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にこ「部室で…」海未「その4です」
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付き合い始めてから海未ちゃんの表情が明るい。
前なんて一緒にいる時は、眉間に皺を寄せて難しい顔でにこのことを見ていたのに。
まぁ、その顔はちょっと怖かったけど。
今では柔らかい優しい笑顔でニコのことを包み込んでくれる。
海未ちゃんのそんな顔を見ていると、嬉しくてにこも笑顔になるのに心の中は曇り空。
だって海未ちゃんと一緒にいるだけでとてもドキドキするんだもん。
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2: 以下、
隣にいてくれるのが嬉しくて、胸がぎゅーと苦しくなってそれでドキドキするの。
でも、海未ちゃんもにこといる時はドキドキしているのかな?
今までそんな様子を見たことがないから。
こっちには余裕がなくて向こうには余裕があるみたいで。
……少し悔しい。
3: 以下、
一度だけでいいから海未ちゃんの慌てた顔を見てみたいな。
にこがいつもしているみたいに、
顔を熱くして、
目線は泳いで、
ドキドキが耳の中で反響して周りの音が聞こえなくて、
にこのことしか見えない、考えられない。
4: 以下、
そんなことを海未ちゃんにしてみたいんだけど。
どうすればいいんだろ?
あの鈍い海未ちゃんのことだから普通にしていたらダメなんだよね。
にこのドキドキにはお構いなしで、いつも海未ちゃんのペース。
本当はにこの気持ちに気付いていてわざとやっているんじゃないかって思うぐらい。
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考えられないほど気障で、周りから見れば意味が分からない行動でも、
にこにとっては劇薬そのもの。
そう、好きって感情の劇薬。
海未ちゃんに恋した時からドキドキ。
好きって言われてドキドキ。
隣で、背中合わせで、見つめ合って……。
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でもでも、にこだけがいつもドキドキしてるってなんか不公平だよね。
海未ちゃんにもにこと同じだけドキドキしてもらわないと。
そんな海未ちゃんに何をしたら仮面を取ることができるんだろ?
……。
ふふっ♪
してもらう側からする側になるっていうのはなんか新鮮で楽しいな。
この部室まで続く長い廊下が終わるまでに考えておかなくちゃ。
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◆◇◆◇◆◇◆◇◆
考え事していると時が過ぎるのは早く感じるわけで。
いつもなら海未ちゃんに早く会いたくて長く感じる廊下が短くなったような。
長さは変わらないんだけどね。
つまり、もう扉の前に着いたってこと。
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海未ちゃんがすでにここへ来ていることは知っている。
それは、最近部室に来る順番は決まっていて、一番がにこ。
で、少ししてから二番目が海未ちゃん。
これだけだよ?
それと、にこが一番に来ているのは変わらないんだけど一つだけ変わったことがあるの。
それはね。
9: 以下、
部室で一人ぼっち、みんなを待っているのは結構つらいんだから。
たまにもう来ないんじゃないかって考えちゃうくらいに。
そんなことを思っているうちに海未ちゃんの登場。
いつもと変わらない笑顔を見ると安心する。
ほっとして心が温かくなる。
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そしてドキドキが始まるの。
苦しいけどどこか心地いい胸の高鳴り。
要するに寂しがり屋になっちゃったってこと。
にこをこんなにしたのは海未ちゃんのせいなんだから。
でも、今日はそれを感じることができない。
だってにこが二番目だから。
ちょっと残念なような寂しいような気持ち。
11: 以下、
えっ?
何で二番目って分かるのか?
だっていつもなら鍵がかかって回らないドアノブが回るんだもん。
うーん、待たせちゃったかな?
……まぁ、中にいるのが海未ちゃんとは限らないんだけどね。
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◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おや、今日は遅かったですね」
扉を開けると瞳へ真っ先に飛び込んできたのはにこの大好きな人。
そう、海未ちゃん。
手には海未ちゃんの愛読書のミステリーがあって、
机の上に置かれいていた栞を挟まれ鞄の中へ消えていった。
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「ごめんね」
「いえ、謝る必要なんてないですよ」
そんな会話をしているうちににこは海未ちゃんの隣の席に着いた。
みんなが来るまではここがにこの特等席。
来ると自分の席に戻るけどね。
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海未ちゃんはいつも不思議そうな顔をして、
「移動しなくてもいいじゃないですか」
なんて言ってにこを止めるんだけど。
にこはみんなからからかわれるのが嫌だから戻っちゃう。
そして海未ちゃんはいつも寂しそうな顔をするの。
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みんなは気付いていないかもしれないけど少しだけしょんぼりしてる。
内緒だけど、にこは海未ちゃんのそんな顔を見るのが楽しみにしているの。
だって唯一と言ってもいいぐらい海未ちゃんのいつも笑顔の表情が変わる瞬間だから。
でも、みんなが来るまでは海未ちゃんのターン。
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今日もにこが隣に来るなりそっと抱き寄せてくれる。
自分とは違う大きくて温かい手が肩に触れると優しい気持ちになるの。
にこは自然と海未ちゃんの方へと引き寄せられるから逃げられない。
……逃げる気なんてないけれど。
もう一個の手はにこから催促する。
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海未ちゃんもにこが送る合図に気づくと握り返してくれる。
握りづらいことは分かっているのに嫌な顔一つもせずに応えてくれる海未ちゃんにもっと甘えたくなる。
こんなのママ以外だと海未ちゃんにしかしないんだからね。
次は肩に触れていた手がにこの頭へ移動するの。
最初は壊れ物を扱うように動いて、
慣れてくると海未ちゃんの体温をにこに届けるようみたいにゆっくり優しく撫でてくれる。
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心地良くて気持ちいいんだけど少し恥ずかしい。
そして……。
「にこ、好きです」
なんて耳元で不意に囁くんだから心臓に悪い。
で、ドキッとしたら最後。
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ずっと海未ちゃんの言葉の魔法にかけられた状態になるの。
顔が熱くなって、
目線は下にしか行かなくなって、
何か話そうとしても口は横にまっすぐ閉じちゃって、
周りの音が聞こえないくらいドキドキしてる。
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そんなにこを見て海未ちゃんはいつも優しそうに微笑んでいるだけ。
「何を当たり前なこと言ってるの」
って、文句の一つぐらい言いたいくなるんだけど海未ちゃんを見ているとそんなことすぐに忘れていく。
だって、海未ちゃんにこんなこと言ったって、
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「そうでしたね」
って言われてまた一段と笑顔になるんだもん。
要するに効いていない。
あぁ、儚い反撃だなぁ。
まだしていないけど。
「どうしました?先ほどからぼーっとしているようですが」
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「えっ?な、なんでもないよ」
「そうですか?顔が赤いようですけど」
海未ちゃんの顔がだんだん近づいてくる。
近い、近いよ!
