【艦これ】兵器の書いた日記帳back

【艦これ】兵器の書いた日記帳


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1:
○月○日
本日から○○鎮守府に着任した
私の名前……艦名は航空母艦、加賀
誇りある一航戦の一隻だ
艦娘は一定期間ごとに数名が他の鎮守府に移籍するという決まりがある
今回は私がそれに選ばれたということだ
この鎮守府に来て最初に手渡されたのは今書いている日記帳
数行……一行でもいいから毎日書くようにという命令だった
別に見せる必要もないらしいが、仮にとはいえ自分のプライベートをこういう形で晒すことに抵抗を覚えなくはない
まぁ覚えているうちは書き続けようと思う
2:
○月○日
この鎮守府には赤城さん……私と同じ一航戦の方が既にいた
赤城さんはほぼ常に提督の秘書艦を務めているそうで忙しそうだ
この鎮守府はまだ稼働して間もないため仕事も多い
ここの提督は初対面の時ずっと落ち着かない様子であった
そういえば私が自己紹介した時、「それなりに期待している」という言葉に非常に嬉しそうにしていた
それはもう子供のように
提督たる者、もう少しビシッとしてもらいたい
なよなよした行動は見てて苛立つ
……明日は私の初出撃
凱旋一触、指揮がどうあれいつも通りやるだけだ
3:
○月○日
私の初出撃
提督は落ち着かない様子で指揮をしていた
しかし間違った指揮をしているわけでもなく損害もほとんどなかった
作戦後、一応いい指揮だと言っておくとやはり子供のように喜んでいた
苛立つ
私にはそれが気に食わない
以前までいた鎮守府の提督達ははことごとく自信家であった
犠牲はあれどその指揮によって多くの作戦を成功させてきた私にとって、この提督は異端だ
4:
○月○日
赤城さんが私のことを訪ねてきた
何故か提督まで一緒にいる
持ってきた饅頭や茶は提督が作ったのだという
戦いよりこのような事の方が得意で好きだそうだ
赤城さんは茶菓子を盛々と食べていく
私もそうしたかったが何分そのような格好を見せたくはない
赤城さんからはそんなこと気にしないと言われれたが、それは赤城さんがそこまでこの提督のことを信頼しているということであろう
5:
○月○日
提督に日記はきちんと書いているかを尋ねられた
正直、面倒になってきたというところが強い
そのことを言うと提督は、「そう言わずに」といつもの笑顔で諭してきた
やめて
その笑顔は私を苛立たせる
少し強い口調であなたには関係ないと言う
脅せばいい
いつもそれで皆黙るのだ
人間も、提督も、艦娘さえも
しかしどういうことかこの提督、出来るだけ書いてくれと私に頭を下げたのだ
提督という私たちの上官であろう者がこんなことで頭を下げるとは思わなかったため狼狽した
今までではありえなかったパターンだ
すぐに頭を上げてくれと言うと、提督の目が私と合った
その目には一瞬ではわからないほどの深みがあって引き込まれそうになった
そのまま提督にもう一度頼まれたとき、つい了解してしまった
私の返事を聞くと提督はやはり喜んだ
苛立つ
だがこの提督、見た目通りの人間ではなさそうだ
少し、建前ではない興味が出てきた
6:
○月○日
五航戦の子が訪ねてきた
あの子たちは私より早く着任していたらしい
妹の方は着任時期の関係か、どこか先輩面なのが気に障る
姉の方もニコニコしているばかりで掴みどころがない
鬱陶しいので近づくなと脅す
だがこの二隻もあの提督と同じく全く屈することはなかった
それどころか煽ってくる始末
なんなのだこの鎮守府は……わけがわからない
まぁ、こんな連中に対等に扱われるどころか下に見られるのは一航戦として恥だ
今に見ておくがいい
すぐに成果を上げて力の違いを分からせてやろう
7:
○月○日
今日は赤城さんと一緒に過ごした
提督も当然のように一緒だ
提督が厠に行っている間、赤城さんにあの提督のことをどう思っているかを聞いてみた
「とても信頼出来て、しかし危なげなところを支えてあげたい方」だそうだ
全く理解できない
あんなへなちょこのどこが信頼できるのか
ついでに赤城さんも日記を書いているのかを聞くと、書いていないと言われた
だが私と同じく着任したての頃は書いていたらしい
こんなことをわざわざやらせる理由がますますわからない
