上条「今夜、君の元へ」 〜Cry for the MOON〜【その3】back

上条「今夜、君の元へ」 〜Cry for the MOON〜【その3】


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――上条のアパート
上条「あ、ゴメン!ちょっと今から出かけてくる!」
フレンダ「……何言ってる訳?もうそろそろ寝る時間なんだけど」
上条「急用だから!助けを求めている人が居るから!」
フレンダ「あぁさっきのメール来てからソワソワしてみたいだけど、なんかあった訳よ?」
上条「『動画で撮影言い値で買うなう』……!」 カチカチカチカチッ
フレンダ「いいから落ち着け、ねっ?」
上条「落ち着け……?――お前よくそんな事が言えるなぁ!?できっこねぇじゃねぇかよ!」
上条「あのたゆんたゆんと将来のたゆんたゆんが夢の二大スターがたゆんたゆん共演するんだぞ!?これを見逃したら一生後悔するに決まってる!」
上条「例えるならばゴジ○とキングギド○が戦うようなもんだ……ッ!!!」
フレンダ「そいつら結構な頻度で戦ってる訳よね?」
上条「あ、ごめんな?先を急ぐからエメリッヒさんちのジ○さんは先に寝て――」
フレンダ「――せいっ!」 ブンッ
上条「あべしっ!?」
上条「……」 コテッ
フレンダ「……世話が焼ける訳よね、うんうん」
446:以下、
――深夜
上条「……」
上条「――ハッ!?」
上条「………………あれ?」
上条(真っ暗……あー……で、俺はベッドの上……?)
上条(ステキな夢を見ていたような……まるで仮面ライダ○とウルトラマ○が戦うような、そんな夢を)
上条(頭、つーか首が地獄の断頭○喰らったようにズキズキ痛むし……一体何があった?……つか夢?)
上条「……」
上条(まさか――また魔神セレーネの術式の中じゃねぇだろうな!?ワッケ分からんカオスな夢の中に取り込まれてるとか!?)
上条(そうだ……確かに思い当たる点はたくさんあった……!クソッ!どうして疑わなかったんだ!)
上条(だって常識で考えればおかしいだろ?道を歩いてたらビリビリに攻撃されるとか、謎の魔術師に誘拐されるとか!
上条(たまたま入った裏路地で女の子を拾うとか!そんな事は有り得ない!)
上条(仮に100歩譲ってそんな事があったとしても、普通は家になんて連れ込まない筈だ!どう考えても怪しすぎるからな、お互いに)
上条(そうだよ、こんなに奇蹟みたいな偶然なんて重なる訳が――)
上条「……」
上条(えぇと、落ち着け。あぁまぁまず深呼吸を) スーハースーハー
上条(俺が憶えてる内で一番古い記憶はベッドの上だった。女の子を守るために記憶を無くしちまって、それを気取られないようにって)
上条(その後は……女の子を守るために学園都市最強の能力者とステゴロしたり)
上条(女の子――あー、うん、年上のお姉さんを守るためにも何回も戦ってきた訳で)
上条「……」
上条(平常運転ですね、てか概ねいつもと変わりねぇだろ)
上条(相変わらずフラグが乱立した人生も、前と特に変わって気もしない……あれ?もしかして俺ずっと夢の中に居んの?)
上条(いやでもそうすると、ジェントルな俺が妙にエ口い理由の説明がつかな――)
PiPiPiPi、PiPiPiPi……
上条(っと携帯が――あれ?どこ置いたっけ?) ググッ
上条(てかベッドになんかデカいの潜り込んでんな?犬?)
フレンダ「……ぐー……」
上条「……お前は――」
上条(うん、なんかそんな気がしてた。夕方まで散々ギャーギャー言ってたっつーのに緊張感ねぇよなぁ)
上条(佐天さんぐらいの子になんかしようって気は起きないが、まぁもうちょっと計回をだな)
PiPiPiPi、PiPiPiPi……
上条(起こさないように電話電話っと――ベランダ……寒いが、仕方がないか) ガラガラッ
上条(というかこんだけ騒いでんのに目を覚ます気配も無し……ちょっと羨ましい……)
フレンダ「……」
447:以下、
――上条のアパート・ベランダ 深夜
上条「寒っ!?予想以上に寒い!……えっと、つーかこんな深夜に誰だよ?」
上条「――シャットアウラ?なんでまた……まぁいいや」 ピッ
上条「『もしもし?』」
シャットアウラ『夜分遅く申し訳ない。緊急の用だ――とは言っても、今すぐにどうと言った話ではないが』
上条「『緊急――まさかっ!?』」
シャットアウラ『違う。アリサは”新たなる光”の所に泊っているし、今さっきメールを貰ったばかりだ』
シャットアウラ『だからもう少し手摺りから離れろ。お前の場合、またいつもの不幸で落下しかねないからな』
上条「『良かったー……あれ?』」
シャットアウラ『どうした』
上条「『なんでお前、俺がベランダに居るって知ってんだ?もしかして電波状況?』」
シャットアウラ『直接見てるからだな。見たくもないが』
上条「『……ストーカー!?』」
シャットアウラ『――ではお休み、起こして悪かったな』
上条「『ごめなんさいっ!ビックリしちゃったんで!こう、シャットアウラさんが突然変な事言うから!」
シャットアウラ『私もお前の監視なんてしたくはないし、むしろ×したいぐらいのなんだが……まぁ順を追って説明しよう』
上条「『というか俺の監視とアリサの安全ってどういう繋がりが……?』」
シャットアウラ『結論から言えばクロウ7が襲撃された』
上条「『……………………あい?』」
シャットアウラ『柴崎信長と名乗って、護衛兼ARISAのマネージャーをやってる男だよ。もう忘れたのか?』
上条「『いや知ってるけどさ!襲われた!?誰に!?いつ!?どこで!?』」
シャットアウラ『……昨日の夜か。お前を家まで送った後、定時信通信を入れた後から連絡が取れなくなった』
シャットアウラ『その事実に気づいたのが今朝7時。出勤して来ず、またこちらからも連絡が取れない』
シャットアウラ『持たせていた発信器に反応はあるが、多くの学区を行ったり来たり。車かそれに近い手段で移動しているのが分かったが、それだけだ』
シャットアウラ『よって「黒鴉部隊」は非常事態だと判断し、ヤツの発信器を探したんだが……』
上条「『……』」
448:以下、
シャットアウラ『クロウ7を見つけたのは個人タクシー、それもトランクの中だ。詳しく知りたいか?』
上条「『頼む!』」
シャットアウラ『お前は……』
上条「『何?』」
シャットアウラ『……別に……はぁ。それで細かな状況は省くが、どうやら一当てやって来たらしい』
シャットアウラ『義体の殆どは潰され、まぁ生きて”は”いるという状況だ』
上条「『大丈夫なのかよっそれっ!?』」
シャットアウラ『ヘブンキャンセラー、だか、カエルっぽい医者に預けた以上、死にはしないだろう』
上条「『……そうか。カエル先生が……でも一体、誰が……?』」
シャットアウラ『補足しておくが、”あいつ”は「黒鴉部隊」で最も優秀な、対人・対能力者の玄人だ』
シャットアウラ『護衛対象を引っつかんで逃げ出す事に置いては、アメリカ大統領のSPに比肩する技能を持つ』
上条「『褒めてんのか貶してんのか分かんねぇよ……』」
シャットアウラ『褒めているに決まっているだろ。暗殺だなんてそんなコストに合わない仕事、そうそう何度も仕掛けられるもんじゃない』
シャットアウラ『一度仕掛ければ成功失敗に関わらず、敬語レベルは格段に跳ね上がる。そうなったらもう二度目以降は無理だ』
シャットアウラ『従って、どれ程の組織であっても「これ以上はない」という準備を念入りにし、且つ出し惜しみせずに最悪の一手を選んでくるのは間違いない』
シャットアウラ『――が、その一撃を容易に回避してしまうんだ。これが優秀でなくて何という?』
シャットアウラ『というか、たかが一人を殺して世界が変わる訳もないんだが……まぁ、とにかくクロウ7はそこそこ優秀だった。私の次にな』
シャットアウラ『”クルマ”――多脚戦車の遠隔操作も可能で、対能力者戦用の訓練も積んだ――実戦に移したかは言わないでおくが――男が遅れを取った訳だ』
上条「『それは……相手がそれだけ強かったって事か?』」
シャットアウラ『大の大人一人を戦闘不能にするのにどれだけの”暴力”が必要だと思う?』
シャットアウラ『銃を使う、刃物を使う、拳を使う……あぁここは学園都市だ。異能を使うも足しとくべきだろうがな』
上条「『どれでも出来そうな気がするんだが、っていうか出来るだろ?』」
シャットアウラ『はっ!それこそ「どうやって」だよ!』
上条「『そりゃお前、こう不意を突いてガンって』」
シャットアウラ『義体化を進め、体の各所に対刃・対弾・対爆コートを埋め込んだ人間をか?』
シャットアウラ『背後からの射撃でも、注意していれば護衛対象を庇えるスキルを持つ人間をどうやって不意を突くんだ?あぁ!?』
上条「『……』」
上条(あぁ、成程。なんかおかしいと思ってたら――)
上条(――激怒、してんのな。いつかのように)
449:以下、
シャットアウラ『だがヤツも人間だ。一撃で無力化させるのも不可能ではない』
シャットアウラ『戦車を吹き飛ばすような爆発物を使ったり、周囲数メートルを吹き飛ばす無反動砲を使えばだが』
シャットアウラ『もしくは鉄をも易々と貫く、人サイズの溶断ブレードでもあれば可能だな』
上条「『……あぁなんか話が見えてきた。つまり、お前が言いたい事ってのはだ』」
上条「『柴崎さんをどうこうする方法はある。また用意も出来ない事ぁないだろう』」
上条「『けどいざ実行に移せば、大規模の攻撃にならざるを得ないし、そうしないと効果がない――筈、なのに』」
上条「『どこに行っても人だらけ、ましてや夜には人通りは少なくなるとは言え、俺のアパートの前で仕掛ける、ってのは不可能なのか』」
シャットアウラ『手がかりらしい手かがりすら残さず、あっさりとウチの社員を無力化した――が、逆にこれ”が”手かがりでもある』
上条「『それってつまり!』」
シャットアウラ『――あぁ”魔術サイド”の攻撃を受けたんだろうな』
450:以下、
――ベランダ
上条「『アリサは――って、お前がマネージャーとしてついてたんだっけか』」
シャットアウラ『付け加えるのであれば、学園都市で最も”魔術的に安全”な人間達と過ごしている。心配は……あまりしていないさ』
上条「『……そうすると』」
シャットアウラ『次に狙われるのはどこかのバカだろうからな。下校後からずっと監視させていた――ん、だが』
シャットアウラ『生憎釣り針にかかるのは中学生と中学生、あと中学生』
シャットアウラ『……』
上条「『な、なんだよ』」
シャットアウラ『……お前、どこかおかしいぞ?』
上条「『待って下さいよ!これには正当な理由があってだ!』」
シャットアウラ『理由?』
上条「『それは今――』」
上条(――かくまってる女の子の無実を証明するため――)
上条(――っては言えないですよね!どう誤魔化したら……)
上条「『……』」
シャットアウラ『もしもし?』
上条「『――じょ、女子中学生サイコー!』」
シャットアウラ『あぁ済まないが、そこからもう少しだけ前に足を進めてくれないかな?ほんの少しだけでいいから』
シャットアウラ『具体的には目の前にある手摺りを乗り越えろ、そして跳べ。きっと高く飛べるぞ?空はお前のモノだ』
上条「『やだなーシャットアウラさん、落ちたら死んじゃうじゃないですかー』」
上条(よっしゃ完璧に誤魔化した!引き替えに大事なモノを失った気もするが!……ん?待てよ?)
上条(このままシャットアウラ達に監視されてたら、フレンダの事バレないかな?あれ?バレてもいいんだっけ?……いやいや!)
上条(誰とは言わないが、嬉々として殲滅しそうな魔術結社を知ってる!少なくとも人畜無害かどうか、グレイの状態で知られるのはマズい……か?)
上条(だからっつって、柴崎さん襲った奴を放置するのもダメだけど……あ、そうか)
上条「『……あのー、もしもし?』」
シャットアウラ『墓には「生まれ変わるなら女子校の更衣室の壁になりたい」と刻んでやるから。ほら早く』
上条「『それお前埋めてるよな?遺体的なモノを猟奇的に処分するとそうなりそうじゃね――いやだからさ』」
451:以下、
上条「『俺を護衛――』」
シャットアウラ『監視。むしろ撒き餌だな』
上条「『――して、くれるのは有り難いが、それ多分俺狙いじゃないと思うぜ?』」
シャットアウラ『根拠は?』
上条「『最初から俺狙いだったら、柴崎さんに仕掛ける必要なくね?ほら、警戒されるだろうしさ』」
上条「『今お前が言ってたじゃん?二度目以降は警戒レベルが上がるって』」
シャットアウラ『それは……そうだが』
上条「『仮に俺狙いだったとしてさ。そうすると昨日の夜から今朝にかけて、俺は完全に無防備だった訳だ』」
上条「『その間に幾らでも仕掛けられたのに、向こうは何もしてこなかった。って事は俺が目的じゃないんだよ、きっと』」
シャットアウラ『可能性は……あるな』
上条「『あくまでも俺の推測だけどさ、不幸な遭遇戦とかそんなんじゃね?そう、道でバッタリ会って、つい!みたいな?』」
シャットアウラ『……お前に対しての示威行為ではないのか?知り合いに危害を加えるという類の脅迫』
上条「『だったらもっと露骨にアピールすると思う。一応は隠したんだろ――っていうかさ、柴崎さんの意識は?』」
シャットアウラ『数日以内には戻るそうだ』
上条「『素人意見でなんなんだが、だとすりゃ意識が戻るまでアリサとその周辺だけでいいんじゃねぇかな?』」
上条「『犯人捜しはそれからでも遅くはない――し、そもそもで言えば手かがりだって魔術師”かも知れない”だけ』」
上条「『それだけで探すのは難しいんじゃないかな、と』」
シャットアウラ『……正論だな』
上条「『俺もそっちの方から調べてみるけど、その、なんだ』」
上条「『やっぱり、俺が監視されてたらさ?その、そういう奴らも警戒するじゃんか?』」
上条「『心配してくれるのは有り難いんだが、今は優先順位を決め――』」
シャットアウラ『心配はしていない』
上条「『……た、方がいいんじゃないですかね。あとお前には優しさが必要だぞコノヤロー』」
シャットアウラ『はは!お前は冗談が上手いな!』
上条「『いやあの、ジョークを言ったつもりは――』」
シャットアウラ『分かったよ。それでは私はアリサの方へ行くとしよう。あー、清々した』
上条「『……ですよねー』」
シャットアウラ『では――あぁ、一応釘を刺しておくが』
上条「『あい?』」
シャットアウラ『確かにお前が狙ったのではないかも知れない。可能性としてはそうなんだろう。だが――』
シャットアウラ『――それでもこの街には”何か”が居る』
シャットアウラ『強度だけで言えば下手な現金輸送車よりも手堅い傭兵を、反撃だけでなく、非常通信すら入れる間もなく倒してしまう”何か”がな』
――プツッ、ツーッ、ツーッ、ツーッ、ツーッ……
452:以下、
――翌日 朝
上条「……」 トントントントントン……
上条(ネギを刻んで、豆腐へ包丁を入れて軽く引く。縦横数回、サイコロぐらいの大きさになったら良し、と)
上条(煮立った鍋に味噌を溶いて、一応味見……出汁入りのやつだから、お忙しい主婦の朝にも優しいですよねっ!俺は違うけどな!)
上条(一煮立ちすれば完成と。あーとーは……大量に炊いた飯があるか。つーか他には焼き海苔ぐらいしかないか)
上条(何つったらいいんだろな、こう、小さなビニールに小分けされてるタイプじゃなくて、折り紙を二回り大きくしたサイズのが10枚入ってるし……)
上条(……何故我が家にそんなブツがあるのかはさておくとして――きっと手巻き寿司大会を開こうとして忘れてた――これを使ってみよう)
上条(まずテーブルをよく拭いて、その上にラップを敷き、更に焼き海苔を広げる)
上条(次は飯を手頃なタッパーによそい、具材は……漬け物と梅干しと鰹節……?)
上条(キュウリの柴漬けを包丁で刻み、梅干しをほぐしてご飯に混ぜる。鰹節も入れてよくかき混ぜるっと)
上条(味を濃くしないでも充分に鰹の風味が効いてるから、醤油の量はお混みで)
上条(醤油を軽めに振ってご飯の準備は終わり、焼き海苔の上に広げていく。あくまでも均等になるように、てか熱が逃げるように、だな)
上条(……本来なら、広げるのは白米でカンピョウや納豆、卵焼きやサーモン等々、寿司用の具材を巻くのが普通なんだが……まぁ!ウチにはないですしねっ!)
上条(個人的にはツナマヨ+キュウリの千切りがジャスティス且つ家計にも優しいんだが!まぁまぁそれはさておき!)
上条(後は端っこから巻いていく……のは、難しくはない。別にスダレみたいなのを使わなくたって、フツーに巻けるわ) ギュッギュッ
上条(100均で売ってるは売ってるが……あれ、使い所が、うん。南京玉すだれゴッコする以外にはあんまり) ギュッギュッ
上条(でもこのままだと食べづらいし、何よりも太巻き一本は胃に悪い)
上条(なのでよく濡らした包丁で丁寧に輪切りにする……と。あ、少し崩れちまった)
上条(寿司酢使って、ある程度冷ましてからしっかりと握れば、包丁を入れてもそんなに崩れないんだけど、時間がない仕方がない、ナイナイばっかだな)
上条(とか考えてる間に完成。お手軽手巻き寿司(具無し)だ!やったね!)
453:以下、
上条(だがしかし問題があるとすれば、ゆっくり食ってる暇が無い事だ!味噌汁も飲んでる時間はねぇよ!……えっとラップラップ)
上条(適当に包んで、学校で食おう……あぁ半分は置いていくとして) チラッ
フレンダ「……ぐー……」
上条「……いい根性してやがんな、こいつ」 ツンツン
フレンダ「……にゃあ、何する……わけ、よ……」
上条「……」
上条「………………黒、だな。中々大胆な」
上条(アホな事やってないで、学校行こ……あぁ一応書き置きしくか)
上条(『お昼の分はチンして食べなさい。足りなかったらお金を置いていきますので、コンビニで買う事』……と)
上条(……そういやこの子は着の身着のまま放り出されてんだよな。悲壮感がこれっぽっちもないが)
上条(まだ数日、けどもう数日。そろそろこの先どうするのか話し合った方がいいか)
上条「……行ってきまーす……」 ガチャッ
カッカッカッカッカッカッカッ……
フレンダ「……………………にゃあ、かぁ」
454:以下、
――学校 授業中
小萌「――と言った感じで江戸自体の物流システムは大都市近郊に集中していたのですよー」
小萌「そのため海運システムが高度に近代化される必要に迫られ、東日本では江戸、西日本では堺が中心となりました」
小萌「というのも、全国各地から集められた年貢米を『物理的』に移送する必要があったためなのです。あ、ここ大切ですよ」
小萌「これらの年貢を運ぶ船は浦廻船と言われ、寄港するようになった各地の港がまた経済的に――」
上条「……」
上条(……シャットアウラの言ってた『何か』、なぁ?得体の知れない何かが居る――のも、まぁまぁ学園都市では日常な気がしないでもないが)
上条(今までのやりとり、佐天さんや初春さん達の話から推測するに”いじん”が『何か』に相当するんだろうが……でも、それにしてはタイミングがおかしい)
上条(時期的に考えれば『ショゴス』、正式名称”垣根の切れっ端(inバゲージで拾ったらしい)”の可能性はある。つーかそれぐらいしか思い当たらない)
上条(……けどなぁ、そうだったら矛盾するんだよなぁ、これが)
上条(所謂ホラー映画にありがちなクリーチャー像ってあるじゃん?こう、ハリウッドから学生自主制作ビデオまで、理由もなく人を襲うの)
上条(見境なしにやってればいつか必ずバレるし、そもそも人一人の痕跡を完全に消すってのは無理ゲーに近い)
上条(ましてやここは学園都市だ。失踪すれば風紀委員に引っかかるし、コワーイおじさん達の研究所行きが確定するだろう)
上条(逆にある程度の知能があったと仮定しよう。人並みかそれぐらいの)
上条(セレーネの一件で恨みを買ってるのは俺やアリサ達、その復讐に来た――ってのも考えにくい)
上条(思いつきでシャットアウラに喋った事だが、俺を探しに来てるんだったら柴崎さんを襲う意味が無い……あぁいや)
上条(意味を持たせようと思えば、『アリサの匂いがついていたから』ぐらいはあるかも知れないが、そこで立ち去らずに俺の部屋まで入ってくるだろう)
上条(そう考えると、殆ど思いつきで言った『不幸な遭遇戦』の可能性が高くなってくる)
上条(柴崎さんに攻撃される理由はないかも知れないが、『黒鴉部隊』だったら……どうなんだろう?恨みでも買ってるとか?)
上条(まさか『敵の魔術師の攻撃だ!』って可能性が本当に出てくるとは。あ、いや、今までのだってネタじゃないよ?いやマジで、うん)
上条(これがもし一方通行辺りの怒りを買ってボコられたとか、そういうしょーもないオチだったら救われるんだが……なんねぇだろうなぁ。今までの体験からして)
上条(なんにしろ『何か』が居るのは確実で、それが柴崎さんを襲撃したのも確定)
上条(普通の人間の能力”程度”じゃ不可能で、高位の能力者、もしくは魔術師の可能性がアリと)
上条(いやけどあのオッサン意外と人情派だから、女子供も選択肢に入る気がするわ。一発で無力化はされないだろうけども)
上条「……」
455:以下、
上条(襲われたのは昨日――今からすると一昨日の夜か、俺が丁度フレンダ拾った日だわな)
上条(あの夜は結構フラフラと出歩いてんだよなー)
上条(カブトムシ子さんを拾って家へ運んでから、海原の話を聞くのに一回。帰った時に居なかったから、浜面に連絡取りながら軽く探すので二回)
上条(俺狙いならチャンスは幾らでもあっただろうし、縁起でもねぇが)
上条「……」
上条(発見されたのは昨日。でも初春さん達は知らなかったっぽい。関知してなかったんじゃなく、知らなかったんだよ)
上条(それは柴崎さんが『暗部』の人間だから?裏の人間が被害者なら大騒ぎにならなかったのか?)
上条(それとも情報の伝達が遅いから、なのか?……うーん、分からん)
上条(都市伝説『いじん』と『何か』は同じなんだろうか?) カキカキ
いじん≒何か
上条「……うん?」
上条(都市伝説?『いじん』は都市伝説”だった”んだよな、昭和ぐらいの)
上条(だけど佐天さんが聞いたのは……”目撃例”か。実際に居たって言う)
上条(もしこの二つが同じものだとすれば、一週間前から『何か』は居たって事になるよな、うん)
上条(でもそれが人を……する、ような可能性は低い。何故ならば被害者が皆無だからだ――とは、思っていたんだが)
上条(『暗部』の人間だけが攻撃されてるんだったら、需要は満たせる……けども、そうしたらどんだけ『暗部』の人間ばっかだって話だよな)
上条(……うーん。『襲われて問題にならない層』……かぁ。どっかの紛争国や外部と隔絶された離島とかじゃない限り、難しいよなぁ)
上条(ましてやここは学園都市だし。白井みたいな能力者から、最新科学の痕跡調査まで使って分析するだろう)
上条(……と、すると『何か』は――)
小萌「――こーらっ!上条ちゃん先生のお話を聞くのですよ!」
上条「すいませんっしたっ!……あぁそうだ小萌先生」
456:以下、
小萌「罰として上条ちゃんはレポートを――ってなんです?」
上条「例えばの話なんですけど、先生が……あぁっとキャットフードが好物だとします」
小萌「猫ちゃんのお話ですかー?てか授業中になんでその話を」
上条「あぁそれじゃ猫の話で。一週間分のキャットフードを一日おきに出す機械へ入れて旅行へ行ったとします」
上条「でも、帰って来たらキャットフードには手を付けられていません。しかし猫は生きています。どうして?」
小萌「どうして、って……別の物を食べてたに決まってるのですよ」
上条「……え?」
小萌「猫ちゃんがどれだけ好きなのは分からないですけど、一つの食べ物を食べ続けてれば飽きもするんじゃないでしょうか?」
小萌「本当はよくない事なのですが、公園で猫ちゃんへエサをやってる方も時々見かけますし」
上条「猫……エサ……迷子の猫を探す依頼が――」
小萌「お家に猫ちゃんの出入り出来るドアがあれば、そちらからお出かけして」
上条「――なかった……ッ!!!」
457:以下、
小萌「あの、先生のお話聞いてますかー?振るだけ振ってといてスルーは厳しいのですけど……」
上条「ビリビリが引っかけに思いっきり食いついたのも、”暫く猫が居なかった”からか……!」
上条「『何か』を見たヤツが『いじん』だと思い込んだのも、喰ってたモノ原因!」
上条「人じゃなく――だったら大事になる事はない!精々が都市伝説のレベルで語られる話にまで矮小化されちまうのかよ!」
小萌「あの、上条ちゃん?授業中にハイパーモードへ入られてもですね、今はこう勉強しやがれって言うかですね」
上条「――先生っ!俺早退しますから後は宜しくっ!」
小萌「ちょっ!?話が唐突すぎて先生は置いてきぼりなのですよ!?」
上条「猫を探さないといけないんです!猫をっ!」
小萌「家出しちゃったんなら大変ですけど、それはやっぱり放課後に――」
上条「それじゃまたっサヨナラ!」
小萌「あ、こらっ!上条ちゃーーーーーんっ!?」
466:以下、
――学校 廊下
上条(マズいマズいマズいマズい!自体は進展してない所の話じゃなかった!いつの間にか這い寄ってやがった!)
