【ミリマス】奈緒「志保、私、アイドル辞めて実家帰ることにしたわ」back

【ミリマス】奈緒「志保、私、アイドル辞めて実家帰ることにしたわ」


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・ミリオンライブの奈緒と志保がメインのSSです。
・ちょっとだけ他のキャラも出ます。
・地の文が若干多めかもしれません。
・それでもよろしければ、是非どうぞー。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1443966541
2: 以下、
 事務所の応接スペースで、改まって志保に向かい合った。
 ふぅ、と息を吐き、用意していた台詞を丁寧に、感情を込めて口に出す。
「志保、私、アイドル辞めて実家帰ることにしたわ」
 ……いささか唐突やったかもしれへん。
 けれども、志保の背後。
 扉をこっそり開けた所に、焼き鳥みたいにつらなっとる野次馬たちがサムズアップしとる。
 これでよかったってことにしとこ。
 っていうかプロデューサーさん、わざわざドッキリの立て札まで持ってきとるやん。
 『北沢志保リアクションレッスン』なんてタイトルまでついとる。
 あとで志保にキレられてもしらへんで。
3: 以下、
 ……そう、これはドッキリや。
 いまいちバラエティに馴染めない志保に、リアクションの術を学んでもらう――
 最初はそんな趣旨だったはずやけど。
 話が盛り上がっていくうちに、いかに志保を一番驚かせられるか、
 みたいな話になって、この辺に落ち着いた。
 趣旨とずれとらんか若干心配やけども。
 辞める役もプロデューサーやら可奈やら静香やら何人か候補があがったんやけど。
 一度もそういう節を見せたことないやつがいいだろう、
 なんてことで私の白羽の矢がたってしもうた。
 まるで私がなんも悩みがないパッパラパーみたいな扱いで納得いかへんわ。
 まぁ実際、考えた事ないけど!
4: 以下、
 で、肝心の志保なんやけど。椅子に座ってペットボトルの紅茶を飲んだままフリーズしとる。
 なんや、私がなんか言わんとあかんのか、と内心ちょっとうろたえてたら、
 思い出したみたいに紅茶を咽せて吐き出しそうになった。
 おぉ、げほげほいっとる、だいじょうぶかいな……。
 私が志保の背中を撫でてやると、幾らか落ち着いたのか。
 顔を上げた時にはいつもの志保に戻っとった。
「……アイドルを辞めるっていうのは、どういうことですか」
「……えーと、そのままの意味やけど」
「理由を聞いているんです」
 こわっ。キレとるっ。
「まだまだこれからじゃないですか。
 レッスンが大変とか、思ったより成果が出てないとか、色々あるかもしれないですけど。
 そういう下積みも含めてアイドルなんじゃないですか。いきなりトップアイドルなんて、むりですよ」
 いやぁ、勿論その通りやし、堪え忍んで頑張る所存なんやけどね。
 この辺は絶対に突っ込まれるだろうって予測はしとった。
 こっからはあんまり気が進まんけど、プロデューサーさんが立てた作戦通りに進める予定や。
5: 以下、
「……父ちゃんがな、ちょっと調子よくないんや」
 食ってかかるようだった志保の勢いが、すっと落ちたように私には思えた。
 詳しいことはあんまり知らんけど。志保は母子家庭やってきいとる。
 そういうところ突くのはフェアじゃないと思うんやけど、
 プロデューサーさんがレッスンのためだ、なんて言い張ったんや。
 まぁ、別にプロデューサーさんだってわざわざ志保を傷付けるつもりはないやろうし。
 そこは、その、割と大丈夫なんやろ、って思ってたのに……あかんやつやんこれ!
