結衣「一日一万回、感謝のやっはろー!」八幡「は?」back

結衣「一日一万回、感謝のやっはろー!」八幡「は?」


続き・詳細・画像をみる

2:
一年生の終業式が終わった。明日から、春休みが始まる。
この前までは高校に入ったばかりだと思っていたけど、時が流れるのはあっという間だ。
そして、あの入学式からもう一年が経とうとしている。
未だに、あの時にサブレを助けてくれた男の子に会いにいけずにいる。
このままじゃ駄目だ。
きっと、このままじゃ永遠にあの時の感謝を伝えられずに過ぎちゃう。
そんなだめだめな自分を変えるために、あたしは山に篭ることにした。
3:
さて、山にきたはいいけどどうしよう。
とりあえず山に来たらやまびこの声を聞くために叫ぶよね。
あたしは大きく息を吸い込んみ、山に向かって叫んだ。
結衣「やっはろー!!」
やっはろー!!
やっはろー!
やっはろー……
結衣「……あっ」
その時、あたしは気が付いたんだ。
あの男の子に感謝を伝えるために、大切なのは挨拶なんだって。
だから、あたしは感謝の挨拶をすることにしたんだ。
自分なりに少しでも出来ることをやろうと思い立ったのが。
一日一万回、感謝のやっはろー。
4:
結衣「やっはろー!!」
結衣「やっはろー!!」
結衣「やっはろー!!」
息を整え 拝み 祈り 構えて 叫ぶ。
一連の動作を一回こなすのに当初は5?6秒。
一万回叫び終えるのに、初日は18時間以上かかっちゃった。
結衣「やっはろー!!」
結衣「やっはろー!!」
結衣「やっはろー!!」
叫び終えれば倒れる様に寝る。
起きてはまた叫ぶを繰り返す日々。
一日一万回、感謝のやっはろー。
5:
結衣「やっはろー!!」
結衣「やっはろー!!」
結衣「やっはろー!!」
春休みは二週間くらいしかない。
それが終わる前までに、あたしは感謝の挨拶を極めなきゃって気がしたんだ。
結衣「やっはろー!!」
結衣「やっはろー!!」
結衣「やっはろー!!」
山の中で、ひたすら叫ぶ。
一日一万回、感謝のやっはろー。
6:
結衣「やっはろー!!」
結衣「やっはろー!!」
結衣「やっはろー!!」
今日もまた、感謝のやっはろーを叫ぶ。
だめだめなあたしを変えるために、今日もまた叫ぶ。
結衣「やっはろー!!」
結衣「やっはろー!!」
結衣「やっはろー!!」
山に篭ってもう十日、そろそろ学校が始まっちゃう。
でもそんなとき、異変に気付く。
一万回叫び終えても、日が暮れていない。
齢16を越えて、完全に羽化する。
感謝のやっはろー、1時間を切る!!
かわりに、祈る時間が増えた。
山を下りた時、あたしの挨拶は。
音を置き去りにした。
7:
明日から学校が始まっちゃう。
あたしは山を下りて、久しぶりに自分の家に戻った。
由比ヶ浜母「あんた、2週間も連絡も無しにどこへ……なんか変わったわね、結衣」
由比ヶ浜父「お前、一体どこ行ってたんだ……なんか変わったな、結衣」
結衣「そう? えへへ」
自分じゃわかんないけど、山の中で感謝のやっはろーを叫び続けた甲斐はあったのかな。
あたしは変わることが出来たのかな。
明日から2年生。よしっ、がんばるぞっ!!
8:
……とは思ったものの、2年になってからも結局ヒッキーにコンタクトを取ることは出来ないでいた。
はぁ。
一日一万回、感謝のやっはろーは意味がなかったのかなぁ。
そういえば、最近周りの人の反応がちょっと変になってるような気がするなぁ。
姫菜は「なんか……ユイ、すごいよね……」とか言ってくれたし。
とべっちなんかは「結衣マジぱねぇわ?俺とか隼人君より背高い女とか全然見たことねーしよー」とか言ってきた。
優美子だけは今までの人と接し方が全然変わらなくて助かる。
にしても、うーん、確かに山篭りしてる間に体が随分大きくなっちゃったんだよね、制服もぱっつぱつだし。
まぁ、それは今度どうにかするとして、いい加減ヒッキーに感謝を伝えたいなぁと悩んでいた。
