【ガルパン】優花里「これは恋ではない」back

【ガルパン】優花里「これは恋ではない」


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1:
ザアアアアア…
優花里「西住殿」
みほ「何?」
優花里「雨が…」
みほ「うん」
優花里「ひどくなって、きましたね」
みほ「うん。こんなに降るなんて思わなかった」
優花里「西住殿」
みほ「何?」
優花里「ずっと操縦してて、疲れませんか?」
みほ「大丈夫だよ」
優花里「でも、こんな悪天候だし…」
みほ「これくらいで疲れちゃったら、いつもの麻子さんに申し訳ないよ」
優花里「私、考えたんですが。今っていい機会だと思うんです」
みほ「いい機会?」
優花里「私に操縦を教えてください」
みほ「今は天気が悪いし、暗くなってきたから危ないよ。私がやる」
優花里「ですが、私もこの?号を動かせるようになった方が…」
みほ「確かに私、操縦は苦手だけど。今は試合中じゃないし」
優花里「……」
みほ「道の上をただ進むだけだから大丈夫。……それより、優花里さん」
優花里「はい」
みほ「何だか……寂しいね」
ザアアアアア…
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2:
優花里「寂しい?」
みほ「天気が、どんどん悪くなっていって。どんどん辺りが、暗くなっていって…」
優花里「……」
みほ「もう日が沈んだのかどうかも、分からないくらい」
優花里「……」
みほ「ほかの3人は、?号から降車しちゃった」
優花里「私たち二人だけになっちゃいましたね」
みほ「僚車も……ほかの車両のみんなも、先に戦車倉庫へ向かっちゃった」
優花里「……」
みほ「こんなに暗くて雨の降ってる中を、私たち二人だけが…」
優花里「ただ、道の上を進んでる…」
みほ「何だか……寂しいね」
優花里「……西住殿」
みほ「うん」
優花里「さすが、と言うべきなのかどうか、分かりませんが…」
みほ「何?」
優花里「西住殿はどうして、そんなに落ち着いてるんですか?」
みほ「落ち着いてる?」
優花里「あんなことが、あった後なのに」
3:
みほ「だって、今の私たちが心配しても、できることなんて何もないから」
優花里「それはそうですが……」
みほ「1年生の子たちはちょっと動揺してたね」
優花里「ちょっとどころじゃ、ないですよ」
みほ「気を失ってグッタリしてる人を見るのなんて、初めてなのかな」
優花里「しかも、自分の知ってる人ですし」
みほ「それに一人だけじゃなく、二人も」
優花里「半泣きで名前を呼んでる子もいました」
みほ「人が搬送されてくのも、見たことないんだろうね」
優花里「西住殿はやっぱり、これまでの試合や練習の時に?」
みほ「うん。本当に珍しいことなんだけど、何回かあった」
優花里「安全は、完璧に保証されてるわけじゃないんですね」
みほ「ほかの競技と同じ。アクシデントで失神しちゃう人は、いる」
優花里「怪我人だって、出ることがある…」
みほ「どうしても避けられない。滅多にないんだけど」
♪? ♪?
優花里「あ。携帯」
みほ「うん。鳴ってる」
優花里「西住殿のですね」
みほ「出てくれる? 優花里さん」
優花里「え? 私が?」
4:
みほ「今、そっちへ渡すから」
優花里「いいんですか?」
みほ「だって操縦中、携帯の操作はできないもの。はい、これ」
優花里「…分かりました」パカ
みほ「誰から?」
優花里「“会長”って表示されてますが…」
みほ「あ、会長かぁ。生徒会の角谷会長」
優花里「え!? 私なんかが出ても…?」
みほ「うん。お願い」
優花里「は、はい……」ピッ
会長『もしもーし。西住ちゃん? 角谷だ』
優花里「はいッ。あんこうチーム装填手、秋山優花里です!」
会長『あれ? 秋山ちゃんか。こんちは』
優花里「こんにちはッ。西住殿は今、操縦中で…」
会長『操縦? 西住ちゃんが? やっぱり何かあったんだね。じゃあ携帯には出られないか』
優花里「はい。私、秋山が代わりに…」
会長『分かった。それなら?号の無線につなぎ直すね。西住ちゃんと話したいから』
優花里「は……?」
会長『この電話はこれで切るよ。そんじゃ』
優花里「は、はい。失礼します」
5:
みほ「会長、何だって?」
優花里「よく分かりません。西住殿と話したいから無線につなぐ、と言ってました」
みほ「無線? どういうことだろ。じゃあ通信の準備をしておこう」
優花里「はい。……あ、早来ました。西住殿、お願いします」
みほ「西住です」
会長『やぁ西住ちゃん。久しぶりだねえ』
みほ「会長、お元気でした?」
会長『いやー戦車道を引退してから、ヒマでヒマで』
みほ「出席日数が足りてるのは知ってますけど、たまには顔を出してください」
会長『まあ世間話はいいとして』
みほ「でも会長。今、どうやって話してるんですか?」
会長『あー、まずそれを言おうか』
みほ「はい。戦車に搭乗中じゃない会長が、どうして?号と通信できてるのか」
会長『生徒会室の電話を艦橋にある無線の設備へつないで、そっちと交信してるんだよ』
みほ「そんなこと、できるんですか」
会長『滅多にやらないけどね。今は、そうする場合だから』
みほ「……」
会長『何があったんだい? 艦載ヘリが出動して、戦車道の練習場所へ向かったなんて』
6:
みほ「今日の練習は紅白戦だったんです」
会長『どこでやってたの?』
みほ「180Y地区です」
会長『艦尾に一番近い所かあ。戦車道の練習で使える区域のうち』
みほ「もうみんな、大抵の練習場所に慣れちゃって」
会長『それで、戦車倉庫からそんなに離れた所にしたんだね。で、何かトラブルがあったの?』
みほ「試合中、私たちの?号が?突の待ち伏せを受けました」
会長『うん』
みほ「左側面を接射の距離で撃たれて、砲手と操縦手が気を失っちゃったんです」
会長『五十鈴ちゃんと冷泉ちゃんか。今、二人は?』
みほ「この後、容態を確認します」
会長『じゃあ当然、その時点で練習は中止?』
みほ「はい。一人ならまだしも二人ですから。それで、保健室へ送ることにしたんですけど…」
会長『その場所だと救急車が行くのは大変だね。だからヘリが出動したのか』
みほ「二人には沙織さん、いえ、武部さんが付き添っていきました」
会長『それで?号に乗ってるのは今、西住ちゃんと秋山ちゃんだけになっちゃった』
みほ「はい」
会長『でも何か変じゃない? 西住ちゃんが操縦して、今の?号は自走できてるんだよね?』
7:
みほ「はい。移動に問題はありません」
会長『?突の徹甲榴弾を至近距離でまともに食らったんでしょ?』
みほ「すごい衝撃でした。車体が歪んじゃったかもと思いました」
会長『で、もちろん撃破の判定が下された』
みほ「はい。車両は停止です」
会長『ますます分からない。どゆこと?』
みほ「砲弾は車両の左側面、やや前方に当たりました。エンジンとかは無事だったんです」
会長『撃破されても、回収車が必要なほどじゃなかったのか』
みほ「念のために、倉庫へゆっくり戻ることにしましたけど」
会長『どこにどんな影響が出てるか、分からないね』
みほ「でもこれまで異常無しです。多分問題ないでしょう」
会長『ほかの撃破された車両は…』
みほ「ありません」
会長『へ?』
みほ「私たちが一番最初にやられちゃったんです」
会長『ほー。西住ちゃんを真っ先に討ち取るなんて、エルヴィンたちも大したもんだ』
