【艦これ】清霜「やったぁタイムマシンだ〜!これで戦艦になれるねっ!」back

【艦これ】清霜「やったぁタイムマシンだ〜!これで戦艦になれるねっ!」


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突如として、何者かに指をさされる清霜。むっとなり、すかさず後ろを振り返る。
そこに立っていたのは……
まだ寒さも残るというのに白ランニング姿で腕を組む、丸刈り頭の男の子が大中小と3人。
どうやら近所に住む子供のようで、見慣れない清霜に“あいさつ”に来たらしい。
清霜「ちょっと、変な髪って……清霜のこと!?」ムカッ
少年中「うわっ、こっちを見たぞっ」
少年大「こいつ、よそものだぞ!」
少年小「パーマはやめましょうなんだぞー!」
清霜「な、これはパーマじゃなくてっ」
少年中「うるさい!よそ者め!」
少年中「おいっ」
少年小「おうっ!」スッ
ポンッ
清霜「あいたっ!」ポカッ
清霜「ひぃーん!」グスツ
48: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/12(土) 22:14:30.28 ID:hQHK4xrR0
少年大「さすが“めいそげきしゅ”竹ちゃんだ!」
少年中「紙鉄砲を使わせりゃ、まちげーなく呉一番だな!」
少年小「へへっ、そう褒めんなよぉ」ニコニコ
「「「ハハハハ!」」」
清霜「…………」プルプル
清霜「もう……許さないっ」キッ
少年中「うわっ、変な髪の女が怒ったぞー!」
少年大「にげろー!」ダッ
清霜「あ、こらっ!待ちなさーい!」ダッ
清霜は、逃げる子供たちを追いかける。
もちろんこの時、手紙の言いつけのことなど彼女は覚えてはいなかった……。
49: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/12(土) 22:19:27.02 ID:hQHK4xrR0
………………
…………
……
1940年02月15日――呉市街地
彼らを追い、清霜は元の時代に鎮守府のあった場所の近くまでやって来た。
道路は舗装されておらず、散らばる砂で時折滑りそうにもなった。
だが、清霜は必死に追いすがった。
日ごろ訓練によって鍛えている艦娘の身体能力は、常人よりもはるかに優れていたのだ。
少年中「うわぁぁ!あの女、足がべらぼうにはえーぞ!」
少年大「捕まったら食われるっ!」
清霜(だれが食うかっ)ハァハァ
ドテッ
少年小「あべっ!」ドシーン
清霜「あっ、こけた」
50: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/12(土) 22:26:01.55 ID:hQHK4xrR0
少年小「いつつ……あぁ!」
少年小「ふ、二人とも、まってくれー!」
少年大「すまん竹ちゃん!」
少年中「おめーのぎせいは無駄にしねー!」
ダダダッ
少年小「こらー!白状もーん!」
清霜「…………うふふ」ザッ…
少年小「うっ」ビクッ
清霜「さっきあの変な鉄砲で清霜をいじめてくれたのは……」ゴゴゴ
清霜「……君ね?」フフフ
少年小「ひぃーっ!」
51: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/12(土) 22:37:11.57 ID:hQHK4xrR0
少年小「ごめんなさい!ごめんなさい!」ペコペコ
少年小「ぜんぶ、できごころってやつなんだ!」
清霜「出来心で……清霜のおでこを撃ってくれたんだ、へぇー!?」ギロッ
少年小「ひぃーっ、本当にごめんなさい!」グスッ
ペコペコ…
清霜「…………」ジーッ
清霜「……はぁ」
清霜(見たとこ……清霜よりだいぶ年下……よね)
52: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/12(土) 22:44:28.77 ID:hQHK4xrR0
清霜「……もういいよ」
少年小「ごめ……へ?」
清霜「ただしっ」
清霜「もう二度と、あんなのを人に向かって撃っちゃだめ」
清霜「あと、よそものにもっと優しくすること!」
清霜「この約束を守ってくれるなら、許したげる!」
少年小「…………」
少年小「わかったよお姉さん……」シュン
少年小「……ごめんなさい」ペコリ
清霜「んっ、よしよし!」ニコッ
……
…………
………………
53: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/12(土) 22:54:19.71 ID:hQHK4xrR0
テクテク…
清霜「あぁ?、すっきりしたー!」ニコッ
清霜(子供って、素直になれば案外かわいいもんよねっ)フフン
清霜「……にしても、これが昔の呉の街並みかぁ……」キョロキョロ
清霜「なんか、軍関係の建物以外はけっこう閑散としてるというか……」
清霜「高い建物がほとんど無いから、なんか寂しい感じ……」
建築に関しては、現存する木造家屋やコンクリートビルといったものと大した相違は無かったりする。
現代とはっきり違う点は、丸ポストがそこらかしこに置かれていること、道路が舗装されていないこと。
牛などの家畜が道にいること。それから行き交う車のデザイン、行き交う人の服装、道路標識など。
そして……新たな戦争の始まりを予感させる、そこらかしこに貼られた戦意高揚のスローガンたちだった。
58: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 04:51:12.09 ID:Uy9nqMVc0
「きゃあぁ!」
「ど、どろぼぉぉ!」
清霜「!?」
その時だった。突如聞こえた悲鳴……
声がした方を振り返ると、一人の男がこちらにむかって慌ただしく走ってくるのが見えた。
腕に抱えた風呂敷に包まれた何か……おそらく、例の泥棒らしい。
被害に遭っているのはその更に向こうにいるおばさんらしく、清霜はその場で状況を理解した。
男「おいガキ、どけっ!」
清霜「…………」キッ
ドカッ バキッ
……
…………
………………
59: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 04:59:33.34 ID:Uy9nqMVc0
男「」キュウ
清霜「ふふん!どーお?」
清霜「これが実力だって!」エッヘン
戦闘がはじまって15秒ほどのこと。
地に伏していたのは先ほどの泥棒で、清霜はそれを足で踏みつけて誇らしげにふんぞり返っていた。
