レッサー「『新たなる光』の名の下に集えよ、戦士」 〜闇、海より還り来たる〜【その5】back

レッサー「『新たなる光』の名の下に集えよ、戦士」 〜闇、海より還り来たる〜【その5】


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2:
――回想
「分かるかいヨーゼフ?神の御業というのは絶対であるべきだ、と!」
 指揮者のように男は妙なポーズを取りながら熱弁する。心の中で、またか、と舌を巻きながらも少年――ヨーゼフは頷いた。
「……はぁ。そうですね、えっと――」
 名前は……なんだったろうか?というかこの男は誰だ?
 この――腐った肉の詰まった”モノ”はなんだろう?何が言いたいのか?
「私はっ、私が思うに!この世界には神の奇跡で溢れている!いるんだ!いるに違いない!」
 名前……アルフ?ラッシーが佳いか?それともヴィークが似合うだろうか?
 この『神の犬』に相応しい名前は。
「――だ、だ、だ、だからっ!私はっ!むざむざとは――」
「……あぁ済まない。申し訳ないのだがね」
 ザシュ、と大鎌をほんの僅か横へずらす。
「あ、か――」
 たったそれだけで男は首を失い、胴は目的を失い床へと倒れる。
 ……尤も、生きているかそうではないだけで、最初から男に目的などあったのかは分からないが。
「……」
 ヨーゼフは近くにあった”槍”を回収してから丁寧に血を拭き取ると、今し方殺した男へ背を向け、部屋を後にしようとする。
 いつもの事ではあるが……いつもよりも”上”は大騒ぎしていたような?そんな疑問が頭の中へ浮かぶが、口には出さない。
 なんでもユダヤ教の祖父を持つ、売れない画家崩れと聞いていた。
 それがたまたま”槍”を手にしてから、魔術国家の樹立――とかいう『幻想』に囚われた、とか。
 命を刈った相手に敬意も湧かず、かといって感情の軛が揺れる事もない。
 祈りの言葉を捧げようとも思ったが、彼は確か自らが神になろうとしていた筈。だとしたら少しばかり失礼になるかも知れない。
 なのでその代わり、ヨーゼフは死んだ男へこう呟く。
「――『幻想(ゆめ)』を見るのなら、寝てからの方が佳い」
773:
――現在
 そろそろ薄暗くなってきた――元より昏かったのだが――空を仰ぎ、ヨーゼフは一つ溜息をつく。
 名前が思い出せない。この間、命を奪った”神の敵”とやらは一体どんな名前であったのだろうか?
 名前が思い出せない。今日この場で、命を奪う”神の敵”とやらは一体どんな名前であるのだろうか?
 興味は無い。だが、それもまた――。
(……佳い、か)
 少年にとってすればよくある事であり、日常の一コマに過ぎない。
 血塗られた闘争の日々は誰に誇れるものではないが、決して卑下をしているのでもない。
 ”歴代屈指”と呼ばれた異端審問官の職にあるのは喜び、神へ奉仕するのはただそうであるべきだ、と。
 実際にそれは間近ってはいないのだろう、きっと、多分、そう、恐らくは。
 ……カッカッカッカッカッ……。
 粘りけのある不快な雨のカーテンの奥から、今時珍しい馬車の音が響く。
 あれに乗っているのが”神の敵”だそうだが、名前は……?
(……いや、何かおかしい……か?)
 雨の中を駆けてくるにしては少し――いや、かなり早すぎる。
 徐々に露になってくる馬車の全貌が明らかになると、ヨーゼフは目を剥いた。
「御者が居な――なん、だ――ッ!?」
 閃光。視界が一瞬で白く染まり、反射的に着衣の祈り――防御の術式――を編む!
(襲撃計画が漏れた?それとも見破られるほどの相手なのか?)
 自答するも応える声は無く――そしてまた衝撃の類も無かった。
(……何故?)
 ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ、ギギイィンッ!!!
 風の刃が、”馬車の真後ろから何者かが放った”魔術が、馬車の車輪を切断する。
 ぐしゃあぁぁ、と馬車全体の輪郭が歪み、残っていた車輪もひしゃげ、派手な音を立てて横転する。
(襲撃者?こちら以外にもか?)
 ヨーゼフと同じ黒服はこちらに気付かぬまま、半壊した馬車の扉へ手を掛ける。
 幾つか選択肢が脳裏を過ぎり――ヨーゼフが大して迷いもせずに、その掌を襲撃者へと向ける。
 ――そう、不遜にも”神の敵”を奪おうとした愚か者へ。 
「『Der Ho"lle Netz hat dich umgarnt!』」
(地獄の網が貴様を絡み取った!)
「『Nichts kann vom tiefen Fall dich retten,』」
(奈落への墜落から貴様が帰る術は無く)
「『Nichts kann dich retten vom tiefen Fall!』」
(奈落への墜落から貴様を救う法も無い!)
「『Umgebt ihn, ihr Geister mit Dunkel beschwingt!』」
(暗闇に沸き立つ悪霊達よ、あれをとりまけ!)
「『Schon tra"gt er knirschend eure Ketten!』」
(あいつはすでに、歯軋りしつつ、貴様達の鎖に繋がれている!)
「『Triumph! Triumph! Triumph! die Rache gelingt! 』」
(勝利だ!勝利だ!勝利だ!復讐が果たせるぞ!)
「『――Der Freischu"tz!!!』」
(――魔弾の射手!!!)
 悪魔ザミエルが狩人へと渡した”魔弾”、それを模した術式は青白い炎の形を借り、狙いと違わず襲撃者へ飛ぶ!
774:
「――っ!?」
 何者かは慌てながらも防壁を構築する。
 ギギギギギ、と魔術で急造された盾が悲鳴を上げるが、砕け散る前に『魔弾』を魔力の盾で防ぎきった。
 反射的に取った術式でもこの精度、敵が並々ならぬ実力であるのは間違いない。
 ――が、しかし。
 ずぷっ。
「あ――」
 新たな襲撃者の胸、そこには既に大鎌が突き刺さっていた。
 先ほどの魔術自体が陽動――ではない。ただ追尾性と持続性の高い魔術を放った後、距離を詰めて鎌を振っただけである。
 言葉にすれば単純極まりないが、最大限警戒されている中、相手に気取られる事無くやってのけるのは至難の業だ。
 ……ヨーゼフにすれば、それもまたいつもの事ではあるが。
「……Amen(かくあれかし)」
 屍となった襲撃者の死体を退かし――また祈りでも捧げてやろうか悩んだが、止めた――代わりにドアへ手を掛ける。
 転倒の衝撃で歪んでいた扉をこじ開け、中の人物へ大鎌を――。
 時が、停まる。
 ヨーゼフの目に入ったのは美しい金の束――では、なく、肩で切りそろえた綺麗なブロンド。
 次に確認出来たのは少年と同じぐらいの背丈、つまり対象が子供の姿をしていた事だ。
(これは……なんだ?一体――)
 左手に持った『ジョン・ボールの断頭鎌』は動かせない。魔術を放とうにも腕がピクリとも動かない。
 何かの魔術に囚われてしまったのだろうか、そうヨーゼフ判断し舌を噛みきろうとする――その、僅か数瞬前。
 ”神の敵”は微笑んだのだ。
「あなた、あなたが助けてくれたの?ありがとうなんだよ!」
 正面からそう言い切られた。誤解だ、と否定するのが怖かった。
 文字を憶えたての子供のように、悪く言えば少々挙動不審な者のように少年は口ごもる。
 それはまさに年相応のものであり、それが可笑しかったのか”神の敵”はこれ以上無いほど相好を崩す。
「私の名前はね――」
「――ローラ、ローラって言うんだよ?」
(……あぁそうか。彼女がそうだったのか……)
 彼女が名乗った名前、それはまさにヨーゼフが手に掛けなければいけない者と同じであった。
「ローラ――ローラ=スチュアート……ッ」
「あ、ごめんなんだよ?もしかしたらあなたはわたしを知ってるのかも知れないけど」
 そう、”神の敵”は。 
「わたしはあなたを憶えてあげられないみたいなんだよ、ごめんね?」
775:
 これはとある物語。
 決して語られない物語。
 かつてありそして今もあり、しかし未来は閉ざされた物語。
――『戦場の咆吼は彼方へと消える』
 戦いは、終わった。
 大勢が殺され、一人が生き残り、一人が死に損なった。ただそれだけの顛末。
 敵味方が死に、それ以外も死に、とてもではないが関わった全てが等しく不幸になった。たった二人だけの戦争。
「……佳い、もう泣かなくても佳いのだ」
 血だらけの躰を引きずって、返り血と刀傷、数える気にもならないぐらいの魔術を受け、”着衣の祈り”はもう既に役割を果していない。
 全身が油の切れた操り人形のように軋むが……少年はこれ以上少女の前で無様な真似を晒す訳には行かないのだから。
「バカっ……!どうして!あなたが!一人で、戦っ……て!」
「善意に代価など要らぬ。そしてまた厚意に代償を求めてはいけない」
 違う。そんな事を言いたいんじゃない。そんな”下らない”事を言いたい訳なんて、ない。
 あまりにも正論過ぎるが故に、ともすれば胡散臭い台詞なんて言いたくはなかった。言うべきではなかった。
 だが――少年は気付いてしまった。”それ”を口にすれば何が待っているのか、何を意味するのか。
 それは紛れもなく目の前の少女の誇りを傷付けてしまう事に。
「……これで佳かったのだ、これこそが佳かったのだ。そうでなければ、君は――」
「――善人め」
 少女はその歳に合わぬ凶相――精一杯の睨みを効かせ、少年を睨む。
 あぁそうか、そう言う事か。私は彼女の言う通りなのであろう。そう少年は悟る。
 助けを求められ、命を賭け、命を捨て――しかし何も求めない。
 『無償の愛とは如何に残酷』なのであろうか。
 好意であれば相手にも受け入れられるかも知れない。打算的であっても同じ事だ。
 けれど、”これ”はあくまでもただ『隣人を助けよ』という”神の言葉”に従ったものだ。
 だから、そう、だから――。
「……君でなくとも、私は、助けた。救いを求めるのであれば、それが、仕事だ」
 宗教的な理由により、信条的な欲求により助けた。そうでなくてはならない。そうであるべきだ。
 義務に従ってやっただけ、ならばそこに感情の入る余地はない。
 少年に狂信的台詞を向け、仕事を依頼した司教達がそうであった。
 絶望的なまでに非人道的な任務であったとしても、それは”狂信”の名の元に肯定される。
 一を切り捨てて百を助けるような選択肢であっても、一を殺す事には代わりはない。
 ならばどうする?正義のために不正義を為し、善のために悪を成す、そんな矛盾を解消出来るのか?
 答えは”狂信”だ。自身らが狂っている、イスカリオテのユダの如く命じられたままに生きれば、それは免罪符となり得る。
 少年の上司達もそうであったのもだろう。自分達は信仰に狂い、無慈悲な命令を無垢な少年へ下す人間達だと。
 だから――そう、だから。
 ”命じられた少年に罪などないのだ”、と。
「君は”たまたまそこに居ただけ”に過ぎない。私の前にだ」
 少年が歩く轍は狂信である。ならば目の前の少女を死力を尽して助けた事であっても、”偶然”なのだ。
 ……そこに入る感情など入ってはいけない。疑いすら許されない。
 だからこの物語はここで終り。これ以上は続かないし、交わった道も永遠に途絶える。
 背を向け、今にも途絶えてしまいそうな意識に活を入れながら、少年は次の戦場へと足を運ぶ。
 風向きか、はたまた妖精の悪戯か。少年の耳に消えそうな言葉が届いた。
「けれどあなたは笑っていたでしょう――この善人め!」
 少年が少女と出会い、幻想を殺して禁書目録を手にすると言うだけの――。
 ――そう、それは”先代”達の物語。
>>>『旧約 とある魔術の禁書目録』 へ続かない
鎌池先生ごめんなさい鎌池先生ごめんなさい鎌池先生ごめんなさい悪気は無かったんですホンットにごめんなさいもうしません
偉大なるタイトルの名前パクるなんてもうしませんごめんなさい
776:
――倉庫
……ドゥォ……ンン……
上条「……お?」
上条(どこかで爆発音……なんだろう?)
レッサー「大変です上条さんっ!ステージの方で魔力の反応が!」 ガチャッ
上条「なんだって!?――待て待て、少し待とうかレッサーさん?」
レッサー「あい?」
上条「君、殆どタイムラグなしで来たよね?もしかして扉の外で待機してなかった?」
レッサー「さすおにー」
上条「略すな。それとお前みたいな妹を持った憶えはない!」
レッサー「てか扉の外でスタンバってましたが何か?」
上条「正々堂々開き直られてもアレなんだが……なんでまた?」
レッサー「上条さんへイタズラ(性的な意味で)しようとする輩からガードするために決まってるじゃないですか!」
上条「俺らの国ではな、『絵に描かれた虎を退治しろ』って無茶振りをされたお坊さんの話があってだ」
レッサー「あ、知ってます知ってます。屏風ごと焼き払うんでしたっけ?」
上条「惜しいっ!それをやらかした人は織田信長って人だよ!」
レッサー「何度か触れましたが、神官が武装すると碌な事になりませんからねぇ」
レッサー「――って、そんな事より危険がピンチですよ上条さんっ!どこかのNTRり大好き女があなたの貞操を狙っています!」
上条「鏡鏡……うん、レッサーさんは洗面所まで行って鏡見てきた方が良いんじゃないかな?」
レッサー「ではあなたの瞳に映った私を見ると言う事で一つ!」
上条「待て!脱ぐな!スカートに手をかけてないでドアの所まで下がれ!あと一秒前の台詞を思い出してあげて!」
レッサー「さっすが私の愛する上条さんっ!結婚してイングランド国籍になって下さいっ!」
上条「ホンッッッッッッッッットにブレねぇなそういうトコが!悪い意味で!」
レッサー「という訳で上条さんの童貞を守るために、まず私が頂くという事でお一つ。はい」
上条「前にも使ったネタだからね?自重しようか?」
マーリン「(……や、今さっき、『ブリテン』やのぉて『イングランド』ちゅーた辺り、緊張しとぉよね?)」
ラシンス「(……ん。いつもブリテンブリテン言ってるのに……)」
レッサー「ウッサいですねっ!私にだって噛む時ぐらいあるでしょーが!」
ベイロープ「はいはい、レッサーもそこまでしなさいな。それより現状確認ね」
上条「『新たなる光』の四人、じゃなかった五人は居る」
777:
フロリス「でもジーサンは居ない――あ、犯人分かっちゃったカモ?」
レディリー「消去法で分かるわよね。もう一人のボウヤが居ないって」
ランシス「……んっ……魔力派が……あはっ……!」
レッサー「変態だーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」
上条「だから鏡見ろつってんだろ。てか助けに行かないと!」
レッサー「いやぁ助けって言うか、マタイさんが仕掛けたんだと思いますけどねぇ」
マーリン「上条はんには分からんかもやけど、多分アンタ以外でセレーネに一番ブチ切れとぉんはあのお人やしなぁ」
上条「なんでまた?そりゃ世界をイジられて怒ってんのは分かるけどさ」
レッサー「にゃんだかんだで十字教の本質は『唯一神』至上主義ですからねぇ。異教の神々は即敵ですし」
上条「や、でも北欧神話の話とか普通にしてなかったか?」
レッサー「殺虫剤の開発者が必ずしも虫好きだとは限りませんよね?」
上条「……納得した」
マーリン「盗聴を警戒して打ち合わせなしで突っ込んだんちゃうかな。『法王の結界』ちゅーても相手が相手やし」
レッサー「ま、予定より少しだけ前倒しになりましたが、向かいましょうか決戦へ」
上条「おう!――って俺は?俺このまま外出て良いんだっけ?」
マーリン「確実に『常夜』の影響を受けよぉな」
上条「ダメじゃんか。てかお前らよく平気だな」
レッサー「右手の、これ、ほらこれこれっ。分かりますかね?」
上条「人差し指に指輪……?あ、宝石の中で炎が揺れて――魔術、だよな?」
レッサー「えぇ、『英知の灯台(Fire of Surtr)』。名前は仰々しいですが、ただ持ち主の魔力を消費して光るだけの霊装です」
レッサー「消費も極小なので、駆け出しの魔術師が魔力維持の練習するのによく使われる――ん、ですが」
レッサー「どうやら『常夜』の性質上、”明りを灯している相手”には効きが弱いようでして」
上条「明り?」
マーリン「向こうさんの術式が『夜』言ぉ事やんね。やから火のついたタイマツや燭台さえ持ってさえいれば、即影響を受けへんのよ」
上条「……だったら起きてる人、結構居るんじゃないのか?」
マーリン「日常的に火のついた長モン持っとぉ人、ワイは人としてどぉか思うんやけど……」
778:
レッサー「ちなみにレディリーさんとマタイさんは、お洋服そのものがある種の結界になってますし、我が師マーリンは――」
マーリン「なん?」
レッサー「――なんかこう、もふもふした超パワーかなんかで『幻想殺し』もキャンセルしてますし、いいんじゃないですかね」
マーリン「待ってぇな?ワイの扱いおざなりちゃうん?お?」
マーリン「こう見えてもアレやねんよ?今でこそマーリン言われとぉけど、昔はこう見えてもブイブイ言わせとぉ――」
上条「で、俺はどうすればいいのかな?魔術は使えないし」
マーリン「あるぇ?最近誰もセンセをリスペクトしてへんね?なんで扱い適当なん?」
レッサー「えぇ、ですので。”これ”をどうぞ」
上条「これ?――ってサイリウム、だっけ?」
レッサー「上条さんを回収した際、お持ちでしたのでついでに持ってきました。流石にタイマツ片手に乗り込むのは辛いでしょうしね」
上条「……懐中電灯とかマグライトじゃダメなのか?」
レッサー「白熱電球であれば、中のクロム線が燃焼している――と、言えなくもないですが、LEDライトは辛いかも知れませんね」
レッサー「魔術の属性的に、というか”夜の闇”を打ち払うには灯の点った道標が必要ですから」
上条「でもサイリウムって確か化学反応じゃ……?」
レッサー「それを言うのであれば燃焼だってそうでしょう?現象に意義を見いだすか、行動に意義を生ませるのか違いでしょーかね」
レッサー「あ、多分ポケットに突っ込んでるだけで効力あると思いますんで、それでお願いします」
上条「了解。あ、効果時間が切れたら?パッケージには……大体6時間って書いてあるけど」
レッサー「文字通りタイムリミットでしょうね、それが」
上条「厳しいが……ま、いつもやってる事だな」
レッサー「ですね。ではでは参りましょうか」
上条「……あぁ!」
779:
――LIVE会場近郊
上条「……」
上条(空へ出た俺達を歓迎する者――”モノ”は誰も居なかった)
上条(幸いにしてマタイさんが文字通りの露払いをしてくれたんだろう。感謝しないと)
上条(青ざめた月の光――けどそれは空から降り注いではいなかった)
上条(月があると思われる場所には、夜空を隅で塗り固めたような漆黒の穴が口を開けている)
上条(その中心部から伸びる光の柱、光源らしい光源はそれ以外にはなかった)
上条(街の至る所を覆う世界樹?だか言う、茨の蔦は会場やステージ近辺でプッツリと途絶えていた、んだが)
上条(まるで蔦だけを吹き飛ばした魔術のように……”まるで”じゃなく、事実その通りなのかも知れないが)
フロリス「センセー、これってジーチャンが?」
マーリン「十字教の対個人系”最悪”の術式やな」
ランシス「……最悪?」
マーリン「まず相手に気取られんよぉ結界張っとぉ閉じ込めますぅ。次にそん中へ超々高熱の塊召喚してぇの、結界ん中で反射反射さしよぉ」
マーリン「逃げ場を失ぉた熱が延々結界ん中で反射しよぉから、魔力消費の割りにエゲつない術式としては有名なんよ」
マーリン「そもそも魔術的な熱量やから、燃料も酸素も要らんし核融合もせぇへん……『メギドの火』言ぅたかな?十字教の名前やと」
レディリー「ちなみに十字教の術式へ組み込まれる前は『ファラリスの雄牛』、または『モロクの聖竈』と呼ばれていたわね」
上条「……不用意に検索したら精神的ブラクラ踏みそうな響きだよなっ!」
マーリン「人は『常夜』の影響下やし無傷なんは当然として……建物に溶けた跡はないなぁ?」
上条「建物の時間も停まってんじゃないのか?停まった時間の中にいるから、変質はしない、的な理由で?」
レッサー「あーはい。ラノベの古代都市でありそうな設定ですよねぇ」
レディリー「魔術師的にも再現は可能よ?コスト的にも到底見合わないってだけで」
マーリン「クロノスからノルン三女神まで時間信仰から転じとぉ神さんは多い――てか、魔神セレーネは三日月のシグマを聖印に持っとぉし」
マーリン「三相女神に当て嵌められとぉ役割は『末子』。茨姫で糸紬で刺された逸話もミックスされとぉ」
レディリー「……あぁ成程。世界を覆い尽くす茨は何かと思っていたけれど、意外にロマチックな理由だったのね」
マーリン「時の一つ二つ停められとぉても今更やけど、ロマンあるかいな?」
レディリー「素敵じゃない?だってお姫様を起こす王子様がこちらに居るのだから」
レッサー「王子様()」
上条「人を指さすのは良くないと思うんだよ、うん」
780:
レディリー「あなたがアリサを助けに行く役目でしょう?他に誰か王子様が居るのかしら?」
上条「柄じゃないって意見は?」
レッサー「どうしてお嫌であれば、そうですねぇ……魔術的にも相性が良さげなのは――」
レッサー「誘拐された王妃グィネヴィアを救い出したランスロット卿――の、魔術を得意とするランシスに任せますけど、どうします?」
レッサー「ま、高確率で百合の花が雄々しく咲き乱れちゃったりする展開が待ってるかも、ですが」
マーリン「あー、『助けろとは言ったが手を出すなとは言われていない』、やったっけ?」
ランシス「……それほどでも……!」
ベイロープ「反省しなさい、ね?」
上条「……と、当然俺が行くに決まってるさ!あぁっ!」
フロリス「そしてそこの百合厨、満更でもない顔しないよーに」
レッサー「……今にして思えば(性的な意味で)ラシンスはアリサさんに懐いていましたし、運命だったのかも知れませんね……ッ!」
上条「台無しだよ。お前が小声で”性的な意味で”つってる時点で全てがぶち壊しだからな?」
マーリン「グィネヴィアを攫ぉたんは冥府の王子っちゅー異伝も残されとぉし、そこいら辺なんかシンクロする部分があったんかもなぁ」
上条「それじゃもしかしてランシスが俺のベッドへちょくちょく潜り込んできたのも?」
ランシス「……あ、ごめん。それ性癖」
上条「お前っレッサー以上にフリーダム過ぎるわっ!」
フロリス「一応、『同衾する男女の間に剣を置く』のはトリスタンとイゾルデの逸話の再現なんだケド……」
ベイロープ「この子が考えてる訳ないわよね」
レッサー「あのぅ、それよりもですね?今上条さんが仰った『私以上にフリーダム』がどうしてツッコミとして成立するのか、というのをですね」
レッサー「てーか『レッサーよりも』がツッコミの対象になる時点で、私のハートがブロークン的なアレなんですけど」
マーリン「反省しぃよ?アンタもぉちょいクレバーにならんと」
ベイロープ「先生、レポートは?」
マーリン「誰にでも失敗ぐらいはやらかすよって!ウン、いやマジで!」
上条「盛り上がってる所悪いんだが、そろそろ行くぞー?」
レッサー「っと失礼しました」
上条「――よし、それじゃ改めて行こうか!」
レッサー「作戦名――『行き当たりばったり』!」
上条「……ま、いつもの事なんだがなっ!」
781:
――『Shooting MOONツアー』ライブ会場 特設ステージ
上条(マタイさんが放った――と、思われる――魔術のおかげでステージ上の異物、茨の蔦や根は一掃されている)
上条(アルフレドに『団長』、マタイさん……魔神の姿も見えない)
上条(あるのはただ光の柱だけ――だが、何か染みのような……?棒きれが刺さっている……?)
レッサー「……『ジョン・ボールの断頭鎌』ですね。一体何があった――の、かは想像つきますけど」
上条「刃の殆どが柱へ食い込んで、棒みたいになってんな……もしかしてマタイさんが倒したってのは?」
マーリン「あの程度で殺せるんやったらワイらで終わらせとぉ――し、セレーネ殺す”だけ”はせぇへんよ」
上条「なんで?」
マーリン「あ、レッサー、フロリス、ランシスとレディリーはんは術式の準備宜しゅう。今のウチにしときぃ」
マーリン「ベイロープも――気張って来ぃや、踏ん張り所やからな?師匠置いて弟子が先にアヴァロン行くよぉな親不孝はしたらアカンよ?」
ベイロープ「先生の場合、ほぼ全員看取った側だと思うけど……はい、戻って来るわ」
上条「マーリンさん?」
マーリン「ん?まあこっちの話や……えっと魔神クラスの戦闘力やったら、わざわざ龍脈破壊せんでもセレーネは殺せるんよ」
マーリン「なんや言ぅてもセレーネの神としての位階は、アルテミスやヘカーテよりも格段に落ちとぉ。天草式の『神殺し』なら勝算もあると思うわ」
マーリン「当然マタイはん――先代教皇はそれに類する『神殺し・神堕とし』の術式は使える筈やしね」
上条「んじゃなんで?」
マーリン「……ただなぁ、当然セレーネ倒した後、龍脈の流れは元へ戻るんよ。それは分ぉ?」
上条「良い事だろ。それは」
マーリン「やんなぁ。やけど――アリサはんは帰って来ぃへんよ?それでもええのん?」
上条「それは……っ!」
マーリン「幸い、今は龍脈が活発に動いとぉ。やから助け出す――こっちの世界へ『引っ張り出す』んやったら、これ以上の機会は無いんよ」
マーリン「やからマタイはんが気ぃ遣ぉてくれたんちゃうかな、ってワイは思っとぉ」
上条「そう、か」
上条(約束――したんだよな、確か。『アリサを守って欲しい』って)
マーリン「……ま、『神殺し』の術式そのものの成功率の低さから言っても、ワイらがするように搦め手、龍脈から崩した方が勝算も高いんやけけど――」
上条「けど?」
マーリン「――あぁ、うん。なんや変なオブジェやな思ぉたらそぉいう事かい」
上条(彼女――もふもふ――の視線の先にあるのは光の柱……ではなく、それに刺さった死神の鎌)
上条(今更なんだろう?と、思っていると――)
上条(――柱に打たれた鋼鉄の楔を掴む手が柱の”中”から現れる――)
上条(――そう、光の柱の突き刺さっていた大鎌を引き抜く、その細い手は――)
上条「――セレーネ……ッ!」
セレーネ『――ヨーゼフ?わたしの可愛いヨーゼフはどこに行ったの?』
セレーネ『かくれんぼはもうお終い。鬼はあなたを捕まえるわ』
782:
セレーネ『泣き虫ヨーゼフ。あなたはいつも笑ったままベソをかいていたわね』
セレーネ『だからもう還りましょう?あなたが生まれた馬小屋へ、わたしに背負われ泣き止んだままで』
上条(アリサの姿のママで無邪気に笑うセレーネ……だがどこか、空虚な深淵を覗いてるかのような寒気がする……!)
