涅マユリ「椎名・・・まゆり・・・?」back

涅マユリ「椎名・・・まゆり・・・?」


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1:
〜護廷十三隊・十二番隊〜
リン「東京・秋葉原5地区、6地区、7地区、18地区、55地区!時空間の歪みを確認!」
阿近「なん・・・だと・・・?原因は!?」
リン「穿界門でも空間凍結による影響でもありません!」
阿近「ソウルソサエティ側の影響ではないということか?・・・では・・・誰が・・・?虚圏?見えざる帝国?」
涅ネム「マユリ様。それらからの現世への干渉は無いようです。」
涅マユリ「・・・?・・・面白そうじゃないかネ・・・。」
〜現世・α世界線〜
桐生萌郁「椎名まゆりは、必要ない。」
岡部倫太郎「まゆり・・・?まゆり・・・!?まゆり・・・?何なんだよこれええぇぇぇーーーー!!!!」
阿万音鈴羽「42・・・ブラウン管・・・点灯済み…。」
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6:
〜現世・α世界線〜
クリス「岡部!早く!」
岡部「飛おおおぉぉぉべぇぇぇよぉぉぉ!!!!!」
〜護廷十三隊・十二番隊〜
涅マユリ「また時空間の歪みが起きたようだネ。実に興味深いヨ。一体原因は何なのか、あるいわ誰なのか・・・。」
涅マユリ「実に興味深いよ。もしこの現象を起こしているのが『誰か』だとしたら・・・。」
マユリ「何をしているのだネ!ウスノロ!さっさと現世へ実地調査へ行くヨ!」
涅ネム「わかりました。マユリ様。すぐに穿界門を開く準備をします。」
マユリ「その原因が『誰か』だとしたら・・・その仕組みをグチュグチュになるまで調べたいネ・・・。早く・・・調べたくて調べたくて・・・頭がとろけてしまいそうだヨ。」
7:
〜現世・α世界線〜
クリス「岡部!早く!」
岡部は渦巻く煙の中、タイムリープ装置を装着する。
岡部「飛おおおぉぉぉべぇぇぇよぉぉぉ!!!!!」
〜護廷十三隊・十二番隊〜
涅マユリ「また時空間の歪みが起きたようだネ。実に興味深いヨ。一体原因は何なのか、あるいわ誰なのか・・・。」
涅マユリ「実に興味深いよ。もしこの現象を起こしているのが『誰か』だとしたら・・・。」
マユリ「何をしているのだネ!ウスノロ!さっさと現世へ実地調査へ行くヨ!」
涅ネム「わかりました。マユリ様。すぐに穿界門を開く準備をします。」
マユリ「その原因が『誰か』だとしたら・・・その仕組みをグチュグチュになるまで調べたいネ・・・。早く・・・調べたくて調べたくて・・・頭がとろけてしまいそうだヨ。」
〜現世・α世界線〜
岡部「くそっ!なんで!?なんで!?なんで!?何度やっても、何をしても、まゆりは死んでしまう!」
クリス「岡部の言うことはにわかには信じがたい。だけどあんたの話が全て事実だとしたら、おそらく、この世界線ではどうあらがっても、まゆりは死ぬことになる。」
岡部「そんなの・・・まるで運命論じゃないか!!」
クリス「・・・どういう行動をしてもまゆりが死んでしまうということは、たぶん、どんなに世界線を渡っても、まゆりの死という結末に収束してしまう。」
クリス「まゆりの死の本当の原因は、おそらくもっと何か根本的なもの…。」
岡部「…根本的なもの・・・。」
涅マユリ「秋葉原・・・。この辺りだネ。」
8:
涅ネム「時空間に異変が起きた5,6,7,18,55地区。その他にも現在進行形で現世の時空間に異変が起きているようですが、それについては伝令神機で逐一ほうこくするように阿近およびリンに指示してあります。」
涅マユリ「ふん。それくらい当然だヨ。」
ネム「マユリ様。どこから調べますか?秋葉原第5地区が最寄りのようですが。」
マユリ「そんなことはわかっているヨ。まずは第5地区から調べてみるとしようか。早くするんだよ!このウスノロ!」
〜研究所〜
クリス「Dメールを送る度に世界線が移動した。ということは」
岡部「全てのDメールを取り消せば元の世界線にもどれる・・・と?・・・結構重労働だな。」
クリス「気をつけて。」
岡部「ありがとう。クリス。」
クリス「クリスって呼ばれたこと、私忘れちゃうんだね。」
タイムリープ装置を装着する岡部。クリスの目をみつめることはできない。どうしても、めをそらさずにはいられない。
岡部「次に取り消すべきDメールは、フェイリスか・・・。」
9:
マユリ「ココだネ。」
ネム「はい。マユリ様。今のところ時空間の変動のが起きた地点の最新情報は此処のようです。」
二人の見上げる先には、秋葉原でも有数と言える高さのビルがそびえ立っていた。
どうもこのビルはこの辺りでは大きな会社か何からしい。
ネム「このビルの地上40メートル付近で時空間変異が起きたようです。行きますか?マユリ様。」
マユリ「当然だヨ。さっさと行くヨ。」
11:
マユリとネムの見つめる先には二人の男女が語り合っていた。女の方は今にも泣き出しそうな状態でいる。
その二人にはマユリとネムは見えていないらしい。
岡部「本当にいいんだな?」
フェイリス「・・・良くない。良くないよ。」
岡部「クリスに相談してみよう。きっと何か・・・変える方法がっ!」
フェイリス「でもいいの・・・。凶真を困らせたくない!凶真は私の王子様だから!」
その会話を冷めたような目で見つめるマユリとネム。
ネム「この二人は恋人でしょうか?」
マユリ「ふん。人間の恋愛などくだらないネ。」
男がケータイを取り出す。ケータイから声が漏れる。
クリス「こっちの準備はできた!」
ためらいながら男はメールの送信ボタンを押す。
それとともに時空が歪む。
ネムはとっさに身を守る体制をとる。マユリは男を見つめて不気味な笑みを浮かべている。
13:
時空の歪みとともに世界が街が変わっていく。歪む世界でマユリに認識できたのはそこまでだった。
気がつくとマユリはさっきと同じ場所にいた。隣には棒立ちのネムがいる。だが目の前に猫耳の少女はいない。ケータイを持った男もいない
マユリ「ネム。今時空が歪んだのがわかったかネ?」
不気味な笑いとその言葉。ネムにはその意図がわからないらしい。
マユリ「ネムには何も起きていなかった・・・と言うべきか?どうやら私が例外なのかネ?だが世界が歪んだのはあの男が携帯電話を操作した時だった。」
ネム「・・・携帯・・・電話?ですか?」
ネムはやはり今起きたことを理解していないらしい。
マユリ「鍵はおそらくあの白衣の男だネ。」
ネム「白衣の・・・?」
マユリはずっと不気味な笑みを絶やさない。
マユリ「あの男を追跡するヨ。ネム!早くするんだヨ!」
ネム「はい。マユリ様。」
ネムはその言葉を理解しないまま、マユリの指示に従った。
17:
〜現世・α世界線・未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・13・15:3154:54
クリス「どうしたの?ヤキソバの湯切りに失敗して麺を全部流し台にぶちまけたような顔して。」
岡部「むしろ、必死で貯めたスタンプカードをいざ使おうとしたら・・・」
そんな二人の会話を聞き流すように異形の男が喋り出す。岡部とクリスには、やはり我々の姿は見えないらしい。
涅マユリ「この男だね。55番地区。研究所と言うには随分と質素な所だが。」
ただでさえ研究所と呼ぶにはまともな機材もない所だ。まして護廷13隊、技術開発局とは比べるまでもない。
不気味な笑みの男は独り言か、それとも自分の副官に対してか、どちらともつかないような言葉をこぼしながら研究所内を見渡す。
副官は、独り言かもしれないその言葉に対し、一応の返事をする。
ネム「はい。この白衣の男、岡部倫太郎という名のようです。先程入った技術開発局からの連絡によると、この男が秋葉原55番地区で何度も時空間の歪みを繰り返しているようです。」
そんな副官の言葉をも聞き流すように、涅マユリは不気味な笑みを一層不気味にほころばせた。彼は奇妙な金属製の箱を見て呟く。
涅マユリ「だが、面白そうなものもあるじゃないかネ。」
その箱は、ここでは電話レンジと呼ばれているらしい。
しかしその前に、彼には気になることがある。
涅マユリ(何故、技術開発局からの連絡がこんなに遅れたのか。阿近達ならこの程度の報告など小一時間もかからないハズ・・・。)
阿近、涅マユリの部下は、優秀だ。それは涅マユリが最もよく知っている。
涅マユリ(そして何故私だけが先程の世界の改変を認識できたのか。ネムには認識できなかった。)
涅マユリ「・・・。ククッ。」
18:
マユリの思考を理解しないネムは、淡々と説明を続ける。
ネム「岡部倫太郎と話している女性が牧瀬紅莉栖です。この研究所の研究員のようです。」
涅マユリはそんなことは気にも留めない。それよりも興味のあることができてしまった。彼の頭の中は疑問に対する答えと、答えから新たに湧き上がる疑問とが高で入り乱れていた。
涅マユリ「ネム。色々調べたいことがある。一度ソウルソサエティに戻って機材を持ってきてくれ給えヨ。そうだネェ・・・霊子・器子変換機。それと・・・。」
涅マユリが言いかけた時、研究所の扉が勢いよく開いた。
入ってきたのは黒髪に水色の帽子の少女。その少女は入ってくるなり岡部に怒鳴りつけた。怒鳴りつけたと言うほど声を荒げたわけではないが、とにかく何かを訴えている。

少女「ルカちゃんに一緒にラボ行こうって誘ったら急に泣きだしちゃったんだから!それで」
ネム「!」
少女「どうしたの?って聞いたら、お前は男だって言われたって!」
岡部「Dメールのことも聞いたのか?」
少女「Dメール?誤魔化そうとしてもだめなんだからね!オカリンはきちんとルカちゃんに謝るべきなのです!」
やはりこの少女にも私たちは見えていないらしい。
ネム「マユリ様。この少女、椎名まゆりという名前のようです。報告によると岡部倫太郎はこの少女の死を回避するために」
涅マユリは伝令神機の報告を見ながら、ネムの言わんとすることを理解していた。彼が理解するのと、彼がその理解した内容を言葉にするのはほぼ同時だった。
涅マユリ「この少女の死を回避するために、この55番地区で何十回と時空間を歪ませてきた。」
涅マユリ「ネム。一度ソウルソサエティに戻って機材を持ってくるんだ。」
涅マユリは必要な機材をいつの間にかメモした紙をネムに渡した。
ネムはコクリと頷き、
ネム「わかりました。マユリ様。穿界門の準備をします。」
そう言い残し、その場を去った。
涅マユリ(死の回避、直接的死因、時空間の歪み、同じ結果、岡部倫太郎、牧瀬紅莉栖・・・)
涅マユリ「椎名・・・まゆり・・・?」
19:
岡部「いや待て違うんだ。あぁ・・・これにはわけがっ・・・!」
涅マユリとネムの会話など知るはずもなく、クリスと椎名まゆりは岡部を責め立てている。ラボにクリスの声が響く。
クリス「どんな理由だ!?」
岡部はクリスの誤解を解くために強引にクリスの腕を引っ張る。
岡部「助手よ一緒に来てくれ!」
当然クリスにはその意味がわからない。
クリス「はぁ!?」
ただ頓狂な声が出るだけだ。それでも岡部は強引にクリスを連れていこうとする。
岡部「いいから早く!」
結局クリスは椎名まゆりを残して岡部について行った。
ラボに残された椎名まゆりを見ながら、涅マユリの脳内では激しく思考が駆け巡っていた。
涅マユリ(岡部倫太郎は過去を改変した。だがその改変はソウルソサエティにまでは及んでいない。少なくとも、私や護廷13隊内でそのような異変は見られなかった。何故?)
涅マユリ(過去改変はソウルソサエティにまでは及んでいない?何故?もしそうならその理由はおそらく私の推測で説明できる。それとも実際にはソウルソサエティも改変されていて、そのことを誰も認識できなかった?)
涅マユリ(過去に戻るという現象自体はすでに存在が確認されている。岡部倫太郎とは全く違う人物が、偶然にもそれを行った。だが現世でそんなことは・・・。)
涅マユリ(現世での時空間の歪みを認識できたのは私だけ。ネムにはできなかった。これが意味するものは・・・。)
その先に思考が至ったとき、涅マユリはかつてない屈辱的な感情に襲われた。だが、さらにその先へ思考が至る。思考が感情を押しのけて。そして新たな感情の波がやってきた。それはまるで、憎い敵に一矢報いたような感情だった。
涅マユリは聞こえるはずもない声で目の前の少女、椎名まゆりに呟いた。
涅マユリ「全く、不愉快なものだネ。世界も、人も、感情というものも。・・・あくまで、私の仮説が正しかったらの話だがネ。」
椎名まゆりには、その声は聞こえない。
椎名まゆり「オカリンどうしちゃったんだろ・・・?」
20:
涅マユリ「目の前の人間にさえ届かない声とは、虚しいものだネ。」
返事をするはずもないまゆりを見ながら、マユリは自嘲気味に小さく笑った。だが、それも目の前の少女には認識されない。されるはずもない。こんな自嘲的な笑いなど、ネムが居たら決してしなかっただろう。
涅マユリ「・・・。」
マユリは岡部を追うためにゆっくりと歩き出した。
21:
岡部はクリスとともに近くの公園にいた。蒸し暑い日差しの中、木陰が心地よい。
クリス「彼女が・・・男・・・。」
唖然とした様子でクリスは呟いた。
涅マユリ「なるほどね。過去へメッセージを送り生まれてくる子供の性別を変えた・・・と。確かに不可能では無いネ。もともと性別を決めるのは性染色体だ。理論上は男も女も、生まれてくる確率は2分の1。だがそう簡単に…」
岡部「だが事実だ。」
マユリは一瞬たじろいだ。その言葉が自分に向けられたと思ったからだ。もちろんそんなハズはなく、その言葉はクリスに向けられたものだった。
岡部「とにかく、まゆりを助けるためには、ルカ子を元に戻さなきゃならない。」
もちろん岡部はルカ子の母親に送ったメールの内容を知っている。だが・・・
岡部「だが俺はルカ子の母親のポケベルの番号を知らない。」
岡部「・・・それに、小細工を弄するより真実を告げた方がまだ誠意はある。」
クリス「その誠意の結果、ルカ子ちゃんを泣かせちゃったわけでしょ。」
涅マユリ「ふん。随分と自分勝手な誠意じゃないかネ。」
自分に似合わないその言葉も宙に舞う。
クリス「でもそれ恋愛フラグが立ったんじゃない?」
岡部が気恥ずかしさからか、あせっている様子をみせる。
涅マユリ「恋愛など、生殖のためのお相手探しじゃないかネ。くだらないことだヨ。」
そんな揶揄も、届かない。
涅マユリ「ネムは・・・まだか・・・。」
この言葉は、届いて欲しい。こんなことを思ったのはいつ以来か。
23:
〜カフェ メイクイーン+ニャン^2〜
クリス「それで明日ルカ子ちゃんとデートすることになったわけか。」
岡部がうなだれている。
岡部「・・・だからこうして助手風情に…」
クリス「助手って言うな!!」
なにやらこの岡部という男とクリスという女はまたつまらぬ言い合いをしているらしい。
涅マユリ「・・・。何故私はこんなくだらない話を聞いているのだネ?」
今度の言葉は他の誰でもなく、自分に向けた言葉である。
涅マユリ「まあ、あの電話レンジの仕組みもおおよそ理解したが・・・。だが、」
知りたいのはその電話レンジと世界線の関係である。特に、世界線は複数存在するのか?仮にそうなら世界線を移動した後、元いた世界線はどうなるのか?
涅ネム「お待たせして申し訳ありません。マユリ様。」
マユリが振り向くと、大仰な荷物を乗せた台車を引っ張ってネムが窓の外に立っていた。
涅マユリ「来るのが遅いヨ!このウスノロ!いったいどこで油を売っていたのかネ!またバラバラにされたいのかネ!」
久しぶりに話し相手が現れたせいか、口から言葉があふれ出す。
涅ネム「申し訳ありません。マユリ様。」
ネムが深々と頭を下げる。
24:
フェイリス「キョーマ誰かとデートするのかニャ?」
フェイリスが岡部とクリスにアイスコーヒーを持って来た。
フェイリスが何かを言うと、岡部は一層焦った様子を見せた。おそらく何かくだらないことを茶化したのだろう。
涅マユリ「あの小娘!」
間違いない。時空間が歪んだときにいた女だ。街が改変された原因の人物。世界線が変わった今、あの小娘は元の世界線とどう違っているのか。
それを調べれば、世界線そのものを調べる手がかりが掴めるかも知れない。
涅マユリ「ネム。機材は用意してあるネ?あの小娘を調べるんだヨ!」
ネム「わかりました。マユリ様はどうなされるのですか?」
涅マユリ「私はあの岡部倫太郎と椎名まゆりを調べるヨ。」
涅マユリはダルの相席から席を立った。
30:
涅ネム「マユリ様。」
席を立とうとした涅マユリをネムは呼びとめた。
涅マユリ「何だネ?」
ネムは何かを言いたそうにしているが、
涅ネム「・・・。」
涅マユリ「何だネ?」
涅ネム「・・・。いいえ。何でもありません。」
涅マユリ「ふん。くだらんことで呼び止めるんじゃないヨ。」
涅ネム「すみません。マユリ様。」
ネムとマユリは立ち去った。
31:
〜フェイリス自宅〜
時刻はまだ夕時か。フェイリスは今日は早番だ。どっと疲れが溜まったが眠りにつくわけでもなく、かといって何かをするわけでもなく、ただベッドの上で体を横にしていた。疲れは溜まっているのに眠れない。
ネムはフェイリスと同じ部屋にいる。そして巨大な荷物からの中から門のような物を作り上げた。
その物体は霊子体である。やはりフェイリスには見えない。
どれくらいの時間が経っただろう。
フェイリス「もう・・・寝よう・・・かな。」
眠れないフェイリスはホットミルクを作りにベットから降りた。
そのとき、何かに背中を押された感触がした。
その時、フェイリスの視界の中で何かが変わった。いや、フェイリスが変わった。
その間、およそ1秒か2秒。
気がつくと、フェイリスは自分の部屋にいた。何も変わらず。
・・・眩暈?
フェイリスは辺りを見渡す。
フェイリスの背後にはお札のようなもので貼り固められた四角い門のようなものがあった。そしてさらにその後ろに、喪服をミニスカートのようにした服を着ている女性が立っている。さっきまでこんなものは無かった。自分は部屋で一人だった。こんな女性はいなかった。
フェイリスが理解できないうちに、奇妙な喪服の女性が話し始める。
ネム「はじめまして。私は護廷13隊・12番隊副隊長、涅ネムと申します。秋葉留未穂さん、ですね?」
フェイリスが状況を理解できないまま彼女は話続ける。
ネム「このような出会い方になってしまって申し訳ありません。しかし現世の生者である留未穂さんとお話するには、一度体ごと霊子変換し、私と同じ霊子体になって頂かなくてはいけませんでしたので。」
フェイリスは理解できない。この人は何を言っている?いや、その前に、いつからここにいた?
