小町「ですのーと?」back

小町「ですのーと?」


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2:
比企谷小町は悩んでいた
比企谷小町の思い人は実の兄
その兄が最近自分にかまってくれない
おにいちゃんは少し前に雪乃さんと付き合い始めた。
きっかけは何なのか、おにいちゃんに訊いても恥ずかしがって教えてくれなかった。
小町(昔のおにいちゃんは学校が終わればすぐに家に帰ってきてた。休日もずっと家にいて相手をしてくれたのにな)
小町(なのに最近は放課後は奉仕部の活動。その後雪乃さんと一緒にファミレスに行ったり図書館に行ったりして勉強したり駄弁ったりしてるらしい)
小町(おにいちゃんのリアルが充実するのが嫌なわけじゃない。むしろ嬉しいよ。でもね、やっぱりちょっと寂しいよ……)
3:
小町(雪乃さんはいい人だし、私よりずっと頭が良いし、綺麗でスタイルも良くて)
小町(私だって本気でおにいちゃんと結ばれると思っていたわけじゃない。だって私達は兄妹だし、結ばれることは有り得ない)
小町(いつかはおにいちゃんもこの家を出て行って、独立して結婚して子供を作って家庭を築くんだよね……)
小町(変な女に盗られるよりは、雪乃さんみたいな、いい人とくっついて欲しいとは思うけど)
小町(でも、でも……おにいちゃんが近い将来この家を出て行って、誰か小町とは違う女の人と付き合って愛し合って……)
小町(おにいちゃんの隣にはずっとその女が……って思うと胸の奥が苦しくなる)
最近はそんなことばかり考えてる。
受験で部活も引退。でも、家に帰ってきてもおにいちゃんはいない。
そんな事を考えながら今日も家に帰る。
4:
小町「ハァ……今日もおにいちゃんいないんだろうな」
トボトボ
パサッ
小町「――? なんか空から落ちてきた?」
ヒョイッ
小町(これなんだろ?真黒なノート。近くに高いマンションもビルもないし、どこから落ちてきたのかな?)
パラパラ
小町(最初のページに英語?で何か書いてある)
英語は苦手だ。よく意味が分からない。
小町(誰かの落としものだろうし、探しに来たら見つかるように置いておいた方がいいよね)
しかし、小町はなぜかその黒いノートが手放せなかった。それはとても大切で価値があるような気がして、目が離せなかった。
キョロキョロと周囲を見渡し、誰もいないことを確認すると素早くノートをかばんにしまい、その場を立ち去った。
6:
帰宅するとすぐに自室に引きこもり、例のノートを取り出しページをめくった。
小町(やっぱり英語かな?えっと、電子辞書は……)
辞書片手に解読にかかる。
小町「ん?っと、……このノートに名前を書かれた人は……死にます?」
小町(……なんだこれ?子供のいたずらかなんかかな?)
小町「ハァ、あーあ馬鹿ばかしっ」バタッ
ベッドに寝転がる。
小町(どこかの小学生が落とした落書き帳かな?黒歴史ってやつ?)ゴロゴロ
小町(こんなのに魅かれたなんて、小町疲れてるのかな?)
そんな風にぼんやりと考えているうちに、小町の意識は薄れて行った。
…………
7:
気付くと、既に外は暗くなっていた。
時計を見ると午後8時。あのまま眠ってしまったようだ。
重い体を引きずって部屋から出てリビングへ行くと、誰もいなかった。ためしにおにいちゃんの部屋へ行ってみてもおにいちゃんはいなかった。
小町(おにいちゃんまだ雪乃さんといるのかな?)
携帯をチェックすると兄からのメールがあった。少し心を躍らせて見てみると、夕食は結衣さん達とファミレスで食べて来るのでいらないとの内容だった。
今まで眠っていたのに、なんだか疲れた気がして、ソファに倒れ込むようにして座る。
小町(おにいちゃん、小町は受験生なのです。もう部活もないし、授業も早く終わるんだよ……早く帰ってくるんだよ―……)
ハァ……
小町(最近ため息ばかりついてるな……だめだめ!これじゃどんどん落ち込むだけだよ、なんか食べて元気付けよっ!)