上条(言葉ヅラでは子が親を心配している感じだし、薄く笑った顔には母性みたいなものがある――だが)
上条(逆に言えば”それしか”無い。人の母親である前に、一人の人間である筈なのにどこか作り物じみている)
上条(……あぁ、こいつは”からっぽ”なんだろう。アリサとは違って)
マーリン「早ぉ!レディリーはんのトコへ!」
上条「了解!マーリンさんも気をつけて!」
セレーネ『当麻?この声は当麻――と、あなたはだぁれ?』
セレーネ『死の臭い。嗅ぎ慣れた血と産道の臭い……あぁこれは、これはコノートの』
セレーネ『旧い旧い地母神の欠片がどうし――』
マーリン「嫌やわぁ、そんなん言いっこなしやんね?乙女の過去を詮索するなんて、ええ趣味やないんよ」
レッサー「乙女()」
マーリン「レッサーウッサいよ!ワイが珍しゅうシリアスになっとぉねんから邪魔せぇへんといて!」
マーリン「てかさっさと術式の準備組ぃよ!上条はんとアリサはん戻って来ぉたら即ぶった斬るんやし!」
セレーネ『アーサー?アーサー達も来ているのね!……あぁ良かった、心配していたのよ』
セレーネ『お友達も来ているのね?わたしの可愛い子供達、さぁわたしにお顔を良く見せて頂戴?』
マーリン「待ちぃな。ワイの子供達へ手ぇ出したら許さへんよ」
セレーネ『あなたの子供……?』
マーリン「今更話し合いはなしや、魔神セレーネ。アンタが顕現した以上、もう倒す以外に子供達を救う方法は無いんよ」
セレーネ『子供達を?……あなたは一体何を言っているのかしら?』
マーリン「話して分かるとも思えん――少しだけ、アンタの”時間”、盗ませて貰ぉな」
マーリン「『”Fragment of the goddess to die in Connacht orders it. ”』」
(Connachtに死す女神の断章が命じんで)
マーリン「『”Fill the cup with the blood of the fairy king who hangs out Triskelion. ”』」
(三脚巴を掲げる妖精王の血で杯を満たしぃ)
マーリン「『”Goddess that worships the authority, evil, frenzy, and the three pillars must raise the roar. ”』」
(権威、悪、狂気の三柱を崇める女神が咆哮を上げぇよ)
マーリン「『”Red Honey kind with a bad hobby must melt to the earth and utter one's first cry. ”』」
(趣味の悪い赤蜂蜜種は大地へ溶けてもぉて産声を上げぇよ)
マーリン「『”Through the house give glimmering light, By the dead and drowsy fire.”』」
(館の中がまだ薄明るいけども、もう火は消えかかって眠そうになっとるやんか)
マーリン「『”Every elf and fairy sprite Hop as light as bird from briar, ”』」
(さぁさぁ、妖精どもはみんな跳ね廻れ跳ね廻れ、茨から鳥が飛ぶように)
マーリン「『”And this ditty, after me Sing, and dance it trippingly.”』」
(そうしてワイが音頭を取るから、それについて歌って、身軽に踊るんよ)
マーリン「『”First, rehearse your song by rote To each word a warbling note.”』」
(まずはお前さん、素面で歌ぃ。一言一言に節をつけぇの)
マーリン「『”Hand in hand, with fairy grace Will we sing, and bless this place.”』」
(皆が手を取り合って、霊妙な声で歌を唱って、この家を祝福してや)
マーリン「『”Trip away, make no stay, Meet me all by break of day.”』」
(駈けて行きぃや。ぐずぐずせんと。夜が明けるとまたみんな一緒になるさかい)
マーリン「『"Change, Coagulate, and time doesn't advance ahead――. "』」
(流転しぃや、凝固しぃよ、時は必ずしも前に進むとは限らないよって――)
マーリン「『”――A Midsummer Night's Dream”』」
(――真夏の夜の夢)
783:
……ザリザリザリザリザリザリッ!!!
セレーネ『――――――――――――――――――?』
マーリン「コノハトの大地下墳墓から喚び寄せた影の鎖やんね。月齢に応じ、新月に近ければ近い程”影”の鎖は強度を増すんよ」
マーリン「本来満月の日には出しても意味はないんやけど、月蝕やったら下手な夜よりも威力は増すっちゅーねん」
レッサー「ナイスっもふもふっ!流石はAdob○一押しだけはありますねっ!」
マーリン「おおきにっ!応援ありがとうなっ!このまま完封しとったるわっ!」
セレーネ『――ぼうや、わたしの――』 ミシッ、ミシミシミシミシミシミシッ
マーリン「……あ、ゴメン。やっぱダメやったわー、何となくやけどそんな予感してたわー」
レッサー「ですよねぇ。私も『あ、フラグ立ったな』って言ってて思いましたもん」
ベイロープ「いい加減にしなさい変態師弟コンビ。全部終わったらケツを引っぱたくのだわ」
マーリン「や、ま、まぁ時間稼ぎやったら充分……ちゃうかな?うん、多分多分っ!イケるでしかし!」
上条「……なぁ、アイツら大丈夫か?俺がアリサ連れて帰ってきたら全滅してましたー、みたいなオチは嫌だからな?」
レディリー「いいんじゃない?あなたが絶望に悶える顔はとても楽しそう……ッ!」
上条「いい加減にしやがれ合法ロ×!違法×リのバードウェイにだってそんな暴言吐かれた事は――」
上条「……」
上条「……な、ないよ?うん、無いと思うな?」
レディリー「気が合いそうね、『明け色の陽射し』の子だっけ?」
レディリー「ま、冗談よ。魔術師マーリンの名に相応しく、古代ケルト系の影の女神の術式は見事としか言えないわ」
上条「その割には……なんかこう、なぁ?」
レディリー「魔神相手に時間を稼げるんだから、それ相応の実力って事――さて、それじゃここへ横になってくれるかしら」
上条「あぁはい……これでいいか?」
レディリー「それじゃ気を楽にして。今、あなたの精神を龍脈――冥界へ繋げるから」
上条「繋げる?」
レディリー「詳しく話すのは私の役目じゃないし、また『予言巫女(シビル)』として正解を知らせるのも禁じられているわ」
上条「よく分からないんだが……」
レディリー「そうね……『答えを知っている者には回答権が永遠に失われる』、って言えば分かるかしら?」
レディリー「シュレディンガーの猫のように、箱の中身を観測してしまえば、それはもう結果を固定してしまう事に繋がるの」
レディリー「”私が知る冥界”と”あなた達の知る冥界”のイメージが混ざれば、それはもうクノッソスよりも手がつけられないわ」
レディリー「そもそも、入っているのはシュレディンガーじゃなく、ウルタールの猫かも知れないしね?」
上条「……うん?」
レディリー「これ以上は何も言えないのだし、あなたの騎士さんへ任せるべきでしょうけれど――そう、ね」
レディリー「だから私はあなたへ掛ける言葉はこれだけ。そう、たったこれだけ――」
レディリー「――あの子の『幻想』を殺してあげて、ね?」
上条「それ俺、割と得意な方だ」
レディリー「良いお返事よ、素敵だわ――それじゃ、目を瞑りなさい」
784:
レディリー「『”It's considerable Endymion that expands in the sky, and it dies and it is a sleep lover. ”』」
(天空に伸びる大いなるエンデュミオン、死して眠りし恋人)
レディリー「『”It's delivery musician's harp to his god. ”』」
(彼の神へ届け楽師の竪琴よ)
レディリー「『”Labyrinth that dives on ground is internal organs of the giant who permanently lies. ”』」
(地に潜る迷宮回廊(ラビュリントス)は永久に横たわる巨人のはらわた)
レディリー「『”Sea of entrails is exceeded, and the galley carries heroes to the death. ”』」
(臓腑の海を越えて、ガレー船は英雄達を死地へと運ぶ)
レディリー「『”Whenever the musician Orphean plays the harp, the gate of the nether world gives jarring. ”』」
(楽師オルフェウスはその竪琴を爪弾くたび、冥界の門は軋みをあげる)
レディリー「『”Music sheet must be drawn by the twinkle of a star, and the star that floats on the night sky must tie. ”』」
(星の光で五線譜を描き、夜空に浮かぶ星辰をつなぎ止めろ)
レディリー「『”It deprives the excitement of heavens it and the excitement to the pantheon blood. ”』」
(天上の熱狂と血が神々への熱狂を奪う)
レディリー「『”The offering will awake the thorn from the rent before long. ”』」
(供物はやがて綻びから茨を芽吹かせる)
レディリー「『”It turns and it is possible to turn, and the thorn must be spun and it is necessary to twist up to spinning into Ariadne's string. ”』」
(回れ回れ、糸紬は茨を紡いでアリアドネの糸を縒りあげよ)
レディリー「『”Become an Orphean guidepost gotten off in Tartarus. ”』」
(タルタロスに降りるオルフェウスの道標となれ)
レディリー「『”Ah and the traveler must hang out torch. The light of wisdom doesn't reach even the bottom in a yellow fountain. ”』」
(嗚呼、タイマツを掲げろ旅人よ。英知の光は黄泉の底にまでは届かない)
レディリー「『”Travel from which the half of thine's body was requested started now. ”』」
(汝の半身を求める旅は今始まったのだ)
レディリー「『”It's possible to rage, and it rages. The earth becomes a soil from sand, and it transmogrifies it from Taiki to young leaves about trees. ”』」
(逆巻け、逆巻くのだ。大地は砂から土になり、木々は大樹から若葉へと姿を変えよ)
レディリー「『”The tower where the heaven is defiled changes and the spiral is drawn. As for all, the inversion takes the place of all in the inversion. ”』」
(天を穢す塔は転じて螺旋を描け。全ては逆しまに、逆しまが全てに取って代わる)
レディリー「『”An eternal musician descends on the netherworld. The person who plays the lyre obtains the temporary death. ”』」
(永遠楽師(オルフェウス)は冥府へ下る。竪琴弾きは仮初めの死を得る)
レディリー「『”The bridge has already been built. The stairs to which it goes down the memory of descending on the earth in the pillar. ”』」
(橋は既に架けられた。大地へ下る記憶を柱に降りる階段が)
レディリー「『”The appearance can be shown, it is possible to show, and show――. ”』」
(その姿を現せ、現せ、現せ――)
レディリー「『”――Endymion reverse”』」
(――エンデュミオンの逆さ塔)
794:
――『エンデュミオンの逆さ塔(Endymion reverse)』
上条(一瞬の酩酊感、数秒の浮遊感、そしてブレーキなしで線路へ突っ込んだような目眩がエンドレス)
上条(ジェットコースターの線路が途中でブチ折れて、勢いそのまま空中に投げ出された感じ……)
上条(空を飛んでいるのか、地面へ落ちているのか……二つの感覚は似ているようで、結末は正反対だ)
上条(……まぁ、俺は落下してるんだろうけどさ――なんて、少し心配になるぐらい、奇妙な浮遊感を体験した後)
上条(倒れこんで前のめりになり、床へ手を着いた……床?) ペタッ
上条(てか横になってた筈なんだが……なんで立ってたんだろうか?不思議パワーかなんか?)
上条(……取り敢えず『目的地へ着いたは良いものの、勢いつきすぎて死んじゃいましたテヘペロ』的な事故にはならずに済んだ、と)
上条(レディリーの魔術が成功したんだったら、アリサの居る場所に繋がってないとおかしいんだけど……暗くてよく見えないな)
上条(前の方、ずっとずっと前にどっかで見覚えのある、白と緑色の非常灯がある。そう、両手振ってダッシュしてるポーズのヤツ)
上条(……うん、つーかだな。さっきから俺が触ってる床自体、ほぼ毎日のように見てるっつーか、通ってるっつーかさ)
上条「……」
上条(ポケットへ入れといたサイリウムを灯り代わりにして、周囲を照らしてみると……)
上条(俺の予想通りの光景が広がっていた――なんて、どっかの探検隊みたく気取るつもりはないが、ぶっちゃけるならば!)
上条「……夜の、学校だよな……?」
795:
――深夜の学校?
カツ、カツ、カツ、カツ……
上条(サイリウムをトーチ代わりに取り敢えず探索してみよう。取り敢えずは)
上条(なんつーか殺風景通り越して無機質な極々当たり前の学校の風景が広がっている……なんで?どして?)
上条(見た感じ、ウチの学校とは少し違う造りになってるみたいで、教室の入り口にあるクラス表記――1のAとか――は)
上条(……書いてはないか。ちゃんとタグは付いているんだが、真っ白のまま表記されていない)
上条(出入り口の扉には半透明のガラスが張ってあって、クラスの中を何となく伺う事が出来るが)
上条(……このシチュで誰か残ってたら超恐ぇよ!つーか居ないよ!居たってオバケか何かに決まってるだろうし!)
上条「……」
上条(……いやいや、待てよ。なんでお化けが怖いんだろう?)
上条(オバケは確かに神出鬼没だし、つーか時には命を狙われるから怖いんだよな、うん)
上条(最近の流行りは『ンボオオオォォ』らしいが……まぁ、やってられないよな。そりゃさ)
上条「……」
上条(……でも、オバケには実体が無いよな?少なくとも撲殺的なアレとか、焼殺的なアレとか、針刺してスパーン的なアレはない)
上条(てか基本、怖がらせるだけしか出来ないんであって……)
上条「……」
上条(魔術師の方が怖いじゃねぇか!誰とは言わないが!マジモンでタマ取りにかかってくる分、実体持った魔術師の方がタチ悪ぃわ!)
上条(あー良かった。魔術師の敵が居て良かったわー。だからオバケなんて怖くはないわー)
上条「……」
上条(……虚しいな。他に、他には何か無いのか?)
上条(他に――あ、下り階段と……なんだこれ?意味不明のアルファベットが壁に)
上条(”Tartarus-B001”?たーたーうす、ってなんだろ?新しい食いモン――な、ワケはないだろうから、ここの場所の名前?)
796:
上条(”001”は施設の番号?階数だったらココが一階って意味になるか)
上条(……ま、降りてみる……)
上条「……」 カッカッカッ
上条(階段は途中に踊り場があって折り返しの付いたタイプだ……あぁ、ちなみに)
上条(窓はそこかしこにある。階段だけじゃなくて廊下にも)
上条(……でもただあるだけだ。外は完全な暗闇、光源の一つも無い感じ)
上条(下手に鍵開けて出たらどうなるのかも怖いが……考えないにしよう、と) カッ、カッ
上条(んで、降りてきた先で俺が見た文字は)
上条「”Tartarus-B002”……?なんで増えてんだよ?」
上条(間違いなく下り階段だった筈だが、どうしてプラスされて――あぁそうか、Bは地下室のBか!」
上条(そういやボスに『地下室は”Basement”の略でBだからな?』って教わったっけか。忘れてたなー)
上条(……なんでそんな話したんだろ……?……ま、今は急ごう)
上条「……」
上条(……うん、アレだよな。俺今大変な事に気づいちまったんだけどさ)
上条(普通、ホラ?”0○”みたいな書き方する時って、最初から全体数が分かってるって事だよな?)
上条(何か画像ファイルや資料を用意する時にとかさ、通し番号っつーの?使う順番や整理しやすいように、ファイル名の頭に番号振るじゃん?)
上条(例えば”00 立ち絵透過画像A”、”01 背景B”みたいな感じでさ)
上条(……や、まぁ問題はファイル数なんだよな、ファイル数。うん)
上条(最初から9個のファイルだったら、頭につける番号は1から9までで構わない)
上条(けど二桁になるようだったら、01、02って振った方がパソコン的には後々分類し易い……ん、だけどさ)
上条「……」
上条(……俺が今居るのは”002”階。そう、ゼロゼロがつく……って事はアレだよ。この表記の仕方だとな)
上条(『最低でも三桁、100階を超えるぐらいにまで地下は続いてる』ってオチじゃねぇだろうな……?)
797:
――Tartarus-B053
カッ、カッ、カッ、カッ、カッ
上条(嫌がらせのように延々続く階段を降りて来ている。大体体感時間で2、3時間かなー?)
上条(最初のウチはダッシュで駆け下りてたんだが、途中からは体力の消耗――いざ何かあった時、ヘロヘロじゃどうしようもない――を考え、今は小走り程度だ)
上条「……」
上条(東京タワーには大展望台ってのがあるんだ。大体地上120mぐらいの高さで、特別展望台よりも下にある)
上条(そっから下には専用の階段がついていて、降りたい奴は階段でゆっくり降りられる――ただし!その数は590段!)
上条(途中でエレベーターとかも利用出来ないんで注意しろ、って但し書きが貼ってあるらしい。割と親切……親切か?そうかな?)
上条(でー、だ。話は変って『エンデュミオン』が建てられる前まで世界一高い建物として、ギネスに載っていたのが”バージ・カリファ”ってビルだ)
上条(……てかなんで俺がそんな雑学知ってんだろ?頭の中に浮かんでくる……ま、土御門辺りが喋ってたんだろ。ともかく)
上条(それでそのビル本体の高さが636m、160階建て。あー、という事は大展望台の5倍ちょいの高さだわな)
上条(階段数を変換するんであれば、5×590……2950段。つまり160階を駆け下りるんだったら、そんだけ苦労すると)
上条(んでもって仮に!仮にだけど階数表記がカンストする999階まで降りるとしたら……えっと)
上条(……約18400段……?高さで計算するとぉ――)
上条(――3970m?富士山プラス200mじゃないですかやだー)
上条「……」
上条(や、まぁ下りだし?休憩挟みながら行けば無理じゃないよ?時間は食うけどな?)
上条(ただ、帰り道。アリサ連れて登れるのか?この階段を?)
上条(あっちの世界じゃレッサー達がセレーネの時間稼ぎをしてくれてっけど、間に合うのか……?)
上条(お約束だと『時間の流れが外とは違う!』的な調整やら主人公補正が入るんだろうが、俺は主人公って訳じゃねぇし)
上条(アリサがどこに居るのか、そもそもここがレディリーの言っていた場所なのか、それすらも分かってはいないと)
上条(『答えを知っている者には回答権が永遠に失われる』……なんかの謎かけっぽく言われたのが、多分ヒントになってんだろうけどなー)
上条(……まぁ、魔術も使えない上、完全アウェイである以上、足使って探す以外に方法はないんだよ、多分)
上条(てかここ地下53階まで降り居てきたのはいいんだが……実際に目に見えて変ってるのは階数表記以外にはない)
上条(容量が足りずマップの使い回ししてるRPGのように、どんだけ降りても変わる様子が見られない……あー、クソ。考えてても仕方がないか)
上条(本当に降りてるのかどうか、壁に落書きでもすりゃ分かるかもだが……どうしたもんかな?)
上条「……」
上条(……むぅ。立ち止まってても仕方がない。どっかの教室にでも入っ――)
……。
上条(――て?なんだ?何か今聞こえたような……?)
…………。
上条「……子供の、声……?」
798:
――Tartarus-B053 『 』教室
ギギギィ……
上条(声の出所を辿るのは予想以上に難儀した。あちこちから聞こえる”ような”感じで、変な風に木霊した結果なんだろうが)
上条(三回ばかり空の教室を覗いた後、階段から数えて四つ目の――相変わらず名前は空欄だった――教室を開けると、彼女は、居た)
少女「……どこぉ……」
上条(俺の方へ背を向けて、顔は見えない……てか暗いからな。こっち向いてたとしても分かったかどうかは怪しい)
上条「……?」
上条(こんな所に……子供が一人で?たった一人で、非常灯の灯りもない教室に?)
上条(えっと、これはもしかして――)
少女「どこぉ……あたしの、あたしの――」
上条(少しだけ嫌な予感に捕らわれていると、少女はいつの間にか俺の目の前にまで迫り――)
少女「――あたしの”おかお”はどこへ行ったのぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
上条(――顔の左半分が鋭利な刃物で切断されたように欠け、真新しい断面から血を流す女の子が、ニタリと笑っていた……!)
少女「ね、お兄ちゃん知らない?あたしのあたしの、おかお、半分だけどっか行っちゃったんだよ」
上条「……」
少女「ねぇねぇ、あたしのあたしの――」
上条「――ん、あぁ、悪い。ちょっと待ってな」
少女「え?」
上条「ハンカチ――は、ないか。ティッシュは……あ、珍しく持ってたな」 ゴソゴソ
上条「はいこれ。あ、傷口を押さえとけ、気休めだけど止血ぐらいにはなるから」
上条「つーか暗くてよく見えねぇな。ほれ、廊下行くぞ」 グィッ
少女「……はい?」
上条「いや、だから大怪我してんだろうが!何かの能力だか魔術だか知らねぇけど!どうしてそんなになるまで放っといたんだよ!」
少女「……ご、ごめんなさい?」
上条「てか保健室とかってねぇのかな?……あぁクソ!こんなんだったら他の教室も虱潰しに探しとけば良かった……!」
少女「や、その、こわく、ないの……?」
上条「怖いに決まってんだろ。何言ってんだよ?」
少女「だ、よね――」
上条「……気づいて良かったよ。あのまま泣いてんのに気づかなくて、そのまま下行ったらどんだけ怖ぇか分かったもんじゃねぇさ」
少女「はい……?」
上条「カギが遠慮なんかしてんな!ケガしてんだったら尚更だよ!」
少女「……」
上条「とにかく!さっさと応急手当するから着いて来――」
少女「……ありがとう……」 スゥッ……
上条「いやいや、俺まだなんもしてねぇし。つーかまだ助けられっか分かってないからな?」
799:
上条「地上まで行けば知り合いのカエル先生が絶対に何とかしてくれるんだが……携帯で呼べないかな?救急車の代わりに」
上条「てか先生も寝てるんだっけかー、確か。でも先生なら『患者さんのためなら起きてなきゃね?』ぐらい言って平気っぽいケドなー」
上条「ま、なんにしろ一人で悩むよりかマシだろ?頼りになんないかも知んないけ――ど?」
上条「……?」
上条「あれ……?どこ行った……?」
上条「てゆーかたった今まで手ぇ握ってた筈なのに……」
上条「……」
上条「あ、なんだ!ただの転移能力者(テレポーター)だったんだな!そっかー、いや納得納得!」
ベイロープ「違うと思うのだわ。それは、それだけは絶対に」
上条「マジで?」
ベイロープ「うんまぁ、マジで。てーかタルタロスの迷宮回廊(ラビュリントス)歩いてたら顔面無くなった能力者と出会うってどんな確率なの?」
上条「家に帰って来たらベランダにシスターさんが引っかかってたり、マッ○でダベっていたら巫女さんが通りかかってさ」
上条「ちょっと裏路地を歩けば御坂妹に遭遇するし、父さんが天使を降ろしちゃうよ!やったね!」
ベイロープ「あ、ごめんなさい?その話長くなるんだったら、後からして貰ってもいいかしら?」
ベイロープ「てか部分部分だけ抜き出すと、とてもシャバでは聞こえないような単語か……」
上条「偶然って怖いよねっ!神様も俺を狙い撃ちだよ!」
ベイロープ「そーゆーのいいから現実を見なさい、現実を」
上条「現実……ってか、ベイロープさん?だよね?」
ベイロープ「”さん”は要らないって言ったでしょ」
上条「なんでここに居んの?」
ベイロープ「そりゃ死んだからに決まってるでしょ」
上条「死ん――てかもう全滅したのかっ!?レッサー達もあっさりと!?」
ベイロープ「あー、違う違う。そうじゃなくってね、私の場合は魔術の副作用――ていうか、言ったような憶えがあるんだけど」
ベイロープ「ていうかそもそもここは、擬似的に造り上げられた冥界であって、死んでも魂が還る場所ではないの」
上条「え?どゆ事?」
ベイロープ「だから『銀塊心臓(ブレイブハート)』で、私の心臓はあなたに預けておいたでしょう?」
上条「…………………………はい?」
ベイロープ「んー、取り敢えず移動しながら話しましょうか。時間も有限なのだし」
800:
――Tartarus-B058
ベイロープ「最初に断っておくけど、私はあなたが『冥界下り』の術式をかけられた直後に死んだのよ」
ベイロープ「だからあの後どうなったのかは知らない。タイムラグは10秒ぐらい……」
ベイロープ「でも『こっち』へ送り込まれたのは数十階分離されている、ってコトは時間の流れ方が相当早いようね」
ベイロープ「私達に取ってすればいい話でしょうけど――って、聞いてる?」
上条「聞いてねぇよ!?」
ベイロープ「よし!引っぱたくから四つん這いになりなさい!」
上条「そっちじゃなくて!俺そんなドギツいペナルティあるなんて聞いて無かったって意味で!」
ベイロープ「力を得るには対価を支払って当然。それは私達の業界じゃなくても同じ事よ」
上条「いや、でもさ!」
ベイロープ「あー……ランシスがどうしてアンアン言ってるのは知ってる?『罪人の馬車』って術式なんだけどね」
上条「あぁ知ってる、な。確か『魔剣』だかを扱うには魔力が足りないからって、その魔力を集めるために常時感知してる、だっけ?」
ベイロープ「ランスロットの『アロンダイト』は聖剣にして魔剣の性質を持つ、特別な霊装だかに仕方がないっちゃないのよね」
ベイロープ「『死の爪船(ナグルファル)』も広範囲へバステとデバフバラまく霊装だから、余計に魔力喰らいだし」
ベイロープ「ま、”ランスロット”の術式が、威力も高いけど魔力も遣う、って特性を持っているように、私がリンクしている”ベイリン”も癖がある」
上条「レッサーがアーサーって聞いた時にはテンション上がったが、ベイロープもやっぱりアーサーの仲間だったのか?」
ベイロープ「『デンマークの英雄ベーオウルフ』――”が、アーサー王物語に取り込まれた”のが私の騎士。双剣の騎士ベイリンね」
ベイロープ「逸話は色々あって、『聖槍を敵に使ったが、敵だけじゃなく城・土壌が永遠に呪われ』たり、最期は実の弟と相打ちになって死んだり」
ベイロープ「どうにも『命を賭ければ賭けただけ威力を増す』らしいわ」
上条「……はた迷惑な……!」
ベイロープ「あ、それに別に本当に死んだ訳じゃないから。あなたが仮死状態になったから、それに引っ張られて来ただけだと思うわ」
ベイロープ「どうせ冥界で死人に襲われてるだろうから、護衛には丁度いい――」
ベイロープ「――って思ってたのにっ!どっかのおバカはっ!誰彼見境なくフラグを立ててるしっ!」 ガクガクガクガクガクッ
上条「落ち着っ!?てっ!?俺がっ!?首がっ!?折れっ!?」
ベイロープ「折角先生からシリアスに送り出して貰ったのに、もう台無し……!」 スッ
上条「オーケー落ち着こう?多分ココはあの世っぽい所なんだけど、その鉄の爪で殴られた死んじゃうと思うから?ねっ!?」
上条「……てかそれ、根本的な解決になってなくないか?俺が死んだらベイロープも引っ張られるんじゃ?」
ベイロープ「……魔術的には『一回死んだ』から、もう『銀塊心臓』は解除されているわ。多分」
上条「といいんだかなぁ……」
ベイロープ「ま、来た以上、あなたは私が護るわ。トー……マイマスター!」
上条「解けてんだよな?魔術チャラになったのにマスター呼ぶのはおかしくないかな?」
801:
上条「つーかその呼び方、前から突っ込もうと思ってたけどお前がマスター言いたいだけじゃねぇのか?あ?」
ベイロープ「スコットランドの貴族で、どっちかって言うと『姫様』って傅かれる方だったから、その……騎士に憧れる、みたいな?」
ベイロープ「ウチは基本的に”女系”継承だから、色々と実家が面倒臭いのよ」
上条「独立問題で揺れてるしなぁ」
ベイロープ「『スコットランド万歳!我ら民族の悲願を!』とかホザく連中は居るんだけれど、男爵位は金銭で売買出来るし」
ベイロープ「綺麗事だけを宣って現実を一切省みなさいバカどもに、小さい頃から振り回されてみなさい。誰だって護る側に回りたくなるから」
上条「分かるよーな気がしないでもないが……まぁいいや。俺も一人で歩くのは不安に思ってたし、有り難いよ」
ベイロープ「前教皇猊下が露払いをしてくれた以上、『新たなる光』も少しは役に立たないとね――と、来たわ、私の後ろへ」
上条「おうっ!――いや、俺も戦うし。つーか来たって何が?俺58階まで来るのにたった二人しか会わなかったんだけどさ」
ベイロープ「それは……”そう認識した”以上、世界は変わる」
上条「認識?」
ベイロープ「ヒント、あの世につきものと言えば?」
上条「……死んだ人?」
死人達『おおぉ、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉうぅぅ………………』
上条「――って言った側から!?今まで出てこなかったのに!」
ベイロープ「でも――”死人は所詮死人に過ぎない”わ」
ベイロープ「”生前どれだけ強かろうと、今は龍脈の中に存在する記憶”……だから」
ベイロープ「だから”私の『知の角笛(ギャッラルホルン)』で容易く撃ち払える”……ッ!!!」
ズバチィイッ!!!