ネム「あなたが行った過去改変について少しお伺いしたいことがあります。」
しばらく沈黙が続いた後、フェイリスはようやく口を開く。
フェイリス「あ・・・あ・・・あなたは・・・誰だニャ?・・・いつからそ・・・そこにいた・・・ニャ?」
フェイリスはこんな時でも語尾のニャは忘れないらしい。もはや癖になっているのか。
ネムは淡々と返す。
ネム「先程申し上げた通り、私は護廷13隊・12番隊副隊長、涅ネムと申します。あなたが行った過去改変について少しお伺いしたいことがあります。」
フェイリス「ごてい・・・?過去?改変?」
ネム「はい。では少し落ち着いてからお話しましょう。」
32:
〜未来ガジェット研究所〜
クリス「どう見ても童貞です。本当にありがとうございましたっ!」
岡部の明日のデートについて3人が議論している。言葉の端々にネットスラングが入っているが、おおよその内容は理解できる。
・・・理解はできる。
理解はできるのだ・・・。
だが・・・、だが・・・、
・・・だが!!
涅マユリ「何なのだネ!?この猿どもの会話はっ!?まるで知性の欠片もないヨ!こんな会話よくもまぁこの私に聞かせられるものだネ!黙り給えヨ!この猿ども!!!!!」
涅マユリのその侮蔑とも懇願ともとれるその叫び声は、誰にも聞こえない。
場は食堂へ移るが会話の内容は大して変わらない。涅マユリの苛立ちも変わらない。
涅マユリ「・・・。・・・。」
クリス「はいはい童貞乙。」
涅マユリ「・・・。掻き毟れ・・・あしそぎ・・・」
岡部「メリケン処女!」
マユリの苛立ちなど知らず、3人は堂々巡りの会話を続ける。
岡部「そこはOKだな。白衣ほど清潔なものはない。」
涅マユリ「・・・白衣は・・・本来、体に試薬などが付着するのを防ぐための物であり・・・」
この声も、3人には届かない。
クリス「初デートで白衣!?ないない。」
涅マユリ「・・・。」
マユリは初めて人間と感性が一致した感覚を覚えた。
39:
〜フェイリス自宅〜
ネム「何か、飲みますか?」
そう言って巨大な荷物の中から、何か得体の知れない飲み物?を取り出す。
その様子を訝しげに見つめるフェイリス。
差し出された飲み物?を見て
フェイリス「い・・・いや、結構ニャ・・・です。」
フェイリスなりに丁重に断る。
ネム「では、これはここに置いておきます。飲みたくなったらご自由にどうぞ。」
・・・・・・・・・・・・・・。
しばらく沈黙が続く。
沈黙を最初に破ったのはフェイリスだった。
フェイリス「・・・するとあれかニャ?ね・・・ね・・・」
ネム「ネムです。」
フェイリス「ネムさんは、時空を調査する特殊任務を持ったエージェントということかニャ?」
ネム「大分言葉に違和感はありますが、今はそういう認識でいいと思います。」
ネムは続けて言う。フェイリスが次に言いそうな言葉がなんとなくわかるからだ。
ネム「エージェントと言っても、あなたたちに何ら危害を加えるつもりはありません。ただいくつか質問したいことがあるだけです。もちろんそれが終わればあなたの体も霊子体から元の器子体に戻します。協力して頂けますか?」
フェイリスはネムの話の後半が理解できなかったが、一応ネムの要望を承諾した。
40:
ネムは伝令神機で涅マユリから受け取ったフェイリスへの質問内容を淡々と述べる。
以前の世界線、秋葉原がただの電気街だったこと、さらにその前の世界線で、Dメールでどんな内容を送ったのか、等々。
ネムが一つ質問する度、初めは意味のわからないといった態度をしていたフェイリスが、少しずつ混乱していく。
その様子をネムは克明に記録していく。
フェイリス「私は、パパを・・・いやパパはもう・・・。でも10年間・・・。変えた?どうやって?」
フェイリス「Dメール?でもパパはもういない・・・。取り消した?」
混乱は深まる。
フェイリス「なんで・・・?」
混乱がさらなる疑問を呼ぶ。
フェイリス「キョーマ?のため・・・・?」
疑問が答えにつながる。
フェイリス「まゆしぃ・・・。死・・・。」
ネム(まゆしぃ・・・?)
ネム「椎名・・・まゆり・・・?」
ネム(秋葉留未穂は前の世界線の記憶がある?)
ネムは楽器のキーボードのような物を取り出し、カタカタと鍵盤のようなものを押していた。
ネムは涅マユリに報告書を書いていた。
その様子をじっと見つめるフェイリス。そのフェイリスから思わぬ質問が飛び出す。
フェイリス「その・・・ネムさんは・・・お父さんはいるのかニャ?」
41:
予想外の質問ではあったが、ネムは淡々と答える。
ネム「います。ソウルソサエティで一番の科学者です。」
フェイリス「科学者!?フェイリスの知り合いにも科学者がいるニャ。狂気のムアァァーーーーッドサイエンティストだニャ!ネムさんのお父さんもムアァァーーーーッドサイエンティストなのかニャ?」
ムアァァーーーーッドサイエンティスト・・・マッドサイエンティスト・・・狂科学者。
たぶんそういう意味だろう。
ネム「まぁ、そういう見方をされる方も大勢います。しかし父はただ、興味のあることを探究せずにはいられないだけです。私の父は、偉大な科学者です。」
フェイリス「ふ〜ん。じゃあお母さんは?」
その質問にネムは少し戸惑う。が、やはり淡々と答える。
ネム「私に、母はいません。」
その言葉を聞いてフェイリスの顔が曇る。
フェイリス「・・・ごめん。変なこと聞いちゃったね。ごめん。」
ネム「いいえ。構いません。」
・・・・・・。
しばらくの沈黙が続く。
フェイリス「あたしのパパは、ね。・・・あたしをすごく愛してくれていた。気がする。この世界では夢みたいな記憶だけど・・・。」
ネム「・・・。」
フェイリス「ねえ。その、ソウルなんとかって、何?」
42:
ネム「ソウルソサエティ。現世で死した者の魂が還り、そしてまた現世へ転生するまでの魂の住処です。私の父はその世界の科学者です。」
また、沈黙が続く。
フェイリス「ねえ。そのソウルなんとかって所へ行けば、パパに会えるのかな…?」
その言葉を聞き、ネムは涅マユリの求めそうなことを想像した。
ネム「可能です。来ますか?ソウルソサエティは霊体でなければ立ち入ることのできない場所です。通常は死者の魂しか行けない場所ですが、霊子変換した今のあなたの体なら、行けます。そしてあなたの父に会い、またこの現世へ戻ってくることも可能です。」
ネム「私に協力してくれたお礼として、私はあなたをお父さんに会わせてあげることができます。どうしますか?」
また、沈黙が続く。そして、
フェイリス「・・・ちょっと、考えさせて欲しいニャ・・・。死後の世界ってなんか、怖いし…。」
その言葉を聞き、ネムは荷物をまとめた。
ネム「では、考えが決まったら教えてください。できれば、早めに。今からあなたを器子体に戻します。あなたには私は見えなくなりますが、私はあなたのそばにいます。」
ネムは門のような形の霊子変換機を器子変換に設定し、フェイリスにくぐらせた。フェイリスは霊体から肉体を持つ普通の人間へと戻った。
そしてネムは伝令神機を手に取った。
43:
涅マユリの伝令神機に連絡が入る。差出人はネム。
秋葉留未穂、フェイリスに関する報告書だ。
秋葉留未穂にも前の世界線の記憶が継続されているらしい。
だが、さらに注目すべき内容はその後。秋葉留未穂をソウルソサエティに連れて行くことができる。
これは涅マユリにとっては非常に喜ばしいことだ。なぜなら世界線を越えた記憶を持つ人間をサンプルとして確保できる。技術開発局の豊富な機材があれば、いくらでも気の済むまで、それこそグチャグチャになるまで調べることができる。
普段の涅マユリなら即刻GOサインを出すだろう。
だが涅マユリの脳内には言い知れぬ不安があった。いや、自分の仮説に基づいた不安だ。もし自分の仮説が正しいのなら、問題が起こるとすれば時間だけだ。
要するにタイミングさえ重ならなければよい。
それに、こんなサンプルをみすみす見逃すわけにはいかない!
涅マユリの脳内で、探究心が不安を押しのけた。
涅マユリは伝令神機でネムに連絡を取る。
ネム「はい。マユリ様。ネムです。」
涅マユリ「秋葉留未穂をソウルソサエティに連れて行くんだ。決して逃がしてはいけないヨ。」
ネム「わかりました。マユリ様。」
44:
ネム「マユリ様?」
涅マユリ「何だネ?」
ネム「・・・愛情や恋愛とは、くだらないものなのでしょうか?」
それは涅マユリにとってあまりに突然で予想外の質問だった。
涅マユリ「・・・愚問だネ。」
ネム「・・・。」
涅マユリ「恋愛など、所詮は生殖のためのお相手探しじゃないかネ。くだらない、じつにくだらないことだヨ。」
ネムには何か別に言いたいことがあるように思えた。が、それが何なのか涅マユリにはわからない。涅マユリはとりあえず持論を展開する。
涅マユリ「愛情もそうだヨ。所詮自分の遺伝子を後世に残すための本能でしかない。どちらも本能に支配されているだけだヨ。そんなものに支配された自分に、自分というものは本当にあるのかネ?」
ネムは黙って聞いている。
涅マユリ「仮に・・・本能ではない愛、というモノが本当にあるとして、そんなもの吹けば飛ぶようなものじゃないかネ。」
涅マユリ「仮に百万回『愛してる』と言ったところで、たった一回『さようなら』と言われてしまえば、その百万回の『愛してる』は全て無かったことになってしまうヨ。」
涅マユリ「徒労だネ。実にくだらない。」
それを聞いて、ネムは本当に聞きたい質問をする。
ネム「ではマユリ様。マユリ様は何故私を作ったのでしょうか?」
どうしたものか。天才、涅マユリが答えに詰まる。
涅マユリ「・・・・・・・。愚問だネ。」
それが涅マユリの精いっぱいの回答だった。
45:
…まさかマユリに萌える日がくるとは
46:
涅マユシィは萌えキャラなのです!
48:
涅マユリは議論を強引にぶった切る。
涅マユリ「いいかい?必ず秋葉留未穂をソウルソサエティに連れていくんだヨ。ただし、連れていく時は必ず私に連絡するんだヨ。」
ネム「わかりました。マユリ様。」
会話が終わった後、涅マユリは深い疑念に襲われる。
涅マユリ(私は今、何かとんでもない過ちを犯そうとしているのではないか?)
倫理や人権などあざ嗤うかのように強引に研究を進めてきた涅マユリの戸惑い。
それが倫理や人権などに起因するものではないことは、涅マユリ自身がよくわかっていた。
だが、私は科学者だ。世界とは何か?その誰もが思い、そして誰も答えの出せなかった問いを解く鍵が目の前にある。これを手にせずして何が科学者だ。
たとえ何を失うことになっても。
その探究心が涅マユリの背を押した。
これがα世界線における、涅マユリの2つめのミスである。
49:
〜フェイリス自宅〜
フェイリスはもう眠ったようだ。明日には結論を出すと言っていた。
ネムは伝令神機で技術開発局へ、いつでも穿界門を開けるよう指示を出した。
そしてフェイリスの眠っているベッドの横を背もたれにし、座り込んだ。
〜フェイリス自宅〜
AD2010・08・14
フェイリスが目を覚ます前、ネムは夢を見ていた。そこは東京・秋葉原。
泣き崩れる異形の男。
私にはただ立ち尽くすことしかできなかった。
フェイリスが目を覚ますと同時、ネムも目を覚ました。
フェイリスは今日ソウルソサエティに行く決断をする。
私は今日1日この少女について行き、彼女の決断を聞き入れればいい。
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・14
クリスたちが目を覚ます前、涅マユリは夢を見ていた。夢などしばらく見ていなかったのに。そこは東京・秋葉原。
私の前にただ立ち尽くす女性。夢の中の私は、何かを諦めたように呟いていた。
そして目が覚めた。目覚めの悪い夢だ。
今日は岡部倫太郎とルカ子とかいう女を監視、その後、岡部倫太郎または椎名まゆりの監視。さて、どちらを選ぶか・・・。
50:
フェイリスは今日もメイクイーン+ニャン^2で働いている。
隅っこの席でネムはその姿を見つめ続ける。
まだ仕事は終わらないらしい。
ネムはその姿を見つめ続ける。ずっと。
51:
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・14
クリス「オペレーション・ヴァルキリア!開始よ!」
岡部とルカ子は渋谷から上野まで、黙って徒歩で往復している。
その真後ろを、涅マユリがべったり貼りつくように歩いている。
時折、岡部とルカ子は短い会話をする。しかし、
涅マユリ「中身のない話ばかり…。いい加減嫌気がさすヨ。」
一体いつまで同じような道を歩き続けるのか。
すでに涅マユリの苛立ちはピークに来ている。
何か、世界線に関する会話はないものか。
涅マユリ(いっそこいつら解剖して直接脳内から情報を引き出すか・・・?)
苛立ちがピークの涅マユリは、そっと自らの斬魄刀に手を伸ばす。
涅マユリ「・・・掻き毟れ・・・!・・・メリケン処・・・!・・・じゃないっ!!」
涅マユリの独り相撲をよそに、ルカ子が話し出す。
ルカ子「あの時岡部さんが言ってくれた言葉が、すごく嬉しかったんです。あの言葉があったから、岡部さんのこと…」
涅マユリは興味なさ気にその会話を聞き流していた。もっと世界線に関して深く突っ込んだ会話は無いものか。涅マユリが望むのはそれだ。
それなのにこの二人ときたら、さっきから沈黙か、短いくだらない会話しかしていない。
涅マユリ「全く・・・そんなこと、どうでも・・・」
岡部「そんなこと、どうでもいい・・・か。」
二人の言葉が被ったのはただの偶然である。もちろんそれを知るのは涅マユリだけだが。
だが、
岡部「ちょっと待てルカ子!それはお前が、男だった時の記憶ではないのか?」
涅マユリ「!!」
涅マユリ(このルカ子という女、過去が変わる前の記憶を持っている?)
涅マユリ(世界線を越えて記憶が継続した?それなのに今までそのことに気がつかなかった。)
涅マユリ(女のルカ子が男としての記憶を持っている。明らかな矛盾。・・・そのことに今まで気がつかなかった?・・・世界線を越えた記憶の継続。)
涅マユリ「やればできるじゃないかネ・・・面白い話を・・・。」
53:
もう夕刻か。フェイリスは仕事を早めに切り上げた。
フェイリスは一人自宅へ向かう。
フェイリス「・・・ねえ。ネムさん。いる?・・・って返事は聞けないか・・・。」
それでもフェイリスは続ける。
フェイリス「あたしね、行くよ。パパに会いに。」
ネムはコクリと頷いた。
54:
涅マユリの伝令神機に着信が来る。ネムからだ。
ネム「秋葉留未穂が決心したようです。穿界門を開く準備をします。」
完璧だ。問題はただ時間だけだ。それさえ何とかなれば、サンプルが手に入る。
それを知っている涅マユリにとってのリスクなど、ほぼ0に近い。
ネムの伝令神機越しに涅マユリの声が聞こえる。
涅マユリ「早く穿界門を開くんだヨ!」
伝令神機の音声通話でさえ、涅マユリが笑みを浮かべているのがわかる。
ネム「はい。わかりました。マユリ様。」
55:
〜フェイリス自宅〜
すでにフェイリスの霊子変換は完了した。
技術開発局からネムの伝令神機に送られた報告では、検疫局などの許可が下りるのに時間がかかっているらしい。
ネム「申し訳ありません。穿界門が開くまでもう少し時間がかかるようです。」
フェイリス「その穿界門ってのをくぐった先にパパがいるんだよね・・・。」
フェイリスは小さく震えている。
ネム「心配などしなくても大丈夫ですよ。ソウルソサエティはいい所ですよ。きっとあなたのお父さんも幸せに暮らしているでしょう。」
ネムはやさしく微笑む。
フェイリスにはそれが純粋な笑顔に見えた。
56:
ネムから涅マユリに伝令神機で連絡が入る。穿界門を開くのが遅れるらしい。
涅マユリ「可能な限り早く穿界門を開くんだヨ。」
涅マユリ「さて、岡部倫太郎と椎名まゆり・・・。どちらを選ぶかネ。」
涅マユリ(岡部倫太郎が時空間変異を起こす根本の理由は、椎名まゆりの死の回避。だが、時空間変異を起こすのは岡部倫太郎・・・。)
涅マユリ「ここは岡部倫太郎を監視するとしようかネ・・・。」
だが、この時のネムからの連絡を軽視したのが、涅マユリの3つ目のミスだった。
57:
〜未来ガジェット研究所〜
うなだれる岡部。
クリス「ニクイクヤサイヤサイ・・・・」
研究員たちはDメールの取り消し内容を確認しているらしい。
その時勢いよくラボの扉が開く。
椎名まゆり「トゥットゥルー♪」
椎名まゆり「あのねえあのねえ・・・・」
それを横目に、涅マユリは落胆した表情を見せる。
涅マユリ(椎名まゆりの死は今日じゃない。どちらを追いかけても結果ココで岡部倫太郎と椎名まゆりが出会うことに変わりはなかった。・・・迷うだけ無駄だったネ。)
58:
〜神社〜
岡部倫太郎とルカ子が何やら剣の素振りをしている。
涅マユリ「剣の扱いがデタラメだネ。まるでなって無いヨ。」
涅マユリはただその光景を見つめている。
涅マユリ(しかし何故ネムからの連絡がない?まだ穿界門を開いていないのか?)
