ダークエルフ「男の尻尾をモフモフしたい」back

ダークエルフ「男の尻尾をモフモフしたい」


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1:
ダーク「私は隣の部屋に住む男が好きだ」
ダーク「二週間前にこのアパートに引っ越して来て、直ぐに一目惚れした」
ダーク「あの吊り目に、整った顔立ち」
ダーク「ぶっきらぼうだが、優しさを感じさせる言動」
ダーク「惚れないわけがない」
ダーク「そして、あの尻尾! あの耳!」
ダーク「たまらないな。モフモフしたい」
ダーク「男の部屋の壁に耳を当てながら、一日を過ごすのが日課となっている」
ダーク「明日から高等学校に行かなければいけないのが悔やまれる。ちくしょう」
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2:
ダーク「私は優秀な人材を育成する王都立の高等学校ではなく、平凡な魔族が通う高等学校に通うことになる」
ダーク「憂鬱だ」
ダーク「あ、トイレを流す音が聞こえた」
ダーク「幸せだ」
ダーク「男も高校生くらいだろうか。同級生だったりしないかな」
ダーク「……いや、仮に高校生だとしても、優秀な妖狐族のことだ」
ダーク「王都立の高等学校に通ってるのだろう」
ダーク「男と青春を過ごしたかった。ちくしょう」
8:
ダーク「男と結婚したい」
ダーク「子供は一人が良い。それか三人以上」
ダーク「男の為に毎日朝食を作って、一緒に食べる」
ダーク「仕事への見送りは勿論チューだ」
ダーク「夜は一緒にお風呂に入って、身体を流し合う」
ダーク「それから髪を乾かし合って、同じ布団で寝る」
ダーク「そして、一杯尻尾をモフモフするんだ」
ダーク「考えるだけで、多幸感で胸がぎゅーだ」
9:
ダーク「そもそも私は料理ができないな」
ダーク「……しょうがないだろう。使用人が作っていたのだ。
私の炊事力は五十三万です、なんて言えなくても」
ダーク「……お腹空いたな。出来合いの物を食べるのも飽きたが、買ってこなければ」
ダーク「壁への耳当てをやめるのも一大決心が必要だ。
しかし、朝から何も食べていない。餓死は嫌だな」
ダーク「名残り惜しいが、んっ」
ダーク「今日一日で一番頑張ったな。偉いぞ私」
ダーク「財布はテーブルの上だな。下着姿で出かけるわけにはいかないから、着替えもしなければ」
10:
ダーク「ーーよし行くか」
ダーク「風が冷たいな。早く暖かくなれば良いのに」
総菜屋「お、嬢ちゃんかい。いらっしゃい。
毎日、ウチの弁当ばかりで飽きないのかい」
ダーク「私は料理が作れないからな」
総菜屋「ふぅん。エルフにもできないことが有るんだな」
ダーク「私は出来損ないだからな。魔法も使えないんだ」
総菜屋「へえ。エルフってのは全員魔法が使えると思ってたが」
ダーク「その通りだ。だから私は出来損ないなんだ」
総菜屋「そんなに卑下しなさんな。弁当半額にしとくからさ」
ダーク「無料にはしてくれないのか」
総菜屋「こちとら商売なんでね」
ダーク「むぅ」
11:
ダーク「半額にしてもらった。良い魔族だな」
ダーク「あの総菜屋は純種ではないな。基調はコボルトか」
ダーク「純種はロクなのがいない。自尊心が強い奴等ばかりだ。そんなに混じってないのが偉いと思ってるのか」
ダーク「男は、純種だろうな。尻尾の毛並みが素晴らしいのが一目で分かるし」
ダーク「まあ、男は別だ。恋は盲目だからな。しょうがない」
ダーク「……やはり、純種が一切存在しないエルフ族なんて相手にしないだろうか」
ダーク「いや、そもそも純種の妖狐を選ぶか。……むぅ」
ダーク「まあ、私は壁に耳を当てていればそれで満足だしな。
今のところは」
ダーク「どうしてこうも世の中は上手くいかないのだろう」
12:
ダーク(男とまた話をしたいな。初対面の時に会話して以来、全然してない)
ダーク(どんな話をすれば良いのだろう。全く分からないな。
そもそも話したことある男性なんて、父親を含めても一桁じゃないだろうか)
ダーク(そもそも私は友達が少ない)
ダーク(しょうがないだろう。出来損ないなのだから)
ダーク(……また手首切りたいな。
そうしたら、また男が助けてくれたりしないかな)
呆けていた彼女は曲がり角で、誰かとぶつかった。
思いの外当たりが強く、彼女は尻餅をついた。
ダーク「す、すまない。考え事をしていた」
男「ん、気をつけてくれ」
15:
彼女の眼前に意中の相手がいた。
ダーク(男!? 今日もカッコ良いな。あの二本の尻尾をモフモフしたい)
男はいつまでも立ち上がらない彼女を怪訝そうに見つめる。
男「大丈夫か? 腰でも打ったのか」
ダーク(声もカッコ良いな。透き通るような低音で落ち着く。
もう知れば知るほど好きになってしまう)
男「おい。聞いてるのか」
ダーク「ひゃ、ひゃい! きき、聞いてます!」
彼女は慌てて立ち上がった。
男「ん、隣室のメンヘラか。暗がりで顔が見えなかった」
16:
男「またリストカットしてたりしないよな」
ダーク「し、してないです。あ、あの、ご、ご迷惑をおかけしました」
男「自覚があるならもうするなよ。
せっかく綺麗な肌をしてるんだ。傷つけたら勿体ないだろ」
ダーク「きき、綺麗!? そそ、しょんな!」
男「……随分と挙動不審だな。後ろめたいことでもあるのか」
彼女は強くかぶりを振った。
ダーク(どうして私はこんなにも緊張しているんだ。
舌が上手く回らないぞ)
男「まあ、良いけどな。……あ、その弁当」
彼の言と視線につられて、ダークエルフは下を見る。
購入した弁当が、無惨に散らばっていた。
17:
ダーク「あ……」
ダーク(夕食、また買いにいかなければダメだな。
総菜屋には悪いことをしてしまった)
男「悪い」
ダーク「い、いえ。わ、悪いのは私ですから」
男「そうだとしても、俺の気分が悪い。
何か奢らせてくれ」
ダーク「そ、そんな! わ、悪いですよ!」
男「んー、だったら俺が夕食を作る。良いか?」
ダーク「い、いい、良いんですか!?」
あまりの剣幕に彼は少し上体を反らした。
男「あまり美味いもんは作れないけどな」
20:
ーーーー男の部屋ーーーー
ダーク(ここが男の部屋か。男の匂いに満ちてるな)
ダーク(いっぱい嗅いでおこう)
ダーク(良い匂いだ。胸がぎゅーってなる)
ダーク(しかし、招かれるとは思わなかった)
ダーク(男は親切過ぎるな)
ダーク(それも好きになった要因だが)
ダーク(しかし、男の部屋は整頓されてるな。物が少ないのも有るが)
ダーク(私も、部屋を綺麗にしてなければ嫌われるか?)
21:
ダーク(嫌われたくないな。むぅ)
ダーク(あ、そもそも最初の時点で好かれてはいないのか)
ダーク「ちくしょう」
男「どうした?」
ダーク「ひゃ!? ひゃ、ひゃんでもにゃいです!」
ダーク(かなり驚いたな。また変な声が出てしまった)
男「お前も中々の変人だな。俺も人のことは言えないが」
ダーク「ああ、あ、ありがとうごさいます!」
男「いや、褒めてないぞ」
23:
男「できたぞ」
ダーク(料理、普通に美味しそうだな。家庭的なのか。
そういえば調理する音もよく聞いていたな)
ダーク(味わって食べなければいけないな。
細胞に染み込ませて二度と体外に出さないつもりでいかなければ)
男「食べないのか?」
ダーク「あっ、い、いただきます」
ダーク(美味いな。男が作ってくれたと思えば、千倍。
男の毛とか成分とかが入ってると思えば兆倍だ)
男「随分、美味そうに食うな」
ダーク「あっ、お、お腹が空いてたんです!」
24:
男「ふうん。まあ、美味そうに食ってくれた方が嬉しいけどな」
ダーク「は、はい! が、頑張ります!」
男「いや、頑張らなくてもいいけど」



ダーク「ご、ごちそうさまでした!」
男「ん。お粗末様。洗ってくるわ」
ダーク(今気付いたが、食器はいつも男が使ってるもの。
……もっとねぶっておけば良かった)
ダーク(いや、引かれるか。
しかし、後悔の念は消えない)
ダーク(……男の尻尾。どうして動くのだろう。
妖狐族が扱えるという妖術の類なのか)
ダーク(……も、モフモフしたい)
25:
ダーク(耳も可愛らしい。そして、あの二本の尾。
私を誘ってるのか?)
ダーク(噂に聞く『誘い受け』というものなのか?)
ダーク「あ、あの!」
男「ん?」
ダーク(……私はどうして声をかけたのだ?)
ダーク(誘ってるのか! とでも口にするつもりだったのか)
男「何だ?」
ダーク「おお、お、男さんって高校生なんですか!?」
ダーク(おお、凄いぞ私。ごまかせたうえに、訊きたかったことを口にできた)
27:
男「ああ。メンヘラもか?」
ダーク「は、はい!」
男「エルフってことは、王都立のほうか。エルフ族は優秀だもんな」
ダーク(いや、私は出来損ないだから公立だが。
言ったら、男に幻滅されるか?)
ダーク(嫌われたくないな)
ダーク(……私はいつでも嫌われ役だがな)
男「俺は公立の高等学校だ」
ダーク「えっ?」
男「なんだ?」
28:
ダーク「お、王都立ではないんですか?」
男「ああ」
ダーク(男も私と同じ出来損ないなのか??
……だとしたら、浅ましいが嬉しい)
ダーク「あ、あの!」
男「なんだ」
ダーク「わ、私も公立です!」
男「そうなのか。……もしかして先輩か? 俺は新入生だが」
ダーク「わ、私もです!」
男「ああ、同級生か。
……そりゃ、最近引っ越してきたんだもんな。
同級生と考えるのが普通か」
29:
ダーク「そ、そういえば何処かに出かける予定じゃなかったんですか?」
ダーク(そうでなければ私と衝突しなかったからな)
男「ああ。ちょっと知り合いに用があってな。
いつでも良いような用事のはずだ。多分」
ダーク(自分の用事のはずなのに、随分と曖昧だな)
ダーク(……まさか女!?)
