声になっていなかったと思う。まだ自慰行為も覚えていないのだ。
何度か勃起したことはあったが、こんなケースはない。
その時だった。
77:
「あんたら何やってんの!!??」
姉とサキコだった。
85:
長女千賀子は何故かファーストキスを奪われたあとのゆうちゃんと
同じ顔をしていた。般若、ふたたび。
その後ろで顔を真っ赤にしてサキコが買い物袋をぶら下げて突っ立っていた。
彼女は幾分純情なのか、こっちを直視していなかったように思う。
「いいじゃーん弟君泣いてたよ?」
「アンタが泣かせたから慰めてやったんだよ?」
勝手なことをのたまうスケバン達。
もう俺は半分魂が抜けて、白目。ひょっとしたら幽体離脱していたのかもしれない。
「バカじゃないの?!!」と何故か俺が千賀子姉に殴られた。
もう不条理…なんなのこれ…おっぱい柔らかかったけど…
87:
ふむふむ
88:
その日彼女たちは俺の部屋にはもう来なかった。
その後何度か遊びには来ていたけど、俺を一人にしていくことはもうなかった。
その夜ひょっとしたら長女は次女の綾子姉に話してしまったのかもしれない。
しばらく二人にまるで汚いものを見るかのようにガン無視された。
俺は姉が話しかけてくるまで空気の様に振る舞い、
なるべく顔を合わせないようにしていた。
しかし家族だから、そんな緊張は長く続かなかった。
ある日何故か千賀子姉がなめ猫免許証を俺にくれた。
今思うと、不器用な姉なりの和解宣言だったのだと思う。
半奴隷的な状況は変わらなかったが。
その年のお年玉でゲームボーイもなんとか買えた。
何故か最初のソフトが思い出せないが。
姉に取られたおこずかいは、逆に俺が高校生になってから姉の部屋に
侵入してきっちりと回収したよ。あしからず。
89:
俺が小学校の5年生になったころ。軟弱な俺を見かねて急に親父が言い出した。
「空手をやりなさい」
親父は典型的な昭和の親父。波平さんみたいなタイプだったから
言う事は絶対だった。逆らえば容赦なく平手で殴られる。
虐待とかじゃないよ?愛はあった。当時はそんなもんが普通だった。
俺は嫌で嫌でしょうがなかったが、選択肢はないので従った。
しかしやってみると意外と楽しくて、やっていると腹が減って、
飯の量もぐんぐん増え、比例するように背が伸びだした。
淫獣ふたりに襲われた時にはツルツルだったものも、生え出した。
少し活発になってきたのか、友達も出来始めてよく外で遊ぶようになった。
毎日チャリンコで出かけ、河原でヨレヨレになったエロ本を発掘したり、
森の中に秘密基地を作ったり、出ると噂の廃屋に入ったら日本人形があって、
それに驚いて逃げ出したり、まぁ世間一般的な少年生活を送っていた。
しかし女子はその年の男の子としてはまぁ普通かもしれないが、やっぱり苦手だった。
なんていうかもちろん興味はあったけれど、怖い部分が大部分を占めてうまく話せな
かったんだ。特に相手が集団となると…ね。
91:
そんな俺でも6年生になった頃、人並みに恋をした。
相手は隣の席になったロングヘアのお嬢様風の女の子で仮に永山さんとしよう。
彼女は成績もよくクラス委員を務めているような、いわゆる才女だった。
いつもレースが付いているような服を着て、どことなく気品があった。
それに比べて俺は、多少元気になり自信もついたけれど成績は偏りが激しく
興味のあることと無いことの差が激しかった。
その上忘れ物が激しく落ち着きがなかったので、しょっちゅう永山さんに
世話になっていた。
消しゴムを借りたり、忘れた教科書を見せてもらったり。
その度に、すごくいい匂いがした。煙草の匂いは混ざってなかったしね。
何度もごめんと謝ったけど、彼女は嫌な顔ひとつ見せずに対応してくれた。
彼女の黒髪は信じられないくらいさらさらしていて、風が吹いて
揺れているだけなのに、俺のちっぽけな心臓はそれを見てはどくんと脈を打った。
93:
しかしそんな彼女の優しさは、長く続かなかった。
95:
俺には初めて淡い恋愛感情というものが芽生え始めたんだけど、そんなのは
とても恐れ多い、告白なんてもってのほかだって思っていた。
こんな俺と彼女が釣り合うわけがないって。
そもそも告白してどうするのかわからなかったし。
あまりに格好悪いから忘れ物を無くそうとしたけども俺はバカだから
なかなか直すこともできずにずるずると世話になっていた。
そんなある日だ。
97:
女難うんぬんの話だから…
まさか永山さん…実は…
98:
クラスの男子、どこにでもいるうっとうしいいじめっ子が現れた。
仮に奥山としておこう。それと取り巻きの3?4人。
俺は当時多少大きくなったけれどもスクールカーストは下の方だった。
今思うと奥山は彼女が好きだったんだと思う。
その彼らが俺と彼女をイジり出した。夫婦じゃねーの?とかそんな感じだ。
しかもしつこい。小学生なんてそんなもんだろうけど。
俺を苛めるならまだいい。こんな綺麗で清純な子まで巻き込むなんて
なんて奴らだ。そう思ってはいたが多勢に無勢。もちろん一人でも勝てない。
情けない俺は睨みつけるのが関の山だった。
99:
何日かして、ついに永山さんは泣いてしまった。
完全に俺のせいだ。力が無いってことをこんなに思い知ったのは初めてだった。
最初はぽろぽろと。だんだん激しく彼女は泣きじゃくった。
あんなにツヤがあって、きれいな永山さんの髪を俺は乱してしまった。
しかし不謹慎ではあったがそんな泣いている彼女も俺はきれいだと思った。
同時に、生まれて初めて殺意にも近い憤りと怒りを俺は覚えた。
何のために俺は空手をやってたんだ?こういうやつに負けない為じゃないか。
一年も頑張ったんだ。多少ならやれるだろう。いや、やってやる。
負けてもいい。ぼろぼろにされたっていい。
そう思ってこぶしを握り俺は立ち上がった。
100:
その瞬間だった。
「もぉぉぉおおおおおお!っざけんなよっ!!!!!」
え?何?奥山たちも似たような顔をしてきょとんとしている。
目が点。鳩に豆鉄砲。まさにそんな感じ。
声の主は永山さんだった。
101:
!!?
102:
俺は自分の耳を疑った。いやクラス中そうだったと思う。
学年でもすべてにおいてトップクラスのお嬢様がそんな声を上げるわけがなかった。
「てめぇら、バカにすんのもたいがいにせえよ?アタシが好きでこんな奴の面倒見てると
思ってんの?私立中学に行くために、先生にいい点数もらうためにきまってんじゃない!?
それに奥村アンタなんなの?おめぇの親、うちの父親に借金してんだろ?
クズの息子は一生クズなんだろ?この酔っぱらいの息子がアタシの前ででかい面
すんじゃねぇぇぇぇっぇっえええええ!!!!!」
そこにいたのは俺の知っている永山さんではなかった。
鬼女とはこういう事かと思った。それ以上に俺は振り上げそうになったこぶしを
どうしていいかわからず、思わず奥山の方を見た。
奥山は、最初びっくりしていたが、そのうちとても悲しそうな顔になった。
103:
奥山くん可哀想になってきた
105:
奥村は奥山の間違い?おつ
107:
>>105
そうそうWごめんね一気にかいてるから。
間違えちゃった☆
109:
凄いな
110:
1ほどじゃないけど俺も姉貴が中学の頃ぐれてやられたい放題だったの思い出して悲しくなった。
大人になった今じゃそんなことなかったかのように振る舞ってくるから怖い
母も怖いひとだったせいで未だに女が怖いよ、1がどうやって結婚するまでに至ったのかすごい気になる
111:
>>110
明日また見てくれ。姉はまた出てくるから。
君にも幸あれ。
112:
>>みんな
俺は今スゴイ酔っぱらってます。
それもこれも何故か。
たぶん最後に全部わかると思います。
何日かかかると思うけど。
よろしければみなさんお付き合いください。
それでは明日。名無しのみんな読んでくれてありがとうございます。
113:
少しだけ投下
続き
俺はなんていうのかショックを通り越して血の気が引いてしまった。
怒りなんてここまでくると何の効果もないようだ。
むしろ奥山の事が少し気の毒に思った。
奥山は涙を必死に堪えているようにも見えた。
彼の親は近所でも有名なアル中で、永山さんの実家の会社でなんとか
雇ってもらっているようというのはみんな知っていた。
正直あまりいい噂はなかったが子供である彼が悪いわけではない。
彼女の言うとおり、クズだったのかもしれない。でもさすがに言い過ぎだ。
いくら原因が奥山のイジリにあったとしてもだ。
なんだか俺は、ひどくいたたまれない気持ちになった。
永山さんに対しても、奥山に対しても。
きっと奥山がいじめっ子になったのだって理由があるんだろうし、
永山さんにもいい子でいるためのストレスがあったんだ。
ただなんとなく好きなことだけやってボーっと生きている俺とは違うんだ。
114:
こんな風になってしまったのは結局は俺が情けないせいなのだ。
世話をかけてしまった俺が悪いし、
奥山のイジリからもっと早く救い出すべきだった。
それなのに怖くて、あんなにきれいな永山さんからあんな言葉を吐かせてしまった。
少なくともその時はそう思った。
それにしてもクラスの他のやつ。奥山の取り巻きでさえ声を出せなかった。
関わっておいて、手に負えなくなったら無視するのってどうなんだろう?
弱いアル中よりもクズなのはそういうヤツラではではないだろうか?
重苦しい空気が教室を包み込む。
誰も言葉を発せないまま空々しくチャイムが鳴る。
俺の初めてのまともな恋は、こともなげに終わった。
それから2学期に席替えがあるまでは地獄だった。
もう気まずくて教科書を借りることもできない。
それに、どうも女子たちが結託して俺と奥山を無視しているようだった。
後で気が付いたが、その中心にいるのは永山さんだった。
本人はもちろん手を下さない。奥山派もそのうち寝返り、俺たち二人に対する
執拗な苛めが始まった。
116:
グループ分けの際、二人を仲間に入れない。
上履きをトイレに投げ込む。
机が教室の外に出されている。奥山のとふたつ。
誰も話しかけてきてくれない。
教科書がびりびりに破かれる。
こんなことが日常的にあった。もともと俺はひとりでいるのが
好きな子だったから、無視なんかは気楽なもんだったが、
お山の大将から急に最下層に落とされた奥山は俺よりもつらそうに見えた。
風のうわさで聞いたが、奥山の親父も会社をクビになったようだった。
表面上、何かのミスがあったようなことは聞いたが、どう考えても
原因はあの日の出来事にあると思った。
皮肉な話だが、そのうち俺と奥山は友達になった。
他に話す相手がいなかったので、いろんな事を話した。
彼の父親のアル中具合はクビになってからさらにひどくなっているようだった。
生活保護でもらったお金も全部酒とパチ●コに費やしてしまっていたので
ノートも買ってもらえないし、弁当の日には食パンを一斤持って来たりしていた。
俺は自分の文房具を少し多めに買ってもらい、奥山にあげた。
最初彼は固辞したが、こないだの詫びだと言うと、しぶしぶ受け取り
それでもにこっと笑ってかれはありがとうと言ってくれた。
そのあとはにかみながら彼が言った言葉を覚えている
「女って怖いよな」
最初はいじめっ子といじめられっ子の関係であったが、
手の届かない同じ女の子を好きになって仲良く玉砕した、
妙な連帯感のようなものが俺たちにはあった。
117:
この頃には忘れ物減ったのかな
文房具やさc
119:
>>117
教科書をすべてランドセルに入れば忘れないことに気が付いた俺GJ
すげー重かったけど。
120:
>>119
忘れ物自分も多くて同じ方法で解決したなあ
今は全部入れることは無くなったけど
122:
>>120
同志よ
118:
奥山はそれから俺のうちによく来るようになった。
彼の家には乱暴な酔っぱらいがいるし、ゲームも漫画もなかったから。
時には俺の家族と一緒に夕飯を食う時もあった。
姉二人に挟まれ、真っ赤な顔をしている元いじめっ子はなんだか
今迄のイメージと全く違う、年相応の普通の少年に見えた。
俺は彼に自分の部屋の中の娯楽をすべて提供し、
彼は俺にちょっと悪い娯楽を提供してくれた。
そのままあっというまに俺たちは小学校を卒業した。
最初こそはいじめが気になったが、そのうちどうでもよくなっていた。
奥山は家庭環境こそ大変だったが、よく笑うとてもいいやつだったから。
永山さんは宣言通り私立中学に進学し、それから一度も会っていない。
風のうわさでバツ1になっていることを大人になってから聞いたくらいだ。
中学に入ると、いじめはきれいさっぱりなくなった。
主催者がいないのだからあたりまえだったが。
他の小学校から入ってきた新しい友人もでき始めた。
ただ、一つ重大な問題があった。
121:
中学入学の初日。
入学式を終え、教室に向かうと入り口に白いジャージで竹刀をもった
ゴリラみたいな顔をした体育教師がいた。
これが誇張でないから恐ろしい。当時は本当にいたんだよ。
彼は制服の胸元にある名札を確認しているようだった。
俺が教室に入いろうとすると、ゴリラは激しく反応した。
「おまえがイッチか?」
え?俺?何の用?ゴリラに知り合いはいませんが…
「お前、姉がふたりいるだろう」
え?いますけどそれが何か??バナナ食います?
無言で突っ込んでいると彼は急に俺の髪の毛を乱暴にひっつかみ、
そのまま生徒指導室まで引きずっていった。
なんだよ。姉ちゃんなにやったんだよ。髪の毛抜けるよハゲちゃうよ。
俺はそう思った。
生徒指導室に入るとゴリラは話し始めた。
つまらないので要約することういうこと。
・お前の姉は校則を守ったことがない。二人共だ。
・髪の毛茶色いが、お前も染めてるんだろ?
・どうせそのうちお前も教師を困らせるんだから今のうちにしばいといてやる。
・丸坊主だ。ここで、刈る。
ちょっと意味が分かりません。先生。
確かに茶色いのだけど、それは地毛だった。お姉ちゃんは確かに染めていたが
もとは同じような毛色で、親父からの遺伝だ。
不可抗力だろ?地毛で茶色かったらいちいち黒く染めるのか?
黒く染めるのはいいが、茶色く染めるのはいかんのか?
