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父「タカシ、誕生日プレゼントは何がいいんだ?


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1:
父「タカシが欲しいっていうならなんだってプレゼントするぞー♪父ちゃん張り切っちゃうぞー♪」
母「お母ちゃんだってタカシのためなら頑張っちゃうわよー」
タカシ「なんでも?」
母「そうよ、なんでもいいわよ」
タカシ「ぼくねー…お星さまがほしい!!」
父「そうか!よーし……じゃあ、あそこに見える星にしようか?」
タカシ「そのおとなりの白い星がいいな」
父「よーし、わかった!期待して待ってろよー!」
母「うふふ…よかったわねタカシ。誕生日に、すっごいパーティーしようね」
そんな会話を最期に、俺の父ちゃんと母ちゃんは行方不明になった。
3:
翌朝目を覚ましたら、両親がいなかった。
「二人とも帰りが遅くなります」という置き書きがあった。
共働きで二人とも朝早く夜遅いということは珍しくなかったのでとくに疑問に思っていなかった。
何日か顔を合わせられない時だってあったから、
数日は冷蔵庫の中の食料を食べながら普通に生活していた。
けれど、8歳の誕生日になっても、父ちゃんと母ちゃんは帰ってこなかった。
盛大に誕生日パーティーやるぞ!という約束も達成されなかった。
その時になってようやく俺は、父ちゃんと母ちゃんが行方不明になってた事に気付いた
その後俺は、伯父の家に引き取られて生活することになった。
伯父一家はやさしかったし、従兄も面白くていい人だったから特に問題はなかった。
両親がいないということで小学校時代はいじめられたりもしたけれど、
空気に徹したので中学あたりからはそのように扱われるようになった。
そして今。高校生活3年目の秋。
俺は進路の決定が遅れていて「もう行ければどこでもいいや」という気持ちになっていた。
7:
これまでヤンキーの入った連中の担当ばかりやっていた担任も、
あまりに無気力な俺にはあまりてがだせないようだった。
担任「で、タカシ……せめて就職か進学かは決めたか?」
タカシ「いえ、特には」
担任「進路が決定してないのなんてもうお前ぐらいだぞ?他はもう2年の3学期には方向が決まったのに…」
タカシ「就職でも進学でもいいです」
担任「……伯父さんたちとは話し合ってないのか?」
タカシ「俺のしたいようにすればいいって言ってました」
担任「………やりたいことは…無いのか?」
タカシ「特には」
9:
担任「タカシぃ?……しっかりしてくれよ…」
タカシ「すみません」
担任「すみませんじゃなくってさぁ?……ハァ」
担任が露骨に頭を抱える。
体育会系で目標を見つけるのがうまい担任には俺のようなタイプは向かないんだろう。
担任が内線で進路相談担当の先生を呼びだしている。
露骨に口調が荒荒しい。やっぱり担任と俺はウマが合わないんだろうな。
進路相談室に、進路担当の老齢の女教師が入ってくる。
進路「失礼します」
担任「よく来てくれました。ちょっとこいつと進路について話してほしいんですよ」
担任は部活に遅れてしまうなどと言って俺と進路担当を残して相談室から出て行った。
12:
進路「えーと…タカシ君だったわねぇ…。進路決まらないの?」
タカシ「はい。やりたい事がなくて」
進路「遊んで暮らしたいとかそういうかんじ?」
タカシ「そうでもないです。与えられた事やってればそれでいいや…みたいな」
実際に、遊びまわるような元気もない。休日も本読んで寝るだけだ。
進路「好きな事とか趣味から…っていうのも難しいみたいねぇ」
タカシ「そうですね」
進路担当が小首をかしげる。
背丈がちいさく髪の毛も真っ白だからか、定年前なのにすでに隠居しているみたいだ。
14:
進路「学校としては、フリーターとかにはなってほしくはないんだけど…」
タカシ「……」
進路「特に学ぶ意欲がないなら…一度就職してお金をためておくっていう人もいるわよ?」
タカシ「じゃあ、それでいいです」
進路「けど、意欲がないならただ人手が欲しいだけのところにしか行けないわよ?それでいいの?」
タカシ「受け入れてくれるなら、別にどこでもいいです」
本心だった。だって特にやりたいことなんてないし。勉強したいとも思わない。
漫然と誰かから仕事を与えられて、それをやるだけでいいならそれが一番楽だよな。
そんな都合のいいところなんてないから就職が厳しいんだろうけど。
進路「タカシ君。演技でもいいから、興味があるそぶりをしておいたほうがいいわ」
タカシ「そうですか?」
進路「全くの無関心を出しすぎると、人手が欲しいところでも嫌がられるから」
17:
担任の今までの苦労はなんだったんだといわんばかりにあっさりと俺の進路は就職に決まった。
だいたいの方針がかたまったので、今日は帰ることにした。
今後も担任ではなく進路担当が話し相手になってくれるらしい。
進路「えぇと、きちんと御家族にもはなしておくのよ?」
タカシ「はい」
廊下にでると、窓から赤い夕陽がさしこんでいた。
かなり赤いから、帰り着くころにはもう空は暗くなっていることだろう。
ギャル「あ、タカシじゃん今から帰り??」
同じクラスのギャルに声をかけられた。いちおううなづいておく。
ギャル「従兄さんにさぁー、コレ渡してもらえるー?」
タカシ「わかった」
ギャル「中身とかみたり渡さなかったりしたらブッ殺すかんねー」
18:
そう言ってギャルは小奇麗にラッピングした小さな箱を俺に押し付けてきた。
このギャルと従兄は同じバイト先で気があるらしく、
従兄から俺が親戚と聞きだして以来このように宅配便のかわりにされることがたまにある。
…その思いが実ることなんてないだろうけど。従兄には恋人がいるし。
一応、ギャルもそれを知っているはずなんだが諦めようとしない。
ギャル「ねーねー、従兄さんってどんな人が好みなの?」
タカシ「……恋人さんは清楚系だけど」
ギャル「知ってるけどさー、それ以外で」
タカシ「あんまりそういう話しない」
ギャル「うーわー タカシつかえなーい。じゃあいいや、バイバーイ」
言うだけ言ってギャルは美術室の方向に向かっていく。
俺は箱をできるだけ傾けないようにしつつ、カバンの上のほうにそっと入れた。
19:
帰り道を歩きながら空を見る。月は上弦の三日月だ。
星が欲しい、なんて子供の発想ではあったけれど、今でも天文関係はちょっとだけ好きだ。
でも、それも本なんかでちょっと見てしまえば満足できる程度でおしまいだ。
恐竜や宇宙に心をときめかせないやつは少ないだろうけど、
それを一生のものにする奴はもっともっと少ない。俺も例外じゃなく、気にはするけどそこまでだ。
予想していたとおりに、俺が家に着くころには星がハッキリ見え、赤い光も影をひそめていた。
タカシ「ただいまー」
従兄「おい!タカシ!!今すぐリビングに来い!!」
従兄の切羽詰まった声に促されて、俺はリビングへと心持ち駆け足で入った。
テレビからも、なにやら緊張感あふれる声が流れてきている。
アナウンサー「隕石の衝突確率は82.5%と発表されており……」
タカシ「隕石?」
20:
今は秋だ。エイプリルフールの季節からはほど遠いどころの騒ぎじゃない。
一年をわっかにすれば真逆のあたりの位置だろう。
だけど、そのニュースはあまりにも現実味がなかった。
タカシ「なにこれ?新しいドラマかなにか?」
従兄「国営放送の臨時ニュースだよバカ!」
タカシ「そういえばギャルから従兄に渡してほしいものがあるってコレ渡されたんだけど」
従兄「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!」
そう言って従兄は頭をかかえてうろうろしだした。ぶつぶつと涙目で何かつぶやいている。
俺としては何をそんなに悩む事があるのかという気がしていたが、きっと人生に対する執着の差だろう。
テレビからは予想される被害と宇宙への脱出検討などの内容が流れてきている。
タカシ「とりあえず、約20%は外れるらしいからそっちに希望を持てばいいんじゃないかな?」
従兄「………そう…だな…」
タカシ「これ、ギャルが渡してくれって言ってたやつ。渡さなかったら俺が殺されるらしいから」
そう言って小箱を渡す。ミッションコンプリート。
21:
タカシ「俺、途中からしか見てないけどどんな感じ?」
従兄「約2年後に、月の3分の1ぐらいの隕石が地球に衝突するらしい…」
約2年か。進路問題から逃げるには余りにも長すぎるな。そもそも当たらないかもしれないわけだし。
当たったら当たったで、従兄のように人生を謳歌している人には悲しい事になるわけだし中途半端だな。
従兄「約2年後か……タカシが20になってから結婚しようと思ってたのに…」
タカシ「なんで?」
従兄「そしたらさ、タカシも俺達と一緒に酒飲んで祝えるだろ?」
タカシ「俺のことまで考えてくれてたなんて、やっぱいい兄ちゃんだ」
従兄「ああ、ありがとう……」
割と深刻な話をしていたはずだったのに、
俺は従兄に対して「大学生で結婚はちょっと難しくないか?」と別の突っ込みをしたくてたまらなかった
30:
>>21
イイ話ダナーと思ったが
いきなり突っ込みたくなる、この気分はなんなの
22:
伯父達もそれからほどなくして大慌てで帰ってきた。
一体これからどうしようとうろたえるばかりの家族に対して俺はどう言えばいいのかわからない。
別に死ぬならそれでもいいという人とそうでない人の差っていうのはこんなものなのか。
とりあえず、俺はわかっている事だけしか言わないことにした。
タカシ「逸れる可能性はあるし、そもそもそれまでに時間はきちんとあるよ」
伯父「…時間はあるし、もしかしたらそれるかも…」
タカシ「うん」
俺が黙ってても、このいい人軍団ならきちんとした答えを出せるんだろうけど、
あんまりあわててる様子を見るのはちょっと心苦しい。
従兄「……俺…あいつにプロポーズしてくる」
従兄はなんかこの件であわてすぎというか、ぶっ飛んでしまっている。
けど仕方ないかもしれない。どう仕方ないのかは俺にはよくわからないけど。
23:
従兄が恋人さんに電話をかけている傍らで、伯父と小母にインスタントコーヒーを淹れる。
二人ともコーヒー派らしい。俺は緑茶派で従兄は紅茶派だ。
伯父「ああ…ありがとうタカシ…」
タカシ「そういえば、俺就職することにした。特に勉強したいことないしまずはやってみてから考えるよ」
小母「あら、そうなの?」
タカシ「うん。あ、そうだ…でももし隕石が確実にぶつかるなら父ちゃんと母ちゃん探したい」
伯父「…! あいつか…」