岡部の背中をルカ子が抱きしめている。
岡部「お前が男に戻っても、俺にとってルカ子はルカ子だ。」
涅マユリ「!!」
涅マユリは慌てて伝令神機を取り出す。
〜フェイリス・自宅〜
ネム「たった今穿界門の準備ができました。行きましょう。」
何もなかったフェイリスの目の前に、突如円形の扉が現れ、開く。
ネムは伝令神機を片手に、フェイリスの手を引いた。
〜神社〜
涅マユリが伝令神機を手に取ると同時、ネムからの着信が来た。
涅マユリ「ネム!今何をしている!?穿界門は開いているのカ!?」
ルカ子「男とか女とか、そんなことはどうでもいい。ですよね。」
ネム「はい。たった今穿界門が開きました。今からソウルソサエティに・・・」
涅マユリがひどく慌てた様子でしゃべる。
ルカ子「・・・でも、少しでいいから覚えていてください。女の子だった僕のことを。」
涅マユリ「早く閉じるんだヨ!何やっているんだネ!」
岡部「ああ・・・。忘れない。絶対に。」
ネム「穿界門をですか?」
涅マユリ「他に何が」
岡部がDメールを送る。
涅マユリ「あ・・・る・・・」
時空が、歪む。
59:
〜護廷十三隊・十二番隊〜
リン「東京7地区、18地区、55地区!時空間の歪みを確認!」
阿近「なん・・・だと・・・?原因は!?」
リン「穿界門でも空間凍結による影響でもありません!」
阿近「ソウルソサエティ側の影響ではないということか?・・・では・・・誰が・・・?虚圏?見えざる帝国?だがそれらからの現世への干渉は無いようだな。」
リン「それと・・・伝令神機による発信者不明の霊波が届いています。」
阿近「発信者不明?場所は?」
リン「6番地区です。・・・どうも涅マユリと名乗っているようです。」
阿近「涅・・・マユリ・・・だと?」
しばらく考え込む阿近。そして、
阿近「どうしますか?涅隊長?」
隊長と呼ばれたその女性は、しばし考えたのち淡々と告げる。
涅ネム「何らかの罠か、イタズラか、今ここで判断はできません。」
涅ネム「しかしこれがここ最近多発している時空間の歪みと無関係とも言い切れません。6番地区ですね。私が直接行って調査してきます。」
阿近「お一人でですか!?」
涅ネム「はい。私が不在の間、12番隊は阿近副隊長に任せます。」
阿近「・・・わかりました。隊長がいつでも帰還できるように、常時穿界門の準備をしておきます。」
涅ネムはそれを聞くと少しだけ微笑み、またすぐにいつもの無表情に戻って部屋を出て行った。
62:
〜神社〜
辺りは暗い。その暗闇の中、涅マユリは伝令神機に向かって何度も自分の名前を連呼する。
涅マユリ「だから何度言ったらわかるのだネ!?涅マユリだヨ!!」
その声は、辺りの人間には聞こえない。だが伝令神機の向こう側、技術開発局・壺府リンには届いている。
ルカ子「どうしたんですか?岡部さん?」
リン「いや・・・涅マユリ・・・と言われましても・・・。」
涅マユリの怒声が響く。
涅マユリ「お前は上司の名前も忘れたのかネ!?涅マユリだヨ!」
怒声を上げながらも、頭は冷静だった。
岡部「なあ、ルカ子。」
覚悟はしていた。
63:
リン「しかしその・・・涅マユリ・・・元隊長は・・・。」
私は科学者だ。それも、ソウルソサエティ随一の。
その私が、『世界とは何か?』その誰もが思い、そして誰も答えの出せなかった問いを解く鍵を目の前にした時点で、覚悟はしていたのだ。
たとえ何を失うことになっても。
リン「その・・・既に亡くなられているわけで・・・。」
64:
大方予想はしていた。おそらく穿界門を開いた状態での過去改変は、ソウルソサエティにも何らかの影響を与えうるだろうということも。
岡部「お前は、俺のこと好きか?」
涅マユリ「死んでいる?私が?生きているじゃないかね!?今こうして!ココに!」
予想はしていたが、まさかこういう形で改変されるとは。
涅マユリ「とにかく私は生きている!私は涅マユリだヨ!」
ルカ子「えっ・・・いきなり何を・・・!?」
リン「いや・・・しかし・・・えぇっと・・・。」
私の言葉は伝令神機を介してリンに届いている。
ルカ子「えっと・・・その・・・尊敬してます。」
岡部は安心したように笑った。
涅マユリ「ワ・タ・シは、涅マユリだヨ!く・ろ・つ・ち・マ・ユ・リ!!」
声は届いているのに、
リン「・・・。」
届いているのに、届かない。
涅マユリ「もういいヨ!!」
涅マユリは伝令神機の通話を切った。
力もなく、小さく呟く。
涅マユリ「私は涅マユリだ・・・ヨ・・・。」
岡部(残るメールは、あと一つ。)
68:
〜フェイリス・自宅〜
涅マユリは秋葉留未穂、フェイリスの自宅へと足を運んだ。
秋葉留未穂はベッドで静かに寝息を立てている。
涅マユリは辺りを見渡すが、何もない。涅ネムが用意した霊子変換機も界穿門の形跡もない。
涅マユリ(秋葉留未穂はソウルソサエティに行っていない…。ネムも来ていない?)
涅マユリ(それも世界線の変化によるものか?)
涅マユリの頭の中ではあらゆる可能性が駆け巡る。
が、答えは出ない。情報が圧倒的に足りない。
涅マユリ「・・・どういう・・・ことだネ?」
涅マユリはフェイリスの自宅を立ち去った。
73:
〜神社〜
AD2010・08・15 02:41
深夜の神社。
「6番地区。・・・もういない?」
「・・・。・・・それらしき霊圧も感じない。・・・罠?」
「・・・一度帰還します。」
74:
AD2010・08・15 19:28
涅マユリは朝から晩まで一日中外を歩きまわっていた。自分の思考の整理のため、世界とは何かという疑問を解く鍵を探すために。
考えながら、ひたすら歩き続ける。
それは徒労かもしれないが。
涅マユリ(この世界線では秋葉留未穂は現世にいる。では前の世界線の秋葉留未穂はどうなった?)
涅マユリの足は知らず知らずの内にラボへ向かっていた。
涅マユリ(異なる世界線では別人ということか?)
涅マユリは伝令神機を取り出すが、昨日のことを思い出し、懐にしまった。どうせ何も伝わりはしないだろうと。そして思考を再開させる。
涅マユリ(しかしそれでは何故異なる世界線で記憶の継続などという現象が起こる?)
涅マユリ(異なる世界線の同一人物?人物は同じだが世界が違う?)
気がつけば、涅マユリはもうラボの前まで着いていた。
涅マユリ(では、あの漆原ルカという人物はどうなる?世界線が変わり、性別が変わり、それでも漆原ルカは同一人物なのか?)
涅マユリはとりあえずラボの中に入る。
ラボにいるのは岡部倫太郎と牧瀬紅莉栖、橋田至、そして椎名まゆり。要するにいつものメンバーだ。
違いがあるとすれば、涅マユリがそこにいることか。もっとも、その姿は誰の目にも映ってなどいないが。
或いは、岡部倫太郎がソファーに座って、不機嫌そうに黙っていることくらいか。
涅マユリは床に座り、止まらない思考を走らせ続けた。
75:
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・16 00:32
もうとっくに夜も更けているが、涅マユリはまだ考え続けている。
何故?何故?何故?
そればかりが頭の中を駆け巡る。
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・16 02:32
涅マユリはまだ考えている。床に座り込んだ時から一歩も動いていない。
だが脳内は激しく回り続けている。
突然、目の前が光った。
突然、あまりにも突然に。
そして、涅マユリの前の空間に門が現れる。
空中に浮かぶ円形の門。よく知っている。穿界門だ。
その門が開き、一人の女性が現れる。この女性もよく知っている。涅ネムだ。
ただ、その女性は白い羽織を着ていた。
涅マユリはその女性を睨むように見つめる。彼女の後ろ姿は見えないが、その羽織の背に背負った数字は大方想像はつく。おそらくは、
十二だ。
涅ネム「55番地区。ここだったのですね。涅マユリ。」
涅マユリ「・・・。私を呼び捨てにするとは、お前も随分偉くなったものだネ。」
正直驚いた。私の知っているネムは、私を呼び捨てになどしたことはない。
涅マユリ「しかし、私が伝令神機で連絡をしたのは一昨日の夜だ。調査をするにしても少しばかり行動が遅くはないかネ?」
ネムは値踏みするかのような目で、私をずっと見ている。
涅ネム「昨日現世に来た時は、あなたの霊圧は感じられませんでした。何故霊圧を隠したのです?」
・・・?
77:
涅マユリ「私は霊圧など隠した覚えはないヨ。お前の探査能力の問題じゃないのかネ?」
何だ?会話が噛み合っていない。
涅ネムは少し考えてから淡々と述べる。
涅ネム「私の探査能力も、技術開発局の霊圧探査技術も、問題はありませんでした。しかしあなたの霊圧を見付けることはできませんでした。」
涅ネム「私があなたの霊圧を知覚できたのは、ここに穿界門を開き、あなたと出会った瞬間からです。ここを選んだのは、最も時空間の異変が多い場所だったからです。ここに何か手掛かりは無いかと思ったのです。やはり、ここへ来て正解だったようですね。・・・しかし一体どういう技術を使ったのですか?」
おかしい。何かがおかしい。
違和感を覚えつつも、涅マユリは答える。
涅マユリ「私は何もしてないヨ。」
その言葉に涅ネムの表情が曇る。
それと時を同じくして涅マユリの脳裏にも意味不明の文字が躍る。
78:
しばらくの沈黙の後、涅ネムが口を開く。
涅ネム「私が現世へ来たのは、あなたが本当に涅マユリなのかを確かめるためです。あなたがご自分を涅マユリだと言い張るのなら、その証拠を示してください。」
涅マユリの知っているネムとは何かが違う。ネムは私にこんな言い方をするだろうか?
しかしそれよりも、既に自分が死んでいる世界線で、自分が生きていることを証明する。
中々難しいことを要求してくるものだ。
また、しばらく沈黙が続く。
その沈黙を破ったのは、今度は涅マユリの方だった。
涅マユリ「私が死んだ後、研究室の私の机はどうなっている?」
涅ネムにはその質問の意図がわからないが、
涅ネム「涅マユリの死後、その机は私が使用しています。」
涅マユリが嗤う。
涅マユリ「伝令神機は持っているネ?それで技術開発局に連絡をとるんだ。」
涅マユリ「それと、今から私が経験したこと、そしてこの世界に関する推測と仮説を述べるヨ。」
82:
〜護廷十三隊・十二番隊〜
阿近「はい、隊長。技術開発局、阿近です。・・・隊長の机・・・ですか?」
机といっても現世のそれとは全く形状は異なるが。
阿近「はい。確かにあります。暗証番号?・・・はい。」
阿近は隊長の机の最も厳重な引き出しを開けた。引き出しと言ってもやはりそれは、現世とは異なり、どちらかというと金庫に似ているか。
おそらくしばらく開けられていなかったのだろう。その引き出しだけ埃を被っている。
阿近「開きました。・・・?何だ・・・これ・・・。」
引き出しから出てきたのは円筒型の水槽のような物に入った人間の脳。
その脳には、いくつものチューブのようなものにつながれて、水槽の中をただよっていた。
86:
阿近が見つめる水槽。
その水槽はさらに、いくつものチューブのような物で引き出し内の何かに繋がれている。
これは何だ?輸液チューブ?ケーブル?導線?
阿近はとりあえず伝令神機の指示に従う。
阿近「・・・はい。確かに水槽の脳はありました。・・・確認・・・起動・・・ですか?」
阿近「・・・・。はい。これ・・・ですね。」
阿近が見つめる先にあるのは引き出しの内側。引き出しの内壁に取り付けられた制御盤のような物。
その制御盤は所々光り、その光のうちのいくつかはチカチカと点滅している。
阿近「・・・はい。上から2番目。右から6番目。・・・はい。点滅しています。」
阿近「・・・わかりました。・・・はい。隊長もお気をつけて。・・・はい。」
阿近は伝令神機の通信を切らずに待機する。
87:
〜現世・α世界線、未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・16 03:29
深夜。だがもう少しで明け方になる時間帯。
涅マユリと涅ネムは互いに向き合って、互いの目を見つめている。
値踏みするように。睨みつけるように。或いは答えを懇願するかのように。
床に座ったままの涅マユリが問う。
涅マユリ「で、どうだったのかネ?その様子じゃあ、おおよその察しは付くがネ。」
涅ネムは伝令神機を握りしめたまま立っている。数秒ごとに、微妙だが表情が変化する。
考え中といったところか。おそらくネムの頭の中では、次々に疑問と答えが湧き出ているのだろう。
その様子を見て涅マユリは話を続ける。 
涅マユリ「私しか知らない暗証番号。それどころか私以外、局員も、現隊長であるお前すらも、その存在自体知らなかったモノ。」
涅マユリ「それを知っているということが、私が涅マユリであるという証拠にはならないかネ?」
ネムはまだ考え中か。
しばらく経って、ようやく涅ネムが口を開く。
涅ネム「・・・。しかし、それは一体何なのです?」
その言葉に涅マユリがニヤリと嗤う。まだ先程からの違和感の正体はわからないが、とりあえず続ける。
88:
涅マユリ「記憶のバックアップだヨ。私は常に自分の記憶をその装置に保存していた。不測の事態というものを考えてネ。それが、私の死後も機能し続けていたというワケだ。」
涅マユリ「だがそれが世界線移動と関係するとはネ。これはまだ仮説だが。・・・しかし世界線の移動など、不測中の不測だったネ。」
ネムはまだ、目の前の男が本当に涅マユリだとは確信できない。姿も、声も、その喋り方も、明らかに自分の知っている涅マユリだ。しかし自分の知っている涅マユリはもう既に死んでいるのだ。
それに、今は疑問が多すぎる。
涅ネム「では世界線とは・・・いえ、その前に、あなたの言う装置が本当にあなたの記憶のバックアップ装置だということを確認させてください。」
また涅マユリは顔をニヤリとさせる。
涅マユリ「他人に自分の記憶を見られるというのは不快なものだが・・・仕方ないネ。いいだろう。」
涅マユリ「伝令神機は繋がっているネ?相手は阿近か。」
世界線が変わっても、阿近が優秀であることに変わりはないだろう。根拠は無いが。
涅マユリ「ネム。伝令神機を貸してくれ。」
涅ネムが涅マユリに伝令神機を手渡す。
89:
〜護廷十三隊・十二番隊〜
薄暗い技術開発局の研究室。阿近は伝令神機の指示に従う。
指示を出しているのは、既に死んだはずの男、涅マユリだ。
阿近(本当に・・・涅マユリ・・・?)
阿近「・・・はい。接続ですね。」
阿近「スクリーンは用意できましたが・・・。・・・下から3番目、上から4番目?」
阿近「緑色のジャックでしょうか?」
阿近「はい。・・・接続しました。」
阿近「・・・ノイズが酷く映像が見れないのですが。それと音声も。」
阿近「赤いツマミ・・・これですね。・・・と左上の四角いボタン。・・・三角の黒のツマミ。」
阿近「・・・ノイズ消えました。スクリーンには映像が映っています。音声も聞こえます。」
スクリーン上に映し出されたのはどこかの牢獄のような場所。
そして檻の向こう側から話しかける羽織を着た胡散臭い男。
阿近(なんだ?これ?)
阿近「・・・伝令神機に送信ですか?わかりました。ただ情報量が多く正常に送れるかはわかりませんが。」
阿近「設定・・・はい。・・・わかりました。」
90:
スクリーン上に映される何か。阿近はそれを見つめていた。
〜現世・α世界線、未来ガジェット研究所〜
涅ネムの伝令神機に映像と音声が送られてくる。多少ノイズが混ざり見にくいところはあるが。
涅マユリ「私の記憶だヨ。」
涅マユリはそれだけ言うと伝令神機をネムに返し、沈黙した。
ネムはその映像をじっと見続ける。
伝令神機に次々に映し出される映像。
どこかの牢獄。十二番隊隊舎。研究室。阿近。壺府リン。虚圏。現世のビル。
涅マユリと会話をしている涅ネム。
秋葉原。カフェ。研究器具を積んだ台車を引っ張る涅ネム。神社。そして此処、55番地区・未来ガジェット研究所。
涅ネムは言葉が出なかった。
途中までは自分の知っている記憶。だが途中からは自分が経験していない記憶。
わけがわからない。
何故この映像には、自分が経験していないはずの自分の姿が映っているのか。
涅ネムは必死に考えをまとめ、言葉を絞り出した。
涅ネム「正直信じられません。しかし、あなたが涅マユリであると信じる他には無いようですね。」
自分が今言った言葉が矛盾していることはわかっている。だがネムには他の言い方が見つからなかった。
迷いを振り切るようにネムは言う。
涅ネム「あなたが涅マユリであると信じます。だから教えてください。何故あなたが生きているのか。世界線とは何か。そして、あなたの仮説というものを。」
涅マユリは微笑む。
涅マユリ「ようやく本題に入れるネ。」
94:
外はもう陽が昇り始めている。
涅ネムは床に座り込む。涅マユリとネムの視線はほぼ同じ高さになった。
まだ涅マユリの感じる違和感は消えていない。
その上、自分でもまだ理解しきっていないことをうまく説明できるだろうか。
それでも話してみるしかない。
涅マユリ「まずは世界線について話そうか。」
整理できていなくとも、涅マユリは話し始める。
涅マユリ「どうも世界というものは一つではないらしい。その数はわからないが、世界は多数存在し、私たちがいるこの世界もそれらの内の一つらしい。その多数の世界の一つ一つを世界線と呼ぶ。」
この時点で既にネムの表情が曇る。それでも続けるしかない。
涅マユリ「最近この近辺で時空間に歪みが生じていた事は知っているネ?それは技術開発局で観測した。5番地区、6番地区、7番地区、18番地区、55番地区だ。」
ネムの表情がさらに曇る。
涅ネム「技術開発局で確認できたのは、7番地区、18番地区、55番地区だけですが・・・。」
涅マユリ「・・・。おそらく、それも世界線との関係だろう。話を続けるヨ。」
時空間の歪みの数が減っている?説明をしながらも、涅マユリは新たな疑問について考え始めた。
95:
涅マユリ「時空間の異変を調べるために私とネムは現世に調査に来た。5番地区だ。そこで岡部倫太郎という男と、秋葉留未穂という女を見た。」
私もですか?と言いたくなったが、ネムはとりあえず涅マユリの話を聞く。
涅マユリ「その時の秋葉原は古びた電気街だった。だが岡部倫太郎が携帯電話を操作した瞬間、時空間は歪み、秋葉原は今のような栄えた街に変わった。別の世界線へ移ったんだ。そこに箱があるだろう?」
そう言って涅マユリは電話レンジを指す。
涅マユリ「それが、時空間が歪んだ原因だ。その装置は、過去に電子メールを送れるようになっている。岡部倫太郎はそれで過去にメッセージを送り、過去を変えた。故に現在も変わった。」
説明を途中で遮るべきではないと思ったが、ネムは質問する。
涅ネム「それでは、世界は一つと言っても問題は無いのではないですか?一つの世界で過去が変わり、同じ世界で現在も変わったと。」
自分でも理解しきっていない事柄に対する質問というのは厄介なものだ。返答に困ってしまう。
涅マユリ「・・・。それについてはもう少し後に話すヨ。今は、世界線は複数あるということを覚えておいてくれヨ。」
96:
涅マユリ「さて、世界線が変わった時、私はそれを認識できたが、ネム。お前は認識出来なかったネ。」
ネム(・・・?)
涅マユリ「伝令神機に私の記憶が送られてきただろう?伝令神機を貸し給えヨ。」
そう言って涅マユリはネムの伝令神機を操作する。
涅マユリ「・・・・。これだ。」
涅マユリは伝令神機の画面をネムに見せる。
伝令神機に映るのはどこかのビルの一室。白衣の男と猫耳の女。そして涅ネム。
画面の中、白衣の男が携帯電話を操作する。それとともにネムが身構え、画面内が歪む。次の瞬間には白衣の男も猫耳の女も消え、棒立ちのネムがいた。
涅ネム「・・・これは・・・。」
言葉にならないか。
涅マユリ「画面が歪んだ瞬間。これが時空の歪みだ。その前後で、お前の姿勢が変わっていることはわかったネ?」
涅マユリ「時空間が歪む前のお前は自分の身を守ろうと身構えた。それなのに歪みの後では、お前は何事もなかったかのように突っ立っている。私は世界線を移動したが、お前は世界線を移動しなかった。前の世界線のお前の代わりに、別の世界線のお前が存在することになった。だが少なくともこの時の世界線では私は死んだことにはなっていなかった。」
唖然とするネム。無理もない。世界線移動とは大雑把に言えば異世界へ行くことだ。物語の中ならともかく、自分がその当事者になるなど信じられなくて当然だ。
涅マユリ「では何故私だけが世界線を移動したのか。そして何故私が世界線を越えても、自分が自分でいられるのか。」
その言葉を言った時、突然、涅マユリの脳裏に『異物』、『人間原理』という言葉が浮かんだ。それが何故かはわからないが。
いや、考えたくない、わかりたくない・・・のか?
