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刑事「あー、やることないし暇だなー」


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1:
刑事「む、警部の机、いつもながら汚いなー」
刑事「まぁすることもないし片付けてあげるか」
ガサゴソ
刑事「これは証拠品のファイルで、これが現場の写真のファイル、これが指名手配犯リスト、
 これは・・・なんだろ?」
刑事「ノートだけどタイトルも何も書いてない・・・ちょっと見てみようかな」
刑事「お、新聞記事のスクラップ。どれどれ、『高3男、同級生の女の交際相手を刺殺』か
 うわっ、犯人の男、独特な顔してるなぁ」
刑事「日付は2×××年か。5年前・・・まだ僕がここに配属される前のことか」
刑事「『容疑者は同級生の女にストーカー行為をしており、動機は嫉妬による殺害と見られる』」
刑事「なんでこんなありきたりな事件の記事をわざわざスクラップにしてるんだろう」
3:
ペラッ
刑事「これは、警部の字か。『この事件は後にも先にも私の人生の中で最も印象深いものであろう。
 その内容をここに記し、これからの人生の戒めにしよう』」
刑事「あの敏腕警部にここまで言わせる事件ってなんなんだ・・・」
ペラッ
刑事「ここからは警部のメモか。どれどれ
 『容疑者の名前は男 ○○高校3年生。4歳の時、両親が蒸発、預けられる親類もおらず、やむなく児童施設へ。
 施設、学校ではどうやら日常的にいじめられて―――
・・・・・・・・
・・・・・
・・・
4:
―2×××年 □月△日、○○高校―
ザワザワ オハヨー オウ ギャハハ ザワザワ
ガラガラッ
「うわ、きたわよーw」
「いつもながらキモい顔だなw」
「本当に人間かよw」
「どんな反応するかなw」
「ププッww」
男「あっ(机がない・・・)」
「あっ、だってよwww」
「キモーいwww」
7:
タッタッタッ
男「よいしょ、よいしょ」ズリズリ
男「よしっ、と」
DQN「ごめん男くーんww机どけたの俺だわww邪魔でさー」
男「いや、こっちこそ邪魔してごめんね」
DQN「うわー、男君って優しいなー!優しいついでにお金貸してくんない?w」
男「ごめん、今手持ち無いから」
DQN「ハァ?調子こいてんじゃねーぞ!」
バキッ
男「うっ・・・」
先生「おいおい、ホームルームはじめるから席に着けよー」
DQN「・・・チッ」
9:
先生「じゃあホームルームはここまでだ。授業の準備しろよー」
ザワザワ
女「男君、さっき大丈夫だった?」
男「えっ?え、あ、はい。ありがとうございます」
女「そっか」
女友「ちょっと女、何してんのよあんなやつに話しかけて」ヒソヒソ
女「いや、さすがにかわいそうだなって心配になってさ」
男「!」
女友「でもさー、キモいじゃんw」
女「・・・まーキモいよねーww」
男「・・・でも、少しでも僕を心配してくれた。なんて優しいんだ・・・」
11:
―5日後、学校帰り、街中―
テクテク
男「あ、あれは女さん、とその彼氏か。いつも仲いいな」
男「でも、なんだろ、なんか女さん思いつめた顔してる。どうしたんだろ。
 ちょっとついていって様子を見てみよう」
テクテク
テクテク
男「どんどん人気のないところに行ってるな・・・」
テクテク
男「こんなところに公園が・・・ここに入るのか」
12:
彼氏「・・・が・・・たら・・・」
女「・・・も・・・・・・って・・・・」
男「聞こえないな。もうちょっと近づいてみよう」
彼氏「あと写真は15枚、1枚につき3万円だから45万円払えば全部返してやるって何度言えばわかるんだよ」
女「わかってるよ。でも、毎月バイトしても5万くらいしかもらえないし・・・ねぇ、返してくれない?」
彼氏「払う気ねぇのならばら撒いちまうかな、ハメ撮り写真」
女「っ・・・」