タカシ「そういえば伯父さん達、父ちゃん達がどうなったのか知らないんだっけ?」
小母「……私は知らないわ…」
伯父「……お前が家に来る前に"もしかしたらタカシ預けるかも"って電話がきたきりだな…」
そんな電話されてたのか。
いままでまったく聞いた覚えがなかったけれど、たしかに手掛かりにはならないだろうな。
26:
タカシ「…就職して、隕石の当たる確率みながら過ごして…んでそれが90%こえたら仕事辞める」
伯父「……それでいいのか?」
タカシ「父ちゃんと母ちゃん探したいってのは、さっき言う直前に思い立ったんだけど…」
伯父「あー……でも後悔するよりはいいかもなぁ…」
伯父と小母は脱力しきっている。あわてまくった後はだいたいそんなもんだろう。
運動会のあと学校に来るとみんな燃え尽きてるような感じだ。
小母に夕食を任せる事は出来なさそうだから、俺が作ることにした。
野菜炒めぐらいしかできないけど、ご飯も塩コショウもあるから大丈夫だろうたぶん。
ジュージューと野菜をいためて、ミンチをぶち込む。
ミンチにも火が通ったら皿にうつしてテーブルに乗せる。
タカシ「できた」
小母「ありがとうタカシくん…」
タカシ「苦にはならないし…」
29:
従兄が電話口でヒートアップしている。何かよくない事態に陥っているらしい。
テレビはどのチャンネルも臨時ニュースでもちきりでこの時間帯に見るクイズバラエティも潰れていた。
一昔前のバカバカしいクイズ番組で好きなんだけどな……隕石め。
タカシ「……そういや、父ちゃんと母ちゃんは俺に星をプレゼントするって言ってたけど…まさかな…」
伯父「ハハハ!まさかそんなことはないだろ?。」
伯父はだいぶいつものテンションを取り戻しつつある。
父ちゃんも割とハイテンションだったから、沈んだりしている伯父よりはこっちの伯父のほうが好きだ。
小母はちょっとひきつった笑いだ。
確かにジョークならちょっとブラックかもしれない。
31:
従兄が涙目で食卓に参戦してくる。
どんぶりに白飯を盛って野菜炒めを上にがっつりのせてかき込む。
一体何があったか聞きたかったけどメシを食うにつれて、メシくってんだか泣いてるんだかな顔になってくる。
最終的に従兄の箸は止まり、成人男性が肩を震わせてわんわん泣いているような形になった。
フラれたんだろうか?あんなにこれ見よがしに仲良くしていたのに。
伯父「どうした?」
従兄「うっ…うぅぅ…グスっ うあア゛ァ???…」
タカシ「はい、ティッシュ」
従兄「ダガシいぃぃ…… あ゛り゛がどうなあぁぁぁ???」
濁点まみれになりながら従兄は俺の渡した箱ティッシュからボシュボシュとティッシュを取り出しいろいろふき取る。
普段の細マッチョ系イケメンの面影はかけらもない。
32:
まだダメージが回復していないらしく、
何か言おうとするたびに涙と鼻水まみれになる従兄はしばらく放置することにした。
これはギャルにもなんとかなるスキはあるかもしれな…いや、
あのギャルに失恋男を包容し癒せるスキルがあるとは思えない。やっぱダメか。
臨時ニュースにテレビの中の人も飽きたのか、お目当てだったクイズ番組が始まる。
生放送の番組だったらこうはいかなかっただろう。録画番組っていいな。
なんでもかんでも生がいいという話ばかり聞いている気がするけど、ちゃんと保存するのも大事だよな。
生の野菜よりも火を通した野菜のほうが俺にとっては断然美味いし。
背後からはいまだに従兄が箱ティッシュを消費するボシュボシュ音が聞こえる。
伯父「どうしたんだろうなあいつは…」
タカシ「今日はやめて明日あたりに聞いたほうがいいかも」
伯父「そうだな…」
33:
小母はあまりテレビ番組に興味がないのか、皿洗いをしている。
そっちのほうでは水の音とともに皿をとり落とす音がきこえてきたりした。
目当ての番組が終わったら早々に寝ることになった。
風呂を沸かしている間に不安になったりするからという理由で、
入りたい奴だけシャワーを浴びろということらしい。
俺は朝にシャワー浴びる事にして部屋に戻る。
タカシ「それじゃあおやすみなさい」
伯父「ああ、おやすみ」
小母「おやすみなさい」
従兄「……」
2階にある部屋に移動してから、リビングにカバンを置きっぱなしだった事を思い出した。
まぁ、別にかまわないか。明日は体育ある以外は今日とほぼ同じ教科だしな。
36:
朝。割とさわやかだが、いつもよりも窓に面した道が静かだ。
いつもより早く寝たせいでつられて早起きしたらしい。
下着と服を用意して風呂場に移動する。
朝シャンとかいうやつか?たしか昔はやったという……今でもあるんだろうか?
でも、寝汗とかの事を考えたらこっちのほうが清潔な気もするな。理にかなってるな朝シャン。
シャワーを終えてリビングに行くと、従兄が酒瓶抱いて寝てた。なんだこのわかりやすさ。
カーテンをあけて窓をあけて空気の入れ替えをしつつ、朝ごはんの準備をする。
いつもなら小母さんが起きてやってるはずなんだけれど、まだ寝ているらしい。
従兄「うーん…」
タカシ「おはよう。朝ごはんできてるよ」
従兄「タカシか……」
タカシ「うん、別の人に見えた?」
従兄「そういう意味じゃねぇー…」
37:
タカシ「ふられた後の目覚めってどんな感じ?」
従兄「…最悪だよ。……ひどいんだぜ…実は二股かけてて結婚するならそっちだって言われた…」
タカシ「男はオオカミっていうけど女はもっとひどいな。なんだそれ」
従兄「……タカシ、男に走ってもいいかな…?」
タカシ「俺は勘弁してください」
従兄「ああうん。ごめんごめん…」
ひどい女もいたもんだ…。とかおもいながら茶碗に白飯をよそう。
今朝も野菜炒めだ。それしか作れないからな。
38:
いつまでたっても伯父と小母が起きてこないが、なんとなく起こしに行くのはやめておいた。
泥のように眠るような行為をした後だったとかだったら気まずいどころの騒ぎじゃない。
カバンの中身を一応確認してから、登校する。
タカシ「行ってきます」
従兄「いってら…そうそう。ギャルちゃんにクッキーありがとうって言っておいてくれ…」
あの箱の中身クッキーだったのか。
ギャルのくせに以外とかわいいアピール方法だな。
結局家を出たのはいつも通りの時間だというのに、いつもより通学路は閑散としていた。
そこそこに人通りが多いはずの場所でも、明らかに人通りが少ない。
俺と同じように、そこに疑問を持ってきょろきょろしながら通る人が何人かいた。
教室に入っても、人は少なかった。
俺と同じく地味で目立たないタイプのが数人いるだけでいつもは騒がしい連中が一人としていない。
40:
遅刻ギリギリの時間になってギャルがやってきたが、それ以上人は増えなかった。
ギャル「えー?何?何でこんな人少ないの??」
ギャルが不満そうに声をあげたことで、俺含む地味ーズもざわざわし始めた。
男子「もしかして昨日のニュースのせい?」
女子「そうかも……私のおにいちゃんも"サボってやる。もういい。"とか言ってたし…」
デブ「だからってこんなイッキにいなくならなくってもいいじゃないか」
そばかす「いいんじゃない?学校来るよりやりたいことあるならさ」
俺が聞いていた中ではそばかすの女の意見が一番まっとうだったと思う。
特に名前も覚えてないけど計6名でとりあえずざわざわしておいた。
俺も「この事でやけになったやつって少なくなさそうだし」とか言っておいた。
44:
しばらくざわざわやっていると、進路担当が教室に入ってきた。
教室内をきょろきょろとみて、俺達しかいないとわかると残念そうに肩を落とす。
進路「みんな。ちょっと体育館に集まってくれない?」
ギャル「あ、センセー。やっぱ人少なかったの?」
進路「そうなのよー…先生達の中にも"好きにやりますもうやめます"っていっちゃう人がいて…」
そばかす「情熱持って教員試験に臨んで落ちた人に席を明け渡すべき」
男子「とりあえず行こうか」
進路担当を先頭にしてぞろぞろと後をついていく。
途中途中で別の教室にいる生徒をよび、列はだんだんと長くなっていく。
体育館には、結構生徒がいた。俺はちょっとほっとする。
それでも本来なら1学年分ぐらいの生徒数だろうか…。
校長「えー…みなさん。これで今日来ているのは全部ですか?」
体育館に設置されているステージの上に校長が悲しそうな顔をして立っていた。
45:
教師の顔ぶれをうかがってみる。
新学期の全体集会で紹介された先生のうち、新任の先生が2人。
校長と、教頭と、進路担当と保険医と、あとは俺は担当された事のないのが3人いた。
先生のほうが俺達のクラスよりも集まりがいいのか……。
校長「みなさん、昨日のニュースは見ましたか?」
数名が「はーい」と返事する。ギャルもそれにあわせて返事していた。
校長「このような時です。自棄になった人も沢山いると思います。」
校長「実際に、教員の中にもそのような人がたくさんいました。」
校長「しかし、少なくとも残った教員は皆さんの勉強を全力でサポートします」
間をあけながら、ゆっくりと校長が話す。
簡単に言うと「くる人はこい、こっちはがっつりそだててやる!」ということらしい。
今まで何気なく見てたけど校長はかっこいいかもしれない。
46:
教員の人数が足りないのと、クラスの統合を行うので今日は集会だけで終わるらしい。
進路担当が今日来た生徒の出席を取っている。
新しい時間割ができたら明日の分を電話で連絡してくれるそうだ。
俺は教室に置いたカバンをとりに戻る。
一緒になってギャルがついてきた。
ギャル「ねーねー…従兄さんはヤケになってないよねー?」
不安そうだ。俺はギャルに正直に従兄の状態をぼかしつつ伝えることにした。
タカシ「彼女さんにふられて大学に行く元気はないみたい」
ギャル「…やっぱねー……あの女クサいとおもってたのよ。何?ビッチ臭?」
どっちかというと見た目だけならギャルのほうがビッチ臭がすごいきがするんだけれど、
ギャルの世界観ではボサボサ茶髪で目元のメイクがきついほうが純情ってことになってるのかもしれない。
価値観って人それぞれだよね。黙っておこう。
47:
タカシ「それよりクッキーうまかったって言ってたよ」
ギャル「……できればヤケになってない時の感想欲しかったけどね」
そばかす「何?何の話?」
そばかす女が乱入した事でなんちゃって両手に花状態ができる。
けどどっちも好みじゃない。俺おっぱい星人だし。
ギャル「私の狙ってる従兄さんの話?♪」
そばかす「ああ、よく部室で話してる」
そばかすとギャルは親交があったらしい。
ちょっと眼付の悪い地味なそばかすとギャルの取り合わせはあまりぴったりとは言い難いはずだけど、
話している時には結構仲がよさそうに見える。ギャルのほうの人徳だろうか?