上条(ベイロープの構えた『槍』からルーンを纏った雷が辺りを包み込む!)
上条(俺達の降りる階段の先、そして背後に迫っていた得体の知れない何を軽々と吹き飛ばし――)
上条(――僅か数秒にも満たない時間で、周囲の死人を殲滅する……)
ベイロープ「さ、行きましょう?」
上条「……宜しくお願いします」
802:
――Tartarus-B066
上条「てか聞きたい事が腐る程あるんですけど」
ベイロープ「あ、ちょっと待っ――」
バリバリバリバリッ
ベイロープ「――と、何?」
上条「お、おぅ……」
上条(死人――亡者の群れを雷で一掃して、また俺達は歩き始める)
上条「聞きたい事は一杯あるんだけどさ、まずここはどこなんだ?あの世?冥界、って言うのか」
上条「オバケ――てか、死んだ人が出るのは何となく分かるけども、どう見てもここは夜の学校。しかも日本風だし?……や、海外の学校なんて知らないが」
上条「てか確か50階ちょいまでは誰とも遭遇しなかったのに、どういう理屈だろう?深度的な話か?」
ベイロープ「本当に一杯ね、えぇっと……まず、異界とか隠世、天国と地獄、日本じゃタカマガハラやニライカナイは知ってる?」
上条「概念だけは。全部『あの世』って括りなんだよな?」
ベイロープ「そうね。人が死んだらその魂が逝くとされている所であったり、神々が住まう地であったり」
ベイロープ「天国やアヴァロン、妖精王オベロンが住む”常若の国(ティル・ノ・ナーグ)”、浄土にエインヘリャル――勇敢な戦士の魂を集めたグラズヘイム」
ベイロープ「これらを仮に”楽園型冥府”と呼ぶとしましょうか」
ベイロープ「反対にタルタロスやコキュートス、ゲヘナやパンデモニウムにヘイヘイム。そっちは地獄型冥府ね」
ベイロープ「日本の『常世(とこよ)』、”常に変わらずの世界”は楽園型……けれど元々の原型は『常夜(とこよ)』――”常に夜の世界”」
ベイロープ「これは地獄型冥府から楽園型へ転じた例であり、ブッディストの史観が原始信仰と交わっ――」
ベイロープ「……」
上条「どったの?」
ベイロープ「……『知らない筈の知識を知ってる』、か。流石に数多くの魔術師が目指しただけはあるわね、これは」
ベイロープ「カダスへ旅だった愚者カーター。彼が何を求めたのかは理解出来なかったけれど……その代償は『知識』」
ベイロープ「賭けた命、失った正気程に対価が釣り合うとは思えない……まぁいいわ」
ベイロープ「で、多くの場合、それら『異界』は”ここではないどこか”に存在すると考えられてきたのよ。空の果て、海の向こう、地の底とかね」
ベイロープ「でも科学が発達して、人が行ける場所は格段に増えたし、足を運べないような所でも何があるのかは分かってしまった」
ベイロープ「空の果てには宇宙が広がり、海の向こうには別の大地が在り、地の底には個体のまま太陽の表面温度に等しい鉄があるだけ」
ベイロープ「”プレスター=ジョン(異邦より来たる十字教王)”は居ない、って分かっただけ進歩っちゃあ進歩かも知れないわね」
上条「すいません。全っ然わっかんないんですけど?」
ベイロープ「あぁゴメンなさい。えっと、結論から言えば『異界はある』のよ」
ベイロープ「天国であったり地獄であったり、妖精が住む国も、エルフやドワーフの隠れ里も存在はするのよ。それが――」
上条「……『龍脈の記憶』か?」
ベイロープ「そうね。そう考えた方が説明がつく事の多いの」
803:
ベイロープ「古今東西で似たり寄ったりの終末論、そしてどこの国でも共通して語られる『あの世』のテンプレート」
ベイロープ「天国も地獄も、その物理的には存在する余白はなく、ただ概念としてのみ存在し、”情報”として語られるに過ぎない――の、だけれど」
ベイロープ「きちんとした手順を踏めば、いえ下手をすれば偶然迷い込んでしまう事もあるわ。それが『異界』って存在」
上条「けど実際には存在しない、し。後、前にも言ってた『位相世界』だっけか?それらも龍脈の側面にしか過ぎない、って説がある」
上条「だとすれば俺が、俺達が居るこの場所はどこなんだ?どう見ても深夜の学校で肝試ししてる感が強いんだが……」
ベイロープ「大雑把に言えば『異界』で、もっと正解に言えば『冥界』なのは間違いないわ」
上条「ここが?学園モノRPGの学校ダンジョンにしか見えないのに?」
ベイロープ「付け加えるとトー……『マイマスターが思った冥界』が正しい」
上条「なんで俺の名前にオプションつけたの?もしかして今までマスターマスター言ってたのって恥ずかしいだけか?あぁ?」
ベイロープ「真面目な話よ!」
上条「そうだな!……そうかな?」
ベイロープ「オルフェウスの冥界下りの話はどこまで?」
上条「死んじまった恋人助けに冥界まで乗り込むんだけど、結局ダメだった、ぐらい?」
ベイロープ「それを『龍脈』という単語を使って、魔術的に解析すると?」
上条「えーーーーっと、だな。まず”異界は物理的に存在しない”のが、前提だっけか」
上条「でも俺達がこうしているように、つーか”魔術的には存在する”のも分かってる」
ベイロープ「そうね。それで”位相世界は龍脈の一形態”だとすれば……?」
上条「……『冥界を含む異界は”個々人が龍脈にアクセスし、情報を得て見た夢”』……か?」
ベイロープ「と、先生には教わっているわね」
上条「相変わらず謎のもふもふだぜ……!」
ベイロープ「龍脈からこぼれ落ちたマナの破片?だから時々『フィクションのマーリンの性格・性質をトレース』したりするし」
ベイロープ「オリジナルのマーリンが造り上げた術式だか霊装なんでしょうけど、あなたの『右手』でも消えなかった、という事は」
上条「『常に魔力が供給されている』?」
ベイロープ「正解……ちょっと期待したんだけどね」
上条「何を?てーか扱い悪くないか?」
ベイロープ「あの子達と先生の間で苦労する私は……っ!」
上条「ま、まぁまぁ!それはきっとレッサー達が大人になったら改善すると思うさ!」
ベイロープ「……あの子達が”オトナ”になるとでも?」
上条「良し!そんな事よりも現状を把握するのが大切ですよねっ!ですもんねっ!」
ベイロープ「ま、それは別に諦めてるからいいんだけど……ではなくて、冥界の話ね」
804:
ベイロープ「なんて言うのかしら、こう、所謂『異界探訪譚』は様々だけれど、あくまでも『冥界下り』は手段であって目的じゃないのよ」
上条「手段?」
ベイロープ「そう。オルフェウスは恋人エウリディケを甦らせるのが目的であって、冥界へ下るのは死んだ彼女を連れて帰るため。ここまではいい?」
上条「だな」
ベイロープ「でももしこれが、”他に死者蘇生の手段”があれば、わざわざ冥界まで来たりはしないのよ」
上条「神話にツッコむのもどうかと思うんだけど……」
ベイロープ「いやそうじゃなくて。彼がしたのは『儀式魔術師の一種だった』ってのが、こっちの見解ね」
ベイロープ「人は、特にオルフェウス自体は魔術師でも何でもなく、ただ優れた楽師であるだけの存在だったわ」
ベイロープ「冥界から戻って来た後はオルフェウス教団を立ち上げるけど……まぁ、少なくとも冥界へ下るまではただの人よ」
上条「……悪いんだが、何を言いたいのか――」
ベイロープ「と”同じよう”に。ギリシャ神話にはある悲恋が伝えられているの。それが――」
ベイロープ「――『セレーネとエンデュミオン』」
上条「あー、うん。そうだけどさ。それとどういう関係が?」
ベイロープ「セレーネはエンデュミオンが老いるのを悲しみ、自らの手、もしくはゼウスへ頼んで死して眠る存在へと引き上げた」
ベイロープ「『死者の復活よりも難しい奇跡をアッサリと行っている』のは、分かるかしら?」
上条「あーはいはい、成程。そういう事かよ。何となく話は見えてきた……つまりだ」
上条「オルフェウスって”人”は大切な相手を生き返らせるため、わざわざ死後の世界まで行かなきゃいけなかった。これに対して」
上条「エンデュミオンは”神”によって、割とすんなり不老不死の力を手に入れる事が出来た……」
上条「この両者の違いなんなんでしょうかー、って話か?」
ベイロープ「その通りね。エンデュミオンは、まぁ分かるでしょう?」
ベイロープ「魔神セレーネやより上位存在であれば、地上で起きてるような事をやらかすのも可能――あくまでも”神”だから」
ベイロープ「けれどオルフェウスはどこまで行っても楽師でしか過ぎない。実際に仲間を助けるために命を落とし――」
ベイロープ「……?」
上条「うん?」
ベイロープ「『楽師オルフェウスの死後、彼の竪琴の腕を惜しんだアポロンにより星座へと列せられた』……って、誰かが言ってる」
ベイロープ「『だからアポロン神の巫女たるシビルが、冥界下りの術式を使える』のね」
上条「誰と話してんだ、さっきから?」
ベイロープ「えぇごめんなさい。話が途中だったわね――と、結論から言えば『”冥界下り”自体が一つの儀式魔術』なのよ。要は」
上条「そりゃ……そう、じゃないのか?生身の人間が死んだ人らの世界へ行く、ってのは」
805:
ベイロープ「違う。そうじゃなくて――思い出して、『この世界の神話のほぼ全てがフィクションである』のと同様に、『位相世界も存在しない』わよね?」
ベイロープ「だったらどうして、そのわざわざ存在しない筈の世界へ行かなければいけないの?」
上条「位相世界――俺達が天国とか地獄とか呼んでいる世界、それらは無かったと」
ベイロープ「そうね。少なくとも存在はするが干渉をかけてくる事はなかったわね」
上条「が、実際には同じく過去の魔術師、もしくはそれっぽい力を持つ奴らが行った話が残っている……」
上条「例えばオルフェウスは死人の復活だが……後一歩の所で失敗した」
上条「だが同じように。死人なり不老不死っていう力を、ゼウスなりセレーネなりは大したデメリットも労力を支払わずに行使している」
上条「この差は何だ?神様と人の違い?それとも立ち位置の違い?」
ベイロープ「仮に、セレーネ達魔神も元は魔術師だったとすると?」
上条「――『魔術師としての力量の違い』、か!?」
ベイロープ「龍脈は力と記憶が流れ込んでいる――それも地球開闢からずっと。下手をすれば過去だけじゃなく平行世界も網羅しているアーカイバ」
ベイロープ「途轍もなく大きい図書館のようなモノだと……あぁそう、”あなたのように”そう言った方が正しいのかしらね」
上条「うん?」
ベイロープ「教えない。教えたら噛みつくって言ってるし、『ありさのために働くのは当たり前なんだもん!』だって」
上条「……そりゃ怖いな。つーかここでまたお前の世話になんのかよ」
ベイロープ「で、その子が流してくれる知識に拠れば、超々大図書館は知識の宝庫なのは間違いないのよ。全ての答えがあり、また力がある」
ベイロープ「だからその記憶――”魔神”と呼ばれる存在達は、意識的または無意識的に龍脈の力を行使出来るんじゃないかって」
上条「成程。だから神様的な奴らはホイホイ復活とか出来て……でも、オルフェウスは違うんだよな?」
ベイロープ「そうね。何の知識も何も持たない素人が放り込まれても、どれをどうしたら分からないし、予定に下手を打ってしまうかも知れない」
ベイロープ「そうして途方に暮れている所で、龍脈を理解するために発動”させる”魔術が『冥界下り』なのよ」
上条「論理が……跳びすぎてないかな?」
ベイロープ「ゲームでチュートリアル、あるわよね?RPGだったらシステム面を教えたり、戦闘方法や軽く世界観をレクチャーするの」
上条「あるある。『初心者クエスト』だよな。大抵盗賊かゴブリン倒しに行くヤツだ」
ベイロープ「それと同じ。『楽に死人を復活出来ないから、きちんと手順を踏んだ』のが冥界下りの魔術ね」
上条「復活させるための、チュートリアル?」
ベイロープ「オルフェウスの話を単純にすると――」
ベイロープ「『1.死人の世界へ行く』」
ベイロープ「『2.死人の中から相手を選択する』」
ベイロープ「『3.サルベージして生き返らせる』――って流れになるけど……」
上条「……あれ?その流れって、パソコンでファイル探すのと同じじゃね?」
ベイロープ「そうね。パソコンだったら検索機能で呼び出せるけど、龍脈は違うでしょ?」
ベイロープ「そのために『冥界』って概念を造り出した上、『下る』事で特定の情報を選別し、『連れて帰る』行為で肉体の再構成を謀る、と」
上条「つまり、夜の学校っぽい冥界を造りだしたのも――」
ベイロープ「龍脈を操る力が無い、または力を行使出来ない人間にとってすれば、龍脈の知識は猛毒よね」
ベイロープ「下手に触れてしまえば、忽ち発狂してしまうような禁断の知識よ」
上条「……位相世界がそうだったよな。『平行世界からの力を行使するために、神話的な知識をひたすら学んで汚染を防ぐ』……」
ベイロープ「理屈はそれと同じなのでしょうね。膨大で得体の知れないデータを扱うために、わざと可視化させ、日常の延長線のような”世界”を構築する」
ベイロープ「効率の面”だけ”で言えば、コマンドラインインタプリタ方式のインターフェースが最も良かった……」
ベイロープ「けれどそれじゃユーザーにかかる負担が大きすぎるため、後にグラフィカルユーザインタフェースへと切り替えられ、多くの人間の扱いを容易にしたと」
上条「すいません。ちょっと何言ってるか分かんないです」
ベイロープ「科学サイドがそれでいいの?本当に?」
上条「つまり……この世界は俺が造ったようなモンなのか?『冥界下り』って術式――つーかアリサを助けへ行くための手順を、楽に踏めるように」
806:
ベイロープ「魔術サイド的には『橋を架ける』とも言われるわね。北欧神話のビフレストがそう」
上条「理屈は分かった、ん、だけどさ。俺の造った世界にしちゃ矛盾がチラホラ見えるんだが」
上条「まず……死人は?あいつらまで望んだ憶えはないんだけどなー」
ベイロープ「それは龍脈の記憶に残っていたモノが呼び起こされた――の、だし」
ベイロープ「そもそもで言えば『夜の学校にはお化けが出るかも?』とか思わなかった?もししたのであれば、それに引っ張られるわ」
上条「誰だって思うんじゃねぇかなぁ、それは……てか、この冥界ってヤツが俺の想像だったら、もっと簡単に行けた筈じゃないのか?」
上条「延々階段下りマラソンするんじゃなくて、こう、エレベーターか何かで、すーっと行けるような感じで」
ベイロープ「『答えを知った者は回答権が失われる』。この場合、最初から冥界の話を聞いていたら、素直に世界を造れた?」
上条「……」
ベイロープ「繰り返すけど『冥界へ下る』というプロセスは、それ自体が儀式魔術の一部であり、龍脈の力を御し切れない者にとっては絶対に必要なのよ」
ベイロープ「魔術の制御に長けた、聖人か教皇クラスの術者でもない限り、最初から最善の答えを掴めるなんて有り得ないでしょ」
ベイロープ「もしも最初に『龍脈と接続したら自由に出来る世界が広がっているから、最短でアリサを助けに行ける』って聞いてたら、実行に移せた?」
上条「そう言われると……無理、なのかなぁ?」
ベイロープ「『何でも自由に叶う力』は魅力的ではあるけれど、諸刃の剣でもあるのだわ」
ベイロープ「夜の学校へ迷い込んで、『この世界には出口がないのかも知れない!?』なんて思い込んだまま固着すれば、死ぬまで閉じ込められるのよ」
上条「怖っ!?本気で怖っ!?」
ベイロープ「信じたり、奇跡を願う想いは、人が言葉を獲得するよりもずっとずっと昔――原初の魔術と呼べる代物よ」
ベイロープ「だからこそ、術者である当人が『心の底から思い込まなければいけない』し、逆に疑えば魔術は効力を失うの」
上条「あー……前にケンカした錬金術師に、そういうの居たなぁ……」
ベイロープ「ま、アレよね。”世界はもう完全に固まった”し、アリサの記憶が何階ぐらいにあるのか、”何となく分かっている”んでしょう?」
上条「さっき『知の角笛』使った時もそうだけど、妙に強調してやいませんかね?何か不自然なぐらいに?」
ベイロープ「いいから!どんな感じで!?」
上条「そう、だな。何となくではあるけど、近づいて来てるような気がしないでもない」
ベイロープ「具体的には?」
上条「地獄の999階マラソンかと思ったけど、多分……100階までには、行けそう……だと思う!根拠はないが!」
ベイロープ「”この世界はあなたが造ったのだから、その考えは正しい”わよ」
上条「だと、いいんだけど――ベイロープ?」
807:
ベイロープ「……」
上条「どうしたんだ、急に立ち止まって――まさか、敵かっ!?」
ベイロープ「ん?いいえ、そういうんじゃなく、ないんだけど……ま、適材適所ってあるわよね?」
ベイロープ「あまり気が進まないのだけど……仕方がないかなって思うわ」
上条「はい?」
ベイロープ「先に言っておくと、私は先に帰るわね。だって”この先には死人が出ない”のだから」
ベイロープ「少なくとも”他の人間にも介入はされない”だろうから、私の道案内はここで終わるのだわ」
上条「そっか……ありがとう、色々と教えて貰っちまって」
ベイロープ「……正直、助けになりたいのは山々なんだけど、これ以上第三者が首を突っ込んでも害にしかならない――って先生が言ってたし」
上条「いやいやっ!とんでもないっこちらこそっ!」
ベイロープ「――で、悪いんだけど、手、出してくれない?」
上条「手?」
ベイロープ「そうそう、『右手』を、ね……えっと――」
上条(ベイロープは俺の前で片膝をつくと、こっちの右腕を取って引っ張る)
上条(何?って疑問に思う前に――)
上条(――俺の『右手』とベイロープの唇が軽く、触れた……)
ベイロープ「それじゃ、またあっちで逢いましょう――トーマ!」
パキィィイィンッ………………!
上条(消え行く彼女へ、俺は黙ったまま頷いた……!)
808:
――青冷めた光の柱の下
ベイロープ「――か、は……っ!」
レッサー「『おお、ゆうしゃ”べいろーぷ”よ、しんでしまうとはなさけない』」
ベイロープ「ネタはいい!状況説明!」
ランシス「んー……一分ぐらいしか経ってない、と思う」
上条「……」
ベイロープ「器を壊されては……ないようね。セレーネはっ!?」
フロリス「あっちでセンセーとレディリーが対処中――なんだケド、異変っちゃあ異変が一つ」
ベイロープ「何――って、これ?障壁なの?」
フロリス「ワタシらが”X”の準備を始めて、ジャパニーズが冥界行ったらすぐ、ぐらいかな?」
ベイロープ「私達を逃がさないように……じゃ、ないか。魔力が十字教の、って事は」
レッサー「あのジーサンの仕業でしょうな。周囲に集まってきたショゴスを近づけないためにだと」
フロリス「ワタシらがこっち来たから、不要なリソース振り切ったんだろうケドさ。何で隠れたままなんだぜ?」
レッサー「術式が発動している、しかも我々がセレーネを囲んだ後で、であれば自動起動の線はないでしょうから……」
レッサー「どっかで隠れて様子を伺っている可能性は高いですかね」
ランシス「私達が失敗した時の……後詰め?」
レッサー「ともすれば私達諸共粉砕するんじゃねぇか、ってガクブルもんですがね」
フロリス「うえー、メンドー」
レッサー「間に上条さんアリサさんいらっしゃるんで、無茶な事はしないでしょうが――で、ベイロープ。あっちの首尾はどんなもんでしたか?」
ベイロープ「……ん、えぇ上々よ。悪くはなかったわ」
フロリス「ジャパニーズに”刷り込み”するんだっけか?」
ベイロープ「そうね。あれだけ言っておけばイメージも安定するでしょうし、取り敢えず道は繋がったと思う」
レッサー「上条さんの魔術知識が無い所へ、専門家のフリをして都合の良い冥界をインプリントする……」
レッサー「流石は意外とコスい伝説を数多持つ我が師マーリン!そこに痺れる憧れる!」
ラシンス「……よっ、弟子の教育を大抵間違えた男……っ!」
フロリス「アンタらが言うな。つーか反省しろ」
レッサー「まぁまぁともあれ、わざわざタルタロスまで出張お疲れ様で御座いましたよ。えぇえぇ」
レッサー「『双剣の騎士ベイリン』が一度死んで下さったおかげで、儀式魔術の段取りもスムーズに行きましたし。お陰様でね」
レッサー「とはいえ、こっちも術式の組み立ても佳境になってきたんで、少し休んだら手伝っ――とぉ?おんやー?」
ランシス「……ん?」
レッサー「気のせいだったらアレなんですけど……ベイロープ、あなたタルタロスで何かありましたね?」
ベイロープ「……」
809:
レッサー「あ、言いたくないんだったら聞きませんけど。どうせ龍脈関係でいやーんな記憶を幻視たせいでしょうから」
ベイロープ「……いや、違うの。そうじゃないのよ、その」
フロリス「珍っ!?ベイロープが言い淀むなんて、どんな事件だっ?」
ラシンス「しー……茶化すの禁止」
ベイロープ「えぇ……私は、あなた達に謝らないと、いけないのよ……っ!」
レッサー「ど、どうされました?いやマジで様子がおかしいですよ?」
ベイロープ「――私、あなた達に約束したわよね?『あなた達が一人前になるまで面倒看る』って!」
ベイロープ「それまでずっと恋愛しないって!そう誓ったの、憶えてる!?」
フロリス「(……ウン?言ったっけか、そんなん?)」
レッサー「(私もぶっちゃけ初耳じゃねぇかなって思うんですけど、どうですかね?)」
ランシス「(あった……ほら、ベイロープが悪い男に騙されそうになって、レッサーがぶち壊した時……)」
フロリス「(何回目?いっちゃん近いンじゃないよね?)」
ランシス「(……それは忘れた……)」
レッサー「(うーむむむ?そういやそんな記憶もあるような、ないような?)」
レッサー「……」
ランシス「(……どう?)」
レッサー「(やっぱりないですねっ!一々ネタにマジレスしてられませんし!)」
フロリス「(や、でもさ。ここで”Have you injured the head?(ちょっと何言ってるのかわっかんないですね)”って言ったら、ベイロープブチキレるっしょ?)」
フロリス「(顔真っ赤にして半分怒ってるカンジだしぃ?)」
ランシス「(そう?……なんか恥ずかしくってモジモジしてるような……)」
レッサー「(――まーかせて下さいな!ここは一つ、『空気を読まない女Best3』に四年連続で入った私に!)」
フロリス・ラシンス「「だから、そーゆートコだよ」」
ベイロープ「……何?」
レッサー「いえいえなんでも御座いませんともっ!お気になさらずにねっ!」
レッサー「そんな些細な事よりも!聞くだけ聞きましょう――それでどうしました?」
ベイロープ「そんな、そんなっ大切な約束をしたのに!私はあなた達に黙って抜け駆けを――」
レッサー「あい?」
フロリス「ヘ?」
ランシス「……?」
ベイロープ「――マスターの手の甲へ!口づけをしてしまったの……!」
レッサー・フロリス・ランシス「「「ヘー、ソウナンダー」」」
810:
ベイロープ「別に手を握るだけで良かったのよ!?あの場面、あの場所で!『右手』がきちんと働いているって、効果を証明するためにはね!」
ベイロープ「だけど、私は、皆を、裏切っ――」
レッサー「――ベイロープ」 ポンッ
ベイロープ「……?」
レッサー「顔を上げて下さいな、ベイロープ」
ベイロープ「……けど」
レッサー「裏切る・裏切らないの定義は色々ありますけど――私は、少なくともここに居る仲間達は、そんな事であなたを裏切り者だと呼びません……ッ!」
レッサー「だって――だって仲間じゃないですか!ナ・カ・マっ!」
ベイロープ「……レッサー!」
フロリス「そ、そうだよねー、ウン!べ、別にキスぐらいするし!全然裏切りなんかじゃないって!」
ランシス コクコク
ベイロープ「あなた達……!」
レッサー「はいフロリスさん今イイ事言いやがりましたねっ!なんつっても若い男女なんですから、キスの一つや二つや三つしますよねっ!普通ですよっ!」
ベイロープ「そ、そうなの?」
フロリス「あー……ホラ!親愛的な意味でだよ、ウンっ!きっとそうだって!」
レッサー「そ、そうですよっ!抜け駆けだって仰いましたけども!そんな事ぐらいで我らの友情が揺らぐモンですか!」
レッサー「むしろアレですな!後から事実が発覚したとしても!それはどうかノーカウントでお願いしますっ!」
ベイロープ「……ありがとう!」
フロリス(※抜け駆け一番手)「い、イイよ?うん、全然全然?」
ラシンス(※抜け駆け二番手)「……まぁ……そういうこともある。テンション上がると、しゃーないー……」
レッサー(※抜け駆け三番手)「ですよねっ!分かりますっ!」
マーリン「――なぁ、なぁて。ちょっとエエかな?」
レッサー「おっとどこからか幻聴が?私のガイアが囁いてるんですかね?」
マーリン「あんまガイアはん仕事さすのどうかと思うわ。ちゅーか休ましたりぃ、な?」
マーリン「てかジブンら、さっきから聞いとぉけど、なんや楽しそうないの?うん?」
811:
マーリン「てーかレッサー?さっきワイの悪口言ってへんかった?気のせいかな?」
マーリン「余裕あんやったら、もぉちょっとこっち手伝って欲しいんやけど……」
レッサー「すいませんっ!スグに術式展開に移りますんで!」
マーリン「……ま、最悪の最悪、上条はんアリサはんが帰って来る前に発動せなアカンかもしれへんから、そのつもりで」
ベイロープ「そんなに切羽詰まってるの?」
マーリン「やー……そうやね。ま、なんつったらいいのか分からんけど、分からんけども――」
セレーネ『きひっ!きひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひっ!』
マーリン「敵さんがエッラいやる気でなぁ」
セレーネ『ぼうや達はかあさんの邪魔をするの?こんなにもわたしはあなた達を愛してるのに』
セレーネ『それともごっこ遊び?もうそんな歳だったかしら……子供が大きくなるのは早いものね』
セレーネ『それじゃ遊びましょ。あなたの好きなごっこ遊びで、母さんは何の役をすればいいのかしら?』
セレーネ『おとぎ話の鬼の役?それとも悪い王子様の役?七人の小人さんも可愛らしいわね?』
セレーネ『それとも――あぁ、アァ、嗚呼!レディリー!あなたは――そう!茨姫の王女様だったのね!』
セレーネ『だったらわたしはこう言えばいいのかしら。ご本の通りに、悪い悪い魔法使いを演じればいいのね』
セレーネ『そう、そうね、”魔法名”よね?ぼうや達がごっこ遊びをする時、名乗っていたのは』
セレーネ『お名前と……番号?わたしも?わたしも必要なの、それ?』 ジジッ
セレーネ『……うふふ。母さんはね、母さんは世界に一人しか居ないから、番号は要らないの。どう?凄いでしょう?』
セレーネ『わたしはセレーネ、オリンポスに住まう三日月のシグマ――』
セレーネ『――ペルポネーソスに墜り至る、子供達の妣(はは)――』
セレーネ『――――――”Selene(月は無慈悲な夜の女王)”……!!!』
812:
――Tartarus-B099
……カツカツカツ、カツ
上条「――さて」
上条(降りに降りて来た99階。いや、1階からスタートだから正確には98階か)
上条(時間の感覚はずっと前にどっかへ行ってる。急いで来たつもりではあるんだが)
上条(ここを降りれば100階に降りるのと同時に、俺はアリサの記憶へと繋がる……らしい)
上条(ただ……どんな形になるんだろうな?出会って手ぇ引っ張ってさぁ終わり、って簡単には行かないような気がする)
上条(この冥界は俺がイメージした、要は”連れてくる手順を踏むための仮想世界”……魔術サイドの話でバーチャルな概念もどうかと思うが)
上条(と、すれば当然この先にもそれ相応の世界があってだ、それなりの手段を取る必要性がある、と)
上条(……まぁ、無理矢理攫う訳にはいかないだろうし、それだけだと多分解決にはならないし?)
