提督「深雪、夏の太陽に照らされ淡雪を知る」back

提督「深雪、夏の太陽に照らされ淡雪を知る」


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1:
真夏の透明な日差しが特に強い日のこと。
入道雲が山を覆っていた。
冷房の効いた部屋の窓からみると、その緑白青の縞模様は爽やかで涼しげな情景であった。
深雪は畳張りの執務室で腹を出してうちわ片手に大の字に横たわっていた。
何をするでもなかった。聞こえてくるものといえば、一本調子の扇風機の羽音に情熱的な蝉の鳴き声。
大きく開いた窓には風鈴がぶら下げられており、時たまチリンと奥ゆかしく鳴いた。
2:
深雪はしめったシャツの襟をつまんで胸元をはだけさせ換気を試みた。
執務室のクーラーは壊れていた。修理に出したいのは山々だが、あいにくこの部屋の責任者は夏の休暇で今は不在。
間が悪かったのだ。
有事に備えて誰か一人は鎮守府に残らなければならなかった。
深雪はくじ運も悪かった。
実際のところ今の深雪には部屋のクーラーを修理するぐらいの権限はあった。
3:
ただそのためには幾らかの書類をまとめなければいけなかった。
深雪は暑さに耐える道を選んだ。
この任務はまだ長く続く。合理的に考えれば、少しの面倒をして、あとは快適な暮らしを実現するべきだった。
しかし、深雪はその面倒を数日間先延ばしにした。すると今度は今更それをするぐらいならば、暑さに耐えたあの数日は無駄になってそれは損だという損得勘定に囚われた。
そうしてずるずると生活をしていたら、もはや引き返すことのできない気分になっていた。
クーラーなんかに頼らず暑さを乗り切ってやる! 深雪はそう強く覚悟を決めた。
4:
負けたくない一心であった。何に負けたくないのかは深雪自身にもわからなかった。
深雪は熱が寄ってたかって自分のことをいじめているんじゃないかと考えた。
この部屋以外は実は涼しくて暑さに喘いでいるのは自分だけじゃないかと。
深雪は余りの熱量に煙を吹いてショートする電気回路を思い浮かべた。
深雪は頭がボーっとしてきていた。暑さで奪われた体力を補おうとする睡魔のためであったが、深雪は睡魔とは捉えなかった。
ああ、自分はあの電気回路と同じ末路を辿るのだ。頭が今にも焼ききれるのだと深雪は思った。
5:
吹き出た汗が目の中に入ってきてしょぼしょぼしたが、それでも瞼は静かに閉じていった。
物と物の境界がぼやけ、夢か現か、過去と現在の区別も夏の太陽の下で歪んで消えた。
深雪がここに来た時はまだ艦娘は一人しかいなかった。
深雪は二番目の艦娘だったのだ。
先輩にあたる唯一のその駆逐艦電に、最初深雪は余り関心を抱かなかった。
なよなよしていて頼りないなと思った程度だった。
6:
夏の鎮守府とはいえ、まだ二人しかいないのだから、ひっそりとしたものであった。
深雪は早起きとは縁がなかったが、暑さで起きてしまったことがある。
水でも飲もうと共同スペースに降りていき、そこで電と鉢合わせてしまった。
彼女は毎朝のランニングが終わったところであって、かいた汗を拭いながら牛乳を飲んでいた。
全くの他人ではないが、打ち解けてもいない相手との遭遇は深雪に気まずい思いをさせた。
電は特に何とも思っていないらしい。沈黙には慣れている様子であった。
7:
しかし、深雪はこうした沈黙が苦手な性分であった。相手からというのは期待できない。深雪から話しかける他はない。
牛乳が好きなのかと尋ねると「なのです」と返ってきた。そして、成長して素敵な女性になることを目指しているとも教えてくれた。
深雪のすっきりしない表情を見てか、慌ててそれは姉の影響なのだと付け加えてきた。
深雪は淑女やレディーといったものに対して形式ばった印象をもち、それを目指すのは良いとこのお嬢さんと考えていたのであって、自分には何の関係もないことだと感じていた。
昼下がりに紅茶を嗜んで、詩をそらんじたりする。それが上品気品といったものらしいが、それの何が楽しいのか深雪にはわからなかった。
