梨子「101人よっちゃん」back

梨子「101人よっちゃん」


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善子「今日もまた堕天使の身に降りかかる過酷な運命に打ち勝ってしまったわ」
梨子「学校終わっただけだよ?」
善子「他人事だからって簡単に言っちゃって! 一日の不運を乗り切るのがどれだけ大変だと思うの?」
梨子「不運って言ってもちょっと転んだだけじゃ……」
善子「甘いわっ! あの時だって転んで手を付いたすぐ横に画鋲が転がってたんだから!」
梨子「そんな都合良く、じゃなくて都合悪く画鋲って転がってるものなんだね」
善子「普通じゃありえなくても堕天使ヨハネにかかれば日常の中にいくらでも危険がってぎゃああああ!」
梨子「あ! 危な……ああ、また転んじゃった」
 テレッテテレッテテ?♪
梨子「何このゲーム音楽みたいなの……あれっ? よっちゃん? …………き、消えちゃった!?」
梨子「うそ、今ここでべちゃって転んで、それで……え? どこ行ったの? ……よ…………よっちゃんっ!?」
善子「まぁったく酷い目に遭ったわぁ」
梨子「わっ!? よっちゃんどこから出てきたの!?」
善子「はぁい♪ 堕天使のNEWヨハネよ?」
梨子「NEW……?」
2:
善子「あーあ、目の前で見られたからには隠しきれないわよねぇ」
梨子「な、な、なんなの……? 何があったの? 瞬間移動? 目の錯覚?」
善子「そんなに怯えないで? 召喚されたばかりの幼使い魔の方がまだ落ち着きあるわよ?」
梨子「例えがよくわからないよ……」
善子「それにしても転ぶだけで交代するなんて一体……あら、これのせいね!」
梨子「これ? どれ? あ、地面に尖った石が落ちてる。しかも血が付いてる?」
善子「さっき転んだ時頭にグサリと刺さったのよ」
梨子「うわっ痛そう……いやいやそれよりも、転んだよっちゃんが消えて別のところから現れたのは何なの?」
善子「ダメージ受けたから次のヨハネ43番にバトンタッチしたの」
梨子「うん?」
善子《43》「ああっ! 可哀想なヨハネ42番! あんなに惨い最期を迎えるだなんて……せめて冥界で安らかに堕天してね♪」
梨子「何言ってるのぉ……?」
3:
善子《43》「ヨハネはほんっっっっっとうに不運な美少女だから、いつも危険な目に遭ってるでしょ?」
梨子「確かに不運ってレベルじゃないよね」
善子《43》「でも人並み外れた不運の代わりに秘密の力があるのよ」
梨子「秘密の力って?」
善子《43》「なんと! ヨハネには101人分の命が秘められているのっ!」
梨子「???」
善子《43》「はぁん、ステキだわぁ♪ やっぱりヨハネは特別な存在なのねぇ♪」
梨子「よっちゃんが101人?」
善子《43》「そう! 某デ○スニー映画にあるダルメシアン犬の大家族みたいにキリの良い数字ね!」
梨子「良くはないよね……」
善子《43》「とにかくこの体にはわんちゃんみたいに可愛らしい命が101人分詰まってるのよ」
善子《43》「ヨハネの内側から溢れ出る可愛らしさにも納得よねぇ。神様が嫉妬しちゃうのもしょうがないわぁ」
梨子「何言ってるのか全然わかんないよ……」
4:
―――
梨子(昨日は納得できないままお別れしちゃったけど……夢じゃないんだよね?)
梨子(目の前から消えたり別のところから現れたり、それこそ堕天使が使う魔法みたいに……)
梨子(あれ、堕天使って魔法使うんだっけ? 呪文? 儀式?)
善子《43》「はぁい♪ 堕天使の」
梨子「よっちゃん!」
善子《43》「ちょっとぉ! 最後まで言わせなさいよ!」
梨子「ほ、ほ、本当によっちゃんなんだよね!? 本当にっ!」
善子《43》「何よ昨日から同じこと繰り返して」
善子《43》「言ったでしょ? ヨハネは正真正銘の堕天使よ★」
梨子「…………43人目の?」
善子《43》「その通り! やぁっと堕天使に理解を示してくれたのね、嬉しいわぁ」
梨子「まだ全然理解してないけど……」
5:
梨子「…………」
千歌「どしたの梨子ちゃん、善子ちゃんのことずーっと見てるけど。恋? 呪い?」
曜「練習のおサボリは駄目だよーう?」
梨子「ち、違うよ! サボってなんか……」
ダイヤ「何か善子さんに変わったことでも? 頭のお団子が左右逆になってるわけでもありませんし」
鞠莉「実はお団子の中身がみかんになってるとか! スウィーティね!」
善子《43》「ヨハネの髪型はいつも通りよっ! 変にイジらないで!」
ルビィ「ね、ねえ、練習しないの……?」
果南「お喋りスイッチ入ると止まらなくなるからねえ。ほらみんな再開するよー」
梨子(よっちゃんが気になって練習に集中できない……)
花丸(りこよしの波動を感じるずら)
7:
善子《43》「あー今日も練習疲れたわぁ。でもイイ感じの充実感ね!」
梨子「うん……」
善子《43》「そんなに疲れちゃったの? サボってたくせに」
梨子「サボってたんじゃなくてよっちゃんのこと気になってたの!」
善子《43》「えっなに、突然の告白!?」
梨子「ちがうー! 命ストック制の話!」
善子《43》「あら、まだ受け入れられなかったの?」
梨子「簡単に理解なんてできないよっ」
善子《43》「でも目の前で見てたじゃない。だから秘密を教えたんだから」
梨子「そうだけど……」
善子《43》「難しく考えないで今を生きなさいよ。今のヨハネたちはスクールアイドルとして輝いてるわぁ!」
梨子(本人が元気そうだし気にすることでもないのかなぁ……正直ノリについていけないし……)
9:
―――
千歌「おはよー梨子ちゃん! 今日もサンサンサンシャインだね!」
曜「その挨拶なに?」
梨子「え? あ、そうだね、今日もいいお天気」
曜「あーそういう意味」
千歌「梨子ちゃんは私の翻訳係だなあ。曜ちゃん全っ然わかってくれないんだもん!」
曜「私に難しいこと言われても無理だよう」
梨子(……あれ?)
梨子「ごめん、先行くね!」
千歌「え」
曜「行っちゃった……なんだろ?」
梨子(何か……ちょっと……)
梨子「よ、よっちゃん?」
善子《44》「あら梨子ちゃんじゃない。今日も良い堕天日和ね!」
梨子「う、ん……」
10:
善子《44》「……ああ。その話」
梨子「よっちゃんやっぱり……」
善子《44》「よくわかったわね、次のヨハネになったって。見た目も中身も完全に同じはずなのに」
梨子「いつもと違うっていうか、昨日までと違うっていうか……」
善子《44》「今までもヨハネの変化に気付いてたの?」
梨子「今までは別に……あ、でも、お化粧か髪型変えたのかなって思うことはあったかも」
梨子「よく考えたらそういう時にも、その、次のよっちゃん? に、代わってたの?」
善子《44》「どうかしら? 割と頻繁に代わるから自分じゃわからないわね」
梨子「次の順番になったってことは43番は……」
善子《44》「まぁた転んで打ち所悪かったの! 過剰なダメージを受けて次のヨハネにバトンタッチしちゃった」
梨子「ダメージを受けたからバトンタッチしたってこと?」
善子《44》「そう。現生の命が顕現できなくなったら次の命に交代して復活する仕組みなの」
善子《44》「言うなればスーパーマ○オもビックリの命ストック制ね! スーパーヨハネって呼んでもいいわよ!」
梨子「超越したんだ……」
11:
―――
梨子(最初はよっちゃんがまた変なこと言ってるって思ったけど)
梨子(今回のは、いつもの堕天使みたいな話と違うよね……)
梨子(第一目の前で姿消える瞬間見ちゃったし、信じるしかないよ)
梨子(ええと、ダメージを受けたら命が交代して復活、だったっけ?)