そんなとき、平塚先生から奉仕部という存在を聞いたの。
なんでもそこは生徒のお願いを叶えてくれる場所らしい。
先生は「き、君の場合自分で何でも出来そうに見えるんだが……」なんて言ってくれたけど、そんなことは全然ない。
あたしは今でも、自分では何にも出来ない女の子だ。
早、その奉仕部というところへ向かうことにした。
9:
奉仕部の部室とやらの前まで、来ると軽くノックをした。
ドォンドォン!!!
雪乃「ひいぃ! ど、どうぞ……」
結衣「し、失礼しまーす……」
からりと(ガッシャーン!!)戸を開いて「おい、ドア壊れたぞ。あれどうすんだ」中を見ると「し、知らないわよ……」部室の中には、部員と思われる男の子と女の子がいた。
中をきょろきょろと探るように見渡してみる「ひぃ!」と、その男の子と目が合う。「ひっ!」
まさか、あれって……。
結衣「な、なんでヒッキーがここにいんのよ!?」
八幡「……い、いや、お、俺ここの部員だし……ってなんであんなゴリラみたいなのに俺目付けられてるんだよ……やはり社会が悪い……」ガクブル
まさか、あの時サブレを助けてくれたヒッキーがここにいるなんて……それにしても相変わらずキョドり方がキモい。
10:
八幡「ま、まぁ椅子でもどうぞ」
結衣「あ、ありがとう」グシャーン
八幡「……座っただけで椅子が潰れたように見えたんだけど、気のせいか?」ヒソヒソ
雪乃「誠に遺憾ながら、あなたの腐った目と同じ現象を目にしたわ……」ヒソヒソ
なんかヒッキーと雪ノ下さんが近くでこそこそと話をしている。仲いいのかなぁ。
雪乃「ゆ、由比ヶ浜結衣さん、ね」プルプル
結衣「あ、あたしのこと知ってるんだ」ゴゥ!!
雪乃「ひぃぃ!!」
まさかこの学年でも有名な雪ノ下さんに知られてるなんて! うれしいなぁ。
11:
八幡「お前よく知ってるなぁ、全校生徒覚えてるんじゃねぇの」
雪乃「そんな事ないわ、あなたのことなんて知らなかったもの……それよりあなたと同じクラスよね、なんであなたが知らないの……」
八幡「やめろ言うな知らなかったことにしたかったんだよ……」
結衣「なんか……楽しそうな部活だね」キラキラ
雪乃「ひぃ!」
普段キョドってばかりのヒッキーがこんなに喋るなんて知らなかったし、しかも相手はあの雪ノ下さん。
こんな部活があるなんて、知らなかったよ。
雪乃「べ、べべべ別に愉快ではないけれど……」ガクガクブルブル
結衣「あ、いやなんていうかすごく自然だなって思っただけだからっ! ほら、そのー、ヒッキーもクラスにいるときと全然違うし。ちゃんと喋るんだーって思って」
八幡「えっ、あっ、はい……なんで俺こいつに認知されてるんだよステルスヒッキーどうしたんだよ……」ブツブツ
なんだか良い雰囲気の部活だなぁ、ヒッキーがいるんだったらもうちょっと早く相談しに来れば良かったなぁ。
あっ、そうだ。そろそろ本題に入らなきゃだよね。
12:
結衣「……あのさ、平塚先生から聞いたんだけど、ここって生徒のお願いを叶えてくれるんだよね?」
八幡「そうなのか?」メヲソラシー
雪乃「す……少し違うかしら。あくまで奉仕部は手助けをするだけ……願いが叶うかどうかはその人次第よ……」メヲソラシー
八幡「お前人と喋る時はその人と目を合わせろよ」ヒソヒソ
雪乃「む、無理に決まってるじゃない……だったら、あなたが合わせなさいよ……」ヒソヒソ
んー? よく意味が分からなかった。だから質問してみることにしよう。
結衣「どう違うの?」ゴゥ!! パリーン!!
八幡「……ガラスが割れたぞ」
雪乃「え、えーと……飢えた人に魚を与えるのではなく、魚の取り方を教えて自立を促すのよ……」
結衣「な、なんかすごいねっ!」ホエー
八幡「いやぁ風通しがよくなったなぁ……」シラメ
雪乃「ちょっと、あなたも会話に参加しなさい」
八幡「えっ、俺? 無理無理無理」
なんかよく分からないけど、雪ノ下さんが言ってることはなんかすごそうだ!