ギャル「タカシは従兄さんのいとこなんだって」
そばかす「へぇ。似てない。ひょろい。たるんでそう」
なんであまり親交のない相手の事をこういえるんだろうか?
まともだとおもってたそばかすの評価が自分の中でガタ落ちした。
49:
ギャル「そうだねー。ひょろいよねー。筋肉つけたらいいよ、頼りないよりもモテるよ?」
タカシ「いや、興味ないし…」
そばかす「?! ……男に興味が…」
ギャル「従兄さんが危ない!?」
タカシ「ないから。もう一度言うけど、ないから」
この二人がどういう仲なのかなんとなくわかってきた。
そういえばそばかすは昼休みになにかマンガ描いてた覚えがある。
この学校には漫画クラブがあったはずだから、そこでたぶんアレな仲なんだろう。
アレな仲っていうと卑猥だな…。
ギャル「わかってるってば。ジョーダン通じない人って苦手ー」
俺もこういう女は苦手だと言いたいけど言ったらもっと絡まれそうだからやめた。
教室につくと、デブと男子が何か話している。
男子が俺たちに気付くと手招きしてきた。
51:
男子「なぁ…みんなはさ、今日なんで学校に来たんだ?」
タカシ「他にやることないから」
デブ「僕もそれできたんだけど…」
ギャル「私はもっといろいろ考えてきたよー?」
そばかす「私も」
男子「俺さ…当たらない確率があるなら、そっち重視すべきだって思うんだ」
そばかす「ふーん」
男子「…ふーん て ちがうの?」
そばかす「当たっても当たらなくてもどっちでもいいと思ってはいる。けどそのうえで学校に来た」
54:
ギャルとそばかすはだいたい同じ意見らしい。
当たるにしろ当たらないにしろ、どっちであっても学校に来ることが一番いい選択だと思ったそうだ。
一方、男子のほうは当たらない可能性に賭けてまともに生きようと考えたらしい。
それで、俺やテブは消極的に現状維持したい…と、結構みんな考えている事がバラバラだな。
男子「俺さ…悩んだんだよ。全部捨てちゃって両親といろんなとこに最後の思い出つくりに行こうかとか…」
ギャル「仮にそっち選んでもいい事なさそーじゃない?」
男子「そう? あー、でさ。そこでちょっと欲でちゃって…」
欲望重視ならむしろはっちゃけるもんじゃないか?と思ったけど、
デブがなにかなっとくしたらしく「あー、そっか」などとうなづきだした。
デブ「他のやつに、今なら差をつけられるってことか」
男子「そう。何気なく勉強していいとこいけるやつがサボってる間に頑張れば出しぬける」
デブ「あたまいいなーお前」
タカシ「……そういう考えもあるのか」
男子「賭けだけどな」
56:
ギャル「私はねー。学校来てぇー、やりたいことあってー」
そばかす「私も。勉強好きだし、それならサボっていろいろするより学校来たくて」
意外に勤勉だなギャル。なんかどんどん株が上昇していく気がする。
…俺は自分でもわかっているとおり無気力故に学校に来た感じだから、
なんだかこの場にふさわしくない気がしてきた。
タカシ「……なんとなく来たからなー…なんか申し訳ない気分だ」
デブ「僕も…」
男子「…なんていうか、欲なさそうだもんな…」
ギャル「デブもタカシも草食通り越してそれに食われる草みたいな奴だもんね」
そばかす「いいんじゃない?ヘタに行動しないっていうのが必要な時もあるし」
タカシ「……場合によってはヘタに行動するかも。衝突確率がすごく高くなってからだけど」
57:
そばかす「犯罪行為とかはやめてよ?」
タカシ「…犯罪者顔に見える?」
そばかす「まともなのがダメになるのを見るのは気分悪いから」
こいつのキャラはいまいちつかめないが心配してくれたんだろう。
なんだ、いいやつじゃないか。
デブ「僕は、たぶんずっと平凡なままかな…」
男子「そのほうがいいに決まってる。逸れる可能性とか、生き延びる可能性を考えたらそのほうがいい」
なんか瞳が燃えている。意外と身近にすごく熱い奴っているもんなんだな。
校長とかもそうだけど、こういうことがあっていろいろ見えるのは楽しいかもしれない。
本来なら、こういうことは学内のイベントなんかで起こる事なんだろうけど、
今までそれにほんのわずかにしか参加してなかったし、参加してても黙々とただやってるだけだった。
両親がいない事をあっさりと口に出せる程度に強かったらそうしてたのかもしれない。
まぁ、やってないことを悔やんでもしょうがない。
先に帰ってしまった女子を仲間外れにした形ではあるけど、今はなんか仲良くなった事を喜んでおこう。
58:
帰り道、やはり人は少ない。
一度帰って昼食を食べたら街の中を見回ってみよう。
やっているまとも店があればガンバレという意味でちょっとでも貢献したいしな。
そんな事を考えながら家に帰りついた。
タカシ「ただいま」
従兄「おかえり」
タカシ「伯父さんたちは?」
従兄「会社のほうから今後の方針まとめるって言われて、そのための資料作ってる」
タカシ「やっぱり、いろいろ大変なんだな……学校も来てたやつ少なかったし」
従兄「……多分だけど、これから隕石がきてみるまではこういう状態が続くだろうな」
俺はカバンを置きながら従兄の話に耳を傾ける。
従兄「会社にしろ、個人にしろ、やる気のあるやつだけが社会に参加することになる」
タカシ「……いままでだってそうじゃないの?」
従兄「社会に守られてたから入ろうと思ってたやつのほうが多いと思うぞ?」
60:
従兄は「ルールを守るのにやる気が必要」ということをとにかく俺に説いてきた。
俺は特にやる気はなくとも続けられるから続けているかんじなんだけど、それも継続という力らしい。
…学校では男子、家では従兄がなんだか主役属性に思えてきた。
どっちも言いたい事はわからんでもないから反対はしない。
タカシ「…従兄は、社会に参加するほう?」
従兄「するほうになるかな。……ふられた直後はもうどうでもいいと思ったけど」
タカシ「この世の終わりかってぐらい泣いてたしね」
従兄「いや、この世の終わりになりそうな状況なんだけどな実際に」
タカシ「おっしゃる通りです」
従兄「ふられる前はさ…世界が終っちゃうにしてもそれまでに沢山幸せになって置こうと思った」
タカシ「それで、彼女さんといくとこまでいってしまおうと」
従兄「そうだな。ふられた直後はもう駄目だと思ってたけどさ…それ以外の事探すの諦めたら終わりかなって思って」
うん、主人公属性だな従兄……
顔もいいしこれならモテまくってるのにも納得がいく。
62:
昼食は従兄が作ってくれることになった。
小麦粉を水で練って麺をつくっている。俺も横でどんぶりなどの準備をする。
昼のメニューはうどんだった。伯父と小母もよんで、みんなで食卓を囲む。
従兄の作ったうどんは正しい製法ではなくとも、かなりうまかった。
伯父「会社は、きちんと運営していくそうだ」
小母「けど、かなり取引先もゆれるだろうからまず今までの自社のことをまとめて方針を定めるんですって」
ずるずるとうどんをすすりながら伯父達はしゃべる。
自分の周りが正しいもののモデルケースまみれで、やはりなんだか肩が狭い。
俺は早々に食べ終わると自分のどんぶりを洗う。
タカシ「ちょっと街のほうみてくる」
伯父「治安が不安だから、防犯用に何か持って行ったほうがいいんじゃないか?」
伯父の言うことももっともだ。ヤケになって犯罪に走るやつがでないとは限らないんだよな。
実際、そばかすもそんな懸念をしてたし…
66:
最終的に、俺は従兄がいつだったか土産物屋で買ってきた小さめの木刀をいれて持ち歩くことにした。
そのままで持ってると俺が危ない人みたいだから肩掛け型のカバンの中に放り込んである。
その状態で、街に出てきた。学校とは違い、意外な事に人であふれている。
遊びまくってしまえという思考の連中が多いんだろうか?
よく見ると、店員は少ない。
ほとんどが刹那的に遊んで思い出を作ろうとしている人らしい。
そばかす「人間観察にはもってこいよね」
タカシ「?!」
どこからわいたこの女?!
というのがモロに顔にでたらしく、そばかすはニヤニヤしている。
そばかす「いや、街のほうどうなってるのか気になって。画材も買いたいし」
タカシ「やっぱりそっちの側の人間か…」
そばかす「今日買うのはマンガじゃなくって美術用。でもマンガ用も買っちゃうべきかな」
67:
「お金ないけど」とそのままつぶやいて周囲の様子をメモにとっている。
俺はと言えば、まともに働いている店員たちが目を回しそうになっているのにハラハラしていた。
そばかす「そうだ、ギャルの分も買うから荷物持つの手伝って」
タカシ「え…?」
そばかす「ヒマじゃないならいいけど」
タカシ「ヒマじゃないです」
そばかす「ああそう。じゃあまた明日ね」
そういってすたすたと去っていく。何もんだあいつ…。
しかし、ちょっとだけそばかすの言った事で考えた事があった。
もしかしたら…今のうちに物を買い込んでおいたほうがいいんじゃないか?