繰り返すが、日ごろ鍛えている艦娘の身体能力は常人よりも高い。
鎮守府対抗提督プロレスを普段から観戦している清霜にとっては尚更で、並みの大人を倒すことは造作もないことであった。
「あぁ……こ、これはお嬢ちゃんが……?」
清霜「?」クルッ
60: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 05:08:25.23 ID:Uy9nqMVc0
おば「あぁ……すまないねぇ……」ペコッ
おば「ありがとうねぇ……」ペコペコッ
清霜「あ、そっか」
清霜「この荷物おばさんのだったね……はいっ」ニコッ
おば「本当に、ありがとね……」
おば「お嬢ちゃん、強いのね……」ニコッ
清霜「え、そ、そぉ!?あははは……」
清霜(なんか、よくよく考えたら女の子としてどーなんだろう、これ……)シュン
61: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 05:15:05.93 ID:Uy9nqMVc0
おば(今どき珍しい、芯のある女子だね……)
おば(……女がみんな、お嬢ちゃんみたいな強くて優しい子だったら……)
おば(この国も、あちらこちらで戦争なんかしなくてもよかったのかもね……)
おば「……あら、いけない……」
おば「私は向こうで娘と商店を経営してるんだけどね」
おば「このお金が盗まれたら、危うくお店が潰れちゃうところだったのよ」
清霜「そ、そんな大事なもの……盗まれるような所に置いちゃだめだよっ」
おば「ふふふ……本当ね」
62: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 05:23:29.80 ID:Uy9nqMVc0
清霜(……げっ!)
清霜(忘れてた……清霜、外に出るなって言われてたような気が……)
おば「お嬢ちゃんに、今からお礼をするわ」ニコッ
おば「よかったら、うちへ……」
清霜「ご、ごめんおばさん!」
清霜「清霜、行かなきゃっ!」ダッ
おば「あぁ、ちょっと!」
タッタッタッ…
おば「……行っちゃった」
……
…………
………………
63: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 05:32:04.96 ID:Uy9nqMVc0
1940年02月15日――牧野邸玄関
ガラッ
清霜「はぁ……はぁ……」
清霜(日ももう暮れちゃったけど……)
清霜「間に……あったかな?」フフン
コツン!
清霜「あう!」
男性「……外に出るなと……書いておいただろ……」
清霜「いつつ……」グスッ
清霜「あ……」
64: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 05:37:34.52 ID:Uy9nqMVc0
清霜「ごごご、ごめんなさい!」ペコペコ
清霜「こ、これには深―いわけが!」オロオロ
男性「…………」
男性「……工廠には」
清霜「え……?」
男性「……行ったのか」
清霜「……い、行ってない……です」
男性「そうか……」ス…
スタ…スタ…
清霜(……あれ、もう怒らないの……?)
……
…………
………………
65: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 05:44:11.35 ID:Uy9nqMVc0
2016年02月15日――鎮守府執務室
提督「なにっ、清霜がっ!?」
明石「は、はい……!」
明石「私の、鍵の管理が甘かったせいです!」
明石「本当にごめんなさい!」ペコペコ
提督「ちょちょ、頭上げて……!」
提督「起こっちまったものは仕方ないよ……」
提督「何事もなく帰ってきてくれれば、それで……」
明石「でも、あの子……なかなか帰ってこないんです!」アタフタ
提督「え……」
……
…………
………………
66: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 05:53:44.75 ID:Uy9nqMVc0
1940年02月15日――牧野邸
男性「……」モグモグ
清霜「……」ズズッ
清霜(うどんとお漬物かぁ……)
清霜(少し薄味だけど……不思議とお箸が進むね)モグモグ
男性「……明日からは、もっと早く帰れ」
清霜「え……」
清霜「おじさん、それって……」
男性「……工廠にだけは……近づくな」
男性「……」モグモグ
67: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 06:00:25.76 ID:Uy9nqMVc0
清霜「……おじさん、ありがとう」ニコ
男性「……赤マントにだけは、気をつけろ」
清霜「あか……まんと?」
男性「……夕方に女子供を襲うらしい」
男性「暴行されて……最後には殺される」
清霜「」ビクッ
男性「だから……日が暮れる前に帰るんだ」
清霜「!」コクッコクッ
男性「飯食ったら、風呂に入れ……」
男性「内風呂だ……ありがたく思え」
68: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 06:04:38.18 ID:Uy9nqMVc0
チャポン
清霜「ふぅ?……生き返るわぁ」ニコッ
清霜(まるで、木の桶みたいな浴槽だなぁ)
清霜(小さいけど、なんか好きだなーこれ)フフッ
清霜(それに、あのおじさん……牧野さんだっけ)
清霜(こわいけど……案外いい人だなー)フフン
清霜(この時代、家にお風呂あるのって……珍しいんだっけ)
清霜(お家も立派だし……やっぱり何かすごい人なのかも)
清霜「…………」シュン
69: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 06:14:52.80 ID:Uy9nqMVc0
清霜(……気を紛らわせても)
清霜(やっぱり不安だ……)
チャプ…
清霜(清霜、これからどうなるんだろ……)ブクブク
……
…………
………………
70: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 06:26:01.12 ID:Uy9nqMVc0
清霜「おじさん、あがったよ!」フキフキ
清霜「いい湯でした!」
男性「ん……」カキカキ
清霜(また何か書いてる……)ジッ…
男性「……」カキカキ
清霜(……設計図?)