ダーク(確かに男は外見も良い。しかも優秀な妖狐族だ。
更に性格も良い。作る料理も美味しい。
好かれるのも当然だ。魔族が瘴気無しでは生きられないのと同じくらい当たり前だ。
だが私が一番男のことが好きだ。全部が好きだ。誰よりも愛している。
男のことを考えるだけで、一日を終えることだってできる)
男「そろそろ遅いし自室に戻れ。あまり長居されても迷惑だ」
ダーク「あ、すす、すいません!」
ダーク(随分とハッキリ言う。嫌われてるのだろうか)
ダーク(……それは本当に嫌だな)
38:
ダーク「あ、有り難うございました! め、迷惑かけてすいません!」
男「別にまだ迷惑とは思ってないが。
すぐそこだが一応送るぞ。男としてのマナーだからな」
ダーク「ああ、有り難うございます!」
男「本当に元気が良いな。まあ、無いよりは良い」
ダーク「私は夢を見ていたんじゃないか? あんなに男と喋れたぞ。夢見心地とはこのことか」
ダーク「男は殆ど笑わないな。だがそこが良い。歯を見せるのは本来威嚇行為らしいしな。私は取り敢えず敵と思われてないようだ」
ダーク「……違うか」
ダーク「しかし、男の部屋に比べると、私の部屋は散らかっているな。
聞いた話では、部屋は心を表すらしい」
ダーク「男の心の中も、あの涼しげな吊り目が捉える世界も、私のものよりずっと明瞭なのだろう」
ダーク「私も男と同じ気持ちで、同じものを見てみたい」
ダーク「ーーーー取り敢えず、また壁に耳を当てよう」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
39:
ダーク「爽やかに晴れた朝だ。今日から高校生になる」
ダーク「正直、昨夜までは学校生活が憂鬱だった」
ダーク「しかし、男も公立の高等学校に通うならば話は別だ。王都立でなくて良かった」
ダーク「神様ありがとう」
ダーク「いや、魔物しか住めないこの世界、感謝するのは魔神の方が正しいのだろうか」
ダーク「どうでもいいか」
ダーク「しかし、通学時と帰宅時に男を尾行できるとはな」
ダーク「私にも運が回ってきたようだ」
ダーク「誕生した瞬間から、私は不運だったからな」
40:
ダーク「今の音、男が部屋を出たようだな。私も少し間を空けて行くか」
ダーク(男は後姿もカッコ良いな。雰囲気がある)
ダーク(しかし妖狐族の服は、上着はエルフ族と同様だが、下はモフモフ尻尾がある分独特だな)
ダーク(魔族にも色々と体型があるからな。それを仕立てるのを生業にする者たちは大変だろう)
ダーク(……男の尻尾はよく動くな。
本当に誘っているのだろうか。モフモフしたい)
ダーク(妖狐族は毛並みを褒めると嬉しいらしいが、男も喜ぶのだろうか)
ダーク(私が褒めようとしたところで噛んでしまうだろうが)
ダーク(……急に振り向いた)
ダーク(しまった、立ち止まってしまった。
後ろを尾けていたことがバレてしまう)
41:
ダーク(こっちに寄ってきた。怒鳴るつもりなのだろうな。
嫌われてしまったのか)
ダーク(……どうせ元々嫌われていたか。男は優しいからこんな出来損ないの私にも構っただけだろう)
ダーク(変な期待を持つから心がキューってなるんだ。淡い想いなど最初から捨ててしまえば良かった)
男「おはよ。朝から随分と辛気臭い顔してるな」
ダーク「お、おはようございます。そ、そうですか?」
男「ああ。ところで一緒に行かないか? お前が良ければだが」
ダーク「い、いい、良いんですか!?」
ダーク(尾けてたとは思われてないのか? その方が断然良いが)
男「ああ。しかし、凄い剣幕だな。中々迫力がある」
ダーク「あ、ありがとうございます!」
男「……褒めてないんだけどなぁ。まあ、どういたしまして」
42:
ダーク(……何か話題を見つけないと)
ダーク(それにしても、昨日から心臓の鼓動が過ぎる。これでは生き急ぐことになるかもしれないな)
ダーク(まさか男の隣を歩きながら通学できるとはな。エルフ冥利に尽きる)
ーーーーお前をエルフとは認めない。
ダーク(……しまった。嫌なことを思い出してしまった。せっかく男といるのに、この幸せな感情にモヤモヤを入れたくない)
男「お前って、会う度に印象変わるな」
ダーク「そ、そうですか?」
男「ああ。初対面ではメンドくせぇ奴だと思ったが」
ダーク(完全に同意だな。あの時は殆ど発狂してたからな)
47:
男「でも、昨日は妙に明るかったしな」
ダーク(昨日は昨日で精神が限界だったからな)
男「メンヘラは奇妙な奴だな。それともエルフの種族性だったりするのか」
ダーク「いや、私が変わってるだけだ……」
男「お、敬語を使わなくなったな」
ダーク「あっ。すす、すいません!」
男「謝る必要はないだろ。同級生なんだからそれが普通だしな」
ダーク「で、でで、でも……」
ダーク(相対年齢は同じでも実年齢はそれなりに離れていると思うが)
48:
男「自然体で話せよ。その方が俺も気楽だ」
ダーク「わかりまし……分かった」
ダーク(男がそう言うなら、そうしよう。その方が親密に感じるしな)
ダーク(更に仲良くなって、そのうち恋仲になって、デートしたり、手を繋いだり……)
男「……顔が紅いが、大丈夫か?」
ダーク「だ、大丈夫だ! 健康だ! 今なら空を飛べそうだ!」
男「……本当に大丈夫か。熱でも有るんじゃないか」
ダーク「ほ、本当に本当に大丈夫だ!」
男「……なら良いんだがな。体調が悪いようなら無理はするなよ」
ダーク「だ、大丈夫だ。心配してくれて有り難う……」
66:



校長「ーーーーこの学校には様々な種族がいる。そしてその全員に或る共通点が有る。
それは、君たちはこれからの未来を担う者たちだということだ。
これからの三年間で、互いを分かりあい、互いに成長していって貰いたい。
あまりに短い時間だが、今の時期に培ったものは生涯君たちの力となり、自信となり、誇りとなるだろう。
後悔しないように過ごして欲しい
そしてーーーー」
ダーク(……男の後姿を凝視していたから殆ど聞いてなかったな。しかし、余りにも冗長だ。もっと短縮できるだろう)
ダーク(……私の近くに座っている魔族たちの、奇異の視線が鬱陶しい)
ダーク(男以外に視姦されても嬉しくないぞ)
ダーク(勿論男なら大歓迎だ。むしろ私だけを見ていて欲しい)
ダーク(喜ばしいことに、同じクラスにもなれたしな。もしかしたら私は現在、一生分の幸運を費やしているのではないか?)
ダーク(少し先の未来に大きな不幸が待ち受けていたりしてな)
ダーク(……妙な杞憂は止めておこう)
67:



ダーク(ホームルームが終わった。私の席は窓側の一番前。男の席は窓側の一番後ろだ)
ダーク(男の姿を見るのが一番難しい位置だ。ちくしょう)
ダーク(……いや、男に見られてると思えば良いのか。男が私に舐めるような視線を向けている。そう考えれば幸せな気持ちになれるな)
ダーク(我ながら天才だな。ふふん)
「本物のエルフなんて初めて見た……」
「エルフは本当に珍しいよな……。しかも肌が黒い……」
「でも、なんで優秀なはずのエルフが公立なんかに通ってるんだ……?」
ダーク(聞こえてるぞ。私に聞こえ
ないくらいまで声量を絞れ)
「多分、落ちこぼれなんだろ……」
「あのエルフにも劣等種がいるのか……?」
「エルフは混種しかいないから、基調がエルフでもその様相は存外多様らしいわよ……」
「えーと、つまり変異が負の方向にいっちゃったってこと……?」
ダーク(……その通りだよ)
68:
「机に突っ伏したぞ……」
「聞こえてたんじゃね……」
「あら。にしても、エルフは高慢って聞くけどどうなのかしら?」
「ちょっと……。声が大きいよ……」
ダーク(……帰ろう。此処にいると胸がキューってする)
彼女は伏せていた上体をもたげ、椅子を引いて立ち上がった。
ダーク(ーーーーあ)
立ち上がった直後、彼女の華奢な躰が傾いた。
彼女の内面の揺れ幅を表すように。
しかし、彼女の痩身が床を打つことは無かった。
男「おい、メンヘラ。帰るぞ」
ダーク(……男に支えられてるのか)
ダーク(男の手、温かいな)
69:
ダーク(……っ。どうしてこれくらいで私の涙腺は緩むのだ。泣いたら男に迷惑だろう)
周囲の者たちは重く沈黙していた。
男「自分で歩けるか?」
ダーク「だ、大丈夫だ。空も飛べるぞ、多分」
男「飛ばなくて良いから歩け。まあ、それだけ言えるなら元気だな」
彼は彼女を垂直に立たせ、抱えていた手を離した。
ダーク(……もう少しだけ支えて欲しかったが、ワガママだな)
男「ほら、行くぞ」
ダーク「あ、ああ」
75:
ーーーー通学路ーーーー
ダーク「すまなかった……」
男「何に対する謝罪だ?」
ダーク「いや、迷惑をかけてしまったから」
男「別にあれくらいなら範疇に入らない。俺の心は広いしな」
ダーク(……本当に男は心が広い。私のような出来損ないにも優しくしてくれるのだから)
男「クラスの奴等の言葉は気にするなよ。
アイツらもお互い親しくなる為に、共通の面白い話題を考慮した結果だろうし。
その結果が悪口というのは、些か低脳が過ぎるがな」
ダーク「しかし、殆ど事実だ……」
男「ん?」
ダーク「彼等の言通り、私は劣等種だよ。エルフ族最大の特長である魔法も使えない」
男「……ふうん」
76:
男「で?」
ダーク「……え?」
男「それがどうしたんだよ? お前が悪口言われて良い謂れになるのか?」
ダーク「……事実だからな。悪口には当たらないだろう」
男「……ふうん」
暫く沈黙が続く。
