夏目漱石「西住ちゃん」back

夏目漱石「西住ちゃん」


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 親譲りの頑固者で怒られてばかりいる。
 小学校に居る時分戦車の主砲から飛び降りて姉の腰を抜かさせたことがある。
 何故そんな無闇をしたと聞かれると大したことはない。
 真夏の日、砲塔から首を出していたら姉が、そこの池で水浴びでもどうだ。危ないから絶対に飛び降りるなよと云ったからである。
 泥まみれで帰って来た時、母がまなじりを吊り上げて主砲から飛び降りる奴があるかと云ったから、この次は綺麗に着地してみせますと答えた。
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2: 以下、
 中学になると私と姉は西住流西住流とちやほやされるようになった。
 だがどうにもこの西住流というやり方が気に食わない。
 撃てば必中守りは固く進む姿は乱れ無しとお題目を掲げてはいるが闇雲に前進し殲滅しているようにしか思えぬ。
 母は家元で金に困っていないものだから質の良い戦車で引き潰していくこの流儀はそれなりに理が通る。
 では金がなく碌な戦車を揃えられない人はどうするのかと聞けば、そんな者に戦車を率いる資格はないと云う。
 その物言いに腹が立ったので貧乏人からは月謝が取れないから大変ですねと云って年上の門下生をぼこぼこにしてやった。
 母は大層怒ってお前のような者の顔は見たくないと云うから、門下の逸見という奴の部屋に押しかけて飯をたかっていた。
3: 以下、
 そんな私も高校生になり迎えた全国大会決勝戦にて、チームメートが駆る戦車が落盤で水没した。
 戦車の中は安心安全であるとはいえ、水は漏るし空気も限られるのだから放っておいて良いはずがない。
 私以外の奴らはぼけらと見ているものだから仕方なく川に飛び込み救助活動に従事した。
 その隙を突いて卑怯なロシアンかぶれどもは私の降りたフラッグ車を撃破しやがった。
4: 以下、
 積年の恨みを晴らすかのように逸見がねちねちと嫌味を云って来る。
 姉は怒っていないように見えたが何分寡黙で止めろとも云わないので逸見は増長する一方で、終いにはチームメートたちもお前のせいで負けたんだと喚き立てた。
 まあ云っているのは逸見を除けば最上級生で、最後の戦いで優勝を逃したのが悔しかったことは私にもわかるから言い訳はせず頭を下げた。
 問題は母で、門下生をぼこぼこにした時が霞むほどの勢いで怒ってお前に西住流を名乗る資格はない。どこへなりとも行ってしまえ。と云う。
 売り言葉に買い言葉でそうですかさようならと家を出たのがつい先日のことである。
5: 以下、

 転校生というのは物珍しいからちやほやされるのだと思っていたが、誰も話しかけてこない。
 大洗女子学園の生徒は余程奥ゆかしい乙女なのか私が余程話しかけ難いのか考えていたら教科書を落とすわ筆箱を落とすわそれを拾おうとして机に頭をぶつけるわと醜態を披露してしまった。
 するときみ、昼食でもどうだいと話しかける者がある。見れば同級の武部沙織と五十鈴華である。
 武部さん五十鈴さんと応じれば何故名前を知っているのだと訝しがるのでクラス全員の誕生日まで把握しているぞと云ったら面白いやつだと笑われた。
6: 以下、
 食堂の飯はなかなか口に合ったのだが武部の止まらないおしゃべりと五十鈴の大食いには閉口した。
 私は駆け落ちでも何でも無く実家が遠いから一人暮らしをしているに過ぎないと云っているのにそんなはずはないと適当な理由を並べ立てるその頭のさにはいっそ感心した。
 五十鈴はというと適当に武部に突っ込みながら凄まじい勢いで飯をかっこんでいた。お嬢様然として居るのに人は見かけによらぬものとはよく云ったものだ。
7: 以下、
 教室に戻るとチビと牛女と性悪そうな片眼鏡が西住みほと名指しで探しに来た。
 呼ばれる謂れは無いと云ってやったら戦車道の授業をとれと云う。
 私は人間として正しい行動が非難される戦車道と云うものに心底嫌気が差して居たのであるがチビの話術に押し切られてしまい反論すらできなかった。
 その日の午後は気分が乗らず上の空で、教師から保健室で休めと云うお言葉を頂いたのでありがたく休ませていただくことにした。
 何故か武部と五十鈴が付いて来たのでもう戦車道はやりたくないのだとぐちぐち柄にもなく語ってしまったのだが、武部と五十鈴はきみの味方をすると云ってくれたのが少しだけ嬉しかった。
8: 以下、
 そんな折、生徒会が戦車道を勧めるプロパガンダ映像を上映した。
 何が淑やかな女子か。西住流を見てみれば母は小言ばかりだし姉は無口、同輩の逸見は歪んだ人格の持ち主だ。
 あのチビは生徒会長だったらしく戦車道を取れば学食が只になるだの遅刻を見逃すだのどう考えても生徒会の権限ではできないであろう嘘八百を並べ立てる。
 まさかとは思っていたが武部と五十鈴はあっさり騙され私に戦車道を一緒にやろうと云ってくる。武部よ、戦車道をやっても異性の目を引くことはないぞ。保健室での感動を返せ。
9: 以下、
 翌日、色々考えたのだが私はやはり戦車道にほとほと嫌気が差しているのだと云った。
 すると武部と五十鈴は戦車道に付けていた印に訂正を入れ私と同じ科目を選択し直して居る。
 何故そんなことをする。きみ達の選択を変える必要等ないのだ。と云ったら友達とは一緒のほうがいいぜ。と武部。
 きみ、我々が戦車道を取ったら思い出したくないことまで思い出すのだろう。と五十鈴。
10: 以下、
 どのような情報系統があるのかすぐさま生徒会に呼びだされ戦車道を取らないと退学にしてやるなどと脅されたが、考えが遅く言葉のない私に代わって武部と五十鈴がチビに反駁を続けてくれた。
 私は今まで姉以外の者と親しくすることがなく逸見を舎弟のように使っていただけであったから、武部と五十鈴の無償の行動にどこか感慨を覚えていた。
 しかし黙っていれば五十鈴と武部も学校から追い出すと云うので私は脅しに屈した。
 こうして大洗女子学園の戦車道が始まることとなる。
12: 以下、
とりあえずここまで
総集編OVA抜きのアニメと同じ構成でやります
あ、ガルパンです
15: 以下、
期待
文量のわりに読みやすい
17: 以下、
素晴らしい
18: 以下、
これは面白い
28: 以下、

 校庭の端っこのうらびれた赤煉瓦のガレイジに集合せよと伝えられたからここに居る。
 武部と五十鈴は私を庇った殊勝さなどなかったかのように上機嫌である。
 そういえば半ば恫喝されて戦車道を取ることになったのは私だけだ。
 彼奴等は基より戦車に乗りたかったのだから楽しみで当然であった。
29: 以下、
 一人二人と選択者が集い、終には十五を越したところにチビ達がやってきて二十一人となった。
 片眼鏡が本日より戦車道の授業を始めると云うのでまさか貴様らが教えるなどと寝言を抜かすのではないなと検めたところ否。
 では戦車はどこに在るのかと武部が聞くとガレイジの中に在ると牛女が答えた。
 果たしてガレイジの中にはぼろぼろの襤褸雑巾のような戦車が鎮座していたがよくよく見ると転輪もエンジンも無事で修理は可能と見える。
 これならやれるかもしれぬと呟いたのを武部が大げさに囃し立てるので騒ぐなと小突いてやったらやだもーとのたまう。
30: 以下、
飯離脱
今晩中に三話までやれたらいいな
ネタバレ注意入れ忘れましたが序で映画版のネタバレ若干あります
32: 以下、
 時に戦車はこの一両しか見当たらぬがこの人数に対して一両では些か、いや全く以て足りぬように思える。
 では残りの戦車をどうするのかと問えば学園艦の何処かに在るから探して来いと仰る。
 やい巫山戯るなこのちんちくりん、貴様は戦車を昆虫か何かと間違えて居るのではないかと怒鳴りつけたが無いものは無いから探せの一点張りである。
 存外この女は上背のなさに対して中身が大物と見えた。
33: 以下、
細かいところをつついてすまないが
正確には「一輌」
34: 以下、
>>33
ありがとう。知ってたんだけどうちのお馬鹿なIMEではその漢字が出てこなんだ…
35: 以下、
 なんとはなく知りあい同士で固まり三々五々に散っていく。
 武部が腹案が在ると云うものだから着いて来てみれば学園の駐車場に戦車が在るわけがない。
 武部に期待したのが間違いだったと笑ったら武部武部と云わず沙織と呼べと云うので押し切られ、ついでに五十鈴のことも華と呼ばされることになった。
 ここで私達のことを付かず離れず追い回している不埒者の気配を捉えたので堂々とすれば良ろしいと云ってやったら、えらく髪がもっさりとした女であった。
37: 以下、
 聞けば私のことを知っており一緒に戦車道ができて光栄ですなどと云うものだから、これは中々気分が良い。
 髪がもっさりした女は秋山優花里と名乗った。
 沙織と華はよくて彼奴だけ秋山と云うのも可哀想だから優花里と呼ぶことにする。
38: 以下、
 優花里を仲間に加えて山間部、本当に何故船の上に山があるのか謎だが山間部を捜索していると華が鉄臭いと云い出す。
 華道の家元だという華の嗅覚を信じて下草をかき分けかき分けゆくと在った。戦車である。
 錆とビスだらけだし小さくてさっきのより弱そうだと身もふたもないことを沙織が云うと優花里が何を仰いますか武部殿と38tの良さについて語り出す。
 髪がもっさりしているだけではなく戦車がとても好きなようだ。
 私も戦車乗りとして最低限の知識は備えているが、優花里には負けそうだ。
39: 以下、
 翌日。戦車を洗車すると片眼鏡が大真面目に云うので笑いを堪えるのが大変だった。
 チビ会長も座布団一枚。と上機嫌だ。
 もちろん私達も汚れを考慮して体操着で臨んだが副会長の牛女は白水着という斜め上をゆく発想を見せた。
 制服の上からでも牛女だと思っていたが布切れ一枚になると言葉が出ない。
40: 以下、
 戦車を綺麗にして水抜きを終えると疲れ果ててしまった。
 それにしてもあれほど襤褸雑巾だった?号がここまで綺麗になると、戦車道なんざくそくらえと思っていた私ですら良い心持ちである。
 沼に沈んでいた車体も在るというのだからそれらを一晩で直した連中はどこのどいつだと片眼鏡に聞いたら自動車部だという。
 自動車部とはなんだと聞けば倶楽部活動だというから驚きだ。
42: 以下、
 その晩は沙織が私の部屋に来て飯を作ってくれた。
 確かに美味しい肉じゃがだったが味噌汁は逸見の家で食った物の方が美味かったように思う。九州とこちらでは味噌が違うのだろうか。
 なお、食材は折半であったが家主が全て負担した米を大量に食ったのは華である。いずれ借りは返してもらおう。
 借りといえば登校路で千鳥足の生徒を見かけたから肩を貸してやった。
 曰く低血圧で200日以上遅刻しているとのこと。それはもう病気ではないかと云うと体質だと一歩も譲らぬ。
 義理堅い性格な様で助けてもらった借りは必ず返してくれるらしいので期待せずに待つことにした。
43: 以下、
 戦車も揃ってようやく授業が始まる。なんでも戦車道連盟から教官を呼んだそうだ。
 一体どんな奴が来るのかと思っていたら飛行機から戦車を落下傘で降ろし、その戦車で校長のフェラアリを丁寧に二度轢きしてご登場なすった。
 一度の接触は事故だとしてもわざわざ轢き直してきたのだからこの教官はやばい奴に違いない。
 教官は蝶野亜美と名乗った。母の弟子だそうで私によろしく伝えてと仰ったが西住流を名乗ることを許されぬこの身では不可能でありますと答えておいた。
44: 以下、
 そもそも校長の車を破壊した教官をどうよろしくお伝えすればいいのか私には理解しかねる。
 私が不機嫌にしていると沙織が気を利かせて教官はモテるのかと質問した。
 教官はモテるというより百発百中だとよくわからん答えで茶を濁した。
 戦車をやる女がモテたという話は門下で聞いたことがないのでこの教官もモテないと思うと沙織に伝えるとあからさまに落胆していたが知ったことではない。
 教官はいきなり模擬戦をすると云うので初心者の面々は不安そうにしていた。
 曰く戦車なんてばーと動かしてだーと操作してどーんと撃てばいいとのことでいよいよもって不安そうである。
45: 以下、
 それでも人間やればできるもので全ての車輌が所定の位置についた所で模擬戦が開始した。
 我々?号は車長を沙織、砲手を優花里、運転手を華、そして装填と通信を私が行うが遭遇戦なので通信の仕事はほぼない。
 そんなわけで気楽に構えていたのだが教官のせいで私が戦車道の名家出身と知った面々は徒党を組んで襲いかかってきた。
 華が慌てて逃げる先には人影が横たわっている。危うく轢き殺すところだったが彼女が戦車によじ登ってきたため事なきを得た。
46: 以下、
二話終了です
三話まで行かず申し訳ないですが今日はここまで
53: 以下、
おつ
元ネタの夏目先生の文章の読みやすさが改めて分かるな
54: 以下、
乙乙
やだもーとのたまうの破壊力がやばい
56: 以下、

