僧侶「勇者が純粋無垢で困る」【後編】back

僧侶「勇者が純粋無垢で困る」【後編】


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孤児「兄ちゃんは勇者様と旅に出たの、だから今はお留守番なんだ……」
土龍「そっか、偉いな」
土龍「(にしても結構いるんだな、よく一人で面倒見れたもんだ)」
土龍「(辺りの住民も協力的みたいだし、僧侶も色々と頑張ってたんだな……早く会いてえ)」
ーー頼む、此処から出してくれ!
ーー子供達は解放する!だから頼む!
孤児「出してあげないの?かわいそうだよ」
土龍「もう少しあのままにしとく、お仕置きみてえなもんだ」
378: 以下、
土龍「なあ、兄ちゃんに……僧侶に会いたいか?」
孤児「うん、会いたい。だけど心配かけちゃダメだから……」
孤児「兵隊の人達はすぐ怒るから怖いけど我慢出来る、ご飯も食べられるし大丈夫」ウン
孤児「きっと、兄ちゃんも遠くで頑張ってるから……」グスッ
土龍「…………」ビキッ
土龍「……皆、ちょっと目瞑っててくれ。ちょっと手品見せてやる」
孤児「手品?お姉ちゃん手品出来るの?」
土龍「まーな、だから少しだけ目を瞑っててくれ」
379: 以下、
孤児「はーい」スッ
土龍「彼の者の光を守護する為、略奪者に裁きを下す」
ゴゴゴッ…グシャ…バシュッ!
土龍「よーし、もういいぞ?」
孤児「あっ!岩なくなってる!!何処行ったの?」
土龍「悪い王様がいる所に返したんだ、今頃びっくりしてんだろうな」
380: 以下、
孤児「ねえねえ、もっと見せて!」
土龍「仕方ねえな、いいか?よーく見てろ」スッ
孤児「わっ、石が浮いてる!ねえねえ触ってもいい?」
土龍「ああいいぞ?皆で遊べ」
ーーすっげー!本当に浮いてる!
ーーあっ、石が逃げた!
土龍「子供達連れてさっさと行くつもりだったんだけどな」
ーーじゃあ誰が先に取れるか競争しよう?
ーーうんっ!さんせー!
土龍「これが僧侶の見てた景色……もう少しだけ此処にいるか」
384: 以下、
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北東の都
僧侶「流石に一つの建物じゃあ無理だったな」
警備兵「ああ、だがエルフ達のお陰で早めに終わった。彼等も疲れているはずのに……」
僧侶「勇者の言葉があったからだろうな、成長したもんだ」
警備兵「いきなり成長したものだから皆が驚いてたぞ?何だって急に……」
僧侶「勇者が自分で決めたことなんだ、まあいいじゃねえか」
警備兵「別に反対しているわけじゃないんだが対応に困る……」
警備兵「今まで通りに接していいのかどうか」
385: 以下、
僧侶「心は外見ほど成長してねえからなぁ、まあ今まで通りでいいんじゃねえか?」
警備兵「……二人はまだ話してるのか?」
僧侶「ああ、勇者も何とかしようとしてるんだ。もうオレが口出しすることもないかもな」
警備兵「何だ、寂しいのか?」
僧侶「そりゃあ少しはな、でもまあ……オレがしてやれることをするだけだ」
警備兵「へえ、お前も以前より素直になったじゃないか。それも勇者のお陰だな」ウン
386: 以下、
僧侶「何だその顔、にやにやしやがって気色悪い」
警備兵「……相変わらず口は悪いな」
僧侶「うるせえ」
警備兵「はぁ、まあいい……もう陽も落ちた、迎えに行ったらどうだ?」
警備兵「これもしてやれることの一つだと思うぞ?勇者もきっと喜ぶ」
僧侶「……ああ分かったよ、ちょっと行ってくる」
ザッザッザ…
警備兵「根は良い奴なんだがなぁ……」
387: 以下、
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勇者「じゃあ僕のことも憶えてる?」
炎龍「はい、勿論憶えています」
勇者「何で僕と僧侶のこと襲ったの?」
炎龍「器には必要ない要素があったので排除したかったのだと思います」
勇者「天使とか生き返らせたりする力のこと?」
炎龍「はい、器は器です。特別である必要などありませんでした」
388: 以下、
勇者「今は違うの?」
炎龍「僧侶様に救われてからは違います、どの龍も大小問わず変化していますから」
勇者「炎龍も変わった?」
炎龍「……はい、そう思います」
勇者「僕も変わった」
炎龍「それは姿がですか?」
勇者「ううん、そうじゃなくて僕の中が変わった」
勇者「嬉しい寂しい悲しい痛いとか色々……」
389: 以下、
炎龍「貴方に痛みはないのでは?」
勇者「僧侶が怪我したりすると痛くなる」
炎龍「……何となくですが、それは分かります」
勇者「なのに裁きをやめなかったの?僧侶は凄く苦しいと思う」
炎龍「っ、龍である限り、それを止めることは出来ません」
勇者「あの時、森で僧侶に助けられた炎龍は僕と同じ気持ちだった」
勇者「なんて言うか……優しい気持ちになれたんじゃないの?違うの?」
390: 以下、
炎龍「今までにない感覚だったのは確かです」
炎龍「ですが私にはそれが何なのか分かりません……」
勇者「炎龍は僧侶のこと好き?」
炎龍「そんなことはありません、私は水龍とは違います」
勇者「なら何で赤ん坊を殺さなかったの?」
炎龍「それは…」
勇者「少しでも僧侶の悲しい気持ちを減らしたかったんじゃないの?」
391: 以下、
炎龍「私はそんなこと
勇者「四龍と僧侶が一緒になったら僧侶はいなくなる。炎龍はそうしたい?」
炎龍「……もう止めてください」
勇者「悲しい顔してるよ、炎龍」
炎龍「もう止めて下さい!」
炎龍「悲しい?そんなことはありません!私は龍です!」
勇者「ならなんで怒るの?」
392: 以下、
炎龍「!!」
勇者「怒るのは、それが本当だから?」
炎龍「ッ!!先程から貴方は何を言いたいのですか!?私には分かりません!!」
炎龍「僧侶様を救いたいのなら私を殺せば良いでしょう!!」
勇者「死にたい人はそんなこと言わない、やせ我慢してるだけ。僧侶が言ってた」
炎龍「馬鹿にするなッ!!」グイッ
勇者「別に殴ってもいいけど、僕が訊きたいのは炎龍はどうしたいのか……それだけ」
393: 以下、
炎龍「私は……私は僧侶様を失いたくない」
炎龍「あの時の気持ちを、あの手の温もりを忘れたくないっ……」
勇者「じゃあそうすればいい、炎龍は炎龍なんだから」
勇者「僧侶は僕みたいに戦ったり出来ないけど人を変える力がある……と思う」
炎龍「変える力?」
勇者「うん、時々怒鳴ったり嫌われるようなこと言うけど色々考えてる」
394: 以下、
勇者「エルフに大切なことを伝える為に死にそうになったりした」
勇者「でも、だからこそ僧侶の言葉を聞くんだと思う」
勇者「炎龍も僧侶と話せばいい、分からないことがあれば聞けばいい」
炎龍「会話など必要ありません、繋がりは消えていないので……」
勇者「そういうこと言うから炎龍はダメ。知りたいなら聞かないと意味がない」
炎龍「……そう、なのですか?」
勇者「顔を見て、目を見て話すないとダメ」
勇者「そうしないと何が嘘か本当かなんて分からない」ウン
395: 以下、
炎龍「!!」
勇者「分かった?」
炎龍「……はい…今度、話してみます」
勇者「うん、それでいい。頑張って」
炎龍「あのっ、本当に良いのですか?私を
勇者「殺さないよ?」
勇者「四龍を殺して済む話しじゃねえって僧侶も言ってた。それに……」
炎龍「?」
勇者「僕が炎龍を殺したくない」
397: 以下、
ーー僕が炎龍を殺したくない
僧侶「(水龍、勇者は自ら選択出来ないと言ったが、どうやら間違いみてえだな)」
僧侶「(立ち聞きするのも悪いし、そこら辺で待ってるか……)」
ザッザッザ…
僧侶「……これから更に界が繋がればまた争いが起きる」
僧侶「人間が被害者になるか加害者になるかは種族によるだろうが……」
僧侶「戦になれば勇者に頼らざるを得ない、オレ含め人間そのものが勇者の足枷になるかもしれねえ」
398: 以下、
僧侶「あーあ、どうすっかなぁ」
炎龍「あの」
僧侶「ん?炎龍か、話しは終わったのか?つーか勇者は?」
炎龍「勇者なら先に行きました。僧侶様と話すなら今が良いそうです」
僧侶「いつの間にそんな気遣いを……まあいいや、話しって何だ?」
炎龍「貴方は私を憎んでいますか?」
399: 以下、
僧侶「いきなりだな……憎いかどうかなんて分かんねえよ」
炎龍「何故です?」
僧侶「そもそも龍は裁きを下す存在、さっきお前がやったことは龍にすれば当たり前」
僧侶「だから良いだろってことにはならねえし、確かに許されることでもない」
炎龍「ではやはり
僧侶「最後まで聞け、あれはオレが望んだことなんだろ?」
400: 以下、
炎龍「……はい」
僧侶「そうなるともっと面倒になる。裁きを下したのはお前、望んだのはオレだ……」
僧侶「そこに龍の存在理由なんてもんが加わったらオレには何も言えない」
僧侶「オレが殺せと指示した、そう言われたら否定出来ないしな」
炎龍「…………」
僧侶「良いか悪いかだったら悪いだろう、裁きなんてない方がいいに決まってる」
401: 以下、
僧侶「都の人間を殺し、大勢の人生を勝手に終わらせた。それだけは事実だ」
僧侶「終わらせたのがオレかお前かなんて話しじゃない。結果、そうなった」
僧侶「だから憎んでいるかと聞かれてもオレには答えられない」
炎龍「……罪の意識は、ありますか?」
僧侶「そりゃあるさ……」
僧侶「今頃エルフ達が世話してる赤ん坊の親、家族の命を奪ったんだからな」
僧侶「殺されたって文句は言えねえよ……」
402: 以下、
炎龍「それでも保っていられるのは何故です?逃げようとはしないのですか?」
僧侶「界を始まりに戻してさようなら、なんて風には考えられねえんだよ」
僧侶「こんだけのことをしちまったんだ、オレもいずれ裁かれるべきだ」
炎龍「……僧侶様、貴方は変な人ですね」
僧侶「はあ?」
炎龍「私か貴方か、そんなことは関係ないと言いながら自分で背負っています」
403: 以下、
炎龍「言っていることが滅茶苦茶です」
僧侶「……そんなもんだよ、人間なんてのは」
炎龍「話しは変わりますが
僧侶「急だな!!何がしてえんだよ……」
炎龍「土龍が人界に来ました、僧侶様の子供達と一緒にいるようです」
僧侶「で?何したんだ、土龍は」
炎龍「監視及び管理していた兵士を裁き、子供達を解放しました。彼女の意志です」
404: 以下、
僧侶「水龍とは全然違うな、出来れば礼を言いてえけど……今は何してんだ?」
炎龍「子供達の寝顔を眺めています」
炎龍「どうやら僧侶様が見ていたものを知りたいようです」
僧侶「へー、変わった龍もいるんだな……」
僧侶「いやー、でも何か嬉しいな!安心したよ」ウン
炎龍「……僧侶様、『私には』何か出来ることはありませんか?」
僧侶「お前、それが聞きたかったから土龍の話ししたのか?」
405: 以下、
炎龍「……ええ、まあ…はい」
僧侶「はぁー、随分回りくどい奴だなぁ、最初からそう聞けば良いだろ?」
炎龍「駄目でしたか?」
僧侶「ダメっつーか疲れねえか?そういうの?」
炎龍「うっ…私のことはいいです、早く答えて下さい!」
僧侶「はぁ……じゃあ界が繋がった場所とか塞ぐ方法とか分かるか?」
炎龍「繋がった場所は分かりますが塞ぐ方法はありません」
406: 以下、
僧侶「何故?開けられるなら塞げるだろ?」
炎龍「一度繋がった界は例え穴を閉じても繋がりは消えません」
炎龍「穴が閉じていても水龍が戻って来たのが良い例です」
僧侶「水龍!?あいつまだ生きてんの!?」
炎龍「伝わっていませんでしたか?」
僧侶「全く気付かなかった……まあ今はいいや、続けてくれ」
炎龍「言わば界同士が密着しているような状態なのです。至る所から穴が現れるのもそれが原因」
炎龍「完全に塞ぐのであれば切り離すしか方法はありません」
407: 以下、
僧侶「人界にくっついてる異界の切り離しか……」
僧侶「出来る奴はいるか?勇者はどうだ?」
炎龍「存在しません、勇者にも我々にも不可能です」
炎龍「しかしドワーフであればそれを可能に出来るかもしれません」
僧侶「ドワーフ?何だそれ?」
炎龍「鍛冶工芸にとても秀でた種族で、非常に強い力を持つ武器を造ることが出来ます」
僧侶「じゃあそのドワーフってのに頼めば……」
408: 以下、
炎龍「はい、可能性はあると思います」
僧侶「炎龍、ありがとな。今の情報だけでも十分だ」
炎龍「他には何かありませんか?私は貴方を失いたくありません……」
僧侶「何だよ急に……」
炎龍「あの時の僧侶様の手の温もり、今でもはっきりと憶えています」
炎龍「貴方の為なら命を捧げます」
僧侶「裁きはどうする?」
炎龍「裁きを防ぐ為です、貴方は裁きを望んでいないから……」
410: 以下、
僧侶「あのなぁ、お前を殺したとして他にも龍はいるんだぞ?」
僧侶「それこそ水龍みてえな奴もいるんだ、お前が死んでどうにかなるもんでもねえだろ」
炎龍「なら私はどうすれば
僧侶「ぐだぐだ言わずに生きろ!奪った命を忘れるな!もう少し力抜け!!」
僧侶「後はそうだな……難しい顔ばっかしてないで笑え」
炎龍「!!」
僧侶「あーあ、疲れたからもう行くぞ?お前も寝ろ、じゃあな」
ザッザッザ…
炎龍「勇者、好きかどうかは分かりませんでした……」
炎龍「でも私の大切が何なのか……それだけは分かりました」
411: 以下、
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小さな空き家
勇者「遅かったね」
僧侶「話しが長くなったんだ、つーか寝てても良かったんだぞ?」
勇者「他の女と夜更けまで?けしからん奴だな」
僧侶「警備兵が言ったのか、あの野郎……」
勇者「頭ごなしに怒ってはダメだ、理由を聞いて許してやることも必要だぞ?」
僧侶「……エルフだな」
勇者「僧侶さんはそんなことしませんよ、きっと大丈夫です」
412: 以下、
僧侶「エルフの娘さんか、良い子だな」ウン
勇者「みんなに話した」
僧侶「話すな」
勇者「……僧侶、今日はお疲れさま。もう休んだ方がいい」
僧侶「でもエルフ達は
勇者「赤ん坊のことは任せてくれって言ってた」
僧侶「そうか、何だか無理させちまったな……」
413: 以下、
勇者「明日からどうするの?」
僧侶「ドワーフっていう異界の種族を捜す、詳しいことは明日話そう」
勇者「分かった」
僧侶「……勇者、お疲れさま。ゆっくり休め」
勇者「うん、ありがとう……」
僧侶「なあ勇者」
勇者「なに?」
僧侶「種族も関係なく皆で暮らしていけると思うか?」
勇者「分からない、でもそうなったら嬉しいと思う」
僧侶「……ああ、そうだな」
418: 以下、
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勇者「僧侶、朝だよ」ユサユサ
僧侶「んー、ああ今起き……」
勇者「どうかしたの?」
僧侶「いや、まだその姿に慣れてねえから驚いただけだ」
勇者「………」ズイッ
僧侶「ん?何だ?」
419: 以下、
勇者「おはよう、僧侶」ニコッ
僧侶「うっ…やめろ。あんまりからかうな、ほら行くぞ」
勇者「顔赤いよ?」
