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モバP「年末楓さんと酒飲んで過ごし隊」


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―12月31日
―p.m.8:00
カタカタカタ…
P「……」
カタカタ……ッターン
P「ふー」
P「残すところ四時間か」
P「来なかったな、結局」
P「……」
P「うし」
P「コンビニ行こ」
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2: 以下、
―――
――
瑞樹「大晦日に?」
楓「出勤、ですか?」
P「はい」
3: 以下、
瑞樹「ダメよ、そんなの!」
瑞樹「年末年始くらいゆっくり体を休めなきゃ!」
瑞樹「誰の指示なの? 私の口から言っておいてあげる」
瑞樹「P君にあまり無理させないでくださいって!」
P「いえ」
P「俺が自分から願い出たんです」
瑞樹「ええっ?」
楓「お仕事、そんなに忙しいんですか?」
4: 以下、
P「まあ、はい」
P「年内に上げておきたい資料もありますし」
瑞樹「年内って……」
瑞樹「大晦日に仕上げたってどうしようもないじゃない」
P「おっしゃるとおりで」
瑞樹「いい? P君、社会人は体が資本なのよ」
瑞樹「無理して体壊したら元も子もないの」
瑞樹「正月三が日くらいは帰省して、ご両親に元気な姿を見せてあげるものよ」
瑞樹「あっ」
瑞樹「ひょっとして、実家と疎遠にしてるとか……?」
P「いやいや、大丈夫です。両親とは仲良いですよ」
瑞樹「じゃ、どうして?」
P「まいったな」
P「こうなるからあまり話したくなかったんですけど」
5: 以下、
楓「……Pさん。GWも出社されてましたよね」
P「う」
楓「夏休みも返上されてましたね。知ってます」
P「なんで知ってんですか」
瑞樹「もう完全なワーカーホリックじゃない」
瑞樹「いつ休んでるの? きちんと睡眠取ってる?」
P「とってますとってます」
P「休日出てる分、平日に代休たててますから」
P「本当はこれ、やっちゃダメなんですけどね」
楓「そうまでして休日出勤、ですか?」
瑞樹「平日にやればいいじゃない」
瑞樹「確かにプロデューサー業は休みが不定期とは聞くけど……」
P「いえ、なんていうか」
P「そっちのが捗るんですよね、仕事が」
6: 以下、
楓「……ああ」
楓「わかります」
P「理解が早くて助かります」
瑞樹「? どういうこと? わからないわ」
P「休日は基本、事務所に誰もいないじゃないですか」
P「上司に悩まされることも、ちひろさんに怯えることも無いですし」
瑞樹「P君、人間関係に悩んでるの?」
瑞樹「私でよければ相談に乗るわよ」
楓「私も乗りますよ」
P「違いますって、みなさんとは仲良くやってます」
P「そういうことじゃなく、快適なんです」
P「通勤電車は混んでないし、煩わしいメールも飛んでこない」
P「通りは人がまばらで、いつも行列の店も並ばずに入れる」
P「好きなんです、そういうの」
7: 以下、
楓「Pさん」
P「はい」
楓「乾杯しましょう、乾杯」
P「はい、乾杯」カチン
楓「わーい」グビグビ
P「大丈夫かなこの人」
瑞樹「……わかるような気もするけど、やっぱりわからないわ」
瑞樹「静かなのもいいけど、適度に人との関わりがないと寂しくならない?」
P「その辺は、まあ、人によりけりじゃないですかね」
瑞樹「それにいくらなんでも、限度ってものがあるわよ」
瑞樹「年末年始までお仕事なんて……」
P「三が日は帰りますよ。大晦日だけです」
瑞樹「似たようなものよ」
瑞樹「あのね、P君。年越しっていうのは一つの区切りなの」
瑞樹「その年を振り返り、次の一年への抱負を立てる大事な時期なのよ」
8: 以下、
瑞樹「P君みたいに仕事仕事で休みと平日の境が曖昧な人はね」
瑞樹「一見前に進んでいるようで、その実ずるずると進歩のない人が多いの」
P「手厳しいですね」
瑞樹「本当のことよ。区切りが設けられないからそうなるの」
瑞樹「節目節目で立ち止まって、リセットすることが必要なのよ。人間にはね」