 後で絶対しばいたると心に決めていると、志保が持っていたペットボトルをことりとテーブルに置いた。
6: 以下、
「……いつからですか」
「……せやな。今週中に荷物まとめて、来週にでも」
「また体調がよくなれば、戻ってきますよね」
 志保は私のことをみとらん。窓の外をぼんやり眺めてる。私も同じ方を向いた。
 雲は一杯あるけど、アホみたいに晴れとる。
 本当なら、こういう時に辞めるなんていわんのやないかな、ってなんとなく思った。
「もう戻ってこぉへんと思う。そんな中途半端な考えやったら、あかんと思うし」
「……そうですよね。奈緒さんはそういうと思ってました」
 せやろか。考えた事もないから、ようわからんけど。
 でも、確かにな。どういう経緯かは想像もできんけど、辞める事になったら、潔く消えるかもな。
 ……なんか私までしんみりしてきたんやけど。
 いや、演技に没頭出来てるってことやから、ええのんか。
 志保が左の手首を捻る。時計を確認して、立ち上がった。
7: 以下、
「すいません、そろそろレッスンの時間なので」
「お、おぉ、せやったか」
「みんなには伝えたんですか?」
「うん、プロデューサーさんには……。他の子らはまだや」
「……そうですか。多分、みんなは止めると思いますけど」
「……志保は止めてくれないんか?」
 半笑いの、意地悪のつもりやった。志保も少しだけ砕けたみたいに笑う。
「奈緒さんが決めたことですから。どうせ何を言っても、聞かないでしょうし」
 私は志保の中でそういう扱いなんか。嬉しいような寂しいような、複雑な気分やね。
8: 以下、
「……せやな。その通りやわ。決意は変わらんと思う。けど、みんなを応援する気持ちもそのままやから」
「えぇ、そうですね。関西のテレビにも映るくらい、がんばりますよ」
「せやな」
「アイドルには戻れなくても、時間が出来たら、ステージを見に来てくださいね」
「うん。全国ツアーやってな」
「プロデューサーさんに進言しておきます。関西は絶対に外さないで、って」
 そう言って、ぺこりと志保はお辞儀をした。
 意味が一瞬よくわからんかったけど、ありがとうございました、そんな言葉がぽつりと呟かれた。
「志保……」
「同期、ですからね。……今までお世話になりました。
 奈緒さんがいなかったら、多分、私も今と同じようにはやれなかったでしょうし。
 ……バトンは受け継ぎます。奈緒さんの分まで、トップアイドルになりますから」
 あかん。ドッキリ仕掛けてる方なのに若干泣きそうになってきた。
 っていうかこれ、私の会心の演技に志保一ミリも疑っとらんのやけど。
 もしかして私、大女優の素質ある?
 ……それと共に、ネタばらしの時のおそろしさが増していくわけやけども。
 どうなってしまうんや、私。あまりのリアクションに首でも絞められてしまうんやないか。
「……すまんな、志保」
 あまりの罪悪感に謝ってもうた。
 慌てて、応援しとるからな、と志保の肩を叩く。こくりと頷いた。
9: 以下、
「じゃあ、レッスンにいってきます」
「おぉ、いってらっしゃい」
 そういって、志保は応接スペースを出て行く。
 私はどさりとソファに腰掛けた。
 あかん、めっちゃ疲れた。私の良心がしくしく痛んどる。
 こんなレッスン計画したプロデューサー、鬼畜すぎるわ。
「で、そろそろネタばらしやなかったっけ……」
 私もふらふらと応接スペースを出る。
 扉のところで焼き鳥野次馬になっとる三人が、何やら給湯室を指さしとった。
 いけってジェスチャー。はいはい、何でもやりますよ……と給湯室をそっと窺うと。
10: 以下、
 床に座り込み、泣き崩れる志保がおった。
 あかん。思わず隠れてしもうた。
 やばいやろ。きまりすぎやん! 志保が泣くところとか初めてみたんやけど!
(むりーっ、これはむりーっ)
 腕でバツ印を作ってプロデューサーに救助を求めるも、向こうからはマルのサインが飛んできた。
 なにが大丈夫や。
 これこのままいくと、私、二ヶ月くらい志保に口聞いてもらえんで。
 いや、もうここまで来たら、私が言おうがプロデューサーが言おうが同じな気もするけれども。
 ……せやな。そう考えるんやったら、はやく教えてやったほうがええやろな。
 で、ネタばらししたら、きちんとここまでの経緯を説明してやらんと。
 荷担したのは事実やけど、発案ではないし、静香と可奈もノリノリやったところだけは伝えないとあかん。
 一蓮托生、全員で地獄にいってもらうで。シカトされるならみんなでされよう!
