赤木しげるがニセコイにくさびを打ち込むようですback

赤木しげるがニセコイにくさびを打ち込むようです


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千棘(楽、あんたまさか万里花に好きなもの言ってないでしょうね)チラッ
楽(い、言ってない言ってない)ブンブンッ
千棘「……それもそうね。いいわ。どちらがダーリンに相応しいかを決めようじゃないの」
万里花「話が早くて助かりますわ。それでは次に、わたくしからも一つ条件を出します」
鶫「まだ出すのか!」
万里花「今のは勝負の取決めみたいなものです。でも、この条件も取決めみたいなものですわ。最初の鶫さんとの勝負は、相手の嫌いなものを当てた方が負けということにしましょう」
鶫「?」
万里花「ふふ、レディたるもの、相手を不快な想いにさせてはだめですわ。相手に心地の良い時間を過ごしていただく。それでこそ、楽様にふさわしい女性ですもの」
鶫「ふん。勝手にしろ」
70: ◆7chPYS4ayA 2015/09/22(火) 21:38:57.90 ID:hLFU5SNV0
万里花(やった、やりましたわ! 赤木のおじい様)
赤木(ナイスプレーだぜ、嬢ちゃん……。この変更の肝が分かってないようじゃ、敵に勝ち目はない……。
 このルール、これこそギャンブルの本流……。こちらのほうが、敵の恐怖を絡め取りやすい……)
万里花「では、始めましょうか」
集「よし、じゃあ俺が審判しよう! ルールは簡単! この紙に自分の嫌いなケーキの名前を書き、そのあとに嫌いなものを含めたケーキを五個選んで
 それぞれ相手に渡す。その中から相手の好きそうなものを一つずつ選んで、嫌いなものを当てたら負け! おっけー?」
万里花「おっけーですわ!」
鶫「負けんぞ!」
集「ではレディースタート!」
71: ◆7chPYS4ayA 2015/09/22(火) 21:40:52.45 ID:hLFU5SNV0
 集の掛け声とともに、二人は席を立ち、ケーキの陳列されたコーナーへと向かう。
鶫(ここまであらゆる謀略を駆使してきた奴のことだ。素直に嫌いなものを書いてくるとは思えない。
 必ず、裏をかいてくるはずだ。これは単なるゲームではない。敵の手の内をどこまで読めるかという心理戦……!)
 鶫はケーキの種類を眺めながら、記憶の網をたぐり寄せる。鶫もまた、才能もなしに暗殺稼業をやってきたわけではない。
 周囲を観察する目は衰えておらず、だれが何を頼んだかはおおむね把握していた。
鶫(やつが頼んだものは、タルト系が多かった。素直に読めば、敵は5つの中に好みのタルトは入れてこないはず。
 だが、それを承知で入れてくるのであれば、タルト系はまさしく地雷原……!)
 鶫はちらりと万里花を盗み見る。万里花は鶫の視線に気づかず、気軽にケーキを選んでいく。
 そして目星はつけたのか、ケーキを選び終わり、テーブルへと戻ろうとしていた。
鶫(橘万里花はなにをしかけてくるか……。くっ、あまり時間がない……)
 橘万里花が背を向け、テーブルへ戻る。テーブル。背後の窓。夕焼け。
 そのとき、鶫に電流が走った。
鶫(そうだ、あるぞ! やつの企みを暴く道……!)
72: ◆7chPYS4ayA 2015/09/22(火) 21:43:43.54 ID:hLFU5SNV0
 ケーキを即座に選び、テーブルへと戻る鶫。そして紙に書くふりをして、周囲を観察。
 そしてみんなの意識が自分に向いていない一瞬のスキを突き、万里花の奥の窓を一瞥する。その間、0.1秒の早業。常人には判別もつかないほどの一瞬の観察。
 だが、鍛え抜かれた彼女の目は確かに捕えていた。窓に反射された万里花の紙を。
鶫(見えた……! 全部は書く手で見えなかったが、最後の文字はタルトだ。やはり、裏をかいてきたんだ)
鶫(しかもやつが選んできたケーキのうち、3個はタルトという徹底ぶり。3個となれば、最悪こちらが当たりを出すのは三回目ということもありうる。
 勝とうとしているのに、そんなリスクを高めることを普通はしない。だからタルトは安全)
鶫(そう思わせる腹積もりだったんだろうが、読まれてしまえば意味はない。私の読み通り、タルトは地雷原……!)
