真姫「猫が…なんてね」back

真姫「猫が…なんてね」


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穂乃果の吸血鬼騒動が終わった後の、日曜日のこと。
天気もいいし、気分転換にちょっと散歩をすることにした。
真姫「…ん、ん?っ」
外に出て、大きく伸びをする。
太陽の眩しさに、少し眩暈がする。
…さて、どこに行こうかしら。花陽と凛でも誘って、お茶をするのもありかも。
…なんて考えていると、猛スピードで走ってきた何かにぶつかった。
真姫「きゃっ…」
「にゃっ…」
真姫「ちょっと、気を付けなさい…よ…」
時期外れのコートとニット帽に軍手。サングラスとマスク。手には、少し錆びたスコップ。
私にぶつかってきたのは、そんな人間だった。
真姫「…き、きゃぁーっ! 不審者ーっ!」
「ち、違うよっ!」
違うらしい。…この外見の人間を不審者と呼ばずに、何て呼ぶわけ?
3:
「凛だよっ! 星空凛!」
不審者はサングラスとマスクを外す。
その顔は、私のよく知っている星空凛、その人だった。
真姫「…なんでそんな恰好してるのよ」
凛「…それは、ちょっと…」
真姫「…何? やましいことでもあるの?」
凛「ち、違うにゃ! …と、とにかく急いでるの!」
真姫「あ、ちょっと待ちなさ…」
凛はサングラスとマスクをかけると、また猛スピードで走り去って行った。
…怪しい。
…けど、私の運動神経は、お世辞にもよくない。自転車にも乗れない。
凛の足には追いつけるわけもなかった。
真姫「…ま、凛にもきっと用事があるのよね」
凛のことは気になるけど…私は私でどこかに行きましょ。
くるりと振り返り、歩みを進めようとすると―――
どんっ。
…またも誰かにぶつかった。
4:
「いったぁ…ちょっとぉ! 前向いて歩きなさいよ!」
真姫「そっちこそ…って、にこちゃんじゃない」
眉を吊り上げてぷんすか怒っているのは、(自称)宇宙No.1アイドル矢澤にこ、その人だった。
にこ「…なんだ、真姫かぁ」
真姫「何だって何よ…」
にこ「別に?…っていうか! 今、あんたに構ってる暇無いのよっ。じゃあね!」
真姫「…」
そそくさと歩き去るにこちゃん。
…むかっ。
別ににこちゃんのことはなんとも思わないけど、こうも邪険に扱われると腹が立つわ。
…決めた。今日はにこちゃんの尾行にしましょ。
7:
…ん?
にこちゃんの尾行を続けていると、反対側の道路をコソコソ歩いている凛を見つけた。
…にこちゃんが運んできてくれた幸運だわ。
私はどうでもいい尾行を取りやめ、横断歩道を渡って凛の背後に回った。
真姫「凛」
凛「にゃっ!?」
凛はすごくびっくりした様子で、恐る恐るこっちを振り向く。
凛「ま、真姫ちゃん…」
真姫「まったく…そんな恰好で、こそこそ何を…」
そこまで言って、凛が手に持っている「モノ」に気づく。
白くてふわふわとした何かに、赤い染みが付いている。
…猫の死体。
8:
凛「…お散歩してたら、この子が道路に倒れてるのを見つけて」
凛の弱々しい、泣きそうな声が微かに聞こえてくる。
凛「…とっても、かわいそうだったから…でも、凛、猫アレルギーで…」
真姫「…その恰好は、そういうことだったのね」
凛「…うん」
真姫「…私も手伝うわ」
凛と二人で、尾の切れた猫を埋葬した。
凛「…真姫ちゃん、ありがとう」
真姫「いえ。私も後をつけたりなんてして、ごめんなさいね。…そうだ、凛。これから一緒に、お茶でもしない?」
凛「…うんっ」
とある休日の、そんな出来事だった。
そういえば、そこは神田明神の近くだったような気がした。
11:
木曜日 放課後 部室
希の腕が治るまで、部活はしばらく休みになっていた。
…ものの、みんな習慣になっていたのか、何人か部室に来ている。
私と海未は、新曲について考えている。
絵里は、ことりに頼まれたアクセサリーの手直しをしている。
にこちゃんはパソコンでブツブツ言いながらニヤニヤ笑っている。…気持ち悪い。
希はスマホとにらめっこしている。
…3年生、勉強している人が一人もいないのは大丈夫なの?
