ヒルメス「アンドラゴラスの小倅めに呪いを掛けろ」back

ヒルメス「アンドラゴラスの小倅めに呪いを掛けろ」


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3:
魔道士「……呪いとな?」
ヒルメス「そうだ」
ヒルメス「アトロパテネの時の様な、大掛かりな魔術でなくとも良い」
ヒルメス「今のお主ででも出来る 呪いを奴に掛けてやれ」
魔道士「…………」
魔道士「……よかろう」
魔道士「だが、掛ける呪いは こちらの裁量に任せてもらうが?」
ヒルメス「軽い物では、こちらの溜飲も下がらぬ」
ヒルメス「できれば日常生活にも困る物を頼む」
魔道士「わかった」
34:
ヒルメス「ふん……」
  ザッ ザッ ザッ…
魔道士「…………」
弟子「……尊師。 よろしいので?」
魔道士「良い。 ちょうど試してみたい呪いがあったのでな」
弟子「左様でしたか」
弟子「準備は? 何を用意致しましょう?」
魔道士「女子(おなご)の身に付ける下着を用意せい」
弟子「…………」
弟子「……すみませぬ、尊師。 今一度おっしゃってください」
魔道士「女子(おなご)の身に付ける下着だ。 使用済みであれば なお良い」
魔道士「用意せい」
弟子「……御意」
35:
―――――――――――
ペシャワール城
ルーシャン「――となりまして」
ルーシャン「いささか時間をいただきたいのです」
アルスラーン「ふむ……」
アルスラーン「ナルサス、少々予定が遅れるが問題はないだろうか?」
ナルサス「はい。 このくらいならば予測の範疇(はんちゅう)にございます」
アルスラーン「では、その様に取り計らってくれ、ルーシャン」
ルーシャン「はっ。 ありがとうございます」
アルスラーン「うむ」
36:
アルスラーン「他に議題はあるだろうか?」
  …………
アルスラーン「では、本日の会議は終了とする」
アルスラーン「解散」
  ゾロ ゾロ ゾロ…
アルスラーン「ふう……」
ダリューン「お疲れ様でした、殿下」
アルスラーン「ダリューン」
アルスラーン「この程度で疲れていては、王(シャーオ)などには成れぬ」
アルスラーン「とは言え……まだまだ、という気がするが」 クスッ
ダリューン「大丈夫でございます、殿下」
ダリューン「なあ? ナルサス」
37:
ナルサス「まったく……お主は過保護にすぎる」
ナルサス「たまには殿下をお諌(いさ)めするのも臣下の務めだぞ?」
ダリューン「もちろん心得ている」
ダリューン「俺は自分の思った事、言った事に偽りなどないぞ」
ナルサス「やれやれ……」
ダリューン「おい、ナルサス」
アルスラーン「ナルサス、そのくらいで良いだろう」
アルスラーン「私の事でケンカなどしないでくれ」 クスッ
ダリューン「め、滅相もございませぬ」
ナルサス「分かっておりますとも、殿下」
38:
アルスラーン「では……少し早いが」
アルスラーン「皆で食事を……」
  フラッ…
ダリューン「!」
ナルサス「!」
  ガシッ!
ダリューン「殿下! 大丈夫ですか!?」
アルスラーン「す、すまない、ダリューン」
アルスラーン「たぶん立ちくらみだろう。 大丈夫だ」
ダリューン「そ、そうですか……なら良いのですが」
アルスラーン「うむ。 つまらない事で心配をかけた」
アルスラーン「本当にもう大丈夫。 一人で歩けるから」
ダリューン「はっ……」
アルスラーン「では、食事を取ろう」
39:
―――――――――――
エラム「あ、殿下。 それにナルサス様、ダリューン様」
アルスラーン「エラム。 少し早いが、食事にしようと思って来た」
アルスラーン「構わないだろうか?」
エラム「ええ、もちろんいいですよ」
エラム「少々お待ちください」
アルスラーン「すまないな」
ダリューン「メニューは何になる?」
エラム「良い鴨肉が手に入りましたので、それのシチューを」
エラム「それとパン、良ければチーズも付けましょうか?」
ダリューン「頼む」
40:
アルフリード「んー! いい匂い」
アルフリード「美味しそうだね!」
エラム「出たな女狐」
アルフリード「いいじゃない。 食事の時くらい大目に見なさいよ」
アルフリード「ねーナルサス!」
エラム「このっ……!」
アルスラーン「ま、まあまあ、エラム」
アルスラーン「そのくらいで……」
  ズルッ
アルスラーン「うわっ!?」
アルフリード「へっ?」
  ドササッ!!