上条(こればっかりは『右手』でぶん殴ってもなぁ?てーかそれをやっちまったらタダの暴力だわな)
上条(一応――俺は”否定する”目的にだけ、ぶっちゃけると『幻想を殺す』方面以外には使ってなかった『幻想殺し』)
上条(でも今『冥界下り』の術式の中でも、働くのは働いている……あぁ『団長』とやり合った時の夢と同じか)
上条(思い起こせばアウレオルスん時だって、『全てをキャンセルする力』”だけ”だったら全部無効化していた訳で)
上条(俺の認識に能力が左右されていたんだろーなー、うん)
上条「……」
上条(ま、なるようになるだろ!悩んでも仕方がない!)
上条(――あの世だろうが、『夢』ん中だろうが、どこだって行って――)
……プツッ……
813:
――朝 自室
チュンチュン、チュン……
上条「………………」
上条「……ね、寝てた……?いや、寝ちまってたのかな?」
上条「寝オチした、にしちゃしっかりパジャマへ着替えてる……し」
上条「……」
上条「……あれ?俺パジャマ派じゃなかったよな?Tシャツ派なのに何で着て――」
ガチャッ……
鳴護「――あ、当麻君?起きてたんだ、おはよー」
上条「お――は、よう?」
鳴護「朝ご飯作っちゃってるから、顔洗って降りて来てねー」
……パタンッ
上条「……」
上条「えっと……外国の話だ。英語圏ではスズメの鳴き声をChirpで表すらしい。あ、マジ話な?」
上条「てか小鳥だけじゃなく、虫の音も同じ単語で一括りにしてるらしく、やっぱり俺らとは感性――つーか文化の違いか」
上条「他にも、ホラ。夏の夜とかに鳴く虫の声ってあるじゃんか?スズムシとかクツワムシとかのリーリー、ガチャカヂャってのさ」
上条「あれ全般が雑音にしか聞こえないんで、虫嫌いには日本の田舎は敬遠されて――」
上条「……」
上条「……オーケー落ち着こうぜ?レッサーに聞かされた驚愕の小話を思い出している場合じゃない!もっと大切な事がある!」
上条「ツッコミ所は色々あるが――最大のポイントは!」
上条「……すぅ……」
上条「――――――アリサが料理、だと……ッ!!!?」
825:
――リビング
上条「……」
上条(洗面所で顔を洗った後、良い匂いがする方へやってきたんだが……)
上条(そこはキッチン一体型のダイニング、テーブルの上には簡単な料理が並んでいる)
上条(てかまぁトーストとサラダ、炒めたベーコンに、ポーチドエッグ――熱湯に卵を落として固めた簡易ゆで卵――なんだが)
上条(旅行中に俺が散々作ったメニューと同じ、違いは……あぁ机の上にある鉢植えぐらい?)
上条(ベランダに置いた方がいいんじゃないかな、と思ったりなんかもする)
上条「赤い……パンジー?」
鳴護「アネモネ、って言うんだけど……昨日お花屋さんで貰った時にも聞いてたよね?」
上条「そ、そうだったかなー?」
鳴護「そうだよ、てか当麻君が『これがいいんじゃ?』って言うから――」
上条「あぁうんごめんなっ!その話は後から聞くから!今はメシ食べちまおう、なっ!?」
鳴護「また勢いで誤魔化そうとしてるし……いいけど」
上条「お、おー!アリサの作った手料理は美味しそうだなー!」
鳴護「そ、そっか、な?……もう、早く食べちゃってねっ」
上条(怒ってる――の、とは少し違うかな。語尾がちょっと弾んでるし?)
上条(……ま、迂闊な事は言わないよう注意するとして、まずはメシ。メシなぁ……)
上条(……俺がこんだけ戦慄してるのには理由があるんだよ、割と真っ当な……)
上条(アリサ――つーかARISAのオフィシャルグッズ作ろうって話が持ち上がったんだ。ツアー会場で売れるような、って要望で)
上条(『食べ物の方が回転率が早いですし、”料理が出来て家庭的”アピールにもなります!』ってな。誰とは言わないがしっかりマネージャーの一存で)
上条(ケーキやら軽食やらのレシピ作りを”手伝った”のが、俺って事になってる……まぁ、ほぼ原案から監修まで俺がやったんだけども!)
上条(そん時に『アリサってどのぐらい料理出来んだ?』って流れになるよな?てか日常会話として聞くさ。礼儀みたいなモンだから)
上条(……やー、あのな?アリサの名誉のために言っておくとだ。決して不味いとか、そもそも料理が苦手って話ではない。そこはな?)
上条(よくある『素材へ対する冒涜』的なトンデモ料理とはかけ離れた、実に”ある意味”家庭的な料理であったと俺は言おう)
上条(また同時に味自体も悪くはない――所か、フツーに美味しい。俺は好きな味だし、多分日本人なら『まぁアリだよね?』って言うぐらいの腕だよ)
上条(自炊派の学生さんらしく!俺も少なからず共感したけどもだ!)
上条(ただなぁ……その、なんつーかさ、ほら?アリサはインデックスと同じだろ?体質的にって言うか?)
上条(人様よりも遙かに食うんだが……その、アリサもだから、な?)
上条(『取り敢えず得意料理作ってみよっか?』的な話になって、アリサが作ったのは――)
上条(――『お好み焼き”丼”』だったんだよ……ッ!!!)
上条「……」
上条(ダメだもの、炭水化物の上に炭水化物乗ってけるもの、まさに食のテンドン……あぁ用法的には正しいのか)
上条(アイドル像を確実にぶち壊す、ある意味『幻想殺し』以上のブツが出て来やがった!みたいな)
上条(……ま、そりゃな?趣味ででもやってない限り、普通の女子中学生がスイーツ作れる筈も無いし)
上条(……色々とイメージがアレなんで、今回は自粛する方向で俺が代役を買って出た、と)
上条「……」
鳴護「ん、食べないの?ていうか、さっきからお料理を前にして挙動不審なんだけど……」
826:
上条「あ、あぁ!頂きますっ!」
上条(――ていう経緯を知ってるから、『朝イチでアリサの手料理!?』と驚愕したんだが……目の前にあるのは普通の朝食だ。”普通”の)
上条(メニューもまぁ無難だし――ポーチドエッグは日本じゃあんま見ないけど――量も常識の範囲内だ)
上条(アリサも”体質”上、ウチの欠食児童ばりに食べる必要があった筈なんだが……)
上条(……まぁいい!ここは一つ食べるしか――)
上条 モグモグ
鳴護「どう、かな?」
上条「……あれ?普通に美味しいぞ?」
鳴護「朝から暴言!?ていうか何っ!?グルメ漫画ごっこでもしてるのかなっ!?」
上条「――分かった!分かったぞ!」 ガタンッ
鳴護「や、あの当麻君?ご飯食べてる時にバタバタするのは埃立っちゃうかなー、なんて」
上条「お前――」
鳴護「は、はい?なんでテンション高いの?」
上条「――鳴護アリサじゃないな!?正体を現せっ!」
鳴護「あ、はい。違いますけど」
上条「ですよねー、そりゃ同じに決まってますよ――って今なんつった?」
鳴護「え、だから違うよって――」
鳴護「――だってあたし、”上条”アリサだもん」
827:
――通学路
上条 テクテク
鳴護 テクテク
上条(結論から言うとアリサはアリサじゃなかったんだよ!……何を言ってんか分からないと思うが!)
上条(心配ない!俺だってこれっぽっちも事情を把握出来ていないからな!)
上条(あの後、華麗に『待ってくれ!これはきっと敵の魔術師(以下略)』によって事なきを得たが!とっさの判断にしては頑張ったよ?)
上条「……」
鳴護 チラチラッ」
上条(事なきを得たかな?さっきからアリサさんが心配そうにこっち見てんだが?誤魔化しきれてないよね?)
鳴護「ね、当麻君、アタマ大丈夫?」
上条「その聞き方は傷つくなっ!他意がないのは分かってるけども!」
鳴護「え、何が?」
上条「……ん、あぁイヤ大丈夫大丈夫!何かちょっと混乱してるだけだからさ」
鳴護「……むー」
上条「アリサさん?」
鳴護「……知らないっ」
上条(……何だろうな、ご機嫌斜めだ……?何か地雷踏んじまったのかな?)
上条(しかし怒らせた割には俺の制服の裾を掴んでたりするんだが……なんで?)
上条「……」
上条(えーっとだな。ここは普段の通学路だ。俺がいつも通ってる道の)
上条(周りには同じように登校する生徒達で溢れている。きもーち早めに家を出たんで、少しだけ人が少ない気がする。少しだけだけど)
上条(で、当然俺が着ているのは制服。アリサも同じく制服)
上条(仲良く学校へ向かっている――ってなんでだよ?ウチの学校、中等部は無かったよなぁ?)
上条(制服のタイプはウチの女子と似たセーラー。や、まぁセーラーなんてどこでも似たり寄ったりだけどさ)
上条(……どっかで見たような気がしないでもなかったり?……まぁいいか。イヤーな予感がしない訳でもないが)
上条(てーゆーかココどこだよ?てっきりアリサの夢かなんかと思ってたら、なんかこう、違くね?イメージしてたのよりさ)
上条(てっきりアレだ。鬼かゾンビや不死身の病人がヒャッハー!してる世紀末的な世界で、そっからアリサを見つけるモンだと思ってんだが……)
上条(もう見つけちゃったよ!つーか一番最初に出会った第一冥界人?がアリサさんだったよ!)
上条(しかも何?同棲?同棲的なカンジなんですかね?)
上条(……こう、『アイドルとヒミツの同棲生活!』みたいな、円盤やビジネスって書いてある漫画雑誌にありがちな展開?)
上条(極めて個人的には憧れなくもないけども……なんだろうな、寸止めラブコメしてる場合じゃねぇだろってツッコミがですね。はい)
上条(ていうかコレ、俺の妄想なんか?アリサ一人連れ戻すために造った世界はコレか?)
上条(父さんが余所様に『やったね!家族が増えるよ!』って展開じゃ無いんだよね?夢なのにリアリティ追求してないよな?)
828:
上条(下手に突っ込んだ事聞いて、それが地雷になってるかは分からない。とんだマインスイーパか、それとも海戦ゲーム)
上条(俺達の関係性が分からないし、聞いて警戒させんのも良くはない……と、すりゃ)
上条(そう、だな。取り敢えずは様子見の方向で。穏便に、あくまでも波風を立てないでだ)
上条「……?」
上条(……あれ?そういやこんな展開以前にもあったよう――)
佐天「おっはよーーーーーーーーーございまーーーーーーーーーーーーーすっ!!!」
上条「来やがったなっ柵中のパンジャンドラムっ!?なーんかフラグ立ててる予感はしてたんだよっ!?」
佐天「上条さんも、上条さんのお兄さんもどーもですっ!てゆーかテンション高いですなー?」
上条「誰のせい?誰が原因だと思って――はい?」
佐天「『何かいいことでもあったのかーい?』」
上条「やめろ。何が何でもボケようとするんじゃなくてだ――お兄さん?」
佐天「はい?お兄さんはお兄さんじゃないんですか?――ハッ!?まさか」
上条「ネタはいい。誰がお兄さんだ、誰が」
佐天「ユー」 ピシッ
上条「……誰の?」
佐天「ハー」 ビシッ
鳴護「……はぁ」
上条「アリサの、って事は――」
上条「……」
上条「――俺はアリサの兄貴だったのか……ッ!?」
佐天「あの、すいません?上条さんのお兄さん、アタマ大丈夫ですかー?割とマジで聞きますけど」
鳴護「当麻君、朝からにこんな感じだから……うん」
初春「やー、でも前からと言えばそんな気もしますしねー?あ、おはようございます」
上条「その認識もヒデェな!?あ、おはようございますっ初春さん!」
初春「はい、おはようございます」
佐天「どうもですっ!」
上条(三人とも同じセーラー……棚川中学の、だと思う)
上条(てー事は、アレか。アリサも佐天さん初春さんと同じ学校なのは確定か)
上条(友達だから妥当な所ではあるんだが、常盤台よりかは、まぁ……?)
上条(あとアリサの関係は『兄妹』か。それにしては『当麻君』呼び?……いや、俺兄弟居ない――と、思うから分からいが)
上条(割と穏当な所ではある、か?変人扱いと引き替えに確認出来ただけ、良かったっちゃ良かった、の、かも知れない)
上条(に、しても俺の印象酷いな!通学路で奇声上げても『前からこんな感じ』で、流されるなんて……!)
上条(ゆ、夢の中だし!デフォルメ入ってるから!大げさになってるだけだから!)
鳴護「――君?当麻君っ、聞いてるのかなっ!?」
829:
上条「は、はいっ!?」
鳴護「二人ともわたしの友達なんだからデレデレしないの!みっともないんだからねっ!」
上条「は、はいっゴメンナサイっ!」
鳴護「大体ねー、当麻君って人は可愛い子を見たら――」
佐天「(ね、初春初春?)」
初春「(なんですか佐天さん?)」
佐天「(上条さんのお兄さん、あたし達と会わせたくないってんなら時間ズラせばいいと思うんだよねっ!)」
初春「(しっ!佐天さん空気読んで下さいよっ!?)」
佐天「(ていうか毎日毎日、仲良く一緒に投稿している時点で、ある種のツンデレ的な!)」
初春「(それご兄妹に使っていい言葉じゃないですからね?弁えましょう、ねっ?)」
佐天「まぁまぁ朝から雷落とさなくってもいいじゃないですか、別にあたし達は上条さんのお兄さんには興味無いですし?」
上条「分かってはいるんだが、断言されるのも嬉しくはないな」
佐天「んー、あたし的にはもうちょっと甲斐性的なものが欲しいかなー、なんて思ったりしますよ」
佐天「具体的には上条さんに家事一切任せて、頭が上がらない所なんて特にっ」
初春「ですかねぇ。上条さん、家事を理由に中々遊べないんで、改善して頂けばなと。はい」
上条「その設定を突かれると何も言えないんだが……料理ぐらいだったら手伝おうか?」
鳴護「えー、当麻君のお料理ー?」
上条(……なんだろうな。この夢の設定、現実戻った時にアリサが憶えてたら相当モニョりそうな内容だよな)
上条(真面目に考えれば、学園都市の生徒は一人暮らしが多い分、家事全般ある程度こなせて当たり前になってるし)
佐天「――で、放課後に御坂さん達と遊ぶ約束になってるんですよ。上条さんもどうですかー?」
上条「え、ビリビリが?」
佐天「そっちの上条さんではなく、妹さんの方で。あ、来たいってならウェルカムですけど?」
上条(佐天さんに上条さん言われると、反射的にどうしても俺の事だって思っちまうな)
鳴護「当麻君、直ぐ御坂さんや白井さんと暴れるからダメだよ!ゼッタイ!」
上条「って事で妹からもNG喰らった所で、今日ぐらいはのんびり遊んで来たらどうだ?」
上条(自宅、どうなってっか調べてみたいしな)
鳴護「えー……当麻君、わたしが居ないとコンビニのお弁当かファーストフードで済ませようとするし……」
上条「いいじゃねぇか、あのジャンクな味が無性に恋しくなるんだよ!」
上条「お前らだって『これ、何から採った着色料か知ってる?』みたいな色のアイス食うだろーに!」
初春「女の子のスイーツは例外です!断じて!」
佐天「よっ!ナイスフォローっ!」
鳴護「ナイスって程じゃないと思うけど……うん、じゃ分かったよ」
上条「遅くなるんだったら迎えに行くし、あんま迷惑を掛けんなよ?」
佐天「ご心配なく!あたしが掛ける担当ですから!」
上条「佐天さん、俺前から思ってたんだけどさ、自覚あるんだったら治そう?な?」
上条「あんま俺も人のこと言えないけどさ、踏んだ地雷の処理ぐらいは人任せにしないてだな」
830:
――教室
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン……
吹寄「起立、礼っ!」
小萌「はい、お疲れ様なのですよー。まだ二時限残ってますけど、頑張って下さいねー」
小萌「特に!誰とは言いませんが問題児の自覚があったり、単位がぎりっぎりの子達はっ!」
土御門「おっおぅ!言われてるんだぜぃ、カミやん?」
上条「あっはっはっはーっ、ヤダなぁ土御門君!どう考えてもお前の事じゃねぇですかコノヤロー!」
小萌「はいソコ!お互いに責任のなすり付けあいをしている二人なのです!注意して下さいねっ!」
上条・土御門「「へーい」」
小萌「ではさっさとお昼ご飯を食べて元気をチャージして下さいね」 ガラガラッ
上条(――と、ようやく昼休みになったんだが)
上条(この世界には幾つか、いや幾つも欠けているものがあった)
上条(今の遣り取りにあった不自然さ……まず青ピが居ない。欠席じゃなく、在籍自体してなかった)
上条(同じく姫神、そして俺の知ってる殆どのクラスメイトが居ない……いや、居るには居るんだが)
クラスメイトA「上条ー、メシどうすんだー?弁当?学食行くんだったら一緒に食わね?」
上条「や、持ってきてないから購買部行くわ」
クラスメイトA「そっかー、んじゃまた今度なー」
上条「おーう」
上条(――と、どっかの誰かに話しかけられたんだが……俺はコイツのことを知らない)
上条(もっとはっきり言えば、このクラスでは土御門と吹寄、小萌先生以外、誰一人として知らない人間へ入れ替わっていた)
上条(にも関わらず、向こうはこっちを普通のクラスメイト扱いしてくる訳で。ハブられるよりかはいいけどな)
上条(あとおかしいのはそれだけじゃない。この学校、元々俺が通っていた学校は高等部しかない。まぁ普通の高校だよ)
上条(それが何故か中高一貫校なってーの、しかもアリサと棚川中の二人が通ってる設定だわな)
上条(しかも校舎同士が繋がってるらしく、また生徒の行き来も制限されていない……)
上条(それが何で分かるかって言うとだ――)
土御門「おーいカミやーーーーーんっ!妹さんが来てるぜぃ!」
鳴護「し、失礼します……」
831:
上条「おー、どうしたアリサ?何か忘れモンか?」
鳴護「当麻君っ、お弁当忘れてたし!」
上条「……ん?あぁありがとうな、つーか悪いな、わざわざ持ってきて貰って」
鳴護「い、いいけどっ……うん」
佐天「あのぅ、すいません?『だったら登校中に渡せばいいんじゃねぇかな?』ってツッコミは切らしてるんですかね?」
佐天「あと『目立ちたくないんだったら呼び出せば?』はスルーなんでしょうか?」
初春「佐天さんっ空気読んで下さい、ねっ?朝から言ってますけどもっ!」
鳴護「と、当麻君がダラしないからいけないんだもんっ!」
佐天「いや”もん”って……萌えますが!」
初春「ですからですね、そのー」
上条(――と言った具合に、割と結構な頻度で会いに来てるんだわ、これが)
上条(嬉しくない事はないんだが、その……周囲からの生暖かい視線、殺意と怨嗟の籠って視線が痛いっつーか)
上条(青ピが居たら今頃助走をつけて殴りに来ている筈だよ、ホント)
鳴護「えっと、わたし達もこれからご飯なんだけど……一緒に、する?」
上条「あー、悪いけどちっと用事が」
鳴護「そっか。それじゃまた後で」
上条「あぁ。弁当ありがとうな?」
佐天「『べ、別に当麻君のためなんかじゃないんだからねっ!勘違いしないでよねっ!』」
初春「……すいません。佐天さんがいつもいつも」
上条「……いえ、お察しします」
土御門「ナイスツンデレッ!」 グッ
上条「……こっちもすいません。その、アレなクラスなんで、はい」
初春「……はい。そちらもお察ししてますので……」
832:
――屋上
上条(アリサの捨てられた子犬のような視線を何とか撥ね除け、俺は目的の相手を屋上へ呼び出していた)
上条(……ま、呼び出すも何も、教室から一緒に歩いて来たんだけどさ)
土御門「……ごめん、カミやん」
上条「うん?」
土御門「オレ、オレっ!ずっと前からカミやんの事が――ってオーケー待とうか、なっ?」
土御門「空気読まなかったのは謝るから、俺の幻想を殺そうとしないでくれ!具体的には『男女平等パンチ』を降ろせ?」
上条「……悪いが今、一杯一杯なんだよ!八つ当たりっぽいのは謝るが、真面目に付き合ってくれ!真面目に!」
土御門「カミやんが追い込まれてる、って事は――やっぱ魔術師関係か?本当に不幸の女神に愛されてるんだぜぃ」
上条「……残念。今度の敵は月の神様なんだよ」
土御門「うん?」
上条「あー、まぁそれは良いんだ。良くはないが置いておこう」
上条「事情を説明するのは……今日は先に質問だけさせてくれ。下手すると時間が無いからな」
土御門「分かった。それで俺は何を答えればいいんだ?」
上条「今日は何日だ?」
土御門「XX月XX日だ」
上条「えっくすえっくす……?本気で言ってんのか?」
土御門「流石の俺でもシリアスな場面でボケ倒す度胸はない。カミやんが”時間が無い”つってんだから、相当ヤバい状況だろうしな」
上条「……悪い。それじゃ明日は何日だ?」
土御門「XX月XY日。つーかこれぐらいだったらカレンダー見た方が早いぜぃ」
上条(土御門のスマートフォンには字面通りの文字が月日欄へ入ってる……壮大なドッキリを仕掛けない限り無理だろう)
上条「それじゃ……10月8日に俺と電話で話した内容は憶えてるか?」
土御門「じゅう……なんだって?いつ?」
上条「10月の8日。俺から電話を掛けたんだ」
土御門「いつの話だ?俺は何をしてた?」
上条「いや、聞いてんのは俺なんだが……まぁその反応で分かった。それじゃ次、えっと……『濁音協会』って知ってるか?」
土御門「知らな――いや、聞いた事はある。イタリアを中心に暗躍していた魔術結社の筈だが、もう大分前に潰されたな」
上条「アルフレド=ウェイトリィの『双頭鮫』、”団長”の『殺し屋人形団』、安曇阿阪の『野獣庭園』――」
土御門「前から順番にイタリア系、都市伝説系の魔術結社だな。最後のには……関わるな、つっても無駄なんだろうがな」
上条「そいつらの近況とか、何か知らないか?」
土御門「それだったら『必要悪の教会』に訊いた方がいいと思うぜぃ?流石に存在自体が疑問視されてる連中までは、噂程度しか知らない」
土御門「憶測で物を言うのも出来るんだが……相手が相手だから、あんま変な先入観持っちまうと足下を掬われるぞ」
上条「……それでもステイル達の初期情報とほぼ同じってのは、スゲーと思うが……あぁ、最後に一つだけ」
土御門「おう、ドンと来い!」
上条「――お前、今どこに住んでんだ?」
833:
――教室 授業中
上条「……」 カリカリカリ
上条(一生懸命に板書を取る――ん、じゃなく、土御門から仕入れた情報を整理している、と)
上条(分かってはいたし、覚悟もしてたんだが、『あれ』は俺の知ってる土御門とは微妙に違うっぽい)
上条(まず”土御門は俺のお隣さんじゃない”事だ)
上条(朝起きてメシ食ったあの家、大体の造りや壁紙は元居た俺のマンションにそっくりだ)
上条(実際玄関を出てみれば……いつもと同じ光景。まぁマンションも部屋も同じだったと)
上条(けど、前の部屋は二人暮らし出来るような広いスペースはなく――どうやら、隣三軒分をぶち抜いた造りになってるっぽい)
上条(なので当然、以前住んでいた住人である土御門兄妹は別の所に住んでいた。それも”ずっと”住んでいた設定になっている)
上条「……」
上条(一瞬『お家賃、お高いんでしょう?』と考えてしまった俺は穢れちまったのか……!まぁいいや!スルーしよう!)
