幼馴染「ボクだって女の子らしい格好したら可愛いんだからな」【第四話〜六話】back

幼馴染「ボクだって女の子らしい格好したら可愛いんだからな」【第四話〜六話】


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生唾飲んだわ
231: 以下、
おバカだなぁ…
かわいいなぁ…
237: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 21:26:50.86 ID:i9AKzMDto
第四話<お泊り>つづき
風呂あがり、ナツキは頭をタオルでわしゃわしゃと拭きながらバラエティ番組を見ていた。
何か飲むかと呼びかけても反応はなく、ずっと画面に向かったまま黙りこくっている。
男(いくらなんでもあれはショックだったか)
ナツキのあられもない姿を見てしまった。
いつもの際どい姿ではなく、何も隠すもののない丸出しのヌードだ。
思い出そうとすると殴られた後頭部が痛む。
男(胸綺麗だったなー…)
男(って…俺最悪だな…)
男「おーいナツキ…長風呂したんだから水分とれよ」
男「聞いてんのかー」
幼馴染「……むぅ」
男「俺が悪かったから。そんなに怒るなよ」
幼馴染「……むー」
男「一緒に入った時点でああなる可能性はあっただろ…」
男「お前もそれをわかった上で、俺を誘ったんじゃないのか」
幼馴染「つーん」
男「つーんじゃなくて…」
238: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 21:29:01.25 ID:i9AKzMDto
幼馴染「元はといえばアッキーがあんな怖いゲームさせるからだもん」
男「ぐ…」
俺に非があったのは間違いない。
真っ暗な部屋で、仮にも女の子にやらせるゲームではなかった。
ナツキのメンタルが思ったより軟弱だったのも誤算だった。
男(マウンドでは強気なくせに…)
男(意外とギャップのあるやつなんだな)
長年幼馴染をしていても、いつもすることが同じではお互いの本当の内面は見えてこない。
今日は普段やらないようなことにたくさん挑戦した。
だから、ナツキのいろんな一面を見た気がする。
男(…のはいいんだけど、機嫌が戻らないのは厄介だな)
後ろ姿はあからさまに不機嫌なオーラを放っている。
急に泊まることになったナツキは替えの服を持っておらず、風呂あがりは俺が貸したぶかぶかのシャツを羽織っている。
姉の寝間着を借りてもよかったが、勝手に部屋に侵入してタンスをひっかきまわす勇気はなかった。
男(こうしてみてるとノーパンみたいでちょっとエロいな)
男(あー違うっ、俺がこんな目でナツキをみてるからきっとあいつは怒ってんだ)
男(いつも通りをこころがければいいんだ)
239: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 21:31:14.38 ID:i9AKzMDto
男「ナツキー…ゲームしようぜ」
幼馴染「……やだ」
男「怖いやつじゃないから…」
幼馴染「やだ」
ナツキはこちらに振り返ろうともせず、テレビのザッピングを始める。
男(こうなったら切り札だ)
男「あー、そういえば冷凍庫に1つだけアレがあったなぁ」
幼馴染「…!」ピク
男(この反応…おそらく知ってるなこいつ)
男「あれぇ、なかったっけなぁ。もう食っちゃったんだっけなぁ」
幼馴染「…」ソワソワ
俺のわざとらしい独り言にナツキは露骨に反応して、こちらの様子をチラチラと伺いはじめた。
男(わかりやすいやつ)
そう、いま我が家の冷蔵庫には一つだけ、買い置きしていた高級カップアイスがある。
俺と姉の好物で、ナツキも大好きな抹茶味だ。
いつもナツキの食べているシロクマバーなんて目じゃないくらい高い。
ナツキはここ数日散々うちの冷蔵庫を荒らしまわったのだから、必ず見つけているはず。
見つけてもほしいほしいと言い出さなかったのは、これが俺にとって大切なデザートだとわかっていたからだろう。
 
240: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 21:34:48.32 ID:i9AKzMDto
 
男「おーあったあった。まだ食ってなかったかー」
ナツキの様子伺う。。
一瞬目が合うと、慌ててテレビのほうに向き直した。
男(そりゃほしいよなー)
男「お前の麦茶ここにおいてるからな!」
幼馴染「……ぅ〜〜」
男「あぁかき氷したかったらしてもいいぞ。氷つくってあるから」
幼馴染「…う〜〜」
男「さて、風呂あがりのお楽しみといったらこれだよな〜♪」
幼馴染「うううう!」
カップアイスのいかにも高級そうなプラスチックの蓋をあけて、さらにその下でしっかりと封をしてあるビニール製の蓋を剥がす。
裏側にはアイスが薄く付着していた。
男(あいつだったら全部舐めそうだな)
男「カチカチだなぁ。もうちょっと溶けるまでまつかなー。うまそー」
本当にうまそうだ。一度に2個食べても飽きないうまさだ。
当初の予定ではナツキを釣りだす餌にするはずが、すこしだけ勿体無く思えてくる。
幼馴染「あっ、あっ…」
男「何」
幼馴染「ボクの……ぶんは…」
男「え、これ一個だけど? お前が泊まりにくるなんてしらねーし」
幼馴染「…夕方買い物いったのに」
男「これ買ったの結構前でな。さっきたまたま残ってるの思い出したんだよ」
241: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 21:37:03.24 ID:i9AKzMDto
幼馴染「…」
男「何。ほしいの」
幼馴染「…」コク
男「夕方あんなにかき氷くったのにまだ甘いもん食うの」
幼馴染「…」コク
男「じゃあ機嫌なおしてくれるか?」
幼馴染「うんうん! もう忘れた!」
男「ならしかたないなー。ほら」
ナツキの側に寄ってカップアイスとスプーンを手渡す。
ナツキはご褒美をもらう子供のような晴れやかな笑顔でうけとった。
幼馴染「おー、カチカチ」ツンツン
幼馴染「全部くれるの?」
男「いいよ。俺はまた今度買うから」
幼馴染「ありがと〜♥」
これ一つで機嫌が元通りになるなら安いものだと思うが、この程度で懐柔されるうら若き乙女の存在に少し不安になった。
男(仮にもお前、裸みられて怒ってたんだぞ…)
男(知らない人にお菓子もらってもついていくなよ?)
242: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 21:39:40.66 ID:i9AKzMDto
何事も物で解決しようとするのはよくないことはわかっている。
きっと口の回る男なら言葉だけで女を上機嫌にできるのだろう。
口下手な俺にはそれが出来ない。
男(まぁいっか…)
幼馴染として、ナツキが笑顔でさえいてくれたらそれ以外はどうでもよかった。
俺がぶっきらぼうでガサツな事なんてナツキはとっくにわかっているだろうし、
いまさら女性を相手にするような気取った態度を取る必要もないのだろう。
いままでもこれからも俺たちの付き合い方がかわることはない。
ナツキと一緒にいると出費はかさむし、時には気疲れすることもある。
だけどそれ以上に楽しい。
だから楽しみにしていた抹茶アイスが食べられなくなっても、俺は今満足している。
男(それにしても甘やかしすぎかなぁ)
幼馴染「〜♪ もうちょっとかなー」
ナツキはカップを手のひらでこねくり回しながら食べごろまで溶けるのを待っている。
頭を乾かしている途中であることなどすっかり忘れてしまったようだ。
 
243: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 21:42:03.02 ID:i9AKzMDto
男(どうせ甘やかすならもうこの際だ)
俺はナツキの背後にあぐらをかいて座り、首にかけてあるタオルをひったくった。
幼馴染「?」
男「頭拭いてやるから、食ってていいぞ」
幼馴染「え? ほんと? サービスいいね」
男「ゲストサービスだ」
幼馴染「くふふ。王様みたい」
男「いいから前向いてろ」
幼馴染「はぁい。よろしくー」
ナツキは俺の胸元に背をあずけるようにもたれかかってくる。
目の前の丸い頭からシャンプーの匂いが漂って鼻孔をくすぐる。
またも思いがけないナツキの行動に俺の心臓はついつい高鳴ってしまう。
男「おい…」
男「まっすぐ座ってろよ…」
幼馴染「…ん? だってこのほうが楽だもん。アッキーも拭きやすいでしょ」
ナツキは足を伸ばしてすっかりだらけきっている。
男「こら……しかたないな」
幼馴染「はむ……んー、冷たくて甘くておいしい」
男(これじゃ子供か妹を相手にしているようなもんだな)
余談だがナツキは夏うまれで俺は同年秋うまれ。
納得いかないがナツキのほうがわずかにお姉さんだ。
 
244: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 21:46:22.47 ID:i9AKzMDto
わしゃわしゃ
男「髪の毛ちょっと伸びてきたんじゃないか」
幼馴染「うーんそうだねー。暑いしもうそろそろ切ろっかなー」
幼馴染「あーでもまだダメ」
男「なんで。いつももっとさっぱりしてるだろ」
幼馴染「いいの。いまはボクこの長さが気に入ってるもん」
幼馴染「スポーツやってるわけでもないし、ちょっとくらいおしゃれしたっていいじゃん」
男「そうだけど」
幼馴染「短いほうが好き?」
男「好きっていうか……乾くのおもったより遅くてめんどくさくなってきた…」
わしゃわしゃ
幼馴染「あはは。最後までちゃんと拭いてね〜、はむっ」
男「贅沢しやがって…」
アイスも髪の毛の件も俺自らすすんでやっておきながら、だんだんと恨めしい気持ちが沸いてくる。
他人の頭を拭くのは意外と重労働で、じんわりと全身に汗をかいてきた。
ナツキがもたれかかっているのも地味に暑い。
王様気分のナツキの手元のアイスを覗きこめば気づけばもう半分以上を平らげていた。
それとは別に、ぶかぶかでゆるい胸元から覗く二つの白い膨らみが目にとまった。
あきらかになにも付けていない。
男(なんでブラしてないんだ?)
男(あ……、洗濯機に入れてたっけ)
男(さすがに姉ちゃんから借りるわけにはいかないしなぁ…サイズ違うだろうし…)
男(あ゙ーー見てない見てない!)
245: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 21:49:54.96 ID:i9AKzMDto
俺は意識を必死に目の前の頭頂部に向ける。
それでも年頃のオスとしてのスケベ心はおさえきれず、視線はチラチラとナツキの胸元へと向かってしまう。
自然と風呂場での出来事が脳内をかけめぐる。
あのときのナツキの恥ずかしそうな顔は年に何度も見られるものじゃない。
うちにたくさんあるアルバムをどれだけめくっても、写真には残っていないだろう。
幼馴染の俺にとってもかなりのレア顔というやつだ。
幼馴染「手とまってるよー?」
男「あ、あぁ…ちょっとテレビ見てたんだよ!」
幼馴染「家来のくせにさぼるでない」
男「お前…してもらってる立場で文句いうな! このっ」
わしゃわしゃわしゃ!
幼馴染「えへへ。そんなにするのやーめーてーよー」
胸元を隠す様子はない。
ナツキはあまりにも無警戒無防備すぎて、わざとやっているんじゃないかと勘ぐってしまうほどだった。
男「よし、もうこんなもんでいいだろ」
ナツキの髪の毛を何度か手でさわって撫でる。
湿り気はあまり感じない。
幼馴染「おわった?」
男「んー、まぁいいんじゃないか」
男(こんな時間かかるならドライヤー使えばよかった…)
幼馴染「はい。おつかれさま」
幼馴染「そなたに褒美をとらせよう」
そういってナツキはスプーンをこちらに向かって突き出す。
先には溶け始めたアイスがたっぷりと乗っかっている。
 
246: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 21:51:59.59 ID:i9AKzMDto
 