ちなみに、穂乃果とことりはデートしにいった。
…自分の経験も含めてわかったことだけれど。
穂乃果が家族旅行で街を離れ、土日は穂乃果に全く会わなかったことで、噛まれた4人の後遺症は少し落ち着いたようだ。
…4人っていうのは、私を含めて、ことりを除いてだけど。
穂乃果が目の前に居なければ、特別な感情が渦巻いたりしない。
現に海未と絵里、そして私が何事もなく自分の作業をしているのだから。
ただ、ことりだけは穂乃果ちゃん、穂乃果ちゃんと時々呟いている。ちょっとコワイ。
身体能力については、部活がないから何とも言えないけど…特別噂も聞かないし、大丈夫なんでしょうね。
私も、特に気になることはないし。
12:
作業がひと段落したのか、絵里は大きく伸びをして、にこちゃんに絡みに行った。
絵里「…にこー、何してるのー?」
にこ「ふふ、ふふふ…手に入れたわ…」
絵里「何を?」
にこ「…チケットよ、チケット! 解散ライブのチケット!」
絵里「そ、そうなの…よかったじゃない」
にこ「今までずっと応援してきたから、絶対行きたかったのよ…! いやー、最近本当にツイてるわー!」
絵里「…そういえばにこ、最近運がいいわね。この前も、お店の来店人数がどうとかって…」
にこ「そうなのよー! いやー、やっと神様が私の魅力に追いついたって感じかしらねー!」
絵里「…ふふっ、そうね。さすがにこね」
にこ「でっしょー!」
その後も、絵里はにこちゃんの自慢話をマジメに聞いている。
律儀ね…
こんこん、がちゃ。
理事長が入ってきて、海未を呼び出しに来た。
一人じゃ作業が進まず、手持ちぶさたになった私は、ず?っと難しい顔をしている希に話しかける。
15:
希「ふ?む」
真姫「…難しい顔して、どうしたの?」
希「…いやー、ちょっと最近のニュースをね」
真姫「へえ…何か面白いニュースでもあった?」
希「んー、面白いっていうか…これなんやけど」
真姫「…男子高校生襲撃事件、これで4人目…って、これ随分近所じゃない」
希「うん…」
真姫「…被害者はいずれも夜に、過激に痛めつけられた状態で発見されている…」
希「謎やねぇ…」
真姫「…」
…男子高校生が襲われる、ね…
女子高生じゃなくて、男子高校生なのね。
どういうことなのかしら。
がちゃ。ばーん。
凛「おっはよーございまーす!」
突然の大きな音と声にびくっとする。
海未「…凛、もう少し静かに入ってきてください」
凛「えっへへ?、ごめんなさーいっ!」
花陽「おはよ?」
少し遅れて、花陽が入ってくる。
凛「あーっ、かよちん遅いよーっ! そんなかよちんも好きだけどっ!」
花陽「凛ちゃんが早いんだよぉ?…でも、そんな凛ちゃんもかわいいよっ」
凛「…え、えへへ?」
…ホント、仲いいわね。
16:
にこ「花陽! 取れたわよ、チケット!」
花陽「えぇっ!? 取れちゃったのぉ!?」
花陽は、にこちゃんとアイドルトークを始める。
絵里は居場所をなくし、自分の作業に戻って行った。
凛は絵里に、まるで猫のようにじゃれついている。絵里は「仕方ないわねぇ」なんて言いながら構ってあげている。
…最近の凛は輝いている。
肌がツヤツヤで、いつもの何倍も元気ハツラツで。
羨ましがったにこちゃんが、何かしているのか聞いてたけど…
凛がそんなオシャレだとか、肌のケアだとかに気を使うわけもなく。
…まさか、凛にも何か憑りついて…?
…凛だけに、猫が…なんてね。
まさか、そんなわけ…
希「ねえ、真姫ちゃん」
希がひそひそと話しかけてきた。
希「…凛ちゃん、何かあったんかな?」
真姫「さあ…私は何も知らないけど」
希「凛ちゃん、いつもより何倍も元気やん?」
真姫「私が知りたいわよ…」
希「…ふ?む。ちょっと調べてみよか」
…まさかでしょ?
17:
希「ねえねえ、凛ちゃん」
凛「にゃ?」
希「最近、変わったこととかない?」
凛「変わったこと? …えっと…あ、そうそう、月曜日起きたら、なんだか超元気いっぱいで」
希「ふむふむ」
凛「なんとなく、身体が軽くなったような感じで」
希「ふーむ」
凛「そしてっ、毎日毎日過ごしていくたび、どんどん元気になっていく感じがするのにゃ!」
凛は穂乃果に勝るとも劣らない、オーバーな動きで希に話をする。
希「…う?ん」
希は真剣な顔をして、何か考え込んでいる。
凛「…希ちゃん?」
凛に声をかけられると、すぐに笑顔になって、
希「…凛ちゃん。それは若さの力やね!」
…なんて言う。
凛「若さ? …でも、希ちゃんと2歳しか違わないよ??」
希「いや?、18にもなると結構違うんよ?…肩も凝るし」
凛「…それはなんか違う気がするにゃ」
それで会話を打ち切って、凛は机に突っ伏す。…あれで体型のこと、気にしてるのかしら?
さっきの会話が気になった私は、希に話しかける。
18:
真姫「…ねえ、希。人を元気にする妖怪なんているの?」
希「もちろん。…方法はともかくとして」
真姫「方法…?」
希「そう。たとえば…」
絵里「…あっ、希! 例の書類、今日までじゃない!?」
がたん、と突然立ち上がった絵里に会話を切られる。
希「…あぁっ! 忘れてた!」
希も慌てて席を立つ。
希「ごめん、真姫ちゃん。また今度な!」
せわしなく走り去っていく生徒会の二人。
…まぁ、いいけど。
19:
夜 西木野家
今日は勉強もそこそこに、私は図書館で借りてきた本を読んでいた。
悪霊大百科。
そういうアニメが流行っているらしく、妖怪だとか悪霊だとか、っていう本がピックアップされていた。
載っている妖怪は本当に幅広くて、しかもとっても詳しい。
そういう知識はこれ一冊でなんとかなるんじゃないかって感じの本ね。
…「人を元気にする妖怪」を探そうと思って読んでいたんだけど、案外面白くて、いつのまにか1時間くらい経っていた。
最近、どうも朝は気だるげで、夜になったらなったで寝れる気がしない。
ストレスでも溜まってるのかしら?
このままじゃキリがない。そろそろ寝ま…
prrrr prrrr
『東條希』
…。
pi
真姫「…もしもし」
希『真姫ちゃん! ゴーストバスターの時間やで!』
真姫「…」
電話の向こうから、ずいぶんとウキウキした声が聞こえる。
希「あれ? 真姫ちゃん? 聞こえとるー?」
真姫「はぁ…どこに行けばいいのよ」
頭の中に浮かぶ無数の文句を殺して上着を羽織り、希に指定された場所に向かう。
…あの腕の怪我がある以上、私は希に逆らう気はない。
私に治癒能力でもあればいいんだけどね。
20:
夜 路地
私が呼び出されたのは、狭い路地。
希「あ、おーいっ」
真姫「…お待たせ」
希「ううん、うちも今来たとこっ」
やたら嬉しそうな希。…なんなのよ、もう。
真姫「…で、ここが何になるのよ?」
希「うちの読みが正しければ…」
真姫「…?」
希「ふふん」
得意げな希。…ちょっとこっちまで楽しくなってくる。
…けど、言葉の意味はよくわからない。
てく、てく。
…足音が聞こえる。
希に引っ張られ、電柱の陰に隠れる。
まさか、本当に凛…?
