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アラサー賢者と魔王の呪い


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1:
ここは魔物と人間が存在する、剣と魔法の世界。
賢者「それじゃあ皆、ちゃんと復習しておいてね」
教え子達「はーい」
この国には、世界でも高名な賢者がいた。
教え子「先生、さっき習った所ですけど…」
賢者「あぁちょっと待って。座りながらやりましょう。この歳になると立ちっぱなしは辛くて辛くて…」
教え子「えー、先生まだ若いでしょ?」
賢者「十分おばさんよ。最近なんて肩こりがひどくて…」
教え子(それは…その豊満な胸のせいだと思います)
賢者は魔法の学び舎を作り、自分の知識を教え子達に教えていた。
2:
賢者「ふわわぁ」
魔法戦士「先生、お疲れですね」
賢者「あら魔法戦士君」
家の前で教え子の魔法戦士に出会った。
彼は魔法の腕で言えば劣等生だが、明るい性格の人気者である。
それに…
魔法戦士「はい先生これ差し入れ。うちでとれた野菜で作った煮物と漬物だよ」
賢者「まぁ、ありがとう。助かるわぁ。最近ジャンクフードばっかりでね…」
農家出身の魔法戦士は、授業料を現金ではなく食材で払っている。
彼は魔法以外のことに関してはズボラな賢者の食生活を支える、貴重な存在となっていた。
魔法戦士「駄目だよ先生、ちゃんとバランス良く食事取らないと。美人を保てないよ!」
賢者「うふふ、こんなおばさんに嬉しいこと言ってくれるわね。魔法戦士君、モテるわけだ」ウンウン
魔法戦士「?っ…子供扱いすんなよ」
賢者「あぁ、ごめんね」
賢者(魔法戦士君も成人手前だもんね。私から見れば子供みたいなものだけど、子供扱いなんて嫌よね?)
3:
魔法戦士「じゃあな先生。また明日」
賢者「バイバ?イ」
賢者(教え子達が帰っちゃって、この時間になると寂しくなるわねぇ)
魔法にばかり没頭し、見合い話も断り続け、気付けば30手前。
女性の平均初婚年齢20前半のこの国において、賢者はいわゆる嫁き遅れだった。
賢者(まぁ、いいんだけど。私は魔法と結婚したようなものだし――)
最後にときめきを覚えたのはいつ頃か。
確かほんの小さな子供の頃、近所の青年に憧れていた。だけど、それが最後。
賢者の恋愛経験は、ませている少女たちよりも遥かに拙かった。
賢者(好きな人がいないのに結婚なんてねぇ…)
賢者(何かこう、一緒にいてドキドキして、ぎゅーって抱きしめてもらいたくなるような…)
そして30手前にして、年齢不相応に夢見がちだった。
4:
そんな日々を送っていたある日のことだった。
王「そなたが賢者か」
賢者「はい」
賢者はある大国の王に呼ばれて城にやって来ていた。
王「話には聞いていたが、本当にまだ若いのだな」
賢者(ふふふふ、初老の家臣に囲まれている王様にとってはまだ若く見えるのね?♪)
王「そなたの功績は聞いている。山の火災を沈めたとか、盗賊の群れを撃退したとか、名声に恥じぬ実力の持ち主のようだな」
賢者「光栄ですわ。そして王様、今日はどのような御用で?」
王「実は…魔王を名乗る者が現れた」
賢者「!」
王の話によると魔王を名乗る者は先日、王の前に現れて、この世界を征服すると宣言をしたらしい。
唐突に現れた不審者に、城の兵士達は向かっていったが、その者はたった1人で、100人余りの兵士達を倒してしまったそうだ。
王「そこで、そなたにその者の討伐を依頼したい」
賢者「私が…ですか?」
5:
魔法戦士「で、引き受けちゃったの先生!?」
賢者「まぁ、放ってはおけないしねぇ…」
家に戻った賢者は、早荷物をまとめていた。
彼女の家に夕飯を作りに来ていた魔法戦士は、賢者とは正反対に慌てていた。
魔法戦士「1人じゃ危険だ!せめて誰かを連れて…」
賢者「私、人と協力して戦うのって苦手なの」
魔法戦士「でも先生…そんな凄い相手と戦うなんて…」
賢者「ふふ、心配しないの。先生、とっても強いのよ?」
魔法戦士の不安を沈めるように、彼の頭を撫でる。子供扱いしてはいけないとわかっていながらも、そんな不安そうな顔を見たらつい、大人ぶってしまう。
魔法戦士「先生…約束して」
賢者「なぁに?」
魔法戦士「絶対戻ってくるって…俺、まだ先生と一緒にいたい!!」
賢者「えぇ、約束するわ。魔法戦士君が成長した姿を見るまで、先生は死ねないわ」
魔法戦士「だから、子供扱いやめてって…」
賢者「ふふふ、ごめんなさいね」
6:
賢者「さて、ここかぁ…」
王から魔王討伐命令を受けて2日後に、賢者は魔王の城に来ていた。
王城に残っていた魔王のわずかな魔力から居場所を特定するにやや苦労はしたものの、わかってしまえば移動魔法ですぐだった。
賢者「お邪魔しまーす」
魔物達「!?」
正面から堂々と乗り込む賢者は、まるで勝手知った道を歩くかのように堂々としており、その姿が魔物達をかえって動揺させた。
しかし賢者が自分たちの敵であることは、魔物達も一瞬遅れてだが察知し――
魔物達「であぁ――ッ!!」
その場にいた者たちは一斉に賢者に襲いかかったが――
賢者「えいっ」
魔物達「!?」
賢者が指をくるっと回したと同時、魔物達はそこから動けなくなった。
賢者「あまり、必要のない争いはしたくないんだ?。ごめんね」
そう言うと賢者は、停止した魔物達の間を通り、強い魔力を感じる方へと歩いて行った。
7:
魔王「ここまで女1人で来たのか…」
賢者「移動魔法を使えば案外、楽に来れるものよ」
賢者は対峙した魔王に温和な笑みを向ける。
魔王(この女、只者ではないな)
賢者「ねぇ、人間との争いなんてやめにしない?身の丈に合わない欲は持つものじゃないわ」
魔王「フッ…面白いことを言う。我は魔王、魔王は世界を支配する者…!!」
賢者「それは間違いよ」
殺気を放つ魔王に、賢者は毅然と言い放った。
賢者「魔王は英雄に討たれる存在だって、昔から決まっているの」
魔王「面白いことを言う…!!」
魔王の魔力がぶわっと放たれ、やがてそれは炎の形を作った。
魔王「魔王に逆らう者よ、まずは貴様から葬ってくれよう!!」
賢者「――っ」
魔王の放った炎は爆炎となり、賢者に直撃した。
しかもそれは1発で収まらず、ドゴンドゴンと次々と絶えることなく放たれていった。
8:
魔王「ふ…少々やりすぎたか」
100発程の爆炎が放たれた頃、魔王は攻撃の手を止めた。
壁には大きな穴が空き、煙が部屋に充満していた。賢者が攻撃を避けた様子は見られなかった。きっと、跡形も残っていないだろう。
魔王「城の耐久力に問題があるな。戦う度にこれでは、すぐに崩壊する」
賢者「貴方の戦い方に問題があるだけだと思うけど」
魔王「!?」
魔王は耳を疑った。
だが煙の中から現れたのは――
賢者「かなり乱暴なのねぇ。私から見れば不必要な力を使っているように見えるけれど」
魔王「貴様、何故生きている…!?」
それだけではない。
見た所外傷も無ければ、服や髪が焦げた様子すらない。
賢者「ガードしただけよ」
賢者は事も無げにそう言った。
一方魔王は冷や汗をたらす。相手を多少なめていたとはいえ、決して攻撃の手は抜いていない。
仮にガードしていたとしても、それなりのダメージを受けるはずだが…。
賢者「うん、貴方は魔物の王を名乗るに値する実力の持ち主だとは思うけれど」
賢者はそう言って魔力を放出した。
賢者「だけど魔王は決して、最強の存在ではないのよね?」
魔王「な…、何だ、この魔力は…!?」
魔王がそう呟いたと同時に――
ズシュッ
9:
魔王「グ…ア…」ボタボタ
賢者「個人的には、力押しするのは好きじゃないのよ」
魔王の心臓から血が溢れる。
賢者の魔法は最低限の力で、魔王の急所を確実に突いていた。
だが、出すべき力を見誤った。
本当なら一擊で仕留めるつもりだったが、魔王は思ったよりも耐久力があった。
そのせいで無駄に苦しめてしまう…反省。
賢者(トドメを…)
魔王「ハァ、ハァ…」ニヤッ
賢者(え、何?)
魔王の笑みに一瞬躊躇する。
しかし、それが間違いだった。
魔王「まさか貴様程の実力者が人間にいたとはな…!!だが、ここに来たのは間違いだったな!!」ゴオオォ
賢者(この力…命を燃やしているの!?)