涅マユリは脳裏に浮かんだ言葉を強引にねじ伏せ、説明を続けた。
涅マユリ「私の知る限りでは、世界線を越えることができる者は2人いる。私と岡部倫太郎だ。」
97:
涅マユリ「岡部倫太郎の方はよくわからないが、本人はそれをリーディングシュタイナーと呼んでいるらしい。これについては世界線を越えた記憶の維持が関係すると思うが、とりあえず置いておこう。」
世界線を越えた記憶の維持。秋葉留未穂や漆原ルカにもわずかながらあったが、今この話をすると、話がズレていき、面倒なことになりそうだ。
涅マユリ「では私の方について説明するヨ。」
もう外は明るくなっている。岡部はパソコンに向かい何かを調べている。
岡部の携帯が鳴る。それに返信し、岡部は外へ出て行った。
涅マユリと涅ネムは互いに向き合って床に座っている。
これから涅マユリが自分の仮説を述べるところだ。
涅マユリの推測と仮説。それ自体がα世界線における一つ目のミスだった。というよりは、間違いを含んでいると言うべきか。
あの限られた情報の中では仕方がない。
いや、むしろ間違いを含んでいるとはいえ、限られた情報から導き出したその推測の半分以上は当たっていた。
やはり天才、涅マユリと言うべきだろうか。
だがそのミスに涅マユリはまだ気づいていない。
98:
涅マユリ「私が世界線を越えても私が私でいられる理由。おそらく、その鍵は記憶のバックアップにある。」
ずっと感じる違和感はまだ消えない。突然脳裏に浮かび、強引にねじ伏せた言葉がまた湧き上がって来た。
秋葉留未穂の自宅で時空間が歪んだ時、ネムは身を守る体勢をとった。つまりネムも歪み自体は認識出来ていた?それなのに世界線を越えたのは私だけ。
わからない。わからないが、それらは何か不快なものを示しているような気がする。
涅マユリ「結論から言おうか。私が世界線を越えても記憶を維持し続けている理由は、私の記憶が常時バックアップに保存されているからだ。私と私のバックアップは常に繋がっている。世界線が変わっても、バックアップはその世界線にも存在し、機能していた。故に私は世界線を越えられた。」
涅ネム「異なる世界線ではバックアップも異なるか、或いはバックアップ自体が存在しない可能性もあったのでは?」
涅マユリ「勿論その可能性はあっただろうネ。その場合はおそらく私も、世界線の変化に気付かなかっただろう。だが幸運にもバックアップの存在する世界線へ来た。」
そう言うと涅マユリはネムの伝令神機を操作した。
伝令神機を操作しながら喋る。
涅マユリ「私が世界線を越えたのは今までで2回だ。1回目はさっき見せた秋葉留未穂の時。2回目は漆原ルカという・・・ん?」
涅マユリの言葉が止まる。
ネム「どうかされましたか?」
その言葉に涅マユリは答えない。ただ黙って伝令神機を操作している。
99:
・・・おかしい。この世界線で私が死んだ時の記憶だけ無い。
伝令神機には現在までの涅マユリの全ての記憶が送られているが、涅マユリが死んだ時の記憶だけ抜け、直後から『私』の記憶が表示されている。
・・・なんだ?
・・・死とはこういうものか?
とりあえず伝令神機で漆原ルカを見ていた時の記憶を表示する。
涅マユリ「・・・まあいい。これを見たまえヨ。これが2回目の世界線移動だ。」
ネムに伝令神機の画面を見せる。
そこに映っているのは夜の神社。白衣の男・岡部倫太郎と巫女服の少女。
伝令神機から音割れした涅マユリの声が響く。

《ネム!今何をしている!?穿界門は開いているのカ!?
早く閉じるんだヨ!何やっているんだネ!
他に何が
あ・・・る・・・》
そこで画面が歪み、次に映し出されたのは白衣の男と巫女服の・・・少年?
そして涅マユリの手。その手は伝令神機を操作し、技術開発局に通信をとっていた。
また音割れした涅マユリの声が響く。
《技術開発局かネ!?私だヨ。涅マユリだヨ!
ハァ!?何を言っているんだネ!
私だヨ!涅マユリ!!
だから何度言ったらわかるのだネ!?涅マユリだヨ!!
お前は上司の名前も忘れたのかネ!?涅マユリだヨ!
死んでいる?私が?生きているじゃないかね!?今こうして!ココに!
とにかく私は生きている!私は涅マユリだヨ!
ワ・タ・シは、涅マユリだヨ!く・ろ・つ・ち・マ・ユ・リ!!
もういいヨ!!》
涅マユリはそこで伝令神機の映像を止めた。
100:
涅マユリ「この画面が歪んだ瞬間が、私がこの世界線へ移動した瞬間だ。」
ネムはその映像を目を見開いて見ている。
ネム「涅マユリの記憶が連続している・・・。今のリンとの会話も、技術開発局の通話データと一致している・・・。」
ネムは一度現世に帰還した時、技術開発局でリンの通話データを調べていた。
ネム「しかし、それなら何故、この世界では涅マユリは死んだことになっている・・・?」
その質問を待っていたかのように涅マユリが答える。
涅マユリ「さっきの音声に『穿界門を閉じろ。』とあったネ?時空間が歪む瞬間、穿界門は開いていたのだヨ。それが原因だ。」
涅マユリ「つまり穿界門が開いている状態では、現世の過去改変がソウルソサエティにまで影響する。どういう理由かはわからないが、私が生きているという過去が改変されてしまったということだネ。」
ネム「穿界門・・・。」
涅マユリ「さて、質問に答えようか。『世界が一つでも問題ないのではないか?』だったネ。今見せた映像。これが答えだ。涅マユリが死んだこの世界で、涅マユリが生きている。これは、他の世界から生きている涅マユリがやってきた。これしかないネ。つまり世界は複数存在する。そしてそれを世界線と呼ぶ。」
涅マユリ(そしてこの世界線では、時空間の歪みを技術開発局で確認できたのは、7番地区、18番地区、55番地区だけ。5、6番地区が抜けているのは此処が既に過去改変がキャンセルされた世界線だからか。)
ラボの扉が開く。岡部が帰ってきた。
帰ってくるなり岡部はソファーに座り込み、頭を抱えてブツブツと独り言を言い始めた。
103:
岡部「すまない・・・。ごめん・・・。許してくれ・・・。まゆり・・・。まゆり・・・。」
泣いているのだろうか?
岡部「でも・・・仕方ないんだ・・・。お前を助けるためには・・・。これしか・・・。」
その独り言は何を意味しているのか。謝罪か、祈りか、決意か、はたまた自分の擁護か。
そんな岡部の独り言をよそに、涅マユリとネムは議論を続ける。
涅マユリ「ネム。穿界門とは何だネ?」
ネム「・・・?現世とソウルソサエティを繋ぐ通り道です。」
涅マユリ「そうだネ。では、現世とソウルソサエティの間には何がある?」
ネム「・・・断界です。」
涅マユリ「そう、断界。現世の過去改変による、ソウルソサエティの過去改変。それを考える上で重要なのが断界だ。おそらく。」
おそらく、と付けたのは涅マユリ自身でも確証が持てないからだ。いや、もともと世界線移動の客観的な証拠など無い。世界線を移動しても主観でしかわからない。
涅マユリ「現世とソウルソサエティ。この二つは本来、交わることのない場所だ。そしてその二つの間にあるのが断界。断界とはどの時間軸にも属さない特殊な空間だ。断界内の時間経過は現世の数千倍の遅さと言われる。文字通り、交わらない二つを断つ世界。」
涅マユリ「かつて黒崎一護という男とその仲間が旅禍としてソウルソサエティに侵入したことがあったネ。かなり強引に断界を突き抜けたようだが。その時、本人たちは気付いていなくとも、数日過去へ戻っていた。それほどまでに、断界とは特異な空間だ。」
104:
涅マユリ「では穿界門とは何か。それは現世とソウルソサエティの間にある断界を貫く通り道。文字通り交わらない二つの世界を穿つ門。」
涅マユリ「では何故、穿界門を開いた状態では、現世の過去改変がソウルソサエティにまで及ぶのか。もう答えはわかるネ?」
ネムはハッキリと答える。
ネム「過去改変の影響が穿界門を通じてソウルソサエティまで届いているから。」
その回答は涅マユリも予想していた。それを受けて涅マユリが喋ろうとした時、
ネム「そしてソウルソサエティで現世と無関係な改変が起きるのは、断界が改変内容を歪めているから。もともと穿界門は断界を貫いてできたもの。断界の影響は少なからず受けていてもおかしくは無い。」
驚いた。私の知っていたネムは、いつも私の答えを待っていた。自分から答えを導き、それを私の前で堂々と述べることなど無かった。
ネム「さらに言えば、断界は異常なほど時間の密度が濃く、そしてどの時間軸にも属さない。つまり断界内を通過した過去改変はランダムに増幅され、ソウルソサエティを改変する。」
ネムは自分で考え、涅マユリと同じ仮説に行きついた。そのこととネムのあまりに堂々とした口調に、涅マユリは少し気おされてしまったか。
涅マユリ「そう・・・だネ。逆に穿界門が閉じている場合の過去改変はソウルソサエティには大きな影響を及ぼさない。それは断界が現世とソウルソサエティの間で緩衝材の役割を果たすからだ。」
ネムは眉をよせる。
ネム「そうなのですか?話を聞く限りでは穿界門が閉じている状態での過去改変の影響についてまでは言及できないように思えるのですが。」
ネムが私に反論するとは。
105:
涅マユリ「秋葉留未穂の時は穿界門は閉じていた。ソウルソサエティにも大きな変化はなかった。私の知る限りでは・・・ネ。」
ネムは私の目を見ながら考えているようだ。昔のネムならすぐに「はい。わかりました。マユリ様。」だったのに。
ここまで来てようやく、涅マユリの感じる違和感の正体がわかった。
ネムは変わったのだ。ネムは強くなった。ネムは私といた時よりも、心がずっと強くなった。
ネムはいつも私の顔色をうかがっていた。だが、この世界線のネムは違う。
ネムは私の死んだ世界で生きてきた。一人で生きてきたのか、それとも周りの者たちに支えられて生きて来たのか。どちらにしても、それがネムを強くした。私がいないことで。
気づきたくなかった。
涅マユリ(私の死はネムを強くした。逆に私がいた世界ではネムは弱いままだった。)
涅マユリ(ネムにとって、私はネムの成長を妨げるものでしかなかった。)
涅マユリ(私は・・・不要・・・だ。)
岡部の独り言はまだ続いている。
岡部「ごめん・・・。ごめん・・・。ごめん・・・。まゆり・・・。」
岡部の言葉に合わせるわけではないが、
涅マユリ(ごめん・・・ヨ・・・。ネム・・・。)
106:
こんな話をしている内に、もう昼を過ぎてしまっている。
岡部以外のメンバーはコミケとやらに行っているらしい。コミケと言うモノは、現世の人間にとってのお祭りのようなものらしい。
涅マユリの落胆に気付かないのか、ネムは質問をする。
ネム「ところで、私があなたの霊圧を知覚できたのは、私があなたに出会った瞬間からでした。しかしあなたは霊圧を隠していないと言いましたね。ならばそれは世界線の移動と何か関係があるのではないでしょうか?」
『異物』という言葉が涅マユリの脳裏に浮かぶ。
涅マユリ(私は自分の意思で世界線を移動したことはない。)
涅マユリ(全て岡部倫太郎に引きずられるように世界線を越えて来た。)
涅マユリ(この世界に於いてはネムが生きた時間こそ正常。私はこの世界では・・・異物・・・か。)
涅マユリは力なく答える。
涅マユリ「それは多分・・・わたしが異物だから・・・だヨ。」
ネムからすれば唐突な言葉だった。
ネム「?」
涅マユリ「私はこの世界線では既に死んでいる。もう存在しないハズの者だ。そんな者がこの世界に、生きている。明らかに異常だ。」
涅マユリ「かといって私は自由に世界線を越えられるわけじゃない。だからこの世界は、私を存在しないものとした。少なくとも、誰にも認識されないものは無いのと同じだ。」
107:
ネムは困惑する。
ネム「あの・・・涅マユリ?何を言っているんですか?」
涅マユリはその言葉も受け取らず、一人で喋り続ける。
涅マユリ「技術開発局に伝令神機で通信したが、伝令神機は霊波を使う。霊波など所詮は波でしかない。」
ネムは対応に困っている。
涅マユリ「私の声も同じだ。声とはつまり音。音とは空気の振動に過ぎない。」
涅マユリ「つまり私は、私自身は、誰にも認識されていなかったということだヨ。」
ネムは何も言わず、涅マユリの話を聞くことにした。
涅マユリ「お前が私を認識した瞬間、私の霊圧も知覚できるようになった。」
涅マユリ「その瞬間まで、私は存在自体が曖昧なものだったというワケだ。」
涅マユリ「私は・・・異物だ・・・。不要な・・・異物。」
そこでとりあえず、涅マユリの話は終わった。
話の終りを確認し、ネムがフォローに入る。
ネム「それではまるで世界が意思を持っているかのような話し方ではないですか。そんなはずはありません。仮にそうだったとしても、今、私は確かにあなたを認識しています。それに、少なくとも私は、あなたを不要だと思ったことは一度だってありません。
仮に世界が、あなたを不要と判断したとしても。」
涅マユリは深くため息をつく。
涅マユリ「ありがとう。少し楽になったヨ。今言ったことは気にしないでくれヨ。」
ありがとうなんて言葉を言ったのはいつ以来か。
外はもう夕方になりかけている。
涅マユリ「ところで、私はこの世界線では、どのように死んだのだネ?」
ネムはためらったが、本当のことを話そうと決めた。
111:
涅ネム「涅マユリは、旅禍としてソウルソサエティに侵入した、黒崎一護の仲間のクインシーに殺されました。頭を射ち抜かれて。そのクインシーの名は石田雨竜と言います。」
涅マユリ「あのクインシーか・・・私は、負けたのかネ?」
涅ネム「・・・相討ち・・・と言うべきでしょうか。石田雨竜もその場で死亡しました。」
ネムはまぶたを閉じる。その時の光景が浮かんでくる。
116:
私は倒れていた。
涅マユリに向けて大きな弓を構える眼鏡の青年。
その青年の体はすでに涅マユリの毒に侵されていた。
地面に落ちている写真。それに映っているのは既に研究を終えた被験者。
頭蓋骨を開けられ、脳にいくつもの電極を刺された老人。度重なる実験に、すでに原型は留めていない。
確か、2661人目の被験者だったか。
その写真の老人は、この青年の実の祖父らしい。
小さな声が青年の口から漏れる。
「・・・でも、許してはならないものはわかっているつもりです。」
それは、自分の心が言葉として漏れてしまったのか。
青年が涅マユリに向けて巨大な矢を放つ。
放たれた矢は涅マユリの胸から上を吹き飛ばした。
私は、上半身を失った涅マユリの死体にすがりよった。
ネム「マユリ様!マユリ様!」
青年が近づいて来る。
「君の父親だったか。・・・すまない。」
ネム「・・・クインシーさん。・・・私もマユリ様と一緒に研究に参加していました。その写真の方はあなたの祖父でしたね。・・・私が憎いですか?」
「・・・。わからない。」
117:
涅マユリの死体を見つめながらネムは言う。
ネム「この方には善悪や倫理という概念はありませんでした。ただ純粋な、探究心の塊みたいな人でした。非道な実験も全て、探究心に突き動かされていたような人でした。」
うっ・・・とうめき声を上げて吐血し倒れ込む青年。
瀕死の青年が、絞り出すような声で話す。
一声ごとに口から血があふれる。
「・・・そう・・・だとし・・・・ても、・・・許すわ・・・けには・・・い・・・かなか・・・った・・・。」
ネム「私は、肉親を殺されたあなたの憎しみがわかります。私もたった今、同じことをされたから。」
「・・・・。す・・・まな・・・い。」
ネム「いいえ。謝るのは私の方です。」
青年は絶命した。
ネムは涅マユリの死体に話しかける。
ネム「マユリ様。マユリ様は何故私を作ったのでしょうか?」
涅マユリの死体は、何も答えなかった。
118:
AD2010・08・16 18:35
もう夕日も落ちてきた。
ラボには岡部がいるだけだ。
涅マユリが立ちあがった。
涅マユリ「今日の岡部倫太郎は椎名まゆりの死を待つようだネ。・・・私は椎名まゆりの死に際でも見てみるとしようかネ。お前はどうするのだネ?」
ネム「私は局に戻り、情報を整理、分析します。あなたの記憶のバックアップを使用してもよろしいですか?」
涅マユリ「構わないヨ。ただ壊さないようにネ。」
ネム「はい。わかりました。」
涅マユリ「では、ごきげんよう。」
立ち去ろうとする涅マユリをネムが引き止める。
ネム「涅マユリ。一つ質問をさせてください。」
涅マユリ「・・・何だネ?」
ネム「何故あなたは私を作ったのですか?」
あの質問か。世界線は変わっても、ネムの本質は変わらないのか。
涅ネム「私はただ、自分とは何なのか知りたいだけです。」
しばらく考えてはみるが、やはり答えられない。涅マユリの回答は、
涅マユリ「・・・愚問だネ。」
ネム「・・・。」
涅マユリ「だがもし、それでも答えを求めるとしたら・・・。」
涅マユリ「・・・いや、何でもないヨ。」
涅マユリは立ち去った。
涅ネムは穿界門を開き、ソウルソサエティに帰還した。
122:
AD2010・08・16 19:45
辺りはもう暗い。
地面に私の血が滲んでいる。私の名前を泣きながら叫ぶ紅莉栖ちゃん。
私は何度もオカリンの名を呼ぶ。何度も、何度も、何度も・・・。
それなのに、
声が、出ない。届かない。
意識が遠のいていく。紅莉栖ちゃんの声も、遠のいていく。
その声ももう届かない。
私の声も、多分もう届かない・・・。
(オ・・・カリ・・・ン・・・オカ・・・リン・・・オ・・・カ・・・リン・・・)
123:
AD2010・08・16 19:48
「何だネ?騒々しい。」
私は目を見開いた。もう指一本動かせなかったはずの体で、確かにその声を聞き、飛び上がるように体を起こした。
「そう何度も叫ばなくてもキミの声は届いているヨ。」
「残念ながら岡部倫太郎にではなく、私に、だけどネ。」
目の前にいたのは、見たこともない異形の男。
その男が早口で喋り出す。不気味な笑みを浮かべながら。
涅マユリ「一体、何度目だネ?キミがこうやって死ぬのは?」
涅マユリ「死というモノをそう何度も経験するなんてネ。キミは随分貴重な体験をしているのかも知れないネ。」
その男はよくわからない事をベラベラと喋り続ける。
涅マユリ「まぁ記憶の持ち越しがあったとしても、キミの死はこの世界線では一回きりだけどネ。」
涅マユリ「死は一回だけ。そういう意味ではキミは他の人間と何ら変わりない・・・。」
124:
涅マユリ「ところで、霊体としての記憶は世界線を越えても維持されるのだろうかネ?・・・キミはどう考える?」
そう言うと、その男は一層不気味に微笑んだ。
椎名まゆりは目の前の状況がわからなかった。
自分の目の前の変な男。私の体にすがりついて泣く紅莉栖ちゃん。それを見つめる私自身。
その状況の全てがわからない。
そんな中、異形の男がまた喋り出す。
涅マユリ「・・・あァ。挨拶が遅れたネ。私は涅マユリ。この場合、はじめましてと言うのが正しいのかネ?キミの挨拶の言葉も知っているヨ。それに、岡部倫太郎がキミのために時間を繰り返していることもネ。キミには見えなくとも、私はキミ達に何度も会っているのだからネ。」
椎名まゆり「・・・あ・・・・、・・・えっ?・・・。」
椎名まゆりは質問したくとも、それをうまく言葉にできなかった。
涅マユリ「・・・いや、こうして霊体のキミと会ったのは初めてか。」
椎名まゆり「あ、あの・・・私・・・死ん・・・」
椎名まゆりがようやく発したそんな言葉を無視するように、
涅マユリ「では、はじめまして。椎名まゆり。トゥットゥルー♪」
この人?は何なんだろう。
AD2010・08・16 19:52
涅マユリ「この感覚・・・そろそろだネ。」
時空が・・・
涅マユリ「ではまた、次の世界線でお会いしましょう・・・。」
・・・歪む。
131:
AD2010・08・11 17:36
〜未来ガジェット研究所〜
牧瀬紅莉栖が怒鳴る。
紅莉栖「ああ〜!?岡部!!これ食べちゃったの!?」
その手には牧瀬と書かれたプリン。
岡部が呟く。
岡部「そうだな。紅莉栖。」
そして、告げる。覚悟を込めたような声で。
岡部「俺は、タイムリープしてきた。」
132:
涅マユリ「世界線は越えたようだネ。さて、どうするか。」
それは独り言だ。
ついさっきまで椎名まゆりと会話していたのに、その姿は消えている。
涅マユリ「世界線を越えても私の記憶が維持されているということは、この世界線でもバックアップは機能しているということだネ。」
涅マユリ「やはりラボへ行くか。いや、その前に技術開発局に連絡を入れてみるか?」
涅マユリはとりあえず歩き出した。歩きながら考える。
前の世界線では、ネムとは8月16日にラボで出会った。この世界線でも同じなのだろうか?