赤城さんは、「その内分かります。加賀さんならきっと気づけます」とだけ言っていた
8:
○月○日
提督の命令を無視して進撃した
中破状態だったので問題ないという判断だった上、敵主力艦隊まですぐそこだったからだ
幸い作戦は成功し、私たちは欠けることなく帰投した
その日の夜、提督から激しく叱責された
あのいつもにやけている姿からは想像もつかないほどだった
そのあまりの勢いに言い返すこともできずにただただ立ち尽くすしかなかった
提督の悲しみに満ちた目が目蓋に焼き付いて離れない
何をそこまで必死になっているのだろうか
私達はいくらでも替えの効くただの兵器だというのに
9:
○月○日
今日は提督と一度も顔を合せなかった
大抵彼からこちらを訪ねてくるため、私から接触することはない
……提督はまだ怒っているのだろうか
ばつが悪い
以前の鎮守府の提督たちなら私に意見をぶつけてくることもなかったというのに
そうだ、他の艦娘達なら私の判断に賛同してくれるかもしれない
明日色々話してみるとしよう
10:
○月○日
何故だ
今日一日様々な艦娘と話したが、私の意見に同意してくれるものは誰もいなかった
あの五航戦の子たちも、赤城さんも、幼い駆逐艦の子たちまで
どうして皆、提督と同じ悲しい目をするのだ
わからない
私の胸が苦しい理由さえも
今日も提督と会うことはなかった
思えば着任してからあの日以前までは毎日提督と顔を合わせていた気がする
11:
○月○日
昼食をとろうと歩いていると提督に出会った
数日ぶりでまだ私との間に確執が出来ているだろうかと思っていたが、彼はいつも通り気さくに話しかけてきた
私はもう一度彼にどうしてあんなに怒ったのかを訪ねた
すると提督は、「それを考えることが出来るようになっただけでも今は十分だ」と言った
……答えになっていない
そしてどうやら私が昨日様々な艦娘を訪ねて回ったことは筒抜けだったらしい
この男といると調子が狂う
だから今私が感じている気恥ずかしさもきっとそのせいなのだ
12:
○月○日
食堂で赤城さんと同席する
赤城さんは一航戦として親近感がある
この鎮守府でも彼女のアドバイスや助けがあってどうにかやっていけている
とてもありがたい
赤城さんがいなければ私は浮いていたかもしれない
どうにも私が今までいた環境とこの鎮守府は違う点が多い
平和すぎるのだ
来る日も来る日も出撃し、他の艦の最後を見届けながら次の補充された戦力と共に戦い続ける
それが私の日常だった
13:
○月○日
提督に一度日記を見返してみるように言われた
するとどうだろう
自分では淡々と日々のことを書き連ねてきたつもりだったのだが、存外細かいところまで書かれている
その日見たこと、感じたこと、失敗したこと、成功したこと
気が付けば全ての内容を読破していた
自分を振り返るのも悪くないと思いつつも、これが提督の狙いだったのかと思うと上手く乗せられた気がして少し腹が立つ
14:
○月○日
五航戦の子たちと自己鍛錬中に偶然会う
妹の方……瑞鶴から射撃の精度で競おうと挑戦された
勝ったら何でも一つ言うことを聞くという賭けだ
ここで引くのは私のプライドが許さない
結果から言うと私は勝った
だが思いのほか接戦になってしまった
瑞鶴が言っていた
「負けちゃったかぁ……でもこのまま提督さんに言われた通りやったら勝てそうだわ!!」
あの提督の言われた通り……か
性能では負けていても練度では負ける気がしなかったのに、あの提督の何らかの助言でこの有り様
やはり侮れない
15:
○月○日
昨日の勝負の結果、私が瑞鶴に提示したことは「明日の秘書艦の肩代わり」だ
赤城さんが何らかの理由で不在の場合他の艦に秘書が回ってくるのだが、今回はそれが瑞鶴だった
瑞鶴はもっとひどいことを要求されると思っていたらしく安心した様子だった
今度はもっと奴隷のような条件を付けてやろう
明日の秘書艦としての仕事の最中に提督のことを観察するつもりだ
考えてみると、私からあの男に接触しようと思ったのはこれが初かもしれない
16:
○月○日
秘書艦の仕事は想像より遥かに大変だった
書類仕事はもちろん鎮守府の点検、各艦娘のコンディションチェック、周辺住民への挨拶まで行うのだ
街へ出かける際には流石に軍服や胴着で行くわけにはいかないため私服に着替えた
提督が私の私服を見て綺麗だと言った時、つい顔をそらしてしまった
