志希「フレちゃんがうつになりまして。」back

志希「フレちゃんがうつになりまして。」


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 あるひとりの少女のおはなし。
 女の子は1歳のとき、部屋のすみっこに転がっていたルービックキューブに興味をもった。
 カラフルな立方体をじっと眺めて、手にとって、ぺたぺたぺた。
 さてはて、ばらばらに配列されたこの赤や黄色にはどうやら法則性があるらしい。構成しているのは12の端ピースと8の角ピース。
 なるほどなるほど、遊び方はわかった。どうやらこの色を合わせてやればいいらしい。それじゃいっちょ戯れてみようかにゃ。
 女の子は120秒で立方体のカオス状態に秩序を与えてみせた。
 見守っていたダッドとママはなぜだかてんやわんやの大騒ぎ。
 
 信じられない、うちの娘は天才だ!
 写真に向けてポーズをとらされる、はいチーズ。パシャリ。
 女の子は要求通りにピースサインをしながら、こんなことを考える。
 あーあ、たった120秒しか暇つぶしできなかったなぁ、なんてね。
 それから少女は9歳でルービックキューブの数式を有群論を用いて証明してみせて、ダッドとママには甘いケーキとお固い物理学の本をいっしょに欲しがった。
 まわりのお年頃の子たちは、おとぎ話のプリンセスとかくまさんのぬいぐるみとかに興味津々だったけれど、少女の頭脳はピタゴラスの定理が成り立つ3の数を見つける方法でしめられていた。
 
 学校のテストが、答案用紙の裏にラクガキをどれだけ多く書けるかというゲームに成り果てたころ、少女は海の向こうのユニバーシティをつぎのお遊技場に選んだ。
 あそこのね、ランチはそこそこ美味しかったかな。ハンバーガーがね、手のひらよりおっきくてサワークリームがたっぷりかかってるやつ。あと陽射しは日本よりぽかぽかしててお昼寝には向いてたにゃ?。
 あ、あるひとりの少女って前置きしてたけどね、これあたし、一ノ瀬志希ちゃんのはなしね、以後そこんとこよろしく、っていまさらか?。にゃはは。
 そんじゃ話をもどそっか。
 えっと、スカンクのあのキョーレツな匂いを科学的に配合できるかの話だっけ。え、違う?
 あ、そうそう、大学の話、大学の話ね、うーんと、じつはあんま憶えてないんだよねー。
 だって、つまんなかったんだもん。
 たいそう権威があるという学会の発表会でド新米のあたしが気ままに論述してみせたあとに、教授が絶句して降参だというように一斉にペンを置いたことも。
 30年かけても解を導けなかった問を君のような年端もいかぬ子供が解き明かすなんてとても信じられんなと、恨み節たっぷりにいわれたことも。
 それからあたしが黒板にチョークをはしらせるたびに、おーまいがーという一言と共に四方八方からカメラのフラッシュが炊かれたことも。
 ぜーんぶ、どうでもよかった。 
 あたしにとっては、どれもこれもルービックキューブの色を揃える程度の暇つぶしでしかなかった。
 それからなんやかんやあってアイドルになって。
 なんやかんやってとこは省略するね、説明すると長くなるし疲れるし、そんでそんで、アイドルになって宮本フレデリカちゃんとデュエトを組んだ。
 レイジー・レイジーだって。「だらけている」2人組だって、おもしろー。
 フレちゃんはね、とっても刺激的。
 だってさ、このアイスおいしいねって話してたと思ったらいつのまにか南極大陸の話題を経由してペンギンはなんでお空を飛べないのかって議題にすり替わっちゃうんだよ。
 それは水泳や歩行能力に特化するために飛翔能力を捨てるように進化してったからだよってあたしが答えるとフレちゃんは、
 へー、じゃあ人間も昔はお空飛べたのかな、そんで雲の上をふわふわしてだらだらしてたんだけど、やっぱり地に足つけてしっかり生きていかにゃいかんって思い直して飛ばなくなったのかなー、そう考えると日本のサラリーマンってえらいねー、なんて。
 あたしは教授が仏頂面でカッチリ型にはめこんで導く理論よりも、フレちゃんが笑いながらその日の気分で導く理論のほうが、好みだった。
 フレちゃんは、あたしの想定を軽々と飛び越えてくる。
 そんなフレちゃんがある日ぽつりと呟いたひとこと。
「なんだか、消えてなくなりたいなぁ」
 あたしに何度も投げかけられた“信じられない”という言葉をひゃっぺん繰り返しても足りないくらい。
「なんだかこのままね、お空をどこまでも飛んでって、いなくなっちゃいたいかなぁ……」
 
 フレちゃんの身に信じられないことが、起こったのだ。
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5: 以下、
 きっと、やっとの想いで絞り出せた言葉だったんだと、思う。
 混じりっけのない天然モノの金髪をぐしゃぐしゃにさせて、グリーンアップルの瞳をぐらぐらに揺らしてフレちゃんはたしかにそう言った。
 それでも、いつものように笑いながら呟くものだから。誤魔化すように、いつもの鼻歌を必死に鳴らすものだから。
 その場にいただれもかれもが、その異常性に気付かなかったのだ。あたしも含めて。
「あははっ、フレちゃーんまるであたしみたいなこというんだねー。あたしはいつでもお空飛んで趣味のお散歩したいなぁって思ってるよー。みんなは失踪とか徘徊とかいうけどねー。でもこれからライブだしー」
「ライブ、ライブ、そっか、これからライブかぁ」
「そそっ、まぁワイヤーで吊り上げて上空から登場するって仕掛けも面白そうだしできそうだけど、あんま無茶ぶりするとまたスタッフに困ったやつみたいな顔されるし、ただでさえあたしが変なことしないかマークされてるんだよねー」
「ライブ、ライブ、ライブ……あーそっかぁ、ライブかぁ、あれ、ライブってなんだっけ?」
「えーまたフレちゃんそういうこというー? 日本語で演奏会、フランス語でコンセール、スペイン語でムジカのライブだよー」
 ぼんやりと何もない空間をみつめながら“ライブ”という言葉をぶつぶつと繰り返すフレちゃん。
 むむ、なにがそんなにフレちゃんセンサーに引っかかったんだろう。
 
 フレちゃんはたまに街を歩いてると突然爆笑することがある。
 なにがそんなに面白いのかときくと、炭酸ドリンクの広告看板のさわやかなスポーツマンにチョビヒゲを脳内で足してみたらどうなるんだろうと考えて実際に足してみたら、それはもうとってもお似合いだったらしい。
 こんなに面白いのならスポーツ選手は全員チョビヒゲをくっつけて試合すればいいのに、そうすれば選手も観客もみんな笑顔になって世界平和だよねーハッピーニューイヤーだねー!と、真夏にフレちゃんはひとりで新年を迎える。
 
