【艦これ】グラーフ「か、風邪だ……ビ、ビールを……」back

【艦これ】グラーフ「か、風邪だ……ビ、ビールを……」


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1:
それは春一番が吹き、冬を越すまであと少しという時期のこと
みんなが鎮守府で朝食を食べているときのことでした。
赤城「……」チラッ
赤城「おかしいですね……」
龍驤「うんおかしい、ゼッタイおかしい」コクコク
提督「ん、何がだい」モグモグ
赤城「来てないんです……」
提督「何が?」
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2:
龍驤「……グラやんが」
提督「……あっ」
提督「言われてみればそうだっ」
提督「真面目なあのグラーフが……」
提督「几帳面で時間は絶対に守るあのグラーフが……」
提督「少しでも何かが遅れたら……」
提督『ニホン人は時間に疎いのだな』キリッ
提督「……とか冷めた笑顔で言ってくるあのグラーフが……っ」
提督「ま・さ・か朝食の時間に遅れるなんてー……まーさーかー」ニタニタ
龍驤「君あの子になんか恨みでもあんの?」ハァ
3:
提督「いやーべつにー」ニヨニヨ
龍驤(うわ、器ちっちゃ……)モグモグ
赤城(それはいつも提督が寝坊するからです……)モグモグ

龍驤「しっかし、心配やなぁ」
赤城「そうですね……いつもなら、何も言わずにこんなことは……」
龍驤「いっぺん、様子見に行ってみる?」
赤城「そうですね」
提督「……君たち、あと10分で航空機輸送じゃなかったか」
「「あっ」」
4:
龍驤「ホンマや!ウチらが遅刻するや?ん!」ガツガツッ
赤城「龍驤さん、急ぎましょう!」ヒョイパクッ
龍驤「あぁっ、ウチのシャケ?……!」グスッ
赤城「緊急時ですから仕方ありません、急ぎますよっ」ガタッ
龍驤「赤城のアホ?!覚えときよー!」ダッ
ドタバタ……
提督「……嵐のように去っていったな」
提督「…………」
提督「よし、グラーフおちょくりに行ったろ」ニコッ
7:
………………
…………
……
グラ「う……コホッ、コホッ」
グラ「あぁ……頭が……」ズキズキ
グラ(……油断した、この私が風邪をひくなど……)
グラ(特に咳が酷い……皆に移すわけにはいかない……)シュン
コンコン
提督『グラーフさーん、NH○デース』
グラ「!」ビクッ
9:
グラ「な、なんだ!?」
提督『いやぁ、今日は“御寝坊”などをされてらっしゃるのでぇ』
提督『どうしたのかなー↑って……うへへ』
グラ(……嫌味か……)ガクッ
グラ「な、なんでもないっ」
グラ「放っておいてくれ……」
提督『んぅー?』
グラ(くぅ……引き下がらないのかっ)
10:
グラ「だから、なんでもな……っ!」
グラ「コホッ……ゴフッ!」
提督『!?』
グラ「ゴホッ……コホッ……」
提督『あ、あのグラーフさん……』
提督『まさか風z』
グラ「えぇい!もう、早く去ればよいだろう!」
グラ「いつまでもしつこいぞっ」
グラ「(うつしてはいけないから)どこかへ行ってくれ!」
提督『……』
11:
スタスタ…
グラ(……行ったか)
グラ「……はぁ」
グラ(アトミラールに……ひどいことを言ってしまった……)
グラ(だめだ……なんだか、心まで不安定になっているらしい……)
グラ(……この国で風邪をひいたのは初めてで、対処法も分からない)
グラ(祖国のように、温めるビールもここにはない)
グラ(……かといって、今は戦時中だ)
グラ(……仲間に風邪をうつすなど……もってのほかだ)
12:
グラ「ゴホ、コフッ」
グラ「あぐ……」ズキッ
グラ(うぅ、関節まで……っ)
グラ(昨日まであんなに動いていた体が、こんなに苦しいなんて……!)ゴロリ
グラ(横になって、待つしかない……か)
グラ(……人とは、かくも弱いものなのだな)
