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『開いちゃった世界』が見える相棒と連絡が取れなくなったから思い出を書く


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もう三年以上取れてない
多分もう死んでるとは思うけど、
どこかに彼の痕跡を残したいのでつらつら書いていく
基本的には見聞きしたことをそのまま書いてく
フェイクはないけど文章力的にまるで自分がそこにいたように書くのは勘弁してくれ
引用元: ・相棒と連絡が取れなくなったから思い出を書く
2: 本当にあった怖い
駅前の コンビニの深夜バイトをしていた時、
シフトがいつも一緒にだった相棒との話。
偏見もあるが経験上深夜のコンビニでバイトをやる奴は大体どこか変な奴が多い。
そいつは吃音が激しく少しコミュ障気味だったが、
だからと言って全く話せないということもなく、
普通に馬鹿話も出来るようなやつだった。
ただどんな時でもニコニコというより引きつりながらもニヤニヤしているような不気味なところが少し気になっていた。
ある日バイトが終わって家に帰ろうと自転車に鍵をさしたところで自転車がパンクしているのに気がついた。
変な奴にイタズラされたかとその日は仕方なく二つ駅を超えた実家まで電車に乗って帰ることにした。
改札を抜けると、そこには電車を待っている相棒がいた。
3: 本当にあった怖い
そういえば相棒はわざわざ隣の市から電車で通っていたなと思い出し、
方向も同じだったので声をかけて一緒に帰ろうと思った。
声をかけようと近づいた時、相棒の様子がいつもと違う事に気がついた。
冬だというのに額に汗を浮かべながらニヤニヤと何かを見つめているのだ。
声がかけづらくなんとなく相棒の視線を追うと、
反対側のホームに黒いパンツスーツのOL風の女性が立っていた。
OL風の女性は眉間に深くシワを寄せ相棒をにらみ返しているようだった。
早朝から変な男にニヤニヤ見つめられたらさぞ気持ち悪かろうと思い俺は相棒に声をかけて窘めようとした。
しかし相棒は視線をOL風の女性から外すことなく、
自分の人差し指をなめ、その指をあろうことか俺の目の上になでつけてきた。
汚ねえ、とのけぞる俺の腕を掴んだ相棒はそれでも視線をOL風の女性から外すことなく、
顎でOL風の女性の方向を見るように俺に促してきた。
訝しみながら視線をやった俺は思わず唾を飲みOL風の女性から視線を逸らしてしまった。
4: 本当にあった怖い
そこには薄汚れたスーツを着た丸ハゲの女が裸足で立っていた。
口の端に泡になった唾を貯め歯をむき出しにして睨む女は、どう見ても普通じゃなかった。
恐怖で黙って下を向いている間に上りも下りも何本か電車が通り過ぎた。
暫くそうしていると、ふと相棒が俺の肩を軽く叩いた。
見れば女の姿はすでになく、駅には通勤客が電車を待っているごく普通の風景になっていた。
もう大丈夫だから、と言った相棒は駅のベンチに座ろうと持ちかけてきた。
言う通りに俺がベンチに腰掛けると相棒持参の水筒の水を飲むように言ってきた。
水筒の水は果汁のジュースを物凄く薄めたような味がした。
5: 本当にあった怖い
「あれ、なに?」
一息ついた俺は相棒に尋ねた。
「な、なんて言えばいいのかな。難しいな」
「幽霊?」
「に、似たようなもん、かな」
「いやー、マジでびびったわ。俺初めて見たよ、幽霊」
「そ、そうなんだ」
「なに、朝とか関係ないんだ。夜だけだと思ってた。あれか、人身事故で死んだ女の幽霊とか? あれ」
「ちょ、ちょっと違う」
「つーかなに、お前見える人? すげーじゃん。TV出れるじゃん」
「や、やな事しかないよ」
「あれ、つーか俺も見えたじゃん。俺も凄くね」
「ご、ごめん」
「ごめん? なにが? 超能力者じゃん俺ら。お金稼げちゃうよ。この力」
「ち、力じゃない。開いちゃっただけ」
「なんだよー、テンション低いなー。マジでTVに売り込もうぜ。俺ら。超能力コンビでさ」
「さ、詐欺師に住所氏名がバレて嬉しい? 同じ事だよ」
「は?」
「み、見えちゃうと寄ってくるよ。対処できる? 俺は対処できなくて、小さい時に声を盗られたよ。だから今でもうまくしゃべれない」
「マジ?」
「よ、よくあるんだ。俺の近くに長くいると感染するみたいに開いちゃう事が。だから同じ人とシフト組まないでくれって、て、店長に言ってたのに」
「え、マジなの? 色々やばいの?」
「さ、さっきのは特にやばい」
「え?」
「あ、あれ、元は多分生き霊。姿が生々しすぎるから。人身事故にあったってよりも、故意に人身事故を起こしてた女の生き霊。悪意が喜びと混じってる。相当性格がねじ曲がってるね」
「生き霊? 元?」
「じ、人身事故を起こしてた女の思念が悪意を核に独立して形になってる。元の女は精気を今でも抜かれてるけどもうコントロールはできてない。精気が流れ続けてる限りあれはどうやっても消えない。死人の念なんかより、よっぽど強い」
「え? もしかして、祟られた? 俺?」
「た、多分大丈夫。あれ髪なかったでしょ? 一回、誰かに祓われてる。なんて言えばいいかな。女は髪に霊力があるからあれだけなくなってると祟る力は少なくなる。大分強引に祓われたみたいだね」
「OK、OK。弱ってるのね。うわー、びびったわ、マジ」
7: 本当にあった怖い
「あ、安心しちゃダメ。力はなくても、存在としての元々の行動、あいつの場合は人を線路に落とすって事はできるし、力がないから俺たちみたいに開いちゃってるやつから奪おうとする」
「やばい?」
「お、俺の場合は笑っておまえなんかなんでもないぞって威嚇したり、教えてもらった破邪の水を普段から飲んでるからこれ以上近づかなければ大丈夫」
「さっき貰った水?」
「そう。そ、それにどっちかっていうとあいつがなにもしないように見張ってないと。誰かが線路に引っ張られちゃうかも」
「見てるだけでいいの?」