…と思ったら、ただの男子高校生だった。
何よ、もう…
…? 男子高校生?
しゅたんっ。
…男子高校生の目の前に、何かが着地した。
目を凝らしてみると、それはパーカーを着た人間だった。性別はわからない。
21:
希「…ビンゴや」
真姫「何がよ?」
男「…あ? なんだお前」
ケンカ腰の男子高校生。
男「おい、どけよ」
「…なんでニャ?」
…ニャ?
よく見ると、頭にネコ耳のようなものが付いている。
そういうファッションなのかしら。
男「なんでって…俺がそこ歩くからだよ」
「…嫌ニャ」
男「ふざけんなよ」
「それはこっちの台詞ニャ」
…声から推測するに、その人は女性らしい。
男「はぁ?おい、そろそろ俺もキレ…ぶっ」
ごすっ。
男子高校生が殴りかかろうとした瞬間、彼の顔面に彼女の鉄拳がめり込んだ。
比喩なんかじゃなくて、本当にめり込んだのよ。
22:
彼女は倒れた彼に馬乗りになり、拳を振り上げる。
真姫「希、止めないと…っ」
希「わかってるっ!」
希「そこまでや!」
希は電柱の陰から飛び出て、私を助けてくれた時と同じように、コメディ臭漂う決め台詞を言い放つ。
彼女の拳は、男子高校生の鼻の数ミリ前で止まり、ぐるんと首がこちらを向く。
…街頭の光の当たり方が悪く、丁度影になっていて顔が見えない。
希「…ここ最近の男子高校生襲撃事件の犯人やね。…何が目的なん?」
「…ご主人への恩返しニャ」
希「…なるほど」
希には理解できているらしいけど、私にはさっぱりわからない。
…恩返し?
ご主人って…この襲撃事件を、誰かが望んでるってこと?
23:
希「…どうして男子高校生ばかり襲うん? 何か理由が…」
「…それは、ご主人をちゃんと知っていればわかることニャ」
希「…?」
これには希にもピンと来ていないようだ。
「…今日はもう帰るニャ。…こいつも違ったし」
ひょいっ。
彼女は身軽な動きで塀に登り、木を伝って民家の屋根の上に飛び移る。
…本当に猫みたい。
「おまえたちに手を出す気はないけど、邪魔はしないでほしいニャ」
そう捨て台詞を吐いて、彼女は去っていった。
希「…さて、真姫ちゃん」
真姫「…何よ」
希「凛ちゃんの元気の謎が解けたで」
24:
深夜 西木野家
さすがに夜も遅いから、ということで家に帰ってきた。
希が「女の子が夜道を一人で歩くもんじゃない」なんて言って、家まで見送ってくれた。自分も帰ったら連絡を寄越すそう。
…希も女の子よね?
ぴろーん。
希からの通知音。
< おまたせー
別に待ってないわよ。
< そう?
ええ。
< ならよかった。さて、真姫ちゃんが学校に寝坊する可能性もあるし、さっそく本題に入ろか
寝坊なんてしないわよ。
< うふふ。それで、さっきの人なんやけど
なに?
< あれは凛ちゃんや
何言ってるの?
< 穂乃果ちゃんみたいに、憑りつかれてるんよ
本当に?
< 本当に
25:
…とのことらしい。
穂乃果という前例があるからといって、そこまで驚かず、コロッと信じられてしまう自分が少し嫌だ。
…そういえば、あれは凛の声だったか。
そういえば、「ニャ」なんてそのまま凛だったわ。
なんて一人で考えていると、希が続けてくる。
< 真姫ちゃん、最近、「凛ちゃん」と「猫」について、何かなかった?
そういえば…
日曜日に、凛と一緒に猫の死体を埋葬したわ。
< 間違いない。凛ちゃんに憑りついてるのは「障り猫」や
障り猫?
< うん。…それじゃ、いつもの行かせてもらうでー!
いつものって…2回目だけど。
26: 調べてみたけど、障り猫は物語シリーズオリジナルの怪異っぽい(もんじゃ)@\(^o^)/ (ワッチョイ 4bcf-w9VM) 2015/12/17(木) 01:51:08.43 ID:IzMH9p8J0.net
?のぞみん講座 障り猫編?
それじゃあ今回は、障り猫について説明するよ。
尾なし猫、白銀猫なんて呼ばれたりすることもあって…
まあ、それはいっか。
まずこの猫は、死んだ猫のフリをして、埋葬してくれた人間に憑りつく。
特徴としては…
・憑りついた人間に憑依して、その人のストレス発散を肩代わりする
 →無差別に人を襲ったり、ストレスの原因となるものを消すことでストレスを解消する
・ストレスの発散が終わると、憑依が解ける
 →ただ、憑依が解ける前に猫に完全に取り込まれてしまうと、憑依された人の人格が消滅して、殺すしかなくなっちゃう
・触った人の精気を奪うエナジードレインを使える
…って感じかな。
対処法は…
・ストレス解消が終わるのを待ち、自然消滅させる
・逆にこっちもエナジードレインを使って、ストレスを抜き取る
…どっちも微妙やね。
精気を奪う能力だったら吸血鬼も持っていたけど、もうその能力は使えないからね。
被害者が増えるのをを黙って見てるわけにもいかんし。
こうなったら、凛ちゃんの意識が残ってるうちに隙を見て、ドリームトリガーを…ばーん。
これしかないかな。
猫に取り込まれちゃうと、凛ちゃん自身にもドリームトリガーの効果が出る可能性があるからね。
…真姫ちゃん、自分の吸血鬼の力、残しておけばよかった…なんて考えてない?