僧侶「うるせえな、早くしねえと置いてくぞ」
勇者「へへっ、うん」
ザッザッ…
420: 以下、
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古風な屋敷
エルフ「……来たか」
警備兵「良く眠れたか?」
僧侶「ああ、エルフとあんた達が赤ん坊を引き受けてくれたからな」
僧侶「なんつーか助かったよ、ありがとう」
エルフ「珍しく素直じゃないか、表情も以前より穏やかだ」
警備兵「いい女性に巡り逢えて良かったじゃないか」ウン
421: 以下、
勇者「僕のこと?」
警備兵「ああ、勇者のような美女に好かれて嬉しくないわけがない」
勇者「僕は美女なの?」
エルフ「そうだな、エルフから見ても美しいと評判だ。私の娘には及ばないがな」
僧侶「……お前等随分仲良くなったな。つーかその顔止めろよ、腹立つな」
エルフ「何故腹を立てる?私は事実を言っただけだ」
僧侶「ああそうかい、ありがとよ」
422: 以下、
警備兵「もう少し自分の気持ち素直になれ、いつか後悔するぞ?」
僧侶「お前は完全にからからってるよな?」
僧侶「はぁ……まあいいや、お前等はこれからどうするんだ?」
エルフ「昨夜皆と話したんだが、我々はこの都に身を置くことにした」
エルフ「奪ったようで悪いが他に行く場所もない、しばらくは此処で赤ん坊の面倒を見ていく」
僧侶「……押し付けちまって悪いな」
423: 以下、
エルフ「気にするな、こう言っては何だが居場所が出来て安心している」
エルフ「堅固な外壁と見張り塔がある、簡単に侵入されることもないだろう」
僧侶「あんたはどうする?」
警備兵「オレも残ろうかと思ってる」
警備兵「何もかもエルフ達に任せて帰ることは出来ない」
警備兵「それにエルフが外で物資を手に入れるのは困難だろうからな……」
僧侶「……一度帰って家族に話したほうがいいんじゃねえか?」
424: 以下、
警備兵「まあ、もう少し落ち着いたらそうするつもりだよ」
警備兵「傷が癒えたとはいえ不安定な子もいる。ああいう子を守るのは大人の役目だ」
警備兵「俺達はそう決めたが、二人はこれからどうするんだ?」
僧侶「説明すると長くなるから要約するが、界を元に戻すのに必要な道具を造れる種族を捜す」
エルフ「それはもしやドワーフか?」
僧侶「知ってんのか?」
エルフ「ああ、中々気難しい種族で我々とはあまり友好的な間柄ではない」
425: 以下、
エルフ「人間に対しても恐らく変わらないだろう」
僧侶「結構苦労しそうだな、好戦的なのか?」
エルフ「いや、外見に反して思慮深く争いは好まないはずだが……」
エルフ「界が変わった今では何とも言えない、人間が仕掛ければ頑として戦うだろう」
僧侶「そりゃそうだよな……まあ後は炎龍と話して場所が分かるか訊いてみる」
僧侶「人界に来ているかもまだ分からねえからな」
警備兵「そのドワーフに会ってどうするんだ?彼等には何か特別な力が?」
426: 以下、
僧侶「炎龍によれば鍛冶工芸に秀でた種族らしくてな、強力な道具を造れるらしい」
僧侶「その道具で繋がってる界を切り離すのが目的だ」
警備兵「……何だかここまで話しが大きくなると流石に理解が追い付かないな」
僧侶「あるべき場所に戻すってだけさ、そんなに難しい話しじゃねえだろ?」
警備兵「そうは言うが……本当に大丈夫なのか?」
警備兵「そのドワーフとやらが頼みを聞いてくれるかどうかも分からないだろう?」
僧侶「何度でも頼むしかねえさ、ドワーフにだって故郷に帰りたい気持ちはあるはずだ」
427: 以下、
エルフ「……故郷か」
僧侶「どうした?」
エルフ「いや何でもない。それより僧侶、気を付けた方がいい」
僧侶「何をだ?」
エルフ「要求に応じたとしても、恐らく代償を払わなければ造ってはもらえないだろう」
僧侶「……憶えとくよ。うっし、それぞれ何をするか決まったな」
僧侶「勇者、オレは炎龍と話してくる。それまで頼む、また妙なのが現れるかもしれねえ」
勇者「うん、任せて」
ザッザッザ…
428: 以下、
警備兵「勇者、僧侶はどうだった?昨夜は塞ぎ込んだりしてなかったか?」
勇者「うん、大丈夫。僧侶はそういうのに負けないから」
警備兵「……ああ、そうだな。あいつはそういう奴だ」
エルフ「しかし僧侶が天使か……」
エルフ「あの口調からは想像出来ないが不思議と納得してしまうな」
エルフ「昨晩勇者に聞いた時は驚いたが……」
429: 以下、
警備兵「俺だって驚いたよ」
警備兵「だが確かに違和感だとかそういう類の気持ちはないな」
警備兵「エルフや俺達を含め全員を治療……蘇生までしてくれた」
警備兵「あの時の表情からするに過去の傷は癒えてはいない」
勇者「……ねえ、僕が僧侶を治すにはどうしたらいい?」
エルフ「勇者、過去の傷、心の傷とはそう簡単に癒えるものではない」
430: 以下、
エルフ「だが傍らにいて支えてやることは出来る。それはきっと勇者にしか出来ないだろう」
勇者「……支える」
警備兵「まだ少し分からないか?」
勇者「うん、あんまり分からない」
警備兵「だったら今まで僧侶が勇者にしたことをしてやればいい」
警備兵「それが支えるってことだ、お互いを大切に思えば自然とそうなる」
勇者「愛する妻とか結婚とかと同じ?」
警備兵「ははっ、似てるけどそれはまた違う。まあいずれ分かる」
431: 以下、
エルフ「だが勇者、僧侶に愛していると伝えたのだろう?」
勇者「うん、言った」
エルフ「ならその気持ちを忘れなければいい、僧侶にはきっと伝わってる」
勇者「本当?」
エルフ「ああ、僧侶は向けられた想いを無視するような男ではない」
エルフ「口には出さないだろうが、奴はそういう男だ……」
432: 以下、
勇者「……そっか…うん、分かった」
勇者「じゃあちょっと外に出て来る、何かあったら叫んで教えて欲しい」
警備兵「ああ、気を付けてな」
勇者「うん」
ザッザッザ…
エルフ「まるで子に教えているような気分だ。少し疲れるな」
警備兵「でも嫌ではない、か?」
エルフ「ふっ、そうだな……いつか娘からもこんな話しを聞かされるんだろうか」
433: 以下、
警備兵「十五歳か、多感な年頃だな」
警備兵「しかし自分から赤ん坊の世話を引き受けるとは……出来た娘さんじゃないか」
エルフ「……少しでも僧侶の力になりたいんだそうだ。助けられた時のことを何度も聞かされたよ」
警備兵「……複雑だな」
エルフ「私と妻と娘の恩人だ、勿論信頼しているが……娘のこととなると少々な…」
警備兵「まあ何だ……憧れや尊敬のようなものじゃないのか?」
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エルフ「憧れを王子様とは表現しないだろう」
警備兵「そ、そう怖い顔するなよ。まだ子供だろ?微笑ましくていいじゃないか」
エルフ「自分の息子を娘として考えてみろ、気が気でないぞ」
エルフ「父さん父さんと言っていた愛娘が奪われるんだ、どうだ?」
警備兵「……信頼云々は抜きにして腹立たしくなるな」
警備兵「まさかお前、だから勇者に色々教えてるのか?早くくっつかせる為に?」
エルフ「よせ、もう何も言うな。勇者を応援する気持ちは本物だ」
警備兵「娘ってのは大変だな……」
エルフ「ああ、生まれた瞬間から覚悟しておいた方がいいぞ?」
警備兵「まだ子供は欲しいんだ、やめてくれよ……」
438: 以下、
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見張り塔の上から
僧侶「へー、良い眺めだな」
炎龍「……良かった」
僧侶「ん?何がだ?」
炎龍「いえ、この場所にして良かったと思いまして」
僧侶「短い間に変わるもんだな」
炎龍「えっ?」
僧侶「お前だよ、昨日より表情が柔らかくなってるからさ」
439: 以下、
炎龍「そ、そうですか?」
僧侶「ああ、その方がいい。しかし良い風が吹くなぁ、天気もいいし……」
炎龍「僧侶様は
僧侶「今更だが僧侶でいい、何だか偉そうにしてるみたいで落ち着かねえ」
炎龍「命を救った相手に対して失礼です!!」
僧侶「何で怒鳴るんだよ、第一もう過ぎたことだろ?」
僧侶「妙に堅苦しいよな、お前」
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炎龍「過ぎたことですか、貴方の中では些細なことなんですね」
僧侶「そうは言ってねえだろ、何か変だぞ?どうしたんだ?」
炎龍「私にとっては大事な思い出なんです!そんな風には言わないで下さい」
僧侶「分かった……え、お前泣いてんのか?」
炎龍「龍が泣いたら変ですか?」
僧侶「そういうわけじゃねえけど大丈夫か?昨日と全然違うぞ?」
炎龍「……勇者が言うには、僧侶様には人を変える力があるそうです」
441: 以下、
僧侶「そんな力ねえよ、皆が勝手に考えて勝手に変わってくだけだ」
僧侶「自分は自分の力でしか変えられない」
炎龍「でも私は僧侶様に救われて変わりました、これは事実です」
僧侶「……お前は、それで良かったか?」
炎龍「はい、良かったと思います」
僧侶「そうか、ならいい……」
炎龍「私が……四龍が変わったことを気にしているのですか?」
442: 以下、
僧侶「心を読んだのか?」
炎龍「……申し訳ありません」
僧侶「別にいい、確かに気にしてるからな」
僧侶「お前みたいな龍もいれば水龍のような奴もいる、変化はそれぞれだ」
僧侶「そうしたのはオレなんだろ?そりゃあ気にするさ」
炎龍「………えー、ドワーフの件ですが」
僧侶「はぁ!?本当に急だな!!何なんだよ!?」
443: 以下、
炎龍「それは気にしなくて良いです、では話しを続けます」
僧侶「はぁ…じゃあ頼む」
炎龍「ドワーフはこの都より西にある山村にいるようです」
炎龍「本来なら山脈を越えねばなりませんが、私が背に乗せるので問題はありません」
僧侶「ん?貴族の館で水龍が突然姿を現したんだがお前には出来ないのか?」
炎龍「出来ますが人と共に転移したことはありません、試してみますか?」
444: 以下、
僧侶「いや、いい……山脈を楽に越えられるだけで十分だ」ウン
炎龍「出発は今日でよろしいですか?」
僧侶「そうだな、早い方がいい」
炎龍「それと一つ伝えたいことがあります、これを見て下さい」
僧侶「……その胸の傷痕、まさか勇者の?治ってなかったのか?」
炎龍「はい、これは勇者の力によるものです」
炎龍「勇者が振るう武器……」
炎龍「いえ、武器として使う物は全て必殺の威力を持ちます」
445: 以下、
僧侶「だから一撃でお前を仕留められた……」
炎龍「はい、木が刺さった程度で龍が死ぬことは絶対にありません」
炎龍「しかし勇者ならば話しは別です、自覚すれば小石ですら龍を殺せるでしょう」
僧侶「何だってそんな力を?」
炎龍「これまであのような存在が現れたことは一度たりともありません」
炎龍「今回は何もかもが違います、これまでと違った結果になるかもしれません」
446: 以下、
僧侶「なら勇者はその為に力を?」
炎龍「はい、神が何を考えて与えたのかは分かりませんが結末は変化するでしょう」
僧侶「……希望の子か」
炎龍「それと、そろそろ土龍が来ます」
僧侶「は?」
炎龍「先程伝わってきました。安心して下さい、子供達も連れてくるそうです」
僧侶「……これからはオレの心にも伝えてくれ、後は勝手に心読むな、頼むから……」
447: 以下、
炎龍「……はい、分かりました」
僧侶「で、土龍は大丈夫なのか?」
炎龍「土龍は既に裁きを下したので大丈夫かと思いますが」
僧侶「それは昨日聞いた。そうじゃなくて性格とか大丈夫なのか?」
炎龍「水龍の時のような事態にはならないと断言出来ます」
僧侶「……ならいいや、もう面倒くせえし。もう行こうぜ?皆に伝えねえと…」
448: 以下、
炎龍「あのっ!」
僧侶「ん?」
炎龍「僧侶様は勇者を愛していますか?」
僧侶「昨日今日で体が大きくなった女を愛するような馬鹿じゃねえよ、オレは」
炎龍「……なら私は、貴方にどう見えますか?」
僧侶「お前、オレのこと好きなのか?」
炎龍「そう受け取っても構いません」
449: 以下、
僧侶「はぁー、お前って意外と惚れっぽい奴なんだな?」
僧侶「そんなんじゃこれから先苦労するぞ?」
僧侶「つーか龍も恋愛に興味あるんだな、そんなに人と変わんねえのかも……」
炎龍「こ、答えて下さい!!」
僧侶「急に大きい声出すなよ……見た目は綺麗だし頼りになる奴だと思う」
僧侶「赤ん坊生かしたり色々考えてくれてんのもよく分かる」
僧侶「きっと優しい奴なんだよ、お前は……」
450: 以下、
炎龍「……………」
僧侶「何だよ、答えたんだから何か言えよ」
炎龍「照れているのですか?」
僧侶「うるせえ、オレは先に行くからな」
ザッザッザッ…
炎龍「勇者の言う通り、目を見て話すことは大事ですね」
ヒョゥゥゥ…
炎龍「ふふっ、先程までは変化を恐れていたのに……今はこんなに心地良い」
451: 以下、
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大通り
ズズンッ…
勇者「何だろう」
タタタッ…
土龍「よーし着いたぞ、もう大丈夫だ!」
孤児「兄ちゃんはここにいるの?」
土龍「ああ、もうすぐ兄ちゃんに会える。迷子にならねーように手繋いどけ」
孤児「はーい!」
孤児「あ、誰かいるよ?あの人に道きこう?」
452: 以下、
土龍「そうだ…な……!!」
孤児「姉ちゃん?どうしたの?」
土龍「ちょっと其処の店入っておもちゃでも見てろ、少し時間が掛かりそうだ」
孤児「うん、わかった!」
ザッザッザ…
土龍「…………」ザッ
勇者「……………」ザッ
453: 以下、
土龍「テメエが勇者だな」
勇者「そうだけど、あなたは誰?」
土龍「オレは四龍が一つ、土龍」
勇者「あの子達はなに?何で一緒にいるの?」
土龍「人質にされてた僧侶の子供達だ、オレが連れて来た」フフン
勇者「……ふーん」
454: 以下、
土龍「何だ?もしかして僧侶に聞いてねーのか?」
勇者「……聞いてない」
土龍「ふーん、あんまり信頼されてないんじゃねーの?」
勇者「そんなことない、僕と僧侶はずっと一緒にいる」
土龍「一緒にいるだけで信頼されてるなんてめでたい奴だな」
勇者「信頼してない人と一緒にはいれない、あなたは馬鹿?」
455: 以下、
土龍「ハッ、今まで世話になってばかりだったクセによく言うぜ」
勇者「あなたに僕と僧侶のこと言われる筋合いはない」
土龍「僕と僧侶?相手にもされてねーのにそんなこと言えんの?」
勇者「僧侶はちゃんと考えてくれてる」
土龍「こっちは炎龍通して繋がってんだ、僧侶の気持ち知りたいか?」
勇者「それ以上言われたら怒る自信がある」
456: 以下、
勇者「それより炎龍を通してじゃないと繋がれないんだね?」
土龍「……なんだと?」
勇者「僕はいつでも繋がってるけど」
土龍「ふんっ、僧侶はテメエのことなんか何とも思ってねーよ!!」
勇者「……怒った、今から殴る」
土龍「いいぜ?かかってきな」
勇者「あんまり、いい加減なことを、言うな!!!」
ドゴッ!
