真姫「マーメイドラプソディー」back

真姫「マーメイドラプソディー」


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 人魚――人の上半身と魚の下半身を持つとされる、珍しい生き物。
 そんな生物がいま――私の目の前にいる。
真姫「……」
 硝子の奥。いわゆるアクアリウムのなかに、彼女はいた。
 紫の髪を伸ばした彼女の名は「希」。このアクアリウムが作ったときに付けられたらしい。
 アクアリウムには自然のある陸地と海水が溜まっており、その水際に希は腰かけていた。
希「! ……」ジーッ
 希は私の視線に気づくと、ただじっとこちらを見据えて水につけた尾ひれを跳ねさせる。
 何かを訴えかけているのだろうか。残念ながらこの硝子は人の声を通さない。だが、裏に回れば話はべつだ。
 私は関係者以外立ち入り禁止の箇所を見つからないようにすり抜けると、硝子のなかへと入っていく。
 瞬間。
――ビチャッ!
希「いらっしゃい」ニヤニヤ
真姫「……いきなり水をかけてくるなんて酷いわね」ハァ......
 べつに私は怒らない。怒るつもりもない。相手は人魚なのだ。「不自由」な場所に閉じ込められた、「私たちとは違う生き物」なのだから。
2:
真姫「あなた、どうしてこんなところにいるのかしら」
希「どうしてって言われてもな……気がついたら硝子のなかにいてたから……」
真姫「……人魚って関西弁なのね」
希「うーん、どうなんやろ。ウチほかの人魚知らんからなぁ」
真姫「というかなんで関西弁なのよ」
希「聞いてたら覚えた」
真姫「……」
 ここには関西弁の人物がいるみたいね。それにしても、人魚の学習能力の高さには驚かされる。上半身は人間なんだから脳の構造も同じなのかしら。
希「……そういえば」
真姫「?」
希「名前」
真姫「ああ……私は真姫。どう呼んでくれてもかまわないわ」
希「ウチは希! って、知ってるやんな。ウチのことは希って呼び捨てでいいよ」
真姫「……まぁ、気が向いたらね」
希「よろしくな、真姫ちゃん!」ニッコリ
真姫「よろしく……」ウフフ
3:
――――――
――――
――
 数日後
希「いらっしゃーい、真姫ちゃん!」
 この関係性にもずいぶん慣れてきた。心地よさも見出せるほどには楽しみを感じる。2人でいるときが、今は一番嬉しいかもしれない。いや、断言だってできる。
真姫「今日はこんなものを持ってきたわ」ガチャッ
 私は背後から赤色のピアニカを取り出した。私はピアノを習っている。だけど、さすがにグランドピアノを持ってきたり希を連れ出したりするのは無理があるので、こうしてピアニカを持ってきたのだ。
真姫「私のスペシャルな演奏会よ……聞いてくれるかしら?」
希「! うん、もちろん!」キラキラ
 前々から希は私の奏でる音楽に興味があるようだった。だからこの話を持ち出した途端にこのはしゃぎっぷりだ。演奏会中はどんな感じになるのだろうか。
 私はピアニカの吹き口を咥えると、簡単な童謡を一曲吹き上げた。希の反応を確かめると、
希「真姫ちゃん、すごーい!」
 嬉しい、そう感じた。こんなにストレートな感情表現を受けたのはいつ振りだろうか。あまり人前で披露することのない音楽。でもたまにはこういうのもいいななんて、そう思う。
真姫「どんどん行くわよ……」
4:
 演奏会は数時間続いた。途中アクアリウムの管理の人が来たときには焦ったが、希の巧みなフォローでなんとかその場をやり過ごしたりもした。
 一緒にご飯を食べたり、歌を歌ったり、希の悩みを聞いたり、思い出を語り合ったり――とても楽しい時間が、まるで流れ星のように過ぎ去っていく。楽しい時間は確かに早く終わりを迎える。
真姫「そろそろ帰らないと……」
希「……ねぇ、真姫ちゃん」
真姫「?」
希「……「自由」って、どんなもの?」
真姫「えっ……」
 不意を突かれた私は数瞬言葉に詰まった。そして一度冷静になり、「自由」についてを考える。
