絵里「魔法のランプ」back

絵里「魔法のランプ」


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私は、冷静さを失っていた。
だから、いや、もしかすると、スピリチュアルなパワーのお陰かもしれないが。
まともに判断すれば、おばあさまの側に最期までいるべきだったろう。
だが、動揺していた私は、おばあさまが死ぬなんて考えられなかった。
出来る事なんて思い付きもしなかった私は「おまじない」を信じた。
ただの子供騙しの玩具だと思い込んでいたけれど。
ふと、思い出したから。
冷静さを失っていたから、私は、それに全てを賭けた。
〜〜
3:
〜〜〜
おばあさまに別れを告げることも忘れ、家へ走った。
ひたすら焦り、ダンボールを返し、引き出しをかき回し、
どこか淡く光っているようで、吸い込まれそうにさえ感じるそれを、見つけた。
恐怖さえ感じる。
「魔法のランプ」
 願いを3つ叶えることが出来ます。
〜使い方〜
 1.ランプをなでます
 2.…
4:
説明書は後回し。
躊躇っている時間はない。急いで、ランプを撫でた。
震える手で、涙に濡れた手で、一生分の懇願を込める手で。
どうか、願いを叶えて…
おばあさま、間に合って下さい…
すると…
魔人「やっほー、ウチは魔人。ウチのスピリチュアルなパワーをお呼びかな?」
絵里「ひぃっ?!」
5:
片手サイズのランプからは、私と変わらない大きさの女の子が出てきたのだ。
お下げのようなツインテールに整えた紫がかった髪の毛の、可愛らしい、…日本人?
信じ込んでいたとはいえ、心臓は更にバクバク。
同時に目の前の非現実的な光景に、確信して、
絵里「魔人様、どうか私のおばあさまの病を治してください、今すぐに!」
魔人「ん〜?随分急ぎみたいやなぁ。どれどれ」
今にも胸を押さえる手の力を緩めたら、心臓ごと飛んでいってしまいそうだった。
6:
魔人「お、ホンマや、これは不味い。では早行くで〜、」
 ♪スピスピピアピアスピリチュアルぅ〜♪」
言うなり彼女は、両指を振り回して、呪文を唱え…
魔人「はいっ、これでおばあさまは元気になったはずやで」
絵里「え、もう!?え?え?」
魔人「疑うんなら病院にGO!やで!」
〜〜〜
7:
〜〜〜
絵里「おばあさまっ!」
祖母「絵里ちゃん!神様は、おばあちゃんの病気を、治して、くれたよ…うぅ、うぇぇ…」
絵里「おばあさま、おばあさまぁ…良かった、良かったっ…」
祖母「…おばあちゃん、まだまだら長生きするよ」
絵里「ぜっったい、よ?」
おばあさまの病気は、本当に跡形もなく消えた。
医者も奇跡どころではないと大騒ぎしてた。
落ち着いてから考えてみると、ちょっとかなり怖い。
あり得るのだろうか。
確認するべく、家に帰ると、
魔人「絵里ちゃんおかえりー」
めっちゃくつろいでた。
勝手に雑誌読んでるし。勝手に明日食べようと思ったチョコ食べてるし。
言葉を失うとはこの事である。
9:
絵里「…あー、ええと」
魔人「よし、改めて自己紹介。さっきはバタバタやったからね。
 ウチは魔人。世にもスピリチュアルなランプの使い。願いを叶えることが仕事なんよ」
絵里「分かった、分かったから少し時間を頂戴」
とりあえず頭を冷やし、とりあえず目の前の現実を把握した。
で。
絵里「私な絢瀬…何であなたは私の名前を知っていたの?」
教えてもいない名前を呼ばれたことを思い出したのだ。
10:
魔人「魔人やから、顔見たときに分かるんよ」 
絵里「ハラショー…」
魔人「で、絵里ちゃんのことは大抵わかるからいいとして、ウチの説明書、よく読んだ?」
絵里「あ、忘れてたわ」
ランプのすぐ横に置いてあった紙を手に取る。古くてかなり黄ばんていた。
11:
ーーーーーーー
「魔法のランプ」
 願いを3つ叶えることが出来ます。
〜使い方〜
 1.ランプをなでます
 2.出てきた女の子に、願いを伝えます
 3.女の子が叶えてくれます
 おしまい
〜注意事項〜
 ・何でも叶えられる訳ではありません
 ・1回女の子を出したら、1ヶ月以内に願いを叶えないと、期限切れとなります
 ・分からないことは女の子に聞いてください
ーーーーーーー
12:
思っていたより大雑把ね…
絵里「魔人さん、私は、どんな願いも叶えられるのかと思っていたけど、叶えられない願いって例えば?」
魔人「様がさんに格落ちしてるやん…んー、定番だと、あと100個叶えて下さいみたいな。
 それから大っきな団体への願いは叶えられへん。あと、生き返らせることも出来ない」
絵里「他には?」
魔人「ウチもそうスラスラと思い出せんから、そのつど聞いてや。」
絵里「それじゃあ、」
13:
その時に私は、気付いた。
質問に答えるように「願った」のだ。
ヒヤーチカ。
魔人「…ニヒ」
魔人はどうやら私の変化を読み取ったらしい。
いやらしい魔人だった。
魔人「願い事してたこと、気が付いたみたいやね」
絵里「…くぅっ」
早くも無残にアホーチカ。
ああ、勿体無い…
魔人「…なーんてね♪そんな意地悪するつもりないよ。
 ウチは願いを叶える、つまり人を幸せにする為に存在するようなもんや」
魔人はどうやら私の早計をからかったらしい。
いやらしい魔人だった。
14:
人「残りあと2つの願い事の時はウチから注意するから安心してや」
絵里「あ、りがとう…」
複雑な気分。
いや感謝はしてるけど。
魔人「で、残り2つは何にするか決めたん?大金?それとも翼?永遠の若さ?」
絵里「いえ、焦って決めるのは良くないわ。じっくりと練らないと」
魔人「お、さすが、欲に目をくらませる悪役とは一味違うやん」
絵里「誰が悪役よ」
15:
とは言ったものの、実はのんびり考えられるタイミングでもないのだ。
これは、やはり家族で相談して決めるべきことだ。
だが、おばあさまのこともあるし、何より私は明日日本へ旅立つ。
名誉ある音ノ木坂学院に入学するために。
少し時期が早いが、都合の関係、だ。
絵里「だけど、私には時間がないの。私は正義の味方のつもりだから、残りは家族に譲ることにするわ」
魔人「あ、言ってなかったけど、使えるのは初めにウチを召喚した人だけや」
えぇ…そういうことは注意事項に書きなさいよ…
16:
魔人「大体の人はランプ手にすると悪役になるから、要らないとおもったんやん?」
ビクッと。
私のハートのピュアな部分を突付かれた気分だった。
ともあれ。
