士郎「それで…誰も泣かずにすむのなら――」【後半】back

士郎「それで…誰も泣かずにすむのなら――」【後半】


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凛「ああもうしつこいっ!!」
凛は宝石で泥を撃退しながら、言峰への攻撃もする
綺礼「随分大振舞だな凛、それほど多くの宝石を使ってしまって大丈夫か」
凛「お生憎様、魔力を込めた宝石の貯蔵は十分よ!!」
大量の宝石による爆撃の嵐が続く
凛「士郎!!」
士郎「わかってる――投影、開始」
持ってきた弓で投影した矢を放つ
綺礼「ふん――」
言峰がどこからか取り出した黒鍵で矢を弾いたのと同時に凛が懐に入り込む
凛「――Anfang、Gros zwei」
魔術で強化された拳を言峰に向けて放つが、あっさり受け止められる
綺礼「お前に体術を教えたのは私だ、勝てると思ってたのか」
言峰は片手で凛の打撃を、片手で士郎の矢を全て受けながら泥を操る
士郎「ぐああっ!?」
泥に触れた腕に焼けるような痛みが走る
凛「士郎!!」
綺礼「余所見をしている場合か?」
凛「まず――」
229:以下、
アーチャー「くくくくく、ふはーっはっはっ!!」
瓦礫の中から出てきたアーチャーは、鎧が壊れ体中のいたるとこから血を流しながら笑い続ける
英雄王「自分の姿がそれ程面白いか」
アーチャー「おかしいともよ、これ程の傷を負うのは友との戯び以来だ」
無数の槍が襲い掛かり英雄王は跳んで躱す
そこにアーチャーが剣を振り降ろし、大量の氷が地面から生えながら進み柳洞寺を破壊する
英雄王「どこを狙っているアーチャー、狙いとはこう付けるモノよ!!」
英雄王の振るった剣から出た炎の塊がアーチャーの肉体を焼く
アーチャー「……調子に乗るな雑種!!」
アーチャーは神々しく光る白い剣を取り出す
英雄王「聖剣か、ならばこちらは魔剣だ」
白と黒の光がぶつかり合い巨大な爆発が起こり、アーチャーは地面に叩きつけられる
英雄王「どうしたアーチャー、出力が落ちているぞ。その剣の威力はそんなものじゃあるまい」
アーチャー「貴様は常に慢心がある、本気を出していても心の隅の方にわずかにな」
英雄王「なに?ぐああ!?」
英雄王の鎧が砕け、全身に火傷の後ができ、全身から血が噴き出す
アーチャー「貴様は我だ、我とて宝物庫の中身全ては把握しておらん。ならば此度の余興で我が初めて知った道具は貴様は知らんのだろう?」
英雄王「ぐ……おのれ!!」
アーチャー「先ほどの聖剣はただの目眩ましよ」
英雄王「その武具……自分の受けたダメージをそのまま返すか」
アーチャー「発動がいつ起こるかわからん上に、同じ相手には二度使えんという扱い辛いものだがな」
230:以下、
アーチャー「さて仕切り直しといこうか」
英雄王「一度きりと言ったか、同じ傷となったところで我の有利は変わらん!!」
アーチャー「お前はあの聖杯がどのようなモノかよく知っているのだろう?」
英雄王「一度飲み込まれそのはらわたを見たのだからな」
アーチャー「ならばあの呪いの塊で何を企む」
英雄王「人間共の一掃よ。この世界は楽しいがな、同様に度し難い。我が治めていた頃と違い無価値な人間が増え過ぎた」
アーチャー「ふむ、確かに今の世は人間共に酷く優しい世界になったものだ」
英雄王「それを我自ら手引いてやろうと言うのだ。それをお前はつまらぬ雑種共のために戦おうだと?挙句に薄汚い雑種と贋作者の下に降るとはな」
英雄王は先程のアーチャーの攻撃の跡に一瞬目をやる
アーチャー「はっあまり我を笑わせるなよ雑種」
英雄王「ざ、雑種だと――」
アーチャー「それに勘違いしてもらっては困るな。我はこの街の人間がどうなろうと知った事ではない」
英雄王「雑種…」
アーチャー「この冬木は我が雑種の管理する地だ。つまりこの地は我の物だ、他の雑種が荒らす等許すはずがなかろう」
英雄王「貴様……一度ならず共二度もこの我を雑種呼ばわりしよったな!!」
アーチャー「それにな、この我が奴らに降るだと?そんな事あり得るわけなかろう」
英雄王とアーチャーが同時に鍵剣を展開し、宝物庫に手を伸ばす
そして英雄王のみが剣を手に掴む
英雄王「我の方が早かったなアーチャー、つまらぬ雑種共諸共消え失せるがいい――天地乖離す、開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!」
231:以下、
凛「まず――」
聖杯から伸びた触手が凛を捕らえる
綺礼「終わりだ凛、今の器では少し力不足なのでな。お前程の才能の塊であれば良い餌となるだろう」
言峰の黒鍵が凛の胴体を切断しようと襲い掛かる
――その時
綺礼「っ!?」
地面を裂きながら突き進む氷山が言峰に襲い掛かる
綺礼「ぐ――」
言峰が避けると共に氷塊は凛に巻き付いていた泥の塊を全て砕く
士郎「アーチャーの攻撃!?そうだ――投影、開始」
今までとは比較にならないさで弓と剣を投影し
士郎「――同調、開始」
自分のイメージで作った物だ、構造なんてものは完全に把握している
それならば後は壊れないように変更するだけだ
弓は壊れないよう頑丈に、剣は矢として飛ばしやすい形にして放つ
士郎「偽・螺旋剣(カラドボルグ?)」
綺礼「これは――」
投影も強化も失敗した、言峰の実力なら簡単に弾き落とせるだろう
しかし投影が上手く行かなかったというのは幻想(イメージ)が既に壊れているという事
ならば簡単だ、修行の時と同じ――
士郎「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」
232:以下、
偽・螺旋剣に宿る魔力を利用した壊れた幻想の威力は凄まじかった
もし仮に投影が完璧な出来だったとしたら結果は変わっていただろう
しかし投影の強化に失敗した偽・螺旋剣には本来の十分の一の魔力すらなかった
士郎「ぐ…」
無茶な投影と強化による肉体への負担で地面に倒れこむ
綺礼「驚いたぞ衛宮士郎、まさか宝具にそのような使い道があったとはな。替えのきく投影品だからこその技か」
片腕が無くなった事を気にせずに言峰はさも愉しそうに言う
綺礼「見たまえ少年、先程の技で小聖杯が壊れ孔が閉じてゆく」
士郎「くそ……」
起き上がろうとするが、魔力を使い果たしたため体に力が入らない
綺礼「喜べ、君は見事聖杯による厄災を止めた」
倒れた士郎にとどめを刺すべく言峰は黒鍵を振りかざす
凛「last――!!」
綺礼「な――」
青白い火花と共に短剣が言峰の胸に突き刺さる
肉片は飛ばず、出血もない
だがそれで戦いは終わった
綺礼「この剣は――」
凛「アゾット剣、アンタが父さんを殺し、私にくれた剣よ」
綺礼「……そうか、あれから十年か。私も衰えるわけだ――」
233:以下、
宝物庫にある宝具で威力を最大にまで上げ、全魔力を込めたエアの一撃
その一撃で辺りは砂埃が立ち込め、人影等一切見えない
英雄王「跡形なく消えたか。聖杯と言峰はやられたか……贋作者と遠坂の娘を消しに行くとしよう――」
英雄王の手足に鎖が巻き付く
英雄王「な――どういうつもりだ鎖(とも)よ――いや、まさか――」
アーチャー「その慢心が命取りよ、慢心も王として必要だと思うがな」
英雄王「何故だ――何故全力のエアを受けて立っている」
アーチャー「お前も見覚えはあるだろう?」
英雄王「せ、セイバーの鞘――」
アーチャー「ただの贋作だがな、それなりの仕事はしたと言えよう」
アーチャーの手の中から鞘h崩れ去ってゆく
英雄王「あの贋作者――だがそれはセイバーの魔力がなければ発動せんはずだ!!」
アーチャー「我の雑種はセイバーの魔力の供給を行っていた。そしてあやつは本来保存できぬはずの魔力を宝石に移して保存ができる」
英雄王「――宝石にセイバーの魔力を遺していたというのか」
アーチャー「我の雑種とあの小僧は中々に優秀でな、見ていて飽きん。鎖(とも)よ、あれも我だからと加減する必要はないぞ」
英雄王「ぐ……はな…せ、鎖よ」
アーチャー「凛が言うには道を踏み外した友を殴ってでも戻すのがこの国のやり方だそうだぞ」
一瞬緩みかけた鎖が再びきつく締め上げる
英雄王「おの…れえ!!」
凛「アーチャー!!」
アーチャー「そちらも終わったか。雑種、二度と見れぬであろうエアの真の威力を見せてやろう――天地乖離す、開闢の星!!」
234:以下、
アーチャー「聖杯戦争もようやく終わりか……」
アーチャーの姿が薄くなり始める
士郎「アーチャーお前――」
アーチャー「一時的とはいえ聖杯は貴様が破壊したのであろう?褒めて遣わす」
士郎「そりゃどうも」
凛「アーチャー、もう戻っちゃうのね」
アーチャー「聖杯がなくなり契約も切れたのでな」
凛「……そう」
アーチャー「それにこの世界に我自信との戦に勝る余興は存在し得ぬだろう」
凛「そうでしょうね、じゃあ――」
アーチャー「だが、貴様がどうしてもというのなら条件付で契約して残ってやらん事もない」
凛「いや別に――」
アーチャー「残ってやらんこともない」
凛「ああもう!!そんぐらい残りたいから契約してくださいって素直に言いなさいよ!!」
アーチャー「誰もそんな事言っておらん!!」
凛「あっそ、それじゃあ――」
子ギル「ちょっと待ってよ」
凛「子供になってまで言いたくないわけ?」
子ギル「彼も素直じゃないので許してください」
235:以下、
子ギル「彼は主従関係なくアーチャーって呼ばないっていう条件なら契約して欲しいそうです」
凛「主従関係なく?」
子ギル「はい、つまりお姉さんを彼と対等の存在として認めるという事です」
凛「へえ、そんぐらい自分で言いなさいよ。女々しいわね」
アーチャー「ふん、この我と対等に話す事を赦すと言っているのだ。泣いて喜ぶがいい」
凛「いやそんなに嬉しくないし」
アーチャー「なっ!?」
凛「それよりアーチャーって呼ぶなってどういう事よ」
アーチャー「我はその呼び名が好きではないのでな。英雄王でも英雄王様でもギルガメッシュ様とでも好きに呼ぶがいい」
凛「じゃあギルで、子供のアンタもそう呼んでって言ってたし」
ギル「ふん、特別に赦す」
士郎「じゃあ俺は何て呼べばいいんだ?」
ギル「言っておくがふざけた呼び名だと即首をはねるぞ」
士郎「俺にだけ何か厳しくないか!?」
ギル「当たり前だ。凛は我が認めた人間だが、お前はそこらの雑種だ」
士郎「ぎ、ギルガメッシュで?」
ギル「……馴れ馴れしいが、聖杯を壊した褒美として許してやろう」
凛「ああもうくたくた…」
士郎「それじゃあ早く帰ろう、帰ってイリヤの墓を作ってやらなきゃ…」
凛「切嗣さんと同じ墓に入れてあげたら?親子なんだし」
士郎「イリヤも心の底では親父の事好きだったみたいだもんな……」
236:以下、
聖杯戦争が終わってから一か月
聖杯戦争の後は俺の家が潰れてたり、桜の家が跡形なく消え去ってたりしたけど
アーチャー、いやギルガメッシュの宝物で俺の家だけは直った
遠坂と桜は遠坂邸で一緒に住んでるみたいだけど頻繁に俺の家に来る
士郎「なあ遠坂、頼みがあるんだけど」
凛「無理」
士郎「はやっ!?」
桜「私に出来る事なら私がやりましょうか?」
士郎「いや、これは遠坂にしか頼めないんだ」
桜「――そうですか。姉さん、話だけでも聞いてあげたらどうですか?」
凛「桜が言うならしょうがないわね、で?」
士郎「俺を弟子にして欲しいんだ」
桜「」
凛「何で?」
士郎「俺はイリヤもセイバーも救う事ができなかった。俺はもっと強くなりたい」
凛「そう、無理」
士郎「なんでさ!?普通もう少し考えてくれても――」
凛「だって私明後日から日本にいなくなるもの」
士郎「――はい?」
237:以下、
士郎「いなくなるってどういうことだよ!?」
凛「そのまんまの意味よ。時計塔に行くの、知ってるでしょ?」
士郎「あの魔術の名門だよな?」
凛「そ、ほんとは中学卒業してすぐ行くつもりだったんだけど、聖杯戦争があったから延期してたのよ」
桜「ちなみに私も行きます」
士郎「桜も!?」
桜「はい、……間桐家の当主として」
士郎「あ――、でも桜は魔術を今まで教えてもらってないんだろう?」
桜「そうですけど――その…私は姉さんがいないと生きていけない体なので」
士郎「――へ?」
凛「確かにそうだけど誤解を招く言い方しないの!!桜は臓硯のせいで治療をしなきゃいけないのよ」
士郎「治療!?それってどんなのだ!?」
桜「それは…その……」
凛「そんなこと聞かない!!それで他の連中に任せるわけにもいかないし、私が付きっきりになるってわけ」
士郎「そうなのか…」
凛「あ、私の従者としてなら枠が空いてるけど、それで良いなら弟子にしてあげるわ」
桜「そんな、だったら私の従者でも――」
凛「あんたはまだ魔術使えないでしょ、で、どうするの?」
士郎「ああ、頼む遠坂」
凛「そ、よろしくね士郎。あ、時計塔に行く前に忠告、絶対に私と二人きりのとき以外魔術を使わない事。ホルマリン漬になるわよ」
士郎「笑えない冗談はよせよ……え?本気で?」
238:以下、
――三年後
時計塔で授業を受けながら、遠坂も空いてる時は遠坂の指導というのを繰り返し三年
たまにギルガメッシュに評価をしてもらったりとして投影の制度はかなり上がった
そして魔術の修行じゃない時間は――
「シェロー?紅茶お願いできるかしら」
士郎「どうぞ、ルヴィアさん」
ルヴィア「あら早いですわね」
士郎「そろそろ飲みたい頃じゃないかってさ」
こうして執事のバイトをしている
ルヴィア「もうシェロ!!私の事はなんでもお見通しなのですわね!!」
士郎「ちょルヴィアさん!?」
凛「アンタらは何やってんのよ!!」
ルヴィア「あらミス・トオサカ、水羊羹は見つかって?」
凛「ちゃんと買ってきたわよ!!来なさい士郎!!」
士郎「ちょっ遠坂!?」
ルヴィア「ちょっとミス・トオサカ!?まだ仕事中でしてよ!!」
凛「もうとっくに時間過ぎてるわよ!!」
ルヴィア「あら?本当ですわって待ちなさいミス・トオサカ!!シェロを置いていきなさい!!」
凛「シェロシェロうっさいわね!!置いていきなさいも何も士郎は私の弟子よ!!」
ルヴィア「全くもう何故シェロはこんな貧乏女を…」
凛「何よこの成金女!!」
士郎「落ち着け遠坂」
239:以下、
凛「全く、何で私があんな女の下でバイトしなきゃなんないのよ」
士郎「でも元はと言えば遠坂がルヴィアさんと喧嘩して何度も講堂潰したからじゃないか」
凛「うっさいわね。こうなる事がわかってたら綺礼相手に百個以上宝石使うんじゃなかったわ」
士郎「請求額が億を普通に超えてるのなんか初めて見た。ギルガメッシュも呆れ果ててたしな」
凛「あいつ株とか会社経営とかで儲けてるくせに金貸してくんないのよ」
士郎「ギルガメッシュの経営してる会社ってロンドンにもあるんだろう?そこ紹介してもらえば良かったんじゃないのか?」
凛「我らの関係はあくまで対等だ、我の僕になるような真似は許さんって」
士郎「だったらもうルヴィアさんのとこで働くしか返せないじゃないか。だいたいルヴィアさん良い人なのに何で喧嘩するんだよ」
凛「良い人?あの金髪縦ロールのどこに良いところあんのよ」
士郎「たくさんあるじゃないか。あ、同族嫌悪か?」
凛「あ?」
士郎「うわっ、何だこの縄!?」
凛「私の魔力を練りこんで作った物よ、私以外に絶対ほどけないわ。そこの川で頭を冷やしなさい」
士郎「ちょっと待て遠坂ここ橋の上ってか今冬!!洒落になんないから一旦おちつ――」
凛「うっさい!!」
士郎「うわぁあああああああ!?」
凛「人払いの結界張ったから誰も助けに来ないから、しばらくそうしてろっての」
241:以下、
ギル「でかいぞこれは……来たか川の主よ!!って何だお前か雑種」
士郎「た、助かった……へっくしゅん!!」
ギル「大方また口を滑らせて凛の機嫌を損ねたか、もう三年もの付き合いとなるのに学ばんヤツだ」
士郎「わわわ悪いギギルガメッシュ、ななにかあたたたかいものを……」
ギル「ふむ、そうして震えている貴様を見るのは実に愉快だ。断る」
士郎「そこをなんとか……」
ギル「そうだな…家に帰ってさっさと風呂に入れば良かろう」
士郎「ここ結構流されてるから遠いってゆうか、俺縛られてる」
ギル「手のかかる雑種だな、ほどけんのなら斬ればよかろう」
士郎「その手があったか――投影、開始」
縄の間に複数の刃を投影して縄を切断する
ギル「全く貴様のせいで折角の釣りが台無しだ、少し勝負しようではないか。貴様が勝ったらその服を乾かしてやる」
士郎「今雪積もってるんだけど!?釣りしてる間に凍え死ぬぞ!!」
ギル「人間とは何とももろい生物よ、では温泉としようではないか」
足元の地面がお湯と変わり服のまま落ちる
士郎「うわあ!?あつ!?」
ギル「なんだ今のうちに服を脱げなかったのか」
士郎「何公共の場で複を脱いでるんだよお前は!?」
ギル「凛の人避けがある、気にする必要はあるまい」
248:以下、
翌朝
桜「38度7分、今日はゆっくりしてくださいね?」
士郎「すまない桜…」
桜「こちらこそごめんなさい、姉さんにはよく言い聞かせておきますから」
士郎「昨日の記憶がないんだけど――」
桜「先輩はびしょ濡れで玄関に倒れてたんですよ。それで姉さんに聞いたら川に投げたって」
士郎「何か意識を失う前にギルガメッシュがいたような気がするんだけど」
桜「ギルガメッシュさんなら警察に捕まったとかで姉さんが怒ってましたよ」
士郎「捕まった?そういや遠坂は今いないのか?」
桜「はい、姉さんは工房に行きましたよ」
士郎「あの宝石剣ってヤツか、だいたいの仕組みはわかったらしいけど」
桜「先輩は時計塔への入学を断ったんですよね?」
士郎「ああ、遠坂も今年で卒業だからな。あと数か月でここを出ないと」
桜「姉さんはここに残るそうですし別に出なくても姉さんの弟子は続ければいいんじゃないですか?」
士郎「俺は旅に出ようと思うんだ、親父がやってたように世界中を周って困ってる人を助けたい」
桜「そんな――」
士郎「桜は卒業した後どうするんだ?」
桜「冬木に戻るつもりです。やっぱりあそこが一番落ち着きますし、それに兄さんのお墓もありますから」
士郎「そっか、桜も今年卒業なんだろう?」
桜「はい、姉さんが在学の間だけの特別入学でしたから」
士郎「そっか。そういやあいつ主席卒業候補な上に時計塔の臨時講師に選ばれたんだっけ?」
桜「はい、それにあの魔道元帥ゼルレッチの直属の弟子入りが確定したらしいです」
士郎「ルヴィアさんとどちらか一人って言われてたからなあ、遠坂とルヴィアさんの大規模な喧嘩がなくなったのはそれでか」
桜「今度大規模な破壊をする喧嘩をしたら破門な上に時計塔を追い出されるらしいですよ」
249:以下、
「伝言を頼まれるとはな、大師父様もご自分で言いに行かれればよいものを――遠坂、いるか」
凛「ああもうふざけんな!!」
「?、遠坂、入るぞ」
凛「あんたはもう何で勝手にそういう事するわけ!?」
ギル「何故我が一々貴様に確認しなければならん」
凛「だからって外で全裸になってて警察の世話になるってどういう事よ!?」
「誰かと揉めているのか?あれは――英雄王!?」
ギル「本来なら我の裸体を拝謁できた事を光栄に思うべきなのだ、今の世の法はおかしいと思わんか?」
凛「おかしいのはアンタの頭の方よ!!」
ギル「やはりここは我が再び統治して全裸で外を歩くのを認めさせるべきか」
凛「そんなのを喜ぶのはあんたみたいな一部の変態だけよバカ!!」
ギル「ぐふっ…脇腹を――!!貴様最近手を出す頻度が増えてるぞ!!」
凛「あんたの言動がどんどん酷くなってるからでしょうが!!」
「いや、気のせいか。あのような者が英雄王のはずがない。あの征服バカが破れたあの英雄王があんなのであるはずがない――」
ギル「む?そこにいるのは誰だ」
凛「エルメロイ先生!?」
エルメロイ「あー、遠坂、工房に連れ込んでいるそれは何者だ?従者の少年とは違うようだが」
凛「あーこの人は私の親戚で――」
ギル「誤魔化す必要等ないぞ凛、そやつは我の正体を知っている上で問いかけている」
凛「え?」
250:以下、
凛「正体がわかってるって?」
ギル「我がサーヴァントだと気付いているという事だ」
エルメロイ「その魔力量と醸し出す雰囲気、人間ではありえんからな」
ギル「ふっ、いくら抑えようと我の溢れる王気(オーラ)は隠しきれんようだな」
エルメロイ「やはり英雄王であるようだな……」
ギル「貴様征服王の臣下であった少年か、あの情けない小童がよくもこう成長したものだ」
エルメロイ「お前は四次から残ったのか、それとも前回の記憶を引き継いだのかどちらだ」
ギル「それが我に問いかける態度か。あちらの我が成そうとしたこともあながち間違いではなかったようだな」
凛「ちょっと話が全く見えないんだけど?」
ギル「前に我の宝物で第四次の記録を見たであろう?こやつは前回のライダーのマスターだ」
凛「えっ、あの?四次のマスター…あ、こいつは私が召喚したサーヴァントです」
エルメロイ「五次のサーヴァントというわけか。では英雄王よ、四次の記録を見たとはどういう事か教えてはくれまいか」
ギル「我の宝物の中には我が見た物を保存する物があってな、第四次の我が見た物を全て知ったということよ」
凛「五次は四次のギルガメッシュが受肉していて、それで中身が同一だったんです」
エルメロイ「受肉、あの聖杯による災害の中で受肉を果たしたというのか!?やはりあの聖杯は早く解体するのが賢明か……」
凛「それにしても……うわあ…人って十三年でここまで変わるんだ……」
エルメロイ「待て、お前は何を見たんだ!?」
凛「そ、そんなことより先生?ここに来たって事は何か大切な御用があるんでしょう?」
エルメロイ「そんなこと!?ゴホン、大師父からの伝言だ。卒業後の弟子入りについての話なのだが――」
251:以下、
凛「ただいまー、士郎、もう熱は大丈夫?」
士郎「ああ、大分マシになったよ」
凛「やり過ぎたとは思ってないけど、あのバカに巻き込んで悪かったわね」
士郎「何かギルガメッシュが温泉出したとこまでは覚えてるんだけど」
凛「人避けの結界の効果が及ばないとこまで士郎は流されたの、そこでギルが全裸になったから通報されたのよ」
士郎「それで捕まったって桜が言ってたのか」
凛「そうよ、士郎は咄嗟に逃げ帰ったみたいだけど、あのバカは開き直ったから警察に持ち帰られたってわけ」
士郎「それ色々まずいんじゃ」
凛「ちゃんと警官達の記憶は改竄してきたわよ」
士郎「それはそれで問題な気もするけど」
凛「ところで桜は?」
士郎「今食材を買いに行ってるよ」
凛「そ、……桜から電話で聞いたけど世界を旅して周るんだって?」
士郎「……ああ」
凛「そ、気をつけなさいよ」
士郎「怒らないのか?」
凛「薄々そんな気はしてたし、止めたってどうせ無駄でしょうしね」
