新戸緋沙子「私は、お前のことが好きだ。幸平創真」back

新戸緋沙子「私は、お前のことが好きだ。幸平創真」


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注意書き
本作品は食戟のソーマの二次創作になります。
ヒロインはタイトルにあるとおり、秘書子こと新戸緋沙子ちゃんになります。
地の文を利用した小説形式の作品になりますので、そこはご注意ください。
ほんとに秘書子かわいすぎると思う。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1426323256
3: ++/ryOVR0 2015/03/14(土) 17:55:32.76 ID:++/ryOVR0
最初は感謝の気持ちだった。
偶然スタジエールの課題で一緒だった彼。
初めこそつっけどんとした態度を取っていたけれど、彼と一緒に過ごしたあの時間は、私にとってかけがいのないものになっていた。
あの時、私が抱えていた悩みという名の氷塊も、彼のおかげで溶かすことが出来た。
彼の後押しもあって、私は私がいたかった場所に帰ってくることが出来た。
元々彼のことはえりな様の邪魔な存在としか思っていなかったが、あれ以降、私が彼に対して敵意を抱くことは出来なかった。
そしていつからだろうか。
私の中に何かわだかまりが出来始めていたのは。
「どうしたの?緋沙子?」
「あっ、はい!すいません。少し考え事をしておりました」
「もう、まずはその敬語をやめなさいって言ったでしょ?」
「す、すみ、いえごめんなさい?あー、もう少し待ってください!中々難しくて、その」
「ふふ、冗談よ。でもゆっくりで良いから直していってね?」
「は、はい!」
あれ以降。えりな様、いやえりなと呼べと言われているが、それは置いておこう。私たちの関係は良好だと思う。
えりな様の隣に立つ。今までの努力とは比べ物にならない努力をしないと辿り着けない場所。
でもあの日、彼に教えてもらったこと。私が気づかなかった私の中の本当の想い。
それが今の私を形作っている。
「で?どうしたの緋沙子?最近良く上の空になることが多いけれど」
「いえ。私自身もよく分からないんです。なんか胸の中にわだかまりみたいなものがありまして」
「わだかまり?まさか、風邪とかじゃないわよね?」
「いえ!体調管理はばっちりです!ですが、このようなものは初めてで、自分でも戸惑っているのです」
「わだかまり、か。少し休暇を取ってみたらどう?私の方は大丈夫だから」
「え、いえ、そんな私の都合でご迷惑をかけるなど……え?」
とん、と人差し指でおでこを突かれ、きょとんとしてしまう。
「そんなこと気にしないの。緋沙子体調が第一。それに……」
「……?」
「と、友達のこと……心配するのは当然じゃない……」
4: ++/ryOVR0 2015/03/14(土) 17:57:21.05 ID:++/ryOVR0
くらっ。
目眩がした。不意打ちだった。
なんだろうこの可愛過ぎる生き物は。
頬を赤らめながらこんなことを言われては、性別関係なく陥落するのではないか。
漫画で聞いたことのあるツンデレというやつなのか?これがそうなのだろうか。
だとしたらなるほど。これは凄まじい破壊力だ、と私は思った。
確かに、私がえりな様のお側に戻る時、従者としてでなく一人の友達としてありたいと本心を言ってくれた。
しかし、こんなの反則すぎる。
「わ、わかりました!新戸緋沙子!暫し休暇を頂きます!」
これ以上この場にいたら何か別の物に目覚めそうだった。
「しっかり休みなさいね?」
ぐらっ。
可愛すぎる。
これだけである意味あの時離れて正解だった気がしてきた。
そんなだらしない思考を垂れ流しながら、私は自分が倒れる前にその危険地帯を退避した。
「しかし休暇と言われても何をするか」
休みと言えばやはり自身の部屋に戻り、くつろぐのが妥当だろう。
しかし、別に体調が悪いわけではなかった。
特に体調を崩していない時に下手に休むと逆に身体に毒だ。
さて、どうするか。
「あれ?新戸じゃん。久しぶりだなー」
ドクンッと心臓が跳ね上がった。
声だけで分かる。分かってしまう。私がえりな様と仲直り出来たきっかけをくれた人。
私にとって今や恩人の彼。
「幸平、創真……」
振り向きざまに彼の名を呼ぶ。心臓の鼓動がより高く聞こえる。
一体これはなんなんだ……?
