大淀「高速修復剤に副作用がある可能性が指摘されました」back

大淀「高速修復剤に副作用がある可能性が指摘されました」


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2:
提督「えっ? あの ど、どういうこと?」
突然の言葉になにを言われているのか理解が追い付かない。
副作用?
肌が荒れるとかそういうの?
大淀「高修復剤を頻繁に使う艦娘に副作用と思われる症状が散見されているようです」
大淀「各鎮守府で障害を、入渠でも治癒しない後遺症を抱える艦娘が出ているため調査をしたところ」
大淀「その9割以上に高修復剤の多用が見られた と」
まごまごしていたところ多少噛み砕いて説明をしてくれたがまだ理解が及ばない
怪我が治らないとかそういうことじゃなくて? 障害? 後遺症?
提督「あの…それはどのような」
大淀「重度のものですと修復剤使用直後に倒れ、下半身不随となったケースが報告されています」
大淀「幸いにも死亡に至った例はないそうですが」
3:
不意に車椅子生活となった幼い子。駆逐艦達の姿を想像してしまい気分が悪くなった
そもそも守るべき対象の女子供を戦場に出すこと自体認め難いのに…
大淀「また、軽度のため報告しておりませんでしたがこの鎮守府でも数件」
提督「誰だ!? いったいどんな」
うちの鎮守府にも、と聞いて目の前が真っ白に
軽度であろうが嫁入り前の艦娘たちに障害が残る? 認められないし認めない
そうだ 少し胸が小さくなったとか太りやすくなったとか笑い飛ばせるようなものであってくれ
と、願いながら詳細を聞く
先月から艤装メンテのため休暇と聞いていた比叡が右足の麻痺
それ以外にも大井は左耳の聴力喪失
北上は耳鳴りと睡眠障害
赤城は発汗機能異常で体温調整が困難に
4:
大淀「これまで原因が特定できておりませんでしたが4人とも主力部隊
 高修復剤頻度は激しく、推測になりますが要因の可能性はあります」
確かにどれも命に関わるという面では重度ではない が一ミリも笑える類ではなかった
なぜ比叡たちのことを報告しなかったと聞くと提督は真面目だから、問題を大きくしたくなかったとか云々
寝言を言うなと怒鳴りつけて問いただす。
どういう調査結果なのか
どういう資料が来ているのか
得られた情報は以下の3点
・高修復剤を多用する者ほど障害が残るような疾病の発生割合が高い
・現段階で対策も治癒方法もない
・発症が5年10年後になる可能性もあり、個人差が激しい
提督「…とりあえず4人に頭下げてくる」
聞く限りではそれしか思いつかなかった
知らなかったこととはいえ誠意を持って謝罪する以外術はないだろう。そう思った。
しかし、大淀の回答は自分には考えられないものであった。
大淀「ダメです。この件につきましては他言無用との通達が」
大淀「噂が艦娘の間で広まってしまっては今後の高修復剤の使用に問題が出る恐れがあります」
意味がわからない
5:
提督「は? いや、バケツが危険ならもう使うわけ」
大淀「使わずに戦線を維持できると?」
理解できない
大淀「修復剤なしで軍令部から要求される出撃ペースが維持できると?」
そういう問題じゃないだろ?