ネムは16日以前にも現世へ来ていたと言っていた。だがその時は私を見つけることはできなかった。
不意に自嘲が込み上げる。
涅マユリ「私は世界の異物。異物。異物。・・・フフッ・・・。」
涅マユリの心の中では、自嘲さえも探究心へと繋がっていく。
涅マユリ「面白いじゃないかネ。私は世界線の観測者というワケだ。」
一人嗤いが我慢できない。
涅マユリ「見極めようじゃないかネ。世界とは何かを。」
涅マユリの心は走り出す。
探究心を原動力に、愚問へ向かって。
走り出す。
133:
〜未来ガジェット研究所〜
既に陽は落ちた。牧瀬紅莉栖が電話レンジの設定をしている。
岡部はいないようだ。
涅マユリは床に座る。
涅マユリは今日の日付を確認する。8月11日か。
確か前の世界線でネムと会ったのは8月16日の2時か3時頃。
ネムはその前にも一度現世に来ているらしい。
涅マユリは伝令神機を取り出す。
涅マユリが前の世界線で伝令神機で通話したのは、8月14日の夜。
岡部倫太郎が漆原ルカの過去改変をキャンセルした後だ。
涅マユリ「つまり、前の世界線でネムが来たのは、8月14日の夜以降ということか。」
だが涅ネムが現世へ来たのは、涅マユリが技術開発局に連絡をとったからでもある。
涅マユリ「ということは、私が技術開発局に連絡を入れなければネムは来ない?少なくとも、8月14日までは。」
しばし考え込む。
涅マユリ「私が何もしなかった場合、この世界線で何が起こるのか。それも面白そうだネ。」
涅マユリは伝令神機を懐にしまった。
涅マユリ「とりあえず、コイツらの行動を見ておくとするかネ・・・。」
不気味に、嗤う。
コイツらとは勿論、岡部倫太郎や牧瀬紅莉栖たちのことだ。
134:
〜未来ガジェット研究所〜
牧瀬紅莉栖が携帯で会話している。相手はたぶん岡部倫太郎だろう。
涅マユリはその様子を眺める。牧瀬紅莉栖の真後ろで。不気味に笑いながら。
牧瀬紅莉栖が電話レンジを起動する。
涅マユリ(もう世界線移動かネ?)
電話レンジが放電を始める。
時空が・・・
涅マユリ(ネムがどういう行動をとるか確認してみたかったのだが…。)
・・・歪まない。
涅マユリ「ん?」
135:
牧瀬紅莉栖が慌てた声で喋っている。
携帯電話から漏れる声も、かなり焦った様子だ。
涅マユリ「・・・電話レンジは確かに起動したネ。・・・どういうことだ?私は世界線を越えなかった?」
では、岡部倫太郎は世界線を越えたのだろうか?
牧瀬「・・・Dメールは受け取った相手次第で効果が左右される。岡部の文章じゃ、桐生萌郁の行動は変えられないってこと?」
牧瀬紅莉栖は通話を続けている。
通話の相手が岡部倫太郎ならば、岡部も世界線を越えていないということか。
涅マユリ「過去にメッセージを送ったのに現在が変わらなかったということかネ。」
涅マユリは牧瀬紅莉栖の後ろにべったりと取り憑くような体勢で、電話レンジの設定を覗きこんでいる。
牧瀬紅莉栖が岡部の名を呼ぶが、通話は切られてしまった。
涅マユリ「過去にメッセ−ジを送れば現在も変わると思っていたが、例外もあるのだネ。面白い。実に興味深いヨ。」
この場で笑っていられるのは涅マユリだけだ。
そんな笑いなど誰にも認識されないが。
136:
涅マユリ「桐生萌郁。今度の改変はその人間か。」
どうするか。桐生萌郁を調べてみるか?それが岡部倫太郎の行動を調べることにもなるかも知れない。
だが、電話レンジの方も気になる。過去改変が起きるのは電話レンジによるものだ。
今までの世界線では、岡部倫太郎を監視してきた。世界線移動の鍵となる電話レンジは見ていなかった。
牧瀬紅莉栖の携帯が鳴る。
紅莉栖「心配させんな!」
相手は岡部倫太郎か。
紅莉栖「7月31日の午前11時頃ね。」
紅莉栖が電話レンジを起動させる。
電話レンジが放電する。
時空が・・・
涅マユリ「・・・。」
・・・やはり歪まない。
涅マユリは牧瀬紅莉栖の携帯電話に耳をくっつけるように、話の内容を盗み聞きする。
涅マユリは会話の内容をおおよそ理解する。
どうも今回の過去改変のキャンセルは面倒なことになるらしい。
電話レンジを見張っていれば、今までとは違う何かがわかるかも知れない。
それに、この世界線では涅マユリは何もしないと決めていた。
私が何もしなかった場合、この世界線で何が起こるのか。
涅マユリ「・・・では、電話レンジを監視するとしようかネ。」
こんな物言わぬ箱を監視するというのもおかしな話だが。
涅マユリは牧瀬紅莉栖から離れ、床に座り込んだ。
137:
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・12 00:41
岡部倫太郎がゴソゴソと荷物の中から、バールのような物を取り出した。
岡部はそれを持って部屋から飛び出そうとする。
牧瀬紅莉栖が岡部を止める。
涅マユリは床に座ったままその光景を見つめる。
紅莉栖が考える。
紅莉栖「・・・多分、もとの世界線に戻らない限り、無理なんだと思う。」
涅マユリも考える。
涅マユリ「ふむ・・・。異なる世界線でも、同じ結果か。椎名まゆりの死と同じように・・・。」
涅マユリ「つまり世界線とは糸のようなモノ。それが無数に集まって縄になったとしても、行きつく先は変わらないということか?」
バールを握る力も無く、へたり込む岡部。
涅マユリ「それはソウルソサエティも同じか・・・?」
またしばし考え込む。
その間に、紅莉栖と岡部の取るべき行動は決まったようだ。
そして、涅マユリの取るべき行動も決まった。
涅マユリ(私は何もしない。ただ此処で電話レンジを見張るだけ。)
138:
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・12 13:40
既に外は昼。
涅マユリは座り込んだまま、微動だにしない。
動いているのは、周りの人間と、涅マユリの脳内だけだ。
涅マユリ(私はソウルソサエティに連絡をしていない。ネムが来るとすれば14日の夜以降。または来ないという可能性もある。)
岡部倫太郎はコインロッカーを見張りにいったらしい。
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・12 17:21
外は夕方。
涅マユリはまだ動かない。
ラボの扉が開いた。
牧瀬紅莉栖と椎名まゆりが帰って来た。
岡部倫太郎はまだ帰って来ない。
涅マユリ(椎名まゆりは、私と出会った時の記憶を維持しているだろうか?)
試しに椎名まゆりに話しかけてみる。
涅マユリ「・・・椎名まゆり。聞こえるかネ?涅マユリだヨ。」
が、当然の如く返事は無い。
涅マユリ「それもそうか。」
世界線を越えた記憶の維持自体、曖昧なものだ。
その上、霊体である私の声など届くはずもない。
涅マユリはまた沈黙した。
ふと脳裏に『徒労』、『愚問』という言葉が浮かんだ。
最近どうも突然、意味不明な言葉が浮かんでくる。
涅マユリ「思考の・・・邪魔だヨ。」
涅マユリは思考を再開させる。
142:
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・13 01:45
床に坐して沈黙する涅マユリの前が突然光った。
そして空中に円形の門が出現する。穿界門だ。
涅マユリ(!?私はソウルソサエティに連絡などしていない。それにネムが来るとしたら14日以降ではないのか?)
穿界門が開く。
現れたのは羽織を着た涅ネムと、副官章を付けた阿近。
涅ネムと阿近、そして涅マユリ。互いの姿を見合って、絶句する。
涅ネム「涅・・・マユリ・・・?」
143:
沈黙が続く。
同じ沈黙でも、両者の沈黙は意味が違う。
ネムと阿近はただ驚き、茫然としている。
一方、涅マユリは必死に考える。
涅マユリ(何故今ネムがきた?今日はまだ8月13日のハズ。)
涅マユリ(世界線が違うから?いや、世界線が変わっても結果は同じなのでは?)
涅マユリ(過去改変、世界線、現世、ソウルソサエティ・・・。)
一つの答えに行きつく。
涅マユリ(・・・断界?)
だがまだ確信は持てない。
秋葉留未穂の時も、ネムが還った時も、大きな変化は起きていなかったハズだ。
では何だ?やはり世界線が変われば行動も変わるのか?
いや、それなら椎名まゆりの死が繰り返されることに説明がつかない。
じゃあ何だ?伝令神機?自分でも気付かない内に誤って技術開発局に繋いでしまったか?
涅マユリはすぐに自分の伝令神機を取り出し、発信・受信履歴を調べる。
やはり違う。
だったら何だ?何故ネムの行動は、前の世界線とは異なる?
何故だ?何故だ?何故だ?その言葉が脳内を駆け巡る。
144:
沈黙を破ったのは阿近だった。
恐るおそる問いかける。
阿近「涅・・・マユリ・・・元・・・隊長・・・ですか?」
元?やはりこの世界線でも私は死んだことになっているのか?
涅マユリも恐るおそる答える。
涅マユリ「そう・・・だヨ。」
ネムは涅マユリを見つめて固まっている。
阿近「あの・・・い、生きてらしたん・・・ですね?」
やはりこの世界線でも私は死んだことになっているらしい。
涅マユリ「当然だヨ。」
ようやく涅マユリに冷静さが戻ってきた。
ネムの硬直がようやく解けたようだ。
ネム「本当に、涅マユリ?」
145:
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・13 02:07
どうやら此処は、私が死んだことになっている世界線。
そして、ネムも阿近も、私が生きている理由を知らない。
また同じことを説明しなければならないのか。
岡部倫太郎も、タイムリープして誰かに説明をする時、こんな気分だったのだろうか。
涅マユリは深くため息を吐き、話す。
涅マユリ「私は、涅マユリだ。私はこの世界では死んだことになっているだろうが、確かに生きている。」
涅マユリ「色々疑問はあると思うが、まずは私の質問に答えてはくれないかネ?」
ネムと阿近はとりあえず同意した。
涅マユリ「何故お前たちは此処に来たのだネ?」
それに対し、ネムが答える。
ネム「・・・それは、最近多発している時空間の歪みを調べるためです。」
涅マユリ「時空間の歪みが起きたのは此処だけではないネ?何故此処なのだネ?」
ネム「それは、55番地区が最も時空間の歪みが多かったからです。」
涅マユリ「ふむ。わかったヨ。では、疑問に答えようか。」
ネム「・・・。・・・あなたは、本当に涅マユリなのですか?」
ネムはまだ目の前の涅マユリの姿が信じられないようだ。
涅マユリ「そうだヨ。」
ネム「私たちの知っている涅マユリは、既に死んでいます。」
涅マユリ「・・・だろうネ。だが私は生きている、涅マユリだ。」
ネムはしばらく考え、強い口調で言った。
ネム「では、あなたがご自分を涅マユリだと言い張るのなら、その証拠を示してください。」
またか。今なら岡部倫太郎の気持も少しはわかるような気がする。
やる気無く、涅マユリが答える。
涅マユリ「伝令神機は持っているネ?それで技術開発局に連絡をとるんだ。」
146:
〜護廷十三隊・十二番隊〜
リン「はぃう・・・ぽ・・・ごくん。・・・はい、隊長。技術開発局・壺府リンです。」
リンが食べかけのお菓子を吹き出しそうになりながら応答した。
リン「・・・隊長の机ですか?」
リン「・・・引き出し・・・引き出し・・・あっ、あった!」
リン「・・・暗証番号ですか?・・・はい。開きません!」
リン「・・・。え?・・・あっ。すみません!間違えました。」
リン「・・・あのぅ・・・もう一度、暗証番号を教えてもらってもいいでしょうか?」
リン「・・・あ!やった!開きました!」
リン「・・・点滅?・・・ちょっと待ってくださいね。」
ガタッ
リン「ああぁ・・・お菓子がぁ・・・」
147:
〜未来ガジェット研究所〜
ネム「・・・。」
阿近「・・・。」
涅マユリ「・・・。」
涅マユリ「・・・阿近。行って手伝ってやってくれないかネ?」
阿近「わかりました。」
151:
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・13 02:27
しかし、リンがここまで使えないとは。普段の仕事は並みにこなせていたハズなのだが。
お菓子を食べながらだが。
まあ、そんなことはどうでもいい。既に阿近が穿界門でソウルソサエティに向かった。後は阿近がどうにかしてくれるだろう。
涅マユリと涅ネムはお互い向き合うように床に座った。
沈黙が続く。
ネムは涅マユリを値踏みするような目で見ている。
涅マユリは、以前ネムにした説明をどうすればもっと簡略化できるか考えている。
涅マユリは記憶のバックアップ装置の操作法を紙に書き留めた。
ふと、思う。
涅マユリ(私の伝令神機にも送信させておくか。)
しばらくの沈黙の後、ネムの伝令神機に通信が入った。
152:
〜護廷十三隊・十二番隊〜
阿近「隊長。技術開発局につきました。水槽の脳は確かにあります。引き出しも無事です。お菓子による被害はありません。」
阿近「・・・その前に少しお待ち頂いてもよろしいですか?・・・はい。」
阿近「つ〜ぼ〜く〜ら〜ぁ〜。」
リン「はひぃ・・・。」
阿近「お前、研究室で菓子喰うなって何回言えばわかるんだ?」
リン「ご・・・ごめんなさいぃ・・・。」
阿近「とりあえずそこに散らばった菓子片づけとけ。」
リン「はいぃ。」
阿近「ていうか散らばり過ぎだろ。どんだけの量の菓子持ち込んでんだ。ったく。」
阿近「・・・隊長。すみません。お待たせしました。・・・点滅ですね。」
指示を出しているのは涅ネムだ。
ネムは涅マユリから受け取った紙を見ながら、阿近に指示を出す。
阿近は制御盤を操作する。制御盤といっても、現世のマルチエフェクターに似ているか。
阿近「・・・接続完了しました。・・・伝令神機に送信ですね。わかりました。」
やはり阿近は優秀だ。
阿近「・・・涅マユリ元隊長にも?しかし元隊長の伝令神機は・・・識別コード。・・・はい。」
阿近「はい。これでおそらく元隊長の伝令神機にも送信できると思います。・・・はい。」
阿近はスクリーンに映された映像を見つめる。
153:
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・13 03:04
涅マユリとネムの伝令神機に、涅マユリの記憶のデータが送られる。
涅マユリ「これが私の記憶だヨ。」
またあの長い説明をしなければならないのか。
だが文句を言っても仕方ない。
涅マユリは説明を始めた。
154:
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・13 15:25
多少の違いはあれど、涅マユリとネムは前回とほぼ同じ会話をした。
涅マユリ「かつて黒崎一護という男とその仲間が旅禍としてソウルソサエティに侵入したことがあったネ。かなり強引に断界を突き抜」
そう言いかけている時、ラボの扉が開く。
汗だくの岡部が入って来た。
岡部は入って来るなり、タイムリープ装置をセットした。
涅マユリ「?」
岡部「クソッ!失敗した!あの電車!」
涅マユリ「まさか!!」
タイムリープ装置が起動する。
空間が光る。時空が・・・歪む。
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・13 14:11
涅ネム「・・・どうしたのです?急に止まって・・・。」
岡部倫太郎がいない。
涅マユリは壁の時計で、現在の時刻を確認する。
時間が戻っている。
涅マユリ(あの小僧っ・・・!!)