がるぱんは興味もなく見ていなかったのだが、斯くの如く書かれると途端に惹かれるのだから、人間とは現金な物であると
つくづく思ってしまった。自分は流行などに流されぬと気取ろうが、結局流行には逆らえぬのだ。
57: 以下、

西住ちゃん視点そのものが中々新鮮だな
58: 以下、

 きみは今朝の低血圧ではないかと云うと、おう。と轢き殺されそうになったのに呑気なものだ。
 沙織が此奴は冷泉麻子と云って昔からぐうたらして居る。十年来の付き合いだが改める気はないのだと笑う。
 時に私等とて授業で戦車を動かして居るのだがきみ、何故こんな所で寝ていたんだいと問えば自主休講だとのたまうので戦車の空席に収容してやった。
59: 以下、
 さて徒党を組んだ初心者どもの攻撃は激しさを増し華と沙織は泣き喚いて居る。
 ひゃっほうと興奮している優花里が不気味であるが麻子の落ち着きようもある種異様と見える。
 八九式の豆鉄砲はともかく三突の砲撃は致命傷に成り得るのでしっかりと回避したい。
60: 以下、
 華の運転には機敏な回避など期待できぬ。ならば私が動かすしか無いかと思案して居たところ至近弾で車体が大きく揺れた。
 怪我はないかと皆に問うと無事だが華が気絶したと云うのでこれ好都合と運転を代ろうとしたが麻子に制される。
 曰く借りを返す時が来た。運転した事も無い癖に何を格好つけやがる。どけと云えば説明書を読んだからやれるのだと軽快に飛ばすから驚いた。
 説明書を読んだだけで運転できるのなら家元はいらぬと思ったがこいつは遅刻を相殺する程頭が良いのだと沙織が云うので納得した。
61: 以下、
 此方がごたついているうちに38tとM3も来たのだからいよいよ破らなければ破られる。
 車長が遣い物にならんので優花里に三突を破れと云ったのだが一撃で仕留めた。
 やるではないかと褒めてやったら勿体無きお言葉と畏まるので気分が良い。
 戦車の構造を把握しているので弱点を狙っただけだと云うが初めてで出来るのなら大したものである。
62: 以下、
 次はどうすると麻子が云うのでM3を落としてから38t八九式の順に破れば良いと答えた。
 ところがM3の連中は泥濘に履帯を巻き込んで自滅したので38tと八九式に弾を当てて模擬戦を終えた。
 片眼鏡が教官に総括を頼んだが、皆グッジョブベリイナイスとよく解らんことを云うだけだったので二度と呼ぶことは無いだろう。
 沙織が皆で風呂でもどうだと云うので一も二もなく賛成した。いくらうら若き乙女しか乗らずとも戦車の中は暑く臭いのだ。
63: 以下、
 倶楽部活動の汗を流すための浴場は矢鱈と豪勢でジャグジイやサウナまで付いている。
 華が役に立たず申し訳ないと云うので初心者なんだから気にするなと云えば優花里が流石西住殿と囃し立てるので気分が良い。
 沙織に囃し立てられるのは煩わしいのにこの差は何であろうなと問えばもう飯を作ってやらんとむくれるから頬を挟んでやった。
 頬をぶにぶにと弄んでいたら車長はみぽりんがやりたまえよと云うので面倒だと思ったが華も優花里もそうするべきだと云うのだから仕方がない。
 思い返してみれば沙織が車長をしていても横から口を出していたのだから最初から車長の方が収まりも良いだろう。
64: 以下、
 華は砲撃の音が肚に響く快感に目覚めたとかで砲手を遣りたがったから別に良いよと云ったら喜んでいた。
 優花里は戦車に乗れれば何でも良いらしいので逞しそうだから装填やってくれと頼んだらひゃっほうと小躍りしている。此奴はひゃっほうと叫ぶ癖が有るのかもしれぬ。
 必定、沙織は通信手となるがきみはお喋りが得意だろうと云う理由に納得がいかぬ様子である。
 華麗な運転を披露した麻子であるが書道を選択しているという実情があり今日限りの縁だと云うのでそれは困ると頭を下げた。
 華と優花里も是非にと嘆願したがすまんなと云われて取り付く島も無い。
 すると沙織が貴様は遅刻のし過ぎで進級が危ういであろう。戦車道を取れば二百日の遅刻が取り消しになるぞと云う。
 沙織はこういう腹芸が出来るあたり只の頭の軽い女ではない。お喋りが得意というのはこういうことまで鑑みて云ったのだが本人には伝わっていないらしい。
65: 以下、
 とかく麻子という新たな仲間が加わり買い物に行くことになった。
 何を買うんだと聞けば戦車に乗ると尻が痛いので座布団がほしいと云う。
 また沙織が阿呆な事を云い出したかと嘆息したが華も麻子も乗り気なので止める者がいない。
 考えてみれば戦車の内装を快適にするのはそう悪いことでもないと思い直し私もぼこられ熊の座布団を購入した。
 スリッパも買うと云い出したのは遣り過ぎだと麻子が止めていた。
66: 以下、
 翌日ガレイジに集合すると私等の?号以外の戦車が色とりどりに塗装されていて魂消た。
 38tは目が痛いくらいに光を反射する黄金色に。三凸は真田か新選組かはっきりしろと云いたくなる珍奇な様相に。M3はショッキングピンクでこれまた目立つ。
 八九式だけはバレー部復活と白ペンキで書き込んだ物だったがそれにしても迷彩塗装の意味がわかっていない。
 自分好みにプラスティック模型を塗装するのは良いがこと戦車道でそれをやると狙いやすい的になるだけというのが何故わからぬ。
 文句をいうのも馬鹿らしくなりあっはっはと大声で嗤ってしまった。
67: 以下、
 優花里は戦車が戦車じゃなくなると発狂し、沙織はスリッパくらい大した事ではなかったと云うので比べれば良い物でもないと釘を差しておいた。
 それにしても大洗に来てから愉快な事ばかりだ。戦車探しから始まり意味の解らん教官。
 独自塗装も迷彩効果を激減させる愚かしい行為ではあるが皆戦車に乗ることを全力で楽しんでいる。実家の殺伐とした教練とは大違いである。
68: 以下、
 とはいえ練習はきちんと行う。特に華は優花里のように知識がないのでシュトリヒ計算のやり方を仕込んでやったら中々筋が良い。
 なんとか横隊縦隊も様になってきた所でチビ会長が練習試合を組んだと云う。
 相手はどこだと問えば聖グロリアーナだと云うので天を仰いだ。
 聖グロリアーナは全国大会準優勝経験も有り何より金が在るから戦車が良い。有り体に云えば強豪校である。
 対する大洗は初心者集団な上戦車の性能もそこそこで迷彩効果すら失われている。
 強者と戦うのはいい練習であるが実力差がありすぎると虐殺にしかならぬ。
69: 以下、
 片眼鏡は囮作戦を提案したが相手に読み切られると危険だ。そもそも確実に的に当てられる腕がないと有効な作戦ではない。
 そう云ってやったら貴様が隊長となって指揮を取れと怒鳴られた。片眼鏡は冷静そうなその実熱くなりやすい性質と見える。
 迎えた寄港日。沙織から電話があったのでなんだと云えば麻子が起きないと云う。
 優花里を喇叭を吹かせに遣ったがそれでも起きないので結局?号の空砲を住宅街で撃つ羽目になった。
70: 以下、
 そうして学園艦は桟橋に着き、大洗の街を舞台にした初試合がいよいよ始まる。
 お祭りみたいだぜと沙織が云うので戦車道の試合は何時でもこんなものだと答えた。
 要するに皆騒ぐ理由がほしいのだと麻子が付け加えた。
 戦車道は実際の公道を試合に用いるから住民を発砲禁止区域に集めなければならない。
 お祭りみたいとはよく云ったもので強制参加のお祭りである。
 グロリアーナの隊長は案の定独自塗装の戦車たちを見て魂消ていたが個性的ですねの一言で済ませたので出来る奴だと感心した。
71: 以下、
三話終了です
皆さんの温かいコメントが励みになってます
完結まで頑張りますのでよろしくどうぞ
74: 以下、