この人たちに任せれば、なんか上手く行きそう!
13:
結衣「あのあの、あのね、クッキーを……」チラッ
八幡「ひいいい!! ちょ、ちょっと『スポルトップ』買ってくるわ」ダッ
雪乃「逃がすかぁ!!」ガシィッ
八幡「えっ、ちょっ、おま、なんで俺の服掴んでんの、ていうかお前今キャラ壊れてなかった?」
雪乃「あなたこの状況で私一人置いていこうだなんて、いい度胸してるわね……」ヒソヒソ
八幡「逆だろ、度胸がないから逃げようとしてるんだよ……!!」ヒソヒソ
雪乃「やっぱり逃げようとしてるじゃない……」ヒソヒソ
結衣「?」
やっぱり、あの二人仲がいいなぁ……。
………………………………
……………………
…………
25:
…………
……………………
………………………………
雪乃「で、ゆ、由比ヶ浜さんは手作りクッキーを食べて欲しい人がいるそうよ。でも自信がないから手伝って欲しいというのが彼女? のお願いよ」
八幡「無理矢理俺も聞かされたからそれは分かってるよ……でも、なんで俺たちがそんなこと……、それこそ友達? に頼めよ」
結衣「う……、そ、それはその……、あんまり知られたくないし、こういうことしてるの知られたら多分馬鹿にされるし……。こういうマジっぽい雰囲気、友達と合わない、から」
多分、こういうの言ったら優美子辺りからは笑われちゃいそうだし……。
八幡「……こいつのこと馬鹿に出来る奴って人類で存在してんのか?」ヒソヒソ
雪乃「さぁ……馬鹿にした瞬間、塵にされそうに思えるのだけれど……」ヒソヒソ
26:
結衣「あ、あははー。へ、変だよねー。あたしみたいなのが手作りクッキーとかなに乙女かってんだよって感じだよね」
雪乃「……そうね。確かにあなたのような派手(体格的な意味で)に見える女の子……? のやりそうなことではないわね」
結衣「だ、だよねー。変だよねー」アハハ
雪ノ下さんの顔色を伺って、少し目を伏せながら笑う。
そうだよね……やっぱあたしにはこういうの似合わないね……。
ふと、ヒッキーと目が合った。
一瞬ビクッってしてたけど、その後に口を開いた。
27:
八幡「……いや別に変にキャラじゃないとか似合わないとか柄でもないとかそういうことが言いたいんじゃなくてだな、純粋に興味がねぇんだ」
結衣「もっとひどいよ!」
ヒッキーひどい!
思わず、バンと「うおっ、地震か!?」机を叩いて「あなた……命知らずなのね……」しまった。
結衣「ヒッキー、マジありえない! あー、腹立ってきた!『ひいぃ、命だけはお助けを!!』あたし、やればできる子なんだからねっ!『殺、殺ればできる!?』」
雪乃「……手伝うわ」
八幡「い、命だけは……あ、クッキーのことか……おおお俺もカレーくらいしか作れねーがててて手伝うよ……」ガクブル
結衣「あ……、ありがと」
良かった……やっぱりこの人たち良い人だ……。
思わず、ほっと胸を撫で下ろす。
28:
雪乃「別にあなたの料理の腕に期待はしてないわ。それよりさっき壊れた机とか余波で割れたガラスだとか、その他諸々を先生に報告してきてちょうだい」ヒソヒソ
八幡「うげ……また平塚先生泣くんだろうな……ただでさえウチの教室の扉全部壊れてるのにな……」ヒソヒソ
よしっ、がんばるぞ!
  × × ×
雪乃「……ごめんなさい、あなたの体格に合うエプロンはないみたいね」
結衣「いやー大丈夫だよ、別になくてもへーきへーき」
別にこぼしたりしなければエプロンなくても平気、だよね?
雪ノ下さんがカチャカチャと手際よく調理器具を並べていく。
うわー、すごい。早い。出来る人ってこんなにすごいんだ。
29:
結衣「ねぇねぇ、あたしも何か手伝えることってないかな?」
雪乃「い、いえ……大丈夫よ。むしろそのまま待っていてくれるとありがたいわ」アセアセ
結衣「はーい……」シューン
うーん、でも下手に手伝っちゃうと返って邪魔になっちゃうかな?
ここは、雪ノ下さんに任せよう。