集「誠士郎ちゃんは書き終わった?」
鶫「ああ、ではお願いする」
 鶫が紙を集に渡す。
集「両者出そろいました! ではまず、ひとつめのケーキを選んでください!」
73: ◆7chPYS4ayA 2015/09/22(火) 21:44:49.94 ID:hLFU5SNV0
 集の宣言ののち、万里花はためらうことなくひとつめにショコラを選び出す。続けて鶫もすぐにチーズケーキを選ぶ。
千棘(あれ……、チーズケーキはまだ万里花は食べてなかったはず……どうして)
鶫「悪いが、何度も裏をかけると思わない方がいい」
万里花「……」
 出されたケーキを二人とも一口ずつ食べていく。が、両者ともに根を上げない。
集「一回目は、どちらもセーフ! セーフです!」
 二回目の合図。その刹那に、鶫は二つ目のチーズスフレを出す。遅れて万里花も選ぶ。
万里花「……おや、それもまだわたくしが食べていないケーキですわ。そんな勘に頼っていて大丈夫ですの、鶫さん?」
鶫「ふっ、往生際が悪いな、橘万里花。これは私の読みから出た理論。お前の思い通りにはいかない」
万里花「ふふ……なら、その読みがずれているのでしょう……」
 おもむろに万里花が紙をめくる。
鶫「なっ!」
 鶫が愕然とする。紙に書かれていたのはチーズスフレ……! 彼女の読みは虚空を切った。
74: ◆7chPYS4ayA 2015/09/22(火) 21:47:08.64 ID:hLFU5SNV0
鶫(……! 紙の端にバツを書いてブルーベリータルトと書かれている……。奴は読んでいたというのか……私が背後の窓を鏡替わりにして盗み見ることを……バカな!)
鶫「ありえない……。分かっていたのか、私が後ろの窓を用いることを……!」
万里花「ええ、あなたが私の紙を盗み見ることは分かっておりました。だから、その裏をかいたのです」
 万里花の言葉に、一同からざわめきが漏れる。が、その声は鶫に届かない。
鶫「ふざけるな! 私が必ず盗み見るとは限らないじゃないか! 私が気づかず、それこそ運否天賦に身を任せる可能性だってあるはずだ!」
万里花「わたくしは信頼していたのです。今回の勝負は、自分自身のためでなく、仕えるご主人のための勝負。となれば、忠誠心高いあなたは絶対に運否天賦の勝負をしてこない。必ず、勝つための術を探し出してくると。そして有能なあなたならば、この窓に必ず気づくと」
鶫「ばかな……! 偶然だ! こんなもの……」
万里花「ふふ、もとより危険な橋を渡らずして、欲しいものを手に入れようとは思っていません。敗れた時の覚悟など、九州を出るときにもう決めています……!」
 勝敗の分水嶺、それは覚悟の差。万里花の人生を賭けた大一番の覚悟は、まさしく鬼気迫るもの。
 そしてその覚悟は、赤木という狂気を内包して混ざり合い、今、神域へと到達しようとしていた……。
75: ◆7chPYS4ayA 2015/09/22(火) 21:48:39.12 ID:hLFU5SNV0
――
赤木「くくく、雑魚は蹴散らし、道は開かれた」
万里花「いよいよ本丸、ですわね……」
 万里花の視線、その先は桐崎千棘。倒さなければならない人生最大の好敵手。
 千棘はたじろぐ、彼女のその視線に。確かに、千棘は幾度も万里花と勝負をしてきた。だが、なぜここまで手汗握っているのか。
 そもそもこの勝負自体が計算外。千棘の心は不安で揺れていた。
千棘(なぜ……! 私は今日、楽をデートに誘って、そして正式に付き合うつもりだった。本来、追いつめられているべきは万里花なのに……
 なぜ、私が追いつめられているの……!?)