現代を舞台としているのにどこか大正や明治の世を思わせる、真不思議な魅力があるものである。
このような面白いえすえすが増えることを切に願うばかりである。
76: 以下、
>皆グッジョブベリイナイスとよく解らんことを云うだけだったので二度と呼ぶことは無いだろう
ワロタ
80: 以下、

 私等は郊外の山岳地帯へ移動し開始の合図を待っている。
 戦車道の試合には二つの形式があり今回は殲滅戦となる。
 殲滅戦では名前の通り敵戦力を全て無力化した隊が勝利するのだが砲撃と装甲の何れにおいても大洗は数段劣る。
 ではどうするのかと優花里が聞くので其処は戦術と腕でどうにでもなると云ってやったが内心では胸を借りる肚積もりである。
 大体私以外の面子は腕も劣っているのであるから気持ちで負けては勝てるものも勝てぬ。
 練習試合だからかグロリアーナ側も此方と同じ五輌の編成を組んでくれたことだけが救いである。
 開始の合図とともにグロリアーナ隊が美しい隊列で展開していくのが見えた。
 見えた。というのは私等?号が片眼鏡立案の囮作戦の肝である囮役を務めるからに他ならぬ。
 色鮮やかな戦車の面々は少々離れたところの丘の上で待機していると通信が在った。
 まさかバレエボウルや花札で遊んでいることは無いだろうが一先ず待機が彼奴等の仕事である。
81: 以下、
 私は戦車に乗り込み華に隊長車への砲撃を命じたところ狙いは良かったのだが至近弾に終わった。
 華がすみませんと云うが?号の主砲ではこの距離で当てても有効打にならぬから気にするなと返し撤退を開始する。
 チャーチル一輌マチルダ四輌からの弾幕は濃く、麻子でなければ抜けられなかっただろう。
 私は西住流の癖で砲塔から身体を出したまま指揮を執っていたのだが沙織に危ないから中に入り給えよと云われてしまった。
 それでも私は砲塔から出ていたほうが状況把握が密に出来て、そも砲塔の上で被弾するような状況では戦車も落ちるという合理的な方法だと云ってやった。
 しかし戦車道ではカアボン加工により内部が安心安全なためその理屈は通らぬと痛いところを突かれてしまった。沙織のくせに生意気である。
 そういえば沙織は熱心に戦車について調べているようで優花里や麻子に教わったことを雑記帳にまとめている。
 その成果がこんな所で出るとは思いもしなかったが仕方ない。
 ともあれ本隊の攻撃範囲まで後三分といった所であるから私は沙織に通信を入れるよう命じた。
82: 以下、
 本隊とは合流した後上から砲弾の雨を降らせる予定であったが、何故か?号の上に砲弾が降ってくるのには閉口した。
 当たっていたらどうするつもりだと全車へ云ってやると片眼鏡がとにかく撃て。撃ちまくれと叫んでいる。
 どうやら初の実戦で興奮状態に在るらしく使い物にならない。
 38tは牛女の運転も上手いしチビがやる気を出せばどうにかなりそうだが彼奴は私を試そうとしている節があるので期待できぬ。
 合流には成功したものの片眼鏡の暴挙で不意打ちという戦術的価値は失われた。
 案の定グロリアーナの隊長は此方の高台を逆包囲する戦法で来たからこれはもう退くしか無い。
 全車撤退を命じるがM3は全員が降車し逃亡してしまったので無抵抗のまま破られた。
 沙織の云うように戦車道では戦車の中が一番安全なのだからあの一年生共には後で教育が必要であろう。
83: 以下、
 さらに38tは履帯が外れて一事行動不能となる。
 戦闘不能判定ではないので戦線復帰は可能だが今は見捨てるしか無い。なんとか生き延びてくれと祈るばかりである。
 私は?号、三突、八九式の三輌で市街戦へ移行することを決意した。
 市街戦では道が狭いため多対一の戦いを擬似的な一対一に持ち込みやすい。
 地元校故の土地勘を活かして敵を翻弄することも出来るはずだ。
 問題は私が転校生なので土地勘がないことであるが麻子が任せろと云うので頼りにしているぞと返した。
84: 以下、
 グロリアーナ部隊を振り切り市街へ突入したが主力は明らかに?号を集中して落とす気である。
 逃げに徹していると三凸が一輌撃破したものの大破。八九式が一輌追い詰めたものの返り討ちに遭ったとの報告が在る。
 怪我人は無いとのことで一安心だが四対一と状況は悪い。
 八九式と交戦した一輌はまだ到着していないが?号はチャーチル含む三輌に追い回され生きた心地がしない。
 運転は麻子に任せていたが突然停止するので私がどうしたと聞くと工事現場だと云う。
 任せろと云っていたよなと聞けば乗船中の工事なぞ知るもんかと至極真っ当な答えである。
85: 以下、
 後ろからはグロリアーナ部隊が迫っており万策尽きたかに思われた所に履帯を直した38tが駆けつけ盛大に砲撃を外した。
 貴様何をしに来たと片眼鏡に云ってやったが興奮して使い物にならぬ。
 とまれ囮としてはこれ以上ない時期の援護である。マチルダを一輌落とし私等は側道へと逃げこんだ。
 当然38tは破られたが知ったことではない。
86: 以下、
 背後を追ってくるマチルダに対し角を曲がった後急旋回して出てきた所を撃破。
 グロリアーナの隊長は慎重な戦いを好むと見えたから包囲するように動くと読んで麻子に先回りを指示。
 マチルダが十字路に鼻面を出した所を更に撃破。
 優花里がすぐさま装填を完了しチャーチルとの一騎打ちとなった。
 此方が助走をつけて吶喊すればチャーチルも釣られて正面を向く。
 正面からのぶつかり合いでは勝ち目がないので履帯を横滑りさせて回りこんだ。
 装甲の薄い砲塔を狙うが相手も此方の狙いに気が付き砲塔を旋回させる。
 私が撃てと叫んだ直後に大きな衝撃が車内を襲った。ほぼ同時の砲撃。
 果たして白旗は?号からすっと上がったのである。
87: 以下、
 こうして大洗女子学園の初試合は黒星に終わった。
 片眼鏡と一年生どもを締めあげたい気持ちを堪えてグロリアーナ部隊の面々と礼を交わす。
 相手の隊長がきみ、大洗の隊長かい。と訊ねてくるのでそれがどうしたと云ったらきみの姉より面白い試合だったぜ。とほくそ笑むからそれはどうもと返した。
 名乗ってもいないのに委細承知とはやはり大した奴である。
 全てが劣る手札でここまでやったのだから良し。とはいかず?号チイムは罰としてあんこう踊りなるものを踊らされた。
 踊るのは構わないが衣装が桃色の襦袢一丁というのには閉口した。沙織などお嫁に行けないと悲壮な様子である。
 私はどちらかというと有責なのは片眼鏡ではないかと云ったところ生徒会の三人も踊ることになったのでほんの少し溜飲が下がったがそれで恥ずかしさが消えるわけでもない。
 太鼓打ちは任せろと三突チイムの日本史狂い二人が云うので、貴様らも襦袢を着ないかと折れた六文銭の旗で尻をひっぱたいてやった。
 車体に括りつけた旗のせいで三突の車高を活かせなかったというから当然の報いである。
88: 以下、
 踊り終えてさてどうするかと云った所で沙織が買い物に行きたいと云うから陸のショッピングモオルにやってきた。
 出港前に出入りの店を巡っておきたいらしいが地元民ではない私はあちらこちらに目移りして仕方がない。
 華にそっくりの人がいたので親類かと聞けばそれは母だと答えるから戦車道を一緒にやっている西住です。と挨拶した所卒倒してしまった。
 なんでも華の御母堂は戦車が嫌いらしくそれならそうと先に云わんかと云うときみが先走るから止める暇もなかったのだと云うからすまないと謝った。
89: 以下、
 五十鈴家使用人の角刈り男と共に華の御母堂を送っていったのだが西住の本家に劣らぬ豪奢な日本家屋である。
 華と御母堂はしばらく話し合っていたが喧嘩別れしてしまったようだ。
 家元の娘は縁を切られなくてはならない決まりでも在るのだろうか。
 いずれ認めさせると華は前向きなので私も見習わなくてはならぬ。
90: 以下、
 学園艦に戻るとチビ会長からグロリアーナ隊長の贈り物を受け取った。
 見事な細工の紅茶椀で、優花里が興奮して居るから紅茶が好きなのかと聞くとグロリアーナは好敵手に紅茶椀を贈るから西住殿も認められたのだと云う。
 それはすごいが私の部屋に置いても猫に小判であるから沙織に一式預けた。
 生徒会と入れ替わりにM3の一年生がやって来たので貴様ら覚悟は出来ているなと問えば申し訳ありませんでしたと五体投地で謝るので話を聞いてやると心を入れ替えてきちんと戦うそうなのでこの場は収めてやった。
 だが明日からは扱くことが決定しているのでいくら謝っても後の祭りなのだがそれは教えてやらない。
91: 以下、
四話終わり
戦闘シーンで夏目先生っぽさが失われていないか心配です
94: 以下、
ガルパンはまるで興味なかったけどこれはハマったわ、支援
97: 以下、
日本史狂いで草
乙です
98: 以下、
乙乙
しっかしこの西住ちゃんいちいちトゲトゲしいなw
99: 以下、
漱石っぽさはちゃんとあって面白いよ
続きも期待
乙です
109: 以下、