 今回もきっと、フレちゃんは独自の宮本フレデリカ理論を駆使して、ライブというとりとめもない単語にとびきりの楽しさを与えるんだろにゃあ。
 あたしはちょっぴりワクワクしながら次の言葉を待っていた。どこからなにが飛び出してくるんだろう。
 鬼が出るか蛇が出るか、なんてフレちゃんから飛び出すものはいつだって、もっとポップでファンシーなものなのだけれど。
7: 以下、
もの凄く志希にゃんっぽい文だな
8: 以下、
なんだかすごいスレをひらいちゃったぞ
期待
9: 以下、
 ところがどっこい、フレちゃんの口から飛び出したものはとても平凡で単純なものだった。
 いや、“フレちゃんの口から”という条件に限っていえば逆に、これほど驚かされるセリフはなかったんだけど。
「うーんとね、ライブ、出たくないかも」
「え、フレちゃん、いまなんて? りぴーとあふたみー?」
「アタシ、今日はもう閉店したい」
 オーウ、晴天の霹靂。24時間365日新春売り尽くしセールをやっているかと思ったフレちゃん商店はどうやら閉店の危機らしい。
 ちなみに売り物はスマイルとそもそも最初からウケを狙ってないから絶対にすべらない話とほんのちょっとのフランス語(類似品アリ)とおまけにテキトーさもサービスで添えて。
 そんなフレちゃんがライブを目前にもう店じまいだなんて。これはニューヨークのメガバンクが経済破綻して世界的金融危機が訪れるくらいのショックなんじゃないだろーか。
 ガガーン、フレデリカショックにより石油は値上がり、車は売れず、世界の食卓からは野菜が1品消えちゃって、汗水流して働くお父さんの給料は減りつづける、そして失業者は毎年30万人のペースで膨れ上がるのでした。ちゃんちゃん。
 なんてまるでめでたくない脱線話はひとまず置いといて。
 いやいや、たしかにフレちゃんはレッスンが終わると「あー、疲れたから今日はおしまい、もう家に帰りたいなー、ジェット機で!」だとか冗談でいうことはあるのだけれどそれはあくまで冗談のはなしで。
 たった今言った「出たくない」にも「閉店したい」にはなんのユーモアもつづかない。
 ネガティブなワードがネガティブのまんま、フレちゃんからじわりとにじみ出た。
「どしたの、お腹痛いとか? 昨日ブリュレ食べすぎちゃった?」
「うぅん、昨日はなにも食べて、ないし」
「えっ、なにもってブリュレじゃなく焼きプリンは食べたよとかそういうんじゃなく、一切食物を経口摂取してないってこと?」
「ケー、コー、けーこー? こけこっこ?」
「丸一日何も口にいれてないってこと」
「え、あー、うん、そうなるかなー、なんか食欲なくて」
「へぇ、そうなんだ、ふーむ」
 いつものフレちゃんだったらここで、ねぇねぇブリュレと焼きプリンの違いってねー、志希ちゃん知ってる? えっとね、私もわかんなーい☆なんて言ってくるんだけどなぁ。
 ちなみに生クリームをのせて砂糖を焦がすのがブリュレ、牛乳ベースで蒸し焼きするのが焼きプリン、なんてどうでもいいか。フレちゃんが前に作ってくれたのは、どっちもおんなじくらい美味しかったし。
 緊張で食べ物が喉を通らなくなることは誰にでもある、あ、私にはなかったけれど。残念無念。
 たとえば、事務所のカリスマギャルこと城ヶ崎の美嘉ちゃんなんかはああみえてとっても繊細でマジメな子だから、いの一番の舞台ではお昼のお弁当にまったく手をつけないこともままにある(それでもステージでは最高のパフォーマンスをやってのけるのだから驚きだね)。
 それでも、フレちゃんが緊張で何も食べられない?
 だってねぇ、あのフレちゃんだよ?
10: 以下、
 あたしの宮本フレデリカ評。
 なにもないつまらない、まっさらなキャンバスに七色の色彩を描ける子。要約させていただくとまぁ、大体そんな感じ。
 どこからともなく、“面白さ”とか“喜び”とかの絵筆を拾ってきて、テクニックもディテールもしっちゃかめっちゃかなのに兎にも角にも立派な絵画にしてしまう。
 あーゴメン、まぁ時には作品にすらならないときもあるんだけれど、それでもフレちゃんは絵具まみれになりながらけらけらと笑ってのける。あはは、楽しかったねーなんてとても満足そうに。
 だから、フレちゃんはいつだってどんなときだって、きらきらと輝く絵筆を見落とさないように笑って日々を過ごしているのだ。
 ライブといえば、そんな光のかけらがいっぱい落ちていて。フレちゃんがいつも、なによりも心待ちにしているものだった。
 そんなライブに、出たくないと、フレちゃんはたしかに言った。
 こないだのライブの前夜には楽しみで楽しみでしかたなくてご褒美のボンボン・ショコラを先取りしちゃった、なんて写真を送ってきたフレちゃんが。
 ほわい?
 なんとか原因を究明しようと思考をぐるぐる巡らせていると、不意にひびいたノックの音で、あたしの脳内方程式は中断させられる。
 みやればそこには、ふくふくと頬っぺたをふくらませたご満悦なプロモーターさん。
 レイジー・レイジーをたいそう気に入っていて、都心にビルが建つくらいのお金を投資してくれたっていうとてもお偉いお方、なり。伝聞。
「いやぁ、もうすぐ開演だね、君たちはこれまで本当に私の期待以上の成果をあげてくれたよ」
 あたしの興味は彼にはなくて、どっかの本に記されていた処世術を駆使して挨拶を懇切丁寧そこそこに終わらせる。
 そーりー、とてもお偉いお方。お詫びは志希ちゃんスペシャル惚れ薬なんかでどうですか、なんてあなたにとってはスキャンダルに発展しかねませんね。
 ちらりと脇を見やる。フレちゃんは机につっぷして、ぴくりとも動かない。
「この公演には企業一丸となって力をいれていてね、今までの集大成のようなものなんだ、よろしく頼むよ」
 電池が切れたようになんの反応も示さないフレちゃん。
 フレちゃん、喋れない? ……。ふむ。そっかそっか。わかったわかった。
 それじゃあたしが代わりに、言ってあげるね。正解か間違いかは、フレちゃんと神のみぞ知るー。
「あの、あたしからひとつ要望があります」
「おぉ、どうしたんだね、一之瀬くん、なんでも言ってくれたまえ」
「大変申し訳ありませんが、宮本フレデリカ、一ノ瀬志希、両名ともライブの出場を辞退したいのですが」
「……なんだと?」
 にこにこしてた恵比寿さまのようなお顔がとたんに崩れていって。
 わお、こんなとこから鬼が出てきたねー。
11: 以下、
一之瀬じゃなくて一ノ瀬……
12: 以下、
>>11
ぐあああ本当にすいません…
わかってたはずなのにまるで気づきませんでした…
以後重々気をつけます…
13: 以下、
誤字なんざ脳内補正で余裕でスルー出来る程面白い
続きに期待!!
14: 以下、
 フレちゃんがあのとびきりの楽しさを拒絶するなんてまだ信じられなかった。
 だけどそれでも、とても弱々しいものだったけれどあたしに意志を示したのだ。かの哲人曰く、自由意志は尊重されて然るべき、なり。断定。
 ま、脳科学でも物理学でもそんな自分勝手な意志なんて存在しないって否定されてるんだけどさ。それはともかくここでは存分に活用させていただきますか。
「フレデリカちゃんの体調が優れないようですので、このままではとても2人でステージにあがれません」
「……冗談だろう、もう満員の客が君たちを待ち望んでいるんだ。さぁ、立ちあがってくれ。10分後には数千人の前に顔を出すんだ」
「この埋め合わせは、のちに必ず」
「そういう問題じゃない! 君たちは今回のイベントのメインアクターなんだ、いまさら出演できませんで済まされるか! 我が企業の信用問題に関わる!」
「ですが、無理をおしてまで出演し中途半端なパフォーマンスを披露してしまうこともまた、ファンとイベントの信頼を失ってしまうのでは?」
「……っ体調が少しくらい悪いくらいでなんだ、君たちはプロなんだろう! プロならどんな状況でもやり切ってこそだろ、それで金を貰ってるんだろう!」
「プロである以前に、わたし達はひとりの人間です、せめて1時間でもいいですから延期させてくれませんか」 にゃはっ、それにしてもなんともあたしらしくないセリフ。
「できん、自分勝手な子供のわがままに付き合えるか! この公演には大金を支払って各界から著名人を呼んでいるんだぞ! 私の面子を潰す気か! いいか、一分の失敗も許されない、やるんだ!」
 あぁ、それが本音ね。さてはて、困ったにゃあ。
 あたしが知ってる、この手の業界人にはひとつやふたつは沸いてでてくる黒いウワサをつっついたら逆上させちゃって効果は薄そうだし。
 延期すらも許さないとなると、予防線を張っておいたあたしひとりで出演するという譲歩案もまかり通りそうにない。
 いっそ、失踪しちゃう? あたし的にはお散歩と言っていただきたいのだけれど。まぁどっちでもいいけどね。
 んーでもそれはさすがにヤバいかなー。あたしが原因で日本の失業率を増やしちゃうかも。ま、0、1%くらいだろうしさほど影響ないかな、ダメか。
 そんなことを考えていると。
「……うっそー☆」
 あまりに不釣合いな、素っ頓狂な声が聴こえたから。
「あはは、志希ちゃんビックリした? 気まぐれネコちゃんの志希ちゃんを飽きさせないためのさー、フレちゃん流の変化球のギャグ、魔球だよー」
 フレちゃんが、いつもとお変わりなく元気そうに立ち上がるものだから。
「消えてなくなる魔球、アブラカタブラ、ひらけゴマ! 食らえ必殺ビスキュイ・ド・サヴォワ?! あれ、いつのまにか洋菓子になっちゃった」
 いつもの独自の宮本フレデリカ理論をあたしの前で見事に展開してくれるものだから。
 つい気が抜けてしまって(フレちゃんはよくもわるくも、本当に場の空気を乱すのがお上手だ)。
 あたしはこのとき最もしてはいけない、安易な解を導いてしまったのだ。
「ほんとうはね、昨日はいっぱいご飯食べたよ。あ、ご飯じゃなくてパンだけど。フランスパン。フレちゃんおフランスだからね。あれ、そういえばパンでも夕ご飯っていうよね。なんで夕パンにならないんだろ?」
 なんでもない、みんなを驚かせるためのいつものただのジョークかもだなんて。
「ライブ、出るよー」
15: 以下、
 ……。
 そしてフレちゃんは満員のファンが待つステージの直前で
 あっけなくこわれた。
 ごめんね、志希ちゃんごめんね、あたしやっぱもうだめかも。
 なんかさ、アタシおかしくなっちゃったかも。
 よくわかんないけど、よくわかんないけどさぁ。
 なんかさ。
 ……しにたいよぉ。
 誰にでも発症する可能性がある病ってのは知識として知っていた。
 なりやすい性格の傾向はあるけれど、どんな人にも頭に引き金が引かれることがある病。
 人が想像することは、必ず現実になるものだとはいうけれど。
 あまりに宮本フレデリカとその病がかけ離れすぎていてこれっぽちもイメージできていなかった。
 ほんとうに、フレちゃんはあたしの想定を飛び越えてくる。
 まさか。もう何度だって繰り返すけれど、あまりにまさか、すぎて。
 いつもテキトーで悩みがなさそうだと周囲から評されるフレちゃんは。
 重度のうつ病だったのだ。
18: 以下、
とんでもないネタこさえてきたな……あれは読んだけどのほほんとしたマンガに見えてかなり重たかった思い出があるなぁ
期待
19: 以下、
十数レスでこの文量
エタって欲しくないしもっと分けたりペース落としてもいいと思うよ
頑張って
23: 以下、
 ………。
 ……。
 …。
24: 以下、
 あ、思い出した。
 2位の女の子のおはなしをしよっか。
 女の子っていってもあたしより大分年上だったんだけどね。
 名前は、うーんとね、知らない。
 忘れたとか思いだしたくないとか別にそーゆーわけじゃなく、そもそも一度しか会ったことがないんだよねー。
 それでもその子はあたしの名前を毎日のように話題にだしてたみたいで、ひょっとしてあたしって案外モテモテ? なんちゃって。
 キャンパス内でいっとうお日様がぽかぽかするベンチでお昼寝してたとき。
「一ノ瀬志希、こんなところで優雅にサボり?」
 名前を呼ばれて瞳を持ち上げる。なになに、志希ちゃん只今充電中にゃのだけれどー。
「はーい、ぐっどいぶにんぐ。 あれ、ないすとぅーみーちゅーかな?」
「天才さまはいいわね、目が真っ赤になるまで学術書とにらめっこする必要なんてなくて」
 むむ、なんで初対面でそんなにこわいお顔をしてるのかな?
 ためしに鼻をすんすん。ハスハス。ん、あーこれあたしの苦手なにおいだ。
 ネズミとかの嗅覚に優れた動物は同種の感情を嗅ぎ分けられる。嬉しいとか、哀しいとか。
 あたしもたま???に鼻の調子がいいときには、わかるのだ、においで相手の気持ちがおおよそね、なんて言っても誰も信じないんだけどー。
 このにおいは、うん、たぶん怒ってるときのにおいだね?
25: 以下、
「……あんたが来てから、わたしはいっつも2番手で、あんたばっかりちやほやされて」
 苦手なにおいが濃くなってくる。
 くっと鼻をつまみたくなるけれど、しなかった。
「そうやっていっつも余裕ぶって、みんなを見下した態度とって」
「見下してる、んー? のんのん、それはちがうよー、あたしはここでお昼寝したいからお昼寝してるだけ。ここってこの時間帯は風が気持ちよくって木漏れ日がちょうどいいしさー」
 ネズミにはネズミの法則があって、ネコにはネコの法則がある。
 あたしはあたしの法則でただ動いてるだけで。そこに見下すも見上げるもない。
 むしろ何事にも興味が3分しか持続しないあたしにとっては、きちんと講義に出席して、品行方正に生きてる学生のほうがあたしよりよっぽど偉いと思ってるんだけ──。
「そういうのを見下してるっていうのよ!」
「んにゃっ!?」
 分厚い辞書が飛んできた。ばさりと地面に落ちる。ラインマーカーがいくつも重なって文字が滲むほど引かれた辞書。
 ふむ、それじゃあたしはどうすればいいんだろう。あたしらしくふつーにしてるとダメとなると、逆におもいっきり見下した態度をとってあげれば満足するんだろうか。
 わたくし一ノ瀬志希は僭越ながらふだんの素行がたいへん悪いにも関わらず試験となると不本意ながらいつも満点をとってしまって、教授陣からは手厚い寵愛を受けております。世の有象無象はあたしに道をゆずりなさい。かしこかしこまりましてかしこ。
 うぇ、ブキミー。やだやだ。そんなことしたくないなぁ。
 ねぇねぇそれよりせっかくのご縁なのだからこれからランチでハンバーガーでも食べながらお話して、お腹も気持ちも知識もふくらませようよ。
 きっとそのほうがお互い幸せになれるよ。
26: 以下、
「……おかしい、こんなのありえない。あんたより何倍も努力してるわたしがあんたなんかに負けるはずない。ましてや年下なんかに! わたしが正しい。間違ってるのはあんたなんだ」
「うーん、そうかもね、きっとそう、あたしも頑張った人がまるで報われない世界なんてつまらなくて退屈だって思うよ、ねぇねぇところで、きみの名前はなんていうの? わっちゅあねーむ?」
「あんたさえいなければ、あんたさえいなくなれば……」
「んー? ゴメンよく聴こえ」
「……ッ……このッ──」
 わお。
 去り際に投げつけられた言葉は、こっちでは感嘆詞として使われるけれどジャパニーズTVでは放送禁止用語。
 あ、でもこっちにきてから母国の番組はめっきり観れてないから今では改訂されたのかもしれない。
 そういえばあの月9のドラマは一体どんな結末を迎えたんだろう。
 帰国したらDVDで確認してみようかな。覚えてればだけど。
 あたしはしばらくぼんやりしたあと、地面に転がっていた辞書を拾い上げて、ぱっぱと砂を払って事務室に届けてあげた。
 
 それからあたしはまもなくこっちの生活に飽きちゃって。
 太平洋をびゅびゅびゅーんと渡ってふつーのJKになる。
 2位だったあの子があたしのいなくなった大学で一番になれたのかは、観測してないから検証しようがない。
 にゃー。
 飽きたから、このはなしはおしまい。
27: 以下、
 ……。
 ぐるぐる。ぽわん。
 試験管の液体がオレンジからグリーンに変化する。んよし、実験成功。
 一時的にキッチンのスペースを分けてもらった即席のラボにしては上出来、上出来。
 フレちゃんの私物のアロマポッドに出来上がったばかりの液体をとろりと注ぐ。
 ん、ちゃんとイイにおい。
「ねぇ、フレちゃん知ってるー? その心の風邪にはさーラベンダーのにおいが効果テキメンらしいよー。志希ちゃん特製で配合してみたんだけどどうかなー」
 フレちゃんは、ちょっと疲れちゃっただけなのだ。
 脳内のセロトニンとノルアドレナリンがほんのちょっとだけ減っちゃって、うまく心と体のバランスがとれてないだけ。
 ただそれだけなのだ。
 このにおいで中枢神経をぴぴっと刺激してあげてリラクゼーション効果を与えてあげれば。
 きっと、お布団の亀さんから卒業できるのだ。
 あの日「しにたい」という言葉を必死に絞り出して、うずくまって、金髪をぐしゃぐしゃして。
 もうただの一歩も動けなくなってしまったフレちゃんがそのまま寝込んでからもう3日目になる。
33: 以下、
 さてさて。もいっちょ働きますか。
 ビーカーに濃褐色のリキッドと4.5mlの乳白色のどろどろしたポーションを流し込んで、攪拌棒で混ぜ合わせる。
 ガラス内部のエントロピーがじわじわ増大していって、やがて安定する。
 琥珀色の飲料性物質のできあがり。
 ん、またアヤシイの作ってるんじゃないかって? にゃはは、ちがうちがう。
 これコーヒーねー。
 でぃすいずぶるーまうんてんぶれんど、あんだすたん?
 そんな実験器具でコーヒーを飲むなんてきみはマッドサイエンティストかなにかかい、なんてオーバーリアクションでジョークを飛ばしたのは誰だったっけ。
 持ちやすいし耐熱性にも耐久性にも優れてるから案外イイもんなんだよーってあたしが反論したらこれまた大袈裟に自分の首を絞めてべーと舌を出したポーズをしたカレ。
 まぁある日カレがコーヒーと惚れ薬を間違えて飲んじゃったのが原因で学園史上最大のパンデミックが引き起こされてからというものの、あたしの称号がホントにマッドサイエンティストになっちゃんだけど。
 うん、きみはとても正しかった!
 うそうそ、ジャパニーズジョーク。8割はね。うんまぁそんな感じ。
「フレちゃーんキッチンの引き出し開けるねー、もう開けちゃったけどー」
 ピンク色の引き出しを展開すると、小さな包丁と果物ナイフが丁寧にしまわれていた。
 ひょいと拾い上げて、手を伸ばさないと取りだせない戸棚に移しておく。それと他にはハサミとカッター。戸棚へ。ケーキスライサー。戸棚へ。
 野菜の皮むき器。ふむ、これはどうしようか。
34: 以下、
 ビーカーのコーヒーを口に含みながら考える。
 レイジー・レイジーの無期限活動停止が発表されたのは今日のお昼のできごと。
 客観的にみればどうやら人気絶頂だったらしいユニットの突然の活動停止宣言はSNSのトレンドをかっさらう程度には話題になったらしい。
 休止の理由はおざなりだった学業に集中するため。なんてギャグみたいで笑っちゃうよねー。
 真相を知っているのはあたしと事務所のごく一部の人間だけだった。
 だから主にあたしがフレちゃんの看病を担当することになったのはある意味当然のなりゆきで。
 いいかぜったいに人体実験だけはするなよってあたしをなんだと思ってるのかな? マッドサイエンティスト?
 それとくれぐれもアイドルなんだからリストカットだけはさせないようにしてくれって忠告通りに刃物をしまっているけれど。
 そもそもフレちゃんは現在それすらも実行するような気力が起きないのは幸か不幸か。
 自傷行為はある意味、生きている実感を得たいがためにするのだ。
 フレちゃんは今、生きようとする気持ちがすっぽりと抜け落ちてしまっている。
 どーしたものか。
「せ、なか」
 そのとき、まあるい布団の盛り上がりから、声がした。
「んん……背中が、いたい……」
 フレちゃん観察記3日目。
 ラベンダーの香りが効いたのか否か。
 28時間ぶりにフレちゃんは意味のある言葉を発した。
39: 以下、
>>1は志希にゃんそのものなんじゃなかろうか
41: 以下、
久しぶりに地の文上手い人来たな
気体
42: 以下、
 いつでも筆記できるように即席ラボのあらゆる場所にクリッピングしておいた付箋にさらさらと筆をすべらせる。
 なんとなく医学レポートっぽい感じを出したくてドイツ語にしておいた。特に意味はない。
 あ、万一フレちゃんに見られても平気なようにってのはあるか。
 フランスのお人形(なぜかマトリョーシカが1匹混じってた。露仏同盟かな?)に囲まれたベッドに近づいて、掛布団をそっとめくる。
 お人形に負けないくらいキレイでなだらかな曲線を描く体はきゅっと丸まっていて。
 本人曰く寝癖でなったというあざやかな金髪はこれ以上ないくらいぼさぼさで。
 チャームポイントのくりくりしたまんまるの瞳は窮屈に閉じられている。
 額に脂汗をじわりと滲ませたフレちゃんは今まで見たことない険しい表情をしていた。
 丸まった背中にそっと手のひらをあてて一定のリズムで上下にさする。
「はーい、フレちゃーんちょっと触診するねー」 
「う……」
 手のひらにこつこつとした硬い感触が伝わってくる。
「おーだいぶ背骨が浮き上がっちゃってるねー。よしよし、ダイエットはここまでにしておいて今日は流動食にチャレンジしてみよっかー」
 キッチンに戻って、コンロに火をつける。
 てってってーてってってってれー。
 突然ですが志希ちゃん3分クッキングのお時間です。
 本日は3分で誰でも作れる簡単お料理をご紹介します。
 まずは鍋に火をつけまして30秒。そのあいだにご飯を炊く準備をするふりをしましょう。
 そうしているうちに30秒たちましたね。
 はい、予め用意しておいたものがこちらのおかゆになります。おしまい。
「調理も調合も組み合わせて1つのものを作るって点ではまぁおんなじようなもんだよねー。あーでも真心なる非科学的な成分を込めれば不思議な化学反応を起こすってとこは違うのかな?」
 逆説的に考えればあたしの料理が通用すればあたしなんかにも真心があるっていう証明になるのかなー。
 それはなんだかちょっと興味あるなー。
 それじゃ早フレちゃんに検証してもらおっか。
 フレちゃんの華奢な体を抱き起こす。
 スプーンにほかほか湯気がたつおかゆをのっけて、蒼白い唇の近くまで運ぶ。
 