絵里「時間はないけど、早計は危険よ。どうすれば…」
早計のおかげでこいつに冷やかされたし。
こいつを連れていくなんて論外だし。こんなのと暮らしたくはない。
さあ。
 
魔人「それと、ウチは召喚者と直径50km以上離れると苦しみに悶え血を吐きながら最後あらゆる関節がいけない方向に曲がって死ぬ」
私のビューティフルなジャパニーズライフは終わった。
ああ、魔人を信じた私は神から罰を与えられたのでしょうか。
17:
仕方なく、ランプ並びに魔人は日本に持っていく事になった。
魔人はランプに出入り自由だと言って、搭乗の際にランプの中に影を消したが、2度目と言えどその光景には感動するものがあった。
結局ランプのことは親には教えなかった。魔人からのアドバイスだった。
というより、ランプを置いていくことになった時の地獄図を恐れ避けたようだが。
〜〜〜
18:
〜〜〜
3月8日。
日本。
満月に照らされる高層ビル。
光の海が照らす満月。
見慣れぬ光景に戸惑いながらも、その新鮮さを楽しみつつ。
なんとか目的のマンションに到達。
同時に魔人再臨。
魔人「ああ〜暑苦しかったー」
もーう出てきた。
19:
絵里「たかが数時間でしょ?今まで何十年ランプに閉じこもってたのよ…
 あ、もしかして封印されてたとか?」
魔人「いや、そんなことないん。一人暑い時も寒い時も真っ暗なランプで縮こまり」
絵里「ひぃ」
魔人「それは暗く、お化けは愚か自分の指さえどこにあるか分からず…」
絵里「ひぃぃ」
魔人「おや、絵里ちゃんもしかして暗いの怖いん?」
絵里「何故それおっ!」
困惑を隠せない。会話を振り返っても、鋭過ぎである。
絵里「あ、あなた何者っ?」
魔人「…えへっ♪」
〜〜〜
20:
〜〜〜
台所の棚に、お皿、コップを収納する。
ただ、ほぼ全て2つずつある。
魔人用かって?いやそんなことはない。
4月過ぎからは、妹の亜里沙がここにやって来るからだ。
だから、少しの間の、初めての1人暮らしを満喫しようとしていたのだ。
ビューティフルなジャパニーズライフ…
亜里沙の時期が遅いのは、これまた都合の関係。
ご都合主義である。
まあ、そんな感じに妹やら家族やらのことを思い出したから、早くもテレビ付けてる魔人に。
絵里「ねぇ魔人、私の家族をこれから死ぬまで幸せにしてってお願い、叶えられる?」
飛行機の中で考えていたのだ。
23:
魔人「叶えられるって問題やなくて、今もこれからも、絵里ちゃん一家は幸せや。」
絵里「未来がわかるの?」
魔人「病気程度ならなんとなくな。今回みたいな急な酷い病気も無さそうやね。これまで通りの生活」
絵里「…そう」
なるほど飛行機の中の時間は無駄になってしまったが、確かに考えてみれば、これまでだって幸せだったのだ。
大きなトラブル無く。
では何に使う?自分の欲に?
正義の味方の私は拒絶反応を起こす。
なら。
24:
絵里「…ふっふっふ」
魔人「お?」
絵里「決めたわっ!世界平和よ!この世から戦争を無くして!」
魔人「でか過ぎ。ウチには無理や」
絵里「Oh.....」
〜〜〜
25:
〜〜〜
お金がほしい。空が飛びたい。永遠の若さが欲しい。
夢を叶えられるとなれば、それは夢が膨らむだろう。
何と言っても魔法だ。科学なんてお構いなしなのだ。
その中で、私は選んだ。
日本生活5日目、3月14日の夜…
「本日紹介するのは、なんとこのお店、“クッキー・ド・ショコラ”」
絵里「ハラショーっっ」
魔人「美味しそうやん」
27:
TVは日本語だが、長年勉強してきたお陰で、何とか理解できる程度ではある。
ちなみに魔人も日本語が分かるらしい。
「ここ、日本で一番美味しいチョコのお店だと言われてるんですよ。では早」
絵里「じゅるり」
魔人「ごくり」
「んん〜、最高!口に入れた瞬間、むしろ口が溶かされているかのような味わい」
絵里「…」
魔人「あかん絵里ちゃん震えとる」
28:
「口から喉から鼻から行き渡り、爽やかながらもずっしり奥深い…こんなチョコ食べたことがありません!」
絵里「絵里も食べたことがありません!」
魔人「ま待つんや絵里ち
絵里「魔人よ!あのチョコを私に頂戴、今すぐ、早く、早くっ!」
魔人「賢いのはどこ行ったん、よう考え直して、これお願い消費するよ!?」
29:
絵里「そんなこと分かってるわよ、私は冷静よ早く早く早く!!」
魔人「ひぇぇ胸ぐらをつかまんといて、後悔、後悔しないな?」 
絵里「もちのろん!」
魔人「ホンマ知らんで…
 ♪スピスピピアピアスピリチュアルぅ〜♪」
絵里「わあっ!魔人見て見て、TVと同じの出てきた、ほらほらっ!」
魔人「よ、良かったなぁ…」
30:
この後、私が寝込んだのは言うまでもない。
チョコは好きだが、雰囲気も見た目も異なる日本のチョコの破壊力は伊達では無かった。
魔人の出したチョコは40個ほど。
思い病気を治せることと比べるとショボい量に感じるが。
…美味しかったです。
あと、TVは罪だと思いました。
正義の味方気取りは呆気なく悪役に染まったのだった。
しかもチョコ…空も飛べたのに…
そんなこんな、チョコが引き起こした大惨事を最高級チョコで慰めていると、
31:
魔人「…チラッ」
絵里「…」
魔人「…ジーッ」
絵里「…なに声に出してるのよ」
魔人「別に…」
絵里「あなた、何も食べなくても生きていけるからいらないって、自分で言ってたじゃない…」
魔人「…」
32:
この5日間、魔人は、食べ物を口にしなかった。
魔人だから食欲もないって言っていたけど、超見てる。
ロシアで私のチョコ食べてた訳だが。
食べなくても死なないのは本当だろうが、恐らく住むことになったから、魔人なりに気を使っているのだろう。
私もこうも見られると気まずくなってきた、仕方ない。
絵里「…はい、チョコ、あげる。ちょっとしょっぱいけれど」
涙の味じゃないし。
33:
魔人「…でも、悪いよ、折角の願い事で出したチョコやし」
絵里「いいから、早く食べなさいよ」
魔人「…えへ、ありがとう」
そういって魔人は笑顔を見せた。
チョコを食べて、笑顔を見せた。
美味しい、の感情だけでは作れない笑顔だった。
その笑顔に私は、動かされ始めたのかもしれない。
無駄と思えた願い事は、そうでもなかったのかも、知れなかった。
34:
チョコ大惨事からは毎食、魔人も一緒に食べた。
我慢されるのもアレだし。
それに、1人で食べるより、2人で食べる方が、ね?