瑞樹「私もその一人だったもの……」
P「……」
瑞樹「P君、無理はダメよ。絶対」
P「ええ、わかってます」
P「わかっていますよ」
瑞樹「本当かしら。心配だわ……」
楓「……」グビグビ
9: 以下、
――
―――
P「今日はお疲れさまでした」
楓「Pさん、二次会行かないんですか?」
瑞樹「こーらっ、楓ちゃん。無茶言わないの」
P「すいません、明日もあるので今日はこれで」
楓「また、お仕事なんですね」
瑞樹「……大晦日も程々にきりあげて、ご実家に帰りなさいね?」
P「はい」
楓「なんなら私、行きますよ」
P「え」
楓「私も事務所に行きますよ、大晦日」
10: 以下、
瑞樹「もー、この子ったら」
瑞樹「ごめんねP君、楓ちゃん酔ってるから」
楓「酔ってないですー」
P「いえ、ありがとうございます」
P「期待してます」
楓「あ、信じてませんね。私、本気ですよ?」
P「信じてますよ。それじゃ、俺はこの辺で」
P「二人とも、よいお年を」
瑞樹「じゃあねP君、よいお年を」
楓「……むむ」
11: 以下、
―――
――
イラッシャイマセー
P「大晦日のコンビニ」
P「テンションあがってきた」
P「まずビールだな。ビール」
12: 以下、
ガサガサッ
P「唐揚げ、餃子、と」
P「後はおでんか」
「Pさん、これも買いましょう」
ガコガコッ
P「う、お、重っ」
P「日本酒、あたりめ、……緑のた○き?」
P「……年越しそばですか」
楓「はい、ふふっ」
楓「ちょっとそばまで来たもので」
13: 以下、
――
―――
ガチャッ
楓「わあ」
楓「真っ暗なんですね」
P「節電ですから、明かりは机の周りだけです」
楓「こんな事務所、始めてみました」
楓「どこが窓で、どこからが外なのか分からないですね」
P「俺はまだ仕事があるので、ちょっと待っていてくれますか?」
P「あっちにテレビもありますし、よければ」
楓「いいえ、ここで構いません」
楓「Pさんのお仕事、眺めてます」
P「いいですけど」
P「あんまり面白いものじゃないですよ」
14: 以下、
P「……」カタカタ
楓「……」イスクルクル
P「……」カタカタ
楓「……」クルクル
P「……」カタカタ
ピタッ
楓「……何にも、聞かないんですね」
P「聞くも何も」
P「来るって言ってたじゃないですか」
楓「お邪魔じゃなかったですか?」
楓「一人の方が、捗るんですよね」
15: 以下、
P「確かに騒々しいのは苦手です」
P「でも、一人が好きってわけじゃないんです」
楓「……」
P「ありがとうございます、来てくれて」
P「ぶっちゃけちょっと期待してました」
楓「本当ですか?」
P「はい」
楓「そうですか」
楓「ふふっ」
楓「?♪」クルクルクル
16: 以下、
―――
――
P「おし」ッターン
P「お待たせしました」
楓「仕事、納まりました?」
P「ええ」
P「忘年会二次会、始めますか」
楓「はいっ」
楓「おでん、あっためてきますね」
17: 以下、
P「では、乾杯」
楓「かんぱーい、ふふふっ」
P「大丈夫ですか? 別に俺の机じゃなくて」
P「会議室とか使っても――」
楓「ここがいいんです。ここで飲みましょう」
P「はあ」
楓「ささ、早く杯をあけてください。Pさん」
楓「たくさんお酒はありますからね」
P「一人でちびちびやるつもりだったんですが」
P「こりゃ川島さんがいたらどやされてるな」
楓「む」
楓「なんで瑞樹さんの名前が出てくるんですか?」
18: 以下、
P「厳命されてましたからね、早く帰るようにって」
P「それが事務所で酒飲んで、年越ししてるなんてばれたらもう」
P「流石にナントカの緒が切れると思います」
楓「もともとそのつもりだったんじゃないんですか?」
P「え?」
楓「帰る気なんてはじめから無かったんですよね」
楓「最初からここで新年を迎えるつもりで、出社されたんじゃないですか?」
P「……」
楓「わかるんです」
楓「私たち、考えがよく似てますから」
P「まいったな」
P「まいった」
19: 以下、
楓「そういうの、私も好きですよ」
楓「あえて観光地でもない田舎に行ったり、寂れた温泉宿に泊まったり」