そういえば前に姉が中学に上がるときにやっぱり問題になって
「地毛証明書」的なものを学校からとってきたというような話を
思い出した。姉ちゃんがグレはじめたのはちょうどその後だったと思う。
123:
地毛証明書って差別だよな
なんか当たり前みたいに行われてるけど
124:
>>123
日本人が黒髪なのはあたりまえってのがすでに差別だよな
どっからが茶髪だっていう線引きもないし。
結局は主観だもんな。理不尽極まりない。
125:
俺は問答無用に丸坊主にされた。ハゲ上がった頭を竹刀でたたかれた。
トイレの鏡で自分の顔をみると、なまっちろい女顔なので
なんだか尼さんみたいだなって思って泣けてきた。
まだ何もしていないのに…姉ちゃんがグレたのだって証明書取っても
執拗に黒く染めろって言われ続けた反動じゃないか…
それに姉ちゃんがグレてたって俺がグレるとは限らないじゃないか…
卒業したのだって何年も前だろ?なんて粘着質なんだよ。
クラスに初めて入ると、みんな一瞬固まったが
折よく同じクラスになった奥山が上手く茶化してくれて
その日のうちに「空海」という二つ名が授けられた。
悲惨な経験ではあったが、奥山のおかげで笑ってもらうのは
悪い気がしなかったしあだ名をつけてもらったのも初めてだったので
ちょっとだけ、嬉しくて救われたような気持ちになった。
俺は心の中で、奥山に感謝した。
髪の毛問題は、親に言いって学校にねじ込んでもらった。
でも今のように学校の方が親より強いということはなかったから
謝罪なんて一切なかった。あのゴリラは柔道の時間になると、
俺の時だけ本気で投げた。意識が飛びそうになるくらい。
ただのあてつけだってのは、子供だって理解できる。
でも彼はある部活の顧問で全国大会の常連だったから
学校内でもかなり力があったから、俺は何もできなかった。
俺が苦しそうにしていると、たまに奥山が自分から志願して
身代わりになってくれた。やっぱこいつ本当は優しいやつだったんだ。
ゴリラはうっとうしかったが、拾う神あればとはよく言ったもので
中には人情派のいい先生もいた。社会の先生だったがかなりの変わり者で
年号を暗記させるだけではなく綿花をプランターで栽培して、昔の道具で
糸をより、機織りの真似事なんかを授業中にやらせてくれた。
その道具は休みの日に先生とクラスの何人かで近所の農家の蔵へお邪魔して
借りてきた。帰りにはラーメンまでおごってくれた。
そのメンバーの中にいたんだ。あの子が。
126:
ごめん違うな
学校の方が親より強い→×
親の方が学校より強い→〇
当時は先生様みたいな風潮がまだ残ってたんだ。田舎だったし。
127:
彼女は背が高くて、いつもツインテールにしているきれい、
というよりは可愛くて活発な女の子だった。
違う小学校から入ってきたので知らなかったが、
その先生の課外授業の際にはいつも参加していた。
もちろん、俺も。そして家に居場所のない奥山もよく来ていた。
彼女のことは、横山さんとでも呼ぼう。
それに俺と奥山はバスケ部に入ったが、彼女はバレー部だったので
同じ体育館で練習してたから仲良くなるには時間がかからなかった。
(スラムダンクの流川と同じバッシュ買ったのは内緒な)
他にも何人か定期メンバーみたいな感じのやつはいたが、
活発な横山さんは女子と遊ぶより俺たちと遊ぶほうが楽しいみたいだった。
とにかく小学校のころよりもはるかに明るい青春がやっと俺にもやってきた気がした。
134:
女難うんぬんの話だから
まさか…横山も…
138:
俺たちは何事もなく2年生になった。三人とも別々のクラスになってしまったが
変わらずよく一緒に遊んだ。といっても公園でくだらない話をしたり、
やっぱり俺んちで漫画をみたりゲームをしたりするだけ。
金もないし、そもそも遊ぶところが無い。
部活に勤しみ、やたらめったら食い、遊び、寝て厨二病が完全に発症するころには
俺も奥山も背の高かった横山さんを追い越していた。
初めて奥山と彼女を家に連れて行ったときタイミング悪く
母親と姉と次女の綾子姉が家にいた。
普段は見たことのないようなカップでお紅茶が出てきたのを覚えている。
テレビのある部屋は一応閉め切っていたが、曇りガラスの向こうで
姉と母親が蠢いているのが見えた。ニヤニヤすんじゃねーよ。
でも確かに、この頃には好きになっていたんだと思う。
そんな話はしたことが無かったが、奥山だってまんざらではなさそう。
またお前は恋敵にクラスチェンジするのかよとも思ったが
3人でいる時間が楽しくて、壊したくないって気持ちの方が勝っていた。
そんな淡くも幸せなある日の放課後。
139:
夏休みが間近に迫った季節で、夕暮れが真っ赤に空を染めていた。
暑いからちょっとソフトクリーム食って帰ろうぜという流れになった。
本当は校則違反だったが、ゴリラにさえ見つからなければ問題ない。
3人で商店のほうに歩いていくと手前の路地の奥で横山さんが何かを見つけた。
どうやら女子3人が1人の女の子を囲んでいるようだった。
その三人は、一つ上の学年で有名なビッチだった。
対してもう一人の女の子は俺のクラスの隅っこにいる眼鏡をかけた
おとなしそうな子だった。名前を吉田さんとでもする。
彼女はあまり友達がいなそうで、休み時間にはいつも難しそうな本を
読んでいた。俺も本が好きだったので通っていた図書館でも何回か見たことがある。
物静かなで教養のあるそうな子。そんなイメージを俺は持っていたが
近づきがたいオーラを背負っていたので話したことはほとんどなかった。
一瞬俺らが止まっていると、横山さんが走り始めた。
俺と奥山は顔を見合わせあわてて後を追いかけた。
相手は女子とはいえ先輩だ。内心困ったことになったなと思いつつも
さすがに好きな子ひとりに押し付けるわけにもいかない。
横山の顔をみると、ちょっと目をキラキラさせながら笑っている。
いかん。男気スイッチ入っちまってるじゃないか。
ここで負けるわけにはいかない。いいところを見せるのは俺だ。
そんな器の小さな考えが俺の脳裏を支配した。
149:
俺たちが追いついた時には横山さんは
「何やってるんですか?」と少し息を切らせながら彼女たちに声をかけていた。
「なんだよお前関係ねーだろウケるんだけど」とビッチズ。
よく見たら吉田さんは目に涙を浮かべている。今にも泣きだしそうだ。
彼女は小さい体をぷるぷると震わせながら、それでも必死に耐えているように見えた。
これはいかん。奥山にイニシアチブを取られるわけにはいかない。
俺はとにかく焦っていたので後ろからとりあえず声をかけた。
「あれ?吉田さん?どうしたの?」
今思い出しても自分で情けなく思うが、かなりわざとらしく声も裏返っていた。
150:
「なんだよおめーらよ。2年か?どっかいけよ。お話ししてただけだよなー?吉田ちゃん」
んなわけあるかビッチよ。どう考えてもおかしいじゃねぇか。
お前の安っぽい化粧よりもおかしいよ。その爪とかどういうことになってんだよ。
俺はそんな考えを表情に出さないように気を付けながら、さらに口を出そうとした。
「いやあの…」正直おれは緊張でパニックを起こす寸前だったと思う。
俺が言いかける前に奥山が横山(と俺を)守るようにしゃしゃり出た。
ちなみにこいつは元いじめっ子だけあってなかなか迫力のある面構えをしている。
上背も、身体の厚みも完全に負けている。空手を少しかじったとはいえ、
天性のいじめっ子には簡単には勝てないのだ。
「センパイ、イジメっすか??やめましょうよそんなこと」
奥山ぁあっぁぁっぁぁぁっぁああああああああ!
おれがかっこいくなるとこだろぉぉぉぉおおおおおそこは!!!
151:
全員の視線が奥山に集まる。
「んだよお前。あれ?こいつあれじゃん?あのアル中クズ親父の」とビッチ
奥山は一瞬あの時のような悲しそうな顔を見せたが、すぐに笑顔になってこう言った。
「そうですよー。クズの息子が頭下げるんで、今日は勘弁してやって下さいよ。
そんなことしてるとウチの親父みたいにクズになっちゃいますよ。」
奥山は深々と、似合いもしない香水の匂いをぷんぷんさせている尻軽女たちに頭を下げた。
俺は思わずうぉぉぉ…マジかこいつ、、格好いいじゃないかよ…と思ってしまった。
「奥山くん…」横山さんも、なんだかぽーっとしてしまっている。
これはまずい。俺の出番まるでないじゃないかよ。
いやいやそんなことより、とりあえずこの場を収めるには乗っておくしかないと思った俺は
「俺からもお願いします。クラスメイトなんで。」
と奥山の隣に一歩出て一緒に頭を下げた。それを見た横山さんもそれに倣った。
吉田さんは涙目こそおさまったようだったが、なんだか信じられないものでも
見てしまったかのように一回大きく目を見開き、次の瞬間ハっとしたような顔をして
ペコリとちいさく頭を下げた。言葉はまだ出せないようだった。
152:
「んだよ気持ちわりーな。もういいや。つまんないからカラオケでもいこ」
ビッチ達はまるでおもちゃに飽きてしまった子供の様な顔をして、踵を返し去って行った。
俺は内心、あいつらの周りにいる怖い先輩たちとのもめごとを危惧していたから
大事になる前に自分の頭一つを犠牲にして事を収めた奥山を素直に尊敬した。
たいして広い人間関係があるわけではない当時の俺にとってこんな奴と友達になれた
ことが俺は、誇らしかった。自分の根性のなさを抜きにしてもだ。
とはいえ一番オイシイところをもって行かれ、ちょっとした嫉妬も感じていた俺は
一呼吸おいてから中学生にしては背が低くリスのような可愛らしさを持った
吉田さんの方を向き、自分にできる最高の優しい笑顔を浮かべているつもりで言った。
近くで見ると彼女にはすこしだけ、そばかすがあった。
「大丈夫?怪我とかない?何か取られたりとかしてない?」
途端、吉田さんが堰を切ったように泣き出した。
ぺたんと地面に座り込み、ついでにうぅぅぅ…と低く唸った。
ボブっていうのかな?短めの黒髪が呼吸をする度にゆらゆらと揺れた。
きっと猛獣のようなビッチどもから解放されて気が抜けたんだろう。
「えぇぇぇえちょっ、、どうしたの?どっか痛いの?」
同年代の女の子の涙なんか目の前で見たことが無かったんだ。
俺はそんな間の抜けたことを言うのが精いっぱいだった。
どうにかこの事態を収拾しようと思わず小さい子にするように
吉田さんの頭をそっと撫でた。いや、撫でてしまったんだ。
158:
「あーイッチ泣かした」と奥山 てめぇこの野郎。
「ひどいひどーい」と横山さん。意地悪な顔も可愛いです。
俺はオロオロすることしかできない。そんなスキルはもっていないよ。
横山さんは鞄からこの世にこんなに清潔なものはあるのか?というくらい
真っ白で、女の子らしい縁取りにピンクの刺繍をあしらってあるハンカチを
取り出して吉田さんにそっと差し出した。
なぜだか俺、このハンカチの事を昨日の事のように覚えているんだ。
それを見た吉田さんは何故か余計に一度大きく泣いた。
優しさが沁みるって感情は俺たちにも伝わった。
誰も一言も発せず彼女の気持ちが落ち着くのを待った。
横山さんも、だまってにこにこと微笑みながらハンカチを差し出したままだ。
159:
ひとしきり泣いた後、吉田さんはおずおずと受け取って眼鏡をとり涙を拭いた。
真っ赤になってしまった目は若干痛々しくも映ったが
そんな野暮なことを突っ込むやつはひとりもいなかった。
姉と妹くらい背丈の違う二人を見ていると俺はななんだかくすぐったいような
気持ちになった。奥山のほうに顔を向けるとちらっと目が合った。
おそらく似たような気持ちだったんだろう。ニコッとあいつは笑いかけてきた。
なんとかなったな。そう心の声が聞こえたような気がした。
ああほんとだ。お前のおかげだよ。俺は胸の中でそう返した。
その時俺は、こいつは俺なんかより遥かに大人なんだと感じた。
未成熟でいい加減な俺はいい恰好をすることしかはじめ頭になかったから。
数分もすると吉田さんは落ち着いたのかゆっくり立ち上がり、やっと言葉を発した。
「あ、あのっあ…ありがとうございましゅっっっつ!…た。」
口を開いたと思ったら、それはもう見事にスカっとするほど盛大に噛んだ。
161:
一瞬の静寂。そのあと何かが破裂するくらいの勢いで爆笑。
笑っちゃ悪いとは思ったが、これはもうしょうがない。
つられて吉田さん本人も照れながらも一緒に笑顔を見せる。
…ん?眼鏡を取って笑うとなかなか可愛いじゃないか。
背は低く、まだつるぺたではあったが愛嬌のある顔立ちをしている。
紅潮した顔にあるそばかすもチャームポイントといって良いだろう。
俺はそのとき漠然とやっぱり女の子は怖い顔や泣き顔よりも笑顔がいいと思った。
おっさんにもなると怒った顔も可愛いねぇなんて軽口も言えるようになるんだが
それはもっともっと後の、汚れきった後の時代の話。
俺は、いや俺たちは皆、本当によかったな、この子がもっとひどい目に合う前に
気が付いてあげられてと心から思ってた。
吉田さんは一言、
「ハンカチは洗って返します。ほんとにありがとう」と
小さく言って愛嬌のある笑みを浮かべひとつお辞儀をして帰って行った。
出るときには夕暮れだった空がいつのまにか群青色に変わっていた。
ソフトクリームは食べそびれたが、悪い気分ではなかった。
162:
俺たちも吉田さんの小さい背中を見送ってか途中まで一緒に帰ることにした。
俺と奥山は横山さんを中心に挟み込むようにして並んで歩いた。
それぞれの家路に通じる分岐路の手前で横山さんが思い出したように笑い、
俺と横山の少々ごつくなり始めてきた腕に自分の腕を絡ませてきた。
衣替えはすでに終わり夏服になっていた俺は横山さんの素肌に初めて触れた。
どくん。と俺のちっぽけな心臓は跳ね上がった。
もう夏だというのに横山さんの素肌は信じられないくらいさらっとしていた。
俺はどきどきして奥山がどんな顔をしているか確認することもできなかった。
彼女はそんな俺の気持ちを知ってか知らずかさらにぎゅっと抱きしめるように
俺たちの腕を引き寄せ、こう言った。
「あたし今日の事、一生忘れない。あんたたち、かっこよかったよ!」
セェェェェェェフ!たち!俺も入ってた!!よっしゃぁぁぁぁあ!!!!