真姫「「自由」……誰もが好きで、無意識のうちに欲するもの……かしら」
希「うーん……ウチは「自由」なんていらないんやけどな……」
真姫「どうして?」
希「だって、ウチが「不自由」やからこそ、真姫ちゃんは毎日のように会いに来てくれる……ウチはこの「不自由」な場所がとっても好きなんよ」
真姫「……そう」
 考えたこともなかった。「不自由」が好き。そんな感情もあるのか、と。私は「不自由」が決して好きではない。それは私の家庭環境などからのことだろう。だけど、希にとって「不自由」は……
真姫「……また、会いに来るわね……希――」
希「――あ、今「希」って!」
真姫「ヴェェ……」
 ちょっとカッコよくしてみようかと思ったのに、希のせいで台無しだわ……でも、なんだかそれがとても心地よかった。一生、こうしていたいと、そう思った。
――――――
――――
――
 だけど。
 楽しい時間や心地よい空間は、決して一生続くものではない。
5:
 それは明くる日のこと。
「人魚は海に帰すべきだ」――そう言った人物がいた。
 すべてはそれが始まりで、私は何もできなかった。その場にいることすらも。
 希は硝子のなかから叫ぶ。この「不自由」が好きだ、と。このままずっと暮らしていたい、と。だけど、硝子は声を決して通しはしない。
 だから、希はそのアクアリウムから解き放たれた。身勝手な人間たちの愚かな計らいによって。
 希は海へと潜り込んだ。帰れなかった、どうしても。人間たちが憎いとか、そんな理由ではない。得た「自由」を、棒に振ることができなかったのだ。
「誰もが好きで、無意識のうちに欲するもの」――確かにそうなのかもしれない、と希は胸中で思う。「自由」を手に入れた希は、「自由」な海へと旅立っていく。
 真姫がそれを知るのは、その日の夕刻のこと。
6:
――――――
――――
――
真姫「どうして……」グスン
 また会いに来るって言ったじゃない。なのにどうして、あなたから消えてしまうのよ……私の大好きな時間を、簡単に奪い去らないでよ……
 わかっていた。いつかはこんなときが来るんじゃないかって。だけどそのときは、精一杯の笑顔で別れを告げようって、そう決めていたのに。なのに希は、それすらさせてくれなかった。
 また戻ってくるかもしれないとか、そう思ったりもした。だけど……「自由」は誰もが欲するものだって、私が一番知っているから。だから、どうしてもそれを考えることができなかった。
真姫「……希の、バカ」グスン
 泣きじゃくる私。こんな顔、とても見せられたものじゃない。ふと目に入った鏡に映る真っ赤な自分を見てそう思う。それと同時に、どうして私は泣いているのだろう、という不可解な感情にも襲われた。
 夜、静かな海の波動が真姫の眠りを誘った。
8:
――――――
――――
――
希「……」
 夜明けが近い。そんな予感を感じるころ。
 初めて見た硝子の外――水平線はとても美しくて……海はとても広くて……ほんと、言葉に余るっていうのはこのことやなと感じる。
 だけど……
 ウチは気づいたことがあった。「自由」を手に入れ、多くのことを知り、心が満たされるはずなのに、どうしてか――ぽっかりと心に開いた穴。
 それは何かなんて、考えなくてもわかる。だけど「自由」を手に入れたことによって、確信してしまった。
希「……真姫ちゃん……」
 零れた雫が海のなかに消える。確かに「自由」を手に入れた。だけどそれと同時に、ウチが手に入れたのは「喜び」や「満足感」なんかじゃなくて――「孤独」。
「自由」の半分は「孤独」だった。それを知るためにウチは、本当に大事なものを失った。代わりの利かない大事なものを。
 海は広大過ぎて、もうきっと戻れない。ウチはやっぱり「不自由」なままでよかった。たとえ「自由」を知れなくたって、「不自由」を――ウチの大事なものさえ守れれば、それでよかったはずなのに。
希「……ウチ、戻るよ」
 きっと戻る。大事な人のもとに――大好きな真姫ちゃんのもとに。
9:
――――――
――――
――