土龍「ってえな、テメエみてーなガキは相手にされてねえんだよ!!」ググッ
457: 以下、
バキッ!
勇者「何一つ自分で見てない奴が口出しすんなッ!!」
ドガッ!!
土龍「見てるだけで何もしてねーだろうが!!テメエは!!」
ズドンッ!!
勇者「分かったような口をきくな馬鹿野郎!!」
ズドンッ!ドガッ!バギッ!!ドゴォッ!!
土龍「ハァ、ハァ、これで少しはすっきりしたぜ」
勇者「……まだ足りないけど特別に許してやってもいい」
458: 以下、
土龍「ふーっ、子供達呼んでくるから案内してくれ」
勇者「うん、分かった」
ザッザッザ…
土龍「さて行くか」
勇者「こっち、僕に着いてきて」
孤児「ねえ、お姉さんは誰?」
勇者「僧侶の愛する妻……になる予定の勇者」
土龍「あ?」
勇者「予定を言っただけ、何の問題もない」
孤児「兄ちゃんのお嫁さんになるの!?キレイだねー!!」
勇者「うん、だって僕は美人だから」
459: 以下、
>>>>
小さな空き家
僧侶「……それで?」
勇者「我慢できなくて喧嘩しました」
土龍「怒られてんじゃねーか、バーカ」
僧侶「それはお前もだ!ふざけるな!!」
土龍「!!」ビクッ
僧侶「子供達の前で喧嘩して痣だらけで帰ってきて笑ってんじゃねえぞ馬鹿野郎!!」
460: 以下、
僧侶「勇者!強い奴が何の為に力を使うかって言ったばかりだろ!!」
勇者「……ごめんなさい」
僧侶「土龍、お前には子供達を助けてもらった。本当にありがとう」
僧侶「でもな、こんなことは二度としないでくれ」
土龍「……はい、分かりました」
僧侶「オレは炎龍とドワーフのいる山村に行ってくる。子供達を頼む」
ザッザッザ…
土龍「………」ズーン
勇者「……………」ズゥーン
461: 以下、
土龍「……僧侶って怖いな」
勇者「大切だからあんなに怒る、嫌いだったら何も言わない」」
土龍「ホントか?」
勇者「うん、だからもう喧嘩しない。ごめんなさい」
土龍「オレも悪かった、ごめんな」
勇者「別にいい、お互いの気持ちは分かったから」
462: 以下、
土龍「……オレ、僧侶のこと考えるとダメなんだ。変になっちまう」
勇者「何で?」
土龍「分かんねー、僧侶のことすっげー好きなんだと思う」
勇者「好きになったら大変だよ?」
土龍「だよなー、オレも一緒に行きたかった」
勇者「でも我慢、僕達は子供達と赤ん坊を守る」
土龍「そうだな!文句言っても始まらねーし」ウン
465: 以下、
>>>>
炎龍「良かったのですか?」
僧侶「ああ、二人共まだ子供だ。あれでいい」
炎龍「……僧侶様は誰かを愛することが怖
僧侶「皆には伝えて来た、もう行こう」
炎龍「……はい、分かりました」
僧侶「炎龍」
炎龍「何でしょうか?」
466: 以下、
僧侶「四龍を変えたのはオレだと言ったな」
炎龍「は、はい」
僧侶「恐らく変えたのがオレだから特別視してるだけだ」
僧侶「こんなに強く好意を抱かれるのはどう考えても不自然だ、お前も少しは疑え」
僧侶「その気持ちすら
バチンッ!
僧侶「…………」
炎龍「私達の想いを貴方が決めないで下さい!!これは私達の物です!!」
467: 以下、
僧侶「そこまで言うなら何も言わねえよ」
炎龍「……叩いてしまって申し訳ありませんでした」
僧侶「謝るな、お前が決めたことだ」
炎龍「ッ!!貴方は私達を信じてくれないのですか?」
僧侶「…………」
炎龍「無礼を承知で言いますが過去を怖れていては僧侶様は変われません」
炎龍「貴方の心は温かく優しいと……私はそう信じています」
炎龍「勇者の好意、私達の好意、エルフや警備兵の信頼からいつまで目を逸らすつもりなのですか?」
471: 以下、
僧侶「……怖いんだろ、多分」
炎龍「えっ?」
僧侶「お前はオレの中にいたから大体分かるだろう?心や過去の記憶とか色々な」
炎龍「……はい」
僧侶「死んだ兵士を蘇生させ再び戦場に送り込むのがオレの役目」
僧侶「戦を終わらせる戦、オレによって生と死を操作された奴等……」
僧侶「皆が皆良い奴ではなかったが仲間だと思ってくれる奴等も確かにいたんだ」
472: 以下、
僧侶「戦場ではそれが唯一の救いだった」
僧侶「奴等との他愛のない会話、好きな女や故郷の話しだ……」
僧侶「そいつらが運ばれてきて、オレは蘇生した」
僧侶「失いたくなかったからだろうな、だが結果としてそれが失う原因になっちまった」
僧侶「死んだ人間は決して生き返らない、捩曲げられた生は徐々に狂っていく」
僧侶「奴等は確かに生きていたが、もうあの時のように笑うことはなかった……」
僧侶「オレは気付くのが遅すぎた、あのまま逝かせてやればどれだけ良かったか……」
473: 以下、
僧侶「自分の行ったことが如何に残酷なのか本当の意味で理解した時、オレはそこから逃げ出した」
僧侶「どうやって逃げたのかどれだけ歩き続けたのか記憶にない」
僧侶「その後、辿り着いた町で子供達と出会って、それら今まで子供達と過ごしてきた……」
僧侶「救いたいと、そう思っていたのに……実際に救われたのはオレの方だったよ」
僧侶「なあ、炎龍」
炎龍「……はい、何でしょう…」
474: 以下、
僧侶「今オレの周りにいる奴等は二度と戻ってこないはずの存在だった」
僧侶「仲間や友人、戦友……」
僧侶「ましてオレを想う奴がいる未来なんてのは考えられなかった」
僧侶「そんなもんがいきなり現れたもんだから怖いのさ……」
僧侶「勇者、エルフ達、警備兵の奴等、それにお前等もだ……」
僧侶「いつの間にか、こんなに沢山出来ちまった」
475: 以下、
僧侶「嬉しくないわけじゃない」
僧侶「ただ笑うたびに思い出しちまうんだよ、昔の仲間と過ごした時を……」
炎龍「なら逃げますか?勇者や彼等から逃げますか?」
僧侶「……もう逃げねえよ、逃げたくねえ」
炎龍「ならしっかり見て下さい、貴方を想う人達を……」
僧侶「ああ、分かったよ……」
炎龍「どうです?私のこと好きになりました?」
僧侶「あのなぁ、人が真面目に……」
僧侶「まあいいや、そうしてくれた方がこっちも楽だ」
476: 以下、
炎龍「もっと褒めてもいいですよ?」
僧侶「はははっ、そうだな……うん、ありがとう」
炎龍「!!僧侶様……」
僧侶「ん?」
炎龍「そんな風に笑えたんですね、その方がいいですよ?それに……」
僧侶「何だよ……」
炎龍「勇者が貴方を慕う気持ち『好き』が分かったような気がします」
僧侶「お前も勇者と同じで変わったばっかだろうが、そんな簡単に分かるかよ」
炎龍「いいんです、誰が何と言おうと私の気持ちは私の物ですから」
477: 以下、
僧侶「……分かったよ」
僧侶「これからは気持ちにケチつけるようなことは言わねえ。悪かったな」
炎龍「分かってくれたのならいいんです、ありがとうございます」
僧侶「じゃあ、そろそろ行くか」
炎龍「待って下さい、勇者……と土龍について一つ」
僧侶「何だ?」
478: 以下、
炎龍「いつまでも子供扱いしていては駄目です。二人の気持ちは本物ですから……」
僧侶「んなことはオレだって分かってるよ」
僧侶「でもな、勇者のことは大切にしたいんだ。だからごちゃごちゃ考えちまう……」
僧侶「土龍もそうだ、あんな風に強く想われたことはねえし正直戸惑ってる……」
炎龍「なら良いです!」ニコッ
僧侶「は?何だよ、その顔は……」
炎龍「さあ、早く行きましょう」
僧侶「?ああ、そうだな。よろしく頼む」
479: 以下、
>>>>
小さな空き家
土龍「……今の聞いたか?」
勇者「聞かなくても分かってた。僧侶はちゃんと考えてくれてる」ウン
土龍「炎龍には悪いことさせちまったな、後で謝らねーと……」
勇者「でも嬉しい、僧侶はああいうこと言ってくれないから」
土龍「あんまり口に出さない男なんだろ、オレはその方がいい」
勇者「土龍は嬉しくないの?」
土龍「そりゃあ嬉しいに決まってんだろ?でも、今んとこ勇者に勝てる気はしねーな」
勇者「気持ちを比べる必要なんてない、大切に想ってくれてるならそれだけでいい」
土龍「……そっか、そうだよな…うん…」
480: 以下、
こういう会話が多いから進むのが遅いんだと思いますが、きちんと書きたいと思うのでどうかご理解下さい。
長くなってすいません。
483: 以下、
>>>>
バサッ…バサッ…
僧侶「……すげえな、生きてる内にこんな体験するなんて思わなかった」
炎龍「どうですか?」
僧侶「どうですかって……何て言ったらいいか分かんねえよ」
僧侶「つーか龍になっても話せんのか?」
炎龍「つい先程まで人間の体でしたから少々難しいですが何とか……」
484: 以下、
僧侶「龍って外見がこうだから話すのは想像出来なかったな」
炎龍「エルフもそうですが、我々も人間の言葉を覚えて話すことなど容易に出来ます」
僧侶「悪い、別に馬鹿にしたわけじゃないんだ……」
炎龍「分かっていますよ、冗談です」
僧侶「その姿だと冗談かどうかなんて分かんねえよ」
炎龍「それより今の気分は?貴方は初めて空を飛んだ人間になったんですよ?」
485: 以下、
僧侶「そう言われると不思議な気分だな、誰も考えたことねえだろうし」
炎龍「子供の頃に想像したりはしませんでしたか?」
僧侶「そりゃあ想像したけど実際には無理だって分かってたからな」
炎龍「……申し訳ありません僧侶様、そろそろ着きます。しっかり掴まって下さい」
僧侶「あ、ああ」
炎龍「何があるか分かりません、無理はしないで下さい」
僧侶「……分かってる」
486: 以下、
>>>>
西の山村
僧侶「……村って言うか砦じゃねえか」
炎龍「何があったのでしょう?」
僧侶「そればっかりは入って確かめるしかねえな」
ゴンゴンッ…
???「何者だ、名乗れ」
僧侶「僧侶だ、ドワーフに頼みがあって来た」
ギギィィィ…
???「神様から話しは聞いている、来い」
487: 以下、
僧侶「(これがドワーフ、背は小さいががっしりしてるな)」
僧侶「(ん?人間と一緒に生活してるのか?一体何が……)」
僧侶「あの、神様って何だ?」
ドワーフ「会えば分かる。それとお前」
炎龍「わ、私ですか?何でしょう?」
ドワーフ「お前は絶対に来るな、此処で待っていろ」
488: 以下、
炎龍「それは何故ですか?」
ドワーフ「質問は受け付けない、中に入れるだけ有難いと思え」
炎龍「しかし
僧侶「炎龍、少し待っててくれ。何かあれば伝わるんだろ?」
炎龍「……はい、ではお気を付けて」
僧侶「待たせてすまない、案内を頼む」
ドワーフ「こっちだ」
ザッザッザ…
489: 以下、
>>>>
西の山村 神様の部屋
僧侶「あんたが神様?」
???「如何にも、我が神である」
僧侶「(この女、人間か?)」
???「まあ座るが良い」
僧侶「じゃあお言葉に甘えて」ストン
???「頭が高い!!」
僧侶「は、はぁ…すいません」ペコッ
490: 以下、
???「ぷっ、あっはっは!!」
僧侶「な、何だよ?」
???「ごめんごめん、ちょっとふざけすぎた。君は中々面白いねぇ」
僧侶「……あんた、一体何者だ?」
???「ああそうだった、私は四龍が一つ、風龍だ。よろしくね」
僧侶「は?じゃあ何故炎龍は分からなかったんだ?」
491: 以下、
風龍「ちょっと待って……」
風龍「炎龍、今すぐ聞くのを止めろ。止めなければドワーフを協力させない」
僧侶「………分かりました、だとさ」
風龍「じゃあ話しをしよう、せっかく二人きりなのに邪魔者がいたら気分が悪い」
僧侶「(こいつも水龍寄りか?)」
風龍「さて、質問に答えようか」
風龍「炎龍に居場所を知られなかったのは私が力を捨てたからさ、龍は龍にしか嗅げない」
492: 以下、
僧侶「力を捨てた?」
風龍「捨てたっていうより移したんだよ、そこの箱に入ってる」
僧侶「普通の箱じゃねえよな、ドワーフに造らせたのか?でも何故?」
風龍「君のお陰で四龍は変わっちゃったし、君は裁きが嫌いみたいだからね」
風龍「人界へ来てオークってのを退治してから力を移したのさ」
僧侶「オーク?」
風龍「破壊行為のみを目的に生きてるような奴等だよ、その内穴が空けばまた来るだろうね」
493: 以下、
僧侶「だったら何故力を?」
風龍「君が裁きを望まないからだよ、界を裁くつもりはないんだろう?」
風龍「同じことを二度言わせないでくれるかなぁ?」ニコッ
僧侶「!!」ゾクッ
風龍「ああ、ごめんごめん。どうやら私も水龍と同じ質みたいでさ」
風龍「本当は君を独り占めにして滅茶苦茶にしたいんだけどねぇ……」
風龍「これでも必死に抑えてるんだ、感謝しなよ?」
494: 以下、
僧侶「……そりゃどうも、助かるよ」
風龍「うんうん、感謝の気持ちは大事だね。じゃあ話しを続けるよ?」
風龍「私が此処へ来る前から山村にはドワーフがいて人間を守る為にオークと戦っていた」
僧侶「人間を守る為?」
風龍「そう、どうやらこの界に来たばかりの時、村の人間に救われたようなんだよ」
風龍「ドワーフは義理堅い種族、恩に報いる為に必死に戦っていたのさ」
495: 以下、
風龍「で、その頃に私も人界へ来た」