「はーい、あーん。どぅ、とろわー。なんちゃってー。フレちゃん今度このネタつかっていいよー、にゃはは」
 フレちゃんはあたしの手元をじっと見つめてからスプーンを口に含む。
 くっ、とおかゆが通り抜ける音が、か細い喉の奥で鳴った。
44: 以下、
 ん? どうかな?
 目で合図すると、一瞬、あたしとかっちり視線が合わさってすぐに逸らされる。
 あーもうそんなに床をみつめてもお金は落ちてることはあるかもしれないけれど幸せは落ちてないよーってのはあたしじゃなくてフレちゃんの語録。
 フレちゃんは、たしかめるようにお腹をさする。あたしは動作が落ち着くのを確認してからスプーンを持ちなおして。
 2口目。
 3口目。
 4口目で。
 途端。
 フレちゃんは口元を手で覆って、ぶるぶると体を小刻みにふるえはじめさせてから
「うっ……おぇ……」
 ぱたた、とパステルピンクのふかふかな絨毯にアンバランスな色合いの飛沫が散った。
 つんとしたにおいが鼻をかすめる。
 内容物(といってもほとんど半透明のスープのような酸性液だったんだけれど)を吐き出したフレちゃんは、体を痙攣させて、えづきながら生理的な涙を一粒落とす。
 少量の液体を吐いたあとでも、ひゅうひゅうとそれでも空気を必死に吐き出そうとする。
 嘔吐反応、かぁ。
 どうどう、今のはいちばん苦しい吐き方だねー。
 背中をさすりながら思考をこらしてみる。
 うーん、あたしの料理が吐くほど不味かったという楽観的すぎる結論はだせないなー。
 明日はヨーグルトにゼラチンを混ぜたりとかもうちょっと楽に食べられるものにしよう。
 
 ティッシュで拭き取って、くるくると丸めてお皿に乗せて立ち上がろうとすると、不意に手を掴まれた。
「ごめ、んね。シキちゃん、せっかく作ってくれたのに、おいしかったのに」
「一流パティシエのフレちゃんにそう言われるなんて光栄だねー」
「それに、よごしちゃって、ごめんね、ごめんね」
「あーいーよいーよ、白衣の替えはたくさん用意してきたし吐瀉物の処理は初めてってワケじゃないしー、まぁこれも医療行為の一環でしょー」
 吐瀉物の処理が手慣れてるJKってのも我ながらあんまりカワイクないなーって思うけど。
 ま、洗濯機の水道代と電気代をいただいてチャラにしておくねぇ、とフレちゃんに笑顔を向けてみせる。
 あたし別に全然気にしてないからさー、だからそんな顔しないでよ。
 そんなごめん、なんて何度も言わなくていいってば。
 いっそ、ごっめーん☆ フレちゃん汁でちゃったー。しるぶぷれー? なんてけらけら笑い飛ばして、文字通り溜飲を下げていただきたいんだけど。
 洗濯機に白衣を放り込んで、付箋に新しい文字を書きこむ。
 おそらく心因性による嘔吐・食欲減退・筋肉の緊張・背中の痛み、エトセトラエトセトラ.。
 あとはえっと、ヨーグルトってどのメーカーがいいのかな。
「ふむむ」
 あたしは医者でも調理師でも介護士でも心理カウンセラーでもおいかわ牧場経営主でもなく、人呼んでマッドサイエンティスト。
 ……でもなくて、そもそもあたしはおなじ“科学者”でもケミストの方なんだけど訂正する機会は訪れそうにない。
 だからまーあたしは付け焼刃で挑むしかないし、これからの展望を開けるほど知恵に明るくないのだけれど。
 ぼふっ。
 ソファに身をもたげて小さなちいさな溜息をひとつ。
「これは長期戦になりそうかなぁ」
55: 以下、
 フレちゃん観察記10日目。
 神経系用剤パキシル10mg。1錠。
 抗不安剤ソラナックス0.4mg。3錠。
 睡眠導入剤レンドルミン0.25mg。1錠。
 消化管運動促進剤ガスモチン5mg。3錠。
 投薬治療の影響かフレちゃんは起き上がってシャワーを浴びたりとか歯を磨いたりとかの必要最低限の生活はできるようになった。
 支離滅裂な会話(元々でしょ、という指摘はシツレーすぎるよ、きみぃ)は治まり今では簡単なコミュニケーションならとれる。
 あの一晩の出来事がよほど気になってたのか、あたしの顔を見るとごめんね、ごめんね、もうしにたいよぉ、しか言わなかった頃に比べればこれは月面着陸並の偉大な一歩。地球は青かった。あ、それ別の人か。
 そんな偉大なフレちゃんでもお外には一歩も出たがらない、んや、出られないが正しいかな。
 だから、お使いは徘徊癖、ごほん、お散歩が趣味のあたしにおまかせあれー。
「ふんふんふん」
 流行り廃りがはげしくて、日々目まぐるしく移り変わるコンビニの商品棚を眺めるのはキライじゃない。飽きないから。
 下調べしておいたブランドのヨーグルトを手にとって裏面をじっくり観察する。フレちゃんの身体に入るものに万が一があっちゃいけないから。
 だってフレちゃんはお薬の副作用とも闘うことになるのだ。薬が切れたときを考えて、負担をなるべくでも減らしてあげたい。
 成分に問題ないことを確認してから、買い物カゴに放り込む。
「ヨーグルトーチョコレートーポカリスエットー♪」
 それとバナナ。最近は固形のものもイケるようになった。
 うつ病にはバナナがいいらしい。それとできれば日光浴と適度な運動なんだけどそれにはまだ早いかなー。
 それにしてもバナナを食ながらうっきーって炎天下のジャングルを駆け抜ける猿にもうつ病があるっていうんだからおもしろいよねー。
 猿でもなっちゃうんだからフレちゃんでもなっちゃうよねー。いや、フレちゃんでもなるんだから猿でもなる? むむ、どっちだろう。
 そんなことを考えてたら、えーフレちゃんお猿さんと一緒? 宮本サルデリカ? なんて脳内のフレちゃんに怒られた。にゃはは、ごめんごめん。
 よーするに猿でもペンギンでもネコでもフレちゃんでも、もしかしたらあたしでも? 誰にでもなっちゃうかも知れないんだから仕方ないよねーって事を言いたいのだ。ま、そんな弁解でどうにか機嫌を直してよ。
 ふと、レジに向かう途中で新聞の一面記事の見出しが目にはいった。
 そこには随分と見覚えのある顔が掲載されていた。
 うん、まぁ、てゆーか、あたしだけど。
『レイジー・レイジー 大舞台でドタキャン! 突然の活動停止 その真相は』
 あーまぁそうなっちゃうよねー。これもまー仕方ない。
 少し興味が沸いたから新聞をめくって内容を追ってみる。
57: 以下、
 なになにー。
 お騒がせコンビがまたやらかした。一ノ瀬志希と宮本フレデリカの人気ユニット、レイジー・レイジーは先日報道陣の前で活動停止を宣言した。
 この2人の素行は兼ねてより問題視されておりそれが魅力のひとつでもあったのだが──。ちゅーりゃく。
 なおライブや記者会見に宮本は一度も姿を見せなかったことから宮本になにかしらの原因があるのではないかと専門家は指摘している。
 騒動ののちに、宮本は通っている短大に一度も出席しておらず学業に集中する、という名目は建前であるという見方が妥当だろう。
 ファンの一人は語る。「フレデリカちゃんは気分屋ですし、しばしば人の気持ちを考えてないんじゃないかという行動をとることがあります。その性格が災いして事務所や営業相手とトラブルを起こしたのでは」
 男性問題やユニットの不仲説も囁かれおり、真相はいまだ闇の中だ。なお事務所はいまだ沈黙を貫いてる。
 ふんふん。
 なるほど。
 好き勝手、書いてるなぁ。
 ファンのきみ、が本当かどうかは知らないけど。一言だけ。
 フレちゃんが気分屋なのは否定しないとして人の気持ちを考えない、という点に関してはいささか見当違いというものだ。
 フレちゃんは人を楽しませることに関してはとてもとても上手なのに、こと悲しませたり怒らせたりすることに関しては絶望的に下手っぴなのだ。
 あれはいつだったかなー。奏ちゃんに誘われてみんなで映画を観に行ったとき。チケットを買うときに窓口で奏ちゃんが学生3枚って言ったんだけど。
「えー奏ちゃん一般料金でしょー。年齢詐称はよくないよー」
 そんなことをフレちゃんが言ったものだから奏ちゃんが「高校生に見えなくて悪かったわね」ってそっぽ向いちゃったとき。
 もちろん拗ねちゃったフリで、本当はちっとも奏ちゃんは機嫌を損ねてなかったんだけどね。
 フレちゃんは途端にあれあれ、奏ちゃんもしかして怒っちゃったかなって、ひょこひょこと奏ちゃんの顔をのぞかせて。あたふたしてから。
「ねねっほらほら手品してあげるから機嫌直してよー。はーい手を出してー。握ってー。はい、奏ちゃんの手にいつのまにか飴玉がー。フレちゃんマジック?」なんて、とうとう奏ちゃんを根負けさせて吹き出させるまで粘ったんだよね。
 フレちゃんはみんなを上手にいじることはできるのに嫌がらせはできない、とても器用で不器用子なのだ。
 そんな器用で不器用なフレちゃんは、自分が心の病気だと知られることを何よりも怖がってる。
 症状を周囲に隠したがるのは典型的な心理傾向らしいんだけど、特にフレちゃんはその気持ちが強かった。
 せめて両親には伝えたほうがいいんじゃないのか、という事務所の打診にもけっして首を縦に振らない。
「心配、かけたく、ないから。パパとママに元気な、フレちゃん見せなきゃ」
 あたしはその言葉に対応する言葉を持ち合わせていなかった。 
 さ、帰ろっと。新聞をとじて、あえて一面が隠れるよう裏向きに置き直しておいた。
 これぐらいは18歳のふつーのJKがするささやかなイタズラとして大目に見ていただきたい。
 あたしが新聞を裏向きに置いたことでコンビニのお客さんの購買意欲が下がり新聞の売り上げが減って日々のノルマは達成できずに記者のおでこにデコピンが飛ぶ。
 風が吹けば桶屋が儲かる。バタフライエフェクト。かくして仕返しはフレちゃん本人も知らぬ間に実行されたのだ。なーんてね。にゃはは
68: 以下、
 フレちゃんはよく雨の日に体調を崩した。
 あたしは雨の日にしか発生しないペトリコールを嗅ぎたくて、わざわざ外へ出ることがある。
 人が生活するうえで発する色々なにおいが混ざり合って融けて、オゾンまで立ち昇って。
 そのにおいの集合体をまたあたしたちの住んでる世界まで落としてくれる雨はすきな方だ。
 それでも今だけは降らないで欲しいかな、って思う。雨はふつー人の心を沈ませるのだ。
 本日、あたしたちの地域でも180mlの降水量が観測。
 フレちゃんは牛乳瓶まるまる2本分の涙を流した。
「アタ、シ悲しくないはずなのに、なんでこ、んな悲しいんだろー……」
 