5: ++/ryOVR0 2015/03/14(土) 18:01:17.69 ID:++/ryOVR0
「何をしている、こんなところで」
「ん?いやさら今から新作料理試そうと思ってさ。極星寮の厨房取られちまってるから、学校の厨房を借りにいくところ」
見れば手には食材などを詰めた鞄があった。
「1人でか?」
「ん?そうだけど。あれ?そういや新戸も一人だな珍しく。薙切はいないのか?」
「今日はえりな様とは別行動だ。丁度良い幸平創真」
「ん?」
「私も気分転換したかったところだ。お前の料理に付き合っても良いか?」
「へ?」
厨房に向かう途中、私は凄まじい自問自答に駆られていた。
わ、私は何を言っているんだ!いや!確かに気分転換にはなるが、よ、よりにもよって幸平創真に何故あんなことを……。
幸平創真は私の提案に快諾してくれた。寧ろ感謝された。丁度味見役が欲しかったと。
何故かはわからないが、その瞬間異様な昂揚感が私を包んでいた。
そして不思議なことに、胸の中のわだかまりも今は収まっている。
「ん?どうかしたか新戸?」
「いや、なんでもない!それより良いか幸平創真!私が付き合うのだから、練習とはいえ不出来な物を出したら許さんぞ!」
「へいへい。お前も相変わらずだなー」
「相変わらずとはなんだ!相変わらずとは!」
スタジエールの時と変わらない応酬を繰り広げながら、私は彼の調理に付き合った。
意外にも定食屋とは程遠いフランス料理の品を試作していたため、私も私で勉強になることが多かった。
「しかし意外だな。まさかお前がフランス料理に手を出すとは」
「いやー、スタジエールで四宮先輩にコテンパンにしごかれてさー」
「し、四宮!?遠月の卒業生の!?」
「ん、お、おう。第二のスタジエールは四宮先輩のとこでさ、まぁ色々あってな……」
ぶつぶつと彼にしては珍しく覇気のない顔で呟いていた。
第二のスタジエールはどうやら余程の地獄だったらしい。
7: ++/ryOVR0 2015/03/14(土) 18:09:19.26 ID:++/ryOVR0
「む、出来たな。では試食といくか」
「おう」
完成した料理を一口含むと、思わず仰け反ってしまいそうな旨味が口の中に広がった。
共同で作ったものだが、メインは幸平創真によるものだ。
秋の選抜で2位に残ったから実力は確かだと知っていたが、これほどとはと思わず狼狽しそうになる。
「んー、まだまだだな」
しかし幸平創真は難しい顔をして言う。
こ、これでか?と思わず言ってしまいそうになるが、情けないのでそれは料理と一緒に飲み込むとした。
「……四宮先輩は、これ以上の物を作っていたのか?」
「あぁ、正直比べ物にならない。四宮先輩の専門分野ってのもあるけど、全く勝負にならねぇ……」
んー、と悩みながら料理を口に運ぶ幸平創真を見て、私は前とは違う胸のわだかまりを覚えていた。
私の死にも狂いの努力は、幸平創真にはまだまだ遥かに及ばないのか。
「幸平創真!」
立ち上がりバンッと机を叩くと、幸平創真はビクッとこちらを見上げる。
「復習だ!何故四宮先輩に届かないのか!私も一緒に考えるから、お前も付き合え!」
「え?いや、元々そのつもりだけど、いきなりどうしたんだお前」
「いいから!しっかりがっつりやるぞ!」
私は自分の悔しさを隠すのに精一杯で、それを誤魔化すように厳格な新戸緋沙子を繕った。
幸平創真はまだまだ先にいる。そしてその遥か先に私のいたい場所がある。
「???まぁ、いいや。なんか知らねぇけどやる気みたいだし。んじゃ、いっちょやるか新戸」