風龍「それからすぐにドワーフがいることを知って此処に飛んで来たわけ」
僧侶「何故だ?」
風龍「そうだねえ……」
風龍「君ならこうするだろう、君ならこうしないだろう……それが分かるからだよ」
僧侶「じゃあ、オレがいずれドワーフを頼ると分かってたってのか?」
風龍「勿論、ずっとずっと……君のことばかり考えていたから」ニコッ
僧侶「(目が笑ってねえ、何考えてんのか知りたくねえな……)」
496: 以下、
風龍「で、オークからこの山村を守った私は神様なんて呼ばれるようになったわけだ」
僧侶「なるほど、じゃあ炎龍を呼ばなかった理由は?」
風龍「分かってないね君は……」
風龍「他の龍と君が仲良く一緒にいる所なんて絶対に見たくないんだよ」
風龍「嫉妬して何するか分かったもんじゃない……全く困ったもんだよ、あっはっは!!」
僧侶「……悪かったな」
風龍「君が謝ることなんてないよ?私は幸せなんだ、君の力になれることがね」
497: 以下、
僧侶「……すまない、誤解してた。あんたは水龍とは違う、歪んじゃいない」
風龍「そうかな?そう言ってくれると嬉しいよ」
風龍「正直言うともう少し安定した状態が良かったんだ……」
風龍「この衝動を抑えられるのは力を手放したからに過ぎない」
風龍「それでも何とか抑えられる程度、君と一緒にいられる炎龍と土龍が羨ましいよ」
僧侶「ちょっと待て、何故それを知ってる?力は手放したはずだろ?」
風龍「どうやって嗅ぎ付けたのか水龍が来てね、色々と教えてくれた」
498: 以下、
僧侶「なっ…」
風龍「どうやら私と手を組んで君を裁く者にしたかったようだね」
僧侶「……何故?」
風龍「理由は簡単、キミと一つになりたいからさ」
僧侶「……何でそんなに差があるんだ?炎龍や土龍は
風龍「炎龍土龍が君の優しさを糧に変わったとするなら……」
499: 以下、
風龍「私と水龍は君の怒り、界への憎しみで変わったんだろう」
風龍「その色がより強いのが水龍だ、君のように界を憎んでる」
僧侶「だったら何故水龍は此処を破壊しなかった?」
僧侶「あいつはオレを壊したいんじゃないのか?」
風龍「何をするつもりかは知らないが、最終的には君と共に界を裁くのが目的だろう」
風龍「愛しの君と身も心も一つになって界を破滅させたい………」
風龍「それが、水龍の語った『夢』だ」
500: 以下、
僧侶「随分大きな夢だな」
風龍「夢は大きくなければ面白くない、そう言っていたよ」
風龍「私が水龍なら……」
僧侶「……何だよ、はっきり言え」
風龍「間違いなく勇者を殺して君を絶望させるだろうね」
風龍「君にとって勇者は大きな存在、だから殺す。何が何でも殺す」
風龍「それでも死なぬのなら、四肢を斬り落とし動けなくすればいい」
501: 以下、
風龍「……とまあ、これに近しいことを考えているだろう」
僧侶「…………」
風龍「なるほど、それが水龍の言っていた目か……確かに魅力的だ」
僧侶「……ドワーフに話しは通してるんだろう?」
風龍「ああ、ドワーフの中でも職人と呼ばれる者に話してある」
僧侶「ありがとう、じゃあもう行くよ」
502: 以下、
風龍「君は理性の強い男だ、こんなにも露出して誘っているのに……」
僧侶「そんな格好しなくてもあんたは魅力的な女だよ」
風龍「その言葉は嬉しいけどさ、ここまで言っても抱いてくれないのかな?」
僧侶「これでも子供達がいるんだ、そんなこ
ドンッ…
僧侶「がっ…お前…!!」
503: 以下、
風龍「ごめんね、我慢出来なくて力戻しちゃったよ……」ガシッ
僧侶「やるならやれ、力を手放してまで手に入れたかった物を捨てるつもりならな!!」
風龍「なーんてね、冗談だよ冗談!今はこれで我慢してあげる」
僧侶「……耐えてくれて助かった、もう行く」
ガチャ…パタンッ…
風龍「やっぱり無理矢理やれば良かったかなぁ、勿体ないことしたかも……」
風龍「炎龍、どうせ聞いているんだろう?どう?お前は僧侶と結ばれたくないのか?」
風龍「……だんまりか、いいねぇ傍にいれる奴等は……」
505: 以下、
>>>>
ドワーフ工房
職人「神様から話しは聞いてる、あんたが僧侶だな?」
僧侶「ああそうだ、あんたに造って欲しい物がある」
職人「言ってみろ」
僧侶「界の繋がり視認して切断する道具、界を引き寄せ彼等を帰す道具が欲しい」
職人「代価は何で払う。神様の命だ、まけてやる。視力でどうだ?」
僧侶「……構わない」
職人「告発の天使の瞳……よし、引き受けた」
506: 以下、
僧侶「今払った方がいいか?」
職人「当たり前だ、後払いはなしだ。『お前が』払え」
僧侶「分かったよ、覚悟してた…事だ……っ!!」グッ
ずる…ずる…ずるり……
僧侶「……ほら、受け取れ」
職人「確かに……だが鉱石がない」
僧侶「何?」
職人「この界には存在しない鉱石だ、すまないな」
507: 以下、
僧侶「……そんなことだろうと思ったぜ、要求に対して代償が小さ過ぎるからな」
職人「っ!!?お前、最初から分かってて……」
僧侶「両眼を渡したんだ、さっさと鉱石の名を言え……」
職人「ぐっ…アダマスとミスリルだ。だがこの界にはない、無駄だ」
僧侶「そうでもない、すぐに届くさ。オレの両眼は水龍に渡すつもりだったのか?」
職人「……ああ、そのつもりだった」
僧侶「そうか……だが鉱石はもうすぐ届く、水龍に渡す必要はねえ。だからしっかり造ってくれよ?」
僧侶「約束通り視力を渡したんだ、破るのは無しだぜ……」
509: 以下、

うーんどのキャラよりも僧侶に幸せになって欲しくなって来たが
どうなるのかな
512: 以下、
職人「……代価は払われた、いいだろう。しかし何故そう簡単に差し出せる?」
職人「代価として払ったものは二度と戻らないんだぞ?もう一度訊く、本当に良いのか?」
僧侶「良いわけねえだろ、子供達やあいつ等の顔を二度と見れねえんだからな」
僧侶「でもな、これで界を戻せるならそれで良いと思ってる。裁きなんてのは御免だ」
職人「……お前、軟弱な体してる癖に意志は強いな。あの龍が言っていた通りだ」
僧侶「つーかオレが軟弱なんじゃねえ、あんた達の体が人間より屈強なんだ」
513: 以下、
僧侶「……水龍には何て言われたんだ?」
職人「代価として目を要求しろと、彼なら躊躇わず差し出すだろうからと……」
僧侶「で、差し出しても鉱石がなけりゃ造れないと言う……」
僧侶「約束を破ったわけではない、代価だけを貰うってわけか」
僧侶「ったく、よくもまぁそんなこと考えたもんだな。何考えてんだあいつは……」
職人「一つになれば最早目など必要ない、自分以外の者など見なくて良い」
514: 以下、
僧侶「水龍が言ったんだな?」
職人「……聞いてもいないのに聞かされた、ああいうのを狂っていると言うんだろうな」
職人「正直恐ろしくてたまらなかった……」
僧侶「そりゃそうだろ、そんな話し聞いたらオレだって怖えよ」
職人「お前、あんなのに好かれて大変だな……心から同情するよ」
僧侶「……ありがとよ」
僧侶「あんたも大変だったな、奴と話すのは生きた心地がしなかっただろう?」
515: 以下、
職人「……ああ、手足が情けなく震えた」
僧侶「なあ、オレへの代価の要求以外にも何か言われたのか?」
職人「一言一句記憶してる」
職人「村の人間を皆殺しにした後にドワーフも皆殺しにする、お前は最後に殺してやる……」
職人「まるで氷のような酷く冷たい声色でそう言われた」
職人「……瞳はぎらぎらと……視線で射殺せそうな程に妖しく輝いていたよ」
516: 以下、
僧侶「……………」
職人「神様は自分の力を封じてる、あの龍がその気になれば我等は為す術なく殺されるだろう……」
僧侶「大丈夫だ、それは恐らくただの脅しだ。水龍は此処に現れない」
職人「何故分かる?」
僧侶「他の龍が教えてくれた、だから大丈夫だ」
僧侶「それに水龍が本気なら今頃目玉を取りに来てるだろ?」
517: 以下、
職人「……確かに、それもそうだな」
職人「なあ、お前が繋がっている龍は炎龍とかいう奴だけか?」
僧侶「ああそうだ、他の龍とは繋がってない。それがどうかしたのか?」
職人「気を付けた方が良い、水龍は炎龍にかなり嫉妬しているようだった」
僧侶「……ああ、伝えておくよ」
職人「しかしお前、今更だが自分で目玉をくり抜くなんて大丈夫か?」
518: 以下、
僧侶「痛みはねえよ、治癒しながら取ったからな……」
僧侶「加えて言うがオレは狂っちゃいないから安心しろ」
職人「それを聞いて安心した……」
職人「しかしお前、そんなことが出来るのか……人界の魔術魔法も中々進んでいるな」
僧侶「そこまで優れた術法じゃねえよ、戦になれば剣や槍だ」
僧侶「火なんざ出そうとしてる間にやられちまうよ」
僧侶「あんた達はどうなんだ?そういう力はねえのか?」
職人「あくまで鍛冶工芸に使う、攻撃的な使用などしない」
519: 以下、
僧侶「へー、やっぱり違うもんだな……っと…」フラッ
ガシッ…
職人「無理するな、しっかり掴まれ……よし、この椅子に座るんだ」
僧侶「あ、ああ、悪いな」
職人「……本当に良かったのか?」
僧侶「じゃあ代価なしに造ってくれんのか?」
職人「それは……」
僧侶「ははっ、冗談だよ冗談」
520: 以下、
僧侶「界を切り離すだの引き寄せるだの……」
僧侶「そんな馬鹿げた力を持つ道具を造るのに目玉二つなら安いもんだ」
職人「……お前、本気で界を元に戻すつもりなのか?」
僧侶「ああ、もうエルフ時のような思いはしたくないんだ……」
職人「エルフも人界に?詳しく教えてくれ」
僧侶「人間に捕らえられ奴隷のように扱われていた。今は大丈夫だけどな」
521: 以下、
職人「馬鹿な、エルフがむざむざ捕まるものか!」
職人「人間などと比べものにならない力を持っているんだぞ!?」
僧侶「……色々あってな、一度に捕まっちまったんだよ。人間は数で押したんだろう」
職人「人間は何故そこまで?この村の人間は我等を救ってくれたというのに……」
僧侶「人間から争いと支配欲はなくならない、どれだけ進歩しようと絶対にな……」
職人「……なあ、お前は一体
僧侶「おっ、そろそろ来るぞ?」
職人「な、何がだ?」
バシュッ…
土龍「待たせたな……どうだ?これくらいで足りるか?」ズシリ
522: 以下、
職人「それだけあれば足りるが一体何処から……それに今の…お前も龍なのか?」
土龍「ああ、オレは土龍だ。これは界を移動して持ってきた」
土龍「あー、言っとくけどオレは水龍とは違うからな?僧侶の味方だ」ウン
職人「……こんな龍もいるのか、もっと偉そうな奴等だと思ってた」
僧侶「ははっ、その辺は龍も人間もドワーフもエルフも同じだ。見た目はあてにならねえよ」
職人「お前、変わってるな」
僧侶「だってそうだろ?あんた達も乱暴者ってわけじゃない」
523: 以下、
職人「…………」
土龍「なあ僧侶」
僧侶「ん?」
土龍「オレはこっちだ……手、掴むぞ?」
僧侶「あ、そこか…悪いな……」
土龍「っ、本当にもう見えねーのか?もう治せねえのか?」
524: 以下、
僧侶「……ああ、もう代価として払ったからな」
土龍「なあ、何でそんな大事なこと一人で決めたんだよ。皆怒ってたぞ」
僧侶「そうか、じゃあ後でちゃんと謝らねえとな……」
土龍「炎龍も炎龍だ!決まってから伝えやがって!!」
土龍「僧侶が決めたことだからって納得しようとしたけど、オレには無理だ……」
僧侶「何だ、泣いてんのか?」
525: 以下、
土龍「オレは泣いてねー!!」
僧侶「そんだけ声震えてりゃあ隠せねえよ。なあ土龍、聞いてくれ……」
土龍「……何だよ」
僧侶「これは界を戻すのに必要なことなんだ、分かってくれ」
土龍「……うん」
僧侶「ありがとな……」
土龍「……とにかく一旦戻ろうぜ?傷は治ってもかなり疲れてんだろ?」
526: 以下、
僧侶「そういや炎龍はどうしたんだ?」
土龍「……あいつは…先に戻った」
僧侶「?そうか、じゃあ頼む」グラッ
土龍「あぶねーな、無理すんなオレに掴まれ」
僧侶「ありがとな……」
土龍「……いいって、気にすんな」
527: 以下、
僧侶「あ、道具はどれぐらいで完成するんだ?」
職人「……あ、ああ……そうだな、一週間もあれば出来るだろう」
僧侶「そうか、じゃあ後は頼む……なあ、もし良かったら…」
職人「どうした?」
僧侶「界が入り混じった今、エルフだとか人間だとか関係ない。皆で都へ来ないか?」
僧侶「オークって奴等が現れたら大変だろ?風龍も再び力を封じたみてえだし」
528: 以下、
職人「……それは皆と話し合わなければ決められない。神様のこともある…」
僧侶「分かってる。また来るからさ、その時に聞かせてくれよ」
職人「ああ……」
土龍「じゃあさっさと行こうぜ?あんまり長居すると風龍とやり合う羽目になる」
僧侶「そうだな、じゃあ行くよ。またな」
土龍「ほら、こっちだ。手、離すなよ……」
ガチャッ…バタンッ…
職人「本気でやるつもりなんだな、あいつ……だったらこっちも本気で応えてやらないとな」ガシッ
カンッ!カンッ!カンッ!