女として褒められることなどほとんどなかったのだ
町での彼は子供たちや大人、老人まで一度は声をかけられるほどの有名人だった
一人一人丁寧に対応する彼の姿は---------
何を書いてるのやら、私は
日記を書き始めてから妙に感情的になっている気がする
余計なものだ
感情などあったところで何も変わらない
少なくとも今まではそうだった
17:
○月○日
昨日の秘書の仕事を通してわかったことは、提督は誰からも好意的に思われているということだ
特に周辺住民との友好的な関係作りは難しいはずなのに、彼はいとも簡単に行っていた
そして、あの密集したスケジュールの中私にわざわざ毎日会いに来ていたのだということも分かった
私と接する時間は他の艦よりも圧倒的に長いことも
どうして私をそんなにも気に掛けるのだろうか
……何故私は、彼と一緒にいた時間を楽しいなどと思っているのだろうか
18:
○月○日
本日の出撃は提督の指示にすべて従ってみることにした
すると今まで自分が出来なかったような動きがすんなりとできる
完勝だった
作戦後提督にとても褒められた
嬉しい……?
私が?
そんな、馬鹿な
19:
○月○日
今日は何もない休みの日
町へ出てみることにした
一人でも様々な店を見て回るのはなかなか楽しい
途中、駆逐艦の子たちを見かけた
町の普通の子どもたちと遊んでいるようだった
艦娘が人間と対等にしている姿は新鮮だ
私の知る限り、艦娘は本質的には人間から恐れられているのだ
私がそうだったように
私たちは人間には身に余る力なのだ
常に反乱の恐怖におびえなければならない
鎮守府間の艦娘の移籍もこのあたりが関係しているのだろう
自分に扱いきれぬ駒は、捨てれない以上どこかに渡してしまうしかない
20:
○月○日
本日の出撃後、ドックで赤城さんと、不本意ながら五航戦の子たちと一緒に入ることになった
瑞鶴から常に胸部への視線を感じたため見せつけるようにしてやった
そうすると自分のものを揉みながらまだ成長期だと鼓舞していた
翔鶴はバランスのとれた大きさ
赤城さんは私より小ぶりなものの、それでも大きい方だと思う
……提督は赤城さんのような女性が好みなのだろうか
いつも秘書にしているところを考えるに、あながち間違った考えでもないだろう
あの変態め
21:
○月○日
もはや恒例となった提督との一日約一時間の会話
あれから提督は一度として私に会いに来なかった日はない
今日は赤城さんは一緒ではなかった
提督の用意した菓子は美味しい
そういえば、最近は提督の笑顔に苛立つことがなくなっていることに気付く
私も大分この鎮守府の空気に毒されてきたのかもしれない
この変化は、いいことなのだろうか
兵器としての存在
それが私のはずだ
22:
○月○日
この鎮守府は不定期に敷地の一部を一般開放しているようだ
立ち入り禁止区域が多いが、それでも興味深さに訪れる者は後を経たない
物凄い数の人間だ
提督は赤城さんと一緒に町の皆に挨拶をしていた
ふと聞こえてきた会話
「赤城さんと提督さんはいいコンビだねぇ」
「そのうち結ばれちゃったりして!」
私はその様子を見たまましばらく立ち尽くしていたらしい
後に他の艦娘に話しかけられてはっとなった
だが胸のつっかえたような感じは取れない
一体なんなんだろうか
今日は提督と話すことはできなかった
23:
○月○日
提督に料理はできるかと唐突に聞かれた
どうやらメニューのレパートリーを増やしたいとか
一応心得はあるが、提督も相当の腕のはずだと思うが……
とりあえず得意料理の肉じゃがを作った
彼はそれをとても美味しそうに食べてくれた
「加賀さんはいい嫁になるだろうなぁ」
この言葉を言われたときに込みあがってきた感情は…………
それと、昨日会いに行けなかったことを謝られた
とても気にしていたらしい
私は別にそんなことなど気にしていないのだが
……気が付けば胸のつかえは取れていた
24:
○月○日
油断した
たった一本の魚雷で大破まで追い込まれたのだ
帰投すると提督が泣きそうな顔で出迎えてくれた
そんな顔をしないで欲しい
こんな傷、少し休めばすぐに治る
私はまだ、戦える
25:
○月○日
夢を見た
そこには何もなかった
赤城さんや鎮守府のみんなや、提督さえも
あるのは自分の意識だけ
怖い
どうして怖い?
