【ガン×ソード】タキシードは空に舞うback

【ガン×ソード】タキシードは空に舞う


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2:
傷だらけの夢が、風に吹かれて転がっている。
欲望の嵐が小さな幸せを吹き飛ばす。
惑星・エンドレスイリュージョンはそんな星。
所詮、宇宙の吹きだまり。
3:
**********************
「おはよう、ヴァン」
んが...おはよう、エレナ
「ふふっ。目ヤニと寝癖がすごいわよ。ほんとに寝坊助さんね」
おっ、そうか?...まあいいか
「よくないわよ。ほら、顔洗って」
わかったよ。メンドくせえが、お前に頼まれちゃしょうがない。
4:
「ヴァン、朝ごはんはなにがいい?」
なんでもいい。お前が作ってくれたものならな。
「あらそう?じゃあ、目玉焼きをトーストに乗せて」
おっ、うまそう。いただきまーす...っと、その前に
「あっ、こらヴァン。いきなり調味料をかけるのは止めなさい」
えーっ
「えー、じゃない。私の目玉焼きがそんなに信用ならないの?」
そんなことねえよ。お前の目玉焼きは世界一だ。
「嬉しいこといってくれるじゃない。...ふふっ」
よし、後ろを向いた。今のうちに少しだけ
「ヴァ?ン??」
...すみません
「全くもう...結婚式が終わったら、まずはあなたの味覚から治さなきゃいけないみたいね」
5:
...なあ、エレナ
「なぁに?」
本当に俺でいいのか?
「えっ?」
俺は...不器用で、怠け者で、ロクデナシで...お前と釣り合うような人間じゃないんだ。それでもお前は...
「あなたがダメな人なんて、みんな知ってるわよ」
うっ...
「でも、私はそれをひっくるめてあなたが好きだもの。後悔なんてないわ」
エレナ...
「それとも、私が嫌になった?」
そんなわけねえ!俺はお前を愛してる!
「ありがとう。...さ、そろそろ式の準備にとりかかりましょう」
ああ。
...ありがとよ、エレナ
6:
カラァン...カラァン...
「...いい音よね。私、この音が大好きだわ」
ああ。俺もだ
「どういうところが?」
お前が好きな音だからな
「...ヴァン、本当はそんなに好きじゃないでしょ」
い、いや、お前が好きなものなら好きになれる自信がある。
「...あのね、なにも自分が好きなものまで相手に合わせる必要はないのよ?」
えっ
「お互い人間だもの。長く付き合っていれば、絶対に解りあえないことの一つや二つ出てくるわ。共に生きるっていうのは、なにもかもを受け入れることじゃないのよ」
そうか...そうだな。俺はお前のペットじゃないもんな
「そういうこと。...いきましょ、ヴァン。みんなが待ってるわ」
ああ。
7:
これがヴァージンロードってやつか。なんだか、柄にもなく緊張してきちまった。
「ねえ、ヴァン。あなたは幸せ?」
ああ。
「本当に?」
勿論だ。俺はいま、幸せで、幸せで、幸せの絶頂にいるよ
「そう...」
エレナ...?
「わたしはこんなにくるしんでるのに?」
そういったえれなのぜんしんは、どすぐろいあかでそまっていた
*****************************
8:
「う、うわあああああ!」
「落ち着けヴァン!落ち着くんだ!」
「あああぁ...あれ、ガドヴェド...?」
ガドヴェドが、息を切らしながら俺を押さえつけている。
どうやら、俺は寝ぼけて暴れていたようだ。
ガドヴェドの後ろに見えるのは、汚れ一つない真っ白な天井に色んな機械。どうやらここは手術室のようだ。
9:
「なあ、俺はこんなところでなにしてるんだ?」
「お前...結婚式のことを憶えていないのか?」
結婚式?そうだ、確かに俺はエレナとヴァージンロードってやつを歩いてたはずだ。まさか、緊張して気絶しちまったのかな?