「にゃはは、悲しくないのに泣けちゃうなんてフレちゃんは千両役者だねぇ。きっといつかドラマに女優として抜擢されるよー。 ……あっ」
「ふっ……ぐすっ……どう、したの、シキちゃん」
 かちん。ドラマ。
 そのワードで頭の片隅に引っかかってた記憶のピースがたまたまハマった。
 そーだそーだ、そういえばすっかり忘れてたにゃあ。
 まぁ忘れるくらいだったらどーでもいいことなんだろうけど一度思いだしてしまうとそれはそれで気になってくる。
 月9のドラマの結末。
「フレちゃん気分転換にDVDでも観よっかー」
 それからあたしはDVDを借りてきて、プレーヤーにセットした。
 取りだすときに元々挿入されてたのはレイジー・レイジーのライブ映像。見せないように隠しておく。
 映像が始まる。フレちゃんはちゃんとストーリーを理解できているのかいないのか、ただひたすらぼんやりと画面を見つめていた。
 涙あり笑いありの活劇が終わる。
 熱血漢の主人公と心根が優しいヒロインの絆は幾多の困難を乗り越えて永遠になった。
 邪魔をしていたどこまでも利己的な悪役は成敗されましたとさ。めでたしめでたし。
 ふむむ。ありふれた王道とゆーやつだ。まぁ王道は人を惹きつける確固たる由縁があって王道なんだからべつに否定するつもりはにゃい。
 それでも。
 ふわぁ。欠伸がどうしても出ちゃったのはドラマが退屈だったせいなのか、最近は3時間くらいしか寝られてないせいなのか。
 ゆっくりと瞼が落ちてきて、意識の境界が曖昧になってくる。
 ぐっないしーゆーとぅもろー。
 おやすみなさいまた明日。まだ昼間だけど。
69: 以下、
 ──。
 生活自体にはこれっぽちも不満はなかった。
 海外の大学へ飛び級させるくらいの資金援助と教育を受けて、欲しがれば何でも与えてくれて。
 そんな裕福な家庭に産まれついておいて不満があるといったらそれはあまりに強欲というものだろう。
 きっとあたしは選ばれた揺りかごに託された子供だ。
 だからあたしは一度も文句を言ったことはないし、出自を呪ったこともない。
 それでもたまに、本当にまれに、どうしても思ってしまうのは、許されることなのだろうか。
 あたしはあなたの名づけた“希望を志す”という期待の通りに、あなたの志したあらゆる希望にもお応えしました。
 それなのに──。
「……キちゃん、シキちゃん」
 体を揺らされて、意識が戻る。ドラマはエピローグまでとっくに終わっていて、真っ暗な画面が映っていた。
 ありゃ、いつのまにかぐっすり寝ちゃってたかー。
 なにかとてもみじかい夢を見てた気がする。なんの夢かにゃ?
 そろそろデフラグが必要なごちゃごちゃっとした記憶を探してみる。まぁついつい整理ってし忘れちゃうよねーっていうかまぁ、したことないけどね?
 んん?、思いだせない。
 まぁ忘れるくらいならどーでもいいことなんだろうし、きっともう探してもなくて、探す気にもなれない。
「どしたのー、フレちゃん、暇になっちゃった?」
 眠気まなこを擦って、プレーヤーの電源を落とす。
 フレちゃんはちょっとでも楽しめたんだろーか。
「包、丁、どこにあるの。 シ、キちゃんどこかにしまった?」
「ん?」
「あたし、お菓子作り、したい」
71: 以下、
 侵略行為がほぼ完了していた即席ラボを片付けて、本来そうであるはずのキッチンのフォルムにもどす。
「フンフンフフーンフンフフー……」
 フレちゃんは鼻歌を混じらせながら、戸棚に封印していた包丁や野菜の皮むき器をずらりとステンレスの上に並べる。
 あたしは椅子を逆向きにして座って、ペンを利き手でくるくる回しながらフレちゃんの若干おぼつかない手つきを眺める。
 きっと、いい兆候なんだと思う。また趣味に興味を寄り戻すことは回復の兆しが少しでもあるということだし、お馴染みのフレデリカソングも久々に聴いた。
 なにより、フレちゃんのお菓子がまた食べられるのは嬉しかった。あたしは、もしかしたら手首に刃物が向けられるかも、という万が一のリスクを承知でフレちゃんに包丁を渡した。
 フレちゃんはアップダウンのある曲よりも、一定のペースで繰り返される音を好むようになった。
 自分の曲(き・ま・ぐ・れ☆Cafe au lait!)は心がざわざわして落ち着かなくなるといってから、一度も聴いていないみたい。
 フレちゃんはおなじ鼻歌をひたすらひらすら繰り返す。
「フンフンフフーンフンフフー……シキちゃん、な、に食べたい?」
「えーなんでもいいよーフレちゃんが作るものなら何でもおいしくぺろりとたいらげちゃうよー、あーでも脳に糖分が欲しいからとびきり甘いものがいいかな?」
 カフェ・オ・レを甘くして。なんちゃってー。
 
「うぅん……」
 フレちゃんは、ケーキナイフを手にとる、かと思えば首をかしげて代わりにフォークを握り直したと思ったらまた置いちゃったり。
 あれでもないこれでもないと確認するようにしながら作業を進める。
 あたしはいざという時のために左手だけは暇をつくっておいて、フレちゃんの様子をこっそりとレポートした。
 5時間かけて、小さなちいさなカップデザートが2つ完成した。
 もう夜だけど、3時のおやつということにしとこーか。カラメルのかかったふわふわの……。
「フレちゃん、これは焼きプリンかな、ブリュレかな?」
「ん、わかんない」
「そっかーわかんないかー。まぁどっちでもいーよねー、いただきまーす」
 スプーンですくって、とろとろした名称未設定の半固形物を口にふくむ。
 舌のうえでふるふる震えて、やわやわ溶けていって。
 味がじんわりと広がる。
 むむむ、これは……!
73: 以下、
「シキちゃん、どう、かな?」
「んー、前衛的だねー! 柔軟剤使った?」
 デザートの常識を覆すその風味!
 甘そうな見た目だけで判断するとケガするぜと言わんばかりに、鼻にモーレツな辛みが突き抜ける!
 フレちゃんは昨今の型にハマって小さくまとまりがちなパティシエ業界に対して挑戦状を突きつけたのだ!
 その野心に星みっつをささげよー! 以上が志希ちゃん審査員個人の判定。
 ふむ。ケミストの立場で判断させてもらうと「C12H22O11」と「NaCl」の配合が多分逆になってるねこれ。
 簡単にいえば、フレちゃんは砂糖と塩をまるきり間違えてしまったのだ。
 笑顔を浮かべながら前衛的デザートをまた口に含む。
 にゃふ。あたしの意志に反して体はどうしてもH2Oを欲しているみたいだ。
「アタ、シ」
 ぽたり、とフレちゃんのカップデザートに液体が落ちた。
「アタシ、どー、しちゃったんだろ、どーして、こんなんになっちゃったんだろー……」
 ぽたり、ぽたりと液体が落ちる。
「こ、んな簡単なお菓子作るのに5時間、もかかって、簡単に作れたはずなのに、なにも、わけ、わかんなくて」
 カップデザートに水たまりができる。
 涙の原料は血液と同じで。
 だから涙は透明な血液なんだと定めるとすると。
 フレちゃんはいま、大量の血を瞳から流している。
「お仕事もいけなくて、なん、でこんなあたまおかしくなっちゃったんだろー……」
 この病気はアーチを描くように治癒していくわけじゃなくて、振り子だ。
 感情の振り子が右へ左へと大きくおおきく揺れ動いていって、だんだん振り幅が少なくなって、ゆらりと止まる。
 普段とのギャップがある人ほど、振り幅は大きくなって、元気な自分と比較してしまい苦しむ、らしい。
「んーまぁいいんじゃなーい。今くらいはお互い休んでだらだらしよーよ。世界一の先進国のアメリカでは年々ヒッピーが増加傾向にあるっていうしさー、日本の労働時間は他国からすれば異常だっていうしさー、そもそもあたしたちレイジー・レイジーだしー、にゃはは」
「シ、キちゃんは、すごいなぁ、えらい、なぁ」
「すごい、えらい? なんで?」
「あたまがアタシの何倍も何十倍もよくって、なんでもできて……」
 うーん。そうかなぁ。
 人間性の優劣は別に知識の蓄積量で決まるわけじゃない。
 文字すら読めない愚者だと言われていた人間が川で溺れている見知らぬ子供を助けることもあれば、あらゆる知識を身につけたと言われる賢人が影では今にも餓死しそうな子供の前を平気で素通りすることもあるのだ。
 あたしはもし友達になるんだったら、前者の人のほうが面白そうだし楽しそうだ。
 なんてことを気まぐれに主張してみたら、それはシキ、きみが美貌も感性も頭脳もすべて兼ね備えた人間だから言えることなんだよ、強者の余裕というものさ、って、あだ名がある日からプレイボーイになったカレに言われたけど。
 フレちゃんは、涙がトッピングされたカップデザートを口に含んだ。
 あぁ、もうフレちゃん日本人はただでさえソイソースの摂取しすぎなんだからそれを食べちゃったら塩分過多でばたんきゅーってなっちゃうよ。
 む、フレちゃんはぼんやりとした表情を変えずに1口目を終えて、また2口目を口に運んだ。その無機質な行為に違和感。
「ねぇ、シキちゃん」
「……ん、なにかな?」
「これって、おいしいのかな、どうなのかな」
「どうって」
 それって久々のフレちゃんジョークかな、と言いかけて、やめた。違和感の正体がわかったから。
 あたしは食事中にゴメンねと心で謝りながら付箋にペンをはしらせる。
「シキちゃん、それなん、て書いてあるの」
「んーただのラクガキだよー。特に意味はにゃい、にゃはは」
 味覚障害。
 フレちゃんは味を楽しむという喜びすら完全に失っていた。
 あたしに真心があるかという検証結果は、まだもうちょっと先延ばしになりそうだ。
74: 以下、
これで半分くらいだと思います
もし深夜にまた書けたら
75: 以下、

地の文苦手なのに何故か凄く惹き込まれる
なんていうか凄い、凄いという感想しか出てこないぐらい凄い(語彙貧弱感)
81: 以下、
オーバーじゃなくうつ病になるとほんとにこんな感じになるからな
84: 以下、
 フレちゃん観察記35日目。
「ふんふんふん。リモネン、イオノン、リナロ?ル?」
 すっかり手癖になった特製ラベンダーの香りを試験管で合成する。
 もうなんの驚きも発見もないただの作業だ。
 それでもこのにおいが副交感神経を高めていることを期待して行為を続ける。
 と、指先がかすかにふるえて中身の液体がこぼれた。液体はじゅっ、という小さな音をならして気化する。
 あぶないあぶない。フレちゃんがもしまたお菓子を作りたいと言ったときのためにここはいつでも清浄にしておかなきゃいけない。
「む、」
 手のひらで額を受け止める。
 人間の脳は出口のない迷路に耐えられるように設計されていない。
 好調と不調を繰り返す、まるで目処の立たないフレちゃんの容体に、あたしの細胞はどうしても疲労を感じてしまっているらしい。
 それでも、明日も明後日もひとりだけのラボメンしかいないこの研究所を開業しつづけなきゃいけない。
 フレちゃんはきっとあたし以上の大迷宮で彷徨い続けているのだ。
 
 はた、と考える。
 あたしはどーしてフレちゃんの看病をここまで飽きずに続けてるんだろーか。
 もちろんフレちゃんはユニットのパートナーだけど、それとあたしの興味への持続性については安直に結び付かない。
 なんの意味も得られないかもしれない行為を楽しんでやるのはただのヘンタイだ。いやヘンタイごっこは楽しいけどね。
 ハスハスあぁもう生命の危機に瀕した生物から発せられるフェロモンを吸ってトリップしちゃうのたまんない?はぁ?ん?。
 うん、ゴメンまじめに考えよっか。
 
 事務所の危惧してることよろしくフレちゃんを人体実験して遊んでるんだろーか、あたしは。
 んー、たぶんちがう。
 昔から玩具を組み立てること自体にそれなりの愉悦を感じることはあったけど、生憎あたしには玩具をわざわざ分解して崩れていくさまを観察することに悪趣味な快感を覚えるようにはできていなかった。
 どんなに欲しがってたものでも完成させてしまえば、お宝もがらくたも等価値としか思えない。あたしの興味はぱったり終わる。
 まぁフレちゃんは玩具じゃないし、幸いに玩具扱いする気にもなれない。
 はて、それじゃあフレちゃんは、あたしにとってのなんなのかな?
 不意に、電話がなった。
 
 もしもし一ノ瀬です。現在この電話は所有者の気まぐれにより使われておりません。ご用件のある方はにゃーという発信音のあとに……。
 うそつけっ! というツッコミが電話口から聴こえた。
 にゃはは、事務所からの電話だってわかってたからふざけてみただけ?。いつもはちゃんと出るよ、ほんとほんと。
 