彼女の歩みは気まずさからか、少しだけ幅を増した。
彼もそれに合わせる。
元々、最初から歩の度を彼女に合わせていた。
彼にしては、非常に珍しいことだった。
男「お前が自分をそう思うのは構わない。でもな、俺はムカついた」
ダーク「……?」
77:
男「アイツらはお前を何一つ知らないだろ。
俺だって殆ど知らないが、少なくともアイツらよりは知ってるつもりだ」
彼は前方に視線を固定したまま言う。
男「お前はメンヘラで、挙動不審で、奇妙な奴だ。メンドくせぇ奴だ」
ダーク(返す言葉もない)
男「だが、俺は嫌いじゃない。料理を美味そうに食ってくれたしな」
ダーク「……実際に美味しかったからな」
男「どうも。
とにかく、俺はお前をアイツらの言葉通りの奴だとは思えない。だから、まあ、おこがましいが、お前はもっと自分に自信を持てよ」
ダーク「……自信、か」
ダーク(私が自負できるものは何だろうな)
78:
男「まとまりがないことを言って悪かったな」
ダーク「そんなことはない。ありがとう」
言って、彼女は微笑む。
男「おう。それと、お前は笑った方が可愛いな。いや、綺麗の方が適切か」
ダーク「にゃ!? にゃにゃ、にゃにを言ってるんだ!?」
男「ケットシーの真似か?」
ダーク(噛んだだけだ。
……顔に血が集まってのが分かるぞ。男はこんな簡単に私を慌てさせるから質が悪い)
ダーク「わわ、私は先に帰る! さ、さよなら!」
彼女は駆け出そうとして、前に踏み出そうとした足が、地を踏んでいた足にひっかかり、前に転びほうになる。
しかし、再び彼の腕がそれを止めた。
79:
男「危なっかしいな。良いから一緒に帰るぞ。見送った後に怪我をされたら俺が後悔するだろ」
ダーク「あ、す、すいません……」
男「いいから。ほら、体勢整えろ」
ダーク「あ、はい……」
男「敬語に戻ってるぞ」
ダーク「あ、ああ……」
男「ん、よろしい。帰るぞ」
ダーク(優し過ぎるだろう)
ダーク(これ以上惚れさせてどうするつもりなのだ)
83:
ーーーーダークエルフの部屋ーーーー
ダーク「明日も共に登下校しないかと誘われた」
ダーク「……遂に私の時代が訪れたようだ」
ダーク「私と男が結ばれる日も遠くないな」
ダーク「こうなったら、将来に備えて料理を覚えておくか。良いお嫁さんで有りたいしな」
ダーク「食材を買って。料理本も買って。ダンボールに入れたままの食器類もおろして。……準備に時間がかかるな」
ダーク「しかし、思い立ったが吉日。頑張るか」
ダーク「……取り敢えず壁から耳を離そう」
84:
ーーーー本屋ーーーー
ダーク(問題は何を作るかだな)
ダーク(男の好物を作れるようになりたいが、そもそも好物が分からないしな)
ダーク(肉料理か? しかし、男は肉食系には見えないな)
ダーク(氷をガリリと噛んでいそうだ。勝手な想像だが)
ダーク(どちらかというと、魚料理の方が好きそうだな)
ダーク(しかし、私に捌けるのか。内臓を取り出せる自信が無いぞ)
ダーク(あ、切り身を買えば良いのか)
ダーク(ならば、ムニエルとかを作ってみるか)
85:
ーーーー帰り道ーーーー
ダーク(材料も買ったし、帰ったら早作ってみるか。既に食器類も取り出しているしな)
ダーク(洗濯もできるようになったし、料理ができるようになれば私の生活能力は飛躍的に向上するな。目指すは良妻賢母。炊事力五十三万)
ダーク(母ということは、私と男に子供ができるということか。ということはーー)
ダーク(い、いや。この思考は止めにしよう。顔が紅くなってきた)
ダーク(早く帰ろう)
ダーク(しかし、薄暗くて侘しい道だ)
ダーク(夜に女独りで歩く道ではないな)
ダーク(次からはもっと往来の多い道にしておこう)
86:
ダーク(ーーん?)
ダーク(眼前にいるのは誰だろうか)
ダーク(……妖狐族か?)
ダーク(随分と美しい女性だな)
ダーク(……男は、やはり彼女のように同じ妖狐族が好みなのだろうか)
ダーク(あの制服。王都立の生徒か)
ダーク(王都立は凄いな。年中無休で夜遅くまで勉強するのだから)
ダーク(しかも九年間もだ。流石世界一の選民育成学校だ)
ダーク(しかし、美しい妖狐だ。男もだが、冷静で知的な印象を受けるな)
ダーク(それにしても、どうしてこんな夜道に佇んでいるのだろう。イヤホンを付けてるようだが)
87:
「……っ!!」
ダーク「ひゃっ……!」
ダーク(何だ? 急にイヤホンを外したと思ったら、鬼気迫る顔になったぞ)
ダーク(思わず情けない声が出てしまった)
「……」
ダーク(に、睨まれているぞ。取り敢えず目を逸らしておこう)
ダーク(やり過ごせたか。悪漢では無いが、恐ろしかった)
ダーク(……あの妖狐、どことなく男に似ていたな)
88:
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ダーク「これが白身魚の手触りか。ふむふむ」
ダーク「えーと、まずは……」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ダーク「フライパン、フライパン」
ダーク「誘導加熱調理器にのせてーー」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ダーク「バターを敷いてーー」
ダーク「次は、えーと、えーと……」
89:
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ダーク「あわわ、レシピ本に水が……」
ダーク「だ、大丈夫なようだな」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ダーク「身が焦げた……」
ダーク「私の肌より黒いぞ」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ダーク「盛り付け、盛り付け」
ダーク「うう、写真通りにはいかないな」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ダーク「洗い物を先にしておこう」
ダーク「だいぶ汚してしまった。特にフライパンが酷いな」
90:
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ダーク「つ、疲れた……」
ダーク「もう遅い時間だな」
ダーク「こんな時間に食べたら太るか?」
ダーク「……良いか。お腹が空いたしな」
ダーク「いただきます」
ダーク「……まずっ」
ダーク「パサパサだし、余りにも大味過ぎる」
ダーク「……自分で料理を作ると、使用人さんの有り難みを深く実感するな」
ダーク「彼女の料理がまた食べたい」
ダーク「……残さずに食べよう」
91:
ダーク「ごちそうさまでした」
ダーク「私は偉いな。全部食べたぞ」
ダーク「皿とかは明日の朝で良いか」
ダーク「良妻の道は遠い」
ダーク「いっそ男を嫁に貰えば良いのかもしれないな」
ダーク「……取り敢えず夜だけでも毎日頑張ろう。魔法と違って素質の有無は関係無いはずだしな」
ダーク「もう少し経ったらシャワーを浴びるか」
ダーク「その前に予習もしておこう」
ダーク「勿論、男の部屋との壁に耳を当てながらだ」
94:
男「はあ」
ダーク(随分と深い溜息だな。何かあったのか?)
ダーク(訊いて大丈夫だろうか)
ダーク「ど、どうかしたのか」
男「ん? ちょっとな。俺の周りにはメンドくせぇ奴しかいないことにふと気付いてしまったんだ」
ダーク(……その“メンドくせぇ奴”には、私も含まれているのだろうな)
ダーク「すまない……」
男「ん? ……ああ、確かにお前もメンドくせぇけど、迷惑じゃないから良いんだよ」
ダーク「そ、そうか。ありがとう」
男「礼を言われることでは無いだろう」
95:
男「クラスに中々馴染めなくても塞ぐなよ。俺も口が悪いから嫌悪されるだろうしな」
ダーク(男は口が悪いというよりも、包み隠さずにはっきりと物事を口にする性分のようだが)
ダーク(私は勿論そんな男も好きだが、不快を覚える者がいるのも当然といえば当然か)
ダーク「大丈夫だ。男もいるしな」
男「……ああ、うん。何かむず痒いな」
ダーク(……私もだ。何を口走っているのだろう)
男「まあ、どうせ三年間だ。俺からすれば微々たる時間だよ。妖狐は長命だからな。殆ど不死だよ」
ダーク(純種の妖狐族では、未だに老衰で亡くなった者がいないらしいしな)
男「エルフ族もそれなりに長命だろ」
ダーク「ああ。普通は千年くらい生きるからな」
96:
ダーク(尤も、私のような黒い肌をしたエルフの寿命は記録にないがな)
ダーク(黒エルフは最近になって存在を確認されたばかりだからしょうがないのだが)
ダーク(私は自分がどれだけ生きられるのか見当もつかない)
ダーク(一般のエルフのように千年ほど生きる可能性も有るし、明日死ぬ可能性だって零ではない)
ダーク(ーー黒エルフは、私は何者なのだろうか)
男「惚けてるが大丈夫か?」
ダーク「あ、ああ。昨日美しい妖狐に会ったからな。思い出していた」
男「……尾は何本だ。四本か?」
ダーク(……随分と真剣な表情で訊くな)
97:
ダーク「いや、確か二本だったと思う」
ダーク(見惚れていて、あまり観察してなかったから確信はないが、四本ではなかったはずだ)
男「……そうか。四本ではないか。なら良いんだ」
ダーク(いつもの無表情が翳っている……?)
ダーク(男。分かりにくいが落ち込んでるのか?)