みほ「はい。白組の指揮車は私たちで、それを最初に撃破したんですから」
会長『そういう意味じゃないけど……まあいいや』
みほ「はぃ? 何か変でした?」
会長『じゃあほかの車両は全部、もう倉庫へ帰ってるんだね』
みほ「これも状況を確認してませんけど、そのはずです」
会長『西住ちゃん』
みほ「はい」
会長『急かす気なんて別にないけどさ、できるだけ早く戦車を倉庫へ戻して、うちへ帰ってね』
みほ「はい。そのつもりですけど…」
会長『今、学園内に残ってる全生徒へ下校命令、艦にいる人々全員へ異常気象警戒警報を出した』
8:
みほ「え? 下校命令? 異常気象、って…」
会長『我が艦の進路上に、発達中の低気圧がある』
みほ「……」
会長『私らはこれから、その中へ突っ込んでいく』
みほ「……」
会長『最悪の場合、この艦が揺れるくらいの荒天になる可能性があるんだ』
優花里「ええっ!? 艦が揺れる!?」
会長『あ、聞いてた? 秋山ちゃん』
優花里「うっ。す、すみません。決して盗み聞きしてたわけでは…」
会長『分かってるよー。今は通信手の代理をやってるんでしょ? 無線の内容は聞こえて当然』
優花里「はい……。装填手は、今の状況で必要ありませんから」
会長『秋山ちゃん。ここにずっと住んでる秋山ちゃんなら、それがどういうことか分かると思う』
優花里「はい。艦が揺れるなんて、台風並みってことです。私、小さい頃に経験しました」
会長『こういう極端な天候は、通常なら回避するんだけどね。被害が出るかもしれないから』
優花里「前の台風は急に進行方向が変わって、どうしても避けきれなかったと聞いてます」
会長『不可抗力だね。でも今の私らは、あえて低気圧の中へ突っ込んでいく』
みほ「あえて? どういうことですか?」
会長『今回はまたしても、廃校の件が原因なんだ』
みほ「廃校……?」
9:
会長『西住ちゃんたちには後日改めて、詳しいことをゆっくり話すけどさ』
みほ「……」
会長『廃校の危機は去ったわけじゃないんだよ』
みほ「だって……私たちが優勝して成果を上げた、それだけじゃ駄目なんですか?」
会長『成果はね、上げ続けて、積み重ねていかなくちゃならないんだよ』
みほ「……」
会長『今、艦がどこへ向かってるか知ってるよね?』
みほ「はい。陸上競技の大会が開かれる県です」
会長『で、今の陸上部のことも知ってるよね?』
みほ「学園の陸上部史上、最強らしいですね。その大会での活躍をみんながすごく期待してます」
会長『ところが、我が校より陸上へ力を入れてる学校なんて無数にある。総合優勝は難しいと思う』
みほ「そうなんですか」
会長『でもさ、種目別で個人優勝を狙える生徒が何人かいるんだよ』
みほ「その選手たちに、どうしても優勝してもらう…」
会長『そーゆーこと。戦車道以外でも、成果を上げる必要があるんだ』
みほ「……」
会長『西住ちゃんのお陰で戦車道は優勝した。で、廃校の対象にすることは取り下げてもらえた』
みほ「……」
会長『でも学園艦の統廃合計画そのものが、なくなったわけじゃない』
みほ「だから、いろいろな面で、成果を上げ続ける必要がある…」
会長『そのとーり。低気圧を回避してたら現地到着が遅れて、選手たちの調整日程に影響が出る』
みほ「……」
会長『突っ込んでいくしかない。これが生徒会や船舶科とかの、関係各所が協議して出した結論』
みほ「私たちの時も、北緯50度を越える所まで行ってもらいましたし…」
優花里「準決勝、対プラウダ高の試合でしたね」
10:
会長『まぁそれはさて措き、西住ちゃん。今回の件で私に何かできることってある?』
みほ「……いいえ。心配なのは二人の具合ですけど、それは…」
会長『校医の先生へ任せるしかないね。今の私たちがヤキモキしたって何の価値もない』
みほ「そのとおりだと思います」
会長『じゃあ、ヘリのスタッフへお礼でも言っとこうか』
みほ「ヘリを使わせてもらって、ありがとうございました」
会長『それは私へ言うことじゃないよ。第一、こんな場合のためにも艦載ヘリがあるんだし』
みほ「はい」
会長『救急搬送は久しぶりだったはずだから、スタッフたちも張り切ったんじゃないかな』
みほ「会長にまで気を遣わせて、ごめんなさい」
会長『どーして謝ったりすんのさ。それから私は、倉庫にいるみんなへも連絡しておこう』
みほ「会長たちが引退した後、カエサルさんが副隊長、澤さんが副隊長補佐になりました」
会長『あー、そーらしいね』
みほ「二人がそっちにいるはずです」
会長『了解。じゃあ西住ちゃん、操縦はあんまり得意じゃないらしいから、安全運転で帰ってね』
みほ「はい。秋山さんと二人っきりの、夜のドライブのつもりで気楽にやります」
優花里「……」
会長『何を呑気なこと言ってんのさ。これから風も強くなってくるし、気を付けるんだよ?』
みほ「了解しました」
会長『秋山ちゃんも気を付けてね』
優花里「は、はいッ。ありがとうございます!」
会長『そんじゃ』
ザアアアアア…
11:
優花里「あー緊張しました。会長と話す機会なんて滅多にないですし」
みほ「生徒会の3人はみんな、すごくいい人だよ。……それより、優花里さん」
優花里「はい」
みほ「艦が揺れる、って…どんな感じ?」
優花里「あ。そんな状況、西住殿は知りませんか」
みほ「前にいた所では全然、そういうことはなかったから」
優花里「黒森峰やグロリアーナくらいの規模の学園艦なら、全てが陸と変わらないでしょうね」
みほ「すごく揺れるの?」
優花里「普通に“揺れる”って言う場合の感覚とは、違うと思います」
みほ「どんな感覚?」
優花里「一度船体が傾いたら、なかなか元に戻らないんです」
みほ「……想像がつかない」
優花里「もちろん、そんなに大きく傾くわけじゃありません」
みほ「よく分からないけど、何だか微妙に斜めになってる、みたいな感じかな」
優花里「はい。何かのボールを、床に置いたら…」
みほ「自然に、転がっちゃっていく…」
優花里「そのとおりです。気持ち悪いですよ、自分の体が傾いてるみたいで」
みほ「……」
優花里「で、その状態が何十分も続いて、今度は…」
みほ「元に戻って、反対方向に揺れるんだね」
優花里「その繰り返しです。しかも、傾くのも元に戻るのも、すごくゆっくりです」
みほ「ここは黒森峰より小さい学園艦だけど、やっぱり巨大な船だものね」
優花里「だから、そういう揺れ方になるんでしょう」
みほ「できれば経験したくないなぁ。私、酔っちゃうかも」
優花里「会長は“最悪の場合”って言ってました。多分、大丈夫ですよ」
12:
みほ「……その会長の、さっきの話なんだけど」
優花里「はい」
みほ「何だか、プレッシャーをかけられちゃったね」
優花里「プレッシャー、と言いますと?」
みほ「成果を上げ続けなくちゃならない、っていう」
優花里「あ……。話は、陸上部のことでしたけど…」
みほ「うん。暗に私たちのことも言ってたような気がする」
優花里「来年も絶対に優勝しろ、という意味ですか」
みほ「“後日改めて話をする”って言ってたのは…」
優花里「そういう内容の話かもしれませんね」
みほ「連覇なんて、すごく難しいのに」
優花里「でも西住殿。黒森峰は9連覇もしました」
みほ「……」
優花里「同じ高校生なんです。可能性は、ほんの少しでもあるんじゃないですか?」
みほ「あれは“全てがうまくいっていた結果だ”って、お姉ちゃんから聞いたことがある」
優花里「……」
みほ「いい戦績を収めれば収めるほど、戦車道への注目度、期待度が上がる」