 電話の内容は、2人に何かあったんじゃないかとみんなが心配しているから、そろそろせめて顔だけでもだしてくれないか、という旨だった。
 
 ふむ、たしかに事務所に一度も姿を見せないのはとても不自然だ。そしてなによりもう1ヶ月以上も部屋に缶詰状態なのはすーぱー不健全。
 そろそろ気分転換に外に出ることを提案してみようかと思ってたとこだから丁度いい。
 無理ならいいんだけど、という前置きでフレちゃんにそのことを伝えてみると。
 フレちゃんは、こくりと頷いた。
85: 以下、
 ……。
 物事ってゆーのはなんやかんや勝手に収束していくもので。
 1ヶ月ぶりの事務所は、レイジー・レイジー活動停止騒動なんてのがあってもちゃんと何事もなく機能していた。
 まぁこの事務所を揺るがすくらいの影響力があるユニットがあれば見てみたいけど?。
 んにゃ、みんなが頑張ってくれてるから影響が少ないっていうべきかな。うん、ありがとー。
「ままっ、パパパッーと挨拶だけしてさ。多忙な学生っぽいスタンスとってとんずらしちゃおーよ。参考書でも抱えてくればそうっぽかったかなー、ね」
「あっ、う、うん。そうだね、あいさつ、あいさつ」
 フレちゃんは帽子を深々とかぶって、廊下のはしっこを選んで歩く。
 手は常に胸の前にあって、そわそわと組み直したりしてちっとも落ち着かない。
 強い不安を感じているときの動作。
 フレちゃんは自分の病気が知られることをとても怖がっていて、それでも宮本フレデリカのイメージ通りの姿を自分自身なのに維持できなくて。
「は、はーい。フレちゃん、だよー」
 無理やり形づくった歪んだ、笑顔のような何かだった表情があたしにだけちくりとどこかに刺さった、気がした。
 あらフレちゃんに志希じゃない。久しぶりね。また楽しめそうな映画を探してきたのだけれど一緒にどうかしら。
「あ、そ、そうだね。映画。映画いいよね。映画っていいよね」
 おー久々やん。団子食べる? いやーお2人さんがいなかったから事務所は寺みたく静かだったわー。
「あー、その、お団子、だけどごめ、ん。いまはちょっと。んーん。すき、なんだけど」
 げっ。じゃなかった、あはは、やっほー★ おっその帽子イケてんじゃん。それにしてもレイジー・レイジーはいつも突然ビックリするようなことするよねー。
「ごめんね、驚かせてごめんねごめんね、えっ、そんな謝らなくていいって、うん、ごめ、ん」
 あたしから見ればあきらかに異常だったフレちゃんの言動は、多少訝しがることがあっても誰もその正体には気付かなかった。
 仕方ない。そーゆーものなのだ。弁解するわけじゃないけど、あたしだって最初は気づけなかった。
 だれにもちょっとは落ち込むときはあるし体調が優れないときだってある。たんなる風邪だってなかなか見破れないものなのだ。
 ましてや脳内伝達物質が異常を起こしてるなんて、見破れるはずがない。本人が隠し通そうとしてるなら尚更。
 だから。
 先に断らせてもらうとなにも彼女は悪くないから責めないでほしい。
「おーお久しぶりですっ! 志希さんっ! フレデリカさん! 燃えてますかー! ファイヤー!」
 まるでその病気とは無縁そうな(という仮定はやっぱり取り下げておく)語尾にいつもエクスクラメーションマークをつけてる彼女が現れて。
 体育会系バリバリの90度のお辞儀をして。
「いやー学業に集中するために休養するなんて本当にお2人は立派ですねー!」
 ちょっと、いまのフレちゃんにはキツい言葉をかけたとしても、それは許してほしいのだ。
88: 以下、
美嘉の「げっ」は何だ?
レイジーレイジーが苦手だとか?
90: 以下、
>>88
デレステのコミュ由来じゃない?
95: 以下、
「どんなときでも一直線に全力アターーーーック! いいと思います! 元気があればなんでもできる! ド根性です!」
 あぁ、もう。
 だめ、なのだ。
 それはだめ。
「私は応援しますよーっ! 頑張ってください!」
 どこまでもポジティブに物事を考えたフレちゃんは。
 今ではどこまでもネガティブに物事を考えてしまうから。
 ちょっと今、フレちゃんは脳内でエラーを起こしてしまってるから。
「あれあれっ?! どうしたんですかっ! なんだかいつものフレデリカさんらしくないですね! イメチェンというものですかっ?!」
 「頑張れ」も「らしくない」もいけないのだ。
 フレちゃんはその言葉がいちばんこたえてしまうのだ。
 フレちゃんは精一杯、頑張ろうとして、らしくあろうとして。でもだめで。
 日野茜ちゃんの本来善意100%の励ましの言葉をうけて、フレちゃんの瞳が、肩が、唇が、心臓が、脳が、ぐらぐら揺れる。
 次の言葉がきっかけだった。
「フレデリカさんっ! 人と話すときはっ! 目を見て喋りましょうっ!」
「……っ……!」
 フレちゃんはぐらぐらの瞳に涙をいっぱいに溜めて、突然振り向いて駆け出した。
「私の燃える瞳……おぉっ?! 夕日に向かってダッシュですねっ!」
 これはちょっとマズいかもしれない。あたしもすっかり怠けきった体に鞭打ってフレちゃんの後を追おうとする。
 踵をあげる。ぐらり。重心が崩れて足がもつれた。
「にゃっ」
 廊下とにらめっこしそうになる。すんでのところで手をついた。
 あちゃー疲労のせいかー。どこまでもタイミングが悪いねー。
 体を起こすと、すでにフレちゃんの姿はなかった。
 それでも足を前にだす。廊下の角を曲がる。いない。
 むむむ、フレちゃんはどこにいったんだろ。
 フレちゃんを見かけたらあたしの携帯電話まで。番号は090……ぴー。こじんじょーほーほごほー。
 あたしが探すしかないか。
103: 以下、
「おぉ志希さんもランニングですかっ!? 青春ですねー! 頑張ってください! でも前に廊下は走るなって怒られたんで気を付けてくださいねーっ!」
 茜ちゃんの熱いエールを背に、走る度をあげる。
「にゃはっ、は、応援さんきゅー♪ 始末書書くのは慣れてるからだいじょぶー」
 んーあたしには「頑張れ」はちゃんと効いてる効いてる。
 ドーパミンにエンドルフィンどばどば出ちゃってる。
 ようやく事態を把握しつつある寝坊助な思考をフル回転させる。
「ふっ、ふっ」
 突き当りのエレベーターの前につく。使ったか使ってないか。確率は半分。
 多分、これは使ってない。
 こういうときにじっと待つ、という選択はふつーしない。じゃあ、階段だ。
 上か下か。確率は半分。
 1階まで下がって、外に出たんだったらまだいい。猶予はまだあるし、もしかしたらだれか止めてくれてるかもしれない。
 でも今のフレちゃんが人目につくエントランスを通り抜けることを果たして選ぶだろーか。
 階段を駆け上った。
 ふと、まっさきに最悪な状況を想定してしまった。
 あぁもうこの病気のその結末は15%から25%にもなるっていうけど。
 日本でその結末を迎える人の6割はこの病気だったっていうけど。
 それにしてもちょっと突然すぎやしないかな。まだ早いよフレちゃん。まだもうちょっとその確率の輪に入らないようにしようよ。
 てゆーかあたしが勝手に入らせなくしちゃうけど。
 このあたしの予想は、あたしの杞憂で終わってほしい。
 3階。最上階。
 いくつも部屋がある。この中にフレちゃんがいる確率は……。
 んや、もしかしたら。あそこかもしれない。あそこだったらかなり危機的状況かも。
 間違ってるかな。でももしそこに居たとして、あたしの予想をここで外してしまったら取り返しのつかないことになるかもしれない。
 
 もうその場限りの推測をいくつも重ねてしまったから、いる確率は低いかも……。
 違う。そこにフレちゃんがいるか、いないかで、確率は半分だ。
「ふっ……ふっ……」
 乳酸が溜まりきった筋肉を酷使して、もうひとつ階段を昇った。
 ダンスレッスンもしばらくやってなかったから、しんどいねー。
 鉄の扉を押しあけると、風が吹き抜けた。
 屋上。
 そこには。ぽつんと。
 帽子からかすかにはみ出た、天然モノのキレイな金髪が揺れていた。
109: 以下、
 フレちゃんは手すりに体を押しつけて、何もない空間を見上げている。
 背を向けているから表情はわからない。
「フレちゃんっ」
 強い風に声が掻き消される。
 だめか。それじゃあたしの次の一手は。
 最短距離で、ぽきりと折れそうなほどか細い背中めがけて走る。
 もう考えてる暇はない。フレちゃんの背中は目前まで迫っているから。
 状況的に、最善なのは。
 あたしは行動を選択した。
 手を腰に回して。
 背後から物理的に拘束っ。
 うっ、と小さなうめき声をあげてフレちゃんの体があたしに固定される。
 帽子がひらりと舞って、風に乗せられて飛んでいった。
「ふー、ふー、にゃ、にゃははっ。 捕まえっ、たー」
 よーするになんてことはない。ただのハグだ。
 しんぷるいずべすと。
 肩で呼吸して、鼓動を鎮める。どっくん、どっくんと、血液が体中を循環しているのを感じる。
 くらくらする。はーあたま全然回らない。思考にもやもやと霧がかかる。
「ここで、ふっ。ふっ、なにしてたのかにゃ?」
「アタシやっぱりぜんぜん、だめだなぁって思っちゃって、こんなんじゃシキちゃんも飽きさせちゃうし、みんな、にも迷、惑ばっかかけちゃってて」
「ふーっ、ふーっ」
 どっくん、どっくん。
「こんなつまんないアタ、シもう、消えちゃった、ほうが……」
 いま、言葉の選択を失敗するわけにはいかない。
 あたしは鈍いあたまで、慎重に言葉を選んで、言った。
「ふー、フ、レちゃんには、居場所ちゃんとあるよー」
「えっ」
 どっく、どっく。
「フレちゃんは、友達いっぱいだねー。久しぶりにみんなの顔見て、どう思った?」
 あたしらしくないなぁって思う。
 今日のみんなに悪意がこれっぽっちも混じってないことを勝手に期待している。
 あたしにあるかわからない、不確定要素をみんなに求めている。
 しかたない。書物に書かれている知識なんて、いざというときには役に立たないものなのだ。
 シキ、きみは黒板一枚とチョーク一本で世界の理をすべて解き明かせるんじゃないかってセリフはプレイボーイなカレが言った、あぁきみちょっと出しゃばりすぎだよ、しーゆーねくすとあげいん。もうないとおもうけど。
 あたしにもわからないこと、いっぱいあるってば。一瞬、ダッドの後ろ姿が脳をかすめた。
「みんなは、きっと久々にフレちゃん見てね、喜んでたよー、」
 あたしが土壇場で試したのは、解明できない善意なんてのが、きっと人の心に届く。なんて楽観的な観測だ。
 真心なんて非化学的な成分がフレちゃんの心で反応を起こすことに賭けてみたのだ。
 他にあたしが今できることはハグをすることによってβエンドルフィンが多幸感を与えてくれるのを実証してみるだけ。
「フレちゃんは、久々にみんなの顔見てどう思った?」
「……」
 とっくん。
 とっくん。
 とっくん。
110: 以下、
 風がめいっぱい通り抜ける。
 もう帽子の行方はわからない。
 いっぱいいっぱい時間を溶かしてから。
 ようやくフレちゃんは、ぽつりと呟いた。
「……嬉しかっ、た。みんな、やさしいなって。また会い、たいなって」
 とくん。
 その穏やかな声を聞いて、あたしの鼓動がようやくおさまる。
「そっかー、それじゃあたしのラボにまた明日も来てくれるかにゃ? てゆーかフレちゃんの部屋だけどねー」
「……うん、アタシ頑張って、この病気、治すね」
「フレちゃんー別に頑張らなくていいんだよー。なにせレイジー・レイジーだしー。まーゆるーく地に足つけてやっていこーよ」
「ちにあし?」
「にゃはは、なんでもない」
 ほっ。
 あたしの予想は杞憂で無事に終わってくれた。
 もしかしたら、適度、というには激しすぎる運動と日光が効いたのかもしれない。バナナはないけど。
 それともただ単に、振り子がたまたま好調の方向に揺れてただけかもしれない。
 とにもかくにも。
 あたしのフレちゃん観察記はまだもうちょっとだけ続きそうだ。
125: 以下、
 その日をきっかけに、フレちゃんの世界がほんのちょっとだけ広がった。
「んしょ、シキちゃんこれ、捨てていいのー?」
「ん、あーいいよ、いいよー。それただの劇薬指定物だから。にゃはは、じょーだんじょーだんっ。ただの無水カフェインの空箱?」
 ま、フレちゃんが万が一飲まないようにもう服用してないけどー。
 フレちゃんのピンキーでキュートな部屋の比率が大分メディカルチックでサイテンティフィックなものに傾いてたころ。
 フレちゃんは掃除も洗濯もするようになった。とてもゆっくりな動作だったけれど、フレちゃんの手によって部屋の比率が変わっていく。
 物事に興味を持てるようになってきたのだ。ちょっとずつちょっとずつ。
 つたなかった呂律も回るようになってきた。
 おかげであたしの即席ラボの研究時間も増えたし、お昼寝もそれなりに自由にできるようになった。
 ベランダでは純白の白衣がからりとした日照りのなか揺れている。ゆーらゆらー。ゆーららー。
「シキちゃん、これはー?」
「んっ?」
 暇つぶしに揺れる白衣に万有引力をかこつけてたら、フレちゃんの声がして意識を空想から引き戻す。
 フレちゃんは、ぼろぼろになった立方体を握っていた。ところどころ色褪せて、欠け落ちたカラフルな立方体。
 それはールービックキューブだね?
 あたしが手当たり次第にテキトーにキャリーバッグに放り込んだ私物のなかに、フラスコとか顕微鏡とかメスシリンダーとかそんなものに、たまたま紛れ込んでただけの玩具。
 別に、ただそれだけの物だった。
「こんなにぼろぼろに、なるまで持ってて、大切なものなんだねー」 
 ふむ。そう言われて考える。
 あたしはその遊戯にとっくに飽きていた。パターンは全部解析を終えている。
 今なら物理的な制限がなければ1秒足らずで完成させられる。
 構造がわかったものは、あたしにとってもう玩具の役割をなさないのだ。
 じゃあなんでわざわざ持ってたんだろーね。
「それさー、フレちゃんにあげるよ。あたしもうそれに飽きちゃってるしー」
「えっ、いい、の?」
「ホントホント。ウソのにおいはしない、ホントの話?」
 ふと、まっさらな白衣にピンク色が混じっていることに気づく。
 よく目をこらすと、花びらが付着していた。桜の花だった。
 そっかー、もうそんな季節かー。
「フレちゃーんお散歩でもしよっかー」
「……うん」
 フレちゃんの世界はちょっとずつ、ちょっとずつ広がっている。
126: 以下、
 無造作に落下していく桜の花びらを眺めて、うぐいすの鳴き声を遠くに聴く。
 よきかなよきかな。ふーりゅーってやつだね。
 2人して誰もいない公園のベンチに座って、だらだらと時間を溶かす。
 んーアイドルやってる時はこんなに休まるときってあんまなかったからこれはフレちゃんからのプレゼントかなー。
 人は花を視覚野で認識すると自然と落ち着くっていうし効能があるといいなー。
 ちらりと隣をみやるとフレちゃんはルービックキューブをかちゃかちゃといじっていた。
 たまに視線が宙に浮いてわぁと呟いたら、それは鳥や桜の花を追っている合図。
 にゃるほど。フレちゃんの処理能力はだんだん正常に戻りつつある。
 ひどかったときは、躓いてベーキングパウダーを床に撒き散らしちゃったときに、あたしが帰ってくるまでひたすら指で無数の粉末を拾っていたくらいだ。
 目の前ひとつだけのことしか認識できなくなった能力が、また開花していってる。
「しき」
 ぽつりと、あたしは呟いた。
「日本人ってねー四季と共に生きてるんだってー。志希ちゃんじゃないよー」
 安らぐここちよいにおいを嗅ぎながらつづける。
「春になったら桜が散るでしょ、それから紫陽花が咲いてー向日葵が伸びてー紅葉を踏んでーそんで冬になればぜーんぶ枯れちゃって」
 ひらひらと花びらが舞う。
「だからね、そんな四季の変化を常に意識して生きてるから日本人はとっても繊細にできてるんだってー。半分おフランスなフレちゃんもちゃーんと和風だったんだねー」
「ん、えと、シキちゃんそれなんていうだっけ。わようせっちゅう?」
「あーそうそう言いなればそんな感じ! 和風スパゲッティ! 日本式カレー! ジャパニーズスシ!」
 あたしの言葉にかるく頷いてから、フレちゃんはルービックキューブを同じ箇所でかちゃかちゃと回転させる。
「シキちゃん、シキちゃんこれ難し、いね」
「んっとそこのね、緑色を右に動かすといいよ」
 フレちゃんは、指先をじっと見つめたあとに見当違いの方向に回転させた。むむ。
「にゃはは、そこじゃないよー。それじゃその青色を上に向けよっか」
 フレちゃんはひたすら迷ってからまた別のピースを回転させる。
 ……そっか。
 そっかそっか。わかった。
 フレちゃんは青と緑の区別がつかなくなってるのだ。
 色覚異常。
 それじゃフレちゃんの瞳には、いま景色がどんな風に映ってるんだろう。
「春は眠くなる。猫は鼠を捕る事を忘れ、人間は借金のある事を忘れる。時には自分の魂の居所さえ忘れて正体なくなる、かぁ」
「えっ、シキちゃん、今なんていったの?」
「んーん、何でもない。吾輩は猫である、にゃはは」
 フレちゃん。音を拒んで、味を忘れて、色を失って、外を恐れて、そんなきみは果たして本当にフレちゃんなのかな。
 フレちゃんのはずなのにね。どうしてこうなっちゃったんだろーね。この病気を抜けた先になにが残るんだろーね。
 なんて考えてしまうあたしは、大分春のセンチメンタルにやられてしまったみたいだ。
127: 以下、
志希大丈夫か……?
130: 以下、
フレちゃんを支える志希にゃんを支えてあげたいだけの人生だった……
131: 以下、
>>130
そこは多少見栄張っても両方支えとこうぜ
132: 以下、
これ読んでると看病って大変なんだなーって思う
色々とためになるSSだ
133: 以下、
下手すると自分も引っ張られるよな
137: 以下、
 ナルコレプシー。フレちゃんは最近電源が落ちたように突然眠りにつくことがある。
 不眠症でいつも目のしたにクマを滲ませてたころから一転。一度眠ったらお日様が隠れるか出てくるかまで眠り続ける。
「くしっ」
 そうそう。こんな感じで花粉で鼻水が出るように防衛反応が働いているのだ。フレちゃんのなかで。フレちゃんはいま、フレちゃん自身と必死に闘っている。
 フレちゃんの振り子は確実に幅がちいさくなっている。あたしのラボもそろそろ閉業の準備をしなきゃいけないようだ。
 さて、フレちゃんの眠る時間が多くなって、あたしが部屋に入り浸る必要がその分減った。
 だからあたしの自由時間はぐっと増えたわけだけど、いざ暇を出されるとそれはそれで持て余す。
 