ダーク(……男が誰かのことで一憂するのは快くないな)
ダーク(特に異性のことで)
男「あ。もしかして見た妖狐ってのは王都立の制服を着ていなかったか」
ダーク「あ、ああ。着ていたな」
98:
男「……はあ。成る程なあ。アイツ、不審な振る舞いをしていなかったか」
ダーク「……イヤホンを付けていたが、怖い顔でいきなり外していたな」
ダーク(睨まれたことは黙っておこう。何となく)
男「ああ、はいはい」
ダーク(合点がいった顔をしているが、どういうことだろう)
ダーク(あの美しい妖狐と知り合いのようだが。姉とか、妹とか)
ダーク(……彼女、だったりしないと良いが)
ダーク(また胸がキューってしてきた)
99:
ーーーー公立高等学校ーーーー
ダーク(クラスの中で私たちが付き合っているという噂が立っているようだ)
ダーク(私は嬉しいが、男は嫌がっているかもしれない)
ダーク(しかし、男は何も弁明しないだろう)
ダーク(どうすれば良いのだろうか)
ダーク(……むぅ)
ダーク(しかし、クラスメイトと仲良くなれる気がしないな)
ダーク(中等学校時代からそうだったから尚更だ)
ダーク(……馴染むのはやはり諦めた方が良いか)
ダーク(男と同じクラスというだけで幸せだしな)
100:
ーーーーーー
ーーーー
ーー
語学教師「えー、高等学校では公用語である『人語』の造詣を深め、他方で各民族の言語も習得していく」
語学教師「言語は賢さの下地だ。真面目に受けろよ。私のテストは難しいからな」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
歴史教師「高等学校の歴史では、中等学校で習った歴史を更に深く学びます」
歴史教師「自分は特に戦国時代が好きですね。鬼蛇戦争などは皆さんも中等時に習ったでしょう」
歴史教師「勿論、四百年ほど前に勃発した世界大戦の詳細も学びますよ」
歴史教師「歴史はその流れを理解できれば、下手なコミックやノベルよりも面白いです。一緒に楽しい授業を目指しましょう」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
101:
化学教師「化学では魔物の生命維持に必須であり、電気生産の原料などで我々の生活基盤を支える『瘴気』などを化学式を用いて紐解いてくからね」
化学教師「じゃあ、一番前の席のオーク君。
瘴気を構成する元素四つを知ってる?」
オーク「えーと、『瘴子』、『壊子』、『毒子』、『灰子』です」
化学教師「ちゃんと勉強してるね。偉いね」
化学教師「にしても、『壊子』と『灰子』は音が一緒だし、化学的性質も似てるからややこしいね」
化学教師「間違えないように気をつけようね。私も学生時代はよく間違えたからね」
ーーーーー
ーーーー
ーー
102:
生物教師「おう! 新入生! こりゃまた色んな種族が混じってんな!」
生物教師「一年次の生物では、細胞や魔族共通の器官、遺伝について勉強するぜ! 魔獣と魔草木の器官もな!」
生物教師「二三年次は各魔族の特徴的器官や、細胞を更に深く学ぶ! このクラスにはめちゃくちゃ珍しい黒エルフや、不死に等しい妖狐族もいやがるな! 俺も楽しい時間になりそうだ!」
ダーク(無遠慮な教師だな。他の教師のように無言でジロジロ見られるよりは潔くて好ましいが)
生物教師「ちなみに生物を受け持つのは 三年間俺だ! 覚悟しやがれよ!」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
103:
ダーク(昼休みだ。学食に行って食事をするか、購買でパンを買うか)
ダーク(クラスでら弁当を持参している者が多いな)
ダーク(男はどうするのだろうか)
男「おい、メンヘラ」
ダーク「あ、な、何だ?」
男「お前は昼食どうするんだ?」
ダーク「学食か購買にしようと思っていたが」
男「そうか。弁当なら一緒に食べようと思ったんだが」
ダーク「あっ、じゃ、じゃあ購買でパンを買ってくる! い、急いで行ってくるから!」
男「そうか。別に急く必要はないからな。ゆっくり行けよ」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
104:
ダーク(男とご飯か)
ダーク(何を話そう。お弁当を褒めたりとかすれば良いのか?)
ダーク(私は男のことを未だ未だ知らないからな)
ダーク(訊きたいことはたくさん有る)
ダーク(でも、質問ばかりするのは良くないと聞いたな。気を付けなければ)
ダーク(早くパンを買おう)
ダーク(一つで充分かな)
ダーク(早歩きで戻ろう)
ダーク(周囲から不躾な視線も向けられているしな)
ーーーーーー
ーーーー
ーー
123:
ダーク(男がクラスメイト二人と会話している)
ダーク(机を寄せ合っているし、一緒に食べるのか?)
ダーク(……全員男子で加わり辛いな)
男「あ、戻ったか。早く来いよ」
ダーク「あ、ああ」
ヴァンパイア「どもども」
オーク「こんにちは」
ダーク「どうも」
ダーク(吸血鬼と猪人か。オークはHR委員だったか)
124:
ダーク(どうせなら男と二人の方が良かったな)
ヴァンパイア「ダークエルフさんはクール美人だよな」
ダーク「ありがとう」
ヴァンパイア「男と付き合ってるのか」
男「いや。違うが」
ダーク「あ、ああ」
ダーク(その通りなのだが、男の口から言われると心にくるな)
ヴァンパイア「ほほう。じゃあ登下校が一緒なのは何でなんだぜ」
オーク「そうなのかい?」
男「アパートの部屋が隣なんだよ」
125:
ヴァンパイア「なんと。二人とも一人暮らしなのか」
ダーク(あまり教えたいことではないのだが。物騒だしな)
オーク「一人暮らしは憧れるけど、やっぱり面倒事も多そうだね」
男「まあな」
ヴァンパイア「でも羨ましいぜ。
俺も一人暮らしして彼女と気のゆくまでイチャイチャしたいぜ。甘噛みしながら血を吸いたいぜ。
彼女いないけどな!」
オーク「自虐はよしなよ。
それにしても皆は小食だね」
ダーク(大きい弁当箱だな)
ヴァンパイア「オークは身体がデカいんだから、たくさん食って当然だろ」
男「ああ」
ダーク「ヴァンパイアは血を飲まなくて良いのか」
ダーク(吸血鬼は一日に血を少量摂取することが必要らしいが)
126:
ヴァンパイア「俺は純種じゃないから、週一くらいで良いんだぜ」
オーク「ヴァンパイア君も混種なんだね。僕もだよ。男君は?」
男「純種だが」
ダーク(やはり男は純粋な妖狐族か。毛並みが美しいのは血統書付きというわけだな)
男「まあ、気にしないでくれ。混ざる混ざらないなんてそんな気にすることでもないだろ」
ヴァンパイア「ほほう。男は変わってるな。優秀な一族の純種は偉そうにしてるのが標準だと思ってたぜ」
男「そういう奴も少なくないな」
オーク「男君とは仲良くなれそうだ。ところで、弁当は自分で作ったのかい?」
男「ああ」
ヴァンパイア「まじか。カーチャンが作った弁当より美味そうだぜ」
ダーク(私も頑張ろう)
127:
ーーーーーー
ーーーー
ーー
地理教師「地理では、世界の地形や、そこに住む魔族の文化や生活様式などを学習していきます。はい」
地理教師「初日なので、授業を始まる前に面白い話をしましょう。はい」
地理教師「世界の半分を覆っている瘴気と瘴気の発生場所である『瘴溝』は勿論ご存知でしょう。王都の近くにも世界一の瘴溝である『大瘴溝』が有りますしね。はい」
地理教師「今は大瘴溝の上に発電所が設けられ、王都全域の電力が賄われていますね。はい」
地理教師「この大瘴溝及び瘴気はどうやら自然的に発生したにしてはあまりに不自然だと研究者の間では騒がれています。はい」
地理教師「古代に存在していた知的生命体が瘴気を創ったのではないか、などという眉唾な論文を提出した学者もいるらしいです。はい」
地理教師「……あまり興味を持ってもらえなかったみたいですね。残念です。はい」
地理教師「じゃあ、教科書を開いてください」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
128:
数学教師「はい、これからよろしく。それでは授業を始めます」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ダーク(疲れたな)
ダーク(HRも終わったし、後は帰るだけだ)
ダーク(男の隣を歩くのは緊張するが、やっぱり幸せだ)
ダーク(帰りは何を話そうかな)
男「メンヘラ、今日は先に帰るから」
ダーク「えっ。……あ、ああ。分かった……」
男「じゃあな」
ダーク「さ、さよなら……」
129:
ダーク(……嫌われたのか?)
ダーク(……私と帰りたくないのかな)
ダーク(い、いや。用事が有っただけだろう)
ダーク(悲観的に考えるのは止めだ)
ヴァンパイア「あれ、男と帰らなかったのか?」
ダーク「あ、ああ。まあな」
オーク「そうなんだ」
ヴァンパイア「じゃあ体験入部しに行こうぜ! 青春はスポーツと共に有るんだぜ!」
オーク「僕は入部するなら文化部の方が良いかな。スポーツとかすると、見境が無くなって暴力を振るったりしちゃうんだよね」
ダーク「怖いな」
130:
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ダーク「だいぶ回ったな」
ヴァンパイア「だなぁ。しかしダークエルフさんの弓の腕前には驚嘆したぜ」
オーク「矢の上に矢を何個も重ねていったもんね。やっぱりエルフ族は凄いや」
ダーク「幼少の頃から弓は得意だからな。使う機会は全くないが」
ヴァンパイア「そりゃ、日常生活では使わないな」
オーク「でも初夏にあるらしい『勇者合宿』で役に立つんじゃない?」
ヴァンパイア「ああ、そんなのも有るらしいな。内容はよく知らんが」
オーク「それで、何に入部するか決めた?」
ヴァンパイア「俺は水泳部かな」
ダーク「吸血鬼が水泳か」
ヴァンパイア「ステレオタイプに囚われないのが俺なんだぜ」
オーク「僕は郷土史研究部かな。雰囲気が緩そうで好き」
131:
ダーク「そうか」
ヴァンパイア「ダークエルフさんはどうするんだぜ」
ダーク「私はやはり帰宅部だな」
オーク「え、弓道しないの?」
ダーク「一人暮らしの身に、部活動に打ち込む時間は無いからな」
ヴァンパイア「それもそうか。付き合わせて悪かったんだぜ」
ダーク「いや、楽しかったよ。ありがとう」
オーク「そう言ってもらえると嬉しいよ」
ヴァンパイア「ああ」
132:
ヴァンパイア「じゃあ、一緒に帰るんだぜ!」
ダーク「構わないが、私はスーパーに寄っていくぞ」
オーク「スーパーの方向なら僕の帰り道と同じだよ」
ヴァンパイア「俺もなんだぜ」
ダーク「そうか。ならば都合が良いな」
オーク「うん。行こう」
ヴァンパイア「行こう」
ダーク「そういうことになった」
137:
ーーーー帰り道ーーーー
ダーク(ヴァンパイアもオークも善い奴だな)
ダーク(親しい友達になれれば良いな)
ダーク(家に帰ったらムニエルに再挑戦だ。食材も買ったことだし)
ダーク(上手くいったら、次は男に好物を訊いてそれを練習しよう)
ダーク(夜もだいぶ更けてしまったな。早く帰ろう)
ダーク(ーー男の部屋から誰かが出てきた)
ダーク(……昨日の妖狐だ)
ダーク(な、なんで……)
ダーク(目が合ってしまった)
138:
ダーク(こっちに寄って来る。どうしよう)
「……昨日のエルフね」
ダーク「あ、ああ」
ダーク(随分と威圧感の有る女性だな。相対年齢は同じくらいだと思うが)
「アタシと同じクラスにもエルフがいるけど、貴女は肌が黒いのね」
ダーク(……もしかして)
「でも、そんなことは良いの。貴女に訊きたいことが有るの」
ダーク(私は逃げたい)
139:
「貴女、男のストーカーなの?」
ダーク「えっ。い、いや、違う」
ダーク(ストーカーでは無いはずだ。多分)
「その反応は怪しいわね」
ダーク「部屋が隣室で、クラスが同じなんだ。ストーカーでは無い」
「……へえ」
ダーク「ひゃっ……」
ダーク(に、睨まれているぞ。この妖狐、美人だが凄まじく怖い)
「男はアタシの彼氏なの。寝取ろうとしたら、殺すからね」
ダーク「え……」
「え、じゃないわよ。何? 男のことを狙ってたの? 貴女みたいなのが? 笑わせないで」
ダーク「……」
「忠告はしておいたから」
140:
ーーーーダークエルフの部屋ーーーー
ダーク(……男の彼女)
ダーク(ここ二週間で初めて会った。王都立はやはり多忙なのか)
ダーク(しかし、あれだけの美人なら男とも釣り合ってるな)
ダーク(……少なくとも私よりは)
ダーク「……」
ダーク(どうして私の一生は不幸に溢れてるのだろう。出来損ないに幸せは無いのだろうか)
ダーク(……胸が苦しい)
ダーク(たすけて。誰かたすけて。生きてる実感をちょうだい)
ダーク(……カッター)
141:
膝を抱えていた彼女はおもむろに立ち上がり、引き出しに収納していたカッターを取り出した。
薄い緑色の把手に納められていた銀の煌めきが、無機質な音ともに表出する。
その銀は、蠱惑的な輝きを放っていた。
彼女は左手首の少し下に、冷ややかな刃を当てる。
以前に自傷した箇所の僅かばかり下の位置だ。
以前の傷は薄く盛り上がり、皮膚の下に蟲が潜んでいるようだった。
あと僅かでも刃を深く押し当てれば、彼女の柔らかく美しい褐色の肌を裂き、彼女の肌よりも黒い血が滲み出るだろう。
ダーク(……)
142:
ーーーーせっかく綺麗な肌をしてるんだ。
傷つけたら勿体ないだろ。
ダーク「……っ」
彼女はカッターの刃を仕舞い、部屋の隅に放った。
ダーク(……私は浅ましいな)
ダーク(また自傷行為に及んで、男が助けてくれるのではと望んでいた)
ダーク(本当に独善者だ)
ダーク(……もう訳が分からない)
ダーク(自分の感情が制御できない。グチャグチャだ)
ダーク(……今は泣いておこう)
143:
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ダーク「……朝か」
ダーク「学校に行きたくないな」
ダーク「でも、休んでもしょうがない」
ダーク(男よりも遅く出よう。ギリギリ遅刻しない程度で)
ダーク「男が出たようだな」
ダーク「そろそろ行くか」
男「おはよう。随分と遅かったな。急がないと遅刻するぞ」
ダーク「な、なんで……」
男「ん? 何がだ?」
ダーク(なんで、彼女がいるのに私を待っていたんだ?)