その雪ノ下さんの準備を見つつ、ふとヒッキーのことを「ひぃ!!」見た。
結衣「あ、あのさ、ヒッキー……」
八幡「な、なななな、なにかね?」
相変わらずキョドってることが多いなぁ、どうしたんだろう。
30:
結衣「か、家庭的な女の子って、どう思う?」
八幡「か、家庭的……? べ、別に嫌いじゃねぇけど……男ならそれなりに憧れるもんなんじゃねぇの」
結衣「そ、そっか……」
それを聞いて、あたしは思わずちょっと笑って「ひぃ! こえぇ!!」しまった。
ヒッキーも家庭的な女の子は好き、なんだよね? だったら……。
結衣「よーしっ! やるぞ!!」ゴウッ!! パリーン!!
八幡「殺、[ピーーー]ぞ!?」ガクブル
雪乃「…………はっ、一瞬気を失っていたわ」
クッキーを作って、ヒッキーに感謝を伝えるんだ!!
31:
雪乃「それでは由比ヶ浜さん、まず材料をかき混ぜて『矢ッ覇露―!!』ごめんなさい、私の判断が間違っていたわ」
あ、あれー?
軽くかき混ぜたら、材料の入ったボールが無くなっちゃったよ……?
雪乃「ミキサーを用意しましょう。比企谷くんはそこら一帯の掃除をお願い」
八幡「そこら一帯ってどこからどこまでだよ……端から端まで卵やら小麦粉やらが散ったぞ……」
雪乃「全部に決まってるでしょ……」
結衣「ご、ごめんねヒッキー……あ、あたしも手伝うから」
八幡「だだだ大丈夫だ、気にすんな。お前はクッキー作りに集中してくれ……掃除中にさらに家庭科室が壊れるかもしれんし」ボソッ
わぁ、やっぱりヒッキーって優しい……。
サブレの時に助けてくれたり、やっぱり人のことを考えて行動出来る人なんだろうなぁ。
32:
雪乃「それでは、材料をこのミキサーに入れるわ。由比ヶ浜さん、慎重に、本当に慎重に、ガラスを扱うより丁寧に扱うつもりで入れてみてちょうだい」
結衣「うん、分かった!」ドカーン
雪乃「ミキサーが──!!」
結衣「あ、あれっ?」
軽くミキサーを押さえようとしたら爆発しちゃったよ……?
なんでだろ。
………………………………
……………………
…………
33:
…………
……………………
………………………………
結衣「出来たー!!」
雪乃「出来たわね……ほんと、よく出来たわ……うふふ、ゆきのちゃんほんとよく成し遂げたわうふふ……」ハァハァ
八幡「雪ノ下……お前、ほんとよく頑張ったよ」
ちょっぴり苦戦しちゃったけど、雪ノ下さんに手伝ってもらえてなんとかクッキーが完成しました!
それでは、早味見してみよう!
……これは。
34:
結衣「うぅ?、苦いよ不味いよ?」
雪乃「そりゃ……ぜぇぜぇ……味にまで……はぁはぁ……気を配る余力が……うっぷ」
八幡「おい雪ノ下、この椅子に座ってちょっと休んでろ」
うーん、頑張ったと思うんだけどなぁ……。
何が駄目だったんだろ?
雪乃「さて……じゃあ、どうすればより良くなるか考えましょう」
八幡「由比ヶ浜が二度と料理をしないこと」
結衣「全否定された!?」ゴゥ!!
八幡「うがああああああああああああ!!」ビューン
雪乃「比企谷く──ん!!」ガタッ
あれっ、ヒッキーなんでそんな教室の端っこにいるの? さっきまでここにいなかったっけ?
それにしても……やっぱりだめなのかな。
35:
結衣「やっぱりあたし料理に向いてないのかな……。才能ってゆーの? そういうのないし」
雪乃「しっかりして比企谷くん!」ドンドン
八幡「はっ、あぶねぇ……死んだ昔の飼い犬がこっちくんなワンって叫んでた……」
うーん……困ったなぁ。
雪乃「比企谷くんは無事ね。『いや無事じゃねぇよ血ィめっちゃ出てるよ』それより由比ヶ浜さん、『聞けよ』あなたさっき才能がないって『おいコラ』言ったわよね?」
結衣「え。あ、うん」
雪乃「その認識を改めなさい。最低限の努力……はしていたような気はするけど、とにかく努力しない人間に才能がある人を羨む資格はないわ。成功できない人間は成功者が積み上げた努力を想像できないから成功しないのよ」