 希が姿を消してから、数ヶ月が過ぎた。
 私はまだ立ち直れてはいない。表面上は普通でいたって、心の穴はそう埋まりはしない。
 私はここ数ヶ月、毎日欠かさず岬の突き当たりに時間が空いてはたたずんでいる。わかっているつもりなのに、やっぱり帰ってきてくれるんじゃないかと淡い期待を持ってしまう。
「また会いに来る」――私はそう言ったけど、私から会いにはきっと行けはしない。今ごろ、大事な何かを見つけて新たな人生を歩みだしたころだろうか……
 寂しい。だけど希が幸せなら――そう思えたら、なんだか大丈夫な気がする。埋まっていない心の穴を、少しでも忘れられる、そんな気がした。
……やっぱり。
真姫「希……私、寂しいの……」ウルウル
――ポチャン
「――ウチも、寂しかったよ」
10:
真姫「!?」クルッ
 背後からの声。突き出た岬から見えない場所。岩肌の水際。そこに座る――紫の髪の少女。
 ずっと待ち望んでいた――私の大事な「人」。
真姫「……希!」
希「ただいま、真姫ちゃん……!」ニッコリ
真姫「……どうして……何も言わずに消えちゃったのよ……」ウルウル
希「ごめんな、真姫ちゃん……でもウチ、おかげでわかったことがあるんよ」
真姫「……」ウルウル
希「真姫ちゃんに代わりはいない。ウチは――真姫ちゃんのことが好きなんよ」
真姫「……うん」グスン
希「真姫ちゃんは……ウチのこと、嫌い?」
真姫「そんなわけないでしょ! そうじゃないと……泣いたりなんて……寂しいなんて……言ったりしないわよ……」グスン
希「よかった……こんなこと初めてやったからとっても緊張したんよ」ニッコリ
真姫「……希」
希「?」
真姫「――ありがとう。私のもとに戻ってきてくれて、本当に……ありがとう」ニッコリ
希「! ……うん、ウチからもありがとう。ずっと待っててくれて――」ニッコリ
11:
 人と魚と半分ずつ
 人魚という名前の彼女は
 珍しい生き物 硝子に囲まれて育った
 水と陸地と半分ずつ
 アクアリウムと呼ばれるその場所は
 彼女に「不自由」をもたらしたのだと「私」は言った
 ねえ、おしえてよ
 「自由」はどんなものなの?
 私はあなたが会いに来てくれる
 「不自由」なこの場所が
 とても好きだわ
 ねえ、お願いよ
 どうか押し付けないで
 私はあなたが会いに来てくれる
 「不自由」なこの場所が
 好きだわ
 マーメイドラプソディー
 煌めく不自由なダンスホールに
 もう一度会いに来てね
 マーメイドラプソディー
 煌めく不自由なダンスホールに
 もう一度会いに来てね
 ここであなたを待っているわ
 今宵純白のダンスを踊るから
12:
 「自由」を唱える人たちは
 「人魚を海に帰すべき」と言った
 硝子の中から叫んでも、何も届かない
 「自由」は「孤独」と半分ずつ
 彼女に会えない自由な世界へ
 引きはがされるように硝子の外へ
 ねえ、おしえてよ
 「自由」はどんなものなの?
 私はあなたが会いに来てくれる
 「不自由」なこの場所が
 とても好きだわ
 ねえ、分かるよ
 「自由」になって広い世界を見て
 私はきっと知ることになるの
 あなたの代わりはいないと
 マーメイドラプソディー
 煌めく不自由なダンスホールに
 もう一度会いに来てね
 マーメイドラプソディー
 煌めく不自由なダンスホールに
 もう一度会いに来てね
 どこに行ったらあなたに会える?
 夜が明けたら私はもう海の中
13:
 初めて見た硝子の外の世界
 ああ、私はひとりで水平線を見てるわ
 何て海は広いの
 初めて見た硝子の外の世界
 ああ、私はあなたに一番に伝えたい
 何て海は広いの
 マーメイドラプソディー
 煌めく自由なダンスホール
 次は私が会いに行くわ
 マーメイドラプソディー
 煌めく自由なダンスホール
 次は私が会いに行くわ
 もう待ってるだけじゃないから
 今宵純白のダンスを踊るから
14:

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