男「ん、時間が本格的にヤバいな。行くぞ」
ダーク「あ、ああ」
144:
ーーーー通学路ーーーー
男「お前、今日おかしいぞ」
ダーク「え、そそ、そうか?」
男「ああ。陰鬱な顔してる。それに目が腫れぼったいぞ」
ダーク(鏡で確認した分には気にならないと思っていたが、他人から見たらそうでも無いのだろうか)
ダーク「な、何もない」
男「……そうか」
ダーク「ああ」
ダーク(男は優しいな。……優しいから私の隣にいて、私を気にかけてくれてるに過ぎない。そこを勘違いしては駄目だ)
ダーク(私に、男の隣に並ぶ権利は無い)
145:
ーーーー昼休み・教室ーーーー
ヴァンパイア「化学のハーピー先生と、歴史のラミア先生はマジで美人なんだぜ」
オーク「ハーピー先生は薄着だから、目のやり場に困るよね」
男「鳥人族は羽根のせいで基本薄着だからな。冬は大変そうだ」
ヴァンパイア「俺としては有難いんだぜ! 目の保養なんだぜ!」
オーク「ちょっとヴァンパイア君、ダークエルフさんが引いちゃうよ」
ヴァンパイア「おっと。確かに女子を加えてする話題では無かったんだぜ。悪かった」
ダーク「いや、別に」
男「お前、今日はパン二つなんだな」
ダーク「あ、ああ」
ダーク(昨夜から何も口にしていないからな。流石にお腹が空いた)
146:
ヴァンパイア「……何だか暗い顔してるんだぜ。保健室に行ったら良いんじゃないか?」
ダーク「……いや、大丈夫だ」
男「……」
オーク「次の時間は生物だね」
男「あの声がデカい鬼人族の教師か」
ヴァンパイア「オッサンなんて興味無いんだぜ。それより、ラミア先生のあの理知的な雰囲気の素敵さを議論しよう」
ダーク「確かにあの先生は物腰が柔らかそうだ」
ヴァンパイア「ああ。俺はあの尻尾に締められながら熱く抱き合いたいぜ」
オーク「骨が折れるんじゃないかな」
男「吸血鬼は刺創以外の損傷には強いから大丈夫なんじゃないか」
ヴァンパイア「あんな美人に抱き締められながら死ねるなら、それも幸せなんだぜ」
147:
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ダーク(今日の学校生活も終わった)
ダーク(ヴァンパイアは水泳練習に行くらしい)
ダーク(オークも郷土史研究部に顔を出すらしい)
男「帰るか」
ダーク「あ、ああ」
ダーク(男は普段と変わらない)
ダーク(……一緒に帰るのはもう止めにした方が良いだろう)
ダーク(私のせいで、男に迷惑をかけたくないしな)
ダーク(今日で最後だ)
148:
一応種族を載せておきます。
再登場時に間違えないようにしないと。
化学ーーハーピー(鳥人)女
地理ーーデュラハン(首無騎士)男
語学ーートロール(巨人)男
生物ーーオーガ(鬼人)漢
歴史ーーラミア(蛇人)女
数学ーーミノタウロス(牛人)男
152:
ーーーーアパート廊下ーーーー
男「じゃあな。また明日」
ダーク「ああ。……あの、男」
男「なんだ?」
ダーク「その、明日からは一緒に登下校しなくていいぞ」
男「……そうか。一応理由を訊いても良いか?」
ダーク「いや、ほら、男には彼女がいるのに、私と登下校するのはまずいだろう」
男「彼女? 誰からそんな話を聞いたんだ?」
ダーク「……彼女本人からだが。王都立の生徒の」
男「……ああ、アイツか」
153:
男「それ、嘘だからな」
ダーク「……え?」
男「俺に彼女なんていない」
ダーク「い、いやでも、本人が言ってたぞ」
男「アイツはただの幼馴染だ。
尤も妖狐族は全員が、有る程度血縁関係に有るが」
ダーク「お、幼馴染?」
男「ああ。アイツは魔王様の血筋の妖狐でな。
一族の中でも秀才なんだが、かなりメンドくせぇ奴でな。
あんまり関わりたくない奴だ」
ダーク(魔王様も妖狐族だったな。魔王様の血筋ならば、優秀なのも美人なのも納得だ)
男「入学式の前日の夜に、お前と道端でぶつかっただろ?」
ダーク「ああ」
ダーク(あれを契機として、男に近づけたのだ。忘れもしない)
154:
男「あの日の午後は用事で出掛けていたんだ」
ダーク(……ん? 午後の時間も物音がしていたと思ったが。
確か、入口の扉の開閉音が一度して、それから数分もしない内にまた音がしたぞ)
男「それから、家に帰ってみると部屋の様子が微妙に変わっていたんだ」
ダーク「え……」
男「不審に思って探ったら、盗聴器が出てきた」
ダーク「……え?」
男「直ぐに幼馴染の仕業だと察しがついた。以前も似たようなことをされたしな。
でも今回は流石に怖くなった。犯罪行為だしな」
ダーク(か、壁に耳を当てるくらいは普通のはず……)
男「それで、問い詰めにいこうとしたらお前とぶつかった訳だ」
155:
ダーク(あの妖狐、恐ろしいな。
世に聞く『ヤンデレ』というものだろうか)
男「一昨日に、もう数個盗聴器が有ることに気付いた。
それらは次の日に部屋に来るよう言ってから壊した。
それで昨夜は、もう嫌がらせ行為をしないことと、俺に付き纏わないことを約束させた」
ダーク「だから昨日、独りで帰ったのか?」
男「ああ。戦闘になっても良いように色々と準備していたからな。素直に肯いてくれたが」
ダーク(ストーカーは私では無く、彼女の方だったというわけか)
男「アイツに会ったんだろ? 何か変なことを言われなかったか?」
ダーク「い、いや。特には」
ダーク(殺すと脅されたが、それは流石に誇張だろう)
男「そうか。なら良いんだ」
156:
ダーク「あ、あの!」
男「なんだ?」
ダーク「その、やっぱり明日も一緒に行って欲しい」
ダーク(……ちゃんと言えた)
男「……明日はもう少し早くな。遅刻は嫌だぞ」
ダーク「あ、ああ!」
男「じゃあ、また明日」
ダーク「ま、また明日」
ダーク(……よかった)
157:
ーーーー金曜日・昼休み・教室ーーーー
オーク「ヴァンパイア君、歴史の時間は凄かったね」
男「教師の質問に全部挙手して答えてたな」
ダーク「ラミア先生、若干迷惑そうだったぞ」
ヴァンパイア「存在感を示したかったんだぜ。
それに、先生の授業に興味が有ることをアピールしたかったんだぜ」
男「ただ歴史が好きなだけだと思われたんじゃないか」
オーク「だよね」
ヴァンパイア「……マジかー。昨夜、必死に勉強したのにな」
ダーク「随分と健気だな」
ヴァンパイア「まあな。完全に惚れちまった」
158:
オーク「教師と教え子の禁断の恋だね」
男「実らないだろうな」
ヴァンパイア「酷いんだぜ。成就させてやるんだぜ」
ダーク(私もその心意気を見習おう)
オーク「頑張ればきっと報われるよ」
ヴァンパイア「流石オーク。善い奴なんだぜ」
男「まあ、頑張ってくれ」
ヴァンパイア「勿論なんだぜ」
ダーク(お互いに頑張ろう)
159:
ーーーー放課後・教室ーーーー
ヴァンパイア「顧問にカッコ良いところを見せて来るんだぜ!」
男「誰が顧問なんだ?」
ヴァンパイア「ラミア先生なんだぜ」
オーク「へぇ。じゃあ目立たないとね。僕も部活に行かなきゃ」
ダーク「郷土史研究部はどんな活動をしているんだ?」
オーク「特に何もしてないよ。雑談したり、勉強したりしてる」
男「緩いな」
オーク「まあね。それじゃあ、さようなら」
ヴァンパイア「俺も行くぜ。また明日な」
男「じゃあな」
ダーク「さよなら」
160:
ーーーー通学路ーーーー
ダーク(スーパーで食材を買わなければいけないな)
ダーク(夜でいいか)
ダーク(ーーそういえば男の好物は何なのだろう)
ダーク「あ、あの」
男「ん?」
ダーク「その、男の好きな食べ物は何だ?」
ダーク(凄いな私。以前よりずっと積極的じゃないか)
男「んー。ムニエルとか?」
ダーク「ほ、本当か!?」
ダーク(練習の成果がそのまま実を結ぶじゃないか。
私の勘は正しかったのだな)
男「作ってでもくれるのか?」
ダーク「い、いや。私はまだ料理が不得手だからな。まだ無理だ」
男「そうか。納得いくものができるようになったら食べさせてくれ」
ダーク「あ、ああ。勿論だ」
166:
ーーーーダークエルフの部屋ーーーー
ダーク「男のことを考えていたら、随分と時間が経ってしまった」
ダーク「結婚式はやはり六月だな」
ダーク「ーーさて、男に美味しいと思わせる為に、もっと料理の練習をしなければいけないな」
ダーク「取り敢えず食材を買いに行くか」
ダーク「男を胃袋から掌握していき、最終的には尻尾をモフモフする仲になる」
ダーク「その為の一歩だ」
ダーク「もう遅い時間だな。スーパーの閉店時間が近い」
ダーク「急がなければ」
167:
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ダーク(この路地は暗いし侘しいから夜は通りたくないが、近道だからな)
ダーク(少し小走りで行けばいいか)
彼女は駆け足で道を通ろうとする。
ダーク(……っ!?)