彼氏「風俗でも何でも働いて稼ぎゃいいだろうが!」
女「・・・このおッ!」
ドスッ
13:
男「う、あ、刺しやがったな・・・」
ズッ、ブシュゥッ
男「あっ、あ、あぁ・・・」
ドサッ
女「ハァ、ハァ、ハァ・・・どうしよう、殺しちゃった・・・」
スタスタ
女「!!!男君、見てたの!?」
男「そのナイフを、僕に渡してください」
女「いや、こないで!」
男「渡してください」
女「いや、いや・・・」
男「早く!!」
女「ヒッ、は、はい」
14:
男「もう死んでるな。心臓か・・・。傷口は横、か」
ドスッ ドスッ
女「え、死んでるんだよね?な、なにを・・・」
男「これからすべて僕の言うとおりにしてください。わかりましたか?」
女「は、はい」
男「まず、あの死体を抱きかかえてください。返り血を不審に思われないためです。
 その後、すぐに110番通報をしてください。電話では恋人が誰かに刺された、犯人は逃げた、とだけ伝えてください。
 警察が来たら事情を聞かれると思います。そのときに『同級生の男に刺された』とこう言ってください。
 あと、女さんの電話番号を教えてください。僕は逃げますから逐一指示を伝えますので」
女「え、そ、それじゃあ・・・」
男「ぐずぐずしている暇はありません。早く!」
女「は、はい」
15:
警部「なるほど、公園で散歩をしていたら突然同級生の男が現れて彼氏の胸を数回刺し、
 そのまま逃走した、と」
女「・・・はい」
警部「君は怪我はないのかい?やたら血がついているが・・・」
女「これは、彼氏君の血です。刺されて、どうしたいいかわかんなくて、抱きかかえたけど心臓からどんどん血が出て・・・」
警部「そうか・・・大至急、男の逮捕状の発行を、そして周辺を手当たり次第に捜索してくれ」
部下「はっ、わかりました!」
警部「つらいかもしれないが・・・犯人逮捕のためにまた話を訊くかもしれない。
 そのときは協力をよろしく頼むよ」
女「はい・・・」
17:
―夜10時―
ブー ブー ブー
女「は、はいっ」
男「僕の言ったとおりにしましたか?」
女「うん、大丈夫」
男「そうですか。何かおかしなことは訊かれませんでしたか?」
女「今のところは・・・」
18:
男「そうですか。もしおかしなことを訊かれたら言ってください」
女「わかったわ」
男「毎日22時にあなたに電話をします。決してあなたからは僕にかけないでください。では」
女「あっ、男君」
男「なんでしょう?」
女「ありがとう・・・私なんかのために」
男「・・・いえ。では失礼します」
ガチャ ツー ツー ツー
19:
―翌日、午後3時―
警部「どうでしたか先生、死体の所見は」
監察医「横向きの刺創が左胸に3箇所。凶器は小さなナイフだろう。
  あと、少し気になることが」
警部「といいますと?」
監察医「―――――」
警部「! そうですか、ありがとうございました」
20:
部下「どうでした?死体のほうは」
警部「うん、この事件はどうやら単純じゃないみたいだぞ」
部下「え?」
警部「お前は彼氏の家宅捜索礼状をとって捜索してくれ。俺は女に話を訊きにいく」
部下「彼氏の、ですか?」
警部「ああ」
部下「わかりました」
21:
ピンポーン
女「はーい・・・ !」
警部「どうも、警察のものです、お話しを訊きに伺いました」
女「どうぞ」
ガチャッ
警部「やぁ、失礼するよ」
女「こちらにおかけになっておまちください。お茶を出しますので」
警部「いや、結構。少し話しを訊きに来ただけだからね」
女「・・・なんでしょうか?」
22:
警部「いや、昨日のことをもう少し詳しく訊きたくてね。話してくれるかい?」
女「・・・はい」
警部「ありがとう。昨日君は、男が突然現れた、と言ったがどこからどのように現れたんだい?」
女「彼氏と一緒に歩いていたら、前からこっちに向かって歩いてきたんです」
警部「ふむ、そのときは男はナイフは手に持っていたかい?」