グラ(こんな時、戦争が始まる前までは……誰かがいてくれたんだ)コンコン
グラ(……こんなに心細くなったのは……)
グラ(……いつぶりだろう……)
グラ「…………」グスッ
13:
グラ「…………」ポロ…
グラ「…………」グスッ
グラ「……Mutti(ママ)……」ポロ…ポロ…
14:
グラ「…………」グスッ
ガサッ
グラ「…………っ!」ハッ
グラ「!?」
提督「……一応ノックはしたけど……」
提督「なんかしんどそうだったから」
提督「お見舞いの品を酒保で……ほれ」ガサッ
グラ「――――――っ!」カァ-…
15:
提督「おーい、ちょっとー」
提督「グラーフさーん?」
提督「布団に丸まってないで出てきてくださいよー」
グラ『だ、だめなんだ!』モゾモゾ
グラ『い、今は……だめだっ』カァー…
提督「……?」
提督「……まぁいいや」
提督「ここに置いておくから、自由に食べてもらっていいよ」
提督「お邪魔すると治りが遅くなるし……」
グラ『!』
16:
提督「そんじゃ、おだいz」
グラ「ま、まってくれっ!」ガバッ
提督「あ、出てきた」
グラ「うぐっ!」
提督(顔赤いなー……やっぱ熱あんのかな)
提督「どしたの?」
グラ「え……そ、それは、だなっ」アタフタ
グラ(心細いとは……口が裂けても言えない……)
グラ「えと……」チラ
グラ「……そうだ、このオミマイの品っ」
グラ「とても有り難いが……私には使い方が……」
提督「あっ、そっか」
19:
提督「んじゃ、少しだけお邪魔するよ」
グラ「嬉しい(そうか)……」ホッ
提督「……ん?」
グラ「ん?」
提督「……いや、なんでも」
グラ「そうk……ゴホッゴホッ!」
提督「あぁ、楽な姿勢になって!」
提督「したらば、早……」ガサゴソ
提督「これをっ」スッ
グラ「……アトミラール、これはなんだ?」
20:
提督「腹巻」
グラ「ハラマキ?」
提督「そう、お腹に巻く腹巻」
提督「お腹は一番温まりやすい場所だし」
提督「ここが冷えたままだと、何を食べても消化に悪いからな」
グラ「ふむ……」ジーッ
提督「最近のはデザインもなかなかかわいいだろ」フフン
グラ「……あぁ」…スチャ
提督「うん、似合ってる」コクコク
グラ「そ、そうか」フフ
21:
提督「熱は測った?」
グラ「あぁ、38.6℃らしい」
提督「あぎゃー、なかなかキツいな……」
提督「それと、朝食の場にいなかったってことは……」
提督「ごはん、まだだね」
グラ「……」コク
提督「んしっ、じゃあ用意しよう」
グラ「すまない……」
グラ「しかしアトミラール、たしか料理は……」
提督「はい、できません!」キッパリ
提督「でも、最近のインスタント食品の力を侮ってはいけない(戒め)」
提督「見とけよ見とけよ?(迫真)」
22:
提督「うどんとおかゆ、どっちがいい?」
グラ「……ウドン?オカユ??」
提督「あ、そか……じゃあ、ヌードルとライスだったら?」
グラ「あぁ、では……ライスかな」
提督「合点」
提督「ちょっと台所借りるし、寝てていいからな」
グラ「……分かった」
提督「――っ」アタフタ
ジュ-…
提督「アツゥイ!」グスッ
グラ(……こう、慣れないものを頑張っている所を見せられると……)
グラ(なんだか……眠れないな)クスッ
24:
提督「お待ちどうさま!」
グラ「すまないアトミラール」
グラ「これが……オカユ……」ジーッ
グラ「セイキクウボノ会で食べた、ナベの締めというものに似ているな」
提督「あはは、そんなに美味しいものじゃないかな」
提督「でも、消化にいいから……」
提督「このへんの薬味とかと一緒にどうぞ」
グラ「あぁ……イタダキマス」スッ
25:
グラ「……ん、あつ!」
提督「おっと、熱いから気を付けてー」
グラ「――っ……」ジワ…
提督「あぁ……こぼしちゃってまぁ」フキフキ
グラ「こ、子供扱いするな……っ」ムッ
グラ「……」モグモグ
グラ「……とても落ち着く食感と風味だ」