…ダメだよ。敵の力を使って敵を倒すってカッコイイけど…決していいことなんかじゃないんやから。
…障り猫について触れている文献とかは少なくて、これがうちの精一杯の情報。
短くてごめんな。…っていうか、吸血鬼が研究されすぎてんねん。
…というわけで、のぞみん講座でした。
27:
…つまり。
凛に憑りついた障り猫は、凛のストレス解消のために人を襲って回ってるってこと?
< そういうことかな。
…でも、どうして男子高校生ばかり…
< 5回も男子高校生が狙われてるし、無差別ってことはないやろね。凛ちゃんのストレスの原因が男子高校生、って考えるのが自然やけど…
凛、男子高校生と関わるようなことあったかしら?
< …こういうのは、本人に聞くのが一番やね
…少しは遠慮とかしないの?
< これも凛ちゃんの為や…許せ…
…。
< 明日の昼休み、凛ちゃんを呼び出して話を聞こう。うち、色々用意しておくから
はいはい。
< 取り調べってやつやね! 凛ちゃんカツ丼とか食べるかな?
知らないわよ…
私は既読無視して、眠りに落ちた。
28:
金曜日 昼休み 1年教室
凛「え? 男子高校生?」
真姫「そう。凛、最近関わり合いとかなかった?」
凛「うーん…特にないけど…」
真姫「そう…ねえ、凛。ちょっと今から…」
凛「じゃあ凛、外で遊んでくるねーっ!」
真姫「えっ!? ちょ、り…」
行っちゃった。
花陽「最近の凛ちゃん、すっごく元気だよねぇ」
真姫「…」
花陽「ああやって外で走り回る凛ちゃんを見ると、なんだか小学校の頃を思い出すなぁ。うふふっ、凛ちゃん、昔から可愛くて…」
…そうだ。凛には逃げられたけど…花陽なら!
この子、凛の変化には本人よりも敏感なくらいだし。
…花陽なら、何か知ってるかもしれない。
真姫「…花陽、ちょっと付き合いなさい」
がっし。
花陽の手を掴んで、希の待つ生徒会室に向かった。
花陽「ふぇっ!? ま、真姫ちゃん!? だ、誰か助けてぇ?っ!」
ちょっと待っててー。
29:
昼休み 生徒会室
希「や、待ってたよ?…って、花陽ちゃん?」
真姫「凛はどこかに行っちゃったから、代わりに花陽を連れてきたわ」
希「ふ?む…いい人選かもしれんね」
花陽「え、えっと…?」
希「…花陽ちゃん、ちょっと凛ちゃんについて、聞きたいことがあるんよ」
花陽「…たしかに、最近の凛ちゃんは元気すぎるかも…」
生徒会室のテーブルを挟んで、私と希 対 花陽 といった構図で、取り調べが行われている。
テーブルには、希が用意したスタンドライトと、弁当箱に入ったカツ丼が置かれている。
…いろいろ用意するって、これのこと?
希「それはいつから?」
花陽「えっと…私が気づいたのは、月曜日の朝かなぁ…」
希「ふむ…」
花陽「…あ、あと、最近、よく服屋さんの近くで見かける…かも」
希「服屋?」
花陽「うん。…凛ちゃんね、昔、男の子にからかわれたのが、トラウマみたいになっちゃってて…」
希「…!」
花陽「それから、フリフリの服とか、スカートとか、全然着なくなっちゃったの」
真姫「たしかに、凛の私服でスカートってあまり見ないわね」
花陽「うん…でも、最近はそういう、可愛い服とか、スカートとかをよく見てて」
30:
希「…」
花陽「…私、少し嬉しいんだ…凛ちゃんが、トラウマを克服できたのかなぁ、って。だから、明日一緒にお買い物に行くんだっ」
希「…ほほぅ。なるほど。なるほどなるほど、謎が解けたで」
花陽「謎?」
希「花陽ちゃん、このカツ丼は君にあげよう!」
花陽「えっ、いいのぉ!?」
希「うむ。報酬やで」
花陽「い、いただきまぁす…!」
希「さて、うちもご飯食べよー」
カツ丼とは別に、もう一つ弁当箱を取り出す希。
…本当に取り調べのためだけにカツ丼持ってきたの…!?
48:
放課後 西木野総合病院
希「お邪魔しま?す」
真姫「失礼します」
扉を開け、部屋の中に入る。
そこには、大怪我をした男子高校生が4人。街でよく見かけるような高校生の元気さはない。
この前私たちが凛と遭遇した時に襲われた彼は、入院するほどの怪我ではなかったみたい。
男1「…音ノ木坂の女子…?」
男2「何か用ですか…?」
疑心暗鬼な視線を向けてくる。…まあ、当たり前よね。
希「ちょっと聞きたいことがあるんよ…ええかなぁ?」
特に必要ないと思うけど、無駄に色っぽい仕草をする希。
…男共は元気はなくとも、鼻の下は伸びている。
…最ッ低。
何はともあれ、希の色気で若干元気になった男共は、素直に話をしてくれた。
被害者の話をまとめると、
・凛も含めて、音ノ木坂小学校出身の同級生
・全員、凛との面識がある
・仲のよかった男子6人のグループがあり、まだ襲われていない人が2人いる
・片方は高校を辞めて夜までバイト生活、もう片方は部活で帰宅が夜遅い
…ということらしい。
男3「あの…」
希「ん?」
男3「…もしかして、犯人は星空なんですか?」
希「…ううん、違うよ。凛ちゃんは悪くないんよ」
男4「…というか、あなたたちは…」
希「ん? …ふふっ、通りすがりの、ゴーストバスターズやんっ」
真姫「私を巻き込まないでっ!」
49:
夜 東條家
希「さて、いろいろハッキリしたね」
真姫「…ええ」
希「凛ちゃん…いや、障り猫が襲っているのは、昔凛ちゃんをからかって、トラウマを負わせた男子」
真姫「…次のターゲットは、仲の良かったグループの、残りの2人かしら」
希「…張り込みやね」
真姫「…それしかないわね」
希「…ただ」
真姫「二手に分かれたら危ないって言うんでしょう?」
希「…うん」
真姫「私は平気よ。…むしろ、片腕が使えない希の方が不安だわ」
希「うちは平気だよ?」
真姫「じゃあ大丈夫ね」
希「…うーん」
納得していない様子の希をなんとかなだめて、私と希はそれぞれの目的に向けて出発した。
50:
真姫「…あれがターゲットね」
いかにも不良、といった金髪の男を、お店のテーブルから監視する。
幸い彼のバイト先が飲食店だったので、怪しまれずに監視することができた。
真姫「…」
私はトマトジュースをストローで吸いつつ考える。
…もし、こちらに現れたら。
ドリームトリガーは預かってきているけれど、私の命中率で大丈夫なの?