清霜(この人、技術者なのかな?)
男性「……そんなに面白いものじゃないぞ」
清霜「!」ビクッ
71: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 06:36:08.97 ID:Uy9nqMVc0
清霜「ご、ごめんなさい!」
清霜「これも……機密なんだよね……」シュン
男性「……まだ構想中のものだ……構わん」
清霜「えっ?」
男性「だからこそ、家で書いている……」
男性「実現は……何年先になるか……分からんがな」スッ
牧野はそう言って、書いていた図面を清霜に差し出してみた。
彼女がそれをじっと見つめる。
書かれていたのは、戦艦のものと思わしき主砲塔の断面図だった。
それも、過去に例を見ない巨大なもの……
清霜「なになに……甲……砲?」
男性「……おそらく、いずれ何かに載せるものだ」
72: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 06:48:25.69 ID:Uy9nqMVc0
男性「ふざけた話としか思えんが……」
男性「こんなものを載せる戦艦など……どれほど巨大なものとなるか」
清霜「!」
男性「今でさえ、第一号艦でてんてこまいだと言うに……」
清霜「これ……積んだ戦艦って、どんなのになるの!?」
男性「……いやに食い付いてくるな……」
清霜「え!?あはは……それは……」
男性「……まぁいいだろう……」
男性「これも……気分転換だ……」スッ…
牧野はそう言って、隣に置いてあった白紙に“落書き”をはじめた。
清霜はそれを、たいそう熱心に見つめている。
73: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 06:52:18.87 ID:Uy9nqMVc0
――描きあがったのは、あくまで彼の想像にすぎない巨大な戦艦の簡単な絵だった。
その全長は堂々の300m、先ほどの巨大な51cm級主砲塔を八門四基搭載した巨艦の姿。
副砲は廃止され、代わりに艦橋の周りに大量の高角砲がハリネズミのように空を向いている。
そこには戯れか、自慢の巨砲が火を噴くさま、更には炎上し沈みゆくどこかの国の軍艦の落書きまでもが描かれていた。
男性「この砲なら、3万メートルの距離でもあらゆる装甲を貫けるだろう……」
清霜「…………!」
男性「……副砲など、いずれは必要なくなると思っている」
男性「27ノットで動かすには……動力は従来のものとディーゼルタービンの併用となるだろうな」
清霜「か……」
男性「最大排水量はおそらく……8万トンはくだらな」
清霜「かぁーっこいいーーーーっ!!」キラキラ
男性「」ビクッ
74: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 06:52:46.54 ID:Uy9nqMVc0
清霜「すごいすごい!本当にすごいよおじさん!」ピョンピョン
男性「……いきなり……どうしたんだお前……」
清霜「さいっこーに最高だよっ!」ニコニコ
清霜(こんなすごい戦艦、清霜の時代では実現しなかっことになってるみたいけど……)
清霜(……だからこそ、他の誰も困らない!)
清霜(で、清霜がこの時代にいるうちに、これが実現す・れ・ば……!)
清霜(夢の超戦艦『清霜』の誕生ってわけねーっ!)ニコッ
それはまさしく、後の七九七号艦……
いわゆる「超大和級戦艦」として後世に伝わる、海軍の壮大な夢物語の一つのことであった。
75: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 07:44:56.75 ID:Uy9nqMVc0
その時の牧野はとても饒舌で、清霜が気になったことは機密を除いて何でも教えてくれた。
彼女も彼女で、先ほどまで抱えていた不安は「超戦艦清霜」のことで頭がいっぱいとなり、どこかへ行ってしまった。
そんなおかしくもまるで親子のような語らいは、夜更けまで行われた。
男性「……む、もうこんな時間か……」
男性「……身体に障る……もう寝ろ」
清霜「ちぇ、はぁーいっ」
男性「……戦艦が好きだなんて、今どき変わった女子だな……」
清霜「ふふ、そうかもね……」
清霜「……じゃ、おやすみなさい」
清霜「超戦艦の実現、がんばってね……お・と・う・さ・ま!」
男性「……なんだそれ、気持ちの悪い……」
清霜「あ、ひっどーい!」
清霜「親子のふりしろって言われたから言ったのにぃ!」グスッ
……
…………
………………
76: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 07:55:38.41 ID:Uy9nqMVc0

1940年02月16日――牧野邸
この日、清霜は朝早くに目を覚ました。
彼女はその時から、この家の家事を一手に担うことにしたのだ。
牧野ははじめこそそれを断ったが、彼女自身の野望(?)の実現に向けた裏心もあったため、清霜は進んでこれを引き受けた。
清霜「いってらっしゃ?い!」ニコニコ
男性「……あ、あぁ……」
牧野が出かけた後、彼女はまず家の掃除を始めた。
当然、掃除機などは家に無い時代。
自身の力ではたきかけ、その後ブリキのバケツに貯めた冷たい水に、彼女はひいひいと言いながら雑巾を浸す。
広い家の雑巾がけが終わり、今度は洗濯に取り掛かった。
ここで、彼女は慣れない洗濯板の使い方にてんてこまいだった。
だが、彼女は負けなかった。
全ては、牧野の超戦艦実現のためである。
77: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 08:04:37.39 ID:Uy9nqMVc0
清霜「ふぅ?……終わった終わったぁ……」ヘナッ
清霜「そうだ、今からご飯も作らないと……」
清霜「米櫃、からっぽじゃん!」ガーン
清霜「どうしよう……ん?」キョロキョロ
清霜「また手紙だ……」スッ
金を置いていく
食材はこれで購入してくれ
シャツとスラックスは分けて洗ってくれ
以上
清霜「げっ、一緒に洗っちゃったよ!」ギク
清霜「……ま、いっか」フフ
清霜「そうと決まれば、また街に出よーっと」
78: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 08:13:14.81 ID:Uy9nqMVc0
………………
…………
……
1940年02月16日――呉市街地
テクテク…
清霜(これは50銭券……て読むのかな?)