529: 以下、
>>>>
北東の都 見張り塔
炎龍「…………」
勇者「ここにいたんだ……」
炎龍「子供達を放って置いていいのですか」
勇者「エルフと警備兵に頼んだから大丈夫、炎龍の様子見てくれって言われた」
勇者「みんな心配してるよ?」
炎龍「……貴方は何も言わないのですね」
勇者「言わない、僧侶が決めたことだから」
530: 以下、
勇者「炎龍は何で泣いてるの?」
炎龍「必要なことだと分かっていても、例え僧侶様が決めたことだとしても……」
炎龍「もう目を見て話すことが出来ないのは悲しいです」
勇者「目が見えなくなっても僧侶は見てくれる、きっと今まで以上に……」
炎龍「!!」
勇者「だから僕達は僧侶を支えなきゃダメ、炎龍が泣いてたら僧侶だって悲しい」
勇者「僧侶は言ってた、種族関係なく暮らして行けると思うかって……」
531: 以下、
勇者「僧侶はきっとその為に頑張ってるんだと思う」
勇者「いつかみんなが離れ離れになっても笑って暮らして行けるように……」
勇者「もしかしたら、もっともっと先のことを考えて僧侶は選択したのかもしれない」
炎龍「……選択」
勇者「うん、これは僧侶が選択した結果」
勇者「エルフを助けたことも炎龍達と一緒にいることも、きっと今回のことも全部……」
532: 以下、
勇者「界を守る為、あるべき姿に戻す為に頑張ったから今がある」
勇者「けど、裁きで死んだ人も沢山いる」
勇者「僧侶は確かに界を……人間を憎んでるかもしれない」
勇者「それでも、僧侶は守ろうとしてる……」
炎龍「私にも支えられますか?僧侶様の助けになれるでしょうか?」
勇者「その人を想い続ける限り、決して繋がりはなくならない」
533: 以下、
炎龍「!!」
炎龍「想い続ける、限り……」
勇者「うん、僧侶はそう言ってた。僕もそう信じてる」
炎龍「私も、そう信じたいです……」
勇者「なら想いは伝わる、炎龍は炎龍の気持ちを信じればいい」
炎龍「……はいっ、ありがとうございます…」
勇者「さあ、行こう?みんなが待ってるよ?」ニコッ
534: 以下、
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古風な屋敷
エルフ「まだ二日と経っていないのに状況が目まぐるしく変化したな」
警備兵「……エルフの件が終わってから龍が出現し、今や界を左右する事態になってしまった」
警備兵「だがそれもおかしな話しじゃない。今や人界は混沌としている」
警備兵「僧侶の言った通り早めに手を打たなければ界は間違いなく滅ぶだろう」
エルフ「……炎龍の話しによればオークも出現したという、あれが押し寄せて来れば非常に厄介だ」
警備兵「破壊行為のみを目的とした種族か……分かり合うことは不可能だな」
535: 以下、
エルフ「ああ、例の道具が完成したとしても厳しいだろう」
エルフ「それに問題はオークだけではない」
警備兵「水龍か、一体何をするつもりなのか……ただただ不気味だな」
エルフ「行動を起こすまでは何もしようがない、どうしても後手に回ってしまう」
警備兵「……………」
エルフ「………………」
536: 以下、
警備兵「なあ」
エルフ「……何だ」
警備兵「結局何も言えなかったな。あいつのあんな弱々しい笑顔は見たくなかった」
エルフ「それは私も同じだよ……」
エルフ「家族が戻り安心していたが界が切迫した状況なのは変わりない」
エルフ「頼れる者が出来たことで現実を見ていなかったのかもしれない」
警備兵「あいつはずっと考えていたんだろうな、先のことを……」
537: 以下、
エルフ「……共にいるだけでは何もならない」
エルフ「共にいるからこそ、我々も僧侶と同様の覚悟を持たなければならない」
警備兵「そうだな……僧侶が背負っている物、その重みを少しでも軽くしてやろう」
警備兵「とは言ったものの何が出来るか……」
警備兵「勇者や炎龍土龍のような力は俺達にはないからな……」
エルフ「……互いに考えよう、まだ時間はある」
警備兵「そうだな……」
538: 以下、
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見張り塔
土龍「なあ、オレ達には何が出来るんだろうな」
炎龍「裁きを下さぬ龍など本来なら必要ないでしょう。ですが…」
炎龍「出現した穴の場所を伝え、害をなす種族を撃退することは可能です」
土龍「結局、オレ達は戦うぐらいしか出来ねーのかな……」
炎龍「それが私達の出来ることであればやるだけです」
炎龍「日に日に異界は近付き、いずれは人界を覆い尽くす程の種族が現れるでしょう」
炎龍「だからこそ僧侶様は決断したのだと思います」
539: 以下、
土龍「だったら……」
炎龍「はい、私達の出来ること……それだけを考えるべきです」
土龍「炎龍、なんつーか……悪かった」
炎龍「何がです?」
土龍「僧侶を止めなかっただとか好き勝手言って責めちまってさ……」
炎龍「大丈夫です、責められなければもっと辛かったでしょうから」
540: 以下、
土龍「……そっか」
炎龍「……はい」
土龍「………うっしゃ!オレは僧侶の力になる!!」
炎龍「ふふっ、何ですか急に?」
土龍「こういうのは口に出さねーとダメなんだよ、オレ」
土龍「水龍が何考えてようが関係ない」
土龍「僧侶がやろうとしていることは絶対に邪魔させねー」
炎龍「ええ、そうですね……何があっても必ず僧侶様を守りましょう」
541: 以下、
>>>>
小さな空き家
勇者「僧侶、ちょっといい?」
僧侶「……ん?ああ悪い、ちょっと寝てた。子供達はどうした?」
勇者「やっと寝てくれた、ちょっと疲れた」
僧侶「何か悪いな、面倒見せちまって……」
勇者「ううん、大丈夫」
僧侶「泣かせちまったな、せっかく会えたってのによ……」
542: 以下、
勇者「僧侶はみんなに笑って欲しくて頑張ったんだよ?」
勇者「って言ったらちゃんと分かってくれた」
勇者「でも僧侶が痛い思いするのは見たくないんだって、それは僕も同じ気持ち」
勇者「エルフも警備兵も、炎龍や土龍だって同じ気持ち……」
僧侶「オレは……」
勇者「なに?」
543: 以下、
僧侶「オレは皆がいるから決断出来たんだ、仲間がいなけりゃ無理だったよ」
僧侶「界を背負ってるなんて言われてもピンとこねえけどさ……」
僧侶「オレがやらなきゃ仲間が死ぬ、そう思うと心にずしっと来るんだ」
勇者「……………」
僧侶「だから迷わなかった。あいつ等がいればオレは何だってやれる」
勇者「僧侶、変わったね。そんなこと今まで言わなかった」
544: 以下、
僧侶「きっとお前のお陰だよ、勇者」
僧侶「仲間が出来たことも大きいけどさ……」
僧侶「変わっていくお前を見て、お前に愛してると言われて……変わったんだ」
僧侶「それに、もう逃げたくねえからな」
勇者「…………」ギュッ
僧侶「どうした?」
勇者「僧侶、死んでもいいと思ってる」
545: 以下、
僧侶「!!」
勇者「それはダメだよ、そんなのは嫌だ……」
勇者「みんなはそうならない為に一生懸命考えてるんだよ?」
勇者「僧侶のことが大切だから、何とかしようとしてるんだよ?」
僧侶「……勇者…」
勇者「みんなが僧侶の力になってるなら、その反対もある」
勇者「僧侶だってみんなの力になってる。それだけは忘れないで」
546: 以下、
僧侶「ああ、絶対に忘れない。ありがとう」ギュッ
勇者「……うん…」
僧侶「泣くな、もう大丈夫だから……」
勇者「ねえ…」
僧侶「ん?」
勇者「一緒に寝てもいい?」
僧侶「……ああ」
547: 以下、
モゾモゾ…
勇者「こんなに近くで寝るのは久しぶりだね?テント以来かもしれない」
僧侶「そうかもな……」
勇者「……僧侶は、僕が見える?」
僧侶「見える、見えなくても見える」
勇者「へへっ…僕は僧侶の中にいる?」
僧侶「ああ、いつでもいる。どんな時でもな」
勇者「うん、僕も一緒……」
548: 以下、
僧侶「……勇者、大事な話しがある」
勇者「うん、話して?」
僧侶「オレは裁きを終わらせようと思う」
勇者「それはどういうこと?」
僧侶「神に創造された龍によって、裁きはこれまで幾度も繰り返されてきた」
僧侶「数え切れない人々、数え切れない異種族が死んでいったはずだ……」
僧侶「この悲しい繰り返しを二度と起こさない為に……」
勇者「大丈夫、言って?ちゃんと聞くから」
僧侶「……オレは、神を終わらせるつもりだ」
549: 以下、
>>>>
僧侶が職人へ依頼してから三日後……
西の山村には僧侶、エルフとその娘、そして警備兵の姿があった。
僧侶は風龍と話す為、エルフと警備兵は都の実情を知ってもらうべくやって来た。
少しばかりでも僧侶の負担を軽減する為に……
『エルフとドワーフ』
敵対とは言わないまでも両者は決して友好な関係ではない。
550: 以下、
しかし村の人間と警備兵が間に入ることで話し合いは円滑に進んだ。
娘が貴族に監禁されていた事実を知ると泣き出すドワーフさえいた。
そんな悲劇が二度と起きぬよう都へ来てくれないか……
それがエルフからの願い。
加えてオークが再びやってくる可能性もある。
明け方に始まった両者の話し合いは夜更けまで続いた。
一方、僧侶は……
551: 以下、
風龍「それは本気で言ってるのかな?」
僧侶「ああ、本気だ」
風龍「私が力を戻せばどうなるか分からないよ?他の三龍に牙を剥くかもしれない」
僧侶「それを承知で頼んでる。あんたが必要なんだ」
風龍「……そんな風に言われたら断れないね、君の為ならそうしようじゃないか」
僧侶「すまないな、折角力を封じたってのにこんなこと頼んじまって……」
552: 以下、
風龍「いいんだ、君の選択は間違ってない」
風龍「まあ、こんな感情を得たから言えることだろうけどね」
風龍「でも何だって急にこんなことを?これは流石に予想してなかったよ」
僧侶「急でもない、ずっと考えてたんだ。オレが神に遣わされた天使である意味……」
僧侶「オレが意図せず起こした四龍の変化……」
僧侶「それら全てに意味があるのなら、オレがやるべきは一つだけだ」
553: 以下、
風龍「…………」
僧侶「どうした?」
風龍「視界を失ってから更に魅力的になったと思ってね、気を悪くしないでくれよ?」
僧侶「腹を括ったからかもな……」
風龍「……本当にいいのかい?」
僧侶「ああ、もう十分考えた」
風龍「じゃあもう一つ、一番厄介な水龍はどうするつもりなのかな?」
554: 以下、
僧侶「何をしてでもどうにかする」
風龍「あっはっは!!」
風龍「そりゃいいねぇ、水龍も予想してないだろうから驚くよ」
僧侶「時が来たら頼む」
風龍「……ああ、その時を楽しみにしてるよ、この後はどうするんだい?」
僧侶「職人に用があるから工房に行ってくる」
風龍「…………」タンッ
555: 以下、
僧侶「近いな、何だ?」
風龍「命を預けるんだ、これぐらいは許してくれないかな?」グイッ
僧侶「風龍、オレならいつでもくれてやる。だから今は我慢してくれないか?」
風龍「……分かったよ。しっかしずるい男だねぇ」
僧侶「ごめんな、あいつには生きて欲しいんだ」
風龍「その為に四龍を道具として利用するのかい?」
僧侶「そう取られても仕方ねえけどオレはあんたを……四龍を道具だなんて思っちゃいねえよ」
僧侶「……じゃあな」
ガチャ…バタンッ…
風龍「なる程……告発の天使、その名に違わぬ男だね」
560: 以下、
>>>>
ドワーフ工房
職人「ほら、座れ…」
僧侶「悪いな」
職人「それで何の用だ?」
僧侶「少し追加して欲しくてな」
職人「追加?」
僧侶「そんなに面倒な代物じゃねえんだ。良ければ余ったもので弓矢と剣を造って欲しい」
職人「何だ、それぐらいなら簡単だ。数人と協力すればすぐに出来る」
561: 以下、
僧侶「……悪いな、手間掛けさせちまって」
職人「こんな大仕事をやるのは久々だからな、悪い気はしない。だから気にするな」
僧侶「よろしく頼む……なあ、あんたは会議に参加しないのか?」
職人「オレにはこの仕事があるからな、参加してる暇はない」
職人「それに結果は見えてる、都への移住は間もなく決まるはずだ」
僧侶「何だよ、随分あっさりしてるな」
562: 以下、
職人「あの時のお前の言葉そのままだ」
職人「今は種族だ何だと言っている場合ではない」
職人「今にもオークやら何やらが出て来るかもしれないんだからな」
職人「……お前の申し出があったから歩み寄る機会が出来たんだ」
職人「口には出さないだろうが胸を撫で下ろしてる連中も大勢いるだろう」
僧侶「……なあ、あんたはどう思う?やっていけると思うか?」
563: 以下、
職人「どうだろうな、我等も人間と同じだ。争う時はいつか必ず来る」
僧侶「……………」
職人「僧侶、オレも一つ訊きたい。お前は界をどうするつもりだ?」
僧侶「情けねえことにまだ悩んでる……出会った奴等は皆いい奴で今や仲間だ」
僧侶「元の界に帰りたいのは皆同じ、道具が完成すれば勿論帰してやりたいと思ってる」
僧侶「……ただ、オレ個人の気持ちとしては共にいたい。今が気に入ってるんだ」
職人「なら、この杖はお前にぴったりだな」
564: 以下、
僧侶「杖?」
職人「実を言うとアダマスから造った杖はもう完成してる」
僧侶「もう出来たのか!?」
職人「ああ、もうじきもう一つの道具も完成するだろう」
僧侶「鍛冶工芸に秀でてるとは聞いてたが、まさかここまでとはな……」
僧侶「あ、会議が終わるまで此処にいてもいいか?あっちは三人に任せてるんだ」
565: 以下、
職人「ああ、別に構わないぞ」
僧侶「……で?そのアダマスの杖がオレにぴったりってのはどういう意味だ?」
職人「引き寄せ引き離す、二つの力が宿った杖だからだ」
僧侶「引き離す?」
職人「磁力のようなものだ、くっつきもすれば反発……弾きもするだろう?」
職人「どちらの力を使うかはお前の自由だ」
僧侶「……それは帰すも帰さぬもオレ次第ってことか」
職人「そういうことだ」
職人「僧侶、お前は我等とエルフは元の界に帰りたいのではないかと言ったな?」
566: 以下、
僧侶「……ああ」
職人「なら問おう、彼等はそう言ったのか?」
僧侶「!!」
職人「異種族だからといって皆が帰りたいとは思っていないだろうよ」
職人「今を気に入ってるのはお前だけではないはずだ……」
僧侶「……帰ったら聞いてみるよ、ありがとな」
567: 以下、
職人「礼はいい。ほら、取り敢えず受け取れ」
職人「力の使い方は界や物質を強く意識すること、それだけだ」スッ
僧侶「強く意識する、か……」
僧侶「ん?思ったより重くないんだな、それに握りやすい」
職人「当たり前だ、お前の手に合わせて造ったんだからな」
職人「先程まで使っていた急作りの杖よりは格段に使いやすいはずだ」
568: 以下、
僧侶「手に合わせたっていつの間に
職人「そんなもの手を見ればすぐに分かる。それよりもう一つの方は誰が使う?」
僧侶「そっちは勇者にやろうと思ってる」
職人「なら呼んでくれないか、代価を受け取った以上半端な仕事はしたくない」
僧侶「今から呼ぶよ、少し待ってくれ」
職人「ん?ああ、お前は炎龍と繋がってるんだったな、早めに頼むぞ?」
僧侶「……ああ、分かったよ」
569: 以下、
>>>>
北東の都 小さな空き家
土龍「まだ来ねーのか、待つのは苦手なんだよな……」
勇者「…………」
土龍「何だよ、まだ悩んでんのか?」
勇者「僧侶の言ってることは分かるけど、成功するか分からないから……」
土龍「まぁ、そうだよな。『もし』失敗したら全ての界がぶっ壊れる」
土龍「『もし』成功すれば全ての界から脅威は消えて裁きは二度と訪れない」
570: 以下、
土龍「相手は神なんだぜ?」
土龍「こんなのは賭けみてーなもんだ、絶対なんてものはない」
勇者「……………」
土龍「けどな、僧侶は絶対に成功させるって信じてる。オレはな……」
勇者「絶対はないって言ったのに……」
土龍「ははっ、そんなのは良いんだよ。オレ達が絶対だって思えばそれは絶対になる!」
土龍「そう信じなきゃ命なんて預けらんねーだろ?」
571: 以下、
勇者「……土龍は死んじゃうのが怖くないの?」
土龍「ふーっ……勇者、少し長くなるけど聞いてくれ」
勇者「うん、なに?」
土龍「……オレ含め四龍は今まで生きてなかった。ただ裁きを行うだけの存在だったからな」
土龍「感情なんてもんは必要ないし、必要な時に必要なことをするだけ」
土龍「裁きに対して疑問なんて持ってなかった」
土龍「界に生きる奴等の痛み悲しみなんて考えたこともない」
572: 以下、
土龍「……でもな、それが僧侶に触れられて変わったんだ」
土龍「今のオレ達は本当の意味で生きてる」
土龍「オレ達は僧侶に生かされたんだ、それまでは死んでた……」
土龍「だから死ぬのなんて怖くない。怖いのはこの気持ち、心ってやつを失うことだけだ」
勇者「……………」
土龍「……なあ勇者、オマエは一体『何が』怖いんだ?」
573: 以下、
勇者「だって僧侶が死んじゃったら僕は
土龍「ッ、ふざけんな!!」
バチンッ!