魔王「喰らうがいい、我の最後の力だ!!」
賢者「!?」
そしてその場は、光に包まれた――
10:
賢者「う、うーん…」
気を失っていた。
体に痛みはない。だけど何だか、違和感が…。
賢者(魔王は死んだのかしら…?)
最後の瞬間、魔王は何をしたのか。
喰らってしまったのは自分の失態だ。だがそれを悔いていても仕方ない。
賢者(とりあえず帰って王様に報告を…)
と、立ち上がろうとした時。
賢者「…あら?」
違和感の正体がはっきりわかった。
賢者(私の体が…)
18:
>王城
王「うーむ、魔王城の方で大きな魔力の動きがあったそうだが…賢者は上手くやっただろうか」
兵士「王様!魔王城に偵察に向かった者からの報告で、魔王の死亡が確認されました!!」
王「おぉ、そうか!!賢者よ、よくやってくれた…!!」
兵士「それが…賢者殿が…」
王「どうした!?まさか賢者に何かあったのか!?」
兵士「はい…賢者殿も帰還されたのですが、その…」
王「?」
兵士「見て頂いた方が早いでしょう。賢者殿、お入り下さい」
「はい――」
王「!?」
19:
賢者「王様、只今戻りました」
王「え…え!?」
賢者「少し予想外なことはありましたが、無事魔王を討つことができました」
王「え、あ、いやちょっと待…え!?」
賢者「何か?」
王「そりゃ…」
王と話している彼女は、王の知っている賢者ではなくて――
王「どう見ても、子供ではないかーっ!?」
20:
賢者「魔王の呪いです」
王「呪い!?呪いで子供になったのか!?」
賢者「はい。魔王の目的は私を無力化することだったのでしょう…」
賢者は小さくなった自分の手を見た。
賢者「魔法が上手く使えないんです。この歳の頃、私はまだ魔法を習い始めたばかりでしたから」
王「そうか…大きな代償を払わせてしまったな」
賢者「いいえ、この程度で脅威が去ったのですから良いのです」
王「うむ…本当によくやってくれた。魔法力を失った分これから苦労するだろうが、生活に困窮しないよう我が国からも支援しよう」
賢者「かえって申し訳ありませんわ」
賢者(でも魔王討伐の報酬としては妥当かしらね)
賢者(魔法の知識は失っていないから魔道書の執筆もできるし)
賢者(それに…)
賢者は鏡を見る。
今の自分は大体10歳頃。何だか体が軽く感じる。
賢者(私若返ったのよね?、肌もツヤがいいわ?)
賢者はどちらかというと、今の状況を楽しんでいた。
21:
生徒A「ほ、本当に先生なの!?」
賢者「えぇそうよ、びっくりした?」
家に戻った賢者は、早生徒達に囲まれていた。
自分より頭1つ分以上大きな生徒達を見上げるのは、何だか新鮮な気分だ。
生徒B「きゃあ、先生可愛い?。ぎゅってさせて?」
生徒C「っていうか先生、子供の頃から胸それなりにあったんですね…うぅ、敗北感」
生徒D「先生、体に問題はないの!?」
賢者「えぇ、魔法力は失ったけど知識は失っていないわ。授業もちゃんとできるから、心配しないで」
賢者は生徒たちを心配させないよう、明るい笑顔を見せていた。
魔法戦士「先生…」
だが、浮かない顔の生徒もいた。
22:
賢者「どうしたの、魔法戦士君?」
魔法戦士「その…元に戻る方法はないんでしょうか」
賢者「うーん、私の知る限りではわからないなぁ。探せばあるかもしれないけど」
魔法戦士「先生はそのままでいいんですか!?」
賢者「だってこうなっちゃったものは仕方ないじゃない」
魔法戦士「それはそうだけど…」
賢者「ふふ、心配ありがとうね魔法戦士君。でも先生、君の成績の方が心配だなぁ」
魔法戦士「先生…」
賢者「じゃあね魔法戦士君、明日までに宿題ちゃんとやっておいてね」
魔法戦士「ま、待って先生!!」
賢者「あら、なーに?」
魔法戦士「あ、危ないから送っていくよ」
賢者「まぁ、ありがとう魔法戦士君、それじゃあ甘えちゃおうかしら」
魔法戦士「うん…」
賢者(こうやって心配させちゃうのも悪いし、元に戻る方法も探さないとね)
賢者(ううぅ、でも若い体に未練はあるなぁ?)
23:
>翌日
生徒A「でね?…」
賢者「はいはーい、皆おはよ?」
生徒B「あ、先生。おはようございまーす」
賢者「早席について…あら?」
背が縮んだせいか、いつもと光景が違うことに気付くのが遅れた。
賢者「E君達は遅刻かしら?」
教室には、何名かの生徒がまだ来ていなかった。
生徒C「先生がいなかった時の休みボケしてるのよきっと。先生、授業進めちゃって下さい」
生徒D「これだから男子は…あ、ごめんね魔法戦士、あんたみたく真面目に来てる男子もいるのにね」
魔法戦士「いや…」
賢者「それじゃあ、本を開いてね?」
魔法戦士「…」
だがその日、結局いなかった生徒達が来ることはなかった。
27:
賢者(E君達どうしたのかな?。休みの間羽目を外して体壊しちゃったかしら?)
授業後賢者は、着る服を探しに街をぶらついていた。
賢者(あぁ、これフリフリ…こういうの若い時に敬遠してて、結局着られない年齢になっちゃったのよね?)
賢者(で、でも中身はオバサンだって皆知ってるんだし…やっぱり落ち着いた服を着るべきよね)
と、その時。
魔法戦士「…」タッタッ
賢者(あら、あれは魔法戦士君…)
人ごみの中、魔法戦士を見かけた。
何やら険しい顔つきで走っていくが…。
賢者(どうしたのかしら)
自然と、視線が魔法戦士の向かう先へ行く。
すると…。
魔法戦士「おい!」
生徒E「っ!」
賢者(あ、E君達だわ)
魔法戦士は今日の授業に来なかった3人の男子生徒の肩を掴んでいた。
28:
賢者(な、何、喧嘩かしら?)
子供同士の喧嘩に大人が介入するのは良くないとは思うが、もし殴り合いになったら止めねば。
そう思い、少し離れた所から見守ることにした。
生徒F「何だよ魔法戦士…」
魔法戦士「今日、何で授業休んだんだよ。どっか悪いわけでもないだろ」
生徒F「いやー…」
生徒G「別に、何でも…」
魔法戦士に追及された生徒達は皆、微妙な顔をして言葉を濁していた。
魔法戦士「理由言えよ」
だが魔法戦士は食い下がり、しばらくそのやりとりが続いた。
賢者は不穏な空気にハラハラしながら、その様子を見ていた。
生徒E「いや、何ていうか…」
そこでようやく、1人の生徒が話し始めた。
生徒E「先生があんな姿になっちゃったから…」
賢者「え?」
29:
生徒F「なー…何かあの姿の先生に魔法習うのは、ちょっと…」
魔法戦士「関係ないだろ。子供の姿にはなったけど、中身は大人のままだぞ」
生徒E「いやー…なぁ?」
生徒F「やっぱほら、美人な大人の先生だったから通ってたわけで…」
生徒G「俺ら元々、魔法そのものに興味ないんだよ」
魔法戦士「何だと!!」
賢者(まぁ…)
少しショックではあった。
彼らは優等生だったわけではないが、この前まで親しくしていた生徒達だ。
生徒E「戦闘職にはつかないから、もういいかなーって思ったんだよ」
魔法戦士「お前らな、今まで世話になった先生に申し訳ないと思わないのかよ!?」
生徒F「思うよ。けどなぁ、あれじゃやる気が…」
彼らが言い争いする一方、賢者は思いを巡らせていた。
賢者(そうかぁ…でも自分で選択することだし、私に引き止める権利なんてないわよね…)
生徒G「先生には謝っておくよ…魔法戦士も、ごめんな」
魔法戦士「?っ、なぁ、もうちょっと考え直してくれないか」
賢者(あの様子なら多分、暴力にはならないよね…)
これ以上聞いていられなくて、賢者はその場から離れた。
30:
賢者「も?、ちょっと落ち込んじゃうなぁ」
家に戻った賢者は、魔道書の執筆作業に取り掛かっていたが、なかなかペンが進まずにいた。
魔法戦士「先生、野菜の差し入れに来たよ」
賢者「あ…魔法戦士君」
魔法戦士「?」
さっき見ていたことを思い出し複雑な気持ちになるが、見ていたとは言えない。
賢者「いつもありがとう。そこに置いておいて」
魔法戦士「いや、重いからしまって行くよ。先生その体じゃ重いもの持てないだろ」
賢者「そんなことないわよ。それに若返ったから、重いものを持っても腰を痛めないし♪」
魔法戦士「人の好意には素直に甘えて。しまうから」
賢者「ふふ、ありがとう魔法戦士君」
魔法戦士は慣れた様子で食料庫に野菜を片付けていく。