士郎「ごめん」
凛「謝る必要はないし、止める気もないけど――条件があるわ」
252:以下、
士郎「条件?」
凛「そ、無茶はしない事、時々冬木に戻って桜に顔を見せる事、必ず生きて冬木に帰る事」
士郎「……できるだけ努力する」
凛「あとたまに冬木に帰る時だけで良いから私の家の掃除しといてくれない?」
士郎「別にかまわないけど、桜は冬木に帰るんだから遠坂の家に住むんじゃないのか?」
凛「衛宮君の家は桜の家でもあるんでしょ。私の家より衛宮君の家にいた方があの子も居心地がいいでしょ」
士郎「そういうもんか?でも俺に頼むって遠坂はたまに冬木に戻ったりしないのか?」
凛「多分十年以上こっちの世界には戻ってこないんじゃないかしら」
士郎「こっちの世界?」
凛「私が弟子入りした大師父が第二魔法の使い手で、色んな平行世界を旅して回ってるの知ってるでしょ?」
士郎「ああ、遠坂が三年間ずっと研究してた宝石剣も平行世界がどうとか言ってたし」
凛「それで卒業したらすぐに大師父について平行世界の旅に出る事が決まったのよ」
士郎「それ大師父が魔術師の弟子としてやったら精神が狂うとか噂になってなかったか?」
凛「宝石剣の出来が大師父が作ったヤツに8割型近づいた私なら大丈夫だろうって感じね」
士郎「そこまで出来上がってたのか?」
凛「遠坂に伝わる宝箱とか、アーチャーの宝物の中にもそれに近いモノがあったしね」
士郎「宝箱?」
凛「大師父が第二魔法を応用して作った宝箱なんだけど、若干平行世界に繋がってるのよ」
ギル「我の宝物を一つ隠したから探してみるのも面白いかもしれんぞ」
凛「あんたの宝物?」
ギル「ああ、凛は絶対他人に見られたくないものだろうし、小僧はネタにできるだろうよ」
凛「ちょっ!?何よそれ!?」
253:以下、
ギル「まあ他の世界で機会があれば探してみるがいい」
士郎「何だよ他の世界って」
ギル「言ってしまえば楽しみが減るだろう?」
凛「楽しみ以前に私が見られたくないモノって何よ!?」
ギル「そう言えばカレイドステッキだったか?」
凛「」
ギル「あれとは中々趣味があいそうだった、あの老人に渡しておいたからこの先使う事になるかもしれんな」
凛「」
士郎「遠坂?何なんだそのカレイドステッキって」
凛「ちょっと大師父と話してくるわ」
士郎「飯はどうするんだ?」
凛「いらない」
士郎「何か嫌な事あったのか?」
ギル「さて、我もそろそろこの国を経つとするか――小僧」
士郎「何だ?」
ギル「もう会う事はないと思いたいが言っておく――お前が持っている凛の宝石、如何なる理由があろうと肌身離さず持っておけ」
士郎「何だよ急に、会う事はもうないって」
ギル「我も忙しい身なのでな。ではな小僧、自ら選ぶ苦行の道だ。存分に足掻くがよい」
士郎「何だったんだあいつ?」
254:以下、
時計塔を出てから七年の月日が経った
この冬木に戻ってくるのも実に十年ぶりだ
士郎「桜と藤ねえは元気にしてるかな、藤ねえは十年間一切帰らなかった事に文句を言うだろうけど」
この七年間、修行をするという事はなかったが実戦でかなり鍛えられた
困ってる人を助けるため、世界各地で魔術を使う相手だけでなく、銃や剣を使う相手とも戦ってきた結果だ
今回冬木に戻ってきたのも再開を楽しもうというわけではない
今度の敵の勢力が巨大過ぎるため、一時の休養と後悔のないよう別れの挨拶をしにきたのだ
士郎「遠坂もこっちに帰ってきてたら良いんだけどな……それにしても人が少ないな」
いくら平日の昼間だとしても通行人の数が少なすぎる
十年前はこの時間でも学生や休憩中の会社員でこの辺は混雑していたはずだ
自分の記憶違いだろうか、それとも十年の間に何かあったのか、急に不安が押し寄せてきて一人の通行人に訊ねる
士郎「すみません、久しぶりに帰ってきたんですけど、ここってこんなに人通りが少なかったですか?」
「ひっ!?……あ、ああ、君は暫くこの街を離れてたのかい?それなら知らないのも無理はない」
士郎「何かあったんですか?」
「連続殺人と神隠しだよ」
士郎「神隠し?」
「神隠しも同じ殺人鬼の仕業だって話だけどね、この5年でもう500人近くもの人が死体で発見されて、ここ数か月で150人程行方不明だ」
士郎「警察は調べてないんですか?」
「捜査してた警察はたくさん死んだよ、一時期自衛隊も投入されたが死人が多すぎて撤退したんだ」
士郎「自衛隊も?」
「悪い事は言わないから早くこの街から去った方がいい、冬木の外じゃこんな現象は起きてないらしいから」
士郎「――そうなんですか、ありがとうございました」
260:以下、
家に着くまで結局他に誰とも出会わなかった
士郎「商店街はシャッターすら閉まってたな……ただいまー。……誰もいな――」
大河「し―――ろう!!」
士郎「うわあ!?」
大河「もう十年も連絡してこないんだから!!心配したんだからね!?」
士郎「ただいま藤ねえ、相変わらずだな」
大河「おかえり士郎、士郎はおっきくなったわねえ。それに筋肉も大分ついてるじゃない」
士郎「そういや桜は今出かけてるのか?」
大河「あ……」
士郎「――桜に何かあったのか?」
大河「……帰ってくる途中人が全然いなかったでしょ?」
士郎「ああ、連続殺人とかが起きて、行方不明者も多いって聞いた」
大河「その……桜ちゃんもね、二か月前から行方不明なのよ」
士郎「な――!?」
大河「三年ぐらい前から桜ちゃんずっと体調崩していてね?それで毎日看病に来てたんだけど、二か月前に朝来たら急にいなくなっちゃってたのよ」
士郎「藤ねえの料理が嫌で逃げ出したって事は?」
大河「失礼な!!ちゃんとうちのお弟子さんに料理は作ってもらってたわよ。それにいなくなったとき靴は残ってたのよ」
士郎「出かけてないのにいなくなったって事か?」
大河「そう、警察に連絡して調べてもらったんだけど、外部からの侵入の後はないから靴を履かずに出ていったか、例の行方不明事件じゃないかって」
士郎「行方不明になる人達って何か共通があるのか?」
大河「全員が夜中にいなくなるって事だけね。家にいるとか外にいるとか年齢性別は関係ないみたい」
士郎「夜か……」
大河「調べてみるの?」
士郎「ああ、こんなの知って放っておけない」
261:以下、

士郎「必ず夜って事は人目を避けている、そして警察や軍隊も対処できなかったって事は魔術師の可能性が高い」
そして何故魔術師がそのような事をしているかとなれば、十年前のキャスターと同じく、魔力を集めるためだろう
地面に手を付き周囲の魔力を探る
士郎「……やっぱり魔力の残滓は残ってないか、そんなもん残してたらとっくに片付けられてる」
そうとなればやはりここは地道に探すしかないだろう
士郎「なら――投影、開始」
鉱石で出来たフクロウを四つ投影する
これは遠坂が視察や探索によく使う使い魔を自分でも使えるように改造したものだ
遠坂の下で三年と旅に出てから七年で、魔力の消費量は増えるが剣以外の物も投影できるようになってる
士郎「頼むぞ」
鉱石の鳥達は四方に飛び去る
士郎「念のため厄除けの結界も張っておくか?いや、そんなことしても警戒されるだけか」
それにまだ初日だ
五年間も潜んで、教会や協会に見つかっていない相手をそう簡単に見つけれるはずがない
士郎「桜が攫われたってので気が逸ってるな」
焦って動いたところで状況を悪くしかしない事はこの七年で身に染みて思い知った
士郎「そうだ、教会に言峰の後に来た人がいるはず…話だけでも聞きに――」
柳洞寺の方面に放った使い魔が破壊された
士郎「まさかこんな早く――」
262:以下、
山の中
男「教授!!何か飛んでた怪しいの落としましたよ!!」
教授「怪しいの?」
男「はい!!使い魔っぽかったので!!」
自分が気付かなかったのにこの男は気付いたのかと相変わらず才能だけはあると思うが――
教授「馬鹿かお前は!?使い魔だったのなら術師にこちらの居場所がばれるだろう!!」
男「あ」
教授「お前は今年でいくつだ」
男「27ですよ?教授、もうボケ始めちゃったんですか?」
教授「馬鹿かお前!!そういう事を言ってるのではなくてな……はあ」
教授は不肖の弟子の馬鹿さに呆れ溜息をつく
男「教授もう疲れたんですか?やっぱり歳――」
教授「フラット!!」
男「は、はい!?」
フラットと呼ばれた男は姿勢を伸ばす
教授「術者がこちらに向かってるはずだ、早くこの場を去るぞ」
フラット「待ってくださいよ絶対領域マジシャン先生!!」
教授「死ね!!」
263:以下、
夜になるまでに改造を施しておいたバイクで柳洞寺のある山に辿りつく
士郎「まだ使い魔がやられてから5分程度だ、まだこの辺りにいるはず――」
「死ね!!」
山の中から出てきた年配の男が怒鳴る
そしてそのすぐ後ろの男から使い魔を倒した物と同じ魔力を感じる
士郎「あいつらがこの事件の犯人か!?」
男「敵襲!?教授お年なんだがら下がってください!!」
教授「おい待て――」
教授と呼ばれた男の静止を無視して男は魔弾を放つ
士郎「――投影、開始!!」
一瞬で短剣を投影して魔弾を弾き、組み伏せた男の喉元に押し当てる
男「な――」
教授「投影魔術だと…いや、あれは投影とは違い中身があるというのか……?」
士郎「動くな。大人しく誘拐した人達の居場所を教えろ、抵抗するなら今ここでその首をはねる」
教授「誘拐――待て、何か勘違いをしていないか?」
士郎「勘違い?」
教授「私はここで起きている事件を解決するために時計塔から派遣された者だ」
士郎「え?時計塔?」
教授「そこの者は私の不肖の弟子だ、離してやってくれ」
264:以下、
教授「私はロード・エルメロイ?世だ。こいつは弟子のフラットだ」
フラット「どうも、フラット・エスカルドスです。気軽にフラットで呼んでください」
士郎「エルメロイ?遠坂の先生だった人――」
エルメロイ「遠坂の知り合いか、いや待て。確か遠坂は従者を連れていたな」
士郎「はい、俺は遠坂と一緒に時計塔に行ってました」
フラット「そういや遠坂さんは基本魔術すらまともに使えない奴を何故か弟子にしてるって噂があったっすね」
エルメロイ「なるほどその投影魔術故にか」
士郎「エルメロイさんはこの山で何を?」
エルメロイ「此度の事件はこの地の聖杯によるものだ」
士郎「な――聖杯は十年前に破壊したはずだ!!」
エルメロイ「……君も聖杯戦争に参加していたらしいな。君が壊したのはあくまで小聖杯だ」
士郎「それはわかってる、でも小聖杯がなければ大聖杯の降霊はできない」
エルメロイ「そうだ。つまり、小聖杯が今この地に存在しているという事だ」
士郎「アインツベルンは潰れた、小聖杯を作る事ができる人は存在しない」
エルメロイ「一人だけ存在する。マキリ臓硯は知っているだろう」
士郎「臓硯は十年前に言峰が殺したはずだ」
エルメロイ「何?」
フラット「え?でも一昨日戦った魔術師は間桐臓硯って名乗ってましたよね?」
268:以下、
エルメロイ「言峰…言峰綺礼か、確か聖堂教会の代行者を務めていた事もあった程の実力者か」
士郎「臓硯は魂を蟲に移して生きてたとかでその魂を言峰が洗礼詠唱ってヤツで倒したんだ」
エルメロイ「洗礼詠唱、霊体に対して有効な数少ない術か。それから逃げ切れるとは到底思えんか」
フラット「それ一部だけじゃなかったんじゃないっすか?」
エルメロイ「何?」
フラット「魂の一部だけを入れた蟲を動かしといて、本人は安全な場所に隠れてたんじゃないですかね?」
エルメロイ「ふむ…君は間桐の工房の位置を知っているか?」
士郎「十年前の場所なら知ってますけど、そこは遠坂が完全に壊しましたよ」
エルメロイ「そこでいい、何かしら繋がる物が残ってるかもしれん」
士郎「わかりました、こっちです」
フラット「そうだ遠坂君」
士郎「へ?」
フラット「あれ?何か俺おかしな事言いましたか?」
エルメロイ「何故彼の名が遠坂だと思ったんだお前は」
フラット「え?だって遠坂さんと一緒に時計塔に来てたみたいだし、それにその首からかけてる宝石、遠坂さんのでしょ?」
士郎「確かにこれは遠坂の親父の形見だけど」
フラット「ほら、それにさっき遠坂さんと同じ偵察の魔術使ってたし、遠坂さんと結婚して当主になったんじゃ?」
士郎「勘違いだ。俺は遠坂と結婚してない、それに確かに今遠坂の家の管理を任せられてるけど別に当主ってわけじゃ――」
エルメロイ「代理の当主というわけか。では遠坂、間桐の工房まで案内してもらおうか」
士郎「いやだから……はあ、今はそんな事を話してる場合じゃないか」
269:以下、
エルメロイ「ここか、見事に何もないな」
フラット「大きい穴はありますけどね。うわっ、底が見えないっすよこれ」
士郎「間桐の家は地下を蟲蔵、工房として使っていたんだ」
エルメロイ「それで地下から根こそぎ消し去ったというわけか」
士郎「ここに残ってるのなんて遠坂の術式ぐらいだ」
エルメロイ「術式?何の術式だ」
士郎「詳しくは俺も知らないけど、確か人が近づかないようにするってのと地脈を弄るとかなんとか」
エルメロイ「地脈を弄る?二十年前と冬木の霊脈がずれているのはそれが原因か?」
士郎「二十年前?」
エルメロイ「私も君や遠坂凛と同じく聖杯戦争に参加していた事がある」
士郎「第四次聖杯戦争……まさかライダーのマスター!?」
エルメロイ「そうだ、よくわかったな。いや、そういえば遠坂が前に英雄王の宝物で見たと言っていたか」
士郎「ああ、それに四次で他に生き残ってるのはいないし」
エルメロイ「そういえばそうだったか。そんなことよりも遠坂の術式は何処に仕掛けてある?」
士郎「この穴の底だ。第五次の聖杯戦争が終わってからすぐに仕掛けた物だ」
エルメロイ「一度この穴に入ったか。深さはどのぐらいだ?何を目的としたものか一度この目で確かめたい」
士郎「30mぐらいだったと思う」
エルメロイ「そのぐらいなら何とか降りられるか」
士郎「俺も一緒に降りる。これが関係あるっていうなら俺も知らないと――」
「久しぶりですね。先輩」
271:以下、
士郎「桜!?良かった無事だったんだな、いったい今までどこに行ってたんだよ?」
桜「……」
士郎「藤ねえだって心配してたんだぞ――桜?」
桜「――Es erzahlt」
エルメロイ「下がれ!!」
士郎「ぐ――」
後ろに飛び退きながら咄嗟に投影した短剣が砕け散る
桜「へえ、面白い芸当をするじゃないですか先輩」
士郎「お前は……誰だ?」
いつぞやの感覚を思い出し、鼓動が早くなる
桜「やだなあ先輩、間桐桜ですよ」
士郎「ふざけるな、お前が桜のはずがない。だって――」
桜「聖杯の泥や影と同じ感じがするから、ですか?」
桜の周りに黒い影の巨人が複数立ち上がる
士郎「っ!!」
エルメロイ「な――!?」
士郎「……十年前のあの影は臓硯の魔術なんかじゃなくて――お前…だったのか」
桜「ホント先輩は鈍いですね。ようやく気がついたんですか?」
274:以下、
士郎「ここ数年起きてるっていう殺人事件や誘拐事件は――」
桜「全部私がやった事ですよ先輩」
士郎「何でそんなことを――」
桜「魔力が足りなかったからですよ」
黒い影の巨人が地面に沈み、桜の周りの草木が枯れていく
エルメロイ「魔力を吸い取っているのか?このような場所でそれ程の魔術を使うとは……」
桜「魔術の秘匿、ですか?そんなの私には関係ないですし、第一もうこの辺りには人は残ってませんよ」
士郎「――残ってない?」
桜「ええ、さっき全部呑みましたから。見ますか?」
地面の影から生きた人間の手足や頭が一瞬だけで、助けを求めながら再び沈んでいく
士郎「――ッ」
桜「知ってますか先輩、魔力を一回で全部奪って殺すより、こうやって生きたまま徐々に魔力を吸った方がたくさんの魔力が手に入るんですよ?」
士郎「桜お前――」
桜「今は数百人の人が中にいるんですよ?勿論退屈はしないように目一杯可愛がってあげてますよ」
士郎「いったい何があったんだっていうんだ。何でそこまでして魔力を集める必要がある、早く街の皆を開放するんだ」
臓硯「何、ただ単に生贄が足りなかっただけの事よ」
士郎「臓硯…!!」
臓硯「それに説得しようなんて無駄じゃ。それに桜の心など残っておらんわ」
士郎「どういう事だ!?」
275:以下、
臓硯「聖杯の中はサーヴァント七体分の魂と言う魔力の塊よ。その偽の聖杯はアサシンしか正規の聖杯から取れなかった」
士郎「桜が聖杯だと!?」
臓硯「ああ、遠坂の娘はそれに気づいておったようじゃがな。だからアサシンの魂に意識を奪われないように鍛えた」
士郎「そのために時計塔に桜を連れて行ってたってのか」
臓硯「確かに一つの魂だけならそれで何とかなったじゃろうな」
士郎「どういうことだ?アサシン以外の、五人のサーヴァントはイリヤが持って行ったんだろ?」
臓硯「カ、カカカ、忘れたか小僧。あの聖杯戦争にはもう一人サーヴァントがいただろう!!」
士郎「まさか四次のギルガメッシュ!?」
臓硯「英霊の座に戻る前に、儂の魂のように英雄王の魂は蟲に入れて保管していたのだ。敗北した後じゃったから捕らえるのは楽じゃった」
士郎「保管?まさか――」
臓硯「そう、桜が時計塔から戻ってきた後に桜に入れたのだ。アインツベルンの小娘も自我を長時間保つのは四人が限界じゃった」
士郎「セイバーがやられた後にイリヤが眠ってばっかだったのは――」
臓硯「そう言う事よ。それにギルガメッシュの魂はサーヴァント三人分と同等じゃからな。もう中に桜の魂の入る場所等ない」
士郎「て…めえ!!」
臓硯「怒るのなら十年前の自分を怒るんじゃな。あの頃ならまだ助けられたじゃろうよ。行くぞ桜」
桜「はいお爺様」
士郎「待て――」
エルメロイ「深追いはやめろ」
士郎「でも――」
エルメロイ「相手は聖杯だ。今戦うには戦力が不足している、万全の準備をせねばただ無駄死にするだけだ」
士郎「くそ……」
278:以下、
エルメロイ「おそらく間桐臓硯達がいるのは大聖杯の眠る円蔵山の大空洞だろう」
フラット「聖杯を壊せるかもしれない礼装を取り寄せて明後日の昼頃届くと思うので、動くのは明後日の夜にしましょう」
士郎「明日の夜まであのまま桜を放っておけっていうのか!?」
フラット「……残念ながら彼女は――」
エルメロイ「あれを助けるというのは無理だ。これ以上犠牲を出したくないのなら彼女ごと聖杯を壊すのが一番だ」
士郎「ふざけるな!!そんなことさせるものか」
エルメロイ「では君には他に何か良い案があるというのか?」
士郎「それは――」
フラット「まあ知り合いを殺すってのは気が引けるでしょうし、別に来なくて良いっすよ」
エルメロイ「元から我々二人で片づける予定ではあったからな」
士郎「ふざけるな、他人に任せて自分は安全なところになんて死んでもできるもんか」
エルメロイ「ならば明後日の夜にここに来い。邪魔をしないというのなら連れて行こう」
士郎「桜は殺させない」
フラット「でもどのみち彼女はそう長くないと思いますよ?」
士郎「何?」
フラット「だって間桐臓硯は不老不死を求めて魂を移しまくって生きながらえてるんでしょ?聖杯と一体化した肉体なんてほっよくわけないじゃないっすか」
士郎「なっ――」
エルメロイ「成程、あの老人の狙いは聖杯と一体化した朽ちぬ肉体か」
279:以下、
大空洞
臓硯「そろそろ頃合いか、いやまだ安定するまでは待つべきか……」
士郎「間桐臓硯!!」
臓硯「お?もう追って来たのか。一人で来たようじゃな」
士郎「お前に桜の体は渡さない。そして聖杯は破壊して、桜も街の皆も助ける!!」
臓硯「桜、あれは一応魔術師だ。そこらの人間よりはましな魔力を持っておるぞ」
桜「ふふふ、行きますよ先輩」
黒い影の巨人が現れ士郎に襲い掛かる
士郎「――投影、開始」
白い短剣を投影し弾き飛ばす
臓硯「ほう、単純な剣術だけなら綺礼を越えてるかもしれんの。じゃが――」
影の巨人がもう一体現れ、二体がかりで襲い掛かってくる
士郎「――投影、開始」
先程の白い短剣と同じ形の黒い短剣を投影する
――干将・莫耶
この二本の短剣は対となる夫婦剣である
旅をしている最中に寄った家で見せてもらったそれは、担い手のいない宝具である
とある刀匠夫婦が最高の作品として作り上げたそれは、自分の投影のあり方と同じである
そして投影にかかる負担が少なく、両方を装備している間は対魔力・対物理があがる
280:以下、
片方の巨人を斬り伏せ、もう片方の攻撃を受けた剣が砕ける
そして剣が砕けると同時に新しいものを投影する
臓硯「く…桜!!」
影の巨人が六体に増え襲い掛かってくる
臓硯「カカカカカ、これなら対処しようがないじゃろ?」
士郎「ふん――」
双剣を巨人目掛けて投げつけ、数体を倒し臓硯の元に走り寄る
臓硯「焦ったか?まだ二体残っておるぞ?終いじゃ」
士郎「ああ、そっちがな!!」
新たに投影した剣で影を斬りつけるのと同時に、引き寄せられるように戻ってきた双剣が臓硯を両断する
臓硯「がは――じゃが無駄じゃ。儂の本体は他の場所に――」
桜「そうか、お爺様がいるから影が思うように動かないんだ」
臓硯「な――やめろ桜!!」
桜は自分の胸に腕を突き刺し、体内から蟲を取り出す
士郎「桜の中に蟲?」
桜「さようならお爺様」
蟲「や、やめろさく――」
桜の手によって蟲が潰されるのと同時に士郎の前の臓硯の身体が崩れ散る
士郎「桜の中に本体を隠していたのか……」
桜「さあ先輩、これで邪魔者はいなくなりましたよ」
281:以下、
士郎「くっ――!?」
影が今まで以上のさで突っ込んでき、防ぎきれずに脇腹を貫かれる
士郎「が――ああ」
体内に流れ込んでくる呪いが肉体に激痛を与える
動きが止まったところに影達の追撃がき、まるでボールのように跳ね回る
士郎「ぐ…あ……ごふっ!1」
桜「あははははは!!どうしたんですか先輩!!まだまだこっちは本気を出してないんですよ!!」
影の槍は簡単に投影した双剣ごと貫いてくる
士郎「はあ……はあ……」
桜「ねえ先輩、もっと楽しませてくださいよ」
士郎「――ッ!?」
無数の影の槍が襲い掛かる
桜「もっと耐えてくださいよ先輩」
士郎「ぎ――あ―――」
桜「私の痛みはこんなものじゃなかった私の苦しみはこんなものじゃなかったもっともっと辛かった!!」
影の槍が全身を切り刻む
士郎「さく……ら……」
桜「もう動けないんですか?それじゃあもういらないですね」
影が飲み込もうと伸びてくる
士郎「ここまで……なのか」
実力に差があり過ぎる
影に包まれたところで、視界が黄金に染まった
282:以下、
辺り一面の眩しいぐらいの黄金の光
影の表面とは違い、それは呪いの塊等微塵にも思えない
前に影に触れた時は嫌悪感と吐き気しか感じなかったが
全身を包む黄金の光は何処か安心感があった
このまま影に飲み込まれて死んでしまうとしてもこれなら別に――
――待て
闇じゃなく黄金?
