相良宗介「とてもやさしいパンツァー・フォー」back

相良宗介「とてもやさしいパンツァー・フォー」


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大洗女子学園 生徒会室
桃「馬鹿げている!!」
柚子「桃ちゃん……」
杏「落ち着け、かわしまぁ」
桃「ですが、会長!! これでは約束が違います!! 私たちは何のために戦車道をやってきたのか……!!」
杏「向こうの言い分はこうだ。『優勝したら統廃合の話を白紙にするという約束はしていない。ただ考慮はすると言っただけ』って」
桃「詭弁です!! 今から学園艦教育局に乗り込みましょう!!」
杏「私たちがギャーギャーいっても、事態は変わんないって」
桃「学園のこともありますが、こんな結果では西住の努力はどうなるのですか!!」
柚子「西住さんが一番頑張ってたもんね」
桃「西住に申し訳が立たない……」
杏「……あいつに頼んでみっかぁ。少し癪だけどな」
桃「あいつ?」
杏「陣代高校のかいちょー」
柚子「えぇ!? あの人にですか!?」
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3: 以下、
陣代高校 生徒会室
蓮「お電話です」
敦信「誰かな。性質の悪いセールスや会議の申し出なら美樹原君の判断で断ってくれて構わないが」
蓮「学園艦『大洗女子学園』の会長さんからです」
敦信「ほう。予想外だな。代わろう」
蓮「どうぞ」
杏『もっしもーし、角谷杏ぅ』
敦信「久しぶりだね、角谷君。まさか、君から連絡をもらえるとは思わなかったよ。最後に会ったのは、いつだったかな」
杏『去年の高校自治連絡会じゃない?』
敦信「君が議長を務めると言って大揉めした会のことだね。思い出した」
杏『林水だって退かなかったじゃん』
敦信「そうだったかな。忘れてしまった」
杏『ま、そんなことはどーでもいいんだよね』
敦信「だろうね。君が意味のない電話をするとは思えない」
杏『察しがいいねぇ。実はそっちの噂が偶然、私の耳に入っちゃってさぁ。その確認をしたいんだ』
5: 以下、
敦信「噂? なんのことかな」
杏『万年一回戦負けだったラグビー部が強豪の硝子山高校に圧勝したってやつ』
敦信「事実だ。非公式ではあるがね」
杏『ふぅん。ま、別に疑ってたわけじゃないんだけど』
敦信「なるほど。誰がラグビー部を指揮したのかを知りたかったわけか」
杏『理由は分かる?』
敦信「大洗女子学園は今年度の戦車道大会優勝校だ。有能な指揮官が欲しいわけでもあるまい」
杏『それがあるんだよねぇ』
敦信「話が見えてこないな。はっきり言いたまえ。君らしくもない」
杏『大洗女子学園が統廃合されそうになっていた話は知ってる?』
敦信「ああ。歴史ある学園艦ではあるが、生徒数の減少、また目立った実績もないという理由で廃校へ進んでいたはずだ」
杏『あと、維持費の問題ね』
敦信「しかし、目立った実績は今年、生まれた。戦車道全国大会優勝という輝かしい実績がね」
杏『それだけじゃ納得しなかったみたいだねぇ』
敦信「そういうことか。一度決定したことを覆すためには優勝の二文字では足りなかったか。残念だ」
6: 以下、
杏『その決定を覆す手伝いをしてほしいんだよね』
敦信「……君が文部科学省に突きつけた条件とは何だね?」
杏『さっすが、林水。もう私の言いたいことは分かったか』
敦信「現状では戦車道以外での実績は作れない。部活動でも細やかな活動に留まっているようだからね」
杏『大洗女子学園の統廃合を白紙にする条件、それは戦車道オールスターチームに勝つこと。で、どう?』
敦信「ほう。その相手は?」
杏『黒森峰にプラウダに、聖グロリアーナ、サンダース。どう。いいっしょ』
敦信「全て君の対戦相手だったチームからか。何か意図でもあるのか」
杏『単に頼みやすいってだけだけどね』
敦信「各校から1輌ずつ選出か」
杏『そう。5対5のガチバトル。その条件なら問題ないって言わせる』
敦信「全てはこれからなのに、既に実現しているかのようだな。流石は学園艦を統べる者だ。そうでなくては務まらないか」
杏『褒めてもなーんもでないよ。手伝ってくれたら、干し芋ぐらいはあげるけど』
敦信「その報酬なら、こちらも喜んで協力させてもらおう。まずはその条件を相手に呑ませるところからか」
杏『そこまで林水に甘える気はないって。やってほしいことは、一つだけだからねぇ』
7: 以下、
大洗女子学園 生徒会室
杏「おっけぇ。んじゃ、よろしくぅ」
桃「話はまとまったのですか」
杏「ああ。これから私は話をつけてくるけどな」
桃「それなら私も一緒に」
杏「いいから、いいから。河嶋と小山はこの件を西住ちゃんだけに伝えて」
桃「西住だけですか?」
杏「あんまり言いふらして変な噂が流れても嫌だからね」
桃「分かりました」
杏「それじゃ、行ってくるよ」
柚子「はいっ。会長、お気をつけて」
杏「うん」
柚子「私たちもいこっか、桃ちゃん」
桃「桃ちゃんと呼ぶなっ!」
桃(会長はどう話をつけるつもりなんだ……?)
8: 以下、
教室
沙織「それでね、このお店の人にナンパされちゃったんだぁ。もー、どうしよー」
みほ「そうなの!?」
華「沙織さん。あれはそういった類のものではなく、沙織さんがどの洋服を買おうか悩んでいたからでは?」
沙織「でもでも! あれは多分、私情も挟まってたと思うもん!!」
みほ「あはは……」
桃「西住はいるか」
みほ「あ、はい。どうしたんですか?」
桃「話がある」
みほ「分かりました」
沙織「あのー、私と華は?」
桃「西住だけで良い」
柚子「ごめんね。楽しく話していたみたいなのに」
華「いえ、気にしないでください」
桃「話はすぐに終わる」
10: 以下、
廊下
優花里「ふっふふーん」
優花里(良い雑誌が手に入りましたぁ。西住殿も喜んでくれるでしょうか)
優花里「おや?」
みほ「お話ってなんですか」
桃「実はな……」
優花里(なにやら重大なお話をされているみたいですね……)
みほ「えぇぇ!?」
桃「静かにしろ」
優花里(こ、これはかなりの事件ですか……。あの西住殿の様子では……)
優花里(もう少し聞いていたいけどいわば将校同士での密談ですし、これ以上盗み聞きはいけません!)
優花里(でも……気にもなりますし……。あぁー!! どうしたらいいのですかー!! 西住どのー!!)
柚子(あれ、秋山さんが頭を抱えてる……。どうしたんだろう……)
11: 以下、
みほ「統廃合はなくなったんじゃ……」
桃「私たちもそう思っていた。しかし、当局はどうしてもこの学園艦を失くしたいらしい」
みほ「そんな……みんな、あんなにがんばったのに……」
桃「会長も想いは同じだ。既に動き出している」
みほ「何をするつもりなんですか」
桃「悔しいことだが、この学園の存在を認めさせるには戦車道しかない。戦車道で全国大会優勝以外の箔をつけるしかないんだ」
みほ「大会以外でどうするんですか」
桃「戦車道国際大会強化選手に選ばれた者のみで固めたチームと我々大洗チームが対戦し、勝利する」
みほ「な……!?」
桃「無論、連盟にも頼み込み公認試合ということにする。戦車道全日本オールスターチームに勝利できれば来年度の生徒数も確実に増える」
みほ「優勝しただけでも増えそうな気がしますけど」
桃「何度も言うが、優勝だけではダメなんだ。それ以上の成果が欲しい」
みほ「オールスターってことは、お姉ちゃんも……」
桃「西住まほだけでなく、聖グロリアーナやサンダース、そしてプラウダからも参加予定だ」
みほ「いくらなんでも戦力に差がありますし、各校とも一度私たちと試合をしています。データを取られた状態では、圧倒的に不利としか言えません」
12: 以下、
桃「不利な状況は大会時から同じだ。それを私たちは覆し、優勝した」
みほ「弱小校だからという相手の油断も多分にあった大会当時とは違います」
桃「それでもやるんだ。学園を守るために」
みほ「……」
柚子「ダメかな? こんなことを頼めるのは西住さんしかいないの」
みほ「でも、私たちで各校のエースを相手にするなんて……」
桃「お前が不安になるのもわかる。お前に全てを負担させてしまっているのも承知の上だ。だからこそ、今回は会長が助っ人を用意してくれている」
みほ「助っ人?」
柚子「なんでも弱小だったラグビー部をとっても強くさせた教官がいるらしいの」
みほ「それは蝶野さんではないんですか」
桃「蝶野教官はどちらかと言えば中立だ。大会のときも我々に直接的指導をしてくれた回数は数えるほどだっただろう」
柚子「あくまでも蝶野一等陸尉は特別講師だったから」
桃「その所為で、西住には大きな荷を、いや、全ての荷を背負わせたといってもいい」
みほ「そんなことはありません。生徒会のみなさんだって、私の知らないところでたくさん苦労していたはずです」
桃「我々のことなどどうでもいい。全ては西住の双肩にかかっていたのだからな。そして、今回もまたお前に全てを任そうとしている。だからこその助っ人要請だ」
13: 以下、
柚子「その人と西住さんが一緒なら、きっと短期間でもっと強くなれるって会長が言ってるんだけど……」
みほ「いくらなんでも、お姉ちゃんやケイさんが一緒のチームと試合なんて……」
桃「……頼む、西住。他には誰にも頼れないんだ」
みほ「や、やめてください。優勝したのだって、私だけの力じゃない。みんながいたからこそなんです」
桃「頼む」
みほ「……」
柚子「西住さん、おねがいっ」
みほ「私は……」
優花里「あ、あの!! それはずるいと思います!!」
みほ「優花里さん!?」
桃「お前、話を聞いていたのか」
優花里「勝手に盗聴したことは謝ります!! でも、お二人は卑怯ではないでしょうか!!」
桃「なんだと」
優花里「西住殿にかかる重圧は私などでは測り知れません……。隊長を務めない、試合に参加しないという選択肢があってもいいと思います!!」
みほ「優花里さん……」
14: 以下、
桃「それだと学園を守れない!! 秋山、お前はこの学園から卒業できなくなってもいいのか!!」
優花里「それは嫌です!! 私だって断固として、この大洗を死守したいです!!」
桃「ならば、西住の協力は必要不可欠だ」
優花里「そんなことはありません」
桃「西住を抜いてもオールスターチームに勝てるというのか」
優花里「勝ち負けの問題ではありません。学園が無くなるかどうかの責任を西住殿一人に背負わせたくないだけです」
桃「お前……」
柚子「やめてよぉ、桃ちゃん。秋山さんの言い分は当然だと思うけど」
桃「しかしだな」
優花里「西住殿が参加したくないというのであれば、私たちで戦えばいいだけの話です」
桃「それで勝てなければ、西住が非難を浴びるかもしれないんだぞ」
優花里「そんなこと、絶対にさせません!! 許しもしません!! 立派に指揮官として戦ってくれた西住殿を悪く言うなんてあってはならないことですから!!!」
みほ「……」
桃「……わかった。西住、すぐに返答が欲しいわけではない。ただ、私たちカメさんチームは参加を決めている。あんこうチームから何名が出るかは教えてほしい。以上だ」
みほ「あ……河嶋さん……」
15: 以下、
柚子「西住さん。無理強いはしたくないけど、できれば……また……隊長として……」
桃「柚子、こい」
柚子「う、うん。そ、それじゃ」
みほ「はい……」
優花里「西住殿」
みほ「優花里さん……私……」
優花里「西住殿が決めてください。誰も強制なんてしません」
みほ「ありがとう。けど、私もこの学園は守りたいから」
優花里「わかっていますよぉ。だからって隊長として試合に臨むことはありません。試合は楽しんでこそです」
みほ「うん……」
優花里「西住殿……。そ、それはそうと、見てくださいっ、西住殿。この雑誌が手に入りましたよ」
みほ「あ、これってアーム・スレイブのことがよく載ってるやつだ」
優花里「おぉー!! 西住殿!! やはり知っていたのですね!! では、このアーム・スレイブマンスリーも!?」
みほ「あ、ああ、うん。知ってる、知ってる。優花里さんって戦車だけじゃないんだね」
優花里「はぁぁ……まさか、この書物の存在を知っているなんてぇぇ……。私、戦車はもちろん一番大好きなのですが、こうしたASにも目は通しています!」
16: 以下、
陣代高校 生徒会室
敦信「すまないね、急に呼び出してしまって」
宗介「いえ。会長閣下のご命令とあれば、授業中であろうと招集に応じます」
かなめ「応じなくていい」
敦信「相良君、千鳥君。学園艦の存在は知っているね」
宗介「はっ。来るべき国際化社会ために広い視野を持ち大きく世界に羽ばたく人材の育成と、生徒の自主独立心を養い高度な学生自治を行うために造船された巨大艦船のことです」
敦信「その通り。流石だね」
宗介「恐縮です」
かなめ「たしか重厚長大産業が世界不況で落ち込んで、それらを助けるってことで教育と連携したのも学園艦が普及した理由でしたっけ」
敦信「うむ。この陣代高校も一時は学園艦になる話もあったが、今は見送られている。とはいえ、近い将来はそうなることだろう」
蓮「現代では中高の殆どが海上になっていますからね」
敦信「時代のうねりには逆らえないということだろう」
かなめ「意味がわかりません……」
宗介「その学園艦がどうかされたのですか」
敦信「知人から連絡があってね。協力してほしいことがあるらしいのだよ」
17: 以下、
かなめ「協力ってなんです?」
敦信「応援要請は大洗女子学園の会長からだ。名前は角谷杏。彼女とはちょっとした知り合いでね」
かなめ「その学校知ってます。戦車道の大会で優勝したところですよね」
敦信「それも戦車道を復活させたその年にだ。これは高校戦車道史でも異例のことだった」
宗介「千鳥、せんしゃどうとはなんだ?」
かなめ「軍事オタクのソースケが知らないの?」
宗介「ああ、聞いたことがない」
敦信「華道、茶道に並ぶ乙女の嗜み。それが戦車道だ。戦車を用いた武道と思ってくれて構わない」
宗介「戦車を使ったスポーツということですか」
かなめ「世界中で愛されてるスポーツなんだけど、知らないの?」
宗介「千鳥は戦車道の経験があるのか?」
かなめ「あたしはないわよ。そういう堅苦しいのは苦手だしね」
敦信「美樹原君は経験者だったかな」
蓮「齧った程度です。人に言えるほど研鑽を積んでもいません」
かなめ「お蓮さんは似合いそうよね」
20: 以下、
敦信「その大洗女子学園が今、廃校の危機に瀕している」
かなめ「えぇ? そうなんですか」
敦信「そうなのだよ。戦車道の全国大会を制した学園が、だ」
宗介「それは何故ですか」
敦信「学園艦には莫大な維持費がかかる。生徒数が減少すれば、その維持費を賄うことができなくなる。簡単な理屈だ」
蓮「大洗女子学園の入学者が年々減り続けているのは事実です」
敦信「そこで会長である角谷君は一念発起し、戦車道を復活させ、大会で優勝すれば廃校は白紙にしてほしいという条件を出した」
かなめ「すごい……」
宗介「巨大艦船を守るために戦車で戦うとは、見上げた兵士だな」
敦信「しかし、彼女の努力もむなしく、廃校の話は順調に進んでいる。来年度には大洗の学園艦は幽霊船の仲間入りだ」
かなめ「どうしてですか? きちんと結果を出したのに」
敦信「学園艦が一つ無くなるだけで、財政が大幅に改善されるからだろう。大洗も県立だからね」
宗介「よくわかりませんが、血反吐を吐きながらも結果を出した兵士に対し、上層部が約束を反故にしたということですか」
敦信「端的に言えばそうなる」
宗介「その角谷という人物も無念でしょうね」
33: 以下、
敦信「常人ならばそこで膝を折り、泣き寝入りすることだろう。しかし、角谷君は違う」
かなめ「もう行動を起こしているということですか」
敦信「我々への応援要請もその一つだ」
宗介「屈強な精神力を有している。まさに一流の兵士だな」
かなめ「まぁ、普通なら心もぽっきり折れちゃって諦めちゃうわよね」
宗介「最大の戦果もあげた直後なら尚更だ。並の人間にはまずできんことだ」
かなめ「確かに」
敦信「彼女はこれから上層部へと掛け合うつもりのようだ。廃校を撤回する条件を叩き付ける気でいる」
かなめ「その条件ってなんですか」
敦信「戦車道国際大会強化選手に選抜されたオールスターチームに大洗の現戦力で勝利することだ」
蓮「出場参加予定校は黒森峰、プラウダ、聖グロリアーナ、サンダースとあります」
かなめ「どこも優勝候補だったところじゃないですか!?」
敦信「故にオールスターだ。試合は5対5の殲滅戦を想定しているそうだ」
蓮「黒森峰からは2輌、他は1輌ずつで参加させるとのことです」
かなめ「そんなの勝ち目はあるんですか?」
34: 以下、
敦信「ないとは言わないが、とても厳しいものだろう。そもそも所有している戦車に差がある」
かなめ「だったら、無理なんじゃ……」
敦信「しかし、圧倒的に不利な試合を戦術で勝ち進んだのが大洗女子学園だ」
かなめ「あれはテレビで見ててもよかったですからね」
敦信「判官贔屓と言われたらそれまでだが、大洗を応援していた者は多かったと聞く」
宗介「優秀な指揮官がいるようですね」
かなめ「噂では隊長が凄腕だってことだけど」
敦信「西住みほ。彼女はまさに大洗の英雄だろう」
かなめ「そうそう! 西住さんよ! あの子が弱小校を優勝に導いたんだってみんなが言ってましたよ」
敦信「ふっ……」
かなめ「なにか?」
敦信「いや。なんでもない」
宗介「お言葉ですが有能な指揮官がいるのならば、自分たちが手を貸すことはかえって足を引っ張ることになり兼ねません」
敦信「それだけでは無理だと角谷君は考えている。そこで陣代高校ラグビー部を生まれ変わらせた指揮官を助っ人に欲しいと頼まれたわけだ」
かなめ「はぁ!? ど、どういうことですかぁ!?」
35: 以下、
敦信「角谷君が欲しいのは戦術ではなく、短期間で勝利を呼び込むことができる心の強さだ」
宗介「なるほど」
かなめ「なるほどじゃない!! あんた、またあんなことをさせる気なの!? しかも女の子に!!」
宗介「それを向こうが望んでいるのならば仕方ない」
かなめ「やめい!!」パシーン!!!!
宗介「割と痛いぞ」
かなめ「やかましい!! あれはまだ男子だからよかったけど、あんなことを女の子にさせたら死んじゃうわよ!!!」
宗介「それはおかしい。ラグビー部も言っていたはずだ。今は男女平等。女らしく男らしくというのが――」
かなめ「そういうことじゃない!!!」スパーン!!!!