 適当に外をぶらぶらして蝶々を追っかけてみることにした。
 なにか刺激的なことを探したい。なんでもいいのだ。あたしの興味が数分でも満たせれば。
 蝶々を追っかけてたらいつのまにか事務所の近くまでたどり着く。うーん、美嘉ちゃんのにおいでも嗅ぎにいこうかな? ハスハス。
 ふと、目の前の車から見知った顔が現れた。ありゃ。藪から棒だね。棚から牡丹餅だね。
「一ノ瀬くん、か……」
 なんて、そんなおだやかなもので済まされなさそうだけど。
 ライブでお会いしたレイジー・レイジーのプロモーターさんだった。今回は体裁を取り繕うつもりもないらしい。
 恵比寿さまはどこかでお昼寝。いきなりあたしをこわい鬼のお顔で睨みつけてくる。
「あの日は私の面子に泥を塗ってくれてどうもありがとう。おかげで君たちに見切りをつけられたよ」
「……その節はご迷惑を」
「君たちにふさわしいステージを今までわざわざ用意してやったのにな」
 べつに、彼を責めるつもりなんてこれっぽっちもない。
 だってあの日フレちゃんを無理してステージにあげてしまったのはあたしも同じだから。
 ただ認識していてくれれば、それでもうよかった。あの時どうなっていたかを認識さえしてくれればそれで十分だったのだ。
「宮本くんは、うつ病だったそうだな」
「……はい」
「そうか、うつ病か」
「……」
「ふざけるのも大概にしてほしいものだ。このままだと私のほうが病気になりそうだよ」
「……」
「まったく迷惑千万だ。そもそも最初から宮本くんのウソだったんじゃないか。病気だか何だかいってただ怠けたいだけだろう」
「……」
「まぁそれはいい。しかしだ。本当だとしたら宮本くんはもう使い物にならんな」
「……」
「精神を病んだ不良品のアイドルなんて、一体どこのだれが使いたがるんだ」
「……」
138: 以下、
「それでは失礼。せいぜい頑張ってくれたまえ」
「……」
 そう言って、背を向けてあたしの元から去ろうとする。
 別に病気の見解について意見を述べるつもりなんて毛頭なかったし。
 レイジー・レイジーが私的な理由であの日に穴を開けたのは事実だ。なんてマジメちゃんな思考回路は元々してないけど。
 彼の言い分はごもっともだし、ある程度予想もしてた。だからどんなこと言われてもまーしょーがないっかーで済まそうとは思ってた。それでよかった。
 それでよかった、はずなのになぁ。
「あのさ」
 あたしの声に気付いて、なにかね、と振り向く。
「ひとつだけ、聞いておきたいんだけどー」
「なんだその口の効き方は!」
 苦手な、においがした。
「お子さんさ、いるでしょ。別のプロダクションでアイドルやってる。あたしも喋ったことあるんだけどねん」
「……それがどうした」
「もしさ、その子がさ」
「……」
「ある日とつぜん、性格が180度変わっちゃってさ、元気いっぱいだったのにいきなり、しにたいって言い出してさ、ご飯も食べられなくなっちゃって、好きだったものも嫌いになっちゃって」
「……」
「なにもかも別人になっちゃって。もしそうなったらさ。さっきと一緒のことが言える? それだけ聞ければ満足なんだけどさー」
 プロモーターはあたしをしばらく見つめたあとに。
 ふん、と鼻を鳴らして言った。
「うちの娘はそんな弱い人間に育てた覚えはない。心配はいらんよ」
 それだけ言って、去っていった。
 あたしがたまたま掴んだこの手の業界人にはひとつやふたつはある黒い噂。
 あの子さ。言ってたよ。
 パパが浮気ばかりして、とても悲しいって。
 ……。
139: 以下、
 薄闇のなか、手元だけをライトで照らす。
 うーんあの日はほんとに突然だったなぁー。ピンクの棚からおそろいの試験管をふたつ取り出す。
 書斎の重みで家がぎしぎし言い始めたころだっけ。専門誌に載った論文の数が肩を並べたときだっけ。
 スプーンに銀色のアルミ箔をくるくると包む。次はこれを読みなさい。きっともっと知恵に明るくなるよ。
 そういって分厚い本を渡されることもあれば、あたしが自分からねだることもあったんだけど。
 本を一冊読み終えたら、また次の本を渡される。それを繰り返した。何度もなんども繰り返した。
 マッチに火をつけるとぽうっと淡い灯りがともる。
 学者というのはみんな変わり者なんだろーか。
 それとも一ノ瀬のDNAが特別そうさせるんだろーか。
 アルミ箔を巻いたスプーンに薬品を乗せる。ちりちりと火で炙る。
 固形物はどろりと形状を変えて液体へ。
 前触れもなく、ある日突然言われた。 
 私がお前に教える知識はもうなにもない。
 教えることがなにもない父親はそれはもう父親じゃない。
 だから当分会うこともないだろうし、これから会うこともないだろう。
 試験管に熱したどろどろの液体を流し込む。もう片方の試験管には別の冷えた液体を。
 志希。親とはぐれて暮らすのに寂しい気持ちはよくわかる。なにせこないだオリバーツイストを読んだからね。
 そう言い残して大きなバッグひとつを抱えてふらりと消えたダッド。
 試験管を傾ける。ふたつの液体が今にも触れようとする。
 あたしはあなたの名づけた“希望を志す”という期待の通りに、あなたの志したあらゆる希望にもお応えしました。
 それなのに。
 どうしてそんな目で見るの?
 ぱりん。試験管が割れた。
「あちゃー実験失敗かー」
 こぼれた液体をクッキングペーパーでふき取る。
 ごめんねークッキングじゃないけど活用させてねー。
「シキちゃん……」
 声がして振り返ると、フレちゃんが暗闇のなか立っていた。
 今の音で起こしちゃったかにゃ?
「シキちゃん、血! 血出てる!」
 えっ? あぁよく見れば割れたガラスが指に突き刺さっていた。
 遅れて、じくじくとした鈍い痛みがやってくる。
 まー大した怪我じゃないからだいじょぶだいじょぶー。止血すればヘモグロビンが頑張ってすぐなおる?。
「ねーフレちゃん。人ってさー不思議だよねー」
「えっ?」
「だってほんの数種類しかない血液をさー他人にまるまる入れ替えちゃっても人は平気なんだよ。血液だけじゃないよー臓器とか最近では脳移植とかもあるしさー。部品だけなら人はいくらでも人の代わりになれるんだよ」
 ぽたぽたと滴る血液を眺めながら、つづける。
「なのにさーなんで他人の心だけは簡単に分からないように、こんなに複雑に設計したんだろーね。志希ちゃんそれがとっても不思議?」
 ましてや半分も同じ血が流れてる人でも、ねー。
140: 以下、
 それからフレちゃんの容体は順調に回復していった。
145: 以下、
 「シキちゃん、今まで本当にありがとね」
 ぺこりとお辞儀をひとつ。桜がすっかり散ったあと、フレちゃんの投薬治療はひとまず終わった。
 あとは精神的な不安をとりのぞくことがなによりの治療、だそうだ。
 フレちゃんは喜怒哀楽の“喜”がすっぽりと抜け落ちてる点を除けば、ぱっ見では発病前とそれほど変わらないようにも見える。
 
