提督「どうしてこうなってしまったのか」 泊地水鬼「……」back

提督「どうしてこうなってしまったのか」 泊地水鬼「……」


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1:
――執務室
提督「ズルい」
大和「……はい?」
提督「艦娘だけ釣りに出掛けるのは不平等だ!」
2:
大和「提督もご存知の通り、これは大本営からの任務ですので……」
提督「大和は俺の趣味を知っているだろ?」
大和「魚釣りですよね。ですがそれとこれとは……」
提督「沿岸部は深海棲艦のせいでどこも立ち入り禁止だ」
提督「だから俺は提督になって、本部には内密に釣り仲間を集めて趣味を楽しんでいたんだ」
大和「内密にって……えっ?」
3:
提督「だがしかし! なんだこの任務は!」
提督「外洋で秋刀魚漁だと!? ふざけるな! 俺に行かせろ!」
大和「いえ、その前に本部に黙って一般の人と魚釣りをするのは……」
提督「……大和」
大和「なんですか?」
提督「出撃、したくはないか?」
大和「――っ!?」
4:
提督「俺もお前達に同伴する」
提督「俺は秋刀魚釣りを楽しむ」
提督「大和は久しぶりに出撃できる」
提督「お互いwin-winでいこうじゃないか」
大和「ですが、そうなると船の手配ですとか――」
提督「――手配してある」
大和「……本部への言い訳ですとか」
提督「大丈夫だ。俺の釣り仲間を口実にする」
大和「一般の方も連れて行くつもりですか!?」
5:
提督「甘く見るな。俺の布教は艦娘にも及んでいる」
提督「彼女達なら快く協力してくれるだろう」
大和「……ですが」
提督「大和、秋刀魚は回避魚だ」
提督「神出鬼没でほとんど沖でしか釣る事ができない」
提督「拠点が必要になる。ならば船が必要だ。そうだろう?」
大和「いえ、出撃のついでに獲れるようなので」
提督「秋刀魚を舐めているのかっ!」
大和「――っ!」
6:
提督「大和よ。釣りとはそこまで甘くはない」
提督「素人だけでなんとかなるなど極々稀に過ぎないんだ」
大和「……でしたら、その提督の釣り仲間の艦娘を艦隊に組み込めばいいのでは?」
提督「……」
大和「……提督?」
提督「嫌だぁあああああああ! 俺も行きたいぃいいいいいいい!」
大和「ええ……わかりましたから駄々こねないでください!」
7:
提督「準備はできたかぁあああ! 野郎共おおおおおお!」
「「「「おぉー!」」」」
曙「はぁ……」
大和「……」じー
曙「何?」
大和「いえ、今日は随分重装備なんですね……」じー
曙「そう?」
提督「それじゃ行くぞおおおおおおおお! 抜錨だぁあああああああ!」
「「「「おー!」」」」
8:
――北方海域Aポイント
提督「それでは各自報告せよ」
飛鷹「モーレイ海に反応はなし。ハズレね」
龍驤「いちを北方棲姫の所にも偵察しといたけど、たぶん今回は持ってないで」
提督「なに!?」
龍驤「なんか妖精さんに向かって首を横に振っといてたわ」
提督「しかし、彼女が嘘をついてる可能性は……いや、でも幼女だしなぁ」
提督「北方棲姫の奥のマスは偵察できたか?」
龍驤「あのなぁ、それは流石に無茶な注文だと思わんか?」
提督「だよなぁ」
9:
漣「ご主人様!ご主人様!」
提督「どうした弟子2号!」
漣「サボ島で採れるってネットに書いてありました!」
提督「ええい、吹雪にでも行かせてろ!」
漣「ラジャー!」
瑞鶴「あのー、提督さん」
提督「どうした! 弟子6号!」
瑞鶴「アルフォンシーノ海域で複数の反応があったみたい」
提督「お前を連れてきて本当に良かった!」ダキッ
瑞鶴「ちょっ、そういうのは2人っきりの時に……」
10:
漣「ご主人様! ご主人様!」
提督「どうした! 弟子2号!」
漣「中部海域でも採れるってネットに書いてありました!」
提督「ええい! ゴーヤにでも出撃させろ!」
漣「ラジャー!」
