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八幡「やはり折本かおりがクラスメイトなのはまちがっている」


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注意
キャラ崩壊あり
ヒロインは折本
――――
【総武高校前】
八幡(3月。来月に控えた新生活の始まりに備え、皆が慌ただしく動き始める時期)
八幡(かく言う俺も先月の終わりごろに受験した総武高校の合格発表のためこうして足を運んでいるわけだが)
ワイワイ ガヤガヤ
八幡(やはりというか人が多い……。いや、受験した時に判ってたことですけどね)
八幡(悲喜こもごも入り混じる、同年代の少年少女らの姿を横目に、自分の受験番号を探す)
八幡「お、あった」
八幡(小さくガッツポーズ)
八幡(大きな感動はなく、ただただ合格したのだという事実が胸の内にすとんと落ちた)
八幡「……書類貰わねえと」
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2: 以下、
* * *
八幡(受験票と引き換えに入学願書を受け取り、合格者向けの説明会に参加する)
八幡(説明会から解放されて校舎を後にしたら、既に時計の長針は正午を回っていた)
八幡(昼はどうするかな……やっぱサイゼか)
八幡(サイゼは最高。サイゼは至高である。千葉県民として、サイゼ発祥の地に住むものとしてこれは)
折本「――あれ、比企谷?」
八幡「――!?」
八幡(耳に飛び込んできたのは、聞き慣れた声)
八幡「お、折本……」ビクッ
折本「なんで声震えてんの? マジウケる」
八幡「あっはい、そっすね……」
4: 以下、
折本「比企谷も総武受かったんだー」スッ
八幡(いたって普通に隣に立つ折本に、俺は内心穏やかではいられない)
八幡(いやだって俺この人に告白して玉砕してるわけですからね?)
八幡(しかも告白翌日にはクラス全員に知れ渡っているというおまけつきで)
八幡「……も、ってことは、お、折本も受かったのか」
折本「うん、そうそう! 受かると思ってなかったから、マジウケる!」
八幡(いや、ウケないから……ていうか間違っても落ちた奴の前でそんなこと言うなよ……)
折本「ていうか、比企谷も受けてたんだ。クラスメイトなのに知らなかった」
八幡(一応クラスメイトとして認識されていることに驚くが……俺も折本が総武を受けていたとは知らなかったのでお互い様だろう)
八幡(……え、てことはなに。俺の玉砕黒歴史が総武にも広まっちゃうわけ?)
折本「比企谷?」
7: 以下、
八幡「あ、な、なんでもない……」
折本「ふーん」
八幡(自分から振っといてマジで興味なさそうだなこいつ……)
折本「比企谷さ、今暇?」
八幡「ま、まぁ……」
八幡(担任には総武に合格したことを電話で報告したので、今日は登校する必要はない)
折本「じゃあ、ご飯食べ行かない? あたしお腹空いちゃってさぁ」
八幡(え? なんなの? 自分で振った相手と飯食いに行くのが今時のJCのトレンドなの? 死体蹴りかなにか?)
八幡「いや……俺は……用事が……」
八幡(ないけど)
折本「じゃあ決まり?」
八幡(何も言ってないでしょ!? 聞いてた!?)
9: 以下、
折本「え? 比企谷に用事なんかなさそうじゃん。ウケる」
八幡「いやウケねーから……ていうか聞いててなおそれかよ……」
折本「……」
八幡(なんで黙るの? 俺もしかして口答えしちゃいけない感じでした? マジかよ確かにスクールカースト最下層だけど)
八幡「や、あの……」
折本「なーんだ、普通に受け答えできんじゃん。最初からやればいいのに」バシバシッ
八幡「い、いたっ、たたく、たたくなっ」
八幡(やめて! やめてよ! そういう何気ないスキンシップに騙されて心の傷を負う男子中学生は多いんですよ!?)
八幡(かく言う俺もそれで心の傷を……しかも目の前のこの折本かおりに作られてるんですがそれは……)
八幡(つーか自分のトラウマメーカーと食事にいくとかなんなの? マジで罰ゲームなの?)
