提督「空母水鬼のいる街角」back

提督「空母水鬼のいる街角」


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1:
黄色いまん丸な満月が大きい秋夜。
人通りもまばらに、街灯もぽつぽつと暗がりを挟み込む路。
空母水鬼は揚々と鹿爪らしく歩いていた。
「深海棲艦も陸上歩行ができるのですか」と浜風が聞く。
当たり前である。足が歩くためにあるというのは艦娘だろうと深海棲艦だろうと同じである。
「なるほど。私たちは一致しています。私たちは椅子や机なんかよりかは近い存在なのでしょう。彼ら道具は歩きませんから」
2:
自動販売機があった。プラスチックの型が並び、それらは白くライトアップされていた。
「空母水鬼、あなたはきっとブラックコーヒーをお飲みになるのでしょうね」浜風は光が届かず影になる位置から囁く。
なぜコーヒーなのか、空母水鬼の色合いを眺めて判断したようだった。
空母水鬼は特別飲み物にこだわりを持たなかったけれど、そう断定されると反抗したい気にもなった。
色合いだけならば、別に白いカルピスでも良いじゃないか。ダメです、ブラックコーヒーを飲んでください。
「何です。苦いのは少し苦手ですか。分かりました。空母水鬼、あなたはブラックコーヒーを飲んでください」
3:
なるほど私たちの関係はこうなのかと思った。空母水鬼は非常に納得したので、ポッケからがまぐち財布を取り出し小銭を漁る。
硬貨を数枚投入するとボタンが光った。オレンジジュースのボタンを押してやる。浜風が不服そうに声をあげた。
空母水鬼は浜風に対して勝ち誇った笑みを向けてやる。私の自由は何者にも侵害されないのだぞという強い意志の現れもあった。
得意げに取り出し口から缶を手に取ると、それは青色をしたスポーツドリンクであった。
空母水鬼も浜風も目をパチクリして、しばし互いを見合った。
浜風が嬉しそうにして、空母水鬼を押しのけ、今度は自分が自動販売機の前に立った。
4:
硬貨を投入すると、これみよがしに左手の人差し指を強調し、得意げにグレープジュースのボタンを押す。
スポーツドリンクが出てきた。
浜風は羞恥のためか親しげな照れ笑いを浮かべた。
空母水鬼は彼女のことを笑っても良かったが、手袋越しにも冷たいスポーツドリンクがそれを許さなかった。
これはいったいどういうことなのか。この意図せぬスポーツドリンクを共有したのが浜風であるということが事態を複雑にしていた。
同じ深海棲艦仲間であるならば、単なる笑い話で済むことであった。しかし、相手はブラックコーヒーをわざわざ勧めてきた浜風だ。敵対関係上に生まれた共感。
5:
別にスポーツドリンクが嫌いなわけじゃない。スポーツドリンクだって白っぽいのだから空母水鬼の色合い的にも合っている。
それは浜風も同じである。浜風もスポーツドリンクっぽい色合いなのだから、彼女がスポーツドリンクを飲むことにそう人は違和感を覚えないはずだ。
空母水鬼も浜風もその色彩性質上においてスポーツドリンクを嫌う理由はない。だからといって、今二人の持つ二本のスポーツドリンクを肯定する気にもなれなかった。
何かを飲みたいという気分が阻害されたという話でもなかった。
空母水鬼は確かにオレンジジュースを選んだが、別にオレンジジュースを飲みたいわけでもなかった。だから、オレンジジュースの気分をスポーツドリンクによって阻害されたとは言い難い。
選択はただ浜風の勧めたブラックコーヒー以外なら何でも良かった。
6:
手元にあるのはスポーツドリンク。結果的に目的は果たされている。しかし、釈然としない。
何もかもはオレンジジュースを選んだらスポーツドリンクが出てきたという因果の捻れにあった。
機械の戯れによって、空母水鬼による浜風へのレジスタンスは中途半端に完遂されてしまったのだ。