男「え…なに、くれるの」
幼馴染「うん!」
男「……」
幼馴染「褒美じゃぞ〜」
男(いやぁこれ…アレだよな)
ナツキはぐいぐいとスプーンを俺の口元へと持ってくる。
幼い頃から回し飲みや間接キスの類なんて二人の間で当たり前のようにしてきた。
意識なんてしてないはずなのに今日は妙に気恥ずかしい。
ナツキのぷるんとした唇につい視線が向かってしまう。
幼馴染「…?」
この唇でくわえて、やわらかそうな舌で何度も舐めたあとのスプーンを口に運ぶことがためらわれる。
おまけにこれは俗にいう『あーんしてあげる』という行為だ。
普通はカップル同士か、相当気を許した相手にしかできない。
男(お前さ、ほんとに俺のことどう思ってるんだ)
幼馴染「ほらほら〜。はやくしないとボクが最後まで全部たべちゃうよ〜。んあー」
男「わ、わかったよ」
意を決してスプーンにかぶりつく。
冷たくてとろける食感。
強烈な甘さの中にあるわずかな抹茶の渋み。
247: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 21:54:01.92 ID:i9AKzMDto
男「甘……」
幼馴染「でしょ? ごちそうさま〜♪」
幼馴染「お母さん安いのばっかり買うからこれ滅多に食べられないんだよねー」
幼馴染「またボクが来る時に買っておいてね!」
男「……あぁ。って毎日来てんだろ!」
ナツキの本当の心のうちはわからない。
だけど俺達の間柄は決して悪くなく、むしろ良好だと思う。
何度喧嘩したって、不機嫌になったって時間が解決してくれて、またこうしてじゃれあうことができる。
冷たいアイスが喉を通って胃にすべりおちても、体温はちっとも下がらずにむしろ上昇していった。
男(暑い…エアコン買わなきゃな…)
 ・ ・ ・
幼馴染「ふあーー」
男「そろそろ寝る準備するか」
幼馴染「ボクどこで寝るのー。まだ別に眠くないけど…」
男「んーっと」
幼馴染「ボクの布団かわかないねー…どうしよ」
男「なら…俺の布団?」
幼馴染「わー大胆!」
男「一緒なわけねぇだろ! 貸してやるって言ってんの!」
248: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 21:55:43.48 ID:i9AKzMDto
幼馴染「えっへへ。じゃあアッキーはどこで寝るの?」
男「俺は親父の部屋で」
ガシ
男「…」
幼馴染「ここに居てクダサイ」
男「…怖いのか」
幼馴染「…!」コクコク
男「じゃあ俺は座布団敷いて寝るよ。夏場でよかった」
幼馴染「ごめんね。今日だけ布団借りるね」
男「あぁ。その代わりおねしょとかすんなよ」
幼馴染「す、するわけないじゃん! 何歳だとおもってんの」
男「とりあえず準備する…」
 ・ ・ ・
シャコシャコシャコシャコ
寝る前、ナツキは歯を磨いていた。
男「なんだその歯ブラシはどうした」
幼馴染「? ぼふの」
男「あ?」
幼馴染「洗面所の棚から新品の見つけたから開けました」シャコシャコシャコシャコ
男「当たり前のように生活に侵食してくるお前が怖いっ!!」
幼馴染「そう? ボクのほうが怖いよ(?)」
249: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 21:59:49.62 ID:i9AKzMDto
ナツキには昔から遠慮という感覚があまりない。
冷蔵庫は勝手に開けるし、何か備品を使うにしても断りを入れることもない。
もちろんそれを咎める人間はうちには誰一人いないし、俺自身もさほど気にしない。
うちにとってほとんど家族の一員ような存在だ。
幼馴染「使った後どうすればいい?」
男「そうか、じゃあこの空いてるコップにでも立てかけとけな」
幼馴染「うん、ほうする」シャコシャコシャコ
昔は泊まりの時はナツキは必ずおばさんにお泊りセットなるポーチを持たされていたことを思い出す。
旅行用のコップ付きの歯ブラシやタオル、ミニサイズのボディーソープなど必要最低限のものが詰まってる。
今日は突然の決定だったのでもちろん持って来ていない。
幼馴染「歯磨き出きてよかったー」シャコシャコ
幼馴染「今日甘いものいっぱいたべたからさー」シャコシャコ
男(……いやおかしいぞ? 俺は一度ガツンと言うべきなのか?)
あまりに慣れすぎて感覚が麻痺している。
一般的な友人関係なら、おそらく怒るのが正しい…と思う。
なにせ人の家の新品の歯ブラシを勝手に開封して自分専用にしているのだ。
ユウジがうちで同じことをしたら多分怒る。
幼馴染「くちゅくちゅくちゅ…ぷぇ」
250: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 22:02:39.38 ID:i9AKzMDto
男「……」
幼馴染「あのさぁ。ボクの歯磨きなんて見て楽しい?」
男「…あっ、俺そんな見てたか」
幼馴染「心配しなくてもちゃんと綺麗に磨いてるよ」イー
幼馴染「ね?」
男(そんな心配はしてない)
男「歯綺麗だな」
幼馴染「歯医者さんにも言われたー」
ナツキはめちゃくちゃ歯並びがいい。
おまけにつやつやで白い。甘いモノが好きなくせに虫歯の経験はない。
昔はかみ合わせが少し悪かったそうだが、小学生の頃に1年ほどかけて矯正してからしっかり踏ん張れるようになって球の威力がぐっとあがった。
幼馴染「ねぇところでさ、そこにある歯ブラシのような歯ブラシじゃないような、先っぽが平べったい歯ブラシは何?」
男「?」
またわけのわからないこと…を思った矢先、ナツキは洗面台に立てかけられたある物にむかって指をさす。
男「あぁそれは俺がこないだネットで評判見て買った舌ブラシだ」
幼馴染「した? ベロ?」
男「ベロ。変な形だけど、これがうまく舌の形にフィットして、舌苔を取るんだぜ」
251: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 22:05:35.89 ID:i9AKzMDto
普通の歯ブラシで舌をこするのは、刺激がつよすぎて舌の細胞が死んでまうそうだ。
なので舌にやさしいが効果絶大の舌ブラシが近年話題となり、俺と姉は評判にのせられて購入してみた。
男「これが結構気分爽快で、例えば牛乳とか飲んだあとでも舌がきれいなピンク色に〜」
幼馴染「なんだ使い方あってた」
男「……」
男「は? お前何言って……おいナツキお前まさかッ」
幼馴染「………はぅっ!? う、うそだよ!? つかってないよ?!?」
男「こら。こっち見ろ」
幼馴染「……ぅ」
男「俺今日つかってないのになんでブラシの部分湿ってんだ」ピトッ
幼馴染「ああああっ、ちっ、違うの! どんなもんかなーって気になって…」
幼馴染「濡らしてみただけだから!」
男「使ったんだな…」
幼馴染「……」コク
なかなか嘘はつけないタイプだ。
勝手に使うにしてもこうして時々度が過ぎたことをする。
男(普通使うか? 曲がりなりにも口につっこむ物だぞ)
本当に脳みそがアイスのように溶け出しているのではと心配でたまらない。
年頃の女の子として、異性の私物を使う抵抗はなかったのだろうか。
それ以上に未知への興味が勝ってしまったのだろうか。
252: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 22:09:11.75 ID:i9AKzMDto
男(はぁ…高いもんでもないし買い替えるか…)
男(このまま使ったら俺が変態だよな…)
幼馴染「怒ってる…?」
男「興味本位で人の物に手を出さないこと」
幼馴染「ごめん……使う前と後にちゃんと洗ったから…」
幼馴染「アッキーの物っぽかったし、いいかなって思っちゃったんだよ…」
男「…はぁ。使ってしまったものは仕方ない」
幼馴染「でもボクのベロ綺麗になったでしょ! んえーっ」
男「…ッ見せなくていいから! つーかそんなしっかり磨いてんじゃねぇよ」
幼馴染「れろれろ♪」
男「バカにしてんのか! そうなんだな!?」
ナツキは健康的なピンクの舌をつきだして見せつけてきた。
歯をみがいて口をゆすぐだけでは不可能なほどに綺麗になっている。
抹茶アイスを食べたあとだとは到底思えない。
幼馴染「気に入ったからおんなじの買おっと♪ あー口の中スッキリ」
男「お前が来るたびに謎の出費にさいなまれている気がする」
幼馴染「弁償しようか…? ごめんねボクのささやかな貯金からで良ければ」
男「いらねーよ…」
253: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 22:11:10.40 ID:i9AKzMDto
 ・ ・ ・
男「電気消すぞ」
幼馴染「あ、待って…豆球にして」
男「……おやすみ」
幼馴染「ねーアッキー…」
男「……寝るから」
幼馴染「何か話しようよ」
幼馴染「泊まるの久しぶりじゃん。夜更かしできるじゃん」
男「…俺今日疲れた」
体力的にも精神的にも過酷な一日だった。
今日だけでどれだけナツキに振り回された事か。
頭の中で今日起きた出来事が巡る。
ナツキがスカートを履いて、
ナツキが水着になって、
ナツキが裸でシャワーあびていて、
ナツキと風呂に入って、
ナツキの全裸を見ちゃって、
ナツキがもたれかかってきて……。
男(あぁ…なんでだ。エロいことしか浮かんでこない…寝よ寝よ)
幼馴染「しりとり、しよ。アッキーから」
男「しない」
幼馴染「い……イップス!」
男「しないから…寝てくれ」
幼馴染「むーーつまんな……ねーもう寝た? ねーー…」
幼馴染「……ゔっ」ブルッ
254: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 22:13:49.05 ID:i9AKzMDto
ナツキのボソボと呼びかける声を聞きながら意識が薄らいでいく。
庭から聞こえる虫の大合唱もだんだんと遠のいて聞こえなくなった。
まぶたが重い。
男(おやすみ…)
ようやく寝付ける。
幼馴染「ねぇ…ねぇってば…アッキー…」ユサユサ
男(と思ったらこいつは…!)
幼馴染「ねぇってば…ちょっとだけ起きて…困ったことがおきて」
男「遊ばないって言ってんだろ」
思わずナツキの脳天に手刀を振り下ろしてしまった。
幼馴染「ぎゃっ、痛いっ! 出ちゃう」
男「なんだよ…早く寝ろよ…まだ何かあるのかよ」
幼馴染「あ、あのね…」
薄暗がりで表情はよく見えなかったが、ナツキは内ももをこすり合わせるように揺すってもじもじしていた。
その動きだけでなんとなく要件の見当がつく。
しかし俺は眠気のピークで不機嫌極まりなく、薄いタオルケットを頭まで被ってそっぽを向いた。
何を言おうとしてるのかわかるだけに付き合うのがめんどうだ。
幼馴染「あーん、だめ寝ないでっ」
255: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 22:16:23.27 ID:i9AKzMDto
ナツキは諦めずにしつこく俺の体を揺さぶってくる。
男「……何。安眠妨害だぞ。うちでは死罪と決まっている」
幼馴染「おしっこ」
男「…んなもん一人でいけよ何歳だよ…」
幼馴染「こ、こわい…漏れそう」
男「……」
男(本当にホラーゲームなんてするんじゃなかったな)
男「ったく…せめて寝る前に行っとけよ…」ムクリ
俺は眠い体を半分起こして、ナツキに手を差し出して立たせてもらう。
幼馴染「電気つけないの?」
男「まぶしいし、虫…」
縁側の長い渡り廊下を歩く。
古い板張りの廊下は2人分の足音でギシギシと軋んだ音を立てた。
真っ暗で視界が悪い。
暑さ対策に庭側の戸をすべて開け放っているので、この時間に灯りをつけると虫がわんさか家の中に入ってしまう。
男(こんなときに古くて広い家はめんどいな)
ナツキの歩みはすこぶる鈍く、つい置いていきそうになる。
男「早く来い。お前が我慢してるんだろ」
幼馴染「だってぇ…」
256: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 22:20:07.12 ID:i9AKzMDto
わずか数10mの距離だが、ナツキは俺のシャツの裾を掴んで、背中に寄り添うように歩いていた。
男「ついたぞ」
幼馴染「あっ、あっ」
ナツキは急に駆け足になって慌ててトイレに駆け込む。
おそらく間に合ったようだ。
最悪漏らしそうになったら庭にでも蹴りだしてやろうかと思っていた。
男「…戻っていいか。帰りはお一人で」
幼馴染「だ、だめっ、すぐだから」
扉の前で眠たい目をこすって待っていると、中から勢いの良い水音が聞こえた。
男「…」
幼馴染「…! あっ、ああ」
幼馴染「あ、あのね! ボク家ではちゃんと夜中一人でトイレいけるし、全然怖くなんてないんだけど」
幼馴染「この家古いし絶対お化け住んでるし、それにあんなゲームしたあとだしこのトイレ超広いし電気つけても暗いし―――だからねっ」
ナツキはトイレの中から焦ったような早口でまくし立てる。
男(わかるよ。お前の気持ちはわかるけど…)
男「ナツキちゃんさぁ、そういう時は普通トイレ流しながらするよね」
幼馴染「あっ! あーあーあーっ、聞かないで…あっちいって」
男「いいのか戻って」
幼馴染「あ゙ーーーだめそこにいて。あっ、でも聞くのはだめっ」 
男(アホだ…)
257: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 22:23:16.24 ID:i9AKzMDto
男「よ。結構我慢してたんだな」
幼馴染「……」
男「2リットルくらい出た?」
幼馴染「うるさいなぁ…っ!」
女にかける言葉ではなかったかもしれないが、どうせナツキ相手だし、寝付こうとしていた所を無理やり叩き起こされた恨みもある。
早足で居間へ戻ろうとしたら、ナツキは再びぴったりと張り付いてきた。
男「そんなに怖いか?」
幼馴染「こんな時間までいるの久しぶりだもん…」
男「なにも出ないって。幽霊なんて本当にいるわけないだろ…あんなのゲームゲーム」
幼馴染「雰囲気が怖いの!」
幼馴染「こんな家によく住めるね」
男「ならこんな家によく泊まろうと思ったな」
ナツキがぎゅっと手をつかんでくる。
トイレで手を洗ったあとちゃんと拭いていないのか微妙に濡れていた。
男「じゃあ俺寝るから。もう起こすなよ」
幼馴染「……」
男「何。次は大きいほう行きたくなったとか言うなよ」
幼馴染「…あ、あのね…」
ナツキが小声であのねという時は大抵言いづらいことを言い出す時だ。
俺は次は何が飛び出すのかと身構える。
258: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 22:26:54.09 ID:i9AKzMDto
男「なに。もう付き合わないぞ」
幼馴染「天井になんかいる…気がする」
男「……たぶん虫だろ。蛾でも入ったのが飛んでるんじゃないか」
幼馴染「変な音する」
男「冷蔵庫だって。古いから…いつも深夜帯に唸るんだよ」
幼馴染「ううう…」
男「いいかげん離せよ」
手を振りほどこうとしてもナツキは頑なに離そうとしなかった。
ついには俺の手をひきよせて、胸元でぎゅっと抱きしめる。
幼馴染「一緒に寝て…ボクが寝るまででいいからさぁ…」
男「…え゙」
幼馴染「……」
暗がりでよくは見えなかったが、ナツキはきっと不安げな顔をしていたのだろう。
握りしめてくる小さな手から少しだけ震えが伝わった。
男「わかったよ…もう俺も眠いから、寝かせてくれるならなんでもいいや…」
幼馴染「!」
そしてやむなく折れた俺はナツキと背中合わせに同じ布団に寝転がって、一枚のタオルケットを一緒に被った。
男(俺ってなんなんだろうなぁ)
男(普通異性相手にこんな事頼まないよな…)
259: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 22:29:45.75 ID:i9AKzMDto
今日一日を思い返す。
男(やっぱナツキの中ではただの兄弟って感じなんだろうな)
男(なら俺にとってナツキは…?)
俺にとってナツキはなんなのだろう。
夏休み前にユウジに言われた事がもやもやと渦巻く。
今日一日この言いようもない焦燥感に苛まれていた。
家族のような存在と言わればそうかもしれない。
しかしナツキと姉は明らかに違う。
実の姉の裸を見てもなんとも思わないし、見たくないものを見てしまったような嫌悪感すらあった。
だけどナツキの裸は違った。
あの時とても綺麗だと思えて、できることならずっと眺めていたかった。
シミ一つ無い背中に触れた時はドキドキしたし、胸の先端がちらりと見えた程度でいままでにないくらい興奮した。
男(やっぱ…好きなのかな)
背中ごしにナツキの体温が伝わってくる。
すでに吐息を立てていて、怖がっていたわりには案外あっさりと眠ってしまったようだ。
俺は慎重に寝返りをうって、ナツキの後ろ姿をじっと眺める。
綺麗なうなじに汗がうかんでいた。
男(暑いのか)
あせもにならないようにタオルで首筋をぬぐってから、枕元に投げ捨ててあったうちわを拾ってゆっくりと風を送る。
ナツキは微風に少しくすぐったそうに身を丸めた。
こちらの気苦労など知りもしない幸せそうな顔で眠っている。
男(怖い夢見なけりゃいいな)
男(おやすみナツキ)
 
260: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 22:32:37.39 ID:i9AKzMDto
翌朝。
強烈な痛みと蝉の大合唱とともに俺は目覚める。
まぶたをひらくとナツキのかかとが喉元につきささっていた。
男「……げほ、お゙い」
幼馴染「zzz」
ナツキはそんなこと知る由もなく爆睡している。
寝ている間に天地がひっくりかえったのかと思うくらいに布団も枕もめちゃくちゃで、
俺は布団の外に蹴りだされてむき出しの畳の上に倒れこんでいた。
男(これだよ…だから嫌だったんだ…)
幼馴染「zzz」
男「お前とはもう絶対に一緒に寝ない…」
そう胸に誓って俺はナツキの尻を蹴飛ばした。
幼馴染「ふぎゃっ!?」
男「起きろバカ」
幼馴染「あ…ふぁ…朝…? ん〜〜〜っ!」
幼馴染「そうだ、昨日泊まったんだった!」
男「…最初に言うことはそれか? なんか他にあるだろ」ジンジン…
幼馴染「えへ、おはよー♪」
男「…おはよ」
今日もナツキとの暑い一日が始まる。
第四話<お泊り>おわり
 