一人なんて慣れているはずなのに
誰もいなくなってしまうことも体験したこともあるのに
何故、もう彼に会えないことを考えるとこんなにも悲しくなるのだ
26:
○月○日
朝起きると医療室のベッドの中にいた
艦娘は傷を負っても高で治るとはいえ、体の隠れた疲れは取れない
大破した場合この鎮守府ではしばらく療養するのが基本となっている
ふと手元が暖かいことに気づく
見ると、提督が私の手を握りながら寝ていた
黙っていれば中々男らしい整った顔なのだなと思いながら手の暖かさを楽しんだ
この温もりを忘れないようにしよう
27:
○月○日
提督が私の傍で寝ていたのは私がうなされていたからだという
よくこんなたった一つの兵器のためにそこまでするものだ
この日私は提督に頼みごとをした
それは「さん」を付けずにこれからは呼んで欲しいというもの
他人行儀で何処か気に食わないと思っていた
提督から「加賀」、と呼び捨てで呼ばれる
改まって言われると気恥ずかしいものだ
28:
○月○日
いい加減認めようと思う
提督と一緒にいるのは楽しい
空っぽの私を満たしてくれるような感覚がする
だが楽しいだけではない、この切なさや温かさが混ざったような気持ちは一体何なのだろう
提督を見ているとこの気持ちが湧き出てくる
もっと一緒に過ごせばわかるようになるのだろうか
29:
○月○日
今日も提督と会話
提督に「日記を書く意味は分かったかい?」と聞かれた
この日記は私に反省をさせるため、過去の自分を知り今に生かすためのものだと答えた
提督は「惜しい。でもほとんどゴールだ」と言っていた
さらに「実はもう加賀は答えを知っているはずだ」とも言っていた
もう知っている?どういうことだ
一体正解はなんなのだろう
30:
○月○日
今日の出撃で危うく随伴艦の子が轟沈しかけた
もし私がかばっていなかったらと思うと……
あの時、あの子に魚雷が向かったのを見たとき、勝手に体が動いていた
普通に考えるなら非効率なことだ
無傷の私がわざわざ海域の進路の都合にしか使わない子を身を挺してかばうことなどは
だがそうじゃない
怖かった
いなくなってしまうと思うと余計に
兵器は代えが効く
けれど、あの子はこの世界に一人しかいない
代わりなど一つもない存在なのだ
ああ、漸くいつの日だったか私が勝手に進撃した時に本気で怒ってくれたことの意味が分かった
同時に今までの自分の捨て身の考えに恐ろしさを感じる
「私」が沈んでしまっては、もう二度とやり直すことなどできないのだ
31:
○月○日
提督に私が勝手に進撃した時のことを改めて謝罪した
もう二度とあのような真似はしないと誓った
すると提督と、秘書をやっていた赤城さんにまで大笑いされた
何を笑っているのかと尋ねると、私がそんなに素直になるなんて予想外だったらしい
失礼な
だが同時に喜んでくれた
初めてこの鎮守府に溶け込めたような気がした
明日からもこの鎮守府の為に、そして提督の為に励むとしよう
32:
○月○日
五航戦の子と会う
彼女たちは私の雰囲気がだいぶ変わったと言っていた
貴方にわかるものかと言おうとしたら、傍にいた艦も口をそろえて変わったと連呼してきた
こうなっては流石に何も言えない
だが皆が言うならそうなのだろう
変わるのは怖いことだと思っていたが、そんなことはないと今なら思う
変われるからこそ艦娘なのだ
私達は、ただの兵器ではない
33:
○月○日
今日は提督が訪ねてこないと思っていたが、深夜になってから来た
仕事が長引いたのだとか
そんなに無理して会いに来なくとも良いのに
体を大切にしてほしい
提督は私たちと違って頑丈ではないのだから
だが時間を圧してまで会いに来てくれるのにちょっとした優越感も感じる
こんな時間まで待っている自分も自分だが
34:
○月○日
ここ最近提督のことばかり考えている
この日記ももはや手放せないものになってしまった
私の宝物だ
今日提督に暖かい体をしていると言われた
あまりそうやってべたべたと触るものじゃない
そう言っておくと、「でも加賀は嫌がらないだろう?」と言われてしまった
否定できない自分が悲しい
35:
○月○日
毎日が充実している
朝起きて
ご飯を食べて
出撃して
皆と話して
五航戦のこといがみ合って
提督と話す
…………赤城さん……?