彼女は首に両手を当てた。
彼女の細首に何かが巻きついていた。
それは柔らかい手触りだが、強かに彼女の首を締め付ける。
ダーク「っ……!」
呼吸が止まり、顔が赤らむ。
168:
ダーク「ーーーー」
やがて、彼女の全身から力が抜ける。
締め付けていた“何か”が外れた。
彼女の華奢な身体が地に倒れる。
締め付けていたのは長い尾だった。
妖狐の尾だった。
幼馴染「……」
174:
ーーーーーー
ーーーー
ーー
「おい。大丈夫か」
私のことなど放っておけ。
「そんなに血が出てるのに放っておけるわけないだろ」
いいんだよ。もうどうでもいいんだ。
私はもう生きていたくないんだ。
このまま死にたいんだ。
「あっそ。死にたいなら勝手にすれば良い」
そうだ。さっさと部屋から出ていけ。
「でもな。俺が察知できないところでやれよ。
もう関わってしまったんだ。放っておけないだろ」
175:
私に触るな!
やめろ!
「うっせーよ。怪我人は安静にしとけ」
ふざけるな!
やめろ!
「あんまり騒ぐなよ。襲ってるみたいに思われるだろ」
ならば、やめろ!
「ーー少し落ち着け。そしてよく聞け」
……。
176:
「俺はお前のことを全く知らない。
何がお前をここまで追い詰めてるのかも分からない」
当然だろう。初対面だぞ。
そんな輩に私を理解されてたまるか。
「まあ、そうだろうな。
だがな。俺はお前に死んで欲しいとは思わない」
……何故だ。
「分からん。だが、素直な気持ちだ」
……適当だな。
「そうだな。まあ、良い。医者のところに行くぞ」
……いやだ。
177:
「メンドくせぇ。取り敢えず俺を信じて生きてみろ。
それで駄目だったら、今度は首を吊れよ」
……変な奴だな。
「よく言われるよ」
……首を吊るのは怖いだろう。
「はは、確かにな。さて、よいしょっと」
ま、まて!?担ぐな!
「肩に担がれるのはご不満か? なら、これで良いか」
な、尚更良くない!
178:
「お姫様扱いも不満か」
恥ずかしいだろう!
「生きたいと思ってる証拠だな。良いことだ」
……っ。
「すぐ近くの医院で良いよな。
救急車を呼ぶよりも早いだろうし」
……保険証も無いし、今は金も無いぞ。
「それくらい立て替えてやるよ。後で払ってくれ。
あ、返す時は笑顔でな」
……本当に変人だ。
「そうだな。嫌わないでおいてくれ」
……はは。
189:
ーーーーーー
ーーーー
ーー
目醒めると、闇に満ちた空間が彼女の眼前に広がっていた。
ダーク(……まだ男にお金を返して無かったな)
明瞭になりつつも未だ朧なままの脳裡で、彼女はそう思考する。
彼女の頭上には明滅を繰り返す電球があった。
頼りない唯一の光源は、荒い岩肌を照らしている。
彼女は黒い帯状の拘束布で、椅子に固く縛り付けられていた。
胴に二本。
片腕に二本ずつ。
片足にも二本ずつ。
首元のテープは若干ゆとりがあった。
ダーク「……なんだこれは」
茫然と呟く。
閉ざされた空間なのか、声がよく反響した。
190:
「ようやく醒めたみたいね。待ち切れずに殺してしまうところだったわ」
前方の暗闇より、女の声が聞こえた。
反響する。
間を空けずに、足音が響く。
やはり反響した。
幼馴染「随分とぐっすり眠ってたわね。
もう日付が変わる時間よ」
頭部ほどの蒼炎が現出し、彼女の周囲を揺らめく。
狐火だ。
ダーク「……どういうつもりだ」
幼馴染「男に擦り寄る蛾を駆除するだけよ。
光に群がる習性は本当に鬱陶しくて苛々するわ」
ダーク「貴様も蛾の一人か」
幼馴染「……この状況で随分と余裕ね」
191:
美しい妖狐は笑む。
いや、口角を吊り上げる。
眼には修羅の炎が宿っていた。
幼馴染「最初に言っておくけれど、悲鳴はたくさん上げていいわよ。
ここは世界大戦の折に作られて、使われもせずに棄てられた避難壕だから、誰の迷惑にもならないわ」
ダーク「……それは重畳だな」
幼馴染「ふふ、殺す前に子供が産めない身体にしてあげる。
良い声で啼いてね。
悲鳴を聴く為に、醒めるのを待っていたのだから」
ダーク「貴様の下賤な思考には共感できないな。
男に振り向いて貰えないわけだ」
肉を強烈に打ち付ける音が響いた。
あまりに大きな音で、数度反響する。
幼馴染「図に乗るな。顔の皮を剥ぐぞ」
修羅がダークエルフを睨んでいた。
192:
ダーク「……」
強かに頬を叩かれ、あまりの痛みに彼女は片目から泪を流した。
幼馴染「今までも蛾の駆除をしてきたけれど、殺すのは貴女が初めてになるわ。男にここまで擦り寄った蛾は初めてよ。今までは他が入り込む余地もないほど一緒にいたしね」
片方の尾の毛を細指で弄びながら、彼女は言った。
ダーク「……私は男と付き合っても無いがな」
幼馴染「関係ないのよ。男の隣にアタシ以外の雌がいる。
それが不快なの。男の隣はアタシの居場所なの。
この避難壕だってアタシと男の秘密基地よ。
小学生の時はいつも此処で一緒に遊んだわ」
懐かしむような声音で彼女は言った。
幼少時の情景が脳裡を巡っているのか、狐火で照らされた彼女の顔は満たされたように微笑み、眼は安らかに閉じられていた。
すっかり自分の世界に浸かっているようだ。
193:
それから、再び激情が顔に浮かぶ。
幼馴染「なのに、どうしてアタシは振り向いて貰えないの? 物心ついた時から、ずっと好きだったのに。何十年も一緒にいたのに。誰よりも愛してるのに。どうして高祖母なんかに負けたの? あんなの見た目だけ若いクソババアじゃない。しかもあのババアは男のことを振るし、調子にのってるんじゃないわよ。傷心の男を慰めて振り向いて貰おうとしていたのに、男は王都立に進学するのをやめて一人暮らしを始めるし。あまつさえ黒エルフなんかと男は親しくしてるし。もうなんなの? 訳がわからないのよ。誰よりも男を想ってるのに。一番男を知っているのに。なんで。なんで。なんで。なんで。なんで。なんでのよ」
恨みがましい口調で、彼女は延々と呪詛を呟く。
ダークエルフはその異様さに畏怖し、戦慄する。
脅迫の文句として、彼女は「殺す」と口にしていたと思っていたが、彼女ならば本気で自分を殺しかねないと考え直し、ダークエルフの背筋は凍り付く。
同時に胸を焼くような怒りが湧き上がってくるのを感じた。
194:
幼馴染「あ、そっか」
彼女は納得した表情で、手を打った。
幼馴染「貴女のせいね。貴女が全部悪いのよ。貴女がいなくなれば男は私を見てくれる。貴女さえいなければ男は私の元に戻ってくる。貴女さえいなければ全て上手くいくのよ。貴女のせいで私は不幸なのね。貴女さえいなければ。貴女さえいなければ……!!」
ダーク「……ふざけるな!」
狂気の笑みを浮かべる妖狐に、彼女は怒りを露わにする。
ダーク「好き放題言ってくれたな。
色々と訂正したいが、取り敢えずこれだけは言っておく。
男を誰よりも愛してるのは私だ!」
妖狐は無言で、二本の尾を槍のように鋭く尖らせて、彼女に照準を定めた。
195:
しかし、彼女は全く動じていなかった。
恐怖は怒りによって心の底に押し込められたらしい。
ダーク「私は男と出会ってまだ間もない。貴様ほど男のことも知らない」
幼馴染「当たり前でしょ!」
ダーク「だが、例え男に振り向いて貰えないとしても、私は男のことを想い続けるし、男の幸せを願う。男を困らせるようなことを絶対にしない」
妖狐は歯軋りする。
形の良い歯が立てる音は、相応の不快な音色だ。
ダーク「男のことを想うからこそだ。
どうして貴様はそれができないのだ?」
196:
ダーク「貴様は男を所有したいだけではないのか」
幼馴染「……黙れ」
ダーク「ーー貴様は本当に男を愛しているのか」
幼馴染「黙れ!!」
ダーク「貴様が黙れ!」
ダーク「痴れ者が! 貴様がいくら男を知っていようが、貴様のような独善者に男が靡くわけがないだろう!」
幼馴染「……殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……!!」
ダーク「……っ」
207:
ダークエルフに向かって双の尖槍が放たれる。
しかし、彼女の身体が穿たれることは無かった。
獣が妖狐に体当たりを食らわせたからだ。
彼女の体は突き飛ばされて、岩壁に衝突する。
獣はそのしなやかな姿体の周囲に、握り拳程度の大きさをした蒼炎を幾つか纏っていた。
その飴色の体毛は仄かに光を帯びており、視る者に神秘的な印象を与える。
筆の総を想起させる二つの尾は、独立した意思を持つかの如く揺らめく。
巨大な狐だった。
209:
獣の澄んだ瞳が、ダークエルフを捉えている。
彼女の知っている瞳だった。
ダーク「……男?」
狐「おう」
馴染み深い声が返事した。
ダーク「どうして……」
狐「お前が出掛ける音を耳にしたんだよ。でも、帰ってくる音が全然しないから不安になってな」
彼は地に臥している自身の幼馴染へと視線を向ける。
狐「こいつの家を訪ねたら、まだ帰ってきていないと言われた。
それで万が一を考えて此処まで駆けてきたんだ。
此処ぐらいしか当てがないからな」
210:
ダーク(私の為にか……。
……どうしよう。嬉し過ぎて泣いてしまいそうだ)
幼馴染「……そんなにその黒エルフが大事なの??