最悪返り討ちにされてしまう。
…そして、もしあちらに現れたら。
希は今、絶対的なハンデを背負っている。
それに加え、凛自体のポテンシャルの高さに障り猫の能力が加わっている。
…いくら希が場数を踏んできたからと言って、危ないと思う。
…今日、猫が現れないのを祈る。
それにしても、一人で飲食店というのは落ち着かない。
…しばらく一人で悶々と考え込んでいるうちに、金髪の彼が店から出ていくのが見えた。
私も会計を済ませ、彼の後をつけ始める。
51:
…ここが男子校かぁ。初めて来た。
…ふふっ。校門前で立ってる女子高生なんて、まるで好きな男の子を待つ、恋する乙女みたいやんな?
でも、おあいにく様、うちは好きな男の人なんていないんよね。
…強いて言えば、女の子の方が好きかな? なーんて。
ウソウソ、百合はアカンっ。
グラウンドからは、野球部と思わしき威勢のいい声が響いている。
そろそろ終わるっぽい。
うちはさっきコンビニで買った肉まんを食べながら考える。
…もし、凛ちゃんがこっちに来たら。
色々対策はしてきたけど、今日ここで撃退するのは多分無理。
せめてこの腕が動けばなぁ。
うちも吸血鬼になったら、簡単に治るのに…なんてね。
…もしも、真姫ちゃんの方に来たら。
いくらドリームトリガーを預けたからといって、安心はできない。
…そもそも、真姫ちゃんは至近距離じゃないと当てられないし。
…お、出てきた出てきた。あれがターゲットの男の子か。
ぴろーん。
< こっちは尾行開始したわよ
…お、真姫ちゃんも始まったみたいやね。
うちも今から始めるところやで?♪
…うちはパンパンと頬を叩いて気合を入れ、彼の尾行を始めた。
52:
…希からは、尾行を開始した、という連絡以降特にない。
あちらには猫は現れていないようだ。
…とはいいつつも、こちらにも現れる様子はない。
彼はポケットの中の鍵を探し始めた。
…もう家に着くってワケね。
私は、希に尾行終了の連絡を入れる。
希『もしもし』
真姫「希? こっちは終わりよ」
希『そっか。実はこっちも、終わりっていう連絡をしようと思ってたんよ』
真姫「そう。…今日は、凛は現れなかったわね」
「誰が現れなかったのニャ?」
希『…えっ? 真姫ちゃん、何て?』
真姫「え?」
「こんばんはニャ」
真姫「なっ…!」
彼が自宅の扉の前に立ったところで、凛が現れた。
真姫「…凛!」
凛「…邪魔するのはやめてほしいって言ったニャ」
凛は軽く私を睨んで、金髪の彼の方にまっしぐら。
扉を開ける直前、彼の身体は殴り飛ばされた。
彼が地面に叩き付けられる音が、静かな夜の街に響き渡る。
53:
希『真姫ちゃん!? まさか、そっちに…』
真姫「…っ」
携帯から希の声が聞こえるが、そんなものに耳を傾けている場合ではない。
私は希から預かった秘密兵器を取り出し、凛に銃口を向ける。
凛は男を痛めつけるのに夢中になっているようで、こちらの様子には気づいていない。
…チャンスだ。
一歩一歩、歩みを進める。
…ごめんなさい、金髪の彼。今度お見舞いに行くわ。
凛と銃口の距離は数メートル。
真姫「…これだけ近づけば…!」
私はトリガーを引いた。
…瞬間、金髪の彼が立ち上がり、凛へ向けて放った弾丸を身体で受け止めた。
…いや、彼が立ち上がったんじゃない。凛が盾として利用した。
この弾丸は傷つけるためのものではないから、彼にダメージはないのだけれど…
凛に気づかれた。
…まずい。
殺気を孕んだ鋭い視線が、私を突き刺す。
凛「…こいつでもない…」
凛は片手に抱えた彼を、軽々とこちらに放り投げてきた。
反応が遅れた私は、動くことが出来ず―――――
54:
彼が私にぶつかる直前、別の方向から何かが飛んできて、私を押し潰す。
…背中には、とても柔らかい感触。
真姫「…希!」
希「はぁ、はぁ…はぁっ…」
私にぶつかってきたのは、汗でびしょ濡れの、息を切らした希だった。
希「あ、あはは…間に合ったなぁ…」
凛「…この前の紫おっぱい」
希「紫おっぱいって…凛ちゃん、そろそろ神妙にお縄についた方がええよ」
凛「…まだ、そういうわけにはいかないニャ」
凛はそう呟いて、屋根を飛び移り去って行った。
…駄目だった。
猫を退治できなかった。
金髪の彼は救急車に任せて、私と希も帰路についた。
55:
土曜日 昼 西木野家
…珍しく、お昼まで寝てしまっていた。
もっと私がしっかりしていたら。
金髪の彼はあんな大怪我をすることはなかった。
凛も、障り猫から解放できた。
希だって、怪我なんかしないで穂乃果を退治できた。
…溜息しか出ない。
希は気にするな、なんて言うけど…そんなこと、無理よ。
prrrr prrrr
『小泉花陽』
…花陽から電話。
pi
真姫「…もしもし?」