 我等?号チイムは大洗女子学園戦車道部隊を代表し、全国大会の組み合わせ抽選会に出席した。
 大洗のような初心者集団が書類審査だけで全国大会に出られるのだ。戦車道はつくづく斜陽競技である。
 斜陽だが権力と知名度が在るという点では相撲に近い。
 尤も戦車道をどこもかしこもやってみろ。日の本は焼け野原になるのだから今がいい塩梅なのだ。
110: 以下、
 さて我等の対戦相手だがサンダース大学付属というところで優勝候補の一角とされる。
 我等との対戦を知るなり抱き合って喜んでいるのだから失礼な奴等である。
 ですが実際に実力も有りますと優花里が云うがその通りで国内一戦車を持っているのはサンダースだ。
 だが我等も練度を積んできたし勝負は何が起きるか分からんのだから全力で叩くのみである。
111: 以下、
 抽選会を終えて戦車喫茶なる珍奇な店で休憩を摂ることにした。
 優花里が行きたいと云うから私のような小市民お断りの店かと思ったが、存外落ち着いた良い店である。
 ケエキセットを五つ頼むとミニチュアのトレイラーが戦車を模造したケエキを運んできた。
 見た目が愛らしく味も良いのだから侮れない。ただ呼び鈴が戦車の砲撃音なのは如何なものだろう。
 華がもう一つ食べたいと云うので折半はせぬぞと釘を差す。
 全員一つずつ余分に食べれば良いじゃないかと云うから腹の肉を抓んでやったらきゃあと恥じらうのだから愉快である。
112: 以下、
 良い気分で楽しんで居たらみほ。と呼ぶ声が在るので見遣れば姉と懐かしき逸見ではないか。
 私は何用かと問うと見かけたのでな。とこれで会話が終わるのが西住まほという女である。
 まあ姉の事はどうでもよい。
 久々に逸見で遊んでやろうと考えていたら向こうからきみの様な者でも弱小校では隊長がやれるのだな。と云うから貴様は私がいた頃は副隊長すらやれなかったなあと返す。
 今は副隊長だと顔を真赤にするものだから今の私は隊長だ。恐れ入れと云ってやると涙目で去っていった。
 姉があまりエリカを虐めてやるなと云うから誰だそいつはと聞くと逸見のファストネイムとのことである。
 私は逸見としか呼ばないので忘れていたと笑ったら困った様な顔をして逸見の待つ席へと向かっていった。
113: 以下、
 あれは誰だと沙織が聞くので姉と子分だと紹介したら人を見下すのは良くないと真面目なことを云う。
 逸見はどこか嗜虐心を擽る所があるだけで見下してはいないと云えばそれならいいのか。いやよくないのか。とうんうん唸っている。
 ところで大会の実情を知りたいのだが。と麻子が云うから一回戦は十輌まで。対戦が進むに連れて編成できる車輌数が増えていくのだと答えた。
 優花里がサンダースと当たるのが早い段階だったのは不幸中の幸いですと云うがその通りでサンダースの強みは豊富な車輌数であるから十輌という天井が在るのは有り難い。
114: 以下、
 でもうちは五輌しかないぜと沙織が云うので全国大会は殲滅戦ではなくフラッグ戦ゆえに十分勝つ事は可能だと私は伝えた。
 フラッグ戦というのは各部隊一輌をフラッグ車と定め、その一輌が撃墜されれば他がいくら残っていようと決着という形式である。
 しかし十輌の内訳を知らぬことには作戦の立てようもないから困ったと云えば優花里が何とか致しましょうと張り切っている。
115: 以下、
 翌日優花里が珍しく戦車道の練習に参加しないので?号チイムの皆で見舞ってやることにした。
 優花里の実家は床屋でごめんくださいと云うといらっしゃいませと返って来た。
 友人ですと云えば優花里が友人を招くのは初めてであると中々寂しいことを云う御母堂である。
 優花里はまだ学校から帰っていないと云うので妙だと思ったが部屋に上がらせてもらうと戦車だらけの部屋で魂消た。
 プラスティックモデルやポスタアはわかるが砲弾を調度品のように飾るのは可怪しい。
 麻子すらきょろきょろと見回しているのだからこの部屋の珍妙さは筋金入りだ。
116: 以下、
 すると優花里が窓から入ってきたのでぎょっとすると皆さんお揃いでと呑気なものである。
 玄関から入って来たまえよと沙織が尤もな事を云うが制服ではなく量販店の制服を着用しているから拙いのだと云う。
 別に拙くはないだろうと思ったが人様の家庭にあれこれ口をだすのも宜しくないから黙っていた。
 優花里がメモリイをモニタアに挿すとサンダース大付属潜入リポオトなる映像が流れだす。
 これは何だと問えば今日行って来たのだと誇らしげである。
 なんでも量販店の定期便を利用して忍び込んだらしく制服を着ているのはその為かと合点がいった。
 なんでテロップまで付いているんだと沙織が聞くとちゃちゃっと編集したと云うのだから諜報員のような奴である。
 最後に潜入が発覚してしまったもののサンダースの編成をしかと調べてきた優花里には深い感謝を捧げたい。
 偵察は認められているのだから訴えられたりはしないであろう。
 明日から大会に向けて朝練もするぞと気合を入れたら皆おう。と答えてくれたが麻子だけは茫然自失であった。
117: 以下、
 練習試合ではなく全国大会なのだからきちんとやろうと云ったら戦車道部隊の面々はまず塗装を直し始めた。
 ついでにチイム名も?号とか三突とかでは味気ないから決めようぜと云うことになり各車動物の名前をつけた。
 38tが亀。三突が河馬。八九式が家鴨でM3は兎である。我等?号は隊長車と云うことで大洗の特産品である鮟鱇の名を冠した。
 また迷彩効果を損なわない程度に各車チイム名の動物を描いた。手描きではあるが我等にとってのエムブレムである。
 正装としてタンクジャケットも作った。動きやすく丈夫で良い仕立てである。
118: 以下、
 外面も整い修練も積んで一回戦の日を迎えた。
 試合開始の合図とともに展開していく。
 此方は何時もの五輌でフラッグ車は生徒会が乗る38t。
 対するサンダースはシャーマン八輌にフラッグ車のA型と切り札にファイヤフライを投入してきた。
 しかしこれらの情報は優花里のお陰で織り込み済みである。
 二倍の戦力差が在る中で多対一の状況を作るのは難しいがやってやれないことはない。
119: 以下、
 火力に劣る兎と家鴨を偵察に出し、河馬と鮟鱇で亀を守る布陣で前進する。
 サンダースの隊長は試合前に飯を奢ってくれたので中々気持ちの良い女だと感心したがアリサと呼ばれた側近には逸見と似た匂いを感じるから注意が必要であろう。
 兎のM3から三輌発見につきおびき出すとの連絡があり承諾したのだが、実は三輌ではなく六輌に囲まれたと云うから家鴨と鮟鱇で救援に向かった。
 すると此方にも三輌付いて来るからサンダースはフラッグ車を除く九輌で一気に勝負を決めにかかる肚と見た。
120: 以下、
 兎と合流し包囲の薄いところを突っ切ってやるとサンダースとて追っては来れぬ。
 人心地付いた所で華が相手の手際が良すぎると云うから思い出してみるとなるほど待ち伏せでもされていたと考えると辻褄が合う。
 まさかと思い空を見遣ると通信傍受機が風船で打ち上げてあるので魂消たが呆けている時間はない。
 規則に通信傍受機の禁止は明記されて居らぬがそんなことをする奴がいなかったから書いていないだけである。
 戦車道は礼に始まり礼に終わる。その精神を持っていれば通信傍受などしようとも思わないだろう。
121: 以下、
 あの気持ちの良い隊長が通信傍受なんてするわけがないから逸見二号が独断でやったと思われる。
 フラッグ車も逸見二号が乗り込んでいるから高みの見物を決め込むつもりだろうがそうは行かぬ。
 そちらが規則の抜け穴をつくなら此方もやってやろうではないか。
 私が偽の情報を無線で流し、実の指示は沙織が携帯メエルで行うのだ。
 案の定敵はフラッグ車が居ると信じて我等の包囲地点にやって来たから?号三突M3の主砲を食らわせて一輌を撃破した。
122: 以下、
5話おしまい
逸見を書いている時が一番楽しかった(小並感)
5.5話はやらないです
西住ちゃんが刺々しいのではないかというご意見がありました
坊っちゃんの主人公と西住みほが融合して「西住ちゃん」になっている
というイメージで私は書いています
125: 以下、
>恐れ入れと云ってやると涙目で去っていった。
嗚呼まごうことなき坊っちゃんの西住ちゃん
この方向性で続けてほしいです
128: 以下、
おつ
この西住ちゃんはちょっとヤサグレてそう
126: 以下、