結局、昼から始まった幸平創真との料理の試作は、終わってみれば夜になるまで続いていた。
「ありがとよ新戸。今日はすげぇ助かった」
「気にするな。私も私のためにやっただけに過ぎない。私自身も勉強になった。礼を言う」
「送らなくて大丈夫か?」
「ん?あぁ、大丈夫だ。すぐそこだからな私の寮は」
「ん、そっか。じゃあまたな新戸」
「……あぁ、またな幸平創真」
8: 以下、
そして幸平創真の影が消えると同時に、私は頬が好調し、心臓が激しく脈打つのがわかった。
ドクンドクンと内部で暴れまわるそれは、そう簡単に収まりそうになかった。
「一体どうしたんだ私は……」
自室に戻りまた自問を始める。
幸平創真と会ったとき、幸平創真と別れたとき。同じような現象が私を襲った。
そして幸平創真といた時、私の中のわだかまりは綺麗さっぱり無くなっていた。
そしてまた今、わだかまりが出来ている。
ゴロンと横を見ると、あの少女漫画が袋に入って置いてあった。
「あぁ、しまった。返しておくべきだったな」
あの日幸平創真から借りた本。
えりな様に私が返しておくと言って持ってきたのを、すっかり忘れていた。
「あまり長く借りておくのも悪いし、近いうちに日を見て返さないとな」
えりな様がハマった恋愛少女漫画。まぁ飛び切りプラトニックなものだから、そこまで大人な描写はないが結構巷では人気だったらしい。
恋愛か……恋愛?
ドクンッとまた心臓が跳ね上がる。今度はより激しく。内部から私を叩いてくる。
幸平創真といると、わだかまりがなかった……?
幸平創真といたから……?
まさか……?
「いや、そんな馬鹿なことがあるわけない」
その考えに否と言う。
きっと疲れているだけだ。今日はもう寝よう。きっと明日にはこのわだかまりもなくなっているはずだ。
新戸緋紗子が、幸平創真に〜〜〜なんてあり得ない話なのだから。
19: 以下、
『なぁ新戸。また料理の試作付き合ってくれよ。新戸とやると、なんかすげぇ捗るんだ』
『な、何をいきなり言うんだ幸平創真!私はえりな様の秘書だぞ!そんな簡単に時間など作れるものか!』
『んー、じゃあしゃあねぇか。田所に頼むとするよ』
『な、なに?田所とは、田所恵のことか?あの女に頼むのか?』
『いやだって、お前忙しいんだろ?田所はちゃんと付き合ってくれるし、これからは田所に頼むとするよ』
『ま、待て!幸平創真!』
『おーい、田所』
『待て!待ってくれ!』
「待たんか!」
ガバッと起き上がったそこには、見慣れた風景が広がっていた。
自室。自分の部屋だ。
「夢……?」
パジャマの下も汗だくだった。
「なんて夢を見たんだ私は……」
シャワーを浴びながら、思わず呟く。
確かに感謝はしている。最初合った敵対心も今はほとんど残っていない。
でもその中にそんな感情はなかったはずだ。
なんでだ。どうしてだ。どうしてよりにもよって彼なんだ。
「違う、違うはずだ……こんな気持ち」
そんな私の呟きは、誰にも聞かれることなくシャワーのお湯とともに排水口へと吸い込まれていった。
20: 以下、
「おっす!また偶然だな新戸!」
「な、なぁ!?」
放課後、えりな様は仕事のため別行動となった際、またしても私は彼に会ってしまった。
「珍しいなー。昨日、今日とお前が一人でいるなんて」
彼はいつもそうだった。
誰にでも馴れ馴れしく話す。コミュニケーション能力が高いといえばそうなのかもしれないが、ゆえに彼は幅広い交友関係を持つ。
「男女」関係なく。
そこまで行き思考を振り払う。
何を考えている!しっかりしろ緋沙子!