「おい、いつまでぼさっとしてるつもりだ雑種」
聞き覚えのある声に完全に閉じた目は一気に開くが、闇の中に急に現れた光に目が眩む
桜「何で貴方がここに――」
黄金の光を纏いながら突如現れた男に忌々しそうに桜は呟く
それを無視して男は士郎に声を掛ける
「我に目が眩むのは当然の事だが、今はそのようなときではあるまい」
士郎「うるせえ、お前のその鎧が眩しすぎるんだよ」
ようやく目が慣れてきて、今度はゆっくり目を開ける
そこには十年前から変わらない男が不敵な笑みを浮かべて立っていた
士郎「何でお前がここにいるんだよ」
「できれば二度とその不出来な顔は見たくなかったがな。サーヴァントギルガメッシュ、召喚に応じて赴いてやったぞ」
283:以下、
ギル「無様な姿よな雑種、この七年何をしていたのだ?」
士郎「何でここに?お前遠坂と一緒に旅してたんじゃなかったのか?」
ギル「凛の頼みでな。臓硯を倒した報酬としての令呪が残っていただろう、お前が死にかけた場合に発動するようになっていた」
士郎「遠坂が?でもどうやってこの場所を――」
ギル「凛のペンダントだ、それに残っていた僅かな魔力が座標となるようにしてあった」
士郎「あ…魔力がもう残ってない」
桜「姉さんが先輩のために……?私の事は助けてくれなかったくせに!!」
黒い巨人が大量に現れ、それをギルガメッシュは無数の剣を飛ばし一掃する
士郎「ギルガメッシュ、桜を助けてくれ」
ギル「その様で他人の心配か、そのまま放っておくと死ぬぞ?」
士郎「俺はどうなってもいい。だから桜を――」
ギル「そうか。だがそれはできん」
士郎「何で――」
ギル「令呪の命令は貴様が死にかけたら助けて回収する事だからな。撤退するぞ」
士郎「撤退!?待ってくれ――」
桜「逃がすと思いますか?」
ギル「ふん、一掃しろエア」
288:以下、
エアの暴風はあっさりと影の巨人をなぎ倒す
その姿に目を疑う
何故ギルガメッシュはあの乖離剣を使っているのか
ギル「走るぞ雑種」
ギルガメッシュは士郎を肩に担ぎ、士郎が入ってきた洞窟の入り口に走る
それを逃がすまいと影の槍が無数に襲い掛かり、ギルガメッシュの鎧に弾かれる
桜「逃げ切れるとでも?」
桜が新たに出した影の巨人が滑りながら形を変えて走って追ってくる
士郎「あれはまさか――」
ギル「ほう、四次と五次のランサーを模造したか」
士郎「あれがサーヴァントだっていうのか!?」
ギル「聖杯の中の記録から影に形を与えただけに過ぎん。影のサーヴァントとでも呼ぶべきか」
士郎「あいつら武器みたいなの持ってるぞ!?」」
ギル「宝具も模倣したか」
士郎「宝具だって!?今このトンネルで使われると避ける場所はないぞ!!」
ギル「この鎧はそう簡単に貫けん。放っておけ、立ち止まり追いつかれる方が厄介だ」
士郎「でも相手の方が早い、このままじゃ追いつかれる。一回攻撃を――」
ギルガメッシュは走りながらでも背後に攻撃をできるはずだ
いや、先程も乖離剣を使わなくても王の財宝で簡単に倒せたはずなのだ
それを何故ギルガメッシュはしないのか――
289:以下、
二つの影の槍兵は簡単にギルガメッシュに追いつく
無理もない、相手は敏性の高いランサーの上に、ギルガメッシュは大の男を担いでいるのだ
士郎「もう逃げるのは無理だ、ここで戦おう!!」
ギル「舌を噛みたくなければ黙っておけ」
槍兵の連続の攻撃を自身の頭と士郎にだけは当たらないように避けながらギルガメッシュは走り続ける
確かにギルガメッシュの鎧の強度は凄まじいらしい
二人の槍兵の攻撃を既に100以上受けて軋み一つ上げていない
それでも――
士郎「このまま走り続けたってこいつらもずっと着いてくる。次に広い場所に出た時に迎撃するべきだ」
ギル「この二匹を潰したところで無駄だとわからぬか?まだここは敵の腹の中よ。すぐにまた出てくるだけだ」
攻撃をし続けても無駄だと気付いたのか二体の槍兵は攻撃をやめ足を止める
ギル「チッ――フェイカー、まだ投影は使えるか!!」
士郎「え?ああ、一本ぐらいなら――」
ギル「螺旋剣は一度見せてやったな、今すぐ作れ」
士郎「本物を取り出した方がいいんじゃないか?」
ギル「早くせんか!!」
士郎「――投影、開始」
ギル「寄越せ」
投影した偽・螺旋剣を奪いとると同時にギルガメッシュは前方に士郎を投げる
士郎「な――」
そして鮮血が舞うのが見えた直後、巨大な爆発が起きた
290:以下、
士郎「ごほっ…何が――」
爆風に飛ばされ地面に転げ落ちる
出口まで直線となる場所まで辿りついていたのか、既に外に出ている
爆心地から数m程近かったためか自分より遠くに黄金の鎧が転がっている事に気付く
士郎「おいギルガメッシュ一体何が――ッ!?」
這いながらそれに近づくに連れてそれがどうなっているのかに気付く
鎧は無傷、いや爆風で傷ついてはいるが、鎧に収まりきらなかった大量の血が漏れ出ている
士郎「お前それ――」
黄金の鎧が光の粒子となり消えると同時に、ギルガメッシュの腕と大量の血が落ちる
ギル「偽物とはいえあれの宝具は魔力を無力化する効能があったようだ、鎧を透いて腕を斬り落とすとはな」
士郎「さっきの爆発は」
ギル「お前の贋作とヤツの偽物の宝具がぶつかった結果よ」
士郎「お前体が――!?」
ギルガメッシュの身体が透け始めている
腕を斬り落とされたとはいえ、サーヴァントは既に死んでる存在だ
核が破壊されたとはいえ、このぐらいのダメージでサーヴァントが消滅するはずがないはずなのに――
ギル「驚く事はなかろう?ただ単に魔力が尽きたというだけであろう」
291:以下、
士郎「魔力切れ!?お前は戦いにほとんど魔力を使ってなかったじゃないか!!」
ギル「戦う前から魔力の残りは少なかったからな」
士郎「なんでさ、お前は遠坂と一緒に平行世界に行ってたんだから」
ギル「単純な話だ、我は凛には付いていかなかった」
士郎「それじゃあ魔力供給は――」
ギル「宝石に移した凛の魔力で行っていた。もっともそのストックは先程の戦いで使い果たしたがな」
士郎「でもアーチャーには単独行動のスキルが与えられてるんだろ?こんなすぐに消えるはずは――」
ギル「あれは聖杯が与えるスキルだ、そんなもの今の我には残っていない、今の我はエアを使わなければあれから逃げられん程しか魔力がない」
士郎「じゃあ桜を助けるのが無理って言った本当の理由は――」
ギル「王の財宝を開くのもあと三度が限界だ。それではあれに我の魂を与え強化してしまうだけだっただろうよ」
士郎「ギルガメッシュ……」
ギル「そのような顔をするな。元々聖杯の力なくしてサーヴァントを留めさしておくことに無理があったのだ」
士郎「それでも――」
ギル「答えを決めろ雑種。このままあの娘を放っておくのか、それとも貴様が片づけるのか」
士郎「……少し考えさせてくれ」」
ギル「一時間以内に答えを出せ。我は凛の屋敷で最後を迎えるとしよう。もっとも――あと数年も経てばお前でもあれを倒せるぐらいになるかもしれんがな」
士郎「俺は……」
放っておくわけにはいかない
しかしそうすると犠牲者が増えてしまうし、いずれ桜は殺されるだろう
桜を、街の皆を救いたい
でも今の俺にはその力がない
桜を救うためにあの二人がいない内に桜の元へと行ったというのに――
292:以下、
士郎「俺は……桜を救うことができなかった……」
血まみれの、歩くことさえ辛い重体で夜でも明るい街を徘徊する
最もどれだけ明るく変わっていても士郎には暗くしか映っていないが――
士郎「俺は――」
何て無力なんだ――十年前にセイバーやイリヤを守れなかった頃から何も変わっていない
力が欲しい、自分ではなく誰かを護る為に、今の無力な自分を変えるために――
吐血し前のめりにビルの柵にもたれながら、強く願った
その時、目の前にその異常は現れた
神々しい光の玉、それの周りを回る玉と同じように光を発するリング
それらから伸びた神々しい糸が士郎のカラダに絡みつく
その得体の知れないモノは、十年前に、夢で見た――
士郎「セイバーが契約したのと同じ――」
その糸を通しそれは士郎に問いかけてくる
死後の魂と引き換えに願いを叶えようと――
その問いかけに、答えはもう決まっていた。何も迷うことはない
英雄王は数年か待てば力を得られると言っていたが、
士郎「そんなの待っていられない。その間に何人の命が失われるっていうんだ。俺は…今すぐ力が欲しい」
何処からか、その先は地獄だと聞こえた気がした
士郎「それでも構わない。それで…誰も泣かずにすむのなら――」
契約は完了した
これで無力な衛宮士郎ではなくなるはずだ
もう誰も悲しまなくてもすむ
294:以下、
ギル「そうか、それが貴様の答か。ならば我はもう何も口は出さん」
士郎「ギルガメッシュ……」
ギル「死後を投げ打つ覚悟の者に何を言ったところで意味をなさんからな、もう現界するのも限界か」
士郎「……」
ギル「どうしたAUOジョークだぞ?存分に笑うがいい――それとも我の最後をそのような見苦しい顔で見届ける気か?」
士郎「……えっと、ギルガメッシュ。お前には今まで――」
ギル「おっと我としたことが宝物庫の鍵を開けっ放しではないか、だがこの様ではどこぞの贋作者に宝物を盗み見されようと誅すこともできん」
士郎「え?」
ギル「我はもうすぐ消えるが、宝物庫の扉は10分程は開くようにしておく。それまでに出なければ二度と出れんくなるぞ?その目で真偽の違いをよく確かめるがいい」
士郎「すまない・・・いやありがとうギルガメッシュ」
ギル「ふん、時間がないのだ。急げフェイカー」
士郎「ああ、じゃあなギルガメッシュ」
ギル「凛にもし会うことがあったら伝えておけ、貴様といた歳月は悪くはなかったとな」
士郎はギルガメッシュの宝物庫に飛び込む
その姿を眺めながら最古の王は呟く
ギル「いずれ我と貴様がどこかで戦う事もあるかもしれん、その時の我が10年前のあれのように堕ちていたなら――お前が倒せ」
士郎の姿が完全に見えなくなった後英雄王は辺りを見回し――
ギル「姿を現さぬか。忠義とは程遠い雑種だ――だが、此度の余興は…中々に楽しめたぞ凛――」
満足げにこの世界を去って行った
295:以下、
桜「先輩、傷も治ってないのにもう来たんですか?」
士郎「桜、もうこんなことは終わりにしよう」
桜「ええ、いい加減私もちまちま殺すのにも飽きてきちゃいましたから」
士郎「――投影、開始」
桜「今度はどんな武器を出すつもりですか?まあ何を出そうとさっきと変わりませんよ」
黒い影が現れ、サーヴァントの形に変化する
士郎「―― 体は剣で出来ている。血潮は鉄で、心は硝子。幾度の戦場を越えて不敗」
全身に体の奥から焼けるような痛みが走る
桜「いきなり何を言ってるんですか?」
士郎「――ただの一度も敗走はなく、ただの一度も理解されない」
それでも詠唱はやめずに続ける
桜「馬鹿にしてるんですか!?」
襲いかかってくる六体の巨人を背後から射出した宝具で薙ぎ払う
桜「な――?」
士郎「彼の者は常に独り、剣の丘で勝利に酔う――ッ」
全身に先程とは比べられない程の激痛が走る
契約はこの先得るであろう魔術回路を先取りしただけ
肉体はポンコツのままだ
この魔術は衛宮士郎の肉体では耐えきれない
だから耐えられるように肉体が変化する、痛みはソレの副作用だ
297:以下、
腕の一部の肌の色が変色している
痛みから察するに顔も所々変色してしまっているのだろう
桜「まさか詠唱!?肉体を変化させるほどの大魔術――」
士郎「故にその生涯に意味はなく――」
桜「させない!!」
影のサーヴァント達が跳びかかってくる
士郎「――その体はきっと…剣で出来ていた」
空間が歪む
大空洞から永遠に続くような荒野へと景色は変わり、辺り一面に無数の剣が突き刺さっている
――固有結界
術者の心象風景をカタチにして現実世界を侵食する大禁呪
桜「ここは――何をしたんですか」
襲い掛かってくる影のサーヴァントを、そのサーヴァントの武器と同じ物を投影して斬り伏せる
桜「な――」
士郎「偽物と贋作、どちらの出来がいいか比べるか?」
桜「ふ――ざけないで!!」
剣を持った影のサーヴァントが襲い掛かってくる
桜「それは第三次聖杯戦争の時のセイバー!!白兵戦で先輩に勝てるわけが――」
それを同じ武器、同じ剣技で倒す
桜「な――!?」
298:以下、
士郎「この世界では俺は武器の本来の持ち主の技術ごと模倣できる、形だけの奴で勝てると思うな」
桜「く――」
大量の影のサーヴァントが現れる
これは過去において冬木の地で行われた聖杯戦争で呼び出された者達か――
士郎「うぉおお!!」
影のサーヴァント達と斬り合いながら、同時に投影した剣を背後から射出して戦う
武器の貯蔵はギルガメッシュの宝物庫のおかでげ十分だ
ならばギルガメッシュと同じような戦法が取れる
士郎「ぐ――」
皮膚の浸食が広がる
この固有結界は内からも自分を壊そうとしてくる
桜「どうやら先輩はまだそれを――制御しきれてないみたいですね」
影のサーヴァント達と共に影の槍も襲い掛かってくる
士郎「早くケリを着けないと俺が持たないか――是・射殺す百頭(ナインライブズ・ブレイドワークス)」
バーサーカーの技を巨大な斧ごとコピーする
辺りの影は全て倒した
士郎「桜――!!」
現れ始めた影を剣を飛ばして倒しながら桜に走り寄る
299:以下、
士郎「手荒くなるが我慢してくれよ」
桜「こ、来ないで――」
桜を救うには桜からあの汚染された聖杯を引き剥がすしかない
五次の小聖杯はイリヤの心臓だった
ということも桜を聖杯と結んでいるのも心臓なのだろう
それなら一度桜の心臓を破壊して、何か別のもので補うしかない
士郎「桜――うわっ!?」
足元の意思に躓きド派手に転ぶ
桜「ふ…ふ、ふふふふふ!!あわてさせないでくださいよ!!そうですよねえ?先輩は元々動けるはずがないんだから!!」
士郎「くそ…」
立ち上がれない
それもそのはずだ
先の戦闘で自力で歩けない程のダメージを負っていたのだ
限界等とうに超えていたのを気力だけで無理矢理動いていた
桜「今度は邪魔は入りませんよ先輩、安心してちゃんと死んでくださいね」
士郎「まだだ、まだやられるわけには――」
シロウ、何をぼさっとしているのですか。今がチャンスです
懐かしい声が聞こえた気がした
士郎「う、おおおおお!!」
桜「え――」
300:以下、
短剣で桜を貫く
桜「あ、ああ――」
士郎「さっきも言ったが手荒くなるぞ」
突き刺したままの剣で桜を切り裂く
桜「―――ッ!!」
声にならない叫びをあげて桜は仰け反る
素早く剣を消し、切れ目に腕を突っ込み桜の心臓をもぎ取る
そして反対の手に持った聖剣の鞘で桜の心臓を治そうとして
士郎「がはっ!?」
血が噴き出る
吐血しながら下を見ると、桜を斬ったのと同じ場所が同じ深さで斬られている
桜「偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)、俺が受けたダメージをそのまま共有する宝具だ。一回きりのだがな」
士郎「あ…あが――」
桜「まあ、心臓がなけりゃ生きていけないから心臓だけは治してあげましたがねえ?」
ガキンという音を立てて固有結界が崩れる
桜「時間切れかダメージ、これじゃあどっちで消えたかわかりませんね」
士郎「ぐ……心臓を破壊したってのに何で――」
桜「聖杯と私を切り離すって考えは良かったですよ?あと五年程早ければ、ですけど」
士郎「お前は…誰……だ」
桜「アンリマユっていうこの世全ての悪、聖杯そのものですよ」
304:以下、
世界と契約した今ならはっきりとわかる
先程まで微かにしか感じなかったサーヴァントの気配がはっきりと感じる
心臓を破壊したことによって完成したというより、隠れていたモノが出てきたという感じか
士郎「そうか…初めから桜はもういなかったんだ」
桜「初めからお爺様が言ってたでしょう?でも先輩にこの姿の私を斬れますか」
士郎「お前は桜の皮を勝手に被っただけの呪いの塊だ、それに見た目で騙すようなヤツは今まで嫌って程倒してきた」
桜「おお怖いですねえその目、――でもその傷で何が出来るんですか?」
聖剣の鞘があるのに傷がもう治らない
桜「共有って言ったでしょう?こちらの傷を治さない限りそれはどんな宝具を以てしても治りませんよ」
士郎「ならこちらが倒れる前にお前を倒せばいいだけだ」
桜「……それは五次のセイバーの鞘でしたっけ?」
影がセイバーの姿に変形する
桜「英雄王は不完全な模倣って言っていたがそれは少し違う。不完全な召喚といった方が正しいんですよ」
士郎「どうせ倒すんだ、どっちだろうと同じ事だ」
桜「セイバー、あの男を八つ裂きにしなさい」
士郎「――投影、開始!!」
影のセイバーの一撃を何とか防ぐ
桜「へえ、まだそんな力が残ってたんですか?でも――」
士郎「ぐ――」
攻撃を受け止めた衝撃で傷口が広がり出血が増える
305:以下、
士郎「早く終わらせないと、これ以上攻撃を受けるのはまずい……」
桜「早く終わらせる?接近戦に優れたセイバーにどうやって?現代の魔術じゃ傷一つつけられないのに?」
士郎「――体は剣で、ぐ――!?」
影のセイバーの突きをギリギリで躱す
桜「もう詠唱の隙なんて与えませんよ、厄介だってわかってるのに悠長に待つわけないじゃないですか」
士郎「くそ……」
必殺技は出すからには必ず倒さなければならない
当たり前の話だが、対策されてしまうため二度目はないからだ
固有結界の弱点は魔力消費が大きいということと、詠唱が長い事にある
魔術が強力になればなるほど、それを使うための詠唱は長くなる
固有結界は魔法の域に限りなく近く、本来人間が使えるような代物ではない
仮に死後の英雄となった自分であれば詠唱を短縮することはできるかもしれないが
生憎今の衛宮士郎は魔術師としてもポンコツな人間の身だ
片手間に詠唱したところで固有結界は発動しないし、第一集中せずにあの攻撃は避けれない
だが固有結界なしにあのアンリマユを倒すことなど到底できないだろう
ギルガメッシュの宝具を投影して詠唱の時間を稼ぐか――
いや、それは悪手だ。ギルガメッシュの宝具はあくまで原典であり螺旋剣等の一部の例外を除いて真名がない
真名がないという事は宝具としての真の威力を発揮できないという事だ
それでは時間稼ぎはできずに、無駄に魔力を消費してしまうだけだ
士郎「いったいどうすればいいってんだ……」
306:以下、
桜「セイバーだけじゃありませんよ」
無数の影のサーヴァントが再び現れる
士郎「――投影、開始」
投影の負担も魔力消費も少ない干将・莫耶を投影し投げる
桜「またそれですか?そんなものもう意味ありませんよ」
士郎「そうでもないさ、――投影、開ギ――ああッ――ぐっ!!」
肉体が軋みを上げると同時に、肉体を貫かれるような感覚に襲われ膝をつく
いや、実際に貫かれている。体の内側から
固有結界から漏れ出た剣が体内で投影されたのだ
桜「暴走?」
士郎「がはッ……」
吐血しながら激痛に耐え体の感覚を確かめる
大丈夫、内臓に致命的なダメージはない
むしろ投影されたモノと位置が良かった
全てを焼き尽くす剣の原典の投影品は共有によって開いた傷口を焼き、止血しながら肉同士を無理矢理縫い繋げた
桜「呪いをも焼く剣……でも、さっき以上にダメージを受けちゃいましたね先輩?」
桜、いやアンリマユは笑いながら近づいてくる
桜「せめてものの情けとして私自らとどめを刺してあげましょう。これで詰みです」
エルメロイ「――いや、まだだな」
桜「!?」
307:以下、
魔弾が降り注ぎ、桜は後ろに下がる
士郎「アンタ達、どうしてここに――」
エルメロイ「あれほど派手に戦っていて気付かない筈がなかろう」
フラット「もう、一人で突っ込むなんて無茶するんすかってええ!?何か体中焼けたみたいになってるっすよ!?」
それに目の色もうわっ剣が突き出てる!?、と騒ぐ弟子を押しのけながらエルメロイは桜を一瞥する
エルメロイ「成る程、あれは聖杯ではなくその中身だったというわけか」
フラット「本当は一戦目のときのもっと派手にぶつかってた時に来たかったんですけどね、撤退するみたいだったから次にあんたが動くの待ってた
んですよ」
エルメロイ「今回はすぐ来るつもりだったのだが我々が最初に見つけた入口は崩れていてな、他の入り口を見つけるのに手間どった」
桜「何先輩と楽しそうにお喋りしているんですか?」
士郎「アンタらは今ろくな武器がないんだろう?何で来たんだ」
フラット「遠坂さんを見殺しにしちゃうのも忍びないですし、もともと俺らの仕事ですしね」
エルメロイ「生憎武器はないが、少しぐらいなら戦える。伊達に時計塔で教授等しておらん」
士郎「だったらオレの詠唱の時間を稼いでくれ。あいつを倒せるのはオレだけ、いや俺があいつを倒さなきゃいけないんだ」
フラット「詠唱?」
エルメロイ「強力な魔術は詠唱が長い…良いだろう、フラット」
フラット「結界っすね?」
エルメロイ「違う。英霊に現代の人間が張った結界等意味がない」
フラット「ってことは戦うんすか!?」
314:以下、
フラット「サーヴァントって英霊ですよ!?わかってますか!?」
エルメロイ「当たり前だっ!!」
フラット「わかっていて英霊と戦おうなんて…やっぱりボケたんですか?」
エルメロイ「お前さっきから私を年寄扱いしていないか――ってやっぱりとは何だ!!」
フラット「だってこんな奴らと生身で戦うなんて正気の沙汰じゃないじゃないっすか」
エルメロイ「誰が生身で戦うと言った。我々は奴らの注意を彼から離すだけだ」
フラット「だからそんなのどうやって?」
エルメロイ「こうやってだ」
桜「ッ、影のサーヴァントが勝手に――!?」
フラット「こっちに向かってくる!?」
エルメロイ「あのバカに再び会うためにサーヴァントの研究は進めていてな。サーヴァントの好むフェロモンだ。泥を英霊に仕立て上げたのが失策だったな」
桜「だったら――!?何で私の体まで――」
エルメロイ「貴様は五次の英霊の魂をを体内に宿しているのだろう?そして一応はこの泥と同じ聖杯の中身でもある」
桜「だったらさっさと貴方達を殺して先輩を殺す」
フラット「うわっ泥のサーヴァントだけじゃなくて影まで!?影のサーヴァントもたくさん……どうするんですか教授!?」
エルメロイ「持ちこたえろ」
フラット「やっぱり戦うんじゃないですか!?」
315:以下、
エルメロイ「二体や三体ならば数分ぐらい何とか持ちこたえれると思ったのだが――」
フラット「二十体以上出てきてるじゃないっすか!!」
士郎「これを使ってくれ!!」
士郎が飛ばした巨大な二つの盾が二人の近くに落ちる
フラット「盾?おもっ――これ投げるってどんな腕力してるんすか!?」
エルメロイ「これは宝具――いや投影品なのか?しかしこれは前に見た短剣の投影品よりも――」
フラット「教授今はそんな事言ってる場合じゃないですよ!!」
影のサーヴァント達の攻撃を受けても盾は軋み一つ上げない
フラット「こんなの持ってるなら俺達いる意味ないんじゃ――」
エルメロイ「避けろフラット!!」
フラット「え?」
フラットが咄嗟に盾を手放して飛び退くと同時に盾が槍によって切り裂かれる
フラット「な――」
エルメロイ「四次のランサーの模造品か!!」
桜「そう言えば貴方は四次でライダーのマスターでしたね。奇遇ですね、元は私の体もライダーのマスターだったんですよ」
巨大な男の影が現れる
エルメロイ「まさか――」