敦信「落ち着きたまえ、千鳥君」
かなめ「林水先輩!! 頼まれたのかなんだか知りませんけど!! こいつにだけは指揮させちゃダメですって!!」
敦信「心配かね?」
かなめ「心配っていうか、絶対になんかやらかしますよ!! この戦争ボケは!!」
宗介「酷い言われようだな」
かなめ「日頃の行いが悪い所為よ!」
39: 以下、
敦信「では、千鳥君も大洗女子学園へ留学するといい」
かなめ「へ?」
敦信「留学だよ。国内留学だ。しばらくの間、滞在することになるだろうから単位も大洗でもらっておくといい」
かなめ「な、なんで!?」
敦信「無理にとは言わない。しかし、相良君のことが心配ならば、ついていくといい」
かなめ「う……」
宗介「会長閣下。自分の単位はどこで受け取ればよろしいでしょうか」
敦信「心配はいらない。君も短期留学ということにしておく」
かなめ「女子校にですか!?」
敦信「教官として赴くわけだから、何も不思議なことではない」
かなめ「それは分からなくもないですけど」
宗介「問題ありません。敵地侵入の際に女装することもありますので」
かなめ「え……」
敦信「そこまですることはないよ。相良君はあくまでも戦車道の特別講師だからね」
宗介「了解です」
44: 以下、
教室
宗介「……」ペラッ
かなめ「ねえ、ソースケ。ホントに受ける気?」
宗介「当然だ。会長閣下の命令だからな。断る理由もない」
かなめ「でも、海の上よ?」
宗介「問題ない。むしろ、俺にとっては好都合だ」
かなめ「なんで?」
宗介「ダナンとの合流がスムーズになる」
かなめ「はぁ……そうですかぁ……」
信二「あれ、相良君。何を読んでるの?」
宗介「戦車道に関する書物だ」
信二「どうして?」
宗介「色々あってな」
信二「へぇー。でも、それって入門書だよね? もしかして戦車道のことあまり知らないの?」
宗介「無知と言っていい。存在すら30分前まで知らなかったからな」
48: 以下、
信二「そうなんだ。相良君が知らないって意外だなぁ」
宗介「風間は知っているのか?」
信二「うん。よく見てるよ」
宗介「よければ教えてくれ」
信二「何から知りたいの?」
宗介「そうだな。ルールから知っておきたい」
信二「うん。いいよ。まず使える戦車は終戦までに戦線で活躍または設計が完了し試作されていた車両と、それらに搭載される予定だった部材を使用した車両のみなんだ」
宗介「なに? そのような旧型で行うのか」
信二「そう。でも、その時代の戦車って結構個性的だし、いいかなって僕は思うけど」
宗介「そうか? 旧型では制限も多いと思うが」
信二「戦車道は戦争じゃなくてスポーツだからね。見て楽しむ分には多少不便な戦車のほうがいいんだよ」
宗介「そういうものか」
かなめ「……」
恭子「相良君と風間君、なんか盛り上がってるね。いつものミリタリー談義?」
かなめ「ま、そんなとこ」
50: 以下、
信二「――こんなところかな」
宗介「うむ。よくわかった。礼を言う」
信二「そんな、気にしないでよ」
宗介「いや、風間の知識にはいつも感心している」
信二「やだなぁ」
恭子「おっ。戦車道だ。この武部さんって可愛いよね。一度でいいから生で見たいなぁ」
かなめ「あたしは西住さんがいいと思うけどな」
信二「プラウダ高校の副隊長も美人で綺麗な人だよ。あと黒森峰の逸見エリカって人もいいよね」
恭子「あ、うん」
宗介「風間は戦車のことだけでなく、その搭乗者についても博識なのか。そこまで知識を溜め込むとは、流石だな」
かなめ「風間君って、戦車道の選手の写真とか集めてるの?」
信二「も、もちろんだよ。確かに戦車のことも好きだけど、綺麗な人が多いんだから」
恭子「戦車道を見てる動機が不純……」
信二「選手みたさに見てる人は多いんだよ! ホントに!!」
宗介「ふむ。搭乗者の情報は戦闘において役に立つからな。癖などが分かっていれば尚良い。有利にことを運ぶことができる」
64: 以下、
信二「常盤さんだって武部さんを生で見たいって今、言ったじゃないか!」
恭子「私はそこまで真剣に戦車道をみてないし」
宗介「俺も見てみたいものだな」
かなめ「え!?」
恭子「あれ、相良くんって武部さんみたいな人がタイプなの?」
かなめ「えぇ!?」
宗介「無論、その武部という人物も含まれている」
かなめ「ソースケってこういう子がいいんだ……」
恭子「ガンバレ! カナちゃん!」
かなめ「なにがよ!?」
宗介「風間。大洗女子学園の詳細なデータはあるか?」
信二「相良君にとって詳細なデータになるかどうかは分からないけど、こういうのがあるよ」
宗介「これは?」
信二「戦車道の専門書。大洗の選手のことも写真付きで載ってるよ」
かなめ(武部沙織さん、か。今更こんな可愛い感じにはなれないわよね、あたし……)
65: 以下、
大洗女子学園 教室
沙織「へっくしゅん!!」
華「風邪ですか?」
沙織「これはあれだね。私のことを噂している男の人がいるんだよ。やだもー」
華「そうなのですか?」
沙織「そうに決まってるよぉ。読者モデルとしてこの前デビューしちゃったしねっ」
華「あれは戦車道優勝校へのインタビューで写真を掲載されただけではありませんでしたか?」
沙織「モデルになったのはホントだもんっ」
みほ「ただいま」
華「おかえりなさい」
優花里「どうも、武部殿、五十鈴殿」
沙織「いらっしゃい、ゆかりん」
華「みほさん、河嶋さんとはどういったお話をされたのですか」
沙織「それ気になってたんだー、おしえておしえて」
みほ「あー……うー……えーと……」
67: 以下、
優花里「あの、その話は……」
沙織「なになにー、私たちには秘密なのー?」
みほ「その……あの……」
華「みほさん」
みほ「じ、実は……」
華「言わなくて結構です」
みほ「え……」
華「それより、今日も放課後に練習を行うでしょうか?」
みほ「華さん……」
沙織「うんうん。優勝したからって練習を怠ったら駄目だよね。目指せ二連覇!!」
みほ「沙織さん……」
華「そうです。わたくし、もう一度優勝の気持ちよさを体感したいです」
沙織「いいよねー。あー、でもでも、二連覇しちゃったら今度こそ日本中から男の人が私に群がっちゃうかもー。そうなったらどーしよー」
優花里「それは確かに大変であります。では、そのときは僭越ながら私が武部殿をお守りします!!」
みほ「みんな……」
68: 以下、
華「話したくなったときで構いません。いつまでもお待ちしていますから」
沙織「乙女には秘密が付きものだもんね」
優花里「意味が違うような……」
みほ「……今から麻子さんを呼びに行こう」
沙織「なんで?」
みほ「まだみんなに話す勇気はないけど、でも、沙織さんたちには話しておかないといけない気がするから」
華「……」
優花里「いいのですか、西住殿」
みほ「迷っているときに背中を押してくれたのは沙織さんと華さんだった」
みほ「怖くて震えているときに勇気づけてくれたのは優花里さんと麻子さんだった」
みほ「……だから、話しておきたい」
優花里「そ、そんなぁ、勇気づけたなんて……。私のほうこそ西住殿には感謝しかできません!! あのように貴重な体験をさせてもらったのですから!!」
華「分かりました。麻子さんをお呼びしましょう」
沙織「ちょっと待ってて。麻子に電話するよ」
みほ「麻子さんには倉庫にくるように伝えて。そこで全部話すから」
70: 以下、
倉庫
沙織「えぇぇぇぇ!?」
華「本当のことなのですね」
みほ「うん」
麻子「廃校は免れないのか。残念だな」
沙織「なんで他人事なのよー!!」
麻子「そんなわけないだろう」
優花里「生徒会のみなさんも憤慨しているようでした」
華「戦車道オールスターチームに勝利すれば、今度こそ廃校は撤回されるのですね」
みほ「それもまだ分からない。会長が話をするみたいだけど……」
沙織「どうすればいいのよー!!」
麻子「会長が話をつけさえすれば簡単だ。オールスターチームに勝てばいいだけだろ」
沙織「簡単に言わないでよ!!」
麻子「負ければ終わりなんだ。なら、勝つしかない」
優花里「れ、冷泉殿、もしかしてかなり怒っていますか?」
71: 以下、
麻子「別に。事実を言っただけだ」
沙織「(麻子、完全にキレてるよ)」
優花里「(流石、冷泉殿でありますね。怒り方もクールです)」
沙織「(そこが怖いところなんだけどね)」
華「事態は把握しました。みほさんは参加されるのですか?」
みほ「それは……」
麻子「五十鈴さん。西住さんがこうして話してくれたのは、多少なりとも迷いがあるからじゃないか?」
沙織「みぽりん、迷ってるの?」
みほ「迷っているというより……」
華「怖いのですね」
みほ「……」
麻子「無理もないな。西住さんがまた隊長となって大洗の指揮を執るとなれば、重責だ。しかも今度の相手はエースしかいないチーム。負けるのが普通の試合で勝たなくていけない」
優花里「ですから、今回の試合、無理して参加しなくてもいいと私は思います。隊長と臨むにはあまりにも重い一戦になりますから」
沙織「そうだよね。廃校のことも途中まで内緒にしてくれていたから、ある程度は肩の力も抜けてたもんね。まぁ、準決勝と決勝は知ってたから緊張してたけど」
華「相手が相手ですし、準決勝、決勝以上の重圧になりますね」
72: 以下、
みほ「けど、ここで私が逃げたら……」
沙織「逃げてないよ、みぽりん」
優花里「そうです! 西住殿は私たちのために戦ってくれたではありませんか!!」
華「ここでみほさんが隊長にならなくても、いえ、戦車に乗らなくても誰も責めはしません」
麻子「もし西住さんを悪くいう奴がいるのなら、沙織がこらしめてくれるだろう。往復ビンタで」
沙織「もー任せてといてよ! こうしてビシバシやるから!!!」ブンブンッ
優花里「すごい手さばき!! これはおたふく風邪のようになるのは必至です!!!」
みほ「……でも、みんなはきっと戦車に乗るよね」
華「そうですね」
みほ「だったら……」
麻子「西住さんは、みんなが乗るから戦車に乗るのか」
みほ「え……」
麻子「何度も言う。西住さんが不参加を決めても、誰にも文句なんて言わせない」
沙織「そーだよー。みぽりんは一度この学園艦を救ってるんだよ!! それだけで十分だって!! もう一回守ることない!!」
みほ「……」
73: 以下、
麻子「会長も西住さんにそうした責任を負わせたくないから、教官を呼んだのだろう」
優花里「河嶋殿はそう言っていましたね」
麻子「幸い、?号戦車は4人でも動かせる」
優花里「パフォーマンスの低下は若干ありますが、問題はありません」
華「ええ。ですから、みほさん」
みほ「え?」
華「みほさんの意志で決めてください。みんなが参加するから、参加する。そうしたことでは決めないでください」
みほ「私は……」
華「その場の流れで決めていいことでは決してありません」
沙織「ゆっくり考えてよ。ねっ」
みほ「いいのかな。もう少しだけ、悩んでも」
麻子「構わない。ゆっくり悩んでほしい」
優花里「西住殿の決断に私たちは従います。大会のときだって、そうでした」
沙織「うんっ。みぽりんのしたいようにしたらいいの。そのあとのことは考えなくていいからね」
みほ「……ありがとう」
76: 以下、
放課後 生徒会室
杏「たっだいまー」
桃「おかえりなさい、会長」
柚子「どうでした?」
杏「ふっふーん。これ」ペラッ
桃「これは……!」
柚子「誓約書ですか」
杏「そう。戦車道連盟にも連絡して、許可もらってきた。オールスターチームに勝てば今度こそ廃校の件は白紙に戻してくれるってさ」
桃「ありがとうございます、会長」
柚子「でも、どうやって相手を納得させたんですか?」
杏「んー? 戦車道が盛り上がっていいじゃーんって言ったら、確かにーって賛同してくれただけ」
柚子「えぇ……」
桃「では、これより戦車道受講者を招集します」
柚子「会長、みんなには正直に話しますか?」
杏「そーだな……どうしよっかなぁ……」
77: 以下、
グラウンド
桃「よく聞け!! 二ヶ月後に我々、大洗女子学園は全日本選抜チームと試合を行うことになった!!」
あや「それって、どういう意味ですかー?」
桃「黒森峰、プラウダ、聖グロリアーナ、サンダース大付属の混成チームと試合をするということだ」
優希「えぇー? そんなの勝てるんですかぁ?」
ねこにゃー「エキシビジョンってやつかなぁ」
ももがー「それなら楽しんで試合ができるなり」
妙子「勝ち負けじゃなくて、ショーって感じですか」
桃「たとえショーとしても試合だ!! 絶対に勝つぞ!!!」
典子「任せてください!! 根性で勝ちます!!」
カエサル「エキシビジョンはやはり豪華でなくてはならないな。例えるなら、ハンニバル・バルカとスキピオが手を組むといったところか」
エルヴィン「いや、それを言うならハンス・ウルリッヒ・ルーデルとレフ・リボービチ・シェスタコフが共闘するレベルだな」
左衛門佐「豊臣秀吉と柴田勝家!」
おりょう「土方歳三と坂本龍馬ぜよ」
カエサル・エルヴィン・左衛門佐「「それだぁ!!」」
82: 以下、
優花里「(会長はみなさんに話さないつもりのようでありますね)」
沙織「(やっぱり秘密にしておくのかな?)」
優花里「(ショックを受ける人も多いかもしれませんからね。黙っておくほうが得策かもしれません)」
麻子「(どうだろうな)」
華「(秋山さんの言う通りだと思います。わざわざ話すことではありません)」
みほ「……」
杏「私の顔になんかついてる?」
みほ「い、いえ! なんでもありません!!」
桃「二ヶ月後の特別試合開催に伴い、新しい教官をお呼びしている。二日後には大洗に到着する予定だ」
梓「教官って西住隊長がいればいいんじゃないですか?」
桃「西住の戦術、戦略は各校の隊長に研究し尽されているといってもいい。勝つためには全く新しい発想が必要になる」
カエサル「大洗に新しい風を呼ぶということか」
おりょう「文明開化の音がするぜよ」
左衛門佐「そう?」
あゆみ「どんな人なんですかー?」
83: 以下、
杏「かっこいい教官がくっから」
沙織「かっこいい教官なんですか!?」
優花里「蝶野教官のようなかっこいい女性士官ということではないですか?」
沙織「ぶぅー。またそれぇ?」
柚子「今度は正真正銘、男性です」
沙織「マジ!?」
杏「うん。最弱の高校をたった一週間で最強にした凄腕の教官だから」
麻子「鬼軍曹か何かか」
華「厳格な殿方なのでしょうか?」
みどり子「風紀にも厳しい人に違いないわ。冷泉さんにとっては良い教官になるんじゃない?」
麻子「そういうそど子は一日で音を上げるんじゃないか?」
みどり子「貴方と一緒にしないでよ!! あとそど子って呼ばないで!!」
沙織「多少厳しくてもかっこいいなら問題なし!!」
優花里「何事も慣れです!! それにどんなに辛い訓練を課せられても、西住殿と一緒なら私は乗り越えられます!!」
みほ「だ、大丈夫かな……」
84: 以下、
陣代高校 生徒会室
敦信「ついに明日だね。準備はできているかな」
宗介「問題ありません」
敦信「頼もしいね。指導方針も既に出来上がっているということか」
宗介「肯定です。ラグビー部のような成果をご期待ください、会長閣下」
かなめ「それだけはやっちゃダメっていってんでしょうが!!!」
敦信「そこは千鳥君の判断に任せるよ。相良君がやりすぎないように監督したまえ」
かなめ「言われなくてもやりますよ」
宗介「君に迷惑をかけるつもりはないのだが」
かなめ「どの口がいうわけ?」
敦信「全ての手配は済んでいる。あとのことは大洗の会長、角谷君の指示に従ってくれ」
宗介「了解です」
かなめ「はぁーい」
敦信「頼むよ。相良君、千鳥君」
宗介「会長閣下のご期待に応えるため、尽力いたします。それでは失礼します」
85: 以下、
かなめ「ソースケ、大洗のみなさんをどんなふうに指導するの?」
宗介「まずは風間から入手した情報が正しいかどうかを確かめる。話はそれからだ」
かなめ「情報って?」
宗介「指揮官の務めは能力の把握から始まるのが常だ」
かなめ「どう把握すんのよ」
宗介「気にするな。俺に考えがある」
かなめ「だから!! それを詳しく話せっていってんのよ!!!」
蓮「あのお二人なら信頼できますね」
敦信「うむ。大幅な戦力向上とまではいかないが、対戦相手にとって相良君はイレギュラーだ。そこに勝機を見出すことが必ずできる」
蓮「試合の日が楽しみですね」
敦信「……そろそろ私も出かけるか」
蓮「どちらへ?」
敦信「なに、野暮用だよ」
蓮「分かりました。お気をつけて」
敦信「ありがとう」
86: 以下、
廊下
かなめ「いい? 絶対にマオさんのなんとか手帳とかは使わないこと」
宗介「了解した」
かなめ「あと、おかしな武器やトラップもなし」
宗介「俺はおかしな武器もトラップも使わない」
かなめ「ほんとにぃ?」
宗介「ああ。俺を信じてくれ、千鳥」
かなめ「うぅん……。まぁ、そこまで言い切るなら信じてあげてもいいけど」
宗介「感謝する」
かなめ「ふ、ふん。でも、完全に信じたわけじゃないからね!!」
宗介「そうか」
かなめ「そうよ。ちょっとでもおかしなことしたら、またこれで引っ叩くからね!!」
宗介「肝に銘じておく。それより千鳥、明日は俺と共に大洗女子学園まで行こう。大佐殿にも話は通してある」
かなめ「は? なんでそこでテッサが出てくるわけ?」
宗介「学園艦は海の上にあるからだ」
87: 以下、
デ・ダナン 艦内
マデューカス「艦長、これが作業予定表になります」
テッサ「ありがとう。今回もかなり詰め込んでいますね」
マデューカス「ダナンのことを鑑みれば、致し方ないことかと」
テッサ「それもそうですね。この子はデリケートですから」
マデューカス「では、この日程通りドッグ入りになりますな」
テッサ「いえ、全項目12時間遅れることになります」
マデューカス「何故ですか?」
テッサ「これから日本へ向かうことになったからです」
マデューカス「いつ決まったのですか?」
テッサ「先ほど、サガラ軍曹から連絡がありました。特別任務のために巨大艦船に潜入することになったそうです」
マデューカス「そのような任務など私は聞いておりませんが」
テッサ「とにかく、これより日本へ向かいます。いいですね」
マデューカス「ア、アイ、マム」
テッサ「よろしい」
90: 以下、
カリーニン「大佐殿」
テッサ「カリーニンさん。どうかされましたか?」
カリーニン「いえ。この度の急な予定変更にお付き合い頂いたこと、感謝いたします」
テッサ「気にしないでください。丁度、作戦行動も終わって落ち着いていましたし」
カリーニン「そう言っていただけると助かります」
テッサ「サガラさん、大変そうですね」
カリーニン「気遣いは不要です。軍曹ならば、どのような状況からでも這い上がることができるはずです」
テッサ「戦車道の指導官を任されて、陣代高校から大洗女子学園に短期留学だなんて……。留学はいいけど、女子校というのが……」
カリーニン「それこそ心配することなどありません。あの軍曹なのですから女子校への潜入など造作もないことかと」
テッサ「ですね。サガラさん、ですもんね」
カリーニン「それにしてもミスリルに属する者が戦車道に関わるとは、思いもよりませんでした」
テッサ「ええ。とはいえ、全く関係がないわけではありませんから、いつかはこうなると思っていました」
カリーニン「そうですか」
テッサ「間接的とはいえ、戦車道に関われたことは嬉しくなりますけどね」
カリーニン「同感です」
92: 以下、
クルツ「なぁなぁ、ソースケの野郎が女子校に行くって話、聞いたか?」
マオ「ああ、さっきテッサから聞いた。戦車道ってやつに参加するんだろ」
クルツ「くぅ〜、いいよなぁ、ソースケばっかり。戦車道といやぁ、可愛いガールズがパンツァーで可憐に戦場を駆けるんだぜ?」
マオ「乙女の嗜みだからねぇ」
クルツ「ここは天才狙撃手であるクルツ・ウェーバーも手を貸すしかないんじゃないか。砲手の子にも色々といい子が揃ってるしなぁ。デッヘッヘッヘ」
マオ「はいはい。さっさと報告書を作りな。遅れたら三日間、メシ抜きだからね」
クルツ「へいへい」
マオ「あ、ベン。ちょっと」
クルーゾー「なんだ?」
マオ「ソースケのことは聞いてる? あいつを迎えにいって、大洗の学園艦に届けたらしばらくは合流できないってさ」
クルーゾー「ああ。戦車道だったか。軍曹には似つかわしくないものだな」
マオ「戦闘とスポーツの違いが分かっていればなんとでもなるとは思うけどねぇ」
クルーゾー「分かっていると思うのか?」
マオ「ぜんっぜん」
クルーゾー「ミスリルの名に泥を塗ることにならなければいいが」
93: 以下、
数時間後 ダナン 艦内
マデューカス「サガラ軍曹とチドリカナメの乗艦が完了しました」