八幡「お前……死ぬぞ。あとついでに俺もこのままだと死ぬ」ドクドク
雪乃「はっ、つい反射的に」
36:
うっ。
雪ノ下さんに痛いところを突かれて、胸がチクリと痛んだ。
でも、作り笑いを浮かべてちょっと言っちゃう。
結衣「で、でもさ、こういうの最近みんなやんないって言うし。……やっぱりこういうの合ってないんだよ、きっと」
雪乃「……その周囲に合わせ……られてないけど、合わせようとするのやめてくれるかしら。ひどく不愉快だわ。自分の不器用さ、無様さ、愚かしさの遠因を他人に求めるなんて恥ずかしくないの?」
八幡「お前ほんとに死ぬぞ……あと救急車呼んでくれない?」
雪乃「はっ、また反射的に」
結衣「……」
41:
雪ノ下さんに言われて、はっと思い返す。
言われてみれば、自分はいつも周囲に合わせてばかりだ。
そして、このふたりはなんか違う。建前とか言わず、自分らしくあろうとしている。
結衣「か……」プルプル ゴゴゴゴゴゴゴ
雪乃「私の人生はここまでのようね……。じゃあね、パンさん……」
八幡「あっやべ……マジで目が眩んできた……」ドクドク
結衣「かっこいい……」パアァ
二人「「は?」」
あたしみたいに周りとか気にしなくて、本音を言えるんだ……。
そういうの、すごいカッコいい!!
42:
結衣「かっこいいよ……」
八幡「あの、そんなことより俺マジで死……」
結衣「やっはろー!!」ズブッ!!
八幡「ひでぶっ!!」
雪乃「あ、あなたトドメを!?」
結衣「えっと、ツボを押しただけだよ。止血と体力回復の」
八幡「あっほんとだすげぇ、体が動くようになった」
結衣「それより……建前とか全然言わないんだ……。なんていうか、そういうのかっこいい……」
雪乃「……えっ? もしかして私、死ななくて済んだのかしら」
結衣「雪ノ下さんの言葉、本音って感じがするの。ヒッキーと話してる時も、ちゃんと話してる」
雪乃「命が掛かっていたから、必死なだけだったような気がするのだけれど……」ボソッ
43:
結衣「あたし、人に合わせてばっかだった『……人に合わせて?』『おい余計なこと突っ込むな』から、こういうの初めてで……ごめん。次はちゃんとやる」
次こそ、言い訳とか他人のせいとかにしないで、きちんとクッキーを作るんだ!!
八幡「……正しいやり方ってのを教えてやれよ。由比ヶ浜もちゃんとマジでいや本当に慎重に物を壊さないで言うこと聞け」
雪乃「……一度お手本を見せるから、その通りにやってみて」
そう言って雪ノ下さんは、ブラウスの袖をまくって手早く準備を始めた。
卵を割って、かき混ぜて、小麦粉をふるって、砂糖、バター、バニラエッセンスなどの材料を手際よく加えていった。
あっという間に生地を作っちゃうと、型抜きを使ってハートとか星とか丸とかの形に抜いていった。
そしてその生地をオーブンに入れてしばらくすると、すっごいいい香りがしてきた。
しばらく経ってオーブンから取り出したクッキーはとっても綺麗だった。
まるで、お店で売っているようなものみたい。
そのクッキーをお皿に移してこちらに手渡してきたので、一つ貰って食べてみる。
44:
八幡「うまっ! お前何色パティシエールだよっ!?」
結衣「ほんとおいしい……。雪ノ下さんすごい」ゴゴゴゴゴ
雪乃「ありがとう。でもその体から漏れてるオーラは抑えてくれるかしら」
すごいすごいすごい!
あたしがさっき作ったものとは全くの別物。
あたしが作ったのは、こんなにおいしくは出来なかった。
どうやったらこんなにおいしく出来るの!?
雪乃「これはレシピに忠実に作っただけなの。だから由比ヶ浜さんは……その……レシピに忠実じゃなくてもとりあえずはいいから、まずは被害を出さずにクッキーを作れるようになりましょう……」
八幡「俺、帰っていいか?」ヒソヒソ
雪乃「絶対に逃がさないわよ」ヒソヒソ
結衣「うん、分かった! お願いします!!」
雪乃「ええ……お願いします」ゲッソリ