「お前こそ珍しいではないか。あの田所恵といつも一緒にいるのに」
田所という名を出したと同時にズキンッと胸が痛んだ。
まやかしだ、気のせいだ、と自分に言い聞かせる。
彼の前でそんな素振りを見せるな。
「ん?田所か?確かに良く一緒に行動しているけどさ」
ズキンッズキンッ
胸の痛みがさらに激しくなる。
耐えろ。冷静でいろ。
21: 以下、
「別にいつも一緒って訳じゃないぜ?同じ寮生ってだけだし」
「え?」
スーッと痛みが止むのが分かった。
「な、なんだ。良く一緒にいるから、てっきり付き合っているのかと思ったぞ」
待て、何を聞き出そうとしている。
「へ?俺と田所が?いや、あいつとは同じ寮生で友達ってだけだぞ?」
痛みが引き、逆に、僅かに昂揚感が出てきている。
止めろ。止めてくれ。そんなことを聞こうとするな新戸緋沙子。
「まぁ良い。ところでその手荷物を見る限りまた料理の試作か?」
どうにか寸前で止め、話題を切り替える。
「ん?あぁ、昨日お前と話していいイメージ出来てるからさ。忘れないうちに今日もやろうかなって」
「そうか……」
「良ければ新戸もやるか?いや、お前は俺と違って結構忙しいか」
「そうだな、私は……」
『これからは田所に頼むとするよ』
ズキンッと胸にまた鈍い痛みが走る。
「いや……私も付き合って良いか?私も昨日の良いイメージを忘れたくない」
「お?そうか!新戸の意見って結構斬新で勉強になるし助かるわ」
引いた胸の痛みを確認しながら、私は一つ息をつく。
落ち着け緋沙子。
これは勉強なんだ。自分より高みにいる幸平創真から吸収するための。
決してかまけた愛瀬目的ではないんだ。
26: 以下、
「んー。昨日よりは大分良い感じになったな」
「そうだな。味の繊細さは昨日より遥かに上がっている。やはり火入れの時間が肝と読んだのは正解だったな」
「だけどまだまだ四宮先輩には及ばずだ」
「……こればかりは経験を積むしかないだろうな。昨日と同じように一つ一つ復習し積み重ねていくことが一番の近道だろう」
幸平創真はやはり私とは比べ物にならない傑物だった。昨日私と復習した内容を、今日既に実戦に取り組み、成功させている。
私は何度も失敗を繰り返しているのに。
そして私が目指すあの人は、そもそも失敗したところを見たことがなかった。
完全無欠の料理人だった。
「ん?どうした新戸?」
「いや、お前は凄いなと思ってな幸平創真」
「は?」
「昨日の今日でこれだろう?たった1日で昨日の反省点を改善し、実戦に生かしている。私には到底及ばぬ領域だ……」
私が目指す遥か頂。薙切えりなという天才の隣。
そこに辿り着く自分を目指し、今も精進し、進もうとしている。
でもどうだろう。
葉山アキラもそうだ。
凡才の自分が才能を持つ彼らにそもそも勝ち目なんてなかったんじゃないのか?