逸見二号www
140: 以下、

 この戦闘における初撃破は我等が取った。
 一息付きたい所ではあるが試合中なのでそうもいかぬ。
 次はどうすると麻子が聞くので向こうが数に物を云わせるのならやられる立場を知ってもらおうじゃないかと返す。
141: 以下、
 サンダースの初手はフラッグ車を除いた全車で大洗を包囲する大胆な策であったのだからフラッグ車は本隊と離れた所で待機している筈である。
 詰まる所孤立した敵フラッグ車を此方が囲んで叩けば形成は逆転する。
 普通なら互いに斥候を出し牽制しあうから気が付かれぬようにフラッグ車を叩くことは出来ぬ。
 だが敵は無線傍受という手段を頼りきっており、此方が偽の移動先を流した所サンダース本隊は無人の丘へ見事誘導された。
 敵本隊が騙されたことに気が付き合流してくるまでの時間が勝負である。
142: 以下、
 斥候の家鴨チイムがフラッグ車を発見したと云うので我等の前に引きずり出し火力を集中させてやった。
 シャーマンは性能ではなく生産性と信頼性が売りの戦車であるから我等の戦車でも手傷を負わせてやれる。
 だが相手も必死に逃げて居るので当たらない。
 そうこうしている内にファイヤフライを含む増援四輌がやってきたのだからフラッグ車を追う大洗を追うサンダースという奇妙な構図が出来上がった。
143: 以下、
 何故八輌来ないのかと呟けば今は素直に幸運を喜ぶべきだと沙織が云う。
 しかし勢いづいたシャーマンA型は俄然動きが良くなり後ろからは致命の砲弾が雨霰と降ってくるから幸運とも言っていられぬ。
 終には八九式が破られM3もファイヤフライの凶弾に倒れた。
 片眼鏡はもう駄目だと泣き喚き河馬チイムでは辞世の句を詠む不届き者が居る始末である。
 私は貴様ら腑抜けていないでフラッグ車を狙わんかと一喝し、当てれば此方が勝つのだ。利は此方に在りと云ってやったがその実此方が不利であることは先刻承知だ。
 それでも此処で折れれば破られるのを待つだけであるから空威張ったのだが如何せん決め手に欠ける。
144: 以下、
 すると華が稜線射撃でけりを付けると云うから危険だと返すと当てれば此方が勝つのだろうと不敵である。
 丘に上って行くとファイヤフライの砲音が在るから急停止で避けたところ至近弾である。
 ファイヤフライの射手は相当の手練だ。
 停止射撃に切り替えたと見えるから十七ポンド弾の装填が完了するまでの幾秒でけりが付くのは疑いない。
 果たして華が引き金を引くのとファイヤフライの砲音が揃った後、シャーマンA型の土手腹に痛打が入り白旗が上る。
 此方の?号はファイヤフライに破られてしまったがフラッグ車は無事なのだから勝ちである。
 果たして激動の一回戦は大洗の大金星という形で終幕と相成った。
145: 以下、
 互いに礼をし帰るかと云った所でサンダースの隊長がきみ、大洗の隊長かい。と訊ねてくるのでグロリアーナと同じことを聞くのだなと云ってやったらからから嗤って楽しい試合だったぜと云うから此方は生きた心地がしなかったと返した。
 やはり傍受は逸見二号の独断だったようですまんと謝るものだからちょっと彼奴を連れて来てくれんかと云うと神妙な面持ちで逸見二号がやって来た。
146: 以下、
 私は嘘吐きが嫌いだ。貴様の隊長はフェアプレーの精神云々と云って居たのに貴様が詰らんことをするから嘘吐きに成ってしまったが何か言うことは在るかと聞けば申し訳ございませんでしたと頭を下げるので謝る相手が違うだろうと拳骨を喰らわせてやった。
 そう言えば何故四輌だけで増援に来たのだと云ったらそれこそ詰らんことをしてしまった詫びであると云うからやはりサンダースの隊長は気持ちの良い奴だ。
147: 以下、
 いよいよ学園艦に戻る段になって麻子の祖母が倒れたと報が在り、死に目に会えないのかと思いつめて居るからそう簡単に人は死なぬと慰めてやったがやはり見舞いに行きたい様子である。
 丁度良い所に逸見が歩いていたので黒森峰は視察の際飛行機を使うのが常であったなと聞くと今日も乗って来たぜと云うから麻子を紹介し頼むと頭を下げた。
 あのみほが頭を下げるなど天変地異の前触れかと失礼なことを云うからとっとと運んでやれと尻を蹴飛ばしてやったらやはり貴様はみほだと涙目である。
 麻子には有難うと云われたが黒森峰の飛行機は襤褸なので礼を言われるほどのことでもないだろう。
 対人能力に難の在る麻子と逸見だけでは不安だったから沙織が着いて行くと云ってくれて助かった。
162: 以下、

 沙織から病院についたとメエルが在ったから逸見は無事に送り届けたと見える。
 婆様の方も命に別状はないとのことで一安心である。
 逸見に改めて有難う。とメエルをしたら不気味なメエルを送らないでくれと返信があったので秘蔵のぼこられ熊写真を一気に送りつけてやった。
163: 以下、
 次の日華と優花里を伴だって見舞いがてら二人を迎えに行くことにした。
 華は流石に華道家らしく数本の花卉を見繕うと手早く花束を作ってしまった。
 私は花屋で単品買いなどした事がないのですごいなと云うと要は慣れでみほ君が戦車を自在に動かせるのと同じだよと云う。
 戦車が動かせても見舞いには役に立たんと云えば違いないと三人で大笑いした。
164: 以下、
 病室に着くと何やら怒鳴って居るので優花里と顔を見合わせたが個室であるからこれが麻子の婆様であろう。
 華はと云うと怒号を物ともせずに入って行くのだから肚が座って居る。
 前から思っていましたが五十鈴殿は肝が座って居りますなと優花里が云うので其れは砲手向きの気性であるよと答えたところ流石西住殿。其処まで見抜いて人事を行いましたかと見つめられるから些か気恥ずかしい。
 そう云えば模擬戦では見事な砲撃だったのに花型の砲手から外してすまなかったなと云えば私は鮟鱇の皆で戦車道ができれば満足でありますと云うのだからもっさりした髪をわしゃわしゃと掻き乱してやった。
165: 以下、
 麻子の婆様は今朝まで意識がなかったそうであるが至って元気に麻子を怒鳴りつけて居た。
 麻子は時折生きているのが心配になるほど物静かな奴なのでこれはこれで釣り合いが取れて良いのではないだろうか。
 愉快な婆様だなと云うと大事な家族だと誇らしげである。
 帰りの鉄道で麻子が寝てしまうと此奴は徹夜で看病して居ったのだと沙織が云うから家族思いなのだなと云えば唯一の肉親なのだと云う。
 曰く麻子の両親は事故で夭折なすった。
 麻子が御母堂と最後にしたことは喧嘩だったそうで、謝れないまま逝かれてしまったからみほが母さまと喧嘩別れして大洗に来たことを心配していると云う。
 私の母は十七ポンド砲でも殺せんよと云ったものの此のままで良くないことは私とて解っている。
 いずれ麻子の心配を失くしてやりたいものだ。
166: 以下、
 さて二回戦に備えて戦車道の練習は苛烈を極めた。
 戦車道部隊の面々も戦車乗りの自覚が出てきたかあれやこれやと私に質問してくるので答えるのにも一苦労である。
 見かねた鮟鱇チイムの四人が手伝いを申し出てくれたから戦車の性能については優花里に。事務方の仕事は華に。操縦は麻子に。どうでも良いことは沙織に割り振って私は戦術や一騎打ちの技巧を教授してやった。
167: 以下、
 鮟鱇チイムの皆で昼飯を食っているとサンダース戦の話題になったから逸見二号のお陰で勝てたようなものだと云うと優花里が勝ちは勝ちなのだから誇りましょうと云う。
 私はそこまで勝ちは大事なことか。正しいと思ったことを貫いた結果負けることもあると云ったら優花里が勝ちは結果で在って嬉しいことですが大事では無いと云う。
 全力を尽くして戦って練習も模擬戦もグロリアーナ戦も楽しかったですよと云うから私も楽しかったと答えるとそうでしょうと云う。
 優花里は昨年の決勝での西住殿は正しかったのだから胸を張らないと助けられた方も報われないです。大事なことは過去を悔やむことではなく今全力を尽くすことではないでしょうかと云うからその通りだと頷いた。
 大洗の戦車道は黒森峰にいた頃の殺伐とした戦車道とは全てが違うなと呟けば我等の歩いた道が戦車道になるんだぜと沙織が適当なことを云うから皆であっはっはと笑った。
168: 以下、
 二回戦で当たるアンツィオ高校はイタリア戦車しか保たぬ貧しい学校であるがそれでも大洗よりは保有台数が在る。
 今後のことも考えると戦力を拡充したいと考えて居たのだが華と牛女が書類漁りをして学園艦内に残り三輌の戦車が在ることを突き止めた。
 なんなればまた宝探しである。
 私は麻子と家鴨チイムと共に旧部室棟を捜索したが家鴨の車長を除いた三人から先輩先輩と慕われるので気持ちが良い。
 車長の磯辺は同年であるが話してみると頭の回りがよく将器は十分と見えた。
 私に学んで奇策の勉強もしていると云う。
 八九式は正攻法では戦力に成れませんのでと云うから共に戦う戦車をよく理解しているきみには八九式も答えてくれるだろうと云ったらえらく喜んでいた。
169: 以下、
 どこぞの倶楽部が物干し竿に使っていた棒が七十五ミリ砲だったので回収して帰ればルノーB1/bisを河馬チイムが見つけたものの沙織が兎チイムと共に遭難したと云う。
 なんで船の中で遭難できるんだと思ったがなるほど船内は薄暗く街一つの広さが在るのだから笑い事でもない。
 捜索隊には我等鮟鱇チイムが選ばれたが肚の座った華と対照的に麻子は終始青い顔をしているのだからどうしたと聞くと怖がりなのだと云う。
 手掛かりもないから河馬チイムの八卦に従って行けば沙織が後輩どもを世話してやっていたので助けに来たぞと云えば安堵したのか皆沙織に抱きついてわんわんと泣いている。
 モテて良かったなと云うと望んだモテでは無いと憤慨しつつも嬉しそうであった。
 丁度沙織たちの遭難場所に幻の重戦車ポルシェティーガーが隠されていたのだから運の良いことである。
170: 以下、
 遭難事件はあったが今日の戦車道も終わったので、親睦を深め疲れを取る名目に学園の浴場を生徒会が貸しきってくれた。
 残り一輌は未だ見つからないものの戦力の拡充には成功したし良い一日であったなと寛いでいたところ何か檄を飛ばせと片眼鏡が云うので勝ち負けに拘らず全力を尽くせば結果は付いて来ると云っておいた。
 片眼鏡は絶対勝たなくてはならんと不服そうであったが肩肘張っていては勝てるものも勝てないし風呂に入る時くらいは力を抜かせてほしい。
 アンツィオは奇策を用いた戦いをしてきたがイタリアかぶれらしく粗が目立ったので粉砕してやった。
171: 以下、
七話終了
みなさんは逸見と逸見二号どちらが好きでしょうか
アンツィオ戦の方は機会があったら別スレでということで勘弁願います
<カバさんチームのたかちゃーん
皆さんのコメントがモチベにつながってます!
ありがとうございます。
174: 以下、
>どうでも良いことは沙織に割り振って
扱いの悪さにワラタ
175: 以下、
面白い
結構な文量で書ききるのは大変だろうけど頑張ってください
183: 以下、