上条(『よく考えれば分かった事』――とは、言わない。言えないか)
上条(情報が錯綜している中で、全部の事案を結びつける立場に居たのは俺だ。少なくとも風紀委員、ビリビリの科学サイド)
上条(マタイさんや海原の魔術サイド……横の繋がりが皆無な以上、全貌を見渡せる人間は一人――俺しか居なかったって事だ)
上条(与太話に近い都市伝説や、風紀委員が暇なのは結構ですよねってのを結びつけるのは、どう考えても無理筋だろ!)
上条「……」
上条(ここまでは、そう”ここまで”は後手に回ってただけだ。最悪の被害はまだ出ていない……と、良いなぁ)
上条(何をすれば……取り敢えず裏取りか。俺の杞憂だったら楽なんだけど)
上条(初春さんか白井の電話番号は知ってる訳もなく、えっとどうすっかな?佐天さん経由でお願いする必要があるか) パカッ
上条(メールの文面は『緊急・初春さんに連絡取りたい』っと) カチカチカチカチッ、ピッ
上条「……」
上条(……初春さんの支部まで出向いた方がいいのかな?てゆーか風紀委員の仕事って、放課後だけ?授業中はしてないのか?)
上条(常識的に考えりゃ、俺ら学生達が学校に居る間は”やらかす”人間も減る筈なんだが)
上条(あーでも、そういう連中に限って学校サボって行動してっから、むしろ授業中の方がトラブルは多そうだよなー)
上条(てか今ふと浜面が脳裏をよぎったんだが、あいつどうやって生活してんだろう……?学生?フリーター?ヒモ?)
上条(女の子と同棲してる割には、まるで何年も何年も『待て!』を続けさせられた犬のようなオーラを漂わせている時が) ピピッ
着メロ『メールが届いたよっ当麻お兄ちゃん!どこの業者かなぁ?』
上条「……こんな着メロ入れたっけか――着メロ?返信メールじゃなく?」 ピッ
佐天『あ、どもっ!お疲れ様でありますっ!』
上条「『ごめんな佐天さんっ!緊急の用件で初春さんと連絡取りたいんだ!頼むっ!』」
佐天『あぁ大丈夫です!授業中でしたが、あたしの迫真の演技で切り抜けてきましたから!』
上条「『悪い!……一応、聞くけどさ、なにやったの……?』」
佐天『「あ、すいません先生っ!ちょっとプリキュ○に変身しないといけないんでサボらせて貰いますよっ!」と』
上条「『オープンすぎるなそのプリキ○ア!』」
初春『……あのぅ、それに付き合わされるわたしの身にもなって頂きたいと言いましょうか、えぇはい』
上条「『ゴメンナサイっ!心の底からゴメンナサイっ!今度何でも言う事効くから!それで勘弁して下さいっ!』」
佐天『え、マジでいいんですか!?ラッキー!』
上条「『君には言ってない……けど、まぁ一人も二人も一緒だからいいや』」
467:以下、
初春『それでご用件って何ですか?何となくここ最近の事と関係ありそうなのは分かりますけど』
上条「『あぁそれそれ。えっと……二つ、頼みたい。出来れば両方お願いしたいんだが、無理にとは言わない。つか言えない』」
初春『前向きに善処したくはあるので、言うだけ言ってみて下さいな』
上条「『一つめは……えっと、前に”迷子の猫探し”みたいな依頼受けたんだよな?ネタじゃなくて実際に?』」
初春『はい。最近だと一ヶ月ぐらい前でしょうかねぇ。定期的にご相談下さるおばあさんがお一人』
佐天『ちなみにあたしや御坂さんも一緒になって探したんですよ』
上条「『その人と連絡取れないかな?もしくは、えーっと、何つったらいいのか』」
上条「『放し飼いにしてるんだったら、出来れば住所的なものも知りたい。大体でいいから』」
佐天『もう一つはなんです?』
上条「『最初に”いじん”を書いた人のログ。出来れば直接会って話を聞きたい』」
初春『えぇっとどちらも難しい、でしょうかね。上条さんの主旨をハッキリして頂かないと』
上条「『うーん……』」
初春『というかここ数日風紀委員までお越し頂いているのは、どのような意図があるんでしょうか?』
初春『個人的に事件や事件の匂いがするのであれば、お早めにわたし達へ言って下されば適切に対処致しますので』
上条「『ですよねー、普通はそういう反応だよなー……』」
佐天『まぁまぁ、初春も上条さんも。話の全体像を言えとは言いませんから、せめてとっかかりだけでも何とかならないでしょうか』
上条「『ってのは?』」
佐天『何か、これこれこういう事件が起きてるっぽいんだけど?、的な感じで?』
初春『……本当は個人情報をお知らせするのは守秘義務的にNGなんですが……まぁ、それっぽい理由さえあれば』
初春『御坂さんが信頼されてる方ですし、わたしや白井さん――は、ちょっと微妙ですが、信頼出来ると思っていますから、はい』
上条「『ありがとう……あー、それじゃさ、最近の話なんだが』」
初春『はい』
上条「『ネコ、居なくなってないか?』」
佐天『……はい?』
初春『ネコちゃんですか?』
468:以下、
上条「『ここ一週間、俺の住んでる学区や、えっと……初春さん達の詰め所のある学区でさ』」
初春『言われてみれば、そんな気もするような、ですかねぇ』
佐天『あー……どうだったっけ……?』
上条「『それを前提に話を聞いて欲しいんだが、都市伝説”いじん”の話だ』」
佐天『おっ、話があたし関係になってきましたねっ!』
初春『信憑性がガクって落ちたんですけど』
佐天『初春、言いたい事があったら言って良いんだよ?ねぇ?』
上条「『こらこらケンカしないの――で、その”いじん”の特徴っつーか、性質みたいなので気になったんだよ』」
上条「『今もし語られる都市伝説、特に学園都市で流行るようなもんだったらばスレンダーマンやショ……ぉぉぉぉっがく、せい?』」
初春『なんでそこでJSの話になるんですか』
佐天『よっ、この「幻想殺し」っ!』
上条「『佐天さんは次顔合わせた時にお話あるから憶えておいてな?……いやだから、昨日も考えたように、何で今更昭和の遺物が出てくるんだろうってさ』」
初春『不思議な話もあるものですよねぇ、で終った話じゃないんですか?』
上条「『と、思ってんだけど……その、”いじん”って人攫いの他にも特徴あるよな?』」
佐天『――あ』
初春『ありましたっけ?――と、佐天さん?』
上条「『……そう、それだ』」
佐天『――”犬や猫を食べる”……ッ!!!』
初春『っ!?』
上条(その正体が『ショゴス』や『ザントマン』とは言えないわな。開示出来る情報はここまでだと)
上条「『……実際に、その不確定名”いじん”が犬や猫を食べているのかは分からない。つーか多分違うと思う』」
上条「『でも被害に遭ってるのが、そういう小動物だけだったら』」
上条「『それを見た人が都市伝説だと思っちまったら』」
佐天『……”いじん”って言われるでしょうねぇ』
初春『……』
上条「『……どう、かな?』」
初春『確かに、はい、えぇ確かに有力な情報だと思います。その、上条さんの言われた情報が正しければ、という前提であれば』
初春『小動物への虐待事件は、多くの場合人間へとエスカレートする傾向が強く、風紀委員が活動する理由にはなります』
上条「『そうか!だったら!』」
初春『――ですが、ですよ?話を最後まで聞いて下さい』
469:以下、
初春『まず前提となった”小動物への虐待or誘拐”がされているのであれば、そのネコちゃん捜しの依頼をされていた方はどうでしょうか?』
上条「『とは?』」
初春『自分の大切な家族が殺されたり、居なくなったりすれば、またわたし達を頼ったりするのではないでしょうか?』
上条「『あー……そう、だな。それは確かに』」
初春『その猫おばあさんは野良猫に餌をあげている方ですので……まぁ野良猫が居なくなった所で、他の方は気にしないとしても』
初春『そのおばあさんは誰よりも大騒ぎすると思います。どうでしょうか?』
上条「『……正論、だな』」
佐天『ぶー、初春の鬼っ!悪魔っ!高千穂っ!』
初春『いえあの、高千穂ってなんですか高千穂って……ではなく、話を最後まで聞いて下さいね、って言ったじゃないですか』
上条「『はい?』」
初春『上条さんの仰ったお話と推測は非常に独創的ではありますが、可能性としては有り得るでしょう』
初春『それに何より、もしも本当に”いじん”のような犯罪者が居たとすれば、彼もしくは彼女が人へと対象を変え、大事件になる危険性があります』
上条「『そうだけど……それが?』」
初春『なので”代わり”に聞いてきて貰えませんか?』
上条「『――へ?』」
初春『わたしは……今少し忙しいので代理として』
初春『今から住所や前回ネコちゃん捜しした時のデータを送信しますから、それを持って直接聞いてきて下さい――』
初春『――”風紀委員、初春飾利の代理”として』
佐天『……ウイハルン……ッ!!!』
初春『佐天さん空気読んで下さい。それと二つめのお話は一つめの結果次第という事で――』
上条「『ありがとう初春さんっマジ愛してるぜっ!!』」
初春『――え?』
佐天『あーあ……』
上条「『今から俺は学校サボ――抜け出してそっち向かうから!住所ヨロシク頼むっ!』」 ピッ
470:以下、
――電車内 昼間
上条「……」 ピッ
上条(初春さんからのメールに書かれた住所へ移動中。俺の他に客は居ないかと思ったが、結構居る。学生も含めて)
上条(だから悪目立ちもしてないし、補導される心配もないだろう)
上条(……さてさて。貰った住所は風紀委員177支部所、ぶっちゃけ初春さんと白井のヤサの近くの公園だった)
上条(そこで猫を飼っている――あーまぁ正確には公園で猫の餌付けをしているおばあさんが居るそうで)
上条(倫理的には……んー……良くはないんだろうがなぁ。増えるだけ増えた猫もそうだが、それ以上に猫のためにもならない)
上条(ずっと餌付けされてきた家猫が、いざ捨てられると自力で餌を取れず、そのまま……っていう話もある)
上条(ある程度地域単位で認められていれば、宮城の猫島みたいに観光名所としても使えそうだが)
上条(……まぁそんな人から風紀委員は猫探しの依頼を受けたんだそうだ) ピッ
上条(たまたま支部に来ていた佐天さんとビリビリも一緒になって探した結果、行方をくらました猫は廃ビルで子猫を産んでいた)
上条(そっから里親を探すのでも一苦労だったとレポートはシメている。大変な仕事だよなー、今度暇な時に手伝おう)
上条「……」
上条(い、今のはフラグじゃないんだからねっ!俺が風紀委員でドタバタするなんて未来はやってこないからな!恐らくは!)
上条「……」
上条(……バカな事考えてないで、今の内にやる事はやっておこう。つっても移動中だし出来る事は限られてる)
上条(昨日の夜、突然すぎて深くツッコムのをど忘れとしたけど、柴崎さんのカルテは手に入らないだろうか?)
上条(少なくとも、現時点で攻撃された被害者且つ生存である以上、なんかの方法で攻撃されてるのは事実で)
上条(不謹慎な話かも知れないが、柴崎さんが負った傷から『なにか』の正体を見極めたい)
上条「……」
上条(現段階で俺が最も可能性が高いと思っているのは『アレ』であり、『ザントマン』でもある)
上条(要は垣根の切れっ端、『未元物質』で出来ている『何か』かな)
上条(次点で怪しいと思ってんのは……まぁ、いいや。その事は考えないようにしよう、うん)
上条(それよりシャットアウラにカルテの開示……いや、見せてくれつったって、専門用語の羅列で理解出来ないか)
上条(だったら、えっと……『柴崎さんの傷について、素人にも分かりやすいように説明頼む』で、いいか)
上条(シャットアウラには俺が今魔術サイドの伝手を辿っている、って設定になってるし不自然じゃないだろう)
上条(……個人的には海原かマタイさんの意見が欲しいけど、どっちにもこれ以上――あれ?)
上条(仮に『何か』がショゴスなりザントマンだったとしよう。不定形のドロドロなヤツか)
上条(一般人――含む俺――に、とっちゃ脅威だ。弱点である炎なんて日常生活で持ち歩いてないから)
上条(だから出来るのは精々逃げるかも助けを呼ぶ事ぐらい……だ、けど)
上条(あの食えないオッサンが、曲がりなりにも『黒鴉部隊』って『暗部』の副官役こなすぐらい実力者が、後れを取るもんなのか……?)
上条(第一、初見だったユーロトンネルの中であっても、物量で押し切られる前までは、割と無難に相手をしていた)
上条(と、するとまだなんか『何か』にはあるって事か……まぁいいか、意識が戻ればハッキリするだろ)
上条(ともあれアリサにまで情報下りてきてないって事は、シャットアウラも巻き込むつもりはないんだろうし、俺が聞いても漏れはしないか)
上条(……送信っと) ピッ
電車内アナウンス『次はXX学区AA駅ー、AA駅ー』
上条(……鬼が出るか蛇が出るか――)
471:以下、
――AA駅 公園前
上条「……ここか」
上条(初春さんから貰った住所(+ナビ付き+電子クーポンチケットで割引料金)へ来てみた訳だ)
上条(どこにでもあるような公園……ではあるが、あっちの砂場付近になんかある。というか居る?)
上条(屈んでなんかやってる。聞いた方が早いな)
472:以下、
――AA駅 公園砂場付近
女性「――は……本当に――」 ガサガサッ
上条「あのー、すいません?」
女性「はいっ!」
上条「うおっ!?」
女性「……あらやだゴメンナサイね。おばさんイライラしてたから」
上条「あ、いえ急に声かけた俺も悪いですから――と、それより何やってるんですか?」
女性「見て分からない?ネコのエサを交換しているのよ」
上条「交換、ですか?」
女性「えぇ交換。本当は母がやっていたのだけど、腰を悪くしちゃってね。代わりに私がしなきゃいけないんだから、もう大変で」
上条(そう言ってる間にも、女性はせっせと地面へ置いたネコ用の食器――丸くて安定性の良いヤツ――を交換する)
上条(古いのは何重にかしたゴミ袋へ入れ、容器を軽く拭いてから、また新しいカリカリを入れる……あれ?)
上条「……あの、交換?交換なんですよね?」
女性「えぇそうよ。それが何か?」
上条「いや、交換って言っても、元々のエサが全然減ってないですよね……?」
女性「……」
上条「それにこれだけ――見た感じ10個ぐらい食器置いてますけど、肝心の猫の姿が居ないような……?」
女性「……はぁ。そのね、私も意味ないと思ったんだけどね、母がどうしてもって」
上条「えっと……その、すいません。改めて詳しくお話聞かせて貰えませんか?」
女性「あなた……あぁこんな時間に居るって事は」
上条「あ、いや、風紀委員じゃないです!ただその、気になったって言うか」
上条「最近ここの学区でネコを見かけなくなったなー、なんて思いましてですね」
女性「あら……他でも?」
上条「はい、なので良かったら――あ、交換、俺も手伝いますから」
女性「あ、じゃ古いのはこっちの袋へ、そう、それを――話、話って言われてもねぇ」
上条「俺が来たのは、前風紀委員177支部へ猫探しの依頼をされたおばあさんが居て、その方なら詳しいんじゃないかと」
473:以下、
女性「あー……母です、はい。一ヶ月ぐらい前、女の子四人にとても良くして貰ったって自慢してたわ」
女性「私がエサを代わりにやり始めたのは一週間ぐらい前だし、その前はずっと母がしていたのよね」
上条「その一週間はどうでした?」 ガサガサ
女性「見ての通り。母から預かったエサが無駄になるし」
女性「かといってきちんと交換しないと、ネコが帰って来た時に古いんじゃイヤでしょう?」
上条「ですねー――と、終りました」
女性「じゃ、こっちの布で拭いてから、アルコールを軽く吹き付けて――そうそう、それでこっちのカリカリを、そうね」
上条「もし良かったら、そのおばあさんから話を聞く訳には難しいでしょうか?」 シュッシュッ、ガサゴソ
女性「あー……それがねー、母はねー、その入院してて」
上条「入院?お加減悪いんですかっ!?」
女性「あ、そういう訳じゃないの。カエル先生に看て貰ったから、もうすぐ退院出来るのだけど、そっちじゃなくて」
上条「そっち?」
女性「歳も歳だからしょうがないんだけど。あぁでも若い頃からしっかりしてると思ったら、急にね」
上条「……もしかして、その」
女性「『いじんを見た』って」
上条「――っ!?」
女性「ほら、ネコが居なくなったら風紀委員の子達にも通報出来るでしょ?こんな一遍に居なくなっちゃったら、悪い子が何かしてるとか思うじゃない?」
女性「けど、ねぇ?母に聞いてみても変な事を言うんじゃ、信じて貰えないんじゃねぇ?」
上条「す、すいませんっ!ちょっと待ってて貰っても良いですか?」
女性「えぇ構わないわよ。おばさん、まだエサをやらなきゃいけないから」
474:以下、
――AA学区 公園前
上条「『――あー、もしもし?初春さん?』」
佐天『ヤハハハハハハッ!遅かったな勇者Kよ!初春飾利は我の手中にあるわっ』
佐天『返して欲しければ今度出来たテーマパークに予算全部そっち持ちで連れて行くが良いわフハハハハハハハっ!!!』
上条「『あ、ごめん。今緊急だから魔王ゴッコは初春さんにして貰ってくれないかな?』」
佐天『ていうかこの番号あたしのケータイなんですけど!開口一番初春ってどう言う事なんですけどっ!』
上条「『あーゴメンゴメン。悪かったから、初春さんを』」
初春『はい、お疲れ様ですー。それでどうでしたか?』
上条「『猫探し依頼したおばあさんは入院中、腰をケガしたんだそうだ……あ、もうすぐ退院だって』」
上条「『んで、今はその娘さんって女性が猫に餌をやってるらしいんだ。大体ここ一週間ぐらい前から』」
上条「『……ただ、その間ネコを餌に食べに来る様子はなかったそうだ』」
初春『……悪い想像ばかり浮かびますねぇ、それは』
上条「『公園にある食器見た感じだと、大体10匹以上居たんじゃねぇかな?それがバッタリと姿を消した』」
初春『でも――でもですよ?そうでしたら何故風紀委員へご相談なさらなかったんでしょうか?』
上条「『あー、娘さん曰く”いじんを見た”んだそうだ』」
佐天『ってコトは!』
上条「『突拍子も無い事を言ってるモンで、相手にされないんじゃねぇかって判断したそうで』」
初春『あー……まぁ気持ちは分からなくもないですが』
上条「『それに娘さん――つーかあんまネコ好きじゃなさそ――』」
上条「『……』」
初春『もしもし?どうされました?』
上条「『……あぁいや、ネコ嫌いの割には随分熱心に餌の交換やってんな、と思って――で、二つめのお願いなんだけど』」
初春『あ、はい。”いじん”と書き込んだログですね』
上条「『調べるのに時間かかりそうか?』」
初春『あ、いえ実はもう既に突き止めてあります』
上条「『仕事早っ!?』」
初春『大体一週間ぐらいの、学園都市内のローカル電子掲示板のログを虱潰しに当たったら、最初にヒットしました』
初春『その書き込み以降、噂は噂として広がっていったようですので、その書き込みがオリジナルかと』
上条「『ローカル掲示板……オカルト系の?』」
初春『ではなく、えっと……地域系ですね。近所の情報をやりとりするようなスレッドが好まれる場所です』
初春『そちらの携帯へログと発信元の番号を、送り、ました』 ピッ
上条「『あぁ届いたよ、ありがとう』」
佐天『今からアポ取って、その方と会ってくるんですか?』
上条「『――る、つもりではあったんだけどなー』」
上条「『実はもう”会ってた”みたいなんだわ、これが」
475:以下、
――AA学区 公園内
上条「すいません。何か足止めしちゃって」
女性「あぁ気にしないでいいのよ。餌の交換を終るまでは帰れないから」
上条「なんつーか、唐突な質問なんですけど――」
上条「――学園都市のローカルネットで『いじん』の事を書き込んだのは、あなたですよね?」
女性「……何を言って」
上条「あなたも、ネコ好きなんでしょう?おばあさん程かどうかは知りませんが、こうやって毎日毎日、きちんと交換しに来るぐらいには」
上条「ネコが居なくなって悲しかったし、けどおばあさんの証言そのままだったら、誰かに信じて貰えない。だから――」
上条「――『いじん』という都市伝説に乗っかる事で、噂を……あぁいや、警告、しようとしたんですかね?」
上条「『ネコが居なくなってる事件が起きている』って」
女性「……」
上条「あ、いや。別に罪になるとか、責めるつもりは全然ありませんから」
上条「実際、あなたで書き込んでくれたお陰で、警告を広く伝えようとしてくれたから、俺は気づく事が出来たんですよ」
上条「回り道しましたが、それもまぁそんなに遠くはないと思いますよ」
女性「……話す事と言っても、母から聞いた以上の事は」
上条「充分です!お願いします!」
女性「……はぁ、座ってお話ししましょうか」
476:以下、
――AA学区 自販機前
女性「……母はですね。あまりこう、社交的な質ではありませんでした」
女性「若い時分は、それなりに人との交流もあったようですが、やはり歳を取るとどうしても」
上条「それで猫達に餌付けを……善し悪しはともかくとして、気持ちは何となく分かります」
女性「本来であれば母のために何かしなくてはいけないのでしょうが、私たち子供ではどうしようもなく」
女性「そのまま母の言葉を伝えれば、恐らく狂人扱いされるでしょうから、迂遠な方法になってしまいました。ごめんなさい」
上条(女性はさっきと人が違ったようにしおらしくなっている。というのも理由があってだ)
上条(話を良く聞いてみれば、おばあさんは近所の人達にあまり――というか、かなりよくは思われていなかったそうだ。猫の扱いについて)
上条(あくまでもこれは俺の想像だが、娘さんとしては一応”ポーズ”としてネコ嫌いのフリをしなくてはいけなかった、みたいな?)
上条(まぁなぁ……野良猫へ際限なく餌付けすんのは問題だと思うが、人嫌いのお年寄りが趣味でやってると強くは言い辛い)
上条(『何か』の事件が解決したら、何とかならないか考えてみよう)
上条「おばあさんの境遇は分かりましたから、出来ればその、事件についてお願い出来ますか?」
女性「あの日……綺麗な満月だったので、よく憶えております」
女性「母は猫達へいつものようにエサをやり、夕方になると私と一緒に帰りました」
女性「といっても直ぐそこのアパートですので、母の足でもゆっくり歩いて10分程度だったでしょうか」
女性「家へ帰って暫く経つと、何か忘れ物でもしたのでしょうね。母は一人でまた公園へと戻っていったのです」
上条「あなたは一緒に行かれなかったのですか?」
女性「えぇ少し私事がありまして……思えばついて行くべきでした」
上条「まぁ仕方がないんじゃないかと」
女性「そして……帰りが遅いので、見に行ってみると母が腰をついて倒れてしました。その時、うわごとで呟いていたのが」
上条「――『いじん』ですね」
女性「……はい。あとは……概ね、あなたが仰った通りです」
上条「分かりました。お話を聞かせて下さってありがと――」
女性「その、もっと別の方法があったとは思います!誰かへ助けを求めるのだって!」
女性「でも私達にはこれぐらいしか出来なくて!」
上条「……方法は、というかやり方はマズかったと思う。少なくとも最善じゃない、ですよ」
女性「……」
上条「けど、手遅れだって事もない、とも思います。こうやって気付けたんだから」
上条「あなたが『いじん』が居ると警告をし、それに気づいた人間がこうして目の前に居るんですから、決して無駄なんじゃありませんでした」
女性「……ありがとうございます。その」
上条「はい?」
477:以下、
女性「猫達はどう、でしょうか?帰ってくるのですか?」
上条「……分かりません。分かりませんが――」
上条「――仮にその『いじん』が居たとして、少なくともおばあさんを脅かして転ばせたり、ネコを傷付けた奴が居たとしたら――」
上条「――然るべき報いは受けさせる。そう、思います」
女性「……どうか、どうか宜しくお願いします」
上条「はい、それじゃ失礼しま――っと、本当に失礼しますっ」 PiPiPiPiPiPi
上条(初春さんからの呼び出し……なんかあったのか?) ピッ
上条「『はい、もしもし上条ですが』」
初春『あ、どうもお疲れ様ですー……て、すいません、気になったんで一つだけ訂正を』
上条「『訂正?』」
初春『ネコおばあさんが気になったんで、少し調べてみたんですけど――』
初春『――おばあさん、どうやら天涯孤独の方だったようで』
上条「『あぁそう――そう?それが?』」
初春『でしたら上条さんがコンタクトされていた、娘さんと称する方は一体どこのどなた様かな、と』
上条「『――っ!?』」
上条(驚いて俺が振り返るとそこには誰の姿もなく)
初春『まぁきっと、近所の仲の良い方が事情を説明するのが面倒なので、そう言ってるだけで――』
上条(電話口では初春さんが何かを喋っていたようだが、俺の耳には届かない。何故なら)
上条(俺は耳から携帯を放しさっきまで女性が座っていた所へ、ちょこんと寝そべっている”それ”へ、『右手』を伸ばす)
上条(嫌がる素振りも見せず、伸ばした右手をツンとつついた”それ”に改めて)
上条「――約束はした。お前のかーちゃんのカタキは取るさ」
ネコ「……にゃー……」
484:以下、
――AA学区 路上
上条(これでやっと、そうやっとだ。これで”事件が起きている”スタートラインへ立てた)
上条(探偵小説なら警察が動いて、ものぐさな探偵が興味を惹かれ重い腰を上げるのだろう)
上条(……なんて、事件の当事者でも無ければ、大して痛みも感じず、その場限りの同情こそすれ、章が変われば全てをリセットする人達と一緒にして欲しくはない)
上条(俺は、俺達は生きている。少なくともそう信じている)
上条(虚構の世界の気楽な自由人とは違い。どれだけ残酷な現実を見たとしても、それを受け入れ――時には見ないフリをして――生きるしかない)
上条(……そう、どれだけ残酷だとしてもだ)
上条「……」
上条(シュレディンガーの猫の話はよく分からなかった。思考実験?だか量子力学?なのか)
上条(『高度に発達した科学は?』とは言うが、それはそれで自分の理解しがたいもの、出来ないものへレッテル貼ってるだけのような気もするが……とはいえ)
上条(遺伝子工学で蛾の頭に自走式のミニ四○みたいなモンをつけた、リアルデンドロビウ○を見て、『これは画期的ですよ!』って大喜びは出来ない……つーかしたくはない)
上条(……単語の意味は理解出来ていないし、本来使うべき意味合いとも恐らくは違うんだろうが……)
上条(猫が死んでいるか、それとも生きているのか。たったそれだけを確かめなきゃいけない)
上条「……」
上条(俺がフレンダを保護したあの日、ほんの少しの時間目を離していた間に柴崎さんは襲われた――『何か』に)
上条(……状況証拠からすれば、主にアリバイからすれば彼女が容疑者へ含まれるだろう。それは確実に。取り繕っても仕方がないしな)
上条(ただ!逆に言えば、その間のアリバイさえしっかり証明してしまえば!あの残念な子が加害者である可能性はなくなる!)