「な、なに?」
「動かないでください」
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両手で離れていくにこの動きを封じる。
本当に逃げられないよぉ。
心臓はもうドキドキでどうにかなっちゃいそう。
真剣な目で見てくる海未ちゃんの顔が怖くて目をつむっちゃった。
それはもう力一杯にぎゅって。
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「……っ」
おでこに何かが当たる感触があった。
目を閉じているから分からないけれど僅かな感触にも敏感に反応してしまう。
それは熱を帯びていて温かい。
でも、にこの方が体温が高いからなのか冷たく感じる。
……気持ちいいな。
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ほんの数秒間だと思うけれどにこにはとてつもなく長い時間に感じた。
「う?ん。熱はないみたいですね」
目を開けると海未ちゃんの顔が目の前にあった。
もう本当に目と鼻の先。
にこから動いちゃえばキスするんじゃないかってぐらいに。
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唐突な海未ちゃんの行動ににこの思考は完全に停止。
前にいる海未ちゃんのことしか考えられない。
これって本当に熱でもあるんじゃないかな?
「でもこのままでは練習に影響が出るかもしれませんし、今日は休みますか?」
海未ちゃんが何か言っているみたいだけどさっぱり頭に入ってこない。
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耳が海未ちゃんの声を拒絶しているみたい。
ううん、そうじゃない。
きっとにこの意思がそうしているんだ。
これ以上、海未ちゃんの声を聞いていると壊れちゃうって。
にこの頭の中は俯くしか選択肢がない。
だからもう、何も……。
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◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
気が付くとにこは手に荷物を持っていて学校の外にいた。
あれ?
さっきまで部室にいたはずじゃなかったっけ?
周りを見渡すと隣には海未ちゃんがいた。
「海未ちゃん!?」
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「な、なんですか!?どうしました?」
突然の大きな声に驚いちゃったみたい。
目を丸くしてにこのことを見てる。
「こ、ここは?練習は?」
今あるありったけの疑問をぶつける。
もっと他にもあるんだけど混乱していて出てこない。
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「落ち着いてください、にこ。今はにこの家に向かっている途中です」
「家に帰っているの!?」
「ええ。にこの体調が悪いと判断したので」
えぇ…。
体調が悪いって勝手に判断しないでよ!
むしろ良い方だと思う。
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ほら、こんなにも元気…。
「あ、あれ?」
「おっと」
にこの意思と違って身体がいうことを聞かないみたい。
海未ちゃんの方へ倒れちゃった。
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「まったく。それは空元気って言うんですよ」
なんて笑って言う海未ちゃん。
はぁ、これじゃ何も言えないよね。
ん?
海未ちゃんがここにいるっていうことは…。
「海未ちゃんは練習に参加しないの?」
という疑問が当然出るわけで伝えてみる。
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「私はにこの方が心配です」
またそんなことを平気でにこの方を見て言う…。
……あれ?
おかしい。
何か違和感を感じる。
「それだけ?」
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「……」
いつもと違う。
海未ちゃんらしくないっていうか。
さっきから目を合わせてくれない。
いつもなら海未ちゃんは目を見て話すのに今は違う。
「海未ちゃんどうしたの?」
心配になって海未ちゃんの顔を覗き込む。
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海未ちゃんの顔が一瞬だけ見えた。
見えた顔は赤かったような、そんな気がする。
だって、にこはすぐに海未ちゃんの腕の中にいたんだもん。
「えっ?ええ?」
考えていなかったことに動揺を隠せない。
こんな事をする海未ちゃんだったかな?
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それにさっきから無言で何を思っているのか分からない。
……ちょっと怖い。
「にこのせいです」
「え?な、なんて?」
「…なんでもありません」
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そう言ってにこに顔を見せないように明後日の方向へ目線が向けてにこの前に行っちゃった。
でも。
一瞬だけ見せてくれたいつもと違う表情。
今はたぶん恥ずかしそうにしているんだと思う。
そんな表情を見れただけで満足かな。
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