魔人は本当に美味しそうに食べるので、私も見ていて嬉しくなる。
案外、魔人を連れてきて正解だったかも、なんて思い始めていたのだった
48:
〜〜〜
絵里「はぁぁ〜、残り1つかぁ〜…」
魔人「チョコ超美味いからええやん」
昼食時。まだあの失態をずりずり引きずりまわしていた。
50リットルくらいは溜息吐いた気がする。
絵里「だからこそ、慎重に決めないとなんだけどね」
魔人「絵里ちゃんもチョコ食べなよ〜」
なんだけど、それがなかなか閃かない。
家族は安泰だ。
世界平和は打ち砕かれた。
49:
絵里「いい案、無いかしら…」
魔人「絵里ちゃん、いい加減、自分の叶えたいこと考えてみたら?」
絵里「…チョコ」
魔人「あれはミスやろ」
絵里「だって、チートじゃん、ずるいじゃん」
魔人「絵里ちゃんは堅いなあ、なら、こう考えてみたら?
 おばーさま、絵里ちゃんの、幸せな姿に幸せを感じるんやないかな」
ああ、そういう考え方もあるのか。
言われた通り堅い私にはなかった見方。
絵里「…ふーん」
まだ、時間は多く残っている。
焦らないよう、間違えないよう、私は、ゆっくりと考えていこう。
私の幸せって、なんだろう?
〜〜〜
51:
〜〜〜
今まで、何気なくその名で呼んではいたが。
忙しかったし、それにまだ距離が掴めずにいたからかもしれなかったが、そろそろ違和感も強まる頃合い。
今までよく魔人、でやってきたものだ。
絵里「魔人、これまで魔人魔人読んできたけど、そろそろ呼び名を変えたいのよ」
魔人「そうやなー、
 なら、いっその事ウチに名前付けてくれへん?魔人って名前やないし」
52:
絵里「今更初めて名前を付けるというのも、変な気分ね…」
でも、ちょっとワクワクする。
名付けって、滅多にあることでもないし。
では魔人に合う名前を考えてみよう。
願いを叶えるランプの魔人。
叶え。夢。希望。想い。
うーん。
ランプ。アラジン。望み。願望。
望み、なんて良いかしら。
なら、希の方が素敵?
…絢瀬希、なんて。良いわね。
でも、ちょっと仕返し。
53:
絵里「アラジン、なんてどう?」
魔人「…可愛くない」
絵里「そうかしら?アラジン♪アラジン♪」
魔人「うぅ…」
早くもうっすら涙目である。
54:
絵里「悪かったわよ、冗談。
 本当はこっち。のぞみ、希なんてどうかしら?」
魔人「のぞみ……いいと思う!のぞみ、ウチにピッタリやん!」
絵里「じゃあ、決まりみたいね?」
希「メッチャ嬉しい…ぅぐっ、ありがとうぅ…」
絵里「ちょっと、泣かないの、大袈裟ね。ほら拭いて」
涙を拭かれながら希は、
希「ウチからも1つ。ウチは、絵里ちゃんのこと、エリチって、呼びたいんやけど、どうやろ?」
55:
リチ。その呼び名は実に希らしい、また初めての呼び名だった。
胸が、熱くなるのを感じた。
呼び名1つ、決められただけで。
何となく、涙の理由が分かる気がした。
〜〜〜
56: >>55(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/03/19(土) 10:39:48.95 ID:GMCa44J5.net
エリチ。その呼び名は実に希らしい、また初めての呼び名だった。
胸が、熱くなるのを感じた。
呼び名1つ、決められただけで。
何となく、涙の理由が分かる気がした。
〜〜〜
63:
〜〜〜
希は怠惰である。
ここに来てからの荷物の整理も終わて、キレイさっぱりだと思っていたのだが、間違いだったようで、どうしたことかリビングがゴミだらけ。
TVの前は実に足場がない。私が与えたお菓子の袋が錯乱している。
64:
絵里「希!いい加減片付けてくれる?まともに歩けないんだけど」
希「ごめんっ♪これ見たあと片すから〜」 
片付けないフラグ立ちまくりだった。
絵里「だーめ、また後回しにするんだから、今やる」
希「あぁ消さないでぇ…エリチのけちんぼ」
絵里「終わったらリモコン返すから、さっさとやる!さあ!」
希「ぶぅー」
65:
食べ物の遠慮はどこへやら、やりたい放題だった。
それがまた幸せそうだから口出しにくい。
希「…ヒヒヒ…エリチ、こんなことで願い事、消費するん?」
絵里「TV壊しましょう」
希「ごめんなさい」
呆れた魔人様だこと。
作業しながら、希は言う。
希「冗談やったけど、ウチはお片付けの願い事は、魔法が使えないんよ」
絵里「簡単な事なのに…どうして?」
希「よう分からん。ウチは大概適当なんよ」
酷い魔人様だった。
ハチャメチャだった。
66:
希「でもな、凄いのは、このポテトチップスをどんな揚げ物にも変えることが出来るんやで?」
その揚げ物は最高級チョコのように作り出せはしないのか。
希「生成できるのはスイーツだけやから、揚げ物は無理やからな」
希の能力を創造した御方は一体全体頭でも強打したのだろうか。
絵里「意味わかんない…」
67:
片付けをはぐらかされていた。
ペラペラと喋って誤魔化そうとしていたようだ。
の・ぞ・みぃ〜、いい加減言う事聞きなさいぃ〜!