上条「……」
上条(問題は、だ。そのアリバイ証明をどうやってしようか?という当たり前の話に落ち着くんだが)
上条(直接聞く――の、も悪くはない。どうやらコンビニ行ってたっぽい事は言ってたし)
上条(だが、俺が説得したいのは、確固とした証明を要求してくる相手だ)
上条(『危さそうだから取り敢えず始末しとけ』の、過激派さんが二組。つーか学園都市も入れて三つか)
上条(だからフレンダがウロついてた時の動画か画像さえ残っていれば。柴崎さんが襲撃された時刻のだ)
上条(疑いを100%とまでは行かないが、様子見まで落ち着かせるレベルの材料になるだろう。悪くはない)
上条(と、すると……やっぱり頼れるみんなの味方、風紀委員さん、つーか初春さんへまた頭を下げるしかないのか……!)
上条(どんだけ今回の件で借りを作ってんだが、精算すんのが怖いがまぁ先送りにするとして連絡を――) パカッ
上条「……」
485:以下、
上条(……待てよ。俺、フレンダの写真って持ってないよな?)
上条(『金髪碧眼のフリフリした服の子』は今時珍しくもないし、あの時間帯は言う程遅くもなかった)
上条(……あんま言いたくないが、可愛いか可愛くないかで言えば、ソロで活動出来るアイドルやっててもおかしくないレベルの外見をしてる)
上条(つってもそれは目の前に立ってた場合の話であって、こう、防犯カメラの粗い画像で見分けられる話じゃない)
上条(ウチ近辺のコンビニを中心的にすれば……いや、そうすると必ずしも引っかかるとは言えないか)
上条(だからって情報無しで調べて貰っても、ヒットする可能性は低くなるし……どうしたもんか)
上条(家帰って写メする?いやぁ、なんかそれも、なぁ?)
上条(どっかにフレンダの写真さえあれば良かったんだけどなー)
上条「…………………………あ」
上条(あったねー、そういや。俺がラッキースケベ拗らせて撮った写メが)
上条(だがしかしあの壊れた携帯は家――だと、思うだろう?)
上条(んがっ!心配ご無用!こんな事もあろうかと肌身離さず持ち歩いていたのだ!あぁこんな事もあろうかとな!)
上条(け、決して『今度詳しい人に聞いてフラッシュメモリのサルベージしよう!」とか考えてたんじゃないからな!そんなやましい事は考えてないよっ!ホントだよっ!)
上条(やましい所なんかどこにもない!俺は勿体ないの精神を体現しようとした訳であって、エ口はないよ!エ口目的じゃないんだからねっ!)
上条「……」
上条(……キャラがぶれてきているから、必死で言い訳するのはこれぐらいにしておこう、うん)
上条(ちなみにリサイクルに特化していた江戸時代を、まるで天国のような持ち上げ方をする人間が居るが、あれは『当時のリソースとしては限界が来ていた』んであって)
上条(現代じゃ人口が増えれば増える程、まぁ経済力は上がって豊かになる――みたいな妄想が幅を利かせているが、現実はそうじゃなかった)
上条(都市部では人余りで結婚出来ない男がたくさん。農村部では3人以上の子供は間引き……適正な人口を意図的に調整していた訳で)
上条(限りある資源を大切に使うのは大事だが、昔の日本は必要に迫られているから徹底的に切り詰めていた、のが正しい)
上条「……」
486:以下、
上条(あー……フレンダの画像かー、てかこの携帯そのまま送るのは気が引ける……)
上条(画像サルベージのやり方を俺は知らないが、初春さんならきっと上手くやってくれそうな予感はする。過去の実績からして)
上条(問題があるとすれば……こう、ぶっちゃけ事件が終ってから、俺が風紀委員さんにお呼ばれしそうだよな、って事か)
上条(背に腹は代えられないって言うし、うん、でも去年バードウェイにドリル突きつけた時にもステキなお説教受けてるしねっ!今更だよっ!)
上条(初春さんの手に渡れば画像データは二度と戻って来ないと分かってはいるが、まぁ仕方がないよなぁ)
上条(コンビニでバイク便呼んで貰って、メモかなんかを一枚添えて、俺が無実だと主張すればなんとかなる!……と、いいなぁ)
上条(あ、メモ次第かな。えっと『俺は悪くないんです』って書けば信じてくれるよ!きっと!初春さん良い子だから!)
上条(決して!決してビリビリにまで伝言ゲームが行われて!俺がビリビリする未来なんて来ないから!フラグじゃないから!)
上条「……」
上条(……しかし、まさかのバカ騒ぎがこんな所で役に立とうとは。人生は分からん)
上条(どっか他にも回収忘れのフラグとか伏線とか埋まってたりしてな――別名”地雷”が)
487:以下、
――コンビニ前
バイク便「――はい、では確かにお預かり致しました。風紀委員177支部、時間指定で初春飾利様ですね」
上条「はい、よろしくお願いします」
バイク便「では、またのご利用お待ちしております」 シャーーーーッ
上条(バイク便――MotorcycleではなくBicycle、自転車の方のバイク便を呼んで、俺は泣く泣く壊れた携帯を入れた封筒を渡した)
上条(事前にウイハルン(ドイツ風)さんへ事情を説明してある――どんな画像かは伏せて――ので、照会作業は快く引き受けてくれた)
上条(そん時に『知り合いが犯人の可能性をなくしたいから、念のため調べて欲しい』とは言ったが、あんまりツッコまれなかった)
上条(……まぁ、猫が居ない話を持っていったのも、数日前から風紀委員へ通っていたのも分かってるからさ。訳ありだと思ってんだろうが)
上条(しかし『学探』の時も思ったんだが、ソツのない対応と的確で空気読んでくれる所は好印象なんだが)
上条(……あれ?初春さんの顔と『オーバーロー○』のOP曲がフラッシュバックするな?なんでだろう?)
上条「……」
上条(さて……バイク便で送った事たし、俺は手持ちぶさたになった訳だ)
上条(このまま他の学区の猫探しにでも行くか?それとも家帰ってから、近くのコンビニでフレンダの聞き込みをしてもいいような)
上条(でも、フレンダばかりに時間を割いても無駄な気がするんだよな。犯人じゃないんだから――)
PiPiPiPiPi、PiPiPiPiPi……
上条「『――はい、もしもし?』」
シャットアウラ『授業中じゃなかったのか?ちっ』
上条「『その時間を狙って電話かけてくるシャットアウラさんブレませんねっ!ダイレクトに地味ぃな嫌がらせをコツコツとしやがって!』」
シャットアウラ『カルテの件で電話してやったというのに、随分な言い草だな』
上条「『いやぁ、うん、感謝はするんだけど、そのためにメールじゃなくて電話してくるってのは……うん』」
シャットアウラ『仕方が無いだろう。カルテをそのまま送っても理解出来ないのであれば、最初から口頭で説明した方が早い』
シャットアウラ『というかお前に無駄な時間を浪費するぐらいだったら、コンビニで商品の陳列数の統計を取っていた方がまだ有意義だ』
上条「『ちょっとそれ興味ある!でも多分店舗の大きさによって違うだけだろうけどな!……てーかさ、今ふと思ったんだが』」
シャットアウラ『なんだ』
上条「『別に連絡取るのお前じゃなくても良くね?そこまで毛嫌いされてんだったら、間に人置いてワンクッション挟むとか』」
上条「『柴崎さんが居ない分、仕事が増えてんのは理解出来るけどさ』」
シャットアウラ『……』
上条「『……』」
シャットアウラ『それでだな。クロウ7の傷についての説明だが』
上条「『おい誤魔化してんじゃねぇぞコノヤロー。もしかして俺にチクチク嫌味言いたかったとかそういう事なんか、あぁ?』」
488:以下、
シャットアウラ『両腕から多数の咬合痕(こうごうこん)が発見されている……私が言い渋った、というか誤魔化したのもそのせいだな』
上条「『こーごーこん?』」
シャットアウラ『分かりやすく言えば噛み傷だ』
上条「『……っ!?』」
シャットアウラ『より正しくは咬創痕(こうそうこん)とすべきなのだろうが……まぁ、歯形が人類と思しきものであった以上、咬合なのだろうな』
シャットアウラ『学術的な分類に興味は無いが』
上条「『……』」
シャットアウラ『私なりに学生へ聞かせるべきではないと思ったのだが、まぁ覚悟があるのであれば遠慮はしない』
シャットアウラ『その咬創――噛み傷は両手に集中していたよ。こう、前腕部と言えばいいのかな』
シャットアウラ『よく……あー、素人が刃物を持った相手へ対し、せめて両手を上げて防御しようとするんだよ。こう、手を上げて致命傷を避けようとな』
シャットアウラ『その結果として両腕に大小様々な創傷を負うのだが……それに似ている、気がする』
シャットアウラ『あくまでも私の見立てだが、歯形が残っているのも”何か”から防御しようとしたのではないか、と』
シャットアウラ『だがそうすると疑問が残る』
シャットアウラ『あの男が”防御する程時間に余裕がある”のであれば、我々へ連絡をしない理由が分からな――』
シャットアウラ『――おい、聞いているのか?』
上条「『……ん、大丈夫。聞いてる、うん』」
シャットアウラ『話を続けるぞ――ある筋から、”冥土帰し”以外の伝手を使って学園都市内のデータベースにアクセスしてはみた』
シャットアウラ『……ものの、該当者は居なかった』
シャットアウラ『よって”暗部”の人間が、それに近い位置……もしくは外部の人間である可能性がある』
シャットアウラ『クロウ7の意識はまだ戻らないが、今夜ぐらいには無理矢理――もとい、自発的に目を覚ますだろうな』
上条「『……今夜?』」
シャットアウラ『あぁ。あまり犯人特定に時間を割くのは拙い。さっさと麻酔を切って起きて貰う事にしたよ』
上条「『それっ!――は、あんまりな判断じゃない、かな?』」
シャットアウラ『当事者から話を聞くのが最適に決まっている、お前は何を言ってるんだ?――まさか』
上条「『っ!』」
489:以下、
シャットアウラ『心配は要らん。元々痛覚は遮断してあるから、麻酔を切っても本人に痛みはない』
シャットアウラ『ただ痛み自体が電気信号になって脳へ伝わるため、あまりにも重篤だとハレーションを――』
上条「『……』」
シャットアウラ『――おい、聞いてるのか?オイっ!?』
上条「『……あ、ウン大丈夫!聞いてる聞いてる!』」
シャットアウラ『と、言う訳で――』
上条「『――それ、さ?俺も同席出来ないかな?』」
シャットアウラ『お前がか?まぁ構わないが』
上条「『なんて言うか、敵の魔術師が居たとして、そいつから攻撃喰らってんだったら解除するのに”右手”があると便利じゃん?』」
シャットアウラ『……ふむ。道理だな』
上条「『たださー、今ちょっと私用で立て込んでる感じでさ?』」
上条「『だから出来れば明日の昼間以降になっちまうんだが……どうだろ?』」
シャットアウラ『……学生だろ、お前は』
上条「『そっちはまぁ今更だしなっ!』」
シャットアウラ『ふーむ……まぁ、いいだろう。半日遅らせるのも大したロスにはなるまい』
上条「『……ほっ』」
シャットアウラ『では明日の朝にまた連絡をする』 ピッ
上条「『あいよー』――ってもう切れてるか」 ピッ
上条「……」
上条(……最悪だ……ッ!!!)
上条(ほぼ全ての状況証拠が!フレンダが犯人だって要ってるのと同じじゃねぇかよ……!)
上条(どうすればいい?どうしたらいい?この状況をどうにかするのか……どうにかなるのか?マジで?)
上条(時間が経てば立つ程、問答無用で抹殺されても文句が言えない要素が集まって来やがる!なんなんだよ!これは!)
上条「……」
490:以下、
上条(……落ち着け、頭に血が上ってても碌な考えは浮かばない。冷静になるんだ)
上条「」 スーハー、スーハー
上条(今までは俺はフレンダがシロだって前提で考えを進めてきた。失踪した猫もそうだし、アリバイもそうだ)
上条(『何か』ってバケモノが学園都市に潜んでいて、ソイツが何が悪い事をしている)
上条(実際にフレンダって『死人』が居て、甦らせた第三者が居るって……でも、それは)
上条(前提から違っていたのか?そもそもフレンダは濡れ衣を着せられた被害者じゃなかったのか?)
上条(マタイさんが遠回しに警告して来たように、最初から全てあの子がしてたのか……?)
上条(俺に対する態度は全部演技で、その正体は……みたいな)
上条「……」
上条(何が正しい?何をするのが正しい?)
上条(誰を信じるのが正しくて、誰が間違ってる?)
上条(どの情報が正解で、どの情報がミスリードなんだ?)
上条(……全てが正しく、俺が信じた――信じ”よう”としたものが、実は違っていた……?)
上条「……」
上条(――そう、だな)
上条(俺が今すべき事は、しなくちゃいけない事は) パカッ
上条 Trrrrrrrrrrrrrr、Trrrrrrrrrrrrrrr……
上条「『――あー、もしもし?俺です、オレオレ』」
491:以下、
上条「『いや違うから!オレオレ詐欺じゃないから!つーか怖くてお前のトコなんかにかけれるかっ!』」
上条「『……あ、いやそうじゃなくてですね。今ちょっとご相談がですね』」
上条「『”時間を考えろ”?……いやまぁ、時差は9時間だし、えっと……こっちは2時だから朝5時か。ごめんごめん』」
上条「『でもなんかお前の電話口から、相○っぽいジングルが聞こえるんですけど。水谷○の声もするんですけど』」
上条「『……うん、ていうか今バックで母さんの声聞こえなかった?気のせい?それで流していいの?』」
上条「『借りが初めてカード持った学生みたいに溜まってる……?や、うん、返すよ!それはもう返すに決まってるさ!』」
上条「『お前の両親に会ってDOGEZA?三つ指ついて?……いやぁどうだろう』」
上条「『俺が人の親で、12歳児の娘に求婚する男が現れたら、取り敢えずショットガン持ち出すと思うなぁ』」
上条「『多分18ぐらいでも持ち出すと思うし、25ぐらいだったら……あ、ごめん。やっぱ持ち出すわ』」
上条「『……ま、時間ないからいいんだけど、えっと、うん、それで用件なんだが』」
上条「『学園都市から、俺ともう一人を裏口で抜け出せるルートって知らない?』」
492:以下、
――上条のアパート 夕方
フレンダ「ごっちそーさっまでしたーっ!」
上条「……はい、お粗末様でした」
フレンダ「なんて言うの?こう、サンドイッチはタマネギとコショウが効いてて美味しかった訳だけど、オニオンスープはイマイチな訳よ」
フレンダ「やっぱ炒める時にバターを使うと油っぽくなる訳だし、かといってサラダ油だと風味が消える訳ねー」
フレンダ「なのでここはひとぉつ!オリーブオイルご購入を考えてみるのはどうでしょうか!?」
上条「あーうん、いいかもな。それも」
フレンダ「……どうしたの?いつもだったら『余所は余所、ウチはウチですから!』とか言う訳だし」
上条「そう、だな。言うかもな」
フレンダ「……マジで、どうした訳よ?さっきからどうしちゃった訳?」
上条「――フレンダ!」
フレンダ「はい?」
上条「俺と一緒に逃げてくれ……ッ!」
フレンダ「――へ?」
上条「あー、俺の知り合いがだな。たまたま偶然学園都市から逃げ出すルートを知っていてだな」
上条「そこに二人で厄介になろう、って話なんだが――フレンダさん?」
フレンダ「……や、その、ね?えっと嬉しいのは嬉しい訳よね?うんっ、そこは誤解しないで欲しい訳よ!」
上条「はぁ」
フレンダ「でもやっぱりあたしら出会ってまだ数日じゃない?だからこう、流石に結婚即逃避行的なのは良くないと思う訳!」
フレンダ「まずはこう、遊びに行ったりとかして既成事実を積み上げながら、じっくりゆっくりと行き後れにならないように」
上条「話聞けやテメェ。誰もそんなメルヘンな話してねぇよ」
フレンダ「え、違う訳!?」
上条「真面目な話なんだっつーの!……いや、ツッコませんなよ」
フレンダ「普段の調子に戻ったのは嬉しい訳だけど、なんか納得が行かない訳だ……!」
493:以下、
上条「あー、なんだ。お前、『暗部』なんだろ?」
フレンダ「……あんた――知ってた、訳?」
上条「あ、いや誤解しないでくれ!俺はそっちの人間じゃないから!」
フレンダ「それは……うん、何となく分かる訳」
上条「じゃなくて、お前はその……追われてる、んだろ?誰かっつーか、何かに」
上条「しかも相当ヤバい感じの連中に」
フレンダ「可能性はゼロじゃない訳、だけど」
上条「だったらさ、こう、外でほとぼりを冷ますってのはどうだろ?ダメか?」
フレンダ「……んー……」
上条「ダメかな?一ヶ月でも二ヶ月でも、なんだったらもっと過ごしてさ?」
上条「お前が相手にした奴らはどんな連中か知らないけど、その――」
フレンダ「――なんで?」
上条「わざわざ外まで追いかけては――はい?」
フレンダ「なんでわざわざ、見ず知らずのあたしにそこまでしてくれる訳かな、って」
上条「あー……」
フレンダ「あ、先に言ってとくけど。少なくともアレな訳。あんたはあたしの中では結構高評価な訳だ」
フレンダ「寝たふりしてるあたしに手を出さなかっ――」
フレンダ「……」
フレンダ「本気でエ口い事はしなかった訳だし、うんっ!」
上条「今ちょっと考えたのが悔しいですよねっ!自業自得は言えなっ!……いやいや」
上条「つーかお前起きてたのかっ!?」
フレンダ「そりゃ当ったり前な訳でしょ。得体の知らない男んチ泊って、警戒しない女は居ない訳だし」
フレンダ「……だからその、色々としてくれた事は感謝してる訳だし、あんたが『実は俺”暗部”だったんだよ』的なオチもないと思ってる訳」
フレンダ「なんてーかな。『暗部』特有の”暗さ”みたいなのが無い訳」
上条「暗さ?」
フレンダ「雰囲気っていうか、空気って言うか、こう暗い訳よ。何となく」
上条「そんもんなのか」
フレンダ「まー、どっかの組織に所属してて、あたしを売ったんだったら、今頃取っ捕まってエ口エ口な展開になってる訳だから」
上条「いやエ口はないかと思うが……ま、あ、その、信用してくれてありがとう」
フレンダ「てかあんたの全部が演技でしたー、ってなら見抜けないあたしがアホだった訳だし」
上条「オイ」
494:以下、
フレンダ「んで、こっからが本題な訳だけどー、あー……例えば!例えば裏路地で女の子が倒れてた訳ね!」
上条「ゴミバケツん中で生ゴミの中に埋もれてた」
フレンダ「倒れてた訳だけど!さて――この子を拾うのは、まぁあるかも知れない訳じゃない?エ口目的で」
上条「テメさっきから殊更エ口強調すんな?あ?」
フレンダ「だから例えばだって訳!マンガみたいだけど、多少は下心だってあった訳でしょ?実際の所?」
上条「……まぁ、皆無とは言わないが……うん」
フレンダ「やっぱり絹旗の超論理は合ってた訳か……っ!?」
上条「引っ張るよねその子のネタ。本人多分憶えてないと思うし、さも真実の如く言うけど、B級映画から引っ張って来たロジックだと思うよ?」
フレンダ「ま、まぁまぁまぁまぁ!色々あって、女の子を引っ張り込む、みたいな話はよくある訳じゃない?」
上条「うーーーーん……まぁ、ある、かなぁ?」
フレンダ「んでもって身の上話を聞いてーの、同情してーの、場合によってはエ口もしいーの」
上条「いやしてないから!俺は潔白――とは、言い切れないが、エ口目的じゃないから!」
フレンダ「で、何となく一緒に同棲っぽく暮らすのもある訳じゃない?」
上条「あー……うん。親元離れた学生ばっかだし、そんな出会い方する奴らもいっかもしんねぇな」
フレンダ「んじゃさ、その子が『暗部』に所属して”る”子でさ?」
フレンダ「その子のために、ためだけに一緒に海外逃亡するって、どんな確率な訳?」
上条「あー………………」
フレンダ「あんたがあたしに惚れましたー、とかそう言うんじゃない訳よね?だったら話は分かりやすい訳だけど」
上条「そうだな」
フレンダ「一も二もなく頷かれると、それはそれでイラっとする訳――そこで最初の質問か、そういう訳で」
フレンダ「『なんで?』」
フレンダ「なんでそんなにしてまであたしを助けてくれる訳?」
上条「それは」
フレンダ「たゆんたゆんだから?」
上条「それはない。あと物理的にも無い」
495:以下、
フレンダ「じゃ、あれ?同情?『恵まれてない上条さんがフレンダちゃんを助けてあげる』って訳か?」
上条「そういう言い方は好きじゃねぇが……まぁ、なんだ」
フレンダ「なんだ」
上条「『人を助けるのに理由は要らない』って、昔の偉い人は言ったそうだけどな」
フレンダ「……綺麗な言葉な訳ね」
上条「綺麗な言葉は嫌い?」
フレンダ「好きよ。大好きな訳。でも――」
フレンダ「――”綺麗すぎる”訳よ。分かる?」
上条「……」
フレンダ「昔――家族みんなで川遊びに行った訳。つってもウチじゃ日帰りで近くの川へお弁当持っていくのが精々だった訳だけど」
フレンダ「その時に河原に流れ着いた綺麗な石を拾った訳……妹にあげちゃった訳だけど、ふと思ったのよ」
フレンダ「『この綺麗な石は価値がある。それは綺麗だからだ』」
フレンダ「『で、そうすると綺麗な石の下にあるフツーの石はどうなんだ』って」
上条「……」
フレンダ「綺麗な石は上流から流れてる内に、何回も何回も転がされて角が取れたり、中にある結晶が自然に剥き出しになってく――って、後から知った訳よ」
フレンダ「それと同じで『綺麗な言葉』は、軽くて薄っぺらい、見せかけにだけにしか見えない訳」
フレンダ「誰でも簡単に、それこそ着飾るように身につけようとするけど」
フレンダ「口に出せば出す程、価値が無くなっていく訳」
上条「……そか」
フレンダ「否定は?否定はしない訳?」
上条「俺は……それでも、何度でも綺麗な言葉を言おう」
フレンダ「……へぇ?」
上条「……残念だけど、お前の言ってる事は合っていると思う。綺麗な言葉は薄っぺらくて浮かびやすく、そして流されやすいって」
上条「でも、だからって、だからこそ」
496:以下、
上条「格好の一つぐらい付けさせてくれよ。綺麗な言葉の一つぐらい言わしてくれたっていいだろ」
上条「下手すりゃお前の人生かかってんだ。それを救おうってのに、何も言わずにハイ助けましたーじゃ、なぁ?」
フレンダ「……言うだけ、言ってみればいい訳よ」
上条「……俺を信じないんだったら、それでもいい。それもまたお前の自由だし、信じて貰えないのは俺が信じるに足りないから」
上条「出会って……まだ数日の、知り合いでも何でもない人間に、『お前の人生を助けさせてくれ!』なんて言われて信用出来ないのも分かる」
フレンダ「……ん」
上条「だったら俺は行動で示すさ。信用出来るように、して貰えるように」
上条「目の前で困ってる人が居て、それをただ助けたいって、”たったそれだけのために動くヤツも居る”んだって事を」
上条「それじゃ……ダメかな?」
フレンダ「……バーカ、格好悪い訳よ」
上条「だなぁ。もっと気の利いた事が言えれば良かったんだが」
フレンダ「そういう意味じゃ無い訳――でも、分かった訳」
上条「だったら!」
フレンダ「暫くは、アンタが信用出来る間は付き合う訳。ただし」
上条「あぁそれで構わない!」
フレンダ「んで?プランはどうなってる訳?」
上条「友達がマフィ――貿易商!貿易関係のお仕事をやってる12歳児でな!」
フレンダ「ごめん。やっぱあんたこれっぽっちも信用できない訳」
497:以下、
――裏路地 深夜
上条 コソコソ
フレンダ コソコソ
上条(あれから軽く仮眠を取った後、荷物をまとめて二人で家を出た)
上条(バードウェイの部下が待っているのはBB学区。そこまで行けば向こうで見つけてくれるらしい)
上条(が、タクシーを使う訳にも行かず、徒歩で向かってる……あと二時間歩くのは憂鬱だが)
上条(まぁこれからしなきゃならない事を考えれば、大した苦労でもないか)
上条「……」
上条(……あぁまぁ、アレだ。結局俺にはフレンダを切り捨てる事が出来なかった)
上条(俺がもっと上手く立ち回っていれば良かったのかも知れないが、過ぎた事を言っても仕方がない)
上条(彼女『死人』だろうが『何か』だろうが、どっちにしろこの子の加害者である可能性を否定出来なかった)
上条(仮にどこかで過ちをしていたとしても、俺には否定出来る要素は一つも持ち合わせていない)
上条(……けど、同時にフレンダは被害者でもある筈だ)
上条(浜面達、嘗ての仲間達と旧交を温める事すら叶わず、妹さんとも連絡を取れない)
上条(それどころか逆に……あぁ気分が悪い)
上条(結局は人頼みになっちまったが、まぁ一ヶ月ぐらいは俺が付きっきりで面倒看て、その間に死霊術士を探すしかない)
上条(そうすればきっと良くなるさ。今みたいに夜逃げしたとしても、未来は必ずやって来る)
上条(浜面達の和解……は、無理かもしんないが、まぁ妹さんに会うぐらいだったらば)
上条(それに学園都市の中にだけ幸せがあるんじゃないんだし、どこかで人生やり直すのも立派な選択肢だ)
上条(生きていれば何回だってやり直しは出来るんだ。どこでだって)
フレンダ「――ねぇ」
上条(――そう、生きてさえいれば)
フレンダ「――せいっ」 ガスッ!!!