大和「はぁ……」
11:
――アルフォンシーノ海域
大和「海域! 確保しました!」
提督「良くやった大和! だが余り派手なことはするな! 魚が逃げる!」
大和「……」
提督「サビキ仕掛けで8号? いや9号だ……」ブツブツ
提督「総員! これより秋刀魚漁を開始する! 奴らは群れで行動する! 心してかかれ! 作戦開始!」
12:
飛鷹「ふぅ……あら、どうしたの?」
大和「……いえ、魚が逃げるから航行するなと言われまして」
飛鷹「あー、あの人釣りキチだからね」
大和「そうなんですか」
飛鷹「まあ、みんなもこの船に乗り込んだし、気にしなくていいんじゃない?」
大和「そうなんですが、その……」
飛鷹「……?」
大和「出撃したらその、少しお腹が空きまして」
飛鷹「なら大和も食べてみる?」
大和「……はい?」
13:
漣「漣と!」
龍驤「まな板の!」
「「料理教室コーナー」」
龍驤「って誰の胸がまな板やねん!」
漣「あははは! さて、今回は秋刀魚の塩焼きでございます!」
龍驤「まずはエラに手を入れて、エラを除いて〜っと」
龍驤「ほらほら、ぐにょ〜んと内臓が……ちょっち文字にするとグロいな」
漣「メタファーな要素は禁止ですよ!」
14:
龍驤「おっと、せやった。背びれに近い穴に箸入れて洗って〜と」
漣「背中からお腹に向けて切り込みを入れて塩を振り〜」
龍驤「焼いた物がこっちやで!」
漣「ちょっ、それ漣の分!」
龍驤「まあ、まあ、後でウチの分けたるから我慢してな?」
漣「はーい!」
漣「と言うわけでどうぞ! 大和さん!」
大和「あっ、はい。ありがとうございます」
15:
大和「美味しい……」
龍驤「釣れたてほやほや、焼きたてほやほややからな!」
漣「その秋刀魚は漣が釣ったんですよ!」
大和「そうなんですか!? 漣さんはスゴイですね」ナデナデ
漣「えへへー」
龍驤「まぁ、姉には勝てへんみたいやけどな」
漣「今日のぼのは絶好調みたいだしね」
大和「そうなんですか?」
漣「そりゃもう。提督に迫る勢いで」
大和「曙ちゃんは釣りが上手いのですね」
飛鷹「まあ、今日の本番は彼女が寝てからなんだけどね」
漣「チート乙」
龍驤「瑞鶴のラックは計り知れんからなぁ」
16:
瑞鶴「うーん。ちょっと疲れてきたかも」
提督「よし、瑞鶴こっちに来い。膝枕してやろう」
曙「ちょっ!」
瑞鶴「いいの?」
提督「ああ、もちろんだ。さぁ、いつでも良いぞ!」
瑞鶴「それじゃお言葉に甘えようかな」
曙「ぐぬぬ」
17:
瑞鶴「……」スヤァ
提督「ふはは、きてる! きてるぞ! さあ、今のうちに差を詰めるがいい曙よ」
曙「この卑怯者!」
提督「なんとでも言うといい。今の俺には幸運の女神の力を溜めてるのだからな!」
曙「ぐぬぬぬぬぬ」
提督「幸運の女神が俺に囁いてるぞ! 秋刀魚大漁に釣るのですと!」
18:
曙「雪風、雪風がここにいれば」
提督「残念ながら曙と俺では雪風の好感度が違うのだ。曙の膝より、俺の膝を選ぶぞ」
曙「はっ、雪風が居なくても潮がいるからいいもん! クソ提督のバーカ!」
提督「ふふ、それでも瑞鶴付きの俺より下。それに潮は今遠征の最中」
提督「勝負は見えたな」
曙「この……今に見てなさいよ!」
提督「また勝たせてもらうぞ曙よ!」
19:
飛鷹「……この反応は敵? でも反応も小さいし、気のせいかな」
20:
――現在
提督「それから敵襲があって、船が攻撃されて……」
提督「釣りの道具はなんとか守れたが海に投げ出されて……」
泊地水鬼「これでいいのか?」
提督「ああ、後はこうやってだな」ビュッ
泊地水鬼「ふむ」ビュッ
提督「おお、スジがいいじゃないか!!」
泊地水鬼「なるほど、この後は魚が釣れるまで待てばいいんだな?」
提督「ああ……なんで泊地水鬼と釣りしてるのだろうか」ボソッ
21:
――数時間前
イ級【――っ】
泊地水鬼「人間……? 後で適当な街に届けか」
イ級【――っ】コク