そして男の影が笑みを浮かべると同時に周囲は砂漠へと景色を変え、無数のサーヴァントが出現する
316:以下、
エルメロイとフラットが影の相手をしてくれている
士郎「――I am the bone of my sword.」
詠唱の言語を変える
士郎「―― Steel is my body. and fire is my blood.」
本来、詠唱に使う言語を変える事になんて何の意味もない
士郎「――I have created over a thousand blades. 」
しかしこの固有結界だけは別だ
固有結界は己の心象風景をそのまま具現化する魔法に近い魔術
桜「何で…影が思い通りに動かない――」
エルメロイ「あの征服バカに会うためにサーヴァントについては一通り調べていてな、サーヴァントを惑わすフェロモンだ」
桜「だったら影のサーヴァントじゃなくただの影に――」
エルメロイ「無駄だアンリマユ、それがお前の一部である限り
士郎「――Unknown to Death. Nor known to Life.」
つまり、自分の精神状態によって発動するものが大きく変化する
士郎「――Have withstood pain to create many weapons.」
――投影、開始(トレース・オン)が普段の自分と魔術師の自分を切り替えるスイッチであるように
士郎「Yet, those hands will never hold anything.」
衛宮士郎という個体にとって、この言語は己を奮い立てるスイッチとなる
士郎「So as I play,――」
敵の固有結界が発動したのか景色が変わる
士郎「――unlimited blade works.」
317:以下、
一度砂漠に変わった景色が上書きされる
いや両者の心象風景が同時に存在しているのか
荒野と砂漠が対立するように広がり
両方の地に無数の剣が生え、両方の地に無数の影のサーヴァントが立っている
エルメロイ「固有結界!?人の身でまさか――いやそれよりも――やはりあれは征服バカの……」
フラット「教授?」
エルメロイ「いや何でもない、彼が魔術を発動させたのだ。我々には暫く出る幕はない」
士郎「桜、いやアンリマユ、十年前から続くこの戦いに決着を付けよう」
桜「ふふ……このサーヴァントはその男性対策だけじゃなく先輩の固有結界対策でもあるんですよ」
士郎「なに?」
桜「このサーヴァントの宝具の固有結界は宝具までは呼び出せないんですよ、でも――」
エルメロイ「そういうことか、まずい――!!」
無数の影のサーヴァント達が生えている剣を引き抜く
士郎「な――」
桜「自分の技で死んでください先輩」
影の剣達は引き抜いた剣を振るい――
ありとあらゆる斬撃があらゆる方向から襲いかかった
318:以下、
桜「あっけなかったですね先輩」
フラット「そんな――」
エルメロイ「いやまだだ」
フラット「え?」
エルメロイ「彼の固有結界は消えていない」
斬撃による砂埃の中から、無傷の士郎が現れる
桜「馬鹿な――あの攻撃で何故」
士郎「忘れたかこの世全ての悪。今のオレにはセイバーがついている」
桜「セイバーの鞘!?」
士郎「壊れた幻想」
影の英霊達が持っている剣も、地面に生えた剣も全て爆発し辺り一面を吹き飛ばす
桜「が――あ―――」
フラット「うわ、凄い威力……教授の方の最初に投げてもらった盾がなかったら俺らも危なかったっすよ」
エルメロイ「征服バカの固有結界が消えた――今ので全て倒したというのか」
桜「そんな…馬鹿――な……ごほ――」
士郎「相も変わらずしつこいな君は、でもこれで終わりだ。オレは四次の頃のセイバーと違うからな。中身(お前)ごと聖杯を破壊する」
桜「ま、待って――」
士郎「エクス…カリバァアアアアア!!!!」
319:以下、
士郎「ぐ…が…ああ……あ――」
「……ん、……や、ん……エミヤさん!!」
士郎「ぐ……あ?」
フラット「良かった、気がついたんですね。倒れてから全然起きないんで心配しましたよ」
士郎「ここは――」
フラット「遠坂さんの屋敷です。衛宮さん三日間ずっと眠っていたんですよ。魘されてたから生きてるのはわかってましたけど」
士郎「ぐ…ぅ……どうなった……?」
フラット「エミヤさんの一撃で聖杯は壊れました。けど外側となっていた人間は残念ながら」
士郎「街の人たちは――」
フラット「アンリマユに捕らわれていた街の人は数人を除いて助かりましたよ。酷く衰弱はしていますけど」
士郎「……そうか」
フラット「今は聖杯が二度と出現しないようにって教授と遠坂さんが地脈に色々手を加えてるっす」
士郎「……遠坂が帰ってきてるのか?」
フラット「ええ、聖杯が破壊された翌日に――何処行くんですか!?まだ安静にしてなきゃ――」
士郎「オレは桜を救えなかった。遠坂に頼まれてたのに、いやオレ自身が守るって決めていたのに――遠坂に合す顔がない」
遠坂「そうね、どの顔ぶら下げてるんだか」
320:以下、
士郎「遠坂……」
凛「そんな肌や髪の色が、目の色まで変わる程無茶して。その間抜け面がなかったら衛宮君って誰もわからないわよ」
士郎「すまない……」
凛「謝らないでよ。ギルガメッシュが遺して行った手紙に書いてあったわよ、世界と契約したって」
フラット「世界と!?本当ですか!?」
士郎「ああ……」
フラット「通りで固有結界が使えたわけだ……」
凛「桜の事を責める気はないわ。私だって妹の事なのに全く気付かなかったのだもの、私の責任よ」
士郎「でも――」
凛「私が怒ってるのはね、あんなに言ったのに衛宮君が自分を犠牲にしてる事よ!!」
士郎「聞いたのか?」
凛「ええ、全部聞いたわよ。人を助けるのだけじゃ飽きずに過激派テ口リストに対するレジスタンスのリーダーやってるらしいじゃない」
士郎「……一人じゃあいつらが苦しめてる人達を全員救う事はできない」
凛「はあ、今の自分を苦しめるだけじゃ飽きたらずに、死後の自分を明け渡しただなんてね」
士郎「オレは目の前で助けを求めている人は全員助けたい。そのためなら何だってする、今力が足りずに救えなくても、守護者となれば全員救える筈だ」
凛「……はあ、今更何言ったってアンタが変わらないのは知ってるわ。止めても無駄って事もね」
士郎「……本当にすまない」
凛「ホントそうよ。だからもう破門よ、衛宮君」
322:以下、
フラット「ちょっと遠坂さん!?」
凛「衛宮君、今日で貴方は遠坂の魔術師の弟子として名乗る事は許さないし、遠坂の魔術を使う事も許さないわ」
士郎「……わかった」
フラット「ちょっと遠坂さん!!いくら何でもそれは――」
凛「口を挟まないでもらえるミスター・エスカルドス。これは遠坂の問題よ」
フラット「でも――」
士郎「いいんだ、オレは師匠の言いつけを破った。破門されて当然だ」
フラット「エミヤさんがそう言うなら……」
凛「殊勝な心がけね。地獄にでも何処でも好きなとこに行けばいいじゃない、貴方はもう引き戻せない場所まで行っちゃったんだから」
士郎「ああ、じゃあな遠坂」
フラット「ちょっとエミヤさん!?まだ傷が――」
士郎「傷なんてもう全部治ってる」
フラット「でもあんなに魘されて――」
士郎「これは無茶な魔術を使った代償だ。自滅して死んでいないだけ奇跡だ」
凛「さっさと出て行きなさい。貴方はもう遠坂の人間じゃないんだから、この家にいるのは筋違いよ」
士郎「そうだ、最期に一つだけ訊かせてくれないか」
凛「何?」
士郎「藤ねえは無事か?」
凛「……」
士郎「そっか……。じゃあな遠坂、今まで世話になった」
323:以下、
切嗣がいつも使っていた船場から密航して冬木の地を離れる
隠れて投影を試してみたが、聖剣もその鞘も投影できない
どうやら先の戦いで投影できたのは一時的にセイバーと繋がっていたからのようだ
聖杯が解体、破壊された事によってかろうじて繋がっていたパスは完全に切れたらしい
士郎「うぐ…ッ」
右半身が完全に麻痺している
無茶な投影を行った反動か
いつの日か初めて中身のある投影を行った時と同じ
身に余る魔術を使った事による代償ということか
鏡を見て自分の姿を確認する
士郎「誰かわからない、か。変色してない部分がないもんな」
声が変わっていない事がまだ幸いか
これなら声で気付いてもらえる可能性がある
それに片目もまだ変色していない
それと同時にまだ自分の肉体に衛宮士郎らしさが残っていると言えるかもしれない
ただ皮膚は日に焼けたで誤魔化せるかもしれないが、髪が急に変色していれば不自然な上に気付かれないかもしれない
ターバンでも巻いて髪を隠すとしよう
324:以下、
中央アジアにあるとある集落
テロ組織から逃げてきた人達が住む小さな集落だ
数年前、大怪我を負った際に世話になった場所だ
「お兄ちゃーん」
テントの中から様子を窺っていた数人の少年と少女がこちらに走ってくる
士郎「お、お前らか。大きくなったなあ」
少年「へっへへぇ、兄ちゃんは何か焼けた?」
少女「ほんとだ、私達とお揃いだあ」
士郎「ああ、お揃いだな」
日本から持ってきたお菓子を配りながら、子供たちの頭をなでる
女性「エミヤさん!!また寄ってくださったんですね」
男性「ああ、エミヤさん。お久しぶりです」
士郎「お久しぶりです」
女性「お元気でしたか?」
士郎「はい、そちらこそ何か変わりはありませんでしたか?」
女性「あ……」
男性「……」
士郎「……何かあったんですか?」
330:以下、
士郎「狩に森に行った男の人達が戻ってこない?」
女性「はい。それを探しに行った人達も……」
士郎「前にここで世話になったときにはあの森にはそこまで危険な生物はいなかったと思うが……」
女性「はい、あそこは子供たちの遊び場でもありましたから」
士郎「ということは外からはぐれて来たか、それとも誰かが放ったのか……俺が少し見て来よう」
男性「危険ですよ。あそこの動物達は今凶暴になっているんです」
士郎「凶暴?」
男性「はい、私も探索に一度森に入ったのですが、その時に襲われてこの様です」
士郎「噛み傷?包帯を巻いていたのはそのためだったか……だがその歯型は――」
男性「ええ、見ての通り草食動物のモノですよ。本来人を見れば逃げ出す程臆病なのですが」
女性「それにもうじき日が暮れます。森に行かれるなら朝まで待った方が――」
士郎「なら完全に日が落ちてから森に入るとしよう」
男性「な!?正気ですか!?」
士郎「ああ、昼間より夜に戦う方が慣れている。それに暗い方が色々と都合がいい」
男性「都合?」
士郎「こちらの話さ。弓と明かりを用意してもらってもかまわないだろうか?」
331:以下、
夜、森
士郎「ふむ、以前に入った時とそれ程変わらないように思えるが……」
目を閉じ、周囲の気配を探る
士郎「いや、ごく僅かだが魔力の残滓が――」
咄嗟に避けたソレが背後の木を貫通して地面に突き刺さる
士郎「黒鍵?くっ!?」
松明の火を消し、無数に飛んでくる黒鍵を避けながら敵の位置を探る
士郎「早い…だがセイバー程じゃない。そこだ!!」
矢を放とうとし、後ろから首筋に黒鍵が当てられる
士郎「な――」
「懺悔の時間を与えましょう、何か――残像?いえ、これは――」
士郎「やれやれ、手荒い歓迎だな。その服装、聖堂教会の者か」
「少しはできるようですね。しかし私が何者かを知ってまだ戦うつもりですか?」
士郎「ああ、俺はお前を見逃すつもりはない」
「それはこちらの台詞ですよ」
黒鍵を構えた女の姿が消える
士郎「――投影、開始!!」
332:以下、
「投影魔術ですか?そのような魔術で私に挑もう等とは――」
襲い掛かる黒鍵による攻撃を投影した双剣で捌く
士郎「流石代行者と言ったところか――だが」
「この剣は――まさか中身があるというのですか。ですが――」
「GRrrrr――!!」
士郎「な――!?」
「まだ生き残りがいましたか。おや?その反応、どうやら私はは勘違いをしていたようですね」
士郎「何なんだこれは!?」
「見ての通り死徒ですよ。吸血鬼のようなモノです」
士郎「何でそんなものがここに!?」
「私は貴方がこれを放った魔術師と思っていたのですが」
士郎「違う。俺は森から村の人が帰って来なくなった理由を探しに来ただけだ」
「そうでしたか。突然襲い掛かった事をお詫びいたしましょう」
士郎「こっちも勘違いをしてたようだ。アンタは一体?」
「私はあれを退治するために派遣された聖堂教会・埋葬機関の代行者です。それでは目的は近いようですし」
士郎「ああ、こいつらを一掃しよう」
333:以下、
「ふう、大方片付いたようですね。とはいえ大元を叩かなければ意味はありませんが」
士郎「この服は…それにこの時計――」
「知り合いでしたか?そうですよこれらは食屍鬼にされただけの元村の人間です」
士郎「くそ――」
「これ以上犠牲を増やさないためにも早期の解決をしたいところですが――」
士郎「む――何か近づいてくる」
暗闇から頭は獅子、身体は豹、背中から馬が生え、尾は鰐の奇妙な生き物が姿を現す
「今度はキメラですか。こっちは専門ではないんですけど――」
士郎「やることに変わりはない」
「そうですね。これから情報を得る事はできそうにないですし」
「――投影、開うぐっ!?」
右腕に激痛が走ると共に内側から剣が飛び出し鮮血が散る
「これは――固有結界の暴走!?」
士郎「ぐ、ああああああああああ!!」
両腕から肩の付け根までどんどん剣が生えていく
キメラはそのようなことお構いなしで襲い掛かって来るが――
「ああもう、邪魔です」
代行者の女が片手で仕留めるのを視界の片隅に、意識が途絶えた
337:以下、
「気がつきましたか?」
士郎「あ…ああ?」
ぼやけた視界に眼鏡をかけた女性が写る
「あ、お腹減ってますよね?カレー食べますか?」
士郎「えっと、貴女は……」
「あ、自己紹介がまだでしたね。聖堂教会・埋葬機関代行者シエルです」
士郎「シエル…俺はエミヤだ。衛宮士郎」
シエル「エミヤ?何処かで聞いたことあるような…まあ思い出せないということは些末な問題でしょう」
両腕が動かない、腹筋のみで起き上がりながら腕を見ると剣ではなく赤い布が巻かれている
そして体にも赤い布が巻かれている
士郎「これは――?」
シエル「聖骸布です。貴方が眠ってる間襲われても大丈夫なように巻きました、外界からの攻撃に対して着用者を守る一級品です」
士郎「腕が動かないのはこの聖骸布の効果なのか?」
シエル「そっちはマルティーンの聖骸布です。魔力を封じて暴走を止めさせてもらいました、と言ってももう意味はありませんが」
士郎「意味がない?あっ」
腕に巻かれている布は既にボロボロになっている
剣が飛び出ていた腕に巻きつけたのだから当然の結果と言えるが――
シエル「あ、お気になさらずに。それ元々その状態ですから、意味がないというのはもう暴走しないだろうという意味です」
士郎「何でそんなことわかるんだ?」
338:以下、
シエル「私の攻撃の中に敵の魔力の流れを乱すものがあったんですよ。それで元々不安定だったところを更に乱してしまったようですから」
士郎「そういうことか…」
シエル「取りあえずもう必要ないでしょうから返してもらいますね?痛みとかありますか」
士郎「……問題ない、傷もないようだ」
シエル「それなら良かったです。あ、そっちはお譲りします」
士郎「こんな貴重なモノをか?それはできない」
シエル「良いんですよ。暴走させてしまったお詫びということで」
士郎「だが…、いや、わかった。有難く頂くとしよう」
シエル「しかし驚きましたね。まさか固有結界を使えるとは」
士郎「発動をさせていないというのに、あの短時間の攻防で気付いたのか」
シエル「まさか。流石にあの程度の攻防では普通の投影じゃないことぐらいしか気付けませんよ」
士郎「ってことは暴走からか」
シエル「はい。ただ魔力の流れが乱れただけであんな風に体内から剣が湧き出続けたりしませんから」
士郎「ところでここは何処なんだ?」
シエル「森にあった洞穴です。先ほどのキメラが住処にしてた場所みたいですね」
士郎「オレが倒れてからどのぐらいの時間が経った?」
シエル「一時間程ですかね。私は大元を探しに行きますが、貴方はどうしますか?」
士郎「勿論、オレも探しに行くさ。手分けして探そう」
シエル「そうですね」
339:以下、
士郎「さて、この聖骸布は外界から着用者を守ると言っていたな。早使わせてもらうとしよう」
聖骸布に魔力を通し、外套の形に変える
士郎「この色遠坂を思い出すな。まあ、破門されてから日は浅いが」
双剣を投影し固有結界の暴走が起きない事を確かめる
士郎「この調子なら大丈夫か、投影に対する痛みもない。荒療治となったが先の暴走で完全に術が体に馴染んだか」
壁についた爪痕や、洞穴の奥に転がっている骨の量などを確認し
この洞穴がキメラの住処となっていたことを改めて確認する
士郎「ふむ、住み着いて二か月程。前は気付かなかったが、この森の何処かに魔術師の工房があったということか」
骨の中に人間のモノと思われる骨が混ざっている
士郎「村人のではなく魔術師のモノだな。ということは犯人がどうとかではなく、工房を持っていた魔術師が死に中のモノガ逃げたか」
そして前回工房に気付かなかったということは工房があったであろう位置も何となく掴めてくる
村人が聖域として村長以外の立ち入りを禁じていた場所
士郎「あそこに大元がいれば良いのだが――」
無数の羽音が聞こえ、洞穴の外に目をやる
士郎「あれは蚊か?キメラの死体に群がっているのか――!?」
首を落とされ死んでいた筈のキメラが動き出す
士郎「まさか…あの蚊が死徒のウイルスの持ち主だってのか」
340:以下、
士郎「まずいな、蚊が感染源だというであればどれほど被害が広がっているのか見当もつかん」
ここが島であったのであれば他の島に影響はまだ小さいのかもしれない
だが、ここは大陸の内陸地だ
下手をすれば大陸全体に死徒モドキが広がりかねない
士郎「だから代行者が派遣されてきたってわけか。蚊が相手だと剣戟は意味をなさん」
蚊の群れとキメラがこちらに気付いたのか集団で洞穴の入り口に向かってくる
士郎「こちらに来るか」
魔術で強化し、蚊の群れを飛び越え、食屍鬼と化したキメラを斬り伏せる
が、両断された状態でキメラは再び襲い掛かってくる
士郎「ちっ、死体を斬ったところでやはり無駄か。あの代行者と共に動いた方が賢明だったか」
空中に跳び上がり弓を下に構える
士郎「――I am the bone of my sword, ――“偽・螺旋剣”」
矢の形状として投影した宝具を放ち、ソレがキメラが弾こうとすると共に
士郎「“壊れた幻想”」
爆発させ蚊もろともキメラを完全に消しとばす
士郎「食屍鬼と化した後も蚊と統制された動きをしていた、ということは操る者がいるという事か」
爆発から逃れた蚊の飛んでいく方向を眺める
士郎「聖域の方角か、やはりあそこに大元がいると見て間違いはないようだ」
341:以下、
士郎「思った以上に簡単に片付いたな」
魔術師「く…クソが――」
士郎「本当に他に死徒のウイルスを持つ蚊はいないんだな?」
魔術師「ああ、だから……死ねええぐあっ!?」
シエル「これが悪を産む異端でしたか」
士郎に跳びかかろうとした魔術師は飛来した数本の黒鍵によって壁に貼り付けられる
士郎「シエル」
魔術師「な、代行者の――」
シエル「貴方には懺悔をする機会を与える必要はないようですね」
魔術師「ま、待って――」
シエル「ふう、これで今回の件は片付いたようですね。貴方の協力のおかげです」
士郎「森にいた村の人たちは?」
シエル「全員食屍鬼となっていたので排除しました。大元を叩いても彼らが残れば新たな禍の芽となりますから」
士郎「そうか……」
シエル「それでは私は教会への報告がありますのでこれで。衛宮さん、貴方はどうされますか?」
士郎「村に戻って村の皆に報告をしてくる」
シエル「そうですか。では衛宮さん、協力のお礼に別れの前に忠告を」
士郎「忠告?」
シエル「今の活動を続けると教会は貴方を異端と見なしますよ」
士郎「……肝に銘じておこう」
342:以下、
士郎「何だこれは――」
村が燃えている
村人達が血を流し倒れている
士郎「一体何が――」
少年「兄ちゃん……」
少女「お兄ちゃん」
士郎「お前達無事だったのか!!ってどうしたんだその傷!?」
少年「おっちゃんが急に倒れたと思ったら皆に襲い掛かり始めたんだ、それで襲われた人も他の人に襲い掛かり始めて……」
士郎「襲い掛かり始めただと?あっ――」
凶暴化した草食動物に噛まれたという男性を思い出す
士郎「凶暴化した動物…食屍鬼に感染した動物だったのかってことは――二人共噛まれたのか?」
少年「うん。助けてくれ兄ちゃん…俺あんな風になりたくない」
少女「私達まだ死にたくないよ……」
士郎「……」
二人共、いやこの村の人間全員死徒化は免れない
他の犠牲を出さないためには、この助けを求める少年達を――
俺は目の前で泣いてる人達を助けるために契約したのではなかったのか
――また俺は力が足りなかったのか
少年「兄ちゃん――?」
士郎「……ごめん」
343:以下、
あれから数年が経った
オレは誰かを助けるために殺して、殺して、殺し尽くした
あらゆる戦の場にかけつけ戦に参加した
殺した人間より多くの人を助けた
目の前で泣いてる人を助けるために他の願いを踏みにじった
その結果から目を逸らし今度こそ終わりだと戦い続けた
誰も死なせないようと願い、多くのために一人を殺した
自分が助けようとした者を救うために、敵対した者はやかに皆殺しにした
裏切られることなんて多々あった、それでもかつての理想のために戦い続けた
争いを終わらせても、また新たな争いが起きた、それでも戦続けた
ようやく大きな戦いを終わらせたと思えば、救った筈の、共に戦い続けた男に争いの張本人として捕らえられた
別に感謝されたかったわけじゃない
英雄として扱われたかったわけでもない
ただ皆が幸福になって欲しかった
このような結果となったのはオレの力が足りなかったからだろう
だが、死ねば自分はかつての契約通り英霊の座に行き守護者となる
今は救えなかったが、今度こそ誰かを救える
そのような思いのまま、衛宮士郎は絞首台でその生涯を終えた
344:以下、
あれからどれだけの時が経ったのか
何億年経ったのかもしれないし、一秒も経っていないのかもしれない
輪廻の枠から外れ、時間の概念もない此処ではただそうであった記録だけが増えていく
それが過去に起きたことなのか、未来に起こることなのかはわからない
ただ、そういう記録だけが増えていく
殺して、殺して、殺して、
殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して――
善悪の区別なく、命じられるままに気が遠くなるほど殺して
絶望に嘆く人を救うのではなく排除して――
これでは生前とは何も変わらないのではないか
既に生前の記憶等、ほとんど覚えていない。既に魂は摩耗しきっている
覚えている事は誰も救えなかった事とかつて正義の味方を目指していた事
そしてどれほど魂が摩耗しようと、地獄に落ちようと忘れない一人の少女――
かつて抱いた人々を救いたいというただ一つの願いは、ただの一度も果たされることはない
救うのではなく、救われなかった人々の存在を無かった事にするだけの存在
こんなモノを望んだわけじゃない、そんなモノの為にオレは守護者になったのではない!!