普段ろくに料理なんてしない賢者よりも、たまに食事を作りに来てくれる魔法戦士の方が食料庫の勝手をわかっていた。
31:
魔法戦士「そうだ、先生」
賢者「ん?」
野菜のほとんどをしまった所で、魔法戦士が話を切り出した。
魔法戦士「さっきE達に会ったんだけど、家の事情でしばらく教室に来れないみたい。先生には申し訳ない、って」
賢者「あら、そうなの」
魔法戦士の顔も声も、平然としている。嘘をつくのが上手いな、と思った。
さっきの様子を見ていなかったら、きっと信じていただろう。
信じたふりをしながら、さっきの彼らの言葉を思い出す。
『俺ら元々、魔法そのものに興味ないんだよ』
賢者自身は若い頃から魔法に没頭しており、魔法教室も楽しんでいただけに、彼らがそう思っていることに気付かなかった。
賢者(でも高名な魔法使いって家や研究室にこもってる人が多いし、イメージ良くないわよね?…私だって嫁き遅れのオバサンだし…)ズヨーン
魔法戦士「先生?」
賢者「ねー魔法戦士君」
魔法戦士「はい」
賢者「魔法、好き?」
魔法戦士「え?」
32:
賢者「魔法戦士君も剣をやってるそうだし、正直魔法ってどうなのかなぁって」
魔法戦士「うーん…」
魔法戦士は少し考え込んでいた。
魔法戦士「確かに勇者とか騎士って憧れですよ。それに知っての通り、俺頭悪いから魔法苦手だし」
賢者「魔法戦士君は、魔法やってて辛い?」
魔法戦士「いや、そんなことないよ」
魔法戦士は即答した。
魔法戦士「確かになかなか上達しなくて辛い時もあるけど、習ったことをできるようになるのは楽しいし」
賢者「そうよね、最初の頃より成長したもんね魔法戦士君」
魔法戦士「それに、先生に教えてもらったから…」
賢者「私?」
魔法戦士「う、うん」
魔法戦士は顔を背けてしまった。どうしたのだろう。
魔法戦士「先生はよく褒めてくれるし、教え方もわかりやすいし…」
賢者「あ、教え方が魔法戦士君に合ってたのね」
魔法戦士「じゃなくて!!」
賢者「?」
魔法戦士「お、俺…先生が…」ボソボソ
賢者「え?」
魔法戦士「あ、いや…何でもない!それより、もう帰るね!」
賢者「あ、うん。じゃあね、また明日」
33:
賢者「それで、水魔法と氷魔法の関連性は?…」
翌日の教室も、昨日と変わらない面子が集まった。
来なくなった3人のことは、皆の間でどう言われているのだろうか。
賢者「じゃあ今日はここまでね?。皆、ちゃんと家で復習してくるのよ?」
そして今日の授業を終えて帰路を歩いていた時だった。
大魔道士「やぁ賢者、久しぶり」
賢者「あら、大魔道士さん」
たまに学会で会う、大魔道士だった。
彼もそれなりに高名な魔法の使い手なのだが、賢者にとっては少々苦手な相手である。
大魔道士「子供になったってのは本当だったんだな。それでも魔法の教室は続けているのか」
賢者「えぇ、知識だけなら伝えることは可能ですから」
大魔道士「だが実技は教えられまい。そちらの生徒も、別の魔法学園に移るんじゃないのかね」
賢者「どうでしょうねぇ」
自分の所の教室は学園よりも遥かに規律がゆるく学費も安いので、その心配はないと思うが。
大魔道士「ところで、君が倒した魔王とやらだが」
賢者「はい」
大魔道士「本当に魔王だったのかな?」
賢者「?」
34:
大魔道士「いや、襲撃された王城以外は魔王による被害もなかったしな」
賢者「被害が出る前に倒しましたからねぇ」
大魔道士「実はただの小物だったんじゃないかという噂もあるんだが」
賢者「うーん」
噂を流したのは同業者だろう。こういう足の引っ張り合いは、珍しくもない。
名声に興味のない賢者は、それくらいで動じなかったが。
大魔道士「どっちみち、魔法力を失った君は今後学会には出られないかもなぁ」
賢者「そうかもしれませんね?」
大魔道士「いやぁ残念だよ、せっかくいいライバルだったのに…」ハッハッハ
大魔道士は実に愉快な笑いを残してそこから去っていった。
賢者(この姿のまま魔法力だけ取り戻せればな?)
だが賢者は相変わらずで、若さに執着していた。
40:
賢者「えーと…」
賢者は本をめくっていた。
賢者(自分の時間を進める魔法はあるんだけど、魔法力がなくて今は使えないし)
賢者(パワースポットに頼らないとどうしようもないわよね?)
パワースポットとは、魔法の力を秘めた場所のことである。
賢者(時の魔法に縁のある場所は…んっ)
賢者「「千年樹」…時の精霊が守護する樹木」
賢者「これだわ!!」
賢者(あ。でもこの樹木、魔物が沢山出る森の奥にあるのか…)
41:
>王城
賢者「…というわけです」
王「ほう…」
賢者「そこで、千年樹までの護衛をお願いしたいのですが」
王「うーむ…協力してやりたいのは山々なのだが、我が国の兵団は魔王にやられたせいで人手不足でな」
賢者「そうですか…なら自力で協力して下さる方を探してみたいと思います」
王「すまんな。ギルドは城を出て真っ直ぐの所にある」
>ギルド
賢者「すみませーん」
マスター「何だ。ここは子供の来る所じゃないぞ」
賢者「あ、私こういう者です」つ 身分証明書
マスター「…っ!失礼した、噂の賢者殿だったか」
賢者「いえいえ。それよりも、お仕事の依頼をしたいのだけれど」
マスター「ふむ…」
42:
マスター「なるほど…千年樹までの護衛か」
賢者「この依頼だと報酬の相場はいくら位になるかしらね?」
マスター「いや、すまん…引き受けられない」
賢者「え?」
マスター「実はだな…」ヒソヒソ
マスターはしゃがんで賢者に耳打ちする。
マスター「あんたからの仕事は引き受けるなと、圧力がかけられていてな」
賢者「どなたから?」
マスター「名前は言えんが、あんたの同業者からだ」
賢者「まぁ」
驚きはしなかった。むしろ予想できる展開だっただけに、手を打つのが遅かったと思った。
賢者「それなら仕方ないわ。ごめんなさいねお邪魔して」
43:
賢者「うーん、どうしようかな?」
あの後、他のギルドや傭兵もあたってみたが断られ、賢者は家に戻っていた。
賢者「ま、諦めが肝心ね」
魔法戦士「何を諦めるって?」
賢者「あら、いらっしゃい魔法戦士君。いえ、こっちの話」
魔法戦士「ふーん…あれ、それは…」
魔法戦士はテーブルの上で開いたままになっていた本に注目した。
魔法戦士「千年樹…あ、そうか。パワースポットの力を借りれば元に戻るかもね」
賢者「それがねー、ちょっと駄目そう」
魔法戦士「え、何で!?」
44:
賢者「うーん」
魔法戦士に、魔法関係者同士の足の引っ張り合いの話などしていいものなのか、少し悩んだ。
賢者「人手不足みたいで、護衛を引き受けてくれる人がいないのよ」
魔法戦士「えーっ!?諦めるって、もしかしてそのこと!?」
賢者「えぇ、そう」
とっくにその覚悟はできていたので、賢者はケロッとそう答えた。
だが…
魔法戦士(先生、何ともないって感じだけど…でもさっき一瞬見せた悩ましげな顔は、やっぱり…)
魔法戦士は勘違いをしていた。
賢者「というわけで先生は若返りを楽しむことに…」
魔法戦士「先生、俺がやるよ!!」
賢者「え?」
一瞬、何のことやらわからなかったが――
魔法戦士「俺が先生を千年樹まで連れて行く!!」
賢者「…えっ!?」
45:
賢者「だ、駄目よ、魔法戦士君を危険な目に遭わせられないわ」
魔法戦士「大丈夫だよ。あまり遠出したことはないけど、千年樹の森なら何とかなると思う」
賢者「私の為にそんなことさせられないわ。私ならいいから、ね?」
魔法戦士「それが駄目って言うなら、俺は俺で先生を元に戻す手段を探すから」
賢者「魔法戦士君…私の為にそこまでしなくていいわ」
魔法戦士「いや…やらないと俺が納得しない!これは俺の為でもあるんだ!!」
賢者「魔法戦士君の為…?」
魔法戦士「うん…俺の為」
魔法戦士の眼差しで、彼の強い意思を感じ取る。
このままなら本当に彼は、1人で突っ走ってしまうだろう。
賢者「…わかったわ」
気乗りはしなかったが、彼の同行を受け入れることにした。
まだ自分と行動を共にしてくれていた方が、気が楽だ。
賢者(この姿じゃ、ちゃんと魔法を教えてあげることはできないしね…。魔法戦士君の為、私も頑張りますか)
50:
>千年樹の森