いつもは嫌がる『獣纏』までして」
彼女は倒れたまま呟く。
幼馴染「アタシで良いじゃない。ババアと容姿だって酷似してるわよ。それにアタシなら、男のことだけを考えて、男だけを見て、男の為に生きられるわ。男の為なら死んでも良い」
狐「そうか」
幼馴染「なのに、どうしてアタシを見てくれないの? そんな黒エルフなんかに構うのよ? アタシの何がダメなの? その女狐の何が良いの?」
ダーク(妖狐族に“女狐”呼ばわりされた。誇るべきだろうか)
狐「お前は、まあ、悪い奴ではない。
家族の次に長く時間を共に過ごしたから、それは知ってる」
幼馴染「……なら、どうしてなの?」
狐「だってお前ーー」
212:
狐「料理に血とか陰毛とか入れるじゃん」
213:
ダーク「……えー」
幼馴染「血は、男とアタシが一つになりたいからよ。
毛は、結ばれる為のおまじないよ」
狐「俺は食べ物を愚弄するような奴を好きにはなれないんだよ。
チョコレートに経血入れられた時は胃袋の中身全部吐き出したしな」
ダーク「……うわぁ」
ダーク(ない。それは流石にない)
幼馴染「それも、おまじないよ」
狐「それだけでなく、他にも思い出したくもない所業の数々。
そんなお前に恋心を抱けるだろうか」
ダーク「いや、ない」
ダーク(男と私の見事な反語連携だな。ふふん)
214:
幼馴染「アタシじゃ無理なの?」
狐「俺では、お前の愛を受け止めきれないな」
幼馴染「……あはははははは。男はアタシを愛してくれないんだ? そう。そうなのね。もういいわ。もういいの。もういい」
ダーク「……?」
幼馴染「死んじゃえばいい」
彼女の全身を金色の膜が包む。
膜は彼女の身体に張り付き、厚みを増していく。
女狐「それならせめて、アタシが男を殺す」
やがてもう一匹、二本の尾を持った巨体な獣が出現した。
獣は牙を剥く。
狐「お前じゃ俺に勝てないだろ」
女狐「やってみなきゃ分からないでしょうが!」
吼えながら、彼女は突進する。
しかし、彼は純粋な獣では有り得ない体捌きで避け、二本の尾を彼女の後頭部に叩きつけた。
215:
女狐「ーーーーっ」
獣は再び地に臥す。
狐「悪いな。家にはちゃんと送り届けるから眠ってろ」
言って、彼は身体を包んでいた膜を消散させる。
金色の鱗粉が宙に漂い、大気に還っていった。
男「おいメンヘラ、大丈夫か?」
ダーク「あ、ああ。助けてくれて有難う」
男「無事なら良い。今テープを外すからな」
ダーク「ああ。頼む」
拘束紐を外し終えて、彼は彼女の四肢を解すように揉む。
固く縛られたせいで、鬱血し、むくんでいる為だ。
216:
男「もう大丈夫か。帰るぞ」
ダーク「あ、ああ」
ダーク(男にたくさん触られてしまった……。
嬉しいけれど、恥ずかしいな)
女狐「……待ちなさいよ」
男「まだやるのか」
女狐「男はアタシのものなの。誰にも渡さない。誰にも渡さないんだから」
男「お前のものになった覚えなんて一度も無いがな」
女狐「男。男。男。男。男。男。男。男。男。男。男。男」
おぼつかない足取りで迫る獣の、尾の数が一本増える。
更にもう二本。
217:
ダーク「……成長しているのか?」
男「流石、妖狐族屈指の秀才。お前なら九尾になれるかもな。魔王様の血を継いでいるわけだし」
女狐「男。男。男。男。男。男。男。男。男。男。男。男」
男「少しは話を聞けよ、全く」
ダーク「どうする……?」
ダーク(実は相当危機的な状況じゃないか?)
男「別に何もしない」
ダーク「え?」
女狐「男。おと……」
獣は、事切れたように倒れ込んだ。
『獣纏』が解け、彼女は人型に戻る。
218:
男「やっぱりな」
ダーク「どういうことだ?」
男「妖狐族は普通、尾の数が増えた時は疲労で動けなくなるんだよ。しかも、こいつは一気に三本だからな。さっきまで起き上がってたのが不思議なくらいだ」
ダーク「そうなのか」
ダーク(執念とは凄いものだ)
ダーク(取り敢えず、今は大丈夫なようだな)
男「さて、帰るか。途中でこいつを家に送り届けるからな」
ダーク「……分かった」
ダーク(でも、このまま彼女を放置したら、私はまた襲われる気がする)
ーーーーーー
ーーーー
ーー
238:
ダーク(男と並んで帰れるのは嬉しい。とても嬉しい)
ダーク(しかし、だ)
男「眠いな」
幼馴染「……すぅ」
ダーク(男が、彼女をお姫様扱いしているのは気に入らない)
ダーク(凄く気に入らない)
ダーク(先刻彼女に告げた言葉に偽りはない)
ダーク(……しかし、やはり嫉妬はしてしまう。むぅ)
ダーク(男が失恋した相手のことも気になる)
239:
男「怖い顔してどうした?」
ダーク「いや、これから先にまた襲われたらどうしようかと思って」
男「確かにな。オジさん、オバさんの言葉で、こいつが改心するとも思えない」
ダーク「むぅ」
男「気は進まないが警察か。犯罪行為に及んだことだしな」
ダーク(首を締められたし、殺人未遂に当たるのだろうか)
ダーク(でも、男の幼馴染を警察に突き出すのも憚られるな)
ダーク(どうしよう)
幼馴染「……とこぉ」
男「……?」
240:
幼馴染「おとこぉ……。おとこぉ……」
ダーク(……寝たまま泣いてるのか)
ダーク(今まで近くにいて当然だった者が急に離れるのは、やはり辛いのだろうな)
男「……俺は最低だな」
彼は自嘲的に呟く。
ダーク「どうした?」
男「こいつ、俺が失恋したって言ってただろ」
ダーク「……ああ」
男「魔王様なんだ。その相手は」
241:
ダーク「……え」
男「三ヶ月ほど前に、魔王様の息女が逝去されただろ。ほら、四天王の一人だった」
ダーク「あ、ああ」
ダーク(そういえば大々的なニュースになったな。
葬儀は身内の者だけで行なったらしいが)
男「その時期に想いを告げたんだ。打ちひしがれてる魔王様にな。心の空虚に入り込もうとしたんだ」
ダーク(そうか。魔王様は未亡人だったか。
夫を見送り、娘に先立たれたら哀しみも底抜けだろうな)
男「見事に振られたけどな。いつまで経っても子どもとしか思えないってさ」
ダーク(あの方、千歳を余裕で超えているらしいからな……。無理もない)
男「相応しい男になる為に色々と頑張ってきたのに、散々な結果に終わってヤケになったんだ。それで王都立の進学も辞した」
ダーク「そうか……」
242:
男「親父にはあの時初めて殴られたな。家からも追い出されたよ。仕送りはしてもらってるから、感謝してるが」
ダーク(仕送りと、追い出されたというところは、私と同じだな)
男「……こいつには一人暮らしすることは言わなかった。
こいつが俺のことが好いてるのは薄々感付いてたけど、応えるのが億劫だった。拒否して傷付けるのも怖かった」
ダーク「……」
男「その結果がこれだ。俺の不断のせいで、こいつはアホをやらかすし、お前を危険に晒してしまった。本当にすまない」
ダーク「……男が謝ることじゃないだろう」
男「謝ることだよ。……この際だ。このまま、全てぶちまける」
男「お前の部屋、音が全部筒抜けなんだ」
243:
ダーク「……え?」
ダーク(男は今、何と言った?)