41:
ダリューン「で、殿下!?」
ダリューン「大丈夫で……」
ダリューン「」
アルスラーン「むぐぐっ」
アルフリード「痛た……んっ!?」///
ナルサス「」
エラム「」
アルスラーン「もがもがっ!(ど、どいてっ!)」
アルフリード「やんっ! な、何で殿下がそんなところに顔をっ!?」///
ダリューン「と、ともかく! どくんだ、アルフリード!」
アルフリード「は、はいっ」///
42:
アルスラーン「……ぶはっ!!」
アルスラーン「はあっはあっ……」
アルスラーン「し、死ぬかと……思った……」
アルフリード「……っ」///
エラム(いい気味だ……と、思えない程の事故だった……)
ナルサス(殿下が足を滑らせた、と思ったら)
ナルサス(アルフリードの履いているズボンに手が引っかかり、それを下着ごと脱がし)
ナルサス(なおかつ、彼女の股間に顔をうずめる様に倒れこんでしまうとは……)
ダリューン(器用……というより、狙ってもできん芸当だ……)
アルスラーン「す、すまない、アルフリード……」
アルスラーン「怪我は無いか?」
アルフリード「なっ!? ちゃ、ちゃんと生えてますよ!!」///
アルスラーン「え? 生えている?」
43:
ナルサス「お、落ち着くんだ、アルフリード」
ナルサス「ともかくファランギース殿のところに……」
ファランギース「……何の騒ぎじゃ?」
ギーヴ「何か催し物でもやってるのか?」
ナルサス「おお、ファランギース殿。 良いところに来てくれた」
ナルサス「事情は後で。 とにかくアルフリードを……」
アルスラーン「私からも頼……」
  ズルンッ!
アルスラーン「わわっ!?」
ファランギース「っ!?」
  ドササッ!!
44:
ダリューン「」
ナルサス「」
エラム「」
アルフリード「」
ギーヴ「」
アルスラーン「ふががっ!?」 ジタ バタ
ファランギース「っ!」 ビクンッ!
ファランギース「なっ、で……殿下っ……」///
ファランギース「!?」
ファランギース(この気配……もしや!)
ギーヴ「何て羨ま……もとい、大変な事態に!」
ギーヴ「今、お助けしますぞ! 殿下!」
45:
ファランギース「待て」
ギーヴ「いやいや、この状況。 一人では何とも出来ま」
ファランギース「待てと言っておろう」
  ドゴォッ!
ギーヴ「ヘボォッ!?」
ナル・ダリ・エラ・アル(安定のギーヴ……)
ファランギース「殿下」
ファランギース「慌てず、落ち着いて、大きく息を吸ってくだされ」
アルスラーン「ふが?」
  スー…
ファランギース「今度は、ゆっくり吐いて……」
  フゥー……
46:
ファランギース「……ふむ」
ファランギース「そのまま……ゆっくりと目を閉じ、身をお引きくだされ」
アルスラーン「あ、ああ……」
  スッ…… ススッ
アルスラーン「……これで良いだろうか?」
ファランギース「しばらくそのままで……」
  サッ ササッ…(服を整え)
ファランギース「……では、目を開けてくだされ、殿下」
アルスラーン「う、うむ……」
ファランギース「…………」
ファランギース「殿下、しばらくその姿勢のまま、地面に座り込んでいていただきたい」
アルスラーン「……? 分かった……」
47:
ファランギース「ナルサス卿、ダリューン卿」
ダリューン「む?」
ナルサス「……何か問題が?」
ファランギース「おそらく、殿下は”呪い”を受けておる」
ダリューン「呪い……だと?」
ナルサス「魔導の類(たぐい)か?」
ファランギース「うむ……」
ファランギース「何度か祓いの義を行って来た事がある故、気づけたが……」
ダリューン「……どの様な禍いが起こるのだ?」
ファランギース「あまり口にしたくなのじゃが……」
48:
ファランギース「これはユウ・キーリトという呪いじゃろう」
ファランギース「この呪いを受けると、女性(にょしょう)の大事な部分に」
ファランギース「本人の意思とは無関係に顔をうずめてしまう様になるのじゃ」