 千棘も万里花をライバル視していなかったわけではない。だが、万里花をどこか遠い存在だと考えていた。
 周回遅れで走っている相手のような、そんな余裕が心のどこかにあった。だが、今は違う。敵はまだ遥か後ろでも、確実に迫ってきている。
 圧倒的猛追。この長いリードをものともせず、追撃。いずれは追いつかれる。そんな危機感が頭をもたげ始めていた。
楽(どうして、橘はあんなに頑張れるんだ……? 分からねぇ……そんなに大変なことだったっけ、恋愛をするって……?)
76: ◆7chPYS4ayA 2015/09/22(火) 21:49:48.38 ID:hLFU5SNV0
赤木「お嬢ちゃん、ここが攻め時だ。敵は今、思いがけない窮地で焦燥に駆られている」
万里花「ええ」
赤木「ここで、今ある差を一気に縮める。そのために、今一度……身を狂気にゆだねるんだ……」
万里花「……! 分かりましたわ……!」
集「ま、まぁいろいろあったけど、とりあえず万里花ちゃんと桐崎さんの決勝戦いってみよー!」パフパフ
万里花「お待ちください」
楽「どうしたんだよ?」
万里花「せっかくみなさんで盛り上げてくれたこの勝負。その優勝賞品が放課後の一回きりのデートとはなんとも見劣りするではありませんか」
鶫「なんだ、今さらもっと寄越せと言うのか!」
万里花「その通りです。聞けばお二人は最低でも週に一回デートをしているらしいではありませんか。そのデートする日、十日分の権利をわたくしにください」
千棘「な、なにを言ってんの。そんなの飲めるわけないじゃない! なんで私だけそんだけ賭けなきゃいけないわけ」
77: ◆7chPYS4ayA 2015/09/22(火) 21:50:55.32 ID:hLFU5SNV0
万里花「当然、タダではありません。こちらも条件を提示いたします」
千棘「な、なによ」
万里花「負けましたら、わたくしは楽さまをあきらめます。金輪際近づきません」
千棘「ほ、本当なの……?」
万里花「橘家の者は嘘をつきません。天地神明に誓います」
千棘「……そう、ならいいわ」
楽「お、おいちょっと待てよ」
 唐突な成り行きに思わず楽が千棘を引っ張り、店の奥へと連れていく。
千棘「なによ、もう」
集「そうだそうだ」
楽「なんでお前までついてきてんだよ……」
集「万里花ちゃんからね、答えを教えないように見張っとけって言われたのさ」
78: ◆7chPYS4ayA 2015/09/22(火) 21:53:19.28 ID:hLFU5SNV0
楽「ったく……。そんなことより千棘、この勝負、まずいんじゃねぇのか。今日の放課後ならともかく、定期デートの日を十日もあいつに渡したりなんかしたら、
 それこそクロードが黙っちゃいねぇぞ」
千棘「大丈夫よ、だてにあんたと何回もデートしてないわ。あんたが好きなもんはトップ10までお見通しよ。それより、これは絶好のチャンスなのよ。
 あの子のおかげで、なんどクロードがぶちぎれそうになったことか」
楽(もう何回もぶちぎれてるけどな!)