絵里「はい今日はお菓子禁止!1時間以内に終わらせないと明日も禁止」
希「エリチの鬼!ハラショー!悪代官!」
賑やかな日々、である。
〜〜〜
68:
〜〜〜
絵里「希ぃー、外は楽しいわよ、怖くないから行きましょうよー」
希「だって怖いー、見たこともない広ーい世界なんて怖いー」
絵里「食わず嫌いは良くないわよぉー」
日本に来たら、観ようと思っていた映画があった。
日本語の勉強も兼ねて。
そのついでに、ブラブラしようかな、なんて。
69:
だが、それには部屋を長い時間空けなくてはならない。
あの希を半日、一人で居させるのが甚だ心配なのである。
住めば分かる、希を一人にするのはホラーだ。
ならば希を連れて行けばいいと思うだろうが、希が中々外に出たがらず。
苦戦中である。
ふとそこで、案が浮かんだ。
かしこいかわいいの名が光る。
ついこの間見つけた店がある。
70:
絵里「そうだ、パフェって知ってる?とびっきり美味しいスイーツ、食べない?」
希「エリチ大好きぃぃっ」
これで釣られる希も希だった。
かしこいかわいいの名がくすんだ気がした。
…結果オーライ、だ。
〜〜〜
71:
〜〜〜
希の同意は得た。
でないと、隣で騒がれそうだし。
パフェより先に映画館である。
絵里「この椅子から立ち上がったりしないでね、あと、静かにね」
希「初映画館とはいえ、そのくらい分かるし…」
絵里「さあ、間もなく開始よ」
希「おおお!なんか暗くなっとる!」 
絵里「シーっ」
72:
ありげな、青春ストーリーだった。
上映中、希が興奮していたが、一応静かにしていたから良し。
てか映画に感動しまくって、外の怖さが吹っ飛んでいったようだ。
映画恐るべし。
それじゃあ、と。
73:
ーー希の楽しそうな様子を見て、思った。
絵里「じゃ、食べに行きましょうか、パフェ」
希「わーい!わーい!」
ーー無邪気に跳ねる希が微笑ましく。
絵里「何度食べてもこのチョコパフェは最高ね!」
希「ウチ感動で泣けてきたわぁ…ぐすっ」
ーー屈託のない笑顔が可愛らしく。
そして、羨ましいな、と思った。
ずっと昔から抱えている私の小さな蟠り。
今は、意識することでも、意識したくなることでもない。
だから、振り切るように、私はその手を掴んだ。
友達の少なかった私にとって、それは大きな…
絵里「希。手を繋いで、帰らない?」
〜〜〜
75:
〜〜〜
希は、基本自由気ままでぐうたらだが、自分から頼ったり求めたりすることは滅多にない。
それが彼女なりの心遣いだとすれば、マジ適当な魔人である。
心の遣いどころが明らかにおかしい気がするのだが。
そんな憎めない彼女と私に。
繰り返しになりつつあった私と彼女の生活に、また1つ、小さな、大きな変化。
2人で手を繋いで帰った夜の出来事。
76:
絵里「希、私は寝るから、照明よろしくね」
希は不健康タラタラダラダラ夜更かしちゃん。
遅寝遅起き朝ご飯いらず。
希「ああ、ウチも寝る」
絵里「あら、早いわね。やっぱり疲れた?」
その彼女も初めての外出はこたえたのだろう。
因みに希は何処で寝るかというと、ランプの中で寝る。
食欲と同じく遠慮しているのかと思ったが、そうでも無いらしい。
長年いたこともあり、ランプの中はそれなりに落ち着くそうだ。
前にランプは暑苦しいだの喚いていたくせに、マジ魔人。
77:
希「んーと、そうやないん」
疲れた訳では無いらしい。
絵里「じゃあ、どうして?」
希「ウチ、…お布団で寝てみたい」
あ、やば。
自然とにやけてしまう。
わがままな生活を送る彼女だが、わがままを言うことは殆ど無いのだ。
嬉しさを噛み締め、ちょっぴり意地悪したくなる。
言いたいことは分かっているけれど、あえて。
78:
絵里「でも、まだ布団はワンセットしかないの。どうしましょう…」
希「その…エリチと、い、一緒に寝たい!」
〜〜〜
シングルに2人で潜る。
そしてさっきの発言を思い出す。
エリーチカの母性本能が息もままならず大笑いしてそうだった。
魔人の破壊力も嘗められたものではない。
希「ウチ、映画に出てきた、人が幸せそうに眠ってるのに興味持ったん」
絵里「ああ、あったわね」
希「それで、どうせ寝るなら、エリチと一緒に、寝たいなって」
絵里「…そう」
不意な発言が、心を打った。
79:
希「ランプなんかより、ずっと気持ちええやん?」
絵里「…へぇ」
希「布団って、こんなにふわふわして気持ちいんやな。でも、それ以上に、エリチがあったかい」
絵里「…良かった。私、嬉しい」
止まらない。
希「エリチ、ホンマありがとうな。連れて行ってくれて。
 今日は、とっても、とーっても楽しい1日やった♪」
80:
詰まりそうで、声は出せなかった。
そんな私を、彼女は察してくれた。
希「また美味しいパフェ、2人で食べに行こうな。ほな、おやすみ♪」
声を殺しても、涙をおさえることは出来なかった。
シングルに2人で潜る。
窮屈さなんて、どこへやら。 
小さな、大きな出来事。
変化。
次の日から私達は、同じ布団で一緒に寝るのだった。
〜〜〜
81:
〜〜〜
早計はいけないとか言ったが、期限も残すところ1週間。
目を上げればカレンダーは4月である。
逆にのんびり考え過ぎたのかもしれない。
後回しもまたいけないのだ、今日、おばあさま相談することにした。
おばあさまの幸せが自分ならば、自分をよりよいものにすべきだと考えた次第で。
82:
絵里「もしもし、おばあさま?絵里よ。どう、体調は大丈夫?」
祖母「すこぶる好調だよ。絵里ちゃんは楽しくやれてるかい?」
絵里「ええ。おばあさまも元気で何よりだわ。それで今日は、相談があるのだけど」
祖母「おお、そうかそうか。頼ってくれるのを待っていたよ」
おばあさは、楽しげにそう言った。
83:
絵里「もう間もなく学校、本格的に生活が始まるから、それに当たって自分を少しでも改善したいの」
願い事のことは誤魔化すが、嘘ではない。
これからの生活の大半は学校だから、自分を改める事は大切であり、直接幸せに繋がるはずだ。