清霜(そんなお札が6枚……)ペラペラ
清霜(これで、何がどれだけ買えるんだろ?分かんないや……)
1940年(昭和15年)当時の米価は、10kgあたり2.89円だった。
100銭=1円で、清霜が預かったお金は3円ということになる。
「あ、昨日のお嬢ちゃん!」
清霜「ん?」
79: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 08:17:00.18 ID:Uy9nqMVc0
清霜「あ、昨日のおばさん!」
清霜「こんにちは!」ニコッ
おば「こんにちは」ニコ
おば「昨日はさっさと行ってもうたから何もお礼できんかったね……」
清霜「いえいえ、清霜はそんなつもりじゃ……」アハハ…
おば「……そうだわ、ここでちょっと待っててね」
清霜「ふぇっ?」
80: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 08:24:25.16 ID:Uy9nqMVc0
おば「はいっ、これ!」ドサッ
清霜「こ、これは……?」
渡されたのは、5kgの米袋……そして、何かを包んだ風呂敷であった。
おば「お金とかじゃなくて申し訳ないんだけど……」
おば「これは昨日のお礼よ」ニコッ
清霜「いや、そんな!」
清霜「私、受け取れませんよ、貴重なお米をこんなに……」オロオロ
おば「いいのいいの、ウチの商品だから!」
おば「それに、もしアメリカとの戦争になったらもっと高くなるんだから……」
おば「今のうちにたんと食べておきなさいっ」
清霜「おばさん……」
81: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 08:30:30.41 ID:Uy9nqMVc0
清霜「ありがとう!」ニコッ
おば「ふふふ……」
おば「あと、その風呂敷……よかったら後で開けてみてね」
おば「きっと、喜ぶわ」ニコニコ
清霜「?」
……
…………
………………
82: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 08:36:23.00 ID:Uy9nqMVc0
ザザーン…
ザザーン…
清霜「ふぅ……やっぱり、海はいいなぁ……」
この時代の鎮守府や工廠地帯より少し離れた海辺にて、清霜は足を休めていた。
そして昨日のように、遠くを行き来する船を眺めている。
だが……やがてその目は、先ほど渡された風呂敷包の方を向くのであった。
清霜「……そういえばこれ……」
清霜「何が入ってるんだろ……」スッ…
パラッ
風呂敷を開けると、そこには当時の駄菓子やおもちゃがたくさん入っていた。
清霜「わぁ……っ」キラキラ
83: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 08:48:02.22 ID:Uy9nqMVc0
清霜「ムガンイウチ……あぁ、チューインガムかぁ!」
清霜「じゃあ、これはキャラメルで……」
清霜「こっちはドロップだ!」
清霜「どれもパッケージの絵が昔って感じだなー……」ワクワク
清霜「いいねぇ、楽しいねぇっ」ニコニコ
清霜「じゃ、さっそくいただきまー」
「あっ!昨日のお姉ちゃん!」
清霜「むむっ」
84: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 08:54:07.84 ID:Uy9nqMVc0
後ろに立っていたのは、昨日の背の小さな少年(以下少年)だった。
清霜「あ、君……昨日の!」
少年「……そんなとこで何やってんの?」
清霜「知り合いに、お菓子を一杯もらったんだよー」
清霜「ほれっ!」
ドッサリ
少年「うわ、すっげー!」キラキラ
少年「姉ちゃんって金持ちなの?」
清霜「だから、もらったんだって……」ガクッ
清霜「……そうだ!よかったら一緒に食べようよ!」ニコッ
少年「えっ、いいの!?」
清霜「うんっ、清霜だけじゃ食べきれないからね……」
少年「やったぁ!」ピョン
85: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 09:01:43.05 ID:Uy9nqMVc0
少年「ウメーウメー」モグモグ
清霜(なんか、こういうおなじみの味って……)ハムッ
清霜(いつの時代も変わらないから、安心するねっ)モグモグ
少年「モグモ……んっ!」チラッ
少年「あ!これ、軍艦メンコじゃん!」
清霜「めんこ?」
少年「姉ちゃん、知らねぇで持ってんのかよ?」
清霜「む……知らなくて悪かったねっ」
少年「仕方ないなあ……俺も持ってるし」
少年「やり方教えてやるよっ」
86: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 09:03:12.66 ID:Uy9nqMVc0
バシッ
清霜「あーっ!また取られた!」ガーン
少年「ひひひっ!」
少年「やっぱり長門が一番強いんだよなー!」
少年「戦艦が一番!」
清霜「なにおう!一部同感だけど……まだまだよ!」
清霜(天龍さん、力をかして!)ググ…
ペチッ
少年「プクク!」
清霜「あーん!天龍さんのばかーっ」ヒーン
……
…………
………………
87: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 09:04:08.70 ID:Uy9nqMVc0
少年「ちぇっ、最後は睦月にやられたなぁ?」
清霜「ふっふーん!駆逐艦だって、やるときにはやるのよっ」エッヘン
少年「俺の長門、いつか取り返すかんな!」
清霜「清霜だって、金剛さんを取り返すんだから!」
少年「じゃあな、変な髪の姉ちゃん!」
少年「お菓子ありがとー!」ダッ
清霜「うん、ばいばーい!」
92: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 19:27:48.52 ID:Uy9nqMVc0
………………
…………
……
1940年02月16日――牧野邸
ガラッ
男性「ただいま……」
トテトテ…
清霜「おかえりなさい!」
清霜「ご飯、できてますよっ」
男性「お、おぅ……」
清霜(とは言っても……)フフフ…
清霜(ご飯に味噌汁……だけっ)ズーン…
清霜(この時代に食べてたものなんて、分からなかったのよね……)
男性「……」モグモグ
男性「……うまい」
清霜「え……ほんと!?」
男性「……」モグモグ
清霜(よかったぁ……)ホッ