優花里「……」
みほ「予算が、たくさん取れるようになる」
優花里「装備や設備、練習環境がどんどん改善されていったんですね」
みほ「それに、戦車道へ興味を持つ人が増えた。参加者が年々、増えていったの」
優花里「じゃあ、新入生も…」
13:
みほ「戦車に乗りたいから黒森峰に入学する、っていう人が多くなっていった」
優花里「名門になって選手層が厚くなる。ますます、いい戦績を収められるようになる」
みほ「そういうのが全ていい方向に行ってた、ということだと思う」
優花里「シナジー効果ってやつですね」
みほ「うん」
優花里「我が校もそうなるといいですね。西住殿、そのために…」
みほ「何?」
優花里「今、必要なのは何でしょうか」
みほ「えーと……やっぱり、人かな。大事なのは」
優花里「いくら装備や設備が良くても、使う人に問題があったら無駄ですね」
みほ「逆に貧弱な装備でも、うまく運用すれば…」
優花里「私たちみたいに、優勝だってできるんです」
みほ「だから、会長たち…今の3年生が引退しちゃったのは、正直言って痛手」
優花里「必修選択の授業には、出てきてくれる先輩もいますが…」
みほ「対外試合にまで参加してもらうのは、無理だから」
優花里「じゃあ、来年度の新入生に期待ですね」
みほ「才能のある子が入ってくれればいいんだけど……」
優花里「戦車道をやるためにこの学園へ入学する子が、きっといますよ」
みほ「……私たちが、優勝したから?」
優花里「はい。無名校が並みいる強豪を倒して頂点に立ったんです。注目度は全国一です」
みほ「才能のある子が、黒森峰やプラウダじゃなくて、ここを選んでくれるといいけど……」
14:
優花里「あ…ちょっと待ってください西住殿。また通信です」
みほ「……」
優花里「こちらあんこうチーム」
カエサル『グデーリアンか? カエサルだ』
優花里「あ、お疲れ様です」
カエサル『隊長に代わってくれ』
優花里「了解。西住殿、カエサル殿です」
みほ「ありがとう。…西住です」
カエサル『隊長。カエサルだ』
みほ「お疲れ様です、副隊長」
カエサル『少し前に全車が帰還した。隊長は角谷会長と無線で話をしたそうだな』
みほ「はい」
カエサル『私たちへも連絡が来た。活動を中止して帰宅するよう、命令を受けた』
みほ「天気はこれから、もっと悪くなるそうですね」
カエサル『車長たちと相談したが、すぐ命令に従おうと意見が一致した』
みほ「はい、もう練習を終了しましょう。やかに全員、下校してください」
カエサル『今日の練習に関するミーティングは後日でいいな?』
みほ「もちろんです」
カエサル『了解した。少し待ってくれ。――おい澤、隊長の許可が下りた』
澤『――皆さん、練習終了の指示が出ました。ミーティングはありません。すぐ帰宅してください』
15:
カエサル『隊長。だが、?号が帰ってくるまで倉庫を無人にはできない』
みほ「それは……どうしようかな」
カエサル『アリクイチームの猫田が残ってくれることになった』
みほ「猫田さん……。助かります」
カエサル『車長の中で、あいつが最も学園の近くに住んでいるからな。今、隊長たちは?』
みほ「順調にそちらへ向かっています。エンジンや足回りに異常はないみたいだから」
カエサル『試合中とはいえ、すまなかった』
みほ「何言ってるんですか。お見事でした」
カエサル『褒めるなら車長のエルヴィンを褒めてやってくれ。あの待ち伏せはあいつの発案だ』
みほ「他校との試合でも是非、やってもらいましょう」
カエサル『それから、私が会長と話している間に、澤の携帯へ武部から連絡があった』
みほ「華さんと麻子さん、具合は?」
カエサル『二人とも、搬送中に意識が戻ったそうだ』
みほ「あ、良かったぁ…!」
カエサル『様子を詳しく聞きたければ、澤と代わる』
みほ「お願いします」
澤『…西住隊長、お疲れ様です。澤です』
みほ「お疲れ様、副隊長補佐」
澤『ヘリの中で、まず五十鈴先輩が目を覚ましたってことでした』
みほ「うん」
澤『付き添ってた武部先輩が、状況の説明をしました』
みほ「うん」
澤『そしたら五十鈴先輩は、怒り出したそうです』
みほ「え? 怒り出した?」
澤『“保健室送りなんて大袈裟です。傷病兵扱いしないでください”って言った、と』
みほ「……何だろ、それ? 自分の立場を分かってるのかな」
16:
澤『次に冷泉先輩が起き上がりました』
みほ「麻子さんの様子は?」
澤『周りを見回して、すぐに自分へ何が起こったかを理解した、ってことでした』
みほ「さすが麻子さん」
澤『で、こう言ったそうです。“大義であった。皆の者”』
みほ「前言撤回。麻子さんも何だかなぁ……。カバさんチームの人たちの真似でもしてるのかな」
澤『最近読んだのが時代小説だったんでしょうか。ヘリの乗務員さんたちは呆れてたらしいです』
みほ「会長はスタッフの人にお礼を言っといてくれるけど、私も行って謝っとかなくちゃ」
澤『地上に降りても先輩たち二人は、保健室なんか行く必要ない、って駄々をこねて…』
みほ「そのくらい元気なら逆に、心配する必要なんてないのかも」
澤『武部先輩が“校医の先生に一応診てもらうんだよ!”と叱りつけて、強制連行したそうです』
みほ「やっぱり沙織さんは頼りになるなぁ」
澤『一方で先輩たちは、練習が中止になったのは自分たちのせい、と落ち込んでたってことでした』
みほ「そんなの気にしなくていいのに。後で私が二人にそう言っておこう」
澤『私からは以上です』
みほ「分かりました。ありがとう澤さん」
澤『とんでもないです。西住隊長、気を付けて帰ってきてくださいね』
みほ「うん、心配してくれてありがとう。もう一回カエサルさんに代わって?」
カエサル『…隊長。では申し訳ないが、猫田を除く全員は先に引きあげる』
みほ「はい、お疲れ様でした。気を付けて」
カエサル『隊長たちも気を付けて』
みほ「ね、カエサルさん」
カエサル『何だ』
17:
みほ「さっき私へ訊いてくれたことなんて、事後連絡でいいのに」
カエサル『……』
みほ「カエサルさんと澤さん、車長のみんな。私以外の全員で勝手に決めて?」
カエサル『そういうわけにはいかない。やはり隊長の許可を得なくては』
みほ「だって今みたいなことは、絶対に私の指示が必要って内容じゃないから」
カエサル『……』
みほ「作戦行動だったら話は別だけど。こういうのは、私がいなくても勝手に決めて?」
カエサル『……』
みほ「私はみんなを信頼してるの。だから今度からは、そうして?」
カエサル『分かった。次の機会にはそうさせてもらおう』
みほ「うん」
カエサル『隊長』
みほ「何?」
カエサル『やっと、敬語を使わず普通に喋ってくれたな』
みほ「……ふふふ。変? 聞き慣れない?」
カエサル『隊長も次からは、そうしてくれ』
みほ「うん。分かった」
カエサル『交信を終了する』
ザアアアアア…
18:
みほ「ふう。これで一安心かぁ」
優花里「五十鈴殿も冷泉殿も無事みたいで、良かったですね」
みほ「それに、全車がこの天気の悪い中、遠い練習場所から問題なく帰還できた」
優花里「全員が早めにうちへ帰ることができます」
みほ「あとは私たちが、この二人っきりのドライブを、無事に終わらせるだけだね」
優花里「……」
みほ「……あれ?」
優花里「……」
みほ「……優花里さん? どうしたの?」
優花里「……西住殿」
みほ「うん」
優花里「それ……さっきも、言ってましたよね……」
みほ「それ?」