祖母「絵里ちゃんにとっての幸せって、何だろう?」
幸せ、というワードが出てきて、ドキッとした。
ハラハラショー。
おばあさまは鋭いところがあるので油断ならない。
84:
祖母「私はね、絵里ちゃん自身が幸せになれることこそが、絵里ちゃんにとっての改善だと思うんだよ」
絵里「え、ええと…」
祖母「絵里ちゃんは人をとっても想えるけど、不器用だから、それが大切なところなんじゃないかねえ」
今いち掴めなくて、困惑してしまう。
でも、それは以上入ってくれない。
ヒントはおしまいと言わんばかりに。
85:
祖母「死の際から這い上がれたことだし、おばあちゃん、絵里ちゃんのエピソードを楽しみに待ってるよ。
 音ノ木坂はいい所だよ。絵里ちゃんも、絶対楽しい。幸せになれる。いつでもおばあちゃんがついてるからね」
ひとりで愉快に話し、ひとりで電話を切ってしまった。
私は、どうにか答えをさが探さなければならないみたいだ。
〜〜〜
94:
〜〜〜
幸せとは。
私の幸せとは、なんだろうか。
チョコを食べることだろうか。世界平和だろうか。
それがしっくり分からない。
だから。
それを知れるようになることが、幸せなのかもしれない。
じっくり2日くらい考えて、ようやく私なりの答えを出した。
95:
絵里「希、決めたわ、お願い。」
希「…ホンマ?」
絵里「私を、素直な柔らかい性格にして」
堅く、だから不器用で、自分の姿が見えない。
友達は殆どいない。
つまり性格が悪いのだ。
この性格さえ変えられれば、自ずと道は見えてくるはず。
だから、この願いが叶うこともまた幸せではないか。
希は、少しの沈黙の後、こう言った。
96:
希「…すこーし、時間かかってまうけど、それでええ?」
性格が堅すぎた?それとも希の苦手分野?
心配になって、質問してみる。
絵里「…その時間というのは、具体的には?」
希「す、数ヶ月やなー」
絵里「長っっ!」
しかも具体的じゃない!
絶賛適当発動中だった。
97:
希「でも、素直になったら後悔することは絶対にないんやない?」
言われずとも、まあ想定外の長さではあったが、頼むつもりだ。
これで彼女に意思を伝えれば、願い事はなくなってしまう。
自分の、おばあさまの幸せの為。
きっと正しい。正しいはずだ。
私は変わり、おばあさまを喜ばせてあげられる。
迷いを振り切るように。
絵里「ええ、宜しくお願いするわ」
希「えへへ…うん、分かった」
今までで一番幸せそうで、しかし今までで一番辛そうに、希はそう言った。
〜〜〜
98:
〜〜〜
絵里「希?」
希「…」
絵里「ねぇ、の・そ・み!」
希「…ん、なんやエリチ?」
希の様子がおかしいと思い出したのは、4月に入ってからだったか。
99:
表情はぎこちなく、ぼーっとしていることも多い。
無理している気さえするので、私は気が気でない。
あのヒ魔人にも悩むことがあるのだろうか。
絵里「最近さ、結構元気無いわよ?どうしたの?」
希「別に、何もないよ」
絵里「体調でも悪い?それとも…ストレス、溜まってたり?」
希「エリチは気にしすぎやん。ウチはスピリチュアルパワーでハツラツや!」
100:
仮面を被ったような顔が実に気に食わなかった。
抱え込まず、頼ってほしいのだ。
とは言っても、彼女にも聞かれなくないことがあるのかもしれない。
そっとしておくべきだと思った。
しかし希は、次第に悪化していった。
頑なにそれち触れられることを避け、そしていつも通りを取り繕うとした。
表面上は変わらないいつもの生活に思えたかもしれないが、1ヶ月近く生活を共にする私には普段とは全く別のものに映っていた。
101:
そして、4月5日の夜。
あれから毎日2人で寝ているシングル。
彼女は、隣で、声を殺して泣いていた。
背を向けて。
あのときの、私のように、私とは真逆なふうに、泣いていたのだ。
102:
昼過ぎに起きてきた希は、時間が中途半端だからという理由で昼食をことわった。
それなのに、お菓子は袋を開けただけだった。
あれほど幸せそうに食べ、注意したところでのらりくらりと逃げ回った彼女が、だ。
酷く歪だ。
彼女がこれを初めて食べたときの、あの顔は忘れるはずもないのに。
絵里「希、我慢の限界。わたしに話して」
希「…隠してなんていないよ。お腹空いてないだけやから」
絵里「いい加減にして!」
希「つっ…」
103:
半分も減っていなかった。
いつもなら、目を輝かせて飛びつく、大好物のうどん。
絵里「私は希の力になりたいの。辛そうな希を見ていると、私まで辛くなる」
希「…でも、無理や」
絵里「どうして?これまで、ここで2人でやってきたじゃない。頼って、私を信じてよ!」
希「これはどうしようもないことなんよ…だから」
違う、そうじゃない。だってそれは…
絵里「私は、隠し事なんてしたくないしされたくない。だって私と希は、」
104:
私と希は、果たして、どんな関係なんだろうか。
その先は口に出せない。が、潤んだ熱い瞳で、真剣に見つめた。
永遠にも思える静寂の末、彼女は言う。
希「ウチ、エリチに謝らないといけない」
正直、怖かった。
希「魔法のランプの注意事項、もう1つ教えなきゃいけない」
ただひたすら怖かった。
105:
希「ウチは、」
暗闇なんて比にならないほどに。
希の声が。
続きが。
希「ウチは、役目を終えると同時に、必然1ヶ月が経つと同時に、」
嘘だ、
106:
希「ウチの存在とウチに関する記憶は…消去、される」
嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ
そんなの嫌だ、考えられない、
私の大切な人を助け、私の大切な人になり、同じように、いきなり消えるのか。
適当にも程がある。
冗談と言ってほしかった。
107:
希「…ごめん」
絵里「どうしてよ…」
どうしようもない悲しみは、怒りへと化ける。
絵里「どうしてもっと早く、教えてくれなかったのよ!