千棘「こんな有利な闘い一つで、万里花に悩まされることにならないなら、受けないわけにはいかないわ。私を信じて、ね?」
楽「うーん……」
千棘「万が一万里花が楽の一番好きなものを知っていても、私も当てれば引き分け。そうすれば次に好きなもの、と順々に勝負は繰り返される。
 いかに楽を大好きな万里花と言っても、私ほど知っているはずがない。これは勝てる勝負よ」
 千棘の決意は変わらず、それに押される形で楽は承諾した。3人はふたたび席へ戻る。
79: ◆7chPYS4ayA 2015/09/22(火) 21:54:39.18 ID:hLFU5SNV0
集「あれ、本田さん来てたんだ」
本田「お嬢様の護衛も任務の一つですので、申し訳ありませんが遠くから監視させていただいておりました」
集「へぇ、でもそれならなんで今、出てきたんですか」
本田「それはお嬢様の身柄を確保するためです。この勝負次第でお嬢様は――」
万里花「本田……おしゃべりがすぎますわよ」
本田「申し訳ありません、お嬢様」
万里花「それより桐崎さん、この勝負、受けていただきますの?」
千棘「もちろん、受けてあげるわ。どちらがダーリンにふさわしいか勝負よ!」
集「決まりだな! では楽、そっちの紙に自分の好きなケーキの名前を書いてくれ。もちろん、窓を背にするなよ」
楽「わ、分かってるよ」
 楽は紙とペンを持つと、空いているテーブルへと移った。
ケーキの総数は22個。その中から選ばれるのはわずか一つ。いずれを楽が書くか、心理戦が始まる……。
80: ◆7chPYS4ayA 2015/09/22(火) 21:59:10.41 ID:hLFU5SNV0
楽(ここは素直に書くべきか。千棘は当てられる自信があるみたいだから、好きなものを順番通りに書いていけば勝てるかもしれない。
 だけど、そうすると橘のあの自信の説明がつかない。あの自信は勝てるという確信があるからなんだ)
楽(じゃなければ、あの橘が諦めるなんていうはずがない。本当に運否天賦の勝負なら、せいぜい一回か二回のデートと、数か月おとなしくするぐらいを賭けた勝負に留めるはずだ。)
楽(たった一回の勝負で、負けたので潔く引きますって、そんな簡単に割り切れるもんなのか……恋愛って。それとも、もう諦めがついていて、ダメもとの一勝負なのか。
 いや、そしたらさっきの闘いの覚悟とつじつまが合わない。それに、俺と千棘が付き合ってると言っても諦めなかったやつが、唐突に諦めるか……?)
楽(なにかあるんだ。おそらく、勝つ秘策が。さっきの鶫みたいに、もしかしたら俺の手も読まれている? いや、それはありえない。こんだけ離れているんだ。それに偶然座った席。
 盗撮も考えられない。……となると、もしかしたら集やるりあたりを通して嘘の情報が千棘に流れている……?)
楽(その情報に騙されているからこそ、千棘は自信満々なんじゃないのか。ということは、一番好きなものを書いたらあいつは外すかもしれない)
楽(橘ならどうか。三番目以降は危うくても、俺の一番二番目に好きなものぐらいなら当ててきそうだ。その可能性を考えると、一番好きなものを選ぶのはリスクが高い……)
81: ◆7chPYS4ayA 2015/09/22(火) 22:00:40.55 ID:hLFU5SNV0
 楽のペンは一向に進まない。思考は泥沼へおちいり、抜け出すことのできないらせん階段をただ下りつづける。
 千棘と万里花はすでに書き終え、集へ提出していた。あとはただ結果を待つだけであるが、それゆえに、この異常ともいえる長い待ちは千棘を不安にさせた。
千棘(なんで、なんでこんなに遅いわけ? 一番を書くだけじゃない。それとも、なにか万里花の裏をかこうとしているの?