262: 以下、

くふふって笑い方がかわいくてすき
268: 以下、
素晴らしい
夏の雰囲気が伝わってくるな
冬なのに
150: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/02(水) 22:06:08.25 ID:16WlYG5zo
第四話<お泊り>つづき
【レディース水着売り場】
男「ほら、決めたなら早く試してこいよ」
幼馴染「うーー…」
男「着てみないとわからないだろ」
幼馴染「そうだけどさ…やっぱりビキニは…挑戦的すぎるんじゃないかなぁ」
男「何言ってんだよ。お前何歳だよ」
幼馴染「普通だとおもう?」
男「さっき店員さんもそう言ってたじゃん」
幼馴染「……」
水着選びは服以上に難航した。
はじめナツキはセパレートを嫌がり、キャミソールのような形をした比較的露出の少ない物を選ぼうとしていた。
普段俺の家ではみっともない無防備な姿でゴロゴロしているくせに、人前で肌を晒すのは抵抗があるらしい。
しかし現在手にもつビキニのデザインはそこそこ気に入ったようで、どうしようかと迷いながら店内をウロウロしている。
幼馴染「ビキニ着たらお腹だけ真っ白で変じゃん…カッコ悪いじゃん!」
男「じゃああらかじめ焼いていけば。腹だして縁側で寝てたらすぐだろ、アハハ」
幼馴染「でも、いま真っ白じゃん」
男「気にすんなよ試着くらい。誰も見てないだろ」
151: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/02(水) 22:07:17.94 ID:16WlYG5zo
 
幼馴染「…へんてこでも笑わないでね」
男「え?」
男(あぁ試着して見せてくれるつもりなのか。律儀なやつだなー)
男(自分でサイズ確認するだけでいいのに)
男(見せてくれるなら見るけどな…)
幼馴染「着てくる」
男「スカートん時みたいに待たせるなよ? あの店よりよっぽど居心地悪いんだからな」
幼馴染「わかってるよ」
なにぶん色とりどりのレディース水着に囲まれている上に客はすべて女。
俺にとっては下着屋とほとんどかわらない針のむしろだ。
なるべく余計なことを考えないように、ナツキの入っていった試着室の扉を凝視し続けた。
そして数分後。
カラフルなボーダーラインの入ったビキニを着たナツキがのそのそと扉の向こうから現れた。
幼馴染「……」
152: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/02(水) 22:12:05.73 ID:16WlYG5zo
ナツキはスカートを履いた時以上に顔を赤くして黙りこくったまま、俺の言葉が返ってくるのを待っていた。
男「おい、何照れてんだ」
幼馴染「ゔぅ…照れてないし。で、どうかな…」
男「サイズは」
幼馴染「たぶんぴったり。フィットしてると思う」
男「上も下も? お前上半身にくらべ下半身がちょっと太いけど」
幼馴染「うるさいなぁ! ぴったりなの!」
幼馴染「でぇ、どうなのさ!」
ナツキは怒気を含んだ視線で俺を睨みつける。
そこでようやく意図を察した。
男「どうって…あぁ」
感想がほしいらしい。
尋ねられてまじまじとナツキの全身の観察をはじめた。
昔にくらべるとずいぶんと女の子としての成長を遂げた体。
上半身はやや痩躯だが、胸元は膨らみがはっきり分かる程度には盛り上がっている。
腹筋は軽く浮いていても見たものに硬そうな印象を与えない綺麗なすべすべのお腹。
すこし太めだが決して贅肉ではないぷりんとしたうまそうな太もも。
健康的に焼けたすらりと長い足。
足首はキュッとしまっていてモデルのようなかっこよさすらある。
ショートな髪型もあいまって全体のバランスがとても整ったスポーティな体だ。
しかし顔はまだあどけなさが残り、大人の女とは到底言いがたい。
男(俺そんなとこばっかり見てるな。水着みなきゃいけないのに)
153: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/02(水) 22:14:14.31 ID:16WlYG5zo
男「ナツキ。あっちむいて」
幼馴染「…ん」
俺の手をひねる動きにあわせてナツキがくるりと半回転する。
つんと上向いたやや大きめのお尻がビキニに包まれて窮屈そうだ。
ビキニ紐しかない背中と肩甲骨から肩にかけてのラインが同じ人間とは思えないくらい、ぞっとするほど美しかった。
男「いいんじゃないか」
幼馴染「ほんと!?」
男「いますぐビーチバレーの選手になれそうだ。目指してみないか」
幼馴染「むぐ…そうじゃなくて」
男「わかってるって。すごく似合ってるから心配すんなよ」
幼馴染「うん。じゃあボクこれにしよっかな…えへへ」
男「お前にしてはまともなの選んだな」
男「俺はてっきりあっちのスイカみたいな色のを選ぶとおもった」
幼馴染「ボクも最初あれいいなーっておもったけど、アッキー絶対変な顔するの予想できるから…」
男「流石だな」
幼馴染「アッキーこそ、ボクの好きそうなのよくわかったね」
男「長い付き合いだからな親友」
こつんと拳をあわせた後、ナツキは水着を脱ぐために再び試着室の扉を閉めた。
中からごそごそと衣擦れの音が聞こえる。
154: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/02(水) 22:18:34.14 ID:16WlYG5zo
男(いまちょうど裸か? いや、さすがに下着の上から試着するよな…)
男(あれ…でも下着なんて水着の下につけてなかったような…)
一度考えだすと止まらないのは俺の悪い癖だ。
キャッチャーをしていた頃、配球のことばかり考えて打席でよく上の空になって失敗した。
対してナツキはなにごとも頭を一度すっからかんにリセットして臨めるので、なんにでも結果がついてきやすく飲み込みも早い。
そういえば、今日はどこでなにをしててもナツキの事を考えているような気がする。
男(俺もいい加減何か趣味らしい趣味もったほうがいいなこれ…)
幼馴染「おまたせー」
男「なぁ、もしかして全裸になって直接試着したのか?」
幼馴染「……え゙? な、なに!? 下に着てたよ、何言ってるの常識でしょ」
男「まじ? あれ着てたのか」
幼馴染「じゃんっ、これをつけてたんだよ」
そう言って手渡してきたのはベージュ色をしたサポーターのようなババ臭い薄い下着だった。
ほのかにあたたかみを感じる。
男「あぁ…いわゆるアンダーショーツってやつね…持ってきてたんだな」
幼馴染「お母さんに水着選びにいくって言ったらもっていけって。よかったー」
男「…ってこんなもん俺に渡すな!」
幼馴染「えへへっ、とりあえず荷物全部もっててー♪ これお金はらってこよーっと」
ナツキの天然には時々頭を悩まされる。
俺はぬくもりの残ったショーツを握りしめた後、周りの視線を気にしながら
いそいそと紙袋にしまい、ナツキが会計の列に加わるのを見送った。
155: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/02(水) 22:21:10.73 ID:16WlYG5zo
【フードコート】
幼馴染「…」モグモグ
男「これで欲しいものは揃ったよな」
幼馴染「んぐっ、あとペンギン!」
男「ペンギン?」
幼馴染「ペ!ン!ギ!ン!!」
ナツキはフォークをもったまま腕を皿の上でぐるぐる回す。
男「ああ…かき氷器か」
幼馴染「いま本気で忘れてた?」
男「…ここで買わなくてもいいだろ。いまの時期ならわりとどこでも買えるし」
幼馴染「ボク帰ったらかき氷食べるって決めてるのに」
男「えー…このあとほんとにうち来るのかよ」
幼馴染「なんのためにシロップ買ってきたとおもってるの」
男「そこの売店でコーンアイスでも買って満足してくれよ」
男「クレープ、パフェ、チョコバナナ、なんでもあるぞ」
幼馴染「……」チラ
幼馴染「だめっ、今日はもう使えるお金ないもんっ」モグモグ
幼馴染「あれ食べたら電車賃たりなくて帰れなくなっちゃうよ」
男「そんなにギリギリか。しゃーねぇ」
幼馴染「買ってくれるの!? さすが〜〜〜」
男「散財する前に帰ろうぜ」
幼馴染「…………」
156: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/02(水) 22:23:29.06 ID:16WlYG5zo
【帰り道】
男「そんな恨めしそうな目で見るなよ」
幼馴染「…ずっとデザートのお店見ないように我慢してたのに」ジトー
幼馴染「ボクだってアッキーと同じのたべたかったのに、違う安いので我慢したのに」
男「かき氷たらふく食っていいから。腹壊すまでくっていいから。もう隣でブツブツ言うのやめてくれ」
幼馴染「…」
男「帰ったらキャッチボールするか」
幼馴染「するする! じゃあ早く帰ろ!」
男(簡単な奴…)
幼馴染「ボク一旦荷物置きに家戻るね!」
男「おう」
そして家の近所で解散して各々帰路につき、気がつけば夕刻。
帰宅した俺はいの一番に部屋の窓と縁側の戸をあけてムッとした部屋の空気を換気する。
エアコンがこわれているためこうして少しでも涼しくしておかなければまたナツキが文句を垂れる。
今日は午後から少し曇って比較的すごしやすい気温になってありがたかった。
男「思ったより金つかっちゃったなぁ。夏休みはまだこの先やりたいことあるのに」
157: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/02(水) 22:26:20.72 ID:16WlYG5zo
吹き込む風に揺れる風鈴の音を聞きながらゆっくり麦茶でも飲もうかと思った矢先、
勢い良く玄関を開ける音がしてナツキが早々にやってきた。
男「はやすぎだろ」
きしむ渡り廊下をドタバタとかけぬけて、あっという間に俺のくつろぐ縁側まで滑り込んでくる。
男「いまこけたのごまかしたよな」
幼馴染「そんなことよりっ、時間は有限だから。ほら、暗くなる前に! ボールとグラブもってきて!」
男「ちょっと休ませて…一服したい」
幼馴染「そんなお年寄りみたいなこと言わないでよ〜!」
男「あれ…お前荷物置きに行ったんじゃねぇの。結局持ってきたのかよ」
幼馴染「それがさー」
幼馴染「お母さん達夕方から急に出かけることになったんだって。さっきメール入ってるの気がついた」
男「へぇ、それで」
幼馴染「家あいてなかったー」テヘー
男「あ、そう…夜には帰ってくるんだよな」
幼馴染「ううん。今日は帰らないってさ。よくはしらないけど仕事のトラブルみたい。会社にとまるかもって」
男「そうか…じゃあお前どうすんの。例によって鍵もってないんだろ」
幼馴染「泊めてー♪」
男「えーー。急に言われてもなぁー?」
158: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/02(水) 22:32:51.00 ID:16WlYG5zo
特に嫌なわけではないのだが、こうも毎度あっさりと承諾していては、
いずれほんとに居付かれてしまう気がした。
男「どーしよっかなー。俺やりたいことあるしなー」
幼馴染「いいじゃんいいじゃん。お母さんも泊めてもらえって、ほら」
得意気に携帯を開いて画面を見せつけてくる。
男「夕日反射しててなんも読めん」
幼馴染「あ、ごめんごめん」
ナツキはそっと俺の隣に腰掛け、画面を見せてくれた。
確かにそこには泊めてもらうようお願いしなさいと書いてあった。
おばさんが後でこちらに電話をくれる手はずにもなっているようだ。
男「おばさんにメール送るからそれ貸してくれ」
幼馴染「う、うん」
男「…」
幼馴染「なんて送るの?」
ナツキから隠すように背をむけてメールの文面を考える。
肩越しに覗き込もうとしてくる邪魔な頭をアイアンクローで抑えて、
俺はおばさん宛に返信した。
男(ナツキは俺が責任をもって預かりますので、心配しないでください…っと)
男(おばさんに送るにしては堅いか? まぁいいか)
幼馴染「いいもーんどうせあとでみるからーー! ボクの携帯だし」
男「送信履歴消しとこ」
幼馴染「あほーーーあほーーー」ジタバタ
幼馴染「あっ、アッキーよりって最後に書いた?」
男「…忘れてた。まぁわかるだろ」
159: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/02(水) 22:34:21.35 ID:16WlYG5zo
幼馴染「で、結局とめてくれるんだよね?」
男「しかたないだろ。蹴りだしてもお前宿泊費なんてもってないし」
幼馴染「やったー。お泊りは久々だね」
男「…だな。寝るの姉ちゃんの部屋でいいか?」
幼馴染「えーそれはさすがに悪いよ」
幼馴染「ボクはその辺で雑魚寝でいいよー」
男「そうはいかないだろ…一応女なのに」
幼馴染「一応ね!」
男「確か来客用のというか、ほぼお前専用となった布団があったはずだけど…」
果たしてこの無駄に広い家のどこにしまってあるのか。
ナツキが泊まっていた頃はすべて俺の母親が準備をしていたので完全に俺の管轄外だ。
この時間から家中の捜索を考えると、もはやキャッチボールどころではなくなってしまった。
男「悪いナツキ、ちょっと探すから遊ぶのはあとで」
幼馴染「うん! いいよ」
幼馴染「ねっ、ねっ、泊めてくれるんだからボクなんでも手伝う!」
幼馴染「なんかやることない!?」
160: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/02(水) 22:36:00.01 ID:16WlYG5zo
男「そうだな…じゃあ風呂でも洗っておいてくれるか」
男「風呂場にスポンジと洗剤スプレーあるから」
男「浴槽だけじゃなくて蓋もな。できれば洗い場の床も」
幼馴染「結構がっつり頼むね」
男「浴槽だけでもいいけど」
幼馴染「いいよ。ボクにお任せあれ」
男「探すのにそれくらい時間かかりそうなんだよ。悪いな」
幼馴染「いってらっしゃーい」
【風呂場】
ゴシゴシ
幼馴染「広い家って大変だなぁ」
幼馴染「んしょ…んしょ…。ふぅー…アッキーは毎日これやってるのかぁ」
幼馴染「ちっちゃいころから思ってたけどお風呂ふるすぎーひろすぎー」
ゴシゴシ
161: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/02(水) 22:39:24.48 ID:16WlYG5zo
幼馴染(アッキーの家でシャワー借りるくらいはあったけど、泊まってお風呂入るのはひさしぶりだなぁ…)
幼馴染(昔よく一緒に入ったなぁ…)
幼馴染(たしかボクがバタ足の練習はじめて、お姉ちゃんに怒られたんだっけ)
幼馴染(なつかしいなー)
幼馴染(もう何年一緒に入ってないんだろう)
幼馴染(子供だったら3人入っても余裕の広さだなー)
幼馴染(大人になったボクたちならどうなんだろう…さすがに無理かな?)
幼馴染(…って、入るわけないじゃんっ!)ブンブン
ゴシゴシ
幼馴染「…ここにボクが浸かって、こっちにアッキーで…」
幼馴染「あぁぁあぁッ、入らないってば。もういい大人なんだから恥ずかしいよ」ブンブン
幼馴染「…ぅ」
幼馴染(今日のアッキー…なんだかいつもより優しかったな)
幼馴染(ううん、ここ最近ずっと優しい…気がする。なんでだろ)
幼馴染「えへへへへ」
ゴシゴシ♪
162: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/02(水) 22:41:00.29 ID:16WlYG5zo
 