上条「……」
上条(……で、だ。他に分かった事は、この世界の住人である土御門――面倒だから土御門B――も魔術サイドの知識を持っている)
上条(当たり前っちゃ当たり前の話ではあるんだが……けど、これは非常に大きな意味を持っている、と思う)
上条(何故ならば『俺は土御門が魔術師知識に詳しい』だなんて、”一言も漏らした事はない”からだ)
上条(勿論魔術師だって正体バレはしてないし、精々『歴史に詳しい』とか、『英語に詳しい』程度しか言った憶えはないと)
上条(だって言うのにだ。土御門Bはきちんと魔術知識を持ってるし、有効に活用している)
上条(しかも一部、ごく限られた人間しか知らない話……よって土御門Bは、俺の知ってる土御門の”記憶”を持っている)
上条「……」
上条(――だ、けどもだ。土御門Bがオリジナルしか知らない、もしくは持っていない知識があるのは良いさ。ガワだけ似せた別人って事もないだろうし)
上条(そうすると矛盾する部分がある――『どうして”濁音協会”が瓦解した事実を知らないのか?』と)
上条(土御門みたいに、情報管理に命を賭けてる連中ならば知っていた当たり前。しかも俺は電話で本人に相談している)
上条(”アレ”が本人で無い可能性もあるが……まぁそうだとしても、どこかで土御門は裏事情へ耳を澄ませている訳で)
上条(……自信過剰を承知で言えば、俺の動向には気を配ってくれてるんじゃねぇかな、とも思う。アイツの性格なら、きっと)
上条「……」
上条(はっきり言おう)
上条(『この世界はアリサが造った』と、俺は踏んでいる)
834:
上条(俺のクラスメイトがたった二人しか再現されていないし、小萌先生”以外”の先生も知らない人達にすり替わっているからだ)
上条(……旅の間にアリサへ話した憶えがあるんだよな、俺のクラスはどうなのか?みたいな雑談だったか)
上条(そん時に名前と軽く説明したのか土御門に吹寄、あと小萌先生もだ……青ピもしたような気がするんだが……まぁいいか)
上条(そんな訳で、俺のクラスにも関わらず、本当のクラスメイトが二人しか居ないってのは『情報不足』なんだと思う)
上条(この世界を造ってる――てか、アリサが知ってる範囲から逸脱しているから、なんかこう適当に辻褄を合わせた感じ)
上条(本来居るべき人達、現実世界でのクラスメイトや他の先生達が配役されていないのは、偏にアリサが知識を持っていないから――なん、だけども)
上条(多分、それは合っていると思う。この世界はどういう構造なのか分からないが、アリサにとって都合の良い願望みたいなので出来てる、か?)
上条(けどなぁ。そうすると矛盾が幾つか出て来るんだよなぁ。なんつーかキャラの作り込み?駆け出しの作家に説教する編集みたいな言い方だが)
上条(土御門達は俺が少し話しただけでも違和感は全然ない。むしろホッとするような安心感があるぐらいだ)
上条(でもそれを――『そこまでの再現度』をアリサの記憶によって出来るか、って言えば無理だと思う)
上条(多分憶えているのは名前ぐらい、精々『こんなキャラなのかも?』程度なんだろう。てか普通は一々調べたりもしないだろうし)
上条(土御門が魔術サイドに詳しいのは、アリサが知りようもない事実……だっていうのにな)
上条(他にも”夢”にしては、少々セコイっつーか、『お前本当にそれでいいのか?』的な設定も見え隠れする)
上条(細かい所では家事全般のベテラン設定、性格も天然か無くなってしっかりしてる感じか)
上条(……あと食事量も。密かに気にしてたんだろうなぁ……戻ったらイジるの自制しよう)
上条(そして何よりもツッコミ所なのは『俺の妹』だって所だよ!何で妹!?)
上条(メリット皆無じゃねぇか!自分で思ってて悲しいけどもだ!)
上条(それとも家族が居ない分、兄貴分として懐かれてるのかな……?……ま、そんな所だろう、きっと)
上条「……」
上条(ともあれ以上が現況だわな。状況証拠からしてアリサの見ている夢の中にいるっぽい)
上条(アリサを連れて帰れれば俺達の勝ち……けど無理矢理引っ張って行って良いものなのか?)
上条(……俺も夢を見ていたから、分かる。居心地が良くて、少し不条理で、それでいて不安の無い世界……)
上条(そこから『抜け出させる』ためには、どれだけの覚悟が要るか……)
上条「……」
上条(『夢』は願望の集まりだと思われている。潜在的無意識がどーたら、アーキタイプ?がどうこうは横に置くとして、この夢はそうだろう)
上条(と、すれば間違いなく、この場所で俺が担ってる役割――それもまたアリサが望んだ結果だって事だ)
上条(逆算と一緒。結果と数式から問題を割り出すように、きっと答えは既に揃っている。必要な『鍵』が)
上条「……」
上条(……現実でアリサが抱えていた悩みも、きっと――)
上条「――よし!やってやるっ!」
教師「カミジョー、授業中」
上条「はいっ!すいませんでしたねっ!」
上条(……締まらないなぁ、俺は)
844:
――夕方 自宅
上条「たっだいまー……と」 カチャ
上条(放課後になって、いつものように商店街を通って帰って来た訳だ。まぁ取り敢えず家事でもやろうかと……やってる場合じゃねぇような気もするが)
上条(『あ、そういや冷蔵庫の中身見ないで買ったら、食材無駄にするんじゃね?』と、結局何も買わずに)
上条(……ま、一応収穫らしい収穫も無い訳じゃなくてだ。途中にある楽器屋件CD屋へ寄って、探してみた)
上条(店員さんにも訊いて、バスん中で携帯使って探してみても『ARISA』って歌手は居ない事になってる……)
上条(嬉しくはねぇが……この『状態』をアリサが望んでるって話なんだろうか?)
上条(頑張ってアイドル――てか歌手になるよりも、俺とダラっと暮らす方が『望み』なのか?)
上条(それでいい、ってアリサが思うのは勝手だと思うし、俺が口を挟むようなこっちゃない事も知ってる。知ってはいるつもりなんだが……)
上条(……けど、やっぱりアイドルとしてのアリサが居なくなってしまうのは、少し寂しいな……)
上条「……」
上条(――と、悩んでても仕方がないな!今は……洗濯物を取り込んでから、メシの支度――)
上条「……」 ガラガラッ
上条(ベランダで揺れてる洗濯リング――正式名称は知らないが、輪っかに洗濯バサミがついてるの――から衣類を外してー、と)
上条(ちなみに海外では洗濯物を室内に干すのが一般的。治安の問題か?)
上条(自販機が置いてあるのは警察署と病院、あと空港と駅ぐらいにしかない。それもあえて紙幣を使えなくして盗難防止にするそうで)
上条(日本のHENTAIもどうかと思うが、欧米は何つーか獣レベルに退化しつつあるんじゃねぇか、と時々思う。いやネタ抜きでさ)
上条(てゆーかですね。こう、旅行の間、家事全般を取り仕切っていた俺にとって、パンツとブラの一つぐらい何だって話ですよね)
上条(そう――お母さん!まるでこうお母さんのような広い心で!疚しい心なんか一切無いよ!本当だよっ!)
上条(だから、だからですね、こうアリサのパンツと随分大きめのブラを手にとっても!いやーんな気持ちになんかならないしぃ!) カサッ
上条「……」 チラッ
上条(……?あれ……?何か違和感が……なんだろう?)
上条(このブラ、ホックの数が三つだと……!?今までは二つしか無かったのに……!)
上条「……」
上条(説明しよう!ブラジャーの規格には色々あるけれども、その中でホック数はカップと密接な関わりがあるんだ!)
上条(止めるカップの大きさに比例して、ホック数の大小は変わる――ぶっちゃけAは一つなんだ)
上条(だってホックさんへ対する負担が小さいからねっ!Aはおっぱいの”お”ぐらいしかないから、ホックさんが頑張らなくても済むんだよ!良かったねボスっ!)
上条(でもほら、なんだ!カップ数が上がるにつれ、ホックさんの負担は増大していく……従ってホック一つだけでは力不足……!)
上条(だから大体Aは一つ、D以下は二つ、って具合に決まっていて――旅の間中ずっとアリサのホックは二つだったんだ……筈!)
上条(だというのに今!今のホックさんの数は三つ……この現実から導き出される答えとは――)
上条(――『アリサはまだ成長している』んだよ……ッ!!!)
上条(普段ゆったりとした服ばっか着てるからろ、一部で『着痩せ』説が佐天さん巨乳説ばりに噂されてはいたが……!)
上条(まさか夢の中で厳しい現実に直面するとは思いもしなかったっ!やったねっ!)
上条(このおっぱいソムリエ(※志望)の上条当麻にかかれば、この程度の謎は容易く解決出来るのさ!)
上条「……」
上条(……なんだろうこのテンション……?徹夜明け?徹夜明けなのか?)
上条(てかバードウェイをイジって後からアババババハ言わされないだろうな?あの違法ロ×妙に鋭いしさ)
上条(ま、まぁさっさと取り込んで、アリサの部屋まで持っていこうな、うん)
845:
――マンション?
上条(簡単に、新しくなったアパートの中を見て回る。特に自室を中心に)
上条(俺の部屋は現実での部屋と全く同じ。ただ他にもアリサの部屋やリビングもあると)
上条(所謂共用スペースに置いてある物で目立つ物は特にない)
上条(妙に現実的っていうか、どうせ夢なんだから乾燥機やスチームオーブンぐらいはあったっていいと思うが……俺もアリサも小市民だからなぁ)
上条(可能性としては”俺”に合わせた生活レベルかも知れないが……まぁいいや)
846:
――アリサの部屋
上条「……お邪魔しまーす、よっ……と?」 ガチャッ
上条(畳んだ洗濯物を届ける――という口実で――ため、アリサの部屋へ来てみた)
上条(まぁ……フツーの部屋だな。拍子抜けするぐらいアッサリとしている)
上条(勉強机に本棚に、後はベッドやクッションその他。俺の部屋と違うのは壁紙の色が暖色系ぐらい、だろうか?ぱっと見は)
上条(クローゼットはあるけど、流石に中までは調べるのは……うん、ちょっと、だよなぁ?切羽詰まってきたら仕方が無いかも知れないけどさ)
上条(他には何か――ん?なんだこれ?)
上条(ベランダへ続くサッシ窓の手前に……望遠鏡、か?)
上条(形からして天体望遠鏡、けどアリサって星空見るような趣味持ってたっけ、か?聞いてないだけで、隠れた趣味なのかもだが)
上条(そう言えば――ARISAのファーストアルバム、『ポラリス』か。あれは天体の名前なんだよ、とインデックスに教わった気がする)
上条(アルバムの名前つけんのは流石に本人だろうし、って事はアリサは結構天体に詳しかったりしたのか?初耳過ぎる)
上条(アリサが黙っていた理由……今は思い付かないな。それよりか――うん?)
上条(入り口からは死角になっていたベッドの下に何かある、な?なんだろ?)
上条(……これがもし俺だったら『管理人さんセット!』が出てきて大惨事になるんだが……持ってないよ?俺は持ってないけどね?いやマジで?)
上条(……少なからぬ罪悪感を誤魔化しつつ、俺はベッドの下にあった”それ”を引っ張り出す)
上条(意外と手触りは柔らかくて、重い?てかキルティングの袋?)
上条(家庭科の実習で作った、なんて言ったら良いのか迷うフワフワの生地、あるよな?それで出来た薄べったい長方形の袋だ)
上条(アリサの手縫いなんだろう。ペガサスと星のアクセントがついて、ほんの少し縫い目が曲がってたりするけど、どこか優しい感じがする)
上条(そんな見た目に反し、結構ずっしりくる袋の横についてるチャックを開くと――)
上条(――中に入っていたのは『キーボード』だった)
上条(初めて会った時、そしてLIVEで使っていたのとも違う。二回り程小さく、そして年期を感じさせる造りになっている)
上条(でも、俺はその楽器に見覚えがある。あって当たり前だ)
上条(……旅の最中、アリサが大切そうに、そして熱心に何度も何度もキャンピングカーの中で曲の練習をしていた)
上条(……その時に弾いていたキーボードだから)
847:
――リビング 夕食中
上条・鳴護「「――頂きます」」
上条(あれからちゃっちゃと夕食の支度をしていたら、アリサは帰って来た。特にイベントも起きずに)
上条(スキルアウトに絡まれました助けてー、みたいなイベントが起きんのかと思えば、そういう事もなく)
上条(つーか現実の学園都市とは違って、電車やバスが夜10時ぐらいまで運行してるんだと。当然人の目も多い訳で)
上条(そもそも風紀委員×二人にビリビリが居て滅多な事が起きる筈が――)
上条「……」
上条「――極々一部で『女上条』とも囁かれてる、悉くフラグを踏み抜く柵中のフライングパンケーキさんがね、うん」
鳴護「パ、パンケーキ?食べたいの?」
上条「うん?……あ、いや独り言、かな?」
鳴護「疑問で返されても……っていうか、当麻君お料理上手かったんだねぇ、ビックリしたよ」
鳴護「これだったら当麻君にお手伝いして貰うのもいいかもねー」
上条「んーアリサの見よう見まね、だな。俺はアリサのご飯の好きだしっ!」
鳴護「ありが、とう?ん?んん?なんか上手く言いくるめられているよう、な?」
上条「真面目な話、アリサはしたい事とかないのか?部活でもいいし、委員会とかどうだろ?」
鳴護「急にどうしたの?朝から様子がおかしいんだけど」
上条「……流石に朝のアレで反省したっつーかさ。アリサに負担ばっかかけちまうような、碌でもない兄貴にはなりたくないんだよ」
上条(と、いう建前を前提にして話を進めてみる。アリサに自由な時間を与えた方が、何をしたいのかってのが見えてくるだろうし)
鳴護「うーん、あたしは別に負担だなんて思わないんだけど……」
上条「まぁまぁ。暫くは試しに色々やってみようぜ、な?」
鳴護「むぅ……あ、そうだ、その、違ってたらゴメンね?ゴメンなんだけど、あたしのお部屋、入った、の、かな……?」
上条「あぁ。畳んだ洗濯物届ける時にちょっと。嫌だった?」
鳴護「ううんっ!イヤじゃない、イヤなんかじゃない、けど、その」
上条(あれ?意外に怒られないが、なんか変な反応だよな)
上条(よくある年頃の娘さんの話で聞く、『わたしの部屋に入るなんて信じられない!?』みたいな拒絶じゃない)
上条(うん、やっぱりそこはだな。俺とアリサの信頼関係っつーか、なんだかんだで付き合いも長いしさ)
上条(ましてや今は兄妹だって設定なんだから、当然だよなっ!)
鳴護「えっと……当麻君っ!」
上条「おぅっ!」
鳴護「……下着、あんまり使わないでね?着られなくなるから?」
上条「より最悪の方向で勘違いされてんじゃねぇかっ!?誰だ『信頼されてる』とか言った奴ぁ出て来やがれっ!?」
848:
上条「つーかアリサさんも微妙に理解を示さないで!?逆に居たたまれなくなっちゃうから!」
鳴護「や、別にいいと思うんだよっ!当麻君の女装姿、きっと可愛いと思うから!」
上条「着ねーよ!?なんで着る方向になってんだ、つーかそれはそれで方向性の違う変態だろ!」
鳴護「そ、そうなのかな?だったら何に使うの……?」
上条「え?」
鳴護「え?」
上条「……」
鳴護「……」
上条「――そ、そうだよねっ!世の中には女装が好きな変態さんがいるもんねっ!俺は違うけど!」
上条「そいつはきっと女装したいために女物の服が欲しいんだと思うよ!詳しい事は分からないけどさ!」
鳴護「あ、やっぱり」
上条「俺は違うっつってんだろコノヤロー」
鳴護「えっと、当麻君が着ちゃうと伸びちゃうし。胸回り以外はサイズも小さいと思うんだけど」
上条「えっ?」
鳴護「えっ?」
上条「……」
鳴護「――と、言う事で今度あたしが佐天さん初春さん達と一緒に選んでくるからっ!」
鳴護「きっと当麻君にもメンズブラ似合うと思うよっ!」
上条「なんだその人生の公開処刑。死ぬよね?その面子にお知らせしたら、確実に社会的にも抹殺されるよな?」
上条「多分ビリビリにも情報漏れて、合法的な殺人に発展する可能性すらあるんだからなっ!いやマジで!」
849:
――夜 自室
上条「……ふぅ」
上条(何故かしっかり出ている宿題を片付け、俺はベッドへ倒れ込んだ)
上条(ある意味、世界を救うよりも優先度の高い誤解は解けた……いやー、割と危なかったんだけどさ)
上条(……正直、『レベルの高い変態さんはprprするんですよ』なんて言えない……っ!)
上条(他のご家庭の親御さんの気持ちが少しだけ理解出来たような……主に性教育について)
上条(言いにくいんだよなぁ、やっぱ。男は黙ってても悪い意味で調べるけど、女の子はそうでもない――割に)
上条(可愛い子はマジモンの変態に騙される可能性が高いから、早めに釘を刺して置いた方が賢明ではあると)
上条(つーか何で俺こんな事で悩んでんだ?関係ないよね、本題とは)
上条(……さて、情報を整理しよう)
上条(まず『胸回り以外はサイズも小さい』……つー事は、あれだ?)
上条(平均的な高校生の胸回りよりも、アリサの方が大っきいという事に……!)
上条(つまり!日本全国6000万の男子諸君が憧れるシチュ、『裸に男物のワイシャツ』をもしアリサが実行すればだ!)
上条(何と言う事でしょう!胸の所がたゆんたゆんでパッツンパッツン――って違う違う、そっちじゃねぇよ。何でシモの方へ全力ダッシュしてんだ)
上条(あ、ある意味大切な情報だけど!夢のある話でもあるなっ!)
上条「……」
上条(あー……疲れてんなぁ、俺。正直寝そう、つーか寝たい。そもそも夢の中で熟睡出来るんだろうか……?)
上条(えぇっと……何考えるんだっけ――あぁ情報の整理?つっても大した話が出そろった訳じゃないしなぁ)
上条(家事を手伝うよっつったら、そんなに否定もしなかった。つーか満更でもない感じ)
上条(嫌がってた訳じゃないから方向性としては合ってる……筈、だな)
上条(後は……あぁ望遠鏡の事聞く忘れた。明日でいいか)
上条(星、星ねぇ?そんなにアリサが詳しいイメージはない……と?)
上条(あーっと『ポラリス』だったっけ?ファースアルバム、ケータイで調べてっと) ピッ
上条(何々……『ポラリス (Polaris) は、こぐま座α星、こぐま座で最も明るい恒星で2等星。現在の北極星である』か)
上条(ここでまたセレーネに関するアレコレが出てきたら、超イヤんな感じだったが、そんな事もないと)
上条(あーでも、こぐま座ってギリシャ神話から取られてんだっけか?……いやでも、熊だぜ、熊?月の女神と関係がある筈が――) ピッ
上条(『詳しくはおおぐま座を参照』……対になってんのかな?) ピッ
上条(『森のニンフにカリストという活発な娘がいた。大神ゼウスがカリストに恋をし、
二人の間にアルカスという男の子が生まれた』)
上条(『これを知ったゼウスの妻のヘラは怒り、カリストを恐ろしい熊へと変える』)
上条(『やがてアルカスは立派な青年に成長し、ある日彼が獲物へ向かって弓を引く。それは熊にされた自身の母親、カリストだった』)
上条(『これを見たゼウスは驚き、矢がカリストを射殺す前に二人とも天へ上げて星座とした』)
上条(『母親カリストがおおぐま座、、息子アルカスがこぐま座。母は慕うように息子の周囲を回転する』か、酷い話だが、まぁ神話ってそんなモンだよな)
上条(この場合、ポラリスはこぐま座、息子の狩人の方だな――って何だ?まだ続きがある?)
上条(『※一説にはカリストは女神アルテミスの侍女でありながら純潔を破ったため、アルテミスが罰として熊に変えた』……)
上条「……」
上条「……もう、寝よう……」
850:
――零れ堕ちそうな満月の下
 一面に咲くアネモネ――『アドニス』とも呼ばれる花畑。地平の果てまで続く緋色の絨毯。
 ただ二人、染みのように花園を穢すのは年若き男女。
 横たわった少年は青ざめた光に照らされ、物言わぬ骸を彷彿とさせ――。
 ――また彼の側に寄り添い、少々硬めの髪を撫でる少女は、誰に聞かせるでもなく呟く。
「わたしはずっと、あなただけを考えているから」
「喜びよりも、悲しみよりも、ただあなたの事だけを想っているから」
「――だから、大丈夫」
 呟きは闇に溶け、風は静寂を運ぶ。アドニスが身じろぎでもしない限り、それらは破れる事もなく。
「ありがとう――当麻君」
「”わたし”を探しに来てくれて――」
「――”捕らわれて”くれて、本当にありがとう」
 花々は匂い立つばかりに咲き誇る。ギリシャでは『冥府の花』とも呼ばれる、その花言葉は迷信じみている。
 記憶に無い筈の、到底知りようもなかった知識が少女の口から語られる。
「『儚い夢』、『薄れゆく希望』、『暫しの恋』、『真実』、『君を愛す』……そして」
「『嫉妬の為の無実の犠牲』……うん、そう、だよ。きっと、これは、そうなんだと思う」
 天空に浮かぶ月はその姿を変ず、見渡す限りのアドニスの園へ足を踏み入れる者も居らず。
 静寂と静謐、痛々しいまでの沈黙が支配する場で、少女はただ飽きるでもなく少年の髪を撫で続ける――。
「大好きだよ、ずっとずっと側に居るから、ね」
 ――終わる事のない『幻想』の中で少年は微睡む――。
「……当麻君」
 ――そう、世界が終わるまで。ずっと。
851:
――朝
鳴護「頂きます」
上条「はい、召し上がれ――と、俺も頂きます」
カチャカチャ
鳴護「……むー……」
上条「何ですかアリサさん?朝からムームー言ってオカルトか?」
鳴護「……何だろうね、味付けから調理まで、あたしレベルを追い抜いてるって言うかな」
鳴護「こう、お母さん的な熟練度と手際の良さを感じるんだけど……練習でもしてた?」
上条「ふっ、まさかの才能があったって事だよなっ!」
鳴護「……家事の?」
上条「……無いよりはいいんじゃないですかね。無いよりは」
鳴護「そりゃあった方がいいとは思うけど……うんっ!素敵な才能だよ、ね?」
上条「HAHAHA!!!微妙に空気読んでんのがイラっとすんなチクショー!心遣いは有り難いけどもだ!」
鳴護「ていうか当麻君は女の子のフラグ関係に全部の運を遣ってるよね、割と本気でそう思うよ」
上条「止めろ!前にも言ったが俺の人生をキャラメイク失敗した残念な子みたいに言うんじゃねぇ!」
鳴護「……前に言われたんだ、それ?」
上条「……あぁっ!」
上条(――さて、会話の内容から分かって貰えた――筈はねぇだろうな、と思うが!なんでこう穏やかにメシ食ってるのかと言えばだ!)
上条(まぁ……なんだ、結論から言えば『イベントが起きない』んだよ!)
上条(ここへ来てから今日で三日目の朝、アリサとの極々フツーの日常生活をしているだけだ。いやホントに)
上条(スタバへコーヒー買いに行ったり!夜のコンビニへチーズ(※パルメザン)を買いに行っても何も起きない!)
上条(ていうかアレは市内で女子高生殺人事件が起きたのに、フラフラ出歩く新約のオマージュだよ!突っ込んだら負けだし!)
上条(……や、まぁ?平和なのはいい事だ、いい事なんだけども……その、平和すぎてどっから切り込んだもんか、って悩みがだな)
上条(試しにアリサへ話を振ってみよう。割とストレートに)
上条「あー、アリサ。お願いがあるんだけど」
鳴護「はい?」
上条「――俺と一緒に帰らないか?」
鳴護「ん、いいよー。それじゃ校門前で待ってる?それとも当麻君の教室まで行こっか?」
852:
鳴護「当麻君んトコのホームルーム長いんだよねぇ。小萌先生は人気あるんだけどさ」
鳴護「あ、でも吹寄先輩が『二バカが脱線させるからねっ!』って言ってたよ?当麻君も反省しないと」
上条「あれ!?その設定ってこっちでも有効なの!?」
鳴護「せっ、てい?」
上条(――お分かり頂けただろうか?大体こんな感じだ。マジボケで返されてるのか天然なのかよく分からん……両方かもだけど)
上条「違うんだ!これきっと敵――」
鳴護「あーでもなー、今日から学園祭の出し物の打ち合わせする、みたいな事言ってたから」
鳴護「予定変わりそうだったらメールするね?」
上条「最近俺のボケをスルーするようになってきたよね?……てか学園祭?一端覧祭じゃなくて?」
鳴護「イチハナ――うん?」
上条「あぁいやいやこっちの話」
上条(って言う間にイベントだよな、これ)
上条「何するんだ――ってのを決めるのか」
鳴護「だねぇ。佐天さんはお化け屋敷、初春さんは食べ物屋さんがしたいんだって」
上条「佐天さんは想定内ではあるんだけど、初春さんは予想外だなっ!」
上条「……あー、けどそうでもない、のか?なんだかんだで風紀委員やってるし、運動量は凄いだろうから結構食うのか?」
鳴護「ゆ、友情は裏切れないよねっ!」
上条「うん、その反応で大体分かったわ。別に良いと思うけどさ」
鳴護「当麻君達は決まったの?」
上条「まだ話も出てない……んが、まぁ屋台辺りに収まるんじゃねぇかなぁ、多分」
鳴護「文化祭で屋台なの……あ、クレープとか?」
上条「――ま、どうせやるんだったら楽しみたいからな」
853:
――空き教室 授業中
上条(まぁ……何だ。事態はこれっぽっちも前に進んでない訳だわな、これが)
上条(流石に三日も居るとこの世界のルールらしきものは何となく把握してる。把握だけだが)
上条(基本的にループしてるんじゃなく、”XX年XX月XX日”みたいな、季節無視した毎日が続いている)
上条(どこかでまた振り出しに戻るのか?それとも螺旋のように終わらないのか?)