テッサ「結構。おかえりなさい、サガラさん。ようこそ、カナメさん」
宗介「ご足労いただき、ありがとうございます、大佐殿」
かなめ「やっほー、テッサ。まさかこのダナンで学園艦まで送ってもらえるなんてね。ありがと」
テッサ「いえ。ただの学園艦への旅行ならこんな代行サービスはしませんが、戦車道が関係していることなら話は別です」
かなめ「え?」
テッサ「サガラ軍曹」
宗介「はっ」
テッサ「私たちにお手伝いできることがなんでも言ってください」
宗介「了解です」
マデューカス「出来うる限りは自力でどうにかするようにな」
宗介「はっ! ただ、自分に課せられた任務は大洗の者たちを勝利させることであります。そのために準備しなければならないものがいくつかあります」
テッサ「遠慮なく言ってください。すぐに手配しますからね」
かなめ(テッサって戦車道に思い入れでもあるのかしら……)
94: 以下、
マデューカス「戦車を用意してほしいのかね」
宗介「いえ! 大洗は現戦力で勝利しなければなりません!」
テッサ「つまり新しく戦車を用意することはできない、ということですか」
宗介「肯定です。また選手の追加も不可能とあります」
テッサ「なるほど。大洗のみなさんが勝利できる可能性は残されているのですか」
宗介「まだ未知数です。明日、各人の能力を調査し、適切な戦略を練るつもりです」
テッサ「その調査に必要なものがあるということですか?」
宗介「はい。殆どは自前で用意しました」
クルツ「おーい、ソースケぇ。お前の荷物、ぜーんぶ積んでおいたぜぇ」
宗介「すまないな、クルツ」
クルツ「俺を雑用で使いやがって、ちゃんとわかってんだろうな」
宗介「心配するな。選手の写真を撮って来たらいいのだろう」
クルツ「たのむぜぇ」
かなめ「また、このスケベガイジンは……」
マデューカス「恥ずかしいとは思わんのか、全く……」
95: 以下、
テッサ「結構な大荷物ですね。このコンテナには何が……」
宗介「能力調査のために不可欠な装備一式が入っています」
テッサ「調査に? そのようなものをどこで入手したのですか」
宗介「知人に頼み、素材をかき集めただけです」
テッサ「あんまり、危険なことはしないでくださいね」
宗介「了解しました」
テッサ「私たちが用意できるものはもうないのですか?」
宗介「はい。残りは現地調達も可能なものばかりです。大佐殿の手を煩わせるまでもありません」
テッサ「そうですか……残念です……」
マデューカス「艦長。本人がこういっているのですから、いいではありませんか。軍曹は新兵ではないのですから、この程度のことは一人でどうにかできますでしょう。そうだな、軍曹?」
宗介「はっ!! 中佐殿の言うことに間違いはありません!!!」
マデューカス「ということです。艦長は休暇をおとりになってください」
テッサ「そうですねぇ……」
かなめ「あのー、それより部屋に案内してほしいんですけどぉ」
マデューカス「これは失礼、ミズ・チドリ。案内いたしましょう。どうぞ、こちらへ」
103: 以下、
格納庫
宗介「シミュレーションを開始しろ」
アル『ラジャ』
マオ「んー? ソースケ、なにやってんの?」
宗介「大洗女子学園と選抜チームとのシミュレートを行っている。事前に知り得た戦闘データでだが」
マオ「ふぅん。勝てそうなの?」
アル『アヒルさんチーム、目標車輌と接触。交戦を開始します』
マオ「相手はティーガー?」
宗介「VI号戦車ティーガー?だな」
マオ「戦車道のルール上ではこれが最強クラスの戦車なのよね」
宗介「そうだな。相手の隊長車になるのはまず間違いないだろう」
マオ「大洗にはまともにやりあえるのがあるわけ?」
アル『アヒルさんチーム、行動不能。カメさんチーム、KV-2と交戦開始。戦力差は明らかです』
マオ「ダメじゃないの。ソースケ、悪いことは言わないからテッサも連れて行けば?」
宗介「そういうわけにはいかん。中佐殿には自力で解決するように言われたからな。それにこれはあくまでもデータ上のシミュレートでしかない」
105: 以下、
艦長室
かなめ「来たわよ、テッサ」
テッサ「どうぞ、おかけになってください」
かなめ「あたしに話ってなに?」
テッサ「聡明なカナメさんのことですから、薄々は感づいているのではないですか?」
かなめ「テッサが戦車道に対してどうして熱心なのかはちょっと疑問だけど」
テッサ「正解です。実はいうと私が大洗に出向いて直接指揮をしたいぐらいなんです」
かなめ「何かあるわけ?」
テッサ「そうですね。一言でいえば戦車道は私たちの希望なのです」
かなめ「もしかして、ミスリルが戦車道連盟のスポンサーとか言わないわよね」
テッサ「うふふ。似たようなものかもしれませんね」
かなめ「マジでいってるわけ?」
テッサ「大戦当時、非力な女性でも戦車を用いれば戦場にでることができるため、戦車に乗る女性兵士が急に増えました」
かなめ「それが理由で今でも戦車乗りに女性が多いってのは知ってるけど」
テッサ「そうです。実際、戦車が日本に輸入された際、男性には人気がありませんでした。そのため、女性騎兵隊へ優先的に戦車が配備されたのです」
106: 以下、
かなめ「昔は戦車に乗れるってだけでモテにモテたとかいうわよね」
テッサ「事実、戦車に乗れるということは一流の証のようなものでしたからね」
かなめ「んで、それがテッサとなにかあるの?」
テッサ「最近のことなんです。戦車道が安全なスポーツという認識になったのは」
かなめ「そうなの? 戦車を使うんだし、結構危ないスポーツな気もするけど」
テッサ「昔ほどではありません。無論、どのようなスポーツにも相応のリスクは存在しますが、戦車道はその中でもかなり危険でした」
テッサ「戦車道がスポーツとしての形を取り始めたとき、砲弾は全て戦車の装甲を貫通しないように設計されていましたが、それでも事故は高い確率で起こりました」
テッサ「最悪の場合、搭乗者が全員死亡するときもあったそうです」
かなめ「嘘でしょ? そんなに危ないのに、なんで今も人気があるのよ」
テッサ「歴史的にも戦車は女性を惹きつけるものがあったからでしょうね。大洗女子学園で戦車道が盛んだったのもそうした理由からだと思います」
かなめ「そういえば、大洗って今年から復活したのよね」
テッサ「最後に戦車道が行われたのは二十年以上前になります」
かなめ「どうしてなくなったのか、知ってるの?」
テッサ「一応、私の部下が潜入するところですから、調べてあります。学園側の説明では選手人口の低下としていますが、本当の理由は別にあります」
かなめ「もしかして、誰かが事故で亡くなった、とか?」
107: 以下、
テッサ「練習中の事故で複数人が死亡してしまった」
かなめ「……」
テッサ「ティーガーやパンターなどの車輌は売り払い、戦車道を完全に断ち切ったというアピールを周囲にしたそうです」
かなめ「そうしないとPTAとがうるさかったんでしょうね」
テッサ「学園のイメージ悪化を防ぐ目的もあったと思いますが、結果的には入学者の減少に繋がっているように思います」
かなめ「女子校で人気の戦車道が選べないなら、仕方ないかもね」
テッサ「まぁ、完全に断ち切ることはできなかったようですが、それはいいでしょう。ともかく、戦車道は極めて危険な武道だと言わざるを得なかったわけです」
かなめ「それで、最近は安全になったのね」
テッサ「15年前から徐々に戦車は強化されていき、10年前にとある特殊コーティング技術が突然確立しました」
かなめ「ああ。それがあるから実弾撃っても、絶対に抜けないんだっけ。……って、もしかして」
テッサ「その通りです。ミスリルの中にそのコーティング技術の開発に携わっている者がいます」
かなめ「テッサのこと?」
テッサ「残念ですが違います。研究施設で保護した人の知識です」
かなめ「そういう裏があったんだ」
テッサ「それは私たちに新しい道を示してくれました。故に希望なんです」
108: 以下、
翌日 大洗町 港
かなめ「ありがとう、クルツくん。ここまで船で送ってくれて」
クルツ「隊長命令だ。気にすんなよ」
宗介「また連絡する」
クルツ「おう。写真データは逐一送信してくれよ」
宗介「ああ。ただし、機密情報を含む場合は暗号化する。そのときは独力で解析してくれ」
クルツ「メンドーなことすんなよな、ったく」
かなめ「大体、女子校で機密情報とかあるわけ……?」
クルツ「んで、あそこにあるバカでかい艦船が学園艦ってやつか。生で見るのは初めてだな」
宗介「大洗の学園艦はまだ規模が小さいほうだがな」
「聖グロリアーナとかと比べられると、困っちゃうけどねぇ」
宗介「誰だ」
杏「やぁやぁ、私は大洗女子学園生徒会会長、角谷杏。よろしくぅ」
かなめ「どうも。ええと、短期留学生の千鳥かなめです」
宗介「自分は陣代高校安全保障問題担当・生徒会長補佐官の相良宗介です! 林水会長閣下の命により、本日より戦術アドバイザーとして大洗女子学園に派遣されました!」
109: 以下、
杏「まさか海からくるとはねぇ。学園艦に接舷してくれたらよかったのに」
宗介「それは――」
クルツ「悪いね。こっちにもそれなりの事情があるんだよ、杏」
杏「そうなの?」
クルツ「おっと、自己紹介が遅れたな。俺はクルツ・ウェーバー。クルツくんって呼んでくれても構わないぜ」
杏「じゃあ、クルツくんも林水とは知り合いなの?」
クルツ「ま、そんなところだ」
かなめ「違うでしょ!! この人は、ここまで送ってくれた、船の運転手で、何も関係ありませんから」
クルツ「ひでぇなぁ、カナメ。俺がいなきゃ、ここまでこれなかったんだぜ?」
宗介「それはない。クルツがいなくとも、俺の操縦で問題なかったはずだ」
クルツ「そういうことは言うんじゃねえよ」
杏「ま、話に聞いてるのは千鳥ちゃんと相良くんだけだからねぇ。部屋の用意はしてないよ」
クルツ「かまわねえさ。杏の部屋で寝起きすればいいだけだからな」
桃「おい、貴様!! 会長に近づくな!!」
柚子「桃ちゃん、おさえておさえて」
114: 以下、
クルツ「お? そっちのお嬢さんたちも紹介してくれるかい?」
杏「うん。こっちが河嶋。こっちが小山」
クルツ「よろしく!」
柚子「どうも、初めまして。小山柚子です」
桃「軟派な男だな」
柚子「桃ちゃん」
桃「ふんっ」
杏「それじゃ、学園艦に案内するよー。ついてきて」
クルツ「はいはーい。いっきまーす」
かなめ「ちょっと!!」
宗介「クルツ。お前は戻れ。俺たちを送り届けるまでがお前の任務のはずだ」
クルツ「ここまでの労力を考えれば、報酬ぐらいあってもいいんじゃねえか?」
かなめ「あのねぇ……」
杏「まぁまぁ、千鳥ちゃん。こっちは別に気にしないから」
かなめ「そう? 大変なことになっても責任もてないわよ」
115: 以下、
大洗 学園艦
かなめ「すっごーい。ホントに船の上に街があるのね」
桃「中学、高校共に9000人ずつの18000人の女生徒が艦上・艦内に居住しながら通学している」
かなめ「そうなの。すごいわね」
柚子「大洗の学園艦には生徒の家族等の居住者もいて、全体で3万人程が暮らしています」
かなめ「3万人も!?」
クルツ「すげぇな。俺も学園艦で生活してみたかったぜ」
杏「今からでも移住できるけどね」
クルツ「退役後はここに住むか」
桃「退役?」
柚子「ウェーバーさんは軍人さんなんですか?」
宗介「会長閣下」
杏「んー?」
宗介「艦内の見学は後ほどするとして、先に案内してほしいところがあるのですが」
杏「どこに行きたいの? 今ならリクエストにいくらでもこたえるよー」
116: 以下、
大洗女子学園
杏「じゃーん。ここが我らの大洗女子学園だよー」
かなめ「明日からここに通うことになるわけね」
宗介「中々、壮観だな。敷地面積はかなり広いがセキュリティは万全なのか?」
桃「学園艦は海の上にいることが殆どだ。海上ほど安全な場所もない」
宗介「甘いな。テロリストはどこにでも存在する。生徒としてこの校舎に潜入していてもなんら不思議ではない」
柚子「そ、そうなんですか?」
宗介「現代において陸だろうが海だろうが、安全な場所などない」
かなめ「こいつのことは気にしないでください」
杏「あはは。面白いねぇ。気に入ったよ」
クルツ「俺のことも気に入ってほしいもんだけどな」
杏「それはまだ早いんじゃない?」
桃「会長。ウェーバーの話に耳を傾けないでください」
クルツ「ひでぇぜ、モモちゃん」
桃「桃ちゃんっていうな!!!」
117: 以下、
宗介「会長閣下。西住みほは向こうにいるのでしょうか」
杏「うん。多分、戦車のメンテを手伝ってると思う」
宗介「了解しました。行ってまいります」
かなめ「ちょっと!! ソースケ!!」
宗介「心配するな。挨拶するだけだ」
かなめ「あ、あいさつって……」
桃「相良は真面目そうだな」
柚子「うん。教官っぽいよね」
クルツ「で、カナメはどうするよ」
かなめ「あたしは、できれば校舎内を見てみたいけど」
クルツ「そういうわけだ。案内してくれるかい、杏」
杏「いいよー。どうせするつもりだったしねぇ」
桃「馴れ馴れしいやつだな」
かなめ「ごめんね。クルツくんって遠慮しないから」
柚子「いえいえ。こちらこそ、桃ちゃんが色々と失礼なことを言ってしまってすみません」
118: 以下、
倉庫
ナカジマ「すみません。西住さんにまで手伝わせて」
みほ「いえ。いつも自動車部のみなさんばかりに任せてしまっていますから。それに……」
ナカジマ「今度のエキシビジョン戦のことを気にしてるんですか?」
みほ「はい。この戦車たちで、戦い抜くしかないですから」
ナカジマ「任せてくださいよ。整備は常にカンペキにしておきますから」
みほ「ありがとうございます」
ナカジマ「こっちだってすごく充実した毎日ですよ。お礼を言うのはむしろ私たちのほうです。優勝のお手伝いができて、とても嬉しかったですし」
みほ「そんな。自動車部には最初からお世話になっていました。お礼なんてとんでもないです」
宗介「ここか」
ナカジマ「誰だろう? お客さんかな」
みほ「あの、どちら様ですか?」
宗介「本日より戦車道戦術アドバイザーとして大洗女子学園に赴任した、相良宗介だ」
みほ「あ、貴方が……。はじめまして、私は――」
宗介「西住隊長だな。知っている。隣にいるのは、レオポンさんチーム車長、ナカジマだ」
120: 以下、
ナカジマ「どうも」
宗介「?号戦車H型の整備をしていたのか」
ナカジマ「はい。あ、といってもこの子はH型に似せてるだけなんですけどね」
みほ「会長が言っていた教官さん、なんですよね」
宗介「肯定だ。明日からよろしく頼む」
みほ「こちらこそ、お願いします」
宗介「とはいえ、早大洗の戦力、戦術を見てみたいが、可能だろうか」
みほ「い、今からですか?」
ナカジマ「みんな呼べばすぐに来てくれるとは思いますけど」
宗介「可能な限りで構わない。招集してくれ」
みほ「わ、わかりました」
ナカジマ「やっぱり教官ってすぐに実戦を見てみたいものなんですか? 蝶野さんもいきなり実戦訓練してましたし」
宗介「当然だ。個々の能力を把握しなければ、正しく調練できないからな」
みほ「もしもし、沙織さん? あの、今から倉庫にこれるかな? うん、教官の相良さんが今、きてて……」
沙織『今いるの!? いく! 絶対、いく!! ちょっと待ってて!!』
121: 以下、
桂利奈「新しい先生ってどんな人かなー?」
優希「優しい人ならいいけどぉ」
あゆみ「先生じゃなくて教官なんでしょ?」
あや「教官って響きだとなんか怖そうだよね」
妙子「コーチなら、なんか熱血って感じがする」
忍「うん。わかる」
沙織「かっこいい人なら多少怖くてもいいかなぁ」
優花里「武部殿はそればかりですね」
沙織「いいじゃない。生徒と教官の恋って、きっと燃え上がるとおもうんだー」
優花里「よくわかりません……」
華「あそこにおられるのが、教官の殿方ではないですか?」
沙織「お!? よーし! ここは第一印象が大事だよね! はじめましてー、武部沙織です! 得意な料理は――」
宗介「全員、揃ったか!!!」
沙織「ひっ」ビクッ
典子「はい!! アヒルさんチーム!! 全員集合しています!!!」
122: 以下、
宗介「戦車道戦術アドバイザーの相良宗介だ!! 会長閣下の命により、本日よりここへ赴任した!!」
沙織「なんかイメージとちがうぅ……」
みどり子「理想通りの教官ね」
モヨ子「学園の風紀が乱れる心配もなさそう」
カエサル「生徒会の三人がいないようだが?」
みほ「会長たちは今、留学生の案内中みたいで」
おりょう「留学生とな。黒船来航ぜよ?」
みほ「そういうのじゃないとおもいますけど」
優花里「教官! 今から何をするのでしょうか!」
宗介「無理を言ってお前たちに集まってもらったのは、能力を知りたいからだ」
華「能力、ですか」
宗介「そうだ。大洗の戦力データは知っているが、やはりこの目で確かめたいことも多くある」
麻子「ふぅん。で、どうすればいいんだ」
宗介「全員、これより戦車に乗り、俺が指定したポイントへ移動してもらう」
沙織「それだけなんですか?」
123: 以下、
宗介「それだけだと? 指定地点への移動は戦略においては基本だ。武部、お前が通信手として指示した地点に友軍が現れなければどうする?」
沙織「それは、とっても困ります」
宗介「だろう。指定ポイントまではなんとしても生き残らなければならない。それが、兵士の務めだ」
エルヴィン「しかし、発令した作戦の結果を予測して、さらにその先のことまで計画をつくろうとするのはナンセンスであるとも三傑の一人もいっている」
沙織「なにそれ?」
宗介「なるほど。松本の言うこともわかる。だが、目の前の任務も達成できない者にはその計画すら練ることはできないぞ」
沙織「わかっちゃうの!?」
エルヴィン「教官!! 私は松本ではない!! エルヴィンだ!! ソウルネームで呼んでほしい!!」
宗介「なんだ、そのソウルネームとは」
エルヴィン「魂の名前だ」
おりょう「私たちにはソウルネームがあるぜよ」
左衛門佐「本名で呼ばれるのは慣れていないんだ」
カエサル「親しみを込めて、これからはソウルネームで呼んでくれ」
宗介「よくわからん。お前たちのことはここに書かれている名前で呼ぶ。いいな、鈴木」
カエサル「ぐっ……。教官がそういうなら……」
124: 以下、
宗介「では、全員戦車に乗ってくれ」
優花里「了解です!!」
沙織「うぅー、相良さんってなんかこわそー」
華「そうですか? 確かに厳格そうではありますが、魅力的な人だとは思いますよ」
沙織「華って相良さんみたいな人がタイプなの?」
華「そういうわけではないのですが」
麻子「さっさと乗るぞ」
沙織「はいはい。わかったわよぉ」
みほ「……」
優花里「西住殿。どうかしましたか?」
みほ「この地点、最初の練習試合で通ったところだなぁって思って」
優花里「そういえばそうですね。あの橋のところです」
みほ「ここまで行くにはこの道を通ることになるけど……」
優花里「木々が多い、細道ですよね。私たちもいきなり死角から砲撃を受けました。なつかしいですぅ」
みほ(見通しがあまりよくない道……。相良さんは能力を見たいと言っていたのに、私たちへの指示は指定ポイントに移動しろとだけ……。何かありそう……)
125: 以下、
?号戦車内
宗介『俺の声は聞こえるな?』
みほ「感度良好です」
宗介『各員、準備はいいか』
ねこにゃー『いつでもいけます』
典子『アヒルチーム!! 問題ありません!!!』
みほ「はい」
宗介『では、移動開始!!』
みほ「パンツァー・フォー!」
麻子「ほいっ」
沙織「みなさん。注意して進んでください。何があるかわかりませんから」
エルヴィン『了解した』
妙子『何があるかって、どういうことですか?』
みほ「ただ目標地点に移動するだけでは私たちの能力を測ることはできません。なので、十分に警戒して進みましょう」
みどり子『そういうことね。カモさん、了解しました』
127: 以下、
学園艦 艦橋
かなめ「いいながめー」
杏「ここからなら、学園艦を一望できるからねぇ」
かなめ「あ、戦車が動いてる」
杏「あれって西住ちゃんの呼び出しの件?」
桃「はい。恐らくそうでしょう」
かなめ「呼び出しって?」
柚子「つい先ほど西住さんから連絡があったんです。相良さんが全員を集めて欲しいと言っていたみたいで」
かなめ「ああ。能力をみるとかって言ってたけど」
杏「なら、あれはそのテストか。おー、みんながんばってるぅ」
クルツ「テストねぇ……」
かなめ「なんか嫌な予感がするんだけど……」
クルツ「同感だ。五秒後には爆発が起こりそうだぜ」
桃「爆発? 実戦訓練ではないと西住は言っていた。そのようなことは起こらな――」
ドォォォォン!!!!