 ・ ・ ・
 
ゴシゴシ
幼馴染「あ゙ーー暑っ」
幼馴染「ここ蒸し蒸ししすぎ…窓開けても風入ってこないじゃん!」
幼馴染「うー、目に汗が……痛っ、いたた」
幼馴染(…まだ時間大丈夫だよね。結構かかるとか言ってたし)
幼馴染「…」スルリ
幼馴染(さっぱりしたいし、浴槽洗うついでにシャワー借りちゃお)
幼馴染(服は…まぁこの辺に置いといたら濡れないかな)
キュッ
シャアアアア……
幼馴染「あーーきもちーー♥」
幼馴染「やーーサイコー♥」
幼馴染「汗をかいたあとの冷たいシャワー…幸せ〜♥」
幼馴染「あがったらかき氷たべよーーっと♪」
シャァァァァ―――
163: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/02(水) 22:45:00.01 ID:16WlYG5zo
 
その頃、俺は使っていない物置部屋の押入れの奥深くに封印されたナツキ布団セットをようやく見つけ出した。
特にほこりもかぶっておらず、おかしな臭いもしない。
シーツを付け替えれば今日からでも使えそうだ。
男「問題があるとすれば…」
どう見てもジュニアサイズなことだ。
男(そうか。もう使わないからこんなとこにしまっていたのか…)
男(小さい…よな…うん)
男(まぁちょっとくらいはみ出てもいいか。夏だし…どうせナツキだし…)
最悪腹さえ隠して寝れば風邪ひくことはないだろう。
足りない部分にはタオルかクッションでも敷いておけばいい。
男「よし、報告報告」
半日歩いて疲れていたわりにはやけに足取りが軽かった。
布団をみつけた達成感に満たされている。
それに加えて、もしかしたら俺は内心、ナツキが泊まることを楽しみにしているのかもしれない。
なんていったって久しぶりのことだ。
夏休みなので当然明日も休みで夜通したくさん遊べる。
男(今晩なにすっかなー。そうだ、去年ユウジと買ったあのゲームやらせたらあいつ絶対おもしろいことになるな)
男(晩飯は冷蔵庫にあるものでつくるなら生姜焼き? 冷しゃぶでもいいな、キュウリあったっけ)
男(どのみち2人分なら買い物いかなきゃな)
164: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/02(水) 22:48:27.24 ID:16WlYG5zo
ちいさくて軽い布団セットを抱えたまま浴室へ向かう。
おもいっきり広げてナツキに見せてやろう。
男「あいつの反応予想」
男「あーーそれなつかしーー。よくのこしてたねー」
男「だな。間違いない」
きっと笑顔で喜ぶだろうと期待を込める。
そして浴室の扉を開いた。
ガラガラッ
シャァァッァァ――
男「おいナツキ! あったぞ見つかった……ぞ」
男「あ゙……」
幼馴染「……ふぇ?」
視界に映ったのは風呂掃除に励むナツキの姿ではなかった。
そこにいたのは一糸まとわぬ姿で立ちつくし、シャワーを浴びる少女。
濡れた肌が水を弾き、なまめかしく光を反射している。
こちらに気づいたナツキは目を丸くして固まってしまっていた。
男「うわっ!」
男(やっちまった! な、なんでシャワー浴びてんだよっ!)
幼馴染「うぎゃああああっ! ばかエッチ!!」
男「ナツキっ、やめ―――――」
そして扉をしめるよりも早く、シャワーによる激しい水流の攻撃が飛んできた。
男「うあっ」
幼馴染「うああああああっ!!」
結果、布団はぐっしょり。俺はげっそり。
ナツキは怒りながら半泣きといった誰も喜ばない悲劇を生んでしまった。
 
165: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/02(水) 22:53:15.14 ID:16WlYG5zo
 
【居間】
男(俺が悪かったのか?)
男(いや…まさか中で服を脱いでるなんておもわないだろ…)
男(普通シャワー浴びるなら外に服をだして……くそっ、もう何を考えても後の祭りか!)
幼馴染「…」シャクシャク
男「ナツキ、うまい?」
幼馴染「…」シャクシャク
男「練乳もつくってみたから…ほしかったら好きなだけかけろよな。あっ、晩飯お前の好きなもんつくってやるぞ」
男「それ食ったらキャッチボールするか? まだ日が落ちるまで少しはできるぞ?」
幼馴染「…」シャクシャク
男「そうだ布団濡れちゃったから今晩どうしようか」
男「いまからじゃ乾かないよな……やっぱり姉ちゃんの部屋借りるか」
幼馴染「…」シャクシャク
男「なぁ悪かったって…見てないからほんと、湯気とか腕でかくれてたし」
幼馴染「…」シャクシャク
男「ごめん。口きいてくれ」
幼馴染「…ふーんだ。アッキーのエッチ。ボクが暑くなってシャワー浴びたくなるの計算してたんでしょ」
男「するかっ!」
俺は脳裏に焼き付いたナツキのヌードをふりはらいながら、メロン味のかき氷をちびちびと口に運ぶ。
時々ナツキの様子をうかがうと、普段の呆けた様子からは考えられない剣幕で睨みつけられた。
その後しばらく彼女の機嫌が治ることはなかった。
166: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/02(水) 22:56:12.77 ID:16WlYG5zo
 
 ・ ・ ・
幼馴染(なんだろ…たべてもたべても体の芯が熱いな…)
幼馴染(風邪ひいちゃったのかな?)
幼馴染(はぁ…今日だけでスカートも水着も裸も見られちゃった…)
幼馴染(なんとも思ってない…んだよね…?)
幼馴染(アッキーにとってボクは兄弟みたいなもんだもんね…)
男「にしてもお前さ、その…」
幼馴染「!」
男「上半身のわりにずいぶん脚ふとくなったよな。脚というかケツ周り?」
男「なんていうかすごく安産がっ―――」
幼馴染「きーーっ!」ボカッ
男「いだだだっ」
男(褒めようとおもったのに)
幼馴染(…アッキーのバカバカバカ)シャクシャクシャクシャク
ナツキとの長い一日は続く。
第四話<お泊り>つづく
 