人が一生懸命説明していたというのに。
涅マユリは岡部倫太郎への憎しみを無理矢理こらえて、話を続けることにした。
涅マユリ「いや、すまないネ。何でもないヨ。さて、どこまで話したのだったかネ?」
ネム「・・・?技術開発局で確認できたのは、7番地区、18番地区、55番地区だけという話です。」
涅マユリ「ああ・・・そうだったネ。」
平静を装い、話を続ける。
涅マユリ「おそらく、それも世界線との関係だろう。話を続けるヨ・・・」
涅マユリは説明を再開した。
155:
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・13 16:54
涅マユリは順調に説明を続けていく。
涅マユリ「そう・・・だネ。逆に穿界門が閉じている場合の過去改変はソウルソサエティには大きな影響を及ぼさない。それは断界が現世とソウルソサエ」
ラボの扉が開く。
また汗だくの岡部が入って来た。
岡部は入って来るなり、タイムリープ装置をセットした。
岡部「クソッ!今度は車か!」
涅マユリ「小僧おおぉぉっっ〜〜〜〜!!!!!」
タイムリープ装置が起動する。
空間が光る。時空が・・・歪む。
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・13 15:13
涅マユリ「・・・。」
ネム「どうしたのです?」
涅マユリ「・・・ネム。今何時だネ。」
もう自分で時間を確認する気力もない。
ネム「午後3時を過ぎた頃です。」
涅マユリ「・・・どこまで説明したのだったかネ?」
ネム「他の世界から生きている涅マユリが、とあなたが言ったところですが・・・?」
涅マユリ「・・・そうだったネ。話を続けようか・・・。」
涅マユリは説明を続けた。
岡部が戻って来ないよう祈りながら。
156:
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・13 18:02
そこには疲れた涅マユリがいる。
ネム「私は局に戻り、情報を整理、分析します。あなたの記憶のバックアップを使用してもよろしいですか?」
精根尽き果てたように言う。
涅マユリ「構わんヨ。」
ネム「わかりました。」
ネム「涅マユリ。一つ質問をさせてください。」
涅マユリ「・・・。」
ネム「何故あなたは私を作ったのですか?」
即答する。
涅マユリ「愚問だヨ。」
ネム「・・・。では。」
ネムは穿界門を開き、帰還した。
162:
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・14
昨日は疲れて考えることを放棄したのだったか。
問題は何故ネム達が昨日来たのか、だったか。
涅マユリ「何故ネムが来た?昨日はまだ8月13日のハズ。」
涅マユリ「・・・断界?」
まだ確信は持てないが、もうそれしか考えられないか。
秋葉留未穂の時も、最初の説明後にネムが帰還した時も、大きな変化は起きていなかったハズなのに。
何か確信が欲しい。客観的な証拠など得られそうもないが。
考えてる内に、刻々と時間が過ぎていく。
伝令神機に連絡が届いた。差出人はネムだ。
要約すれば、昨日の話は所々おかしな所があり、正直信じられなかった。
しかし記憶のバックアップを調べている内に納得できた、という内容だった。
そうだ。私には一度ネムに説明している。
その記憶を見せるだけで、説明としては十分だったではないか。
初めからそうすれば良かった。
もう夜だ。
163:
涅マユリ「昨日の苦労は何だったのだネ・・・。」
また脳裏に言葉が浮かぶ。『徒労』
徒労とは、無駄な努力。
もしかしたら私が、今探究していること。それ自体が徒労なのではないか。
・・・愚問。
涅マユリは深いため息をついてから、また本題を考えはじめた。
涅マユリ「世界。・・・世界線。・・・断界。」
164:
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・15
朝になっても涅マユリは考え続けている。
数日前に座り込んだ場所から動いていない。
岡部たちは何やら下の階の人物と、どこかへ行ったらしい。
涅マユリは考え続ける。時間が過ぎていく。
涅マユリ「断界・・・改変・・・緩衝材・・・増幅・・・ランダム・・・」
思考は同じ所をグルグルと回っている。
涅マユリ「世界線・・・移動・・・同じ結果・・・世界。」
突然、電話レンジが放電を始めた。
涅マユリ「!?」
それとともに空間が光り、時空が歪む。
その瞬間、歪む時空の中、涅マユリは確かに見た。
165:
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・15
涅マユリ「あ・・・。」
涅マユリはさっきと同じ場所にいる。
だが、確かに見た。
時空が歪む瞬間。世界は一瞬だが高で逆回転した。まばたき一つで見逃してしまいそうなほど。一瞬。
そして涅マユリの目の前に穿界門が開き、ネムが逆回転で現れた。
涅マユリに認識できたのはそこまでだった。
ほんの一瞬の出来事だった。
そして今、涅マユリは此処にいる。
涅マユリ「断界・・・。」
確信が得られた。そして、自分の仮説のミスに気が付く。
涅マユリ「穿界門が開いた状態でなくとも、ソウルソサエティに改変の影響は及んでいた・・・。」
涅マユリ「時空が歪む瞬間、世界は一瞬だけ逆回転する。」
涅マユリ「その逆回転の間に穿界門が開いていたら、過去改変は穿界門を通ってソウルソサエティに影響する。」
自分の記憶を思い返す。
涅マユリが初めて未来ガジェット研究所に来た時、阿近からの連絡が遅れたことに疑問を持った。
その時はわからなかったが、今ならわかる。
逆回転によって穿界門を通った過去改変は、ソウルソサエティに何らかの変化を及ぼしていた。
おそらくその変化は小さなものだったのだろう。
だから阿近の連絡が遅れた。
涅マユリ「・・・そういうこと・・・か。」
166:
〜未来ガジェット研究所〜
涅マユリがニヤニヤしている。
グルグルと同じ所を回っていた思考が、一つ進んだことが嬉しくてたまらない。
ラボに段ボール箱が届けられた。
岡部がそれを開けて、感嘆する。
だがまた、涅マユリの脳裏にふと意味不明な言葉が湧き上がる。
『観測者』、『感覚器官』
涅マユリ「またかネ。邪魔なものが。」
岡部「ダル!」
岡部が叫ぶが、
紅莉栖「橋田ならいないわよ。」
岡部は興奮しながら、タイムリープ装置を装着した。
涅マユリ「次の世界線・・・だネ。」
空間が光る。
時空も・・・
涅マユリのニヤけた顔も
・・・歪む。
167:
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・13
涅マユリ「いや、何を失うことになろうとも・・・!」
それは、決意だ。
岡部「待て!」
岡部倫太郎は思いつめた表情で言った。
岡部「・・・中止だ・・・。」
中止などできない。涅マユリの探究心は。
168:
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・13 21:43
岡部倫太郎は神妙な顔のまま、何も行動を起こさない。
涅マユリ「世界とは何か。」
一人呟く。それは、誰もが思い、誰も答えの出せなかった問いだ。
本当は、それを問うこと自体が愚問なのかも知れない。
涅マユリ「たとえ愚問だとしても、何を失うことになっても。」
止められるわけがない。
この問いの答えを知るチャンスなど、もう無いのかも知れないのだから。
それに、今の自分は完全に異物だ。
もう戻る場所など無い。
覚悟はとっくに決まっている。
また、脳裏にふと意味不明な言葉が湧き上がる。
『観測者』、『感覚器官』
涅マユリ「・・・。」
意味不明な言葉。普段なら強引にでもねじ伏せる。だが、
涅マユリ「私がβ世界線に行ったとして、そこにバックアップが無かったら、私はどうなる?」
涅マユリ「バックアップ装置が機能しているおかげで、世界線を越えても私は私でいられた。ならばバックアップ装置の無い世界線ではどうなっていた?」
涅マユリ「・・・いや、バックアップがある世界線だから移動できたのか?」
涅マユリ「私は岡部倫太郎に引きずられるように世界線を移動してきた。だが移動した世界線は全てバックアップが有る世界線。」
涅マユリ「・・・私の世界線移動は・・・」
それは根拠の無い疑念だ。
涅マユリ「・・・バックアップによって制限されていた?」
涅マユリ「・・・可能性としては、無くは無い・・・のか?」
疑念が深まる。
涅マユリ「私は世界線の観測者だ。・・・だがバックアップが私の世界線移動を制限するとしたら・・・。」
涅マユリ「本当の観測者は・・・バックアップ?」
涅マユリ「私は・・・そのための感覚器官に・・・過ぎない?」
屈辱的な気分だ。だが、
考えてはいけない。これは根拠の無いただの空想だ。考えてはいけない。
涅マユリ「私が観測者だ。」
涅マユリは自分に言い聞かせるように断言した。
169:
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・14 05:43
空間が光った。
涅マユリの前に円形の門が現れる。
穿界門から現れたのは、羽織を着た涅ネム。
これは涅マユリにとっても予想外ではあった。
しかし毎回ネムの現れる時間が異なるのであれば、予想など立てようがない。
予想できないということ自体は予想していた。
ネムは涅マユリを見て驚いている。
ネム「・・・涅・・・マユリ・・・?」
涅マユリ「そうだヨ。涅マユリだ。」
涅マユリはすぐにバックアップ装置の操作方法と、伝令神機への送信設定をメモした。
またあの長ったらしい説明をするのは御免だ。
この世界線でも私の記憶のバックアップ装置が機能しているのなら、それに『今まで』の全ての記憶が記録されているはずだ。
あの時の説明も全て。
ネムならそれを見れば、何が起きているか理解してくれるだろう。
涅マユリ「伝令神機は持っているネ?技術開発局に連絡をとるんだヨ。」
170:
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・14 07:43
ネムは伝令神機に送られた記憶のデータを高で見つめる。
それは、常人では理解できないほどのさの映像と音声。
ネム「β世界線・・・。」
ネムは、全てを察したように一言だけ言った。。
ネムは涅マユリの記憶を見終わると、自分のやるべきことを考え、まとめた。
まとめた、と言うよりは、決意したと言う方が正しいか。
そして行動に移る。
涅マユリ「?」
まずは電話レンジを見つめる。
とにかく時間が無い。
次はパソコンの画面に映る粒子加器。携帯電話。タイムリープ装置。
ネムは高で頭を回転させる。
ミニブラックホール。マイクロ波。リフター。ブラウン管。
ネムは電話レンジの仕組みをおおよそ理解したが、それを書き留めている暇などない。とにかく早くしなくては。
ネムは伝令神機で、すぐに穿界門を開けるよう指示を出した。
涅マユリ「・・・何だネ?何をしているのだネ?」
突然のネムの行動に唖然とする涅マユリ。
171:
ネムが涅マユリの方へ振り向く。
涅マユリは直感的に何かを察する。
これはまさか、今の私が一番恐れていることではないか、と。
(仮に百万回『愛してる』と言ったところで)
ネムは覚悟する。これもやらなければいけない事だ。
(たった一回『さようなら』と言われてしまえば)
穿界門があくまでのわずかな時間で、ネムは涅マユリに告げなくてはならない。
(その百万回の『愛してる』は)
穿界門が開いた。ネムの目にはうっすら涙が浮かんでいるのか。
(全て無かったことになってしまうヨ。)
ネムは告げる。
(徒労だネ。実にくだらない。)
ネム「さようなら。」
173:
間違えました。
>>166 と >>167 の間に下の文章が入ります。
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・13 15:27
涅マユリ「ふむ。世界線は越えた。私の記憶も正常。この世界線にも私の記憶のバックアップは有るということだネ。」
岡部倫太郎が橋田至に頼みごとをしている。
涅マユリ「さっきの光、よく認識できなかったが、穿界門か。」
紅莉栖「なるほどね。まゆりの死を避けるには、今いるα世界線から元のβ世界線に戻るしかない。」
涅マユリ「この世界線ではソウルソサエティはどうなっているのかネ。」
ダル「もし全部オカリンの妄想だったらラノベ作家になれると思うお。」
岡部はほっとした表情で紅莉栖たちと話している。
涅マユリ「β世界線・・・。」
紅莉栖「最初のDメールかぁ・・・。それってあれでしょ?」
涅マユリ「今私がいる世界線はα世界線。私は岡部倫太郎に引きずられるように世界線を越えて来た。もし私もβ世界線に行くことになったとして・・・。」
岡部の表情が一気にこわばる。
涅マユリ「そこに私の記憶のバックアップが無かったとしたら・・・。」
岡部は何とも言えない表情で紅莉栖を見つめる。
175:
〜護廷十三隊・十二番隊〜
阿近「穿界門よし・・・と。みんな、隊長が帰還」
阿近が言い終わるより早く、研究室に涅ネムが息を切らして入ってきた。
阿近「隊長!?お、お帰りなさい。」
ネムは息を切らしながらも早口で言う。
ネム「みなさんに・・・ハァ・・・お願いが・・・ハァ・・・あり・・・ハァ・・・ます。」
その様子に阿近以下、局員全員が驚いている。
阿近「隊長?何があったんですか?」
その言葉を無視して続ける。
ネム「これは・・・ハァ・・・私の・・・ハァ・・・個人的な・・・お願いです。」
ネム「協力して頂けませんか?」
176:
〜現世・α世界線、未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・14
閉じられた穿界門。
涅マユリは、一人現世に残された。
涅マユリ「私は・・・独りか。」
涅マユリ「キミは、私を独りにはしないよネ?」
思わず椎名まゆりに話しかける。だがそんな声が椎名まゆりに届くはずもない。
椎名まゆりはコスプレ用の衣装を縫っている。
涅マユリ「私は・・・本当に・・・独りか。」
涅マユリ(どうする?ソウルソサエティに連絡をとるか?)
だがその考えはすぐに却下された。
涅マユリ(ネムは何かを察したようだった。その行動は何か考えがあってのことだろう。邪魔をしてはいけない。)
涅マユリ(私は・・・異物なのだから。)
涅マユリ(それに、私は世界線の観測者だ。岡部倫太郎を監視しなくてはならない。)
涅マユリは自分に言い聞かせるように言う。
涅マユリ「覚悟していたじゃないかネ。何を失うことになっても、と。」
177:
〜護廷十三隊・十二番隊〜
ネムはもの凄いスピードで右手でキーボードを打っていく。それと同時に左手で電話レンジの原理を紙に書きあげていく。
それを見つめる局員たち。
「すげぇ・・・。」
阿近はまだ書きかけの紙を見つめる。
何か気付いたらしい。
阿近「これは・・・時空間変異?こんな技術、ソウルソサエティにも無い・・・。」
その言葉にネムの手が一瞬止まる。
そして、
ネム「阿近副隊長。手伝って頂けますか?それとリン。現世に連絡をとってください。」
ネム「他の方々はこれに書いた材料を集めてください。あと、穿界門の用意を。座標は書いてあります。」
ネムがいつの間にか書いたメモを局員に渡す。
有無を言わさぬネムの言葉に、十二番隊の全員が従った。
178:
〜現世・α世界線〜
AD2010・08・14
寂れた駄菓子屋。その店の前で素振りをする男の子。それに付き合わされる女の子。塀の上からそれを眺める黒猫。
男は、店の軒先で、扇子を扇ぎながらかき氷を食べていた。無精ヒゲと下駄、変な帽子、そして黒いステッキ。見るからに胡散臭い男。
かき氷を食べながら、
「今日も暑いっスねぇ・・・。」
夏なのだから仕方ない。むしろその帽子をかぶっている方が蒸れないのだろうか。
店内から、黒ぶち眼鏡のいかつい男が、その男を呼ぶ。
「店長。ソウルソサエティ・技術開発局から連絡が入っています。」
「技術開発局?アタシにっスか?」
その男はゆっくりと立ち上がり、店内に入って行った。
だが少し立ち止まり、外の子供たちに呼びかける。
「ウルル〜、ジン太〜。あんまり外いると熱中症になっちゃいますよ〜。」
179:
〜護廷十三隊・十二番隊〜
ネムは現世と通信している。
ネム「・・・はい。これは私個人の我儘です。・・・はい。ですが、どうか協力して頂けないでしょうか?時間がないのです。・・・わかりました。では今からそちらに送るデータを見てご判断ください。」
ネムが通話している男。タイプは違うが、どこか涅マユリと似た雰囲気をもつ男。
十二番隊・技術開発局の創設者、浦原喜助。
180:
〜現世・α世界線、浦原商店〜
浦原喜助は伝令神機を片手に、茶の間でノートパソコンの画面を見つめる。
そこに映っているのは、電話レンジの設計図と世界線についての概論。
浦原「・・・?・・・面白そうじゃないっスかねぇ・・・。」
浦原喜助は伝令神機に向かい言う。
「・・・いいでしょう。アタシにできることならお手伝いしましょう。」
浦原「・・・穿界門?それならアタシでも・・・」
浦原喜助がそう言いかけた途端に、茶の間に円形の門が現れた。
浦原「・・・準備いいっスねぇ・・・。」
184:
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・17
紅莉栖「コミマ・・・今日が最終日だっけ?」
ネムがソウルソサエティに還ってから、ネムは一度も現れていない。
椎名まゆり「うん。紅莉栖ちゃんも来る?」
ネムが還ってから、涅マユリはこのラボでずっと一人だった。
もちろんラボにはいつものメンバーが出入りするが、だれも私を認識できない。
岡部は屋上か。
椎名まゆりがペットボトルを持って屋上へ行く。
涅マユリ「過去改変のキャンセルごとに椎名まゆりの死が一日ずつずれていくとしたら・・・。」
涅マユリ「今日は、椎名まゆりが死ぬ日、か・・・。」
岡部倫太郎と椎名まゆりが屋上から戻ってきた。
二人はコミマに行くらしい。
涅マユリは重い腰を上げ、二人について行くことにした。
〜コミマ会場〜
暑い日差しの中、たくさんの人間が本を買っている。
コミマとは奇妙な祭りなモノだ。現世の人間にとっての娯楽の一つだろうか?
涅マユリはそんなことを考えていた。
会場にはたくさんの人がいるが、誰も涅マユリを認識できない。
岡部倫太郎が誰かと電話する。
涅マユリはこの光景をただ眺めていた。
185:
〜護廷十三隊・十二番隊〜
AD2010・08・17
薄暗い研究室。そこにいるのは技術開発局の全局員と、何か胡散臭いゲタ帽子の男。
浦原「うひゃ〜!?まさかこんなに早く完成するなんてぇ〜!」
浦原喜助が棒読みで叫ぶ。
ネム「・・・。」
浦原「なんだ。リアクション薄いっスねぇ。もっとビックリしてもいいところっスよ?あなたの代わりにアタシが叫んであげたのに。」
ネム「いえ、充分驚いています。」
本当に、たった数日で完成させた。やはりタイプは違えど・・・。
研究室の真ん中には白い球状の物体が置かれている。
人が一人入れるくらいの大きさだ。
これは浦原喜助と、技術開発局の技術の集大成だ。
浦原「起動確認はできました。だけど本当に行けるかどうかまではわかりません。確認しようが無いっスからね。」
浦原「それに、仮に行けたとしても、場所と時間までは指定できません。ある程度ガンバってはみたんスけどね。本当にいいんスか?」
ネムは無表情で答える。
ネム「はい。行きます。」
浦原「わかりました。・・・よっと。」
そう言って、浦原喜助は球体のハッチを開ける。かなりの重さのようだ。
浦原喜助は、ネムの目を見据えて言う。まるでネムの覚悟を見据えるかのように。
浦原「どうぞ。」
ネム「はい。」
ネムが球体に乗り込む。
球体の中はコックピットのようになっている。
一人用の座席。その前壁にはいくつもの画面と様々なスイッチの類。所々点灯している。
座席は搭乗者を固定できるようシートベルトのようなものが付いている。
浦原「設定はこちらでしておきました。・・・しかし本当にどうなるかはわかりません。」
ネムは浦原喜助を見つめる。
タイプは違えど、やはりこの男はどことなく似ている。
涅マユリと肩を並べる程の、もう一人の天才。
ネムは少しだけ微笑む。
ネム「ありがとう。」
186:
浦原喜助は帽子で目を隠す。
浦原「よしてくださいよ。照れるじゃないっスか。そうだ、これを。」
そう言って浦原喜助がネムに手渡した物。
それはガラスのように透明で硬い立方体。
6つある立方体のそれぞれの面に、一から六までの数字が書いてある。
サイコロだろうか?