きちんと良心的に店が開かれ続ける保証なんて無いわけだし…。
そう考えると背筋が急に冷たくなった。
急に「世界が滅びます」と言われただけだとジョークにしか感じないが、
それを受けての周囲の人の行動を見ていると少なくとも人間が原因の危機はたくさん起こりそうだ。
70:
とりあえず、俺は園芸関係の店に向かった。
一家で経営しているらしい小さな店で、俺が店内に入る時少し緊張した顔をしていた。
タカシ「すみません、ちいさなものでもいいから家庭菜園できるのってありませんか?」
爺さん店員「というと…プランターと苗とかかい?」
タカシ「そんなかんじです。えーと…できればタネも何かあれば」
強盗の類を警戒しながらもきちんと客を迎え入れてくれるこの店はいい店だと思う。
けど、実際に強盗の例が多発すればこの店含むいろんな所が経営をやめてひきこもるんじゃないだろうか?
みんなが「こんな時こそ協力が必要だ!」と思えるようならそんな心配いらないんだけどな。
爺さん店員がプラスチック製の横に長いプランターを重ねていくつか持ってきてくれる。
俺の考えている事がだいたい分かっているみたいだ。
爺さん店員「土は重いぞ?どうするね?」
タカシ「えーと…地面から掘り出してくるのじゃ栄養たりないですよね…?」
爺さん店員「肥料とタネだけ今日は買っていくかい?」
タカシ「そうします」
73:
タカシ「ただいまー……」
従兄「うわ、すごい大荷物だな?!」
タカシ「ちょっとでも自給できるようにと思ってプランターとトマトと大根のタネ買ってきた。あと肥料」
従兄「土は重くてムリだったんだな?」
タカシ「うん」
従兄「まぁ…庭もあるしなんとかなるだろ。犯罪気にするなら家の中で育てたほうがいいけど」
俺は背負ってきた荷物をすべて下ろす。
おもい。超重い。確かに俺はひ弱だった…。
従兄「そうそう。学校から連絡来たぞ。明日は国語、数学、社会、理科、情報らしい。」
タカシ「もう決まったんだ…先生達も頑張るなぁ…」
従兄「お前のとこの先生達はいい人みたいだな。よかったじゃないか」
タカシ「そうだね」
75:
腕と足をぶるぶると振って疲れを追いやろうとしてみる。
こういうのでもちょっと楽になるもんだな…。
従兄「どんな感じだった?」
タカシ「店員は少なくて利用者が嫌になるほど多かった」
従兄「だろうな」
タカシ「……そういや従兄は大学どうしたの?」
従兄「全面的に休講するって連絡が来たよ。一部の教授が研究室使う以外は開講しないらしい」
従兄は話してくれつつ、俺の持ってきた荷物を解体している。
俺も一緒になってまとめてあったプランターを1つ1つ分離する。
従兄は大学が無い間はずっとバイトすることにしたと言っていた。
ファーストフード店だから、利用者も多いだろうし、強盗の懸念がある中なら男手はいなきゃなと笑っていた。
82:
その晩、伯父達はやり遂げた顔をして家に帰ってきた。
どうやら社内での方針はうまい事まとまったらしい、良いことだ。
テレビをつけると、ニュース以外の番組はすべて録画番組や再放送だった。
ふと、CMの量が明らかに少ない事に気づく。
なんとなく、従兄の言っていた「社会参加に覚悟が必要」ということを思い出した。
それから、しばらくは多少ごたつきながらも結構平穏な時が流れた…と思う。
確かに従兄やギャルが「バイトの仕事増えた」とか、
そばかすが「絵具買い忘れがあったのに画材店しまった…」とか言っていたけど、
意外なまでに物品の循環はきちんとあったし、自分や周囲の人の身が危険にさらされることはなかった。
だけど、隕石が落ちるという発表がされてから約1ヶ月後…
とある系統のニュースが頻繁に流れてくるようになった
83:
アナウンサー「**町にて無理心中と思われる男女の死体が―――」
従兄「……最近多いよな…」
タカシ「うん…」
従兄「自殺はまだいいとしてさ、無理心中も増えてきたのはどうかと思う」
タカシ「……うん」
最近、自殺関連のニュースが多い。
遊ぶだけ遊んで思い残すことがなくなったら死ぬ。とてもわかりやすいようで、俺にはよくわからない。
死ぬのはそれだけで怖い。
タカシ「朝からこういうニュース流すのもどうかと思うけど」
従兄「隠してしまうのもどうかと思うな。どっちもどっちだ」
タカシ「そっか…」
もぐもぐと白飯を咀嚼しながら、今自分が食べてるものの生産者達にはそうなってほしくないと思った。
なんだかんだで、俺は食い物の心配ばかりしているな。
87:
登校中、学校に行く道の人の少なさにも慣れた。
と同時に、今社会生活をしたい人がまだこれだけいると思うと心強く感じるようになってきた。
今までは空気に徹していたからか、家の中以外常に一人なんじゃないかと思っていたけれど、
その感覚もだいぶ薄れて、なんだか強くなったような気がしてきた。
まだひょろいのは自覚しているけれど。心的に。
タカシ「おはようございます」
男子「おはようタカシ。早だけど消しゴムかしてくんね?」
あいさつだってするようになった。けど男子は俺に打ち解けすぎだと思う。こっちはまだちょっとカベあるのに。
筆箱自体を忘れてきたと豪語する男子に俺は芯のでなくなったシャーペンを消しゴムとして貸した。
男子「えー…いやいや…えー…」
タカシ「予備のケシゴム無いからそれで」
男子「うーん…わかった」
…こいつのこんなにしょんぼりした顔は初めて見た。いままでは顔見ても「誰?」だったのにな。
俺も進歩したもんだ。
90:
再編成したクラスには、3年全部が集まっている。
それでも30人に満たない小さなクラスだ。
学年でいうと、3年が最も少なく、2年と1年がほぼ同数で2クラスづつあるそうだ。
先生達は常にどこかの授業を受け持っていてとても忙しそうにしている。
進路「では、出欠をとります」
3年クラスの新担任は進路担当になった。授業も、最近はやってなかったが国語を担当してくれている。
出欠確認が終わった後の朝礼で、進路担当が他の高校は大概休校になっていると教えてくれた。
それを幸と思うか不幸と思うかは人によるだろうけれど、
少なくとも今このクラスにいるやつは不幸と思うだろうな。
朝礼後、一時間目の先生が来るまでクラスのなかでざわざわといろんな話が交換される。
最初は元々のクラスが同じ連中で集まっていたが、数日前からそれがちょっとづつ崩れ出している。
ヤンキー「あー、タカシだっけ?お前家庭菜園してるって聞いたけど…」
タカシ「始めたばっかりでよくわかんないけど…」
ヤンキー「それでもいいや。必要なのって何がある?」
91:
タカシ「家ではプランターと、肥料と…あ、土は栄養があるのを売ってるからそれ使ったほうが…」
ヤンキー「サンキュー。オヤジの会社が経営やめるらしくてさー、なんかできないかって言われたんだよ」
タカシ「……どの家庭も大概大変なんだな…」
まぁ、だいたいこんな感じに境界線はほぐれてきている。
そんな時、女子が窓の外を見て「あ」と声をあげた。
女子「だれか学校の中に入ってきてる!」
みんながざわつく。窓によって見てみると、ひきつった顔の中年女性が校庭をまっすぐ突っ切ってきている。
そばかす「あ、あれウチの母さんだ」
タカシ「忘れ物?」
そばかす「っぽくないねー」
94:
そばかすはのんきに言っているが、はたから見るととてもそんな様子には見えない。
しばらくすると、一時間目の担当とともにそばかすの母ちゃんが教室に来た。
そばかす母「じいちゃんたちが死んだ!今すぐ帰るわよ!!」
そばかす「…何が原因で?」
そばかす母「++が無理心中にまきこんで…」
そばかす「……叔父さん世を儚んでたもんねー」
俺らからすると、何をのんきにしているんだとしか言いようのない状況だった。
そばかすはギャルに帰ってきたらノートを見せてくれるように頼むと、母ちゃんに連れられて行った。
休み時間、ギャルが暗い顔をしているのを見つけた。
タカシ「どうした?」
ギャル「あ……いや…そばかすが心配で……」
タカシ「精神的には明らかにバッファロー素手で殺せそうなぐらい強いと思うけど…」
ギャル「確かになんか不思議入ってて強そうだけどー…」
95:
バッファローを素手でとか用意している突っ込みどころに突っ込まないあたり本気で心配しているらしい。
俺には仮に何かあっても気づいてたら無事だったとか言い放つ様子しか浮かばないんだが。
ギャル「……そばかすのおじいちゃんちって、結構田舎なんだよね」
タカシ「そうなんだ?」
ギャル「そうなの。タカシはさ、ニュースちゃんと見てる?」
タカシ「うん」
ギャル「じゃあ、山奥とかに人殺して逃げ込む人がいるらしいって話は知ってる?」
タカシ「それは見てなかった……」
ギャル「集団自殺とかのニュースのほうが多いもんね…」
タカシ「じゃあ、そういう連中にそばかすが襲われないか不安ってことか」
ギャル「そーだよ」
タカシ「……大丈夫だと思うけどなぁ…根拠はないけど」
99:
「根拠がないなら言わないでよ」などとギャルに怒られてしまったが、
襲われる"かも"で顔色悪くするほど心配するほうもちょっと過保護すぎる気がしないでもない。
しかしなぁ…そこそこに平穏な気がしていたが、
自分と離れている場所とはいえニュースのような事が起きたときいたらやはり少し不安になる。
さっき、ギャルに対して過保護だと思ったけれど、
あくまで隕石がおちる"かも"に対して過敏に反応しすぎてる人が多すぎるということを改めて感じた。
アレルギー反応の原理みたいなものを思い起こさせる。
あれも物質に対する過剰反応だっけか、なんか本を流し読みした時に見た覚えがある程度だけど。
そういえば…肝心の隕石の衝突率は、ずっと80%前半をキープしている。
常に再計算をしてくれている天文学者たちがいるらしく、結果が出るたびにニュースで流してくれている。
100:
80%を高いと思うか低いと思うかは人によるだろうけど、
それでもう駄目だと思う人がこんなに多いのは俺にとっては不思議だった。
今日の授業も一通り終わる。
男子がシャーペンを返してくれたが消しゴムはほんのわずかにかけらをのこして使い切られていた。
よくこの小さい消しゴムを使いきったな…
俺がシャーペンの後ろの使おうとすると必ず行方不明になって終了する。男子め根性があるじゃないか。
男子「今日はありがとうな、この恩は忘れない」
タカシ「口調が恩っていうより怨っぽいんだけど…」
男子「なんだよくわかってるじゃないか」
タカシ「使いにくいなら言えばいいのに」
男子「借りたものにケチつけるのってなんかダメだろ?」
タカシ「それもそうだな」
103:
そんな話をしてから、男子は部室へと向かっていった。
同じクラスのやつは部活動に向かうほとんどらしく、カバンをもつと早々に部室へと散っていく。
このクラスで部活動をやってないのはどうやらオレとデブぐらいのものらしい。
そういえば、ずっとデブ呼ばわりしているが、最近デブは大デブから中デブへと進化しつつある。
……一応、ちょっと聞いてみようかな?