優花里「……二人っきり、って……」
みほ「あ、そうだね。それが何?」
優花里「……どういう、意味ですか……?」
みほ「え? どういう、って……」
優花里「……」
みほ「別に……」
優花里「……」
みほ「言葉どおりの、意味だけど……」
優花里「……私は……」
みほ「何?」
優花里「……意識しないように、してたのに……」
みほ「意識?」
19:
優花里「私は、カエサル殿たちが羨ましいです」
みほ「羨ましい?」
優花里「副隊長のカエサル殿、澤副隊長補佐、車長のみんな……」
みほ「……」
優花里「西住殿と、戦車隊幹部のみんな。すごく仲が、良くて……」
みほ「それは……だって、もし仲が悪かったら困るよ」
優花里「……」
みほ「……それとも、優花里さん」
優花里「何ですか?」
みほ「優花里さんもその中に入りたかった?」
優花里「……」
みほ「優花里さんってさっきの話みたいに、この戦車隊のことをすごく真剣に考えてくれてるし…」
優花里「西住殿。何ですか、それ?」
みほ「……」
優花里「どうしてそんなこと、訊くんですか?」
みほ「……」
優花里「私がそんなこと、できるわけないじゃないですか」
みほ「……ごめんなさい。意地悪だったかもしれないね」
優花里「私は車長じゃないし、副隊長にもなれません」
みほ「うん……。隊長と同じ車両のメンバーは、副隊長になれないから」
優花里「もし隊長車が撃破されたら、隊長と副隊長が共倒れになってしまいます」
みほ「……」
優花里「分かってるのに。大体こんなこと、戦車道で当たり前のことなのに…」
みほ「……」
優花里「どうしてそんなこと、訊くんですか?」
みほ「……」
20:
優花里「西住殿は、やっぱりすごいって思います」
みほ「すごいって……何が?」
優花里「西住殿はどうして、誰からも好かれるんですか?」
みほ「誰からも、好かれる?」
優花里「今の我が戦車隊は、西住殿を中心にすごくまとまってます」
みほ「……」
優花里「みんな、西住殿を大好きなんです」
みほ「自分じゃそんなこと、分からないけど…」
優花里「しかも会長と、あんなに普通に話せて」
みほ「生徒会の人たちとは、いろいろなことを打ち合わせる機会が多かったから」
優花里「我が校の仲間だけじゃありません。他校の人たちだって…」
みほ「……」
優花里「あんなにすごい強豪校の人たちにだって、西住殿は好かれてるじゃないですか」
みほ「好かれてるっていうか……私たちが無名校だから、皆さん、気を遣ってくれてるんだよ」
優花里「唯一、黒森峰の副隊長殿だけは、ずっと感じが良くなかったです」
みほ「あ…エリカさんのことだね」
優花里「でもあの人だって、最後は笑顔だったじゃないですか。笑顔で、爽やかに…」
みほ「……」
優花里「再戦と、自分たちの勝利を誓ってました。最後は笑顔だったじゃないですか」
みほ「……」
優花里「西住殿はどうしてそんなに、誰からも好かれるんですか?」
22:
みほ「優花里さん」
優花里「何ですか?」
みほ「優花里さん、一体どうしたの? 何だかおかしいよ?」
優花里「……」
みほ「いきなり、カエサルさんたちが羨ましいって言ったり」
優花里「……」
みほ「急に違う話になって、私が誰からも好かれる、なんて言い出したり」
優花里「……」
みほ「それに、何だか……突っかかるみたいな、話し方したり」
優花里「申し訳ありません……」
みほ「別に、謝るほどのことじゃないけど……」
優花里「……」
みほ「もしかして、低気圧が来てるから、優花里さんも低気圧?」
優花里「……」
みほ「あ。こんなのもう、古い言い方なのかな。機嫌が悪いのを“低気圧”って言うなんて」
優花里「……そうかも、しれません……」
みほ「え?」
優花里「そういう映画が昔あったのを、知ってます……」
みほ「映画?」
優花里「台風が近づいて来てる時に、何人かの生徒が、学校に閉じ込められちゃって…」
みほ「……」
優花里「その生徒たちが、どんどんおかしくなっていくんです。台風が接近するにつれて」
23:
みほ「ちょっと……怖いこと、言わないで……」
優花里「でも、私がおかしいのは、そんなことのせいじゃなく…」
みほ「ね、優花里さん! 違う話しようよ、違う話!」
優花里「……」
みほ「えーと、何かないかな……あ、そうだ!」
優花里「……」
みほ「みんな、会長の命令どおりに急いで先に帰っちゃうけど、猫田さんが残っててくれるって」
優花里「……はい。私も、聞いてました」
みほ「猫田さんって、すっごく美人だと思わない?」
優花里「そうですね……。猫田殿は多分、我が戦車隊で一番の美人でしょう」
みほ「もちろん、あのグリグリ眼鏡を取ったらの話だけど」
優花里「あの眼鏡を外した途端に、姿勢まで変わるんですよね……」
みほ「うん。いつもの猫背が、シャン!ってなるの」
優花里「どうして、なんでしょうね……」
みほ「私、本人に訊いてみたことがある」
優花里「……」
みほ「“眼鏡を取ったら何も見えないから、緊張してるだけなんだけどぉ”って言ってた」
優花里「周囲を警戒してる、だけなんですね……」
みほ「いつも眼鏡を外してれば、ずっと、スラッとしたすごい美人なのに」
優花里「それは無理な話、なんですね……」
みほ「あのグリグリ眼鏡がなかったら、『銀河鉄道999』に出てくるメーテルみたいな美人だよね」
優花里「……お言葉ですが、西住殿」
みほ「何?」
24:
優花里「私は、猫田殿がそっくりなのは『宇宙戦艦ヤマト』のスターシャだと思います」
みほ「え、そうかな? 『ヤマト』だったら、森雪っていう可能性もあるけど」
優花里「髪の長さが違います。それを言えば、クイーン・エメラルダスだって候補ですが」
みほ「猫田さんは顔に傷跡なんかないし。……分かりました。私が結論を言います」
優花里「……」
みほ「猫田さんが似てるのは、この人。異論は認めません」
優花里「その人、とは……?」
みほ「それは『男おいどん』に出てくる、ヒロイン役の全ての女性」
優花里「……」
みほ「どうかな? これで文句ないよね?」
優花里「……西住殿」
みほ「何?」
優花里「何だか……まずいんじゃないでしょうか……」
みほ「まずい? 何が?」
優花里「私たちの、今の話……」
みほ「……」
優花里「絶対に、猫田殿の前で喋っては、いけません……」
みほ「……うん……。そうだね……」
優花里「もし、本人が聞いてしまったら…」
みほ「とんでもないことに、なっちゃうね……」
優花里「三式中戦車の、中を…」
みほ「松本メーターだらけに…」
優花里「改造されて、しまいます……」
25:
みほ「何だか、変な話題を選んじゃったかな……」
優花里「西住殿」
みほ「うん」
優花里「私……好きな人が、いるんです」
みほ「……今度は、恋の相談?」
優花里「……」
みほ「そういう話なら、沙織さんにした方がいいと思うなぁ」
優花里「……」
みほ「私、恋愛なんて疎いから」
優花里「……西住殿は、人を好きになったこと、ないんですか……?」
みほ「恋人なんて今まで、いたことない」
優花里「……」
みほ「だから私に相談しても、全然役に立たないよ」
優花里「……いえ、いいんです」
みほ「……」
優花里「西住殿に……聞いて、ほしいんです」
みほ「……」
26:
優花里「その人は、とてもすごい人なんです」
みほ「……」
優花里「才能があって、実力があって。その力を発揮して、実績も持ってます」
みほ「……」
優花里「それに、性格が良くて。だから、誰からも好かれます」