大淀「出撃も高修復剤の使用もリスクを内包していることは同じ」
論点のすり替えだ
大淀「これまで命に関わる後遺症は発生していないわけですし」
今後起こらないという保証はどこにある
大淀「今後も使用は継続します ただ調査が済むまで使いすぎるな。というお話です」
大淀「適正な使用を続けるのが軍のため。しいては全員のxxx xxx xx」
ああ、こいつの言うことは聞く必要がないんだな
提督「今後一切の高修復剤使用を禁ずる」
話を遮って宣言した
提督「提督としての権限で命令する。この鎮守府では今後! 一切! そんな危険なものは使わせない」
大淀「……承知いたしました」
6:
高修復剤使用禁止を発表
反応は芳しくない
加賀「提督 修復剤の使用を禁止するとの命令を伺いました …どうして?」
瑞鶴「おかしいよ! そりゃ小破未満でもバンバン使ってたのはやりすぎだったかもだけど」
翔鶴「私、あれがないと十分に戦えないと…」
金剛「HEY提督! BADな判断ネー! 比叡が調子悪い今、どんどんバケツ使って私たちが戦わないトー」
榛名「どういう理由で… 提督のご判断でもさすがに…」
霧島「私の計算によると高修復剤不使用の場合、戦艦の稼働率は現行の42% 空母は31%にまで低下します」
主力部隊の面々の抗議を受ける
この鎮守府では出撃する艦を高戦艦・空母・雷巡・その他一部の主力部隊に絞り
出撃→帰還→高修復剤使用→即再出撃というブラック気味な運用を行っていた
理由としては年齢層の低い子を戦場に出したくなかったこと
また、単純に能力の高い艦を戦闘担当固定したほうが戦術・練度面で効率的と判断しただけ
その優先だかブラックだかの起用に慣れた彼女たちが不満を口に出すのは最もである…

もう自分の心は決まっている
8:
提督「高修復剤の使用禁止は決定事項」
瑞鶴「そんなぁ」
加賀「せめて説明と議論の場を」
提督「理由に関しては戦術的なこと としか言えん」
本当の理由を説明すれば機密漏洩軍法会議
不親切な説明だがやむおえない
ここは強硬にはね付けるのが相手のため…
霧島「全体の運用を考えた判断とは思えません」
メガネを光らせて話す霧島はどこかしら威圧感があったので目を背けた
この戦いが終わったら理由は話してやろう
きっと皆喜ぶだろう ああ、なんていい提督の下で働けていたんだ!と
この子たちの未来は自分が救うのだ
9:
高修復剤使用禁止後一週間経過
提督「新海域攻略完了したか! よしよし」
金剛「WOW! 今日の提督は情熱的ネー」
報告に来た金剛の頭をナデナデしていたら感極まってハグをしてしまった
大淀の視線が冷たい
が、そんなものは気にしない
提督「被害は…翔鶴が中破 榛名が小破ね。二人にバケ……二人を入渠。飛鷹と那智を代役として編入後再出撃せよ」
今まであれば高修復剤2つ消費で済んだところであるがこれも皆のため
まぁ、航巡・重巡や軽空母などを混ぜてやりくりを行えば大体なんとかなるだろう
10:
大淀「現在ドッグは満員です」
提督「では順番待ちをさせておけ」
提督「それより金剛。比叡の調子はどうだ?」
金剛「……仕事を貰えてちょっと笑顔が戻ったヨ」
提督「そうか… この後学校のほうに見学に行ってくるわ」
金剛「oh 比叡も喜ぶネー! 私もご一緒しても?」
提督「編入後出撃と言っただろう。そのころ金剛は海の上だよ」
金剛「shit!!」
副作用が一番重かった比叡は戦闘に耐えうる体ではなくなってしまったので練習巡洋艦に艦籍変更を行った
いや、正確に言うと変更しようとしたらもうなっていたのであるが
今は駆逐艦達に教鞭を振るっている
松葉杖姿で…
11:
本人には「足が十分に動くようになったら戦線復帰してもらう」と告げてあるが
その右足が前のように動くことはもうない。というのが明石の判断
無論本人には言えないし
懸命にリハビリに励む姿を見ると罪の意識で胸が一杯になりとても見るに堪えない
いつか真実が告げられるようになったら土下座して謝りたい。
12:
高修復剤使用禁止後一か月経過
矢継ぎ早に届く海域攻略の遅れを詰る連絡
本部より与えられた出撃回数ノルマも消化ギリギリである
これまでのように体調万全の高戦艦・空母・雷巡等を揃えての出撃が困難になったためだ。
さらに悪いことに低練度の艦娘が出撃するため怪我人の数は爆発的に増加し