181: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/04(金) 22:03:05.16 ID:p2E8hmJ2o
第四話<お泊り>つづき
幼馴染「ごちそうさま〜♪」
日が暮れるまで軽くキャッチボールをした後、わざわざ買い出しに行って夕食で好物を振る舞うと、
ナツキはすっかりごきげんに戻って笑顔を見せてくれた。
機嫌が直ってよかったと思いつつも、俺は精神的にも肉体的にも疲労困憊だ。
幼馴染「はーおいしかった」
幼馴染「また作ってね」
男「んー。食器洗ってくれるか」
幼馴染「オッケー」
下手くそな鼻歌を歌いながら台所で食器を洗うナツキを尻目に、俺はある準備を始める。
男「今日は夜更かしできるからな」
居間のテレビの前にゲーム機をつなぎ、起動してソフトを挿入する。
昨年の夏にユウジと金を出し合って買った人気のホラーゲームだ。
俺たちは買ったその日に徹夜でクリアしてしまったが、ナツキの前でプレイしたことは一度もない。
182: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/04(金) 22:05:41.39 ID:p2E8hmJ2o
洗い物を終えたナツキを手招きして、自分の隣に敷いた座布団に座らせる。
幼馴染「ん? 何かするの?」
男「おう。じゃ電気消すぞ」
幼馴染「え…?」
部屋を暗くし、コントローラーのボタンを押すと、おどろおどろしいBGMとともにハイクオリティな3D技術で作られた真夜中の廃村が映しだされた。
幼馴染「い゙っ!? こ、これ…ホラービデオ?」
男「ゲームだって。ほら」
幼馴染「ゲーム!?」
スティック型のコントローラーを手渡す。
プレイヤーはこのコントローラーを懐中電灯に見立て、主人公視点で薄暗い廃村をさまよう体感型ホラーゲームだ。
ゲームシステムはリアルな不気味さでプレイヤーの心の底の恐怖心を煽る作りになっている。
よくありがちな化物がびゅんびゅん飛び出してきて撃退していくような、ホラーと称したアクションゲームではない。
プレイヤーはほとんど無抵抗なまま幽霊から逃げまわり、時には謎をときながら物語の真実へと迫っていく。
幼馴染「やっ、やだよこんなの!」
183: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/04(金) 22:07:17.02 ID:p2E8hmJ2o
幼馴染「ぜっっっったい怖いじゃん!」
男「怖かったぞ」
幼馴染「ずるい!アッキープレイ済みなの!?」
男「一年前に一回やっただけだからあんまり内容は覚えてない」
男「ほら。コントローラーの先っちょにセンサーついてるから、画面に向けて」
男「ゲームスタートの所にカーソル合わせてAボタン」
幼馴染「…!」フルフル
男「なぁにぃー? お前びびってんのー? ナツキちゃんびびってんのーー?」
幼馴染「いやっ…そういうわけじゃないケド」
テレビの灯りに映しだされたナツキの顔はあきらかにひきつっていて、誰がどうみてもビビっていた。
さきまであぐらをかいてどっしりと座っていたのに、なぜかいまは座り直してぴっちり膝を閉じてあひる座りしているのも滑稽だ。
男「とりあえずやってみようぜ。おもしろさは保証するからさ」
幼馴染「う、うん…」
184: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/04(金) 22:10:47.80 ID:p2E8hmJ2o
男「カーソルぷるぷるしてるぞ」
幼馴染「うるさいなぁ」
男「スタート」
オープニング映像とともにゲームがはじまった。
プレイヤーは廃村に迷い込んだ主人公になって、薄暗い林の中を懐中電灯一本を頼りに進んでいく。
幼馴染「あぁぁぁ…歩く音がリアルすぎるよぅ」
枯れ葉を踏みしめる音や、木々のざわめき、音響に定評がある。
数歩歩くたびにゲーム内で左右をキョロキョロと見渡して、恐る恐る前に進む。
幼馴染「怖いよ…ほんとにボクが歩いてるみたい…」
幼馴染「ひゃっ、いまなんかいなかった?」
男「鳥」
幼馴染「……この声なに…」
男「カエル」
幼馴染「…お化け、いるの…? どこ…」
このように細かい演出で没入感を増すようにリアルにつくられているのがホラーゲームファンにウケている。
真っ暗な部屋で遊ぶのが醍醐味だ。
185: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/04(金) 22:13:19.73 ID:p2E8hmJ2o
幼馴染「ここまっすぐ…?」
男「…」
幼馴染「違うの? まっすぐでいいの…? わかんない」
男「…」
幼馴染「えーなんで何も言ってくれないの…」
幼馴染「ここまっすぐで合ってる? いきなり死んだりしない?」
男「なぁ探索ゲームなのに答えおしえちゃっていいのか? あちこちさまよって探すのもゲームの楽しみの一つだぞ?」
幼馴染「いいよぉ…だってボクゲームあんま得意じゃないもん」
男「見ろよ背景よく出来てるだろ? 蜘蛛の巣すげぇリアル」
男「懐中電灯で照らしていろいろ観察するのが楽しいんだよ」
幼馴染「そういうのいいってばぁ…」
男「じゃあその民家入って」
幼馴染「えーー。やだよ…」
男「そこ進まないと次行けない」
幼馴染「うーー…あーやだ、開けたくない。ほんとやだ。許して〜〜〜」
もうすぐ霊との初遭遇になる。
最初の霊は好戦的ではなく、こっちの目の前を横切り、あとはただジーっと恨めしそうに見つめているだけだ。
プレイヤーはその男性の霊の側まで自ら歩み寄り、彼のつぶやく言葉を聞き取らなければならない。
それをヒントに屋根裏部屋への階段を見つけ出し、隠された手記を探しだす。
だがその手記を手に入れると…。
186: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/04(金) 22:15:56.19 ID:p2E8hmJ2o
ナツキが意を決して民家の戸をあける。
なぜか片手を顔の前にもってきて、片目を隠すようにテレビと距離をとっている。
カチャ…キィ…
幼馴染「…うわぁ…ボロボロ…」
幼馴染「外より暗い…」
幼馴染「こんにちは…おじゃまします…」
幼馴染「誰もいませんか…入っていいですか…」
俺はつい吹き出しそうになった。
どこまでこいつは感情移入しているのか、何度か挨拶して返事がないことを確かめるとようやく室内の探索をはじめた。
男(あくまでゲームだぞナツキ! がんばれ)
幼馴染「ええっと…」
幼馴染「なんも調べられそうなとこない…」
ナツキは恐る恐る1階の部屋を調べていく。
1階の一番奥の部屋を調べ終えるとフラグが立ち、居間に幽霊が現れるのだが、
ナツキはゲームに疎いので、どういう行動を取ればゲームが進展するのかあまり検討がついていないようだ。
かれこれ3度も同じタンスを開いてやっぱりないなぁなどと言ってトンチンカンな行動をとり続けている。
あげくの果てにはなにもないと言い切り、家から出ていこうとする。
187: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/04(金) 22:18:01.31 ID:p2E8hmJ2o
男(鈍いやつのプレイみてるとイライラしてくるな…)
男(まだ調べてない部屋あるだろ!)
幼馴染「何もなかったよぉ…ちがうんじゃないの…」
男「ナツキ、民家の中全部見て回ったか」
幼馴染「えーー? たぶん」
男「一応風呂やトイレもあるんだぞあの家、あと奥に寝室」
幼馴染「あー。そっか…見逃してた。でもまた入るの嫌だなぁ…」
男「ちなみに俺とユウジはここまで十分もかからなかった。お前はもう三十分以上経つぞ」
幼馴染「むぐ…」
幼馴染「しかたないなぁ…ていうか幽霊でないじゃん」
幼馴染「ほんとに怖いのかなぁ?」
幼馴染「気味がわるいだけで、怖いという感じではないんだけど……」
男(最初めちゃくちゃびびってたくせに)
だんだんナツキは余裕をぶっこきはじめる。
これが罠だ。
プレイヤーがだんだん操作に慣れてきて、なんだこのゲーム実は怖くないんじゃないかと高をくくるタイミングで恐怖が訪れる。
188: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/04(金) 22:21:05.79 ID:p2E8hmJ2o
幼馴染「ここトイレだよね。うわ古っ、和式じゃん」
幼馴染「…アッキーの家のトイレっぽいね」
男「うるせえこんな汚くねぇよ」
幼馴染「お風呂は…っと、うーんなんもない…」
男「じゃあ後一部屋だな。って教えちゃってるじゃん」
幼馴染「いいじゃんいいじゃん。協力してプレイしよ」
男「俺クリア済みです…」
それから奥の部屋になにもないことを確認する。
幼馴染「あれぇなーんもないよ…? ほんとにここ最初に来る場所であってたの?」
男「そうだなー。じゃあ戻るかー」
男(よし、振り返れ)
幼馴染「うん、そうし―――ふぎゃああっ!」
振り返ると視界を一瞬青白い影が横切った。
その影はふらふらと室内を漂い、最終的に入り口近くに立ち尽くす。
男(わかってたのにちょっとビビった)
幼馴染「あ…あ…アレ……いま…青い影が…ぁぁ、ぁ…」
幼馴染「アッキーも見えてる…? いまね、一瞬青い影が…ボクの前に…」
幼馴染「見た? ボク霊感つよいから…」
男(これはゲームだぞナツキ!)
189: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/04(金) 22:24:24.88 ID:p2E8hmJ2o
幼馴染「ゆ、幽霊…かな? こっち見てる…」
幼馴染「え〜〜、なにあの人…こっち見てるって…」
幼馴染「…帰れっていってるのかな? 勝手に入ったからかな…もうやだぁ…」
男「わかったわかったから操作しろ」
幼馴染「ちょ…そこにずっといたら…ボク帰れないんだけど…」
男「帰らせないために塞いでるんじゃないのか」
幼馴染「早くどっかいってくれないかなぁ…」
男「……」
ナツキは霊と一定の距離を保ったままうろうろする。
時々青い姿が視界に入ってしまい、キャッと小さく悲鳴をあげる。
もちろんその行動では何もフラグは発生せずゲームは進展しない。
近づかなければならないのだ。
実に察しが悪い。
男(だめだこいつ向いてないわ…)
ナツキのおもしろい反応でも見ようかとはじめたことだが、1時間足らず見ているだけの俺のイライラはピークを迎えそうだ。
しかし幽霊に会釈したり恐る恐る声をかけたりするナツキのバカな姿はすこしだけ可愛く思えた。
幼馴染「キミどうして死んじゃったの?」
幼馴染「なんかやなことあったのかなぁ……」
男(だからゲームだってば)
男「ちゃんと相手の話を聞くならもっと近づいたほうがいいんじゃないか」
幼馴染「う、うん…」
190: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/04(金) 22:28:13.58 ID:p2E8hmJ2o
幽霊に近づくと、コントローラーについたスピーカー部から霊がしゃべる声が流れる仕組みになっている。
幼馴染「ひゃあっ!」
案の定ナツキが飛び上がるように驚き、固まってしまった。
幼馴染「……あ、あ…」
男「大丈夫。そういうゲームってだけだから」
男「コントローラーに耳あてて聞いてみ」
幼馴染「……。あ…風呂の天井っていってる!」
幼馴染「…ねぇ聞いた? お風呂の天井になにかありそう!」
男「ようやく進展したか」
幼馴染「お風呂こっちだよね…」
幼馴染「ええと…あーここの天井の蓋開きそう」
男「いいぞ」
幼馴染「部屋があるよ。なんで? こんな蓋一枚じゃこの部屋湿気るよ」
男(それは知らん)
幼馴染「んと…暗いなぁ…」
幼馴染「日記帳みたいなの置いてある」
幼馴染「これかな!」
ナツキはゲーム攻略の鍵となる手記をようやく見つけた。
しかしそれと同時に屋根裏部屋の奥から、髪の長い女がゆっくりと浮かび上がる、
幼馴染「え…」
191: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/04(金) 22:29:37.07 ID:p2E8hmJ2o
そしてその女は恐ろしい形相でプレイヤーめがけて這うように迫ってきた。
幼馴染「あああーーっ!!!!」
幼馴染「いや〜〜〜っ!!!」ガバッ
男「おわっ」
ナツキはゲーム内で逃走することを忘れて、コントローラーを放り投げて俺の胸元に抱きついてきた。
むにゅりとしたやわらかい感触。
突然目の前にナツキの頭が現れたこの状況に俺は一瞬混乱した。
男「なっ、ナツキ…!」
幼馴染「ああああっ〜〜っ! あああっーー!」
顔をうずめたままテレビ画面を指さしてナツキは泣き叫ぶ。
男「おいうるさいって…てか逃げなきゃやられるぞ」
幼馴染「あ゙ーーもう無理ぃーー!!」
男「まだ一章だぞっ、おいナツキっ」
結局逃げることもなくプレイヤーは霊に追いつかれてGAMEOVER。
タイトル画面に強制的に戻されたゲームを俺はそっと消す。
心臓がばくばくとうるさい。
幼馴染「……ゔっ、う…」
男「電気つけるから、ちょっと離れてくれるか」
幼馴染「うっ…うう…」
男「悪かったって。こんなにビビると思わなかったんだよ」
幼馴染「…ぐす」
192: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/04(金) 22:31:56.51 ID:p2E8hmJ2o
男「お前ならケラケラ笑いながら遊ぶかとおもったのに…」
予想を遥かに超えてナツキは怖がっていた。
長年一緒に過ごしてきたが、ここまで怖がりだとは思わなかった。
いまだすすり泣く声が聞こえ、ぎゅうっと背中にまわされた腕の力が弱まることはない。
ナツキの体温が伝わって、体がのぼせたように熱くなってくる。
男「ごめん」
幼馴染「…うう…うう…」
男「まじごめん」
幼馴染「ボクもごめん」
男「なんでお前があやまるんだよ」
幼馴染「ぐす…鼻水ついちゃった。だから…顔あげたくない…」
男「……そのまま俺のシャツで拭いていいから。どうせ洗濯するし…」
男「とりあえず立っていいか。いつまでも暗い部屋にいないで電気つけようぜ」
目の前の黒髪を2,3回撫でた。
頭はやや汗ばんでいて、撫でるとふんわりとナツキの匂いがした。
幼馴染「ゔん……ずぴっ」
部屋が明るさを取り戻す。
ナツキはティッシュで鼻と目元をぬぐいながらバツの悪そうな顔をしていた。
幼馴染「びっくりした」
男「俺もびっくりした…ゲームよりびっくりした…」
幼馴染「ごめんね急にだきついちゃって」
193: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/04(金) 22:34:13.95 ID:p2E8hmJ2o
幼馴染「……」
ナツキは座り込んだまま何も話さない。
これまでナツキと会話がなくなっても気まずいと思ったことはあまりなかったのだが、いまは妙に空気が重い。
男「…お互い変な汗かいちゃっただろな」
幼馴染「…うん」
ナツキが抱きついてきた時の匂いが蘇る。
確かにあのとき、すごく女の子の甘酸っぱい匂いがした。
ナツキの汗の匂いは俺は昔から結構好きかもしれない。
男「風呂沸いてるから先に入ってこいよ」
幼馴染「……やだ」
男「俺が先でいいのか?」
幼馴染「だめ」
ナツキは立ち上がろうとした俺のジャージをぎゅっと掴んで制止した。
男「なんだよ…」
幼馴染「アッキーの家のお風呂……ボク怖くてひとりで入れない…」
男「………へ?」
幼馴染「だ、だって! あんな怖い思いしたあとに、ここのおんぼろのお風呂だよ!?」
幼馴染「絶対お化けでるじゃん!」
男「出ないって…ゲームと現実ごちゃまぜにするなよ」
195: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/04(金) 22:37:14.16 ID:p2E8hmJ2o
幼馴染「やだボクお風呂入らないっ」
男「あっそ。じゃあ俺入ってくるから」
幼馴染「…」ガシ
男「なん…なんだよ…」
幼馴染「こんな広い家にひとりにしないでよぉ……」
男(こいつは……)
なんとも情けない。
それとも俺が慣れてしまっているだけで、我が家はそんなに薄気味悪くて怖いのだろうか。
確かにいわれてみれば、使っていない部屋や納屋の寂れ具合はあのゲームに登場してもおかしくない。
男「じゃあどうしろっていうんだよ。夏場に風呂入らないなんて俺絶対嫌だからな」
男「お前もだぞ。汗だくなままでうちの布団で寝るなよな」
幼馴染「……ぃ、いっしょに…」
幼馴染「一緒に入って…ボクと…」
男「…」
耳を疑った。
ナツキはかすれそうなほど小さな声をふりしぼって一緒に入ってと言った。
幼馴染とはいえ年頃の男女が一緒に風呂なんて発想は普通は無い。
しかしナツキはそうしなければならない程、俺にすがりつくしかない程に精神的に追いつめられているようだ。
そうしてしまった原因はもちろん俺だ。
俺としては悪ふざけのつもりは一切なく、純粋にゲームを遊びたかっただけだが、ナツキの怖がり方があまりに誤算だった。
196: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/04(金) 22:40:47.40 ID:p2E8hmJ2o
男「あのなぁ…俺とお前何歳だよ…ありえないだろ」
幼馴染「うん…だよね…」
男「却下」
幼馴染「…」シュン
男「ていうか恥ずかしくないのかよ」
幼馴染「恥ずかしいけど…、どうせ夕方にアッキーに見られちゃったもん」
男「ゔ…」
唐突にグサリと胸に杭が打ち込まれる。
数時間前のことなので、まだしっかりと覚えていたようだ。
幼馴染「い、いやだよね…ボクとお風呂なんていまさら」
幼馴染「最後に一緒に入ったの…ちっちゃい頃だもんね…」
男「いやじゃねーけど…」
幼馴染「ほんと…?」
男「あっ…」
つい本音が漏れてしまった。
恥ずかしいことを除けば、ナツキと風呂に入るのはそこまで嫌じゃない。
しかしそれ以上に後ろめたさがあった。
男(幼馴染の成長した裸を見ちゃっていいのか?)
男(俺たちは裸のお付き合いをするような関係なのか!?)
幼馴染「ボク、今日買った水着きる…それで入る」
幼馴染「だから一緒に入ってほしいなぁ…ダメ?」
男「あ…それならいいか」
よくない気もするがナツキとの長い一日は続く。
第四話<お泊り>つづく
 
208: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/06(日) 22:21:31.28 ID:TYbJ54zoo
第四話<お泊り>つづき
 ・ ・ ・
男「じゃ俺先入るから、お前も水着に着替えたら入ってこいよ」
幼馴染「うん」
シャワーでさっと身体を流し、湯船に浸かって待つ。
浴室ドアに映るナツキのぼやけたシルエット。
いままさに服を脱いで水着へと着替えている様子が影となってはっきりとわかる。
男(我慢できっかなー…)
心配なのは自分の下半身だった。
本当は海パンを部屋までとりにいきたかったが、怖がるナツキを一人にすることが躊躇われたので、結局諦めていまはタオル一枚巻いているだけだ。
隆起してしまったらごまかしようもない。
まさかナツキ相手に反応はしないだろうとおもっていたが、さきほど抱き付かれた時は理性を保つのがぎりぎりだった。
そして悶々とした気持ちで待っているとようやく二つ折りのドアがカタカタと開かれる。
幼馴染「あ…もうつかってるー」
男「俺は水着きてないからな」
幼馴染「えへへ、大丈夫見ないから。だからボクのこともジロジロみないでね」
男「入浴剤いれたからみえねーよ」
209: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/06(日) 22:23:40.57 ID:TYbJ54zoo
幼馴染「……」キョロキョロ
男「なにも出ないって。ゲームだろゲーム」
幼馴染「でも、水場には霊が集まるってよく言うし…」
男「お前そんなオカルト信じてるのかよ」
幼馴染「アッキーの家古いから、いっぱい住み着いていそう…」
男「…失礼な。早くシャワー浴びたら」
幼馴染「…う、うん…」
水着姿のナツキが椅子に腰掛けて蛇口をひねる。
うちのシャワーの水栓はレバー1つでお手軽にお湯を出せる混合水栓タイプではない。
古い銭湯にありがちな、水と熱湯の栓を2つ同時にひねって自分で温度を調節する昔ながらの物だ。
ちょうどいい温度にするにはすこしだけコツがいる。
幼馴染「んー…」
男「お前シャワー浴びるときやってんじゃないのか」
幼馴染「いつも水だよ」
男「そういえばあの時冷たかったな」
幼馴染「〜〜〜っ! お、おもいだしちゃだめ! また水かけちゃうよ」
男「あ、あぁ悪い……」
幼馴染「ねー、これどうやっても熱くなりすぎるんだけど…昔は出来たのになぁ…」キュッ キュッ
210: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/06(日) 22:25:38.92 ID:TYbJ54zoo
苦戦してようやくナツキはぬるま湯を浴びて身体を流すことに成功した。
そしていよいよ湯船の縁へと脚をかける。
水に濡れたむき出しのむっちりしたふとももがいやらしい。
幼馴染「いいの?」
男「おう…入れよ」
ナツキが湯船にゆっくり入ってきた。
2人分の体積でお湯が大量にあふれて排水口へと流れていく。
幼馴染「わはー…! もったいなー」
男「……」
幼馴染「みてー…すっごいあふれる」
男(水着だから大丈夫水着だから大丈夫水着だから―――)
幼馴染「…?」
目の前にいる女はただの幼馴染だと自分に言い聞かせて、俺はそっぽを向いた。
夕方にみた衝撃的な姿がどうしても脳裏に蘇ってしまう。
幼馴染「なーんか狭いね」
男「…当たり前だろ。ガキじゃねぇんだから」
幼馴染「足のばせない」
男「文句言うなよ」
211: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/06(日) 22:28:45.46 ID:TYbJ54zoo
幼馴染「…えへへ。懐かしくてなんか嬉しくなっちゃった」
男「あ、そう」
幼馴染「……むぅ。えい」パシャッ
男「…っ。なにすんだよ」
幼馴染「なんでそんなにふてくされてるの」
幼馴染「ボクやっぱり迷惑だった? そんなに一緒に入るの嫌?」
男「ち、ちが……わかんねぇかなぁお前…」
幼馴染「…?」
男「照れくさいからに決まってるだろ!」
手の平で濁り湯を掬い、ナツキの顔面にお返しする。
幼馴染「わぷっ…やったなぁ」
男「お前が先にしかけてきたんだろ」
幼馴染「…せっかく久しぶりなんだし、勝負する?」
男「溺れさせてやる」
幼いころ一緒に風呂に入った時によくやっていたどちらかがギブアップするまで続くお湯のぶっかけあい。
騒ぐたびに、母さんが飛んできて「お湯がなくなるでしょ!」とよく雷が落ちたものだ。
成長して大きくなった手で繰り広げられる戦いは以前とは比べ物にならない程激しかった。。
 