 我等大洗女子は準決勝へ駒を進めた。
 此処まで来ると残っているのはグロリアーナ。黒森峰。プラウダと強豪だけなのだから感慨もひとしおである。
 鮟鱇チイムの?号戦車は旧部室棟で拾得した長砲身に換装しチャーチルやティーガー相手にも何とか破れなくはない火力を得た。
 更にルノーB1/bisの整備が完了し準決勝には六輌編成で挑む事になる。
 しかし乗員が居らんではないかと云えばチビ会長が風紀委員の三名が乗り込むと云うので直ぐ様慣熟に入った。
184: 以下、
 風紀委員らしく校則に則った見事なおかっぱ頭の三名は三つ子と見紛う程似ていたが血縁はないと云う。
 遅刻魔の麻子とはそりが合わないようであったが此奴が一番操縦が上手いのだから大人しく指導されてくれと沙織が執り成して居た。
 風紀委員チイムはルノーの外見から鴨チイムと名付けた。家鴨の連中は姉妹ですねと喜んでいるが系統的には敵国同士である。
 試合場が極北の地であるから冬備えをしかと行うよう伝えると各々懐炉などを用意しているから凍傷に成らぬようまずズボンを履けと云ったらスカアトは女子高生の魂であると猛反発を受けた。
 ならスカアトの下に履けと云えば埴輪のようで不格好であるが仕方がないかと妥協してくれたので一安心である。
 沙織が喜々として毛糸の下着を用意していたがズボンは駄目で其れは良いという価値観が解せぬ。
185: 以下、
 試合前日の練習を終えるとチビ会長に話が有ると云われ応じたのだが彼奴等の思い出話をしながら鍋を突くだけである。
 美味い鮟鱇鍋であったと礼を述べ退去したが話が何なのか解らないまま準決勝を迎えた。
 敵はプラウダ。昨年の優勝校にして私と母が喧嘩別れする原因を作った因縁の相手でもある。
 本拠が北の大地であるから試合場と相性も良く、戦車は規定上限の十五輌だ。
186: 以下、
 試合前に敵の隊長と副官がやって来たのだが隊長の方がいやにちんまりしている。
 握手を求めたチビ会長よりちんちくりんで栄養状態が心配だと思っていたら返礼せず副官に肩車をさせて私の方が背が高いなどと云い出すから上背の在る奴は重みが在るので肩車など出来ぬ。挨拶もできない餓鬼を担ぐことは平気であろうが。と云ってやった。
 年下の癖に生意気であるぞと云うから年齢だの上背だの詰らんことしか貴様は気にかけられぬのかと返したら涙目になって昨年のように撃ちぬいてやると云うので河もないのに溺れた味方を助けに行ってやることは出来んよと答えた。
187: 以下、
 大洗の面々はあんな子供叩き潰してやれと興奮しているので包囲を警戒し慎重に行こうと云ったのだが短期決戦で行きたいと譲らぬ。
 折角上がっている士気を下げる事もないかと思い直し浸透強襲戦で行くことになった。
 雪壁を榴弾で吹き飛ばし進んで行けば敵のT34が三輌居たので三突と?号でこれを撃つと回避行動もせず破られたので妙である。
 残りの一輌が逃げた先には敵フラッグ車を含むT34が五輌居りここでフラッグ車を討てば勝ちだと大洗の面々は沸き立った。
 私は上手く行きすぎていて何か可怪しいと思ったのだが皆は興奮していて話を聞かぬのだから仕方がない。
188: 以下、
 更にT34を一輌撃破したものの敵フラッグ車は此方を挑発しているかのように廃村へと逃げ込んで行く。
 大洗部隊はフラッグ車を追って廃村へ入ったのだが見回すとプラウダ部隊によって退路が次々と塞がれてゆくのに味方は其れに気がついておらぬ。
 終には敵の切り札スターリンが来たのだからこれはいかんと味方に撤退を指示したが撤退する道がないので村の中央に在る廃教会へと逃げこんだ。
189: 以下、
八話終了
戦闘シーン中心の回は短くなりがちです
九話も既に書き始めているので今晩中に上げられると思います
192: 以下、
みぽりんとなんて呼べない
193: 以下、
他人から見たら姉なんかよりずっと近寄りがたいよな、みぽりん
194: 以下、

 スターリンに履帯や砲塔を破られながらも此方が籠城を完了すると敵が白旗を持ちやってくるのでこれは降伏を勧告する使者である。
 三時間後に攻撃を再開すると云って使者は立ち去ったが大洗部隊は通夜の如き有様だ。
 私の作戦を却下し増長していた自覚も在るのだろう。各人が窮地を招いたと思っているようである。
195: 以下、
 私は降伏するのも有りだと云うと片眼鏡が絶対に勝たなければならぬと云う。
 何故其処まで勝ちにこだわると問えば優勝しなければ大洗の学園艦は解体されるのだと云うから魂消た。
 チビ会長がこの事を伝えれば西住ちゃんの負担に成ると思い云えなかったのだと呟く。
 牛女はごめんねごめんねと赤べこの如く頭を下げ片眼鏡はわんわん泣き出した。
196: 以下、
 私は戦車道が嫌いだった。しかし大洗の皆の御蔭で楽しみを見出すことが出来たのだ。
 状況は悪い。なれど諦めるわけには行かぬ。
 私は各乗員に破損箇所の修復を命じると作戦を立てるための偵察をすることにした。
197: 以下、
 私と視力の良い麻子、軍事行動に詳しい優花里と河馬チイムの世界史狂いの二組で偵察に出たが、敵は小躍りしたりボルシチを突いたりと余裕であるから腹立たしい。
 麻子に腹減らないかと聞くと減ったし寒いなと云うから呑気にボルシチをかき混ぜていたプラウダの生徒を締め上げて凍死しそうだから助けてくれよとお願いした所一鍋頂くことに成功した。
198: 以下、
 廃教会に戻って皆にボルシチを振る舞ってやると美味い美味いと好評であるがどこか悲壮感が漂い平常の愉快な大洗部隊ではない。
 どうやら私が不在の内に士気が底をついたと見える。
 偵察により作戦の目処は立ったがこれでは勝てぬ。飯を食っても士気が上がらんのなら一肌脱ぐしか無いだろう。
 私はあんあんあんと歌いながらあの恥ずかしいあんこう踊りを踊りだした。
 皆はぼけらと眺めているのでなんでも良いから踊れと云うと鮟鱇チイムの面々が混ざり生徒会も踊りだし終には大洗部隊全員による大合唱となった。
199: 以下、
 丁度プラウダの使者が来たので降伏はせんよと伝えると出陣の準備を開始する。
 偵察でわかったことはプラウダの布陣が意図的に弱いところと強いところを分けていることである。
 プラウダの隊長はちんちくりんの子供であるが我等を此処に閉じ込めたように捨て石を使うべき所で使える用兵家だ。
 なればこの布陣の意図は弱い所を突かせその間に本隊が制圧の準備を整えるといったところだろう。
 KV2の配置からも其れは伺える。
200: 以下、
 でも弱い所を行くしかないのではと優花里が云うから策士を相手にするときは演りたいことを演らせると負けなのだと答えた。
 ではどうしますと聞くので策士は予定外の事が起きると反応が遅れる。正面突破してやるぞと云ってやった。
 あんこう踊りで上がった士気はそのままに敵本隊へと吶喊すれば案の定反応が鈍いので85ミリ砲装備の一輌を撃破し離脱する。
 しかし依然として眼前にはスターリン含む敵四輌。加えて今振り切った三輌が追い縋ってくるのだから恐ろしい。
201: 以下、
 ここで作戦は第二段階に移行し38tによる決死隊が四輌を引き付ける間に我等五輌はフラッグ車の八九式を守りつつ廃村からの脱出を図る。
 亀チイムにはあわよくば撃破。合流できれば猶良しと伝えたが撃破は免れぬであろう。
 決死隊に志願してくれた会長等に感謝しつつ本隊は脱出に成功した。
 亀チイムは奮闘し二輌を撃破したものの離脱には失敗との報が在ったので怪我はないかと聞くと大丈夫だというから必ず勝ちますと云っておいた。
202: 以下、
 さて後方よりは少なくとも四輌が追ってくると殿の鴨チイムが云うので一度振り切る必要がある。
 沙織がこの後どうするんだと云うからプラウダのフラッグ車は今どこにいるだろうなと聞けば優位な状況故に本隊と離れ村に残っているのかと目を見開くからその通りだと答える。
 恐らく鈍足のKV2も残っているだろうが、策士なのに子供っぽい奴の気性では此方のフラッグ車を全車で追うことは想像に難くない。
 雪の丘を越えたところで鮟鱇と河馬は離脱し敵の死角をついて廃村へと逆走する。
 プラウダに気が付いた様子はないから家鴨チイムが持ち堪えている間にフラッグ車を叩くという戦いが始まった。
203: 以下、
 闇雲に動いて奇襲の利を捨てるのは拙いから優花里に偵察を頼んだ所呑気に喫茶していると云うので接近すると慌てて逃げ始める。
 KV2の待ち伏せもあったが?号と三突の敵ではなく簡単に撃破した。
 その間にも兎チイムが破られ鴨チイムも破られた。何れもスターリンの砲撃というから砲手の腕が良いと見える。
 敵フラッグ車は村を周回するように逃げているが家鴨が破られるまで時間がない。
 確実に撃破するため三突による待ち伏せでけりをつけることにした。
204: 以下、
 河馬チイムの日本史狂いは昨年忍道を履修していたというから土遁の応用で三突を雪中に埋めそこに追い込むことで撃破する。
 華が機銃で誘導をかけると目論見通り三突の眼前へ突き進んでゆくから撃てと叫ぶと雪中からの砲撃が敵フラッグ車を襲った。
 家鴨チイムは機動性も装甲も悪い八九式で魂の走りを見せ無事。
 一方敵フラッグ車からはすっと白旗が上った。我等の勝利である。
205: 以下、
 この戦いは学園艦を守るという目的も加わって必死だっただけに喜びも大きい。
 会長がよくやったと云うから必ず勝ちますと云ったでしょうと笑ってやった。
 するとプラウダの隊長がまた肩車でやってきて包囲を正面突破されるとは思わなかったと云うのでまともに反撃されたらあそこで落ちていたと答えたら皆が隊長はそんな危ない橋を渡らせたのかと魂消ている。
 プラウダの隊長は貴様らは大したものだと云って確りと大地に立つと握手を求めてきたから返礼した。
 決勝戦は見に来ると云うから期待したまえよと云って気持よく別れた。
 最初はいけすかぬちんちくりんだと思ったが存外将器の在る良い奴なのかも知れぬ。
 こうして準決勝は終わり、決勝がやってくる。
206: 以下、
九話終わります
西住ちゃんはやはり西住ちゃんだったけど少しだけ会長のことを尊敬したみたいです
いつもコメントありがとうございます
近寄りがたいっすかねえ
220: 以下、