折本「?♪」
八幡(こいつ……俺を振ったことを覚えているんだろうか……)
10: 以下、
折本「で、どこ行く?」
八幡「決めてないのかよ……」
折本「このあたしが比企谷のチョイスを採点してしんぜよう」フンス
八幡(俺はもう既にあなたに0点叩きだされてると思うんですがそれは……)
折本「で?」
八幡「あ、ああ……サイゼ、とか……」
折本「ふーん、サイゼ……」
八幡(だ、ダメなのか? ていうか俺、他に知らないだけなんですけどね!)
折本「ま、いっか。でも高校生になったらアウトだかんね。ウケる」
八幡「そっすか……」
八幡(今後折本とサイゼに行くことはなさそうだし、もう別にどうでもいいが)
11: 以下、
【サイゼ】
折本「いやー、それにしても比企谷と同じ高校に通うことになるとはねー……」
八幡「……本当ですね」
折本「なにそれ他人事過ぎじゃん。マジウケる」
八幡(こいついつもウケてんな……)
折本「ま、でもさ、おな中同士よろしくってことで」
八幡「……うっす」
折本「だっかっら……、なにそれっ、マジ、ウケる……あははははっ!」
八幡(ひぃ……だれか助けてぇ……)
折本「マジ、比企谷、キョドりすぎっ……! あははははっ!」
八幡(その原因の一端はあなたですからね!!!)
13: 以下、
折本「はぁー……笑った」
八幡(笑われた)
折本「あ、もうドリア来てんじゃん」
八幡(あなたがひとしきり笑ってる間にね!)
折本「はい、おしぼり」スッ
八幡「あ……おう……」
折本「なにそれ、ウケる」
八幡「……す、スプーン」スッ
折本「あ……ありがと、比企谷」
八幡「うっす……」
折本「?♪」
八幡(……俺が告白したことはまるですっかり頭の中から抜け落ちてしまっているかのような、そんな態度)
八幡(誰が心に壁を作っていようとも、一足に飛び越えてしまうような……)
八幡(折本かおりとは、そんな女子だと、俺は今にして思い出した……)
八幡(心が休まらねえ……)
14: 以下、
* * *
折本「はー。そろそろ出よっか」
八幡「おう……」
八幡(あれ? こういう時ってやっぱ男子が奢るもんなの? どうなの?)
八幡(でも俺と折本はただのクラスメイトなわけだしな)
八幡(仮に奢ると言ったとしても『は? 何比企谷彼氏気取りなの? ウケる』とかそういうことになるのでは)
八幡(ど、どうする俺……)
折本「比企谷」
八幡「ひゃ、ひゃいっ」
折本「ぷっ……ひゃいって……ひゃいって、なにそれマジウケるんだけど!」ケラケラ
八幡(こいつ……)
折本「会計は別でいいっしょ?」ピラッ
八幡「え、あ……」
折本「?♪」
八幡(……まあ、折本はごくごく当たり前のことを言っただけだよな、うん)
八幡(だが、どことなく負けた気分になるのは……気のせいだろうか)
15: 以下、
折本「よっし、受験も終わったし遊ぶかぁ……じゃ、比企谷! また学校で!」ビシッ
八幡「お、おう……」
折本「じゃあね」ヒラヒラ
八幡(何の含みもない笑顔で俺に手を振り、折本は駅の方向へと歩き出した)
八幡(……また、とは言うものの、学校で俺と折本が言葉を交わすことはないだろう)
八幡(そもそも一度俺は折本に振られてるわけで。普通に社交辞令だろ。知ってた)
八幡(ていうか社交辞令をくれるだけ有情なのかもしれない。なに? 俺は大きな快楽と一緒に死ぬの?)