 分かってたら、それこそ、願い事の1つで」
希「無理なんよ、決まりを破る願いは。
 だから、隠しておいて、何も知らずに消えていくことが幸せだと、ウチはっ…」
絵里「…嫌」
希「…ウチも不器用だし、何よりエリチと仲良くなり過ぎちゃった。結局、失敗しちゃって…グスッ」
108:
絵里「嫌よ!何も知らないままいなくなるなんてもっと嫌なの!
 あなたは、これだけ一緒にいて、一言もなしに消えることが正しいと思ってるの?!」
希「…」
絵里「知っていたら、もっといろんなこと、できたのよ?あなたはそれをっ…うっ…」
希「…っごめんエリチっ」
私には、涙を流しながら駆ける彼女を追いかけることは出来なかった。
…駆けていった先が寝室の布団というのが彼女らしいが。
私の頑固が直るのは、まだ先のようだ。
〜〜〜
111:
〜〜〜
気を鎮めるべく、ベランダに出て、月を見た。満月だ。
そうだ、日本に来たあの日も確か満月だったかしら。
ぼんやりと、月と希の姿が重なった。
荒ぶっていた心は、不自然なくらい、すーーっと。
ハラショー。これがスピリチュアルパワーね。
落ち着いてくると、希との喧嘩、と言うべきなのか。
よみがえる。
112:
『分かってたら、それこそ、1つの願いで』
絵里「希とこのまま暮らしたい」
私はこの喧嘩で、やっと願いが、幸せが、のぞみが分かった。
希の適当なところ、鋭いところ、おちゃらけてるところ、たまに超可愛いところ、意外と気遣い症なところも、全部が大好きで。
部屋で一緒ごろごろしたり、チョコ食べたり、寝たり、たまに出かけたりする、何気ない日常が大好きで。
何よりも、希とずっと、この関係のまま、あるいはもっと仲良く、なっていきたかった、それが私の願い事だったのだ。
113:
その喜びを素直に実感出来るようになれば、それが幸せであると、おばあさまはおっしゃったのだ。
簡単なことが、堅くて素直でない故に、ここに至るまで気が付けなかった。
気付けていたら、『知っていたら、もっといろんなこと、できた』のだ。
彼女にあわせる顔がない。
明日、謝ろう。
114:
今回、自分で答えを見つけられたのは、きっと希のおかげ。
少しずつ、くもった鏡が晴れていているように感じた。
…今頃伸びて、冷えているであろううどん。温め直したら、食べられるかしら。
なんて。
考えながら、数ヶ月後の、あの、まるい月を眺めた。
〜〜〜
115:
〜〜〜
7時に起きた。
起きたというか、もしくは、寝ていないのである。
うどんを食しながらあれこれ考えていたら、眠くなくなってしまった。
夜食兼朝食うどんは美味しかった。
さあ、既に長針は重なった、行動開始。
116:
絵里「の〜ぞみっ、朝よ、起きて」
希「…んん…ふぇ、ふぇ?」
涙の跡を残した顔をゆっくりと上げる。
朝早くに起こされて戸惑っているのか、昨日の今日で戸惑っているのか、そんなことはどうでもいい。
どうでもいいのだ。
存在がなくなる?忘れる?知ったことか。
袖で彼女の顔を拭いてやりながら言う。
だって今日は、
117:
絵里「希、朝食食べて支度して」
希「エ、エリチ…?」
絵里「スタンドアップ」
希「そ、その、昨の」
絵里「ほら、モタモタしないの。どうでもいいこと考えずに、今日は、おーもいっきり遊びましょう♪」
希「……うんっ!」
希と私にとっての、最高の思い出を作る日なのだから。
〜〜〜
120:
〜〜〜
私たちは、丸1日かけて秋葉原をまわった。
玄関を出て、すぐに手を繋いで。
やはり微妙に恥ずかしいが、それ以上に心地良い。
幸せだった。
私は何週間か前にくすんだかしこいかわいいエリーチカを取り戻すべく、豊富な秋葉原の知識を活かして、たくさんの場所に行った。
お昼にオススメのうどん屋で食べたら、希が興奮しすぎて店員さんに叱られたわ。
ふふっ。
121:
そう、興奮といえば、特に希はスピリチュアルパワーがどうとか言って、白いシュシュに食いついていた。
あの髪の毛を結ぶシュシュだ。不気味でこじんまりした店に並んでいた1品。
まけてくれたと喜んでリアルに買っていたけれど、ぼったくられていないかしら…
まあ、彼女がニコニコだったので良しとしよう。
122:
それから、秋葉原の歴史になっているアニメショップやアイドルショップ、少し離れて上野駅近くのデパート……彼女も、とても楽しそうだった。
最近見ていない、彼女の笑顔が見れて、それだけで満足を感じられた。
私が明日から通う、音ノ木坂学院にも訪れる。
絵里「ここが音ノ木坂学院。お母さん、さらにおばあさまが通っていた伝統ある学校なの」
希「これが音ノ木坂学院なんや…へぇ…」
ニヒニヒ不気味に笑っている。
魔人こわいわぁ…
希「感じるんよ…膨大なスピリチュアルを!」
やばいやばい怖い怖い、こういう時はスルーするのが基本。
123:
絵里「何を言っているのかわからないけれど、この高校に入学するために私はロシアから来たようなものなのよね。つまり目的そのもの」
希「そっか。あんまし実感沸かへんけど、なかなかいい所やない?」
絵里「ええ、希にそう言ってもらえると嬉しいわ」
希「特に弾けんばかりのスピリチュアルがぁ」
スルーがスルーされた!