212: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/06(日) 22:33:32.95 ID:TYbJ54zoo
男「げほっ、げほ…鼻入った。タンマ」
幼馴染「はいタンマしたからボクの勝ちー!」
男「手加減…してやったんだよ!」
本音を語ると、ナツキが水を飛ばすたびに水面で跳ねる胸元や、つるつるで綺麗なわきに目を奪われていた。
そんなに暴れたらポロリしてしまうのではないかと気が気でなかった。
男(いくらうちが広い湯船でも、これをするには流石にもう狭いな…今後はやめておこう)
またナツキと入る機会があるかは不明だ。おそらくないだろう。
幼馴染「ふー、そろそろ体あらってシャンプーしよ」
幼馴染「負け犬さんお先にどうぞ」
男「…いやお前が先でいいぞ」
幼馴染「なんでー」
男「客だから。なにごとの優先させるのがうちのしきたり」
幼馴染「へー。はじめて聞いた」
男(お前のせいで上がれないんだよ!)
濁り湯の入浴剤がなければ一発で気づかれるほど、俺の本能は荒ぶっていた。
ナツキ相手にどうしてという困惑と、敗北感が渦巻いている。
考えてみれば、いくらナツキが色気のない性格であっても、体つきは立派な女子校生だ。
お互いほとんど裸のような格好で、肌のふれあいそうな距離にいたらこうもなってしまうのは自然なことだった。 
213: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/06(日) 22:37:17.82 ID:TYbJ54zoo
洗い場でナツキが石鹸をスポンジネットでくるんで泡立てている。
みるみるうちにふわふわの泡だらけになり、それを身体にまとってゆっくりと手足をこすり始めた。
幼馴染「〜♪゙ 〜♪゙」
男(へったくそな鼻歌。つうか体から洗うのかよ。普通頭だろ)
幼馴染「〜♪゙ あ……!」
男「何だよ。べ、別に見てないからな」
幼馴染「違うよ〜、ここハンドタオルないの?」
男「は?」
幼馴染「ボク背中、タオルないと洗えない」
男「あ、あーー…手で洗えば?」
幼馴染「うーん…肩痛めてから後ろうまく届かなくなっちゃって…」
男「…そうか。すまんタオルは水カビ臭くなるから風呂場には置いてない…」
男「お前の分も持って入ったらよかったな」
幼馴染「ならしかたないかー」
ナツキはリトルリーグ時代ピッチャーとして活躍しすぎて、肩を壊した。
それがきっかけで大好きな野球を続けることが出来なくなった。
最近は少ない球数限定で普通にキャッチボールをしているから、とくに大きな心配はしていなかったのだが、
怪我はおもわぬ形で後遺症となっていたようだ。
男(ナツキをとめてやれなかったのは俺の責任だ……)
幼馴染「背中ながしてー」
男「えぇ…」
男(とんでもないことをあっけらかんといいやがって)
214: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/06(日) 22:42:15.06 ID:TYbJ54zoo
幼馴染「だめ?」
男「…」
ナツキは一生懸命背中に手をのばしながらわずかに顔をしかめる。
肩関節の可動域がせまくなって、無理に伸ばすと痛みが走るのかもしれない。
男「む、無理すんな!」
勢いよく湯船から上がった俺は、ナツキの背後に膝を立てて座る。
背中越しにスポンジネットをうけとって、すくった泡をゆっくりと綺麗な背中にふわりと乗せた。
大きな泡の塊が重力に従って、ずりずりと背中のラインを滑り落ちていく。
やがてビキニパンツとお尻の隙間にすぅっと溶けるように入り込んでいった。
幼馴染「うひっ。変なとこはさわらないでね?」
男「泡のっけただけだろ。お前こそ変な声はだすなよ!!!」
幼馴染「ご、ごめ…。えへへ」
試着室で見た背中にすらドキッとしたのに、それがいま濡れたことにより艶めかしさを遥かに増して目の前にある。
ナツキは異性に対しての警戒心を持っていないのだろうか。
俺が欲望のままに腕をのばせば、背中だけでなく胸や脚、ナツキの大事な部分にだって触れることができる。
幼馴染「…アッキー? どうしたのー」
ナツキが早く早くと体を揺らし、それに伴って目の前でぷらぷらとビキニ紐の結び目が左右に振れる。
この結び目を説いてしまえば、ナツキは簡単にむき出しになってしまう。
男(俺男なんだからな…お前無防備すぎるぞ)
相手に信頼されているという心地よさとは裏腹に、全く男扱いされていないのではという不安がよぎった。
男「ほんとに洗うからな。後悔すんなよ」
幼馴染「いいよーはやくして」
215: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/06(日) 22:46:29.08 ID:TYbJ54zoo
 
いよいよ手のひらでナツキの素肌に触れる。
腕をつかんだり肩をタップしたり尻を蹴ったりというボディタッチはたまにあるが、
こうして手のひらでじっくりと触れる機会などない。
男(別にやましいことなんてない…身体あらうだけなんだから)
しかし俺は男で、目の前の幼馴染は女。
それも一般的にみて可愛い部類……だと思う。
男(昔から人気あるもんな。うん…)
肌はこんなにつやつやですべすべで、水を弾く張りがある。
こんな危険なものを直接触っていてはあっというまに理性が限界を迎えそうだ。
細い背中を撫でるように全体に泡を行き届かせる。
幼馴染「んひっ」
男「変な声ださないって約束したよな?」
幼馴染「うひっ、あはは、なんか…っ、思ったよりくすぐったいから……ねー」
男「こっちみるな!」
振り返ろうとしたナツキの後頭部をつかんで強引に前を向かせる。
俺のいまの姿を見られるわけにはいかない。
俺は深呼吸を繰り返しながら、無心でナツキの背中を洗い続けた。
幼馴染「ん…ん…?」
幼馴染「あのさアッキー、背中の紐邪魔なら外していいよ…?」
男「え」
幼馴染「さっきから何回かひっかかってるでしょ」
男「いや…そんなことないけど」
幼馴染「ボク前おさえてるから大丈夫!」
216: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/06(日) 22:49:53.88 ID:TYbJ54zoo
男「…」
思わず生唾を飲み込んだ。
男(なにをしていいって?)
男(これか? これをほどいていいのか?)
それは魅力的な提案だった。
幼馴染「………と、とらないならいいけど」
男「わかった。とる」
一生に一度あるかないかの機会だ。
俺はためらいなく目の前に垂れ下がる結び目に指をかけて、ひっぱった。
するするりと紐が解かれて、左右にわかれる。
幼馴染「はうっ」
はらりと紐が垂れ下がると同時に、ナツキは胸をかばいながら少し前かがみに背中を丸める。
丸まった背中からわずかに背骨が浮き出ている。
ナツキのしぐさも相まって先よりもずっといやらしく見えた。
217: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/06(日) 22:51:53.22 ID:TYbJ54zoo
男「ほんとにほどいてよかったのか」
幼馴染「い、いいから…ボクがイイって言ってんだからいいの!」
男「あ、そう」
ペタッ
幼馴染「あぁぅ…んぅ…」
スリスリ…
男「つーかもうだいたい洗えてるんだけどな」
男「こんないつまでも背中洗う意味あんのかよ」
幼馴染「だっていつもはボク、タオルでゴシゴシするから、泡だけじゃすっきりしないんだもん」
男「じゃあもうちょい強めに? あんまりこするのは肌によくないんだけどな」
ごしごし
幼馴染「…っ、あぁ…うぅん…くすぐったい」
ナツキの肌はすべすべでもちもちだった。
このままずっと触っていたいと思った。
背中だけでなく、もっといろんな場所に触ってみたい。
ナツキがどんな反応をするのか、いちいち確認したい。
叶わない欲望を押しとどめて俺は洗い続ける。
 
219: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/06(日) 22:56:17.58 ID:TYbJ54zoo
 
 ・ ・ ・
幼馴染「ありがとー。すっきりした」
男(よく耐えた。俺偉い…)
幼馴染「じゃあ交代!?」
男「え…」
幼馴染「ボクも背中ながしたーい」
男「…まじ?」
幼馴染「? 洗ってもらったお返しにね♪ 一緒にお風呂の醍醐味じゃん」
男「…」
幼馴染「ていうか最初からアッキーがそのタオル貸してくれたらこんなことしなかったんだけど」
男「これはいま俺にとって水着代わりだからだめです」
幼馴染「…ねー反対むいてよ。はーやーくー」
男「…おう」
男(もうどうにでもなれ)
ナツキのテンションに流されるがままに俺はくるりと背を向ける。
目の前の鏡には股間でタオルをふくらませる自身の情けない姿が映った。
一方でナツキの姿は俺の体に隠れてしまってほとんどみることができない。
幼馴染「ちょっとそのまま待っててね。すぐだから」
男「?」
幼馴染「んしょ」
鏡に映る俺の身体の背後から、焦げた腕が真横に伸びる。
手になにか持っている。布だ。
ナツキはカラフルな布を浴槽のふちにひらりと掛けた。
男(お、おいおい…)
くもりかけた鏡でもはっきりと分かる。
それは間違いなく、さきほど俺が紐を解いてやった水着だった。
 
221: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/06(日) 23:01:33.78 ID:TYbJ54zoo
男(脱いでしまったのか!? バカなのか!?)
余談だがナツキはテストで80点以上をとったことがない。
幼馴染「そのままねー。振り向かないでね」
おそらくいまナツキは水着で覆われていた部位、胸と股間を洗っているのだろう。
男(そりゃ洗ってないもんな。洗うよな…)
幼馴染「はいオッケー。じゃあ背中洗うよー」
そして唐突にナツキの泡だらけの手がべしゃりと背に押し当てられ、上下に動き始めた。
こいつは間違いなくいましがた胸を洗った流れで俺の背中を洗っている。
鏡の隅を確認すると、水着はいまだにそこに掛けられたままだった。
男(ぜ、全裸……?)
男(こいつ…恥ずかしくないのか?)
ナツキの無防備さに軽くめまいがする。
男(夕方はあんなに怒っていたのに。いまはお互い裸だからセーフ?)
男(わからねぇ…こいつがわからない)
幼馴染「アッキー背中ひろいねー」
男「いや…な、ナツキ…あの、お前いま」
幼馴染「…んぅ? なに?」
幼馴染「あ、絶対振り返っちゃダメだよ! えへへ。ごしごし」
男「わかってるっ」
おそらくナツキは水着を脱いだことが俺に気づかれていないと思っている。
だらりとかけられた水着が鏡にばっちり映り込んでいることなど露知らずなのだろう。
222: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/06(日) 23:04:14.46 ID:TYbJ54zoo
幼馴染「ごしごし」
幼馴染「強さこんなもん?」
男「あぁ…適当でいいんだぞ。物足りなかった自分で洗うし」
幼馴染「わざわざ一緒に入ってもらったお礼だからー。これくらいかなー」
ナツキの手の平が思った以上にやわらかい。
何度も血豆をつぶしているはずなのに、俺とのこの差はなんなのだろうか。
男「そんなお礼いらないんだけどな」
俺の中では悶々とした気持ちが激しさを増していた。
いま真後ろでナツキは一糸まとわぬ素っ裸で俺の背中を洗っている。
だが肝心のその姿は鏡に映ることはなく、俺の自身の体によって遮られてしまっているのがもどかしい。
振り返るなり、体をずらすなりすれば、簡単に見ることはできる。
しかしナツキは俺に全幅の信頼を寄せるからこそ、いつも無防備で無邪気でいられる。
一過性の欲求でそんなナツキを裏切ることはできない。
223: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/06(日) 23:07:36.56 ID:TYbJ54zoo
男(だけどこんなの生殺しだろ…)
男(お前は悪魔なのか?)
幼馴染「ごしごし。かゆいところはー…ってそれは頭あらうときかーー」
幼馴染「あったら言ってねー」
必死に目をつぶってもナツキの妙に優しい手つきの感触が襲ってくる。
明るくて楽しそうな声が洗い場に響く。
脳裏に一瞬焼き付いた夕方の光景がフラッシュバックする。
男(なんでお前は追い詰める…。なんか悪いことしたか)
からかわれてるだけならいくらかマシだ。
ナツキの場合はそうではないのだろう。
天然なのか底なしのアホなのか。あるいはその両方か。
ナツキは頼んでもないのに脇腹や脇の下をさすったり、尻の上の方まで手を滑らせて俺の体を洗い続けた。
男「……」
幼馴染「〜♪゙ 〜♪゙」
これってカップルでやることなんじゃないのか等と疑問に思いながら、
小さな手で身体をなでられるくすぐったさと気持ちよさに俺はしばらく酔いしれた。
224: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/06(日) 23:11:58.90 ID:TYbJ54zoo
幼馴染「はいおしまい♪」ペチン
男「…ッ」
男「どーも。すっきりしたよ」
幼馴染「あ、まだ振り向かないでね。ボクがいいっていうまで! 絶対にね!」
無闇に指摘して、ナツキを恥ずかしがらせる必要はない。
俺はあたかも気づいてない振りをして、ナツキが水着を再び着用するのを座して待つのみだ。
男「わかってるから。早く頭洗ってあがろうぜ」
幼馴染「うん!」
だがナツキの天然っぷりは俺の予測を遥かにうわまわっていた。
幼馴染「じゃあついでに頭も洗ってあげるね。くふふ」
男「え、いや…頭ってのは俺のことじゃなくて…」
男「あっ、ばかっ、立つな!」
おそかった。
ナツキはシャンプーボトルを手に、立ち上がってしまった。
鏡に映る俺の頭上に突如現れたナツキの上半身。
日焼けしていない張りのある白い胸。
流れかけの泡をわずかにまとってテラテラと艶めかしく光っている。
もちろんなにも隠すものはないので、胸の先端にある血色の良いピンク色の突起までばっちり映ってしまった。
225: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/06(日) 23:17:16.50 ID:TYbJ54zoo
男「おそかったか…」
幼馴染「……? あ…」
そしてナツキはここでようやく鏡の存在に気づいたようだ。
幼馴染「あれ……?」
鏡ごしに裸の少女と目があう。
まんまるな目をパチクリとさせて、口がぽかんと開かれている。
状況を理解して、あどけない顔があっというまに羞恥に染まっていく。
幼馴染「あ…あ……」
男(やばい…叫ばないで…)
俺は諦念しつつも、見てないですと精一杯首を振る。
幼馴染「〜〜〜〜っ!!?」
その後、言葉にならない叫び声とともにシャンプーボトルが頭上から勢いよく俺の頭めがけて振り下ろされた。
 ・ ・ ・
男「俺が悪いのか?」
幼馴染「むーーーっ」ブクブクブク
男「すいません……」
幼馴染「む〜〜〜〜っ!!」ブクブクブク
男(今日はなんて日だ…)
幼馴染(また見られちゃった…ボクもうお嫁にいけないじゃん…)
第四話<お泊り>つづく
 