 そんなの、意味ないじゃない。順当に書けば、まず勝てる勝負よ。それにしても、なんで万里花はあんなに堂々としていられるの……)
 恨みがましく、万里花を一瞥した。万里花は姿勢を正し、ただ楽だけを見つめている。不安などないのか、あるいは押し殺しているのか。疑惑だけが募っていく。
――もしかして、二人は通じている?――
万里花(赤木のおじい様……)ボソッ
赤木(弱さを見せてはだめだ、嬢ちゃん。不安なときほど毅然としていろ。大丈夫。あの紙には魔法がかけてある……)
 赤木が不敵に笑う。
 審判の時。長い時間の末、楽はようやく席へ戻った。
82: ◆7chPYS4ayA 2015/09/22(火) 22:01:51.77 ID:hLFU5SNV0
千棘「長かったじゃない。なにか企んでたの?」
楽「んなわけじゃねぇよ。ただ、ちょっとな……」
集「よし、じゃあさっそく判定といこうか! まずは桐崎さん!」
千棘「選んだのはこれよ。餅粉を使った和風ケーキ!」
楽「ぐっ……」
千棘「えっ……な、なによ」
 楽の驚きに満ちた表情に、千棘が固まる。そして次に、万里花の紙がめくられる。 万里花の選んだものはショコラケーキ……。
万里花「わたくしは、楽さまは一番を選んでこないと考えました。信頼をしていないわけではありませんが、しかし、楽さまの表も裏も理解し、愛しているつもりです」
千棘(! 勝った……! ショコラはだいたい5位程度の代物。いくらなんでも最初に書くものではないはずよ)
83: ◆7chPYS4ayA 2015/09/22(火) 22:03:02.43 ID:hLFU5SNV0
 千棘は胸をなでおろし、楽を見る。だが、楽の手は止まったままで、紙を開くことができていない。
集「楽? 早く楽の選んだものを見せなよ」
楽「あ、ああ……」
 楽が紙を表に返し、テーブルの上へ置く……。それは万里花の覚悟の賜物なのか、またはまったくべつの力が働いたのか……。
 一条楽の思考は吸い寄せられていた……まるで悪魔に魅入られたかのように……!
千棘「ショ、ショコラ……!? なんで!?」
 返された紙に書かれていたのは、千棘の思惑とは全く外れた代物。楽の書いた文字を見た途端、万里花は倒れるように本田へとしがみついた。
万里花「う、うわぁぁん……! ほ、本田! や゛り゛ま゛し゛た゛わ゛……! えずかったとーよ……!」グスッ
 万里花は震える足を支えるように、本田の胸の中で泣いた。そんな彼女を本田はしっかりと抱きとめる。
本田(すごい手汗だ。ほんとうに、恐ろしかったのだろう。人生を棒に振るか否かの大博打を打ったのだ。無理もない……)
本田「ええ、怖かったでしょう。ほんとうによく頑張りました……」
84: ◆7chPYS4ayA 2015/09/22(火) 22:04:18.59 ID:hLFU5SNV0
楽「す、すまねぇ」
千棘「どうして、どうしてなのよ……。ショコラは5位程度のものじゃなかったの……!?」
楽「橘のやつがあんな大博打みたいなことをやるからさ、もしかしたらと思って考えて、なんとか橘が外すようにと考えてたら……」
 楽がしてやられたとばかりにつぶやく。
 その言葉に、本田は一つの可能性に気づいた。
本田(……もしやお嬢様のあの大博打、あれは一条さんにここまで考えさせるための作戦……!? 自らの身を破滅の淵へ置くことさえも勝利への布石……?)