 決勝での車両数は二十輌までとなる。
 サンダースほどではないが黒森峰は金があるから二十輌用意して来るはずだ。
 対する此方は六輌で挑むというのはあんまりである。
 どうにかなりませんかと会長に聞けば自動車部がポルシェティーガーを直し終わる頃だと云うので見に行った。
221: 以下、
 自動車部が試運転をしてみると云うからやってみろと云うと案の定泥に埋まりエンジンが燃え上がる。
 優花里はこれでこそポルシェティーガーですと喜んでいるが皆は不安そうなので主砲と装甲は間違いなく強いのだから使いようだと云えば少し安心した様子である。
 走行中の破損もあり得るため乗員は自動車部に任せることとなった。
 操縦の訓練は要らないが砲撃を教えてくれと云うから華に慣熟を頼むと88ミリを撃つのが楽しみだと呑気なものである。
222: 以下、
 決勝進出を祝して各所から贈られた義援金が在ったので38tを強力な主砲を持つヘッツァー仕様に改装し?号にも装甲板を追加した。
 片眼鏡では兎も角会長に37ミリでは役不足であるから素晴らしい金の使い方をしたと云って良いだろう。
 私が満足していると級友の猫田が戦車に乗りたいと云うので戦車の余りは無いぞと云ってやったら駐車場に在るというので魂消た。
 校内の見回りを可く行っていた兎チイムに貴様ら何故気が付かんのだと叱責するとずっと在るから先輩も気がついて放置している廃車だと思っていたと悪びれる様子がない。
 凸ピンを喰らわせてやったら先輩の凸ピンだと喜んでいるので不気味な奴等である。
 沙織がほれ駐車場に在ったではないかと煽るのできみも気が付かなかったろうと云うと大人しくなった。
223: 以下、
 猫田に本当に乗るかと聞けば既に戦車チイムの仲間を集めたと云うので感心したがインタアネットの戦車ゲエムだと云うから優花里に慣熟を任せる。
 自動車部のポルシェティーガーは合成獣のような見た目から獅子豹チイムと名付け、戦車ゲエムの三式は蟻食チイムとした。
224: 以下、
 戦車の整備も一通り終わって人心地ついた所で華が華道の展覧会のため実家に帰りたいと云う。
 幼い時分より戦車ばかりで華を愛でた覚えなど無い私は是非拝見したいと云うと鮟鱇チイムの皆で来てくれと切符をくれた。
 華の作品は橙の花卉が大胆に使われ榴弾の爆発を思わせる愉快なものであった。戦車型の器も良い風合いである。
 華と御母堂が居たので挨拶をすると戦車道をやらなければこの花を活けることは出来なかった。娘と共に戦ってくれて有難うと云うものだから勘当はなくなったかと聞けば戦車道も然程悪いものではないと思ったらしい。
 プラウダ戦を観戦したと云うのであの寒い中風邪を引かずに何よりである。
 決勝も見に来るそうなので華に良かったなと云うときみも家族とは仲直りしたまえよと云うから考えておくと答えた。
226: 以下、
 決勝前日の練習を終えると沙織が飯を作ってやると云うので豚カツを揚げてくれよと頼めば何人前でも揚げるぜと胸を張っている。
 華には白米を持参しろと厳命した。
 沙織の豚カツは絶品で飯が進む。
 重大発表が在ると云うので婚活の成果かと煽ってみたがアマチュア無線二級を取得したと云うから驚いた。
 戦車のことを調べたり沙織は努力家であるなと感心すればみぽりんが褒めるなんて珍しいと逸見の様な事を言うので私は鮟鱇チイムの皆が好きなのできちんと褒めるのだと云ったら西住殿に告られましたと優花里が小躍りする。
 そういう意味じゃないだろうと麻子が窘めていた。
227: 以下、
 なんにせよ決勝のその日である。
 試合前にグロリアーナ。サンダース。プラウダの隊長たちが激励に来てくれたので期待には答えましょうと返礼した。
 アンツィオはいないのかと沙織が聞くとグロリアーナの隊長がその辺で寝ていたと教えてくれたので笑いが零れた。
 グロリアーナの隊長が戦った相手と仲良くなるきみは不思議な人だねと云うから雨降って地固まると云うでしょうと答えればそれは簡単な事では無いのだから誇りなさいと云う。
 四本足の馬でも躓くという格言を贈ってくれたので私の姉は八本くらい脚がありますと答えておいた。
228: 以下、
 礼をする前に逸見が今の内に降参すれば無様な姿を見せずに済むなどと抜かすので主審に礼節を守らない奴がいるので反則負けとしませんかと聞けば見逃してやれと笑っている。
 今気がついたが主審は大洗に教えに来た意味の分からない教官である。実は偉い人だったらしい。
 逸見の耳元で命拾いしたなと呟けば青い顔をしているので愉快である。
 礼を終えて戦車に乗るかと云った所で昨年の決勝で溺れかけた赤星があの時は有難う御座いました。我等のせいでみほさんが学校を辞めて戦車も嫌いになってしまったのかと心配して居りましたと涙ながらに云いに来た。
 私は戦車も戦車道も好きだから心配するな。良い戦いをしようと云っておいた。
229: 以下、
 姉は西住流を完璧に掴んでいるので火力に物を言わせて轢き潰す戦いを好む。
 まともにぶつかれば蹂躙されるだけであるから地の利。戦車の個性。乗員の能力全てを活かして敵フラッグ車を孤立させることが要となる。
 案の定開幕より電撃戦を仕掛けてきたから引き離そうとしたのだが蟻食の三式が突如として後退すると我等の?号を庇って大破した。
 早戦力を失ったが練度が低い蟻食だったのは不幸中の幸いで、?号が今回のフラッグ車なのだから危ない所であった。
 撃ったのはティーガー?なので逸見であろう。
 彼奴も西住流の門弟であるから姉ほどでは無いにしろ元々出来るのだが、私は腕を上げて居ると感心した。
230: 以下、
10話終わり
本編を見ていて礼に始まり礼に終わるって蝶野教官は言っていたのに
逸見を注意しないのはおかしいとずっと思っていました
西住ちゃんが逸見を蹴り飛ばしている画像がほしいです
逸見二号に拳骨を入れている画像もお願いします
病気の妹が見たがっているんです(PNカレー先輩・熊本・17歳女性)
232: 以下、
ことごとく西住ちゃんにやり返されるエリカェ…
233: 以下、
青い顔する逸見ワロタ
234: 以下、
逸見も面白いが華さんへの白米持参で笑う
244: 以下、
拾壱
 蟻食チイムに怪我の有無を聞けば皆無事とのことで何よりだ。
 私の仲間に何かあれば逸見から治療費をふんだくってやる所であった。
 沙織があれをやるかと聞くので頼むぞと云えば部隊全車に取り付けた発煙筒が起動し煙幕が展開される。
245: 以下、
 我等の作戦は煙幕によって視界を遮り追撃を回避するだけではない。
 このまま前方の高台を取り高度差を利用して敵勢力を減らすという目的が在る。
 そのためには鈍足で燃えるエンジンを持つポルシェティーガーが足手まといと成るが煙幕が在るので安全にワイヤアを張って牽引することが可能である。
 更に家鴨と鴨が蛇行運転しつつ煙幕を張ると煙が広がって我等を覆い隠した。
 敵後方では潜ませておいた亀チイムが敵の履帯を破壊して回る。
 二輌履帯破壊との報が在ったので無理をせず下がるように指示した。亀チイムの役割はまだ終わっていない。
246: 以下、
 姉は煙幕に対応して榴弾を撃ってきたが既に陣は完成したのだから此方の番である。
 火力を集中させて三突と?号が登坂する黒森峰戦車を二輌続け様に撃破するが、敵は装甲の厚いヤークトティーガーを盾にして来たので堪ったものではない。
 ヤークトの正面を抜ける戦車は此方に存在しないし火力も抜群だ。
 皆の不安そうな声が無線を通じて聞こえるので安心しろ。西住流のやり口なら嫌というほど知っているのだ。と云えば幾分か士気を取り戻せたようである。
247: 以下、
 亀チイムにお願いしますと云うと会長が心得たと返し敵後方から急接近して履帯を破壊しつつ敵陣を掻き乱す。
 横腹を見せたラングを三突が撃破し十七対七。此処まで削ればこの会敵での戦果は十分である。
 我等はポルシェティーガーを盾にして乱れた敵陣を駆け下り、鴨チイムが殿で煙幕を撒き散らした。
 優花里がポルシェティーガー堅いですねと喜んでいるが敵にやられて嫌なことは此方がやると爽快なものである。
248: 以下、
 今すぐにでも市街地に突入し遭遇戦を行いたいが登坂せず待機していたティーガー?が追ってくる。
 逸見をおちょくってやるかと麻子に支持を出し柔らかい地面を選んで走行すれば勝手に転輪が外れて一事行動不能となるのだから愉快である。
249: 以下、
 市街地を目指すために最短である河を渡る。
 ポルシェティーガー筆頭に重く大きい戦車を水除けにして流されぬよう気をつけていたのだが兎チイムのM3がエンストを起こした。
 黒森峰の追撃も迫る中助けるか見捨てるかの選択を迫られるのだから私には水難の相でも出ているのだろうか。
 兎の後輩等は後から追いつく等と抜かすがそう云って追いついた奴はこの世に居らんのだ。
250: 以下、
 私はどうしてここにいる。
 勝つためには味方を見捨てることも必要だと云った母が気に食わなかったからだ。
 ならば悩む必要など無い。
 私は全員で勝つぞと宣言しワイヤアを持ちだした。
 各車への指示は任せろと沙織が云うので済まないなと云えば無茶は毎度のことだろうと笑う。
 戦車の間を幅跳びしてM3に降り立つと後輩等が隊長すみません。隊長有難う。と涙を流すので泣くにはまだ早いぜと云ってワイヤアを各車に張り牽引していく。
 その間にも追撃が迫るので各車砲塔を後ろに向けて援護射撃を行う。
 幸い河の途中でM3のエンジンが起動したので事なきを得たが黒森峰の追撃から逃れるには少々遅いくらいの時期となってしまった。
251: 以下、