228: 以下、

生唾飲んだわ
231: 以下、
おバカだなぁ…
かわいいなぁ…
237: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 21:26:50.86 ID:i9AKzMDto
第四話<お泊り>つづき
風呂あがり、ナツキは頭をタオルでわしゃわしゃと拭きながらバラエティ番組を見ていた。
何か飲むかと呼びかけても反応はなく、ずっと画面に向かったまま黙りこくっている。
男(いくらなんでもあれはショックだったか)
ナツキのあられもない姿を見てしまった。
いつもの際どい姿ではなく、何も隠すもののない丸出しのヌードだ。
思い出そうとすると殴られた後頭部が痛む。
男(胸綺麗だったなー…)
男(って…俺最悪だな…)
男「おーいナツキ…長風呂したんだから水分とれよ」
男「聞いてんのかー」
幼馴染「……むぅ」
男「俺が悪かったから。そんなに怒るなよ」
幼馴染「……むー」
男「一緒に入った時点でああなる可能性はあっただろ…」
男「お前もそれをわかった上で、俺を誘ったんじゃないのか」
幼馴染「つーん」
男「つーんじゃなくて…」
238: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 21:29:01.25 ID:i9AKzMDto
幼馴染「元はといえばアッキーがあんな怖いゲームさせるからだもん」
男「ぐ…」
俺に非があったのは間違いない。
真っ暗な部屋で、仮にも女の子にやらせるゲームではなかった。
ナツキのメンタルが思ったより軟弱だったのも誤算だった。
男(マウンドでは強気なくせに…)
男(意外とギャップのあるやつなんだな)
長年幼馴染をしていても、いつもすることが同じではお互いの本当の内面は見えてこない。
今日は普段やらないようなことにたくさん挑戦した。
だから、ナツキのいろんな一面を見た気がする。
男(…のはいいんだけど、機嫌が戻らないのは厄介だな)
後ろ姿はあからさまに不機嫌なオーラを放っている。
急に泊まることになったナツキは替えの服を持っておらず、風呂あがりは俺が貸したぶかぶかのシャツを羽織っている。
姉の寝間着を借りてもよかったが、勝手に部屋に侵入してタンスをひっかきまわす勇気はなかった。
男(こうしてみてるとノーパンみたいでちょっとエロいな)
男(あー違うっ、俺がこんな目でナツキをみてるからきっとあいつは怒ってんだ)
男(いつも通りをこころがければいいんだ)
239: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 21:31:14.38 ID:i9AKzMDto
男「ナツキー…ゲームしようぜ」
幼馴染「……やだ」
男「怖いやつじゃないから…」
幼馴染「やだ」
ナツキはこちらに振り返ろうともせず、テレビのザッピングを始める。
男(こうなったら切り札だ)
男「あー、そういえば冷凍庫に1つだけアレがあったなぁ」
幼馴染「…!」ピク
男(この反応…おそらく知ってるなこいつ)
男「あれぇ、なかったっけなぁ。もう食っちゃったんだっけなぁ」
幼馴染「…」ソワソワ
俺のわざとらしい独り言にナツキは露骨に反応して、こちらの様子をチラチラと伺いはじめた。
男(わかりやすいやつ)
そう、いま我が家の冷蔵庫には一つだけ、買い置きしていた高級カップアイスがある。
俺と姉の好物で、ナツキも大好きな抹茶味だ。
いつもナツキの食べているシロクマバーなんて目じゃないくらい高い。
ナツキはここ数日散々うちの冷蔵庫を荒らしまわったのだから、必ず見つけているはず。
見つけてもほしいほしいと言い出さなかったのは、これが俺にとって大切なデザートだとわかっていたからだろう。
 
240: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 21:34:48.32 ID:i9AKzMDto
 
男「おーあったあった。まだ食ってなかったかー」
ナツキの様子伺う。。
一瞬目が合うと、慌ててテレビのほうに向き直した。
男(そりゃほしいよなー)
男「お前の麦茶ここにおいてるからな!」
幼馴染「……ぅ〜〜」
男「あぁかき氷したかったらしてもいいぞ。氷つくってあるから」
幼馴染「…う〜〜」
男「さて、風呂あがりのお楽しみといったらこれだよな〜♪」
幼馴染「うううう!」
カップアイスのいかにも高級そうなプラスチックの蓋をあけて、さらにその下でしっかりと封をしてあるビニール製の蓋を剥がす。
裏側にはアイスが薄く付着していた。
男(あいつだったら全部舐めそうだな)
男「カチカチだなぁ。もうちょっと溶けるまでまつかなー。うまそー」
本当にうまそうだ。一度に2個食べても飽きないうまさだ。
当初の予定ではナツキを釣りだす餌にするはずが、すこしだけ勿体無く思えてくる。
幼馴染「あっ、あっ…」
男「何」
幼馴染「ボクの……ぶんは…」
男「え、これ一個だけど? お前が泊まりにくるなんてしらねーし」
幼馴染「…夕方買い物いったのに」
男「これ買ったの結構前でな。さっきたまたま残ってるの思い出したんだよ」
241: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 21:37:03.24 ID:i9AKzMDto
幼馴染「…」
男「何。ほしいの」
幼馴染「…」コク
男「夕方あんなにかき氷くったのにまだ甘いもん食うの」
幼馴染「…」コク
男「じゃあ機嫌なおしてくれるか?」
幼馴染「うんうん! もう忘れた!」
男「ならしかたないなー。ほら」
ナツキの側に寄ってカップアイスとスプーンを手渡す。
ナツキはご褒美をもらう子供のような晴れやかな笑顔でうけとった。
幼馴染「おー、カチカチ」ツンツン
幼馴染「全部くれるの?」
男「いいよ。俺はまた今度買うから」
幼馴染「ありがと〜♥」
これ一つで機嫌が元通りになるなら安いものだと思うが、この程度で懐柔されるうら若き乙女の存在に少し不安になった。
男(仮にもお前、裸みられて怒ってたんだぞ…)
男(知らない人にお菓子もらってもついていくなよ?)
242: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 21:39:40.66 ID:i9AKzMDto
何事も物で解決しようとするのはよくないことはわかっている。
きっと口の回る男なら言葉だけで女を上機嫌にできるのだろう。
口下手な俺にはそれが出来ない。
男(まぁいっか…)
幼馴染として、ナツキが笑顔でさえいてくれたらそれ以外はどうでもよかった。
俺がぶっきらぼうでガサツな事なんてナツキはとっくにわかっているだろうし、
いまさら女性を相手にするような気取った態度を取る必要もないのだろう。
いままでもこれからも俺たちの付き合い方がかわることはない。
ナツキと一緒にいると出費はかさむし、時には気疲れすることもある。
だけどそれ以上に楽しい。
だから楽しみにしていた抹茶アイスが食べられなくなっても、俺は今満足している。
男(それにしても甘やかしすぎかなぁ)
幼馴染「〜♪ もうちょっとかなー」
ナツキはカップを手のひらでこねくり回しながら食べごろまで溶けるのを待っている。
頭を乾かしている途中であることなどすっかり忘れてしまったようだ。
 
243: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 21:42:03.02 ID:i9AKzMDto
男(どうせ甘やかすならもうこの際だ)
俺はナツキの背後にあぐらをかいて座り、首にかけてあるタオルをひったくった。
幼馴染「?」
男「頭拭いてやるから、食ってていいぞ」
幼馴染「え? ほんと? サービスいいね」
男「ゲストサービスだ」
幼馴染「くふふ。王様みたい」
男「いいから前向いてろ」
幼馴染「はぁい。よろしくー」
ナツキは俺の胸元に背をあずけるようにもたれかかってくる。
目の前の丸い頭からシャンプーの匂いが漂って鼻孔をくすぐる。
またも思いがけないナツキの行動に俺の心臓はついつい高鳴ってしまう。
男「おい…」
男「まっすぐ座ってろよ…」
幼馴染「…ん? だってこのほうが楽だもん。アッキーも拭きやすいでしょ」
ナツキは足を伸ばしてすっかりだらけきっている。
男「こら……しかたないな」
幼馴染「はむ……んー、冷たくて甘くておいしい」
男(これじゃ子供か妹を相手にしているようなもんだな)
余談だがナツキは夏うまれで俺は同年秋うまれ。
納得いかないがナツキのほうがわずかにお姉さんだ。
 
244: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 21:46:22.47 ID:i9AKzMDto
わしゃわしゃ
男「髪の毛ちょっと伸びてきたんじゃないか」
幼馴染「うーんそうだねー。暑いしもうそろそろ切ろっかなー」
幼馴染「あーでもまだダメ」
男「なんで。いつももっとさっぱりしてるだろ」
幼馴染「いいの。いまはボクこの長さが気に入ってるもん」
幼馴染「スポーツやってるわけでもないし、ちょっとくらいおしゃれしたっていいじゃん」
男「そうだけど」
幼馴染「短いほうが好き?」
男「好きっていうか……乾くのおもったより遅くてめんどくさくなってきた…」
わしゃわしゃ
幼馴染「あはは。最後までちゃんと拭いてね〜、はむっ」
男「贅沢しやがって…」
アイスも髪の毛の件も俺自らすすんでやっておきながら、だんだんと恨めしい気持ちが沸いてくる。
他人の頭を拭くのは意外と重労働で、じんわりと全身に汗をかいてきた。
ナツキがもたれかかっているのも地味に暑い。
王様気分のナツキの手元のアイスを覗きこめば気づけばもう半分以上を平らげていた。
それとは別に、ぶかぶかでゆるい胸元から覗く二つの白い膨らみが目にとまった。
あきらかになにも付けていない。
男(なんでブラしてないんだ?)
男(あ……、洗濯機に入れてたっけ)
男(さすがに姉ちゃんから借りるわけにはいかないしなぁ…サイズ違うだろうし…)
男(あ゙ーー見てない見てない!)
245: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 21:49:54.96 ID:i9AKzMDto
俺は意識を必死に目の前の頭頂部に向ける。
それでも年頃のオスとしてのスケベ心はおさえきれず、視線はチラチラとナツキの胸元へと向かってしまう。
自然と風呂場での出来事が脳内をかけめぐる。
あのときのナツキの恥ずかしそうな顔は年に何度も見られるものじゃない。
うちにたくさんあるアルバムをどれだけめくっても、写真には残っていないだろう。
幼馴染の俺にとってもかなりのレア顔というやつだ。
幼馴染「手とまってるよー?」
男「あ、あぁ…ちょっとテレビ見てたんだよ!」
幼馴染「家来のくせにさぼるでない」
男「お前…してもらってる立場で文句いうな! このっ」
わしゃわしゃわしゃ!
幼馴染「えへへ。そんなにするのやーめーてーよー」
胸元を隠す様子はない。
ナツキはあまりにも無警戒無防備すぎて、わざとやっているんじゃないかと勘ぐってしまうほどだった。
男「よし、もうこんなもんでいいだろ」
ナツキの髪の毛を何度か手でさわって撫でる。
湿り気はあまり感じない。
幼馴染「おわった?」
男「んー、まぁいいんじゃないか」
男(こんな時間かかるならドライヤー使えばよかった…)
幼馴染「はい。おつかれさま」
幼馴染「そなたに褒美をとらせよう」
そういってナツキはスプーンをこちらに向かって突き出す。
先には溶け始めたアイスがたっぷりと乗っかっている。
 
246: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 21:51:59.59 ID:i9AKzMDto
 