魔法戦士「千年樹までは、男の足だと大体2時間くらいかかるみたい。先生も一緒だから、それよりちょっと時間かかるかもね」
賢者「そうねぇ…あ、これを」
魔法戦士「香水?」
賢者「魔物よけの香水よ。全く遭遇しなくなるわけではないけど、道中が少しは楽になるわ」
魔法戦士「わかった、ありがとう」
賢者「さぁ行きま…きゃっ」
早、段差に気づかずバランスを崩す。
だが即座に魔法戦士が肩を抑えてくれて、転倒は防いだ。
魔法戦士「気をつけて歩こうね先生」
賢者「はぁ?い…」
何だかいやーな予感がしていた。
そして、その予感は的中する。
51:
賢者(ううぅ、道がでこぼこ…)
歩いて10分、早整っていない道に嫌気が差していた。
今までこういう場所は移動魔法等で避けてきたので、まともに歩くのは十何年ぶりになるのか。
魔法戦士「先生、大丈夫?」
慣れているのか、魔法戦士は平気そうで、こちらを気遣う余裕も見せる。
賢者「だ、大丈夫よ!さぁ進みましょう!」
生徒の前で弱音は吐けないと、賢者は元気に返事をする。
けれど、かえってそれはわざとらしく。
魔法戦士「…」フゥ
賢者「えーと方位磁石によると…あっ!?」
魔法戦士「うわー、無法地帯だなこりゃ」
賢者「そ、そうねぇ?」
賢者の腰くらいまで伸びた草、雨のせいか湿り気たっぷりの地面、高低差の激しいでこぼこ道。
見ただけでウンザリする。
賢者(ああぁ?…こんな時に魔法が使えれば…)ズーン
魔法戦士「先生…」
賢者「あ、あはははは。さ、さぁ行きましょう?」
と、一歩踏み出そうとした時だった。
魔法戦士「無理すんなって」ヒョイッ
賢者「え、あっ、えっ!?」
いつの間にか、魔法戦士に体を抱えられていた。
52:
賢者「ま、魔法戦士君…やだ、重いでしょ!?」
魔法戦士「俺、今の先生を重たがる程ひ弱じゃないよ」
賢者「大丈夫よ、歩けるから!だから下ろして、ね、ね!?」
魔法戦士「いや先生の体じゃ絶対きついだろ、この道」
賢者「だけど…」
魔法戦士「好意には素直に甘えてくれって」
魔法戦士はそう言うと、荒れた道を歩き始めた。
その足取りは軽いもので、苦労している様子は見られない。
賢者「流石男の子…と言うべきかしら?」
魔法戦士「子供扱いやめてくれ?」
賢者「あ、そういうつもりじゃないの。魔法戦士君って、頼りになるんだなぁって」
魔法戦士「フォローになってない!俺、そんな頼りないイメージあった?」
賢者「ううん、そうじゃないけど…」
どうしても上から見てしまう。だって魔法戦士は、自分にとって生徒だ。
魔法に関して言えば手がかかるけど、明るくて真面目で、足繁く通って食事の世話をしてくれる、そんな可愛い存在だった。
53:
賢者「ごめんね、老婆心ってやつ。あれ、意味違ったかな?」
魔法戦士「?…」
魔法戦士は、かなり不満そうだ。
魔法戦士「年齢のこと持ち出すのは、ずるいよ…」
賢者「え?」
魔法戦士「いや、何でも」
賢者(でも魔法戦士君、本当に頼りになるんだなぁ…)
彼の腕の中にいて感じるのは、まずその力強さ。
息を乱さず汗もかいていない彼は、本当に無理をしていないのだとわかる。
それに今まで意識したことはなかったが、鍛えている彼の体はなかなかガッチリしている。身長だって高い方だし。
賢者(そりゃ、子供扱いしたら怒るわよねぇ)フフッ
魔法戦士「どうしたの、先生」
賢者「んーん、ちょっと思い出し笑い」
これからはちゃんと一人前の男扱いしてあげないと、そう思った。
賢者(…ってことは、あれ、私一人前の男の人に抱っこされてる?)
賢者(うーん、まぁいいか、魔法戦士君も別にそんな意識ないだろうし)
魔法戦士「…あっ!」
賢者「え?」
魔法戦士の見ている方――そこには、狼の魔物がいた。
54:
賢者「まずいわね…」
あの魔物は縄張り意識が強く、侵入者にはとても攻撃的だ。
しかも狼というのは力も素早さもかなりあって、生身で戦うのはお勧めできない相手だ。
賢者「遠回りしましょう魔法戦士君、あれは危ないわ」
魔法戦士「いや先生…この森にはああいう魔物が沢山いるんだ。いちいち避けてたら千年樹に着くのが遅くなる」
賢者「それはそうだけど…」
魔法戦士「暗くなったら森は更に危険になるんだよ、先生」
魔法戦士はそう言うと賢者を地面に下ろした。
賢者「魔法戦士君、まさか戦うつもり!?」
魔法戦士「心配しなくていいよ。すぐ終わらせる」
魔法戦士は剣を抜いて、どんどん狼に近づいていった。
そんな彼に狼は、敵意をむき出しにする。
賢者「危険よ魔法戦士君、やっぱり…」
魔法戦士「子供扱いすんなって、先生」
魔法戦士は剣先を狼に向ける。
魔法戦士「俺、強いんだよ」
次の瞬間――
55:
狼「グルアアアァァ――」
狼が魔法戦士に飛びかかっていった。
素早い――その距離はあっという間に1メートルに縮まった。
魔法戦士「喰らえ、爆炎!」
剣先から爆炎が5発、狼に向かう。
賢者(駄目だわ、あれじゃあ…!)
賢者の読み通り、爆炎は狼の毛をかするだけでダメージを与えることはなかった。
爆炎の威力が小さい。魔法戦士の技量なら、あの程度が限界だろう。
爆炎にひるまず狼は、その爪で魔法戦士を狙った。
魔法戦士「ふんっ」カキン
だが魔法戦士は軽くその爪を剣で受け止める。
それから後方へと跳躍する。
だが――
狼「ガアアァァッ!!」
狼は魔法戦士を追う。魔法戦士は狼の攻撃を受け止め、距離をとる。
そんな攻防が続いた。どちらも、動きを落とす様子は見せない。
賢者(どうしよう…)
魔法が全く使えないわけじゃないけれど、今の自分の力では援護射撃なんて無理だろう。
だけど、このままじゃ――
賢者「――」
その時、魔法戦士と目が合った。
心配すんなって言ったろ――彼の表情は、そう言っているようだった。
56:
魔法戦士「喰らえ!」
再び爆炎が狼に襲いかかる。だが相変わらず威力は小さく、狼は容易に回避する。
やはり駄目だ――そう思った。
だが。
魔法戦士「狙い通りっ!」」
魔法戦士は意気揚々と狼と距離を詰める。
その剣先は見事に、狼の喉元をとらえていた。
そして一閃――
魔法戦士「…勝利」チャキン
一擊で狼を仕留めた魔法戦士は、剣を鞘に収めた。
魔法戦士「爆炎で狼の回避する方向を誘導した。あいつは見事、狙い通りの場所に回避してくれた」
賢者(そんな魔法の使い方もあったなんて…)
賢者は感心していた。
魔法でのみ戦う賢者にとって、そんな戦い方は思いつきもしなかった。
魔法戦士「どうだった、先生?」
賢者「剣と魔法を使いこなす魔法戦士君ならではね。そんな応用できるなんて凄いわ、先生驚いちゃった」ニコ
魔法戦士「あ、うん…」
賢者「?」
魔法戦士「それより行こう」
賢者「そうね」
魔法戦士「…かっこいいとか言ってくれよ」ボソッ
61:
>千年樹
賢者「ふぅ、ようやく着いたわねぇ」
魔法戦士「でっけー木…」
遠目で見ても大きかったが、こう目の前に立つと、お城くらいあるように見えた。
魔法戦士「で、どうするんだっけ」
賢者「時の精霊と話をするわ。精霊を呼ぶ儀式があるのよ」
賢者はそう言って、荷物の中からロウソクや魔法陣の描かれた布を取り出す。
手際良く準備を進めると、呪文を唱え始めた。
賢者「?…」
魔法戦士(何て言ってるかわかんねぇ。語学も勉強しないとなぁ…)
賢者「ロウソクの火が大きくなった…来るわ!」
魔法戦士「!」
布の魔法陣が光を放つ。
魔法戦士も、その場の空気が変わるのを感じた。
そして――
時の精霊「ども?っす」
手のひらサイズの、少年の姿をした精霊が姿を現した。
62:
賢者「貴方が時の精霊ですね」
時の精霊「そだよ。僕に何か用かな?」
魔法戦士「こんなちびっこに何とかできるもんなのか?」
時の精霊「失礼だな君は。僕はこう見えても人間の何十倍も生きてるんだぞ」
魔法戦士「そうか、悪かった。見た目で判断してた」
時の精霊「よかよか」
賢者「実は時の精霊様にお願いがあって…」
時の精霊「何かな…って君、よく見たら呪いがかけられてるじゃない」
賢者「わかりますか?」
時の精霊「まーね。呪いのせいで魔法力を失ったと見た、災難だねぇ」
賢者「でも若返ったのは結構嬉しいんですよ?」エヘヘ