花陽『あ、真姫ちゃん? …えっとね、今日、これから凛ちゃんといっしょにお出かけするんだけど…』
真姫「…ああ、そういえば言ってたわね」
花陽『真姫ちゃんも、もし時間があったら、一緒に来ないかなぁ?、って…』
真姫「…え、私も?」
花陽『だっ、駄目ならいいよ!?』
真姫「…私も行っていいの?」
花陽『え? うんっ、もちろんだよぉ! 凛ちゃんも、いっぱいいた方がいい?、って言ってたし』
真姫「…わ、わかったわ! 今すぐ準備して行くから!」
…凛と花陽と3人で出かけるなんて…初めてね。
さっきまでの悩みはどこへやら、私のこころは雲の上だった。
56:
真姫「待たせたわね」
うんと陽ざしを浴びながら向かった待ち合わせ場所には、既に2人が立っていた。
黒いパーカーにショートパンツという、いつもとあまり変わらない凛と、
いつもより少し気合の入った、若草色のふわふわワンピースの花陽。
花陽「ううん、私たちも今来たところだよっ」
凛「…ふ?む」
真姫「…何? 凛、どうかした?」
凛「え? あ、ううんっ、なんでも」
真姫「…っていうか、なんでこんなに暑いのにパーカーなわけ? フードまで被って…」
凛「え、えへへー、寝癖がひどくて…」
真姫「…凛らしいというか、なんと言うか」
…いつもの凛だ。
男子高校生を軽く捻り潰すような化け物は、今ここにはいない。
花陽「凛ちゃん、今日はいっぱい楽しもうねっ」
凛「…うんっ! よぉ?っし、出発ニャ?!」
真姫「…まったく、元気なものね」
人の苦労も知らないで。
花陽「…ねえ、真姫ちゃん」
真姫「ん?」
花陽「…今日、凛ちゃんに可愛い服、いっぱい選んであげたいの。…頑張ろうねっ」
真姫「…ふふっ。協力するわ」
素敵な幼馴染を持ったものね、凛も。
57:
私たちは、ショッピングモールで凛の買う服を見ていた。
…というか、花陽が一方的に凛を着せ替え人形にしていた。
凛の要望の、フード付きのもの、もしくは帽子と合うもの…という条件付で。
花陽「うっわぁ???っ、可愛い?????っ!」
ネコ耳のついた半袖のパーカーに、黄色いミニスカート。
…たしかに、可愛い。
凛「…そんなこと」
花陽「そんなことあるよ、凛ちゃんっ! ね、真姫ちゃんもそう思うよね?」
真姫「ええ。凛にピッタリだと思うわ」
凛「…なるほど」
花陽「凛ちゃん、これ買ってこうよ!」
凛「…うんっ! じゃあ、ちょっと脱ぐからカーテン閉めるニャ!」
しゃっ。
更衣室のカーテンが閉まる。
…?
一瞬、凛の顔が歪んだような気がする。
…気のせいかしら?
花陽「ふんふんふ?ん♪」
真姫「…花陽、嬉しそうね」
花陽「うんっ…!」
まあ、そうよね。
一番の友達が変わろうとしているのだから、それを応援してあげたくなるのは当然よね。
…そういえば、私の一番の友達って誰なのかしら。
58:
夜 路地
凛「…こんなに買っちゃってよかったのか…な? 着るかもわからないのに…」
3人で大量の袋を抱えて帰路につく。
何件かお店を回って、凛だけじゃなくて花陽と私の服まで、大量に買い込んだ。
それもこれも…
花陽「うんっ、大丈夫だよぉっ! 凛ちゃん似合ってたもんっ!」
この子のせいだけど。
ぐうううううぅ――
花陽「…あっ」
真姫「…花陽、そんなにお腹空いてたの?」
花陽「えっ!? あ、あっ、ええっと…」
真姫「…何か食べていきましょうか」
花陽のお腹のリクエストに応え、私たちはお夕飯を食べて帰ることにした。
…あ。希との約束のタイムリミットが。
……ちょっと急いで食べないと。
59:
美味しかった。
こういうお店には来ないけど、結構美味しいものね…
GOHANYA…覚えておきましょ。
…さてと。
そろそろ希のところにいかないと。最後の彼の護衛が残っているわ。
真姫「ねえ、私―」
そう話を切り出しかけたところで、
凛「ねえっ! みんなで、手繋いで帰らないっ?」
凛がそんなことを言ってくる。
真姫「荷物で両手がふさがってるのよ? 無理よ」
凛「そーれーなーらーっ…」
ぎゅーっ。
凛が腕を組んできた。
真姫「な、なぁ、なっ…」
凛「こうすれば、手を繋ぐよりもいい感じニャ!」
花陽「…ふふっ、いいねっ! 花陽もっ!」
ぎゅーっ。
凛を真ん中に腕を組んで、並んで帰ることになってしまった。
恥ずかしい。
…けど、なんだか仲良しっぽくて…
まあ、いっか。
…あれ?
60:
夜 男子校前
…遅い。
おっそーい!
真姫ちゃん遅い!
いくら花陽ちゃんと凛ちゃんとお出かけだからって、うちとの約束は破ったらあかんやん!?
連絡の一つも寄越さないってどういうことーっ!?
もう彼歩き始めちゃったし!
…仕方ない。うちだけで尾行始めるしかないなぁ…
こっそりこっそりと、野球部の彼の後を付ける。
途中、狭い路地を通りかかる…
…ん?