どうして今日はそんなに上の空なの?
何故だか、胸騒ぎがする
36:
○月○日
赤城さんの練度が極限まで上がりきったらしい
鎮守府の話題はそれで持ちっきりだ
そこから練度をさらに上げる方法は一つしかない
ケッコンカッコカリ
お似合いの二人ではないか
いつも一緒にいるのだし
めでたいことだ
そのはずなのだ
37:
○月○日
赤城さんと話す
提督はいない
赤城さんに提督とのケッコンについて尋ねると、顔を真っ赤にして黙り込んでしまった
やはりか
赤城さんが何かを言おうとしているところに、「おめでとうございます」とだけ言って私は立ち去った
これ以上聞きたくなかった
胸が苦しい
38:
○月○日
ケッコンカッコカリについて調べまわる
曰く、練度の更なる向上につながる
曰く、耐久力が上昇し、戦闘面の強化がなされる
曰く、運がよくなる
曰く、ケッコン対象より特別な補給を授かることで運用においての燃費が下落する
特別な補給
つまりは性行為のことだ
艦娘は艤装を顕現した状態では子を孕むことはない
だがそれは夫婦の営みと何ら変わらない
祝うべきことなのだ
二人とも長い付き合いなのだから
私は友人として祝福すべきなのだ
39:
○月○日
提督は余程のことがない限り私に会いに来る
いつもなら楽しみな時間
だが今はそれが辛い
提督に「ケッコンおめでとうございます」と言うと、赤城さんと全く同じ反応をした
やっぱりそうか
忙しいならば無理をしなくていいと提案する
しばらく悩んだ後、提督は謝りながら私の提案を受け入れた
提督が私の部屋から出ていくとき、思わず呼び止めそうになった
私は一体何を言うつもりだったのだろうか
40:
○月○日
本日の出撃は散々だった
五航戦の子たちにも心配されてしまう始末
当たり前だ、自分の中のモヤモヤをかき消すようにがむしゃらに戦ってしかいなかったのだから
しかしモヤモヤは晴れるどころか増す一方だ
…………駄目だ
認めたらもう戻れなくなってしまう
それだけは絶対にいけない
41:
○月○日
提督と赤城さんのケッコン式は鎮守府総出で行う
一般の方々もその晴れ姿を見たいという意見が多く、式は公開でやることになったのだ
雑念を祓うように準備に集中する
提督が会いに来て私を労ってくれたが、今はそれが逆効果でしかない
疲れた、もう早く寝よう
42:
○月○日
今日は提督と赤城さんの式の日だった
赤城さんの華やかな和装はとても綺麗だった
鎮守府は人で溢れており、提督がいかに皆から愛されているかが改めてわかった
提督や赤城さんの笑顔は見たことのないようなものだった
あれが私がいない間に交わされていたものだと思うと、諦めもつく
……諦め?
何を諦めるというのだ
43:
○月○日
いつまで自分に嘘をつく気なのだろうか
筆が進まない
眠い
44:
○月○日
認めるべきなのだろうか
この感情の正体を、認めてしまっていいのだろうか
私は一体なんだ?
自分のことが、わからない
45:
○月○日
赤城さんと提督の様子は前までと全く変わらない
提督も式以来私に毎日会いに来てくれる
でも私は見てしまった
提督と赤城さんが物陰で口づけをしている姿を
どうして?