反撃である。
希「なんて冗談めかしく喋ってるけど、ここは、凄そうやで」
絵里「ふーん。で、ここ、アルパカ飼ってるらしいわ」
希「…アルパカ…ああ!スピリチュアルパワーがぁぁ!」
〜〜〜
124:
〜〜〜
楽しい時間は過ぎ、20時をまわっていた。
音もせず、ただ凄い勢いで迫ってくる時間という概念は、まるでモンスターだ。
そのモンスターには、人間どころか魔人すらかなわない。
時間を操るという夢はかなわないのだ。
黙って従うこと以外、許されない。
私は希を連れて、最後の場所へと向かった。
125:
長い階段を越え、神田明神に辿り着いた。
20時を過ぎれば観光客たちもかなり少ないから、神田明神など人は1人としていない。
絵里「ここが、1番のオススメの神田明神」
希「うわぁ…どう言えばいいか語彙が足りない、けど、めっちゃええやん…」
絵里「でしょ?自信あったんだから」
悪いが、別に変わった魅力があるとは思えない。
では私がここを選んだ理由は、直感だった。
何かを感じた、そうとしか説明できないのだ。
これも彼女の影響なのか。
126:
希「初めて来たけど、ウチ、ここ気に入ったわ♪」
あの母性本能をくすぐる表情。
ここに決めたのは、どうやら正しかったようだ。
確信は固まる。
そろそろ、モンスターは近いから。
127:
絵里「希、昨日は、本当にごめんなさい。
 興奮して、あなたの気持ちを考えずに大声をあげてしまって…」
希なりに考えてくれたのだ。
それに対して、優しさを踏みにじるようなことも言ったから、よく反省している。
知らない幸せ、という意味では、1つ私より大人なのかもしれなかった。
希「…エリチ、ウチこそごめんな。悩み、問題を相談しせずに1人で抱え込むなんて、間違ってると思う。
 しかも抱えるふりだけして、むしろエリチにまで悩みつくってもうた」
誰の手も借りず、抱え込もうとする、間違った優しさ。
私と彼女の、数少ない共通点。
128:
希「でも、言い訳をするなら、ウチはな、エリチの初めて顔を見る、ずっと前から、エリチの名前を知ってるんよ」
丁度1ヶ月前になるのだろう、出会った日に、名前を呼ばれた。
それより、もっと前、というと…
希「いつからかは知らんけど、小さい頃のエリチのこと、覚えてる。ランプの中で声だけが聞こえてな」
絵里「…恥ずかしいわね、むず痒いというか」
希「むず痒いのはウチも同じだったんよ?」
絵里「どうして?」
129:
希「ランプを撫でてもらえるのはいつかいつかと待ってたのに、タンスの奥の方にしまうんだもん」
絵里「…ランプの中では、どうしてたの?」
希「冬眠みたいなもんや。次に誰かの手に取られるまで、ずっと寝てた」
幼い頃におまじないを試さなかったのは不思議だが、あの淡く光りそうなランプが不気味だったのだろう。
そしてしまわれて忘れ去られ、冬眠していた、のか。
気の毒さは沈黙を作ったから、ふざけて、やっぱりヒ魔人ね、と言おうとして、やめた。
希「だからウチは、絵里ちゃんって名前の子に、ずっと、会いたかったんよ」
希が、真剣だったから。
130:
希「長年思い続けたこの1ヶ月間だから、たった1ヶ月だから、せめて別れなんて考えないで、過ごしたかったんやけどな」
その真剣さに、迷いも悲しみもなかった。
希「想像以上に、エリチの存在は大きくなって、別れに目を背けるなんて、無理やった」
後悔でも葛藤でも羞恥でもない。
希「でも、目を背け、逃げることは間違いやった。エリチは、ウチに大切なことをぎょーさん教えてくれたから」
あったのは、それはただ、幸せ、だった。
希「ありがとう。エリチに出会えたことが、ウチの最高の幸せ」
131:
…やられた。
希に先を越されてた、とか思いながら、
私もまた、真剣に想ってくれる人がいる事に幸せだった。
再び涙が溢れそうになるが、今日は泣かないと心に決めたのだ。
最近涙腺が脆い気がする。全くこの1ヶ月、何回泣いたのかしら。
性格が改善されていると、考えていいのかもしれない。
132:
絵里「…もう、ズルいんだから」
希「…へへっ♪」
絵里「じゃあ私からも。希には助けられたけど、お礼を言うタイミング逃しちゃってたから」
希「改まるとこっ恥ずかしいやん」
絵里「まあそう言わずに。まず、おばあさまを助けてくれたこと、私にチョコをくれたこと、私の性格のこと、本当に感謝してる。私ではどうにもならなかったわ。ありがとう」
希「願い事はウチの使命だから当たり前だけど、喜んでもらえたら、嬉しい」
133:
絵里「それはそれは喜んでるんだから。性格も、もうこんなにまるくなって」
希「まだまだやな。素直になれるのは、多分今はウチの前だけ。これから、や」
私は、希が隣にいてくれたからこそ、変わってきているのだと思っていた。
でも、浮かんだ疑問はすぐにかき消す。
希「でもエリチ、初めて会った時から、ちょっとアホっぽかったというか、素だったような」
絵里「な、なによ素がアホだっていうの?アホじゃないもん!」
希とは、おそらく相性が良かったのだろう。
希ほど楽しいと感じられた人は誰もいない。
134:
希「ふふ…エリチとのことなら、いくらでも思い出せそうやなあ」
絵里「ほんとにね」
私だってそうだ。
どんな些細なことでも、それは思い出。
私の望みであり、きっと、希との望みだ。
数え切れないこの思い出を、私は大切にしたい。
絵里「私に思い出をくれて、ありがとう。希」
この記憶が失われようと、関係ないのだ。
この事実が、のぞみの事実さえあれば。
絵里「私、自分の願いが、幸せが、やっと分かったの」
135:
素直な気持ち。素に直する気持ちに、間違いはない。
元から叶えられない願いではあったが、あえて伝えよう。
私は、この思い出が、いつものやりとりが、2人で過ごしてきた時間が、
絵里「私は、」
希「……っ」
ギュっと、それを遮るように。
希は、私の肩に顔を埋めた。
安心させるように、両手で抱き締め返した。
…キラキラと、月を取り巻く、それは星屑のように、希の体が透け始めていて。
私は更に強く抱き締める。
絵里「私は、大好きな、大好きな希と、ずっと一緒にいたい…っ!」
希「…エリチっ、ウチも…エリチが、エリチとのすべてが…大好きっ…だからっ…」
136:
私は泣かない。話せなくなるから。離せなくなるから。
強がっていても、涙と本音は自然と出てきてしまった。
絵里「希のことを忘れたくないっ…希が私から消えるのが怖い、この関係を、永遠に続けたかったっ…」
私と希は、果たして、どんな関係なんだろう?