女「いえ、私たちの目の前で止まったと思ったら急にナイフを出して、彼氏の胸を・・・」
警部「刺したんだね。何度刺したのか覚えているかい?」
女「確か・・・3回ほど・・・」
警部「なるほど。それは立て続けに3回刺したのかい?」
女「・・・・・・はい」
23:
警部「・・・そうか、ありがとう。辛いことを思い出させてしまってすまなかったね。
 今日はこの辺で失礼するとするよ」
女「いえ、お疲れ様です」
警部「一刻も早く犯人を逮捕できるよう、全力を尽くすからね」
女「・・・」
警部「じゃあ、また」
ガチャッ
スタスタ
警部「なるほど、ね」
プルルルル プルルルル
警部「はい」
部下「あ、家宅捜索の結果ですが・・・」
24:
警部「何か見つかったか?」
部下「それが、その・・・何と言いますか・・・女の子の裸の写真がですねぇ」
警部「ほう」
部下「それも、女ちゃんの写真なんですよねこれ。15枚ほど」
警部「・・・そうか、ご苦労」
部下「はっ、では失礼します」
警部「明日はあっち方面を調べる必要があるな」
27:
―夜10時―
ブー ブー ブー
女「はいっ」
男「今日は何か変わったことはありませんでしたか?」
女「警部さんが話を訊ききたんだけど・・・」
男「内容はどんな?」
女「えーと、――――――」
男「そうですか。わかりました」
女「だ、大丈夫かしら・・・」
男「大丈夫です。女さんは今までどおり証言してくれて結構です。では失礼します」
女「あの、男君いまどこにいるの?」
男「それは言えませんが・・・捕まらない場所です」
28:
女「そう・・・ちゃんとご飯食べてる?おなかすいてない?」
男「・・・ありがとうございます。心配してくれて。大丈夫ですよ」
女「ねぇ、なんで私なんかのためにこんなことをしてくれるの?」
男「・・・失礼します」
ガチャ ツー ツー
女「あっ」
男「なんで、か」
―生まれて初めて人間の優しさに触れたから、なんて情けなくて言えないや―
男「それにしても、こんなに早いとは―」
29:
―翌日、午後1時―
警部「君らから見て、彼氏君と女さんの付き合いってどんな感じだった?」
彼氏友1「いやー普通にラブラブでしたよ。付き合いももう3年にもなるし。なぁ?」
彼氏友2「うんうん」
警部「最近なにかおかしなこととかなかったかな?」
彼氏友1「いやーないっしょ?」
彼氏友2「うーん、あっ」
警部「何か思い当たることでもあるかい?」
彼氏友2「いやー、最近彼氏のやつやたら羽振りがよくってさ。働いてるわけでもないのに」
彼氏友1「あぁ、確かにそうだったな」
警部「なるほど。ありがとう」
32:
―午後3時―
警部「君らの同級生の男君、いるよね?」
女友1「あー、女の彼氏殺した」
女友2「いつかやると思ってたけどねw」
警部「それって、男君が常日頃から女さんにつきまとってたってこと?」
女友1「いや、そーゆーわけじゃないけど・・・」
女友2「あいつにストーカーなんて勇気ないっしょw」
警部「女さんからそういう話聞いてないかな?」
女友1「ううん全然。男関係のトラブルなんてない子だったし」
警部「そうかい。ありがとう」
34:
ピンポーン
警部「どうもー、警部ですー」
女「あ、どうも」
警部「偶然近くを立ち寄ったもんでね、ちょっときちゃいました」
女「そうですか、中にどうぞ・・・」
ガチャッ
女「今日は、何でしょうか?」
警部「いや、何ってわけじゃないんだがね、ちょっと気になることがあって訊きたくてね」
女「・・・」
警部「君たち付き合い始めてもう3年にもなってたらしいね」
女「・・・はい」
警部「君らの友達も、仲がよかったってうらやましがってたよ」
女「あの、何が訊きたいんでしょうか」
36:
警部「あぁ、ごめんごめん。あのね、男君ってなぜ彼氏君を殺したんだと思う?」
女「・・・さぁ、ストーカーかなんかじゃないんですか?」