目の前の幸平創真もそうだ。
どうしても、どこか弱気になってしまう。
「何言ってんだ新戸?」
「え?」
「だって今日の料理が上手く出来たのって、俺はお前のお陰だと思ってるぜ?」
「は?何を言っている幸平創真!つまらん慰めはよせ!」
「いや、実はさ。お前と別れた後極星寮戻ってまた試作したんだよ。でもどーしても上手くいかなくてさ。中々良い味が出せなかったんだよ。んで、良いイメージ忘れたくないから、もう一度やろうと思ったんだけど、新戸が来てくれたお陰ですんなり出来たんだよ」
「な、何?」
「多分俺じゃ気づかなかったミスを新戸が拾ってくれたお陰で、昨日より味が上がったんだと思う。何を卑屈になってるか知らねーけど、感謝してるぜ?新戸」
ドクンッとまた胸が跳ねる。
こいつはスタジエールの時もそうだった。惚けた振りして、私の一番欲しい言葉をくれる。
私が見えていなかった道を教えてくれる。
27: 以下、
ドクンッドクンッと心臓の音がうるさい。
……認めろというのか。
この気持ちを、この胸の鼓動を。
ドクンッドクンッドクンッと今までで一番早く血液が流れる。
私は、私はこいつのことを……。
「ん?どうした新戸?」
私は……私は……?
「…………ゆ」
「緋沙子ー?ここにい……え?」
幸平創真とは別の声が耳に入り、思考が完全に止まった。
心臓がまた違う意味で跳ね上がる。
「ん?薙切?」
「え?え、えりな……様?」
「ひ、ひ、ひ、緋沙子……?と、幸平……くん?」
サーっとえりな様の顔の血が引いていくのが分かった。
「な、な、な、」
声にならない声で、私たちの方を指差す。大体言いたいことは分かる。
「ん?おい新戸、薙切の奴どうしたんだ?」
「お前は黙っていてくれ、幸平創真」
「ん?おい」
正直今の私も一杯一杯だったが、どうにかここでえりな様の爆発を防がなければならない。
恐らく生きていた中で、今が一番早く頭が回転している気がした。
「えりな様」
「ん、うん?」
「幸平創真とこうしているのは、調理について彼から教わっていたからです。えりな様の隣に立つためには、選抜2位の彼の実力をより知ることが必要と思ったのです。驚かせてしまって申し訳ありません」
「いや、まぁ俺も新戸から色々教えて貰ってたけどな」
「お前は黙ってくれと言ったろう!」
しかしえりな様は余程の衝撃だったのか、少々頭がショートした感じだった。
「え?あ?うん?そうなの?あ、そうなのね?なんだー、緋沙子はほんと勤勉ねー。だったら私に言ってくれれば何でも教えてあげるのに。あはは……」
壊れかけのえりな様の腕を引き、少し待ってろと幸平創真に言い、一旦調理室を離れる。
とりあえずえりな様を人目につかない内に元に戻さなければ。
28: 以下、
「ふー、見苦しい所を見せたわね緋沙子」
「い、いえ、とんでもない……」
いつもの執務室で一服してもらう。
少ししてえりな様は正気に戻った。
「で?どういうことかしら?何で幸平創真と一緒に?」
「…………」
口を紡ぐ。えりな様には伝えられない。
そもそも私自身もこの気持ちの正体をまだ決めかねている。
「スタジエールのことが何か関係しているのかしら?」
「!!」
図星を突かれ、思わず狼狽しそうになる。
「はぁ。別に私は貴女を責めている訳じゃない。実際、彼のお陰で貴女とこうして関係を戻せたのだから、その……彼には感謝しているつもり」
「えりな様……」
「でもっ!」
ぐいっと顔を寄せられ、私は思わず仰け反りそうになる。
「私が何よりびっくりしたのは、緋沙子があの少女漫画のヒロインの子と同じ表情してたってこと!」
「へっ!?」
思考が止まる。
あの漫画のヒロインと、同じ表情……?