93: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 19:32:49.89 ID:Uy9nqMVc0
男性「……」モグモグ
男性「……そういえばお前は……どこから来たんだ」
清霜「……え」モグモ…
男性「……戦争孤児だとは思っていたが……」
男性「……この辺りの者ではないように見えるんだ」
清霜「えぇと……そうだなー」ムムム
清霜「お父さんもお母さんもいないのは合ってる」コク
清霜「でも、私はこの辺りに住んでいたよ」
男性「……そうか」
94: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 19:45:42.14 ID:Uy9nqMVc0
清霜「あ、でも……生まれは浦賀っていう所なんだよっ」
男性「浦賀……横須賀か」
清霜「えっ、知ってるの?」
男性「私も長らく……横須賀にいた」
清霜「へぇ?そうなんだ!奇遇だね!」
清霜「あぁ?……私も一度帰りたいなぁ横須賀……」
清霜(……といっても、今は1940年当時の横須賀なんだよね)ガクッ
男性「…………」
95: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 19:52:40.50 ID:Uy9nqMVc0
清霜「……」スースー
男性「……畳の上で寝てしまったか……」
男性「…………」
男性「……おい……風邪引くぞ……」
清霜「……」スースー
男性「……駄目か」
男性「仕方ない……布団まで運んで……」チラッ
男性「ん……?」
96: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 20:00:28.86 ID:Uy9nqMVc0
男性(これは……)サッ…
男性(この子が持ってきた腕時計のような道具だな……)ジー…
男性(一体これは……なんなのだ……?)
……
…………
………………
97: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 20:34:04.76 ID:Uy9nqMVc0
1940年02月23日――牧野邸
それからというもの……
清霜は機を見て、何度も現代への一時帰還を果たそうとした。
清霜「えいっ、えいっ」バシバシッ
清霜「このっこのっ」ブンブン
ポチッポチッ
シーン…
清霜「……だめだぁ……」ガックシ
……
…………
………………
98: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 20:39:40.71 ID:Uy9nqMVc0
1940年02月28日――呉市某海岸
その一方……
彼女と、この時代の人々との交流……これも着実に進んでいた。
少年「姉ちゃんの靴、なんかすげぇなぁ」
清霜「え、これ?」
清霜(あ……そっか、この時代にロングスニーカーなんて……)
少年「俺のズック靴、もうボロボロなんだよ?」
少年「母ちゃんも買い直してくれないしさ?」
清霜「あはは、もっと大切に使いなさいってことだね」ニコッ
少年「ちぇーっ」
……
…………
………………
99: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 20:51:49.05 ID:Uy9nqMVc0
1940年03月02日――牧野邸
男性「戦艦の命名法則……?」
清霜「うん!知りたい!」コクコクッ
男性「法則……とはいってもだな……」
男性「概ね……昔の国の名前がつくことと……」
清霜「うんうん!」
男性「……進水の時、陛下がお決めになられる……ということぐらいだな」
清霜「えぇ?っ、戦艦の名前って天皇陛下が決めてるの!?」
清霜(そんなぁ?、これじゃ超戦艦『清霜』の実現がますます遠くなっちゃうよ?……)ガックシ
男性「?」
……
…………
………………
100: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 21:03:21.04 ID:Uy9nqMVc0
2016年03月07日――明石の改修工廠
現代で待つ明石達……
彼女達もまた、ただ手をこまねいているわけではなかった。
ジジジジッ
明石(本当にやばーい……!)
明石(あの子が過去に旅立って、もう3週間になるじゃない……!)
明石(少しでも早く、もう一つの“装置”を作らないと……!)
ガチャ…
提督「明石……」
提督「少し、休んだらどうだ?」
明石「いいえっ、そんなわけにはいきません……」
明石「だって……私のせいで……あの子は!」
……
…………
………………
101: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 21:09:52.70 ID:Uy9nqMVc0
1940年03月09日――呉市街地
おば「えぇっ、天皇陛下にお会いする方法だって……?」
清霜「うんっ」
おば「それはまた……とても難しいことを聞くのね……」オロオロ
おば「……ごめんね、私には思いつかないわ」ウフフ
清霜「……そっかぁ」シュン
おば「それより、親戚が犬と猫のどちらかを飼いたがってるみたいなんだけど……」
おば「あなたなら、どっちを飼う?」
清霜「犬と猫……」
清霜「清霜は猫が好きっ」
おば「あらあら、そうなの……」ニコ
清霜(……猫なら戦争になっても、軍に連れて行かれないだろうしね)
……
…………
………………
105: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 21:20:52.42 ID:Uy9nqMVc0
1940年03月15日――牧野邸
清霜(こっちに来て……)
清霜(もう一か月になっちゃうのか……)シュン
清霜(夕雲姉さんたち、元気かなぁ)
清霜「……あれっ」
清霜「お父様、今夜は戦艦の図面書かないの?」
男性(“お父様”はやめてくれないのか……)
男性「あぁ……事情が変わった」
清霜「えっ……」
107: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 21:29:25.56 ID:Uy9nqMVc0
男性「……今は戦艦のことより」
男性「別の仕事を優先することになった」
清霜「そ、それって……」
男性「私が以前手がけた駆逐艦……設計を見直すことになったんだ……」
男性「だから……しばらくこっちは後回しだな……」
清霜「そ……」ガーン!