小踊りしそうになる自分を必死に抑え、別に興味なんてないって顔を
無理して作っていた俺は、そこであることに気が付いた。
…当たっている。その、乳が。
163:
俺の全神経は、無意識のうちに肘の先に集中していた。
幼稚園児のゆうちゃんとも、スケバンのおっぱいとも違う感触。
100人いたら、100とおりのおっぱいがあるのか…と俺は顔を真っ赤にしながら
そんな知能指数の低い真理に到達していた。
俺はなんとか勃起しようとする息子を抑えるために円周率を数えようとした。
しかし10ケタくらいしか知らないことにすぐに気が付いた。
幸運にも分岐路はすぐそこだった。
俺と奥山は、手を振って横山さんを見送った。
それじゃ俺も、と言いかけたところで奥山が口を開いた。
「よかったな…」
「ああ、よかった」俺はそう返した。
「ところでさ…当たってたな…」と奥山。
「ああ、当たってた」と俺。
あいつもだったんだ。さっきはすごく遠くに、大人に感じた奥山が
俺と同じことで舞い上がっていたということに気が付き、嬉しく思った。
俺たちはその後黙って別れた。同じ気持ち(と感触)を共有した漢たちに、
それ以上の言葉は無粋でしかなかった。
165:
ここ最近の話は女難って感じはしないな
166:
まだあわてるような時間じゃない
167:
吉田さんは今の1の奥さんとみた
169:
>>167
まぁよかったら最後まで読んでくれ。大人編は短めの予定。
168:
男はどうしようもなくバカになってしまう瞬間があるよな……。どうしようもねえよ本当。
169:
>>168
だからこそかわいいじゃないか。
さて、今日は短いけど投下します
170:
次の日か、そのまた次の日か。
1学期の殆ど最後の、消化試合のような授業を受けるため俺は一応登校した。
校門まで続く右側が住宅街で左側が茶畑の長いながい坂道を上る途中にある
バス停のベンチにこないだの小動物が緑を背にして本を広げて座っていた。
集中しているのか、至近距離に近づいても彼女はまったく気が付かない。
本の背表紙を見ると
村上春樹の「ノルウェィの森」だった。俺も大好きなタイトルだ。
「吉田さん?おはよう。それ、春樹?」と声をかける。
一瞬ビクっとした彼女は眼鏡ごしに上目づかいで恐る恐る俺の方を見る。
そしてようやく認識したのか、ちょっとほっとしたように笑い、挨拶をかえす。
「おはようございます。俺君。そう私この人の本大好きなの。」
「俺もだよ。いつも本読んでるよね吉田さん。こんなところで何してるの?」
「昨日のお礼を言おうと思って。教室だとみんないるから恥ずかしくって。」
「そんなのいいのに。とりあえず学校行こう。遅刻しちゃうよ」
「あ、そうだった!私本読み始めると時間忘れちゃって。」
171:
ぱたぱたと本を鞄に仕舞い、彼女は俺の後ろをちょこちょこと付いてきた。
学校まで数百メートル。俺は彼女と村上春樹について語りながら登校した。
頭の隅で、この子は俺が逆方向の家だったらどうするつもりだったんだろうと
思ったがまぁいいやと放り投げた。
「あ…そういえば…ハンカチ洗って来たんだけど…」と吉田さん。
「そういえばそうだったね。後で一緒に行く?ほかのクラスだもんね」と俺。
「そうしてくれると嬉しいな。私、人見知りだから…」可愛いこと言うじゃないか。
「じゃあ、部活あるから授業終わったら体育館に来てくれる?」と俺は言った。
「うん大丈夫。私美術部だから、早く終われるし。」実は初めて知った。
彼女は学校に入ってからはまるで貝のように押し黙り全くの他人のように
ふるまった。俺も気持ちは分かったから、わざわざ話しかけることもなかった。
まぁ、昨日まで殆ど話したことはなかったから他人みたいなものだったが。
しかし俺はいつもひとりでいる吉田さんを見ていたからわざと、誘ったんだ。
ハンカチを返すだけなら簡単だったが妙な親心の様なものが湧いたんだよね。
だって、俺も昔ずっとひとりだったから。
172:
約束通り、部活の終了時間の少し前に彼女は現れた。
体育館の、いちばん端っこの両開きの扉の脇にちょこんと。
ネットの片づけがあるのでバスケ部よりバレー部のほうが終了時間が遅くなる。
先に終わった俺と奥山は吉田さんに声をかけた。
「おつかれさまー。横山さんももう終わるから一緒に途中まで帰ろうよ。」と俺。
「そうしよそうしよー。ソフトクリームでも食って帰ろうよ」と奥山。食い意地か。
吉田さんは恥ずかしそうに、でも嬉しそうにこくんと頷いた。
その日から、俺たち仲良し3人組は、4人になった。
昨日食べそびれたソフトクリームは、甘く冷たい夏の味がした。
彼女は言葉数は少なかったけど、微妙に天然でイジりがいがあったし
俺と読む本の趣味がよくあった。横山さんもまるで妹ができたみたいと
よく考えると結構失礼なことを言いながらも歓迎していた。
奥山もまんざらではなかった。そりゃぁ、年頃の男の子だ。
女子が増えて嬉しくない奴なんていない。
それに俺たちはいじめを経験していたから、彼女の気持ちがよくわかったんだ。
一学期が終わり、長い夏休みが始まる。
それまでの少しの間に俺たち4人は随分打ち解けていた。
吉田さんは勉強がよくできたから、ボンクラな俺たちは図書館や俺のうちに集まって
宿題を教えてもらったり、みんなで映画を見に行ったりした。
いつのまにか彼女はよく笑うようになっていた。
それを3人とも、ほほえましく感じていた。
本当に健全に、楽しく時間は過ぎて行った。
仲の良い友達ができるってのは人生においてもっとも美しい瞬間だ。
みんなにもあるだろう?少なくとも俺にとっては忘れられない夏だった。
173:
鳴いている虫の音が少しずつ変化してきた頃。
俺の生まれた町では夏休みの最後の方に盆踊りが行われる。
場所は俺と奥山が通っていた小学校だ。
そこへみんなで行こうという話になった。もちろん断る理由はない。
早めに俺のうちで奥山と集合し、ふたりで出かけた。
夕暮れがすぎあんなに日中騒がしかった蜩もおとなしくなっていた。
待ち合わせの時間に俺たちは懐かしくも苦い思い出のある小学校へむかった。
校舎のの真ん中の時計の下にある歳をとった大きな桜の樹。そこが目的地だった。
その下に彼女たちはいた。俺たちは予想もしていなかったが二人とも浴衣を着ていた。
祭りのために青々とした葉はライトアップされていて
それをバックに彼女たちはとても可憐に見えた。
横山さんは白地にピンクの帯。その上にひまわりの花が咲いていた。
いつものツインテールではなく綺麗な髪をひとつにまとめていた。
吉田さんはシックな紺地に渋い紅帯。和風の文様が非常に彼女らしい。
暗い印象を抱かせかねない眼鏡もかけていなかった。
一瞬俺と奥山は言葉を失い、何かとても崇高なものでも見たように息をのみ、
そして彼女たちに声をかけた。正直人違いかと思った。
「おっっおす」俺は間の抜けた声をかけた。
「おーふたりともいいね?。すごくよく似合ってる。」奥山ぁぁぁぁぁあああ!
これはあれじゃないか?人生初の。だっ…ダブルデートってやつか?
いつも気の置けない友人に徹していた俺はこの時異常に異性を意識した。
もちろん横山さんの事は好きだった。でもそれは子供の淡い憧れにすぎなかった。
179:
季節の描写が心地良いな
完走楽しみにしてるぜ
180:
そろそろ再びパンツを脱ぐ時かな?
184:
>>180
そんなに脱ぎたいなら、かまわんよ
181:
おそらく奥山もそうだったと思う。男同士だから言わずとも感じる。
それまであたりまえのように付き合っていた女の子たちとの間に
男以外にはわからないくらいのわずかなひずみが出来た。
中学生とはいえ体は大人に近いた少年が異性を意識するということは
極論ではあるがセ●クスを意識すると言う事だ。
もう、性欲はあったし自慰も覚えてはいたがそれをぶつける相手として
彼女たちを見ることに俺は耐えられなかったのかもしれない。
ただ、一緒にいるだけでは満足できなくなってしまったんだ。
もちろん、お祭りは楽しかった。わたあめもかき氷もおいしくて。
祭りの最後に上げられた申し訳程度の花火も当時の俺には十分きれいで。
屋台の暖かい色のライトに照らされた彼女たちを思い出すだけで
今でも胸が躍るくらいだ。夏のひと時をすごすには魅力的な女の子たちだった。
でも当時の俺にとって、それは非常に危険な感情でもあった。
そのどちらかをきちんと選んで、自分から手をつなぐ勇気もないくせに。
ずっと俺は横山さんに恋をしていた。していると思っていた。
それがだんだんわからなくなってきてしまった。
182:
それでも表面上は今迄通りの関係を続けた。壊したくないという一心で。
奥山の気持ちも気になってはいたが、思い切って言葉に出すことは出来ない。
悶々とした気持ちを抱えたまま、いつのまにか木枯らしが吹いていた。
それと同時に、俺の気持ちにもはっきりとした変化が訪れた。
ひとりベッドでいるときにいつも頭を支配していたツインテールの女の子は
いつしか思わず頭を撫でてしまった、おとなしくて控えめな眼鏡の女の子になった。
どこにでもいる中学生の日常を過ごすうち、
どうやら俺は吉田さんのことを好きになってしまったようだ。
すこしずつ、でも確実に。
読む本が、同じだった。
話す言葉が、同じだった。
孤独の種類が、同じだった。
奥山といるときの楽しさとも、横山さんといるときとのドキドキとも違う。
お互い話すことがなくなってからの沈黙でさえ心地よく感じたんだ。
きっと彼女が男だったとしても俺は好きになっていたのかもしれないと思うほど。
壊したくない。変えたくない。ずっとこのままいたい。
そんな気持ちを全身を貫く激しい衝動が片っ端から破壊していく。
183:
ある日ついに俺は行動に移した。
まずは奥山だ。あいつと話さなければならない。
それが子供から少年、そして大人に至る過程にある俺が導き出した答えだった。
あまり好きな言葉ではないけれど筋ってやつだとその時は思った。
臆病で弱い俺の、精一杯の誠意でもあった。
彼は俺の呼び出しにいつものように気軽に応じてくれた。
俺の部屋に来た時にすぐに違和感を感じたのか、奥山は
「どうした?」と短く聞いた。
「俺さ、吉田さんの事好きになってしまった。」俺も端的に話した。
ぐだぐだと長い話をする気はなかった。
どこか気恥ずかしく、口調はぶっきらぼうになってしまった。
「そうか。」と彼は一瞬考えてから絞り出すように言った。
俺は勇気を絞って聞いた手前、すべてを明らかにしたいと思っていたので
いままで気になっていたことを彼に聞いた。
「お前は、どっちが好きなんだ?」
奥山は今度はゆっくり考えそしてなんだか困ったような顔をして、こういった。
「俺は、横山さんが好きだ。お前もそうだと思っていた。
185:
一抹の不安はあったが、予想通りの答えが返ってきて俺は内心ほっとした。
こいつと一人の女の子を取り合うなんて、過酷すぎる。
友情が壊れるのも怖かったが、情けない話こいつにはどうしても勝てないと
心のどこかで思っていたからかもしれない。
それでも俺は、一生懸命勇気を出して話をした俺に対して
正直に答えてくれた奴に実直さを感じた。
「告白するつもりなのか?」彼は言った。
「ああ。」と俺は返した。
もう彼は何も言うつもりはないようだった。
言葉を探す代わりに、彼はにこりと笑ってくれた。
応援するような、それでいてどこか寂しそうな。
男の俺が見てもはっとするような笑顔だった。
俺はやっぱりこいつにはかなわないな、と思い一緒に低く笑った。
それから1週間くらいは無為に過ぎたのではないだろうか。
俺は告白のタイミングを計ってはいたがなかなか切り出せずにいた。
それでもこの心地いい関係を壊すことには変わりないのだから
どうせなら堂々と4人でいるときに告白しようと思っていた。
バレンタインデーの前には決着をつけるつもりだった。
吉田さんから、俺だけのためのチョコレートが欲しかったから。
191:
ある週末に、あの夏休みの時に待ち合わせた小学校の桜の木の元に
みんなを呼び出した。青々とした葉はいつしかきれいさっぱり無くなっていて
それをみていたらなんだか心の隅っこまで寒々しい感情に支配された。
俺は一人でまっていた。気合いが入りすぎて、早く来てしまったんだ。
空には雲一つなく、俺の吐く息はすぐさま白い蒸気になった。
一番先に、横山さんが来てくれた。
この時の俺はひょっとしたらものすごい顔をしていたのかもしれない。
開口一番、彼女はあのはつらつとした笑顔を少し曇らせ俺に聞いた。
「どうしたの?」奥山と同じ言葉だ。
でも男同士の会話のように率直にというわけにはいかない。
「みんな来たらちゃんと話すよ。大丈夫だから。」精一杯の俺の強がりだ。
ほどなく吉田さんが現れたが、ただならぬ空気を察したのか押し黙ったまま
その場に突っ立っていた。一度救いを求めるように横山さんを見たが
彼女も何もいわず、重い沈黙だけがその場にべとっと張り付いた。
ありがたいことにすぐに奥山もやってきてくれた。
あいつは状況を知っていたから遠目に見てもひどく深刻な表情を浮かべていた。
不思議と寒さはもう感じていなかった。
全員がそろうと沈黙に耐えきれなくなった俺は口を開いた。
「俺、みんなに話がある。みんなに聞いてほしい。」と。
192:
誰も言葉を発しなかった。俺を待っていてくれた。
思い切って俺は吉田さんを正面に見据え、その眼鏡の向こうにある目を見つめ言った。
「俺、吉田さんの事が好きです。」
そこまで言って、落ち着くために一度大きく深呼吸して俺は続けた。
「4人の関係を壊したくないとも思ったけど、何度考えても好きで。今言わないと
一生後悔するって思ったから言います。本を読んでいる吉田さんも、
人見知りな吉田さんも、そのそばかすも、俺たちだけに見せてくれる笑顔も全部好きです。」
練りに練った言葉のつもりだ。何しろ初めての告白だ。
一世一代の大勝負というと大げさかもしれないが
中学生にとってはそれは非常にエネルギーのいることだ。
おっさんが飲み屋で女の子を口説くみたいに、とはいかないのだ。
純粋で、飾る気もない、心からの言葉だった。
こんなにまっすぐに誰かに感情をぶつけたことが、俺はなかった。
193:
永遠にも思える静寂。
皆が皆、木枯らしの吹く中空をみつめ、まるで時間が俺たちだけ動かすのを
忘れてしまったみたいに、止まっていた。
しかし突然沈黙を切り裂くように俺たち以外に誰もいない校内にチャイムが空々しく響いた。
時間は動きだした。
俺を含めみんなが吉田さんの方を見る。彼女は状況を把握するのに時間がかかるタイプだ。
俺以外の2人もそっと見守る。誰も急かしたりなんてしない。
しばらくして、呆けていた吉田さんはあの時のように一度はっと目を見開き
その次の瞬間、ゆでだこのように顔を真っ赤にした。耳まで朱に染まる。
「あっあの…私…えっと…」
困っている。困っているぞ吉田さん。
そんなところも大好きです。
「うん…ありがとう…嬉しい…」
来たか?コレ来たか?
他の二人も息をのんで見守ってくれている。
197:
吉田さんは俯いてもごもご言っていたがついに何かを決心したような顔に変わり
今まで聞いたことのないような大きな声で、こう言った。
「でも、ごめんなさい!!私、横山さんが好きなんです!!!」
「え?」
「え?」
「え?」
ぽかーん。振られたことに気が付くことさえできない。
奥山じゃないよな?横山さんっつったよな?
横山さんって、確か女の子だったよな?
その辺から脳みそをリロードするしかなかった。
198:
みんな、鯉のように口をぱくぱくしながら固まっている。
おいコレどーするんだ。これまでの俺の徹底的だと思われた
シュミレーションにも当然こんなのは入っていない。
「気持ち悪いよね…女の子どうしなんて…でもあのときハンカチもらった時から私…」
そこまで言って彼女は言葉を紡げなくなりぽろぽろと泣き出した。
そんな事、頭をよぎったこともなかった。
俺は必死に言葉を探したが、検索結果はゼロだった。
あの奥山ですら、似たような顔をしていた。
ただただ俺は、また泣かしてしまったことを後悔した。
200:
突如、横山さんが口を開いた。
「うん…そんなことないよ…。」彼女は吉田さんの頭を優しく撫でた。
「私も、みんなに話したいことがある。」あやすように撫でながら彼女は続けた。
「女の子に恋をしてしまうのは、私も同じなの。」
「え?」
「え?」
「え?」
全員が横山さんの言葉にくぎ付けになる。
この後決定的な一言を彼女は言うことになる。
彼女らしく、きちんと目を見てはっきりと。
「吉田さん。私もあなたのこと、好きよ。恋愛対象として。」
えぇぇぇぇぇぇっぇぇっぇぇぇぇぇぇ…?