だから憎んだ
争いを繰り返す人々と、それを救いたい等という愚かな願いを持った生前の自分という間違いを
この繰り返される輪から外れるにはただ一つ、自分という間違いを消す事
ただ一つの願いが自分という間違いを排除することに変わるのに時間はかからなかった
345:以下、
視界がぶれる
頭を揺さぶられる気持ち悪さと同時に背中を地面に叩きつけられた
理解できたのは自分が守護者としてではなく召喚されたこと
どうやら自分は聖杯戦争とやらのために、アーチャーのサーヴァントとして召喚されたらしい
雑な召喚で記憶に混乱が見られ、自分のことがアーチャーだということぐらいしかわからない
またくだらない争いかという苛立ちを抑えるためと、頭の整理のために瓦礫に腰掛ける
どうやら生前死の間際まで持ち続け、英霊の座にまで持ち運んだペンダントも持ってこさせられたらしい
守護者として召喚されるときはいつも持っていなかったはずなのだが――
一人の少女が戸を蹴破りながら入ってくる
こんな年端もいかない少女でさえ争いに参加するというのか
「それで。アンタ、なに?」
「開口一番それか」
どうやら完全に貧乏クジを引かされたらしい
マスターの証を見せろと言っても、三回きりの大魔術の結晶である令呪とやらを見せてくる
その後の会話からしてもこの少女は未熟な魔術師らしい
「あったまきたぁ――――!!」
少女が叫びながら構える
その腕にあるのは令呪
アーチャー「な―――まさか!?」
346:以下、
自分の契約者、マスターの少女は躊躇いなく令呪を使った
絶対服従等というくだらない命令に令呪を使ったマスターに令呪の説明をしつつ、
自分にかけられた本来効果等一切ないはずの令呪の効果を確認する
呆れた事に、いや彼女は優れた才能を持っているのだろう
令呪の効果がはっきりと感じられる。心変わりだけでなく、身体への制限もある
これなら戦いに巻き込むことを心配する必要はなさそうだ
それに何故か、この少女との会話に何処か懐かしい、心地のよいものを感じる
「貴方、何のサーヴァント?セイバーじゃないの?」
アーチャー「残念ながら剣は持っていない」
その返答に対し隠すことなく落ち込む彼女に対し何故かもやっとした感情が湧き上がる
アーチャー「悪かったなセイバーでなくて」
「え?そりゃ痛恨のミスだから残念だけど、悪いのはわたしなんだから――」
アーチャー「ああ、どうせアーチャーでは派手さにかけるだろうよ。後で今の発言を悔やませてやる。その時になって謝っても聞かないからな」
柄にもなく自分は彼女に期待をされていないことに拗ねているようだ
「そうね、じゃあ必ずわたしを後悔させてアーチャー。そうなったら素直に謝らせてもらうから」
アーチャー「ああ、忘れるなよマスター」
彼女の言動で一喜一憂するとは、まるで自分が昔に戻ったようだ
……昔?
「それでアンタ、何処の英霊なのよ」
アーチャー「――」
347:以下、
「アーチャー?」
少女は怪訝そうな顔で見上げてくる
その顔を見て確信する、自分は彼女と生前知り合いであると――
アーチャー「私がどのような者だったかは答えられない。何故かと言うと――」
「あのね、つまんない理由だったら怒るわよ」
そう言われても困る
何故なら彼女と親しい間柄だったということぐらいしか思い出せないからだ
アーチャー「何故かというと自分でもわからない」
「はああああ!?何よそれ、アンタわたしの事バカにしてるわけ!?」
アーチャー「マスターを侮辱するつもりはない。だがこれは君の不完全な召喚のツケだぞ」
記憶の混乱が見られると続けていくと、少女の唖然とした顔がどんどん落ち込んでいく
何故かわからないが、どうやら自分は彼女のああいう態度に弱いらしい
アーチャー「…まあさして重要な欠落ではないから気にすることはない」
一応フォローしたつもりだったのだが
「気にするわよそんなの!!アンタがどんな英霊か知らなきゃどのぐらい強いのか判らないじゃない!!」
アーチャー「些末な問題だよそれは」
「些末ってアンタね。相棒の強さが判らないんじゃ作戦の立てようがないでしょ!?」
アーチャー「何をいう。私は君が呼び出したサーヴァントだ、それが最強でない筈がない」
348:以下、
「それじゃあ暫く貴方の正体は不問にしましょう。それじゃあアーチャー、最初の仕事だけど」
アーチャー「早か、好戦的だな君は。それで敵はどこだ――」
どうやら自分は彼女に頼ってもらえることが嬉しいらしい
守護者としての仕事が嫌になっていた自分は、彼女に与えられる仕事にかなり期待しているようだ――
アーチャー「――む?」
何故かホウキとチリトリを投げつけられた
「下の掃除お願い。アンタが散らかしたんだから責任もってキレイにしといてね」
アーチャー「――――」
何を言われたか理解できすに十数秒かたまる
期待をしていた矢先にこの仕打ちはない
アーチャー「待て、君はサーヴァントを何だと思っている」
「使い魔でしょ?ちょっと生意気で扱いに困るけど」
アーチャー「――――」
迷いなく言い切った少女に唖然すること数秒
文句を言おうと口を開きかけるが、自分は先程の令呪で逆らうと体が重くなることを思い出す
悔しいが掃除をするしかないようだ
アーチャー「了解した。地獄に落ちろマスター」
負け犬みたいだが、このぐらいの悪態は吐かせてもらおう
354:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/05(火) 22:13:17.44 ID:uFbIKohh0
朝九時過ぎになってもマスターの少女は起きてこない
サーヴァントはちゃんとした魔力の提供さえあれば、食事や睡眠を摂る必要はない
それ故に夜通し清掃を続け、自分が召喚された際に崩れた瓦礫を元に戻すだけでなく
元々よりも、そして他の場所も綺麗にし、少女の命令以上の仕事をしたというのに
ようやく起きてきた少女の一声に呆れる
「……うわ。見直したかも、これ」
アーチャー「日はとっくに昇っているぞ。また随分とだらしがないんだな、君は」
自分の仕事ぶりをこれで済まされた事に対する不満を込めて話しかける
それに対し嫌味で返され、皮肉で返す
少女はそれに返す事なく頭をかかえてるようだ
どうやら召喚の疲れが出てるらしい
アーチャー「――ふむ、紅茶で良ければご馳走しよう」
片づけの際に食器の位置は把握している
そして彼女が起きてくるタイミングを見計らって用意しておいた紅茶を注ぎ、彼女に手渡す
「あ、おいしい」
不機嫌そうだった少女の表情が幸福そうに変化する
アーチャー「ふむ」
それを見て思わず笑みがこぼれる
355:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/05(火) 22:14:01.43 ID:uFbIKohh0
「なに笑ってんのよ、それよりアンタ自分の正体を思い出したの?」
アーチャー「いや」
正直に答える
この屋敷に見覚えはなかったし、思い出したのはこの紅茶が少女のお気に入りということぐらいか
「そう、貴方の記憶に関しては追々対策を考えとく。出かける支度をしてアーチャー、街を案内してあげるから」
アーチャー「その前にマスター。君、大切な事を忘れていないか?」
「え?大切なことってなに?」
アーチャー「……まったく。君、契約において最も重要な交換を、私たちはまだしていない」
「契約において最も重要な交換?」
少女は本気でわからないようで、考え込む
アーチャー「……君な。朝は弱いんだな、本当に」
相変わらずだと呆れながら言う自分に対し、彼女は苛立ちを見せ
「何よ君君って、――あ、しまった、名前」
アーチャー「思い当たったか。それでマスター、これからは何て呼べばいい?」
「わたし、遠坂凛よ。貴方の好きなように呼んでいいわ」
アーチャー「遠坂、凛…」
何処か懐かしいような、そして安心する響きだ
アーチャー「それでは凛と。……ああ、この響きは実に君に似合っている」
感じた事をそのまま伝えただけだが、咳き込んだ少女には勘違いされてしまったようだ
356:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/05(火) 22:14:32.77 ID:uFbIKohh0
凛「どう?ここなら見通しがいいでしょ、アーチャー」
一日中、日が暮れるまで連れ回され、最後はここらで一番高いビルの屋上に連れてこられた
アーチャー「はあ。将来君と付き合う男に同情するな」
凛「え?何か言ったアーチャー?」
アーチャー「素直な感想を少し。確かに良い場所だ、始めからここに来れば歩き回る必要はなかったのだが」
少し会話をし、街の全貌を把握する
歩き回った時もそうだったが、自分はこの街に関する記憶はないようだ
凛「……」
アーチャー「凛、敵を見つけたのか?」
少女の殺気を感じ声をかける、苛立った返答から察するに彼女の苦手な相手なのだろうか
帰り道、急に凛が陰にしゃがみ込み
アーチャー「凛、何を隠れている」
凛「あそこにいるの知り合いなの。今日学校休んだからあんまり顔を会わせたくないの」
少女の視線の先を追うと金髪の男と少女が話している
あの金髪の男は――
アーチャー「凛、知り合いとは外国人の方か?」
凛「いいえ知らない。ねえ、あいつ、人間?」
アーチャー「さあ、実体はあるから人間なのだろう。少なくともサーヴァントではない」
自分はあの男を知っている、故に真実を話して警戒をさせるべきではないだろう
357:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/05(火) 22:34:25.41 ID:uFbIKohh0
翌朝、学校に通うマスターに着いてきたが結界が張られていた
放課後まで待ち、少女と共に結界を調べてゆき屋上に基点を見つけ――
凛「まいったな。これ、わたしの手には負えない」
人間を溶解させ魂を奪う結界
自分達は霊体だ、それ故食事もそういうものになる
即ち、この結界を張ったのは自分達と同じサーヴァントだろう
凛「マスターから提供される魔力だけじゃ足りないって事?」
アーチャー「足りなくはないが多いに越したことはない。そういう意味で言えば、この結界は効率がいい」
凛「それ癪に障るわ。二度と口にしないでアーチャー」
アーチャー「同感だ。私も真似をするつもりはない」
どうやらこの少女とはとことん気が合うようだ
凛「さて、それじゃあ無駄だとは思うけど消そうか」
少女が消そうとするのと同時に何処からか声がかかる
「なんだよ。消しちまうのかよ、もったいねえ」
いつの間にか給水塔の上に男が立っている
この気配、それに相手は霊体と化している自分に気付いている
周囲を見渡し屋上では不利と判断した少女はフェンスを飛び越え屋上から飛び降りる
凛「アーチャー、着地任せた」
少女を抱きかかえ無事に着地させ、槍による追撃の一撃を短剣で弾く
358:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/05(火) 22:56:00.88 ID:uFbIKohh0
貴方の力をここで見せて
マスターのその言葉に答えるように槍を持つ、ランサーのサーヴァントと攻撃を交える
ランサー「たわけ、弓兵風情が接近戦を挑んだな――!!」
接近戦で自分に勝てるはずがないと、ランサーは一気に攻め込む
ランサーの息もつかせぬ打突の連撃に、かろうじて後退をしながら弾く
一際高い剣戟と共に、打突から薙ぎ払いに変えられた槍を受け短剣が手から離される
ランサー「間抜け――」
剣を失った自分に対し、勝敗を決しにランサーの槍が急所を狙う
アーチャー「――投影、開始」
その攻撃を全て弾き、ランサーとの距離が開く
ランサー「ちい、二刀使いか……弓兵風情が剣士の真似事とはな――」
先程より早く、そして一撃一撃が更に早くなっていく槍を弾きながらこちらも攻める
撃ち合いは既に百を超え、何度も武器を砕かれるが、再び武器を手に用意しまた撃ち合う
武器が再び現れる度にランサーは後退してゆき、仕切り直しをするためかランサーは大きく間合いを離す
ランサー「二十七、それだけ弾き飛ばしてまだあるとはな」
アーチャー「どうしたランサー、様子見とは君らしくないな。先ほどの威勢は何処に行った」
ランサー「ちい、狸が。良いぜ訊いてやるよ、テメエ何処の英雄だ」
359:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/05(火) 23:06:08.07 ID:uFbIKohh0
ランサー「二刀使いの弓兵なぞ聞いたことがない」
アーチャー「そういう君はわかりやすいな。これ程の槍手は世界に三人もいない」
加えて、獣の如き敏性さと言えば恐らく一人――言い切る前にランサーが遮る
ランサー「――ほう、よく言ったアーチャー」
そう言うと共にランサーから凄まじい殺気が湧く
ランサー「――ならば食らうか、我が必殺の一撃を」
彼の槍に凄まじい魔力を感じる
恐らく、いや確実に宝具を使用するつもりだろう
アーチャー「止めはしない。いずれ越えねばならぬ敵だ」
あれは間違いなく必殺の一撃――
あれに対抗する手段等生憎弓兵である自分は持ち合わせていない
ランサー「――誰だ!!」
ランサーの殺気が消える
走り去っていく足音
それを追うようにランサーも消える
アーチャー「やれやれ、命拾いしたな」
凛「ランサーはどうしたの?」
アーチャー「目撃者だからな。おそらく消しに行ったのだろう」
凛「追ってアーチャー!!わたしもすぐに追いつくから!!」
360:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/05(火) 23:15:26.53 ID:uFbIKohh0
ランサーを追って校舎に入ってすぐ、廊下に倒れている生徒を見つける
アーチャー「遅かったようだな」
倒れた生徒から床に大量に血が広がっている
心臓を一突きされたといったところだろう
目撃者は消すのが魔術師のルール、気の毒だが――
倒れている生徒に近づこうとしてある事に気付き立ち止まる
心臓がうるさいぐらいに鳴っている
間に合わなかったからじゃない
この倒れている生徒は――
生前の記憶の一部がはっきりと蘇る
間違いない。ここに倒れている生徒は――
凛「アーチャー、ランサーを追い掛けて。せめてマスターの顔ぐらい把握しないと割が合わない」
いつの間にか近くにいた凛が呟く
その命令通りランサーを追うが既にランサーを追える痕跡がほとんど残っていない
しかしそんなことよりも今はある一つの事を頭が占めている
自分のマスターである彼女はあの倒れていた、殺された生徒を助けるのだろう
そして自分はあの生徒、少年のことを知っている
それも嫌となる程に、
かつての間違いである、ずっと憎んでいた存在を――
361:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/05(火) 23:33:28.34 ID:uFbIKohh0
遠坂邸に帰り、ソファーに寝転んでるマスターに成果を報告する
彼女はかなり気落ちしているようだが、自分には確認しなければならないことがある
寝転んでる彼女の上に、懐から出したペンダントをかざす
凛「ああ、拾いに行ってくれたんだ」
彼女は何の疑問もなくそれを受け取る
それで確信した
アーチャー「……もう忘れるな。それは凛にしか似合わない」
凛「そう、じゃあありがとう」
やっぱ魔力は残ってないかという残念そうに言う彼女はある事に気付く
凛「って待った。ランサーのマスターが殺した筈の目撃者が死に損なったって知ったら……」
アーチャー「再びとどめを刺させるだろうなランサーに」
気が向かないままに凛と共に敵の気配を探す
凛「いる、ランサーのサーヴァント!!」
ランサーが忍び込んだのが見えた屋敷に向かって凛が走っていくのと同時にある事に気付く
アーチャー「待て凛!!サーヴァントの気配が一つではない!!」
凛「え?」
凛を斬ろうと高で近づいた敵の攻撃を咄嗟に弾き、追撃をしようとして立ち尽くす
地獄に落ちようとも、決して忘れることのなかったその姿は――
凛「セイバーの…サーヴァント――」
362:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/05(火) 23:50:10.64 ID:uFbIKohh0
せめて後ろにいる少女を守ろうと思うが彼女の姿を見て体が動かない
そんな自分を容赦なくその美しいセイバーのサーヴァントは斬りかかろうとし――
「やめろセイバー―――ッ!!!!」
セイバー「――ッ。正気ですかシロウ、今なら確実にアーチャーとそのマスターを倒せた。だというのに――」
士郎「待ってくれセイバー。こっちは全然わからないんだ、マスターだっていうのなら説明してくれ」
セイバー「敵を前にして何を――」
言い争いをする二人に、立ちあがった凛は近づいて行く
あの様子なら大丈夫だと、構えは解かずに自分のマスターを見守る
凛「つまりはそういうワケね。素人のマスターさん?」
彼女は何もわかっていない彼に聖杯戦争について説明するつもりらしい
その間屋根の上で見張りをしろと訴えてくる
セイバーも彼女のマスターが状況を理解するためにと攻撃を仕掛けてくるつもりはないようだ
アーチャー「凛、何故そのようなことをする必要が――」
凛「アーチャーはわたしが良いって言うまで口を挟まないで」
こう言われてしまえば、令呪の縛りがある自分にはもうどうしようもない
彼女は丁寧に彼に状況を説明した後、
その上教会にいる聖杯戦争の監督者にも会わせるつもりのようだ
相変わらず、何処まで行っても彼女はお人好しなのだろう
367:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/13(水) 18:20:16.44 ID:5F6uqcyq0
教会の前で凛と少年が出てくるのをセイバーと待つ
セイバー「……アーチャー、貴方は霊体化出来るのですから中に入れば良いのではないですか」
アーチャー「なに、中立地帯のあそこに私が入るのもあれであろう。それとも私がここにいることがそんなに嫌か」
セイバー「いえ、そういうわけでは――。アーチャー、さっきから何をそんなにじろじろと見てくるのですか」
アーチャー「敵から目を離さないのは当然だろう?」
セイバー「それはそうですが……」
アーチャー「おっと、ようやく出てきたようだ」
どうやらあの少年はやはり戦う事を決めたようだ。しかし――
士郎「なんでさ。俺、遠坂と喧嘩するつもりはないぞ」
凛「やっぱりそう来たか。まいったな、これじゃあ連れてきた意味がないじゃない」
アーチャー「凛」
凛「なに。わたしが良いって言うまで口出ししない約束でしょアーチャー」
アーチャー「それは承知しているが。倒しやすい敵がいるのなら遠慮なく叩くべきだ」
凛「そんな事言われなくてもわかってるわよ」
アーチャー「判っているのなら行動に移せ。まさかとは思うがそういう事情ではあるまいな」
凛「そんなわけないでしょ!!ただその、こいつには借があるじゃない」
確かに先程あの少年が令呪でセイバーを止めていなければ自分も凛もセイバーに斬られていた
アーチャー「ふん、また難儀な。では借りとやらを返したのなら呼んでくれ」
ならば霊体化をして時期を待つとしよう。あの少年を殺すに相応しい時を――
368:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/13(水) 18:38:15.76 ID:5F6uqcyq0
どうやら今宵は戦うつもりがないようだ
凛はあっさりと衛宮士郎達と別れようとし、そして固まる
凛「バーサーカー」
先程まで一切感じなかった位置に巨大なサーヴァントの気配を感じる
凛「アーチャー、アレは力押しでなんとかなる相手じゃない。ここは貴方本来の戦いに徹するべきよ」
アーチャー「了解した。だが守りはどうする。凛ではアレの突進は防げまい」
凛「こっちは三人よ。凌ぐだけならなんとかなるわ」
それはセイバーと共闘するという意味か
確かにセイバーならこの状況で凛を襲う事はしないだろう
それならば凛の言う通り自分本来の戦い方
アーチャーに相応しい戦い方をさせてもらおう
バーサーカー達から一気に離れ、狙撃に適した場所
先日凛に案内されたここらで最も高いビルの屋上に向かう
自分が離れたと同時に少女が命じたのだろう
空中に跳び上がり回避が出来なくなった狂犬目掛けて八本の矢を放つ
しかしどうやら効いてないようだ
走りながら反対方向に打ってるのだから威力も精度も低いとはいえ家屋程度なら壊せたのだが――
『アーチャー援護!!』
凛の指示を受け、今度は正確に巨人のこめかみに打ち込む
369:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/13(水) 18:58:17.58 ID:5F6uqcyq0
しかし、その一撃でもバーサーカーには効かなかったようだ
セイバーを吹き飛ばし追撃しようとする狂犬の行動を止めようと三度矢を放つがやはり効かない
セイバーがどこかに行き、バーサーカーはそれを追っていく
アーチャー「場所を移すつもりか」
走りながら矢を撃ち続け、ようやく目的の位置に着く
自分がついたのと同時にセイバーも渾身の一撃をバーサーカーに撃ちこんだようだ
バーサーカーの体勢が大きく崩れる
アーチャー「見事だ、だがそれでは足りん。凛、そこから離れろ」
念話で遠く離れたマスターに伝える
凛「――え、離れろってどういうこと?」
アーチャー「――I am the bone of my sword.」
投影した剣を矢に変え、弓を引き絞る
衛宮士郎がこっちに振り向くのが見える
そうだ、この一撃の範囲はセイバーも含まれる
お前ならば間違いなくセイバーを守ろうとするのだろう?
矢を放つ
放たれた矢に気付いたバーサーカーは今まで通り無視しようとし――
その正体に気付き迎撃しようとする
アーチャー「流石は彼の大英雄か。だが遅い――"壊れた幻想"」
370:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/13(水) 19:14:07.62 ID:5F6uqcyq0
アーチャー「ぎりぎりで叩き折ったか」
バーサーカーの一撃によって直撃を逸らされたそれはバーサーカーを倒す事は出来なかった
セイバーも彼女のマスターに連れられ爆発に巻き込まれなかったようだ
衛宮士郎がこちらを見ている
あの人間の目ではこちらの姿を捕らえる事は不可能なはずだが、間違いなくこちらを見ている
いや、睨んでいるというのが正確だろう
彼は自分がセイバーを殺そうと狙ったと思い込んでいるのだから
そんな彼が愚か過ぎて思わず口角が上がる
少年が倒れる
どうやら爆発の衝撃は免れたものの、爆発した矢の破片が当たったようだ
凛「アーチャー、貴方は家に帰ってて」
アーチャー「その口ぶりだと君は帰らないのか?」
凛「衛宮君を家まで送ってくわ」
アーチャー「何故そんなことをする必要がある」
凛「今日のうちは見逃すって決めたもの」
アーチャー「君は本当に――いや、いい。勝手にしろ」
彼女が一度決めた事は曲げないというのは嫌という程知っている、口を出すだけ無駄というものだ
371:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/13(水) 19:42:02.76 ID:5F6uqcyq0
翌日の夜
マスターの少女と襲われた人達の手当をした後、倒れていた人達が運ばれるのを屋上から見届ける
アーチャー「それで?やはり流れは柳洞寺か?」
凛「そうね。こんなのは人間の手に余る。可能なのはキャスターのサーヴァントだけね」
アーチャー「柳洞寺に巣食う魔女か、――となると昨日は失態を演じたな」
凛「失態…?バーサーカーと引き分けた事?あれは最善だったと思うけど」
アーチャー「どうかな。バーサーカーを倒せず、セイバーを見逃し、こちらは手の内を晒してしまった」
皮肉を込めて言うが少女は答えない
アーチャー「それで今夜はこれからどうする。楽な敵から倒すのがベストだろう。そこから行くとセイバーの陣営か」
凛「……」
アーチャー「それに他のサーヴァントの拠点がわからない今、唯一わかっているセイバーの陣営を攻めに行くのが良いだろう――凛?」
凛「……」
アーチャー「凛聞いているのか?疲れているのなら今日は休むか?そして明日セイバー達のところに――凛」
凛「……」
アーチャー「凛――!!」
凛「っ!え、なに?ごめん、聞いてなかった」
アーチャー「……。今夜はこれからどうすると聞いたのだ。疲れているだろうし大事をとって戻らないかなと」
凛「キャスターを追うわ。尻尾ぐらいは掴めるだろうし、何より――」
アーチャー「喧嘩を売らなければ気がすまないか。やれやれ倒しやすい敵を放っておいて最も倒し難い相手を追うとは」
372:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/13(水) 19:51:30.45 ID:5F6uqcyq0
翌朝
アーチャー「やはり学校に行くのか?」
凛「当たり前でしょ」
アーチャー「衛宮士郎が来たらどうする」
凛「その時は殺すって言ったでしょ。まあセイバーを連れてこないのにそうのこのこと学校に来たりなんか――」
士郎「よっ」
凛「――」
アーチャー「のこのことやって来たようだが?」
凛にのみ聞こえるように呟く
士郎「遠坂?なんだよ、顔になんかついてるのか?」
凛「――ふん」
アーチャー「どうする凛、君がやれないなら私がやるが」
衛宮士郎から顔を背けそのまま歩き出した凛に問いかける
凛「わかってるわよ。あんなのわたし一人で十分よ、アーチャーは帰ってて」
アーチャー「本当にできるのか?」
凛「大丈夫って言ってるでしょう」
アーチャー「はあ。それで私に一人で家にいろと?」
凛「わかったわよ、何処ででも好きにしてたらいいわ」
アーチャー「そうか。ならば、私は君が衛宮士郎を殺すか、他のサーヴァントと戦うまでは自由行動させてもらおう」
凛「そんなに信じられないわけ?わかったからアンタの好きにしなさいよ」
373:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/13(水) 20:05:59.05 ID:5F6uqcyq0
自由行動とは言ったが凛ならば問題なく衛宮士郎を仕留めるだろう
いや彼女は甘いからせいぜい聖杯戦争の記憶を消し令呪を奪うくらいだろう
それでもいい。聖杯戦争にかかわらなければ衛宮士郎が世界と契約することはなくなるのだから
今日は遠坂邸を綺麗に片づけて凛が過ごしやすいように――と思っていたら家に連れて帰って来た
それどころか学校に結界を張ってるライダーを倒すまで一時休戦して共闘するだと?
