ことり「弓道場にて」back

ことり「弓道場にて」


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ぱんっ、と。
弦音が鳴ったのは、ことりが弓道場に足を踏み入れると同時でした。
─────真剣な表情で射った矢の先を見つめる海未ちゃんを見つけた時、ことりの胸はどきりと跳ね上っちゃったの。
だって、海未ちゃんが、あまりにも。
その横顔が、あんまりにも、格好良くて。
キラキラと、輝いて見えたから。
2:
「海未ちゃん………」
ことりなんかが、あの神聖な空間に割って入っちゃったら駄目なんじゃないかって。
尻込みする。
再び弓を構えた海未ちゃん。弓を引き分ける。
ことりは、ふと目線を下に落として、そこで靴を見つけた。
それは、見慣れたローファーだった。
海未ちゃんが、一日中履いた、ローファー。
3:
───────あっ。
あっ、と思って。はっ、とした。
周りにはことりと海未ちゃん以外は誰もいない。
海未ちゃんも、ことりには気が付いていない。
手を伸ばして、腰を屈めて、ってところで、我に帰り、動きが止まる。
「………」
目の前にあるのは海未ちゃんのローファー。他に靴はないから、間違いはない。
「はぁ…はぁ…」
どどど、どうしよっかな。
5:
弓が放たれた音。
「───────っ!」
とっさに身を引いて、息をひそめる。
ああ…なんでことり、隠れてるの?
なんで、息をひそめてるんだろ…
─────はぁ、はぁ。
だ、だめよ、そんなこと。
見つかったら、きっと一撃のもとに討ち取られちゃうよ…。
6:
気が付けば、ことりは片手に靴を掴んでいた。
あぁ、こんなこと、ほんとはしちゃ駄目だけど───でも。
でもでも、胸がドキドキして、我慢できないんだもん。
うぅっ!ごめんなさい海未ちゃん。
ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ、だから────。
すん、すんすん。
ああぁ、やっちゃった?
だめ、あぁん、すんすん、はぁん!
いけないって分かってるのに、止められない。
───海未ちゃんのローファーからは、ことりの胸をぎゅって締めつけちゃうほどの匂いがしたの?
8:
「す─────………はぁ─────?」
思いきって、つま先のほうまで鼻を入れる。
海未ちゃんの匂いが鼻腔をくすぐる。
部活後の海未ちゃんの耳の裏を嗅いだ時と同じ…
クラクラ、する。
抱き締めて、耳に鼻をくっつけた時の海未ちゃんの恥ずかしそうな反応が脳裏によぎる。
やだ? ねえ海未ちゃん。今のほうが、もっと恥ずかしいことしてるよ?
クスクス♪
あああ─────ゾクゾクしてきた、かも?
9:
「あぁん……」
やだ、すごい。
海未ちゃんの靴って、こんなに刺激的なんだね。
ことりの頭の中が、どんどん掻き回されていっちゃう。
海未ちゃんの唇、海未ちゃんのおなか。海未ちゃんの生足────
海未ちゃんの足で一日中踏まれた、靴。
次々浮かんでは消える、海未ちゃんの姿。
すごい。海未ちゃんってば本当にすごい。
10:
「ああぁ、んっ────」
胸が苦しくなって、ぎゅって押さえる。
左手は靴を顔に押し付けて、右手で胸を鷲掴む。
「はぁ、はぁ──────?」
舌を出す。
中敷きに一瞬触れた。
ゆっくりと、舌を這わせる。
舌の先をぐっと底に押し付けて、舐め上げる。
──────ごっくん。
口の中に溢れてくる唾液と一緒に、その味を堪能。
11:
踵の部分を噛んでみる。
何度か甘噛みして、感触を確かめたあと、一度強く噛んでみる。
うっすらと跡がついた。ことりのつけた跡が。
征服欲─────というよりは、所有欲?
マーキング?
これはもうことりのものなんだからねって思うと、不思議とゾクゾク。
あぁ、ことりは─────
いけない子でしょうか?
12:
名残惜しさを感じながら、ことりはローファーから顔を離します。
海未ちゃんを一瞥。今は残心中です。
「ほっ……」
よかった。
海未ちゃんには気付かれてなかったみたい。
トリップしてる間は、完全に無防備になるから、用心しなきゃ。
「でも、ここは思い切って…」
14:
ことりはそっと土間に横たわりました。
自分の顔の上に、海未ちゃんの靴を置いてみる。
───────あぁ、こんなところ、誰かに見られたら終わっちゃうな。
「くんくん……はぁはぁ?」
海未ちゃんに踏み付けられてる妄想をしつつ、靴底の匂いを嗅ぐ。
特に海未ちゃんの香りはしなかった。
でも、なんだろう
ことりの中で大きくなっていく、この解放感は。
15:
『ことりぃ、なんですかその情けない姿は?』
「ああん?海未ちゃん?」
『そんなに踏んでほしかったんですか? いやらしい子ですねぇ』
「あんあん? ことりはいやらしい子です!だから、もっと強く踏んでぇ?」
左手で靴をぐいぐい押し付けてながら、右手を胸に添える。
『ほら、ほら。望み通り踏んであげますよ』
はぁ、なんて楽しい妄想なんでしょう。
17:
───────
─────
───

「─────あぁ、ことりでしたか」
「お疲れ様、海未ちゃん」
声を掛けると、海未ちゃんはことりの方に振り返って、一息ついた。
「タオル、どうぞ♪」
「ありがとうございます。……ふう。穂乃果は?」
「先に帰っちゃった。穂乃果ちゃん、最初は海未ちゃんを待つつもりだったんだけど、凛ちゃんからのクレープの誘いには勝てなかったみたいで」
「そ、そうですか。私よりクレープ…」
海未ちゃんは少し拗ねたような顔をした。
クスクス♪ かーわい?
18:
「今日はもう終わり?」
「はい、タオル、ありがとうございます」
ことりのおやつ、もとい海未ちゃんの汗が染み込んだタオルを受け取る。
「いつもありがとうございます、ことり」
「きゅん?」
あ、だめよ海未ちゃん。
そんな色っぽい目で見つめないで。
「そ、それじゃ……えっと、か、帰ろっか」
「はい。あ、着替えてきますので、外で待っていてください」
「あ、うん」
19:

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