タカシ「そういえばデブちょっとやせた?」
デブ「わかる? ちょっと痩せてきたんだ」
タカシ「食べる量へった?」
デブ「うん…。」
何か表情が暗い。これ以上聞くとなんだか面倒そうな話を耳にする予感がして、
「健康的でいいんじゃないか?」と話を濁して早めに帰ることにした。
106:
帰りの道で、あやしいコート姿の男を見かけた。
そろそろ冬だしコートを着てる分にはいいんだが、挙動が落ち着かないというのが正しいだろう。
なんにせよ関わりたくないので無視して家に帰る。
従兄はバイトで、伯父も小母もまだ仕事中らしい。
玄関にカギをかけて室内のプランターに水をやった後、ソファーにころがってテレビをつける。
ここ最近は新しい番組をやってくれないのでニュースばかりみている。
天文学者達が、隕石の最接近…つまりぶつかる日はいつになるかという事を計算したという内容がやっている。
タカシ「…… え?」
驚いた。予測日は俺の20歳の誕生日と同じ日らしい。
111:
隕石が落ちるというニュースを初めて耳にした日に思ったことが再び頭をよぎる。
もしかしたらあの隕石は、
星が欲しいとか言ってしまった俺のために父ちゃんと母ちゃんがもってきてしまったんじゃ…?
そんなバカな話があるわけがない。父ちゃんも母ちゃんも特殊な仕事だったけど確かに生身の人間だ。
というか、仮にそうだったとしても誕生日に死んじゃったらどうにもならないだろう。
バカな仮説ではあるけど、あれが父ちゃんと母ちゃんの仕業だったにしてももうちょっと穏便にやるはずだ。
女性アナウンサー「尚、予測日に隕石が最接近する場合は、太平洋に落下する見通しです」
男性アナウンサー「次に、各国の兵器を使用して隕石の軌道を逸らすための調停が―――」
バカな考えだと思っていても、一度そうかもと思ってしまうとなかなかぬぐえなかった。
というか万が一にもそうだったとしたら俺は全世界生中継で公開処刑されてもおかしくはないレベルだと思う。
気のせいだ。うん、気のせいだ。
116:
しばらくニュースが流れていたが、しばらくはさっきからの妄想が頭をぐるぐる回っていた。
はっと気がつくと、隕石関連のニュースから別の内容に移り変わっていた。
男性アナウンサー「##県$$町にて、クマの赤ちゃんが発見されました」
人間に殺された母熊のそばにいた小熊を通りかかった女性が発見し保護したというニュースだった。
ちなみに、通りかかった女性自身も迷子になっていたらしく、
小熊を抱えた状態でうろうろしてたところを保護されたらしい。
…それは小熊を保護と言えるのかどうか…
ニュースがめんをみてて、その時のVTRがながれたとき俺は目を疑った。
小熊を抱きかかえているのはまぎれもなくそばかすだったからだ。
そばかす「心中に巻き込まれそうになって逃げて迷子になってたらこの子をみつけました」
さりげにすごく大変なことになってるじゃないか…。
ギャルがしていた心配は内容こそ違えどなんかそこそこにあたっていたんだな。
というか無事でよかったって言葉がだしづらいんだがなんだろうな。余裕ありすぎなんだよこいつは。
118:
ニュースに、というかそばかすに対して一通り突っ込みをしてたら不安感は薄くなっていた。
こいつのずぶとさにはこういう効能もあるのか。今度から拝んでおこう。
従兄「ただいまー」
タカシ「おかえりー」
従兄がかえってきた…が、玄関からは従兄以外の足音も聞こえる。
リビングにやってきたのは従兄と、帰りがけに見かけた怪しいコートの男だった。
タカシ「その怪しいのは?」
従兄「お前に用事があるらしいから連れてきた」
コート「どうも今晩は……」
世間が世紀末覇王伝的な感じになりつつあるのに人をあっさり連れてくる従兄はかなり肝が据わっていると思う。
俺は座るどころか腰を落ち着けずにそわそわしているからどう考えてもこのコートとは仲良くなれそうにない。
というかとっとと自己紹介してほしい。不安だ。
120:
従兄が俺とコートの男に緑茶を淹れる。
俺は確かに緑茶派だけど、今はゆっくり飲んでいる場合じゃないとおもうんだよな…。
タカシ「俺に用ってことらしいけど…誰です?」
コート「初めまして、私はあなたのご両親の部下です。…今回の隕石の騒ぎについてお話があってきました」
きっと漫画的な表現をするなら、俺と従兄の頭の上にびっくりマークが出現していると思う。
とりあえずそのぐらい驚いた。父ちゃんと母ちゃんの部下?
というか、隕石騒ぎってやっぱり俺が関係あったのか?!妄想だと思ってたのに!!
コート「あなたのご両親は、あなたと離れ離れになる前の会話をひどく気に病んでいたので…」
タカシ「……まさか…父ちゃんと母ちゃんが…?」
コート「はい。あの隕石が地球に衝突することに気付いたのはあなたのご両親です」
タカシ「………予測していた答えと違った」
コート「得てして人生そんなものです」
126:
タカシ「俺との会話がどうこう言うから俺のお願いのせいかと思ったじゃないか!」
コート「子供の願いひとつで隕石呼べるような人間がいるわけないでしょう」
従兄「そりゃそうだよな。タカシ、現実と妄想の区別はきちんとつけてくれ」
タカシ「けど不安になるだろ?!」
一通り大声を出すと、セーフという気持ちとともに脱力感が襲ってきた。
……妄想でよかった…ホントに…
コート「ええっとですね……けど、ご両親が10年以上帰れなかったのは全く関係のない事ではないので…」
俺は先を促して緑茶をのむ。落ち着くなぁ…
紅茶やウーロン茶とおなじ葉っぱからできる飲み物だとは思えないほど落ち着く。
コート「あなたが欲しいとねだった星は、新たな超新星だったんです」
タカシ「ちょうしんせい………ちょっとまって、思い出すから…」
コート「簡単に言うと星が死ぬ時の爆発を見てそれを欲しいと言ったわけです」
タカシ「思い出そうとしてたのに」
128:
コート「それで…ですね。天文学者だったあなたのご両親がその星の事を研究室で調べてみると、
 その爆発から玉突き事故のように沢山の隕石が発生することが計算で明らかになったんです。」
タカシ「……その解析で帰ってこれなかったと?」
コート「データは10年前に出ていたんです。ですが、漏れると混乱があると当時の上司達は判断したんです」
従兄「実際に混乱しまくっているからな」
コート「それで、口封じのためにずっと拘束されていたんですね。結局、別の人物が発表してつい先日解放されました」
タカシ「……父ちゃんと母ちゃんが気に病んでたっていうのは…?」
コート「誕生日を祝えなかった件についてです。そこで隕石の騒ぎを発端として帰ってこれなかった事を伝えにきました」
タカシ「もう解放されたんなら会いに来てくれればいいのに…… グスッ」
コート「軌道変更作戦のための計算を行うためにまだ当分は…」
131:
従兄「……いろいろと理不尽な点が多いな。あんた部下なら何で叔父さん達助けなかったんだよ」
コート「一緒に解析してたので私も拘束されてしまったんですよ…おかげで婚約者に逃げられました」
従兄「ごめんなさい泣かないでください」
コート「うぅっ…」
コートを着ていた男が泣きながらうなだれる。
俺は俺で、父ちゃんと母ちゃんがちゃんと生きてると知ってうれしくて涙がボドボドと机にこぼれさせていた。
コート「と、とにかくですね…今後は手紙などなら連絡がつくそうです」
タカシ「あ…ありがとうございます…」
コート「こちらが連絡先です。あ、ですが近場のポストでは不安なので郵便局に持って行ったほうが確実です」
タカシ「ありがとうございます!」
135:
コートの男が帰った後、俺はわんわんとただひたすらに泣いていた。
父ちゃんと母ちゃんは生きてた。ましてや、俺の事をわすれてしまってたわけじゃなかった。
多分この辺がうれしかったんだろう。従兄も止めようとはしなかった。
泣き疲れていつの間にか眠っていたらしく、俺が起きるともう伯父さんと小母さんが帰ってきてた。
伯父「よかったなあ、タカシ!!あいつら無事だったって聞いて俺もうれしくてうれしくて!!」
伯父が両腕をひろげてがばりと抱きついてきた。
俺もうれしかったのでとりあえず抱きしめかえす。
タカシ「…あの部下って言ってた人、父ちゃんと母ちゃんが隕石そらす計算に参加するって言ってたんだ」
小母「そうらしいわね」
タカシ「他の人は2年前になるまで気付かなかったのをそれよりもっと早く見つけた父ちゃん達だから…
 きっと、隕石は地球にぶつかったりしないって、今なら本気でそう思う…それまで父ちゃん達の事待つことにする」
136:
伯父「おう、待つ間好きなだけウチにいるといい!俺も一緒に待つぞー!」
小母「わたしもタカシくんたちと待つわ!」
従兄「俺も当然おまえにつきあうぞ!」
伯父さん達はノリよく、俺の待つという言葉に返事してくれた。
いい人のモデルケースすぎて肩身が狭いと感じていたけれど、今はそう思うよりも素直にうれしい。
タカシ「……今日は、もう寝ます…」
伯父「さっきまでも寝てたのに?」
タカシ「なんていうか…安心疲れ?」
従兄「あんだけ泣いてたら仕方ないな。ゆっくり寝てこい」
従兄はそう言って俺を部屋まで送ってくれた。
ここ最近はずっと、安心して寝れるなんてことはなかった。
隕石の事をなにかの冗談だと思っていても、それに反応する人を見てなんだかんだで意識してたんだろう。
けど…さっき言ったように、今なら本気で地球は大丈夫だと思う。だから、今日から安心して眠れる。
139:
翌朝。従兄達と話した結果、とりあえず両親の事は周囲には伏せることになった。
タカシ「…なんで?」
従兄「隕石がぶつかる前提で無茶やるやつとか、その予定のやつもちらほら見るようになったからだ」
伯父「そんな連中に隕石撃退の計算やってるのの身内と知られたら何されるかわからんぞ」
タカシ「そっか…そういやそんな世紀末状態だったっけ…」
従兄「周囲はそうなるな」
タカシ「…俺が個人的に撃退作戦に期待しているってだけなら大丈夫?」
伯父「それなら問題ないな。全く知らない振りも無理だろうから一部だけ隠す方向で行こう」
そうだ。そういえば世の中は隕石のせいで世紀末覇者が出てきてもおかしくない状態だった。
それでも撃退作戦成功を疑わない俺は生まれ変わったようなさわやかさで一日を過ごすだろう。
140:
その生まれ変わったようなさわやかさの俺を見るなり、クラスの奴は怪訝な顔をしてきた。
確かに今まで空気キャラだったけどちょっとひどいと思う。
ギャル「どうしたのタカシ?なんか悪いものでも食べてネジとんだ?」
タカシ「まったくもってちがう。隕石なんてぶつからないって本気で思うようになっただけだよ」
ギャル「……なんで?」