それから、雪ノ下さんに作り方を教わりながらクッキー作りに再チャレンジし始めた。
45:
しかし……。
雪乃「由比ヶ浜さん、粉は小麦粉を使いましょう。ええ、それは机の破片を粉々にしただけよ。それは食べられないわ」
雪乃「かき混ぜる時にボウルはほんのちょっとだけ押さえて、ええ回す時もほんの少しだけ材料を混ざるように『こうやるの?』ああ! 家庭科室内に竜巻みたいなのが!!」ゴゴゴゴゴ
雪乃「違うの、違うのよ。隠し味はいいの、多分科学室から持ってきたんでしょうけどエタノールはクッキーには入れなくてもいいのよ。比企谷くんこれは科学室に戻してきて」
なんだか、上手くいってなかった。なんでだろ?
46:
そして色々あって「本当に色々あったわよ……はぁ……」生地を入れていたオーブンをオープンすると、さっきに似たいい匂いが立ち込めた。
でも……。
結衣「なんか違う……」
さっき雪ノ下さんが作ったものとは、なんかが違うような気がした。
雪乃「ぜぇ……ぜぇ……」
八幡「おい、さっき噴水のように溢れてた水道管は止まったぞ」
雪乃「あ、ありがとう……ぜぇ……ぜぇ……」
結衣「なんでうまくいかないのかなぁ……。言われたとおりにやってるのに」
もう一度自分の作ったものを食べてみる。
最初に作ったものに比べればおいしいけど、それでも雪ノ下さんが作ったクッキーに比べるとだいぶ違う気がした。
47:
八幡「……あのさぁ、さっきから思ってたんだけど、なんでお前らうまいクッキー作ろうとしてんの?」
結衣「はぁ?」
そりゃ相手に渡すくらいならおいしいクッキーの方がいいし……っていうかヒッキーに渡そうとしてるんですけど!!
ちょっと怒ってヒッキーを睨みつけると「ひぃぃ!!」ヒッキーはびくびくしながら言葉を続けた。
八幡「え、えっとですね、十分後に“本当”の手作りクッキーってやつを食べさせてあげるんでちょっと教室の外に出て頂けませんかマジ業者さんがビビッてて教室の中に入れないから」
結衣「何ですって……。上等じゃない。楽しみにしてるわ!」
雪乃「分かったわ、由比ヶ浜さんちょっと外に出ていましょう。あ、業者さんあのガラスと水道と机とあとその他諸々お願いします」
ヒッキーがそう言うので、一旦外で待っていることにした。
ていうか、ヒッキーってクッキー作れるのかな……?
48:
 × × ×
中庭で雪ノ下さんと待っていると、ヒッキーがこちらにやってきた。
八幡「今家庭科室は業者さんが色々やってくれている」ボソボソ
雪乃「あなたにしてはなかなか良い機転を利かせてくれたわね……やるじゃない」ボソボソ
結衣「で、ヒッキー! その本当のクッキーっていうのはどこ?」
八幡「ああ、これだ」
そう言うと、ヒッキーは袋に入ったクッキーを手渡してきた。
雪乃「形も悪いし、不揃いね。それにところどころ焦げていているのもある。──これって……」
結衣「ぶはっ、大口叩いたわりに大したことないとかマジウケるっ! 食べるまでもないわっ!」ゴゥ!!
八幡「あっ、すいませーん。ソニックブームがそっち行っちゃったんですけど平気ですかー」<トベー!! シッカリシロー!!
ヒッキーが持ってきたクッキーはなんか焦げてるし、すごい適当に作ってきたように見えるものだった。
なーんか期待外れだなぁ。本当のなんちゃらとか言うから、雪ノ下さんが作った物以上にすごいものを作ってくると思ったのに。
49:
八幡「ま、まぁ、そう言わず食べてみてくださいよ……」
結衣「そこまで言うなら……」
袋からクッキーを一つ取り出して食べてみる。
こ、これはっ!
結衣「別に特別何かあるわけじゃないし、ときどきジャリってする!『これあなたが入れた木材じゃないかしら……』はっきり言ってそんなにおいしくない!」
随分と大口叩いた割に、出てきたクッキーは予想より微妙なものであった。
ちょっと怒ってヒッキーの方を睨んでみる。
八幡「こえぇっ! ……ああ、そうか、おいしくなかったか……頑張ったんだけどな」