今、誰か倒れていたような…
…でも、こっちを見失って、そこに凛ちゃんが襲ってきたら…
…いや、人間として倒れている人を見逃すわけにはいかない。
彼の家までの道のりを頭の中で描きつつ、通り過ぎた路地に入っていく。
…そこに居たのは、辛そうに膝をつく真姫ちゃんと、
地面に寝ている花陽ちゃん。
そして、ネコ耳の生えた凛ちゃんだった。
61:
―――――なんだろう。
妙に眠い。
隣を見ると、花陽も目をこすっている。
凛は変わらず元気そうだけど。
…慣れないお出かけとかして、疲れちゃったかしら。
…うぅ。
もう限界…立っていられない。
凛から手を離し、膝をつく。
花陽は凛と手を繋いだまま、ふらふらしている。
凛は何ともなく…むしろ、今朝よりも元気なくらいで、私に声をかけてくる。
凛「真姫ちゃん、どうしたのかニャ?」
真姫「…なんでもないわ。ただ、少し眠いだけよ」
凛「…そっか」
真姫「…?」
違和感。
花陽「…わ、私も…眠…」
ふらふらと眠気と戦っていた花陽も限界が来たようで、ぱたりと倒れこんでしまった。
凛はそんな花陽を心配する様子もなく、表情一つ変えず花陽を見下ろしている。
…まさか。
62:
真姫「…あなた、もしかして…っ!?」
凛「…もう少し早く、気づくべきだったニャ」
ぱさっ。
凛はパーカーのフードを取る。
そういえば今日初めて見る、凛の頭頂部。
凛の頭からは、白い猫の耳が生えていた。
希「真姫ちゃんっ!」
真姫「希…」
希が駆け寄ってくる。肩を借り、なんとか立ち上がる。
希「これは…」
真姫「…いったい、いつから…」
凛「昨日の夜からニャ」
63:
真姫「…昨日の?」
猫は淡々と語り始める。
凛「そうニャ。いつもは朝起きたらご主人に意識が切り替わるんだけど…今朝起きても、「ニャー」の意識が残ったままで…
 そこで電話がかかってきたからさあ大変ニャ。…っあぁ?、「ニャ」って言わないの疲れたニャ?…」
真姫「…なんで花陽を襲ったの?」
凛「…ニャーはずっと不思議だったニャ。ご主人の心の奥底の記憶を元に、あの男共を襲ってきたけど…
 ストレスは少しずつ減っても、解消するには至らなかったのニャ」
凛「だけど今日、そこの赤髪ツリ目と、この、かな…ぱよ…?」
希「かよちん?」
凛「そう、それニャ。…2人と出かけて確信したニャ。ストレスの根底は、かよちんにあったのニャ」
真姫「…なんで花陽に?」
凛「…かよちんは、ご主人をずっと可愛い、可愛いって、可愛がってくれてたニャ。小さい時から、今の今まで」
凛「…でも、完全に自信を無くしたご主人にとって、それは慰めでもあり、そして追い打ちでもあったのニャ」
希「…それが小さなストレスになっていた?」
凛「そうニャ。それが積もりに積もって、大きなストレスになった。塵も積もれば、ってやつニャ」
真姫「…でも、それでも…花陽に手を出すのはダメよ。あなたが、凛である以上は…ッ」
カバンに隠し持ってたドリームトリガーを構える。
希「ダメや!」
…が、希に止められる。
希「…今の凛ちゃんの意識は、猫に乗っ取られつつあるんよ」
真姫「…それが何よ」
凛「どうせ当たらないニャ」
そんなことは承知の上、構え直す。
希「真姫ちゃん、落ち着いて。…うちが解説したこと、覚えてる?」
真姫「解説…?」
64:
―――憑依が解ける前に猫に完全に取り込まれてしまうと、憑依された人の人格が消滅して、殺すしかなくなっちゃう。
―――猫に取り込まれちゃうと、凛ちゃん自身にもドリームトリガーの効果が出る可能性があるからね。
真姫「…そういうことなの?」
真姫「だったらどうすればいいのよ!」
希「…」
凛「あれあれ、仲間割れかニャ?」
真姫「うるさいわね! 今あなたのせいで困ってるのよ!さっきから煽ってばかり…煽って、ばかり…」
…そうだ。煽ってばかりで、何もしないのだ。
邪魔な私たちだって、話なんてしてないで、さっさと消せばいい。
花陽のことだって、エナジードレインでトドメを刺せるのに…地面に寝かせたまま。
…。
真姫「…希」
希「…?」
真姫「これ、預かってて」
…ちょっとカッコつけて、ドリームトリガーを希に投げ渡す。
希「もうちょっと丁寧に扱ってよっ!」
凛「ニャ?」
私は、寝ている花陽に向かって一直線。
猫はわざわざ自分に向かってくるのが不思議だ、といった感じで、首を捻って私を見ている。
…ふふ、何をするかわからない?