「い、一度祓われたからかかなり警戒してる。だからそれでも十分効果あるはず」
「俺は?」
「い、家に神棚か仏壇ある?」
「ない」
「う、氏子とか檀家になってるところある? それかよく寄る神社仏閣」
「ないよ」
「じ、じゃあお手上げ。近づかないのが一番。ここだけじゃなく心霊スポットとかもこれからは近づかない方がいいよ」
「実質放置かよ」
「ほ、他に方法がないもん。一度開いちゃたら閉じられないから後は対処するしかない。だから言ったじゃん。やな事ばっかだって」
「マジか」
「だ、だから俺深夜のバイトしか出来ないんだ。昼間は仲間が多すぎるし、昼間だからって安心できないのは今わかったでしょ?」
「いやって程にね」
「し、深夜のコンビニなら同僚は少ないし、夜でも人が比較的多いから悪いのが居着きづらいんだ」
「嘘でしょ? 俺どうすりゃいいの?」
「し、心身ともに清く、活力ある生活を心がけて」
「深夜のバイトしてるフリーターでそれは、無理じゃない?」
「よ、余計な災難に巻き込まれたくないでしょ? 頑張ってよ。大丈夫。死人や生き霊よりも生きてる人間の方が根本的にはよっぽど強いはずだからさ」
8: 本当にあった怖い
「訳わかんねえよ。なんなん、マジで」
「こ、これから一緒のシフトの時色々教えてあげるよ。そんなことより家に帰ったら塩で頭洗って」
「はあ? なんで」
「あ、頭。触ってみて。ちょっとあいつとつながってる。予想よりしぶといかも」
恐る恐る頭を触ってみると、長い髪の毛がごっそり指に絡みついてきた。
「そ、それ、あいつの毛。結構精気抜かれたかも」
そう言うと、相棒は大声で笑いだした。
「ほ、ほら、笑って。笑うのが一番手っ取り早いお祓いだよ」
引きつった笑いしかでない俺は、その時初めて相棒の引きつったニヤニヤ笑いの意味を痛感した。
その日は結局歩いて家に帰った。
家に帰るとすぐ風呂に入り相棒の言うとおり塩で頭を何度も洗った。
塩の粒で頭皮が荒れてヒリヒリ痛んだが、その日はそれ以上何にもなかった。
恐怖と興奮でなかなか寝付けなかった。
起きればまたバイトで、シフトの相棒はまたあいつだ。
相棒のニヤニヤ顔を想像すると、不思議に今まで感じたことのない親近感を覚えた。
9: 本当にあった怖い
コンビニの深夜バイトでいつも一緒だった相棒との話2
相棒には所謂霊能力があった。
霊能力といっても超常的なものが見えるだけだったが、
その力の厄介なところは近くに長くいた人間にもその力が伝染するところだった。
彼は自分の力も含め、そのことを『開いちゃった』と表現していた。
その表現通りその力は一度開くとどんなことをしても閉じることはないらしく、
彼はそのことで大変な苦労をしてきたようだ。
そして残念なことにいつも一緒のシフトに入っていた俺もまたある日突然『開いちゃった』のだからたまらない。
俺が『開いちゃった』翌日もバイトのシフトは相棒とだった。
バイト先のコンビニは駅前だったので終電が終わるまでは深夜といえども比較的忙しかった。
それでも終電が過ぎ近所の居酒屋が閉まると徐々に客足は少なくなる。
午前二時から四時ぐらいまでは腰を据えて雑談に興じる程度には暇になった。
俺はその日相棒がなぜ『開いちゃった』のかを根掘り葉掘り聞きだした。
10: 本当にあった怖い
相棒は生まれた時はごく普通の少年で見えるどころかどちらかというとその手の話は全く信じておらず、
どちらかといえばやんちゃな少年だったと言っていた。
そんなやんちゃだった相棒が中学生になってすぐに、相棒の両親が離婚した。
離婚の詳しい原因は相棒自身も知らないらしいが、多分母親の浮気が原因だと相棒は言っていた。
そして離婚の後父親はキリスト系の新興宗教にはまり、土日のたびに力ずくでその宗教の奉仕活動に相棒は参加させられていた。
やんちゃな少年がスーツを着て同級生もいる近所の家々を巡り神への懺悔を説く。
家に帰ればスーパーの惣菜かコンビニ弁当の夕食。
文句を言えば父親からの容赦ない体罰。
宗教狂いのうわさで友人とも疎遠になり学校でも孤独な日々。
そんな生活に多感な中学生が耐えられるはずもなく、相棒はある日家出をした。
家出といっても金があるわけでもなく、どこか遠くに行くことはできない。
だからといって深夜に中学生が一人でうろうろしているのはあまりに目立った。
悩んだ挙句相棒は町はずれにある神社の境内に寝泊まりすることにした。
父親の宗教狂いの反動か、相棒は宗教施設に敬意も恐怖も感じてはいなかったと言っていた。
普通に考えれば深夜の神社はどこか不気味に思えるが、
敬意も恐怖もなければ人気のない神社はさぞかし快適な仮宿に見えた事だろう。
相棒は拝殿の扉の鍵を石で叩いて壊し、中に入って寝転んだ。
天井の木目を眺めていると母親がいた頃の楽しい思い出や明るかった夕食の風景の思い出がよみがえり、
相棒には無性に現状が腹立たしく思えた。
そのまま長い時間眠らずに惚けていた相棒は誰かが境内の階段を駆け上がってくる音で我に返った。
13: 本当にあった怖い
見れば怒りに顔を赤くした相棒の父親だった。
父親は肩に相棒の自転車を担いでいた。
相棒は自転車を隠すのを忘れていた。
相棒を探していた父親は境内の入り口に置かれた自転車を見て相棒が境内に隠れているのを確信したらしい。
相棒の父親は相棒が家出をした事に怒っていたわけではなかった。
肩に担いだ自転車を地面に叩きつけた父親は神社が邪教の神殿である事を口汚く罵り、
そこに相棒が隠れた事に怒りをあらわにしていた。
子供の安否よりも自分の宗教的信条を優先している父親に叫び出したい衝動を相棒は必死に我慢した。
父親の姿を見た瞬間の僅かな安堵感を踏みにじられたような気がして、相棒は怒りでさえ父親に向けたくはなかった。
口を手で押さえ必死に我慢していた相棒は、ふと拝殿内の空気が変わった事に気がついた。
湿った苔の匂いが充満し、水の中にいるように空気が粘り着いてきたと相棒は言っていた。
見れば、拝殿の角に何かがうずくまっているのに相棒は気がついた。