修理ドッグが常に満員。
鎮守府には怪我をしたままドッグ待ちをする艦娘の姿が多く見受けられるようになった
扶桑「提督… ドッグに入れていただくか高修復剤の使用は…」
大破状態のまま半月も放置されている扶桑
その要望に無言で首を振る
限られたドッグ。大破の航空戦艦を入れてしまうと当分の間その1つが占領される
現状でも損傷数に修復が追い付いていないのにその指令はできない
13:
山城「…大怪我のまま放置されるなんて不幸だわ」
扶桑「体はこんなに痛いのに……高修復剤さえ使ってくれれば」
提督「怪我のことは申し訳ないと思っている」
山城「申し訳ない、じゃなくて! せめて放置するなら怪我していない状態にしてよ!」
山城「大破してるって軽く言うけどこっちは痛いのよ!」
提督「今、加賀と瑞鶴と隼鷹、鈴谷に最上が順番待ちだからその後で…」
扶桑「提督? その順番が空く頃には10人20人と新しい怪我人が出ているのではなくて?」
提督「……」
扶桑「それに仮に 仮に私たちがドッグ入りできたとして」
扶桑「修繕し終えたらすぐに出撃 私たちの練度ではすぐ大破」
扶桑「また延々とドッグ待ちをすることになるのではありませんか?」
提督「……」
扶桑「どういった経緯かは存じませんが…高修復剤を使わないというのはいかがなものかと…」
14:
提督「今…軍令部に出撃ノルマの軽減を陳情しているから」
提督「出撃回数が減れば新しい怪我人も減るよ」
山城の視線がいつもより5割増で怨みがましい
扶桑の視線も5割増で物悲しそう
提督「ドックの順番になったら呼ぶよう大淀に言っておく」
と、だけ告げて立ち去った
それでも高修復剤の使用再開は認められない
一回だけ損傷艦全部に使い、体制を立て直したい誘惑はある。
だがその一度で後遺症が発生してしまったら後悔してもしきれない
痛く辛い思いをさせてしまっていることは申し訳ないと思う
けれどもそれが君たちのためなのだ
15:
半年に一度 本土で開かれる定例会議に参加した
普段は各地の提督同士、戦果の自慢や昔話で盛り上がるところであるが…
今回は例の副作用の話でもちきりとなった
「うちの鎮守府では主力の1人が傷病除隊になった」
「練度の高い子が大した敵のいないはずの海域で轟沈 体に異常があったのでは…」
「笑顔で戦果報告をされつつ修復剤を求められると辛い」
それぞれが話す内容は悲痛なものだが詳しく聞いてみても高修復剤を使っていない者は数名
使用禁止命令を出した提督は相当数いた模様だがほとんどが撤回済であった
運用の困難を感じたのか。
16:
先日、秘書艦を務めていた子が視力を失ったという提督も使用は継続していると語った。
「秘書艦がそんなんになってまだ使うのか」
「艦娘を人間と思っていないんだな」
「この人でなし」
自分を含めた使用禁止派提督がなじると彼は表情こそ変えなかったが無機質な声で呟いた
「仕方ないんだ」
「高修復剤使用を前提に作戦は組まれている。現実的兵站を考えると…」
そう言って溜め息をつく彼は弱虫だと思った。
「使うなというなら代案を出せ」
などと軟弱者が寝言を言うがそれ以上議論をする気にもなれなかった
努力に憾みなかりしか
不精に亘るなかりしか
至誠に悖るなかりしか
帝国軍人の魂と気概さえあれば高修復剤など危険なものを使わなくてもやっていける
提督には部下を正しい方向に導く義務がある。
17:
高修復剤の使用を停止して二か月
那珂「ちょっと? 遠征随伴が全員新しい子ってどういうこと?!?」
執務室のドアがノックもなしに開けられる
立っていたのは怒り心頭の那珂と困惑した顔の神通であった
遠征要員を出撃に回し、レベル1の駆逐艦達を随伴にしたのが気に食わなかったようだ
那珂「いくら地方巡業だって昨日今日入った子ばっかりじゃこなせないよ?」
神通「水雷部隊も遠征しか経験のない子たちが何人も入ると…」
正直どちらも無理があるとは思う。
しかし本日の出撃メンバーの選定を行おうとしたところ…ケガ人しか見当たらなかったのだ
本部より出撃を厳命されている箇所は3か所。
遠征固定メンバーと新人を除くと小?大破となっていない者は10名
3部隊を同時展開するにあたり…8名も足りなかったのだ
100人以上が在籍しているというのに!!