厄介なのは、空母水鬼の様を見て浜風が己の立場上の優勢さを誇示しようと自動販売機に挑んだことである。
結局、浜風の意図も完結することはなく、スポーツドリンク。
まだ空母水鬼だけだった頃は偶然で片付けられた事件が、浜風もとなると、もはやスポーツドリンクは運命的必然性の輝きを帯びてきて、人間意志の限界を嘲笑っているようでもあった。
7:
空母水鬼も浜風も今や一台の自動販売機の前に一本ずつスポーツドリンクを携え無力感に支配されていた。
親しみのある仲間であったら、この運命の奴隷という共感でもってこの事件を笑い飛ばせばいい、しかし浜風だ、この敵ながらも同じ傷の痛みを背負った者に対してできることは限られていた。
空母水鬼は再び自動販売機の前に立つ。「また挑むというのですか」。そうだ、挑まなければならない。
硬貨を投入して、ボタンを光らせる。選択するものは、ブラックコーヒー。
浜風が感嘆の声をあげる。しかし、その声音には空母水鬼を己の傀儡にしてやったぞという束縛への満足ではなく、ただそうか空母水鬼の心意気はそうなのかと純粋な観測からの充足があった。
空母水鬼にしても、この悪魔的自動販売機から自由を勝ち取るためには敵性浜風の選択に己を委ねることも辞さなかった。
8:
青いスポーツドリンク。運命はやはり残酷であった。
この現実に関して彼女達は何を考えるべきであったのだろうか。
空母水鬼にしてみれば後悔するべきであったかもしれない。もし、己が浜風の言うことを初めから素直に聞いておけば、ブラックコーヒーを飲ませようとした浜風の意図のみが挫かれることになっただろうから。
浜風はだから安堵するべきであったかもしれない。命令に従わせてまでブラックコーヒーを選ばせたのに、それがスポーツドリンクとなっては、情けなさも極まるだろうから。
空母水鬼は後悔、浜風は安堵、これこそ現状に対する彼女達のしかるべき精神状態であったことは二人共なんとなしには理解した。
しかし、彼女達には後悔も安堵もなかった。これら期待された精神状態というのは、あくまで自動販売機への選択前に予期されたものに過ぎなかったのだ。
9:
既にスポーツドリンクを共通のものにした二人にとっては、ブラックコーヒーがスポーツドリンクになるという事態は、いささかも敵対戦略的な思考には結びつかなかった。
あらゆる選択が一つの結果に収束するという惨めな運命、それにからめとられてしまったという仲間意識が芽生えつつあった。
浜風が空母水鬼の前に出た。自動販売機への挑戦である。
もう艦娘だろうと深海棲艦だろうと関係ない。私たちはただの兵器ではない、自動機械ではない、それ以上のものだ。それを全艦娘全深海棲艦の尊厳を賭して証明しなければならない。
硬貨を流し込んだ浜風が選んだものは、スポーツドリンクだった。
逆転の発想だ。今まではスポーツドリンク以外を選んだからスポーツドリンクになったのであって、スポーツドリンクを選んだのならばスポーツドリンク以外が出てくるのではないか。
10:
結末はスポーツドリンクだった。
青いスポーツドリンクの缶。それを見た時、空母水鬼も浜風も挫折を味わった。
確かに浜風がスポーツドリンクを選択する場面だけを考えてみれば、浜風がスポーツドリンクを選ぶとスポーツドリンクが出てくるというのは完璧な日常風景であり、浜風の意志は完遂されているように見える。
しかし、彼女達に最後の止めを刺したのはまさにこの「あたかも自由になった」という事実であった。
普段はこれこれを選んで飲むと言うけれど、その実、空母水鬼も浜風もオレンジジュースやグレープジュースはおろか、嫌がらせのブラックコーヒーをさえ選ぶ能力を欠いているのではないか。
自由に選択したとは思っていても、その実、何か見えざる意志と偶然一致しただけではないのか。
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