そこにいるのはどうして……
46:
○月○日
私としたことが数日も日記を書くことを忘れていた
この数日間で何をやっていたのだったか
思い出せない
空虚な生活だ
気が付けば練度だけは極限まで上がっていた
47:
○月○日
最近よく赤城さんがもしこの鎮守府にいなかったら、という妄想をする
赤城さんがいなかったら私はこんなに苦しまなくて済んだのではないだろうか
赤城さんがいなければ提督もっと私に頼ってくれたのではないだろうか
赤城さんがいなければ……ソコにいるのは私だったのではないだろうか
48:
○月○日
何を考えているのだ私は
赤城さんがいなければこの鎮守府に溶け込むことなんてできなかったはずだ
これ以上何を望むというのか
この鎮守府で過ごす日々こそ私が欲しかったものじゃないか
私は今幸せの絶頂期にいるのだ
提督だって私に変わらず接してくれているではないか
何が不満なのだ
49:
○月○日
苦しい
体から深海の闇のような感情が湧き出てくる
嫌だ
それだけはだめだ
怖い
助けて
提督
50:
○月○日
黒い感情は増す一方だ
深海棲艦との戦闘中、ふと敵空母のヲ級と目があった
一瞬のことだ
だが私は見えてしまった
ヲ級は笑っていた
まるで同族を見るかのように
違う
一緒にしないで
51:
○月○日
提督が訪ねてきた
私の最近の様子のおかしさを心配してくれたようだ
私は提督に抱き着いた
彼の温もりがあれば変われると思ったのだ
「大丈夫、加賀は大事な仲間なんだから」
仲間
仲間……?
そうじゃない
私が欲しいのはそれじゃない
体の中で何かが崩れる音がした
52:
○月○日
認めてしまえ
この感情も、心の中にある闇も、全て私自身なのだ
何だ、認めてしまったらとても簡単な事ではないか
これは恋
私は兵器の身でありながらあの男に恋慕しているのだ
53:
○月○日
私の名前は加賀
誇り高き一航戦の一人
私が欲しいのは提督
彼は今誰のものだ?
赤城さんのものだ
どうすればいい?
奪ってしまえばいい
苦しみたくなどないのだろう?
そうだ、私のものに……提督をこの手に
54:
○月○日
駆逐艦の子が私の日記を勝手に読もうとしていた
私はその子を力の限り突き飛ばした
ソレに触るな
これは私と提督の愛の結晶なのだ
ああ五月蠅い
ここに来るな
出ていけ
来ていいのは提督だけだ
55:
○月○日
五航戦の子たちと合う
普段あまり口出ししてこない翔鶴が私の雰囲気がまるで深海棲艦のようだと言った
天然の癖に妙に鋭い
でも私は深海棲艦なんて下等なものではない
ただ提督のことを想っているだけだ
56:
○月○日
提督を奪うにはどうすればいいだろうか
赤城さんを殺してしまうのが一番早いだろうが、それは難しい
彼女もかなりの手練れ
正直勝てる見込みは薄い
後始末も面倒だ
ならば既成事実しかないだろう
略奪愛
想像するだけで興奮する
57:
○月○日
赤城さんが次に不在となる日は3日後という話を聞いた
ならばその日までに準備を整えておかないとおけない
私としてもその日は”大丈夫な日”だ
そうそう、提督がこの前突き飛ばした駆逐艦の子について事情を聴いてきた
厄介事は御免だ
適当に謝罪しておく
ああ、提督の怒っている顔も素敵だ
58:
○月○日
赤城さんがいなくなるまであと2日
今日は町へ出て必要になるかもしれない道具を買いに行った
新しい下着なども買ったりした
折角だ、少しは洒落たものもいい
帰り道、柄の悪い男たちに絡まれたがよく覚えていない
手が汚れてしまったではないか
59:
○月○日
提督と赤城さんがなにやら話しているのを見かけた
手には黒い箱を持っている
まぁどうでもいいことだ
今日は明日に備えて資料室で予習をしておく
彼のことを考えただけでこんなに濡れてしまうなんて
楽しみだ
60:
○月○日
61:
「提督、夜分遅くにすみません」
「ああ、加賀か。どうしたんだい?」
漸くだ
漸くこの時が来た
「提督にお茶を入れようと思いまして。赤城さんがいないから大変だったでしょう?」
「そうだね……やっぱり赤城はとても有能だよ」
茶を用意する
提督の湯飲みには媚薬を仕込む
「どうぞ」
「ありがとう」
それを何の警戒もなく喉に通した提督
62:
「……っ……」
崩れ落ちる提督
湯飲みがカーペットの上に落ちて転がっていった
すかさず提督を押し倒し、口づけをした
無理やりに口をこじ開け舌を侵入させる