タカシ「ミサイルとか使う隕石撃退作戦があるってきいて、すごくうまくいきそうだと思ったから」
デブ「あー、あれニュースでみたよー!」
デブがすごく食いつく。話を聞いてみると、デブは兵器オタらしい。
今まで作られるだけ作られて朽ちて行ってたミサイルなんかが人を殺さず役立つのがうれしいそうだ。
デブ「威力だって強いのはあるし、破壊まではできなくっても逸らすぐらいはできると思う!」
ギャル「ふーん…そんなにメがあるんだ」
タカシ「目があると思う…ってとこどまりだけど。希望は出てこないか?」
142:
ギャルは「そんなもんなの?」と言うと席に戻って行った。
俺はと言うとなぜかデブと意気投合しつつあった。
それぞれ根拠は違うけど同じものを信じれるってのはすごい団結力を産む。
そうか、宗教ってものはこうして生まれたのか……いや、違うと思うけど。
進路担当が教室に入ってくる。そばかすは今日まで休みである事をみんなに告げてから出席をとりだした。
そういえば奴は心中から逃げてクマを確保したんだっけか。一人だけ異次元を渡り歩いてるかのようだな…。
進路「それから…昼食時にタカシくんは進路相談室にきてね。進路のお話があるから」
そう言って進路担当はニコニコしていた。そういえば俺は就職の予定なんだっけか。
隕石の話題が出た当日に進路の話してた事はもうすっかりすっ飛んでいた。
今なら目標とかやりたい事が見当たりそうな気もするけれど、就職から特に変える必要もないと思う。
143:
なにこれ面白い
144:
小学生のころから、何かに身を入れることなんてなかったけれど、今なら何でもできそうだ。
そのぐらいの勢いで勉強もバリバリすすんでいた。
昼休みに入ってすぐに俺は進路相談室に向かう。
ノックしてドアをあけると進路担当がニコニコして待ちかまえていた。
進路「まってたわタカシ君。もういちど、進路について聞いておこうと思って。やりたいことはできた?」
タカシ「見つけられそうな気もしますけど、すぐには無理なので一度就職することにします」
進路「あら?目がキラキラしてきたからやりたいことをみつけたとおもったんだけど」
タカシ「とりあえず先はあるに違いないっておもうようになっただけですよ。まだそれはみつかってないです」
進路「そーお?」
タカシ「それに…大学とか専門学校とかにしろ、今は進学事態が困難だと思うので」
進路「それもそうね……就職して、やりたい事を見つけるのね?」
タカシ「就職して…そこが合えば、ずっとそこにいるかもしれません」
進路「ポジティブになったわね?、先生嬉しいわ」
タカシ「そうですね……俺も、自分で嬉しいです」
146:
その後、進路担当といろいろと話し合った。就職するならどんな業種か?と言うとこらへんから。
隕石ニュース前と後は状況が違いすぎるために、就職先がどういう状況か調査中のところも多いそうだ。
だからこそ、生徒の希望を先に聞いておいてそこを中心に調査したいらしい。
タカシ「…今まで考えてなかったから今すぐはやっぱり難しいですよ?」
進路「そうね…じゃあ、今特に需要があるところをしらべてるけどそこからってことでいいかしら?」
タカシ「需要あるのってどこなんですか?」
進路「娯楽と食品ね。仕事なんかを捨てた人はまずそこへ行くわ…」
希望を捨てた人相手の仕事か…と、思いはしたけどすぐに思い直した。
じゃあ俺がそこで働いて希望持ってる姿見せればいいんじゃないか?
どれだけの人が感じとるかはわからないけれど、やるだけやってみたいと思った。
タカシ「それじゃあ、その2つでお願いします」
進路「ええ。お昼の時間使わせてくれてありがとう。午後も頑張ってね」
タカシ「はい!」
147:
クラスに戻ってくると、男子が話しかけてきた。
男子「どんな話してたんだ?」
タカシ「就職で行きますってことと、どんな業種にするかってこと」
男子「……進学しないのか?今なら差をきちんとつけられるのに」
タカシ「んー…男子みたいに目標があればそうしたんだろうけど、俺まだそういう目標ないからやれる事やって行くよ」
お?なんか俺結構カッコいい事言ってる。これは従兄や男子みたいに主人公属性ついてるに違いない。
とりあえず食べてなかった弁当を大急ぎでかき込んで午後の授業の準備をする。
気のせいか、朝に比べて教室内の雰囲気が明るい。どうやらデブが隕石撃退作戦の内容を解説してくれたらしい。
俺は知らなかった事なんだが、昨晩のうちに撃退作戦のために各国が貯蔵兵器を出し合うことが決定してたそうだ。
かなり現実味を帯びた解決策に、努力を続ける選択をした人たちほど喜んでいた。
149:
翌日。撃退作戦についてはさらに具体的な話が広まっていた。
といってもニュースで詳しく解説してたからみてた人が多かっただけなんだが。
単純にミサイルを撃ち込めばいいという話ではないということで多少テンションの下がったのもいたけれど、
優秀な人々が微調整を続けながらいつ、どの地点で隕石を攻撃するか計算しているというのも広まった。
俺はその中に俺の父ちゃんと母ちゃんがいるんだぜ!と言いたいけれど、
言っちゃいけないんだよなーとほこらしくもありむずかゆくもありな気分を味わうことになった。
それと、この日はそばかすの帰ってくる日でもあった。
クマみつけたあとはニュースを見なかったのでどうなったんだろうと、少しだけ心配していたんだが、
心配するのがばかばかしくなるほどにあっけらかんとした態度で教室に入ってきた。
小熊をひきつれて。
151:
タカシ「ニュースでさ…小熊ひろったってのはみたけど…」
そばかす「飼ってもいいんだって。あげないわよ。かわいいでしょ?」
確かにクマはこいつが獰猛になるなんて信じられないほどかわいかった。
だがそんな問題じゃない。そんな問題じゃない。
ギャル「かーわーい?い?♪」
 もふもふ もふもふ
そばかす「かわいいよね」
基本的にはギャルとそばかす以外はクマの存在をどう扱うべきか悩んでいた。
最終的に看板犬みたいなものと言う事だろうということで落ち着きはしたが。
155:
テレビのニュースでは、未だに暗いニュースのほうが多く取りざたされているが、
少なくとも、俺の周りではそれに引っ張られる人はいないままに時間は流れて行った。
さらに、2ヶ月後。
とんとん拍子と言うのはこういうことなんだろうかというぐらいにあっさりと、俺の就職先が決まった。
隕石が落ちるというデータが世に広まると潰れる会社はおおいが就職はしやすくなるのか……。
いや、そんな単純なものじゃないのは分かっているんだが。
面接の時の事を思い返すに、本当に誰でもいいから人手が欲しい会社だったんだろう。
その分、人手がなくて辛いという事なんだろうけど、
自分からそういうことがわかってるとこ受けたんだからその点については特に言うことはない。
160:
この間の事を何か言おうとしても、なぜだか充実しまくってました、としか言えない。
目に見える変化でめざましかったのはそばかすの連れてくるクマが日に日に成長していく事ぐらいだ。
ほほえましいというよりは若干怖いんだが、飼い主は全くそれを意に介していなかった。
意に介してほしい。
自分自身の大きな変化は内定だったけれど、だいたい同じ時期にクラスの面々も次第に行き先がきまってきた。
男子は従兄と同じ大学へ進学するそうだ。近場だし男子のやりたい研究をやってるらしい。
デブは実家の店を手伝うというか、継ぐ方針らしい。
ギャルも大学進学で……そばかすはよくわからない。
とりあえず割と話す面々をあげてみたけれど、それ以外の連中も自分の道に進んでいるようだった。
163:
いまさらだが、自分の中に「絶対」…とまではいかなくとも希望がある人は強い。
希望も何もなくただ同じ毎日を続ける事を選択した俺がそうなれるだなんて全く思ってなかった。
だからこそ、その希望を大事にしたいと思っていたんだが…
俺の内定が決まってから数日後。俺だけでなく俺のクラスのほぼ全員が同様の怪文書を受け取った。
「お前らが消えれば世界は正しく浄化される」
と言う一文だけの紙がポストなどに投函されていたり、
家の壁にらくがきされていたりしていた。
そばかすはクマの毛をバリカンで刈られて書かれていたとクマをつれてきて実物をみせてくれたが、
とりあえずクマを連れてくるな。
166:
とりあえずそれ以降、毎日毎日似たようなメッセージが届くようになった。
従兄「迷惑だなコレ…ひがみか?」
タカシ「ひがみじゃない?」
もっとも、俺含む大概の連中はスルーしているわけだが…。
スルーできない人も、当然のようにいるというのを目の当たりにすることになった。
ある日、元同じクラスの中でもあまりしゃべらない女子の口数が、だんだん減ってきているのに男子が気づいた。
俺はあまりしゃべらなかった事もあってか全く気付かなかったんだけれど、確かに指摘されると顔色が悪い。
男子「…大丈夫かな?」
タカシ「直接きいてみたほうがいいんじゃないか?」
男子「……タカシ行ってくれよ」
タカシ「なんでだよ?」
男子「俺は見つめあうと素直におしゃべりできないんだよ」
タカシ「見つめあう必要ないよな?」
169:
男子「………しょうがない、ギャルに頼むか…」
ギャル「何を?」
男子「女子元気ないからさ、どうかしたかって聞いてほしくて…」
ギャル「……自分で言えば?」
従兄の事でいままで結構ギャルとは話していたが、こんなに悪い笑顔のギャルは初めて見た。
ニヤニヤと明らかに面白くてたまらないと言わんばかりに笑っている。
多分俺も今似たような顔をしているだろう。頑張れ男子。
仕方ないといいながら、男子は女子のほうに向かう。
俺はできるだけそっちをみないようにしながら聞き耳を立てた。
男子「…よぉ……最近元気ないよな?」
女子「……うん」
男子「なんかあったか?」
女子「クラスのみんなもらってるっていう手紙の事で……ちょっと」
171:
男子「勝手な言い分を信じる必要なんてないし、大丈夫だと思うけど?こんなセコイ奴が何かできるとは思えないし」
女子「……おにいちゃんが……なんかすごく、あの手紙に感化されてるの……」
そっちをみないようにしていたけれど、明らかに女子の声が涙声になってきていて気になる。
前のほうを見てみるとギャルも同じようでチラ見しつつ様子をうかがっている。
そういえば女子の兄はニュース聞いてヤケになった側なんだっけか。ちょっとだけ思い出した。
女子「私が学校行こうとしたら… むっ…むだ…なのに…むだなのにって… なんでそんなことするんだって…」
誘惑に勝てず振り返ると、自分の手で涙をぬぐいながら必死に話す女子と、
何もできずオロオロする男子が目に入った。ティッシュかハンカチ差し出せ。好感度あがるぞ?