8:
そう決めると、少し力が湧いてくる気がして勢いよくソファから立ち上がり、キッチンへ行って冷蔵庫をのぞきこむ。
簡単にできるチャーハンを作ることにした。
材料を切ってフライパンに油を落とし、火を付けて野菜を炒める。
ご飯を投入して、最後に卵を入れて少し炒めて完成。
簡単な料理だからってのもあるけど、小町はこの料理が得意だった。
昔この料理を母に教えてもらって初めて作った時、おにいちゃんが「おいしいよ」と褒めてくれたことは今も覚えている。
お父さんにもお母さんにも同じように褒められたけど、おにいちゃんに褒められたことが一番うれしかった。
小町(そう言えばあの頃からおにいちゃんの事好きだったんだな)
11:
皿を二つ出して盛り付けけるとき、ふと思い出す。
お兄ちゃん、今日は夕食いらないって言ってたんだった……
真っ白なお皿に水滴がぽたぽたと落ちる。
小町(あれっ?どうしたんだろ)
手を目元に持っていくと、頬が濡れていた。
小町は泣いていた。
っ……くうっ……ううっ……うっうっ……
そのままキッチンの床に座り込む。
涙は拭っても拭っても溢れてきた。
小町(……おにいちゃん……小町寂しいよ……)
13:
食欲は完全になくなっていた。
作ったチャーハンはお皿に盛り付けてラップをかけておいた。
もう何も食べる気が起きなくて部屋に戻る。
ふと机を見ると、あの真黒なノートが開いたままになっていた。
『このノートに名前を書かれた人は死ぬ』
馬鹿馬鹿しい。こんなのどこかの中二病の小学生の戯言だよ。ノートに名前を書いたくらいで人が死ぬはずがない。
でも、何故かノートから目が離せなかった。
14:
小町(一回くらいためしに書いてみても良いよね……?)
小町(どうせ、こんなの嘘に決まってるし、誰も死なないなら書いてみても……)
小町(でも、誰の名前を書く?最近一緒に勉強しようってうるさい同級生の男子の名前でも書こうかな?)
椅子に座ってシャーペンを持つ。
今年の春お兄ちゃんがくれたシャーペンだ。どこかの受験勉強に御利益があるという霊験あらたかな神社の売店で買ってきたらしい。
小町(ふふっ……ほんとに妹思いの良いおにいちゃんだな)
少しだけ幸せな気持ちになる。
でも、すぐに思い出す。
おにいちゃんは今も雪乃さんと一緒。
15:
小町(まただ……、胸の奥が苦しくなるような感覚)
それと同時に今までとは違った感情も湧いてきた。
どす黒い感情、妬み、嫌悪、憎悪。
小町(雪乃さんがいなければ……いなくなれば……お兄ちゃんはずっと小町のそばにいてくれる?)
小町(きっとそうしてくれるよね?だっておにいちゃんは世界で一番小町のことを考えてくれてる、世界で一番大好きな人)
結果のことは考えないようにして手を動かす。
『雪ノ下雪乃』
16:
ハッと気が付く
書いてしまった。
小町「ハハハ……」
自虐気味の笑いが出る。
小町(ちょっと自分ながら病みすぎだね……)
小町(いくらいたずらだとしても、雪乃さんの死を願うなんて……)
ドサッとベッドに倒れ込む
小町(今日はもう勉強する気がしないよ……)
いつの間にか意識は遠のき、眠りに落ちていた。
…………
17:
気がつくと朝だった。リビングへ行くと誰もいない。
机の上には冷たくなったチャーハンが昨日のまま残っていた。
おにいちゃんの部屋を見てもおにいちゃんはまだいなかった。
小町(まさか外泊?いくら雪乃さんと付き合ってるからって、雪乃さんはそんな簡単に外泊を許すような人じゃないと思うけど……)
暗い気持ちになる。
小町(何で朝からこんな落ち込まなきゃならないの?……)
19:
顔を洗い歯を磨いてシャワーを浴びる。
温かいシャワーを浴びていると少しだけ気分が良くなる。
肌に当たる暖かなお湯。
鏡をぬぐって映る自分の姿を見る。
幼い顔立ち、小さな胸
雪乃さんと比べて女性としての魅力に欠けるというのは一目瞭然。
実の妹。それだけでも大きな失点なのに、その上、一人の女性としても負けている。
21:
着替えて一人でパンを焼いて食べる。
教科書やノートの類を確認して家を出る。
結局おにいちゃんは帰ってこなかった。
小町(なんなの?ほんとに外泊?)
朝から気分が暗くなる。
いつも通り電車に乗る。ふと携帯を見ると知らない番号から電話がかかっていた留守電も入っている。
小町(なんだろ?)
留守電を聞いてみる。
「もしもし、比企谷小町さんの携帯ですか?こちら○○警察署の田中と言う者ですが、このメッセージを聞かれましたらご連絡ください」
小町(警察?なんだろ?)