士郎「じゃあ遠坂、マスター探しは学校でするんだな?」
凛「ええ、明日の放課後廊下で待ち合わせしましょう。あ、それと帰りはアーチャーを付けてあげる」
士郎「え――?」
どうやら衛宮士郎は凛の家というのに浮かれて自分の事を完全に忘れていたようだ
衛宮士郎の目の前に実体化し、睨みつける
衛宮士郎もこちらが気に食わないようでこちらを睨みつけている
凛「よろしくねアーチャー。彼とは協力関係になったから襲い掛かっちゃダメよ」
凛はこちらの敵意に気付いたのか念を押してくる
令呪の誓約もある今こう言われては仕方がない
アーチャー「――解っている。マスターの指示には従うさ」
実体化したままでは襲いかねないため再び霊体化する
それにこれは見極める最後の機会だ
彼が過ちを本当に起こしかねないのかを確かめねばならない
374:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/13(水) 20:49:21.91 ID:5F6uqcyq0
衛宮士郎がここまでで良いと言ったため引き返そうとする
が、彼に呼び止められ実体化する
アーチャー「呼びとめた用件は何だ。まさか親睦を深めよう等というふざけた理由ではあるまい」
士郎「その――そうだ、アーチャー。お前も聖杯が欲しいのか?」
アーチャー「聖杯――?ああ、人間の望みを叶えるという悪質な宝箱か。そんな物はいらん。私の望みはそんな物では叶えられん」
士郎「――なんだって?待ておかしいぞお前。なら何でサーヴァントになんてなってんだよ」
アーチャー「成り行き上仕方なく、だ。“英霊”というものに自由意思等ない。英霊となったモノは以後、ただ人間を守る力として置かれるものだ」
士郎「そんな筈はない。セイバーもお前もちゃんと意思があるじゃないか」
アーチャー「当然だろう、我々はサーヴァントだ。サーヴァントという殻を与えられた英霊はその時点で本来の人間性を取り戻せる」
かつての執念や無念と共に
アーチャー「故にサーヴァントは聖杯を求めるのだろうよ。聖杯を得れば叶わなかった無念を晴らせるだろうし、短い時間であれ人間としてこの世に留まれる」
士郎「なんでそこまでの物をお前は要らないっていうんだ。叶えられなかった願いを叶えられるのに」
アーチャー「単純な話だ。私には、叶えられない願い等なかった」
士郎「え――?」
アーチャー「私は望みを叶えて死に英霊となった。故に叶えたい望みはないし、人として留まる事にも興味はない。それはお前のサーヴァントも同じだろうさ」
士郎「バカを言うな。セイバーは聖杯が必要だって言ったんだ。お前みたいに目的がなくサーヴァントをやってるわけじゃない」
アーチャー「――私の、目的?……ふん、目的があろうとなかろうと同じことだ。セイバーは決して自分のために聖杯を使わない」
士郎「――え?」
アーチャー「―-そのことを。彼女のマスターであるのなら、決して忘れないことだ」
375:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/13(水) 21:05:47.68 ID:5F6uqcyq0
夢を見た
本来サーヴァントは夢など見ない
つまりこれはマスターの記憶だ
女性や幼い少女と遊ぶ、幼い凛
彼女の母親と妹だろうか――
そして泣いてる妹に泣きながらリボンを結ぶ幼い凛
幼い凛の頭に手を置く男性
恐らく彼女の父親なのだろう
そして車椅子に座った女性と共に墓参りをする幼い凛
そして少し成長した凛と持ち主のいなくなった車椅子
中学生ぐらいの凛が延々と高跳びを続ける少年を見続ける
少年が跳び続けるのを見ながら意識が覚醒していく
アーチャー「――む?」
凛「おはようアーチャー。貴方が寝てるなんて珍しいわね」
アーチャー「……起こさず見てるとは人が悪いな君は」
凛「起きてる時と違って素直そうな可愛い寝顔だったわよ」
アーチャー「――意地も悪いな君は」
凛「さ、学校に行くわよアーチャー」
嬉しそうに出かける少女を見て溜息を吐きながら後を追いかける
376:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/13(水) 21:18:20.59 ID:5F6uqcyq0

マスターの少女は疲れたのか今日は早くに寝たため散策に出かける
アーチャー「む?魔力の糸――キャスターか」
片方は柳洞寺、片方は衛宮士郎の家の方に繋がっている
どうやら柳洞寺の方で戦闘をしているらしい
ということはマスターが攫われセイバーが追ったか
アーチャー「未熟者が死ぬのはかまわんが――」
キャスターが衛宮士郎を攫ったのは間違いなく衛宮士郎の令呪を奪うため
つまりセイバーを自分の配下に置くためだろう
セイバーがキャスターの物となるのはまずい
あの未熟者と違い町中から魔力を集めたキャスターの元ならばセイバーは本来以上の力を発揮できるだろう
今の未熟なマスターのセイバーでも自分では勝てないのだ
そうなるとセイバーに勝てる者等一人もおらず必然的にキャスターが聖杯を得るだろう
それだけは絶対に避けねばならない
それにあのような輩にセイバーを渡すわけにはいかない
ならば、することはただ一つというわけだ
アーチャー「やれやれ、世話のかかる小僧だ」
377:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/13(水) 21:45:06.19 ID:5F6uqcyq0
セイバーとアサシンが戦っている上を通り柳洞寺に着く
丁度キャスターが令呪を奪おうとしているところか
無数の矢を放ちキャスターを離す
アーチャー「とうに命はないと思ったが、存外にしぶといのだな」
士郎「お前何で――」
アーチャー「何、ただの通りすがりだ。それで体はどうだ、今のでキャスターの糸なら今ので絶ったはずだが」
士郎「――動く」
アーチャー「それは結構。後は好きにしろ、と言いたいところだが、暫くそこを動かぬことだ。あまり考えなしに動くと――」
キャスター「アーチャーですって!?ええいアサシンめ、何をしていたの!!」
アーチャー「そら、見ての通り八つ当たりを食らうことになる。女の激情というのはなかなかに度し難い。やはり協力しあってるのか君達のマスターは」
士郎「協力し合っている?」
アーチャー「ああ、門の外を守るアサシンと門の内に潜むキャスター。両者が協力関係なのは明白だ」
キャスター「私があの狗と協力ですって?私の手ごまに過ぎないアサシンが?」
アーチャー「キャスター、貴様ルールを破ったな」
キャスター「魔術師の私がサーヴァントを召喚して何が悪いのですか。聖杯戦争に勝つのなんて簡単ですもの」
アーチャー「我々を倒すのは容易いと?逃げ回るだけが取り柄の魔女が」
敢えて挑発し戦闘に持ち込むことで相手の手の内を探る
キャスター「ええ、ここでなら掠り傷さえ負わせられない。私を魔女と呼んだ者には相応の罰を与えましょう」
アーチャー「掠り傷さえと言ったな、では一撃だけ」
キャスターが咄嗟に張った魔法陣を避け斬り伏せる
378:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/13(水) 21:56:16.64 ID:5F6uqcyq0
アーチャー「む?」
キャスター「残念ねアーチャー」
いつの間にか空中にいたキャスターの魔術が襲い掛かってくる
アーチャー「空間転異か固有自制御か、見直したよキャスター」
キャスター「私は見下げ果てたわアーチャー」
襲い掛かる無数の魔弾を避けながら出口を目指すが、魔弾の砲門の一つが別の方向に向いていることに気付く
アーチャー「あの間抜け」
士郎「やっべ」
咄嗟に体が動き少年を助ける
士郎「降ろせバカ!!何考えてんだお前」
アーチャー「知るものか。お前に言われると己の馬鹿さ加減に頭を痛めるわバカ」
士郎「バカ!?お前自分がバカだってわかってんのに人の事バカ呼ばわりすんのかこのバカ!!」
アーチャー「ガキか貴様。ガキでバカとは手をつけられんわ。どっちかにしておけこの戯け」
士郎「なんだと」
キャスターが再び攻撃してくるのを少年を掴んだまま避ける
士郎「いいから離せこのぐらい一人で何とかする」
アーチャー「そうか」
少年を蹴飛ばすのと同時に剣を投げる
379:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/13(水) 22:13:01.23 ID:5F6uqcyq0
体が動かない
キャスター「気分はどうかしらアーチャー、いかに三騎士とはいえ空間そのものを固定化されれば動けないのではなくて」
アーチャー「躱せ」
キャスター「何かしらアーチャー、命乞いなら――」
アーチャー「戯け、躱せと言ったのだキャスター」
先程投げた剣がキャスターを襲い、同時に体の縛りが取れる
アーチャー「――I am the bone of my sword.――“偽・螺旋剣”」
放った矢はキャスターの近くを通りその衝撃波だけでキャスターを墜落させる
キャスター「何故止めを刺さないのですアーチャー」
アーチャー「私の目的はこの男にあったからな。不必要な戦いは避けるのが私の主義だ」
キャスターはその発言が気にいったのか、自分と少年を勧誘してくるがそれを断る
この場所ではキャスターを仕留めることなど不可能だろう
そう判断しキャスターを逃がすが、それに怒った少年が突っかかってくる
危険だ、この男の考え方は――
アーチャー「キャスターを追うつもりか?折角助けてやった命を――」
士郎「うるさい!!お前の助けなんているもんか」
アーチャー「そうか、懐かれなくて何よりだ」
背を向けて歩き出す少年がすれ違う
その瞬間、その小さな背中を斬りつけた
380:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/13(水) 22:21:10.63 ID:5F6uqcyq0
士郎「お前……」
血まみれになりながら少年は這っていく
浅かったか
アーチャー「戦う意義のない衛宮士郎はここで死ね」
士郎「……?」
アーチャー「自分のためでなく誰かのために戦うなどただの偽善だ」
少年に、かつての自分に言い放つ
アーチャー「お前の望む物は勝利ではなくただの平和だ。そんなものこの世のどこにもありはしないというのにな」
いや、自分自身に言い聞かせているのではないか
士郎「なんだと?」
ただどうしようもないほどに怒りが湧いてくる
アーチャー「さらばだ、理想を抱いて溺死しろ!!」
横薙ぎに剣を振るうが少年が階段から転がり落ちたため掠るだけに終わる
体が重い、令呪の縛りに背いてるためか
そんなことは関係ない。今度こそ少年にとどめを――
アーチャー「邪魔をする気か、侍」
アサシン「貴様こそ見逃すと言った私の邪魔をする気か」
侍と撃ち合う
殺す事を邪魔された苛立ちと、自信への苛立ちを込めて――
381:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/13(水) 22:32:04.27 ID:5F6uqcyq0
戦いは比較的早く終わった
マスターの少女が目を覚ましてしまったからだ
魔力の消費から自分が戦っている事に気付いた少女は自分に戻るように命じた
そしてセイバー達を見逃すのが目的だったアサシンはあっさり自分を見逃した
凛「それでアンタは何処で誰と戦っていたのよ、隠す事無く全部話す事」
アーチャー「……」
凛「アーチャー?」
アーチャー「はあ……」
既に自分はあの男を殺そうとした事によって体がかなり重くなっている
何かを隠して話してしまえば、どのサーヴァントとも戦う事が出来ない程の制限を受けてしまうだろう
それ故に全て話した
凛「そう……令呪を以て命じる。協力関係にある限り絶対に衛宮君を襲うな」
アーチャー「何!?――くっ」
凛「それと、これ以上は自由行動を禁止するわ。明日私が学校行ってる間はずっと家にいなさい」
これは困る
この少女が自分のマスターである限り、自分は衛宮士郎を殺せない
ならばこの少女を自分のマスターから外す必要がある
その方法はただ一つ、この少女を殺すしかない――
凛「――アーチャー?」
386:以下、
無理だ
自分の命の恩人であり、自分が昔からずっと憧れている存在であり、自分の魔術の師匠
自分のマスターだという点を除いても、遠坂凛というのは自分にとってかけがえのない存在なのだ
自分の唯一の願いであり、永久の願いである衛宮士郎の殺害のためだとしても
彼女を殺すなんてことは絶対に出来ない
彼女を死なせるなんてことは絶対にあってはならない
ならばどうする
契約を消せるモノ等自分は知らない
もし知っていればあの時契約等せずに済んだ
だがどんな契約をも、というのは宝具でもなければ存在しないだろうが
聖杯戦争のシステムに詳しい者ならばサーヴァントの主従契約の抜け道を知っているかもしれない
聖杯戦争のシステムに詳しい者といえばやはり始まりの御三家だろう
遠坂、マキリ、アインツベルン――
アーチャー「令呪のシステムを作り出したマキリの家が最適だが――」
生憎自分はあの老人を好いてはいない
彼とは決して相容れる事などありえないだろう
ならば自分が行く先は必然的に――
387:以下、
郊外の森、アインツベルンの城
イリヤ「待っていたわアーチャー、遅かったじゃない」
アーチャー「令呪に逆らっているのでね。体の制御が衰えている」
イリヤ「それを考慮して森に案内させたのに」
アーチャー「ふむ、どうやら私がここに来ることはわかっていたらしいな」
イリヤ「侵入者に気付けないなら結界の意味がないじゃない」
アーチャー「それもそうだがね、まさか君が私をすんなり中に招きいれるとはね。何かしらの罠を疑っていたんだが」
イリヤ「あら、そんなに不思議な事ではないでしょう?」
アーチャー「私は遠坂のサーヴァントだ。警戒するのは当たり前だろう?」
イリヤ「貴方に敵意がないのは前の戦いでわかったもの。貴方の殺気はずっとただ一人に向けられていたじゃない」
アーチャー「凛でさえ気付かなかったというのにな。だがその程度で事で君の二人の従者が納得するとは思わないが」
イリヤ「ええ、だからリズとセラをおつかいに行かせたのよ」
アーチャー「警戒心が薄いな君は、彼女ら無で私が君に襲い掛かったらどうするつもりだ」
イリヤ「そんな事貴方はしないわ、バーサーカーに勝てないってわかってるもの。それで貴方の時代の私は貴方を何て呼んでいたのかしら」
アーチャー「やれやれ…相変わらず君には隠し事ができそうにもないな。イリヤ」
イリヤ「当然でしょう?その口ぶりからして別の私と貴方は随分親しかったようね、シロウ」
アーチャー「ああ、――短い付き合いだったがね」
388:以下、
イリヤ「それで、何をしに来たのシロウ。お喋りのためだけにここに来たのではないのでしょう?」
アーチャー「そのシロウと呼ぶのをやめろイリヤスフィール、私は既に衛宮士郎ではない」
イリヤ「そうね、貴方は衛宮士郎であったかもしれないけど、衛宮士郎とは別人だもの」
アーチャー「ああ、でなければ私はここに召喚はされてなどいないだろう」
イリヤ「魂が随分と摩耗しているもの。話を聞きたかったけど、それじゃあほとんど覚えてないのかしら」
アーチャー「この時代に来たことで色々と思い出してはいるがな。残念ながら衛宮切嗣の事などほとんど覚えていない」
イリヤ「名前が出るって事は多少は覚えているのかしら?」
アーチャー「ヤツとの出会いと最期の言葉、そのヤツがオレに遺した二つの呪いぐらいか」
イリヤ「呪い?――そう、貴方の目的はわかったわ。でも残念ね、私はマスター殺し以外に契約破棄の方法は知らないわ」
アーチャー「む、やはりそうか」
イリヤ「サーヴァントから一方的に切れるのなら聖杯戦争が成り立たなくなるじゃない」
アーチャー「となるとやはり方法はないというわけか」
イリヤ「貴方を無理矢理私のサーヴァントにするという方法なら貴方とリンの契約を絶てるわ」
アーチャー「無理矢理?どのようにやるのだ?」
イリヤ「口に出すのも嫌な外道よ。やるとしたらあのマキリぐらいね、それに私のサーヴァントはバーサーカーだけだもの」
アーチャー「そうか。――む?」
イリヤ「どうしたのアーチャー?」
アーチャー「凛からの魔力の供給が途絶えた、応答もない。どうやら結界を動かされたようだ」
イリヤ「そう、なら早く行きなさい。話はまた明日しましょう」
389:以下、
凛がいるであろう学校に着いた時既に結界は消えていた
セイバー「シロウ」
アーチャー「セイバーがいるとは驚いたな」
凛「アーチャー!今更やってきて何のつもりよ!!」
アーチャー「決まっているだろう、主の異常を察してやってきたのだ。もっとも遅すぎたようだがな」
凛「ええ、もう済んじまったわよ!あんたがのんびりしてる間に何が起きたのか、一から聞かせてやるからそこに直れっての!!」
アーチャー「ッチ。どうやら最悪の間で到着してしまったか」
舌打ちしたが勝手な行動のため到着が遅れたのは事実なので素直に小言を聞く
アーチャー「――で、結局、脱落したのはどのサーヴァントだ?」
凛「ライダーのサーヴァントよ」
ライダーのサーヴァント、本来のマスターではない男と戦っていたサーヴァント
アーチャー「腑抜けめ、勝ち抜ける器ではないと思ったが、よもや一撃で倒されるとは。敵と相打つぐらいの気迫は見せろというのだ」
その発言に怒ったセイバーと言い争いになるが凛に窘められ互いに退く
そしてキャスターのマスター探しの話になり
凛「皆疲れてるでしょ?今日はここで解散」
士郎「え、今からでも――」
何かを言いかけた少年は凛によって黙らされる
凛「行くわよアーチャー、帰ったら本気でさっきの不始末を追及するからね」
アーチャー「やはりそうか、凛にしては口汚さが足りないと思っていた」
凛「アンタねえ、ほんっとに一度とことん白黒つけないとダメなわけ!?」
390:以下、
凛「それで、何で遅れたのか理由をきっかり話してもらおうじゃない」
アーチャー「はあ……」
凛「何よ!!」
アーチャー「君は昨夜私にした命令をもう忘れたのかい?」
凛「え?自由行動禁止と家にいろの二つでしょう?まさかそれに従って来なかったとか抜かすんじゃないでしょうね?」
アーチャー「――はあ…」
先程より大きめに溜息をつき、手を挙げ首を横に振る
つまり、わざと呆れているという事を動作で示す
凛「な、何よ?」
アーチャー「君は私と出会った日に令呪を使っただろう」
凛「それが何よ?――あ」
アーチャー「気付いたか。私は君の命令に逆らえば行動が制限される。君の元に向かうのは二つの命令に逆らった事になる」
凛「えっと…つまりは」
アーチャー「君の責任でもあるぞ。本来サーヴァントの行動に制限を付けるのは得策ではない」
凛「でも、それはあんたが衛宮君を――」
アーチャー「だから君を責めるつもりはない。私の要求としては今回の事の不問ぐらいか」
凛「……わかったわ、今日の事は不問にする」
アーチャー「それで明日はどうするのかね?」
凛「学校にいるキャスターのマスターを探すわ。アーチャーは自由にしてて、ただし衛宮君達には近づかないこと」
アーチャー「了解した」
392:以下、
イリヤ「あら、今日は早かったのね」
アーチャー「縛りがなくなったのでね」
セラ「アーチャー!?何故ここに――」
リズ「イリヤの敵、排除する――」
イリヤ「待ちなさい二人共、私の客人よ」
セラ「何を言っているんですかお嬢様、相手は――」
アーチャー「リズ、たい焼きだ。君はこういうのが好きだろう」
リズ「おー。ありがと、アーチャー。おいひい」モグモグ
セラ「リーゼリット!!敵から渡された物を何の警戒もなく――」
リズ「良いじゃん別に。セラ頭固すぎ」
イリヤ「そうそう、セラは融通がきかないんだから」
セラ「な!?」
アーチャー「そう彼女を悪く言うモノではない。敵陣営のサーヴァントを警戒するのは至極当然の事だ」
セラ「そうです――って何で私はアーチャーにフォローされているんでしょう…」
イリヤ「それでアーチャー、貴方は今日は何を聞きに来たのかしら」
セラ「今日はって前も来たのですか!?」
アーチャー「昨日聞いた強制的にサーヴァントにするというのどのようなものか訊きたくてね」
393:以下、
イリヤ「説明するだけなら簡単よ。サーヴァントは魔力の塊でしょう?その魔力を汚染すればいいのよ」
アーチャー「魔力を汚染だと?そのようなことできるのか?」
イリヤ「ええ、汚染された聖杯を用いればね」
アーチャー「――なるほど、そのような仕組みか」
イリヤ「詳しく話さないでも理解できたかしら」
アーチャー「ああ、しかしそうなると契約の破棄に他の方法はないということになるな」
イリヤ「あら、そんなことはないわ」
アーチャー「む?他に方法があるというのかね?」
イリヤ「こっちは確実とは言えないけど、貴方キャスターに誘われていたでしょう?」
アーチャー「あれを覗いていたのか。それがどうかしたのかね?」
イリヤ「キャスターはどうやって貴方を自分の軍門に入れるつもりだったのかしら」
アーチャー「あの小僧にやろうとしたように、凛を導いて令呪を剥ぎ取るのだろう」
イリヤ「あの場にリンはいなかったし、お兄ちゃんと違ってリンはそんな間抜けな罠にはまらないわ」
アーチャー「つまりキャスターは令呪を剥ぎ取る以外に契約を移せると?」
イリヤ「確証はないけど、アサシンを召喚するぐらいだもの。システムは把握してるだろうし、それに――」
アーチャー「裏切りの魔女というわけか。――ふむ、確かめてみる価値はあるというわけか」
イリヤ「もう行くの?」
アーチャー「ああ……これで君と会うのは最後になるだろう。近いうちにどちらかが消えるだろうしな」
イリヤ「どちらか?それは貴方でしょうアーチャー、貴方はセイバーに――行っちゃったか」
394:以下、
翌日の夕方
凛「アーチャー」
アーチャー「呼んだかね」
凛「キャスターのマスターに検討がついたわ」
アーチャー「ほう、ようやく戦闘というわけか。やれやれ、これでやっと私の仕事が――」
凛「貴方は家にいなさい」
アーチャー「何?まさか今朝の件を根に持ってるのかね?」
朝に協力するのはキャスターの方がマシだと言い口論になっている
凛「違うわ。セイバーを連れて行くのに貴方まで来たらフェアじゃなくなるわ」
アーチャー「――まさか君は聖杯戦争でフェアな戦いを挑むつもりか」
凛「ええ、遠坂たるもの常に余裕を持って優雅たれ――二対一なんて全然優雅じゃないわ」
アーチャー「――勝手にしたまえ。作戦がないというわけではないのだろう」
凛「ええ、柳洞寺に戻る前に叩くつもりよ」
アーチャー「そうか」
凛の事だ、想定外の事でキャスターを取り逃す可能性は高い
凛「何よその顔、まさか私が何の策も立てずに挑むとか思ってたんじゃないでしょうね」
アーチャー「君がそのように愚かじゃなくて安心しているよ」
凛「アンタねえ……絶対にキャスターを仕留めてくるから楽しみにしてなさい!!」
アーチャー「ああ、期待せず待っていようとも」
凛「――っ、ふん。今に見てなさいよ!!」
395:以下、
アーチャー「それで、言い訳を訊くとしようか」
凛「……まさか葛木があんな強いとは思わなかったのよ」
アーチャー「……ふっ」
凛「あ、あんた今鼻で笑ったわね!?」
アーチャー「それで、葛木が強いと言ったな。それはどういう事だね?」
凛「どういう事も言葉通りの意味よ。葛木が前で戦ってキャスターが後方支援」
アーチャー「セイバーにはあの女の魔術は効かないだろう」
凛「そう。キャスターの攻撃なんて何の動作もなしに全部無効にしてたわ。それでも葛木に負けたのよ」
アーチャー「待て、セイバーが負けたのか」
凛「そうよ。葛木の一撃をセイバーは避けたんだけど、その避けた筈の攻撃に掴まったのよ」
アーチャー「ふむ、初見殺しの技というわけか」
凛「どう、対応できそう?」
アーチャー「そのような技があると知っていればやられる心配はない。だが――」
凛「だが何よ?」
アーチャー「セイバーがやられてどうやって生き延びた」
凛「それは……衛宮君のおかげよ」
アーチャー「何?」
凛「衛宮君が貴方の剣を投影したの。それで葛木の攻撃を全部捌いたのよ。アーチャー?」」
アーチャー「――いや、何でもない。疲れただろう、今日はゆっくり休むことだ」
399:以下、
イリヤ「アーチャー、昨日で会うのが最後だったんじゃなっかったかしら」
アーチャー「なに、事情が少し変わってね」
イリヤ「それはセイバーがキャスターを仕留めそこなったから?それともエミヤシロウが貴方の剣を投影したからかしら」
アーチャー「その両方とも言えるが、やはり違うな。キャスターの宝具らしきものが見えたのでな」
イリヤ「あら、貴方は昨日あの場にはいなかったでしょう?」
アーチャー「それは使い魔で覗き見していた君にも言えることだがな」
イリヤ「そういうのはいいわ」
アーチャー「私には覗き見に適した道具があるのでな」
イリヤ「へえー、それでキャスターの宝具がどうかしたの?」
アーチャー「あれはおそらく契約に何かしらの影響を与える類だろう、確証はないがな」
イリヤ「じゃあキャスターの軍門に降るのかしら」
アーチャー「冗談はよしたまえ。あの女狐とはウマが合わんよ、ただ利用させてもらうだけさ」
イリヤ「てっきり敵対関係になるからって宣戦布告かと思ったわ」
アーチャー「私が裏切ればきっと凛は君に助けを頼みに来るだろう。そのときは凛を一時的に拘束してもらいたい、無傷でな」
イリヤ「一時的?」
アーチャー「私が衛宮士郎を殺して、セイバーが凛と再契約するまでの間だ。その後ならばどうしてもかまわん」