 私は腹を決めて、給湯室に入った。ぽろぽろと涙を流す志保の肩にそっと触れる。
11: 以下、
「志保……その、なんといったらええか……」
「……いえ、すいません。本当は外に出るまで我慢するつもりだったんですけど。……どうしても、今までのこと、思い出しちゃって……」
 ぽろぽろと涙の滴が落ちていく。
 志保の肩をそっと抱いたら、子どもみたいに抱きつかれた。
 志保のあったかい温度がじんわり来る。
「本当は、いやなんです。奈緒さんと離れたくない……」
「志保……」
「送り出さなきゃ、ってわかってはいるんです。
 でも……私、ばかですね。全然、その通りに出来ない。
 女優志望なのに、これじゃあダメですよね」
 あかん。なんだか私まで泣けてきた。
 本当ごめんな志保。
 思う存分、私達に怒ってええんやで……そしてそのキレっぷりでレッスン達成としようや……。
 ごそごそと背後に気配。やつらの準備も出来たやろ。ここいらで決めたるわ!
12: 以下、
「あのな、志保、一つ、伝えなきゃあかんことが……」
「……その前に、私の方から一つ、いいですか」
「……うん。何でもいってや。私に出来る事なら何でもするで」
「実は……」
 志保がさっと私から離れて、営業にいくときみたいな笑顔を浮かべよった。
「これ、ドッキリなんです」
 プロデューサーが、イェーイ、なんて言いながら、私の前に飛び出してきた。
 志保の前ではなく。私へドッキリの立て看板を見せつけてくる。
 北沢志保リアクションレッスン、なんて書いてあったはずなのに、
 くるりと裏返すと、横山奈緒演技レッスン、そんなタイトルになっとる。
 えっ、つまり、これは、どういうこと?
 あまりの驚きで、浮かんでた涙がぽろりと零れてしまったんやけども。
 ぐしぐしと拭う。
「……もしかして、逆ドッキリ? 騙してるつもりが、私だけ騙されとったアレ?」
「まぁ、そういうことです」
 志保が掌を広げると、そこには目薬が。マジか。
 さすが演技派やな、なんて感心してまうわ。
13: 以下、
「あっかーーーーーん! ってことは最初からかいな! えぇっ、君等酷くない!?」
 頭を抱えてぐわんぐわんと振る。
 静香可奈プロデューサーさんらに目を向けると、三人ともちらりと志保をみた。
「えっ、ちょっと、私を見ないでくださいよ。発案はプロデューサーさんでしょう」
「というか、そもそも、最初は本当に志保にドッキリを仕掛ける予定だったのよ」
「うんうん。私達で相談してたら、普通に志保ちゃんが部屋に入って来ちゃったんだよねー」
「で、志保が、それなら奈緒さんにドッキリを仕掛けましょう、なんてノリノリになってだね……」
「やっぱり志保のせいやんか! ……はっ。もしかして、プロデューサーの作戦やった、お父さんネタも……」
 志保が私から目を逸らし、ちろりと舌を出す。
「もう何年もいないんだから、あんな風には効かないですよ」
「良心の痛みを返せやッ」
「なんて言いつつ、奈緒さんもノリノリだったじゃないですか。
 ……プロデューサーさん、奈緒さんの演技レッスン、どうでしたか」
「……相手役の志保に引っ張られてあの出来は、及第点ってところかな。
 奈緒自身にはもう少し、成長してもらわないと」
 マジレスしとるやんこの人。腹立つ。
14: 以下、
「うーん、今この瞬間にアイドル辞めたなってきたわ」
 おいしいとは思うけど、納得いかんわっ。
 やいのやいの言う三人を尻目に、志保がこちらに手を差し出してくる。
 手を取って、立ち上がらせてもろうた。ぱんぱん、とお尻の辺りの埃を払う。
「嘘つきの手は冷たいのぉ」
「奈緒さんも同じ穴の狢でしょう」
「私はな、心から悪いなと思ってたんやで」
「それはつまり、私の演技がそれだけ真に迫っていたという事だと思います」
「んきーっ、改めて思い返すと本当にそうなだけに腹立つわー!」
 さっきまでの出来事がばんばんフラッシュバックする。
 くっそー、流石に女優志望でがんばっとるだけあるわ。
 なんでも勢いとか適当なだけじゃあかんのかもなー!
