1. ステファニー・テレックス博士(アメリカ、ブラウン大学)
ステファニー・テレックス博士が開発した”バクスター”というロボットには、複数のカメラと赤外線センサーが搭載されており、様々な角度から状況を分析することで、未知の物体をつまみ上げ、見知らぬ環境の中で稼働することができる。ここには様々なプロセスが含まれており、時には数時間もかかることがある。だが一度学習してしまえば、バクスターはコード化した情報をシステムにアップロードして、他のロボットにそのノウハウを”教える”ことができる。
彼女の目標は、「シームレスに自然言語を操り、人間とコミュニケーションできるロボットの開発」だという。テレックス博士は、今後20年のうちに各家庭には、食卓の片付けや炊事洗濯などをこなすパーソナルロボットが登場すると予測しているが、そのためにロボットは人間との単なる操作を通じた相互作用を超えて協調できることが不可欠なのだそうだ。
テレックス博士は他にもプログラムに従って動作するフォークリフトやヘリコプターも開発しており、さらに余暇には人間と猫のコミュニケーションに応用できる強化学習にも取り組んでいる。
2. メリッサ・リトル博士(オーストラリア、マードック小児研究所)
マードック小児研究所のメリッサ・リトル博士は、幹細胞からミニ腎臓を成長させる研究に長年携わってきた。この人工腎臓は従来のものと異なり、人の腎臓に存在するあらゆる種類の細胞でできており、体液平衡と血液ろ過という2つの機能を果たす。
リトル博士のチームが実現したプロセスは、胎児に発達する胚芽のそれと似ている。人工腎臓はまだ人体に移植することはできないが、今後病気のモデリングや細胞治療に使用され、人工臓器の研究開発に大きな発展をもたらすことだろう。また腎臓病の治療薬の試験にも使用される。
「ミニ腎臓はとても複雑で、これまでなかったほど本物に近いものです」とリトル博士は話す。「薬の試験に重要で、細胞治療や代替腎臓のバイオエンジニアリングに新しい可能性をもたらすでしょう。いつの日か、これが腎臓疾患の患者に対する新しい治療となるかもしれません」
3. ジェニファー・ダウドナ博士
CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)は今年の学会の話題をさらったと言ってもいい。遺伝子の編集技術であるCRISPRは、バイオ医療における”ゲームチェンジャー”や”破壊技術”と形容されてきた。そのパイオニアと評されるのがジェニファー・ダウドナ博士だ。
CRISPR-Cas9はより精密で、効率的かつ柔軟なゲノム編集ツールである。簡単に言えば、DNA配列の任意の場所を”カット&ペースト”することができる技術だ。これまでで既にヒト細胞のHIVを阻害し、失明の原因となる突然変異を逆転させ、がん細胞の増殖を止めるといった成果を挙げてきた。本技術は人間だけでなく、植物にも応用可能で、ウイルス被害から作物を守る上でも有用である。
We Can Now Edit Our DNA. But Let's Do it Wisely | Jennifer Doudna | TED Talks
ダウドナ博士はこの技術への貢献から生命科学ブレイクスルー賞を受賞した。
4. マリア・ペレイラ博士(フランス、ゲッコー・バイオメディカル)
小児先天性心臓疾患は非常によくある症状で、イギリスでは新生児1,000人中8人に見られるなど、出生時の疾患としては最も多いものだ。しかし子供の心臓は小さいため、手術して縫合する際には大きな危険が伴う。