明かりもなく真っ暗だったのに、相棒にはそれの姿がよく見えた。
それはまばらに毛の生えた巨大なナメクジによく似ていた。
深緑色の体に山吹色の縞が入った体をくねらせてそいつは相棒に近づいてきた。
「いらぬなら貰うてやる」
頭の中に声が響いたように思えたと相棒は言っていた。
そいつは相棒に近づくと、体を持ち上げて相棒にのしかかってきた。
思わず体を縮めたが、なんの感触も相棒は感じなかった。
その代わり、むせ返るような苔の匂いが相棒の鼻をついた。
体に入った苔の匂いは相棒の体の中で膨らみ、呼吸の代わりに身体中の穴という穴から勢いよく抜けていった。
あまりの恐怖に矢も楯もなく拝殿を飛び出した相棒は、
未だ怒りに狂う父親にすがりついて助けを求めた時に自分からなんの声も出ていない事に初めて気がついた。
14: 本当にあった怖い
「そ、その時盗られちゃたんだろうね。声」
「そいつに盗られた時、開いちゃったの?」
「た、多分」
「で、結局そいつなんだったの?」
「か、神様かな?」
「迷惑な神様だな」
「か、神様的には善意だったと思うけどね」
「善意?」
「お、俺が話したくないって思ってたから声を持ってったんじゃないかな」
「開いちゃたのは?」
「お、俺が父親の汚い面をもう見たくないって思ってたから他のものが見えるようにしてくれたのかなぁ」
「よく分からん」
「き、きっとそんなもんだよ神様なんて。全部こっちの都合のいいようにはならないでしょ」
「迷惑な話だ」
「お、俺友達いなかったから、感染るようにしてくれたのかもね」
「え?」
「な、なんでもない」
お互い頑張ろうと言って俺の肩を叩いた相棒はどこか嬉しそうに見えた。
俺が相棒の肩を叩き返した時、朝刊の束を抱えた業者が元気よく挨拶して店に入ってきた。
そうして俺と相棒はバイトが終わる6時まで、再び慌ただしい業務に戻った。
15: 本当にあった怖い
続きは昼過ぎごろに書く
16: 本当にあった怖い
保守
17: ゅ ◆Mo//Ipyyq2 @\(^o^)/ 2016/06/19(日) 09:46:58.58 ID:Ot4kJzUZ0
巨大ナメクジこわい
18: 本当にあった怖い
>>1からも伝播するのか?
だとしたら、これ読んでる俺らにも伝播するのかな?
だとしたら少し楽しみかも
19: ゅ ◆Mo//Ipyyq2 @\(^o^)/ 2016/06/19(日) 10:00:04.45 ID:Ot4kJzUZ0
読み返してしまった。。伝播すると
おもしろいよね
20: 本当にあった怖い
ほしゅ
21: 本当にあった怖い
気になるw
27: 本当にあった怖い
早く続きが読みたいです
36: 本当にあった怖い
続きよろしく
37: 本当にあった怖い
コンビニの深夜バイトでいつも一緒だった相棒との話3
バイト先の相棒には幽霊が見えた。
見えたところでなにもできないので、相棒は威嚇の意味を込めて笑顔を浮かべる。
しかし恐怖のために笑顔はいつも引きつり、はたから見るとニヤニヤしている不審者のようだった。
そしてその力が伝染した俺もそのニヤニヤ笑いまで感染ってしまったのは心底困った。
深夜バイトが終わった俺と相棒は近くのファミレスに入り、
時間的には朝食だが俺と相棒的には夕食を食べながら、
俺は相棒が『開いちゃった』後どうやって対処したのかを聞いていた。
38: 本当にあった怖い
相棒は宗教狂いの父親から逃げ出した時『開いちゃった』だけではなく、その時に見えた何かに声を奪われた。
当初相棒はストレスによる一時的な失語症という診断でカウンセラー通いをしていたが、
いつしか、突然恐ろしいものを見たかのように暴れ出したり引きつけを起こすことで統合失調症の疑いまでかけらられるようになっていた。
父親はそんな相棒を見て自分の宗教狂いを反省するどころかますますのめり込み、家財を売り寄付に充て、仕事を変えて奉仕の時間を増やしていった。
それでも相棒に回復の兆しが見えなければ宗派を変えたり元の宗教を変えたりと、宗教というカテゴリーそのものへの依存を高めていった。
やがて売り払えるめぼしい家財もなくなり、宗教活動のための欠勤が目立つようになった父親が仕事を解雇されたあたりで、相棒の父親は相棒の養育を放棄した。
そうして高校生になっていた相棒は高校の担任の勧めで里親に預けられることになった。
父親への説得も担任が行ったが、相棒に父親は相棒になんの執着も見せずにその説得に二つ返事で応じた。
もう、父親の目に俺は映っていなかったんだろうね。
相棒は静かにそう呟いた。
39: 本当にあった怖い
里親に選ばれたのは、遠く離れた市の地付きの一族の家だった。
里親はともに六十台の老夫婦で、三十台の息子夫婦と隠居して離れでひっそり暮らしている八十台の爺さんの五人家族だった。
相棒が失語症を患っていることとそのほかの精神疾患も疑われるという説明は里親斡旋の団体の職員が里親一家に代わりに説明してくれた。
里親一家はそんな破名詩など何も気にすることなく暖かく相棒を受け入れてくれた。
生活の折々で里親一家は筆談を使ったコミュニケーションをめんどくさがらず行ってくれていたが、
そのころ完全に人間不信になっていた相棒は、そのことを疎ましくさえ思っていた。
そんな生活が三か月も続いたころ、庭の池の手入れを相棒は里親から頼まれた。
おそらく、いつも部屋に閉じこもっている相棒の気分転換になればとの配慮だったのだろうが、
相棒が池の藻を網ですくっている時に事件は起きてしまった。
40: 本当にあった怖い
水面に反射してギラギラと照り返していた日の光が急になくなったことに相棒は気が付いた。
ふと、真冬のような冷気が拭きつけた。
夏だというのにサンダル履きの足先は痛いほど冷えている。
相棒は不思議に思う事すらなかった。
そのころにはそれが予兆であることをいやというほど理解していたからだ。
あれ以来防ぐことも避けることも出来ずに味わってきたことの予兆だった。
相棒は恐る恐る水面から顔を上げた。