イリヤ「凛と契約したセイバーならバーサーカーを倒せるって思ってるでしょう?……いいわ、その代わりに条件があるわ」
アーチャー「条件?」
イリヤ「貴方の話を聞かせて。覚えている限り全てを」
アーチャー「あまり楽しい話ではないが――まあそのぐらいなら良いだろう」
400:以下、
セラ「お嬢様、食事の準備が整いました」
イリヤ「あら、もうそんな時間?楽しい時間って過ぎるのが早いのね」
アーチャー「楽しんでもらえたようで何よりだ」
イリヤ「ええ、貴方が宿泊費のために三ツ星店のシェフと料理勝負をしたってところは傑作だったわ」
アーチャー「おかげで噂が噂を呼びあらゆる有名なホテルのシェフと色々あったがな」
イリヤ「アーチャーも食べて行きなさい。もっとお話したいわ」
アーチャー「私はサーヴァントだ、食事の必要など――」
イリヤ「摂る必要がないだけで別に食べれるんでしょう?お姉ちゃんのお誘いは断らないの」
アーチャー「今の私は君よりも年上なんだがな、そう言われると致し方がない」
リズ「――アーチャーって口リコン?それともシスコン?」
アーチャー「ゴホッ!?リズ、君はいったい何処でそんな言葉を覚えたのかね?」
リズ「買い物行ったとき、立ち読みしたお店の本に載ってた」
セラ「リーゼリット、貴方そんなことしていたのですか……」
アーチャー「む?凛か、どうした?」
リズ「アーチャーが遂に独り言を……」
セラ「え……」
アーチャー「人をそんな可哀想なモノを見る目で見るな!!これはただの念話だ――いやこちらの話だ。了解した」
イリヤ「どうかしたのアーチャー?」
アーチャー「凛に命令されたのでね。そろそろ帰るとしよう」
イリヤ「そう、今度こそ本当にお別れね。さようならアーチャー」
401:以下、
アーチャー「凛」
凛「あ、宿泊道具持ってきてくれた?」
アーチャー「ああ、だが正気かね?」
凛「勿論。あと明日は同行頼むわよ」
アーチャー「同行?何処に行くつもりだ」
凛「デートよ」
アーチャー「デートだと!?君とわた――」
凛「そ、衛宮君を存分に楽しませてやるんだから」
アーチャー「そうか……」
凛「アーチャー?どうかした?」
アーチャー「……なんでもない」
士郎「おーい遠坂ー。遠坂ー」
凛「あ、ちょっと行ってくるわね」
凛が声の主の元に行き、何かしら会話しているのが聞こえる
凛「お待たせ、あ、そうだアーチャー」
アーチャー「なんだね?」
凛「衛宮君昨日の投影から調子悪いのよ。貴方の剣のことだから力になれるならなってあげて」
アーチャー「……了解した」
凛「そ、頼んだわよ。本当にどうしたのよアンタ?」
アーチャー「別にどうもしていない」
402:以下、
衛宮士郎の居所なんてすぐにわかる
この時間なら土蔵で日課の魔術の鍛錬をしているだろう
セイバー「見たところ異常があるのは半身だけのようですが」
士郎「いや異常ってほどじゃない。ただ麻痺してるだけなんだから」
どうやら丁度その話をしていたらしい、ならば好都合だ
アーチャー「体の大部分が麻痺したままか。当然と言えば当然だな」
セイバー「アーチャー……!」
セイバーが少年を守るように立ち塞がる、そして当然だが彼女からは敵意が溢れている
セイバー「何用だアーチャー。我らは互いに不可侵の条約を結んでいるはずだ、己が主の命を守るのなら早々に立ち去るがいい」
セイバーの忠告を無視して進む。生憎マスターの命令は彼の助けとなることだ
セイバー「――止まれ、それ以上進むのならば相応の覚悟をしてもらおう」
セイバーの敵意が殺気に変わっていく
士郎「待つんだセイバー。あいつにその気はない」
セイバー「ですが――」
士郎「要件はなんだよアーチャー。お前の事だ、挨拶しにきたわけでもないんだろう」
アーチャー「投影したと凛から聞いていたがやはりそうか。半身の感覚がなく、動作が中よりに7センチ程ずれているのだろう?」
士郎「――」
言い当てられた事に驚いたのか少年が固まる
アーチャー「体を見せてみろ。力になれるかもしれん」
403:以下、
同調、開始――
心の中でだけ唱えて、背中を向ける少年の体に魔力を流し容態を調べる
アーチャー「運の良い男だ、壊死していると思ったが閉じていたモノを開いただけか」
士郎「閉じていたモノが開いた?」
アーチャー「お前の麻痺は一時的なモノだ。使われていなかった回路に全開で魔力を通した結果、回路そのものが驚いてる状態だろう」
少年の体に再び魔力を流す、それに痛みを感じた少年が一瞬呻き声を上げる
アーチャー「こんなところか、体を動く頃には以前よりマシな魔術師になってるだろう」
セイバー「詳しいのですねアーチャー」
アーチャー「似たような経験があってな。私も初めは片腕をもっていかれた」
最も自分の時は壊死してしまったが
少年達に背を向け立ち去ろうする
士郎「待てよ」
アーチャー「なんだ、セイバーに頼み込んでいつぞやの続きをするつもりか?」
士郎「訊きたいことがある、理想を抱いて溺死しろ、あれがどんな意味なのかってな」
アーチャー「言葉通りの意味だ。付け加えるモノ等何もないが」
士郎「――――!じゃあお前はなんだアーチャー!お前は何のために戦っているんだ」
アーチャー「――知れた事。私の戦う意義は、ただ己の為のみだ」
士郎「自分の為だけ、だと」
アーチャー「そうだ、お前の欲望が"誰も傷つけない"という理想ならば勝手にするがいい」
アーチャー「ただし――それが本当にお前自身の欲望ならばな」
士郎「――な」
404:以下、
アーチャー「戦いには理由がいる。だがそれは理想であってはならない」
そう理想を理由に戦い続けても悲劇しか呼び起こさない
アーチャー「理想のために戦うのなら、救えるのは理想だけだ。そこに、人を助ける道はない」
少年もセイバーも言葉が出ていない、反論が思い浮かばないのだろう
アーチャー「戦う意義とは何かを助けたいという願望だ。少なくともお前にとってはそうだろう、衛宮士郎」
士郎「――――」
アーチャー「だが他者による救いは救いではない。そんなもの金貨と同じだよ、使えば他人の手に渡ってしまう」
かつての過ちを思い出し、それに嫌悪を抱きながら話す
アーチャー「確かに誰かを救う等という望みは達成できるだろうが、そこにはお前自身を救うという望みがない」
士郎「――」
アーチャー「お前はお前の物ではない借り物の理想を抱いて、おそらくは死ぬまで繰り返す」
セイバー「――」
アーチャー「だから無意味なんだ、お前の理想は」
既に少年に言い聞かせるために話しているのではなくなっている
士郎「――――っ」
アーチャー「人助けの果てには何もない。結局他人も自分も救えない、偽りのような人生だ――」
そう言い残しその場を去る
そう自分の間違いでしかない人生は偽りしかなかったのだろう
405:以下、
翌日、同行を断り、凛、セイバー、衛宮士郎の三人が遊んでいるのを遠目に眺めるていた
何が悲しくて憧れ続けた少女と忘れられなかった少女が他の男と楽しくやっているのを近くで見なければならないのだ
そんな中午前中まで晴れ渡っていた空が曇り始めた
三人も雨のために帰るらしく、様子見もここまでで良いと先に帰宅した
彼女らが家にたどり着く頃には日も暮れ雨も本格的に降り始めているだろう
そう考え遠坂邸に先に帰り、風呂の用意をし、夕飯の支度に取り掛かったのが失敗だった
アーチャー「遅かったな凛、とっくに夕飯の支度はできている――」
びしょ濡れとなったマスターは血まみれの少年と気を失った女性を抱えて帰ってきた
アーチャー「何があった凛――」
凛「説明はあと!!タオルと救急箱持ってきて!!あと着替え」
凛は少年と女性の手当てを終え、泥と血で汚れた体を洗うために風呂に入る
そして風呂に入っている少女に念話で何が起こったのかの説明を聞く
アーチャー「――そうか、セイバーが奪われたか」
やはりキャスターの宝具は契約を断つモノだったか
凛「随分無関心なのねアーチャー。貴方、セイバーに肩入れしてたんじゃないの?」
アーチャー「そんな素振りを見せたつもりはないが、何を以ってそう思う凛」
凛「そうね、女の勘、で納得できる?」
アーチャー「却下だ、女という歳か君は。まず色香が足りない。致命的なのが、とにかく可愛さが判り辛い」
406:以下、
凛「ふん。ようやく調子が出てきたわねアンタ」
嬉しそうに言う彼女を見て乗せられた事に気づく
凛「確証その一、貴方セイバーと会ったとき手を抜いてたでしょ」
アーチャー「む」
凛「いくらセイバーが強いっていっても、守り上手な貴方が一撃で倒されるとは思えないのよね」
アーチャー「あれは不意打ちだったからな。君と同じ、予想外の展開には弱いんだ」
実際あれはセイバーとの思わぬ再開に驚いたため隙ができてしまっただけで決して手を抜いたわけではない
凛「余計なお世話よ。確証その二、ライダーの一件の後セイバーを挑発してたでしょう。あれってどう考えてもアンタらしくないのよね」
凛「それで少し見方を変えたらわかっちゃった、貴方セイバーを叱ってたんでしょう」
アーチャー「…………」
凛「あ、正解?やっぱりねー、前世からの因縁にしろ何にせよ、アンタがあそこまで冷たい態度をとるなんて珍しいもの」
アーチャー「そうかな。私は誰に対してもああいった対応をしていると思うのだが」
凛「そうは思うは本人ばかりってね。で、そろそろ思い出した?自分がどこの英雄か。セイバーに近い時代の英雄なんでしょう?」
彼女の口ぶりは何かを試しているようだが、それは違うとわかっていて訊いているように思えた
アーチャー「――いや、だが君の言う通りあのセイバーには覚えがある。あちらは知らないようだから、あまり深い関係ではなかったようだが」
彼女は自分と共に戦い敗れたセイバーではなく、また異なる世界のセイバーなのだろう
凛「うーん、じゃあ友人とか恋人とかの関係じゃなかったのね。残念、そうだったらセイバーの正体がわかったのに」
やはり彼女はそのようなことを考えていないようだ
ただ、何か確かめたかった事に確信を持ったようだ
408:以下、
このまま会話を続けるのはまずいと感じ話題を変える
アーチャー「連れ込んできた者の様子はどうだ。命に別状はないのか?」
凛「うん、何とか命は取り留めたわ。昨日まではケガを負っても勝手に治ってたのに――」
アーチャー「そっちじゃない。もう一人の方だ」
凛「あ、藤村先生?キャスターの眠りの魔術を受けてるみたいだけど、処置してきたから一週間眠り続けても支障はないわ」
アーチャー「――そうか。だがあの女のそれは魔術というより呪いだ、解呪するには本人を倒すのがてっとり早い」
凛「そうね、どの道聖杯戦争は長く続かない。まああの人ならひょっこり自力で起きてきそうだけど」
アーチャー「――違いない」
否定できないのが恐ろしいが、もしあのまま眠り続けることになってしまうのは困る
アーチャー「キャスター退治が最優先だな。マスターが減ったとはいえ、セイバーは建材だ。余裕はないぞ凛」
凛「わかってる。すぐに街に出るわ、セイバーが操られる前にキャスターを倒さないと」
アーチャー「了解だ。―――ではあの小僧との契約もここまでだな」
凛「え――?」
アーチャー「え?ではない。衛宮士郎はもうマスターではないのだろう。ならば君が使った二つ目の令呪はこれで解約だ」
これで彼女が頷いてくれれば自分は彼女を裏切らないで済む
アーチャー「まさか、共に戦ったよしみで面倒を見てやるなどと言うのではなかろうな」
凛「まさか、そこまでお人よしじゃないわ」
アーチャー「なら――」
凛「けどあいつが降りるっていうまでは約束は破らない。それが私の方針よ――文句あるアーチャー」
そう、彼女はそういう人間だ。ならば――
アーチャー「仕方あるまい。君がそういう人間だということは痛いほどわかっている」
409:以下、
キャスターが陣取っている教会に攻め込む
どうやらキャスターはここの主を襲撃し奪ったようだ
神父の死体を確認しなかったキャスターを挑発する彼女を見ていると懐かしい感覚を思い出す
キャスター「貴女、この状況で私たちに勝てるつもりなのかしら」
凛「やりようによってはね。葛木先生のことは事前にわかっていれば私のアーチャーの敵ではないわ」
凛の計画はこうだ
凛が秘策とやらでキャスターを倒し、自分が葛木を倒す
一見無謀に思える計画だが、彼女を見ていると乗ってみる価値はあると思った
アーチャー「魔術師ではキャスターにかなわないとわかっているのか、凛」
念のために確認する。自分が葛木を殺せてもその間に凛が殺されては意味がない
凛「安心して、勝ち目もない事は言い出さないわ。キャスターはここで倒す」
それを聞いて安心した。ならばここでキャスターを倒すために自分の本来の力を――
凛「そうすればセイバーは元に戻って、士郎と契約し直せるでしょ」
もしそのセリフがなければ、自分はここで全力を出し、キャスターとそのマスターをここで仕留めただろう
アーチャー「理想論だな、彼女をここで倒すというのは難しい。逃げるだけなら彼女は当代一だ、何せ逃亡のために実の弟を八つ裂きにする女だからな」
凛「アーチャー?ちょっと、何のつもりよ」
攻撃をしかけようと構えた凛とキャスターの間に割って入ったことに対する文句だろう
アーチャー「――恨むなよ小僧、こうなっては、こうする以外に道はなかろう?」
階段の上から隠れてる少年への言葉にキャスター達は首をかしげる
アーチャー「さて、キャスター。一つ訊ねるが、お前の許容量にまだ空きはあるのだろうな」
410:以下、
キャスターの宝具によって自分と凛の契約は断たれた
先ほどまで凛と繋がっていたパスは、今はキャスターと繋がっている
少女を殺そうと動き出したキャスターのマスターとの間に、全てを見ていた少年が割って入り攻撃を捌く
しかし見たところ既に少年は限界だろう
セイバーの剣で貫かれ、無茶な投影をし、殺人鬼の攻撃を受けたのだ
キャスター「そこまでのようね。ここでまとめて――」
アーチャー「待てキャスター」
キャスター「アーチャー、貴方にこの場での発言権がないことぐらい読み取っていると思ったけど」
アーチャー「言い忘れていたことが一つあった。君の軍門に降るには一つだけ条件をつけたい」
キャスター「条件ですって」
アーチャー「ああ、無抵抗でお前に自由を差し出したのだ、その代償にここの場では奴らを見逃してやれ」
キャスター「見逃せですって?……ふん、言動の割に随分と甘いのね」
アーチャー「さすがに裏切った瞬間に主を殺した、では後味が悪い」
キャスター「いいわ、今回は見逃してあげるわ。けれど次に目障りな真似をしたら誰が止めようと殺します。それでいいかしらアーチャー」
アーチャー「当然だ、この状況で戦いを挑むような愚か者ならば手早く死んだ方がいい」
キャスター「そういうことよお二人さん、敗者らしく逃げるように立ち去りなさい」
階段をのぼっていく少女が途中で足を止めこちらを見てくる
アーチャー「恨むなら筋違いだぞ凛。マスターとしてこの女の方が優れていただけの話だ、私は強い方をとる」
凛「そうね、けど私は絶対に降りないわよ。キャスターを倒してアンタを取り戻す。その時になって謝っても許さないんだから」
アーチャー「それは無駄骨だな。まあ自殺するというのなら止めはしないが」
411:以下、
外の見回りを命じられたが敵がいないため中に戻り、キャスターと雑談しまた外に戻る
そして日が変わる
恐らく凛達はイリヤに助けを求めるはずだ
そしてイリヤは約束通り凛を拘束し、おそらくここに来るのは衛宮士郎、イリヤとリズの三人だろう
正面で自分が衛宮士郎と戦い殺す
中に入ったイリヤ達はリズが葛木を倒し、中で開放されたバーサーカーがキャスターを倒す
仮にセイバーが動かされても問題はない
衛宮士郎を殺し次第中に戻りキャスターを始末する
そうすればイリヤ達とセイバーが戦う必要はなくなり、セイバーは自分を殺すために凛と契約するだろう
アインツベルンの城からの移動時間を考えると、攻め込んでくるとしたら夜明け前になるだろう
それまでどのようにして時間を潰すか
そうだ、葛木に話を聞きに行こう
以前の自分はマスターとしての葛木を知らず、いつの間にか彼は行方不明になっていた
キャスターの行動を認めているという点で彼には嫌悪感があるが、教師である彼の目的を知るのもまた一興かもしれない
葛木「なぜここに?罪人と咎められてもやむをえないぞ」
アーチャー「何、そういえば最期までアンタを知る機会はなかったと思ってね」
葛木「……良いだろう、外で話すか」
412:以下、
葛木との会話を終え外に戻る
ここに向かってる気配が二つ
バーサーカーの気配を感じないということはイリヤではない
だが想定内だ。彼女ならイリヤスフィールに助力を求めないことも十分ありえた
イリヤに監禁されない限り必ず彼女は来たのだろうから
アーチャー「君の事だ、必ず来ると思っていた。それで用意した策はなんだ、何の手出てもなしで勝負を挑む君ではあるまい」
ランサー「ああ、取りあえずテメエの相手はこのオレだ」
アーチャー「驚いたな、私を失い、数日と経たずに新しいサーヴァントと契約したか」
ランサーが教会に元いた人物のサーヴァントであることは知っていた
だから彼が近づいてくることに何の疑問も持たなかったがまさか凛と共にいるとは――
ランサー「前からテメエは気にくわないと思っていたが――テメエ、性根から腐っていたようだな」
アーチャー「ほう、裏切りは癪に障るかランサー。自分が裏切られたわけでもないのに律儀なことだ」
ランサー「別に嬢ちゃんに肩入れする気はねえよ。単に、テメエみたいなサーヴァントがいるってことが気にくわねえだけだ」
ランサーから殺気が放たれる
この調子では衛宮士郎達に気を一瞬でも向ければ自分は敗れるだろう
凛達はランサーに声をかけて教会に入っていく
ランサー「全く面倒なことになっちまったな。おいそれと主を裏切れない身としちゃあ少しばかり眩しいってもんだ」
アーチャー「随分と甘いモノだなランサー。君は隣の芝生は青いという言葉は知っているか」
ランサー「なーに言ってやがる。んなもん、オレが知ってるワケねえだろうが――――!!」
413:以下、
ランサーとの勝負はあっさりと終わった
彼の宝具を自分の宝具では受け止めきれなかった
キャスターの監視がなくなった以上、自分にランサーと戦う意義はない
あっさり降参し、それで全てを悟ったランサーは草むらに寝転がった
その場を離れキャスター達の元に辿り着く
葛木「セイバーを起こせ。甘くみていい相手ではなさそうだ」
キャスター「ええ、的確な判断ですわマスター」
アーチャー「――ああ、それがあと数秒程早ければな」
既に投影は完了している
魔力を察知したキャスターが上を見上げ、頭上に浮かぶ無数の剣に気づく
アーチャー「――投影、開始」
一斉に落下を始めた剣はキャスターとそのマスターに襲い掛かり、キャスターはマスターを庇い消滅した
凛「アーチャー、もしかしたらって思ってたけど、そういうコト?」
葛木「獅子心中の虫か、これを狙っていたなアーチャー」
アーチャー「ああ、だがどちらかといえばトロイの木馬だろう」
葛木「そうか、お前のような男を引き入れたキャスターの落度だったな」
アーチャー「続けるというのなら止めはしない」
葛木の攻撃をかわし、その心臓を貫く
葛木はあっけなくその生を終えた
414:以下、
士郎「セイバー!!」
倒れているセイバーに少年がかけよる
アーチャー「――投影、開始」
セイバー「シロウ!!」
セイバーが少年を押しのけ、射出された数本の剣は床に突き刺さる
アーチャー「――チ、外したか」
凛「アーチャー、何のつもり!?キャスターは倒したんだから、もう勝手な真似は許さないわよ!!」
マスターだった少女が詰め寄ってくる
アーチャー「許さない?なぜ私が許されなければならないのだ、マスターでもないオマエに」
凛「え?アーチャー……?」
アーチャー「オマエとの契約は切れている。何故自由となった私が、自ら進んで人間の手下になると思うのか?」
凛「まさか、アーチャー」
アーチャー「私は私の目的のためだけに行動する。だがそこにオマエがいては些か面倒だ」
凛の周りに投影した無数の巨大な剣を落とし檻を作る
アーチャー「ここまで来て邪魔はさせん。契約が切れた今、オマエにかけられた令呪の縛りも存在しない」
彼女の命令に服従と衛宮士郎を殺すなの二つの邪魔などもう存在しない
アーチャー「キャスターについた理由はそれだけだ。あの令呪を無効にするには契約を破棄するしかなかったからな」
凛「やっぱり――何でよアーチャー!!アンタまだ士郎を殺すつもりなの!?」
やはり彼女は自分の正体、真名に気づいてしまったようだ
アーチャー「そうだ、自らの手で衛宮士郎を殺す。それだけが守護者と成り果てたオレのただ一つの願望だ」
419:以下、
アーチャー「いつか言っていたなセイバー。オレには英雄としての誇りがないのかと。当然だ、オレには馬鹿げた後悔しかない」
そう、後悔しかない
アーチャー「オレはね、セイバー。英雄になど、ならなければ良かったんだ」
本気でそう思っているからこそ、つい素の自分が出た
セイバー「――――」
それでセイバーも悟ったのだろう、アーチャーの正体が英霊となった衛宮士郎なのだと――
セイバーから敵意が完全に消え去る
アーチャー「そういうことだ、退いているがいい騎士王。マスターがいない身で無茶をすればすぐに消えるぞ」
セイバー「そうはいかない。マスターでなくなったとしても、契約は消えない。彼を守り、剣となると誓った」
アーチャー「そうか。ならば偽りの主共々ここで消えろ」
キャスターの令呪に逆らい続けていた彼女に魔力は残っていない
数度の攻撃で彼女は膝をついた
彼女をここで斬る事に躊躇いはない。今まで守りたいと思ったモノをそうやって排除してきたのだから――
士郎「っあああああああ――――!!」
降り落した剣を割って入った少年に受け止められる
アーチャー「ほう、あと暫くは大人しくしていると思ったがな。流石に目の前で女が殺されるのは耐えられないか」
士郎「うるさい。お前が殺したがってるのは俺だろ。なら、相手を間違えるな」
420:以下、
少年が使っている武器も、その剣技も全て自分と同じだ
アーチャー「人真似もそこまでいけば本物だ。だが――お前の体は、その魔術行使に耐えられるかな」
士郎「――く」
アーチャー「分不相応の魔術は身を滅ぼす。お前をここまで生かしてきた魔術の代償、ここで支払うことになったな」
士郎「黙りやがれてめえ――」
相手は自分と同じ剣技で攻めてくる。だが、所詮借り物だ
いくら精巧に模倣したところで決して本物には敵わない
アーチャー「納得がいったか。それが衛宮士郎の限界だ。無理を積み重ねてきたお前には相応しい結末だろう」
もう少年は立ち上がれない、終わりだ
ようやく長かった時に終止符をうつことが――
凛「――告げる!汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に!聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら――」
アーチャー「――!」
セイバー「セイバーの名に懸け誓いを受ける。貴方を私の主として認めよう、凛――!!」
烈風が巻き起こる
正規のマスターを得、本来の力を取り戻したセイバーの姿
アーチャー「ち、元より凛と再契約させるつもりだったが、些か手順が違ってきたか」
あの底なしのような膨大な魔力であればあのバーサーカーさえ簡単に倒せるだろう
アーチャー「それで、どうするセイバー。凛と契約した以上、君は本当に衛宮士郎と無関係になったわけだが――」
セイバー「言ったはずですアーチャー、シロウとの誓いはなくならないと。貴方こそどうするのですアーチャー、今の私を相手して勝機があるとは思わないでしょう」
アーチャー「たかが魔力が戻った程度でよくもそこまで強気になる!!」
421:以下、
決着は一瞬でついた
セイバーの攻撃に自分は耐えられなかった
セイバー「ここまでですアーチャー。万全な貴方ならまだしも今の貴方の魔力ではこれ以上戦えない」
セイバーの言う通りだろう
ランサーとの戦いで半分以上の魔力を費やした上に、今の自分には魔力を供給するマスターがいない
セイバー「この世に留まるための依代もいない。魔力の供給もままならない、今の貴方に何ができる」
アーチャー「それこそ余計な世話だ。アーチャーのクラスには単独行動のスキルが与えられる。魔力の供給がなくても二日は存在できよう」
それだけあれば衛宮士郎を殺すには十分だ
セイバー「馬鹿な…貴方の望みは聖杯ではなく、シロウを殺す事だとでも!?貴方の望みは間違っている、そんなことしても貴方は――」
アーチャー「それはこちらの台詞だセイバー。君こそいつまで間違った望みを抱いている」
セイバー「アーチャー……」
セイバーから距離をとり武器を消す
セイバー「アーチャー、剣を捨てたということは戦いを納める気に――」
アーチャー「まさか、オレはアーチャーだぞ?元より剣で戦う者ではない」
最もその弓すら、借物の贋作だが――
“I am the bone of me sword”
セイバー「やめろアーチャー!私は貴方とは――」
アーチャー「セイバー、いつかお前を解き放つ者が現れる。おそらく次も、お前と関わるのは私なのだろうよ」
“Unknow to Death.Nor Known to Life”
アーチャー「だがそれはあくまで次の話。今のオレの目的は衛宮士郎を殺す事だけだ、それを阻むのなら、この世界はお前が相手でも容赦はせん」
“――Unlimited blade works.”