浦原「もしどこかでアタシに会ったら、それを渡してください。きっとあなたの力になるでしょう。」
ありがとう。ネムは小さく呟いた。
阿近「隊長。お気をつけて。」
局員全員と浦原喜助がネムを見つめている。
ネム「みなさん。ありがとう。」
ネムは少しだけ微笑むと、またいつもの無表情に戻った。
浦原「じゃあ、ハッチを閉めます。操作法はわかってますね?」
ネム「はい。」
浦原「それでは、お気をつけて。」
ガタンという重い音とともにハッチが閉じられた。
それとともに球体の上壁に灯りがともる。
球体内の画面の一つには、外の様子が映されている。外付けのカメラか。
だがもう球体の中と外とは隔離されたようだ。
ネムは操縦席のスイッチを押した。
球体の周りをいくつもの光が回る。
その光は段々とくなり、球体も、研究室自体も揺らし始めた。
回る光のさがピークに達した時、強い光とともに球体が消えた。
残光の中、一人呟く。もう届かないネムへ向けて。
浦原「迷わず進んでくださいよ。ネムさん。」
190:
〜路上〜
AD2010・08・17
もう夜の7時頃か。
コミマの帰り道。辺りはもう暗い。
椎名まゆりはたくさんの本が入ったバッグを持って歩いている。
その隣を岡部倫太郎が歩く。
二人は仲良さそうに会話している。
涅マユリはその後ろをついて行く。
椎名まゆり「あれぇ〜?まゆしぃの懐中とまっちゃってる〜。」
その言葉に岡部倫太郎の顔が引きつる。
車のヘッドライトが二人を照らす。
岡部倫太郎が突然、椎名まゆりの手を引いて走り出す。
岡部「ここでじっとしていろ。」
涅マユリ「・・・。」
何を思ったのか、岡部倫太郎が車の前に飛び出した。
涅マユリ「ふぅん・・・。」
椎名まゆり「オカリン!!」
191:
〜路上〜
壊れた懐中時計。地面に椎名まゆりの血が滲む。
岡部「こんなの・・・あんまりだろ・・・。」
岡部倫太郎は、椎名まゆりの手をそっと離した。
岡部倫太郎は椎名まゆりの体を背負い、ラボへ向かって、ゆっくりと歩き出した。
またタイムリープするのだろう。
椎名まゆりの死を見届けてから、涅マユリが嬉しそうに喋り出す。
涅マユリ「お久しぶりだネ。椎名まゆり。トゥットゥルー♪」
既に霊体となった椎名まゆりは、泣いている。
涅マユリ「・・・何だネ?私の挨拶が聞こえなかったのかネ?」
椎名まゆりは涅マユリを少しだけ見ると、また泣き始めた。
涅マユリ「・・・自分が死んだことが悲しいのかネ?」
泣きながら、椎名まゆりは言葉を発する。
椎名まゆり「オカリン・・・オカリン・・・オカリン・・・」
涅マユリ「なるほどネ。岡部倫太郎と死別したのが悲しいワケか。」
椎名まゆりは泣き続ける。
涅マユリ「・・・何なのだネ?死なない人間などいない。出会いがあれば、必ず死別はやってくる。必然じゃないかネ。」
泣きながら呟く。
椎名まゆり「オカリン・・・オカリンは・・・」
涅マユリ「?」
椎名まゆり「オカリンは・・・悲しそうな・・・顔してた・・・。」
愚行だった。
椎名まゆりは自分の死が悲しくて泣いているのではない。
自分の死が、岡部倫太郎を悲しませたことに泣いているのだ。
涅マユリは自分の愚行を詫びる。
涅マユリ「・・・すまなかったネ。・・・ごめんヨ。」
椎名まゆりは泣き続ける。
涅マユリ「・・・。隣・・・座ってもいいかネ?」
椎名まゆりは泣き続ける。
沈黙が続く。
192:
〜不明〜
前後左右上下、関係無く球体が揺さぶられる。
カクテルのシェーカーに入れられた氷のように。
ネム「っうっ・・・・つ・・・・・あ・・・・」
ネムは必死に座席にしがみつく。
それでも、もの凄い力で振り回される。
振り回される状態がしばらく続いた。
ネム「・・・・。」
揺れが収まった。
外を映していた画面が、いつの間にか壊れている。
ネム「ハァ・・・。ハァ・・・。」
外のカメラが壊れたのだろうか?
それでも他の画面は機能しているようだ。
ネム「!?」
突然の大きな衝撃。またさっきのような揺れが始まった。
今度はさっきより強い。必死に座席にしがみつく。
それだけではない。
眩しい。まるで強い光が外から射しているかのように。球体の内外は隔絶されているはずなのに。
熱い。空気が焼け焦げそうな程熱い。
一息吸っただけで胸が灼けてしまいそうだ。
そんな状態がどのくらい続いたのか。
揺れが収まった。
ネム「ハッ・・・ハッ・・・ハッ・・・」
熱い空気の中、呼吸もままならない。
だが、振動は収まった。
成功したのだろうか?
ネムがそう思った時、後方に向かって引っ張られるような感覚がした。
先程の振り回された時と比べれば大した力ではないが。
慣性力だろうか?
しばらくすると、また衝撃が襲った。それも先程よりは小さいが。
衝撃とともにバキバキッという音も聞こえる。
ネム「うぁ!?」
強い衝撃。ネムの体が揺さぶられる。
それを最後に、振動も光も終わったようだ。
ネム「・・・・・・・・・。」
意識は、かろうじて保っているが、既にハッチを開ける力は無い。
193:
〜路上〜
泣き続ける椎名まゆり。その少し離れた場所に座る涅マユリ。
唐突に、涅マユリが話始める。
涅マユリ「・・・キミは、運命論というモノを信じるかネ?」
椎名まゆり「・・・・。」
まだ泣いている。
涅マユリ「運命論、予定論、決定論・・・まぁ、何でもいいが。」
涅マユリ「決定論は否定されているとして、残りの二つ。運命論と予定論・・・。」
椎名まゆり「・・・・。」
涅マユリ「予定論も・・・とりあえず今はいいか。」
ソウルソサエティが救いの場などではないことを知っている涅マユリにとっては、予定論は考慮しなくともよい。
決定論は科学によって、予定論はソウルソサエティの実態によって、それぞれ否定できる。
問題は、運命論だ。
こればかりは、いかな涅マユリと言えども否定も肯定もできない。
故にそれは、個々人の主義、信念、哲学、宗教、人生観、そういったものでしか語ることができない。
そう思っていた。椎名まゆりに出会うまでは。
涅マユリ「私はネ、運命論とは結果論だと思っているヨ。」
椎名まゆりはまだ泣いている。
涅マユリ「一つの出来事を見たとき、それをただの結果と捉えるか、運命と捉えるか。ただそれだけの違いだと私は思っている。」
椎名まゆり「・・・・・。」
涅マユリ「・・・キミはどう思う?」
泣いている。椎名まゆりは答えない。
あの感覚だ。タイムリープか。
時空が・・・
涅マユリ「ではまた、次の世界線で。・・・ごめんヨ・・・」
・・・歪む。
197:
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・13 15:13
岡部「クラッキングは・・・中止だ・・・。」
〜不明〜
「何だコレ!?」
「隕石?」
「きっと宇宙船ですよぉ。」
「周りが焼け焦げてる・・・。」
「何スかねぇ・・・。」
「なんかコレ開きそうじゃないっスか?ココの取っ手みたいなの。・・・熱っつぁ!!!」
「ちょっ、素手で触っちゃダメですよ!」
「何か冷やす物持って来ますね。」
「いやぁ〜すみません。ついでに手袋も持ってきてもらってもいいっスか?」
「はい。・・・って、やっぱり開けるんですか?」
「そりゃそうっスよ。」
「いや、でももしかしたら中に未知の病原体とか・・・。」
「開けてみてのお楽しみっスよ。案外、美女が入ってたりするかも知れないっスよ?」
「せめてX線で内部を調べてから・・・」
「そんなんいいから早く開けましょ。」
「はぁ。わかりましたよ。」
198:
〜路上〜
さっきまでの椎名まゆりの姿はもうない。
涅マユリは自分の愚行を後悔しながら、ラボへ向かって歩き出した。
199:
〜α世界線・護廷十三隊・十二番隊〜
リン「東京18番地区、55番地区!時空間の歪みを確認!」
阿近「なん・・・だと・・・?原因は!?」
リン「穿界門でも空間凍結による影響でもありません!」
阿近「ソウルソサエティ側の影響ではないということか?・・・では・・・誰が・・・?虚圏?見えざる帝国?だがそれらからの現世への干渉は無いようだな。」
しばらく考え込む阿近。そして、
阿近「どうしますか?隊・・・」
阿近を含め局員全員の動きが止まる。
しばらくしてリンが喋り出す。
リン「・・・あ、あのぅ・・・。」
阿近「・・・。」
リン「・・・僕たちの隊長って・・・誰・・・でしたっけ?」
阿近「・・・そんなの・・・決まってるだろ・・・。俺達の隊長は・・・。」
阿近「隊長は・・・。」
局員全員が同時に、同じ疑問を発する。
「隊長は、誰だ?」
全員が見つめる隊長の席。
その席には、誰もいない。
203:
〜不明〜
球体は多分停止している。
上壁のランプが薄暗く球体内を照らしている。
ネム「・・・うっ・・・あ・・・・」
全身に激痛が走る。
あれだけ激しく体を揺さぶられ、あちこちをぶつけた。
それに、あのよく分からない光と熱。そして衝撃。
意識を失わなかっただけでも感嘆に値する。
まだ球体内の熱は下がっていない。
肺が、熱い。
ネム「・・・ハァ・・・ハァ・・・」
なんとか自分を固定するベルトを外そうとするが、激痛で体が動かせない。
ネム「・・・・う・・・・・いぁ・・・」
力を込めるがベルトが外れない。
204:
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・14
涅マユリ「世界の実像。」
一人呟く。
涅マユリ「世界は感覚によって認識される。」
それはもう、科学の粋を越え、哲学の領域へ入っていた。
涅マユリ「色。音。」
涅マユリ「それらは感覚によって知覚される。」
涅マユリ「色とは光の波長。音とは空気の振動。」
涅マユリ「それを色として、音として、認識しているに過ぎない。」
涅マユリ「感覚というフィルターを通して。」
涅マユリ「フィルターを通していない、世界の実像は誰も知らない。」
涅マユリ「私は知りたい。」
独り言だ。
205:
〜不明〜
どうしようもない状態。
激痛。熱。外れないベルト。
ネム「・・・?」
外から何か声が聞こえる。
ガッガッという音が球体内に響く。
ハッチの隙間から光が射し、一気にハッチが開いた。
それと同時に球体内の熱い空気が一気に外へあふれだしていく。
「熱っつ〜!!」
「・・・うわお。・・・しっかし案外、適当なこと言っても当たるもんなんスね。」
その声の主は、ここからでは逆光で見えない。
206:
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・15
ネムは現れない。
あの時の『さようなら』は何を意味していたのか。
技術開発局に連絡してみるか?
いや、世界線が変わればネムの行動も変わる。
ならばネムが来ないということも充分にありうる。
それに、ネムが来ようが来まいが、自分が世界線を越えてしまえば関係ない。
ここでネムに会っても、次の世界線に行けばまたやり直しだ。
では、私は何を期待しているのか。
あの愚行といい、話す相手が欲しくなったか?
涅マユリ「・・・私らしくないネ。」
自分で自分らしくないなどと言うこと自体、涅マユリらしくない。
涅マユリ「らしくないついでか。」
伝令神機で技術開発局に連絡してみる。
・・・繋がらない。
涅マユリ「ソウルソサエティで何かまた改変されたか?」
いや、繋がった所で何だというのか。自分でも妙な気分だ。
涅マユリ「さて、どうする?岡部倫太郎、牧瀬紅莉栖、橋田至、椎名まゆり・・・。」
前の世界線とはいえやはり、あの愚行が気にかかる。
涅マユリ「・・・椎名まゆりを見てみるか・・・。」
207:
〜不明〜
ネムはベルトを外され、担架に乗せられた。
いくつもの試験管や実験器具が置かれている。
ここは何かの研究室だろうか?技術開発局と比べると随分明るくて小奇麗だ。
焦げた球体がこの部屋の床にめり込んでいる。
部屋の天井に大きな穴が開いている。
ネム「あ・・・うぁ・・・」
ネムは言葉を出そうとするが、言葉にならない。
「無理しないでください。アナタよほどすごい目にあったようだ。ぱっと見ただけでも、打撲に火傷。もしかしたら骨折もあるかもしれない。それに、さっきの熱の中にいたのなら、肺にも影響があるかもしれません。今は治療が先決です。」
その男は、白い羽織を着ていた。
無精ヒゲの胡散臭い男。
後ろ姿は見えなくとも、その羽織の背に背負った数字はわかる。
十二だ。
ネム「・・あぅあ・・・!」
「無理しないでください。治療が済んだら話はいくらでも聞きます。」
ネム「・・・・。」
そこでネムの意識は途絶えた。
211:
〜墓地〜
AD2010・08・15
暑い日差しと涼しい木陰。
椎名まゆりは一人墓地にいた。
立ち並ぶ墓の一つの前に、椎名まゆりは立っていた。
涅マユリはその墓石の上に座る。
椎名まゆりが手を伸ばす。
その手は私に向けてか、それとも私の背の遥か遠い星に向けてか。
椎名まゆりは私を認識しているのか?いや、そんなハズはない。
涅マユリ「椎名まゆり。キミに伝えたいことがある。」
椎名まゆり「・・・。」
涅マユリ「前の世界線では、すまなかったネ。」
椎名まゆり「ごめんね。お盆だから、お婆ちゃん会いに来てくれたんだよね。」
涅マユリ「フフッ・・・私はキミのお婆ちゃんではないヨ。」
思わず笑ってしまった。
椎名まゆりは涅マユリを認識できない。
涅マユリの声は椎名まゆりには届かない。
椎名まゆりと涅マユリ。
独白と、それに合わせるような独り言。
椎名まゆりと涅マユリの、奇妙な会話が始まる。
212:
椎名まゆり「あのね、最近怖い夢ばっかり見るんだ・・・。」
涅マユリ「それはキミが他の世界線の記憶を維持しているからだろうネ。」
椎名まゆり「夢の中でね、いつもまゆしぃは酷い目に会うの。ピストルで撃たれたり、車に跳ねられたり、電車に轢かれたり。」
涅マユリ「夢か・・・そう言えば私も、この間夢を見たヨ。私の前に立ち尽くす人に、何かを呟く夢だったヨ。」
椎名まゆり「まるで本当のことみたいで、すっごく痛くて、怖くて、悲しくて。」
涅マユリ「キミは死の度に、そんな思いをしていたのだネ。ごめんヨ。」
椎名まゆり「助けてって、一生懸命声出すんだけど、出せなくって。どうしてそんな夢見るのかな?」
涅マユリ「・・・だが少なくとも、キミの声は私には届いていたヨ。」
椎名まゆり「でね、その夢の最後には、いつもオカリンが助けに来てくれるの。」
涅マユリ「岡部倫太郎・・・。」
椎名まゆり「まゆしぃは、オカリンありがとうっていうんだけど、やっぱりその声は届かなくって。」
涅マユリ「ありがとう、か・・・。」
椎名まゆり「そこで目が覚めるの。」
涅マユリ「岡部倫太郎がなぜ何度も時間を繰り返してまで、キミを助けたいのか。なんとなくわかった気がするヨ。」
椎名まゆり「・・・ごめんね。楽しい話するね。」
涅マユリ「私は、キミと話しているだけで楽しいヨ。」
213:
椎名まゆり「最近ラボメンがすごく増えたんだ。」
涅マユリ「独りでないとは、いいものだネ。」
椎名まゆり「紅莉栖ちゃんでしょ、萌郁さん、ルカくん、フェイリスちゃん、それと鈴さん。」
涅マユリ「鈴?その人物は知らないが・・・私も、ラボのメンバーになってみたかったヨ。」
椎名まゆり「紅莉栖ちゃんなんか、すっごく頭良くって、オカリンと難しい話とかいっぱいしてね。オカリンもたくさん話せて楽しそうで。」
涅マユリ「・・・私も、その話に加わってみたかったネ。」
椎名まゆり「でもね、たまには思い出すんだ。最初にまゆしぃがラボに押し掛けた頃のこと。」
涅マユリ「最初・・・。ラボメンが岡部倫太郎とキミだけの頃かネ?」
椎名まゆり「春なのに、珍しく雪が降ってて。お部屋の掃除してるとね、オカリンが帰ってきて。その後は毎日2時間位ほとんどお話もしないで過ごしてた。」
涅マユリ「・・・・。」
椎名まゆり「嫌な沈黙とかじゃなくて。ずっと優しい時間が流れてた。」
涅マユリ「優しい沈黙というモノを、私は経験したことがない。・・・少しだけ、岡部倫太郎に嫉妬するヨ。」
椎名まゆり「最近ね、オカリンとお話しする時間ちょっと減っちゃった。ただ、いつも苦しそうで、泣き出しそうで・・・。」
涅マユリ「・・・それは、岡部倫太郎がキミのために」
椎名まゆり「それはまゆしぃの事なんだってわかって。」
涅マユリ「・・・。」
椎名まゆり「オカリンの重荷にはなりたくないのにな。」
涅マユリ「・・・重荷か。キミの重さはあの男にとって、キミの大切さのように思えるヨ。私が見る限りでは。」
椎名まゆり「ごめんね。また悲しい話になっちゃったね。」
涅マユリ「かまわないヨ。」
椎名まゆり「まゆしぃちょっと寂しくなっちゃったのかもしれないね。」
涅マユリ「私も、寂しくなったのかも知れないネ。」
椎名まゆり「お婆ちゃん。いつまでもこのままじゃいられないよね。」
涅マユリ「フフッ・・・私は、お婆ちゃんではないヨ。」
岡部がやってきた。
岡部と椎名まゆりが少し話すと、椎名まゆりに笑顔が戻った。
涅マユリ「椎名まゆり・・・。キミの話相手は、やはり私ではない・・・ネ。」
少しだけ、岡部倫太郎が羨ましく思えた。
214:
岡部倫太郎と椎名まゆりが二人で楽しそうに歩いて行く。
涅マユリは岡部倫太郎の背中に向けて告げた。届くはずのない声で。
涅マユリ「岡部倫太郎ォォ!!必ず椎名まゆりを助けるんだヨ!!」
涅マユリ「何度繰り返しても!!何を失うことになっても!!」
涅マユリ「諦めたら私が許さないヨ!!その時は、お前をバラバラにする位じゃ済まさないヨ!!」
涅マユリ「助けるんだヨ!!必ず!!必ずっ・・・!!」
らしくない言葉だ。でも、言わずにはいられなかった。
二人の影は遠ざかって行く。
215:
〜不明〜
ネムの目が開いた。
まだ視界がぼやけている。
「あ!気が付きましたか!」
「隊長〜!あの人が目を覚ましました〜!」
ネム「・・・あ・・・あ〜〜・・・うん・・・。」
ネムは自分の声が出るか確認した。
ちゃんと声は出るようだ。
視界もハッキリしてきた。白い壁。簡素な白いベッド。タンス。食べかけのお菓子。
自分の体を見る。
服が白い患者衣になっている。それと包帯が右腕、右足と、
顔を触ってみる・・・顔と頭にもか。
左腕には注射針とそれに繋がる点滴。
胸の下辺りには注射痕のようなもの。
「お!目が覚めましたか。」
白い羽織の男だ。
この人物が誰なのか、聞かずとも知っている。
「初めまして。アタシは浦原喜助といいます。ここは技術開発局、の治療室。アタシはここの局長です。」
やはりそうか。
浦原「あなたの治療は四番隊にまかせて、容体が安定したのでこちらに移しました。火傷に打撲。幸い骨折は無かったようでしたが、肺が炎症を起こしてました。胸水もだいぶ溜まっていたようです。」
するとこれは私の治療の跡か。ネムはもう一度自分の体を見る。
浦原「いや〜しっかし驚きましたよ。突然空から隕石が落ちて来たのかと思ったら、中から謎の美女が現れるんスからね。しかも未知のテクノロジーときたもんだ。」
ネム(美女・・・?)