みほ「何だかその人、完全無欠って感じだね」
優花里「はい。でも本人は、自分のことを全然すごいと思ってない」
みほ「……」
優花里「自分に実績があるのは、周りが助けてくれるからと思ってるようです」
みほ「……」
優花里「もちろん、周りの人たちはその人を支えてます」
みほ「周りの人たちがその人を好きで、協力してるってことだね」
優花里「はい。その人に実力があって、しかも、周りが支えてるんです」
みほ「ふーん……いいなぁ」
優花里「いい?」
みほ「優花里さんは、すごい人と知り合いなんだね」
優花里「……」
みほ「私も隊長をやってるんだから、そういう人にならなくちゃいけないんだけど」
優花里「……」
みほ「私なんか全然……あれ? 優花里さん?」
優花里「……」
みほ「急に黙っちゃって、どうしたの?」
27:
優花里「いえ……。何でも、ありません……」
みほ「私、そういう人が身近にいたら尊敬しちゃうなぁ」
優花里「私もその人を尊敬してます」
みほ「うん」
優花里「でも…それだけじゃ、ない……」
みほ「え?」
優花里「私、気付いたんです」
みほ「……」
優花里「この気持ちは、尊敬だけじゃない」
みほ「……」
優花里「これは、“好き”ってこと……そう、気付いたんです」
みほ「えーと、優花里さんは…」
優花里「はい」
みほ「その人へもう告白したり、付き合ったりしてるの?」
優花里「……」
みほ「……あれ? また黙っちゃった」
優花里「……そんな、こと……」
みほ「……」
優花里「そんなこと、できるわけありません」
みほ「……」
優花里「これは、多分……永遠に、片思いです」
28:
みほ「“そんなことできない”って……どういう意味?」
優花里「私は、駄目なんです」
みほ「駄目? 何が?」
優花里「私は、その人を好きになっちゃいけないんです」
みほ「……」
優花里「好きになったって、どうしようもないんです」
みほ「……優花里さんが、どんな意味でそう言ってるのか、私にはよく分からないけど…」
優花里「……」
みほ「好きになっちゃいけない、とか…どうしようもない、とか…」
優花里「……」
みほ「そんなこと、ないんじゃないかな」
優花里「どうしてですか?」
みほ「そういうのって、自然なことだと思う」
優花里「……」
みほ「すごい人、尊敬しちゃう人。そういう人のそばに、いつもいたい…」
優花里「……」
みほ「そう思うのって、自然で、当たり前のことなんじゃないかな」
優花里「……」
みほ「何だか、いいなぁ」
優花里「今度は、何ですか? その“いい”って……」
みほ「私にもいつか、そういう人が現れないかなぁ」
優花里「……」
みほ「私も、優花里さんと同じ気持ちになると思う」
優花里「……」
みほ「その人のことを、好きになっちゃうと思う」
優花里「……」
29:
みほ「ね、優花里さん」
優花里「はい」
みほ「その人、何ていうか…見た目は、どんな感じなのかな」
優花里「見た目?」
みほ「才能があって、実績があって…」
優花里「……」
みほ「しかも謙虚で、性格が良くて、誰からも好かれる」
優花里「……」
みほ「これで外見も素敵だったら、もう完璧だと思う」
優花里「……」
みほ「もちろん私、人間は見た目じゃないって分かってるけど」
優花里「はい。その人はまさに、その“完璧”です」
みほ「やっぱり……。本当にいるんだね、そういう人」
優花里「すごく、可愛い人なんです」
みほ「……え?」
優花里「私なんか、比べものにならないくらい…」
みほ「“可愛い”? “カッコいい”じゃなくて?」
優花里「もう本当に、可愛いくて…」
みほ「年下の人なのかな。でも、どうして自分と比べたりするの?」
優花里「スタイルだっていいんです」
みほ「スタイル? 何? どういうこと?」
優花里「私みたいな胸の小さい女とは、全然違う…」
みほ「……優花里さん……まさか……」
優花里「……」
30:
みほ「その人って……男の人じゃ、なくて……」
優花里「……」
みほ「女の人、なの……?」
優花里「……はい。そう、です……」
みほ「……」
優花里「やっぱり、変ですよね……」
みほ「……」
優花里「やっぱり、おかしいですよね……? 普通じゃ、ないですよね?」
みほ「……え、えーと……」
優花里「多分、私、変なんです。私は、ほかの人と違うんです……!」
みほ「……」
優花里「まともな人間じゃないんです……! 女なのに、女を好きになるなんて!」
みほ「……」
優花里「こんなの、異常ですよね? 気持ち悪いですよね!?」
みほ「優花里さん……」
優花里「西住殿も今、気持ち悪いって思ってるでしょう!?」
みほ「そ、それは…」
優花里「私、異常な人間なんです! きっと私、変態なんです!」
みほ「優花里さん、落ち着いて……!」
優花里「女のくせに、女へ興味を持っちゃう、変態なんです!!」
みほ「お願い、落ち着いて!」
優花里「私みたいな、こんな気持ち悪い奴、いなくなっちゃった方がいいんです!!」
みほ「優花里さん! もう黙って!!」
31:
優花里「…!!」ビクッ
みほ「お願いだから、落ち着いて!」
優花里「……は…はい……」
みほ「とにかく車両を一旦、止めるね」ガクン
優花里「……」
みほ「……」
優花里「……ごめん、なさい……」
みほ「……」
優花里「……こんな、話をして……」
みほ「……」
優花里「……大きな声を、出して……」
みほ「……ううん……」
優花里「迷惑だった、ですよね……」
みほ「……」
優花里「びっくり、しましたよね……」
みほ「……それは……」
優花里「……」
みほ「少し……驚いた、けど……」
ザアアアアア…
32:
みほ「優花里さん」
優花里「はい……」
みほ「私、こんなときに…」
優花里「……」
みほ「どんなことを言ったらいいのか、分からないけど……」
優花里「……」
みほ「優花里さんの、勘違いかもしれない……って可能性も、あるんじゃないかな」
優花里「……勘違い?」
みほ「うん。優花里さんはその人を、すごく尊敬してるんだよね」
優花里「はい」
みほ「その気持ちが、強過ぎて……尊敬を、好きっていう気持ちと、勘違いしてる」
優花里「……」
みほ「そういう可能性、あるんじゃないかな」
優花里「……」
みほ「きっと、そうだよ」
優花里「……違う……」
みほ「え?」
優花里「違い、ます……」
みほ「……」
優花里「私、女なのに……その人に対して、こう、思っちゃうんです」
みほ「……」
優花里「手を握りたい、とか…」
みほ「……」
優花里「抱き締めたら、どんな感じなんだろう、とか…」
みほ「……」
33:
優花里「それで、分かったんです」
みほ「その気持ちは、尊敬だけじゃ、ない…」
優花里「はい。これが、“好き”ってこと、なのか…」
みほ「……」
優花里「これが、恋、なのか…」
みほ「……」
優花里「そう、分かったんです」
みほ「……」
優花里「それに…」
みほ「それに?」
優花里「私……嫉妬、してしまうんです」
みほ「嫉妬……」
優花里「その人は、誰からも好かれます」
みほ「……」
優花里「だからその人は、誰とでも仲良くなれる。仲良くする」
みほ「……」
優花里「どんな人とでも、普通に話せる」
みほ「じゃあ……優花里さんは、そういうのを見ると…」
優花里「はい。嫉妬して、しまうんです」
みほ「……」
優花里「そんなに、誰とでも…仲良くしないで、ほしい」
みほ「……」
優花里「もちろん、無理な話だって分かってます。でも、せめて……」