泊地水鬼「それまで私が預かる。まだ余裕はあるか?」
浮遊要塞【――っ】コクコク
泊地水鬼「そうか。その人間を乗せろ」
イ級【――っ】イエッサ-
22:
提督「……ここは」
泊地水鬼「起きたか。人間よ」
提督「どわぁっ!?」
泊地水鬼「暴れるな。落ちたらどうする」
提督「な、なんだ。これは……浮遊要塞!?」
泊地水鬼「何故浮遊要塞だとわかる? もしかして……提督か?」
提督「そうだと言ったら……?」
泊地水鬼「殺す。アイツのせいで私はな。私はな!」
提督「ただの釣り人です」
泊地水鬼「釣り人?」
提督「魚釣りを愛するただの人間ですヨ」
23:
泊地水鬼「提督じゃないのか?」
提督「はい」
泊地水鬼「そうか。ならいい」
提督「……えっと、その提督って人は何かしたのですか?」
泊地水鬼「ああ、奴は極悪人だ」
泊地水鬼「私の泊地を襲撃して破壊した挙句、再建中の泊地まで攻撃してきた極悪人だ」
提督「(アカン)」
24:
泊地水鬼「私が根無し草なのも、こうして放浪してるのも全部アイツのせい」
提督「それは……お気の毒ですね」
泊地水鬼「おお、分かってくれるか」
泊地水鬼「お前はいい人間だ!」ダキッ
提督「(柔らか――冷たっ!)」
泊地水鬼「お前だけは必ず陸に届けてやる。私の名にかけて守ってやるぞ」
提督「あ、ありがとうございます」
泊地水鬼「ところで……」
提督「……?」
泊地水鬼「それはなんだ?」
25:
――現在
提督「(まさか浮遊要塞の上で泊地水鬼と秋刀魚釣りをする事になるとは……)」
提督「(事実は小説よりも奇なり、か)」
提督「(しかし、他の皆は大丈夫だろうか)」
提督「(帰ったら大和の大目玉をくらうんだろうなぁ)」
泊地水鬼「……何かくる」
提督「魚か?」
泊地水鬼「たぶん――っ」
提督「――おお! 30cmぐらいの秋刀魚だな」
泊地水鬼「大きいのか?」
提督「普通ぐらい。大物になると40cmを超えるぞ」
泊地水鬼「わりと簡単だな」
提督「人はそれをビギナーズラックという」
26:
泊地水鬼「むむむ……」
提督「釣りは一日にしてならず、運も多少いるがな。ほら、また釣れた」
泊地水鬼「ズルしてないか?」
提督「これが経験と知識と幸運の女神の差だよ」
泊地水鬼「……」
泊地水鬼【イ級】
イ級【――っ】
提督「うおっ!?」
泊地水鬼【他の深海棲艦と連携を取って秋刀魚を探せ。決して逃すな】
泊地水鬼【そして秋刀魚がいる場所の真上に顔を出せ】
イ級【――】コク
27:
提督「……」
イ級【〜〜】
泊地水鬼「そこにいるのだな。ならこの辺で待てば」
泊地水鬼「――ちょろいものだ」
泊地水鬼「人間よ。釣りもなかなか楽しいものだな」
提督「むむむ、レギュレーション違反と見るべきか……いやしかし」ブツブツ
泊地水鬼「〜〜」
28:
提督「そういえば今夜はどうするんだ?」
泊地水鬼「北方棲姫のところに行く予定だ」
提督「……」
泊地水鬼「安心しろ。あれは子供だが、深海棲艦は上の命令を守るように出来ている」
泊地水鬼「彼女を怒らせなければ問題ない」
提督「心配だなぁ」
泊地水鬼「――っ!」
提督「どうした?」
泊地水鬼「偵察機、艦娘のだ」
提督「――っ!」
29:
泊地水鬼「今浮遊要塞を堕とされるとマズイ。逃げるぞ」
提督「堕とされるとどうなるんだ?」
泊地水鬼「海に投げ出される。私は泳げないからな。」
提督「なるほど(浮遊要塞にそういう用途があったのか)」
30:
北方棲姫「カエレ!」ガルル
提督「……ビクッ!」
泊地水鬼「落ち着け。こいつは悪い人間じゃない」
北方棲姫「――悪い人間じゃない?」
北方棲姫「ゼ、ゼロと烈風置いてけ」
提督「て、提督でもないんだ」
北方棲姫「……? でもいつも襲ってくる提――」
提督「ぼくはわるいにんげんじゃないよ」
北方棲姫「……」
提督「……」
北方棲姫「カエレ!」
31:
泊地水鬼「どうしたものか」