「わ、私もあの漫画しか読んだことないから分からないけど、なんかこう、あの時の緋沙子、その、凄い可愛かった……」
「……っ」
「ま、まさか……貴女!あの幸平創真に……、その、ほ、惚れた訳じゃないわよね!?」
ドクンッ
初めて、初めて本当の核心を突かれ、身体が跳ね上がる。
「よ、よりにもよって、緋沙子が!」
「え、りな様……」
29: 以下、
待って欲しい。
それ以上先は言わないで欲しい。
「まさか、よりにもよってあの男にそんな……」
「えりな!」
ビクッと今度はえりなの身体がはねる。
生まれて初めて、この人のことを呼び捨てで呼んだ。
「すみません。幸平創真を待たせています。このお話はまた後で良いでしょうか」
「…………分かったわ。私は、後で、ね」
その意味を、えりなは理解してくれた。
そして私も、その意味を理解しながら伝えた。
「私も、まだこの気持ちの正体を知りません」
「そう……」
「だから、その答えを探してきます」
カッカッと、足早にえりなの元から離れる。
「緋沙子」
寸前のところで呼び止められる。
「ありがとう。呼び捨てで呼んでくれて。また幸平創真に感謝することが増えたわ」
「……!」
「行きなさい。また、後で、ね。」
「……はい」
カッカッカッと彼のいる調理室へ戻る。
私のこの答えを、知るために。
34: 以下、
「おー、おかえりー。もう片付け終わっちまったぞ」
「待っていて、くれたのか」
「いや、待ってろって言ったの新戸じゃん」
「そういえばそうだったな」
「よー、薙切の奴どうしたんだ?なんかテンパってたけど」
「幸平創真」
「ん?」
「少し、良いか……」
カッカッと足音が2つ響く。
一つは私。
そしてもう一つは幸平創真のものだ。
「そういや漫画貸しっぱなしだったな」
「ああ、随分長いこと借りてしまっているからな。持ち主には申し訳ない事をした」
「まぁ俺から謝っとくよ。彼奴はあまりそういうの気にしないけど」
「ここで待ってろ。すぐ取ってくる」
「おう」
時間は既に夜に差し掛かる。
人通りもほとんどない。
あの後の復習の時間が、やはり伸びてしまったためだ。
だが、私はその間で覚悟を決めた。
決めることができた。
寮の入口に幸平創真を残し、私は一旦部屋に戻った。
一つ息を吐く。
言うんだ、私の気持ちを。
えりなが、わざわざ呼び止めて言った意味を、理解していない新戸緋沙子ではないのだから。
「すまない。待たせた」
「おう、サンキューな」
漫画の袋を渡すと、じゃあ帰るわという幸平創真を呼び止める。
心臓が馬鹿みたいに煩い。
昨日今日でもう一生分動いたのではないのかというくらい、暴れ続けている。
「幸平創真」
「ん?まだなんかあった?」
「聞いて欲しいことがある」
離れかけた幸平創真の方へ近づく。
35: 以下、
「さっきは、その、本当に感謝している。お前には、助けられてばかりだと思う」
「ん?俺なんかしたっけ?」
「とぼけなくても良い。スタジエールの時も、とぼけた振りをしていたが、お前は私の背中を押してくれた」
「……」
「私は……」
1つ呼吸を溜める。
生まれて初めての、そして最初で最後であって欲しい言葉を紡ぎだす。
「私はお前のことが好きだ。幸平創真」
「何時からかは分からない。でも、今日、ようやく分かった。分かることが出来た」
「は?え?」
言い終わり、ふーふー、と息を荒げる。
言った。言うことが出来た。心臓の音は相変わらず煩いままだ。
でも、言ってしまったことでどこかスッキリしたものも胸の中にあった。
見ると幸平創真は珍しく頬を赤くして狼狽えている。
なんかその様が、ちょっと可愛いと思った。
「いや、え?あー、えっと、すまん新戸。初めてこんなこと言われたから、その、なんて返事したら良いか……」
「初めてなのか……?」
「あー、おう。今まで料理ばっかやってたから、その、な」
「そうか、私が初めてか」
フフ、と思わず笑い声が漏れる。
なら今の幸平創真はフリーということだ。恐らく付き合うとかそういうのは考えたこともなかったんだろう。