129: 以下、
?号戦車内
優花里「うわぁ!? なんですか!?」
みほ「今の爆発音は……!?」
沙織「えーと、報告をお願いします!!」
エルヴィン『カバチーム、無事だ!!』
典子『アヒルさん、無事です!!』
ねこにゃー『アリクイ、異常ないです!』
梓『ウサギ、だいじょうぶでーす』
ナカジマ『こちらレオポン。目の前でカモさんチームが爆発しました、どうぞー』
みほ「えぇ!?」
沙織「無事ですかー!?」
みどり子『無事だけど、中はメチャクチャよ!! なにが起こったの!?』
宗介『地雷を踏んだだけだ』
麻子「地雷?」
宗介『ああ。戦場ではよくあることだ。気にせず、進め』
132: 以下、
優花里「地雷まで用意されているのでありますか!?」
宗介『当たりまえだ。対戦車地雷ぐらい仕掛けるに決まっている』
華「本格的ですね」
沙織「本格的すぎるわよー!!」
カエサル『そもそも戦車道で地雷はアリなのか!?』
優花里「そういった爆薬の使用は禁止だったはずです、教官」
宗介『これは戦車道の試合ではない。お前たちの能力を見るためのものだ。これぐらいの仕掛けはする』
ぴよたん『そんなのアリずら!?』
宗介『この程度のトラップも回避できないのでは、先はないぞ』
沙織「中止にしよー!! 中止ー!!」
麻子「これは危険すぎる」
宗介『危険なことはない。戦車道の戦車には特殊コーティングが施されている。多少の爆撃にも耐えられるほど強固なものだ。搭乗者の身の安全は保障する』
左衛門佐『教官に保障されても……』
沙織「ど、どど、どうする、みぽりん……」
みほ「……」
134: 以下、
宗介『どうした。怖気づいたか。ならばこの学園艦は――』
みほ「ま、待ってください!! 続けます!!」
沙織「えぇぇ!? マジ!?」
優希『いいんですかぁ?』
あや『対戦車地雷、ちょーこわいんですけどー!!』
華「相良さんは当然、全ての事情を知っていますよね」
麻子「私たちを焚き付けるために、廃校のことはどこかで言うかもしれないな。今、言おうとしたし」
みほ「会長たちが隠している以上、まだみんなに知られるわけにはいかない……」
沙織「だからって、続けなくても……」
宗介『西住、続けるのだな』
みほ「……はい。ただし、ここからはあんこうチームのみで進みます。他の車輌は撤退してください」
典子『そんなことしません!!』
エルヴィン『隊長が進むというのなら、我々も進む!!』
おりょう『それがチームぜよ』
ねこにゃー『西住さんが決めたことに、私たちは従うから。だから、進もう』
135: 以下、
優希『桂利奈ちゃん、がんばってぇ』
桂利奈『あいぃ!!』
みほ「みんな……」
沙織「よ、よーし! そう決まったならいくっきゃないよね!!」
麻子「仕方ないな」
華「罠を目視できれば、破壊もできるのですが」
優花里「地雷を目視するのはまず不可能かと……」
みほ「みなさん、散開してください! 固まって行動していたら危険です!」
ナカジマ『了解っ』
みほ「麻子さん。早くこの森林地帯から抜け出しましょう。ここほどトラップを仕掛けやすい場所もありませんから」
麻子「わかった」
みほ「沙織さん、連絡は密に。トラップらしきものを発見次第、その地点に踏み入れないように指示を出してください」
沙織「うん!」
みほ「優花里さん、華さん。もし怪しい場所があれば、迷わず発砲してください。ただし、距離は十分にとってください」
華「分かりました。どのように小さな的にでも当ててみせます」
136: 以下、
M3中戦車リー 車内
あや「こっちいけそう!」
優希「桂利奈ちゃん、右に曲がったら森から出れるよ」
桂利奈「おっしゃー!! 右だー!!」
梓「ちょっと待って!!」
桂利奈「なになに?」
梓「地雷を警戒して森を出ようとするのは、誰でも考えつくと思う」
あゆみ「それで?」
梓「森から抜け出すルート上に地雷が埋まってるかもしれない」
あや「ほんとだ!!」
あゆみ「それ、ありえるんじゃない?」
優希「梓、すっごーい」
桂利奈「だったら、このまま直進だー!!」
梓「これで教官の裏をかけた――」
ドォォォォォン!!!!
137: 以下、
?号戦車内
梓『すみません!! 地雷踏んじゃいました!!』
沙織「無事なの!?」
あや『眼鏡割れましたけど、平気でーす』
沙織「はぁ……よかったぁ……」
典子『隊長!! よくわりませんがアヒルチーム、走行不能!!!』
エルヴィン『こちらもだ!! 急に転輪が動かなくなってしまった!!』
沙織「もー! やだー!! なにがどうなってるのよー!?」
みほ「麻子さん、止まって!」
麻子「ほいっ」ガコンッ
優花里「どうしましたか?」
みほ「カバさん、転輪に何か絡まっていませんか?」
カエサル『ちょっと待ってくれ。今、確認する。これは……なんだろう……ピアノ線か……?』
優花里「そのような罠まで……」
みほ「地雷を避けようとすれば、ピアノ線で……。直進のルートにも抜けるルートにも罠がある……。この罠の配置……」
139: 以下、
麻子「囮が必要になるな」
優花里「トラップ解除要員がいるというこですか」
みほ「ここを抜けるなら、それしかないかもしれない」
沙織「ホントに?」
華「ですが、その方法では1輌しか目標地点にはたどり着けません」
ねこにゃー『西住さん。囮役なら、任せて』
ホシノ『レオポンも力かすよー』
みほ「……いえ。そんなことはさせません」
麻子「負けを認めるか?」
華「相良さんは私たちが負けを認めたときに、廃校のことを口にしそうですけど……
優花里「西住殿、どうしますか」
みほ「沙織さん、会長に連絡を取ってください」
沙織「会長に?」
華「生徒会のみなさんは参加されていませんが……」
みほ「確認したいことがあるんです。お願いします」
140: 以下、
学園艦 艦橋
かなめ「あの……バカはぁ……!!!」
クルツ「あーあ、やっちまったぁ」
桃「なんだ!! なにが起こっている!!」
杏「うっひょー。みんなーがんばれー」
柚子「そんな他人事みたいに……」
かなめ「止めなきゃ!!」
クルツ「待て待て。地雷原に裸足で突っ込むつもりか?」
かなめ「でも!! このままじゃ西住さんたちが!!」
クルツ「にしても、ソースケの奴、いつの間にあれだけの罠を仕掛けやがったんだ?」
かなめ「え?」
クルツ「学園艦はずっと海の上にいたわけだ。潜入するには海からか空からしかねえ。でも、ソースケは今回先行してない」
かなめ「罠を仕掛けられるとしたら、私たちと別れてからってことになるけど……」
杏「ん? もしもーし。どしたの、武部ちゃん。今、テスト中じゃないの?」
沙織『確認したいんですけど、相良さんっていつ学園艦に着いたのですか?』
142: 以下、
?号戦車内
沙織「相良さん、2時間前に大洗の港に着いたんだって」
みほ「2時間……。罠を仕掛けるには時間が足りないはず……」
優花里「事前に学園艦に忍び込んでいた可能性はないですか」
みほ「それならもっと遠くに目標地点を設定すると思う。橋のところなんて中途半端な場所にはしないんじゃないかな」
麻子「トラップを仕掛けた場所は密集しているのかもしれないな」
華「では、そこさえ避ければ突破は可能ですね」
みほ「トラップの予測設置個所は目標地点近辺に絞ります。あんこうチームはこのまま直進。アリクイさん、レオポンさんは後退し、逆側から向かってください」
ねこにゃー『いいの?』
みほ「構いません。お願いします」
ナカジマ『任せてください』
麻子「ポルシェティーガーに足場が不安定な道を走らせる理由はないからな」
みほ「行きましょう」
優花里「必ず走破してみせます!!」
華「やはり罠は見えないのでしょうか? 撃ち落とす自信はあるのですが」
143: 以下、
グラウンド
宗介「どうやら、気が付いたようだな。流石だ」
かなめ「ふんっ!!」パシーンッ!!!!
宗介「痛いじゃないか」
かなめ「何やってんのよ……あんたぁ……」
宗介「大洗の戦力チェックだ。武装だけで戦力は測れないからな。各人の能力も――」
かなめ「おかしな武器やトラップは使わないって言ってたじゃない!!!」
宗介「肯定だ。だから、曲射銃身や対戦車犬などは用いていない」
かなめ「は……?」
宗介「対戦車戦術としては有効なものだけを選んでいる。なにもおかしくはない」
かなめ「そーいうことじゃないのよー!!!」
クルツ「ソースケがこういうやつだってのはカナメがよくしってるだろ」
かなめ「そ、そうだけど……」
宗介「さて、俺も行くか」
かなめ「どこによ!? 待ちなさい!! ソースケ!!」
144: 以下、
倉庫
梓「西住隊長、大丈夫かなぁ」
みどり子「テストで地雷まで用意するなんて校則違反よ!」
カエサル「あの教官、戦車道のルールを知っているのか」
おりょう「怪しいぜよ」
エルヴィン「会長が呼んだなら確かな筋からだろう。その心配はないと思うが」
妙子「キャプテン、キャプテン」
典子「どうしたの」
妙子「これ倉庫にありましたっけ」
典子「これは……?」
忍「ボン太くんですよ。知りませんか?」
典子「バボちゃんしか知らない」
宗介「すまない。道を開けてくれ」
あけび「あ、教官。このボン太くんって……」
宗介「俺の私物だ。そして、これから使用する」
145: 以下、
かなめ「ソースケってば!!」
宗介「千鳥、君はここにいてくれ」
かなめ「そ、それ……ボン太くんじゃない……」
おりょう「ボン太くんを使用するって、どういうことぜよ」
宗介「見ていれば分かる。――ハッチ閉鎖。バイラテラル角3.5」
『ラジャ』
ボン太くん「ふもっふぅ」
カエサル「ボン太くんだ!!」
あけび「かわいー!」
かなめ「ソースケ!! やめなさい!! おねがいだから、やめてー!!」
ボン太くん「ふも、ふもも、ふもるる」
かなめ「だれもあんたの心配なんかしてないわよ!!!」
左衛門佐「で、あなたは?」
かなめ「あ、私は留学生の千鳥かなめっていいます」
桂利奈「留学生ってボン太くんとはなせるんだー。すごいなぁ。私も留学生になりたいなぁ」
146: 以下、
?号戦車内
ナカジマ『今のところ順調です』
沙織「分かりました。なんとかいけそうだね、みぽりん」
みほ「うん。もうすぐ目標地点です。最後まで油断しないでください」
優花里「これでテストは合格ですね」
麻子「そうだな」
ねこにゃー『西住さん!』
みほ「猫田さん?」
ねこにゃー『ボン太くんが――』
みほ「え? どうしたんですか? 猫田さん!」
沙織「応答してください!」
『ふももっ』
沙織「ふももってなに!?」
みほ「ナカジマさん、聞こえますか!?」
ナカジマ『はいはーい。なんでしょうか』
147: 以下、
みほ「アリクイさんの支援に向かってください。何かが起こっているようです」
ナカジマ『了解。でも、無理そうです』
みほ「え?」
ホシノ『ドリフトで振り落せ!!』
ツチヤ『自動車部の腕の見せどころ!!』
『ふもっふ!!』
スズキ『可愛いくせになんて動きだ!』
優花里「一体、何が起こっているのですか!?」
華「ボン太くんと言えば遊園地のマスコットキャラクターではないですか」
麻子「マスコットがいきなり現れるなんて、地雷以上の恐怖だな」
みほ「ナカジマさん! 無理だけはしないでください!!」
『ふも、ふもも』
沙織「え!? レオポンさん!! 応答してください!!」
『ふもー、ふもも、ふもっふ』
優花里「なんだか、底知れない怖さがあります!!」
148: 以下、
沙織「みんなと交信できなくなったよ、みぽりん」
麻子「残っているのは私たちだけみたいだな」
みほ「……」
華「ボン太くんがここにいて、2輌を走行不能にしたということですか」
優花里「どんなボン太くんなのですか。大戦時の戦車とはいえ、それに勝つなんてAS並かそれ以上の戦闘力がなければ無理ですよぉ」
みほ「麻子さん!! 後退!!」
麻子「よっ」ガコン
ガンッ!!
沙織「きゃぁ!? なになに!? こんどはなにー!?」
華「前方にボン太くんがいます」
沙織「でたの!?」
みほ「……相良さん、ですか?」
宗介『肯定だ。行くぞ、西住。俺を突破できれば、目標地点に到達できる』
優花里「教官! 何故、ここまでするのですか!?」
宗介『君たちならこの程度のことは遂行できると考えている。しかし、できないのなら、君たちに、いや大洗に未来はない』
150: 以下、
麻子「あのボン太くんに教官が……」
沙織「ますます、イメージとちがうぅ」
華「でも、親しくなれそうです」
優花里「ギャップがすごいですね」
みほ「……」
宗介『どうした、西住。やめるか』
みほ「――華さん、発砲してください! 麻子さん、後退!! 走ってきたルートに沿ってください!!」
麻子「やってやる」
華「一撃で仕留めます」カチッ
宗介『無駄だ!!』
みほ「はやい……!」
優花里「あの機動性! どうやれば命中するのですか!」
華「くっ。あのように動き回られては……」
宗介『それで終わりか!! こちらから行くぞ!!』
みほ「とにかく距離をとります!!」
151: 以下、
ボン太くん「ふももももー!!!」
みほ「ボン太くんが近づいてきてる!」
麻子「振り切れないぞ」
優花里「このままでは張り付かれてしまいます!」
みほ「そうなれば終わりです。振り落すことは多分不可能ですから」
麻子「自動車部の操縦でも無理だったみたいだしな」
優花里「装填完了!」
華「もう一撃……!!」
ドォォン
ボン太くん「ふもっふ!!」ババッ
華「ダメですね。正面からでは弾道を見切られています」
沙織「この至近距離で主砲を回避するってありえなくない!?」
ボン太くん「ふも、ふもも、ふもる!」
みほ「優花里さん! 煙幕用意してください!!」
優花里「モクモク作戦ですね!! 了解でぇす!!」
152: 以下、
ボン太くん(煙幕で後退ルートを撹乱させるつもりか。だが、それだけでは逃げられんぞ!)
ボン太くん「ふもー」
みほ「後退、するとみせかけて前進! 一撃で離脱!」
ボン太くん「ふも!?」
ボン太くん(逆に接近してくるとは!!)
みほ「うてー!」
ドォォォン!!!
ボン太くん「ふももももー!?」ゴロゴロゴロゴロ
沙織「ボン太くんが転がって行っちゃったよ!!」
華「可愛そうなことをしてしまいましたね」
優花里「すみません!」
麻子「別に謝る必要はないと思うが」
みほ「今の内に目標地点へ向かいます!!」
麻子「了解」
ボン太くん(くぅ……。やってくれる。そうでなくてはいけないが)
153: 以下、
みほ「麻子さん、ボン太くんが通った道を進んでください。そこには間違いなく、トラップはありません」
麻子「仕掛けた本人が仕掛けに嵌ることはないだろうからな」
優花里「後方よりボン太くんが接近中!」
ボン太くん「ふもももも!!!」
華「撃ちますか?」
みほ「このまま進みます! 全前進を維持してください!」
沙織「無視していいの?」
みほ「ボン太くんの撃破は考えません」
優花里「目標地点への到達が最優先ですからね」
みほ「ここを抜けさえすればゴールは目前です。なんとか耐えましょう」
ボン太くん「ふも!!」ジャキン!!
優花里「西住殿!! ボン太くんが何かを構えました!!」
みほ「あれは……」
優花里「カールグスタフです!!」
ボン太くん「ふもっふ!!!」ドォォン!!