土龍「オマエが今考えてんのは僧侶を失った自分!!それだけじゃねーか!!」
勇者「!!」
土龍「オレだって僧侶が死ぬのなんて嫌だよ……でもな!だからこそ信じるんだろ!!?」
土龍「誰かが死ぬ未来なんて考えるな!」
土龍「オレ達が考えるなきゃならねーのは皆が生きる未来だ!!」
574: 以下、
土龍「なあ!そうじゃねーのかよ!!」グスッ
勇者「土龍……」
土龍「……オマエは『勇者』だろーが……」
勇者「!!」
勇者「……土龍、ありがとう。僕はもう大丈夫だよ」
土龍「もう泣き言なんて言うなよ?僧侶の心を支えてんのはオマエなんだからな……」グスッ
勇者「うん、もう言わない。これからは僧侶が生きてる未来だけを考える」
勇者「何があっても僧侶を支える。土龍、叩いてくれてありがとう」
土龍「?」
勇者「お陰で目が覚めた、もう迷わない」
577: 以下、
>>>>
バサッ…バサッ…
勇者「うわぁ…星が近い、綺麗だね」
炎龍「ふふっ…ええ、そうですね。夜に飛ぶのも良いかもしれません」
勇者「今度はみんなで見たいね」
炎龍「流石に全員は乗せられませんよ?」
勇者「そっか……じゃあ帰ったらみんなで見よう」
バシュッ!
水龍「残念ながらそれは叶わない」
水龍「お前が星を見るのはこれで最後だ。凍るがいい」
578: 以下、
炎龍「!!?」
水龍「まさか来るとは思わなかったか?私はこの時をずっと待っていたよ」
水龍「炎龍土龍と戦うことなく勇者のみを殺せるこの時を……」
水龍「ははっ、それが界を裁く龍の背だとは滑稽な話しじゃないか。なあ炎龍?そうは思わないか?」
炎龍「黙れッ!!」
炎龍「勇者?勇者!!返事をして下さい!!」
水龍「現実を受け入れろ、死体に呼び掛けても何も返って来ないぞ?」
水龍「龍を殺せる程の力を持っていても不死ではない、凍らせてしまえばそこまでだ」
579: 以下、
水龍「ふふっ…はははっ!!」
水龍「嗚呼……ずっと……ずっとずっとこの時を待っていたんだ!!」
水龍「この女を殺せる時を待ち続けていたよ!!」
炎龍「ッ!!貴方は何故!何故こんなことが出来るのですか!!」
水龍「憎いからに決まっているだろう?僧侶の傍らにいるこの女がな!!」
水龍「……どうした?」
水龍「振り落とすならそうするがいい、勇者が砕け散って死ぬだけだ」
炎龍「……………」
水龍「まあ、私が砕けば済む話しだがな……」スッ
580: 以下、
バキンッ!
炎龍「ッ!!」
水龍「まずは右腕から、僧侶を抱きしめた腕からだ……」
水龍「さて、次はどうしてやろうか」
炎龍「止めろッ!!」
水龍「……炎を出そうとした瞬間蹴り砕く、馬鹿な真似は止せ」
炎龍「…………」
水龍「それでいい……」
水龍「ふふっ、これで僧侶は私を憎む。私を殺すことだけを考える」
582: 以下、
水龍「その憎しみ、想いを、愛を一身に受ける……」
水龍「憎みながらも私を欲して界を滅ぼすべく一つに
炎龍「残念ながら、それは叶いません」
水龍「……何?」
炎龍「すぐに分かりますよ」
ズズッ…ズズズ…
水龍「何だ、これ…は……まさ
炎龍「ええ、どうやら完成していたようですね。私も『今』知らされました」
水龍「繋がりを僧侶に任せ… 
炎龍「ご存知でしょうが向こうには風龍がいます、お気を付けて」
583: 以下、
水龍「嘗め…るな……よ」ズリズリ
ガシッ…メキッ!
炎龍「なッ!!」
水龍「左目、次は左…脚…
バシュッ!
風龍「悪いねぇ、そうはさせないよ」ガシッ
水龍「ッ!!」
水龍「風龍!何故お前が此処にいる!!力は封じたはずだ!!」
584: 以下、
風龍「喚くな」
水龍「!!?」ゾクッ
風龍「あっはっは!!悪いねぇ、先に僧侶と繋がらせてもらったよ」ニコッ
風龍「さて、どうしてやろうかねぇ」グイッ
水龍「ッ!!」
風龍「勇者は憎い、確かに憎い……だけど僧侶にあんな顔させる君の方が憎いよ」
ゴギンッ!
水龍「がっ…」
585: 以下、
風龍「あっはっは!!」
風龍「君は本当に馬鹿な奴だね、愛を独り占めしようとするなんてさぁ!!」
水龍「ッ!?」
風龍「私は君が勇者を襲ってくれたお陰で僧侶と繋がれた、ありがとう」ニコッ
水龍「お前、分かってて…」 
風龍「ああそうさ、待ってたよ。君が勇者を襲撃するこの時をね」
風龍「そうなれば僧侶も私を頼らざるを得ない!!最高の気分だよ……」
風龍「でも勇者を殺したら嫌われちゃうからねぇ、ある程度君にやってもらってすっきりしたよ」
炎龍「(負けず劣らず狂ってますね……)」
 
風龍「聞こえてるよ炎龍、愛は人を……龍さえも狂わせる。憶えときな」
586: 以下、
水龍「……僧侶に…最後に僧侶に会わせてくれ、頼む……」
風龍「ああ良いよ?界に逃げられちゃ困るからね」
風龍「それに冷凍された勇者を解凍しなきゃならないしねぇ」
風龍「でもその前に……」スッ
水龍「!!」
ずぶ…
風龍「君に僧侶を見る権利はない、会わせてやるだけ有難く思いな」
風龍「君は僧侶の糧になるんだ、幸せだろ?」
水龍「ふっ…ふふっ、一つになれるのなら、それでいい」
589: 以下、
風龍「……全く、何だってこんな歪んだ心を持ってしまったんだろうね」
風龍「僧侶を愛しているのは変わらないのにさ」
炎龍「……………」
水龍「これが僧侶の憎しみによって芽生えた感情だとしても、私は僧侶を愛している」
水龍「風龍、お前は違うのか後悔しているか?」
風龍「するわけがないだろう?醜いと狂っていると言われようと後悔はない」
水龍「……ふふっ…『同族』であるお前の口からそれを聞けて良かった」
風龍「そうかい……炎龍、私は水龍を連れて先に行ってるよ」
風龍「このままじゃ勇者を壊してしまいそうだからね……」
炎龍「……分かりました」
590: 以下、
>>>>
西の山村 神様の部屋
バシュッ!
風龍「待たせたね、連れて来たよ」
風龍「勇者は右腕と左目を失ったが死んじゃいない。もうじき来るだろう」
僧侶「……そうか、助かった。ありがとう」
水龍「ふふっ、その声を聞くのも久しぶりだな。お前の顔を見られないのが残念でならない」
僧侶「……水龍」
水龍「何だ、随分と悲しそうな声だな。あの時は怒鳴り散らしたというのに……」
僧侶「……あの時とは違う、色々と分かったこともあるからな」
591: 以下、
僧侶「なあ、水龍」
水龍「何だ……」
僧侶「四龍に心を与えたのがオレだというのなら……お前をそうしたのもオレなんだ」
水龍「…………」
僧侶「お前を狂わせたのはオレの内側……奥底にあるどうしようもない怒りや憎しみ」
僧侶「それはオレのもんなんだ。だから、お前はもう何も憎まなくていい」スッ
水龍「えっ?」
シュゥゥゥ…
592: 以下、
水龍「お前、何を……」
僧侶「見たかったんだろ?こんな顔で良かったら見せてやるよ」
水龍「ふふっ…最期にお前の顔を見れて良かったよ。前よりも良い顔になったじゃないか」
水龍「もう…満足だ……それに、少し疲れた…」
僧侶「……後はオレの中で寝てろ、頼むから暴れないでくれよ?」
水龍「寝心地が良ければ暴れはしないさ。さあ僧侶、私を…受け入れろ」グイッ
僧侶「……ああ…じゃあな、水龍」ギュッ
ズズズ…カッ!
593: 以下、
風龍「……終わったね」
風龍「さて、水龍は入ったし次は私の番かな?」
風龍「さっさと頼むよ?このままじゃ何するか分からないからね」グイッ
僧侶「……勇者を助けてくれて……耐えてくれてありがとう」
風龍「大丈夫、気持ちは十分伝わってるよ……」
僧侶「……………」
風龍「どうした?怖いのかい?」
594: 以下、
僧侶「もう後戻りは出来ない、覚悟してたけど少し
ギュッ…
風龍「しっかりしな、君は四龍を統べる裁きの者……告発の天使であり反逆者だ」
僧侶「……ああ、分かってる」
風龍「あっはっは!こんなに良い女に愛されてるんだ、嬉しいだろ?」
風龍「まっ、私の他にも良い女がいるようだけどね……」
僧侶「ははっ、そうだな……」
僧侶「こんなに沢山の女に愛されるなんて人生に一度きりだろうよ」
風龍「……さあ、もう覚悟は出来たかな?」
僧侶「ああ、もう大丈夫だ」
風龍「じゃあ、さよならだ……君のことは内側からずっと見ているよ」スッ
ズズズ…カッ!