201:
言葉にならない。俺は耐えられなくなって、奥山の方を見る。
あいつもやはり困惑と悲しみに満ちた表情をしていた。
そうだ。あいつも同時に振られていたんだ。告白する前に。
俺の告白は一体どこいちゃったんだよ…
眠れなかった時の幾夜にもわたるシュミレーションに費やした時間も…
俺のちっちゃな勇気も…奥山なんかすまんかった…
二人の間には冬とは思えない桃色のオーラが包んでいる。
俺と奥山はもう、ただの邪魔者でしかなかった。
「俺も、気持ち悪いとは思わない。応援するよ二人の事。」
そう言うのがやっとだった。どっちにしても友達であることには
変わりないのだから。いたたまれなくなった俺は、
茫然自失とする奥山の腕を引っ張り、その場を離れた。
自分が振られた悲しみよりも友人が幸せになる喜びを優先させた。
いや、無理やりにでもそうしようと努力した。
本当は悔しくて悲しくて寂しくて。泣き出しそうだったのだけど。
204:
レズはホモ
205:
まさか1の嫁はオクヤ…
208:
>>204
>>205
変な流れにしないでくれwご想像にお任せする。
206:
ちょっとこの展開は予想でしなかったw
208:
>>206
俺もしていなかったよw
209:
俺たちはまた、あの小学校で仲良く玉砕した。
帰り際、寂しそうに悲しそうにまた奥山がつぶやいた。
「女って怖いよな…」
その言葉には色々な成分が含まれていたが、俺は曖昧に頷いただけだった。
本当は痛いほどその気持ちは分かっていたのだけれど。
すまんという言葉を俺は彼の名誉のために飲み込んだ。
その日の夜、俺は久しぶりに枕に突っ伏して泣いた。
隣室の姉ちゃんにばれない様に声を殺して。
しかし夕食の時の俺の空気から何か感じ取ったのだろうか。
深夜、俺の部屋のドアが音もなく開いた。
2番目の姉ちゃん。綾子だった。
「…泣いてるの?」一言だけ。
「だんっでもっ…だいっ…」と俺。バレバレではあるが強がった。
「ウケる」そう姉ちゃんは言い残しまた静かにドアを閉めた。
隣の部屋から二人の姉の爆笑が聞こえる。
女なんて女なんてオンナなんて…
俺は頭の中でそう呪文を唱えこの世のすべての女を呪った。
逆恨みであることは十分理解していたよ、もちろん。
でもそうしないと壊れてしまうような、そんなギリギリの気持ち。
まさに泣きっ面に蜂だ。俺はさらに泣いた。体中の全ての水分が涙に変わった頃、
俺はいつの間にかすとんと深い眠りに入っていた。
不思議なことにまったく夢は見なかった。
210:
その後の俺たちは、仲違いしていたわけではないが少しだけぎくしゃくとした
関係になってしまった。横山さんと吉田さんはどことなく二人だけでいたがっていた
様な気がしたから俺と奥山はなるべく邪魔をしないでおこう、という立場をとった。
もちろん学校の他のやつにはこのことは話していない。
はた目にはただの仲の良い女子に見えていたことだろう。俺はそれで良いと思った。
もちろん今でもこの話は同級生には内緒にしている。
絶対に墓場まで持っていこうと俺は思っている。
しかしついこの間、それぞれ普通に結婚し特に横山さんは2人の子宝に恵まれたと
言う事を人づてに聞いた。
一体あれはなんだったのだろうか?
思春期の女子特有の一過性の得体のしれない何かだったのだろうか?
俺はそれを聞いたとき一瞬そう思ったが、まぁ幸せになっているのならいいことだと
すぐに思い直せるほどには大人になった。きっと答えはこれからも出ないだろう。
出す気もない。今の俺は、直接会っても素直におめでとうと言えるだろう。
それでも当時は、二人で帰る後姿を遠くから眺めながらちくちくと痛む心を
なんとかなだめながら生活していた。応援すると言った手前、
それ以上俺がどうこうするということはで不可能だった。
かといって今までとまったく同じように接するほど器用でもなかった。
211:
そのままするりするりと時は流れ。
3年生になり4人でべったりということは随分と減った。
俺には高校受験が控えていたし部活だって追い込みの時期で結構忙しかった。
恋愛なんてもうこうごりだと俺は思いながら暮らしていたから、
忙しさで自分の心の痛みを押しつぶすようにしてひたすら頑張った。
奥山は、中学を卒業したら働くことに決めたとある日俺に言った。
ウチの親父と同じ、自動車メーカーの養成所の様な所にいくようだ。
そこなら寮があるし、あの酔っ払いも手が出せない。
一緒に高校に行けないのは寂しく思ったが、俺はいい考えだと彼の意見を尊重した。
俺は何をやらせてもボンクラだったからとりあえずまぁまぁ学力の私立高校に決めた。
中学の部活も特に強いわけでもなくインターハイなんて夢のまた夢だったが、
最後の大会では思い出づくりに出場させてもらった。
流川と同じバッシュと、奥山と一緒に円満にバスケ部を引退した。
その大会の少し前くらいからちょくちょく試合や練習を見学に来ていた
女子の集団の中に一年下の後輩の女の子がいた。名前をアヤコとしよう。
そう、俺の2番目の姉の綾子と同じ名前だったから名字ではなく下の名前で覚えた。
彼女は地域にある唯一のキリスト教会の牧師の娘だった。
当時はよくわからなかったが牧師ということはプロテスタントだったんだろう。
俺と同じように髪の毛が茶色がかっていて目も少しグレーがかった美人だった。
誰かからイギリス系のクォーターと言う事を伝え聞いた。
ロングのストレートの長髪に、いつも水色のカチューシャをしていた。
贔屓目だったとしても彼女は学年は下なのに彼女はとても大人びて見えた。
軟弱な俺なんかよりもっと透明な白い肌をしていて、手足もすらっと長かった。
くちびるは化粧をしていないのにいつも紅を引いたように赤く、
何よりも制服のスカートを短くして履いているのがとてもよく似合った。
今イメージするJKファッションの流行はこの辺の時代からじゃないかと思う。
とにかくおしゃれで異質な空気を彼女は持っていた。
212:
彼女が属していた団体はよく冷たいタオルやはちみつ漬けのレモン、
スポーツドリンクなんかをよく差し入れてくれた。
そのおおかたが文化部系の女子だったから彼女はその中でもよく目立った。
俺はバスケ部のモテるランキングには入っていなかったし、激しい女性不審だったから
基本的には無視を決め込んでいた。奥山は簡単に軽口を叩いて彼女たちをよく
笑わせていたが。コミュニケーションの達人なんだよ。奴は。
正直うらやましくなかったと言えば嘘になる。でも俺は意固地だったから。
たぶん卒業まで二、三回しか話していなかったんじゃないかと思う。
でも髪の毛の悩みについて話したことだけはよく覚えている。
体育教師のゴリラがしつこいこと。
持って生まれたものをかえる気はないこと。
そういったいわゆる普通とされていることに違和感があること。
俺は極力興味なさそうな顔をしたつもりだったが
なかなか同意を得られることがなかったのでこの時はよく話したと思う。
奥山はこの時、同じ体育館にいた横山さんと遠巻きにニヤニヤしていた。
てめーはもう。人の事より自分の事心配しろよ。あと、俺で遊ぶな。
話は飛んで、卒業の日。俺は学ランだった。
胸には卒業生の証の白い紙でできた花飾り。
それぞれが、それぞれの道を進む分岐点。
最後のHRも終わり奥山や横山さん、吉田さんと別れを惜しんだ。
なかなか会えなくなっちゃうねなんて言いながら。もうわだかまりはなかった。
217:
卒業式に出席してくれた母は、先に帰ってもらった。
友達と話していくからと。
校門を出るときに、俺はちょっと驚いたがアヤコは俺を待っていてくれた。
学ランのどの中学校でもある第2ボタン文化を継承するためにだ。
俺は自分のボタンが誰かにもらってもらえるなんて思ってもいなかったから
少し驚いた。それもこんな美人が俺を待っているなんて。
俺はこの日初めて異性から告白を受けた。
「先輩。ボタンください。あと、先輩の事が好きです。」
何かのついでのように彼女は明るく言った。
彼女からは緊張のかけらも感じられなかった。
ただ少しだけその透明感のある頬に赤みがさしていたような気がした。
本格的な春を目前にした柔らかな日差しは彼女の色素の薄い髪の毛と
瞳に反射しきらきらと弾けた。
俺は情けなくも何を言っていいかわからなくなった。
好きになるには情報が少なすぎた。信じられないという気持ちもあった。
218:
「去年からずっと先輩の事、見てたんです。」知らなかった。
「あ…そうなんだ…ありがとう。」我ながら気のきかない台詞だ。
「一度でいいんです。春休み、デートに連れて行って下さい。」と攻めの姿勢の彼女。
「・・・・・」何か言ってやれよ。俺。でも心の準備ができていない。
「これ、あたしの家の電話番号です。約束ですよ?」この子ぐいぐいくる。
返答を待たずに、彼女は無理やり俺の手に可愛らしいピンクの便箋を押し付け、
校舎の方に彼女は走って行った。手が触れたとき不覚にも俺はどきりとした。
俺は茫然として見送ったが遠くのほうで女子が何人か彼女を受け入れ、弾けるような
黄色い嬌声だけが俺の耳に届いた。よく体育館に来ていた集団だ。
俺はぎりぎりの平静を保ったまま、後ろを向き帰ろうとした。
そんな時だ。背後から声がかかった。
219:
「…青春ってヤツすか。いいですなぁ。」奥山だ。しまった。
「…えと、どこから見てた?」俺は動揺を隠しながら振り向かずに聞いた。
「大体全部」マジすか。お前ってやつは。
「どどっどどっどどっどどうしよう奥山。」
俺はあいつの方を見た。奥山の学ランにはボタンが一つもなかった。
マジかこいつ。勝てないとは思っていたがここまで差が付くものか。
でもいい。俺の結果も、ゼロではない。
「おま、それ…」俺はだらしなく前が開かれた制服を指さし聞いた。
「あぁ、ちょっとハイエナに襲われた。」なんてこと言いやがる。
「おい奥山よ。俺はどうしたらいい?」もう一度聞き直した。
「好きなようにすりゃいいじゃん。でも約束しちまったんだろ?」俺はしてないぞ。
「ま、ちゃんと断らなかったお前が悪いよ。電話くらいしてやんな。」
続けてそう言い奥山は手をひらひらさせながら帰って行った。
初めて異性から向けられたまっすぐな好意に俺は照れていた。
俺が吉田さんに告白した時のような切実さや喪失感みたいなものは一切なかった。
ただふんわりと暖かく、柔らかい印象だけが俺の心に残った。
確かに、礼儀として電話くらいはするべきかもしれない。
家に帰り、便箋を開くと女の子らしい可愛い丸文字で電話番号と
メッセージが書かれていた。ハートマークつきだ。
この便箋はどこかに行ってしまったのでもう確認することはできないが、
自分と同じ茶色い髪をもつ俺をどのように好きになったかが書かれていた。
220:
生まれて初めてのラブレター。嬉しくないわけなんかない。
この年頃の男の子なんて簡単なものだ。すぐに彼女のことで頭がいっぱいになった。
家に帰りドアを開くと、土曜で休みだった姉ふたり運悪く遭遇した。
いつもこいつらは俺が会いたくないときに出てくる。
ふたつの視線が俺のなくなった第2ボタンの位置に無遠慮に注がれる。
ニヤリ
魔物だ。魔物の群れに見つかってしまった。
しかもとてつもなく旨そうな餌をぶら下げて。
「あんたそれどしたん」ニヤニヤ長女
「ちょっとこっちいらっしゃいお姉ちゃんに話してごらん」ニヤニヤ次女。
「おかーさーん!ちょっと!イッチが第2ボタン喪失して帰ってきた!」増えるな!!
やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇっぇええええええ!
そっとしておいてよ…暇人すぎるだろ…女っていくつになってもこういうの好物だな。
俺は逃げるように二階の自分の部屋に飛び込み、ドアが開かないように
勉強机の椅子をつかってバリケードを作った。
扉の外には魔物が三匹蠢いている。
221:
「げへへへへ…お姉ちゃん何もしないから話聞かせてごらんよ」と千賀子姉。
「告白されたの?されたんだろ?もうネタは上がってるんだ吐けよコラ」と綾子姉。
「そうなのイッチ?いつも来てた女の子?どっち?ねぇどっちなの?」母よエグるな。
しかし俺の築いた結界は鉄壁だ。
そのうち彼女たちはあきらめつまらなそうに捨て台詞を吐いて去って行った。
しかしこれで終わりではない。腹はいつかは減る。
休日出勤の親父さえ帰ってきてくれれば何とかなる。そう思っていた。
その日の夕食は俺の卒業祝いと言う事もあり好物の手巻き寿司だった。
俺は黙秘権を行使し、女性軍の攻撃をのらりくらりとかわしていた。
援軍を期待していた親父は赤ら顔でビールを飲みながら嬉しそうに
「ついにお前も色気づいたか」と一言だけいって後は彼女たちの好きにさせていた。
卒業したことに誰も触れてくれないんですけど…おめでとうとかないんすか…
俺は胸がいっぱいになって、好物だというのにいつもの半分も食べられなかった。
それでもすべての攻撃はかわし切れたし、面白がっている反面俺の成長を
喜んでくれていると言う事だけは伝わったので、嬉しくもあった。
なんていうか、照れてるだけだったんだよね。
222:
俺はまた部屋にこもり彼女からもらった便箋を広げ、
なんどもなんども読み返した。すぐに電話したい気持ちもあったが
当時は家電しかない。お父さんとか出たらなんて言えばいいんだ。
それにデートだ。デートって何すりゃいいんだ。
吉田さんとも横山さんとも何度か2人っきりということはあったが
デートというクエストは俺にとって初めての経験だった。
何を着ればいい?どこにつれていけばいい?何を話せばいい?
一つもわからない。ついに俺は意を決して姉の部屋に突入した。
魔物のことは魔物に聞くしかない。奥山だって頼れない。
「姉ちゃん。からからわないで聞いてほしいんだけど」
ニヤニヤしている。ふたりとも。でも頼れるのはこの魔物たちしかいない。
「やっと来たか。聞いてやるぞ可愛い弟よ。」と長女千賀子姉。
「デートってどうすればいいんだろう。」覚悟をきめて俺は聞いた。
「デート…だと?」次女綾子姉が息をのむ。
223:
そのあと根掘り葉掘り聞かれた。俺は断りきれなかっただけだとことさらに強調したが
こいつらの耳にはまるで届いていないようだった。
俺はあの可愛い便箋だけは見られないよう死守した。なんだか、悪い気がしたから。
ぐだぐだするんで、この辺は箇条書きにさせてもらう。
・洋服は明日昼間に一緒に見に行ってやる。
・あまり彼女を歩かせない。気合い入れすぎて履きなれない靴で来るかも。
・女の子に出費をさせるな。お姉ちゃんたちがお母さんから資金を調達する。
・もう遅いから明日電話すること。昼間なら父親が出る可能性は低いかもしれない。
・彼女がいなかったら夕ご飯前の時間帯、もしくは夕食後を狙え。明日が勝負だ。
・とにかく話せ。なんでもいいから。スベッても相手が好きなら努力は買ってくれる。
・焦って襲うな。でも一応ゴムは持ってけ。
そんなことをうやうやしく拝聴した。
いや、ゴムいらんやろ。姉ちゃん。襲うような勇気ねぇって。
あんたたちとは違うんだよ。コロコロ男変えやがって。ヤンキーばっかり。
ともかく俺は映画に連れて行くことに決めた。
姉はふたりとも最初のデートで映画かよ。と最初口々に文句を言ったが、
まぁ、厨房なんてそんなもんか、と勝手に納得した。
224:
映画ならば会話に困る時間も少なくて済むし、歩いて疲れることもない。
そのあと喫茶店にでも入って、なにか食べて帰るつもりだった。
姉二人は映画館のある駅の近くにあるジャズ喫茶を教えてくれた。
そこなら二人ともマスターと懇意にしているからよくしてくると言う事だった。
人生初のジャズ喫茶。俺、大丈夫だろうか。
村上春樹の小説で存在は知っていたが、怖い人とかいないのだろうか。
姉は俺の不安を察したのか電話しといてあげるし、そこなら個室もあるから。
と付け加えた。さすが姉。一生あなたたちには逆らえません。
翌日、姉二人と共に手早く近くの古着屋でコーディネートしてもらった。
俺の意見はもちろん無視だ。ああだこうだ言われながら着せ替え人形になった。
子供のころを少し思い出した。違うのは男物の服ってことだけ。
当時はちょうどアメカジが流行ってきていたから、リーヴァイスのジーンスと
ネルシャツ、それに色を合わせたコンバースのオールスターとチームは忘れたが
メジャーリーグの野球帽を買ってもらった。
姉曰く、男はシンプルなのが一番、とのことだった。
とにかくトロ臭い男にはなるな。女の子の喜びそうな映画を選べと
姉がうるさいので、まずは映画館に電話をかけリサーチした。
ネットでなんでも情報が手に入る時代じゃないからね。
正直にそれを電話口で話すと、対応してくれたお姉さんは丁寧に教えてくれた。
225:
たしか、「めぐり逢えたら」という映画だったと思う。
トムハンクスが出ていたことだけは記憶にある。
兎にも角にも、準備は整った。
午後の3時くらいだったか?俺はアヤコの家に電話をかけた。
「はい。〇〇教会です。」2コールもしないうちに彼女が出た。声でわかった。
「あ、俺です。」緊張しながら俺は名乗った。よかった、本人で。
「あ!先輩!昨日からずっと待ってました。」と彼女。だから取るのが早かったのか。
「昨日は色々あってね…ごめんね。」と俺。相変わらず気の利いたことが言えない。
「でも約束、守ってくれて嬉しいです。」電話の向こうで彼女が微笑んだのがわかった。
俺はつっかえつっかえではあったが軽く雑談し、彼女の休みの日にデートの約束をした。
卒業生と在校生では少しだけ休みの長さが違ったからね。
俺の最寄駅から、映画館は電車に揺られて数駅。
田舎ではあったが、一応地方都市として最低限の盛り場はある。
駅前の噴水の前で彼女と映画の開始時間の少し前に待ち合わせた。
お昼ごはんを食べてから行けばちょうどいい時間だったと記憶している。
230:
今度はどんな女難が待ち受けているのやら……。
脱ぐパンツ無くなったんだけどこれ以上なにを脱げばいいんだ!?