楓「普通の人が鼻白むことやってしまうんですよね」
P「酔狂といえば、聞こえはいいでしょうが」
P「結局は学生気分が抜けてないんでしょうね」
楓「素敵じゃないですか」
楓「私、感激しました。大晦日って本当に人がいないんですね」
楓「街全体が静まりかえってて、ここに来るまで誰とも会いませんでした」
楓「世界に私たちしか存在してないみたいで……」
P「コンビニに店員さんがいたでしょう」
楓「……」プク
P「むくれないでくださいよ」
20: 以下、
P「確かにこの空間は快適です。でも」
P「こういうのもそろそろ卒業すべきなんでしょうね」
P「社会人ですし、大人にならなくては」
楓「そんな必要、無いですよ」
楓「一緒に子供のままでいましょう?」
P「魅力的な提案ですね」
P「でも、現実はそうもいきません」
P「年を経るごとに、立場は変わります」
P「立場が変わると、責任がついて回ります」
P「そいつらは俺が子供でいることを許さないでしょう」
21: 以下、
楓「よく、わかりません」
楓「Pさんは瑞樹さんみたいになりたいと言っているんですか?」
楓「でしたらそれは無理だと思います」
P「ばっさりきましたね」
楓「私も瑞樹さんのこと、尊敬しています」
楓「綺麗で優しく、分別ある大人の女性として」
楓「でも、私は瑞樹さんのようにはなれないと思います」
楓「それに――」
P「なる必要もない、と?」
楓「はい」
P「理由を聞いてもいいですか」
22: 以下、
楓「以前飲みに行ったとき、言われたんです」
楓「"羨ましいわ"と」
楓「"どうしたらそんなに自然体でいられるの?"と」
楓「私は逆に聞きました」
楓「どうしたら瑞樹さんのような大人になれますか、と」
楓「そしたら言うんです」
楓「"なりたくてなったんじゃないのよ、自然とそうなっていただけ"」
P「……」
楓「瑞樹さん、途中で何か気づいたみたいでした」
――
瑞樹「そう、そうよね。馬鹿なこと聞いちゃったわね」
瑞樹「人間、自分以外にはなれないのにね」
――
23: 以下、
楓「……無理に大人になる必要なんてありますか?」
楓「私は無いと思いますし、なろうとしても半端になるだけです」
楓「結局は、素直でいることが一番だと信じてます」
P「素直に……」
楓「私がミステリアスだなんだと噂されてたとき」
楓「ある人が言ってくれた言葉です」
楓「気にすることないと。そのままの私でいればいいと」
P「……」
楓「あれは、嘘だったんですか?」
24: 以下、
P「それは、本音です。しかし」
P「俺の場合は、現実から目を背けてるだけのように思えて」
P「川島さんの言うように、進歩してないのかもって」
楓「現実なんて直視しなくていいんですよ」
楓「横目で見てるくらいでちょうどいいんです」
楓「それでも人間、前に進めますよ」
P「アバウト過ぎやしません?」
楓「深く考えたら負けなんですよ。こういうのは」
楓「私は少しズレてて、どこか抜けているPさんが好きですよ」
楓「それを自覚していて、たまに悩んだりするところも含めて」
P「……」
楓「素直でいましょう、Pさん」
楓「一緒に子供のままで、いましょうよ」
25: 以下、
P「……かないませんね、楓さんには」
P「なんでもお見通しだ」
楓「ふふっ。まるっと見えてますよ」
P「でも、でもですね、俺はある程度大人になりますよ」
P「社交辞令も言いますし、満員電車にだって乗ります」
P「気にくわない奴にも頭を下げますよ」
P「二人のプロデュースのためならね」
楓「あら」
楓「強情ですね」
P「無理して言ってるんじゃないです」
P「俺がそうしたいと望んでるんです」
26: 以下、
P「ただ、二人の前でだけは正直でいます」
P「取り繕わず、できるだけ素直でいるようにします」
P「……どうでしょう、こんな感じで」
楓「それがPさん流の現実との向き合い方ですか?」
楓「ふふ、不器用なんですね、本当に」
P「自分を受け入れてくれる人が二人もいるんです」
P「一人は共感してくれて、もう一人は諫めてくれる」
P「俺はこれ以上のものを求めません」
楓「……私たちのこと、必要としてくれているんですね」