 更に此処に来てポルシェティーガーのエンジンが火を吹き出したのでどうしたものかと思っていたが獅子豹チイムの車長中嶋が問題なく直すと云う。
 見ていると走りながらエンジンを弄るのだから正気の沙汰ではない。
 ポルシェティーガーを実践で乗りこなせるのは此奴等しか居らんのではないだろうか。
 道中の石橋でも殿を務めたポルシェティーガーがウィリイ走行の真似事で渡りつつ破壊するのだからもう自動車ではなく戦車に乗れと云いたい気持ちを抑えて市街地へと突入した。
252: 以下、
 ?号戦車が逸れていたのを見つけたので集団戦法を好む西住流にしては妙だと思いながらも敵勢力を削るべく追撃をかけたのだが、この戦力差で慌てた様子を見せないのは何か指示を受けていると見た。
 沙織に全車警戒するよう伝え?号を追っていたら超重戦車マウスが出てきたので嵌められたのだと気がついた。
 戦車道に参戦可能な車輌の中では最大の大きさを誇り主砲も装甲も規格外である。
 足回りが弱く野戦では使えないが市街戦を得意とする私を対策して入れてきたと見える。
253: 以下、
 優花里がマウス凄いです。あんなの持っていたんですかと聞くが私の居た頃にはあんなもの無かったと答えた。
 姉か逸見か。もはや大洗は対策されない伏兵ではないのである。
 退却を指示したが深入りしすぎた鴨チイムのルノーが破られここまで二輌を撃破した三突も大破したのだから放置して良い相手ではない。
 ここで破るしか無い。
254: 以下、
十一話終わり
盛り上がってまいりました
255: 以下、
乙であります!
258: 以下、
拾弐
 ポルシェティーガーの88ミリでも抜けないのだから正攻法はとうに諦めた。
 それでも少しずつ下がりながら砲撃を続け、華にマウスの脇に出た?号を狙えと云うと即座に当てる。
 市街戦でフラッグ車を孤立させるためにはマウス。エレファント。ヤークトティーガーを釘付けにする必要があり当然理想は撃破だ。
 苦境ではあるが黒森峰本隊が壊れた橋を迂回している今が好機とも云える。
 しかしどう倒したものか思案していると沙織がマウスは戦車が載りそうな戦車であるなと云うので作戦を思いついた。
259: 以下、
 先ず車高の低いヘッツァーがマウス正面へ突貫し砲塔を車体に潜り込ませマウスを持ち上げる。
 側面から挑発を行いマウスの砲塔を側面に向けさせた所に八九式がヘッツァーを土台にマウスの上へ乗り上がって砲塔の動きを留める。
 砲塔が固定され丸裸になった排気口を我等?号が撃ちぬく。
 またも亀チイムには決死隊となってもらうので心苦しいが今はこれしか方法がない。
 皆の奮戦あって排気口を丸裸に出来たから華が一射で仕留めた。マウスの最期である。
260: 以下、
 だが亀チイムのヘッツァーはマウスの超重量を支えて大破走行不能となってしまった。
 生徒会の三人から激励の言葉をもらい我等は次の戦場へ向かう。
 此方の残存車輌は四輌。敵は十五輌なので多対一は望めない。全力で妨害してフラッグ車同士の一騎打ちに持ち込めれば御の字である。
 そうなれば姉の性格からして勝負に乗ってくることは間違いない。
 ?号でティーガーと喧嘩するのは恐ろしいがマウスも破れたのだからもう何でも破れる気がする。
261: 以下、
 私は家鴨チイムに挑発を。獅子豹チイムに鮟鱇と連携した作戦の要を指示した。
 兎チイムは自ら志願してエレファントとヤークトの大物二輌を見ると云うので任せると云えば気合十分な様子である。
 各車の連携した位置取りが肝要なため沙織が密に連絡を取りどの交差点を曲がるかまで指示を入れて作戦は進行した。
 八九式は落とされたがかなり粘ったのだから少なくない戦車を釘付けにする役割は果たしてくれた。
 兎チイムからエレファント。ヤークトティーガーの撃破報告があったがM3も大破したと云うので後は任せろと答える。
262: 以下、
 決戦の地HS地点は高校のように見えたからハイスクウルのHSとしたが本当は何の建物かなど知ったことではない。
 とまれそのHS地点は内部が回廊のようになっている上に入り口が一つしか無いから一騎打ちには最適である。
 私が姉を引きつけて突入すると伏せさせておいたポルシェティーガーが斜に構えて入り口を塞ぎ追撃の黒森峰軍団を引き受けた。
 ポルシェティーガーが破られ運営による回収が完了するまでが勝負である。
263: 以下、
 西住流に後退の文字はない。ここで決着をつけようと姉が云うから私は後退したいけど皆がこの状況を作ってくれた。受けて立つと返して壮絶な姉妹喧嘩が始まった。
 ?号とティーガーでは丁度一回りティーガーが強いといったところで足回り以外?号が勝る所はない。
 装甲板を追加しているがお守りのようなものである。
264: 以下、
 回廊を回りながら撃ち合っていると姉が榴弾を使った音がしたので見れば通路が塞がれている。
 接近するティーガーの転輪の音に合わせて麻子が急加し車体をぶつけて背後からの一撃を防いだ。
 なおも撃ちあいは続いたが互いに手の内を知り尽くしているので決定打がない。
 すると壁となった獅子豹チイムからティーガー?が乗り越えようとしていると報が在るからこれは拙い。
 普段弄り倒しているとは云え逸見と姉の二人を倒すことは出来ぬ。
 ならば決めに行ってやろうではないか。
265: 以下、
 私が停車を指示すると姉も停車して向かい合う形になった。
 沙織が我等の力を見せてやろうぜと笑う。
 華が一瞬でも停止できれば確実に仕留めると云う。
 優花里が遠心力下でも装填はお任せ下さいと張り切っている。
 麻子がグロリアーナ以来か。腕がなると呟く。
266: 以下、
 私は行くぞと叫び麻子が急加をかけると華が一発牽制を放つ。
 姉も打ち返してくるが既にドリフト軌道に入った?号には当たらない。
 強烈な遠心力の中に居て優花里が装填を完了し沙織は祈っている。
 グロリアーナでは側面への回りこみだったが防がれた。今は背面へと回りこむ。
 限界を越えた挙動で履帯が千切れ転輪が脱落していく。
 ティーガーの砲塔が旋回していくが此方が背後を捉える方が僅かに早い。
 主砲が背面を捉え停止したその瞬間轟いた撃てという声は私か姉か。
 果たして白旗が上ったのはティーガーであったのだから大洗の勝利である。
267: 以下、
 勝ったとは思えないほど足回りが襤褸になってしまったので回収車に揺られて行くと大洗の皆が祝福の言葉を投げながら駆け寄ってくる。
 私は戦車から降りて返礼しようとしたが大勝負のせいか足腰が立たないのだから仕方がない。
 優花里と華に支えてもらうと皆に有難うと深く頭を下げた。
 此方こそ有難う。廃校はなくなったぞと会長が云う。
 また来年も戦車道が出来るなと云えば我等は卒業してしまうと淋しげなので大学でも続けてくれと云ったら良い考えだと笑みが零れた。
268: 以下、
 表彰式が始まると云うので少し行く所があると告げて姉を訪ねた。
 姉が優勝おめでとうと云うのでまだ実感が無いと返すと母は彼処だと云う。
 見れば少し離れた所に座りこんで居るので隣失礼しますと私も座りこんだ。
 私は西住流を形にすることは出来なかったけれどこれだと思える我流に出会いました。云うなれば大洗流です。と云えば矢張みほは西住流に相応しく無いわねと答える。
 以前と同じ言葉だったが母の顔は綻んでいたので元気よく、はい。と答えた。
             完
269: ◆naranciafLZ1 2016/02/02(火) 04:44:46.61 ID:5b3tgZhZo
夏目漱石「西住ちゃん」
お楽しみいただけましたでしょうか
劇場版のとあるシーンを見て破天荒なまま育った西住みほを書きたくなったのが執筆のきっかけでした
書いている内にキャラが立ってきてエリカを蹴飛ばしたりアリサを殴ったりとんでもない奴になってしまいましたが…
根っこの所がまっすぐなので決して不愉快ではない奴として描いたつもりです
初ガルパンSSがこんな長編になってしまい自分でも困惑していますがこれにて幕引きとさせていただきます
それではまたいずれ、ピロシキ?
270: ◆naranciafLZ1 2016/02/02(火) 04:52:27.66 ID:5b3tgZhZo
あと最後に注釈を
原作未見で?というコメントをくださった方がいらっしゃいました
原作の西住みほと逸見エリカはこのSSとはほぼ別人なのでご注意ください
当方艦これとガルパンストパンでしかミリタリー知らない初心者なので
軍事用語など間違いは多々あると思われます
最後の黒森峰戦はアニメを見返しながら書きましたが
ノンナが17対7と言ってから撃破描写がないのに残存車輌16となっている場面が有り
その辺がどうなのかよくわからなかったためこのSSでは残存17のままマウス戦に移行しました
まああまり気にしないでもらえればと思います
こんどこそおしまい
有難う御座いました
273: 以下、
乙!
また坊っちゃん読み返したくなってきたぜ
良ければBD出たら劇場版もやってくれよな!
275: 以下、
張れたかな
ちゃんと張れてれば、西住ちゃんと蹴られた逸見です
283: 以下、
気持ちの良いSSだった
298: ◆naranciafLZ1 2016/02/02(火) 20:20:11.11 ID:5b3tgZhZo
支援絵有難う御座いました
大切にします
309: 以下、
一気読みした
いい感じにツボ押さえてて最高でしたわ
元スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1453680434/
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