八幡(あながち間違いじゃないかもしれん)
八幡「……はぁ」
八幡(なんだか疲れたな。……家で小町が待ってるだろう。帰ろう)
八幡(結局、その後中学の卒業式もつつがなく終わり、春休みも静かに終わった)
八幡(その間、俺と折本が会話を交わすことはなかった――)
18: 以下、
八幡(入学式当日がやってきた)
八幡(いつもよりよほど早く家を出てしまったのも、まあ、新生活に対する期待の表れと言いますか)
八幡(つまりそんな感じで、中学であれだけ痛い目を見たというのにやっぱり期待は捨てられずにいるのだろう)
八幡(難儀なものである)ギコギコ
折本「?♪」
八幡「げ」
八幡(ふと横に視線をやると、向こう岸の歩道を折本が歩いている姿が目に入った)
八幡(なに? なんであいつこんな朝早くから出歩いてるの? 新生活に期待しちゃってるわけ?)
八幡(まあ俺も人のことは言えない。気づかれないように行こう……)ギコギコ
折本「……あれ? 比企谷じゃん!」
八幡(一発でバレた。早くない!?)
19: 以下、
折本「おーい」ヒラヒラ
八幡(笑顔でこちらに手を振る折本の姿に、俺は何度心を揺さぶられればいいのだろうか)
八幡(あのですね折本さん、あなた私のことをお振りになっているわけですから……)
八幡(あんまりそういう無邪気に距離詰めるようなことされるとまた勘違いしちゃうんですよ!)
折本「気づいてないのかな?」
八幡(気づいてるよ! 独り言でけーな!)
折本「まったく……」
八幡(ちょうど俺たち二人は横断歩道に差し掛かった)
八幡(何をかぶつくさ言いながら折本が横断歩道を渡る姿が見え――)
八幡(――え、なに、こっちくんの? なんでよ。だからそういう態度が男子を惑わせ)
ブロロロロロ
折本「……え?」クルッ
八幡「――っ」ダッ
八幡(信号無視の自動車が近づいている。気づいた時、俺は自転車を投げ出し折本の方へ駆け出していた)
20: 以下、
ドンッ キキーッ バタンッ
八幡(初めに、手に衝撃。次いで脚、そして頭)
折本「ひ、比企谷――っ!?」
八幡「……無事か」
折本「う、うんっ! てか、それよりっ、救急車……」アタフタ
八幡「……」
八幡(脚が焼けるように痛いが……脚だけだ。……まあ、折本が無事なようならそれはそれでいい)
八幡(とっさの判断に間違いはなかったであろうことと――)
折本「ひ、比企谷っ、待ってて、すぐ呼ぶから……」グスッ
八幡(いつもケラケラ笑っている折本が不意に見せた涙目の姿に、奇妙な満足感を得て)
八幡(――俺は意識を手放した)
22: 以下、
* * *
【病院】
八幡(結果は骨折。全治3週間)
八幡(高校デビューを生贄に捧げ、俺は折本の高校生活スタートダッシュをアドバンス召喚したわけだ)
八幡(まあ、そう考えると意外と悪くないかもしれない。……いや悪いか。だが一番悪いのは信号無視した運転手である)
八幡(入院代やらなんやらかんやら貰えるものは貰ったので良いとするか……)
八幡(しかし病院のベッドってのはいい。インドア派の俺としては天国にも等しい)
八幡(小町に頼んで買ってきてもらったラノベの新刊を手に取り、読み始める)
折本「おっーす!」
八幡(……のはどうやら無理らしい。俺はため息を吐き、急な闖入者に視線をやった)
八幡「なんだよ折本……」
折本「なんだよって何? ウケる!」
八幡「いや、ウケねーから……」
23: 以下、
八幡(俺が入院して以来、折本はこうやって毎日のように見舞いにやってくる)
八幡(意外とマメな奴だ。……罪悪感を覚えさせているのかもしれない。というか多分そうだろう)
八幡「……はぁ」
折本「人の顔見てため息つくとかマジウケないよ比企谷」
八幡「それは……すいません」
八幡(素直にごめんなさいしないとだめだよね)
折本「ま、いいや。はいこれ」ヒョイッ