596: 以下、
僧侶「炎龍、もう入っていいぞ」
炎龍「……終わったのですか?」
僧侶「ああ、終わった。勇者は凍ったままか?」
炎龍「はい、僧侶様の指示通りそのままに……しかし出来るのですか?」
僧侶「そんなことはいい、勇者をオレの傍に寝かせてくれ」
炎龍「……分かりました」
僧侶「右腕と左目だったよな……ここか……」スッ
597: 以下、
僧侶「砕かれた破片を意識して、元ある場所に…引き寄せる……」
ズズズ…
炎龍「……!!…破片が…」
僧侶「ふーっ…この状態で治癒すれば形は元に戻る」スッ
シュゥゥゥ…
僧侶「後は炎龍が氷を溶かした後でもう一度治癒すれば終わりだ」
僧侶「炎龍、やってくれ」
炎龍「ですが僧侶様の手が……」
598: 以下、
僧侶「手を離したら状態把握が出来ねえんだ」
僧侶「このままでいい、やってくれ……頼む……」
炎龍「……っ…分かりました」スッ
ボゥッ…
僧侶「ッ…待ってろ。今、助けるからな……」スッ
シュゥゥゥ…
僧侶「はぁっ…はぁっ…出来たか?勇者の体はどうなってる?」
炎龍「傷は完全に治癒しました……しかしまだ気を失っているようです」
599: 以下、
僧侶「そうか、良かった…」
炎龍「僧侶様、手が……」
僧侶「大丈夫だ、すぐに治す。ありがとな」
炎龍「いえ、そもそも私の不注意で勇者は
僧侶「もう終わったことだ、誰も責めはしない。だから気をすんな」
僧侶「それでも納得出来ないなら後で勇者と話せばいい」
僧侶「……きっと勇者も同じことを言うはずだ」
600: 以下、
炎龍「……僧侶様、私は勇者が羨ましいです」
僧侶「何だよ急に」
炎龍「私は勇者のようにはなれませんか?」
炎龍「貴方の支えにはなれませんか?」グスッ
僧侶「……炎龍」
炎龍「私は貴方が好きです、貴方にも好きだと言って欲しいです」
炎龍「それが叶わないとしても、私は貴方に愛されたい……」
601: 以下、
僧侶「ありがとな。でも、その気持ちには応えられねえ」
 
炎龍「……やはり勇者を愛しているのですか?」
僧侶「いや、きっと土龍の気持ちにも勇者の気持ちにも応えられない……」
炎龍「えっ?」
僧侶「お前はオレが勇者を愛してるように言うが、オレにとってはそうじゃねえんだ」
僧侶「何て言ったらいいか分かんねえけど、勇者はそういう存在じゃない」
僧侶「炎龍、お前は前に言ったよな?勇者は希望の子だと……」
602: 以下、
炎龍「僧侶様、私は勇者が羨ましいです」
僧侶「何だよ急に」
炎龍「私は勇者のようにはなれませんか?貴方の支えにはなれませんか?」グスッ
僧侶「……炎龍」
炎龍「私は貴方が好きです、貴方にも好きだと言って欲しいです」
炎龍「叶わないと分かっていても、私は貴方に愛されたい……」
603: 以下、
僧侶「ありがとな?でも、その気持ちには応えられねえ」
 
炎龍「……やはり勇者を愛しているのですか?」
僧侶「いや、きっと土龍の気持ちにも勇者の気持ちにも応えられない……」
炎龍「えっ?」
僧侶「お前はオレが勇者を愛してるように言うが、オレにとってはそうじゃねえんだ」
僧侶「何て言ったらいいか分かんねえけど、勇者はそういう存在じゃない」
僧侶「炎龍、お前は前に言ったよな?勇者は希望の子だと……」
604: 以下、
僧侶「オレもとってもそんな感じだ」
僧侶「こいつには何としても生きて欲しい、それだけだ」
僧侶「その為なら何だってする……」
僧侶「それを愛だと言われりゃあそうかもしれねえけど、どうなんだろうな?」
炎龍「ふふっ、それは私にも分かりませんよ」
僧侶「わ、笑うなよな、人が真剣に答えてんのに……」
炎龍「ごめんなさい、そんなに困った顔は初めて見たので……」
炎龍「でも何だか楽になりました。私はもう平気です」
605: 以下、
僧侶「女ってころころ変わるんだな……オレにはお前が分かんねえよ」
炎龍「それでいいんです、私は納得出来ましたから」ウン
僧侶「ふーん、ならいいけどさ。あ、もう泣くなよ?」
炎龍「なっ、私は泣いてません!」
僧侶「ははっ、分かった分かった」
僧侶「取り敢えず勇者が目を覚ますまでオレ達も休もうぜ?」
炎龍「(僧侶様、私は貴方を愛しています……)」
炎龍「(心の中で想うだけ、それだけは許して下さい)」
609: 以下、
>>>>
ドワーフ工房
職人「どうだ?」
勇者「うん、凄くいい、ぴったり」
僧侶「じゃあ行こう。もう夜も更けた、向こうもそろそろ終わっただろ」
職人「ああ、それなんだが……」
僧侶「ん?」
職人「お前がいない間に報せが来てな、都への移住が決定したようだ」
610: 以下、
僧侶「そうか、そりゃ良かった……」
僧侶「取り敢えず一旦都に帰って明日からのことを話し合ってみるよ」
僧侶「界に戻るかどうかも含めて……」
職人「そうしろ、話すなら早い方がいいからな」
僧侶「色々と世話になったな、ありがとよ」
職人「……都に移ったら頼むぞ」
僧侶「!!」
僧侶「ああ、勿論だ」
611: 以下、
>>>>
古風な屋敷
エルフ「……界に戻るか否か」
警備兵「…………」
僧侶「ああ、どの界にいても危険なのは変わらねえが人界よりは安全だろ?」
僧侶「思ったより早く杖も剣も完成した、戻るなら今からでも
エルフ「いや、我々は残る。ドワーフも残るそうだ」
僧侶「……いいのか?」
エルフ「赤ん坊を残して戻るわけには行かないからな……何より見届けたいのだ」
612: 以下、
僧侶「……それは」
エルフ「ああ、界の行く末を見届ける。我々もドワーフもな……」
僧侶「ドワーフにも話したのか?」
警備兵「ああ、話した」
警備兵「一人の人間が界の在り方を決めるのか、そんなことは間違っている」
警備兵「散々に言われた……」
警備兵「しかし人界に住む全ての者に意見を聞いている暇はない……」
613: 以下、
エルフ「何より子供達の未来を掴みたくはないのか?」
エルフ「このまま滅びを待つつもりか?」
エルフ「この言葉で皆が同意した。脅しのようになってしまったが、これは事実だ」
警備兵「……そうだな、裁きが訪れなくてもこれから界の収束は本格化する」
警備兵「例え勇者が懸命に繋がりを絶ったとしても間に合わないだろう」
警備兵「……僧侶、お前の掴もうとしている世界を俺達に見せてくれ」
エルフ「僧侶、これが我々の出した結論だ」
614: 以下、
僧侶「……ありがとな、お前等に出逢えて良かったよ」
警備兵「それは俺達も同じだ。で?これからどうする?」
僧侶「帰りがてらオークの界は切り離しておいた、明日からは今隣接している界を切り離す」
僧侶「少しでも人界の負担を軽くしとかねえと最後に躓くかもしれねえからな」
エルフ「ならドワーフの移住は任せてくれ、炎龍も土龍も切り離しに必要だろう?」
警備兵「そうだな、出来るだけ多くの界を切り離すには彼女達の協力が不可欠だ」
615: 以下、
僧侶「……分かった、そっちは頼む」
エルフ「ところで勇者はどうだ?」
僧侶「今頃炎龍や土龍と話してんだろ、体の心配はない」
警備兵「あっ、勇者に聞いたが炎龍を振ったんだってな?」
僧侶「……何でも話すのは止めろって言ったんだがな。つーか炎龍も勇者に話すなよ」
エルフ「女性とはそういうものだ……それで?」
616: 以下、
僧侶「それで?って何だよ……」
警備兵「誰を選ぶつもりなんだ?」
僧侶「誰も選ばねえよ!」
僧侶「大体これから大仕事するってのに余計なこと考えられるかよ!!」
警備兵「……こんな時だからこそ聞いてるんだ」
僧侶「お前笑ってんだろ?見えなくても分かる」
エルフ「我々は至って真面目だ」
エルフ「こんな機会は滅多にないぞ?貴様もそろそろ身を固めたらどうだ?子供達もいるんだろう?」
617: 以下、
僧侶「別に今じゃなくてもいいだろ……」
警備兵「……なあ僧侶、頭の中に一人だけ思い浮かべてみろ」
僧侶「は?お前何言って
警備兵「いいから早くしろ」
僧侶「何なんだよ、分かったよ……」
警備兵「……どうだ?」
僧侶「どうだって何だよ…」
警備兵「そこにいるのは勇者じゃないのか?」
618: 以下、
僧侶「!!」
警備兵「別に答えなくていい、それがお前の愛してる女だ」
僧侶「……………」
エルフ「……僧侶、未来を考えるのは確かに大事だ。だが今を考えることも忘れるな」
エルフ「決してからかっているわけではない、仲間の幸せを願っているんだ」
警備兵「悩ませることを言っておいてなんだが、あまり考えすぎるなよ?」
僧侶「……分かってるさ」
僧侶「未来ではなく『今』か、少し考えてみるよ……」
619: 以下、
>>>>
小さな空き家
僧侶「……ただいま」
勇者「お帰りなさい、ちゃんと話せた?」
僧侶「ん?ああ、色々話した」
僧侶「随分静かだな、子供達は寝たのか?」
勇者「ううん、土龍と炎龍のお家に行った」
僧侶「……そうか」
勇者「寝室に行こう?手握るよ?」
僧侶「ああ、悪いな」
620: 以下、
勇者「やっぱり疲れる?」
僧侶「まあな、見えない分どうしても気を張っちまう」
僧侶「おっ…」グラリ
勇者「ゆっくりでいいよ、無理しないで?」
僧侶「そんなに心配しなくてもいい、杖もあるから」
勇者「心配するよ……」
僧侶「…………」
621: 以下、
勇者「ベッドに着いたけど、もう寝る?」
僧侶「……………」
勇者「どうしたの?」
僧侶「見えねえってのは辛いなと思ってな」
僧侶「一番見たい奴の顔、表情が見えないのは辛い……」
勇者「僕は一番?」
622: 以下、
僧侶「……ああ、お前の顔が見たい」
勇者「じゃあ手で確かめればいい」ギュッ
僧侶「調子に乗るな、頭でいい」ポンッ
勇者「……あっ、これは久しぶりかもしれない」
僧侶「そうだな……」
勇者「僕、これ好き……僧侶の手は優しくて温かいから大好き」
623: 以下、
僧侶「なあ勇者」
勇者「なに?」
僧侶「警備兵の奴に一人だけ思い浮かべろって言われたんだ」
勇者「……僕じゃないなら聞きたくない、凄く嫌だから」
僧侶「お前だよ、オレが真っ先に思い浮かべたのはお前の笑顔だ……」
僧侶「警備兵が言うには、それが愛してる奴らしい」
勇者「……それは本当?嘘だったら確実に怒る自信がある」
624: 以下、
僧侶「大丈夫、本当だ。だから怒るな」
勇者「じゃあそれは……本当はどういうこと?」
僧侶「……オレはお前を愛してるってことだ」
勇者「理解が追い付かない、どうしたらいいと思う?」
僧侶「知らねえよ、お前がしたいようにすればいい」
勇者「…………」ギュッ
僧侶「震えてるぞ?泣いてんのか?」
625: 以下、
勇者「俗に言う嬉し泣き」
勇者「本当に嬉しいと思ったら勝手に泣いてた。嬉し泣きは実在した」
僧侶「ははっ、何だそりゃ」
勇者「だって初めてだから色々分からない、頭がぐちゃぐちゃしてる」
僧侶「……お前、温かいな…眠くなってきた」
勇者「じゃあ一緒に寝る」
僧侶「それはいいけど、まだ着替えてねえんだ……ちょっと待ってくれ」
626: 以下、
勇者「着替えなら用意してる、汗ふきタオルも、だから手伝う」
僧侶「いや、それぐらいは自分で出来るから替えの服くれ」
勇者「僕が脱がせた方が早い」ガシッ
僧侶「……誰の入れ知恵だ?怒るぞ?」
勇者「ごめんなさい、炎龍に言われた」
僧侶「土龍かと思ったが炎龍か、明日は説教だな……」
627: 以下、
勇者「……着替え終わった?」
僧侶「ああ、もう寝よう。お前も疲れたろ?」
勇者「僕は大丈夫だよ?今からでも頑張れる」
僧侶「……それは何だ?」
勇者「これを言ったら僧侶が元気になるって炎龍が言ってた」
僧侶「はぁ…もう寝るぞ?」
628: 以下、
勇者「うんっ」ギュッ
僧侶「……………」
勇者「僧侶」
僧侶「ん?」
勇者「さっきのは本当?僕を…えっと…」
僧侶「心配するな、嘘じゃない。あれは本当だ」
僧侶「……オレは勇者を…お前を愛してる」
632: 以下、
>>>>
翌日から界の切り離しが始まった。
人界に密接している界は数百、それら一つ一つを切り離していく。
勇者は界の繋がり、見えざる『糸』を剣により視認切断する。
あまりに密着している界は僧侶が杖の力で引き離し、人界と異界の間を僅かに空ける。
その後『糸』が見えた所を勇者が即座に切断、この作業を繰り返し徐々に数を減らして行く。
炎龍と土龍は二人に穴が空く危険性の高い場所を指示し、そこへ飛ぶ。
633: 以下、
既に穴が空き異形の種が現出している場所も複数あり、被害を受けている街もいくつかあった。
だが炎龍と土龍の協力もあり、さほど時間は掛からず殲滅することが出来た。
四日間で新たな界が繋がりもしたが、密接していた界の殆どは人界から剥がれたのだった。
しかし予想外の事態が起きる。
人界の王が軍を率いて進軍を始めたのだ。
それは異種族を制圧する為のものではなく
進軍した先を片っ端から破壊するという常軌を逸したものであった。
634: 以下、
僧侶「……一体何が起きた?」
警備兵「詳しいことは分からないが現在も進軍を続けているらしい」
警備兵「最南端である王都から北に向かって休みなく……この都に来るのも時間の問題だろう」
僧侶「今まで傍観していた王が今になって何故?しかも何故人間を殺す?」
エルフ「僧侶、理由はどうあれ都の守備を固めておいた方が良い」
僧侶「ああ、そうだな……」
警備兵「…………」ギリッ
635: 以下、
僧侶「……炎龍、頼めるか」
バシュッ!
炎龍「はい、北の街の人々をこの都へ移動させれば良いのですね?」
警備兵「!!」
警備兵「僧侶…お前……だが界の切り離しが
僧侶「分かってる!分かってるさ!!」
僧侶「けどな、今はそんなことどうだっていい!分かってて見捨てられるか!!」
636: 以下、
僧侶「仲間の家族を…見捨てられるかよ」
警備兵「……僧侶…」
僧侶「あの街の規模なら全員受け入れられる。お前やお前の部下の家族も……」
僧侶「それに領主。いや、エルフの同胞もな……」
僧侶「……だがそれ以上は、無理だ……炎龍、頼んだぞ」
炎龍「お任せ下さい。僧侶様はどうされるのですか?」
637: 以下、
僧侶「土龍と共に王の下へ行き進軍を止める、休みなく進軍を続けてるってのも気になるしな」
僧侶「お前は勇者と共に行ってくれ、混乱は免れないが多少円滑進むはずだ」
炎龍「分かりました。では、行って参ります」
バシュッ!