ダリューン「…………」
ナルサス「…………」
ダリューン「……何か、くだらない事の様に感じるのだが」
ファランギース「この呪いは場所や時間を選ばぬ」
ファランギース「公務や謁見の場など、相対した姫君相手ですら例外なくそうなるのじゃ」
ナルサス「ならば、対処として女性(にょしょう)を近づけぬ様にすれば良いのでは?」
ファランギース「……この呪いの恐ろしいところは、な」
ファランギース「触られた女性(にょしょう)の……気分を高揚させてしまう効果がある」
ファランギース「女性(にょしょう)の方から無意識に近づいてしまうのじゃ……」
ダリューン「段々と恐ろしさが分かってきた……」
ナルサス「このままでは日常生活すら危ういな……」
49:
ギーヴ「なんと羨ま……もとい、危険な呪いがあったものか!」
ギーヴ「代われるものならば、このギーヴ。 ぜひ代わって差し上げるのに!」
ファランギース「……お主の存在の方が余程危険じゃ」
ファランギース「殿下、少々お時間をくださいませ」
ファランギース「すぐにでも祓いの儀式を準備致しましょう」
アルスラーン「う、うむ。 頼む、ファランギース」
ダリューン「では、俺は殿下をお部屋までお連れしよう」
ナルサス「それがいい」
ナルサス「儀式が終わるまで、食事を殿下のお部屋へお運びしましょう」
ナルサス「エラム、頼めるか?」
エラム「はい、ナルサス様」
50:
アルスラーン「みな、苦労をかけるな……」
ナルサス「いえ。 殿下のせいではございま……」
ナルサス「!」
ファランギース「ナルサス卿?」
ナルサス「……そうだ」
ナルサス「少々バカバカしいが、この呪いを使った者に仕返しが出来るやもしれぬ」
ギーヴ「どんな方法だ?」
ナルサス「ファランギース殿、少々待ってくれ」
ナルサス「ギーヴ。 お主にも手伝ってもらいたい」
ギーヴ「……?」
51:
―――――――――――
ヒルメス「これはどういう事だ!?」
魔道士「……騒々しい奴よ」
魔道士「いったい何事か?」
ヒルメス「アンドラゴラスの小倅めが、奇妙な呪いにかかったが」
ヒルメス「逆にそのおかげで、美女を侍(はべ)らせておると報告があったのだ!」
魔道士「……ほう」
ヒルメス「説明しろ!」
―――――――――――
魔道士「……という呪いだ」
ヒルメス「」
52:
ヒルメス「貴様ァ……誰がそんな まー○ゃん先輩の様な呪いを掛けろと言った!?」
魔道士「メタ発言とは らしくないの、ヒルメス」
ヒルメス「黙れ!」
ヒルメス「もうよい! その様な呪いなら要らぬ!」
ヒルメス「即刻やめよ!」
魔道士「……分かった」
魔道士「では、他の呪いを試すか?」
ヒルメス「……くだらぬものなら殺すぞ?」
魔道士「簡単に説明するのならば、所構わず女子(おなご)に殴られる、というものだ」
ヒルメス「…………」
ヒルメス「先のモノよりはマシか……」
ヒルメス「よし。 やるがいい」
53:
―――――――――――
ダリューン「殿下。 体調の方はいかかですか?」
アルスラーン「うむ。 それは問題ない。 が……」
アルスラーン「自分が美女を侍(はべ)らせている、などという噂を広められるのは」
アルスラーン「呪いのせいに出来るとしても気持ちのいいものではないな……」
ダリューン「後でナルサスめを懲らしめておきます」
アルスラーン「それにギーヴ」
アルスラーン「本当に呪いを代わってもらって良かったのだろうか……?」
ダリューン「本人が望んだのですから、構わないでしょう」
ダリューン「それにしてもファランギース殿は有能ですな」
アルスラーン「ああ。 本当にありがたい」
54:
ギーヴ「おおっと!」
  ズルンッ!
女官「きゃあっ!」///
ギーヴ「いやぁすまぬ。 これも呪いのせいでなぁ」
  サワサワ
女官「んっ……! はっ……んんっ……!」///
ギーヴ(ふふふ、何と都合の良い呪いだ!)
