八幡「春擬き」back

八幡「春擬き」


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俺ガイルのSSです。
短編です。
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2: 以下、
──捜しに行くんだ そこへ
「雪ノ下」
階段を駆け上がり、立て付けの悪くなった屋上への扉を開く。
すると俺がいる階段の踊り場にまで風が吹きぬけ、雪が入り込んできた。
屋上には雪が薄っすらと積もっており、辺り一面は白く染まっている。
そして、その奥のフェンスには一人の少女が寄りかかってこちらを見ていた。
「比企谷くん……」
その表情は驚愕に満ちていた。
そして、次第に疑惑の色に染まる。
何故、ここに来たのかと。
暗に、俺に問うように。
3: 以下、
──空欄を埋め 完成した定理
──正しい筈なのに
──ひらりひら からまわる
俺はこの日この時のために、やれることをやってきたはずだ。
考えて、悩んで、そして結論を出してきた。
その自信を胸に、一歩足を踏み出す。
シャリ、と雪を踏み潰した音がした。
「雪ノ下」
もう一度、その名を呼ぶ。
その存在を、確かめるように。
俺の視界には、少し前にいる少女一人のみが映っていた。
4: 以下、
──未来は歪で
──僅かな亀裂から いくらでも縒れて
──理想から逸れていくんだ
「やめて……」
雪ノ下は俺から目を逸らすと、体ごと真後ろに向いた。
今の俺にはあいつの表情に何が浮かんでいるのか、全く分からない。
「あなたの横にいるべきなのは、私ではないはずよ」
そう言った雪ノ下の声は震えている。
声だけじゃない、肩も僅かに震えているように見える。
今ここに降っている雪のように、少しでも触れてしまえば溶けてしまうような印象を覚えた。
だが俺は、構わずにまた一歩進む。
また、シャリと雪を踏み潰す音が聞こえた。
5: 以下、
──ぬるま湯が
──すっと冷めていく音がしてた
「あなたといれた時間は、とても暖かかった」
雪ノ下の声も、この空気も、俺の肩に微かに積もる雪も。
何もかもが冷たい。
雪乃「ありがとう、楽しかったわ」
それらを全て無視して、俺はまた一歩を踏み出す。
雪ノ下に届くまで、十歩も要らないだろう。
「だから、今度は彼女を──」
そして、零距離。
俺の手が、雪ノ下の肩へ伸ばされる。
6: 以下、
──道を変えるのなら
──今なんだ
俺は雪ノ下を肩に手をやると、無理矢理こちら側を振り向かせた。
こちらを向いた雪ノ下の目頭は、酷く赤くなっている。
「やめて、見ないで」
雪ノ下の手が、引き剥がすように俺の胸を押した。
その手に込められた力はか弱く、今にも崩れてしまいそうだ。
「離して、比企谷くん」
俺は雪ノ下の肩を強く掴むとそのまま大きく息を吸い込んだ。
冷たい空気に反して、俺の顔は、頭は、手は、心臓は燃え上がるように熱くなっていた。
今なんだ。
今、言うって決めたんだ。
「俺は」
7: 以下、
──こんなレプリカは いらない
──本物と呼べるものだけでいい
──捜しに行くんだ そこへ
「俺は、お前が好きなんだ」
「──え?」
目頭が熱い、視界が霞んで見える。
自分の吐いた息が、白い息となって空に霧散した。
そんな俺の顔を、雪ノ下は驚いたような顔で見ていた。
「俺は、雪ノ下」
全く、なんて無様なのだろう。
先ほどまであったはずの自信が、雪のように溶けて消えてしまったかのようだ。
俺の目は潤み、声はかすれ、手も肩も奮え、そして足元も覚束無くなってきた。
それでも。
それでも、俺は必死に声を振り絞った。
「お前が、好きなんだよ」
8: 以下、
──『でもそれは 良く出来たフェアリーテイルみたい。』
「嘘……」
ぽつんと、雪ノ下がそう漏らした。
「嘘じゃねぇよ」
それに対して、俺は即座に否定した。