240:
>>230
すまんスルーしてた。一旦着たまえ。毛糸のパンツでも夜は冷えるぞ。
233:
青春ですなぁ
237:
>>233
若いっていいよね。
236:
おつカレー!
初デートわくわく♪
238:
今日は酔い過ぎていて、しかも明日親友と昼から競馬しながら
酒を飲む予定があるんだ。書き溜めた分は少しだけあるんだが
ちゃんとした時に読み返してから投下したいので
今日はこのまま失礼する。何人かでも読んでくれて、おっさん嬉しい☆
関係ないけど今日花火を見ていて、目の前の浴衣カップルが
打ちあがるたびにちゅっちゅしていたことに俺は激しく感動した。
ちゅうをするたびに浴衣女子がちょっとだけ跳ねるんだ。ちょんって。
もういちいちブレたりしないけど、なんかいいな、夏だなとおもった。
ちなみにおっさん目線で嫁がいたことは内緒な。
239:
パンツ被った
240:
>>239
明日明後日には脱げる展開もあるだろうw
241:
なんだかほろ苦く感じるな。
自分もあの時違う展開をしていれば違う人生もあったのかもしれないな。
同年代の1を応援する
246:
前の晩、俺はドキドキしてなかなか寝付けなかった。
好きとかじゃないんだ。俺は義務を果たすだけなんだ。一回だけのことだ。
そう自分に言い聞かせても、簡単には落ち着くことができなかった。
結局俺は夜明けごろにまどろんだだけでその日を迎えた。
翌朝。
大人たちにとってはたぶん平日だったと思う。
起きると、ありがたいことに家には誰もいなかった。
リビングのテーブルの上には一万円札が二枚。おかんのメモ付き。
ガラスの大きな灰皿で、飛ばないように押さえつけてあった。
当時の俺にとっては途方もない大金だ。
きっと俺が恥をかかないよう、気を使ってくれたんだろう。
メモには「余ったら返すように。がんばってね。おかんより」と一言。
きっとお姉ちゃん達からすべてを聞いているのだろう。
俺は気恥ずかしさも感じたが、素直に感謝することにした。
247:
落ち着かないまま、適当に朝飯と昼飯を兼ねたペヤングを二つ食べて
洗面所で顔を洗って生えてきたばかりのたいして濃くない産毛のようなひげも剃った。
歯磨きも、歯茎から血が出るくらい念入りにやった。
俺は玄関にある大きな姿見の前でこの間買ったばかりの服に着替えて
自分に隙がないかどうかじっくりとチェックした。姉の忠告通り、ブルージーンズは
下品にならないよう少しだけ落として腰のあたりで履いた。
ハンカチもティッシュも持った。ゴムは用意しなかった。
それでもまだ出発予定時間の1時間以上前だったと思う。
勢い余って手持無沙汰になってしまった俺は、とりあえず駅に向かった。
目的地について時計を確認したら、当たり前ではあったがまだかなり時間が余っていた。
駅前をふらふらして、当時最先端でデパートでしか売ってなかったハーゲンダッツを
ベンチで一人で食べて、待ち合わせ場所に戻った。それでもまだ30分近く前だった。
駅前の噴水脇に所在なさげに座っていると横から声がかかった。
「先輩?」彼女だ。まだちょっと時間には早い。俺は虚を突かれて、ビクっとした。
彼女は春らしい、水色のワンピースを着て、姉の予想どおり少しかかとのある靴を履き
うっすらとではあったものの化粧をして、耳には控えめで小さなイヤリングをしていた。
いつもと同じなのは、洋服と同じ色のカチューシャだけだった。お気に入りなんだろう。
一瞬うっとりとしてしまうほど、よく似合っていた。彼女の白くすらりとした足が、
とても眩しく俺の目には映った。制服とのギャップもあったと思う。
248:
「待たせちゃいました?ひょっとして。」彼女は小悪魔っぽく笑いかけそう聞いた。
「いっいや…ちょっと駅前に用があったから…」俺は彼女に初めての優しい嘘をついた。
間が持たない俺はとにかく映画館へ行こうと彼女と連れ立って歩き出した。
途中ではっと思い出し、姉に仕込まれた言葉をなんとか繰り出した。
「…そのワンピース、よく似合ってる。いつもとなんか雰囲気違うね。」
「そうですかー?嬉しいです。先輩も、かっこいいですよ。」彼女はくすくすと笑った。
しかし次の手は俺にはない。映画館までのほんの数分が永遠にも感じられた。
「つぎは『めぐり逢えたら』が始まるね。これでいい?」偶然を装って俺は聞いた。
「あ、これ気になってたんです。いいですね!」純粋に嬉しそうだ。
姉!魔物とか言って正直すまんかった!あと映画館の名前も知らないお姉さん!感謝!
チケットを買い、映画が始まるまでパンフレットやグッズを見ながら時間をつぶした。
アラジンだったか何だったか、彼女はディズニー映画のぬいぐるみに食いついていた。
見る予定の映画とは違ったが、随分欲しそうな顔をしていたので
せっかくだから記念に買ってあげる、と俺は言った。もちろん姉の入れ知恵だ。
249:
彼女は可愛いらしく、目を大きく見開いてまるで子供みたいに
「ほんとに?ほんとにいいんですか?ほんとに?」と何度も俺に聞いた。
そんなに大きくなく値段も安かったから俺は迷わずプレゼントした。
また彼女は何度も何度も繰り返し俺に呪文のようにつぶやいた。
「ありがとうございます。嬉しいです。大切にします。」
きゃっきゃっきゃ。そんな感じ。大人びて見えてもやはり年下なのだな。
美人で魅力的な女の子にこんなに喜んで貰えれば、男としても本望だ。
買ったばかりのぬいぐるみを袋ごと胸のところで抱きかかえ、ぴょんぴょんと跳ねる。
本当に嬉しそうにするものだから、俺までちょっといい気分になった。
映画が始まる前に俺は大きなポップコーンと飲み物を二つ、ついでに買った。
シアターデートにおいてのお約束の様なものだと俺は思う。
映画館で映画を見るときには、片手にポップコーンが無ければならない。
ちなみにこの習慣はいまでも変わらない。
バターもキャラメルも無い、シンプルな塩味。それがいいんだ。
「あ、あたしもお金出しますよ。」彼女はそういって財布を出したけど、
俺は受け取らなかった。年上だし、今日はその、一応デートだからと。
いつもいつもは無理だよ?と念を押すのは忘れなかったが。
まだバイトもしてないんだ。いつもじゃすぐに破産しちまう。
250:
この時点ですでに、一度きりのデートで終わらす気がなくなっていた。
それでも今日だけは精一杯背伸びをしたかった。
ファーストキスは目も当てられないような悲惨な目にあったんだ。
初デートくらい理想を求めたっていいじゃないか。俺は心の中で神様に言った。
たしか、「めぐり逢えたら」という映画だったと思う。
トム・ハンクスが出ていたことだけは記憶にある。
舞台は冬で、よくあるラブコメだった。
とにかく俺は緊張で映画を見る余裕もなかったよ。
ラストで、ヒロインが車から降りてニューヨークの街を走って行くシーンだけ
克明に覚えている。その時彼女に暗闇の中できゅっと手を握られたから。
俺はここまですべて後手に回っていた。スクリーンの光が彼女の感動の涙に反射して
きらりと輝いた。その横顔が、まるで聖母マリアのようで。純粋に美しいと俺は思った。
映画がエンドロールまで終わり、場内が明るくなっても彼女は泣いていた。
その手はまだ俺の掌に重なったままだった。やっぱり暖かくて、柔らかかった。
誰かが作った虚構の物語でここまで感動できるなんて、なんていい子だと俺は思った。
251:
そのまま、初めて俺は女の子と手をとりあいながら街を歩いた。
といってもジャズ喫茶までのほんの数分だったが。
恋人繋ぎじゃない、子供の様なつなぎ方。緊張で俺は掌に汗をかいていたのに、
彼女は嫌がることもなく何度かきゅっきゅと俺の存在を確認するように軽く力を入れた。
そのたびに俺は彼女の方を見た。それに合わせるように彼女も微笑みを返してくれた。
からんからーん。ジャズ喫茶のドアに設置されているカウベルが鳴る。
姉に報告されるのは恥ずかしいので、入る直前に俺は彼女の手を放した。
俺はアヤコがちょっとだけ、ぶすっとした顔になったのを見逃さなかった。
その顔はまずいよ君。可愛いすぎるよ。
「あの、イッチです。いつも姉がお世話になってます。」とりあえずのあいさつ。
「あぁ、聞いてるよ。いらっしゃいませ。」とマスター。
…顔が怖い。年のころは40代だろうか。スーパーマリオみたいな髭をたくわえている。
白いシャツに、蝶ネクタイ。その上から黒いエプロンをしている。
店内にはコーヒーのいい匂いがした。カウンターにはサイフォンと様々なカップが並び、
年代物の古い木製のスピーカーからは会話の邪魔にならない程度の音量で
サックスが主体のジャズが流れている。いいぞ、いい雰囲気だ。
どうやら他にほとんど客はいないようだった。
252:
「こちらへどうぞ。可愛い彼女つれちゃってまぁ。個室用意してるよ。」
どうやらこの一言で彼女の機嫌は一瞬にして治ったようだった。
さすがヒゲ。さすが大人だ。スーパマリオだけのことはある。
俺はころころと変わる彼女の表情が面白くてしょうがなかった。
この子と付き合ったら楽しいだろうな、と俺はぼんやり思った。
個室と言っても、木製のついたてで仕切られただけのスペースだったが、
人目を避けるには十分だ。革張りの重厚な一人掛けソファーとアンティークと思われる
濃い飴色のテーブル。脇には観葉植物が飾られている。
席に着くと彼女は内緒話をするように小さく言った。
「先輩、あたしこんなお店初めて。」と目を輝かせている。
「俺もだよ。ねえちゃんに教えてもらったんだ。」俺は正直に言った。
「そうなんですか?ちょっと緊張します」彼女はそう言ったが、
いつものように緊張感の無い顔をしているので俺はそれに突っ込み、
二人で声を出さずに笑いあった。こんななんでもない会話で十分楽しかった。
253:
俺はハンバーグのセット、彼女はオムライスを注文した。
食事が来ると少しだけ胸の前で手を組み口元でお祈りのようなものを唱えたのが、
とても印象的だった。怪しい宗教の勧誘なんかとは違う、自然な振る舞いだった。
彼女はほんとうにおいしそうに食べる。そしてたくさん食べる。
ひとくちずつ、ハンバーグとオムライスを交換した。
両方食べたかったらしい。それでもまだ食べられそうな顔をしていたので
俺は彼女のためにチョコレートパフェ、自分にはウィンナーコーヒーを追加で注文した。
たわいもないおしゃべり。くだらない会話。
最初こそ緊張していたが、いつのまにか話は弾んでいた。
人生で最初のデートの相手がアヤコでよかったと心から思った。
窓の外に夕闇が迫りくる頃、俺は思い切って聞いた。
「ねぇ、またよかったらなんだけど。どこか二人で遊びに行こうよ。」
ちょっと焦ったせいで話を切ってしまうような形になったから
彼女は一瞬きょとんとしたが、すぐに満面の笑みを湛えて即答した。
「はい。是非。今日はとても楽しかったです。」と。
すぐに付き合うとか告白するとか言う気持ちはなかった。
ただちょっと時間をかけて彼女の色々な顔を見てみたいと思った。
どんな風に育って、何が好きで、何がきらいで。何になりたいのか。
そんなことすら、まだ知らなかったから。
255:
いい雰囲気ダナ?
女難の相発揮しないでほしいけどゆっくり見守ろう..
261:
>>255
ありがとう!見守って入れくれ。
258:
なんか>>1に感情移入してるのか
幸せな話を期待してしまうなw
続き待ってるぞ
261:
>>258
そういってくれると嬉しいよ!