18:
だが遠征部隊専属の睦月型を戦闘部隊に回せば形だけは…
提督「現状で可能な遠征に切り替えてくれ…」
那珂「いいの? 持ってこれる資材は大幅に減っちゃうけど」
提督「とりあえず とりあえず今回だけだ」
提督「いままで那珂の随伴をしていた5隻は今回だけ水雷戦隊に異動を命じる」
提督「那珂は新米たちを率いて遠征任務を継続してくれ」
怪訝な顔をして二人は立ち去った
厳命された箇所に出撃をしないと本部からの補給も止められてしまう。
今は山場なんだ 今さえ切り抜ければ
19:
一度の損傷でドックを長期占領する大型艦運用を一時停止
軽巡・駆逐の積極活用を開始したのは三週間前
最初は好判断だと思った
「水雷魂を見せる時」と、普段冷や飯食いの本人たちからも好評だった
川内などは夜戦ができると大はしゃぎ
喜びのあまり抱きついて頬に接吻をしてきたほど
だが現実は厳しかった
敵空母相手に練度の低い水雷部隊は脆く弱い
敵の懐に飛び込んで行う戦い方はもはや時代遅れ…
そう講義で教えられていたことを思い出す
爆撃と艦攻の前に手も足も出ず撤退。
5,6度に1度、夜戦に持ち込み勝利を収めたとしても被害は甚大
寅の子の防空艦も過度の出撃で疲労困憊
練度の高い軽空母複数を加えれば航空戦は互角に持ちこめるもののそこまでの数の軽空母はいない
そもそも『軽』 だろうが空母は空母、修復時間は短くもなしドッグは埋まる
20:
我が鎮守府が運営する艦娘は約120隻
要求されている出撃ノルマをこなすためには常時2部隊12名は出撃させている必要がある
それに対して修理ドックは4つだけ
そもそもの大本営の割り当てがおかしいのだ
それをごまかすためにあの忌々しい高修復剤などという薬物を送りつけてくるのだろう
危険を公表しないのも自らの失態を隠すために違いない
今日も新海域への出動命令とあの毒薬が50個も届いた。
海に投げ捨ててやろうかとも思ったが軍の資材。一応保管しておくこととする。
いつか軍本部責任者に天罰が下ることを祈る。
21:
三か月経過
鳳翔が隠れて高修復剤の使用・譲渡を行っていた
なぜそんなことをしたのか詰問するとまさかの一言
「使わなければ致し方ありませんでした 今までのように使うべきです」
この鎮守府に着任してから部下を殴りつけたのは初めての経験だった
軍では上役が手を上げるのは至極当然のこと
だからこの程度は許されるに違いない
もしこの使用で彼女に もしくは彼女が将来産むであろう子供に障害が残ったら…
叩いてでも言うことを聞かせるべきである
頬を押さえ、恨めしそうな視線でこちらを見上げる彼女に無期限の謹慎を命じる
手引をした夕張も30日間の謹慎
川内や神通あたりも事実は承知していたようであるが…
23:
提督「命令は絶対だ! 次に同じようなことを黙認したら君たちも処罰する」
これ以上謹慎者を出す余裕はないので叱責にとどめた
川内「提督…バケツ使おうよ。出撃も減らそ、夜戦もしなくていいから」
提督「おめこぼしをしているのがわからないのか?」
どいつもこいつも腹立たしい
こんなにもお前たちのことを思ってお前たちのために耐えてやっているのに
提督「戦略や兵站を考えるのは私であって君たちではない!」
川内「だけど提督…」
提督「ドッグと明石が居る。それが修理能力の全て」
提督「今後、二度と高修復剤などというインチキを言うな」
怒鳴りつけてもなお納得できないような川内の手を神通が引き、連れ帰る。
24:
すると噂をすれば影。入れ違いに明石が執務室に顔を出し、任せた修繕の完了と休憩要求を行ってきた。
明石「提督。私自身もある程度のメンテは必要でして…」
そう言えば自分と同じく明石も徹夜続き 
提督「頼む。あと3隻 あと3隻直したら休んでいいから」
提督「完全に治すまでやれとは言わない。ある程度戦えるとこまで」
提督「そう。小破と認定されないあたりまで直せばいいから」
26:
高修復剤使用禁止から四か月経過
神通が戦没した
川内に連れられ涙ながらに報告に来たのは随伴艦の睦月
先々月まで遠征しか経験がなかったところを『一時的に』戦闘部隊に回した一人であった
如月・文月・長月・菊月 
神通が率いていた睦月以外の4人も『一時的に』配置転換した4人
28:
睦月「敵の飛行機がね 100…ううん。120機くらいイナゴの群れみたいに一気に襲いかかってきてね」
睦月「神通さんは…… 睦月達を逃がそうと立ちはだかって…直撃を…」