上条「――あがっ!?」 パタンッ
フレンダ「……ありゃ、流石に一発で気絶はしなかった訳かー」
498:以下、
フレンダ「――あ、でも無駄な抵抗は止めて欲しいって訳よ。あたしだって感謝はしてる訳だし、最後ぐらい笑ってサヨナラしたい訳」 バチバチバチッ
上条「スタンガン……?お前、何やっ――」
フレンダ「あー、ね?あたしは色々考えた訳ね、まー時間だけは腐る程あったし」
フレンダ「でね、やっぱりここでお別れすんのがいいんじゃないかなって」
上条「お前っ!さっき俺を信じるって!」
フレンダ「たった今まで信じた訳、でも気が変わった訳よ」
上条「っ!」
フレンダ「――って言ったら流石に怒られそうだけど。信じる信じないだったら、最初から信じてない訳よ」
上条「俺は……そんなに信用なかったのか……!?」
フレンダ「うん、あのね?これはあたしからのアドバイスな訳なんだけどさ」
フレンダ「つーか感謝はしてる訳だから、”次”があったら生かして欲しい訳。また女の子拾ったら、ね」
上条「アドバイス……?」
フレンダ「――あんた、あたしに隠してる事ある訳よね?」
上条「それは――」
フレンダ「まっさか浜面の知り合いだとはねー。意外とあのチンピラも顔が広かった訳かー」
フレンダ「……思ってみれば、あのバカにも『暗部』の暗さはなかった訳だし、友達?それとも仲間な訳?」
上条「それはっ!」
フレンダ「彼氏のケータイ調べるなんて、今時誰だってやってる訳だし。つーかアドレスにフルネームで登録すんの、あんまよくない訳よ?いやマジで」
上条「……悪かったよ!確かに俺は浜面の知り合いだし、お前の事だって聞いてたさ!」
上条「殆どすれ違いだけど、妹さん――フレメアを保護した事だってあるんだ!」
フレンダ「……フレメア」
上条「でも、でもそれは理由があるんだよ!お前が今の時間に!一年以上経過した世界に来たのと関わる話だ!」
フレンダ「『お前がここに居る理由は知ってる。けど中身は言えない』?」
上条「そうだよっ!」
499:以下、
フレンダ「……はぁ、アンタさーあ?自分が何言ってるのか分かってる訳?そーとー無茶苦茶な話よ」
フレンダ「『手品の種は知ってる。けどそれをバラせない』ってのは、それ結局知ったかぶりしてるのと何が違う訳?うん?」
フレンダ「……まぁいい訳。さっきも言った訳だけど、感謝はしてない訳じゃないから、ここでお別れしましょ?」
上条「だから、なんで……!?」
フレンダ「あたしが言ったのと同じ言葉――なら、あたしも答えるけど、この街にはあたしにとっても大切なものがある訳」
フレンダ「『暗部』なんて、クソッタレな仕事してでも守らなきゃいけないような、そんな理由が」
上条「……それ、妹さんか……?」
フレンダ「だから、ここで、お別れ。日の当たる場所に帰れって訳」
フレンダ「あたしのハダカ見たのは、まぁ……我慢してあげる訳だし」
上条「フレ――」
フレンダ「……Спасибо вам до сих пор. И до свидания.……」
上条「え、何語――」
バチチチチチチチチチチチチチチチチッ!!!
上条「あがががががががががっ!?」
パタンッ
上条「……」
フレンダ「……さよなら」
505:以下、
――路地裏 深夜
上条「……」
上条「――……アイツ……!」
上条「……」
上条「……なに、やってんだ……」
上条「――なにやってんだよぉっ!最後の最後で!もう少しだったのに!」
上条「何が悪かったんだ……?最初から全部を話せばよかった?」
上条「『お前は”死人”かも知れないから家出大人しくしとけ』?」
上条「『昔の仲間へ連絡とったら、遠回しに会いたくないって言われた』?」
上条「『存在自体、ローマ正教が危険視しているから問答無用で殺されるかも知れない』?」
上条「『あと伝承の一つに”本人が死者だと自覚した瞬間に屍体へ戻る”ってのがある』……?」
上条「言える訳ねぇだろうがそんな話っ!……そんな」
上条「……残酷な、話を……!」
上条「バカなりに悩んで結論づけて、それなりにデカくて――しかも、大勢の人らに迷惑かけちまうような選択肢選んで」
上条「……それが……このザマかよ……」
上条「……」
上条「……なんて、怒鳴って解決は……しないよな」
上条「こんな所で躓いてる場合じゃない。まだスタートラインから踏み出した所だってのに、諦めてなんかいられない」
上条「俺が寝ちまった間にも変な事件があれば、フレンダのせいにされちまう……それは避けなきゃいけない」
上条「……」
上条「早く、早く見つけないと――」
???「――おや、上条さん奇遇ですねぇ。こんばんは、そんなに慌ててどうかされたんですか?」
上条「――っ!?……お前」
レッサー(???)「やっだなぁお前だなんて。いつものようにレッサーちゃんとお呼び下さいな」
上条「……」
上条(振り返った俺が見たもの、それは――)
上条(――おそろいの『N∴L∴』のラクロス服に身を包み――)
上条(――そのやや尖った耳に『角』を付けたベイロープ――)
上条(――ほっそりとした指に『爪』を付けたランシス――)
上条(――そしてニヤニヤ笑いながら、いつものようにフリフリ揺れる『尻尾』を付け――)
上条(――すっかりお馴染みとなった愛用の武器である『槍』、どんな猛獣の爪よりも鋭い切っ先を――)
上条(――真っ直ぐに、”俺”へと突きつけている――)
上条(――レッサーの姿だった……!)
506:以下、
――路地裏 深夜
上条「えっと、そのな?違うんだよ、これはきっと――」
レッサー「『敵の魔術師の攻撃だった』なんて、ギャグシーンでもないのに使ったら、前歯全部へし折りますからね?」
上条「……」
レッサー「ちなみにアリサさんはこの場に居ませんが、近くに待機されているのでご心配なく。止める方は誰も居ないって事ですから」
上条「……」
レッサー「て、ゆーかですねぇ。何とか言ったらどうです?何か言う事あるんじゃありまっせん?せんせん?」
レッサー「私達に隠れてコソコソと……ま、ぁ?これがただの逢い引きだったら、ビンタ一発ぐらいで穏便に済ませる所でしょーが」
レッサー「ウチの変態魔力探知マッスィーン!にも、上条さんのアパート近辺で反応があったりなかったり」
レッサー「どう考えても魔術サイドの案件なのに、いつまで経ってもお声がかかりませんしー」
レッサー「こうやって出張って来てみれば、上条さんが良い感じにorzやって盛り上がってて、なんのこっちゃ、的な」
レッサー「あ、でもでも!コンクリに倒れて膝をつく惨めな姿はとてもお似合いですよ!」 グッ
上条「……俺は」
レッサー「あい?」
上条「俺は、失敗した……のか?」
レッサー「はい」
507:以下、
上条「初めはさ……女の子を拾ったんだよ。いつものように、こう、ゴミバケツん中から」
レッサー「はい」
上条「その子から話を聞いたり、他の人から『死者』が危険だ危険だって言われても……実感なんかなくて」
レッサー「はい」
上条「だから……なのかな。何か事件が起きてやしないかって、その子がどっかでやらかしてんじゃないかって、調べるのもどこか本腰を入れてなかった」
レッサー「はい」
上条「……でもいざ、知り合いが襲われて!状況証拠がどう考えてもそうだって!」
レッサー「はい」
上条「それでも信じようとして!その子を助けたいって動いたら――」
レッサー「はい」
上条「――このザマだ。最初っから信用なんかされてなかった。それも俺のミスだ……」
レッサー「はい」
上条「……なぁ、レッサー。ていうか『新たなる光』の――あ、フ口リス居ないみたいだけど」
レッサー「はい」
上条「今更かも知れない。もしかしたら手後れかも知れない!俺が愚痴ってる間にもだ!」
レッサー「はい」
上条「俺が信じようとしてるものが全部ウソだったかも知れない!それでもだ!」
レッサー「はい」
上条「俺は信じたいと思う!何か手段があるって!あの子を助ける方法か見つかるって!」
レッサー「はい」
上条「だから――お願いだっ!俺を、俺達を助けてくれ……ッ!!!」
レッサー「――分かりました。では行きましょうか、ちゃっちゃっとね」
上条「え?」
レッサー「はい?」
508:以下、
上条「信じてくれる……の、か?」
レッサー「信じない方がいいですか?相変わらずドMですね」
上条「あ、いやそんなこっちゃないけど……そんなあっさりと、お前」
上条「……俺の話なんて100%感情論だけで……説得力のセの字もない話なのに……」
レッサー「や、別に『死者』がどうとか、ローマ正教がどうとか、そういうのはメンドイなー厄介だなー、ぐらいにしか思いませんが」
レッサー「でも、あなたは信じたんでしょ?」
上条「……あぁ」
レッサー「だったら信じるに決まってるじゃないですか。何言ってんです?」
上条「何――ってお前は!」
レッサー「仲間――少なくとも世界の存亡かけて肩を並べたクソヤローが信じたのであれば」
レッサー「『仲間が信じた』って理由以外、私達が動く何かとやらは必要ですか?」
上条「……お前」
レッサー「レッサーちゃんです」
上条「……レッサーちゃん」
レッサー「すいません。シリアスな展開に耐えきれずボケへ走ったのは謝りますから、その呼び方はよして貰えませんか?」
ランシス「意外()と乙女()……」
レッサー「お黙りなさいなっランシスちゃん!今度はベイロープにキスさせますよっ!」
ベイロープ「変態プレイに私を巻き込まないで」
上条「……すまん」
レッサー「お気になさらず。仲間が信じたのであれば私も信じる。ただそれだけの話ですんで」
レッサー「余所んチの『仲間』とやらの定義は存じませんが、ウチはこうやって代々続けてるようですんでね」
レッサー「例えそれがキャーリサ王女殿下からの怪すぃ取引であったり、気がつけば人の嫁をNTRってるような仲間だとしても!」
ベイロープ「オチに私達を使うな」
ランシス「……術式のオリジナルだし、事実かどうかも怪しい、し?」
レッサー「あなたの影響がエ口方面へ特化し始めてる以上、ランスロット性豪伝説はあながち根も葉もない噂とは思えないんですが……」
上条「まぁまぁ。それよりここに居ないフ口リスはどうしたんだ?逃げた?」
レッサー「普段の行いが出ますよねぇ、こういう時。あぁでも違います違います」
レッサー「まーこんな展開になるんじゃねぇかなー、とは思って居ましたんで、実はさっきのお嬢さんを追わせてる所です」
上条「……そっか」
509:以下、
レッサー「まー、そんなに気に病まないで下さいな」
レッサー「『死者』が『黄泉帰り』だってお話は先の事件の延長線かも知れませんし?」
レッサー「でしたらば我々も当事者であって、それ相応の責任が――」
???「――ので、あれば当然私も参加資格があるのだろうか?」
レッサー「……あー、チクショウ。やっぱり枝付きでしたかコノヤロー」
ランシス「魔力、探知出来なかった……」
???「使ってないから分かる筈もなく。悔やむ必要はない」
上条「誰だっ!」
???「そう声を荒げる必要はないよ、上条当麻君。何故ならば――」
???「――今レッサー君が言ったように、そして実際そうだったように――」
???「――あの売女を仕留める時、我々は確かに仲間”だった”じゃないか?」
ベイロープ「……頭痛い。まさか本当に来るとは……」
ランシス「ラスボス降臨……」
上条「……あんた、いや、あなたは――!」
???「『信じたければ、まず疑え』……誰が言った言葉だったかな?私が殺めた当時の上官か、もしくは私が手にかけた同僚だったかな?」
???「まぁ……友人に嫌疑がかかった時には、私情を捨てて徹底的に調べるべきだ、というだけの話」
???「その友人を心の底から信じている――潔白であれば当然調べられても疚しい所なぞないのだからな」
上条「――マタイ=リース……!」
マタイ(???)「こんばんは、上条当麻君に『新たなる光』の皆さん」
マタイ「実に興味深い話をしているようだが、私も交ぜて貰っても佳いかな?」
510:以下、
――路地裏 深夜
上条(いつぞやの――俺達が神殺しに挑んだ長い永い夜に見た、あの死神チックな闇色のローブを着て)
上条(……あぁしかし大鎌は装備せずに素手のまま。『新たなる光』日本支部に陳列されてんだっかけ)
上条(……どう見ても剣呑な雰囲気を漂わせながら、マタイさんはゆっくりと距離を縮めてくる)
上条(絹切れの音一つさせずに近寄ってくる様は、捕食獣がゆっくりと獲物ににじり寄ってくる様を彷彿とさせ)
上条(周囲の気温が数度下がった――なんて、そんな表現がピッタリくるんだろう)
レッサー「そういうの、私は嫌いですかねぇ」
マタイ「とは?」
レッサー「信じる信じないってのは心のありよう、つーか生き様でもありますよ、えぇ」
レッサー「それが嘘だと分かっていても、どんなに馬鹿げた話であっても」
レッサー「世界を敵に回すのだと分かっていたとしても、私は、仲間がそう言うんであれば信じますけどね」
マタイ「仲間思いなのは佳い、佳い事だな。素晴らしい美徳と言える」
マタイ「だがね、あからさまな虚偽や友が誤った道へ進むのであれば、時として殴ってでも止めるべきではないのかね?」
レッサー「否定はしません。ですが肯定”も”しませんよ」
レッサー「それがもしも地獄まで続く善意の道だとしても、仲間を裏切り、見限り、正義のためだと叫んで矯正するのは果たして正しいんでしょうか?」
レッサー「もしそうしないと正しくない――天国とやらに行けないのであれば」
レッサー「私は仲間と一緒に地獄へ堕ちるのを選びますけどね」
レッサー「って言うかですね。前々から思っていた事ではあるんですが、十字教の価値観って究極の個人主義じゃないですか」
マタイ「個人主義……ふむ、確かにそう言われるのは慣れているが、それで?」
511:以下、
レッサー「騎士道と武士道、共に名誉を重んじ主君へ使えるあるべき姿を説いたものとして有名です。ですが根本的な所は違う」
レッサー「武士道の根幹が『盲目的な他人への関わり』であるならば、騎士道にあるのは『強烈な自己満足』と言えるでしょうね」
レッサー「と、言うのも武士道のべからず論は『主や自身の誇り』という、徹底的に外部との関係性に座したものである……との、対象的に」
レッサー「騎士道は『神が見ているから善行を積め』という、どこまで行っても独りよがりなものに過ぎないからです」
レッサー「……それの延長線――あぁいや延長戦で”こう”なってしまった気がしますよねぇ」
レッサー「『神が見ているのだから自身”だけ”は正しい事をしよう』。まぁそれは良い事ですけどね」
レッサー「自分が汚れるのが嫌だからと理想論だけに傾倒し、手を汚さないで済ませようとする――それがどれだけ他人の迷惑になっても気にしない」
レッサー「ゴミ置き場が汚れていたとしても、服が汚れるから、臭いが移るから、と言って触れようとしない」
レッサー「それどころが生活に絶対に必要なものであるというのに、『ゴミ置き場は要らない!ゴミを出さなければいいだけだ!』と妄想ベースに理想論だけに凝り固まる」
マタイ「……耳が痛い話であるな」
マタイ「自己を律し、他人に寛容で――とも説いているのだが、忘れられがちであると言える」
マタイ「自分達を受け入れろと声高に叫ぶ一方、他人を受け入れる努力はせず、また受け入れられようとする事もせず」
マタイ「それが”楽”な生き方である故に――とはいえ」
マタイ「ここで私達が言い争っていても埒があかないな。これでは」
レッサー「でっすよねぇ。どうしましょうか?」
上条「ま、待って――むぐっ!?」
ランシス「(しーっ……今のウチに、行く)」
ベイロープ「(フ口リスが先行してるから連絡取って合流するのだわ)」
上条「(でもっ!)」
512:以下、
マタイ「内緒話に聞き耳を立てるようで少々気が咎めるのだが、釘を刺しておこう」
マタイ「ここには居ないもう一人のお嬢さんは――ほら、あちらに」クイッ
上条(マタイさんが振り返ると、そこにはグッタリとしたフ口リスが……意識を失ってるようだ)
レッサー「やりやがりましたねクソジジイ!」
マタイ「何を言っているのか分からないな。私はただ、少し呼び止めるだけのつもりだったのだが」
マタイ「ほんの少しばかり強く叩いたらあぁなってしまったよ。最近の若者はひ弱でいかん」
上条「マタイさん!」
マタイ「何かね?」
上条「俺の話を――」
マタイ「その話というのは……依頼、そう依頼をしたのだが、それよりも大切な事なのかな?」
上条「それはっ!」
マタイ「一応私なりに待ってはみたのだよ。相談があれば乗るとも言ったな?」
上条「……っ!」
マタイ「が、待てど暮らせど返事は来ない。便りがないのは元気の証拠とも言うがね」
マタイ「また依頼を一度した立場として、あまりに拙な真似をするのも憚られるのではあったが」
マタイ「それでも君が青春を謳歌するのであれば、忘れるのであればそれはそれとて佳い」
マタイ「歳の離れた友人として、まぁそういう事もあろうかと苦笑いで済ませたであろう――が、だ」
マタイ「君のアパート近辺から、件の『死者』の魔力が定期的に観測されるのだが、それは一体どういう訳かね?」
上条「だから、それは色々あったんだよ!」
マタイ「あったのであろうな。だがそれがどうした?」
上条「それが……って」
マタイ「まぁ、佳い。どんな選択肢を取ろうが、君が決めた事である。私はとやかく言うつもりはない」
マタイ「――そう、”言う”つもりはない」
上条(ザワリ、と空気が変わる)
上条(肌寒い10月の空気が心地よく感じられるぐらいに、寒さが鋭く肌を刺す)
上条(どこか厳かな雰囲気――こう、数百年の齢を重ねた聖像を前にしたような錯覚すら見えて)
上条(あの、魔神セレーネが最後まで俺達へ向けなかった殺気――これが教皇級か……ッ!!!)
513:以下、
レッサー「月並みな台詞でアレなんですけど、ここは私達に任せて行っちゃって下さいな」
上条「……でもっ!」
ベイロープ「説得出来る出来ない以前に、時間が足りないのだわ」
ベイロープ「あの『死者』を野放しにしたまま何かあったら、それこそ向こうに着け入れられる隙を作る」
ランシス「……でも、出来るのは時間稼ぎ、だから」
上条「……すまない、みんな」
ランシス「多分あっちの方だと思う……ビリビリくるから」
上条「本当にありがとう」
ランシス「……」
上条「どうした、んだ?」
ランシス「注意して欲しい……なんかおかしい」
上条「なんかって、何が?」
ランシス「……分からない。けど……」
ベイロープ「ここ数日、足を棒にしてしつこい青髪ピアスのナンパを適当にあしらいながら、あなたの家近辺を探ってたんだけど」
ベイロープ「妙なのよ。反応が」
上条「妙?」
ランシス「あなたの近くで何回か魔力を感じた……けど、何か、違う気がする」
上条「それは、どんな風に?」
514:以下、
ランシス「具体的には分からない……」
レッサー「あ、そうだったんですか?ランシスが時々ブルブル震えるから、てっきりエ口奴×調教されてるもんだとばかり」
上条「ごめんな?今ちょっと大切なお話をしてるから、レッサーさんはマタイさんに遊んで貰っててくれないかな?」
マタイ「それは私も感じたな」
レッサー「エ口×隷ですか?またマニアックな趣味を持ちで!」
上条「おい誰か!このバカを黙らせる薬を持ってないかなっ!」
マタイ「……さて、では始めようか」
上条「ホーラ見なさいっ!マタイさん会話を切り上げて戦闘態勢に入っちゃってるから!お前が余計な事言うから!」
ベイロープ「て、いうか遊んでないでさっさと行きなさい」
上条「はい」
レッサー「――上条さんっ!」
上条「あぁっ!」
レッサー「この戦いが終ったら、私と田舎へ帰って実家のパン屋を継いで裏の水門が大丈夫か見てきましょうねっ!」
上条「無理矢理死亡フラグ立てようとするんじゃねぇ!しかも多すぎて一つ一つ取り上げんのが面倒だわ!」
上条「ていうかそこまで事前に水門が気になるんだったらもっと平時から準備しとけよ!台風ん時行ったら危ないだろ!」
レッサー「やはり農家の方は偉大という事ですなっ!」
上条「結論そこかっ!?……まぁいいやっ!とにかく後はヨロシクっ!」
515:以下、
――路地裏 深夜
レッサー「……やれやれ。世話が焼けるって言うか、まぁ」
レッサー「ツッコミが出来るぐらいにリカバリしたんで、結果的にゃオーライって事でしょうな」
マタイ「直接言ってあげたら佳いのではないかね?そうでもしないと気づかない――”フリ”を止めないだろうから」
レッサー「あなたはお料理ってしますかね?」
マタイ「ペンネを茹でるぐらいは」
レッサー「なら憶えておくといいでしょうが、隠し包丁という概念がありましてね」
レッサー「つってもま、お肉や野菜を柔らかくしたり、火が通りやすくなるように切れ込みを入れる技術なんですが」
レッサー「そんなママンがわざわざ手間暇かけたのを、誇って子供へ自慢するようなこっちゃないでしょう?そんな当たり前のコトを押しつけがましくするのも」
マタイ「成程成程」
レッサー「理解して頂けましたか?」
マタイ「乙女なのだな、君も」
レッサー「全然理解してやがりませんねクソジジイ」
ベイロープ「いやあの、ほぼ正確に分かってると思うのだわ……」
ランシス コクコク
レッサー「――さて、ですが。先に行かせたのは訳がありましてね。打算と言いましょうか」
マタイ「ほう?」
レッサー「前は共闘しました。その実力は……そうですなぁ。私が見た魔術師の中でも、『右方』のフィアンマと並ぶぐらいでしょうか」
マタイ「私は彼に過去敗れているのだがな。それが何か?」
レッサー「『これが所謂”教皇級”か』と驚きはしたんですけど……まぁそれだけでしたね」
レッサー「『この程度であれば我々も届くんじゃないかな』と」
マタイ「興味深い話だ――が、話を続ける前に少しいいかね?」
マタイ「今更ながらお願いなのだがね。あの鎌を返してはくれないだろうか?」
レッツー「ほほう」
マタイ「いや一時的にというだけで、終ったらまた返すさ。このままだと少々拙い事態になりかねない」
ベイロープ「そのデメリットしかない提案に『はい』っていうおバカは居ないと思うのだわ」
マタイ「そうかね?君達には得しかないと思うが――」
レッサー「――死に晒せクソジジイッ!!!」 ブウンッ
ランシス「ヒャッハー……明日バチカンは国葬ローマ正教は葬式だぜ?……」 ブウンッ
マタイ「――ならば『手加減』は出来ないが、構わないな?」
ダダンッ……!!!