みほ「……」
優花里「せめて、一番仲良くするのは、私にしてほしい……そう思って、しまうんです」
34:
みほ「優花里さんのお話は、分かったけど…」
優花里「……」
みほ「すごく……難しい話だね」
優花里「……」
みほ「私なんか、何も言えない。どう思ったらいいのか、分からない」
優花里「……」
みほ「でも私、これだけは言える」
優花里「何ですか?」
みほ「それは、さっきみたいな言葉なんて、口にしちゃ駄目ってこと」
優花里「私が、言ったことですか……?」
みほ「うん。“自分みたいな人は、いなくなった方がいい”なんて、言っちゃ駄目」
優花里「……」
みほ「だって優花里さんっていう人は、この世に一人しかいないから」
優花里「……」
みほ「誰も、優花里さんっていう人間の代わりなんてできない」
優花里「……はい」
みほ「操縦手は、代わりがいる。今みたいに麻子さんがいなかったら、私や、華さんも操縦できる」
優花里「……」
みほ「砲手も、華さんがいなかったら、優花里さんが代わりをできる」
優花里「……」
みほ「でも優花里さんっていう一人の人間は、そんなのとは違う」
優花里「はい……」
みほ「誰も、秋山優花里さんっていう人の代わりなんて、できないの」
優花里「……」
みほ「だから絶対に、いなくなった方がいいなんて、言っちゃ駄目」
35:
優花里「分かりました……」
みほ「じゃあ、前進しよう。猫田さんが待ってるから」
優花里「西住殿」
みほ「何?」
優花里「西住殿は、どう思いますか……?」
みほ「……今の、話を?」
優花里「はい」
みほ「それは……さっき言った、とおりだよ」
優花里「……」
みほ「すごく、難しくて……私なんか、全然分からない」
優花里「……」
みほ「優花里さんのお話は、分かるけど……それについて、どう思えばいいかなんて…」
優花里「……」
みほ「私には難し過ぎる。そんなの、分からないよ」
優花里「そう……ですか……」
みほ「でも、何となく……私はこう感じるの」
優花里「はい。どういうふうに、感じますか?」
みほ「好きになっちゃいけないとか、どうしようもない、なんて…」
優花里「……」
みほ「そんなこと考えなくてもいい、って」
優花里「え…? そう、ですか……?」
みほ「だって、その人を好きって思うのは、優花里さんの正直な気持ちだよね」
優花里「はい」
みほ「それなら、自分の気持ちに正直でいて、いいと思う。自分に嘘をつく必要なんてないと思う」
優花里「それは……その人を好きでいて構わない、ってことですか……?」
みほ「だって、好きになっちゃ駄目って思ったら、好きな気持ちが止められるの?」
36:
優花里「それは…確かに、不可能です……」
みほ「それなら自分の気持ちに対して、そのまま正直でいていいと思う」
優花里「はい……。ありがとう、ございます……」
みほ「別に、お礼を言われるようなことじゃないけど」
優花里「私は、今の私でいて、いいんですね…?」
みほ「誰も、駄目なんて言わないよ」
優花里「ありがとう、ございます……」
みほ「どうしてお礼なんて言うのかな。そんな必要ないのに」
優花里「いえ……西住殿にそう言ってもらえて、すごく…」
みほ「……」
優花里「すごく……嬉しいです……」
みほ「恋愛経験のない私が、恋の相談の相手になって、お礼を言われるなんて変な感じ」
優花里「西住殿」
みほ「何?」
優花里「今、私は西住殿に力をもらいました」
みほ「大袈裟だなぁ。私なんて何もしてないのに」
優花里「だから、思い切って訊いてしまいます」
みほ「何を?」
優花里「西住殿だったら、どうしますか?」
みほ「私だったら?」
優花里「自分と同じ、女から…」
みほ「……」
優花里「女から好かれて、女から告白されたら…」
みほ「……」
優花里「どうしますか? 受け入れて、くれますか?」
みほ「私は、無理だよ」
37:
優花里「………無理………」
みほ「私は、無理。ちょっと考えられないなぁ」
優花里「……」
みほ「だって私は、今の優花里さんのお話を聞いて…」
優花里「……」
みほ「ずっと、どんな男の人なんだろうって思ってたの」
優花里「……」
みほ「私はそういう、普通の女の子だから」
優花里「……」
みほ「その人はすごい男の人なんだから、カッコよければもっと素敵だなぁ、って考えてた」
優花里「……」
みほ「だから、実は女の人って聞いて、ものすごくびっくりした」
優花里「……」
みほ「私は、どこにでもいる普通の女の子だから」
優花里「……」
みほ「いつか自分にも、素敵な男の人が現れたらいいなぁ、って…」
優花里「……」
みほ「いつか私にも、素敵な彼氏ができたらいいなぁ、って…」
優花里「……」
みほ「そう思っちゃう、女の子だから」
優花里「……」
みほ「もし同じ女から、そんなことを言われても、ごめんなさいって言って…」
優花里「……」
みほ「今話したみたいな理由を、説明するだけだと思う」
38:
優花里「……う……」
みほ「……」
優花里「う。ううっ……ううう」
みほ「……優花里さん?」
優花里「ううっ。……うう。ううう」
みほ「優花里さん? どうしたの? 泣いてるの?」
優花里「うう……す、すみま……せん……ううっ」
みほ「どうしたの? なぜ泣いてるの?」
優花里「ううう。ううっ。すみま……せん……ううっ」
みほ「謝らなくていいから。泣かないで」
優花里「うううう。ううう。すみ、ませ……ううううっ」
みほ「だから、謝ったりしないで。急にどうしたの?」
優花里「ううう。うううう。ううううう」
みほ「困ったなぁ……。私だったら断っちゃう、って言われてショックだったのかな」
優花里「うううう。ううううう。うううう」
みほ「でもその女の人は、とってもすごい人なんだよね」
優花里「ううう。そ……そう、です……ううっ」
みほ「ひょっとしたら、私みたいな反応なんて、しないかもしれないよ?」
優花里「ううう。うううう。ううううう」
みほ「すごく心の広い人で、優花里さんのことを受け入れてくれるかもしれないよ?」
優花里「うううう。わ、私……うううう」
みほ「何?」
39:
優花里「私、は……さ、さっき…ううっ。西住殿が、言った、みたいに…」
みほ「……」
優花里「思えれば……よかった、のに……」
みほ「さっき言ったみたい、って?」
優花里「尊敬、してるって……うううっ。き、気持ちを…」
みほ「……」
優花里「好き、って勘違い、してる…」
みほ「……」
優花里「そ、そう考え……られれば、よかったのに……」
みほ「……」
優花里「これは、好きっていう…気持ちじゃ、ない……」
みほ「……」
優花里「これは、恋では、ない……」
みほ「……そう思えれば、よかった……?」
優花里「はい……ううっ」
みほ「……」
優花里「私は……男の子に、産まれたかった……」
みほ「……」
優花里「うううっ……女なんかに、産まれなければ、良かった……」
みほ「……そんな……」
優花里「もし……もし、神様が、本当にいて…」
みほ「……」
優花里「この世は、全て……神様の決めたこと、なら…」
みほ「……」
優花里「その、神様は……残酷な、神様です……」
40:
みほ「……」
優花里「ううう。うううう」
みほ「……優花里さん」
優花里「ううう。うううう。うううううう」
みほ「優花里さん、お願い。もう泣かないで」
優花里「うううううう。ううううう。うううううう」
みほ「……」
優花里「ううっ。うううう。ううううう」
みほ「……優花里さん」