恐怖で汗が噴き出るがあたりに充満する冷気ですぐに冷え、相棒は歯の根が合わないほど凍えていた。
しかし水面には何もいなかった。
水面は波紋一つ立てず、抹茶のような濁った水を湛えていた。
ほっと一息ついた。
しかしすぐに別の異変に相棒は気が付いた。
あたりが暗すぎるのだ。
池の周りは高い木はなく日を遮るものなんて一つもないはずなのにあたりはやけに暗い。
池の反対側の水面にはしっかりと太陽が映っているから、急に曇ったわけでもない。
そうなるとあとは一つだった。
何かが覆いかぶさるように日の光を遮っているのだ。
相棒は殆ど自分の意志ですらないまま、上を仰ぎ見た。
見上げると、全身の皮膚が透明な巨人が、真っ赤な筋肉が透けた顔に真ん丸な目で相棒をじっと見つめていた。
42: 本当にあった怖い
叫びだしたいのに叫べないというのは、相棒曰く恐怖が倍になるらしい。
恐怖であふれた涙が音もなく後頭部に向かって流れていく。
全身の力が抜けていくような気がするのに、実際は気を付けの姿勢を保つように全身には万力のような力が込められている。
力を入れすぎて呼吸すらし辛く、息苦しさで肺と心臓が爆発しそうに感じる。
あ、無理かもしれない。
相棒はそう覚悟した。
しかし相棒の覚悟と同時に、とんでもない大声が庭中に響き渡り、それにかき消されるように巨人はゆっくりと消えていった。
荒い呼吸のままあたりを見渡した相棒は、離れの縁側で鼻をかむご隠居の姿を見つけた。
どうやら聞こえた大声はご隠居のくしゃみだったらしい。
力が抜けて相棒が池のふちにしゃがみ込むと、ご隠居は手招いて相棒を離れに呼んだ。
相棒が離れの縁側に座ると、ご隠居は黙って番茶を進めてきた。
番茶をすするとその暖かさに相棒は心底ほっとした。
「桃、食べなさい。魔を払うから。それと、つらいだろうけど笑うように。
 笑に寄る魔などなし、だよ。
 あと、君は生きているのだから、よく食べて、よく眠りなさい。
 心身ともに清くあれ、さすれば総身に力溢るる。
 声は直ぐには無理だけど、そうだね、一年後には私のをあげようね。
 だから生きなさい。
 生きているのが一番強んだから」
全てを見透かしたような突然の言葉に、というよりも初めて聞いたご隠居の肉声に、相棒は目を丸くした。
こんな丸い声をしていたのか。
話の内容よりも、相棒はご隠居の言葉のあまりの柔らかさになぜか感動していた。
「さあ、お茶を飲んだら言いつけに戻りなさい。君の役割を小さなことからこなしなさい。まずはそこからだよ」
ご隠居の顔は、諭すでもなだめるでもなく、ごく自然にほほ笑んで相棒を見つめていた。
43: 本当にあった怖い
「で、どうなったの?」
「ど、どうって、まだその家にお世話になってるよ」
「ちがうよ、色々とだよ」
「ご、ご隠居はその一年後に亡くなった。それからかな。だんだんしゃべれるようになったの」
「くれたんだ」
「く、くれたんだろうね」
「なにものだったの? ご隠居って」
「さぁ」
「そこは知らないんだ」
「し、知らなくても他に代えがたい人だからね」
「その後弟子入りとかした?」
「し、しないよ。そういう人じゃないからね」
「じゃあどういう人よ」
「力いっぱい引っ張って歩くってよりは、しゃがんで泣いている子をそっと抱き上げるような感じの人だったね」
「すげぇな。すごすぎてよくわからん」
「よ、よくわからないことが多い奴だな」
「いいんだよ、俺はこれからなんだから」
「そ、そうだね」
料理を食べ終え、チョコレートパフェを追加注文した俺を見た相棒はケラケラと笑っていた。
初めて聞いた相棒の笑い声は角を感じさせない声で、どこか老人のようにしゃがれていた。
明日はバイトが休みだ。
俺は夕飯も一緒に食べようと相棒に声をかけ、相棒は食後のお茶をすすりながら黙ってうなずいた。
44: 本当にあった怖い
続きは夜
46: 本当にあった怖い
進撃イイイイイイイ
47: 本当にあった怖い
面白い
49: 本当にあった怖い
誰か3行でまとめてくれ
50: 本当にあった怖い
1が
バイト仲間の霊が見える能力に
感染
51: 本当にあった怖い
コンビニの深夜バイトでいつも一緒だった相棒との話4
バイト先でいつも同じ深夜シフトに入っていた相棒はいつも冷や汗をたらしながらにやにやと笑っているような奴だった。
理由を聞けば幽霊が見えるが怖いため笑ってごまかしているとのことだった。
深夜のバイトなんて頭のねじを何本か母親の腹の中に置いてきたような奴が多いが、
そのなかでもこんな話を真顔で言うような奴はぴか一でぶっ飛んでる。
神様に声を盗られた時ついでに『開いちゃった』というのが相棒の言い分だが、
その言い分そのものが既に宇宙のかなたまでぶっ飛んでいることに相棒は気付いていない。
宇宙で一番やばい奴とは実はこいつのことではないだろうかと俺はひそかに思った。
と言いたいところだが、そいつの力が伝染して俺まで見えるようになってしまったのだから俺としてはもう何も言うことが出来ず困ってしまう。
その日の夜、俺は初めてバイト先以外で相棒と会った。
特に何をするわけでもないが、夕飯でも一緒に食おうと俺から持ちかけたのだ。
何を食べようか色々考えたが、相棒が行きたいと言ってきたのは駅の裏手にある個人経営の焼肉屋だった。
体の線が細く深夜バイトの休憩では麺類ばかりを食べているイメージだったので正直俺は少し意外に思った。
52: 本当にあった怖い
店は入口ののれんはすすけていたが店の中は想像以上に明るくきれいで、焼肉屋特有の油臭いような煙臭いような臭いは一切しなかった。
店に入ると相棒が店員さんと一言二言話すと奥の個室に案内された。
個室は座席になっており、座席中央のテーブルには七輪がはめ込んであり、七輪の中には既に真っ赤に熾きた炭で満たされていた。
テーブルに置かれたメニューには値段が書いておらず、俺の脳裏に『時価』という言葉が浮かんだ。俺は思わず相棒を見た。
お前馬鹿か?今給料日前だぞ?男同士なんだから割り勘だぞ?死ぬの?むしろ殺しにきてるの?