ベイロープ「――は?」
レッサー「……」
ランシス「……」
マタイ「あぁ訊きたい事は幾つかあると思うが、取り敢えずは私の話を聞いてからにしてはくれまいか」
516:以下、
マタイ「年寄りの長話とはいえ、順序立てて話した方が理解もし易かろう――と、私の一撃を受けて壁まで吹っ飛んだレッサー君」
マタイ「並びさっきからジリジリと体勢を変え、上条君にこっそりと合流しようとしているフ口リス君」
マタイ「そして『影』を通じて、厄介な霊装を私へ叩き込もうとしているランシス君」
マタイ「君達の意識は刈り取っていないのだから、気絶したフリをして油断させようとしても無駄というもの。立ちたまえよ」
レッサー「ぐぬぬ!」
フ口リス「あー、面倒クセー」
ランシス「……ちっ」
ベイロープ「待ってよ!?今、何が――」
マタイ「何が、という程の事はしていない」
ランシス「魔力、関知出来なかった。霊装や術式じゃないと、思う……」
マタイ「体術だよ、ただの」
レッサー「ただの、で私達フォワードを一蹴出来る訳ないじゃないですかっ!きっと何かの伝説を模した迎撃術式に決まってますよ!」
マタイ「信じたくなければ強制はしない。ただ理解するまで拳を叩き込むだけではあるからな」
レッサー「わっかりましたっ!言葉の意味は分かりませんが、とにかく凄い自信ですよねっ!」
ベイロープ「レッサー、ハウスっ」
フ口リス「つーか、何?イメージと違うんだけど……?シスの暗黒○っぽい外見で、体術?」
ランシス「……それも殺意はなかったけど、こっそり本気だったレッサーを上回るぐらいの……!」
レッサー「あれ?私一人で吶喊した事になってませんか?確かもう一人居ましたよね?」
マタイ「さて――と、まずは君達にはチャンスがあった。私を殺すには及ばずとも、無力化出来るだけの力は有しているよ」
マタイ「が、その方法は宜しくはない――というのも、どうして一斉に私へ襲い掛かったのか」
マタイ「……あぁいやいや返事は結構だ。私が近接戦闘が苦手であろうと判断したからだな」
レッサー「(……どうします?なんか長ーい説明台詞が始まりそうなんですが)」
フ口リス「(言わせときゃいいジャン?だって時間稼ぎか目的だったんだしー)」
517:以下、
マタイ「そもそも魔術師には様々なタイプがある。研究や伝説の解読に特化したタイプ、治癒魔法に長けたタイプや」
マタイ「魔術の才能など欠片もないのに、半生を捧げて有名な術式体系をまとめ上げた者も居る。人それぞれと言えるな」
マタイ「同様に戦闘系へ特化した魔術師も然り」
マタイ「中世の騎士のようにガチガチに固めた者も居れば、イギリス王室派の『騎士団長』のような鎧を着る必要すら無い者も居る」
マタイ「各々が選んだ術式や霊装に合わせ、戦闘方法もチューニングしている。これもまた魔術師次第と言えるだろう」
マタイ「それぞれが得意とする距離があり……そうだな。便宜上、遠距離型・中距離型・近距離型・格闘型と分ける事にしようか」
レッサー「……ありがたいお話なのかも知れませんが、あんまし有意義では無いじゃないんですかね、それは」
マタイ「と言うと?」
レッサー「我々なんてのは個人主義者が拗らせすぎたような連中ばっかですし、そもそも分類できる程ケース分けが出来る筈、が……」
ランシス「……レッサー?」
レッサー「あー居やがりましたねぇ、確かに」
レッサー「A-FOみたいな時間を闘争につぎ込んで、半世紀以上古今東西の魔術師とやり合い、データを蓄積し」
レッサー「……そして生き残って来やがった化け物ジジイが」
マタイ「ありがとう。そう褒められたものではないが、まぁ年寄りの与太話として聞き流してくれても構わない――さて」
マタイ「レッサー君が言った事にも一理ある。曲者ばかりの魔術師達に置いて、他人との共通点は驚く程少ない」
マタイ「というのもこの世界には様々な神話や伝承があり、またそれらに対して様々な解釈がなされる」
マタイ「意図的に曲解するのも含め、時として同じオーディンの術式でも効果は真逆にもなる」
マタイ「とはいえ、ある程度のセオリー、傾向というものもまた存在する。あくまでも私の主観に過ぎないが……」
マタイ「『得意な距離と防御力は反比例する』、とね」
レッサー「はい?」
マタイ「例えばそこのお嬢さんがこっそり準備しようとしている砲撃術式。これは分類からすれば遠距離系と言えるだろう」
レッサー「すいません、あなたが指した方にはお嬢さんは居ないんですけど」
ベイロープ「――『知の角杯(ギャッラルホルン)』!!!」 バチバヂバチバチバチッ
レッサー「ナイスですっベイロープ――あれ?なんか私へ雷撃が向かって来てやしま――」
ダンッ!
マタイ「――と、このように、砲撃に特化した魔術師は、その膨大な射程を以て相手を圧倒する事を好む」
マタイ「相手からは攻撃を受けず、一方的に蹂躙するような、ね」
フ口リス「……雷素手で撃ち落としやがった……!?」
518:以下、
マタイ「同士討ちは佳くない。仲佳くやりたまえ――が、そんな遠距離系にも欠点はある」
マタイ「しかし裏を返せば攻撃面に特化しすぎるあまり、大概は近づかれてしまえば無防備な側面を晒す事になる」
マタイ「勿論、某かの切り札は用意しておくだろうが……それにした所で、その切り札とやらが使い勝手の佳いものであるならば、隠匿する意味は無い」
マタイ「逆の話、これが近距離型になればなる程、遠距離・中距離型の魔術師からは射程の優位を取られ、一方的に攻撃される機会が増える」
マタイ「よって自身の攻撃が届く近距離まで近づく必要があり、それを埋めるために色々と試行錯誤する」
マタイ「中には機動力を極限まで高めるものも居るが、殆どは自身の防御力を高めるな」
ベイロープ「……あぁ。つまり攻撃距離と防御力が反比例してると?」
マタイ「そうだな。ボクサーに例えるのもいいかもしれん」
マタイ「アウトボクサーはその射程の長さ故に、相手と距離を取って戦うのを好み」
マタイ「インボクサーはその破壊力を遺憾なく発揮するため、相手に肉薄するのを好むと」
マタイ「君達で言えばベイロープ君は遠距離型、フ口リス君は近距離兼格闘、レッサー君が近距離と中距離の間」
マタイ「ランシス君は……万能型、かな?もしくは特殊型。直接戦闘よりもフォローを優先してやいないかね?」
ランシス「……やばい、バレてる……!」
フ口リス「なんだろな……言っちゃなんだけど先生よりもタメになるぜ!」
マタイ「前置きが長くなっているが、君達は私を遠距離型だと思った訳だ。違うかな?」
マタイ「前衛二人で、しかも後衛の補助なしに無力化出来る――そう思ったのは、私が老人だからかね?それとも素手だから好機と見たのかな?」
レッサー「どっちも正解、てかあーた『モロクの聖竈』なんつー物騒な遠距離術式ぶっ放してたでしょーが!」
マタイ「ならば仕方がない――と、までは言わないが……そうだな。私がバチカンで瀕死になった話は知っているかな?」
ベイロープ「噂程度だけど、『右席』のフィアンマの一撃を受けて、市街地には被害を出さなかったとか何とか」
519:以下、
マタイ「そうだ。”至近距離からフィアンマの加減無しの一撃”を受け、背後にある市街地に達しないように抑えたのだ」
マタイ「負けた恥を言うのは心苦しいが、その直前に40年ばかり時を空回りする術式を発動しており、余力が殆ど無かった状態で、だ」
マタイ「以上を踏まえた上で――さて、私は一体どんなスタイルの魔術師に分類されると思うかね?」
レッサー「……あ、あのぅ?ちょぉぉぉぉぉぉぉっとなんかスッゲー嫌な予感がするんですけど!」
フ口リス「……奇遇だぜ。ワタシもだわ」
ランシス「明日……何食べよう……」
ベイロープ「現実見なさい!ていうか喧嘩売ったのあんた達でしょうが!」
レッサー「や、あの、まさか80過ぎのジジイがガチ格闘タイプの武闘派なんて分からないでしょうが!」
ランシス「曲がりなりにも『右席』の暴走を抑えていた時点……で、うん」
レッサー「楽勝だと思ったんですよ!なんか、あっさりぶっ倒した後」
レッサー「『これが教皇級か。ふっ、思ったより大したもんでもありませんでしたね』とキメ顔でキメ台詞をキメるつもりだったのに!」
フ口リス「キメ多いぞー。結構余裕だな」
マタイ「先程も言ったように魔術には様々な相性がある」
マタイ「相手によってはクリティカルな効果を上げるものもあれば、簡単に防がれてしまうものもある」
マタイ「従って、ある魔術師は防御を捨て、射程を伸ばし遠距離から一方的に攻撃するのを選び」
マタイ「またある魔術師は近づいて反撃の暇すら与えず、葬る事を選んだ」
マタイ「――私が選んだのは、只々”効率”というだけの話」
レッサー「『レベルを上げて物理で殴る』……まさか魔術師で実践するアホがいるとは!」
マタイ「仕方があるまい。多種多様な魔術師を相手する以上、一々相手の術式がどう、霊装はこう、と分析するのは時間の無駄だ」
マタイ「剣や槌などの武器、また当時広まりつつあった銃器へ対する備えをする者はいても、拳を無力化させる発想は”あまり”なかった」
520:以下、
マタイ「……多少見栄を張って”選んだ”と嘯いたが、正しくは”それしかなかった”だな」
マタイ「私は才能の欠片も持ち合わせておらず、遠距離術式を放とうにも魔力が足りず」
マタイ「高戦闘を行おうにも、加した世界では直ぐさま魔力が枯渇してしまい、戦闘以前の問題だった」
マタイ「よって残された術は、持てる限りの魔力を注いで防壁を張り、相手に近づくぐらいしかなかったのだよ」
レッサー「……上条さんはっ!?上条さんはどこに居るんですかっ!?」
レッサー「壮大なノリツッコミ、『やっつけであの術式の出力出る訳ねーだろ!』の出番ですから!」
マタイ「私のような凡夫、才能の欠片もない人間であっても、経験値を積めばそれなりに。嗜み程度だがね」
フ口リス「……どんな『教皇級』だよ……」
マタイ「あぁその、俗に言う『教皇級』とやらにも私は異議を唱えたい」
ベイロープ「……えぇ、聞くけど」
マタイ「魔術師の敬称だか尊称だか、はたまた力の等級を表す位階の一つに『教皇級』というものがある。それはまぁいいだろう」
マタイ「が、しかしそれが真実味があるように語られるのは面白くはないな」
ランシス「不適切……?」
マタイ「現教皇猊下は政治畑の出身でな。あまりこういう荒事に慣れてはいないというか戦闘型の魔術師ですらないよ」
マタイ「だがそれでも彼の使う魔術は『教皇級』と呼ばれる。その威力に関わりなく」
マタイ「この私の使う魔術もまた『教皇級』であり、同じ等級として見られるのはあまり嬉しくないものだよ――そして」
マタイ「いつもいつも疑問に思うのだが、『教皇級、教皇級』と呼ばれるものの、その魔術を身近で目の当たりにした人物は恐らく少ない、というのに」
マタイ「どうしてさも人類普遍の形容詞の一つとして、『教皇級』が通用してしまうのか、と言う事だな」
マタイ「私に限って言えば、私の攻性術式を見て生きている外部の人間は、君達とアックアとフィアンマぐらいか」
フ口リス「オイ、とんでもねーコトカミングアウトしやがったぞ」
マタイ「他の教皇にしても、基本的には『玉』だ」
マタイ「王ではなく旗印としての意味合いも強く、最前線で供も連れずに力を行使するのは稀ではある」
521:以下、
マタイ「……だがどういう訳か、私達の力など知る者は極々少数であるというのに」
マタイ「誰それは『○○に於いては教皇級に匹敵する』だの、『○○は教皇級だと言える』と、連呼されてみたまえよ。複雑な気分になるから」
レッサー「あー……まぁ、そりゃ誰も知らない筈の、バカ偏差値28が流出してて、『あいつより上』、『あいつに匹敵する』とか言われれば気分悪いですよねー」
レッサー「……んでー、どうしてまたマタイさんはそんなお話をワタクシどもへされるんでしょうか?」
マタイ「『教皇級』をその身で実感しておくと佳い。きっと今後の糧となる」
レッサー「上条さんはっ!?ダッシュで追わねばならないんじゃないかなっと愚考いたす次第で御座いますがっ!」
ベイロープ「オイ、時間稼ぐ話どうなった?」
レッサー「魔王が乗り込んできた勇者の前でペラペラ喋る意味!分かるでしょうがっ!」
ランシス「今から始末するから、何話しても大丈夫、的な……?」
マタイ「あぁ安心したまえ。それはない。”そういう”約束をしているからな」
レッサー「約束、ですか?」
マタイ「君達の動向を探る際、マーリン卿に見つかってね」
マタイ「その時、『命までは取らないから内緒にしていて貰えないか?』と聞いたら」
フ口リス「き、聞いたら?」
マタイ「『あの外道共に世間の広さを分からせたって下さいセンセー!死ななきゃ腕の一本二本構わしまへんよって!』」
レッサー「あ・の・も・ふ・も・ふ・がっ!霊装の分際で余計な事を!」
レッサー「フォアグラの刑じゃ生温かったですね!やっぱりもみじおろしにしとけば良かったですよ!」
マタイ「私が言いたいのはこのぐらいだが……あぁ歳の離れた友人として、一つだけオマケをしておこうか」
レッサー「超引っかかりますけど、何なんですかね?」
マタイ「君達は経験が足りない。それも圧倒的に」
ベイロープ「……あなたからすれば、誰だってそう見えるんじゃないかしら?」
マタイ「ではなく、こう……そう、言ってみれば『傲り』に近いものだ」
レッサー「私達がですか?」
522:以下、
マタイ「そう。確かに『神殺し』の術式や、過去の英雄達の記憶とリンクし、その年齢にしては非常に優れた魔術師だと言えよう」
マタイ「もしも同じ年頃の私と戦えば、十中八九君達が勝利を収めるだろうな」
ランシス「それは……どうも」
マタイ「だが、それは。優れた師と霊装、術式を持っているからに他ならず、決して君達が積み上げたものではないと知るが佳い」
マタイ「どれだけ強力な魔術を行使しようとも、どれだけ偉大な霊装を持とうとも、それを使っているのは魔術師自身であると」
レッサー「話が見えませんが……」
マタイ「……なぁに難しい事など何一つ。事実とは得てしてシンプルで分かりやすいものだ」
マタイ「よって私も、極々シンプルに、端的に、単刀直入に言おうと思う」
フ口リス「充分長いっつーの」
マタイ「それは失敬――では」
マタイ「君達は私の冗長な無駄話に付き合ってくれた。それはきっと年寄りへ対する思いやり――」
マタイ「……など、ではなく。上条君の所へ、私を行かせないようにするための手段として。時間稼ぎだ」
レッサー「まー、バレてるとは思って――」
マタイ「分からないかね?ここへ来ても尚?」
マタイ「玉の例えをした時点で気づいてくれても佳かったのだが……まぁ、今日の反省は後々生かせば佳い」
レッサー「一体、何を」
マタイ「時間稼ぎをしているのは――」
マタイ「――私”も”なのだよ」
523:以下、
――路地裏 深夜
上条「ハァ、ハァ、ハァ……」
上条(クーラーの室外機と雑多なゴミ、そして所々に積まれている壊れたビールケースの残骸)
上条(ともすればちょっとした障害物競走よりハードな道を、俺は全力で駆け抜けてた)
上条(灯りなんて全然ないし、方向もランシスに言われた――多分魔力を感じたんだろう――通りに進んでいる”つもり”だけど)
上条(本当にこっちかは分からない。進んでいるように見えても、検討違いの所へ向かってる可能性も否定は出来ない……だが!)
上条(ジッとしているよりはマシだ!誰かが助けるくれるのを待つよりも!誰かがクソッタレな現実を何とかしてくれるなんて祈るよりも!)
上条「俺が何とかしなきゃ行けない!俺達が動かなければ変わってくれなんてしないんだよ!」
老人「――なら、そうしてみせろ」 サッ
上条「ったぁ――っ!?」 ガッ、ゴロゴロゴロゴゴロッ
上条(目の前に積まれたゴミを飛び越えようと踏み込んだ瞬間、ブレるべき視界が予想した上下ではなく数回転して止まる)
上条(強かに背中と腰を打ち――ったと思ったが、倒れた先にあったゴミがクッションになって、大して痛くはない。ないが……)
上条(これを不幸中の幸いと喜ぶのはまだ早すぎる。何故ならばだ)
上条(俺の足を払い、スッ転ぶ原因を作った野郎が直ぐそこに居るからな!)
上条「お前、何しやがるっ!?こっちは急いでんだぞバカヤロウッ!」
上条「どっかのスキルアウトだろうが、カネが欲しいんだったらサイフごと置いてくし、喧嘩したいんだったら後から受け――」
老人「『どうして怒るのか。どうして顔を伏せるのか』」
老人「『もし、お前が正しいのであれば、顔を上げられる筈ではないか』」
老人「『正しくないならば罪は玄関でお前を待ち、そして求める。お前はそれを支配する義務を負うであろう』」
老人「――創世記第四章より」
上条「あんた……どっかで……?」
524:以下、
上条(歳は……じーちゃん、老年と言っていいぐらいの。三つ揃いスーツを着ているが、こんな場所には似合っていない)
上条(何よりも、吸血鬼が着ているようなクロークが浮いている――かと、思いきや、違和感が少しあるだけでおかしいとは……矛盾してるけど)
上条(俺は知っている……そうだ!マタイさんに拉致された時、影のように付き従ってた人だ!)
老人「行動――そう、現実を変えようとして足掻くのはいい。それは決して何人たりとも卑下してはならない」
老人「だが、しかし、だけれども。その行動が果たして本当に正しいと言えるのか?」
老人「綺麗事と甘言、そして諫言めいた偽善に彩られ、善良な人による善良な人のための、善意にて舗装された地獄へと進む道ではないのか?」
老人「お前が突き進む道には屍体しか転がってはいない。引き返せ」
老人「ここからは俺達の仕事だ。ここからが俺達の仕事だ」
老人「今までそうしてきたように、これからも俺達がそうするだけの話」
上条「……悪い。時間が無ぇんだけど、手短に言ってくれよ、なぁ?」
老人「この先に『死者』が居る。遭いたければ俺を倒していけ」
上条「良かった――いつも通りの展開だ……ッ!!!」
――ガッ!!!
525:以下、
――路地裏 深夜
フレンダ「……ん?」
フレンダ(何か聞こえた、訳よね?猫でも居んのかなー、にゃあ)
フレンダ(ていうか猫って良い訳よ。あんま悩み事もなく、にゃーにゃー言ってればご飯が貰えて――ってのは、八つ当たりな訳か)
フレンダ(野良猫には野良猫なりの気苦労がある訳だろうし、一人で生きていくのは辛い訳よ、うんうん)
フレンダ「……」
フレンダ(さって、と。これからどうしよっかなー?お金は……あー……盗んで来りゃ良かった訳)
フレンダ(無一文でどうしろっつーんだか、これだからテンションとノリで行動しちゃダメだって訳よねっ!テヘッ!)
フレンダ「……」
フレンダ(……あー、なんであんな事しちゃったんだろー。素直に従ったとけば良かった訳ー)
フレンダ(ヤバくなったらまた逃げればいい訳だし、ギリギリまで付き合ってあげれば、良かった、かも)
フレンダ(良かった――良かった、ねぇ?何が良くて何が悪いのかワケわっかんないワケ。いやホンっとに)
フレンダ(前からよく食べる方だったけどね、あたしも。でもこんなに食べてた訳じゃないし)
フレンダ(何が起こってる訳?何かの実験材料にされた、とか?)
フレンダ(だったらもっとシャレにならないような副作用がある訳よね。こう、手術の痕も無いし)
フレンダ(てか超電磁砲に電撃喰らった時についたヤケドも残ってな――) グー
フレンダ(……さっき食べたばっかなのに、燃費が悪いのは、うん)
フレンダ(どんだけ食べても太りそうにないのは、ある意味女の子の憧れっちゃ憧れかー。いや食費どんだけって)
フレンダ(……ていうか、本当にお腹空いた訳。なんか、チョコバーでも持ってなかった、かなっと……ん?) ゴソゴソ
フレンダ「……………………これ」
フレンダ(あの家の、合鍵……)
526:以下、
――路地裏 深夜
マタイ「――そろそろ立ち上がらないでくれると助かるのだがね」
マタイ「婦女子の、それも少なからず行動を共にした相手を攻撃するというのは、あまり佳くないものであるな」
レッサー「こ、の……クソジジイ……!さっきからポンポンぶん殴っておいていうコトはそれだけですかっコノヤロー!?」
レッサー「口ん中が鉄の味しかしないんですけど、このまま味オンチになってしまったらどう責任取れってくれるんですかっ!?えぇっ!?」
マタイ「いや、イギリス人は前からだろう?」
レッサー「確かにっ!上手い事言いやがりますねっ!」
ベイロープ「……レッサー、ウルサイ」
マタイ「恨み言に異を唱えるつもりはないものの、君達にだって私を殺すチャンスはあったのだよ」
マタイ「まず最初に、全力全霊を以てあの”神殺し”の術式を使っていれば、無傷では居られない可能性はあった」
マタイ「……まぁ、一度見た術式が私に通じるかは別の話だが」
レッサー「……くっくっくっ……!」
マタイ「何か可笑しいかね」
レッサー「クが三つ……!」
フ口リス「あ、すいません教皇さん。今度からワタシもグリーンピース食べるから、そのアホに教皇級ツッコミ入れて下さい。全力で」
レッサー「ちょっとボケただけじゃないですか?!折角場を和ませようとしただけなのに!」
マタイ「そろそろ佳いかな?私も暇ではないのでね」
527:以下、
マタイ「我が友にこれ以上罪を重ねさせるのは気が引ける。少しは私も泥を被らねばならん」
レッサー「……だったら全部止めてやったらどうです?そうすれば誰も彼も救えてハッピーになるんじゃありませんか?」
マタイ「最善であれば、な。私も人の子だ、そう願わざるを得ないが」
マタイ「かといって『宝くじの一等が当たる』前提で家を買ったりはしないだろう?そこまでこの世界が優しいと信じてもおらん――さて」
マタイ「君達はまだ若い。研鑽を積めば私程度の魔術師など、駆け足で通り越していくだろう」
マタイ「また今回の件について、恨みを抱くのであれば我々を恨みたまえ。君達の『正義』を邪魔した、我々を」
レッサー「……」
マタイ「……そろそろ夜も更けた。子供はとうに帰って寝る時間だな……見たまえ」
マタイ「月もほら、登ってきているではないか。あぁ本当に青ざめた」
マタイ「美しい満月が――――――――何?」
マタイ「満月、だと」
レッサー「どうかされましたかー?ニヤニヤ」
マタイ「擬音を口で言うのは佳くな――いや、満月?どうして満月なのだ!?」
マタイ「あの忌々しい売女の夜は!青覚めた月の下の悪夢の幕は!とうの昔に引かれた筈だ!」
レッサー「でっすねぇ。つーか発動までに超時間かかるっつーか、まぁ実戦にゃ殆ど意味ないでしょうが。ま、アレですな」
レッサー「『新たなる光』は、今んトコ私達だけしか居ませんが――」
レッサー「――私達の『仲間』がたった四人だと思ってんじゃねぇですよコノヤロー」
528:以下、
マタイ「な、に」
???「『――ぼうや、”わたし”の可愛いぼうや』」
???「『闇の帳はとうに降り、良い子はもう眠る頃』」
???「『夜更かしする悪い子は、狂ったザントマンがやってくる』」
???「『”Danced and Turn(まわれまわれ)”と声をかければ、不幸なお父さんは階段から滑る』」
マタイ「この――声は……っ!鳴護アリサさん!?」
鳴護(???)「『はつかねずみがやってきた――』」
マタイ「まさか魔神の力を使え――」
鳴護「『――はなしは、おしまい』」
プツッ、ザァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ……
529:以下、
――???