15: 以下、
「……まぁでも、奈緒さんの演技も、まぁまぁでしたよ」
「さよか。道化やけどな」
「それは普段の行いのあらわれということで」
「最初は志保がターゲットになっとったんやから、君が一番アレやと思うんやけど」
 それは言わないでください、と志保は私から手を離し、掌の目薬を蛍光灯に照らした。
「使わなかったんですよ」
「は? 目薬を? なんや、女優はいつでも泣けるってあれかい」
「いや、流石にそれはむりです。使う予定だったんですよ。でも……」
 志保はくるりと翻り、少しだけ悲しそうに笑った。
「奈緒さんとのやり取りで、本当にいなくなっちゃったらどうしよう、って考えて。
 そうしたら泣けて来ちゃったんです。
 だから、多分、奈緒さんの演技も悪くなかったんだと思いますよ」
 私はゆっくりとその言葉を噛み締める。
 あるいは私が思ってるより、志保の中には私が大きいのかもしれんし。
 その逆に、私の中にいる志保はどれくらいの大きさなんやろうと考える。
16: 以下、
 私が辞めて、志保やみんなと離ればなれになったら。
 さっきまで演技としてだけやけど、浮かんでたはずの感情は、
 どうもドッキリで全部吹き飛んでしまったようにも思う。
 きっとそんな事になったら、月並みやけど、悲しいとは思う。
 でもそういうのは考えすぎてもよくないかなーって気もする。
 なにせ私、絶対にやめへんし。
 志保の肩にがっと手を回した。
 何をするんですか、と志保が言ってきたので、いなくならへんよ、と答える。
「答えになってないんですけど」
「仲間が一人いなくなるくらいで泣いちゃう子やからね。しっかりいなくならんよってアピールしとかんと」
「……流石、奈緒は切り替えがはやいね。我ながら逆だったらおそろしいことになってたと思うよ」
 プロデューサーさんが一人ごちてるし、それはその通りやと思うけども。
 志保も、冗談くらい通じますよ、なんて口を尖らせてるけど、どうやろうな。
 なんでそんな事するのか理解できません、ってマジになる光景しかうかばんで。
17: 以下、
「それはさておき、私が安い女やと思われたら心外や! 心のケアには誠意が必要やと思いますぅー!」
「……ご飯でも食べに行くか。みんなも協力してくれたしね。今日は奢るよ」
 わーい、と可奈が喜んでる。
 志保に攻で「食べ過ぎには注意してね」とか言われとる。ほんとやね。
 静香には「うどんは勘弁な」と先制したら「そんなにいつもは食べてませんっ」と怒られた。それはうそやろ。
「ほいじゃ志保も飯たべにいこか」
「……それはいいんですけど。そろそろ離してくれませんかね」
「えーっ。またいなくなるぅ、って泣かれたら困るしなぁ」
「本当にそんなことになっても、泣きませんよ。引っぱたいてでも辞めさせないですから」
「おぉー、怖っ!」
 私は志保の肩から手を離し、とん、と背中を押した。
「やめへんよ、私は」
「……そうですか。それならいいです」
「みんなもやめへんよなぁ……って君らに聞くのは危険すぎるか」
 なはは、と笑うと、笑い事じゃないですよ、と可奈がいっとる。
 笑い話に出来るくらいには時間がたっとるし、静香も難しい顔してわらっとる。
 色々あったりなかったりするけれど、まだ暫くはこのままでええんやと思う。
18: 以下、
 私達は何を食べに行くか相談しながら、歩き始める。
 そして多分、頭の中ではぼんやりと「さようなら」について考えてる。
 いつか来るかもしれへんし、どういう形かはわからんけど。
 ずっと永遠に一緒なんてことはきっとありえないって事くらい、流石に私達はわかっている。
 だって私達はアイドルやから。
 
 だから、さようならのレッスンが必要なのかもしれへん。
 ……まぁ、プロデューサーさんがそこまで考えてたとは思えへんけども。
「なー、手つなごうやー」
 静香と可奈が笑って、二人で手を繋ぐ。
 可奈が志保に手を伸ばし、志保が私に手を伸ばした。
 プロデューサーさんはスキャンダル案件やからやめとこな、と言ったら、
 やっぱり飯食いにいくのやめようか、なんて笑ってる。
 私達は手を繋いで、歩きづらいわっ、そんな風に文句を言いながら、ビルの階段を降りていった。
19: 以下、
終わりです!
読んで頂き、ありがとうございましたー。
26: 以下、

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