グラ「それに、ヤクミのショウユとカツオもいい感じだな……」モグモグ
提督「ほっ」
26:
グラ「ゴチソウサマデシタ」スッ
提督「お粗末様でした」ニコ
グラ「……ニホンでは、こういったもので滋養を付けるのだな」
提督「そか、グラーフの国には御粥ないもんね」
提督「他に何食ってるのか、気になるっちゃなるな」
グラ「あぁ、わた……ゴホッコホッ」
提督「おっと、無理はしないでくれよ」
グラ「コフッ……いや、大丈夫だ」
グラ「そうだな、私の国では……」
27:
グラ「風邪のときはまずハーブティーを飲むな」
提督「ほぅ、なんか洒落乙だなぁ」
グラ「ん、どういうことだ?」
提督「……ごめん、なんでも」
グラ「あと、野菜たっぷりのチキンスープを頂くことが多いな」
グラ「おそらくこれが、この国のオカユに相当するだろう」
提督「おぉ、なんか滋養付きそう!」
グラ「あぁ、実際に付くんだこれが……」フフッ
グラ「そして、温めたビールを頂くんだ」
提督「ほうほ…………えっ?」
28:
提督「ビール……温めて飲むの?」
グラ「あぁ、そうだが」キョトン
グラ「ビールとはもともと常温か、温める飲み物だろう」
提督「へ、へぇ……」
提督(知らなんだわ……)
提督「にしたって、風邪時にビールか……」
提督「さすが麦酒の国だなぁ」
提督「でも、あいにく酒保には置いてなかったな……」
グラ「そ……そうか……」シュン
提督(うわ、めっちや落ち込んでるぅー!)
提督(……そりゃ、故郷の味ってものがあるだろうしな……)
29:
グラ「ニホンでも、風邪の時に酒を飲むと聞いたことがあるが……」
提督「え?まじでじま?」
提督「……あっ、ひょっとして玉子酒のことかな」
グラ「タマゴ……ザケ?」
提督「……ちょっと休んでて」スタッ
グラ「あ、あぁ」キョトン
提督「えと、まず卵の白身を切りながら砂糖とかき混ぜて」カチカチカチ
提督「この日本酒(提供千歳)を温めて……」グツグツ
提督「こうやって注ぐんだっけ……」ソロ-…
30:
提督「おまちどうさまなのです(裏声)」
グラ「プッ」
グラ「……コホン」
グラ「こ、これは……エッグノックか?」
提督「実はこれ、あんまり好きって日本人はいないけど……よかったら」
グラ「イ、イタダキマス……」ズズッ
グラ「……んっ」
グラ「優しい味だ……」
グラ「すごく……暖かい」ニコッ
提督(あれ、喜んでもらえてるぞ)
31:
グラ「エッグノックは、私の国でも馴染みがあるんだ」
提督「なんと!」
グラ「ニホンシュとはいえ、この国でも飲めるとは……」
提督「……俺のでよかったら、また言ってくれれば作るよ」
グラ「ありがとう、アトミラール」ニコッ
グラ「……」
グラ(うぅ……)
グラ「……」キョロキョロ
提督「ん、どしたの?」
32:
グラ「…………てくれ……ないか」
提督「え、なんて?」
グラ「……」グスッ
グラ「……トイレだ」
グラ「あと、汗をかいている……着替えを取ってくるから」
グラ「……あっちを向いていてほしいと言っている」カァー…
提督「そりゃ失礼しました」ソソクサー
34:
グラ「」スンスン
グラ(く、やはり汗くさいな……)
グラ(アトミラールに気付かれないといいが……)ヌギッ
グラ(……しかし、少し体が楽になっている……のか?)ゴソゴソ
グラ(先ほどより、関節も楽だし)ス…
グラ(咳もなくなった……やはり……)
グラ(……“気持ち”の問題というやつ……だろうか)クスッ
提督「……」
提督「」チラ
提督(やはりでかい)
35:
グラ「ふふ……」トロン
提督(少しは眠くなったかな……よしっ)
提督「グラーフ、ここいらで薬を飲んで……もう寝よう」
グラ「む……むぅ」シュン
提督「……ん?」
グラ「……いやっ、なんでもない」
グラ「ありがたくそう、させてもらうと……する」
36:
グラ「……」モゾモゾ
グラ「しかし……アトミラール」
提督「ん?」
グラ「貴官は……風邪の対処の手際がいいな」