男「え…なに、くれるの」
幼馴染「うん!」
男「……」
幼馴染「褒美じゃぞ〜」
男(いやぁこれ…アレだよな)
ナツキはぐいぐいとスプーンを俺の口元へと持ってくる。
幼い頃から回し飲みや間接キスの類なんて二人の間で当たり前のようにしてきた。
意識なんてしてないはずなのに今日は妙に気恥ずかしい。
ナツキのぷるんとした唇につい視線が向かってしまう。
幼馴染「…?」
この唇でくわえて、やわらかそうな舌で何度も舐めたあとのスプーンを口に運ぶことがためらわれる。
おまけにこれは俗にいう『あーんしてあげる』という行為だ。
普通はカップル同士か、相当気を許した相手にしかできない。
男(お前さ、ほんとに俺のことどう思ってるんだ)
幼馴染「ほらほら〜。はやくしないとボクが最後まで全部たべちゃうよ〜。んあー」
男「わ、わかったよ」
意を決してスプーンにかぶりつく。
冷たくてとろける食感。
強烈な甘さの中にあるわずかな抹茶の渋み。
247: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 21:54:01.92 ID:i9AKzMDto
男「甘……」
幼馴染「でしょ? ごちそうさま〜♪」
幼馴染「お母さん安いのばっかり買うからこれ滅多に食べられないんだよねー」
幼馴染「またボクが来る時に買っておいてね!」
男「……あぁ。って毎日来てんだろ!」
ナツキの本当の心のうちはわからない。
だけど俺達の間柄は決して悪くなく、むしろ良好だと思う。
何度喧嘩したって、不機嫌になったって時間が解決してくれて、またこうしてじゃれあうことができる。
冷たいアイスが喉を通って胃にすべりおちても、体温はちっとも下がらずにむしろ上昇していった。
男(暑い…エアコン買わなきゃな…)
 ・ ・ ・
幼馴染「ふあーー」
男「そろそろ寝る準備するか」
幼馴染「ボクどこで寝るのー。まだ別に眠くないけど…」
男「んーっと」
幼馴染「ボクの布団かわかないねー…どうしよ」
男「なら…俺の布団?」
幼馴染「わー大胆!」
男「一緒なわけねぇだろ! 貸してやるって言ってんの!」
248: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 21:55:43.48 ID:i9AKzMDto
幼馴染「えっへへ。じゃあアッキーはどこで寝るの?」
男「俺は親父の部屋で」
ガシ
男「…」
幼馴染「ここに居てクダサイ」
男「…怖いのか」
幼馴染「…!」コクコク
男「じゃあ俺は座布団敷いて寝るよ。夏場でよかった」
幼馴染「ごめんね。今日だけ布団借りるね」
男「あぁ。その代わりおねしょとかすんなよ」
幼馴染「す、するわけないじゃん! 何歳だとおもってんの」
男「とりあえず準備する…」
 ・ ・ ・
シャコシャコシャコシャコ
寝る前、ナツキは歯を磨いていた。
男「なんだその歯ブラシはどうした」
幼馴染「? ぼふの」
男「あ?」
幼馴染「洗面所の棚から新品の見つけたから開けました」シャコシャコシャコシャコ
男「当たり前のように生活に侵食してくるお前が怖いっ!!」
幼馴染「そう? ボクのほうが怖いよ(?)」
249: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 21:59:49.62 ID:i9AKzMDto
ナツキには昔から遠慮という感覚があまりない。
冷蔵庫は勝手に開けるし、何か備品を使うにしても断りを入れることもない。
もちろんそれを咎める人間はうちには誰一人いないし、俺自身もさほど気にしない。
うちにとってほとんど家族の一員ような存在だ。
幼馴染「使った後どうすればいい?」
男「そうか、じゃあこの空いてるコップにでも立てかけとけな」
幼馴染「うん、ほうする」シャコシャコシャコ
昔は泊まりの時はナツキは必ずおばさんにお泊りセットなるポーチを持たされていたことを思い出す。
旅行用のコップ付きの歯ブラシやタオル、ミニサイズのボディーソープなど必要最低限のものが詰まってる。
今日は突然の決定だったのでもちろん持って来ていない。
幼馴染「歯磨き出きてよかったー」シャコシャコ
幼馴染「今日甘いものいっぱいたべたからさー」シャコシャコ
男(……いやおかしいぞ? 俺は一度ガツンと言うべきなのか?)
あまりに慣れすぎて感覚が麻痺している。
一般的な友人関係なら、おそらく怒るのが正しい…と思う。
なにせ人の家の新品の歯ブラシを勝手に開封して自分専用にしているのだ。
ユウジがうちで同じことをしたら多分怒る。
幼馴染「くちゅくちゅくちゅ…ぷぇ」
250: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 22:02:39.38 ID:i9AKzMDto
男「……」
幼馴染「あのさぁ。ボクの歯磨きなんて見て楽しい?」
男「…あっ、俺そんな見てたか」
幼馴染「心配しなくてもちゃんと綺麗に磨いてるよ」イー
幼馴染「ね?」
男(そんな心配はしてない)
男「歯綺麗だな」
幼馴染「歯医者さんにも言われたー」
ナツキはめちゃくちゃ歯並びがいい。
おまけにつやつやで白い。甘いモノが好きなくせに虫歯の経験はない。
昔はかみ合わせが少し悪かったそうだが、小学生の頃に1年ほどかけて矯正してからしっかり踏ん張れるようになって球の威力がぐっとあがった。
幼馴染「ねぇところでさ、そこにある歯ブラシのような歯ブラシじゃないような、先っぽが平べったい歯ブラシは何?」
男「?」
またわけのわからないこと…を思った矢先、ナツキは洗面台に立てかけられたある物にむかって指をさす。
男「あぁそれは俺がこないだネットで評判見て買った舌ブラシだ」
幼馴染「した? ベロ?」
男「ベロ。変な形だけど、これがうまく舌の形にフィットして、舌苔を取るんだぜ」
251: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 22:05:35.89 ID:i9AKzMDto
普通の歯ブラシで舌をこするのは、刺激がつよすぎて舌の細胞が死んでまうそうだ。
なので舌にやさしいが効果絶大の舌ブラシが近年話題となり、俺と姉は評判にのせられて購入してみた。
男「これが結構気分爽快で、例えば牛乳とか飲んだあとでも舌がきれいなピンク色に〜」
幼馴染「なんだ使い方あってた」
男「……」
男「は? お前何言って……おいナツキお前まさかッ」
幼馴染「………はぅっ!? う、うそだよ!? つかってないよ?!?」
男「こら。こっち見ろ」
幼馴染「……ぅ」
男「俺今日つかってないのになんでブラシの部分湿ってんだ」ピトッ
幼馴染「ああああっ、ちっ、違うの! どんなもんかなーって気になって…」
幼馴染「濡らしてみただけだから!」
男「使ったんだな…」
幼馴染「……」コク
なかなか嘘はつけないタイプだ。
勝手に使うにしてもこうして時々度が過ぎたことをする。
男(普通使うか? 曲がりなりにも口につっこむ物だぞ)
本当に脳みそがアイスのように溶け出しているのではと心配でたまらない。
年頃の女の子として、異性の私物を使う抵抗はなかったのだろうか。
それ以上に未知への興味が勝ってしまったのだろうか。
252: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 22:09:11.75 ID:i9AKzMDto
男(はぁ…高いもんでもないし買い替えるか…)
男(このまま使ったら俺が変態だよな…)
幼馴染「怒ってる…?」
男「興味本位で人の物に手を出さないこと」
幼馴染「ごめん……使う前と後にちゃんと洗ったから…」
幼馴染「アッキーの物っぽかったし、いいかなって思っちゃったんだよ…」
男「…はぁ。使ってしまったものは仕方ない」
幼馴染「でもボクのベロ綺麗になったでしょ! んえーっ」
男「…ッ見せなくていいから! つーかそんなしっかり磨いてんじゃねぇよ」
幼馴染「れろれろ♪」
男「バカにしてんのか! そうなんだな!?」
ナツキは健康的なピンクの舌をつきだして見せつけてきた。
歯をみがいて口をゆすぐだけでは不可能なほどに綺麗になっている。
抹茶アイスを食べたあとだとは到底思えない。
幼馴染「気に入ったからおんなじの買おっと♪ あー口の中スッキリ」
男「お前が来るたびに謎の出費にさいなまれている気がする」
幼馴染「弁償しようか…? ごめんねボクのささやかな貯金からで良ければ」
男「いらねーよ…」
253: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 22:11:10.40 ID:i9AKzMDto
 ・ ・ ・
男「電気消すぞ」
幼馴染「あ、待って…豆球にして」
男「……おやすみ」
幼馴染「ねーアッキー…」
男「……寝るから」
幼馴染「何か話しようよ」
幼馴染「泊まるの久しぶりじゃん。夜更かしできるじゃん」
男「…俺今日疲れた」
体力的にも精神的にも過酷な一日だった。
今日だけでどれだけナツキに振り回された事か。
頭の中で今日起きた出来事が巡る。
ナツキがスカートを履いて、
ナツキが水着になって、
ナツキが裸でシャワーあびていて、
ナツキと風呂に入って、
ナツキの全裸を見ちゃって、
ナツキがもたれかかってきて……。
男(あぁ…なんでだ。エロいことしか浮かんでこない…寝よ寝よ)
幼馴染「しりとり、しよ。アッキーから」
男「しない」
幼馴染「い……イップス!」
男「しないから…寝てくれ」
幼馴染「むーーつまんな……ねーもう寝た? ねーー…」
幼馴染「……ゔっ」ブルッ
254: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 22:13:49.05 ID:i9AKzMDto
ナツキのボソボと呼びかける声を聞きながら意識が薄らいでいく。
庭から聞こえる虫の大合唱もだんだんと遠のいて聞こえなくなった。
まぶたが重い。
男(おやすみ…)
ようやく寝付ける。
幼馴染「ねぇ…ねぇってば…アッキー…」ユサユサ
男(と思ったらこいつは…!)
幼馴染「ねぇってば…ちょっとだけ起きて…困ったことがおきて」
男「遊ばないって言ってんだろ」
思わずナツキの脳天に手刀を振り下ろしてしまった。
幼馴染「ぎゃっ、痛いっ! 出ちゃう」
男「なんだよ…早く寝ろよ…まだ何かあるのかよ」
幼馴染「あ、あのね…」
薄暗がりで表情はよく見えなかったが、ナツキは内ももをこすり合わせるように揺すってもじもじしていた。
その動きだけでなんとなく要件の見当がつく。
しかし俺は眠気のピークで不機嫌極まりなく、薄いタオルケットを頭まで被ってそっぽを向いた。
何を言おうとしてるのかわかるだけに付き合うのがめんどうだ。
幼馴染「あーん、だめ寝ないでっ」
255: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 22:16:23.27 ID:i9AKzMDto
ナツキは諦めずにしつこく俺の体を揺さぶってくる。
男「……何。安眠妨害だぞ。うちでは死罪と決まっている」
幼馴染「おしっこ」
男「…んなもん一人でいけよ何歳だよ…」
幼馴染「こ、こわい…漏れそう」
男「……」
男(本当にホラーゲームなんてするんじゃなかったな)
男「ったく…せめて寝る前に行っとけよ…」ムクリ
俺は眠い体を半分起こして、ナツキに手を差し出して立たせてもらう。
幼馴染「電気つけないの?」
男「まぶしいし、虫…」
縁側の長い渡り廊下を歩く。
古い板張りの廊下は2人分の足音でギシギシと軋んだ音を立てた。
真っ暗で視界が悪い。
暑さ対策に庭側の戸をすべて開け放っているので、この時間に灯りをつけると虫がわんさか家の中に入ってしまう。
男(こんなときに古くて広い家はめんどいな)
ナツキの歩みはすこぶる鈍く、つい置いていきそうになる。
男「早く来い。お前が我慢してるんだろ」
幼馴染「だってぇ…」
256: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 22:20:07.12 ID:i9AKzMDto
わずか数10mの距離だが、ナツキは俺のシャツの裾を掴んで、背中に寄り添うように歩いていた。
男「ついたぞ」
幼馴染「あっ、あっ」
ナツキは急に駆け足になって慌ててトイレに駆け込む。
おそらく間に合ったようだ。
最悪漏らしそうになったら庭にでも蹴りだしてやろうかと思っていた。
男「…戻っていいか。帰りはお一人で」
幼馴染「だ、だめっ、すぐだから」
扉の前で眠たい目をこすって待っていると、中から勢いの良い水音が聞こえた。
男「…」
幼馴染「…! あっ、ああ」
幼馴染「あ、あのね! ボク家ではちゃんと夜中一人でトイレいけるし、全然怖くなんてないんだけど」
幼馴染「この家古いし絶対お化け住んでるし、それにあんなゲームしたあとだしこのトイレ超広いし電気つけても暗いし―――だからねっ」
ナツキはトイレの中から焦ったような早口でまくし立てる。
男(わかるよ。お前の気持ちはわかるけど…)
男「ナツキちゃんさぁ、そういう時は普通トイレ流しながらするよね」
幼馴染「あっ! あーあーあーっ、聞かないで…あっちいって」
男「いいのか戻って」
幼馴染「あ゙ーーーだめそこにいて。あっ、でも聞くのはだめっ」 
男(アホだ…)
257: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 22:23:16.24 ID:i9AKzMDto
男「よ。結構我慢してたんだな」
幼馴染「……」
男「2リットルくらい出た?」
幼馴染「うるさいなぁ…っ!」
女にかける言葉ではなかったかもしれないが、どうせナツキ相手だし、寝付こうとしていた所を無理やり叩き起こされた恨みもある。
早足で居間へ戻ろうとしたら、ナツキは再びぴったりと張り付いてきた。
男「そんなに怖いか?」
幼馴染「こんな時間までいるの久しぶりだもん…」
男「なにも出ないって。幽霊なんて本当にいるわけないだろ…あんなのゲームゲーム」
幼馴染「雰囲気が怖いの!」
幼馴染「こんな家によく住めるね」
男「ならこんな家によく泊まろうと思ったな」
ナツキがぎゅっと手をつかんでくる。
トイレで手を洗ったあとちゃんと拭いていないのか微妙に濡れていた。
男「じゃあ俺寝るから。もう起こすなよ」
幼馴染「……」
男「何。次は大きいほう行きたくなったとか言うなよ」
幼馴染「…あ、あのね…」
ナツキが小声であのねという時は大抵言いづらいことを言い出す時だ。
俺は次は何が飛び出すのかと身構える。
258: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 22:26:54.09 ID:i9AKzMDto
男「なに。もう付き合わないぞ」
幼馴染「天井になんかいる…気がする」
男「……たぶん虫だろ。蛾でも入ったのが飛んでるんじゃないか」
幼馴染「変な音する」
男「冷蔵庫だって。古いから…いつも深夜帯に唸るんだよ」
幼馴染「ううう…」
男「いいかげん離せよ」
手を振りほどこうとしてもナツキは頑なに離そうとしなかった。
ついには俺の手をひきよせて、胸元でぎゅっと抱きしめる。
幼馴染「一緒に寝て…ボクが寝るまででいいからさぁ…」
男「…え゙」
幼馴染「……」
暗がりでよくは見えなかったが、ナツキはきっと不安げな顔をしていたのだろう。
握りしめてくる小さな手から少しだけ震えが伝わった。
男「わかったよ…もう俺も眠いから、寝かせてくれるならなんでもいいや…」
幼馴染「!」
そしてやむなく折れた俺はナツキと背中合わせに同じ布団に寝転がって、一枚のタオルケットを一緒に被った。
男(俺ってなんなんだろうなぁ)
男(普通異性相手にこんな事頼まないよな…)
259: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 22:29:45.75 ID:i9AKzMDto
今日一日を思い返す。
男(やっぱナツキの中ではただの兄弟って感じなんだろうな)
男(なら俺にとってナツキは…?)
俺にとってナツキはなんなのだろう。
夏休み前にユウジに言われた事がもやもやと渦巻く。
今日一日この言いようもない焦燥感に苛まれていた。
家族のような存在と言わればそうかもしれない。
しかしナツキと姉は明らかに違う。
実の姉の裸を見てもなんとも思わないし、見たくないものを見てしまったような嫌悪感すらあった。
だけどナツキの裸は違った。
あの時とても綺麗だと思えて、できることならずっと眺めていたかった。
シミ一つ無い背中に触れた時はドキドキしたし、胸の先端がちらりと見えた程度でいままでにないくらい興奮した。
男(やっぱ…好きなのかな)
背中ごしにナツキの体温が伝わってくる。
すでに吐息を立てていて、怖がっていたわりには案外あっさりと眠ってしまったようだ。
俺は慎重に寝返りをうって、ナツキの後ろ姿をじっと眺める。
綺麗なうなじに汗がうかんでいた。
男(暑いのか)
あせもにならないようにタオルで首筋をぬぐってから、枕元に投げ捨ててあったうちわを拾ってゆっくりと風を送る。
ナツキは微風に少しくすぐったそうに身を丸めた。
こちらの気苦労など知りもしない幸せそうな顔で眠っている。
男(怖い夢見なけりゃいいな)
男(おやすみナツキ)
 
260: ◆PPpHYmcfWQaa 2016/03/09(水) 22:32:37.39 ID:i9AKzMDto
翌朝。
強烈な痛みと蝉の大合唱とともに俺は目覚める。
まぶたをひらくとナツキのかかとが喉元につきささっていた。
男「……げほ、お゙い」
幼馴染「zzz」
ナツキはそんなこと知る由もなく爆睡している。
寝ている間に天地がひっくりかえったのかと思うくらいに布団も枕もめちゃくちゃで、
俺は布団の外に蹴りだされてむき出しの畳の上に倒れこんでいた。
男(これだよ…だから嫌だったんだ…)
幼馴染「zzz」
男「お前とはもう絶対に一緒に寝ない…」
そう胸に誓って俺はナツキの尻を蹴飛ばした。
幼馴染「ふぎゃっ!?」
男「起きろバカ」
幼馴染「あ…ふぁ…朝…? ん〜〜〜っ!」
幼馴染「そうだ、昨日泊まったんだった!」
男「…最初に言うことはそれか? なんか他にあるだろ」ジンジン…
幼馴染「えへ、おはよー♪」
男「…おはよ」
今日もナツキとの暑い一日が始まる。
第四話<お泊り>おわり
 
262: 以下、

くふふって笑い方がかわいくてすき
268: 以下、

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