結衣「──あ……ごめん」
そう言われてちょっとしゅんとなる。そうだよね、こんなものでも一生懸命作った物をどうこう言うのはだめだよね。
八幡「わり、捨ててくるわ」
結衣「ま、待ちなさいよ!」ゴゥ!!
八幡「ひょえぇ!! な、なんだよ……またソニックブームがあっち行ったな」<アレトメルトカ、ハヤトクンスゲェ!!
クッキーを捨てに行こうとしたヒッキーを止める。何も一生懸命作った物を捨てなくても。
50:
結衣「べ、別に捨てるほどのもんじゃないでしょ。……言うほどまずくないし」
八幡「……そっか。満足してもらえるか?」
それに無言で頷くと、ヒッキーの顔を満足に見れなくなってぷいっと横を向いてしまった。
……本当は、ヒッキーにクッキーを作ってもらっただけでも満足なんだけどね。
八幡「まぁ、由比ヶ浜がさっき作ったクッキーなんだけどな」
結衣「……は?」ゴゴゴゴゴゴゴ
ヒッキーが意味不明なことを言った。なにそれ、本当に意味わかんない。
八幡「……なんか地震が起きたような気がするけど、気のせいだよな」
結衣「え? え?」
雪乃「……比企谷くん、よくわからないのだけれど。今の茶番になんの意味があったのかしら?」
八幡「こんな言葉がある……『愛があれば、ラブ・イズ・オーケー!!』」
結衣「古っ」
確か小学生の時にやっていた番組のやつだ。懐かしい。
でもそれが今なんの関係があるんだろう。
51:
雪乃「……どういう意味だか、説明してくれる?」
八幡「男ってのはな、お前らが思っているより単純な生き物なんだよ」
ヒッキーがなんか語り始めたので、それを聞いてみる。
八幡「これは俺の友達の友達の話なんだが(中略)つまりあれだ、男ってのは話しかけられただけで勘違いするし、手作りってだけで喜ぶの!」
ヒッキーのよくわからない長い話を聞いて、最後にハッとする。
雪乃「今までは手段と目的を取り違えていたということね」
八幡「まぁ、なんだ……。お前が頑張ったって姿勢が伝わりゃ男心は揺れんじゃねぇの」
……それって。
52:
結衣「……ヒッキーも揺れるの?」ゴゴゴゴゴゴゴ
八幡「あ? あーもう超揺れるね。なんなら今真下の地面ごと揺れてるレベル」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
雪乃「これ、震度5くらいはないかしら……」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
結衣「ふ、ふぅん」
そっか……ヒッキーも手作りクッキーとか作ったら揺れるのかな……。
なら帰って、手作りクッキーを作ってそれをプレゼントしてみよう!
今度こそ、感謝を伝えるんだ!!
雪乃「由比ヶ浜さん、もう帰るのかしら」
結衣「うん! 今度は自分のやり方でやってみる。ありがとね、雪ノ下さん」
手を振って別れを告げると、走って(ガシャン!! ガシャン!!)家を目指す。
よしっ、頑張って自分だけのクッキー作るぞ!!
雪乃「終わった……のかしら……うぅ……怖かったよぅ……」グスグス
八幡「雪ノ下、お前超頑張ってたよ……俺は見てたからな……」ナデナデ
53:
  × × ×
数日後。
手作りクッキーを作って、放課後奉仕部の部室に向かった。
結衣「やっはろー!」ガラッ ドシャーン!!
雪乃「あああああああああああああああ」プシャー
八幡「雪ノ下ぁ!! しっかりしろぉぉぉおおお!!」
結衣「え、なに、あんまり歓迎されてない……。ひょっとして雪ノ下さんってあたしのこと……嫌い?」
雪乃「べべべ別に嫌いじゃないわ。……トラウマになるくらい苦手、かしら」ガクガクブルブル
結衣「それ女子言葉で嫌いと同義語だからねっ!?」
うう、さすがにこないだは迷惑かけちゃったかな……雪ノ下さんに苦手って思われるなんて。
ま、まぁそれはもう仕方がない。とりあえずお礼のクッキーを渡すことにする。
5