浦原「すいませんね。あなたが眠っている間、あなたが乗ってたあの丸いヤツ。ちょっと調べてみたんです。よくわからなかったんですが、現世にもソウルソサエティにもない技術で作られていました。あなた一体どこから来たんです?」
 
ネム「わ・・たしは、ん・・・うん・・・。私は、涅ネムです。技術開発局・・・護廷十三隊ですか?」
浦原「ねむサンですか。」
自分の知っている技術開発局と比べると、随分明るくてきれいな感じだ。
浦原「ここは護廷十三隊・十二番隊、技術開発局。よくご存じっスね?」
浦原喜助はネムの目を見る。
浦原「・・・アタシもあなたに色々聞きたいことは有りますが、どうやらあなたの方が聞きたいことが多そうだ。まずはあなたの質問に答えましょう。」
218:
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・16
外は曇っている。
涅マユリはいつものように床に座り込む。
今日の涅マユリは物思いに耽っていた。
涅マユリ「全ての問いは、たった二つの問いへと集約される。」
独り言だ。
涅マユリ「世界とは何か、自分とは何か。」
私は、世界の方を探究した。
私は今までいくつもの研究をし、数多くの論文を書いてきた。
だがそれは、自分が研究して得られた発見を誰かに知ってもらいたかったからではない。
論文を書き、それが評価されれば地位と研究費が得られる。
だが私は、地位や金が欲しくて論文を書いたわけではない。
私はただ、世界を探究したかった。そのためには地位と資金が必要だった。
論文はそれを得るための手段でしかなく、地位や資金は探究のための手段に過ぎなかった。
私はただ、知りたかっただけだ。
世界とは何かを。
だが、この現状は何だ?居場所を失い、自分自身の存在さえ曖昧になっている。
涅マユリ「世界を知りたいと思うことは、そんなに罪深いことなのかネ?」
219:
〜不明〜
ネムが体を起こそうとする。それを浦原喜助が止める。
浦原「まだ安静にしててください。安定したとはいえ、あれだけの怪我をしたんスから。」
ネムは大人しくベッドに仰向けになった。仰向けのまま聞く。
ネム「・・・涅マユリという人物をご存じですか?」
浦原喜助は人差し指を、自分の頭にくっつけるポーズで考え始めた。
浦原「くろつちまゆり・・・くろつちまゆり・・・くろつちまゆり・・・。おぉっ!」
浦原喜助が人差し指を立てる。
浦原「涅マユリ!知ってます。でももう100年近く前に亡くなられた方っスよ?・・・そう言えば、あなたの名字も涅でしたね。どういうご関係です?」
涅マユリが死んでいる?100年も前に?
ここはどういう世界線なのだろうか?
ネム「私は涅マユリの娘です。・・・涅マユリはどのように死んだのですか?」
浦原「娘?涅サンに娘サンがいらしたなんて聞いたこと無いっスよ?」
220:
〜不明な世界線〜
浦原喜助は自分の疑問はひとまず置いといて、ネムの質問に答えた。
浦原「涅サンは地下特別管理棟で亡くなられました。・・・自害です。」
ネムは驚きを隠せない。
ネム「涅マユリが・・・自殺?」
浦原「惜しい人を亡くしました。」
地下特別管理棟。これはネムも知っている。通称、蛆虫の巣。
二番隊隊舎にある、異端者たちを閉じ込めておく所。
護廷十三隊は高尚な組織だ。そこに一度入隊した者から不適合者など出てはならない。
そのため、隊員の中で思想や言動において異常と判断された者は、捕縛され、監視下に置かれる。
しかし、その者たちは罪を犯したわけではない。故に裁くことはできない。
かといって、そのまま野放しにしていたら、何か問題を起こすかも知れない。
そんな者たちを閉じ込めておく場所。
それが蛆虫の巣。
蛆虫の巣に入れられた者たちは、そこから出ることはできない。
しかし、その施設内での行動は制限されていない。
そんな中、たった一人だけ、蛆虫の巣のさらに奥。
地下牢に閉じ込められていた者がいた。
涅マユリだ。
浦原「アタシは十二番隊の隊長になったとき、ここを研究に特化した隊にしたいと考えていました。そのためには、涅マユリさんが必要だと思っていました。」
ネムは黙って聞く。
浦原「涅サンは確かに危なっかしい人かも知れない。でも、彼の知識や発想は素晴らしい。彼にふさわしい環境さえ用意できれば、彼の才能はとてつもなく発揮される。アタシはそう考えていました。」
浦原喜助は椅子に座る。
浦原「しかし残念なことに、アタシが彼を地下特別管理棟から出すには、いくつもの書類や承認が必要でした。アタシがそれに手間取っている間に、彼は自ら命を断ちました。彼が何を思ったのか、今となってはわかりません。でももし彼が生きていたら、この技術開発局も何か変わっていたかも知れません。惜しい人を亡くしました。」
そういうことか。ここは涅マユリが十二番隊に入らなかった世界線。
ネム「・・・わかりました。」
今度は浦原喜助が質問する。
浦原「ねむサンは彼の娘サンですよね?しかし今言ったように、彼は地下特別管理棟でその生涯を終えました。彼に娘サンがいたなんて話は聞いたこともありません。アタシはここの隊長になる前は、地下特別管理棟の管理を任されていました。当然、彼についてもよく調べていました。彼に娘サンがいたという情報はありませんでした。・・・ねむサン。あなたは一体何者なんです?」
浦原喜助はネムの目を見据える。
221:
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・16
雨が降ってきた。
今まで私が移動した世界線で、8月16日に雨など降っていただろうか。
バタフライエフェクト?・・・何でもいいか。
涅マユリ「科学とは、観測と推論によって構成される。」
観測とは、事象を外から見ることだ。事象の内からその事象を観測することはできない。
世界とは何かを知ろうとしたら、世界を外から観測しなければならない。
世界の内にしか存在できない者が。
涅マユリ「もしも私が世界を観測するならば、そのとき私は存在しているのだろうか。」
これは言葉遊びに過ぎないのだろうか。
ラボの扉が開く。
びしょ濡れの岡部倫太郎がラボに入ってきた。
224:
さすがにこんなことが何回も起こると
マユリさんの精神も弱まってきてるな
226:
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・16
ラボに入るなり、岡部はタイムリープ装置を装着した。
岡部がEnterキーを押そうとした瞬間、牧瀬紅莉栖がそれを止めた。
紅莉栖「逃げたって・・・苦しくなるだけよ。」
岡部は紅莉栖を振り払う。
涅マユリはその様子をじっと見ている。
紅莉栖「まゆりが死ぬ所を見るだけなのよ?何回も・・・。」
涅マユリ「・・・。」
紅莉栖「そんなの岡部が壊れちゃう・・・。」
岡部は泣きそうな顔で言い返す。
紅莉栖「岡部の心は壊れている・・・。もうやめて。本当に壊れちゃう・・・。」
岡部「でも、まゆりを助けたらお前が!」
涅マユリの心に、岡部倫太郎に向けて言った言葉がよみがえる。
あの墓場で言った言葉だ。
(必ず椎名まゆりを助けるんだヨ!!何度繰り返しても!!何を失うことになっても!!)
あの言葉さえ、愚行に思えてきた。
他力本願。本人のことなど何も考えていない言葉。
何が天才、涅マユリだ。
岡部倫太郎は牧瀬紅莉栖を抱きしめる。
涅マユリは相変わらずその光景を見つめる。
普段なら、揶揄の一つでも飛ばしてやるところなのに。
涅マユリ「私に・・・抱きしめるべき人など、いない。」
思わず自分の両手を見つめる。
私はこの手で、いくつもの研究をしてきた。
偉業と呼ばれる研究をいくつも。
だがそれが何だ?いくつ偉業を積み重ねても。
今見つめているこの両手。
誰かを抱きしめることも、いや、誰かと手を繋ぐことすら、できやしない。
今までこの手が、誰かを抱きしめたことなどあっただろうか。
227:
〜不明な世界線〜
ネム「世界線という言葉をご存じですか?私は別の世界線から来ました。あなたが作った、世界線移動装置に乗って。」
浦原「世界線?アタシが作った?」
まあ当然の反応だろう。
ネム「私の死覇装はどこにありますか?」
浦原「死覇装なら、そこのタンスに入れてあります。」
ネムはベッドに仰向けのまま言う。
ネム「ではその左胸の内ポケットを探してください。」
浦原「?」
浦原喜助は、その意図がわからないままネムの言葉に従う。
タンスを開ける。そこにあるのはネムの死覇装。
その左胸の内ポケット。
ポケットから出て来たのは、伝令神機と透明なサイコロのようなもの。
浦原喜助は伝令神機とサイコロをネムに渡した。
伝令神機、ここでは通話機能は使えないようだ。世界線が違うのなら当然か。
ネム「あなたに会ったらそれを渡すように言われていました。前の世界線のあなたから。」
ネムは浦原喜助にサイコロを渡す。
浦原「・・・。」
浦原喜助は、一から六までの数字が書かれたサイコロを見つめる。
浦原「アタシが、アタシに渡すようにと言ったんですね?」
ネム「はい。」
浦原「・・・わかりました。ちょっと失礼します。」
そう言って、浦原喜助は部屋を出て行った。
228:
浦原「阿近サ〜〜ン。ちょと手伝ってもらえませんか〜〜?」
阿近と呼ばれた男が返事をする。
阿近「はい、どうしました?」
浦原喜助が手にサイコロを持って、何か楽しそうにしている。
浦原「映写機を治療室に運んで欲しいんス。」
よくわからないが、
阿近「わかりましたよ。リン!お前も手伝え。」
お菓子を食べているリンが答える。
リン「はぃう・・・ぽ・・・ごくん。はい、わかりましたぁ。」
浦原喜助はニヤっとして、治療室へ戻る。と、その前に。
浦原「りんサン。お菓子ばっかり食べてると、ご飯食べれなくなっちゃいますよ?」
229:
〜不明な世界線・治療室〜
浦原喜助が戻って来た。
その後ろには映写機を抱える阿近と、テーブルを抱えるリン。
やはり食べかけのお菓子はリンのものだったか。
阿近が映写機をテーブルに乗せコンセントに繋ぐ。
阿近「隊長、準備できました。」
浦原「御苦労さまっス。」
浦原喜助は映写機を付け、部屋の明かりを消す。
部屋の白い壁に映写機の光が映される。
浦原「別の世界のアタシが、アタシに渡せと言ったのなら大体の想像は付きます。」
阿近「別の?」
浦原喜助は黙って映写機の光源にサイコロを置く。
映写機光が壁に文字を映し出す。
230:
一.
浦原喜助より、別の世界線の浦原喜助へ。
あなたがこの文章を読んでいるのなら、ネムさんは世界線の移動に成功したということですね。
文章はそれで終わっている。
浦原喜助はサイコロの二と書かれた面を光源に置く。
二.
ネムさんが乗ってきた装置はアタシと技術開発局の全ての力を合わせて作ったものです。しかし世界線移動の場所と時間の指定は不完全でした。
次は三と書かれた面を置く。
三.
あなたにお願いがあります。世界線移動装置を改良し、ネムさんの力になってはもらえないでしょうか。
四.
大まかな原理は次の面に記してあります。あなたならきっと興味を持つでしょう。
五.
世界線移動装置概略図。
壁には装置の大まかな設計図が映しだされていた。
浦原「・・・・。」
浦原喜助は黙ってその図を見つめる。
阿近「何でわざわざこんな暗号みたいなことを・・・。」
浦原喜助は六の面を置く。
六. 
P.S これを見て、何でわざわざこんな暗号みたいなことを、とかありきたりなことを言った人は、
遊び心が足りません。
阿近「・・・。」
そこでサイコロのメッセージは終わりだった。
浦原「こりゃアタシが考えそうなことだ。別の世界のアタシが作ったってのは本当らしいっスね。」
ネム「私はα世界線と呼ばれるところから来ました。ここがどの世界線なのかはわかりませんが、私はβ世界線と呼ばれる所に行かなければいけません。」
涅マユリに会うために。
ネム「協力して頂けないでしょうか?」
浦原「あなたはβ世界線に行きたい。アタシはあなたの乗ってきた装置の仕組みが知りたい。そのためには世界線というものを知らなければならない。」
浦原「なら、どうでしょう?あなたがアタシ達に世界線というものについて教える。アタシ達は装置を修復・改良する。お互い損の無い話じゃないでしょうか?」
前の浦原喜助が言った通り、この世界線の浦原喜助は力になってくれるようだ。
胡散臭いが頼りになる。
231:
ネムは伝令神機を操作し、涅マユリの記憶のバックアップを表示する。
ネム「これはα世界線での涅マユリの記憶です。この世界線での涅マユリは何度も世界線を越えました。世界線について私が知っているのはこれくらいです。」
そう言って、ネムは浦原喜助に伝令神機を渡す。
その映像を少し眺めてから呟く。
浦原「・・・面白そうじゃないっスかねぇ・・・。」
232:
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・16
紅莉栖「ねえ。世界線が変わるって、どういう事なんだろう?」
涅マユリ「・・・。」
紅莉栖「無数の世界線に別の私がいるかも知れない。その意思が繋がって、自分という存在があるのかも知れない。それって、素敵だと思わない?」
涅マユリ「無数の、世界、自分・・・。」
紅莉栖「誰かを想う強い気持ちが、何かを信じる強い感情が、何かを伝えたいという強い思いが、時を越え、繋がって、今の自分があるのだとしたら・・・それは素晴らしいこと。」
私は誰を想う。私は何を信じる。私は誰に、何を伝えたい。
答えが出ない。いや、答えはわかっているのに、それは手の届かないものだ。
泣きはしない。
感情を涙という形であふれさせるのは、私の歪んだ自尊心が許さない。
だから、言葉という形であふれ出す。
涅マユリ「・・・・どうして・・・ネムは・・・私の隣に・・・いないのだネ・・・。」
無数の想いは、時を越えても届くのだろうか。
それは届かぬ場所の者の心を繋ぐことができるのだろうか。
岡部「お前は俺のことどう思ってる。知りたいんだ。」
紅莉栖「目・・・閉じなさいよ。」
涅マユリ「・・・。」
二人が抱きしめ合い、何度もキスをする様を黙って見つめる。
昔の涅マユリなら、それをくだらないと一蹴しただろう。
キスなんて、類人猿の愛情表現だヨ、と。
今の涅マユリにはそれができない。
もう自分には、届かないものばかりだ。
二人の時間が、涅マユリにはとても長く感じられた。
236:
〜不明な世界線〜
技術開発局の研究室。局員たちが集まっている。
ネムはもう自分で動けるようになっていた。
研究室の真ん中にあるのは、白い球体。
浦原「うひゃ〜!?まさかこんなに本当に出来ちゃうなんてぇ〜!」
浦原喜助が棒読みで叫ぶ。
ネム「・・・。」
浦原「なんだ。リアクション薄いっスねぇ。もっとビックリしてもいいところっスよ?あなたの代わりにアタシが叫んであげたのに。」
ネム「いえ、充分驚いています。」
この世界線でも、浦原喜助は相変わらず飄々としている。
浦原「あなたがこの世界線に来た時、この装置は中も外もかなりの熱をもっていました。一応、断熱加工をほどこしておきました。」
浦原「ただ残念なことが一つ。バックアップとこの装置の仕組みについて考えてわかったことなんですが。」
浦原「どうもこの装置による世界線移動というものは、時間と場所と世界線。その内の一つを完全に指定してしまうと、残り二つは完全にデタラメになってしまう。或いは、全く無関係な世界線に飛んでしまうようです。つまり、行きたい世界線を指定しても、必ず何かしらの誤差が生じてしまう。」
ネム「場所も時間も、不完全な指定なら、目的の世界線に行ける・・・ということですか?」
浦原「・・・正確に言うならば、場所も、時間も、行きたい世界線も、完全に指定することはできないということです。」
ネム「つまりこの装置で世界線を越えても、目的の世界線に行ける保証は無い・・・。」
浦原「そういうことになります。仮に行きたい世界線を完全に指定してしまうと、その世界線のいつともわからない時代のどこともわからない宇宙空間に放り出される、なんてこともあります。」
命がけの運まかせということか。
浦原「・・・どうしますか?それでも行くんですか?」
浦原喜助はネムの目を見据える。
ネム「行きます。」
浦原「そうっスか。ではこれを。」
浦原喜助が取り出したのは、金属製の箱。
浦原「医薬品と修理キットです。修理のための設計図も入れておきました。この箱自体にも断熱加工はしてあります。世界線を完全には指定できない以上、何が起こるかは予想できません。」
ネムはその箱を受け取った。
ネム「ありがとう。」
浦原喜助は目をそらす。
浦原「よしてくださいよ。照れるじゃないっスか。」
リン「あのぅ・・・僕も。」
リンが差し出したのはお菓子がつまった袋。
ネム「ありがとう。」
ネムが微笑む。
リン「えへへへぇ〜〜〜。」
リンがデレデレしている。
浦原喜助が装置のハッチを開ける。
237:
浦原「どうぞ。」
ネムは中に乗り込み、自分の体と、さっき受け取った箱と袋を固定する。
いくつもある画面の一つには、外の様子が映されている。
それ以外に、以前には無かった画面がある。
3つの数字羅列が表示されている。
ネム「?」
浦原「その画面の一番上の数字は、この世界線を基準とした、世界線移動時の変動率を表わしています。二番目の数字はここを基準とした場所を表わしています。三番目は現在を基準とした時間です。正直その画面は使い物になるかわかりません。特に二番目は。」
一番上の数字は0000000か。これはまだ世界線を移動していないということか。
二番目も0000000これも場所を移動していないということか。
三番目は0年0日1時間23分42秒と表示されている。刻々と時間を刻んでいく。私がどのくらいの時間を過ごしたかわかるということか。
浦原「一番上の数字は、この世界線が0、あなたが前にいた世界線が0100000としてあります。」
ネム(β世界線はどういう数値になるのか。)
浦原「準備はいいっスか?」
ネムは力強く答える。
ネム「はい。」
浦原「では、『世界線ぶっ飛び号バージョン2.0』発進っス!!」
ハッチが閉められる。
それとともに上壁に灯りがともる。
それにしても、世界線ぶっ飛び号・・・。
今から命を預ける乗り物に変な名前を付けてくれたものだ。
外を映す画面には、大勢の局員と浦原喜助。
そして『いってらっしゃい』の横断幕を掲げるリンと阿近の姿。
なんだか緊張が解けてしまう。
ネム「・・・いってきます。」
ネムは世界線、時間、場所を設定し、操縦席のスイッチを押した。
242:
〜未来ガジェット研究所〜
AD2010・08・17
ダル「あった!オカリン見付けた!マジであったぞ。コレっしょ?」
涅マユリがパソコンを覗きこむ。
岡部「これを消せば・・・。」
岡部倫太郎が高らかな勝利宣言をする。
涅マユリ「これを消せばβ世界線へ、私も行くのか?」
心残りがあるとすればネムのことか。
あれ以来会っていない。
ネムの『さようなら』が頭の中で繰り返される。
涅マユリ「・・・私は、世界線の観測者だ。」
何を失うことになろうとも・・・。
岡部がEnterキーを押す。
243:
〜?〜
「・・・・・・・・・・・。」
辺りを見渡す。
目の前には、高らかに何かを叫ぶ白衣の男。
「・・・・・・・・・?」
パソコンに向かう樽のような男。
「・・・・??」
ソファーで縫物をしている少女。
「・・・・・!?」
その少女が言う。
「オカリン。もういいんだよ。」
「・・・・・!」
「まゆしぃはもう大丈夫だから。」
「・・・・あ・・・ああぁ・・・!!」
思わず叫び、指をさす。
この少女・・・。
見覚えが・・・ある・・・?・・・いや、知っている!?
叫んだのに誰も反応しない。
自分の体を触ってみる。
左腕がロケットのように飛び出した。
「ぅおお!?」
耳を触ってみる。
鎌のようなものが飛び出した。
「おおおお!?」
とりあえず自分の体を触り続ける。
懐に何かある。
懐から出て来たのは・・・何だコレ?
たくさんのボタンと画面のついた小さな機械。
わからないが、知っている気がする。
いや、知っている。
使い方も、知っている・・・気がする。
うろ覚えだが、とりあえずいじってみる。
画面に文字が現れた。
『通話不能』
「?」
とりあえずいじり続ける。
また画面に文字が現れた。
『保存データ一覧』
「??」
その文字列の中に何か気になるものがある。
『バックアップ』
「???」
ボタンを押してみる。
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