雪ノ下の肩を掴む俺の腕に、少し力が込められる。
「嘘なんかじゃ、ねぇよ……」
おそらく今の俺の顔は、さぞみっともないものになっているのだろう。
だが、それでも顔を上げて雪ノ下の目を見つめる。
見れば、雪ノ下も涙を流しながら俺の目を見ていた。
「まるで、良く出来た童話みたいね」
雪ノ下の腕が、俺の肩に回された。
そして、そのまま強く抱きしめられる。
9: 以下、
──答えの消えた 空欄を見つめる
──埋めたはずなのに
──どうしても 解らない
「でも、どうして」
雪ノ下がそう呟いた声が、俺の耳に届いた。
まるで、答えが解らなかった子どものように。
「あなたは、彼女と一緒になるものとばかり思ってた」
それが誰のことを指しているのか。
それが解らないほど、俺も鈍くはない。
「俺はお前のことだけが好きだ」
正直に、今の俺の本物の気持ちを伝える。
この愛おしい彼女の不安を払拭するように。
「信じてくれ」
10: 以下、
──綺麗な花は大事に育てても
──遠慮ない土足で
──簡単に踏み躙られた
俺は、数多の嫌悪に晒されてきた。
雪ノ下は、数多の悪意に晒されてきた。
そんな中、俺と雪ノ下には妙な共通点があった。
それは、自らに嘘をつかない。
その姿勢を取り続けていたことだ。
俺と彼女はどこか似ている。
そんなことを会ったばかりの頃に感じたということを思い出した。
11: 以下、
──降り積もる白に
──小さな芽 覆われてく
でも、今となっては本当にそうだったとは言えないだろう。
きっと、俺も、雪ノ下も。
どこかで嘘をついて。
どこかで偽って。
どこかで誤魔化してしまっていたのだろう。
そして、いつか本物の自分が。
何かに覆われてしまって。
誰にも、見つけられなくなってしまったのだろう。
12: 以下、
──遠い遠い春は
──雪の下
かつて誰かが言っていたような気がする。
見つけてくれることを、期待しているのだと。
俺は、見つけられただろうか。
彼女の、本物の気持ちを。
この屋上の地面のように、雪の下に隠れたなにかを。
13: 以下、
──見えないものはどうしても
──記憶から薄れてしまうんだ
──探しに行く場所さえも 見失う僕たちは
──気付かず目を踏む
本物なんてものは、目に見えるものではない。
まして自分で言ったのにも関わらず、自分で意味も意義も掴めていない。
概念のない、信念だけの言葉。
そして、彼女とただ一つ共有した信念。
かつて一度、それを探しに行く場所を違えて失くしてしまった信念。
そして、必死で足掻いて取り戻した信念。
14: 以下、
──思い出を頼りに創ってた花はすぐ枯れた
──足元には気づかずに
昔、俺と彼女が求めていた何かは、きっとただの幻想だったのだろう。
何も言わなくても通じて、何もしなくても理解できて、何があっても壊れない。
そんな現実とかけ離れた、愚かしくも綺麗な、まるで造花のような幻想。
でも、それは綺麗なだけで、どこまでいっても幻想なのだ。
実際はきっと、何かを言わないと通じなくて、何かをしないと理解できなくて、何があっても壊れないものなどないのだろう。
でも、本物はきっと近くにあるんだ。
俺の腕のなかにいる彼女の温もりを感じながら、そんなことを考えた。
15: 以下、
──本物と呼べる場所を
──探しに行くのは きっと
「ねぇ、比企谷くん」
どれだけの時間、そうしていただろう。
俺の腕の中にいた雪ノ下が、顔を上げて俺の目を見た。
「私も、返事をしないといけないと思うから……」
そう言って、その温もりが俺の身体から離れた。
再び、雪の冷たさが体を襲う。
けれど俺の心には、未だに暖かい何かが残っていた。
「比企谷くん、聞いてくれるかしら」
「ああ、もちろんだ」
16: 以下、
──今なんだ
「私も、あなたが好きよ」
17: 以下、

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