ギーヴ(事情は説明してあるし、何もしないでも勝手に向こうから美女がやってくる!)
ギーヴ(これほどの役得があろうものか!)
ギーヴ(女性(にょしょう)を知らぬとはいえ、アルスラーン殿下も惜しげ無いものよ)
ギーヴ(……だが、ひとつ心残りなのは)
ギーヴ(ファランギース殿に警戒されて近づいてこぬ、という事)
55:
ギーヴ(……夜、寝所へ忍び込んでみるか?)
ギーヴ(今ならばこの呪いの効果で、いかなファランギース殿といえど)
ギーヴ(抗うのは容易では無いはず)
ギーヴ(…………)
ギーヴ(ふふふ……どうやらこのギーヴ)
ギーヴ(いよいよ身命を賭してやる事が出来た様だな……!)
  …クラッ
ギーヴ「おっ……?」
ギーヴ「…………」
ギーヴ(今……多少目眩がしたような?)
ギーヴ(まあ、いいか)
56:
女官「……あの」
女官「早くどいてくれませんか?」
ギーヴ「おお、これはすまぬな」
  ススス…
ギーヴ(……あれ?)
ギーヴ(いつもならもっと約得な出来事が起こるのに……?)
女官「ふう……」
ギーヴ「いやはや、災難であったな」
ギーヴ「どれ、着付けを手伝って……」
  バシッ!
ギーヴ「へブァッ!?」
女官「それでは、失礼します」
ギーヴ「…………」
57:
―――――――――――
  バゴォッ!
ギーヴ「ハギャアッ!?」
踊り娘「あっ!? ごめんなさい!」
踊り娘「練習していて気がつきませんでした……」
ギーヴ「い、いや、大丈夫だ。 ははは……」
―――――――――――
  ゴインッ!
ギーヴ「ブゲェッ!?」
給仕娘「ちょっとー気をつけてよ」
ギーヴ「す、すまん……」
―――――――――――
  ドゴォッ! バグンッ!
58:
ファランギース「…………」
  ドンッ ドンッ!
ギーヴ「ファ、ファランギース殿!」
ファランギース「……何をしに来た」
ファランギース「私の部屋には近づくなと言っておいたはずじゃ」
ファランギース「その扉を開けた瞬間に切るぞ?」
ギーヴ「わ、分かっている!」
ギーヴ「だが、どうにも様子がおかしいんだ!」
ファランギース「……聞くだけは聞いてやろう」
―――――――――――
ギーヴ「という訳で、何故か女性(によしょう)から痛い目に合わされるんだ!」
59:
ファランギース「ふむ……」
ファランギース「少し待て」
ギーヴ「あ、ああ……」
―――――――――――
ファランギース「原因がわかったぞ」
ギーヴ「! そ、それは!?」
ファランギース「お主に新しい呪いが掛けられたせいじゃな」
ギーヴ「」
ギーヴ「新しい呪い!?」
ファランギース「うむ。 殿下には魔除けを持たせておるし」
ファランギース「どうやら敵は呪いを掛けている者を辿って、かけ直した様じゃ」
60:
ギーヴ「ど、どんな呪いなんだ?」
ファランギース「お主から聞いた出来事を鑑みると、おそらく」
ファランギース「ワンサ・マーという呪いであろう」
ファランギース「理由もなく女性(にょしょう)から理不尽な暴力を受けるという呪いじゃ」
ギーヴ「」
ギーヴ「そ、そんな!?」
ギーヴ「ファ、ファランギース殿! さっそく祓いの準備をしてくれ!」
ファランギース「今日はもう遅い」
ファランギース「それにナルサス卿に伝えてから判断しなければな」
ギーヴ「」
ギーヴ「ファ、ファランギース殿!?」
ファランギース「今日くらい我慢するがよかろう。 すぐに死ぬという呪いでもないのでな」
ギーヴ「ファ、ファランギース殿ぉぉぉっ!!!」
61:
  結局
  ギーヴの呪いが解かれたのは3日後だった。
  以降はアルスラーン以外も魔除けを所持し
  こうして、呪いの騒動は収まった。
  ヒルメスが魔道士のところへ
  怒鳴り込みに行ったのは言うまでもない。
  終わり!
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