優花里「うううう。ううう。うううううう」
みほ「優花里さん。車長として、命令します」
優花里「ううう。う……な、何ですか……?」
みほ「操縦を代わってください」
優花里「え……?」
みほ「今すぐ、泣き止んでください」
優花里「……」
みほ「そして、こっちへ来てください。この?号を操縦してください」
優花里「……」
みほ「私と、代わってください」
優花里「……そ……それは……」
みほ「何?」
優花里「だ、だって……さっき……」
みほ「さっきが何?」
優花里「今は……危ないって…」
みほ「いいから、こっちへ来てください。操縦を代わってください」
41:
優花里「は、はい……」ガタ
みほ「……あーあ。もう、涙で顔がベトベトだね」
優花里「すみません……」
みほ「だから、謝る必要なんてないから。さ、座って」
優花里「はい……」
みほ「私は後ろで見てるね」
優花里「……」
みほ「優花里さん。実はもう、操縦の仕方を知ってると思う」
優花里「はい。知識だけは…」
みほ「だから、実際に動かしたことがない、ってだけだね」
優花里「……」
みほ「じゃあやってみて」
優花里「い、いきなりですか?」
みほ「だって優花里さん。今、すごくワクワクしてる感じ」
優花里「……」
みほ「あんなに泣いてたのに、もう普段どおりへ戻ってる」
優花里「……」
みほ「本当は、早く動かしたくて仕方ないんだと思うけど」
優花里「……はい。そのとおり、です……」
みほ「じゃあ始めて。まず…」
優花里「はい。クラッチペダルを踏んで、ギアを1に入れて…」
42:
みほ「うん。その調子」
優花里「クラッチをつないで、アクセルを踏んで…」
みほ「まずは、微前進」
優花里「了解です」
みほ「……おっと」ガクン
優花里「え? と、止まっちゃいました!?」
みほ「やっぱり、やったね。クラッチはもっと静かにつないで」
優花里「はい……申し訳ありません。エンストさせちゃいました」
みほ「でもこれで、イグニッションから始められて良かったかな」
優花里「はい。エンジン、始動します」カチ
ドルルルルル
優花里「今度は、うまく発進してみせます」
グオォォオン
みほ「うん。いい感じ」
優花里「そういえば五十鈴殿も最初、エンストさせてましたね」
みほ「ほとんどの人が、初めて操縦する時にやるの」
優花里「冷泉殿は…」
みほ「麻子さんは例外中の例外。あんなに才能ある人、見たことない」
優花里「あ…前方にカーブです」
みほ「じゃあ私は砲手の席に座って、照準器から前を見るね。優花里さん、うまく曲がれる?」
優花里「や、やってみます……」
みほ「操縦桿で動かす戦車は、直感的に操作できるハンドルの戦車より、慣れるのが少し大変かも」
優花里「はい……」
43:
みほ「……すごい! 優花里さん、すんなり曲がれたよ?」
優花里「ほ、褒めてもらって、嬉しいですけど…」
みほ「どうしたの?」
優花里「今は、それどころじゃ、ないっていうか…」
みほ「初めてなんだから、当たり前だよ」
優花里「……」
みほ「しかも夜で、こんなに天気が悪いんだし」
優花里「でも…」
みほ「何?」
優花里「前照灯って、こんなに明るいんですね」
みほ「うん。それは私も今回、初めて知った」
優花里「試合の時は絶対に点灯しませんから。相手に見付かっちゃいます」
みほ「それに、今はカバーも外してる」
み・優「……あ……!」
優花里「……」
みほ「……」
優花里「私たち、今、声が合ってしまいました」
みほ「優花里さんも見た?」
優花里「はい。前照灯で明るくなった道を…」
みほ「何かが横切っていった。道の真ん中で一瞬立ち止まって…」
優花里「こっちを見ました。猫でした」
みほ「うん。猫の目ってあんなに光るんだね。野良猫かな」
優花里「多分そうです。もう少しで街区ですから」
みほ「それって関係あるの?」
優花里「あの子たちは、山野区より街区にいた方が、簡単にエサへありつけると知ってるんです」
みほ「なるほど」
44:
優花里「もしかして…」
みほ「何?」
優花里「猫田殿からの使者でしょうか。“早く戻って来い”って伝えるための」
みほ「あれ? そんなこと言うなんて、余裕が出てきたみたいだね」
優花里「ほんの、少し……落ち着いたかもしれません」
みほ「じゃあスピードを上げよう。中で前進。ギアを上に入れて」
優花里「はい」グコン
ゴガガガガガ
みほ「前方にまたカーブ。このさのまま曲がれる?」
優花里「多分、大丈夫です」
みほ「……また、うまく曲がれた。優花里さん、私なんかより上手いかもしれない」
優花里「そんな……何を言ってるんでしょう」
みほ「もちろん、初めて操縦した時を比べての話だけど」
優花里「それにしたって、そんなことはないと思います」
みほ「もっとスピード出せる?」
優花里「了解。……3に入れました。時25キロで巡航……初めてなのに、いいんでしょうか」
みほ「構わないと思う。今は天気が悪いから、周りに車も歩行者も全然いないし」
優花里「警戒警報が出されて、みんな外出を控えてるんですね」
みほ「今の私たち、すごく順調に前進してるよ」
優花里「はい」
みほ「ね、優花里さん」
優花里「はい」
みほ「女の子に産まれて、良かった……って思わない?」
優花里「……」
45:
みほ「もし、男の子に産まれてたら…」
優花里「戦車道を、できない……」
みほ「うん。今みたいに戦車を操縦なんて、できなかったかもしれない」
優花里「……」
みほ「戦車道は、乙女が嗜む武芸」
優花里「……」
みほ「その戦車道なんて、できなかったんだよ?」
優花里「……はい」
みほ「戦車道をできない。戦車に乗れない。試合なんてできない」
優花里「……」
みほ「全国大会優勝なんて、できなかったんだよ?」
優花里「……」
みほ「それに、何よりも…」
優花里「はい」
みほ「沙織さん、華さん、麻子さん。それから、ほかのチームのみんな…」
優花里「……」
みほ「こんな素敵な仲間たちに、出会えなかったんだよ?」
優花里「はい……」
みほ「女の子に産まれたから戦車道をできて、素敵な友達、仲間たちに出会えた」
優花里「……」
みほ「だから優花里さん。女の子に産まれて良かった、って思わない?」
優花里「……」
みほ「それでもやっぱり、男の子に産まれたかった、って思う?」
優花里「……」
46:
みほ「あ、そこを左折だね」
優花里「はい」
みほ「この度くらいになってたら、ギアを…」
優花里「はい。シフトダウンですね」グコン
みほ「……分かってて、ちゃんとできてる。やっぱり私より上手だよ」
優花里「だから、そんなことありませんって」
みほ「街に入ったから気を付けて」
優花里「了解」
みほ「ますます余裕が出てきたね、優花里さん」
優花里「少し慣れてきました」
みほ「もしかして倉庫までの道、知ってる?」
優花里「西住殿。私は小さい頃からずっと、ここに住んでるんですよ?」
みほ「そうだね。余計なこと言ってごめんなさい」
優花里「これも、そんなことありませんよ。……それより、西住殿」
みほ「うん」
優花里「大事な人が一人、欠けてます」
みほ「何のこと?」
優花里「さっき西住殿が挙げた、仲間の名前…」
みほ「……」
優花里「大事な人が一人、いないと思います」
みほ「……私、って言いたいのかな」
優花里「そうです。分かってるじゃないですか」
みほ「私なんて……」
47:
優花里「西住殿は、どうしてそんなに控えめなんですか?」
みほ「控えめなんて、そんな…」