22:
心当たりは全くない。
小町(まさかおにいちゃん警察に捕まったの?)
動悸がする。冷や汗がどっと出て来る。
おにいちゃんに限って犯罪を犯すなんてことはあり得ない。
おにいちゃんはひねくれているし、性格も変わっているけど、悪いことをしたり人を傷つけたりするような人じゃない。
途中の駅で電車を降りて電話をかける。
通話音がやけに長く感じる。
23:
「はい○○警察署です」
小町「あの、留守電にそちらの田中さんって人から電話が入ってて、留守電を聞いたらかけ直すようにと言われたんですが」
「田中ですね、今代わりますのでお待ちください」
田中さんはすぐに出てきた。
田中「どうも田中です。君、比企谷小町さん?比企谷八幡君の妹さんでいいのかな?」
小町「はい、比企谷八幡は私の兄です」
田中「そう、家に連絡しても誰も出なかったんだけど、お父さんかお母さんは今近くにいる?」
小町「いえ、今学校へ行く途中なので、父と母はいません。……あの兄がなにかしたんですか?」
田中「いや、そういうわけじゃないんだけどね。今、八幡君は○○署にいてね、ちょっと話を聞かせてもらってるんだけど、とりあえず保護者の方に連絡が必要でね」
田中「えっと、それじゃどこに連絡したら御両親に連絡つくかな?教えてもらえる?」
小町「あっ、はい、それでは父の携帯の番号を教えますので――」
 
…………
 
24:
授業は何も頭に入ってこなかった。
友達との話もずっと上の空で何も耳に入ってこなかった。
小町(おにいちゃんが警察に?悪い事をしたわけじゃないみたいだけど……)
小町(何かに巻き込まれたのかな?○○署って言ってたな、学校終わったら行ってみよう)
…………
26:
授業が終わるとすぐに荷物をまとめて一回家に戻る。
小町(着替えたらすぐに○○警察署に行ってみよう)
家につくとおにいちゃんがいた、それと平塚先生も。
小町(おにいちゃん!なんで平塚先生が?)
小町「おにいちゃん!昨日どこ行ってたの?警察から電話があって……それに平塚先生、どうしたんですか?」
おにいちゃんはソファに座りうつむいて何も言わない。平塚先生は今まで見たことも無いような怖い顔をしていた。
平塚「小町ちゃん、実はね君にも言っておかなければならないんだが……落ちついて聞いて欲しい」
27:
平塚先生は言葉を選ぶようにゆっくりと話しているようだった。
平塚「昨日、雪ノ下雪乃が亡くなった」
頭をガンと殴られたような衝撃
足がガクガクと震えて立っていられない。
小町「……そ、そんなの、……嘘ですよね?」
平塚先生はとても悲しそうに顔をゆがめて、
平塚「……こんな嘘つかないよ」
すとんと崩れるようにその場に座り込む
もう立っていられなかった。
28:
小町「そ、そんなのって……なんで、なんでなんですか?事故? ねえおにいちゃん、何か知ってるの?」
おにいちゃんは何も言わない。肩が震えている。泣いてるのかな?
平塚先生は私のそばに来てくれて肩をやさしく支えてくれた。
平塚「小町ちゃん、私達も今は何も分からないんだ」
平塚「ただ、比企谷の話では、昨日ファミレスで比企谷が雪ノ下と話していると突然雪ノ下が苦しみ出して、そのまま事切れたそうだ」
平塚「すぐに救急車が来て救命措置をしたが、助からなかった」
平塚「比企谷はそれから救急車に同乗して病院へ行って、その後は警察へ行って事情を聞かれていたんだ」
平塚「今朝警察から連絡が来てね、親御さんが都合がつかないので、私に保護者として来てくれということっだった」
平塚「小町ちゃん、君も雪ノ下とは仲が良かっただろう……
途中から話は聞こえなくなっていた。ぐるぐると地面が回っているように感じる。気が遠のいて行く。
…………
30:
小町「そ、そんなのって……なんで、なんでなんですか?事故? ねえおにいちゃん、何か知ってるの?」
おにいちゃんは何も言わない。肩が震えている。泣いてるのかな?