ヨーゼフ「………………う、ん?」
男「おぉ起きたぜよ――って寝とぉ!寝とぉぜ!動いとぉたら傷口開こぉき!」
ヨーゼフ「ここは――あの子は!?」
男「あれば別嬪さんなら女衆が看とるちや。大丈夫、お前さんと違ぉてケガの一つもしとらん」
男「それどころが起きちゅうがりにママ食いとぉ食いとぉ言ぉて笑かしよぉ!えらい剛毅な娘さんちや!」
ヨーゼフ「ここは、というか君は一体――」
男「あしか?あしは名乗る程のもんじゃないき」
ヨーゼフ「……いや、命の恩人の名前ぐらい教えて欲しい。都合が悪いというのであれば別だけど」
男「……んー、ここで格好つけるのがよかったき……まぁ構わん。構わんちや。あしの名前は――」
男「――上条、上条凍刃(とうは)ちや」
530:以下、
――路地裏
上条「……」
上条(月のない夜空を見上げ、俺は大の字になっているのを知る)
上条(アレがおおぐま座、で、あっちが北極星。ポラリスだっけか?ARISAの1stアルバム)
上条(ライブ衣装を着たのが色々ツッコミ入れたい気持ちは分かる。あぁ分かるさ!俺だってな!)
上条(でもほら、フィクションのノンフィクションの違いってあるじゃん?事務所的な意味で)
上条(星はスバルのよ、シロー――ん?現実逃避もこれぐらいしないと)
上条「――つー……」
上条(このじーちゃん、メッチャ強……!ていうか強ぇーよ!バランスおかしいだろ!?)
上条(魔術や能力を使うでもなく、真っ正面から俺の拳を受け止めるし!タックルを決めようとしたら、軽く切られるよ!)
上条(魔術をこれでもかと見せつけてくるタイプでもないし、どっかでごり押しする事もしない!)
上条(俺が行動する度に的確な打撃を入れられ、投げられ、絞められる)
上条(それでも!まだ俺が倒れる程度で済んでいるのは、偏にじーちゃんに殺意がないから。あったらさっさと終ってる)
上条(……まぁ、痛ぶって楽しむ趣味がないんだったらば、の話だが)
上条「……なぁ?そろそろ名前ぐらい教えてくれてもいいんじゃねぇかな?」
老人「俺はお前を知っている。それ以外に不都合はない」
上条「マタイさんの関係者だってーのは分かるんだが……まぁいいや、っと」 グッ
老人「まだ立つか。俺がお前を殺さないとでも思っているのか?」
上条「その気があんだったらとっくにやってんだろ。ドSが趣味だったら倒れた俺に追い打ちしてるだろうが、それもなし」
上条「そんなお優しい事をしてくれる敵は……御坂ぐらい、かな?敵ですらなかったけどさ」
老人「何度向かって来ようとも意味は無い。意義はない」
531:以下、
老人「お前が無様に痛めつけられる。ただそれだけだ」
上条「意味なぁ?んな事ぁないと思うが、俺は」
上条「ボッコボコにされてでも、クソッタレに何度ぶん殴られても向かっていくのって、ほら、男のロマン的な意味で憧れるよな!」
老人「俺には理解出来ん話だ」
上条「だったら分かるように言ってやるよ――そうだな」
上条「女の子一人追い回して、ぶっ殺すのだけが救う方法だ、なんてダサいっつってんだ!」
老人「『死者』は害にしかならない」
老人「革袋に腐った肉と濁った血を詰め込んだだけの『何か』だ。生きているように見える”だけ”だ」
上条「俺達だってメシは食うだろ!?それと何が違う!?」
老人「違わないさ。何も違っている所なんてない」
老人「『死者』の同族食いにした所で、俺達でも極限状態であればタカが外れる事だってある。否定はしない」
老人「だがな。俺達は俺達を食う獣達を殺してきた。人類の害となるような物を排除するのもまた自然の摂理――と、まで言わないが、そうしてきた」
老人「……それにな、上条当麻。お前は考え違いをしている。勘違いをしているな」
上条「俺が?何をだよ?」
老人「仮にお前が体を張って、釈尊の如く薪へ身を投げるウサギになったとしよう」
老人「もしくは虎か?……まぁなんにせよ。その体を捧げたとしようか」
老人「『死者の憂鬱』――発作的に起きる同族食いの因果が発動し、お前は笑って受け入れた。それはいい」
老人「ありったけの自制心を以て悲鳴一つすらあげず、お前は喰われる。それもまた本望と言えるかも知れない」
老人「――だが、だがな。本当に悲劇は、喜劇はここから始まるんだよ」
老人「そうしたら――『残れたヤツはどう思う』か、考えた事はあるのか?」
老人「衝動的にお前を喰っちまった後、ふと腹が満腹になって正気に戻った時」
老人「どんな思いになるかなんて、想像するのは難しくもない」
上条「……」
老人「……お前、そんな思いをしてまで生きていたいか?」
上条「――他に、方法がある筈だっ!」
老人「あるよ。そりゃあるに決まっているさ」
532:以下、
老人「考えても見ろ。常に大量の食料を必要とするなんて”非効率的”極まりない。そこまでして死人を使うメリットはないだろう」
老人「ゾンビ映画じゃあるまいし、今の時代、人一人居なくなれば大騒ぎだし、かといって墓から持ち出そうにも灰じゃハラも膨れない」
老人「だが死霊術士は死人を遣う。今も昔も変わらず――と、言う事は、何らかの方法で食欲を抑えているのは間違いない」
老人「最高峰の死霊術士辺りであれば、まぁ何とか出来るんだろうな」
上条「だったら!」
老人「だが死霊魔術師はここには居ない。そして時間も足りない」
上条「――っ!」
老人「屍体を与えて時間を稼ぐが?それとも奇跡が起きて死霊術士と道でバッタリ出くわすのかね?」
老人「そして”たまたま”出会った魔術師が初対面であるお前に一目惚れをし、無償で術式を施してくれると?」
老人「第一死霊術士というのは『死者』が引き起こすデメリットを一笑に付し、人格破綻者であるヨーゼフ達のような魔術師連中の中でも、特段に狂ったヤツがだ」
老人「善意と良心に従って、たまたま出会っただけのお前を助けてくれると?あぁ?」
上条「……」
老人「理解はしよう、共感もしよう」
老人「――だが賛同は出来ない。そんな奇跡を何回乗算したのかも分からない、そんな可能性に賭けられない」
上条「――それでもだ……ッ」
老人「……」
533:以下、
上条「あの子が生きてて、悩んで、笑って、蹴られて、バカやって」
上条「他人の痛みを分かるって、身内を――妹さんを守りたいっていうんだったらそれはもうヒトと変わりはないだ!」
上条「『こいつは害になるかも知れないから始末する』って最初から決めてかかってる方こそ、人だって胸を張れるか!?」
上条「……張れるものか、そんなモンが……ッ!!!」
老人「『――何が神だ。神が正しいのであればお前を守ってくれただろうに』」
上条「……何、を」
老人「『何故、私の供物を拒んだんだ。初穂じゃなかったからか?』」
老人「『主が供物を喜んでくれればこんなことにはならなかった。私のせいではない』」
老人「『アベルを殺したのは他でも無い神自身だ』――創世記第四章」
上条「何を、言ってん」
老人「お前が正しいのであればお前は俺を膝をつかせるだろう。だが、現実はどうだ?」
老人「たかだかジジイ一人すら満足に倒せず、お前は這いつくばっている。違うか?」
上条「……」
老人「我が侭を通したいのであれば強くあれ。そうでなければそのまま寝ていろ」
老人「お前に変わって俺達が、このクソッタレな世界をどうにかしてやる」
上条「……今から本気出す所だったんだよ、今からな!」
老人「ならば、来い」
上条「――あぁ……ッ!」
534:以下、
――???
ヨーゼフ「……鎌は」
男「根元からポッキリ折れとぉ――が、直せる」
男「人も物も同じちや。誰がばために居れば何度だって立ち上がれるちや」
ヨーゼフ「……」
男「幸い、これはあしが一族に伝わっとぉジツシキによぉ似とぅぜ。数日もあれば元通り――いや、前よりも強ぉ鋼になるちや」
ヨーゼフ「Toeeha、ありがとう」
男「言うき!あしはあしがしたいようやってるき、礼を言われる程のモンはしてないちや!」
ヨーゼフ「しかし術式――ジツシキが同じなのは珍しいな。君達にはイギリスの血が流れているのかい?」
男「よぉ知らんちや。何代か前に天――か――流れ――」
ヨーゼフ「そうか。この鎌は――『セント・オールバンズ(StAlbans)』 ――」
男「したら、いつか――」
ヨーゼフ「――返――」
マタイ「『――The person's sleep woke up gradually. 』」
(――彼の人の眠りは、徐(しず)かに覚めて行った)
マタイ「『It was conscious that eyes opened in stagnation though it was first of all chilly in addition in a black night. 』」
(まず黒い夜の中に、更に冷え冷えするものの、澱みの中で目の開いて来るのを覚えたのである)
マタイ「『……drizzle, drizzle, drizzle, ……』」
(……した、した、した……)
マタイ「『It is a sound that comes to the ear to go along to which water drips. 』」
(耳に伝うように来るのは、水の垂れる音か)
マタイ「『However, the eyelid and the eyelid naturally part in the frozen dark――. 』」
(ただ凍りつくような暗闇の中で、自ずとまぶたとまぶたとが離れて来る――)
パキイイイィィィィンッ……
535:以下、
――路地裏 深夜
マタイ「……」
マタイ「――また、また随分と懐かしい夢を見たものだ」
マタイ「そう言えば”彼”も上条であったな。日本には良くある名前やもしれぬ、な」
マタイ「……彼女らの気配すら残されていない、逃げられたか……どこからが夢で、どこからが現実だったのか……?」
マタイ「……」
マタイ「しかし……魔神の力を行使出来る人間など、それ即ち魔神と何が違う?」
マタイ「直ぐさま討伐命令が出されてもおかしくないのだが……これは佳く言って聞かせねばならんな」
マタイ「……場合によっては第四次世界大戦にもなりかねん……ふむ、またお説教しなくてはならない理由が増えた、か」
マタイ「……」
マタイ「……『賭け』は、果たして――」
536:以下、
――路地裏 深夜
上条「――がっ、は……っ。つー……痛ぇ」 ガクッ
老人「……いい加減にしておけ。ヨーゼフからは『殺すな』と言われているが、俺が命令を守るとは限らんぞ」
上条「だか――」
老人「――っ」 バスッ!!!
上条「――!?」
上条(サッカーボールのように、俺はご機嫌――じゃない――な反動を付けて、強かに壁へと打ち付けられる、と)
上条(動きが止った俺に、何度も何度も何度も何度も何度も執拗な蹴りが跳んでく――このっ!)
老人「だから、無駄だと」 ガッ
上条「くぁっ!?」
上条(蹴り足を掴もうと伸ばした両手を踏みつけられ、膝がこめかみにめり込……)
上条「……」
老人「寝ていろ。そうすれば全て終らせ――」
上条「させな――あぐがっ!?」 ボスッ
上条(……オチたフリも目の前のじーちゃんには効かない……なんだろうな、これ?詰んでるような?)
上条「――かっは、げほっ、げふげふげふげふげふっ!」
老人「埒が明かないな……そろそろ、本気で落とすぞ」
上条「……って、待て――」
上条「……寝てる、場合、じゃ――」
老人「これが現実だ、諦めろ」 グッ
上条「……」 ギリギリギリギリッ
老人「……俺達は賭けをした」
上条(倒れたままの俺の首に両手が掛かり、意識が、遠く……)
老人「何も人の体にのみ人の魂が宿るとは限らん。だから」
老人「だからもし、あの『死者』が戻ってきて、お前を助けようとでも足掻くのであれば」
上条(……柔道の技で、苦しい、と思う暇もなくオトされる……って聞い、た)
老人「だからこその賭けだ。自身が世話になってる人間を。少しでも人間らしい心があるのならば省みる筈だろうからな」
上条(……だ、め……このまま……オチ――)
老人「それが無いというのは……ただ、そこまでの存在だったと言う――」
上条「……」
着メロ(※携帯電話)『メールが届いたよっ当麻お兄ちゃん!どこの業者かなぁ?』
老人「……」 スッ
上条「……ゲッホゲホゲホゲホゲホゲホっ、……げふっ」
上条(な、なんだ……何でコイツ、オトさずに手ぇ放した、んだ……?)
537:以下、
老人「……出ろ」
上条「……は、い……?ゲホッ」
老人「家族からなのだろう?それもこんな深夜に」
上条「……いや、これは誰かが勝手に設定した着メロ、で……」
老人「大切な用件かも知れない。出ろ」
上条「……あ、はい。出ます――つーか、これ着メロ通知なのにメール言ってんな……?」
上条(メール、じゃなかった電話をかけてきたのは――)
上条(――初春、さん?)
上条「『……も、もしもし?』」
初春『あ、どうも上条さんお疲れ様ですー。すいませんね、こんな夜遅くにお時間宜しいですか?』
上条「『あ、うん、今ちょっと取り込み中だけど、まぁ助かったような、うん」
初春『えぇとですね、非常識だとは思ったんですが、早い内にお知らせした方がいいと思いまして』
上条「『早い内に……?何?何かあったっけ?』」
初春『え?』
上条「『え?』」
初春『頼まれたじゃないですかっ!?壊れた携帯電話のデータの中から、女の子を照会して欲しいって!』
上条「『あー……あったねぇ、そんな話』」
初春『なんですかっそのリアクションはっ!?少し前まで、ていうかご指定の時間になるまで待って、聞き込みしてきたのに!』
上条「『あっはい、ごめんなさ――』」
初春『それで、ですね。結論から言いますけど』
上条「『いやあのごめんな?折角調べて貰っといて何なんだけど、その子の話は』」
初春『シロ、でした』
上条「『――はい?』」
538:以下、
――路地裏 深夜
上条「『え!?なに!?どういう事!?』」
初春『いえ、どうもこうもないんですよ。あのー、防犯カメラとかには残ってなかったんですが、丁度その時間の店員さんが憶えてたらしく』
初春『あ、その方のローテが今の時間帯だったんで、直接お話を伺ってきたんです』
上条「『……お疲れ様です。ていうか無理言ってすいません……』」
初春『なんでも画像の女の子、「NARUT○完結してる訳!?全巻持ってこぉい!」と怒鳴った挙げ句』
初春『一時間以上コンビニで、しかも立ち読みで粘っていたんで忘れる訳がない、と』
上条「『……』」
初春『という訳で上条さんの疑いは解けたかと思います』
初春『が、その、画像データが少々不謹慎でしたので、後日出頭されて詳しいお話を――』
上条「『あっ、ごめんなっ!キャッチ入っちゃったから!詳しい話はまた今度に頼――』」
着メロ(※携帯電話)『おっ、またメールが届いたよー当麻お兄ちゃん!今度はどんな美人局に引っかかってるのかなぁ?』
上条「『――って本当に来やがったな!』」
初春『あ、話はまだ終ってな――』 ピッ
老人「……まだか?」
上条「待ってくれ!今度は別の妹が!」
老人「……そうか。家族は、大切だものな」
上条「ですよねー、家族ですからねー」 ピッ
上条(良かった……!マタイさん関係者だから、根本的な所ではモラルがあって良かった……!)
上条(どっかの誰かみたいに『ありがとよパパン(※パニッシャ○アーケード版)』とかされなくて!)
539:以下、
上条(てか待て待て。タイミング良く電話してきたけど、誰――え?シャットアウラ?)
上条(初春さんと違って、依頼なんてしてなかったよな……?)
上条「『――もし、もし?』」
シャットアウラ『夜分に済まんとは全く思っていないが、報告がある』
上条「『斬新な挨拶だな?突っ込むべき所が……まぁいい、それより報告って?俺何にも頼んでない、よな?』」
シャットアウラ『――何?』
上条「『頼んだ頼んだ!憶えているから!たしかアレをアレした件でお願いしてまし――』」
シャットアウラ『別に憶えてなくても構わんが、クロウ7の外傷の件だ』
上条「『もしかして――人の歯形じゃなかったのか!?』」
シャットアウラ『いや、人だな。というか歯形の照会が終った』
シャットアウラ『データベースだけでは何も該当しなかったが、「冥土帰し」へ訊ねてみたあっさりと教えてくれたよ』
上条「『え、カエル先生にか?って事はカエル先生の知り合いの歯形、なのか……?』」
シャットアウラ『それも違う、というかクロウ7の両手にあった噛み傷は――』
シャットアウラ『――本人の歯形と完全に一致したそうだ』
上条「『……はい?ってゴメン、意味が分からない。本人って誰だよ?』」
シャットアウラ『だからクロウ7本人のだよ。つまり自傷だ』
上条「『はぁああああああああっ!?何言ってんの!?』」
540:以下、
シャットアウラ『前に連絡した際に、人が防御行動をすると両腕に傷が多く残ると言う話を憶えてるいるか?』
上条「『あぁ、だから柴崎さんは”何か”に襲われたんじゃねぇかって』」
シャットアウラ『だが”冥土帰し”曰く、傷口もクロウ7の咬合痕と一致している上、可動範囲――つまり、歯の届く範囲にしか傷はない』
シャットアウラ『従って、第三者がわざわざクロウ7の歯形を採取した上で、それ相応の装置でも作らない限り、本人の自傷で決まりだそうだ』
上条「『……いやいやっ!』」
シャットアウラ『否定されても私にはどうする事も出来ん……と、いうのもだ』
シャットアウラ『そんな”夢みたいな話”は魔術サイドの専門だからな』
上条「『……』」
シャットアウラ『用件はそれだけだ。じゃあな』 プツッ
上条「……犯人じゃない……自分で……」
上条「魔術師……ネクロマンサー……『死者』――」
上条「――そして、『夢』」
老人「終わりか?ならば――」
上条「――そうか、そうか……ッ!!!」
541:以下、
老人「うん?」
上条「待ってくれ!ここで俺達が争ってる場合なんかじゃないんだ!早く!早くフレンダを見つけないと!」
老人「……あぁヨーゼフから聞いているよ。『敵の魔術師の攻撃』が、お前の得意なジョークなのだろ」
老人「しかし今は聞いている気分では――」
上条「『死人』は二人居たんだよ!」
老人「――何?」
上条「俺がずっと匿っていた女の子の他に!もう一人!」
上条「そいつが全ての真犯人で!事件の裏側で糸を引いてやがったんだ!」
老人「……それは誰――」
ガギィィィィィインッ……!!!
上条「――――――――――え」
542:以下、
上条(歩道へダンプが突っ込んで出来やがった――と、錯覚するぐらいの素早く、且つ一方的な蹂躙)
上条(線路上に放置されたダミー人形が吹っ飛ばされるような軽さで、たった今まで俺を殴っていたじーちゃんは、紙のように飛ばされた)
上条(数回、硬いコンリートの上でバウンドしながら、壁に激突して関節があらぬ方へと曲がる……『良くて重傷』、そんな縁起でもない言葉が頭に浮かんだ)
上条(……リアリティは、ない。そんなまともな要素は欠片も)
上条(テレビの特撮を見ているように、ヒーローや怪人がご機嫌にカマしてくれるように)
上条(重機を使わず、爆発物や兵器すら用いず)
上条(平然と常識離れの事を、個人のショルダータックルだけでやってのけた相手は――)
上条(――その、厳つい仮面とデカい図体にアニメ声のまま、いつもの調子を崩さず、こう言った……ッ!!!)
団長『ご無沙汰しておりまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーす!おっきゃっくっさっまーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!』
556:以下、
――路地裏
団長『元気ですかー?元気でしたかー?それはそれはよう御座いましたー。まっ、でも今から元気じゃなくなるんですけどねー』
団長『ま・ず・は!「右手」をへし折ってぇ、左手は再生出来ないように砕いてぇ』
団長『あ、両足は膝辺りでチョッキンしちゃいましょーねー。せめてお散歩ぐらいはさせて上げたいですしー』
上条(くねくねと恋する乙女のように、2m近い屈強なオッサンが身を震わせる光景は、それだけで充分怖い……いや、違う、な?)
上条(前に遭遇した時には、もう少し小綺麗な印象を――映画でよくある殺人鬼程度には――受けたんだが、なんか、こう歪だ)
上条(両肩が異常な撫で肩になっているし、右手の左手のバランスがおかしい)
上条(デッサンに失敗したラフ画のように、言い方を変えれば前衛芸術のように、右手だけが太く、長い)
上条(全体的にも痩せたのか?顔に付いている鉄仮面ぽい何かとコートのシルエットが同じじゃなければ見分けはつかない)
上条(……が、おかしな所――ツッコミ所は多々あれど、俺が真っ先に指摘したいのは、その”臭い”だ)
上条(生ゴミの臭いやカブトムシの臭いに近いのは近い。けどどこか甘ったるいような、胸焼けと吐き気を同時に催させるような)
上条(……そう、俺が何度か嗅いだ事のある。『冥界』の香り……!)
上条(アリサを迎えに行った奈落の底で、見渡す限り咲いていた冥府の華……!)
団長『でもでもぉ、時間が足りないしぃ、やっぱりここはぁお持ち帰りしたいなぁ』
上条「――お前が」
557:以下、
団長『なんですかぁ?はい?』
上条「お前が全ての元凶だったのかよ!?猫達が次々と居なくなったのも!フレンダを甦らせたのも!柴崎さんに術式をかけたのも!」
上条「全部はフレンダを犯人に仕立て上げるためにやったのか!?そんな、そんな馬鹿げた事をしやがった!?」
団長『んー……?お客様ぁ、当りっちゃ当りですけどぉ回答としては不正解ですねー』
上条「あぁ!?」
団長『物事には必ず原因がありますよぉ。それがどれだけ狂った要因で引き起こされたとしても、必ず”何か”が』
団長『フレンダちゃんを犯人役にしたのは、あくまでも手段であって目的じゃないですからねぇ?』
上条「……じゃあ、なんで!?」
団長『時間が無いんでぇ、あんまり説明してるヒマはないんですけどー――あ、そうだ!こうしましょう!』
ギリギリギリギリギリギリッ
上条「あ……――くっ…………!?」
上条(俺が避ける暇もなく、たった一本の右手で首、を絞め……っ!)
団長『あ、死にそうになったらタップして下さいね?まぁ、結局殺すんですけど』
上条「――か、っ、……くっ!!!」 ガリガリガリガリガリッ
上条(『右手』で殴っても、宙に吊られているまま蹴りを入れても、引っ掻いてすらびくともしない……!)
上条(体自体は人並みの柔らかさなんだが、中に鉄筋でも入ってるかのように硬っ!)
558:以下、
団長『んー、そうですねー。強いて言えば”優先順位”の問題でしょうかねー』
団長『私ってほら、魔術師サイドの人間でしょ?だから異能者相手にするのは比較的楽勝――なん、ですけど』
団長『お客様、お気づきでしたかー?あの「常世」の夜以降、マタイさんがつかず離れずガードしてたんですよー?』
上条(……マタイさん、が……あぁクソ!手が、緩まない!)
団長『他に「新たなる光」が、日替わりでウロついてましたしぃ、私がこうやってお客様にお別れの挨拶をするのは不可能だったでしょうねー』
団長『――なら、その護衛を切り離してしまえばいい』
上条「……っ!」
団長『そうですそうです!たまたまうってつけの”死者”が居たモンですからねぇ!彼女に全部罪を被って貰おうって、誘導したんですよぉ!』
団長『その結果、あなた方は本来手を結ばねばならない者同士が仲違いをし、お客様と会えちゃいました!やったねっ☆』
上条「――は」
団長『はい?もっと大きな声で言って下さーーーーい……あ、すいません言えないんでした――』
上条「猫はどうしたっつってんだよ!!!」 ガッ
上条(団長が俺の口元へ耳を近づけた一瞬、残った力を振り絞って画面へ蹴りを入れた!)
上条(……が、当然というか、意外性の欠片もなく、仮面一つ傷付けられなかった)
上条「……」
上条(……いや、違う、か?今の衝撃で野郎のコートが僅かに捲れ上がっ――)
上条「――!?」
559:以下、
団長『やだー、お客様のエッチスケッチワンタッチー!こんな時までラッキースケベ起こさなくってもいいじゃないですかー』
上条(俺は締め上げるのも忘れる程、空気が満足に肺へと入って来ない逆境を忘れる)
上条(ほんの一瞬だが、それほどまでに目にした”もの”が信じられなかった)
上条(暗い暗い路地裏の灯り、ほんの僅かにコートの下から覗いたのは――)
上条(――猫の顔、だった……!)
団長『私もねぇ、本体はシリンダーでしょ?ですから非力な初期状態だと、人体改造は無理なんですよぉ』
団長『それにここは科学の街ですしぃ。だったら人が失踪したら大騒ぎになるでしょうから、どうやってお客様へご奉仕する躰を作るか、迷っちゃいましてぇ』
団長『な・の・で!ここはやはりハイスペック且つ大量に落ちていた猫ちゃん達にご協力願いましたー!パチパチパチパチィ!』
団長『人一人の躰を造り上げるまでに結構虐殺しちゃいましたけど、まぁ仕方がないですよねぇ?』
上条「――のっ!」 ガッガッガッガッガッ!!!
団長『アッハハハハハハハハハハっ!お客様ステキいぃっ!その憤怒にまみれた顔はとてもいいですよぉ!』
団長『殺したくなくなっちゃうじゃないですかー!もっとゆっくり時間をかけて楽しみたい……ッ!』
上条(そういやコイツ、ネット上で猟奇殺人を手がけてる魔術結社なんだっけか……嫌な事思い出させてくれやがる)
団長『腕を千切って遊びましょうか?それとも足をもいで楽しみましょう
か?』
団長『我ら”殺し屋人形団(チャイルズ・プレイ)”の名にかけて!お客様にはとっておきの悪夢をご覧に入れましょうかっ!』
560:以下、
上条「クッソ!離せっ!離せっ!離せぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」 ガッガッガッガッガッ
上条(残ってる酸素がなくなるのも気にせず、激情に任せて全力で団長を蹴りつける!)