上条(……結末の定められているテレビみたいに、いつプッツリとスイッチが切られてもおかしくはない……と、いう以前の問題で)
上条(”あっち”では時間の流れこそ違うが、今も戦ってるのは間違いないんだ、それは)
上条(……だが、”こっち”の世界で俺が出来る事は限られている。つーか白旗上げたいぐらいに全っ然分からねぇし!)
上条「……」
上条(魔術サイドの流儀を学ぼうにも、今から図書館へ行ったって間に合わない。つーか役に立つモンが置いてある可能性も無いだろうし)
上条(よくある、”テスト前になってあん時勉強してりゃ良かった!?”みたいな。同レベル括るのもどうかと思うが)
上条(……つーかさ、フイクションだったらこんな時、都合良く『実は○○は××だったんだよ!』的な解説キャラが現れてくれる筈なんだが)
上条(……残念な事に、夢っぽい感じでもフィクションには違いないと……俺もヒーローって柄じゃねぇしな)
上条(何でも一人で解決出来て、誰も傷つけずに悪者だけ倒してくれて、超絶頭が良くてモッテモテの……)
上条「……」
上条(……考えるだけでヘコむなっ!何とか俺にも分けてくれませんかねっ!特に最後の所なんかねっ!)
上条(――と、まぁ愚痴ってはみたものの、無いものは仕方がない)
上条(確かに”図書館”は無いし、魔術サイドの流儀――特に龍脈どーたらに詳しい奴が都合良く教えてくれる、なんてご都合主義も起きる訳がない)
上条(――突然だが『この世界はアリサが造っている』と仮定しよう)
上条(この高校も土御門B達も、アリサがそう望んだから――”居る”と思っているから、こうして現実の設定をほぼ踏襲してる)
上条(でもその”設定”、土御門のキャラやら持ってる知識は、絶対にアリサが知りようのないものだった……と、すれば)
上条(『やっぱり龍脈の記憶に接続して、土御門Bの情報を得ている』んじゃねぇかなと)
上条(あー、アレだ。大分前に先輩からプラプラ?みたいな名前のプログラムの話を聞いたんだよ)
上条(そのプログラムではオブジェクトなんとか?って方式を取ってるらしくて、データを一元的に管理してるんだと)
上条(RPG作るとして戦闘シーンでの敵のHP変えたら、他のデータ――例えば敵図鑑や仲間にした時のHPも一緒に変更してくれる、みたいな)
上条(また逆に独立させるのも出来るらしいんだが……まぁ意味は分からないんだけどねっ!それはともかくっ!)
上条(アリサが、というかこの世界に『龍脈に置いてあるデータを元に造られた人間』が居るのは確定だと思うんだよ。誰が創造主役なのかはさておき)
上条(だとすれば俺も、俺が龍脈を扱えるのであれば同じ事が出来る……筈!多分!きっと!)
上条「……」
854:
上条(……ただなぁ、”誰”を呼ぶかってのが、なぁ?)
上条(一連の事件に頭っから突っ込んでるのは『新たなる光』の四人)
上条(詳しそうなのはマタイさんにレディリー……ただ、二人ともアリサとは顔見知り程度であって親しくはない)
上条(んで、もふもふinマーリンさんも役に立ちそうなんだが……そもそも『アリサはマーリンの存在自体知らない』ワケで)
上条(……なんでこうアリサとの関係性を気にするかと言えば、やっぱりここは彼女の夢だと思うんだよ、俺は)
上条(そんな所へ、『今まで顔も知らないorあまりよく知らない第三者』を無理して呼べるんだろうか……?)
上条(そうすると……まぁそもそも少ない選択肢が、更に限られていくんで……気が進まない)
上条「……はぁ」
上条(つってもな、時間も無いし、進展もない以上遊んでる訳にも行かない――よし!)
上条「『右手』……こおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ……ッ!!!」
上条「龍脈よ!俺の希望に!俺に力を貸してくれっ!」
佐天「……」
上条「頼む!『幻想殺し』!俺は、俺はっ!アリサの幻想をぶち殺さなくちゃならないんだよっ!」
佐天「……」
上条「だから”アイツ”を!嫌で嫌で仕方がないけども!”アイツ”を呼ぶのを手伝っ――」
佐天「……」 パシャッ、ピロリロリーン
上条「――て、欲しいんですけど……?」
佐天「あ、ゴメンゴメン?気にしないで、続けて下さいな、ね?」
上条「何やってんだぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?棚中のふなっしー○!?」
佐天「あ、今スレ立ててるからちょいお待ち下さいなっ!」
上条「待って?!本気でシャレにならないからそれ!炎上した挙げ句本人特定されちゃうから!」
佐天「【この画像格好良くしてくれ】K上T麻△100【もう格好良いだろ】」
上条「やめろよぉ!俺はもう半泣きなんだから追い打ちすんなよぉ!」
上条「てゆーかそのスレ100まで続いてんのか!?どんだけ俺注目されてんだよ!」
佐天「ナイス空回りwwwwww」
上条「佐天さんそのぐらいに、ね?それ以上はいい加減俺の男女平等パンチが捗るっていうかさ」
上条「つーかなんでこんなとこに居んの?絶対痛々しい感じになるだろうから、わざわざ授業サボってやってんのにだ!」
上条「ある意味俺の坂張りみたいな剛運で!どうして最悪のタイミングで来やがった!?神様に愛されてるにも程があるわっ!」
佐天「いやいや、違うでしょー。そっちから呼んどいてなんつーか言い草ですか」
上条「呼んだ?……待て待て、俺が呼ぼうとしてんのは佐天さんじゃない――」
佐天「分かりましたか?理解出来ましたか?」
上条「――お前、誰だ?」
佐天「私は常に悪を欲し、却って常に善を為す、彼の力の一部です」
上条「……?」
佐天「やぁ、久しぶりですねランドルフ!相変わらず銀の鍵を探しているのかな?んん?」
佐天「賢人バルザイですら届かぬ極みへ、死して夢見る邪神のねぐらへようこそ!歓迎はしませんが、ゆっくりしていきなさいよ!」
上条「この――ワッケ分からん気狂いの台詞――お前はっ!」
アルフレド(佐天)「やぁカミやん、私を呼ぶだなんて何かいい事でもあったんですか?」
855:
――空き教室
上条「どうして佐天さんの外見してんだよ!?魔術か!?あとキャラも何か違うし!?」
アルフレド「待て待て待て待て。そんなにいっぺん聞かれても答える口は一つだけなんだから」 ピツ
上条「その割には悠長にアップローダへ画像上げてるよね?些細な嫌がらせに手を抜かねぇな!」
アルフレド「まず最初の疑問から答えるとだ――『オブジェクト指向はそんなに万能じゃない』」
上条「そんな話はしてないよ!何かちょっと通っぽく言ってみたかっただけじゃんか!」
アルフレド「――ま、ここはおっかねぇ下乳魔神に監視されてねぇから、好き放題出来るっつー話なんだが」
上条「下乳魔神?」
アルフレド「この姿は俺用のグラフィックが存在しねぇから借りたんだよ。ほら、なんつーの?」
アルフレド「昔のゲームで色変えた敵が出て来るよな、アレと同じで」
上条「なんだその超ゲーム理論。ソフト解析したら、画像入ってなかったみてぇな話じゃねぇか」
アルフレド「正解!カミやんにはみんな大好きJCの自撮り写メをプレゼント!」
上条「佐天さんの外見使って遊んでんじゃねぇ!あと修飾語が多分間違ってるわ!」
アルフレド「あ、エロいこと考えた?でもこの姿、制服の下は再現されてないから、脱げねぇんだわ」
上条「……頭痛い……」
アルフレド「あとやっぱ術者――この場合カミやんの力&イメージ不足だわな。”ここ”へ介入するんだったら、もっと強引にしないと」
アルフレド「つーかさ、何で俺よ?カミやんには愉快の仲間達が一杯居るんじゃんか?」
アルフレド「魔導図書館に魔導書解析のプロ、他にもアンブロシア食った巫女さんハァハァ差し置いてさ?」
上条「巫女さんに余計なオプションつけんじゃねぇよ!気持ちは分からないでもないが――あー、その、なんだ」
上条「インデックスに――とは、最初に思ったんだが、今回の事件の当時者じゃないだろ?」
上条「実際にお前らと戦った経験でも無いし、龍脈云々の話もマタイさんやレディリーから聞いた訳でも無いし」
上条「お前らの情報だけ渡されて『はい、きちんと判断してくれ!』っのは無茶振りが過ぎる」
上条「だったら……まぁ、現在進行形で敵だとは言え、事件の中核から何から知ってるお前から話訊いた方が早ぇだろ、と」
アルフレド「――成程、交尾だな?」
上条「違うっつってんだろバーカ!ボケる回数が外見に引っ張られてんぞ!つーかいい加減元の姿へ戻れよ!」
アルフレド「え、女子中学生嫌いか……ッ!?」
上条「好き嫌いの二択で言ったら好きな方だが、絶対にお前の”好き”って意味じゃない」
856:
アルフレド「俺が本当の事を言うって保障は?そもそも敵味方で協力してやる義理もねぇ筈だわな」
上条「そりゃお前、『夢』だからだよ。ここは」
アルフレド「ふむ」
上条「だから『俺の目の前に居るのは本当のアルフレド=ウェイトリィじゃない』んだ」
上条「この世界に居る土御門Bや小萌先生達みたいに、『龍脈の記憶から再現した存在』なんだよ」
アルフレド「ふむふむ」
上条「そして何よりもここ、『夢』みたいなもんだ。多分アリサに管理者権限がある世界」
上条「その世界へ介入出来るのは実証済みだし、何よりも”こうやって”お前を再現出来ている――つまり!」
上条「ある程度の縛りをこっちで『そうなる』って思っちまえば、お前は好き勝手出来ない!どうよ!」
アルフレド「俺もこの夢に出ているNPCで、カミやんの都合の良いように動け、って事な?了解了解」
上条「俺自体に龍脈を読み込んで、知識を得る力は……多分あったとしても使いこなせはしないんだろうしな」
上条「なんかこう、一発逆転みたいな感じで『試してみたら出来ました!』みたいな展開有りっこないんだよ!少なくとも俺の人生においてねっ!」
アルフレド「荒んでんなーカミやん。まぁ言いたい事は尤もだし、その通りだと思うがさ」
アルフレド「……つーか”本人がそう思い込”んじまったら、”それが現実に反映する”特性持ってる以上、ネガティブな思いは負の連鎖へ繋がるんだが……」
上条「だからこうして専門家をお呼びしましたっ!どうだっ!」
アルフレド「カミやんさ、今自分が何言ってるか分かってるか?」
アルフレド「難しく言えば『友情パワー』、簡単に言えば『丸投げ』だからな?」
上条「……いやぁ、一人解決できることなんてたかが知れてるじゃん?」
アルフレド「や……まぁ、やれって言うんだったらするけど……いいか」
上条「――と言う訳で!キリキリ答えて貰おうかっ!嘘は吐くなよっ!」
アルフレド「あー……最初に断っとくけどさも、どこまで行っても『俺は俺の知識しか持ってねぇ』んだよ」
上条「はい?」
アルフレド「なんつーかさ、今NPCやってっけども俺オリジナルの持ってる知識量を超えたりはしない――あー、写本みたいなもんか」
アルフレド「原書をどんだけに忠実に写そうが、オリジナルを越えた知識は無い、みたいな感じで」
上条「あぁ――待てよ、そしたら土御門Bの情報が古いのはどうしてだ?」
アルフレド「最新verだと都合が悪い――この場合、夢の持ち主にとって――情報でも抑えてんじゃねーの?だから無意識的に古い奴を引っ張ってきた」
アルフレド「ま、”龍脈に情報を更新出来ない状態”になってるだけかもしれねぇが――次」
アルフレド「テメーで言うのも何なんだが、俺達は今敵味方になって戦ってるわな。元々仲良しって関係でもねぇ」
アルフレド「だから嘘が吐けないとしても、都合の悪い情報を隠したり、言うべき事を言わなかったりすんのは可能なんだよ」
アルフレド「――つーか、まぁ?”そっち”はむしろ俺の得意分野だし?正直、負ける気がしねぇんだわ」
アルフレド「カミやんには人選からやり直すのをお勧めするぜ。マーリン辺りで手ぇ打っといたらどーよ、あぁ?」
上条「あぁ分かってる。伊達にバードウェイや土御門に鍛えられてはない」
アルフレド「あん?」
上条「お前が言った説明――『本当の事を全て言わない』のは、今言った台詞にも該当するんだよな?」
上条「例えば――『お前らにとって都合が悪い事を話したくない』んで、”他の奴から聞いてくれ”みたいな?」
アルフレド「……そうだぜ。それも当然含まれてんだ――が、正直”そっち”を全部バラせって命令はお勧め出来ねぇんだ」
アルフレド「何だったら試してみ?ウチの幹部連中の正体バラせー、的な感じに」
上条「それじゃお言葉に甘えて、『団長』は」
アルフレド「――正式名称トゥトゥ=アンク=アムン、俗称ネフレン=カ。俺の眷属の一柱だわな」
上条「とぅとぅ?」
857:
アルフレド「日本じゃアレだ、ツタンカーメンっつー名前で呼ばれるエジプトの王様だぁな」
上条「……おい、『嘘は吐けない』つってんのに嘘全開じゃねぇか!」
上条「映画にマンガで引っ張りだこの超有名人が、どうして魔術結社のボスなんかやってんだよっ!?」
アルフレド「いやいやマジで!本当なんだってば!最期まで聞けよ、なっ?騙されたと思ってさ?」
上条「騙された、っつーか騙す気満々としか……」
アルフレド「いやー、なぁ。アイツもあぁ見えて苦労してんだわ。なんつっても有志始まって以来の宗教改革を断行した王様なんだから」
上条「ツタンカーメンがか?」
アルフレド「あいつの、トゥトゥの時代にゃ神官共がつえー勢力を持ってたんだわ。アテン信仰、太陽神信仰の一派なんだけども」
アルフレド「で、トゥトゥは別口のアメン神を持ち上げて、生臭共から権力を取り上げようとしたんだが――見事に失敗」
アルフレド「挙げ句にその二代後、ホルエムヘブ――当時将軍だった野郎が王女を娶り、トゥトゥの親父さんの代から存在自体を抹消しやがった」
アルフレド「ここら辺の逸話がまさに『暗黒のファラオ』つー話になって、いつの間にか『忌々しい生贄の儀式をした!』噂が一人歩きしてんだが……」
アルフレド「……皮肉にも歴史から存在を消されたお陰で、盗掘の被害に遭わずに済んだ、って面もあんだよ」
アルフレド「そのせいで世界一有名なファラオになったんだから、人生ってヤツぁわっかんないもんだねぇ」
アルフレド「ちなみに俺的な解釈としては、アメン神の”父親”――つまり『神の父』扱いにして、”神父”という呪的意味を持たせている」
アルフレド「『存在自体が”ない”神父』なんて、笑っちまうよなぁ、なぁ?」
上条「……」
アルフレド「なぁカミやん、そんな訳でだ、そんな訳でさ」
アルフレド「分かったかよ?理解出来たかよ?”俺達”サイドの話をさ?」
アルフレド「どこが真実?どれが事実?俺が嘘を吐いてないって言う証拠は?」
上条「分かる訳――ねぇだろ!そんなものがっ!?」
アルフレド「あぁ細かい証明や説明しろっつーんだったら、俺はするぜ?イジワルしてる訳じゃねぇんだからな、そこは」
アルフレド「折角こっちへ来たんだ。何分でも何時間でも何日でも何年でも、カミやんか魔術の秘奥を納得するまで懇切丁寧に教えてやんよ」
アルフレド「俺って優しいよなぁ?よくクリストフからも言われるよ、『良い性格してますよね』って」
アルフレド「でもな、けどな、そうするとな――”あっち”で待ってる連中はどうなるんだ?間に合うのか?なぁ?」
上条「……」
858:
アルフレド「――っていうか上条当麻さんよぉ、あんまり”俺”を舐めてんじゃねーぞ?あぁ?」
アルフレド「嘘を吐けないからって騙す方法なんぞ腐る程あんだよ。分かるか?引っかき回す方法なんてもんはな」
アルフレド「俺に勝ちたいんだったら、対情報戦のスペシャリスト『明け色の陽射し』か、似たような存在である『木原』でも連れ来やがれ」
アルフレド「たかだか16、7年の人生程度じゃ力不足にも程がある」
アルフレド「そもそも、第一、前提からして”これ”はどういう事だと思う?俺は今何を言っているんだ?」
アルフレド「俺がわざわざお前を挑発するような事を言ってる――”この”事象はどういう目的があると思うんだ?なぁ?」
アルフレド「怒らせて意固地にさせて俺の話を吹き込むため?それとも善意の忠告?もしくはただの時間稼ぎって線もあるな」
アルフレド「そもそもの前提、『俺が正気だって』証明が誰がしてくれるんだ?狂人の妄想である可能性は否定出来ないよなぁ?」
アルフレド「他にも”俺”がお前の創造物だって証明は誰がする?オリジナルが乗り込んで来た可能性だってあるだろうに」
アルフレド「つーかアリサから目ぇ離してていいのかよ?今こうしている間にもショゴスの群れが向かって――」
上条「――いや、だからな。アルフレド=ウェイトリィ」
上条「お前が親切で言ってるのか、それとも何か悪っるい計算で言ってるのか。その判断は俺には多分つかないと思うんだよ」
上条「こちとらただのケンカ慣れしただけの高校生だ。人の顔色伺って真偽見極める何て芸当、出来る訳がねぇさ」
上条「確かに俺一人で聞いたんだったら、嘘吐けない条件だって騙されるかも知れないな。それは」
上条「……でも、問題は、つーか論点はそこじゃないんだよ」
上条「俺が大事にしているのは『アリサを助ける』事だ……あぁ勿論世界も助けたいけどな……何つったらいいのかな、えっと……」
上条「『蜘蛛の糸』って分かるかな?日本文学だから知らないか……」
アルフレド「天界から神が罪人助けるために縄を垂らすんだろ?類型フォークロアに”地獄のニンジン”があるから知ってる」
上条「何その民話スッゲー興味ある……が、そうじゃなくてだ」
上条「今、俺は”そういう”状態なんだよ。周り見渡しても完全アウェイでどうしたらいいのか分からない」
上条「そこへ助けになる”かも”知れない糸が降りて来たら、それが細かろうと、茨で編まれてようが掴むよな?」
上条「ただ、それだけの話なんだよ」
アルフレド「……」
上条「……つーか、どうなんだろうな?俺のイメージ次第では『協力的なアルフレド』みたいな設定も出来る筈……か?」
上条「まぁ、あんまり愛想が良くても胡散臭いか。そうだよな」
アルフレド「………………クク」
上条「お?」
859:
アルフレド「カハハハハハハハハハハハハハハッ!そうだぜっ!それでいいんだよカミやんっ!そうでないと困るっ!」
アルフレド「質問が悪かったのだなランドルフ!……あぁ、あぁ!否だ!お前はランドルフなどではなかった!」
アルフレド「あのせせこましい旅人でないのかっ!……クク、そうか、そうだなっ!貴様はオルフェウスだ!正真正銘のな!」
アルフレド「恋人の記憶を弦にして妻恋歌を奏でる楽師!神秘学の入り口でもたついたあの間抜けとは違ったか!アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハっ!!!」
上条「大丈夫か、お前……?」
アルフレド「あぁこれだから!これだから私は貴様達を見捨てられないんだ!」
アルフレド「この忌々しく愛しい可能性――『銀の鍵』がっ!『耀くDeltoidal icositetrahedron』を持った少年よっ!」
アルフレド「暗黒の産んだ驕れる奇跡は妣の闇夜と古い位階を争い、空間を搾取しようとする!」
アルフレド「ただし幾ら骨折ってもそれが出来ぬのは、奇跡が捕われて物体に粘り着いているからだ!」
アルフレド「物体から流れて物体を美しくし、そしてその行く道は物体に妨げられる!」
アルフレド「あれでは私の見当では奇跡が物体と一緒に滅びてしまうだろうよ!遠からぬ内にな!」
上条「……?」
アルフレド「ならば止めて見せろよ少年よ!魔神に穢された世界を存続させる未来があっても構わないだろう!」
アルフレド「この『無――」
プツッ、ツーッ、ツーッ、ツーッ、ツーッ、ツーッ………………
860:
――空き教室
上条「……」
アルフレド「――おーいカミやん。聞いてるかー?おーーーいっ!」
上条「――お、おぅ?寝てませんっ!起きてますっ!」
アルフレド「先生に指されたんじゃねーよ。つーか人が折角気分良く話してんのに爆睡しようとするのって、人間的にどうなんだ?えぇ?」
上条「ご、ごめん……?いやでも今」
アルフレド「俺もヒマじゃねぇ――事も、ねぇけどさ、カミやんの時間は有限なんだから、有効に遣った方がいーんじゃね?」
上条「お前は違う、のか?」
アルフレド「さっきも言ったが、”今の俺はNPCと一緒”なんだわ。例えるならばRPGで『○○村へようこそ!ゆっくりしていってね!』つってんのと同じ」
アルフレド「だからこっちの世界で悪さしようとしても出来ない――に、プラスして容量が足りない」
上条「さっきも言ってたな。バッファがどうとか」
アルフレド「幾ら龍脈の力を遣えるからっつっても、無限に行使出来る訳じゃない……ま、一見すると無限に近い有限の枠はあるんだが」
アルフレド「それでも”無意識”にアレもコレも出来るような、片手間でどうにかなるようなもんじゃねぇよ。流石にな」
アルフレド「少なくとも『夢』って形で、テメーに都合の良いように形作ってるなんざ、必要最低限の行使すら”出来てない”んだ」
アルフレド「その証拠に”上条当麻が世界の強制力を受けつけていない”んだし」
上条「俺が?」
アルフレド「分かりやすく言えば、今カミやんはこの夢の持ち主にとって都合の悪い事をしている訳だ。無理矢理目ぇ覚まそうってな」
アルフレド「でもそれは本人が望んでいる訳じゃない――だから本来ならば『強制力』が働いて、そんな事出来なくされられっちまう」
上条「……随分協力的だな」
アルフレド「そこは”上条当麻がそう設定した”んだろうぜ?俺は特に他意はねぇが――ともあれ」
アルフレド「俺の場合も”上条当麻がそう設定した”以上、この教室にこの姿で縛られるんだよ」
アルフレド「だからまぁ、質問があれば随時受け付けるが……何度も言うように、俺はお前に協力してやるつもりはない」
アルフレド「そこら辺を覚悟したんだったら、幾らでも頼ってくれても構わないんだぜ?」
上条「……上等!こっちは折角掴んだ解決への筋道なんだ、離してたまるかよ!」
870:
――空き教室
上条「――じゃ、核心から聞かせて欲しいんだが」
上条「こっちの世界、つーか”冥界”っておかしくねぇかな?あぁいや、実はこんなモンでしたーって話かもしんないけどさ」
上条「俺が想像していた”冥界”のイメージとは大分違うし、そこら辺はどうなってんだ?」
アルフレド「あ、見て見てカミやんっ!女子が校庭で大縄跳びやってるっ!」
上条「聞けよテメェ!人が折角『時間が無いんだったら巻きで行こう!』って気にしてんだからな!」
アルフレド「やっぱアレじゃんねー?『女子にはブルマしか認めない!』みたいな派があるらしいけど、俺はハーフパンツ派だわ」
アルフレド「てかブルマ見た事無い奴が殆どだっつーのに、フィクションでこれでもかとブルマ押しは何なんだろう?」
上条「だから聞きなさいよっ、ウェイトリィ兄弟のアホ担当の方っ!」
アルフレド「ん?……あぁすまん。少し興奮しちまったぜ」
上条「何か『取り乱しました』みたいに言ってるけど、字面通りの意味で変態だからな?」
アルフレド「みんな大好きっJCっ!いえーいっ!」
上条「佐天さんの顔と声で言うなっ!佐天さんはこんな事言わない――かも知れなくもないかも知れないがっ!」
上条「――ってJC?ここ高校だぜ?」
アルフレド「中高一貫校だからじゃねーの?日本だと都市部の土地高いってんで、他の学校と共同で使うトコもあるらしいぜ?」
上条「いやだからなんでお前が日本の教育現場を知っているのかと」
アルフレド「お、アリサちゃんだわ。おっぱい揺れてる」
上条「え、マジで?」
アルフレド「あ、ほれ。今跳んでるピンク髪のポニテてんんてポニテもいいよなぁ」
上条「あー……あれ?」
鳴護『……!』
佐天『……!?』
アルフレド「どしたん?」
上条「あーいや、今アリサがジャンプしてる時さ、こう両手を胸の前へ持ってきて、グッ!ってしてるよな?」
上条「こう、ちょっとしたボクサーがガード固めるみたいに、拳を握って方ぐらいの高さで持っていく、カンジの」
アルフレド「昔風に例えると”ぶりっこのポーズ”……知らねぇか。知らねぇだろうなー、それじゃ」
アルフレド「今風に言えば『ファイトだ!まだ戦えるだろ!』っつってる松岡修○のポーズだわな」
アルフレド「『コロンビア!』の腕伸ばす前でも通じそうだが……それが何よ?」
上条「よく見てみれば、たまーに他のコも似たようなカッコして跳んでるし、あれって何か意味あんのかな?」
アルフレド「あー、それ……何つーか、聞きづらいトコに気づくよな」
上条「いや、それほどでも」
アルフレド「褒めてはねぇ、ねぇんだが。あー……」
上条「ヒントっ」
871:
アルフレド「『新たなる光』だとレッサーちゃんとベイロープちゃんはする、他はしねぇか。する必要が無ぇっつーかな」
上条「……んん?」
アルフレド「俺の知ってる範囲で言えば……禁書目録はしない、御坂美琴もしない、木原円周もしない」
アルフレド「”する”のは『必要悪』の魔導書解析シスター、同じく聖人サムライガール」
上条「なんだそのナゾナゾみたいなのは……?」
アルフレド「『新たなる光』のボスさんはしない。噂じゃぼんっきゅっぼんっ!らしーんだが、俺のナイアが違うと囁いてる」
上条「どこ情報?ガイアも大概だけど、ナイアさんって誰?つーかボスも情報操作杜撰すぎやしません――か」
アルフレド「分かったかい?」
上条「まさか――サイズ、か?要はおっぱいのっ!?」
上条「いやでもしかし、それと両手を”ぐっ”てするのと因果関係があんのか……?」
アルフレド「――ンンンンンンンっ!正解っ!」
アルフレド「考えてもみろっ……おっぱいは――揺れるんだよ……ッ!!!」
上条「あん?そのぐらいは誰だって知ってるわっ」
アルフレド「……そうだな。それは、そうさっ!ある意味世界の真理でもある――だが、それ故にだ!」
アルフレド「”おっぱいがたゆんたゆんすればする程、女子にとっては運動が困難になる』んだ……ッ!」
上条「それが――まさかっ!?」
アルフレド「そう、その通りだよ『幻想殺し』!陸上女子を筆頭に一流アスリートには中々巨乳は居ないっ!」
アルフレド「何故ならばそれはデカすぎる女性の象徴が、運動する時は邪魔になるためだ!」
上条「すると?」
アルフレド「――つまり、女子が胸の前で”ぐっ”てしてジャンプするのは、おっぱいが不必要に揺れるんでっ!」
アルフレド「こう、左右から寄せて上げて押さえる事によって弾まないようにしているんだよ……ッ!!!」
上条「な、なんだってーーーーーーーーーーーーーーっ!?」
鳴護『……』
佐天『……』
アルフレド「……」
上条「……」
アルフレド「……なぁ、カミやん?」
上条「……なんだよ」
アルフレド「キス、しよっか?」
上条「なんでだよっ!?どの流れでそうなるっ!?」
アルフレド「いや折角二人っきりだし、何となく流れでさ」
上条「鏡見ろ変態。テメー今誰の皮被ってやがるっ!」
アルフレド「それだっらたカミやんも俺と同じだなっ!」
上条「違うよ?違うからな?一体何の事だか分からないけど、違うと思うよ、うん」
上条「もしも仮にそうだとしてもだな、日本人男性の約7割がですね」
872:
アルフレド「いいじゃん別に。一回だけ、一回だから、なっ?」
上条「しねーよ!そもそもお前ヤローじゃねぇかよっ!?」
アルフレド「あ、もっとロ×の方が良かった?ごめんなー」
アルフレド「ただこれ以上ロリ×リっとした体型となると、名無しのモブしかいねぇけど――それでも良いかな?」
上条「良い訳がねぇな?一体どこの世界で『そ、それじゃヨロシク!』なんて言い出す奴がいんだよ、あぁ?」
アルフレド「21世紀の日本では『男の娘』ってジャンルがだな」
上条「ウルセェよ!現代日本のある意味病巣を全体の縮図であるかように語るなっ!」
アルフレド「つーか別に俺は好きでこの格好してるんじゃねーぞ?カミやんのイメージ不足で『龍脈』の力を扱いきれなかったのが、”第一”の原因」
上条「だからって幾ら何でも佐天さんの姿になんなくっても……?”第一”?」
アルフレド「あの子もまぁ、俺と特性が似通ってんかんなぁ。『幻想殺し』の亜種と言えなくもねぇ」
上条「佐天さんが?」
アルフレド「俺の推測だが……例えばコイン投げて表が出る確率は50%、2分の1だわな」
アルフレド「裏が出るまで連続してコイントスする実験を、そこいらの通行人にやって貰ってーの」
アルフレド「10回連続で表が出る確率は1024分の1、つまり1024人に1人出ればラッキーでーすねHAHAHA!!!」
上条「要点を言え、要点を」
アルフレド「だからアレだ。コイントスして10回中10回表を出す奴が居るんだよ、可能性だけは」
アルフレド「それと同じく、あの子――つーか、この子も確実にフラグ踏み抜く体質じゃねぇのか」
アルフレド「『立ち入り禁止』の立て札がついてる建物へ入るバカは居なくはない。確率的には近所のガキから肝試しまで結構居るだろう」
アルフレド「ただ、そん中で全部のフラグぶち抜くのは滅多に居ねぇわな」
上条「ある意味俺と同じだよなー……不幸が重なる不幸体質」
アルフレド「ま、嘘なんだけどな!」
上条「嘘かよっ!?意味の無ぇ嘘吐くなよ!」
アルフレド「いいやぁ、意味はきちんとある。その証拠に、ホレ」
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン
アルフレド「な?」
上条「時間稼ぎかチクショーっ!?てかする意味あんのかよ?」
873:
アルフレド「知らね。個人的な嫌がらせだし」
上条「お前さっきから――」
アルフレド「ま、いつでもココでスタンバってるからゆっくりしてきてねっ!その間に世界が終わってるかもだけど!」
上条「……ここに居るって言ったら?」
アルフレド「好きにすりゃいいんじゃね?ただカミやんのお友達の性格からすると、探しに来そうだし」
アルフレド「そん時に”JC”と”密室”で”二人っきりのひ・み・つ授業”なんてバレたら、超絶楽しそーだぜ」
上条「鬼っ!悪魔っ!高千穂っ!お前のとーちゃんモーナー×っ!」
アルフレド「おっとカミやん!アイスに罪はない筈だぜ!」
上条「……頭痛い……あ、そうそう。一応釘刺しとくけどさ。お前この教室から出るなよ?」
アルフレド「何?監禁プレイ的な?」
上条「違げーよ。佐天さんは自分のそっくりさん見てもぶっ倒れないと思うが、その」
上条「――『あ、ドッペルゲンガー発見!よつしゃーーーーーーーーー!!!』とか何とか言って、持ち前の狂運使って追い回しそうだから……ッ!」
アルフレド「するだろーなぁ。この子の性格だったらば」
上条「不便かも知れないけど、メシとトイレは俺が何とかするから」
アルフレド「やべぇ監禁プレイ超興奮する!」
上条「だから佐天さんの外面で言うなっつってんだよ!JCなんだから自制しろっ!」
アルフレド「あーイヤイヤ気遣ってくれんのは有り難いんだが、俺はNPCでしかも”上条当麻が造ったモノ”なんだわ」
アルフレド「だから”飲食不要”だし、”普通の人間とは違う”ぜ?」
上条「もしかしてこの教室も……?」
アルフレド「あっちじゃ存在しなかったか、他のクラスだった筈だろ?なのに空っぽだってのは、”他のNPCには認識出来ない”って訳だ」
上条「へー。夢みたいにご都合主義だな」
アルフレド「いやだからさ、つーかまだ気づいてなかったのか?鈍いにも程があんだろ、そのウチ後ろからブッスリ刺されるぜ」
上条「それは地元で体験済み――らしい。てか何だよ鈍いって?」
アルフレド「――ここ、『鳴護アリサの夢ん中』だっつーのによ」
874:
――昼休み
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン……
上条「……」
上条(……何かどっと疲れた……SAN値が減ったって感じでさ)
上条(あの野郎よりにもよって佐天さんっつージョーカー引きやがって!外見がアレな分カオス増量中だよ!やったね!)