殺意を込めて俺は相棒を見やったが、相棒はなぜか頭をかいて照れているようだった。
罠か?罠にはめるのはいいけどお前も一緒にはまってるじゃん?馬鹿なの?
怒りとあきれで俺があわあわしていると、相棒がようやくネタばらしをしてくれた。
どうやらここは相棒の里親の知り合いがやっている店らしく、友人と食事に行くので夕飯はいらないと伝えたところ快くこの店を紹介してくれたらしい。
どう根回ししてくれたのかわからないが、今日の食事代はどれだけ飲み食いしても二千円で収めてくれるよう里親は店側と交渉してくれたのだと相棒は言っていた。
俺たちはその行為に明一杯甘え、まともに払えばバイトの給料が恐ろしい金額まで減ってしまうだろうところまで食べに食べ飲みに飲んだ。
腹が膨れきったところで、俺と相棒はいろいろな話をした。
その中には当然相棒が『開いちゃった』後の経験も含まれ、俺は相棒が今までで一番怖かった経験を聞いてみた。
53: 本当にあった怖い
それはまだ相棒が『開いちゃった』事件のせいで声を奪われてから一年ほどしか経験していなかった頃の話らしい。
声が出なくなったことを深いストレスが原因だと思われていた相棒は、都内にある精神科に定期的にカウンセリングに通っていた。
いつもはJRで通っていた相棒だが、その日は人身事故で電車が止まっていたため、仕方なく私鉄で最寄りの駅まで行き病院まではそこからさらに歩いていくことにした。
声が出せないので道行く人や交番で聞くこともできず、なじみのない街にもかかわらず相棒は方向感覚だけでなんとなく進んでいた。
不安はあったが、スマフォもなく携帯電話は普及していたが携帯でネットに接続し地図を見ることが一般的ではなかった時代だからほかに方法がなかったのだ。
大通りを進んでいくと道はある所で大きく曲がり、相棒の方向感覚では目的の病院から離れていくように感じた。
そこで相棒は大通りから伸びる横道に入り、雑居ビルの隙間を縫うように進んでいった。
細道を進んでいくと、ふと、視線の端に不思議なものが見えた。
思わず見やれば、雑居ビルの隙間で女性が蹲っているようだった。
女性の足元には猫のしっぽのようなものが何本か見え、どうやら野良猫にエサをあげているようだった。
それだけでは何も不思議ではない。
相棒が不思議に思ったのは、女性が猫にあげているものが妙にカラフルだったからだ。
しかもよく見れば女性は手の中のカラフルなものはなくなっても女性が手をちょっと持ち上げるとすぐにまた女性の手の中に満ちていた。
不思議なこともあるなと思ったが、相棒はそれ以上気に留めずその場を立ち去ろうとした。
しかし、相棒の足は不思議と動かなかった。
視線を落とせば、相棒の足に何匹か猫がまとわりついていた。
動物が嫌いじゃなかったという相棒はその猫たちを抱き上げて足元からどかそうとした。
54: 本当にあった怖い
みゃう、と鳴いた猫の顔は平たく押しつぶされた中年男性の顔だった。
猫のようなそれを思わず投げ出した相棒は、足元にまとわりついているほかの猫たちの顔もすべてつぶれた人の顔をしていることに気が付いた。
人の顔はそれぞれつぶれている方向が違い、脳が見えるほど頭が割れているものや下顎のあったところから下が長く垂れ下がるほど顎がつぶれているものなどがいた。
相棒は恐怖で地面に尻が付いた状態でその場から飛びのいた。
恐怖で這いずるように猫たちから逃げ出した相棒は猫にエサをあげていた女性に近づいていた。
相棒は思わず女性の肩を掴みすがりついた。
縋りついた相棒の手が女性の方から滑り落ちた。
見れば女性の肩がえぐれている。
手の中には女性の肩が残ったままだが、その千切れた肩が相棒の手の中で不気味に蠢いていた。
恐怖で気が気でなくなった相棒に背を向けていた女性が、ゆっくりと相棒のほうを振り向いた。
その女性は顔全体がカラフルな蛆虫の塊で出来ていた。
女性のような蛆虫の塊は恐怖で硬直している相棒に覆いかぶさると、顔中から滴のように蛆虫たちを相棒の顔に降らせ始めた。
押しのけようにも蛆虫で出来た女性はとんでもない重さでとてもじゃないが押しのけられそうにもない。
そうこうしているうちに相棒の手の中の手の中の蛆虫も徐々に隙間から相棒の手を抜きだし腕を伝って顔に向かってくきた。
55: 本当にあった怖い
顔にたどり着いた蛆虫たちは相棒の口や目や鼻や耳から相棒の体の中に入ってこようとしている。
口と目は堅く閉じられるが耳と鼻はそうもいかず、逃げ出そうにも体は蛆虫で出来た女性にのしかかられて動かすことが出来ない。
蛆虫で出来た体でどうやったのかわからないが、女性のようなものは、げげげ、と笑い声を漏らし始めた。
相棒は押さえつけられたまま、わずかに動く両足をめちゃくちゃに動かした。
何か打開策を見出したわけではなく、それ以外に相棒は何もできなかったからだ。
その時、相棒の足に何かが当たって派手に倒れた。
急にあたりに腐臭が漂い妙な汁が地面に押し付けられている相棒の背を濡らした。
すると突然、蛆虫で出来た女が悲鳴を上げた。
それと同時に相棒の体が軽くなり、相棒はのけぞるようにして体を起こした。
見れば、蛆虫で出来た女性は無数のカラスについばまれ悲鳴を上げていた。
女性の足元、先ほどまで相棒が押し付けられていた地面のあたりには生ごみが散乱している。
その横には巨大なゴミ箱が横倒しになっていた。
カラス達についばまれるうちに蛆虫の塊はどんどん小さくなり、
やがてそこには黒いビニール袋の切れ端と食い残された蛆虫が幾らか蠢いているだけになっていた。
56: 本当にあった怖い
「怖いってよりもキモい。ちょっと吐きそうだわ」
「の、飲みすぎじゃない?」
「どう考えても違うでしょ。ディティールが細かすぎンだよ」
「しょうがないじゃん。そ、それだけ強烈な体験だったんだから」
「なんだったの?」
「うーん、じ、自殺者の霊の集合体?」