259:
クリスチャンだから、婚前交渉は、、、駄目か
261:
>>259
あまり関係なから書かなかったけど、プロテスタントは
大人になって自分の意思で入信するんだ。彼女はまだ洗礼を受けていない。
ただ、家が家だからちょっとした習慣みないのはあったが。
269:
俺は遅い時間にならないように彼女を家まで送ることにした。
彼女の最寄駅は、俺の駅より一つ手前だったからそこで降りて、
送ったら俺はそのまま一駅分、そのまま歩いて帰るつもりだった。
彼女の家は、教会とはいえそこまで特別な建物ではなかった。
普通の日本的な家の脇に、簡単な公民館のような礼拝室が寄り添って建っていた。
窓から暖かな明かりがもれ、焼き魚のような夕食のかすかな香りが漂ってくる。
普通の家庭となんら変わりない、優しい匂いだった。
本当はもうちょっと一緒に過ごしたい気持ちもあったが、
初デートはがっつかず、紳士であれという姉の教えを俺は守ろうとした。
「それじゃまた。楽しかった。今度はアヤコちゃんの行きたい所行こう。」
とだけ俺は言い、クールに立ち去ろうとした。そんな俺を彼女は背後から呼び止めた。
「先輩。ちょっと待ってください。」
俺は驚いて立ち止まり振り向いた。声に棘がある。何か怒っているようだ。
270:
「どうしたの?」と俺。
「どうしたのじゃないです。ちゃんてなんですか。呼び捨てにしてください。」と彼女。
彼女は頬をいっぱいに膨らませ、目を潤ませて。強い口調なのに、可愛いと俺は思った。
俺はその天真爛漫な陽の気と、勢いに押されこう言った。せめてもの仕返しも兼ねて。
「…アヤコ。じゃあ君も敬語はやめてくれ。緊張する。」
「はい。…じゃない。うん。イッチ、大好き。」
彼女は俺に飛びついてきた。たいして厚くない俺の胸に顔を埋める。
一切穢れていない純粋な、シャンプーのあまくてさわやかな香りに包まれる。
まるで陽だまりの中でもいだオレンジのような。もう月が出ているっていうのに。
うるうると輝きを秘めたそのグレーの上目づかいに、俺は完全にヤラれてしまった。
俺たちは、そっと、おでこを一度合わせはにかみあい、その後照れながらキスをした。
最初の一回はとても短く、そっと小動物どうしが親愛の情を確かめ合うような触れ合い。
あのババアに穢された俺のくちびるは、神の家のすぐそばで赦しを得た。
そのあと何回も、俺たちはなにか大切なものをついばむようにキスを重ねた。
地球上、いや宇宙のすべてが、俺たちの為に動きを潜めているように思えた。
いままでの何もかも、彼女に出会うために仕組まれた巧妙な仕掛けではないかと思えた。
あくまで自然でいて誰にも、神ですら邪魔が出来ない至上の瞬間。
永遠に、この時間が続いて行ってその果てに死があれば満足だと俺は心から思った。
そのときだけは。
271:
短い春休みが過ぎ、俺は高校に進学した。
あの苦い思い出しかない小学校の桜も例年通りきれいな花を咲かせていただろう。
たいした高校ではなかったが、その学校を選んだのには俺なりの理由がある。
俺は、外の世界を見てみたかった。その学校には留学制度があった。
中学校にはかろうじて友達は居たし、悩みながらもそれなりに楽しかった。
しかし正直、物足りなさを感じていたのも事実だった。
俺は「ふつう」というものに違和感を感じざるを得なかった。性格的に。
地方都市にありがちな我慢して枠内にいれば何とか食えるというだけの安心感と閉塞感。
言い訳をするわけじゃないが、進学を決めたときにはアヤコはいなかったんだ。
「ここ」以外の世界へのあこがれと彼女への恋心との間で俺は揺れ、胸を焦がすような
苦しみが、まだまだ青い俺の心臓を蹂躙した。
あの日から、俺と彼女は恋人同士になっていた。俺にとって初めての「彼女」だ。
高校は住んでいる所からバスで片道1時間程度かかったが、俺は時間を見つけては
彼女と会った。会うたびに、彼女とキスをした。彼女の為に部活はやらなかった。
一緒に歩いているときは、いつも手を繋いでいた。
272:
折りしもポケットベルが中高生に普及してきていたから、
会えないときも毎日連絡を取り合った。俺たちはお互いのためだけにそれを買った。
『084』(おはよ)
『0833』(おやすみ)
まだ数字しか送信できなかったけど、それでも彼女の存在を近くに感じることはできた。
手の繋ぎは子供の手の繋ぎ方から、恋人繋ぎに変わった。
一緒にいるときは汗ばむような陽気の日でも、小指だけは常にからめ触れ合っていた。
触れ合うだけだったキスも、もっと濃厚にお互いを貪るようなキスに変わった。
俺は拡声器で、この子が俺の彼女です!と世界に宣言したいくらい舞い上がっていた。
何度か家に連れていったから、家族にはすぐにばれた。
不器用な俺は自分なりに誠実に彼女を大切にしていた。
ある日、下の姉の筆跡で「ちゃんとつけろよ」と書かれたコンドームの小箱が
ベッドの上にそっと置かれていた。なんだかわからないなりの愛情を俺は感じた。
しかし、現実は無残にも俺の選択を求めてきた。
留学のための願書の提出日が迫ってきたんだ。
倍率は高かった。高校受験なんかよりもずっと、努力が必要だった。
このままじゃだめだ。そう思った俺は観念して、彼女に相談した。
273:
ある日、俺は彼女を家に呼び出した。期限まであと3日と言う所だった。
家には誰もいないタイミングを選んだ。季節はすでに、梅雨を目前としていた。
「俺、留学の試験を受けたい。受かるかどうかも怪しいけれど。」とおそるおそる。
「えっ…期間はどのくらい?」と彼女。不安げな視線。長いまつげが揺れる。
「一年。行くとしたら来年の夏から。」俺は事実だけを伝える。
「………うん。イッチ、行きたいんでしょ?あたし、待ってる。」
長い沈黙の後、彼女は俺の目を見ないで言った。言葉とは裏腹に表情に不満があふれた。
こういうときの彼女の顔色の変化は、俺にとってとても心苦しいものだった。
「ごめん。行きたいんだ。どうしても。」俺は続けて突き放すように言った。
「イッチが頑固なのは、知ってる。」彼女は俺の知らない儚げな笑顔を浮かべて言った。
アヤコはもう何も話したくないようだった。
どのみち、何か言おうとしたとしても俺がくちびるを塞いでしまったのだけれど。
少しだけ現実感を増した別れというものの存在が俺たち二人を衝動的にしていた。
そのままお互いの欠損している部分を補い合うように俺たちは無言で服を脱がしあった。
彼女は、俺が卒業した中学校の制服を着ていた。その短く腰元で纏めたミニスカートも、
当時の流行の最先端であった、ルーズソックスも俺が脱がした。
お返しにひきちぎるように俺の貧相な白いワイシャツもズボンも彼女に脱がされた。
274:
下着だけになった彼女の白い姿はミケランジェロの彫刻よりも遥かに美しく見えた。
偶像なんかよりももっと生々しく、リアルでその上中心に熱を持っていた。
つんと上を向いた乳房。そのたもとには青い血管が走っていた。
ちいさな白いショーツがつつんでいたやわらかなお尻も、重力に懸命に抗っていた。
俺は戸惑いながらも彼女の全てを取り去り、また自分の最後の一枚は自身で取り去った。
肉眼で初めて見る女性そのものの麓には、彼女の栗毛の髪と同じ色彩の茂みがあった。
俺は爆発しそうになりながらもなるべく優しく彼女に触れた。
彼女も少し涙ぐみながらも俺を求めてきてくれた。
そこはすでにぐっしょりと潤っていて、俺の興奮を煽る官能的な香りがした。
深くキスをしながら。淡いピンク色の乳首を指先に感じながらたくさん触った。
ときたま目があい、恥ずかしそうに身をくねらせる彼女。
はぁはぁと獣のように荒い息を上げる俺。時は満ちた。
いままで、流されるまま他人に接していた俺が、
はっきりとした愛情を彼女にあるがままぶつける。
彼女と同じ名前の姉から貰ったコンドームを付けアヤコの中に侵入する。
275:
姉と同じ名前を持った彼女の名を耳元で囁きながらゆっくりと動かす。
彼女は最初痛がったが、暖かいと言うよりは熱く無限に柔らかいその部分は、
俺をちゃんと受け入れてくれた。慣れていない俺は多少時間がかかったものの、
なんとか頂点に達することができた。ほんの少しだけ朱く、初めてのしるしがあった。
お互いの初めてが重なったその後は、呼吸を整えるように抱きしめあった。
彼女の事が好きで、好きで、しょうがなかった。
でも窮屈な世界から外に出たくて、出たくてしょうがなかった。
相反する感情と、目的とが胸の内でせめぎ合ったとしても、
俺はやるからには精一杯、闘いたかった。
それが彼女への礼儀であるとも思った。
彼女の言うとおり、俺は頑固だったのかもしれない。
受験勉強よりも数段激しい、キツキツの毎日が始まる。
どこの国に行くかはわからなかったが、試験は英語メインだったから
重点的に勉強した。範囲はセンター試験と同程度の難易度だった。
それでも俺は寝る間を惜しんで彼女ともしょっちゅう会った。
276:
「3341」(さみしい)
「11101」(あいたい)
彼女からのポケベルが鳴ると俺は深夜に家を抜け出し
走って出かけたこともあった。アヤコはそんなとき、
いつも車道に面した2階にある自室のカーテンを開け、俺を待っていた。
もちろん侵入するようなことも女の子を深夜に連れ出すこともしない。
姿を確認し、手を振りあうだけの一瞬のデート。
彼女は俺の帰り際にはいつも投げキッスをくれた。
アヤコの中にある外国人の血のせいだろうか。
嫌味なしぐさに感じたことはない。あくまで自然にそういうことが彼女はできた。
毎日、2?3時間程度しか寝ていなかったと思う。
若いからできたもいまは思う。
実際それから現在までの人生の中で俺はここまで頑張ったことはない。
283:
すごく文学的
288:
今回ばかりはどういう災難に会うのかわからんなぁ。とりあえずちゃんとパンツ穿いて待つか……。
289:
わあああ
胸がキュッとするよぅ
続き待ってるからなー
294:
>>289
いくつになってもキュンキュンしたいよな。
292:
浮気されたのかな?
295:
夏が過ぎ、秋がすぐそこまでやってくる。
俺は試験の準備に追われ、彼女をお祭りにも連れていってあげられなかった。
そのあいだ、デートは近所か、俺のうちばかりだった。
俺のうちにいるときには、何度も何度もお互いを貪りあった。
いくらしても、満足することはなかった。姉にもらったコンドームはすぐにつきた。
堂々と買うほど度胸はなかったから俺は早朝にこっそり、薬局の脇の自販機で
無くなるたびに補充した。ひと箱三百円で、6個入っていたかな。たしか。
この数か月の猿のような性生活のなかで、アヤコもオーガズムを覚えたようだった。
するたびに、気持ちがよくなる。
するたびに、愛おしくなる。
するたびに、別れが来るかも知れないと言う事を意識してしまう。
その感情が余計に、俺たちを燃え上がらせた。
アヤコは何度絶頂に達しても、さらに求めてきた。
俺が限界に達するといつも彼女は俺のももにまたがり自分で腰を振ってさらに果てた。
彼女は自分の気持ちや欲求に忠実で、奔放で自由な魂をもっていた。
俺はその熱意の対象が自分に向けられていることを自覚し、全力でそれに応えた。
イッたあとの彼女のからだは熱く、汗ばんでいたが不快に思ったことは一度もない。
俺はいつもそんなぐったりとした彼女を頼りない腕で抱きとめ、頭を優しくなでた。
296:
時間は、誰の事も待ってはくれない。
そこに愛があろうと、事情があろうと。
残酷なまでに均等に、平等に流れる。
試験の日程が決まった。
英語と、一般常識と、面接の3科目だった。
俺は、アヤコとの関係を維持しながらも限界まで自分の能力に挑戦した。
試験の日。それは東京で行われた。
ウチの学校だけではなく、全国の高校、高専から優秀そうなやつらが集まっていた。
正直言って、俺がいることが場違いだとも思った。
しかし勝負は始まっている。ここで逃げてもしょうがない。
できることを、全力でやるだけだ。沙汰は1か月もかからず出るだろう。
特に行きたい国があるわけではなかったから、
俺は留学可能なすべての国のチェック欄にレ点を入れ、その日を待った。
35か国ほど候補はあった。まったく聞いたことのない国まで。
297:
それから、留学団体からの分厚い書類が届くまで、
おれは学校以外の時間をすべてをアヤコに費やした。
すでに社会人になっている奥山にも会わなかった。いままで寂しい思いもさせてきたから
少し遠出して遊園地や動物園、電車で一時間半の大都市にも連れて行った。
流行していたメロコアのライヴにも行ったし、できるだけの埋め合わせをしたつもりだ。
幸せな時間を過ごしているうちにすでに冬の頭の澄んだ空気が忍び寄ってきていた。
その分厚い書類には「合格」という文字と共にこれからのスケジュール、
オリエンテーションの概要、外国へ行くことへの注意点などが書いてあった。
俺が行くことになった国は身バレしたくはないので伏せるが、とある発展途上国だった。
家にあった分厚くて何巻もある百科事典で調べても
その国についての記述は、1ページの10分の1もないような小国。
使われている言語も、普通の書店では会話帳はおろか辞書すら見つからないような。
日本には絶対にありえない高さを誇る山と、きれいな海辺と大きな島がある国。
俺が得た情報はたったそれだけだった。
世界地図で見ても、自分の行く町の名すらない。
不安もあったが、それ以上に未知に対する好奇心の方が勝った。
298:
俺は黙っていてもしょうがないので彼女に報告した。
また、自分の部屋だったと思う。
「受かった。すごく遠くて、貧しい国みたいだ。」俺は言った。
「……そう。受かるとおもってた。」彼女からはそれだけ。
言葉にせずとも彼女の気持ちはわかった。
行かないで、の一言をかろうじて我慢しているようにしか見えなかった。
あいかわらず、わかりやすい子だなぁと俺は思ったが、
言葉では、伝えきれない気持ちを伝える為、俺はまたそっと彼女にキスをした。
ひとこと、「ごめん、待っててくれ。」とだけ付け加えて。
そのあとまた俺たちは野獣のようにまぐわった。
彼女はすでに俺のツボを心得え、入念にフ●ラチオまでしてくれるようになっていた。
俺も、彼女のどこを舐めれば悦ぶか、きちんと心得ていた。俺たちは貪欲だった。
何度も
何度も
何度も。
回数は覚えていない。しかし今までで一番激しいセ●クスだったのは間違いない。
彼女の門限が迫る時間になるまで、俺たちは裸のまま布団にくるまり
無言のまま、くちびるがかさかさになるほどキスを続けた。
遠くに離れてしまう前に、そのすべてを自分の体内に取り込んでしまいたいと
言わんばかりだった。
299:
その後の説明会で出国の日は、ちょうど俺の高校二年の夏休みが終了する頃に決まった。
しかしそのことはあまり口に出さずに、俺たちは過ごした。
クリスマスも、年末も、バレンタインデーも。ゴールデンウィークも。
口に出したら、何かが終わってしまうような気がしたから。
時間があればいつも二人で過ごした。一緒にいるときはいつも体のどこかが触れていた。
彼女が帰宅するために身を離す度、俺は身が引き裂かれるような気持ちになった。
夏休みには、取っておいたお年玉でふたりで一泊の小旅行に出かけることにした。
ひょっとしたら、これが最後になるかもしれないという気持ちもどこかにあったから。
鈍行で3時間程度かかる、海辺の小さな温泉地。
予算はあまりないから安めの民宿の様なところに決めた。海の家付きの。
子供のころ家族と行ったことがあって、あまり人気が無くゆっくり出来そうだったし。
彼女はおそらく生まれて初めて俺の為に親に嘘をついた。
うまくアリバイを偽装してくれる友人がいたんだと思う。
今のようにスマホで写メ送ったりとかはできなかったから
出かけてしまえばこっちの物、という感覚もあった。
300:
普段いい子でいた彼女は無事に疑われずに、一泊でこんなに荷物がいるのか?