梨子(……真面目に考えたら凄く馬鹿らしい気がしてきた……何なの復活って)
梨子(けどよっちゃんにとっては真剣な話かもしれないし。うーん)
梨子(全部で何人分の命って言ってたっけ……あそうだ、101匹わ○ちゃんと同じ101人だ)
梨子(よっちゃんが101人かあ。そんなに沢山よっちゃんがいたら可愛いかも)
梨子(よっちゃんがひとーり、よっちゃんがふたーり、よっちゃんがさんにーん……)
梨子(ふふっ、想像するだけならちょっと面白いかも……でもうるさそう)
梨子(やっぱり、よっちゃんは一人でいいよ……)
12:
―――
梨子「きゃっ!?」
善子《44》「わっ! あら奇遇ね」
梨子「階段駆け下りるのは危ないよ?」
善子《44》「ちょっと急いでたの。堕天使に免じて大目に見てね★」
梨子「よっちゃんが階段で急いでると転げ落ちそうで心配だよ」
善子《44》「そんな子供みたいなことするはずないでしょう?」
ルビィ「わあああどいてどいてー!」
善子《44》「え? ぐほぇっ!」
梨子「ああーよっちゃんが!」
 ドタンバタンガタン テレッテテレッテテ?♪
13:
ルビィ「いたた……あれ、慌ててたら階段から落ちたと思ったのに……」
梨子「ルビィちゃんはよっちゃんにぶつかって、代わりによっちゃんが転げ落ちちゃったの!」
梨子「……ってあれ? 落ちたはずのよっちゃんが消えてる!?」
ルビィ「善子ちゃんに? 誰かにぶつかった気がしたけど、他に誰もいないよ?」
梨子「も、もしかして」
善子《45》「はっ! 何だか酷い目に遭った気がするわ!」
梨子「出たー上からヨシコ!」
ルビィ「あれ、善子ちゃんが私の代わりに転げ落ちたなら上の階じゃなくて下にいるんじゃ……」
梨子「あっあっ……ごめん私たち用事が!」
善子《45》「うひゃあっ! 乱暴に引っ張らないでっ!」
ルビィ「あれ? あれぇ?」
14:
善子《45》「……そう、ルビィに衝突された勢いで階段から落ちたわけね」
梨子「お陰でルビィちゃんは無事だったけど、よっちゃん災難だったね」
善子《45》「はぁぁん! すぅてぇきぃ★」
梨子「え?」
善子《45》「本来引き起こされていた悲劇を堕天使ヨハネという異端の存在が救ってしまったのね!」
梨子「何言ってるの?」
善子《45》「考えてもみて? ヨハネがバトンタッチしたってことはそれなりのダメージがあったってことよ」
梨子「階段から転げ落ちたんだもんね」
善子《45》「ルビィだったら大参事だったかもしれないけれど、ヨハネはほら! ピンピンしてるもの!」
梨子「そっか、命がバトンタッチするのってそういうメリットがあるんだ」
善子《45》「酷い目に遭えば苦しいし痛いし怪我もするけど、交代すると全回復してるのは便利よねぇ」
梨子「でも酷い目に遭ったことに変わりないし、それはいいの?」
善子《45》「今この瞬間のヨハネが五体満足なら問題ないわ。ヨハネは今を生きるんだからっ」
梨子「不運なよっちゃんだからこそ階段から転げ落ちた時に大怪我して、他の誰かだったらそこまでじゃなかったりして……」
善子《45》「そういうこと言わないの! 感動が台無しよぅ」
梨子「ご、ごめん」
15:
ルビィ「あ、善子ちゃん! さっきはゴメンね、大丈夫だった?」
善子《45》「平気よっ! 堕天使がそう簡単に痛い目見るはずないもの」
ルビィ「でも階段から落ちたって聞いたのに、上の階から出てきたのって……」
善子《45》「いつからヨハネが空を飛べないと錯覚していたの?」
ルビィ「うん?」
善子《45》「堕天使なんだから飛べるのは当たり前でしょ? 上空から降り立つのだって何一つおかしなことはないわ!」
ルビィ「あ、そっか……そうなの? あれぇ?」
善子《45》「ほぉら、お互い無事だったんだから気にしないの。練習始まるから集中しましょう?」
ルビィ「そ、そうだね。今日も練習頑張ルビィ!」
善子《45》「ふう。流石神に愛されし演技派の美少女ヨハネ、完璧に誤魔化せたわ!」
梨子「かなり強引だと思うけど……命ストック制の話、みんなには教えないんだね」
善子《45》「堕天使のトップシークレットだもの。秘密を知った梨子ちゃんにはリトルデーモンになる罰を与えるから!」
梨子「理不尽だよぅ……」
16:
―――
善子《48》「ここに記念すべき第一回GuiltyKiss会議の開始を宣言するわ!」
鞠莉「イェーイ! ハイテンショーン!」
梨子「ただのミーティングなのに二人とも勢いが凄いね……」
善子《48》「こういうのはノリが大事なのっ」
鞠莉「ユニットの方向性を決めるインポータントな話し合いなんだから元気よくやりましょ♪」
梨子「こんなだからイロモノなんて言われるんじゃ」
善子《48》「何か言った?」
鞠莉「そうよ、イロモノは善子だけで十分よ」
善子《48》「聞き捨てならないわね!」
鞠莉「はいはい小さなことはいいからユニットのかけ声決めないと」
善子《48》「小さくないわよぅ!」
梨子「覚悟してたけど疲れそうな組み合わせ……」
17:
善子《48》「で、挨拶の掛け声はどうするの?」
梨子「私たちらしくて、特徴ある掛け声……どんなのがいいかな?」
鞠莉「愛こそすべて!」
梨子「え? 何て? ……本気で言ってる?」
善子《48》「カッコイイ!」
梨子「うそぉ!? 恥ずかしくない!?」
善子《48》「試しに合わせてみましょ。『愛こそすべて』!」
鞠莉「『愛こそすべて』!」
梨子「え、あ……ああ『愛こそすべて』……」
善子《48》「せーのっ!」
善子《48》「GuiltyKiss!」鞠莉「GuiltyKiss!」梨子「ぎ、ぎるてぃきす……」
善子《48》「決まったわ! 最高に小悪魔チックね!」
鞠莉「ユニット名を名乗る時に片手で顔を隠すポーズを取ると更に決まるわよ!」
善子《48》「本当ね! こうかしら!? 指はこっちの角度かしら!?」
梨子「余計に恥ずかしいよっ!」
鞠莉「勢い付けて腕を振って顔の前に! っておっとっと」
善子《48》「ぐえっ! ぎゃあああああああ!」
18:
鞠莉「あらぁごめんなさいね、勢い余って頭叩いちゃった」
梨子「あ、私じゃなくて……ていうかよっちゃん? 痛がり過ぎじゃない?」
善子《48》「目がぁ! 目がぁぁぁぁぁぁ!」
 テレッテテレッテテ?♪
梨子「あっ」
鞠莉「梨子じゃなくて善子を叩いたの? それにしても酷い声、一体何が……あらっ?」
鞠莉「ホワッツ? 善子は? 今ぶつかったのよね? どこに消えたの?」
梨子「あわ、あわわわわわ」
鞠莉「バブルがどうしたの?」
梨子「いや泡じゃなくってね……えっと……」
善子《49》「もうっ! マリーったら気を付けてよねっ!」
梨子「やっぱり……」
鞠莉「あらそっちに居たの。けどちょーっとぶつかっただけでしょ? そんなに怒らないでよ」
善子《49》「ええそうね! ちょーっと決めポーズ取ってる時に頭押されて指が目に突き刺さっただけで大したことないわよ!」
梨子「そんなことになってたんだ……大変だったね」
鞠莉「ホワッツ???」
19:
―――
善子《50》「休日に街中へ繰り出すのはいいけど快晴は困りものねぇ」
梨子「どうして? 晴れてる方がよくない?」
善子《50》「激しすぎる日光は堕天使にとって刺激が強すぎるもの。光に塗れて溶けちゃいそう」
梨子「よっちゃんていつどんな時でもブレないよね……」
善子《50》「当然でしょう? 堕天使という絶対的存在がそう簡単にブレたらカタストロフィが起こるわ!」
梨子「けどたまに命が交代してるんだよね? 交代したらちょっとは変化したりしないの?」
善子《50》「変化なんてないわ。順番が違うだけでヨハネはヨハネだもの」
梨子「黒ブチのダルメシアン家族が見た目そっくりなのと同じなのかな」
善子《50》「そうそう。マ○オがルイ○ジになって復活しないのと一緒ね」
梨子「そのゲームやったことないからよくわからない……」
善子《50》「嘘っ!? 信じられない、人生の9割損してるのも同然よ!?」
梨子「よっちゃんと違ってあまりゲームしないもん」
20:
善子《50》「でも個性ってわけじゃないけど、順番ごとに一つだけ違いがあるわよ」
梨子「どんな?」
善子《50》「うふふっ、知りたい?」
善子《50》「仕方ないわねぇ、リトルデーモンのリリーにだけ特別に教えてあ・げ・る♪」
梨子「リトルデーモンじゃないけど……」
善子《50》「そんなこと言うなら教えませーん」
梨子「わかったから教えてくださいぃ」
善子《50》「よろしいっ。ほら、首の後ろ見える?」
梨子「どこ? ……んん? よく見たらうなじの辺りに何か薄く書いてある」
梨子「ええと……数字の《50》?」
善子《50》「書いてある番号が今の命の順番ってことなの」
梨子「へえ、じゃあ今のよっちゃんは50人目ってことなんだ」
21:
梨子「……あれ? 命は全部で101人分だよね?」
善子《50》「よく覚えてたわね。何だかんだ言ってヨハネのことは何でも覚えちゃうんだから、素直じゃないわねぇ♪」
梨子「ってことはもう半分くらい無くなってるってこと!? 大変だよ!」
善子《50》「今更過ぎる話よ。梨子ちゃんに秘密を教えた時点で命のストックは大分減ってたもの」
梨子「そうなんだ。でも減るペース早くない?」
善子《50》「さあ? 何とも言えないんじゃない?」
梨子「このペースで減っていったら30歳くらいで命のストックが尽きるってことなんじゃ」
善子《50》「考える必要のないことね。無駄な時間使うとそれこそ人生10割損するわよ?」
梨子「だって……」
善子《50》「悩み過ぎて知恵熱持つと頭から小悪魔の角が生えてきちゃうんだから! そしたらヨハネとお揃いね!」
梨子「それは嫌だなあ……」
善子《50》「嫌ってなによ!? お揃い喜びなさいよぅ!」
22:
―――
梨子「……あ、よっちゃんまたバトンタッチしたでしょ。もっと気を付けないと駄目だよ?」
善子《54》「そんなにヨハネのことが気になるの? 益々リトルデーモン化が進んでる証ね?」
梨子「そうじゃなくてね……」
花丸(りこよしが捗るずら)
善子《54》「あらマルちゃん何書いてるの?」
花丸「近頃創作意欲が湧いて仕方ないからノートにしたためてるんだ」
梨子「本読むだけじゃなくてお話も書けるんだ、凄いね!」
善子《54》「どんなお話を書くの? 見てもいい?」
花丸「元ネタの二人には是非とも読んで欲しいなぁ」
善子《54》「え? 元ネタって?」
花丸「ちょっと過激な描写もあるから観覧注意だよ」
23:
善子《54》「ん? 女の子二人が……わっ、すご……こんなことまでするの!? 中々に過激ね……!」
善子《54》「……あら? この子たちどこかで…………え、もしかして、え、え……」
花丸「モデルに気付いた?」
善子《54》「ひゃあああああああああああ! ヨハネたちで何書いてるのよっ!?」
花丸「最近善子ちゃんと梨子ちゃんが凄まじいからつい」
善子《54》「だからってな、な、なんでこんな激しいっ…………うわああああああ!」
梨子「よっちゃんたちってなに? どんなお話なの?」
善子《54》「見ちゃ駄目よっ! 梨子ちゃんにはまだ早いわっ!」
梨子「まだ早いって……むぅ、私の方が年上なのに。見せてっ!」
善子《54》「わあああだから駄目だって! 無理やり取らないでっ!」
花丸「ああああオラのノート乱暴に扱わないで欲しいずら!」
梨子「貸ーしーてーよー!」
善子《54》「駄ー目ーよー!」
花丸「やーめーてーよー! ってわあっ!?」
梨子「きゃっ!?」
善子《54》「ほげっ! むぎゅう」
 テレッテテレッテテ?♪
24:
花丸「いたたたた……二人とも大丈夫?」
梨子「う、うん、何かクッションになったみたいで……ん、クッション?」
花丸「あれ、一緒に倒れたはずの善子ちゃんがどこかに消えちゃった!」
梨子「く、クッションってまさか……そういえばあの音楽も流れたような気が……」
善子《55》「こらー! なぁにすんのよぅ!」
梨子「やっぱり! 私たちの乗り方が悪かったせいかな」
花丸「善子ちゃんそっちに居たんだ」
善子《55》「そんなことより可憐な美少女ヨハネを下敷きにしたことを謝りなさいよっ!」
花丸「ごめんね、ついノートしか目に入らなくて押し合っちゃった」
善子《55》「ついでにヨハネたちであんな話書いたことも謝罪しなさい!」
花丸「それは謝れないかな。創作魂が炸裂した結果だもん」
善子《55》「開き直らないでっ! 作中とはいえヨハネたちにこんなことさせて! ほらここも! それからここ! よーく見なさい!」
花丸「わっわっ! 近いっ! 善子ちゃん近いよ! オラにはまだヨハマルは早いずらー!」
善子《55》「変なこと言って誤魔化さないの! 逃げるなー!」
25:
善子《55》「……まったく、逃げ足がいんだから。このノートどうしたらいいのよぅ」
梨子「結局そのノート何が書いてあるの?」
善子《55》「だっ、だからノートの中身はどうだっていいの! 禁書扱いよ!」
梨子「もう……あ、それよりごめんね、私のせいでよっちゃんの命が一人分減っちゃって……」
善子《55》「構わないわ。どうせ101人もいるんだから」
梨子「けど命は命だよ? 私が言うのもなんだけど、簡単に済ませたら駄目だよ」
善子《55》「命を燃やしながら日々を生き抜く堕天使ヨハネ……まさにゲームの主人公みたいだわぁ♪」
梨子「現実はゲームと違うんだよ?」
花丸「善子ちゃんノート返してほしいずらー!」
善子《55》「あ、帰ってきたわね! 今度こそ捕まえるんだからぁ待ちなさーい!」
花丸「ひぃぃ! ノートは欲しいけどやっぱりヨハマルは勘弁ずらー!」
梨子(……よっちゃんの言う通り、101人もいるならあまり気にしないでもいいの?)