深雪は電の話が実感できず、どう返せばいいのかと迷っていた。それを彼女は深雪の気分を害したと考えたらしく、しおらしく俯いたのだった。
8:
深雪は電とは仲良くすることはできないと諦めていた。性格も反対だし、会話もすれ違い、息が合わない。電とはそういうものだと考えていた。
しかし、予想だにしない転機というのはどこにあるのか分からないからこそ予想だにできないのだ。
深雪は廊下の角で電とぶつかった。彼女は勢いよく走っていたので、深雪は倒れた拍子に足首を挫いてしまった。
電は慌てて深雪を助け起こし医務室に連れて行こうとした。深雪が大したことはない、それより急いでいるなら用事を片付けにいけと言っても頑なに首を振るばかり。
電の強情さに多少面食らった深雪だが、確かに足は痛かったので大人しく指示に従うことにした。
電はテーピングや包帯を持ってせわしなくテンパっていた。入渠すればすぐに治るんじゃないかと深雪は思ったが、そのあたふたする様子が見ていて面白かったので黙っていた。
9:
深雪の足は包帯でぐるぐる巻きになった。
まるでミイラみたいだと感心している深雪の横で電は深刻そうにしゅんと落ち込んでいた。
その姿を見てまた面白くなった深雪は電を冗談交じりになじってみた。普段の深雪なら彼女にそんな軽口を言わなかっただろうが、その時はなんせ加害者として電が落ち込んでいたのだ。
多少気が大きくなって慎重さを欠いた口調になるのは自然なことだった。
電は顔を真っ赤にして、いつもならこんな応急処置は間違えないと手をばたつかせてきた。
想像以上に面白い反応を示したので、深雪はおや? と思った。ならばと、次は入渠うんぬんについての話をしてみた。
10:
最初はきょとんとしていたが、すぐさま今まで以上に朱を濃くして、何か言葉にならないことをしきりに訴えてきた。取り敢えずどうにかして足をミイラ化させたことに理由を与えようとしているらしい。
深雪はまた反論した。意地悪からではなく、ただ余りに支離滅裂な話しぶりなので思わず突っ込んでしまうといったように。すると、また電は赤面する。また深雪が反論する。
包帯から怪我の話へ、怪我から戦闘の話へ、戦闘から休息の話へ、休息から趣味の話へと話題はどんどん逸れていった。
はたと気づく。いつの間にかとても親密に電と話し合えているという事態に。
深雪は電との付き合い方に察しがついた。こちらから少し強引に踏み込んでやればいい。そうして衝撃を与えてやると、スーパーボールみたいにポコポコとひとりでに跳ね続け話が弾む。
生き生きしだした電との会話は愉快なものだった。予想できそうで出来ない方向へ移っていく。気がつけば医務室の窓の外は暗くなっていた。
11:
一度親しく会話をしてしまえば、艦娘が二人しかいない鎮守府において、急に仲が深まるのは至極当然であった。
そこには安堵感もあった。今までは険悪な関係とまではいかないまでも、互いに距離を測りかねているような、剣の間合いを詰め合うような独特の緊張感があった。それが解消されたのだ。肩の荷をやっとおろせた気分だった。
むろんそうした消極的な喜びだけではなく、電との交友関係の楽しさという積極的喜びもあった。ほとんど一日中行動を共にした。今までは出撃ぐらいでしか顔を合せなかったのが、食事の時も自由時間の時も場合によっては就寝の時も一緒にいた。
しかし、鎮守府にいつまでも二人だけしか艦娘がいないということはありえない。そのうち建造された艦娘達が多くやってきた。
他の娘と話す機会が多くなったので、電とは以前のように一日中一緒になることはなくなった。
それで深雪は電との関係がなくなるとは思わなかったが、懸念をぬぐい去ることは出来なかった。深雪は電にカブトムシを捕まえに行こうと誘った。夜にこっそり抜け出して裏山の木々を見て回るといった計画だった。
12:
電は当初呆れた表情を見せた。女の子が昆虫採取に勤しむのはどうなのかと。別に深雪だってカブトムシが欲しかったわけではない。ただ電と何かを共有したいと思っただけなのだ。