夜逃げでもするのか?というくらいの出で立ちで朝早く待ち合わせ場所に現れた。
俺はリュックサックひとつの軽装だったからその荷物のほとんどは当然のように
俺が持っていくことになった。
彼女は明るい黄色の夏らしいノースリーブのシャツと、
デニム生地のホットパンツ姿だった。本当に彼女の曲線はきれいだ。
足元は動きやすいようにか、コンバースのスニーカーだった。お揃いだ。
電車に乗り、何度か乗り換え途中でお菓子や駅弁なんか食べながら海へ向かう。
青い海。白い雲。ベタな表現ではあるが、それが一番しっくりとくる。
砂浜と水面に反射した夏の強い日差しは、俺達の白い肌を容赦なく焦がす。
一度民宿に荷物を置きにいくと、その大きさの理由がよくわかった。
いるか型をしている大きな浮き輪、それを膨らませる為の器具。
シュノーケリング用具一式、日焼け止め。水着やビーチサンダルも何種類も出てくる。
その近辺のガイドブックだって3冊はあった。そりゃかさばるわけだ。
なぜだか小さな折りたたみ式の釣竿まで彼女は荷物に潜ませていた。
彼女はバッグから出した海グッズをすべて一列に丁寧に並べると、
俺のほうを向き両手を腰に当てて可愛らしく、満面の笑顔を湛えてこう言った。
「さぁどうしましょう?」にっかり。夏の太陽よりもまぶしいよ君はもぅ。
301:
着てほしい水着と、遊び道具を俺に選べと言うのだ。何故か彼女は得意げだ。
その顔は命尽きるまで全力で遊んでやるぞ。さぁ来い。と言ってるようにも見えた。
俺はくすっと笑って週種類のなかからカラフルな色のビキニを選んだ。
だって、その水着だけちょっと前に出ていたから。本当にわかりやすい。
俺たちはさっそく海に行くことにした。といっても海は目の前。
あとはいるかの浮き輪とシュノーケリング用具も一応持っていくことにした。
ビーチパラソルと砂浜に引くビニールシートは海の家で借りた。
真夏の、でかくて真っ赤な夕日が水平線にかかるまで俺たちは海で遊んだ。
宿に帰り温泉に入ると、やわな俺の肌はピリピリと痛んだ。
いくら日焼け止めをしていてもその効果は限定的だ。
浴衣に着替え、部屋に戻るとすでに夕食が用意されていた。
値段の割には、豪華な食事だった。なにしろ、獲れたての魚はうまい。
夕食の後には花火をやろうとアヤコが言い出した。
当然のように彼女が用意していた。花火用のバケツは宿で借りることができた。
すでに日の暮れた海沿いに続く、堤防の脇を浴衣のまま手を繋いでそぞろ歩く。
昼間よりは幾分涼しい、磯の香りを含んだ風が俺たちの火照った頬をくすぐる。
302:
ふたりだけの、ちいさな花火大会。
夜の浜辺はとても静かで人気がまったくなかった。ここを選んでよかったと俺は思った。
持ってこれる量が限られていたので、1時間くらいで残すは線香花火だけとなった。
線香花火の、ちりちりとした弱い光を、二人で身を寄せるようにして眺める。
必然、ふたりとも無言になる。片手はもちろん繋いだままだ。
ぽとり。
線香花火が尽き、最後の炎のかけらが白い砂の上に落ちる。
あたりの闇が、さらに濃さを増した瞬間、彼女が口を開いた。
「この夏が終わったら、イッチは居なくなっちゃうんだね。」
「…大丈夫。すぐ帰ってくるよ。」俺は根拠のない慰めを口にする。
この世代の1年と、今の俺の1年の長さは圧倒的に違うと思う。
この時の俺は、1年後の二人の未来を予測することも出来なかった。
俺たちは浴衣のまま、誰もいない暗い浜辺で、長い長い大人のキスをした。
そのあと、初めて外で声を殺しながらする立ったままのセ●クスも経験した。
別れの予感と、誰かに見られたらという不安が逆に俺たちの興奮を誘った。
宿に戻ってからも俺たちはセ●クスを、飽くることなく繰り返した。
305:
ネタか実話かしらんが、面白い
306:
>>305
話の大筋は事実だ。楽しんでもらえるように多少はいじってある。
ただ、その時感じた気持ちだけは嘘偽りないとだけ言っておくよ。
読んでくれた人、みんなにありがとう。
さて、続きを投下します。
307:
次の朝。
隣に彼女がいない。どうやら俺よりも早く起きだして朝風呂に行っているようだった。
俺が寝癖のままボーっとしていると、彼女が帰ってきた。
すでにうっすらと化粧をしていたが、風呂上がりの髪の毛を頭の上でお団子にしてある。
普段出さないおでこが、新鮮で俺はそれを見て嬉しくなった。
父親を除く他の男が見たことが無いであろう、彼女の姿を独り占めできたから。
「まだ寝てたの?早くしないと朝ごはんの時間きちゃうよ。」と彼女。
「うぅ…日焼け痛い…」と寝ぼけ眼の俺。
「寝癖可愛いw目覚ましにお風呂入ってきなよ。」情けないところを見られてしまった。
彼女に促され、さくっと風呂に入り朝飯をかっこむ。
今日も、柔肌と時間が許す限り遊ぶつもりだ。
チェックアウトは10時だったので先に荷物をまとめ、海の家で預かってもらう。
砂の城を作ったり、シュノーケルを使って岩場の魚を観察したり。
結局、あの釣竿は使うことはなかった。なんだったんだろ、あれw
まるで昨日の夜の切ない会話はなかったことにされているみたいに、
明るく若々しく、健全に俺たちは午後まで夏の海を楽しんだ。
彼女と海の家で食べた焼きそばがとても美味しかったことを覚えている。
たぶん今食べたら、がっかりするほど普通なんだろうけど。
帰りの電車で、彼女は疲れ果てたのだろう。俺の肩に頭をもたげて眠りこけた。
いつものシャンプーの香りと、海と、太陽の匂いが重なっていた。
日焼けで赤くなった肌を見つめていたら、暖かい気持ちでいっぱいになった。
ほっとしたのか、いつしか俺も覆いかぶさるように眠ってしまっていた。
308:
夏は、もうすぐ終わる。どんなにやめてくれと願ったとしても。
愛おしさが募る一方で、俺の出国は着実に近づいていた。
出発の1週間と少し前だったか。
週末に俺の激励会をやろう、と奥山が電話をくれた。あいつと話すのも久しぶりだ。
彼女と、奥山と、横山さんと吉田さん。それとせっかくなので当時付き合いのあった
高校の友人何人も呼び、お菓子を持ち寄って俺のうちでの開催に決まった。
友人たちも彼女も、喜んで参加表明してくれた。単純にありがたいと思った。
わいわいと楽しく、宴は無事に進行した。はじめましての人もいたから
少々心配していたが、男気のある奥山が盛り上げ係をかって出てくれた。
前に好きだった女の子2人から、今の彼女とのなれそめを根掘り葉掘り聞かれるという
羞恥プレイ以外は。奥山?助けてくれる訳ないじゃないか。
むしろ、唯一の目撃者としてどれだけ俺が緊張していたか、そのあとどれだけ
俺の付き合いが悪くなったかなどを熱弁した。余計なことをするなお前は。
アヤコはそんな話を聞きながら女子らしくきゃっきゃと笑っていた。
でも、横山さんと吉田さんが中学校の時の4人の話を始めると、
一瞬俺の方をじろっと見て、ぷいっと横を向くしぐさをした。
もちろん本気じゃなかろうが。俺は悪い事もしてないのにオロオロしてしまった。
309:
出発の前日。
俺は彼女とと会い、いつものように過ごした。
今考えるとクサくてこっぱずかしいが、俺は彼女に気持ちを伝えるために
シングルCDを一枚プレゼントした。あの細長いヤツな。今の子は知らないか。
MIYA & YAMIの「神様の宝石でできた島」だった。懐かしくて涙が出るぜ。
https://www.youtube.com/watch?v=nOPneda5xpA
満月の夜にはきっと見えるだろう
遠く離れてても世界のどこにいても
君と歩き共に生きたかけがえのない時間だけが
今もなお星をたたえかがやいているね
さよならは言わないでいつかまた会えるはずさ
神様の宝石で出来たこの島で
この歌詞が、俺の心境を完全に表現してくれていた。
俺のベッドに並んで一緒に聞いて、二人で一緒に泣いた。
しかし彼女はいつもの時間に帰って行った。名残惜しそうに。
俺は、彼女のいなくなったベッドの上で、さらに泣いた。
311:
自分で選んだ道だってのにね。
その日の深夜。彼女からポケベルが入って、俺は是非もなく走って会いに行った。
いつもと違い、彼女は家の外で待っていた。彼女も俺も、泣きはらした
赤い目をしていた。アヤコもあのあと家で泣いたんだろう。
「どうしたの?こんな時間に危ないよ。」と俺。
「どうしてももう一度にイッチに触れたかったの。次は、一年後なんだもん。」と彼女。
俺たちは初めてキスをした場所で、二人がひとつになってしまうのでないかと
思うほど、強くお互いを抱きしめ、また濃厚で長いキスをした。
最後に俺に、彼女が言った言葉だけは、今でも鮮明に思い出せる。
「イッチは、あたしだけのものだからね!」
312:
出発日は平日だったから、彼女は見送りに来れなかったんだ。
奥山も仕事があったし、ほかの同級生も学校があった。
母親だけが、泣きながら俺を見送ってくれた。
一年分の荷物の入ったスーツケースと段ボール箱をひとつ抱え、
俺はその日、この国から脱出した。一緒の国にいく、ほんの少数の仲間たちと共に。
眼下に広がる「日本」という故郷を見下ろしながら、俺は心のなかで
すぐ帰ってくるさ。何も変わらないさ。そう言い聞かせるようにつぶやいた。
留学期間のことを書き始めると、また長くなるし
本筋と離れてしまうので思い出深いエピソードをいくつかかいつまんで書く。
ひょっとしたらこの時のこともいつかスレ立てするかもしれない。
その時はまた、みんな読んでくれよ。
313:
向こうに行ってもアヤコとは週1ペースで文通をした。エアメールな。
べらぼうに高かったが、たまに国際通話をすることもあった。
その声は遠くてその上音がズレて話しにくかったが、変わらないように聞こえ安心した。
数分だけの会話が終わるたびに、「待ってるから」と彼女は言ってくれた。
今みたいに、メールとかSNSでタダでいつでも話せるようにはいかなかったんだよ。
しかも発展途上国だったから、すべての手紙が届くわけではなかった。
大体3分の1程度は届かなかったと思う。届いたとしても航空便で
最低でも1週間かかった。送った順番が前後することも普通にあった。
奥山から一度だけ小包が届いた。日本で流行っている音楽をダビングした
カセットテープと、男らしくてあいつらしい、短い手紙を添えて。
手紙には、彼の親父さんが亡くなったことが簡単に書かれていた。
アル中をこじらしての、肝臓がんだったようだ。
そんな大変な時に、こいつは俺の為に日本の「今」を届けてくれたんだ。
現在と違って、曲をコピーするにはその曲の長さだけ時間がかかる。
あいつの人間の大きさに、再度俺は尊敬の念を覚えた。
手紙の最後は、葬式には誰も来なかったよ。とだけ書かれていた。
俺は子供の頃永山さんを泣かせた時と、中学生の時吉田さんを助けたときだけに見せた
あの奥山の悲しそうな顔を思い出して少し胸がくるしくなった。
親父さんには申し訳ないが、あいつもこれでやっと自由になれたのだろうかと
半分はなぜか、ほっとしたような感覚が残った。
314:
少し話を留学に戻そう。
俺が行った国は、多民族国家だ。
肌の色も、髪の毛の色も、目の色も皆違う。まさに人種の坩堝だ。
その国の人たちにとっては「普通の容貌」というものがなかった。
ひとりひとり違う。それが当たり前。多様性を受け入れなければ成立しない世界。
あのゴリラがこだわっていた「ふつう」とは一体なんだったのだろうか?
俺はこの国に来て、ひとつの回答を得た。ただのバカバカしい思い込みだったんだと。
俺は今でもそういう事が本当にバカらしく思える。
髪や肌の色がすべてではない。大事なのは一人一人の人間の中身だと俺は信じる。
ネットで色々見ていると、いろんなことを言う人がいる。
在日朝鮮人の方や、障害がある人や、LGBTの人たちの事を悪く言うやつもいる。
もちろん発言の自由はあるが、そういう書き込みを見ると、
俺には彼らがいかに狭い世界でものを考えているのかがよくわかる。
もちろん、俺の意見が絶対に正しいなんて思わないよ。悪く思わないでな。
ただ、もっと心を開いてほかの世界を見てきてほしい、と切に願うだけだ。
どこにいっても旨いものはあるし、まずいものもある。
いい奴も嫌な奴もどこにでもいる。ただそれだけのことなんだ。
俺の行った国は、差別は激しかったし、暴力や貧困も目に付く所に転がっていた。
そういう事もこの目で確かめての俺なりのあくまで個人的な意見だ。
ちょっと話がずれたな。ごめん。
316:
その国で俺は初めての言語とセットで、お酒とたばこを覚えた。
そういった物への年齢制限がその国にはなかったんだ。教師と校内で飲んだこともある。
もちろんちょっとしたパーティの様な集まりの時に、たしなむ程度だよ。
これは、アヤコには内緒にしていた。たぶんすっごく怒られるから。
俺は自由を満喫し、毎日のよう学校が終わると旧市街に通った。
現地の複雑でいい加減なローカルバスも、言葉と共に自由に使えるようになっていった。
市場で、様々な人種の生活の匂いを嗅ぐことがとても楽しく、飽きることは無かった。
もちろん現地でできた友人たちともめいっぱい遊んだ。
ディスコで踊る事やビリヤードもあいつらに教えてもらったな。そういえば。
俺の属していた留学団体は勉強だけではなく色々な娯楽も提供してくれた。
その国にある大きな島にいったり、高い山の途中まで遠足に行ったり。
内陸部に広がる、ジャングルに連れて行ってくれたり。
三か月が過ぎる頃にはホームシックよりも楽しさの方が勝っていた。
初めての国境も、この国で目撃した。
ただ橋の真ん中に、消えかかった白線と橋の両側にそれぞれの国旗があるだけ。
こんなものを奪い合って、人は殺しあうのか、と俺は正直あきれた事を覚えている。
その街には、もう落ち着いてはいたが昔国境紛争があってその時に埋められた
地雷のせいで手足の無い人がたくさんいたから。それでも皆逞しく懸命に生きていた。
彼らの強さと、底抜けの明るさと、生きるエネルギーに心から敬意を表したい。
318:
楽しい時間はすぐに終わる。少しだけ、アヤコとの文通のペースも落ちた。
いろんな国の人間と、色んなことを話しているうちに
こいつらは俺と何も変わりはしないという感覚だけが強く残った。
多少の民族的、文化的な差があったとしてもだ。
腹が減れば飯を食うし、恋をすれば悶々とする。
どの子が一番かわいいか?なんていう話題だってまったく一緒だ。言語が違うだけ。
俺はケツがいいだの、いや俺はやっぱり乳だ。だの。
年頃の男の子というのはどこに行っても似たようなものなんだ。実際の所。
帰国の日は、あっという間にやってきた。
319:
飛行機が出るときにその国を象徴するような山の山頂が雲の切れ間から見えた。
俺は不覚にも色々な思い出が込み上げてきて、思わず泣いてしまった。
隣に座っていた、アメリカ人で腕にタトゥの入っているでかい白人の男の子が
黙って優しく、俺の背中を撫でてくれた。アヤコと離れてから実に1年ぶりの涙だった。
帰ってきたとき、日本はちょうど夏休みに入っていた。
俺にとっては1年以上の長い長い、夢のような夏休みだった。
色んな物を見て、色んなものに触れて。いろんなことを考えた一年だった。
待っていてくれたアヤコに恥じない、一回り大きくなった自分を認識していた。
彼女は手紙で、事前に無事志望校に合格できたと報告してきてくれていた。
俺が帰国日を伝えるために電話したとき、彼女は泣いて喜んでくれた。
それが、俺はすごくうれしかった。遠く離れていても、彼女はそこにいる。
さよならを言わないで離れて、正解だった。と俺は実感した。
320:
わざわざ俺に見せる為だけに、彼女は高校の制服で空港まで出迎えに来てくれた。
1年ぶりの彼女はすこしだけ背が伸び、さらに大人っぽくきれいになっていた。
俺は彼女の制服姿を褒めちぎり、彼女は俺の成長した姿を褒めてくれた。
空港での、人目をはばからないキスとハグ。もちろん母親にも見られたよ。
おかんは咎めもせず、見なかったことにしてくれているようだった。
今日はまぁ片づけもあるからとその日は家の車で彼女を送って解散した。
その日の夕食はやはり俺の好物の手巻き寿司だ。
このときはもりもりと食った。粘り気のあるゴハンなんて久しぶりだ。生の魚もノリも。
遺伝子が知っているおしょうゆの味。それだけで食は信じられないほど進んだ。
いつの間にか母から伝わったのか、お姉ちゃん二人には死ぬほどイジられた。
「まるでドラマみたいだったんだって?」パパラッチ長女。
「若いっていいなぁ。いいですなぁ。甘酸っぱいなぁ。」おっさん次女。
…やっぱりおかんは全てを克明にかつ、盛大に盛った上で喋ってやがった。
俺はこれからアヤコとの幸せな時間がいつまでも続く…と思っていた。
321:
彼女とのズレは、ひと月もしないうちに現れた。
何度か彼女を抱くうちに、俺は違和感を感じていた。
セ●クスの最中、目を合わせると、視線をそらすことが多くなっていたのだ。
逆カルチャーショックって言えばわかるだろうか?