昨日、浮かんだ疑問。
友達、仲間、親友。きっとそれ以上だ。
恋人でもなければ家族でもない。パートナー、だろうか。
でも、その詮索はおかしな行為だ。
私と希の関係は、世界でたった1つなのだから、どの名詞にも当てはまる筈がないのだ。
この名詞は、この物語は、キラキラ輝くこの光と共に幕を閉じようとしている。
137:
絵里「希と、離れたくないっっ…!」
希はそして、顔をあげた。
光は一層増し、その雫さえも輝きながら空へと散っていく。
今にも、消え入りそうな声で彼女は。
希「…大丈夫や」
私を慰めるように、
希「悲しまないで、ウチは絶対に、エリチの側にいるよ。記憶が消されても、ずっと、ずっと」
爽やかに、どこか儚げに、美しく、彼女は言った。
希「パフェ、食べに行こうな♪」
彼女らしく、私の大好きな、その笑顔で。
力を入れていた腕が、不意に空を抱く。
絵里「……希?…希、希…っ!」
138:
ああ、これで、物語は、終わったんだ。
抱え支えていた何かが無くなったことを、実感した。
そして、時間というモンスターの恐ろしさを、実感した。
私は、モンスターに、この怒りと虚しさと悲しみを、全力でぶつけよう。
精一杯、時間に抵抗しよう。
無意味な行動でも、それには、意味が、きっと…
絵里「希っ……希ぃぃっ、希ぃぃーーーーっっ!」
〜〜〜
139:
〜〜〜
絵里「希ぃぃーーーーーっ…」
ぼんやりと、エリチの姿が映った。
ウチの存在は、普段の0.1パーセント程。もう見られることも、触られることも出来ない。
吹っ切れたように、膝をつき、泣き崩れる彼女を見て、辛くなる。
だが、そんな中でも、私は嬉しかった。
彼女の中で、これだけ大きなものになれたことを、強く実感したから。
141:
ーー成長にのために、性格を変えるために、というのはただの言い訳で。
私は、この時を、彼女からの本音の告白を待ち望んでいたのかもしれない。
絵里に最後まではっきりとは伝えなかった。
罪悪感が無いと言えば嘘になる、だが、私は我儘なのだ。
我儘でいいのだと、教えてもらったのだ。
性格なんてすぐに直せたけど、そうしなかったのは、私も絵里と離れたくなかったから。
それだけだ。それだけでいい。建前は要らない。
私は我儘なのだから。
142:
私が我儘な分、彼女が大きい分、事実は強く響く。
だが。
例え時間が引き裂いたとしても。
例え時間が記憶を消したとしても。
思い出はまた作ることができるし、きっとパフェを食べに行く時は来る。
それでも私は、彼女のように、彼女と共に、時間に抗おう。
彼女の「大好き」を、時間さえも超えて、心の奥底に刻もう。
きっと、2人だけの固有名詞は、永遠だ。
悲しみなんていらないのだ。
143:
ーー0.0005パーセント。もう時間はない。
今日購入したそれを、何とか形を復元させて、彼女の足もとに落とした。悪足掻きだ。
そして。
私はまだ、在る。
ポテトチップスは、揚げ物に変えられる。
私はウチらしく、満面の笑みをもって、あの楽しげでおちゃらけた言葉で締め括ろう。
待っててね、エリチ。
♪スピスピピアピアスピリチュアルぅ〜♪
〜〜〜
144:
〜〜〜
4月8日。
待ちに待った音ノ木坂学院の入学式の日の筈だが、しかしモヤモヤが酷い。
朝起きると無駄に布団が広いし、晴れているのに超寒い。
明日には亜里沙がロシアから来るのに、私ともあろう人が寝具を用意していない。
145:
異様に物静かな雰囲気が立ち込めるが、何故かリビングは大荒れ。
結構綺麗好きのはずなんだが。
そこら中クッキーの箱やらチョコの…
ん?
以前TVで紹介していた、日本最高級チョコだ。
1箱だけ残しておいた気がする。
でも一体どうやって仕入れたのだったか。
それさえも思い出せない。
ポンコツチカになってしまったのかしら…
違和を抱えまくりながら、白いシュシュをポニーテールに結き、学校へ向かう。
146:
ええと、このシュシュは、確か昨晩神田明神で拾って…
うーん、思い出せない。
どうも昨日の記憶が曖昧だ。
どころか日本に来てからの記憶すらうまく掴めないのだが。
でもポンコツ呼ばわりは嫌。
ポンコツオコチカ。
ポンコツじゃあないから、このシュシュは単純に拾ったから使ったって訳じゃない。
まあ明確な理由でもないのだが、これが、とても大事なものに思えて。
スピリチュアル、とでも表すのだろう、何かを感じたからこそ使っている。
スピリチュアル、ね…
…私は、どうしたのかしら…?
〜〜〜
147:

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