警部「いやー、それは考えにくいんだよ。男君はどうも、常に君に付きまとうとか
 そういったことはなかったらしいね。前々から好きだった女の子に付き合ってる人が
 いたから突発的に殺した、それは考えにくい。
 しかも君たちは付き合って3年目だ。君たちが付き合ってることをおととい初めて知って
 犯行に及ぶ・・・ますます考えにくくないかい?」
女「それはどういうことでしょうか?」
警部「うん、それがわからなくてね。君に意見を聞こうと思ったんだ」
女「話はそれだけですか?」
警部「うーん、まぁ」
女「でしたら帰ってください!」
警部「・・・すまなかったね、では失礼するよ」
38:
―夜10時―
ブー ブー ブー
女「・・・はい」
男「今日はどうでしたか?」
女「私、疑われてる・・・」
男「そうですか」
女「どうしたら、どうしたらいいの?」
男「大丈夫、大丈夫です。あと4日ほど辛抱してください」
女「・・・うん、わかった」
男「では、失礼します」
39:
―翌日、学校―
女友1「あっ、女ちゃん!」
女友2「来たんだ!」
女「う、うん、おはよう」
♂1「ホントなんて言ったらいいかわかんねーけど・・・」
♂2「男のやつ、まさかあんなことするなんて、最低だな!」
女友1「本当よ!顔だけじゃなくて心も腐ってるとは思わなかったわ!」
「ほんとだよー」「まじ早く捕まってくれよ」「なんで生きてるんだよ」
女「・・・やめてッ!!!」
女友2「ど、どうしたの?」
女「ご、ごめんなさい・・・ちょっと一人にしてくれるかな・・・」
40:
―そして4日後の午後10時―
ブー ブー ブー
女「もしもし」
男「明日の昼、アパートに女さん以外の人がいない時間ってありますか?」
女「うん、共働きだから昼間なら・・・」
男「じゃあ、午後2時に女さんの部屋に行きますから入れてもらっていいでしょうか?」
女「うん、わかったわ」
男「明日ですべて終わります。では、失礼します」
女「うん・・・」
42:
―翌日、午後2時―
ピンポーン
女「・・・入って」
男「失礼します」
女「どうするつもり・・・なの?」
男「包丁と携帯電話を貸してください」
女「はい」
カコカコカコカコカコ
To:女友1
件名
内容 たすけておとこがへやにきた 包丁もってたてこもってる けいさつよんで
男「これでよし、と。しばらく待ちましょう」
43:
―20分後―
ファンファンファンファン
男「お、来ましたか」
女「だ、大丈夫?警察来ちゃったけど・・・」
プルルルル プルルルル プルルルル
男「早電話ですか。もしもし?」
警部「やあ、君が男君かい?」
男「ああそうだよ、てめぇは警察だろ?」
警部「あぁ、そうだ。女さんは無事か?」
男「今はな。だが、警察が来たんだ、もう殺す」
警部「そうかい。やってみなよ」
46:
男「・・・なに?」
警部「君は女さんを殺さない。賭けてもいい」
男「ふざけるな!マジで殺すからな!」
警部「彼氏君を殺したの、君じゃないんだろ?」
男「・・・何を馬鹿なことを」
警部「馬鹿なことかどうかは、君自身が一番知っているはずだ。どうだい?」
男「・・・うるせぇ!くだらねぇこと言ってると本気で殺すぞ!」
警部「よしわかった。このままじゃ埒が明かない。あと1分後に警官隊を突入させる」
男「なにを・・・」
警部「そういうことだ。じゃあな」
男「まて・・・」
ガチャッ ツー ツー
47:
女「・・・どう、だった?」
男「これから、僕の話をちゃんと聞いてください」
男「僕は殺害後、連日君にストーカーまがいの電話をしました。
 昨日の夜もかけましたが、口論となり、激昂した僕が今日、君の部屋に乗り込んできたんです。
 君が警察に連絡しなかったのは、連絡したら殺すと僕が脅したからです。いいですか?」
男「これから警察が突入してきます。話を訊かれたら僕が言ったとおり答えてください」
女「は、はい。でも、男君は?」
49:
突入ゥゥゥゥ!!!!!