154: 以下、
みほ「ぐっ……!? 麻子さん!!」
麻子「まだ走れる」
優花里「ちょ、直撃はしませんでしたね」
沙織「はやくいこー!! 麻子ー!!」
麻子「急かすな。これ以上、度は出ない」
華「ボン太くんの位置は?」
みほ「えーと……」
沙織「みぽりん、ゆかりん。危ないから顔ださないでよぉ」
みほ「でも、こうしていないと――」
ボン太くん「ふもっふ」チャカ
みほ「え……」
優花里「ボン太くん!? 既に戦車に張り付いていたのですか!?」
ボン太くん「ふも、ふもも、ふもっふ、ふもっふ」
みほ「こ、降参しろって言っているんですか……?」
優花里「教官! 銃を突きつけるなんてやりすぎです!!」
155: 以下、
華「そうはいきません!!」カチッ
ドォォン!!!
ボン太くん「ふも!?」
みほ「麻子さん! 急停止!!」
麻子「砲撃と急ブレーキの反動なら、流石に落ちるだろ」グッ
ボン太くん「ふもー!?」ゴロゴロゴロ
優花里「ボン太くんの落下を確認!!」
沙織「今がチャンスだよ! いっそげー!!」
ボン太くん(簡単にはいかんぞ!)
ボン太くん「ふもっ!!」ジャキン!!
みほ「今度はRPG!?」
優花里「冷泉殿!!」
麻子「行くしかない。当たらないことを祈って」
沙織「いやー!!」
ボン太くん(ぶちぬけぇぇ!!!)ドォォォン!!!!
156: 以下、
……ドォォォン……
みほ「うっ……うぅ……」
沙織「ど、どうなったの……?」
麻子「?号は動かないな」
優花里「目標地点には辿りついているのですか」
華「どうでしょうか……」
宗介『あんこうチーム、聞こえるか』
みほ「あ、はい」
宗介『よくやったな。砲身部分が目標エリアに到達している。任務達成だ』
みほ「そ、それでいいんですか?」
宗介『もし俺を狙っていれば間に合っていなかった。素晴らしい判断だな、西住』
みほ「あ、あはは……」
宗介『アマチュアたちをまとめ上げ、優勝に導いたその手腕は本物のようだ』
みほ「私は別に」
かなめ『こらぁ!!! ソースケぇ!!! すぐにもどってきなさい!!!』
157: 以下、
倉庫
かなめ「あんた!! 初対面の女の子たちになんてことしてんのよ!!! あぶないでしょーが!!!」
宗介「戦車はどのような攻撃にも耐えられるように設計させれている。あの程度で怪我はしない」
かなめ「するわよ!!! 爆発の衝撃とかで!!!」
みほ「はぁ……」
杏「西住ちゃぁん、また随分な格好だねぇ」
みほ「そうですね……」
沙織「色んなところよごれちゃったぁ」
クルツ「悪かったな。あのバカ、手加減って言葉を知らないんだ」
沙織「え!? あ、ああ、はい、で、でも、たのしかったです」
クルツ「そうかい? このお詫びをしたいんだけど、あとでお茶でもどうだい?」
沙織「え、えぇ……えーと……そんなぁ……急にいわれても……どうしようかなぁ……」モジモジ
クルツ(こりゃ、いけるぜぇ。ぐっふっふっふ)
かなめ「そこ!! なにやってんの!!」
杏「で、相良くん。能力査定のほうはどうだった?」
158: 以下、
宗介「はっ。西住が隊長してチームを牽引するのであれば、勝率は決して低くないと思われます」
みほ「え……」
杏「だってさ」
みほ「……」
宗介「あの機転、そして度胸と気迫。西住には兵士として重要なものが全て揃っている」
優花里「あの、教官。西住殿が隊長を務めるかどうかは、まだ決まっていません」
優希「えぇー、そうなんですかぁ?」
宗介「しかし、西住以外に隊長を任せられるものは……」
華「みほさんの意志を尊重したいと思っています」
麻子「西住さんは一度、学園艦を救ってくれたんだ。他の人が隊長をしてもいいはず」
カエサル「なるほど。後進を育てるために隊長の座を譲るというわけか」
みどり子「そうなると、必然的にウサギさんチームの誰かってことになるけど」
あや「だったら、梓だよね」
あゆみ「おー、大出世じゃん」
梓「えぇー!? そんな、私が隊長なんて無理です! むりむり!」
159: 以下、
沙織「あはは。みぽりんも最初はむりむりって言ってたっけ」
梓「私なんてまだまだですから」
宗介「澤では勝利は不可能だ。お前たち、勝ちたくないのか」
おりょう「もちろん勝ちたいぜよ。でも、今回はそこまで気張る必要もないはず」
ねこにゃー「エキシビジョンだから、お客さんを楽しませることができればそれでいいと思う」
ナカジマ「私も、そう思いますね。なんなら、チーム構成を変えちゃってもいいかもしれませんし」
ホシノ「それ、面白そう」
典子「八九式は私たちにしか操縦できません!!」
妙子「八九式はバレーボール部が運転します!!」
宗介「……」
みほ「相良さん、あの……」
杏「ねえ、ちょっと休憩にしない? 相良くんも西住ちゃんも疲れたでしょ。生徒会室でお茶と干し芋だしてあげる」
クルツ「いいねぇ。いこういこう。君も一緒にいくよな」
沙織「は、はい、いきます!」
麻子「沙織、名前も知らない人にホイホイついていくな」
160: 以下、
生徒会室
柚子「どうぞ。粗茶ですけど」
かなめ「ありがとうございます」
杏「んじゃ、軽く自己紹介からしてもらおっかなぁ」
クルツ「俺はクルツ・ウェーバー。二人をここまで送り届けた、運転手だ。よろしく」
沙織「クルツさんですね! 私、武部沙織っていいます!」
クルツ「沙織か。良い名前だな」
沙織「そんなぁ……」モジモジ
華「あまり沙織さんをからかわないでください」
クルツ「どうしてからかう必要があるんだよ。俺はいつだって真剣だ」
沙織「おぉぉ……どーしよー……」
杏「クルツくんはこのあとすぐに帰っちゃうけどね」
沙織「えぇー!?」
かなめ「えーと、あたしは千鳥かなめ。明日からこっちでお世話になります」
みほ「はい。よろしくお願いします」
161: 以下、
宗介「会長閣下。ご質問があります」
杏「んー、どうぞ」
宗介「大洗女子学園が廃校になることは機密事項なのですか」
杏「みんなに話すことはないかなって考えてる」
宗介「何故ですか。我々が窮地に立たされていることを自覚してもらわなければなりません。危機感のない今のままでは敗北は必至です」
杏「……」
桃「会長にも考えがある。それに口出しはしないでもらう。相良は戦術アドバイザーとしての役目を全うしてくれたらそれでいい」
宗介「その考えとやらを聞かせてはもらえませんか」
杏「危機感を抱かせることも時には重要だ。けど、みんなには楽しんでほしいんだよね」
宗介「意味が分かりません。廃校になるかどうかの瀬戸際です。楽しんでいる余裕などありません」
柚子「それはそうなんですけど……」
優花里「お言葉ですが教官! 私たちは今までもそうして試合に臨んできました!」
麻子「そして勝った」
華「西住さんと会長の方針は間違ってはいないはずです」
宗介「勝ち負けは二の次、楽しめれば後悔はしない。そういうことか」
162: 以下、
優花里「肯定であります!」
クルツ「ふぅん」
かなめ「いいと思うな。スポーツってそういうもんだしね」
宗介「廃校になろうとも楽しむことを優先するのか」
沙織「そう言われちゃうと、困るんだけどなぁ」
桃「それの何が悪い」
宗介「いや。あとがないと判明すれば、緊張状態に陥り、本来の能力を発揮できない者は存在する。あえて全てを伝えないというのもわかる」
桃「そういうことだ」
宗介「大会の記録はすべて見せてもらった。決勝戦まで全員は勝たなければならない理由を知らなかったのか」
桃「いや……」
華「準決勝のときに会長の口から真実は語られました」
宗介「だろうな」
麻子「どういう意味だ」
宗介「プラウダ戦の後半から全員の気迫は比べ物にならかった。不退転の決意は映像記録からでも十分に伝わったぞ」
みほ「……」
163: 以下、
桃「あのときとはまた状況が違うんだ」
柚子「みんな、廃校はなくなったって思っています。それなのにまた廃校になるかもしれないなんて、言えば……」
クルツ「けどよ、選手たちには伝えていたほうがよくないか」
かなめ「うん。もし、負けて廃校が決定しちゃったら、それこそ知っている人たちが責められちゃうかも」
優花里「うっ……」
みほ「でも、秘密にしているわけではないです。河嶋さんは私に口止めをしませんでしたから」
桃「西住は不用意に言いふらすことはないことぐらい、分かっているからな」
杏「伝えてもあんこうチームぐらいなのは予想できたしねぇ」
宗介「では、自分が伝えても問題はありませんか」
杏「そうだなぁ」
桃「相良。余計なことはするな」
宗介「箝口令を敷かないのであれば、誰が告げてもいいはずだ」
かなめ「ソースケ、やめなさいってば」
宗介「大洗の士気はとても高い。事実を告げることでメリットはあってもデメリットはない」
桃「今日きたばかりの者になにがわかる。私たちだって、悩み、迷っているんだ」
164: 以下、
宗介「それは違うな」
桃「なに?」
宗介「今日来た者にでも、それぐらいのことは分かる、ということだ」
桃「……」
宗介「会長閣下。貴方の考えを聞かせてください」
杏「廃校の件はまだ言わない方向で」
クルツ「いいのか?」
杏「相良くんや千鳥ちゃんが喋っても、何も咎めないよ。これはあくまでもお願いだからね」
かなめ「チームのことを想っての判断、なんですね」
杏「そうだな」
みほ「会長……」
宗介「了解しました。会長閣下の方針に従います」
杏「ありがとね。んじゃ、相良くんを宿舎まで案内してあげて」
柚子「はい。こちらです」
宗介「助かる」
165: 以下、
廊下
宗介「会長閣下は何を恐れている」
柚子「え?」
宗介「言っても構わないが、極力言わないでくれ。などという言い方では、まるで誰かが伝えることを望んでいるかのようだ」
かなめ「うん。自分からは言いたくないのかもね」
クルツ「押し潰れそうになってるのは、みほだけじゃねえってこったな」
かなめ「そっか……。あの優勝で白紙にできなかったんだもんね……」
柚子「その件に関しては会長に非はありません」
宗介「会長閣下に落ち度があるとするのならば、契約をしっかりしていなかったというところぐらいだ。しかしそれで責めることは誰もしないはずだ」
柚子「あのときはそれでいけるって思ったんです」
クルツ「最高の結果だったのに、目的は達成できてないんだよな。どんなやつでも弱気になっちまうだろ」
宗介「その程度では動じないと林水会長閣下は角谷会長閣下のことを高く評価していたようだが」
かなめ「いくら屈強な心をもっていても、あんまりな結末だもの」
宗介「……」
柚子「と、とにかく、ついてきてください」
166: 以下、
生徒会室
桃「会長。相良の言っていたことは気にしなくても良いかと」
杏「……」
みほ「そうです。話しにくいこともありますから」
杏「西住ちゃんに廃校のことを言わなかったのは、廃校を理由に協力なんてしてほしくなかったからだ」
華「薄々は気が付いていました。みほさんに戦車道を受講させたとき、かなり強引ではありましたが、廃校のことだけは話していませんでしたものね」
杏「でも、別の訳もあったりするんだよねぇ」
麻子「別?」
桃「会長。それは私が提案したことです」
沙織「なんのこと?」
桃「試合で勝ち進めば強豪校との試合に必ずなる。そのとき、全員が簡単に諦めてしまう可能性はあった」
杏「実際、プラウダ戦のときはみんなして「来年がんばろー」ってなっていたしな」
優花里「もしかして、士気が下がったときに廃校を切り出そうとしていたのですか」
杏「そう。意地悪だと思われてもいい。卑怯だと言われても仕方ない。でも、私は恨まれたって守りたかった。この学園艦をね」
みほ「では、今回も最後の最後まで隠すつもりなんですか?」
167: 以下、
杏「……」
麻子「どうした?」
杏「言わなくても勝てる。私はそう信じてるよ。だって、こっちには西住ちゃんがいるんだしね」
みほ「わ、わたしは……」
杏「ああ、そっか。まだ参加するかどうか決めてないんだよね。いやー、ごめんごめん」
みほ「その……」
杏「いいんだよ、西住ちゃん。参加は自由だから」
麻子「何故だ」
杏「ん?」
麻子「殆ど強制で戦車道を受講させたのに、今回はいいのか」
杏「武部ちゃんや秋山ちゃんも言ってたらしいけど、西住ちゃんは大役を果たしてくれたんだ。もう辛い思いはさせたくないんだよね」
桃「よく働いてくれたのは事実だからな。強制などはしない」
みほ「でも……」
杏「いいから、いいから。ありがとね、西住ちゃん。よく考えて決めてよ」
みほ「は、はい」
169: 以下、
杏「今日のところは解散にしよっか。明日からは相良くんの訓練で大変なことになるから、よくやすんどいてよぉ」
優花里「了解です」
華「それでは、さようなら」
沙織「お疲れさまでした」
麻子「さよなら」
みほ「また、明日」
桃「――会長。正直、私も疑問です。詳細も決定した今、皆には伝えるべきではないかと」
杏「……」
桃「千鳥かなめも言っていました。隠していれば、発覚したときに会長が批難されると」
杏「いいんじゃない?」
桃「なにを……!」
杏「諦めたらそこで終わりだ、なんてこと西住ちゃんも言っていたけどさ。どうにもならなくない。選択肢すら与えてもらえない。掴めるチャンスすら現れない」
桃「会長……?」
杏「まず何をすればいいのか、わかんないな」
桃「何かあったのですか?」
170: 以下、
学園艦 マンション
かなめ「ここの一室を自由にしていいんですか?」
柚子「はい。ここも学生寮ですから」
かなめ「はー。そうなんだ」
柚子「それでは何かあったら、すぐに連絡をください」
かなめ「ありがとうございます」
クルツ「それじゃ、俺は帰ろうかね」
宗介「中佐殿に叱責を受けることになるな」
クルツ「大丈夫だ。その辺の言い訳もちゃんと考えてある。それよりソースケ、写真たのむぜ」
宗介「心配するな」
かなめ「でも、どうして写真なの?」
クルツ「戦車道選手は人気があるからな」
かなめ「売る気……?」
クルツ「幸せのお裾わけだ。金儲けは考えちゃいねえよ」
宗介「抜け目のないやつだな。お前の交友関係が広がっていくのがよくわかる」
171: 以下、
クルツ「相手の喜ぶものを用意する。取引の基本だろ」
宗介「そうだな」
クルツ「よろしくなぁ、ソースケぇ」
かなめ「ただのスケベ目的かと思ったら、ちゃんとした理由があったのね」
宗介「現代の戦争は情報がものいう。それが傭兵ともなれば尚更だ。情報なしに戦地へ赴けば、寿命を無駄に削ることになる」
かなめ「よくわかんないけど、そういうものなんだ」
かなめ(テッサも大洗のことは調べてるって言ってたっけ)
宗介「千鳥。君は明日から学園内で勉学に勤しむのだな?」
かなめ「うん。こっちで単位とらなきゃいけないし」
宗介「そうか。俺がいなくても平気か」
かなめ「平気よ。あんたはあんたで教官しなきゃいけないんでしょ」
宗介「ああ。どのような訓練を課せばいいのか、悩んでいる」
かなめ「試合までは2ヶ月もあるんだし、ラグビー部みたいなスパルタは絶対に禁止だからね」
宗介「甘いぞ。期間は60日もない。加えて短期間で彼女たちを鍛えるのは至難の業だ」
かなめ「どうしてよ? みんなやる気もあるし、技術もそこそこあるし、教えやすいんじゃないの?」
172: 以下、
宗介「西住の教えが彼女らの技術基盤になっているのは間違いない。そこに俺の入り込む余地は存在していない」
かなめ「西住さんの邪魔はしたくないってこと?」
宗介「1から教えるか、ある程度の能力を身につけた者に教えるかの違いだ」
かなめ「何も知らない相手に叩き込むほうが楽ってのは聞いたことあるけど」
宗介「そういうことだ。今の状態が彼女たちにとってベストならば、そこを崩すわけにはいかん。勝利することがより困難になる」
かなめ「ソースケって、意外と考えてるのね」
宗介「故に頭を抱える問題だ。ここからどのように訓練を行えば、彼女たちの能力を伸ばせるのか」
かなめ「技術的なことは西住さんに任せるほうがいいなら、残るは基礎的なことよね」
宗介「基礎か」
かなめ「林水先輩は強い心がほしいんだーなんて言ってたじゃない」
宗介「マオの手帳が使えないのでは、強靭な精神力を形成するには時間がかかってしまう」
かなめ「別の方法を考えればいいじゃない」
宗介「ふむ……」
かなめ「それじゃ、あたしはもう部屋にいくわ。疲れちゃったし」
宗介「了解した。ゆっくり休んでくれ」
182: 以下、
アイスクリームショップ
麻子「さつまいもアイス」
華「わたくしは3段でお願いします」
優花里「相良教官のテストは中々ハードでしたね」
沙織「あれは理不尽っていうんだよ。顔はいいんだけど、強引な男の人ってダメだよね」
麻子「ウェーバーさんはいいのか」
沙織「クルツさんは優しそうじゃない。もう一度、来てくれないかなぁ」
麻子「そうか。もう何も言わない」
沙織「どういう意味!?」
優花里「西住殿は相良教官のことどう思いますか?」
みほ「え? うん、悪い人じゃないよね」
沙織「なになに、みぽりんって相良さんみたいな人がタイプ?」
みほ「そ、そういうことじゃないからっ」
華「3段アイスですっ。見てください。カラフルで綺麗ですよね」
沙織「落とさないでよ、華」
183: 以下、
優花里「でも、西住殿が惹かれるのも無理はありません。相良教官は軍人然としていましたから」
みほ「い、いや、ホントに違うんだけど……」
華「でも、相良さんはわたくしたちと同年齢ですよね?」
麻子「陣代高校の2年生らしいな」
沙織「なんかその高校、聞いたことある」
優花里「陣代高校といえば先日、新聞記事になっていたと記憶しています。なんでも弱小ラグビー部が強豪校に勝利したとかで」
みほ「そうなんだ」
沙織「あー、それかも。というか陣代高校って陸にあるんだよね」
華「今では珍しくなりつつある学校ですね」
麻子「そのラグビー部と相良さんには何か関係でもあるのか」
沙織「どうして?」
麻子「特別に教官として呼ばれたということは、何かしらの実績があると考えるのが自然だろう」
優花里「見事な推理です、冷泉殿。確かに相良教官とラグビー部の勝利は繋がっていそうです」
華「もし、勝利に導いたのが相良さんだとしたら、指導力は折紙付きということになります」
みほ(相良さんか……。本当にすごい人なら大洗を救ってくれるかも……)
184: 以下、
通学路
沙織「はー、明日からちょっと不安だよねー。相良さんについていけるかなぁ」
麻子「朝が早くなければなんでもいい」
優花里「天才の余裕でありますね」
沙織「あ、でもさ、練習は今まで通り、みぽりんが見てくれるんだよね?」
みほ「え? どうなんだろう。相良さんがいるなら、私が教えなくても……」
華「それでは困ります」
優花里「はい。私も西住殿にご指導を賜りたいです」
みほ「そう言ってくれるのは嬉しいけど、教官として来てくれた相良さんに失礼じゃないかな」
麻子「相良さんと西住さんの二人で教えてくれたらいい」
優花里「正直なところ、相良教官は戦車道についてはあまり詳しくないかもしれません。でも、あの戦闘技術を学べばきっと我々の力になります」
沙織「つまり、みんながボン太くんになって戦車に乗れば最強ってことだね」
華「あの着ぐるみをきて戦車に搭乗できますか?」
みほ「あはは……」
麻子「冗談はさておき、相良さんも西住さんの能力は早々に認めてくれていたのだから、譲るところは譲ってくれるはずだ。西住さんは今まで通りでいいと思う」
185: 以下、
優花里「冷泉殿の言う通りです。明日からもよろしくお願いします」
みほ「だけど、私はまだ試合に出るかどうかも決めてないのに」
華「構いません。今のみほさんは指導者であって、隊長という立場からは離れているのですから」
みほ「うん……」
沙織「そんな顔しないのっ。みぽりんはあれだよ、縁の下の力持ち的なポジションにいればいいんだからね」
麻子「そうだ。朝練以外ならきちんと参加もする」