私は花陽の胸ぐらを掴み―――――
ぱしーん。
花陽のチャームポイントの柔らかい頬に、若干の手加減を加えてビンタした。
65:
ごめんなさい、花陽。
頭の中でそう懺悔した次の瞬間、
凛「かっ…かよちんに何するにゃぁっ!」
凛が跳びかかってきた。
首を掴まれ、電柱に叩きつけられる。
首と背中、頭にすさまじい衝撃が走る。
真姫「かはっ…」
凛は鬼のような形相で、私を睨んでいる。
首が締まる。
息ができない。
エナジードレインが効いてるのか、身体の力もどんどん抜けていく。
真姫「がっ…ぐぇっ…」
凛「真姫ちゃん…かよちんに、なんでっ…!」
真姫「…ふ、ふふっ…」
凛「何で笑って…」
真姫「…り、ん…」
凛「…えっ? あ、あぁっ!?」
凛の手の力が緩む。
66:
凛「り、凛、なんでこんな…」
真姫「…目…覚めた…?」
朦朧とする意識の中、やっとの思いで声を絞り出す。
凛「ま、真姫ちゃん、大丈夫っ!? ごめんね、ごめんね…っ」
わたわたと慌て、謝ってくる凛。
…間違いない。
この凛は、猫じゃない。
ネコ耳は生えてるけど、意識は完全に「凛」の物…だろう。
真姫「希…あと、よろしく…」
私はそれだけ言って、目を閉じた。
意識を手放す直前、銃声が聞こえたような気がした。
68:
翌日
凛「ごめんなさいっ!」
凛が手土産なんて持って、私の部屋に謝りに来た。
私も凛に色々されたはずなのに、目が覚めたら特に身体に異常はなかった。
希は、「吸血鬼の時の後遺症が残ってたんじゃないか」…なんて言ってた。…妙に陽ざしが眩しかったのはそのせいかしら?
花陽はエナジードレインはされていたものの、やっぱり凛の深層心理がどうので手加減されていたらしく、今日一日寝ていればおそらく元通りになるだろう、とのこと。
真姫「…ま、なんにせよ、無事に戻ってよかったわ」
凛「身体、痛くないの?」
真姫「…このくらい、どうってことないわよ」
凛の心の傷に比べたらね。
…なんて痛い台詞が思いついたけど、飲み込んでおく。
凛「…あの、真姫ちゃん…希ちゃんから、話、聞いたんだけど…凛、あの男の子たちに…」
真姫「…それなら、心配しなくていいわよ」
凛「え…?」
真姫「…私が治療費、全額負担しておいたわ」
凛「…え、えぇ?っ!?」
凛は昔のギャクアニメみたいに(見たことはないけれど)オーバーなリアクションを取る。
真姫「まあ、犯人をでっちあげるわけにもいかないし、クマが出たとかなんとかで誤魔化しておいたわ」
凛「む、無理矢理すぎるにゃ! それに、真姫ちゃんのお金がっ」
真姫「別にいいってば。…だ、大事な、友達の為だもの」
凛「真姫ちゃん…」
真姫「…ふ、ふんっ」
凛「…ありがとう、真姫ちゃん…で、でも、凛、されてばっかりじゃ悪いし…っていうか、真姫ちゃん、いいこと風に言ってるけど、お金の問題はやっぱり…」
真姫「はぁ…それなら、バイトでもする?」
凛「バイト…?」
69:
真姫「ねえ、凛」
私のそばに、ささっと新人メイドが駆けつける。
凛「はいっ、なんでしょうか!」
真姫「…少しお腹空いちゃったわ。何か、おやつでも用意して。一緒に食べましょ」
凛「はーいっ! じゃあ、ちょっと買い出しに行ってくるにゃー!」
真姫「待って。あなたが作るの」
凛「…え、えぇ?っ!? 凛?!?」
真姫「何か不満?」
凛「だ、だって…凛の料理を食べて、お腹を壊さなかった人はいないんだにゃ…」
真姫「…大丈夫よ、血を吸われてもエナジードレインされても死なないんだから。マズイお菓子くらい余裕よ」
凛「血? …と、とにかく、凛知らないよ…?」
しぶしぶといった様子でキッチンに向かう凛。
私が男子高校生たちの治療費を出した代わりに、凛は私の家のメイドとして、短期間働くことになった。
家事とかはあまり得意じゃないみたいだったけど、なんとかやっていけてる。
悪霊大百科を読むこと数分後、凛が皿にホットケーキを乗せて帰ってきた。
真姫「…何よ、普通に料理できるんじゃないの」
凛「うぅ…」
泣きそうな顔でことん、とテーブルに皿を置いて、メープルシロップとナイフ、フォークを持ってくる凛。
だいぶメイドらしい仕草になったわね。
真姫「それじゃあ、いただきます」
一口、凛お手製のホットケーキをぱくり。
真姫「ぶっ…」
思わず吹き出す。
ま、マズイ…どうしたらホットケーキをこんな風に作れるの…!?
凛「…だから言ったのにぃーっ!」
70:
後日、改めて凛と花陽を誘って出かけることにした。
待ち合わせ場所に着いてから数分後、花陽が歩いてきた。
真姫「おはよう、花陽」
花陽「うん、おはようっ」
この前と同じ、若草色のワンピース。
待ち合わせ時間になるまで、私と花陽はのんびりのほほんと過ごした。
真姫「…遅い」
花陽「あ、あはは…」
待ち合わせ時間を過ぎても、凛は来なかった。
真姫「…まさか、寝てるんじゃないでしょうね?」
花陽「そ、それは大丈夫だよっ! 朝起きたとき、凛ちゃんから電話が来たもん」
真姫「…二度寝ってことも」
花陽「…う、う?ん…」
「お?いっ!」
凛がこっちへ駆けてくる。
凛みたいに眩しい、黄色いミニスカートを揺らしながら。
71:
凛「ご、ごめんねっ? ちょっと、お洋服どれにするか迷っちゃって…」
真姫「…」
凛「…真姫ちゃん?」
真姫「…今日だけは、許してあげるわ」
凛「?」
花陽「…凛ちゃん! スカート、履いてきてくれたんだね!」
凛「あ、うん…そ、その…似合う、かな…」
花陽「もちろんだよぉっ! 似合うから買ったんだもんっ!」
凛「…ほ、本当に?」
花陽「本当にっ! 抱き締めちゃいたいくらい、可愛いよ!」
真姫「…私も同意見。凛、可愛いわよ」
凛「…そ、そっか…そっかぁ…え、えへへ…」
真姫「…じゃ、行きましょ」
凛を真ん中にして、3人で手を繋ぐ。
凛が浮かべていたのは、満点の星空にも負けないくらいの、とても可愛い笑顔だった。
72:

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