提督「そうか…」
川内「そうか?」
川内「ふざけんなよ! なにこの編成! 空母も防空艦もいないのに敵空母がうようよしてる海域に…」
提督「一応、文月と長月には機銃を装備させて」
川内「そうだね 普段ドラム缶しか運んでない子にね」
川内「編成的にせめて秋月でも混ぜようって気はなかったの?」
提督「秋月型は先日全員大破。ドッグの順番待ちをしている」
川内「空母の一隻も使って爆撃を防ごうとか思わなかった?」
提督「現在、空母軽空母は出撃中の二隻を除き全て中破以上の損傷でドッグ待ちだった」
川内「戦力がないならなんで出撃させたの?」
提督「大本営より同海域に出撃命令があったんだ」
29:
川内「戦力を融通とかしてもらえなかったの?」
川内「神通もう13日も連続して出撃してたんだよ?」
川内「あの子は文句言わないけどきっとすごい疲れてた」
川内「私が代わってあげたかったけどこんな怪我で出れなくてドッグは一杯で」
川内「そもそも神通も出撃できる程度だけど怪我してた」
川内「おかしいでしょ? なんでこの鎮守府には怪我していない子がいないの?」
川内「ねぇ。どうしてよ?」
大粒の涙をボロボロとこぼしながら訴える。
口には出さないが彼女が本当に主張したいことは痛いほど理解できた
自分に何をしてほしいかも
でもそれはできないことだった
横から睦月がなにか言おうとするもその口からは嗚咽しか出てこない
30:
川内「那珂がもうすぐ遠征から帰ってくるけど私なんて言えばいいの?」
川内「神通は沈みました。その時私も空母も防空艦もドッグ順番をのんびり待ってました?って言うの?」
川内「明日の出撃だれが出る? 新米? それともまた怪我人? あー、中破までなら出撃可能かもねぇ」
返す言葉もなくただずっと俯いて無言を貫く
床と机を見つめたまま
しばらくすると…諦めたらしく、トボトボと立ち去る足音が聞こえた。
思考は渦を巻き、考えは纏まらず
その日は椅子に腰かけたまま動くことができなかった。
33:
高修復剤を使用禁止してから5か月経過
万策は尽きた
攻略は完全に滞り、出撃回数も目標値の3割程度しか果たせていない
深海戦艦の部隊が鎮守府近くまで押し寄せることも少なくなく、戦況は極めて厳しい
大淀によると近日中に軍令部より監査が入るらしい
出撃回数ノルマが大幅に未達成であれば当然である
倉庫に積んである大量のバケツ備蓄
全員に10回づつ使ってもまだ余る備蓄
アレを見られると報告していた「敵膨大 戦力欠乏のため」という戦況悪化の理屈が崩れて全ては終わり
まぁ発覚しなくても自分は左遷、もしくは怠戦により除隊処分される可能性が大だが
提督、という立場が残りわずかになったという確信を得ると告白がしたくなった
川内と那珂に対しての告白
二人が納得していないだろうなぜ高修復剤を使うのを禁止したかの告白。
呼び出しても応じてさえくれないかもしれない。そう思ったので3人の。今は2人の部屋を訪ねることにした。
34:
提督「入ってもいいか」
川内「どうぞ」
ノックしつつ尋ねると不審そうな声での承諾を得る
ドアを開けると包帯が痛々しい二人
先週、遠征旗艦から水雷戦隊に異動した那珂は初戦で負傷 修理の順番は回ってきていないようだ。
提督「具合はどうだ?」
川内「なに? 早く用件言いなよ」
提督「では…高修復剤の使用を禁止したのか 理由を話しておこうと思ってな」
川内「ふーん。いいよ。聞く」
川内「ほら。そこ座んなよ。那珂も座布団くらい出してあげな」
想定と違い、傷の痛みに顔を顰めながらも視線を向け真面目な表情で答えてくれる
「聞きたくない!」などと大声で叫ぶ可能性が高いと思っていた。
35:
座布団に正座をするとこれまでのことを頭の中で整理しながら話す
提督「高修復剤には副作用がある可能性が高い」
提督「お前たちにその事実を知らせることは禁止されていた」
提督「高修復剤を使わないように戦いをこなすよう努力していたが無理だった」
提督「神通のことは申し訳ない 彼女に負担が集中していたことは事実」
提督「今後新しい提督が着任しても修復剤の使用は拒否しろ」
等を主旨に10分程かけて一通り説明し終わったところで川内が口を開いた。
川内「副作用ってのはどの程度なの? 10分の1くらいで死ぬとか?」
提督「具体的にはわからんがとても危険だ」
36:
川内「だからどう危険なの?」
提督「副作用があるんだぞ! 副作用が!!!