続き・詳細・画像をみる


猫用のシャンプーを作ったら商品名は何にするか考えてからスレ開いて

内田篤人の結婚相手、実は小学校の時好き同士だった幼なじみで20年来の大恋愛だった

○ラーメンライス ×焼きそば定食 何故なのか?

【バカッター】居酒屋店員が170キロ暴走運転を実況「あびぁぁぁ」→賭博の疑いもwwwwwwww

女子アナはこんなパンツを履いていた!!テレビで女子アナがTバック丸見えになってる・・・

【驚愕】お祈りメールに返信したらwwwwwwwwwwwwwwww

「義妹が嫁いびりしてる」と勘違いした義兄嫁が義妹宅に凸した。義両親・義兄激怒で離婚話まで出てるそう。

戸籍の性別変更を認めた特例法〜会社から帰宅した父は「女の子になるため家を出る」と宣言 突然の告白に涙が流れて来たと娘

【北海道】元「つぼ八」アルバイト学生「170kmで高速を駆け抜けてる」 暴走運転をスピードメーター写真付きでツイート

○ラーメンライス ×焼きそば定食 何故なのか?

【画像】実写版「俺物語!!」の猛男役をご覧くださいwwwww

クソ上司「言われた事だけやって!」→「そんなの言われなくてもやって!」

back 過去ログ 削除依頼&連絡先