 自分の胸で泣きじゃくる少女……。しかし一方、勝負の中で彼女は確かに見せた。
 相手の心を読むばかりではなく、操ろうとする悪魔的発想……。そして、自らの身を投げ出す常識外の決断……。
本田(今、胸の中にいる少女と、常人の秤を超えた少女……。いったいどちらが本当のお嬢様なのだろう……)
85: ◆7chPYS4ayA 2015/09/22(火) 22:05:30.55 ID:hLFU5SNV0
 万里花は泣き腫らした目をこすり、この勝利の立役者である赤木を探す。しかし、赤木は万里花に背を向け、店を後にしようとしていた。
 その姿を認めるや、万里花は走り出した。
万里花「待ってください!」
赤木「どうしたんだ?」
万里花「どちらへ行かれるのですか……?」
赤木「……さぁな」
 赤木はまるで散歩にでも言ってくるかのように、気軽にこたえた。しかし、万里花にはそれがどこか今生の別れのように感じていた。
赤木「くくく、なにシケたつらしてんだ。勝者はもっと歓喜にあふれてていいんだぜ。それより、タネが聞きたくて出てきたんじゃないのか?」
万里花「そ、そうですわ! わたくしには破滅上等でいけと言いながら、作戦については何も教えてくれなかったではありませんか! ほんとうにわたくし、怖かったんですからね!」
86: ◆7chPYS4ayA 2015/09/22(火) 22:08:50.45 ID:hLFU5SNV0
赤木「くくく、それはすまねぇことをした。ただ、あの場面では嬢ちゃんの真剣そのものの覚悟が必要だったんだ。そうじゃなければ、あの娘っ子には勝てなかった」
万里花「相手を動揺させる作戦だったというのは何となくわかります……」
万里花「ただ、ケーキの数は全部で22個ありました。楽さまも本当に好きなケーキを選んでくるとは限りませんから、純粋な確率としては5%以下です。
 いかに相手を動揺させたとしても、この薄氷の確率をくぐらなければ到達できないはずです」
赤木「ふふ、その確率はこけおどし。嬢ちゃんもうすうす気づいているはずだ。敵の思考を読んでいけば、抜け道がある」
 赤木が笑う。
赤木「まず坊主にとって、この勝負は適当に選べばいいってもんじゃない。あの娘っ子、桐崎とやらに当ててもらわなければ意味がない。つまり、やつの選択には理が混ざらざるを得ない」
赤木「危険なく選んでもらうためには、およそ好きなもの上位の10番目までだろう。それ以降のものを選べば、娘っ子が当てる確率も下がるし、10戦以上もやってはこちらが勝つ確率も出てきてしまう。
 ゆえに、下位10個は捨てることができる」
87: ◆7chPYS4ayA 2015/09/22(火) 22:10:55.93 ID:hLFU5SNV0
万里花「だから、楽さまの興味のないケーキを教えてと言ったのですね。ここで切り捨てるために」
赤木「そうさ。嬢ちゃんの推論と坊主が今日食べた種類を合わせれば、10個ぐらいまでならそう落とすのは難しいことじゃない」
万里花「でも、まだ12個あります。正確な順位が分からない中、ここからどうしてあの1個を選ぶことができたのですか」
赤木「それは、嬢ちゃんのあの迫真の大博打の賜物さ。坊主はあの時、嬢ちゃんの気迫を感じ取って、必勝の策があると感じていた。
 そして同時に、頭をよぎったはずだ。さきに行なったあの鶫って野郎との闘いが」
万里花(野郎……)
赤木「あの闘いで嬢ちゃんは敵をだまし、その裏をかいて勝利した。ならば、今回も騙されているのではないか。やつはそう疑ったはずだ。だが、自分を騙すような素振りはなかった。
 ならば、桐崎千棘が騙されているのでは……? その疑惑が頭をもたげれば、もう思考は深い迷宮の中……疑惑は思考に粘着し、決して取れることはない」
万里花「まさか、鶫のあの申し出を受けたのはこれが目的だったのですか……!」
88: ◆7chPYS4ayA 2015/09/22(火) 22:13:10.97 ID:hLFU5SNV0
赤木「すべてを読み切っていたわけじゃない。ただ、これは勝負の常道みたいなものさ。自分を大きく見せ、相手を勝負から引きずりおろすこと。そのためにはどうしても欲しかった……