「幸平創真」
「は、はい」
「どうせ今は色良い返事は貰えんようだな。考えたこともなかったみたいだし」
「あー、うん。その……すまん」
「構わない。だが」
グッ
チュッ
思いっきり胸倉を掴み、そのまま彼の唇に向かって私の唇を差し出す。
「!?!!???」
「ぷはっ!私のファーストキスだ。これが、私の覚悟だ。良いな幸平創真」
「え、え?あ、はい」
「いつか、返事を聞かせてくれるのを待ってるぞ。では、またな」
カッカッカッと足早に幸平創真の元を去る。
未だ困惑した声を上げているが、私は胸の内がすごいスッキリした気持ちだった。
部屋に入り、枕に顔を埋め、バタバタと足をバタつかせる。
「まさか、フフ……」
きっと幸平創真は悩むだろう。多分私の何倍も、何十倍も。
それで良いのだ。私を悩ませた罪を存分に償えと思う。
「さて、幸平創真はどんな答えをくれるのだろうか」
36: 以下、
受け入れてくれるのだろうか、それとも、……のか。
でも私にはもう恐怖はなかった。
自分の唇をなぞる。
先制のパンチは喰らわせた。
より強力な、より超強力なものを。
負ける気はしない。
あの田所恵や、他の誰であっても。
さぁ、幸平創真。
精々全力で悩め。
私は、その返事を何時までも待つから。
〜後日談〜
「全く、あの時は後で待ってるって言ったのに。勝手に帰っちゃって」
「ごめんえりな。私も結構テンパってて……」
もう完全に敬語が抜けた私たち。主と従者じゃない、一人の友達として私たちはここにいる。
これもあの日彼が背中を押してくれたお陰だった。
「で!?」
「ひっ!?」
「ど、どうだったの!?その、告白、したの!?ねぇ!?あの、薔薇の花とか、渡したりとか!?」
グイグイ押してくるえりなを見て、あぁ完全に少女漫画に毒されてるなと心の底で涙を流す。
「い、一応告白はしたよ……。返事はまだだけど……」
「はぁ!?あのボンクラ!緋沙子の告白に即答しなかったの!?」
「ちょっ!えりな落ち着いて!」
「あー、なんなのそれ!男としてありえない!」
男としてというが、この人も果たしてどこまで異性のことを分かっているのだろうか。
と思ったが口には出さない。きっと出してはいけないことだ。
「あー、ムカつく!今から食戟してくるわ!私が勝ったら即返事!これ以外いらないわ!絶対ボコボコにしてやる!」
「あー、もう。えりなったら」
飛び出して行ったえりなを見ながら、フフと笑いが溢れる。
これで良かったと思う。まだ幸平創真からの返事はないけれど、きっと近いうちに返事を貰える。
そんな予感がする。
コンコン
「はい?」
「あー、幸平だけど、新戸いるか?」
どうやらえりなとすれ違いになってしまったようだ。
でも私にとっては好都合だった。
いや、もしかしたらえりなも分かっていて席をはずしたのかもしれない。
「入って」
何時もの軽い雰囲気とは違う、明らかな緊張した顔に思わず笑みが溢れそうになる。
さぁ、幸平創真。お前はなんて答えをくれるんだ。
「あの、昨日の返事だけどさ、そのーーーー」
また、心臓が胸を打つ。
私はあの日スタジエールで彼と組めて良かった。
出会い方は決してロマンチックでもないし、その過程も酷いものだったけど、今、彼を好きになった私を、やっと私は好きになれた。
「うんっ」
私はそう言うと彼の方へ近づき、そして。
〜完〜
37: 以下、
以上で終了になりますー
短い間でしたがお付き合いいただきありがとうございました
駆け足な内容になってしまいましたが、そこはなにとぞご容赦を
pixivのほうにも同じものをあげますので、読みたくなればそちらのほうもよろしくです
ではhtml依頼出してきます
またどこかで会いましょう
38: 以下、
乙です
次回作も期待している
39: 以下、
素晴らしい。乙
41: 以下、

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