上条(蹴ってる足が躰へめり込む度に、コートの下から肉塊と化した猫の残骸が剥き出しになって背筋を振るわせる――が!)
上条(哀れや悲しいとか言う感情よりも!目の前にいる最低の屑に対価を支払わせてやる!)
上条(お前が!お前が弄んで傷付けた人や猫の分まで!俺が!)
団長『お客様は怒ってる場合じゃ無いんじゃないですかー?ほらほらー」ギリギリギリギリッ
上条「か――……はっ……!?」
団長『――受け入れろよ、「幻想殺し」』
団長『それは友人であり、隣人であり、そして家族でもある』
団長『どこにでもあり、有り触れた現象の一つでもある――そう、ほら』
団長『ここにも、”死”が――』 グググッ
上条(今までどんだけ手加減してたんだってぐらい、血液が止ま……じゃ、ない……)
上条(俺の……頸骨が、ミシミシ――)
上条(これ、窒息する、前に……死――)
???「何――」
上条(――意識、が、遠――――)
???「――やってる――」
上条(――ここは、くらくて、さむい……)
???「――訳よ!?」
ゴッ、ザパバシャアアァァァァァァァァァァッ!!!
561:以下、
団長『おやぁ?』 スッ
上条「――ゲホッ、ゲフゲケフゲフゲフゲフゲフッ!」 ドンッ
上条(乱暴に、そして脈絡もなく俺は何度目かの締め付けから解放された)
上条(肺へ、頭へ流れる血流が土砂降りの雨音に聞こえる――ような、錯覚に陥りながらも)
上条(さっきの複雑な音は、耳がおかしくなったんじゃなくって、どうやら闖入者がゴミバケツを蹴り上げたんだと、周囲に散乱した生ゴミに辟易しながら理解し)
上条(俺は”そいつ”を知っていた)
上条「お前――」
???「感謝する訳ー、つーかこの貸しはデカいから」
上条「――ヌレンダ!」
フレンダ(???)「フレンダよね?前も言ったけど、セイヴェルンさんでもいい訳だけどねっ!」
562:以下、
――路地裏
フレンダ「つーか何コレ?痴情のもつれかなんか?」
上条「違――逃げ、るん、だ……っ!」
フレンダ「たった今まで絞殺されそうになってるヤツが、格好付けるんじゃない、って訳よね」
上条「……そいつ、は――」
フレンダ「つーか、さぁ?――」
フレンダ「――『暗部』ナメんな」
上条(俺が見ていた――そう、俺が知っているフレンダじゃ、決して浮かべようとしなかった暗い暗い顔)
団長『これはこれは、また新しいお客様でっすかー?』
団長『遊んであげたいのは山々ですけどぉ、今ちょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっと、忙しいんでぇ』
フレンダ「あーはいはい。大物感出す努力は認めるって訳だけどさ、喋るヒマあんだったらかかって来なさいよ、ねぇ?」
団長『何……?』
フレンダ「てか能力依存度バリバリの相手にもこっちは勝ってきたって訳」
フレンダ「図体デカいだけの頭カラッポちゃん、肉弾戦で押すしかないタイプに負ける訳がないのよ、こっちは!」
上条(倒れた俺を庇うように――実際、庇っているのだろうか?――立つフレンダの顔は、もう見えない)
上条(きっと……最初の頃の一方通行やフィアンマみたいな、どこか能面じみた笑いの形になってる”だけ”の表情が浮かんでいるんだろう)
上条(――でも、それは違う!それじゃダメなんだ!)
上条(そんな『切り捨てた』やり方じゃ何も解決なんかしないんだ!)
563:以下、
フレンダ「てゆーか、ペラペラ喋ってるヒマある訳なの?んー?」
フレンダ「さっさと逃げるか、それともあたしに向かってくるか決める訳」
フレンダ「それとも、もうすぐ来る警備員にとっ捕まるー?ま、好きに選べ良い訳よ」
団長『暇、暇ですか?余裕はありませんけどねぇ――ですが』
フレンダ「何よ」
団長『ここら辺一帯の電場座標は”最高のタイミングのドッキリ”をする一瞬だけしか解放してないですから、ケータイ繋がらない筈ですよぉ?』
フレンダ「え」
団長『なんでしたら試してみてはどうですかぁ?ケータイ、お持ちなんでしょう?』
フレンダ「……ちっ、電波系能力者って訳か――」
フレンダ「――でも、こっちは学園都市最上位のビリビリとついこないだやり合ってる訳よ!」
フレンダ「あんたみたいなザコにやられるなんて有り得ない訳!――見なさい!このあたしの華麗な能力を……ッ!!!」 キリッ
上条「――っ!?」
団長『へぇ……?』
フレンダ「……」
上条「……」
フレンダ「……あ、能力使えないんだっけ」
上条「お前……もう帰れよ……」
フレンダ「何よっ!?もし力が使えるんだったら瞬殺してる訳だし!」
564:以下、
団長『……なんかドッと疲れたんですけどぉ。てゆうか無駄な時間遣ってぇ、私も怒っちゃったぞー!』
フレンダ「……2m近い鉄仮面被ったコートの不審者が、アニメ声オネエって……」
団長『そろそろ教皇サマが来そうですしぃ、かといってお客様以外を相手にする時間は勿体ないですしー。んー、どうしましょうかー?』
フレンダ「な、何よ!それ以上近づいたら走って逃げる訳!」
団長『ナルホドナー。確かに電波的に密室ですが、少し大きな通りへ行ったら人も居ますし、もしかしたら「正義のヒーロー」――』
団長『――と、までは言いませんが、それに近い性質のバカが居るかも知れませんねぇ』
フレンダ「ふっ!こっちはこのバカに大した恩も感じてないから、いつでも見捨てられるって寸法な訳よねっ!」
上条「……胸張って……言う……なっ!」
団長『――っていうのがハッタリなんですよねぇ?違いますぅ?』
フレンダ「……」
団長『そうやってお客様からあなたへの優先順位を引き上げさせて、わざわざ自分を囮にして助けようって事ですよねぇ?いやー、流石ですー』
団長『少ない情報でそれだけの機転を効かせ、しかも異能者が能力も満足に使えない状態』
団長『それだけのハンデを背負って来ているのに、お客様を庇って逃げようとする気配すら見せない。いやー、健気だなー」
上条「……フレンダ……俺は……いいからっ!」
フレンダ「……黙っとく訳。アレでしょ?これもあたし関係のトラブルなんで
しょ?」
団長『えぇ?知りたいですかぁ?』
上条「お前――余計な、事を――」
団長『あぁ分かってます分かってます。言ったら死んじゃうんですよね?聞いたら死んじゃうんですよねぇ?』
565:以下、
フレンダ「……何の話?あたしに隠し事してるのって」
上条「いや、別に大した――」
団長『そうですね。別に大した事じゃないから気にしなくって構わないと思いますよ』
団長『――あなたがもう、既に死んでるっていう”だけ”のお話ですから』
フレンダ「え――」
上条「聞くなっ!アイツの言ってるのは全部嘘――」
団長『憶えてないんですか?『暗部』同士の抗争で、あなたは仲間を裏切ってアジトの場所をお喋りしちゃってぇ』
団長『それで激おこ麦野沈利さんに、こう、生きたままお腹を裂かれたんですよね?』
団長『苦しかったですかぁ?それとも怖かったですかぁ?』
団長『あなたが殺されたあの日、思い出して下さいな!』
フレンダ「――――――――こふっ」
上条「フレンダっ!?フレンダっ!」
上条(糸の切れた人形のようにストンとフレンダは膝をついた)
566:以下、
フレンダ「あー……そっかぁ、あたし」
上条(抱き起こした俺の目に入ったものは、口の端から血を流し、両手でお腹の辺りを押さえているフレンダ……)
上条(丁度抑えている辺り、服には赤い染みが異常な度で広がっていく)
フレンダ「……ね、ぇ」
上条「喋るなっ!いいからっ!大丈夫だからっ!」
フレンダ「……これ、だった……訳?あんたが隠してのって……」
上条「待ってろ!今誰かっ!お前を助けてくれる人を!」
フレンダ「あ、ははー、こりゃちっとマズい……訳、か」
上条「喋らなくていいから!俺の知り合いは凄い人ばっかなんだよ!みんな、みんな『教皇級』とか言って!凄い魔術――能力者なんだ!だからっ!」
上条(傷口を――にじみ出る血を抑えながらも、フレンダの瞳の焦点は段々と
合わなくって)
フレンダ「……言わない訳、つーか言えない訳よね、これは……うん」
上条「全部きっと上手行くさ!誰も!誰もお前を死なせたくなんてないんだからな!」
フレンダ「……なんだかなー……最期の最期、で、男運が悪かったんだか、良かったんだか」
上条「妹さんにだって会えるんだよ!そりゃ……うん!今じゃ保護者が変わってるから、電話とかメールとか!そういう手段になっちまうけどさ!」
フレンダ「……あぁ、悪かったのはあたし……な、訳か」
上条「フレンダ……」
567:以下、
フレンダ「……戦うべき所で逃げて……逃げるべき所で、戦っ……」
上条「諦めるなっ!方法はあるんだから!誰もが認めてくれるような方法が!きっと!」
フレンダ「……ね、上条」
上条「な、なんだっ!?――」
上条「――あれ、お前初めて俺の名前呼ん――」
フレンダ「………………………………ありがと、って……訳――」
上条「な、何言ってんだよ?別にどうって事はしてねぇだろ、なぁ?」
フレンダ「……」
上条「俺は別に、いつだってそうだけどさ?俺がしたい事をしてるだけであって、助けたいと思う人に手を差し伸べるだけで」
フレンダ「……」
上条「だから、こう、アレだよ!お前が俺に感謝する事なんて!何一つ!だから!」
フレンダ「……」
上条「だから、あぁうん、だから、さ……?」
568:以下、
フレンダ「……」
上条「だから――」
フレンダ「……」
上条「――だから、目を」
フレンダ「……」
上条「目を、開けてくれ、よ……?なぁ?」
フレンダ「……」
上条「何だっていいよ!『死者』だろうが!お前がどんな存在だったって!」
フレンダ「……」
上条「俺を!俺みたいなヤツを助けに来てくれてんだから!そこいらの人よりかずっとずっと人らしいし!」
フレンダ「……」
上条「なぁ知ってるか?ローマ正教の偉い人達が、そこでぶっ倒れてるじーちゃんと、マタイさんって人が賭けをしたんだって」
フレンダ「……」
上条「その人達が言うには、お前が、お前がどんな存在であれ、人らしく誰かを助けようとするんだったら……」
フレンダ「……」
上条「……するん、だったら……」
569:以下、
団長『あっははははははははははははははははははははははははははははははははははははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!』
団長『そうそう!その表情!それが見たかったんですよ!』
団長『絶望に打ち震えろ上条当麻!お前を守る神などありはしないんだ!』
団長『これは罰だ!貴様らが神を殺し――』
上条「お前――お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ
ぇぇっ!!!」 ガッガッガッガッガッ
上条(『右手』……だけじゃなく、両手両足、いや体全体で思い付く限りの方法で殴りつける)
上条(渾身の一撃、そんなちゃちな言葉だけに留まらないような、殴りつける手の皮が破れ、骨がズキリと痛むのも気にかけずに)
上条「がぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
上条(獣のような叫びがデタラメに響くが……しかし、そのささやかな抵抗も終る時が来る)
上条「あ――がっ!?」
団長『時間がありませんから巻きで行きますよぉ。いやぁ、そこのお嬢さんに感謝して下さいねー』
上条(じーちゃんに団長、二人から散々痛めつけられた体は言う事を聞かない……体力がと殆ど残っていない)
上条(頼みの綱の『右手』もこの男には何故か効き目が薄い)
団長『て、いうか?、ヤる前に一つだけ聞きたいんですけどー、おっきゃっくっさっまぁ?』 ギリギリギリッ
団長『あなたは少し前に体の自由を取り戻していましたよねー?つーかこんだけ動けるんですから、まぁ当然でしょうが』
団長『だったらどうしてさっと逃げなかんったんですー?こんな”屍体”なんか放っておいて置けば――』
上条「……ない」
団長『はい?』
上条「そんな事が出来る訳がねぇだろクソッタレがっ!!!」
570:以下、
上条(逃げれば良かった――とは、思わない。決して。それだけは)
上条(『団長』自身が語ったように、この状況下で逃げられて助けを呼ばれ、最終的にはマタイさんに駆けつけられるのは最悪だろう)
上条(……だが、しかし。それをしてはいけない。それだけは絶対にだ)
上条「こいつは――フレンダは!俺のために――恐らく、俺を殺すという”たったそれだけ”のために甦らせられて、命を弄ばれたんだ!」
上条「そして役目が終り、舞台から一度降りたにも関わらず、また俺のために戻ってきた!俺なんかのために戻ってきてしまった!」
上条「そんなフレンダを――この場に置いて、ノコノコ逃げるような真似を!」
上条「……そんな下らねぇ事をやったら、俺は俺じゃなくな――ぐっ!?」 グッ
団長『はぁ、よく分からないですけどー、取り敢えず殺しておきますねぇ?……と、口上忘れてたや』
団長『――さぁさぁお別れのお時間となって参りました!お名残惜しいですが、どなた様もお忘れ物のなきように!』
団長『我らが”殺し屋人形団”の演目、楽しんで頂けましたらば今後ともどーっかごひいきに!』
上条「か――は……ッ!?」
団長『あ、お客様もご心配なさらず!あなた様のご遺体はご家族の元へ送って差し上げますよー!やー、アフターサービス満点だなー』
団長『勿論”死者”としてねっ!大切なお時間を生者の皆様とおくつろぎ下さいますようっていうかお楽しみ下さいなっ!』
団長『超笑える展開をこうご期待!上条当麻さんの戦いはまだまだこれか――』
……プツッ……
571:以下、
――???
フレンダ(あー……なんか、物理的にお腹なくなってた訳かー。道理で空きっぱなしな訳ーと)
上条「な、何言ってんだよ?別にどうって事はしてねぇだろ、なぁ?」
フレンダ(ていうか『死者』?死んでた訳?……そっかー)
上条「俺は別に――だけどさ?俺がしたい事――助けたいと思う人に手を差し伸べ――」
フレンダ(てかゾンビー的なあれな訳?……マジで?あんまお肉食べたいとか思わなかった訳だけど)
上条「だから、こう―!お前が俺に――」
フレンダ(絹旗辺りだったら嬉々として見そうなB級映画っぽい展開な訳。他人事かっ!つーか他人事かっ!)
上条「だから、あぁうん、だから、さ……?」
フレンダ(うん?)
上条「だから――」
フレンダ(だから何よ?)
上条「――だから、目を」
フレンダ(見えてるじゃない。今にも泣きそうなアンタがはっきりと見える訳よ)
上条「目を、開けてくれ、よ……?なぁ?」
フレンダ(あ、泣いた……つーか、男の人も泣くんだー?へー?)
上条「何だっていいよ!『死者』だろうが!お前がどんな存在だったって!」
フレンダ(つーかまだ生きてる。っていうかウッサい。脈を取れ脈を)
572:以下、
上条「俺を!俺みたいなヤツを助け――そこいらの人よりかずっとずっと人らしいし!」
フレンダ(んなわきゃ無い訳。こっちにだって打算があって、たまたま声が聞こえたから引き返してき訳だし)
上条「なぁ知って――正教の偉い人達が――賭けをしたんだって」
フレンダ(あんたを助けに戻ったんじゃない訳、鍵返しに来ただけだし。誤解すんな)
上条「その人達が言うには、お前が、お前がどんな存在であれ、人らしく誰かを助けようとするんだったら……」
フレンダ(……)
上条「……するん、だったら……」
フレンダ(……うん)
団長『だったらどうしてさっと逃げ――放って――』
フレンダ(なんつー言い方すんだこのオネエ。だからあたしはまだ生きてるし)
上条「……ない」
団長『はい?』
フレンダ(はい?)
上条「そんな事が出来る訳がねぇだろクソッタレがっ!!!」
フレンダ(いやでもあたしだったら逃げてる訳よ)
上条「こいつは――フレンダは!俺のために――恐らく、俺を殺すという”たったそれだけ”のために甦らせられて、命を弄ばれたんだ!」
フレンダ(だから勘違いすんなバーカ。誰もあんたのためなんか、に)
上条「そして役目が終り、舞台から一度降りたにも関わらず、また俺のために戻ってきた!俺なんかのために戻ってきてしまった!」
フレンダ(……)
上条「そんなフレンダを――この場に置いて、ノコノコ逃げるような真似を!」
フレンダ(……)
上条「……そんな下らねぇ事をやったら、俺は俺じゃなくな――ぐっ!?」 グッ
フレンダ(…………ほんと、バカなヤツ)
573:以下、
団長『はぁ――取り敢えず殺――』
フレンダ(……あぁ何か殺されそうになってる訳……つってもなぁ、武器も何も無いあたしじゃどーする事も出来ない訳)
フレンダ(能力……武器を引き寄せようにも、元々ストックしてある場所には、碌なモンが置いてないっぽいし)
フレンダ(手元にあるのは――あぁ手、殆ど動かない訳……あっと)
フレンダ(……鍵?返しに来たんだっけ?そういう設定だった訳か)
フレンダ(無駄になっちゃったけど、鍵……どこかに、武器……)
フレンダ(あたしの……能力が……万全なら)
フレンダ(どこかに、武器があれ……ば)
フレンダ(力が欲しい……訳)
フレンダ(大切なものを守――力――が)
フレンダ(欲し――)
フレンダ(……)
???『――ならば』
フレンダ(……はい?)
???『――手を伸ばせ、我が戦友の娘よ』
フレンダ(え、なに?どんな超展開!?)
574:以下、
???『――嘗て、ただ一人暴虐へ立ち向かった男が居た』
???『理不尽に泣く事すら許さない嬰児、怨嗟の声を押し殺す母親、飢える我が子を見捨てなければいけない老婆』
???『暴虐に打ちひしがれる同朋のために、ただ一振りの刃を持って騎士に立ち向かった愚かな男が居た』
???『男は民を率い、騎士達に戦いを挑むが――最期は無惨にも体を裂かれて命を落とした』
???『だが――それでは終らぬ。全ては始まりに過ぎない』
???『我は暴虐に抗する冷たい刃!力なき者へ与える正義の心!幾度でも戦さ場へ現れては我を呼ぶ声に応えん!』
???『我が名を呼べ!力なき者よ!我が友の娘よ!』
フレンダ(……その、死ぬ前の走馬燈の割にはスペクタルな内容な訳)
フレンダ(誰かと勘違いしてるんじゃ?ウチのパパはあんたみたいな変な知り合いは居ない、かな?多分)
フレンダ(てか呼べ、って言われても、ねぇ?困るって言うか)
???『汝は能力者に非ず。汝の力は異能に非ず』
???『自らが定めた檻を打ち破れ!我が戦友の娘よ!』
フレンダ(よく分からない訳だけど、能力、使えばいい訳、かな?)
カチリ
575:以下、
フレンダ(……はい?今なんか鍵穴に入った――)
???『力なき者はその力に憧れ”魔術”を造った……』
???『またある者は魔術を殺そうと”科学”に手を染めた……が、しかし』
???『汝が持つ力は原初にして人が持つ可能性、進化の過程で切り捨てた筈の力』
???『そう、人の言葉で言うのであれば――』
???『――――――――”原石”』
576:以下、
――路地裏
……プツッ……
上条(――という音が聞こえ、あぁついに俺の首が折れたのか――)
上条(魔術と科学との間を行ったり来たりしていて、最期はアニメ声のオッサンに絞殺される……魔術も能力も関係なかったな!)
上条(ていうかアックアん時も思ったんだが、個人用のブースト……身体能力強化に関しては、『右手』で触っても解除されないようだし)
上条(神裂と初めて殴り合った時のように、魔術で能力値を上げて物理で殴って来られたら……うん、まぁいいか)
上条(しっかし死んだにしては体が痛い。全身傷だらけで無事な所が無いって言うか。まぁいつもの事だが)
上条(この世界のセオリーじゃ魂はないって話で、死んだらそれっきり。龍脈に蓄積されるって聞いたけど)
上条(それにしてはあちこちが痛む。まるで生きてるよう――生きてる?)
上条「……?」
上条(俺の喉を掴む『団長』の右腕はまだここにある。というか掴んだままだし)
上条(が、その力は弱々しく、俺でも引きはがせ――) ペリッ
団長『――な』
上条(鉄仮面の下から、そしてコートの下から覗く猫――だったモノ――達の虚ろな瞳に写ったのは俺――)
上条(――では、なく。焦点が合っているのは後ろ、そう――)
577:以下、
上条(――俺の肩越しに、『団長』の右腕を切断してのけた――)
上条(――”彼女”の姿を!)
フレンダ「――ったくオチオチ死んでらんない訳よ」
団長『その――武器は』
フレンダ「あぁコレ?何か頭ん中でゴチャゴチャ喋ってたから、あたしの能力でお取り寄せしてみたんだけど――」
フレンダ「――女の子が持つには、ちょっとゴツい訳よね?」
上条(すぅ、と。軽く横に引いただけで『団長』の右腕が切り落とされる。その武器を、その凶器に!俺は一度ならず見覚えがあった!)
上条「『(Sacred Death(ジョン・ポールの断頭鎌)』……!」
団長『マタイの武器が何故ここにあるっ!?お前はただの能力者だろうに!』
フレンダ「さぁ?あたしに言われてもわっかんない訳――あ、ちょい退いて」 スッ
上条「お前――体はっ!?傷口は大丈夫なのかよっ!?」
フレンダ「言われてみれば!?……あ、いや、付いてるし?」
団長『フレンダ――フレンダ、セイヴェルン……!そうか、Saint. Albansの血族か……っ!』
578:以下、
団長『反逆者の末裔が学園都市で何をする!?』
フレンダ「オールバンズ?あたしが前に暮らしてた街だけど、それがどうしたって訳?」
団長『こんな所に”原石”が!しかもヴァルキュリエだなんて聞いていな
い!?』
フレンダ「いやあの、話振るだけ振っといてスルーって酷くない?……ま、いっか。何か知らないけど、このあたしが超パワーアップしたみたいだし!」
フレンダ「サクサクッと終らせるって訳よっ!――せいっ!」
団長『……!』
上条(気合い一閃!フレンダはその死神鎌を振りかぶって攻撃――)
フレンダ「ふんっ!ふんぬぅぅぅぅっ!」
上条(こ、攻撃……うん、攻撃をね、しようとね、してるんだけど……)
フレンダ「ていうか重っ!?この鎌重っ!?」
上条「今更かっ!?ていうか最初の一発はまぐれかよっ!?」
フレンダ「あたしに言わないでよ!?さっきのは上条が死んじゃうかも!って必死だった訳だし!」
フレンダ「ていうかこんなバランス悪くて重くて黒くてダサくて使いづらい武器なんか使える訳ないじゃないっ!」
上条「全否定すんな!鎌は中二病患った人達からすれば憧れの武器なんだからな!」
フレンダ「あ、ゴメ。てかやっぱあたし腰が抜けてるってぽい……」
上条「だからお前もう帰れよ、なっ?シリアスが苦手なんだったら、これ以上居ても意味ないからな?」
579:以下、
団長『――あのぉ?そろそろいいですかぁ?』
上条「……えっと」
団長『まー、そりゃそうですよねぇ。”聖人”だ”原石”だぁと言った所でぇ、最初は素人さんですしぃ』
団長『素人さんが覚醒したとしても、急に全ての力を振るえるなんて有り得ないですよぉ』
上条(『団長』は斬られた右手を拾い、傷口と傷口とをぐちゃりと合わせ、強引に二度三度押し込む)
上条(すると……たったそれだけの作業であっさり癒着したらしく、ゴキゴキと右手の指が動き始めた……!)
団長『立てないでしょ?それ魔術の反動ですよぉ。魔力を消費したって訳で、それ相応の疲労がやって来ますからぁ』
団長『イニシエーションも受けていない、ましてや魔術知識で精神防壁も築いていなければ、まぁそうなるでしょうねぇ』 ググッ
フレンダ「な、なによ?」
団長『でもでもぉ、その程度済んで良かったとは思いますよぉ?下手すれば発狂しますし――あ、能力者が魔術使ったらボン!するんでしたっけ?』
団長『それが無いって事はぁ……クロウリーの呪いが解けたんでしょうか?それとも――』
団長『――あなたが”異能だと思って使っていたモノは、最初から魔術だった”とかぁ?ま、いいですけどねぇ』
上条(右手の慣らし運転が済んだのか、その、コンクリさえ砕く凶器を俺達二人へ向ける)
上条(満足に体が動けない俺は、どうにか這いつくばってフレンダの所まで行き)
上条(背後に庇う……ような、格好をするので精一杯だ……!)