日本自体に前よりも違和感を感じていた俺は最初あるいはそのせいかと思っていた。
しかし何度抱いてもキスをしても、それとは異質な違和感を俺は感じていた。
ある日、俺は彼女に唐突に訊いた。
「何か、悩みでもあるの?アヤコなんかヘンだよ。」
しばらくじっと俺の目を見つめていた彼女は諦めたのか、突然わっと泣き出した。
「ごめん…ごめん…寂しかったの…あたし…ごめんなさい…」
それを聞いて、俺はすぐに察した。
落ち着かせてから詳しく聞くと、なんてことだ。
信じられない告白が、初めての俺の「彼女」の口から明かされる。
327:
あっ…(この流れは)
326:
待ってる側の1年は長いよなぁ...
329:
おつおつ
パンツ脱いでたけど、読んでたら切なくなってパンツ履いたわ
330:
うわーーー辛い
胸が苦しいですおじさん
332:
彼女の浮気相手は、あろうことか奥山だった。
あの出発前のパーティの際、二人を引き合わせたことを俺は激しく後悔した。
タイミングとしては奥山の親父さんが亡くなった直後あたりからだったそうだ。
二人とも、寂しかったのだろう。大人になった今は男女のそういう割り切れない
感情を少しは理解できるようになったが、当時の俺はその時、完全に壊れた。
自分にとって世界で一番大切な女が、世界で一番信用していた男に奪われた。
333:
悲しいなぁ…
335:
>>333
今思い出しても泣けてくるぜ☆
334:
他の男であれば、まだ許すことが出来たかもしれないのに。
なんでよりによって奥山なんだよ。俺は彼女の神を、心の底から恨んだ。
ちらっと外国で暮らして、すべてをわかったつもりになっていた俺の、ちょっと
調子に乗ったいけすかない精神を崩壊させるには十分すぎるほどの衝撃だった。
もちろん付き合っていたわけではなかったらしい。今でいうセフレみたいなものだ。
彼女は性欲が強く、奔放な性格をしていたから多少の心配は確かにしていた。
年頃の魅力的な女の子を1年も放っておくんだ。可能性だけは視野に入れていたよ。
ちょっと間違いがあっても気にしない事に決めていた。それが俺なりの覚悟だった。
ほんとに、言葉もないというのはそういう時の為の言葉なんだろう。
俺は別れ話もきちんとせずに、彼女を家から追い出した。
奥山に文句を言う気も起きないくらい俺は落ち込んでいた。
受け入れることは絶対にできなかった。悔しくて、情けなくて。人間不信で。
一気にどろどろとした黒い感情が燃え上がり、俺を支配していくのが分かった。
336:
その後、彼女と奥山から何回も電話があったが、
俺は声を聴いても無言で受話器を置いた。心は揺らがなかった。悪い意味で。
言い訳なんか聞きたくもない。話し合って解決する気もない。
もう視界に入らないでくれ。そういう気分だった。
アヤコとはその時以来、会っていない。今どうしているかも、全く分からない。
出来れば幸せになっていてくれと願う事しか今の俺にはできない。
ともかく俺は、最愛の彼女と親友をいっぺんに失った。
俺はその後学校をサボりだした。その辺でたむろする女の子を片っ端から引っかけ
とっかえひっかえ遊びまわる、汚れた最低の人間に転落していった。
337:
外国を見てきたからこそ出るオーラと、壊れた精神を持つ人間からしか出ないオーラが
混ざり合い、それが言葉は悪いが一種の魅力となって俺を包んでいたのだと思う。
ある意味、人生で最強のモテ期が到来した。
出来るなら、もっと良い状態で出くわしたかったが。
まるで復讐をするように、今まで毛嫌いしていたビッチ共を俺は抱いた。
駅前でたむろしていた小汚いパンクス達ともつながりが出来てしまった。
この頃の俺は、自分の矮小な心をできるだけ汚す為に生きていた。
片っ端からやってはいけない事をする行いの悪さが、そういう奴らには皮肉にもウケた。
得物を使ったケンカ、愛の無いセ●クス、未成年飲酒、かっぱらい、無免許運転。
よく捕まらなかったものだと今は思う。あんなにキレッキレだったのに。
しかし銃を持っている奴がそこらじゅうにいるあの国に比べたら、怖いものはなかった。
実際、死んでも別にかまわないと思ってた。むしろ誰か撃ち殺してくれという心境だ。
元不良の二人の姉も、そんな俺の状況を察したのか、何も言わずにいてくれた。
親だって能天気なもので「そういう時期も人生にはあるよね」というスタンスだった。
あまりの急変に、手が出せなかっただけなのかもしれないが。
338:
留学に行ったおかげで、推薦枠でほぼ確実に大学にいけることはわかっていたから
先生も何も言わず、放っておかれた。通信簿には不思議なことに殆ど出席して
いないにもかかわらず、欠席日数ゼロと書かれていた。
俺は、それを見たときこの国の大人は本当にバカだなと、危険な勘違いをしてしまった。
一応、受験のときだけは染めていた髪を戻し、少しだけまともを装ってふるまった。
試験官の大人たちはまんまと騙されてくれ、ある地方都市の大学に俺は合格した。
そういえば、一度だけ、大学に進学する前に奥山と遭遇したことがある。
俺の地域は18になるとみんなこぞって運転免許を取得する。
交通の不便な田舎ならではの光景だ。その自動車学校でのこと。
俺が建物の外へ出ると、あいつはすでに免許を取っていたのだろう。何の用かひとりで
自分で運転する車に乗って駐車場にいた。奥山は見る影もなくガリガリに痩せていた。
俺は無視したが、車の傍らを通り過ぎた時にシンナーの強烈な匂いがした。
今となってはもうどうすることも出来ないが、ひょっとしたらあのときちゃんと
和解していれば…と今でも思い出す事がある。しかし許してやるには俺は若すぎたんだ。
そして、アヤコに言われた通り、頑固すぎた。この部分は今でも治っていない。
鬱展開ですまないが、彼はその後数年たってから、自殺したと聞く。
あいつに何があったんだろう。それはやはりわからないままだ。
339:
話は変わって。
パンクス達はクズだったが、ひとつだけいい影響を俺に及ぼした。
音楽や楽器への興味だ。俺はこの時期、ベースを練習し始めた。
シド・ヴィシャスにあこがれちゃったんだよね。恥ずかしい話だが。
大学では一人暮らしの予定だったから、暇つぶしにもいいと思ったんだ。
たいして上手くはならなかったけど。シドもベース弾けなかったからまぁいいかw
大学編も話せばキリがないんだが、このままでは終わりが見えないので、
スピードアップして話すことにする。後で要望があればスピンオフでも
書こうかとは思う。機会があれば。
とにかく新天地への船出だ。いつまでも引きずってばかりはいられない。
俺は一旦すべての想いをリセットし、大学デヴュウをすることに決めた。
簡単にいうと、調子こいた。今思うと、若いって暴風雨みたいなものだよね。
この頃はもう傷を癒す為と理由をつけて、ただモテたいだけだったようにも思う。
大学で、俺は軽音サークルに入った。新入生を集めてバンドも組んだ。
ハイハイ、ありがちだよね。ちゃんと自覚している。反省はしていない。
340:
そこで同じ学部の友人もできた。彼も同じく留学の経験があった。国は違ったが
彼はいいとこ育ちで真面目なくせに、完全なるロックマニアで、
俺に色々な時代の音楽を教えてくれた。しょっちゅう一緒に遊んでいた。
いまでは伝説の、第一回フジロックだってこいつと行ったんだよ。
初のフェスだというのに、とんでもない目にあったけれど。今となってはいい思い出さ。
並行して、サークルの先輩関係のつてで、クラブ遊びも覚えた。(踊る方ね)
二年生の頃だったか、そこの店長に気に入られてバイトをすることが決まった。
ひとつ年上でバイト長のバーテンダーとも仲良くなった。彼ともよく飲んだな。
それこそ血を吐くまでさ。2回くらい救急車乗ったもん。イッキのせいで。
一応彼らにも名前をつけておこう。
同じ学校の友人はヨウジ。
黒服はトモさん。
341:
この時期友人関係が爆発的に増えるのだが、あくまで中心にいたのはこの二人。
俺の2重生活とも言うべきハードな毎日がこの頃始まる。
二人は気が合わなかったのか、3人で一緒に遊ぶことはあまり無かった。
別々の時間帯に会う、別々の友というところか。まるで二重人格者のように俺はなった。
アヤコと別れた直後ほどではなかったが、俺の遊び癖は完全には治らなかった。
適当にバーに群がる女の子と遊んだり、学校では何人かとぱっとしない恋もした。
でもアヤコに感じたような、体中から吹き上がるような感情はなかった。
まあ、スレちまったんだと思う。恋に恋していたあの時とは違って。
今回は女難の相がテーマだから、この辺は割愛しておく。
俺、荒んだあげくチャラくなっちゃいました。で済んじゃうからねw
印象的だったのは、2人だけかな。
342:
黒服ってどいつだ?
344:
>>342
すまんな。バイト先のバーテンダーの彼だ。
343:
一人は俺のバイトしている箱の系列で、夜の蝶のお店の女性。かなりの高級店だ。
たまに人手が足りずに送りみたいな事もやっていたから知り合ったんだ。
お姉ちゃんのおさがりの車を持っていたしね。今思えばずいぶんと利用されたもんだ。
でも彼女達は可愛がってくれたし、飯なんかもよく奢ってくれたから感謝もしている。
彼女の名はヨーコとでもしよう。めんどくさいから源氏名と本名は同じ表記にする。
彼女はとても痩せてはいたが、ショートカットがよく似合う色気のあるタイプだ。
今まで見たことない種類の空気を纏った5つ歳上の彼女に俺はすぐ夢中になった。
なんていうか、端整な顔立ちなのにいつも寂しそうに笑うんだよ。
俺はそんな彼女からもっと明るい表情を引き出すため送るたびにピエロに徹した。
彼女の着ている服やメイクも、とてつもなく大人っぽくてそれも憧れの一端にあった。
コムデギャルソンとか、ジャンポールゴルティエとかを上品に着こなす天才だった。
スレンダーな彼女にはそういうスタイルがよく似合っていた。
クールビューティって言葉がとってもしっくりくる、女性。もう女の子とは呼ばない。
345:
ある寒い時期の送りの日。最後の乗客はヨーコだった。
彼女を送ったら直帰が許されている。車から降ろす時にふいに、彼女が俺に声をかけた。
「ねぇ、あったかいコーヒーでも飲んでいかない?」ついに来た。
彼女の事を狙っていた俺は、本当は飛び上がらんばかりの喜びようだったが、
表面上はあくまで冷静を装って、こう言った。
「…そんなこと言って、いいんですか?オオカミかもしれないですよ?」
「いいわよ。いらっしゃい。」間髪入れず、彼女はにこりともせず言った。
正直彼女の方が一枚も二枚も上手だと思った。
しかしすでにスレ切っていた俺は、据え膳食わぬは…とのこのこついて行った。
それがあんなことになるなんて、この時は思いもしなかったよね。
350:
連ドラ化決定!
351:
ホラー
いじめ
熱愛
NTR
ヤリチン
夜遊び←今ここ
353:
>>351
GJ だいたいそんなとこw
読んでくれてありがとな。
354:
彼女に浮気されると勢いで女遊びするのはどの年代でも同じなのね
22だけどなんか共感出来る部分が多いわ
359:
>>354
若いなぁいいなぁ。俺もこのころ君より若かったからな。
それに、結局は人間だから世代が変わってもそんなに変わらないと思うぜ
読んでくれてありがとな。
360:
マンションの重いドアが閉まった途端、俺は彼女を後ろから抱きしめた。
コーヒーなんて別に飲みたくなかったし。暗黙の了解もあったし。
スリリングな方が燃えるじゃないか。情事ってやつは。
言っとくけど半分はもう立派なクズだったからな。この頃の俺は。
「あったかいでしょ?」耳元で俺は言った。彼女の胸の方に手をゆっくりと滑らせる。
「ふふ。せっかちね。」背中越しでも彼女が怪しく微笑んだのが分かった。
彼女は俺の手を胸に一旦押し付け、次にその指を口元に運び軽くキスをしてから舐めた。
二人の脳内で何かがばちんと音を立てて弾けるのがわかった。俺は食らいついた。
そのまま玄関で動物の様な一回。シャワーを浴びて、今度はベッドで人間的なもう一回。
肉欲や情念をぶつけるだけではない、大人のゆっくりと愉しむようなセ●クス。
真っ赤な口紅の彼女が俺のものを咥える姿はそれまでの誰よりも、エロティックだった。
痩せていて胸は全然なかったけど、それでも俺は彼女のテクニックに骨抜きにされた。
もう俺の心のなかにアヤコはいなかった。ヨーコに完全にほだされてしまって
361:
そのまま雪崩れ込むように、俺と彼女は半同棲状態となる。
店には内緒の禁断の恋仲。その障害が逆に俺たちを刺激した。
順序は完全に逆になったが、一応は告白して付き合う事となった。
合鍵を交換しても、会うのは殆ど彼女の家。俺の一人暮らしのアパートは狭かったから。
告白は、ひどく簡単なものだったと記憶している。何度めかの彼女の家。
VHSのビデオを見ながら、簡単なつまみとお酒。ソファーで二人並んで。
「なぁ。俺とちゃんと付き合ってみないか?」
「それもいいわね。」
たったそれだけ。そのあと横並びのまま、彼女から優しいキスをされた。
俺を見る彼女はすごく妖艶に見えた。そのくちびるの間から赤い舌がちろりと覗いた。
今思うと俺は、こうなる前に彼女の弱さや脆さにもっと気付くべきだったんだ。
俺が惹かれた寂しそうな笑顔にはちゃんと理由があったんだよ。
362:
それでも数か月は安寧な毎日を送ったと思う。
エロい事ばかりしてた訳じゃない。きちんとした恋人同士の時間もあったんだよ。
たまには買い物に行ったり、俺の車でドライブに出かけることもあった。
バイト代が出たときには、奮発してちょっといいレストランにも連れて行った。
店には内緒だったから派手には動けなかったが、
はた目から見たら普通のカップルに見えたと思う。
そういえば、彼女が作ってくれた手料理を今ふっと思い出した。
炊いた大根にエビしんじょを乗せて和風の餡をたっぷりとかけたやつ。旨かったな。
彼女は店が休みな日曜日の夜にはよく、手の込んだものを作ってくれた。
えんじ色の、地味なエプロンをしている彼女の後姿が俺は大好きだった。
店とは違う家庭的な一面。そのギャップも、とても心地いいものに感じられた。
俺はよく、料理を作っている彼女を後ろから抱いて、邪魔をした。
しかし彼女の影を作ってる理由が、明らかになる日がやってきた。
悪夢を見るのか、寝ているときにたまにガバっと起きるんだよ。彼女。
震えながら玉の汗をかいて。その時のヨーコの目は、ちょっと恐ろしかった。
俺は、そんなときは彼女を抱きしめ、再び眠りにつくまで背中をさすってあげていた。
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