バァン!
男「僕の分も、幸せになってください」
バリィン
警官「べ、ベランダに行ったぞ!」
女「まさか男君・・・!」
警官「と、飛び降りた!」
女「いやぁぁぁぁぁぁっ!!!」
ヒュゥゥゥゥ
―女さん、僕に、人のぬくもりを教えてくれてありがとうございます。
 生きてきて、楽しいことなんて一つもなかった。
 でも、あなたのおかげで、初めて生きててよかったって、そう思えたんです。
 幸せに、なってください―
50:
ボフンッ
男「マット!?」
確保ォォォォッ!!
部下「どうして飛び降りるってわかったんです?
 自殺するにしても、包丁で首を切るとかあったのに・・・」
警部「自分の命を賭けてまで女を守ったんだ。そんな女の目の前で
 自分が首から血を噴き出して死ぬ姿、見せたいと思うか?」
部下「あ・・・」
警部「少しでも、彼女にショックを与えない死に方を選ぶとしたら、これしかないだろう」
部下「やっぱり・・・殺したの、彼じゃないんですね」
警部「あぁ、だが、問題はここからだ」
53:
―翌日、取調室―
警部「とりあえず、訊かなければならんことをまず訊こう。なぜ彼氏を殺した?」
男「女さんについた悪い虫は僕が取り除かなくちゃならないんです」
警部「ほう、そうかい。じゃあ、殺した方法と詳しい状況を話してもらおうか」
男「あの日、町を歩いてるとね、女さんがいたんですよ。
 運命だなって思って、それでいっしょに行ったんですよ。公園まで。
 そしたら、女さんの隣の男がね、写真がどうこうって大声を上げてて。
 よくわからなかったけど女さんが困っていたから殺してあげたんですよ。
 でも、女さん、せっかく殺してあげたのに僕に冷たくするんですよ。
 だから今日、殺そうと思って」
警部「おーけーおーけー。じゃあ、どうやって刺したんだ?答えてくれ」
54:
男「一回胸を刺したんですけどね、それじゃあ死なないと思ってもっと刺したんですよ。
 3回くらいかなぁ。そのおかげでちゃんと死んでくれましたよ」
警部「そうか、この写真を見てくれ。これが死体の胸の傷だ。これを見てどう思う?」
男「どう思うって、どういうことです?」
警部「刺創ってのはな、ナイフのような片刃のものだと左右非対称になるんだ。
 刃の方が鋭い傷になる。で、この3つの傷だが・・・1つは刃が右向き、
 残り2つは刃が左向きに刺さってるんだ」
男「・・・」
警部「女はな、立て続けに3回刺した、こう証言したんだ。3回も立て続けに刺す間に、
 ナイフを持ち替えた向きを逆にする余裕なんてあると思うかい?」
男「さぁ、そうなっていたんなら、そうなんでしょう。夢中でしたから」
58:
警部「なぁ、正直に答えてくれよ。お前はやってないんだろ?」
男「もしそうだったとして、どうするんです?」
男「僕も女さんも、僕が殺したと証言する。動機だって、証拠だって存在する。
 僕は裁判でも自分がやったと主張する。もちろん控訴はしない。
 あなたに何ができるんです?」
警部「・・・また明日、話を訊こう」
部下「警部、どこに行くんです?」
警部「女のところだ」
部下「ぼ、僕も行きます!」
60:
部下「警部、どこに行くんです?」
警部「女のところだ」
部下「ぼ、僕も行きます!」
ピンポーン