「ねぇシキちゃん、あたしね。この病気になって考えたことがあるんだ」
 そう言って、フレちゃんは頑張ってあたしと目を合わせようとする。
 それもまたなんだか妙だけどとにかくフレちゃんは日常生活に戻るのにささやかなことにも、ささやかな努力が必要なのだ。
「ずっと前にね、ペンギンは大昔はお空を飛べたって言ったよね」
「あーうん骨格とかから考えてもそれが定説になってるかなー」
「それとペンギンもあたしと同じ病気になるって言ったよね」
「うんうん」
「それじゃね、ペンギンってお空を飛びたくて、それなのに飛べなくて悲しくてうつ病になっちゃうことってあるのかなぁ?」
 む、むむ。久々に聞いた。宮本フレデリカ理論。
 果たしてそのこころは?
 さてはて、あたしはどういう答えで挑むべきか。すこし考えてから言った。
「……ペンギンってさー人鳥ともいうらしいよー」
「じんちょう?」
「人間みたいに二本足で立ってるから人鳥」
「あー」
「鳥なのに二本足で立って重力に逆らって、だけど鳥なのに飛べなくて重力に縛られてる。そんなジレンマを人みたく、もしペンギンが感じてるとしたら有りえるのかもね?」
「そっかーじゅーりょくかー」
 ふーむ。こんな回答でフレちゃんはご満足いただけたのだろうか。ぼんやりと斜め右方向。窓の向こう側の空を眺めるフレちゃん。
 しばらくしてからフレちゃんは何かの思考が固まったのか、きゅっと拳を握って言った。
「ねぇアタシね、パパやママやみんなにうつ病だってこと話そうと思うんだ」
「……いいの?」
 それはフレちゃんがなによりも怖がってたことで。
 人に心配をかけることに慣れていないフレちゃんにとってはどれほどの勇気がいることなんだろーか。
 あたしがもう一度いいの? って聞くとフレちゃんはゆっくりと頷いた。
「フレちゃんね、もう大丈夫、だよー」
146: 以下、
 ……。
 事務所から電話がかかってきたのはそれから間もなく。
 用件があるから一ノ瀬だけ来てくれ、って今さらどんなかしこまった話があるのかにゃ?
 事務所への道を歩きながら考える。
 んー十中八九、アイドル活動の復帰に向けての話だと思うけど。まだまだ課題は多い。
 まずはレイジー・レイジーへのバッシング問題。
 休業理由について今まで沈黙を貫いていたせいで話に尾びれどころか背びれや胸びれまでがついてすいすいとネットの海を泳ぎまわってる状態だ。
 おそらくフレちゃんはこれからファンにも病状を発表するんだろーけど。
 ファンには受け入れられるんだろーか。ファンは、病気になった宮本フレデリカを受け入れてくれるんだろーか。
 そしてなによりかにより、フレちゃんはまだ病気が治ってない。
 突然、とてもとても悲しいにおいを発して体調を崩す。
 そのときフレちゃんに理由を聞いてもなんでもないよーとまた笑顔のようななにかの表情をする。
 なにかあるのだ。だれにも言えないフレちゃんを悲しませている、とりのぞかなきゃならない原因が。
 気づけば指定された部屋の前まで辿り着いていた。
「にゃっふっふ?♪ 呼ばれて飛びてて志希ちゃんだよ?あたしの堪え性的に3分しか居られないからそこんとこよろしく?」
 まぁ座ってくれ、と促される。見ればあたしを呼んだトレーナーちゃんはなんだかとっても神妙なお顔。
 ありゃりゃ。テンション間違っちゃったかにゃ?
 トレーナーちゃんはごほん、と咳をひとつして言った。
「さて、今回呼んだのは復帰の件なんだが」
 ビンゴっ。ふんふんふん。
 あたしは用意していた回答を頭の引き出しから取り出す。
 まぁまぁもうちょっと様子見だねー。
 自然治癒をまつだけじゃなく、原因を解明して対処法もじっくり考えとくからさー。
 なんて考えていたあたしの脳内台詞はすぐになんの役にも立たなくなる。
「もし宮本がアイドルとしてまたやっていく意志があるのだとしたらレイジー・レイジーは解散したほうがいいと思う」
 ……。
 にゃ?
147: 以下、
 トレーナーちゃんは歯切れの悪そうにつづける。
 あたしは思いのほか冷静にその言葉をひとつひとつ噛みしめるように聞いていた。
「あのプロモーターの要求の手前、なかなか断れなかったというのもあるんだが」
 ……。
「宮本にはな、お前とユニットとしてやっていくにはまだレベルが高すぎたんだよ」
 あー……。
「前々から宮本には言っていたんだが一ノ瀬には黙っていてくれと──」
 あ、あー。
「──でもまさかこんなことになるなんて──」
 なるほどなーるほど。
 合点がいった。
 なんて滑稽なんだろう。
 あたしだったんだ。
 原因は、なんてことない。あたしだったんだ。
 思えばフレちゃんはライブのときだって、屋上のときだってシキちゃんを飽きさせないようにって。
 こんなんじゃシキちゃんを飽きさせちゃうって。いつもあたしのことばかり気にしていた。
 楽しませることは上手なのに、人を悲しませることは絶望的に下手っぴなフレちゃんは。
 台本でもダンスでも刹那で覚えてしまうあたしを見ていて。あたしを退屈させないでね、なんていつもいっているあたしを見ていて。
 きっとだれにも悟られないように無理をして笑って、それでも際限なくあがっていく要求に、無意識下で少しずつ少しずつ負荷がかかっていって。
 それで、ぱんと空気が限界まで張りつめた風船が弾けるように、フレちゃんはこわれた。
 あたしはあたしできみだったら、なんてきっとどこかで思ってしまっていたのだ。
 あたしをいつも退屈させない、読めないきみだったら、もしかしたら、なんて。なんて。なんて、愚かなんだろう。
 ギフテッド。
 神様があたしに気まぐれに授けた圧倒的な才能は、科学技術をほんの数歩だけ進めたかもしれない。
 だけどあたしが存在するだけでその才能が周りの人間を深く傷つけてしまうんだとしたら。
 もしあたしがギフテッドじゃなかったら、名前を聞けなかったあの子をランチに誘えたんだろーか。
 もしあたしがギフテッドじゃなかったら、ダッドは子供の頃のようにいつまでも褒めてくれたんだろーか。
 もしあたしがギフテッドじゃなかったら、フレちゃんは──。
 なんてね、そんなこと、だれにもいうつもりはないけど。
──あんたさえいなければ、あんたさえいなくなれば……。
 あたしは、きっと人に理解なんて求めてはいけないのだ。
「──というわけでこちらもこんなことが二度とないよう対策を講じているから……どうした、どこに行くんだ。一之瀬?」
「なんかさー、ぜーんぶ飽きちゃった。なにもかもどーでもよくなっちゃった。ちょっとやることあるから早退するねー。にゃはは」
 飽き性なあたしからすれば途方もなく永く思えたフレちゃん観察記もこれでおわる。
 ごめんね、フレちゃん。
 苦しめてたのは、あたし。
 救われないのは、あたしのほう。
 狂っていたのは、あたしのほうだったんだね。
148: 以下、
次回更新で完結(予定)
最後まで好き勝手書きます
153: 以下、
おつ
ようやく見つけた飽きないものを無意識にいじくりすぎた結果って感じなのかね
やるせねえな
154: 以下、

つらい
天才しかわからない孤独ってやつだな
157: 以下、
乙乙
ハッピーな方のジーニアス呼んでくるか
167: 以下、
 一週間後、旅行に行くといってバッグに荷物を詰め込んだ。
 あたしがフレちゃんの部屋に遺した痕跡は思ったよりも多く、ぱんぱんにふくれたバッグは過ごした月日の永さを物語っていた。
 フレちゃんはそっかー最近どこにも行けてなかったもんね、ごめんねーといって、かつての日課だったお菓子作りにチャレンジしていた。
 視線は一回も交わることはなかった。
 フレちゃんが目を合わせられなかったんじゃない、あたしが目を合わせなかったからだ。
 また荷物を取りにくるねといって、久々に自分の部屋に戻った。一息ついてからペンを握る。
 これまでの延長なんだ、と思うことにした。
 あたしは今までそうやって生きてきた。
 海外留学なんてしないで、優遇するからうちの学校に残ってくれないかとせがまれたときだって。
 一世一代の実験を行う、協力してくれるなら有力なポストを用意してあげないこともない、と遠まわしな援助要請がきたときだって。
 きみは科学における時代の寵児なんだ、なのにこの大学を辞めるなんて、損失に対してどう責任をとるんだと泣きつかれたときだって。
 あたしはどこにも定まることはなく、自分勝手にふらふらと放浪してきた。
 アイドルだって、その通過点のひとつなんだ、と思うことにした。
 一週間が気づけば過ぎていて、目薬を何本もさしながら完成させた置き土産をもって事務所へ向かう。
 さてはて、これをどこに置いておくべきか。
 決まった曜日に使用するロッカーにこっそり忍ばせておけばいずれ誰かが発見してくれるだろーか。でもこれだけは確実に渡しておきたい。
 それじゃ誰かに預けておくべきか、だとしたら奏ちゃんとかはダメだ。あの子は非常に察しがいい。ほんの1日だけ時間稼ぎができればそれでいいんだけど。
 ふと、視線を感じた。むっとするほど熱量が込められたとてもとても熱い視線。
 それに加えて、今回はたっぷりの湿気も混じっているようだ。かっかしててじめじめしてる。言うなればスチーム。やかんだねー?
 振り返れば、燃える瞳をひどくうるませた日野茜ちゃんがあたしの背後に立っていた。そして。
「あっあのっ! すっ、すいませんでしたっ!!!」
 90度の体育会系のお辞儀をさらに曲げて、茜ちゃんは全力投球で謝罪の言葉を盛大に吐き出した。
 ……ん、ん。なにかな、いきなり。まぁなんとなく予想はできるけど。
 茜ちゃんは鼻をぐずぐずと鳴らして、つづける。
「事務所の人が話してるの、聞いてしまったんですっ……! フレデリカさんがっ……! フレデリカさんがっ大変なことになってるって……! けっして言っちゃダメな言葉があるって……!」
 嗚咽を混じらせながらつづける。
「なのにっ、私あのとき何も知らないでっあんなこと……! ど、どどどどうしましょう……!」
 男泣き、といったらシツレーかなぁ。水たまりができそうなほどに滝のような水滴を目から落とす茜ちゃん。
「かくなるうえは……スポーツマンシップに乗っ取って……切腹しますっ!」
 いやいやどうしてそうなるのかな。ブシドーには乗っ取ってるかもしれないけど今は平成だよ。自害は現代スポーツの観点からみればかなりルール違反だよ。
 えぇ、切腹ってスポーツじゃなかったんですか?! ってきみは一体なにに影響受けてそういう結論になったのかな?
「とにかくっ……自分で自分が不甲斐ないですっ……!」
 ……。
 ちゃーんと人のために涙を流せるきみはきっととてもまっすぐで。
「茜ちゃん、きみさー月9のドラマの主人公になれるよ」
「はっ、はいっ?!」
「よしよし、きみに託したー。はい、これ」 と、置き土産を手渡す。
「うっうわっ、なんですかこれっ?! お、重いですっ! それになんだか文字がいっぱいなんですが……!」
「大丈夫大丈夫、猿がうつ病になってもいいように猿でもわかるように書いたから?だれでも読める?もちろんきみでも読める?」
 1週間で行ったこと。あたしがこれまでレポートしてきたフレちゃん観察記をすべてまとめて論文として体系付けた。
 あたしの頭脳はすべてここに詰め込んだ。この研究成果が、まるまるあたしの代わりになる。これであたしは必要ない。
 そういえば、はじめて暇つぶし以外の目的で論文を書いた気がする。
 願わくばこの研究が後世の病理の礎とならん、なーんてらしくないおまじないをこっそりかけておく。んーなんとなくそれっぽい感じになったかな。
「あのさ、その代わりになんていうわけじゃないけどさ、これからはさ、みんなでフレちゃんを支えてあげてね」
 茜ちゃんはぽかんと口をあけてから、それからしばらくして。
「……はい、もちろんです! だってみんなフレデリカさんがだいすきですから!」といって笑った。
 よかった。これで心配事がぐっと減った。天秤にかけた結果だ。
 あたしが存在することで得られるメリットよりも、存在しないメリットが今回は優った。
 ただそれだけのことだ、と無理やりにでも思うようにした。
 帰り路にポストに「レイジー・レイジーの休止理由はすべてあたしのせいにしてほしい」とだけ書いたハガキを放り込んだ。
 別にヒロイックな気分に浸りたかったわけじゃない。
 あたしに対しての評価がどうなろうと別段興味はなかったし、このほうがみんなにとって都合がよかったから選択しただけ。
「ふぅー」
 これでおしまいっ。
 あとは、邪魔をしていたどこまでも利己的な悪役が消え去るのみだ。
169: 以下、
 最後に荷物を引き取りに、フレちゃんの部屋に向かった。
 必要なものなんてひとつもなかったけれど、この際きれいさっぱりあたしを忘れて欲しかった。
 フレちゃんはピンクのエプロンを腰に巻いて、チョコレートムースを作っていた。ぺろりと味見をすると、ちゃんと甘い味がした。
「にゃはは、ごめんねーなんだか突然温泉にでも行きたくなっちゃってさー自由を求めるもの志希ちゃん?」
「フレちゃんの分まで楽しんできてねー」
「……」
 きみには、なにも知らせずに行くから。
 何もかも放り出して突然いなくなるあたしをフレちゃんは恨むだろーか。
 わからない。フレちゃんに対してはなにもかもわからなくなる。でも最後に確認したいことがあった。
「フレちゃん、ハグしよっか」
「ん、はぐー?」
「うん」
 水道で手を洗ってエプロンで水気を拭き取ってから、はい、とフレちゃんは両手を広げた。
 そっと背中に手を回す。ふっくらとした感触がやさしく包む。
 あのときは必死だったからなにも気づけなかったけど。
 もう背骨は浮き上がってないし、体の線も正常の範囲内。よしよし触診の結果異常なし。外見上は。
 中身までは測定できない。フレちゃんに何が残ったんだろーか。たくさんの感性を落っことしてしまった後に何が残ったんだろーか。
 もしなにか失ったものがあるんだとしたら、それは全部あたしのせい。
「ごめんね、フレちゃん」
「どうして、謝るの?」
「……」
「シキちゃんは悪くないよー。なーんにも悪くないんだ、よー」
 フレちゃん。
 こんなあたしを少しでも理解しようとしてくれて、ありがとう。
 でも、もういいよ。もう十分だから。
 最後に息をすうっと吸い込む。
 あとひとつだけ確認したかったことだった。
──きみのにおいをけっして忘れないよ。
 いってらっしゃーい、といういつも通りの言葉を背に、あたしはドアをしめた。
171: 以下、
 ……。
 バスの窓がこする景色をぼんやりと眺める。
 あたしの体はどこに向かうんだろう。それすらも興味が沸かない。とにかく遠くであればどこに置いてくれていってもいい。
 しばらくはいつもの一ノ瀬志希の失踪癖として誰も気に咎めないだろう。3日くらいすれば騒ぎになるかもしれないけど、3ヵ月すれば落ち着いてきて、3年もすれば忘れてくれる。
 なんだかんだ、あらゆる事象は自然と収束していく。世界はあたしがいなくても勝手に回るし、勝手に閉じていく。別にそれでいーよ。
「……」
 どれだけていの良い言葉で誤魔化そうとしても、だめだった。
 あたしは、結局のところ挫折したのだ。もしかしたら人生ではじめての挫折かもしれない。
 この挫折はこれからあたしの背景にどれだけ色濃く影を落とすのだろーか。犯した代償はなにをもって帳消しになるんだろーか。
 それともそれすらもさっぱり忘れてしまうんだろーか。
 去り際に茜ちゃんとした会話を思い出す。
 それと、もちろんみんなやさしい志希さんもだいすきです!
 やさしいー? あたしがー?
 はい、だって志希さんは今までずっとフレデリカさんを支え続けていたじゃないですか! そんな志希さんが、やさしくないわけないじゃないですか! という会話。
 はじめて言われたなぁ、やさしいなんて。同じことを無関係の3人に言われるとそれは真実だっていうけど。
 んーやさしさの証明って他にどうやってできるのかな。
 なにが証明書になるのかな。
 どちらにせよひとりではできなさそうだからそれはとてもとても厄介だ。
 さて、これからどうしよう。
 六畳のワンルームでも借りて懸賞金付きのクロスワードでも解いて応募でもしようか。
 ひたすら解いて、解いて。
 それからどうする?
 