清霜「そんなぁ……」ヘナッ…
108: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 21:33:11.02 ID:Uy9nqMVc0
清霜「……」グスッ
男性「……まだ、ぐずっているのか」
清霜「……だってぇ……」シュン
男性「…………」
男性「お前がなぜ、そこまで悲しむか……私には分からん……」
清霜「…………」グスッ
男性「……でもな」
109: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 21:36:08.48 ID:Uy9nqMVc0
男性「私の設計によって……それで前線に往く者たちの運命が決まるといってもいい」
男性「だから私は、その時々で必要とされているものを、常に妥協なく設計する必要がある」
清霜「……」
男性「戦争に勝つこと……それが前線に往く軍人の仕事であり」
男性「作戦によって戦場を左右される、彼らの守りとなる艦を作ることが私の仕事だ……」
清霜「……!」
男性「これは技術者としての誇り以前に、使命だ」
男性「それを……分かってほしい」
……
…………
………………
110: 猫ェ…… ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 21:42:02.88 ID:Uy9nqMVc0
2016年03月17日――明石の改修工廠跡
この日、深海棲艦による鎮守府への奇襲攻撃があった。
懸命な抗戦により鎮守府への被害は軽微であったが、ただ一つ……
明石の改修工廠だけが、戦闘により甚大な被害を受けていた。
明石「そ……そんな……」ガクッ
提督「すまない……」
提督「深海棲艦の侵攻を、易々許してしまうなんて……!」
明石「……ここが直るまで……」
明石「……清霜は……」
……
…………
………………
111: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 21:47:43.16 ID:Uy9nqMVc0
1940年03月20日――呉市街地
清霜「えっ……お店閉めちゃうの!?」
おば「えぇ、そうよ」
おば「いよいよ米をはじめとした食糧の販売に、制限がかかるそうなの……」
おば「今の日本は満足に農業ができないんだから、仕方ないわね」
清霜「じゃあ……おばさん達はどうするの?」
おば「一度お店を畳んで……そうねぇ」
おば「戦争が終わったら、またこの呉でお店をはじめようかな」ニコ
……
…………
………………
112: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 21:53:34.93 ID:Uy9nqMVc0
1940年04月03日――呉市某海岸
清霜「そっか……」
清霜「お引っ越し、か」
少年「……」コク
少年「ここ、戦争がはじまったら……」
少年「いつ軍港が爆撃を受けるかわからないって、母ちゃんが……」
清霜「……」
少年「……なぁ」
清霜「うん?」
少年「また……メンコで勝負、できるかな」
清霜「……できるよ、きっと」ニコッ
……
…………
………………
113: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 21:57:23.99 ID:Uy9nqMVc0
1940年04月13日――牧野邸
清霜(もうすぐ……2か月、か)
清霜(今日も、装置を試したけど……だめだった)
清霜(…………うぅん、薄々分かってた)
清霜(私はもう……元の時代には帰れない)フフ…
114: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 22:04:18.40 ID:Uy9nqMVc0
ガラ…
清霜「おかえりなさい、お父様っ」
男性「……あぁ」
清霜「お風呂もご飯も、準備できてるよ」
男性「いつも、すまんな……」
男性「……じゃあ、飯がいい」
清霜「はいっ」ニコッ
115: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 22:04:50.46 ID:Uy9nqMVc0
男性「……」モグモグ
男性「……なぁ」
清霜「はい?」
男性「ここでの仕事が一段落したら……」
男性「私は横須賀に戻ることになるかもしれない」
清霜「へぇ……そうなの」
男性「そうなったらお前は……どうする」
清霜「え……」
116: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 22:05:20.71 ID:Uy9nqMVc0
清霜「私は……」
清霜「私は、お父様に付いて行くっ」
男性「!」
清霜「……もちろんお父様がよかったら、だけどっ」
清霜「えへへ……」
男性「…………」
男性「…………そうか」クスッ
……
…………
………………
117: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 22:10:19.57 ID:Uy9nqMVc0
1940年04月15日――牧野邸
清霜「ふふ?ん♪」パタパタ
男性「…………」
清霜(なんとなんと、工廠がお休みの日!)
清霜(だから、今日はお父様も一緒だね!)
男性「……なぁ」
清霜「はい?どうしたの?」
118: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 22:16:16.39 ID:Uy9nqMVc0
男性「……一緒に、外に出てみないか」
清霜「え、そんなの行くにきまってるじゃない!」
清霜「ちょっと待って!すぐに掃除終わらせるから!」
清霜「?♪」
トテトテトテ…
男性「…………」
……
…………
………………
119: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 22:27:48.09 ID:Uy9nqMVc0
1940年04月15日――呉海軍工廠 機密区画
清霜「お父様、ここ……っ」
清霜「最重要機密の場所なんじゃ……!?」
男性「……あぁ、そうだ」
男性「……そして、お前と私の出会った場所でもある」
清霜「……?」
男性「あの時はまだこの第一号艦に、この46サンチ砲は搭載されていなかった」フフ…
スッ…
男性「……ついてこい」
清霜「……う、うん」
120: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 22:32:53.87 ID:Uy9nqMVc0
カン カン カン
清霜「こ、ここは……!」
清霜(私が……タイムリープしてきた部屋……!)