僧侶「オレも行ってくる。準備だけはしておいてくれ」ザッ
カツンッ…カツンッ…
警備兵「……僧侶が行った後にこんなことは言いたくないが、何か嫌な予感がする」
エルフ「私もだ、得体の知れない何かが此方を見ているような……異様な気配を感じる」
エルフ「我々も戦う準備をしておこう、必ず何かが起きる」
警備兵「ああ、その方が良さそうだな……」
638: 以下、
>>>>
バサッ…バサッ…
勇者「炎龍、王はどんな感じに進んでる?」
炎龍「……僧侶様と勇者が旅した場所をなぞるように進軍しています」
炎龍「近隣の街や都なども巻き込みながら……」
勇者「……北の街はまだ大丈夫?」
炎龍「ええ、ですが思った以上に進軍の度がいです」
勇者「なら早めにしないとダメだね。ちゃんと聞いてくれるといいけど……」
639: 以下、
勇者「僧侶と土龍はどう?もう着いた?」
炎龍「もうじき着く頃だと思います」
勇者「炎龍、王が何者か分かる?」
炎龍「存在は感知出来ますが分かりません。靄の中にいるような……そんな感覚です」
炎龍「ただ、人間ではないのは確かです」
炎龍「界の揺らぎをも感知出来る龍の眼を欺ける者など今までいませんでした」
勇者「なら、王の正体は龍よりも上に位置する存在……」
炎龍「……そうかもしれません」
640: 以下、
>>>>
バサッ…バサッ…
僧侶「龍より上ってことは天界の遣いか」
土龍「多分そうだろうな、炎龍の言った通り龍の眼を欺ける奴なんていねーはずだ」
僧侶「今まで気付かなかったのか?」
土龍「ああ、僧侶に確かめてみてくれって言われるまでは全然だ」
土龍「もしかするとオレ達と同じように『始まり』からいる奴かもしれねーな」
僧侶「始まり……」
土龍「考えても始まらね−、会えば分かる。そうだろ?」
僧侶「……ああ、そうだな」
645: 以下、
>>>>
それは破壊に違いなかった。
人間も家屋も、街並みの全てが塵となる程の徹底した破壊。
上空から見たそれは明らかに人間の仕業ではなかった。
どれ程の大軍勢を率いてもあれ程の破壊は不可能、何か別の力が働いているに違いない。
土龍がその様を伝えると、僧侶は迷わず杖を振るった。
水龍と風龍、この二龍の命を内包した僧侶はアダマスの杖の力を存分に発揮する。
杖の一振りで町を囲んでいた大軍勢が音のない爆発によって四方八方に弾け飛ぶ。
646: 以下、
磁石の反発を連想させる爆発。
隊列は一気に崩れ、立て直すには相応の時間を要するだろう。
土龍はすぐさま下降、人界の王の下へと僧侶を運ぶ。
倒れ伏す大量の兵士の中にあって、その男だけが悠然と立っていた。
僧侶は目には見えずともその男の異様さを一瞬にして感じ取り、立っている位置さえも正確に把握した。
二龍を受け入れた僧侶は、傍観者だとばかり思っていたその男の本質を見抜いた。
647: 以下、
僧侶「……お前は天使だな」
???「私は龍と共に造り出された界の監視者、裁きを見届け新たな始まりを監視する」
感情のない平坦な声が響く、以前話した王なる人物とはまるで違う。
おそらく人間を演じるように造られたのだろう。
姿だけでなく内から発する生命を幾重にも偽装していたのだ。
それが龍を欺いた力、生命の偽装。
あくまで機会的な応答、事務的な対応で監視者は続ける。
監視者「裁きを行わないのであれば私が行う。本来ならあってはならぬことだ」
648: 以下、
監視者「しかしこれは私の役目ではない」
僧侶「なら何故?何故今頃になって動いた?」
僧侶「オレが何をやろうとしていたのか分かってたんだろ?」
監視者「想定出来る範囲を超えた事態、判断の大幅な遅延」
監視者「裁く者よ、成すべきを成せ」
僧侶「断る。人間……いや、全ての界は裁きから解放されるべきだ」
649: 以下、
監視者「監視者の権限により擬似的な裁きを行う」
宣告した瞬間、眩い光が溢れ出す。
硝子が割れるような音と共に王の体は剥がれ落ち、真白の彫刻が姿を現した。
一切の穢れのない、嫌悪感さえ覚えるような異質の美しさ。
背中から軋みを上げて広がる翼、生命を感じさせない彫刻のような姿。
土龍「……僧侶、兵士が起き上がったぞ!!」
僧侶「遺体を操作する気か!?」
650: 以下、
監視者「散開。人界の裁きを実行せよ」
発した号令と共に命なき兵士達が空を飛び各地へと散っていった。
更には兵士達に殺害されたであろう民間人の遺体までもが動き出す。
僧侶「ッ、ふざけんな!!」
杖を振り地面に張り付けたが徐々にその拘束は緩み、兵士達は命を実行するべく飛び立った。
僧侶は直感的に理解した、純粋に監視者の力の方が優れているのだと。
始まりから幾度もの裁きを経たが、監視者は課せられた任務のみを実行してきた。
感情を持たぬが故に裏切りはない、だからこそ強大な力の所持を許されたのだろう。
651: 以下、
監視者「誤った選択だ」
僧侶「ッ!!」
僧侶「間違ってんのはてめえの方だ!!」
僧侶「訳の分からねえ裁きでどれだけの奴等が泣いたと思う!?」
監視者「行き過ぎた繁栄は望ましくない」
僧侶「何だと?」
監視者「裁きを行わずとも行き過ぎた進歩が界を終わらせる」
監視者「数多の終わりを見てきたが、それだけは変わらない」
652: 以下、
僧侶「……滅ぶ前に滅ぼすってことか?」
監視者「それが最善だと判断する」
勇者「僕は最悪だと思う」
監視者「理解し難い思考だ」
瞬間的に現れた勇者に驚くことなく、監視者はその刃を躱す。
しかし勇者が狙っていたのは監視者本体ではない。
真の狙いは監視者から伸びる『界の糸』。
力の供給、天界との繋がりを斬るべく放たれた必殺の刃。
653: 以下、
監視者「…殲…滅…殲…せ…よ…」
崩れ落ちながら繰り返し発せられる言葉にはやはり感情はなかった。
しかし、それがより一層の不気味さと呪いめいたものを感じさせた。
僧侶「……勇者、お前…」
勇者「炎龍に頼んで強引に飛ばしてもらった」ウン
僧侶「……はぁ」
土龍「無茶すんじゃねーよ、まあ…助かった。オレは何も出来なかったし……」
土龍「まあいいや、それより都は大丈夫なのか?」
654: 以下、
勇者「うん、北の街の人は皆無事に都に移動出来たし大丈夫」
僧侶「……こいつを倒したら兵士も止まったみたいだな」
勇者「本当?」
僧侶「ああ、都にいる炎龍が教えてくれた。勇者、土龍、都へ戻ろう」
勇者「……あれ、何か変な
土龍「なっ!?おい、どうなってる!?」
それは地震などではなく界全体の揺れ
急激に異界の接近が早まった為に起きた現象。
僧侶が杖を振るうも勢いは全く衰えない。
それを見た土龍はすぐさま二人を背に乗せ都へと向かった。
657: 以下、
>>>>>
北東の都 古風な屋敷
僧侶「一旦は落ち着いたみてえだけど次の揺れで最後だ」
警備兵「……行くのか?」
僧侶「ああ、そうしねえと終わっちまうからな」
警備兵「おい、まだ子供と嫁を紹介してないんだ。必ず帰って来いよ」
僧侶「死ぬつもりはねえよ。帰って来たら会わせてくれ」
警備兵「……ああ」
658: 以下、
エルフ「……………」
僧侶「おいおい、黙ってねえで何か言ってくれよ。頑張れとかで良いからさ」
僧侶「オレはこれから世界を救いに行くんだぜ?」ニコッ
エルフ「……必ず帰って来い」
エルフ「貴様が死ぬと娘が泣く、娘を泣かせたら許さんからな」
僧侶「はははっ!」
僧侶「まったく、おっかねえ親父だなぁ……大丈夫!絶対に帰って来るさ!!」
僧侶「じゃあ、行ってくる」
カツンッ…カツンッ…
警備兵「信じて待とう、あいつの帰りを……」
エルフ「……そうだな、我々にはそれしか出来ない」
659: 以下、
>>>>
小さな空き家
孤児「兄ちゃん、どこ行くの?」
僧侶「ちょっと忘れ物を取りに行く、勇者と一緒に大人しく待ってろよ?」
孤児「土龍姉ちゃんと炎龍ちゃんは?」
僧侶「二人と一緒に行くんだ、荷物が多いから手伝って貰う」
孤児「じゃあ、おれも手伝う」
僧侶「うーん、嬉しいけどお前達にはまだ持てないんだ。すっげえ重いからな」
孤児「……そっか、じゃあ待ってる!」
僧侶「よし、偉いな。じゃあ、ちょっと行ってくる」
孤児「うんっ、いってらっしゃい!」
僧侶「ああ、行ってきます」
ガチャ…パタン…
660: 以下、
勇者「……僧侶」
僧侶「悪いな外に待たせて、子供達がいるから中じゃ話せなかったんだ……」
勇者「僧侶、帰って来るよね?」
僧侶「帰ってくるさ」
勇者「待ってるからね?」
勇者「どれだけ時間が掛かってもいい、遅くなっても構わない……」
勇者「だけど絶対帰ってきて?ずっと待ってるから」
僧侶「……ああ、絶対に帰ってくる」
ギュッ…
勇者「僧侶、帰ってきたらーーーーー」
僧侶「……分かった、約束する。じゃあ、行ってくる」
661: 以下、
>>>>
バサッ…バサッ…
僧侶「出来るだけ都から離れた場所に頼む」
炎龍「はい、分かりました」
土龍「あーあ、これで僧侶ともお別れかよ。嫌じゃねーけど……やっぱり嫌だな」
炎龍「土龍、我がままを言わないで下さい」
土龍「だって寂しいじゃねーか!!炎龍は寂しくねーのかよ!?」
炎龍「私はもう告白してきっぱり断られましたから」
僧侶「うっ…そういうこと言うなよ……」
662: 以下、
炎龍「ふふっ、冗談ですよ」
土龍「なあ僧侶、オレは駄目か?やっぱり嫁は沢山いた方が
グサッ!
土龍「いってえ!?この氷…水龍、テメエ!!」
水龍『嫁は一人でいい、私は諦めてはいないからな』
風龍『へぇ、勇者と僧侶が抱き合った時に悔し涙流してた泣き虫がよく言うねぇ』
水龍『黙れ、殺すぞ風龍』
土龍「風龍はどうなんだよ?嫁になりたくねーの?」
風龍『それぞれの家を別々にして住むのはどうだい?殺し合わずに済むだろ?』
663: 以下、
水龍『……確かに、それは良いかもしれないな』
炎龍「はい、私もそれなら大賛成です」
僧侶「……やめてくれ、勇者に殺されるぞ」
土龍「いや、ああ見えて結構懐深いし何とかな
僧侶「ならねえよ!!」
炎龍「残念ながら、お喋りはここまでです」
炎龍「僧侶様、此処が最適な場所だと思われます」
僧侶「……そうか、じゃあ始めよう」
664: 以下、
土龍「うっし!じゃあオレからだな!!」
土龍「僧侶、オレはお前が大好きだ!生まれ変わってもな!!」グイッ
土龍「やってやろうぜ!!皆が生きる未来の為に!!」
ズズズ…カッ!
炎龍「最後は私ですね」
僧侶「炎龍、お前には一番世話になった。色々教えてくれた……」
僧侶「本当にありがとう」
炎龍「お礼なんていいですよ……これが終わったら、また何処かでお会いしましょう」
炎龍「……私は貴方を愛しています」
ズズズ…カッ!
665: 以下、
僧侶「………神よ、これでやっと会えるな」
四龍全てを受け入れた僧侶は空高くに立ち、裁く者へと変化した。
神が人界へ堕とした告発の天使が今此処に姿を現したのだ。
神々しく輝くその姿は人々の想い描く天使そのもの、白き翼を持つ穢れなき反逆者。
彼は天空を見つめ杖を掲げると強く念じた。
「神よ、もう終わらせよう」
神を引き寄せ、神を終わらせる為に……
666: 以下、
この瞬間、全ての界が強く揺れた。
先程の揺れとは規模が違う。
神という凄まじい質量の物体、天界そのものが空を割って姿を現した。
七色に輝き不規則に明滅する球体、彼の眼前にある巨大な卵こそが全界の主。
この七色の卵から全てが生まれたのだ。
今まで繰り返された裁きという名の拘束具、滅ぶ前に滅ぼす装置を創り出した存在。
彼に神を憎む気持ちなどない、神を裁くつもりもない。
これまでの流れを終わらせ、裁きのない新たな界だけを望んでいる。
667: 以下、
「こうなるって分かってたんだろ?」
神からの応答はない、ゆったりと浮かびながら明滅を繰り返すのみだった。
声はなくとも彼は感じていた。
神が何を思うのか、そして何を望み己を造ったのかを……
「ああ、もういいんだ……」
「人々はこれから己の足で歩んで行くだろう」
「だが貴方を忘れはしない、貴方を憎みはしない」
「もう彼等に管理は必要ない、ただただ見守ろう」
「さあ、殻に閉ざされた世界を終わらせて幕を引こう……」
「貴方が、この世界を愛しているのなら」
卵は脈動を繰り返し、殻は遂に割れた。
膨大な神の欠片、七色の輝きが全ての界に降り注いだ。
それを追うように彼も光の粒となり、神と共に数多の界へと旅立った。
あるべき物をあるべき場所へ戻しながら、彼と神は長い長い旅に出たのだ。
新たな始まりを見つめ、生きとし生けるもの全てを見守る為に……
668: 以下、
>>>>
小さな教会
孤児「なあ姉ちゃん、兄ちゃんはいつ帰ってくんのかなぁ」
勇者「随分遠い所に行ったからね、帰ってくるのはまだ先だよ」
勇者「それより明日から都に住むんでしょ?支度はしたの?」
孤児「した。でも何か嫌だな、警備兵のおっさん怖いしさあ」
勇者「これからお世話になる人をそんな風に言っちゃダメ」
孤児「はいはい、つーかさぁエルフの姉ちゃんはいつ来るの?」
669: 以下、
勇者「都に行ったら会えるでしょ?」
孤児「親父さんが怖くて近づけねーんだよ!!確実に弓で射られる!!」
勇者「まあ、あんたがいくら頑張っても無理でしょうね」
勇者「あの娘は今でも僧侶が大好きなんだから」
孤児「世界一の美女も四龍の姉ちゃん達も、みーんな兄ちゃんが好きなんだもんな!!」
孤児「何だよ、ちょっと格好いいからって全世界の美女を独り占めにしちゃってさあ!」
勇者「………………」
670: 以下、
ゴンッ!
孤児「いってえな!!」
勇者「世界一の美女は私、それは変えようのない事実」ウン
孤児「はいはい、そうでしたね。ごめんなさい」
孤児「……全く、兄ちゃんも格好付け過ぎなんだよな」
孤児「お前達にはまだ持てない、かなり重いんだ。とか言っちゃってさ」
勇者「……友達と約束してるんでしょ?早く行きなさい」
孤児「あっ、そうだった!じゃあ行ってきます!!」
ガチャ…バタンッ!
勇者「はぁ、扉は静かに閉めなさいって言ってるのに……」
勇者「でも、あの子が行ったら寂しくなるなあ。一人になっちゃうし」
ガチャ…
勇者「忘れ物でもしたの?まったく……」クルッ
僧侶「……遅れてごめんな」
僧侶「大事な忘れ物を思い出すのにちょっと時間掛かっちまった」
671: 以下、
終わりです。ありがとうございました
672: 以下、

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