「猫のほう?蛆虫のほう?」
「そ、それがよくわかんないんだよね」
「わかんないんだ」
「うん。どっちが主なのかわかんないんだよね」
「主?」
「ね、猫のほうなら蛆虫が猫に蛆虫を食べさせて飼ってるのは変だし、蛆虫のほうには人の意識っぽいものを感じなかったし」
「なんなんだろうね」
「お。憶測だけど、蛆虫のほうは悪意かな」
「悪意?」
「そう。自殺に対する好奇の視線とか侮蔑の感情とか」
「どういう事?」
「あ、悪意が自殺した人たちの霊を安らぎの場所に行くことを邪魔してる感じ?」
「そんなことできるの?」
「お、お前ら自殺者ははみじめなんだぞって、感情を押し付けることで邪魔してる感じ?」
「それでエサやりか」
「そう、エサみたいにしてあげてた蛆虫が悪意の結晶みたいなもんなのかな?」
57: 本当にあった怖い
「うげ、きもちわりい。まあいいや、で、それからどうしたの?」
「た、大変だったよ。病院はキャンセルしたけど生ごみ汁まみれじゃタクシーにも電車にも乗れないしさ」
「そういうことじゃなくって」
「なんにもなし」
「なんにも?」
「正直体の中には何匹かはいっちゃったからまた何か盗られると思ったんだけどね」
「いや、盗られてるでしょ」
「な、なにが?」
「なんつーのかな、普通の人としての感覚」
「な、なにそれ」
「ずれてんだよね。なんかいろいろと。こうして話してるとほんとそう思う」
「そ、その割には楽しそうじゃん」
「なんつーか、慣れた」
「慣れるんだ」
「これからのことを考えると慣れないとね」
「ま、まあそうだね」
「まあこれからもがんばろう」
「お、お互いにね」
「お互いに」
そういうと俺たちはすでに何杯目かもわからなくなっているグラスを合わせた。
目の前には空になった皿が積み上がっている。
苦しくなるほど食べすぎるのは果たして心身ともに健康な行いなのかと疑問も湧いたが、
楽しそうに笑っている相棒の無邪気な顔を見ていると思わず俺もげらげらと笑いだしていた。
58: 本当にあった怖い
最後の話は明日の夜
それまでスレが持てばいいけど
まあそんときゃそん時
60: 本当にあった怖い
面白いな
明日楽しみにしてる
61: 本当にあった怖い
カラスが良い仕事をするなんて。
食肉処理場の側のゴミ箱にはカラスがたむろっていて怖かったりするが。
62: ゅ ◆Mo//Ipyyq2 @\(^o^)/ 2016/06/20(月) 07:09:41.58 ID:yvEDfuoY0
異形の者。。この話とは程遠くて
そこまで強烈に見えなかったけれど。
自分にも感じる時期があったよ。
人とそうでないモノの差って理性なのかな、とその時にそう思った。
63: 本当にあった怖い
面白い
楽しみにしてる
64: 本当にあった怖い
文才あるなぁ。小説みたい。
66: 本当にあった怖い
期待
67: 本当にあった怖い
コンビニの深夜バイトでいつも一緒だった相棒との話5
コンビニの深夜バイトの相棒はトロくて背も小さく吃音が酷い上、どこか世間ズレしているどうしょうもない奴だった。
終いには霊が見えるだとか言い出す痛い奴で、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている表情と相まって、出来れば近づきたくすらないと思うのがごく一般的な相棒への感想だろう。
それでも彼は、俺の一番の親友だった。
相棒とはいろんな話をした。
霊が見える相棒との話は、やはりその手の話が多い。
しかもそのどの話も他で聞いたことのないような話ばかりで、俺は興味深く聞かせてもらっていた。
相棒が見た恐竜の幽霊の話。
俺が幽霊に惚れられた話。
相棒と生き霊との死闘。
他にもたくさんあるが、一度に全部はとてもじゃないが語りきれない。
相棒の話を他の人にすると決まって作り話だと批判を受けるが、それだけはどうしても悲しくなってしまう。
それは同時に相棒の存在を否定されているようだからだ。
今、俺は彼の存在を証明できない。
男同士の照れ臭さか、俺と相棒が一緒に売っている写真などはない。
メールのやり取りなども携帯電話からスマフォに変えた時になくなってしまった。
そしてスマフォには相棒とのやりとりは一切ない。
3年以上相棒とは音信不通だからだ。
相棒とは今も連絡がつかないままだ。
彼の酷い吃音を聞かなくなって久しい。
ふとした時に、彼の声が聞きたくなる。寄り添うような言葉で俺を励ましてくれた相棒の声を俺はまた聴きたい。
でも多分それはもう叶わない。
それはなぜなのか。
相棒とは本当はどんな奴だったのか。
最後にその事を書いておこうと思う。
68: 本当にあった怖い
相棒と仲良くなってから1年後、高校を中退していた俺は大学検定を受けるために必死に勉強し、そして合格した。
心身ともに清く活力のある生活を親友と約束していた俺は、自堕落になりやすいフリーターを脱却するために大学生になりたかった。
相棒と話しているうちに自分の浅学さに呆れたということもあるが、もしかすると当時大学生だった相棒に憧れていたというのもあったのかもしれない。
大学生になった俺はあえてサークルには入らずに、バイトを続けていた。
ただ授業があるので深夜はできず、もっぱら夕方と夜1時までの準夜帯でバイトを続けた。
相棒とは引き継ぎで会うのでお互いに疎遠になることもなく、週に二、三度はお互いの家で遊んでいた。
そして俺が大学二年生になったとき、相棒は大学を無事卒業した。
そういえば相棒の卒業後の予定を知らないなと疑問に思った俺は、相棒にどうするつもりなのか何の気なしに聞いた。
相棒からは驚くべき答えが返ってきた。
「俺、世界を一周してくる」
相棒は俺の目を見ずに言葉を発した。
まだまだ一緒に馬鹿をやれると思っていたのに、なんだかんだ言ってもいつも一緒に居られると思ったのに、相棒は相談もせずにそんな事を決めていた。