男性「……やはりな」
清霜「やはりって……お父様?」
清霜「それはどういう……!」
男性「……お前は」
男性「帰るべきだと……私は思う」
清霜「っ!」
121: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 22:37:29.12 ID:Uy9nqMVc0
清霜「お父様……」
清霜「……知ってたの……?」
男性「……なんとなくだ」
男性「技術者にあるまじき考えだが、な……」スッ
その時、手渡されたもの……
それは今まで、清霜が何度も帰還を試みたあの装置だった。
清霜「こ、これ……!」
男性「勝手ながら……少し調べさせてもらった」
男性「とても進んだ技術のようだ……結局、私にはさっぱり原理が分からなかったが」
男性「“だからこそ”、理解したんだ」
清霜「!」
122: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 22:42:25.38 ID:Uy9nqMVc0
清霜「……でも」
清霜「私、これで何度も帰ろうとしたけど……」
清霜「一度も……」
男性「仮に、だが」
清霜「!」
男性「もし時を越えて、その場所が既に無くなっている場所だったら?」
清霜「え?」
男性「……たとえば私の家」
男性「あそこがもし、何十年後かに土の中にあったとしたら?」
清霜「……!」
123: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 22:48:00.76 ID:Uy9nqMVc0
男性「海岸は既に海となっているかもしれないし」
男性「街で時を越えようものなら、下手すればコンクリートの中という事もあり得る」
清霜「それは……」
男性「……つまりだ」
男性「これの設計者は、そういったことを考慮し」
男性「装置を使える場所を、“意図的”に限定したのかもしれない」
男性「そう……この“地下壕”のような場所にな……」
清霜「……っ!」
男性「……お前は、この時代にこれ以上いてはいけない」
男性「だから……今から帰るんだ」
124: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 22:53:39.61 ID:Uy9nqMVc0
清霜「……不思議だね」
男性「何がだ……?」
清霜「私達、今まで一度も名前を呼び合わなかった」クスッ
男性「……そうだな」
男性「私達は常に、“お前”と」
清霜「……“お父様”だった」
男性「私は……お前の名前を最後まで知らなかった」
清霜「でも、私は知ってる」クスッ
125: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 23:00:34.36 ID:Uy9nqMVc0
男性「……これからもそうだ」
男性「絶対、お前はこっちに帰ってくるな」
男性「そして……早く忘れてしまうんだ」
清霜「お父様……」ポロ…
男性「早く、行け!」クルッ
厳しく彼女を突き放したはずの牧野の背中は、震えていた。
126: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 23:06:50.47 ID:Uy9nqMVc0
清霜「……わかっ……た」
清霜「ありが……とう」プルプル…
清霜「おとう……さま……」ポロ…ポロ…
牧野は何も言わなかった。
そして……彼は何も見なかった。
ただ彼女に背を向け、その背中を震わせている。
清霜の身体が眩い光に包まれる、その瞬間すら――
……
…………
………………
127: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 23:13:25.34 ID:Uy9nqMVc0
2016年04月15日――呉市旧工廠跡某地
ザザーン…
ザザーン…
清霜「…………」
夜……聞こえてくるのは、海風と波の音だけ。
彼女の足がその地を踏んでしばらく、清霜は放心状態でいた。
……だが、あるときになって、彼女は歩を進めることにした。
128: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 23:18:17.00 ID:Uy9nqMVc0
いつも吠えてくる犬はそこにおらず、かわりに子猫の鳴き声が聞こえた。
寂れたタバコ屋だった場所は、数代で築いたという大きな個人スーパーとなっていた。
だが、清霜はそのようなことも気にはかけなかった。
ただ、歩いた。
皆の待っている鎮守府へ――
……
…………
………………
129: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 23:29:18.73 ID:Uy9nqMVc0
2016年04月15日――提督執務室
提督「……よく、帰って来たな」
明石「みんな、心配していたのよ」
清霜「……ごめんな……さい」
明石「うぅん、私の方こそ……ごめんね」
明石「怖い目に……合わせちゃったね」ギュ
清霜「……」ギュ…
130: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 23:35:13.62 ID:Uy9nqMVc0
清霜「……しれいかん」
提督「ん?」
清霜「……怒らないの?」
提督「……はじめはそのつもりだったんだけどなぁ」
提督「実は清霜が帰ってきたら、少しやってみたいことがあってね」
清霜「……え?」
提督「……もう亡くなった、俺の爺ちゃんにもらった“これ”を、ね」スッ…
清霜「そ、それ……!」
131: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 23:42:30.78 ID:Uy9nqMVc0
提督「爺ちゃん、いつも“変な髪の姉ちゃんから長門を取り返したかった”って言ってたんだ」
清霜「っ!」
提督「……今、持ってるか?」
清霜「……おいてきちゃった」
提督「そっか」クスッ
提督「じゃあ、この天龍と金剛を戦わせてみようかな」スッ
提督「どうせなら“本人”達も呼んでみようぜ?!」
提督「たぶん、盛り上がる……別の意味でなっ!」ニコッ
清霜「司令官……」
清霜「……うん!」ニコッ
明石「ふふふ……」ニコニコ
……
…………
………………
132: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 23:51:27.55 ID:Uy9nqMVc0
――それから5年の時が流れた。
戦争は深海棲艦との講和という形で終戦を迎え、清霜もこれを無事に生き残った。