580:以下、
団長『”奇跡”はちょぉぉぉぉぉっと驚いちゃいましたけどぉ、まぁそれなりに面白かったですねぇ――お礼に』
団長『時間も押しているんでぇ、お二人ともさっさと仕留めちゃいますねぇ。遊んでいる暇はないみたいなんで、いやぁラッキーですねー?』
上条「……クソッ!」
団長『それじゃいっきっまっすっよぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!』
上条(軽いかけ声とは裏腹に、今度こそ全力の一撃を放とうとその腕が大きく引かれる)
上条(俺と戦ってたじーちゃんを吹き飛ばした一撃――)
上条(――不意打ちはいえ訓練を積んだ魔術師すら、一発で戦闘不能に追い込む攻撃が、俺達にどんな影響を与えるのか。考えたくもない)
上条(あー……どっか聞いたんだが、あんまり強すぎる攻撃を受けると吹っ飛ぶんじゃなくって、千切れるんだってな)
上条(最大級の対物狙撃銃、戦車装甲を撃ち抜く目的で作られた銃で人を撃つと、衝撃で人体が粉々になると)
上条(……実際、大口径のアサルトライフルで撃たれれば、銃弾が外へ抜けたとしても、衝撃で内蔵がグズグズに……)
上条(――いや、現実逃避してる場合じゃないだろ!ここで諦めてどうするんだ!?)
上条(折角フレンダが稼いでくれた時間を無駄にするつもりかっ!俺一人だったらとっくにやられてたってのに!)
上条(考えないと……何か、事態を打開するための方法がある筈だ!今までそうして来たように!)
581:以下、
上条(――とは、言ってもか。どうする?レッサー達やマタイさんが駆けつけてくるのを待つ?誰かが何とかしてくれるのを?)
上条(仮に助けが入ったとして、振りかぶった拳を引くような相手じゃないだろうし……)
上条(それとも『右手』か?俺が危なくなった時ギリギリになって、今まで知らなかった超パワーが発動するよ!やったねっ!)
上条(――と、希望的観測に縋るのは、なぁ?右手さん働き過ぎだしさ)
上条(何かの偶然が起きて助かる?俺が知らない何かの偶然が重なって、とか?)
上条(それこそ……ありもしない奇跡を信じて、ヒモ無しバンジーするような感じか。いや、必要があれば跳ぶのは跳ぶが)
上条(だからっつって最善の方法を探さずには居られない……つってもなぁ)
上条(まともに動くのは口ぐらい。でも説得に応じるような相手でもない。少なくともこの状況下で俺の言葉は届きそうにない)
上条(バードウェイや雲川先輩みたいに、充分以上に喋れるんだったら……まぁ今更だが――ん?)
582:以下、
上条(そういや……あの時、あの場所で、俺は、俺達は――そうだ!)
上条(あったじゃねぇか!今の今まで忘れてたけど!アレを使えば!)
上条(相手は『死者』だ!条件はきっと当て嵌まる筈――)
団長『おおおおおおおおおォォォォォォォォォォォォォォォォォォ――』
上条「――――――――――『約束』……ッ!!!」
団長『――くっ!?』 ピタッ
上条(ごうっ、と。俺の鼻先で豪腕は停まり、体が軽く押される程の風圧がやってくる)
上条(酷く獣臭いのに顔をしかめるが……それ以上、拳や蹴りなどの暴力はやって来なかった)
フレンダ「……あ、あれ?どった訳?なんで?どうして?」
上条「『――死者は約束を破られない。破らないのではなく、破”れ”ない』」
上条「『柔軟な思考力が失われているのか、そもそも考える事が出来ないのか』」
上条「『体が死んでるから、もしくは精神そのものが死んでいるのかは分からないが』」
フレンダ「え?」
団長『この、このオォォォォォォォォォォォォォォッ!!!』
上条「……助かったぜ、海原……!」
フレンダ「あ、あのー?どういう訳?」
583:以下、
上条「前に――一番最初ん時、こいつと俺、そしてもう一人でゲームをしたんだ。『負けた方が勝った方の言う事を何でも聞く』って罰ゲーム付きで」
上条「色々端折れば、まぁ俺達が勝ってこいつが負けた。んで、俺の相方はその時に願い事をして叶えられ、こいつは一度死んだ」
上条「そういや俺の方は保留になってたんだけど……人生、どうなるか分かったもんじゃねぇよなぁ、これは」
フレンダ「や、でもそんな約束なんかブッチしちゃえば良くない訳?あたしが言うのもなんなんだけどさ」
上条「それが出来ないんだ。『死者』の特性の一つとして、一度交わされた約束は絶対に」
上条「……とはいえ、こいつがそのパターンに当て嵌まるかどうかは分からなかったけどな。ダメ元で言ってみて良かった……!」
フレンダ「へー。でもオネエが止ってる理由にはならないような?」
上条「ぶっちゃけ俺も知らないが、多分あれじゃねぇかな?『約束を持ち出されたから、反故にするような行動を出来ない』ってトコじゃね?」
フレンダ「それじゃなんて命令する訳?下手に生き残ったらマズい訳だし……そうだ!」
フレンダ「シンプルなのは『自殺しろ』かな?それが一番後腐れが無くなくって良い訳よねー」
フレンダ「……あーでもあんたヘタレだから言わなさそうだなー」
上条「ヘタレ言うな。言わないけどさ」
フレンダ「だったら『誰も傷付けるの禁止』は?意図的に傷付けるのも禁止しちゃえば、ただのキモい声のオネエになる訳だし」
上条「それは悪くはないんだが……折角だし、頼みたい事があるんだ」
フレンダ「ふーん?」
584:以下、
上条「……なぁ『団長』」
団長『……なんですかぁ、お客様』
上条「そんなに身構えないでくれ。お前が俺や他の人を傷付けなくなれば、どうこうしようとは思わな――あぁいや、猫の分は償わせるけどな」
上条「それよりも今は、お前にどうしても頼みたい事があるんだよ」
団長『拒否権はありませんからねぇ。どうぞ何なりとお申し付け下さいな。ただし』
フレンダ「ただし?」
団長『”曲解して正反対の結果を呼び込む”ぐらいは、平気でしますけどね?』
フレンダ「よし、やっぱ殺す訳よ!」
上条「だから待てっつーのに。こいつと話してんのは俺だ――さて、じゃ一つお願いがある」
上条「この子を――フレンダを『死者』じゃなくする方法って、ないかな?」
フレンダ「――へ?」
585:以下、
――路地裏
フレンダ「あ、あたしっ!?」
上条「あぁお前だよ」
フレンダ「美脚ぷりちーなフレンダちゃんが!?」
上条「その人は知らない。で、どうかな?」
フレンダ「ちょ、ちょっと待つ訳よ!」
上条「はい?」
フレンダ「はい、じゃなくって!こいつに聞いても――」
上条「話を聞くに、お前を甦らせたのに一枚噛んでるみたいだしな。だから最適だと思ったんだよ」
フレンダ「そうじゃない訳!」
上条「……情けない話なんだがな。俺、学園都市からお前を連れ出しても、その後どうするかってのは殆ど白紙でさ?」
上条「どっかで腕のいい死霊術士――『死人』に詳しい魔術師を見つけて、何とか協力して貰わないといけないな、と」
上条「そう思ってたら、向こうの方から来てくれたみたいだし、まぁなんつーの?珍しくラッキー?的な?」
フレンダ「いや、あんた――そんな事聞いたら!こいつがまた襲い掛かってくる訳で!」
上条「まぁ、そうだな」
フレンダ「そうだな、って……」
586:以下、
上条「そん時はまぁどうにか時間を稼ぐさ。こいつマタイさんや俺の仲間に見つかるのを、超嫌がってた――つまり苦手にしてた訳で」
上条「逆に言えば、そんだけの時間さえ稼げれば後はどうにかな――」
フレンダ「違うっ!そうじゃない訳よっ!」
上条「……だから、何が?」
フレンダ「危ない訳!危険がピンチな訳よ!」
上条「お前の語彙力もそうだと思うが……まぁ、リスクはあるわな」
フレンダ「あたしっ!大体は思い出した訳だけど――あんた」
上条「上条当麻」
フレンダ「上条に、そこまでして貰う理由、なんて――」
上条「前にも言ったし、何度でも言う」
フレンダ「……?」
上条「俺はただ俺が出来る事をやってるだけ、それだけだよ」
上条「――だってお前は人間だから」
フレンダ「……っ!」
上条「と――」 クラッ
フレンダ「バカ……こんなにケガだらけになってまで、格好付けなくって良い訳よ……」
上条「って事で、いい加減目の前がクラックラしてっから、早めに教えてくれると有り難いんだけどな」
587:以下、
団長『……お客様が何を心配しているのかは存じませんけどぉ、そこのお嬢さんが”死者”のリスクを受ける事はないでしょうね』
団長『だって彼女、最初から”死者”じゃないですから』
上条「――――――はぁ!?お前何言ってんだ!?」
上条「だってほら!お前がフレンダに死んでるって告げたら!こう、お腹からどばっと血が!」
団長『そういう術式、幻覚で偽りの死を与えただけですよ。その証拠に傷跡も血痕も残ってないでしょう?』
フレンダ「あ、ホントだ」
上条「待て待て待て待てっ!だったら、『死』の臭いとか!魔力とかは!」
団長『私が誤解させるためにやっただけですね、きゃはっ!』
フレンダ「……ねぇ、やっぱコイツ殺す訳?」
上条「いや、それは保留に……だったら、あの異常な食欲の正体は?人をかゆうまする事の代替行為だったんじゃ……?」
団長『お客様はその答えをもう知ってる筈ですよ。だって身近に居るじゃないですか』
上条「身近……?誰?」
団長『アストラル体へ無理矢理エーテルをまとわせているだけであって、消費激しいんですよねぇ。これが』
団長『だから大量に食物を摂取する事で、体に変換しているんだとか』
上条「食事……大量……あ」
上条「アリサか!?――って事はフレンダも!」
588:以下、
団長『あれほど精巧なものではなく、場合によってはグールに堕落する可能性もあったでしょうが、今は――っと』 スッ
団長『お客様のお仲間がいらしたようで。今日はこのぐらいで切り上げるとしましょうか』
上条「話はまだ終ってないぞ!」
団長『終りましたよ。その子はもう”死者”ではないため、死霊術士として出来る事は無いんですから』
上条「そっか……そっか!」
団長『ではまた近い内に――次、お目にかかった時には、この制約も解除しておきますから、どうかお楽しみに☆』 ダタッ
上条「何度でも――あ、その前に『約束』、一つ使わせてもらうわ」
団長『やっぱ”死ね”ですかぁ?ま、いいんですけ――』
上条「『俺との喧嘩に俺以外を巻き込むな』――だな」
団長『……はい?』
フレンダ「ちょっ!?それヤバくない!?」
上条「正々堂々――は、しなくても良いが、少なくとも誰か、第三者を巻き込んでんじゃねぇ」
上条「俺に文句があるんだったら、直接来い。それだけだ」
団長『賜りましたぁ。では早ご期待にお応えしてぇ』
フレンダ「――許すと、思う訳?」
団長『……なーる。これは中々キツい誓約になりそうで悪趣味ですねぇ、お客様』
上条「次は正攻法で勝ってやるからな!」
団長『それではまだいつか。両手一杯の悪夢と共に遊びに参りますわぁ』
589:以下、
――路地裏
上条「……行った、かな?」
フレンダ「あんたも結局無茶する訳よ……心臓止まるかと」
上条「……信じたかったんだよ」
フレンダ「え?」
上条「俺がお前を信じたかったんだ」
フレンダ「でもっあたしっ!」
上条「……色々やったし、色々言った。俺達がこの道でぶっ倒れるまでにも、まぁ色々あったわな」
上条「……俺だって聖人君子じゃない。まして何でも片手間に颯爽と解決出来るような、完全無欠のヒーローとは程遠い」
上条「最初から最後までずっとお前を信じてた――なんて、嘘を吐いてまで綺麗事を言いたくもない」
フレンダ「……」
上条「――でも、結局。お前は俺を心配して戻って来てくれた」
フレンダ「違う訳!そんなんじゃ――」
上条「動機がどうだろうと、過程がどうなってやがろうと」
上条「……お前は、ここに、居る。それだけもう、充分だ」
フレンダ「……うん」
上条「……」
フレンダ「……」
590:以下、
上条「……綺麗な言葉」
フレンダ「はい?」
上条「今も、苦手、か……?」
フレンダ「んー、そうねー……うんっ」
上条「うん?」
フレンダ「嫌いに決まってるじゃない。そうそう人は変わらないって訳よねー、うんうん」
上条「……どんなオチだよ。変わってねぇじゃねぇか」
フレンダ「あー、でもねー、ちょっと思った訳だけど」
上条「ん」
フレンダ「嫌いなのは変わらない訳だけど――」
フレンダ「――信じてみたい、ってちょっとだけ。ホントちょっとだけどねっ!」
上条「……そか。まぁ、それもいい――と、あ、ごめん」
フレンダ「ちょ、どうした訳?」
上条「意識が……もう限界――」
フレンダ「……もう、しょうが無い訳」
591:以下、
上条(薄れていく意識の中で、俺が最後に見たものとは)
上条(暗い暗い路地裏の中、ほんの僅かな街灯の辺りの中ですら)
上条(闇に照るように、そして誇るように輝く)
上条(……彼女の髪の色だった、とさ)
上条(……?)
上条(……あれ?なんで俺の視界いっぱいに広がっ――) チュッ
上条(……まぁ、いいや……)
上条(……眠い……今は――)
592:以下、
――路地裏
団長『……』
団長(負けた、か。アルフレド無き世界で、アレを殺せばまたリスタートすると思ったのだが)
団長(もう閉じたのか、終ったのか、後はダラダラと終末を超えて続くだけの代物に成り果てるのか)
団長『……』
団長『それは――』
ドゥンッ……ッ!!!
団長(身体機能が20%低下、出力が落ちて――攻撃を受け――後ろか!) クルッ
少女達「……」
団長(女3、男1――丁度いい!)
団長(バレた以上学園都市から高飛びしなくてはならない。しかしこの猫だけの筐体じゃ出力も見栄えも悪い)
団長(四人も居れば、以前程度の力にまでリカバリが可能――!) ブゥンッ
少女A「あ、すいません。そういうの超いいですから」 パシッ
団長『んなっ!?』
少女A「超死んどけボケがっ!」 ガッ
団長『――んだっ!?私の力以上――』
593:以下、
少女B「あー、こらこら。あんまり加減を間違えないでよ」
団長『新手――ではないか。初撃を放った方か!』
少女A「でも!」
少女B「――あんまり激しくし過ぎると、楽しむ時間が減っちゃうでしょ?」
ドゥゥウンッ!!!
団長(か――なんだ!?”火伏せ”の術式も貫通するだと!?)
少女B「あなたはは誰に何されてんのか、分からないだろうけど。ぶっちゃけこれは八つ当たりよね」
団長『……何?』
少女B「ウチのメンバー――あぁ、さっきのギャアギャアうるさい金色のヤツは、元々ウチの一員なのよ」
団長『――なら、お前達が――』
少女C「……むぎの、右手」
少女B「あぁ?何よ?」
少女「右手が、本体。あとは全部だみーの脳が入ってる……」
少女B「……そっかぁ、良い事聞いたわぁ。ねぇ?」
団長『違う!お前じゃなくて、お前達が――』
男「――そうだ。その名前、地獄へ堕ちても忘れるんじゃねぇ……!」
男「そう、俺達が――」
少女C「――あいてむ、だ……ッ!!!」
男「ねぇ待って?何で言うの?何で滝壺さん言っちゃう訳?ねえってばさ!」
594:以下、
男「さっき決めたじゃんか?絹旗がこーやって、麦野があーやって、滝壺がぴしってやったら俺がキメ顔でキメ台詞言うって!言ったよね?予行演習もしたじゃんか?」
男「滝壺さん言っちゃうと俺の意味がなくなっちゃうから!俺の存在価値がなくなっちゃうからって言ったよねえぇっ!?」
男「だってそれぞれ見せ場があるのに俺はないもの!なんかこう、途中でキメ台詞に入ってきたあの人誰?みなたい空気になっちゃうから!」
男「俺がキョドってるのを麦野に即バレして時!DOGEZAして頼んだのに!どうして無かった事になってんの!?WHAT!?どうして!?」
少女A「疑問詞が超ズレていますが――麦野」
少女B「……あぁうん。なんか、ヤる気が削がれちゃったから、ヤる事だけヤっとくけど――ま、アレよね」
少女B「――地獄に堕ちろやクソムシ」
ズウウウウゥゥゥゥゥゥンッ………………!!!
595:以下、
――路地裏
絹旗「はい、超しゅーりょーですね。これからどうします?」
麦野「そうねー、どっか開いてるファミレス見つけて行く?」
滝壺 コクコク
浜面「ちょっ!?聞いてるんですかねっ滝壺さんっ!この借りは大きいよ!大きいんだったら大きいんだからねっ!」
絹旗「超意味不明ですね」
浜面「具体的に言うんだったらバニーさん3回!そのぐらいの負債はあると思うなっ!だって俺は心理的にトラウマを負ったモノ!」
麦野「トラウマってのは、元々心理的なものであってね」
浜面「じゃ、じゃあ二回!二回よりは減らないからねっ!俺のハートがブロークンした責任は取って貰わないと!」
浜面「ていうか――」
絹旗「……超どうしましょうか?浜面が超不愉快なんですけど、エ口目的超見え見えで」
麦野「構うだけ無駄よ、放置放置――と、あなたは一緒に来る?打ち上げ、みたいな感じでダベるんだけど」
???「私は遠慮しておくわ。すべき事は果たしたもの」
596:以下、
絹旗「なんて言うんでしょうか、超不思議な能力ですよね。滝壺さんともまた超違った……予知能力?」
???「……みんなには内緒ね?神託巫女が未来を変えるなんて知られたら、きっと怒られちゃうから」
麦野「……その歳に合ってねぇ媚び方も気にはなるんだけど……まぁ、いいわ。お疲れ様」
???「それじゃまた。何かあったら呼んで頂戴。私は死なない限り生きてると思うわ」
絹旗「超当たり前ですよ、それ」
???「そうね。それはきっと当たり前かしらね」
605:以下、
『エピローグ』
606:以下、
――いつもの病室
上条「――」
上条(いつもの超絶硬いベッド――つーかバスタブ――と違い、寝心地の良さに寝返りを打って、はたと気づく) チラッ
上条(適度にスプリングが効いた、それでいて同じ姿勢で数日過ごしても鬱血しない!床擦れを起こさないグッドな柔らかさ!)
上条(高齢化が進み、中々体を動かせないお年寄りにも優しい寝具だ……!あぁ、このぬくもりに一生包まれていたい……!)
マタイ「――起きた瞬間に現実逃避は止めたまえ。というか今、私と視線が合ったね?」
マタイ「事後処理の多さに頭を抱えたくなる気持ちには共感するが、後回しにしても誰が片付けてくれるものでもない」
上条「俺が現実逃避しようとしてる原因はあなたじゃないでしょーかねっ!そりゃ目ぇ覚ました3秒後に発見したら『あ、お迎え来たかな?』って思うわっ!」
マタイ「人を死神扱いはよして貰おうか。一応これでも教理省の番人とも呼ばれていたんだ」
上条「中世まで異端審問会開いてた人らに言われても!……ていうか、お迎え?マジでお迎えじゃないの?」
マタイ「我々が対立しているか、と言えばNOである」
マタイ「昨日――いや、明け方までの騒ぎは何一つとして影を落としてはおらん」
上条「……いやあの、そうじゃなくてですね。こう、お約束的なのっつったら分かりますかね?」
上条「俺がですね、目を覚ましたらですよ?掛けてあるシーツが重いんですよ、人一人乗ってる、みたいな?」
上条「『なんだコレ?』みたいに、俺がゆっくり目覚めると、そこには突っ伏して寝る女の子の姿が!みたいな!」
上条「『そっか……こいつ、朝になるまで俺の事看ててくれたのか……ありがとな』とか言って髪撫でる展開じゃないんでしょーかねっ!?」
上条「だっつーのに現実は!俺の嫌いな現実は!目ぇ開けたら死神の親戚っぽいじーちゃんが綺麗な姿勢でパイプイスに座ってんだもんよ!そりゃ逃げたくもなるわ!」
上条「『あれ、?どこでフラグ管理間違えたかな?』ってロード画面呼び出す所だったよ!危ないわー、もう少しでロードしてたわー」
マタイ「話の意味が殆ど理解出来ていないが、ここは現実だから戻って来たまえ」
607:以下、
上条「いや……聞くけど、他の連中は?実はもう既に粛正した後だとか言わないですよ、ね……?」
マタイ「返す返すも君は私を一体何だと思っているのかね?」
上条「ジジイになったアンデルセ○」
マタイ「試してみるか、若造?」 ググッ
上条「ジョークですから!冗談だからっそのっ拳は仕舞った方がいいと思うよっ!」
マタイ「……謝罪は受け入れよう。何故ならば君の憤りを招いた原因の一端は私もあるからだ」
上条「その心は?」
マタイ「つい今し方までレッサー君達を並べてお説教していたので、ここへ来る余裕はなくなってしまったのだよ」
マタイ「君を回収してからずっとだから……そうだな、大体5時間ぐらいかな?」
上条「何やったんだっ!?マタイさんをそこまで怒らせる程に何かやったんかっ!?」
マタイ「当人達から聞きたまえ。全員隣の病室で就寝しているがね。あぁそういえばレッサー君だけは違ったな」
上条「……いや、いないけど」
マタイ「『……オロシガネ、錆が浮いて切れ味が落ちたオロシガネを買いに行かないと……』等と、ぶつぶつ呟きながら外出してしまったが」
上条「オロシガネ?……卸し金?大根おろしでも作んのか?」
上条「あー、でも錆浮くぐらいにボロボロだったら、満足にすり下ろし出来なくて、大根がズタズタになっちまうんだけど……?」
マタイ「……業は深いものだな、マーリン卿」
上条「あぁっと、バカ話は置いておくとして……聞き辛いんだけど」
マタイ「私が部屋を出る時には、フレンダさんも一緒に眠っていたようだね」
上条「そっか、良かっ――た?」
マタイ「疑問形かね」
上条「事件が終ったのか、それともこれからまだ『ザ・処刑タイム!』的な展開になるのか分からねぇ、ない、からな」 スッ
608:以下、
マタイ「立ち上がらないで佳い。蛮勇は勇気の親戚ではあるが、双子程は似ておらん故に」
上条「助けて貰っておいて何だけど、てか非常にゴメンナサイしたいんだが、それはそれ、これはこれっていうか」
上条「同じく助けて貰った相手に義理もあれば恩もある。それを返す以前に情が移れば、なぁ?」
マタイ「佳い。それはとても佳い事だが」
上条「が?」
マタイ「『魔神セレーネの帰還』事件、及び『濁音協会の残党』騒ぎに関してはもう解決済み、と言っておこう」
上条「……あい?」
マタイ「午後の便で帰る事になったのでね。挨拶ぐらいは――」
上条「……いや、あのフレンダは?てっきり『連れて帰る』とか、『監視下に置く』とか、そういう非人道的な方向で進むもんかと」
マタイ「『死者』であればそうなのであろう――が、彼女は『死者』に非ず」
マタイ「ヴァルキリエは珍しい存在だが……まぁ、その一点を以て我々ローマ正教が動きはしない。少なくとも表向きは、だが」
上条「ヴァルキリエ……?昨日も『団長』が言ってたっけか?――というかだ」
上条「昨日のアレはなんだったんだよ?マタイさんの武器をフレンダが召び喚してみたり、何?愛の力?それとも友情パワーかなんか?」
上条「しかも『団長』の話じゃ、最初っから『死者』じゃないって言うしさ!アリサと同じだって言われても、そうはいですか、って納得出来ねーよ!」
マタイ「『はいそうですか』が、混乱して逆になっているが――そうだな。順を追って話をしよう」
609:以下、
マタイ「まず私の使っていた大鎌、『Sacred Death(ジョン・ボールの断頭鎌)』の謂われは憶えているかな?」
上条「昔の教会や政府に反発して、反乱起こした人だろ?最期は処刑されちまったけど」
マタイ「そうだ。あの鎌は当時のジョン=ボールが使っていた物――では、ない」
上条「ないんだっ!?……あぁいや、でもそうか。霊装って色々あるけど、オリジナルそのまま使ってる方が珍しいんだっけ?」
上条「『魔術的記号』を付加するために、伝説の神具と同じ名称にするとかなんとか」
マタイ「その理解で合っている――の、だが、あの鎌は少々特殊な由来の持ち主でもある」
上条「へー……ん?”持ち主”?」
マタイ「ボールの逸話上、あの鎌の特性は只の武器という訳ではない。それどころか武器かどうかすら怪しい」
上条「やだその前フリ超怖い」
マタイ「と、いうのもあの鎌は、ボールの死後、幾度も姿を現しては消えていく」
マタイ「第二次百年戦争では敵軍を狩る名も無き騎士の手に持たれ、ナポレオン戦争でも目撃されたと記録が残されている」
上条「それ、なんか都市伝説っぽいよな」
マタイ「然り。あの鎌は権力や共同体、組織といったものへ反逆する力なき者達の間を渡り歩いてきた」
マタイ「『理不尽な暴力に抗するための刃』、『断罪の鋼』、『敵味方皆殺し』と呼ばれた存在だ」
マタイ「非公式記録では1999年に日本の……藍仙、とかいう場所に”現し身”が顕現したとも」
上条「……そんな鎌をどうしてマタイさん持ってんの?ローマ正教の大幹部じゃん?」
マタイ「それはヒミツだ。長くなるし、若かりし頃の失敗は聞かれたくないものだよ――が」
マタイ「どうしても、と言うのであれば凍刃にでも聞きたまえ」
上条「うん?なんでじーちゃんの名前が……?」
610:以下、

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