174: 以下、
「くぁ」
 欠伸がでた。そういえば徹夜続きだったことを思い出す。
 ゆっくりと瞼を閉じる。次に瞼を開いたら、きっとあたしの体は見知らぬ土地に運ばれている。
 瞼のうらに、混じりっけのない金髪がぼんやりと浮かんだ。
 …………。
 
 ………。
 ……。
「……ぇ、ねぇ、お姉ちゃん」
「んにゃ……」
 体を揺すられて、目を醒ます。むむ、まるで眠気が取れてないとゆーことはあたしの目的はまだ達成されてないようだ。
 視線を落とすと、小さな女の子があたしを見上げていた。
「お姉ちゃんって、博士さんなの?」
「ほぇ?」
 よくよく周りを見渡すと、バスの床に試験管やらちょっとキケンな薬品やらが散らばっていた。
 むむ。どうやらバスが揺れて、ぱんぱんに詰まったバッグがはじけ飛んだらしい。
 女の子は試験管をちっちゃな手のひらできゅっと握って、あたしに差し出す。
「にゃはは、ありがとー、きみは優秀な助手になれるねー」
 女の子はあたしの言葉にきょとんと首をかしげて、あたしの荷物を拾ってくれる。
 あたしも適当に散らばったガラス器具をバッグに放り込む。シャーレーアスピレーターリービッヒ冷却器ー。
 ふぅ、これで全部かな。
175: 以下、
「よしよし、ありがとー。きみは天才だねー」
 ご褒美、になるかはあずかり知らないけど女の子の頭を撫でてあげるとよろこんで席に戻っていった。
 さて、あたしももうひと眠り……。
 と、女の子がまたにこにこと笑って、あたしの席へ戻ってくる。
 なにかを握っていた。
 女の子はとびきりの笑顔を浮かべながら、はい、といってあたしに差し出した。
 それは。
 ぼろぼろになった立方体だった。
 緑色と青色以外がきれいに揃えられた、たしかに秩序が与えられたルービックキューブだった。
「なん、で」
 あたしは入れてない。じゃあ誰が?
 そんなのひとりしかいない。
 フレちゃんがあたしの荷物にこっそりと入れたのだ。
 裏側には歪んだ文字で、小さなメモが貼りつけられていた。
 おそらへとんでいくんだね。たのしんでね。いままでほんとうにごめんね。ほんとうにありがとう。
「すごいぼろぼろだねーお姉ちゃんにとって、大切なものなんだねー」
「……」
 フレちゃんは。それじゃあフレちゃんは、あのときぜんぶわかっていて。
 あたしが二度と戻ってこないってことをわかっていて。あたしがもう二度と姿を見せないってことをわかっていて。
 なのに、フレちゃんはいつもと変わらずにあたしを送り届けてくれて。それはきっとあたしのためにしてくれて。
「フレちゃん……」
 
 きみはなんでもないよ、という風に自然にこういうことをしてくるから。
 もういいよっていってるのに、それでもこんなあたしをどこまでもどこまでも理解しようとしてくれるから。
 もう十分だよっていってるのにあたしの予想をいくらだっていくらだってきみは超えてきてしまうから。
「フレちゃん、そっかー……」
 それじゃあフレちゃんがいってた、空を飛びたがってるのに飛べない哀しんでいるペンギンっていうのは、あたしのことを言っていて。
 だとしたらあたしの回答は間違ってたよ。
 きみは重力なんかじゃないよ。
 重力だなんて思っちゃ、やだよ。
「きみは、フレちゃん、なんだねー……」
 あたしさ、きみの看病しててさ、ちょっと大変だなーとは思ったけど。
 それでもぜんぜん、へっちゃらだったよー。ずっとずっときみの部屋にいても飽きなかったよ。
 
 それは、なんでって。
 ……。
 きみが、大切だったからだよ。
 きみが大切な友達だったから、そばにいたんだよ。
 それじゃさ。
 フレちゃんもあたしが大切だったから、そばでずっと笑ってくれていたの?
「──っ」
 あたしはどうして立ち上がってるんだろう。あたしは一体なにを叫んだんだろう。あたしは何処へ走り出してるんだろう。
 矛盾している。なにもかも矛盾していると思った。
 きみを大切にするんだったらもう会わないべきなのに。
 きみをちゃんと大切にしたいからこそ、また会いたいと思ってしまう。
 ごめんね。どこまでも気まぐれで自分勝手なあたしを許してほしい。
 あたしはみんなのようにあんなに上手に、あんなにきれいに涙を流すことはできないけど。
 その代わりにもし血が涙の代わりになり得るんだったら、きみのためだったらいくらでも流しても構わないよ。
 きみといっしょになら、知らない局面に触れたいから。
 おきまりのストーリーなんていらないから。もうなにもいらないから。
 
 お願い。あたしの未来を、またなにもかもわからなくさせてよ!
176: 以下、
 ……。
 それから。
 汗だくでドアをあけたら、とろけるような甘いにおいが鼻孔に飛び込んできて。
 そして。
 ほんとうにきみは一体どこからどこまでを知ってか知らずか。
 きちんとお菓子を2つ分用意しながら、あ、おかえりなーさいなんていつもの調子でいうものだから。
 あたしはすっかり体の力が抜けて、へなへなと倒れ込んでしまって。
 でも、あたしと同じくきみのためと、同じく別れを選択したきみは、きっと同じ気持ちでいてくれたよね。また会いたいって思っててくれたよね。
「にゃ、にゃははは、フレちゃん、これー」
「あ、それ……」
 ルービックキューブを、力のこもらない指先でかちゃかちゃと組み立てる。
 頭の中では1秒で済むんだけど、思ったよりもずっと時間がかかっちゃった。
「はい、返すね。これからも、どーぞよろしくー。あたしのパートナー」
 このルービックキューブみたいに心の模様が何度バラバラになってもさ。何度でもきれいに揃えてあげるから、ねー。
 フレちゃんはあたしの手元をぼんやり見てから、そして。
 口元に手を添えて。
「わぁ、シキちゃんすごーい、あは、は」
「……笑っ、た。フレちゃんいま笑った、の?」 笑った。フレちゃんが。たしかに笑った。
「だって、フレちゃんがずっとやっても全然揃わなかったんだよー。やっぱりシキちゃんはすごいねー」
「……にゃははっ」
 なるほどきみを笑顔にするためだったらあたしのギフテッドもそう悪いものじゃないんじゃないかと思えてくる。
 気づいたことがある。
 あたしは解き明かす方だけどね。きみは逆なんだよ。
 きみはそのやわらかくてふわふわな心で、きっと自然にね。
 どんなものにも価値を吹き込んでくれる。
 どんなひとにだって意味を分け与えてくれる。
 街の看板にだって、ちいさな飴玉にだって、南極のペンギンにだって、ただのルービックキューブにだって、そしてあたしにも。
 それが宮本フレデリカ。
 あたしを惹きつけて止まない、きみの素晴らしいところ。
 なーんてまた解析してしまうのは、きっとあたしの悪い癖。
 そんなこと、どうだっていいのだ。
 どうやらあたしにも観測されたらしい非化学な成分が起こす、胸の熱源反応に比べれば、どんなことだってちっぽけなものだ。
 明日になれば記憶としてはきれいさっぱり忘れちゃうかもしれないけれど、きっとこれはあたしの深層に永遠に残り続けるのだ。
「さーなんだかお腹減っちゃったにゃー。一流パテシィエのフレちゃんが作るお菓子食べたいにゃー」
 これからとりとめもないお喋りして、お腹いっぱいになって、お皿を洗ってゆっくりしたら、ダッドに手紙でもしたためてみようか。
 フレちゃんはあたしをじいっと見つめてから、かすかに微笑んで言った。
「いいのー、シキちゃん。あたし一生このまま、かもしれないよ?」
「……」
 きっとあたしたちはどこまでいっても別の個体で。
 いっつも勘違いしあって何度もすれ違って、たくさんこすれあって、ときには傷つけあって。
 それなのにどこまでも調和を求めてしまう、なんとも矛盾したどーしようもない有機体。
 でもさ。
 それでもいいよね。
 それでもいつか完全に分かりあえる日がくるって信じて、すこしでもうまくやっていこうよ。
「うん、いいよ、それでもいい」
 フレちゃん、あたしまたひとつおかしくなっちゃったのかも。
 だって、きみとだったらね。
 どんなにどんなにどんなにどんなに。
 遠回りしてもいいだなんて、どうしようもなく思ってしまうのだ。
177: 以下、
 すこやかなるときも
 病めるときも
 きみと一緒にいたい
   -fin-
178: 以下、
 【-エピローグ-】
183: 以下、
 蛇足のはなし。
 あるひとりの女の子は、フラッシュが炊かれる檀上にあがって、息を吸い込んでいった。
「橘です」
 ぶっと顔を真っ赤にして吹き出したのは、正真正銘の橘ありすちゃん。
「あはは、うっそー☆ 今日は会いにきてくれて、あーりーがーと??!!! えっ復帰会見なんだからそんなノリじゃない? あーそっかそっか」
「みんな久しぶりー。ぼんじゅー しるぶぷれー?」
 お久しぶりはサフェロントンだねー。
「えっとね、みんなにはもういってたと思うけどーフレちゃんねーうつ病だったんだよねー」
 あまりにあっけらかんというものだから、かすかに場内がざわめく。
「ネットではねーフレちゃんがうつ病になるわけねーだろー無理あるわーとかいわれてるみたいだけど、なっちゃったんだから驚きだよねーワオ☆」
「病気のときはねー大変だったなー。うーん大変だったねー。あれはもう宮本フレデリカじゃないよねー山本フレデリカとかだよねー」
「でもねーフレちゃんじゃないよーってフレちゃんとフレちゃんだよーってフレちゃんがいてねーでもそれはフレちゃんじゃないよーってフレちゃんじゃない人がいってくれてるからでねー」
「あれあれ、こんがらかっちゃった、えっとね、つまりー」
「フレちゃーんって言ってくれる人がまわりにいるから、フレちゃんはフレちゃんでいられるんだよー」
「いちばん大変だったときも、ずっとフレちゃーんって言ってくれた友達がいてくれてねー、本当は今ありがとーって紹介したいんだけど、あたしそんなガラじゃないからパスパス?って言われちゃったから秘密にしておくね」
 
 結構バレバレじゃないかにゃ?
「フレちゃんね、うつ病になってからありがとーってもっともっといっぱい言うようになって、普段からもっとみんなにお菓子あげたいなーって思うようになったんだー」
「それとね、ほらっこれキューちゃん! ルービックキューブだから、キューちゃん」
「あたしね、色が見えなくなっちゃったときがあって、それで代わりにキューちゃんに文字を書いてみたんだー、これで一石二鳥! あれ、違うか」
「そしたらね、フレちゃんは天才だねーあたしもこうやって遊ぶなんて思いつかなかったよーって褒められちゃった。えへへ」
「でもさ、これもアタシがうつ病になったから気づいたことなんだよねー」
「病気になったから、ご飯がもっと美味しいって気づけたし、ファンのみんなの応援のファンレターいっぱい読めたし、マイベストフレンドとももっと仲良くなれたし、歌を歌えることってすごいことだなーって思えたんだよね」
「だから、こんな事いったら怒られちゃうかもしれないけどね」
「あたしは、うつ病になれて幸せだなぁって今ならいえるかなー、いえーいハッピーニューイヤー!」
 気づけばありすちゃんの怒りは吹き飛んでいて、ぐすぐすと号泣していた。舞台袖で見守っていたみんなの拍手が飛ぶ。
「あ、そうそう。それとね、これも病気になったからわかったことなんだけど」
「男性問題とユニットの不仲説、ここで解消しちゃうねー!」
 そういって、こちらに向かって、両手を広げられる。
 えっもしかしてあたし? いま? 行ってきなさいよ、と背中をとんと押される。
「ハグするとね、とーってもハッピーになれるんだよー! やーもういっそ、みんなおいでー!」
 それから会見がめちゃくちゃになって、その瞬間の写真が一面を飾って
 相変わらずのお騒がせコンビだ、とまたもや世間の注目の的になったのはほんとうに、蛇足のおはなし。
 おしまい。
184: 以下、
以上となります
読んでくれていただき本当にありがとうございました
誤字脱字あげていきます
多いですが直していただければ幸いです
190: 以下、
閉店がらがら
扱ってる題材が題材なので手を抜かずに書いたつもりです
1文字でも読んでいただければそれで幸福です
次はもうちょっと肩の力を抜いた明るめな話にしようかと思います
タイトルだけは決まってるので早めに投下できたら…
189: 以下、
乙乙
覗いたの今日が初めてだったんだけど、するすると最後まで読めたよ
192: 以下、
乙乙
大変素晴らしいSSでした
それにしてもハッピーエンドで本当に良かった……
194: 以下、
ハッピーエンドとは意外だが爽やかに締めてくれたのは嬉しい

193: 以下、
本気すぎるだろ
面白かった乙
元スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1456667801/
ツレがうつになりまして。 スタンダード・エディション [DVD]
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