梨子(ゲームなら平気かもしれないけど……じゃあ、これがゲームじゃなくて映画だったら?)
梨子(101匹いるわんちゃんのうち、たった一匹でもいなくなったら……)
29:
―――
梨子「…………ふう」
梨子(面白い映画だったなあ、101匹わ○ちゃん)
梨子(沢山ダルメシアンが居るのが可愛いし、動きはコミカルだし)
梨子(それに……みんな一生懸命生きてる)
梨子(101匹も居たらはぐれたりいなくなったりもしちゃうけど、最後はみんな一緒にいるからこそハッピーエンド)
梨子(もし一匹でもいなくなってたら幸せじゃなくなっちゃうよ)
梨子(……よっちゃんも同じだよね)
梨子(いくら沢山いても命は命。簡単になんて扱えない)
梨子(私は部外者かもしれないけど、よっちゃんの命は大切にしたいよ)
梨子(例え101人分居ても、一人一人がよっちゃんなんだから……)
30:
―――
善子《63》「いい加減決着を付ける必要があると思うの」
ダイヤ「いきなりなんですの?」
善子《63》「ヨハネとダイヤ、どっちがAqours一の黒髪ロングの持ち主かって!」
ダイヤ「また珍妙なことを……」
善子《63》「美貌の堕天使ヨハネだけど、ダイヤの綺麗な髪は褒めてあげていいと思ってるのよ?」
ダイヤ「賞賛は嬉しいですけど突っかかられるのは面倒ですわ」
善子《63》「というわけでどっちが綺麗な髪をしてるのか勝負しなさい!」
ダイヤ「気乗りしませんけど……勝負を挑まれて逃げるのは性に合いません。受けて立つわ!」
果南「ダイヤってすぐ意地張る子供っぽいところがあるよねえ」
鞠莉「いつも大人ぶってる態度とのギャップがso cuteね♪」
ルビィ「お、お姉ちゃんも、善子ちゃんも、頑張って!」
梨子「変なこと始まった……何も起きなければいいけど……」
31:
善子《63》「まずはどっちの髪が綺麗になびくのか対決! より美しく髪が舞った方が勝ちよ!」
ダイヤ「負けませんわあぁぁぁぁぁふんふんふんふんふん!」
鞠莉「ダイヤがハードなヘドバンしてる! 私も混ざろっと♪」
ルビィ「髪の毛舞い過ぎてお姉ちゃん妖怪みたいだよぅふぇぇ」
善子《63》「ふふん、そんな力任せで無様なやり方じゃ駄目ね」
ダイヤ「はあーっ、で、では、はあーっ、善子さんは、はぁーっ、どうやって、髪を、はぁーっ、なびかせっ、はぁーっ、るのですかっ……!」
果南「いくらなんでもバテすぎでしょ」
善子《63》「文明の利器を使うの! その名も扇風機!」
梨子「道具使っていいんだ……」
善子《63》「道具の使用禁止なんて言ってないもの。さてポチッとな。良い風ね!」
ダイヤ「か、風に当たらせてください……」
善子《63》「駄目よ! 今はヨハネの髪の毛ファッサァタイムなんだから! ほら風になびく堕天使の黒髪をちゃんと見ててよね!」
梨子「あ、待って、近付きすぎると扇風機に髪が、」
善子《63》「ぎゃああああああ髪が巻き込まれたわああああ痛い痛い痛い!」
梨子「わあああああ止めて止めて止めて!」
 テレッ ガリガリガリガリ テ ガリガリ レッ ガリガリガリ テテ?♪
32:
果南「ふう、止まった……扇風機に髪の毛巻き込まれる子なんて初めて見たよ」
ルビィ「善子ちゃん大丈夫!?」
鞠莉「髪が千切れる音が凄かったけど……ってあら?」
ダイヤ「おかしいですわね、善子さんはどこへ行かれましたの?」
梨子「え? 嘘、今ので!? 騒いでてあの音楽聞こえなかったのかな」
鞠莉「また善子が突然消滅したわぁ!」
ルビィ「妖怪の仕業だよぅ!」
ダイヤ「落ち着きなさい、そんなはずないでしょう」
梨子「まさか髪の被害だけじゃなくてもっと酷い目に遭ってたんじゃ……」
果南「どうしたの? 善子がどうなったか知ってるの?」
梨子「え、ええっと……よ、よっちゃん保健室行ったから!」
鞠莉「そうなの? エスケープマジックかと思っちゃった」
梨子「ちょっと見てくる! みんなは待ってて!」
ダイヤ「勝負の結果はどうなりますのー!?」
33:
梨子「……本当に保健室にいたんだ」
善子《64》「保健室に行くって聞こえたから急いで追ったの!」
梨子「そっか。よっちゃんまた災難だったね」
善子《64》「不運は慣れっこだけど、まさか扇風機にまでやられるなんて思わなかったわぁ」
梨子「ズルするからだよ」
善子《64》「ズルじゃない! 頭脳プレーって言ってほしいわね」
梨子「どうしていきなり勝負なんて言い出したの? 変なこと始めなかったらこんなことにもならなかったのに」
善子《64》「ま、出来るうちに色々やっておきたいじゃない? みんなと遊ぶの楽しいもの」
梨子「出来るうちにって?」
善子《64》「それより見た!? ダイヤったらあんな必死に頭振っちゃって、本当おかしかったわぁ!」
梨子「ん……ふふっ、そうだね。あそこまで激しい動きするの意外だったなあ」
善子《64》「もう一回見たくなってきちゃった。みんなのところに戻りましょっ!」
梨子「あ、待ってよう!」
35:
―――
梨子「ずっと気になってたんだけど」
善子《67》「ヨハネの美貌の秘訣を? それとも禁断魔法の呪文?」
梨子「じゃなくてね……よっちゃんいつからそんな風になってたの?」
善子《67》「命ストック制のこと? 気付いたらこんなだったわよ?」
梨子「そういうものなんだ」
善子《67》「黒魔術の成果だと思った?」
梨子「そう言われても反応に困るかも……」
善子《67》「小さい頃にね、スーパーマ○オのゲームをしてる時に突然察したの」
梨子「昔からゲームっ子だったんだ」
善子《67》「画面の中で飛び回るマ○オ……これってまるでヨハネみたい! って」
梨子「え? どこが?」
善子《67》「結構似てるところあるでしょ? みんなの人気者とか、名前がカタカナ三文字同士とか」
梨子「よっちゃんは漢字二文字……」
善子《67》「ヨハネはカタカナ三文字なのっ!」
善子《67》「とにかくヨハネもマ○オと同じで、ダメージを負ったら次の命に代わる存在ってことがわかっちゃったのよ」
38:
善子《67》「ヨハネが世の中の理を紐解いてしまった次の日、外を歩いてたら自転車に轢かれたの」
梨子「さらっと可哀想なエピソード出てくるね……」
善子《67》「思いきりぶつかったはずなのに、気付いたら無傷のまま少し離れた場所に立っていたの」
善子《67》「同時にヨハネの中のナニカが一つ消えた気がした……それがストックされていた命だったのよ」
梨子「101人分っていうのはどうしてわかったの?」
善子《67》「ディ○ニー映画の101匹わ○ちゃん見てた時に察したわ」
梨子「またそんな適当な……でも101人よっちゃんって言えば可愛いかも、小っちゃなよっちゃんが沢山いるみたいで」
善子《67》「ヨハネは小動物じゃなくて堕天使よっ!」
梨子「よっちゃん昔からずっと大変だったんだね。可哀想……」
善子《67》「全然可哀想じゃないわよ。むしろ何て恵まれてるのかと喜び勇んだわ!」
梨子「どうして? 嫌じゃなかったの?」
善子《67》「ヨハネには101人分の命がある。つまりそれだけ幸せを掴むチャンスがあるってことでしょ?」
梨子「あー……そういう考え方もできるんだ」
39:
善子《67》「ヨハネはみんなの100倍不運かもしれない」
善子《67》「けど、代わりに101倍の奇跡をこの身に宿しているの」
善子《67》「やっぱりヨハネは神に愛されし孤高の堕天使なんだって確信したわ! いやぁん、すぅてぇきぃ★」
梨子「もし私だったら、みんなと違うこととか、度重なる不運とかに嫌になっちゃう気がするなあ……」
善子《67》「周りのみんなと違うことは当然わかってたわ」
善子《67》「みんなはこんなに不運じゃないし、傷ついたからってすぐ次の番に代わったりしない」
善子《67》「けどヨハネがこうなんだから仕方ないでしょ? ならありのままを受け入れるしかないわよ」
善子《67》「それにね、このヨハネが大衆に塗れるなんてお断り!」
善子《67》「美貌の堕天使として生まれ堕ちたからには、ヨハネは唯一無二の存在であるべきなんだから♪」
梨子「……凄いね、そんな風に前向きに捉えられて」
善子《67》「でしょう? 素敵な堕天使のリトルデーモンになれたこと、誇りに思ってよね★」
梨子「リトルデーモンじゃ……うん、まあいいや……」
梨子(よっちゃん凄いな、普通じゃない命の形を受け止められて)
梨子(本当に凄い…………凄いけど……でも……)
40:
―――
梨子(命のストック制に、101人のよっちゃん、かぁ)
梨子(偶然そうなったって言うには元ネタがありすぎ……って考えるのも、逆に偏った見方なのかな)
梨子(そもそも超常現象みたいな出来事に理屈も何も当てはまらないよね)
梨子(私たちはありのままを受け入れるしかない……よっちゃんが自分の命の在り方を受け入れたみたいに)
梨子(……よっちゃん……どうしてあんなに元気でいられるの?)