深雪はカブトムシより「夜にこっそり抜け出す」という魅力に重点を置いて説得してみた。すると電は目を輝かせ始めた。やはり淑女といえど秘密裏の行動には憧れを抱いているらしい。
懐中電灯に虫あみと虫除けスプレーを準備した。別にカブトムシ自体が目的ではないのだから、この準備も必要はなかったのだが、ただ単に「こっそり抜け出す」よりかは、「カブトムシのためにこっそり抜け出す」と理由があったほうが、電もその誘いに乗ってくれるのだった。
電からしてみれば、ただ抜け出すことに賛同するよりは、深雪がどうしてもカブトムシが欲しいっていうから「仕方なく」付き合って抜け出してあげたと考えた方が実行に抵抗がなかったのだ。
深雪からしてみれば、「この年になってまだカブトムシを欲するなんて、しょうがない人なのです」と不本意ながらも評価されてしまうことになるのだが、まあこれぐらいの道化を演じるのはむしろ楽しみである。
裏山への潜入は簡単であった。弱小鎮守府だから警備も緩かったのだ。もちろん正門には警備がいるが、裏山方面には注意がなかった。
13:
裏山はなだらかであったから、懐中電灯の光で足元を照らしておけば安全であった。また鎮守府の場所はすぐに把握できたので迷う心配もなかった。
いつでも帰れるという安心感があると、冒険心は限りなくなり、どんどんと歩を進めていく。電との会話のペースはゆったりしたものであったが楽しかった。
時折光の差さない森の暗闇に何か悪霊がいるのじゃないかと思って、半分肝試し気分も味わえた。幽霊を恐れたのか蛇の可能性に恐れたのかはわからない。
程よい暗闇と程よい暑さに程よい運動。二人共気分が良くなっていた。歩いた距離も正確に判断できないものだから、疲れも感じなかった。
陽気な探検団の視界は急に開け、星空のドームに照らされた草原に出た。柔らかい草は風に揺れた。
二人はそこで仰向けに寝転んでみた。どちらかが提案したわけでもなかったが、何となく寝転ばなければ損だという思いに駆られたのだ。
14:
星空が綺麗だ。深雪は素朴にそう思った。横で電はあれが夏の大三角形であれが射手座でと説明していた。深雪にはそれに何の意味があるのか理解できなかった。いるか座と矢座なんて小さくて同じものにしか見えなかったのだ。
深雪が少しうんざりして、星座なんて知っていて楽しいのかと聞いてみたら、「星座を知っておくと目立たない小さな星までちゃんと見えるようになるのです」と言われた。
なるほどそういうものかと思った。電は如才なく深雪が少し感心したのを察して星座を学んでみないかと提案してきた。
深雪は渋った。座学なんて面倒だった。電は座学ではないと言って、知れば楽しくなるからと譲らなかった。そうだった、電は時折強引になるのだったと思い返して、結局深雪は電に教えを請うた。
電は熱心に教えてくれた。もともとそういう教えるということが好きな娘であった。深雪も座学の課題で分からないところをしばしば電に教えてもらっていた。
しかし、いくら電の言葉が分かりやすくても、教科書としての星図に実際の星空を使うのは無茶であった。いくら指をさして説明されてもデネブとベガ、どっちがどっちか分からない有様であった。
15:
流石に熱を帯びて説明していた電もそのうちこれは非効率がすぎると判断したのか、言葉も途切れ途切れとなってちぎれて消えた。
静寂。ふくろうの鳴き声が遠くから聞こえていた。二人共無言で星空を眺めていた。
しかし、ずっとここで寝ているわけにもいかない。何か踏ん切りが必要だった。どちらから言いだしたのか、いやこの約束は個人の意志から始まったのではなく、あの時の二人の間で始まったのだ。
「来年もまたここで星空を見よう」。そうだ。この約束を結ぶだけで二人は最大限に満足した。その約束の成就の先をすでに夢見ており、楽しい想像を膨らませたのだった。
その約束がもし実際に果たされたらどうなるのだろう。やはり楽しいだろう。
約束。………約束?