 どの鎮守府でも副作用で後遺症が残った子が2,3人は居るらしいし
 死亡事案も上層部が隠しているだけであるかもしれない
 いや、きっとある。
 そもそも製法も公開されていない薬
 信用できるものじゃない とにかく危ない
 別の鎮守府では失明とか下半身不随とか
 うちだと比叡が松葉杖に…今後一生だぞ! その以外にも3人も!」
川内「……松葉杖ね そう」
それだけ言うと川内は無言となった。
俯いた那珂の肩が震えている。涙を堪えているのかもしれない。
提督「泣いてもいいんだぞ」
そう言って肩に手をかけようとしたところ粗暴に振り払われた
那珂「そんなくだらない理由で」
提督「へ?」
狐につままれたような気分。
39:
那珂「そんな程度の理由で禁止したの! 那珂はもっと深刻な理由があると思ってた!!」
完全に想定外の反応。
いやそれはまぁ「提督も大変だったんだね」とか言われて慰め合う展開期待してたし
最悪でも自分が正しいことは理解してもらえると
ああ ひょっとしたらそもそも言ったことを理解できていないのか?
そう思ったのでもう一度言った。
提督「高修復剤は危険な薬だったんだ その薬からお前たちを守るために禁止したんだよ?」
那珂「喧嘩売ってるの!? それ以上言うと本気で殴るよ!」
川内「那珂やめろ この人に悪意はない ただわかってないんだよ」
那珂「だって… だってそんなことで私たちは…」
川内「提督さぁ」
川内「出撃することも修復剤使うのも危ないのは同じじゃない?」
川内「そしたら使って危ない。けど万全で戦えるほうがいいじゃん
 悔いも残らないじゃん
 使わなくて勝てなくて危なくなるよりさ」
なぜこの二人が大淀と同じことを言うのかが理解できない
急に体中が痒くなり、今すぐ掻き毟りたい衝動を感じた
川内「この人は優先順位をわかっていないんだけなんだよ」
泣きじゃくる那珂を抱きしめる川内
その許可も取らず部屋を飛び出した。
40:
あいつら二人はおかしいんだ 俺は皆を守ろうとしたんだ。
皆なら
まともな奴ならわかってくれる
提督「副作用があったら修復剤を使うか? あれは危険なんだ!」
瑞鶴「……使うことで戦えるなら囮だってなんだって」
提督「最近髪の毛の抜けが異様に多いと言っていたな。実は過去の薬の後遺症かも」
翔鶴「それよりもう1か月も大破状態で待機しているのですが…バケツ使用許可はいただけませんか」
提督「あの修復剤が悪いんだ! 赤城の体調がおかしいのはあのせいで」
加賀「死にかけの重傷者も一瞬で治るような薬ですから その程度…当然では?」
提督「金剛 お前だけはわかってくれるよな。皆変なんだ。副作用のある危険な薬を受け入れるとか言い出して」
金剛「提督… 私たちは毎日砲弾が飛び交うところに生身で居る」
金剛「何百回に1回 死ぬわけでもないダメージなんてそこまで気にしないネ…」
提督「榛名…」
榛名「榛名は今まで百回近く使ってなんともありません。大丈夫です」
提督「きりし…」
霧島「司令の価値観では大切なことだったのかもしれません
 ですが私たちには戦況を悪化させてまでやることには思えません」
41:
大変だ。聞く奴聞く奴頭がおかしい
自分たちが副作用残るかもしれない怪しい薬を使われていたのにそれが大切なことではないなんてどうかしてる
提督としてこれまで守ろうとしてきた艦娘が全員頭おかしかったなんて……高修復剤っ!
そうだ。高修復剤の影響だ。
自分が禁止してあげる前。真実に目覚める前。残念ながら彼女らには何回何十回も使用している。
…遅かったのだ。もう汚染されていたのだ。
くやしいくやしいくやしいくやしいくやしいくやしいくやしいくやしいくやしいくやしいくやしいくやしいくやしい
せめてあの薬はこの世の中から抹消しなくては
そう思ったので高修復剤を保管していた倉庫に火をつけた。
4

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