沙織「朝練にもきちんと参加しなさいよ!!」
優花里「低血圧は改善されていないのですか」
麻子「多少はしたが、やはり朝は辛い」
沙織「もー。また遅刻が増えちゃってもしらないから」
華「麻子さんはもうそんな心配いりませんよね」
みほ「……」
沙織「みぽりん?」
みほ「……あ、私、こっちだから。それじゃ、また明日ね」
沙織「うんっ。バイバーイ、みっぽりーんっ」
186: 以下、
ダナン 艦内
テッサ「そうですか。カナメさんとサガラ軍曹は無事、学園艦へ到着しましたか」
クルツ「俺が送って行ってやったんだぜ。傷一つつくかよ」
マオ「しばらくは任務もないし、ダナンは改修作業でドッグ入りだし、暇になっちゃったわね」
テッサ「何が言いたいの?」
マオ「その気になれば学園艦にいけるんじゃない?」
マデューカス「何を言ってる。お前たちに休暇を与えた覚えはないぞ」
クルツ「たまにはいいんじゃないっすかね」
マデューカス「ふざけるな、軍曹。我々は要請があれば、すぐに動かねばならないのだぞ」
クルツ「ヘイヘイ。要請があればね」
テッサ「そんなに退屈なら、一つだけ命令しちゃおうかしら」
クルツ「なに?」
テッサ「いいですよね、ウェーバー軍曹?」
クルツ「内容によるぜ?」
テッサ「簡単な任務です。メリッサと一緒に調べてほしいことがあるだけですから」
188: 以下、
翌日 大洗女子学園 校門
かなめ「うぅー……」
宗介「どうした。体調が優れないのか」
かなめ「ただの寝不足よ。気にしないで」
宗介「そうか」
みどり子「おはようございます。相良さん、千鳥さん」
かなめ「おはようございます。ええと……」
みどり子「私は――」
宗介「園みどり子。大洗女子学園3年、風紀委員だ」
みどり子「よ、よく知ってますね」
宗介「戦車道メンバーの名前と顔は把握している」
かなめ「園先輩って呼んだほうがいいですね」
みどり子「普通はそう呼ぶのよね……」
かなめ「え?」
みどり子「いえ、こっちの話です。衣服の乱れもないようだし、通っていいですよ」
189: 以下、
かなめ「風紀委員か。納得。身だしなみから真面目そうだもんね」
宗介「あの鋭い眼光。優れた視力で不審者かどうかを見極めているのだな」
かなめ「そんなわけないでしょうが」
桂利奈「あー! 留学生の千鳥さんだー!」
あや「おはよーございまーす」
かなめ「あら、おはよう。みんな、鞄を持ってないみたいだけど……」
あゆみ「朝練してたんです。私たちの日課みたいなものですけど」
かなめ「戦車道の?」
優希「もちろんですよぉ」
梓「私たち、重戦車キラーを目指していますから」
かなめ「なんか凄そうね、それ」
桂利奈「すごいことなんですよー」
宗介「……」
紗希「……」
宗介(この女子生徒は丸山紗希だったな。まったく隙がない……よく訓練されているようだ……。西住の能力の高さが窺える)
190: 以下、
かなめ「あたし、まだみんなの顔と名前が一致しないから、よかったらあとで自己紹介してくれない?」
梓「はい! いつでもします!」
あや「私は大野あやでーす」
あゆみ「私は山郷あゆみです」
桂利奈「わたしは――」
かなめ「ストップ! ストップ! 一度には覚えられないから! あとでゆっくりとしてくれると嬉しい」
優希「今でもいいと思いますけどぉ」
かなめ「ほら、あたしたちはこれから職員室に顔出さないといけないし」
梓「ああ、すみません。呼び止めてしまって」
桂利奈「千鳥さん! あとでボン太くんと話すコツを教えてください!」
かなめ「えぇ?」
桂利奈「私もボン太くんとおしゃべりしたいんです!」
かなめ「あれはね……」
宗介「千鳥。そろそろ時間だ。急がねば始業に間に合わなくなる」
かなめ「そうね。ごめんね、みんな。あとでまたゆっくり話しましょう。それじゃ」
191: 以下、
廊下
かなめ「みんな可愛いわね。良い子たちだし、仲良くできそう」
宗介「うむ。純粋な者たちほど技能を吸収しやすい。ウサギさんチームは皆、化ける可能性があるな」
かなめ「そういうことを言ってんじゃないんだけど」
桃「相良、千鳥。待っていた」
杏「おはよー。よく眠れた?」
宗介「はっ! 立派な居住地を与えてくださり、感謝しています!」
かなめ「おはようございます。ぼちぼちってとこです」
杏「そりゃ、よかった。千鳥ちゃんはこれから職員室にいってもらうとして、相良くんはどうしよっか」
宗介「自分は会長閣下の指示に従うよう言われています」
杏「じゃあ、戦車道の授業が始まるまでは生徒会室でゆっくりしておいてよ」
宗介「できれば、その時間を利用して各戦車をこの目で見ておきたいのですが、よろしいでしょうか」
杏「熱心だねぇ。いいよ」
宗介「感謝いたします!」
杏「千鳥ちゃん、ついてきて」
192: 以下、
かなめ「あたしも戦車道を受講するってことでいいんですか」
桃「いや。他の科目でも構わない。選択は個人の自由だ」
杏「でも、できれば選んでほしいよね。相良くんもいるんだし」
かなめ「あいつの監視役は必要ではありますけどね」
杏「それだけ?」
かなめ「はい?」
杏「付き合ってるんじゃないの?」
かなめ「な、ななな!! なんでそうなるんですか!! そんなことありえませんから!!」
杏「あれ? そうなんだ」
桃「林水会長からは、千鳥が相良とどうしても一緒に行きたいと言っているという説明を受けたが」
かなめ「それは林水先輩の冗談ですよ!! 冗談!! うはははは!!」
杏「ま、それはおいといてだ。どうする、千鳥ちゃん。今すぐ決めなきゃいけないってわけでもないけど」
桃「二ヶ月という期限がある以上、早期決断が望ましい」
かなめ「そうですね。それじゃ、今日中には決めます」
杏「おっけー。それでいいよ」
193: 以下、
グラウンド
宗介「八九式……。特殊なコーティングがされていなければ、一撃で破壊され、搭乗者は全員爆死するな」
典子「バレー部! ファイトー!!」
妙子「おー!!」
典子「バレーボールは友達だ!!」
あけび「怖くないよ!」
忍「それなんでしたっけ?」
宗介「始業前にランニングとは気合が入っているな」
典子「あ! 相良教官!! おはようございます!!」
妙子・あけび・忍「「おはようございます!!」」
典子「なにをしていたんですか?」
宗介「八九式は元来、対戦車戦闘能力に難がある。何故これを選んだ?」
典子「私たちが断崖絶壁で見つけたからです!」
妙子「割と命がけでした」
宗介「苦難を乗り越えて手にしたものか。なるほど。それだけ思い入れも強いのか」
194: 以下、
典子「この子は確かに弱いです。零距離スパイクを撃っても相手戦車の装甲を貫けないときだってあります」
宗介「だろうな」
妙子「でも、この子だからなんとかなった試合もあったんです」
宗介「プラウダ戦のことだな」
忍「よくご存じですね」
宗介「あの試合、俺個人としては最も気迫に満ちていたと思う。八九式があの状況下で逃げ切ったのも頷けるほどにな」
典子「プラウダ戦はまさに気合と根性のみでしたから!!!」
あけび「他の試合ではほんの少し頭を使っていますけど」
宗介「機体の性能差を埋めたのは、気合と根性ということか」
典子「はい!!」
忍「気合と根性で負けていたら、もう全部で負けることになりますから!!」
あけび「そこだけはブロックしたいんです!!」
妙子「そこだけしかないみたいに聞こえるけど、いいの?」
宗介「西住は技術面ばかりでなく、精神面の強化すら抜かりがないのか……」
宗介(ますます俺の出る幕がないように思えてくる。角谷会長閣下は何を思って、応援要請を出した。指揮官に恵まれたチームだというのに、謎だ)
195: 以下、
教室
かなめ「陣代高校から来ました、千鳥かなめです。よろしくお願いします」
沙織「よろしくー!」
華「どうぞ、千鳥さん。こちらの席が空いていますよ」
かなめ「どうも」
みほ「同じクラスなんて、驚きました」
かなめ「あたしもよ。秋山さんと冷泉さんは違うクラスなんだ」
沙織「うん。でもでも、お昼休みとかはみんなで一緒にご飯食べるよ」
かなめ「やっぱり、普段から仲がいいのね」
華「はい。戦車道は戦車に対する知識だけでなく、わたくしたちの絆をも深めてくれたのです」
かなめ「そういうのを聞くと、あたしも戦車道をやりたくなっちゃうわね」
沙織「一緒にやろーよ、戦車道。今以上に可愛くなれちゃうかもしれないよっ」
かなめ「えー? そう? 武部さんには負けると思うけど」
沙織「私のことは沙織って呼んで。そのほうが友達って感じするし」
かなめ「うん。沙織、これからよろしくね」
196: 以下、
>>1
す、すげぇ…劇場版に1部ほぼそのままのセリフあったな…
198: 以下、
華「わたくしのことも華とお呼びください」
みほ「あ、私も名前で結構ですから」
かなめ「ありがと、華、みほ」
華「では、わたくしもかなめさんとお呼びしますね」
かなめ「そのほうがあたしも嬉しいわ。……よし、決めた。戦車道、受講する」
みほ「簡単に決めちゃっていいんですか」
かなめ「いいのよ。戦車道に興味あるし、アイツのことも見張ってないといけないから」
沙織「アイツって?」
かなめ「ソースケよ、ソースケ。あたしはいわば、監視役でついてきたんだから」
華「まぁ、そうなのですか?」
みほ「監視って、相良さんは何か問題行動を起こすことが?」
かなめ「毎日毎日、問題行動よ」
沙織「例えばどんなことするの?」
かなめ「学校で爆発音が聞こえたら、間違いなくソースケの――」
ドォォォォォン!!!!!
199: 以下、
沙織「な、なになに!?」
みほ「爆発音みたいだけど……」
沙織「爆発!? どこで!?」
みほ「うーん……」
華「相良さんが仕掛けた地雷の撤去作業をしているのではありませんか?」
かなめ「あのバカは!!」ダダダッ
みほ「あ、かなめさん!」
沙織「私たちも行こう!!」
華「ですね」
みほ「いいの? もう授業、始まっちゃうけど……」
沙織「いいの。友達のピンチに駆けつける。これ、乙女の条件だよ」
みほ「……うん。そうだね。行かないと」
華「はいっ」
みほ「爆発音は演習場の方角から聞こえた気がする」
沙織「よーし! かなめを追いかけちゃおう! それが無理なら、演習場までパンツァー・フォー!」
200: 以下、
演習場
宗介「よし」
かなめ「じゃない!!!」パシーン!!!
宗介「痛いぞ、千鳥」
かなめ「やかましい!! あんた初日からなにやってんの!?」
宗介「見ての通りだ。地雷の撤去作業を行っていた。昨日、西住に設置個所を見破られてしまったために、地中に無数の地雷が埋まっている。早急に撤去しなければ危険だ」
かなめ「あんたが蒔いた地雷でしょうが!!!」
宗介「だからこそ、こうして撤去を……」
みほ「うわぁ……すごいことになってる……」
沙織「これ、全部相良さんがやったの……」
宗介「肯定だ。今、この場所は非常に危険だ。下がっていてくれ」
みほ「マーキング作業をしていないみたいですけど、設置個所は覚えているんですか?」
宗介「そんなことをすれば安全地帯を敵に知らせることになる」
華「相良さんもどこに設置したのかは正確に覚えてはいないということですか」
宗介「残念ながらな。時間的に猶予がなかったために、細かくは記憶していない。だが、設置範囲は把握している。撤去作業にはそれほど時間はかからないはずだ。安心してくれ」
201: 以下、
かなめ「こいつはぁ……!!」
宗介「地雷程度では戦車を破壊することはできないが、練習の邪魔になることは間違いない。責任をもって除去する」
みほ「は、はぁ」
華「相良さんは怖くないのですか?」
宗介「俺は専門家だ。問題ない」
みほ「スペシャリストって……」
かなめ「はいはい。そこまで。ソースケ、地雷の撤去作業はもう少し時間を考えなさい。今は授業中なのよ」
宗介「そうか。撤去時の爆発音が勉学を阻害するのか」
かなめ「そうそう」
宗介「了解した。時間を改めよう」
かなめ「分かればよろしい。ほら、いったいった」
宗介「迷惑をかけたな、西住」
みほ「い、いえ」
宗介「ではな」
みほ「はい。戦車道の授業では、よろしくお願いします」
202: 以下、
かなめ「ああいうことが毎日あるのよ」
沙織「いわゆる、ワイルド系ってこと?」
華「あれが野性的な男性、というわけですか」
みほ「違うと思うな」
かなめ「全然、違うから」
『ピンポンパンポーン、生徒会からのお知らせぇ』
かなめ「角谷先輩?」
『今の爆発は戦車道の新しい特訓のための準備だから、気にせずに授業に集中してくれてオッケーだよー。以上、生徒会からでしたぁ。ポンパンパンポーン』
沙織「そんなことで誤魔化せるのかなぁ」
華「会長が戦車道の特訓だというのなら、誰も疑わないと思います」
かなめ「どうして?」
みほ「会長って昔から色々と派手なことをするのが好きみたいで」
かなめ「あぁ……」
沙織「誰も出てこないし、落ち着いちゃったのは確かだね」
かなめ(角谷先輩って、林水先輩と同類の匂いがするわね……)
203: 以下、
生徒会室
杏「これでよしっと」
柚子「あの、相良さんってかなりの危険人物なのでは……?」
桃「今更だな。陣代高校では器物破損、授業妨害の常習犯だ」
柚子「そ、そんな人だったの!?」
杏「うん」
柚子「どうして、そのような人を教官に選んだんですか?」
桃「弱小のラグビー部を生まれ変わらせた実績があるからだ」
柚子「それだけなんですか」
杏「……」
桃「会長?」
杏「相良くんのことは林水から色々ときいた。結構、面白い話があったよ」
柚子「面白い話の中に、学園を救えそうなものがあったとかですか」
杏「そうだな。もし、新しい道を作るなら、ああいう人が一人はいないと困るんだよねぇ」
桃(会長……。我々に何を隠しているのですか)
204: 以下、
昼休み 食堂
優花里「もうびっくりですよ。私のクラスもどよめいていました」
かなめ「ごめんね、優花里。あとでまたソースケは叱っておくから」
麻子「会長の放送ですぐに収まったから、別に叱らなくても良いと思う」
かなめ「それはそれで問題があるような」
華「相良さんが大洗にいる間は、爆発音が度々聞こえてきそうですね」
沙織「学園艦は大きいし、多少の爆発ぐらいじゃ沈没しないって」
みほ「誰もそこを心配してないと思う」
かなめ「みんな、アイツが迷惑をかけたなら、すぐにあたしに言ってね」
優花里「千鳥殿は相良教官とどのような関係なのですか?」
かなめ「え?」
麻子「ここまでついてきたのにはそれなりに理由がありそうだが」
かなめ「ないない。ソースケにはブレーキ役がいるってだけ。世話係を押し付けられたの。いわば、あたしは被害者よ」
華「傍から見ている限りでは、夫婦のように仲睦まじく映りますよ」
かなめ「ないない!! それだけはぜぇーったい、ない!!」
205: 以下、
宗介「奇遇だな、千鳥」
かなめ「ソースケもお昼ご飯?」
宗介「新たな居住区の食料事情を把握するのも重要なことだからな。食えないものが並んでいれば、食料の輸入を考えなくてはならない」
かなめ「あのね。こんな立派な学園艦で今にも腐りそうな野菜とかあると思ってるわけ?」
宗介「水が体に合わないだけで戦う前に死ぬ者がいる。注意して然るべきだ」
かなめ「はぁ……」
優花里「相良教官!!」ガタッ
かなめ「お、いったれいったれ。この大洗女子学園は平和だって」
優花里「素晴らしいです!! 戦争のプロは兵站を語り、戦争の素人は戦略を語るという格言もあるように、大事なのは補給、つまりは食料も含まれます!!」
宗介「うむ。その通りだ」
優花里「そこを重要視するなんてまさに相良教官はプロフェッショナルです!!」
宗介「理解している秋山も一流といえる。あんこうチームの一員だけあって、戦闘のプロが集まっているようだな。感心するぞ」
かなめ「優花里って、こういう人なんだ……」
みほ「はい……」
かなめ「ソースケと気が合いそうね……」
207: 以下、
優花里「では! こちらも購読されているのですか!?」
宗介「毎号目を通している。ASに関する資料としては高水準を保っているからな」
優花里「おぉぉ!!! まさか西住殿以外にこの書籍の存在を知っている人がいるなんて!!! 感動ですぅ!!」
宗介「秋山の知識量も相当だ。君は風間とも良い関係を築くことができるだろうな」
沙織「なんか別世界が広がってるよ」
華「楽しそうですわ」
かなめ「はぁ……。大丈夫かしら。優花里が毒されないか、心配」
麻子「安心しろ。手遅れだ」
みほ「……」
かなめ「みほ? なにぼーっとしてるの?」
みほ「え? ああ、その、相良さんって、自衛隊の人なのかなって……」
かなめ「あー、いや、軍事オタクなだけだから! な、なんでそう思うの?」
みほ「いえ、私の実家に相良さんみたいな自衛隊員が良く出入りしていたのでそうかなって」
かなめ「あんなやつが出入りする家って、なんか嫌……。というか、なんで自衛隊が出入りするの?」
みほ「えと、お母さんの知り合いに、多くて……」
208: 以下、
かなめ「お母さんが自衛隊にいたとか?」
みほ「あ、その……」
宗介「西住流は卓越した戦車戦術を有し、教えを乞う者が後を絶たないと聞く」
みほ「え……」
宗介「軍関係者にも西住しほを崇拝する者は少なくないはずだ」
みほ「……」
かなめ「西住流って、なによ」
宗介「戦車道の流派だ。その中でも最も由緒があるとされる」
かなめ「へぇ、それじゃあ、みほは家元ってやつなの?」
みほ「私は、もう勘当されちゃってて……」
沙織「そ、その話はもういいから! 早くたべちゃおー!! 次は戦車道の授業だし! 準備に時間がかかっちゃうし!!」
優花里「そうですね!!」
かなめ「あちゃ……。触れちゃいけない話題だったんだ……。ごめん」
みほ「いえ、そんな。気にしないでください」
宗介「……」
223: 以下、
華「ごちそうさまでした。では、グラウンドへ参りましょうか」
麻子「そうだな」
優花里「五十鈴殿は相変わらずの健啖ぶりですね」
沙織「なんで太らないんだろう。不公平よね」
かなめ「大盛ごはんにトンカツ、それからうどんだもんね。どこに入ってんだか」
宗介「西住」
みほ「は、はい」
宗介「まだ決めていないのか」
みほ「隊長のことですか?」
宗介「お前の指揮力なくして、勝利はない。それはお前自身が強く感じているはずだ」
みほ「……」
宗介「何に怯えている」
みほ「……すみません。でも、練習には参加します」
宗介「答えになっていないぞ」
みほ「着替えなきゃいけないので、先に行きます。ごめんなさい」
224: 以下、
グラウンド
桃「全員、集まったな。これより、戦車道の授業を開始する。今日から相良教官が我々の指導をしてくれることになった」
宗介「……」
あや「なんか軍服着てるけど」
桂利奈「かっこいい! 映画にでてくる軍曹みたい!」
あゆみ「教官って感じがする」
カエサル「新たな指揮官ということか」
おりょう「山縣有朋のように大洗の父と呼ばれる日がくるかもしれないぜよ」
左衛門佐「それなら島津義弘のように鬼相良と言われたほうがいいかもしれない」
エルヴィン「あの雰囲気なら、ラインハルト・シェアのように鉄仮面というあだ名がついても様になる」
カエサル「いや、助っ人としてここへ来たのなら、クィントゥス・ファビウス・マクシムスのように大洗の盾と呼ばれることになるはず」
エルヴィン・おりょう・左衛門佐「「それだぁ!!!」」
桃「静かに!! では、会長、どうぞ」
杏「あいよ。みんなー、相良くんの言うことをよーくきくように。ビシビシ厳しくやってもらうように言ってるから、覚悟しておいて損はないね」
ねこにゃー「き、厳しいの……? こわいなぁ……」
225: 以下、
杏「相良くんからは何かある?」
宗介「はっ。では改めて。これより二ヶ月の間、君たちを指導することになった相良宗介だ。特訓を開始する前に一つだけ聞かせてほしい」
かなめ(何を言うつもり……?)