上条(てーか他に人選は無かったのかと小一時間……居ないんだよな、きっと)
上条(まぁ……なんか途中から協力的になってるみたいだし、あれで納得するしかないだよなー、これが)
上条(――てか”ここ”がアリサの夢ん中?『冥界』じゃなく?)
上条(思い当たる節は幾つもあって『ま、こういうもんなんかな?』で納得しちまってたけど、違うじゃねぇか。それも全っ然)
上条(しかも人が教室引き返すタイミングで言いやがって!授業がまともに入らなかったし……)
上条「……」
上条(……あー、まぁアレだし。元々授業は聞いてなかったって話もあるんだが、それはさておき)
上条(今はあのヤローからどうやって騙されずに済むか、対策を練るのが大切だな、うん)
上条「……」
上条「助けてー土えもんっ!?」
土御門(デス声)「『どぉしたんだぜぃカミ太くぅん?またミサアンに虐められたのかぁい?』」
上条「振っといて言うのもなんだが、意外に上手いな……じゃなくて、相談したいんだがいいか?」
土御門(デス声)「『てれれっれってれー、”バールのようなモノー”!』」
上条「解決しねぇよ!?一瞬スっとするし解決した気にはなるが、根本的な問題はより根深くなるよ!即逮捕懲役的な意味で!」
土御門(デス声)「『”こんにゃくー”』」
上条「元春君?教室だからね?確かにそれ使えば落ち着くだろうけどもさ」
土御門「で、何?教室では言えないような話か?」
上条(あぁ成程、気を遣ってくれた――待て待て、これ他の連中には『エロ関係の話をしてくる』っと取られるんじゃ……?)
上条「……いや、気持ちは有り難いがここで大丈夫。つーか大した話じゃないんだが――」
上条「――詐欺師に騙さない方法ってあるかな?」
土御門「あるけど、カミやんには無理ですたい」
上条「言い切りやがったなチクショー!?」
土御門「だって相手の目線や会話パターンから真偽を読んだり、色んな伝手を使って情報の裏取りするなんて出来る?」
土御門「プロ中のプロは”こっち”の方法で見分けようとしても、嘘を心底本当だと思い込むから、嘘発見にも引っかからないんだぜぃ?」
上条「……ごめんなさい」
土御門「つっても俺がしゃりしゃり出たり、他の連中の力が借りられるんだったらそっちを頼るだろーすぃ……あ、それじゃ心掛けだけでも教えとっか」
上条「身につくかどうかはともかく、お願いします」
土御門「って一個だけだから、難しく構える必要は無い――でだ」
土御門「『腕の良い詐欺師は基本的に嘘を吐かない』んだ。知ってた?」
上条「――――――――は?」
875:
土御門「その『何言ってんだコイツ?』的なツッコミを無視すると、つーかカミやん、詐欺師が詐欺師って呼ばれるのはどうしてだか知ってるか?」
上条「そりゃ……お金や財産を巻き上げるから?」
土御門「それは”結果”であって由縁じゃないにゃー。てかお昼食べたいからさっさと結論言うとだ」
土御門「――『嘘を吐いて”騙す”』のが、本質だ。いいか?大事なのは”騙す”点だからな?」
上条「嘘を吐くんじゃなくて?人を騙すんだったら嘘を吐かないと無理だろ?」
土御門「違うぜぃ。それも”手段”であって目的じゃない――例えばカミやんが誰かを騙して金を巻き上げるとする」
上条「しねーよ」
土御門「例えが悪いんだったら、こう、あるだろ?『参考書が欲しいからお小遣い出して』みたいに親へ泣き付くとか」
上条「あぁ聞くなぁ、そういうバカ話。実行に移すかは別にして」
土御門「そん時さ、尤もらしい嘘吐くよな?『学校でみんな持ってるんだ!』とか、『持ってないと仲間へ入れて貰えない!』とか」
上条「その例は失敗してるようにしか……」
土御門「だよなー、だったらカミやんはどうする?」
上条「んー……正直に言うのが一番なんだろうけど……出来ないからそうしてるんであって――」
上条「明日の授業で使うんだ!、みたいな?」
土御門「そうだな、そうやってそれっぽい――つまり『有りそうな』話をでっち上げるんだ」
土御門「これは”嘘”を吐いた話。ご両親がしっかりしてれば騙されないだろうし、事実関係を調べれば嘘だってバレちまう」
土御門「だが”ここ”までは素人の話。ホンモノは更に凄い。なんつっても――」
土御門「――”嘘を吐かない”んだから」
上条「あー……何となく分かってきた」
土御門「基本的に事実だけを積み上げていくんだよ。相手に信用させるため、疑われないためにだ」
土御門「そうやってある程度信頼を積み上げた後、致命的な所、ここぞという所で大嘘吐いて騙すのが一流の詐欺師」
上条「……納得」
上条(『濁音協会』もそうだったよな、確か。自分達が死ぬ事すらも計算尽くで、俺達を欺くためにやった事だ……)
土御門「『海外の恵まれない子に支援の手を!』つって募金箱持ってんのは三流。『うわー、こいつら胡散クセー』って思われて終わり」
土御門「『ペットボトルのキャップを集めてワクチンを!』は二流か。途中で金を回さなくなったし」
上条「あー、居たなぁ」
土御門「『私達は国連です!国連の下部組織です!』でお金を集めるのは一流。”募金を全部チャリティーに遣うとは言ってない”連中だにゃー」
上条「……その例えが正しいかどうかはさておき、言いたい事は、分かった」
土御門「他にもよくあんのは『事実の一部分だけを殊更に強調』すんのが流行りだにゃー。なんつってもワンフレーズでバカにも簡単に使えるし」
土御門「刺されて出血多量で死にかかってる奴の耳元で、『輸血をする感染症になるリスクが高まる!過去のデータでは0じゃない!』って煽る」
土御門「ソイツを刺した犯人が包丁持ってウロウロしてんのにはノータッチ。全然関係ないリスクばっか取り上げ――ん、のも、また情報操作の一環だしぃ?」
上条「……確かに」
上条(思えばアルフレドも『時間が無い時間が無い』って必要以上に連呼していたような……)
上条(もしも『タイムリミットを待つ方が奴にとって利益になる』んだったら、わざわざ俺に教えたりはしない、か)
876:
土御門「とにもかくにも、腕の立つ詐欺師程事実しか言わない。嘘がバレたら元も子もないからな」
上条「……土えもんさ、随分詳しいけどそっちの人じゃないんだよね?『口先の魔術師』とか呼ばれてるなんて事無いんだよな?」
土御門「まー似たようなモンだにゃー。本来有るべき理を曲げて都合の良いように解釈・変遷するってお仕事だしぃ」
土御門「とにもかくにも、詐欺師が詐欺師だって言われる由縁は、必ずどこかでボロが出るんだぜぃ。現実との乖離が破綻を来す」
土御門「具体的には結婚詐欺師が結婚した話は聞かないし、和牛売って儲かった例も皆無」
土御門「だから連中は破綻するのを知ってるから、どっかで必ず『致命的な一撃』をこっちへ入れて来るんだわ」
土御門「ま、どこでその『致命的な一撃』を入れて来るのか、カミやんには分からないと思うぜぃあっはっはっはっー!!!」
上条「今までの説明全否定っ!?」
土御門「ただなーカミやん、これは多分カミやんにしか出来ない事があるんだ」
上条「……なんだよ。『右手』でどうこうしろって話じゃないだろうな?」
土御門「それはただの『手段』だ。もしも他の誰かにくっついてたら、きっとそれはただの右手へ成り下がったんだろうが」
土御門「それよりも詐欺師ってのは”自分の持っていきたい方向へ話を進める”んだ」
土御門「自分の思い通りの展開へ持っていくために、あれこれ話を誘導すると」
上条「……例えば?」
土御門「カミやんは今、喉が渇いていない。また近くに飲める水道があるから心配もしていない」
土御門「でも詐欺師は水を売りたい。だったらそいつはきっとこう言うんだ」
土御門「――『この水は霊験あらたかな富士山系から汲まれたものです!古の修験者のみが口にしていたと言われる!』」
土御門「『どうです、?そこのあなた!今ならばお安く提供しておりますよ!不幸が治るかも!』」
上条「じゃ、じゃ一本だけ買っちゃおうかなっ?」
土御門「みたいな感じ。あ、ちなみに日本製のミネラルウォーターの34%が山梨県だからろ、大なり小なり富士山系の水脈を使ってる」
上条「騙された……のか?」
土御門「いんや何も騙してなんかないぜぃ?富士山で密教系験者が居たのは本当、連中が水を飲んでたのもそうだし」
土御門「治る”かも知れない”んだから、嘘は何一つ吐いてない」
上条「あー……」
土御門「この話のキモは『水を飲みたくなかったカミやんに水を買わせた』――思想誘導だな。難しく言えば」
上条「対抗する手段は?」
土御門「そうだな、カミやんに出来そうな――いや、にしか出来なさそうな事であれば、『考えを曲げない』事だぜぃ」
上条「うん?」
土御門「詐欺師はあれこれ自身に取って都合の良いように言ってくる。騙す相手に間違った選択肢を掴ませるためにだ。ここまではいいな?」
上条「あぁ」
土御門「だったら『信念をねじ曲げない』事で、相手の望む選択肢をぶち壊す――どうだ?」
上条「……あぁ確かに。それ多分、俺出来そうだわ」
土御門「だろ?」
モブ「おーい、カミジョー!妹さん来てんぞー!?」
上条「分かったー!……ありがとう、土御門」
土御門「気にすんなよ、エインヘリャルの勤めを果したまでだ」
上条「映、倫?」
鳴護「もうっ、当麻君またお弁当忘れて!」
佐天「や、ですからそれ朝言えばいいんじゃないかなー、なんて思ったりなんかするんですけど?けどー?」
初春「佐天さん空気読んで下さいっ」
上条「相変わらず癒やしなのかカオスなのか分からん……!」
877:
――昼休み 屋上
上条・鳴護・佐天・初春「「「「ごちそうさまでした」」」」
佐天「あーそうそう、お兄さん聞きましたよー。おウチで家事手伝いするようになったんですよね?」
上条「まぁ……少しは反省したって事で一つ」
初春「ご家庭の事は色々とおありでしょうけど、家事は出来て越した事は無いと思いますよー」
上条「あんま突っついてくれるなよ。俺だって流石に悪いと思ったからさ」
鳴護「そうだねぇ。当麻君が手伝ってくれるから、有り難いは有り難いんだけどね……」
佐天「――はっ?!まさかこれは思春期の娘さんにありがちな、『パパの下着と一緒洗って欲しくないんだもん!』ですかっ!?」
上条「そんな事ねぇよ!……な、ないよね?」
鳴護「あ、そういうのは全然全然?昨日もわたしの下着畳んでくれてたし?」
佐天「よっ!このっ変質者っ!」
上条「佐天さんその言い方はどうかと思うんだ?つーか曲がりなりにだけど、家族同士の間柄だしさ」
上地要「てか君キャラブレなさすぎだよね?どこ行っても賑やかしするのが宿命なの?」
鳴護「ただ、その、昨日今日始めたばかりの当麻君のお料理が、わたしの作ってたご飯よりも美味しい、ってのはちょっと納得行かないかも……!」
佐天「あ、それアレじゃないんですかね?化学調味料的なものを大量に混入しているとか?」
上条「そこまでして見栄張りたくはないな。何よりも体に悪そうだ」
初春「あ、でしたら別のものが入ってるなんてどうでしょうか?」
上条「人を炎上寸前のツイアカみたいに言わないでくれるかな?」
初春「そうですねぇ、例えば”愛情たっぷり”みたいな?」
佐天「ナイスフォローっ!」
上条「いやぁ、入れてない事ぁないけどさ」
鳴護「でも、それだったらあたしの方が美味しい筈じゃないかな?」
上条・佐天・初春「「「えっ?」」」
鳴護「えっ?」
全員「……」
佐天「――と、言う訳で見事にオチた所でご提案が!」
上条「アリサさん反省しような?アンタッチャブルな子ですら踏み込むの躊躇ってんだからね?」
878:
全員「……」
佐天「――と、言う訳で見事にオチた所でご提案が!」
上条「アリサさん反省しような?アンタッチャブルな子ですら踏み込むの躊躇ってんだからね?」
鳴護「ごめん、意味がよく分からないんだけど……」
上条「目ぇ逸らしてる時点で気づいてるよな?てかほら、こっち見なさい!顔真っ赤にしながら言っても説得力無いですよっ!」
鳴護「し、しーらないなー?」
上条「だーかーらっ!」
佐天「……なんだろうね、この兄妹。『所構わずイチャイチャしてんじゃねぇよ』って突っ込めたら気が楽なんだけど……」
初春「ほぼ言ってますよ、それ」
佐天「つーかもしお兄さんさえ宜しければっ!放課後メンズブラ買いに行くのついてっていいでしょーかっ!」
上条「却下だ!てゆーかその誤情報どっから持って来やがった!?」
上条「一体どこのアリサさんがデマ流しやがったんですかねぇ!?」
鳴護「うん?でも昨日のあたしのブラ……で、朝のアレだから、そうかなーって」
佐天「すいません、詳しく訊いてもいいんですかね?どうにも禁断っぺぇ臭いがプンプンするんですけど!」
上条「人様にお聞かせ出来るような楽しい話じゃないですかね、はい」
初春「……犯罪的なお話でしたら、私がお力になれると思いますよ?」
上条「どう考えても信用されてないっ!?」
鳴護「それ、御坂さんへ直で連絡行くんだよね?……うわぁ、御坂さん当麻君に厳しいから」
上条「止めてあげて!?主に俺が死んじゃうから!」
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン……
佐天「と、お時間ですねー。そいじゃまた放課後ー」
鳴護「当麻君もお勉強頑張ってね」
上条「あぁ――って待ってくれ」
佐天「はい?」
初春「話の流れから佐天さんじゃないかと……」
鳴護「……えっと、大切なお話?」
上条「でもない。あー、その朝の話だけどさ、今日ちょっと予定入っちまって」
鳴護「……むー」
879:
上条「ごめんな?いつか埋め合わせするから」
鳴護「あーうん、分かったー。それじゃご飯もわたし作っちゃってもいいのかな?」
上条「悪い、それも頼む。遅くなりそうだったら連絡するからさ」
佐天「ちなみにご予定ってのはなんですか?早く終わりそうだったら待ってますけど?」
佐天「てかブラ初心者なんですから、お一人で悩むのはよくないですもんねっ!ゼッタイっ!」
上条「うん、早く終わってもメンズブラ買いには行かないからね?」
鳴護「どうせ小萌先生にお呼ばれとかそーゆーのでしょ?行こっ!」
佐天「あー、怒らせちゃいましたねぇ」
上条「君が多少なりとも煽っていたような気がするんだが……」
初春「……すいません。いやホンっっっトに、えぇはい――と、すいません、お兄さん」
上条「はい?」
初春「ちょっとご相談したい事がありまして、今晩連絡取っても宜しいでしょうか?」
上条「ん、あぁっと?初春さんが?俺に?」
初春「はい。連絡と言っても”風紀委員”用のチャットがあるので、そこで」
上条「……分かった。何時頃?」
初春「今日は早番ですんで、日付を跨ぐ前でしたらいつでもオーケーです――ってどうしました?」
上条「いや、こんな時『浮気ですかっ!?いやーえっちすけっちわんたっちー!』って騒ぐ子が静かだな、と思ってさ」
佐天「初春、言われてるぞー?」
上条「佐天さん、俺ずっとずっとずっと前から言おうと思ってたんだけど、君あんま頭よくないよね?」
上条「果てしなくボケ体質かだって思ってたんだけど、それ以前に問題があるもんね?」
佐天「やー、今のは流石にわざとですけど、結論的には初春と同じなんで」
上条「ふー、ん?」
初春「それじゃまた後で、失礼します」
佐天「んじゃまたでーすっ、いあいあ」
上条「あぁ」
888:
――放課後 空き教室
佐天?(体操着)「……あの、上条さん。あたし、こういうの良くないと思うんですよ、はいっ」
佐天?(体操着)「だって、ホラ――え?」
佐天?(体操着)「『ここは使われてない第三倉庫だから、誰にも気づかれない』……っ!」
佐天?(体操着)「待って下さい!あたし、あたしっ!アリサさんに許されない……はい?」
佐天?(体操着)「『フハハハハハ!南斗六星の帝王にして聖帝たるこの俺は、誰の許しも請わぬ!』……!?」
佐天?(体操着)「まさか、まさかあなたは――聖帝サウ、ザー!?南斗六聖拳”将星”の男!」
佐天?(体操着)「『滅びるがいい……愛とともに!!』」
佐天?(体操着)「逃げてぇー、ケェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!?」
上条「――取り敢えず落ち着け、な?お前がウェイトリィ兄弟の頭悪い方だっつーのは分かってるからさ」
上条「順番に突っ込んでいくと、普通の学校に第三倉庫なんて、ない。つーかどんだけ備品余ってんだ。捨てんだろ。邪魔じゃねぇか」
上条「次に俺はサウザ○さんじゃねぇな?なんで唐突に持って来ちゃったの?イチゴ味が売れてるから乗っかっとけみたいな感じ?あ?」
上条「てゆーか状況的にまとめような?どうしてサウ○ーさんが佐天さん体育倉庫へ呼び出した挙げ句、ケンシロ○と戦うの?」
上条「佐天さん関係ないじゃない。戦うんだったらケンシ○ウさんとサシですればいいじゃない。てか一般人巻き込むなよ!迷惑だから!」
上条「あと君ポジション的にリ○ちゃんなの?完全に傍観者だよね?話振っといて丸投げだもんね?」
上条「最後に佐天さんはそんな事言わな――」
上条「……」
上条「……な、なんでショートパンツ?」
アルフレド(佐天?)「うんアレだよな。なまじっかキャラを知ってるだけに、完全に否定出来ず話を逸らせようとしたのは評価するぜ」
アルフレド「てゆーか自分でも割と忠実にエミュレートした部類へ入るんだが……」
上条「確かに言いそうだけども!可愛いけど残念な子だから!」
アルフレド「てかさ、『明け色の陽射し』じゃなくって『あ系ロリ陽射し』だと思うんだよ、俺は」
上条「おっと時間稼ぎは止めて貰おうかっ!決してバードウェイさんが怖くて言ってるんじゃないけども!」
上条「つーかテメーその話題俺へ振って、『あ、確かに!俺も前からそう思ってた!』って言うのと思うの?バカなの?死ぬの?」
アルフレド「てゆーか12歳児をボスにしてる魔術結社ってどうなんだ?魔術師以前に人として大丈夫なのか?」
上条「あー……うん、まぁ?マークさん達は幸せそう……でしたよ?見た感じだと――ってお前」
上条「さっき『明け色の陽射しは知らない』みたいな事言ってただろ。なんでボスの個人情報把握してんだよ?」
アルフレド「あぁそれは『新たなる光』の方。ロリ幼女がボスやってる方は、先代の頃から俺らとやり合ってる――し」
アルフレド「つーかヒマだったら『龍脈』辿って情報仕入れてたんだよ」
上条「……またお前碌な使い方してねぇんだろ?」
アルフレド「……アリサちゃんのパンツくんかくんか……あっ」
上条「冤罪過ぎるわっ!それっぽく言ってんじゃねぇよ!?」
889:
アルフレド「大丈夫だぜ!思春期の男なら一度は通る道だ!」
上条「その道、一般的には外道って言うよな?てか誰も彼も異性の下着を手に入れられる環境じゃないだろうし!」
上条「つーかお前本当に魔術結社のボスなのか?割と前から思ってたけどさ」
上条「アホみたいにフットワークが軽いし、ぶっちゃけアホだろ?なぁ?」
アルフレド「あーダメダメカミやん。また俺のペースに呑まれてんぞー?いいのかー?」
アルフレド「折角ARISAとのデートを袖にして来てんだから、もっと楽しい話をしようぜ。俺にとっては、だけど」
上条「……あん?知られると何かマズいのか?」
アルフレド「いんや別にぃ?現実からどれだけ顔を背けても、現実はダッシュで追いかけてくると思うがね、まぁいいさ」
アルフレド「俺が止めとけって言ったのは、まず間違いなく理解出来ないだけだから、無駄だと思ってさ」
アルフレド「でもま、聞きたいんだったら言うぜ。”俺はそういう風に造られてる”んだしぃ、それは仕方が無いからな」
アルフレド「つってもまー、大して面白い事も無ぇんだわ、これが」
アルフレド「……つーかさ、つーかね、テメェで言ってて悲しい事この上ねぇんだけどもだ」
アルフレド「”俺の顔なんて誰も知らない”ぜ?いやマジで悲しいんだけどさ、多分誰一人として見た事ぁないレベル」
アルフレド「てか失礼だよなー、誰が貌(かお)の無いスフィンクスやっちゅーねん!あそこまでシャクレてへんわ!シュッとしとぉわ!」
上条「大阪人になるの禁止」
アルフレド「マーリンの真似した――てか、あれ正確には大阪でも京都でもなく、神戸弁たぜ」
上条「キャラ作り全部パチモンじゃねーか!」
アルフレド「まぁまぁカミやん。そうしないと、”そういうこと”にしないと蜂蜜酒(ミード)の女王は現世へ出て来られないのさ」
アルフレド「下乳魔神が50%の確率に縛られているのと同様、メドヴーハもまた力に対して義務を負う存在。好き勝手出来る筈も無し」
アルフレド「……まぁ俺と違って、”出口のない迷路を造ってはいけない”とか、”手札を開示したままゲームをしなくてはならない”なんて楽しい制約は架されてねーけども」
上条「さっきから――というか、ここへ喚んでから変な単語が入るが、何か意味あるのか?」
アルフレド「あぁブラフだねぇ、それはきっと多分恐らく」
890:
アルフレド「時間稼ぎのために無為で無駄で無益な会話だ。そこに込められているのは何も無い筈、だ」
アルフレド「ミードを呑むのはハスターかビヤーキーか?あのもふもふの正体をバラしてやってもいいが、それで興に欠ける」
上条「……?」
アルフレド「それともカミやん、”オティヌスのような魔神が過去に居なかった”とでも思うのかい?この世界をぶっ壊ギャー!な奴らが、一度足りとも存在しなかったと?」
上条「それは――マタイさん達と話した”終末”論か。一度も滅びてない世界を根拠に神話はフィクションだっていう」
アルフレド「居たんだよ。世界を穢す魔神が居れば、当然世界を護る魔神だってな」
アルフレド「地を這う蟲が天を飛ぶシャンタク鳥の懊悩には気づくまい?いいか、突け!突くがよいランドルフよ!」
上条「――千夜一夜物語」
アルフレド「ん?王の気を引くために毎夜物語を聞かせた次女の話がなんだって?」
上条「あの話は最終的に『子供が出来たら王様は丸くなりましたよチャンチャン』で終わるけど、今はお前の妄想に付き合ってる暇はねぇよ」
上条「魔神云々の話は個人的にも気になるが……それよりも話を進めろ、本題のだ」
アルフレド「おっぱいっていいよねっ!」 グッ!