隣を見ると、毛布をかけられ、穏やかな顔でエレナが寝ている。
なんだ?ひょっとしてエレナも緊張して気絶しちまったのか?
「やっちまったかな、こいつは...エレナ、急いで結婚式の続きをしよう。きっとみんな待ってるからよ」
そっと声をかけるが、エレナは目を覚まさない。
10:
「ヴァン...」
「ああ、すまねえなガドヴェド。せっかくの式を台無しにしちまってよ」
まあ、新郎新婦が揃って気絶する結婚式なんざ、他にないだろうからな。俺たちの長いメモリーに一生残る式になりそうだ。
「...ヴァン」
「ほら、起きようぜ。いい加減にしねえと、ガドヴェドも怒っちまう」
そうだ。ガドヴェドだけじゃねえ。お前を慕ってここにきてくれた奴らを待たせちゃいけないだろ。
「なあ、エレナ。こんなおふざけお前らしくねえじゃねえか。なあ、エレナ...」
いつまで寝てんだよ。呼吸もしてねえし、肌の色もよくねえし...ドレスも真赤じゃねえか。
なあ、エレナ。なんで...
「ヴァン!」
ガドヴェドが、俺の肩を強く掴む。
痛いよ、ガドヴェド。涙が出てきたじゃねえか。
11:
「...結婚式の参列者は全員亡くなった。かろうじて生きていたのは、お前とエレナだけだった」
...やめろ
「お前は、死の淵に立たされていた。エレナもまた、意識はあったものの重傷だった」
やめてくれ
「彼女も、すぐに手当をするべきだった。しかし、お前の命の灯はすぐにも消えそうだった。そして、お前を救うには、私とエレナ...二人の力が必要だった」
頼む。それ以上は言わないでくれ。
「だから、私たちは先にお前の手術をした。だが、エレナはその直後...」
やめろぉぉぉぉ!!
「...力尽き、息を引き取った」
12:
「うああああああ!」
ガドヴェドの胸倉を掴み、壁に叩き付ける。
「なんでだ!なんで俺を生かした!?」
どうしようもない怒りをぶちまける。だが、ガドヴェドは握りしめた拳を震わせたまま何も答えない。
「なんでエレナを助けなかった!?なんで...!」
やがて、ガクリと縋り付くように膝を折る。
もう、なにを言えばいいのかわからなかった、どうすればいいのかもわからなかった。
ただ、怒りのままに、悲しみのままに泣きつくことしかできなかった。
「すまない...エレナ...ヴァン...!」
謝るなよ、ガドヴェド。
エレナを殺したのはカギ爪の男で...
俺が弱かったから護れなかったんだ。
13:
―――――――――――――――――
ザクッ ザクッ
手に持ったスコップで、黙々と穴を掘る。
ガドヴェドが手伝おうと言ってくれたが、断った。
なぜかはわからないが、俺がこの手でやらなきゃいけない気がしたんだ。
「エレナ」
棺桶に眠るエレナの名を呼ぶ。
エレナは応えてくれない。
「エレナ」
無意味なことだ。馬鹿な俺でもわかる。
でも駄目だ。どうしてもお前の名前が零れちまう。やっぱり涙は出ちまう。
なあエレナ。俺はどうすればいい?お前がいなくなったら、俺は...