提督「なんかすまない」
泊地水鬼「子供の機嫌は気まぐれなんだ。気にする必要はない」
提督「本当にすまない」
泊地水鬼「さて、追い返されたとなると艦娘と正面から衝突するわけだが……」
提督「……えっ?」
泊地水鬼「……お前だけなら逃すことはできる」
提督「お前はどうなる」
泊地水鬼「無理だな。私は保っても、この子が保たない」
浮遊要塞【……】
32:
泊地水鬼「海上で足を失ったらそこで終わりだ」
泊地水鬼「――どのみちお前は助かるから安心するといい」
提督「だが……」
提督「泊地水鬼、釣りは好きか?」
泊地水鬼「釣りか? 確かに楽しかった」
泊地水鬼「機会があればもう一度やるのもやぶさかではない」
提督「そうか。なら、俺が助けてやる」
泊地水鬼「……?」
33:
瑞鶴「艦載機より入電! 前方より浮遊要塞らしき深海棲艦を確認!」
瑞鶴「そして、提督と姫級の深海棲艦が一人!」
龍驤「もしかして北方棲姫なん?」
瑞鶴「いや、どうやら違うみたい」
龍驤「うーん。そうなると……」
大和「とにかく、提督は人質――というわけですか」
飛鷹「辺りに他の深海棲艦はいないみたいだけど、どうするの? 」
大和「……」
瑞鶴「ちょっと待って! 妖精さんが何か――っ!」
漣「どうしたの?」
瑞鶴「提督から――これより帰投する。周囲を警戒されたし、だって」
曙「……えっ?」
34:
提督「ただいま」
大和「言いたいことは山ほどあります」
大和「ですが、無事で安心しました」
泊地水鬼「……」
大和「それで、この後どうするつもりですか?」チラ
提督「彼女――泊地水鬼を鎮守府に招く」
大和「……は?」
泊地水鬼「……」
提督「助けてもらったし、その恩を返したい」
提督「それに彼女は話せばわかる深海棲艦だ。なにより――」
提督「釣り好きに悪い奴が居るはずがない」
35:
大和「聞いた通りの釣りキチですね」
提督「……」
大和「……どうなっても知りませんよ」
提督「よし、それじゃ行こうか」
泊地水鬼「待て」
提督「……」
泊地水鬼「お前は"提督"なのか?」
提督「……ああ、俺は"提督"だ」
泊地水鬼「そうか。なら私はお前を――」
36:
提督「泊地水鬼、俺と一緒に来てくれないか?」
泊地水鬼「私の泊地を潰したお前達とか?」
提督「ああ。代わりに俺の城(鎮守府)に来い」
提督「誰にもお前を渡さないし、絶対に不自由させない」
提督「お前が名をかけて守ろうとしたように、俺も俺の全霊をかけてお前を守ろう」
泊地水鬼「……」
37:
提督「俺が信用できないか?」
泊地水鬼「ああ、お前は一度私を裏切った。お前は信用できない人間だ」
大和「……」
泊地水鬼「……だが、そうだな」
泊地水鬼「私の泊地ができるまでなら考えてやらんでもない」
泊地水鬼「後、次また裏切ったら今度こそお前を殺す」
泊地水鬼「その条件ならついて行こう」
提督「了解した。いいな? 大和」
大和「わかりました。もう提督の好きにしてください」
瑞鶴「むむむ……」
38:
提督「泊地水鬼――はやっぱり長いな」
提督「はくちーが助けてくれなかったら俺は生きていなかったんだ」
提督「気持ちはわかるが抑えてくれ」
泊地水鬼「はくちー?」
提督「駄目か?」
泊地水鬼「好きに呼べばいい」
瑞鶴「――知らない! 提督のバーカ!」
39:
――後日
提督「さぁ、準備はできたかお前らぁあああああ!」
「「「「おおおおおおお!」」」」
泊地水鬼「なんだこれは……」
曙「本当、五月蝿くて適わないわ」
泊地水鬼「お前も行くのか?」
曙「当然。今日こそあのクソ提督にリベンジするんだから!」
提督「今日の目玉は鯵だ! お前ら行くぞぉおおおおおおお!」
「「「「おおおおおおおおお!」」」」
泊地水鬼【さて、行くぞ。出発しろ】
浮遊要塞【――っ!】
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