宗介「次の試合、全員、勝つ気でいるか」
カエサル「当然だ。優勝校としての誇りが我々にはある!! あの優勝旗に誓って、勝利する!!」
梓「相手がオールスターでも、絶対に勝ちます!!」
みどり子「エキシビジョンなら負けてもいい、なんていう校則はないもの」
ねこにゃー「や、やれるだけのことはやりますっ」
典子「スポーツマンシップに則り、勝ちます!!」
杏「……」
みほ「……」
宗介「よぉく分かった。そこまで勝利を渇望するのであれば、妥協は一切しない。弱音を吐くものは容赦なく切り捨てていくぞ、いいな!!!」
エルヴィン「望むところだ!!」
桂利奈「やってやるぅ!!!」
かなめ(みんな、本当に戦車道が好きなんだ……。軽い気持ちでいたら、失礼ね)
226: 以下、
宗介「会長閣下。これより、自分の考案した特訓メニューに沿って、彼女たちを鍛えます」
杏「いいよ。てか、そこに私も含んでよね」
宗介「勿論です。西住もしばらくは俺の指示に従ってもらうが、構わないな?」
みほ「はい。よろしくお願いします」
宗介「いいか!! 俺の特訓に最後までついてこれた者に戦場へ立つ権利を与えてやる!!!」
優花里「選抜のための訓練ということでありますか!」
宗介「肯定だ。来たる日に向け、出場者を絞らなければならない。そして、千鳥」
かなめ「なに?」
宗介「無論、君にも出場のチャンスはある」
かなめ「えぇぇ!? なんでよ!?」
宗介「君は戦車道を受講することを決意し、この場にいるはずだ。生半可な気持ちで受講を決めたのか」
かなめ「違うわ。私はみんなと一緒に戦車道をするって決めたの。だから、ここにいる。その試合だって、出られるなら、出てやるわ」
みほ「かなめさん……」
宗介「それでいい。――これより特別訓練を開始する!!! まずはパンツァーファウストを担いで校庭を30周!!! いくぞ!!!」
かなめ「いけるかぁ!!!」
227: 以下、
典子「ランニングは毎日やっているんだ!! アヒルさんチームがここで躓くわけにはいかない!!」ダダダッ
妙子「体力で負けたら!!」
忍「誇れるところはない!!」
あけび「寂しいけど!! ホントのことだから!!」
優花里「千鳥殿、どうして先ほどの訓練を止めたのですか?」
かなめ「あんなもんを背負って走れるわけないでしょ」
優花里「しかし、ハイポートよりかはまだ優しいと思うますよ」
沙織「はぁ……はぁ……。ハ、ハイポートってなぁに?」
麻子「小銃を45度の角度で固定したまま走る訓練だな」
沙織「うぇー、なにそれぇ」
華「普通に走るより刺激的ですけど」
みほ「そ、そうかな? あれって、体力の消耗はもちろんだけど、腕への負担が想像以上なんだけど……」
宗介「トロトロ走るんじゃない!!! 口を動かす前に足を動かせ!!!」
希美「こ、これはつらいのよ……」
ももがー「こんな訓練、はじめてなりぃ……」
228: 以下、
杏「えっほ、えっほ」
桃「はぁ……ひぃ……こ、こんな訓練で……試合にか、かてるのか……」
ナカジマ「車で走りたいなぁ」
ツチヤ「そのほうが楽しいよね」
杏「文句いわなーい。わざわざ遠いところから来てくれたんだから。それに体力づくりは基本中の基本だ」
柚子「そうかもしれませんけど……」
桃「は、はしる……だけで……勝てるのなら……いくらでも……はしりますけど……はぁ……はぁ……」
杏「今は言われた通りにしておけ、河嶋ぁ。相良くんは無駄なことはしないだろうし」
桃「し、信じていい、のですね……はぁ……ふぅ……」
杏「うんっ」
桃「わ、かりました……全力で……はしります……!!」
柚子「無理しないで、桃ちゃん」
宗介「……」カキカキ
優花里「(相良教官、何かチェックしていますね。みなさんの体力を数値にしているのでしょうか?)」
みほ「(どうだろう。それだけなら、もっと楽に測れそうだけど……)」
229: 以下、
麻子「ゴールっと」
宗介「冷泉がトップか。流石だな」
麻子「走るだけだからな」
典子「うおぉぉぉぉ!!!!! 今何周目か忘れたぁぁぁぁ!!!!」ダダダダッ
宗介「磯辺!!! 何周したかは自分で数えておけ!!! ペナルティとしてあと5周追加だ!!!」
典子「あと5周なら覚えていられます!!! ありがとうございます!!!」
妙子「私たちも一緒に走ります!!」
典子「みんな!」
あけび「私たちも何周か忘れましたから!!」
忍「あと5周! がんばりましょう! キャプテン!」
典子「よし! バレー部!! ファイトー!!!」
妙子・あけび・忍「「ファイ! おー!!」」
宗介「アヒルさんチームはやはり他チームよりも精神面で秀でている」
優花里「ゴール!! 30周、走り切りました!!!」
宗介「終わった者から休んでよし!! ただし、次のトレーニングは予定通りに始める!! 終了が遅れれば休憩の時間がなくなるぞ!!!」
230: 以下、
かなめ「はぁ、はぁ、やっと、終わったぁ」
宗介「意外だな。千鳥が秋山よりも遅いとは、意外だな」
かなめ「運動には自信あったんだけどね。基礎体力はみんなあるのね」
宗介「でなければ戦車を長時間動かすことは不可能だからな」
かなめ「え? なら、どうして……」
みほ「これで、終わり」
優花里「西住殿、お疲れ様です。どうぞ、このタオルで汗を拭いてください」
みほ「ありがとう、優花里さん」
優花里「いいんですよぉ」
宗介「……」
みほ「あ、あの、何か?」
宗介「いや、なんでもない」
沙織「げほ……つかれたぁ……」
ねこにゃー「ボクも……もうだめぇ……」
宗介「この後も訓練は続く。この程度で音を上げるな」
231: 以下、
>>230
宗介「意外だな。千鳥が秋山よりも遅いとは、意外だな」

宗介「意外だな。千鳥が秋山よりも遅いとは」
232: 以下、
華「はぁ……はぁ……はぁ……」
宗介「五十鈴で最後だ」
華「も、申し訳ありません……」
宗介「次の訓練は5分後だ。いけるな」
華「も、もちろんです」
宗介「よし」
沙織「ちょっとスパルタすぎない? 私、優しい人じゃないとダメなんだけど」
優花里「あれは相良教官の本気度を表しているのです。愛のムチですよ」
沙織「なら、もう少し優しくぶってほしいなぁ……」
麻子「これを毎日やるんだろうな」
沙織「えー? やだもー」
華「毎日続けていれば、2週間ぐらいで慣れるといいます。次の試合に勝つためにも、やりましょう」
みほ(基礎体力をつけても、今度の試合には……)
宗介「西住、思うことがあれば言ってみろ」
みほ「え!? いえ、そんな!」
233: 以下、
杏「いいじゃん、いってみぃ」
みほ「私は相良さんの指示に従います」
宗介「そうか。では、次の特訓に入るぞ。全員、戦車に乗り込め!!」
桂利奈「あいぃ!」
あゆみ「りょうかーい」
宗介「あとのことは西住に任せる」
みほ「どういうことですか?」
宗介「言葉通りだ。それとも、従うことができない理由でもあるのか」
みほ「いえ、でも、相良さんは戦術アドバイザーとして……」
宗介「戦術に関しては君のほうが優れていると俺は考えている。より優れたものが指示を出したほうが良いとは思わないか」
みほ「は、はい」
宗介「では、いけ」
杏「教官がそういうなら、仕方ないね。西住ちゃん、おねがいっ」
みほ「……分かりました。みなさん、これより私が指揮を執ります」
優花里「了解であります!!」
234: 以下、
かなめ「あたしは、どうしたら……」
ねこにゃー「あ、あの、千鳥さん」
かなめ「ん? えーと、猫田さんよね?」
ねこにゃー「よかったら、ボクたちのチームに入らない?」
ぴよたん「装填手になってくれると嬉しい」
ももがー「お願いします!」
かなめ「いいの? 全くの素人だけど」
ねこにゃー「みんな最初は初心者だし、ボクたちもリアルの戦車に乗ったのはつい最近のことだから」
かなめ「そう。それじゃ、よろしくね」
ねこにゃー「こちらこそ」
ぴよたん「やったー、これで三式中戦車のパフォーマンスがあがるぅ」
ももがー「これなら負けないなり」
桃「相良のやつ、自分が戦術アドバイザーとして呼ばれていることを忘れているのか」
杏「これがベストな戦術なんじゃない? 相良くんにとってはね」
宗介「何をやっている!! 既に10秒オーバーしているぞ!!! あと5秒で用意ができなければその場で腕立て伏せ50回だ!!!」
235: 以下、
?号戦車内
沙織「いそげー、麻子ぉ。腕立て伏せはしたくないぃ」
麻子「そうだな」
優花里「私は個人的に毎日筋トレをしているので、大丈夫です!!」
沙織「腕が太くなっちゃうよ?」
優花里「望むところです!!」
華「基礎トレーニングは相良さんで、戦車技能はいつも通り西住さんが指導してくれるのですね」
みほ「そう、みたい」
沙織「よかったぁ。やっぱり、みぽりんに教えてほしいからねぇ」
麻子「相良さんがどうこうというより、私たちは西住さんのやり方に慣れてしまっているからな」
優花里「西住殿、相良教官のように私たちのことも扱いてください」
沙織「えぇー。それは遠慮したいし、みぽりんっぽくないぃ」
華「いつもの西住さんがいいですよね」
みほ「そう言ってもらえると、嬉しいな」
みほ「――パンツァー・フォー!!」
236: 以下、
陣代高校 生徒会室
敦信「ふむ。なるほど」
蓮「どうかされたのですか?」
敦信「これを見てほしい。学園艦教育局からの回答だ」
蓮「これは……」
敦信「伝手を頼りに、大洗女子学園廃校及び廃艦に関することを調べ、そして当局に詰問してみたのだよ」
蓮「戻ってきた回答がここに書かれていることなのですね」
敦信「そうだ。約3万人の住人、そしてそこに含まれる1万8000人の生徒の未来は、A4一枚にまとめられてしまっている」
蓮「これでは、大洗女子学園は……」
敦信「角谷君がどう考えているのかは分からないが、このままでは間違いなく大洗女子学園は廃校ということで片がついてしまうのだろう」
蓮「そんな……」
敦信「内側からの改革は不可能を意味している」
蓮「何かお考えはあるのでしょう?」
敦信「私にできることはすべて終わっている。あとは相良君と千鳥君に任せるしかない」
蓮「そうですか……。お二人なら、きっと救ってくれるはずです」
237: 以下、
ダナン 艦内
カリーニン「基地に戻った際、例の早期警戒システムのテストを行いたいのですが」
テッサ「構いませんよ。ダナンの改修作業のついでにやっちゃいましょう」
カリーニン「許可を頂き、ありがとうございます」
テッサ「いえいえ」
カリーニン「ところで、大佐殿。あの一件についての進捗状況はどうなっているのでしょうか」
テッサ「報告はまだ届いていないですね。数日中には届くと思いますけど……。それがなにか?」
カリーニン「いえ。私も高い関心を持っているだけです。他意はありません」
テッサ「カリーニンさんはどう思いますか? この度の一件を」
カリーニン「武器を用いた平和の祭典、それが戦車道だと私は考えています」
テッサ「私もです。故にコーティング技術の開発者は、全ての知識をそこに注ぎ込んだ。誰にも教えず、情報を一切漏らさず、ただスポーツのためだけに技術を活かした」
カリーニン「大洗女子学園の廃校については、彼の者の想いに水を差す結果になるでしょう」
テッサ「優勝校が消えてしまえば、築き上げた文化がどうなるか、分かっていないのでしょうか」
カリーニン「机上の書類に目を通すだけの人間が存在するなら難しいかもしれません。その者にとって紙に書かれた数字と文言が全てですから」
テッサ「そうですか。……ミスリルというより私個人の我儘だけど、関わってしまった以上は大洗女子学園を潰させるわけにいきませんね」
253: 以下、
大洗女子学園 グラウンド
宗介「本日はここまでとする!!」
「「ありがとうございました」」
沙織「はぁー、おわったぁ」
麻子「最初が違うだけで、あとはいつも通りだったな」
優花里「ええ。昨日、あれだけのことがあったので、もっと苛烈な特訓を想像していたのですが」
華「初日ということもあるのではないですか?」
麻子「考えられるな」
みほ「相良さんはずっと何かを調べていたみたいだけど……」
沙織「えぇー、やだぁ。スリーサイズとか測られてたら、どーしよー」
麻子「バスト82、ウエスト56、ヒップ84」
沙織「きゃー、はずかしいー」
みほ「それ私の!!」
宗介「西住、楽しんでいるところ悪いが話がある」
みほ「あ、は、はい」
255: 以下、
かなめ「つかれたぁ……」
ぴよたん「ありがとう、千鳥さん」
かなめ「装填するのもかなり大変よね」
ねこにゃー「でも、千鳥さんの装填、初心者とは思えないほどかった」
ももがー「きっと、腕力が人よりあるなり」
かなめ「女の子としては喜んでいいことじゃないけどね」
ねこにゃー「千鳥さんがいれば今度の試合にも出られるかもしれない」
ももがー「絶対、出たい!」
かなめ「やっぱり同じチームでもライバル意識ってあるのね」
ねこにゃー「ボクたちはみんなを抜きたいなんて、思ってない」
かなめ「どういうこと?」
ぴよたん「決勝戦、すぐにゲームオーバーになったから……」
かなめ「あ……」
かなめ(そういえば、開始すぐにやられた大洗のチームって、アリクイさんだったような……)
ねこにゃー「だから、次の試合では西住さんの、ううん、みんなの力になりたい。どうしても」
256: 以下、
かなめ「そういうこと。大洗のために役に立ちたいってことなのね」
ねこにゃー「そのためにも。千鳥さんの協力は必要不可欠だから!!」
かなめ「わ、わかってる!! わかってるわよ!!」
ねこにゃー「あぁ、すみません。と、とにかくボクたちの力になってください」
かなめ「あたしでよければ、いつでも力になってあげるわ」
ねこにゃー「う、嬉しい……」
ももがー「お礼にネトゲで使えるアイテムを贈呈する!」
ぴよたん「リアルマネーにもなるほどのレアアイテムをどうぞ」
かなめ「ネトゲとかしないから」
ももがー「ネトゲは楽しいなり!」
ぴよたん「絶対にやったほうがいい!」
かなめ「そんなこと言われても……」
ねこにゃー「そうだ。あとで千鳥さんがアリクイさんチームに正式に加入したことを西住さんに伝えておかないと」
かなめ「あれ? そういえばソースケの姿が見えないわね」
ももがー「さっき、倉庫へ入っていくのを見たけど」
257: 以下、
倉庫
みほ「なんでしょうか?」
宗介「本日、俺が調べていたことが気になっているだろう」
みほ「え、あ、はい、それは……」
宗介「指揮官としては当然の疑問点だろう。部下を調査されて気分が良いわけないからな」
みほ「みんなは部下じゃありません。友達であり、仲間です」
宗介「そうか。では、訂正する。仲間を調査されては気分もよくないだろう」
みほ「……」
宗介「これを見てほしい」
みほ「ノートパソコン……?」
宗介「俺が見ていたのは昨日に引き続き、各人の能力だ。ただし、今日より重視するのは意志の強さだ」
みほ「意志の……。それは与えられた任務を最後までやり切れるかどうか、ということですか」
宗介「肯定だ。お前たちはただの女子高校生に過ぎない。苦行や苦難からはすぐに逃げ出す可能性もある。そういったものを炙り出すために少々酷な訓練を与えるつもりでいる」
みほ「ずっと、練習前にランニングをするつもりなんですか」
宗介「最終的には技能訓練に入る前に、この学園艦を2周させる。無論、パンツァーファウストを担いでだ」
259: 以下、
みほ「そ、それは無理です! むりむり!」
宗介「しかし、選抜者を決めなくてはならない。そういった振るい落としも必要になる」
みほ「みんなは、今までも辛いことや、逃げ出したい状況であっても、正面から戦ってくれました」
宗介「……」
みほ「そのような振るい落としは、意味がありません。きっと、みんな相良さんの特訓についてくるはずです」
宗介「アル、聞こえるか」
アル『肯定』
みほ「え……? パソコンが喋った……?」
宗介「詳細は説明できないが、今このPCはとあるところと繋がっている」
みほ「あ、ああ。ネット電話ですか。びっくりしたぁ」
宗介「アル。今回、入力した大洗の選手データを基に、シミュレーションを行ってくれ」
アル『ラジャ』
みほ「一体、何を……」
アル『結果を報告します。大洗女子学園が戦車道オールスターチームに勝てる可能性は、5パーセント程度でしょう」
みほ「な……」
261: 以下、
宗介「理由は?」
アル『様々な要因がありますが、最大の原因は西住殿の不在にあります』
宗介「なるほど。では、西住が指揮を執った場合、どうなる」
アル『西住殿が隊長を務めるのであれば勝率は50パーセントになります』
宗介「だ、そうだ。迷いは消えたな」
みほ「ちょ、ちょっと待ってください! いきなりなんですか!?」
宗介「なにがだ」
みほ「そんなこと急に言われても、私は……」
アル『西住殿。貴女にはチームを導くだけの力があります。ご自身を信じてください』
みほ「あ、あなたは一体誰なんですか!?」
アル『私のことはアルとお呼びください、西住殿』
みほ「そうじゃなくて……」
宗介「では、明日から隊長として皆を指導してくれ」
みほ「あの!! それは……」
宗介「お前が怯える理由はなんだ? 優勝校の長がそんなことでは、大洗を守ることなど不可能だ」
263: 以下、
かなめ「あ、いたいた。ソース――」
ねこにゃー「ちょっとまって」ギュッ
かなめ「むぐ!?」
ねこにゃー「なんか大事そうな話をしてるみたいだから」
かなめ「むぐぅ……」
みほ「……大洗の現戦力でオールスターチームに勝つことが条件なんです」
宗介「勝つ自信がないのか」
アル『心配ありません。西住殿はその程度の逆境など、物ともしないでしょう』
宗介「戦車性能の差は看過し難い問題だが、これまでもお前はそれを打ち破ってきたはずだ」
アル『私もそのように聞き及んでいます、西住殿』
みほ「勝つ方法は、あるかもしれません。いえ、あります。でも……でも……」
アル『分かりました。西住殿は勝つためのプロセスに疑問を抱いているのですね』
宗介「どういうことだ?」
アル『大洗の現戦力で勝利を得るためには、様々な策を弄さねばなりません。奇襲、伏撃、間諜、またそれらに属する作戦を行使したくないでしょう』
264: 以下、
宗介「相手の無線を傍受することもか」
アル『肯定』
宗介「お前には聞いていない。どうなんだ、西住」
みほ「はい。他にも、たとえば2輌を囮に使えば一時的にでも有利になり、陣形を崩すこともできるはずです。相手にこちらの意図を読まれなければの話ですけど」
宗介「お前はそういった作戦を実行したくはない、ということか」
みほ「大洗に来て、やっと見つけたんです。私の戦車道を。西住流には頼らなくてもいい、私だけの道を」
宗介「しかし、次の試合ではそういったことをしない限り、勝利することは困難だ」
みほ「だからこそ、迷っているんです。私が隊長として指揮を執ったとき、私は……西住流のやり方を……」
宗介「大洗を守りたくないのか」
みほ「守りたい、です」
アル『軍曹殿。時間を頂ければ、私が大洗女子学園を勝利に導く戦略を組み立てますが』
宗介「そうだな。アル、頼めるか。ただし、西住を戦力としては考えないようにしてくれ」
アル『ラジャ』
みほ「あの、相良さん……」
宗介「お前の言い分は分かった。俺も無理強いはしない。まだ時間はある。決断したときはすぐに知らせてくれ。以上だ」
266: 以下、
ねこにゃー「相良さん、行っちゃった……」
かなめ「……」
みほ「どうしよう……どうしたら……」
アル『西住殿、まだそこにおられますか?』
みほ「あ、はい」
アル『私は貴方達のことを数値でしか知りません。これでは適当な戦略を組むことは不可能でしょう』
みほ「そうなんですか?」
アル『はい。最適化させるため、西住殿にご協力を要請したいのですが』
みほ「なんでしょうか?」
アル『大洗のみなさんを紹介してください』
みほ「はい?」
アル『大洗のみなさんを私に紹介してください』
みほ「えっと……それぐらいなら……」
アル『感謝いたします、西住殿』
みほ(この人、相良さんとはどういう関係なのかな……?)