自分の唾液を提督に送るように、また、提督の唾液を吸い尽くすように舌を吸った
「ん……美味しい……」
いったん唇を離す
提督の反応は思ったより普通だった
てっきりもっと悲しい目をすると思っていたのだ
63:
提督は必死に体を動かそうとしている
最初はそれが私から逃れようとしているものであるのかと思っていたがどうやらそうではない
あまりに抵抗が少なすぎるのだ
口元を見ると何かを言っているように見える
やめてくれとでも言っているのかと思い顔を近づけてみると、信じられない言葉が聞こえた
「愛してる」
提督はそう言っていた
そして私のことを抱きしめた
彼の鼓動を感じる
私は漸く自分のしていること、してきたことに気が付いた
64:
呆然としている私に提督はポケットから黒い箱を私に差し出した
これは確か、昨日赤城さんと話しているときに持っていた物
「空けてみてくれ……ちょっと力出ない……」
苦笑いを浮かべながら言った
箱を手に取り空ける
そこにはあの式の日、赤城さんの持っていた物と全く同じ指輪があった
「なん……で……?」
「別にケッコンカッコカリは一人としかできないわけじゃない」
「本当に愛していたのは加賀、君だよ」
「でも……赤城さんは……?」
式でのあの笑顔
あれは本当に幸せそうなものだった
口づけだってしていた
65:
「赤城だって愛しているさ。でも、一番好きなのは加賀だ」
「そんな……」
「ここ最近、加賀の様子がおかしいことは分かってた」
「……」
「すぐに気付いたよ。だって、一番加賀と接してる時間が長いのは自分だと思っているからね」
「だから早く行動を起こさなきゃって思ってたんだ」
「だったら、もっと早く教えて欲しかった!」
「そう言うけどさ、加賀も酷くないかい?毎日会いに行ってるのに全然反応してくれなくってさ。自信を失いかけていたんだよ」
「これで伝わらないならもう指輪渡すしかないなって思ってね。それでこれが本営から届いたのが昨日だ」
そうか、そうだったのか
提督は、最初から私のことが
だったら私は猛烈な空回りをしていたことになる
それにいろんな人に迷惑をかけてしまった
66:
「大丈夫、皆わかってるから。それよりこれ、受け取ってくれるかい?」
提督が私の心を読んだかのように言った
どこまでも私は彼の計算の上で動いていたのかもしれない
「……あなたが嵌めて」
「はいはい」
提督の手から、私の指に光る指輪がつけられた
体から力が湧き上がってくるようだ
「あっ……」
体の節々を動かしていると、何か固いものに手が当たった
「これ、私のせいよね」
「そうだね……」
「じゃあ鎮めてあげるわ」
「……よろしくお願いします」
「そういえば赤城さんとはもうしたの?」
「……まだ。加賀の様子が心配でそれどころじゃなかったし」
「なら私があなたの一番ね」
「お手柔らかに頼むよ……」
「そういえば私今日危険日なの」
「ちゃんと艤装を出してやってくれよ……?」
……残念だ
私はこの夜のことを永遠に忘れないだろう
67:
○月○日
今日、帰ってきた赤城さんも合わせて鎮守府の皆に謝罪した
私の勝手な行動や、提督のことを
皆は笑って許してくれた
赤城さんは「負けない」とだけ言っていた
彼女も提督のことが好きでたまらないのだろう
だが、負けるわけにはいかない
提督に選ばれたのは私なのだから
68:
○月○日
思えば、全てはこの日記から始まった
この日記が私を変えた
提督の言っていた答え
それは自分を見返すこと、過去の自分を見つめること
そして、自分の成長を知ること
文字に起こすことで自分が何を考え、どのような選択をとってきたのかが手に取るようにわかるようになる
私は自分が変わっていくのをずっと感じていた
ただそれを考えているだけだったら何も変わらない
この日記で自分がどう変わっているのかを知り、振り返るのが大事なのだ
結果、私は気付くことが出来た
艦娘はただの兵器ではないということを
代わりなんていないことを
自分にとって大切なものを
この答えを提督に言うと、もう日記は必要ないと言われた
でも私は書き続けることを選んだ
これには私という存在の集合体のようなものだ
おそらく天寿を全うするまで書き連ねることになるだろう
それでいいのだ
私は感情を持った、一人の人間なのだから
6

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