梨子(私だったら絶対に無理だよ。混乱して、不安になって、こんな私嫌だって泣きたくなる)
梨子(よっちゃんは強いのかな。私は弱いのかな)
梨子(……そんな簡単に決めつけたらいけない気がする)
梨子(普段は変なこと言ってるよっちゃんだって、私と同じ一人の女の子だもん!)
梨子(よっちゃんはありのままを受け入れてるみたいだけど、私はもう少し考えてみよう)
梨子(私だけがよっちゃんの秘密を一緒に悩めるんだから……)
41:
―――
曜「というわけで!」
果南「これより水泳訓練を始めます!」
善子《69》「楽しみね!」
梨子「なんで私まで……」
善子《69》「元は梨子ちゃんの為に頼んだのよ? 東京育ちだから泳ぎが全然なってないんだから」
曜「善子ちゃんも半端に都会に住んでるからあまり泳げないけどねー」
善子《69》「半端ってなによ! 大都会沼津は堕天使が降臨した由緒ある街なんだから!」
果南「漫才もいいけど準備運動しないと危ないからしっかりやってねー」
曜「はーい」
善子《69》「はーい」
梨子「せっかく市民プールまで来たんだし、やるからにはちゃんと頑張ろう……!」
43:
梨子「…………ぷはっ!」
曜「凄い凄い! 梨子ちゃん上達するの早いね!」
梨子「ありがとう! 曜ちゃんが教えるの上手だからだよ」
曜「それに比べてあっちは……」
善子《69》「むーりー! もう無理ー!」
果南「ほらちゃんと手握ってあげるから、バタ足続けて」
善子《69》「もう無理よ疲れたわよ限界よ!」
果南「反論できるうちは限界と認めませーん」
梨子「よっちゃんて思った以上に泳げなかったんだね」
曜「もう梨子ちゃんの方が上手になってるんじゃない?」
梨子「ははは……」
44:
果南「じゃあちょっと休憩ねー」
曜「果南ちゃん競争しようよ!」
果南「オッケー負けないよ!」
梨子「よっちゃん大丈夫?」
善子《69》「し、死ぬ……体力使い果たして堕天しちゃうぅぅ」
梨子「あんまり死ぬなんて言わない方が……」
善子《69》「あっちの二人が泳いでる間に上がって休んでくるわ」
梨子「うん。気を付けてね」
善子《69》「何が? ってきゃあ!」
梨子「あーだからそうやって滑ってプールに落ちたりしないかなって心配してたのに!」
善子《69》「ガボガボガボ!」
梨子「よっちゃん落ち着いて!」
善子《69》「あ、足、ぷはっ! つかっ、つかないっ、ぷはあっ!」
梨子「水深が深いんだ……! か、果南ちゃん! 曜ちゃん!」
曜「それー!」
果南「まだまだー!」
梨子「駄目だ、競争に夢中になってる……どうしよう……!?」
45:
善子《69》「ぐ、ぅ…………ぷっは、うぷ…………………………」
梨子「沈んじゃ駄目! 待って! …………ああ、よっちゃん、そんな……!」
梨子「…………! 待ってて、今いくから! すうぅぅぅぅぅっ……ふっ!」
梨子(…………よっちゃん、どこ……!)
梨子(……いない!? どうして!? ここに沈んだはずなのに!?)
梨子(駄目、私も落ち着かないと……もう苦しくなってきちゃった……!)
梨子(息が…………! でもよっちゃんを早く助けなくちゃ…………ぅあっ!?)
梨子「ぷはっ! あれっ?」
曜「梨子ちゃん大丈夫!?」
梨子「よ、曜ちゃん? 果南ちゃんも……」
果南「溺れてる風だったから引っ張り上げたけど、案外平気みたいだね?」
曜「よかったー!」
梨子「そ、そうなの! 溺れてるのはよっちゃんで、よっちゃん助けようとして!」
果南「善子ならプールから上がったところにいるけど?」
梨子「え?」
善子《70》「…………」
梨子「……そ、そっか…………そっか…………」
47:
曜「じゃ、今日は解散! お疲れさま!」
果南「気を付けて帰るんだよー」
梨子「うん……」
善子《70》「……」
梨子「帰ろう、よっちゃん」
善子《70》「ええ……今日はごめんなさい」
梨子「いいよ、私は大丈夫だから。でも本当はよっちゃんあの時……」
善子《70》「疲れ切ってたから、すぐ息が出来なくなって、口開けて水飲んだら意識が遠くなって……」
善子《70》「気が付いたらプールから上がってて、水中では梨子ちゃんが二人に助けられてたわ」
梨子「苦しかった?」
善子《70》「……別に。次のヨハネにバトンタッチする時は毎回苦しんでるもの。慣れっこよ」
梨子「そう、だよね……次の命に変わる時は、毎回大変な思いしてたんだもんね……」
48:
善子《70》「今日は本当に悪いことをしたわ。他人にまで迷惑かけるなんて……最低ね」
梨子「私のことより自分の心配しようよ!」
善子《70》「さっき言った通りよ。苦しむのはもう慣れたの」
善子《70》「それよりヨハネのせいで誰かに迷惑かけた方が嫌よ」
梨子「そんな……よっちゃんが一番大変なのに……」
善子《70》「ヨハネにとっては普通のことで、特別大変だなんて思ってないわ」
梨子「でも溺れた時苦しかったんでしょ? 苦しかったから次の命に代わったんでしょ?」
善子《70》「…………帰るわよ」
梨子「待ってよ! ちゃんと話そうよ!」
善子《70》「教えるべきじゃなかったかもしれないわね、ヨハネの秘密」
梨子「……一人で問題抱えてた方がいいってこと?」
善子《70》「何度も言わせないで。ヨハネにとっては普通のことで、問題じゃない」
梨子「……」
善子《70》「……先に帰るわ。じゃあね」
梨子(……私を巻き込んだからあんな言い方してるんだって、わかってるけど……)
梨子(やっぱり一人で抱え込むなんて間違ってる……!)
49:
―――
梨子(一日考えてみたけど、やっぱり納得できない)
梨子(唯一秘密を共有できる私だからこそ話し相手にならないと)
梨子(昨日は喧嘩みたいになっちゃたし、口利いてくれるかわからないけど……もう一度きちんと話そう!)
梨子「……お、おはようよっちゃん」
善子《71》「おはようリリー! 今日のあなたは一段とリトルデーモン化してるようね!」
梨子「あ、うん……」
梨子(なんか……避けられるんじゃないかなって思ってたのに、意外なくらい普通に接してくれてる)
梨子「というかまた次の命にバトンタッチしてない?」
善子《71》「さあ今日も張り切って授業という名の関門を突破して放課後ヘブンを目指すわよ!」
梨子「え、いやだから次の命に……ちょっとよっちゃん!? 待ってよっ」
50:
梨子「…………ねえちゃんと話聞いてってば!」
善子《71》「いい? いくらリトルデーモンだからって堕天使から常に相手して貰えるなんて勘違いは駄目よ?」
梨子「そんな話じゃなくて! 命ストック制が」
善子《71》「今日も練習頑張りましょ! ヨハネについてこなかったら許さないんだから」
梨子「よっちゃん! よっちゃんってば! ……もうっ!」
千歌「今日も二人とも楽しそうだねー」
曜「梨子ちゃんの方からべったりしてるのは珍しいけど」
花丸(りこよしが加するずら)
梨子「あ……えっと、これは……」
果南「ほらみんなー練習始めよー」
千歌「はーい! 梨子ちゃん行こっ!」
梨子「……うん…………」
51:
―――
鞠莉「最近善子がエスケープマジックを使ってる気がしてるけど錯覚なの?」
善子《78》「そこに気付くなんてリトルデーモン化が進行している証ね! ようこそ悪の世界へ!」
ルビィ「悪なのかなぁ……」
梨子(あの日以来、よっちゃんは今まで通り接してくれたけど、命の話になるといつもはぐらかされて……)
千歌「ジェラート屋のみかん味がリニューアルしたから食べに行こうよ!」
曜「異議なし!」
花丸「異議なし!」
善子《85》「異議あーーーりっ! 却下よ却下! 論外中の論外よぅ!」
梨子(私もそのうち今まで通りの日常を過ごすようになって、話を切り出すきっかけを失ったまま……)
果南「実は私も髪ほどけば黒髪ロング枠なんだよね」
ダイヤ「というわけでいつぞやの黒髪勝負にリベンジを申し込みますわ!」
善子《92》「ふふん、良い度胸ね! 勝負に負けて泣いても知らないんだから!」
梨子(けど……いくら見ないふりをしていても、事態は進み続けていたの)
52:
―――
梨子「…………」
善子《100》「どうしたのよ朝から辛気臭い顔して。さては夏風邪ね!?」
梨子「だって……」
善子《100》「なによ」
梨子「…………よっちゃん……命、」
善子《100》「こんな遅いペースで歩いてたら遅刻するわ、先行ってるわよ」
梨子「…………」
梨子「………………………………ばか」
梨子「…………」
梨子「……ばかぁっ!」
53:
梨子「…………」
千歌「どしたの梨子ちゃん何かあった?」
梨子「ううん、どうもしないよ」
千歌「やーそれはないでしょー。どう見ても激おこだもん」
梨子「…………絶対顔に出してないと思ってたけど」
千歌「わかるってー。友達だよ?」
梨子「……友達……」
千歌「他にも色々あるよ。スクールアイドル仲間、クラスメイト、ご近所さん、あとは、んー……やっぱり友達に戻るや。ヘヘっ」
梨子「……そっか。友達……」
梨子「ふふっ、そうだよね」
千歌「そうそう、一人で抱え込もうとしてもお見通しだよ!」
梨子「うん、だよね。一人で抱え込むなんて無理だよね!」
千歌「あれ、怒ってるの気付かれたのに何だか楽しそう」
梨子「千歌ちゃんのお陰で気付けたっていうか、吹っ切れたっていうか……とにかくありがとう!」
千歌「何したかわからないけど、言われたお礼はありがたく受け取るスタンス!」
梨子「やっぱり、千歌ちゃんは凄いね」
梨子「私もできるかわからないけど……千歌ちゃんみたいにやってみる!」
54:
―――
梨子「よっちゃん、一緒に帰ろう」
善子《100》「いいわよっ! 今日は練習が上手くいって気分がいいから同伴を許可してあげる!」
梨子「ありがと。でね、聞きたいことがあるんだけど」
善子《100》「なぁに? ヨハネが下界に堕天する前の話なら悪魔の経典に細かく書いてあるわよ?」
梨子「今のよっちゃん何人目なの?」
善子《100》「バスが出る時間も近いから早く行きましょ。もっと本数増やしてくれても、っ、……………………なによ」
梨子「……」
善子《100》「ただ引き留めるにしては腕掴む力が強すぎるんじゃない? 跡付いちゃうんだけど」
梨子「首の後ろに書いてあるんでしょ、番号。力づくでも確認するから」
善子《100》「何の権利があって勝手なこと強いるわけ? 何様のつもり?」
梨子「友達」
善子《100》「…………」
梨子「…………」
善子《100》「……別に……そこまでしないでも、教えるわよ」
55:
梨子「……《100》……!」
善子《100》「驚くことでもないわ。順番が進めばいずれ回ってくるもの」
梨子「だって、前に見せて貰った時はまだ50人目だったのに……残り二人だよ!?」
善子《100》「最近バトンタッチする頻度がやたらと早まったのよねぇ」
梨子「どうして?」
善子《100》「さあ? ちょうど梨子ちゃんに秘密を教えた頃からかしら」
梨子「え!? 私のせい!? ご、ごめんね!?」
善子《100》「……あっはは! なに謝ってるのよ、さっきまであんなに怖い顔してたのに」
梨子「うんまあなんていうか、私も必死で……」
善子《100》「そうねぇ……もしかしたら、本当に梨子ちゃんのせいかもしれないけど」
梨子「ホントなの!? 心当たりなんてないのに! あぁぁぁどうしよう!?」
善子《100》「今日は随分感情表現が激しいじゃないの。顔だけバトンタッチしちゃったみたい」
梨子「やーーーーーっとよっちゃんがまともに相手してくれたからだよっ!」
善子《100》「はいはい。意地張って悪かったわよぅ」
56:
梨子「ねえ、本当に私のせい? だとしたら謝りようがないんだけど……」
善子《100》「別に直接関係あるわけじゃないわよ?」
善子《100》「ただね、最近ずっごく楽しいの」
梨子「……たの、しい?」
善子《100》「梨子ちゃんたちと、みんなと色々なことをして過ごして、本っ当に楽しいわぁ!」
善子《100》「女子高生としての華やかな日々! スクールアイドルとして青春する毎日!」
善子《100》「今までこんな楽しい生活味わったことないもの!」
梨子「……それは私も同じかな」
梨子「みんなと一緒に過ごすことができて、凄い幸せだなって思う」
善子《100》「で、ピンときちゃったのよ」
善子《100》「ひょっとしたらヨハネが幸せを感じる分、幸せな人生を送る為の命のストックが減ってるのかもしれない、って」
梨子「……どういうこと?」
善子《100》「わかりやすく言うと、幸せを感じた分だけ命の消費も早まりやすいってことね」
57:
梨子「おかしくない!? まるで幸せな毎日を過ごすのがイケナイことみたいだよ!」
善子《100》「じゃあ聞くけど、長生きするけど何の楽しみもない人生と、短命だけど幸せな人生、どっちがいい?」
梨子「……今その質問するの、ずるい」
善子《100》「ほら、美人薄命って言うでしょ? まさにヨハネのためにある諺ね!」
梨子「ちょっと使いどころ間違えてるような……」
善子《100》「梨子ちゃんに秘密を教えてから一緒にいることが増えて、毎日がより一層楽しくなったわ」
善子《100》「みんなの前でバトンタッチしちゃったり、二人して慌てて誤魔化したり、散々馬鹿騒ぎしたわよね」
善子《100》「楽しくなればなるほど命のストックが減る頻度が早まったけど……後悔はないもの」
梨子「よっちゃん……」
善子《100》「梨子ちゃんはどうなの? ヨハネの秘密、知らない方がよかった?」
善子《100》「知ったことで増えた一緒にいる時間、無かった方がよかった?」
梨子「…………ずるい」
善子《100》「ふふん、堕天使だもの。ズルイのは当然よ♪」
梨子「もう……ばーかっ」
善子《100》「あ! 珍しく暴言吐いたわね! ヨハネを馬鹿にするのは許さないんだから!」
梨子「ふふっ、知らないよっ」
73:
―――
善子《100》「……で、どうしてこうなるの」
梨子「なにが?」
善子《100》「あれからずっと梨子ちゃんに纏わりつかれてるんですけどっ」
梨子「そうだね」
善子《100》「何あっけらかんとしてるのよ! ヨハネのプライバシーはどこにいったの!?」
梨子「放っておくとすぐバトンタッチしちゃうんだもん」
善子《100》「誰かと一緒に居る時だって次の命に代わることあったじゃない」
梨子「よっちゃん一人の時よりマシだよ。いざとなったら私が守れるし」
善子《100》「守るって言われてもリトルデーモンじゃ心許ないわぁ」
梨子「じゃあ最近一緒にいれなかった分を取り返す為! それならいいでしょ!」
善子《100》「どうしてそんな強気なのよぅ」
梨子「いいじゃん。だって友達だもん!」
善子《100》「……ま、別にいいけど……」
75:
善子《100》「ねえ、一応先に言っておくわ」
梨子「なにを?」
善子《100》「これは嫌味とかじゃないし悲観してるわけでもないの」
善子《100》「けどどうやったってこのままじゃ、また近いうちにバトンタッチすると思うのよ」
梨子「ど、どうして!? よっちゃんにくっついて守るから!」
善子《100》「それよそれ! それが駄目なのっ」
梨子「え、どれ?」
善子《100》「だぁかぁらぁ……もう、言いにくいわねぇ!」
梨子「教えてよ! もう一人で抱え込まれるの嫌なの! 秘密の話し相手になりたいの!」
善子《100》「わかってるわよっ! 堕天使にも心の準備ってものが必要なんだから黙ってて!」
善子《100》「ふう……梨子ちゃんと一緒にいたら、また楽しくなって幸せ感じちゃうじゃない」
梨子「?」
善子《100》「ヨハネは幸せになればなるほど命が交代しやすくなる、って言ったでしょ?」
梨子「……あ、そっか……」
76:
梨子「私、よっちゃんの近くに居ない方がいいのかな……」
善子《100》「ヨハネ一人でも散々バトンタッチ繰り返してるって指摘したのは誰よ」
梨子「でも私がいたら余計に危ないかもしれないし!」
善子《100》「もう一度前と同じ質問する?」
梨子「質問?」
善子《100》「長生きするけど何の楽しみもない人生と、短命だけど幸せな人生。どっちを選ぶ?」
梨子「……私と一緒にいたら幸せなの?」
善子《100》「直接的な質問しないの! 梨子ちゃんだってされたら恥ずかしいでしょ!?」
梨子「そうだねっ、ごめん……!」
善子《100》「大体練習の時とかは嫌でも顔合わせるじゃないの。離れるにも限界があるわけだし」
善子《100》「ならいっそのことずっと一緒にいたほうがまだ悪魔的だわ」
梨子「悪魔的かはわからないけど合理的ではありそう」
善子《100》「というわけで纏わりつくのは許してあげる。けどちゃんとプライバシーは守ってよね?」
梨子「……わかった」
善子《100》「あーあ、結局纏わりつかれるの許しちゃった。ヤんなっちゃうわぁ……ふふっ」
77:
―――
梨子「1! 2! 3! 4!」
善子《100》「5! 6! 7! 8!」
ルビィ「二人ともダンスの息ピッタリ!」
ダイヤ「素晴らしいコンビネーション、お見事ですわ。私たちも見習いましょう」
梨子「はっ、はっ…………息ピッタリだって」
善子《100》「はっ…………最近ずっと一緒にいるんだもの、当然よ……!」
梨子「えへへっ……あ。わっ!?」
善子《100》「きゃっ!? ったぁい!」
ルビィ「二人とも転んじゃった! 大丈夫かな!?」
ダイヤ「大事はなさそうですけど……一見上手くいっても気を抜いたらいけないということね」
梨子「ったた……ごめん、よっちゃんまで巻き込んじゃった」
善子《100》「まーったく、褒められたからって良い気になったら駄目よ?」
梨子「うん……あっ!? そうだ怪我は!? ダメージはっ!?」
善子《100》「……バトンタッチしないってことは平気ってことでしょ」
梨子「よかった……もう私のせいで交代なんて嫌だから」
善子《100》「心配しすぎよ。ほら立って、練習再開しましょ?」
78:
善子《100》「練習後に街へ繰り出す解放感は最高ね! 堕天使の羽を思いきり広げた時の感覚に近いわ!」
梨子「またそんなこと言って……今日はどこに寄ってから帰ろっか」
善子《100》「最近ずーっと帰りも一緒だから寄り道にも飽きてきちゃったかも」
梨子「よっちゃんがバトンタッチしないよう気を付けてるだけなのに……」
善子《100》「へこまないでよ! ヨハネがイジワル言ったみたいじゃない!」
梨子「わかってるよ。ふふ」
善子《100》「もう、からかわないでよねっ」
梨子「ごめんごめん。街中歩いてたらどこかいいところ見つかるかな?」
善子《100》「そうねぇ…………ん」
善子《100》「あ。あー…………ああー………………………………」
梨子「ねえあそこは? まだ入ったことないよね?」
善子《100》「えいっ」
梨子「きゃっ!? いたた……なっ、いきなり押さないでよっ!」
 テレッテテレッテテ?♪
梨子「……え」
79:
梨子(…………なに?)
梨子(わかんない、わかんない、わかんない…………どうして?)
梨子(何があったの……ううん、それよりもさっきの音楽……!)