警部「どうも、こんにちは」
女「すみません、今日は話したくないのでかえって・・・」
警部「そういうわけにはいかんのですよ」
警部「一人の女を守るために自分の命を投げ出した、
 そんな男の人生と名誉がかかってるんです。無理にでも入れてもらいますよ」
女「・・・わかりました」
63:
警部「僕の考えを言おう。まず、君の彼氏を殺したのは君自身だ。
 男君は偶然、かどうかはわからないがそれを見かけ、罪をかぶった。
 違うかい?」
女「・・・」
警部「男君はどれだけ問い詰めても、自分がやったと言い通した。
 君を、君の人生を守るために自分の人生を犠牲にしようとしているんだ。
 言い換えれば、君は自分の身勝手で男という人間の人生をぶち壊そうとしている。
 これがどれだけ重いことか、君にはわかるだろう?」
警部「君がやった、と言えばもちろん罪には問われるだろうが、刑は軽くなる。
 脅されて金を巻き上げられていたという事実があるからな、情状酌量の余地はある。
 恐らく有罪判決を受けても数年の実刑ですむだろう」
警部「だが、君が認めなければ、男君は殺人罪、逮捕監禁罪など、有罪判決を受ければ
 日の目を見ることはないだろうさ」
女「・・・っ・・・」
64:
警部「さぁ、どうなんだい、君はどうするつもりなんだい?」
女「わ、私は・・・っ、わたしは・・・
 やってません、やってません!!」
警部「・・・そうかい」
ガチャッ スタスタ
部下「警部!いいんですか!?」
警部「俺はやることはやった。伝えることは伝えた。その上で彼女が下した決断だ。
 もう俺にはどうすることもできんさ」
部下「でも、でも、こんなの・・・」
部下(警部、震えてる・・・感情をこんなに表に出してる警部、初めてだ・・・)
部下(悔しい、んだろうな・・・)
警部「おい、今日は朝まで飲むぞ。付き合え」
部下「はい、お供させていただきます」
65:
・・・
・・・・・
・・・・・・・・
刑事「『結局、裁判では短絡的で身勝手極まりない犯行として無期懲役が言い渡された。
 男の言うとおり、控訴はされることなく刑が確定することとなった』」
刑事「・・・なんか、切ないなぁ」
警部「コラァ!刑事!何勝手に見てやがる!」
刑事「ヒィッ!すみません!」
警部「まぁ、いいけどよ」
刑事「あの・・・」
警部「なんだ?」
71:
刑事「このあと、男と女はどうなったんですか?」
警部「男は、刑が確定した1週間後、刑務所で首つって自殺してたのが見つかったよ」
刑事「そんな・・・女は?」
警部「さあな、大学に行って男作ったらしいが、そのあとの行方はしらねぇ。
 まぁ、満足な人生を送ってるだろうさ」
刑事「なんか・・・男、報われませんね」
警部「男は、報われてるさ。願った女の幸せが叶ってるんだ。
 これ以上ないだろうさ」
警部「報われねぇのは、警察の仕事よ」
刑事「・・・ですね」
警部「あー、お前のせいで嫌なこと思い出しちまったぜ」
刑事「すみません」
警部「よし、今日は朝まで飲むぞ、付き合え」
刑事「はい、お供させていただきます」
             ―完―
75:
>>1乙
7

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