平塚先生は私のそばに来てくれて肩をやさしく支えてくれた。
平塚「小町ちゃん、私達も今は何も分からないんだ」
平塚「ただ、比企谷の話では、昨日ファミレスで比企谷が雪ノ下と話していると突然雪ノ下が苦しみ出して、そのまま事切れたそうだ」
平塚「すぐに救急車が来て救命措置をしたが、助からなかった」
平塚「比企谷はそれから救急車に同乗して病院へ行って、その後は警察へ行って事情を聞かれていたんだ」
平塚「今朝警察から連絡が来てね、親御さんが都合がつかないので、私に保護者として来てくれということっだった」
平塚「小町ちゃん、君も雪ノ下とは仲が良かっただろう……
途中から話は聞こえなくなっていた。
32:
小町(雪乃さんが死んだ?意味が分からない。平塚先生の話では普通に話をしている時に突然死んだって……)
昨日の真黒なノート……もしかして……
小町「先生!雪乃さんが、その……倒れたのって何時ですか?」
平塚「え?何時?たしか警察の人は8時半頃だったと……おい比企谷、そうだったよな?」
平塚先生にそう訊かれてもおにいちゃんは微動だにしなかった
平塚「ハア……比企谷も相当ショックみたいだからそっとしておいてやってくれ。まあ、時間は8時半頃で合っていたと思う。それがどうかしたか?」
体がガタガタと震えて止まらない。
小町(あれだ、あのノートだ。私が雪乃さんの名前を書いたから……)
小町(……わ、わたしが殺したんだ……二人を……雪乃さんを、わたしが殺したんだ)
震えが止まらない。ガタガタと体全体が震えて、カタカタカチカチと歯がなる。
平塚「おい、小町ちゃんどうした?具合が悪いようなら……
平塚先生の声がどんどん遠く小さくなっていく、気が遠のいて行く……
…………
38:
額にヒンヤリとした感触があって気がつく。
薄く目を開けると結衣さんがいた。
結衣「あっ、小町ちゃん気がついた?」
小町「結衣さん……?ここ小町の部屋……どうしてここに?」
結衣「うん。……わたしねさっき来たところなんだけど、ヒッキーとゆきのん……あんなことがあったでしょ?だから心配になってね」
結衣「そしたら平塚先生が来てて、ヒッキーは何言っても何も話してくれなくて……、それで小町ちゃんも倒れちゃってて」
結衣「平塚先生は一回学校へ戻らないといけないってことだったから、わたしがここに残って小町ちゃんとヒッキー見てますって言ったの」
結衣さんの目はすごく赤くて、声も少し枯れていた。
39:
小町「そうだったんですか。結衣さんありがとうございます。あの、おにいちゃんはどうですか?」
結衣「うん。それがね……ヒッキー、わたしがきてからもずっとふさぎこんでて、さっき部屋に入ってから出てこないんだ……」
小町「おにいちゃん……」
結衣「小町ちゃんもゆきのんのことは聞いてるよね?」
小町「……はい」
小町(よく見ると結衣さんの目すごく赤い……泣いてたんだな……)
結衣「ヒッキーがゆきのんと付き合ってたことも知ってる?」
小町「はい」
胸に痛みが走る。
40:
結衣「ヒッキーね、すごくショック受けてるからさ、小町ちゃんそばについててあげてね?」
小町「……はい」
結衣「あと小町ちゃん、熱があるみたいだから無理しちゃだめだよ?なんかあったら電話してね?」
そう言うと結衣さんは帰って行った。時計を見ると午後10時を回っていた。
暗い天井を見つめながら考える。
小町(私が雪乃さんを殺した?)
冷静になって考えてみるとおかしいと思う。
いくらなんでもノートに名前を書いたくらいで人が死ぬはずがない。
42:
小町(たまたま、雪乃さんが……死んだだけ。小町があのノートに名前を書いたのなんて関係ないよ)
きっとそうだ。雪乃さんは急な病気か何かで死んだだけで、小町は何もしていない。
……でも、仮にあのノートが本当に効果があって、小町が名前を書いたことで雪乃さんが死んだのだとしたら?
私は逮捕されるのかな?
怖い
今までは雪乃さんが死んだこと、そのことで頭がいっぱいで、気付かなかった。
私が殺したのだとしたら、警察がそのことに気付いたら……
学校にはもう行けなくなる。私はまだ未成年だから、刑務所には入れられないと思う。
でも少年院とかに入れられるのかな?
44:
そんなことよりも、おにいちゃんはどう思うだろう?
小町が彼女の雪乃さんを殺したって知ったら……
きっとおにいちゃんに嫌われる。嫌われるだけじゃすまないかも、憎まれて、一生口を聴いてもらえないかもしれない。
警察に捕まることよりも、そっちの方が嫌だ。
小町(でも、警察はどうやって小町がやったって気付くの?)