無性に悔しかった。訳のわからない怒りが湧き上がってきた。
なんて言えばこの気持ちを伝えられるかもわからなかった。
「ご、ごめん」
相棒は一言だけ言うと、そのまま黙った。
しばらくそうして二人で黙りこくっていた。
「なんで?」
絞りだせたのはやっとそれだけだった。
「み、見てみたいんだ。ネットとか本でしか知らないものをできるだけ多く」
「ネットと本で我慢しろよ」
「に、匂いとか本当の色とか暑さ寒さも、行ってみなきゃ知ったつもりになってるだけじゃないか」
「すげえ普通な理由」
「ふ、普通で何が悪いのさ」
「らしくないって話だよ」
「ら、らしさってなんだよ」
69: 本当にあった怖い
お互い言葉の端々に棘を感じた。
お互いがお互いに後ろめたさを感じている証拠だった。
俺は子供じみたわがままに、相棒は相談しなかったことに後ろめたさを感じている。
お互いにお互いの事をよく理解しているからこそ、棘のある言葉を謝ることができない。
一緒に行こう。その一言をお互いに言えないのもイラつきの理由の一つだ。
俺は大学で専攻している民俗学に面白みを感じ、来年からのゼミを楽しみにしているから休学はできない。
その事は相棒もよく知っているから彼の性格上無理強いはする事はない。
相棒の気持ちも理解できるし、俺も大切にしたい目標がある。
相棒が世界一周を楽しみにしていることは俺もよく理解できる。
根本的に、知ることが相棒は好きだったからだ。
初めて、お互いの意見がぶつかった。
お互いに折れることができないことが、妥協点が見いだせないことが、お互いがお互いの気持ちを理解できすぎることが、お互いに重くのしかかる。
黙っていると、悔しくて涙がにじんできた。
「どのくらいかかんの?」
「に、二、三年は帰ってこない」
「長いよ」
「な、長いね」
「暇になるな」
「れ、連絡するよ」
「無視してやる」
「あ、あっちで閉じる方法がわかるかもしれないよ」
「そりゃ無視できない」
「お、お互い成長しようよ。心身ともに清く活力ある生活しながらさ」
「うるせえ、馬鹿野郎」
俺も相棒もそれ以上何も言わず、お互いの肩を少し強めに叩いた。
71: 本当にあった怖い
二ヶ月後、相棒は成田からロシアに旅立った。
ロシアから東欧に渡り、北欧やヨーロッパ各国を回り、それからエジプト、アフリカの国々を回る。
それが相棒の世界一周旅行の1年目の計画だった。
相棒からは二週間に一度程度のペースで手紙が届いた。
手紙には様々な事を驚きの感情も隠さずにしたっためてあった。
俺は手紙が届くたびにその頃はすっかり仲良くなっていた相棒の里親一家と共に読み、一喜一憂していた。
その相棒からの手紙が、次はトーゴ共和国に行ってきます、と締められた手紙の後、パタリと途絶えた。
三週間は我慢した。
四週間目には何をしてても落ち着かなかった。
二か月がたつ頃には、里親一家とともに外務省領事局海外邦人安全課に乗り込み対策を講じてほしいと頼み込みもした。
それでも相棒は見つからなかった。
何があったかはわからない。
駆けつけることもできない。
押し込めようとしたが、相棒とは二度と会えないのではないかと思う気持ちがあふれてくる。
そしてそのまま今日に至るまで、相棒の安否はようとして知れない。
今でも時々相棒の里親一家の家に遊びに行くが、やはり相棒からの連絡は来ていないらしい。
もしかしたらひょいっと何事もなかったかのようにあの間抜けた顔を見せるかもしれない。
しかし今ではどこかで諦めている俺がいる。
たとえ本当に相棒がどこか見知らぬ国の空の下で死んだのだとしても、それは相棒が選んだ道の分岐の一つでしかない。
あの時すがってでも止めていればだとか、俺も一緒に行っていればだとかは、俺には考える権利があるのだとしても、いまさらどうしようもない。
そんなことよりも、相棒が抱き上げてくれた俺の人生をこれまで通り心身ともに清く生きていくことのほうがよほど大切だ。
それだけは今後も絶対に守っていくことだろう。
それは俺が相棒の存在を証明できる唯一の手段でもあるからだ。
72: 本当にあった怖い
相棒の幽霊がもし枕元に立ったら言ってやりたいことが山ほどある。
しかし俺には多分それもできはしない。
相棒と会えなくなって三年以上たったが、だからこそ確信できることがある。
相棒自身のことはわからないが、多分俺は、『開いちゃった』なんてことがないからだ。
相棒は嘘をついていた。
今はそのことを確信できる。
俺が確信した理由は一つ。
俺は幽霊のようなものを見たことが一度しかないからだ。
その一度とは、相棒と仲良くなるきっかけになった生霊のことだ。
それ以外は相棒といる時も含め、俺は一度も幽霊のようなものを見たことがない。
あの時いつもと違ったのは一つ。
俺は深夜勤務明けで、相棒が俺の目の上に唾を塗ったことだ。
もしかしたらそういう呪術のようなものがあるのかもしれないが、俺は催眠術の一種ではないかと思っている。
相棒は気付いていなかったようだが、俺は初めて相棒の部屋で遊んだ時にあるものを見つけていたのだ。
相棒の部屋でトイレに行った相棒を一人で待っている時に、俺はエロ本を見つけようと家探しをしていた。
その時見つけたのが、複数の催眠術の本と、それ系のHPのプリントアウト、そしてそれを独自にまとめた複数のノートだった。
相棒が特に研究していたのは主に瞬間催眠のやり方だった。
思い起こしてみれば、夜勤明けで頭がボーとしている、目の上に唾をつけられた驚きで頭が真っ白になるなど、催眠をかけるにはちょうど良い状態に俺はいた。
そこで相棒は俺に生霊が見えるように暗示をかけたのではないだろうか?
73: 本当にあった怖い
どれも確証は一切ないし、相棒自身に霊能力がなかった証明にはなり得ない。
それでもなお、俺はその疑念が捨てきれない。
もし事実だったとして、相棒はなぜ俺に催眠術をかけてまで生霊を見せたかったのだろうか?