梨子「よ……よっちゃん、どこ…………よっちゃんっ!」
善子《101》「ここよ」
梨子「あ! よっちゃ…………え…………よ、っちゃ……」
善子《101》「人だかりから離れたいから一旦こっちきて」
梨子「……よっちゃん……」
善子《101》「…………」
80:
善子《101》「どう? 少しは落ち着いた?」
梨子「うん……」
善子《101》「ヨハネの左腕ってたまに疼いて制御できなくなっちゃうの。ホント困りものだわぁ」
梨子「……全然、何があったのかわからないんだけど……何があったの?」
善子《101》「さっきまでの景色、梨子ちゃんにはどんな風に見えた?」
梨子「普通の、夕方の街並みだけど……」
善子《101》「そうね。ただの繁華街の様子よね」
善子《101》「けどヨハネにとって、人やモノが多いっていうだけで不確定要素の多い危険地帯になるのよ」
梨子「危険地帯って?」
善子《101》「要は何が起こるかわからない場所ってこと」
善子《101》「当然ヨハネにとっては不運が起こり得る可能性が増すのよ。ラストダンジョン並の難易度ね!」
梨子「じゃあ、よっちゃんさっき……」
善子《101》「今の梨子ちゃんならもうわかるでしょ?」
梨子「……また、バトンタッチしちゃったんだよね……」
82:
善子《101》「ヨハネには特別な能力があるから、目の前の光景から未来を察知することができるのよ!」
梨子「……」
善子《101》「……変なこと言ってるって指摘しないのね」
善子《101》「まあいいわぁ。さっきは人込みを見て、あ、イケナイって感じたの」
善子《101》「ヨハネが何もしなくても色々な偶然が積み重なって、結果的に何かが起きるって」
善子《101》「で、今日は隣に梨子ちゃんがいる。きっと梨子ちゃんも巻き込んじゃう」
善子《101》「それを察知したヨハネの悪に染まった左腕が自然と梨子ちゃんを突き飛ばしたってわけね!」
梨子「結局何があったの?」
善子《101》「さあ? 全ての事象を把握するのは流石の堕天使にも難しいもの」
善子《101》「見えたことだけ説明すると、色んな人やモノがぶつかったり避けたりして、最後に自転車がこっちに突っ込んできたわ」
梨子「自転車に轢かれたんだ……」
善子《101》「皮肉よねぇ、初めてバトンタッチしたのと同じ理由で最後の命を迎えるだなんて」
善子《101》「こんな嫌な巡り合わせを運命なんて言うのなら、神様のこと呪っちゃうんだから!」
83:
梨子「最後……そうだよ最後だよ! よっちゃん101人目になっちゃった!」
梨子「どうしよう!? もうこれ以上交代できない……しかも私のせいで……!」
善子《101》「梨子ちゃんのせいじゃないわよ。きっと一人でいても同じ目に遭っていたわ」
善子《101》「不運はどこまで行ってもヨハネを掴んで離してくれないの。モテモテなのも大変よねぇ」
梨子「ど、どうしたら……どうしたらいいの!?」
善子《101》「リトルデーモンなら慌てたりしないの! 今まで通りに過ごせばいいじゃない」
梨子「……だって……もう、次は無いのに……」
善子《101》「わかってるわ。わかってたからこそ、普段通りの日常を大切にしてたんだから」
善子《101》「最後だって言うなら、その分今までで一番大切にしたい命でしょ?」
梨子「よっちゃん……」
善子《101》「大体命が一つって普通の人と同じことじゃない。慌てることなんてないのよ」
梨子「そう言われれば確かに……考え方次第なのかな?」
善子《101》「うんうん。ネガティブはダメよ、ポジティブにいかなきゃ」
善子《101》「ここからがヨハネが人間界で生きる真骨頂なんだから! 腕が鳴るわぁ♪」
86:
―――
梨子「ふわぁぁぁ……ねむ……」
梨子(よっちゃんのこと考えてたら眠れなかった……)
梨子(遂にきちゃった、101人目のよっちゃん)
梨子(最初はゲームや映画みたいな話って思ってたのに、気付いたらこんなことに……)
梨子(最後のよっちゃん……最後ってなんだろう?)
梨子(最後の、101人目のよっちゃんがダメージ負ったらどうなるの?)
梨子(101人目の命……命が、尽きたら……)
梨子(ヤダ、一人で考えてると嫌な想像ばかりしちゃう……! ネガティブよくない!)
梨子(普通の人と同じ一つの命になっただけってよっちゃんも言ってたもん。そう考えれば平気だよ)
梨子(今は目の前のことに集中しよう! 授業終わって、それから練習で集まって……)
梨子(ふわぁぁ……今日の授業眠っちゃいそう、大丈夫かなあ……)
87:
千歌「やーっと練習の時間だ!」
曜「梨子ちゃん起きてー、授業終わったよ」
梨子「うん……な、長かったぁ……!」
曜「珍しいよね梨子ちゃんが眠そうなの」
梨子「そんなことないよ……でも練習の時間になったからもう平気」
千歌「練習楽しみだもんねー。あ、みんなも来た! やっほー」
梨子(……あれ? マルちゃんやルビィちゃんは来たのに……)
梨子「ねえ、よっちゃんは?」
花丸「今日善子ちゃんお休みずら」
ルビィ「先生は風邪って言ってたよ」
梨子(風邪……! 101人目になった直後に……!)
梨子「ごめん今日は帰るね!」
千歌「えええー!? 練習待ち遠しかったんじゃないのぉ!?」
曜「どうしたんだろ……」
88:
梨子(……なんで電話出ないの!? 余計心配になるよっ!)
梨子(あああ……お願い気のせいでいて! 私が心配しすぎなだけでいて!)
梨子「はあっ、はあっ…………着いた……」
梨子(うぅーインターフォンにも返事が無い……! 病院行ってるの!? 出ないだけなの!?)
梨子「……もうっ、こういう時って都合よくドア開いてるものじゃないの!?」
梨子「よっちゃん! よっちゃん開けてっ!」
梨子(どうしよ、どうしよどうしよ、よっちゃん……!)
梨子「…………あ」
善子《101》「…………家の前で騒がないで……下界での隠れ家がバレて悪魔たちがやってきちゃうわ……」
梨子「よっちゃん……! あ、ちょ、顔色酷いよ!?」
善子《101》「いいから中入って……あー……ムリ」
梨子「わっ! 倒れちゃダメ怪我しちゃうから! ちゃんと立ってー! うぅぅ重いぃぃぃ」
善子《101》「失礼ね…………ヨハネは羽の様に軽いわよぅ…………」
89:
梨子「ふぅ、疲れた」
善子《101》「悪いわね、ベッドまで運んで貰っちゃって」
梨子「そんなことより大丈夫なの!? 風邪って聞いたけど……」
善子《101》「堕天使が夏風邪なんてひくわけがぅえっほげえっほ!」
梨子「どう見ても風邪なんて程度じゃないよ! ぐったりしてるじゃん!」
善子《101》「あ、今のはただむせただけよ。ホントに風邪とかじゃないの」
善子《101》「というかこれ何の体調不良なの? 朝起きたらこんなことになってたけど」
梨子「苦しくない? 辛くない? 痛くない?」
善子《101》「都合良いことに苦痛はないのよねぇ」
善子《101》「ただ虚脱感が酷くて……例えるなら全身から生命のマナが抜けていくような……」
梨子「ご両親は?」
善子《101》「こういう日に限って朝早いわ家いないわ連絡つかないわ、不運の極みよ」
梨子「じゃあ病院は!?」
善子《101》「一人で行けると思うの? 玄関まで這うだけでも死にそうなのに」
梨子「…………死ぬなんて言わないでよっ!」
善子《101》「……やぁねぇ、ヒステリーなんて。スクールアイドルが怒っちゃダメよ?」
梨子「だってっ……!」
90:
善子《101》「……スクールアイドルって素敵よねぇ」
善子《101》「学生の時にしか許されない、限られた青春……だからこそ一層儚く輝くの」
梨子「いきなりどうしたの? 熱でポエマーに目覚めちゃったの?」
善子《101》「失礼ね、大真面目よ」
善子《101》「終わりが見えていたからこそ、ヨハネは全力で駆け抜けることができたって話」
梨子「終わりって……」
善子《101》「こんな命だもの、近いうちに最後の瞬間がくるってわかってたわ」
善子《101》「命が尽きる前に素敵な毎日を送りたかった……だからAqoursのみんなと頑張ってきた」
善子《101》「みんなのお陰で、最高に輝いてる今っていう時間を過ごすことができて、本当に良かったわぁ……」
91:
梨子「やめてよ本当に最後みたいなこと言うの! 聞きたくない!」
善子《101》「変よねぇ。気分は悪くないし、頭もこれ以上ないくらい冴えてる」
善子《101》「何だったら今こそ真の闇の力に目覚めそうなのよ?」
善子《101》「なのに……これで最後ってことだけは嫌でもわかっちゃうの」
梨子「そんな……!」
善子《101》「振り返ってみれば、病気で命が消えるのって初めてかも」
善子《101》「今までのバトンタッチは事故や怪我ばかりだったのに、101人目がコレなんて」
善子《101》「これは不運って言うのかしら? 何かの暗示? ……それとも……」
善子《101》「最後にゆっくりお別れを言う為に用意してくれた、神様のお情け……かもしれないわね?」
92:
梨子「……私……嫌だよ……!」
梨子「せっかくよっちゃんのこと普通の友達よりも深く知れて、こんなに仲良くなれたのに……!」
善子《101》「安心しなさい、堕天使がそう簡単に消えるわけないでしょ?」
梨子「だって、今のよっちゃん本当に……っ、しっ……うぅぅ……!」
善子《101》「別に、命のストックが尽きたからって本当に死んじゃうとは限らないじゃない」
梨子「……命のストック制って、ゲームだと全部の命が消えたらどうなるの?」
善子《101》「そうねぇ……ゲームオーバーになって、おしまい」
梨子「おしまい、って……や、やだよ! ヤダヤダ!」
善子《101》「……ゲームオーバー、ねぇ……」
善子《101》「ゲームオーバーになったら、今度はスーパーヨハネになって生まれ変わったりしないかしら……」
善子《101》「あーでも、配工管は嫌ねぇ……オーバーオールじゃなくて、可愛い堕天使衣装を……着たい…………」
93:
梨子「……よっちゃん?」
善子《101》「……」