提督「あはは、俺の手際でいいなんて言ったら他の女性陣が怒るぞ」
グラ「そうなの……か?」
提督「実際、俺もカーチャンの真似事をしただけだしなぁ」
グラ「カーチャン?」
提督「母親のことだよ」
37:
グラ「……母親……」
グラ「では、アトミラールの母親はとても立派な方なのだな」ニコッ
提督「そうなのかな……うん、そうだな」
提督「少なくとも俺は、そう思ってるよ」フフッ
グラ(母、か……)
提督「そういえば……」
提督「俺がさっき部屋に入ったとき、グラーフなんて言ってたの?」
グラ「!」
グラ「あ、あれは何でもないっ」オロオロ…
グラ「忘れてくれ……」
提督「?」
38:
グラ「……なぁ」
提督「はい」
グラ「なんだか……楽になってきた」
グラ「今日は……本当にありがとう」ニコ
提督「お安い御用だよ」
提督「“君も”、うちの大事な艦娘の一人だからね」
グラ「…………」
グラ「……そうだな」シュン
39:
グラ「…………」シュン
提督「……ん、どれどれ」
ピト
グラ「ひゃうっ!?」
提督「そんなに驚かなくても……」
グラ「だ、だって、アトミ……!」
グラ(ひ、額同士を……!)アタフタ
提督「んー……少しは下がったかな」
グラ(かお、ちかいっ)ドキドキドキ
40:
パッ
提督「このまま安静にしていれば、きっとすぐよくなるよ」
グラ「あ……」プシュ-…
提督「ここに居たら気が散って寝られないと思うから、俺はこれで失礼するね」
グラ「あ……あ……」コクコク
提督「えっと……こう言うんだったかな」
提督「ぐーて、べっせるんぐ!」ビシッ
グラ「……あ……」コクッ
バタン
41:
テクテク
提督(あーあ、今日はおちょくれなかったなぁ)
提督(……でもま、いっか)フフッ
モゾモゾ
グラ(だから……っ、奴は……っ!)ドキドキ
グラ(どうしてこう……いつもいつも、いつもいつもいつもっ!)ドキドキ
42:
グラ(……また、眠れなくなってしまった……)
グラ(顔も……熱い……これも熱のせいなのだろうか……)
グラ(……そう、だよな……きっと……そうだ……)カァー…
グラ「……アトミ……ラール」ドキドキ
……
…………
………………
43:
提督「……ゴホッゴホッ」
提督「なんてこったい……うつっちまったぁ」
提督「おちょくったりしようとしたから、天罰が下ったのかな……」
提督「ゴホッゴホッ!オウェ!」
提督「心細いよぉ……カーチャーン」グスッ
提督「こ、こんなときは、BB劇場でも見て気分を……」ス…
コンコン
提督「ん?」
44:
ガチャ
提督「えと、どなたー……あっ」
グラ「や、やぁ……アトミラール」
提督「グラーフさん!」
グラ「すまない……私のせいで……」シュン
提督「いや、マスクしてなかった俺のせいなんだよな……」
提督「一鎮守府のトップが、情けない……」
グラ「……そう気を落とすな」クスッ
45:
グラ「……で、その……」
グラ「じ、実は、部屋でチキンスープを作って来た……」
グラ「……アトミラールの口に合うか……分からないが……よければ」ドキドキ
提督「うわーお!最高!」
グラ「!」
提督「グラーフの手作りなら、なんでも嬉しいやっ」
提督「ありがとう!」ニコッ
グラ「…………」
46:
グラ「……そうか」クスッ
グラ「では、中にお邪魔するぞ……アトミラール」ニコッ
これは厳しい冬の終わりと桃の咲く春の訪れ――
それらのちょうど間に起こったできごとでした。
―――――――――――fin――――――――――――
47:
これはドラッグストアに勤める友人のための、マスクのステマです(迫真)
たまにはやめたつもりだったグラーフネタで書くのも楽しいものです(予防線)
ここまで読んでくださった方、楽しく書かせていただきありがとうございました。
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