八幡(自分の鞄を漁る折本が取りだしたのは、何枚かのプリント)
八幡(俺が出れない授業のノートを、こうしてコピーしてくれているのだ。これは素直にありがたい)
折本「高校の授業って難しいわ……はぁー」
八幡(言いながら、折本はベッド脇の椅子に腰掛ける)
24: 以下、
折本「molって何? ミリリットル?」
八幡「知らんがな……」
八幡(折本から受け取ったノートのコピーを流し見る)
八幡(あくまでも板書に忠実に書き写しただけのノートである。でも脇に教師の似顔絵が載ってるのはどうなんですかね)
八幡(決して上手ではないが下手とも言えない絶妙な出来具合の似顔絵の方に意識を持っていかれてしまいそうだ)
折本「でさー……って、比企谷聞いてる?」
八幡「お、おう……」
折本「聞いてなかったでしょ。ウケる!」
八幡「……そうですね」
八幡(ほんとこの子毎日いつでもウケてるな……)
25: 以下、
八幡「……なあ、折本」
折本「ん? なぁに?」
八幡(首かしげてきょとんとした顔でこっち見るのやめて! 勘違いしちゃうでしょ!?)
八幡(だが……それはよろしくないのだ。俺にとっても、いわんや折本にとっても)
八幡(こうして放課後折本が俺の病室を訪れることを……当たり前と思ってはいけないのだ)
八幡「……もう、見舞いに来てもらわなくても、いい」
折本「は?」
八幡「……だから、もう来なくていい」
折本「なにそれ、ウケないけど」
八幡「ウケたいわけじゃないからな……」
27: 以下、
折本「じゃあ、なんなの?」
八幡「俺は別に……折本に恩を売りたいとか……」
八幡「気を引きたい、とか……そんなつもりで、やったわけじゃない……」
八幡「だから……折本に毎日、来てもらう義理もない」
八幡「……むしろ、有難迷惑まである」
折本「…………」
八幡(思ったより素直に言葉が出たのはありがたい話だった)
八幡(俺はしたいことをした……それだけだ。そこに、折本からの何がしかの感情が混じることはよろしくない)
八幡(俺の行為は、俺一人に降りかかる結果によって完結するのだ……)
折本「……比企谷、それはマジでウケない」
八幡「だから、俺は別にウケたいわk……」
折本「……」ナミダメ
八幡「け、じゃ……」
28: 以下、
八幡(そんなん卑怯ですやん)
折本「……ごめん」
八幡(それは……いったい何に対しての謝罪なのだろう)
八幡(ぽつりと呟いた折本はそれきり口を噤んだ)
八幡(したがって、俺もまたこれ以上二の句を継ぐことが出来なくなってしまった)
折本「……」
八幡「……」
折本「……」
八幡「……」
八幡(……結局、面会時間いっぱいまで、折本はそこにいた)
八幡(……明日以降、彼女が見舞いに来ないことを願おう)
八幡(高校生活の最初の最初。向こう3年の学校内での立場が決まりかける時期に、彼女が俺に対して少しでも時間を割くべきではないのだ)
29: 以下、
【翌日】
折本「おっす、比企谷!」ビシィ
八幡「」
折本「なにその顔、ウケる!」ケラケラ
八幡(いや、ウケねーから……。人の話聞いてないの、この子?)
折本「イケるイケる!」
八幡「いや、何が……?」
折本「あ、そういえば比企谷ってあたしとクラス同じだよ。ウケるね」
八幡(え、なにそれ初耳なんですけど。全然ウケる要素ないんですけお)
八幡(過去の所業がつまびらかにされてしまうまである)
折本「はい、これ。今日のノート」ヒョイッ
八幡「あ、うっす……」ニギッ
八幡(……受け取ってしまった……昨日あんなこと言っといてこれかよ)
折本「ん、よかった」ボソッ
八幡(折本の微かな呟きは、聞かなかったことにした――)
30: 以下、

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