268: 以下、
グラウンド
かなめ「ソースケ!」
宗介「千鳥か。どうした」
かなめ「最初から、みほがあの理由で迷っていたのは、気が付いていたんじゃないの?」
宗介「何故そう思う?」
かなめ「あんた、西住流のことも調べてるみたいだったし。その西住流のやり方はよくわかんないけど、みほは卑怯な手とか使いそうにないもの」
宗介「戦車道大会で西住が使った戦術は各車輌に最大限の役目を与えていた。誰一人として捨て駒にしない、そういう戦術を多用していた。そのため、非効率な面もあった」
宗介「対して西住流の戦術は、敵戦力を殲滅することに徹した戦略を組む。その際生まれる犠牲も戦略の一部にすることで、効率的に相手を撃破することができる」
かなめ「それって……」
宗介「西住流は完璧だ。戦術、戦略としては微塵の隙もない。飽く迄もスポーツの流派ではあるが、十分に実戦にも使える」
かなめ「ただ、みほはそれが嫌だったのよね」
宗介「そのようだな。大会時に西住がそうした戦術を用いなかったのが何よりの証拠だ」
かなめ「けど、今回はそうもいかない……」
宗介「相手が悪すぎるからな。隊長が非情な決断を下さねば、大洗は終わりだ」
かなめ「……どうにか、ならないの?」
269: 以下、
宗介「俺がどうにかできる範疇ではない。これは西住の問題だ」
かなめ「そうかもしれないけど……」
宗介「だが、西住は言った。学園艦を守りたい、と。その言葉に嘘はないと俺は判断した」
宗介「それにだ。西住はプラウダ戦のときに非情な戦術を使っている。逃げ場がなくれば使わざるを得ないことは本人も理解しているはずだ」
かなめ「プラウダ戦って準決勝?」
宗介「ああ。あれはカメさんチームを――」
杏「あれは、私が提案したことなんだよねぇ。西住ちゃんは最後まで反対してたぐらいだしな」
宗介「会長閣下」
かなめ「角谷先輩、帰ったんじゃ……」
杏「西住ちゃんが教官に呼び出されたら、心配にもなるって」
宗介「……」
杏「なんかいいたそうだねぇ」
宗介「いえ。なんでもありません」
杏「そう」
かなめ「あの、今の話は本当なんですか? みほは反対してたって……」
270: 以下、
杏「うん。あのとき、西住ちゃんは全員で突破することを考えていた。もちろんフラッグ車を守る陣形ではあったけどね」
かなめ「そうそう。そんな感じだった。長い中断がありましたよね」
杏「突破後、二手に分かれてうちのフラッグ車を守るチームと、相手のフラッグ車を叩くチームに分かれる作戦を取ろうとしていた」
杏「で、そのときに私は言ったんだ。それじゃあ、勝てないんじゃない?ってね」
宗介「同感です。戦力に大きな差があった準決勝で、その作戦は悪手です。敵フラッグ車を早期発見することが前提条件であることから成功率は低かったと思われます」
杏「そゆこと。だから、カメさんチームで相手を撹乱させることを提案した。砲撃の腕には多少、自信があったしね」
宗介「会長閣下が砲撃手として作戦に参加されたのは準決勝途中からだと記憶しています」
杏「そうそう。それまでは河嶋がやってたんだ」
かなめ「どうして初めから砲撃手をしなかったんですか?」
杏「秘密兵器っぽくてかっこいいから!」
かなめ「そ、そんな理由で……?」
杏「うんっ」
宗介「会長閣下。貴方が戦車道経験者であったという記録は残されていません。少なくとも4月当時では素人だったはずです」
杏「……」
宗介「並々ならぬ努力をされたとしか考えられません」
271: 以下、
桃「相良、そこまでにしろ」
柚子「ごめんなさい、相良さん。もう言わないであげてください」
宗介「何故だ。俺は謙遜する会長閣下に称賛を――」
桃「いいから、それ以上の詮索はするな」
杏「まぁまぁ、河嶋」
桃「しかし、会長。そのことを公には……」
杏「相良くん、よく調べてるみたいだねぇ」
宗介「お褒めに預かり、光栄です」
杏「私の努力なんて、大したことない。西住ちゃんの苦労や苦悩に比べればな」
宗介「決して、そのようなことは」
杏「私にできることは、それぐらいしかなかったんだ。そして、今も同じだ」
かなめ「先輩……?」
杏「よろしく頼むよ、相良くん、千鳥ちゃん。期待してっから」
宗介「はっ。ご期待に応えられるよう、尽力いたします!」
杏「ありがとね。じゃ、そういうことだから、西住ちゃんに変な期待をしないほうがいいよぉ。たとえ負けそうになったって、西住ちゃんは仲間を見捨てない子だから」
272: 以下、
宗介「理解できんな。戦場ならば、西住の行為は仲間を無駄死にさせるときさえある」
かなめ「そういう性格だから、みんなも戦車道が好きなのかもね。というか、テッサもそうじゃない?」
宗介「……」
かなめ「テッサだって、誰一人見捨てようとはしないでしょ? たくさん悩んで、苦しんで、最善の指示を出す。違う?」
宗介「……違わない」
かなめ「傭兵部隊と戦車道の違いはあるけど、同じ隊長で、みんなに好かれてる理由は、あまり変わらないとあたしは思うな」
宗介「そうだな」
かなめ「だから、あんたも最後の最後までみほをサポートしてあげて」
宗介「了解した。俺は戦術アドバイザーだからな」
かなめ「よろしい」
宗介「ふむ……」
かなめ「どうしたの?」
宗介「俺だけでは難しいかもしれんな。いや、しかし……どうしたら……」
かなめ「何で悩んでるの?」
宗介「中佐殿に自力で解決するようにと言われているために、本部に協力を仰げない。参った……」
274: 以下、
倉庫
沙織「みぽりーん、お風呂いこーよー」
カエサル「隊長、裸の付き合いも大事だ」
みほ「あ、みんな……」
アル『大洗のみなさんですか?』
優花里「おぉ!? なんでありますか!?」
あや「パソコンが喋ってる!」
麻子「ネット電話じゃないのか」
華「では、こちらの姿は見えているのでしょうか?」
アル『私にはみなさんの姿は見えません。音声のみです』
おりょう「一体、パソコンの向こうにいるのは誰ぜよ」
みほ「相良さんのお友達みたいなんですけど」
優花里「相良教官のご友人ならば、自己紹介しておかなくてはいけませんね。私は大洗女子学園普通二科2年C組、秋山優花里です!!」
アル『私のことはアルとお呼びください、秋山殿』
優花里「はい! よろしくお願いいたします、アル殿!』
275: 以下、
カエサル「私はカエサルだ」
おりょう「おりょうぜよ」
エルヴィン「エルヴィンと呼んでくれ」
左衛門佐「左衛門佐でござる」
アル『記憶しました』
麻子「機械のような喋り方だな」
華「そうですか? 声に温もりを感じますから、機械ではないと思いますが」
カエサル「もしアルさんがAIか何かというならびっくりするけど」
左衛門佐「豊臣秀吉の髭は付け髭だったぐらいの驚きだな」
おりょう「上野戦争で40人ほどを率いていたのに後ろを見たら誰もいなかったときぐらいの驚きはあるぜよ」
エルヴィン「ジョン・マルコム・ソープ・フレミング・チャーチルがドイツ軍下士官を弓矢で倒したという記録ぐらいの衝撃だな」
カエサル「古代ローマ市内にはわずか1797軒しか家がなかったということを知ったときの衝撃にも勝るとも劣らないな」
アル『フェルディナンド・マゼラン本人は世界一周をしていなかったぐらいの驚きはあります』
カエサル・おりょう・エルヴィン・左衛門佐「「それだぁぁ!!!」」
アル『恐縮です』
277: 以下、
麻子「機械ではなさそうだな。すまない」
アル『いえ。気分は害しておりません。お気になさらず、冷泉殿』
沙織「で、アルさんはみぽりんと何してたの?」
アル『会話です』
沙織「そりゃ、そうだろうけど」
アル『私は相良軍曹殿より、大洗女子学園を勝利へと導くための戦略を組むように命じられました。そのため、西住殿に相談していたところです』
華「どのような?」
アル『現在の私は貴方達のことを数値でしか知りません。例えば、磯辺殿』
典子「はい!!」
アル『貴方を数値として見た場合、能力としては低いと言わざるを得ないのです』
典子「あぁ……」ガクッ
妙子「キャプテン!」
あけび「そんなことはっきり言わなくてもいいじゃないですか!」
アル『ですが、相良軍曹殿は磯辺殿のことを高く評価しています』
典子「本当ですか!?」
278: 以下、
アル『故に私は理解が不足していると判断しています。数値だけで測ることのできない能力が人間にはあるように思えます』
典子「当然です!! 人間は根性でどうにかなることが多いですから!!」
アル『根性、とは?』
典子「劣勢に立たされても、根性さえあれば逆転できたり!」
忍「八九式でマウスを相手にしても根性で押し勝ったり!!」
妙子「戦車の中から押しても意味ないけど」
アル『理解不能。根性にはそれだけの力があるのですか』
典子「そうです!!」
アル『軍曹殿が磯辺殿を評価しているのは、その根性の数値が高いからなのでしょう』
カエサル「実際、私たちの中で最もガッツがあるのはアヒルさんチームだからな」
梓「それは間違いないと思います」
アル『やはり、まだまだ分からないことが多いようですね。この度のデータは後に活かせることができそうです』
みほ「データ……?」
アル『西住殿。もう少しみなさんと会話をしておきたいのですが、よろしいですか?』
みほ「あ、はい。いくらでもどうぞ」
288: 以下、
グラウンド
かなめ「なにを始める気?」
宗介「こういうことは早めに手を打っておく必要がある」
かなめ「その無線機で誰と話すのよ」
宗介「決まっている。――こちらウルズ7。応答せよ」
クルツ『なんだぁ。何かあったか?』
宗介「肯定だ。応援が欲しい状態に陥りそうだ」
クルツ『どういうこった』
宗介「西住抜きで大洗を勝利させなければならない可能性が出てきた」
クルツ『みほは優勝の立役者だろ。なんでスタメンに選ばれないんだよ』
宗介「西住本人が戦場に立つ覚悟がないからだ」
クルツ『そりゃ、仕方ねえな。で、俺にしてほしいことでもあるのか』
宗介「西住を抜いた現戦力を俺一人で率いて勝利させることは困難を極める」
クルツ『俺にコーチでもさせるつもりか? 初日からそんな調子で大丈夫かよ』
宗介「勝率を1%でも上げる。それが戦術アドバイザーとしての責務だと俺は考えている」
289: 以下、
クルツ『俺としてはそっちに飛んでいきたいぐらいだけどな』
宗介「いつ頃、来ることができる」
クルツ『すぐには無理だな。今、マオと一緒に我らが隊長からの任務をこなしているところだからよ」
宗介「大佐殿の?」
クルツ『だから、早くても三週間後ぐらいになる。それでいいなら、行ってやるよ』
宗介「それでいい。ミスリルの任務が最優先だ」
クルツ『いや、これはミスリルってより、テッサ個人の願いっぽいな』
宗介「任務の内容は言えるか?」
クルツ『大洗の調査だ』
宗介「大洗の?」
かなめ「クルツくん」
クルツ『お、カナメが傍にいるのか。相変わらずだな、二人は』
かなめ「どういう意味かはまた今度聞くわ。それは置いといて、テッサは前に大洗のことを調べたって言ってたわよ」
クルツ『調べきれないこともあるだろ。例えば、金の流れかたとかな』
かなめ「お金……?」
290: 以下、
クルツ『一つの街が海の上を漂ってんだぜ。そりゃ、相応の金は動くだろ』
かなめ「まぁ、ね」
宗介「大佐殿がそのことを気にする理由が分からんな。学園艦の金の出どころなどお前が動くまでもないはずだ」
クルツ『そう思うだろ? でも、テッサが俺とマオを動かしたってことはだ。何かあるんだろ』
かなめ「何かって?」
クルツ『今現在、分かってるのは過去に戦車を売り払った相手と、学園艦が廃艦になったあとの処理についてだ』
宗介「そこまで具体的に話は進んでいるのか」
クルツ『物が物だけにな』
宗介「まるで何年も前から決まっていたようだな」
かなめ「……!」
クルツ『ソースケ、良い勘してるぜ』
かなめ「けど、大洗の廃校って今年決定とかじゃなかった?」
クルツ『生徒数の減少で前から廃艦候補には上がってたらしい。でも、不思議な話だよな。だって、今年の入学者はちゃんといるんだぜ?』
宗介「通常であるならば廃校が決定したときに入学者の受け入れは中止となり、在校生の卒業まで残るはず」
かなめ「言われてみればそうよね……。今年度に決まって、来年度には廃校なんて急すぎるわ……」
291: 以下、
クルツ『みほだって廃校が決定してからの転校生だ。廃校になるっていってるところが転入を受け入れるか、フツー?』
かなめ「卒業するために1年通うってことならまだしも、みほは2年生だしね」
宗介「不自然だな」
クルツ『テッサもそこが気になって仕方ないんだろ」
宗介「それで、廃艦後の扱いはどうなっている?」
クルツ『学園艦は解体。そのあと、戦車の接収が行われるらしいな』
宗介「何故だ」
クルツ『そこはこれからだ』
かなめ「戦車、だけ?」
クルツ『みたいだな』
かなめ「……」
宗介「クルツ、何か分かれば俺にも連絡をくれ」
クルツ『了解。報酬、忘れるなよ』
宗介「分かっている。写真だな」
クルツ『楽しみにしてるぜぇ。またな』
292: 以下、
宗介「どうやら、裏がありそうだな」
かなめ「……」
宗介「どうした、千鳥?」
かなめ「え? ああ、うん。戦車だけをってのが気になってね」
宗介「恐らく、大佐殿も同じところで引っかかっているはずだ」
かなめ(戦車のコーティングにウィスパードの知識が詰まってることに関係しているなら……)
宗介「あとのことはクルツたちに任せて、俺たちは与えられた任務もこなすか」
かなめ「そうね。ここで考えたって、答えは出ないもの。あたしも装填手としてバリバリやるわよ」
宗介「その意気だ。君なら短期間で良い装填手になることができるはずだ」
かなめ「はいはい。ありがと。そういえば、みんなどこかしら?」
宗介「俺は会長閣下に謁見するつもりだが、千鳥はどうする?」
かなめ「あたしは……。猫田さんたちとちょっと話してみようかな。同じチームなら色々と知っておかないといけないし」
宗介「なるほど。仲間の欠点や長所を探るのは必要なことだからな」
かなめ「違うわよ! あぁ、いや、似たようなもんなのかしら……うーん……?」
宗介「ではな、千鳥」
293: 以下、
倉庫
かなめ(猫田さんはまだいるかしら?)
ねこにゃー「おぉぉ!! まさか、あのアルさんがアルさんだったなんて!」
かなめ(何かしら?)
アル『肯定。私もねこにゃー殿と直接会話することができ、嬉しく思います』
みほ「知ってるんですか?」
ぴよたん「ネトゲの戦車ゲーで、激ヤバレアアイテムばっかりを所持していた猛者がいたんです!」
ももがー「ネトゲ界では神と呼ばれる一人なり!!」
ねこにゃー「それがアルさん!!」
みほ「アルさんってすごいんだ」
アル『恐縮です。私はただ知識を得るために様々な場所へアクセスしているだけなのですが』
沙織「ネット好きなんですか?」
アル『肯定。時間のあるときはインターネットで知識を蓄えています』
かなめ「随分と楽しそうね」
優花里「今、相良教官のご友人と話をしていたところです。猫田殿とお知り合いだったということで、盛り上がっていました」
294: 以下、
かなめ「アイツの友人!?」
かなめ(クルツくんのことかしら? マオさんかも……)
アル『そろそろ時間です。申し訳ありませんが、退席させていただきます』
桂利奈「えー? もうですかー?」
アル『またの機会にゴジラやウルトラマンについて語り合いましょう、阪口殿』
桂利奈「ぜったいですよぉ!」
アル『約束します。それでは』
華「切れたようですね」
麻子「面白い人だったな」
優花里「ええ。相良教官にも勝るとも劣らない軍事知識量! 流石、教官のご友人ですね!!」
かなめ(誰だったんだろう……。あとでソースケにでも聞いてみるか)
かなめ「猫田さん、ちょっといい?」
ねこにゃー「なんですか?」
かなめ「アリクイさんチームでお茶でもどうかなって」
ねこにゃー「おぉ、う、うん! 是非!」
295: 以下、

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