時の精霊「あー、人間は老いが早いしね。じゃあいいんじゃない、そのままで」
魔法戦士「いいわけあるか!!」
時の精霊「何で君のが必死なの?」
魔法戦士「べ、別にっ!?それより、先生を元に戻すことはできるのか!?」
時の精霊「う?ん」
63:
時の精霊「呪い自体は単純なものだけど、かけてきたのが厄介な奴だね。強大な力を持つ奴が命を燃やしてかけた呪いっしょ」
賢者「えぇ、その通り。貴方でも難しいですか?」
時の精霊「無理ではないけど、相当力を使う。僕の体調が万全の時じゃないと駄目だ」
魔法戦士「今は駄目なのか」
時の精霊「精霊の間で少子高齢化が進んでいてな、働き手が少ない分激務なんだ。精霊の働き手が増えて一息つけるまでは駄目だな」
魔法戦士「…それはいつまでかかる?」
時の精霊「人口ピラミッドの変化には500年位かかるかな」
賢者「流石精霊ねぇ、気の長い話だわ?」
魔法戦士「先生のん気だなぁ!?人間が待てる期間じゃないよ!?」
賢者「仕方ないわよ、あちらの事情があるんだもの」
魔法戦士「そりゃそうだけど…」
時の精霊「そう結論を急ぐな。僕の体調を万全にすればいい」
魔法戦士「どうやって」
時の精霊「じゃじゃーん」
時の精霊が差し出したのは、黄色い液体の入ったビンだった。
魔法戦士「これは…?」
時の精霊「精霊の間で評判の栄養ドリンクだ」
魔法戦士「へ、へー?」
64:
時の精霊「これがなかなか希少なものでな、チビチビ飲んで何とか重労働に耐えている。けどこれを思う存分飲めれば、元気になるかもな?」チラッチラッ
賢者「わかりました、つまりこれを用意すればいいんですね」
魔法戦士「売ってるの?」
時の精霊「ちっがーう。このビンをやるから成分を分析して同じもん作ってこいや」
魔法戦士「げっ」
賢者「やってみます」
時の精霊「そいじゃ楽しみにしてる。あ、帰りは千年樹に住む鳥に送ってもらうよう頼むよ」
そう言い残すと時の精霊は姿を消し、賢者たちの元に大きな鳥が舞い降りた。
鳥は2人を背中に乗せると、森の上空を飛び始めた。
魔法戦士「何か、面倒なことになったね…」
賢者「私はこういうの大好き♪」
魔法戦士「流石先生だね…」
賢者「人生、回り道も必要よ。どうせなら回り道を楽しまなくちゃ」
魔法戦士(回り道に時間かけて本来の目的を見失わないか心配だな…)
65:
賢者「うーん」
帰ってきた賢者は早、栄養ドリンクの成分分析に取り掛かっていた。
家にあった薬で試験薬を調合し、栄養ドリンクに混ぜ、観察する。
賢者「ふむふむ、なるほどなるほど…」
魔法戦士「先生、ご飯できたよ」
賢者「はい魔法戦士君に問題です。試験薬がこの色になりました、この栄養ドリンクは何属性でしょ??」
魔法戦士「え、えっと…青だから、水?」
賢者「惜しい。緑の泡が発生してるから、水属性メインで草属性が混じってるわ」
魔法戦士「あ、ああぁ…そうだったねー(棒」
賢者「属性がわかったから、もう少し緻密な分析を…」
魔法戦士「まず飯食おうな」
賢者「あと少し、あと少しだけ?…」
魔法戦士「人生、回り道も必要だよ先生」
賢者「うー。わかりましたー」
魔法戦士(何か普通に子供だ)
66:
>翌日
賢者「うーん」
作業は難航していた。
賢者(魔法があればパパッとわかるのにな?。これが縛りってやつねぇ、うーん試練)
その時、家の入り口のドアが叩かれた。
魔法戦士「入るよ先生」
生徒A「先生、おはよ?」
賢者「あら、皆?」
入ってきたのは教え子達だった。
賢者「どうしたの皆、今日は教室はお休みの日よ」
生徒B「魔法戦士に聞いたけど、先生、何か難しいことやってるんだってね」
生徒C「私達にできることがあれば協力させてもらおうかと思って。今の私達、魔力だけなら先生よりあるし」
賢者「あらあら。悪いわそんなの」
生徒D「いいんだって。これも実技のうちだと思えば」
生徒A「そうそう、先生みたいな魔法使いになりたいし!」
賢者「皆…」ジーン
魔法戦士「さて先生、まず何からすればいい?」
生徒A「魔法戦士の実力じゃ無理よ、どいてなさい」
魔法戦士「何ぃーっ」
ワイワイ
賢者(賑やかで楽しくなりそうね)
67:



生徒A「えーと、光魔法に対する反応から見るに…」
生徒B「あ、わかった!ピロピロの森のピロピロが含まれているんだ」
生徒C「大分、原材料の分析もできてきたね?」
生徒D「うんうん、皆で力を合わせたらあっという間だね」
魔法戦士「あっという間じゃねーよ。夕飯冷めちまうぞー」
生徒A「おー、悪いね食事係ィ♪」
魔法戦士「くっ」
賢者「一旦休憩して皆で食べましょう」
夕飯を食べながら、生徒達の書き出した原材料のメモを見る。
どれも、そんなに遠くない場所で採れるものばかりだが、種類が多い。
生徒A「20ヶ所位行かないと駄目かな?」
生徒B「手分けしてやれば大変じゃないよ」
賢者「皆には苦労かけるわね…」
生徒C「一流の魔法使いは材料収集からやるんでしょ?これも実技のうちだよ」
生徒D「とりあえず危険そうなのは男子にお願ーい♪」
魔法戦士「男子って俺だけだなぁ?」
生徒A「やなの?」
魔法戦士「余裕だ」
生徒B「きゃー、かっこいいぞ魔法戦士?」
賢者「無理しないでね?」
魔法戦士「うん、わかってる」
72:
それから数日、材料収集は行われていた。
賢者も危険がない場所には自分の足でおもむき、材料を集めていた。
魔法戦士「ほれ、とってきたぞ?」
賢者「魔法戦士君、その顔の怪我…」
魔法戦士「あー?まぁ、大したことない」
賢者「無理しないでって言ったでしょ?。待ってて、今薬持ってくるわね。先生、今回復魔法使えないんだからね」
魔法戦士(回復魔法よりこっちの方がいいな…)
賢者(無茶する子ねぇ…心配だわぁ)
そんな心配もあったが。
生徒A「よし、材料残り5つだね!」
収集は順調に行われていた。
73:
こんな出来事もあった。
魔法戦士「今日行く所ちょっと危険だし、パーティー組んで採集しに行くか?」
生徒B「そうね?」
生徒E「お邪魔しま?す…」
賢者「あらE君、F君、G君」
賢者が子供になってから教室に来なくなっていた男子生徒達だった。
魔法戦士「…何しに来たんだ?」
生徒F「これ…」
魔法戦士「あ!今日取りに行こうと思ってた材料じゃないか」
賢者「まぁ。取ってきてくれたの?」
生徒E「う、うん」
生徒F「男3人でならそんな大して苦労しなかったしな」
生徒G「まぁ、ついでだよ」
黙って教室をやめた後ろめたさがあるのか、3人は目を合わせようとしてこない。
それでも自分の為に動いてくれたことが、賢者には純粋に嬉しかった。
賢者「ありがとうね…皆」
74:
そんなこんなで。
魔法戦士「材料全部集まったな」
賢者「皆お疲れ様。あとは調合だけね?」
生徒A「調合は調合で難しいんだよね?」
生徒B「これも勉強だと思ってやろう」
賢者「慌てる必要はないわ、先生この体結構気に入ってるしね♪」
生徒C「そうだね、ゆっくり確実にやろう」
生徒D「魔法戦士、ご飯作りよろしく!」
魔法戦士「どうせ実技は期待されてませんよ?」
賢者「まぁまぁ。魔法戦士君にも後でじっくり教えてあげるからね?」
魔法戦士(2人だけの補習…)
生徒A「先生ー、魔法戦士がいけない想像してまーす」
魔法戦士「し、してねーし!健全だし!!」
75:
その頃、王都では――
王「もうすぐ魔法の学会があるそうだな」
大臣「賢者殿はあの姿ですから、参加できないでしょうな」
王「ウム…となると大魔道士に注目が集まる所かな」
大臣「でしょうね。色々と良からぬ噂がある輩なので、いい気はしませんが…」
王「魔法使い同士の足の引っ張り合い、何とかならんものか…」
兵士「大変です、王様!」
王「何事だ!」
76:
賢者「ふわーあ…寝坊しちゃった」
魔法戦士「先生、先生!大変だ!」ドタバタ
賢者「おはよう魔法戦士君。どうしたの?」
魔法戦士「悪いニュースだ。魔王城に大魔王が現れたらしい!!」
賢者「大魔王…?」
魔法戦士「先生が倒した魔王の先祖で、何百年か前に魔王城に封印されてたみたいだけど…」
賢者「あぁ…大昔そんなこともあったわね。その封印が解けたのかしらね?」
魔法戦士「そうだと思う…」
賢者(魔王…まさかこれを見越していたのかしら?)