彼女の顔つきは既に大人の女性のそれとなり、今では姉たちとともに平和に暮らしている。
だがそんな彼女の下にある日、一つの知らせが届いた。
あの工廠跡地がもうすぐ埋められ、新しい造船所となるというのだ。
133: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/13(日) 23:58:05.52 ID:Uy9nqMVc0
2021年04月15日――呉市旧工廠跡某地
それは快晴の日のこと。
埋め立て前に、彼女は再びそこへやってきた。
5年2か月前と変わらない地下壕。
置かれているのは、古びて割れた木の机と椅子だけ……
違っていたのは、そこにあの装置が無いことだけだった。
134: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/14(月) 00:05:20.78 ID:ZO5+u7Br0
清霜「……あれっ」
しかし、清霜はあることに気付いた。
その机には、引き出しが付いていたのだ。
清霜「……」ジーッ
すかさずその引き出しを開き、中を確認する。
中には、一枚の手紙が入っていた。
古ぼけた紙に、あの時と同じ字でこう書かれていた――
135: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/14(月) 00:09:46.81 ID:ZO5+u7Br0
いつの日か、生まれるお前へ
この書簡が後の時代に見つかることがあるならば、願わくばお前に見つけてもらいたいと、私は思う。
まず、私はお前に謝らなければいけないことがふたつある。
ひとつは、人に忘れろと言っておきながら……私自身がお前を忘れられなかったこと。
ふたつめは、この書簡の存在が本来進むべきであった未来を変えてしまう危険性を孕んでいることだ。
それを承知で、私はこの書簡をしたためる。
大好きな戦艦のことではないが、
お前に聞いてもらいたいことがあるからだ。
136: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/14(月) 00:13:25.19 ID:ZO5+u7Br0
戦艦「大和」が進水した後、私は横須賀へ移り住んだ。
それからある仕事を終え、もう一度ここ、呉に来る機会を頂いた。
それが今、昭和18年……1943年9月のことだ。
私のかつて手がけた陽炎型駆逐艦の改良型、夕雲型駆逐艦の進水は、着々と進んでいる。
そしてつい最近のこと。
進水を来年に控えた最後の夕雲型が、新しい名を頂いたところだ。
清らかで、美しく白い霜の意味を持つ。
その名は、「清霜」だった。
清霜「……っ!」
137: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/14(月) 00:19:38.18 ID:ZO5+u7Br0
1941年に突入したアメリカとの戦争。
これはミッドウェーでの敗北を機に、我々の敗戦色が徐々に濃いものとなりつつある。
つい先日も、コロンバンガラ島での輸送作戦で、多くの駆逐艦が沈んだと聞いた。
そんな中で生まれた「清霜」を見て、私はなぜかお前のことを思い出した。
この「清霜」は、私がこの戦争で手掛ける最後の軍艦となるだろう。
お前の楽しみにしていたあの戦艦は、とうてい“間に合わない”からだ。
138: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/14(月) 00:22:09.62 ID:ZO5+u7Br0
この美しい「清霜」が、これから先どのような運命をたどるのか、私には分からない。
だが、願わくばこの船やその乗員にとって、少しでも幸せな運命を辿ってほしいという私情が生まれたのだ。
これは技術屋として正しいことなのか、私には分からない。
だからこそ、お前に聞いてそれを確かめてみたかった。
もう一度“お父様”と呼んでもらって、ちゃぶ台を囲んで。
清霜「…………」
139: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/14(月) 00:23:52.84 ID:ZO5+u7Br0
大日本帝国はこの先、どのような国となっているのだろうか。
そう思い、眠れなかった夜も何度かあった。
だが、私の下へやってきたお前のことを思うと、心安らかになった。
なぜなら、お前のような気丈な娘がいる国だ。
そこは、とても素敵なところだろう。
清霜「…………」ポロ…ポロ…
140: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/14(月) 00:24:39.19 ID:ZO5+u7Br0
最後となったが、これだけは言わせてほしい。
お前は私の、
本当の娘のような存在だったと。
さようなら未来のお前。
私はお前を、この時代から愛している。
海軍技術大佐 牧野茂
141: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/14(月) 00:25:10.41 ID:ZO5+u7Br0
清霜「……清霜は……」
清霜「……1944年の12月……」
清霜「礼号作戦でアメリカ機の爆撃によって……沈みました」
清霜「犠牲者は出ましたが……大半の乗員は、無事に救出されています……」
142: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/14(月) 00:25:57.97 ID:ZO5+u7Br0
清霜「……そして、あなたが“娘”だと呼んでくれた後世の清霜は……」
清霜「……2021年の今、ここにいます」
清霜「平和な空の下、平和な海のそばで……」
清霜「あなたのくれた……手紙を……」プルプル
清霜「……握りしめて……いますよ……!」
清霜「……おと……うさ……ま……!」ポロ…ポロ…
―――――――――――fin――――――――――――
144: ◆9l/Fpc6Qck 2016/03/14(月) 00:29:52.37 ID:ZO5+u7Br0
このお話はこれで以上になります。
作中の出来事はすべてフィクションです。
登場した牧野氏の性格や功績などはすべて僕自身の想像で、時代考証も甘いかもしれません。
あとタイトルのタイムマシンンはミスです。仕様ではありません。
それらを踏まえた上でここまでお読みくださった方、楽しく書かせていただき、ありがとうございました。
146: 以下、

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