女子「嫌がらせかって…おこってくるの……」
男子「……そうだったのか…別に嫌がらせとかでやってるつもりないのにな…」
男子は必死に慰めようとしているんだろうけれどあまり効果がない。
173:
今目の前で泣いている女がいるときに悠長ではあるけれど…
ヤケになって好き放題してやるって思っている人が俺たちのように今までの生活保ってるのを見れば、
そんな状況になるのもなんとなくわかる気はする。女子の兄はきっと、「あてつけ」のように感じてるんだろうな。
きっと意味不明投函も主も、そういうタイプなんだろう。
そばかす「大丈夫」
女子「?!」
男子「?!」
ときどき思うんだが…そばかす、お前どっから現れた。
そばかす「女子ちゃんのほうが手紙の人よりもおにいさんよりも強い。負けたりしないよ」
女子「あ…ありがとう…」
そばかす「いまは、おにいさんが弱いの認めたくない時期なんだろうから、ほっといたほうがいいよ」
そう言いながら自分のハンカチを差し出すそばかす。
その役目は男子にさせてやってほしかった。
174:
そばかす「大丈夫、弱い人の自己保身のために強い人が負けてやる必要はないんだよ」
女子「…ありがとう…」
……そういえば、今の今まで忘れていたけれど、
そばかす自身もそういう弱い奴の自己保身ってやつに巻き込まれかけたんだよな…
大変な目に会ってるはずなんだけどさりげなさ過ぎて完全にスルーしていた…。
しかし、今はそばかすが女子をフォローしたけれど、
家の中に一緒に住んでいる奴がそうだっていうなら定期的に見てやったほうがいいかもしれないな。
そう思って、俺は男子の肩をたたいてささやいた。
タカシ「このヘタレ」
男子「お前最近調子に乗ってるだろ?なぁそうだろ?」
タカシ「とりあえずヘタレ脱却して女子をきちんとフォローしろよ」
175:
男子は微妙な顔のまま、一度だけうなづいた。
ふと、ギャルのほうを見るとこちら側には関心がなくなっていたのかクマにめちゃくちゃかまっている。
あの流れを聞いていて途中で気が移るなんて大物だな。ちょっと女子にその根性分けてやってくれ。
まぁ、それはそれとして俺も直接ではないにしろどうにかしたいとい気持ちはあった。
そこで、帰りのHRの後に、進路担当をちょっと呼びとめてみた。
進路「何?問題があったの?」
タカシ「問題と言うか…先生は最近みんながされてるイタズラをしってますか?」
進路「知ってるわ。生徒だけじゃなくって先生達にも来ているのよ」
タカシ「……そうなんですか?」
進路「ええ。どういうタイプの人がやってるのかだいたいわかるからほっておいているけど…」
タカシ「当人じゃなく、身近な人が感化されてしまう例があるみたいなので、
 他の先生にも注意するよう伝えてもらっていいですか?」
進路「そうなの?……あー……確かにあるかもね… わかったわ。会議なんかで話題に出してみるわね」
179:
なんというか、前の担任とは違った意味で頼もしい先生だと思う。
俺がこの人に頼りっぱなしだという部分も大いにあると思うけれど。
進路担当との話が終わってから、俺はカバンを手にとって帰路についた。
久しぶりに、帰りがけに空を眺めてみる。月は上弦の三日月だ。なんとなくあの日のあたりを思い出す。
タカシ「…そうだ」
父ちゃん達に、まだ内定もらえたって手紙を送っていなかった。
明日は休日だし、夜のうちに手紙を書いてしまおう。
内定が決まったこと以外には何をかこうかと考えながら帰った。
あまり、心配はさせたくない。今までぼんやりしてたけど今は仲のいいのが結構いる…とかは書こうかな。
「なんでそんなに楽しそうなんだよ…」
後ろからそんな声が聞こえたので、振り返る。
見知らぬ人が立ってた。振り返らずに逃げてしまえばよかった。なんか面倒くさそうな予感がする。
183:
「もう2年もしないうちにみんな死ぬんだぞ?もっと悲しそうにするのが礼儀だろ?」
タカシ「……死ぬとは限らないんじゃないんですか?」
「いや、死ぬ。84%だぞ?地球は84%の確率で滅びるんだぞ?半分以上なら死ぬ覚悟をすべきだ」
根本的に考えが合わない予感がしだしたから即座に逃げたい。
あー…でもなんかこいつゴツいんだよな…俺未だに体力面では鍛えられてないから追いつかれそうな気がする…
「それなのに嬉しそうに毎日暮らしやがって…そんなに死ぬのが怖い連中がおかしいか」
論破するのも疲れそうなんだよな…早く家帰りたい。
…言うだけ言って逃げて、逃げ切れなければ助けを呼ぶか…?
助けを呼んでも助けてくれるような人が近場にいるだろうか?
なんで家からも学校からも中途半端に遠いところで声かけるかな……
「返事しろ!!」
タカシ「死ぬのが怖いのはおかしくないけどお前の理屈はおかしいと思う」
187:
タカシ「少なくとも、死ぬかもしれない事はわかっててやってるのだっている。自分ができないからって邪魔すんな」
とりあえず、逃げだした瞬間足くじいたりしないように注意する。
相手がこっちに襲いかかってきても逃げ切るには、
家や学校に向かうよりも街のほうに走って従兄のバイト先に逃げ込むほうがいいだろう。
……あ、やっぱ相手怒ってる。自分を否定されるのは気分悪いもんな。
俺もさっきのお前に似たような気分にさせられたからおあいこだと思うんだけど……。
男がつかみかかってきたので左に避けて、従兄のバイト先目指す。
体力ない上にカバンの教科書は重いけれど仕方がない、何とか逃げ切ったらそれから対策を考えよう。
「まて!このガキ!!!」
アーケード街に入る。たしか時計のある角にあるハンバーガーショップだったはず。
タカシ「たすけて!!」
まともに働いている人達が耳を貸してくれることを祈って叫んでみる。
しかし何も起こらなかった。
191:
とりあえず、従兄のバイト先に駆け込む。男は俺が店の中に入ったのを見るとうろたえた。
従兄「あ?めずらしいなタカシ。どうした?」
タカシ「変質者に追っかけられた、かくまって!」
従兄は怪訝な顔をすると、俺の指差した方向を見た。
まだあの男は店に入ってくべきかどうするか迷っている。
従兄「よし、じゃあテーブル席で待ってろ。帰る時いっしょにかえってやるから」
タカシ「ありがとう…」
まさか自分の就職も決まったような段階になってまで、従兄の力を頼りまくるとは…少し情けない気もする。
だけどまぁ、理不尽に暴力振るわれないためだ、仕方ない。
195:
しばらくしてから、従兄のバイトがあがったので、俺は従兄と一緒に店を出る。
あの男が俺を見て睨んできたが、従兄が睨み返すとコソコソと逃げて行った。
……多分、俺が弱そうだから狙ったんだな、あいつ…
従兄と一緒に家に帰りついてから、俺は父ちゃん達に送る手紙を書いた。
自分の言葉をきちんと伝える自信はあまりなかったが、まぁなんとかなるだろう。
えーと… 父ちゃん、母ちゃんへ、タカシです。 ……固いか?とりあえず続きを…
二人が無事だと知って、とてもうれしかったです。 帰りがけに考えてたやつを入れて…
俺はずっとおとなしかったんですが、最近は仲のいい奴もいます。
隕石の撃退計画は、その周囲の人に期待されています。
俺は、父ちゃんと母ちゃんが参加しているから、期待程度じゃなく成功すると信じています。
…プレッシャーになるか…?いや、これは応援だ。応援。
きちんとせいこうするとしんじていますが、そのためにも今すぐ会いたいとは言いません。
ただ、8歳の誕生日ができなかった分のプレゼントをねだってもいいでしょうか?