422:以下、
セイバー「これ、は――」
セイバーが戸惑いの声をあげる
凛「固有結界。心象世界を具現化して現実を侵食する大禁呪。つまりアンタは剣士でもなければ弓兵でもなくて」
アーチャー「そう、生前、英霊となる前は魔術師だったということだ」
セイバー「では貴方の宝具は――」
アーチャー「そんなものはない。宝具が英霊のシンボルだというのなら、この固有結界こそがオレの宝具」
セイバー「これが…貴方の世界だというのかアーチャー」
アーチャー「そうだ、なんなら試してみるかセイバー。お前の聖剣――確実に複製してみせよう」
セイバー「私の聖剣、その正体を知っていうのか」
アーチャー「勿論、あれほどのものになると完全な複製はできぬが、真に迫る事はできる」
普段ならば到底投影などできぬが、この世界の中にその実物があるのだから
アーチャー「となるとどうする?聖剣同士が衝突した時、周りの人間は生きていられるかな」
セイバー「な――アーチャー、貴方は……」
アーチャー「そういうことだ、間違っても聖剣を使うなセイバー。生き残るのは衛宮士郎だけ、それではあまりにも意味がない」
左手を上げると背後の地面刺さっていた剣が次々に浮遊していく
アーチャー「抵抗はするな。運が良ければ即死することもない。事が済んだ後お前のマスターに癒してもらえ」
背後の剣をセイバーと衛宮士郎の両方を貫ける位置に配置する
アーチャー「躱してもいいが、その場合、背後の男はあきらめろ」
士郎「――投影、開始。ふざけ――――てんじゃねえ、テメエ――――!!」
423:以下、
アーチャー「チ――」
固有結界は発動自体の魔力の消費は小さいが、展開後に世界の修正力が働くため維持に莫大な魔力を要する
つまり時間切れというわけだ
固有結界・無限の剣製がなければセイバーのいるこの場で衛宮士郎を殺す事はできない
凛「ちょ――アーチャー、アンタ―――!?」
凛の首筋に手をあて、魔力を流し込み意識を刈り取る
セイバー「どこに行く気ですアーチャー」
アーチャー「これ以上邪魔の入らないところだ。今のでオレは魔力切れだしな」
士郎「――郊外だ」
アーチャー「何?」
士郎「だから郊外の森だ。そこに使われていない城がある。あそこなら誰にも迷惑はかからない」
セイバー「シロウ!?」
郊外の森の城だと
あそこにはイリヤスフィールの、アインツベルンの城しかないはずだ
誰にも迷惑がかからないはずが――
アーチャー「そうか、アインツベルンの城があったな。確かにあそこなら邪魔は入るまい。良い覚悟じゃないか衛宮士郎」
士郎「それまで遠坂に手を出してみろ。その時はセイバーの手を借りてでもお前を殺してやる」
アーチャー「一日は安全を保障してやる。だが急げよ、オレとて時間がない。もしその前にお前を殺せないとなると腹いせに人質をバラしかねん」
424:以下、
アインツベルンの城に来たはいいが来客があった
慎二は凛が欲しいようだが関係ない
高笑いをする慎二とその後ろにいる金髪の男・英雄王ギルガメッシュを無視して外に出ようとする
ギルガメッシュ「――偽物」
それを無視して出て行き、城の広場に向かう
ギルガメッシュ「待てアーチャー」
アーチャー「何の用だギルガメッシュ。慎二の手前見過ごしたが、始末しにきたか」
ギルガメッシュ「お前のマスター、いや元マスターか。あの娘には我が合図をするまでは手を出さぬよう慎二に言っておいてやったぞ」
アーチャー「ふん、余計な真似を。あの少年がそう容易くそれを守るとは思えんがね」
ギルガメッシュ「あのような道化、手綱を握るのは容易いことよ」
アーチャー「何を考えているギルガメッシュ」
ギルガメッシュ「愉悦さ。貴様のような贋作は見るに堪えんが、貴様のやろうとしている事は実に興味深い」
アーチャー「私のやろうとしている事だと?」
ギルガメッシュ「我も昔の我に会えば同じ事をするだろうよ」
アーチャー「君は昔ではなく今の自分との遭遇でも喜んでするだろう。君はそういう男だ」
ギルガメッシュ「やはり貴様の贋作は我の宝物庫から盗み見たモノか」
アーチャー「そうだとしたらどうするのかね」
ギルガメッシュ「コトが済んだ後で我自ら裁定してやろう」
425:以下、
夜が明けてようやく到着した衛宮士郎と対峙する
アーチャー「オレは人間の後始末などまっぴらだ。だが守護者となった以上、それを抜け出す術はない、ただ一つの例外を除いて」
英雄となる筈の人間を、英雄になる前に殺してしまえば、その英雄は誕生しない。故に――」
セイバー「シロウを殺すというのですか。他でもない、貴方自身の手によって」
アーチャー「そうだ、その機会だけを待ち続けた。それだけを希望にして、オレは守護者などというものを続けてきた」
セイバー「それは無駄です。貴方はもう守護者として存在している。ならもう遅い、シロウを消滅させたところで貴方は消えはしない」
アーチャー「今更結果など求めていない。これはただの八つ当たりだ。くだらぬ理想の果てに道化になる衛宮士郎という小僧へのな」
士郎「アーチャー、お前、後悔しているのか」
アーチャー「無論だ。オレ、いやお前は正義の味方になぞなるべきではなかった」
士郎「そうか、それじゃあやっぱり俺たちは別人だ」
アーチャー「何?」
士郎「俺は後悔なんてしない。どんな事になったって後悔だけはしない。だから絶対にお前の事も認めない」
アーチャー「その考えがそもそもの元凶なのだ。お前もいずれオレに追いつく時が来る」
士郎「来ない、絶対に来るもんか」
アーチャー「わかっているのだろうな、オレと戦うという事は剣製を競い合うという事だと――投影、開始」
士郎「――投影、開始」
両者構えるのは、見た目が同じの双剣
アーチャー「オレの剣製についてこれるか。少しでも精度を落とせばそれがお前の死に際になろう!!」
426:以下、
何度も互いの剣はぶつかり合う
その度に衛宮士郎の剣は砕かれる
そして何度も少年の肉を斬りつける
アーチャー「投影による複製ではそろそろ限界だな。わざわざアレを見せてやったというのに、未だそんな勘違いをしているとはな」
そう、本来固有結界をあそこで使う必要はなかった
見せたのは衛宮士郎の矯正をするために――
いや、何を考えている。オレはあの男を――
打ち合う度に頭痛が襲い掛かる
これは同じ存在が同じ場所に存在するが故の――違う
いや無理矢理引き出されているというのが正確か
双剣をやめ一角剣を投影し貫きにかかるが、同じモノを投影され防がれる
アーチャー「計算違いか。前世の記憶を降霊、憑依させることでかつての技術を習得する魔術があると聞くが――」
少年の投影精度は先ほどまでとは比にならない
アーチャー「オレと打ち合う度にお前の技術は鍛えられていくようだな」
あの吐きそうな顔、投影技術や剣技だけでなく、あの地獄も引き出したのだろう
絶世の名剣(デュランダル)を投影し衛宮士郎を斬り飛ばす
アーチャー「オレにはもはやお前の記憶などない。だがそれでもあの光景だけは覚えている。絶望の中で助けを請い、衛宮切嗣という男のオレを助け出した時の安堵の顔を」
427:以下、
アーチャー「お前はただ衛宮切嗣に憧れただけだ。あの男のお前を助けた顔があまりにも幸せそうだったから、自分もそうなりたいと思っただけ」
――僕はね、正義の味方になりたかったんだ
――じいさんの夢は、俺が叶えてやるよ
アーチャー「お前の理想はただの借り物だ。衛宮切嗣という男がなりたかった、正しいと信じたモノを真似ているだけだ」
士郎「それ、は――」
アーチャー「正義の味方だと?笑わせるな。誰かの為になると繰り返し続けたお前の想いは、決して自分で生み出されたものではない」
少年と打ち合いながら罵倒する
アーチャー「そんな男が他人の助けになるなどと、思い上がりも甚だしい!!」
怒りのままに少年に剣をぶつける
アーチャー「誰かを助けたいという願いが綺麗だったから憧れた!!」
既に剣技も糞もない。ただ怒りのまま力任せに振るっているだけ
アーチャー「故に自身からこぼれ落ちた気持などない。これを偽善と言わずなんという!」
少年の剣が折れ曲がる
アーチャー「この身は誰かの為にならなければと強迫観念に突き動かされてきた。それが破綻していると気づく間もなく走り続けた」
彼の心を折るための罵倒ではなくなっている
アーチャー「だが所詮偽物だ。そんな偽善では何も救えない。もとより何を救うべきかも定まらない」
少年、かつての自分に対する怒りか
アーチャー「その理想は破綻している。そんな夢を抱いてしか生きられぬのであらば、抱いたまま溺死しろ!!」
士郎「ふさ――けんな!――体は――――I am the bone of my sword.」
428:以下、
アーチャー「貴様まだ――そうか、彼女の鞘――」
士郎「お前には負けられない。誰かに負けるのはいい。けど、自分には負けられない――!!」
アーチャー「ぬっ――――!!」
既に慢心創痍であるというのに、少年の一撃は自分の剣を弾いた
アーチャー「な――――に?」
少年の剣戟は今までより遥かに重く、今までの比ではないぐらい早かった
少年は息が上がり、既に死に体だ
それなのに何故――
士郎「……じゃない」
少年が何かを呟く
士郎「……なんか……じゃない」
少年の声は弱かった。しかしその剣戟は苛烈だった
アーチャー「チ――」
既に敵に意識はない。無意識に慢心創痍のまま剣を振るっているのだ
一歩下がればこの敵は前のめりに倒れ死体となるだろう
だが、何故かそれは許せなかった
あと二つ防げば敵は自滅する、そう読んでから何十回この打ち合いを続けている
士郎「……なんか、じゃない!!」
429:以下、
繰り返される剣戟に終わりはないのだと悟る
既に敵は指を骨折し、あらゆる場所を斬られている
それでもこの敵は止まらない
この敵は決して自分からは止まらない
勝てぬと知って、なお挑み続けるその姿に
その姿は自分が憎み続けた過ちに他ならない
だというのに――
アーチャー「そこまでだ、消えろ――」
敵がが今まで防げなかった渾身の一撃
それは容易く弾かれ、左胸ががら空きになる
しかしその衝撃で敵の腕と足が折れたのがわかる
折れていない方の攻撃が来るも、自分ならば簡単に防げる
そして切り返せば彼は死に、自分の勝ちと――
士郎「間違いなんかじゃない!」
――まっすぐなその視線
士郎「――決して、間違いなんかじゃないんだから!!」
間違いじゃない、その言葉を聞き、敵を殺そうとした必殺の一撃が止まる
そして、自分の胸に刃物が突き刺さる
何故今の攻撃が止まってしまったのかはわからない
ただ一つわかっているのは――
士郎「俺の勝ちだ、アーチャー」
アーチャー「――ああ。そして私の敗北だ」
430:以下、
自分はサーヴァントだ、貫かれたぐらいでは簡単に反撃できる
それをしようと思わないということは、自分は彼を認めてしまったのだろう
少年が剣を引き抜く
魔力が尽きかけているのか、自分の傷はもう治らない
セイバー「シロウ、大丈夫ですか?」
士郎「ああ、なんとか――あれ?傷が塞がってきてる」
アーチャー「セイバーの鞘のおかげだ。衛宮切嗣があの火災の際、お前を助けるために埋め込んだものだ」
士郎「セイバーの鞘?」
セイバー「なるほど、シロウの傷がすぐ治るのはそのためですか」
凛「士郎無事!?ってアーチャー、アンタその傷どうしちゃったのよ」
あんな目にあわしたというのに、彼女は未だパートナーとして自分を心配するというのか
アーチャー「――まったく、つくづく甘い。彼女がもう少し非道な人間なら、私もかつての自分に戻らなかったものを」
セイバーがついている、凛はもう大丈夫だろう
アーチャー「ともあれ決着はついた。お前を認めてしまった以上、エミヤなどと言う英雄はここにはいられん。――敗者はそうそうに立ち去るとしよう」
立ち去ろうとしてその気配に気づく
士郎「え?」
少年を何とか突き飛ばすが自分には無数の剣が突き刺さる
セイバーや現れた男が何かを言っているが聞き取れない
そんな中再び第二射が飛んでくる
さて、かつての約束通り自分が相手をするのもいいが
あの男と約束したのはかつての自分だ、ならば――
――お前が倒せ
431:以下、
アーチャー「く……」
何とか霊核の破壊は免れたらしい
とはいえ、実体化するほどの魔力は先ほどの攻撃で消え去った
自分にはもう目的がないのだから消えてしまっても良いのだが
やれやれ彼女のせいだ
どうやらお人好しなところが移った、いや元に戻ってしまったというべきか
彼女たちの結末を――
いや、この聖杯戦争の結末を見守らせてもらうとしよう
聖杯の降臨が行われているのは間違いなくあの場所だろう
しかしもし凛やあの少年が危機に陥った場合
いや、ないに越した事はないのだが――
ギルガメッシュには最後まで気づかれてはいけない
彼に勝てる可能性があるとすれば、彼が慢心して本気を出さない場合のみだ
セイバーの聖剣は聖杯を破壊するのに必要不可欠である
そうするとセイバーとギルガメッシュが戦うのは避けたい
つまりギルガメッシュが自分を警戒しないように援護する必要がある
ぎりぎりまで霊体で離れた位置で見守らせてもらうとしよう
なに、何もなければそのまま消えればいい
432:以下、
正面以外から山に入る
自分がここまで弱っていなければ結界を抜けるのは不可能だっただろう
ギルガメッシュの前に魔力の渦が発生している
それに対して衛宮士郎があらゆる武具を前方に展開している
だが、あの程度のものではあの英雄王の乖離剣の一撃を防ぐ事はできないだろう
聖杯の泥が溢れ出て周囲にサーヴァントの気配が溢れている現状だ
これならばヤツの視界に入らなければ気づかれる事はない
幸い乖離剣は威力が凄まじ過ぎるため、視界は良好とは言い難い
アーチャー「I am the bone of my sword――“熾天覆う七つの円環”」
乖離剣の一撃が直撃する寸前、何とか盾が間に合う
しかし、さすがのアイアスもあの一撃を完全に防ぐ事は叶わなかったか
吹き飛ばされ倒れていた衛宮士郎が立ち上がる
そしてその表情を見て察する
彼ならば暫く様子を見守る必要はないだろう
となると一旦凛の様子を見に行くべきか
彼女は衛宮士郎以上に心配だ
彼女は急な展開に弱い上、一番大事な場面ではやらかしてしまうからな
433:以下、
凛はどうやら聖杯の泥の中の肉塊の中にいるらしい
泥の前で立ち尽くしているセイバーの様子を見る限り念話で会話しているのだろう
かつて彼女達両方と契約をしていた名残か
彼女達のパスを通じて凛の様子を探ることができる
凛「……ごめんねセイバー。言う事きかないだろうから無理矢理聞かせる」
どうやら相当まずい状況のようだ
先ほどのアイアスの盾での消費で助け出せる程の魔力が残っているのかがギリギリなところだが
凛「あとアンタにも謝っとかないと。慎二、助けられなか――」
考えるまでもない
投影した無数の剣を射出すると同時に念話を送る
アーチャー「いいから走れ。そのような泣き言、聞く耳もたん」
凛「えっ――」
あの泥や肉は一度攻撃したところですぐに再生する
となれば、魔力の続く限り射出し続け道を創る他ないだろう
脱出した少女が令呪を用いてセイバーに叫ぶ
セイバー「約束された――勝利の剣」
黄金の光が聖杯の孔を破壊するのを見届け、少年の元に向かう
全く最期まで世話のかかる少年だ
434:以下、
ギルガメッシュに最期の力で投影した短剣をぶつけた後、光が差し始めた崖に立つ
凛「アー、チャー」
アーチャー「残念だったな。そういうわけだ、今回の聖杯は諦めろ凛」
凛「アーチャー」
少女は何かを言おうとしているが、言葉が見つからないようだ
相変わらずな少女の懐かしい姿に思わず笑みが浮かぶ
凛「なによ、こんな時だってのに、笑うことないじゃない」
アーチャー「いや失礼、君の姿があまりにもアレなものでね。お互いよくもここまでボロボロになったとあきれたのだ」
凛「アーチャー、もう一度わたしと契約して」
アーチャー「それはできない。私にその権利はない、それにもう目的がない。私の戦いはここで終わりだ」
凛「けど!それじゃあアンタが…いつまでも――」
アーチャー「まいったな、この世に未練はないが――凛」
涙を堪える少女の顔は可愛かった、もっと彼女といたいという気持ちが湧くがそれは自分の役目ではない
アーチャー「私を頼む。知っての通り頼りないヤツだからな。君が支えてくれ」
凛「アー…チャー……。わかった、私頑張るから、きっとアイツが自分を好きになれるように頑張るから。だからアンタも――」
その先の言葉は少女の表情を見ればすぐにわかった
ああ、自分は誰かに認めてほしかったわけではなかったが――やはりこの少女は別格なのだろう
その少女の姿をしっかり記憶に焼き付ける
アーチャー「答えは得た。大丈夫だよ遠坂。オレも、これから頑張っていくからさ」
435:以下、
輪廻の枠から外れ、時間の概念もない此処ではただそうであった記録だけが増えていく
それが過去に起きたことなのか、未来に起こることなのかはわからない
ただ、そういう記録だけが増えていく
殺して、殺して、殺して、
殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して――
善悪の区別なく、命じられるままに気が遠くなるほど殺して
絶望に嘆く人を救うのではなく排除して――
これでは生前とは何も変わらないのではないか
既に生前の記憶等、ほとんど覚えていない。既に魂は摩耗しきっている
だから憎んだ
争いを繰り返す人々と、それを救いたい等という愚かな願いを持った生前の自分という間違いを
この繰り返される輪から外れるにはただ一つ、自分という間違いを消す事を願っていた
ただ一つの願いが、自分という間違いを排除するということが達成できそうな時が一度だけあったらしい
しかしその時それは達成しなかった
ただ、答えは得た
後悔はある、何度やり直しを望んだかはわからない
この結末をエミヤは未来永劫呪い続けるだろう
だがそれでも、オレは間違えてなどいなかった

445:以下、
オマケ1
エミヤ「このオマケはこのスレの本編や、原作における補足や説明のようなものだ。例えば―」
士郎「お前のカラドボルグ?って本物の螺旋剣と形状が離れ過ぎていないか?」
エミヤ「だから偽なのだ阿呆め。あれは偽・螺旋剣(カラドボルグ?)であって、虹霓剣(カラドボルグ)ではない」
士郎「どう違うってんだ?」
エミヤ「私は虹霓剣の贋作を投影しているというわけではないという事だ」
士郎「だからどういう事だよ?」
エミヤ「だがあの剣は神造兵器だ。セイバーの聖剣やギルガメッシュの乖離剣と同じで投影はできん――投影開始」
士郎「うわっ!?これが虹霓剣を投影したヤツか?」
エミヤ「ああ、見ての通り中身のない外側だけだがな。そしてこれを見ろ」
士郎「これはセイバーの剣?カリバーンだったっけ?」
エミヤ「そしてここに基本骨子から虹霓剣の螺旋の部分を抽出して付け加えると――」
士郎「偽・螺旋剣の出来上がりってわけか」
エミヤ「昔はどうせ爆発させるのだからと思っていたが、空っぽのものでは大して威力が出ないのでな」
士郎「それをさらに矢として放ちやすく形状を変えて放っているのか」
エミヤ「ああ、爆発させずともキャスターの防御を破れる程の威力はあるぞ」
士郎「でも何で聖剣は投影できるんだ?」
エミヤ「十年間聖剣はの鞘をその身に宿していたからな。もっとも鞘の投影は彼女とのパスがない今はできないがな」
446:以下、

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