魔法戦士「一応、大魔王討伐に大魔道士って人らが派遣されたみたいだけど」
賢者「うーん…」
大魔王を直接見たことがないので、力の程度はわからない。
だけどわかった所で、今の自分にはどうしようもない。
賢者「大魔道士さんなら実力は確かよ。信じて待ちましょう」
魔法戦士「うん…」
77:
生徒A「えーと、これとこれ調合して…分量合ってるかな?」
生徒B「少しずーつ緑属性の魔力を混ぜて、と…」
その日も生徒達が集まり、調合を行っていた。
賢者よりは魔法力がある生徒達と、調合の知識のある賢者で協力して、まぁまぁ順調にいっていた。
賢者「そうそう、そこでピロピロを少しずつ混ぜて…」
生徒C「少しずつ、少しずつ…」
そして…
生徒A「出来たーっ!これ完成じゃない!?」
生徒B「でも量少なくない?」
生徒C「まぁお試しだからね。でも同じように作れば量産できるはずよ」
生徒D「そうだね、もうひと頑張り!」
賢者「今日は皆、魔力と集中力を使ったから一旦やめにしましょう。体を休めるのも大事よ」
魔法戦士(俺は力が有り余っていて、肩身が狭い)
78:
賢者「悪いわね魔法戦士君」
魔法戦士「いや俺、力有り余ってるんで」
解散後買い物をし、重い荷物を魔法戦士が持っていた。
賢者「皆優しい子よねぇ、私の為に動いてくれて」
魔法戦士「なぁ先生…先生は今の姿の方がいいのか?」
賢者「え?」
魔法戦士「元に戻ることに消極的っていうか…俺たちの好意を無碍にできないから、無理してない?」
賢者「そういうのじゃないわよ。今の姿に不満がないのと、あまり皆に苦労かけさせたくないだけ」
魔法戦士「それならいいんだけど…」
賢者「魔法戦士君は心配しすぎよ。それに時間停止の呪いとは違うんだし、時間がたてば私も成長するのよ」
魔法戦士「そうなった時は…先生、人生やり直したりするつもりだった?」
賢者「えっ」
79:
賢者は子供の頃から魔法に没頭し、今では世界でも高名な賢者となれた。
だけど私生活はというと、友達と呼べる人はおらず、恋愛も未経験で、魔法以外のことに関しては年齢不相応に未熟だ。
それで寂しさや焦りを覚えなかったわけでもない。
だけど。
賢者「いいえ。また同じく魔法に没頭するわ」
それ以外の生き方など考えられなかった。
賢者「この体への未練はね、単純な若さへの執着よ。皆は若いからわからないと思うけど、20過ぎると歳取るのが早くて早くて…」
魔法戦士「先生は、魔法以外のことに興味ない…?」
賢者「あるわよ。あるけど、魔法程積極的になれないだけかな?」
魔法戦士「…それも勿体無いと思う。だって先生は魅力あるし…」
賢者「ふふ、ありがとう。でもね魔法戦士君、君は若いから見る目が肥えてないわ。大人になって色んな人と接すれば、もっともっと魅力的な人が…」
魔法戦士「子供扱いするなって言ってるじゃん!」
強めに言葉を遮られ、賢者は少し驚く。
魔法戦士「俺、家の手伝いで色んな人と関わってきたし、色んな人を見てる!だけど、その中でもやっぱり先生は――」
賢者「――あ」
80:
バッサバッサ
魔法戦士「うわぁ!?」
賢者「あら、千年樹の鳥だわ」
魔法戦士「な、何か焦ってるように見えるけど…」
バッサバッサ
賢者「…乗れって言ってるのかしら?」
魔法戦士「嫌な予感がするな…俺行くよ!」
賢者「私も行くわ」
賢者(もしかして、大魔王の影響で千年樹に何かあったのかも…)
83:
>千年樹
時の精霊「来てくれた。やっべーよ、マジやっべーよ」
賢者「どうしたんです?」
時の精霊「ついさっき、大魔王討伐に派遣された大魔道士って奴が負けたみたいでさ」
賢者「まぁ…何てこと!」
時の精霊「そんで大魔王は、魔王を倒したあんたを危険視してる。そのことを伝えたかったんだけど、僕はここを離れられないから」
賢者「そうですか…ご忠告ありがとうございます」
大魔王、危険な存在だとは思っていたが、もしかしたら魔王よりも強いかもしれない。
あの大魔道士が負けるなど、事態は思ったよりも深刻だ。
魔法戦士「急いで栄養ドリンクを量産して先生を元に戻さないといけないな」
時の精霊「栄養ドリンク作りは順調なの?」
魔法戦士「あぁ、それなら――」
魔法戦士が言いかけた時だった。
時の精霊「――っ!?」ゾワワァ
魔法戦士「どうした?」
時の精霊「こっちに来てる…邪悪な魔力を纏った奴が!」
賢者「!」
84:
「千年樹――俺が封印された時と変わりがないな」
時の精霊「この魔力は――」
上空を見上げる。
この邪悪な魔力、近くで感じると体に刺さりそうだ。
大魔王「我は大魔王――千年樹を滅ぼしに来た」
魔法戦士「あいつが大魔王!?な、何でここに…」
賢者「いえ、当然と言えば当然だわ…」
賢者(私を危険視してるなら、私の呪いを解く可能性のある千年樹に目をつけるのは自然な考えだものね)
時の精霊「や、やめろー。千年樹に手を出すなー」
大魔王「邪魔だ」ドオオォォン
時の精霊「うわっ!!」
賢者「精霊様!」
爆風に時の精霊が吹っ飛ばされた。
幸い軽傷で済んだ様子だが、力の差は圧倒的に見えた。
85:
大魔王「覇っ」
大魔王の手から魔法が放たれる。それは千年樹に向かっていき――
賢者「あっ」
時の精霊「ああぁ…千年樹が…」
千年樹が瘴気に侵されていく。
時の精霊「こりゃいかん。侵食を止める為に、千年樹の時の流れを変えなきゃ」
大魔王「させんぞ」ドォン
時の精霊「――っ!」
大魔王の手から放たれた魔力の球が、時の精霊に向かっていき――
魔法戦士「させっかよおぉ!!」ズバッ
大魔王「ほう」
間に入った魔法戦士によって、魔力の球は真っ二つに切られた。
86:
魔法戦士「時の精霊、千年樹を何とかしな!」
時の精霊「でも大魔王が…」
魔法戦士「俺が相手してやるから!」
賢者「駄目よ魔法戦士君、君がかなう相手じゃないわ!」
大魔王「そちらの子供の方が状況をわかって――ん?お前、魔王の呪いがかけられているな」
賢者「――っ!」
大魔王「そうか――お前が魔王を倒した賢者か」
大魔王の殺気がもろに賢者に向かう。
以前なら余裕の微笑みをもって返せた殺気。だが今は無力で、何の抵抗の術も持たない。
大魔王「我の脅威となる者よ、この世から消滅するが良い!!」
魔法戦士「危ない先生!!」
ドゴオオォォン
爆発音を背後に聞く。
魔法戦士が体を抱え、回避してくれた。
大魔王「チッ、邪魔な」
大魔王は攻撃の手を緩めず、ドゴンドゴンと攻撃音が鳴り響く。
魔法戦士は賢者を抱えながら、必死に逃げ回っていた。
大魔王「逃げるだけでは勝てんぞ」
魔法戦士(ったりめーだろ、逃げるので精一杯なんだよ!!)ゼーハーゼーハー
87:
賢者「魔法戦士君、逃げるのも限界があるわ。私を置いて逃げなさい」
魔法戦士「先生を見殺しにできるわけないだろ!」
賢者「だけどこのままじゃ」
魔法戦士「うわぁ!?」
大魔王からの攻撃で会話は遮られる。
魔法戦士「チッ、こうなったら…」
賢者「魔法戦士君!?」
魔法戦士は千年樹の陰に賢者を下ろす。
魔法戦士「俺もすぐ追いかけるから、先に逃げてて!」
賢者「そんっ…」
咎める声を聞かず、魔法戦士は大魔王に向かっていく。
自分が逃げるまでの時間を稼いで大魔王から逃げるなんて――魔法戦士がそんなことできるとは思えない。
賢者(それに…)
時の精霊「くうぅ、侵食が進んでいく?」
賢者(このままじゃ、千年樹が――)
賢者「精霊様!」
時の精霊「な、何ぃ??くううぅぅ…侵食を遅らせるので精一杯だあぁ…」
賢者「これを!」
時の精霊「これは…」
88:
魔法戦士「うぎっ」
体が地面に叩きつけられる。
一擊も大魔王に当てることができないまま、ダメージが蓄積していた。
やはり相手は大魔王。マトモに相手できるわけがない。
大魔王「弱いな」
魔法戦士「あぁ…弱いよ」
魔法戦士は膝をつきながらも立ち上がる。
魔法戦士「けど勝てなくても、できることはあるんだよ!」
大魔王「無駄にタフだな。面倒な奴だ」
魔法戦士「嬉しいね、大魔王様に褒められるたぁ」
今は自分のタフさに感謝する。
少しでも長く時間を稼げる。賢者が逃げるだけの時間を確保できる。
魔法戦士(俺は先生を守れる程の男じゃないけど――)
それでも、戦わなければならない。
ここで戦わないのなら、男に生まれた意味がない。
大魔王「だが、お前の相手はもう終わりだ」
魔法戦士「――っ」
耳が壊れそうな程の爆撃音に一瞬、気が遠くなる。
だけど精一杯戦ったことに、後悔はなかった。
魔法戦士(先生――っ!!)