 強者であるという幻影を。そしてその幻影が、あの二人の信頼にくさびを入れたんだ。」
赤木「結局、坊主は娘っ子が答えを外す可能性が捨てられないため、一位を書くことはできなくなった。ならば次に考えることは、こちらの読みを外すこと。桐崎とやらが的外れなことを書いても、
 こちらも間違えてしまえば仕切り直しだ」
赤木「とくに桐崎も、最初に書いたものを外してしまえば、騙されていたと気づくはず。そうしたらあとは上から順当に書いていけばいい。それで娘っ子の勝利が確定する。
 だから坊主は、一回目ではこちらが外し、かつそこまで上位から離れていないものを書いてくる」
赤木「くくく。となると、こちらが当ててきそうな坊主の好きであろう和風系は全滅。かつ、坊主が勝負前に食べた和風以外のケーキ4つも外される。すると残るは二つ。タルトか、ショコラか」
89: ◆7chPYS4ayA 2015/09/22(火) 22:16:51.96 ID:hLFU5SNV0
赤木「ここで坊主の理は切れた。あとは、不確かな偶然という闇。だが、それでも坊主は理を求めようとする。それだけが、やつの希望なのだ。強者から逃れるための唯一の光明……。
 そして暗闇でもがき、たどり着いた終着点。それは恐怖のしみついた願望……前の勝負でカギとなったタルトよりも、まだ勝負に上がっていないショコラのほうが“安心”だ」
 赤木が不敵に笑う。すべては手のひらの上とも言うように、彼の説明はよどみがなかった。
万里花(この方は、ただ頭が切れるだけではない。人の心の機微を知り尽くしている……。赤木のおじい様を相手に、安心を求めながら勝利を目指すこと……それはもはや狂気の沙汰……)
赤木「ふふ、嬢ちゃんもやるじゃねぇか。その歳できちんと覚悟を決めることができた。たとえ答えが分かっていても、重要な、人生を左右するような場面で決断するのは至難の業だ。
 そこで腹をくくれたのは掛け値なし……掛け値なしの生き様だ」
90: ◆7chPYS4ayA 2015/09/22(火) 22:18:36.23 ID:hLFU5SNV0
赤木がふと空を見上げる。西日が、赤木の体を突き抜けた。その姿に、万里花は漠然とした不安を覚える。
万里花「赤木のおじい様……また明日も会えますよね」
赤木「……早く坊主のもとへいってきな。もたもたしてると、日が沈む」
万里花「おじい様……!」
 万里花の絞るような声に、おもむろに赤木は振り返る。
赤木「……嬢ちゃん、わるいが俺はここまでだ」
万里花「どうして……」
 いつもとは違う、赤木の真剣なまなざし。
赤木「この道の先、その光を掴むのは俺じゃない。お前自身だ」
 優しかった赤木の厳しい言葉。それは万里花の中で棘として突き刺さる。
91: ◆7chPYS4ayA 2015/09/22(火) 22:22:03.03 ID:hLFU5SNV0
赤木「勘違いをするな……俺は手伝うといったが、最初から最後まで面倒見るわけじゃない……。老いぼれがしてやれるのは道を切り開くだけ。いつだって駆けるのは、若い奴の役目だ」
万里花「赤木のおじい様……」
赤木「行きな……道は開いている。自分らしく走り抜け」
万里花「……かしこまりました……。ただ一つだけ、約束してください。赤木のおじい様、またあの墓地で会いましょう!」
 そう言って一礼すると、万里花は駆け足で店の中へと戻っていく。その姿を見届けて、赤木はゆっくりと目をつむった。
 そのとき、万里花には見えていなかった。赤木の姿が陽炎のようにたゆたっていることを……。
――このあとの彼女の闘いを、赤木は知らない。ただ数日後、赤木の墓にはフグ刺しがおかれ、それにこたえるようにひと際大きな風が吹いた。
92: ◆7chPYS4ayA 2015/09/22(火) 22:25:28.25 ID:hLFU5SNV0
以上で完結になります。
つたない部分も多々あったかと思われますが、ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
94: 以下、

楽しかった
96: 以下、

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