梨子「ちょっと、ねえよっちゃんしっかりして! 目瞑っちゃダメだよ!」
善子《101》「何だか疲れちゃったわぁ……堕天使にも安息の時が必要だもの……」
梨子「ダメなのっ! 今は絶対ダメ! もし寝たら叩き起こすよっ!」
善子《101》「随分物騒なリトルデーモンになっちゃったわねぇ……」
善子《101》「…………」
梨子「……よ……っちゃ……」
善子《101》「……秘密……教えておいて、よかったかも……」
梨子「え……」
善子《101》「…………最期が…………一人じゃない、から…………」
梨子「…………」
善子《101》「…………」
梨子「…………あ」
 テレッテテレッテテ?♪
96:
梨子「…………」
梨子「…………なにこれ」
梨子「こんなバカみたいな音楽で……冗談でしょ……?」
梨子「こんなので、本当によっちゃんが……き、消えるはず……ない……」
梨子「何なのゲームって……何なの101人って……ふざけてるの……?」
梨子「……よっちゃん、どこ…………どこいっちゃったの……」
梨子「ま、またいつもみたいに、ひょっこり出てくるんでしょ……?」
梨子「…………嫌だ」
梨子「嘘だよ、こんなの……嘘…………」
梨子「……………………うああああああああ!」
97:
善子《1》「うるっさいわねぇ、近所迷惑よ?」
梨子「……え?」
善子《1》「はぁい♪ 堕天使のNEWヨハネよ?」
梨子「…………はあぁぁぁぁ?」
102:
善子《1》「よかったわぁ無事堕天し直すことができて。心配して損しちゃった」
梨子「は……え……なに……?」
梨子「さ、最後の命は!? 101人目のよっちゃんは!? 全部終わっちゃったんじゃ……」
善子《1》「『コンティニュー』して『リセット』されたんじゃない?」
梨子「は?」
善子《1》「マ○オやったことない梨子ちゃんは知らないでしょうけど、あのゲームそういうシステムなのよ」
善子《1》「命が全部尽きたらゲームオーバー。で、リセットされてまた最初からやり直しってわけ」
梨子「……だから、よっちゃんも1人目からやり直し……?」
善子《1》「今の状況を見たらそういうことじゃない?」
善子《1》「あー何だかすがすがしい気分だわ! まるで生まれ変わったみたい!」
善子《1》「ってまさにその通りね、あはっ♪ 堕天使ジョークも冴えてるわぁ」
梨子「……また…………最初から…………」
103:
善子《1》「命が101人分尽きてもリセットされる気はしてたのよねぇ」
善子《1》「勿論確証はないし、もしかしたらリセットされないかもしれないってホントはすっごく不安だったけど」
善子《1》「まあ結果的にはされちゃったわけだし? 無用の心配だったかしら?」
梨子「…………」
善子《1》「終わりが見えてたからこそ内心死にもの狂いでみんなと遊んで楽しみ尽くそうともがいてきたけど」
善子《1》「馬鹿みたいにがむしゃらに過ごしたのも無駄な焦りだったかも?」
善子《1》「あーあ、こんなことなら一人だけ先にスクールアイドル人生が終わっちゃうって毎晩泣くこともなかったわぁ」
善子《1》「ってやだ余計なことペラペラ喋っちゃって。緊張が解けた反動かしら?」
善子《1》「まーったく、堕天使の貴重な涙を奪うだなんて、命ストック制も罪な存在ね★」
梨子「…………」
107:
善子《1》「何よ、魂抜けちゃったような顔して」
善子《1》「いくら堕天使だからって簡単に魂の召喚はできないのよ? 甘えちゃダメなんだから」
梨子「…………」
善子《1》「色々言いたい気持ちはわかるけど、無事輪廻転生できたんだから問題ないでしょう?」
善子《1》「再び101の命を宿したヨハネの復活劇が始まるなんて胸躍るじゃない!」
善子《1》「梨子ちゃんだって嬉しいでしょ? 楽しみでしょ?」
梨子「ホントは嫌だったんじゃん」
善子《1》「え」
梨子「命が消えるのが怖くて、終わりが見えるのが怖くて……」
梨子「ただでさえ可哀想なのに……また我慢して、隠して、耐えないといけないなんて……」
梨子「こんなの…………こんなの楽しみなわけないよっっっ!!!」
108:
梨子「復活するからっていいわけないじゃん! それで済ませていいわけないじゃん!」
梨子「バトンタッチするとき毎回よっちゃん苦しんでたんでしょ!? 痛かったんでしょ!?」
梨子「毎晩泣くくらい本当は嫌だったんでしょ!?」
善子《1》「だ、だって……ヨハネはそういう存在なんだから、仕方ないじゃないっ」
梨子「仕方なくなんてないっ!」
善子《1》「ぅっ!?」
梨子「魔法なのか呪いなのか知らないけど元はと言えばよっちゃんが受け入れちゃったせいで始まったんだよっ!」
善子《1》「なっ、何がよぅ」
梨子「何なのゲームみたいな命ストック制って!? 何なの映画みたいな101人分って!? ふざけないでっ!」
梨子「悟ったとか受け入れたとか格好つけちゃって! この馬鹿っ!」
梨子「よっちゃんが認めちゃったからそうなっちゃったんでしょ!? じゃなきゃ都合よく同じ設定になるはずないよっ!」
善子《1》「そんなこと……」
梨子「受け入れないでよっ! そんな辛い命……受け入れちゃダメなのっ!」
梨子「堕天使なんでしょ!? 立派な堕天使なら周りから変な設定付け加えられたりするなあっ!」
梨子「そんなのっ、そんな堕天使のリトルデーモンになんかっ……ならないんだからああああっ!」
110:
善子《1》「……好き勝手言ってくれちゃって……っ」
善子《1》「受け入れるしかなかったのよ! だって不運なんだもの!」
善子《1》「ゲームみたいに簡単に復活しなかったら怖いじゃないっ!」
善子《1》「映画みたいに沢山命無かったら怖いじゃないっ!」
善子《1》「色んなものに縋って何が悪いの!? これがヨハネが望んだ姿なのよっ!」
梨子「嘘っ! 嘘つきっ!」
善子《1》「何が嘘なのよぅっ!」
梨子「もう嘘つかないでしょ! これ以上私に隠さないでよ!」
梨子「本当に望んでたなら何で泣いてるの!? 泣くはずないじゃん!」
善子《1》「……これはっ……輪廻転生を祝した喜びの涙なのっ!」
梨子「誤魔化さないでよ! 本当は怖かったんでしょ!? リセットしないと思って不安だったんでしょ!?」
梨子「生き返る度に怖い思いして、リセット出来るかどうか不安に怯えなきゃいけない命なんて……間違ってるよっ!」
善子《1》「…………しょうがないじゃない」
善子《1》「ヨハネはっ……こういう命になっちゃったんだからしょうがないでしょっ!」
梨子「しょうがないで済むわけないのっ!」
善子《1》「しょうがないったらしょうがないのっ! しょうがないのおおおおっ!」
111:
梨子「うぅぅぅ…………ヤダよぅ……またよっちゃんが毎回嫌な思いして復活するのヤダよおおおお!」
善子《1》「なに子供みたいな泣き方してるのよぉう……高校生のくせにぃ……!」
梨子「よっちゃん可哀想だよぉぅ……! 見てられないよぉぉぅ……!」
梨子「ああぁぁぁんヤダあああああああ! もう復活なんてしないでええええええ!」
梨子「痛い思いしてもすぐ治らないでいいから普通の命になってよおおぉぉぉぉ!」
善子《1》「そんなこと言ったってぇ……しょうがないんだからぁ……!」
梨子「認めないでえええぇぇ……うぅっ、復活しないでえええぇぇ……」
善子《1》「…………ヨハネだって……!」
善子《1》「ヨハネだってできることなら梨子ちゃんみたいな普通の命が良かったわよ!」
善子《1》「酷い目に遭う事も怖いけど、また命が減っちゃうって思う方がずっと怖いんだから!」
善子《1》「一つずつ命が消える度に体の一部が消えていくような嫌な感覚に襲われて……」
善子《1》「最後にはどうなるのかって……凄く怖かったんだからああぁっ!」
112:
梨子「いのちぃぃぃ……ぐすっ…………」
善子《1》「泣くなぁばかぁ……! 泣きたいのはヨハネの方なのにぃぃ……!」
梨子「消えないでぇぇぇ…………よっちゃん消えないでええぇぇぇぅあああああぁぁ!」
善子《1》「……ぅぅぅ……!」
善子《1》「きっ……ぅぅっ……消えたくないぃぃ……! もう復活なんてしたくないわよぉぅっ!」
善子《1》「普通がいいよおおおおお! 梨子ちゃんみたいな一つの命になりたいいいいいい!」
梨子「ああああああああよっぢゃああああああああああん!」
善子《1》「うぅぅぅぅぅぅ! もうヤダああああああいのぢすどっぐのばかああああああああ!」
善子《1》「ひゃくいちにんヤダあああああ! いのちひとつがいいよおおおおおお!」
梨子「よっぢゃあああああああああ!」
善子《1》「ああああんりごぢゃあああああん! りごぢゃあああああああああああ!」
梨子「あぁぁぁぁ……」
善子《1》「あぁぁぁぁ……」
……………
………

114:
―――
梨子(…………吐きそう)
梨子(泣きすぎたら、次の日まで具合悪いの引っ張るなんて、初めて知った…………)
梨子(太陽眩しい……歩くの辛い…………学校、休みたいな……)
梨子(あ、行くのやめよう。休もう学校。これ吐いちゃう)
梨子(別にズル休みじゃないし、体調不良だし、帰ってから学校やお母さんにちゃんと説明すれば……)
梨子(…………)
梨子(よっちゃん…………学校、くるかな…………)
梨子(…………行こう……)
115:
千歌「おはよー梨子ちゃん!」
曜「今日は絶好の航海日和だね!」
千歌「ってなんか死にそうな顔してない?」
曜「ホントだ、顔面雨あられって感じ」
梨子「おはよ…………元気だよ。うっぷ」
千歌「はいっ! とてもそうは見えません!」
曜「保健室寄ってく?」
梨子「だ、大丈夫。普通に授業は受けられ…………る…………………………?」
千歌「……? 梨子ちゃーん? どうかした?」
曜「んー? あれ、あっちにも死んだような顔してる子がいる」
千歌「あ、ホントだ。善子ちゃん今にも倒れちゃいそうじゃん」
曜「梨子ちゃんといい勝負だねーってわぁっ! 梨子ちゃん!?」
梨子「…………!」
116:
梨子「はぁっ…………はぁっ…………ぉえっ」
梨子「……………………よっちゃん?」
善子「…………ぉはよぅ……」