89:
魔法戦士「…っ!?」
賢者「危なかったわね」
一瞬死を覚悟したものだが、ダメージは無かった。
魔法戦士を守るように、光の壁が彼を包み込んでいた。
だが、それ以上に――
賢者「ごめんね魔法戦士君、遅れたわ」
魔法戦士「先生――」
その姿は、紛れもなく。
大魔王「チッ!!呪いが解けたのか!!」
魔法戦士がよく知った、賢者の本当の姿だった。
大魔王と対峙する賢者の表情は、いつもと同じ温和なものだったが、いつもとは違っていて――
賢者「あら――私が怖い?」
大魔王「!!」
魔法戦士(シビれるー…)ポー
敵に向ける挑戦的な瞳に、魔法戦士はすっかり虜になっていた。
賢者「1分で何とかするわ」
94:
大魔王「覇っ!!」
大魔王の手から次々爆撃が放たれる。
だが賢者は慌てることなく手をかざし――
ドガアアァァン
大魔王「――っ!?」
賢者が放った爆撃は大魔王の爆撃を打ち消し、更に突き抜けて大魔王の体を焦がした。
ダメージそのものは大したことないが、大魔王を上回る魔力を見せつける。
賢者「これはどう?」
大魔王「!!」
大魔王の周囲は光に囲まれていた。
光は閃光となり、四方八方から容赦なく大魔王を狙う。
大魔王「くっ」
大魔王は防御と回避を使い分け、直撃を避けていた。
だが1本の閃光が、大魔王の腕をかすめ――
大魔王「――っ!!!」
腕から血が噴射する。
もしこれが直撃していたら――
賢者「これで済ませるわけないじゃない」ドスッ
大魔王「!!!」
不意打ちの魔法で、大魔王の左肩に大きな穴が空いた。
95:
魔法戦士「すっげ…」
賢者の圧倒的な戦いぶりに、魔法戦士は見惚れていた。
時の精霊「大丈夫だろうか…」
魔法戦士「どう見ても大丈夫だろ、先生が勝つよ」
時の精霊「あぁ…時間制限が無ければそうだと思うが」
魔法戦士「時間制限?」
時の精霊「賢者があの姿を保っていられるのは、あと40秒位だ」
魔法戦士「えっ!?」
96:
>先刻
賢者「精霊様!」
時の精霊「な、何ぃ??くううぅぅ…侵食を遅らせるので精一杯だあぁ…」
賢者「これを!」
時の精霊「これは…」
賢者「少しだけだけど作ってきたんです、栄養ドリンク!これで私の姿を元に戻せませんか!?」
時の精霊「これは…本物だな!だが…」
賢者「どうしました?」
時の精霊「これじゃ量が少ない。元に戻せても1分その姿を保っていられるかどうか…」
賢者「1分で大魔王を討てばいいんですね?」
時の精霊「いくら何でも無茶な」
賢者「無茶でもやります」
97:
時の精霊「やるとは言ったけど、1分で大魔王を仕留められるとは思えない…」
魔法戦士「…っ」
確かに戦いは賢者の方がリードしていたが、大魔王の防御も大したもので、致命傷になる程のダメージは与えられていない。
時の精霊「あと30秒」
魔法戦士(先生…)
大魔王「貴様…っ!!」ドゴオォン
賢者「甘いわ」ヒュンッ
大魔王の攻撃を指一本で消してみせ、余裕の笑みを向ける。
賢者「貴方の力はこんなもの?」
大魔王「…っ!!」
その口ぶりは挑発的で、瞳は上から目線。
大魔王は明らかに激昂していた。
時の精霊「あと20秒。あんな怒らせて、まずいんじゃないかね」
魔法戦士「俺は、先生を信じるよ…!!」
賢者は誰よりも強く、頭が切れる。魔法戦士はそう信じて疑わなかった。
魔法戦士「先生、頼みます…っ!!」
98:
大魔王「どうやら、全力を出さねば潰せないようだな」
賢者「あら、やっとおわかり?」
大魔王「褒めてやろう。ここまで本気の力を出すのは、数百年ぶりだ…!!」
賢者「!」
大魔王の筋力が肥大化する。体には膨大な魔力を纏い、明らかにパワーアップしていた。
賢者「そうなるのが遅いんじゃなくて?」
それでも賢者は、余裕の笑みを崩さない。
大魔王「貴様の余裕も、ここまでだ…!!」
大魔王は賢者に狙いを定め――急降下した。
大魔王「覇あああぁぁ!!」
賢者「――っ」
時の精霊「あと10秒…っ!!」
魔法戦士「――」
先生――魔法戦士の叫びは、爆発音にかき消される。
莫大な力同士がぶつかり合った衝撃で、魔法戦士は吹っ飛んだ。
99:
時の精霊「おい大丈夫か人間」
魔法戦士「先生は…っ!?」
すぐに体を起こし、煙の中を注視する。
大魔王「ハァ、ハァ…」
満身創痍な様子ながら、大魔王は生きていた。
大魔王「まさか我の力を反射するとは…本当に小賢しい人間よ」
大魔王「だが…」
時の精霊「あ…っ」
賢者「…っ」
賢者の姿は、再び子供のものになっていた。
大魔王「その姿では、弱っていても我は倒せまい!!」
時の精霊「うああぁ…絶望的な状況」
大魔王はゆっくり立ち上がり、足を引きずりながら賢者に近寄っていく。
絶体絶命――そう思えた。
100:
賢者「ふふ…っ」
大魔王「何がおかしい」
賢者「まさか、これだけが私の力だと思っていた?」
大魔王「どういう意味だ」
賢者「私の力は、私が持つものだけじゃない」
失った力は、確かに大きいけれど。
賢者「私は力の種を蒔いて、それを大事に育ててきた…」
時の精霊「力の種…?」
賢者「そう。種は芽となり、すくすく育って…」
ズバッ
大魔王「カハ…ッ!!」
賢者「君は遅咲きだったけど――それでも立派に、育ってくれた」
魔法戦士「先生のお陰でね」
魔法戦士の剣が、大魔王の体を貫通していた。
賢者「後は任せてもいいかしら…魔法戦士君」
魔法戦士「当然」
その返答を聞いて、賢者は後ろに下がった。
101:
大魔王「貴様…っ」
魔法戦士「おっとぉ!!」カキン
賢者に襲いかかろうとする大魔王の爪を、魔法戦士は剣で受け止める。
時の精霊「始めから、これを想定していたのか」
賢者「えぇ」
魔法戦士「さっきより動きが鈍ってんぜ!じいちゃんは無理すんなよ!」
大魔王「チッ、邪魔な」ブンッ
魔法戦士「おっと!」カキィン
賢者「1分じゃ大魔王の力のほとんどを消費させ、ある程度のダメージを与えるので精一杯…だけど、勝機を見出したからそうした」
時の精霊「随分信頼しているんだな、あいつを」
賢者「この姿になってから、魔法戦士君に頼ってきた」
以前この森を訪れた時の戦いの時、大魔王の攻撃から守ってくれた時。
賢者「だから私、彼の強さはよく知っている」
魔法戦士「あああぁぁ――っ!!」
ザシュッ
102:
大魔王「グ…」
魔法戦士の剣は大魔王の胸を刺していた。
だが心臓まであとわずかという所で、大魔王は筋肉で刃を止めていた。
大魔王「惜しかったな…!!」
そう呟き、大魔王は手を振り上げたが――
魔法戦士「いや――」
魔法戦士(確かに剣だけで勝負してたら、俺の負けだった)
魔法戦士(けど俺は、剣だけじゃない…!)