楓「いいですね。私は賛成です」
P「すみません」
P「面倒なプロデューサーで」
楓「いいえ」
楓「私、大好きです」
27: 以下、
――
―――
28: 以下、
P「……残り一分」
P「いよいよ今年もお終いですね」
楓「ジャンプしませんか」
P「は?」
楓「昔流行りませんでした? 年またぎにジャンプするの」
楓「それで年越しの瞬間、自分は地球上にいなかったと自慢するんです」
P「ありましたね」
P「何を自慢してたのか謎でしたけど」
楓「私、その様子を冷めた目で見ていました」
楓「子供っぽいなって」
P「自分もやりませんでしたね、当時は」
楓「だから、今やりませんか?」
楓「今こそジャンプするときなんですよ、きっと」
29: 以下、
P「……そうですね」
P「やりますか」
楓「ふふっ、じゃあ手をつなぎましょう、手を」
P「こうですか?」
楓「両手ですよ、向き合う形で……」
P「こ、こうですか?」
楓「はいっ」
楓「さあ、カウントダウンしましょう」
30: 以下、
P「20、19、18……」
P「まだ、早いですかね」
楓「ふふっ」
P「……楓さん、今日はありがとうございました」
P「来てくれたこと、本当に嬉しかった」
楓「……」
楓「Pさん、私、待ってます」
P「え?」
楓「いつ選んでくれてもいいんですよ」
楓「私、待ってますから」
P「それは、」
楓「ほら、時間――」
P「あ」
楓「3、2、1――」
31: 以下、
32: 以下、
――――
―――

33: 以下、
――
―――
P「あけましておめでとうございます、川島さん」
P「今年もよろしくお願いします」
瑞樹「おめでとう。P君」
瑞樹「早だけど見て欲しいものがあるの」
P「はい」
瑞樹「年明けと同時にね、楓ちゃんにあけおめメールを送ったの」
P「最近言いますかね、あけおめメールって」
瑞樹「そしたら、この写真が返ってきたわ」
P「何だ、LINEじゃないです……」
P「……」
瑞樹「暗くてわかりにくいけど」
瑞樹「ここ、事務所よね?」
瑞樹「後ろにいるの、これ、P君よね?」
34: 以下、
P「……そ、う、ですね」
瑞樹「聞かせてくれるかしら、どういうことか」
P「あのですね」
P「誤解なんです。誤解じゃないんですけど」
瑞樹「何言ってるのよ」
P「いや、えー、あ」
楓「おはようございます。皆さん」
瑞樹「楓ちゃん!」
瑞樹「何にも返信してくれないなんてひどいじゃない!」
楓「はい?」
瑞樹「これよ、これ!」
36: 以下、
楓「……ああ」
楓「ふふっ」
瑞樹「どういう意味なの、その笑みは」
P「いや本当、やましいことはないですよ」
瑞樹「やましいやましくないじゃなくてね」
瑞樹「大晦日に事務所でね。男女がね。酒瓶片手にね」
瑞樹「おかしいわよ、おかしいわ!」
P「ごもっともで」
楓「そうですね」
楓「Pさんと私にとって忘れられない日になりました」
楓「私はとても満足してます」
37: 以下、
瑞樹「……P君、翻訳を」
P「いや俺も何を言い始めたのかさっぱり……」
楓「Pさんはその日、少し大人になったんです」
楓「私は止めたんですけどね」
楓「でもPさんがどうしてもというので……」
P「要約してるのかもしれないですけど」
P「悪意しか感じないですからね」
瑞樹「P君……」
P「いやいや」
P「楓さん、めっちゃ笑ってるじゃないですか」
38: 以下、
瑞樹「わかった、わかったわ」
瑞樹「P君! 楓ちゃん! 今日空いてるわね!」
瑞樹「新年会やるわよ! 新年会!!」
瑞樹「話はその場でじっくり聞かせてもらうわ!」
P「え、今日?」
楓「わー、行きます行きます」
楓「Pさんも来れますよね?」
P「まあ、はい」
P「……なんだかこのノリ、去年と変わらない感じですね」
楓「ふふっ」
楓「ご不満ですか?」
P「いいえ、ただ」
39: 以下、
P「贅沢だなって、思っただけです」

40: 以下、
良いお年を
html依頼してきます
41: 以下、
乙、オレも楓さんと年越ししたいわ
43: 以下、

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