梨子「…………」
善子「知ってる……? 前の日に泣きすぎたら、次の日に具合悪くなるのよ……」
梨子「……ぅ…………ぅぅぅ……!」
善子「…………ぅー……!」
梨子「うああぁぁぁぁん! よっちゃんなんか違ってるううぅぅぅぅぅ!」
善子「なおったあああああああ! 命ストックしなくなったよおおおおおおお!」
梨子「やったああああ! よがっだああああああ! よっぢゃああああああああああ!」
善子「うわあああああんりこぢゃあああああ!」
梨子「うわあああああん!」
千歌「…………子供みたいに泣いてる人たちがいる」
曜「ナニコレ」
118:
―――
ルビィ「この前はあんなに凄かったのに、今日は二人とも練習凄い大変そう……」
ダイヤ「調子の波があるのでしょう」
鞠莉「揃ってあの日だったりして」
果南「こーら、変に勘ぐらないの。二人は休ませて私たちは練習続けよ」
花丸(りこよし秘密の休憩時間ずら)
善子「……なんでみんなあんなに体力あるのよぅ」
梨子「みんなじゃなくて、私たちが調子悪いんだと思う……うっぷ」
善子「今日は悪の力が湧きあがらないわ、こんなのおかしい……ぉえっ」
梨子「…………こうして、いつも通り過ごしてるけど……」
善子「……ええ」
梨子「よっちゃん……本当に変わったんだよね」
善子「そうね……」
善子「順番が、じゃなくて……命そのものが……」
119:
梨子「結局、命のストック制ってなんだったの?」
善子「知るわけないでしょ。堕天使の身にしか起こりえない人智を超えた事象だったのよ」
梨子「またそんな風に片づけて……昨日私が帰ってから何かあったの?」
善子「全然。一人になってから泣き疲れて攻爆睡、朝まで快眠よ」
善子「朝起きて顔洗って鏡見てたら、何だか今までと違う気がしたの」
梨子「じゃあ目が覚めたらもう今のよっちゃんになってたんだ」
善子「ヨハネの中から100人分の命が消えて、一人きりの命だけが残った……」
梨子「これから大丈夫なのかな?」
善子「大丈夫って?」
梨子「何だかんだ言っても、今までは命が沢山あったから酷い目に遭っても平気だったわけだし……」
善子「そうねぇ……」
善子「ヨハネが不運なのは変わらないし、それがヨハネの宿命だけど……でも、今までとは違うの」
善子「きっともう、命が交代しちゃうような酷い目にばかり遭うことはない。わかるのよ」
梨子「それは……ゲームや映画から感じ取ったものじゃないんだね」
善子「周りからの影響受けて理解したんじゃないわ。これがヨハネのありのままの姿なの」
善子「世界中の人たちと同じ、大衆に塗れた……ありふれた命の形よ」
120:
善子「……今だけ……変なこと言ってるって思わないで聞いてくれる?」
梨子「?」
善子「もしかしたらの話だけど……本当に、私には特別な力があったのかも」
善子「だからこそ想像した形の通りに命のストック制が作られて、101人の命が与えられたのかも」
梨子「……うん。偶然にしては影響受けすぎてたもんね」
善子「本当のところどうなのかはわからない。特別な力があるなんて、本気で考える方がどうかしてる」
善子「けど、あれから一つだけお願い事をしたわ」
梨子「どんな?」
善子「……梨子ちゃんみたいになりたい」
梨子「私?」
善子「命のストック制なんていらない。特別なことなんて何もいらない」
善子「ただ普通の……梨子ちゃんと同じような命の在り方をした私になりたい」
善子「ちょっとくらい不運なままでいいから、梨子ちゃんと同じ普通の女の子がいい……って」
善子「二人で散々泣いて叫んだことを、もう一度心から願ったのよ」
122:
善子「思えばずっと昔にも本気で願ったことがあったわ」
善子「小さい頃からずっと、いつも不運に見舞われてばかりで嫌だった」
善子「だから怪我とかしてもすぐ別の命に交代して復活すればいいのにって思ってた……まるでゲームみたいに……」
善子「そしたらホントに命がストックするようになっちゃった」
善子「勿論ビックリしたけど、不運に慣れ過ぎてたから、こういう運命なのねって受け入れたわ」
善子「けど……実際に命がストックするようになったら、今まで以上に嫌になった」
善子「まるですぐ交代するから平気だろって言われてるみたいに、今まで以上に酷い目に遭うようになるんだもの」
善子「凄く怖かった。本当に嫌だった。……なのにそれも受け入れた」
善子「不運ね、って、いつもみたいに」
梨子「そう……」
善子「きっと、一人だったらずっと本音を言わなかったけど…………梨子ちゃんがいたから……」
梨子「……」
善子「私の本心を代わりに叫びながら泣いてるのを見て、我慢できなくなって、本音が噴き出したの」
善子「本当の気持ちを隠さないで、諦めないで、心から願った……だから私は普通に戻ることができた」
善子「きっと、そういうことなのよ」
123:
善子「不運だからって何でも受け入れてばかりじゃ駄目だったのねぇ」
善子「いくら普通と違う出来事を求めていても、良し悪しや好き嫌いはあるわけだし」
善子「堕天使みたいな特別な存在にはなりたいけど、配管工やダルメシアンはお断り!」
梨子「よっちゃんらしいね」
善子「……そんな本音を言えたのは、梨子ちゃんのお陰なのよ」
梨子「……私は、よっちゃんの秘密を知っても何もできなかったけど」
梨子「よっちゃんが我慢していたことを私に吐き出せたなら、良かった」
善子「真実がどうなのかわからなくても、私は梨子ちゃんのお陰で元に戻ることができたと思ってる」
善子「秘密を知ってくれて……私の為に泣いてくれて……ありがと」
124:
梨子「……今回の騒動で私にも嬉しいことがあったし、良かったよ」
善子「嬉しいことって?」
梨子「自分のことを私って言うよっちゃんが見れた」
善子「…………さぁ、なんのこと? 堕天使ヨハネは特別な存在なんだから私なんて言うはずないわぁ」
梨子「ふふっ、もう手遅れだよ。特別な力なんていらないって願ったんでしょ?」
梨子「だったらもう私と同じ、普通の女の子になっちゃったんだから」
善子「仕方ないわねぇ……今はスクールアイドルとして輝かしい存在になるだけで我慢してあげる」
梨子「その為には練習だね。再開しよっか」
善子「ええ。ちゃんとヨハネについてきなさいよ?」
梨子「うんっ」
125:
―――
善子「…………」
梨子「…………あ」
善子「また死んじゃったの? 全滅しそうじゃない」
梨子「このゲーム難しいよ」
善子「全世界のお子様から老人果ては堕天使まで楽しめる良心的な難易度よ?」
梨子「マ○オとルイ○ジで性能変わったりしないの? マ○オ使いたいな」
善子「駄目よ! ヨハネとマ○オは魔界の絆で結ばれてるのっ」
梨子「名前がカタカナ三文字同士だから?」
善子「そう! あとみんなの人気者!」
梨子「ルイージだって人気者じゃないの? ……あ」
善子「あ。……ゲームオーバーになっちゃった」
梨子「どうする? 続ける?」
善子「んー……やめるわ。映画でも見ましょ」
梨子「わかった」
126:
梨子「映画何見よっか?」
善子「ねぇ、せっかくだしこれなんてどう?」
梨子「あ、101人よっちゃんの元ネタだ」
善子「ヨハネは101匹わ○ちゃんのパクりじゃないわよぅ!」
梨子「……もう、命をストックしなくなったんだもんね」
善子「そうねぇ…………本当、今までのヨハネは一体なんだったのかしら……」
梨子「過ぎたことだよ。今はもう完全に普通の……私と同じだよ」
善子「それなんだけど、実は一箇所だけみんなと違うみたい。ほら、首の後ろの番号」
梨子「番号? まだ残ってるの?」
善子「小さく浮かび上がってきたのよ。で、その番号が……見える?」
梨子「……あ。《1》と、《101》……」
善子「これってどういう意味かしらね。意味深すぎるわぁ」
127:
梨子「最初の命と、最後の命」
梨子「みんなと一緒、私と一緒で、最初で最後の一つきりの命……ってことじゃないかな」
善子「ま、そうよねぇ……戒めか忠告か知らないけど、何かのメッセージでしょ」
善子「例え101人分じゃなくなっても、100の命の煌めきを内包して今という瞬間を101倍輝きなさい、って!」
梨子「やっぱり101人よっちゃんだ」
善子「だから違うわよぅ!」
梨子「あははっ。映画見るなら先にお手洗い借りてもいい?」
善子「じゃあその間に飲み物でも用意してくるわ。よいっしょっと、ってきゃっ!」
梨子「ああっ! ……よく転ぶのは変わらないね」
善子「ぎゃあああ手に画鋲が刺さったあああ! 痛いいいいい!」
梨子「わああああ大変! どうしてこんな都合良く、じゃなくて都合悪く画鋲なんて落ちてるの!?」
善子「ヨハネの可憐な右手から生命の深紅が零れ落ちちゃうぅ!」
梨子「と、とりあえず救急箱……!」
128:
善子「前までならこれでバトンタッチして無傷に戻ってたのにぃ」
梨子「ああー確かに…………って違う違う! 駄目だよよっちゃん現実見ないと!」
善子「そっそうね! 早く画鋲取って!」
梨子「うん……い、いくよ?」
善子「痛いいいぃっ! もっと優しくしなさいよぅ」
梨子「ご、ごめん。あとはこれで…………うん、とりあえず平気かな」
善子「あぁ、やっぱりヨハネには当たり前のように不運が舞い降りてしまうのよ……」
梨子「ハハ……ね、元気出して? 痛みを感じるのも命があるって証拠だよ?」
善子「……そうね。今だけは生命の痛みをありがたく味わってあげる」
梨子「じゃあお手洗いと飲み物用意したら映画だね。私も手伝うよ」
善子「リトルデーモンとして従順にサポートすることを許可するわっ」
梨子「リトルデーモンじゃないんだけどなあ」
善子「この前泣いてる時に自分からリトルデーモンになるって言ったじゃないの!」
梨子「言ったっけ? ……まあいっか」
梨子「今まで頑張ってきたよっちゃんにお疲れさまでしたってことで、リトルデーモンでいいよ」
善子「ふふん。たった一人の堕天使であるヨハネに仕える喜び、有り難く思ってよねっ★」
おわり
129:

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