16:
深雪は目を覚ました。開いた窓の外は今にも夜の帳が下りてきそうな紫色であった。蝉の鳴き声はない。扇風機は変わらず一本調子。風鈴は揺れてリンリンと小気味よく鳴っていた。
いつの間にか眠ってしまっていたようだとぼんやりした頭で考える。そしてつい今しがたの夢のこと、もしくは過去のことを思案した。
懐かしい気持ちだった。深雪の深層にある記憶、まだそれが柔らかく淡いものとしてあった時のこと。冷たく記号的に凝固していたものが実感を伴って現れた夢であった。
深雪は一年間を振り返った。あの後、一気に鎮守府は拡大していき、艦娘の数も増え管理のため何個かの班を出撃や遠征とは別につくったのだ。今ではそれが生活単位である。班の基準はだいたい姉妹艦ごとである。深雪と電は別班である。
さて、約束を果たそうとするべきであろうか。電とはいまや疎遠であった。深雪自身も夢で偶然思い出したことを電は覚えているだろうか。
果たされない約束があっても良いじゃないか。それゆえにその美しい想像の光景は保存されうるのだ。
17:
もし出向いて果たされなかった約束の現実を目の当たりにしてしまえば、その未来の光景は優しい過去の記憶ごと連れ立って消滅してしまうだろう。だから、この約束は忘却しよう、それがこの約束を生きたものとして供養する唯一の手段だ。
沈黙。あいも変わらず扇風機は一本調子だったし、風鈴は昼間の鬱憤を晴らすかのごとく自己を主張していた。ふくろうの鳴き声が近くから聞こえた。
深雪は汗のしみついたシャツを着替え、懐中電灯を持って走り出した。
あの時より大きくなった鎮守府の警備は厄介であったが、何とか誤魔化した。
裏山はあの時と変わらず一緒だった。記憶を頼りに進んでいく。まるで過去に戻った気持ちだった。横に誰もいないことを除いては。
あの星空には思ったより早くついた。道を知っているとこんなにあの場所は近かったのかと拍子抜けした。
18:
風が吹いた。変わらない草木はさざめいた。しかし、彼女はそこにはいなかった。親友である電はそこにはいなかった。
深雪は途方に暮れた。悲しかったわけではない。約束が果たされなかったのならば、きっと悲しむだろうと深雪自身は思っていた。そして、可能性として悲しむ心構えもしていた。
いざ無人の星空に直面してみると不思議と何の感傷も湧かなかった。ああ、私の中ではあの約束は実際にはこんな程度のものなのかと思い、そこに一種の切なさを見出そうと思えば出来たかもしれない。
しかし、深雪にはそれをする気にもなれなかった。そんな複雑な手順を踏んでまで感傷に浸りたいとも思わなかったからだ。
さあ、帰ろう。もともとこの状況こそが当然なのだ。何も名残惜しいものはない。
くるりと踵を返す。すると、木の陰から何かが急に飛び出してきた。避けることは出来なかった。衝突。
19:
深雪は何とか倒れることは免れた。空からひらりと紙が落ちてきた。手に取ると蛍光塗料で描かれた星図だ!
ならば、相手は当然。
突っ伏している電に手を貸してやった。うまく立ち上がらない。どうも今ので足を捻挫してしまったようだった。
困ったことになったぞと思っていると、電の荷物の中に包帯があるのを見つけた。よし応急手当をしてやろうと包帯を手に取ると「自分でやるから大丈夫なのです」と言ってきたので、深雪はお前にやらせるとミイラ化してしまうと電に過去のことを思い出させてやる。
暗闇に隠れて視覚的にはわからないが、赤面しているのは確かだと深雪にはわかった。
電を安定したところに座らせ、靴を脱がせて、包帯を巻いていく。
2

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