小町はノートに雪乃さんの名前を書いただけ。
どんな捜査をしても、そんなの絶対に分かるはずがない。
でも……
そんな風に結論がでないことをあれこれ考えているうちに夜は更けて行った。
45:
次の日の朝。結局一睡もできなかった。
リビングに行くとおにいちゃんがいた。おにいちゃんも眠れていないみたいで、げっそりとやつれて、いつもよりもずっと目が虚ろだ。
八幡「……おう、小町か……」
声をかけてくれただけですごくうれしい。昨日は一言もしゃべってくれなかったから。
そう言って、またぼーっと壁を見つめている。
小町「……おにいちゃん今日学校どうする?小町が連絡しとこうか?」
八幡「……いや、今日はまた警察に行って話してこないといけなくてな。平塚先生にそのことはもう言ってあるよ」
小町「そっか……無理しないでねお兄ちゃん」
55:
それ以上悲しそうなお兄ちゃんの顔を見ていられなくて、部屋に戻る。
着替えを済ませて食事もとらずに家を出る。
お兄ちゃんは今まで見たことも無い悲しい顔をしていた。
小町(雪乃さんのことほんとに好きだったんだな……)
56:
授業は全く頭に入らなかった。先生の言ってることは右耳から入って左耳から抜けて行く。
授業中もずっと雪乃さんのこと、警察に捕まるかもしれないこと、そしてお兄ちゃんにバレて嫌われるかもしれないこと、そんなことばかり考えていた。
小町の席は窓際なので、校庭も校門も見える。今にもそこからパトカーが入ってくるかと思うと鼓動の音が早くなって、手に汗が噴き出してきた。
小町(バレるはずないよ)
そう思い込もうとしても、不安は大きくなるばかりだった。
給食の時間になっても全く食欲は湧かない。昨日の夜から何も食べていのに。
無理やり箸を動かして給食を詰め込んだけど、昼休みに気持ち悪くなってトイレで全部吐いてしまった。
……ウップ……オェ……ハァハァ……
小町(怖い怖い怖い怖い怖い……あんなことしちゃいけなかった。誰か小町を助けてよ……もう一生何も悪いことしませんから)
昼休みの間ずっとトイレに座り込んで震えていた。
57:
そんな日々が続いた。
学校の授業は全然頭に入らないし、家でも勉強出来てない。お兄ちゃんと一緒の高校に行きたかったのに、このままじゃ無理そうだ。
警察はまだ来ない。捜査はどうなっているんだろう?
友達の話ではあの日ファミレスにはたくさんパトカーが来てたらしい。
雪乃さんは企業の社長さんで県議会議員もやってる人の娘さんだから、捜査も慎重に進めているのかもしれない。
健康な高校生が突然死。しかも社長兼政治家の娘。
警察も不審に思って当然だ。
58:
あの日以来結衣さんはちょくちょく家に来てくれていた。
お父さんもお母さんも相変わらず仕事優先で、家にろくにいないので、小町が塾で遅くなる日なんかには夕食を作ってくれたこともあった。
料理の勉強をしていたらしくて、味はお兄ちゃんが以前言ってたほど酷くはなかった。
小町(結衣さんっていい人だな。気がきくし、小町やお兄ちゃんのこと心配してくれてるし)
59:
あの日から数日たったある日、地獄のような日々に突然終止符が打たれた。
その日、塾が終わって家に帰ると平塚先生が来ていた。
お兄ちゃんと珍しくいる両親と机を挟んで話している。
何か真面目な話みたいだったので、軽く挨拶をして自分の部屋に行く――そう見せかけてドアの影で聞き耳を立てた。
平塚「――だそうです。警察の方の話では、死因は病死、心臓発作だったと。」
平塚「ご存知かもしれませんが、雪ノ下さんの親御さんは○○建設の社長で県議会議員もされています。」
平塚「それで警察も、特に病気でもない高校生が突然亡くなったということもあり、慎重に調べていたそうです。」
平塚「今日、司法解剖や血液の検査の結果が出たそうです。毒物の反応や傷もなく、病死だということです。」
平塚「比企谷君は現場にいたと言うこともあって、事情を聞かれていましたが、それは疑いとかそういったことではなく――」
60:
そっとドアから離れて自室に入る。
ほっと息をつく。
小町(よかった……)
体の力が抜けてしまって床に座り込む。
小町(病死。心臓発作)
結局ただの病死だった。あのノートは関係ない。そもそもノートに名前を書いただけで死ぬなんて有り得ない。
小町「……わたしは雪乃さんを殺してない」
そう、雪乃さんは突然、病気で死んだだけ。わたしはなにもしていない。
61:
あんなに毎日怯えていたのが馬鹿馬鹿しくなってきた。
小町(わたしは一体何に怯えていたんだろ?)