一つはたまたまだった。
もう一つは俺を怖がらせたかったから。
更に一つは、自分と同じ感覚を疑似的にでも体験させることで俺に共感してほしかったから。
出来れば俺は最後の一つだと思いたい。
あれはあいつなりの、回りくどい友達になってほしいというサインだったのではないだろうか。
どんな形でも構わない。
あいつともしもう一度会えれば、そのことも聞いてみたい。
きっと聞いたところで、あいつははにかみながら世間ズレした答えを返すのだろう。
それでもいい。
それでもいいから、せめてもう一度。
「よう」
「やあ」
こんな間抜けな挨拶をしてみたい。
おーい、相棒、わかったか?俺は待ってんだぞ。
おーい、相棒。怒ってないからそろそろ顔を出せ。
おーい、相棒。
おーい、相棒。
74: 本当にあった怖い
コレでおしまい。
相棒のことをできるだけ残しておきたかったから、
少しでも面白くなるように大学で知り合った小説家志望のヤツに内容は全部書いて貰った。
文章が上手いのはそのおかげ。
胡散臭くなるのは承知の上で、
面白くなければ直ぐに消えてしまうWebに合わせるよう努力したつもり。
一個だけ質問があったけど、そういうわけで俺には何にも見えない。
だから俺から感染る事もないと思う。
世の中のどっかにこんな不器用な友達の作り方しかできなかったヤツがいて、
そんな不器用なヤツが何より大事な友達だった奴が居たと思ってくれれば嬉しいな。
76: 本当にあった怖い
ええ話や・・・!
75: 本当にあった怖い
なんかほっこりした。
どんな形でも良いから会えるといいな
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コメント
1 不思議な
破邪の水でこれはダメだってオモタw
2 不思議な
里親のくだりで創作確定なんだよなー
3 不思議な
結局ワンパターン
4 不思議な
水素水だろ
5 不思議な
こんなアホみたいな文章ダラダラと書く奴って何が目的なん?
あわよくば書籍化とか狙ってるの?
6 不思議な
唾塗るって狐に化かされたときじゃなかったっけ?
7 不思議な
9 あたりから創作丸出し
8 不思議な
>>64
>文才あるなぁ。小説みたい。

これが素で恐怖
9 不思議な
米8
そう言うネタだと思うのだが。
10 不思議な
見てないけど厨二病で邪気眼が発動するって話?
11 不思議な
師匠シリーズみたい
12 不思議な
眉唾か
13 不思議な
何年も前の他人の発言をこんなに事細かに一言一言正確に覚えてられるかよ
創作丸出し
14 不思議な
すげぇ面白かった…
15 不思議な
創作だなぁ、声云々は『心が叫びたがってるんだ』から
思いついたかな
でも面白かった
16 不思議な
世間ずれの使い方がおかしいです。浮世離れなら意味が通るのですが
17 不思議な
創作なのはいいけど、本当にあった話風に書き出すなら小説っぽい描写やめーや
18 不思議な
私は面白かった
創作でも何でも楽しんだもの勝ちだと思う
19 不思議な
まあ会話文の多さで創作かどうかの判別はつくよな
最後にフォロー入れたあたりが斬新だったです
20 不思議な
結局幽霊も何も催眠術のせいってことか
共感できる友達がほしいがため?
21 不思議な
オカ板のネタとしちゃ面白いが、体験談ではないわな。
友人本人と連絡を取れない事・証拠を見せれないことに対する伏線張りすぎ。あと催眠術は魔法じゃない定期。
22 不思議な
長いよ。出だしから読む気無くした。だから読んでない。
23 不思議な
なんか最後で涙が出た
創作とか関係なく普通にいい話
24 不思議な
あんまりちゃんとした本を読んでない高校生あたりが頑張って書いた小説って感じ
25 不思議な
簡潔にしていただくと。
26 不思議な
相棒は気にしてない様子だけど、吃音は辛いよ。本当に言いたい事を真っ直ぐ言えないんだからーいつも置き換えの言葉を探して会話するんだ
あれもしかして俺も奪われたのかな?
それなら返してくれ!必要だ
返して…くれ
27 不思議な
まとめサイトに来てる分際で偉そうなヤツがたくさんいますねwww
28 不思議な
ここ最近では一番面白かった
何より文章が上手い
書き方が自分に合ってて、スラスラ読めた
こんな風に語れる親友っていいな
29 不思議な
コメが荒んでいる…
30 不思議な
これ伝者じゃね?
31 不思議な
まず冒頭の、
「改札を抜けると、そこには電車を待っている相棒が‥」
「相棒はわざわざ隣の市から電車で通っていたなと思い出し‥」
辺りまでに小説のマネした創作の「読ませる文章」だと気づいて読んだ方がいいよな(笑)
それでやめるか、分かった上で読み進めるか判断すれば後でそんな文句出ないだろうよ。
「冬だというのに額に汗を浮かべながら‥見つめているのだ」
「眉間に深くシワを寄せ相棒をにらみ返し‥」
小説読むのが好きなんだって伝わってきてほほえましいやん。
32 不思議な
ストレスで声が出なくなることを失語症と診断されることはない
失声症の間違いかな
33 不思議な
ノルウェイの森の突撃隊を思い出した
読みやすいし話もおもしろい、こういう文才羨ましい
34 不思議な
創作だ創作だって、こいつらマジでここに何しに来てるんだよw
35 不思議な
※34 不思議ネットって科学好きなユーザーが集まってんだから仕方ないだろww
36 不思議な
御隠居は亡くなったはずじゃ…なのに定期的に家に…??
37 不思議な
会話が始まったら読む気が失せる
38 不思議な
創作か否かってそんなに重要かな?
39 まさにコミックブーム :2016年06月22日 09:09 ID:id6dR40H0*この発言に返信
すごい記憶力だな
40 不思議な
友達欲しかったやつの催眠だった落ちとかなかなか好きだけどな
創作だろうがなんだろうが楽しめたし俺は満足
41 不思議な
いいね
42 不思議な
最後の締めが創作っぽいけど面白かったからよし
43 不思議な
創作すらできないくせに、なんとかしよう、じゃねえよw
44 不思議な
7まで読んだけど、上手く話せないとかいう相棒の方が
めっちゃペラペラ喋ってるじゃないか
45 不思議な
面白かった!
46 不思議な

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