上条「そんな話してねーわ!あとその皮着て無駄にエロい単語言うなっ!」
アルフレド「あー……俺の顔が売れてないって話だっけか?まぁ自慢にもなんないんだけどさ」
アルフレド「少なくとも”銀(ズィルバー)”のマタイ=リース前教皇、”魔神”オティヌスみてーに顔が売れてるって訳じゃねぇのよ」
上条「『必要悪の教会』も……お前らなんか知らない、つってたっけ……?」
アルフレド「ま、それが現実側に居る”俺”の話で、こっちからはこっち側の役割――てか義務を果そうか」
アルフレド「一々説明すんのメンドイんだけどよ、しねぇと存在自体が固着出来ねぇから」
アルフレド「カミやんがGMだったなら、わざわざ一から説明する必要も無かったんだが……まぁ、いい」
上条「いや別にそこまで詳しくは訊いてない。それよりも――」
アルフレド「昼の話だろ?ちょっと待てって順番ってもんがある」
アルフレド「結論だけ聞いたって、過程を理解出来なきゃ意味無ぇんだけどよ……いいだろ、サービスだ」
アルフレド「繰り返すが、ここは『鳴護アリサの夢』なのは確定、そしてまた――」
アルフレド「――『冥界』でもある」
891:
――空き教室
上条「どうしてそれが分かった?龍脈の記憶か?」
アルフレド「待て待て。カミやんはそっからまず勘違いしている、っつーか順序立てて俺に話をさせねーからそうなるんだ」
アルフレド「お前、龍脈を『なんでも出来るスッゲー力!』とか考えてんだろうが、んなこたぁーないぜう」
上条「ぜう?」
アルフレド「噛んだんだよ突っ込むなよ――全知全能には程遠いし、蓄えられてんのは知識であって情報ではない……あー、例えばだ」
アルフレド「上条兄妹()が昨日の夜の会話は記録されてる。何を言ったのか、何をやったのか、何も出来なかったのか」
上条「外角高めに攻め込んでくんな」
アルフレド「ただ誰が何を考えているとか、何をしたいだとか、そういうのは『記録』として残らないため、閲覧するのは無理だと」
上条「……俺が日記でも書いていれば?」
アルフレド「その日記の記憶を呼び出せば分かる――し、今、カミやんがやってるように適当なNPCとして召喚して聞き出すのもアリ」
アルフレド「ある意味、俺はファウスト博士に呼び出されたメフィストフェレス……つって分かるか?」
上条「お前が今、姿借りてる子から聞いた……どこだったか、いつだったかは忘れたけど」
アルフレド「流石は『龍脈使い』。無意識の内に接続してやがるのか、それは結構!世界は順調に壊れつつある!」
上条「あぁ?」
アルフレド「今のは”ここ”の本題とは別――で、戻すけど、そのファウスト先生ってのは民間伝承なワケだ」
アルフレド「ドイツの都市伝説、と言っても過言ではなく、大体16世紀ぐらいに編纂された書物には姿を見せる」
アルフレド「で、だ。こっからが大切なんだが、昔っから悪魔召喚の儀式はあるわな?ソロモン王、旧約聖書には既に書かれている由緒正しい魔術の一系統」
上条「個人的には、まぁロマンを感じなくもないが……」
アルフレド「『エロイムエッサイム、我は求め訴えたり』、か?まぁ連中も俺と同じで人間が大好きだからなぁ。力を貸してやりたくなる気持ちは分らないでもない」
アルフレド「でも実際には呼び出した悪魔に大嘘吐かれたり、逆に食い殺される事件が頻発した――ん、だが」
アルフレド「これを『龍脈』で解釈すればどうなる?」
上条「えぇっと――」
アルフレド「――と、時間が惜しいからさっさと話を進めるぜ」
上条「聞いた意味ねぇな!有り難いけどもだ!」
アルフレド「悪魔ってのは”ユーザーインターフェース”に過ぎないんだよ。言ってみればネットに繋いだパソコンと同じだ」
アルフレド「『龍脈』に人間が直接繋いでもワッケ分からんから、間に何か噛ませて分かりやすくしようぜ!って、『発明』されたんだわ」
上条「悪魔を”発明”?発明ってどういう事だよ?」
アルフレド「悪魔を喚んだお話にはテンプレがあるよな?例えば生きてる内は力を貸すが、死んだ後には魂寄越せとか言うの」
アルフレド「他にも『知識が欲しい』って願ったにも関わらず、召喚法自体が間違ってて嘘八百教わるのとか」
アルフレド「更に酷いのになってくると、正体は悪魔なのに『僕は悪いスライムじゃないよ!』って偽る奴とか」
上条「あー……有りがちだよなー、そういう話。最後のは何か違うが」
アルフレド「でもこれおかしくね?てゆーかバカじゃねーの?って思わね?」
上条「なんでだよ?悪魔は――というか、少なくとも言い伝えられてる悪魔は、なんかこう、力や知識を持ってるんだろ?」
上条「だったらそういう連中から知識や力を借りたいのは、当然じゃないのか?」
アルフレド「うん、『それじゃ別に悪魔である必然性はない』よな?」
上条「うん?」
892:
アルフレド「だからさ。別に悪魔でなくたって良くね?神霊に天使、聖霊に精霊。人間へ味方してくれる連中はごまんと居る筈なのに」
上条「あー……成程。そりゃそうだよな――ってまたお前!本題から逸れてるし!」
アルフレド「逸れてねーよ、ストレートだよ!つーか魔術云々の説明はクソ長いわ、しかも概念だけ素人へ教えるんだから時間かかって当たり前なんだよ!」
上条「信用出来ねー」
アルフレド「……いやだから。、俺にも魔術師――ではないけれども、一度決めたルールは破れないとかあんだって!……ったく信用ねぇなぁ」
上条「おい、ユーロスターん中での大量殺人犯。忘れてんじゃねーぞコラ、あ?」
アルフレド「俺達は”法的には”一回死んでるし?そこら辺は免責して欲しいところだがねぇ?」
上条「心配要らん。『人権?なにそれおいしいの?』って連中がね、腐る程居るから……ッ!」
アルフレド「やだそれ超コワイ――てか、お前が話逸らしてどーすんだよ。元へ戻すとだ」
アルフレド「昔は――『精霊』を喚んでいたんだよ。所謂原始信仰、アミニズム時代の話だ」
アルフレド「まだ神は神という形を取れず、万物に精霊が宿ると信じられていた時代、マッドマンは精霊を喚び、語りかけようとした――」
アルフレド「――が、失敗した。何故ならば精霊は気まぐれで、人の望みを容易に叶えてはくれなかったからだ」
アルフレド「だから人間は精霊を捨て『神』という概念を生み出した」
アルフレド「次の時代、人々は全知全能である神を慕い、敬い、憎み、そして神への道を至ろうとした」
アルフレド「いと高き御方の侍従を守護天使として従え、エロヒムの息子を喚ぼうした――」
アルフレド「――が、これもまた失敗した。何故ならば神の御業は偉大すぎて、到底人の手には余るものだったからだ」
アルフレド「だから人は神へ背を向け『悪魔』という概念を生み出した」
アルフレド「その結果どうなったのかは、カミやんは知ってる筈だな?」
上条「……」
アルフレド「中世に勃興した錬金術然り、古代に消えた獣化魔術に夢魔術と同じく、召喚魔術も今のセオリーからは遠く取り残されてしまったんだわ」
アルフレド「つーのもアレだ。『召喚魔術は動作が極めて不安定』って側面を持ってるからだ」
アルフレド「悪魔を召喚出来たとしても、まずまともにこっちの言う事は聞かない。どころか逆に命を奪おうとするのが当たり前」
アルフレド「また”世界の真理”とやらを教えてくれと頼んで、嘘八百吹き込まれるのも日常茶飯事。なぁ?せめて契約ぐらいは守って欲しいところだが」
上条「……完全に脱線してねぇかな、これ?」
アルフレド「前フリが長くて恐縮なんだが――あ、じゃ、こうしようぜ!実は俺カミやんに言ってなかったんだけど、”この教室の時間の流れは遅い”んだよ」
上条「そう――って待て待て!さっきは普通に流れてたじゃねぇかよ!」
アルフレド「いやなんか俺が龍脈に繋いだせいじゃねぇの?何か”外の時間の10分の1ぐらいになって”んぜ?」
上条「嘘くせー」
アルフレド「だから”この俺は嘘を吐けない”って設定になってんだよ。いい加減納得した方がお前のためでもあるんだがな」
上条「……まぁいいや。それで?」
893:
アルフレド「今までのを龍脈で解釈すると――てか、今上げた例、精霊に神に天使に悪魔だっけか?あれ全部『龍脈』へ繋がるためのインターフェースだよな?」
アルフレド「携帯でもパソコンでも、最近は時計型端末でもいいさ。とにかく『凄い力を持つモノにあやかって、力と知識を手に入れよう』的な話さ」
アルフレド「けど、人類がほぼ有史以来続けてきたにも関わらず、上手く行かなかったよな?所謂『世界の真理』とやらの知識を知る事は出来なかった」
上条「……科学や物理学に取って代わられてるよなぁ、そこら辺は」
アルフレド「いやーだからな?失敗し続けてきたのは理由があるんだよ、理由がな」
上条「や、でもさ。お前が言ってんのが本当だったらば、万単位、下手すればもっと多くの魔術師が龍脈に繋いで、情報を探ってんだろ?」
アルフレド「だなー」
上条「それでも悉く失敗してきたってのは、難易度が超ムズいとかじゃねぇの?大体龍脈の制御自体キツいって話じゃんか?」
アルフレド「あー、違う違う。そこっからまず間違ってる、間違ってるんですよ上条さん」
上条「佐天さんのフリ禁止」
アルフレド「――だって『龍脈の中に答えなんかあるワケねーじゃん』か?」
上条「…………………………はい?」
アルフレド「いやだから。龍脈ってのは全知全能じゃない、それっぽく見えるけどな」
アルフレド「この星が死ぬ時は枯れるし、枯れるまで遣えばこの星は死ぬ。また”貴様ら”が『天の龍脈』と呼んでいるビヤーキーの流れ。あれだって星が死ねば効力は無くなる」
アルフレド「無限に近いが有限なんだわな――なんですよねぇ」
上条「……」
アルフレド「でも、”それ”はただ記憶と力を溜め込んでるだけの何か、に過ぎないって話ですよ。意識も無ければ自我も無く、方向性すら無いエネルギーの塊」
アルフレド「例えば……そうですね。上条さんちで出た昨日のお夕飯あるじゃないですか?ご飯に手作りハンバーグ、あ、デミグラスではなくてトマトソースがベースの」
アルフレド「より正確にはグネーデル風お肉マシマシなんですけど、アリサちゃんは気づいてくれなかったですもんね?」
上条「……正解」
アルフレド「そういう”記憶”は蓄積されるんですけど、けどそれってただの知識であって真実とか真理とか、そう言うもんじゃ無いんですよ、えぇえぇ」
上条「それじゃ――何を見た?何を知ったんだ?」
上条「神様や悪魔を呼び出そうたとして、知識を求めた人達は誰に何を教え込まれたんだ?」
アルフレド「それもまた『龍脈の記憶』を不完全なままに知っただけ。『万能薬の作り方』を知りたい医者には『誰かが残した万能薬”っぽい何か”』のレシピを」
アルフレド「それを鵜呑みにしたパラケルススは多くの患者へ水銀を呑ませて殺したぜ。おー、コワイコワイ」
アルフレド「また『不老不死』を求めた貴族の女には『不老不死になれる”だろうと言われた”』方法を」
アルフレド「バートリ=エルジェーベトは女子供を鋼鉄の処女へ架けて血を搾り取り浴びるようになった……ま、最期にはそのオモチャで処刑されたらしいがね」
アルフレド「――だからこの世界に絶対不変の真理なんてものは無い。あったとしても龍脈の中には存在しない」
アルフレド「何故ならば龍脈とは『ただ記憶と力を溜め込んでいるだけ』だからだ」
アルフレド「……言い方を変えるとすれば、”誰かが知っていた事しか知らない”んだ。未知の現象を捌くような能力では決してない、オーケー?」
上条「……でも、それっておかしくないか?現に今、世界は全部眠っちまってるワケだろ?」
894:
アルフレド「それもまた”そーゆー風に設定された”からだよ。矛盾すっかもしんねぇけど、魔神セレーネはギリシャ神話を忠実に再現しているだけ」
アルフレド「万能薬も不老不死も再現自体は可能……ただし、『それに見合う代償を支払う』のが前提」
上条「あぁ……それが龍脈の支配とかに繋がる、か?」
アルフレド「土地や国を支配して、権力者の思いのままに呪的要素を取り入れよう、って思想は古くからある。風水(Feng-shui)なんかそうだ」
アルフレド「だから『龍脈を繋がってる間は不老不死』だとか、『リンクしてる間だけ病が治る』みたいな感じ?」
アルフレド「レディリーみたいな”成功例”は滅多にねーんだわ」
アルフレド「そういう基礎的な所を疎かにして超々ショートカットを使用としたって失敗するよねー、が結論なんだが――さてさて」
アルフレド「以上の話を下敷きにして話を進めるが――この世界、どうにもこうにも”手抜き”だって思わないか?」
アルフレド「曖昧な設定にいい加減な人間関係。ぶっちゃけ矛盾点を上げればキリないぐらいの杜撰さ」
アルフレド「『龍脈』の記憶を生かしきれれば、つーかそのものの中なのにこれは一体どういう事だ――」
上条「アリサの『夢の中』だから、か?」
アルフレド「――正解。もっと正しく言えば『冥界に居る鳴護アリサが見ている夢』だって話さ」
上条「……俺が連れ戻しに来たんだから、アリサが居るのは不自然じゃない。むしろ居ないと困る。けど」
アルフレド「そうだな。それは正しい」
アルフレド「上条当麻――”神浄討魔”でも無意識下に潜むイドの怪物からは逃れられない」
アルフレド「ほぼ全ての人類が闇夜を恐れるように……”ここ”――つまり『冥界』もまた、そんな在り来たりのものになる筈だった。ならなければいけなかった」
アルフレド「実際に幾ら規格外とは言っても『冥界下り』が、”深夜の学校”という分かりやすいイメージとして創造されたのだからな」
上条「だって言うのに、俺が今ヌルい学生生活をしてる居るのも」
アルフレド「そうだな。鳴護アリサがそう望んだからだ」
895:
――空き教室
上条「『常夜(ディストピア)』だっけか?セレーネが使ってる大規模術式、あれの影響がここまで来てる?」
アルフレド「とは違うな。系統自体は似たような感じだが、もっと脆くて弱々しい印象を受ける」
上条「って事は、アリサ、か?」
アルフレド「魔神セレーネの欠片なんだ。似たような力の一つや二つ、使えてもおかしくはない――し」
アルフレド「魔術師が――というか”原初の魔術(プリミティブセンス)”に言葉も術式も必要は無い。ただの純粋な思いが――」
アルフレド「――『奇跡』を産んだんだ」
上条「……まぁ、そう、なんだろうな」
アルフレド「類人猿から一歩踏み込んだ辺りで、もうそういう原始信仰は興っていた。そこら辺は各地の壁画でも眺めるか、土器でも探せばいい」
上条「本物の『冥界』はどうなってるんだ?」
アルフレド「あぁちょい待ち……えーっと――――――っ!?」
上条「うん?」
アルフレド「……アクセス権限がありません、だな。どっかの誰かが邪魔してるっぽい」
上条「アリサか?」
アルフレド「ここで”佐天ちゃんが全部の黒幕でしたー”なんつったら逆にスゲーよ。むしろ尊敬するわ」
アルフレド「……まぁ”冥護アリサ”にとっちゃ、当然の役目かも知れねぇが」
上条「……なんでアリサは――」
アルフレド「まー、そこまでは知らね。てゆーか俺よりもカミやんの方が知ってそうだけど、なぁ?」
上条「……」
アルフレド「そもそもこの夢自体、カミやんをハメるためだけに展開してた、ってのも怪しい話だし?……あ、そうだ!」
上条「解決策が?」
アルフレド「俺と同じようにさ、『鳴護アリサを造って聞けばいい』んじゃね?」
上条「っ!」
アルフレド「好きなよーにあれこれ聞けるし、嘘だって吐けないからカミやんが知りたい事、なんだって分かるぜ?……あー、いいアイディアだな、それ」
アルフレド「そうすれば『本物』のアリサちゃんと話す時も有利になると思うぜ?いやマジでさ」
上条「……本物の?」
アルフレド「俺も含めてだけどさ、ここに居んのは全員NPCじゃん?外側だけ似せた何か。魂の籠ってない、行動だけを模倣させたシロモノだわな」
アルフレド「文字通り『夢』の中の存在であって、薄っぺらいもんさ」
上条「や、でも、土御門――俺の友達は現実と殆ど変わりはなかったぞ?」
896:
アルフレド「でもここは現実じゃない。龍脈から引っ張り出された記憶を基に構成されたBotだ。モシ”本物っぽく”見えるんだったら、それはただ単に術式が凄いだけだわな」
アルフレド「あー……アレだ、『スワンプマン』って知ってるか?思考実験の一つなんだけどさ」
アルフレド「男が沼地へ足を踏み入れた時、落雷が落ちました。男は絶命しますが、何かの化学反応が起きて泥から男と全く同じ組織、記憶を持つ沼男が生まれます」
アルフレド「彼は『あれ?俺なんでこんな所に居るんだろう?』と少し訝しがりながらも男の家へ帰宅し、服を着替えて眠り、翌朝には男の職場へ通勤するでしょう、ってヤツ」
アルフレド「上条さんはこの沼男――スワンプマンをどう位置づけるんですか?男とは別の存在?それとも意志を引き尽く存在とでも?」
アルフレド「あなたが出会って話した土御門元春センパイには魂があったのか、なかったのか、さぁどっちの料理ショ○?」
上条「……」
アルフレド「おっと!魂のあるなしを私に聞くのは止めてくださいね?あったという記憶も無数にあるし、なかったという記憶も同じだけあるんですから!」
アルフレド「ぶっちゃけ、ここに居るのは全員スワンプマンですよ。上条さんは意識を繋いでるから例外としても、他の全ての生き物は『似ているだけの何か』」
アルフレド「特に鳴護アリサなんてその最たるものでしょう?」
上条「アリサが?」
アルフレド「違和感、ありましたよね?現実に住み、あなたが話して触れ合った鳴護アリサと”アレ”は同じでしたか?」
アルフレド「違いますよね?そうじゃ、なかったですよね?ねぇ、上条さん?」
アルフレド「あたしが今、佐天涙子の外見と口調を真似してるのと同じく、”あれ”もまた龍脈から記憶を取り寄せて再生させているだけの――」
アルフレド「――言ってみればスワンプマンに過ぎないんですよ」
上条「……けどっ!」
アルフレド「『アリサだったらこんな事しない』って、何回思いました?一回?二回?それとももっと?」
上条「夢、なんだから仕方がな――」
アルフレド「の、割にはシャットアウラさん居ませんよねぇ?インデックスさんも、新しくお友達になったレッサーさん達もですか」
アルフレド「全部、自身の、都合の良いように、設定し、そして楽しんでいる」
アルフレド「上条さんのお友達のアリサさんって、そんな身勝手な方でしたっけ?」
上条「……」
アルフレド「えぇ分かってます分かってます。否定したいお気持ちは分かってますよ、所詮はNPCに過ぎないあたしが言うのもなんなんですがね、お察ししますよー」
アルフレド「でもですね、そういって上条さんが悩んでいる間にも地上ではグーグー寝こけている方々が居るって事、忘れてやしませんかー?」
上条「皆が」
アルフレド「ですです。だからどっちみちこの世界は終わらせる必要があるんですな、いやー辛い!ヒーローは辛いですねっ!」
上条「……どうすればいいんだ」
アルフレド「簡単じゃないですか、つーか今まで散々やって来たじゃないですか」
アルフレド「いつものよぉぉぉぉぉぉぉぉにいぃっ!あなたが為(し)て来たよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉにぃぃぃっ!」
アルフレド「すれば!いいんじゃ!ないですかねっ!」
上条「この、世界も?」
アルフレド「正しくは偽りのアリサを、ですね」
上条「……」
897:
アルフレド「……ま、繰り返しますが気持ちは分かりますけどね。あたしも人類大好きなんで、手に掛けるのはあまり……まぁ大好きですけど」
アルフレド「暇だったんであなたの旅の記録を見てきましたが、旅の間中、色々な話を聞いたでしょう?見てきましたよね?」
アルフレド「例えばネオ・ペイガニズム、例えば不法移民問題に環境テロリスト、例えば善意の独立主義者、例えば無力な平和主義者」
アルフレド「種々様々な問題の根底にあるのは『幻想が現実を絞め殺しに来ている』って結論でしょうか」
上条「幻想が、現実を……」
アルフレド「美しい世界、平和な世界、希望の世界、理想を持つのは大いに結構。むしろそれがないと前向きには生きて行けない――かった、んですが」
アルフレド「いつの間にか目的と手段を取り違えて幻想を見るようになった、と」
アルフレド「現実を積み上げていつしか幻想に辿り着こうとしていたのが、幻想を造り出して現実にしようとした」
アルフレド「だがそれだけ幻想を掲げようが、ご立派なお題目を掲げようが、無理なものは無理だし希望は叶わないからこそ美しい」
アルフレド「その結果が”これ”だ。理想主義者が現実主義者を罵り、貶め、穢そうとする」
アルフレド「『俺達の理想が叶えられないのは連中が邪魔をしているからだ!』……って理論、よく聞くだろう?」
アルフレド「『自分達の現状が悪いのは誰かのせいであり、改善すべきなのは自分達以外の誰か』」
アルフレド「よくある『他者の意見を取り入れろ』って言ってる奴に限って、人の話を全く受け入れようとしないのと同じ」
アルフレド「……そんな世界になっちまったんだわ、これが」
上条「……」
アルフレド「――でも、そんな奴らの世界は”優しい”んだよ」
アルフレド「現実に起きている汚いアレコレ、深刻で致命的な物を直視せず、直視出来ずに自身の妄想と願望で塗り固めた城を建てる」
アルフレド「その中で生きるのはさぞかし楽しいだろう。綺麗事だけを言って、相手に偽善を押しつけて生きるのは」
アルフレド「俺にはただの墓穴にしか思えないがね。爛れきり、腐りかけた躰で月を見上げながら口笛を吹く死体の唄だ」
上条「この世界も……優しすぎる」
アルフレド「ん?……あぁ、あぁ、そうだなぁ」
上条「俺とアリサは……まぁ、傍目に見ればケンカしながらも仲の良い兄妹だし、不幸らしい不幸も起きはしない」
上条「外の情報が入ってこないから分からないけど、多分もしあるとすれば平和な世界が広がっているんだろう、きっと」
アルフレド「全てが全てスワンプマン――ある意味ショゴスと同じく、外見だけ人よく似せた、人モドキの暮らす世界がかい?」
上条「だからって!」
アルフレド「だから、だよ。外の現実世界の人間、眠ったままにしてーのか?あ?こっちの世界の魂の無い何かに遠慮して?」
アルフレド「――虫酸が走るぜ、上条当麻。貴様はそんなに弱いものではなかっただろう?」
上条「……」
アルフレド「散々、ずっとずっとずっとずっとずっと!あの時もこの時も『幻想』を殺してきたんだろう!?違うかっ!?」
アルフレド「それが誰かを救うために!貴様自身も傷つきながら『右手』を振って来たんだ!それと同じだよ!」
上条「俺が――」
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