机の引き出しの一番奥の方に入れていたあの真黒なノートを引っ張りだす。
小町(結局こんなのただの根暗な中二病の小学生かなんかのいたずら書きだったんだね)
小町「あーあ、心配して損したっ」
ゴロンとベッドに寝転ぶ。
62:
小町(このノートどうしようか?捨てちゃう?なんか気持ち悪いし)
そう思ってゴミ箱に投げいれようとしたけど、何故かそうしない方がいい気がしてやめてしまう。
小町(ただのノート。変な効果なんてない、ただのノートなら急いで捨てるのもおかしいよね?……もしかしたら使える日が来るかもしれないし……)
そう思い直してクローゼットの中にある、昔のアルバムなんかが入れてある段ボール箱の底に真黒なノートを入れた。
段ボール箱にはガムテープでしっかり封をした。
小町(もう、このことは考えないようにしよう)
小町(こんな変なもののこと考えていても何も得しないしね)
63:
次の日、雪乃さんのお葬式があった。小町もお兄ちゃんと一緒に参列した。
お兄ちゃんは相変わらず目が虚ろで、雪乃さんが見たら
雪乃「あら、比企谷君、あなた”ゾンビみたい”ではなくて本当にゾンビになってしまったのかしら?」なんて言いそうなくらい目が死んでいた。
小町(お兄ちゃんは涙も枯れ果てたって感じだね)
参列していた雪乃さんの同級生は、みんな一応は「悲しいです」って感じの表情はしてたけど、時折友達とコソコソ話して少し笑ったりしていた。
お兄ちゃんから雪乃さんが学校で浮いてるって話は聞いたことがあった。
小町(雪乃さんほんとに友達少なかったんだな)
泣いていたのは結衣さんと金髪で派手な感じの同級生、雪乃さんのご両親とお姉さん、それと平塚先生だった。
特に結衣さんは静かにぽろぽろと涙を流していて、見ているこっちが悲しくなってくる程だった。
65:
そう言えば結衣さんは雪乃さんとお兄ちゃんが付き合い始めた時、すごくショックを受けていたっけ。
学校終わりに待ち合わせてファミレスで話を聞いた時も、泣いてたし。
親友と好きな人が付き合うってことで、祝福はしてたみたいだけど、やっぱり複雑だろうしね。
小町(それなのに、大好きなお兄ちゃんを奪った雪乃さんの死を、そんなに悲しむんだ……)
正直言って小町には良く分からない。人が死ぬってことも実感が湧かない。
雪乃さんとはもう会えないし、話もできないってことは分かる。
それが死ぬってこと?そんなの遠くに引っ越して行って疎遠になるのとそれほど変わらない。
小町(それに雪乃さんはお兄ちゃんと付き合ったんだよ?雪乃さんは結衣さんの気持ちにだって気付いていたと思う)
小町(あんなに頭のいい人が気付かないはずがない)
小町(結衣さんの気持ちを知っていながら、お兄ちゃんを奪ったあの人を嫌わないの?)
小町(結衣さん、なぜそんなに悲しむの?)
66:
雪乃さんのお母さんとお父さんも泣いていた。
小町(そりゃそうだよね。まだ高校生の娘が突然死んだんだもんね)
雪乃さんのお姉さんの、陽乃さんも泣いていた。
以前林間学校のボランティアの帰りに合った時はすごく陽気な人だったから、ギャップがすごい。
雪乃さんのお父さんが参列者に挨拶をしている時、横に立っていた陽乃さんはじっとお兄ちゃんを見つめていた。
67:
雪乃さんのお葬式も終わって、日常が戻ってきた。
お兄ちゃんは相変わらず家ではぼーっとしてることが多い。
ゲームもしなくなったし、本も読んでないみたい。
小町(でも小町は嬉しいよ。お兄ちゃんがいてくれるから)
お兄ちゃんが雪乃さんと付き合ってた頃は、小町はいつも家に一人で寂しかった。
家に帰ってきても誰もいない、休日も小町が起きる頃にはお兄ちゃんはもう出かけてる。
そんな寂しいことはもうなくなった。
6

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