14:
「ヒャッハー!しけたとこだなおい!」
ブンブンとやかましいバイクの音を響かせて、世紀末な奴らがやってきた。
「兄貴、ここ墓地みたいですけど...」
「いいんだよ、ぜんぶブッ壊しちまえ。そうすりゃ拠点のひとつやふたつ...ん、先客か」
兄貴と呼ばれたモヒカンが、俺にメンチをきりながら歩み寄ってくる。
「おうおう、お兄ちゃん。いまからここら一帯俺たちの縄張りにするからよぉ、さっさと退いてくれや」
うるせえな。こっちもお取り込み中だバカヤロウ。
「ん?こいつぁ...」
モヒカン野郎が、俺とエレナを見比べてニヤリと唇を歪めた。
15:
「ちょうどいい。こんな別嬪さんだ。死体とはいえマニアにゃ売れるだろ。悪いな兄ちゃん、こいつは貰って...」
エレナに触れようとするモヒカンの腕を握りとめる。
「...俺のエレナに手を出すんじゃねえ」
モヒカンの腕の骨がミシミシと音を鳴らし始める。
「ぎゃああああああ!」
「あ、あにきィ!このやろう!」
モヒカンの子分のような男が鉄パイプで殴りかかってくる。
避けることもできたはずなのに、なぜか避ける気が起きず、そのまま横っ面に喰らってしまった。
子分が数人がかりで俺の身体を押さえつけてくる。
「てめえ、やってくれたじゃねえか。ああ!?」
モヒカンが、動けない俺の顔を、肩を、腹を、とにかく全身をメタクソに殴りつけてくる。
普段ならブチ切れて周りの奴らもろともブッとばしているところだが、生憎そんな気も起きない。
モヒカンが俺の頭を踏みつけてくる。
「ケッ、なにキレてやがんだ。てめえが頼りにならねえから死んだんじゃねえのか
嫁さんも不幸だったよな、こんなのが旦那になるなんてよぉ。どのみちてめえに嫁さんを守ることなんて無理だったんだよ!」
エレナが...不幸だった?俺が頼りなかったから?そうなのかエレナ?
なあ、エレナ。教えてくれ、エレナ。
...エレナ。
......。
16:
「なにをやっておるか貴様らぁ!」
「うわっ、なんだこのおっさん。つええぞ!」
「ええい貴様ら、エレナの墓を荒らした挙句、ヴァンをここまで痛めつけおって!大丈夫か、ヴァン。...ヴァン?」
ガドヴェドの肩を掴み、どうにか立ち上がる。
ふらふらと墓の前まで歩いていって、スコップを手にする。
ザクッ ザクッ
痛む身体を無視して、不様に墓穴を掘り続ける。
「てめえ、俺を無視していい度胸じゃねえか!」
モヒカンが鉄パイプを持って殴りかかってくる。
特に振り返ることもせず、スコップで叩きのめすとモヒカンはあっさり倒れてしまったが、俺にはどうでもいいことだ。
17:
「...やっとわかったよ、エレナ」
なんで俺が掘らなきゃいけない気がしたのか。
いくら問いかけても返事をしてくれなかったエレナを見て、ようやくわかった。
「結局、俺はお前が死んだことを認めれなかったんだよな。お前がいない世界なんて、地獄でしかないんだから」
だから俺は穴を掘らなきゃいけなかったんだ。エレナが死んだことを、バカな俺でも認めれるように。
「......」
棺桶の中のエレナの頬をそっと撫でる。ああ、やっぱりそうだ。
エレナは笑いもしなければ悲しみもしない。エレナはもう、どこにもいなくなっちまったんだ。
そいつがわかった時、俺の頬がまた濡れてきた。
「ま、また泣きやがった。この泣き虫ヤロウ、よくもアニキを!」
泣き虫か。今の俺にはお似合いだ。
エレナ。お前のいなくなった俺なんざ、こんなもんさ。
「決めたぜ、ガドヴェド」
だけど、今日だけは泣き虫でもいいよな?
「今日の俺は...地獄の泣き虫ヴァンだ」
泣き終ったとき...俺にとっての地獄が待っているのだから。
18:
――――――――――――――――
「ミルクをくれ。大盛りだ」
「お前...名前は?」
「ヴァン」
「ほぉう...俺が聞いたことがあるのは、無職のヴァン。食い逃げのヴァン。地獄の泣き虫ヴァン...だが。お前は?」
「どれでもない。ただのヴァンだ」
―――チリン
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