……とりあえずかきあげて、伯父から切手をもらい、手紙を入れた封筒に張る。
明日は護身具を持って郵便局へ行こう。そして、この手紙を父ちゃん達に受け取ってもらうんだ。
197:
数週間後。父ちゃんと母ちゃんからの返事が届いた。
俺が誕生日プレゼントにねだったものを約束してくれるらしい。
自分でもちょっとわがまま言ったかと思ったんだが、返事の筆跡は踊りださんばかりに嬉しそうだった。
従兄「…俺、お前が何ねだったか知らないんだけどさ…」
タカシ「うん。見せてないし」
従兄「嬉しいからってあんまり叔父さん達に負担掛けるなよ?」
タカシ「大丈夫じゃないか…?たぶん」
父ちゃん達からの返事が届くころには、妬みの手紙もとぎれとぎれになってきた。
理由としては、隕石の撃退策の具体的なシミュレーション案がニュースで放送されるようになってきたからだと思う。
ただ単に「ミサイルつかいます!」としか言われてなかった頃よりは、
周囲の人々も先がある事を考え出してきた雰囲気を感じてる。
199:
ギャル「一時はどうなる事かと思ったけど、結構みんなしっかり立ち直ったよねー」
デブ「……けど…編成前のクラスのいなく人もどってこないね…」
ある時、ギャルとデブがそんな話をしていた。ギャルもデブも、若干しょんぼりしている。
俺はずっと空気でいたせいか、そこまではっきりと前のクラスの事は思い出せないんだが、
一応周囲との交流があった場合は気になるんだろう。
ギャル「ねーねー、そばかすはなんかしらない?どうにかして呼び戻せない?」
そばかす「学校に来る以外の事に意義を見つけた人もいるから、多分無理よ」
ギャル「私たちが滅んでも滅びなくても学校に来たほうがいい…って思ったようにってことだよね…」
そばかす「そうね」
今更だが、本当にこいつらはよくそんな覚悟を決めて学校に来てたなぁと思う。
今のポテンシャルを当時の俺が持っていてもそこまで覚悟きめられなかっただろう。
200:
女子が泣いている。この場面では仕方ないよな。
俺だってギャルたちの気の抜けた会話がなければ泣いてたと思う。
進路担当が教室に入ってきて、言った。
進路「みなさん、卒業おめでとうございます。」
今日は、この学校の卒業式だ。といってもデブの言っていたように人がほとんど戻ってきてないから、
卒業生は30名足らずと結構小規模なものだけど。
進路担当は目に涙を浮かべている。
進路「私は、あなた達が学校に残ってくれて本当によかったと思っています。
 辛いことや、悲しい事も沢山あったでしょう。すべてから守れずに本当にごめんなさい。」
ギャル「せんせー謝る必要ないよー」
ギャルは軽く言っているつもりだろうけど鼻声だ。全くごまかせていない。
202:
ギャルの進路はどうなったんだろう
203:
進路「今、世界は救済策があるのは知っていながらも混沌としています。」
進路担当は涙目のまま続ける。
進路「あなた達がその中でもしっかり歩めることは、この数か月で十分に見てきたつもりです。
 ですから、これからも地に足をつけて、一歩一歩前に進んでください」
短い担任だったが、みんなが進路担当の言葉をきちんと聞いていた。
もちろん俺もだ。よくよく考えなくても、隕石ニュースがなくても恩師に当たり人物だったんじゃないだろうか?
主に俺の就職的な意味で。
進路担当が別れの言葉を言い終わってさいごのHRが終わった後も、俺含む数人は教室にまだ残っていた。
206:
タカシ「みんな、いままでありがとう。多分あの時男子が話しかけてこなかったら、
 俺今も何も考えないまま…はないと思うけど、もっと無気力に生きていた気がする」
実際に、あそこで考えてあったからその後父ちゃんと母ちゃんが生きていたって時に本当に立ち直れたんだと思う。
そんな事を俺が言うと、続けてデブがいう。
デブ「僕も、みんなと話せるようになってよかった。なんとなくだった事に意味ができてうれしかった。」
ギャル「私もー。以外とみんな面白くて楽しかった?。」
オレとデブ以外多分だけど、こういう状況に陥らなくっても充実した学園生活を遅れてたと思うんだ。
男子「そうだな…俺も、生きること前提にしてよかったと本気で思ってるよ。
 最期の思い出づくりとか行く場合は、最期に死ぬ事を考えてたから…」
こいつがそんなネガティブな選択肢を持っていたというのはなんとなく驚きだった。
死ぬ前提でもいろんなところに行くだけ行ってそのまま無事に帰ってくるプランだと思っていたんだが。
そばかす「仮に帰ってくるプランでも、似たような人に遭遇して最後はまいっちゃうと思うよ。」
最期の最期まで一番謎が残ったこいつに関しては、そばかすはもうこういう生物なんだと思うことにした。
それでも、卒業式にはクマを連れてきてなくて感心したとおもったら、
保護者席にスーツ着せておいてたのはやはり突っ込んでおきたい。
208:
俺たちは一通り、友人たちへの感謝を述べあって、そのあとに教室を出て別れた。
まさか、こんなにさわやかな卒業式を迎えられるなんて全く考えていなかったので、とりあえず隕石に感謝してみた。
隕石降るとか言わなきゃ多分こうはならなかったからな、俺。
まぁ、隕石が降るとかいうからそれ以前の無気力状態になった気がしなくもないんだが。
家に帰る途中で、いつだったかのコートの男がいるのに気づいた。
タカシ「こんにちは」
コート「こんにちは、ご卒業おめでとうございます。これ、お祝いの品です、届けに来ました」
タカシ「ありがとうございます」
パシリも大変だな、とか思ったけど言わないことにした。
とりあえず渡されたものを受け取り、頭を下げる。
コート「ご就職と聞きましたが、いいんですか?こんな世の中ですよ?」
タカシ「今だからいいと思う部分もあると思うので、行ってきます」
コート「そうですか。それでは、今後も頑張ってください」
タカシ「はい!」
211:
家に帰って開けてみると、手紙と、
8歳のころ父ちゃんと母ちゃんが俺に渡すつもりだった「星」のデータが入っていた。
手紙によると、父ちゃん達は星そのものではなく、
その星の分析データを俺に渡してプレゼントする気だったらしい。
そのためのデータ分析中に隕石落下が判明して外出不可扱いになったんだそうだ。
コートから以前聞かされてはいたが、あらためてめちゃくちゃな発覚理由だと思う。
とりあえず俺は、その星のデータをきちんとファイルにしまいこんだ。
卒業後も、おれは伯父の家に世話になりつつ、食品会社につとめていた……。
仕事をしていく合間に、どんどん世相というものがかわっていった。
俺が就職したばかりのころは多少緩やかになったとはいえ混沌期だった。
ニュースも暗いものが多かった気がする。
219:
それがしばらくするうちにものすごく楽観ばかりになる時期が来て、
そのあとにまた「すべての生物がいき絶える」などという声が反映される時期が来た。
どうやら、隕石がやってきてみるまでは、楽観と絶望を交互に繰り返すものらしい。
それによってセールスの内容がかわったりして、正直仕事はめんどくさい事も多い。
だが、仕事をすることで誰かに必要とされるのは消して悪い印象はなかった。
俺自身は、仕事の思考錯誤の繰り返しで日々を送っていたが、俺の周囲はどんどん動いていった
まず、大学に進学したギャルがついに従兄と付き合いだした。何度か家に来ていたが、
メイクを大人しくして髪染めもそこまで明るくなくなっていたため最初誰かわからなかった。
「また清楚系かよ」とかいってその清楚系からギャルの声が出たときギャップで腹がよじれたもんだ
ギャル伝いで、当時の友人たちの情報は入ってきた。
男子も従兄やギャルと同じ大学できちんとやってるらしいし、
デブも店をきちんと運営できているらしい。
そばかすは相変わらずよくわからないが街中などでみかけるから、まぁ元気なんだろう。
クマが猛獣レベルに成長していたから近づくことなんてできなかったけれど…。
「みんなすごいな」とはなしていたが、ギャルや従兄から見れば俺も十分に変わってきたらしい。
そう言ってもらえると、結構むずがゆいものがある
そしてやってきた、隕石最接近の予定日 兼 俺の20の誕生日
220:
その日ばかりは、周期的な楽観と絶望では測れない、緊張で迎えられた。
隕石を迎え撃つのは深夜に行われることになっていて、誰もが生中継のテレビか、空を見上げていた。
俺や伯父一家は、テレビをつけた状態で空の様子をうかがっていた。
中継画面には各国の軍が迎撃ミサイルの護衛をしているシーンが映っている。
伯父「……こんな風に守る必要があるんだな」
タカシ「未だに、地球が壊れたほうがいいと思う奴はいるみたいだから」
そんな事を話していると、テレビから発射の合図が聞こえるが、どうなっているのかよくわからない。
テレビから「成功です!」という声が流れたと同時に、無数の流れ星が空に流れた。
打ち返された時に粉々になったかけらが、
隕石としてではなく燃え尽きてしまう流れ星として地球に降り注いだのだ…
と、テレビで軌道計算チームとして紹介された父ちゃんが語っている。
近所からも、真後ろからも隕石を追い返したことで喜びの声が聞こえてくる。
俺はそれをただ「よかったなー」とか言いながら眺めていた。
227:
父ちゃんも母ちゃんも、きちんと俺のわがままを聞いてくれたらしい。
俺が頼んだのは「隕石撃退のときに被害を全く出さない方法をとってくれ」だった。
隕石をコナゴナにしても、コナゴナになったかけらが地面に到達してしまえば甚大な被害を出す。
そのための計算は難しいものだと頭ではなんとなくわかっていたけど、
俺の自慢の父ちゃん母ちゃんにケチがつかないような形で地球や俺達を守ってほしかった。
隕石の削りかすでうまれた流れ星はしばらく続いた。小さな隕石になってしまったものはなかったらしい。
そこで中継はとぎれて、深夜番組に切り替わる。
タカシ「やり遂げたんだな…やっぱすごいな父ちゃん達は…」
230:
きっとやり遂げるに違いないとわかっていたはずなのに、うれし涙が止まらなかった。
翌朝……
ミサイル発射位置から一晩で迎えに来れるわけがないというのは分かっていたが、
なかなか来てくれるはずの父ちゃん達がこなくてやきもきしていた。
おまけにテレビでは父ちゃんと母ちゃんに生インタビューという企画のテロップが流れている。
やっぱり俺はテレビに関しては生はあまり好きじゃないかもしれない。どうしてもというときはとてもありがたいけど…
CMがおわり、番組が再開すると同時に、インターフォンが鳴る。
父「タカシー!!テレビ見てるだろー!!あけてくれー!!」
母「お母ちゃん達やったよー!」
その声は、テレビと玄関の両方から響いた
終わり
231:
乙山乙夫
235:
長時間ようやった 学校の面々がおもろかった
俺もねよーっと
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