ダーク(筒抜け……? 筒が抜けた……? あれ……? 丸聞こえ……? あれ……? )
男「妖狐族は聴覚が発達してるからな。
あの程度の壁だと防音の意味を為さないんだよ。
あと、ムニエルはそこまで好物じゃない」
ダーク「あああ、あの、そそ、それって……!」
男「お前の独り言は全部聞こえてた。直ぐに教えてやらなくてすまない」
ダーク「あ、あうあう……」
ダーク(な、何を口にした? 普通に好きだと言っていた気がする。結婚したいとも……)
ダーク(き、消えてしまいたい……)
男「な、泣くなよ」
245:
ダーク「だ、だって……」
幼馴染「おとこぉ……」
男「お前もか」
ダーク「ぐすっ……」
幼馴染「ぅぅ……」
男「どうすればいいんだ」
男「なあ、メンヘラ」
ダーク「何ですか男さん? あ、ゴミクズはさっさと消えろということですね。本当に気が利かなくてすいません。気持ち悪くてすいません。出来損ないですいません。生きていてすいません」
男「おい、どうしてそんなに否定的になってるんだよ」
ダーク「だって……本当に……私は……」
246:
男「あのな。俺はお前のこと、嫌いじゃないよ」
ダーク「……え?」
男「そもそも嫌いだったらこうして助けになんて来なかったし、そもそも初めての対面の後に二度と関わろうとしなかったよ」
ダーク「あ、あの……それって結婚……」
男「いや、それは余りにも性急だろ。飛躍が過ぎる」
ダーク「ぅぅ……」
男「え、えー」
幼馴染「おとこぉ……」
男「本当にどうすればいいんだ」
247:
ダーク「すまない。取り乱してしまった」
男「落ち着いてくれて良かった」
幼馴染「……すう」
男「こいつも泣き止んだな」
ダーク「男、彼女のことだが」
男「ん、処遇か」
ダーク「不問にしてやれないだろうか」
男「良いのかよ。多分、また同じようなことをするぞ」
ダーク「……私には、彼女の気持ちが若干分かる」
男「同じメンヘラだからか」
248:
ダーク「同じ男性を好きになったからだ」
男「……そうかよ」
ダーク「彼女は必死だったのだと思う。大切な人を取られるのが嫌で堪らなかったのだと思う」
男「……」
ダーク「勿論、用いた手段はいけなかったが」
男「それはそうだ」
ダーク「でも、もし同じようなことにあっても男が助けてくれるだろうしな」
男「……お前、呑気だなぁ」
ダーク「男を信頼しているんだ」
男「他人なんて信頼するものじゃない」
ダーク「私にとって、男は他人じゃない」
249:
男「……深夜の浮かれた気分で喋ると、明日の朝に後悔するぞ」
ダーク「確かに気分は高揚としているが、嘘は話してない」
男「……そうかよ」
ダーク「ああ」
男「……こいつの家はもうすぐだ。俺一人の方が都合が良い」
ダーク「あ、そうか。先に帰る」
男「帰り道は分かるか?」
ダーク「大丈夫だ。さようなら」
男「ああ、じゃあな」
250:
男「ーーさて。起きてるんだろ」
幼馴染「……バレてたのね」
男「ああ。降ろすぞ」
幼馴染「もう少し、こうしていたいわ」
男「自分の足で立てるなら、立てよ」
幼馴染「相変わらず冷たいのね」
男「冷血漢だからな」
幼馴染「本当にそうね」
彼女は彼の腕から離れ、地に足を着ける。
251:
男「いつくらいから起きてたんだ」
幼馴染「彼女が泣き止んだ辺りかしら。臭い言葉だったわ」
男「そうかよ」
幼馴染「彼女に私の気持ちが分かるわけないわ」
男「俺も知らないさ。
お前を完全に理解できるのは世界でお前だけだ」
幼馴染「……それもそうね」
答えて、彼女は己の尻尾を指先で弄ぶ。
幼馴染「尾が増えたわ」
男「一気に三本か。前代未聞だな」
252:
幼馴染「成長のさは混種の強みかしら」
男「お前はそこまで混じってないだろ」
幼馴染「父や祖父、曾祖母に比べたらそうね。
血の薄さは祖父がピークだったから。だってクォーターよ。
ま、四分の一でも優性になることで、妖狐族の血の素晴らしさを証明したと、一部では持て囃されたらしいけれど」
男「魔王様は純種なのにな。不思議な家系だ」
幼馴染「あのババアが異種族と結ばれるからこうなるのよ。曾祖母もね」
男「……過ぎた口だな」
幼馴染「恨んで当たり前よ。純種だったら男と簡単に結婚できたのに。
妖狐族で唯一混じったアタシたちの家系は、妖狐族のなかでも異端扱いだもの」
男「いや、お前が純種ならば家族は承諾しただろうけど、俺は分からないぞ」
幼馴染「なによ。男だって純種が良いんじゃない。
男が高祖母に惹かれたのも純種だからなんでしょ??」
253:
男「違うな。俺はあの人が時折見せる哀しい顔に惹かれたんだ。
最初は笑顔にしたいって感情だったはずだ。
血筋は関係ない」
幼馴染「嘘よ」
男「嘘じゃない。誓っても良いぞ」
幼馴染「……じゃあ、アタシが今まで抱えていた劣等は幻影だったというの?」
男「コンプレックスだったのか。俺に関して言えば、そうだな」
幼馴染「……もっと早く言ってよ。バカ」
男「お前の本音を初めて聴いたんだが」
幼馴染「それくらい察してよ。幼馴染でしょう。バカ」
男「……そうだな。すまなかった」
幼馴染「……あの黒エルフのことが好きなの?」
男「……急に何だよ?」
幼馴染「良いから答えなさいよ」
254:
男「相変わらず高圧的だな。……嫌いではないな」
幼馴染「アタシは?」
男「大切な幼馴染だ。でも、異性としては見れないな」
幼馴染「なんでアタシにはハッキリ言うのに、黒エルフのことは濁すのよ」
男「ん……」
幼馴染「……好きなのね」
男「……そう、だな。ああ、そうだ。
最初会った時、あいつ泣いてたんだよ。
その泣き顔に惹かれたんだな。悪い奴でも無いし」
幼馴染「男の性的嗜好は泣き顔なの? 嗜虐者?」
男「なんでそうなるんだよ」
255:
男「……でも、まだ整理が着いてない。
俺は失意の埋め合わせとして、あいつを求めてるだけかもしれない。それは最低だろ」
幼馴染「そうかしら。誰もが、いつだって、何かの代替品を探してるでしょう」
男「……そうかもしれないが、俺の気が治まらないんだよ」
幼馴染「真面目ね。知ってたけれど」
男「そうだな。
ーーーーとにかく、あいつにはもう手を出すなよ」
幼馴染「出さないわよ。男が血統に拘泥しないなら、アタシに欠点なんて無いもの。
あの黒エルフから、直ぐに男の心を奪い返してみせるわ」
男「それを俺の前で言うのか」
幼馴染「あ、でも監視カメラを設置させて」
男「却下だ」
256:
ーーーー早朝・ダークエルフの部屋ーーーー
ダーク「うわあぁぁぁああん!」
彼女はベッドに横たわりながら、枕に顔を深く埋めていた。
そのまま体を悶えさせる。
ダーク「昨夜の私はアホか!? どうして、あんな恥ずかしいことをたくさん口にしたのだ!」
ーーーー同じ男性を好きになったからだ。
ダーク「うわあぁぁ! うわあぁぁあ!」
ダーク「アホ! 昨日の私のアホ!」
ーーーー私にとって、男は他人じゃない。
ダーク「ーーーーッッッ!!!!」
257:
悶えるだけでは足らず、彼女は枕に顔を埋めたまま、体を転がす。
結果、ベッドから落ちた。
ダーク「あう」
痛みで、ようやく彼女は僅かばかり冷静を取り戻す。
ダーク(さっきの声も、男に筒抜けか……!)
ダーク(ううっ、これからどうしよう)
ダーク(男に合わせる顔がない)
ダーク(……いっそ開き直るか)
ダーク「男! 好きだ! 大好きだ! 愛してる!
結婚してくれ! 嫁にしてくれ! むしろ嫁になってくれ!」
258:
ダーク(男の部屋から扉の開閉音が聞こえた。部屋を出たのか?)
彼女の部屋のドアが勢いよく開かれた。
男「お前はアホか! 大きな声で何を宣ってるんだよ! ……しかも、なんでそんなに薄着なんだよ!」
ダークエルフは薄い生地のTシャツに、下着しか身に付けてなかった。
扉が閉められた。
ダーク(シャツは無難。下着は可愛い奴だ。助かった)
ダーク「ノックも無しに、扉を開けるのは良くないと思うぞ」
男「急に冷静になるなよ!」
ダーク(さっきまで、恥辱の極致に塗れていたから、羞恥は殆ど無いな)
ダーク(むしろ、男が慌ててくれたお陰で、私の精神が幾分落ち着いた)
ダーク(取り敢えず着替えるか)
261:
男「先ずは謝る。すいませんでした」
ダーク「別に気にしていない。むしろ照れてくれて嬉しい」
男「……性格変わり過ぎだろ」
ダーク「いや、もう憚る感情がないからな。
これからはずっとこんな感じだ」
男「いや、憚るべきだ。
今までも確かに、お前の独り言を聞いていた。でも独り言の内は良いんだが、話しかけられると困惑するんだ」
ダーク「どうしてだ?」
男「どうしてもだ。とにかく、色々と今まで通りでいこう。
お前の独り言は聞かなかったことにするから、プライバシーの心配はしなくて良い」
ダーク「分かった。そういえば、男に立て替えてもらった治療費を返して無かったな」
男「あ、確かに。忘れてた」
262:
ダーク「あの時はありがとう」
男「ん、ちゃんと笑顔も忘れてなかったな」
ダーク「むしろ男が忘れていたじゃないか」
男「さっき思い出したから、良いんだよ」
ダーク「何だかズルいな。
あ、訊きたかったんだが、男の好物は何だ?
ムニエルでは無いんだろう?」
男「好物か。肉料理かな、やっぱり」
ダーク「若者らしいな」
男「まあ、相対年齢では高校一年生だからな」
ダーク「そうか。
……もう少し時間をくれ。まだまだ料理の技術は低い」
263:
男「いつでも良いけどな。どうせなら教えるか?」
ダーク「良いのか?」
男「構わないぞ」
ダーク「じゃあ、頼む」
男「ああ」
264:
ーーーー王都立大学校ーーーー
幼馴染(……しまった)
幼馴染(色々とカッコ付けちゃったけど、この学校は無休の上、夜も遅いじゃない)
幼馴染(どうやって男の心を惹くのよ)
幼馴染(……アタシにアホの子キャラなんて無かったはず。
あの黒エルフのせいかしら)
幼馴染(本当にどうしよう……)
幼馴染(せめて盗聴器だけでも設置させてもらえば良かったわ)
「おはよう。キツネちゃん」
幼馴染「……その呼び方は何かしら?」
「あれ、気に入らなかった? 結構可愛いと思うんだけど」
幼馴染「バカにしているの?」
「違うよ。友達になりたいと思っただけだよ」
265:
幼馴染「先ずは礼儀を弁えなさいよ。馴れ馴れしい輩は好きじゃないわ」
「手厳しいなぁ。あ、ところでね」
幼馴染「……?」
「黒い肌をしたエルフに酷いことしたでしょ?」
幼馴染「……」
「言っておかなくちゃいけないことが有るんだ」
幼馴染「……何よ?」
幼馴染(……? 急に誰も話さなくなったわね)
幼馴染(教室中の視線がこっちに向けられてる。……しかも、全員が虚ろな瞳になってる)
266:
「もうアレに手を出しちゃダメだよ」
「アレは私のオモチャなの」
「他の奴に壊す権利なんて無いんだよ」
「もしもまた手を出したら」
「貴女から壊すよ」
幼馴染「……っ」
幼馴染(……本気ね)
「それに、貴女は妖狐族随一の秀才なんでしょ?」
267:
幼馴染「……そうね」
「できれば“友達”になって欲しいなぁ」
「“兵士”じゃなくてね」
幼馴染(……兵士。このクラスメイトたちのことかしら)
幼馴染「……ええ。喜んで」
「嬉しいなぁ。それじゃあ、私は帰るね」
幼馴染「……まだ一時限目も始まって無いのだけれど」
「大丈夫だよ」
「貴女以外は皆“兵士”だもの」
268:
幼馴染「……っ!?」
「あはは、可愛い顔。じゃあ、私は用事が有るから」
幼馴染「用事……」
「うん。世界征服でもしようと思ってね」
幼馴染「……は」
「じゃあね」
幼馴染(姿が消えた!?)
幼馴染(……クラスメイトは普段通りに戻ったみたいね)
幼馴染(ーーーー何が“友達”よ)
幼馴染(あの眼は……)
269:
幼馴染「ゴミを見下す眼だったじゃない……!」
270:
一章的なものが終了です。
一スレで終わると良いけれど。
27

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