優花里「誰がどう考えたって、西住殿はすごい人じゃないですか」
みほ「……」
優花里「ただの素人集団だったこの戦車隊を、超短期間で全国トップレベルへ引っ張り上げた」
みほ「……」
優花里「そして、優勝してしまった。全国の頂点に立った」
みほ「それは……そうできたのは、みんなが…」
優花里「もちろん、西住殿一人でやったことじゃありません。戦車道は個人競技じゃありません」
みほ「うん」
優花里「でも西住殿がいなかったら、私たちにこんなこと、可能だったと思いますか?」
みほ「……」
優花里「西住殿がいてくださったお陰で、できたんじゃないですか」
みほ「……」
優花里「私、こう思いました」
みほ「何?」
優花里「私は今まで、自分の好きなその人が…」
みほ「うん」
優花里「自分を、受け入れてくれるかどうか。そんなことばかり考えてました」
みほ「……」
優花里「でも、そんなのを考える前に、やることがあるって分かりました」
みほ「どんなこと?」
優花里「それは今の自分を、自分自身が受け入れてあげることです」
48:
みほ「自分自身を、受け入れる……」
優花里「はい。女に産まれた自分」
みほ「……」
優花里「女なのに、女を好きになってしまった自分」
みほ「……」
優花里「でも女だから、こうして戦車道をできている自分」
みほ「そういうのを全部、受け入れる……」
優花里「はい。人に受け入れてもらえるかどうかなんて、その後の話だって分かりました」
みほ「……」
優花里「まず私自身が、こういうのを全部、受け入れてあげないと」
みほ「……」
優花里「私が、私自身から目をそらしちゃいけない。そう思いました」
みほ「うん」
優花里「だから西住殿。西住殿だって、自分を受け入れてあげてください」
みほ「……私は……」
優花里「西住殿は、こんなにすごい人なんです」
みほ「……」
優花里「そのすごい自分を、自分で認めてあげてください」
みほ「……」
優花里「自分が自分を認めてあげなくて、どうするんですか?」
みほ「……」
優花里「自分自身が自分を受け入れてあげなくて、どうするんですか?」
みほ「うん……。そうだね、優花里さん」
49:
優花里「学園の敷地内に入ります」
みほ「倉庫の前にあるグラウンドへ出たね」
優花里「やっと着きました」
みほ「昼間なら、向こうに倉庫が見えるんだけど…」
優花里「今は夜だし、こんな天気ですから」
みほ「照準器でも雨で視界が悪くて……」
優花里「倉庫の明かりでも見えるといいんですが」
みほ「雨が吹き込まないように、窓や扉を全部閉めてるだろうね」
優花里「とにかく、その方向へ前進します」
みほ「あれ? 倉庫の方で何か光ってる?」
優花里「光? ……あ、本当です。光が左右に揺れてる……」
みほ「……猫田さんだ」
優花里「えっ。照準器なら姿が見えますか?」
みほ「ううん、雨が激しいからそれは不可能。でも光のある位置が、地面から…」
優花里「そうか。猫田殿が立って、手を上へ伸ばしてる位置なんですね」
みほ「あの人の高い背と、スラッと長い腕。多分、間違いない」
優花里「整備の時に使うライトでも振ってるんでしょうか」
みほ「猫田さんは?号の前照灯が見えたから、私たちが到着したことに気付いて…」
優花里「夜だし、雨で見通しが悪いと思ったから…」
みほ「倉庫の前でライトを振って、進む方向を指示してくれてるんだよ」
優花里「有難いですね」
みほ「優花里さん。停車」
優花里「は? は、はい。停止します」ガクン
50:
みほ「倉庫まで約300メートル」
優花里「はい」
みほ「グラウンドだから、前方に何も障害物がない」
優花里「そうですね」
みほ「優花里さん。倉庫まで全前進」
優花里「えっ!?」
みほ「どうしたの? 発車して? そして、最高度を出して?」
優花里「そんな、全なんて……」
みほ「大丈夫だよ。一直線だから、ただスピードを出すだけ」
優花里「……」
みほ「度を落とすタイミングは、残りの距離を見て私が指示するから」
優花里「はい……」
みほ「じゃあ発車して? 猫田さんが振ってる光を目指して、前進」
優花里「……西住殿。失礼なのを承知で、言いますが…」
みほ「何?」
優花里「低気圧のせいで、おかしいのは…」
みほ「……」
優花里「西住殿の方、なのでは」
みほ「……」
優花里「未経験の私に、いきなり操縦しろって言ったり…」
みほ「……」
優花里「初めて操縦するのに、最高度を出せって言ったり…」
みほ「ふふふ。優花里さんが話してた映画みたいだね」
優花里「……」
51:
みほ「台風が、近づくにつれて…」
優花里「おかしくなってるのは私じゃなくて、西住殿の方なんじゃないですか?」
みほ「でも優花里さん。今の様子、私が操縦をお願いした時と同じだよ?」
優花里「……」
みほ「本当は、最高度を出してみたい」
優花里「……」
みほ「全で飛ばすのがどんな感じなのか、知ってみたい。ウズウズしてるんだと思うけど」
優花里「……図星です」
みほ「試合では最高度を出す局面が何度もある。これも経験のうちだよ?」
優花里「そうですね……。分かりました。じゃあ発進します!」
みほ「よし! Panzer vor!」
グオォォォオン
みほ「アクセルをもっと踏み込んで。スピードに乗ったらギアを、どんどん上へ」
優花里「了解」グコンゴッ
ゴガガガガガガ
みほ「もっとスピード出して。短距離、短時間で、度を一気に上げるの!」
優花里「了解!」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
優花里「すごいエンジン音です…!」
みほ「うん…! 私たちもう、大きい声を出さないと話ができない!」
優花里「……あれ? 猫田殿の光が…!?」
みほ「何だか、揺れ方がおかしくなった……!?」
優花里「フラフラして……まるで、慌てたりしてるみたいに見えます!」
52:
みほ「うん…! 多分、?号が急に度を上げて…」
優花里「猛スピードで向かってくるから、驚いてるんでしょうか!?」
みほ「きっと、何が起こったのか分からないんだよ、猫田さん!」
優花里「猫田殿、ビビってるんですね!?」
みほ「じゃあもっとビビらせてあげよう! 最高度で、あの光に向かって突撃!」
優花里「了解であります!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
優花里「何だか私まで、おかしくなってきちゃったかもしれません…!」
みほ「え、何!? 聞こえない!」
優花里「もう、叫ばないと会話できませんね!」
みほ「うん! エンジン音がすごいし、雨も風も強くなってきて…!」
優花里「私、自分までおかしくなった、って言ったんです!」
みほ「パンツァー・ハイだね、優花里さん!?」
優花里「私、西住殿の作戦にうまく、のせられちゃいました!」
みほ「何のこと!?」
優花里「私がメソメソしてたから、元気を出すようにしてくださったんですね!?」
みほ「だって優花里さん、あんなに操縦をやりたそうだったから…!」
優花里「私はまた、西住殿から力をもらいました!」
みほ「とにかく、優花里さんが元気になってくれて良かった!」
優花里「やっぱり西住殿はすごいです!」
みほ「泣いてる顔なんて、優花里さんに全然似合わないよ!」
優花里「私、これからもずっと、西住殿に付いていきます!!」
5

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