賢者の戦いを思い出す。
自分には、あれ程の力は出せないけど――
ドゴオオォォン
大魔王「――」
剣先が爆発する。
大魔王は大量の血を口から吐き、白目を剥き――
魔法戦士「これ位できねーと、先生の教え子は名乗れねーよ」
言い終わったと同時、大魔王は地面に倒れた。
107:
賢者「魔法戦士君!」
魔法戦士「わっ!?」
賢者は魔法戦士に飛びつくと、精一杯手を伸ばして頭を撫でた。
賢者「ごめんね危険な目に遭わせちゃって?、流石魔法戦士君ね、先生信じてた!君は先生の誇りよ!」ナデナデ
魔法戦士「だから、子供扱いすんなって!!」
賢者「あら、ごめんなさい。一人前の戦士さんには何をすればいいのかしら?」
魔法戦士「そ、そりゃ…き、キ、キキキキ…」
賢者「キ?」
魔法戦士「い、いや、何もしなくていい!とにかく離れて!!」
賢者「はーい」
108:
賢者「さて、帰ったら栄養ドリンクの大量生産をしないとね」
魔法戦士「そうだな、大量にあれば先生も元に戻るよな」
賢者「いえ、それよりも」
賢者は千年樹を見上げた。
賢者「瘴気の侵食が進んでいる。まずはこれを何とかしないと」
魔法戦士「そうか…それにはどうすりゃいい?」
賢者「その為の栄養ドリンクよ。この瘴気を何とかするには精霊様の力が必要だものね」
時の精霊「すまねぇなぁ、大分時間がかかりそうだ。千年樹を戻さないと、あんたの呪いをとけそうにもない」
魔法戦士「…それにはどれ位になる?」
時の精霊「早くて10年くらいかかるな」
魔法戦士「意味ねー!!」
賢者「10年経ってもまだ20歳くらいかぁ…うふふ、いいかも?」
魔法戦士「先生?…」
賢者「あら不満?それなら先生、魔法戦士君を大人として見れないな?」
魔法戦士「うぐぐ…わかった、わかりました!千年樹を元に戻すことに尽力しますよ!」
賢者「流石魔法戦士君!」
時の精霊「絶対、何らかの形でお返しするから。すまねぇな」
109:
賢者は帰還すると、まず王にあったことを報告した。
そして王の命令により、魔法学会に栄養ドリンクの生産が命じられた。
賢者「あらー元気そうで良かったです」
大魔道士「全然元気じゃない…全治3ヶ月だ、いてて」
賢者「大魔道士さんの技量があったからそれで済んだんですよね」
大魔道士「ま、まぁな」タラー
大魔道士(つーか大魔王に「どうでもいい奴」って見られてた気が…)
大魔道士(こんな事になるならギルドに圧力なんかかけないで、始めから大魔王を賢者に任せておけば良かったんじゃ…)
賢者「どうかしましたか?」
大魔道士「い、いや別に…」
賢者「そうですか。それでは失礼します」
大魔道士(これはギルドに圧力をかけた報い…?いやでも、それなら全治3ヶ月で済んだなら…)
ゴーン
大魔道士「あだだぁ!?な、何だ!?突然隕石が頭の上に!?」
時の精霊「よくやってくれた」
星の精霊「いやいや」
しばらく大魔道士は隕石による報いに苦しむことになるが、それはまた別の話である。
110:
賢者「よーし、大分勘がつかめてきたわ」
魔法戦士「先生、修行は順調?」
賢者「お陰様で。見てほら、炎を出せるようになったわ」ボッ
魔法戦士「流石先生…すぐに元の力を取り戻すかもね」
賢者「えぇ、1年後には教室に復帰できるよう頑張るつもりよ」
魔法戦士「皆待ってるからな、先生」
賢者の魔法教室は、魔法学会より臨時の魔法使いが派遣されることとなり、賢者はしばらく休職することとなった。
それでも生徒達は皆、真面目に通っているそうだ。
賢者「そういえば魔法戦士君、あの話は受けるの?」
魔法戦士「あー…先生も知ってたか」
魔法戦士は大魔王を討った功績が認められ、国から騎士団への勧誘を受けていた。
魔法戦士「実は先生に進路相談したくて来たんだよな」
賢者「あら、そうだったの。相談ならいくらでも乗るわよ」
魔法戦士「じゃあ先生…ちょっと外歩きながら話さない?」
賢者「えぇ、いいわよ」
111:
魔法戦士「迷ってるんだ、俺」
並木道を歩きながら、魔法戦士はそう切り出した。
魔法戦士「大魔王を討てたのは、9割方先生のお陰だ。それに俺、剣も魔法も正直中途半端だし、このまま勧誘を受けていいのか…」
賢者「王様だってそれは承知の上よ。騎士団に入ればビシバシ鍛えられるわよ。あ、もしかしてそれがイヤ?」
魔法戦士「いや、そんなことはないけど…王様の期待を裏切るんじゃないかとかね」
賢者「心配いらないわ、魔法戦士君の戦闘センスは本物だもの。先生が保証する」
魔法戦士「先生にそう言ってもらえるのが、1番自信につながる」
魔法戦士は嬉しそうにはにかむ。こういう顔は、まだ子供っぽさを残していると思う。
魔法戦士「1つ心残りなのは――」
賢者「うん?」
魔法戦士「騎士団に入れば先生とほとんど会えなくなるだろ。…先生、俺のこと忘れたりしない?」
賢者「忘れるものですか。君は先生の誇りで、大事な生徒だもの」
魔法戦士「5年――」
魔法戦士は一瞬躊躇し、言った。
魔法戦士「5年経ったら――先生に相応しい男になってみせる」
賢者「――え?」
112:
魔法戦士「今の俺のままじゃ、自信を持って先生を迎えられない。だから俺は騎士団で自分を鍛えてくる」
賢者「あのー…魔法戦士君?」
魔法戦士「5年、俺を待っててくれないか先生」
賢者「魔法戦士君…?話が見えないんだけれど…?」
魔法戦士「俺、ずっと――」
魔法戦士は賢者の正面に立ち、そして――
魔法戦士「先生のこと、ずっとずっと好きだったんだよ!!」
賢者「…」
賢者「……え」
賢者「えええええぇぇぇ!?」
113:
魔法戦士「先生が子供になった時はショックだったけど!!5年すりゃ先生も成長する、俺ならそれまで待てるよ!」
賢者「ま、待って魔法戦士君!?急に言われてもどうしていいか…」
魔法戦士「俺は先生からすればまだガキだし未熟者だし、そんな対象じゃないこともわかってる。だから5年後には立派な男になるから…」
賢者「待ってってば?」
これは何?夢?
何と返答すればいいのかわからない。
魔法戦士の言うとおり、自分は彼のことを恋愛対象として見たことはない。自分達は先生と生徒であって、30手前のオバサンと若い男の子であって…。
賢者「魔法戦士君、私なんて魔法以外何もできないオバサンよ。世の中には、もっと素敵な女性が沢山――」
魔法戦士「それでも俺、先生がいい」
魔法戦士の瞳は真剣だった。
魔法戦士「そりゃ先生は天然だしズボラだし、その辺の幼児のがしっかりしてる位だけど」
賢者「それは言いすぎよぅ」
魔法戦士「そういう所も全部ひっくるめて、俺は先生が好きだ」
賢者「魔法戦士君…」
彼は真剣なんだ――その気持ちを子供扱いしちゃいけない。
賢者は少し間を置いて、返答を用意した。
114:
賢者「ごめんね魔法戦士君…今はまだ、返事できない」
自分自身、恋愛に関しては未熟すぎて。
賢者「やっぱり私、君のことどこか子供扱いしているんだと思う」
魔法戦士「う…」
賢者「でも、5年経ったら流石に子供扱いできないわよね」
魔法戦士「!」
賢者「だから――」
上手い返答が思い浮かばない。だから自分は、恋愛もできなかったのかもしれない。
それでも、魔法戦士にも、自分の気持ちにも、誠実でいたい。そう思って答えた。
賢者「5年経っても私への気持ちが変わらないようなら、また言いに来て。それまで、待ってるから」
魔法戦士「先生…」
魔法戦士はうつむいてブルブル震える。
どうしたんだろう…そう思った途端顔を上げた。
魔法戦士「チャンスはゼロじゃないんだな!?いいんだな期待して!?」
賢者「えぇ…」
魔法戦士「よっしゃああぁぁ!!」
そしてガッツポーズのまま、たかーくジャンプした。
115:
魔法戦士「そうとわかりゃ1日だって無駄にできねぇ!!すぐに騎士団入ってくる!!」
賢者「魔法戦士君!?」
魔法戦士は駆け出す。王都への方向だ。
魔法戦士「先生ーっ、約束だからな!」
結構距離が離れた頃、魔法戦士はこちらに振り返る。
魔法戦士「俺絶対、先生に相応しい男になってくるから!先生も修行、頑張ってな!」
賢者「…えぇ!」
約束した。魔法戦士はきっともっと強くなって戻ってくる。だから自分も力を取り戻せるよう、頑張らなきゃ。
賢者の返答を確認した魔法戦士はまた駆けていき、やがてその姿は見えなくなった。
賢者(5年後、か――)
30年近く生きてきた自分には、あっという間の年月。
期待しよう――自分の生徒として、1人の男としての、魔法戦士の成長に。
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